暴排トピックス

1. 平成26年政府指針アンケート(警察庁)

 警察庁や全国暴力追放運動推進センター、日弁連民事介入暴力対策委員会が定期的に行っている「『企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針』(以下「政府指針」)に関するアンケート」の平成26年度版(以下「26年アンケート」)が公表されています。

 ▼ 警察庁 平成26年度「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」に関するアンケート(調査結果)

 前回は平成24年に実施されており、「24年アンケート」として、26年アンケートとの比較しながら、企業の取組み実態の動向を確認したいと思いますが、この2つのアンケート結果を比較すると、2年の間に急激な変化が数多く認められます。しかしながら、それだけをもって、全体の傾向を断ずるにはやや難しい面も考えられる点をあらかじめご了承頂きたいと思います。

 ▼ 警察庁 平成24年度「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」に関するアンケート(調査結果)

 その要因として、例えば、回答企業の従業員数の分布をみると、24年アンケートでは50人未満の企業の割合が38.0%であったのに対し、26年アンケートでは60.9%を占めていることがあげられ、結果に大きく影響しているものと考えられます。一般的に、これらの「小規模事業者」(と便宜的に表記します)においては暴排の取組みが浸透しているとは言い難く、反社会的勢力からのアプローチについても、中堅・大企業とではその態様が異なることが考えられます。このように、24年アンケートとの比較は単純ではないのですが、逆に小規模事業者の実態が際立ってあぶり出されることになることにもなり、大変興味深い結果になっていると言えます。

1) 不当要求への対応について

 まず驚かれるのは、26年アンケート結果によれば、反社会的勢力からの不当要求を受けた経験がある企業の割合が4.0%(107社)であったのに対し、24年アンケート結果では11.7%(337社)と、この2年間で3分の1まで激減したという点です。

 結果だけ見れば、反社会的勢力からのアプローチ自体が減っていることになり、官民挙げた暴排活動の浸透の結果とも評価できますが、一方で、反社会的勢力の不透明化や手口の巧妙化の進展からみれば、相手を反社会的勢力と認識しないままの不当要求が増えているであろうこと(アンケート結果に反映されない)もその要因のひとつと考えられます。また、26年アンケートでは、不当要求の頻度について「4~5年に1回程度」が25.2%と最も高くなっているのに対し、24年アンケートでは62.0%の企業が「1年に最低1回以上」であったこともその要因と考えられます。

 これらの結果の背景には、冒頭に指摘した小規模事業者の実態が全体の数値に少なくない影響を与えていると考えられます。そこからは、「小規模事業者に対して、今のところ、反社会的勢力はあまり熱心にアプローチをしていないのではないか」という仮説も成り立つ余地があります。

 さらには、そもそも、本アンケートに回答する母集団は暴排意識の高い企業が多くなるであろうこと、不当要求に応じていると自覚している事業者が回答する割合は高くないことも推測されますので、現状は数値以上にまだまだ悪い状況にあると推測することも可能だと思います。

 さて、その他の傾向として、不当要求を受けたことのある企業(107社)のうち20.6%(22社)がその要求に応じており、24年アンケート(18.4%)とほぼ同じ水準となっています。また、支払った金額は100万円未満が59.0%(13社)、100万円以上が31.8%(7社)という結果であり、残念ながら、まだまだ脇の甘い企業が存在し、反社会的勢力に活動の余地を与えてしまっている実態があります。

 また、「不当要求の相手方の属性について」「不当要求の相手方の自称について」の設問項目(複数回答)についても、24年アンケートでは最多だった「暴力団員でないが何らかの関係を有する者」からの要求(43.0%)が、今回は19.6%まで激減している点も特徴的です。ただ、「相手が何者がわからなかった」が28.0%(24年アンケートでは12.5%)と増加していることとあわせれば、反社会的勢力の不透明化がますます進み、自らの属性を隠しながら「グレー」な存在として企業にアプローチする手法に変えている実態、あるいは、小規模事業者を中心に、相手の素性や属性に対して無防備な実態がうかがわれます。

 さらに、「不当要求の態様について」(複数回答)では、24年アンケートでは最多だった「因縁を付けて金品や値引きを要求」が39.2%から23.4%に減少したほか、「物品購入やリース契約を要求」が32.6%から5.6%にまで激減、一方で「機関紙、書籍、名簿等の購読を要求」が最多(37.4%、24年アンケートでは比較できる項目なし)となっている点が特徴的です。これについても、手口が多様化している実態やあからさまな要求を謝絶している状況、あるいは、小規模事業者等に対しては古典的な手法が未だに有効だと反社会的勢力が考えている可能性もうかがわれます。

 また、「不当要求への対応状況について」(複数回答)では、「代表取締役等のトップ以下、組織として対応した」(47.3%から33.6%に)、「警察等の外部の専門機関と連携して対応した」(44.2%から23.4%に)、「反社会的勢力対応部署が対応した」(34.7%から15.9%に)「不当要求対応マニュアルに沿って対応した」(31.2%から13.1%に)などの項目が24年アンケートに比べて大きく減っている一方で、「担当者のみで対応した」(22.6%から29.0%)が増加しています。平成22年から24年にかけて「組織的対応」が浸透してきた状況を確認していたものの、その後の2年間で一転して逆行した結果となっている点は極めて残念ですが、むしろ、ここでは、小規模事業者の取組みがまだまだ遅れている実態が浮かび上がっていると理解すべきではないでしょうか。

2) 暴力団排除条項(暴排条項)

 小規模事業者の影響からか、政府指針に沿った取組みを行ったとする企業(44.1%)は24年アンケートの61.5%から減少していますが、その取組み内容(複数回答)のトップにあげられていたのは「契約書等に暴力団排除条項を盛り込んでいる(または盛り込む予定である)」(87.1%)であり、他の項目と比較しても特に多く、前回からもその割合を伸ばしています。その他の項目である「企業姿勢の明確化」「仕組み・規程の整備」「研修」といった内部統制システム構築に必須の要素についても全て割合が伸びていることから、政府指針に沿った取組みを行っている事業者(中堅・大企業が多いと推測されます)においては、確実に取組みレベルが高まっていると評価できると思います。

3) 反社チェックおよび反社データベース

 暴排条項の取組み以外では、政府指針に沿った取組みを行ったとする企業の取組み内容(複数回答)のうち、「取引相手等が反社会的勢力かの審査を実施」(39.6%)「反社会的勢力情報を集約したデータベースを構築している」(26.0%)「反社会的勢力のデータベースを業界等と共有」(20.0%)といった項目の数値も伸びており、は全体としては暴排条項同様に良い傾向だと言えます。絶対水準としては、まだまだ低いのですが、小規模事業者も含めての数値であることからも、今後、取組みが加速していくことを期待したいと思います。

 ただし、26年アンケート回答企業の内訳(業種)を見ると、「銀行」「保険・証券」「その他金融業」の合計が17.0%、「不動産業」が12.3%であり、金融・不動産業界においては反社チェックを既に組織的に実施している割合が高いことをふまえれば、それ以外の業種においては、むしろ反社チェックの実施率やデータベース構築・共有がまだまだ進んでいない状況と懸念されます。

 また、「反社会的勢力情報を集約したデータベースを構築している(または構築する予定である)」と答えた企業310 社について、情報の蓄積件数をみると、「1 万件以上」が40.7%を占める結果となっていますが、「1,000 件未満」にとどまる企業も12.6%と、金融・不動産業界が回答企業に占める割合(29.3%)の大きさを考慮すれば、その数値の意味するところは大きく異なり、むしろ、業界によって取組みレベルの差が大きいことを示していると思われます。

 さらに、反社チェックに利用するデータベースに関しては、前回は調査項目になかったものの、今回の調査結果(複数回答)によれば、「加盟している業界団体等から情報提供を受ける」が最多の23.6%となったほか、「警察から情報提供を受ける」が23.2%、「無料のインターネット検索を利用する」が17.6%、「民間の調査会社を利用する」が12.3%、「有料のインターネット検索(新聞記事検索)を利用する」が9.0%などとなっており、少なくない割合の企業が、複数の手法を利用して情報収集に努めている実態がうかがわれます。

 24年アンケート結果と同様、26年アンケート結果においても、反社チェックを巡る取組み実態については、金融機関や不動産業等の取組み状況とそれ以外の取組み状況とではまだまだ差があることが推測されること、したがって、全体的な傾向としては、数値が示している以上にまだまだ十分とは言えないレベルにあると捉える必要があります。

4) その他

 実際に暴排条項に基づいて排除実務を行った企業が暴排条項導入企業の10.7%(全体の4.1%)となりましたが、これは24年アンケート結果と同水準であり、いまだに排除実務については課題が多いと言えます。

 その背景には、警察の暴力団情報提供制度について知らなかったとする割合が47.5%にも上っていることや、「該当事例がないので依頼したことがない」が39.6%を占めるなど、排除に至る前段のプロセスである反社チェックの取組みが遅れていることが、排除実務の遅れにつながっているものと考えられます。

 一方で、政府指針を知っていながら取組みを実施しない企業も一定数(293社)存在しています。その理由(複数回答)として「不当要求等の被害を実際に経験したことがない」(45.7%)「取引相手が限定されている」(34.8%)「状況に応じて対応すればよい」(33.4%)「具体的に何をすればよいのか分からない」(29.7%)などの項目が上位にあげられています。小規模事業者がこの中に多く含まれていることが推測されますが、今後、これらの層も反社会的勢力のターゲットとなりうることから、彼らの認識レベルをいかに底上げしていくかが今後の大きな課題だと言えます。

 今回の調査結果からは、特に小規模事業者の取組みの遅れが浮かび上がったように思われます。企業の取組みが個人(役職員)の意識を変え、個人の意識の変化が企業の取組みの実効性を高めることにもつながります。そして、個人や企業の意識や取組みが社会からの反社会的勢力排除につながることをあらためて認識し、できるところから、着実に取組みをすすめていくことがやはり必要だと言えるでしょう。

2.最近のトピックス

1) 特殊詐欺の状況

 今年1月~10月の特殊詐欺被害は、450億7,580万円に上り、昨年同期比で1.18倍となっています。とりわけ、振り込め詐欺の被害額は約293億9,490万円となり、年間で過去最悪だった平成16年の約283億7,800万円の年間総額を既に上回る過去最悪の状況です。

 また、振り込め詐欺のうち、おれおれ詐欺が141億円あまり(前年同期はおよそ133億円)と最も多くなっています。また、架空請求(郵便、インターネット、メール等を利用して、不特定の者に対して架空の事実を口実とした料金を請求する文書等を送付するなどして、現金を口座に振り込ませるなどの方法によりだまし取る詐欺(同種の手段・方法による恐喝を含む)事件)による被害が129億6,000万円と前年同期比で2.79倍も急増しているのが特徴的です。

 ▼ 警察庁「平成26年10月の特殊詐欺認知・検挙状況等について」

 先日、レンタル携帯電話を提供する際、所定の本人確認をしなかった疑いで、携帯電話不正利用防止法(本人確認義務)違反容疑で2人の男が逮捕されています。報道によれば、この2人が提供した携帯電話は全国で約500件の特殊詐欺に使われ、被害総額は数十億円に上るということです。レンタル携帯電話事業は、許可・届出を必要としないため、その業者数等、全体像が把握しきれておらず、レンタル携帯電話事業者の規制は喫緊の課題となっています。警察庁が発表した「平成26年上半期における主な生活経済事犯の検挙状況等について」において、レンタル携帯電話事業者の恐ろしい実態に関する調査結果が報告されており、参考にして頂きたいと思います(本件については、暴排トピックス2014年9月号で取り上げておりますので、あわせてご参照ください)。

2) AML(アンチ・マネー・ローンダリング)/CTF(テロ資金供与対策)

① AML

 後述する「中華プロキシ」の問題とも関連してきますが、ネットバンキングに不正アクセスして得た現金をATMで引き出したとして、窃盗の疑いで中国籍の短大生が逮捕されています。引き出されたお金は、中国の地下銀行が不正アクセスで得たもので、この短大生が日本国内にいる別の中国人に送金するなどして組織的なマネー・ローンダリングが行われたとされています。このように、海外の犯罪組織による犯罪が、日本国内において、日本のインフラを悪用して私たちの身近なところで行われている現実を厳しく捉える必要があると思います。

 また、売春クラブの広告を掲載して料金を受け取ったとして、広告会社の営業担当社員が組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)の疑いで逮捕されています。違法風俗店の広告料が犯罪収益に当たると判断して、同法を適用するのは全国で初めてということです。本事例は、直接的にマネー・ローンダリングと断定できませんが、事業者としては、営業担当社員の個人的な行為というより、組織のコンプライアンス態勢の不備を追及される事案であり、取引先の健全性が自社の健全性に直接的に紐付けられることをしっかりと認識し、取引先の健全性にかかる事前調査(入口)や事後検証(モニタリング)の実効性を高めていくことが求められます。

② CTF

 先ごろ解散した国会において、日本におけるCTFの進展を示す以下の2つの法律が成立・改正されています。

  • 国際テロリストの財産凍結法(国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法案)
    国連安保理が指定するなどした国際テロリストや団体の財産が対象で、都道府県公安委員会の許可を得なければ、数万円以上の融資や現金払い戻し、不動産取引などを行えなくなる規制。公安委員会が、生活費や税金を除く財産の提出を命令できる規定も設けられた。
  • テロ資金提供処罰法の改正
    従来は資金提供のみが処罰されたが、改正では、テロ行為を容易にする目的で「土地、建物、物品、役務」を提供した場合も対象となる。10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金を科す。処罰する協力者の範囲も、テロリストに直接利益を提供する「1次協力者」から、間接的な協力者にまで拡大された。

 一方で、原発作業員のテロ対策身元調査の法制化は見送られることとなりました。国が持つ犯罪歴や薬物依存の有無、海外渡航歴などの情報の共有は、他の多くの省庁にまたがる慎重な議論が必要なためというのが理由のようです。来年には原発の再稼働が、2020年にはオリンピックの開催が待ち受けていますが、国の関与がない自己申告では実効性が低く(というより海外ではありえないレベルです)、制度の形骸化そしてテロの可能性が高まることが懸念されます。

 海外においては、英国が、自国におけるテロの脅威について「2001年9月の米同時多発テロの前後を含め、現在が最も危険だ」と警告している点が注目されます。2005年7月のロンドンでのイスラム過激派による同時多発テロ以来、英国の治安当局がこれまでに約40件のテロ計画を阻止したということです。さらには、イスラム国勢力拡大やホームグロウンテロリズムも喫緊の課題となる中、新たなテロ防止法案が審議されています。主な内容は以下の通りで、日本の取組みレベルとの違いを痛感します。

  • テロ関与の疑いのある英国人について、2年間の帰国禁止処分を科す権限を内相に与える。
  • 国境の警官に旅券を30日間剥奪する権限を付与する。
  • ネットプロバイダーに対しては、テロ関与の疑いのある特定の人物が使ったIPアドレスを割り出すため、通信データの保持を義務付ける。
  • 強制的に移住させたり、身代金を保険の対象とすることを禁じる。など。
3) 薬物事犯の動向(海外および国内)

① 海外の動向

 前述のテロ対策とも深く関連しますが、アフガニスタンにおける2014年のアヘン原料のケシの栽培面積が前年比7%増加し、過去最高を記録したという報道がありました。同国は世界に流通する違法アヘンのほぼ9割を生産しているといい、その収入は反政府勢力タリバンの資金源になっているとされています。違法薬物が犯罪組織の資金源となっているのは、日本の暴力団や海外のマフィアと同様の構図だと言えます。

 米国では、首都ワシントンなどで実施された嗜好品としてのマリファナ合法化の住民投票で、賛成票が多数となり、議論を呼んでいます(ただし、マリファナの個人的な使用と栽培が認められたものの、販売解禁は含まれず、連邦議会が結果を無効とする可能性も残されています)。米国では既にコロラド、ワシントンの両州が嗜好品としての使用が認められているほか、オレゴン州とアラスカ州では販売も認められています。今年1月から娯楽用マリファナ販売が認められるようになったコロラド州では、9月までのマリファナ販売に関連する課税収入が約3,000万ドル(約35億円)に上るなど財政が大きく潤ったということですが、一方では、マリファナに引き寄せられて越境してきた者などに関連した犯罪が増加し治安の悪化や対策費用の急増といった悪影響も報告されています。

② 国内の動向

 危険ドラッグへの暴力団の関与は、これまであまり表面化することはありませんでしたが、先月(11月)、危険ドラッグの販売を巡って、ライバル店に押し入り、経営者の男性を「店をめちゃめちゃにしてやる」と脅迫、暴行を加えた上で、同店内の危険ドラッグ約1,000袋(計460万円相当)を奪ったとして、山口組系暴力団幹部が逮捕されています。報道によれば、同幹部も危険ドラッグの店を近くで経営していたということです。また、東京都新宿区歌舞伎町のドラッグ販売店の従業員が、指定薬物を含む危険ドラッグを販売したとして、薬事法違反容疑で逮捕されていますが、この店は、指定暴力団住吉会系で薬物密売に特化した組織として知られる「二代目大昇会」の事務所と同じビルにあり、同組織の関与が疑われています。

 このように、最近になって暴力団と危険ドラッグの関わりが表面化してきたことからも、やはり危険ドラッグが既に暴力団の重要な資金源となっている状況がうかがえます。

 一方、これまでもご紹介してきた通り、危険ドラッグの規制は、厚生労働省や警察庁だけなく、自治体が独自に条例を制定するといった動きが加速しており、福岡県や京都府ではこの12月の定例県議会で厳格な条例が制定される見通しです。このような動きをふまえ、条例制定や規制の厳しいエリアからのリアル店舗の撤収やネット販売へのシフト、規制逃れのための配達エリアの自主規制などの動きも顕著になっています(暴排トピックス2014年11月号もご参照ください)。

 これら規制の強化の結果、一般人(素人)が危険ドラッグを売り捌いていくにはリスクが高い状況になっており、昔から覚せい剤をはじめとする薬物販売をほぼ取り仕切り、伝統的に資金源としてきた暴力団が、このマーケットを制圧する可能性が高まっているものと危惧されます。

4) 中華プロキシ問題

 プロキシサーバーを通すことで「接続元IPアドレスを隠す(=身元を隠す)」「本来はアクセス出来ないエリアからアクセスさせる」といったことが可能になることから、プロキシサーバーがサイバー犯罪に悪用されていることは既によく知られています。

 先日、中国のユーザー向けに日本国内にアクセスできるとしてプロキシサーバーを有料で提供していた業者2社が不正アクセス禁止法違反容疑で摘発されましたが、この2社だけで、今年多発し史上最悪となっているネットバンキングの不正送金事案(上半期で被害総額約18億5,200万円)のうち約4億5,000万円(概ね全体の4分の1)の被害をもたらしたということです。

 このようにサイバー犯罪は容易に国境を越えますが、この「中華プロキシ」の捜査には国境の壁が立ちはだかっており、(ましてや相手は中国当局であり)海外の犯罪者の摘発まで辿りつくのはかなり難しいものと思われます。また、「中華プロキシ」はもはや国際犯罪の重要なインフラであり、いったん摘発されても、ネット接続環境さえあれば簡単に再開できるのが現実です。

 一方、日本の通信回線事業者においても、回線利用契約において犯罪利用などの禁止条項がなく、悪質業者でも接続環境が維持される状況にあるようです。

 暴排条項においても、電話や水道・ガス等の生活インフラを提供する事業者においては、「法令上やむを得ない場合」に該当するとして、相手が暴力団関係者であってもサービスを提供できるとされています。携帯電話も電気通信事業法によってその対象となっていると解されていますが、携帯電話本体を購入する際に割賦販売を利用する顧客が多いことから、クレジット事業からの暴排の文脈から、犯罪インフラとなりつつある「携帯電話からの暴排」にも取り組める状況にあります(ただし、実際にはどれだけの排除実績があるかは不明です)。

 このような暴排条項の限界の問題とともに、中華プロキシ問題のように、少なくとも犯罪インフラとして犯罪組織の活動を助長するような悪質な利用者を排除することが社会的に要請されている状況を鑑みれば、インフラ事業者においても、暴排など事業の健全性が企業の社会的責任(CSR)の中に位置付けられている以上、何らかの自主規制、事前チェックやモニタリングの仕組み等の導入といった取組みも求められるのではないでしょうか。

5) 社内暴排と労働関連法の改正動向

 取引先からの暴排だけでなく、「社内暴排」の視点が今後重要になることは、これまでもお話してきました。確かに、暴力団構成員が正社員として雇用されているケースはほとんどない(ただし、実例は存在します)とはいえ、企業の不祥事に関する内部情報や利用できそうな社員の情報を得るため、(正社員よりは採用判断が緩くなりがちな)非正社員として組織内部に入り込まれる可能性は十分にあると言えます。また、特に正社員として雇用してしまった場合、属性だけをもって解雇することは簡単ではないこともあり、取引先に対する反社チェック同様、「入口」における人材の見極めの視点や取組みが求められています。

 さて、今国会での改正は見送られたものの、労働者派遣法の改正において、派遣労働者の雇用安定措置の義務化などが盛り込まれている点については、反社会的勢力の企業への侵入経路として悪用されないよう、例えば、「派遣事業者における派遣労働者の健全性確認」「受け入れ企業側による派遣事業者の健全性担保の取組み状況の確認」「自社における(非正社員も含めた)社員のチェック」といった水際での対応やモニタリング態勢を検討する必要もあると思われます。

 また、障害者雇用促進法の改正で「合理的な配慮」が事業者側に要請されることになりますが、面接時に「就労支援機関の職員等の同席」が認められているように、例えば、就職後のトラブルに「関係者」と称して企業に不当な要求等を行う端緒となり得ることも懸念されるところです。

 これらはあくまでほんの一例にすぎませんが、今後、ダイバーシティの推進、人材の多様化によって、「社員」を切り口とした反社会的勢力との接点が生じるリスクも増大するという点もあらためて認識する必要があります。

6) 六代目山口組と警察の戦い

 平成21年に、警察庁が全国の警察に対して「弘道会壊滅作戦」を指示して以降、山口組直系組長(直参)についても逮捕される事案が多発していますが、結果として、その不起訴率の高さが際立つ状況になっています。

 平成26年においても、山口組直参の逮捕は13件と昨年の8件を超えていますが、報道によれば、このうちおよそ10件程度が不起訴処分(と推測される状況)であり、80%以上の不起訴率となっています。

 「平成25年版犯罪白書」(法務省)における「暴力団関係者の起訴率」が56.9%(つまり暴力団関係者の不起訴率は43.1%)、検察庁全終局処理人員の起訴率が45.2%(つまり全体の不起訴率は54.8%)であることと比較しても、直近での山口組直参の不起訴率が顕著に高いと言えます。

 ▼ 法務省「平成25年版犯罪白書」より「暴力団関係者の起訴率」

 また、この不起訴率の高さと関連して、直近1年間で報道された逮捕事案については、例えば以下のようなものがあり、警察が不起訴になることをある程度承知のうえで彼らを検挙しているのではないかとの状況がうかがえます。

  • 組長用車両を騙し取った詐欺容疑
  • レンターカー借用契約時、暴力団であることを隠した詐欺容疑
  • 賃貸マンション契約時、暴力団であることを隠した詐欺容疑
  • 会社社長に借金返済を迫り、恐喝未遂容疑
  • 六代目山口組組長の自宅の警護をさせたとする強要容疑
  • 車検切れの車を使用したとして道路運送車両法違反容疑
  • 暴力団であることを隠しキャッシュカードの交付を受けた詐欺容疑
  • 暴力団であることを隠し(使用者の名前を妻の名義にして)自動車登録をした電磁的公正証書原本不実記録等容疑
  • 息子のキャッシュカードを組長が譲り受けたとして犯罪収益移転防止法違反容疑
  • 除染作業に違法に派遣したとして組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等収受)容疑

 この背景には、警察が取り締まりを強化してきたことへの対応として、山口組も警察との接点を断つよう組織的な統制を強化した結果、警察が組織の実態を把握し難くなっている実態があります。警察が内部情報の入手を目論んで微罪逮捕の手法を繰り返すことによって、皮肉にも内部情報の入手が一層困難になるというネガティブ・スパイラルに陥っているのです。

 そして、この微罪逮捕の手法が「暴力団」に対して適用されることに一定の理解は得られても、よりグレーな対象としての「反社会的勢力」に対して適用することについては逮捕・拘留権の濫用との批判に晒されるリスクがより一層大きくなると考えられます。また、「暴力団」への適用自体も、活動実態の潜在化が進行すれば、そこから得られる成果(効果)が低減していくことも予想され、捜査上の「リスク」と「成果(効果)」のバランスの観点からみて自ずと限界があると言えます。来年、創設百周年を迎えるという山口組への対応は、警察にとっても大きな曲がり角を迎えているようです。

 一方、このような不透明化・潜在化との戦いの構図は、何も「警察対暴力団」に限らず、「事業者・市民対反社会的勢力」という形で私たちも直面している問題です(反社チェックの精度向上が更なる不透明化・巧妙化を招いている状況がその典型的な例です)。

 だからといって、「ある程度のところでよい」とその姿勢を緩めてしまうことは相手を利することに直結します。事業者においては、常に「民間企業として出来る最大限の努力」を講じて、厳格化する社会の要請を見極め、その手法を洗練させ柔軟に対応しながら、説明責任を果たせるだけの取組みを行うことが企業防衛の鉄則であることを、あらためて認識する必要があると思います。

7) その他

① 再犯率の高止まり傾向

 一般刑法犯により検挙された者のうち、再犯者(前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり、再び検挙された者)の人数は、平成19年から減っている(平成25年は前年比5.7%減)ものの、それ以上に初犯者の人数が減少しており(同10.9%減)、その結果、再犯者率は、平成9年から一貫して上昇し続け,平成25年は46.7%(同1.4pt上昇)になるなど、高止まりの傾向が続いています。

 ▼ 法務省「平成26年版犯罪白書のあらまし」

 また、刑務所の入所者22,755人のうち、2度目以上の入所者の割合も58.9%と10年連続で上昇しているほか、2年以内に再入所する割合は24.7g%と全体より6ポイント以上高く、高齢になるほど早期に再入所する傾向があるとのことです。

 ちなみに、先月もご紹介した財団法人社会安全研究財団(現在は公益財団法人日工組社会安全財団)が実施した「暴力団受刑者に関する調査報告書」において、服役している暴力団員等を対象に行ったアンケートの分析結果によれば、調査時点(平成21年12月~平成22年3月)において、入所が初回の者が30.0%、以下、2回(22.5%)、3回(13.4%)、4回(9.3%)、5回(7.4%)の順となっており、6~10回は15.0%、11回以上は2.6%であり、入所度数が2回以上の者の構成比は70.0%と、上述の58.9%を大きく上回る水準となっています。

 ▼ 財団法人社会安全研究財団「暴力団受刑者に関する調査報告書(日中組織犯罪共同研究 日本側報告書Ⅰ)」(平成23年6月)

② 直近の詐欺等の手口

 最近1カ月の間に報道された詐欺等をいくつかピックアップしてみたところ、暴力団の組織的な関与がうかがわれる、特殊詐欺の一類型である「金融商品等取引名目の特殊詐欺」に該当する社債購入詐欺や架空請求詐欺が目立つことが分かります。なお、「金融商品等取引名目の特殊詐欺」とは、「実際には対価ほどの価値がない未公開株、社債等の有価証券や外国通貨等又は全く架空の有価証券等について電話やダイレクトメール等により虚偽の情報を提供し、その購入等の名目で金銭等をだまし取るもの」と定義されており、被害総額は、本年1月~10月で100億円以上にのぼっています。

  • 社債購入詐欺(iPS細胞・高齢者/住吉会系の関与)
    医療研究会社の社債を巡る詐欺事件で、逮捕された住吉会系暴力団幹部らのグループが高齢者に対し、営業実態のない医療研究会社について、「iPS細胞を研究している」などと虚偽の説明をしていたもの
  • 社債購入詐欺(高齢者/住吉会系の関与)
    「社債を買えばもうかる」などと持ちかけ、高齢者らから現金をだまし取ったとして、住吉会系暴力団幹部ら男女15人を詐欺容疑で逮捕。全国の高齢者ら約170人から総額15億円以上をだまし取っていたもの
  • 債権架空請求(高齢者)
    実在する食品会社名を挙げて「あなた名義で債権を購入した。お金は返すので、いったん払って」などと電話。3,800万円を騙し取られたもの
  • プリペイドカードを悪用した架空請求詐欺
    騙した消費者に入金させる新たな手段にプリペイドカードを悪用。入金(チャージ)者や利用者が分からないなど匿名性の高いものが多く、悪質商法と気付いても返金を求めるのは困難と言われる
  • 空き家を悪用したキャッシュカード詐取(転売目的)
    銀行のサイトで空き家の住所を入力して口座開設を申請。空き家のポストから勝手に取り出した不在配達通知書を郵便局に持ち込み、偽造した健康保険証を本人確認に使ってキャッシュカードを受け取っていたもの
  • 私設私書箱運営
    都内のマンションやビルの一室に私設私書箱を開設。詐欺の被害金の送り先となっていたもので、合計2億円以上詐取したとされる

 上記事例の中では、「iPS細胞の研究」「空き家」「プリカ」を悪用したものが目新しいと思われますが、この「新奇性」が被害を継続的にもたらしているポイントとなります。話題性の高さに乗じるなどして、従来からある手口の切り口をほんの少し変えただけで成功率が上がることを犯罪者は熟知しています。

 さらには、それらが暴力団による組織的な関与のもと、反社会的勢力の資金源となりうる新たな犯罪類型が絶え間なく生み出され、私たちの身近なところで頻繁に発生していることがお分かり頂けると思います。

 また、直近では、暴力団員であることを隠して日本政策金融公庫から1,300万円を振り込ませたとして、詐欺容疑で山口組系幹部が逮捕されています。妻が融資を申し込み、暴力団幹部が連帯保証人になっていたもので、融資時点のチェックで見抜けなかった点(つまり、入口での反社チェックの甘さ)が今後の課題となるものの、適切に警察に相談したことで事件化されたものと推測されます。

 金融機関の実務においては、現在、預金口座からの暴排は事例が積み重なり着々と成果があがっていますが、融資契約からの暴排については、中間管理(事後検証)の導入によって正に喫緊の課題として、まったなしの対応が迫られています。本事例のように、クロ認定が可能な案件から優先的に対応をすすめていくことが必要だと思われます。

③ 登記簿役員欄に旧姓併記可能へ

 法務省は、商業登記簿の役員欄に戸籍上の氏名と旧姓を併記できるように省令改正するとしてパブリックコメント手続き中です。仕事で旧姓を使用する役員が登記簿上の役員か確認できず、支障が出る問題を回避するための措置で、政府がすすめる女性の活躍の観点もあるとされています。また、取締役の就任登記時に住民票など公的証明書の提出や代表取締役の辞任登記時に本人の実印押印と印鑑証明書の提出などを義務付ける改正も含まれています。

 ▼ 法務省「商業登記規則等の一部を改正する省令案」に関する意見募集

 商業登記情報の精査は、反社チェックにおいては極めて重要な手法のひとつです。登記情報を分析することによって、その企業の表面的な姿(情報)の裏側に潜む「隠したい事実」や「隠そうとする意図」までもが浮かび上がることがあるからです。なお、反社チェックの手法という観点からみた商業登記情報の精査のポイントは以下の通りですので、合わせてご参照ください。

  • 履歴事項全部証明書は「情報の入り口」であり、閉鎖登記情報は「隠された事実の宝庫」であることが多い。
  • 最近は、登記情報に反社会的勢力の属性要件に該当する人物が登記されていることは少ない。したがって、できる限り過去に遡って登記情報を精査し、反社会的勢力としての属性を有する者の有無を確認する、あるいは過去に潜在する懸念事項を可視化する、といった調査の深度も必要となる。
  • 登記簿謄本の提出を受け、登記されていることを確認するだけなど、形式的な審査・確認のみで済ませることなく、登記情報から会社の沿革や役員の変遷状況を精査して懸念事項の有無を確認することが重要である。
  • 不自然な商号変更、本店移転、業態転換、役員の総入替えなど、会社の継続性に疑義のある登記事項がないか、「会社の継続性」の観点からチェックする。
  • 可能な限り役員経歴書の提出を受け、代表者等の役員の就任経緯や経歴会社、空白期間について情報収集を行う。

④ 休眠宗教法人の悪用

 以前からも指摘していますが、休眠会社がネットで売買され、犯罪インフラ化している状況にあります。その中でも「休眠宗教法人」が悪用されるケースも後を絶たず、過去には暴力団の関与が表面化した事例もありました。

 ご存知の通り、宗教法人は、寄付金やお布施、お守り販売といった宗教に関する事業や幼稚園の経営などによる収入は非課税となるほか、収益事業の法人税率も一般の法人と比べて優遇されていることから、そもそも悪用される可能性が高いと言えます。

 直近でも、開運商法で得た所得を隠したとして、大阪市の開運グッズ販売会社(解散)の元実質経営者ら5人が逮捕された脱税事件で、同社が休眠状態の宗教法人を買収し、同法人から開運グッズを仕入れていると装って経費を架空計上していた事例が報道されています。

 宗教法人は国や都道府県に対し、財産目録や役員名簿を毎年、提出することが義務づけられていますが、届出が行われていない(活動実態が不明な)休眠宗教法人が多数存在し、ブローカーの関与によって犯罪の温床となっているにもかかわらず、自治体の人員不足等の理由により規制が進んでいない状況にあります。

 ただし、事業者としては、相手が休眠法人や休眠宗教法人でないか、反社チェックの一環として登記情報や実体・実態確認を適切に行い、その犯罪収益の移転(取引等を通じた資金の流れ)に巻き込まれないような取組みが求められると言えるでしょう。

3.最近の暴排条例による勧告事例・暴対法に基づく中止命令ほか

1) 暴対法に基づく工藤会本部事務所等の使用制限命令(福岡県)

 福岡県公安委員会は、2年前に改正された暴力団対策法に基づき、特定危険指定暴力団工藤会の本部事務所など4か所に全国初の使用制限命令を出しています。期限は3か月で、同県公安委員会の判断で延長できることになっています。

 4事務所では制限期間中、組員が集まったり、当番を置いたりするなど組事務所としての使用が禁じられることになり、先のトップ以下幹部の大量逮捕に続き、工藤会への大きな打撃となると思われます。

2) 暴力団離脱を妨害したとして中止命令(福岡県)

 福岡県警小倉北署は、暴力団を離脱しよう決意した組員を威迫して組織脱退を妨害したとして、工藤会系幹部らに対し、暴力団対策法に基づく中止命令書を交付しています。

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