暴排トピックス

1.平成26年の暴力団情勢

警察庁から、平成26年の暴力団情勢についての報告書が公表されています。

 ▼ 警察庁「平成26年の暴力団情勢」

① 平成26年末現在の暴力団員数

 平成26年12月末現在の暴力団員(暴力団構成員および準構成員)は前年比で5,100人減(前年比8.7%減)の5万3,500人であり、5年連続で統計の残る昭和33年以降最少を更新しています。

 また、暴力団構成員は22,300人で、前年に比べて3,300人減少(前年比12.9%減)しており、準構成員も31,200人と、前年に比べて1,800人減少(同5.5%減)しています。暴力団構成員数の減少割合が準構成員より著しく高い傾向が続いていますが、その結果、準構成員の割合が58.3%(昨年は56.3%)にまで達しており、暴力団の潜在化がますます進行していると言えます。

 また、本コラムでもたびたび指摘している通り、平成23年10月までに全国で施行された暴力団排除条例(以下「暴排条例」)や度重なる暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)の改正、事業者等をはじめ社会全体の暴排の取組みの浸透・進展など、官民挙げたこれまでの暴力団対策の効果が一定程度出ているものと評価できます。

 一方で、このように急激な減少が続いている(平成25年末では前年から▲8.7%、平成24年末では同▲10.1%、平成23年末では同▲10.6%)状況が持つ意味を考えるにあたっては、暴排条例における規制対象者たる「元暴力団員の5年卒業基準」のもつリスク(安易な線引きの危険性)や、暴力団員として活動することが困難な現状をふまえた「偽装離脱」や「偽装解散」、さらには、それらと裏腹の関係にある「離脱者の真の更生」への対応についても考慮していく必要があります。

 そして、この暴力団員の減少傾向を、最近の特殊詐欺被害の深刻化とあわせて考えてみると、別の側面があることに気付かされます。

 まず、社会全体の暴排意識・コンプライアンス意識の徹底によって暴力団の資金源が急激に枯渇する中、求心力を維持できない暴力団の内部から若年層が離脱、あるいは、(若者の気質の変化もあって)最初から暴力団員としてではなく、より収益性の高い「特殊詐欺」に参画するようになったという点があげられます。暴力団は、もともと、不良少年ら社会に不適合な若者をリクルーティングし、外部から組織内部に取り込むことで、その「受け皿」となってきた経緯がありますが、その「受け皿」が今や特殊詐欺グループに取って代わったと言うことができると思います。

 一方、最近の動向をよくよく見てみると、暴力団がその組織を維持するために、むしろ、特殊詐欺グループを(「人的供給源」としてではなく、純粋に)「資金源」として利用している構図も浮かび上がります。

 現在の暴力団組織においては、忠誠心や義侠心はもはや重要な評価軸ではなく、正に「資金力」こそが組織内での力やステイタスの源泉となっています。

 「暴力団員の減少傾向」が意味していることは、暴力団が「資金の獲得」のために、若者を直接的に組員にして「内側」に取り込むという意味での「受け皿」の役割を自ら捨て、暴力団員の減少や高齢化という代償を払いながらも、組織の「外側」に、不良少年や元不良少年ら若者を取り込んだ「資金源」のスキーム化、組織化・ネットワーク化をすすめ、それによって「資金」を組織に還流させるようになったという構図の変化の表れ(組織のあり方の変質の結果)なのです。

 この、暴力団が社会に不適合な若者の気質を利用して、例えば暴走族の再結成などを名目に、新たにグループ化させたと言えるのが、正に「準暴力団(半グレ集団)」です。

 暴力団は、この「準暴力団」を巧妙に利用して、特殊詐欺や違法薬物の売買などの実行部隊として稼がせ、それを資金源にするという「プロデューサー」あるいは「委託元」としての役割に立場を変えてきています。さらに、当局による特殊詐欺の実行部隊の摘発が激しさを増している中、プロデューサーとしての才覚のない暴力団員が自ら「受け子」や「架け子」として犯罪を実行し、検挙される事例も目立っていますが、そのような事情もあって、中途半端に若者を組員として抱えて活動させることのリスク(逮捕されるリスク・組織が摘発されるリスク・資金源を断たれるリスク)を、「外注化」によってヘッジしているといった計算高い側面も見え隠れします。

 つまり、暴力団の資金獲得活動が、自らが内側に抱える「若い組員の頭数」に依存(比例)していた時代から、組織の外側に「資金獲得スキーム」をいかに組成し稼ぐかに移行しているということです。そして、この「外注化」によって、自らは「プロデューサー」役に徹すればよく、直接犯罪に手を染めることなく(リスクを大きく低減させつつ)、少ない組員の頭数であっても組織を維持・発展させていくことが可能なスキームを作り上げているとも言えます。

 さて、この「特殊詐欺の深刻化と暴力団員の減少傾向の密接なリンク」という構図が行き着く先は、「暴力団の少子高齢化・組織のスリム化」の進行であり、「外注先」として周辺に存在し、その資金獲得活動を支える準暴力団や特殊詐欺グループなど、別の形の犯罪組織(反社会的勢力)の勢力拡大です。

 したがって、私たちは、このような暴力団のあり方の変質や社会情勢の変化をふまえつつ、排除していくべき反社会的勢力の捉え方を見直していく必要があります。このあたりは、既に本コラム2014年1月号でも以下のように指摘しています。

 暴排条例の施行や反社会的勢力への融資問題を経た問題意識の高まり、それらに伴う社会の要請の厳格化によって、結果として反社会的勢力の不透明化の度合いがますます深まっており、その結果、彼らが完全に地下に潜るなど、いわゆる「マフィア化」の傾向が顕著になりつつあります。表面的には暴力団排除が進んだとしても、「暴力団的なもの」としての反社会的勢力はいつの時代にもどこにでも存在するのであって、その完全な排除は容易ではありません。

 だからこそ、企業は、その存続や持続的成長のために、時代とともに姿かたちを変えながら存在し続ける反社会的勢力を見極め、関係を持たないように継続的に取組んでいくことが求められるのです。つまり、反社会的勢力を明確に定義することは困難であるとの前提に立ちながら、暴力団や「現時点で認識されている反社会的勢力(便宜的に枠を嵌められた、限定された存在としての反社会的勢力)」だけを排除するのではなく、「暴力団的なもの」「本質的にグレーな存在として不透明な反社会的勢力」を「関係を持つべきでない」とする企業姿勢のもとに排除し続けないといけないとの認識を持つことが必要となります。

 暴力団対策法や全国の暴排条例が直接規制している暴力団員等が減少したからといって、企業が関係を持つべきでない反社会的勢力が必ずしも減少しているわけではなく、むしろ、暴力団という枠にこだわらない、より拡がりをもった「反社会的勢力排除」の考え方を明確にする必要に迫られており、企業実務における反社チェックや排除実務の難易度がますます上がっているとの認識が必要だと言えます。

② 平成26年の暴力団の摘発状況

 平成26年の暴力団構成員等の摘発件数は39,471件(前年同期比▲9.2%)、検挙人数は22,495人(前年同期比▲1.6%)となり、いずれも減少傾向にあります。その背景には、もちろん暴力団員の減少が考えられますが、その活動が不透明化している現状にあっては、引き続き警戒が必要であることに変わりはありません。

 その中で、特筆すべき点としては、前述した通り、また、本報告書内でトピックスとしても取り上げられている「暴力団の特殊詐欺への関与」です。暴力団構成員等の検挙人員のうち詐欺の検挙人員が占める割合が増加傾向にあり、平成26年においては10.4%を占め、特殊詐欺の検挙人員(1,990人)のうち暴力団構成員等の占める割合は34.6%(前年比6.4ポイント増)となっています。本報告書にも、「暴力団が特殊詐欺に関与して、その犯罪収益を資金源としている状況がうかがわれる」との指摘がありますが、その関係性については様々な様相があることは前述した通りです。

③ 暴力団排除条例の状況

 平成23年10月に全国47都道府県で暴排条例が施行されたのに続き、平成26年12月末までに、全ての市町村で暴排条例が制定された自治体が41都府県に及ぶなど、取組みが加速している状況にあります。(ちなみに、残された自治体は、北海道・岩手県・新潟県・山梨県・徳島県・香川県のみとなります。)

 また、平成26年における暴排条例に基づく勧告件数は、勧告が51件、中止命令が7件、検挙が5件(参考までに、平成25年は、勧告が71件、指導が2件、中止命令が7件、検挙が3件)となっています。具体的な勧告事例については、本コラムでも紹介し続けていますが、本報告書には、以下のような事例が紹介されています(抜粋)。

  • 建築リフォーム会社が、稲川会系組幹部から依頼された組事務所の改装工事を請け負ったことから、同会社と同幹部に対し勧告を実施(神奈川)
  • 飲食店経営者が、住吉会系組幹部からの依頼を受け、同組織の行事のために同店宴会場を提供したことから、同経営者と同幹部に対し勧告を実施(東京)
  • 共政会系組員が、16歳から17歳の少年3名を暴力団事務所に立ち入らせたことから、同組員に対し中止命令を発出(広島)
  • 飲食店等を営む計12事業者が、みかじめ料名目で工藤會系組幹部に現金を供与したことから、同事業者と同幹部に対し勧告を実施(福岡)
  • 太州会系組長らが、条例で定める暴力団事務所の開設又は運営の禁止区域内に暴力団事務所を開設し、運営したことから、条例違反として検挙(福岡)
  • 山口組系組長らが、条例で定める暴力団排除特別区域において、飲食店経営者らから用心棒料を受けていたことから、条例違反として同組長らと同経営者らを検挙(愛知)

④ 地方自治体や各種業法による排除事例

 地方自治体による公共事業からの排除事例として、以下のような事例が紹介されています(抜粋)。

  • 建設会社役員を風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反で検挙したところ、同人が工藤會系組幹部と密接な交際を有し、又は社会的に非難される関係を有していたことが判明、公共工事から排除(福岡)
  • 山口組系組長及び建設会社役員らを貨物自動車運送事業法違反で検挙したところ、同役員らが同組長と社会的に非難される関係を有していたことが判明、公共工事から排除(宮崎)
  • 山口組系組幹部を威力業務妨害で検挙したところ、同幹部の下請参入要請に社員を同行させるなど社会的に非難されるべき関係を有している建設会社が判明、公共工事から排除(鹿児島)

 また、各種業法に定めた暴力団排除条項の活用による排除事例として、以下のような事例が紹介されています(抜粋)。

  • 国からの照会に基づいて特定労働者派遣事業の届出業者を調査したところ、同業者の代表者が元山口組系組員であることが判明、その旨国に回答し、同業者に対し、特定労働者派遣事業の事業廃止を命じた(宮城)
  • 職務強要等で政治団体役員を検挙したところ、同役員が山口組系組幹部と社会的に非難されるべき関係を有していることが判明したことから、府が同役員が経営する会社の建設業許可及び産業廃棄物収集運搬業許可を取り消し(大阪)

⑤ その他の取組み

 暴力団対策法上の使用者賠償責任追及の規定に基づく損害賠償請求訴訟については、平成26年12月末現在で14件提起されており、係争中のものが8件、和解等による解決に至ったものも6件となっています。

 また、事務所撤去運動に対する支援については、茨城県の「賃貸物件が住吉会系組事務所として使用されていたところ、物件所有者が賃貸借契約の解除を求める訴訟を提起、警察が情報提供等の必要な支援を行った結果、和解が成立し事務所が撤去された」事例が紹介されています。

 一方で、平成26年の暴力団関係相談の受理件数は53,487件(前年比6,389件増)にのぼり、このうち警察で24,183件(同553件増)、都道府県暴追センターで29,304件(同5,836件増)を受理するなど、相談が活発化している状況があります。

 さらに、警察及び都道府県暴追センターが援助の措置等を行うことにより暴力団から離脱することができた暴力団構成員の数については、約490人(前年比約30人減)だったということです。実際に減少した暴力団構成員が約3,300人であったことを考えると、まだまだ少なく、公的な離脱支援・更生支援の重要性は今後増していくものと考えられます。
それ以外にも、徳島県暴力追放県民センターが、内容証明郵便の送付による裁判外の事務所使用差止請求により事務所の撤去に全国で初めて成功した事例や、暴力追放広島県民会議が、事務所の使用差止めを求める訴訟を提起し、暴力団事務所として使用しない旨の和解が全国で初めて成立した事例なども紹介されており、官民挙げての様々な試みが実を結びつつあることを実感します

2.最近のトピックス

1) AML(アンチ・マネー・ローンダリング)/CTF(テロ資金供与対策)

 JAFIC(警察庁犯罪収益移転防止対策室)から最新のマネー・ローンダリング対策の現状に関する報告書が公表されています。

 ▼ JAFIC「犯罪収益移転防止に関する年次報告書(平成26年)【暫定版】」

 本報告書によると、平成26年中における組織的犯罪処罰法にかかるマネー・ローンダリング事犯の検挙事件数は、法人等経営支配事件1件、犯罪収益等隠匿事件180件、犯罪収益等収受事件112件の合計293件、昨年の272件から7.7%増となり、過去10年でみれば、3倍近くも増加しています。

① 平成26年における「疑わしい取引」の届出状況

 平成4年の麻薬特例法施行により開始された本制度による届出件数は、施行当時は年間わずか12件だったのに対し、平成26年には377,513件(前年対比+8.1%)となっています。なお、業態別の具体的な届出状況については、以下の通りとなっています。

  • 特定事業者における業態別の届出状況としては、「金融機関」が97.2%と圧倒的に多く、特に「銀行」は全体の88.1%を占めています。ただし、経年で見た場合、その比率は平成22年では92.5%だったものの、徐々に低下しつつあり、他の業態での取組みも活発化していることがうかがえます。
  • 銀行以外では、「信金・信組」(4.0%)、「金融商品取引業者」(2.0%)「クレジット事業者」(2.8%)「保険会社」(1.0%)などが多く、とりわけ、平成22年との比較でみた場合、この5年間で「保険会社」は18.9倍、「クレジット事業者」は6.5倍、「貸金業者」は5.3倍も件数を伸ばしている点が注目されます。

② 平成26年における「疑わしい取引」情報の決用状況

 JAFICでは、特定事業者から寄せられた「疑わしい取引」に関する情報を集約・分析し、都道府県警察、検察庁、税関、証券取引等監視委員会等に提供していますが、それが犯罪の端緒として検挙に結びつくケースも増えています(平成26年には、前年より52,277件、16.7%増加し348,778件)。また、届出を端緒に摘発した事件は1,001件(同4.1%増)となっており、類型別の特徴としては、以下が指摘されています。

  • 詐欺関連事犯(詐欺、犯罪収益移転防止法違反)は計828件と全体の82.7%(前年は80.7%)を占めて最も多い(預貯金通帳等の詐欺または譲受・譲渡、インターネットオークションを利用した詐欺、生活保護費の不正受給等)
  • 薬物事犯(覚せい剤取締法違反、麻薬特例法違反等)は27件、マネー・ローンダリング事犯(組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿・収受))は計16件

③ 暴力団構成員等が関与するマネー・ローンダリング事犯

 平成26年中に組織的犯罪処罰法に係るマネー・ローンダリング事犯で検挙されたもののうち、暴力団構成員等が関与したものは、法人等経営支配事件で1件、犯罪収益等隠匿事件で26件及び犯罪収益等収受事件で28件の合計55件(前年は75件)で、全体の18.8%(前年は27.6%)を占めており、(昨年から減少したとはいえ)相変わらず、暴力団とマネー・ローンダリング事犯の親和性の高さが指摘できます。

 また、暴力団構成員等が関与したマネー・ローンダリング事犯を前提犯罪別に見ると、詐欺が7件、ヤミ金融事犯が6件、詐欺が4件等となっており、暴力団構成員等が多様な犯罪に関与し、マネー・ローンダリング事犯を敢行している実態がうかがわれます。
なお、具体的な事例としては、以下のようなものが紹介されています

  • 労働者派遣事業を営んでいた山口組系組幹部が、労働者派遣禁止業務である建設業務に労働者を派遣し、その報酬約120万円を、他人名義の口座に振り込ませていたことから、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)で検挙
  • 山口組系組員が、代金引換郵便を利用して多数の客にわいせつDVDを販売し、その代金約20万円を、日本郵便の職員を介して他人名義の口座に振り込ませていたことから、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)で検挙
  • 工藤會系周辺者が、許可を受けないでスナックを経営し、その売り上げ約1,260万円を、他人名義の口座に振り込ませていたことから、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)で検挙

④ グローバル・スタンダードと日本のAML/CTFの状況

 平成26年に3回開催されたFATF(金融活動作業部会)全体会合において、イランや北朝鮮に係る声明が採択され、これらの国・地域から生ずるマネー・ローンダリング等のリスクから国際金融システムを保護するために対抗措置を講ずるよう要請があり、警察庁は、特定事業者に対して、これらの国・地域について取引時確認、疑わしい取引の届出等の徹底を図るよう要請しています。

 また、平成24年2月に改定されたFATF勧告(新「40の勧告」)は、各国が自国におけるマネー・ローンダリング等のリスクを特定し、評価することを要請していましたが、平成25年6月のロック・アーン・サミットでは、法人等の所有・支配構造の不透明な実態によって、法人等がマネー・ローンダリングや租税回避に利用されている現状をふまえ、リスクに見合った措置を講ずること等を盛り込んだ「G8行動計画原則」について合意しています。

 これらのグローバルの要請に対して、日本における自国によるリスク評価については、平成25年6月に「日本行動計画」が公表され、平成26年12月には、「犯罪による収益の移転の危険性の程度に関する評価書」として公表されました(本評価書の内容については、暴排トピックス2015年1月号もご参照ください)。

 ▼ 警察庁「犯罪による収益の移転の危険性の程度に関する評価書」

 一方、平成26年10月には、顧客管理に関するFATF勧告の水準を満たすために、「疑わしい取引の判断方法の明確化」「コルレス契約締結時の厳格な確認」「事業者が行う体制整備等の努力義務の拡充」等に関する犯罪収益移転防止法の改正案が国会に提出され、翌11月に成立しています。

 ただ、平成26年6月には、FATFから日本に対して、テロ資金の非合法化やテロリストの資産凍結メカニズムがいずれも不完全であることなどの異例の指摘がなされ、「日本が多くの重大な不備の是正を引き続き怠っていることを懸念しており、日本の進捗状況を今後も監視していく」と表明されています。IS等のテロ組織の動向が国際的な脅威となり、2020年東京オリンピック・パラリンピック開催が予定されている中、必要な法整備の遅れ(例えば、共謀罪の成立が見込めていない状況等)や特定事業者を中心とした実務の甘さ(とりわけ、顔写真入りの証明書を未だ必須としていない本人確認制度の不十分さや、法人の真の受益者の特定プロセスの不徹底等)など、グローバル・スタンダードから見ればまだまだ取組むべき課題は多いと言えます。

2) 各種犯罪統計から

① 警察庁「平成26年中のサイバー空間をめぐる脅威の情勢について」

 ▼ 警察庁「平成26年中のサイバー空間をめぐる脅威の情勢について」

 平成26年のサイバー犯罪の検挙件数は7,905件(前年比▲208件、▲2.6%)、ネットワーク利用犯罪の検挙件数は7,349件(同+694件、+10.4%)、警察が把握した標的型メール攻撃は1,723件(同+1,231件、+250%)ということであり、とりわけ、インターネットバンキングに係る不正送金の被害が過去最大になったことが特徴的だったと言えます。昨年、中国ユーザー向けのプロキシサーバーが日本国内に対するサイバー攻撃の踏み台として悪用されていたという問題がありましたが、この「中華プロキシ」はもはや国際犯罪の重要なインフラであり、いったん摘発されても、ネット接続環境さえあれば簡単に再開できる現実があります。

 また、ビットコイン等の新たな技術・サービスが出現し、それらが犯罪インフラとして利用される可能性が拡大しているほか、インターネットにおける危険ドラッグの販路の存在、インターネット通販における本人確認の甘さ、企業のウェブサイトに対するリスト型攻撃、偽サイト等に係る詐欺の多発等、利便性の向上と反比例の関係にあるインターネット利用に係るリスクはますます拡大しており、「国際犯罪組織とサイバー空間」の親和性についても十分な注意が必要な状況です。

② 警察庁「平成26年中のストーカー事案及び配偶者からの暴力事案等の対応状況について」

 ▼ 警察庁「平成26年中のストーカー事案及び配偶者からの暴力事案等の対応状況について」

 平成26年のストーカー事案の認知状況は22,823件で、前年比1,734件(8.2%)増加し、法施行以後最多となったということです。また、刑法・特別法の適用による検挙は、1,917件で前年比343件(21.8%)増加、ストーカー規制法違反検挙は、613件で前年比211件(52.5%)増加、いずれも法施行以後最多となりました。

 一方、被害者の性別割合は女性が89.3%、行為者では男性が85.8%、年齢別では20歳代が35.9%で最多(30歳代が26.5%で続く)となっています。さらに、被害者と行為者の関係については、「交際相手(元交際相手を含む)」が51.0%で最多であり、行為形態別では、「つきまとい・待ち伏せ」(11,379件)、「面会・交際の要求」(10,987件)、「無言電話・連続電話・メール」(7,767件)と続いています。

3) 暴排条項に関する最高裁判断

 本年3月27日、最高裁第2小法廷で公営住宅の暴排条項が合憲であるとの初めての判断がなされました。

 公営住宅から明け渡しを請求された暴力団員が自治体側を訴えた事案(実際に居住していたのは当該暴力団員の両親)でしたが、裁判では、暴排条項が「憲法14条(法の下の平等)」や「憲法22条(居住、移転の自由)」に違反するかどうかが争われました。判決では、「暴力団員が市営住宅に入居し続ける場合には、当該市営住宅の他の入居者等の生活の平穏が害されるおそれを否定することはできない」「暴力団員は、自らの意思により暴力団を脱退し、そうすることで暴力団員でなくなることが可能であり、」「また、暴力団員が市営住宅の明け渡しをせざるを得ないとしても、それは、当該市営住宅に居住することが出来なくなるということにすぎず、当該市営住宅以外における居住についてまで制限を受けるわけではない」と指摘して、暴排条項が合憲であると判断しています。

 本件では、暴力団員であることの立証が問題とはなっておらず、今後、様々な契約等に規定されている暴排条項の書きぶり(排除すべき範囲をどこまでとするか)や警察からの情報提供などを根拠とした立証(属性立証と規定への該当性)に絡む判断については、今後も実務を積み重ねていくことが必要だと思われます。一方、判決文の中で、「誓約書が提出されていること」が判断の要素のひとつとして言及されている点も注目されます。暴排条項の定めとは別に、誓約書により本人の自らの意思を明確に確認する(表明させる)ことが重要であるとの指摘と捉え、今後の実務の参考にしていただければと思います。

4) ヤフーの削除基準公表と「忘れられる権利」

 Yahoo! JAPANが、検索サービスにおける「表現の自由」や「知る権利」とプライバシーをいかにバランスよく実現するか検討してきた有識者会議の報告書を公表、3月31日より、新たな削除基準の運用を開始しています。

 ▼ Yahoo! JAPAN「検索結果とプライバシーに関する有識者会議」の報告書を公表

 本報告書では、「プライバシー侵害に関する判断」は、「その情報を公表されない被害申告者の法的利益とその情報を公表する理由との比較衡量を行う」ことが適切であり、個別の事案に応じて考慮する事情として、「比較衡量される諸事情としては、①当該表示の目的・性格、②当該記載を用いる意義・必要性・態様、③対象者の社会的地位・影響力・生活状況、④事件の歴史的意義・社会的意義、⑤時の経過、⑥プライバシーに属する情報が伝達される範囲と被る具体的被害の程度等」が考えられるとしています。

 なお、以下は、同社の対応方針において示された「被害申告者の属性、記載された情報の性質についての考え方」であり参考となります。これらをふまえ、本コラムとの関係で言えば、過去の犯罪行為や暴力団であったことの事実などは、「公益性の高い情報」として「表現の自由」の保護の要請が高い情報として捉えられる(つまり、それだけでは削除の対象とはなりにくいもの)と考えてよいものと思われます。

(1)被害申告者の属性

 ① 公益性の高い属性(「表現の自由」の保護の要請が高い属性)

  • 公職者(議員、一定の役職にある公務員等)
  • 企業や団体の代表・役員等、芸能人、著名人

 ② プライバシー保護の要請が高い属性

  • 未成年者

(2)記載された情報の性質

 ① プライバシー保護の要請が高い情報

  • 性的画像
  • 身体的事項(病歴等)
  • 過去の被害に関する情報(犯罪被害、いじめ被害)

 ② 公益性の高い情報(「表現の自由」の保護の要請が高い情報)

  • 過去の違法行為 (前科・逮捕歴)
  • 処分等の履歴 (懲戒処分等)

 ③ 文脈等に依存する情報

  • 出生やそれに伴う属性

 また、本報告書においても「忘れられる権利」に関する言及がなされていますが、「忘れられる権利」(正確に言えば、EUデータ保護規則案策定段階から「消去権」(right to erasure)という言葉に置き換えられています)については、「削除を求める情報の内容が異なっていること、削除の請求根拠となる法制度が異なることなど」から単純な比較は難しいとして、直接的な議論はなされていません。

 しかしながら、日本の法制度等に当てはめた事例検討があり、時間の経過から違法性を帯びることがある場合などについては、既存のプライバシー侵害の枠組みで判断していくこと、違法性を帯びない場合は「検索サービスが非表示措置を講じなければならないという立論は難しい」ことなどが述べられています。いずれにせよ、日本における「忘れられる権利」への対応については、まだまだ今後の議論の深化が必要な段階だと言えます。

5)  テロ対策と個人情報保護の緊張関係

 「忘れられる権利」は、個人の情報を巡る「表現の自由」等と「プライバシー侵害」との緊張関係だと言えますが、それとは別に、テロ対策と個人情報保護の緊張関係を巡って海外で大きな議論となっています。

 シャルリーエブド誌襲撃事件などを受け、フランスでは、情報機関が過激派や危険人物の動向を監視するための新しい情報収集法案が審議されています。通信傍受手段などの大枠の利用条件を定め、乱用を防ぐのが狙いとされていますが、テロ対策以外にも広範な分野での収集が認められる内容となっており、プライバシーの侵害とのバランスを巡って激しい議論が交わされているようです。

 また、中国の「反テロ法案」については、その中に、中国でサービスを提供する場合、中国国内にサーバを置くことや、当局へのデータ提供窓口を設置すること、(通信の秘密を守る)暗号キーを当局に届け出ることなどの義務化が盛り込まれており、(個人情報を含む)秘密情報の管理が妨げられるとして欧米が猛反発しており、まだまだ紆余曲折が予想されるところです。

 さらに、直接的にはテロではなかったものの、ジャーマンウィングス社の航空機事故において、意図的に墜落させたとする副操縦士の病気を巡って、ドイツでは医師の守秘義務が議論の的となっています。副操縦士の深刻な病状について、医師が会社側に事前に伝えていたら乗務を阻止できた可能性もあるとする一方で、同国では医師に厳格な守秘義務を課している現状があり、医師は患者の病気を雇用主に報告する義務はなく(病欠を認める診断書にも、病状を記載する必要はないとされています)、病歴は高度な個人情報であってこれまで通り守秘義務を守るべきという声も根強く、こちらも大きな問題となっています。

 これらの議論も、「忘れられる権利」同様、それぞれの鋭い対立軸の中でどのようにバランスをとっていくかが重要になりますが、時代や情勢の変化によってそのバランスが常に揺れ動くところが問題を一層困難にしていると言えます。

6) その他

① 危険ドラッグ対策

 危険ドラッグについては、「東京都の条例による規制強化を避けるために、近隣の神奈川県で販売する動きが目立ち始めている」状況を、暴排トピックス2014年11月号で紹介していますが、ここにきて、埼玉県・神奈川県・千葉県でも同様の条例を施行し、首都圏からの締め出し包囲網が形成されています。厚生労働省も、昨年、改正医薬品医療機器法(旧薬事法)に基づき、危険ドラッグの疑いがある商品の販売などを全国で禁止する広域規制を実施していますので、これら自治体の条例とあわせ、より強固な規制が機能するものと期待したいと思います。なお、直近の報道によれば、近畿圏でのリアル店舗はゼロとなったほか、全国でも残りは、関東圏のわずか5店舗のみという状況まで追い込んでいるということです。

 一方で、危険ドラッグの売買はネット通販やネットを介したデリバリーなどが主流となり、個人輸入や海外との決済にビッドコインを利用するといった事例も増えています。ネット通販の販路における本人確認の甘さについては、当社でも数年前から「宅配状況をネットでリアルタイムに確認しながら受け取り場所の変更を度々指示、最後は近隣の路上で受け取る」「宅配事業者の営業所止めにして別人がなりすまして受け取りに行く」といった手口と組み合わせて本人以外が受け取れる問題を把握していますが、「利便性の裏に潜む脆弱性」は、事業者にとっても解決が難しい問題のひとつだと言えます。

② 上場企業の強制調査

 既に報道されているように、食品事業やネット広告を展開するジャスダック上場企業に対して、証券取引等監視委員会が、金融商品取引法違反(有価証券報告書等の虚偽記載)容疑で強制調査に入りました。直接的には、2期連続の債務超過による上場廃止を避けるため、存在しない現金や回収見込みのない預け金など約10億円を資産計上するなどした疑いが持たれていますが、本件調査については、警視庁組織犯罪対策3課も加わっている点が注目されます。同社が昨年6月に第三者割当増資をした際、新株予約権の購入先から振り込まれた約2億円が所在不明になるなど不透明な資金の流れがこれまでも指摘されており、資金の一部が暴力団関係者に渡っていた可能性もあるとみられています。

 証券取引等監視委員会と警視庁がタッグを組んで反社会的勢力の関与が疑われる上場企業の捜査に着手した例は、過去に井上工業(東証2部に上場していたものの、事件を受けて上場廃止、破産)の件がありますが、今回で2例目となると思われます。当社としては、上場企業といえども、ビジネスモデルの行き詰まりや資金繰りの悪化、経営陣の脇の甘さなどから反社会的勢力の侵入を許してしまっている事例は数多くあると認識していますが、一方で、事件化される例があまりに少ないのが現実です。とはいえ、企業としては、当局による事件化を待つのではなく、自ら情報収集・分析を絶えず行いながら、上場企業を例外的に取り扱うことなく適切に見極めていく「自律的・自立的な反社会的勢力排除態勢」を整備していくことが求められます。

③ 新たな捜査手法

 今国会で、取り調べの録音・録画(可視化)の3年以内の義務化や、他人の犯罪事実を明らかにした容疑者や被告に有利な扱いをする制度(いわゆる「司法取引」)の2年以内の導入、通信傍受の対象犯罪拡大を柱とする刑事訴訟法などの改正案が成立する見込みです。

 とりわけ、通信傍受対象については、現在、「薬物関連犯罪」「銃器関連犯罪」「集団密航に関する罪」「組織的な殺人の罪」の4類型に限定されていますが、改正案では組織性が疑われる殺人や放火、強盗、詐欺、窃盗など9類型の犯罪が追加されています。昨年、工藤會のトップら16名を逮捕した際にも、通信傍受が決め手だったことが明らかになるなど、暴力団の強固な「組織性」を利用した(逆手に取った)摘発手法は有効だと思われます。当然ながら、ここにも「通信の自由」「「プライバシー」の侵害と「組織犯罪摘発」の間に強い緊張関係があり、その拡大に、これまで以上の適正かつ透明性の高い運用が求められることは言うまでもありません

 また、大阪府警が容疑者らの行動を確認するためにGPS(全地球測位システム)の端末(発信器)を裁判所の令状なく車両に取り付けた捜査方法を巡って、大阪地裁が、「プライバシー侵害は大きくなかった」として適法と判断しています。

 GPS捜査については、警察庁が、「他の方法による追跡が困難」「設置時に住居侵入などの犯罪を伴わない」「事前に警察本部の許可を得る」といった内規でその基準を定めて運用していることが明らかとなっています。今回、司法の判断が初めて下されましたが、一方で、総務省の個人情報の取扱いに関する検討会で、このGPS情報の取扱いを巡っての議論があり、「犯罪捜査の場合においては、GPS位置情報が取得されていることを被疑者等に知られてしまい、実効性のある捜査が困難となるため、捜査において活用することができない状況が生じている。また、通信の秘密の保護の対象である情報を捜査機関が利用する場合の手続(通信の傍受や通信履歴の利用など)と比較しても要件が過重でないかとの指摘」もあり、この手続きを不要とする方向を打ち出しています。

 ▼ 総務省「個人情報・利用者情報等の取扱いに関するWG(第3回)」

 ▼ 資料1 「『電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン』の改正について(案)」(案)

④ その他事案

 福岡県内で数千万円分のソーラーパネルを盗み転売していたなどの疑いで、工藤會と山口組の組幹部ら12人が窃盗や盗品等有償譲り受けの疑いで逮捕されています。本件とは別に、当社においても、企業からの相談として、新電力分野(地熱発電やソーラー発電など)を巡って反社会的勢力の関与が疑われる事案が増えています。それらは、例えば、バブルの頃から暴力団関係者が関与していた土地が開発予定地の隣地だったとか、専門的な知見を有すると紹介されたブローカーが好ましくない関係者をたくさん絡めるようになったといったものなどが代表的ですが、彼らが事業者の動きに先手を打って案件を仕込んでいる状況もうかがえ、その手際の良さや先見の明には驚かされます。

 また、自動車の盗難が最も多い愛知県(5年連続で全国ワースト1位)では、暴力団や半グレらによる組織的な窃盗が問題となっている報道もありました。高級車が狙われて海外へ転売されたり、解体して部品を海外に輸出するなどして、「資金源」化している実態は以前から知られています。また、前述の「平成26年の暴力団情勢」によれば、暴力団員の摘発状況のうち、罪種別では「詐欺」が、統計を取り始めた1964年以降で初めて「窃盗」の比率を上回ったことが指摘されています。任侠道においては、「詐欺」も「窃盗」も不心得者がするものとされており、昨今のように、資金獲得のために(なりふり構わず)組織的に実行していること自体、暴力団が追い込まれ、組織としての自己矛盾を露呈し自己崩壊へと突き進んでいる証左だと言えます。

3.最近の暴排条例による勧告事例・暴対法に基づく中止命令ほか

1. 暴力団対策法に基づく禁止命令(福岡県)

 福岡県公安委員会は、工藤會の暫定トップら幹部2人に対し、暴力団対策法に基づき、一般人襲撃事件に関与した服役中の幹部ら2人への出所祝いや昇格などの「称揚行為」を禁じる命令を出しています。一般人襲撃事件に関して指定暴力団トップに称揚行為を禁止するのは全国初となります。

2. 暴力団対策法に基づく再発防止命令(福岡県)

 福岡県公安委員会は、道仁会系幹部に対し、暴力団対策法に基づき、「指詰め強要行為」および「脱退妨害行為」にかかる再発防止命令2件を出しています。とりわけ、前者の再発防止命令は全国初となります。

3.  暴力団対策法に基づく中止命令(栃木県)

 栃木県警は、住吉会系組員に対し、暴力団対策法に基づき、「金品等の贈与を要求する行為」の中止命令を出しています。

4. 自治体による企業名公表(福岡県北九州市)

 「役員等が、暴力団構成員である事実を確認した」として、福岡県内に所在する2社について、3月17日付けで北九州市が社名を公表しています。また、同じ企業について、3月31日付けで福岡県も社名を公表する排除措置を講じています。

 ▼ 北九州市「暴力団と交際のある事業者の通報について」

 ▼ 福岡県「暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧表」(排除措置)

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