暴排トピックス

1.  カジノ事業からの反社会的勢力排除

 カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備推進法案については、先日閉会した国会でも見送られる結果となりました。前回も指摘した通り、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催に向け、あるいはそれ以降の「観光立国」あるいは「地方創生」の切り札として期待される役割の大きさや、「成長戦略」の起爆剤として見込まれる経済効果の大きさから、いずれは実現に向けた検討が進められるものと予想されます。
 一方で、その期待とは裏腹に、野党はもとより与党内からも慎重な意見が多いのは、カジノの賭博性の合法化に関する論点だけでなく、「ギャンブル依存症対策」「マネー・ローダリング対策」「反社会的勢力対策」の3つが、国民の理解を得るために極めて重い課題・整理すべき論点としてクローズアップされていることが大きな要因です。

カジノ解禁の是非はさておき、「カジノ事業からの反社会的勢力排除」については、今後の議論の大きな争点でもあり、現時点で詳細は何も確定していないとはいえ、本コラムにおいても一度整理し、その方向性について提言を試みたいと思います(なお、「カジノを含む統合型リゾート施設(IR)」に関連する事業については、本来「IR事業」と表記すべきところではありますが、理解しやすくするために「カジノ事業」と表記します)。

 さて、カジノ事業から反社会的勢力を排除すべきという点については、国内では異論のないところですが、実は、海外の犯罪組織の構成員(マフィアなど)は、カジノで隠れてプレーしても、違法行為等がない限りは大きく問題視されることがないようです。その点では、そもそも入場自体を認めない(例えば、ゴルフ場で表明確約に違反したプレーした場合は詐欺罪にさえ問われる)日本の暴力団等に対する徹底した規制の方向性とは異なります。したがって、反社会的勢力排除について言えば、海外と日本とでは、そもそも議論の出発点から異なる(日本における独自性・特殊性からくる実務上の困難さがある)点に注意が必要です。

 そのうえで、日本におけるカジノ事業の今後の指針・根拠となるであろう「特定複合観光施設区域整備法案(仮称)~IR実施法案~に関する基本的な考え方」(平成26年10月16日改訂、国際観光産業振興議員連盟) には、明確に以下の方向性が記されています。

■ 暴力団組織の介入や犯罪の温床になること等を断固、排除する
 カジノ施行に係わる参入要件と行為規制を厳格に規制し、関与する個人・法人の清廉潔癖性と遵法性を厳格に要求することにより、暴力団組織等による介入を完璧に排除することができる。また、施行に係わる規則等も厳格にその履行と遵守・監視を担保する仕組みを構築すれば、カジノが犯罪の温床になるということはあり得ない。
 また、カジノ管理委員会との連携により、入場者全員の本人確認を義務付けることにより、暴力団組織等に関係する者の入場を完全に排除するものとする。

 カジノ事業が犯罪の温床になること、カジノ事業が彼らの活動を助長すること、その運営に資することがあってはならないことはその通りですが、ここで示されている「暴力団組織等」の「介入を完璧に排除する」「入場を完全に排除する」ことはそう簡単なものではありません(もちろん、排除すべき対象が顔写真とともに全てリスト化されているなど極めて限定的な状況であれば可能でしょうが、それでは反社会的勢力排除の本質を見誤っていることになります)。

 また、そもそも、ここで言う「暴力団組織等」が、本来排除すべき対象として想定されている「反社会的勢力」と完全に一致するのか、その「見極め」や「証明」「監視」が現実的にどこまで可能なのか、実態や限界をふまえた実務的な視点と絡めながら精緻な議論が求められると言えます。

 今回の考察においては、「反社会的勢力」の捉え方とカジノ事業における「主体(免許事業者・関連事業者・入場者)」との関係を整理し、今後の制度設計のあり方について具体的な方向性を提示してみたいと思います。

1) 反社会的勢力の捉え方

 まず、本コラムでもたびたび取り上げている「反社会的勢力」の捉え方について、議論を分かり易くするために以下の3種類に整理してみます。

①属性要件等ベースの反社会的勢力

政府指針(犯罪対策閣僚会議申し合わせ「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」平成19年7月)において「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団または個人」との捉え方が「属性要件」「行為要件」とともに明示されていることに加えて、その後の社会情勢の変化(暴排条例の全国の自治体での制定、反社会的勢力のさらなる不透明化・潜在化の進展、準暴力団などグレーゾーンの拡大など)をふまえて、「共生者」や「元暴力団員」なども含めるとする、(行為要件にも配慮しつつ)主に属性要件に着目した捉え方が一般的となっています。

②実態ベースの反社会的勢力

一般的な捉え方に対して、反社会的勢力の不透明化・巧妙化の実態をふまえた場合、(属性要件等のみで)反社会的勢力を明確に分類・定義することが困難であるのも事実です。本来、暴力団や「属性要件等ベースの反社会的勢力(便宜的に枠を嵌められ、限定された存在としての反社会的勢力)」だけを排除するのではなく、それらとの何らかの関係を有しているとの疑いがあり、「暴力団的なもの」「本質的にグレーな存在」について、「関係を持つべきでない」とする企業姿勢のもとに、それを排除していくべきとする捉え方があります。

当社は、このような捉え方に立ち、反社会的勢力については、「暴力団等と何らかの関係が疑われ、最終的には『関係を持つべきでない相手』として、事業者が個別に見極め、排除していくべきもの」と定義していることはこれまでも述べてきた通りです。したがって、一般的な捉え方とは別に、最新の実態をふまえた、本来認知して排除していくべき「実態ベースの反社会的勢力」といった捉え方もあると言えます。

③結果ベースの反社会的勢力

反社会的勢力がその不透明化・巧妙化を進めている中、民間事業者が100%それを認知することは不可能であり、その捕捉には限界があります(警察でさえも全てを把握できているわけではありません)。
 その結果、反社チェックの範囲・手法・深度等によって、事業者が捕捉できる「反社会的勢力」は、①や②が補足しようとしたもの(目標)と、実際に捕捉できたもの(結果)との間で異なる(より限定的なものにならざるを得ない)ことになります。逆に言えば、事業者の反社チェックに対するスタンス次第で捉えられる「反社会的勢力」の範囲が異なるということであり、「目標」に対して「結果」をベースとした現実的な捉え方もありえるということです。

 なお、①の「属性要件等ベース」の捉え方が、静的・限定的であればあるほど、警察情報や当社が提供しているような民間の反社会的勢力データベースを活用して捕捉できる可能性は高まると言え(もちろん、100%の捕捉は不可能ですが)、ここで言う実際に捕捉可能な「結果ベースの反社会的勢力」に近付いていくことになります。

2)  ライセンス事業者に対する「厳格な背面調査」(海外の取組み)

 日本における反社会的勢力の捉え方は、チェックのあり方(範囲や深度、手法等)と密接な関連があることはご理解いただけたと思います。
 一方、すでにカジノを合法化している国や地域においても、犯罪や反社会的な組織の介入を防ぐために、「厳格な背面調査」を前提としたライセンス制度を導入し、「入口」で排除する仕組みを構築し始めている実態があります。今後の日本での制度設計においても参考になりますので、以下、簡単に紹介しておきたいと思います。

【注】以下、本項目については、「日本版カジノのすべて」(国際カジノ研究所所長 木曽崇著 日本実業出版社)を参考にしています。

 ライセンス制度の詳細は国によって異なりますが、およそ「カジノ関連事業を営む法人」「その法人を保有する所有者(株主)」「それらを実際に経営する経営者」「現場業務に関わる従業員」の4つの「主体」をライセンス制度の対象とするのが一般的であり、ライセンス発行の際には、これら4つの主体に対して、大きく以下の項目について、「厳格な背面調査」が実施されています。

①過去の犯罪履歴

ライセンス申請者の過去10年程度の犯罪履歴のチェックを行う。過去、売春斡旋、薬物・銃器の売買など反社会的組織に関与することの多い犯罪歴がある場合は、ライセンスの取得が困難となり、賭博や業務上横領なども大きなマイナスとなるとされている。

②経済基盤

過去10年程度がチェック対象期間とされ、銀行口座の出納履歴、クレジットカードの取引履歴、債務・債権の有無、不動産等の資産状況などがチェックされる。犯罪収益や反社会的組織への利益供与などが判明すればライセンスは発行されない。

③親族・過去の交友関係

申請者の3親等内の親族や交友関係者に組織犯罪に関連する人物が含まれていないかがチェックされる。交友関係は、過去10年程度の交友範囲がチェック対象となることが多いという。

④能力および人格

特に、法人がカジノ関連事業を運営するにあたって、厳格な「コンプライアンス体制」や「不正防止体制」を構築しているかがチェックされる。

3) 「主体」に求められる健全性のレベル感(国内の場合)

 国内の反社会的勢力排除の取組みからみた場合、(IR事業を含む)カジノ事業に関連する事業者は、「免許申請者」(前項の海外の取組みの4つの主体は全てこの区分に含まれます)だけでなく、「免許申請者に関連するIR事業者・カジノ事業者」にも特別に配慮する必要があります。さらに、規制を検討すべき対象としては「入場者(プレイヤー)」も重要であり、この3つの「主体」について、それぞれに求められる「反社会的勢力排除」のあり方(健全性のレベル感)を検討していきたいと思います。

①免許申請者

免許申請者自身に求められる厳格な「清廉潔癖性と遵法性」を担保するためには、暴力団と直接・間接に関係を持つと考えられる反社会的勢力を排除する(関係を持たない、影響力を排除する、活動を助長しない等)との立場から、前述の「実態ベースの反社会的勢力」とまで関係がないことを、(100%認知することは難しい現実をふまえて)継続的に証明し続ける努力(反社排除プログラムの実践に真摯に取組み、その状況を公表等し続けること)が求められると言えます。
とりわけ、「活動を助長しない」「影響力を排除する」との観点からは、自らが関与する取引等の「商流」からの反社会的勢力排除(東京都暴排条例等に規定されている「関連契約からの暴排」と同様の考え方)にまで注意を払うことまで求められていると言えます。

②免許申請者に関連するIR事業者・カジノ事業者等(施設の施工業者や取引業者など)

免許申請者の「商流」の中に位置づけられる関連事業者については、資金の流れ等からみれば、本来、免許申請者自身と同じ厳格な健全性が求められているとはいえ、実務的には、最低限、「属性要件等ベースの反社会的勢力」に該当しないことが求められると言えます。
ただし、免許申請者との関係において、人的・経済的・資本的な「影響力」や「関係の親密さ・密接さ」等の度合いが大きい先(例えば、資本提携先・業務提携先、業務委託先など)については、より厳格な「実態ベースの本来的な反社会的勢力」に該当しないことまで求められると言えると思います。また、免許事業者の業務について「商流」の中に関連付けられる委託先や再委託先等についても、厳格な確認が求められる範囲に含まれると言えるでしょう。

③入場者(プレイヤー)

先進的なカジノ制度導入を進めている国や地域においては、「カジノ顧客に対する厳格な入退場管理制度」を義務付ける動きが始まっています。また、アンチ・マネー・ローンダリング(AML)/テロ資金供与対策(CTF)の観点からも、FATF(金融活動作業部会)は、例えば「40の勧告」の中で、「(カジノの)顧客が一定の基準額以上の金融取引に従事する場合」については、「顧客管理義務(本人確認・疑わしい取引の届出)及び記録保存義務は、指定非金融業者及び職業専門家に適用される」「カジノは、必要なAML/CTFを効果的に実施していることを確保するための包括的な規制制度及び監督体制の対象となるべきである」などとされていることなどから、「入場者」(プレイヤー)についても、厳格な規制対象・管理対象となっているとの認識が必要です。

一方で、反社会的勢力の不透明化・巧妙化の実態や、日本における本人確認制度の現時点の脆弱性や手続きの迅速性等も総合的に考慮すれば、「入場者」からの反社会的勢力排除においては、個人レベルのカジノゲームによる儲けが限定的かつ捕捉可能であり、万が一の際には退場の権限も保持できていることを前提として、本人確認制度とデータベースによって捕捉可能なものについて確実に排除していくこと(すなわち、「結果ベースの反社会的勢力」の排除)が最低限必要となるものと思われます。もちろん、チェックの精度、捕捉可能性を高める努力を継続的に行い、「実態ベースの反社会的勢力」の排除を最終的に目指していくことが、社会の要請(社会の目線)に応えるためには必要となることは言うまでもありません。

4) 社会の目線の厳しさと実務上の限界・困難性

 さて、これまで見てきた通り、「反社会的勢力の捉え方」と「主体別の求められる健全性のレベル感」についての一応の類型化・整理は可能かと思われますが、重要なことは、(IR事業を含む)カジノ事業の健全性については、社会の目線が、そもそも最初から高いレベルのものを求めていることが明らかだということです。社会は、その収益がどのような形であっても、どのようなレベルの反社会的勢力に対しても、還流してはならないことを求めており、関連する全ての「主体」について、厳格なチェックを行うことを求めているのです。

 つまり、カジノ事業者は、暴力団対策法によって存在が認められた暴力団や当局が認定した暴力団員等、あるいは、「現時点で認識されている反社会的勢力」「実務的に捕捉可能な反社会的勢力」の排除にとどまるのではなく、カジノ事業から生みだされる収益を享受する「真の受益者」が反社会的勢力であってはならないこと、そのための確認-具体的には、マネー・ローンダリング対策についてFATF勧告により日本が求められている「究極の実質的支配者(顧客を究極に所有又は支配する者)の確認」の範囲をふまえた反社チェックの実施-に最大限の努力を講じることまで求められているのです。

 一方で、反社会的勢力の不透明化・巧妙化やデータベースの限界、調査や審査にかけられる時間やコストなどの要因によって、全ての「主体」について「究極の実質的支配者の確認」まで実施できない状況や、関係者の属性等の立証が難しいといった限界があり、その全てを捕捉することは実務的には不可能です。

 したがって、結果的に「実務的に捕捉可能な反社会的勢力」レベルでの排除となるにしても、それは、「属性要件等ベースの反社会的勢力」を排除しようとする最低限の取組みの結果であり、事業者として可能な限り「究極の実質的支配者の確認」をふまえた「実態ベースの反社会的勢力」の排除に向けて取り組んでいる結果であると示すことが、厳しい社会の目線に対して説明責任を果たしていくためには必要なことと言えます。

 カジノ事業からの反社会的勢力排除のあり方を考える上では、(日本の)社会の目線やその実務の限界等を意識した、このような考え方が出発点であり、目指すべき到達点であるとも言えるのです。

5) 制度設計の方向性

 さて、これまで見てきた「反社会的勢力の捉え方」と「主体別の求められる健全性のレベル感」の関係をふまえ、「審査」「証明」「監視」のあり方(カジノ事業からの反社会的勢力排除のための制度設計)について、具体的に考えてみます。

①「関与する個人・法人」たる免許申請者の審査

免許申請者自身に求められる厳格な「清廉潔癖性と遵法性」を担保するためには、反社会的勢力排除の観点からの健全性に関して、「カジノ管理委員会」が実施する審査を、申請時はもちろん、定期的(例えば1年ごと)に実施し、最新性を保持していくこと(監視していくこと)が重要です。
そして、審査は、専門的かつ公正中立の立場でなされるべきであることから、免許申請者が、第三者である外部専門家によるデューデリジェンスを受けたうえで(第三者に健全性を「証明」してもらい)申請する、あるいは、カジノ管理委員会の下、外部専門家から構成される第三者委員会等が集中して審査を行うといった方法が望ましいものと考えられます。

また、その審査の範囲については、証券取引所の上場基準や前述の海外の取組み状況等からみて、以下のようなチェック対象の選定等を行うべきと考えます。

役員

当然ながら全ての役員が対象となります(場合によっては、10年以内に退任した役員も対象に含めるといった運用も考えられます)。そのうえで、その親族・交友関係についても、海外において厳格な背面調査が実施されていること、法人における「究極の実質的支配者の確認」が求められていること等から、その背後関係についてまで確認していくことが求められると言えます。

従業員

全ての従業員を確認することが望ましいとはいえ、経営に影響を及ぼし得る役職者のみ、あるいは、(IR事業を含む)カジノ事業に関わる関係者のみ、といった合理的な限定も考えられるところです。一方、海外の取組み事例からみれば、特にカジノ事業に携わる役職員については、その親族や交友関係についてもチェック対象とすべきということになります。

株主

全ての株主を確認することが望ましいものの、経営に一定の影響を及ぼし得る範囲はもちろん、株主であれば配当等の利益を享受できることから、例えば、出資比率が5%以上など一定の基準に該当する株主を確認することは最低限実施すべきと考えます。さらに、「究極の実質的支配者の確認」の観点からは、株主が法人の場合は、最終的なその支配者(所有者)を確認し、チェック対象としていくことも求められます。

取引先

まずは、全ての取引先を何らかの形でチェックできる態勢が整備され、実際に運用されていること(加えて、暴排条項が締結されていること)が重要だと言えます(現時点で、全ての既存取引先を定期的にチェック対象としていくことまで求められているかについては、議論すべき余地があると考えます)。ただし、経営に一定の影響を及ぼし得る主要な取引先については、「究極の実質的支配者の確認」を行いつつ、相応の深度をもって、頻度の高い厳格な確認を継続的に実施していくことも求められていると言えます。

また、上記のような関係者(当事者)の属性要件や行為要件だけでなく、「共生者や怪しい周辺者(顧問や相談役等)の排除」や「商流からの排除」の観点にまで注意を払う必要があります。なお、十分な深度をもった具体的なチェックの対象範囲や手法等、その他詳細については、本コラムにおいて既に述べておりますので今回は割愛します。

さらに、反社チェックにおいて、警察情報やデータベースの限界に起因する「グレー」認定先に対する「監視体制(モニタリング態勢)」についても、厳格に確認していくべきと考えます。具体的には、「グレー」判断の妥当性、「継続監視」とすることの妥当性、「継続監視」を適切に実施していること(監視をしていないことはありえないし、端緒情報の収集などにおいて不作為がないなど)が十分証明できるか、といった視点が審査においては求められることになると考えられます。

②関連事業者の審査

(IR事業を含む)カジノ事業に参画する事業者についても、十分な健全性を確保することが必要であることは既にお話した通りです。

厳格な審査方法としては、免許申請者と同じく、第三者である外部専門家による証明をもって申請する、あるいは、カジノ管理委員会の下、外部専門家から構成される第三者委員会が集中して審査を行うといった方法が望ましいと言えますが、事業者の数が膨大になることから、あまり現実的な方法ではありません。したがって、少なくとも、チェック対象の範囲や手法等について定めた所定の審査項目に基づく外部専門家のチェック結果(報告書等)、あるいは、自社でチェックした結果(日常的なチェック実施状況に関する報告書等)の提出を求めることが現実的だと言えます。さらには、「反社会的勢力と関係がないことの誓約書」の提出についても考えられるところです。

また、業務委託先や再委託先を使う場合については、委託元(元請け)として厳格に管理していることを疎明する資料(委託先等との暴排条項入りの契約書の写しや委託先等から提出された誓約書、自らが実施したチェックの結果など、取引先等の管理態勢の状況等)の提出を求めることが望ましいと言えます。

③入場者審査

入場者の審査としては、既に先進的な取組みとして導入されつつある「厳格な入退場管理制度」をベースとして、事前に、あるいは入場手続きの一環として「会員登録」(結果としての会員証の発行)のプロセスを設け、本人確認を厳格に実施のうえ、その属性について、データベースを活用したスクリーニングを実施することが、現実的かつ効率的な望ましい方法と言えます。
ただし、警察データベースとの連携が、特に現役の構成員を排除するために有効であることは間違いありませんが、その接続については、現段階で実現可能性に懸念がありますので、暴追センターの提供するデータの活用や民間事業者が提供するデータベースを活用することが、民間としてできる最大限の努力として、現実的な方法と言えるのではないでしょうか。

また、本人確認手続きにおいては、グローバル・スタンダードに準じて、顔写真付きの身分証明書(運転免許証やパスポート、今後発行されるマイナンバー制度における個人番号カードなど)のみ有効として、それ以外のお客さまは会員登録を認めない(入場を認めない)とすることが大きなポイントとなると思われます。
なお、顔写真付きに限定することで、免許証がない、個人番号カードの発行を申請していないなど、「証明弱者」は入場できないということになりますが、特に個人番号カードは自ら能動的に取得できるものでもあり、健全性の担保を優先すべきと考えるべきです。

さらに、データベース・スクリーニングにおいては、同姓同名レベルでの一致および年齢の一致(±1歳レベル)までは判明するものの、それ以上の審査は時間的な制約や警察等への確認等もあって難しい現実があり、入場の可否判断を一定の時間内(例えば、入場前の会員登録手続きと想定した場合は、5分程度から最大30分程度でしょうか)で実施せざるを得ないことから、ある一定の基準のもと、「グレー」として入場を認めつつ、厳格なフラグ管理のもと、その行為(利用金額や出金状況、不正行為の有無など)をフロア内でモニタリングしながら、問題があればその時点で排除するといった管理手法などが考えられます。
また、いったん会員登録をして入場を許可した者であっても、例えば、顔写真とスクリーニングの結果などから警察と連携して暴力団関係者であることが判明した場合には、その時点で強制的に排除する(退場させる)、次回以降の入場を認めないといった措置も十分考えられるところです。さらには、ゴルフ場詐欺や口座開設詐欺同様、事前に「表明確約書」等を提出させることによって、詐欺罪によって事後的に告訴するといった極めて厳格な対応も視野に入れることができます。

会員登録手続きにおけるその他の項目としては、強制退場や利用制限等の対応の根拠となる「反社会的勢力でないことの表明確約書」への署名や施設利用約款への暴排条項の盛り込み、会員専用カード等による資金の流れの把握(現金やクレジットカードの利用を制限する)といったことも考えられます。

なお、入場者の審査については、反社会的勢力排除の観点だけでなく、AML/CTFやギャンブル依存症対策の観点も加味した形で「一体的に制度設計する」ことが効率的かつ重要となります。例えば、会員専用カードへの入金(チャージ)としてフロア内での利用を制限することで、資金の流れを完全に把握してマネー・ローンダリングに悪用されるリスクを低減させるだけでなく、利用の上限金額を事前に設定することで、上限に達した場合は強制終了とする、強制的に退場させるといった対応や、入場回数や滞在時間の管理によって利用や入場を制限するといった「ギャンブル依存症対策」としての応用が期待できます。

その意味では、会員登録時にデータベース・スクリーニングを実施することが望ましいことについては、AML/CTFやギャンブル依存症対策の観点からも同じだと言えます。
前者については、米国財務省(OFAC)や英国財務省、米国FBIなど世界各国・機関から出されている制裁リストやPEPs(外国における重要な公的地位を有する者)リスト等をデータベース化したシステムが現実に海外のカジノ事業において利用されています。
また、後者のギャンブル依存症対策で言えば、例えば、「排除プログラム」と呼ばれる、ギャンブル依存症を患っている、もしくはそのリスクが高いと判断される個人に対して、カジノ施設への入場を禁じるプログラムをベースとした利用許可システムが海外では実際に運用され、一定の効果をあげているとのことです。

【注】例えば、シンガポールでは、本人申請による「自己排除」、家族の申請による「家族排除」、生活保護受給者や自己破産者など行政によって定められた一定の基準に基づいてすべての国民に対して適用される「第三者排除」の3つの方式で構成されています。

 以上、カジノ事業に関わる各主体に対する健全性の観点からの審査および制度設計について、そのあり方についての筆者なりの見解を述べさせていただきました。

 日本におけるカジノを含むIR事業の法的枠組みがいまだ整備されていないとはいえ、海外からの集客効果、直接・間接の経済効果などからみて、カジノを含むIR事業は確かに魅力的なコンテンツだと言えます。また、そうであるが故に、そこに犯罪組織等が群がる構図はどの時代も、どの国においても同じであり、カジノはもちろん、IR事業全体の健全性の担保が大きな課題です。

 その中でも、とりわけ、「カジノ事業からの反社会的勢力排除」というテーマは、日本独特の課題でもあります。さらには、このテーマに明確かつ絶対的な解決法があるわけではなく、100%排除することが困難との前提に立たねばならない点も、その特殊性や困難さにつながっています。

 しかしながら、関連する事業者やカジノ管理委員会等、カジノ事業の運営あるいは審査に携わる全ての関係者には、この困難な課題に対して、「一種のあきらめをもって対応する」といった受動的・消極的なスタンスではなく、(IR事業を含む)カジノ事業全体に向けられる社会の目線が最初から厳しいレベルにあると認識し、そのような社会の目線を強烈に意識しながら、常に「真の受益者」からの反社会的勢力排除に向けて取り組んでいるとする真摯な姿勢を対外的に示すこと、さらには「示し続ける」という能動的なスタンスが求められているということは間違いないところです。

2. 最近のトピックス

1) 平成27年上半期の暴力団情勢

▼警察庁 平成27年上半期の暴力団情勢

 警察庁より「平成27年上半期の暴力団情勢」が公表されています。直近では指定暴力団六代目山口組の内部分裂という重大なトピックスがありますが、本レポートでは、あくまでも平成27年上半期(1月~6月)についての情勢が取り上げられています。

 まず、暴力団構成員等の検挙人員は、当期間においては、10,198人と前年同期に比べ789人減少し、その減少比率(▲7.2%)については、暴力団構成員等の減少比率(平成26年12月末現在の暴力団員(暴力団構成員および準構成員)は前年比で5,100人減(▲8.7%)の5万3,500人となっています)とほぼ同程度であることから、その傾向に大きな変化はないものと考えられます。
 ただし、その中でも、前年同期に引き続き、「詐欺」の検挙人員が「窃盗」の検挙人員を上回っており、暴力団が「詐欺」を資金獲得の手段としている傾向が続いていることがうかがわれます。暴力団の資金獲得活動については、伝統的資金獲得活動(薬物の違法販売や賭博等)はもちろん、金融業、建設業、労働者派遣事業、風俗営業等に関連する資金獲得犯罪がこれまで同様行われており、時代とともに変遷しながらも多種多様な資金獲得活動を行っている実態があります。

 なお、検挙という点では、平成26年下半期から工藤会幹部の大量逮捕が続いたほか、当期間においては、山口組直系組長9人(前年同期比2人増)、弘道会直系組長等(いわゆる「直参」)6人(同1人増)、弘道会直系組織幹部(弘道会直系組長等を除く)10人(同11人減)を検挙するなど、幹部をターゲットとした成果があがっている点が特筆されます。

 また、暴力団構成員等に係る組織的犯罪処罰法のマネー・ローンダリング関係の規定の適用状況については、犯罪収益等隠匿関連(第10条違反)が20件(前年同期比+11件)、犯罪収益等収受関連(第11条違反)が18件(同+4件)のほか、起訴前没収保全命令(第23条)の適用は28件(同+10件)など、マネー・ローンダリングに関連する暴力団の事案の摘発が増加している点も大きな特徴です。

 さらに、暴力団排除条例(暴排条例)に基づく勧告等の実施件数については、勧告が40件、中止命令が4件、検挙が5件と、前年同期の勧告が29件、中止命令が4件、検挙が2件であったことと比較して、全国の警察がこれまで以上に活発な取組みを行っていることがうかがえます。また、市町村における条例については、平成26年末までに(北海道、岩手、山梨、新潟、徳島、香川を除く)41都府県内の全市町村で制定されています。
 参考までに、本レポートに紹介されている暴排条例の勧告事例等は以下の通りです。(下線は筆者)

  • 飲食店支配人が、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなることの情を知って、住吉会傘下組織幹部に同店を会合場所として使用させたことから、同支配人と同幹部に対し、勧告を実施した事例(警視庁 1月)
  • 飲食店経営者が、暴力団の威力を利用する目的で、山口組傘下組織幹部に現金等を供与したことから、同経営者に対して勧告を実施し、同幹部については、勧告を受けていたにもかかわらず、勧告に従わなかったことから、その氏名等を公表した事例(愛知6月)
  • 松葉会幹部が、条例で定める暴力団事務所の開設又は運営の禁止区域に暴力団事務所を開設し、運営したことから、条例違反として検挙した事例(福島 1月検挙)
  • 2) 六代目山口組の分裂

     指定暴力団六代目山口組(山口組)の8月末の内部分裂後、9月末までの1か月間に、全国の警察が新組織「神戸山口組」を含む双方の幹部29人を逮捕、21カ所を家宅捜索したということです。10月に入っても警察の活発な活動は続いており、連日のように、幹部や組員の逮捕情報や家宅捜索に関する報道がなされています。

     前回(暴排トピックス2015年9月号)も述べた通り、現行の枠組みでは、新組織の「指定暴力団」化のためには、組織の構成や構成員の迅速な把握(実態の把握)等が必須であり、これら一連の検挙や家宅捜索の動きは、警察が総力をあげて取り組んでいることの表れです。
     ただ、今のところ、大規模な抗争までには至っていませんが、新組織に移ろうとした組員が撃たれて死亡する事件等の「局所的な衝突」は既に発生しており、他にも、(一部マスコミへのリークなどを通じた)切り崩し工作や情報戦の激化、拳銃の調達やヒットマンの手配(募集)の動きも報じられるなど、本格的な抗争に向けた暴力団側の動きはさらに緊張感を増しており、(大規模な抗争にまで発展し難い要因が多いとはいえ)注意が必要な状況に変わりはありません。

     このような状況下、前回も指摘した通り、事業者としては、「取引等を含む経済活動が内部抗争の主戦場になる」ことから、否応なくそこに巻き込まれる可能性は高く、これまで以上に「接点」や「アプローチ」を警戒し、社内研修による意識の向上や反社チェック等の運用・レベル感などをより厳格に、より適切に行うといった「対応の質を磨いていく」必要があります。

     そして、連日のように暴力団関連情報等が報道されることで、国民として、社会人としての個々の暴排意識が高まっていることも事実であり、このようなタイミングを捉えて、正に今こそ、暴排研修や反社チェック等のルールや運用について、(新たに/あらためて)徹底すべきだとも言えます。内部統制システムの実効性を高めるためには、個人の「そうあるべきだ」との「意識」や「認識」と会社の方向性に齟齬がないこと(一人ひとりが心からの共感や当事者意識をもって会社の定めたルール等を守ろうと思うこと)が重要であり、今はそのような空気感を組織内に醸成するのに大変よいタイミングです。徒に恐怖心を煽ったり、暴力団情勢の動向を追うことだけに拘るのではなく、彼らの活動を助長したり、活動に資するような経済取引を行うことがないよう、彼らとの「接点」や彼らからの「アプローチ」に対する警戒への対応として、暴排意識やリスクセンスを自らの持ち場で発揮することの重要性を徹底していただきたいと思います。

    3) テロ対策

    ①国際テロリスト財産凍結法(国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法)の施行

     昨年(2014年)11月に成立した、国際テロリストの活動を資金面から封じ込める「国際テロリスト財産凍結法」が10月5日から施行されました。

    ▼警察庁 国際テロリスト財産凍結法関係

     既に、上記Webサイトにおいて最新の「公告国際公示リスト」が公表されていますが、規制対象は、「安保理決議第1267号等により国連安保理制裁委員会が制裁リストに記載したタリバーン関係者等」「国際連合安全保障理事会決議第1373号によりその財産の凍結等の措置をするべきこととされている国際テロリストとして国家公安委員会が指定した者」であるイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)や国際テロ組織アル・カーイダの関係者ら自然人や団体で、都道府県公安委員会の許可がなければ、国内の銀行口座にある預貯金の引き出しや不動産の売却などができないことになります。

     この法律の施行の背景には、FATF(金融活動作業部会)から、CTF(テロ資金供与対策)に関する日本の取組み状況について、国際テロリストの行う対外取引は外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号)によって規制されている一方、「居住者による指定されたテロリストに対する支援を対象にしていないことから、テロリストの資産が遅滞なく凍結されない」との指摘を受け、早急に必要な法制上の措置を講ずるよう強く要請されていたことがあります。
     本法の施行によって、日本の事業者は、少なくとも「公告国際公示テロリスト」と直接・間接に経済取引を行わないよう、細心の注意を払うことが求められるとの認識が必要です。

    ②出入国管理インテリジェンス・センターの開設

     前項に同じくこの10月から、2020年の東京五輪・パラリンピックに向けたテロリスト対策強化のため、国内外の関係機関と連携して情報を収集、分析する「出入国管理インテリジェンス・センター」が開設されています。

    ▼法務省 出入国管理インテリジェンス・センターの開設について
      ▼別紙(出入国管理インテリジェンス・センターについて)

     同センターでは、以下のような取組みが行われることとされており、今後の日本のテロ対策の要として期待されます。

    ①情報収集

    • ハイリスク者等に係る国内外関係機関からの情報収集の実施
    • 国内外関係機関との情報共有の枠組みを構築し、情報収集を推進

    ②情報分析

    • 保有情報を総合的に分析・リスク評価し、ハイリスク者等の特定又は類型化を図り、地方入国管理官署に情報提供
    • 水際対策
    • PNR(乗客予約記録)を含む旅客に係る情報を分析し、ハイリスク者の特徴(渡航経路、旅行代理店等)を類型化等

    • 不法滞在・偽装滞在対策
    • 保有個人情報・所属機関情報を分析し、ハイリスク者の特徴(在留形態、就労先等)を類型化等

    • 在留審査の合理化対策
    • 保有個人情報・所属機関情報を分析し、出入国管理上のリスクの低い者の特徴(在留形態、就労先等)を類型化

    ③鑑識

    • 偽変造旅券等文書、指紋及び顔画像に係る鑑識の実施についての企画立案等
    • 偽変造旅券等文書の傾向、偽装指紋の手口に係る情報収集
    • 文書、指紋及び顔画像鑑識に係る最新動向の収集等
    4) 警察庁の最近の統計資料から

    ①特殊詐欺の状況

    ▼警察庁 平成27年8月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

     平成27年上半期の「特殊詐欺」全体の状況については、本コラム(暴排トピックス2015年8月号)でも、「認知件数は7,007件と、前年同期と比べて852件増加(前年同期比+13.8%)しています。一方の被害額は236.5億円と33.3億円の減少(同▲12.3%)が見られ、特に、1件当たりの被害額が369.7万円(同▲106.0万円、▲22.3%)と、件数の伸びを抑え込む減少率となっている点は明るい兆しと言えるかもしれません。」と指摘していますが、平成27年1月~8月の状況についても、特殊詐欺全体では、認知件数が9,187件(同 8,316件 +10.5%)、被害総額が311億1,782万円(同 355億8,174万円 ▲12.5%)という結果となっており、その傾向(件数は増加傾向だが被害総額は減少傾向)が続いていることが確認できます。

     ただし、これを「振り込め詐欺」に絞り込んでみてみると、認知件数は8,491件(同 6,747件 +24.8%)、被害総額は244億8,767万円(同 221億2,868万円 +10.7%)と過去最悪の昨年をさらに上回り、極めて憂慮すべき状況となっています。
     さらに、内訳を詳しくみてみると、「オレオレ詐欺」の認知件数は3,963件(同 3,515件 +12.7%)、被害総額は110億8,587万円(同 109億5,961万円 ▲1.1%)となったのに対し、「架空請求詐欺」について、認知件数が2,641件(同 1,723件 151.4%)、被害総額は114億3,273万円(同 95億3,291万円 +120.0%)と、件数・被害額ともに急増していることが分かります。

     「架空請求詐欺」は、警察庁によれば「郵便、インターネット、メール等を利用して、不特定の者に対して架空の事実を口実とした料金を請求する文書等を送付するなどして、現金を口座に振り込ませるなどの方法によりだまし取る詐欺(同種の手段・方法による恐喝を含む)事件をいう」と定義されていますが、最近の不正アクセス事案や標的型攻撃メール事案等の多発(個人情報が「不正に」「大量に」収集されていること)と、これらの類型の詐欺が増えていること(不正に収集された個人情報が不特定多数の者をターゲットとしてインターネットやメールを介して悪用されていること)との関連がうかがわれます。また、マイナンバー制度を悪用した詐欺事案もすでにかなりの件数が発生していますが、今後様々な手口が生まれ、変化しながら多発することが予想され、あわせて注意が必要な状況です。

    ②来日外国人犯罪の検挙状況

    ▼警察庁 来日外国人犯罪の検挙状況(平成27年上半期)

     平成27年上半期の来日外国人犯罪(刑法犯・特別法犯)の総検挙件数は6,610件(前年同期比 ▲10.8%)、総検挙人員は4,850人(同 ▲4.5%)とこれまで同様、減少傾向にあります。
     国籍等別では、中国が検挙件数2,159件(構成比32.7%)、検挙人員1,786人(同36.8%)と依然として高い比率を占め、続いて、ベトナム、ブラジル、韓国などが続いています。また、前年同期に比べ、凶悪犯及び粗暴犯の検挙件数・人員が増加したほか、窃盗犯の検挙人員が増加している点が特徴的となっています。

     外国人にかかる犯罪インフラ(犯罪を助長し、又は容易にする基盤)事犯には、不法就労助長、偽装結婚、旅券・在留カード等偽造、地下銀行及び偽装認知等がありますが、これらについて、本レポートでは「相当数の日本人や永住者等の定着居住者が深く関わっており、日本人や定着居住者が、外国人の不法入国、不法滞在等を助長する一方、不法滞在者等を利用して利益を得る構図がみられる」との指摘があります。
     このような構図については、犯罪組織が、レンタル携帯やバーチャルオフィス、不正な口座、不正な本人確認書類(偽造免許証等)、レンタルサーバ等の「犯罪インフラ」を悪用するため、詐欺等の犯罪組織が、これらを手配させたり、意図的に甘い手続きによって利用させる「共生者」を確保し利用している状況と全く同じであり、とりわけ喫緊の課題である特殊詐欺の撲滅においては、これら「犯罪インフラ」を提供する共生者の排除もまた重要なテーマだと言えます。

    5) 企業と反社会的勢力

    ①虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告事例

     証券取引等監視委員会が、第三者割当先の反社会的勢力に関する情報について虚偽記載を初めて認定する事案が公表されています。

    ▼証券取引等監視委員会 株式会社オプトロムに係る四半期報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について

     公表された内容によれば、信用調査会社から、新株予約権の割当先である合同会社Aの親会社に反社会的勢力等や違法行為との関わりに懸念がある人物との関係が指摘され、Aが増資引受先として適格な相手方と言うことはできない旨の調査結果を得ていたにもかかわらず、その事実を記載することなく、当該欄に調査結果として「当該割当予定先の…主要株主が反社会的勢力等や違法行為に関わりを示す情報に該当はありませんでした。」と記載し、あたかもAの親会社が反社会的勢力等や違法行為と何らの関係も有していないことが確認されたかのように記載した、ということです。これによって、5億円あまりを不正に調達したと認定し、課徴金が課されたものです。

     上場企業の第三者割当増資の開示の際には、割当先の健全性を証明するため、第三者機関によるチェック結果をあわせて公表することが開示ガイドライン上求められています。
     当社に対してもそのような依頼が数多くありますが、中には問題のある先に直接割当を予定しているケース、反社会的勢力が仲介者として間接的に関与しているケース等も相当数散見されます。しかも、当社から懸念を伝えた場合でも、資金繰りに窮し、増資の実行を急ぎたい会社側が、別の調査会社に依頼して「問題がない」との結論を引き出して「問題なし」と開示したり、問題のある人物を除外して表面的には割当に問題がないように装うなどのケースも実際にはあります。
     第三者割当増資は正当な資金調達手段ではありますが、経営が厳しく金融機関からの調達等他の手段が困難な状況で、資金の出し手となる反市場勢力や反社会的勢力が裏でスキームを操りながら、上場会社を確実に支配していくために悪用されている面もあり、十分な注意が必要です。

     また、本事案は、上場企業側のコンプライアンスに大きな問題がありましたが、一方で、そもそもの調査会社の調査能力(調査内容の信頼性)には大きなバラつきがあることや、第三者機関によるチェックと言いながら、依頼主の意向に沿った回答を行う問題ある事業者もおり、投資家がもっと「第三者割当増資スキームの健全性」や「調査会社の健全性」に対して厳しい目を向けることも、「証券市場の健全性」「上場企業からの反社会的勢力排除」のためには必要だと言えます。

    ②プロ野球の野球賭博問題

     2020年東京オリンピックの追加競技に選ばれることが確実視されている野球ですが、そのような重要な時期に、プロ野球の現役投手による野球賭博が発覚しました。新国立競技場建設に向けてスポーツ振興くじ(toto)の対象をプロ野球に拡大する構想も、これによって実現が難しくなるなど、既に多方面に影響が及んでいます。

     さて、野球賭博の事案としては、直近では、2010年に大相撲の現役力士が野球賭博に関与していたとして当時の大関や27人が立件された事例や、2012年に某社会人野球チーム内で野球賭博が行われていたことが発覚した事例が記憶に新しいところですが、暴力団員が野球賭博に関与した疑いで逮捕される事例も多いと言えます。

     そもそも野球賭博は、暴力団の重要な資金源となっていることはよく知られており、報道によれば、その規模は日本全体で数十億円とも言われています。本事案が、賭博に絡めて八百長をしたということではないにせよ、(暴力団との関係が明らかになれば)暴力団の活動を助長する行為としても厳しく罰せられることになると思います。また、球団側が関係者全てに聞き取り調査を行っていますが、既に他の球団でも調査に着手したところもあるように、本事案は、個人的な特別な問題に簡単に矮小化できるものではなく、球団全体・球界全体に波及する可能性(社会の疑いがそこに向けられていること)を視野に入れて、いち早く自浄能力を発揮して、組織的な関与はなかったとの説明責任を速やかに果たせるよう、徹底的に対応する必要があると言えます。

     なお、スポーツ団体と暴力団等反社会的勢力との関係で言えば、最近の事例としては以下のようあものがあります。

    2010年 日本相撲協会で、前述の賭博問題、暴力団員の観戦やその斡旋が社会問題化
    2012年 某プロレス団体が、「弊社役員と反社会的勢力との交際と今後の反社会的勢力排除に関する取組みについて」と題して、過去の過ちを認め、厳格な処分と暴排の取組みを強化するリリースを発表
    2014年 日本プロゴルフ協会が、幹部が暴力団員との密接交際が発覚するなど内閣府から厳しい勧告を受ける

     今回のプロ野球(日本野球機構)も、2011年に暴力団排除宣言を出したほか、昨年(2014年)も某球団が私設応援団から実際に「応援不許可」として排除するなど暴排に取組んでいる最中での事案発覚ということになります。

     いずれの団体も、傘下選手に対して研修等を実施するなどして「暴力団と関係を持たない」といった意識付けに力を入れていますが、スポーツ選手は誘惑が多いうえにそもそも脇が甘く、反社会的勢力にとっては極めて魅力的なターゲットです。厳格化する社会の目線に対して、選手だけなく団体幹部等においても、「自分たちは特別で許される」「個人の問題」「仕方ない」といった認識の甘さばかりが目立つスポーツ界ですが、青少年の健全育成を掲げる以上、自ら襟を正して組織の浄化・健全性を高める取組みを行うべきです。折しもこの10月にスポーツ庁が発足したことをよい契機として、行政側からも、各組織のガバナンスやコンプライアンスに対して厳しい監督を行うことを期待したいと思います。

     なお、管理組織として行うべき、反社会的勢力排除の観点からの具体的な管理のあり方としては、選手を「反社リスクが高い」とリスク評価することが第一歩です。暴力団等との交友関係は、もはや一個人、所属チームだけでなく当該競技全体のレピュテーションを毀損する可能性のある重大なリスクであり、選手や幹部一人ひとりの意識や認識を高める取り組みはもちろん、私生活や私的な交友関係についても重大な関心をもって情報を収集し、適切な指導(必要に応じた介入)、処罰等をしていくことが必要ではないかと思われます。

    6) その他のトピックス

    ①海外コンプライアンスにかかる最新の事例

     米証券取引委員会(SEC)は、日本の日立製作所が、南アフリカ政府が発注した発電所事業に絡み、同国の与党への不適切な支払いを正確に処理しなかったとして、米海外腐敗行為防止法(FCPA)違反で訴追しています。報道によれば、同社は訴追内容について認否をしないまま、1900万ドル(約23億円)の制裁金を支払う和解に合意したと言うことです。前回の本コラム(暴排トピックス2015年9月号)でもご説明した通り、この事例は、同社が米国で事業活動を行っていることから訴追の対象と判断されていることから、「域外適用」の典型的な事例と言え、あらためて本規制の厳格さを認識する必要があります。

     また、マカオの不動産業者から賄賂を受け取ったとして、元国連総会議長が米連邦捜査局(FBI)に逮捕されています。報道によれば、元議長は、現役期間中を含み、すでに逮捕されているマカオの不動産業者から第三者を通じて50万ドル(約6,000万円)以上の賄賂を受け取り、マカオの国連関連施設建設にからみ便宜を図った疑いが持たれています。この事例も、AMLや贈収賄リスクにおいて、ハイリスク取引先として位置づけられる「PEP(重要な公的地位を有する者等)」が関与するものとして、あらためてPEPsの確認も重要なデュープロセスであることをあらためて認識させられます。

     さらに、過激派組織「イスラム国」(IS)がトヨタ製の車両多数を使用しているとして、米財務省が背景を調査中との報道がありました。トヨタ社が、「軍事目的やテロ活動での使用者には車両を販売しない厳格な方針がある」と説明しているように、意図的にそこから利益を得ようとしているわけではないと考えられるうえ、一度購入された車両が中間業者によって再販されたり、または盗難に遭ったりした場合にはそれを追跡するのはほぼ不可能だと言えます。それでも、CTF(テロ資金供与対策)の観点から、結果だけで嫌疑をかけられる、その顕在化した困難なリスクに何ら対策を講じない「不作為」があれば制裁の対象となりかねない現実を突き付けられた形と言えます。また、このようなAML/CTFにおける「商流リスク」については、本コラムでもたびたび指摘していますが、事業者は、これまで以上に自ら進んで「商流リスク」に対応していくべきとの認識が必要です。

    ②暴力団員の離脱支援

     特定危険指定暴力団工藤会の壊滅を目指す福岡県警は、離脱した元組員の就職支援にも力を入れており、社会復帰を支援するため、県警OBで構成する「社会復帰アドバイザー」が相談に対応したり、全国の関係者で受け皿作りを進める会議を開催するなどの取組みを積極的に行っています。
     同会トップの野村被告の逮捕以降、離脱組員が急増し、報道によれば、同県警の支援を受けて離脱した同県内の暴力団構成員数は、今年1~8月末までに80人にのぼり、過去最多だった昨年1年間の65人を大きく上回る状況であり、離脱支援は数字の上でも喫緊の課題となっています。

     とはいえ、残念ながら、事業者側には、離脱者の受け入れはリスクが高い(抗争等に巻き込まれる可能性や、自社のレピュテーションに悪影響が出るなど)との認識は根強く、十分な受け皿が整っていないのが現状です。
     暴排の取組みの先には「離脱者支援」の問題があることは以前から認識されていましたが、「離脱者支援」が事業者の理解を得られず、彼らの社会復帰が叶わなければ、結局は組織に戻ったり、何らかの犯罪に再び関与するなど、さらなる社会不安増大の要因ともなりかねません。さらに、離脱者の受け入れリスクの別の側面として、「偽装離脱者」の受け入れが暴力団の活動を助長しかねない点も考えられるところです。
     いずれにせよ、事業者にのみそのリスクを負わせるのは大変酷であり、だからといって行政側だけで解決できる問題でもなく、あくまで社会全体で検討していくべき課題です。

    ③大阪府薬物の濫用の防止に関する条例の改正

     大阪府内の賃貸物件や旅館等の部屋が、薬物の製造等に利用されないよう、不動産業者や旅館営業者に薬物の製造等の拠点を排除する機運を高め、利用者に薬物の製造等に使用させなくすることを目的として、平成28年3月に改正施行される見通しです。

    ▼大阪府 「大阪府薬物の濫用の防止に関する条例」の一部改正案の概要

     改正された内容として、新たに、「不動産の譲渡等に係る規制等」「不動産の譲渡等の代理又は媒介に係る規制等」「旅館営業者の宿泊契約等に係る規制等」が規定されており、例えば、「不動産の譲渡等に係る規制等」は、以下のような内容になっています。

    • 当該不動産が本条例に定義する「薬物」の製造、栽培、販売、授与又は販売、授与の目的で所持をする場所に使用されることとなることを知って、譲渡等の契約をしてはならない。
    • 契約の締結の前に、当該不動産を薬物の製造等をする場所に使用されるものでないことを確認するよう努める。
    • 契約において「当該不動産を薬物の製造等をする場所に使用してはならない」、「薬物の製造等をする場所に使用されることが判明した場合には、契約の解除等を行うことができる」旨を定めるよう努める。
    • 上記イ、ウの措置を講じた場合で、譲渡等した不動産が薬物の製造等に使用されていることが判明した場合には、契約の解除等を行うように努める。

     興味深いのは、この規定の構成が、全国の暴排条例の構成とほぼ同じである点です。具体的には、①「不正の目的であることを知って」利益供与してはならないこと(暴排条例にも同じ主旨の規定があります)、②不正の目的がないことを知ろうと(確認する)努力をすること(暴排条例にも反社チェックの努力義務規定があります)、③契約解除の規定を盛り込み、判明した場合には契約解除に向けて努力すること(暴排条例にも暴排条項の努力義務規定があります)で構成されています。

     危険ドラッグ撲滅に向けた取組みは、主に、これまで国による規制を強化する方向で進められ、その結果、リアル店舗の一掃という成果をあげています。ただ、今後は、ネット通販やデリバリーなど一層「見えにくい相手」との戦いになります。それに対して、このような条例化や自治体と不動産協会との間の協定締結など、暴排と同じような枠組み・官民一体の取組みによって、最前線にいる事業者の意識改革や、実務の中で排除・撲滅に向けた具体的な対応を促していくことこそが、「見えにくい相手」に対応していくためには極めて重要であること言えると思います。

    3.最近の暴排条例による勧告事例・暴対法に基づく中止命令ほか

    1) 福岡県の事例

     北九州市でパチンコ店などを経営する男性が、特定危険指定暴力団工藤会系の組長にみかじめ料を支払ったとして、福岡県暴排条例に基づき、利益供与禁止の勧告を受けています。報道によれば、男性は、組長2人に対し、みかじめ料等の名目であわせて130万円を支払ったということです。なお、福岡県暴排条例に基づき、みかじめ料を支払った側への勧告はこれまで3件ありましたが、パチンコ店に対しては初めてとなります。

    2) 岡山県の建設工事指名停止措置

     対象会社の代表取締役が、暴力団幹部と共謀して、当該暴力団幹部が使うための口座であるのに当該代表取締役が使用する口座であるかのように装って、銀行の行員に口座開設を申し込み、預金通帳とキャッシュカードをだまし取ったとして逮捕されました。
    この事案を受けて、岡山県は、同社について、平成27年9月16日から平成28年3月15日までの6か月間の指名停止措置をとったことを公表しています。

    ▼岡山県建設工事等指名停止業者・指名除外業者一覧(更新日:平成27年9月29日)
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