暴排トピックス

コンプライアンスやリスク管理に関するその時々のホットなテーマを、現場を知る
危機管理専門会社ならではの時流を先取りする鋭い視点から切り込み、提言するコラムです。

最近の統計資料から(2016.3)

1.最近の統計資料から

 今回の暴排トピックスでは、平成27年中のさまざまな統計資料等を取り上げ、それらを紐解きながら、暴力団をはじめとする反社会的勢力、犯罪組織等の最新の動向や事業者の取組むべき課題や方向性について確認していきたいと思います。

【注】 「犯罪収益移転防止に関する年次報告書(平成27年)(暫定版)」については、次回の本コラムで取り上げたいと思います。

1) 平成27年版警察白書

警察庁 平成27年版警察白書

 今回の警察白書においては、「組織犯罪対策の歩みと展望」と題した特集が組まれており、暴力団情勢についても、他の統計資料とはやや異なる切り口からの情報があり、興味深いものとなっています。なお、以前、本コラム(暴排トピックス2015年8月号)でも本白書を取り上げていますが、今回は、そこでは取り上げていない内容を中心にご紹介していきたいと思います。

 まず、本白書では、近年の組織犯罪情勢について、「大規模な暴力団の末端組織や中小規模の暴力団を中心に、組織を支える資金や人材が不足している状況がみられるほか、来日外国人犯罪が検挙件数・人員ともに減少傾向にあるなど、これまでの取組による一定の成果がみられる」とする一方で、「犯罪組織は、警察による取締りを逃れつつ、より巧妙かつ効率的に経済的利益を得るために、その活動を変化させており、依然として社会に対する大きな脅威となっている」と指摘しています。そのうえで、「犯罪組織を弱体化・壊滅し、組織犯罪を撲滅するためには、末端の構成員を検挙するだけでなく、首領その他の主要幹部を検挙するとともに、徹底した犯罪収益のはく奪と資金源の遮断により、犯罪組織の中枢を切り崩すことが重要」と正鵠を射た指摘がなされています。

 本コラムのスタンスでもありますが、暴力団等の反社会的勢力にとどまらない犯罪組織への対応は正に「社会全体で取り組むべき課題」であり、そのためには、事業者も情報収集と分析を怠らず、反社リスクへの対応についても、その射程を「組織犯罪」全体にまで拡げながら、その相互作用を見極めながら取組むことが重要であるとご認識いただきたいと思います。

 さて、この白書の中で取り上げられている暴力団情勢等に関する部分で、(他の統計資料ではあまり触れられていない)重要と思われるものをいくつか、箇条書きとはなりますが、下記の通り指摘しておきたいと思います。

  • 平成26年中に解散・壊滅した暴力団の数は152組織であり、これらに所属していた暴力団構成員の数は710人、解散・壊滅の理由としては、「事件検挙によるもの」「首領の死亡、引退、絶縁等によるもの」などがあげられており、小規模な組の末路、経済的基盤の弱体化や少子高齢化の影響等を強く想起させます。
  • 近年の暴力団構成員及び準構成員等の年齢構成について、40歳未満の層の減少が顕著で暴力団の高齢化が進んでいるとして、正に「少子高齢化」の実態が指摘されています。
  • 捜査等の過程で、暴力団構成員が、「このままでは組織の発展もない」「暴力団の世界では金を持っている人間しか生き残れない」「ヤクザをやっていても未来が見えない」といった心情を吐露しているということで、彼らが将来について不安を抱いている状況がうかがわれます。
  • 罪種別の検挙人員に占める暴力団構成員等の割合からみた特徴・傾向として、殺人等の凶悪犯罪や、恐喝、覚せい剤取締法違反等の犯罪において高い水準にあることが数値で示されており、暴力団が治安に対する大きな脅威となっていることを改めて認識させられます。
  • 規制の強化や事業者の暴排・反社リスクへの対応の取組みの進展等の影響も考えられますが、最近の傾向として、恐喝、傷害等の暴力団の威力をあからさまに示す形態の犯罪の割合が減少傾向又は横ばいで推移する一方で、必ずしも暴力団の威力を示す必要のない詐欺の割合が増加している点があげられます(本来、詐欺は「外道」のすることで「極道」のすることではない、という建前論自体が既に崩壊しています)。
  • 資金獲得活動の不透明化・多様化について、「暴力団関係企業や共生者は、暴力団の威力等を背景として、経済取引や法制度を悪用し、自らの利益を拡大しているだけでなく、暴力団との関係を隠しつつ、暴力団が違法又は不当に獲得した資金を合法的な事業に投資したり、威力等を利用する対価として暴力団に資金を提供したりするなど、暴力団の資金獲得活動を不透明化させている」との指摘があります。これは正にAML(アンチ・マネー・ローンダリング)/CTF(テロ資金供与対策)の視点の重要性、反社リスク対策の親和性、両者の融合の必要性を痛感させられるものとなっています。
  • 共生者については、「暴力団構成員が共生者に不動産を取得させ、後で自分に所有権を移転させるなど、共生者の存在が暴力団の資産を形成する上での人的インフラとなっている」との捜査員の的を射た指摘もあります。
  • みかじめ料の徴収方法の巧妙化の具体例として、「名義だけの店長や経営者を置くなどして、組織の関与を隠蔽」「飲食店や風俗店の店長等から、家賃や広告料、おしぼり代等の名目で徴収する」といった事例があげられており、手口の多様化の一端が垣間見ることができます。これに伴い、今後、暴排条例に基づく勧告事例も多様化していくものと思われます。
  • 暴力団等の反社会的勢力は、最近は、業種・業態を問わないアプローチを行っていますが、その中でも注意が必要な業界として、やはり現時点でも「建設業」があげられます。本白書においては、公共事業や復興事業等への参入に絡む手口として、「共生者を介して」あるいは「共生者においても、自らが実質的に経営に関与しているにもかかわらず、名義だけの経営者を置くなどして暴力団と企業との関係を更に巧妙に隠蔽していた例」があげられていますが、いわゆる「KYCからKYCCへ」(暴排トピックス2016年1月号「真の受益者の特定」を参照ください)の視点だけではもはや不十分であり、「KYCCC」とでも言うべき状況が現出している点に大きな危機感を覚えます。さらに、同業界においては、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の関連施設整備等による建設需要の増大が見込まれるところであり、暴力団が、暴力団関係企業や共生者を利用して、これらの事業への参入を図るであろうことも強く懸念されるところです。
  • 上記の「KYCCC」については、捜査の過程での、「今の時代、暴力団構成員自らがシノギ(資金獲得活動)を行うことは難しいので、不良グループや破門者(元暴力団構成員)を利用し、堅気(かたぎ)の者を会社の代表者にして経営させている」(暴力団構成員)といった話からもその傾向が読み取られます(暴力団構成員→元暴力団員・不良グループ→堅気の経営者という流れにおいて、真の受益者は当然ながら暴力団構成員という構図なのですが、反社チェックの実務という観点からは、堅気の経営者から暴力団構成員との関係にまで辿りつくことはなかなか難しいということになります)。
  • 共生者自身が、「A組を後ろ盾として、土木建設の談合を取りまとめている。A組組長には、資金の提供を行っているほか、ゴルフを一緒に行うなどしている」(建設会社経営者)と、いまだに自ら進んで暴力団と関係を持っていること、そのような経営者が存在することは、大変残念なことです。
  • その他、捜査員のコメントとして、「捕まるヤクザは、金を持っていない者が多い。暴力団の中で格差が広がっており、金のないヤクザが危険を冒しているように感じられる」「最近は、暴力団に所属せず、暴力団に犯罪収益が流れていることも自覚していない若者が、実行犯として利用されるケースがある」「警察に離脱相談をするなどして暴力団を離脱したことを装って資金獲得活動を行っている」「国内での資金獲得に危機感を有する暴力団幹部は、国外に資金源を求め始めている」などが紹介されていますが、今後の暴力団対策、事業者の暴排・反社リスク対応等において重要な視点が示されているように思われます。
2) 平成27年の暴力団情勢

 前項の警察白書は、「犯罪組織」の中に位置づけられた暴力団情勢といった趣ですが、本レポートは正に暴力団の状況そのものにフォーカスされています。ただし、暴力団情勢は、現在、風雲急を告げる状況になっており、昨年のレポートであるにもかかわらず、既に情報としては古くなっている部分もあります。ここでは、主に、数字の面から暴力団等の反社会的勢力の状況を確認しておきたいと思います。

警察庁 平成27年の暴力団情勢

 平成27年12月末の暴力団構成員及び準構成員等の数は46,900人(前年比▲6,600人)と、前年と比べて12.3%も減少しています(平成26年12月末時点では、前年から8.7%の減少でしたので、減少幅が急激に大きくなっており、暴力団員数の減少傾向が加速している点が指摘できます)。なお、これらの減少傾向については、平成17年から10年連続、平成21年から6年連続で暴力団対策法施行後の最少人数を更新し続けているという状況です。
 さらに、暴力団構成員の数は20,100人(前年比▲2,200人、減少率▲9.9%)、準構成員等は26,800人(前年比▲4,400人、減少率▲14.1%)と、いずれも暴力団対策法施行後最少を更新しています。また、準構成員等の全体に占める割合は、57.1%(前年の58.3%から微減)という状況になっています。平成27年については、準構成員等の減少幅がかなり大きかった点が特徴的だといえますが、それが規制の強化や事業者の暴排・反社リスク対策の強化・浸透の結果なのかは不明です。ただ、前項で指摘した「KYCからKYCCへ/KYCCからKYCCCへ」「共生者自体の潜在化の動き」との関連付けて見ることも可能(共生者の減少は表向きで、実際には共生者の協力者が増えているのではないか)であり、いずれにせよ、十分注意が必要な状況にあると言えると思います。

 その他、暴力団以外の反社会的勢力の属性を有しているものの動向としては、総会屋及び会社ゴロ等(会社ゴロ及び新聞ゴロ)は、平成27年12月末現在、1,160人(前年比▲30人)、社会運動等標ぼうゴロ(社会運動標ぼうゴロ及び政治活動標ぼうゴロ)の数は合計で6,270人(前年比+160人)、内訳として、社会運動標ぼうゴロ570人(▲40人)、政治活動標榜ゴロ5,700人(+200人)といった水準となっています。政治活動標ぼうゴロが増加している点が気になりますが、暴力団構成員等の離脱者の急増とあわせて考えれば、暴力団構成員等の減少が必ずしも反社会的勢力全体の弱体化とリンクしていない可能性を示唆するものと見ることができます。

 暴力団犯罪の検挙状況等について、暴力団構成員等の検挙件数は38,482件と、前年に比べ989件減少、主な罪種別では、窃盗が15,017件、詐欺が3,144件、覚せい剤取締法違反が8,382件で、詐欺のみ増加している状況となりました(これは、前項でも指摘した傾向です)。
 また、特徴的なこととしては、九州北部における事業者襲撃等の事件の発生がなかったこと、福岡県における平成27年中の工藤会離脱者数が過去最多の49人となったことがあげられますが、これまでも指摘してきた通り、福岡県警を中心とした「工藤会壊滅作戦(頂上作戦)」が昨年大きな成果をあげたことがその要因だといえます。今後も、離脱者支援対策や資金源対策、あるいは(今後の法整備や運用上の課題かと思われますが)違法に得られた収益の回収といった取組みを通じて、人的・資金的な供給を細らせていくことが必要であり、そのためにも事業者の暴排・反社リスク対応の重要性は今後さらに増していくとの認識を持つことが必要となります。

 また、全国の暴排条例の適用状況については、平成27年における実施件数として、勧告が69件、中止命令が5件、検挙が8件となっています(平成26年は勧告が51件、中止命令が7件、検挙が5件でした)。なお、具体的な勧告事例のうち、本コラムで過去取り上げていないものを以下にご紹介いたします。

  • デリバリーヘルスの経営者(32)が、暴力団の威力を利用する目的で、六代目山口組傘下組織組長(38)に普通乗用自動車1台を無償で貸与したことから、同経営者と同組長に対し、勧告を実施した事例(香川県 3月)
  • 飲食店経営者(60)が、暴力団の威力を利用する目的で、六代目山口組傘下組織幹部(67)に現金等を供与したことから、同経営者に対して勧告を実施し、同幹部については、勧告を受けていたにもかかわらず、勧告に従わなかったことから、その氏名等を公表した事例(愛知県 6月)

 その他、暴力団関係相談の受理件数は52,619件に上っており、このうち警察で22,637件、都道府県センターで29,982件を受理しています(昨年より微減となりましたが、依然として高い水準で推移しているといえます)。また、警察及び都道府県センターが援助の措置等を行うことにより暴力団から離脱することができた暴力団構成員の数については、約600人(前年比約110人増)に上りました。離脱者支援対策が治安維持のためにも重要であることは、この数字からもご認識いただけるものと思います。

3) 金融庁検査結果事例集(農協検査)

 金融庁では、金融機関の検査結果事例集を公表していますが、今般、「農協検査」の結果事例集を平成25年3月に続き3年ぶりに公表しています。

【注】「農協検査」とは、農業協同組合法の規定に基づき、農協の信用事業に対して、都道府県知事が主務大臣(農林水産大臣及び内閣総理大臣)と連携して実施する検査のことをいいます。

金融庁 「農協検査(3者要請検査)結果事例集(平成25年2月~27年3月分)」の公表について

農協検査(3者要請検査)結果事例集(平成25年2月~27年3月分)

 前回の平成25年の事例集の中における反社リスクに関する指摘としては、「コンプライアンス統括部門は、新規取引時等における反社会的勢力に係るデータベースとの照合に係る事務フローを定めておらず、支店において同データベースとの照合を漏れなく実施する方法を検討していない。このため、支店において、新規取引時等における同データベースとの照合が実施されていない事例が認められる」という1件だけでした。新規取引開始時においてさえ、反社チェックが実施できていない状況が当時は比較的多かったのではないかと思われます。

今回の事例集においても、反社リスク対応に関する指摘は1件のみで、以下のようなものです。

  • コンプライアンス統括部門は、反社のおそれがある取引先を関係機関に照会した結果、複数の取引先が反社に該当することが判明したにもかかわらず、反社との取引の排除を軽視したことから、早急な対応は必要ないとの誤った判断を行い、当該取引先について関係部署に連絡しなかったため、取引を排除するための対応方針が策定されていない。
  • コンプライアンス担当理事は、コンプライアンス統括部門から当該取引先について報告を受けているにもかかわらず、同部門における反社への対応が適切に行われているかを確認しておらず、必要な指示を行っていない。

 本件は、全社的に反社リスクを軽視している状況が明らかな事例となっています。反社認定(警察等でのクロ認定)までしておきながら、「早急な対応は必要ない」「関係部署に連絡せず」「担当理事も事案を把握しながら何らアクションをおこさず」という組織的対応が全くなされない、不作為が蔓延した状況は、現時点の常識からいえば相当問題があると指摘せざるを得ません。

 金融機関においては、メガバンクから地銀・第二地銀へ、さらには信金・信組等へと、反社リスク対応強化の流れが浸透してきました。それとともに、反社会的勢力はそれらの金融機関から排除されてきたのであり、今や、それ以外の農協や労金、漁協といった事業者との取引が彼らにとっては生命線となりつつあります。今後、攻防の矢面に立たされるのは正に農協等の事業者であり、(メガバンクや地銀等がこれまで実施してきた排除実務においては、実はそれほど大きな抵抗がなかったのですが)いよいよ彼らが退路を断たれることで抵抗も大きくなり、その排除実務は一層困難になるでしょう。そのような農協等における社会情勢を背景とした現時点に特有の反社リスクの高さ・高まりを十分認識したうえで、役職員の暴排意識やリスクセンスの高揚、反社チェックや排除の実務の強化をすみやかに行っていくことが求められています。

2.最近のトピックス

1) 暴排条項を巡る福岡地裁判決

 「暴力団排除条項」導入前の口座解約に対し、指定暴力団道仁会会長と本部長が銀行(メガバンク2行)を相手取って無効確認を求めた訴訟で、福岡地裁は、「暴排条項を追加した規定(約款)の事前周知、顧客の不利益の程度、過去に遡って適用する必要性を総合考慮すれば解約は有効」として、請求を棄却する判決を下しています。特に、口座開設後に暴排条項を導入するなど、個別の合意がなくても事後的に既存の契約を変更できるとした点でも極めて画期的な判決となりました。

 報道によれば、口座が不正利用された場合に「事後的な対応で被害回復や、反社会的勢力が得た利益を取り戻すことは困難」として解約の合理性を認め、暴力団幹部の不利益についても限定的とし「反社会的勢力の所属を辞めるという自らの行動で回避できる」と指摘したとされます。
 解約の合理性については、昨年4月の公営住宅の暴排条項が合憲であるとする最高裁の判断(暴排トピックス2015年4月号)を参照ください)における「暴力団員が市営住宅に入居し続ける場合には、当該市営住宅の他の入居者等の生活の平穏が害されるおそれを否定することはできない」との指摘に呼応し、かつ、暴排条項のない契約等における反社会的勢力排除の観点からの解約の合理性を判断する際の参考になります。また、暴力団幹部の不利益については、同じ最高裁の判断において、「暴力団員は、自らの意思により暴力団を脱退し、そうすることで暴力団員でなくなることが可能」「暴力団員が市営住宅の明け渡しをせざるを得ないとしても、それは、当該市営住宅に居住することが出来なくなるということにすぎず、当該市営住宅以外における居住についてまで制限を受けるわけではない」とする考え方をふまえたものであろうと推測されます。
 今回のような司法判断は、暴力団排除・反社会的勢力排除の実務を後押ししてくれるもので、大変心強いものだと評価したいと思います。

2) 六代目山口組の分裂など

 指定暴力団山口組と神戸山口組の間で、3月に入ってから発砲や車両突入などが相次ぎ、広がりも見せていることから、警察庁は、ついに両組織が対立抗争状態にあると認定し、集中取締本部を設置しました。

 報道によれば、抗争の歯止めが利かなくなりつつある状況について、六代目山口組側が、神戸山口組側を「ヤクザ=暴力団」とは認めていないために、小さなトラブルでも「手打ち」のための交渉がなく、トラブルが拡大しやすいのではないかとの可能性が指摘されたり、トップの指示がなくても末端の組員が暴走する可能性があるところまで緊迫した状況にあるといったことが言われています。また、六代目山口組内部の事情として、No2の高山清司・弘道会会長が服役中であるほか、No3の橋本弘文・極心連合会会長も、一時期、高級外車の自動車登録で使用者を偽ったとして電磁的公正証書原本不実記録・同供用の疑いで逮捕されましたし、さらには、No4の大原宏延・大原組組長も暴力団関係者との取引を拒否している自動車販売会社から、身分を偽って車を購入した疑いで、詐欺容疑で逮捕されるなど、No2~4の相次ぐ逮捕などで統制や求心力の低下といった大きな影響が生じている状況もうかがわれます。

 また、神戸山口組については、先月、警察庁が兵庫県淡路市の関連施設を主たる事務所と認定し、各都道府県の公安委員会に通知しています。さらに、本拠の決定を受け、兵庫県公安委員会は、暴力団対策法の規制対象となる指定暴力団に神戸山口組を指定する手続きを進めており、今年6月の指定に向け、神戸山口組に対する意見聴取を3月22日に行うことを決め、井上組長に通知書を送っています。一方の六代目山口組についても、同じく6月の再指定に向け、既に、篠田組長に対し、3月31日に意見聴取することが公表されています。

 参考までに、暴力団対策法の指定には、(1)組織の威力を使って資金を獲得していること、(2)一定の割合の構成員に前科があること、(3)階層的に組織を構成していること、の3要件が必要で、指定によって、組員の不当行為に対する中止命令や抗争時の事務所の使用制限が出せることになります。なお、神戸山口組が指定されれば、六代目山口組(約5700人)、住吉会(約3200人)に次ぐ規模(約2700人)の指定暴力団になります。
 加えて、現在、両組織が抗争状態であることから、より活動が制限される「特定抗争指定暴力団」に両団体を指定する可能性も十分に考えられるところです。「特定抗争指定暴力団」とは、指定暴力団のうち、対立抗争状態にあり、市民の生命・身体に重大な危害を加えるおそれがあるとして、都道府県公安委員会が指定した組織として、平成24年10月の暴力団対策法改正でできた新制度であり、指定されると、公安委員会が定める「警戒区域」内で、(1)組事務所の新設と立ち入り、(2)対立暴力団組員へのつきまとい、(3)対立暴力団の事務所やその組員の居宅近くをうろつく、(4)同じ暴力団の組員が5人以上で集まる、といった行為は即逮捕となります。

 このように、山口組の分裂は、半年以上を経てついにこれまでにないくらいに緊張感が高まり一触即発の状況であることから、一般の人や事業者としても、安心・安全の確保のために相当程度の注意を払うことが求められます。

 一方で、指定暴力団稲川会の2次団体山梨一家とそこから分裂した山梨侠友会との間で、山梨県を舞台に抗争が続いていましたが、分裂した山梨侠友会が山梨県警に2月に解散届を提出、その後、同会トップや構成員らが、稲川会に2次団体として再加入することになり、平成24年以降、数十件の発砲事件が発生し、負傷者も出た分裂抗争が終結することになりました。

3) 福岡県暴力団排除条例の改正および離脱者支援対策の動向

 福岡県が、福岡県暴排条例の改正案を検討しています。報道によれば、暴力団から組員の離脱を促すことや、事業者が支払うみかじめ料を断ち切るための新制度を設けることなどが柱ということです。
 具体的には、「暴力団からの離脱を促進するための措置」が新設され、福岡県暴追センターやハローワークなど関係機関と連携しながら、元組員に必要な助言や就労支援をすることが明記されるほか、過去に暴力団にみかじめ料を支払ったことなどを自ら申告した事業者に対して、同県公安委員会が公表や勧告をしないことを定めるもの(東京都暴排条例で既に規定されているリーニエンシー制度の導入)となります。現状では、業種によっては、勧告を受けた場合、自治体が独自に定める要綱などで公共事業に参加できない(さらには、社名が公表されることで取引等あらゆる関係を遮断されて企業存続の危機となりかねない)こともあり、事業者が申告をためらう要因になっているため、ペナルティを恐れて申告をためらう事業者が出ないようにすることで、暴排の取組みを一層加速させることを目指すということです。

 また、福岡県の離脱者支援の取組みについては、上記以外にも、前回の本コラム(暴排トピックス2016年2月号)で紹介したような様々な取組みが予定されていますが、福岡県警でも、早速、協賛企業を募集するサイトを立ち上げています。

福岡県警察 協賛企業の募集について

 ここでいう「協賛企業」とは、「社会貢献のため、元組員を雇用可能な企業として、暴追センターに登録された事業者」との定義がなされています。さらに、「特に募集している企業や職種」として、「寮や社宅がある企業」「資格や免許がなくても雇用可能な企業」が明記されている点は興味深いところです。また、事業者の不安や懸念の払しょくに向け、「警察や暴追センターが、正当な理由なく、協賛企業に加盟していることを第三者に知らせることはない」「元組員を雇用した企業には、警察や暴追センターの職員が、定期訪問して困りごとの相談にのる」といった対応方針が示されています。

 前回の本コラムで指摘した、事業者にとっての離脱者対策に必要な「4つの要件」に照らせば、まだまだ不十分であり、「協賛企業」になりうるのは、意欲的な企業によるリスクテイクに依存する状況が続くものと考えられます。さらには、そもそも「協賛企業であることを第三者に知らせない=秘密の厳守」と警察が示している基本スタンス自体、(報復・攻撃リスク、あるいはレピュテーション・リスク等を考慮したものとして理解できるものの)やや違和感を覚えるところです。広く社会に離脱者支援対策の理解を促しつつ、抑止力を持つためには、むしろ「協賛企業であること=警察との連携ができている反社リスクに強い企業」として認知されるような取組みや社会全体における位置づけもやはり重要なのではないかと考えます。

4) テロリスク

 伊勢志摩サミットの開催を6月に控え、テロ対策も本格化していますが、外務省は会場となる三重県志摩市・賢島の住民らに対し、本人確認用の顔写真入りIDカードと車両証を発行するということです。サミット期間中と直前の一定期間、賢島への出入りを制限し、金属探知機などを備えた保安検査所を島の周囲に設置する予定で、検査所を通過する際にカードなどの提示を求めることで、同島への不審者侵入を防ぐ目的があるとされています。本人確認として「顔写真付きIDカード」が使用される点は評価できますが、今後は、カード発行の際のテロリスト等の内通者・協力者の有無の確認や例外のない実務、実際の本人確認手続きにおける目視によるチェックの実効性が問われることになります。

 また、ISとの戦いにおいて、米は「仮想空間(サイバー空間)においても既に攻撃を仕掛けているとのことです。国の脅威としては、今や「仮想空間(サイバー空間)」もまた「陸・海・空・宇宙」に続く第5の戦闘空間と位置付けられています。正に、サイバーテロによって、生活インフラや原発などの重要施設のシステムを制御不能にし、深刻なダメージを与えることが可能であることから、大きな脅威になっています。さらに、あらゆるモノとインターネットをつなぐ「IoT」時代に突入したことで、モノを乗っ取り、「踏み台」とすることで、リアルで深刻なダメージを与えることすら想定される状況にあります。したがって、サイバー空間におけるテロ対策もまた今後の重要な課題になっているといえます。

 さて、前回の本コラムでもご紹介しましたが、米連邦捜査局(FBI)が銃乱射テロ容疑者のiPhoneのロック解除をアップル社に求めている問題は、いまだに激しい議論が続いています。当事者同士の間では、司法省が「この端末だけの解除を求めており、すべてのiPhoneに適用されるわけではない」と主張しているのに対し、同社CEOは「この事件にとどまらない影響がある」「悪用されれば、すべてのiPhoneのロックが解除される可能性がある」などと争っていますが、それに加え、国連人権高等弁務官が、こうした動きは「世界の人々の人権に悪影響をもたらす恐れがある」と警告して米当局に慎重な対応を要請したり、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が、「IT企業はテロ捜査で法執行機関に協力すべきだ」との考えを示すなど、多くの関係者を巻き込んで議論が行われています。

 アップル社寄りの代表的な意見としては、「(端末の情報保護システムに)抜け穴を作らせようとする、政府の前例のない要求は危険過ぎる。憲法が保障する表現の自由を侵害する」「犯罪者や敵対的組織などのサイバー攻撃や、政府による不当な調査要請のリスクを高める」といったものがあり、実際に、ニューヨーク連邦地裁が、解除を強制できる法的根拠がないとして、アップル社を支持する判断を下しています。
 これに対し、テロ対策を重視する立場から、米司法省は、銃乱射事件容疑者所有のロック解除をめぐって争われたカリフォルニア州での訴訟では、1789年の「All Writs Act(全令状法)」を根拠にアップル社にロック解除が命じられたと主張しています。

 この問題の本質的な争点は、テロ対策をはじめとする犯罪捜査と個人情報の保護をいかに両立させるかという点にあります。そして、必要なのは、テロに対抗するには捜査機関とIT企業の一定の協力は欠かせないという共通認識のもと、(現状の議論を整理したうえで)技術の進歩に対応した法制度・ルールを整備していくことだと思われます。

 そのような中、フランスでは、対テロ法案が下院を通過して成立する見通しとなっています。この法案では、テロや組織犯罪の容疑者に対する司法手続きを迅速化し、疑わしい人物を令状に基づかず4時間にわたって拘束したり、ISなどの支配地域から帰還した人を監視下に置いたりできる規定を盛り込んでいるほか、米司法省とアップル社の議論となっている「事件関係者のスマホのロック機能解除を命じる権限」も容認されています。したがって、シャルリーエブド事件やパリ同時テロを経験したフランスにおいて、テロの抑止・再発防止として「治安が最優先である」とする論点整理がフランス国内ではなされたもの(それに基づくIt技術と法のバランスがとられたもの)と理解されます。
 一方、日本では、法相が、「事業者に協力を求めることはできるが、義務づける規定はない」と述べ、アップル社側に解除を強制できないとの考えを示しています。今後のテロリスクの高まりをふまえて、日本においても犯罪捜査と個人情報の保護に関する議論を深めていく必要があるといえるでしょう。

 さて、この問題とは別に、大阪府が民泊を解禁するのに伴う審査基準(案)の公表について取り上げておきます。一見、あまり関係ないように思えますが、実はこの中で、テロ対策の視点からの民泊事業者が講ずべき措置が盛り込まれており、大変興味深いものとなっています。以下、簡単にご紹介しておきます。

国家戦略特別区域法第13条第1項に規定する国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業特定認定に係る審査基準(案)の概要

 この中で、外国人旅客の滞在に必要な役務の提供について、「テロ並びに感染症対策及び違法薬物の使用、売春等の施設における違法行為を防止するために、以下の体制を整えていること」として、具体的な措置が列挙されています(以下はその一部)。

  • 滞在者名簿(滞在期間、滞在者の氏名、住所及び職業並びにその国籍及び旅券番号を記載したもの)を作成し、3年以上保管するための体制
  • 滞在者に旅券の呈示を求め、複写し、保管する体制
  • 滞在者が施設の使用を開始する時及び終了する時にあたっては、対面又は滞在者が実際に施設に所在することが映像等により確実に確認できる方法により、滞在者名簿に記載されている者と実際に使用する者が同一人であることを確認するための体制

 ここで明記されているのは、正にAML/CTFでも要請されている「本人確認」手続きであり、旅券という「写真付きの本人確認資料」に基づく確認、申し込みの際の対面者と滞在者の同一性担保のためのモニタリング、それらの一連の記録という骨格を持っており、既定されている通りの運用が行われれば、日本の犯罪収益移転防止法上の特定事業者の本人確認手続きの精度を上回るレベル感(グローバルスタンダードに近いレベル感)であるといえます。民泊がテロの「犯罪インフラ」として悪用されないためにも、参入事業者の質(健全性)とあわせ、実効性ある取組みを期待したいところです。

5) 捜査手法の高度化を巡る動向

 裁判所の令状なく捜査対象者の車両にGPS発信器を取り付けた捜査手法を、大阪地裁が「違法」と判断した連続窃盗事件の控訴審判決で、大阪高裁は、「GPS捜査の必要性が認められる状況」と判断、やむをえない事情があり、「警察官らに令状主義を逸脱する意図があったとは認めがたい」「プライバシーの侵害の程度は必ずしも大きくない」として、1審とは逆の判断をしたとの報道がありました。また、報道によれば、プライバシーを侵害する強制的な捜査なのに、令状を取らず令状主義を軽視したと1審で批判されたことについては、「違法と解する余地がないわけではない。今回の事件についてみる限り、重大な違法があったとまでは言えない」と言及したということです。

 GPS捜査は捜査手法の高度化のひとつとして期待されているものの、プライバシー侵害や令状主義との緊張関係について司法判断が分かれているため、実際の捜査への投入が難しい状況であることに変わりありません。ただし、以前、水戸地裁が示した、「捜査の必要性から事前に示さなくても、終了後に相手に内容を告げることなどを条件に例外として認められる」とした見解や、総務省が携帯電話会社などを対象にしたガイドラインの改正(平成27年6月)において、「裁判所から令状が出れば、携帯電話の位置情報を利用者に通知せず捜査機関に提供できる」ようにしている点などは、今後の検討の参考になるのではいかと考えます。

 また、通信傍受法に基づいて全国の警察が昨年1年間に捜査で電話の会話を傍受したのは10事件、これまでに101人の逮捕につながったということも公表されています。10事件の内訳としては、覚醒剤など薬物の密売・密輸が9件、組織的殺人未遂が1件となっています。

警察庁 通信傍受法第29条に基づく平成27年における通信傍受に関する国会への報告について

 さらに、捜査手法が問題となった事案という意味では、北海道小樽市で1997年に拳銃を所持したとして、銃刀法違反罪で実刑判決(懲役2年)が確定した元船員のロシア人男性が、北海道警のおとり捜査は違法とした再審請求について、札幌地裁が再審開始を認める決定をしています。報道によれば、「捜査協力者が拳銃と中古車の交換を持ち掛け、犯意を誘発した。本件おとり捜査はおよそ犯罪捜査の名に値するものではなく、重大な違法があるのは明らか」などと違法捜査と断定したとされています。違法なおとり捜査を認めた裁判所の判断は、極めて異例だということです。

6) 特殊詐欺を巡る動向

 特殊詐欺を巡って、興味深い報道がいくつかありましたので、ご紹介いたします。

  • 特殊詐欺における名簿は「三種の神器」の一つといわれるほど重要なツールですが、詐欺に使われると知りながら高校などの同窓会名簿を詐欺グループに販売したとして、名簿販売業者の実質的経営者が詐欺ほう助容疑で逮捕されています。特殊詐欺の共犯として名簿業者を逮捕したのは全国で初めてだということです。
  • 神奈川県警は、詐欺グループの電話をかける「かけ子」の東京都内のアジトを摘発、詐欺容疑で男6人を逮捕しましたが、室内からA4判2枚の「就業規則」を押収、「仕事」の時間や電話の目標本数などが記されていたということです。また、その他にも、約200万人分の名簿を収録したCDRなどを押収するなど、詐欺グループがかけ子を組織的に管理していた実態が明らかになりました。
  • 京大・阪大の名簿を使用したとみられる静岡の詐欺集団拠点が摘発されています。この事案で、詐欺グループは、摘発を逃れるため、1か月ごとに拠点を移し、埼玉や千葉、静岡などのマンションを転々としていたうえ、人目につかないよう、大量の食料を買い込み、外出することはほとんどなかったという実態が明らかになりました。
7) ビットコイン(仮想通貨)を巡る動向

 本コラムでは、これまでもビットコインのような仮想通貨の規制に関する検討過程などをご紹介してきましたが、今般、事実上の通貨としての機能を持っていると認めたうえで、テロ・犯罪組織による悪用の防止や、問題業者の排除等による利用者保護が図られることとなりました。

金融庁 情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律案 (平成28年3月4日提出)

概要

説明資料

 仮想通貨の法規制については、G7エルマウ・サミット首脳宣言(平成27年6月)において、「我々は、仮想通貨及びその他の新たな支払手段の適切な規制を含め、全ての金融の流れの透明性拡大を確保するために更なる行動をとる」と採択されたことを受けて、FATF(金融作業活動部会)のガイダンス(平成27年6月)において、「各国は、仮想通貨と法定通貨を交換する交換所に対し、登録・免許制を課すとともに、顧客の本人確認義務等のマネロン・テロ資金供与規制を課すべきである」とされていたものです。今回導入されることになる日本の法規制の概要については、以下のような骨格となっていますが、FATFのガイダンスをふまえ、仮想通貨と法定通貨を交換する交換所に対し、犯罪収益移転防止法上のマネロン・テロ資金供与規制を課すことが柱となります。(より詳細な内容については、暴排トピックス2015年12月号をあわせてご参照ください)。

1.マネロン・テロ資金供与対策

  • 口座開設時における本人確認仮想通貨に係る法制度の整備-法制度案の概要
  • 本人確認記録、取引記録の作成・保存
  • 疑わしい取引に係る当局への届出
  • 社内体制の整備

2.利用者の信頼の確保

  • 最低資本金・純資産に係るルール
  • システムの安全管理
  • 利用者に対する情報提供
  • 利用者が預託した金銭・仮想通貨の分別管理
  • 分別管理及び財務諸表についての外部監査
  • 当局による報告徴求・検査・業務改善命令、自主規制等

 仮想通貨の持つ利便性を活かしていくための法規制ではありますが、ビットコインが犯罪に悪用された事案は既に米国などで見られ、実際に、ISが当局の追求をかわすためにビットコインで資金を貯め込んでいるとの情報もある中、今後、日本においても組織犯罪等に悪用されることが予想されます。特に、預金口座からの暴排が進むことで、匿名性の高い仮想通貨が暴力団等の預金口座や資金移動の代替手段として悪用される可能性も考えられるところです。つまり、日本においては、AML/CTFの規制の枠組みだけでなく、実務的にも近い反社リスク対応の観点から事業者を規制することも今後の重要な論点だと思われます。

8) 忘れられる権利の動向

 「忘れられる権利」については、本コラムでもたびたび取り上げてきました(例えば、暴排トピックス2015年8月号を参照ください)。以前から指摘している通り、「忘れられる権利」においては、「時間の経過」による「公益性」の減少といった考え方がひとつの基準になっていると言えますが、当社の問題意識としては、踏み込んだ議論がいまだ不十分な中、そもそも「公益性の高い属性・情報」の代表格である「反社情報」が、個別事情における厳格な比較考量を行うことなく、(勝手に)「5年という基準」(時間の経過)によって「公益性」がないものと判断されてよいのか、といった点にあります。そして、「時間の経過による公益性の減少」の議論が深まることなく、司法判断において、「既成事実化」しつつある状況については、大きな危機感を覚えています。

 そのような中、さいたま地裁が、グーグルで自身の逮捕(3年以上前に児童買春・ポルノ禁止法違反の罪で罰金の略式命令が確定した事案)に関する記事の検索結果の削除を男性が求めた仮処分申し立てにおいて、「犯罪の性質にもよるが、ある程度の期間の経過後は、過去の犯罪を社会から『忘れられる権利』がある」と判断し、削除を認める決定をしたとのことであり、「忘れられる権利」と明示したのは国内初ではないかとの報道(平成28年3月5日付産経新聞)がありました。正に「時間の経過による公益性の減少」という枠組みに基づくものだとはいえ、事案そのものとの具体的な比較考量の理屈が明らかではなく、グーグル社が再度不服を申し立て東京地裁で審理中であることとあわせ、今後の議論の深まりを期待したいと思います。

 一方で、グーグル社は、本人が望まない個人情報を検索できないようにする取り組みを欧州で強化すると発表しています。セーフハーバー協定の無効化に伴う新たなデータ移転の枠組み(プライバシー・シールド)の導入やEUの新しい「データ保護指令」の発効を控えていることの影響も考えられますが、ドイツやフランス、英国など欧州各国向けのグーグルサイトで削除された個人情報を、米国向けのグーグルサイトで従来は使えていたものを使えなくしたということです。なお、EUの個人情報保護の取組みと忘れられる権利の関係などについては、また別の機会に考えてみたいと思います。

9) 犯罪インフラを巡る動向

① 同窓会名簿

 特殊詐欺事案の摘発時に同窓会名簿が見つかる事例が相次いでいます。特殊詐欺と名簿といえば、これまで、ギャンブル経験者、未公開株購入者、原野購入者、過去の詐欺被害者などのリストが知られていますが、地方に住む人をターゲットに、東京に呼び寄せて現金をだまし取る「上京型」と言われる手法により詐欺の被害対象エリアが大きく拡がり、地方に犯罪の手が伸びている実態の背後に、正にこの同窓会名簿が一役かっている(同窓会名簿の存在が詐欺グループにとっての販路拡大に大きく貢献した)と考えられます。

② 道路内民地

 産経新聞の報道(平成28年3月5日付によれば、所有権移転がなされないまま、私有地に公道が設置された「道路内民地」をめぐり、各地でトラブルが相次いでいるとのことです。中には、道路内民地の所有権が暴力団に移り、トラブルに発展するケースなども全国各地で起きているということで、水道やガスの引き込み工事に絡んで道路内民地を通るという理由で600万円を請求される被害もあったとされています。自治体の過去の手続きの甘さや杜撰さはもちろん、現時点でもトラブルの誘発を恐れて実態を把握しようとしない自治体のスタンスが、正にこのような反社会的勢力の介入を招いている、さらにはそのリスクを放置しているという点で、彼らの活動を助長している状況だといえます。

③ カード不正利用

 日本クレジット協会のセキュリティ対策強化の行動計画によれば、「2014年(平成26年)には約114億円の被害が確認されている。特に、漏えいしたカード情報のEC加盟店における不正使用の伸びが顕著となっており、全体の6割近くを占めている。これら不正使用により得られた資金は犯罪組織の活動資金源となっている可能性もあることから、クレジットカード取引に関係する事業者は社会正義の観点からも不正使用対策に取り組むべき責務があることを認識しなければならない」と指摘されています。

日本クレジット協会 クレジットカード取引におけるセキュリティ対策の強化に向けた実行計画-2016-【公表版】

 さらには、近年の傾向として、(1)外部からの攻撃に対してセキュリティ対策が脆弱なEC加盟店からの漏えいの増加が顕著であること、(2)海外では大手加盟店のPOS端末を標的としたサイバー攻撃によってウイルスに感染し、当該端末で決済されたカード情報を含む顧客の情報が大量に窃取される事例も頻発、日本でも同様の攻撃が増えていること、(3)不正使用は、高額な家電製品・宝飾品等、デジタルコンテンツやチケット類といった換金性・流通性の高い商材を取り扱っている業種の加盟店において多発していること、一方で、(4)対面取引においては偽造クレジットカードによる不正使用、ECにおいてはカード会員本人になりすました不正使用が発生している、といった状況も報告されています。
 それに対し、海外では、偽造カード使用防止のため急速にIC対応を進めていることや、ECにおける不正使用防止のため3Dセキュア等の対策の導入が浸透しているところ、日本の対応が遅れており、国際的にみれば日本がセキュリティホール化し、不正使用被害が国境を超えて流入するリスクが高まっていることへの危機意識を持つべきだと警鐘を鳴らしています。
 また、報道によれば、ヤフーが昨年1年間で検出した不正注文のうち4割が発送先を空き部屋に指定していたということであり、同社はこのうち9割を発送停止として被害を食い止められたということです。

 これらから明らかなように、「詐取されたクレジットカード情報・ネット通販・空き家」さらには「転売・換金システム」を組み合わせた不正の手口は、組織的な背景を持つ犯罪と推測され、その負のスパイラルの出発点が「個人のID・パスワード管理の脆弱さ」や「(カード番号と有効期限だけで利用できるなど)ネットショッピング決済の利便性の追求と裏腹のセキュリティの甘さ」にあるのであり、個人とカード会社の脇の甘さが犯罪に悪用されている状況だといえます。

④ 診療報酬制度

 既に本コラム(暴排トピックス2015年11月号)でも取り上げましたが、指定暴力団住吉会系組長らによる療養費や診療報酬の不正請求事件で、警視庁は、クリニック(閉院)を経営していた元タレントで医師ら男女2人を詐欺容疑で逮捕しています。接骨院や歯科医院を舞台とした一連の事件での医師の逮捕は初めてで、総額約6,900万円の診療報酬を不正請求した疑いがあるということです(なお、報道によれば、診療報酬のほとんどが不正請求だといいます)。

 本制度の問題点については、以前、「医療費抑制が喫緊の課題とされる中、膨大な数の審査に忙殺されて不正を完全に見抜くのが難しいという(半ばあきらめにも似た)構造的な問題が以前から指摘されており、暴力団がその脆弱性を突いて、この事件だけで数億円単位の資金源にしていたことになります。そして、この事件は正に氷山の一角である可能性も否定できず、診療報酬審査が『犯罪インフラ化』しているのではないかと危惧され」ると指摘しましたが、最近の報道を見る限り、そもそも医師個人の脇の甘さを犯罪組織が悪用した、あるいは、最初から診療報酬の不正請求を行う目的で医師を犯罪組織が取り込んだ事例という見方も成り立ちます。
 診療報酬制度自体が、医師の真っ当な診療行為を前提として成り立っている現状では、このような悪意を早い段階で見抜くことが難しいことも事実であり、やはり、「不審な請求等を検知する、性悪説に基づく制度設計」への見直しが急務だといえると思います。

⑤ 社員(顧客情報の内部流出)

 前項の不正に加担した医師と似た構図となりますが、某信用金庫の女性職員が、顧客情報を詐欺グループに漏らして報酬を得ていたことがわかり、不正競争防止法違反(営業秘密侵害)容疑で逮捕されています。さらに、この事件では、流出先である詐欺容疑者が、提供された顧客情報を基に偽造した運転免許証を使って高級車を詐取した疑いが持たれており、(流出した顧客情報はすべて40代前後の男性のものだったことから)なりすますため近い年代の顧客情報を漏えいするよう信金職員に働き掛けていたということも報道されています。
 この女性職員は、いわば、詐欺を助長する、犯罪組織の「共生者」といった位置付けとなるといえます。前回の本コラム(暴排トピックス2016年2月号)でも、「そもそも社員や選手一人ひとりの『常識』が必ずしも一律ではない(常識の非一貫性)と認識する必要がある」と指摘しましたが、役職員の中には、犯罪に親和性を持つ者も残念ながら存在するのであり、そういった可能性を常に念頭に置いて人事労務管理を行っていく必要があるということです。常識が均質であるとの前提で「常識的な」コンプライアンス研修を行っても、その危険分子には届かない(何らかの好ましい影響を及ぼすことは難しい)こと、入口(採用時)は問題なくても、その後「常識」がズレてしまうリスクがあること、したがって、反社リスク同様、社内暴排や性悪説の観点から厳しく役職員の行動(さらには、「常識」のあり様・・・まで)を管理・監視していくこと、また、少なくともそのようなリスクを認識しておくことが求められているといえます。

10) その他のトピックス

① 社会の目の厳格化への対応

 サントリーウエルネス社は、過去にテレビの通販番組で商品の利用者の声を紹介した際、反社会的勢力の関係者が含まれていたとHP上で発表しています。

サントリーウエルネス株式会社「弊社通販番組についてのお詫び」

 報道によれば、昨年、視聴者からの情報提供で発覚したとのことですが、実はこの番組は3年以上前に放映を終了しているということです。
 詳細な経緯は分かりかねますが、この「社会の目の厳格化」への対応の視点は、今後のコンプライアンスにおいては極めて重要です。本事例の教訓として、「社会の目の厳格化」のひとつの形である「お客さまからの指摘・通報」リスクへの対応の重要性をあらためて認識すべきだと指摘しておきたいと思います。ただし、これは、反社リスクに限ったことではありません。実際に、鉄道事業者において、乗務員がSNSを見ていたといった情報が乗客からリアルタイムに会社に寄せられ、次の駅での乗務員交代指示といった対応や、場合によっては当該乗務員の解雇等の懲戒処分を行い公表したという事例もあります。

 翻って、過去に反社リスクへの対応が不十分だったために生じた問題を、今になってお客さまから「問題だ」と指摘される、その事実を隠ぺいしたと見なされる(意図的なものではなく、現時点では解決しており公表する必要まではないと判断する)ことで、SNS等でその対応の是非まで糾弾される・・・といった状況は、全ての事業者においても想定しておくべきことであり、その対応には、適切さだけでなくスピード感も求められるとの認識が必要です。なお、本件についての同社の対応は、事実を公表し、真摯な反省をベースとした原因究明と再発防止策をも盛り込んでおり、現時点では適切な対応だと評価できると思います。

② 情報セキュリティと反社リスク

 特殊詐欺による被害も深刻さを増していますが、国内外から日本のネットワークに向けられたサイバー攻撃関連の通信が平成27年中に545億1,000万件と、過去最多だった平成26年の約256億6,000万件から倍増しているほか、インターネットバンキングにおける不正送金事犯による被害も深刻化しています。

警察庁 平成27年中のインターネットバンキングに係る不正送金事犯の発生状況等について

 上記によれば、平成27年の発生件数は1,495件、被害額は約30億7,300万円(平成26年 1,876件 約29億1,000万円)であり、高い水準で推移していることがわかります。特徴的な傾向として、「信金・信組、農協・労金」における被害が拡大していることがあげられます(被害額の内訳は、都銀等47.1%、地銀19.5%、信金・信組30.6%、農協・労金2.8%)が、特に信用金庫の法人口座被害が急増しており、セキュリティ面での脆弱性が突かれていることが明らかになっています。
 また、報道によれば、日本のオンラインバンキング利用者を狙ったウイルスメールが大量に送信されている問題で、このウイルスは、感染者が特定の地方銀行のネット取引を行うとパスワードなどを盗む設定になっていたということです。設定ファイルには1検体につき地銀約10がリストアップされ、都銀は一つのみで、この事案においても、セキュリティ面や利用者の意識という点で脆弱性を有している部分を狙い撃ちにされた可能性がうかがわれます。

 このように、サイバー攻撃が、事業者のリスク対策が遅れている部分(脆弱性)に対する攻撃へと次々とシフトしている状況がありますが、実は、それは正に反社リスクにおいても同様の構図となっています。事業者におけるリスクという視点からみれば、両者は、「外部からの攻撃」という点で共通しており、「攻撃者の不透明化・潜在化」「手口の巧妙化・高度化・洗練化」、さらには「どこから侵入してくるかわからない」という意味で「攻撃する側が圧倒的に有利」というところも共通しています。また、サイバー攻撃を含む「情報セキュリティ」と反社リスクいう意味では、「人」に起因するリスクの視点が重要という側面を持ち、役職員の高い意識やリスクセンスが未然防止や端緒の把握につながる点にも共通のものがあります。

 さて、今後のサイバー攻撃の動向を語るうえでのキーワードとしては、「(あらゆるモノがインターネットでつながる)IoT」があげられるでしょう。例えば、自動車や防犯カメラ、複合機などが乗っ取られ、情報を不正に流出させたり、攻撃の「踏み台」とされる危険性が顕在化しており、今後は「IoTでつながるあらゆるモノ」が攻撃の対象となることが想定されます(究極的には、公共インフラや原発等への攻撃につながる可能性を否定できません)。これを反社リスクに置き換えれば、あらゆるサービスが「犯罪インフラ」化する可能性がある昨今の状況と似ていると指摘することができます。本コラムでは、最近の事件等からうかがえる様々な「犯罪インフラ」化の状況、反社会的勢力がそれらを巧妙に利用している実態を取り上げていますが、IoT化の時代の情報セキュリティ上のリスクとの共通点からいえば、「利便性の裏に潜むリスク(脆弱性)」を、反社会的勢力をはじめとする犯罪者(犯罪組織)よりいかに速やかにかつ的確に認識し、必要な対策を講じていくか、事業者と犯罪者との知恵比べがますます高度化・高速化している(さらには、そこから逃げることができない)との認識を強く持つことが求められているといえます。

③ 組長の使用者賠償責任を巡る動向

 指定暴力団山口組の傘下組織の組員から詐欺被害を受けた香川県内の50代男性が、この組員の他に、篠田建市(司忍)組長と傘下組織の組長に使用者責任を問い、約7,600万円の損害賠償を求めて高松地裁に提訴した訴訟で、篠田組長と傘下組織の組長が、男性に解決金6,000万円を支払うことで和解したと報じられています。また、組員に対して、高松地裁は、不法行為責任を認定し、約3,000万円の支払いを命じています。
 一方、指定暴力団共政会傘下の組長や組員にみかじめ料を脅し取られたなどとして、広島市内の風俗店経営者ら3人が、同会会長ら4人を相手取り、脅し取られた現金や慰謝料など計約2,200万円の賠償を求めて広島地裁に提訴したと報じられています。みかじめ料を巡って組トップの使用者責任を問い、賠償を求める訴訟は珍しいものと思われます。

 暴力団組長に対する使用者責任は、平成15年に、最高裁で初めて山口組の五代目組長に対し、使用者責任を認め損害賠償を支払うよう命じる判決が下されたのがきっかけで、平成16年に暴力団対策法の3回目の改正で、「指定暴力団の代表者は組員が抗争により他人の生命、身体または財産を侵害した時は、損害を賠償する責任がある」こととなり、平成20年には、暴力団対策法の4回目の改正によって、「暴力団員がその暴力団の名称を示すなど威力を利用して資金獲得活動を行い、他人の生命、身体または財産を侵害した時は、その暴力団の代表者が損害を賠償する責任を負う」こととなった経緯があります。
 暴力団の資金面への直接的な打撃、弱体化の有力な手段として、また、一定の抑止効果も期待できることから、今後も積極的に活用していくべきだといえます。

④ 元上場企業と反社会的勢力

 架空の資産を計上するなどして粉飾決算をしていたとして、警視庁組織犯罪対策3課は、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)で、食品事業会社「グローバルアジアホールディングス」元社長と、同社の実質的経営者を逮捕しています。さらに、報道によれば、資産の一部が暴力団などの反社会的勢力に流れていたということです。また、新株予約権の発行などで調達した資金の大半を計約10億円の簿外債務の返済などにあてていたとも報じられています。

 暴排の取組みが上場企業だけでなく一般の事業者にも浸透しつつある中、上場企業といえどもその健全性を維持し続けることが困難であること、したがって、全ての事業者の入口・中間管理における反社チェックの実務において、「上場企業だから反社チェックの対象外」として、一律にそのリスクを疑わない姿勢を見直す必要があるとご認識いただきたいと思います。
 本コラムでもたびたび指摘していますが、反社会的勢力の企業への侵入事例においては、「資金調達の困難さ」がその端緒となるケースが極めて多いといえます。特に新興市場に上場しても、ビジネスモデルの脆弱性や事業の不安定さから、上場後に資金調達に困難をきたし、第三者割当増資や不適切な先からの投資・融資を受けるという形で反社会的勢力との関係が生じてしまうケースは(当社の感覚では)かなり多いといえます。反社会的勢力の狙いは「ハコ」としての上場企業であり、残っている優良な資産を取引や融資・出資などで社外に流出させたり、株価操作等を通じて、(実際に乗っ取りに要した額以上の)相応の収益をあげるなどして、とことんまで絞り取っているのが実態です。

 上場企業を対象とする反社チェックの一つの手法(端緒情報の収集)として、「開示情報の精査」があります。具体的には、以下のような開示情報があった場合に、内容をよく精査していくことが必要だといえます。

  • 取締役・監査役の不自然な交代(特に、複数の取締役・監査役の一斉辞任、CFO(最高財務責任者)やCTO(最高技術責任者)等のビジネスの中核となる人物の辞任等)
  • 商号変更(特に、度重なる変更や事業内容との関連性が低い変更等)
  • 大幅な業態転換
  • 主要株主の(頻繁な)変動
  • 売掛先、買掛先、借入先、貸出先の(疑わしい先等への)変動
  • 株価の急激な変動
  • (発行条件が不利、割当先が疑わしい等の)第三者割当増資、新株予約権の発行・乱発あるいは中止
  • (無謀な)大規模増資
  • (具体性・関連性・実現可能性に乏しい)業務提携および資本提携、新規案件
  • 期中での会計監査人の交代、頻繁な交代、後任監査人が未定
  • (突然の)臨時株主総会開催
  • 訴訟の提起

⑤ 危険ドラッグを巡る動向

警察庁 平成27年における薬物・銃器情勢(確定値)

 平成27年の危険ドラッグ事犯の検挙人員は1,196人(前年比+356人、+42.4%)と増加しましたが、その過半数(668人、構成比率55.9%)は平成26年末までに認知したものであり、使用が原因とみられる交通違反で摘発された人数が4分の1になったこととあわせれば、危険ドラッグの流行は沈静化の傾向にあるともいえます。ただし、リアル店舗は消滅したものの、インターネットでの販売が主流になっており、さらなる潜在化に今後も注意が必要です。
 その一方で、「危険ドラッグから大麻へ」の流れが顕著にみられるようです。平成27年に全国の警察が大麻に関する事件で摘発した人数は、前年比19%増の2,101人にのぼり、2,000人を超えたのは10年以来5年ぶりということです。10~20代の若者の摘発が増えて半数を占めるなど、若者を中心に「危険ドラッグから大麻へ」の流れが確認できます。

 あわせて、覚せい剤事犯については、平成27年に覚せい剤取締法違反事件で11,022人が摘発されており、うち暴力団員らが過半数の5,712人(51.8%)に上っています。元プロ野球選手の問題でも明らかなように、相変わらず、暴力団の主要な資金源となっている状況が続いています(ちなみに、大麻事犯における暴力団員等の構成比は28.1%)。また、世間的にも認知されている「再犯率の高さ」(再犯者率)については、全体で64.8%とかなりの高い水準であることが分かります。さらには、20代が36.0%であるのに対し、40代で72.2%、50歳以上で83.1%に達するなど、加齢とともに再犯率も高くなる傾向もみられます。一方で、大麻事犯の初犯者率は、平成27年は76.8%と、依然として高水準にあることとあわせれば、若者が危険ドラッグから大麻へ、さらにその大麻を「ゲートウェイ・ドラッグ」として薬物にのめり込み、最終的にはより依存性の高い覚せい剤へと流れていく傾向が初犯者率や再犯者率から読み取ることができます。

⑥ その他の統計資料から

財務省 平成27年の全国の税関における関税法違反事件の取締り状況

 平成27年の全国の税関が空港や港湾等において、不正薬物の密輸入その他の関税法違反事件を取り締まった実績が公表されています。
 不正薬物全体の摘発件数は1,896件(前年比約4.9倍)と過去最高を記録し、押収量は約519㎏(前年比18%減)と5年連続で500kgを超える結果となりました。依然として深刻な状況であるものの、平成27年4月に、指定薬物(いわゆる危険ドラッグ)が、関税法上の「輸入してはならない貨物」に追加されていることが影響しています(危険ドラッグの摘発件数は1,462件と不正薬物全体の約8割を占めています)。また、覚せい剤事犯の摘発件数は83件(前年比52%減)、押収量は約422㎏(前年比23%減)と、いずれも減少しています。

警察庁 平成27年中の少年非行情勢について

 平成27年中における刑法犯少年の検挙人員は38,921人と、平成16年から12年連続の減少となりました。特に、振り込め詐欺の検挙人員は402人と、前年より84人(26.4%)増加しており、統計を取り始めた平成21年から増加し続けており、深刻な状況です。なお、平成27年中の再犯者数は14,155人と、前年より2,733人(16.2%)減少していますが、再犯者率は36.4%と、平成10年から18年連続して上昇、昭和47年以降で最高となっています。
 このように、振り込め詐欺の検挙人員の増加、再犯者率の上昇など、少年非行を取り巻く情勢は、引き続き厳しい状況にあるといえます。

警察庁 平成27年中の暴走族等の実態及び検挙状況等について

 暴走族のグループ数、構成員数、い集・走行回数、検挙人員及び110番通報件数は、いずれも減少傾向にあります。最近、問題視されている「旧車會」(暴走族風の旧型二輪車等で大規模集団走行等を行っている集団)については、平成27年中は、578グループ(前年比▲17グループ)・構成員6,173人(前年比+129人)を把握し、1,771人(前年比+54人)を検挙しています。

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

1) 大阪府の勧告事例_1

 縁起物の干支の瓦を暴力団組員から不当に高く購入するなどしたのは利益供与にあたるとして、大阪府公安委員会は、府内の居酒屋経営の30代男性やガールズバー店長の20代女性ら男女6人に、大阪府暴排条例に基づき勧告しています。また、組員は客として店を訪れ、付き合いとして購入するよう持ちかけていたといい、組員に対しても、利益供与を受けないよう勧告しています。

2) 大阪府の勧告事例_2

 暴力団の活動に使用されると知りながら、神戸山口組の傘下団体組員に安い価格で乗用車を販売したのは利益供与にあたるとして、大阪府公安委員会は、府内の金属加工会社経営の50代男性に、大阪府暴排条例に基づき勧告しています。また、毎月3万円ずつ分割で代金を支払っていたということですが、組員に対しても、利益供与を受けないよう勧告しています。

3) 新潟県の勧告事例(一覧の公表)

新潟県暴排条例に基づき、暴力団員に対する利益供与違反として、新潟県公安委員会が勧告した事例が、8事例まとめて公表されています。

新潟県暴力団排除条例 勧告事例

このページで公表されている事例としては、例えば以下のようなものがあります。

  • 海産物卸業社Aは、その行う事業に関し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなると知りながら、極東会系暴力団幹部Bから海産物を購入して現金を供与したとして、同Aに対し、また、その供与を受けた暴力団幹部Bに対し、それぞれ勧告した。(平成27年9月)
  • 生花業経営者Aは、その行う事業に関し、暴力団の活動を助長し、または暴力団の運営に資することになると知りながら、山口組系暴力団組長Bが行う門松販売代金の入金目的として普通預金口座を開設し、門松購入事業者に代金を入金させたうえ、出金して手渡すなどの役務を提供したとして、同Aに対し、また、その供与を受けた同Bに対し、それぞれ勧告した。(平成26年6月)
4) 組事務所使用中止の要請事例

 指定暴力団松葉会2次団体「国井一家」の幹部が取締役を務める会社が実質的に所有する建物が茨城県鹿嶋市の市有地にある問題で、鹿嶋市が、建物を使用しないよう求める文書を送っています。ただ、松葉会側の「地上権」(民法第265条に規定されている、他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利)が認められる可能性があり、市側が松葉会側に地代を請求すれば、逆に、松葉会が建物を使用することを認めることになってしまう恐れもあり、難しい対応を迫られています。

5) 組事務所撤去事例

 茨城県守谷市にある指定暴力団松葉会本部の関連施設「松葉会会館」の土地と建物について、暴力団追放の住民運動を受け、市は、昨年12月、登記上の所有者だった建設会社社長から、諸費用を含め1億3000万円で買い取ることとしていましたが、このたび市に引き渡されました。現実に抗争が起きていない段階で、住民と行政が組事務所撤去を勝ち取ったのは極めて異例のことだといえます。

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