暴排トピックス

コンプライアンスやリスク管理に関するその時々のホットなテーマを、現場を知る
危機管理専門会社ならではの時流を先取りする鋭い視点から切り込み、提言するコラムです。

実効性ある反社チェックのために(3)(2020.9)

執筆者:主席研究員 芳賀恒人

【もくじ】―――――――――――――――――――――――――

1.実効性ある反社チェックのために(3)

(1)反社チェックのあり方

(2)反社チェックの具体的な手法(調査範囲)

(3)最近の暴力団情勢

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

(2)特殊詐欺を巡る動向

(3)薬物を巡る動向

(4)テロリスクを巡る動向

(5)犯罪インフラを巡る動向

(6)誹謗中傷対策を巡る動向

(7)その他のトピックス

・暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

・IRカジノ/依存症を巡る動向

・犯罪統計資料

・忘れられる権利を巡る動向

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

3.暴排条例等の状況

(1)暴排条例に基づく公表事例(静岡県)

(2)暴力団関係事業者に対する指名停止措置等事例(福岡県)

1.実効性ある反社チェックのために(3)

新型コロナウイルスの感染拡大で、外出を控えた消費者のインターネット通販利用をめぐるトラブルが増えているとして、消費者庁の有識者検討会は、デジタル・プラットフォーム上で取引の場を提供する企業に対する規制強化に向けて、「場の健全性」を確保するための本人確認手続きの強化などについて検討する方向性を示しました(この件については、AML/CFT(アンチ・マネー・ローンダリング/テロ資金供与対策)を巡る動向の項であらためて取り上げます)。一方、気候変動リスクへの対応、資源を巡る紛争や人権問題の解決を後押しする有力な手段として、ESG投資(環境・社会・企業統治)への期待が高まる中、サプライチェーンから「人類の幸福への侵害行為」に関与する取引先を排除することがより厳しく求められるようになっています。企業の実務からいえば、取引先を選定する基準として、もはや相手の「与信」「反社チェック」「逮捕情報」などだけでは十分でなく、サプライチェーンや取引の場における「健全性」の確保、そのための「KYCC」(Know Your Customer’s Customer)の視点や取引選定基準の多様化・厳格化、手法の高度化がより一層求められているといえます。

(1)反社チェックのあり方

実効性ある反社チェックを実施していくにあたっては、以下のような視点が必要となります。

  • 反社チェックとは、日常業務の中から「疑わしい」端緒を把握し、それを基に組織的に見極め、排除に向けて取り組むことに他なりません。現場の端緒を軽視しデータベース(DB)に依存することだけでは反社チェックの精度を十分に確保することは難しいし、現場における「暴排意識」や「リスクセンス」の向上なくしては、反社会的勢力の実質的な排除、あるいは、その前提となる見極めすら期待できません。
  • 反社チェックとは、別の言い方をすれば、当該対象者=「点」とつながる関係者の拡がりの状況や「真の受益者」の特定といった「面」でその全体像を捉えることで、その「点」の本来の属性を導き出す作業です。表面的な属性で問題がないと思われる「点」が、「面」の一部として背後に暴力団等と何らかの関係がうかがわれることをもって、それを反社会的勢力として、「関係を持つべきでない」排除すべき対象と位置付けていく一連の作業だといえます。
  • たとえば、DBスクリーニングのような手法に依存するしかない「入口」審査においては、日常業務における端緒情報の不足の問題、およびDBの限界と相まって精度が不十分となる(すなわち、不完全)こと、結果として、反社会的勢力がすり抜けて入り込んでいることを強く認識した業務運営を行う必要があります。したがって、「入口」審査の限界をふまえた「事後チェック」(中間管理)の精度向上の視点が重要となります。

反社チェックの具体的な手法については、DBスクリーニング以外にも、「取引経緯や取引途上の特異事項等の把握(日常業務における端緒情報の把握)」、さらには、「風評チェック(リアル/ネット)」、「登記情報の精査」、「実体・実態確認」といった複数の手法があり、それらを可能な限り複数組み合わせることによって、多面的に分析していくことが重要となります。さらには、法人の反社チェックにおいては、商号変更されている場合は、現在の商号だけでなく、以前の商号もチェック対象に加える、現任の役員だけでなく、既に退任した役員までチェック対象に含めるといった時系列的な観点からのチェック対象の拡大、また、経営に関与しうるとの観点からは、重要な取引先や株主、顧問や相談役などにまで対象を拡げることすら検討していく必要があります。

<反社チェックの具体的手法の例>

チェック手法項目 チェック概要
属性要件・行為要件・コンプライアンス違反等への該当の有無 DBスクリーニング/記事検索/インターネット検索
反社会的勢力排除条項の締結状況 “排除条項締結を合理的な理由なく拒む”、“排除条項付き契約書の押印が遅い”など不審点がないか
商業登記情報の精査 商号・役員・所在地・事業目的の変更理由等は合理的か
風評チェック 業界内や近隣での噂、ネットでの風評等に好ましくないものがないか
取引の経緯のチェック 取引を行う理由が明確か、紹介者は問題ないか、代替可能性があるか、必要な調査や検討手続きは適切に行われているか
取引上の懸念事項等のチェック 異例・例外的な部分はないか、企業実態はしっかりしているか、資本政策や主要株主・役員等の動向に急激な変化や与信上の問題はないか
現地確認・実在性チェック 経営の規模に応じた事務所の規模か等
閉鎖登記・不動産登記情報の精査 過去の役員、不動産登記簿謄本上の所有者等や最近の動向に不審な点はないか
財務分析 粉飾や不自然な資金調達が行われていないか等

そのうえで、入口におけるDBスクリーニング主体の反社チェックを行わざるを得ない場合に、どのような工夫があるか、いくつか実例を紹介します。DBスクリーニングにおいては、「同一性の精査」についても悩ましい問題であり、最終的に警察に情報提供を求めることがあるべき姿となりますが、その中で、審査に十分な時間をかけられない等の制約がある場合には、以下のような取組みが考えられます。なお、これらのあり方については、あくまでも参考事例であり、その可否につちえは企業姿勢によるところが大きいことを付言しておきたいと思います。

  • 新規取引開始時の審査であれば、自社で出来る範囲の追加調査(ネットで情報を収集するなど)にとどめ、それ以上の情報収集をせず(新聞記事の取得や警察に相談することなく)、ある程度同一と疑われるものについて「契約自由の原則」によりNG対応とする(同一でないと判断したものについては、判断の根拠について記録を残す)
  • 同一性の精査を一切行うことなく、「同姓同名・同年齢」レベルのDBへの該当事実をもって新規取引を行わないことを組織的判断とする
  • 他に問題がなければ、いったん審査を通過させて、警察相談や専門家への調査依頼など十分な審査を行った結果、問題がある場合には、関係解消に向けたアクションを起こす(継続監視として関係を解消出来る機会を探る、次の契約更新をしない、確証が揃った時点で中途での契約解除に踏み込む、など)
  • 自社で出来る範囲の追加調査にとどめつつ、第三者である専門家に風評等のチェックを依頼し、その範囲内で同一性の判断と取引可否判断を行う
(2)反社チェックの具体的な手法(調査範囲)

以下、反社チェックをどういった範囲で行えばいいか、また、調査手法には具体的にどのようなものがあるのかについて、今回と次回とでより詳しく解説していくこととします(全ての業種・業態の参考になるものと思われるため、金融機関を例にベースに検討していきます)。

まず、反社チェックの「調査範囲」については、金融機関に求められる反社チェックは、全国の暴力団排除条例(暴排条例)等で求められるレベルを大きく超えており、具体的には平成23年6月に改正された「銀行取引約定書における暴力団排除条項」の内容を踏まえて、当該企業が「暴力団員等が経営に実質的に関与していると認められる関係を有する」かどうか、「暴力団員等に対して資金等を提供し、または便宜を供与するなどの関与をしていると認められる関係を有する」かどうか、といった点にまで注意を払うことが求められています。このような観点から、金融機関では、対象企業の商業登記情報(以下「登記情報」)を取得するなどして「現在の商号と取締役・監査役」等を把握し、それを過去の記事検索や自行庫のデータベース、外部の公知情報DBと照合して、該当事項がないか確認するということが広く行われています。しかし、反社会的勢力は、そのような反社チェックを見越して、すでに巧妙に実態を隠しており、表面的な情報だけで反社会的勢力を見極めることは困難になっています。したがって、実効性ある反社チェックを行うためには、閉鎖された登記情報や履歴事項等を取得するなどして、「退任した役員」、「会社設立当時の役員」、「会社の来歴」等にまでチェック対象を拡大し、「隠したい過去」を導き出す(見つけにいく)といった取組みの深度が必要になります。その取組みが表面的であればあるほど、反社会的勢力にとっては、実態や手口、真意(狙い)の隠蔽や偽装が容易となります。「面倒だから」「難しいので」ということで表面的な取組みに終わらせること自体が、相手に隙を見せることになることを十分認識していただきたいと思います。また、反社会的勢力は、企業等に接近し、接点が生じるや、関係者を一斉に送り込んでくるなど、「面で活動する」行動様式に特徴があります。その意味では、反社会的勢力に関する端緒(兆候)は、事業者を取り巻く様々な接点(例えば、関連会社や資本・業務提携先など)に点在していることにも注意が必要です。以上を踏まえると、望ましい反社チェックの調査範囲としては、対象企業の現時点の状況に限定することなく、以下のような過去の関係者や周辺の関係者にまで拡げることが重要となるといえます。経験則上も、とりわけ外から見えにくい部分に反社会的勢力が潜んでいることが多いと強調しておきたいと思います。

  • 退任した役員
  • 子会社や関係会社
  • 主要な取引先
  • 主要な取引先等の紹介者(仲介者)
  • 主要株主
  • 主要な従業員(取締役以外の執行役員、中途入社した部長など)
  • 顧問や相談役、コンサルタント、アドバイザー
  • 外部から招聘した取締役・監査役およびその経歴先企業
  • 投資先や融資先・法人所有不動産や役員個人所有不動産の債権者など
(3)最近の暴力団情勢

国内最大の指定暴力団六代目山口組(現・特定抗争指定暴力団六代目山口組)が分裂し、神戸山口組が結成されてから8月27日で丸5年が経過しました。前回の本コラム(暴排トピックス2020年8月号)で詳述したとおり、資金や人員面で劣勢の神戸山口組については、今夏、高額な上納金への不満などから中核の「山健組」や豊富な資金源を有する池田組をはじめ複数の傘下組織が離脱するという危機的状況に陥っています(なお、山健組自体は神戸山口組への残留を主張するグループもおり、分裂状態となっています)。しかしながら、現時点では、それでもなお抗争終結の見通しは立っておらず、勢力変化が新たな事件の火種となる可能性もあることから、2つの「特定抗争指定暴力団」の動向に最大限の警戒が必要な状況であることには変わりありません(直近では、山口県岩国市で、神戸山口組系喜竜会の幹部が銃撃される事件が発生、容疑者として六代目山口組系篠原組の組員(すでに破門となったと供述)が逮捕されています。報道で捜査関係者が「組同士の対立関係がなくても敵対勢力が名を上げるために小さな組は狙われやすい」と指摘しており、今後も同様の事件が散発的に発生する可能性は否定できません)。また、神戸山口組からさらに分裂した絆會(旧・任侠山口組)は、かねてより「脱反社」を掲げてきたことをあらためて前面に押し出している一方で、復帰を目指して六代目山口組と交渉を進めていたこともあるとされ、今回の動きも、規制逃れを目的とした偽装の動きの可能性も指摘されるところです。なお、関連して、神戸山口組からの主力団体の脱退が事実の場合、特定抗争指定の規制対象から外れることになりかねず、そうなれば新たな問題を抱えることになる点に注意が必要です(ただし、神戸山口組はこれらの組織に関する絶縁、除籍といった処分を公表していません。警察もまた、情報の真偽や新たな対立抗争の可能性などを見極めるまで脱退の扱いとしない方針としているようです)。

今後の動きについては、現時点で1カ月前と大きくは動いていませんが、まず、警察当局としては、ある報道で兵庫県警幹部が、「昭和の『山一抗争』の時代とは異なり、平成に施行された暴力団対策法や暴力団排除条例などの効果を思い知らせる契機になった。ましてや特定抗争指定暴力団ともなれば、事務所は使えず、組員が集合できないのだから」、「やはり出ていった方が負け。自滅する。これは山一抗争も同じ。組織の分裂とはそういうもの」、「山健にはもう資金力がない。厳しい法律の縛りで山菱の代紋を使ってシノギ(資金獲得)ができないのだから、もはや暴力団として体をなしていない。結局は法律には勝てない」、「我々の目的は、2つの山口組の和解=手打ちではなく、暴力団組織そのものを消滅させるためにあらゆる法令の適用を駆使すること。これを粛々と進めるしかない」と述べていましたが、おそらくこのようなスタンスであると考えられます(なお、実際に警察は手を緩めることなく次の一手を打っています。愛知県警は、六代目山口組と神戸山口組の活動が厳しく制限される「警戒区域」の愛知県内での拡大(名古屋市とあま市に加え、武豊町を追加することが念頭にあるようです)に向け、愛知県公安委員会が9月14日に六代目山口組から、同15日に神戸山口組から、それぞれ意見を聴取する場を設けると明らかにしています。組側が欠席しても手続きに支障はありません。)。

一方、暴力団情勢に詳しいジャーナリストは、「六代目山口組は分裂から5年経った今なお分裂前の組員数を回復できず、分裂した2団体も数の増減はあるが、そのまま存続している。このことは何を意味しているのか。まず指摘できるのは、旧組員たちが六代目山口組に戻らなくてもやっていけると考え始めたことだ。もはや全国に名が通った広域暴力団の時代ではないという疑念が生まれている。オリンピックや大阪万博、カジノ開設など大規模イベントが軒並み崩れ、世の中、コロナに覆い尽くされる今、小さくともより地域に密着した組織の方が過ごしやすいのではないか」と興味深い指摘をしています。あるいは、元暴力団幹部は、「六代目にとっては、特定抗争指定暴力団の指定から解かれることを狙うでしょう。このままだと事務所も使われへんし。そのためには、山口組をひとつにすることが必要。ヤクザ社会の“憲法”みたいなもんですが、アメとムチで神戸山口組の勢いを殺いで看板降ろさすところまで持っていく。警察はそんな甘(く)ないけど、過去に道仁会と九州誠道会が抗争していた後に、九州誠道会は解散して浪川会を結成することで、特定抗争の指定が外れた例がありますから」という見立てをしていますが、こちらも1つのシナリオとして興味深いものです。

いずれにせよ、現在、水面下で何らかの駆け引きが行われていることは間違いなく、その状況は遅れて表面化してくるものと思われます。事業者にとっては、動向を注視しつつも、彼らと一切の関係(接点)を持つことなく、ましてやシノギ(資金獲得活動)に資するような取引やそのおそれがあれば粛々と排除していくことが重要であることは以前も今も変わりありません。

次に特定危険指定暴力団工藤会の状況ですが、一般市民を襲撃した4事件で指揮命令したとして組織犯罪処罰法違反(組織的殺人未遂)などの罪に問われているトップで総裁の野村悟とナンバー2で会長の田上不美夫両被告の公判が福岡地裁で行われていますが、被告人質問がこのほど終了し、両被告とも4事件全てで関与を否定しています。公判における野村被告の主な発言を紹介すると、まず、検察側から工藤会解散については「私にそういう権限はありません。意見を述べることはできないし、そういう立場にない」と述べたほか、総裁を辞任する考えがあるか問われたが「しよっても、しよらんでも一緒ですわ」と発言したことなども注目されます。さらに、歯科医師刺傷事件(2014年)について「(指示や命令は)ありません」、被害者と面識はないとし、事件の発生は「新聞の報道で見ただけで(組関係者に)聞いたこともない。隠居の身なので、立ち入らないようにしていた」、「被害者が気の毒に思います」、看護師刺傷事件(2013年)では、事前に襲撃計画を知っていたら「止めている。お世話になっとる被害者に危害を加えるのはとんでもない」、「私の愚痴が組員に伝わり、変なふうになったのかな」、元漁協組合長射殺事件(1998年)で指示や承諾をしたかについては「ありません」としたものの、検察側が過去の元組員への重い処分を決めた経緯を聞いたところ、執行部の決定を「了承」していたと認め、会の意思決定に関与していたことを示唆しています。一方の田上被告の主な発言を紹介すると、福岡県警の元警部銃撃事件(2012年)について、元警部について「悪い感情はなかった」、襲撃について「知っていたら『バカなことはやめろ』と止めている」、「銃撃すれば警察が一丸となって工藤会をたたいてくる。それを許すほど愚かではないし、ばかではない」と指示を否定、一方、弁護側から事件を指示した人物をどう思うか問われると「思慮が浅いとしか言いようがない」、看護師刺傷事件については、野村被告から指示されたり、自らが指示したりしたことを否定、逮捕されるまで組員の関与や野村被告が受けた施術などを知らず「何で俺が逮捕されないかんのかと思った」と述べています。さらに、工藤会の実権は会長の田上被告にあることは認めつつ「会の運営は執行部に任せていた」と主張、執行部への指示や命令をすることはないとし、報告を受けたとしても決定を覆すことはなかったと。また、工藤会の解散については「代々譲られたもの。私一人でそんな大事なことは決められない」などと述べています。いずれも、指示命令系統(組織運営への関与)や指示命令そのものを否定する発言に終始しており、今後、検察側がその主張をどう切り崩していくのか注目されます。

その他、最近の暴力団に関する報道からいくつか紹介します。

  • 福岡県警は、福岡地裁で審理中の工藤会トップで総裁の野村悟被告らの公判に絡み、証人を威迫したとして、組織犯罪処罰法違反(組織犯罪証人威迫)の疑いで工藤会系組長を逮捕しています。報道によれば、2019年12月上旬から今年4月下旬ごろ、野村被告と田上被告の公判の証人である男性に対し、面会や電話した際に「あんたは総裁に恨みしかないんか。嫌われるようなことを言わんでもいい」、「ゆっくり話をせないかんな」と言って威迫した疑いが持たれているということです。
  • 北九州市小倉南区で2010年3月、暴力団追放運動に取り組んでいた自治総連合会長の自宅が銃撃された事件で、殺人未遂と銃刀法違反の罪に問われた工藤会系組幹部の判決公判で、福岡地裁は、被告を事件の実行役と認め、懲役17年(求刑懲役18年)を言い渡しています。報道によれば、判決理由で裁判長は、被告と別の組員のどちらが実際に拳銃を発射したかは「特定できない」としつつ、「少なくとも犯行現場で発射の場面に立ち会うなど重要で不可欠な役割を担い、刑事責任は重い」と認定したといいます。さらに、事件の動機については「暴追運動に取り組む住民への組織的、計画的な威嚇、脅迫、報復が目的」として「被害者らの恐怖感と精神的苦痛は大きく、厳しい非難は免れない」、「市民の生命を脅かし、暴力団への抵抗を封殺しようとするものだ」と述べています。また、殺意はなかったとの主張に対しては、「ガラスの隙間などから撃ち込んでおり、生命も奪いかねない危険な行為」と述べて斥けています。
  • 六代目山口組の2次団体「良知2代目政竜会」(良知組から名称変更)が富士宮市北山地区に事務所を構えて活動を始めたことが分かりました。「良知2代目政竜会」はかつての上部団体である後藤組(2008年に解散)の元組員が所有する建物を事務所として使用しています。このことを受け、静岡県警は、関係機関と共同で「ローラー作戦」と題し、地域住民に対する現状の周知や意見聴取に乗り出しています。報道によれば、捜査員や関係機関職員が、事務所周辺に暮らす約200世帯を個別訪問、住民らに対し、暴力団が地域に進出した現状や抗争事件の際に事務所がターゲットになる可能性があることなどを周知し、暴力団が地域に拠点を置くことについて意見を聞き取っています。
  • 川口市西川口の違法カジノ賭博店「Circus」が摘発された事件で、県警捜査4課と蕨署、川口署は、店からみかじめ料を取っていたとして、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益収受)の疑いで、住吉会傘下組織幹部の無職の男を逮捕し、さいたま地検に送致しています。報道によれば、同店の売上金を管理する男性から、違法営業で得た犯罪収益の一部である数十万円をみかじめ料として徴収した疑いが持たれており、店舗付近の防犯カメラに、男と男性のやりとりが映っていたことなどから、今回の犯行が発覚したとされます。
  • 北海道・美唄市に住む80代女性からキャッシュカード4枚をだまし取り、現金約185万円を引き出したとして六代目山口組系暴力団「松平興業」の組員が逮捕されています。組員が主導的な役割を担っていたとみられることから、警察は暴力団の資金源になっていたとみているといいます。
  • 横浜市南区のマンションの1室で、覚せい剤を販売目的で所持した現行犯で稲川会傘下組織の組員が逮捕されています。報道によれば、室内からは大量の注射器と袋に小分けされた粉末計170gが見つかったといいます。容疑者はマンションで覚せい剤を保管し、路上で客に販売していたとみられ、警察は売り上げの一部が暴力団に流れていたとみているといいます。また、薬物関連では、福岡県八女市の自宅で営利目的で大麻を栽培していた疑いで37歳の男が逮捕されています。報道によれば、自宅からは7キロ、末端価格にして約1,000万円相当の乾燥大麻が押収されたといい、2020年6月上旬から7月末にかけて、自宅の1階の和室を改造して大麻草7本を営利目的で栽培した疑いが持たれています。なお、容疑者はSNSなどを通じて大麻を販売していたとみられ、警察は暴力団の関与も視野に捜査を進めているということです。さらに、旭川中央署は、覚せい剤取締法違反(所持)の疑いで、六代目山口組系旭導会の組員を現行犯逮捕し、送検しています。報道によれば、共同住宅で、覚せい剤2.3グラムを所持した疑いが持たれています。なお、同署は容疑者の自宅を家宅捜索し、覚せい剤111・2グラムと注射器316本などを押収、覚せい剤の末端価格は逮捕容疑の2.3グラムと合わせ約730万円相当だといい、「営利目的だった」と認めているということです。

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

デジタル・プラットフォームの「犯罪インフラ化」について、本コラムでは以前から強い懸念を示していましたが、ここにきて、デジタル・プラットフォームにおける「場の健全性」を確保するために、従来は事業者の自主性に任せてきた本人確認について、(AML/CFTで求められているレベル感かどうかは別として)もう少し踏み込んだ対応をすべきではないかとの議論が出始めています。

▼消費者庁 第6回デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会
▼【資料2】売主の本人確認等取引責任の明確化(事務局資料) [PDF:623KB]

ここでの議論として、「(デジタル・プラットフォームを通じた取引であるかどうかに関わらず)インターネットを含む通信販売では、画面等に表示されている広告等の情報が消費者に対する重要な情報提供手段であり、その情報に基づいて消費者は判断を行い、取引を行っている」こと、そのため、「通信販売では、表示されている情報は消費者が判断を行うに当たって極めて重要な要素となる。よって、特定商取引法では、事業者に関しては、通信販売についての広告として、例外を除いて住所や氏名等の表示が義務付けられている。他方で、CtoC取引における売手側のCの売主の表示に関する規定はない」こと、「古物営業法については、フリマサイトは、個人間で直接に物を売買する場を提供するものであり、また、その方法が競りによるものではないため、フリマアプリ等の運営業者は古物営業法に規定された古物競りあっせん業者には該当せず、法規制の対象外となっている。古物競りあっせん業者については、盗品等の売買の防止、速やかな発見等を図るという観点から、法において、あっせんの相手方の確認及びあっせんの記録の作成・保存について努力義務が課せられている」こと、「犯罪収益移転防止法は、マネー・ローンダリング、テロ資金供与防止の観点から、特定事業者に対し、特定取引における顧客等の本人確認を求めている。オンライン・ショッピングモールやフリマサイト等自体は、当該特定事業者として列挙されていない」ことなどの問題点が指摘されています。さらに、「デジタル・プラットフォームの利用者・意識行動調査では、利用者が買い物系プラットフォームを利用する場合、個々の出品者よりも買い物系プラットフォーム自体に信用を置いており、過半数を超える利用者(63.6%)は売主が誰かを意識している。買い物系プラットフォーム上においても、売主が誰か、その信用性などを含めての情報が、消費者に対して提供されることが求められていると考えられる」ことをふまえれば、「デジタル・プラットフォーム企業が提供するオンライン・ショッピングモール、フリマサイト等において、消費者が取引をする際に、取引相手が誰かを含め、信頼性の確保が重要である。特に、取引相手が明確でない場合は、紛争時の解決が困難になるなど、取引の安定性への影響が大きく、消費者に多大な不利益をもたらすとともに、デジタル・プラットフォーム企業の提供するサービスへの信頼性を棄損するおそれもある。こうしたことから、消費者が安心できる取引環境を整備することが必要であり、取引相手の信頼性を確保し、利用者の利便性の追求と取引の場の安全の両立の観点から、以下の点について検討する必要があるのではないか」として、「上記の目的を達成する観点から、デジタル・プラットフォーム企業はどのような対応をすべきか。消費者がデジタル・プラットフォーム企業に寄せている期待を前提に、デジタル・プラットフォーム企業はどのような役割を果たすべきか。売主の本人確認を行うことが必要ではないか」、「本人確認は、現在もデジタル・プラットフォーム企業が自主的な取組として行っているが、十分に行われていないのではないか。例えば、登録時の確認・継続的な確認の必要性、どのような手法で行うかなど、どこまでデジタル・プラットフォーム企業に求めるべきか」について検討を深める方向性が提示されています。筆者としては、現状、デジタル・プラットフォームが、(フリマでの現金出品や盗品の転売など)マネー・ローンダリング等に悪用されている可能性が否定できないことから、犯罪収益移転防止法に定める「特定事業」に指定し、AML/CFTの強固な枠組みの中で「場の健全性」を確保することでもよいのではないかと考えます。

次に、最近公表された金融庁の「革新的技術分野の推進に向けた施策および金融分野におけるRegTech/SupTechに関する調査報告書」から、「eKYC」、「RegTech/SupTech」、「リスクマネジメント」に関する部分を抜粋して紹介します。テクノロジーは規制サイドにも犯罪組織サイドにも等しくその恩恵を与えることになることをふまえ、その高度な利活用が急務となっています。その点、本報告書には最新の知見が集約されており、大変参考になります(なお、本報告書は600ページを超えるものであり、ダウンロードの際にはご留意ください)。とりわけ、FATFが「近年の技術革新やデジタル ID 技術標準を踏まえると、デジタル ID を用いた非対面での KYC は、リスクは標準的(standard level of risk)か、むしろ低い(lower-risk)と考えられる可能性があることを指摘している」点や「コンプライアンスコストの急激な増加や規制違反等による制裁金や罰金、和解金巨額化の実態」などは興味深く受け止めました。

▼金融庁 金融デジタライゼーションに関する施策動向等の委託調査「革新的技術分野の推進に向けた施策および金融分野におけるRegTech/SupTechに関する調査報告書」の公表について
▼「革新的技術分野の推進に向けた施策および金融分野におけるRegTech/SupTechに関する調査報告書」

【eKYCを取り巻く動向】

  • eKYC(electronic Know Your Customer)とは、口座開設等における本人確認業務(Know Your Customer:KYC)をオンラインによる非対面で行うことを指す用語であり、我が国では2018年11月に「犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)」の改正によりオンラインで完結する本人特定事項の確認方法が追加されたこと等により関心が高まっている
  • KYCの対象は個人(自然人)と法人の双方が考えられるが、本節では、主に個人(自然人)を対象としたガイドラインの整備状況について記載する。法人の身元確認は自然人の場合よりも複雑なプロセスが必要とされ、主要国においても一般的には紙ベースで行う必要があるからである。法人の身元確認にあたっては、法人自体の識別と検証、取締役の識別と検証、口座に関連する個人の識別と検証、口座を運営する者が権限を持っていることの検証、法人の最終的な受益者の識別と検証などが必要になる。一般には政府の企業登記簿の写しなどが必要となるため、欧州委員会により設置されたコネクティング・ヨーロッパ・ファシリティ(Connecting Europe Facility:CEF)の2018年3月の報告書では、法人の身元確認を確実に行うためには紙ベースで行う必要があることを指摘している
  • また、KYCを行うタイミングとしては、口座開設時(Onboarding)と期中(Ongoing)が存在するが、本節では主に公的身分証明書等のやり取りを伴う口座開設時を対象とする。他に、KYCプロセスは、公的身分証明書等を用いて利用者が確かに実在していることを確認する本人確認ないし身元確認(実在性の確認)と、一度身元確認が済んだ先に対してなりすまし等でないことを確認する当人確認(同一性の確認)という二つのプロセスに分けられるが、本節では主に公的身分証明書等のやり取りを伴う本人確認(身元確認)を対象とする
  • eKYCのメリットとしては、手続きの迅速化・簡素化といった利用者にとってのメリットの他、非対面取引にかかるコストや機会損失の削減といった事業者側のメリットが考えられる。IDプロバイダのSinicat社は、口座開設手続きにかかる時間が長すぎることや多くの個人情報を提供することなどから、利用者の40%が口座開設を放棄していることを報告しており、その意味で、eKYCの制度が整備されることは、オンライン・非対面を中心とした新規参入事業者による革新的なサービスの発展を促すことにもつながると考えられる
  • 金融分野においては、KYCの実施は、AML/CFT上の要請により規定されている。例えば、我が国では本人確認を規定する主要な法律は計12存在するが、金融分野における本人確認を規定した法律は犯罪収益移転防止法のみとなる

【eKYCを巡る国際機関の状況】

  • AML/CFTの国際基準設定機関である金融活動作業部会(Financial Action Task Force:FATF)では、本人確認をカスタマーデューデリジェンス(Customer Due Diligence:CDD)という用語で記載しており、40の勧告(FATF Recommendations)のうちの10(a)で自然人のCDDを定めているが、その具体的な手法については各国の判断にゆだねている
  • FATF勧告はテクノロジー中立であり、身元確認にあたって書類(documents)の他にデータ(data)や情報(information)も認めており、他に、身元確認書類に記載された内容と実際の利用者をどのように紐付けるかなどの詳細も規定していない
  • 歴史的には、1990年の当初の勧告において、CDDは「公式のまたは信頼できる身元書類(”on the basis of an official or other reliable identifying document”)」とされていたが、1996年6月、2003年6月の改訂を経て、2012年2月の改訂において、「公式の身元書類(official identifying documents)」という文言が削除され、代わりに「信頼できる(reliable)」と「独立である(independent)」という文言と、書類の他にデータ(data)や情報(information)という文言が加えられた経緯がある
  • なお、FATFの整理では、KYCも含めたあらゆる関係を「対面(face-to-face)」か「非対面(non-face-to-face)」の二種類に分けており、「対面」は同一の物理的場所に所在して活動を行うとしている。ただし、「対面」の定義は国毎に異なり、「対面」にビデオ通話を含める国も存在することを指摘している
  • FATFは勧告の他にガイダンスも公表している。最近では、FATFは2020年3月に、勧告10のCDDにデジタルIDシステムを適用する場合のガイダンスを公表し、デジタルIDをCDDに利用する際の検討チャートを示している。同ガイダンスでは、近年の技術革新やデジタルID技術標準を踏まえると、デジタルIDを用いた非対面でのKYCは、リスクは標準的(standard level of risk)か、むしろ低い(lower-risk)と考えられる可能性があることを指摘している
  • 他に、銀行セクタ向けにはBCBS、保険セクタ向けにはIAIS、証券セクタ向けにはIOSCOなどがそれぞれCDDに関するガイダンスを公表している

【eKYCを巡る主要国の状況】

  • eKYCの取組みは各国でも進められているが、国により規制のスタンスは異なっていることが指摘されている。基本的に英米などは事業者の裁量に委ねる一方で、仏独などは法的要件を詳細に定めていると指摘されている

【RegTech/SupTechを巡る動き】

  • 規制報告等に新たな技術を活用するRegTech/SupTechへの関心が高まった背景として、特に2008年の金融危機以降、欧州債務危機などを挟みつつ、規制の量や報告の頻度が急激に増加しつつあり、金融機関におけるコンプライアンスコストがかつてないほど増加していることが挙げられる
  • 例えば、米では金融機関は四半期毎に財務情報を報告する必要があるが、小規模な金融機関では、この報告書は1950年代には4ページ程度であったものが、1980年代には約30ページ、1990年代には約40ページ、2000年代には約50ページ、2015年時点では約84ページと急激に増加している。また報告書内の項目も増加しており、1970年末には53項目であったものが、2015年では2,379項目に増加し、さらに増加を続けている
  • 直近の例では、史上最長で最も複雑な法律とされる金融危機後のドッドフランク法(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)が挙げられるが、これは当初849ページであったが、様々な拡張、修正等が行われ、約2,300ページ以上に至っている。ドッドフランク法は約2万8千弱の規制上の制限を設けており、2014年時点では当時のオバマ政権時代に成立した他の全ての法律を足し合わせたものより多いとも指摘されている
  • また、規制違反等による制裁金や罰金、和解金も巨額化しており、新たな経営リスクとして指摘されている。マネー・ローンダリングへの関与や制裁対象国への送金等で科された罰金額は全世界で2018年には270億ドル超、金融危機以降では累計3,720億ドルとみられている。例えば、2016年に住宅ローン担保証券の不正販売問題でDeutsche Bankが米司法省に支払った和解金は72億ドルであり、国内のメガバンクの純利益額とほぼ同等程度になる
  • さらに、金融規制の内容やその重点も変化を続けている。金融危機後の規制・リスク管理の変遷について、EYの2019年の報告書では、以下のように整理している
    • 金融危機後の5年間は、資本要件、流動性リスク、カウンターパーティリスクといった金融リスク、および、これらに対するストレステストやモデルリスク管理といったトピックに焦点があてられた。ガバナンスや各組織の役割・責任の改善なども進められ、三線防御体制が実効性をもって敷かれることとなり、その上で、効果的なリスク・アペタイト・フレームワークの構築が焦点となった
    • 次に、2015年前後からは、非金融リスクが新たな焦点となり、適切なリスク管理・リスクテイクを支える組織文化(Conduct and Culture)が着目されるようになった。従来はオペレーショナルリスクとして一纏めにされていたリスクが個別に認識されるようになり、不正行為などの行動リスク(Conduct Risk)やコンプライアンス未遵守リスクなどから、近年ではサイバーセキュリティなどのITリスクが重要性を増しつつある。その他、(侵入を前提とした)ITシステムのレジリエンス向上、プライバシー対応、クラウド強化、デジタル移行などへ焦点が移りつつある
  • このような規制の増加・複雑化・変化に対して、民間金融機関は多大なコストをかけて対応している。例えば、ドッドフランク法では年次のストレステストの実施(DoddFrank Act Stress Tests:DFAST)とFRBへの報告が求められるが、大手金融機関はコンプライアンスに多額の費用を費やしている
  • 民間調査では、ドッドフランク法施行前と比べ、銀行セクタ全体でみた支出は年間約580~860億ドル増加したと推計されている。JP Morganは、コンプライアンス対応のため、2013年に追加で40億ドルを拠出し、5千人を雇用する計画を発表し、2015年にはストレステスト専門チームに500人が所属しており、他に関連する人員は約2千人以上と述べている。Citigroupもコンプライアンス関連のスタッフを2011年から2014年までに約3割増やし、ドッドフランク法の遵守と年次テストのために追加で1万人雇用したと伝えられている。Citigroupでは、2008年末時点では総従業員数32万3千人のうち、コンプライアンス関連のスタッフは1万4千人であったが、2018年末には総従業員数20万4千人のうち、同関連スタッフは3万人に上ると報告している。Credit Suisseは2016年からの3年間でコンプライアンス部門の人員を4割増加させ、3万社以上の既存顧客の見直し、1万件超の問題点の改善、12の既存システムの統合などを報告している
  • 全世界900名以上のコンプライアンス部門幹部への意識調査では、2019年における最も重要なコンプライアンス上の経営課題としては「規制変化への対応」が挙げられている
  • 同調査では、経営課題として、上位から「規制変化への対応」、「サイバーセキュリティ対策」、「個人としての説明責任」、「企業文化と行動リスク」、「金融犯罪とAML/CFT」が挙げられているが、規制変化を最大の課題に挙げる点は過去同調査が行った9回の意識調査でも大きく変化していない
  • 実務的にも、規制変更を適切に実装することが最大の課題として挙げられている。世界約800の金融機関を対象にした調査でも、コンプライアンスコストや業務の複雑さが増加し、収益性の観点で多くの金融機関が強い課題意識を持ちはじめたと報告されている。なお、大きな影響を与える規制の例として、欧州では、GDPR、MiFID II、AMLD5、PSD2などが挙げられる
  • RegTech/SupTechは、民間金融機関が規制対応・報告義務等に新たな技術やビジネスモデルを活用して効率化を図る取組みを指すものであり、一義的にはコンプライアンスコストの軽減が目的となる。全世界のコンプライアンス部門幹部の意識調査でも、今後10年間における主要な変化として、「コンプライアンス活動の自動化」、「継続的な規制変化」、「コンプライアンスの役割強化」、「テクノロジーリスク」などが挙げられており、規制対応負荷の軽減を図るRegTechへの期待が大きいことが分かる

【リスクマネジメント】

  • リスクマネジメント分野は、AMLやCFTといった不正行為の検出業務の複雑化を主な背景としており、取引データや社内電子通信メタデータなどから異常なデータを検知し効率的な管理を促すソリューションが提案されている。要素技術としては、非構造化データを取り扱うテキストマイニングや異常検知・リスク分析に用いる機械学習やリスク評価数理モデル、ネットワーク分析などが用いられている
  • 2014年に設立されワシントンに拠点を置くStarling Trust Sciencesは、行動科学、組織ネットワーク分析、機械学習を用いて従業員やチームの行動予測を行うプラットフォームを開発し、不正行為の未然防止や検知を行うサービスを提供している。具体的には、同プラットフォームにおいて社内の電子通信メタデータを収集・分析しリスクのある行動パターンを抽出することで、管理者向けに事前警告を発信し、リスクの発現を防止することを主なサービスとしている。本サービスは必ずしも金融分野に限らないものであるが、不正行為の防止などのコンプライアンス業務の重要性が特に問われる金融業界において多く利用されており、同社も金融業界を重要顧客と捉えていると見られる。実際、同社は銀行セクタにおけるコンプライアンス関連行動のモニタリングの重要性を訴えるレポートを公開しており、その中でシンガポール金融庁やオランダ中央銀行等を例に当局が行動科学を用いて監督業務を強化することの有効性を述べており、金融業界向けの広報活動を積極的に行っている
  • 2012年に設立されシンガポールに本拠地を置き、米、インドにも展開しているTookitakiは、機械学習を主な要素技術としAML/CFTを主な目的としたソリューションを提供している。本ソリューションは、トランザクションを監視し疑わしいケースの検出を行うものであるが、独自の機械学習手法やスコアリング技術を駆使しており、ルールベースを背景技術とした従来製品から大幅にその精度を向上させている。従来製品では真に不審なケースのアラートが正常なケースに対する多く誤報の中に埋もれてしまう場合や、不正行為の複雑化により検出すべきケースの検出漏れとなる場合があった。一方、同社ソリューションは、偽陽性(実際には問題はないのに問題があると判断されること)を50-60%削減することで、真に不審なケースへの検出率を5%向上させ、一般に日々150程度のAMLアラートを処理している銀行の業務効率化やコンプライアンス違反による罰金リスクを低減するとしている。また、同社は規制内容の複雑化による様々なデータのリコンサイル作業(例:個人データの突合等)の効率化にも着目したソリューションを提供している。従来製品では、単純なマッチング処理しかできずリコンサイル作業において例外対応による作業の中断が発生し人が介入する調査時間の多くを占めていたが、同社製品は独自の機械学習アルゴリズムを用い、例外調査にかかる時間を最大70%削減するとしている。同アルゴリズムはデータ増分変更を取り込んで、その精度を持続的に維持できる方式を取り、日々進化する不正行為手法に対応しようとしている。またREST APIインタフェースを用いて既存の関連システムと接続し一連の処理として統合可能な形態を取っており、既存のAMLシステムを活かしつつ導入できるため、ユーザにとって導入しやすい製品と言える
  • 日本ではRegTech/SupTech事業者は米英などRegTech事業者が集まる地域と比べるとその数は少なく、本調査で着目したランキング類でも日本の事業者は取り上げられていない。TRUSTDOCKは、日本では数少ないeKYC対応のデジタル身分証アプリ等のサービスを提供している企業である。2017年に設立され、犯罪収益移転防止法に対応したデジタル身分証アプリ「TRUSTDOCK」や本人確認API基盤を提供している。同社の製品は、総務省のIoTサービス創出支援事業における実証実験を経て開発された。銀行や証券会社向けには、改正犯罪収益移転防止法の施行規則六条一項の新手法「ホ」「へ」「ト」に対応した本人確認アプリの提供を行っており、本人確認時における偽造や不正パターン、なりすまし行為を抑制する機能も実装するとされる

その他、最近の報道から、AML/CFTに関するものをいくつか紹介します。

  • 銀行、証券会社、カード会社など金融業界で今、「エアポスト(AIRPOST)」と呼ばれるプラットフォームが注目を集めています。報道(2020年8月21日付ニッキン)によれば、各金融機関への住所・属性変更などの諸手続きを一度で行えるプラットフォームであり、すでに約40の金融機関が参加もしくは検討を進めているといいます。利用者の利便性も増し、例えば、口座振替も印鑑照合不要でエアポストを窓口で行えるほか、金融機関サイドも常に最新の個人情報が取得できるようになるほか、クレジットカードなども更新年次に新たなカード送付で不着を防止できるようになるといいます。さらには、AMLにも応用が可能で、顧客の所属する組織・団体、取引目的などへの顧客からの申告を通じて、郵送、入力作業など人的コストを削減、FATF(金融活動作業部会)の求める継続的顧客管理(CDD)にもつながるとされています。
  • ゆうちょ銀行と日本郵便は、郵便局での外貨両替を年内いっぱいで終了すると発表しています。キャッシュレス決済の普及で外貨両替の需要が減少傾向にある中で、マネー・ローンダリング対策の強化を図る狙いです。報道によれば、現在、全国約2万4,000局のうち約480局で外貨両替を行っているところ、全て廃止する一方、約230店あるゆうちょ銀の直営店では継続するということです。海外送金の取り扱いも、現在の1,194局から来年1月4日時点で991局に減らす予定といいます。国際的に資金洗浄対策の強化が求められ、金融機関側では本人確認など事務手続きのコストが重荷となっていることが背景にあります。
  • 金塊を売りに来た中国人たちが提示した身分証は偽物だとした国税当局の認定で、金の買い取り業者が約5億9,000万円の追徴課税を受けました。業者側は「偽物だと見破るのは困難だ」と主張し、課税処分の取り消しを求める事態になっています。報道によれば、同社は主に中国人らから金の地金を買い取り、大手業者などに転売することで利益を得ており、買い取り時には、本人確認のために中国人たちに身分証明書の提示を求め、在留カードのコピーなどを保管していたといいます。ところが、税務調査に入った東京国税局は、同社にコピーがあった中国人客ら約70人分の証明書のほとんどを「偽物」と判断、取引時には日本にいない人のものが含まれるなど、実際に訪れた客のものだと認めなかったということです。日本人の本人確認でさえ正確に実施することが困難であるところ、外国人との取引における本人確認手続きの適正性・真正性等に一石を投じるもので、今後の展開を見守りたいと思います。
  • 8月29日付香港各紙は、警察が8月10日に日本経済新聞香港支局を調査したと報じたと日本の各紙も報じています。香港当局は、組織犯罪条例のマネー・ローンダリングに関する規定に基づき裁判所の令状を取り、資料の提出を命じたと説明、AP通信は2019年8月に日本経済新聞に掲載された民主派の意見広告に関する調査だと報じているものの、香港当局は「マネー・ローンダリング」の具体的な中身を説明しておらず、取材資料は提出命令に含んでいないといいます。現時点では情報が不足していますが、今後の展開を注視したいと思います。
(2)特殊詐欺を巡る動向

まずは例月どおり、直近の特殊詐欺の認知・検挙状況等について確認しておきます。

▼警察庁 令和2年7月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

令和2年1月~7月における特殊詐欺全体の認知件数は7,928件(前年同期9,588件、前年同期比▲17.3%)、被害総額は151.2億円(181.2億円、▲16.6%)、検挙件数は4,060件(3,417件、+18.8%)、検挙人員は1,407人(1,468人、▲4.2%)となっています。ここ最近同様、認知件数・被害総額ともに減少傾向にあることに加え、検挙件数が大幅に増加、検挙人員も認知件数や被害総額ほどが落ち込んでいないことから、摘発が進み、特殊詐欺が「割に合わない」状況になっていることを示しているのではないかと考えることも可能です。なお、後述しますが、直近の犯罪統計資料によれば、暴力団犯罪のうち、詐欺の検挙件数は811県(1,338件、▲39.4%)、検挙人員は587人(784人、▲25.1%)708件(1,108件、▲36.1%)、検挙人員は516人(643人、▲19.6%)となっており、新型コロナウイルス感染拡大や特定抗争指定などの影響により、暴力団の詐欺事犯への関与が激減していることがより際立つ対照的な数字となっています。類型別では、オレオレ詐欺の認知件数は1,209件(4,150件、▲70.9%)、被害総額は33.2億円(41.0億円、▲19.0%)、検挙件数は1,158件(1,757件、▲34.1%)、検挙人員は356人(887人、▲59.9%)などとなっています。また、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は1.907件(1,773件、+7.6%)、被害総額は26.3億円(28.3億円、▲7.1%)、検挙件数は1,484件(632件、+80.7%)、検挙人員は421人(176人、+139.2%)などとなっており、分類の見直しもあり、前期との比較は難しいとはいえ、キャッシュカード詐欺盗の被害の深刻化が顕著であることは指摘できると思います。さらに、預貯金詐欺の認知件数は2,506件、被害総額は0.2億円、検挙件数は638件、検挙人員は428人(従来オレオレ詐欺に包含されていた犯行形態を令和2年1月から新たな手口として分類)、架空料金請求詐欺の認知件数は1.080件(2,042件、▲47.1%)、被害総額は39.3億円(53.7億円、▲26.8%)、検挙件数は353件(744件、▲52.6%)、検挙人員は85人(345人、▲75.4%)、還付金詐欺の認知件数は879件(1,405件、▲37.4%)、被害総額は12.5億円(17.3億円、▲27.7%)、検挙件数は262件(180件、+45.6%)、検挙人員は29人(10人、+190.0%)、融資保証金詐欺の認知件数は205件(168件、+22.0%)、被害総額は2.3億円(2.3億円、+1.5%)、検挙件数は100件(58件、+72.4%)、検挙人員は34人(14人、+142.9%などとなっています。これらの類型の中では、「融資保証金詐欺」が増加している点に注意が必要な状況です。

犯罪インフラの状況については、口座詐欺の検挙件数は372件(515件、▲27.8%)、検挙人員は238人(296人、▲19.6%)、盗品譲受けの検挙件数は2件(4件、▲50.0%)、検挙人員は1人(2人、▲50.0%)、犯収法違反の検挙件数は1,462件(1,272件、+14.9%)、検挙人員は1,207人(1,042人、+15.8%)、携帯電話端末詐欺の検挙件数は122件(160件、▲23.8%)、検挙人員は102人(118人、▲13.6%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は19件(27件、▲29.6%)、検挙人員は17人(17人、±0%)、組織犯罪処罰法違反の検挙件数は55件、検挙人員は15人などとなっています。これらのうち、犯罪収益移転防止法違反の摘発が増加しているのは、金融機関等におけるAML/CFTの取組みが強化されていることの証左ではないかと推測されます。

また、被害者の年齢・性別構成について、特殊詐欺全体では、男性(25.9%):女性(74.1%)、60歳以上(89.6%)、70歳以上(79.9%)、オレオレ詐欺では、男性(19.5%):女性(90.5%)、60歳以上(98.1%)、70歳以上(94.9%)、融資保証金詐欺では、男性(69.0%):女性(31.0%)、60歳以上(28.3%)、70歳以上(10.9%)と、類型によって傾向が全く異なることもある点は認識しておく必要があります。なお、参考までに、特殊詐欺被害者全体に占める65歳以上の高齢被害者の割合は85.8%(うち女性の比率77.6%)、オレオレ詐欺97.7%(80.2%)、キャッシュカード詐欺盗96.2%(78.4%)、預貯金詐欺98.4%(84.8%)、架空料金請求詐欺42.1%(58.6%)、還付金詐欺85.1%(63.9%)、融資保証金詐欺20.1%(10.8%)、金融商品詐欺81.0%(73.5%)、ギャンブル詐欺20.6%(46.2%)、交際あっせん詐欺20.0%(0.0%)となり、類型によってかなり異なる傾向にあることが分かりますが、概ね高齢者被害の割合が高い類型では女性被害の割合も高い傾向にあることも指摘できると思います。このあたりについては、以前の本コラム(暴排トピックス2019年8月号)で紹介した警察庁「今後の特殊詐欺対策の推進について」と題した内部通達で示されている、「各都道府県警察は、各々の地域における発生状況を分析し、その結果を踏まえて、被害に遭う可能性のある年齢層の特性にも着目した、官民一体となった効果的な取組を推進すること」、「また、講じた対策の効果を分析し、その結果を踏まえて不断の見直しを行うこと」が重要であることがわかります。

さて、コロナ禍の中、いまだ高止まりしている特殊詐欺被害ですが、その被害の防止に向けて試行錯誤が続いています。最近の報道(2020年8月20日付日本経済新聞)では、愛知県内で2020年1~5月に摘発された特殊詐欺の実行役のうち、SNSの勧誘をきっかけに加担した若者らが45%を占めることがわかった一方で、愛知県警が、実行役を募るSNSの投稿に返信する取り組みを進め、約2,200件の警告メッセージを発したところ、8割が削除されたことも明らかにしています。そして、このような勧誘ツイートに返信する取り組みは大阪や茨城、北海道など各地の警察でも広がりつつあります(別の報道では、埼玉県警が、今年検挙された105人のうち75.2%に当たる79人が10~20代の若年層だったことをふまえ、愛知県警と同様の取組みを始めたということです)。一方で、1年前と比べて直接的な表現の投稿が減り、「闇バイト」「高収入」「UD」(受け子・出し子の隠語)などと警察の監視をかいくぐる傾向がみられるということです。さらに、実行役をやめたくても、特殊詐欺グループに個人情報を握られ、「逃げたらどうなるか分かっているな」と脅される例もあるほか、愛知県警が「新型コロナウイルスの影響でアルバイトができず、手を出してしまう可能性がある。一度誘いに乗ると、抜け出せなくなる」とコメントしていることなどを見るにつけ、SNSでの返信対応などはあくまで対症療法に過ぎず、いたちごっこが続いている状況には歯がゆい思いがします。また、金融機関では以前からATMの引き出し限度額の引き下げ等に取り組んでいますが、例えば、愛知県の豊川信用金庫では、従来は一部の70歳以上を対象に50万円に設定していたところ、今回、直近1年間でキャッシュカードから20万円以上の引き出しがない65歳以上の口座を対象に、1日の引き出し限度額を20万円に引き下げる取組みを開始しています。高齢者は現金の依存度が高く(したがって、ATMの利用頻度も高く)利便性を大きく損ねることになりますが、特殊詐欺グループも、従来は70歳以上をメインターゲットにしていたところ、金融機関の取組みに対抗すべく60歳代へのアプローチを強化しつつあり、被害の大きさ等を勘案すれば、ある程度の利便性を犠牲にせざるを得ないものと考えます。また、静岡県警細江署が4コマ漫画をホームページに公開するという工夫を凝らして、被害の抑止に乗り出したという報道もありました(2020年9月3日付毎日新聞)。新型コロナウイルスの影響で市民を集めた注意喚起が難しくなる中、こうした工夫を通じて、留守番電話機能を活用して不用意に電話に出ないこと、家族と日ごろから連絡を取り合うことなどの対策を呼びかけているといいます。

さて、本コラムでは最近、特殊詐欺被害を防止したコンビニエンスストア(コンビニ)の事例や取組みを積極的に紹介しています。その中でも、埼玉県警が、特殊詐欺事件防止の水際対策としてコンビニでの警戒活動に力を注いでいると各社が報道していた取組み内容は興味深いものでした(2020年8月27日付産経新聞など)。犯行グループが、現金を振り込む場所としてコンビニのATMを指定する、被害者を信用させるための身分証偽造に店舗内のコピー機を使う、「受け子」が被害者宅周辺のコンビニのトイレでスーツに着替えるなどのほか、被害者が犯行グループに指示されて電子マネーを購入する、還付金詐欺でATMを操作して犯行グループに送金する、宅配サービスで犯行グループの指定先に現金を送るなど、犯行グループと被害者の双方が訪れるといった特性があり、事件の「舞台」「活動拠点」になりがちです(コンビニの「犯罪インフラ化」の恐れがあるともいえます)。報道によれば、埼玉県内では、今年1~6月、現金振り込みの前に被害を防ぐなどした特殊詐欺の「水際防止件数」は計493件に達し、6年ぶりに認知件数(476件)を上回ったこと、「水際防止件数」のうちコンビニで被害が食い止められたケースは120件を占め、前年同期を42.5%上回ったことなど、コンビニ対策の強化の成果が出始めているようです。具体的な内容として、埼玉県警では、今年3月以降、埼玉県内約3,000店のコンビニ全店舗への訪問を実施し、特殊詐欺への注意を促すボードを捜査員が配布して掲示を求める、詐欺が疑われる「予兆電話」が確認された場合、その地域のコンビニ巡回に重点的に捜査員を投入する手法といった取組みが行われているといいます。コンビニ自体の特殊詐欺被害防止に向けた自主的な取組みとあわせ、コンビニの「犯罪インフラ化」を阻止していただきたいと思います。

その他、最近の報道から特殊詐欺被害を防止した事例について、いくつか紹介します。

  • 利用客が特殊詐欺被害に遭うのを防いだ大阪市東住吉区のローソン照ケ丘矢田店の店長が、大阪府警東住吉署から感謝状を贈られています。来店した60代女性が、「有料メールの使用料が未払いになっている」とのメールを受け、プリペイドカードで支払うよう要求されたといい、店内の端末機でプリペイドカードを購入する方法を別の客にたずねた会話を聞いて、詐欺に遭っていると判断、警察に相談するよう何度も説得し、カードの購入を取りやめさせたというものです。なお、報道によれば、同署では7月下旬から、同区内のコンビニ48店舗の店長らに、不審電話の発生を速報するメールを配信、文面を簡素化することで、大阪府警の提供する防犯情報「安まちメール」より数十分早く配信することができ、コンビニの従業員が素早く警戒できるようにしているといいます。店長の「踏み込んだ行動」、警察の迅速な情報提供の仕組み作りなど、官民挙げた取組みが特殊詐欺被害の水際防止に直結していることをあらためて感じさせます。
  • 宮崎県警延岡署は、携帯電話へのメールを介した詐欺被害を防いだとして、延岡市のファミリーマート延岡卸本町店の店長に感謝状を贈っています。同店で電子マネーを買おうとした70歳代の女性に理由を尋ね、女性から見せられた携帯電話に「資産家から1億8,000万円の配布がある」とうたい、配布を受ける条件に電子マネーの購入を求める複数のメールが届いていたため、詐欺とみて購入をやめさせたというものです。店長は「今まで以上に声がけをしていきたい」とコメントしていますが、まさにこの「お節介」が被害防止につながることを強調しておきたいと思います。
  • 佐賀県警唐津署は、コンビニで来客に声をかけニセ電話詐欺被害を防いだとして、唐津市のセブン―イレブン東唐津駅前店の従業員3人に唐津地区防犯協会と連名で感謝状を贈っています。報道によれば、約30分前に5万円分の電子ギフト券を買った80代男性が再び来店した際、2人の店員が詐欺を疑い、2万円分の買い増しを思いとどまらせ、交番に相談に行くよう説得したものですが、実は、最初の来店時に接客したもう1人の店員が高額購入の不審点を2人に引き継いでいたのが、功を奏したとのことです。この事例では、最初の接客でリスクを察知したこともさることながら、リスク情報をきちんと引き継いだことが水際防止につながったことがポイントとなります。
  • 640万円の特殊詐欺被害を防いだとして、兵庫県警伊丹署は、池田泉州TT証券西宮北口支店の課長に感謝状を贈っています。「投資信託を解約したい」と申し出てきた80代の女性から「相談がある」と電話を受け、休日だったにもかかわらず女性宅を訪問して対応したといいます。その結果、女性の自宅に電話をかけてきた介護施設の関係者を名乗る男に「不正な名義貸しをした」と言いがかりをつけられ、「解決金が必要だ」と迫られてすでに320万円を宅配便で送付していたところ、さらに「公にされたくなければ640万円を」と求められ、投資信託の解約で準備しようとしたことが分かったものです。同課長は特殊詐欺と判断し、警察に通報するよう説得しています。報道によれば、「他人に相談しないよう詐欺グループに口止めされていたようだ。思い切って相談してもらえてよかった」とコメントしていますが、高齢者は家族にさえこのような相談をすることをためらう傾向があるところ、日頃からの信頼関係があったのか、相談を受けたこと自体が大きなポイントだったものと推測されます。
  • コンビニや金融機関以外の事例もありました。「不審な荷物の届け先が実は空き室じゃないか」と異変を感じたヤマト運輸セールスドライバーの機転が、特殊詐欺のさらなる被害を食い止めたというものです。川崎市麻生区のアパートが被害金の送り先に悪用されているのを見抜いたとして、神奈川県警は、同社川崎麻生新百合ケ丘支店に感謝状を贈っています。報道によれば、「手袋やマスクはしていますか?」という服装を確認するような質問に違和感があったこと、暗証番号も指定されたこと、気になって翌日見に行くと内装工事が行われていて「ここは空き家です」と言われたことから、同じ部屋に次の荷物が送られてきたため警察に通報したといいます。なお、「空き部屋が犯罪に悪用される可能性があることを社内研修などで知っていたという」とも報じられており、まさに組織的に適切な教育研修を行っていた事業者の取組みと個人のリスクセンスの発揮が水際防止につながった好事例といえると思います。

次に、最近の報道から、特殊詐欺の事例をいくつか紹介します。

  • 長野県警長野南署は、長野市の会社役員の50代男性が、「競馬の着順が事前に分かる」と持ち掛ける特殊詐欺で1,300万円をだまし取られたと発表しています。報道によれば、男性が会員登録していた競馬情報サイトから電話があり、競馬情報提供業者を名乗る男から「着順を事前に知り、お金をもうけることができるオーナーズレースがある。参加するのに金が必要だ」などと言われ複数回、金銭を要求されたもので、男性は8月上旬、9回にわたり計1,300万円を指定された法人名義の口座に送金、その後、男と連絡が取れなくなり被害に気付き、同署に相談したものです。いわゆるギャンブル詐欺の一種で、「競馬必勝法等名目」詐欺の類型となりますが、今年1月から7月までに発生したギャンブル詐欺は63件で、そのうち本類型は28件となっています。なお、ギャンブル詐欺の類型としては、その他に、「パチンコ必勝法等名目」(30件)、「宝くじ当選情報等名目」(3件)などがあります
  • 埼玉県警東入間署は、70代の女性から現金1,000万円をだまし取ったとして、詐欺の疑いで、バングラデシュ国籍の無職の容疑者(23)を逮捕しています。詐欺グループの一員で現金を受け取る「受け子」役だったとみられています。報道によれば、何者かと共謀し、女性方に次男を名乗って「会社の小切手が盗まれた。お金が必要だ」などと電話し、同県富士見市内の路上で現金をだまし取ったというものです。なお、「荷物は受け取ったが、現金とは知らなかった」と供述し、容疑を一部否認しているということです。
  • 高齢女性からだまし取ったキャッシュカードで現金を引き出したとして、警視庁武蔵野署は窃盗の疑いで、埼玉県越谷市の職業不詳の少女(19)を逮捕しています。少女は特殊詐欺グループの「出し子」役とみられていますが、調べに対し「身に覚えがありません」と容疑を否認しているということです。報道によれば、武蔵野市の80代女性宅に署員を名乗る男らから「あなたの口座から現金が引き出されている。これからカードを封印する処置をとる」などと電話があり、直後に署員を名乗る女が自宅を訪問、隙を見てカードを盗んだというものです。銀行から女性に引き出しについて問い合わせがあり、被害に気付いたようです。
  • 栃木県警宇都宮中央署は、宇都宮市の60代の会社員の女性が架空請求で現金850万円と143万円分の電子マネーをだまし取られたと発表しています。報道によれば、女性は、団体職員を名乗る男から電話で「あなたの携帯電話からウイルスに感染した被害者が複数いる。保険で対応するためにお金が必要だ」などと要求され、電子マネーを購入して認証番号を伝えたり、宅配便で東京都内の指定先に現金を送ったりしたということです。現役の会社員であれば、高額の電子マネーの購入や宅配便で現金を送付することの不自然さを感じてもよさそうですが、本事例からは、コンビニや金融機関、宅配便事業者以外の事業者においても、(被害者になることで業務に少なからず支障が生じることを考えれば)従業員に平時から注意喚起をしておく必要性を感じます
  • 家族の遺産を譲るとうそのメールを送り付け、手数料名目で電子マネーを詐取したとして、警視庁は、職業不詳の男3人を詐欺容疑で逮捕しています。なお、この3人については、昨年6~11月の間に全国の約670人から計約1億円分の電子マネーをだまし取った疑いがあるとみられているといいます。逮捕容疑となった手口は、資産家の女性を装い、鹿児島市の50代男性に「祖父の遺産約3億円を譲りたい。譲渡には手数料が必要です」といったうそのメールを送信、リペイド式の電子マネー15,000円分をだまし取ったというものになります。
  • 札幌市の80代男性が警察官を装う男から「不審者に職務質問をしたらあなたのカードを持っていた」、「キャッシュカードを廃棄しなければいけないので、これから警察官がうかがいます」、「私服の刑事なので、普通の格好で行きます」と電話を受け、自宅を訪れた男にキャッシュカード4枚をだまし取られ、口座から計約350万円が引き出されたと、北海道警豊平署が発表しています。別居している娘が話を聞いて、警察に相談したといいますが、犯行グループからの電話の際に相談していればと悔やまれるところです。
  • 本コラムでも取り上げてきましたが、警察官をかたる人物が事前に電話をかけて自宅を訪れ、キャッシュカードにはさみで切り込みを入れて見せ(使用不能となったものと安心させて)、カードをだまし取る事件が急増しています(なお、カードに切り込みを入れても、磁気テープやICチップなどが傷つかなければATMで使えます)。報道によれば、東京都内で今年1~8月に185件、約4億200万円の被害が確認されているといいます。同様の手口は2月に初めて確認され、5月22件、6月31件、7月59件と急増、8月は61件、1億1,700万円に上ったといい注意が必要です。最近までは、上記の札幌の事例のようなカードをすり替えて盗む「キャッシュカード詐欺盗」が増えていたところ、証拠物が残るリスクがあり、手っ取り早く信用させるために手口が移行しているものと考えられます。

国民生活センターから新型コロナウイルス給付金関連で消費者ホットラインに相談があった事例についてここ3カ月の状況のまとめが公表されていますので、以下紹介します。

▼国民生活センター 「新型コロナウイルス給付金関連消費者ホットライン」の受付状況(3カ月のまとめ)-特別定額給付金関連のみならず、持続化給付金に関する相談も-

「新型コロナウイルス給付金関連消費者ホットライン」では、5月1日~7月31日までの3カ月間で4,460件の相談の電話を窓口にて受け付けたといい、特別定額給付金等の申請方法など給付金関連の相談件数は4,068件で、そのうち特別定額給付金等の詐欺が疑われる相談件数は325件あったということです(割合にして7.3%と相当数の詐欺的アプローチが行われていたことを推測させます)。給付金等の詐欺が疑われる相談事例としては、以下が取り上げられています。

  • 特別定額給付金の振込完了のハガキが届いてすぐに不審な電話で個人情報を聞かれた
    • 特別定額給付金の振込完了ハガキが送られてきた。ポストからハガキを取り自宅に入ると、すぐに電話が鳴った。出ると「政府の出向機関の者です。特別定額給付金が届いているかどうかを調査しています。無作為に選ばれたあなたに電話しました。特別定額給付金は受け取られましたか」と聞かれた。受け取ったと答えると、「わかりました。報告が必要なので、調査しています。キャッシュカードと通帳を持ってすぐに下ろしてください。どこの銀行ですか。口座番号も教えてください」と言われた。不審だったので電話を切ったが、口座番号を聞き出す詐欺だと思う。(相談者:60歳代 女性)
  • その他、以下のような相談も寄せられています
    • 大手プラットフォーム業者から「追加で給付金を提供する」とのメールが届いた
    • 携帯電話にかかってきた電話で持続化給付金を受け取るアルバイト話を持ち掛けられた
    • 友人から「弁護士が代理で持続化給付金を申請してくれる」と言われた

消費者へのアドバイスとして、「暗証番号、口座番号、通帳、キャッシュカード、マイナンバーは「絶対に教えない!渡さない!」、「電話やメールで「特別定額給付金が届いているかどうかを調査」「追加で給付金を提供する」などと連絡があっても、個人情報、銀行等の通帳や口座番号、キャッシュカード、マイナンバーカードなどの情報や金銭は絶対に教えず、渡さないようにしましょう」、「正確な情報収集に努めましょう」、「新型コロナウイルス対策は、くらしに影響する新たな施策が講じられる可能性があります。被害に巻き込まれないためには、最新の情報を正確に把握するように努めましょう」、「持続化給付金の受給資格がない人は、受給できると持ち掛けられても絶対に応じない!」、「持続化給付金は事業者(個人事業者を含む)に対して支給されます。事業を行っておらず受給資格がないサラリーマンや学生、無職の人が、自身を事業者と偽って申請・受給することは犯罪行為(詐欺罪)にあたると考えられます。誘いに乗った消費者自身も罪に問われる可能性が高いため、絶対に誘いに応じないでください」との注意喚起がなされています。

(3)薬物を巡る動向

2020年8月19日付時事通信によれば、世界保健機関(WHO)の米州事務局である汎米保健機構(PAHO)のエティエンヌ事務局長が、南北米大陸やカリブ海地域で薬物・アルコール依存や家庭内暴力(DV)が、新型コロナウイルスによるストレス増大が原因で深刻化しており、「調査によると、多くの人が薬物やアルコールに頼っており、それがメンタルヘルス問題を深刻化させる悪循環を生んでいる」として警鐘を鳴らしています。また、パンデミック初期の段階で、女性らからのDV被害相談件数がアルゼンチンでは3割以上、コロンビアでは2倍に増加、「外出自粛と新型コロナによる社会・経済的影響が相まって、DVのリスクは高まっている。多くの人にとって、家はもはや安全な場所ではない」と指摘しています。日本でもビフォーコロナにおいてもすでに顕著となっていた若年層への大麻の蔓延が、コロナ禍によってさらに静かに深く浸透しているのではないかと感じており、コロナ禍が薬物依存症と密接に関わっている事実を厳しく認識する必要があります。なお、大麻を巡っては、以前から本コラムでも注目していた「大麻リキッド」の密輸摘発が相次いでおり、裏を返せば、流通量が増大していることが推測でき、注意が必要です。例えば、今年2月に、「大麻リキッド」を密輸したなどとして、門司税関福岡空港税関支署と九州厚生局麻薬取締部が、米国籍の元非常勤英語講師を大麻取締法違反(輸入)容疑で逮捕した事例(大麻リキッドは米カリフォルニア州では合法製品として流通しており、米国の知人を介して航空便で密輸されたものと考えられています)のほか、直近では、「大麻リキッド」が入ったボトル4本(計約2キロ)を隠した小包を米国から茨城県内2カ所に発送し、米国から密輸しようとしたとして、横浜税関は、関税法違反(禁制品輸入未遂)などの疑いで、自営業の男と会社員を横浜地検に告発しています。さらに同様に密輸しようとしており、最終的に押収した大麻リキッドは計約4キロと異例の多さだったといいます。「大麻リキッド」は、乾燥大麻より効きが強いとされ、厚生労働省によると、大麻の幻覚成分THC(テトラヒドロカンナビノール)を抽出した液状の大麻濃縮物で、電子たばこにカートリッジを取り付け、気化させて吸引することが多いといわれています。なお、乾燥大麻のTHCの濃度が高いもので10~15%程度であるところ、大麻リキッドは70~80%程度にも上るといいます。短時間で効率良く摂取できる分、作用が強く働き、強い吐き気や意識障害を引き起こす危険性があるほか、抽出の過程で有毒物質が混ざるなどして健康被害につながるケースもあるといいます。ちなみに厚生労働省のサイトでは、大麻の危険性について、「大麻を乱用すると、記憶や学習能力、知覚を変化させます。乱用を続けることにより、「無動機症候群」といって毎日ゴロゴロして何もやる気のない状態や、人格変容、大麻精神病等を引き起こし、社会生活に適応できなくなります。また、女性も男性も生殖器官に異常が起こります」と指摘されています。また、大麻の合法化の動きもあるところ、世界の状況として、「WHOは大麻を精神毒性、依存症がある有害なものとして評価しており、国際条約上も大麻はヘロインと同様の最も厳しい規制がかけられています。欧州の一部の国やカナダ、アメリカの一部の州では、医療用途(疼痛緩和等)での大麻の使用が認められていますが、アメリカの連邦法では、大麻を禁止薬物にしており、食品医薬品局(FDA)も医療用に用いる大麻を医薬品として認可していません。また、WHOは、大麻の医療用途の可能性については、科学的な根拠に基づいた報告を行っていません」と指摘されている点とあわせ、あらためて若年層を中心に正しい知識の周知徹底が必要な状況です。

▼厚生労働省 今、大麻が危ない!

以下、最近の若年層への蔓延を示す報道をいくつか紹介します。

  • 警視庁原宿署は、ともに自称日本大4年で横浜市の男性(22)と山梨県富士吉田市の男性(21)を大麻取締法違反(所持)容疑で書類送検しています。報道によれば、今年1月18日、東京都新宿区の路上に停車中の車の中で、乾燥大麻約5グラムを所持したというものですが、これとは別に今年1月、日大ラグビー部員だった20代男性に職務質問し、大麻を所持していたため逮捕された事件がありましたが(暴排トピックス2020年2月号参照ください。なお、事件を受けて、日本大学はラグビー部の活動を無期限停止すると発表しています)、今回書類送検された男性2人も直前まで一緒にいたことが分かり、捜査していたものです。
  • 三重県警鈴鹿署は、中学生2人に大麻を譲り渡したとして、大麻取締法違反(譲り渡し)の疑いで、同県亀山市の瓦職人の少年(17)を逮捕しています。報道によれば、少年は「売っていないし、渡してもいない」と容疑を否認しているといいます。逮捕容疑は、友人の男子中学生(14)ら2人に乾燥大麻を6千円で譲り渡したというもので、男子中学生は自動車を盗んだとして窃盗容疑で逮捕されており、この際、一緒にいたもう1人の男子中学生=当時(13)=とともに大麻を所持していたため、少年の容疑が浮上したようです。大麻の売買の双方ともに少年という事実にはやはり驚かされます。
  • 長崎県警は、福岡市東区の大学生の男(22)を大麻取締法違反(所持)の疑いで逮捕しています。報道によれば、男は7月31日頃、長崎市内の駐車場で、乾燥大麻約0・167グラムを所持していたといい、交番に届けられた男の財布に大麻が入っていたため発覚したということです。

その他、最近の報道から、薬物に関するものをいくつか紹介します。

  • 覚せい剤を使用したとして、埼玉県川口市立中学校の教諭の男が、覚せい剤取締法違反(使用)の疑いで逮捕、起訴されています。報道によれば、7月下旬から8月8日までの間、都内およびその周辺で覚せい剤を使用したといい、8日に新宿区歌舞伎町で署員の職務質問を受け、その後尿検査で覚せい剤の陽性反応が出たということです。「以前から使っていた」と話しているようですが、若年層に対する模範となるべき教員をはじめ、議員、警察官、公務員など社会的地位の高い者による薬物事犯も最近特に目につきます。社会的地位が高いにもかかわらず、倫理感が伴っておらず極めて残念であり、「ノブレスオブリージュ」(身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務がある)をあらためて認識したいところです
  • 自宅で大麻を所持し同僚に譲り渡したなどとして、大麻取締法違反(所持)と麻薬特例法違反の罪に問われた大阪府警堺署元巡査(22)の論告求刑公判が大阪地裁で開かれています。報道によれば、検察側は「警察の社会的信用を著しく低下させた。身勝手な動機に酌量の余地はない」として懲役1年6月、追徴金6万円などを求刑、弁護側は執行猶予付きの判決を求め結審しています。本コラムでも取り上げていますが、西堺署の巡査2人に大麻のようなもの計約12グラムを計6万円で譲り渡し、自宅で大麻約0・16グラムを所持したというものですが、大阪府警は今年6月、被告と西堺署の巡査2人のほか、別に大麻を使用していた南署の巡査の計4人を懲戒免職処分としているなど、薬物の蔓延が深刻な問題となっています。
  • 名古屋市は、名古屋地検に覚せい剤取締法違反(使用)の罪で起訴された同市千種区役所職員を懲戒免職処分にしたと発表しています。報道によれば、被告は2016年ごろからインターネットの掲示板を経由して覚せい剤を購入していたといい、病気で休職していた期間があり、市の調査に「早く復帰したいと思っている時に使用すると、気分が前向きになって使用を継続してしまった」と話しているということです(薬物の常習性、依存性がよくわかる供述です)。
  • 密売目的で麻薬を倉庫に保管していたとして、警視庁は、レンタルスペース店運営会社のオーナーと従業員ら店関係者の男4人の計5人を麻薬取締法違反(営利目的所持)の疑いで逮捕しています。報道によれば、容疑者らは新宿を中心に「マグナム」や「キングダム」の名称で、男性同性愛者向けに個室スペースを貸し出す6店を営業、店頭やネットで合成麻薬GHB(γ―ヒドロキシ酪酸)を媚薬と称して販売していたということです。警視庁は、少なくとも2018年3月以降に約6,750万円の売り上げを確認しているといい、経営実態やGHBの入手ルートについて解明を進めると報じられています。なお、GHBは即効性の中枢神経抑制薬ですが、「デートレイプドラッグ」の代表格とされ、無色、無臭のため被害者のアルコール飲料に入れられることが多いようです。1990年の米FDAによる禁止令以前には滋養薬として販売されていましたが、これとは別に強壮多幸化薬として乱用されている実態があります。さらに、GHB の過剰摂取は呼吸抑制や昏睡といった深刻な結果をもたらすともいわれています。
  • 埼玉県警薬物銃器対策課と草加署、東京税関は、麻薬取締法違反(営利目的輸入)の疑いで、自称会社員の男を逮捕しています。何者かと共謀の上、営利目的で、仏から合成麻薬MDMA4875錠(末端価格計約1,950万円相当)を隠した航空貨物1個を自宅宛てに発送した疑いがあるといい、東京税関が配送された貨物の中からMDMAを発見し(段ボールの中のフットマッサージ機に隠されていたといいます)、県警に通報、県警は、荷物の宛先に書かれていた内容などから男を特定し、逮捕したということです。
  • 高知県警高知署は、米国籍の派遣職員の男を、大麻取締法違反(所持)容疑で逮捕しています。高知市内の店舗で、大麻07グラムを樹脂製の袋に入れて所持した疑いがもたれているほか、自宅で若干量の大麻を所持した疑いがあるといいます。7月に訪れた店で大麻入りの袋を落とし、防犯カメラの映像で男のものと確認されたと報じられています。なお、男は県外の団体から派遣され、今年4月から7月中旬まで県内の複数の高校で外国語指導助手を務めていたようです。(差別的取扱いを助長するつもりはありませんが、国内外で薬物を巡る常識が異なっていることをふまえ)とりわけ外国人の採用においては、薬物に関してもアンテナを張っておく必要があることを痛感させられます。
  • 芸能界における薬物の蔓延も深刻ですが、最近の報道からは、覚せい剤や危険ドラッグを所持したとして、覚せい剤取締法違反と医薬品医療機器法違反に問われたシンガー・ソングライター槇原敬之被告について、懲役2年、執行猶予3年の有罪とした東京地裁判決が確定したこと、覚せい剤取締法違反(所持、使用)などの罪に問われた人気バンド「Do As Infinity」の元メンバーの初公判が宮崎地裁都城支部であり、被告が起訴内容を認めたといったものがありました(なお、報道によれば、元メンバーは4、5年前に海外旅行をした際に現地で大麻を使うようになり、2年前ごろからは覚せい剤も使用。今年4月に小林市で暮らすようになってからは、ほぼ毎日覚せい剤を使っていたといいます大麻が「ゲートウェイドラッグ」であること、とりわけ覚せい剤の常習性・依存性の高さがよくわかりますが、公判で検察側は、「違法薬物との結びつきは強固であり、再犯の可能性は否定できない」と厳しく指摘しています)。
  • 本コラムでもたびたび取り上げてきましたが、米国で社会問題になっている麻薬入り医療用鎮痛剤「オピオイド」中毒を巡る訴訟で、約12の州が和解に向けてジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)と医薬品卸大手3社(マッケソン、アメリソースバーゲン、カーディナル・ヘルス)に総額264億ドルの支払いを求めていると報じられています。世界の人口の4%を占めるに過ぎないアメリカで世界のオピオイド消費量のおよそ30%が消費されている事実、過去15年間で30万人のアメリカ人がオピオイドの過剰摂取で死亡していている事実、2016年に薬物の乱用が原因で最低でも6万7,000人が死亡し、オピオイド関連はこのうち4万2,000人と6割近くに上る事実(ヘロインの乱用者数が100万人、鎮痛薬として処方されたオピオイドの乱用者数が1,100万人超ともいわれています)、オピオイド依存症が蔓延したことで、全米で巨大な「リハビリ産業」が勃興、その市場規模は年間350億ドル(約3兆8,500億円)にも上るとされる事実など不可解な点も多く、(医師が処方していることをふまえれば)「防げる死」に徹底して取り組まないアメリカの闇を感じさせなくもありません。
(4)テロリスクを巡る動向

風刺画が売り物のフランスの週刊新聞「シャルリエブド」は、5年前にイスラム過激派による本社襲撃事件が起きるきっかけとなった預言者ムハンマドの風刺画(作者はこのテロで殺害されています)を1面に掲載、報道によれば、見出しには「すべてはこれ(風刺画)だけのためだった」と掲げ、問題のない掲載でなぜ襲撃を受けなければならなかったのかと抗議のメッセージが込められているといいます。この日から事件の裁判が始まったのを機に、「(テロに)屈することはない」と主張するも、当然のことながらイスラム教徒側の反発も招いており、「表現の自由」がどこまで許されるのか、悲惨なテロから5年経ってもなお解決の糸口さえ見つからない難しい問いをあらためて投げかけています。また、ニュージーランド(NZ)中部クライストチャーチで昨年3月に発生した同国銃犯罪史上最悪の犠牲者を出した銃乱射テロ事件について、当地の裁判所は、51人を殺害した罪などに問われた被告(29)に対し、「犯行は極めて悪質」として、仮釈放なしの終身刑を言い渡しています。報道によれば、死刑制度がないNZで仮釈放を認めない終身刑は初めてで、最高刑に相当するといいます。判決などによると、白人至上主義の極右思想に染まった被告はイスラム教徒を「侵略者」と見なし、テロを起こそうとクライストチャーチのモスク2カ所を相次いで襲撃したほか、現場からSNSを使い犯行の様子を世界に生配信しました。なお、その点については、暴排トピックス2019年4月号で以下のとおりコメントしています(一部抜粋)。

このテロの実行犯が銃撃の様子を、フェイスブック(FB)を通じて生中継しています(動画のリンクは実行犯によって「8Chan」と呼ばれる匿名で使えるネット掲示板に提示され、実行犯と直接の面識が無い人でも閲覧できる状態になっていたといいます)。テロ動画の拡散もまた人々の心を傷つけるテロの類型の一つであることが世界中に衝撃をもって伝わったものと思います。それに加えて、動画はその後ツイッターやユーチューブなどで拡散し、事件から数時間近くたっても閲覧可能となっていたことが問題視されています。SNS各社は近年、悪質コンテンツの排除に力を入れていますが、その限界が今回のテロでも露わとなったといえます。特に今回は、監視の目が追いつかない速さで拡散しており、報道によれば、FBは声明で、「事件発生後24時間で150万の動画を削除した。24時間態勢で作業する」と訴えてはいますが、それでも対応に限界があるのは明らかです。さらには、報道で総務省の担当者が、銃乱射事件のような動画は、「ネットにアップすること自体が法律違反ではなく、抑止は難しい」と話していますが、(その内容は正しいのかもしれませんが)倫理的に大変な違和感を覚えます。また、そもそも削除するか否かの判断はあくまでプロバイダなどに委ねられている点も、本事件の後では何か釈然としない思いが残ります。・・・関連して、平成31年3月16日付日本経済新聞で、専門家が、「現在の技術は悪質な生中継コンテンツを的確に捕捉し削除するようにはできていない」とコメントしており、「人が悪質かを判断し、AIはその再掲を防ぐ役割が主」であり限界は当然あると指摘していますが、だからこそ、プラットフォーマーにはより自分事として削除にあたる動機付けが必要ではないかと思われます。そもそも米国の法律ではSNSなどプラットフォーマーはコンテンツの内容に責任を負わないとされてきた経緯がありますが、あらためて「SNSの公益性」に関する議論を真剣に行う時期にきているのではないかと感じます。少なくともテロ動画等の拡散を放置することは、SNS等の事業者がテロを助長することに直結しているのであり、あわせて人々を傷つけるテロ行為そのものでもあって、SNSの「犯罪インフラ性」を放置することなく、その「公益性」を認めること、その意味では豪政府の示した方向性はひとつのテロリスク対策として評価できるものと思います(もはやテロリスクは対岸の火事ではない時期に差し掛かった日本においても、「違法でないから抑止できない」という思考停止レベルを打破する動きが速やかに出てくることを期待したいと思います)。

さて、イラクが第2の都市モスルを、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)から奪還したと宣言して3年が経過しました。本コラムではその後のISの動向を注視してきましたが、弱体化したはずのISは残党がなお暗躍し、新型コロナウイルスによる混乱に乗じてテロ攻撃を重ねている実態があります。8月から9月にかけても、ISが関与したと考えられる以下のようなテロが発生しています。

  • 米政府のシリア担当特別代表は、シリアのガスパイプライン爆発について、米国は依然として調査中だとしつつ、ISによる攻撃の特徴を有しているように見えると述べたと報じられています(2020年8月24日付ロイター)。「われわれは依然としてそれ(爆発)を調査している。しかし、ほぼ確実にISによる攻撃だった」と述べたほか、シリアム石油鉱物資源相も、同国内でガスパイプラインが爆発し、停電が起きたと発言、爆発は「テロ」行為によるものだとの認識を示しています。
  • フィリピン南部スルー諸島のホロ島で2回の爆発があり、少なくとも市民や兵士ら14人が死亡し、75人が負傷したと報じられています。報道によれば、同島は2019年に連続爆発事件が起き、23人が死亡しており、現地の軍司令官は、ISに忠誠を誓う地元のイスラム過激派「アブサヤフ」の幹部が2回の爆発に関与した可能性があるとみているといいます。
  • また、ISの犯行か定かではありませんが、イスラム過激派の関与が疑われるものとして、ドイツの首都ベルリンの高速道路で、30歳のイラク人の男が自分の車を他の車両に次々と衝突させ、逮捕される事件が起きています。計6人が重軽傷を負ったといい、地元メディアは男が現場で「アラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫んだと報じています。また、西アフリカ・マリで、軍の一部がクーデターを起こし、ケイタ大統領や閣僚、政府高官らの身柄を相次いで拘束しました。マリではイスラム過激派の活動が活発で、今後さらに政情が不安定になる恐れがあると懸念されています。

そもそも、2015年の最盛期にシリアとイラクで推計30,000人超の兵力を擁したISは、その多くがいま、他国へ移ったり、地下に潜伏したりして掃討を逃れている実態があり、戦闘的なジハード(聖戦)を通じて究極的には「世界をイスラム化する」とのイデオロギーはいまだ健在で、「リアルIS」から「思想的IS」へとその形態を変容させている状態であり、今後、情勢の流動化などに乗じてリアルな勢力を盛り返そうとする可能性(つまり、「思想的IS」から「リアルIS」への反攻)が極めて高いと考えられます。それを可能にしているのは、政府の機能不全や内戦、宗派・部族対立による混乱といった「人心・国土の荒廃」であり、今の「コロナ禍」だといえます。ISは各地のローンウルフやホームグロウン・テロリスト、世界中の信奉者やIS元戦闘員、外国人戦闘員などに思想的に呼び掛けています(思想に共鳴したテロが各地で続けば、人々の間に疑心暗鬼が芽生え、それがさらなるテロを生むという悪循環となり、そこにISが実効支配を強めていくという構図の再来が考えられます)。今できることは、テロ発生のメカニズムのネガティブ・スパイラルを絶つこと、コロナ禍に冷静に対処すること、「力の空白」をどう埋めていくかを真剣に検討することであり、これからが正に正念場となるといえます。

さて、日本におけるテロ対策という点では、国土交通省が空港の保安検査の強化を目的とする航空法の改正に着手していることが注目されます。

▼国土交通省 第3回 保安検査に関する有識者会議 資料1 論点整理

資料によれば、まず、航空保安に関する基本的な考え方及び制度的検討の必要性として、(1)国際的なテロ等の脅威は厳しさを増しており、航空機の安全な運航を支える航空保安の取組が一層重要、(2)その取組は、クリーンエリアを含む制限区域や一般区域等における、航空会社、空港管理者、検査会社等の様々な関係者の活動により成り立っており、関係者間での有機的な連携を構築することが必要、(3)その中でも、特に航空機と空港の間に存在するクリーンエリアは、多くの関係者が関わる区域であり、また、多数の旅客が混在するという性質を持つことから、その健全性確保の手段である保安検査が非常に重要、(4)一方で、保安検査については、昨今、持込制限品の未検出事案が相次いで発生するなど、トラブルが多発。その背景には、保安検査に対する旅客の認識不足、旅客からの厳しいクレームへの対応などの検査員の劣悪な労働環境、低賃金・長時間拘束を理由とした高い離職率などによる人手不足、責任主体や契約手続きに関する複雑な業界構造等の多くの課題が存在すると指摘しています。そのため、「航空機内への危険物等の持ち込み防止の前段階として、クリーンエリア入口での保安検査が円滑・迅速・確実に実施できるよう、保安検査の法律上の根拠を明確にし、実効性を担保すべき」として、「保安検査を有効に機能させるため、航空機搭乗旅客に対する保安検査の義務付け及びペナルティを法令上明記することが必要ではないか」、「航空機搭乗旅客に加え、空港従業員(乗務員、構内営業者等)も対象とすべきか否か」、「無検査でのクリーンエリアへの侵入、危険物のクリーンエリアへの持ち込み等の行為に対して、適切なペナルティのあり方について検討すべきではないか」、「クリーンエリアでの保安対策の検討にあたって、クリーンエリア以外の制限区域や一般区域における保安対策(例えば、ビジネスジェット旅客、受託手荷物、貨物等)との関係についても、国際ルールや海外事例等を踏まえつつ整理する必要があるのではないか」といった議論が行われています。また、「保安検査について、様々な主体間の役割分担を明確化した上で、連携を強化すべき」、「一部空港で導入された事務委任により空港運営サイドの関与を強めたことについては、一定の効果があり、取組を推進すべき」として、「国際ルールにおいて国が定めることとされている「国家民間航空保安プログラム(NCASP)」では、一定の関係者間の役割分担が定められているが、関係者間での有機的な連携を図る観点から、国の関与や役割も含め、制度的に役割分担を明確化する方策について、検討を進める必要があるのでないか」といった議論、「保安検査の量的・質的向上が必要であり、そのためには、海外事例もより深く精査の上、先進機器の導入や検査員の質の担保に係る具体的な方策の検討を踏まえ、必要な財源のあり方やその他の制度面での手当てについて検討すべき」として、「保安検査のより一層の高度化や円滑化の観点から、先進機器のさらなる導入について、内容、規模等の詳細な検討を進めることが必要ではないか」、「検査会社等に対する国の監督のあり方や、保安検査員の教育その他質の担保のあり方について見直すべき点がないかどうか、詳細な検討を進める必要があるのではないか」、「先進機器の導入、検査員の質の担保等の量的・質的向上策のための具体的方策を踏まえた上で、財源となる保安料の水準・徴収方法・充当のあり方について、引き続き検討を進める必要があるのではないか」といった議論が行われています。

<5)犯罪インフラを巡る動向

本コラムでたびたび指摘しているとおり、行政によるモニタリング・審査の脆弱性が「犯罪インフラ」化しているケースは、新型コロナウイルスへの対応として実施されている各種給付金等においても残念ながら見られます。直近では、新型コロナウイルスの影響で売り上げが減少した個人事業者らを支援する国の「持続化給付金」を不正受給したとして、愛知県警は、会社役員ら3人を詐欺容疑で逮捕しています。3人は5月以降、SNSを使って、無職の若者や学生らを募り、虚偽申請を指南したり、手続きを代行したりしたとされ、報道によれば、これまでに400人以上が虚偽申請に関わり、不正受給額は4億円に上る可能性もあるといいます。さらに、同じく「持続化給付金」を巡っては、偽造した確定申告書などを使って専用HPから持続化給付金を申請し、書類上は個人事業主となっている知人男性の口座に100万円を入金させたとして、詐欺容疑で自営業の男が逮捕されています(なおこの知人男性は、実際は無職で、自分の名前で持続化給付金を申請されていることも知らなかったといいます)。また、新型コロナウイルス対策で国民に一律10万円を配る特別定額給付金のオンライン申請で、別人になりすました不正受給が摘発されています。報道によれば、男は日本郵便の転居手続きサイトを悪用し、能登町に住む同姓同名の男性の給付金申請書を入手、男性になりすましてオンライン申請し、振込先を自分の口座に指定して給付金を受け取ったというものです。男は、不正に転送させた給付金申請書を見て同姓同名の男性の生年月日などを入力したようです。なお、マイナンバーカードは自分のものを使用、能登町はカードの識別番号による本人確認をしていなかったとみられ、なりすましを見破れなかったという脆弱性が突かれた形です。なお、関連して、日本郵便の転居手続きサイトの悪用については、ストーカーの男が、被害女性が知らない間に日本郵便への手続きを済ませ、女性あての郵便物を受け取っていた事件もありました。インターネットでの本人確認の隙を突いた犯行で、同社はサービスの見直しの検討を始めているといいます。報道によれば、手続きではメールアドレスや携帯電話番号が届け出た人のものかを確認する過程はあるものの、届け出が本人からかどうかを確かめる場面はないといいます。このため、日本郵便は職員が新旧住所のいずれかを訪れて転居の事実を確認しているものの、今回の事件でも職員が女性の旧住所を訪れたが、女性はストーカー行為から避難するため不在だったため、なりすましを見破れなかったということです。

その他、最近の報道から、犯罪インフラに関するものをいくつか紹介します。

  • 法人税約8,900万円を脱税したとして、東京国税局が東京都内の不動産会社4社と、各社を経営する会社役員を法人税法違反の疑いで東京地検に告発しています。報道によれば、4社は主に生活保護受給者を対象に居室を貸し、保護費の一部を家賃として受け取っていたといいます。報道(2020年8月25日付毎日新聞)によれば、この役員は「取材に「修正申告と全額納付を済ませた。違法性の認識が甘く、今後は真摯に対応する」と話した。同氏によると、外国人向けのゲストハウスとして事業を開始。2011年の東日本大震災後から生活保護受給者の入居者が増え、現在は満室状態だという。「生き延びるには住まいを確保することが大事で、行政が手の届かないところを補ってきたつもりだ」としている」と報じられています。「動機」「機会」「正当化」の3つが揃ったときに不正は格段に発生しやすくなるとする「不正のトライアングル」(クレッシーの法則)を用いれば、「動機」はお金目的であるとして、「機会」としては現金を回収してピンハネすることで発覚しにくい状況があったこと、「正当化」としては「行政の不足を補った(正しいことをした?)」といった認識があったこととなります。
  • 名古屋市の外国人人材派遣会社が入国審査で虚偽の書類を提出したとして、出入国在留管理庁が改正入管法に基づき、特定技能の資格で来日した外国人を支援する「登録支援機関」としての登録許可を取り消しました。登録支援機関の取り消し処分は初めてとなります。虚偽書類の作成問題は朝日新聞が今年5月に報じていたもので、「入管庁関係者によると、GW社は昨年5月に登録支援機関として許可を受けた。しかし、技術者や通訳として働く外国人向けの在留資格「技術・人文知識・国際業務」の本人署名欄に、同社が無断でサインした虚偽書類を複数回にわたり同庁に提出していたことが後にわかったという。在留資格を取得しやすくする目的だったとみられる」(2020年8月19日付朝日新聞)ということであり、本件も行政のチェックの甘さからこれまでスルーされてきた実態が明るみになったことになります。
  • 日本で働く外国人労働者数は2019年10月末時点で約166万人と年々増えている一方で、日本に在住する外国人の身分証明書となる「在留カード」を偽造して働く不法就労外国人も多いことが問題となっています。報道によれば、2019年の「在留カード」の偽造などによる検挙数は748件と2年で約2倍に増加、他人の「在留カード」を購入して内容を書き換えるなどのケースもあるということです。このような実態をふまえ、人材サービスのウィルグループは、「在留カード」の偽造を企業側が簡単に判別できる無料アプリの提供を10月に始めると発表しています。高度な技術による偽造でもスマホにカードをかざすだけで瞬時に見破れるといい、外国人を活用する企業が不法就労者を雇用するリスクを軽減することができるとしています。
  • 本コラムでもたびたび取り上げている、「給料を支給日前に受け取れる」などとうたって金を貸し付ける「給料ファクタリング」を巡り、債務者の男性4人から年利約625~1660%の利息を受け取ったとして、大阪府警生活経済課が、コンサルタント会社「SONマネジメント」の社員ら男3人を出資法違反(高金利)の疑いで再逮捕しています。なお、府警は3人をこれに先だち、貸金業法違反容疑で逮捕しています。
  • 知人の会社名義を使って携帯電話40台を契約し不正に取得したとして、警視庁捜査2課は詐欺の疑いで、携帯電話販売会社代表を逮捕しています(本件では、知人に謝礼として数十万円を支払い、詐取した40台をさらに転売して、百数十万円の利益を得たとみられています)。報道によれば、同容疑者が他にも数社と共謀して100台以上を詐取したとみられているといいます。携帯電話の一部はその後転売され、特殊詐欺事件に使用されていた可能性があるということです。なお、携帯電話の不正取得が暴力団の資金源となった事例として、2017年に「実体のない投資会社名義で都内の携帯電話販売店2店とスマホの法人契約を結び、会社の業務で使うように見せかけて480台(計約4,200万円相当)を詐取」した事例がありましたが、結局、容疑者らは約1万000台を詐取、転売して9億円以上を売り上げ、利益の一部が暴力団に流れていたとされます。
  • SMS(ショート・メッセージ・サービス)を利用した本人確認「SMS認証」が不正に代行された事件で、埼玉県警は、不正代行した男(事件当時19歳)がスマホの通信に必要なSIMカードを偽名で入手したとして私電磁的記録不正作出・同供用などの疑いで再逮捕しています。SIMカードは契約枚数に上限があるため、容疑者が偽名でSIMカードを大量に入手し、不正な認証代行を繰り返していたとみられています(なお、本件では、SMSを利用できるが音声通話機能がないタイプのSIMカードで、本人確認は求められていませんでした)。また、容疑者の不正代行で入手されたIP電話アプリが、最終的に特殊詐欺に悪用されていたことも判明しています。IP電話を使った「SMS認証」の「犯罪インフラ化」については、前回の本コラム(暴排トピックス2020年8月号)でも取り上げ、「通話アプリは法律による本人確認の義務がない「IP電話」で、SMS認証が不正に行われると利用者の特定が難しくなり、認証代行が特殊詐欺の温床になっている(犯罪インフラ化している)実態が浮き彫りになっています。本コラムでも紹介してきたとおり、特殊詐欺事件ではこれまでレンタル携帯電話やプリペイド式の携帯電話などが悪用されてきましたが、2006年に全面施行された携帯電話不正利用防止法によって本人確認が厳格化され、最近はIP電話が使われるケースが目立っています。報道の中で、埼玉県警の調べでは、2019年に県警が把握した特殊詐欺で使われた電話番号のうち、約6割がIP電話だったといます。IP電話については法律による本人確認の義務はなく、通信会社の自主的な取り組みでSMS認証などが行われており、特殊詐欺グループが身元を隠して電話番号を入手するために認証代行を利用していた可能性が考えられ(さらには、偽名アカウントは、電子決済を使ったマネー・ローンダリング、オークションの不正出品などで身元を隠すために悪用される可能性もあり)、SMS認証による本人確認の限界をふまえた新たな認証の仕組みやルールの策定などの対応が急務」と指摘しています。
  • 国際刑事警察機構(ICPO)は、プラスチックごみを資源として長年受け入れてきた中国による2018年の輸入禁止後、犯罪組織が西側諸国の廃プラをアジアの違法なリサイクル施設に密輸し、不正な利益を得ていると指摘しました。廃プラの合法的な輸出ルートが減少したことで、「違法なビジネス機会に道が開かれた」と説明、結果として違法な取引とごみ処理が急増したといいます。報道によれば、ごみの発生国をごまかすために複数の国を経由して輸送されている(いわば「ごみ・ローンダリング」でしょうか)といいます。報道(2020年8月28日付ロイター)によれば、欧州とアジアでは違法なごみ焼却と埋め立ても増えており、犯罪組織が規制逃れのため偽造文書を使っているとも指摘しています。
  • 長年使われない口座は詐欺やマネー・ローンダリングを招く恐れがあるところ、報道(2020年8月21日付日本経済新聞)によれば、北海道内のある信金では数年前、口座が別人に売られて詐欺に悪用された事例があり、預金者である地元の個人事業主が1年以上使っていない口座だったが、ある日突然、道外の個人からの振り込みや道外金融機関への送金が発生、行員が不審に思い調べたところ発覚したということです。本コラムでもたびたび指摘しているとおり、口座の売買については、留学生が帰国後に他人に口座を売り渡し犯罪に使われたという事例も多くなっています。このような事態に対応するため、金融機関では不稼働口座に手数料を課す動きが本格化しています。
  • 闇サイト(ダークウェブ)とサイバー攻撃の関係がより密接なものであることが明らかになってきています。例えば、闇サイトでサイバー攻撃用のツールを売買する闇市場が拡大しているといいます(2020年9月5日付日本経済新聞)。身代金目的で端末内のデータを暗号化するランサムウエア、標的となる組織に不正アクセスできる権利などが売り出されており、技術がなくても「武器」の調達が可能になり、攻撃者の裾野拡大が懸念されています。そもそも闇サイトでは、流出したクレジットカード情報やSNSアカウントが流通しており、近年、取引の対象は一段と多様化しているようです。別の報道では、「銀行、保険会社と売られる情報は様々だ。IDとパスワードの組み合わせなどを買えば、重要情報のある社内システムにすら容易に侵入できる」と専門家が指摘しています。例えば、日本の医療系大学のネットワークに侵入するアクセス権、日本の大手銀行内部への「アクセス方法や、日本の造船会社にログインするためのIDとパスワード、外国為替証拠金(FX)取引の口座番号とパスポート画像のセットなども売られていることが確認されています。報道で、「海外ではおとり捜査で闇市場サイトを閉鎖に追い込んだ事例もあるが「日本では捜査権限が限られる」とセキュリティ会社スプラウトの高野聖玄社長は指摘する。「サイバー攻撃や闇市場に国境はない。国際的な捜査連携や捜査手法の見直しによって抑止力を高めていくことが必要だ」と話している」点は正に正鵠を射るものといえます。なお、サイバー攻撃についていえば、イランの軍の拠点やインフラ施設で原因不明の火災や爆発が立て続けに起き、核関連施設でも火災が発生した(核兵器に使える濃縮ウランを作る遠心分離機の製造施設で起き、イランの核開発の進展に重大な影響が出たといいます)ことについて、敵対するイスラエルによるサイバー攻撃との見方があるようです。報道(2020年8月28日付日本経済新聞)によれば、4月にイスラエルの水道の制御システムがサイバー攻撃を受けたことを発端に、5月にはイランで港湾施設のシステムが麻痺しており、このようにサイバー空間で両国の応酬がエスカレートした可能性(まさに軍事攻撃と同等の「サイバー戦争」の様相を呈しているといえます)が指摘されています。
(6)誹謗中傷対策を巡る動向

本コラムで関心を持ってその動向を注視している「ネットにおける誹謗中傷対策」については、国も迅速に対応しており、直近では、総務省は、インターネット上で匿名の誹謗中傷を受けた被害者が投稿者を特定しやすくするための制度見直しに向けた有識者会議を開催、被害者の救済や不適切な投稿の抑止を図ることを目的として、投稿者の電話番号を情報開示対象に追加することなどを盛り込んだ中間報告を正式決定しています。そのうち、現在の制度では中傷の書き込みなどをした投稿者の氏名や住所が開示対象となっていますが、SNS事業者にはそうした情報がないことも多い一方で、電話番号なら保有しているケースも多いことから、開示対象に加えることで投稿者を迅速に特定できるように省令が改正され、即日施行されました。これにより、被害者は、SNS運営側から得た電話番号を基に、弁護士を通じて携帯電話会社に直接、損害賠償訴訟に必要な投稿者の氏名と住所を照会できるようになりました。今後は、被害者が開示を求めて訴訟を起こさなくても、被害者の申し立てを受けて、裁判所が投稿者情報開示の是非を判断できるよう詳細を詰める流れとなります。また、事業者に自主的な取り組みや報告を求め、効果が見られなければ法的な対応の導入を検討すること、利用者のモラル向上に向けた取り組みや、総務省が運営する「違法・有害情報相談センター」での相談体制の強化なども明記されています。

▼総務省 「発信者情報開示の在り方に関する研究会 中間とりまとめ」及び意見募集の結果の公表
▼中間とりまとめ

まず、検討の背景等として、「インターネット上では、依然として、違法な情報や有害な情報の流通も認められ、昨今では、著作権を侵害する悪質な海賊版サイトの台頭や、SNS上での誹謗中傷等の深刻化など、様々な権利侵害に関する被害が発生している」、「この点、インターネット上の匿名の発信者による投稿に関して被害を受けた者は、被害回復のため、プロバイダ責任制限法における発信者情報開示請求により発信者を特定し、損害賠償請求等を行うことが考えられるが、後述のとおり、現在の発信者情報開示制度に関して様々な課題が指摘されており、円滑な被害者救済が図られないという声がある。一方で、例えば、企業等がSNSなどで行われた自社に批判的な投稿に対して発信者情報開示請求を行うなど、いわば発信者情報開示制度の悪用とも考えられるケースがみられるようになっているとの声もある」ことなどを指摘しています。

さらに、電話番号の開示については、「近年、投稿時のIPアドレス等を記録・保存していないコンテンツプロバイダの出現により、投稿時のIPアドレスから通信経路を辿ることにより発信者を特定することができない場合があるほか、アクセスプロバイダにおいて特定のIPアドレスを割り当てた契約者(発信者)を特定するために接続先IPアドレス等の付加的な情報を必要とする場合があるなど、現行の省令に定められている発信者情報開示の対象のみでは、発信者を特定することが技術的に困難な場面が増加している。

また、発信者情報開示の場面においては、被害者が投稿後、一定の時間が経ってから権利侵害投稿に気づく場合や、コンテンツプロバイダにおける開示手続に一定の時間がかかるケースでは、アクセスプロバイダが保有するIPアドレスなどのログが請求前に消去されてしまう場合がある等のため、発信者の特定に至らない可能性がある」こと、「発信者情報開示請求に係る制度の趣旨は、匿名の陰に隠れた誹謗中傷や著作権侵害等の他人の権利を侵害する情報発信を行うことは許されず、権利侵害を受けた者の裁判を受ける権利の保障という重要な目的を達成するために、発信者の表現の自由、プライバシー及び通信の秘密を制約する上で、当該制約を必要最小限度のものにとどめる必要性があるという前提を踏まえ、権利侵害を受けたとする者(「被害者」)の救済がいかに円滑に図られるようにするか、という点(被害者救済という法益)と、適法な情報発信を行っている者のプライバシー・通信の秘密をいかに確保するか、という点(表現の自由の確保という法益)の両者の法益を適切に確保することにあると考えられる」とその基本的な考え方が示されています。そして、開示対象の拡大の検討として、「サービスの多様化や環境の変化等といった制定時からの事情変化があれば、それを踏まえて、現在省令に含まれていない情報についても、開示対象の追加を検討することが適当と考えられる。この点、新たに追加しようとする開示対象については、(1)「発信者を特定するために合理的に有用と認められる情報」であるか(=有用性)また、「発信者を特定するために合理的に有用と認められる情報」のうち、(2)開示対象とすることが必要と考えられる情報か(=必要性)、(3)開示対象とすることが相当と考えられる情報か(=相当性)が判断基準になると考えられ、これらの判断基準ごとに、開示対象の追加の是非について検討する必要がある。また、併せて、新たに追加する開示対象となる情報が、(4)法律が省令に委任している範囲内のものであるものといえるか否かについても検討する必要がある」としたうえで、「近年、SNS 等のサービスを提供する主要なコンテンツプロバイダの中には、アカウント作成時において連絡先の登録を行うことや、不正ログイン等を防止するセキュリティ対策を目的とした電話番号の登録が一般化しつつあり、これらのコンテンツプロバイダがユーザの登録者情報等として電話番号を保有しているケースが増加している」こと、「SNS等のサービスを提供する主要なコンテンツプロバイダの中には、1つのドメイン名に複数のIPアドレスを割り当ててトラフィック量の増減に応じて用いる複数のサーバを自動的に変更するなどの負荷分散手法を活用している場合や、投稿時のIPアドレスやタイムスタンプの情報を保有していない場合がある等により、IPアドレスを起点として通信経路を辿って発信者を特定していくことが困難な事例が増加している。IPアドレスを起点として通信経路を辿って発信者を特定することができない場合には、発信者を特定して損害賠償請求権の行使等を行うことが不可能となり、被害者救済が図られなくなる懸念がある」こと、「携帯電話番号のみならず、固定電話番号についても、プロバイダ等が保有しており、発信者の特定に資すると考えらえるのであれば、対象に含めるのが適当である」として、電話番号を対象に含める「有用性」「必要性」「相当性」「省令委任の範囲」を満たすものと結論付けています。

また、ログイン時情報については、「SNS等の主要なログイン型サービスの中には、投稿時のIPアドレスやタイムスタンプ(以下「投稿時情報」という。)を保有せずに、ログイン時情報しか保有していないものがある。このような場合、これらのログイン型サービスにおける投稿によって権利侵害を受けたとする者は、発信者を特定するために、コンテンツプロバイダからログイン時情報の開示を受けて、当該ログイン時情報からログインのための通信経路を辿って発信者を特定することができれば、被害者の救済に資すると考えられる。逆に、当該コンテンツプロバイダからログイン時情報の提供を受けることができなければ、発信者の氏名及び住所を特定することが困難になり、被害者救済が図られないおそれがある」と「有用性」「必要性」が認められるものの、「ログイン時の通信は、権利侵害の投稿時の通信とは異なる通信であることから、仮にそれぞれの通信の発信者が異なるにもかかわらず、ログイン時情報として、権利侵害投稿の発信者以外の者の情報が開示されてしまった場合には、当該発信者以外の者の通信の秘密やプライバシー等を侵害することとなる」こと、「開示を可能とする情報が際限なく拡大すれば、権利侵害投稿とは関係の薄い他の通信の秘密やプライバシーを侵害するおそれが高まることから、開示が認められる条件や対象の範囲について、一定の限定を付すことが考えられる」などと指摘、「相当性」の点で具体化に向けた整理が必要としています。

それ以外にも、「近年、アクセスプロバイダの中には、IPアドレス(IPv4アドレス)の枯渇等の理由により、同一のIPアドレスを同時に多数の契約者に割り当てており、アクセスプロバイダが発信者を1名に特定するためには、接続元IPアドレス及びタイムスタンプのみならず、接続先IPアドレスが必要になる場合が生じている。その際、省令第4号に定める「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」に、接続元IPアドレスのみならず接続先IPアドレスが該当するかが問題となる。この点、接続先IPアドレスは、接続先か接続元かの違いはあるものの、「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」であることには変わりないことから、現行省令に定める「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」に含まれると解して差し支えないものと考えられる」と述べています。

次に、新たな裁判手続の創設については、「発信者情報の開示について特に利害を有しているのは発信者本人であることから、新たな裁判手続を設けるに際しても、発信者の権利利益の確保に十分配慮した制度設計とすることが適当である。この点、発信者情報を保有しているのはプロバイダであることから、新たな裁判手続のプロセスにおいても直接の当事者となるのはあくまでプロバイダであることに変わりはないが、プロバイダは、契約上又は条理上発信者の権利利益を守る責務を有していると考えられることから、新たな裁判手続の中においても、発信者の権利利益がその意に反して損なわれることのないよう、原則として発信者の意見を照会しなければならないこととし、発信者の意見が開示判断のプロセスに適切に反映されるようにするなど、発信者の権利利益の確保を図ることとするのが適当であると考えられる」としながらも、「新たな裁判手続を導入した場合には、前述1.の発信者情報の開示対象の拡大と相俟って、発信者情報開示の請求を行いやすくなることが期待される反面、当該手続の悪用・濫用(いわゆるスラップ裁判(訴訟))も増える可能性があることから、それを防止するための仕組みを検討する必要があるとの指摘があった。具体的には、現行のプロバイダ責任制限法第4条第3項において、発信者のプライバシーが侵害される事態が生じることを防止するため、発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない旨を定めているところ、当該規定をより実効性のあるものとする必要があるとの指摘や、新たな裁判手続において、既判力が発生しない場合における紛争の蒸し返しを防ぐための仕組みや、申立ての取下げの要件についても検討することが必要であるという指摘があった」などとして、丁寧に検討を深めていくべきとしています。

ログの保存に関する取扱いについては、「発信者情報開示の場面においては、被害者が投稿後、一定の時間が経ってから権利侵害投稿に気づく場合や、コンテンツプロバイダにおける開示手続に一定の時間がかかるケースでは、アクセスプロバイダが保有するIPアドレスなどのログが請求前に消去されてしまう場合がある等のため、発信者の特定に至らない可能性があるという課題が指摘されている。上記の課題の解決策としては、プロバイダが保有しているすべてのユーザのログについて、一律に保存期間を延長すべき(保存の義務付け)等の意見があるが、ログについては、通信の構成要素であることから、通信の秘密として保護される対象であり、従来、ログ保存の義務づけにはかなり慎重な検討がなされてきたことに加え、むしろ、プライバシー等の観点から、IPアドレス・タイムスタンプなどのログについては、業務上の必要がなくなった場合には消去しなければならないこととしている既存の法制度の考え方との整合性、プロバイダの負担、海外事業者への義務づけの実効性等の観点から、一律のログ保存の義務付けは困難であるとの指摘が多くの構成員からあった。これらの指摘も踏まえると、この課題に対応するに当たっては、一律のログ保存義務ではなく、権利侵害か否かが争われている個々の事案に関連する特定のログを迅速に保全できるようにする仕組みについて検討することが適当である」とされました。

また、裁判外(任意)開示の促進という点では、「権利侵害が明らかである場合には、プロバイダが迷うことなく開示の判断を行いやすくする観点から、例えば、要件該当性の判断に資するために、プロバイダにアドバイスを行う民間相談機関の充実や、裁判手続において要件に該当すると判断された事例等をガイドラインにおいて集積するなどの取組が有効であると考えられる。また、プロバイダが、故意ではなく過失により、裁判外で(任意に)開示した場合には、通信の秘密の侵害に係る刑事上の処罰対象とはならないという一般的な解釈について、ガイドライン等に明記することも、プロバイダが迷うことなく開示の判断を行いやすくすることに資すると考えられる。このほか、開示要件(「権利侵害の明白性」)については、前述のとおり、現在の要件を維持すべきとの指摘が多くの構成員からあったことも踏まえ、現在の要件を緩やかにすることについては極めて慎重に検討する必要があるものの、プロバイダが開示の判断を行いやすくする観点から、開示要件の解釈について整理し、逐条解説等の記述の見直しを図ることが有効との意見がある」、「一方、権利侵害が明らかでなく、要件該当性の判断がプロバイダにとって困難な場合には、裁判所における判断に進み、新たな裁判手続を通じて権利侵害の明白性の存否が明らかにされるように制度設計を図ることとするのが適当である」、「なお、この点に関して、例えば、プロバイダにとって要件該当性の判断が困難なケースにおいても裁判外での開示を促進する観点から、本来は開示すべきではない適法な情報発信であるにもかかわらず、判断を誤って裁判外で開示した場合の免責規定を設けるという方策も考えられる」、「しかしながら、発信者情報は、その性質上、いったん開示されてしまうと原状回復が難しいこと、また、本来開示すべきではない適法な情報発信であるにもかかわらず、発信者情報が開示されるケースが増加すれば、適法な情報発信が行いづらくなるなど、表現活動に対する萎縮効果を生じかねないこと、さらに、発信者情報開示制度の悪用や濫用、濫訴等のリスクが高まる可能性や、不真面目なプロバイダによる不適切な対応を是認する形になる可能性などの懸念が払しょくできないことから、判断を誤って裁判外で開示した場合の免責規定の導入は不適当であると考えられる」としています。

さらに、「中間とりまとめ(案)」に関するパブコメの結果もあわせて公表されており、総務省の回答コメントに、その考え方が具体的に反映されていることから、いくつか紹介したいと思います。

▼別紙1
  • 「匿名の陰に隠れた誹謗中傷や著作権侵害等の他人の権利を侵害する情報発信を行うことは許されず」と記載させていただきます
  • 権利侵害の明白性要件については、「より緩やかなものにすべきとの考え方がある一方で、適法な匿名表現を行った者の発信者情報が開示されるおそれが高まれば、表現行為に対する萎縮効果を生じさせかねないことから、現在の要件を維持すべきとの指摘が多くの構成員からあったことも踏まえ、現在の要件を緩和することについては極めて慎重に検討する必要がある」と考えております
  • 「被害者の権利行使の観点からは、なるべく開示される情報の幅は広くすることが望ましいことになるが、一方において、発信者情報は個人のプライバシーに深くかかわる情報であって、通信の秘密として保護される事項であることに鑑みると、被害者の権利行使にとって有益ではあるが、必ずしも不可欠とはいえないような情報や、高度のプライバシー性があり、開示をすることが相当とはいえない情報まで開示の対象とすることは許されない」ことから、省令において限定列挙することが必要」と考えております
  • コンテンツプロバイダから発信者情報の開示により電話番号を取得し、取得した電話番号をもとに電話会社に対する弁護士会照会が行われた場合、「電話会社は、弁護士会照会に応じて、発信者の氏名及び住所を回答することができる旨について、「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」(総務省告示)の解説に記述すること等により、これを明らかにすることが適当である」と考えております
  • 電子メールアドレスについて現行省令第3号において「発信者の電子メールアドレス」と規定されており、発信者の情報である場合に限り電子メールアドレスの開示が認められています。電子メールアドレスの場合と同様に電話番号についても発信者の情報である場合に限り開示対象とすることが適当と考えております
  • 氏名、名称又は住所について現行省令第1号及び第2号において「発信者その他侵害情報の送信に係る者の」と規定されていますが、これは発信者が所属する企業や大学の名称や住所を含める必要があることを想定した規定であると考えられます。電話番号については、電子メールアドレスについて現行省令第3号において「発信者の」と規定されており発信者の情報である場合に限り電子メールアドレスの開示が認められているのと同様に、発信者の情報である場合に限り開示対象とすることが適当と考えております。
  • 「開示対象とすべきログイン時情報の範囲については、これら多様な指摘があったことを踏まえるとともに、後述の新たな裁判手続の創設に関して具体的にどのような仕組みが設けられるのかといった点や、それに伴いログイン時情報に関してどのようなニーズの変化が生じるのかという点も踏まえつつ、その具体化に向けて引き続き検討を深めた上で、開示対象の範囲が不明確であるために実務が混乱することのないように、開示対象となるログイン時情報を省令において明確化することが適当である」と考えております
  • 「接続先IPアドレスは、接続先か接続元かの違いはあるものの、「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」であることには変わりないことから、現行省令に定める「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」に含まれると解して差し支えない」と考えております
  • 新たな裁判手続の創設、特定の通信ログの早期保全のための方策等については、本中間とりまとめを踏まえて、今後、被害者の救済の観点のみならず発信者の権利利益の確保の観点にも十分配慮を図りながら、様々な立場からの意見を幅広く聴取して、法改正により新たな裁判手続を創設することについて、創設の可否を含めて、検討を進めていくことが適当である。本研究会では、これらの課題に関し、さらに整理が必要な事項について引き続き議論を行い、最終とりまとめにおいて追加的に提言を行う予定」と考えております
  • 「1つの手続の中で発信者を特定することができるプロセスなど、より円滑な被害者の権利回復を可能とする裁判手続の実現を図る必要がある」と考えております
  • 「発信者情報開示請求権という実体法上の請求権を廃止する場合には、裁判外(任意)での開示を引き続き可能とする観点から、何らかの規定を併せて設ける必要がある」と考えております
  • 「手続の濫用の防止等については、(中略)新たな裁判手続の制度設計の具体化を図る中で、引き続き検討を深めていくことが適当」と考えております
  • 「ログについては、通信の構成要素であることから、通信の秘密として保護される対象であり、従来、ログ保存の義務づけにはかなり慎重な検討がなされてきたことに加え、むしろ、プライバシー等の観点から、IP アドレス・タイムスタンプなどのログについては、業務上の必要がなくなった場合には消去しなければならないこととしている既存の法制度の考え方との整合性、プロバイダの負担、海外事業者への義務づけの実効性等の観点から、一律のログ保存の義務付けは困難である」との指摘が多くの構成員からあったことも踏まえると、「この課題に対応するに当たっては、一律のログ保存義務ではなく、権利侵害か否かが争われている個々の事案に関連する特定のログを迅速に保全できるようにする仕組みについて検討することが適当である」と考えております
  • 「具体的には、例えば、(1)発信者を特定する手続と、(2)特定された発信者情報を開示する手続を分割し、(1)について、発信者情報を被害者に秘密にしたまま、コンテンツプロバイダに迅速に発信者情報を提出させ、アクセスプロバイダにおいて発信者を特定し、当該発信者情報を保全しておくプロセスを設けるなど、早期に発信者情報を特定・保全できるようにする仕組みを設けること」と考えております
  • 「逐条解説における「不法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しない」との記載について、例えば名誉毀損に関していえば、真実性などの違法性阻却事由のことを指しているのか、真実相当性という発信者の主観まで被害者側において明らかにすることを求めているのかが明らかになっていないことから、これを整理して、逐条解説等において明確化することが必要である」と考えております
  • 電気通信事業法(昭和五59年法律第86号)に基づく登録や届出は不要とされている事業者であっても、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成13年法律137号)第4条に定める開示関係役務提供者に該当する場合は、発信者情報開示請求の対象となります

次に、コロナ禍における誹謗中傷の実態や自治体独自の対応など、最近の報道からいくつか紹介します。

  • 天理大ラグビー部の集団感染が明らかになった8月16日以降、部員以外の学生が教育実習を断られたり、アルバイト先から出勤しないように求められたりするケースがあり、大学と天理市長が記者会見して差別的な対応をしないよう呼びかけています。しかし、その後も同大学や天理市に「天理大に責任がある」、「医療機関に負担をかけた」、「市民や世間に迷惑をかけたのだから謝れ」、「クラスター(感染集団)を発生させた大学が被害者のような態度をするな」などの批判が殺到しているといいます。それに対し、天理市長は、「だれもが感染者になりうる状況。感染したことは責められるべきではない」、「過剰な防御反応になっていないか。大学全体を一つのリスク団体とみて排除し、学生を不当に扱うことは分断を呼び、差別につながると思う」、「感染者が出れば『謝れ』という圧力をかける行為が社会を分断し、私たちの心をむしばむ」、「感染者を排除し、謝罪を求める声がコロナ禍を深めているのではないか。改めて考えてほしい」などと述べていますが、大変考えさせられますし、批判をする人たちに一度受け止めて、深く考えてほしい内容だと感じます。
  • サッカー部を中心に新型コロナウイルスの大規模なクラスター(感染者集団)が発生した松江市の立正大淞南高校の生徒の写真が、無断でインターネット上に掲載され、人権侵害のおそれがあるとして、島根県は、松江地方法務局に計13件のウェブサイトを通報しました。報道によれば、県が新型コロナに関する事案で、サイトを法務局に通報するのは初めてだといいます。同県は、「通報した13件はごく一部かもしれないが、公的機関が動くことで、人権侵害への牽制効果があるはずだ。今後も学校と連携し、サイトのモニタリングを継続して、必要に応じて追加で通報を実施していく」と話しており、誹謗中傷、人権侵害を許さないという自治体の強い意志を感じます。なお、本件を受けて、島根県は、通報の是非を判断する独自の基準を策定するということです。報道によれば、法務省の「人権侵犯事件調査処理規程」で、通報は本人や親族だけでなく、行政機関も可能とされているものの、どういう場合に通報するかを判断するための内規がなかったことから、判断基準を設けることで、迅速で適切な対応や、通報の乱用防止につなげる狙いがあるということです。
  • 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は、感染者や家族らへの差別や中傷に関する対策を議論するWGの初会合を開き、感染者情報の公表について、現在、厚生労働省が2月末に自治体に通知した基準に従って行われているものの、エボラ出血熱など感染症法で最も危険な「1類」の基準に従い、年代や性別、居住都道府県、発症日などを公表するため、地域によっては個人の特定につながる恐れがある実態があります。WGは、今後、感染者の8割が軽症または無症状で済む新型コロナの実情を踏まえ、公表基準の議論を進める予定だということです。
  • 2020年9月6日付読売新聞によれば、新型コロナウイルス感染者に関するデマや誹謗中傷がインターネット上で横行していることを受け、被害者が名誉毀損で提訴する際に証拠として活用してもらうため、問題があると判断した書き込みを画像で保存する動きが自治体で広がっているとして、いくつかの自治体の取組みを紹介しています。例えば、(1)岩手県は8月から、問題のある書き込みをパソコンのスクリーンショットと呼ばれる機能を使って画像として保存する、(2)鳥取県はネットパトロールで、これまでに悪質な書き込みを40件見つけ、うち6件について「事実と異なる」などと県のサイトで注意喚起、8月から問題のある書き込みの画像保存を開始、(3)長野県は8月、新型コロナ関連人権対策チームを設置、専用の電話相談窓口も開設、悪質な書き込みは画像で保存し被害者に提供する、(4)徳島県は5月から県内の大学と協力し、感染者個人を特定したり攻撃したりする書き込みを監視、悪質な書き込みがあればサイト運営者らに依頼し、14件の削除につなげた、ということです。
  • 群馬県は、全国初の制定を目指して検討を進める「インターネット上の誹謗中傷被害者支援条例」について、「被害者支援」と「ICT(情報通信技術)リテラシー向上」を2本柱とする骨子案を明らかにしています。年内制定を目指し、安心してネットを利用できる環境を整備、「群馬モデル」を全国に発信していくということです。
  • 岡山県は、新型コロナウイルスの対策本部会議で、県民に対して感染者や家族への誹謗中傷を絶対にやめるよう求めています。市町村や関係機関と連携し、チラシやSNSなどでの啓発キャンペーンを開始、報道によれば、伊原木知事は「『かかったことを知られるのが怖い』となると、検査を受けなくなるなど感染拡大防止の努力に水を差す結果にもなりかねない。落ち着いて対応してほしい」と強調しています。なお、他県で行っているインターネットの投稿の監視に関しては「今後の推移を見ながら、必要であれば検討したい」と述べています。
  • ヤフーやLINE、メルカリなどプラットフォームサービスを運営する国内大手が、外部の意見を取り入れた自主ルールの策定に動き始めました。LINEの取組みについては、前回の本コラム(暴排トピックス2020年8月号)で紹介しましたが、ヤフーは同社が設けた有識者会議の提言に従い、電子商取引(EC)モール事業での出店者の審査や検索順位を決める基準など、情報開示を強化すると発表、メルカリも7月末、フリマアプリの在り方に関する有識者会議を設置、最近は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、マスクや消毒液が高額出品される問題が起きました。これまでも新たな問題が起きると、規約追加などの措置を繰り返してきたものの、報道によれば、山田CEOは「サービス普及で社会的責任も増した。判断のよりどころとなる原理原則を考えたい」と話しており、まさにこの言葉が最近のプラットフォーマーにおける動きを表しているといえます。その判断基準の良し悪しは、良くも悪くも社会の目線が評価することをふまえれば、外部の有識者の意見を取り入れつつ、社会と密接かつ継続的なコミュニケーション(リスク・コミュニケーション)を取ることで、透明性と社会的受容を得ることにつながると考えます。
(7)その他のトピックス
①暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

マネックスグループの暗号資産(仮想通貨)交換業者コインチェックが、漫画家やアニメの制作者などの活動に対し、暗号資産を使いファンが資金面で直接支援する資金調達プロジェクトに協力すると発表しています。「IEO(イニシャル・エクスチェンジ・オファリング)」と呼ばれる手法を用い、2020年度内に環境づくりを始める予定だといいます。コインチェックによると、こうした形態のプロジェクトに暗号資産交換業者が取り組むのは、国内では初めてとなります。

▼コインチェック 日本初のIEO(Initial Exchange Offering)実現に向け共同プロジェクトを発足~ ブロックチェーン コンテンツでファンコミュニティの活性化を支援 ~

リリースによれば、「「IEO(Initial Exchange Offering)」は、トークン発行によるコミュニティの形成・強化や資金調達を暗号資産取引所が支援するものです。企業やプロジェクト等の発行体がユーティリティ・トークンを電子的に発行することで資金調達を行う仕組みであるICO(Initial Coin Offering)の中でも、暗号資産取引所が主体となって発行体のトークンの販売を行うモデルを指します」、「今回の共同プロジェクトでは、マンガ・アニメ、スポーツ、音楽をはじめとする日本の文化コンテンツの更なる発展を目指し、Link-UおよびHashPortが2020年3月に共同で設立したHashpaletteにおいて、ユーティリティ性を有するトークンである「パレットトークン(PaletteToken, PLT)」の発行を行い、暗号資産取引サービスである「Coincheck」にてそのトークンの販売を行う予定です。発行・販売されたトークンは、マンガ・アニメ、スポーツ、音楽をはじめとするコンテンツのためのブロックチェーンプラットフォームである「パレット(Palette)」において利用されます」、「コインチェックでは、2019年8月よりIEOの事業化について検討をして参りました。今回のプロジェクトパートナーであるHashpaletteが提供する「パレット」では、日本が世界に誇る様々なコンテンツが、ブロックチェーン上で流通するNFTとしてデジタル化され、誰もが簡単に所有や売却することが可能となると考えています。また、将来的には「マンガの限定読切閲覧権」や「限定コンサート参加権」のような従来では実現しにくかったデジタルコンテンツならではの新たな体験をクリエイターやアーティストがお客さまに提供できるエコシステムを構築することが可能となります。そのようなエコシステムにおいて、決済や投票、あるいは運営ノードに対するインセンティブとして提供される「パレットトークン」の販売や流通を当社が支援することにより、エコシステムの成長を暗号資産により加速させていくという、新しい試みに挑戦いたします。また、本プロジェクトを通じ、投機対象としての暗号資産ではなく、社会的意義を有する暗号資産の創造に取り組んで参ります」と説明されています。リアルに対する暗号資産の関与の仕方(新たなエコシステムの創出)という新たな可能性を示すものとして注目していきたいと思います。

その他、暗号資産に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • インドの最高裁判所が3月上旬、中央銀行が金融機関に暗号資産取扱業者との取引を禁じていた通達を違憲とする判決を出したことから、一時は活動休止状態だったインド国内業者が営業を再開、海外勢もインド向けの投資や営業を再加速させているようです(2020年8月19日付日本新聞新聞)。前回の本コラム(暴排トピックス2020年8月号)で、「新型コロナウイルスの感染拡大により、貴金属の金と暗号資産(仮想通貨)のビットコインがともに急騰しています(金は年初来で3割、ビットコインは5割上昇しています。また、安全資産の代表格である金に代わる投資先として、ビットコインにも資金が流入している状況ともいわれています)。報道(2020年7月28日付日本経済新聞)では、「両者に共通するのは通貨に似た性質を持つが、特定の発行国を持たない「無国籍」である点だ」と指摘、「両者の上昇は、米ドルをはじめとする法定通貨への不信感を映す」、「新興国ではコロナ禍で膨らんだ財政赤字が通貨安のリスクを高めており、先進国以上に金やビットコインへの資金シフトが起きる可能性がある」との指摘など大変興味深いものです」と述べました。報道によれば、インドではインフレ懸念から人々が貯蓄資産として銀行預金よりも金や不動産を選ぶ傾向が強いということですから、コロナ禍で財政赤字が膨らみルピーの価値が不安定になると、史上最高値水準で推移する金に代わる貯蓄資産として暗号資産の人気が一気に高まる可能性も考えられるところです。
  • 暗号資産に関するうそのもうけ話で現金をだまし取ったなどとして愛媛、香川の両県警が、男5人を詐欺と特定商取引法違反(不実告知・書面不交付など)の疑いで逮捕しています。報道によれば、同様の被害相談が約30件寄せられているといい、被害の拡がりが懸念されます。逮捕容疑は、5人が2018年10月~19年5月ごろ共謀して、自分たちが開発したと称するビットコイン自動売買システムの利用料名目で「知識がなくても利益を出せる。最低でも毎月借金返済分の利益は出る」とうそを言い、4人から現金計約510万円をだまし取ったなどというものです。また契約に絡み、契約書を交付しなかったり、「キャンセル料が発生する」などと不実を告げたりした疑いがあるといいます。
  • 爆破予告で脅迫し、暗号資産を要求するメールが日本の複数の都市に届き、警察が捜査を行っています。ビットコインを支払わなければ市役所を爆破し、大量殺人を実行すると脅迫するもので、報道によれば、脅迫メールは関東地方の複数の自治体に集中しているようです。具体的には、茨城県鹿嶋市、栃木県佐野市、埼玉県加須市と川越市、千葉県柏市と君津市が脅迫メールを受け取ったと公表、ただし、メールの内容はそれぞれ異なっているものの、メールの送信者は、「市役所を爆破する」や、「約30ビットコインを、指示するアドレスに送金しなければ、拳銃を持った仲間を送り込み銃を乱射する」などと脅迫している点で共通項があるように思われます。詐欺といい脅迫といい、暗号資産が犯罪に深く関わる「犯罪インフラ化」している実態は極めて残念です。
  • 2018年1月に暗号資産交換事業者コインチェックから流出した暗号資産「NEM」の不正交換事件で、流出したNEMを取得した医師の会社に対し、東京地裁が警視庁の請求を受け、組織犯罪処罰法に基づいて没収保全命令を出していたことがわかりました。報道によれば、同法に基づき、暗号資産を凍結するのは全国初とみられています。今回認められた組織犯罪処罰法に基づく起訴前の没収保全命令は、検察や警察の請求により裁判官が財産の処分を禁止するもので、犯罪行為により得た財産や、その報酬として得た財産が没収の対象となるとされています。なお、コインチェック流出事件では、流出に関与した人物は匿名性の高い闇サイト群「ダークウェブ」上で約580億円相当のNEMを相場より15%安いレートで交換を持ちかけていたことが分かっています。

さて、本コラムでその動向を注視している中央銀行デジタル通貨(CBDC)については、直近では大きな動きは見られません。その中で、イングランド銀行(英中央銀行)総裁が、「ステーブルコイン」などの暗号資産への対応で金融規制当局が後手に回ることがあってはならないとの考えを示したと報じられています。報道によれば、「ステーブルコインが決済手段として幅広く利用されるようになる場合、現在利用されている他の決済手段や資金送金手段と同等の基準が設定される必要がある」、「新たな決済手段として効率化につながる期待がある一方、利用者や金融安定を守る規制の枠組みが欠かせない」、決済インフラの基本原則は「利用者が法定通貨といつでも交換できる確信を持てることだ」と指摘、ステーブルコインの台頭を踏まえ、必要に応じて現行の規制基準を見直す必要があるとしています。さらに、CBDCの導入は金融システムの形や金融政策のあり方に大きな論点を提起するもので慎重な検討が求められるとして、G20に対応を呼び掛けています。そのうえで、「英国で導入された英ポンドに連動するステーブルコインに対しては銀行と同様の規制が適用される必要がある」、「こうしたステーブルコインの発行体は英国に本拠を置いている必要がある」と述べたといいます。なお、本コラムで紹介しているとおり、イングランド銀は日銀や欧州中央銀行(ECB)などとCBDCの共同研究に取り組んでおり、その主張自体は、これまでの延長線上のものといえます。

②IRカジノ/依存症を巡る動向

コロナ禍に加えて安倍首相の辞任を受けて、IR/カジノ事業の行方がさらに混沌としてきています。すでに「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」自体は成立していますので、政府・自治体は粛々と準備を進めてはいるものの、いまだIRの選定基準を定める「基本方針」の策定・公表が先送りされており、具体的なスケジュールが確定していない状況にあります。政府としては、新型コロナウイルス感染対策も基本方針に盛り込む必要が生じたことなどから慎重に作業を進めており、公表時期を「未定」としている状況だということですが、当初、アフターオリンピック(そして、2025年大阪・関西万博開催をふまえた)経済成長戦略の起爆剤と位置付けられてきたところ、ウィズコロナ/アフターコロナにおける成長戦略として新たに位置づけていく必要に迫られています。一方、このような政府の動きに翻弄されているのは参入を目指している自治体です。最有力候補である大阪府・大阪市は、全国に先駆けて昨年12月に事業者公募を始めた直後に衆院議員のIR汚職事件が発覚、さらに新型コロナウイルス感染拡大で、公募手続きも「当面延期」を余儀なくされ、令和9年(2027年)3月末までとしている開業時期がさらに遅れるのは必至の情勢となっています。大阪府・大阪市だけでなく他の自治体の誘致スケジュールや事業者の投資意欲に影響する可能性も指摘されているところです。また、もう一つの有力候補である横浜市についても、横浜市長は、8月に予定していた実施方針の公表について「現下の状況ではできない」と述べ、再延期すると発表、さらには今後の公表時期についても明言せず、事実上の無期限延期となっています。横浜市の場合、林文子市長が2021年8月に任期満了を迎えるため、次の市長選の争点になる可能性もあり、先行きの不透明感は一段と強まっているという事情もあります。横浜市のIR誘致に賛同する地元経済界も、観光関連などを中心にコロナの影響が次第に大きくなっていること、IR誘致の態度を明確にしていない東京都などの動向次第で、IR事業者の横浜への投資意欲に影響を及ぼす可能性もあるなど、こちらも予断を許さない状況が続きます。さらには、誘致表明に至る林市長や幹部らの打ち合わせ記録、会議の議事録を作成していないことが判明、誘致に疑問を抱く市民からは「透明性に欠ける」と批判の声が上がっていることに加え、林市長のリコールを求める署名活動の開始、反対する市民グループ「カジノの是非を決める横浜市民の会」が、誘致の賛否を問う住民投票条例制定を求める署名活動を始めるなどの動きもあります(報道によれば、署名活動の期間は11月4日までで、条例制定の請求には、有権者の50分の1に当たる約6万2千人分以上の署名が必要となるといいます。年明けの市議会での条例案審議を目指すとしています)。

コロナ禍によって、海外のIR事業者も苦しい状況が続きます。例えば、米大手のMGMリゾーツ・インターナショナルが無給休職中だった約1万8,000人の米国内の従業員に、解雇を通知したことが明らかになっています。2019年末時点の国内従業員数の約4分の1に相当する規模といい、報道によれば、新型コロナウイルスの影響で客足は戻っておらず、観光産業の回復が遅れていることが要因だといいます(米西部ネバダ州ラスベガス市のカジノ街は6月ごろから段階的に営業を再開したものの、観光客数の減少や大型商談会の全面休止の影響を受けており、7月に同市周辺を訪れた観光客の数は前年同月比61%減の144万人だったと報じられています)。また、中国は海外のカジノ集積地に中国人の渡航を制限する制度を設ける方向であるとも報じられています(2020年9月4日付日本経済新聞)。報道によれば、アジアの関連産業は中国人観光客への依存度が高く、対象となれば新型コロナウイルスに続く打撃となりかねない懸念があり、既にベトナムやカンボジアでカジノを手掛ける企業の株価が下落するといった影響が出ています(一方で、中国で唯一賭博が合法なマカオでは、新制度を追い風に需要回復への期待が高まっている状況です)。

本コラムでも注視しているIR事業をめぐる汚職事件については、衆院議員秋元司被告=自民離党=がすでに起訴されていますが、贈賄側の被告に偽証を持ち掛けたなどとして組織犯罪処罰法違反(証人等買収)容疑でも逮捕されています(なお、証人等買収罪は、テロ等準備罪とともに2017年7月施行の改正組織犯罪処罰法に盛り込まれ、適用は初めてとなります)。そもそも「証人等買収」は、自らや他人の刑事事件に関し、うその証言をすることや証言をしないことなどの報酬として、金銭などの利益供与や申し込み、約束することを禁じるものですが、ある報道で検察幹部が「海外ではマフィア、国内では反社会勢力などの組織犯罪を想定していたが、まさか初適用事件が現職の国会議員になるとは思わなかった」とコメントしているとおり、マフィアなど国際的な犯罪集団を摘発するため、国連総会で2000年に採択された「国際組織犯罪防止条約」の締結に必要な法整備の一環と位置付けられているものです。なお、参考までに、本法案が成立したときの本コラム(暴排トピックス2017年7月号)では、テロ等準備罪新設について、以下のように指摘しています。

残念ながら国会での議論は十分であったとは言い難く、強引な運営手法が目立つ形となりましたが、様々な国民の意見や識者の指摘をふまえながら、今後、国家権力が適切に運用しているかを監視していくことこそが、私たち国民の役割であり、マスコミの責務でもあります。なお、テロ準備罪新設された今、見えている今後の課題としては、例えば、同法が組織犯罪を対象にしている以上、個人のテロに対応することはできないという点、通信傍受の対象犯罪ともされず、未然防止という点では実効性に疑問符が付くという点は、極めて重要な課題となっています。

実務的なテロ対策ということであれば、今後、通信傍受法や刑事訴訟法の改正も必要となると考えられますが、捜査と人権のバランスを考慮しつつ、諸外国のような令状なしの通信傍受の在り方についても、ヒステリックに批判するのではなく、真摯な議論を始めるときに来ていると言えるでしょう。また、既に共謀罪がある国でもテロを防げていないことからもテロ対策には限界があるのだから(そもそもテロ準備罪を新設しても防げるわけではない)、監視社会化を推し進めるだけだとの批判が根強い点も今後、十分に意識していく必要があります。ただし、テロ対策に限界があることは事実ではあるものの、テロを防げていないというより、ある程度未然防止につながってはいるが全てを抑え込むことは難しい(=限界がある) と認識すべきなのかもしれません。加えて、テロ対策においては「内心に踏み込まざるを得ない」(平成29年6月18日付産経新聞 佐藤優氏の発言)との意見も説得力があります。

佐藤氏は、「ISやそれに賛同するテロリストの脅威は共産主義者のそれとは本質を異にする。思想信条が即、テロ活動につながる。従って、テロを防ぐためには、行動が確実視されているテロリストの思想に踏み込むことが不可欠」と指摘しています。そのうえで、「『日本では中東や欧米、ロシアのようなテロは起きない』という認識は間違いだ。残念ながら日本でもテロは起きる。・・・テロが、いつ、どのような形で起きるかについてシミュレーションをする段階に至っている。・・・テロを社会に拡散するイデオロギーに対する思想的・宗教的安全保障を、真剣に考えなくてはならない時機に至っている」と警鐘を鳴らしています。

さて、本件は、具体的には、「(同時に逮捕されている贈賄側の会社役員ら)2グループは直接のつながりはないが、佐藤被告は紺野被告に「仲里被告にも同じ働き掛けがされている」という趣旨の説明をしたという。コンサルの男性も仲里被告に「秋元議員や紺野被告と証言の足並みをそろえてほしい」と依頼していたという。特捜部は、秋元議員が2グループの中心にいて、自ら買収工作の概要をそれぞれに伝え、報告も受けていたとみている模様だ」(2020年8月24日付毎日新聞)、「紺野、仲里両被告は捜査段階から衆院解散当日に現金300万円を渡したことを認めていたが、6~7月に秋元議員の支援者らから「当日は秋元議員と会っていなかったことにしてほしい」と依頼され、現金の提供を持ちかけられたとされる。紺野被告は被告人質問で、秋元議員の関係者から、最初は現金1000万円、2度目は2000万円の報酬を提示されたとし、「冗談かと思った。断り続けても現金を持ってきたので、ただ事でないと思って、検察に全てお話しさせていただいた」と話した。仲里被告も授受の様子を詳細に語り、300万円は菓子折りの袋に入れ、事務所応接室のテーブル越しに秋元議員に渡したとした。虚偽証言の報酬として現金500万円を提示されたといい、「受け取ることはできないと断った」と振り返った」(2020年8月26日付毎日新聞)とされ、事実であればかなり悪質であると指摘せざるを得ません。さらに、贈賄側被告への虚偽証言の働き掛けは、事件関係者との接触を禁じた保釈条件に違反する疑いもあります。日産ゴーン事件でも話題となったとおり、裁判所は近年、保釈を積極的に認める傾向にありますが、拘束を解かれた被告が社会を揺るがす事件を起こす例も増えています。一方で、密室で行われる贈収賄事件は関係者の証言が判決の行方を左右するため、否認する被告の早期保釈は異例とされていたところ、その懸念が現実のものとなり、今後の釈放のあり方も問われる事態となっています。

③犯罪統計資料
▼警察庁 犯罪統計資料(令和2年1~7月)

令和2年1~7月の刑法犯の総数は、認知件数は357,396件(前年同期431,073件、前年同期比▲17.1%)、検挙件数は159,073件(164,934件、▲3.6%)、検挙率は44.5%(38.3%、+6.2P)となり、令和元年における傾向が継続される状況となっています。犯罪類型別では、刑法犯全体の7割以上を占める窃盗犯の認知件数は244,312件(305,066件、▲19.9%)、検挙件数は98,682件(101,417件、▲6.9%)、検挙率は40.4%(33.2%、+7.2P)であり、「認知件数の減少」と「検挙率の上昇」という刑法犯全体の傾向を上回り、全体をけん引していることがうかがわれます(なお、令和元年における検挙率は34.0%でしたので、さらに上昇していることが分かります)。うち万引きの認知件数は50,264件(56,261件、▲10.7%)、検挙件数は36,529件(38,345件、▲4.7%)、検挙率は72.7%(68.2%、+4.5P)であり、令和元年に続き、認知件数が刑法犯・窃盗犯を上回る減少傾向を示しています。検挙率が他の類型よりは高い(つまり、万引きは「つかまる」ものだということ)一方、ここのところ検挙率の低下傾向が続いたところ、今回プラスに転じている点は心強いといえます。また、知能犯の認知件数は18,138件(21,218件、▲9.8%)、検挙件数は9,807件(10,537件、▲6.9%)、検挙率は51.2%(49.7%、+1.5P)、さらに詐欺の認知件数は17,077件(19,052件、▲9.8%)、検挙件数は8,280件(8,810件、▲6.9%)、検挙率は48.5%(46.2%、+2.3P)と、とりわけ検挙率が高まっている点が注目されます(なお、令和元年は49.4%でしたので、少しだけ低下しています)。

また、令和2年1月~7月の特別法犯の検挙件数の総数は39,070件(40,775件、▲4.2%)、検挙人員は33,062人(34,650人、▲4.6%)となっており、令和元年においては、検挙件数が前年同期比でプラスとマイナスが交互し、横ばいの状況が続きましたが、前月に続き減少する結果となりました。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は3,756件(3,466件、+8.4%)、検挙人員2,684人(2,607人、+3.0%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数1,577件(1,350件、+16.8%)、検挙人員は1,299人(1,104人、+17.7%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は248件(320件、▲22.5%)、検挙人員は63人(85人、▲25.9%)、不正競争防止法違反の検挙件数は38件(37件、+2.7%)、検挙人員は47人(39人、+20.5%)、銃刀法違反の検挙件数は515件(534件、▲3.6%)、検挙人員は262人(257人、+1.9%)などとなっており、入管法違反と不正競争防止法違反は増加したものの(これまでよりペースダウンしています)、不正アクセス禁止法違反がこれまで大きく増加し続けてきたところ、ここにきて大きく減少している点が注目されます(不正アクセス事案は体感的にまだまだ減っていないと思われているだけに数字的にはやや意外な結果となりました。引き続き注視が必要な状況だといえます)。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は413件(448件、▲7.8%)、検挙人員は210人(213人、▲1.4%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は515件(534件、▲3.6%)、検挙人員は262人(257人、+1.9%)、大麻取締法違反の検挙件数は3,133件(3,017件、+3.8%)、検挙人員は2,644人(2,357人、+12.2%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は6,352件(6,358件、▲0.1%)、検挙人員は4,428人(4,531人、▲2.3%)などとなっており、大麻事犯の検挙が令和元年から継続して増加し続けていること、一方で、覚せい剤事犯の検挙件数・検挙人員ともに減少傾向にあります。なお、覚せい剤事犯については、いったん増加に転じて注目していましたが、4月以降、再度減少するなどしています(参考までに、令和元年における覚せい剤取締法違反については、検挙件数は11,648件(13,850件、▲15.9%)、検挙件数は8,283人(9,652人、▲14.2%)でした)。

なお、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯の国籍別検挙人員の総数は312人(262人、+19.1%)、ベトナム53人(39人、+35.9%)、中国52人(50人、+4.0%)、ブラジル35人(22人、+59.1%)、韓国・朝鮮19人(18人、+5.6%)、フィリピン12人(18人、▲33.3%)、インド12人(5人、+140.0%)などとなっており、令和元年から大きな傾向の変化はありません。

暴力団犯罪(刑法犯)総数については、検挙件数は6,420件(11,439件、▲43.9%)、検挙人員は3,892人(4,564人、▲14.7%)となっており、とりわけ検挙件数が引き続き激減する結果となりました。やはり、特定抗争指定や新型コロナウイルス感染拡大の影響が色濃く反映されたものと考えられます(なお、令和元年は、検挙件数は18,640件(16,681件、▲0.2%)、検挙人員は8,445人(9,825人、▲14.0%)であり、暴力団員数の減少傾向からみれば、刑法犯の検挙件数の減少幅が小さく、刑法犯に手を染めている暴力団員の割合が増える傾向にあったと指摘できましたが、現状では検挙されない(検挙されにくい)活動実態にあるといえます)。また、犯罪類型別では、暴行の検挙件数は489件(568件、▲13.9%)、検挙人員は469人(518人、▲9.5%)、傷害の検挙件数は751件(895件、▲16.1%)、検挙人員は876人(991人、▲11.6%)、脅迫の検挙件数は237件(240件、▲1.3%)、検挙人員は218人(214人、1.9人)、恐喝の検挙件数は222人(287人、▲22.6%)、検挙人員は268人(355人、▲18.9%)、窃盗の検挙件数は2,955件(6,798件、▲56.5%)、検挙人員は601人(759人、▲20.8%)、詐欺の検挙件数は811件(1,338件、▲39.4%)、検挙人員は587人(784人、▲25.1%)、賭博の検挙件数は30件(69件、▲56.5%)、検挙人員は104人(72人、+44.4%)などとなっており、暴行や傷害、脅迫、恐喝事犯の減少が続く一方、これまで増加傾向にあった窃盗と詐欺が一転して大きく減少している点(さらに、暴行等の減少幅をも大きく上回る減少幅となっており、特定抗争指定や新型コロナウイルス感染拡大の影響がまさにこの部分に表れているものとも考えられます)は注目されます。

また、暴力団犯罪(特別法犯)の総数については、検挙件数は4,163件(4,618件、▲9.9%)、検挙人員は3,041人(3,282人、▲7.3%)となっており、こちらも大きく減少傾向を継続している点が特徴的だといえます。うち暴力団排除条例違反の検挙件数は31件(14件、+121.4%)、検挙人員は79人(23人、+243.5%)、銃刀法違反の検挙件数は83件(87件、▲4.6%)、検挙人員は65人(58人、+12.1%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は88人(125件、▲29.6%)、検挙人員は26人(37人、▲29.7%)、大麻取締法違反の検挙件数は585件(670件、▲12.7%)、検挙人員は404人(443人、▲8.8%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は2,745件(2,974件、▲7.7%)、検挙人員は1,877人(2,034人、▲7.7%)などとなっており、令和元年の傾向とやや異なり、大麻取締法違反の検挙件数・検挙人員も大きく減少に転じている点が注目されます。さらに、覚せい剤取締法違反についても令和元年の傾向を大きく上回る減少となっている点も注目されます。いずれも、新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛の影響で対面での販売が減っている可能性を示唆していますが、(覚せい剤等は常習性が高いことから需要が極端に減少することは考えにくいこと、さらに対面型からデリバリー型に移行しているとの話もあり、正確な理由は定かではありません(なお、令和元年においては、大麻取締法違反の検挙件数は1,129件(1,151件、▲1.9%)、検挙人員は762人(744人、+2.4%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は5,274件(6,662件、▲20.8%)、検挙人員は3,593人(4,569人、▲21.4%)でした)。

④忘れられる権利を巡る動向

昨年12月、インターネット検索サイト「グーグル」に自身の逮捕歴が表示され続けるのはプライバシーの侵害だとして、北海道内に住んでいた男性が検索結果の削除を求めた訴訟の判決で、札幌地裁は、米グーグルに一部の削除を命じています。本件については、暴排トピックス2020年1月号において、「本件は、男性が平成24年7月、当時住んでいた北海道内で女性に性的暴行を加えたとして、強姦(現・強制性交)容疑で北海道警に逮捕されたものの、その後、嫌疑不十分で不起訴となったもので、判決では、男性が不起訴になったことなどを考慮し、「私生活上の不利益は大きい」、「公表されない利益が表示維持を優越する」と判断したものと考えられます。検索結果の削除を認める司法判断は異例で、判決では初めてとなります(平成30年8月に、東京高裁が強姦致傷容疑の逮捕歴について仮処分決定を出した例はあります)。なお、この男性は、削除の対象を一部にとどめたこの判決を不服として札幌高裁に控訴しています。報道によれば、検索結果の削除を命じたのは、原告側が求めた19件のうち5件にとどまっているということです」と紹介しました。この控訴審について、グーグル側が検索結果を削除したことから、男性側が訴えを取り下げたということです。

なお、本コラムでたびたび紹介しているとおり、最高裁は2017年、グーグルをめぐる同種裁判の決定で、「情報の収集、整理及び提供はプログラムにより自動的に行われるものの、同プログラムは検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたものであるから、検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有する」としたうえで、削除を認めるかどうかの考慮要素として、「当該事実の性質及び内容」、「当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度」、「その者の社会的地位や影響力」、「上記記事等の目的や意義」、「上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化」、「上記記事等において当該事実を記載する必要性」の6項目を示しました。そして、「当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当」と指摘しています。本件では、「7年前」の「強制性交」に関する「不起訴事案」であることが「私生活上の不利益が大きい」と判断されたわけですが、最高裁でも具体的に示されなかった「公共性」と「時間の経過」の比較衡量の観点(何年経てば犯罪報道の公共性がなくなるのか)について、削除を認めたケースとして参考になるものといえます。

(7)北朝鮮リスクを巡る動向

米トランプ政権は、国務省と財務省、商務省の連名で、北朝鮮が外国企業から弾道ミサイル開発に必要な物資の調達を続けているとして、各国企業などに対し、取引に関与した場合には制裁対象になるリスクがあると警鐘を鳴らす勧告を発表しています。報道によれば、勧告で「北朝鮮は弾道ミサイルの開発能力の向上を目指しており、地域や国際社会の安定を脅かしている」として、「米国は北朝鮮の弾道ミサイルに関連する調達ネットワークの破壊に取り組んでおり、ミサイル計画を支援した企業や個人への責任追及を進めている」と強調しているといいます。また、北朝鮮のミサイル開発に関し「外国製の関連機材に依存しており、入手のために広範な海外ネットワークを駆使している」と指摘し、北朝鮮の武器輸出を担う「朝鮮鉱業開発貿易会社(KOMID)」など調達に関与した北朝鮮の組織や外国に外交官として赴任した「代理人」が調達に関わっている実態、林業用トラックを移動式発射台(TEL)に転用する調達手法などを挙げています。その上で「民間企業や個人は、国連や米国の制裁対象となる行為に認定された場合に直面する結果を認識することが重要だ」、「調達を支援すれば、故意でなくても米国や国連の制裁対象になり得る」と警告しています。まさに北朝鮮リスクを「サプライチェーン」リスクの観点から捉え、KYC/KYCCの厳格さが要求されているものとして、企業はそのリスクの大きさに注意し、速やかに対応を検討する必要があります

また、米による警鐘はこれにとどまりません。例えば、米司法省は、北朝鮮のハッカーに関連した280の暗号資産口座の差し押さえを求める民事訴訟を起こしました。報道によれば、米政府は、2つの暗号資産取引所から多額の資金を盗み出し、中国のトレーダーを使ってマネー・ローンダリングを行った北朝鮮のハッカーらがこれらの口座を使用したとしています。なお、米司法省は今年3月、北朝鮮に代わり1億ドル超の暗号資産をマネー・ローンダリングしたとして、中国籍の2人を起訴しています(参考までに、国連の2019年の報告書では、北朝鮮は暗号資産取引所に対するサイバー攻撃で、大量破壊兵器開発プログラム向けに推定20億ドルを生み出したと指摘されています)。

さらに、北朝鮮によるサイバー攻撃関連では、米財務省と連邦捜査局(FBI)を含む4機関が合同で作成したサイバーセキュリティ報告書でも、北朝鮮による金融に関連したハッキング行為は、一時は低調になっていたものの、今年に入り再び活発化したと指摘されています。報道(2020年8月27日付ロイター)によれば、「2020年2月以降、北朝鮮は複数の国の銀行を再び標的にし、国際送金を行ったり、ATMから現金を引き出したりしている」と警告しています。米当局は北朝鮮によるこうした不正行為を「ファスト・キャッシュ(Fast Cash)」戦略と名付け、具体的な手法として、(1)コンピューターをウイルスに感染させるため詐欺目的のメールを送付、(2)心理的な隙やミスにつけ込んで機密情報を漏らすよう仕向けるソーシャルエンジニアリング、(3)特定の組織や人物に偽の電子メールを送るスピアフィッシングなどを挙げています。さらに、実行機関として、北朝鮮の対外工作機関・偵察総局傘下のハッカー集団「ビーグルボーイズ」の名前が挙げられており、その資金を核兵器や弾道ミサイル開発に充てている可能性が指摘されています。なお、こうした行為は2016年から始まっていたところ、最近になって手法が高度化すると同時に、規模も拡大したとしています。北朝鮮は制裁措置とコロナ禍によって財政が苦しくなっており、こうしたサイバー攻撃で得られた資金を政府の運営に利用している実態がうかがえます。

このような北朝鮮による弾道ミサイル開発、暗号資産のマネー・ローンダリング、サイバー攻撃などに加え、核開発の懸念も強まっています。前回の本コラム(暴排トピックス2020年8月号)でも、米CNNテレビが、米ミドルベリー国際大学院の研究者が最新の衛星写真を分析した結果として、北朝鮮の首都平壌に近い施設で、核弾頭の製造を活発に続けている可能性があると報じたことを紹介しましたが、直近では、国際原子力機関(IAEA)が、北朝鮮が北西部・寧辺などで核開発を続けている形跡を確認したとする年次報告書をまとめ、「深刻な懸念が引き続き残る」と指摘しています。報道によれば、過去1年間の衛星画像や関連情報を分析した結果、寧辺のウラン濃縮施設で定期的な車両の移動や冷却設備が稼働する状況が認められ、「濃縮ウランの生産に合致した動きだ」としているといいます。建設中の軽水炉では部品搬入や建設用重機が確認されたほか、南部・平山の鉱山ではウランの採掘や加工が継続的に行われている形跡があったとのことです。あらためて強調しておきたいことは、日本が直視すべき現実は、北朝鮮が核を保有し、日本に照準を合わせた核ミサイルを配備していることであり、金正恩委員長の判断一つで、北朝鮮の核が日本にとって単なる脅威ではなく、実際に使用されうる段階に来ているということです。

さて、その金正恩朝鮮労働党委員長の動向ですが、最近は妹の金与正党第1副部長に権限を一部委譲しているとされるほか、朝鮮労働党の党大会を来年1月に召集することを決めたことや、経済制裁やコロナ禍によって「成長目標」が未達となったことを異例の率直さで反省したことなどが注目されます。例えば、韓国の情報機関である国家情報院が、金正恩氏が、対米戦略や対韓国政策の一部権限を妹の金与正氏に委譲しているとの分析を明らかにしたと報じられています。他の国政の権限も一部を側近に委譲しているとし、金正恩氏の負担を軽減する狙いや失策の責任回避の狙いがあると説明しています。また、2020年9月23日付産経新聞によれば、北朝鮮の朝鮮労働党中央委員会総会は、「経済成長の目標を達成できず、人民の生活を向上できなかった」と総括する決定書を採択、来年1月に約5年ぶりとなる党大会を開催することも決めたと報じています(国連制裁やコロナ禍による国境封鎖の長期化、相次ぐ災害などで経済難が深まる中、内部結束を図るとともに、党中心の国家運営正常化を内外に誇示する狙いがあるものと考えるのが妥当かと思われます)。同報道では、新たな国家経済発展5カ年計画を提示するとしており、金正恩政権が「失敗」を内外に認めるのは異例と指摘、一方で、強い危機意識があるとみられ、状況を注視すべきであること、北朝鮮の貿易を大幅に制限し、経済発展を困難としている国連制裁は核・弾道ミサイル開発に対し科されたもので、放棄すれば解かれることをふまえれば、核にしがみついていることこそ苦境の最大の要因であって、もとより今日、体制維持を第一に考える独裁者のもと、計画経済による発展は望みようがないこと、金正恩氏は、成長目標未達は他ならぬ自分のせいだと認識すべきだと主張しており、正に正鵠を射るものといえます。

また、北朝鮮では、自然災害が相次いでいます。8月に開催された党政治局会議では、8月の豪雨の影響で、住宅約1万6,680世帯、公共施設約630棟が破壊、浸水するなど深刻な被害が出ていることが報告されています。なお、当会議では人事も行われ、金才竜首相が解任されています。理由は明らかにされていませんが、コロナ禍による国境封鎖で経済に打撃を受ける中、豪雨の被害も加わり、国民の不満が高まっているためとみられています。さらに台風8号の接近に備えた非常対策について集中討議したときは、金正恩氏は「人命被害を徹底的に防いで農作物被害を抑えることは、一瞬もおろそかにできない重大問題だ」と強調しています。さらに、新型コロナウイルスの流入阻止のための防疫活動で「一連の欠陥」が現れているとし、問題克服に向けた対策の強化も指示しています。なお、最近は、党の会議を頻繁に開催してその様子を報じさせており、住民の安全の問題を優先する指導者の姿を誇示するとともに、党の会議での合議を経て政策を決定している過程を内外にアピールする狙いも見え隠れしています。さらに、台風9号が上陸、国営テレビは夜通し台風情報を流し、豪雨による倒木や建物の崩壊など被害状況を伝えていましたが、金正恩氏はその被害は最小限にとどめることができたとの認識を示しています。

3.暴排条例等の状況

(1)暴排条例に基づく公表事例(静岡県)

静岡県公安委員会は、暴力団が事務所として使用することを知りながら建物を提供した疑いがあるにもかかわらず、同委員会に説明や資料提出を拒んだとして、静岡県暴排条例に基づき、同県富士宮市の男性の氏名と住所を県公報などに掲載して公表しています。報道によれば、、説明拒否を理由とした氏名公表は全国初となります。男性は六代目山口組系2次団体に、事情を知りながら事務所を提供した疑いがあるところ、7月27日の県公安委の聴取に応じなかったというもので、さらに同委員会が同日以前にも話を聴くために自宅を訪れたものの、聴取を拒否したということです。

▼静岡県 静岡県暴排条例

静岡県暴排条例第15条(利益の供与等の禁止)第1項第3号では、「前2号に定めるもののほか、情を知って、暴力団の活動を助長し、又はその運営に資することとなる利益の供与(法令上の義務又は情を知らないでした契約に係る債務の履行としてする場合その他の正当な理由がある場合における利益の供与を除く。)をし、又はその申込み若しくは約束をすること」の規定がありますが、さらに、第19条(不動産の譲渡等をしようとする者等の責務)第2項において、「何人も、自己が譲渡等をしようとしている不動産が、暴力団事務所の用に供されることとなることを知って、当該譲渡等に係る契約を締結してはならない」(なお、「譲渡等」とは「県内に所在する不動産の譲渡又は貸付け(地上権の設定を含む)」と定義されています)との規定もあります。本件がどちらの規定に抵触したのかは判然としませんが、同委員会は、第23条(説明等の要求)「公安委員会は、第15条第1項、第18条、第19条第2項、第20条第2項、第21条第2項又は前条第1項の規定に違反する行為をした疑いがあると認められる者その他の関係者に対し、公安委員会規則で定めるところにより、当該違反の事実を明らかにするために必要な限度において、説明又は資料の提出を求めることができる」の規定に基づき、同人に対して説明を求めたものの(再三にわたり)これを拒否したことを受けて、第25条(公表)第1項「公安委員会は、第23条の規定により説明又は資料の提出を求められた者が次に掲げる行為をしたときは、公安委員会規則で定めるところにより、その旨を公表することができる。(1)正当な理由がなく説明又は資料の提出を拒んだとき。(2)虚偽の説明又は資料の提出をしたとき」の「正当な理由なく説明又は資料の提出を拒んだ」ものとして、公表措置を適用したものと考えられます。なお、参考までに、第24条(勧告)では、「当該行為が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは・・・必要な勧告をすることができる」との規定がありますが、本件は、この「勧告」を適用することなく、「公表」に踏み切ったことになります。報道からは、相当悪質であると認められても仕方ないと思われる状況であり、その点でも注目される措置だといえます。

(2)暴力団関係事業者に対する指名停止措置等事例(福岡県)

福岡県、福岡市、北九州市において、3社が指名停止措置および排除措置が取られています。

▼福岡県 暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧表
▼福岡市 競争入札参加資格停止措置及び排除措置一覧
▼北九州市 福岡県警察からの暴力団との関係を有する事業者の通報について

福岡県に「排除措置」(福岡県建設工事競争入札参加資格者名簿に登載されていない業者に対し、一定の期間、県発注工事に参加させない措置で、この期間は、県発注工事の、(1)下請業者となること、(2)随意契約の相手方となること、ができない)を取られた事業者について、「役員等又は使用人が、暴力的組織又は構成員等と密接な交際を有し、又は社会的に非難される関係を有している」(福岡県)として、18カ月の指名停止となりました。なお、福岡市では、「暴力団との関係による」として12カ月、北九州市では、「当該業者の役員等が、暴力団と「社会的に非難される関係を有していること」に該当する事実があることを確認した」として、「令和2年8月17日から18月を経過し、かつ、暴力団又は暴力団関係者との関係がないことが明らかな状態になるまで」と公表され、自治体による措置の違いも出ています。

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