暴排トピックス

生き残るのは誰だ(3)~今のままでは誰も生き残れない

2022.12.06
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首席研究員 芳賀 恒人

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複数名の会社員のシルエットとビル群

1.生き残るのは誰だ(3)~今のままでは誰も生き残れない

岡山県・兵庫県・愛知県・三重県の4つの県の公安委員会は、池田組と六代目山口組をより厳しく取り締まる「特定抗争指定暴力団」に、12月8日に指定する(官報公示で効力が発生する)ことを決めています。岡山市内では2022年10月に北区の理髪店で、散髪中の池田組の組長が襲われ、同じ日の夜には、その組長が住む北区のマンションの駐車場で発砲事件が発生し、いずれも六代目山口組系の暴力団員が逮捕されるなど、今年に入って市内で抗争事件が相次いでいます。池田組の本部がある岡山県、六代目山口組の総本部がある兵庫県、それに愛知県と三重県の4つの県の公安委員会は、抗争が激化し、市民が事件に巻き込まれるおそれがあるとして、12月1日までに、双方の意見を聴く会を設けた上で、より厳しく取り締まることができる「特定抗争指定暴力団」に、12月8日から3か月間指定することを決めました。この指定に伴い、岡山市・神戸市・名古屋市・桑名市が「警戒区域」に指定され、構成員がおおむね5人以上で集まることや、事務所に立ち入ることなどが禁じられ、違反した場合、警察は逮捕することができることになります。「特定抗争指定暴力団」の指定は、今回が全国で3例目となります。2012年に暴力団対策法に規定が設けられ、同年末、九州に拠点を置く道仁会と九州誠道会(現浪川会)が全国で初めて指定されています(2014年に解除)。また、六代目山口組は、2020年1月から、神戸山口組との間で特定抗争指定暴力団に指定されています。警察庁によると、構成員の数は、六代目山口組が約4千人、池田組が約80人(いずれも2021年12月末時点)で、池田組は、もともと六代目山口組の主要団体の一つでしたが、六代目山口組から分裂した神戸山口組の傘下に入った後、2020年7月に独立(2021年11月に指定暴力団に指定)、特定抗争指定暴力団の制限から外れ、2021年10月には岡山市が警戒区域から解除されていました。なお、この特定抗争の持つ意味としては、ジャーナリストの溝口敦氏のコラム「暴力団全体が変わるかもしれない 六代目山口組と池田組が「特定抗争」と指定される意味」(2022年11月29日付日刊ゲンダイ)で本質を突く解説がなされています。以下、抜粋して引用します。資金源が豊富な池田組が自分からは手を引かない可能性が高い以上、分裂状態は終わらないのではないかというもので、六代目山口組側としても難しい立場に追い込まれる可能性を指摘しています。そして、特定抗争指定が外れない限り、暴力団は活動を著しく制限され、本来の活動やふるまいができない=暴力団としての存在意義をとわれかねないことになりうるのであり、六代目山口組(ひいては暴力団のあり方)に変質が迫られる可能性さえ否定できないといえます。だからこそ、ここ最近、池田組が六代目山口組のターゲットとなる事件が頻発しているのであり、池田組・神戸山口組・絆會の三者連合は、井上組長の意向で思い通りに進んでいない状況にありつつも、池田組が分裂問題のキーとなることは間違いなくいこともあり、池田組と六代目山口組の抗争の行方を中心に、今後の動向をさらに注意深く見ていく必要があります。

来月中旬、各組が事始め式を開く少し前、六代目山口組と池田組(池田孝志組長、岡山市)が「特定抗争指定暴力団」に指定される。六代目山口組はそうでなくても神戸山口組との間でとっくに「特定抗争指定」だから、池田組との関係で今回「特定」に指定されようと、今さらどうってことないと受け取られがちだが、これが六代目山口組の命取りになりかねないらしい。周知のように「特定抗争」に指定されれば、双方の組事務所などは使用禁止、警戒区域内での5人以上の集会は禁止される。たいした禁止項目ではないが、問題は「特定抗争指定」の相手側が池田組である点だ。関西の捜査員OBが解説する。「ということは、たとえ神戸山口組が解散、井上邦雄組長が引退を決めても、池田組が健在であるかぎり、『特定抗争指定』は外れないということです。池田組長は東京をはじめ全国の主要都市に貸しビルを持っているほど金持ちだから、抗争資金に不安はない。しかも六代目山口組には絶対戻らないと明言している。だから六代目山口組に白旗は掲げない。つまり抗争は延々と続く。今は8年目だけど、10年経っても終わらなければ、高山清司若頭は何してるんだ、いい加減カタをつけろという声が六代目山口組内でも巻き起こる」…警察は猜疑心が強く、「偽装手打ち」に極度に警戒的だから、指定を延々と更新していく。その間、神戸市灘区の山口組本部などは使えず、山口組は変質を迫られる。高山若頭は分裂抗争を終結しないかぎり、辞めたくても若頭を辞められず、文字通り「立ち往生」状態になる。後任の若頭には竹内照明弘道会会長や森尾卯太男本部長(大同会会長)、安東美樹竹中組組長らの名が早くも挙がっているが、誰がなっても六代目山口組はまた分裂して、「山口組一強時代」は永遠に来ないというのがこの捜査員OBの見立てである。暴力団全体が変わるのだ

岡山県で相次いでいる暴力団の抗争事件を受けて、岡山県公安委員会は、六代目山口組系の2つの組(三代目妹尾組と二代目南進会)に対し、 暴力団対策法に基づき事務所の使用を制限する本命令を出しています。11月21日から3カ月間、組関係者の会合など事務所としての使用ができなくなります。一方、同公安委員会は、池田組の事務所とその関連施設に対しても使用を制限する本命令を出しています(なお、聴聞会には珍しく池田組側から幹部の出席があり、制限の対象となる事務所について「2021年12月に裁判所から事務所の使用を禁止する仮処分命令が出ていて、事務所として対象の建物を使っておらず、今後も使うつもりがない」などと述べています)。

福岡県古賀市で2022年8月、神戸山口組系組長宅を焼こうとしたとして、福岡県警は、対立状態にある六代目山口組の2次団体トップら3人を、現住建造物等放火未遂などの疑いで逮捕しています。付近の防犯カメラ映像などから、県警は逮捕した組員が実行犯で、組長の一ノ宮容疑者らの組織的犯行とみています。福岡県内では神戸山口組と六代目山口組の抗争とみられる事件が相次いでおり、福岡県警は警戒を強めています。県内では福津市で8月、この組長の事務所に乗用車が突っ込んで塀の一部などを損壊し、一ノ宮容疑者とは別の組の六代目山口組系組員2人が逮捕、起訴されたほか、9月には福岡市東区の六代目山口組系組長宅の車庫に、トラックが突っ込む事件が起きています。警察庁によると、警察当局が六代目山口組と神戸山口組が抗争状態と判断した2016年3月から2021年末までで、23都道府県で86件の抗争事件が発生しています。また、堺市にある神戸山口組中野組事務所に乗用車が突っ込んだ事件で、逮捕された六代目山口組系組員の運転する車のエアバッグが作動していなかったといい、低速で突入したとみられ、大阪府警は建物の破壊や中野組組員に危害を加えるためではなく、神戸山口組に対する威嚇目的だったとみて調べているとのことです。事件は11月12日午前2時50分ごろ発生、容疑者は車を衝突させて事務所前にある車止めのポールを壊し、ハンマーで玄関扉のガラスを割ったなどとして、建造物損壊などの容疑で逮捕されました。中野組組長は、神戸山口組の実質的なナンバー2とされ、事務所は数年前から使われておらず、府警は容疑者が使用状況を事前に把握していた可能性もあるとみています。

また、神戸山口組から離脱したとされる侠友会と宅見組の取扱いについては、警察としては、偽装離脱の可能性も含め慎重に見極めているとされます。週刊誌の報道ですが、以下、抜粋して引用します。

《暴対法の規制は継続》「独立は認めない」神戸山口組から離脱した侠友会と宅見組に警察当局は「内紛は一時的なものかもしれない」(2022年11月12日付文春オンライン)
山健組、池田組の脱退については、6代目山口組が引き起こす事件に対して、「理由は不明だが、神戸山口組組長の井上邦雄が返し(報復)を許さなかったためではないか」(警察幹部)とされる。こうして勢力は減少する一方だった。2022年夏になって、さらに侠友会と宅見組が神戸山口組を脱退することになり、暴力団対策法上の規制の対象外の独立組織といった主張がなされるのではないかという問題が持ち上がった。だが、組織犯罪対策を担う警察当局の幹部は、暴力団組織の内紛や軋轢などによる独立宣言に振り回されることはないという立場を強調した。「神戸山口組で起きている内紛のような出来事は把握している。しかし、勝手に脱退だ、独立だと宣言しているとしても、内紛は一時的なものかもしれないし、すぐに元に戻ることもない訳ではない。いずれにしても侠友会と宅見組については、依然として神戸山口組の傘下組織として暴力団対策法の規制の対象とする」…「池田組や山健組が離脱したと書状を回したりしてアナウンスしていることは承知している。情報収集をしっかりして判断する。偽装かもしれないし現状では池田組と山健組についてはいまだに神戸山口組を離れているとは考えていない。暴対法上の指定暴力団としての規制の効果は継続している」だが、警察による情報収集や動向の把握の結果、もはや池田組、山健組ともに神戸山口組の傘下組織ではなく、完全に独立した組織として活動していることが確認されたのである。慎重な情勢の見極めの結果、岡山県公安委員会は2021年9月、池田組を独立組織として認定。11月には池田組を指定暴力団としての要件を満たしているとして指定するに至っている。…「山健組についても池田組同様に指定暴力団として指定する作業を進めていたが、6代目側に復帰したため、指定作業はそこで不要となった。山健組の神戸(山口組)からの脱退も驚いたが、敵対する6代目(山口組)への復帰はさらに驚かされた

国家公安委員会は、暴力団対策法に基づき、道仁会(福岡県久留米市)、双愛会(千葉県市原市)、浅野組(岡山県笠岡市)、親和会(高松市)について、指定暴力団に再指定するための要件を満たしていると確認、いずれも11回目の指定で、期間は3年間で、4県の公安委員会による手続きを経て、官報で公示されます。警察庁によると、構成員は2022年9月現在、道仁会が約380人、双愛会が約100人、浅野組が約60人、親和会が約40人とされます。

前回の本コラム(暴排トピックス2022年11月号)で取り上げた王将社長射殺事件ですが、その後も、いくつか新たな情報が出ています。全体像を決定づけるようなものではないにせよ、こうしたピースが全体像を形づくっていくものであり、前回指摘したとおり、「真相解明は緒に就いたばかり」であることに変わりはなく、今後の展開を期待したいと思います。以下、最近の報道から、いくつか紹介します。

NHKクローズアップ現代「王将社長射殺と工藤会 事件の“謎”に迫る」(2022年12月2日放送)
「警察は、決定的な証拠や証言がない中で、会社が公表した調査報告書の内容に注目しています。当時、大東さんの周りで何が起きていたのか、全容解明に向けた捜査を始めたばかりです。事件当時の複数の役員から改めて任意で事情を聴いた他、この取り引きを主導したと見られる創業家出身の元役員らの自宅を関係先として捜索するなどして慎重に調べています。」…王将と取り引きがあった企業グループ 上杉昌也元代表「金融機関も含めて取引先も離れていくような状態で、とにかく反論のしようがない、闘いようがない。こうして皆さんに意を決して、いま表に出るべきじゃないかなと。そう覚悟して、きょうはお会いしているわけです。何が不適切なのか、取引方法なのか。これだけ高額な金額が一私企業の中から行方不明になっていて、当事者として指摘されている私に対して何の調査もない、何の確認もない、そういう書類の作成だったと思います」…取材班「工藤会との接点は?」…上杉昌也元代表「全くないわけではない。私は地元でゴルフ場を経営しておりましたので、どういう理由かはわかりませんが、ゴルフに何回かお見えになったことを認識しております。ただし、深いつきあいはありません。逮捕されているといわれる田中氏は面識はありませんし、なぜそういう事態になったのか、事実関係がはっきりしているのか、それについてはすごい疑問を思っております」…取材班「事件との関わりは?」…上杉昌也元代表「全くありません」…「上杉元代表は、取り引きがあったことは事実だとした上で「王将側から持ちかけられたもので金額も水増しされている。一方的に自分を悪く見せる内容の報告書が公表されたことで、警察に疑われてしまった。事件への関わりはない」などと話しています。」…「一方で、上杉元代表との取り引きを主導したとされる創業家の元役員の弁護士に取材しました。弁護士は「事件や容疑者の逮捕についてコメントしない」としています。」…「京都府警は、これまでのべ26万人以上の捜査員を投入し、現場に残された資料の鑑定や流通ルート、防犯カメラの映像などをしらみつぶしに調べ、執念の捜査で逮捕にこぎつけました。状況証拠を積み重ね、田中容疑者の関与は立証できるという立場です。」…「ここからは、事件の背後関係をどう解明できるかが最大の焦点となります。今回、容疑者の逮捕という新たな局面に入ったことで、これまでに分かっていなかった証拠や証言が得られる可能性があります。暴力団組織の関与の有無や、9年という時間の経過を考えれば難しい捜査になることが考えられますが、企業のトップはなぜ殺害されたのか、警察がどこまで全容を解明できるかが注目されます。」
「ヒットマン」が問う捜査の力 王将事件でも追及に壁(2022年11月29日付日本経済新聞)
「餃子の王将」を展開する王将フードサービスの社長だった大東隆行さんが2013年に射殺された事件で、京都地検は特定危険指定暴力団、工藤会系の組幹部を殺人などの罪で起訴した。この幹部と大東さんとの間に、直接的な接点は確認されていない。組幹部は殺害の実行役であり、その背後に殺害を依頼・指示した「真の主犯」がいる―。同地検や京都府警はこうみている。だが発生から9年に及ぶ捜査を経てもなお、事件の全体像は不明のまま。起訴状では、組幹部は「氏名不詳者らと共謀し」と記された。事件の動機や背後関係などの解明は、今後開かれる裁判や、継続捜査の結果を待つしかない。…組織犯罪としての殺人事件の場合は、組織の意を受けた実行犯=ヒットマンが介在する。ヒットマンは被害者にとっては本来、第三者。交友関係をたどっても割り出すことはできず、捜査は難しくなる。…そもそも犯人と被害者の間に面識のない犯罪では、以前から捜査が難航する例が目立っていた。性犯罪などでの「通りすがり」の事件などもそうだ。かつては人間関係のない事件は、「犯人のミスや偶然がなければ解決は難しい」というのが実態だったともいえる。それが近年、防犯カメラや携帯電話な どが普及し、それらがもたらすデータを分析する警察の能力や体制が整うことによって、捜査手法は劇的に変わりつつある。…主要国にならい2018年に導入された日本版の司法取引では、殺人事件は制度の対象外となった。…諸外国に比べて実施の要件が厳しい通信傍受や、日本では認められていない会話傍受についても、適正な手続きをとりながら拡充・導入する必要性・妥当性を検討していくべきではないだろうか。…捜査員が身分を偽って犯罪組織に潜入するといった「仮装身分捜査」も欧米の主要国では用いられており、警察庁もこうした捜査手法についての研究を行っている。「プロ」が仕掛ける犯罪に、捜査のプロが太刀打ちできないのであれば、体感治安は損なわれる。…企業や地域、社会からの排除機運の高まりで、暴力団勢力は大きく減りつつある。一方で特殊詐欺への関与や、「半グレ」と呼ばれる準暴力団グループとの連携がみられるなど、活動の多様化・不透明化も進む。ヒットマン型の事件を防ぐという面からも、暴力団対策は警察の最重要課題であり続ける。
「王将」社長射殺で組幹部起訴 2つの最新鑑定決め手に(2022年11月20日付日本経済新聞)
府警が依頼した燃焼状況などの分析で専門家はぬれた路面で火が消えたとの見方を示し、「事件当日は小雨が降っており、現場で消されたたばこと推定できる」との鑑定結果をまとめた。法科学鑑定研究所の山崎昭代表は「正確な鑑定のため、再現実験を地道に繰り返したのだろう」とみる。精度を上げるためにたばこの吸い方の癖や捨て方までも押さえた上で実験している可能性があるという。もう一つが「歩容認証」と呼ばれる手法。山科区内の大東さん宅付近の防犯カメラには前日、田中被告と似た男が映っていた。映像から歩き方や体形を数値化した上で、歩行する被告を記録した過去の映像と突き合わせて解析。「同一人物の可能性が高い」と結論付けた。歩容認証は2014年の警察白書で「新たな個人識別法」として、マスクなどで顔を隠している場合などに有効な手法と紹介された。通常は歩く姿の映像からシルエット(影絵)を抽出し、特徴を数値化して複数の映像に映った人物が同一かどうかを比較する。最近は人工知能(AI)を使ったディープラーニング(深層学習)の進展で、2歩分の映像があれば99%の精度で識別可能とされる。府警幹部は「今回の事件では、鑑定技術やノウハウの進歩が容疑者の絞り込みにつながった。今後、最新の科学技術を生かした鑑定などが果たす役割はますます大きくなる」と話している。
実行役起訴で組織の関与は…工藤会、創業家側への捜査続く 王将社長射殺(2022年11月18日付産経新聞)
捜査当局が注視するのが、創業家が絡む不適切取引と、その解消を巡る一連の動きだ。事件後に王将が設置した第三者委員会の報告書によると、王将は平成7~13年、専務兼経理部長だった創業者次男の主導で、長年付き合いのあった福岡県を拠点とする企業グループの元経営者と不動産売買などを繰り返した。多くに取締役会の承認や稟議(りんぎ)がなく、「経緯や経済合理性が明らかではない」(第三者委)という不明朗なもので、王将側から200億円超が流出。約176億円が未回収となって、王将は一時経営危機に陥った。「私が解決せなあかん」当時を知る元従業員は12年に4代目社長に就いた大東さんがそう決意し、負債処理や元経営者との関係解消、創業家の影響力の排除に腐心していたと振り返る。だが東証1部上場を目指していた24年、大東さんら経営陣と、取締役への復帰を求める創業家側の対立が深刻化。混乱収拾のため経営陣は元経営者に仲介を依頼したが、次男側が元経営者と王将の関係が続いていると東証に暴露する”泥仕合”に発展したという自力上場を断念せざるを得なくなった大東さんらは一連の問題点をまとめた報告書を作成し、25年9月の取締役会にいったんは提出した。しかし元従業員によると、一部の役員以外は内容を十分把握できないうちに回収され、公表されないまま12月に事件は起きた。…田中被告の逮捕後も、合同捜査本部は元経営者や創業者長男らへの任意聴取、関係先の捜索を実施。不適切取引やその後の動きと事件の関係性に着目している。しかし、取引の実情を最も知るとされる次男は海外に長期滞在しているとみられ、聴取の見通しも立っていない。田中被告の所属する工藤会系組事務所の捜索でも、組織的な関与を裏付ける証拠や証言は得られなかったもようだ。「工藤会は『恐怖』による服従が徹底されている」。福岡県警の元捜査幹部は、企業や市民を標的に数々の暴力事件を起こした武闘派組織の統制力はいまだ侮れないとして証言を得る困難さを指摘する。ある府警関係者は「捜査はまだスタートライン」と話し、別の捜査幹部は「全容解明が捜査の目的。引き続き背後関係を捜査する」と強調した。
工藤会トップへの死刑判決、「餃子の王将射殺」起訴判断に影響か(2022年11月18日付毎日新聞)
「餃子の王将」を展開する王将フードサービス社長だった大東隆行さん(当時72歳)が2013年12月に射殺された事件で、京都地検は18日、北九州市に本部を置く特定危険指定暴力団・工藤会の系列組幹部、田中幸雄容疑者(56)を殺人罪などで起訴した。事件と田中被告をつなげる直接証拠はないとされるが、地検は間接的な状況証拠の積み重ねで有罪の立証は可能と判断、起訴に踏み切ったとみられる。…市民襲撃すら辞さないとされる工藤会の強硬路線は、組織内部での秘密保持能力への絶対的自信が背景にあったとされる。事件に関わる情報を外部に漏らせば、組員自身の命のみならず家族の身すら危ういと組員らを恐れさせ、工藤会は暴力団関係者の中でも「鉄の結束」と評された。福岡県警などの捜査当局側から見れば攻めにくい相手だった。そして工藤会の中では、バレない限りは一般市民を襲ってもかまわないという論理が成り立ちえたはずだ。だが、工藤会を取り巻く環境は21年8月の福岡地裁判決で大きく変わった。直接証拠がなかったが、工藤会の強固な組織性を重視し、推認を重ねて組織のトップと実行犯との共謀関係を認定し、極刑を言い渡した。野村被告は控訴しているが、工藤会という組織を崩壊させるという意思すら感じる司法判断だった。…田中被告が捜査線上に浮上したのは比較的早かったのだろうが、直接証拠がなく、捜査は難航しているとされた。それが事件の発生から約9年を経て急転し、逮捕・起訴に至った。福岡地裁判決の影響が大きかったのではないか。直接証拠など有力な証拠がなくても、工藤会の事件であれば推認を重ねて有罪が言い渡される。検察当局は起訴をためらわなくなったのではないか。工藤会を崩壊に追い込めるかもしれない。だが、刑事司法としては危うい手法かもしれない。公判で田中被告が実行役であるとするどんな証拠関係が明らかになるのか、注視する必要がある。

前回の本コラム(暴排トピックス2022年11月号)でも述べたとおり、「事実は小説よりも奇なり」、「事実は1つだが、真実は人の数だけある」とは危機管理を行ううえで重要な心構えです。これまで見てきたとおり、相反する2つの構図において、両者は自らの立場から見える(見せたい)「真実」を「事実」であるが如く語っている(示している)に過ぎず、「事実」は意外な姿を見せることもあることを念頭に置く必要があります。今後、「事実」に辿りつく道のりを私たちは見守ることになります。真相解明は緒に就いたばかりだといえます。

なお、この事件では、上場企業の社長が射殺されるという前例のないショッキングなものでしたが、この機会にあらためて反社リスクの恐ろしさをふまえ、反社リスク対策の見直しを実施していただきたいものです。2007年に犯罪対策閣僚会議申し合わせとして出された「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」をふまえ、組織として反社リスク対策に取り組むことが今や常識となりましたたが、当社が2021年に実施した「反社リスク対策に関する実態調査」から見えてきたのは、「反社リスク対策の実効性は、全体的に反社会的勢力の実態に対峙できるレベルにない」という現実です。例えば、反社チェックについては、反社会的勢力がどこに潜んでいるかを考慮することなく、表面的なチェックに止まり、存在の不透明化や手口の巧妙化を進める反社会的勢力の実態とのミスマッチが顕著だといえます。何のためのチェックなのかさえ理解できていない実効性の低い反社チェックや役職員の意識の低さは、むしろ反社会的勢力の活動を助長することになります。あらためて、経営トップはじめすべての役職員の意識面からの早急な改善、社内態勢の整備(内部統制システムの構築)が急務だといえます。そして、内部統制システムの限界は「人」です。反社リスクは「外部からの攻撃リスク」のひとつですが、役職員は、「防波堤」にも「接点」にもなりうるものであり、「境界防御」レベルが低く、「ゼロトラスト」の観点が組織として欠如していれば、反社会的勢力は容易に「人」を介して企業内に侵入してくるとの危機感は常に持ってほしいと思います。今回の事件で、大東氏は「殺されるかもしれない」と事件前に周囲に話していたにもかかわらず、上場企業の社長を守ることができなかったという、リスク認識・リスク管理の甘さが招く結果の事態の大きさについて、あらためて他山の石とすべきだといえます。

なお、例えば、反社リスクを理由として既存取引先との関係解消を図ろうとする場合、反社会的勢力からの攻撃を想定し備える必要がありますが、役職員をどうやって守るのか検討した会社はそれほど多くないと思われます。弁護士に対応を一任する、警察に保護対策を要請するにせよ、自助努力としての警備・警戒態勢の強化は企業の責務であり、十分な安全確保なくして担当者は戦えないし、戦わせるべきでもありません。また、「会社が守ってくれる」との意識が担当者の戦うモチベーションを支えることになるのです。役職員の安全は自社が責任を持って確保すべきものだと認識する必要があります。そのうえで、以下のような警備上の検討ポイントを参考にしていただきたいと思います。

  • 対象事業所等の施設警備
  • 役員や対応担当者の身辺警護
  • 役員や対応担当者の自宅周辺の警備
  • 役員や対応担当者の家族の警備
  • 事業所内の盗聴調査

また、役員や対応担当者の安全の確保等の面からは、以下のような警戒対応も視野に入れる必要があします。さらに、危機管理会社のような専門家による社内対応・対外的対応に関する全般の支援を得ることも、実効性を高めるうえでは重要な選択肢と言えると思います。対応担当者の教育や各種対応策の実行に関するアドバイスなど、専門家ならではの視点からのサポートは有事の際に心強いといえます。

  • 通退勤ルートの変更(時間やルートを固定しない)
  • 安全な宿泊場所の確保
  • 特に対応担当者のメンタル面でのサポート
  • 対応担当者の複数確保と交替制
  • 位置発信機器等の携帯、定時連絡の履行
  • 事業所内の物理的安全管理措置(施錠、PCや書類等の管理など)
  • 事業所内外での通信セキュリティ面の配慮(PCや携帯電話等の盗難防止など)
  • (私的なものも含め)SNS等の利用の中止
  • 書面等の事業所外への持ち出し禁止

本コラムでは組事務所の撤去や事務所使用差し止めといった情報を紹介していますが、その後の展開は難しい問題もあります。その辺りを解説した2022年11月27日付産経新聞の記事「山口組分裂抗争8年目いまだ更地にできない組事務所の裏事情」は、よくまとまっていることから、以下、抜粋して引用します。

暴力団排除の取り組みが全国で広がる中、組事務所を狙った抗争事件が全国で相次いでいる。組事務所は「対面での人間関係を重んじる暴力団にとっては欠かせない」(捜査関係者)。だが、周辺住民にとっては日常生活を脅かしかねない存在だ。近年は暴力団対策法で組事務所の使用や新設が厳しく制限され、排除の動きが強まっている。使用を制限されている暴力団側も行政などの仲介で売却を模索するが、一筋縄ではいかない事情がある。…ビルが建つのは、暴対法で特定抗争指定暴力団が事務所を新設することが禁止されている「警戒区域」。このビルの一室に事務所を新設したとして、大阪府警捜査4課が同法違反容疑で特定抗争指定暴力団山口組系3次団体の「柳川興業」会長の劉誠二容疑者(49)を逮捕したのは10月のことだった。この組は元々、大阪市浪速区に事務所を構えていたが使用が制限されており、昨年7月ごろから新事務所を使っていたとみられる。定例会が開催され、上位団体幹部の出入りも確認されたという。…組事務所への襲撃は、白昼堂々起きることもあり市民生活にとって脅威だ。特定抗争指定暴力団が事務所を構える地域では、行政などの呼びかけで住民側が使用を差し止めを求めて提訴する動きも広がる。都道府県の暴力団追放センターが住民の代わりに原告となり、全国で十数件の差し止めが認められている。ただ、使用を差し止めてもそこが組事務所であるという事実に変わりはない。ある捜査関係者は「訴訟は有効な一手だが、建物が残る限り抗争の標的となる可能性は高い」と指摘。「組事務所を完全に撤去するには越えないといけないハードルがある」と明かす。完全な撤去とは事務所を売却し、暴力団とは無関係な建物とすることを意味する。使用を制限されていても固定資産税などの維持費がかかるため、暴力団側が手放すことを希望するケースも少なくないという。ただ、組事務所の売買には特有の難しさがある。暴排に取り組む業者は取引を敬遠。暴追センターなどの仲介で買い手が見つかっても組と無関係であることを慎重に見極める必要があり、売買は容易ではない。…行政が中心となり、組事務所を一掃した”成功例”もある。兵庫県尼崎市では9月、山口組分裂時に8カ所あった暴力団関連施設がゼロになった。市内では分裂後、神戸山口組幹部が自動小銃で殺害されるなど凶悪な事件が相次いで発生。市はふるさと納税を活用するなどして予算を計上し、訴訟や事務所の買い取りを推進した。暴排に長年携わってきた垣添誠雄弁護士は尼崎市の取り組みを「官民が連携して取り組むモデルケースとなった」と評価。「組事務所の撤去、その先にある暴力団の解体を目指して、行政が積極的に介入して取り組みを強化すべきだ」と話した。

暴力団等反社会的勢力を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 無登録で外国為替証拠金取引(FX)の投資を募ったとして、福岡、沖縄両県警の合同捜査本部は、自称自営業の容疑者を金融商品取引法違反(無登録営業)容疑で逮捕しています。捜査本部によると、容疑者は顧客約100人から出資を受け、1億円超の手数料などを得たとみられており、工藤会とも親交があるとされ、捜査本部はこれが工藤会の資金源になったとみて全容解明を進めるとしています。報道によれば、容疑者は証券会社の投資用口座に出資金を振り込ませると、一定の手数料を受け取れる仕組みを悪用、今回の5人分の手数料などは計約400万円で、工藤会壊滅を目指す「頂上作戦」を進める福岡県警が資金源を捜査する中、容疑者と工藤会幹部との接点が浮上したといいます。
  • 暴力団の露店経営への関与を隠した虚偽文書を露天商らから主催者に提出させ、沼津市内で開催された花火大会の出店権利を不正に得たとして、裾野、御殿場、沼津、三島各署と静岡県警捜査4課は、詐欺の疑いで六代目山口組藤友会組員2人を含めた計7人を逮捕しています。県警は露店の売り上げが暴力団組織の資金源になっていたとみて、全容解明を進めるとしています。報道によれば、第75回沼津夏まつり実行委員会に対し、暴力団とは関係ない旨を記載した書類を不正に提出するなどし、出店の権利をだまし取った疑いがもたれています。「沼津夏まつり・狩野川花火大会」は7月30、31の両日に3年ぶりに開かれ、7人は2グループに分かれ、綿菓子やリンゴあめなど計10店の露店を出していたといいます。花火大会などに暴力団や暴力団が経営する露天商が出店することは静岡県暴排条例などで禁じられており、主催者や関係組合は、出店者側に暴力団と関係ないことを約束する「誓約書」や「出店申込書」「本人確認書」を提出させていました。
  • 2022年7月、静岡県沼津市の狩野川花火大会で実質の経営者が暴力団員であることを隠し、不正に露店を出店する権利をだまし取った疑いで、静岡県東部の露店商を取り仕切る「県東部イベント商業協同組合」理事長が逮捕されています。報道によれば、理事長は2022年7月に開かれた「沼津夏まつり・狩野川花火大会」で、すでに逮捕されている暴力団員らと共謀し、露店の実質経営者が暴力団員であることを隠して出店する権利をだまし取った疑いがもたれています。狩野川花火大会は独自のルールで暴力団関係者らの出店を禁止しており、理事長は露店商を取り仕切る組合のトップで、沼津夏まつりでは各店舗から暴力団とは関係がないという誓約書を受け取り、それをチェックしたうえで夏祭りの実行委員会に提出していましたが、この際に暴力団が関与する店舗の存在を認識しながら、それを黙認していたとみられています。露店の1日の売り上げは多いところで百万円以上になるといい、県警は売り上げが暴力団の資金源になっていたとみていますが、10年以上理事長を務め、県東部の複数の祭りに関与していることから、さらに事件は拡大する見込みといいます(なお、2022年8月15日から17日に開催された「三嶋大祭り」でも同様の構図で事件が摘発されています)。暴力団と祭りの関係は長年指摘されてきた一方、実質的に暴力団が関わっていることを立証するのは難しく、沼津夏まつり実行委は、「露店出店に係る細則」を定めて反社会勢力との関係を禁じる条項を盛り込み、暴力団と一切関係していないとする誓約書の提出を出店側に求めてきました。誓約書まで提出させる祭りは県内では数少ないが、そうした厳しい取り組みが摘発につながったともいえます。
  • 東京・池袋の雑居ビル内で賭博場を開いたとして、警視庁国際犯罪対策課は、賭博開帳図利などの容疑で、いずれも中国籍の会社員ら6人を現行犯逮捕しています。客4人も賭博容疑で現行犯逮捕されています。容疑者は準暴力団「チャイニーズドラゴン」の関係者とみられ、同課は売り上げ計約4200万円が組織の資金源になっていたとみて調べています。この事件のように、昨今、チャイニーズドラゴンが、「賭博」に、積極参入している現状が明らかになっています。暴力団にとっては、伝統的資金獲得活動の一つである賭博ですが、以前と比べると、ジリ貧の状態で、警察庁によると、暴力団対策法施行前の1990年に、暴力団絡みの検挙件数で最も多かったのは、「覚せい剤取締法違反」で全体のおよそ2割弱を占め、次いで「賭博」「ノミ行為」が合わせて16.5%、「詐欺」は3.1%と少なかったといいます。ところが、2020年には、トップは変わらず「覚せい剤取締法違反」で26%を超えているものの、「ノミ行為」に関しては0%、「賭博」も2%に及ばなかった一方、「詐欺」は9.5%にのぼりました。「賭博」「ノミ行為」が激減したのに対して、特殊詐欺などの「詐欺」が増加した形で、暴力団にとって割に合わないシノギとなった賭博に、チャイニーズドラゴンが、積極参入している点は不気味な動きであり、今後の動向に注意が必要といえます。

最後に、旧統一教会を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

被害1億円以上も17件…霊感商法・献金相談、8割が旧統一教会関連(2022年11月29日付読売新聞)
霊感商法や献金などについて、9月以降に日本弁護士連合会に寄せられた相談のうち389件を分析したところ、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に関する相談が約8割に上ったことが日弁連のまとめでわかった。うち128件(41%)は1000万円以上の被害を訴えており、日弁連は「高額献金の深刻さがうかがえる」としている。旧統一教会の問題を受け、日弁連は9月5日から電話とインターネットで相談を受け付けている。10月24日時点で全都道府県から計624件の相談があり、このうち東京三弁護士会の弁護士から報告を受けた389件を詳しく分析した。全体の約8割にあたる309件が旧統一教会関連の相談だった。被害者本人からの相談と親族からの相談がほぼ半々で、相談者の76%は50歳代以上だった。相談の内容は、献金などによる金銭被害の訴えが253件(81%)を占めた。このうち1000万円以上の被害の訴えが128件に上り、5000万円以上1億円未満が14件、1億円以上も17件あった。中には、「公証役場へ連れて行かれ、『自分の意思で献金した』などという書面を作らされた」「信者である母が自宅を担保に借金をして献金した」といった相談もあった。政府が今国会に提出予定の被害救済・防止新法では、不当な勧誘で寄付者を困惑させることや、借金による寄付金の調達要求などが禁止される見通しだ。日弁連は「引き続き実態調査を進める」としている。
旧統一教会、トラブル多く 法令順守宣言後も相次ぐ(2022年11月23日付時事通信)
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)は信者からの高額献金を巡り、これまで多くのトラブルを抱えてきた。過去の民事訴訟では2件の判決で教団の組織的な不法行為が認定されている。教団側は2009年に「コンプライアンス(法令順守)宣言」を出したと変化を強調するが、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)のメンバーは「現在も被害が確認されている」と反論する。全国弁連によると、宣言後の10~21年に全国弁連や消費生活センターに寄せられた被害相談は2875件。総額は計約138億円に上る。運勢鑑定をきっかけに10年に入信した女性は、総額約1600万円の献金をしていた。川井康雄弁護士によると、家系についての勉強や運勢鑑定と称して旧統一教会の名前を出さない勧誘が宣言後も続いているという。賠償を命じる判決も相次いでいる。元妻の献金により経済的損害を受けたとして、東京都内の男性が教団を訴えた訴訟では、東京地裁が16年、「信者の財産状態を把握した上で(男性に)無断で献金させている」として組織的な不法行為を認定し、約3400万円の支払いを命じた。元信者の女性が起こした別の訴訟でも、東京高裁が17年に同様の判断を示し、約1100万円の賠償を命じた。ただ、この2件の判決で認定された不法行為は、いずれも09年の宣言以前の行為が対象となっている。
旧統一教会 養子縁組31件…あっせん許可制後 教団は関与否定(2022年12月3日付読売新聞)
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)で繰り返されていた信者間の養子縁組を巡り、養子縁組のあっせん事業が許可制となった2018年4月以降の縁組が31件あったことが関係者への取材でわかった。教団は、縁組は信者同士によるもので、あっせんなどへの関与を否定しているという。教団が2日に厚生労働省宛てに発送した回答書に、こうした内容が盛り込まれた。教団は養子縁組あっせん事業の許可を受けておらず、厚労省は今後、縁組の実態を詳しく調べる。旧統一教会では1981年から今年5月までの41年間に745人の養子縁組が行われたとされる。関係者によると、このうち31件は18年4月以降に信者から報告があった分という。回答書には、縁組の成立年月日や信者の所属教会、縁組の経緯が一覧表で記載された。一方、教団はいずれも信者の個人的な関係を基に成立した縁組であり、「養子縁組の法的手続きには一切関わっていない」と説明した。養子縁組にまつわる金銭の授受もないとしている。旧統一教会側は取材に対し、「教団は信者の家族関係を把握するため、縁組の報告を求めていただけで、制度的なあっせんではない」と話した。
グレーゾーンの攻防が鍵 旧統一教会への質問権、教義は対象外(2022年11月22日付毎日新聞)
文化庁は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の調査に本格着手する。21日には、宗教法人法に基づいて「質問権」を初めて行使するため、宗教法人審議会に調査項目を諮問。教団の不法行為責任を認めた民事判決などを根拠に、裁判所への解散命令請求に向けた事実を積み重ねるとみられる。さらに根拠を補強するために、教団内の「養子縁組問題」に調査を広げようとする動きもある。…この日、了承された質問は、教団の財務状況や運営体制が分かる資料を求める内容で「法人のガバナンス(組織統治)的なことが、全然分からないから」(文化庁関係者)というのが理由だ。解散命令請求への事実を積み上げるにあたり、組織の基本的な情報を把握しながら外堀を埋めていく狙いがある。政府が請求に向けて念頭に置くのは、金銭トラブルなどを巡り、教団や信者らの「不法行為」が認められた民事判決だ。不法行為とは、故意や不注意で他人の権利を侵して損害を与えることだ。文化庁が把握している判決だけで22件あり、賠償額は少なくとも計約14億円に上る。政府はこれを重大な法令違反などが繰り返された公的資料として質問権行使の根拠としている。…教団による被害者の救済に取り組む全国霊感商法対策弁護士連絡会事務局長の川井康雄弁護士は「宣言後を含め教団内部で再発防止に向けた指導をしてきたかどうかも、教団の違法性を判断するうえで大きなポイントになる」と指摘する。ただ、高額献金や勧誘の手法などの調査は、憲法が保障する「信教の自由」に配慮し、宗教法人法が質問権の対象外とする「教義に関わる事項」に踏み込む恐れがある。ある文化庁幹部は「白黒ではないグレーゾーンの部分で、教団は『教義に関わる』と言ってくるかもしれない」と話す。宗教と法律の関係に詳しい近畿大の田近肇教授は「教義に踏み込みすぎず、どう質問をできるかが調査のポイントだ。質問権行使は初めてで、前例ともなるだけに請求ありきで質問内容を検討すべきではない」と指摘。「裁判所はゆるやかな証明では宗教法人の解散を認めないと思う。過去の民事判決だけでなく、新たな情報を集めて精査し、請求が可能かを判断する必要があるだろう」と語った。…質問権の行使が迫る中、新たに浮上したのが、旧統一教会の信者間の養子縁組を巡る問題だ。…あっせんを一定の目的で反復継続的にしていれば、無報酬でも違反する可能性があるが、同法が施行されたのはわずか4年前。公訴時効は3年で、さらに対象が限定される。教団は、過去に本部があっせんした事実を認めているが「20年ほど前に自然消滅した」と主張している。
旧統一教会、正体隠した勧誘は不適格 宗教的な相場観を(2022年11月17日付日本経済新聞)
1980年代から正体を隠した勧誘を続け、個人が信教を選ぶ自由を侵害してきた。霊感商法や破産するほどの多額な献金要求など、公共の福祉に反する活動の被害を訴える声も後を絶たない。宗教法人としての適格性に欠け、解散請求されても仕方のない団体だという認識は、宗教研究者の多くが共有している」「質問権の行使を通じ、問題のある団体の活動内容を精査して指導したり不法行為が甚だしい場合に法人格を取り消したりするのは、今後も宗務行政として責任を持って進めるべきだ。教団についていえばむしろ、長年やるべきことをやってこなかった不作為がある」「教団側が政治家に近づき、政治家も選挙に利用する関係はなくなるだろう。宗教法人としての優遇税制を利用できなくなる点も大きい。政治の世界では、法人格の剥奪で決着させたいという意識が働くかもしれない」「だが現実は違う。ゴールではなく、出発点だ。教団は任意団体になってもなくならないだろう。日本の会員数は6万~8万人ほど。彼らは教団側が決めた合同結婚で家族をつくっており、信仰を捨てる選択肢は取りにくい。本部職員や献身者と呼ばれる専従職員も数千人規模だ。彼らは組織の生き残り策を様々に取ってくる。再び法令違反が生じれば個別に警察が対応するのか、所轄官庁はどこなのか。解散後の議論は深まっていない」「危ないのは国民の間に宗教不信が広がり、安全・安心を求めて怪しい宗教は国に管理してもらいたいと望む気持ちが強まっている点だ。宗教への国の管理強化は広く思想信条への統制に道を開きかねない。戦前の実例がある
旧統一教会 救済新法案、閣議決定 寄付勧誘違反に刑事罰(2022年12月2日付毎日新聞)
法案では、個人から法人などへの寄付を規制の対象とした。その上で、寄付を勧誘する際の禁止規定を6類型設けた。具体的には、霊感の知見を使って不安をあおり、本人や家族の不利益を回避するには寄付が必要不可欠であると告げることの他、勧誘することを告げずに退去が困難な場所に同行したり、恋愛感情を利用して寄付しなければ関係が破綻すると告げたりすることも禁じた。また、過度な寄付で家計が破綻する場合もあるため、寄付の原資を調達するのに借金をさせたり、自宅や田畑などを処分させたりすることも禁止した。これらに違反し、国の措置命令に従わない場合は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金を科す刑事罰を設ける。国に虚偽報告をすれば50万円以下の罰金を科される。高額な寄付で宗教2世ら家族が貧困に陥るケースに対応するため、扶養されている子どもや配偶者についても寄付した本人に代わって返還を求めることを可能とする。ただし、将来受け取るべき分も含めた婚姻費用や養育費など扶養の範囲内に限る。寄付を求める法人には3点の配慮義務を課す。(1)個人の自由な意思を抑圧し、適切な判断が困難な状態に陥らせない(2)寄付者や配偶者、親族の生活の維持を困難にさせない(3)勧誘する法人名を明らかにし、寄付の使途を誤認させない―としたが、違反しても罰則はない。マインドコントロール(洗脳)下での勧誘行為は、禁止行為として規定せず、配慮義務として条文に盛り込むにとどめた。
救済新法案、「つけ込み型」も規制を 川井康雄弁護士(2022年12月1日付日本経済新聞)
救済新法は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の被害救済や防止にはほとんど役に立たないだろう。寄付の勧誘時に「個人を困惑させてはならない」とあるが、教団は困惑させるのではなく、正体を隠した不当な方法で教義を植え付け、その教義による責任感や使命感から献金が必要だと思い込ませるケースが多い。こうした正常な判断ができない状態に乗じた「つけ込み型」の勧誘を規制すべきだ。禁止行為にあたる勧誘は、重大な不利益を回避するために「寄付が必要不可欠と告げる」ことが要件となった。そのまま告げる必要はないとされるが、「不可欠」と明記された以上、取り消し対象は必要以上に限定されることになる。マインドコントロール下での寄付要求については、個人の自由な意思を抑圧しない配慮義務が設けられたが、すぐに取り消し権を行使できる「禁止行為」にしなければ抑止や救済の効果は望めない。いずれも修正が不可欠だ
救済一歩前進、踏み込みは不十分 河上正二東大名誉教授(2022年12月1日付日本経済新聞)
消費者庁の霊感商法対策検討会で報告書をとりまとめてから約1カ月半、不当な寄付勧誘を規制する内容の新法が整備されたのは一歩前進といえる。霊感商法による契約取り消し期間が最長10年に延長される点も評価できる。今国会での成立を目指す迅速さは被害救済という点ではプラスだ。一方で、踏み込みが不十分な点もある。勧誘行為の禁止規定は、消費者契約法の条文にならっただけで、巧妙な手口には対応できない。そもそも「取り消し」では本人が行使するまでは契約として有効。相手の状況につけ込んで不当に過大な利益を得る行為に該当する場合は、本人が取り消さなくても契約「無効」とすべきだ。現在、消費者に代わって、国が指定した特定適格消費者団体が事業者に対して集団被害を取り戻すことができる「被害回復裁判手続」がある。法整備に加えて、こうした現行制度についても広く周知した方がいい。様々な手口に対応し、被害者を救済しやすくするためにも、今後も不断に法制度の見直しを検討していってほしい。
旧統一教会被害者の救済法案作り 識者の目に映る「拙速さ」(2022年11月12日付毎日新聞)
岸田文雄首相は8日、悪質な寄付要求などを禁じる法案を今国会に提出する方針を明らかにした。具体的には、社会的に許容しがたい悪質な勧誘行為を禁止する▽悪質な勧誘行為に基づく寄付について取り消しや損害賠償請求を可能にする▽子どもや配偶者に生じた被害の救済を可能にする―という3点が法案の骨格となる。具体的な条文の作成作業に取りかかっているが、野党は悪質な寄付要求の温床となってきた「マインドコントロール(洗脳)」の定義の明確化や家族が献金の返還を申し出ることができる「特別補助制度」の創設、可処分所得を参考に寄付金の上限を設定することなどを求めている。こうした点がどこまで政府案に反映されるかが焦点だ。中でも最大の焦点は、マインドコントロールをどう定義するかだ。菅野氏は「核心に踏み込んだ野党の意欲は評価できる。マインドコントロールされているかどうかという主観ではなく、マインドコントロール状態を作り出したり、利用したりする客観的な行為を規制するという方向性は正しい」と指摘する。マインドコントロールを「心身に重大な影響を与え、自由な意思決定を困難にする行為」などと定義する野党案について「(旧統一教会の勧誘方法とされる)正体を隠した伝道や霊感トークを用いた献金要求などがこれに当たり得る」と評価する。どう定義するかは、罰則のあり方にも影響する。菅野氏は「民法上の救済と、犯罪として罰することでは要件の厳しさが違う。刑事罰は要件を(より)明確にすることが大原則だ」として政府案で検討されている刑事罰の導入に否定的だ。松本氏も「公益法人認定法で禁止されているような寄付を集める行為をしただけで罰則を設けるとしたら非常に厳しい内容だ」とした上で「行政庁の指示や命令に背いたら刑事罰を科す2段構えであれば、他の法令でもあり、おかしくない」と提案する。…両氏が共通して問題提起するのは、現在議論されていない宗教法人法の見直しだ。政府は、救済法案について公益法人認定法を参考に作成するとしているが、松本氏は「同法には公益認定の取り消しの制度があり、これを参考に、宗教法人法上の税制優遇を失わせることはできないか。宗教団体にとって最も効果的なやり方だ」と提案する。菅野氏も「他のさまざまな団体における献金問題についてはいまだヒアリングすらされておらず、立法の根拠が不明確だ。まずは宗教法人法を改正し、正体を隠して人の心に入り込み、自由意思を奪うような宗教法人の献金要求活動を禁止すべきでは」とする。
教団に質問権行使 違法行為の確認作業急げ(2022年11月26日付産経新聞)
調査には警察捜査のような強制力はなく、教団側の同意がなければ立ち入り調査もできない。限られた手段の中でも調査を徹底し、活動実態を解明してほしい。回答に不十分な点があればもちろんのこと、回答が返ってくる前であっても、必要に応じて追加質問を実施すべきである。文書でのやりとりでは限界もある。対面による質問も当然行うべきだ。教団側によると、質問の文書は届いたが、裁判になった事例や被害への対応などに関する質問はなかったという。旧統一教会の組織的不法行為や法的責任を認定した民事判決22件(損害賠償額計14億円以上)の精査が、組織性など3要素を確認する上で欠かせないのは言うまでもない。調査権の行使は前例がなく、手探りの部分もあるだろう。それでも被害の大きさや広がりを考えれば、解散請求を巡る判断に時間をかけてはならない。解散請求をした場合、教団側は最高裁まで争うことが想定され、そうなれば結論が出るまでに時間がかかる。地下鉄サリン事件などを起こしたオウム真理教は、解散請求から最高裁で解散が確定するまで約7カ月、霊視商法詐欺事件で幹部らが摘発された明覚寺(和歌山県)では約3年かかった。永岡文部科学相は「情報収集の途中であっても、解散命令を請求するに足る事実を把握した場合には速やかに請求することを検討する」と語っている。政府の意思を速やかに示すべきである。
旧統一教会 自公、新法案了承へ 救済法 政府、配慮義務提示(2022年11月29日付毎日新聞)
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題を巡り、自民党の消費者問題調査会などの合同会議は28日、政府が国会に提出する予定の被害者救済に向けた新法案を了承した。新法案は、不安をあおるなどの寄付勧誘行為を禁止したうえで、自由意思を抑圧しないなどとする配慮義務規定を盛り込んだ。29日の総務会で党として了承する。法案は、霊感を用いて不安をあおるなどした寄付の勧誘や、勧誘することを告げずに退去困難な場所へと同行させるといった行為などを禁止した。禁止行為があり、国の措置命令に違反した場合は、1年以下の懲役や100万円以下の罰金とする。国への虚偽報告は50万円以下の罰金を科す。さらに、罰則付きの禁止行為とは別に、法人の配慮義務として(1)個人の自由な意思を抑圧し、適切な判断が困難な状態に陥らせない(2)寄付者や配偶者、親族の生活の維持を困難にさせない(3)勧誘する法人名を明らかにし、寄付の使途を誤認させない―を明記した。・・・配慮義務規定に抵触しても刑事罰などが科されることはないが、岸田文雄首相は28日の衆院予算委員会で「配慮義務に反するような不当な寄付勧誘が行われた場合、民法上の不法行為の認定やそれに基づく損害賠償請求が容易となり、さらに実効性が高まる」と述べた。

2.最近のトピックス

(1)令和4年版犯罪被害者白書より

警察庁が令和4年版犯罪被害者白書を公表しています。以下、抜粋して引用します。

▼警察庁 犯罪被害者白書
▼令和4年版 概要
  • 損害賠償請求制度等に関する情報提供の充実
    • 警察においては、刑事手続の概要、犯罪被害者等支援に係る関係機関・団体等の連絡先等を記載したパンフレット「被害者の手引」等により、損害賠償請求制度の概要等について紹介している。
    • 法務省においては、犯罪被害者等向けパンフレット「犯罪被害者の方々へ」や犯罪被害者等向けDVD「あなたの声を聴かせてください」により、損害賠償命令制度について紹介している。
    • 同制度については、平成20年12月の制度導入以降、令和3年末までに3,722件の申立てがあり、このうち3,628件が終局した。その内訳は、認容が1,641件、和解が849件、終了(民事訴訟手続への移行)が491件、取下げが422件、認諾が144件、却下が52件、棄却が8件等である。
    • また、検察庁においては、犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律に基づき、没収・追徴された犯罪被害財産を被害者等に被害回復給付金として支給するための手続(被害回復給付金支給手続)を行っている。2年中は、13件の同手続の開始決定が行われ、開始決定時における給付資金総額は約5億6,541万円であった。
  • 犯罪被害給付制度の運用改善
    • 犯罪被害給付制度(以下「犯給制度」という。)とは、通り魔殺人等の故意の犯罪行為により不慮の死を遂げた被害者の遺族又は身体に障害を負わされた犯罪被害者等に対し、社会の連帯共助の精神に基づき、犯罪被害等を早期に軽減するとともに、犯罪被害者等が再び平穏な生活を営むことができるよう支援するため、犯罪被害者等給付金を支給するものである
    • 警察庁においては、犯給制度の事務担当者を対象とした会議を開催するなどして、仮給付金支給決定の積極的な検討や迅速な裁定等の運用改善について都道府県警察を指導している。また、パンフレット、ポスター、ウェブサイト等を活用して仮給付制度を含む犯給制度の周知徹底を図るとともに、同制度の対象となり得る犯罪被害者等に対し、同制度に関して有する権利や手続について十分に教示するよう指導している。
    • 令和2年度における犯罪被害者等給付金の裁定金額は約8億2,500万円であり、3年度は約10億900万円であった。また、2年度における裁定期間(申請から裁定までに要した期間)の平均は約7.0か月、中央値は約4.7か月であり、3年度における裁定期間の平均は約9.3か月(前年度比2.3か月増加)、中央値は約6.4か月(前年度比1.7か月増加)であった。
  • カウンセリング等心理療法の費用の負担軽減等
    • 警察庁においては、公認心理師、臨床心理士等の資格を有する部内カウンセラーの確実かつ十分な配置に努めるよう都道府県警察を指導している。また、平成28年度から、犯罪被害者等が自ら選んだ精神科医、臨床心理士等を受診した際の診療料及びカウンセリング料の公費負担制度に要する経費について予算措置を講じ、30年7月までに、同制度が全国で整備された。さらに、同制度の趣旨を踏まえた実施要領を定めるなどして適切な運用を図るとともに、同制度の周知に努めるよう、都道府県警察を指導している。
    • 令和3年度中における、同制度の利用件数は2,033回であった。
    • 警察庁においては、同制度ができる限り全国的に同水準で運用されるよう、都道府県警察への指導を徹底していく
  • 地方公共団体による見舞金制度等の導入促進等
    • 警察庁においては、地方公共団体に対し、犯罪被害者等施策主管課室長会議や地方公共団体の職員を対象とする研修の機会を捉えて、犯罪被害者等に対する見舞金の支給制度や生活資金の貸付制度の導入を要請している。また、「犯罪被害者等施策情報メールマガジン」(犯罪被害者等施策に関する先進的・意欲的な取組事例をはじめとする有益な情報を関係府省庁、地方公共団体その他の関係機関等へ配信する電子メール)を通じ、これらの制度の導入状況等について情報提供を行っている。既に制度を導入している地方公共団体及び当該制度の概要については、本白書に掲載しているほか、「地方公共団体における犯罪被害者等施策に関する基礎資料」として、警察庁ウェブサイト「犯罪被害者等施策」にも掲載している。
    • 令和4年4月現在、犯罪被害者等に対する見舞金の支給制度を導入しているのは13都県(前年比5県増加)、12政令指定都市(前年比3政令指定都市増加)、464市区町村(前年比87市町村増加)であり、生活資金の貸付制度を導入しているのは3県、10市区町である。
    • 警察庁においては、できる限り全国的に同水準で見舞金の支給制度等が導入されるよう、同制度等の導入を要請していく。
  • 性犯罪・性暴力被害者のための相談体制の拡充について
    • 性犯罪・性暴力は、重大な人権侵害であり、決して許されるものではありません。
    • 性犯罪や性暴力については、被害者の心身の負担を軽減するため、被害直後から相談を受け、緊急避妊薬の処方、証拠採取等の医療的な支援、心理的支援等を可能な限り一か所で提供することが必要であり、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターは、地域における被害者支援の中核的な役割を担っています。
    • ワンストップ支援センターの令和2年度の相談件数は、前年度に比べ、約1.2倍、3年度上期は前年度同期の約1.3倍に増加しており、相談体制の充実は、重要な課題です。
    • このため、内閣府では、2年10月から、ワンストップ支援センターの全国共通の短縮電話番号「#(シャープ)8891」(はやくワンストップ)を導入しました。「#8891」をダイヤルいただければ、最寄りのワンストップ支援センターにつながります。
    • また、3年10月からは、性犯罪・性暴力の夜間の相談や緊急対応のため、これまで夜間休日には対応していないワンストップ支援センターの運営時間外に、被害者からの相談を受け付け、ワンストップ支援センターと連携して支援する「性暴力被害者のための夜間休日コールセンター」を設置したところです。
    • さらに、若年層等が相談しやすくなるよう、チャットで相談できる「性暴力被害者のためのSNS相談Cure time(キュアタイム)」を実施しています。
    • 内閣府では、「被害者ファースト」の理念の下、ワンストップ支援センターの全国ネットワーク化の推進、性犯罪・性暴力被害者支援のための交付金を活用した相談員の処遇改善、ワンストップ支援センターの周知徹底等、ワンストップ支援センターの支援体制の強化に努めているところであり、引き続き、性犯罪・性暴力被害者のための相談体制の一層の充実を進めてまいります。
  • 児童虐待の防止及び早期発見・早期対応のための体制整備等
    • 警察においては、児童虐待の早期発見等に資する教育訓練を徹底し、児童虐待担当者の専門的知識・技能の向上に努めるとともに、都道府県警察本部に「児童虐待対策官」を設置し、児童相談所等の関係機関との連携や児童虐待の疑いがある事案等を認知した際の初動対応、被害児童の心理を踏まえた事情聴取等の児童虐待に係る専門的対応に関する指導教養等に従事させるなど、児童虐待への対応力の一層の強化を図っている。
    • 文部科学省においては、地域における児童虐待事案の未然防止等に資する取組として、子育てに関する悩みや不安を抱えながら、自ら学びの場や相談の場等にアクセスすることが困難な家庭等に配慮しつつ、地域の多様な人材を活用した家庭教育支援チーム等による保護者に対する学習機会や情報の提供、相談対応等、地域の実情に応じた家庭教育支援の取組を推進している。
    • また、地域において児童虐待事案に早期に対応できるよう、地域における家庭教育支援関係者や放課後子供教室等の地域学校協働活動関係者等が児童虐待事案への対応に当たって留意すべき事項をまとめた「児童虐待への対応のポイント~見守り・気づき・つなぐために~」(令和元年8月作成、令和3年3月一部改訂)を活用するよう周知している。
    • さらに、同年11月の児童虐待防止推進月間に先立ち、児童虐待の根絶に向けた文部科学大臣のメッセージを、子供の育ちに関わる全国の学校・地域の関係者や保護者に加え、全国の子供たちに対しても発信した。
    • 厚生労働省においては、「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策」(平成30年7月20日児童虐待防止対策に関する関係閣僚会議決定。以下「緊急総合対策」という。)に基づき、子供の安全確認ができない場合における立入調査の実施等、全ての子供を守るためのルールの徹底等に取り組んでいる。また、緊急総合対策を受けて決定された「児童虐待防止対策体制総合強化プラン」(平成30年12月18日児童虐待防止対策に関する関係府省庁連絡会議決定)に基づき、令和4年度末までに、児童相談所の児童福祉司を平成29年度(約3,240人)から2,020人程度増員するとともに、子ども家庭総合支援拠点を全ての市区町村に設置することとしている。なお、児童福祉司等の増員については、同プランの計画を1年前倒しし、約5,260人の確保を目指すこととしていたところ、児童虐待に関する相談対応件数が引き続き増加している状況等を踏まえ、令和4年1月20日、増員の目標を5,765人とすることとし、この目標を達成する見込みである。5年度以降の児童相談所の体制については、「児童虐待防止対策の更なる推進について」(令和4年9月2日児童虐待防止対策に関する関係閣僚会議決定)に基づき、児童相談所や市区町村の体制強化を計画的に進めていくため、児童虐待防止対策体制総合強化プランに代わる次期プランを4年中に策定することとしている。
    • さらに、虐待を受けたと思われる子供を発見した際等にためらわず児童相談所に通告・相談できるよう、児童相談所虐待対応ダイヤル「189(いちはやく)」を運用している。これまで、児童相談所に電話がつながるまでの時間を短縮するため、平成28年4月に音声ガイダンスの短縮を行うとともに、30年2月には携帯電話等からの着信についてコールセンター方式を導入するなどの運用改善を進めてきたところ、令和元年12月から、従来の「児童相談所 全国共通ダイヤル」の名称を「児童相談所虐待対応ダイヤル」に変更するとともに、新たに「児童相談所相談専用ダイヤル」を開設した。
    • その上で、「児童相談所虐待対応ダイヤル」及び「児童相談所相談専用ダイヤル」の通話料の無料化を順次行い、利便性の向上を図った
  • 犯罪被害者等の視点に立った保護観察処遇の充実
    • 地方更生保護委員会及び保護観察所の長は、これまでも、保護観察等の措置を執るに当たっては、当該措置の内容に応じ、犯罪被害者等の被害に関する心情、犯罪被害者等が置かれている状況その他の事情を考慮しているところ、改正更生保護法にその旨が明記されたことを踏まえ、一層適正な運用を図ることとしている。
    • 犯罪被害者等の被害に関する心情、犯罪被害者等が置かれている状況その他の事情を理解し、その被害を回復すべき責任を自覚するための保護観察対象者に対する指導に関する事実について、保護観察官又は保護司に申告し、又は当該事実に関する資料を提示することを、保護観察における遵守事項の類型に加える。
    • 地方更生保護委員会においては、これまでも、犯罪被害者等の申出に基づき、仮釈放等を許すか否かに関する審理において、犯罪被害者等から加害者の仮釈放等に関する意見等を聴取していたところ、生活環境の調整及び仮釈放等の期間中の保護観察に関する意見についても併せて聴取することが改正更生保護法に明記されたことを踏まえ、仮釈放等審理はもとより、生活環境の調整やその後の保護観察処遇をより一層適正に実施することとしている。
    • また、令和4年4月以降、収容中の特定保護観察処分少年について新たに設けられた退院審理についても、本制度の対象としている。
    • 法務省においては、保護観察所の長が、保護観察対象者に対し、具体的な賠償計画を立て、犯罪被害者等に対しての慰謝の措置を講ずることを生活行動指針として設定し、これに即して行動するよう指導を行うための運用指針を、4年3月に新たに策定し、当該指導の充実を図っている。
  • インターネット上の誹謗中傷等に関する取組
    • インターネット、特にソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を始めとするプラットフォームサービスにおける誹謗中傷に関する問題が深刻化していることを踏まえ、総務省では、インターネット上の誹謗中傷に対して、ユーザに対する情報モラル及びICTリテラシーの向上のための啓発活動、相談対応の充実に向けた連携と体制整備等に取り組んでいる。
    • ユーザに対する情報モラル及びICTリテラシーの向上のための啓発活動については、法務省、一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構及び一般社団法人セーファーインターネット協会と共同して、「#NoHeartNoSNS(ハートがなけりゃSNSじゃない!)」というスローガンの下でインターネット上の誹謗中傷に関する啓発を推進している。具体的には、特設サイトを開設し、相談窓口に関する情報等のSNS上のやり取りで悩む方に役立つ情報を提供するとともに、政府広報を含む様々な媒体を通じてこれらを用いた啓発を実施している。加えて、人気キャラクター『秘密結社鷹の爪』と、オリジナルキャラクター「ハートきゅん」がタイアップした動画・パンフレット等を作成し、総務省ウェブサイトで公開しているほか、総務省のSNSアカウントを活用した情報発信も行っている。
    • また、子育てや教育の現場での保護者や教職員の活用に資するため、インターネットにおける誹謗中傷等のトラブル事例とその予防法等をまとめた「インターネットトラブル事例集」を平成21年度(2009年度)から毎年更新・公表し、総合通信局等や教育委員会等を通じて、全国の学校等への周知を実施している。
    • さらに、誹謗中傷に関する内容を含む、青少年のインターネットの安全な利用に係る普及啓発を目的に、文部科学省、一般財団法人マルチメディア振興センター、通信事業者等の協力の下、18年度(2006年度)から児童・生徒、保護者、教職員等に対する学校等の現場での無料の出前講座「eネットキャラバン」を全国で開催している。令和2年度(2020年度)からは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を踏まえ、従来の集合形式に加え、リモート形式の講座も実施している。
    • 相談対応の充実に向けた連携と体制整備については、3年度(2021年度)から総務省の運営する「違法・有害情報相談センター」の相談員の増員等の体制強化を図るとともに、行政機関や地方自治体、民間団体の相談窓口との連絡体制を構築し、様々な主体との連携を進めている。また、インターネット上の書き込みにより誹謗中傷等の被害にあった場合における相談窓口の案内図を以下のとおり公表している。

(2)AML/CFTを巡る動向

前回の本コラム(暴排トピックス2022年11月号)でも取り上げましたが、マネー・ローンダリング(マネロン)の対策強化を盛り込んだ6つの改正法が参院本会議で可決、成立しています。今回、一括改正の対象となったものは、犯罪収益移転防止法のほか、国際テロリスト財産凍結法、外為法、テロ資金提供処罰法、組織犯罪処罰法、麻薬特例法といったマネロンに関連する法律です。犯罪収益移転防止法では、暗号資産(仮想通貨)交換業者に対し顧客情報の共有を義務づけることになりました。FATF(金融活動作業部会)からマネロン対策が不十分との指摘を受けたことを踏まえ、政府は暗号資産の送金に監視網を敷くことになります。犯罪収益移転防止法の改正で暗号資産を「トラベルルール」と呼ぶ送金ルールの対象に加えることになり、暗号資産交換業者が顧客から預かった暗号資産を別の業者に送る際、氏名や住所など顧客情報を共有するよう義務づけるもので、違反した場合は行政指導や是正命令を出し、従わない場合は刑事罰の対象となります(2023年秋までに施行予定)。FATFが各国にトラベルルールを導入するよう勧告していたことが背景にあり、米国やシンガポールなどはすでに法制化しています。また、暗号資産の一種でドルなどの法定通貨に価値を連動させる「ステーブルコイン」にも適用されることになります。その他、改正法には北朝鮮とイランの核開発関係者の国内資産の凍結や、税理士ら士業に「疑わしい取引」の確認を義務化することも盛り込まれました。

▼内閣官房(FATF勧告関係法整備検討室) 「国際的な不正資金等の移動等に対処するための国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法等の一部を改正する法律案」が閣議決定・国会提出されました。
▼国際的な不正資金等の移動等に対処するための国際連合安全保障理事会決議第千二百六十七号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法等の一部を改正する法律案 概要
  • マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策の強化
    1. 背景
      • 依然として厳しいテロ情勢や大量破壊兵器の開発等が継続するなど、国際社会及び我が国の安全への脅威が高まる中、日本は国際社会と連携しつつ、金融制裁措置等を実施。
      • 技術の進展に伴い、暗号資産等が違法な活動に利用されるリスクが増大。国際社会全体で対策の強化が必要
    2. FATFによる対日審査での指摘
      • FATFは、マネロン・テロ資金供与・拡散金融(大量破壊兵器の拡散に寄与する資金の供与)対策のための国際基準の策定・履行の審査を担う多国間の枠組み(1989年のG7アルシュ・サミットでの首脳間合意に基づき設立)。
      • FATF基準の遵守は、200以上の国・地域がコミット。国際社会では、グローバルスタンダードであるFATF基準を各国が遵守することにより、世界全体でのマネロン等対策の実効性の確保を図っている。
      • 第4次対日審査報告書(昨年8月公表)
        • 日本の対策を一層向上させるため、資産凍結措置の強化、暗号資産等への対応の強化、マネロン対策等の強化のための法改正に取り組むべきと勧告。
        • 日本を重点フォローアップ国として、指摘事項の改善状況を3年間毎年報告するよう義務付け。
    3. 速やかな対応の必要性
      • 対応が遅れた場合、例えば以下の問題が生じるおそれ。
        1. 日本との金融取引に対する懸念が強まり、国際金融センターとしての地位が低下する。
          • ※前回第3次対日審査(2008年公表)後、FATFは対応の遅れについて、日本を名指しで批判。英国と香港は1つ評価が上の通常フォローアップ国・地域。
        2. マネロン等対策で日本が抜け穴となれば、国際的な対応に支障が生じる。
          • ※暗号資産交換業者に関する一部義務については措置済みであるが、暗号資産取引に係るリスクに対応するためには更なる対応が必要。日本は2023年のG7議長国であり、マネロン等対策を国際的に主導すべき立場。
      • 上記勧告を踏まえ対応を強化するため、内閣官房よりFATF勧告対応法案(4省庁6法の一括法案)を臨時国会へ提出。
  • FATF勧告対応法案~(1)マネロン(2)テロ資金供与(3)拡散金融対策に係る国際基準への対応
    1. 資産凍結措置の強化
      1. 拡散金融への対応
        • 安保理決議で指定された大量破壊兵器拡散に関わる者が行う居住者間取引(国内取引)に対する資産凍結ができるようにする。(国際テロリスト財産凍結法)
    2. マネロン対策等の強化
      1. マネロン罪の法定刑引上げ
        • 犯罪収益等隠匿罪、薬物犯罪収益等隠匿罪等の法定刑を引き上げる。(組織的犯罪処罰法・麻薬特例法)
      2. 犯罪収益等として没収可能な財産の範囲の改正
        • 犯罪収益等が不動産・動産・金銭債権でないときも、没収を可能とする。(組織的犯罪処罰法)
      3. テロ資金等提供罪の強化
        • 各罰則について、資金提供罪等の対象として、現行の「公衆等脅迫目的の犯罪行為」と同等のものを条約の文言に合わせて追加するとともに、法定刑を引き上げる。(テロ資金提供処罰法)
      4. 法律・会計等専門家の確認義務等に係る規定整備
        • 法律・会計等専門家に係る取引時の確認事項に取引目的、法人の実質的支配者等を追加するとともに、疑わしい取引の届出義務に関する規定を整備する。(犯罪収益移転防止法)
    3. 暗号資産等への対応の強化
      • 前通常国会における暗号資産等への対応
        • 第208回通常国会において外為法を改正
        • 居住者・非居住者間の暗号資産取引に対する資産凍結を強化
      • 暗号資産等に係る更なる措置として早期に実施する必要
        1. 暗号資産等に係るトラベルルール
          • 暗号資産交換業者に対し、暗号資産の移転時に送付人・受取人の情報を相手方業者に通知する義務(トラベルルール)を課す。(犯罪収益移転防止法)
        2. 暗号資産交換業者等による資産凍結措置の態勢整備義務
          • 暗号資産交換業者、銀行等に対し、資産凍結措置の適切な実施のための態勢整備義務を課す。(外為法)
        3. ステーブルコイン取引への対応(資産凍結)
          • 新たな資産形態であるステーブルコインに関する居住者・非居住者間の取引に対する資産凍結を強化する。(外為法)
  • FATF勧告対応法案で改正予定の法律
    1. 国際テロリスト財産凍結法:拡散金融への対応(居住者間取引に係る資産凍結)
    2. 外為法:金融機関、暗号資産交換業者等による資産凍結措置の態勢整備義務・ステーブルコイン取引への対応(資産凍結)
    3. 組織的犯罪処罰法:マネロン罪の法定刑引上げ・犯罪収益等として没収可能な財産の範囲の改正
    4. 麻薬特例法:マネロン罪の法定刑引上げ
    5. テロ資金提供処罰法:テロ資金等提供罪の強化
    6. 犯罪収益移転防止法:暗号資産等に係るトラベルルール・法律・会計等専門家の確認義務等に係る規定整

なお、関連して、暗号資産を巡る規制強化の動向についての最近の報道から、抜粋して引用します。

仮想通貨、世界で規制強化の波 FTX破綻受け米で議論(2022年12月3日付日本経済新聞電子版)
世界が仮想通貨の規制を急ぎ始めた。米国では1日に開かれた上院の公聴会で米商品先物取引委員会(CFTC)のベナム委員長が投資家保護の仕組みの欠如を指摘。規制強化の議論が熱を帯びてきた。欧州や南米もルール策定に動いており、半ば野放図に拡大してきた仮想通貨への包囲網が狭まっている。「デジタル資産市場は期待するような基本的な保護が欠けている」。公聴会でベナム氏はこう語った。米国では「厳格で統一された基準がない中で市場が急拡大し、国民を大きなリスクにさらしている」と指摘した。米国では仮想通貨が有価証券か商品(コモディティー)かという区分をめぐる議論が続き、事業者の主たる監督当局も米証券取引委員会(SEC)かCFTCか明確にしてこなかった。主要な仮想通貨やそれらを原資産とするデリバティブ(金融派生商品)はCFTCが所管という流れができつつあったが、多くのトークン(電子証票)は法的な位置づけも規制の根拠となる法律も曖昧だ。FTXは顧客の資産を関連会社に流用し、大部分は返還のめどが立たないうえ、ずさんな経営実態も破綻するまで外部からうかがい知るすべはなかった。規制強化が必要という認識は米当局や議会関係者の多くが共有する。ただSECやCFTCなど規制当局の連携やすみ分けはみえない。…米国以外でも投資家保護の動きが強まっている。ブラジル議会下院は11月29日、仮想通貨の規制法案を可決した。国内で仮想通貨サービスをてがける企業にライセンス登録を義務付けるほか、仮想通貨交換業者に顧客資産の分別管理を求めた。違反すれば、罰金や実刑を科す厳しい内容だ。日本は投資家保護で先行しており、FTXジャパンの顧客資産は守られる見通し。巨額の通貨流出をきっかけとした規制強化が奏功した。…規制のもう一つの柱が安定した値動きをする仮想通貨であるステーブルコインの取り扱い厳格化だ。ステーブルコインは仮想通貨市場全体の時価総額(約115兆円)の2割弱を占める。同コインは米ドルや金などを裏付けに価格が安定するよう設計されている例が多いが、裏付け資産を適切に保管しているかどうか懐疑の声がある。欧州理事会が10月に可決した仮想通貨規制法案(MiCA=マイカ)はステーブルコインの発行者に発行量と同等の準備金を預金などの安全資産で確保することを義務付けるほか、各国でのライセンス取得を求めている。MiCAは裏付け資産の管理を厳しくすることで、顧客資産を流用できないようにする。24年の施行を目指す。ステーブルコインについて日本では6月に成立した改正資金決済法で発行・管理をする「発行者」と流通を担う「仲介者」の役割を明確に分けた。仲介業者に登録制を導入し、国内の発行体は銀行と資金移動業者、信託会社に限定した。年度内にも具体的な要件を定めたガイドラインを示す。マネー・ローンダリング(資金洗浄)の規制も進む。マネロン対策を審査する国際組織「金融活動作業部会」(FATF)が19年、仮想通貨業者に本人確認を義務付ける「トラベルルール」と呼ぶ送金ルールの対象に仮想通貨を加えるよう各国に勧告。米国やドイツ、シンガポールなどが法制化を終え、世界各国も準備を進めている。
仮想通貨事業者、米国で強まる規制強化論 FTX破綻で(2022年12月2日付日本経済新聞)
ビットコインなどの主要な仮想通貨やそれらを対象とするデリバティブはCFTCが所管という流れができつつあったが、多くのトークン(電子証票)は法的な位置づけも規制の根拠となる法律も曖昧だった。非上場のFTXは信頼できる財務諸表の整備や公表が義務付けられておらず、財務の健全性や透明性の欠如が問題になった。顧客と会社の資産が分別管理されず、関連会社への資金の流用を許すなど投資家保護の仕組みも脆弱だった。仮想通貨の金融商品としての位置づけや事業者を監督する当局が明確になれば、既存の法規制を適用することでこうした問題もある程度は解消される可能性がある。「(仮想通貨事業者には)既存の規制を順守させるか、場合によっては規制の範囲を拡大し、強力な規制のガードレールを設ける必要がある」。米連邦準備理事会(FRB)のブレイナード副議長はこう指摘する。…仮想通貨事業者の規制は先進国内でとどまらない難しさもある。仮想通貨は国家の発行する法定通貨とは異なり、分散型台帳(ブロックチェーン)技術に支えられた「無国籍通貨」だ。その取引を仲介する交換所大手も米国外を本拠地とするケースが多く、FTXは中米バハマに本社を置いていた。「これまで国際的な規制当局は仮想通貨に関して資金洗浄(マネー・ローンダリング)や本人確認など不正利用の防止に目を光らせてきた」。仮想通貨市場の分析を手がけるカイコのリサーチアナリスト、リヤド・キャリー氏はこう指摘したうえで「今後は各国間の規制の相違を突くような取引を防ぎ、事業者が顧客の資産を保護しているかを確認するために協力体制をとる必要がある」と話す

金融庁は、海外送金サービスを提供するFSR Holdingsに対し、資金決済法に基づき資金移動業者の登録を取り消したと発表しています。登録を受けた営業所の所在地を確認できなかったというものです。

▼金融庁 FSR Holdings株式会社に対する行政処分について
▼関東財務局 FSR Holdings株式会社に対する行政処分について
  • 資金移動業者であるFSR Holdings株式会社(本社:東京都新宿区。法人番号:8012401030014)については、登録を受けた営業所の所在地を確知できないことから、資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)第56条第2項の規定に基づき、本日付で資金移動業者の登録を取り消した。
  • FSR Holdings株式会社
    • 代表者氏名 Ng Chee Hock
    • 営業所の所在地 東京都新宿区百人町2-26-5
    • 登録番号 関東財務局長第00047号
  • 参考条文 資金決済に関する法律第56条第2項
    • 内閣総理大臣は、資金移動業者の営業所の所在地を確知できないとき、又は資金移動業者を代表する取締役若しくは執行役(外国資金移動業者である資金移動業者にあっては、国内における代表者)の所在を確知できないときは、内閣府令で定めるところにより、その事実を公告し、その公告の日から30日を経過しても当該資金移動業者から申出がないときは、当該資金移動業者の第37条の登録を取り消すことができる。

さらに、金融庁は、資金決済事業者に対して、厳しい業務改善命令を出しています。業務継続に必要な運転資金が不足する事態となっているほか、入居先から退去を命じられ、リモートワークによる業務運営となったものの、十分なリスク管理態勢が構築されていないということです。

▼金融庁 エクシア・デジタル・アセット株式会社に対する行政処分について
▼関東財務局 エクシア・デジタル・アセット株式会社に対する行政処分について
  • 関東財務局は、本日、エクシア・デジタル・アセット株式会社(本社:東京都港区。法人番号:4010401125234。以下「当社」という。)に対し、資金決済に関する法律(平成21年法律第59号。以下「法」という。)第63条の17第1項及び第63条の16の規定に基づき、下記のとおり行政処分を行った。
    1. 行政処分の内容
      1. 業務停止命令(法第63条の17第1項)
        • 令和4年12月1日から令和4年12月31日までの間(ただし、当社において法第63条の5第1項第4号に規定する「暗号資産交換業を適正かつ確実に遂行する体制」を維持するための具体的な態勢の整備が図られ、その状況が当局において確認される場合には、それまでの間)、暗号資産交換業に関する業務(預かり資産の管理及び利用者の決済取引等当局が個別に認めたものを除く)及び当該業務に関し新たに利用者から財産を受け入れる業務を停止すること。
      2. 業務改善命令(法第63条の16)
        • 法第63条の5第1項第4号に規定する「暗号資産交換業を適正かつ確実に遂行する体制」を維持するための態勢を構築すること。特に令和4年11月28日付関財金6第721号「資料等の報告命令」1.(3)について同年11月29日付の当社からの報告事項について、移転先を確保するまでの間の業務遂行体制についてリスク評価を行い、その評価に基づくリスク軽減対応策を構築すること。
        • 利用者の正確な把握及び利用者から預かった資産の正確な把握を行うこと。
        • 利用者から預かった資産について保全を図るとともに、会社財産を不当に費消する行為を行わないこと。
        • 利用者間における公平に配慮しつつ、利用者の保護に万全の措置を講じること。
        • 利用者の資産保全について、利用者への周知徹底を適切に行うとともに、利用者への適切な対応に配慮すること。
        • 今回の行政処分の内容について、利用者に対し十分な説明を実施すること。
      3. 上記(2)に関する業務改善計画を令和4年12月6日(火曜日)までに書面で提出すること。
      4. 業務改善計画の実施完了までの間、1ヶ月毎の進捗・実施状況を翌月10日までに、書面で報告すること。
      5. 以下の資料について、初回報告日を12月1日(木曜日)とし、当面の間、翌日12時までに日次で報告すること。
        • 当社の純資産の額、預金残高、日次の資金繰り状況
        • 分別管理必要額(金銭、暗号資産の種類・数量)
        • 金銭信託残高
        • コールドウォレット残高(暗号資産の種類・数量)
        • (注)資料の提出にあたっては、各記載内容を証明する資料として、各報告日の前日における当社の貸借対照表及び損益計算書又はこれらに代わる書面を添付すること。また、利用者財産の預かり金額・管理状況、当社の預金残高を証明する書類を添付すること
    2. 処分の理由
      • 当社に対し、令和4年11月22日及び28日、法第63条の15第1項の規定に基づき報告を求めたところ、以下の状況が確認された。
        1. 当社は、外部からの資金援助がなければ令和4年11月30日に予定されている支払がすべて行えない状況にあり、業務継続に必要な運転資金が不足する事態となっている。かかる事態を踏まえ、当社は、外部から資金支援を得るべく交渉しているものの、現時点において具体的な資金確保の見通しは立っていない。また、当社に対して、11月及び12月の資金繰りの実績及び予定を示すよう求めたところ、入出金の発生見込みを明確に把握できていないことが確認された。
          • 当社は、暗号資産交換業にかかる取引システムの開発・保守運用及び受託暗号資産の管理を外部ベンダーに委託しているところ、今月中に外部ベンダーへの支払ができなかった場合、取引システムの継続に支障が生ずる可能性がある。これに対し当社は、外部ベンダーについては、当社の資金調達にある程度の目途がたった段階での支払いの遅延、業務の継続に対する交渉には応じてもらえるものと考えているとしているが、現時点において当該資金支援の目途はたっていない。これらの状況は取引システムが安全かつ安定的に稼働しない可能性があり、利用者の金銭・暗号資産の分別管理等、利用者保護のために必要な措置が行われないおそれがあるものと認められる。
        2. 当社は、東京都港区六本木3-2-1住友不動産六本木グランドタワー15階を所在地として登録しているが、親会社から令和4年11月末日までの退去を要請されたことから、取締役を含む社員は令和4年11月28日からリモートワーク体制により業務を行っている状況にある。また、12月1日以降の移転先は確保されておらず、現在、移転先は未定である。
          • こうした中、当社は、情報の安全管理等について現状に変更はないとしてリモートワーク体制での業務を開始しているものの、例えば顧客暗号資産の秘密鍵について、十分なリスク評価を行わないまま、保管方法を変更している状況が認められるほか、業務関係書類の一部や預金通帳等を移転前所在地に残置しているにもかかわらず、立入りができなくなっている状況が認められる。
          • 上記の状況は、法第63条の5第1項第4号に定める「暗号資産交換業を適正かつ確実に遂行する体制の整備が行われていない」状況に該当すると認められることから、法第63条の17第1項第1号に基づく業務停止命令を発出するものである。また、当該状況は、「暗号資産交換業の適正かつ確実な遂行のために必要があると認めるとき」に該当するものと認められることから、法第63条の16の規定に基づく業務改善命令を発出するものである。

前回の本コラム(暴排トピックス2022年11月号)でも紹介しましたが、FATFは、国軍がクーデターで権力を掌握したミャンマーのAML/CFTが不十分だとして、各国に対抗措置を求める「ブラックリスト」に同国を載せたと発表しています。同国は、もともと覚せい剤の生産や違法なカジノ運営が横行し、違法資金が流入するリスクが高いとされてきましたが、政情不安でその危険性は一層高まっています。FATFによると、ミャンマーは2021年9月までに15項目のAML/CFTの実行を約束していましたが、今も11項目が実施されていない状況にあります。ブラックリストへの掲載は北朝鮮とイランに続き3カ国目となり、ミャンマーにはマネロンやテロ資金供与に関する国際捜査への協力や犯罪で得た収益の押収を強化するように求めています(なお、ミャンマーは過去にもFATFのブラックリストに指定されていましたが、民主化指導者のアウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)政権が発足した2016年に除外対象となった経緯があります)。これにより、外国の金融機関はミャンマー側との金融取引に厳格な審査が求められること(さらに追加コストが発生する)から、リスクの高いミャンマーを避けることになります。さらには、外資の引き揚げや外貨の不足などを引き起こすことになり、ただでさえ軍事政権によるクーデターで混迷を極める中、中長期的に経済混乱にさらに拍車がかかることになるのは間違いないところです。FATFは各国に対して、人道支援や正当な送金が妨げられないような対抗措置を求めていますが、現地のミャンマー人銀行員は「経済に多くの影響が生じる。ミャンマーの企業や国民への送金がより難しくなる。外国企業の多くは撤退するかもしれない」と不安を口にしていると報じられています。なお、同国では、中国の規制強化から逃れるために、主に中国マフィアが、薬物や武器の取引、木材の違法伐採、鉱物の違法採取などで手にした不正な金をカジノで賭けるマネー・ローンダリングの手口が拡がっており、マネー・ローンダリングされたお金は新たなカジノ建設などオープンな経済活動に再投資されているといいます。こうした巨額のマネーが一部を除きミャンマー国民のために回されることはなく、結局、苦しむのはいつも国民という構図です

▼金融庁 FATF声明の公表について
▼《行動要請対象の高リスク国・地域》 2022年 10月21日(仮訳)
  • 対象となる国・地域から生じるリスクに見合った厳格な顧客管理措置の適用が要請される国・地域 ミャンマー
    • 2020年2月、ミャンマーは戦略上の欠陥に対処することにコミットした。ミャンマーのアクションプランは2021年9月に履行期限が到来した。
    • 2022年6月、FATFは、ミャンマーに対し2022年10月までにアクションプランを速やかに完了させるよう強く求め、それが適わない場合は、FATFは、ミャンマーとの業務関係及び取引に厳格な顧客管理を適用するよう加盟国・地域に要請し、全ての国・地域に強く求めることとした。アクションプランの履行期限を1年過ぎても進展がなく、アクションプランの大半の項目が対応されていないことを踏まえると、FATFは、手続きに沿ってさらなる行動が必要となり、加盟国・地域及び他の国・地域に対し、ミャンマーから生じるリスクに見合った厳格な顧客管理の適用を要請することを決定した。厳格な顧客管理措置を適用する際は、各国は、人道支援、合法的なNPO活動及び送金のための資金の流れが阻害されないようにする必要がある。
    • ミャンマーは、不備に対応するため下記を含めたアクションプランを実施する取組を続けるべきである。
      1. 重要な分野における資金洗浄リスクについて理解を向上したことを示すこと
      2. オンサイト・オフサイト検査がリスクベースであること、及び「フンディ」を営む者が登録制であり監督下にあることを示すこと
      3. 法執行機関による捜査において金融インテリジェンス情報の活用を強化したことを示すこと、及び資金情報機関(FIU)による対策の執行のための分析及び分析情報の配信を増やすこと
      4. 資金洗浄が同国のリスクに沿って捜査・訴追されることを確保すること
      5. 国境を越えて行われた資金洗浄の事案の捜査を国際協力の活用で行っていることを示すこと
      6. 犯罪収益、犯罪行為に使用された物、及び/又はそれらと同等の価値の財産の凍結・差押え、及び没収の増加を示すこと
      7. 没収されるまでの間、差し押さえた物の価値を保つために、差し押さえた資産を管理すること
      8. 拡散金融に係る対象者を特定した金融制裁の実施を示すこと
    • FATFは、ミャンマーに対し、資金洗浄・テロ資金供与の欠陥に完全に対応するよう取り組むことを強く求め、同国がアクションプランを完全に履行するまでは、行動要請対象国のリストに引き続き掲載される。

業界団体との意見交換会において金融庁から提起された主な論点が公表されています。今回は主要行等と日本投資顧問業協会との会合から、AML/CFTと暗号資産に関する部分を紹介します。

▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼主要行等
  • マネロン対策等に関する半期フォローアップアンケートについて
    • 各金融機関で進められているマネロンリスク管理態勢の整備状況について確認するため、2021年同様、各金融機関にフォローアップアンケートを送付した。
    • 2024年3月末までの態勢整備の期限まで残り約1年半となっている。金融庁としては金融機関の取組状況を適切に把握したいと考えており、9月末時点の態勢整備状況について、回答へ協力いただきたい。
▼日本投資顧問業協会
  • 暗号資産
    • 暗号資産については、FSBから3つの報告書が提出され、会議後に公表された議長総括において、これらの議論が歓迎されている。
    • FSBからの3つの報告書は、具体的には、
    • 第一は、暗号資産に対する9つのハイレベルな規制監督上の勧告案に関する報告書であり、金融システム安定にリスクを及ぼす可能性のある全ての暗号資産関連の活動、発行者、サービス提供者に包括的に適用されるものである。
    • 第二は、2020年10月に公表された「グローバル・ステーブルコインの規制・監督・監視に関するハイレベル勧告」の見直しに関する報告書であり、2022年前半の暗号資産市場の混乱等を踏まえ、償還請求権確保の強化などが図られている。
    • 第三は、これら二つの勧告案の位置づけや、今後のFSBの作業方針に関する報告書である。FSBは、暗号資産及びグローバル・ステーブルコインに対する勧告を2023年夏までに最終化させ、その後は2025年末までに各法域での実施状況のレビューを行う予定である。
    • 国際的な議論を受け、既に米国や欧州等では規制枠組みの整備に向けた動きが本格化しており、今後、FSBの勧告をいかにグローバルに実施していくかについて、議論が深まっていくものと考えている。

AML/CFTおよび関連規制等を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米チェイナリシスは暗号資産の取引を追跡してマネー・ローンダリングを防止する技術を暗号資産交換事業者や捜査機関に提供しています。2022年11月29日付日本経済新聞によれば、犯罪者は仮想通貨を複雑に移動させてマネー・ローンダリングを試みるところ、同社はブロックチェーン(分散型台帳)上に残された取引記録から資金を追跡するのがコア技術だといい、資金の追跡と正確な分析には過去の取引データの蓄積が重要で、グロナガーCEOは「誰よりも知見とデータを積み上げてきた」と話しています。追跡データは交換事業者や捜査機関に提供、同社は2022年9月、米連邦捜査局(FBI)に協力し、北朝鮮のハッカー集団「ラザルスグループ」が盗み取った3000万ドル(約42億円)相当の暗号資産の押収につなげた実績があります。今後、非代替性トークン(NFT)など新しいサービスが次々と登場する一方、マネー・ローンダリングに悪用される恐れもあり、こうした新技術にも対応した追跡技術の開発にも取り組むということです。
  • 総務省は、マイナンバーカードの申請件数が今月27日時点で7568万件となり、人口に対する割合が60.1%になったと発表しています。政府は2023年3月末までに「ほぼ全国民」にカードを行き渡らせることを目指しており、さらに申請を促したいということです。関連して、松野官房長官は、スポーツやコンサートのチケットを購入したりイベントへ入場したりする際に、マイナンバーカードを活用した本人確認を検討していると明らかにしています。カードに搭載された電子証明書を用いた確認により、第三者への高額転売を防ぐことが目的といいます。同氏は「マイナンバーカードは、オンラインでも確実な本人確認ができる安全安心なデジタル社会のパスポートだ」と説明、「民間サービスにおいても国民に利便性を感じてもらう場面を多く作っていけるよう、デジタル庁を中心に様々な検討を行っている」と述べ、同庁を中心に関係団体と検討を進めているとしています。「民間団体や事業者の意見や要望をしっかりと聞き、利用拡大を進めていく」とも語っています。本人確認の精度向上やセキュリティ強化は喫緊の課題であり、マイナンバーカードの活用はそのひとつの解となりますが、ほぼすべての国民が活用する状態になることが、その信頼性を高めるためにはマストでもあります。
  • インターネットによるサービスやスマートフォンのアプリを利用する際の本人認証を誰でも簡単にできる技術が登場しています。2022年11月29日付産経新聞によれば、第三者によるなりすましを防ぐため、本人が設定したパスワードだけでなく、二段階認証やワンタイムパスワードなど追加認証を求められることも少なくないが、本人にとっては余計な手間が増え、使いこなせない人もいる中、新技術はこうした煩わしさを解消でき、開発したベンチャー企業は広く普及を目指しているとしています。顔や声といった生体情報に加え、スマホを使う際の画面までの距離や角度、使っている「Wi-Fi」やGPSなどの行動情報を組み合わせ、本人認証するもので、通常、本人認証はログイン時だけですが、アンカーズ社の技術では数秒単位で随時継続して行うとのことです。顔認証で疑問が生じた場合、画面までの距離や角度といった「本人のクセ」などで認証、さらに普段利用しているWi-Fiかどうかといった情報も組み合わせ、総合的に判断、ログインしている状態で他人がスマホを操作しようとしても自動的にログアウトし、使えなくなるということです。認証のための情報は人工知能(AI)が学習し、スマホ内部に暗号化して蓄積、次回以降の認証に利用するといいます。本人確認の精度を高めるためには、「属性」だけでは限界があり、「ふるまい」や「行為」に着目すべきと筆者は数年前から主張しますが、この技術は正に本人でしかありえない「ふるまい」をベースに本人認証を行うものであり、極めて興味深いといえます。
  • 企業が発行するポイントが存在感を増しており、企業のポイント発行額の規模は2019年に1兆円を突破したということです。2022年11月13日付日本経済新聞によれば、もともと「おまけ」だったポイントは、キャッシュレス決済の浸透もあり、1ポイント=1円で使える特徴を持つようになり、今や「疑似通貨」としての性格が強くなっており、利用者保護やマネー・ローンダリングなどの観点からの対策が必要な状況となっています。今後、メタバース(仮想空間)などの発展に伴い、法定通貨とは異なる形式で価値を持つ「トークン」の発行が増えると予想され、ポイントやトークンが疑似通貨の性格を強めれば、金融政策への影響だけでなく、利用者保護やマネー・ローンダリングなどの観点からも注視する必要がさらに強まることは必至です。実際のところ、過去には不正アクセスで取得された航空会社のマイルが共通ポイントに交換され、ゲーム機などが購入された例もあり、セキュリティ対策や、犯罪の抜け道となるリスクを防ぐ取り組みが求められています。同報道で、東京大学の渡辺努教授が「新たな技術やサービスは自由な発想で発展するものであり、中央銀行や政府が抑えつけるべきではない。まずは見守り、貨幣としての性格が強まるならどこかのタイミングで規制に乗り出すべきだ」と指摘していますが、すでにリスクが見えている以上、いつ大規模な犯罪に悪用されるかも知れず、何らかの規制のあり方を検討しても良いタイミングだと思います
  • 大阪、京都で4店舗を運営していたスーパーチェーンが2022年10月、予告なく閉店し、店が独自に導入していた電子マネーの残高が使えない事態となっているということです。会社は破産手続きを進めており、残高が返還されるめどは立っていないといいます。電子マネーの利用者保護を定める資金決済法では、電子マネーの発行事業者に未使用残高が1000万円を超える場合は財務局に届け出て、残高の半分を法務局に供託することを義務付けていますが、同社の代理人弁護士によれば、同社の未使用残高は300万~400万円で届け出の対象外であり、カード利用者600~700人は、金融機関や取引先と同列の債権者という扱いになる(十分な保護が見込めない)とのことです。報道で、中村智彦・神戸国際大教授(地域経済論)は、「スーパー業界は過当競争で、撤退はこれまで地方の問題と考えられてきたが、今後は都市部の郊外でも進む。電子マネーの普及が進んでおり、残高の規模にかかわらず供託金を義務付けるなど利用者保護の強化が必要だ。また電子マネーのリスクに関する消費者教育を進めることも重要だ」と述べていますが、こちらも正にリスクとして認識された以上、何らかの規制の見直しが必要だと言えます。
  • 大阪府守口市の民家で、女性が手足を縛られて金庫が奪われた事件で、大阪府警は、奪った現金をマネー・ローンダリングしたとして、男2人を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益の仮装)と窃盗の疑いで再逮捕しています。報道によれば、容疑者は同居する母親と共謀し、容疑者らが奪った現金のうち計約463万円を、和歌山市内のコンビニなどで9回にわたって第三者名義の口座に入金、その後、広島、山口、福岡3県で同口座から計435万円を引き出した疑いがあるということです。
  • 国の新型コロナウイルス対策の持続化給付金の虚偽申請を指南し、申請者から受け取った報酬計740万円を正当なコンサルティング料かのように装ったなどとして、警視庁犯罪収益対策課は組織犯罪処罰法違反容疑で、コンサル会社「iNiDEP」代表取締役ら男5人が逮捕されています。報道によれば、5人は共謀し、持続化給付金の受給要件を満たさない15都府県の大学生や会社員37人に対して、受給資格があると偽装することを口裏合わせした上で、コンサル契約を結び、給付金を申請、報酬として計740万円の支払いを受け、会社ぐるみでこれを正当なコンサル料の支払いと装ったなどとしています。同課は法人としてのイニデップ社も同容疑で書類送検しています。なお、容疑者らは給付金の虚偽申請のため2020年4月、同社を設立、知人らに声を掛けたり、SNSを使ったりして虚偽の申請者を募ったといい、必要書類の作成などを指導した上、申請者との間で「申請者が提供した資料などが虚偽であった場合、法人は責任を負わない」などとするコンサル契約を締結していたといいます。容疑者はこれまでに詐欺容疑で6回逮捕されており、少なくとも170人の不正受給に関与し、給付金約1億7千万円をだまし取ったとみられるということです。

(3)特殊詐欺を巡る動向

2022年11月28日付産経新聞によれば、神奈川県警が発表した同県内での1~10月の特殊詐欺の阻止件数が前年同期比209件増の1112件に上り、年間で過去最多を更新する可能性が出てきたということです。本コラムでも継続的に紹介しているとおり、金融機関など民間事業者との連携が進み、詐欺グループに狙われやすい高齢者らに対する従業員による声掛けや、特殊詐欺被害の疑いがある振り込み手続きなどでの通報が積極的になっていることが奏功した形といえます。一方、減少傾向にあった特殊詐欺の被害額は(コロナ禍からの回復途上にある)2022年に入り増加に転じており、県警は注意を呼び掛けています。報道によれば、年間の阻止件数は記録が残る2011年以降、2017年の1381件が最多だったようですが、2022年はこれを上回るペースで推移しているとのことです。その要因の1つとみられているのが県警と民間事業者が連携して取り組む水際対策で、県警はコンビニエンスストアや金融機関などに対して高齢者らへの声掛けを要請、さらに特殊詐欺で悪用されている電子マネーの販売、振り込みの手続きで一定額以上となる場合は、まず警察に相談の一報を入れる「全件通報」を推奨しています。詐欺かどうかの判断に悩む従業員の負担を減らしながら水際対策を強化する狙いがあり、コンビニなどで定期的に訓練を実施しているとのことです。なお、特殊詐欺被害については、累計認知件数の暫定値は1557件となり、既に2021年1年間の被害額(約25億8400万円)、件数(1461件)を上回っており、1557件のうち、息子や孫を装う「オレオレ詐欺」が621件と4割を占め、医療費を払い戻す名目でATMを操作させる「還付金詐欺」が535件と続いています。とりわけ還付金詐欺は前年同期比269件増でほぼ倍増しており、新しい傾向として50代や60代の現役世代が被害にあうケースが増えているということです。このあたりも、高齢者対策の強化の反動の側面もあり、犯罪組織側が対策が相対的に緩い50代・60代をターゲットにしている可能性があります。なおその他の地域の状況について、例えば高知県では、同県警が2022年に認知した特殊詐欺は11月末までの速報値で27件(前年同期比1件減)、被害額は約4141万円(同約99万円増)にのぼります。また、大阪府内で確認された特殊詐欺の被害件数が過去最悪のペースになっています。9月までの速報値は1407件(前年同期比292件増)で一日に5件以上の被害が判明している計算で、年間1809件で最多だった2019年を上回るペースで、被害者の88%を65歳以上の高齢者が占めるといい、被害金額は22億3500万円(同3億9800万円増)にのぼっています(2022年10月までに確認された同府内の特殊詐欺被害は計1613件で約25億円にのぼり、いずれも2021年の同じ時期を上回っています)。府警によると、被害が最も多い手口が区役所の職員を名乗り、「医療費が戻ってくる」、「未払いの年金がある」などとだます「還付金詐欺」(金が戻ってくると信じて指示通りにATMを操作すると、実は詐欺グループの口座に送金してしまっているというもの)で、9月までに631件(同23件増)にのぼっています。また、件数で続くのが、「キャッシュカード詐欺盗」(「キャッシュカードが不正に利用されている」と電話でだました後に、警察官などをかたる人物が自宅を訪問。被害者の隙を見て偽のカードとすり替える手口)で264件(同163件増)にのぼります。コロナ禍を理由に「会えないのでカードをポストに入れておいてください」と顔を合わせずにすませるケースもあるといい、被害者がカードのすり替えに気づかないうちに現金が引き出されることも少なくないといいます。

愛知県内では10月末現在、住宅を狙った侵入盗の被害総額が全国ワーストとなっており、近年は件数こそ減少傾向となっている一方で、1件当たりの被害総額は増加していると報じられています(2022年12月1日付毎日新聞)。窃盗グループが犯行前に下調べをした上で、多額の現金がある住宅を「狙い撃ち」しているとみられており、同県警は「自宅で現金を保管しないで」と注意を促しています。報道によれば、愛知県内の住宅侵入盗の認知件数は、2018年2736件、2019年1955件、2020年1388件、2021年1077件と減少傾向にある一方で、被害総額は過去4年、全国ワーストもしくはワースト2位で1件当たりの被害額が高額化しているといいます。2022年は10月末現在、認知件数が861件と全国ワースト3位、一方で被害総額は全国ワーストで、2位の約2倍となる約15億671万円に上り、1件当たりの被害額は約175万円となっています。こうした状況を受け、同県警では対策をまとめた「住宅防犯ガイドブック」を作製、表紙には、県警が窃盗グループから押収したメモを掲載、別居の家族も含めた行動パターンや家族構成のほか、間取りやお金の保管場所など、家の中に入らないと知り得ない情報も記されているもので、県警は「情報屋」と呼ばれる実行犯以外の第三者が介在している可能性もあるとみています。

最近の特徴や新しい手口という点では、「国税庁」をかたり、代金決済のプリペイドカード(電子マネー)を購入させ、金をだまし取る事件が夏以降、福岡県内で発生して、福岡県警は、若者も被害に遭いやすい新たな特殊詐欺の手口として、注意を呼びかけているといいます。同県警によると、9月末までに県内で確認された特殊詐欺被害は239件(前年同期比21件増)、被害額は6億1750万円(同2億2816万円増)と前年同期を大きく上回っていますが、幅広い世代で被害が出ており、県警は「(特殊詐欺は)高齢者の被害が多いと思われがちだが、若者も狙われている」と警鐘を鳴らしています。さらに、特殊詐欺の被害金の振込先に、外国人が開設した預貯金口座が悪用されたケースが約3割に上っており、技能実習生や留学生が帰国する際に詐欺グループが口座を買い取っているとみられ、県警は「振込先に外国人の名前が表示されたら詐欺だと疑ってほしい」としています。なお、2022年11月9日付読売新聞では、以下のような若者がだまされた事例が紹介されています。

「重要なお知らせ 必ずお読み下さい」。福岡市の20歳代男性のスマートフォンに9月末、国税庁を装ったショートメッセージが届いた。表示されたURLに接続すると、税金の未納と表示された。男性は記載された支払い方法に従ってプリペイドカード4万円分をコンビニエンスストアで購入し、コード番号を指定されたサイトに打ち込んだ。男性は未納分の納付を終えたと思っていたが、その後、こうした税金の支払い方法がないことを知り、だまされたことに気付いた。すでにカードは、全額が使われていたという。このカードは、コード番号がわかれば誰でもネット上で使える仕組みとなっている。県警は、詐欺グループがこれを悪用して偽物のサイトで番号を入手し、ネットの換金サイトなどで現金を得ているとみている。

また、最近の特徴の一つに方言が使われ、騙しの信頼性を高める工夫が高度化しているという点も挙げられそうです。2022年11月20日付毎日新聞の記事「「誰にも言わんどって」方言を使った特殊詐欺、急増対策も方言」に詳しく報じられていますので、以下、抜粋して引用します。

「初めて話すことだけん、誰にも言わんどって」。風邪声のような熊本弁で息子や娘になりすまし、現金をだまし取る「振り込め詐欺(オレオレ詐欺)」が熊本県内で急増している。多様化する特殊詐欺の手口に、新たに加わった「方言」。ばってん、なんで方言ば使うとだろか。…熊本県警によると、県内で子どもを装い、風邪声のような熊本弁で現金を要求する電話があったのは、10月だけで少なくとも89件に上った。うち5件で計約1950万円がだまし取られた。同様の電話は8月にはなく、9月下旬から急増しており、新たな手口として広まりつつある。電話がかかってきたのは、41~47歳の子どもがいる70~80代の親に集中していた。県立熊本商業高や私立開新高(いずれも熊本市)など子どもが同じ高校を卒業していた例が多く、県警は同窓会が作った卒業名簿が悪用されているとみる。…元科学警察研究所主任研究官で、特殊詐欺に詳しい岩手大の鈴木護准教授(犯罪心理学)は「方言は身近な存在になるための強力な武器になる。『熊本弁で自分に電話する女性は娘しかいない』などと判断してしまう」と指摘。「長いやり取りになる前に一度、電話を切ることが大事だ」とアドバイスする。…「進学や就職で関東に出る若者が多いためか、関東の犯人グループに狙われやすい印象もあり、子どもを装うのは標準語がほとんどだ」と明かすのは秋田県警。核家族化も進み、若い世代は秋田弁を話さない人が多いといい「秋田弁で孫から電話がかかってきたら『おめ、なすた?(あなた、どうしたの?)』と逆に驚くと思う」と話す。また、青森県警は「津軽弁は語尾の変化などが独特なため、子どもをかたる相手には逆に方言で『なぁだだば(あなたは誰ですか)』などと質問し、相手が答えられるか試すように啓発している」といい、方言ならではの「秘策」も有効のようだ。

さらに、最近の特徴として、静岡県内で特殊詐欺に加担したとして検挙される少年が増えていることも報じられています(2022年11月21日付読売新聞)。「単発のいいアルバイトがある」、「辞めたかったら辞められる」など、知人の紹介やSNS上での募集に軽い気持ちで応募して、詐欺グループから抜けられなくなることも多く、県警が注意を呼びかけているといいます。報道によれば、検挙された少年らは、詐欺グループ内で「末端役」を押しつけられており、現金やキャッシュカードを受け取る「受け子」やATMなどで現金を引き出す「出し子」、見張り役、運転手役などで、詐欺グループは、甘い言葉で少年を誘い、断れない性格の人や「金欠」が口癖の人などが狙われやすい傾向があるということです。「闇バイト」の募集はSNSに投稿されることが多く、「いくら取り締まっても追いつかない状況」で、詐欺グループには、暴力団が関わっていることが多く、2022年7月には、グループから抜けようとした20代の男を監禁したなどとして、県警が暴力団関係者の男ら3人を逮捕監禁致傷と恐喝容疑などで逮捕しています。同県警は、「詐欺グループに関わってしまったら、自分で抜け出すことは危険だ。必ず警察に相談してほしい」と呼びかけています。

以前の本コラムで紹介したとおり、2022年1~9月の特殊詐欺の被害件数は、2021年の同時期と比べて13.0%増の1万2158件、被害額も20.2%増え、246億6千万円にのぼる一方、摘発件数は0.8%減の4526件、検挙人数では0.5%増の1651人と、ほぼ横ばいになっています。手口別では、親族などを装う「オレオレ詐欺」の被害件数が昨年同時期から27.5%増の2831件、架空の未払い料金を請求する「架空料金請求詐欺」が26.8%増の1969件と増加傾向にあります。そのような状況を受けて、前回の本コラム(暴排トピックス2022年11月号)でも紹介しましたが、特殊詐欺事件の容疑者の早期検挙につなげようと、警察庁が、事件に関わったとして警視庁と大阪、千葉、新潟の3府県警が行方を追っている13人の画像を一斉に公開しています。一斉公開は2021年11月に続き2回目で、前回は10人の公開後、60代の男1人が出頭して神奈川県警に逮捕されました。今回公開されたのは、被害者からキャッシュカードなどを受け取る「受け子」や現金を引き出す「出し子」とされる12人のほか、共犯者からカードなどを回収する「回収役」とされる1人で、ATMの防犯カメラなどで撮影された写真などで、11月2日から警察庁公式サイトの「特殊詐欺被疑者の一斉公開捜査について」のページや、各警察のサイトに掲載されています。13人のうち4容疑者はすでに指名手配されていますが、ほか9人の身元は特定できていないものの、容姿から20歳以上と判断したといいます。なお、警視庁の調布署と碑文谷署が手配していた容疑者が別の事件で逮捕されていたことがわかったほか、大阪府警此花署が手配した容疑者は、写真公開後に出頭し逮捕されたといいます。さらに、警視庁王子署が手配していた容疑者も、別の事件で逮捕されていたとして写真公開が終了しています。

SNSでのやり取りを通じて相手に恋愛感情を抱かせ、現金を詐取する国際ロマンス詐欺が相変わらず猛威を振るっています。最近でも、国際ロマンス詐欺などの被害金をATMから引き出したとして、兵庫県警国際捜査課などは、窃盗の疑いで、いずれもベトナム国籍の男3人を逮捕、送検した事例がありました。3人は容疑を認めているといいます。報道によれば、イエメンで米軍の軍医として働く女性をかたる人物からSNSを通じ「日本で暮らしたい」、「退役手続きに金が必要」などとする趣旨のメッセージを受け取り、兵庫県内の60代男性が計約500万円をだまし取られる事件が、2022年9月に発生、この被害金の一部が引き出されていたといいます。3人はアパートの1室を拠点に、国際ロマンス詐欺の被害金をATMから引き出す「出し子グループ」として活動していたといい、出金総額は1億円超に上るとみられています。報道によれば、このアパートを家宅捜索したところ、現金約1千万円や約80枚のキャッシュカードなどを押収したといいます。また、金銭詐欺に遭うだけでなく、違法薬物の運び役をさせられる事例が起きています。千葉地裁は10月、ロマンス詐欺に遭った末、コカインの密輸に加担させられた女に実刑判決を下しています。この事件は、アメリカ人を名乗る男から結婚を申し込まれ、「ハニー」と呼び合っていた東京都の会社役員の女(59)が、千葉地裁で懲役6年、罰金200万円の判決を受けたもので、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイから、成田空港にコカイン約2キロ(末端価格約4000万円)を密輸入した麻薬取締法違反と関税法違反に問われたものです。報道によれば、女が、石油を採掘しているという自称アメリカ人と知り合ったのは2021年6月頃で、マッチングアプリを通してで、数か月間、連絡を取り合い、会ったこともないのにプロポーズされ承諾、やがて金銭を要求され、計1000万円以上を暗号資産などで送金、結婚の申し込みから半年後、男から会社の用事を頼まれ、渡ったのがドバイだったといいます。現地のホテルで、見知らぬ外国人から分厚い本を手渡され、見た目が不自然だったことから「違法薬物に違いない」と直感したものの、男にメールで言いくるめられ、成田空港まで運んだということです。当たり前のことですが、「会ったこともなく、SNSでお金を要求されたら詐欺」と認識すべきことを周知徹底していくことが重要だといえます。

その他、最近の特殊詐欺の被害等に関する報道から、いくつか紹介します。

  • 警察官をかたって高齢女性のキャッシュカードから現金160万円を引き出したとして、大阪府警特殊詐欺捜査課は、窃盗容疑で、中国籍の容疑者を指名手配したと発表し、顔写真を公開しています。報道によれば、同容疑者は、2022年1月、何者かと共謀して、警察官を装って、神奈川県の80代女性に「犯人があなた名義のキャッシュカードを使って出金しており、調べる必要がある」などと電話をかけてキャッシュカード4枚を窃取、ATMから160万円を引き出した疑いが持たれています。同容疑者は特殊詐欺グループの「金庫番」とみられ、府警はこれまでにグループの約20人を摘発、窃盗容疑で逮捕した別の金庫番の男の関係先から現金約4億8千万円が見つかり、特殊詐欺の被害金とみて調べています。
  • 愛知県警豊田署は、同県豊田市の80代女性が息子を名乗る男からの電話で4000万円をだまし取られたと発表しています。報道によれば、一人暮らしの女性宅に息子を名乗る男から「財布を落とした。中にあった取引に必要な会社の名刺がなくなった。会社がつぶれる。お母さん、お金ないか」などと電話があり、約2時間後、息子の上司の息子を名乗る男が自宅に現れ、自宅にあった4000万円を手渡したといいます。
  • 千葉県警柏署は、柏市の80代の女性が特殊詐欺の被害にあい、現金5500万円をだまし取られたと発表しています。報道によれば、女性宅に2022年8月から10月にかけて、金融庁の職員などをかたる人物から何度も電話があり、「個人情報が漏れている可能性があり、他人があなたの情報を使って、お金を振り込んだことが問題になっている」、「弁護士に相談したところ、捕まらないための保証金が必要」などと言って現金を要求、女性はこれに従い、自宅などを訪問してきた20歳前後の男性に対し、4回にわたって計5500万円の現金を手渡したということです。
  • 調布市職員や銀行員をかたり、60代の無職女性に医療費の還付金が受け取れるとうその電話をかけて現金計約98万円を銀行口座に振り込ませ、引き出して盗んだ疑いで、警視庁と埼玉県警は、電子計算機使用詐欺と窃盗容疑で、いずれもベトナム国籍の技能実習生の2人の容疑者を逮捕しています。2人は「報酬は約2万円だった。生活費の足しにしたかった」などと容疑を認めているといいます。警視庁国際犯罪対策課によると、2人は特殊詐欺グループで詐取金を引き出す「出し子」と運転役で、ベトナム人実習生を利用するグループがあるとみて調べを進めているということです

次に、2022年(令和4年)1~10月の特殊詐欺の認知・検挙状況等について確認します。

▼警察庁 令和4年10月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

令和4年1~10月における特殊詐欺全体の認知件数は13,919件(前年同期11,940件、前年同期比+16.6%)、被害総額は280.8憶円(224.8憶円、+24.9%)、検挙件数は5,125件(5,255件、▲2.5%)、検挙人員は1,885人(1,892人、▲0.4%)となりました。ここ最近は認知件数や被害総額が大きく増加している点が特筆されますが、とりわけ被害総額が増加に転じて以降も増加し続けている点はここ数年なかったことであり、あらためて特殊詐欺が猛威をふるっている状況を示すものとして十分注意する必要があります(コロナ禍における緊急事態宣言の発令と解除、人流の増減等の社会的動向との関係性が考えられるところです)。うちオレオレ詐欺の認知件数は3,320件(2,481件、+33.8%)、被害総額は96.1憶円(70.8憶円、+35.7%)、検挙件数は1,382件(1,140件、+21.2%)、検挙人員は760人(610人、+24.6%)と、認知件数・被害総額ともに大きく増えている点が懸念されるところです。2021年までは還付金詐欺が目立っていましたが、オレオレ詐欺へと回帰している可能性が疑われます(とはいえ、還付金詐欺自体も高止まりしたままです)。そもそも還付金詐欺は、自治体や保健所、税務署の職員などを名乗るうその電話から始まり、医療費や健康保険・介護保険の保険料、年金、税金などの過払い金や未払い金があるなどと偽り、携帯電話を持って近くのATMに行くよう仕向けるものです。被害者がATMに着くと、電話を通じて言葉巧みに操作させ(このあたりの巧妙な手口については、暴排トピックス2021年6月号を参照ください)、口座の金を犯人側の口座に振り込ませます。直近では新型コロナウイルスを名目にしたものが目立ちます。一方、ATMに行く前の段階の家族によるものも含め、声かけで2021年同期を大きく上回る水準で特殊詐欺の被害を防いでいます。警察庁は「ATMでたまたま居合わせた一般の人も、気になるお年寄りがいたらぜひ声をかけてほしい」と訴えていますが、対策をかいくぐるケースも後を絶たない現状があり、それが被害の高止まりの背景となっています。とはいえ、本コラムでも毎回紹介しているように金融機関やコンビニでの被害防止の取組みが浸透しつつあり、ATMを使った還付金詐欺が難しくなっているのも事実で、そのためか、オレオレ詐欺へと回帰していると考えられます(繰り返しますが、還付金詐欺自体も高止まりしたままです)。最近では、コロナ禍の影響もあり、闇バイトなどを通じて受け子のなり手が増えたこと、外国人の新たな活用など、詐欺グループにとって受け子は「使い捨ての駒」であり、仮に受け子が逮捕されても「顔も知らない指示役には捜査の手が届きにくことなどもその傾向を後押ししているものと考えられます。特殊詐欺は、騙す方とそれを防止する取り組みの「いたちごっこ」が数十年続く中、その手口や対策が変遷しており、流行り廃りが激しいことが特徴です。常に手口の動向や対策の社会的浸透状況などをモニタリングして、対策の「隙」が生じないように努めていくことが求められています。

また、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は2,255件(1,873件、+20.4%)、被害総額は31.5憶円(29.0憶円、+8.6%)、検挙件数は1,523件(1,380件、+10.4%)、検挙人員は365人(406人、▲10.1%)と、こちらは認知件数・被害総額ともに増加という結果となっています(上記の考え方で言えば、暗証番号を聞き出す、カードをすり替えるなどオレオレ詐欺より手が込んでおり摘発のリスクが高いこと、さらには社会的に手口も知られるようになったことか影響している可能性も指摘されていますが、増加傾向にある点は注意が必要だといえます。なお、前述したとおり、外国人の受け子が声を発することなく行うケースも出始めています)。また、預貯金詐欺の認知件数は1,893件(2,052件、▲7.7%)、被害総額は被害総額は21.9憶円(26.4憶円、▲16.8%)、検挙件数は1,104件(1,762件、▲37.3%)、検挙人員は425人(587人、▲27.6%)となり、こちらは認知件数・被害総額ともに大きく減少している点が注目されます(理由はキャッシュカード詐欺盗と同様かと推測されます)。その他、架空料金請求詐欺の認知件数は2,268件(1,711件、+32.6%)、被害総額は77.8憶円(50.0憶円、+55.6%)、検挙件数は145件(187件、▲22.5%)、検挙人員は104人(97人、+7.2%)、還付金詐欺の認知件数は3,706件(3,388件、+9.4%)、被害総額は42.7憶円(38.4憶円、+11.4%)、検挙件数は749件(547件、+36.9%)、検挙人員は129人(88人、+46.6%)、融資保証金詐欺の認知件数は111件(132件、▲15.9%)、被害総額は1.8憶円(2.3憶円、▲22.6%)、検挙件数は33件(24件、+37.5%)、検挙人員は24人(14人、+71.4%)、金融商品詐欺の認知件数は27件(28件、▲3.6%)、被害総額は2.5憶円(2.6憶円、▲3.4%)、検挙件数は5件(9件、▲44.4%)、検挙人員は11人(17人、▲35.3%)、ギャンブル詐欺の認知件数は40件(55件、▲27.3%)、被害総額は2.6憶円(1.6憶円、+59.1%)、検挙件数は13件(3件、+333.3%)、検挙人員は9人(3人、+200.0%)などとなっており、オレオレ詐欺の急増とともに、特にコロナ禍の社会情勢をふまえて「非対面」で完結する還付金詐欺や架空料金請求詐欺の認知件数・被害総額ともに大きく増加している点がやはり懸念されます。

犯罪インフラ関係では、口座開設詐欺の検挙件数は563件(565件、▲0.4%)、検挙人員は313人(336人、▲6.8%)、盗品等譲受け等の検挙件数は11件(1件、+1100.0%)、検挙人員は11人(0人)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は2,320件(1,879件、+23.5%)、検挙人員は1,859人(1,496人、+24.3%)、携帯電話契約詐欺の検挙件数は79件(135件、▲41.5%)、検挙人員は78人(125人、▲37.6%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は10件(21件、▲52.4%)、検挙人員は8人(15人、▲46.7%)、組織的犯罪処罰法違反の検挙件数は111件(105件、+5.7%)、検挙人員は20人(24人、▲16.7%)などとなっています。また、被害者の年齢・性別構成について、特殊詐欺全体では、男性(26.6%):女性(73.4%)、60歳以上91.9%、70歳以上74.7%、オレオレ詐欺では男性(19.9%):女性(80.1%)、60歳以上98.5%、70歳以上96.4%、架空料金請求詐欺では男性(52.8%):女性(47.2%)、60歳以上64.8%、70歳以上40.0%、融資保証金詐欺では男性(82.3%):女性(17.7%)、60歳以上16.7%、70歳以上5.2%となっています。なお、特殊詐欺被害者全体に占める高齢被害者(65歳以上)の割合について、特殊詐欺全体では86.8%(男性23.8%・女性76.2%)、オレオレ詐欺98.1%(19.6%・80.4%)、預貯金詐欺98.7%(10.0%・90.0%)、架空料金請求詐欺53.9%(53.0%・47.0%)、還付金詐欺85.9%(32.2%・67.8%)、融資保証金詐欺11.5%(90.9%・9.1%)、金融商品詐欺29.6%(50.0%・50.0%)、ギャンブル詐欺52.5%(71.4%・28.6%)、交際あっせん詐欺0.0%、その他の特殊詐欺31.8%(85.7%・14.3%)、キャッシュカード詐欺盗98.7%(14.1%・85.9%)などとなっています。

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニエンスストア(コンビニ)や金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されており、大変感心させられます。まず最初に、2022年11月24日付産経新聞の記事「電子マネー詐欺を連続撃退 コンビニ店員親子が罠を見抜く5つのポイント」を紹介します。多くの被害防止体験を通じて得られた具体的な声掛けの方法や対応要領などが参考になると思われますので、以下、抜粋して引用します。

高齢者を中心に深刻な被害が広がる特殊詐欺。ここ数年は、パソコンがウイルスに感染したと虚偽の警告をし、修理費名目で電子マネーを購入させてだまし取る「サポート詐欺」が増えている。巧妙な手口にだまされる人は多いが、被害者が電子マネーを購入しようとする店で、店員が声をかけて水際で被害を防ぐことは可能だ。…岩崎さんはこの店で働き始めて15年以上。午前9時から午後1時に勤務することが多く、常連客が中心で見慣れない人が来るとわかるという。詐欺被害に遭っている人には、あまり店で見かけたことがない▽高齢▽購入金額が大きい▽電子マネーの使い方を知らない▽急いでいる-といった特徴がある。岩崎さん親子は、客が電子マネーをレジに持ってきた際に、「最近電子マネーを使った詐欺が増えているので気を付けてくださいね」と声をかけ、購入金額や用途を確認するようにしている。「パソコンの修理費用に必要」と聞けば、詐欺を疑い警察に通報してもよいか確認するという。しかし、詐欺だと疑われるのが気に食わず、怒る人もいる。それでも詐欺かもしれないと伝えるのは、「お客さんのため」。葵さんは「『詐欺だったらどうしよう。あの時、声をかければよかった』とずっともやもやした気持ちでいるなら、怒られたとしても声をかける」と決めている。せっかく通報までこぎつけても、帰られてしまっては詐欺だったのか特定できず、再び被害に遭うリスクもある。警察官の到着まで店内にとどまってもらわなければならないが、警察を呼ばれることに抵抗がある人や詐欺にだまされかけたことを恥じる人も多い。そんなときは、親子で声をかける。「警察の人に一度みてもらえれば安心ですよ」「私も電子マネーの使い方がわからないんです」「だますなんて、犯人が悪いんですよ」。無事に被害者を警察に引き合わせたときは安堵するという。

一般人の阻止事例を紹介します。

  • 携帯電話で話しながらATMを操作している女性に声をかけ、特殊詐欺被害を防いだとして、大阪府警西堺署は、エステサロン経営の女性に感謝状を贈呈しています。報道によれば、エステサロン経営の女性は、堺市内のコンビニで、通話しながらATMを操作している60代の女性の様子に違和感を感じ、声をかけて電話を切り、詐欺だと説明したものの、女性が不安そうで、詐欺の電話が再度かかる恐れもあると思い、車で近くの交番まで送り届けたといいます。女性は銀行のコールセンターをかたる男の指示通り数字を押し、50万円近くを振り込まされる直前だったとのことです。エステサロン経営の女性は、知人ではない相手から指示をされているような様子に違和感を感じたといい、「知らない人と電話をしながらATMを操作するのは危険だと、改めて感じた。被害防止に貢献できてよかった」と話しています。
  • 特殊詐欺被害を未然に防いだとして、大阪府警摂津署は、警備会社「セコム」の警備員井上さんと大垣さんに感謝状を贈っています。報道によれば、2人は10月中旬、吹田市の商業施設で、携帯電話で通話しながらATM周辺を歩く夫婦(70代)を見かけ「特殊詐欺にあっているのでは」と疑い、声をかけると「高額医療の還付金についての電話だった」などと答えたため、電話を代わったが、すぐに切れたといいます。このことで特殊詐欺と確信し、警察に連絡したということです。
  • 孫をかたるオレオレ詐欺グループの一員としてキャッシュカードをだまし取ろうとしたとして、警視庁は、埼玉県草加市の無職の男を詐欺未遂容疑で現行犯逮捕しています。被害者は自身に孫がいないことなどから不審に思って警察に通報、「だまされたふり」作戦で男を誘い出すことに協力したということです。報道によれば、東京都世田谷区に住む60代男性は、自宅で「孫の俺だけど名前わかる?」との電話を受け、「ファミレスで食事をしていたらカバンを置き忘れて盗まれた。会社のカードが入っていて100万円が必要だ」と告げられたといいます。男性は、電話機に表示された電話番号が「0」から始まるものではなかったためその番号をインターネットで検索したところ、詐欺の可能性があるとの記載を発見、そもそも自身に孫がいないこともあり、詐欺を疑って110番通報したといいます。通報を受けて自宅周辺を警戒していた警察官が、「孫の職場関係者」としてやってきた男をその場で逮捕したものです。男性の冷静さとリスクセンスの高さに感心させられます。
  • 息子を装って70代女性から約560万円を詐取しようとしたとして、警視庁西新井署は詐欺未遂容疑で容疑者を現行犯逮捕しています。報道によれば、11月中旬、別の人物と共謀し、東京都足立区の無職女性に息子を装って電話をかけ、「以前勤めた会社の情報を漏洩した」、「560万円が必要」などと嘘をいい、現金を詐取しようとしたとしたものですが、女性が銀行で現金を降ろした後、本当の息子に連絡して詐欺に気付き、通報、だまされたふりをして捜査に協力し、署員が待ち合わせ場所に訪れた小泉容疑者を取り押さえたものです。お金を引き出したあとで冷静さを取り戻すのは容易なことではないと思われますが、息子に電話をして確認することができた理由を知りたいところです。なお、本件で詐欺未遂容疑で現行犯逮捕された男は、SNSに届いた「高額報酬」の仕事を募集するダイレクトメッセージ(DM)に応じたことをきっかけにグループに加わったとみられています。報道によれば、男は調べに対し、SNSのDMで募集があった「書類の受け渡し」業務に応じ、2022年6月から現金の受け取り役を7、8回繰り返したと説明、当初は犯罪とは気付かなかったものの、やりとりの相手が高齢者だったことから、自らが特殊詐欺に関わっているのではないかと思うようになったといい、報酬は1回あたり、約5万円だったとのことです。

次に金融機関の事例を紹介します。

  • 特殊詐欺被害を防いだとして、福島県警南相馬署は、七十七銀行原町支店に感謝状を贈っています。同支店で11月2日、電話をかけながらATMを操作している高齢男性がいたため、同支店副長が声をかけて同署に通報、男性は「770万円が当選した」とSNSで連絡を受け、当選金の手数料名目で現金を振り込もうとしていたといいます。副長が詐欺被害を未然に防いだのは今回が4回目で、「詐欺がなくならない以上は、銀行で止めるしかない。これからもお客様の資産を守りたい」と話しています。その強い使命感が水際で被害を防止することにつながっているのだと痛感させられます。
  • 愛媛県今治市の越智今治農協本店に、市内の70代女性が「ビットコインを買いたい」と訪れ、扱っていないと伝えられると出て行ったものの、すぐに戻ってきて、今度は1800万円の振り込みを要請したため、怪しいと感じて理由を尋ねた金融業務部の土岐さんに、女性は「金融庁を名乗る人物らから「あなたは違法の名義貸しをしたので、口座を凍結する」という電話を受けた。その後、弁護士を名乗る人物から「あなたを助ける。口座のお金を一時的に別の口座に預けてくれ」と電話があった」という話をしてくれたため、土岐さんは詐欺だと説明し、女性は納得したといいます。とはいえ、自分が違法行為をしたという思い込みは解けず、「警察だけには連絡したくない」と言って帰宅、女性は翌日午後、今治市上浦町井口の同農協上浦支店を訪れ、客と職員として10年来の関係を持つ頼末さんに、女性は「マイナンバーカードの画像を送信してしまった。朝から何度も電話がかかってきている。口座は凍結されないか。本当に振り込まん方がいいんやろか」と不安な気持ちを打ち明け、頼末さんは「おかしいけん、振り込まない方がいい」と断言、女性の了承を得て伯方署に連絡したということです。いったん思い込むとそれを払しょくすることがなかなか難しい高齢者の特性をあらためて認識させられるとともに、顧客との強い信頼関係が水際で被害を防止できた好事例でもあるといえます。

最後にコンビニの事例を紹介します。

  • ニセ電話詐欺被害を未然に防いだとして、福岡県警うきは署は、ネパール出身で、久留米市のコンビニエンスストア「ファミリーマート久留米田主丸店」マネジャーの男性に感謝状を贈っています。報道によれば、マネジャーは、来店した60代の男性が、携帯電話をかけながら5万円分の電子マネーカードを購入しようとしていたのを不審に思い、電話を切るよう助言、直後に再び着信があり、マネジャーが男性の息子のふりをして応対すると電話が切れたため同署に通報し、被害を防いだといいます。男性は、自宅で操作していたパソコンの画面が動かなくなり、表示された電話番号にかけると、片言の日本語を話す男から「ウイルスに感染し、銀行口座からお金を盗まれる」などと言われ、カードの購入を指示されたということです。マネジャーは、携帯電話の画面を見せてもらったところ、1時間ほど通話しており、発信元として「米国テキサス州」と表示されていたことから、とっさに携帯電話を受け取り「私は息子です。何の電話ですか。どこの会社? 名前は?」と息子になりきって質問を浴びせたところ、相手は外国人と思われる男性の声で、片言の日本語を話しており、マネジャーの冷静な声を聞いて逃げるように電話を切ったといいます。マネジャーは息子を装った理由について「店員ではなく、家族だと伝えた方が、詐欺相手が今後も警戒し、男性が被害に遭いにくくなると思った」と説明しています。咄嗟の的確な判断と対応は素晴らしいものだと思います。
  • パソコンがウイルスに感染したと偽の警告画面を表示して金をだまし取る「サポート詐欺」の被害を防いだとして、大阪府警鶴見署は、ローソン鶴見横堤3丁目店のアルバイト店員で大学生の市木さんら2人に感謝状を贈っています。市木さんは、客の70代の男性がプリペイド型のギフトカードを16万円分も購入しようとしたことを不審に思い、用途を質問、男性が「パソコンの修理に使う」などと説明したため詐欺を疑い、もう一人の店員に警察に相談するよう説得してもらったといいます。男性はその後、鶴見署を訪れて事情を説明し、サポート詐欺に遭っていることが発覚したとのことです。男性はパソコンに表示された番号に電話して「トロイの木馬に侵されている。処置するのにギフトカードが必要だ」などといわれ、すでに別のコンビニ2店で計12万円分を購入していたということです。
  • 架空料金請求詐欺の被害を防いだとして、滋賀県警東近江署は、日野町のコンビニエンスストア「ファミリーマート」の女性店長に感謝状を贈っています。同店では2022年3月、アルバイト店員が別の詐欺被害を防ぎ感謝状を贈られているといいます。店長は、1万円分の電子マネーを購入しようとした30代の女性客が、レジに表示された詐欺の警告画面を注視しているのに気付き、「詐欺じゃないですか。警察に電話しましょうか」と声をかけると、女性が「詐欺かもしれない。お願いします」と答えたため、店長が110番通報、女性は購入を思いとどまったといいます。店長は「勇気を出して声をかけた。安心して訪れてもらえる店を目指し、これからも声をかけ続けます」と話しています。やはり、お客さまの相手をしっかりと観察して違和感に気づくリスクセンスの重要性、「声をかける勇気」の重要性を痛感させられます
  • 茨城県警竜ケ崎署は、ニセ電話詐欺による被害を防いだとして、龍ケ崎市北方町のコンビニエンスストア「ミニストップ竜ケ崎北方店」の店員、中村さんと桜井さんに感謝状を贈っています。中村さんの被害阻止は2021年から4回目だといいます。報道によれば、2人は、70代男性が8万円分の電子マネーを購入しようとしたことを「高額でおかしい」と不審に思って止め、警察に通報したもので、中村さんは「声掛けが大事なのでこれからも気を配っていきます」と、桜井さんも「止められてうれしい。今後も気を付けます」と話しています。中村さんは2021年4月に1回、2022年1月にも2回、詐欺を防止しています。

その他、特殊詐欺被害の防止につながる興味深い取組みをいくつか紹介します。

  • 大分県警が、「勤務中の警察官も制服を着たままコンビニエンスストアで買い物できるようになります」と「規制緩和」をしています。制服姿の警察官がコンビニなどでパトロールを兼ねて立ち寄り、飲食物などを購入、制服姿で利用することで犯罪被害を防ぎ、警察官の業務の効率化を図る狙いがあるといいます。具体的には、店員に「ATMの前で電話をしながら操作している人がいたら、声をかけて通報してください」などと伝えた後、弁当とペットボトルのお茶を購入するといった場面が想定されています。これまでも制服警官のコンビニ利用を厳格に禁止していたわけではなかったものの、市民に「職務怠慢、公私混同ではないか」といった誤解を生まないように巡回中の買い物は控え、一度交番に戻って上着を羽織るなどして対応してきたといいます。こうした方針を転換させるきっかけになったのは、コンビニなどで万引き事件や特殊詐欺被害が多発しているためで、2022年は10月末までにコンビニで66件の万引き事件が発生、2021年の年間61件を既に上回っているほか、電子マネーをだまし取る特殊詐欺も同様に10月末までに77件(昨年は年間82件)と多発している状況にあります。このため「見せるパトロール」もかねて、制服姿の利用を認めることにしたとのことです。
  • 還付金詐欺の被害を防ぐため、警視庁は、人工知能(AI)を内蔵したカメラを都内のコンビニ店に設置し、携帯電話で通話中にATMを操作する利用客を検知する実証実験を始めたと発表しています。これまで紹介しているとおり、医療費や税金の還付を装って現金をだまし取る還付金詐欺は、携帯電話で通話しながら被害者にATMの操作を指示し、現金を振り込ませる手口が多いことをふまえ、客が通話中にATMを利用すると、AIカメラが腕を曲げる動作などを検知して店内のブザーが鳴り、店員らが注意を促せる仕組みになっているといいます。実験は11月7日に都内のコンビニ店「セブン―イレブン」で始まり、1年後をめどに効果を検証するとのことです。カメラを開発したソフトウェア開発会社「ビズライト・テクノロジー」の田中社長は「安全・安心な社会を築くことは非常に重要で、取り組みに参加できて光栄だ」と話しています。誤検知の問題はあると思われますが、業務多忙のときなど、人の代わりとのセンサーとして機能することを期待したいと思います。
  • 富士通と東洋大、兵庫県尼崎市は共同で、還付金詐欺やオレオレ詐欺といった特殊詐欺に遭遇した際の被害者の心理状態を分析し、生理反応や心理的特性など11の要素から被害に遭いやすい状況を推定する手法を開発しています。また将来は「この人は詐欺被害に遭いそうになっている」とAIが判断し、本人に知らせたり警察に通報したりするシステムの構築を目指すといいます。
▼東洋大学 富士通 兵庫県尼崎市 プレスリリース
  • 生理反応との関係:
    特殊詐欺電話により、緊張・混乱するほど、

    • 心拍数が増加しやすい(p < .05)
    • 呼吸が速くなりやすい(p < .05)
    • ストレス値が上昇しやすい(p < .01)
  • 心理的な特性・基本データとの関係:
    • 高齢者のうち年齢が高い方が緊張・混乱しやすい(p < .01)
    • 疑いやすい人は信じやすい人よりも緊張・混乱しやすい(p < .01)

    ※p:統計的有意性(値が小さい方がその現象が偶然起きる可能性が低く確からしい)

  • 既存手法として一般的に用いられている生理反応だけでなく、疑いやすさに関する心理的な特性を含めて分析することで、心理状態をより精度高く推定できることを確認しました。以上から、心理状態の推定に適した要素を、候補の要素の中から絞り込み、上記の5要素を含めた11要素に特定することができました。これにより、事前アンケートを用いて測定可能な疑いやすさなどの心理的な特性や心拍数などの生理反応から、心理状態を推定できることを確認しました。以上より、特殊詐欺電話を受けた時の被害者の心理状態を数値で把握可能にすることができました
  • 高齢者宅などの実用的な使用条件への適用を目指して、2022年度下半期に予定している2回目の実証実験では、カメラやミリ波センサーなどの非接触センサーから推定した生理反応を用いて検証します。また、2回目の実証実験のデータを用いて、推定した心理状態の変化から特殊詐欺を推定するAIモデルの構築と有効性検証を行い、特殊詐欺全般を高精度に検知するモデルの開発を目指します。
  • 3者は、複雑化かつ巧妙化する特殊詐欺において共通的に活用できる特殊詐欺推定AIモデルの開発を目指す取り組みを推進することにより、超高齢社会においても、高齢者が安心安全な生活を送れる環境づくりに貢献することを目指します。

(4)薬物を巡る動向

2022年11月1日に書面開催された薬物乱用対策推進地方本部全国会議の配布資料が公表されています。2019年9月に薬物乱用対策推進会議にて取りまとめられた「第五次薬物乱用防止五か年戦略」フォローアップほか、直近における薬物情勢・取組み状況がコンパクトにまとめられておりますので、以下、一部抜粋して引用します。とりわけ、以下の資料にも掲載されていますが、大麻については、従来の所持や栽培に加え、新たに「使用罪」が導入される方向ですが、一方で、CBD(カンナビジオール)関連製品のブームや医療活用の流れ、海外の動向を受けて、「大麻が解禁される方向になっている」との誤認が拡がることが強く危惧される状況です。CBD製品を巡っては、有害成分THC(テトラヒドロカンナビノール)の混入が確認されて国内販売の中止や回収となったケースが複数出ており、安全性の担保について課題が残る状況です。本コラムでもたびたび指摘しているとおり、私たち大人の責務として、根拠なき風説に惑わさず、正しい知識と情報を若い世代に伝えていくことが急務となっています

▼厚生労働省 薬物乱用対策推進地方本部全国会議
▼資料2 第五次薬物乱用防止五か年戦略フォローアップ概要<薬物乱用対策推進会議>
  • 令和3年の薬物情勢
    • 薬物事犯の検挙人員は、14,408人(▲159人/▲1.1%)と前年より減少した。うち、覚醒剤事犯の検挙人員は、7,970人(▲684人/▲7.9%)と6年連続で減少し、3年連続で1万人を下回っている。一方、大麻事犯の検挙人員は、5,783人(+523人/+9.94%)と8年連続で増加し、過去最多を更新した。
    • 覚醒剤の押収量は998.7kg(+174.3kg/+21.14%)、乾燥大麻の押収量は377.2kg(+78.1kg/+26.1%)と、いずれも前年より増加した。一方、コカインの押収量は15.1kg(▲806.6kg/▲98.1%)、MDMA等錠剤型合成麻薬の押収量は80,623錠(▲25,685錠/▲24.1%)と前年より減少した。
    • 薬物密輸入事犯の検挙件数は、286件(前年同値)、検挙人員は367人(+37人/+11.2%)と、前年より検挙人員が増加した。
    • 30歳未満の検挙人員は、覚醒剤事犯は前年より増加し、また大麻事犯は8年連続で増加して過去最多を更新し、大麻事犯全体の検挙人員の68.0%(+1.3P)となった
    • 覚醒剤事犯の再犯者率は、66.9%(▲1.6P)と15年ぶりに減少した。
    • 危険ドラッグ事犯の検挙人員は、164人(+5人/+3.1%)と前年より増加した。
  • 目標1 青少年を中心とした広報・啓発を通じた国民全体の規範意識の向上による薬物乱用未然防止
    • 薬物の専門知識を有する各関係機関の職員等が連携し、学校等において薬物乱用防止教室を実施したほか、各種啓発資料の作成・配付を行った。〔文科・警察・法務・財務・厚労〕
    • 乱用の拡大が懸念される若年層に対し、薬物乱用の危険性・有害性に関する正しい知識を普及するため、新入社員等を対象とした薬物乱用防止講習や児童・保護者等を対象とした出前講座の実施、有職・無職少年を対象とした薬物乱用防止読本の作成・配布、政府広報としてインターネット広告やラジオ番組等による情報発信等の広報啓発活動を実施した。〔内閣府・警察・総務・文科・厚労〕
    • 各種運動、薬物乱用防止に関する講演、街頭キャンペーン等、地域住民を対象とした広報啓発活動を実施するとともに、ウェブサイトやリーフレット等の啓発資材に相談窓口を掲載し、広く周知した。〔内閣府・警察・消費者・法務・財務・文科・厚労〕
    • 海外渡航者が安易に大麻に手を出したり、「運び屋」として利用されることのないよう、法規制や有害性を訴えるポスターの活用を図ったほか、ウェブサイトやSNS等で注意喚起を実施した。〔警察・外務・財務・厚労〕
  • 目標2 薬物乱用者に対する適切な治療と効果的な社会復帰支援による再乱用防止
    • 「依存症対策総合支援事業」の実施により、依存症専門医療機関及び依存症治療拠点機関の選定を推進するとともに、「依存症対策全国拠点機関設置運営事業」により医療従事者の依存症治療に対する専門的な能力の向上と地域における相談・治療等の指導者となる人材の養成を実施した。〔厚労〕
    • 薬物事犯により検挙され、保護観察処分が付かない執行猶予判決を受けた者等、相談の機会が必要と認められる薬物乱用者に対して、再乱用防止プログラムの実施を強化するとともに、パンフレットを配布して全国の精神保健福祉センターや家族会等を紹介するなど相談窓口の周知を徹底した。〔厚労・警察〕
    • 薬物事犯者の処遇プログラムを担当する職員への研修等の実施により、職員の専門性向上を図るとともに、関係機関と連携し、薬物処遇と効果的な社会復帰支援を切れ目なく実施した。〔法務・厚労〕
    • 保健所、精神保健福祉センター、民間支援団体等と連携して家族会等を実施するとともに、再非行に走る可能性のある少年やその保護者に対し、積極的に指導・助言等の支援活動を行った。〔法務・厚労・警察〕
  • 目標3 薬物密売組織の壊滅、末端乱用者に対する取締りの徹底及び多様化する乱用薬物等に対する迅速な対応による薬物の流通阻止
    • 通信傍受、コントロールド・デリバリー等の捜査手法の効果的な活用に努め、薬物密売組織の中枢に位置する首領や幹部に焦点を当てた取締りを推進した結果、令和3年中、首領・幹部を含む暴力団構成員等3,899人を検挙した。〔警察・法務・財務・厚労・海保〕
    • 令和3年中、麻薬特例法第11条等に基づく薬物犯罪収益等の没収規定を51人に、同法第13条に基づく薬物犯罪収益等の追徴規定を226人にそれぞれ適用し、没収・追徴額の合計は約8億6,482万円に上った。〔法務〕
    • 迅速な鑑定体制を構築し、未規制物質や新たな形態の規制薬物の鑑定に対応するため、資機材の整備を行うとともに、薬物分析手法にかかる研究・開発を推進し、会議等を通じ関係省庁間で情報を共有した。〔警察・財務・厚労・海保〕
    • 大麻の乱用拡大や諸外国における大麻を使用した医薬品の上市等を踏まえ、医学、薬学、法学の有識者を構成員とする「大麻等の薬物対策のあり方検討会」を開催し、今後の薬物対策のあり方などについて基本的な方向性をとりまとめた。〔厚労〕
  • 目標4 水際対策の徹底による薬物の密輸入阻止
    • 関係機関間において緊密な連携を取り、捜査・調査手法を共有した結果、統一的な戦略の下に効果的、効率的な取締りが実施され、令和3年中、水際において、約1,138キログラムの不正薬物の密輸を阻止した。〔警察・財務・厚労・海保〕
    • 麻薬等の原料物質に係る輸出入の動向及び使用実態を把握するため、国連麻薬統制委員会(INCB)と情報交換を行うとともに、関係機関と連携し、麻薬等の原料物質取扱業者に対し、管理及び流通状況等にかかる合同立入検査等を実施した。〔厚労・経産・海保〕
    • 訪日外国人の規制薬物持ち込み防止のため、関係省庁のウェブサイト等での情報発信に加え、民間団体等に対して広報協力の働きかけを行うとともに、国際会議や在外関係機関を通じて広報・啓発を実施した。〔警察・財務・厚労・海保〕
  • 目標5 国際社会の一員としての国際連携・協力を通じた薬物乱用防止
    • 国際捜査共助等を活用し、国際捜査協力を推進するとともに、国際的な共同オペレーションを進めた結果、薬物密輸入事案を摘発した。〔法務、警察、財務、厚労、海保〕
    • 第64、65会期国連麻薬委員会(CND)通常会合、アジア太平洋薬物取締機関長会議(HONLAP)臨時会合等に出席し、参加各国における薬物取締状況や薬物の密輸動向及び取締対策等に関する情報を入手するとともに、国際機関や諸外国関係者等と積極的な意見交換を行い、我が国の立場や取組について情報共有を図った。〔警察・外務・財務・厚労・海保〕
  • 当面の主な課題
    • 令和3年の我が国の薬物情勢は、大麻事犯の検挙人員が8年連続で増加し、5年連続で過去最多を更新するなど、大麻乱用の拡大が継続して顕著であり、「大麻乱用期」であることが確実と言える状況である。特に、30歳未満の大麻事犯は、大麻事犯全体の68%を占めており、若年層における乱用が拡大している。一方で、諸外国において大麻に由来する医薬品が上市され、国際会議等においても大麻の医療用途等への活用が議論されている。こうしたことから、取締りのより一層の強化や若年層に焦点を当てた効果的な広報・啓発活動を推進するとともに、「大麻等の薬物対策のあり方検討会」において示された基本的な方向性を踏まえ、関連法令の制度改正に向けた議論を行っている。
    • また、我が国で押収される違法薬物の大半は水際で押収されており、今後も貨物等に隠匿して密輸入する事犯等の増加が懸念されることから、国内外の関係機関が連携を強化し、コントロールド・デリバリー捜査を積極的に活用するなど、徹底した水際対策を実施する必要がある。
    • 覚醒剤事犯の再犯者率は15年ぶりに減少したものの、依然として高い水準にあることから、関係省庁との連携を強化し、薬物乱用者に対する適切な治療・処遇と効果的な社会復帰支援をこれまで以上に推進する必要がある。
▼資料8 財務省・税関における取組状況<財務省>
  • 令和3年における不正薬物の押収量は、6年連続で1トン超え。
  • 覚醒剤の摘発件数は95件(前年同期比32%増)、押収量は約912kg(同12%増)と共に増加。
    • (参考1)押収した覚醒剤は、薬物乱用者の通常使用量で約3,040万回分、末端価格にして約547億円に相当。
  • 大麻樹脂等(大麻リキッドを含む)及びMDMAの押収量が増加。
    • (参考2)大麻樹脂等の押収量 R1:21kg、R2:76kg、R3:132kg
    • (参考3)MDMAの押収量 R1:6.1万錠、R2:9万錠、R3:12.7万錠
  • 令和4年上半期(1~6月)における不正薬物の摘発件数は増加し、押収量は減少した
  • 航空貨物・国際郵便物からの不正薬物摘発件数が増加。令和4年上半期の航空貨物・国際郵便物の不正薬物摘発件数は、航空貨物が92件(前年同期比2倍)、国際郵便物が390件(同比10%増)となり、不正薬物全体の摘発件数の約9割を占めた。
  • 令和4年上半期の不正薬物の主な摘発事例
    1. 事例1 国際郵便物
      • ベトナムから到着した国際郵便物(お茶の袋)に隠匿された覚醒剤約1kgを摘発した。(令和4年4月・東京税関)
    2. 事例2 航空貨物
      • カナダから到着した航空貨物(ガラス製容器)に隠匿された大麻リキッド約3kgを摘発した。(令和4年5月・東京税関)
    3. 事例3 航空貨物
      • マレーシアから到着した航空貨物(コーヒー袋・乾燥剤)に隠匿された覚醒剤約2kgを摘発した。(令和4年5月・大阪税関)
    4. 事例4 航空貨物
      • アメリカから到着した航空貨物(レコードプレイヤー)に隠匿された大麻成分を含有する固形物約8kgを摘発した。(令和4年2月・東京税関)
    5. 事例5 国際郵便物
      • ドイツから到着した国際郵便物(ナッツの袋等)に隠匿されたMDMA約2千錠を摘発した。(令和4年1月、2月・横浜税関)
    6. 事例6 国際郵便物
      • 台湾から到着した国際郵便物に隠匿された指定薬物4本を摘発した。(令和4年1月・東京税関等)
  • 不正薬物等に対する厳格な検査と迅速な通関を両立するため、税関検査等において最先端技術を積極的に導入。
    1. 税関検査場電子申告ゲート(Eゲート)
      • ITを活用し、旅客の通関を自動化
        • 携帯品等申告書は、電子的提出が可能
        • 検査においても、事前情報等を活用
        • 顔認証による本人確認の実施
      • 全国7空港(成田、羽田、関西、中部、福岡、新千歳、那覇)に配備
    2. X線CTスキャン検査装置
      • 自動識別・画像解析機能を搭載
      • 要注意貨物(携帯品)を悉皆的・効率的に検査
    3. 国際郵便物税関検査装置
      • コンベア上にX線検査装置を配置し、X線検査を機械化・自動化
▼資料10 海上保安庁における薬物事犯の摘発状況と水際対策について<海上保安庁>
  • 令和3年において海上ルートによる薬物密輸事犯を6件摘発し、その押収量は、覚醒剤約486kg(1件鑑定中)、コカイン約2kgとなっている。
  • 覚醒剤の押収量は前年と比較すると倍増しており、一度に大量の覚醒剤を密輸する事犯が相次いで発生している状況で、その手口は、海上コンテナ貨物への隠匿によるもので、大口化・巧妙化の傾向が続いている。
  • その他の手口として、海上からの薬物密輸事犯については、過去5年間において小型船舶を利用した洋上瀬取りや訪日クルーズ船の外国人乗客による薬物等の国内持ち込み事犯も摘発している。
  • 近年においては、海上コンテナ貨物への隠匿による密輸事件はもとより、国内における違法薬物の所持・使用事犯の増加が懸念されていることに着目し、これら潜在事犯の摘発に向け、捜査体制を強化している。
  • 水際対策
    1. 国内外の関係機関との連携を強化
      • 合同捜査による取締りに加え、各種会議、研修等において、国内外の関係機関との連携強化や情報共有に努めている。
    2. 巡視船艇・航空機等を活用した監視・警戒及び広域捜査
      • 虞犯情報に基づき、巡視船艇・航空機等を使用した外航船舶等に対する監視や警戒のほか、コントロールド・デリバリー捜査等において航空機を投入し、捜査に活用している。
    3. 薬物仕出地とされる可能性の高い国から来航する船舶に対する重点的な立入検査・監視
      • 新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、航空機利用客による違法薬物の密輸件数が減少し、海上貨物等への隠匿による違法薬物の密輸事件が懸念されることから、当該船舶等に対する重点的な立入検査や監視を実施している
▼資料12 薬物乱用防止対策<厚生労働省>
  • 大麻規制検討小委員会のとりまとめ(概要)
    1. 医療ニーズへの対応
      • 国際整合性を図り、医療ニーズに対応する観点から、大麻から製造され医薬品医療機器等法に基づく承認を得た医薬品について、その輸入、製造及び施用を可能とするべき。(大麻取締法第4条では、大麻から製造された医薬品の施用、交付、受施用を禁止していることから、当該第4条等の関係条項を改正)
    2. 薬物乱用への対応
      • 他の薬物の取締法規では所持罪とともに使用罪が設けられていることを踏まえ、大麻についても、医薬品の施用・受施用等を除き、その使用を禁止(いわゆる「使用罪」)するべき。その際、薬物乱用者に対する回復支援の対応を推進し、薬物依存症の治療等を含めた再乱用防止や社会復帰支援策も充実させるべき。
      • 従来の大麻草の部位による規制に代わり、成分に着目した規制を導入するべき。(麻薬及び向精神薬取締法の下での規制に移行)
      • 大麻に含まれる主な成分
        • テトラヒドロカンナビノール(THC)…幻覚等の精神作用を示す麻薬として規制すべき成分
        • カンナビジオール(CBD)…麻薬の性質がなく、医薬品の原料、食品やサプリメントとしても利用される成分(海外でも規制されていない)
    3. 大麻の適切な利用の推進
      • カンナビジオール(CBD)などの大麻由来製品の安全かつ適切な流通の確保のため、テトラヒドロカンナビノール(THC)の残留限度値を設定、明確化していくべき。その際、製造販売等を行う事業者が限度値適合性を担保することを基本とし、併せて、買い上げ調査等を含めた行政による監視指導等により対応するべき。
    4. 適切な栽培及び管理の徹底
      • 免許制度による適正な管理の下で、現行法の繊維又は種子を採取する目的に加え、新たな産業利用(CBD製品を含む)、医薬品原料の用途に向けた生産についても栽培の目的として追加するべき。
      • 現行用途及び新たな産業用途(医療用原料用途を除く)の大麻草の栽培について、0.2%のような海外の事例等を踏まえ、大麻草のTHC含有量の上限値を設定し、種子の管理により、上限値への適合性を確保するべき。
      • THC上限値以下の産業用途の大麻草(低THC大麻草)の栽培は、現行よりも栽培しやすい合理的な栽培管理規制や免許制度とするべき。
      • 欠格事由以外の免許基準も、統一的な免許・栽培管理基準として明確化していくべき。産業用途の大麻草の栽培は、適した免許権者(都道府県を含む)を検討するとともに、医薬品原料用途の栽培は、国による管理を基本とするべき。
  • 薬物乱用防止デジタル広報啓発事業(拡充)
    1. 現状・課題
      • 第五次薬物乱用防止五か年戦略(平成30年8月薬物乱用対策推進会議)において、「目標1 青少年を中心とした広報・啓発を通じた国民全体の規範意識の向上による薬物乱用未然防止」が掲げられている。
      • 令和2年の大麻の検挙者数は5,260人になり、うち6割以上を若年層が占めていることから、若年層における大麻汚染及び、覚醒剤事犯の検挙人員の再犯率も60%台の高水準を維持しており深刻な問題となっている。
      • 若年層の大麻汚染が広がるなか、令和2、3年度計画していた集会を伴う各種啓発運動・大会がコロナ禍により相次いで中止となり、憂慮すべき状況となっており、デジタルツールにより情報収集に長けた現代の若年層に対する新たな啓発広報が必要となっている。
      • スマートフォン等の普及により、手軽にインターネット、特にSNS等を利用して情報共有が容易になっており、不正薬物の取引形態の多様化及び巧妙化。
      • 以前のような暴力団員等の反社会的なコミュティに属さずとも(虞犯少年でなくても)、違法薬物が容易に手に入る環境になったことにより、違法薬物に対するハードルが低下
      • 既存の啓発広報は、生涯経験率が諸外国より著しく低いことから効果が認められる一方、詳細な効果検証が難しいことから、新たな広報啓発が必要となっている。
    2. 事業目的
      • 昨今、インターネットの普及により、暴力団組員等の反社会的なコミュティに近しい家庭や環境に問題を抱える層でなくても、違法薬物に手を出しやすくなっていることから、現代社会における薬物使用予備軍(ハイリスク層)に対する啓発広報が求められる。現代のデジタル化による若年層のハイリスク層に対して、集会を伴う運動・大会やアナログ媒体(ポスター・リーフレット等)による啓発広報だけでは対象者に浸透しにくいことから、対象者を限定しデジタル広報により有効的な啓発広報を展開する。
    3. 事業内容
      1. 啓発対象者(ハイリスク層)の絞り込み
      2. 対象者に有効なコンテンツの作成
      3. 対象者に対して、薬物犯罪が近年増加しているツール(Twitter等)で配信
      4. 効果検証
    4. 令和3年度事業実績
      • 1ヶ月という短期間で、約1200万回ユーザーの手元で広告が示され、約8.4万人が自らの意思で能動的に啓発コンテンツに流入した。

新型コロナウイルスの水際対策が大幅に緩和された2022年10月11日以降、来日時に違法薬物を持ち込んだとして摘発されるケースが相次いでいるといいます。羽田空港では、緩和から約1カ月半で2021年1年間の摘発件数を超えたほか、知らない間に「運び屋」にされるケースもあるとして、警視庁が注意を呼びかけています。同10月20日には、羽田空港で、東京税関職員が税関の手荷物検査を受けずに通り過ぎようとした、英ロンドン・ヒースロー空港から来たスペイン国籍の男(49)について、体をX線検査したところ、胃や直腸などから多数の不審物が見つかったため、下剤を使い16回にわたって不審物を排出させたところ、繭状のカプセル計102個が出てきたといい、中身が覚醒剤だとわかり、男は逮捕されました。2022年に入ってから緩和前日の10月10日までに違法薬物の密輸容疑で摘発されたケースは0件だったのに対し、10月11日から11月25日までの摘発は8件8人となり、2021年1年間の7件7人を上回っています。警視庁は、知らないうちに薬物の「運び屋」にされないよう注意を呼びかけており、過去には、違法薬物を運び込んだ人が「荷物運びのバイトに応募し、海外から中身のわからない荷物を国内へ持ち帰った」、「アプリなどで知り合った相手に会うため海外へ行ったところ、荷物を持ち帰らされた」などと説明するケースもあります。

相変わらず薬物事犯への暴力団の関与が目立ちます。最近では、静岡県東部を中心に覚せい剤の密売に関わっていたなどの疑いで、稲川会系大場一家の幹部ら12人が逮捕された事例がありました。暴力団幹部の男をトップとした大規模な密売グループがあったとみられています。報道によれば、暴力団幹部の男と無職の男は、2022年2月に、富士市内で相当量の覚せい剤を有償で客に譲り渡した疑いが持たれているほか、ほかの10人も覚せい剤などの違法薬物の密売に関わっていたり、使っていたりした疑いが持たれているといいます。これまでの調べで、大規模な密売グループがあり、暴力団幹部の男がその中心だったとみられており、警察は入手ルートや金の流れを調べるとともに、他にも関係者がいるとみて、実態解明を進めているといいます。また、東京都大田区内の路上で客に対し、覚せい剤を譲り渡したとして、警視庁蒲田署は覚せい剤取締法違反容疑で、稲川会系組長ら2人を逮捕しています。逮捕容疑は共謀の上、2022年6月上旬、大田区蒲田の路上で30代男性に対し、覚せい剤約0.25グラムを代金1万円で売り渡したとしています。報道によれば、客らを摘発する中で、2人の関与が浮上したといい、蒲田署は覚せい剤の入手ルートなどを調べていますが、容疑者らがJR蒲田駅の西口周辺で活動し、13年間で4億円以上を売り上げたとみており、客のあいだでは、「蒲田に行けば買える」という情報が口コミで広がっていたということです。

覚せい剤取締法違反(使用、所持)の罪に問われたアイドルグループの元メンバー田中被告の公判が、千葉地裁松戸支部で開かれ、被告人質問で田中被告は、依存症の治療などへの取り組みを今後も続けて薬物を断つと表明しています。この日は検察側が求刑して結審する予定だったところ、別の事件で追起訴予定があるとして求刑せずに審理を終えています。公判では、2022年9月の保釈後に約3カ月間入院を続けている病院の主治医が証人として出廷、田中被告が治療に積極的に取り組んでいると話し、その後の被告人質問で田中被告は、退院後の12月に薬物依存の回復支援施設に入り「変わらず治療を継続する」と述べ、弁護人から薬物を断てるのかと問われ、「やれます」と答えたといいます。ところが、その日、知人女性から現金1万円を脅し取ったとして、京都府警は、田中被告)を恐喝容疑で逮捕しました。報道によれば、田中被告は2021年6月、知人女性に対し、紹介で出演したライブの出演料が未払いだと因縁をつけ、LINEで「1秒でも早く10万耳そろえてキッチリ払え」などとメッセージを送り、現金1万円を振り込ませて脅し取った疑いがもたれています。さらに、被害者の女性に対し、「裏も動く案件だぞ」と背後に暴力団の存在をちらつかせて脅していたことが分かったということです。

薬物事犯を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 教育関係者の摘発が相次いでいます。横浜市教育委員会は、大麻を使用するなどした市立小学校の女性教諭(24)を懲戒免職としています。大麻を所持、使用したとして、大麻取締法違反の疑いで逮捕され、その後不起訴となっていました。同教委の調査に「ストレスがたまった時に使った」と説明したといいます。また、青森県弘前市教育委員会は、市教育センターに勤務する職員(68)が麻薬特例法違反で逮捕、起訴されたとして、懲戒免職にしています。報道によれば、職員は販売者から届いた覚せい剤0.2グラムを弘前市の自宅で受け取ったとして、2022年9月に近畿厚生局麻薬取締部に逮捕され、その後、大阪地裁で懲役1年、執行猶予3年の有罪判決を受けました。職員は2018年4月に非常勤の任用職員として採用され、センターで教育支援の仕事を担当して学校に出向くこともあり、逮捕前日まで通常勤務していたといいます。同教委には「仕事のストレス解消のためだった」と説明しているとのことです。
  • 福岡県警博多臨港署は、自称医師の男を大麻取締法違反(所持)と医薬品医療機器法違反(指定薬物所持)の両容疑で逮捕しています。発表によれば、男は2022年6月、福岡市中央区に止めた車内で、大麻0.007グラムや指定薬物を含む液体0.05グラムを所持した疑いがもたれており、警察官がパトロール中、目をそらした男を不審に思い、職務質問して発覚したということです。報道によれば、「大麻を持っていたのは事実だが、液体については何の液体か分からない」と容疑を一部否認しているということです。
  • 神奈川県警は、覚せい剤取締法違反(使用)の疑いで無職の容疑者を再逮捕しています。相模原市で2022年10月、監禁容疑で指名手配中に閉館したホテルに一時侵入し逃走、その後県警に出頭し逮捕されていたもので、7月中旬ごろから8月3日の間、県内周辺で覚せい剤を使用した疑いがもたれています。県警が薬物事件の捜査で横浜市内のアパートの一室を家宅捜索し、容疑者がいたため採尿を実施、鑑定結果が出る前に、容疑者は逃走したということです。
  • 千葉県警茂原署は、大麻取締法違反(共同所持)の疑いで、自称無職の容疑者(20)、自称高校生の少年(17)、自称大学生の容疑者(20)の3人を逮捕しています。共謀の上、2022年9月、一宮町で駐車中の車に乗っている際、乾燥大麻4.914グラムを所持したというもので、3人はサーフィンを通じた友人関係で、県警の自動車警ら隊員が巡回中に職務質問し、後部座席下から乾燥植物片の入った布袋が見つかったということです。
  • コカイン10.2キロ(末端価格約2億500万円)を密輸したとして、大阪府警関西空港署と大阪税関は、いずれもペルー国籍で、無職の容疑者と、会社役員の両容疑者を麻薬取締法違反の疑いで逮捕しています。10.2キロは、関西国際空港で押収されたコカインの密輸量としては過去10年で最多ということです。報道によれば、2022年は9月、コカイン10・2キロをシャンプー容器などに隠し、ペルーからオランダを経由して関空に持ち込んだとされ、手荷物検査で税関が見つけたといいます。無職の容疑者は運搬を認め、「コカインが入っていたとは知らなかった」と供述、受け取り役とみられる会社役員の容疑者は容疑を否認しているといいます。また、コカイン7.8キロを2022年10月に密輸したとしてスリナム国籍の男女2人も逮捕されています。密輸の事例としては、覚せい剤約1.9キロ(末端価格約1億1千万円相当)を密輸したとして、警視庁が覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)の疑いで80歳の会社役員の男を逮捕した事例もありました。郵便物として覚せい剤を自宅で受け取り、国内の密売グループに渡す役割だったとみられています。報道によれば、何者かと共謀して2022年9月、ナイジェリアから国際スピード郵便(EMS)を使って発送された覚せい剤の結晶約1.9キロを東京都大田区の羽田空港から国内に密輸した疑いがもたれています。羽田空港で不審な郵便物を見つけた東京税関が、検査で内容物を覚醒剤と特定、その後の警視庁との捜査で、容疑者の関与が浮上したというものです。
  • 中国広東省広州の空港から帰国する際に覚せい剤を密輸しようとしたとして麻薬密輸罪に問われた元愛知県稲沢市議、桜木被告(79)の控訴審で、広東省の高級人民法院(高裁に相当)は、無期懲役とした1審判決を支持する判決を言い渡しています。中国は2審制のため、判決は確定しています。報道によれば、桜木被告は2013年、広州の空港でアフリカ系の男から預かっていたスーツケースの中から覚せい剤約3.3キロが見つかったもので、桜木被告は「覚せい剤が入っているとは知らず、だまされた」と、無罪を主張していました。判決は、桜木被告がスーツケースの暗証番号を確認済みだったことなどから、「スーツケースを持ち出入国することにリスクがあると知っていた」と認定しています。日中間では、受刑者を母国に移送する「受刑者移送条約」は締結されていないため、弁護士は「日本での服役の可能性も探りたい」と話し、日本外務省は「必要な支援はしていく」としているといいます。今後、中国の裁判所が問題ないと判断すれば、有期刑に減刑される可能性もあるとのことです。
  • 拳銃を保管していたとして、千葉県警は、自称無職の男ら3人を銃刀法違反(加重所持)などの疑いで逮捕しています。報道によれば、3人は共謀して2021年9月、福井県敦賀市色浜の平屋建ての別荘に、ブラジル製の回転弾倉式拳銃1丁と実弾12発に加え、アメリカ製の自動装填式拳銃1丁と実弾2発などを所持した疑いがもたれています。2021年5月に成田空港で覚せい剤1.4キロが密輸される事件があり、千葉県警は密輸の指示役として男を特定、その後、潜伏する別荘を捜索し、拳銃や実弾が見つかったもので、この男が拳銃管理の総責任者だったとみられ、県警は暴力団組織との関係についても調べるということです。
  • 覚せい剤取締法違反(所持、使用)などの罪に問われた被告の公判で、大阪地裁が覚せい剤などの証拠を採用しない決定をしています。報道によれば、裁判長は、被告が滞在していたホテルの一室に大阪府警の警察官が裁判所の令状なしに立ち入ったことについて、「プライバシーを大きく侵害する違法行為」と判断したといいます。決定によると、2021年8月、同府寝屋川市内のホテルに被告は滞在、被告に呼ばれて客室に入った女性が退室後、過呼吸状態に陥り、外で女性を待っていた同僚が119番したものです。救急隊員は「女性が注射を打たれた可能性がある」と聞いて薬物の使用を疑い、客室のドアを解錠するようホテルの従業員に要請、その後、駆け付けた警察官らは「部屋に入る」と声をかけて入室、被告は所持品検査や尿検査を拒否、警察官は捜索差し押さえ令状が出るまで約9時間、客室内にとどまったといいます。決定では、警察官がホテルの管理者や被告から入室の承諾を得ていないと判断し、「プライバシーを侵害してまで客室に立ち入るには捜索令状を得るなど法令上の根拠が必要」と指摘し、「令状主義を没却する重大な違法があった」として、入室後に出た令状に基づいて押収した薬物や、尿の鑑定書を証拠として採用しなかったものです。

(5)テロリスクを巡る動向

公安調査庁の「国際テロリズム要覧2022」では、米国の状況について、「米国では、2021年中もISILへの参加を企図する者の摘発事案が続発したほか、ISIL、「アルカイダ」等のイスラム過激組織が、インターネット上での活動を通じて、米国内の個人に対して暴力を扇動する可能性が引き続き懸念される。2021年10月には、コリン・カール国防次官が、ISIL関連組織「ホラサン州」が半年から1年以内に、また、「アルカイダ」が1年から2年以内に、米国を攻撃する能力を得る可能性に言及しており、イスラム過激組織の影響を受けた者の動向に引き続き注意が必要である。また、米国において2021年1月に発生した連邦議会議事堂襲撃事件を受けて発表された国家戦略においては、「国内テロ」の主な要因として、(1)民族的、人種的、宗教的憎悪を動機とする暴力的な白人至上主義、(2)暴力的な反政府組織が指摘されるなど、極右テロの脅威が顕在化しているところ、極右過激主義思想に傾倒する者の動向を注視する必要がある」と指摘しています。

▼公安調査庁「国際テロリズム要覧2022」より「地域別テロ情勢等・米国」

本件に関連して、2022年11月29日付日本経済新聞の記事「米国内のテロ対策「不十分」、当局間連携に課題 上院委」で興味深い指摘がありましたので、以下、抜粋して引用します。

米国で人種主義や過激派による国内テロが問題となっている。米連邦捜査局(FBI)と国土安全保障省(DHS)は国内テロを未然に防ぐことを「最優先課題」としている一方、米議会上院の国土安全保障・政府問題委員会は11月の報告書でFBIとDHSの国内テロ対策と報告を「不十分」だと指摘した。特にSNSでの過激派思想の規制や監視が追い付いていないと同委員会は報告した。国土安全保障・政府問題委員会が3年間かけ調査し、16日に報告書を公表した。2001年9月11日の同時多発テロ事件以降、連邦政府は国際テロ対策に力を入れてきたが、過去20年で国内テロの発生件数が急増している。米戦略国際問題研究所(CSIS)によると、2020年の1年間で110件の国内テロ事件や計画が確認され、前年の19年と比較して約2.4倍に増えた。急増する国内テロを危険視しFBIとDHSは19年以降、国内テロの危険性について議会に報告してきた。これに対し、委員会は「連邦政府は国内テロ対策より国際テロ対策に予算を優先的に回している」と指摘した。委員会は連邦当局の連携不足などを課題として挙げた。FBIとDHSでは「国内テロ」の定義が微妙に異なり、当局間の国内テロ捜査に支障をきたす可能性がある。委員会は国内テロに関する総括的なデータベースが存在しないことも問題視した。…SNSの台頭によりテロのあり方も変化してきた。メリーランド大学のテロおよびテロ対応研究コンソーシアム(START)によると、16年の1年間で確認された過激派思想を持つ個人の9割近くがSNS上のやり取りや情報に影響され過激化した。半面、捜査当局は国民のプライバシーなどを理由にSNS上の捜査は慎重に対応せざるを得ない。…情報の拡散により収益を得るSNS運営企業は、関心を集めやすい情報を優先して利用者に表示するアルゴリズム(計算方法)をつくる。アルゴリズムは結果的に過激な情報を拡散してしまうことがあるが、利用者の増加などといった企業利益につながるため効果的な対応が見込めないと委員会は指摘した

「SNSの犯罪インフラ化」については、本コラムでも以前から厳しく指摘しているところです。記事で言及されているとおり、情報の拡散により収益を得るSNS運営企業は、関心を集めやすい情報を優先して利用者に表示するアルゴリズムがつくられており、結果的に過激な情報ほど拡散してしまいがちで、利用者の増加などといった企業利益につながるため効果的な対応が見込めない状況にあり、SNSの「公共空間性」に対する規制強化とのバランスが常に問題となっています。なお、テロを助長する犯罪インフラとしては、最近では暗号資産が挙げられます。前述の「国際テロリズム要覧2022」においても、「テロ組織等による暗号資産の利用」と題するコラムが掲載されています。以下、抜粋して引用します。

  • ビットコインに代表される暗号資産は、国際取引に時間を要さないなどの即時性、利用者の特定につながる情報が秘匿されるなどの匿名性のほか、価格変動による利ざやが期待されるなどの投機性に特徴がある。暗号資産は、世界各地で利用者が増加しており、その種類も1万を超えるとされる。
  • 暗号資産は、その匿名性等から、「アルカイダ」、「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)等に関連した利用が拡大していると国連安保理が指摘しており、テロ組織や同組織関係者による資金調達活動への利用が懸念されている。実際、両組織のみならず、シリアを拠点に活動する「タハリール・アル・シャーム機構」(HTS)等も、戦闘員への「寄附」等を名目に、資金調達活動に暗号資産を利用している状況がうかがえる。また、資金調達後には、テロ目的での武器の購入等を行っているものと推察される。
  • テロ組織等による暗号資産の主な利用事例として、「アルカイダ」関連では、「シリアにいる戦闘員の家族支援として、ビットコインでの「寄附」を呼び掛けた事例」(2020年12月)、「ビットコインでパキスタンや中東・湾岸諸国から資金を調達し、カシミール地方の自派勢力に送金」(2021年3月)、「米国等で警察官を殺害した最初の者に1ビットコイン(当時600万円以上)の提供を提示」(2021年4月)、IS関連では、「ミャンマーでモネロを利用した寄附を呼び掛け」(2021年5月)、HTS関連では、「シリアで暗号資産の転倒取引事業者がHTS支配地域で営業」(2019年5月)、「シリアで闘争のための資金として提供を呼び掛け」(2020年10月)などがある。
  • 2020年、米国において「アルカイダ」等との関連を有する暗号資産の口座の摘発が発表されたほか、英国でも、シリアで活動するISILへの支援等のため、5万ポンド以上に相当するビットコインをシリアへ送金したとされる男が逮捕されるなどした。こうした中で、テロ組織等においては、ビットコインでの取引は追跡されるとの認識から、匿名性がより高く、送金情報が第三者に漏れにくい別の暗号資産の使用を呼び掛ける動きも見られる。
  • 暗号資産は、交換業者が取引に関与しない場合には、送金先や送金元の特定が困難とされる。また、米国等では摘発事例が見られるものの、暗号資産の取引を完全に把握するのは技術的に困難な面もあるとされ、技術の進歩と共に暗号資産の利用拡大が続くとみられる中、テロ組織等による暗号資産の利用には引き続き注意を要する

また、同じく「国際テロリズム要覧2022」では、「サイバー空間をめぐるテロの脅威」についても取り上げています。以下、抜粋して引用します。

  • イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)、「アルカイダ」等のイスラム過激組織は、サイバー攻撃を専門とする組織内部門の存否について明らかにしておらず、2021年末時点においても、これらのイスラム過激組織による組織的かつ大規模なサイバー攻撃事案は確認されていない。しかしながら、ISIL等は主として、サイバー空間を自組織の思想の拡散、リクルート活動、テロの計画や準備に関する連絡等の目的で利用している状況がうかがわれる。また、ISIL等との関連が疑われる個人又はグループによるサイバー攻撃事案については、従前から各国で発生している
  • ISILについては、組織としてサイバー攻撃の実行を呼び掛ける声明や機関誌は特段把握されていない(2022年1月末時点)。
  • 一方、「アルカイダ」は、機関誌「ワン・ウンマ」英語版第2号(2020年6月)において、サイバー空間での「ジハード」を「E-Jihad」と位置付けた上で、金融機関、航空システム等の重要インフラに対するサイバー攻撃を呼び掛けるとともに、「米国を始めとする西側諸国におけるネットワークのセキュリティ対策は9.11(2001年の米国同時多発テロ事件)前と何ら変わっていない」などと主張し、西側諸国で同テロ事件以上の経済的影響を及ぼし得るサイバー攻撃の実行を呼び掛けている
  • また、これらのイスラム過激組織以外にも、同組織との関連が疑われる個人又はグループがサイバー攻撃等を呼び掛けている。ISILとの関連では、「オンラインへの侵入は物理的なジハードの実行と同様に重要である」、「一度のハッキングで敵に何十億ドルもの損失を生じさせ得る」などの主張が、「アルカイダ」との関連では、西側諸国の基幹システム等に対するハッキングに加え、ハッカーを養成することの重要性等が訴えられている
  • このように、イスラム過激組織、同組織関係者等が西側諸国へのサイバー攻撃の実行を希求しているところ、引き続きサイバー空間におけるテロ関連動向に注目していく必要がある。

ISは2022年11月30日、インターネット上に声明を出し、アブハサン・ハシミ・クライシ最高指導者が、シリア国内で10月中旬に反体制派との戦闘で死亡したと明らかにしています(ロイターによれば、敵に追い詰められた末の自爆死だったということです)。同指導者は、2022年2月にシリア北西部での米軍の作戦中に前任者が自爆死したのを受け、3代目のIS指導者となったばかりでした。これまで本人の詳しい素性は明らかになっておらず存在感に乏しかったところですが、声明では、ベテラン戦闘員の一人、アブフセイン・フセイニ・クライシという人物が4代目として後を継いだとして、「イスラム戦士」に忠誠を誓うよう求めています(AP通信によれば、名前はいずれも本名ではないとみられています)。ISはこれまで指導者を相次いで失っているものの、関連組織はアフガニスタンやアフリカ諸国でテロを頻発させており、ハシミ指導者死亡の影響は限定的とみられます。本コラムでその動向を継続的に注視しているISは、2014年6月にイラク北部にある第2の都市モスルを制圧して「国家」樹立を宣言、一時はイラクとシリアの領土の3分の1を支配しましたが、米軍などによる掃討作戦で「領土」を失い、2019年には初代最高指導者のバグダディ容疑者が死亡、その後、立て続けに指導者を失って組織の求心力の低下が指摘される一方、各地でゲリラ攻撃やテロを繰り返している状況にあります。

国土や人心の荒廃がテロ発生のメカニズムに大きく関与していることは本コラムでも指摘し続けているところです。アフガニスタン(アフガン)情勢は、タリバン暫定政権が国際的な信認を得られず、対外資産が凍結されたままなど経済的な困窮が顕著となっているほか、治安は回復途上にあるとはいえ、いまだIS等によるテロが頻発するなど混乱と貧困の中にあり、気候変動リスクやウクライナ情勢がそれに拍車をかけている状況にあります。直近では、アフガニスタン北部サマンガン州の州都アイバクにあるイスラム神学校で、礼拝中に爆発があり、15人が死亡、少なくとも20人がけがをするテロが発生しています。アフガンでは、イスラム主義組織タリバンが2021年8月に実権を掌握、旧国軍との戦闘が終了し、治安は一定程度改善してはいるものの、タリバンと対立するISが宗教施設やタリバン関係者を狙った攻撃を繰り返している状況にあります。さらに、直近では、アフガンの首都カブールで、要人を狙った襲撃が相次ぎました。主要な武装勢力の一つ「ヒズビ・イスラミ(イスラム党)」指導者のヘクマティアル元首相がいたモスク近くで爆発がありましたが、元首相は無事でした。パキスタン大使館では、ニザマニ駐アフガン代理大使を狙った発砲があったものの、同氏も無事でした。モスク付近の爆発では元首相の護衛1人が死亡、2人がけがを負ったといいます。車が爆発し、自爆テロ犯とみられる2人組が金曜礼拝中のモスクに入ろうとしたが、銃撃戦となり殺害されたとのことです。パキスタン大使館では、ニザマニ氏をかばった警備員1人が重体となっています。報道によれば、イスラム主義勢力タリバン暫定政権の外務省報道官は「外交使節団の安全を脅かすことは決して許さない」とコメント、パキスタン外務省は「暗殺未遂を強く非難する」との声明を出しています。また、タリバン暫定政権は、犯罪などに対する刑罰にシャリーア(イスラム法)の解釈を適用する姿勢を強め、むち打ち刑の執行が相次いでいるともいいます。1996~2001年の旧政権時代に国際社会などで問題視されていた公開処刑や身体刑などが復活しつつあるとして、懸念が強まっています。タリバン復権後、戦闘員らが罪を犯したとされる人に裁判を経ずにむち打ちする様子が、SNSなどに度々投稿されており、国民に対する抑圧を次第に強めている暫定政権が厳しい刑罰の実施を拡大させていく可能性が高いと見られています。さらに、国際社会が改善を要請している女性に対する人権侵害とでもいうべき状況は相変わらず深刻で、最近では、南部ウルズガン州で、携帯電話の通信に必要となるSIMカードの女性への販売が禁じられています。タリバン暫定政権の影響下にある州当局者は、女性の販売員がいないことが理由と説明したということです。暫定政権は2022年11月に入り、女性が公園や公衆浴場、ジムなどに立ち入ることを全土で禁止するなど、女性の行動制限を一層強めており、今回の措置もその一環の可能性が指摘されています。また、赤十字国際委員会(ICRC)は、アフガンで同委員会が支援する全国33の病院で、2022年の子どもの栄養失調患者数が、2021年1年間と比べて既に90%増加していると発表しています。ロシアによるウクライナ侵攻などで経済危機が深まり、小麦や食用油の価格が高騰していると指摘しているほか、各地で干ばつや洪水も相次ぎ農作物に被害が出たこと、人々の収入減も相まって、食料難が深刻化している状況といいます。報道によれば、子どもの栄養失調患者数は、2021年は3万3千人でしたが、2022年は6万3千人を超えており、厳冬が迫る中、ICRCは「アフガンの家庭は『食べるか、暖房を買うか』という不可能な選択を迫られている」と危機感を示しています。関連して、2022年12月2日付毎日新聞の記事「干ばつで危機のアフガン かつて米軍など攻撃の地、不発弾も追い打ち」において、こうした状況がまとめられていますので、以下、抜粋して引用します。

アフガニスタンが長年の干ばつ被害で危機的な状況に陥っている。国連機関は今冬に人口の半数近くが激しい食料不安に直面すると警告。長年にわたる内戦の後遺症にも苦しめられる農村は未来を描けないままだ。…2018年の世界銀行の報告書によると、アフガンの人口の7割は農村部で暮らし、全世帯のうち61%が農業から収入を得ている。アンダー地区でも大半の住民が農業を営んできたが、長年にわたる干ばつによって耕作放棄され、乾燥してひび割れた大地が目についた。…米政府が設立した「飢饉(ききん)早期警戒システムネットワーク」(FEWS NET)によると、21~22年のアフガンの小麦生産量は、干ばつの影響で過去5年の平均よりも約15%少なかったと推計されている。国連世界食糧計画(WFP)によると、22年11月から23年3月にかけて人口の半数近くにあたる1990万人が激しい食料不安に直面すると推計されている。…夏になると一転、豪雨が襲う。アンダー地区では今夏、鉄砲水によって収穫時期の作物が流され、住宅が損壊。国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)によると、今夏のアフガン全体の被害は住宅損壊3万5700軒、被災者は24万9900人に達する。さらに追い打ちをかけているのが紛争だ。01年の米同時多発テロをきっかけに米軍の攻撃を受けたタリバンは、政権崩壊後に反政府勢力として各地で抵抗した。アンダー地区はタリバンの活動が活発だった地域の一つで、米軍が主体の多国籍軍の激しい攻撃を受けた。パチャさんは「爆撃で市民が巻き添えになり、今も畑に残る不発弾のせいで耕作できない土地がある」と憤る。…タリバン暫定政権の農業・かんがい・家畜省のミスバフッディン・モスタイーン報道担当は「干ばつの主要な要因は気候変動だ。アフガンは工業国ではないにもかかわらず、気候変動の影響を受けている。この問題を解決するために国際社会の支援をお願いしたい」と訴えた。

EUの欧州議会は、ロシアを「テロ支援国家」と認定する決議を賛成多数で採択しています(賛成は494票で、反対58票、棄権44票)。現行の仕組みでは、決議で新たな法的措置は発生しないものの、欧州議会は域内外の各国に「テロ指定」に追随するよう促しています。決議は「露軍と周辺組織がウクライナ市民に行った残虐行為は国際法違反だ」とした上で「テロ手段を用いる行為と認識した」と批判しています。EUは米国と異なり、テロ支援国家の法的な指定制度はなく、決議は「欧州委員会と加盟国に、今後の適切な法的枠組みの整備を求める」とも明記しています。ウクライナは欧米各国にロシアをテロ支援国家と指定するよう求め、すでにバルト3国とポーランドが指定しているほか、米議会では民主・共和両党の上院議員が指定に向けた法案を提出したものの、バイデン政権は慎重姿勢を取っています。一方、ロシア司法省は、フェイスブック(FB)を運営する米メタ・プラットフォームズを過激派組織として認定しています。ロシアの裁判所は2022年に入り、メタが「過激派活動」を行っているとの判断を下しており、ロシア政府は西側のソーシャルメディア対応策の一環として、メタ傘下のFBとインスタグラムへのアクセスを制限しています。

現在(2022年12月4日時点)開催中のサッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会では、警備上の問題に直面していると報じられています(2022年11月15日付産経新聞)。人口約280万人のカタールには約1カ月間の大会期間中、120万人を超える入国者が予想されており、警備の人員不足は深刻で、テロ警戒のため、周辺の国々から治安部隊や軍関係者が続々と応援に入るなど、警備面では周辺国や欧州諸国に「依存」しているのが実情だといいます。また、ロイター通信によると、トルコは競技場とホテルの安全確保のため、3000人以上の機動隊員の派遣を決定、さらに50人の爆発物処理専門家と、80頭の爆発物探知犬を派遣、派遣費用はカタールが全額を負担しているといいます。さらに、中東メディアのアルジャジーラ(電子版)によると、モロッコは大会期間中のサイバー攻撃に備え、サイバーセキュリティの専門家の派遣を決定、イギリスはテロの脅威に備え、英国防省が海上でのパトロール支援や専門家のアドバイスを行っており、フランスも治安要員約220人を派遣しています。「数万人の治安部隊を配備することが期待されている」(アルジャジーラ)というカタールW杯ですが、(今のところテロなど警備上の大きな問題は表面化していないものの)「多国籍部隊」ともいえる警備態勢が一枚岩となって機能するかどうかは不透明な状況だといえます。

スペインの首都マドリードのウクライナ大使館に、動物の目が入った不審な小包が届けられたといいます。ウクライナのドミトロ・クレバ外相は「周到に準備されたテロと脅迫だ。ウクライナの外交を阻止することはできない」と述べています。同様の不審な小包は、ハンガリーやオランダ、ポーランド、クロアチア、イタリアの大使館のほか、イタリアのナポリやポーランドのクラクフ、チェコのブルノの総領事館にも届けられたということです。スペインでは直近1週間、ウクライナ大使館や空軍基地を含む主要公共施設やウクライナに供与するロケットランチャーを製造している武器会社などに「郵便爆弾」が送られる事件が相次いで発生しており、11月24日にスペインのサンチェス首相宛てに不審な郵便物が届けられた後、30日にはマドリードのウクライナ大使館に届いた手紙が爆発し職員が負傷したほか、12月1日にはマドリードの米国大使館に爆発物が仕掛けられた郵便物が届けられたほか、駐バチカン大使のアパートの入口が壊され、ローマの大使館筋は、大使館の玄関前に人糞が置かれていたことも明らかになっています。一方、米国のウクライナ大使館にはウクライナに関する批判的な記事が入った手紙が届けられ、他の多くの不審な手紙と同様、欧州のある国から送信されたものということですが、現時点で詳細は明らかになっていません。

テロ対策等を巡る日本国内の動向について、最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 2022年7月に奈良市で起きた元首相銃撃事件を受け、要人警護の強化を進めている警察庁は、防弾用資機材やドローンの導入費用など関連予算21億3100万円を計上しています。2023年度当初予算の概算要求に含めていましたが、前倒しして導入を急ぐとしています。2023年5月に広島市で開かれるG7サミット警備に関連し、同4月の外相会合(長野県軽井沢町)で使う車両や資機材のリース費など7億7100万円も、2023年度当初予算から前倒ししたほか、警護強化策として、警護対象者の周囲に置く防弾ついたてや、高所から現場を把握するカメラ付きドローンを整備、3D技術を使った警護計画の作成や、不審者を検知する人工知能(A))といった先端技術の実証実験費用も盛り込まれています。
  • 自民党の細野豪志元環境相のインタビュー記事(2022年11月8日付産経新聞)が興味深く、「安倍晋三元首相の銃撃事件はまぎれもないテロだ。参院選の街頭演説で政治家が撃たれ、選挙という民主主義のプロセスが破壊された。にもかかわらず、加害者の恨みを社会や政治が晴らしているような風潮には懸念を持つ。私は旧統一教会と関係はないが、テロリストの思惑を端緒に立法を行うことは、正しいのか。加害者を『成功したテロリスト』にしてはならない」、「気の毒な状況にある元信者らの救済のため政府や多くの国会議員が努力していることは理解する。だが、まずは現行法で対応すべきだろう。宗教を隠れみのに子供に絶食を強い、暴力を用いるのは明確な児童虐待。現行法で対応できることがやれなかったことは反省すべきだ」、「ある新聞社は映画を紙面で告知したが、強い違和感を覚えた。メディアはもっと危機感を持ち、暴力的な手段は許さないと主張すべき局面だと思う。SNSでキーワード検索すると加害者について『英雄』『救世主』という言葉が出てくる。凶弾に倒れた安倍氏が旧統一教会と関係があったという情報をもとに半ば加害者のように言われ、加害者が半ば被害者のように言われる状況は倒錯だ」、「不幸な状況の解決手段としてテロを利用することは二度とあってはならない。いかなる理由でも暴力による問題解決は認めないとの社会的コンセンサスをもう一度作る必要がある」などと述べています。
  • 初詣客らでにぎわう年末年始を前に、警視庁は、西新井大師でテロ対策訓練を実施しています。新型コロナウイルスの行動制限が緩和され、多くの人が訪れるとみられ、警視庁は単独でテロを行う「ローンオフェンダー」も念頭に警戒を強めています。訓練では、SNSに「西新井大師を無差別攻撃する」との投稿があり、警察官が警戒中、職務質問された不審な男が手製のショットガンを取り出して発砲したとする想定で銃器対策部隊による制圧や参拝客の誘導の手順を確認しました。元首相銃撃事件では、容疑者が誰にも知らず銃器を作っていたなど、犯行の予兆をつかみにくいローンオフェンダーの脅威が現実のものとなっており、警視庁は、ローンオフェンダーへの警戒を強めています。報道によれば、西新井署の畑署長は「インターネットで銃や爆弾の製造情報が簡単に手に入る時代。訓練を重ねるとともに、日常から武器を製造する物音などの兆候を把握し、テロのない街づくりを進めたい」と話しています。
  • 住友不動産と警視庁は、2023年1月に全面開業する羽田空港国際線ターミナル直結の複合商業施設「羽田エアポートガーデン」で、無差別殺傷テロの対策訓練を実施しています。今後、訪日客の増加が見込まれていることを受け、対応力を向上させる狙いがあり、同社グループと警視庁のNBC(核・生物・化学)テロに対処する部隊など約100人が参加、不審者が有毒ガスを発生させ、刃物を振り回して暴れるとの想定で行われ、防護服の専門部隊が化学薬品の除染を行ったり、施設の係員が客の避難誘導を行ったりしました。
  • 他国からの武力攻撃やテロなどに備えようと、埼玉県と富士見市は、同市立市民総合体育館で化学剤と爆発物を使ったテロが起きたとの想定で国民保護実動訓練を実施しています。新型コロナウイルス感染拡大などの影響で2018年から実施を見送っており、4年ぶりの訓練となりました。警察や消防、自衛隊、医療関係者ら計229人が参加し、現場の初動体制や他機関との連携を確認しました。訓練は国民保護法に基づくもので、報道によれば、体育館でイベントが開催される中、テロリストが参加者に紛れて塩素ガスを散布し、近くで爆発物も発見されるという想定で行われ、体育館に煙が立ち込めると、自分で動ける参加者は外に退避し、負傷して倒れこんだ要救助者は防護服を着た消防隊員に運び出され、有害物質の除染と治療や搬送の優先順位をつけるトリアージを実施し、救急車での搬送などを行ったほか、特殊車両による爆発物処理も行われました。
  • 埼玉県警と千葉県警、陸上自衛隊は、治安出動を想定した合同の対処訓練をさいたま市北区の大宮駐屯地で2年ぶりに実施し、訓練の様子を報道陣に公開しました。報道によれば、訓練は強力な殺傷力を持つ武装工作員が上陸し、テロやインフラ攻撃など一般的な警察力では対応が難しい事態が生じた際、自衛隊に対して治安出動命令が出されたという想定で行われ、陸上自衛隊と両県警から合わせて約130人が参加、警察車両が自衛隊の車両を先導する緊急輸送訓練や検問訓練などを通じて一連の対応の手順を確認し、連携を深めました。
  • 国土交通省が年末年始の輸送等に関する安全点検として、テロの防止等の対策の実施状況を自主点検すると公表しています。
▼国土交通省 令和4年度「年末年始の輸送等に関する安全総点検」の取組を実施します~輸送機関等における事故やテロの防止対策実施状況等の点検~
  • 国土交通省では、多客繁忙期である年末年始に、陸・海・空の輸送機関等が安全対策の実施状況等を自主点検することにより、公共交通の安全を図るとともに、輸送機関等の安全に対する意識を高めることを目的とする「年末年始の輸送等に関する安全総点検」の取組を実施します。
    1. 期間
      • 令和4年12月10日(土)~令和5年1月10日(火)
    2. 実施内容
      • 各輸送機関等(鉄軌道交通、自動車交通、海上交通、航空交通、利用運送業、気象業務)が、安全管理・安全対策等の実施状況、関係法令等の遵守状況、施設等の点検整備状況、テロ対策及び感染症対策の実施状況等を自主点検します
      • 今年度の総点検においては、以下の4点を特に留意して行います。
        1. 運輸
          • 安全管理(特に乗務員の健康状態、過労状態の確実な把握、乗務員に対する指導監督体制)の実施状況
          • 自然災害、事故等発生時の乗客等の安全確保のための通報・連絡・指示体制の整備・構築状況
        2. 危機管理
          • テロ防止のための警戒体制の整備状況や乗客等の安心確保のための取組、テロ発生時の通報・連絡・指示体制の整備状況及びテロ発生を想定した訓練の実施状況
          • 新型コロナウイルス感染症に関する感染拡大予防ガイドラインの遵守状況、新型インフルエンザ対応マニュアル、事業継続計画の策定状況、対策に必要な物資等の備蓄状況及び職場における感染防止対策の周知・徹底状況などの感染症対策の実施状況
          • また、国土交通省は、各輸送機関等に適切な点検を行うよう指導するほか、期間内に現地確認を実施します。

(6)犯罪インフラを巡る動向

役員の登記の構造的な問題(脆弱さ)が突かれて犯罪インフラ化するという事件が発生しています。東京都新宿区の不動産会社の社長を交代させる偽の株主総会議事録を法務局に提出し、法人登記を書き換えさせた疑いで男女6人が電磁的公正証書原本不実記録・同供用容疑で警視庁に逮捕されています。社長が「同姓」というだけで会社が乗っ取られる背景には、2020年3月の制度変更に伴い、「役員全員解任」の登記申請を会社側が知るタイミングが遅くなったことがあると指摘、2003、2007年の法務省通知では、法務局は役員全員解任の登記申請を受け次第、会社側に連絡し、会社側が異議を申し立てている間は登記を留保するよう規定されていましたが、2020年3月の同省通知は、会社側への連絡を「登記完了後」に変更、審査で虚偽が疑われれば申請中も可能としたものの、「著名な上場企業など『役員全員解任』が考えづらい場合」という例外扱いにされたことが挙げられています。非上場のユナイテッド社は対象外となり。法務省では「近年は虚偽と疑う事情がない申請や会社内部の紛争に基づく申請で登記の留保が増え、迅速な公示を妨げている」と変更の理由を説明しています(登記官は2003年度の約9300人から2022年度は約6000人と大幅に減り、近年は不動産登記部門に人員が割かれる傾向にあり、東京法務局の商業登記部門の関係者は「業務が多忙で、審査で不正な申請を見抜くのが困難になっている」と実務上の課題を明かしています)。だからこそ中谷さんは「不実(うそ)の登記の防止には限界があり、事後の対応としては捜査機関に相談するほか、新役員の職務を停止する仮処分を裁判所に申し立て被害を防ぐほかない」と指摘しています。法務局では、知らない間に登記が改ざんされることを防ぐため、役員の全員を解任するとした登記申請がなされた場合、登記完了後に会社本店へ役員全員の解任を知らせる書面を郵送しており、今回の事件でも、法務局からの書面がきっかけで実際の社長が被害に気づいた(本来の社長が「解任」を知ったのは登記が完了した後だった)とされます。さらに、通知を見た山田さんが法務局に確認すると、自身の解任のほか、山田被告が韓国籍の金永殷被告にユナイテッド社の新株400株を割り当てたなどとする虚偽の株主総会議事録が提出されていたといいます。中谷さんは、会社の登記が勝手に書き換えられることはどの会社でもあり得ると指摘、その上で「(変更手続きに必要な)会社や個人の印鑑とその印鑑証明書をしっかり管理し、外部からの情報や資産のおかしな動きから異変を察知することが重要だ」と話しています。また、商業登記に詳しい上原幹男弁護士は、「登記制度の信用に関わる問題で、外資から日本の資産を守る経済安全保障の観点からも危険な状況だ。国は通知を見直し、登記完了前に連絡する要件を拡大するなど、対策に乗り出す必要がある。申請があった場合に会社側へ自動通知されるシステムの導入なども検討するべきだ」と述べており、正に正鵠を射る指摘だと思います。

商業登記の悪用という点では、直近でも、暴力団の事務所として利用する目的を隠し、虚偽の登記申請をしたとして、六代目山口組三代目弘道会福島連合の組員3人が逮捕・送検されています。3人は2021年3月、函館市にある暴力団の事務所の土地と建物の所有権を移転させるのに伴い、虚偽の移転事実と所有者を登記申請した疑いが持たれています。報道によれば、3人は、東海林容疑者の妻の名義となっていた土地建物を、紙谷容疑者の妻が購入したと偽り、暴力団の事務所として使用する目的を隠したとみられています。紙谷容疑者は、暴力団員が利用する目的であることを隠し、妻に札幌市の繁華街ススキノのマンションを借りさせた詐欺の疑いでも逮捕されており、余罪の捜査から今回の事件が発覚したものです。

警察庁と総務省は、特殊詐欺事件で使われた電話番号の利用停止を要請する対象として、インターネットの交換機を使ったクラウド電話などを扱う通信事業者を、12月1日から追加すると発表しています。以前の本コラムでも取り上げましたが、固定電話や携帯電話の犯罪インフラ化が深刻化しており、対策は2020年9月からスタートし、固定電話と「050」から始まるIP電話に加え、抜け穴をなくす狙いがあります。クラウド電話などの事業者が加盟する「日本ユニファイド通信事業者協会」と連携し、加盟事業者の番号が対象になるといいます。都道府県警は悪用された番号が判明した場合、事業者に停止を要請、事業者は警察庁に契約者情報を提供、停止が続いた契約者には、警察庁が新たな番号の提供拒否を事業者に要請するとしています。クラウド電話はネット上に交換機を置き、スマートフォンでも固定電話の番号を使って発着信ができるサービスで、新型コロナウイルス禍に伴うテレワークの増加もあり、需要が高まっています。

▼総務省 電気通信事業者による特殊詐欺に利用された固定電話番号等の利用停止等の対象事業者の拡大
  • 総務省は、電気通信事業者による特殊詐欺※に利用された固定電話番号等の利用停止等について、一般社団法人日本ユニファイド通信事業者協会に通知しました。※ 特殊詐欺(被害者に電話をかけるなどして対面することなく信頼させ、指定した預貯金口座への振り込みその他の方法により、不特定多数の者から現金等をだまし取る犯罪をいう。以下同じ。)
    1. 現状
      • 令和元年9月、警察から特殊詐欺に利用された固定電話番号の利用停止等の要請があった場合における電気通信事業者の対応について、一般社団法人電気通信事業者協会に通知し、令和3年11月には、電気通信事業者による特殊詐欺に利用された電話番号を利用停止等する枠組みの対象として、固定電話番号に加えて、特定IP電話番号(050番号)についても追加することとし、一般社団法人電気通信事業者協会に通知していたところです。
      • 概要
        1. 固定電話番号等の利用停止
          1. 都道府県警察は、特殊詐欺に利用された固定電話番号等を認知後、電気通信事業者に対し、当該固定電話番号等の利用停止を要請する。
          2. 当該電気通信事業者は、都道府県警察から要請があった固定電話番号等を利用停止の上、警察庁に対し、当該利用停止を行った固定電話番号等の契約者(卸先電気通信事業者を含む。)の情報を提供する。
        2. 新たな固定電話番号等の提供拒否
          1. 警察庁は電気通信事業者に対して、一定の基準を超えて利用停止要請の対象となった契約者の情報を示すとともに、同契約者に対する新たな固定電話番号等提供拒否を要請する。
          2. 電気通信事業者は、警察から要請のあった者から固定電話番号等の追加購入の申し出があった場合には、一定期間、その者に対する新たな固定電話番号等の提供を拒否する。
    2. 対象事業者の拡大
      • 昨今の特殊詐欺の被害状況等を踏まえ、今後、警察から特殊詐欺に利用された固定電話番号等の利用停止等の要請があった場合における電気通信事業者の対応について、一般社団法人電気通信事業者協会に加え、クラウド電話などユニファイド通信サービスを提供している電気通信事業者が多く加盟している団体である一般社団法人日本ユニファイド通信事業者協会に通知し、対象を拡大しました。
      • 当該要請に基づき、令和4年12月1日から、一般社団法人日本ユニファイド通信事業者協会においても、警察から特殊詐欺に利用された固定電話番号等の利用停止等の要請があった場合における電気通信事業者の対応が開始されます。

いわゆる「爆買い」が、免税制度を悪用した組織的な転売ビジネスだったことが判明、制度の抜け穴が犯罪インフラ化したものといえます。百貨店を中心に高級ブランドの免税品を「爆買い」した中国籍の男性ら7人が商品の不正転売に関与した疑いが強まったとして、大阪国税局が税務調査に乗り出し、消費税約7億6000万円の徴収処分を決定していたといいます。背後に税逃れを主導する業者が潜む組織的な構図も明らかになっています。免税品を巡っては、訪日外国人客(インバウンド)の一部が大量購入後に転売し、消費税分の利ざやを稼ぐ悪質な不正行為が後を絶ちません。新型コロナウイルスの水際対策の大幅な緩和や円安を背景に再び訪日客が増えており、国税当局は警戒を強めています。報道によれば、税務調査を受けた男女7人は、2020年以降に観光などの短期滞在ビザで来日、免税購入が認められている期間に、大阪市内の百貨店を中心に高級ブランドの腕時計やバッグ、化粧品など総額77億円相当の商品の大量購入を繰り返していたといいます。調査の過程で巧妙な転売の構図も浮かび上がったといい、7人は国内に拠点を置く複数の業者に雇われ、不正な免税購入を繰り返す「買い子」だった可能性が高いとされ、業者側は買い子に高額な資金を提供し、高級ブランドの免税品購入を指示、消費税分の利ざやの一部を手数料として支払い、回収した商品を転売していたというものです。買い子への手数料は購入額の数%に設定されており、7人は国税局の調査に「商品は土産物として海外に送った。書類は全て破棄してしまった」などと説明したと報じられています。国税局は消費税法の規定に基づき、総額約7億6000万円の徴収処分を決定、しかし7人は大半を納付せずに出国、国税局は引き続き納付を要請しているが、いずれも応じていないとみられています。

スマートフォンや商品券の買い取りを装って現金を先払いし、後に高額な違約金を請求する「先払い買い取り商法」で被害を受けたとして、利用者の男性7人が、東京や大阪などの計5業者に総額約336万円の損害賠償を求めて大阪、吹田、西宮の3簡裁に一斉提訴しています。各地で同様の被害相談が相次いでおり、金融庁などは契約しないよう注意を呼び掛けています。報道によれば、原告は大阪府内や兵庫県内に住む20~40代の男性会社員で、大阪市内の30代男性は2020年8月、都内の業者に商品の写真を送信し、手数料を差し引いた1万4340円が口座に即日振り込まれた一方、1週間後の期限に商品が届かないとして、違約金を上乗せした金額を請求され、1万9500円を支払いました。同様の商法はネット上で当座の借入金を手にできる手段として広まり、男性も借り入れ目的で申し込んだといいます。原告側は、違約金は「利息」に該当すると主張、違約金は年利換算で法定上限を大幅に上回る3000%超のケースもあり、「契約は違法で無効だ」と訴えています。弁護士や司法書士らでつくる「買い取り金融対策全国会議」の前田勝範・共同代表幹事は「新手のヤミ金だ。多重債務に陥る危険性があり、安易に利用しないでほしい」と述べていますが、給与ファクタリングやSNS個人間融資をはじめ、さまざまな手口が編み出される点で大変驚かされます。なお、「ヤミ金」については、金融庁の広報誌で最近の動向についてレポートされていますので、以下、抜粋して引用します。

▼金融庁 アクセスFSA(金融庁広報誌)
▼第231号 2022年11月4日発行より 最近のヤミ金融の動向~ヤミ金融との関わりを持たないために知って欲しいこと~
  1. はじめに
    • 皆さまは、「ヤミ金融」をご存知でしょうか?ドラマ化もされた「闇金ウシジマくん」という有名な漫画もあるので、何となく「怖い金貸し」というイメージを持っている人は多いと思います。
    • 本来、貸金業(反復継続してお金を貸すこと)を行うには、行政庁に登録して、違法な高金利を取っていないか、違法な取立てを行っていないか、などの観点で行政庁の監督を受ける必要がありますが、ヤミ金融業者は、行政庁の登録・監督を受けずに、違法に貸金業を行っています。上限金利や取立てに関する規制(貸金業法等)をそもそも守るつもりがないので、お金に困っている人を探して、返済が難しそうな場合でも法定の上限金利を優に超える高金利を取る上に、「返さないと個人情報をネット上に晒すぞ」と脅すなど、ひどい取立てを行うことにより回収します。
    • このため、ほとんどの方は、ヤミ金融業者からはお金を借りたくないし、何の関わりも持ちたくない、とお考えになるだろうと思います。本稿は、そんな方たちのために、最近のヤミ金融の動向を知っていただき、「そんなつもりはなかったのに、ヤミ金融からお金を借りてしまっていた(個人情報を渡してしまった)。」といったことがないように、最近のヤミ金融の動向を紹介するものです。できるだけ多くの人にお読みいただき、ヤミ金融による消費者被害が1件でも少なくなることを願っております。
  2. ヤミ金融業者は減っている?
    • 20年ほど前、返済しきれないほどの借金を抱えてしまう「多重債務者」の増加が、深刻な社会問題となったことから、これを解決するため、2006年、借り過ぎ・貸し過ぎを防止するための規制を設ける、上限金利を低くするなど、貸金業法等が抜本的に改正されました。
    • また、貸し手への規制に加えて、政府を挙げて借り手対策も行うため、多重債務改善プログラムが決定され、以下を行うこととされました。
      1. 丁寧に事情を聞いてアドバイスを行う相談窓口の整備・強化
      2. 借りられなくなった人に対する顔の見えるセーフティネット貸付けの提供
      3. 多重債務者発生予防のための金融経済教育の強化
      4. ヤミ金融の撲滅に向けた取締りの強化
    • これらの取組みにより、多重債務者の数は、約171万人(2007年3月末)から約10万人(2022年3月末)に減少しました。また、金融庁等に寄せられたヤミ金融に関する苦情相談の件数は、ここ10年で10分の1以下に減少しているとともに、無登録・高金利事犯の検挙事件数も、この10年で3分の1程度に減少しています。これらの情報を踏まえると、少なくとも、昔ながらの、皆さんがイメージしているヤミ金融業者は、減少傾向にあるのではないかと思われます。
    • しかし、ヤミ金融業者は、手を変え品を変え、ヤミ金融ではないように装って、インターネットやSNSにはびこっていると言われています。以下に、皆さまに気をつけてほしい手口を紹介します。
  3. 最近のヤミ金融の手口
    1. SNS個人間融資
      • 皆さまは、TwitterやInstagramを利用しているでしょうか?最近の若い人はほとんど利用しているのではないかと思います。これらのSNS上で、「お金貸します」、「個人融資」などと検索すると、ものすごい数(数万~数十万)の書込がヒットします。これらの書込をしている人は、可愛いキャラクターをアイコンにしたり、「個人でやってるので気軽に連絡ください」などと言って安心させてきますが、そのほとんどはヤミ金融です。個人間でお金の貸し借りを行う場合であっても、反復継続する意思をもって金銭の貸付けを行うことは、貸金業法上の「貸金業」に該当し、行政庁への登録が必要です。
      • ヤミ金融対策として、金融庁でもこれらの書込をチェックしていますが、確認した範囲では全てが法定の上限金利を大幅に超える、違法な貸付けを行おうとするものでした。また、お金を借りるために運転免許証の画像等を提供させられるので、個人情報が悪用されるおそれがあります。ひどい場合だと、お金を貸すことの担保として裸の画像を送らせる事例も確認されています。
      • 金融庁では、Twitter及びInstagramにおいて個人間融資の勧誘を行っている悪質な書込に対し、金融庁公式アカウントから直接返信することで、個別にも注意喚起を行っています。
      • 皆さまにおかれては、まずは収入の範囲内で生活することを心がけていただき、お金を借りる必要が生じた場合には、絶対にヤミ金融は利用せず、正規の貸金業者等を利用してください。なお、正規の貸金業者は、以下のサイトの検索サービス(無料)で確認できます。
    2. 商品売買等を装った貸付け
      • 最近のヤミ金融業者は、様々な手法を駆使して、一見して金銭の貸付けでないよう装うことがあります。代表的なのは、「後払い現金化」や「先払い買取現金化」と呼ばれている手法で、これらはいずれも、商品売買を装っていますが、実際に行っているのは、まずお金に困っている人に対して様々な名目で金銭を交付し、その後、利息相当の金銭を加えて返還させるものです。
      • 実際に貸金業に該当するかどうかは、個別具体的な実態を踏まえて判断する必要がありますが、商品売買を装っていても、その経済的な実態が貸付けであれば、貸金業に該当するおそれがあります(無登録で貸金業を行うと、違法なヤミ金融業者ということになります。)。怪しい業者は、絶対に利用しないでください。
      • また、上記以外にも、ファクタリングを装って貸付け(偽装ファクタリング)を行うヤミ金融業者もいますので、こちらも注意が必要です。※ファクタリングとは、事業者が保有している売掛債権等を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービス(事業者の資金調達の一手段)であり、法的には債権の売買(債権譲渡)契約です。最近では、ヤミ金融業者が、ファクタリングを装って、債権を担保とした違法な貸付けを行っている事案(いわゆる「偽装ファクタリング」)が確認されています。
  4. 最後に
    • ヤミ金融の最近の動向について、皆さんはご存知でしたでしょうか?上記3.に記載したものがヤミ金融のおそれがあることを知っていないと、ヤミ金融には関わりたくないと思っていたのに、つい連絡を取ってしまうということがあるかもしれませんので、気をつけていただくとともに、周りの方にも教えてあげてください。
    • また、お金に困ってると、ヤミ金融と知っていても、目先の現金欲しさについ手を出してしまいそうになるかもしれませんが、過酷な取立てや違法な高金利により、あなたの生活が破たんするおそれがありますので、ヤミ金融は絶対に利用しないでください。借金返済に困ってヤミ金融を利用したくなってしまった場合は、まず、多重債務相談窓口に相談してください。
    • なお、浪費癖やギャンブル依存により、つい借金してしまうという方には、貸付自粛制度といって、自らを自粛対象者とする旨を日本貸金業協会に対して申告することにより、ご本人が貸金業者に対し金銭の貸付を求めてもこれに応じないこととするよう求めることもできますので、こちらの制度の活用もご検討ください(具体的な手続きについてはこちらを参照)。
    • 金融庁は、ヤミ金融による消費者被害を1件でも多く予防するため、今後も、ヤミ金融の注意喚起に関する周知・啓発を積極的に行ってまいります

SNSや副業サイトなどで、メルカリアカウントの売買や貸し借りを求める事案があるとして、メルカリが注意を呼び掛けています。募集に応じてログイン情報を渡すと、意図せず犯罪や不正行為に加担してしまう可能性があるといい、SNSやクラウドソーシング型の副業サイトなどで、「在宅ワークの補助」などとしてメルカリユーザーを募集し、結果的にアカウントの売買や貸し借りを求める事案が確認されているといいます。メルカリは規約で、アカウントを第三者に利用させることや、譲渡、売買、質入、貸与、賃貸するなどの行為を禁止しており、第三者にログイン情報を共有してしまった場合は、アカウント操作が可能な場合は、強制的にログアウトしてパスワードを変更するよう呼び掛けています。また、アカウントが操作できなくなった場合は、メルカリの「お問い合わせ」から、本人確認書類や氏名、メールアドレスなどを添付して問い合わせるよう求めています。

他人のクレジットカード情報を販売したとして、警視庁はブラジル国籍の無職の男を割賦販売法違反の疑いで逮捕しています。同庁は、この男が、暗号化されて発信元の追跡が難しいネット空間「ダークウェブ」上にある掲示板を使ってこれらの情報の購入を呼びかけていたとみています。割賦販売法は、カード番号の適切な管理などを定めた法律で、正当な理由がないのに有償でカード番号などを提供したり、提供を受けたりした場合に、3年以下の懲役または50万円以下の罰則を設けています。組織犯罪特別捜査隊によると、男は2020年7~8月、日本人名義のクレジットカード6枚の番号や氏名といった情報を、約4万円相当の暗号資産「ビットコイン」と引き換えに通信アプリ「テレグラム」で日本人の男に送った疑いがもたれています。容疑を認め、「『麒麟』を名乗る人物から3千円でカード情報を買い、1件1万円ほどで転売していた。18~22年に1万~2万ほどのカード情報を他人に売った」と供述しているといいます。男は、ダークウェブ上の掲示板で「Tanaka」と名乗って「クレジットカード番号の情報を譲ります」などと記載、連絡してきた日本人の男に、逮捕容疑となった6人分のカード情報を売却したとされます。日本人の男はこの情報をスマートフォンの電子決済サービスにひもづけて高級腕時計など計約976万円分の商品を購入し、転売して利益を得ていたといいます。この事案は、割賦販売法違反というだけでなく、「ダークウェブ」「暗号資産」「テレグラム」など、代表的は犯罪インフラが複数登場しており、こうした点でも大変興味深いといえます。

動画投稿サイト「FC2コンテンツマーケット」で違法動画の売買が横行していることを受け、警視庁が大手クレジットカード会社3社にFC2でカードを使えなくするよう要請しています。この結果、2022年7月に約70万本あった国内向けの動画販売数は、約30万本まで減少したということです。FC2では違法な動画の投稿が後を絶たず、警視庁は11月12日、自作のわいせつ動画を公開したとして、映像会社役員の男をわいせつ電磁的記録記録媒体陳列容疑で逮捕、男は2016年以降、約300本の動画を販売して計約8000万円を得ていたといいます。こうした実態を踏まえ、警視庁は「ジェーシービー」「ビザ」「マスターカード」の大手3社に対して対応を求め、各社がFC2との間に入る決済代行会社に取引の中止を促していました。もう少し早いタイミングでこうした対応を行えたのではないかとも思いますが、まずはこうした実績を積み重ね、クレジットカードが違法な行為を助長する犯罪インフラ化しないように取り組まれることを期待したいと思います

米アップル社の紛失防止タグ「AirTag(エアタグ)」を悪用して同僚女性の行動を監視するなどしたとして、京都府警は、奈良市の会社員をストーカー規制法違反容疑で書類送検しています。「好きな女性がどこで何をしているか知りたかった」と容疑を認めているといいます。報道によれば、男は2022年2月頃、奈良市内の職場の駐車場で同僚女性が運転する軽乗用車の後部バンパーに養生テープでエアタグ(直径約3センチ)を取り付け、4月1日、職場で女性に対し「昨日、病院にいたよね」と告げるなどした疑いがもたれています。エアタグは本来、カバンや財布に付け、紛失時に位置情報を取得して発見につなげるものですが、愛知県では何者かによって捜査車両に取り付けられるなど悪用されるケースが相次いでいます。本コラムでも以前取り上げましたが、愛知県警の捜査車両にエアタグが取り付けられているのが発見されており、暴力団員が警察の動向を監視していたのではないかと疑われる事例もありました。

横浜市と札幌市で2022年9~10月、SNSに自殺願望をつづっていた若い女性2人が、書き込みを見て接触してきた男と会い、命を落とす事件が相次ぎました。死にたいと思うほどの苦悩を誰かに聞いてほしい、助けてほしいと、2人とも心の痛みを吐露していましたが、SNSはそういう場であるとともに、犯罪者にとっての犯罪インフラとなっているともいえます。また、自殺関連に限らず、若者がSNSを通じて犯罪に巻き込まれるケースは相次いでおり、警察庁の集計では、過去5年間の被害児童は年1800~2000人にものぼり、児童買春・ポルノ被害が半数を占め、連れ去りなどの被害も多発しているといいます。専門家らは、「若者にSNSの危険性を理解してもらうリテラシー教育を強化することが大切」、「身近にいる大人が若者の境遇や気持ちに真剣に向き合うことが必要。若者にも、頼れる相談の窓口があることを知ってほしい」などと指摘しています。また、SNSの犯罪インフラ化の側面として、フィリピンにおける深刻な事例(学校教育・歴史の改ざん)も報じられています。2022年11月29日付毎日新聞の記事2本が大変興味深く、考えさせられる内容でしたので、以下、抜粋して引用します。

SNSに押されるフィリピンの歴史教育 コロナ禍が助長
長期独裁政権を敷いたマルコス元大統領時代を美化する見方がフィリピンのソーシャルメディアで広がっている。その背景の一つとして指摘されるのが学校教育だ。首都マニラにある私立高校の社会科教諭、サントス・フランツさんは「歴史を学ぶ場として、SNSが授業に取って代わろうとしている」と懸念する。加えて、長引く新型コロナウイルス禍も思わぬ形で事態を助長している。…研究に参加したフィリピン大歴史学部のカービー・アルバレズ准教授は「学校がどのような教科書を選ぶかで、この時代に誤った印象を持ちかねない」と指摘する。「あらゆる角度からの情報が記載されなければ、批判的思考が育たない。それがSNS上のフェイクニュースを信じ込みやすい状況にもつながっている」と説明した。…一方、コロナ禍を通じて見えた歴史教育の課題もあった。私立セント・スコラスティカズ大初等部の教師、ロサナ・レオネスさん(53)によると、コロナ禍で増えたオンライン授業では、隣で聞いていた両親が、戒厳令時代について「詳しく教える必要があるのか」と口を挟んでくることがあった。「親が政府関係者や大統領の支持者である児童もおり、家族の経験や立場が、想像以上に歴史観に影響してしまっている」と話す。
弾圧の歴史を書き換えるSNS フィリピンで起きていること
想像してみてほしい。例えば数十年前、独裁者が支配していた国で数万人の市民が拷問にかけられたとしよう。怒った市民のデモが宮殿に押し寄せ、独裁者一族は追い出された。だがその歴史はある日、「なかったこと」にされる。そして、あの時代について謝罪することはない、と主張する彼の息子が大統領に当選。周囲は「民意が示された」と胸を張る―。こんな事態が今、実際に起きている国がある。書き換えの原動力となっているのはSNSだ。…国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」によると、戒厳令下の被害は、投獄者7万人▽拷問3万4000人▽死亡3200人以上―にのぼる。しかしこうした数字は「黄金時代物語」の中では影を潜める。弾圧に言及する動画でも、「共産主義に対抗するために必要だった」などと戒厳令を正当化する内容が多い。結果として、当時を直接知らない若者の「マルコス一族」のイメージは向上したとされる。…ここまで広がりを見せたのは、歴史教育の問題だけでなく、人が見たいもの、聞きたいものを提供するというSNSのアルゴリズム(データ処理の算式)の影響が大きい。自分が情報を発するとそれと似た情報が集まってくる「エコーチェンバー(反響室)効果」によって自説の真実味が増したように感じ、反対意見を受け入れることができなくなった。

インターネット上の仮想空間「メタバース」が犯罪インフラ化しています。例えば、メタバース空間ないでハラスメントが横行しているといい、利用者の半数が被害に遭ったことがあると答える調査などもあります。メタバース市場は2026年度に1兆円を超えるとの試算もあり、子どもたちが利用する機会も増えることから、対策は急務だといえます。2022年11月21日付読売新聞の記事「仮想空間「メタバース」でセクハラ横行…臨場感あり「とにかく気持ち悪い」」がそのあたりを指摘していますので、以下、抜粋して引用します。

「自分のアバターを執拗に触られたり、つきまとわれたり。1日に1度は迷惑行為に遭遇する」そう話すのは、約10か月前から日本企業が運営するメタバースを利用する40歳代の男性だ。気軽に多くの人と交流できることに面白さを感じ、女性型のアバターを使って毎日数時間利用している。VRゴーグルを使っているため現実世界に近い臨場感があり、「とにかく気持ちが悪い」と訴える。米企業が運営する世界最大規模のメタバースで楽しむ20歳代の男性も、「卑わいな言葉をぶつけられたり、自分のアバターの胸やおなかを触られたりしたことは何度もある」と話し、「正直、不快だ」と漏らす。メタバースでのハラスメントに関する総務省や経済産業省、デジタル庁の調査はない。しかし、利用者の間で実態をつかもうとする動きも出ている。…全回答者(876人)の約半数が「何らかのハラスメントを受けたことがある」と報告した。回答の8割以上を占める日本の利用者では55.3%が「ある」と回答。内容は「性的な言葉」(60.1%)や「性的に触られる」(40.9%)などで、「悪口」(43.6%)なども目立った。「他人が何らかのハラスメントを受けたのを見たことがある」と答えた人も66.4%に上った。…総務省も8月、利用上の課題を整理する有識者会議をスタートした。メンバーの一人で中央大国際情報学部の岡嶋裕史教授はハラスメントを「重要な検討課題の一つ」とする。「SNSでは中傷されて自殺したケースもある。メタバースでも同じことが起きる可能性は十分にある」と懸念する。一方で、メタバースの利活用を促すためには「法律で規制するのではなく、サービスを提供するプラットフォーム側が制御するのが望ましい」と指摘する。

中国製監視カメラを巡る動向が注目されています。英政府は、機密性の高い政府機関の建物から中国製監視カメラの排除を決め、各部局に指示したと明らかにしています。機微な情報が中国に流出する安全保障上のリスクに対応した措置で、設置済みの中国製品は順次入れ替える方針とのことです。政府が議会に提出した文書によると、民間企業に国の情報収集活動への協力を義務づける中国の国家情報法を踏まえ、監視カメラなど政府内の「視覚監視システム」の安全性を再評価、機密性の高い部局に対し、同法の対象となる企業の監視システムを設置しないよう命じたものです。設置済みの監視カメラについては、内部の中核ネットワークに接続せず、設備更新を待たずに撤去を検討するよう求めたといいます。英国への脅威やネットワークを通じた外部との接続性向上などを考慮したとしています。また、米連邦通信委員会(FCC)は、通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」や「中興通訊(ZTE)」など中国IT企業5社の通信機器について、米国での販売を禁止すると発表しています。情報流出やスパイ活動といった安全保障上、「受け入れがたいリスクをもたらす」恐れがあると判断したもので、両社のほかに対象となるのは、通信機器大手「海能達通信(ハイテラ)」、監視カメラ製造大手「杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)」、「浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)」で、子会社や関連会社も含まれるといいます。電波の安全性などの認証を行うFCCは、米政府の補助金を受ける米通信会社がファーウェイなど中国IT企業から機器を購入することを禁じており、2021年11月には、安全保障上の脅威がある通信機器への認証を禁止する法律が成立、今回はこの法律に基づく規則で、中国IT企業に対する米国市場からの締め出しが一段と強まることになります。こうした動きに対し、ハイクビジョンは、自社製品が米国の安全保障を脅かすことはないとする声明を発表、「FCCの決定は米国の安全保障には一切つながらず、米国内の小規模事業者や地方当局、学区、消費者らにとってより有害となり、自身や住居、ビジネス、所有物を守るための費用が膨らむ」と述べたうえで、米国の規制を「完全に順守」する形で引き続き米顧客にサービスを提供するとしています。一方で、このように人権侵害への関与や安全保障上のリスクを理由に米英政府から取引禁止などの措置を受けている中国の監視カメラメーカー大手2社のハイクビジョン、ダーファ・テクノロジーが、日本でのシェア拡大に動いていると報じられています(2022年11月26日付産経新聞)。5月に成立した経済安全保障推進法を受け、安保上の脅威となる外国製品を基幹インフラから排除する事前審査の制度設計が今後進められますが、現時点では監視カメラが対象に含まれるかどうかは不透明で、与党の一部からは個人情報漏洩の危険性を懸念する声もあり、制度設計上の課題の一つになる可能性があります。市場調査会社のテクノ・システム・リサーチによると、インターネットに接続できるネットワークカメラ(監視カメラ)の2021年の世界市場シェアは1位がハイクビジョン、2位はダーファで、両社だけで約4割を占めており、人工知能(AI)を使った高性能さと低価格が特長だといいます。米英の動向を参照にしつつ、日本としても、独自の厳格な調査を行い、経済安全保障の観点からの適切な判断を速やかに行う必要があるものと考えます。

政府の個人情報保護委員会に報告された個人情報の漏洩事案は2022年4~9月、前年同期の3倍にのぼったといいます。4月に法改正で重大な事案の報告を義務化したことが背景にありますが、中小企業へのサイバー攻撃が急増する中、報告のための調査費用は数百万円かかることもあり負担が重いうえ、制度の知名度も低いため、違法状態が放置されているケースも多いのが現状のようです。漏洩した個人情報は犯罪に悪用される可能性があり、とりわけ中小企業の対応の杜撰さが犯罪を助長しかねない状況にある(中小企業の犯罪インフラ化)といえます。個人情報保護委員会は2022年度上半期の活動実績をまとめ、個人情報漏洩事件の報告が1587件にのぼったと公表、前年同期は517件で、急増の原因は4月の個人情報保護法の改正とされます。サイバー攻撃など不正行為による個人情報の窃取や、管理ミスが原因の場合でも、1000人分以上の情報が流出したケースなどで、同委員会への報告が義務化されています。漏洩の発覚からおおむね3~5日で速報を出し、30~60日以内に原因などを調査した上で詳細を報告する必要があり、違反者には勧告や措置命令を出し、なお違反が続く場合には1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となることが規定されていますが、4~9月で勧告・措置命令はともに0件だったものの、実際には違法状態が放置されている例も後を絶ちません。当社でも個人情報漏洩事案への支援を手掛けていますが、フォレンジック費用は数百万円に上ることが多く、(サイバー保険に加入する中小企業も増えているものの、万が一加入していない場合)中小企業が調査費用を捻出するのは容易ではありません。また、そもそも中小企業の多くが法改正を認識していないうえ、報告義務について伝えても、情報が漏洩した顧客への対応を優先したいと報告には後ろ向きなケースが多い実態があります。関連して、メールのセキュリティで世界最大手の米プルーフポイントは感染力の強さから「最恐ウイルス」と呼ばれる「エモテット」の感染が再拡大しており、1日当たり数十万通の攻撃メールが送られていると発表しています。エモテットは2022年に入り日本などで猛威を振るっていましたが、7月以降は休止期間に入っていたとみられていました。エモテットはメールを通じて感染し、感染先に登録されているアドレスに自動で拡散していくもので、2021年1月に管理しているサーバーが欧州刑事警察機構(ユーロポール)に制圧され、一時活動を停止したものの、2021年11月に復活し、日本を中心に猛威を振るっていました。プルーフポイントは世界のメール通信の約4分の1をチェックしており、2022年7月13日を最後にエモテットは約4カ月間検知されていなかったところ、11月2日から過去の活動時期と同水準の量が検知されて活動を再開したとみられるとしています。ウイルスを感染させるためのだましの手口も進化しており、エモテットは米マイクロソフトのソフト向けのファイルで稼働する簡易プログラム「マクロ」を通じて感染する手口が一般的で、同社は4月以降、インターネット上から取得したファイルのマクロを無効とする対策を取り、エモテットの活動に打撃を与えましたが、直近観測されているエモテットのファイルは、マクロを再び有効にするフォルダにファイルを移すよう受信者に促す文言が書かれているといいます。また、警察庁などは、日本国内の大学教員や民間のシンクタンク研究員、報道関係者らに講演や取材の依頼などを装ったメールを送り、情報窃取を狙うサイバー攻撃が2019年以降に数十件確認されたと発表しています。マルウエア(悪意のあるプログラム)に感染したケースでは、パソコン内の情報が見られた可能性もあるといいます。国際政治や安全保障、エネルギーなどの専門家が狙われているといい、同庁は「かなり巧妙な攻撃が続いている」と注意を呼び掛けています。注意喚起文書は以下のとおりの対策を講じるよう求めていますが、特段難易度が高いものではなく、現時点での基本的な対策(当然講じた置くべき対策)のレベルと認識し、それを徹底することが求められていると認識すべきだと思います

▼警察庁 学術関係者・シンクタンク研究員等を標的としたサイバー攻撃について(注意喚起)
  • 近年、日本国内の学術関係者、シンクタンク研究員、報道関係者等に対し、講演依頼や取材依頼等を装ったメールをやりとりする中で不正なプログラム(マルウェア)を実行させ、当該人物のやりとりするメールやコンピュータ内のファイルの内容の窃取を試みるサイバー攻撃が多数確認されています。このサイバー攻撃に共通する特徴は以下のとおりです。
    1. 手口
      • 実在する組織の社員・職員をかたり、イベントの講師、講演、取材等の依頼メールや資料・原稿等の紹介メールが送られてくる。
      • 日程や内容の調整に関するやりとりのメールの中で、資料や依頼内容と称したURLリンクが本文に記載されたり、資料・原稿等という名目のファイルが添付されたりする。当該URLをクリックしたり添付ファイルを開いたりすると、マルウェアに感染する。
    2. 送信元メールアドレスの例
      • 表示名<見覚えのない不審なメールアドレス>
      • <詐称対象の人物名>@<詐称対象の組織略号>.com
      • <詐称対象の人物名>@<詐称対象の組織略号>.org
      • <詐称対象の人物名>@<著名なフリーメール(yahoo.co.jp、gmail.com、outlook.com等)のドメイン>
    3. 不審メールの件名の例
      • 【依頼】インタビュー取材をお願いします
      • 研究会へのゲスト参加のお願い【●●●●●●】
      • 【ご出講依頼】●●●●●●勉強会には
        ※●実在する組織名等が入る
      • また、以前より、WEBメールサービスへの不正ログインの発生を警告する内容のメールを模したメールを送付し、当該WEBメールサービスの正規サイトを装ったフィッシングサイトに誘導してID及びパスワードを窃取することで、保存されているメールを盗み見たり、受信するメールを他のメールアドレスに自動転送する設定を施したりするサイバー攻撃の手法も確認されています。
      • 学術関係者、シンクタンク研究員を始めとする皆様におかれましては、このような組織的なサイバー攻撃が実施されていることに関して認識を高く持っていただくとともに、以下に示す事項を参考に、適切にセキュリティ対策を講じていただくようお願いいたします。併せて、不審な動き等を検知した際には、速やかに警察又は内閣サイバーセキュリティセンターに情報提供いただきますよう、重ねてお願いいたします。
  • 怪しいと感じた際に実施すべき事項
    1. 別の手法での送信名義人への確認
      • 送信元として知人の名が記載されたメールであっても、少しでも内容に不審な点を感じた場合は、当該メールへの返信以外の方法で送信者に内容の確認を行ってください。
    2. ウイルス対策ソフトのフルスキャン
      • ウイルス対策ソフトを最新の状態にして、フルスキャンを実施してください。
    3. アクセス履歴、転送設定の確認
      • 不正利用の疑いがある場合や、ログインアラートメールを受信した場合は、WEBメールサービスにログインし、アクセス履歴を確認してください。もし、身に覚えのないログインが成功していた場合は、パスワードを変更してください。
      • その際、当該ログインアラートメールが偽のものである可能性があるため、メール内のリンクはクリックせず、ブラウザから直接WEBメールサービスにログインしてください。
      • WEBメールの転送設定がされていないか確認してください。
    4. 関係機関への相談
  • リスク低減のために普段から実施すべき事項
    1. ウイルス対策ソフトによるスキャン
      • パソコンは、定期的にウイルス対策ソフトによるフルスキャンを実施してください(毎日~週1程度)。
      • 最新のウイルスを検知できるよう、ウイルス対策ソフトの定義ファイル(パターンファイル)は毎日更新してください。
    2. WEBメールサービス等のログインアラートの設定
      • WEBメールサービス等には、海外等の通常と異なるネットワーク環境からのログイン等が確認された際にアラートメールを送付する機能があるので、これを設定してください。
    3. 二要素認証の設定
      • WEBメールサービス等には、ログイン時に本人確認のための秘密情報を2つ使用して認証を行う二要素認証という機能(例えば、パスワードと認証アプリ)があるので、これを設定してください。
      • 二要素認証の二段階目の認証手段には、認証アプリ、SMS、メールがよく使われます。セキュリティ上は認証アプリが推奨されています。
    4. パスワードに関する注意事項
      • パスワードは、十分に長く複雑なものにしてください。
      • パスワードは、他のサービスと使い回さず、それぞれのサービスで個別のパスワードを設定してください。

警察庁は、サイバー攻撃の被害に遭った企業などが警察に通報や相談をしやすい環境づくりについて議論する検討会を設置すると発表しています。サイバー攻撃を巡っては、企業側が信用の低下などを恐れることによる「被害の潜在化」が課題になっており、検討会は企業側の事情も把握しているサイバーセキュリティの専門家ら委員9人で構成し、2023年3月までに報告書を取りまとめる予定としています。露木長官は、サイバー攻撃について、「広範囲にさらに被害が波及したり、同時多発的に類似の犯行が行われたりするので、警察としては事案の発生を早い段階で把握し、対応する必要がある」と強調、一方で、企業側が「被害を受けてしまったことに対するネガティブな評判が広がってしまう」、「警察の捜査に協力することによってかなり負担が生じる」といった心配を抱えているとして、「通報や相談がためらわれる傾向があり、被害の潜在化をいかに防止するかが課題になっている」と指摘しています。

▼警察庁 サイバー事案の被害の潜在化防止に向けた検討会の開催について
  1. 開催趣旨
    1. 検討会テーマ
      • 通報・相談の促進に向けた関係省庁等との連携及び環境整備
    2. テーマ選定の背景及び目的
      • サイバー事案の被害は、予想外の形で広範囲に波及する危険等があることから、事案の発生を早い段階で把握し、対応することが求められるものの、被害者側におけるレピュテーションリスクの懸念等から通報・相談がためらわれる傾向があり、いわゆる「被害の潜在化」が課題となっている。
      • サイバー事案に関する被害の潜在化を防止するため、関係省庁等と連携した情報共有や、被害者が自発的に通報・相談しやすい環境の整備に向けた方策について多様な観点から御議論いただく。
  2. 検討会委員の構成
    • サイバー事案被害者の支援等で活躍する、産業界、セキュリティ関係団体、法曹界、学術界の有識者を選定(別紙のとおり)
  3. 日程
    • 12月中旬以降、年度内に3回程度検討会を開催
    • 年度内に報告書の取りまとめ及び公表を予定

サイバー攻撃が国と国との間の戦争においても実行される時代となっています。露によるウクライナ侵攻が典型的な例ですが、ウクライナ側も同事態に備えて早い段階から米とサイバー防衛態勢を構築していたとされます(それが想定以上に機能したと評価されています)。このような状況をふまえれば、日本の安全保障を考えるうえで、サイバー防衛のあり方は重要なピースの一つであるといえます。さらに、サイバー防衛のあり方を巡っては、「積極的サイバー防衛(アクティブ・サイバー・ディフェンス)」の考え方がベースになると考えられます。最近、こうした観点からの報道が増えており、その内容や課題等を認識しておく必要があるものと思います。

なお、前述のとおり、日本でも取り入れた「パブリック・アトリビューション」については、2022年11月8日付産経新聞の記事「サイバー攻撃国特定し非難「パブリック・アトリビューション」」に詳しいため、以下、抜粋して引用します。

北朝鮮のハッカー集団「ラザルス」が日本の暗号資産交換業者を狙ってサイバー攻撃をしていたとして、警察庁などは相手国を名指しし非難する「パブリック・アトリビューション」を行った。重要インフラや先端技術を狙うサイバー攻撃は激化する一方、国をまたいだ攻撃者の特定や摘発は難航。摘発できなくても「誰がやったか」や手口を公表することで、攻撃の抑止と被害拡大防止につなげる狙いもあり、日本政府も積極的に取り入れだしている。・・国をまたいだサイバー攻撃の捜査は困難を極める。複数のサーバーを使ったり、匿名化ツールを使ったりして発信元を巧妙に隠してサイバー攻撃を仕掛けるためだ。ただ、手口の分析やIPアドレス、マルウエア(不正プログラム)の種類などを分析することで攻撃者の共通点が浮かび上がることもある。今回のラザルスは、警察庁のサイバー特別捜査隊の捜査などで、標的企業の幹部を装ったフィッシングメールを従業員に送っていたほか、虚偽のアカウントのSNSで取引先を装い、標的企業の従業員に接近するなどの特徴がみられた。捜査関係者は「ラザルスとみられる共通点があった」とする。パブリック・アトリビューションは2014年に米国で初めて実施された。米ネットセキュリティ企業マンディアントが13年2月、米政府機関や企業へのハッカー攻撃に中国人民解放軍のサイバー部隊「61938部隊」が関与していると公表。米司法省は14年5月、同部隊に所属する将校5人を刑事訴追した。米英政府などは2017年以降、パブリック・アトリビューションを積極的に行っており、日本も同時に声明を出したケースもある。…重要インフラや先端技術を狙ったサイバー攻撃は激化の一途をたどる。国家の関与が疑われるサイバー攻撃には安全保障上の懸念も高まる。このため日本政府も積極的にパブリック・アトリビューションを取り入れる方針で、今回は5例目となる。相手国との関係悪化の懸念や自国の情報収集能力を相手国に知られてしまう恐れもあり、公表にはタイミングも含め政治的判断の側面も大きい。捜査関係者は「慎重に捜査を進め、ためらわずに実施していきたい」としている。

最後に、AIやアルゴリズムに関する最近の報道から、いくつか紹介します。

AIと倫理、どう向き合う? 規制や指針なお手探り(2022年11月26日付日本経済新聞)
米アマゾン・ドット・コムが導入した人事採用AIが女性を不利に評価して使用をやめた例がよく知られます。男性優位だった過去の採用データを学習し、女性であるというだけでマイナス点をつけたのです。日本でも就職情報サイト「リクナビ」がAIで予測した内定辞退率を顧客企業に提供し、行政指導を受けました。就活生の同意を得ていなかったうえ「辞退されたら困る」という企業側の勝手な都合で、人生を左右する就活をスコアリング(点数づけ)した点も社会の批判を浴びました。ローン審査でもAIが期待されていますが、導入に慎重な金融機関もあります。職業や居住地などによって不公平な判断をしないかや、融資の可否や上限額の根拠を顧客にどう伝えるのか、AIの説明責任が問われます。対話型AIが暴言を吐き始めた問題も起きました。…EUは2021年4月、包括的な規制案を公表しました。リスクに応じて利用を禁止・制限する内容で、違反した企業に巨額の制裁金を課します。顔認識を公共の場で犯罪捜査に使ったり、公的機関が個人の信用などをスコアリングしたりする技術は原則禁止としました。米国の警察が顔認識で黒人を誤認逮捕した例が起きているからです。EUはほかにも、消費者がAIから被害を受けた場合、開発企業に損害賠償を求めることができる権利を盛り込んだ指令案を公表しました。…企業では「AIガバナンス」という考え方が注目され、とくに米国で広がりを見せています。…AIをめぐる問題は倫理的(Ethical)、法的(Legal)、社会的(Social)な課題(Issues)が複雑に絡み、頭文字を取り「ELSI(エルシー)」と呼ばれます。…AIが人知をしのぐ「シンギュラリティー(特異点)」にいずれ到達し、人の仕事の大半を奪うという懸念はこのところ薄らいでいるが、AIの浸透は人と機械の関係を根源から問い直している。倫理的な問題のほか、自動運転事故の賠償責任、AIが作った小説や音楽、絵画の価値や権利の保護など法制度でも多くの問題を提起している。AIは人の作業を代替する一方、人はより創造的な仕事に専念でき、人の能力を拡張するかもしれない。この「代替と拡張」がAIとの向き合い方を考える重要なキーワードになる。

(7)誹謗中傷/偽情報等を巡る動向

国際サッカー連盟(FIFA)と国際プロサッカー選手会は、W杯カタール大会期間中に出場選手をSNS上の誹謗中傷から守るサービスを始めると発表しています。実際、日本でも、予選リーグのコスタリカ戦の敗戦の際には、選手に対する誹謗中傷と言える投稿等も数多くありました。FIFAの取組みは選手のアカウントを監視し、差別や脅迫などのコメントがあった場合に運営元や法務当局に通報するもので、インファンティノ会長は「誹謗中傷は選手のパフォーマンスや家族に深刻な影響を与える。選手が最大限の能力を発揮できるように、可能な限り最高の環境を提供する」とコメントしています。誹謗中傷対策は極めて重要ですが、そもそも他人を誹謗中傷しないという人間性や人格の問題にも常に立ち返ること、表現の自由には責任が伴う(無制限の自由ではない)ことを正しく理解すること、そうした側面からの取組みや周知徹底も重要(ただし、その実現はかなり困難)であるとあらためて痛感させられます。

性被害を訴えたジャーナリストの伊藤詩織氏が、事実と異なるイラストをツイッターに投稿されて名誉を傷つけられたなどとして、投稿した漫画家のはすみとしこ氏と、投稿をリツイート(転載)した男性医師に賠償を求めた訴訟の控訴審判決が東京高裁であり、判決は、はすみ氏に一審より増額して110万円、リツイートした男性には、一審で命じた11万円に加えて新たに11万円の支払いを命じています。高裁は2021年11月の一審・東京地裁判決に続き、イラストの女性は伊藤さんではないなどとするはすみさん側の主張を退け、「枕営業大失敗!!」などと書き添えたイラストを含むはすみ氏の投稿は「伊藤氏が虚偽の性被害を訴えていると示す内容で、多大な精神的苦痛を与える」と指摘、内容や多くの人に拡散された点などを考慮し、賠償額は一審の88万円から増やすのが相当としています。また、男性が投稿をリツイートした行為も「男性自身の表現行為と解するのが相当で、伊藤氏の社会的評価を低下させた」と述べ、一審の判断を維持しています。なお、男性は一審判決後に再びイラストをリツイートしており、この分の賠償として11万円を加え、計22万円の支払いを命じています。

IT大手ヤフーは、ニュース配信サイト「ヤフーニュース」のコメント欄で、携帯電話番号での登録をしたユーザーに限って投稿を認める運用を始めています。コメント欄(ヤフコメ)は書き込むこと、読むことの両方に根強いファンがいる一方で、差別表現の温床とも指摘されています。インターネット上の誹謗中傷はヤフコメを舞台にエスカレートする場合も少なくないため、取り組みの効果が注目されるところです。ヤフコメは2007年に設けられ、これまでヤフーは24時間体制で独自のAIや約70人の人員でニュースサイトや各種サービス、投稿内容をチェックし、不適切な投稿を削除、2018年からは不適切な投稿を繰り返したアカウントには「投稿停止措置」をとってきています。2022年5月までには、秋篠宮家を巡る報道に対する誹謗中傷が深刻化したことなどを受け、「エンタメ」記事を提供する一部メディアのヤフコメ投稿欄を閉鎖しています。ヤフーによると、投稿停止措置を受けたユーザーが別のIDを使って不適切な投稿を繰り返すケースがあったことから、携帯電話番号と投稿を結びつけることで、停止措置の確実な実施を目指すとしています。なお、ヤフーは不適切な内容について、「個人の特定が可能な情報」、「犯罪や犯罪を助長」、「個人への過度な誹謗中傷」、「身体・精神不調へのやゆ」、「ヘイトスピーチ」、「事件や事故の被害者への心ない言葉」などと定義し、投稿を禁止しています。ヤフーによれば、不適切な内容で投稿する人の半数は、携帯電話番号での認証登録をしていなかったといいます。2022年11月15日付毎日新聞で、SNSでの誹謗中傷問題に詳しい国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授は「電話番号を知らせることで、投稿者は完全な匿名ではなくなる。投稿に責任が伴ってヤフコメの誹謗中傷は減る可能性がある」と予測、誹謗中傷を繰り返す人は、自身の正義感に基づいており、相手を傷付けているなどの自覚がないといい、「抑止効果は限定的になるかもしれない」と指摘しています。

ヤフー以外でもSNS各社が誹謗中傷や過激な投稿への対応を強めています。例えば、米グーグルは動画投稿の「ユーチューブ」で年内に暴力を助長する投稿への対応を厳しくするとしています。各社は人と人工知能(AI)を組み合わせ監視していますが、社員削減に踏み切る企業もあり、有害投稿の排除は容易ではありません。「コンテンツモデレーション(投稿の管理)への姿勢は変わっていない」とツイッターを買収したイーロン・マスク氏は強調、「言論の自由の絶対主義者」を自称し、かねてツイッターの監視が厳しいと批判、今回の買収劇もこうした不満が発端となりましたが、社会の公器となりつつあるSNSには一定のガバナンスが必要となり、偽情報や有害な投稿の拡散について国連やバイデン米大統領が懸念を表明する事態となっています。そもそもSNSプラットフォーマーは暴力的な内容や誹謗中傷、フェイクニュースといった有害な投稿を禁止しており、違反した場合は削除したり、アカウントを停止したりする措置を取ってきましたが、各社はSNSの利用時間を伸ばすことで広告収入を増やしてきている中、有害な投稿への批判も強まっており、対応を強化しています。米ユーチューブのニール・モーハン最高製品責任者は2022年9月、ツイッターで「今年中にポリシーを更新し、暴力を礼賛するコンテンツや過激派グループの勧誘、資金集めを禁止する」と取り組みの強化をアピールしています。LINEも動画や漫画サービスなど、サービスごとに15~90人の人員を配置してAIと組み合わせて監視にあたっているといいます。技術の精度が高まる一方、英語圏以外の取り締まりの限界を指摘する声もあります。2021年のフェイスブック(当時)元社員による内部告発などから一部の言語ではAIの検出精度が著しく低くなることや、十分な人員を確保できずに監視が行き届いていない可能性が浮上していますが、メタを含む各社は日本など各地域や言語別の体制について詳細を控えたままです。なお、このあたりについては、2022年11月28日付け日本経済新聞の記事「ネット秩序は技術で守る SNS各社、監視AIの精度磨く」に詳しく述べられているため、以下、抜粋して引用します。コンテンツモデレ―ションはAIの進歩に多くを依拠した取組みとなっているとはいえ、最後は「人間の関与への粘り強い取り組みが、テクノロジーやネット社会の健全な発展の可否を占う」との指摘は正に正鵠を射るものといえます。

SNS各社によるコンテンツモデレーション(投稿の管理)の技術開発が進んでいる。人工知能(AI)がインターネット上の膨大な投稿の内容を瞬時に識別し、有害と判断したものを自動で閲覧できなくする。曖昧な表現などにも対応する。ネット上での活動や交流が今後も広がると予想されるなか、ネット空間の「秩序」をどう保っていくかが改めて切実な課題になっている。…ネット上に投稿された膨大な内容を取り締まる上で要となるのがAIの進化だ。ニュースサイトなどを運営するヤフーは、AIの代表的手法である深層学習を用いた自然言語処理技術や独自のスパコン「kukai」を使って取り締まりにあたる。自然言語処理で投稿の内容を読み取り、過度な批判や誹謗中傷、差別といった項目にどの程度該当しているかを点数化する。一定の基準に達した投稿は自動で削除し、基準に満たなくても高スコアの投稿は人の目で再度チェックする。AIにはヤフーの専門チームがパトロール監視をした結果などを正解データとして学習させており、人による判断を再現することを目指している。AIのモデルは随時改善しており、判断の妥当性や即応性を高めている。コメントが違反だと判定してから削除するまでにかかる時間は「1秒以内か遅くとも数秒以内。投稿の直後には削除されている」(同社の担当者)。投稿には曖昧な表現や個人的な内容も多く、人の目による監視と同様に違反の有無をどこまで正確に読み取れるかが課題になってきた。インスタグラムやフェイスブックを運営する米メタ(旧フェイスブック)はヘイトスピーチ対策として、教師データを用いずにサービス上にある数百万のコンテンツをAIが直接学習する技術を開発する。…一方、技術がどれだけ進化しても、結局は人間による判断の介在が欠かせない。AIの設計や最終的な削除基準など、表現の自由と安全性の微妙な線引きについて熟慮を重ねることが重要になる。足元では米IT大手の大規模な人員削減が進む。コンテンツモデレーションへの影響が懸念され、実際に人権などを担当する部門の人員が大幅に削減されているといった報道もある。人間の関与への粘り強い取り組みが、テクノロジーやネット社会の健全な発展の可否を占う。

「言論の自由の絶対主義者」を自称するイーロン・マスク氏によるツイッター買収を巡る一連の騒動で明らかになったのは、ネット時代の公共空間とは一体どうあるべきか、という点です。私たちが深く考えないといけないのは、「デジタル空間の公共性をどう担保していくのか」という点なのだと気付かされます。

そのイーロン・マスク氏に対しては、各方面からさまざまな意見や指摘がなされています。EUは同氏に対し、偽情報の拡散防止対策に取り組むよう求め、対応しなければ、欧州でのツイッター利用を禁じたり、罰金を科したりする可能性があると警告したと報じられています。EUの執行機関・欧州委員会のティエリー・ブルトン委員とマスク氏がオンラインで会談、ブルトン氏は、アカウントを停止されていたユーザーを復帰させる際の「恣意的」な決定をやめ(明確な基準を設け)、2023年までに「広範な独立監査」を受けることに同意するなどして、2024年2月から適用されるEUの「デジタルサービス法(DSA)」を順守するよう求めたといいます。同法は巨大IT企業に違法な情報への対応を義務付けています。関連して、欧州委員会のレインデルス委員(司法担当)も、米ツイッターがベルギーの首都ブリュッセルの拠点を閉鎖したことや従業員数千人を解雇したことを受け、違法コンテンツに関するEUの新規則を順守できるかどうかについて懸念を示しています。また、マスク氏は、永久停止となっていたトランプ前大統領のアカウントの復活や、新型コロナを巡る投稿規制の廃止を打ち出しており、イエレン米財務長官がマスク氏のツイッター社買収について、国家安全保障上の懸念がある場合、「調査するのが適切だ」と発言したとも報じられています。また、同長官は、ツイッターのコンテンツに対し、放送局などと同様、一定の基準を設ける必要があるという認識を示しています。なお、同長官は、中国系動画投稿アプリのTiktokに関し、国家安全保障上の正当な懸念があるという見方を示しています。

ツイッター買収後、マスク氏は従業員らを大量解雇して経営が混乱、ヘイトスピーチなど人種差別的な投稿が急増するなどの問題が相次ぎ、大手企業の広告撤退も続出しています。こうした社内外の喧噪渦巻く中、ツイッターは、新型コロナウイルスに関する偽情報を取り締まる規約を撤回しています。コロナの感染者数は以前より減っているものの、冬場に増えるとの見通しもあり、偽情報が拡散されやすくなることへの懸念が出ています。ツイッターはコロナへの感染が広がった2020年、コロナ関連の偽情報対策を打ち出し、2020年1月以来、コロナ関連の偽情報を理由に約1万1000のアカウントを停止し、10万件近い投稿を削除してきました。同社のサイトは2021年12月、コロナに関して「誤った情報や誤解を招く情報を共有することは禁止されています」と説明していましたが、マスク氏に買収された後のツイッターのサイトによると、コロナに関する偽情報対応を11月23日で終えたといいます。コロナ関連の偽情報対策は、フェイスブックを運営する米メタなども進めてきており、メタの2021年3月の報告によると、コロナ関連で1200万件以上の投稿を削除していたといいます。これに対し、バイデン米政権は、ツイッターに関し、誤情報拡散の温床とならないか注視していると明らかにしています。ジャンピエール大統領報道官が記者会見で「ソーシャルメディアは暴力の扇動を防ぐ責任がある」と述べ、ツイッターがどのような対応を取るか「私たちは警戒している」と強調しています。なお、アップルはツイッターへの広告をほぼ停止しているとされますが、実際にアプリ市場からツイッターを排除し、広告出稿も見合わせた場合は、ツイッターの経営混乱に拍車がかかり、業績への悪影響が広がる可能性も指摘されはじめています。

マスク氏によるツイッター買収から1カ月が経過しましたが、こうしたツイッターの改革の行方について、さまざまな見解が出ていますが、以下、いくつか紹介します。

進む?「脱ツイッター」 買収1カ月 避難先SNS、50万人流入(2022年11月29日付毎日新聞)
イーロン・マスク氏による米ツイッター買収から1カ月。凍結アカウントを復活させ、大規模な人員削減でコストカットに乗り出したが、システムや投稿管理の弱体化に懸念が広がる。波乱の「マスク劇場」に、広告出稿を見合わせる企業が相次ぎ、一部利用者は「脱ツイッター」を準備している。「ツイッターは米国中心に見えるかもしれないが、どちらかと言えば日本中心だ。日本の人口はアメリカの3分の1なのにほぼ同数の利用者がいる」。マスク氏が21日の社内集会で述べたと、米ネットメディア「バージ」が報じた。 日本の高い利用率を「他の国も目指すべきだ」と強調。広告依存から脱却し課金収入を増やすため、その礎となる利用者獲得を優先している。だが、米国などで提供している有料サービス「ツイッターブルー」の値上げに伴って、アカウントが利用者本人のものであることを示す青色の認証マークの付与を始めたことでなりすましなどの悪用が急増。政府機関や企業、有名人に限定していたマークを個人に拡大したためだ。…「言論の自由」を掲げて投稿削除やアカウント凍結に慎重なマスク氏が、昨年1月から凍結していたトランプ前米大統領のアカウントを復活させたことも波紋を広げた。世界で7500人いた従業員の約3分の2を削減するという急激な人員カットでシステム維持への不安も高まる。マスク氏は利用者数が過去最高を更新したとアピールするが、ツイッターが突然使えなくなった場合に備え、フォロワーに別のSNSのアカウント登録を推奨する利用者も。避難先として注目を集めるSNS「マストドン」は、マスク氏のツイッター買収から約10日で利用者が50万人弱流入した
有料認証マークやアカウント復活 ツイッター改革で見過ごせない問題(2022年11月28日付毎日新聞)
マスク氏は収益の大半を広告に依存する構造からの脱却を表明している。憲法学が専門で、デジタルプラットフォームの問題に詳しい関西大学社会学部准教授の水谷瑛嗣郎さんは、ビジネスモデルの転換に賛成する。プラットフォームを巡っては、ユーザーの特性に合わせたコンテンツが表示されるレコメンドシステムの問題が指摘されてきた。情報の質よりも、人々の関心や注目を集めた方が大きな経済的利益を得られる「アテンション・エコノミー」との結びつきだ。水谷さんは「広告を見てもらうために、ユーザーをプラットフォームに依存させることが重要になり、社会的に意義のある情報よりも、好みや刺激の強いコンテンツに偏る恐れがあります」と話す。プラットフォームの脱広告依存は、ユーザーの情報の偏りを解消する一つの処方箋だ。マスク氏はこれまで著名人や企業に限ってきた認証マークについて、月額料金を支払った利用者に付与する方針も示した。矢継ぎ早の改革について、水谷さんは「マスク氏の派手さに目を奪われがちですが、ツイッターが抱える構造的な課題が改めて浮き彫りになりました」と話す。ツイッターは、利益を追求する企業であると同時に、現代の言論活動に欠かせない公共性の高い場を提供している。「場の管理者」として政府と肩を並べるほど強い力を持つ存在とも言えるといい、水谷さんは「(フェイスブックを提供する)メタと同様にツイッターは『新たな統治者』と呼ばれる存在です。それにもかかわらず、『統治者』の動向を監視、統制する仕組みが不足しています」と指摘する。…「大きな仕様変更であるにもかかわらず、非常に性急に進めたように感じます。なりすましの防ぎ方についての疑問に丁寧に答える特設ページをつくるなど、透明性を高め、移行期間を設けて慎重に実装していくべきでしょう」…トロイさんは「(新プランは)お金を払っても構わないという人々を『信頼できる人』に昇格させ、現在は信頼されていても、月額料を支払わない人は『一般人』に格下げするというものです」と断じる。…水谷さんは、二重投票のような不正を防げているのかなど適正さに疑問が残るとし、こう続ける。「重要事項を投票で決めるならば、事前にツイッターでルールや手続きを定め、それに沿って行うべきです」…メタには外部の専門家でつくる監督委員会がある。社内管理者がチェックした投稿等を再検証する役割を持ち、「フェイスブック最高裁」とも呼ばれる。トランプ氏のアカウントを凍結したことについて、監督委員会は「妥当」とした一方で、無期限とした根拠は不明確だとした。これを受け、社内で「凍結は最長2年」との新たな基準がつくられた。政治家や政府機関をはじめ、いまや多くの日本人がツイッターを利用している。「新たな統治者」として、トップが誰であろうと、意思決定プロセスの適正性や透明性を担保する必要がある、と水谷さんは語る。

ポーランドのドゥダ大統領がフランスのマクロン大統領と思い込んで意見を交わした相手は、ロシア人のコメディアンだったという偽情報への対応として危惧していたことが実際に起こりました。ポーランド大統領府は、いたずらを働いた2人のロシア人が流出させた会話の音声について、実際にあったやりとりだと認めました。大統領府はツイッターに、ウクライナ国境に近いポーランド東部プシェボドフでミサイルによる爆発が起きた日、マクロン氏を名乗る電話があったと投稿、「ドゥダ氏は話しぶりからペテンかもしれないと気付き、電話を切った」と釈明しています。7分半にわたる電話の音声は、ロシアの治安当局とつながりがあるとされるロシア人2人が動画投稿サイトに投稿、音声では、強いロシア語なまりの男がマクロン氏をかたり、ドゥダ氏とミサイル着弾について議論しており、ドゥダ氏はこの中で「ロシアを責めるつもりはない。ロシアと戦争はしたくない」と強調、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の集団防衛義務を定めた同条約第5条の発動は考えていないなどと話しています。なお、ドゥダ氏は2020年にも、グテレス国連事務総長のなりすましにだまされたことがあるといいます。また、ロイター通信によると、このロシア人2人は過去にマクロン氏やジョンソン元英首相らをだましたといいます。国のトップ同士の会談でさえなりすましを見抜くことが難しい(さらには、音声を真似ることはかなりの精度で可能となっていること、一方でなりすましの精度の高さとは関係のないところでもだまされる可能性がある)ことを示したものであり、本人確認の難しさがここかからも痛感させられます。

ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏は、米中間選挙に同氏が介入しているとの情報についてSNSで問われ、「我々は介入していたし、介入しているし、これからも介入する」と回答しています。プリゴジン氏はプーチン大統領に近い新興財閥(オリガルヒ)で、「プーチン氏の料理長」とも呼ばれていますが、今回の発言の真偽は不明であるものの、大統領の「側近」が他国の選挙への介入を認める(つまり、偽情報を駆使していることを示唆する)のは異例のことといえます。ロシアでは傭兵は非合法で、これまでワグネルの活動は公然の秘密でしたが、ウクライナ侵攻ではワグネルの部隊を激戦地に派遣しており、プリゴジン氏は強硬派として存在感を増しています。ただ、ロシアの公職にはないため、責任を問うのが難しい面もあると考えられます。プリゴジン氏はまた、「正確な外科手術で腎臓と肝臓を同時に取り除く」とも述べ、ロシアに不都合なものを米国から取り除くとの考えを示しています。関連して、国際的な選挙監視で実績のある米NPOカーター・センターは、ブラジルの10月大統領選に向け選挙監視に従事した報告を発表し、投票システムについての虚偽情報や選挙当局の公平さを疑う偽情報が巧妙な形でまん延したのが特徴だったと総括しています。同センターによると、最終的に勝利したルラ元大統領も現職ボルソナロ大統領も、双方とも虚偽情報の標的になりましたが、有力な複数のファクトチェック組織の調査を同センターが分析したところ、大半はルラ氏陣営に向けられたものだったといいます。ボルソナロ氏が以前から投票システムの正統性への批判を繰り返していたことから、ブラジル上級選挙裁判所は多数の海外選挙監視組織を招聘、カーター・センターも招きに応じ、専門家団を派遣していたものです。報道によれば、10月2日の第1回投票に至るまでは、偽情報の中心は投票システムに欠陥があるという内容で、同センターは、選挙裁がこうした主張に対処するため投開票や集計のシステム監査を広範にうまく実施したと指摘しましたが、その後30日の決選投票に向けては、偽情報は選挙裁の公平さを疑問視する内容に変わったといいます。同裁判所が決選投票の直前数週間でソーシャルメディアからコンテンツを迅速に削除する権限拡大を決めたことで、かえって選挙介入への懸念が持ち上がったと指摘しています。また、防衛省の防衛研究所は、中国の軍事情勢などに関する報告書「中国安全保障レポート2023」を発表、中国が人間の「認知領域」を掌握しようと、プロパガンダや偽情報の流布などを通じた影響力工作を強化していると分析、また、中国軍について、世論工作などを通じて相手を揺さぶる「三戦」(世論戦、心理戦、法律戦)を重視しているとし、宣伝活動やSNSへの投稿などで情報戦を実施していると指摘しています。その上で、「国内外で影響力工作に尽力している」と結論づけています。台湾に対しては、親中派の芸能人なども利用して台湾人に働きかける「認知戦」を展開しているとし、「大きな脅威となっている」と警鐘を鳴らしたほか、中国軍の指揮命令系統に海警局と海上民兵を統合して連携強化を図り、日本が武力攻撃とは判断できない「グレーゾーン事態」での作戦能力を向上させているとの見方を示しています。中国に関連したこととしては、中国でインターネット管理を担当する国家インターネット情報弁公室が、SNS運営事業者に対し、利用者の投稿内容の事前審査などを求める規定を公表したと現地紙が報じています。中国では「ゼロコロナ」政策を巡り、中国版ツイッター微博(ウェイボー)で批判的な意見が拡散し、当局が火消しに追われるケースが後を絶たず、今回の措置は、事業者に投稿内容を厳しく審査させることで、政府批判を封じ込める狙いがあるとみられています。規定は事業者に対し、投稿者のデータなどを必要に応じ、政府のインターネット管理部門に提供することも求めたほか、利用者に対しては実名登録の徹底を求め、「ブラックリスト」入りすると、SNSなどの利用が制限されるとしています。

その他、誹謗中傷や偽情報を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 本コラムでも以前取り上げた、野党批判の投稿を匿名で繰り返していたツイッターアカウント「Dappi」について、Dappiが投稿に用いたネット回線の契約者だった会社が2021年、自民党東京都連から計約404万円の業務を請け負っていたことがわかったといいます。東京都選挙管理委員会が公表した政治資金収支報告書に記載されていたものです。このアカウントは、ネット番組の動画とともに野党を批判する出演者の言葉を紹介したり、与党議員らの発言を評価したりするツイートを繰り返していたとされます。投稿に用いたネット回線を契約していたのは都内のウェブコンサルティング会社で、このアカウントによる誤った印象を与えるツイートで名誉を傷つけられたとして、立憲民主党の参院議員2人が2021年10月、同社に損害賠償を求める訴訟を起こしています。裁判で同社側が提出した書面によると、投稿したのは同社従業員だったとしています。
  • SNSに裁判当事者を傷つける投稿をしたとして訴追された仙台高裁の岡口判事の弾劾裁判第2回公判が、国会の裁判官弾劾裁判所(裁判長・松山政司参院議員)で開かれ、検察官役となる国会の裁判官訴追委員会は冒頭陳述で「(岡口氏が)何度も裁判所から注意を受け、反省を口にしながら投稿を繰り返した」と指摘し、罷免が相当と主張しています。2022年3月2日の初公判から約9カ月ぶりの審理となりましたが、岡口氏の弁護人は初公判で「侮辱に該当せず、傷つけてはいない。著しい非行行為に該当しない」と全面的に争う姿勢を示しており、弾劾裁判で表現行為を理由とした訴追は初めてで、罷免となった場合は法曹資格を最低5年間失うことになります。岡口氏はツイッターやフェイスブックの投稿で、殺人事件の被害者遺族や民事訴訟の当事者をやゆし、傷つけたとして当事者らから訴追請求され、訴追委が2021年6月に訴追を決定、弾劾裁判所は判決までの間、岡口氏の職務停止を決めています。
  • 本コラムでも以前から取り上げていますが、杉田水脈総務政務官は2022年12月2日の参院予算委員会で、過去の表現について謝罪し撤回しています。月刊誌の論文で性的少数者(LGBTなど)に関し「生産性がない」と記し、自身のブログで国連女性差別撤廃委員会の会合の出席者をやゆしたと問題視されています。11月30日の予算委では「チマ・チョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場。完全に品格に問題があります」とのブログの投稿が取り上げられ、野党が「人権感覚が疑わしい」と批判し、首相に更迭を求めていたところ、杉田氏は2日の予算委で「厳しい批判を重く受け止めている」と陳謝、首相は「内閣の一員になった以上は内閣の方針に従って言動をしてもらわなければいけない」と更迭要求を拒否しています。杉田氏を総務政務官に起用した理由について「行政に対する管理・評価、統計の役割を果たせるかどうかを考え、職責を果たす能力を持った人物だと判断した」と説明しています。また、松本総務相は予算委に先立つ記者会見で、杉田氏に謝罪し発言を撤回するよう指示したと明らかにしています。「国会で杉田氏の表現について議論が長引いている」ことを理由に挙げたといいます。立憲民主党の泉健太代表は記者会見で「あまりに差別的な発言であり、謝罪と撤回は当然だ。一つの前進だが、今後の対応も注視したい」と述べています。
  • 虐待を受けて家に居場所がない10代女性らの相談を受ける一般社団法人「Colabo(コラボ)」代表の仁藤さんが、インターネット上で繰り返し中傷を受けたとして、東京都内の40代男性に対し、1100万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こしています。都内で弁護団とともに記者会見した仁藤さんはSNSでの中傷に加え、男性の投稿の影響でColaboを支援してきた人たちから寄付や食料支援をやめたいという申し出があったといいます。さらに、女性に食事や居場所を提供するバスが傷付けられ、緊急避難に使うシェルターの場所を特定されたと報告、「生活や(コラボの)活動に関わる危機と感じている」と話しています。訴状によると、男性は9~10月、ブログサービス「note」や動画投稿サイト「ユーチューブ」に、。「Colaboが特定の政党と強く結びついている」、「女性たちの医療支援に際し、医療機関からキックバックを受けている」、「コラボは10代の女の子をタコ部屋に住まわせて生活保護を受給させ、毎月1人6万5000円ずつ徴収している」、「補助金の不正受給、生活保護不正受給、未成年誘拐あたりは普通に問題」などと投稿、再生回数が3万6000回の動画もあり、「虚偽の投稿による名誉毀損が膨大な範囲に拡散した」としています。弁護団の神原元弁護士は「デマを積み上げて信用を傷つけるサイバーハラスメントで、本質は『女性の権利のために立ち上がった人が気に入らない』という女性差別だ」と批判しています。今後、他の投稿についての法的措置も検討しているといい、太田啓子弁護士はこれらの動画に対し、高評価をしたり賛同コメントを書き込んだりする人の多さに触れ、「(デマ拡散を)エスカレートさせている側の問題点も指摘していきたい」と話しています。
  • 57歳の誕生日を迎えられた秋篠宮さまは記者会見で、皇室へのバッシングや誹謗中傷ととれる報道への対応について「(反論するための)基準を作って意見を言うことはなかなか難しい。引き続き、検討していく課題なのかなと思っている」と述べています。2021年の記者会見では、バッシング報道などに反論する場合に「基準作り」が必要との認識を示していました。今回の会見で秋篠宮さまは皇室関係の情報発信について「正確な情報をタイムリーに出すことが必要であるとともに、正確な情報がどこにあるのかということが分かることも大事」と指摘しています。秋篠宮さまは「あまりにもひどい事実誤認だと思われることについて、それは違うという反論をすることはあり得る」と語りつつも、記事の中に散見される一つの誤りを指摘すると「ほかに書かれていることは全て正しいことにもなる」と強調、「何か良い形で発信できる方法があればいいと思う。引き続き検討する必要がある」と話しています。また、「多くがスマートフォンを使って調べる時代になっている」とし、多くの海外王室のようにSNSとウェブサイトを組み合わせた形で運用する仕組みを宮内庁は検討しているのではとの考えも示しています。
  • 北朝鮮によるミサイル発射が相次ぐなか、朝鮮学校への嫌がらせの矛先が向けられ、実際の被害が出ているといい、弁護士らは「責任のない子どもたちが恐怖にさらされている」と訴え、政府に対応を求めています。ツイッター上には「朝鮮学校をつぶせ」などの書き込みが後を絶たず、直接の攻撃に至ったケースもあるといいます。全国朝鮮学校校長会によると、2022年10月4日の夕方、東京朝鮮中高級学校の中級部の生徒が電車内で男に足を踏みつけられ、「日本にミサイル飛ばすような国が高校無償化とか言うな」と言われたといい、警察に被害届を出したといいます。朝鮮学校をめぐっては、民主党政権が2010年度に始めた高校無償化の対象に含め、自民党政権が拉致問題を理由に2013年に対象から外したという経緯があります。また、三重県の四日市朝鮮初中級学校では同10月5日、登校中の教員と初級部6年の児童が、見知らぬ男に「ミサイル撃つな言うとけよ」と威嚇されたといい、学校側は県警などに相談、一見知事は11月2日の会見で「日本に住んでいる子どもが悪いわけではない」と呼びかけています。同校は今も最寄り駅までの登下校に教員が付き添っているといいます。弁護士や研究者でつくる市民団体「外国人人権法連絡会」によると、10月8日までに長野、神戸などを含む全国6校で9件の暴行・脅迫が確認されたといい、10月20日、法務省人権擁護局はツイッターに「他の民族や外国籍の人々に対して、誹謗中傷する投稿や落書きをしたり、嫌がらせをすることは、人権侵害のおそれがあります」と投稿、今後、啓発活動や全国の法務局で受け付けている人権相談を「地道に続ける」ということです
  • 国連の自由権規約委員会が日本の人権状況に関する勧告で、入管施設での対応改善などを求めたことを受け、マイノリティーの支援者団体などでつくる連携組織が記者会見を開き、全体的には肯定的な評価を示して、日本政府に勧告内容の実施を求めた一方、団体側の状況報告を国連側が踏まえなかったと考えられる内容もあったとし、「残念」とも述べています。勧告は、入管の収容施設で2017年~2021年に3人の収容者が死亡したことを重視、適切な医療の提供など施設での処遇の改善を求めたほか、病気などを理由に一時的に収容を解かれた「仮放免」状態の外国人らについて、就業の機会を設け、収入を得られるようにする必要があるとしています。さらに勧告は、ヘイトクライム(差別感情にもとづく憎悪犯罪)を明確に定義して禁止するよう、日本政府に求めています。外国人人権法連絡会の師岡康子弁護士は「ヘイトクライムの禁止規定を導入していない日本の現状を国際法違反と認めた」と解説しています。勧告には、在日コリアンたちは支援プログラムの利用を妨げられており、その障壁を取り除くべきだとも書かれています。
  • チェーン店のメニューを一流料理人がジャッジしていくTBS系の人気番組「ジョブチューン」がロイヤルホストの看板メニュー「パンケーキ」を「不合格」と判定、審査を担当したシェフへの中傷が起こるなど波紋が広がり、放送後も騒動は収まらず、ジャッジを担当したシェフのレストランのレビューには「クソマズイ」「許さない」などの書き込みが行われ、「最低」評価が続々、シェフへの中傷が繰り返される事態となりました。同番組をめぐっては2022年1月にもファミリーマートのおにぎりを酷評した審査員が炎上、同シェフの店や名字が同じだけの無関係の店のレビューも荒らされる騒動が発生し、番組公式ツイッターが誹謗中傷や迷惑行為をやめるよう投稿するほどの騒ぎとなっていました。
  • オリックスが化粧品や健康食品の通信販売大手ディーエイチシー(DHC)を買収する方向で最終調整しています。DHC創業者の吉田嘉明会長兼社長らから、3000億円規模で全株式を取得する方向で協議を進め、早期の合意を目指すとしています。吉田氏は株譲渡後に退任することになりますが、本コラムでも以前取り上げましたが、DHCは、在日コリアンを差別する内容の吉田氏名の文章を自社ウェブサイトに載せ、問題になったことがあります。オリックスは「人種などによるあらゆる差別を容認しない」とコメントしています。
  • グーグルは11月30日、「ヘイトスピーチに関するポリシーに違反する」として、運営する動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開されていた被差別部落の地名をさらす100本以上の動画を削除しています。神奈川県の出版社代表で「鳥取ループ」を名乗り活動する男性が投稿しており、差別の助長や悪質な身元調査につながるとして、国や自治体などが懸念を示していたものです。動画は「部落研究」と称し、全国各地の被差別部落を訪ね、風景を映しながら地域の歴史などを語る内容で、住民からは出自を知られるとの不安の声が上がり、自治体が地方法務局を通じて削除要請をしてきましたが、閲覧できる状態が続いていたものです。被差別部落出身者らが削除を求めるオンライン署名活動を始め、11月30日時点で2万8000人の賛同が集まっていました。報道によれば、グーグル広報部は「社会的階層に基づく個人や集団に対する差別を助長するコンテンツを禁止している」と説明、出版社代表は取材に「差別を助長する内容ではないが、さまざまな所から申し入れをされていたからだろう」と話しています。
  • インターネット上の差別的言動を助長する議員の賛意などを禁止する政治倫理条例改正案が、三重県議会(定数51)に提案されています。SNS上の差別的投稿に対する「いいね」なども規制の対象としています。人権侵害行為の禁止を法令に委ねることを恥じる声も県議会にはあるものの、条例改正案は全6会派にまたがる議員8人から連名で提案され、12月20日の議会最終日までに可決、成立する見通しとなっています。報道によれば、都道府県レベルの政治倫理条例の中で、人権侵害行為の禁止規定が盛り込まれるのは全国で初めてとみられるといいます。改正案は議員本人の人権侵害行為を禁じた上で、「第三者の行った人権侵害行為に対する賛成の意見の表明の禁止」も明示したほか、人権侵害行為についてはネット上も含めて「不当な差別、いじめ、虐待、プライバシーの侵害、誹謗中傷」などを想定、こうした行為に対するSNSの「いいね」などについては、人権侵害を助長する賛意に限って禁止するとしています。一方、人権侵害行為の禁止規定を設けることに「『いいね』を禁止しないといけないこと自体が恥ずかしい」との声もあったといいます。

上記のロイヤルホストの炎上でも波及して問題となりましたが、「口コミ」は店の存続を左右するほどの影響力を持ち始めており、そこへの誹謗中傷等も増加しています。

米東部コネティカット州の小学校で2012年に起きた銃乱射事件を巡り、同州の裁判所は、事件は「作り話」と主張した陰謀論者アレックス・ジョーンズ氏に対し、新たに4億7300万ドル(約670億円)の賠償を遺族に支払うよう命じています。同氏は10月も裁判所陪審から9億6500万ドル(約1360億円)の賠償を命じられていました。同州サンディフック小学校で起きた事件では児童ら26人が死亡しましたが、ジョーンズ氏は、銃規制強化を目指す活動家による「作り話」とし、被害者の親は「俳優」だと長年にわたり主張、遺族が提訴し、法廷ではジョーンズ氏と支持者により「精神的なトラウマを患った」と証言していました。裁判官は、ジョーンズ氏と同氏率いるメディアが「10年近く原告への攻撃を続けた」と判断。「悪意のある凶悪な行動だ」と非難しています。なお、これを受けジョーンズ氏は、南部テキサス州の裁判所に自己破産を申請しています。なお、陰謀論については、2022年10月にNBCニュースが実施した調査によれば、共和党有権者の65%は2020年大統領選で不正投票があり、本来はトランプ氏が当選していた、との作り話を信じていたといい、選挙予測サイト「ファイブサーティーエイト」によれば、連邦上下院、州知事、州務長官、州司法長官の選挙に立候補した共和党候補552人のうち、2020年大統領選の結果を完全否定する候補は199人、結果の正当性に疑念を持つ候補も61人で、合計すると半数に迫っています。Qアノンは、反ワクチン運動や白人至上主義を掲げる右翼勢力(オルト・ライト)と結合し、「新型コロナウイルスはフェイク」、「ワクチンにはチップが埋め込まれている」などの反科学的な陰謀論を信じた共和党支持者は、マスクなどの感染対策を取らず、ワクチン接種率が低く、シンクタンクの全米経済研究所(NBER)の統計によると、平年を上回る死亡者数の規模を示す2021年の「超過死亡率」は、フロリダ州とオハイオ州では共和党有権者が民主党有権者を大きく上回っているといいます。また、共和党支持者のうち、オルトライトを「支持する」と答えた人の割合は13%で、全米平均6%の2倍以上に達しています。2022年11月10日付毎日新聞で、上智大の前嶋和弘教授(現代アメリカ政治)は「QがいないQアノン運動はあり得ず、消えざるを得ない。しかし、トランプ氏が次期大統領選に出馬する場合は危険性が残ります。陰謀論者は王様の登場を待っているからです」と話し、トランプ氏が議事堂襲撃事件を機に使用が禁じられたツイッターを再開すれば、陰謀論が増殖する可能性が高いと指摘しています。一方で、トランプ氏が予備選で敗れ、政界から去れば、陰謀論は下火になるとも前嶋教授は指摘しています。いずれにせよ、今後もトランプ氏の動向がカギを握りそうな状況にあるのは間違いのないところです。

(8)その他のトピックス

①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(暗号資産)を巡る動向

今回破綻したFTXは2019年設立の暗号資産交換業者で、登記上の本社はタックスヘイブン(租税回避地)のバハマとなっており、事業の中心は「FTX.com」、自己資金の20倍ものレバレッジ(てこ)をかけた取引のほか、株式をトークン化した株式トークンや仮想通貨オプションといったデリバティブ(金融派生商品)など幅広い商品をそろえています。2022年3月には日本の暗号資産交換業者QUOINE(コイン)を買収し、日本市場に参入しました。急成長を実現する上で重要な役割を果たしたのがCEOのバンクマン・フリード氏が個人所有する投資会社アラメダ・リサーチで、FTXなどの暗号資産交換業者に売買の流動性を提供するマーケットメーカー(値付け業者)の役割を担うと同時に、FTXとともに経営不振になった暗号資産関連企業を融資などを通じて支援してきました。アラメダが投資してきた企業は100社を超えますが、アラメダに潤沢な資金があった(ように見えた)理由は、一つがFTXが暗号資産を使った資金調達、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)で発行したトークン(電子証票)「FTT」で、アラメダはICOなどで取得したFTTを担保にFTXから100億ドル相当の融資を引き出して、投融資を拡大しました。もう一つは不正な資金源で、FTXがアラメダへの融資の原資として、顧客が取引のために預けた資金の一部を流用していたとの疑惑が持ち上がっています。米証券取引委員会(SEC)のゲーリー・ゲンスラー委員長は、米テレビメディアで「明確な米国の規制に著しく準拠しない暗号資産業界には、より良い暗号資産投資家の保護が必要」と批判しました。FTXはルールの緩いトークンを使って自らの成長を優先、投資家や市場が痛手を負う事態に発展しました。暗号資産業界は自ら透明性を高めたり、投資家保護ルールの整備を促したりするなど自浄作用を示さないと、一般利用者からそっぽを向かれることになりそうです。

さらに、経営破綻したFTXトレーディングのずさんな経営実態が裁判所への提出書類で明らかになっています。取締役会が開かれていないため意思決定の記録が残っておらず、手元にどれくらいの資産が残っているかも把握できない状況で、辞任したバンクマン・フリード前CEOから経営を引き継ぎ、関係者の利害調整に当たっているジョン・レイCEOが提出しています。レイ氏はエネルギー大手エンロンの清算などを引き受けた破綻企業管理のプロフェッショナルですが、提出書類で「企業統治がまったく機能せず、信頼できる財務情報がない。前代未聞の事態だ」と驚きをあらわにしています。提出書類によると、財務諸表は借入金が少ないなど不自然な点があり、顧客からの預かり資産が適切に計上されていなかったほか、顧客資産の不正流用に加え、会社の金で社員の自宅や私物を購入していた疑いもあるといいます。バンクマン・フリード氏は発言が自動削除されるアプリを使って社員に指示を出しており、記録が残らないようにしたとみられています。また、取引の決済は担当者がオンラインチャットで申請し、上司が絵文字で許可していたとも言われています。資産管理がずさんだったため、数億ドルを不正に引き出された可能性もあるとされ、FTXが顧客から預かった資産約160億ドル(約2.2兆円)のうち100億ドルが、バンクマン・フリード氏が経営する投資会社「アラメダ・リサーチ」に不正に融資されていたといい、これらの金は暗号資産や株式などの投機に充てられ、回収不能となっている可能性が高いといいます。

11月22日には、経営破綻を巡る初の法廷審問が、米東部デラウェア州連邦破産裁判所で開かれました。FTX側は破綻以降に「巨額の資金が消失あるいは盗難にあった」と述べ、サイバー攻撃による暗号資産の流出が続いていると指摘したほか、約12億4000万ドル(約1750億円)の現預金を保有していることも明らかにしています。報道によれば、弁護士団が「米国の企業経営史上、最も突然で困難な破綻のひとつ」と述べた破綻処理手続きがようやく始動した形ですが、米連邦破産法11条(チャプター11)の適用申請から初回の審問まで10日あまりも要するのは極めて異例だといいます。暗号資産の分析会社エリプティックコネクトによると、11月20日までに4億7700万ドル相当の不正な移動があったといい、FTXの弁護士団は、FTXが米司法省やニューヨーク州南部地区連邦地検のサイバー犯罪チームと連絡を取り合っていると述べています。弁護士団は、FTX創業者で前CEOのバンクマン・フリード氏のずさんな経営について批判、FTXが本社を構えるバハマでは、約3億ドルもの企業資金が事業と関連の薄い不動産購入に充てられ、多くは自宅や別荘として使われたといいます。バンクマン・フリード氏は企業統治を無視し、周囲の一握りの関係者にグループ経営の権力を集中させていたとも指摘されています。

今回の一連の騒動について、専門家等の評価、問題の所在等を紹介しておきます。

仮想通貨メルトダウン、生きるか死ぬか(2022年11月16日付日本経済新聞)
暗号資産交換業大手のFTXトレーディングと投資会社アラメダの破綻は、他の暗号資産会社への伝染と、当局の規制強化の段階に入った。たまたま、ニューヨーク(NY)市場で本件と接点をもつ人たちとのズーム会議に参加できたので、マーケットはどのように見ているのかまとめてみた。先行きは暗い。米証券取引委員会(SEC)委員長のゲンスラー氏は、このように述べている。「(FTXは)顧客のマネーを集め、それを担保に借り入れトレーディングの原資としていた。時として、顧客に不利になる売買もあった」顧客が預けたマネーの流用が確認されれば、一発レッドカードだ。ゲンスラー委員長は、米マサチューセッツ工科大学(MIT)で暗号資産の教べんをとっていた「プロ」である。当該業界の裏表を知っている人物だからこそ、不正行為には憤りを隠さず特に厳しい。とはいえ、バハマ本拠の企業の精査となれば、一筋縄では行かぬ。…そもそも中央銀行を信頼せず、独自の暗号資産を創成したのだが、結果は、中央銀行からの救済も期待できない成り行きになった。さらに、前例のない「トークン」が使われていることも精査を難しくしている。日本語で「電子証票」とされるが、欧米ではデジタル通貨の部類に入る。SECのゲンスラー氏は「有価証券」と認定している。米商品先物取引委員会(CFTC)は、暗号資産ゆえコモディティーだと主張する。…冷ややかに見れば、過剰流動性相場で「なんでも上がる相場」の恩恵を享受した企業が今や罪滅ぼしの期間に入ったといえる。暗号資産市場規模は限定的ゆえ、世界を揺るがすシステミックリスクにはならないが、2008年に起きたリーマン・ショックと相似点もある。予期せぬところに、予期せぬタイミングで、監督官庁も捕捉できないリスクが顕在化したからだ。一時は中小破綻同業者の救済に当たったSBF氏は、リーマン・ショック時に米ベア・スターンズを救済買収したJPモルガンに例えられ、「暗号資産業界のJPモルガン」とまで、持ち上げられた。「FTXショック」は「暗号資産市場のリーマン・ショック級」だが、実態は金融政策が転換すると生じるリスクの一例と見るべきであろう。暗号資産業界もこれで滅ぶことはないが、QTの時代に合った市場規模に縮小していくとみる。
FTX破綻で浮かぶ課題 金融革新の実験場、見えぬリスク(2022年11月27日付日本経済新聞)
暗号資産交換業のFTXトレーディングが経営破綻し、今も混乱が続いている。国家が発行しない暗号資産の取引を広げ、新たな金融のシステムを作るとの理想をうたったが、実際には資金流用や不適切な会計処理が横行していた。FTXのずさんな経営という固有の事情はあるにしても、暗号資産が抱えてきた問題が噴出しているようにも見える。…顧客から預かった資産は分別管理するのが大原則なのに、会社資金の私的流用の疑いが浮上している。ガバナンスも全く機能していなかった。FTXの経営は「経験の浅い、極めて少数」の人々に委ねられ、多くのグループ企業では取締役会を一度も開いていなかった。支払い請求の承認がチャットルーム上で絵文字で行われるなど資金管理もずさんだった。レイ氏は「今回ほどの企業統治の完全な失敗(complete failure)は見たことがない」と提出した資料に書き込んだ。ツイッター上でもこの発言が拡散されている。…問題は大手運用機関がFTXに出資し、ずさんな経営が見抜けなかったことだ。ブラックロックやベンチャーキャピタルのセコイア・キャピタル、シンガポール政府系ファンドのテマセク・ホールディングスなどが出資していた。名だたる投資家の存在もあって、FTXの実力以上に信頼性が高まり、破綻時の衝撃が大きくなってしまった。FTXが著名なスポーツ選手を広告塔に使ったことも個人投資家の信頼を高める結果となった。上場していようがいまいが、企業統治がしっかりしていない会社への投資は、リスクを伴うことが今回の破綻でも改めて明白になった。…東洋大学の野崎浩成教授は「FTXの破綻があっても、ブロックチェーンを使って効率的に管理するという金融テクノロジーの重要性は変わらない。エンジニアが理想を掲げて新しい仕組みを作っても、実際に投資する金融機関や個人投資家がリスクを把握できなければ金融商品やサービスとして広く利用はできない」と指摘する。規制の問題もある。マネーフォワードの瀧俊雄フィンテック研究所長は「FTXの破綻はテクノロジー以前の問題だが、国境も関係なく取引できる暗号資産の世界を誰がガバナンスできるのか」と話す。暗号資産は裏付けとなる資産がなく、人々が信じるから価値がついている。それだけに価格変動が大きく、決済分野では広く使われず、運用資産としても懐疑的な見方が多い。技術としては確立されたものだったとしても、金融機関や投資家がリスク管理できるものでなければ広がらない。目指す世界観を実現するにはまだ距離がある。
FTX破綻が示した無法状態の危うさ(2022年11月27日付日本経済新聞)
マイナーな暗号資産の価格の虚構性も際立った。FTXの「資産」の大部分が、自社発行のものも含めた流通量の少ない暗号資産だった。それが明るみに出るとそれらの資産が投げ売られ、FTXからの現金引き出しが殺到する古典的な取り付けが起こった。もろもろの不正の素地になっていたのが、米国の暗号資産取引に関するルールの不在だ。暗号資産企業の財務状態や言説の真偽を投資家などが確かめるすべがほとんどない。各種暗号資産の「時価」を認定する会計制度もない。米国は暗号資産の取引に関するルールを早く整備すべきだ。一方、国・地域による規制の有無や違いを税金逃れや資金洗浄に悪用されないよう、各国の当局が協力して国際的な規制・監視の仕組みを作るべきだ。日本は暗号資産交換業や派生商品取引の規制を細かく定めており、FTX破綻の被害が波及するのを免れた。ただ規制が厳しすぎてイノベーションを阻害しているとの指摘もある。国際協調を通じて適切なバランスを探りたい。規制はなくてもベンチャーキャピタル(VC)などの株主は投資先の経営を監督できる。しかし、世界で最も信頼されるVCである米セコイア・キャピタルを含め、FTXの外部株主はどこも取締役を派遣せず、企業統治責任を放棄していた。近年、スタートアップ株がバブルの様相を呈すなか、デューデリジェンス(投資先審査)を省いた安易な投資が横行していた。VCなどの投資ファンドは他人の資金を預かる受託者の責任を重く受け止め、デューデリと投資先統治を強化すべきだ。より根源的な問題は、暗号資産が投機の器として以外の存在意義をほとんど確立できていないことだ。起業家も投資家も関連技術を真に意義のある事業創造に生かすべく、努力してほしい。
仮想通貨、危機の構図不変 政治癒着是正と規制改革を(2022年11月25日付日本経済新聞)
暗号資産交換業FTXトレーディングが経営破綻し、それに伴い暗号と名の付くものすべてが大混乱に陥った。この体たらくから学べることがあるとすれば、それは金融業界とリスクについては、またしても「今回は違う」などとは言えないということだ。今回の市場崩壊を招いた中心の商品がハイテクの産物だったとしても、危機に至った経緯は2008年の金融危機と多くの点でそっくりだ。いや、00年前後に起きたインターネットバブル、さらには1929年の株価大暴落を引き起こした投機ブームともよく似ている。…テック企業が展開するプラットフォーム上の利益相反の問題も枚挙にいとまがない。米アマゾン・ドット・コムのような企業は、プラットフォームを提供する一方で、そこで自社の商品も販売している。だがフィンテック業界はさらに問題だ。彼らは複雑な金融取引に伴うすべてのリスクをテック大手が提供する不透明なアルゴリズムと融合させている。その典型が暗号資産市場だ。しかもこの市場で取引される商品は実体経済から完全に切り離されている。どんな投資家もこれほどブラックボックス化されたら中身を知るよしもない。我々は明らかな投機バブルは膨張しては崩壊すると知っているのに、なぜ何度も容認し続けるのか。金融の錬金術師らが自分たちの説明を政治家に売り込むのが極めてうまいのだろう。FTX創業者サム・バンクマン・フリード氏も破綻する前は米民主党に多額の献金をし、暗号資産を合法化するためワシントンで精力的に活動していた。いつものことだがカネと権力は表裏一体なのだ。
仮想通貨とはどんな存在? 尾を引くFTX破綻(2022年11月19日付日本経済新聞)
多くの民間プロジェクトによって様々な暗号資産が発行され、世界の投資家からお金を集めました。情報サイトのコインマーケットキャップによれば、18日時点で2万1718もの暗号資産が存在します。ビットコインのように投資と決済の2つの用途で使われる暗号資産や、契約を自動執行する機能を載せたイーサリアムのような暗号資産もありますが、流動性が低く投機目的で買われる「草コイン」が紛れ込んでいるのが実態です。英ケンブリッジ大学のオルタナティブ金融センターによれば、暗号資産保有者は20年時点で1億人を超えています。暗号資産の保有を増やすエンジンになったのが法定通貨と暗号資産を交換できる暗号資産交換業者の登場でした。日本では17年の改正資金決済法で暗号資産交換業者が登録制となり、世界では600を超える交換業者がいます。…日本は18年1月に大手仮想通貨交換業者コインチェックによる580億円の不正資金流出事件をきっかけに、世界に先駆けて安全に仮想通貨を取引する環境を整えていきました。20年施行の改正資金決済法で、暗号資産交換業者が利用者から預かった金銭の管理や運用について、信託銀行または信託会社に対して委託(信託)することを義務づけました。さらに業者が倒産した場合に顧客が暗号資産を返還するよう求める権利を優先させる「優先弁済権」も認めました。FTX傘下の日本法人FTXジャパンもこの法律に縛られます。同社は顧客から預かった仮想通貨をインターネットに接続しない「コールドウォレット」で管理しています。また、法定通貨については日本の信託口座で分別管理しており、この資金が消えてしまうことはありません。同社は14日、自社保有の現金は196億円、9月末の純資産は約100億円と資産超過であることを表明しました。口座数は約12万とみられます。…日本人の中には日本の交換業登録に基づくFTXジャパンのサービスではなく、米マイアミ沖のバハマに登記するFTXトレーディングのサービスを利用していた人もいます。多くは自己責任で口座をつくっていたようですが、日本法人の広告リンクから海外のサービスに誘導された顧客も一部いるとみられています。海外サービスの口座は出金できないどころか、会社の負債総額すら確定できていない状態で、債権回収までに相当な時間がかかりそうです。
FTXの破綻、金融システムには好影響も(2022年11月15日付ロイター)
米暗号資産交換業者FTXが経営破綻したことで、暗号資産業界は危機に陥った。この派手な破綻劇はしかし、金融システム全体にとっては大いに恩恵をもたらすだろう。カーリーヘアーのFTX創業者、サム・バンクマン・フリードCEOは規制当局や政治家に、主流金融機関がデジタル資産を受け入れるよう働きかけてきた急先鋒だ。彼の失墜によってこの動きが鈍くなるばかりか、規制強化の方向に流れが逆転する可能性さえある。…ロイターは、同氏が顧客の資金100億ドルを密かに自身のヘッジファンドに移したほか、少なくとも10億ドルが行方不明になったと報じている。これは顧客にとっては悲劇だが、暗号資産業者を規制上どう位置付けるか頭を悩ませていた規制当局にとってはある種、安堵の材料でもある。G20の金融監督当局で作る金融安定理事会(FSB)が先週指摘した通り、暗号資産交換業者はデジタル資産の売買だけでなく清算、決済、貸し出し、カストディ(保管)、ブローカレージまで手掛けるようになっている。これほど幅広い活動を認められている主流金融機関はほとんど存在しない。多くの暗号資産プラットフォームは同業他社に投資しているが、これもまた規制上のタブーだ。FSBは「同一の活動、同一のリスク、同一の規制」というモットーに基づき、暗号資産業者も他の金融機関と同様に監視するよう提言している。FTXの破綻を受け、規制当局は強い態度に出やすくなるだろう。バイナンスやコインベース・グローバルなど、存続している暗号資産交換業者は今や、透明性と監視の強化を求めるようになっている。ただ、規制が強化されても仮想通貨を使うメリットがあるのかどうかは不明だ。国際決済銀行(BIS)のヒュン・ソン・シン氏が今年述べた通り、「マネー・ローンダリングとランサムウエア(身代金要求型ウイルス)攻撃を除けば」、中銀通貨は暗号資産と同様の機能を発揮できそうだからだ。
金融危機の発火点「影の銀行」 仮想通貨対応、既に後手(2022年11月29日付日本経済新聞)
暗号資産交換業者、FTXトレーディングが経営破綻したちょうど1カ月前の10月11日。主要25カ国・地域の金融規制当局・中央銀行が集まる金融安定理事会(FSB)が1冊の市中協議文書を出した。「暗号資産活動と市場の規制・監督・監視に関する報告書」。暗号資産に関する初めての国際規制導入を訴えた9つの提言には「国境を越えた協力・調整・情報共有」「ガバナンス」「リスク管理」「情報開示」など当局が注意を払うべきポイントが列挙されていた。特定の規制を導入済みの国はマウントゴックス破綻やコインチェックによる大量流出事故を経験した日本など少数にとどまる。文書を出してもすでに後の祭りで、多くは既存の規制をあてはめるつぎはぎ型で、FTXトレーディングが本社所在地をバハマに置いたのも規制逃れが動機とみられている。28日、暗号資産を貸し付ける米ブロックファイが日本の民事再生法に相当する米連邦破産法11条(通称、チャプター11)を申請し連鎖破綻した。米国など世界には暗号資産そのものに投融資している銀行も存在する。深く静かに金融システムに入り込んでおり、本丸に飛び火しないと言い切れない
仮想通貨時価総額25兆円減 FTX騒動1カ月、縮む投機筋(2022年12月1日付日本経済新聞)
暗号資産市場で信頼の揺らいだ資産が売られ時価総額が急減している。交換業者FTXトレーディングの危機が始まってから約1カ月を迎え、足元まで時価総額は約1800億ドル(約25兆円)減った。ヘッジファンドが打撃を受けており、投機筋の撤退で市場は閑散。流動性が低下するなか、大口の売りへの警戒が高まっている。FTXの関連会社で財務に関する疑惑が報道された11月2日からの1カ月で暗号資産の時価総額は約1800億ドル(約25兆円)減った。FTXと関連が深い暗号資産のソラナは同じ期間で6割下げた。分散型金融(DeFi)に力を入れるソラナへの信用不安の影響は大きく、DeFiの預かり資産は400億ドルを切って1年10カ月ぶり低水準になった。FTX破綻の影響は同社に関連する資産だけでなく、脆弱さが連想される資産にも売りが広がっている。取引高が17位に位置するシンガポールの交換所クリプト・ドット・コムの発行するクロノスは4割超下げた。保有資産の2割がジョークコインなど安全性の低い暗号資産だと判明したことなどから信頼が揺らいだ。…投機的な取引の減少は値動きが安定するとされたステーブルコインの需要減からも見て取れる。暗号資産同士の取引はステーブルコインを介するのが一般的で、レバレッジ(借り入れによるてこ)をかけるヘッジファンドはステーブルコインを多く借り入れる。最大のステーブルコインであるテザーの時価総額は11月2日から41億ドル減った。
暗号資産、信頼回復へ国際的業界ルールを=コインベース日本法人社長(2022年11月28日付ロイター)
米暗号資産(仮想通貨)交換所コインベース・グローバルの日本法人社長を務める北沢直氏はロイターとのインタビューで、同業の米FTXトレーディングス破綻について、特定の事業者の問題とする一方、国をまたいで影響が広がりかねない事態となっていることから、業界全体で国際的に統一感のあるルールを設けるべきとの認識を示した。…FTXは、CEOだったバンクマン・フリード氏が自身の投資会社に顧客の資金を流用し、流動性が低下したとされる。北沢社長は「業界全体の問題ではなく、一部事業者の不誠実なビジネスが明るみに出た」と指摘。それでも暗号資産市場は流動性が逼迫する影響を受け、ビットコインなどは価格が急落している。同社長は「そもそも暗号資産全体の問題点は全くないということを伝えていかなければならない局面」と述べ、財務状況の開示強化など透明性を高めることが重要だとした。コインベースも米国ではFTX破綻の余波で株価や社債が下落しているが、北沢社長は、預かり資産と自社の資産を明確に分ける分別管理などは厳密に実行していると説明。「中長期的に考えると(事業者が)選別されてしかるべき。しっかりとビジネスをやっているところが最終的に選ばれる」と述べた。「世界で一番信頼されているのはコインベースということをしっかりと伝える機会」と語った。日本の暗号資産業界は、2014年に大手取引所のマウントゴックスがビットコインを、18年にコインチェックがNEM(ネム)を大量に流出させことが問題となり、規制が強化された。関東財務局はFTXの米国本社が破産申請する前日の10日、FTXジャパンに行政処分を行った。業務停止命令のほか、利用者の資産の保全や利用者保護を求める業務改善命令を出した。北沢社長は「世界に先立って顧客保全やマネー・ローンダリング(資金洗浄)対策の2つの観点に配慮したルール作りができている」と日本の規制の在り方を評価。一方で、「日本のルールが金科玉条だとも思っていない」とも述べ、税制や取扱資産など、議論すべきことはまだあると指摘した。また、海外の親会社が破綻すれば日本法人にも影響が及ぶ懸念もあるため、国際的なルールを整備すべきと訴えた。「あるべきルールは世界的に統一感があってしかるべき」とした。FTX破綻の事実解明が進んだ後の議論としては、規制一辺倒の議論ではなく、適切で建設的な議論が行われることを期待すると語った。
二極化へ向かう仮想通貨 統制逃れと中銀の実験に(2022年11月16日付日本経済新聞)
これは暗号資産における「リーマン・ショック」だ。金融システムの崩壊を引き起こす恐れがあるからではない。暗号資産の世界は現在、全体でも1兆ドルの規模(2021年の3分の1)で、そのトークン(電子証票)は各交換事業者でしか使えないことが多い。だが、FTX騒動は暗号資産の業界全体に広がり、法定通貨の金融緩和によってつくられたバブルを一層しぼませた。…1つは、多くの場合バランスシートが不透明なため、(妄信していない限り)トークンがどのような資産によって裏付けられているのかを把握するのが恐ろしく困難なことだ。FTXとアラメダの自己資本は厚いと考えられてきた。ところが11月初旬の報道によると、両社のバランスシートが「FTT」と呼ばれる大量のトークンで水増しされ、そのFTTを発行していたのがほかならぬFTX自身だったことが示された。…2つ目の問題はカストディ(資産の管理・保全)で、業界の慣行は長らく危険で混乱していた点だ。FTXとその傘下企業は仲介のみならず、自己資金で運用していたほか、貸し手、暗号資産の資産管理の役割も担っていた。同じ資産を何度も担保に差し入れていたとされる。これが分散型を標榜する暗号資産らしからぬ、権力の集中を生んだ。また顧客が預けた資産を取り返せないかもしれないことも意味する。暗号資産には投資家の保護機能や危機に陥った時に救済する「最後の貸し手」が一切存在しないことがパニックにつながった。…民間の暗号資産が価値を失う一方で、各国政府はその基本技術の一部を自ら利用している。際立つのは、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の実験が熱を帯びていることだ。…暗号資産の世界は将来、二極化するかもしれない。怪しい国際取引の世界と、管理が厳格な中銀による実験の世界に分かれるのだ。これは、当初、暗号資産に夢を託したリバタリアンが予想した姿ではない。だが、この業界に不可欠な規制改革がない限り、これが最も実現しそうな状況のようにみえる。いずれにせよ、さらなる波乱に備えるべきだ。

金融庁は、11月10日の時点で暗号資産交換業のFTXジャパンに対し、一部業務停止命令を含む行政処分を出しています。同社は交換業大手「FTXトレーディング」の日本法人で、理由や期限を明示せず利用者の出金を停止していたとしています。処分では12月9日までの1か月間、暗号資産交換のほか、新たに資産を受け入れる業務を停止するよう命令しています。利用者が預けている資産の保全も求めました。なお、FTXジャパン社長は、2022年11月23日付日本経済新聞の取材に対し、「法定通貨はSBIクリアリング信託、仮想通貨はFTXジャパンが管理している。(顧客から預かった暗号資産はインターネットに接続せず不正流出しにくい)コールドウォレットで管理している。海外に管理されている資産はない」、「11月21日時点で現預金が178億円と発表している。20億円を引き出しているので、合わせて約190億円になる。この1年間、残高の変化がある口座だと全部で6万くらいだ。動きがなかった口座も(いれると)もっと数字が大きい」、「できるだけ早く返したい。年内くらいに返せばいいのではないかというのが希望だが、バハマや米国の裁判所の許可のプロセスなどにより返還時期は前後する可能性がある。返すのか返さないのかではなく、いつできるのかが一番大事で、ホームページでスケジュールが分かるように準備を進めている」、「FTXジャパンのホームページはハッキングを受けて、完全にダウンしている。ログインができない、画面が正常に表示されない、出金、出庫が停止している状態だ。このため、新しいシステムを開発している。期間はどのくらいかかるかは今の時点では言えない」、「日本の資産が米国のチャプター11によって回収されたケースはない。前例もなく、日米の関係性からもあり得ないとみている」、「暗号資産全体としては色々改善が必要だと思う。(顧客資産の保全という点では)日本が進んでいる。分別管理の法令など関係ルールを全てそろえている。他の国を見ると、しっかりしてないということが明らかになった」などと説明しています。

▼金融庁 FTX Japan株式会社に対する行政処分について
▼関東財務局 金融監督第1課 FTX Japan株式会社に対する行政処分について
  1. FTX Japan株式会社(本社:東京都千代田区、法人番号:7010401115356、以下「当社」という。)は、投資者に明確な理由を説明することなく、親会社であるFTX Trading Limitedの方針であるとして、再開の日程を明示しないまま、取引に係る証拠金(法定通貨及び暗号資産)の出金(出庫)を停止している一方、投資者からの財産の受入れや投資者との暗号資産取引を継続しているところである。
    • こうした中、FTX Trading Limitedについて信用不安となっている旨の報道がなされており、当社との資本・取引関係を踏まえれば、速やかに投資者の新たな取引を停止させるとともに、当社の資産が国外の関連会社等に流出し、債権者及び投資者の利益が害されるといった事態を招かぬよう、万全を期する必要がある。
    • よって当社のこうした状況は、金融商品取引法第29条の4第1項第1号へに定める「金融商品取引業を適確に遂行するための必要な体制が整備されていると認められない者」に該当すると認められることから、同法第52条第1項に基づく業務停止命令を発出するものである。また、当該状況は、「公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるとき」に該当するものと認められることから、同法第56条の3に基づく資産の国内保有命令、並びに同法第51条の規定に基づく業務改善命令を発出するものである。
  2. 以上のことから、本日、当社に対し、下記(1)については金融商品取引法第52条第1項の規定に基づき、下記(2)については同法第56条の3の規定に基づき、下記(3)については同法第51条の規定に基づき、以下の行政処分を行った。
    1. 業務停止命令
      • 令和4年11月10日から令和4年12月9日までの間、店頭デリバティブ取引に関する業務(顧客の決済取引等当局が個別に認めたものを除く)及び店頭デリバティブ取引に係る証拠金等の預託を新たに受ける業務を停止すること(当社において投資者から預託を受けている証拠金等を速やかに返還できる態勢となったことを、当局が認めた場合を除く)。
    2. 資産の国内保有命令
      • 令和4年11月10日から令和4年12月9日まで、各日において、貴社の貸借対照表の負債の部に計上されるべき負債の額(保証債務の額を含む)から非居住者に対する債務の額を控除した額に相当する資産を国内において保有すること。
    3. 業務改善命令
      1. 投資者の正確な把握及び投資者の預託を受けた資産の正確な把握を行うこと。
      2. 投資者から預託を受けた資産について保全を図るとともに、会社財産を不当に費消する行為を行わないこと。
      3. 投資者間における公平に配慮しつつ、投資者の保護に万全の措置を講じること。
      4. 投資者の資産保全について、投資者への周知徹底を適切に行うとともに、投資者への適切な対応に配慮すること。
      5. 上記1)から4)に関する業務改善計画を令和4年11月16日までに書面で提出すること。
      6. 業務改善計画の実施完了までの間、1か月毎の進捗・実施状況を翌月10日までに、書面により報告すること。
▼関東財務局 金融監督第6課 FTX Japan株式会社に対する行政処分について
  1. 行政処分の内容
    1. 業務停止命令(法第63条の17第1項)
      • 令和4年11月10日から令和4年12月9日までの間(ただし、当社において利用者から預かった法定通貨及び暗号資産を速やかに返還できる態勢の整備が図られ、その状況が当局において確認される場合には、それまでの間)、暗号資産交換業に関する業務(預かり資産の管理及び利用者の決済取引等当局が個別に認めたものを除く)及び当該業務に関し新たに利用者から財産を受け入れる業務を停止すること。
    2. 業務改善命令(法第63条の16)
      • 利用者の正確な把握及び利用者から預かった資産の正確な把握を行うこと。
      • 利用者から預かった資産について保全を図るとともに、会社財産を不当に費消する行為を行わないこと。
      • 利用者間における公平に配慮しつつ、利用者の保護に万全の措置を講じること。
      • 利用者の資産保全について、利用者への周知徹底を適切に行うとともに、利用者への適切な対応に配慮すること。
    3. 上記(2)に関する業務改善計画を令和4年11月16日までに書面で提出すること。
    4. 業務改善計画の実施完了までの間、1ヶ月毎の進捗・実施状況を翌月10日までに、書面で報告すること。
  2. 処分の理由
    • 当社は、利用者に明確な理由を説明することなく、親会社であるFTX Trading Limitedの方針であるとして、再開の日程を明示しないまま、利用者に対する預かり資産(法定通貨及び暗号資産)の出金(出庫)を停止している一方、利用者からの財産の受入れや利用者との暗号資産取引を継続しているところである。
    • こうした中、FTX Trading Limitedについて信用不安となっている旨の報道がなされており、当社との資本・取引関係を踏まえれば、速やかに利用者の新たな取引を停止させるとともに、当社の資産が国外の関連会社等に流出し利用者の利益が害されるといった事態を招かぬよう、万全を期する必要がある。
    • 当社において上記のとおり利用者財産の返還を停止している状況は、法第63条の5第1項第4号に定める「暗号資産交換業を適正かつ確実に遂行する体制の整備が行われていない」状況に該当すると認められることから、法第63条の17第1項第1号に基づく業務停止命令を発出するものである。また、当該状況は、「暗号資産交換業の適正かつ確実な遂行のために必要があると認めるとき」に該当するものと認められることから、法第63条の16の規定に基づく業務改善命令を発出するものである。
なお、直近では、FTXトレーディングの創業者、バンクマン・フリード氏が、米紙ニューヨーク・タイムズのイベントにオンラインで登壇し「明らかにリスク管理が不十分だった」と述べて陳謝しています。一方、自らの法的責任については否定しています。FTXやその関係会社が11月11日に日本の民事再生法に相当する米連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請して以来、バンクマン・フリード氏が公の場に出てくるのは初めてとなります。同氏は冒頭で「多くの過ちを犯した」と陳謝、「あらゆる暗号資産の流動性がなくなり、数日の内に急落するという事態は想定していなかった」とも述べています。また、アラメダについては財務上の不透明さがあったことを認め「本来あるべき監督をできていなかった」と謝罪、ただ、同社の経営には直接関わっていなかったと釈明、FTX顧客の資金をアラメダに違法に流用した疑いについても「(自身に)法的責任があるとは考えていない」と述べています。また、FTXトレーディングの経営破綻で損害を受けた投資家らが、同社の宣伝に関わった有名人にも賠償責任があるとして、同社のCEOを引責辞任したバンクマン・フリード氏に加え、米大リーグ、エンゼルスの大谷翔平選手や女子テニスの大坂なおみ選手らを米南部フロリダ州の連邦地裁に提訴しています。米メディアによると、賠償請求額は不明であるところ、訴状ではFTXを巡る問題で「米投資家らが110億ドル(約1兆5000億円)の損害を受けた」と主張、「被告は数十億ドルの損害に責任がある」としています。

FTX破綻に関連した暗号資産業界の動向についても概観しておきます。

  • 米暗号資産レンディングのブロックファイは、関連会社8社とともにニュージャージー州の裁判所に米連邦破産法11条の適用を申請しています。暗号資産交換業大手FTXの経営破綻による影響が波及した格好です。裁判所への提出書類で、ブロックファイの負債総額は10億~100億ドル(約1400億~1.4兆円)で債権者数は10万以上に上ると指摘、FTXが2番目に大きな債権者で、債権額は2億7500万ドルといいます。報道によれば、プリンスCEOは破産法適用申請書類で、FTXへの大規模なエクスポージャーで流動性危機が引き起こされたと説明、フィッチ・レーティングスのシニア・ディレクター、モンスール・フサイン氏は「ブロックファイの破産法適用申請で、暗号資産業界に内在する重大な波及リスクが浮き彫りになった」と指摘しています。コロナ禍の投資ブームで急成長し、高い利回り(最大8.6%の利回りを約束)で暗号資産を「預金」のように集め、ヘッジファンドなど投資家に貸し出してきたものの、融資先の投資が行き詰まると回収できなくなり、融資業者が苦しくなると「預金者」も利回りを得られないどころか預けた暗号資産が返ってこないリスクを負う形となりました。そもそも融資業は、業務内容は銀行であるものの自己資本などの規制はなく、預金者は一般の銀行預金者のようには保護されません。サービスが先行し、規制が遅れた形となり、交換業者が展開するレンディングも含め、厳しい規制の対象になるとみられています。
  • 暗号資産のレンディング(貸し出し)事業を手掛けるジェネシスは、直ちに破産申請する計画はないと明らかにしています。同社は顧客資金の引き出しを停止していますが、破産申請を避けるため、合意による問題解決を目指しており、顧客との協議を続けているとしています。ブルームバーグは関係筋の話として、ジェネシスがレンディング部門の資金調達に苦戦しており、投資家に対し、資金が確保できなければ破産申請する必要が生じると警告したと報じています。米紙WSJの報道によれば、ジェネシスは暗号資産取引所バイナンスに出資を打診したものの、バイナンスは将来的な利益相反を懸念して投資を見合わせたといいます。ジェネシスはまた、プライベートエクイティ(未公開株)投資会社のアポロ・グローバル・マネジメントにも資本支援を打診したといいます。
  • FTXトレーディングに出資していた米ベンチャーキャピタル(VC)のセコイア・キャピタルが、FTX関連での1億5千万ドル(約210億円)の損失計上を巡り、ファンドの投資家らに謝罪しています。セコイア・キャピタルは電話会議で投資に関する資産査定の方法を改善すると強調し、今後はアーリーステージ(創業段階)のスタートアップ企業の財務諸表でも、ビッグ4の監査法人のいずれかによって監査を受けることになるとの見通しを示しています。セコイアは米国を代表するVCのひとつで、同社の方針見直しはベンチャー投資のあり方に影響する可能性があります。調査会社ピッチブックによると、FTXには70以上の投資家が20億ドル近くを投じてきましたが、セコイアはすでにFTX関連の持ち分の評価を1億5000万ドルからゼロにすると公表、FTXにはセコイアのほか、シンガポールの政府系ファンド、テマセク・ホールディングスやソフトバンクグループなども出資していました。
  • シンガポールのローレンス・ウォン副首相兼財務相は、政府系投資会社テマセク・ホールディングスが、経営破綻したFTXへの出資について内部調査を開始したと明らかにしています。テマセクはFTXに約2億7500万ドル(約380億円)を投資していましたが、経営破綻を受けて減損処理することを決めています。ウォン氏は、投資損は「失望」を招き、テマセクの評判を落としたと議会で述べています。テマセクは運用体制が政府から独立しており、投資決定の是非が国会で取り上げられるのは異例のことといえます。ただ、テマセクのガバナンス(統治)体制が機能していなかったわけではなく、デューデリジェンスや監視をどれだけ実施してもリスクを完全に払拭することはできないとの認識を示しています。
  • 暗号資産交換所クラーケンは、全世界の従業員の30%に当たる約1100人を削減すると発表しています。厳しい市場環境によってデジタル資産の需要が冷え込んだことを理由に挙げています。既に採用を抑制し販促費を削減していました。暗号資産は、金利上昇や経済悪化懸念を背景に投資家がリスク資産回避の姿勢を強めたことなどから価格が急落、FTXなどの破綻もさらに不透明感を強めており、クラーケンは取引高と新規顧客が落ち込んでいると説明、経費を現在の需要に見合う水準へ圧縮する上で他の全ての手を打ち尽くし、人員を削減するしかなくなったとしています。今回の人員削減で従業員数は1年前の規模に戻るとしています。

今回のFTX破綻を巡り、暗号資産交換業の世界最大手バイナンスの動向が注目されました。FTXを一度は救済することで合意したものの一夜にして撤回するなど、こちらもなかなかの難しさを秘めています。バイナンスの最近の動向について、いくつか紹介します。

  • バイナンスは11月30日、日本で事業を展開するサクラエクスチェンジビットコインを買収したと発表、バイナンスは日本で交換業者として登録しておらず、これを足がかりに日本市場に進出するとしています。サクラ社は同日の臨時株主総会で売却を決議し、発行済みの全株式がバイナンスに譲渡されています。今後はバイナンスの日本法人などとして事業を展開するとみられています。顧客資産の管理の仕方についてサクラ社は「(日本の法律に基づいた方法に)変更はない」としています。新たにサクラ社の代表取締役に就いた千野氏は「私たちは当局と協力しながら、ユーザーのために法令を順守した形で、取引所サービスを発展させていきます」とのコメントを出しています。バイナンスはこれまでも日本進出を検討し、2020年にはヤフーを展開するZホールディングス傘下で同業のタオタオ(現SBIVCトレード)と「日本市場における戦略的提携に向けた交渉」に合意したものの決裂、取引所はネットを介して日本の居住者も利用できる状態で、2018年と2021年には、無登録でサービスを提供しているとして、金融庁から警告を受けていました。
  • 12月2日には、暗号資産「アンカー」の引き出しを一時的に停止したと報じられています。バイナンスのチャンポン・ジャオCEOは、アンカーがハッキングされた可能性があると説明、アンカーは取引所に取引の停止を要請、状況を精査した上で再発行するとしています。
  • バイナンスは、同業大手FTXトレーディングの経営破綻の余波で苦境に陥っている暗号資産関連企業を支援するため「業界復興イニシアチブ」を設立したと発表、当初10億ドル(約1400億円)を拠出し、必要に応じ20億ドルまで引き上げる計画としています。バイナンスの公表文によると、同イニシアチブの活動期間は半年間の予定で、他の複数の投資家も現時点で計5000万ドルの拠出を約束しているといいます。優秀な技術者や起業家が立ち上げた企業やプロジェクトで、自らの過失がないにもかかわらず短期的に資金面で困難な状況に置かれたところが支援対象になるといい、既に約150件の支援申請を受けているといいます。
  • バイナンスが2018年以降、イランからの取引80億ドル相当を処理していることが、ブロックチェーンのデータでこのほど判明しています。米国はイランを世界金融システムから切り離す制裁を実施しています。米ブロックチェーン分析会社チェイナリシスのデータによれば、このうち78億ドルはバイナンスと、イラン最大の暗号資産取引所ノビテックスとの間で取引されたとしています。ノビテックスのサイトには制裁回避の方法が記載されており、バイナンスを経由したイラン資金の4分の3は、比較的知名度の低い暗号資産「トロン」建てだったといいます。トロンは取引者が身元を明かさずに使用することも可能で、ノビテックスは2021年、トロンを使い、「制裁によって資産を危険にさらすことなく」匿名で取引することを顧客に推奨していました。米司法省は以前から資金洗浄に関する法規への違反の疑いでバイナンスを調査していますが、今回判明したイラン関連の取引は、対イラン取引を禁じる米国の制裁に抵触するリスクがあると指摘されています。なお、ロイター通信は2022年7月に、バイナンスがイランの顧客との取引を続けており、同社がイランでの知名度の高さを認識していることを明らかにしています。
  • 2022年11月14日付日本経済新聞の記事「バイナンスCEOは仮想通貨業界の「乗っ取り屋」か」は辛辣ながらも、バイナンスやジャオCEOのことがより深く理解できる内容となっています。以下、抜粋して引用します。
(ジャオ氏が)姿を現しトークン(電子証票)への攻撃を行なったことは史上最大規模の企業への攻撃のひとつとして記憶されると思う。プライベートエクイティ(未公開株)ファンドによる企業の乗っ取りに似ている」と述べた。ジャオ氏はFTXを乗っ取るための「マスタープラン」の存在を否定している。…元社員やビジネスパートナー、業界関係者への取材からはどんな犠牲を払ってでもひたすら成長に突き進む、評価が分かれる起業家というジャオ氏の人物像が浮かび上がる。市場での優位性を追求するなかでセキュリティや法令順守が犠牲になったと話す人もいる。バイナンスは「急速に成長する市場において我々は常に進化を目指し、法令順守と顧客保護を確実にするよう努力している」としている。…当初ジャオ氏は、暗号資産は分散化が特徴のため、決まった本社はないと繰り返し主張していた。実際、社員は上海や東京などで勤務していたが、出社する時はバイナンスのロゴが入った服を着ないよう指示されていた。またビジネス向けSNSのリンクトインに勤務地を書くことも禁じられていた。19年のセキュリティ関連の違反後、フィナンシャル・タイムズ(FT)紙が入手した社員のチャット記録では、顧客から「会社側の明白な過失」や「本人確認(KYC)でのセキュリティや手続きが極めて緩いこと」を指摘されたとの不満がやり取りされていた。同社の元ビジネスパートナーは、バイナンスは資金洗浄対策やKYC管理を適切に行うと「豪語」していたが、「法令順守に人員を投入することに抵抗していた」と話した

中国が中米エルサルバドルに同国の国債購入を打診していることがわかったといいます。暗号資産ビットコインを法定通貨にしたエルサルバドルに債務不安が浮上しているためで、FTXトレーディングの破綻で苦境が深まっていることもあり、中国は「米国の裏庭」と呼ばれた中南米への影響力を一段と強化する構えです。エルサルバドルのウジョア副大統領は2022年11月、中国から国債を買い取るという申し出を受けているとメディアに対して明らかにし、その直後にはブケレ大統領が中国と自由貿易協定(FTA)の締結に向けた交渉を始めると表明しています。ブケレ政権はこれまで自身に批判的な米国政府に反発し、中国と距離を縮めてきた経緯があります。含み損よりも深刻なのは国際社会の信用低下で、エルサルバドル政府がビットコインを法定通貨にしたことで、国際通貨基金(IMF)から13億ドルの融資を受ける計画はほぼ頓挫、格付け会社のフィッチ・レーティングスは2022年9月、エルサルバドルの格付けをCCCからCCに引き下げたと発表しています。エルサルバドルは国内総生産(GDP)の8割を超える多額の債務残高を抱えており、ブケレ氏は9月には2023~2025年に償還期限を迎える長期国債を3億6000万ドルまで買い戻すと発表し、返済能力があると示そうとしましたが、実際には同国の債務不安に対する市場の懸念は拭い切れていないのが現状です。なお、ビットコインの法定通貨化は、出稼ぎ労働者による送金を容易にすることなどが目的とされていますが、2022年10月に発表されたエルサルバドルの世論調査によると、66%が「ビットコイン導入は失敗だった」と回答、「利用したことがある」は24%にすぎず、「政府はビットコイン購入に公金を費やし続けるべきか」との問いに、77%が「ノー」を突き付けています(それでも、ブケレ氏は「われわれは毎日、1BTCずつ購入する」とツイッターで述べています)。

暗号資産に対する規制強化の必要性について、各界からさまざまな声が上がっていますので、いくつか紹介します。

  • イエレン米財務長官は、このところの暗号資産業界の混乱は銀行部門に波及していないとしながらも、この業界に対し懐疑的で、十分な規制が必要との考えを示しています。イベントで、十分な顧客保護を確保することが重要だと指摘、この業界には以前から適切な規制が必要だと言われてきたが、そうはなっていないと述べています。また、暗号資産危機は同セクターにとってリーマン危機時の動揺にも相当すると指摘、2008年のリーマン・ブラザーズ破綻を引き金に株式市場が急落し、米政府が金融機関救済に乗り出した点に言及、「今回、銀行部門に波及していない点は幸いだ。銀行規制当局は暗号資産について非常に慎重になっている」と述べています。
  • 欧州中央銀行(FCB)のスタッフは、代表的な暗号資産であるビットコインについてブログ投稿で、相場が人為的に押し上げられているとし、賭博により近い以上、規制当局や金融機関がお墨付きを与える類いのものではないと厳しく批判しています。ビットコインの急落が最近、一服しているのは最後のあがきのような人為的な動きだと論評、「ビットコインの大口投資家らには投資に向けて強い高揚感を続けさせる最大の動機がある」と批判しています。2020年末ごろに一部の企業が散発的に会社経費でビットコイン投資を手がけ始めたと振り返り、一部のベンチャーキャピタルは今でもビットコインに大きく投資したままだと指摘、暗号資産やブロックチェーン業界へのベンチャーキャピタルによる投資が、2022年7月半ば時点で計179億ドルに上っていたとしています。さらに投稿文は、暗号資産に資産運用業者や決済サービス業者や保険業者、銀行が関与していることで、ビットコイン投資が健全であるとのメッセージを個人投資家に送っているとも指摘、金融界はビットコイン投資を促すことで短期的には利益を上げられるかもしれないが、長期的には損害を被ることを警戒すべきだとも訴えています。
  • 証券監督者国際機構(IOSCO)のジャン・ポール・セルベ議長は、FTXの破綻を受けて、緊急に暗号資産業界を規制する必要があると述べています。FTXのような「コングロマリット」プラットフォームなどを標的にすることが2023年の焦点になると指摘、規制原理を初めから構築しなくても、格付け会社や指数算出会社など、利益相反の問題を扱った他のセクターの規制原理が参考になるのではないかと述べています。ビットコインなどの暗号資産を巡っては、規制当局が新ルールの導入に抵抗していましたたが、同議長はFTXの破綻で状況が変わるだろうと予想、「2~3年前と比べても危機感は同じではない。一部の人は暗号資産が重大な問題・リスクではないと考えているため、国際レベルの重大な問題ではないという反対意見があるが、状況は変わりつつある。異なるタイプのビジネスの相互接続を踏まえれば、議論を始めることが重要だと思う。そうした方向に向かっている」と述べています。さらに、FTXのような暗号資産「コングロマリット」は、仲介、カストディ、自己売買、トークン発行などさまざまな業務を手掛けており、利益相反の問題が生じているとも指摘、市場の透明性を高める必要があるとし、こうした問題について2023年上半期に市中協議文書を公表する方針を示しています。
  • イングランド銀行(英中央銀行)のカンリフ副総裁は、FTXの破綻は、暗号資産業界を規制の枠内に組み込む必要性を示しているとの見解を示しています。同氏は「2021年の暗号資産の厳冬期や、先週のFTXの破綻で示されたように現在の暗号資産業界は金融システムの安定を脅かすほど大きくなく、主流の金融とつながっていない。だが、金融の主流とのつながりは急速に進展している」とし、FTXの破綻は規制当局ができる限り早く、より厳しい規制を導入する必要性を浮き彫りにしたと指摘、その上で「暗号資産の衝撃を防ぐために必要な規制の枠組みの整備を暗号資産業界が広がり、(主流の金融と)つながり、より大きな不安定化をもたらしてしまうまで待つべきではない」と訴えています。さらに、同氏は英中銀がステーブルコイン(法定通貨を裏付け資産とする暗号資産)の規則をより詳細に具体化するため、公的な議論を始める予定だと説明しています。
  • 米連邦準備理事会(FRB)のバー副議長(金融監督担当)は、暗号資産などFRBや他の規制当局が見通しを立てにくいノンバンクセクターからのリスクについて懸念していると述べています。上院銀行委員会で「われわれはノンバンクセクターの未知のリスクを懸念している」と指摘、「これに暗号資産に関する活動が含まれるのは明らかだが、より広義には金融システムの一部で良好な見通しや透明性、データが得られない場合のリスクも含まれる。これはわれわれが規制している金融システムに影響を与えるリスクを生み出す可能性がある」としています。また、暗号資産の取引に「効果的な監視が必要だ」との考えを示し、関連事業者に対し、他の金融サービス事業者と同じような規制を課すのが必要との認識も表明しています。同氏はFTXの問題を念頭に「最近の出来事は、強力な指針がない場合のリスクを浮き彫りにした」として規制を設ける必要性を示しています。「われわれはイノベーションを阻害したくないが、規制が緩かったり、遅れていたりすると、リスクテイクや底辺への競争を促進し、消費者や企業、経済を危険にさらし、新たな製品やサービスに対する消費者や投資家の信用を失墜させることになる」としています。一方で、暗号資産分野における当初の規制の枠組みを提供するのは市場規制当局の方が適した立場にあるとしています。
  • 欧州中央銀行(ECB)理事会メンバーのデコス・スペイン中銀総裁は、FTXの破綻について、暗号資産に絡むリスクに対する注意喚起となるべきという認識を示しています

その他、暗号資産を巡る最近の海外の動向から、いくつか紹介します。

  • インドネシアのスリ・ムルヤニ・インドラワティ財務相は、暗号資産投資の規制・監督・監視権限を金融庁に移管する計画を明らかにしています。投資家の保護を強化することが狙いで、現在は産業省と商品先物取引監督庁が共同で監督しているところ、今回の計画では、現在議会で審議中の金融セクター関連法案の一環として提示されています。同国では、暗号資産を決済手段として利用することは禁じられていますが、商品市場での投資取引は認められています。同相によると、暗号資産の投資家は2022年6月時点で1510万人と、2020年の400万人から急増しています(株式市場の投資家は6月時点で910万人)。
  • ブラジル議会下院は、暗号資産の規制を強化する法案を可決しています。政府が指名する連邦機関が規制を担うとしています。法案はボルソナロ大統領に送付される。新たな規制は暗号資産を自国通貨や外国通貨と交換したり、送金サービスや暗号資産の発行・販売業者に関連する金融サービスを手掛ける法人に適用されるもので、現地メディアによると、法案は、国内で暗号資産事業を展開する全ての企業に、物理的な拠点を設けることを義務付け、違反すれば罰金や実刑を科す内容となっています。
  • ブロックチェーン(分散型台帳)分析会社の米チェイナリシスは暗号資産の中国での取引が回復しているという調査結果を公表しています。中国では2021年、暗号資産の取引が禁止されていますが、地下取引が横行しており、2022年6月に中国に流入した暗号資産は181億ドル(約2兆5千億円)で、底を打った1月から5割増えているといいます。中国は2021年5月、暗号資産のマイニング(採掘)を禁止し、9月に取引自体の全面禁止に踏み切りましたが、チェイナリシスによると、2021年5月に933億ドルだった流入額は2022年1月に121億ドルまで落ち込んだものの、3~6月は月に200億ドル前後まで回復しているといいます。現状でも世界で4位、東アジアで最大の暗号資産の市場だといい、採掘のシェアも同様の傾向を示しており、2021年1月時点の53%から右肩下がりとなり、7~8月は0%だったものの、同年9月~2022年6月は20%前後を維持、米国に次ぐ規模となっています。同社によると、ナイジェリアやロシア、ラテンアメリカで中国と暗号資産で取引する特定の販路があるほか、中国内に相対取引ができる非公式のネットワークが存在しているといいます。同社の担当者は「中国国内の不動産市場の苦境を受けて投機資金が暗号資産の地下取引に流入している」とみているといいます。

その他、暗号資産を巡る最近の国内の報道から、いくつか紹介します。

  • ブロックチェーン(分散型台帳)分析会社の米チェイナリシスはサイバー攻撃による暗号資産の被害額が1~7月、前年比66%増の19億1700万ドル(約2700億円)だったとする調査結果をまとめています。一方、詐欺被害は同65%減の15億5500万ドルで、暗号資産の価値が下落する中、犯罪者の焦点が詐欺からハッキングへ移っていると指摘しています。サイバー攻撃では、暗号資産の技術を使い金融機関を介さずに金融サービスを提供する分散型金融(DeFi)の被害が目立ち、DeFiは既存の規制の枠組みに当てはまらず、セキュリティが脆弱なサービスも乱立するのが一因となっており、特に北朝鮮のハッカー集団がDeFiへ相次ぎ攻撃を仕掛けているとみられています。同社はこれまで同国に10億ドル相当の被害金が流出したと推計しています。一方、詐欺被害が減った背景には、韓国企業が発行していた暗号資産「テラUSD」の2022年5月の暴落以降、暗号資産の価格が低迷した影響があるようです。「誇大広告やすぐ収益を確保できるといった口車にのせられる人が減っている」(同社)と指摘しています。
  • LINEが支援する米暗号資産取引所BITFRONTは、新規登録とクレジットカード決済を停止し、数カ月で事業を終えると発表しています。ウェブサイトに掲載した発表文は「LINEブロックチェーンエコシステムとLINKトークンエコノミーを引き続き成長させるため、残念ながらBITFRONTを閉鎖する必要があると判断した」と説明、「不正行為」で非難されている特定の暗号資産取引所における最近の問題とは無関係としています。11月28日付で新規サインアップとクレジットカード決済を停止し、2023年3月31日に出金を停止するとしています。
  • 2021年5月、ソニー生命の子会社「エスエー・リインシュアランス」(英領バミューダ諸島、清算手続き中)の口座から約1億5493万米ドル(当時のレートで約168億円相当)を不正に送金し、全額をビットコインに交換して隠したとする事件について、東京地裁は、石井被告がエスエー社の清算業務を行う立場を悪用し、計画的に犯行に及んだと指摘、「詐取金で投資を行い、十分に利益が出た段階で全額を会社に返還しようと考えていた」などとした被告の主張については、被告が捜査当局の捜索時にビットコインの保管場所を明かさなかったことをふまえ、「返金よりも刑事責任の追及の回避を重視していた」と述べています。被告が隠したビットコインは米当局が押収、円安・ドル高の影響もあり、返還時の額は被害額を約50億円上回る約221億円に上りました。判決は「結果的にとはいえ、被害額以上が返還されたことは考慮すべきだ」と述べ、量刑判断の一つの事情にしたことを明かしています。
  • 連鎖販売取引(マルチ商法)を巡るトラブルが、物品販売から暗号資産や投資商品のもうけ話などにシフトしています。「モノなしマルチ商法」と呼ばれ、全国の消費生活センターなどに寄せられた相談件数は10年間で倍増しているといい、20代の相談が急増して半数を占め、勧誘グループがSNSなどを通じて標的にしているとの指摘が出ています。2022年12月2日付日本経済新聞において、投資詐欺などに詳しい加藤博太郎弁護士は「暗号資産の取引で巨額の利益を得た利用者が注目を集めたことで、モノなしマルチ商法のトラブルに巻き込まれる人が増えた印象がある。新型コロナウイルス下で、人との接触が制限されて物品のやりとりが難しくなったことも増えた背景に挙げられる」と指摘しています。さらに、加藤弁護士は「SNSの浸透で若者は知らない人との交流に抵抗がなくなっている側面があり、トラブルにつながっている」とみています。また、立正大学の西田公昭教授(社会心理学)もマルチ商法に関する知識の乏しい20代が勧誘グループの標的になりやすいと指摘し、「コロナ下で交流が減り、家族や友人がトラブルに気付くのが難しくなっている」と話しています。

日銀が「デジタル円」の発行に向け、3メガバンクや地銀と実証実験を行う調整に入りました。2023年春から民間銀行などと協力し、銀行口座での入出金といったやりとりに支障がないか検証するほか、災害時などを想定し、インターネットの届かない環境でも稼働するか確かめるものです。2年間ほど実験を進め、2026年にも発行の可否を判断する考えといいます。日銀は2021年4月に実証実験の第1段階を始め、基本的な機能を検証、2022年4月から第2段階に移行し、保有額や1回当たりの取引額、付利などより複雑な機能を確認しています。第2段階は2022年度中に終わる予定で、順調に進めば2023年春からパイロット実験に進む見通しだといいます。日銀の公表資料によれば、パイロット実験は民間事業者や消費者が実地に参加する形式を想定しています。実証実験には消費者も加わり、民間事業者とのすみ分けも問われるなど、クリアすべき課題は多いといえます。それでも先進国の中銀が開発を急ぐのは、中国やロシアなどとの通貨主権を巡る争いが背景にあります。2021年の日本のキャッシュレス比率は3割にとどまり、強権的にCBDCを導入すればキャッシュレス比率を急速に引き上げるのも可能ではあるものの、あくまで企業と新たな生態系を築くことを優先するとしています。日銀はインフラ部分を担い、民間のイノベーションを促す「二層構造」がデジタル円の基軸となります。自由を重んじる民主主義国家では、プライバシー保護の議論も丁寧に進める必要があります。欧米も構図は変わらず、報道によれば、欧州中銀の幹部は「プライバシーやデータ保護に対する懸念の声が上がっており、時間をかけて均衡点を探る必要がある」と述べています。制約が大きいにもかかわらず、日米欧の中銀がCBDCの開発で足並みをそろえるのは、中国など覇権主義国家との間に通貨主権の問題が横たわるためで、その中国は2022年9月、香港やタイ、アラブ首長国連邦(UAE)との間で進めていたデジタル通貨によるクロス取引試験を終えたと発表、ロシアも2023年にデジタルルーブルの取引を始める予定としています。CBDCの領域で西側諸国の通貨の依存度が下がれば、ドルを使った経済制裁の威力は衰えることになり、ロシアのウクライナ侵攻以降、通貨主権を確保する重要性は一段と高まっているといえます。

その他、海外のCBDCを巡る最近の動向について、いくつか紹介します。

  • CBDCに慎重な姿勢を崩していない米国ですが、ニューヨーク連銀とシティグループなどの米金融大手はCBDCに関する実証実験を始めるとしています。約3カ月間にわたり、法人や金融機関向けの大口取引でデジタル通貨を使った効率的で迅速な決済システムを構築できるかどうか検証するとしています。民間側はウェルズ・ファーゴやバンク・オブ・ニューヨーク・メロン、マスターカード、英HSBCなども参加し、CBDCと民間側のデジタル通貨をネットワーク上で相互運用できるかを探るとしています。実験は実際の資金移動を伴わないシミュレーションになる見通しで、実験を通じて技術面や制度設計面の課題をあぶり出す狙いがあるとされます。米連邦準備理事会(FRB)はデジタルドルの発行を決めていませんが、世界的にCBDCの開発が活発になっていることをふまえ、検討を進めています。すでにボストン連銀は技術面の研究を重ねており、ニューヨーク連銀の実験は大口取引での利用を想定した「ホールセール型」のCBDCだが、FRBは一般の消費者やお店などが利用できる「リテール型」の検討も進めるといいます。
  • スイス国立銀行(中央銀行)のメクラー理事は、一般国民向けにCBDCを導入することに「説得力のある利点はない」との見解を示しています。当地で開かれたスイス金融研究所のイベントで「われわれは非常に強い立場を取ってきた」と述べ、こうした動きは国民が商業銀行だけでなく中銀にも口座も持つことにつながりかねないと指摘、「(顧客が)特定の銀行に不安を感じたり、不満を抱いたりした場合、お金を一晩で中銀に移すことができる」とし、「これは多くの不要なリスクとボラティリティーを(金融)システムにもたらすことになる」と述べています。
  • インド準備銀行(RBI、中央銀行)は、CBDC「デジタルルピー」のリテール向け実証実験を12月1日から開始しています。ホールセール向けは11月1日から銀行9行を対象に行っています。RBIによると、リテール向けの実証実験は顧客や事業者を限定したグループ内で実施、デジタルルピーは「紙幣・硬貨と同じ額面で発行され、銀行などの仲介業者を通じて配布される」といいます。参加者は銀行が提供するデジタルウォレットを通じてデジタルルピーで決済を行うことができ、通貨は携帯電話などの端末で保管、そのままで利子は生じないものの、銀行預金などにすることもできるといいます。
②IRカジノ/依存症を巡る動向

カジノを含む統合型リゾート(IR)については、最近はあまり報道される機会はありませんが、直近では、大阪市の松井一郎市長がIRを巡る国の審査状況について、「(建設予定地の)地盤について必要な書類の提出を求められて協議している」と明らかにしています。報道によれば、「地盤について液状化など問題点が指摘されているので、国からも解決の手段や時期、対応策を求められている」とし、「根拠のある数字を示してきちんと説明したい」と述べています。本コラムでも紹介したとおり、大阪府は2022年4月に区域整備計画の認定を国に申請、現在、国の有識者委員会による審査が続いている状況にあります。IR誘致を巡っては、大阪湾の人工島・夢洲の建設予定地で土壌汚染や液状化の恐れなどが判明し、市が対策費790億円を負担することが決まっています。(その影響かどうかは何とも言えませんが)大阪府市は2022年秋ごろに国の認可を受けると想定していたところ、計画通りに進むかは不透明な状況となっています。

また、IR誘致がとん挫している和歌山県については、2022年11月の和歌山県知事選において、無所属新顔で元衆院議員の岸本周平氏(自民・立憲・国民、社民県連合推薦)が初当選を果たしています。対立候補の2名はIRを今後も誘致してはいけないと訴えた一方、岸本氏は賛否をあきらかにせず、論戦は盛り上がりを欠いたようです。さらに、IR誘致を断念した横浜市については、臨海部にある山下ふ頭の再開発に向け再び検討を本格化させており、IR撤回を公約として市長に就任した山中市長は、IR計画撤回後、再開発計画案を募って10件が寄せられたといいます。2026年の事業着手を目指しているということですが、IR誘致で推進派と反対派が激しく対立した経緯もあり、市民の意見を重ねて募集する慎重姿勢をみせているるようです。報道によれば、事業者の提案レベルで投資額や訪問者数に大きな開きがあり、事業採算性の精査などが課題になることが想定されるほか、周辺アクセス強化や整備に関する官民の役割分担の協議を求める声などが事業者から上がっています。さらに、地元経済界との連携も不可欠で、市を代表する経済団体、横浜商工会議所はかつてIR誘致を支持・推進する立場からIRのもたらす経済効果やその地域振興について研究しており、商工会議所は市に対して「IRに匹敵する大型プロジェクトによる新たな産業振興が必要」との要望書を提出している状況にあります。

また、本コラムでも動向を注視していたマカオのカジノ免許の更新状況については、マカオ政府が、2022年末に期限が切れるカジノ運営免許の交付先を発表、現在カジノを運営する銀河娯楽集団(ギャラクシー・エンターテインメント)など6社が免許を維持し、シンガポールや米国などでカジノ事業を展開しており、新規参入をめざしたマレーシアのゲンティン・グループは落選という結果となりました。銀河娯楽のほかに免許を維持するのは澳門博彩控股(SJMホールディングス)、メルコのブランドで知られる新濠国際発展、米系のMGM中国、金沙中国(サンズ・チャイナ)、永利澳門(ウィン・マカオ)で、報道によれば、マカオ政府は「地元の雇用確保や外国人観光客の開拓、非カジノ分野の開発といった条件を満たした」と説明しています。新しいカジノ免許は23年から10年間有効となります。なお、今後10年間で総額約1000億パタカ(124億ドル)を投資する見込みだとも報じられています。

ちなみに日本のIRについては、IR整備法において、日本におけるIR認定区域整備計画の数は3ヶ所以下となる予定であるところ、当該認定の日から起算して7年を経過した場合において、検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて区域整備計画の認定数が増えることが予想されます。この場合、それまで日本におけるIR市場の寡占状態が続いていることで高い収益性が確保できていたものの、区域整備計画認定数が増加することで、IRビジネスの収益性の低下を招く可能性が指摘されています。また、区域整備計画の認定に際し、最初の区域認定から10年後、その後5年ごとに公聴会の開催等住民の意見を反映させる措置、認定都道府県等の議会決議、立地市町村等の同意等が必要となりますが、更新時の首長のスタンスや首長選挙時期等の状況によっては、区域整備計画の更新ができない可能性も指摘されています。さらに、カジノ免許の有効期間の満了後に引き続きカジノ事業を行おうとする場合には、3年ごとに免許を更新する必要がありますが、免許更新時には、カジノ管理委員会による厳格な背面調査が改めて行われることになります。このような検討課題をプロジェクションに織り込むことで、概算投資額への影響を考慮することや、認定都道府県等との実施協定において、IR事業者を救済する措置を盛り込むよう認定都道府県等と協議を行うことが必要となると考えられます。

次に依存症を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

コロナ禍の巣ごもりの影響からか、ゲーム依存に関する報道が増えています。以下、抜粋して引用します。

「国内100万人超」のゲーム依存 心に空くぽっかり穴の対処は?(2022年11月24日付毎日新聞)
不登校の子どもは、学校に行こうと頑張りすぎて「電池切れの状態」とする青島さん。ゲームは充電装置にあたるとし、「公園でサッカーをするのと同じ。友達とつながり、交流がうまれる」と有用性を説く。…個別指導進学塾の管理職から転身し、同校の運営会社でeスポーツ担当部長を務める福田和彦さん(48)は、「戦略ゲームではコミュニケーション能力が養われる」と話す。仲間と助け合い、励まし合わないと、対戦相手に勝てない。だから、自分の意見を伝えることが苦手でも、プレーを通して自然と他の生徒と話し合うようになるという。…「たかがゲーム、と思う人がいるかもしれないが、ゲームの種類によってはギャンブルと同様に依存性が高い」と説明するのは、インターネット・ゲーム依存の専門診療と研究に携わる神戸大大学院特命教授(デジタル精神医学)の曽良一郎さん(65)だ。国内でのゲーム依存患者は「少なく見積もっても100万人以上」という。曽良さんは「ゲーム依存の症状は、薬物やアルコール依存の場合と似ている」と指摘する。欲しくて、使いたくてたまらない。使い過ぎを心配した親からゲーム機やスマートフォンを取り上げられた結果、再びゲーム機を手に入れるために親の金を盗む事例も少なくないという。…曽良さんは「ゲームに代わる楽しいこと、興味があることを見つけてあげて」とのアドバイスをくれた。大切なのは、インタラクティブ(相互作用)だ、という。アニメ視聴や読書のような「受け身」の活動は、ゲームが持つ刺激にはかなわない。だから、自然と触れ合うアウトドア活動や社会経験ができるアルバイトなどがいいという。曽良さんは「始めるのにエネルギーは必要だが、強烈な刺激がある。一歩を踏み出せるよう周囲がサポートしてあげてほしい」と話している。
  • ネットカジノを利用した「マルチ商法」に不正に勧誘したとして、大阪府警生活経済課は、特定商取引法違反(事実の不告知、書面不交付)の疑いで男3人を逮捕しています。報道によれば、2021年12月、愛知県に住むパート従業員の20代女性に、特定のネットカジノの利用者を増やすことで高収入が得られると勧誘、ネットカジノに毎月2万6千円を課金しないと報酬を受け取れないことを隠して契約し、その際に契約書を交付しなかったといいます。容疑者らは報酬を受け取るには「ERA」というサイトへの登録が必要だと説明し、女性に入会金75万円を支払わせていたようです。2022年9月、大阪府で同様の手口で契約を重ねていた男女15人を逮捕、関係する銀行口座には2022年6月までの1年間で約62億円が振り込まれていたということです。
  • 2022年11月7日付け毎日新聞によれば、アルコール依存症の疑いがある患者が専門病院につながるケースは少ないといい、樋口進・国立病院機構久里浜医療センター名誉院長は、その理由について(1)内科や外科など一般科の医師は、患者のアルコール依存症に気付かないか、気付いても「説得に時間がかかる」などの理由から専門病院の受診を強く勧めない(2)一般科の医師から専門病院の受診を勧められても患者が拒否する、などの可能性を指摘しています。また、樋口名誉院長は「長野の男性は自分で専門病院のドアをたたいた珍しいケースだが、そうではない人が圧倒的に多い。アルコール依存症が疑われる人の8割が肝障害などで一般の医療機関を受診しており、一般医療と専門医療のつながりを深める仕組みが必要だ」と強調しています。
③犯罪統計資料

例月同様、令和4年9月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。

▼警察庁 犯罪統計資料(令和4年1~10月分)

令和4年(2022年)1~10月の刑法犯総数について、認知件数は492,042件(前年同期469,402件、前年同期比+4.8%)、検挙件数は202,275件(215,218件、▲6.0%)、検挙率は41.1%(45.8%、▲4.7P)と、ここ数カ月の傾向のとおり、認知件数のみ前年を上回る結果となりました。その理由として、刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数が増加していることが挙げられ、窃盗犯の認知件数は333,942件(315,959件、+5.7%)、検挙件数は120,291件(131,602件、▲8.6%)、検挙率は36.0%(41.7%、▲5.7P)となりました。なお、とりわけ件数の多い万引きについては、認知件数は69,161件(71,872件、▲3.8%)、検挙件数は48,045件(52,594件、▲8.6&)、検挙率は69.5%(73.2%、▲3.7P)と減少している点が興味深いといえます。コロナで在宅者が増え、窃盗犯が民家に侵入しづらくなり、外出も減ったため突発的な自転車盗も減った可能性が指摘されるなど窃盗犯全体の減少傾向が刑法犯の全体の傾向に大きな影響を与えていますが、3月のまん延防止等重点措置の解除から一転して最近の感染者数の激増といった状況などもあり、今後の状況を注視する必要があります。また粗暴犯の認知件数は43,498件(41,062件、+5.9%)、検挙件数は35,463件(35,616件、▲0.4%)、検挙率は81.5%(86.7%、▲5.2P)、知能犯の認知件数は32,276件(29,160件、+10.7%)、検挙件数は14,629件(14,952件、▲2.2%)、検挙率は45.3%(51.3%、▲6.0P)、とりわけ詐欺の認知件数は29,544件(26,440件、+11.7%)、検挙件数は12,475件(12,887件、▲3.2%)、検挙率は42.2%(48.7%、▲6.5P)などとなっており、本コラムで指摘してきたとおり、コロナ禍において詐欺が大きく増加しています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が増加していますが、必ずしも「非対面」とは限らないオレオレ詐欺や架空料金請求詐欺なども大きく増加傾向にある点が注目されます。刑法犯全体の認知件数が増加傾向を見せ、検挙件数が減少傾向の中、とりわけ知能犯、詐欺については増加傾向にあり、引き続き注意が必要な状況です(そして、検挙率がやや低下傾向にある点も気がかりです)。

また、特別法犯総数については、検挙件数は54,054件(56,857件、▲4.9%)、検挙人員は44,353人(46,551人、▲4.7%)と2021年同様、検挙件数・検挙人員ともに減少している点が特徴的です。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は3,254件(3,982件、▲18.3%)、検挙人員2,410人(2,873人、▲16.1%)、軽犯罪法違反の検挙件数は6,224件(6,665件、▲6.6%)、検挙人員は6,185人(6,715人、▲7.9%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は7,815件(6,961件、+12.3%)、検挙人員は5,953人(5,317人、+12.0%)、ストーカー規制法違反の検挙件数は834件(820件、+1.7%)、検挙人員は656人(653人、+0.5%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は2,525件(1,972件、+28.0%)、検挙人員は2,114人(1,604人、+31.8%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は418件(270件、+54.8%)、検挙人員は137人(103人、+33.0%)、不正競争防止法違反の検挙件数は50件(60件、▲16.7%)、検挙人員は63人(56人、+12.5%)、銃刀法違反の検挙件数は4,063件(4,110件、▲1.1%)、検挙人員は3,577人(3,508人、+2.0%)などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、迷惑防止条例違反やストーカー規制法違反、不正アクセス禁止法違反が増加している点が注目されます。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は807件(691件、+16.8%)、検挙人員は467人(392人、+19.1%)、大麻取締法違反の検挙件数は5,128件(5,402件、▲5.1%)、検挙人員は4,061人(6,089人、▲22.3%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は6,867件(9,036件、▲24.0%)、検挙人員は4,956人(5,576人、▲11.1%)などとなっており、ここ数年大麻事犯の検挙件数が大きく増加傾向を示していたところ、減少に転じている点はよい傾向だといえ、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きく減少傾向にある点とともに特筆されます。一方で、それ以外の麻薬等取締法違反の検挙件数・検挙人員が大きく増えている点に注意が必要です。なお、同法の対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯国籍別検挙人員については、、総数464人(496人、▲6.5%)、ベトナム143人(191人、▲25.1%)、中国73人(79人、▲7.6%)、ブラジル34人(30人、+13.3%)、スリランカ31人(9人、+244.4%)、フィリピン18人(29人、▲37.9%)韓国・朝鮮17人(15人、+13.3%)、、パキスタン15人(5人、+200.0%)、インド11人(15人、▲26.7%)などとなっています。

一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数の総数は8,435件(9,891件、▲14.7%)、検挙人員は4,749人(5,489人、▲13.5%)と検挙件数・検挙人員ともに2021年に引き続き減少傾向にある点が特徴です。以前の本コラム(暴排トピックス2021年3月号)では、「基礎疾患を抱え高齢化が顕著に進行している暴力団員のコロナ禍の行動様式として、検挙されない(検挙されにくい)活動実態にあったといえます」と指摘しましたが、一時活動が活発化している可能性を示したものの再度減少に転じている点は、緊急事態宣言等やまん延防止等重点措置の解除やオミクロン株の変異型の再度の流行などコロナの蔓延状況の流動化とともに今後の動向に注意する必要があります。犯罪類型別では、暴行の検挙件数は492件(589件、▲16.5%)、検挙人員は484人(558人、▲13.3%)、傷害の検挙件数は823件(944件、▲12.8%)、検挙人員は917人(1,133人、▲19.1%)、脅迫の検挙件数は292件(303件、▲3.6%)、検挙人員は296人(291人、▲+1.7%)、恐喝の検挙件数は278件(320件、▲13.1%)、検挙人員は353人(388人、▲9.0%)、窃盗の検挙件数は3,974件(4,900件、▲18.9%)、検挙人員は639人(388人、▲21.5%)、詐欺の検挙件数は1,419件(1,408件、+0.8%)、検挙人員は1,075人(1,150人、▲6.5%)、賭博の検挙件数は43件(52件、▲17.3%)、検挙人員は100人(95人、+5.3%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、3月まで検挙人員が増加傾向を示していたあと、減少傾向に転じていましたが、今回、再度増加に転じた点が特筆されます。全体的には高止まり傾向にあり、資金獲得活動の中でも重点的に行われていると推測されることから、引き続き注意が必要です。さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯について、特別法犯全体の検挙件数は4,419件(5,822件、▲24.1%)、検挙人員は2,972人(3,956人、▲24.9%)、入管法違反の検挙件数は16件(14件、+14.3%)、検挙人員は22人(14人、+57.1%)、軽犯罪法違反の検挙件数は60件(78件、▲23.1%)、検挙人員は55人(69人、▲20.3%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は76件(93件、▲18.3%)、検挙人員は69人(83人、▲16.9%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は19件(33件、▲42.4%)、検挙人員は42人(82人、▲48.8%)、銃刀法違反の検挙件数は89件(97人、▲8.2%)、検挙人員は58人(73人、▲20.5%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は149件(115件、+29.6%)、検挙人員は56人(36人、+55.6%)、大麻取締法違反の検挙件数は814件(977件、▲16.7%)、検挙人員は465人(621人、▲25.1%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は2,584件(3,720件、▲30.5%)、検挙人員は1,711人(2,451人、▲30.2%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は125件(108件、+15.7%)、検挙人員は67人(72人、▲9.8%)などとなっており、やはり最近増加傾向にあった大麻事犯の検挙件数・検挙人員ともに減少に転じ、その傾向が定着していること、覚せい剤事犯の検挙件数・検挙人員がともに全体の傾向以上に大きく減少傾向を示していること、麻薬等取締法違反・麻薬等特例法違反が大きく増えていることなどが特徴的だといえます。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。

(9)北朝鮮リスクを巡る動向

日米韓の3カ国は、北朝鮮の核・ミサイル開発などを巡り、北朝鮮に対する独自制裁強化を発表しています。弾道ミサイル発射など軍事挑発を続け、7回目の核実験強行も懸念される北朝鮮に対し、結束して圧力を加える狙いがありますが、北朝鮮は3カ国への反発を強めるとみられます(北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記の妹、金与正党副部長は11月下旬の談話で、米韓が制裁を強めるなら「われわれの敵対心と憤怒はさらに大きくなる」と強弁していました)。日本政府は、核・ミサイル開発に関与した3団体、1個人を資産凍結の対象とする追加制裁を閣議で了解しています。松野官房長官は「前例のない頻度と対応で続く北朝鮮の一連の挑発行動は、わが国の安全保障にとって重大かつ差し迫った脅威だ。断じて容認できない」と強調しています。外務省によると、追加されたのは北朝鮮傘下のハッカー集団「ラザルス」や貿易会社など3団体と軍需工業部のベトナム拠点の代表者です。一方、米政府は、核・ミサイル開発で指導的な役割を担ったとして朝鮮労働党の軍需工業部長だった劉進氏、朝鮮人民軍総政治局長を務めた金秀吉氏ら3人を独自制裁対象に指定、ブリンケン米国務長官は、今年(2022年)に入って北朝鮮が弾道ミサイル発射を前例のない頻度で繰り返し、安全保障上の深刻な脅威になっていると指摘、日韓と緊密に連携し制裁を決めたと強調しています。さらに韓国政府は、8人と7機関を独自制裁対象に追加すると発表、8人は国連安全保障理事会の制裁対象に指定された北朝鮮の金融機関に所属し、核・ミサイル開発に関連した金融取引に関与、7機関は貿易会社や船舶会社などで、北朝鮮の不法金融活動支援や労働者の派遣、船舶間の物資積み替えで核・ミサイル開発に関与したとされます。

一方の北朝鮮は12月下旬に朝鮮労働党中央委員会第8期第6回総会を開催し、主要政策の方向性を決定するとしており、核・ミサイル開発や外交の方針が示される可能性も考えられるところです。金総書記が招集した中央委員会の政治局会議で決定したといいます。北朝鮮は今年に入り、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を含め記録的な数のミサイルを発射、核・ミサイル開発を巡る国際的な制裁に直面する中、疫病対策に追われたり、自然災害に見舞われるなどしており、金総書記は非常に困難な経済的課題を抱えているといえます。国営通信の朝鮮中央通信(KCNA)によると、政治局会議で党幹部らが今年の党と国家の主要政策の実施状況に関して精査・分析し、総会で議論すべき主要な議題を提案、金総書記は同会議で、今年の内外情勢は「われわれの意志と戦闘効率が試される前例のない逆境」だったが、北朝鮮は「目覚ましい発展」を遂げ、その威信と名誉を新たな水準に高めたと述べたといいます。また「各部門が潜在力を発揮して問題を解決する革新的な方法を見つけ、1年間の奮闘過程で得た経験と教訓の正しい分析に基づき、来年の計画を適切に確認することが非常に重要だ」と指摘、さらに、次回総会で主要政策を実行するための「ダイナミックで先進的かつ科学的で詳細な」計画を策定するよう呼びかけたということです。

前回の本コラム(暴排トピックス2022年11月号)以降では、11月17日午前10時48分ごろ、江原道元山付近から日本海に向けて短距離弾道ミサイル1発を発射しています。飛行距離は約240キロ、高度は約47キロ、KCNAは17日午前9時過ぎ、カンボジアで13日に開かれた日米韓首脳会談を非難する崔善姫外相の談話を報道、崔氏は「米国が同盟国に対する『拡大抑止力の提供強化』に執着すればするほど、軍事的な活動を強化すればするほど、正比例して我々の軍事的な対応はさらに猛烈になる」と述べています。談話の発表からほどなくしてミサイルを発射することで、連携を強める日米韓への対抗姿勢を明確にする狙いがあったとみられています。本ミサイル発射を受けて米韓両軍は「連合防衛ミサイル訓練」を実施、防衛態勢を改めて確認しています。なお、その前日にあたる11月16日には、「米国や南朝鮮(韓国)の対(北)朝鮮核先制攻撃演習をはじめとする危険千万な軍事的策動に全面加担している」などと日本を非難する論評を発表しています。日本上空を通過した10月4日の中距離弾道ミサイル発射は「敵たちに送った警告だ」と述べ、北朝鮮に対し米韓両国との連携強化で対抗する日本を強くけん制しています。論評は「この警告が実際の結果につながるかどうかは、日本をはじめとする敵対勢力の態度にかかっている。日本の敵視策動は高い代価を支払うだろう」とも述べています。論評では、日本が9月30日に北朝鮮の潜水艦への対応を想定した米韓両海軍との共同訓練に護衛艦「あさひ」を参加させたことを非難、10月6日に岸田首相が韓国の尹錫悦大統領と電話協議した際、日米韓3カ国による「軍事協調強化」を要求したなどと指摘、そのうえで「日本が我々の正常な軍事活動について『脅威』や『挑発』だと因縁をつけている。破廉恥の極みだ」と強く批判しています。また、日本国内で在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)や朝鮮学校の生徒に対する暴行や恐喝などが相次いでいると非難、「総連や在日朝鮮人に対する迫害などを、我が国の尊厳と自主権に対する挑戦とみなす」と述べています。

さらに、11月18日には、11月3日(の失敗)以来となる大陸間弾道ミサイル(ICBM)(新型「火星17」とみられています)を発射しました。約999キロ・メートル飛行、最大高度は約6040キロ・メートルに達し、約69分間飛行ののち、日本海の公海上の予定水域に正確に着弾したとしています。米国に対抗する核戦力を保有するため、迎撃の難しい多弾頭型ICBMの開発を急ぐ姿勢を改めて示した形で、対北で連携を進める日米韓への軍事挑発を加速させるのは必至の情勢となりました。報道によれば、米韓が注目するのは前回と異なる点で、3日の発射では2段目の分離後に不具合が生じたのに対し、今回の発射目的は、前回の失敗を修正するためだった可能性があり、今回も2段目の分離まで行われたとみられています。北朝鮮は火星17の開発で、複数の核爆弾を搭載できる多弾頭型のICBMを目指しており、落下時に複数の爆弾を分離して迎撃を回避しようとする仕組みで、防御する側にはより脅威となります(火星17は2~3個の弾頭を搭載できるとみられいます)。また、米国のバイデン政権は、北朝鮮のICBM性能の進展、多弾頭化を図っていることに危機感を強めているとされます。ただ、今回の発射では一定の技術的な進展があったとの見方がある一方、エンジン設計に問題があり、弾頭の大気圏への再突入技術も獲得できていないとみられており、いまだ実用化の段階ではないとの見方が米国内では有力ではあるものの、米軍は迎撃能力の向上を急いでいるといいます。なお、今回のICBM発射は、発射に立ち会った金総書記が「核には核で応える」などと米国を威嚇し、軍事挑発を続ける構えを示したとされ、米本土の大都市を核攻撃する能力を整えつつあると誇示する意図が窺えます。自国への核攻撃を恐れて米国が北朝鮮への反撃を控えるだろうと独裁者の金総書記が思い込めば、日本や韓国への軍事的挑発や攻撃をしかけてくる恐れは増すことになります。北朝鮮にこのような誤った行動をとらせないためにも、日本としても自衛隊に反撃能力を導入することが急務な状況ともなっています。今回の「火星17」発射について金総書記は、「最終試射で完全大成功を収めた」と強調し、「今年中に完成を宣言しなければならない」と科学者らに指示したということです。さらに、金総書記は「この兵器開発が本当に重要」と強調し、地下発射場の準備なども指示したといいます。

北朝鮮の異常ともいえる弾道ミサイルの発射について、資金源の観点から分析した2022年11月19日付日本経済新聞の記事「北朝鮮ミサイルと仮想金庫 「10億ドル」錬金術」がとても分かりやすかったため、以下、抜粋して引用します。北朝鮮の大量のハッカーが試行錯誤を繰り返して経験を積み、成功につなげている実態があり、標的は日韓の中小企業や暗号資産関連であること、北朝鮮が日韓から窃取した資金がミサイル開発に投入され、それが日韓の安全保障上の脅威を高めるという皮肉な構図となっていること、「国民を守る」には「国民の資産を守る」サイバー防衛と事業者が「自らの資産を守る」取組みが不可欠だということが、痛感させられます。

北朝鮮が2022年に発射した弾道ミサイルが50発を超えた。年間の過去最多はこれまで19年の25発だった。今年は1カ月以上を残して過去の倍だ。発射には膨大なコストがかかる。韓国国防省の傘下にある国防研究院は6月、米国の研究所の分析なども参考に北朝鮮のミサイル材料費を推計した。大陸間弾道ミサイル(ICBM)は1発最大3000万ドル(42億円ほど)、中距離弾は同1500万ドル、短距離弾は同500万ドルと見積もった。人件費などを加味した発射費用の総額は1~6月で最大6億5000万ドルになるという。同じ方法で11月上旬までの発射分を加えると10億ドルを超す。北朝鮮にとっては身の丈に合わない額だ。昨年、北朝鮮が国連に提出した報告によると19年の北朝鮮の国内総生産(GDP)は335億400万ドル。発射費はGDPの3%近くになる。相次ぐ発射で北朝鮮は経済制裁下にある。資源や武器などの貿易は制限される。新型コロナウイルス禍のため、外貨獲得の機会である中国との貿易も低調だ。韓国銀行は20~21年の北朝鮮のGDP成長率はマイナスだと分析した。こんな状況でミサイル発射の資金をどう確保しているのか。日米韓の北朝鮮担当の高官は10月、電話で協議した。「サイバー攻撃で北朝鮮は暗号資産を盗み取っている。違法な調達を防ぐため協力しよう」。ミサイル資金を絞るために3カ国で連携すると確認した。今春には暗号資産6億2000万ドル分の盗難事件について、米連邦捜査局(FBI)が「北朝鮮系のハッカー集団『ラザルス』の犯行だ」と結論づけた。オンラインゲームへの攻撃で暗号資産「イーサリアム」を窃取した事件だ。国連の専門家パネルが21年に公表した報告書では、北朝鮮がサイバー攻撃で盗んだ金額は19~20年に合計3億1640万ドルだと分析した。判明分だけでもミサイル資金の10億ドル程度を集められそうだ。なぜ簡単に巨額を奪えるのだろう。「特別な天才が北朝鮮に多いわけではない」。…北朝鮮のサイバー攻撃部隊は1万人規模に達するという。国防関連の技術を盗む「91号室」、インフラ攻撃の「121部隊」、金融攻撃に特化した「180部隊」が外貨を稼ぐ。各部隊は生活を保障され、北朝鮮の若者には夢の仕事だ。大量のハッカーが試行錯誤を繰り返して経験を積み、成功につなげる暗号資産の取引所から直接金を抜き取る手法だけではない。企業が保有するデータを読み取れないように暗号化して「復旧してほしいならカネを出せ」と請求する身代金要求型攻撃も北朝鮮の得意分野だ。表面化しない被害も多い。金氏は「日本や韓国の中小企業が危ない」と警鐘を鳴らす。情報セキュリティ企業のトレンドマイクロは「日本の中小企業は専門家の支援体制が足りない」と指摘する。もし北朝鮮が日本や韓国から違法に取得した資金がミサイルに変わり、それが日本や韓国周辺に発射されるならばこれほど皮肉なことはない。一見遠回りのように見えるが、実は「国民を守る」には「国民の資産を守る」サイバー防衛が不可欠になる。脅威を裏で支える資金の蛇口を閉めなければならない。

さらに、北朝鮮のサイバー攻撃について解説した2022年11月15日付日本経済新聞の記事「巧妙化する北朝鮮のサイバー犯罪 標的は暗号資産」からも、抜粋して引用します。ここからは、北朝鮮のスキルの高さ、それに対峙する各国の無力さが浮き彫りになっています。

今年3月、このゲームの仮想世界を支えるブロックチェーン(分散型台帳)のネットワークが北朝鮮のハッカー集団に襲われ、約6億2000万ドル相当の暗号資産イーサが盗まれた。暗号資産の窃盗では過去最大規模となった同事件を検証した米連邦捜査局(FBI)は「北朝鮮の収益源になっているサイバー犯罪や暗号資産の窃盗などの不法行為を今後も摘発していく」と決意を示した。今回の暗号資産強盗の成功を見ると、北朝鮮のサイバー犯罪がますます巧妙化していることが分かる。欧米の治安当局やサイバーセキュリティ企業は北朝鮮を中国、ロシア、イランと並ぶ世界の4大サイバー脅威国とみている。国際的な制裁の履行状況を監視している国連の専門家パネルによると、北朝鮮はサイバー犯罪活動で得た資金を弾道弾ミサイル開発や核実験に充てている。米国のアン・ニューバーガー大統領副補佐官(サイバー・先端技術担当)は7月、北朝鮮が「ミサイル開発資金の3分の1をサイバー犯罪で稼いでいる」と述べた。ブロックチェーン分析の米チェイナリシスの試算では、北朝鮮は今年1~9月に分散型の暗号資産交換業者から約10億ドルを窃取した。暗号資産交換大手の米FTXトレーディングが11日に突如破綻し、不透明、場当たり的な規制、投機的な熱狂といったデジタル資産市場の特徴が浮き彫りになった。北朝鮮の暗号資産窃盗の増加はこの市場への国際規制が十分機能していないことを裏付けている。アクシー・インフィニティに対するハッキング攻撃の規模の大きさや巧妙さを見ると、北朝鮮による暗号資産への大規模サイバー攻撃に対して米国や同盟国がいかに無力かを露呈しているとアナリストは話す。略奪された暗号資産のうち、回収できたのはわずか約3000万ドル。それも各国の法執行機関や暗号資産分析会社が手を組み、暗号資産の匿名性を高めるために複数の所有者データを混ぜ合わせる「クリプト・ミキサー」や分散型交換所を介して盗まれた資金を追跡した結果だ。アクシー・インフィニティへのサイバー攻撃以降、対策を講じた法執行機関が数少ない中で、米国は8月、こうしたミキシングサービスを提供する大手業者トルネード・キャッシュを制裁対象に指定した。米財務省によると、ハッカーは同社を通じて4億5000万ドル相当を超す仮想通貨を洗浄していた。米国はその後、トルネード・キャッシュを制裁対象に再指定した。同社が北朝鮮ハッカーのサイバー攻撃に加担し、そこで調達した資金が北朝鮮の大量破壊兵器開発に使われたという。

北朝鮮が7回目の核実験に踏み切る可能性が繰り返し警告されています。その根拠の一つが、北朝鮮北東部・豊渓里の核実験場を捉えた人工衛星の画像で、日本政府が衛星画像をどのように分析しているのか詳細は明らかになっていないが、現在では、民間の商業衛星画像からも、北朝鮮が核実験の準備を進めている兆候を読み取ることができるといいます。2022年11月14日付毎日新聞で元北朝鮮パネルの委員の古川さんは「科学者が住むエリアの建物が増えているのは、核開発のための人員を集め、街の人口が増えているためと推察できます。核関連施設の温度が上昇しているのは、施設が稼働を再開したためとみられます。衛星画像からは、坑道爆破後も北朝鮮が核兵器の開発や、核を含む軍事施設やインフラの近代化を大規模に継続してきた状況が確認されているのです」と解説しています。さらに、古川さんは「新型コロナウイルス対応が一段落し、夏の農作業や台風のシーズンも終わりました。ロシアのウクライナ侵攻で、北朝鮮を取り巻く米露中の関係も変わりました。内政、外交の両面から、核実験をやりやすい環境は整ったのではないでしょうか」と分析したうえで、「第3坑道は地盤がもろいですが、その広さから、小型の戦術核実験を2~3回実施できると考えられます。地盤の固い4番坑道の準備が整った場合は、より出力の高い水爆実験に踏み切る可能性もあります」と警鐘を鳴らしています。

国連安全保障理事会は、北朝鮮によるICBM発射を受けた緊急会合を開いています。北朝鮮を巡る安保理会合は2022年だけで10回目となりますが、中国とロシアは北朝鮮を非難せず、今回も安保理として一致した対応は取れずに終わりました。リンダ・トーマスグリーンフィールド米国連大使は、日本の排他的経済水域(EEZ)に着弾したICBM発射を「日本国民の生命を危険にさらしている」と批判、「北朝鮮の責任を問う」として議長声明案を提案する方針を表明しています。さらには、「(北朝鮮を巡り)我々が意味のある行動をとれないまま集まるのは、これで今年10回目だ」と語り、北朝鮮を非難すらできない安保理の機能不全に危機感をあらわにしています。また、関係国として出席した日本の石兼公博国連大使は「弾道ミサイル発射を容認し続け、北朝鮮による核実験が起きるまで行動を取るのを待つべきではない」、「日韓のみならず、地域全体への重大な脅威だ」と非難、議長声明は、安保理決議のような法的拘束力を持たないが、発表には全理事国の同意が必要で、中国の張軍国連大使は対米批判のトーンを従来と比べて抑えつつも「北朝鮮を非難し、やみくもに圧力をかけるべきではない」と述べたほか、ロシアの国連次席大使は、米国の軍事訓練が北朝鮮の挑発行為を誘発したとの主張を繰り返しています。一方、朝鮮中央通信は、北朝鮮の崔善姫外相が、18日のICBM発射を非難した国連のアントニオ・グテレス事務総長に対し、「強い遺憾を表する」と批判する談話を出したと報じています。崔外相は談話で、ミサイル発射は、米国の軍事的脅威に対する「合法的かつ正当な自衛権行使」だと主張、グテレス事務総長の対北批判は、公平性や客観性に欠けるとし、「米ホワイトハウスか国務省の一員ではないか」と皮肉り、「米国の操り人形」とも述べています。さらに、同通信は金与正氏の談話として、国連安全保障理事会による同国のミサイル発射実験に関する会合開催は兵器開発を巡る「ダブルスタンダード(二重基準)」であり、「重大な政治的挑発」だと伝えています。

その金与正氏は、韓国の尹錫悦政権が米国と連携して対北抑止力の強化を進めていることを踏まえ、「(韓国の)国民は危うい状況を作り出す政権をなぜそのまま傍観するのか」と批判する談話を発表しています。談話は、韓国外交省報道官が、北朝鮮による18日のICBM発射に対して追加の独自制裁を検討すると語ったことに反発したもので、韓国を「米国が投げ与える骨でもかじってうろつき回る野良犬」と表現、「無用の長物のような『制裁』などに主人(米国)と犬がそれほど愛着を感じるなら、今後百回でも千回でも思う存分やってみよ」と主張、さらに「尹錫悦、あの大ばかが危険な状況を作り出している」と述べ尹氏を名指しでののしった上で、文前大統領の頃は「ソウルは我々の標的ではなかった」と強調、北朝鮮に対して融和路線をとった文前政権時代の与党は現在、最大野党として尹政権と対立しており、与正氏の発言は、南北対立が激化したのは尹政権の責任だと印象づけ、韓国内の与野党対立をあおる狙いとみられています。

国連総会第3委員会(人権)は、「北朝鮮は国民の生活向上よりも核・ミサイル開発に国力を投じている」と批判、北朝鮮の人権侵害を強く非難し、人権と基本的自由の全面的な尊重を同国政府に求める決議案を無投票で採択しています。EUが提出し、日米韓などが賛同を示す「共同提案国」に名を連ねています。同種の決議の採択は18年連続となります。年内に国連総会の本会議でも採択される見通しといいます。決議は拉致問題についても言及し、「拉致被害者とその家族の高齢化に伴い、すべての拉致被害者を直ちに帰国させること」と強く求めたほか、拉致被害者とその家族が長年経験している深刻な苦痛に対しての懸念を示し、「北朝鮮がいかなる具体的または積極的な行動もないことに重大な懸念を表明する」としています。日本の山中国連次席大使も、北朝鮮による拉致被害者の家族が高齢化し「一刻の猶予もない」として拉致被害者の即時帰還を要求しています。一方で北朝鮮の金星国連大使は採決前に「この採択は毎年繰り返されているが、政治的陰謀であり、捏造」などと反発、人権侵害は「存在しないし、存在したこともない」と否定し、「断固としてこの決議案を拒否する」と述べています。

北朝鮮国防省は、「ロシアと兵器取引を行ったことはなく、今後も計画はない」と米政府が指摘する兵器取引疑惑を改めて否定し、同副局長が「国際舞台でのわが国への見方を曇らせようとする敵対的たくらみの一環だ」と米国を批判しています。米政府は、ウクライナ侵攻の長期化で弾薬不足に陥っているロシアへ北朝鮮が大量の砲弾を密輸しているとの疑惑を繰り返し提起、国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、北朝鮮が中東や北アフリカの国々へ送ると見せかけ、大量の砲弾をひそかにロシアへ供与しているとの情報があると明らかにしていました。北朝鮮は9月にも兵器取引を否定する談話を発表しています。北朝鮮は10月、ロシアがウクライナの東部・南部4州の併合を決めると、早々に支持を表明するなど、露朝関係はこれまでになく深まっていますが、一方で、今回の取引否定は、ウクライナ侵略への加担が明らかになることで国際社会からの非難や制裁圧力が一層強まる事態を避ける狙いがあるとみられています。

中国の税関当局が18日に発表した貿易統計によると、10月の中国と北朝鮮の貿易総額は1億5386万ドル(約215億円)で、5か月連続で前月を上回り、北朝鮮が新型コロナウイルス対策として国境を封鎖した2020年1月下旬以降で最高となった今年9月の約1.5倍となりました。うち約9割が中国から北朝鮮への輸出だといいます。北朝鮮は夏頃から受け入れ物資の消毒期間を短縮し、9月には鉄道貨物輸送を5か月ぶりに再開、ただ、新型コロナ禍前の2019年10月と比べると、依然として半額程度にとどまっています。関連して、北朝鮮の平壌で、新型コロナウイルス感染症に対処した経験などを基にした技術の発表と医療機器を展示する会が11月下旬から始まっています。報道によれば、医療用の大型テントの中に、ロボットや人工呼吸器、点滴装置などが展示されているといいます。北朝鮮は新型コロナ対策で国境を越える人の出入りを依然厳しく制限し、8月に収束させたとする感染の再流行を警戒しています。展示会は、感染再拡大に備え、防疫や治療技術が改善されていると強調する狙いもあるとみられています。

北朝鮮が弾道ミサイルを発射し、宮城県内に全国瞬時警報システム(Jアラート)が発令されましたが、万一の時、どう対応すれば良いのか課題は多いといえます。屋内では窓から離れること、屋外の場合は周りの建物か地下に避難し、建物がなければ地面に身を伏せ、頭を守ること、海上では船の操舵室などの陰に隠れるといったことなど、宮城県はホームページで避難時の行動指針を示しています。一方。内閣官房によれば、Jアラートは目安としてミサイル発射の2、3分後に発令されますが、ミサイルは発射後10分前後で日本列島を通過するとされます。宮城県内で発令された2017年9月15日の場合、発射の3分後にJアラート、その6分後にミサイルが列島を通過しており、避難できる時間はこの6分程度というわずかな時間になります。報道によれば、仙台市危機対策課の照沼敏担当課長は「わざわざ指定の地下施設に移動することで危険な場合もある。地下がない場合は他の指定施設か近くの頑丈な建物に避難し、窓から離れて」と呼びかけています。一方。緊急一時避難施設の周知には課題も残り、建物に避難施設と示す看板などを設置しているケースはまれだといえます。内閣官房は「自然災害と同じように、分かりやすいピクトグラム(図記号)の表示を設置することも含めて検討中」としているものの、宮城県と仙台市も国と協力し、緊急一時避難施設を使った訓練を2023年にも実施したい考えだといいます。また、政府は、Jアラートについて、ミサイルが日本列島上空へ接近する可能性がある場合は迅速性を優先して発令する方向で検討しており、これまでの北朝鮮のミサイル発射への対応では、正確性も重視したために発令が遅れたことをふまえ、ミサイル発射が日米の監視網で探知された場合、防衛省が射出速度や角度から弾道軌道を計算し、列島上空へ接近するかどうかを判定、連絡を受けた内閣官房が発令する国民保護情報は人工衛星などを通じて全国の自治体へ送られ、自動的に起動する防災行政無線などを通じて住民に伝えられるのがJアラートの仕組みとなっているところ、自民党の会合で加議員からは、「誤報を恐れずに迅速性を優先すべきだ」などの声が上がっています。政府は現在検討中のJアラートの改善策として、列島上空に弾道ミサイルが接近する前に発令できるような対応を目指す方針といいます。一方、Jアラートシステムそのものを根本的に見直すべきとの意見もあります。

Jアラートの見直しとともに、各都道府県などは着弾に備えた緊急一時避難施設の指定を急いでいます。政府は施設が約5万2千カ所に達した2021年4月から5年間を集中的な取り組み期間と位置付け、自治体に一層の指定を求めてきましたが、施設の場所や近くに施設がない場合の対応など住民への周知は十分とはいえず、万が一の際に機能しない可能性もあります。政府が整備を進める緊急一時避難施設は、他国からのミサイル攻撃などで生じる爆風などから一時的に身を守るための避難先で、Jアラートが発令された際、屋外にいる人が逃げ込む施設として想定されています。ただ、その運用を巡っては課題も多く、そもそもどこに施設があるかを把握している住民は少なく、11月3日にJアラートが発令された宮城、山形、新潟3県では、実際にはミサイルが上空を通過しなかったものの、発令直後も活用が進まなかったとの指摘もされています。山形県ではミサイル着弾時の爆風などから身を守る緊急一時避難施設を増強する方向で各市町村と調整を進めているといいます。県内に563か所(2021年4月1日現在)ある施設を200か所以上増やす方針とのことです。ただ、施設の存在が県民に浸透しておらず、周知が課題となっています。緊急一時避難施設は、山形県内全35市町村にあり、コンクリート造りの体育館などが指定されていますが、このうち、25か所は地下道で、山形市など7市町にあります。秋田県も、ミサイル着弾時の爆風などから身を守る「緊急一時避難施設」について、地下道約30か所を2022年度中に新たに指定する方向で調整しているといいます。すでにコンクリート造の学校校舎などが指定されていますが、地下施設は一般の建物よりも、被害を減らす効果が期待できるとされ、地下施設の指定は県内では初めてとなります。緊急一時避難施設は国民保護法に基づいて知事などが指定することになりますが、ミサイル着弾時の爆風や破片による被害を減らすための施設で、屋外にいる避難者が1~2時間程度身を寄せることを想定しているといいます。コンクリート造の学校校舎や公民館など県内全25市町村に677か所(11月8日時点)ありますが、北朝鮮の相次ぐミサイル発射を受け、県は爆風などの被害をより減らせる地下施設の指定を調整しています。地下鉄の駅や地下街が整備された都市部とは異なるため、指定される地下施設は全て地下道となる見込みです。

ミサイル発射を想定した訓練も全国で行われています。

  • 大分市は、市役所で弾道ミサイルの飛来を想定した避難訓練を行いました。市職員約50人が避難誘導の手順を確認して緊迫した様子で訓練に臨み、訓練の様子は、12月上旬をめどに市公式動画チャンネルで公開し、市民に周知するとしています。ミサイルを想定した市の避難訓練は2017年7月以来2回目で、今回は他国からのミサイルが九州に飛来することを想定しています。午前9時に、訓練用のJアラートの放送が流れると、職員は爆風で窓ガラスが割れて飛散しないようブラインドを下ろし、その後、市民役の職員を窓の少ない議会棟に避難誘導したり、窓から離れて頭を抱えて身を潜めたりしました。市防災危機管理課の工藤政策監は「ミサイルが万が一落下したら、爆風で窓ガラスが割れてけがをする可能性がある。Jアラートが流れたら落ち着いて窓から離れるなど避難してほしい」と呼びかけています。
  • 内閣官房や沖縄県などは、弾道ミサイルの飛来を想定した住民避難訓練を日本最西端の同県・与那国島で初めて実施しています。報道によれば、午前10時過ぎ、「ミサイル発射。建物の中、または地下に避難してください」という防災行政無線の放送が流れると、島民約20人が近くの公民館に逃げ込み、参加者は「ミサイル通過」という安全を知らせる放送が流れるまでの約5分間、しゃがみ込んで両手で頭を抱えて安全を確保していました。与那国島南方の日本の排他的経済水域(EEZ)には2022年8月、大規模演習を実施していた中国軍の弾道ミサイルが落下しています。内閣官房によると、国と自治体は2022年度、北海道や山形県、新潟県など9道県の11市町村で弾道ミサイルに対応する訓練を行う予定としています。

3.暴排条例等の状況

(1)暴力団排除条例に基づく社名公表事例(北海道)

暴力団員らが密漁したナマコを繰り返し買い取ったとして、北海道公安委員会は、北海道暴排条例(北海道暴力団の排除の推進に関する条例)に基づき、水産加工業者の事業者名を北海道警察のホームページに公表しています。同条例違反に基づく事業者名の公表は道内初となります。

▼北海道警察 公表当事者情報

公表の原因となる事実として、「ロイヤルフーズ合同会社は、平成31年1月10日、指定暴力団員等が密漁したなまこ約550キログラム(取引価格227万5,000円)を譲り受けたことにより、北海道暴力団の排除の推進に関する条例第22条の規定により勧告を受けた者であるが、当該勧告に従わず、令和3年3月2日、札幌市白石区内において、指定暴力団六代目山口組三代目弘道会福島連合組員等が北海道室蘭市付近の海域において密漁により得たなまこ約495キログラム(取引価格163万4,000円)を譲り受けたもの」と公表されています。なお、この記事の掲載期間は、令和4年11月8日から令和4年12月7日ということです。

▼北海道暴力団の排除の推進に関する条例

同条例第15条(利益供与の禁止)において、「事事業者は、その行う事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、次に掲げる行為をしてはならない。(1)暴力団の威力を利用する目的で、財産上の利益の供与をすること。(2)暴力団の威力を利用したことに関し、財産上の利益の供与をすること。(3)暴力団の活動又は運営に協力する目的で、相当の対償を受けることなく財産上の利益の供与をすること。」との規定があり、これに抵触したとして、第22条(勧告)の「北海道公安委員会は、第14条、第15条第1項又は第17条第2項の規定に違反する行為があった場合において、当該行為が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、当該行為をした者に対し、必要な措置を講ずべきことを勧告することができる」の規定に基づき、勧告を受けたものと考えられます。そのうえで、第23条(公表)の「北海道公安委員会は、正当な理由がなく第21条の規定による報告若しくは資料の提出をしなかった者又は前条の規定による勧告に従わない者があるときは、その旨を公表することができる。」の規定に基づき、今回、社名公表に至ったものと考えられます。

(2)暴排条例に基づく指導・勧告事例(大阪府)

暴力団組員の出所祝いの場所と料理を提供したとして、大阪府警は、大阪府内の焼き肉店の60代店主と、いずれも50代の暴力団組長2人を、大阪府暴排条例に基づき指導・勧告したと発表しています。報道によれば、店主は7月13日夜、六代目山口組系の組長を含む暴力団員24人に対し1人8千円相当、計約19万円の飲食を提供したもので、刑務所を出所した組員の「放免祝」で、店は貸し切り状態だったといいます。また、組長2人のうち1人は、大阪府東大阪市のそば屋で組の定例会を開いていたとして3月に指導を受けていたといい、今回、指導に従わなかったとして勧告となったとのことです。今後、この組長が勧告に従わなかったときは氏名が公表されることになります。

▼大阪府暴力団排除条例

同条例の第14条(利益の供与の禁止)において、第3項「事業者は、前二項に定めるもののほか、その事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる利益の供与をしてはならない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない」と規定されており、本件はこの規定に抵触したものと考えられます。また、暴力団員については、第16条(暴力団員等が利益の供与を受けることの禁止)において、第2項「暴力団員等は、事業者から当該事業者が第十四条第三項の規定に違反することとなる利益の供与を受け、又は事業者に当該事業者が同項の規定に違反することとなる当該暴力団員等が指定した者に対する利益の供与をさせてはならない」と規定されており、これに抵触したものと考えられます。そして、同条例の第23条(勧告等)において、「公安委員会は、第十四条第三項又は第十六条第二項の規定の違反があった場合において、当該違反が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該違反をした者に対し、必要な指導をすることができる」と規定されており、指導がなされたものと考えられます。さらに、同じく第23条の第5項において、「公安委員会は、前項の指導を受けた者が正当な理由がなく当該指導に従わなかったときは、公安委員会規則で定めるところにより、必要な勧告をすることができる」と規定されており、組長のうち1人については、これに基づく勧告が出されたものと考えられます。

(3)暴排条例に基づく勧告事例(群馬県)

群馬県警組織犯罪対策課は、群馬県暴排条例に基づき、暴力団の運営に資する目的で開催される会合と知りながら、暴力団から申し込みを受けて店の利用契約を結んだとして、太田市内の飲食店に勧告しています。

▼群馬県暴排条例

同条例第17条(金品等の供与の禁止)において、「事業者は、その行う事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、情を知って暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる金品その他の財産上の利益(以下「金品等」という。)の供与をし、又はその申込み若しくは約束をしてはならない」規定されており、本事例はこれに抵触したものと考えられます。そして、第23条(勧告)において、「公安委員会は、違反行為があった場合において、当該違反行為が暴力団排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該違反行為をした者に対し、必要な勧告をすることができる」と規定しています。

(4)暴排条例に基づく逮捕事例(東京都)

ガールズバー経営者からみかじめ料として現金5万円を徴取したとして、警視庁新宿署は東京都暴排条例違反容疑で、住吉会系組織組員を逮捕しています。また、新宿署はみかじめ料を同組員に支払ったガールズバー経営者の男も同容疑で逮捕しています。報道によれば、もともと組員は、経営者の男に、ガールズバーの開業資金を貸していたとのことであり、「俺が出資した店なんだから、用心棒代を支払ってくれ」などと迫り、男は組員の求めに応じ、2020年1月からみかじめ料を支払っており、支払った金額は100万円以上になるということです。2022年6月、男が「暴力団と関係を断ちたい」と新宿署に相談したことで、事件が発覚したといいます。

▼東京都暴排条例

同条例第25条の3(特定営業者の禁止行為)第2項において、「特定営業者は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、暴力団員に対し、用心棒の役務の提供を受けることの対償として、又は当該営業を営むことを暴力団員が容認することの対償として利益供与をしてはならない」、また、第25条の4(暴力団員の禁止行為)第2項において、「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、特定営業者から、用心棒の役務の提供をすることの対償として、又は当該営業を営むことを容認することの対償として利益供与を受けてはならない」とそれぞれ規定されており、経営者の男と組員がともに抵触したものと考えられます。そのうえで、第33条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。一 第22条第1項の規定に違反して暴力団事務所を開設し、又は運営した者 二 第30条第1項、第2項又は第5項の規定による命令に違反した者 三 相手方が暴力団員であることの情を知って、第25条の3の規定に違反した者 四 第25条の4の規定に違反した者」と規定されており、それぞれ適用されたものと考えられます。

(5)暴力団対策法に基づく逮捕例(東京都)

みかじめ料を要求しないよう、東京都公安委員会から、暴力団対策法に基づく再発防止命令が出ていたにもかかわらず、再び要求したとして、住吉会系幹部が逮捕されています。報道によれば、2022年7月、東京・清瀬市で、居酒屋を経営する男性に、「うちと付き合うのか、付き合わないのか、どうするんだ」などと迫り、みかじめ料を要求した疑いがもたれており、容疑者は、直前の6月にみかじめ料を要求しないよう、東京都公安委員会から、再発防止命令を受けたばかりだったといい、命令に従わず、再び要求したため、暴力団対策課などは、逮捕に踏み切ったものです。そもそも、同容疑者は、2021年9月ごろから、清瀬市内の複数の飲食店に対して、みかじめ料の要求を始めたといい、「俺は地回りだ。付き合いをしてくれ」などと迫っていたものの、店側からは、いずれも拒否されていたといいます。

▼暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)

暴力団対策法第9条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない。」として、「四 縄張(正当な権原がないにもかかわらず自己の権益の対象範囲として設定していると認められる区域をいう。以下同じ。)内で営業を営む者に対し、名目のいかんを問わず、その営業を営むことを容認する対償として金品等の供与を要求すること」が規定されており、さらに、第11条(暴力的要求行為等に対する措置)第2項において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をした場合において、当該指定暴力団員が更に反復して当該暴力的要求行為と類似の暴力的要求行為をするおそれがあると認めるときは、当該指定暴力団員に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、暴力的要求行為が行われることを防止するために必要な事項を命ずることができる。」と規定されています。そのうえで、第46条において、「第四十六条 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」として、「一 第十一条の規定による命令に違反した者」が規定されており、これが適用されたものと考えられます。

(6)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(沖縄県)【1】

沖縄県警宜野湾署は、建築作業員で10代の少年に暴力団組織へ加入するよう勧誘したなどとして、旭琉会三代目富永一家構成員に暴力団対策法に基づく中止命令を出しています。

暴力団対策法第16条(加入の強要等の禁止)において、「指定暴力団員は、少年(二十歳未満の者をいう。以下同じ。)に対し指定暴力団等に加入することを強要し、若しくは勧誘し、又は少年が指定暴力団等から脱退することを妨害してはならない」と規定されています。また、第18条(加入の強要等に対する措置)では、「公安委員会は、指定暴力団員が第十六条の規定に違反する行為をしており、その相手方が困惑していると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該行為を中止することを命じ、又は当該行為が中止されることを確保するために必要な事項(当該行為が同条第三項の規定に違反する行為であるときは、当該行為に係る密接関係者が指定暴力団等に加入させられ、又は指定暴力団等から脱退することを妨害されることを防止するために必要な事項を含む。)を命ずることができる。」と規定されています。

(7)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(沖縄県)【2】

沖縄県警うるま署は、2021年11月に自営業の40代男性に対し、威力を示し、干支の泡盛の購入を要求したとして、旭琉会二代目志多伯一家構成員に暴力団対策法に基づく中止命令を出しています。

暴力団対策法第9条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない。」として、「二 人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること。」が規定されており、さらに、第11条(暴力的要求行為等に対する措置)第1項において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

(8)暴力団対策法に基づく再発防止命令発出事例(栃木県)

2022年7月中旬ごろから8月にかけて栃木県の中央部にある風俗店3店舗に対してみかじめ料を要求し宇都宮中央警察署長から2022年9月に暴力団対策法に基づく中止命令を受けている宇都宮市の住吉会系幹部に対し、栃木県公安委員会、何度も暴力的要求行為をするおそれがあるとして暴力団対策法に基づき再発防止命令を出しています。

暴力団対策法第9条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない。」として、「二 人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること。」が規定されており、さらに、第11条(暴力的要求行為等に対する措置)第2項において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をした場合において、当該指定暴力団員が更に反復して当該暴力的要求行為と類似の暴力的要求行為をするおそれがあると認めるときは、当該指定暴力団員に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、暴力的要求行為が行われることを防止するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

(9)暴力団関係事業者に対する指名停止措置等事例(福岡県・福岡市・北九州市)

直近1カ月の間に、福岡県において2社が、また福岡市と北九州市において1社が、「排除措置」が講じられ、公表されています。

▼福岡市 競争入札参加資格停止措置及び排除措置

本コラムでは、福岡県・福岡市・北九州市において、指名停止措置や排除措置が高じられ、社名が公表されたものを取り上げていますが、今回は、福岡市のみ「暴力団との関係による」として1社が公開されています(期間は令和4年11月9日から令和6年5月8日までの18か月間。福岡県・北九州市ではいまだ未公表です)。今後、福岡県・北九州市でも指定されるのか注目したいところです。

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