ロスマイニング トピックス

店舗におけるヒューマン・リソース・マネジメント

総合研究部 上席研究員(部長) 伊藤岳洋 総合研究部 上席研究員(部長) 伊藤岳洋

資格:中小企業診断士/主な研究分野:ロス対策、コンプライアンス、内部統制、経営理論

2016.06.22
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 皆さま、こんにちは。

 本コラムは、消費者向けビジネス、とりわけ小売や飲食を中心とした業種にフォーカスした経営リスクに注目して隔月でお届けしております。

 第2回目は、店舗におけるヒューマン・リソース・マネジメントを考えてみたいと思います。前回の本コラムでも、ロス対策が有効に機能するには、人に対するアプローチが不可欠であることを説明してきました。店舗において棚卸減耗や商品評価損だけがロスではありません。多くの従業員が働く意欲を持って効率的な業務を行いながら、その能力を高めていかなくては、それはやがてロスにつながることになります。店舗における組織特有の事情や一般の組織と共通する問題などを考えながら、店舗においてあるべきヒューマン・リソース・マネジメントという視座で解説してまいります。

店舗におけるヒューマン・リソース・マネジメント

 店舗の従業員は、業態によりその構成員の違いに大小はありますが、一般的に、パート・アルバイトが大部分を占めています。店長などの責任者は、従業員管理を含めた店舗の運営にかかわる全てのマネジメントを行うことで日々の売上、利益を追求することになります。接客などの顧客対応や商品の仕入、保管、陳列などの実務は店舗従業員の大部分を占めるパート・アルバイトが担っています。したがって、そのような従業員に対するマネジメントは日々の店舗運営には不可欠であり、さらにいえば、店長の存在意義の証明とさえいえるほど重要になってきています。

 そもそもマネジメントとはどのようなものなのでしょうか。マネジメントとは、一般的に「管理」「監督」と訳され、使用されることがよくあります。ただ、それだけではやはり抽象的であり、責任者としての仕事をはっきりと定義できません。マネジメントには2つの側面があります。ひとつは、人・モノ・カネ・情報という経営資源を上手に配分して有効活用すること。もうひとつは、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回すことです。

 第一の側面は経営資源の効率的な配分です。企業には「なりたい姿」や「ありたい姿」というビジョンが一般的にはあります。そのビジョンを実現するため、戦略を構築して具体的な施策を打ち出します。店舗をもつ企業は、本部と店舗の役割分担があり、それぞれの役割に応じた戦略に沿って、施策を実行してビジョンを実現することが求められます。

 店舗においては、商圏のマーケットをにらみ、自社の持つ経営資源を上手に組み合わせ、適切に投入して最大のパフォーマンスを発揮することが求められるのです。
その場合、経営資源の配分にはさまざまなパターンがあります。たとえば、人員配置を変える、顧客のニーズにあわせた新商品を投入する、商圏の客層に合わせて売り場の構成を変える、特定の部門に集中的に投資する、在庫投資を変えるなどです。こうした資源の組み合わせや投入の仕方によってその結果も変わってきます。

 その配分の中で最も固定化しやすく、最適な配分になっていなくても(ミスマッチになっていても)気がつきにくいのは人員配置ではないしょうか。店舗における担当者の配置は、商品カテゴリーごとやサービスカテゴリーごとに行われるのが一般的です。その場合、誰がどのカテゴリーを担当するかは非常に重要で、特に人員の限られる店舗などの小さな組織では営業結果に直結する傾向が強く現われます。

 例えば、店舗における稼ぎ頭となっているカテゴリーの担当や複雑のサービスの担当は、ベテランの従業員が担うことが多いです。そのときの人員配置としては、売上や顧客サービスの点でベストの資源配分だったかもしれませんが、手法やスキルの進化や革新などの工夫を怠り、現状に安住するといずれは最適ではなくなります。それは、ベテラン従業員ほど仕事に慣れが出てきて、慢心という油断につながる傾向があるからです。常に謙虚な気持ちで顧客の期待に応えようとして商品やサービスの入れ替え、つまり、現状否定をすることは並大抵の意識レベルでは継続できません。中途半端な姿勢のベテランほど決まって、お客様からのクレームをいただきます。

 逆に、ベテランに比べて知識・技術の乏しい新人は、クレームをいただくことが少ないものです。それは、顧客のことを第一に考えるという一生懸命さ、つまり、ホスピタリティがあれば知識・スキルの不足をカバーすることもできますが(もちろん一生懸命であれば、それだけで良いということでもありませんが)、単に知識・スキルがあるだけではホスピタリティの源泉である心はカバーできないということを示しているともいえます。

 人員配置を決める配置転換には3つの意義があります。ひとつ目はこれまでの説明のとおり、適材適所を図ることです。「かつての適材適所」は「今の適材適所」とは限りません。

 当初は最適な配置であった店舗のメンバーでもお互いに長く仕事をしていると、悪い意味での慣れが出てきて、よりパフォーマンスを上げようとする意欲や努力が不足しがちになるものです。そうであれば、新しい担当者の方がより良いパフォーマンスを発揮するかもしれません。配置転換をためらえば、そのようなチャンスをみすみす失うことになりかねません。

 二つ目は従業員に成長の機会を提供することです。誰でも同じ仕事を続ける方が楽ですし、同じ仕事を続けることでその仕事に対する熟練度は上がるでしょう。しかしながら、同じ仕事を続けることは、狭い世界に閉じこもることにもなります。それでは、仕事を通じての成長に限界が出てきます。そして、それは企業の成長の鈍化に直結することを意味します。さまざまな仕事に携わりながら、困難を克服していくことで広い視野をもった職業人に成長することができるのです。

 一方で、そうは言っても、正社員はもとより店舗の従業員の大半を占めるパート・アルバイトの働く理由はさまざまですので、そこで配置転換と同時に、あるいはそれ以上に働く目標も確認する必要があります。そもそも「やりがい」や「満足」がなければ、十分な顧客へのホスピタリティを発揮しようとする意欲が醸成されるはずがありません。お客様や一緒に働く同僚のお役に立ち、その方々から感謝されたときに、人として高次の欲求が満たされるのです。

 継続的に従業員の「やりがい」や働くことの「満足」を得ることには、自分の将来像やキャリアパスに近づくようなチャレンジする動機や環境が必要です。たとえば、学生であれば就職活動を通じて、社会人として通用する基礎を磨くことです。また、フリーターであれば、正社員への登用・途用を目標にさまざまな仕事を経験することで成長が促され、実績を積み重ねることで目標に近づくことができます。正社員であれば、なおさらキャリアパスを描くことの重要性が増します。

 三つ目の意義は「ヌシ化」を防ぐことです。ヌシとは特定の仕事を一人で丸抱えした従業員のことです。特に店舗など小さな組織においては最適な人員配置で結果が出ると、その成功体験から担当替えなどの配置転換を行いづらく、固定化しやすくなります。さらに、固定化が長期間に及び、その担当者でなければ業務を行えない、業務の詳細が他の従業員にはわからないなどの現象(属人化)が生じてきます。にもかかわらず、「現状の好調を維持したい」、「配置転換して売上が下がったら困る」などの思惑から店舗責任者はますます配置転換を行いづらくなります。

 こうした配置の固定化はヌシ化した従業員を生み出すことになり、周囲の従業員はもとより店舗責任者であっても意見しづらくなります。ヌシは自分の慣れたやり方や手順で仕事を進めたがります。新たな挑戦や変革を嫌う傾向にあり、組織から活気を奪います。ヌシしか知らないこと、ヌシしかできないことが増えていくとそれが不祥事や不正の温床ともなりかねません。

 そもそも特定の人がいなければ仕事が成り立たないという状態は、リスク管理上問題があります。不測の事態が生じても滞りなく仕事が成り立つ体制を整備することも店舗を管理する立場の人には必要です。そのような意味においても、配置転換を恐れずに断行して欲しいものです。但し、稀なケースですが、ヌシ化した人の業務が超ハイレベルでプロフェッショナルなものでありながら、彼が謙虚な姿勢を崩さず、人格者であり、自らのノウハウを周囲に継承している場合は別です。

 さて、主に人をテーマに説明してきましたが、モノ、カネ、情報の場合でも同じことがいえます。商圏というマーケットに対して、どのような商品を訴求していくのか、その訴求には店舗でのプロモーションを行うのか、チラシを撒くのか、ネットを利用するのか、または、その組み合わせなのか等々です。最適配分を実現するには、自店の経営資源(の可能性・伸びしろと限界)を把握しておく必要があります。特に人の場合は、一人ひとりの実力、実績、経験値、性格などを熟知していなければ最適な配置はできません。

 また、自店の商圏についても深く理解しておく必要があります。どのような世帯が多く、その収入レベル、競合店の状況とその使われ方・選択基準など外部環境にも意識を向ける必要があります。その上で商圏のお客様に自店がどのように使われ、選ばれているのか、どのような商品が売れるのか、売り場の構成や在庫の持ち方、誰がどの商品を担当するのかなどを検討して経営資源を配分することになります。この最適配分によるシナジー効果が経営資源の限界をブレークスルーすることにもなるのです。

 マネジメントの第二の側面は、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回すことです。あらためてPDCAを説明すると、計画(Plan)を立て、実行(Do)に移し、その結果を評価(Check)することで次の改善(Action)を行うという一連のサイクルを繰り返していくことです。

 策定した戦略の実現がゴールであるとすれば、そのゴールから逆算して計画を立てることになります。仕事のスタート地点からゴール地点を見渡した上で、ゴールから逆算して、どの仕事をいつまでにどう進めるのか、誰にやらせるのか、そのような計画を立てて実行できる人は、段取り良く仕事を進めることができます。段取り良く仕事を進められる人は、仕事の全体像を捉えることを忘れずに逆算力を働かせています。この二つの習慣を身に付けるには、PDCAサイクルを実証的に回すことが最適です。

 店舗における業務でもそれは当てはまります。季節の変動・影響による商品動向の変化や、祭事・イベントなどは全体像を捉えた上で、それに即した具体的な準備を逆算して事前に行っていく必要があります。売り場担当者ごとに営業的成果を追求するためのPDCAも必要になってきます。

 また、同様に従業員の教育にもそれは当てはまります。各個人の経験や現状の知識・スキルを把握した上で、どのような目標や課題を設定して、いつどのように取り組んで行くのか個人別に計画を立てます。その計画の進捗状況を把握しながら評価し、改善策を考えます。その時、指導する側の責任者が現場で優秀だった場合には、実は注意が必要です。

 優秀な人は頭の中でPDCAサイクルを自然に組み立てて実践してきた場合が多いものです。一般の能力の人は、そもそもPDCA回すことはおろか、計画自体もきちんとそれに向き合わなければ立てることすら覚束ないでしょう。したがって、優秀な人は一般の能力の人がどこで躓くのか気がつかなかったり、見落としたり、叱責しがちになります(「何故できないのか」、「簡単にできるだろう」など)。まさにそこに落とし穴があります。

 基本はフォーマットなどの枠組みを用意してPDCAを記入する方法を推し進めることが望ましいと言えるでしょう。その枠組みにしたがって各従業員が、まずは自分の頭で考えていくことです。そのような方法を取ることで、計画の質は別として、少なくとも目標に従った計画を立てられるようになります。

 しかしながら、PDCAサイクルを回して行くことを組織的に定着させるには困難が伴います。一旦はPDCAサイクルを回したとしても、それを継続的に行うところで躓きがちになり、いつの間にか止まってしまいます。よく陥りがちになるのは、PDの領域で留まりCAの領域に到達しないことであったり、PDPDの繰り返しになってしまったりすることです。C(評価)がないと同じ計画が実施されることになり、失敗の反省と検証が活かされないことになるだけでなく、時代の変化にも対応できなくなります。

 店舗責任者が忙しくC(評価)を行う余裕がないということが往々にしてありますが、そもそもP(計画)が甘かったり、曖昧なケースや無理なケースが多かったりするため、D(実行)に移せないことも多いのです。それは、P(計画)であるにもかかわらず、単なる目標(あるいは掛け声)に留まっており、それを実現する手立てが計画に盛り込まれていないためです。このように計画と目標の違いを店舗責任者が理解していないと、期待する数字や実現する結果のみを示して「あとはよろしく」と丸投げしていることと同じになってしまいます。計画はあくまで実行できるレベルまで具体化する必要があります。

 先に述べたように頭の中で自然にPDCAサイクルを回すことができる人は、ほんの一握りの優秀な人です。大半の人はやはり紙やフォーマットに書いて整理して取り組む必要があります。そして、次にPDCAサイクルを回すタームについてですが、店舗の仕事は曜日による販売動向に対応したり、仕入のサイクルなども勘案したりすると一週間単位でPDCAサイクルを回すことが運営管理の基本となります。当然、そのサイクルを土台として月間単位、四半期単位、半期単位、年間単位とサイクルの幅が大きくなるマネジメントも必要になってきます。企業単位であれば、中期経営計画までサイクルの幅が広がるはずです。

 企業が競争優位性を持続するには内部資源を活用することが必要であるというリソース・ベースド・ビューでは、最適な組織がその優位性の源泉となっています。経路依存的に醸成されるケイパビリティは、調達される経営諸資源が平等で平準化されたものだと仮定すれば、教育を含めたヒューマン・リソース・マネジメントの強化なくしては担保されません。その意味で経営幹部や店舗責任者はそこに労力も時間も費用も投入するべきなのです。そのためには、優秀な責任者であっても、冷淡であってはいけませんし、周囲とのコミュニケーション能力は、その優秀さの必須条件でもあるべきでしょう。

注目トピックス

1)「HR(ヒューマン・リソース)テック」人工知能(AI)を採用、評価、配属に使用

 会社の採用、評価、配属などの人事に関する人工知能(AI)サービスが登場しました。人材紹介会社のビズリーチとヤフー、米セールスフォート・ドットコムは6月14日、仕事ぶりなどのデータをもとにコンピューターが採用や評価、配属を決める事業を始めると発表しています。

 ITを使って採用、評価、配属をする手法を「HR(ヒューマン・リソース)テック」と言います。「HRテック」は特に欧米の企業が先行し、独SAPや米オラクルなどがシステムを広げています。欧米型は多種多様な業態で利用できるように水平分業が進んでいる点が特徴です。それに対してビズリーチなどは垂直統合型です。採用から入社後の働きぶりや成果まで総合的にサービス提供することを目指しているようです。このようなITを使った新しい潮流には金融分野の「フィンテック」、教育分野の「エドテック」などが先行しています。

 「HRテック」は勤怠管理、評価ツールなどを導入して、採用面接から現在に至る評価の積み重ねだけでなく、働きぶりを追跡調査してデータベースにします。このビックデータから特徴を自分で見つけ出して学習するAIの基幹技術である深層学習(ディプラーニング)で分析します。その結果、評価や最適な職場、ポジションを割り出します。
 このようなシステムを導入した欧米の企業では、転職しそうな人を対象にこのシステムを使い、最適な職場を割り出して異動させたことにより、退職者を300人減らすことに成功した事例もあるそうです。退職を防ぐことによって無駄な採用コストを削減できるほか、人員という経営資源の最適な配分につながる可能性があります。

 評価・配属などの人事は上司の「勘や経験」に頼り、不透明さがあるとの批判や不信感が従来から根強くあります。好き嫌いで評価が左右され、社員の士気を下げてしまうという問題は、評価者が人である以上、完全に排除することはできません。だからこそAI人事の潜在的な需要は大きいとの見方があります。確かに過去や現在のデータを駆使するAIは、変化の少ない経営環境では効果を発揮しやすいかも知れません。また、繰り返されるような未来に関してもある程度織り込むことは可能でしょう。しかしながら、技術革新や突然の環境変化でまったく新しい人事戦略が必要に迫られた場合は人の判断、つまり、経営者の判断が必要になります。

 また、目立つ成果でわかりやすく評価される業績は決して一人の力ではないはずです。それを裏で支える管理系の人がいたり、直接協力するチームの人がいたりします。そのような貢献に応じた評価をAIが分析できるよう評価システムに盛り込むことができなければ、組織やチームとしての成果を達成しようというインセンティブを失うことになりかねません。

 このように「HRテック」は評価者が本来、一人ひとりの能力や仕事ぶり、成果、その達成プロセスを十分把握しなければならないという普段のマネジメントを補完するものでしかないのではないでしょうか。「HRテック」は、人による好き嫌いなどのネガティブな要素を排除すると同時に、上司による経営資源の配分やPDCAサイクルを回すというマネジメント、そのマネジメントを通じて行われる社員の成長促進、その両方を退化させる(マネジメントする人の能力を伸ばす機会を奪う)ことになりかねないとの危惧があります。したがって、優秀な管理者を育成することが先決で、それを補完する仕組みとして「HRテック」を活用していくことが現段階では有用ではないでしょうか。

 働いているのは人なので、磨かれた経営者や管理者の人格がもたらす「共感」という感情も仕事をするうえでは働く人のモチベーションに影響を与えることを忘れてはなりませんし、そうあるべきではないかと思います。前記の「退職者を300人減らすことに成功した事例」があるなら、失敗事例も知りたいところです。また、いずれ管理者や経営者の評価もAIがすることになれば、そのAIを誰が評価するのかという根本問題も突きつけられる可能性もあります。

2)オイシックス、とくし丸を買収 移動スーパーを強化

 野菜宅配のオイシックス株式会社は、移動型スーパーマーケットを全国展開する、株式会社とくし丸(徳島市)を5/30付けで買収しました。とくし丸の発行済み株式の90%をオイシックスが取得し、連結子会社としたものです。

 とくし丸は、日本全国のスーパーマーケットと提携し、いわゆる移動販売の「移動型スーパーマーケット」の仕組みをフランチャイズ方式で提供する事業を展開しています。33都道府県で52社のスーパーマーケットと提携(とくし丸HP、6/17)し、主な利用客は70代、80代の「買い物難民」といわれる方々です。「移動型スーパーマーケット」といっても軽トラックにボックス型のコンテナを載せ、そこに400アイテム、1200個の商品を収納してコンテナの側面を開けるとそのまま販売什器になる、極めてコンパクトな形態です。

 移動販売や宅配では、配送コストと利用の偏りなどから利益の確保が難しいという構造的な問題を抱えています。その中でも、とくし丸はひとつの成功モデルとして注目を集めていました。この買収は、ネット宅配のオイシックスが「豊かな食生活を、より多くの人に」という経営理念に合致するとくし丸の事業を更に拡大したいという、関連多角化と捉えることができます。

 このような新しいビジネスが現れつつある背景には、日本における人口・世帯の変化があります。このような人口・世帯の変化は小売店にとって直接的な脅威となっており、現状維持に留まれば、やがて閉店に追い込まれかねないリスクとして認識すべきです。

 国立社会保障・人口問題研究所の予測によれば、少子高齢化は今後も進展すると予想されており、2030年には、高齢化率(高齢人口の総人口に対する割合)は31.6%と国民の約3人に1人が65歳以上の高齢者となる見込みです。こうした人口構成の変化に伴い、世帯構成にも変化が見られます。総世帯数は2015年から減少していき、1世帯あたりの人数も2000年の2.67人から2030年には2.22人まで減少していくことが予想されています。また、世帯別にみると「単身世帯」および「ひとり親と子からなる世帯」の構成比の伸びが著しい一方で、「夫婦と子からなる世帯」は減少すると予想されています。

 生活者の居住地域については、人口の都市部への集中傾向が今後も続くことが予想されています。2000年代前半には三大首都圏の人口がそれ以外の人口を上回ったとされていますが、現在その差はさらに拡大して、2050年には三大首都圏の人口は56.7%に達すると予想されています。さらに、人口の伸びの大半は東京圏の人口の伸びによるものであり、2050年には人口の約3分の1が東京圏に居住すると予想されています。

 そのような人口の変化の進展により、特に地方では人口減少や高齢化に伴い、市場の縮小や買い物困難者のさらなる増加が予想されます。商圏の需要が縮小してさまざまな小売業で奪い合う構図となり、より多くの需要を取り込む必要がある地方の大型商業施設は成立が難しくなる可能性が高くなってしまいます。売り場面積の大きい食品スーパーや大型店がより厳しい条件に直面するということです。

 それは従来の来店促進型小売経営形態の限界を示しています。そこで従来の流通システムで対応できていない需要の取り込みや潜在需要の掘り起こしという視点で、ネットスーパーなどの宅配サービスや移動販売、店舗への移動手段の提供などの新しい試みがなされているのです。

 ここまでは小売店側からの視点で問題を考察してきましたが、主に消費者側からの視点へと角度を変えて問題を見直してみます。「買い物」という日常生活で当たり前の行為が、高齢化を契機に身体的にも経済的には対応が困難になり、高齢者を中心に深刻な問題となっていることを初めて指摘したのは杉田(2008)『買い物難民』という著書です。同書において、「商店街の衰退や大型店の撤退などで、その地域の住民、特に車の運転ができない高齢者が、近くで生活必需品を買えなくて困っている状態」と定義しています。

 国としても買い物弱者問題の対応方策を検討しています。(経産省「買物弱者対策支援について」

 そのなかの「買い物弱者・フードデザート問題等の現状及び今後の対策のあり方に関する報告書」において、フードデザートは買い物難民と同義語として理解することができます。農林水産省のフードデザート問題研究グループによるフードデザートの定義は、「社会的弱者(高齢者、低所得者など)が集住し、商店街などの消失などに伴う買い物環境の悪化(食料品アクセスの低下)と、家族・地域コミュニティの希薄化に伴う生活支援の減少(ソーシャル・キャピタルの低下)のいずれか、或は両方が生じたエリア」とされています。

 広範な周辺地域から自家用車による来店促進をした郊外の大規模店舗の撤退が買い物難民の問題を象徴する事象と捉えがちですが、このような定義に当てはまるフードデザートレベルが高い地域は東京23区内にも点在していることが食料品アクセスマップでわかります。人口が増え続けている東京にでさえ、買い物難民問題が深刻になりつつあるのです。前述の報告書では買い物弱者対策の取り組みとして、(1)家まで商品を届ける、(2)近くに店を作る、(3)家から出かけやすくする、の他に(4)コミュニティを形成する、(5)物流を改善・効率化するとことなどを指摘しています。

 具体的には、(1)の家まで商品を届ける取り組みには、買い物代行や宅配などのサービスを含んでいます。(2)の近くに店を作る取り組みには、移動販売や買い物場の開設が含まれています。(3)の家から出かけやすくする取り組みには、コミュニティバスや乗り合いタクシー等、買い物のための移動手段が含まれています。(4)のコミュニティを形成することは、間接的な取り組みと言えますが、人が集まって会食をすることが含まれているそうです。(5)の物流を改善・効率化する取り組みには、物流におけるIT利用等が含まれています。

 このような取り組みは買い物難民への対応として示唆に富んでいますが、小売業者として買い物難民への対応を図るには、小売業の継続性の困難度が高い商圏を前提とする必要があることに加え、主として高齢者に食料品を継続的に提供し続けることであり、小売業として事業継続性の難易度が高いことは明らかです。

 したがって、そのような試みの中で成功しているモデルは少ない状況です。ネットスーパーなどの宅配サービスでは、有力小売業の多くが参入していますが、物流費の上昇に加えて雨の日に需要が集中するという構造が業務の平準化の障害となるなどから、採算が厳しい企業が多くを占めています。

 その中で注目を集めているのは、コープさっぽろです。従来の宅配(週1回の定期配達)だけでなく、移動販売、配食を三本柱とする戦略を道内全域で始めています。生協の宅配はOCRのマークシートかネットで注文する仕組みですが、70歳以上の高齢者はOCRもネットもできない状況です。つまり店舗に行けない高齢者は年齢が上がるほど宅配が使えないという実情です。また、高齢化で料理ができない人の増加、長期入院をさせない医療制度による自宅療養する人の増加を予想して配食にも力を入れて黒字化しています。高齢者を移動販売と配食でカバーすることで道内の全ての買い物困難者に対応していくという高齢者に的を絞った戦略です。

 コープさっぽろととくし丸の共通項は買い物が困難な高齢者に的を絞った戦略を取り、その高齢者の需要を取り込むためにアナログ的な手法を選んでいることです。とくし丸は「おばあちゃんのコンシェルジュ」(とくし丸HP)になるという理念のもとに御用聞きなど対面のコミュニケーションにこだわっています。商品を手にとって選ぶ楽しさがあり、その間に販売員と会話ができる、かつ、サービスの利用に面倒臭さがないなど高齢者の支持を得る仕掛けが成功要因ではないかと思います。ニッチではあるけれども成長している分野はブルーオーシャンですが、市場が大きくなると大手小売も放ってはおかなくなるはずです。しかしながら、先に紹介した三大首都圏への人口集中と限界集落の増加は、大手小売にとっては、本当に魅力的であるかの判断は難しいところであります。それにもかかわらず、公益的・CSR的要素の高いニッチ市場に参入している中小小売のパイまで奪うべきかどうかは議論の分かれるところでしょう。

ロスマイニング・サービス®について

 当社では店舗にかかわるロスに関して、その要因を抽出して明確化するサービスを提供しております。ロスの発生要因を見える化し、効果的な対策を打つことで店舗の収益構造の改善につなげるものです。

 ロス対策のノウハウを有する危機管理専門会社が店舗の実態を第三者の目で客観的に分析して総合的なソリューションを提案いたします。店舗のロスに悩まされてお困りの際には是非ご相談ください。

【お問い合わせ】

株式会社エス・ピー・ネットワーク 総合研究室

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TEL:03-6891-5556

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