ロスマイニング トピックス

効率化や接客・サービスの向上によって付加価値の最大化を目指す

2018.02.21
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総合研究部 上席研究員(部長) 伊藤岳洋

  3つのムダを把握したら、それをなくすための具体的な施策を検討します。そもそも、その作業をする必要があるのかを考えます。なくてもよい作業であるならば、その作業をやめます。やめられないのであれば、他の作業と一緒にすることはできないか、または、他の作業と順序を入れ替えたり、作業方法を簡略化したりすることで負荷を軽減できないかを考えます。その際に、現場を最も理解している従業員同士で、ムダをなくすアイディアを出し合うことも有効です。

 施策を実行したら必ず検証をしましょう。実行から1ヶ月を目安に、再度アンケートやワークサンプリングを行ない、負荷が軽減されたかどうかを確認します。効果は、何時間くらい効率化の効果があったかまで確認することで定量的に検証できます。

 ここまでは、作業に着目した業務改善・効率化をみてまいりましたが、次は人に着目してみていきましょう。従業員の作業の習熟度が高ければ、短い時間で高い精度の作業が行なわれ効率も高くなります。もしくは、担当以外の業務についても遂行できるスキルを備えることができれば業務を平準化することにつながり、結果として全体の効率も改善することになります。したがって、マルチスキル(多能工(*1))人材を育成することで他部門が忙しい時間帯に別部門の従業員が支援することができるため、負荷の高い従業員の業務を軽減することができます。たとえば、食品スーパーであれば、レジ業務、惣菜部門の業務、青果部門の業務、精肉部門の業務を1人の従業員が業務を遂行できるスキルを身に付けると、総業務時間の削減につながります。

 多能工化を進めるには、まず従業員の各業務を実施できるスキルレベルを評価して把握します。スキルレベルの評価は、たとえば、以下のような基準が考えられます。

レベル0:知識がない、または、経験がない

レベル1:業務知識の概要は理解できている

レベル2:習得した知識を活用して、他者のサポートを受けて業務を実践できる

レベル3:知識を活用して、1人で業務を実践できる

レベル4:1人で業務を実践できることに加えて、業務内容を他者に指導できる

図1-スキルマップ(コンビニエンス・ストアの例)

出典:㈱日本労率協会コンサルティング作成「多能工(マルチスキル)人材育成による人材の有効活用マニュアル」を基に筆者作成

 アンケート、または、ワークサンプリングで把握した負荷の高い業務やピークのはっきりした業務について、多能工化による業務平準化ができるか検討します。多能工化による業務平準化がしやすい業務としては、マニュアル化が容易であり、習熟に要する期間が短いものが最適です。負荷の高い業務で、かつ、多能工化による業務平準化がしやすい業務から優先して取り組むと成果に結びつきやすくなります。一方で、多能工人材の育成は、現在担当している業務の個人別の習得スキルだけでなく、今後の教育を行う業務内容も個人別カルテに記載して育成計画を立てる必要があります。平準化に取り組む業務に関して、レベル3以上の人材を多く育成することで部門間のヘルプが容易になります。習得に取り組む業務の目標習得期間を定めて指導し、その進捗を記録しながら管理していきます。

 また、あらかじめ部門間の繁閑が予想できる場合は、いつ誰が何の作業をすべきかをあらかじめ定める「ワークスケジューリング」を行なっておくことで、発生すると予測される手待ち時間を他の部門の業務支援に充てることができます。

 さらに、習得したスキルに応じた評価制度を導入することで多能工化の人材育成の実効性を高くします。たとえば、専門性と多能工の双方で条件を明示して数段階のランクに評価します。そして、その評価を3ヶ月(少なくとも6ヶ月)ごとに実施してランクを評価します。評価は給与制度と連動させることがポイントです。

 業務効率化に効果があった場合は、改善後の作業方法をマニュアルなどに追加し、誰でも再現できるようにしていくことが必要です。マニュアル化までの暫定的なステップとして文書化して残すような方法でも構いません。そのなかには、作業方法の説明やそれに関わるルール、さらに写真を加えてビジュアルでわかりやすくする工夫をするとなお良いでしょう。

 最後に、接客・サービスの向上によって付加価値を最大にする点について検討します。小売業のなかで完全なセルフ形式ではなく、対面的な商品・サービスのお勧めを通じての販売、または、成約による販売を行なっている場合は、特に高い成果を出している「ハイパフォーマー」ともいうべき従業員がいるはずです。業態の特徴によって「ハイパフォーマー」の定義は多少なりとも異なるので、その定義をするところがスタートとなります。会社の理想とする従業員の属性を規定し、その属性のなかで高い成果を上げている従業員を選定します。

 わかり易い例としては、個人別の売上でしょう。接客・商談を通じて販売に至るような商品・業態(たとえば、寝具や衣料品の販売店、漢方相談薬局など)の場合は、個人別の売上の管理が可能です。売上を分解すると、客数×客単価になります。さらに分解すると、客数は既存顧客の来店頻度(リピート率)と新規顧客から構成されます。客単価は単品の単価と購入点数から成ります。単に売上という結果だけで捉えるのではなく、その構成を分解することによって、目指すべき状態を規定することができます。たとえば、売上と粗利益率が高水準にある状態を目指し、そのなかで、「客単価が高く」、「顧客数が多く」、「リピート率」も高い従業員を「ハイパフォーマー」と定義します。既存顧客を多く抱え、新規顧客も獲得している、かつ、粗利益の高い商品や関連商品を販売している従業員を選定することになります。そのような従業員の行動様式を聞き取り調査し、あたりまえに思われるような行動も言語化します。聞き取りにあたっては、ただ漫然と聞くのではなく、この例でいえば以下の項目について「日頃取っている行動」「工夫していること、心がけていること」を中心に聞き取りを行ないます。

・新規顧客獲得

・長期関係形成

・粗利益の高い商品購入の促進

・自己時間管理

 聞き取り結果から複数の「ハイパフォーマー」が共通して実践している行動を抽出してリスト化します。このリストを今度は現場の「ハイパフォーマー」ではなく、経営層も含めたマネジメントで検討を行ない、会社の方針に照らし合わせて、浸透させたい行動を選定して再度リスト化します。さらに、行動規範のチェックリストに落とし込むことで、実際に従業員の行動の変化を促進します。


 行動規範(チェックリスト)の一例

  • お客様の予約や業者の商品搬入など外部要因で「決まる時間」以外の「主体的に決める時間」を自己管理して、売り場業務比率(⇔後方業務比率)50%以上(*2)を目指す。
  • 「お各様の信頼を得るように心がける」をさらに具体的にして「お客様の笑顔を引き出す」ことにポイントをおく。お客様の笑顔は「話をきいてみよう」というサイン。
  • 世間話や雑談を通じて初期に関係作りを図る。自分が感じたことをストレートにいうことで、何でも話してもらえる雰囲気をつくりながらお客様の信頼を獲得する。雑談の目安は、全体の10%ほど。
  • そして、いきなり商品説明に入るのではなく、「お試しできます」といってから商品説明をおこなう。
  • 相談でお試しした商品は、パンフレットに印をつける。パンフレットはお客様に必ず持ち帰って頂き、帰宅してからも購入検討を促す。

 接客スキルそのものは、マニュアル化が難しいため、「ハイパフォーマー」の行動を前述のプロセスで行動規範チェックリストに落とし込み、現場での定着を目指します。行動規範を意識して自ら確認することにより、気づきを促し、さらなる創意工夫を引き出すことが期待できます。このように「ハイパフォーマー」の接客における暗黙知をなるべく、形式知にして他の従業員への標準化を図ることで店舗全体の付加価値を作る力の底上げにつながり、結果として労働生産性も向上するとことになります。

 これまで述べてきた職場環境の整備や負荷の高い業務の見直しを通じての業務の効率化や付加価値の向上を求められるのは、なにも小売業に限ったことではありません。業種・業態、店舗・オフィス業務を問わず、提示した方法は本質的には変わらないので、それらに応用することが可能です。ただし、店舗責任者が業務に追われる小売業では、このような業務効率化やワークスケジュール化、接客における付加価値向上の取り組みは、一朝一夕にはできないと肌感覚で感じるのではないかと思います。これらをコーディネイト、または、業種・業態に合わせてアレンジ、誘導する専門家の支援を有効に使うことも一案です。前回の冒頭で申し上げたとおり、人手不足が深刻な小売業においては喫緊の課題ですが、その他多くの業種で効率化は避けられない命題であり、その取り組み強化は、もはや経営者の使命です。

注目トピックス

ファミリーマートと無人レジ実験

 経済産業省は、ファミリーマートなどと連携して、お客様が自分で会計する無人レジの実証実験を実施します。

 価格情報などを搭載したICタグを貼り付けた商品を陳列し、お客様が買物カゴに入れた商品を買物カゴごと機械にかざすだけで即時に会計を終えることができます。支払いは、電子マネーやクレジットカード、現金でも決済できます。

 この実証実験は、経済産業省とコンビニ各社が共同宣言した「コンビニ電子タグ 1000億枚宣言」に基づき、レジ会計だけでなく、電子タグから取得した情報をサプライチェーンで共有します。一つひとつの商品に貼付された電子タグをRFID(Radio Frequency Identification)技術を利用して読み取り、特定の商品が、いつ、どこに、何個あるのかといったサプライチェーンにおける在庫情報を可視化して、サプライチェーン各層の連携強化を目的としています。

 実験協力店舗として、ファミリーマート経済産業省店、ローソン丸の内パークビル店、ミニストップ神田錦町3丁目店が参加するほか、メーカーではカルビー株式会社など7社が協力します。その他、ICタグ専用機器をつくる大日本印刷やパナソニックなど9社も参加します。実験用物流センターでICタグを取りつけた商品(店舗直送商品はメーカーでICタグを取りつけ)を店舗に運び、店員が棚に並べ、お客様がレジで会計するまでをチェックします。

 経済産業省とコンビニ各社が協力して実験を進める背景には、小売業の人手不足や労務コストの上昇、サプライチェーン全体の食品ロスや返品といった課題があります。また、電子タグは、コンビニ事業者に限らず、様々な業態で活用が可能です。電子タグを通じてあらゆる商品を効率的に管理することができれば、さらに高度な流通システムの実現が期待されます。電子タグの普及には、特殊な条件(レンジ温め、金属容器、冷凍・チルド、極細等)がない商品に貼付する「普及型」の電子タグの単価(ICチップ+アンテナ+シール化等のタグ加工に関する費用)が1円以下になっていることが条件といわれています。したがって、5万6千店舗を超えるコンビニに導入することで、電子タグの単価が大きく下がることへの期待とあわせて、高度にシステム化したサプライチェーンは、電子タグ普及の足がかりとして最適といえるでしょう。

 ICタグから取得された情報をサプライチェーンに提供することにより、飲料や食品などの加工品メーカーは、市場に流通している在庫量を踏まえて生産量を柔軟に調整することができます。このような調整は、既に大手小売業が取り組んでいる3分の1ルール(製造から納入、納入から販売までを按分する鮮度管理に関するルール)の見直しと合わせて、食品ロスの削減に大きく寄与するものと思われます。物流では、空きトラックの情報を共有して共同配送を進めることができます。このようにサプライチェーンでICタグから取得された情報を活用すれば、製造・物流・卸・小売の垣根を超えたロスの削減を実現できる可能性が拡がります。

 また、ICタグの活用には、盗難防止というメリットもあります。特に商品が高額であったり、比較的小さかったりする商品の盗難防止には有効で、すでにドラッグストアの一部でも導入され効果を発揮しています。ドラッグストアでは、顧客が手に取れる医薬品などにICタグを貼り付け、レジで販売手続きをしないまま防犯ゲートを通過するとアラームなどの音と共に発報(店舗従業員に携帯端末を通じて知らせるシステムも存在します)する仕組みを万引き対策などの防犯に活用しています。盗難防止に要していた従業員の労力を軽減させ、接客などの販売面にその労力を使うことが可能になります。

 さらに、在庫管理の観点では棚自体をRFIDリーダー(スマートシェルフ)にすることで自動的に棚卸が実施できることになります。業態によっては、休業日や深夜などお客様に影響しないような配慮が店舗の負荷や棚卸頻度を適切にすることへの障害となることが少なくありません。これらの導入により、棚卸の業務自体が大きく変わる可能性があります。

 これまで述べたような変化が実現すれば、小売業においてのみならず、サプライチェーンのイノベーションともいえる効率化をもたらすでしょう。店舗においても在庫管理や販売などの作業が効率化されることへの恩恵は計り知れません。一方で、いずれICタグの時代が到来してもシステムを有効に活用し、それらに関わるマネジメントが必要です。加えて、お客様対応やそれを行なうスタッフの育成は、さらに注力が求められるでしょう。その意味では、店舗責任者として「変わるもの」への変化対応だけでなく「変わらないもの」をどう磨きあげていくかが問われます。むしろこれまで以上に、課題をどう捉えて解決していくかという問題解決力が求められます。

画像活用ルールの指針策定へ、経済産業省

 経済産業省は、コンビニなどに設置されたカメラで常連のお客様の購買行動を継続的に観測する「リピート分析」のルールを作ると発表しました。カメラ画像の活用指針「カメラ画像利活用ガイドブックver1.0」を改定するというものです。プライバシーを侵害しないように撮影した画像をできるだけ早く廃棄したうえで、画像から抽出したデータを分析する際には、個人情報でない形に加工することなどを盛り込む見込みです。

 顔の特徴を抽出してデータ化した情報は、現行の個人情報保護法では「個人情報」の扱いになります。現行の個人情報保護法は、2017年5月30日に全面施行され、「個人識別符号」をあらたに設けています。「身体の一部の特徴を電子計算機のために変換した符号」であり、具体的には、DNA、顔、虹彩、声紋、歩行の様態、手指の静脈、指紋・掌紋などが該当します。したがって、一部の小売業において導入が始まっている顔認証システムには注意が必要です。繰り返しますが、カメラで撮影した顔の画像から抽出した「顔認証データ」は個人情報と定義されます。個人識別符号のうち、「特定の個人の身体の一部の特徴を電子計算機の用に供するために変換した文字、番号、記号その他の符号であって、当該特定の個人を識別することができるもの」が「顔認証データ」を個人情報と定義することの根拠になります。

 個人情報を取り扱う事業者は、利用目的を事前に公表したり、本人に通知したりする必要があります。したがって、防犯カメラを通じて収集したデータの利用目的を店頭に告知するなどの対応が必要であると考えられています。このようなデータの収集には顧客や利用者の不安も大きいため、防犯面に関しては「日本万引防止システム協会」などの業界団体が自主ルール作りを進めていました。しかしながら、「リピート分析」に関するルールは整っていなかったため、意図せぬ形でプライバシーを侵害してしまうことを恐れる企業側からもルール作りを求める声が出ていたものです。

 指針では、「顔認証データ」は個人情報に該当するため、企業グループ内の活用に留めることにするとしています。また、本人の同意なしにポイントカードなどにもひもづけしないことにもしています。個人情報保護では、個人情報の第三者提供については本人の同意を得るなど厳しい制限があるため、「顔認証データ」についても企業グループ内の活用に留めることで、同法をクリアしようというものです。また、同様の理由で本人の同意なしにポイントカードともひもづけない点は、指針としてグレーゾーンを回避しようとする意図が読み取れます。

 このようにあらたなルールを踏まえて、コンビニ大手などでは「リピート分析」を導入していくものと思われます。海外の無人コンビニでは、顔認証が入退店管理や決済管理に利用されるまでに至っています。特に中国では17年は「無人コンビニ元年」と呼ばれ、AIやITなどの新技術を利用した「無人コンビニ」業態の開発が活発です。象徴的存在は、アリババグループの開発した「無人コンビニ」で入店するお客様はアリババ傘下のモバイル決済システムの実名アカウント持つ会員である必要があり、入店する際にスマホでアプリを開き、QRコードをスキャンして入店します。この段階において店舗入り口のカメラで顔が認識され、顧客のアカウント情報と一緒に顧客情報システムに登録されます。お客様は欲しいものを自由に手に取ってそのまま店を出ると決済システムのアカウントで代金が自動的に精算される仕組みです。このようなイノベーションともいうべき動きからすれば、日本においてもシステムの進化と個人情報の保護、プライバシーの問題は「リピート分析」に限らず、さらに議論していく必要があるでしょう。

ロスマイニング®・サービスについて

 当社では店舗にかかわるロスに関して、その要因を抽出して明確化するサービスを提供しております。ロスの発生要因を見える化し、効果的な対策を打つことで店舗の収益構造の改善につなげるものです。

 ロス対策のノウハウを有する危機管理専門会社が店舗の実態を第三者の目で客観的に分析して総合的なソリューションを提案いたします。店舗のロスに悩まされてお困りの際には是非ご相談ください。

【お問い合わせ】

株式会社エス・ピー・ネットワーク 総合研究室

Mail:souken@sp-network.co.jp

TEL:03-6891-5556

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———-【参考資料】————

(*1)マルチスキル(多能工)化とは、1人の従業員が複数の職務を遂行できる状態のことです。本文へ戻る

(*2)例示は、ワークサンプリングを行なった結果、優良店舗における全業務時間に対する売り場での業務比率が50%であるのに対して、不振店舗の売り場業務比率は36%にとどまっていたと想定しています。売り場業務比率を高めるために、ワークスケジュールを策定して後方業務を効率化したものです。本文へ戻る

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