ロスマイニング トピックス

管理職が知っておくべきリーダーシップの理論

2021.08.24
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総合研究部 上席研究員(部長) 伊藤岳洋

ビジネス リーダーシップ

皆さま、こんにちは。

本コラムは、消費者向けビジネス、とりわけ小売や飲食を中心とした業種にフォーカスした経営リスクに注目して隔月でお届けしております。

管理職が知っておくべきリーダーシップの理論

今回は、管理職が知っておくべきリーダーシップの理論について考えてみたいと思います。ロスマイニングでは、商品に関する棚卸減耗や商品評価損などのロスに加えて、従業員の不正、オペレーションや商品管理に関する効率化の観点からのムリ・ムダ・ムラもロスとして扱うほか、同じように従業員のトラブルや離職などに代表されるロスも、その守備範囲として位置付けています。いわゆるヒューマンリソースに関するリスクマネジメントをヒューマンリソース・リスクマネジメント(HRリスクマネジメント)として、ロスなどを防ぐだけでなく、HRが本来持っているポテンシャルを組織として最大限発揮できるようマネジメントする考え方を取り入れています。そのような位置づけのなかで、本コラムでは、管理職ならびに管理職候補の教育担当者を対象に、時代や環境の変化に合わせたリーダーシップやマネジメントスタイルの理論について述べていきます。理論を知ることで、管理職自身が成長の必要性を認識し、ビジネスにおける課題解決への指針としてご活用いただければと思います。

まず、働き方の変化について見ていきます。コロナによって、働き方にも変化がみられ、今後もその延長線上で定着していくことが予想されます。現在のコロナ対応へのフェーズは、感染爆発ともいえる状況から感染収束への楽観論は遠のき、コロナ収束後も経済・社会構造の転換といった影響は数年単位で続くものと予想されています。デジタルトランスフォーメーション(DX)に代表されるようなデジタルによる革新は、毎日のように新聞でも目にします。アメリカでは、もはやDXは当たり前になっており、ニュースとしての価値が低くなっていることから報道をあまり目にしないといいます。逆に、それだけ日本では取り組みが遅れているともいえます。今後ということでは、いくつかの可能性が指摘できます。

  • コロナ後もテレワークが定着すると予想される
  • テレワークが主流になれば、プロセス評価から成果重視の評価にシフトの可能性
  • 有機的な人の集まり→プロジェクト単位の機能的な組織体へとシフトしていく傾向

こういったプロジェクト型組織では、強い求心力が求められます。つまり、企業ビジョン、社会への貢献など企業の「価値観」の共有・浸透が求められるということです。したがって、個の成長に着目したマネジメントが求められ、一人ひとりのキャリア観に寄り添い、業務を通じた達成感を引き出すことで組織の一員であることに価値を感じさせることが一層求められることになります。有機的な集団だからこそ、求心力を高めるためにビジョンを示し、組織の一員であることに価値を見出すように、個人のやりたいことと企業のビジョンをマッチさせるようなきめ細かいマネジメントが必要になってくるということです。これは、後程詳しく触れます。

働き方を変えるためには、社会全体の生産性を高める必要があります。これをマクロの視点から考えてみます。結論を先に申し上げると、負荷の転嫁には限界があるので、生産性を高めて総負担を削減する必要があるということです。

少し前になりますが、大手化粧品メーカーが働き方改革をあらたに打ち出して、話題になったことがあります。女性が働きやすい環境を整えてきた会社が販売員の働き方に関する制度変更を行ったものですが、メーカー名とつなげて●●●ショックといわれました。概要としては、遅番や土日勤務を免除されてきたワーキングマザーに対し、これらの繁忙時間にも勤務シフトに入るよう要請したものです。繁忙時間のシフトが「育児をしていない女性」に集中し、不公平感があったことや実際にシフトが回らない、ワーキングマザー自身のキャリアアップが難しくなるなどが背景にありました。

この化粧品メーカーは、「配慮すべき理由」のある社員の仕事を免除するやり方の限界に気づいたといえます。働き方改革は、負荷の転嫁だけでは解決しないということです。今後は、介護や育児で多くの人が「配慮すべき理由」のある社員になる可能性が高くなります。とくに介護は、家族を持つすべての人にその可能性があります。したがって、すべての人が希望するワークスタイルを実現できるよう支援できる制度設計が求められることになります。つまり、高い労働生産性を実現して、総負担を削減する必要があるということです。

次に生産性を高めることをミクロの視点から考えてみたいと思います。まず、管理職の使命とはなにか、これまでの文脈で申し上げると、「チームの生産性を高めるためにリーダーシップを発揮すること」です。そして、プレーイングマネージャーの身近な悩みとして、チームの成果を上げることと部下の育成というテーマがあります。どのようにリーダーシップを発揮すればよいのでしょうか。

従来のありがちな考え方は、成果を上げることと、部下の育成という2つの責務が管理職の時間を取り合う別々の仕事と受け止められています。ところが、実際には成果はすぐにでも上げなければなりませんが、部下の育成には時間がかかり、すぐには成果にはつながりにくいという面があります。そうすると、二択の問題になってしまいます。部下を育成するよりも自分でやってしまった方が早いと考えても不思議ではありません。このようなトレードオフのような発想では組織の生産性があがるはずはありません。そうではなくて、部下のスキルアップが部門の成果をあげるための有効な手段と考えれば、忙しいから部下を早く育成しなければならないとなります。成果を出すという目的の手段として、部下を育成するという発想に転換することでチーム全体の生産性を高めることができます。

次にリーダーをはじめとして、ビジネスパーソンに求められる人物像について考えたいと思います。求められる人物像を4つ挙げました。

  • 人や組織に対する深い洞察や感受性
  • 強靭な精神力や未知に対する楽観性
  • 粘り強さ
  • そして、リーダーシップ

これらは、社外に対しても、社内に対しても共通するものと考えています。もうひとつ付け加えると「熱量」でしょうか。いくら合理性があっても「熱量」がなければ、相手の行動までは変わりません。さらに、信頼され得るかという点も重要です。そうでないとビジネスの起点である「相談」をされないからです。相談されることではじめて、課題解決のソリューションを提案できます。痛みを伴うソリューションの場合は、反対勢力とも話し合って、納得して協力してもらえるか、単に主張を押し通すということではなく、課題を解決するという目的のためにどの意見を採用するのかといった調整をするという強いリーダーシップが求められます。

さらに、管理職に必要な能力について考えていきたいと思います。管理職に必要な能力は3つ挙げられます。

  • 管理能力
  • リーダーシップ
  • プレーヤーとしての能力

一方、従来型企業の管理職への登用基準は、プレーヤーとしての能力、管理能力が一定水準を満たせば、昇格・登用しているのではないでしょうか。また、管理職研修は、コンプライアンス、部下の評価・管理方法などの手順に関するものが多い印象です。リーダーとはなにか、リーダーに必要なスキル、困難な状況でどのように組織を率いるかなどのリーダーシップに関する研修は多くはありません。そうすると、リーダーシップのない管理職が大量発生します。にもかかわらず、組織の管理職は成果目標が問われ、その結果、無謀な方法に頼ってしまうのです。たとえば、自身のプレーヤーとしての成功体験を押し付けたり、部下や納入業者など弱い立場の人を叩いて成果を出そうとしたり、いわゆる「ハラスメント」や「プレッシャービジネス」など不適切な方法に頼る管理職が少なからず出現します。さらに最悪のケースは、不正に手を染めるということになります。

管理職には、リーダーシップという能力が必要であることがお分かりいただけたと思います。そのリーダーシップを含めて、ビジネスパーソンの身近な課題への指針となる理論、思考の軸を与えてくれる理論 を3つご紹介します。

  • リーダーシップ論
  • モチベーション理論
  • センスメイキング理論

これらは、身近な課題である、たとえば、どうすればリーダーシップを発揮できるのか、どうすれば部下のモチベーションを高めることができるのか、どうすれば見通しの難しい局面で柔軟に意思決定し、新しいものを生み出せるか、これらの理論は、人にフォーカスして、行動・意思決定のプロセスを理解することにつながります。

まず、リーダーシップ理論からみていきます。経営学者のバスによるリーダーシップの定義は、以下のとおりです。

「リーダーシップとは、状況あるいはメンバーの認識・期待の構成・再構成がしばしば行われる(2人以上のメンバーから成る)グループにおける、メンバー間の相互作用のことである。この場合リーダーとは「変化」を与える人、すなわち他者に対して(その他者がリーダーに与える影響以上に)、影響を与える人のことを指す。グループ内のある人が他のメンバーのモチベーション・能力を修正する時、それをリーダーシップという。」

定義は少し難しいかも知れません。変化や影響を与える、モチベーションを修正するといったことがポイントです。キーワードは、「変化」「影響」「モチベーション」ということでしょうか。

以下は、リーダーシップの5大理論を示しています。見慣れないものもあるかと思いますが、理論の確立した年代が古い順に示しています。

  • 個性理論:リーダーの持つ個性に注目
  • 行動理論:リーダーの部下への行動スタイルに注目
  • コンティンジェンシー理論:個性理論、行動理論が成立する条件に注目
  • リーダー・メンバー・エクスチェンジ:部下との心理的な交換・契約が異なることに注目
  • トランザクショナル・リーダーシップ(TSL)部下をよくみて管理するリーダー
  • トランスフォーメーショナル・リーダーシップ(TFL)部下を啓蒙し変革するリーダー

リーダーの個性(trait)の理論[1940年代~]

リーダーを務める人は、他の人と比べてユニークな資質・人格があるということが前提になっています。リーダー発生の経路は2種類あります。

  1. 自然発生するリーダーシップ:平等な集団において、仕事を進めた結果、周囲にリーダーだと目される
  2. 役職のように予めリーダーが決まっている:リーダーの個性が部下へ何らかの影響を与えることで、部下やチームが高いパフォーマンスを上げられるという特徴がある

ただし、当時は普遍的なリーダーの個性は見つかっていません。

リーダーの行動(behavior)の理論[1960年代~]

リーダーごとに部下に対する行動スタイルの違いが部下・チームのパフォーマンスに影響するというものです。行動スタイルを分類すると次の3つです。

  1. スタイルを業務重視と従業員重視に分ける
  2. ルール・役割分担などの「設計」を重視するスタイル
  3. 部下との友好的な人間関係を重視するスタイル

定量化手法によって検証した結果、(2)はリーダー自身のパフォーマンスと強いプラスの関係、(3)はフォロワーの満足度やモチベーションと強いプラスの関係があります。直感と違和感はないかと思います。

コンティンジェンシー理論[1960・70年代~]

リーダーの個性・行動の有効性は、「状況・条件」によるというものです。研究が蓄積されるにつれ、「条件」の種類が多く提示されました。それは、「リーダーの特定の個性・行動スタイルは、限定された条件でしか有効たりえない」といっているも同然で、この理論は行き詰まりました。

リーダー・メンバー・エクスチェンジ[1970・80年代~]

リーダーと部下の心理的な交換・契約関係に注目する理論です。部下がリーダーの期待以上のパフォーマンスを上げれば、リーダーは適切な報酬・評価をします。それによって部下もリーダーの高評価に報いる心理が働き、さらに懸命に働くようになります。上司はさらに部下に報います。これは[心理交換・契約の好循環]が生まれるパターンです。

逆に、部下が期待以下のパフォーマンスしか上げなければ、低い評価が与えられ、部下はリーダーから心理的な距離を置き、意欲を失います。そうすると、さらに低い評価が与えられるという[質の低い交換関係]に至ってしまします。いわゆる悪循環です。好循環関係のグループ、悪循環関係のグループがそれぞれ出現するという特徴があります。もうお分かりかと思いますが、これは心理的な「えこひいき」を説明する理論です。

[質の高い交換関係]を築けた部下ほど、①業務パフォーマンスが向上し②組織へのコミットメントが高まり、③離職率が低下すること、がわかっています。

つまり、組織の誰とでもまんべんなく、質の高い交換関係を築けることが望ましいといえます。「全員をえこひいきできるリーダーこそが最強」ということになります。これは今でも参考にすべき手法です。

質の高い交換関係を部下と築くにはどのようにしたらよいのでしょうか。リーダー・メンバー・エクスチェンジ(LMX)を高めるための部下へのコミュニケーションを3つ紹介します。

  1. 部下の悩みや課題を聞き出す、アクティブ・リスニングが有効
  2. アクティブ・リスニングで部下が出してきた課題に対して、自分の考えを押し付けない
  3. 部下への期待を部下自身とシェアする

マネージャーに対する「LMX研修」の6か月後に、そのマネージャーの部下たちのパフォーマンスを検証しました。マネージャーがLMX研修をうけることで、[質の低い交換関係]にあった部下ほど、パフォーマンス・自己評価が高まる傾向が統計的にもわかりました。これは、管理職へのリーダーシップ研修が有効であることを示しています。

トランザクショナル・リーダーシップ(TSL)[1980・90年代~]

部下を観察し、部下の意思を尊重し、あたかも心理的な取引・交換(トランザクション)のように部下に向き合うというやり方です。ポイントは2点です。

  1. 状況に応じた報酬:成果を上げた部下に正当な報酬をあたえる。部下が「きちんと評価されている」と満足する
  2. 例外的な管理:部下が成果を上げている限り、やり方に関して直接的な指示を避ける。部下の信頼・義務感の醸成につながる

LMXとほぼ同義ですが、LMXは関係性を重視するのに対して、トランザクショナル・リーダーシップは、リーダーのスタイルに焦点を当てています。

トランスフォーメーショナル・リーダーシップ(TFL)[1980・90年代~]

トランザクショナル・リーダーシップ(TSL)が「心理的な取引・交換関係」を重視するのに対して、トランスフォーメーショナル・リーダーシップ(TFL)は「ビジョンと啓蒙」を重視するというものです。これには3つの特徴があります。

  1. カリスマ:組織がビジョン・ミッションを明確に掲げ、それが「いかに魅力的で」「部下のビジョンにかなっているか」を部下に伝え、組織で働くプライド、忠誠心、敬意を植えつける
  2. 知的刺激:部下が新しい視点で考えることを奨励し、部下にその意味や問題解決策を深く考えさせてから行動させることで、部下の知的好奇心を刺激する
  3. 個人重視:部下に対して、コーチングや教育を行い、部下一人一人と個別に向き合い学習による成長を重視する

つまりリーダーは、率いる組織と部下の目指しているものとの親和性を啓蒙します。すると部下は、自身の組織への帰属性を高め、そのリーダーのビジョンを自身のなかに取り込むようになったり、リーダーのビジョンに沿って行動したりするようになります。一方で、リーダーもそういった部下を承認し、称賛します。これによって、部下自身が組織で「働く意義」「存在価値」を認めるようになるというものです。もうお分かりだと思いますが、トランザクショナル・リーダーシップ(TSL)とトランスフォーメーショナル・リーダーシップ(TFL)は、相矛盾するものではなく、補完関係にあります。

ここまで、リーダーシップ論の変遷とそれぞれの特徴を見てきましたが、これからの時代に求められるリーダーシップについて考えてみたいと思います。そこで重要になってくるのは、ビジョンを重視するトランスフォーメーショナル型です。その要因としては、気候変動問題への対応、SDGs など企業CSRへの関心の高まりがあります。2つめの要因は、ビジネス環境がハイパーコンペティション(過当競争)の時代にこのような「不確実性の高い環境」では、未来予想は意味を持たず、「将来はこうしたい」というビジョンを掲げ、周囲を啓蒙することが有用です。逆に、お互いに期待するものを交換し合うトランザクショナル・リーダーシップ(TSL)は、不確実性の高い環境では、それぞれの期待自体も変わっていくので、機能しにくいといえます。

近年、部下の自律性を促すカリスマ型リーダーが業績を伸ばす結果が得られています。ソフトバンクグループの孫さんなど、創業経営者がカリスマと呼ばれる理由もそこにあります。

もう一つ参考になるリーシップの理論をご紹介します。シェアード・リーダーシップ(SL)[2000年代~]です。この理論は、大胆な発想の転換を求めます。

グループの複数の人間、時には全員がリーダーシップを執るというものです。そして、垂直関係ではなく、水平関係のリーダーシップということです。全ての業種に当てはまるわけではなく、とくに知識ビジネスでは、SLの方がチームの成果を高めるということが分かってきています。いまやビジネスにおいて、新しい知を生み出すことが重要なのはいうまでもありませんが、新しい知は、既存の知と既存の知の新しい組み合わせから生まれます。したがって、組織内のメンバーの知の交換こそが重要になります。

シェアード・リーダーシップが浸透した組織では、メンバー全員がリーダーとしての役割、当事者意識を持てるようになり、知の交換を促進させるのです。垂直なリーダーシップよりもシェアード・リーダーシップの方が成果を高めやすいという傾向は、特に複雑なタスクを遂行するチームで強いということも分かっています。

SLを体現する企業を挙げるとマッキンゼー・アンド・カンパニーがあります。グローバルなコンサルティング会社です。マッキンゼーでは誰でも必要とあらば、いつでもリーダーシップを発揮するといいます。入社1年目のコンサルタントでも、プロジェクトではリーダーシップの発揮が期待されるというのです。

メンバーが執るべきリーダーシップのポイントとしては、SLが浸透したグループのなかでも特にパフォーマンスが高くなるのは、各メンバーがトランスフォーメーショナル・リーダーシップ(TFL)を執った時です。「ビジョンと啓蒙」を重視するリーダーシップです。

  • 知識産業では「SL×TFL」の掛けあわせが最強のパターン
  • チームのメンバーが全員ビジョンを持って、全員がリーダーシップを執りながら、互いに啓蒙し合い、知識・意見を交換する

これからの時代は、自分のリーダーシップに「ビジョン」はあるのかが問われるということです。

どのようにしたら部下のモチベーションを上げることができるかというのは、身近な課題でもあり、人類の関心事ともいえます。次にモチベーション理論について見ていきたいと思います。モチベーションの定義について確認します。モチベーションとは、行動の①方向性、②活力、③持続性に影響を与えるものというこができます。モチベーションの種類は大きく、外発的動機と内発的動機とがあるというのが大前提です。

  • 外発的動機:報酬、昇進など外部から与えられた影響で高まるモチベーション
  • 内発的動機:外部からの影響なしに、純粋に「楽しみたい」「やりたい」といった内面から湧き上がるモチベーション

やる気が、即行動につながるというほど単純ではなく、複雑な真理メカニズムが交差するという特徴があります。年代別にモチベーションの理論を以下に記載しました。複雑なメカニズムの理論もありますが、内容を一言でくくると以下の通りです。

  • ニーズ理論:人間には根源的な欲求があり、その欲求がモチベーションのとなり、行動に影響を与えるというもの。マズローの欲求五段階説もそのひとつ。ただ、現代の心理学の研究では、このマズローの欲求五段階説はほぼ科学的に当てはまらないという結論になっている
  • 職務特性理論:内発的動機を高める職務特性が5つ(多様性、アイデンティティ、有用性、自律性、フィードバック)あり、職務をデザインすることでモチベーションが上がるというもの
  • 期待理論:報酬制度と動機の関係を説明する理論。外発的動機を説明しやすい理論ともいえる
  • ゴール設定理論:チャレンジングな目標ほど成果が高まるということを説明した理論
  • 社会認知理論:ゴール設定理論の発展形だが、自己効力感という概念が組み込まれていることが異なる。自己効力感が目標の高さに影響を与えるというもの
  • プロソーシャル・モチベーション(PSM):以下で説明

プロソーシャル・モチベーションとは、他者視点のモチベーションのことです。プロソーシャル・モチベーションの高い人は、関心が自身だけでなく他者にも向いており、他人の視点に立ち、他人に貢献することにもモチベーションを見出すものです。たとえば、「顧客の視点に立つ」「取引先の視点に立つ」「部下の視点に立つ」などです。プロソーシャル・モチベーションと内発的動機の補完効果が注目されています「プロソーシャル・モチベーションと内発的動機が高い人ほど、行動の持続性が高く、パフォーマンスや生産性が高い」という実証研究があります。

これを徹底しているのが、リクルートです。いわゆる「あなたはどうしたい?」文化です。新しい取り組み・チャレンジをするにあたり、自分は何をしたいのかを徹底的に突き詰める文化があるといいます。さらに、顧客に乗り移ったかのように徹底的に顧客の不安、不満を突き詰め、それを解消しようという文化もあるといいます。それらが原動力となって、クリエイティビティにつながっていると考えられるのです。

どのようにすれば、「内発的動機×プロソーシャル・モチベーション」の高い人材を生み出せるのでしょうか。

トランスフォーメーショナル・リーダーシップは、「明確にビジョンを掲げて組織の仕事の魅力を部下に伝え、部下を啓蒙し、新しいことを奨励し、部下の学習や成長を重視する」というものでした。つまり、トランスフォーメーショナル・リーダーシップの高い人は、他者の内発的動機を高めるということです。なにより、リーダーは自身のビジョンを示すのですから、自身の内発的動機も高める必要があります。したがって、「トランスフォーメーショナル・リーダーシップ×シェアード・リーダーシップ」に満ちた組織では必然的に内発的動機の高い人が育つはずです。リクルートやマッキンゼーのような人材輩出企業の特徴は、「トランスフォーメーショナル・リーダーシップ×シェアード・リーダーシップ」と「内発的動機×プロソーシャル・モチベーション」というこの2つの組み合わせで説明できるのではないかと考えられています。

最後にセンスメイキング理論について、触れたいと思います。一言でいうと「腹落ちの理論」です。厳密にいうと、「組織のメンバーや周囲のステークホルダーが、事象の意味について納得(腹落ち)し、それを集約させるプロセスを捉える理論」です。プロセスを説明すると以下のようになります。

  1. 環境の感知(scanning)
    • 新しかったり、予期しなかったり
    • 混乱的で先が見通しにくい環境
  2. 解釈を揃える(interpretation)
    • 多様な解釈の中から選別
    • 周囲に理解させ、納得・腹落ちしてもらう
    • 組織全体で解釈の方向性を揃える
  3. 環境に行動で働きかける(enactment)
    • まずは行動することで働きかける
    • 働きかけることで新しい情報を感知
    • 環境に対する解釈を揃えられる

循環の起点としては、3→1→2→3→1→2という方がイメージしやすいかも知れません。新規事業の計画でも、まず初めはとにかく行動し、やがて次第に大まかな方向性が見えてきて、さらに形になっていくものです。

有名な話では、本田技研工業の1960年代の米国オートバイ市場に進出して大成功した事例があります。はじめは大型バイク市場を狙っていました。しかし、長距離走行する米国人の使い方に耐えられず、故障が続出しました。現地で活動を始めた社員が、結構小型バイクに乗る人がいることを発見しました。そこで、事後的に小型バイクを出したところ、大ヒットになったのです。とにかく米国市場に出たことで、米国のバイク市場にイナクトメント(環境に働きかける)したことになります。壊れやすい大型バイクよりも、機能性に優れたバイクの方が売れるというストーリーを作り上げ、それを取引先・顧客など、周囲にセンスメイキングさせることで結果として成功したのです。まずは行動です。試行錯誤を重ね、もがいていくうちに、やがて納得できるストーリーに腹落ちしながら前進するものです。つまり、ストーリーテリング、腹落ちさせられるリーダーが求められるということになります。

リーダーシップ理論を中心に、モチベーション理論、センスメイキング理論を見てきました。それぞれ、今の時代に求められるやり方がイメージできたかと思います。

おわりに、理論はなぜ、リーダーや人事担当者に必要かについて触れたいと思います。ビジネスは人や人から成る組織が行うものです。人や組織は本質的にどのように行動するのか理論を知っていなければ、論理的・整合的な説明はできません。プレーヤーとしての能力だけでマネージャーに登用し、リーダーシップに関する教育が不十分でパワハラや不正など無謀な方法で成果を出そうとする悪例を紹介しました。理論に基づいた教育や仕組みが必要です。理論はHRリスクマネジメントのベースとなり得ます。

また、ビックデータ解析やAI技術などの革新的な技術進歩により、一見すると人の関与、すなわちHRリスクマネジメントから理論を不要にする印象もあります。逆にこのHRリスクマネジメントの未来では、理論の必要性は高まるはずです。AIは分析結果対して「なぜ」なのかを説明してくれません。人事担当者が理論に基づき、データの分析結果の「なぜ」に説明を与え、周囲にも納得性を与えられるはずです。つまり、腹落ちさせることができるはずです。新しいビジネスの課題やビジネスパーソンの身近な課題の指針として理論に基づいたHRリスクマネジメントの果たす役割は大きいのです。

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