クレーム対応・カスタマーハラスメント対策トピックス

もう一つのカスハラ対策に向けて

2026.01.20
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総合研究部 専門研究員 森田 久雄

もう一つのカスハラ対策

新たな年が始まりました。本年も宜しくお願い申し上げます。

さて、今年はカスハラ対策YEARといってもよい年になると思いますが、昨年より話題に上がっております改正労働施策総合推進法がいよいよ施行されることになります。各企業の皆様はどこまで対策は進んでいますでしょうか。当社でも、多くの企業よりお問い合わせが入っており、本年は更にお問い合わせが増加することを予想しております。

カスハラ対策の進度として、大手企業ではすでに完成に近い状態で、従業員の皆さんに教育を始めている企業が多いのですが、マニュアルや研修などポイントごとに不明点を明らかにし、ブラッシュアップしているという段階に入っている感じがしております。また、中小企業の皆様ではなかなか思うように対策が進まず、まだまだ試行錯誤しながらも自助努力として進めている印象と受け止めております。

当社への依頼の多くは、ポリシーの策定、マニュアル作成、研修、相談窓口の設置など、作成又はブラッシュアップの依頼、研修実施などの依頼が入ってきております。ただ多くの企業で共通していえるのは、もう一つのカスハラ対策には触れられていない状況が多いように思います。

もう一つカスハラ対策とは、「カスハラ加害防止の観点」からのカスハラ対策ということです。企業にとって、従業員を守るためにカスハラ対策を講じるという意識は定着してきていますが、従業員が他社の従業員に対して行うカスハラや、一消費者になった際のカスハラについても、当然のことながら防止しなければいけません。つまり、被害と加害は表裏一体ということに注意喚起していかなければならないということなのです。

《改正労働施策総合推進法》※改正法案より抜粋

  • 第34条3項
    • 事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、顧客等言動問題に対する関心と理解を深め、他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。
  • 第34条4項
    • 労働者は、顧客等言動問題に対する関心と理解を深め、他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。
  • 第34条5項
    • 顧客等は、顧客等言動問題に対する関心と理解を深めるとともに、労働者に対する言動が当該労働者の就業環境を害することのないよう、必要な注意を払うように努めなければならない

他の事業主が雇用する労働者へのカスハラ加害防止

改正労働施策総合推進法における第34条3項及び4項の規定には、「他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払う」と明記されております。これは、簡単にいうと他社の従業員へのカスハラ(言動)に注意しなければならないという解釈になります。取引の関係上、どうしても優位性は存在してしまいますが、この優位性を背景として、優位性の高い企業側の従業員が自社に有利となるよう、強引な取引を強要することや、無償で何らかの代償を払わせるように仕向けるなどの行為は、いわゆる“取引先いじめ” “下請けいじめ”と考えられ、カスハラの加害行為に該当してくると考えられます。

具体例として、大型物販店などの棚卸しなどでは、納入企業に棚卸応援と称して無償での手伝いを依頼するような行為は、納入企業の立場からすると、優位性という背景から応じざるを得ないという状況になります。

このような状況は、納入企業に対するカスハラ行為と判断されます。たとえ、店舗の一従業員が依頼したとしても、その店舗を運営する企業が要請したと取られますので、企業ぐるみで取引先へのカスハラ行為が常態化していると大事になりかねません。したがって、企業が行う対策及び意思として「カスハラ加害行為の禁止」も対策に盛り込む必要があるのです。

顧客等による労働者に対する言動への注意

同法の第34条5項では、“顧客等”という記載があり、取引上のカスハラ行為だけでなく、消費者としての側面からカスハラ行為の禁止が明文化されています。つまり、労働者としてではなく、一消費者の立場になった際にも、労働者に対するカスハラ加害行為を禁止にしているということです。これは、労働者の立場以外では消費者の立場になりますので、至って当たり前のことになります。

また、労働者の立場としてカスハラ被害を被っているのであれば、カスハラを受けた際の心情は十分に理解できるはずです。その心情を考えれば、消費者の立場になった際には、自らのカスハラ行為は自ずと自制できるのではないでしょうか。

消費者として、このようにカスハラと言われると、自身が企業側の瑕疵・不手際により被った被害に対し、クレームが出し難くなるという方も出てくると予想されますが、クレーム自体は正当な指摘・要求ですので、きちんと申し立てるべきで、そもそも企業側が“気付かなった”から消費者にご迷惑を掛ける事態が発生していますので、消費者がその瑕疵を気付かせるためにも、クレームとして申し出を行い改善して頂く必要があるのです。そこで、消費者側に問題とならないよう、申し出のやり方に注意して申し出れば何ら問題は発生しません。特に、企業側の従業員の接客ミスなどでは、起こりやすく気付き難いことが多々あります。このような場合には、企業としては消費者からの声があるからこそ改善することができ、更なるサービスの向上に取り組むことができるのです。したがって、クレームは出すものの出し方に注意することが重要になります。

カスハラ加害防止のガイドラインの策定

カスハラ対策に加害防止を加えるため、「カスハラ加害行為禁止のガイドライン」を策定することをお勧めします。特に、取引先に対するカスハラ加害行為については、自身の言動に気付いていない場合が多くあると考えられます。気付いていない理由として、業務上行なわれる行為であるということ、自社の利益を少しでも確保しようという使命感など、悪意を持ち得ない場合も多々あります。また、恒常的にイジメのように行う方も残念ながら存在しています。

このような労働者に対し、企業として明確且つ具体的にどのような行為がカスハラ行為に該当するかを示さない限り、自身の行為を正当化していますので、カスハラ行為は無くならないでしょう。そして、具体的に、「このような行為がカスハラになりうるので控えるように」と明示しなければ、ただ、従業員に対して、取引先の従業員や私生活で店舗等の従業員にカスハラをするなと言ったところで、お題目にしかなりません。

そこで、カスハラ対策マニュアルの中でカスハラ加害防止に関するガイドラインを策定するために、次のような内容を盛り込むことを提案させて頂きます。

  1. 取引先に対する接し方などへの基本的な考え方を示す
  2. 消費者としての立場におけるカスハラ防止の考え方を示す
  3. 取引先に対するカスハラ行為になり得る行為を具体的に示す
  4. 取引先に対する行動指針を示す
  5. 万一、取引先との間でトラブルに陥った際の応対要領を示す
  6. 消費者として行動する際の注意点を具体的に示す
  7. カスハラ行為を認知した際の会社としての対応を示す

前述のような項目は、最低限盛り込む大項目としてガイドラインを策定し、すべての従業員にカスハラ加害者にならないよう、十分な教育・研修を行っておく必要があります。

また、カスハラ加害については、特に経営陣には「当社従業員は取引先にどのような態度で接しているのだろうか?」という疑問を持って頂く必要があります。また、管理職の方々も、部下の口調や態度、要求内容が、取引先に対するカスハラになっていないか、適切に注視・指導していかなければなりません。今までにそのような報告は上がってきていないかもしれませんが、だから当社にカスハラ加害行為はないと考えるのは間違いです。経営陣に知られたくない事実、現段階で報告までしなくても良いだろうと考えられる事実は、確実に経営陣にまで上がってきません。報告が上がってきた時には、経営陣が出ていかなければならない状態になったから、経営陣を動かすために遅ればせながら上がってきた限りなく遅い報告になります。この事実を早い段階で経営陣が認知していれば、大事にならずに解決していたかもしれませんし、そもそもそのような状態を未然防止するためにガイドラインなどで社内牽制していれば、カスハラ加害は未然防止できていたかもしれません。どのような企業にも、カスハラ加害のリスクは存在しています。未然防止できるマネジメントを行うのが経営陣の役割ではないでしょうか。

グッドパートナーであれ!

取引先との関係について、相手企業に対して上下関係という意識を持つのではなく、当社のビジネスに協力して頂いている「パートナー」または「お客様」であるという意識を持つことが重要です。また、相手企業の担当者は当社に協力して頂いている味方であるということ、特に担当者は、自身と同じ人格・感情を持った人間であることは言うまでもありません。相手の気持ちを考え、ある意味ではリスペクトという意識を持った上で接していくことです。

また、ビジネスをしていく上ではグッドパートナーを選び、物事を進めることが成功への近道かもしれませんが、それは取引先も同じことです。取引先もグッドパートナーと仕事をしたいと考えているはずです。要するに、自社が取引先から選ばれるグッドパートナーになれば、自ずと取引先は自社に集まり良き協力企業になって頂けるということなのではないでしょうか。どこかで、自社の姿を見つめなおしてみては如何でしょうか。

カスハラ対策としては、取引先等(フリーランスも含む)の従業員に対する加害防止対策も必要になることを踏まえて、もう一つのカスハラ対策を進めてください。当社でも必要な支援が可能ですので、何なりとお問い合わせください。

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