クレーム対応・カスタマーハラスメント対策トピックス

加害者の立場を回避する

2026.04.14
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総合研究部 専門研究員 森田 久雄

カフェのカウンターで顧客から注意を受ける店員

1.カスハラ対策は防止だけではない

改正労働施策総合推進法が迫る中、企業だけでなく行政の動きも加速し始めているのは言うまでもありません。当然、“カスハラ被害”を受けないという考え方を主軸にカスハラ対策が進められています。しかしながら、被害防止・軽減だけが法令に定められている訳ではないことに留意する必要があります。そもそも、「カスハラをしないこと」も定められているのはご存じでしょうか。

改正労働施策総合推進法34条では、役員や労働者に対して、「他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うこと」(努力義務)という条文があり、これは事業主と労働者への責務とされています。端的に言うと、他社の従業員に対しての言動(カスハラ的言動)に注意しなければならないということになります。当たり前のことですが、自身がカスハラ行為の被害を避けるため防止対策により守られる必要があるとしても、他者に対してカスハラを行って良いという道理はありません。取引上の関係性であれば、企業間の問題に発展するのは目に見えていて、両社の関係性は悪化し正常な取引は成立しなくなる可能性は高くなります。以前に述べた、グッドパートナーにはなり得ません。

したがって、従業員をカスハラから守ることは当然として、カスハラをさせないようにするかの両面で対策を打たなければならないことを理解する必要があります。もちろん、カスハラ自体が問題行動になりますので、業務上だけでなく私生活において消費者の立場であっても、同様に利用した店舗や施設で働く従業員に対して、カスハラ行為は行わないようにしなければなりません。

もし消費者の立場として、日常的にカスハラ行為を特定の店舗などで行なっている場合には、各企業がカスハラへの対応要領の中で整備している「出入り禁止措置」等の手段が、貴方に対して適用される可能性があることを忘れてはなりません。出入り禁止措置は、あまりに酷く、正当性のない要求行為やカスハラ行為がある場合に、企業はそのお客様に対して以後の利用をお断りするという措置です。これは、契約自由の原則として企業側でもお客様を選択することができますので、そのようなお客様には利用をお断りすることができるのです。

ただし、誤解の無いように記しておきますが、クレームを申し出ることと、不当要求やカスハラを行うことは別物ですし、クレーム(正当な要求行為)自体は消費者の権利として、また企業の改善・是正に役立つものとして、誠実に対処すべきものであることは言うまでもありません。

2.180度の視点転換

ここで、今までのカスハラの視点を180転換し消費者の視点で考えてみましょう。よくある話なのですが、同じお客様からクレームが多く寄せられる、「またあのお客さんか…」というケースが多々見られます。ある意味ではクレームあるあるかもしれません。このような時、お店が考えがちなのが“クレーマー”という意識を持ってしまうことです。では、なぜ同じお客様から頻繁にクレームが出るのでしょうか。簡単なことなのですが、企業側(店舗)にそれだけ瑕疵が多く存在しているということや、そもそもそのお客様が常連としてご利用頂いているから、他のお客様と比較しクレームを言わざるを得ない状況に当たってしまっていると考えられます。
当然、他のお客様も同様の思いをしている方も存在していると考えられますが、必ずしも企業側にその指摘をするとは限りません。そのようなお客様は、二度とその企業(店舗)を利用せず、家族や友人知人に不満を漏らして我慢してしまう。いわゆる、サイレントカスタマーになってしまう可能性を秘めています。

そもそも、クレームの始まりは企業側(店舗)に瑕疵があり、お客様に損害を与えたから発生するものです。もちろん、企業(店舗)はお客様に損害を与えるつもりはなく、気が付かなかったからこそ発生してしまいます。したがって、繰り返されるクレームは企業(店舗)に取っては、大変有難い改善のチャンスと言えるわけです。そのようなお客様をクレーマー扱いしては、企業としての発展は望めません。

お客様の立場からすると、好きで利用する店舗から、利用するたびに不手際をされてはたまりませんね。それでも我慢し、利用し続けて頂いているお客様には申し訳ないという気持ちだけでなく、感謝の気持ちを持たなければなりません。しかし、そのようなお客様を誤解していると、いつしかそのようなお客様にもカスハラとして意識を持ち始めてしまう可能性も出てきますので、企業としてはそのような思考は絶対に避けなければなりません。お客様だって、できれば気持ちよく利用したい、従業員に文句を言いたくはないのです。

現在の社会状況からして、クレームを言うことが社会悪かのような風潮になりつつありますが、これは大きな間違えであり、クレームは自信が被った損害に対する被害弁済として申し出るべき権利であり、企業はこの権利を妨げてはなりません。ただし、消費者として気を付けなければならないのは、申し出のあり方や行動には十分気を付ける必要があるということです。たとえ、自身に正当な理由のある申し出であったとしても、その申し出方法が社会通念上認められる範囲を逸脱したり、従業員の就業環境を著しく害するような言動の場合には、カスハラという認定を受けてしまうということになります。したがって、すべては言動がポイントになるということです。

3.企業間取引におけるカスハラ加害

話を戻して、企業間取引におけるカスハラについて、以前にも優位性により発生するものとして記述しましたが、昨今では他社の取引関係だけでなく、グループ企業内での取引なども問題化しているようです。

例えば、親会社とグループ会社(子会社)の取引関係において、強引な価格交渉や納品期日の設定、休日におけるエンドユーザーへの無理な訪問指示なども横行していると聞きます。また、取引ではないのですが、親会社よりグループ会社に出向したした際のパワハラ的発言が多発しているとも聞きます。どちらも、親会社という優位性を持つ立場を利用した行為に他なりません。本来は、協力しあうべきグループ会社なのですが。グループで協力してこそ利益を生み、グループとしてさらなる発展が望めると思うのですが、そこには各人の変なプライドなどが存在するのでしょうか。

では、このようなカスハラ加害行為を防止するためにはどのような措置が必要なのでしょうか。カスハラ対策の中でカスハラ対応ではマニュアルの作成と言われていますが、カスハラ加害の場合ではマニュアルではなくガイドラインを制定し、従業員にどのような行為が加害行為に該当するのか、会社として加害行為を明確に禁止することを打ち出す必要があります。加害者の中には、「私の若いころには、このようなことは当たり前であり…」という方も多く存在します。そのような考え方は、現代社会ではアウトです。このような考え方が、パワハラ、セクハラの元凶ともいえるものではないでしょうか。カスハラ加害も同様です。

加害者本人は、加害(カスハラ)しているつもりはなく、当たり前の行為として考えているのかもしれませんが、取引先企業の従業員は、その行為に疲弊し精神的ダメージを負っているのです。始まりは個々の言動であったとしても、いつしか業務上行なわれる言動は企業間の問題に発展し、レピュテーションリスクにもなりかねない事態に発展するかもしれません。もし、大手企業の従業員が日常的にカスハラ加害行為を行なっており、その行為がメディアに流れた場合どのようなことになるでしょう。カスハラに関する法令改正が目前に迫るこの時期です。したがって、企業はカスハラ被害防止対策だけでなく、加害防止対策も考えた上で“カスハラ対策”を適切に進める必要があるのです。何よりも、各企業の大事なパートナー企業ですから、その企業の従業員の方も重要な協力者であることを忘れてなりません。

4.消費者としてのクレーム申告とカスハラ加害の境界線

最後に、消費者として加害者にならないために注意すべき境界線をお話しておきますが、大前提としてクレームを申し出ることは決して悪いことではなく、損害を被った消費者が損害回復を申し出る当然の権利であることを踏まえた上で、まずは自身の被った損害の事実をありのままに伝えることです。ここで、事実を歪曲したりすることは、当然虚偽の申告になり得ますので、“ありのままに伝えること”が重要です。

そして、被った損害の原状回復を求めることです。この際、多少の怒りはやむを得ないとしても、過剰に感情を表に出す行為は厳禁です。また、相手を萎縮させることを目的とした大声を発する行為などの威圧的な言動や、違法行為(刑法犯)なども厳禁です。さらに、従業員個人を攻撃する可能行為も当然厳禁です。

自身の感情任せに言葉を発すると冷静さを欠き、徐々に言動がエスカレートする可能性があります。あくまで冷静に、自身の被った損害のみを回復要求することがクレームとなり、原状回復以上を求める要求が不当要求(過剰要求)となり、要求の手段が社会通念上許容される範囲を逸脱するような行為や、個人攻撃などにより従業員の就業環境を害するような状態に陥らせるような場合、その他企業ごとに定めた指針にあるカスハラへの定義に抵触するような場合には、カスハラ行為ということになるわけです。

消費者としての立場に立った場合にも、不当要求及びカスハラ行為に至らないようにしたいものです。

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