クレーム対応・カスタマーハラスメント対策トピックス
CS企画推進部 鈴木 隆統

1.カスタマーハラスメントを巡る最近の動向
2.改正法におけるカスハラの定義
3.従業員の視点で考えるカスハラ認定の最低基準
4.犯罪・違法行為に該当し得る迷惑行為
5.カスハラ認定に向けた対応
6.まとめ
1.カスタマーハラスメントを巡る最近の動向
2026年10月1日に改正労働施策総合推進法(以下「改正法」という)が施行され、すべての事業主に対し、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」という)への対応方針の明確化、相談体制の整備、実効性のある対応体制の整備、被害者への配慮などの対策を講じることが義務付けられました。
これに先立って、厚生労働省は『事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』(以下「カスハラ防止指針」という)を踏まえて改訂した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を2026年9月8日に公表しています。このマニュアルで注目すべきは、昨今多くの企業がカスハラ対策に取り組んでいないと報道されている中で、はじめ書きにおいて、『カスハラ対策はもはや企業の努力目標ではなく、すべての事業主に課された法律上の義務』と明言し、下記の注意勧告ともとれる内容を示していることです。今後、この国の方針に則り、地方自治体が罰則付きの条例を制定するなどして、企業のカスハラ対策をより強く促進していくと考えられます。
既に、三重県では2026年9月にカスハラ防止対策の実効性を確保する目的で罰則付きの条例案を県議会に提出しており、同県桑名市では2025年4月に悪質な事案で加害者の氏名などを公表する市条例を施行し、同年6月に土下座を要求するなどした行為をカスハラと認定し、警告書を発送しています。
- BtoB企業を含め、業種・業態を問わず、すべての事業主が取り組む必要があり、対応が不十分な場合には、都道府県労働局による助言・指導・勧告の対象となりえます。
- カスハラへの対応を怠った結果、従業員の心身に被害が生じた場合には、安全配慮義務違反を理由として従業員等から損害賠償請求等を受ける可能性があり、さらに、怪我を負った場合や精神障害を発病した場合は、労災保険の対象となります。
このことから、今後、企業としてカスハラ対策を講じずにいる中で、カスハラによって従業員の心身に被害が生じた場合には、コンプライアンス違反とみなされてレピュテーションリスクが高まったり、安全配慮義務違反とみなされて当該従業員等への損害賠償を命じられるリスクが高まったり、さらに、従業員や株主などのステークホルダーからの企業評価に直結し、離職率の増加や株価の下落などにつながったりすることが考えられます。そのため、カスハラ対策は企業の存続にかかわる重大な経営課題であると認識し、コンプライアンスの観点から、できる限り講じていく姿勢が求められます。
2.改正法におけるカスハラの定義
改正法を基に策定されたカスハラ防止指針では、職場におけるカスハラを「職場において行われる①顧客等の言動であって、②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすもの」と定義付けています。
また、この中で最も曖昧な基準といえる②に関して、「社会通念上許容される範囲を超えた言動とは、社会通念に照らし、当該顧客等の言動の内容が契約内容からして相当性を欠くもの、または手段や態様が相当でないもの」と補足説明し、カスハラの典型的な例として下記の行為類型を示したうえで、「判断に当たっては、様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等)を総合的に考慮することが適当」と付け加えて説明しています。
- A:言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えるもの
- そもそも要求に理由がないまたは商品・サービス等と全く関係のない要求
- 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求
- 対応が著しく困難なまたは対応が不可能な要求
- 不当な損害賠償要求
- B:手段や態様が社会通念上許容される範囲を超えるもの
- 身体的な攻撃(暴行、傷害等)
- 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等)
- 威圧的な言動
- 継続的、執拗な言動
- 拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)
改正法では企業のカスハラ対策として、従業員がカスハラの被害に遭わないように、適切に対応するために必要な体制を整備することおよび、カスハラへの対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置を講じることなどを義務付けていますが、それを果たすためには、『カスハラをどのように認定し対応するのか』が重要なポイントとなります。
企業としては、安全配慮義務の観点から、従業員が現場で使えるわかり易いカスハラ認定基準を設けるべきでありますが、改正法やカスハラ防止指針は、BtoB企業を含むすべての事業主に向けて策定された全体的かつ包括的な内容であり、そのままでは曖昧でわかりにくいため、これらを基に、自社の業種・業態や経営形態等に合わせた認定基準を定めることが求められています。
しかしながら、一企業ではカスハラの対応実績が多くなく、また、CS(カスタマーサティスファクション)を重視する姿勢が一般的であることから、この認定基準が悩みどころになっています。実際に、弊社がクライアント企業のカスハラ対策やカスハラ対応をサポートしている中で、「カスハラを認定するうえで判断に迷ってしまう」「明確な基準がないため判断に時間を要してしまう」「どこで対応を打ち切ればよいのかわからない」といった声が多く寄せられています。
3.従業員の視点で考えるカスハラ認定の最低基準
企業として従業員が現場で使えるわかり易いカスハラ認定基準を考えるうえでは、先ず、役員等の視点ではなく従業員の視点で考えるべきであり、その視点で従業員が安心できるものを策定していれば、もし仮に従業員のカスハラ被害が発生してしまったとしても、企業として安全配慮義務違反とみなされるリスクは低減するものと考えられます。
次に、従業員一人ひとりが理解して使えなければ、実効性があるとはいえないため、すべての従業員が理解できるような一般常識を含むものにすべきであり、容易に理解できるものであればあるほど、前述した従業員の安心にもつながるといえます。
その観点でカスハラ防止指針のカスハラの定義および行為類型を見ると、②にある『社会通念上許容される範囲を超えたもの』と、③にある『労働者の就業環境が害されるもの』の両方に該当し、かつ一般常識を含むものとしては、上記の行為類型Bにあるような『犯罪・違法行為』が挙げられます。いかなる業種・業態であっても、これに該当する行為があった場合に対応を打ち切ったり、警察に通報したりすることは一般常識であるといえ、逆に、会社としてそれを行わずに従業員がカスハラ被害を受けた場合には、当然に安全配慮義務違反とみなされ、企業側の管理責任が問われ、また、貴重な人財を失う可能性が高まるといえます。なお、弊社では犯罪・違法行為をカスハラに含まれるものとして位置付けています。※ 別添資料参照
以上のことから、企業としてカスハラ対策を講じるうえでは、犯罪・違法行為に該当するか否かを基準としてカスハラと認定し、対応を打ち切る最低基準とするところから始め、そこから自社の業種・業態や経営形態等に合わせて肉付けしていくことが、より効果的かつ効率的であるといえます。
4.犯罪・違法行為に該当し得る迷惑行為
犯罪・違法行為に該当するか否かをカスハラ認定の最低基準にする際には、それに該当し得る迷惑行為を下記のように行為類型として例示し、従業員がフラグを立て易くしておく必要があります。
- 殴られたり、胸倉や髪の毛をつかまれたり、唾を吐きかけられたり、意図的に押し飛ばされたりした場合
⇒ 受傷なし:暴行罪
⇒ 受傷あり:傷害罪 - 物(ドア・コップ・看板等)を壊された場合 ⇒ 器物損壊罪
- 本人や家族、会社役員等に危害を加える等といわれた場合 ⇒ 脅迫罪
- 脅迫を受けて、土下座させられたり、謝罪文を書かせされたりした場合 ⇒ 強要罪
- 暴行や脅迫を受けて、金品を要求されたり、債務を免除させられたりした場合 ⇒ 恐喝罪
- 大声で騒がれたり、長時間にわたる対応を強いられたりして業務に支障が出た場合 ⇒ 威力業務妨害罪
- 顧客が立ち入れない場所に承諾なく入ってきた場合 ⇒ 住居侵入罪・建造物侵入罪
- 建物等から「出て行ってほしい」といっても出て行かない場合 ⇒ 不退去罪
- 自宅等に呼び出され、帰らせてもらえない場合 ⇒ 逮捕監禁罪
- 人前やインターネット上で人種や職業、容姿等に関する侮辱的な暴言を受けた場合
⇒ 事実の掲示なし:侮辱罪
⇒ 事実の掲示あり:名誉棄損罪
5.カスハラ認定に向けた対応
上記の迷惑行為の中で、1については行われた時点で犯罪・違法行為に該当するため、カスハラとして認定して、対応を打ち切るもしくは警察へ通報することになります。
2以下の迷惑行為については、意図的に行っていない場合には犯罪・違法行為に該当しない(違法性が阻却される)ことがあり、通常のクレームでも感情が伴うことが多いことから、顧客等が感情にまかせて意図せずに行っていることを想定し、下記の通りに段階を踏んで慎重に対応することが求められます。
① CSの観点からその時々で行うべきことを確実に行う(対応上の不備がない状態を作り出す)。
② 迷惑行為を許容できない旨と合わせて「止めてほしい」という意思を丁重に伝える(意思表示)。
③ それでも続く場合には、「これ以上続くようであれば対応を打ち切るもしくは警察へ通報することになる」という旨を丁重に伝える(警告)。
④それでも続く場合には、「止めないようなので先程伝えた通りに対応を打ち切るもしくは警察へ通報する」という旨を伝え、対応を打ち切るもしくは警察へ通報する(カスハラ認定)。
6.まとめ
改正法で義務付けられている企業としてのカスハラ対策は多岐にわたっており、その中には今まで全く取り組んでいなかった内容が含まれているケースもあり、法の要請に応じた完全な体制を構築するためには相当な時間や労力、コストを要すると想定されます。
そのため、企業ごとに取り組むべき内容を整理したうえで優先順位を付けて取り組んでいくべきでありますが、その中で、コンプライアンス違反とみなされないように、少しずつでも段階的に対策を講じている姿勢を示すことと、安全配慮義務違反とみなされないように、従業員の視点で安心できる対応体制を優先して構築することが重要であると考えます。


