HRリスクマネジメント トピックス

三匹(?)が語る!HRリスクマネジメント相談室(7)「うちの新人は宇宙人か?」

2019.04.23
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新入社員のイメージ画像

 職場におけるトラブルは複合的。社内の様々な関係者の協力を得て、複数の視点で捉えなければ、解決が難しい問題も多々あります。でもやっぱり最後は「人」!HRリスクマネジメントが重要です。

 職場における様々なトラブルを解決すべく、今、エス・ピー・ネットワークに生息する動物たちが立ち上がりました!初動対応や法的な責任、再発防止など、三匹それぞれの観点から熱く語ります。

 

【今月の三匹・プロフィール】

かわうそさん:
京都出身のはんなり系。住処は八坂を中心とする祇園だった。東京に出稼ぎに来て間もないですが、いっちょまえにHRリスクマネジメントについて考えていきます。

酉爺(とりじい):
普段は鶴で、週末はフラミンゴ(?) 下町生まれの下町育ち。寅さんやたけしさんに通じる素養を持つコンサルタント。一昨年、赤いちゃんちゃんこに袖を通す。

ネコさん:
猫なで声と鋭い爪をあわせ持ち、企業内での人事実務経験が豊富。社会保険労務士で、産業カウンセラー、実はキャリアコンサルタントでもある。ニャーン、私のこたつ、まだ片付けないでー。

 

今月のご相談は、こちら。

 某サービス業の営業所長です。うちの新人、もう、宇宙人としか思えません!

 他の人たちはみんな早く出社しているのに、始業時間の10分前くらいに出社して、悠々としているとはけしからん。それにあの「あざーす」っていう挨拶は何だ?朝の挨拶は「おはようございます」だろ?

 頭でっかちで理屈っぽくて、カタカナばっかりでしゃべるわ、変な省略語は使うわ、最近は周りまで影響を受けて、ヘンな言葉を使い始めるヤツが増えて困る!仕事もろくにできないくせに、「この書類って、どういう意味があるんですか?」とか、いちいち細かいことを突っ込んでくるし、「新人なんだから言われたとおりにやれ!」と怒鳴りたくなるのを、ぐっとこらえる毎日。どうせちょっとキツく注意すると「パワハラだ!」とか叫び出すんだろ?

 自分が新人の頃は、毎朝先輩社員の机拭きから始まったっけなぁ。仕事は「見て覚えるもの」だったから、先輩社員にくっついて、やり方もコツも自分でつかんでいったものなのに。今の若者は何を考えているのやら…。

【かわうそさん】

 はじめまして、かわうそです。さっき書いたプロフィール、実はうそが混じっています。かわうそだけに!
 それはさておき、まずは20代の若手かわうそ目線で、宇宙人さんの言動について考えてみたいと思います。

<始業時間ギリギリの出社でなぜいかん?プライベート優先指向!>

 相談者は「始業時間10分前に来て悠々としてけしからん」といわはります。いやいや、何をおっしゃいます。私が思うに「けしからん」と言いきってしまうのはいかがなものかという感じです。これは、始業時間前については給料が発生しないのであるから、拘束されるいわれのないこと、業務上の支障が存在しないことが理由となります。以上のことから、宇宙人さんの出社時間については問題がないと思いました。

 ただ、せっかく相談しにきはったのに、「あきまへん」と返すのは心苦しいです。そこで、「今の若者は何を考えているのか」について公益財団法人日本生産性本部の調査結果をもとに簡単に述べたいと思います。

「平成30年度 新入社員 働くことの意識調査結果 ~働き方は人並みで十分(61.6%)、好んで苦労することはない(34.1%)が過去最高を更新~」(以下、「調査1」とする。)

「2018年度新入社員春の意識調査~入社した会社が第一志望80.6%~」(以下、「調査2」とする。)

 調査1における「仕事」中心か「(私)生活」中心かという質問について、「両立」という回答が常に多数(平成30年度では78.0%)を占めるものの、「仕事」中心という回答(6.7%)と、「私生活」中心という回答(15.2%)との差が拡大しています。また、調査2における「残業は多いが、仕事を通じて自分のキャリア、専門能力が高められる仕事」と「残業が少なく、平日でも自分の時間を持て、趣味などに時間が使える職場」のいずれを望むかという質問で、後者と回答した人の割合は75.9%で、過去最高です。

 以上のことから推察するに、若者は、一般的にプライベート優先指向といえます。そのため、いかに仕事時間を短くし、プライベートの時間を確保するのかを考える結果、始業時間ギリギリの出社となるのではないでしょうか。

<宇宙人を地球人へ。いかに籍を変更させるか?>

 「周りまで影響を受けて…」と相談者はいわはります。周りに影響が出ているということは、宇宙人さんによる「カタカナ語や変な省略語」の使用が相当期間において常態化しているものと推察しました。また、「困る」と相談者はいわはりますので、その言葉使いを問題視しているようです。そうすると、相談者は、問題視していたのにもかかわらず、周りに影響が出るまで、宇宙人さんの言葉使いを注意することなく放置していたものと思われます。そのため、相談者にも新人教育に関し、再考すべき点があるのではないかとも考えました。

 そもそも、なぜ一部の若者は、「正しい言葉使い」で相談者のような目上の人と会話することができないのでしょうか。要因を考察していきたいと思います。

 私見では、現代の一部若者というのは相談者のような目上の人と「正しい言葉使いでのコミュニケーション」というものを学ぶ機会が無かったことが理由ではないかと思います。

 誰しもが社会人になるまでにさまざまな大人と接します。具体的に考えられる大人というのは、親や学校の教師等で子供にとって言語発達に重要な影響を与える存在です。こういった大人達とのコミュニケーションの中で相手や場面に応じた言葉の選択をして「言葉使い」を身につけていくものではないかと思います。これは現代も相談者の時代も変わりません。それではなぜ、現代の若者は教育課程において学びの機会を失ったのでしょうか。親子間、教師と生徒の間の順に見ていきます。

 まず、親子間の言葉使いについてです。戦前の親子間の言葉使いについて、「文化庁のこれからの敬語(建議)」を参考にすると、長上に対しては敬語であり、「です、ます」ではなく「ございます」という言葉を用いて、親子間における言葉使いですら上下関係の枠組みが明確なものとなっていました。しかし、このような言葉使いは封建制の象徴ともいえ、戦後の基本的人権の尊重の流れには相容れないものとなってきたのかもしれません。そのため終戦を契機に言葉使いも変化していったものと思われます。そして、この上下関係が薄れた言葉使いのもとで育った世代が親となり、子供と対等に近い関係を形成していきます。さらに、現代においては「友達親子」という言葉があり、親子間の会話がフラットなものとなっていると思われます。それによって、現代の若者は家庭教育において、この相談者さんが思うような「適切な言葉使い」を学ぶことなく社会に出てしまっているのではないでしょうか。

 次に教師と生徒の間の言葉使いについてです。上記のように、言葉使いにおいて上下関係が薄れる現象は、学校教育の現場においても生じているものと思います。子供と教師の間に厳格な上下関係は失われ、むしろ対等な関係が形成され、現代においては「友達教師」という存在も増えてきているように思います(個人的には決して悪いとは思いません)。教師との間で友達のような関係性が形成された結果、子供は目上の人とのコミュニケーションを学校において学ぶことなく、社会に出てしまっていると考えられます。

 以上のように現代の一部の若者は、相談者が当然の前提とする「適切な言葉使い」というものをまったく知らないのです。その言葉遣いが業務に支障を来たすのであれば、上司は放置するのではなく、指導をしなくてはならないと思います。上司により指摘されることを契機として、若者は自分自身の「言葉使い」は本当に適切なのか、ビジネスで通用するのかと疑うようになります。そして疑問を持てば自ら調べて「正しい言葉使い」を身につけていくのではないでしょうか。こういった自主性を身につけるまでは、上司による関与が必要であると考えております。

<モチベーション管理の必要性:宇宙人さん的に言うと、「もち、モチベ管理も必要っす!!」>

 「机を拭く?もう、平成も終わりやねんで…」と思ってしまいました。

 相談者のいわはる「仕事は見て覚えるものなので先輩社員にくっついて、やり方もコツも自分でつかんでいったもの」というのはおよそ放置に近い状態と感じます。このような放置が若者の就労におけるモチベーションに、どのような影響を与えているのか、考察したいと思います。

 調査1によると、現在の若者の会社選択の理由の1位は、「自分の能力、個性が生かせるから」で、2位は「仕事が面白いから」です。また、同調査の「就労意識」に関する質問から、「仕事を通じて人間関係を広げたい」と「社会や人から感謝される仕事がしたい」という項目が、「そう思う」、「ややそう思う」が占める割合の上位2項目であるという結果となっています。これらのことからすると若者は働くことに対してポジティブであり、自分をうまく生かし、自分の楽しみ等を感じつつ、人や社会に役立ちたいように思われます。また一方、調査2で「自分のキャリアプランに反する仕事を、我慢して続けるのは無意味だ」という質問に対し、そう思うと答えた割合は38%で過去最高であり、これは6年連続で増加傾向となっています。自分の描いている理想像を叶えるものでないと考えると、職務遂行につき消極的になってしまう若者が増えているのではないでしょうか。また、若者は当該業務について、自らが描く理想像を叶えるものではないと疑問を持つと、他のどこかにもっとマッチした仕事があるのではないかという思いにとらわれてしまうのかもしれません。

 相談者がいわはることは賛成できる部分もあります。しかし、上司の業務を漫然と見ていても、当該業務の目的、意味を理解しきれない場合はあるといえるでしょう。そして、若者が業務の目的、意義を理解しないままの状態で、楽しみや自分を生かせているという実感が持てないままであると、働くことへの動機付けが難しくなり、仕事へのモチベーションの低下が生じてしまうと思います。そして、モチベーションの低下は業務上のミスを誘発し、業績向上に結びつきません。新人が業績を向上させられるかどうかは、上司の腕次第!!と思います。

 そこで上司としては、新人のモチベーションを維持・向上させる必要があるものと考えます。そしてモチベーションを向上させるためには、上司が積極的にコミュニケーションを図り、目標を明示しなくてはなりません。なお、明示した目標が高すぎるとモチベーションを下げてしまうことに注意しなくてはなりません。

 酉爺、ネコさん、私のこともかまっておくれやすー。

【酉爺】

 えっ何、呼んだかいのう。これから飲みに行くとこじゃったのに~。

(ネコさん)酉爺!早く、早く~。出番ですよー!

 ハイハイ、ネコちゃんは恐いのう(いや、カワイイよ~)(汗)、分かりましたです。いや~、久し振りの登場だわい、酉爺見参!なんつってな。

 まあ、毎度のことじゃが、これだけでは真実や実態はなんも見えてこんぞえ。

 相談内容は、この営業所長さんの個人的で一方的な見方や感想の表明であって、思い込みや先入観も滲み出ておるわな。実質は相談というより、憤慨に溢れた愚痴だわな。この”宇宙人君”に対しては、大分鬱積しているんじゃろなあ。さてそれはさておき、”酉爺”アナリシスとしては、いつものように与件の整理をしておきたいところじゃ。所与の条件の明確化と言った方が分かりやすいかのう。要は、真実はさておき、諸事実に揃い踏みしてもらわにゃならん。凡そ、知りたい(確認したい)ことは、以下の通りじゃ。

(1)某サービス業とは具体的に何か
(2)総従業員数はどれくらいか
(3)この営業所含めて、どのくらいの支社・営業所を展開しているのか
(4)この営業所の人数はどれくらいか
(5)この営業所内の組織体制と年齢・社歴等の構成比はどうなっているか
(6)この営業所内のコミュニケーションは、活発化・活性化しているか
(7)営業所長は部下からどう見られているか
(8)この企業の新入社員教育や研修はどのようなプログラムになっているのか
・本社主導か現場主導か
・入社年次別の一律実施か
・各部署や拠点毎の自主的取り組みか
・全くの未実施か

 この(1)~(8)への回答というか実際の状況把握によって、相談への対応もちょっと変わってくるぞな。例えば、これからこの営業所長は何をやっていくべきか、何をやってはいけないのか、営業所全体として取り組むべきことはあるのかないのか、あるとしたらそれは何か、本社に相談すべきことはあるのかないのか等々、ある程度自然と浮かび上がってくるもんじゃよ。とはいえ、ここではそれらは不明なので、幾分かの類推に基づいて仮説を立てていかざるを得んのだが、その仮説が真実に近づけてくれるかもよ。順に追っていくとしまひょか。

<一つの仮説>

(1)某サービス業とは具体的に何か―
 まあこれは特定せずとも、広くサービス業ということで宜しかろう。

(2)総従業員数はどれくらいか―
 500~1000人規模の中堅企業ということにしておきましょか。

(3)この営業所含めて、どのくらいの支社・営業所を展開しているのか―
 10~20ヶ所程度で、主要都市には拠点展開されているとしますか。

(4)この営業所の人数はどれくらいか―
 支社・営業所の平均従業員数を20名とし、本社従業員を100名とすると、拠点数10ヶ所だと総従業員数は300名、拠点数20ヶ所だと総従業員数は500名にはなるが、この営業所は15名とみなしましょか。

(5)この営業所内の組織体制と年齢・社歴等の構成比はどうなっているか―
 さて、ここが一つのカギじゃよ。当該営業所員15名で、この営業所長と”宇宙人君”を除けば、残り13名となるが、陣容の構成比はどうなっているんかいのう。

 ひとまず、営業所全体で次のような構成を想定してみるかいな。

 (A)50代:1名(所長)
 (B)40代:3名(部課長など)
   ※内、1名は総務・管理担当と想定
 (C)30代:5名(係長・主任など中堅・ベテラン社員)
   ※内、1名は事務系社員と想定
 (D)20代後半:3名(次代を担う)
 (E)20代前半:3名(”宇宙人君”含む)

 営業所長は、この会社の生え抜きで、社歴はといえば25~30年、つまり、年齢は40代後半から50代前半といったところと想定したが、いかがじゃろう。どうやら”宇宙人君”は新人らしいので、この想定ならば、所長との年齢差は約30歳近い。自分の子供のような年齢じゃな。それゃ、価値観も違うだろうて。
 
(6)この営業所内のコミュニケーションは、活発化・活性化しているか―
 何をもって、コミュニケーションが活発化していると見るかは、非常に難しいところじゃが、少なくとも、この所長の発言量、部下との会話量は、決して多いとは見えんのう。自分から会話を閉ざしてしまっている面も見え隠れしておる。また、各層のコミュニケーションの多寡を推し量ってみると、(A)が孤立しているわけではなかろうが、やはり世代の近い(B)との会話が多いのではなかろうか。同じように(B)は(C)と、(C)は(D)と、(D)は(E)との会話が公私ともに相対的には多いのではなかろうか。この世代的に近い層との関係性では、当然上から下に向かっては、指導や教育、助言や補助、激励や慰労、注意や叱咤は介在してくるわな。さらにいえば、場面に応じた感謝や陳謝などのコミュニケーションもあって然るべきなんじゃよ。それらを受け止めた下は上に対して、相談もするし、敬意も払うってもんじゃよ。このコミュニケーション(上下間で繰り返される言葉のキャッチボール)が途絶えたら、営業所内の雰囲気は悪くなる一方だわな。

(7)営業所長は部下からどう見られているか―
 どうも尊敬はされていないようだな。好き嫌いというのもあるが、これは口にしない、態度に見せないというのが、大人の作法というもんじゃよ。

(8)この企業の新入社員教育や研修はどのようなプログラムになっているのか―
・本社主導か現場主導か―
・入社年次別の一律実施か―
・各部署や拠点毎の自主的取り組みか―
・全くの未実施か―
 これは全く分からんな。ただ、営業所内での新人”宇宙人君”の教育係りは、まさか営業所長一人ということは、現実的には考えられないわな。(E)の残り2名は、”宇宙人君”の1~2年先輩であろうし、仮に3名が同期であったとしても、その教育係りは(D)の3名ということになり、1年間はマンツーマン指導かもしれんのう。

<仮説への回答>

 さてと、以上の仮説を立ててみたが、いかがじゃろうか、皆の衆。この仮説は、立証も反証もできないんじゃが、業種や規模にかかわらず共通する回答は導き出せるのではないかと思う酉爺なのであります。この手の問題・事例は、どっちが良い悪いと、単純に割り切れるものではなく、また、どちらにも落ち度があったり、逆に、どちらも正論っちゃー正論の場合もあって、解決は難しくなりまっせ。ここで「正論」を「筋を通す」ことと解釈した場合、現実的には、この”筋の通し方”が焦点なのですぞ。この”通す””通る”という言葉の本質を理解するには、「無理を通せば道理が引っ込む」という故事を思い起こしてほしいのじゃ。”通す”べきは、「道理」に決まっておるわな。職場の環境や人間関係を考えた場合、個々の職場がこの「道理」に沿っているか、あるいは、どれだけ「道理」から外れているかという観点からアプローチするのが、これまた「道理」なんじゃよ。その計測対象は、この営業所長や”宇宙人君”の個人的・属人的資質や能力、性格や特質だけにとどまらず、社是・社訓・社風、トップのキャラクターと経営哲学にまで及ぶべきものなんじゃよ、本来は。

 経営実体や営業パフォーマンスが、この道理・常識・社是から外れない(ギャップを生じない)よう統治されていなければならないことが、企業経営には暗黙に了解されているはずだったのじゃ。ところが、不祥事を起こした企業の「社内の常識が社会の非常識だった」とのコメントが、20年程前から常套句化してしまったのう、情けないことじゃが。

 話しを戻しますぞ。つまり、各企業はこの「道理」などに沿った、あるいは、基づいた人材を採用してきたはずだし、育成してきたはずだわな。それは求められる営業所長像や新入社員像だけでなく、各階層/全社員をカバレッジしていなくてはならんのよ。そのために各種研修制度もあろうしのう。本社主導と現場主導の研修も対立するものではなく、研修パフォーマンスの相互補完と相乗効果が最大の目的であらねばならんはずじゃ。その意味では、各部署・各拠点内でのコミュニケーションギャップは、この会社ではこの営業所だけに見られる特異な現象ではないと、ワシは思っておるのだ。そうでなければ、仮にこの拠点数20ヶ所で総従業員数500名の会社の、この営業所長と”宇宙人君”の二人だけが、各自それぞれと同様の立場にいる、他の同僚社員と比べて、極めて特異な突出した存在となってしまうわな。「そんなことはないだろう」というのがワシの見立てなのだが、とにかくここではこの二人に焦点を絞ることにさせてもらいまひょ。

<二人の当事者の何が問題か>

 まず、前段で触れた「筋を通す」に関連して言えば、営業所長は、「筋を通したい」かもしれないが、全く通せておらん。「通す」努力も工夫も見られんわな。そもそも彼の「筋」がもはや「道理」と乖離してしまっているかもしれんのじゃ。一方、”宇宙人君”の方はどうじゃろか。彼には「通すべき筋」など元々ないようにも見えるし、「スジってなんすか?」と聞きそうやね~。”ドーリ”や”ジョーシキ”に対しても、「よく分かんないっス」なんて言ってきそうやもんね。こうなると学生と社会人との基本的な違い(覚悟や責任の重さ)の理解もままならぬ非常識人か、つい「この未熟者がっ!」と言いたくなるような相手かもしれんぞよ。もし彼が本当に非常識人であった場合、(実施していると仮定して)本社での研修、ならびに営業所内での研修の効果は露程もなかったということになってしまうがな。

 また、「未熟者!」と叱責することが微妙なハラスメントラインであることを十分承知した上で言わせてもらうと、第一義的には、”宇宙人君”が未熟者であるかどうか、事実か虚偽かが問われるべきじゃよ。仮にそれが事実であったとしても、営業所長が他のスタッフの前でそのような言葉で叱責するのは「如何なものか」という意見もあろうし、それはワシも理解できるところじゃが、第二義的な問題ですぞ。その後、”宇宙人君”が「皆の前で”恥”をかかされた」として、営業所長をパワハラで訴えるのはお門違いというものじゃよ。

 ”恥ず”べきは、己の非常識さや未熟さの方だべ。社会人として、ましてや顧客と接する最前線のプロの営業マンとして保持すべき心構え以前の問題だからのう。上司や先輩社員がそれらの点を指導せずスルーするのは、決して優しさなんかではないけんね。

 むしろ、”非寛容”と表裏一体となった”他人への関心の欠如”、”嫌われたくない症候群”、”自分だけ良ければよい”などの今日的社会的病理現象なんじゃよ。皆の衆、そこを勘違いしちゃいかんぜよ。ここまで類推すると、この会社の採用戦略とはそもそも何なのか、また新人の定着率は如何ほどのものか、逆に全従業員の中の”宇宙人化”比率などにワシの関心は移るわな。ところで、いつの時代も「最近の若者は…」などと言われ続けてきたのが人類の歴史なんじゃよ。ワシのちょい下の世代も”新人類”などと呼ばれていたのう。

 (ネコさん)知らなーい。私、もうちょっと下の、いわゆる「ロスジェネ(ロストジェネレーション)」世代だもん。バブルの恩恵なんて、ひとっつも受けてないもん。

 う~ん、だからこの営業所長もその上の世代も若いときはいろいろと言われてきたはずなんじゃよ、これが。で、その都度、反発もしながらも人間的にも職業人としても成長してきた、はずよ。まあどこでも一部の例外はいるもんじゃが。その反発の中には、自分が未熟であることを認めながらも、ある種の理不尽さに対する抵抗という側面があったことは否めないわな。いくら立派な社是・社訓を掲げていても、組織が抱える負の(ブラックな)側面は消えないからのう。それ故、その改善に取り組むべく努力と工夫を重ねている企業もあるわけやからのう。そのような同一条件下では、「今に見ておれ、俺だって」と「ただ普通に働きたいだけなんです」や「辞めてやる、こんな会社!」の間には、実はあまり組織的影響要因に大きな違いはなかったりするのだよ、コンプライアンス違反企業は問題外だからのう。つまり、個人レベルでは、この営業所長も”宇宙人君”の両者とも、バランスを欠いていると言わざるを得んぞな。営業所長に関して言えば、寛容と指導、注意とフォロー、仲間意識と厳しさ、優しさと自立心、説得と納得、人格と信頼、等々の対照・相関関係・因果関係における最適バランスの取り方に対する自覚や理解があまりにもないわな、これまた情けないことやで。50歳くらいになったら、このバランスが一律ではなく、局面や相手によっても自在に変化させられるくらいのスキルと度量を持ってなきゃいかんのだがのう。

 この営業所長は、”宇宙人君”が他のスタッフより出社が遅い、挨拶の仕方、使用言語の偏りなどをあげつらうが、それに対する注意や指導はせずに、「仕事もろくにできない」と断定し突き放す。さらに、問われた書類の意味も細かな突っ込みと解釈し、結局教えず、ただ怒鳴りたくなるのをこらえるだけと言う。キツい注意には「パワハラと叫び出す」と推測するなど勝手で一方的な思い込みを吐露しているわけだが、そこには説明も説得も教導も欠いた不十分な職場のコミュニケーション実態が露呈しているだけだわな。これでは上司としては、無責任な役割放棄でしかないとの認識はあるんやろかいな。指導力や指導体制といった面からすると、「最近は周りまで影響を受けて、ヘンな言葉を使い始めるヤツが増えて」いるとのことなので、営業所内の(B)(C)(D)の各層にもそれぞれの役割に応じた責任はあると言わざるを得まいよ。もちろん最終的には営業所長のリーダーシップに行き着くわけだがのう。「自分が新人の頃は、…」と回顧するのは一旦措いといて、”今”に真摯に向き合うべきじゃよ、相手や時代によって、”阿吽の呼吸も”変化するからのう(「阿」も「吽」も変化するのじゃよ)。

さて、この営業所長と”宇宙人君”との間では、本当の意味でのハラスメント(職場内の優位性に基づいた嫌がらせ・不当な人格攻撃・心を傷つけるなど)は成立せえへんよ、ぶっちゃけ。

 両者間のコミュニケーション、あるいは、(B)(C)(D)を介したコミュニケーションの濃淡の行方もポイントにはなるが、”宇宙人君”が業界の慣習や会社のルールを無視したり、顧客を怒らせてしまったなどの重大なミスやトラブルが惹起される前に、”宇宙人”からまともな”地球人”に近づいてもらわにゃ困るわな。それでは、”まともな地球人”の基準は何か、と問われれば、それが「道理」や「常識」や「良識」なのだと答えるだけやね。

 ダイバーシティの幅を宇宙人にまで拡げる合意はまだ得られていないし、それ程の成熟度もまだこの星は獲得しておらんからのう、残念ながら。

 まあ、”宇宙人君”を宇宙人のままで放置しておくか、覚醒させるかは、この営業所長と諸先輩社員の問題意識の深さと広さにかかっているといっても過言ではないぞよ。そうでないと、営業所員全員がエイリアンになりかねませんぞ。

【ネコさん】

 もう、酉爺!私、怖くないし、かわいくなくていいから!ここは仕事の場なのよ?メスだからって「かわいいと思われたい」と思っているとか、決め付けないでよねっ!

 それはさておき、かわうそさんも酉爺も、所長さんには厳しいコメントね。ネコも基本的にはその通りだとは思うけれど、愚痴を言いたくなるくらい、所長さんもたいへんなのよね、きっと。

<言葉は相手に合わせるもの>

 挨拶は「おはようございます」にしたいのは同感です!挨拶は、きちんと聞き取れるようにしたいもの。所長さんや周りの先輩たちも総出で、「良いお手本」を示したら良いのではないかしら。電話応対などもそうなのだけれど、自然と耳から入ってくることって、いつの間にか真似してしまいませんか?

 「カタカナばっかり」とか「変な省略語」は…まぁねぇ、ネコもアルファベットの頭文字を集めた省略語は苦手です。つい、いちいち元の単語を確認したくなってしまいます。例えば「MCって、何の略か知ってる?」なんていきなり聞かれても、「Master of Ceremony」とか「Marginal Cost」とか「Memory Card」とか、いろいろ解釈できるでしょう?文脈がわからなければ、どの「MC」を指しているかわかりません。(ちなみに学生時代のネコは、「Mind Controlですか?」と返して、先輩を絶句させました。)

 カタカナも、耳慣れない言葉を使う人って、世代を問わず、結構いますよね。「せめて英語にして!」って叫びたくなることもあります。(だって、LとRの違いとか、カタカナだとわからないんだもん。)

 所長さんにとっては「ヘンな言葉」でも、「使い始めるヤツが増えて」いるのであれば、他の人たちにとっては「違和感のない言葉」なのかもしれませんね。いいじゃない、それで通じ合えるのならば。ただ、「相手に合わせる」ことはお互いに大事なことよ。それを伝えるためには、所長さんはわざとわからないフリをしてでも、宇宙人さんに言葉を説明する練習をさせたらよいと思います。当然、事前に言葉の意味は調べておいてくださいね。宇宙人さんが説明に詰まったら、「つまりこういうことでしょ?こういう言葉はピンと来ない人もいるんだから、誰にでもわかりやすく説明できるようにしておいてね」なーんて言えたら、宇宙人さんも素直に納得してくれるのではないかしら。

<過度のマニュアル依存を避けるために>

 それから、書類や仕事の「意味」や「目的」を聞かれたら、面倒でも、ぜひとも丁寧に説明してあげてほしいなぁと思います。というのは、仕事の目的や、マニュアルで「こうすることになっている意味」を伝えることって、仕事を適切に進めるためには、とても大切なことだと思うのです。「いいからやれ!」ばかりでは、「マニュアル通りになっていさえすればよい」と、過度なマニュアル依存に陥らせる可能性があります。マニュアルに「こうせよ」「これをしてはいけない」と書かれていることには、必ず意味があるはずです。「想定されているリスク」を学ばずに、形式だけを押し付けていたら、本来ならマニュアルの範囲で想定していないような「イレギュラー」な事態に直面したときまでも、「マニュアル通りに処理すればよい」と軽く流されてしまいますよ。マニュアルが軽視され、手抜きにつながるおそれもあります。ちなみにうちで実施する新入社員研修では、「マニュアルは、『なぜそうなのか』を、常に説明できるようにしておきましょう」と、口を酸っぱくして言っています。宇宙人さん、うちの研修の受講者さんかも!そうだったらうれしいわー。

 所長さんも、説明が面倒だと思うならば、それはその実務を理解できていない証拠かもしれません。何でも自分で答えようとしないで、その仕事に詳しい担当者さんのところへ、宇宙人さんと一緒に聞きに行ったらよいのではないかしら。担当者にとっても、所長が自分の仕事に関心を向けてくれるのですから、悪いことではありません。気持ちよく説明してもらい、わからないこともすっきり解決されるならば、お互いにHappyなことです。ほら、これならパワハラの心配も要りません。

<仕事は今でも「見て覚えるもの」?>

 昔に比べて、今の自社の製品やサービスは、増えたり複雑になったりしていませんか?多角化で商材も増えがちですし、時代と共に新たなリスクが増え、「気をつけなければいけないこと」「守るべき法律等」もいっぱい増えているのではないでしょうか。
 昔は「見て覚えられた」かもしれません。でも今は、「見る」だけでは不十分ではないかな、と思ってしまいます。今の時代、どこの職場も人手不足を嘆いています。少しでも短期間で、効率的に膨大な知識を吸収させ、戦力化したいと思うならば、「昔と同じ」やり方では足りません。「見て覚えてもらおう」というならば、せめて「どういう点に注意して見てほしいか」くらいは、事前にしっかり伝えましょう。少しずつでもよいので、何か学習効果をアップさせる「工夫」をしていただきたいものです。かわうそさんが言うように、仕事の目的や、そこにどんな意義があるのか、自分がどう貢献できるのか等が伝われば、宇宙人さんのモチベーションも高まり、所長さんからもっと多くを学びとろうと、自分からぐいぐい近付いて来るかもしれませんよ。

<パワハラは、自分で自分を「ご機嫌に保つ」ことで避けられる>

 今、「パワハラだ」と言われるのをおそれて、必要な「指導」まで躊躇してしまう上司さんが増えているみたいですね。でも、「指導」って、そもそも「厳しい」とは限らないし、「厳しい指導」と「怒鳴ること」もイコールではありません。
 パワハラをしてしまうリスクは、「自分の機嫌を部下にとらせようとする」のを止めるだけで、ぐっと下がると思います。ついつい愚痴っぽくなってしまう所長さん、あまりストレスを溜めないでください。
 ストレスは「人生のスパイス」ですから、適度にあるのが自然ですし、仕事や生活にハリを与えてくれます。でも、「溜まりすぎる」のはダメです。上司がいつもイライラ不機嫌でいると、周りの人もビクビクします。そしてビクビクしながら自分に何か言いたげに近付いてくる部下を見て、さらに上司はイライラが募り、ついカッとなって…などということが起きがちです。
 所長さん、宇宙人さんが自分と違うのは当り前ですよ。だって人はみんな違うのですから。もう少しおおらかに捉えてみませんか?自分と違うからって、イライラしないでください。職場ではできるだけ「ご機嫌」でいられるように、自分で自分をコントロールする方法を見つけましょう。
 これから事業が拡大し、宇宙人にも商圏が広がるかもしれません。新しい「お客さま」となり得ると思えば、「どうやって売り込もうか」と作戦を立てるように、宇宙人さんをよく観察し、積極的にコミュニケーションを取って、「求める仕事をきちんと行ってもらうため」の「効果的な指導方法」を探求したらよいと思います。きっとそれは、「パワハラ」ではないはずですよ。

 「HRリスク」とは、職場における、「人」に関連するリスク全般のこと。組織の健全な運営や成長を阻害する全ての要因をさします。
 職場トラブル解決とHRリスクの低減に向けて、エス・ピー・ネットワークの動物たちは今日も行く!

 ※このコーナーで扱って欲しい「お悩み」を、随時募集しております。

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