HRリスクマネジメントトピックス

コンプライアンスやリスク管理に関するその時々のホットなテーマを、現場を知る
危機管理専門会社ならではの時流を先取りする鋭い視点から切り込み、提言するコラムです。

三匹(?)が語る!HRリスクマネジメント相談室(13)「聞き分けのないベテラン人材」(2019.11)

 職場におけるトラブルは複合的。社内の様々な関係者の協力を得て、複数の視点で捉えなければ、解決が難しい問題も多々あります。でもやっぱり最後は「人」!HRリスクマネジメントが重要です。

 職場における様々なトラブルを解決すべく、今、エス・ピー・ネットワークに生息する動物たちが立ち上がりました!初動対応や法的な責任、再発防止など、三匹それぞれの観点から熱く語ります。

【今月の三匹・プロフィール】

イノシシさんのイラスト

イノシシさん:
森の音楽家兼防災おじさん。防災士。三度の飯よりとんこつラーメンが好き。見かけによらず、最近はフルートも習い始めました。誰か聞いて~ピーヒャラブヒッ♪

シカさんのイラスト

シカさん:
放浪の末、東京にたどりついた奔放なシカ。週末はヒロインのためにペンをペンライトに持ち替える法学博士。ライトブラウンの夏毛からダークな冬毛に衣替えしました。

モモンガのイラスト

モモンガさん:
小さな皮膜で滑空する夜行性。社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー、運転免許など…すべてペーパーですが、そこそこ長い会社員経験をおなかの袋から取り出しながら実務の間を飛び回ります。

ネコさんのイラスト

ネコさん:
猫なで声と鋭い爪をあわせ持ち、企業内での人事実務経験が豊富。社会保険労務士で、産業カウンセラー、実はキャリアコンサルタントでもある。今月はモモンガさんにお任せニャー。

今月のご相談は、こちら。

中堅メーカーの工場長です。この工場で勤務するAさんのことで困っています。

 Aさんは今年60歳で、定年退職後の再雇用者となりました。もともと職人気質で、入社以来ずっとラインでの仕事を任せており、マネジメント経験はありません。

 近年、生産性向上のために工場のIT化を進めたり、若手社員が増えたことから、教育や職場環境の整備等にも力を入れたりしているのですが、Aさんは「従来のやり方」を頑なに押し通そうとするようで、同じラインのメンバーが次々に「どうにかしてくれ」と私のところへ言いに来るのです。主な訴えは、以下のようなことになります。

  • マニュアルや手順書の印刷は原則「禁止」で、常に最新版をPCで確認することになっているが、100ページくらいあるマニュアルを全ページ印刷し、しかもそれを終業後も作業場に放置する。
  • 高度な技術を要する作業は、動画撮影や各ポイントでの計測等を行い、機械化や技術伝承を進めているのだが、「これはオレの技術だ。誰にも渡さん!」と、撮影等を拒否する。
  • 勤怠をパソコンで管理するようになったが、事務の派遣社員に自分のIDとパスワードを教え、日々の打刻から届書の作成まで、全て代行させていた。本人に注意すると、「内容に嘘はないんだからいいだろ!」と開き直る。
  • 無届けで、残業や休日出勤をする。注意すると、「残業代を出せなどと言っていないんだからいいだろ!」と、言うことをきかない。
  • ラインで働く女性に対し、「この作業は女の子には難しすぎるだろう」「早く嫁に行かないと、ババアになるぞ」「専業主婦になって、子育てに専念した方が幸せだろう?」等々、不適切な発言がひどいが、本人にはその自覚がないようで、注意されても繰り返す。

 工場長である私より、Aさんは社歴も長く、10歳も年上です。指導が必要なのはわかっているのですが、どう叱れば言うことをきいてくれるのか、悩ましいです。

【イノシシさん】
イノシシさんのイラスト

 こんにちは。お久しぶりに登場しましたイノシシ(年齢40代後半)です。今回は工場で働くベテラン社員Aさんのお話。困った社員…と一言で片付けてしまうことは簡単ですが、よくよく見てみると一部は私自身に当てはまることもあり、なかなか考えさせられる案件です。特に工場のIT化が急激に進む昨今、これまで長年やってきたことが通じなくなることに焦りもあるのでしょう。少し頑なになっている部分も感じられます。一方で、若者への伝統の継承の難しさやベテラン社員の不足による事故など、企業としてうまく再雇用者を活用する技術も求められています。「叱る」のではなく、どうすればもう一度「職場の戦力」に戻ってもらえるのか。考えてみたいと思います。

〈「氾濫する川の様子を見て来い!」ってあり?〉

 私は森にある小さな村で防災やBCP(事業継続計画)を専門とした仕事をしています。先日、森に大型の激しい台風が訪れました。長老たちは森の近くに流れる川の氾濫が心配になり、「誰か若いものに見てきて欲しい」と言ったところ、若い動物たちは「こんな激しい台風のなか、もし見に行ったときに川で氾濫が発生して怪我でもしたらどうするのか」「家族が大事なので台風のときは家族と一緒にいたい」などと言い、誰も見に行ってくれなかったそうです。長老たちは話し合い、長老の中でも比較的若く、60代後半の泳ぎが得意なサイさんに川の様子を見に行ってもらったそうですが、案の定、増水していた道を歩いていたところ、水で隠れていた穴に足をとられてしまい、危うく溺れそうになってしまいました。長老たちは、困り果てて私のところに相談に来ました。長老たちはこう言います。

 「私たちが若い頃は、大雨や台風の時には率先して川の様子を見に行ったものだが…最近の若い子は価値観が違うのか自分のことばかりじゃ…」

 私はちょっと困りました。確かに昔と価値観が違うこともありますが、それ以上に現在の台風は地球温暖化の影響もあり激甚化、局所化しています。現に先日関東地方を襲った台風15号、19号でも川の様子を見に行った人が流されたり、台風のさなかに避難者の対応に当たった市の職員が、帰り道に車ごと流されて死亡したりするなど、災害対応のプロの方でも亡くなっているケースがあります。森に生きるものとして(企業に所属するものとして)、やはり危険な時に危険な場所に住民(社員)を派遣するのは、現在では大変危険な行為といえるでしょう。

 では、具体的にどのようにすればよいのでしょうか。実際問題として川の氾濫状況を確認するのは非常に大事なことです。現在では国土交通省が河川に定点カメラなどを設置し始めていますが、これも全ての河川をカバーしているわけではありません。私は長老に、最新のBCP事例を紹介しました。

 「長老、このようにすればよいのではないでしょうか。実は河川では、決壊する場所は何ヶ所かに絞られます。これは歴史を紐解いてみると分かるものですが、決壊する場所は、河川の構造上たいてい決まっているものなのです。その場にクラウド型の監視カメラを設置してみたらいかがでしょうか。実際、何回も水害に遭っているとある企業の工場では、以前は誰かが目視で確認していたために大変危ない目にあった方もいると聞きます。クラウド型の監視カメラであれば、映像はリアルタイムでスマートフォンによって確認することもできるため、極端な話を言えば長老が東京に出張に行っていてもリアルタイムで河川の状況を監視することができます。月額の費用も安く、最近では数千円から設置することが可能です。無理やり若い動物を派遣するのではなく、このように文明の利器に頼ってみるのもひとつの方法ではないでしょうか」

■関連記事:500年に1度の豪雨に備える リアルタイムで水害危険カ所を監視(株式会社トヨックス)(公益財団法人中小企業振興公社「BCP策定支援ポータル」より)

 長老はしぶしぶですが私の提案を認めてくれ、来年度の予算に河川のクラウド型監視カメラ設置を上げてくれることを了承してくれました。

〈ベテランには敬意を持って〉

 さて、少し話がそれてしまったかもしれませんが、上記はなんとか長老(ベテラン社員)をうまく説得できたパターンです。ただ、日常の業務のなかでなかなかこのようにうまくは行かないかもしれませんね。改めて、A社員の行動を個別に見ていきましょう。

 「原則印刷禁止、PCで確認することしかできないマニュアルを全部印刷し、作業後放置している」。この件に関しては、まずハード的にマニュアルを印刷できないようにしてしまうのはいかがでしょうか。具体的には、PDFではなく電子ブックのような形にしてPCでしか閲覧できないようにしてしまうやり方です。印刷ができるようになっていると、Aさんの問題だけではなく、企業の秘密漏えいの観点からも望ましい形とはいえないでしょう。まず、物理的に印刷できないようにしてしまうのが手っ取り早いやり方です。ただ、その時も理由付けが必要です。ただ単に「印刷防止」といってしまうと、Aさんのプライドを傷つけることにもなりかねません。例えば電子ブックにすることにより「これまでより検索がやりやすくなる」「書き込みもできる」など目的を業務改善におけば、話もしやすいかもしれませんね。ただ、Aさんは単純に目が悪く、プリントアウトしたほうが見やすいだけかも知れません。それとなく面談の時などに気遣いを見せてあげたほうが良いでしょう。

 「俺の技術だ。誰にも渡さない!」と撮影を拒否する行為。これはなかなか根が深いかもしれません。経験上ですが、このような発言をする場合、単に意固地になっているだけでなく「何か(≒不正)を隠している」可能性が高いです。不正とまでは行かないまでも、長年やってきた「マニュアルにはない」行為を上司に見つからないようにしたいという気持ちが働いているのではないでしょうか。これは1人の人が長年同じ作業に従事している場合によく見られるケースです。今後の不正防止の観点からも、できれば正しい情報開示をしてもらう必要があります。この場合、Aさんは「これまでしてきたことが全部ばれてしまうと、何か処罰が下されるのでは」と、必要以上に疑心暗鬼になっている可能性も高いです。上司としては「長年会社のために尽くしていただきありがとうございました」とねぎらいの言葉をかけたうえで、「何があってもAさん1人の責任ではありません。Aさん1人に全てをお願いしてきた会社にも責任があります」と理解を求め、情報開示してもらう必要があるでしょう。もちろん、何か不正が見つかった場合はもちろん隠蔽するのではなく、速やかに是正措置をとることが重要です。その場合、なるべくAさんの不利益にならないように配慮することも必要となるでしょう。

〈それでもダメな時は…〉

 「勤怠を他人に入力してもらう。勝手に残業や休日出勤をする」。これは、他の社員さんの貴重な作業時間を奪うことになってしまいますし、勝手な残業や休日出勤は勤怠管理上もよくありません。また、「他人に入力してもらう」という行為は、おそらく他の業務でも同様の行為をしている可能性もあります。また、セクハラ的な発言もひどい様子。周りへの影響が心配されます。ただ、これらのことは定年再雇用後に顕著になったことなのでしょうか。それとも昔からそうだったのでしょうか。少し検証する必要がありそうです。

 定年後再雇用で近年問題になっているものの1つに、「給料の大幅な減額」があります。一般的には、60歳を過ぎた再雇用後は基本的に1年ごとの契約更新となり、賃金はおおよそ定年する前の5割~7割といわれています。働いている側にとって見ると、定年する前と同様の仕事をこなしながら給料だけが大幅に減らされているという状況は、決して愉快なものではなく、少し投げやりな態度をとってしまっているのかもしれません。しかし周囲の従業員と本人と、お互い納得のいかないまま仕事を続けるのは、職場の風紀が乱れる元にもなりかねません。再三の注意に対して改善が認められなかった場合は、残念ながら適正な配置転換や契約をしないなどの手段も、場合によっては考えなければいけないでしょう。年配の方はなかなか若い人に本心を打ち明けにくい傾向にありますので、同年代の方に悩みを打ち明けてもらうのも、1つの手かもしれません。

 繰り返すようですが、相手は長年の会社への功労者であり、貴重な先輩でもあります。敬意を払い、真摯な姿勢で誠意を持って接することが、円満な解決の糸口になるのではと考えます。

【シカさん】
シカさんのイラスト

 Aさん、なかなかクセの強い方ですね・・・。

 入社以来ずっとラインで工場の仕事を任せてきたとのことなので、仕事についてはきっと頼りになる人物なのでしょう。けれど、職場環境を悪化させるような態度や発言は、今に始まったことではないように思います。再雇用を機にAさんの人格がまるで変わってしまったということであれば仕方ありません。しかし、そうではないならば、退職時にあらかたの動画撮影を済ませ、そもそも再雇用しないという道も…?高年齢者雇用安定法で「高齢者雇用確保措置」が求められていますから、本人が希望するなら65歳までは雇用せざるを得ないことはわかるのですが、どうしても考えてしまう部分ではあります。ひとまず一旦そのことは置いて、同ラインのメンバーからあがってきた苦情を一部ピックアップして検討したいと思います。

〈ルールを趣旨から考えるということ〉

 ルールというものがなぜあるのか。そのルールがうまれた趣旨を説得的に説明することが、ルールを守ってもらう上での第一歩ではないかと思います。

 この会社ではマニュアルや手順書の印刷が原則禁止というルールがあるようですが、その趣旨も含めて周知は十分なのでしょうか。想像にとどまりますが、原則印刷禁止の主な趣旨は、印刷しモノとしての実体をもたせると、会社の財産であるノウハウが外部に流出してしまうリスクが高まるということにあるかと思います。単純に紙の使用量削減の意図もあるかもしれませんし、過去に印刷された最新版ではない資料が、現行の資料と間違われて使用されてしまわないように、という配慮もあるでしょう。

 何度も同様のことを繰り返すようであれば、そのような趣旨があることを説明してみてはいかがでしょうか。無届の休日出勤をしていることに対する反論として、Aさんが「残業代を出せなどと言っていないんだからいいだろ!」と反論しているところから見ると、会社のお金は大事なものであるという意識はお持ちのようです。そのため、「会社の財産をなるべく守るためなんですよ」ということを伝えれば、「ルールを守らなくては」という方向に意識が向く可能性があります。無届の残業や休日出勤についても同様に、趣旨を説明して差し上げると少し違うかもしれません。

 また、気になったのは印刷が「原則」禁止という部分です。原則があるということは、当然例外も設けられているということですよね。Aさんが印刷したときは、例外に当たる場合かもしれません。印刷済みの書類を使用後どう処理するかについて定められているかも含め、そもそもルール違反をしているかどうかも確認する必要があるのではないでしょうか。

〈適切な文書管理〉

 少し話題がそれますが、100ページにもわたる膨大なマニュアルを1つのファイルにまとめているのもいかがなものでしょうか。目次や検索機能が備わっていればPC上での確認はそれほど問題ないと思いますが、そのような操作に慣れていない方もいるでしょう。ともすれば、マニュアルの確認を怠る方も出てきかねません。

 流出のリスクという観点からも、1つにまとめてしまうとそのファイルが流出してしまえばマニュアルの全てが漏洩することになりますが、複数に分けて管理すれば全情報の一部で済むということも考えられます。

 以上のことから、ある程度のセクションごとに分けて管理することも一案です。

〈ハラスメントを繰り返させないために〉

 「昭和」というワードを前時代的価値観の象徴として用いることに違和感があるのは私だけでしょうか(いまや前々時代になってしまいましたが)。昭和の時代にも、女性の社会進出やハラスメント的な行動に敏感な方もいただろうに・・・と、顔も見たことのない誰かに思いを馳せたり馳せなかったりします。

 それはさておき、Aさんのラインで働く女性に対する発言は、いかにも世間でいうところの「昭和」の価値観であるなあと感じました。Aさんの発言はセクシュアルハラスメントに該当しうるもので、早急な改善が必要かと思います。注意をしても直らないとのことですが、どのように注意をしているかを今一度見直してもよいかもしれません。

 漠然と「あなたがセクハラをしているという相談があったので、発言に気をつけてください」という言い方だと、一体何がいけなかったのかが伝わらないため、同じことを繰り返すのはむしろ当然の帰結であると言えます。

 そうではなく、「あなたのこの発言がセクハラにあたるので今後そのようなことは言わないでください」と具体的に指摘すれば、さすがに自覚していただけるのではないでしょうか。もちろん、ハラスメントを受けた被害者の同意を得ることは前提となるので、一定のハードルはあります。しかし、次の被害者を生まないためにも、やってみる価値はあるのではないでしょうか。

〈スルースキルを身につけること〉

 当然のことながら、ハラスメントは許されないことです。ハラスメントとまではいえなくても、職場環境を悪化させるような態度や発言をする人がいると、ストレスに感じることもありますよね。

 しかし、Aさんに早く嫁に行けというようなことを言われたところで、なんだというのでしょうか。Aさんと結婚するわけでもあるまいし、Aさんが思い描く理想の主婦像を語られたところで、それが自分の人生に、一体どういう影響がありますか?

 Aさんの価値観に基づいて干渉するような発言をされたとしても、それに同調する必要はまったくないわけで、「ふーんAさんはそういう考えなんだ、まあ私には関係ないし、知らんけど」といった具合に心に溜め込まないようにすればよいのではないでしょうか。

 人生100年時代といいますが、限られた時間のなか、無神経な発言で落ち込んだり、イライラしたりすることにつかうのは勿体ないと、個人的には思います。

 メンタルコントロール方法として、鈍感力を磨くことがいかに重要であるかを感じる今日この頃です。

【モモンガさん】
モモンガのイラスト

 急に寒くなって、ネコさんがコタツに潜り込んでしまったので、今月はモモンガが頑張ります!でもネコさんも時々顔を出すみたい。もう、気まぐれなんだから。

〈「ハラスメント返し」はダメ〉

 さて今月のお悩みも、また悩ましい…。高年齢者雇用確保措置が法制化され、こういったお悩みを抱えた管理職の方は多いですね。心中お察しいたします。

 モモンガ個人としては、「会社の方針に従えない、環境変化に適応できない、自己を更新・発展させる努力をしない社員には早々にお引き取りいただきましょう!」と結論付けたい…。そして、「この作業は女の子には難しすぎるだろう」には「このシステムは老人には難しすぎますよね~」、「早く嫁に行かないと…」や「専業主婦になって…」には、「社会や会社の変化について行けない高齢者は、早く引退して孫の面倒でも見てた方が幸せでしょう。あ、家でも邪魔にされてる人ですか?」と、目には目を、歯には歯を、ハラスメントにはハラスメントを。で返してしまいそうですが、負の連鎖になるので、現実的かつ平和的解決策を考えたいと思います。というか、悪意ある+αを乗せている分、モモンガの方が悪質ですね。


ネコさんのイラスト

 ネコさん:モモンガさん、怖い顔になってるニャー?でも、悪気なく女性に対して不適切な発言をするのは、相手が不快に思っていることを自分の身に置き換えて理解してもらわないと、おさまらないでしょうね。モモンガさんの「目には目を作戦」は、例えば「女性だからといって、この仕事はできないって言われるのは、私はとても悔しいです。Aさんだって、老人にはムリとか言われたら嫌でしょう?」なんていう形で使うのはどう?

 シカさんみたいに「鈍感力」を磨いてスルーするのも一つの手だけど…自分のメンタルをそれでコントロールするのは良いとして、それを他の人にまで押し付けてしまうのは要注意ね。上手にスルーできる人ばかりではないし、そんな「スルーできない自分」が悪いと思ってしまうのはおかしいし。だって悪いのはAさんの方だもの。


〈雇用契約とは?〉

 マニュアル等の文書管理や、Aさんの不正の可能性などは、イノシシさんとシカさんが十分考えてくれましたので、モモンガは駆け出し社労士らしく、まずは労働法と就業規則の観点から考えてみます。

 労働基準法第2条1項には、「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。」、第2項には「労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。」とあります。

 そもそも会社と従業員は対等な立場であり、労働者は労働力を提供し、会社はその対償として賃金を支払います。そして、従業員と会社がお互い誠実にその契約を履行するためのルールブックが就業規則です。

 相談者様の会社の就業規則のどこかにも、「会社は、この規則に定める労働条件により、労働者に就業させる義務を負う。また、労働者は、この規則を遵守しなければならない」という趣旨の文言が入っているのではないでしょうか。

 では、現在のAさんと会社の関係は誠実で対等でしょうか?Aさんは業務命令に従っていない状態ですから、契約を遵守しているとは言えません。一方、会社も十分な指導ができていないかつ、会社が求める労働を提供していない従業員に対して給与を支払っている状況ですから、こちらも「誠実に契約を遵守している」とは言えないと思います。

 また、同じラインのメンバーに影響が出ていますので、会社が従業員に対して労働安全衛生法に謳われている「安全と健康を確保し、快適な職場環境を推進」しているとも言い難い状況です。

 そして、無届の残業や休日出勤は、困ったものですね。「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)」では、「黙示」の指示でも業務に従事していれば労働時間にあたるとされていますし、自己申告した労働時間と実際の労働時間が合致しているかどうか、必要に応じて実態調査をすることなども、使用者側に求められています。Aさんには、こういった背景も説明して、協力を得られると良いのですが。

■参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)

 このように、Aさんが良くても、会社には未払い残業代の支払い義務生じますし、労基署の査察が入った場合は、是正勧告の対象になります。

〈Aさんに活躍してもらうには…〉

 と、偉そうなことを書いてみましたが、イノシシさんのご指摘の通り、定年後再雇用では、多くの会社で給料(年収)が下がります。「これでギャラはおんなじ!」という昭和演芸の鉄板ギャグがありましたが、「同じ仕事でギャラが半額!」って、正直、そりゃあ、やる気はなくなりますし、捻くれます。ただ、ここで捻くれて意固地になったら、それこそ「老害」と呼ばれてしまいます。

 長年会社に貢献し、今後も十分活躍できる人材がそんな悲しいことを言われないように、会社ができる対応と、Aさんご自身の対策を一緒に考えましょう!


ネコさんのイラスト

 ネコさん:そうそう、Aさん、PCの扱いとかに苦手意識があるように見えます。若い人に「教えてください」って言うのが恥ずかしかったりするのかも?Aさんが心を許して、こっそり「わからないから教えて」と言えるような人が職場にいたら、意外とすんなりいくのかもしれませんよ。もしくは、誰もがわからなければ「わからない」と言えて、わからないことを教え合うのが当たり前な、つまり「わからない」ことで自分の立場が悪くなったりしないような職場ならば、ここまで意固地にならなくて済むのに。ニャ?これって、最近よく聞く「心理的安全性」と通じるものがあるニャー。


 ネコさん、そうですよね。「分からないことをわからない」と言える、上下関係がなく誰もが気づいたことを安心して発言できる雰囲気がある、そういう職場にしたいですよね。あ、と言ってもハラスメント発言はダメですよ。自由ってそういうことじゃありません。

 そういう職場にするには、まずは社員がそれぞれに求められている役割を認識し、お互いの強み・弱みを活かしながら、協力し合える体制作りが重要です。

 そのためには、会社は従業員に対して、それぞれの役割を明確にし、説明責任を果たし、研修等で教育を行うことも必要になります。

 Aさんの場合、会社は雇用契約が変更になるタイミングで、Aさんの新しい役割を十分に説明し、賃金体系の変更も丁寧に示す必要があると思います。

 そして、Aさんは定年後再雇用を強制されたわけではありませんよね?ご自身で選んだ道です。自分で選んだからにはどのように自分を活躍させるかをこれまでの延長線上ではなく、改めて考えて頂きたいと思います。会社から期待される役割を再確認し、もし、期待されている役割がないな…、と思ってしまうようなら、自分で創ればよいのです。

 Aさんは高度な技術を有し、長年ライン一筋の技術者です。課題は分かっていると思いますし、技術を伝承し、後身を育てることなどにもご自身の価値を見出して頂きたいと考えます。

 ね、ネコさん?あら、寝ちゃったの?もう、来月出てこなかったら、しっぽ引っ張るわよー!

「HRリスク」とは、職場における、「人」に関連するリスク全般のこと。組織の健全な運営や成長を阻害する全ての要因をさします。

職場トラブル解決とHRリスクの低減に向けて、エス・ピー・ネットワークの動物たちは今日も行く!

※このコーナーで扱って欲しい「お悩み」を、随時募集しております。

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