SPNの眼

コンプライアンスやリスク管理に関するその時々のホットなテーマを、現場を知る
危機管理専門会社ならではの時流を先取りする鋭い視点から切り込み、提言するコラムです。

「障害者の雇用の促進と活用を考える」(1)(2016.6)

はじめに ~障害者雇用は進んでいる(?)~

 内閣府の「平成28年版障害者白書」によると、平成27年6月1日現在の、障害のある人の雇用者数は、12年連続で過去最高を記録しているそうです。民間企業の実雇用率(雇用している人の内、障害のある人の割合)は1.88%(重度障害者はダブルカウント、短時間労働者は0.5人でカウント)と、法定雇用率の2.0%まであと少し、という状況です。

 一見、障害者雇用はだいぶ進んだように見えますが、法定雇用率を達成した企業の割合はというと、47.2%と、実は半数にも届きません。
特に、常用雇用者数が50人以上100人未満の企業では、実雇用率が1.49%と最低であり、企業規模が大きくなるにつれて徐々に実雇用率は上がるものの、全体での1.88%を超えるのは、企業規模500名以上、2.0%を超えるのは1000人以上のみと、会社規模による格差がはっきりしています。大会社では障害者の雇用が進んでも、多くの中小企業では苦戦しているのです。

 筆者も以前、従業員150名ほどの会社の人事担当を経験していますが、毎年6月1日の報告を、「今年も足りないよ・・・」「またハローワークから指導が来るな・・・」と、げんなりしながら記入していたことを思い出します。

 「雇用の義務があることはわかっているが、今は増員の余地がない」「職場の理解を得られない」「求人を出しても、思うような応募がない」「せっかく採用したのに、早々に辞めてしまった」等々、どれほど担当者が悩んでも、法定雇用率を満たせなければ納付金も発生します。「納付金を払えばそれで済む」という訳でもなく、納付金を払っても指導は続きます。追い討ちをかけるように、平成30年度からは、さらに法定雇用率が上がることが予想され、どうしたものかと頭を抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 単に「義務だから」だけで雇用が進むならば、誰もこんな苦労はしません。どうすれば義務を果たせるのか?いえ、もっと積極的に、どうしたら障害者という「人材」を活用できるのか?本レポートで考えていきたいと思います。

1.会社に課された義務

 会社に求められていること、法で課された義務を大きくまとめると、主に、障害者を「雇用する義務」「差別の禁止」「配慮する義務」の3点をおさえなければなりません。

 まずはこの3点について、会社に求められていることを見ていきたいと思います。

(1)雇用する義務

 まず、企業には障害者を雇用する義務があることはご存知の通りです。

 「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下、「障害者雇用促進法」とします)にて、「障害者雇用率制度」が設けられており、企業は「常時雇用している労働者数」の2.0%以上の障害者を雇用することになっています。もし雇い入れている障害者が2.0%に満たない場合は、不足する障害者数1人につき、月額50,000円の「障害者雇用納付金」を納めることになります。

 業種によっては「除外率」が設けられ、雇入れるべき人数が軽減されていたり、会社規模により、納付金の減額特例があったりしますが、それらはあくまでも「当面の間」の特例です。世の流れとしては、確実に、業種や規模を問わず、平等に「障害者と共に働く」方向へと向かっています。

 そして、今後はさらに法定雇用率が上がることが予定されています。

 そもそも、障害者の就業に関し、何らかの法制化が検討され始めたのは、戦争による身体障害者の増加がきっかけだったようです。1960年に制定されたのは「身体(・・)障害者雇用促進法」であり、「障害者」といえば、「身体障害者」が想定されていたことがわかります。そこから法改正を繰り返し、知的障害者や精神障害者等に適用が拡大されて現在に至るわけですが、現在の法定雇用率「2.0%」は、「全労働者および失業者」に占める、「身体障害または知的障害を有する労働者および失業者」の割合を元に決められています。法定雇用率を算出する基データには、まだ精神障害者の人数が含まれていないのです。平成25年6月に「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律」が公布され、これにより、平成30年4月1日から、法定雇用率の算定基礎の対象に、精神障害者が追加されることになりました。

 厚生労働省の「平成26年度衛生行政報告例」の概要によると、平成26年度末現在の精神障害者保健福祉手帳交付台帳登載数は803,653人で、前年度に比べ52,503人(7.0%)増加しています。その内、年齢や病状等を考慮して、働ける状態にある人がどれくらいになるか、またそれが、いよいよ雇用率を算定する時期にどうなっているかはわかりませんが、法定雇用率が今よりも上がることは間違いないでしょう。

 障害者雇用が進まなければ、納付金の負担が重くなるだけでなく、企業名公表の恐れもあります。障害者の雇用状況が悪い場合、公共職業安定所から「障害者の雇入れに関する計画」を作成するよう、命ぜられます。雇入れ計画そのものや、実施状況が適正でないときには、勧告もあります。計画期間中、継続的に公共職業安定所や労働局の指導や支援を受け、期間が満了しても全国平均雇用率未満であり、速やかにクリアできる見込みもない場合には、企業名が公表されるという流れです。2015年度は、公表企業は0社でしたが、2014年度には、実際に8社が公表されました。
 納付金による金銭的負担の増加、社名公表によるイメージの悪化等、障害者雇用の義務を果たさないことの代償は、決して小さくありません。

(2)差別の禁止

 改正障害者雇用促進法に基づき、厚生労働省は、「障害者に対する差別の禁止に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(障害者差別禁止指針)(平成28年4月施行)を示しています。そのポイントをまとめましょう。

 まず、基本的に、全ての事業主が対象とされており、除外や免除はありません。そして、「障害者であること」を理由として、(1)募集及び採用、(2)賃金、(3)配置、(4)昇進、(5)降格、(6)教育訓練、(7)福利厚生、(8)職種の変更、(9)雇用形態の変更、(10)退職の勧奨、(11)定年、(12)解雇、(13)労働契約の更新について、不当な差別的取り扱いをしてはならないということを、明確に定めています。さらに、「障害者も共に働く一人の労働者である」との認識の下、事業主や同じ職場で働く人が、障害特性に関する正しい知識の取得や理解を深めることが重要だとされています。
 例えば、募集や採用であれば、「障害者ではないこと」を条件とした求人を出したり、合理的な理由もなく、障害者に対して不利な条件を付けて募集・採用をしたりしてはいけないということです。

 今年、新卒採用のための求人サイトを見ていると、「手書きの履歴書」を求める記述がぱったりとなくなったことに気付きました。つい最近まで、「応募者の本気度を見たい」と、手書きの履歴書を求める会社はあったように思いますが、求人サイトの掲載基準が厳しくなったのでしょう。業務上、手書き文字の美しさが求められるならばいざ知らず、「手書きであること」の必要性が低いにも関わらず、「必ず手書き」を求めるならば、手指等に障害を持つ方を差別した求人となり得ます。採用担当者は「手書きが必須ではない」とし、手書きを求める表記を削除していても、例えば会社説明会の場等で、先輩社員がアドバイスとして、「必ず手書きで!」などと求めてしまうような例は、今でもあるかもしれません。面接で、役員が「なんで手書きじゃないの?」などと、ぽろっと失言してしまうようなこともないよう、気を付けたいものです。

 なお、逆に「障害者であること」を要件とする募集を行うことは、積極的差別是正措置ということで、問題ありません。障害者にのみ「合理的配慮」を提供し、障害者ではない他の従業員とは異なる労働条件となることも同様です。

(3)配慮する義務

 こちらも、差別の禁止と同様に、厚生労働省から指針が示されています。「雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会若しくは待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置に関する指針」(合理的配慮指針)のポイントを見ていきましょう。

 まず、こちらも対象となるのは「全ての事業主」です。「合理的配慮は、個々の事情を有する障害者と事業主との相互理解の中で提供されるべき性質のもの」だという点は、しっかり押さえておきたいポイントでしょう。つまり、障害者と会社で、よく話し合う(「声を使う」という意味ではありません)ことが求められているということです。

 障害者が、配慮が必要なことを隠していては、会社はどうすることもできませんし、逆に障害者が一方的に要求を出して良いということでもありません。何の検討もせずに「できない」と決め付けたり、できることなのにしない、できないことを「できない」と伝えない、そもそも話し合いに応じない等がいけないのであって、障害者の要望が会社にとって過重な負担となるならば、その代案を出したり、「ここまではできるがこれはできない」と、その理由も含めて説明し、障害者にもアイディアを求めることもできます。

 障害者が、その能力を発揮するために必要なことを話し合うのですから、会社・本人双方にとって「良いこと」であることに間違いはありません。入社前に、面接でよく話し合うことに加え、「お試し」で通勤や業務を体験してもらい、お互い納得した上で採用することが望ましいでしょう。お試しでの業務体験は、障害者の就労支援機関でも、積極的に勧めているところが多いと聞きます。

 また、障害の状況や職場の状況が変化することもありますので、入社後にも随時、話し合いの場を持てるようにすることも必要です。相談体制の整備が求められています。

 なお、合理的配慮の具体的な例は、内閣府ホームページの「合理的配慮等具体例データ集・合理的配慮サーチ」に様々紹介されています。障害の種類別に検索できるようになっていますので、参考にしてみてください。

また、障害者が働く上で必要な機器は、独立行政法人高齢・障害・求職者支援機構の就労支援機器情報のページ
で紹介されており、中には貸し出しが行われているものもあります。試せるものは試してみて、うまくいくか確認し、購入すると良いでしょう。なお、購入費用には、助成金(障害者作業施設設置等助成金)が使えることもあります。事前に申請し、優先度を判定されて、予算が下りるシステムになっているようですので、申請の時期や要件などをよく確認し、計画的にご検討ください。

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