SPNの眼

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危機管理おやじのつぶやき
 ~ストーカー対策の現状について~(2016.12)

ストーカー対策の現状について

 SNSを使った付きまといを新たに規制対象とすることや、ストーカー行為罪の懲役刑の上限を「6月以下」から「1年以下」に引き上げるなど罰則の強化、違法行為が反復されるおそれがある場合、加害者に事前に警告しないで公安委員会が禁止命令を出せるようにする、被害者が告訴をためらっていても起訴できるよう「非親告罪」への変更などを柱としたストーカー規制法改正案が昨日(12月6日)、衆院本会議で全会一致で可決、成立いたしました。

▼衆議院 ストーカー行為等の規制等に関する法律の一部を改正する法律案

 平成24年にこのコラム(危機管理おやじのつぶやき)で、「ストーカー対策」について取り上げてから時間が経ちましたが、いまだに多くの方にお読みいただいているようであり、また、この間も、様々な事件の発生をふまえた対策の強化がなされていることでもあり、今般、改めてストーカー対策の現状と対策についてつぶやいてみたいと思います。

 以前取り上げた際には、ストーカー対策の今後の在り方について、「加害者対策の必要性」や「警察だけでなく各種関係先との連携対応の必要性」、「被害者対策としてのショートボディーガード」について指摘しましたが、まずは約3年経ったストーカー対策の現状についてお話したいと思います。

 警察におけるストーカー事案の認知件数は年々増加し、平成25年に、ストーカー規制法(ストーカー行為等の規制等に関する法律)の施行後初めて2万件を超え、更に平成25年6月には、連続して電子メールを送信する行為によるストーカー被害の発生等により、連続して電子メールを送信する行為が規制対象に追加され、禁止命令等をすることが出来る公安委員会等が拡大されるなど、ストーカー行為の実態を踏まえた法改正が行われました。しかしながら、東京都三鷹市で発生した女子高生殺害事件等を始めとして重大事案も発生したほか、インターネットを通じて知り合った者によるストーカー行為や、インターネットやSNS上においてのストーカー行為が行われる事案等が増加するなど、ストーカー事案をめぐる状況も多様・深刻・複雑化してきています。

 このような状況を踏まえ、ストーカー行為等の規制等の在り方全般について検討するため、学界、法曹界、被害者及び支援団体の委員等による検討会が開催され、被害者支援団体の方、ストーカー事件被害者のご遺族の方、さらには、婦人相談所やインターネット上の違法・有害情報通報受付機関の方、精神科医師等からのヒヤリング等を含めて検討が進められました。その検討会の結果については、「ストーカー行為等の規制の在り方」「加害者対策の在り方」「被害者等を支援するための取組」に分かれており、まさに以前に私が指摘いた点とリンクする形で提言がなされているので、以下にご紹介するとともに、その提言内容について、危機管理おやじとしての意見をつぶやいてみたいと思います。

▼平成26年8月5日 ストーカー行為等の規制等の在り方に関する有識者検討会   「ストーカー行為等の規制等の在り方に関する報告書」

1.ストーカー行為等の規制の在り方

1) 規制対象行為の拡大等

 ストーカー規制法では、「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨根の感情を充足する目的」で、当該特定の者又はその者との密接な関係を有する者に対して行われる一定の類型の行為を規制対象としています。しかしながら、現在規制対象とされている行為と同様に相手方に不安を与える行為と評価されるにもかかわらず、規制対象となっていない以下のような行為類型が存在しています。

  • SNSを利用したつきまとい行為
  • 「はいかい」行為

 これらの行為はしばしば見られる行為であり、これらを規制対象とすることが提言されています。
 まず、「SNSを利用したつきまとい行為」については、平成24年11月、神奈川県逗子市において、行為者が被害者に対して当時規制対象になっていなかった電子メールの連続送信行為を行った後、当該被害者を殺害する事案の発生を受け、電子メールを送信する行為が「つきまとい等」に追加されましたが、とはいえ、「電子メール」のみを対象としており、SNSやその他IT技術の発達や新たな電気通信手段による意思の伝達表示手段等については規制対象とされていません。
 この点、今回の改正によって、「SNSを利用したつきまとい行為」と「はいかい行為」(うろつき)が対象になりましたので、大きく前進したことになります。しかしながら、今後、意思の伝達表示手段の方法はさらに進化していくことも考えられるところであり、さらに包括的に規制する方法を検討していく必要があるものと考えます。
 つまり、意思伝達表示手段が何であれ、その意思伝達表示によって相手方に不安を与える行為と評価される場合には規制対象とすべきだと思います。また、不安を感じるか否かは被害者の主観であり、それは尊重されるべきものだと言えます。今まで起きている悲惨なストーカー事件においても、被害者が不安と感じていても、その行為評価が、被害者と関係対応機関との間で大きく乖離していることが、事件発生後の各種報道等からも明らかです。

 2つ目の「はいかい」行為については、相手方の住居等の付近において「見張り」をし、又は住居等に「押し掛け」ることが規制されているものの、相手方の動静を監視等するまでに至らない態様で相手方の自宅等付近を「はいかい」するような行為はいずれも該当せず、規制対象外となっています。
 この点、被害者の住居等付近の「はいかい」行為は、単なる「はいかい」レベルでは済まなくなってくることが多く、行動はさらにエスカレートして、盗撮・監視や被害者のごみ収集、投函、待ち伏せ、押し掛け等と続いていくであろうことが予想されます。被害者等においては、身体の安全、住居等の平穏等が害され、あるいは、行動の自由を著しく害される不安を覚えさせられることであり、これらについても先程のSNS等と同じく、被害者が住居等の平穏等が害され、行動の自由を著しく害される不安を感じるものであるとすれば、それらすべてを規制対象とすべきだと思います。
 例えば、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(配偶者暴力防止法)においては既に(裁判所の保護命令ではありますが)運用されていることは参考にされてもよいものと考えます。また、右翼の街宣行為等に対する街宣禁止の仮処分と同じく、被害者の住居や勤め先等の関係先に対する「はいかい」禁止の仮処分等の措置等も速やかにとれるような法整備等が進めば、被害者のさらなる保護に繋がると考えます。

 なお、ストーカー規制法は「恋愛感情等充足目的」のある行為のみを対象としているところ、昨今マンションの住民間での生活音トラブル等に起因して加害者が被害者宅に何度も押し掛けたり、職場の上司と部下の間での仕事上のトラブルに起因して、加害者が被害者の使用する携帯電話に無言電話をかけ続けたりする行為が発生しています。確かに現在のストーカー規制法の目的要件である「恋愛感情等充足目的」については、「正当な理由なく」とすれば被害者等が警察等にも相談しやすくなるとの意見もありますが、迷惑防止条例や軽犯罪法による「つきまとい」行為との関係も含めて、やや慎重に考える必要があると思います。

2) 禁止命令等の制度の見直し

 先ずストーカー規制法での手続きについて少しおさらいしておきたいと思います。
 つきまとい等をされて不安を覚えている方の申し出に応じて、警察本部長等がその行為者に対して警告を行い、当該警告に従わない場合には、都道府県の公安委員会が、聴聞手続を実施のうえ、罰則で担保された禁止命令等を行うことになります。また、申し出をした被害者の身体の安全等を確保するために緊急の必要がある場合には、警察本部長等は警告や聴聞を行うことなく仮の命令を発することが出来、都道府県公安委員会は、聴聞を行わないで禁止命令を行うことが出来ることになっています(聴聞は仮の命令から15日以内に行われます)。
 これまでの警察によるストーカー対応においても、確かに、警察から注意・警告することによって事案が解決・収束することもありますし、ストーカー規制法による警告、禁止命令等の行政措置は相当程度の抑止効果があると言えます。しかしながら、ストーカー事案の中には事態が急展開して重大事件に発展するおそれが高い事案が多くなっていることから、これまでの手続きをもっと迅速かつ適時に、的確かつ効果的に機能させるための制度的工夫について検討が必要だと言えます。

 それとともに、各種事案に対応するための対応体制整備も行う必要があると思われます。以前も指摘した通り、対応する警察等の配置人員の問題や研修・教育等も含めた体制がないと、いくら制度的工夫がなされても、適切に実行されなければ意味がないと言えます。この必要な対応体制等については、今後のストーカー対策における被害者並びに加害者対策のところで触れたいと思います。

3) ストーカー行為罪の罰則強化等

 ストーカー行為は、基本的に軽犯罪法の罪より重く、刑法の罪より軽いものを処罰の対象とするという位置付けのため、ストーカー行為を行った者は、6月以下の懲役また50万円以下の罰金、禁止命令等に違反した者は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金(禁止命令等に違反してつきまとい等を行ったがストーカー行為には該当しない場合は50万円以下の罰金)とされています。
 このように、行為者を検挙しても、多くの加害者は執行猶予や罰金刑等の判決で済んでいる現実があります。被害者にとっても、加害者がすぐに出所等して行為の再発や復讐をおそれて検挙措置に消極的になる状況も見受けられることから、罰則を引き上げる等について他の法令違反罪との罰則とのバランス等を考えながらの検討がなされています。
 もちろん、ストーカー行為には、相手方に強い不安や恐怖を与える深刻なものや、相当長期にわたって行われるものなどもあり、罰則を引き上げること自体は必要だと思いますが、それと同時に、罰則だけでなく、例えば加害者に対して専門家によるカウンセリングの受講や定期面談を義務付けたり、被害者関係先周辺へのはいかい禁止措置等も罰則と絡めて出来るようになれば、被害者保護並びに再犯防止に繋がるのではないかと考えます。

 また、ストーカー行為罪はこれまで親告罪であり、告訴がなければ公訴を提起することは出来ないことになっていました。これは訴追された場合、被害者のプライバシーに関する事項が公となって、被害者の不利益を招く場合があり、また、被害者の意思に反して訴追するのが難しいとされているからです。
 この親告罪に関して、被害者と加害者が身近な人物であったりする場合、告訴をためらったり、望まなかったりするため、警告や防犯指導等の(最低限の)措置しか講じていない間に、殺人等の重大事案に至るケースもあることから、非親告罪化が導入されることになりました。非親告罪にすることによって、被害者の意向も聞いた上で捜査を行って被害者負担を軽減しつつ、迅速な捜査が可能になり、被害者保護の強化に繋がるものと思います。
 例えば、強姦罪等も親告罪であり、私が刑事時代に、やはりプライバシー等の関係から泣き寝入りしたり、告訴を途中で取り下げたりする被害者が多いことや、同一人物による犯行被害者数名が泣き寝入りや告訴取り下げをしていた実態を目の当たりにしました。また、実際には被害にあっているものの、公判等において恥ずかしい思いをしたくないことから告訴を取り下げてしまった状況や、もし告訴を取り下げずに頑張れば第2第3の被害を防げたことについて、各被害者から参考人調書を作成し、非公開での裁判や加害者を退席させての証人出廷等に対する被害者保護の措置を行って厳罰に処したこがあります。ストーカー犯罪においても、対応次第によって被害者保護を行いながら処罰することは不可能ではないと思われます。

 またストーカー行為についても、常習累犯規定について検討がされています。同一の加害者が、何度も繰り返しストーカー行為を繰り返し起こすことがあり、その常習犯に対する加重処罰の必要であるのは間違いありませんが、各種法令等とも含めた慎重な検討が必要とされています。この点についても、例えば、窃盗犯の場合は常習累犯罪があり、何度となく窃盗を繰り返し常習的に行う者については、罰則を引き上げています。一方のストーカー行為について、常習累犯規定が難しいようであれば、先程ストーカー規制法の罰則引き上げのところでもお話したように、措置入院等による専門医による治療・カウンセリング等の義務付けや関係機関との定期的面談の義務付け等の対策も一緒に検討することが良いと思われます。

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2.加害者対策の在り方

 多くのストーカー加害者は、注意や警告等の措置で行為が止まると考えられていますが、他方、こうした措置が効果を持たずに、大胆かつ凶悪な犯行に及び、何回警告、検挙されても、長期間にわたってつきまとい等を続ける加害者も存在しています。そのような加害者に対する対策の在り方について、平成28年3月に警察庁委託調査研究から報告された「ストーカー加害者に対する精神医学的・心理学的アプローチに関する調査研究」を基に、加害者対策について考察していきたいと思います。

▼平成28年3月 平成27年度警察庁委託研究所 「ストーカー加害者に対する精神医学的・心理学的アプローチに関する調査研究(Ⅱ)報告書」

 本調査研究においては、ストーカー加害者の属性やつきまとい等の再発に影響し得る要因等を把握するため、つきまとい等により警察から文書警告を受けた加害者に関する追跡調査と各都道府県警察においてストーカー事案を取り扱う際の医療機関等との連携状況の調査、既に加害者に対する精神医学的・心理学的手法によるカウンセリングや治療等を行っている機関等の協力によって調査が行われています。先ずはその調査結果の一部をご紹介したいと思います。

 本調査結果によれば、平成26年10月15日から12月15日までの間、警視庁及び関東管区警察局管内の10県警察において、ストーカー規制法第4条1項による警告(文書警告)を受けた176名について、その属性等について分析すると共に、176名のうち実刑となった4名を除いた172名について、平成27年12月15日までの間、つきまとい等により再度警察が対応した事実の有無等について追跡調査した結果は以下の通りとなりました。

1) つきまとい等により文書警告を受けた加害者(176名)の属性等

「属性等」

  • 性別
    男性158名/女性18名
  • 年齢
    30歳代49名/20歳代46名/40歳代44名/50歳代18名/10歳代8名/60歳代6名/70歳代5名
  • 就労・就学
    有職者115名/無職者45名/学生・生徒14名/不詳2名
  • 同居家族等の有無
    同居家族等がいる者86名/いない者 82名/不詳8名
  • 被害者との関係
    交際相手・元交際相手99名/知人・友人26名/業務上の関係 16名/勤務先の同僚・職場関係者及び面識なしがそれぞれ11名/法律婚・元法律婚9名/内縁・元内縁4名
  • 前科・前歴
    前科・前歴がある者54名、うち前科(刑言い渡しを受けたことがある者)のある者 37名/前科(警察により検挙されたことがある者)のうち主要犯罪類型ごとの内訳は、粗暴犯20名、窃盗7名、性犯罪2名等
  • 精神障害等
    精神障害又はその疑いが認められた者32名、うち24名に入院・通院歴あり
  • 自殺未遂等
    自殺未遂の経験のある者5名/自殺を企図した経験のある者19名
  • 「危険性判断チェック票」(被害者から、被害者本人や加害者の性格等に関する項目についてチェック票に従って聴取し、その回答結果から事案の危険性等の判定を行うもので、警察は、この判定結果を事案の危険性等を判断するための資料として活用するとともに、判定結果を被害者に教示することにより、事案の危険性等について被害者に認識されるように努めている)
    極めて高い2名/高い17名/中95名/低い56名/不明6名

「警察措置等」

  • 過去の相談
    本件被害者に対するつきまとい等について、過去に警察に相談が寄せられていた加害36名/本件被害者以外の者に対するつきまとい等について、過去に警察に相談が寄せられていた加害者10名、このうち4名については、本件被害者以外の者に対するつきまとい等により警察から文書警告を受けていた
  • 検挙等
    調査対象となった取扱いを通じて検挙された加害者 82名で、その罪名はストーカー規制法違反25名、脅迫25名、住居侵入12名、傷害又は暴行 11名、器物損壊 7名、その他13名
  • 処分結果

    不起訴又は執行猶予となった者30名、罰金刑となった者24名、執行猶予判決となった者23名、実刑となった者4名、その他1名
2) 文書警告後におけるつきまとい等による再度の警察対応(再発)の有無

「属性等」

  • 性別
    女性の再発傾向が高い傾向(ただし、女性が加害者となるケースは比率的には圧倒的に低い点を考慮する必要あり)
  • 年齢
    年齢が高くなるほど再発率が高い傾向
  • 就労・就学
    無職者の再発率が有職者、学生・生徒より高い傾向
  • 同居家族等の有無
    同居等家族等がいない者の再発率が高い傾向
  • 被害者との関係
    法律婚、元法律婚、知人・友人の再発率が他の関係より高い傾向
  • 前科・前歴
    前科・前歴の有無について再発率は大きな差異はない
  • 精神障害
    精神障害又はその疑いのある者の再発率が高い傾向

「危険性判断チェック票」

  • 危険性判断チェック票の結果の高低により再発率には大きな差異はない

「警察処置等」

  • 過去の相談
    過去に警察相談が寄せられていた者の再発率が高い傾向
  • 検挙
    検挙されていない者の再発率が高い傾向
  • 処分結果
    罰金刑となった者の再発率が他の処分結果より高い傾向

 この調査結果を基に今後の加害者対策の在り方を検討してみると、以前指摘したように、加害者対策の重要性と関係機関等によるトータール的なサポートが如何に必要であるかが分かります。
 加害者に対しては、警察対応だけでなく再発防止の観点も含め、精神医学的・心理学的な対応のために関係各所・医療機関等の連携によって、カウンセリングや治療等により、加害者の内面に働きかけることにより効果的な加害者対策が必要だと言えます。
 ただし、これを行う際には、現在の被害者対策と同様に、カウンセリングや治療等に掛かる費用負担を負担できないためにそれらを受けない可能性があるという点や、対応する関係機関等の主導をどこが行うのか(はっきりしていない)という点、あくまでもカウンセリングや治療等を受けるか否かは本人の自主性に依存している点、といった多くの課題があります。また、加害者対策においては、罰則強化のところでも指摘したように、カウンセリングや治療等の義務付けをするとか、常習累犯については強制的に行うような法整備が必要ではないかと考えます。

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3.被害者等を支援するための取組

1) 支援体制の整備

警察における体制整備

 現在の警察の体制では、対応する人員が不足しており、またストーカー専属ではなく、他の事案等についても兼任して行う体制となっています。また、被害者が相手との関係を考慮して真実を話さなかったりして事件化を躊躇したり、一方で十分な対応・支援を行う前に事態が急展開して大事件に発展する場合も多く、専門的に被害者の心情等に配慮しながら相談対応や避難その他の一時的保護対策等を的確かつ継続的に対応できる体制が整備されていなければ、十分な効果は期待できません。さらには、対応する警察官に対するカウンセリング、心理学的研修や連携・継続して協力対応が必要不可欠になるものと考えます。

各機関における体制整備

 ストーカー対策においては、できる限り早期に対応することが、被害の未然防止・拡大防止に繋がります。被害者と加害者の関係等から警察相談を躊躇したり、警察相談が相手に知れたら報復されるのではないかとの恐怖から警察への相談に抵抗感があったり、だからといってどこに相談すればよいのかが分からない等の問題があります。
 相談の窓口となり得る婦人相談所、学校、地方自治体、男女共同参画センター、法テラス、犯罪被害者支援センター等の民間の被害者支援団体等の関係機関においても、当然のことながら、ストーカー事案の特徴・危険性、早期の相談の必要性から積極的に情報を提供するとともに、ストーカー相談への対応や解決に至るまでの被害者等の支援等について連携して対応し、被害者の心のケアもでき得る体制が必要となります。
 ただし、この各機関の「連携」が難しいのが現状です。そのことは、これまでのストーカー事件や虐待事件・いじめ等において、関係する各機関が多数ありながら、「どこが主管で対策を行うのか」、自分が関係するところだけ対応して後はそれぞれの担当する機関で行ってもらわなければ対応できないという(大手企業においても良くある)対応する部門・部署を細分化することによって自部署の業務分掌以外のことは積極的に関与しない、形式的な情報提供は行うが、その後は情報提供された方で対応して下さいといった、不作為の放置的な対応が目につきます。
 最近でも、いじめの問題について、学校側の対応そのものや、学校側と教員委員会との連携の拙さ等の問題が報道されているように、いじめられている被害者の保護とケア、再発防止のための加害者対策等という一番重要な部分が、関係機関のセクショナリズム、悪い意味での職責範囲の遵守意識によって、本来の「連携」が出来ていない状況がそこかしこで散見されています。ストーカー対策においても、例えば、平成28年1月28 日に開催された ストーカー総合対策関係省庁会議において、 ストーカー事案に対応する体制の整備として、以下のような取り組みが報告されています。

  • ストーカー事案を含む人身安全関連事案対策を強化するための地方警察官等の 増員を措置するとともに、交番、総合窓口において、女性警察官等の対応ができる体制の確保を推進。【警察庁】
  • 被害者等からの相談への対応について、職員等に向けた教養、研修、講義等を 実施。【内閣府、警察庁、法務省、文部科学省、厚生労働省】
  • 地方公共団体の犯罪被害者等のための総合的な窓口、専用相談電話「女性の人 権ホットライン」、日本司法支援センター(法テラス)、精神保健福祉センター等に おいて、被害者等からの相談に対応。【内閣府、法務省、厚生労働省】
  • スクールカウンセラー等の公立小中学校等への配置に係る経費を措置。【文部科 学省】
  • 既存のネットワークを活用した関係機関の連携、協力を推進するとともに、通 知等を通じて関係機関の連携を指示。【内閣府、警察庁、総務省、法務省、文部科 学省、厚生労働省】
  • 「第4次男女共同参画基本計画(平成27年12月25日閣議決定)」にストーカー事案への対策の推進に係る関係機関の取組及び連携を盛り込み。 【内閣府、関係 省庁】

 さらに、被害者等の一時避難等の支援としては、以下のような取り組みが報告されています。

  • 婦人相談所では、被害者に対し、必要に応じて心理療法担当職員等による心理的ケアを行うとともに、緊急時においても適切に一時保護ができるよう、平成26 年3月に策定した「婦人相談所ガイドライン」や平成27年3月に策定した「婦人 相談員相談・支援指針」により周知。【厚生労働省】
  • 被害者等の一時避難に係る経費を措置し、危険性・切迫性が高い事案の被害者の安全確保を推進。【警察庁】
  • 被害者の中長期的支援のための研修、講義等を実施。【内閣府】
  • 婦人保護施設では、施設入所者(ストーカー被害女性を含む)に対し、必要に応じて生活支援や心理的支援、就労支援を実施して、自立に向けた中長期的な支援を実施。【厚生労働省】
  • 日本司法支援センター(法テラス)による民事法律扶助等の活用により、資力の乏しい被害者に弁護士費用等の立替援助を行うなど、経済的負担軽減を実施。【法務省】
  • 地方公共団体が実施した民間シェルター等に対する財政的援助、配偶者暴力相 談支援センターの業務に要する経費等について、地方交付税による財政措置を実施。【内閣府、総務省】

 また、被害者情報の保護についても以下の通り報告されています。

  • 捜査段階、公判段階における被害者等情報の保護に配意。【警察庁、法務省】
  • 被害者等の情報の保護や相談窓口での適切な対応について、配偶者暴力相談支援センター長及び相談員向けに講義を実施。【内閣府】
  • 被害者等情報の適切な対応について、平成26 年3月に策定した「婦人相談所ガイドライン」に記載。【厚生労働省】
  • 住民基本台帳の閲覧等、自動車の登録事項等証明書等の交付、選挙人名簿の抄本の閲覧、戸籍の届書等の記載事項証明書の請求等について、被害者等情報保護の手続の厳格な運用による被害者等情報の管理を徹底するとともに、当該手続等の情報を周知。【内閣府、警察庁、総務省、法務省、厚生労働省、国土交通省】

 関係省庁等が上記以外でもこのような多くの対策を実施しているものの、これだけ多くの関係機関で、「誰が」「どこが」主管となり、関係機関同士の連携と実際の対応の指揮を取って対応するのかを被害者の心情等を考え、もっとシンプルかつ明確に示したうえで対応していかないと、せっかくそれぞれの関係機関が被害者対策として講じていることが、有効的に活用されないことになってしまうように思われます。

2) 被害者の一時避難等の支援

 被害者対応にあたっては、被害者の安全を優先して考えて、安全な場所への一時避難や一人にさせないための措置を講じる必要があります。現状では、ホテル・転居等が主な措置となりますが、加害者が実家を探し出して実家の方が重大な事件の被害者となるケースもあります。本来は被害者支援団体等が継続して避難措置以外にも執り得る支援措置が必要ですが、それらの支援団体等又は被害者の転居等に対する費用等の財政的支援がなく、有効的な被害者の避難措置は難しい状況にあり、この点についての改善が必要と思われます。

 また、加害者は、実家、転居先、勤め先等の被害者情報について、インターネット等も含めたあらゆる手段(以前も紹介しましたが、被害者が捨てたごみ等からの情報収集など)を使って収集しています。避難場所等の選定に関しても、被害者からのストーカー行為の現状並びに実家、勤務先、友人関係等について加害者がどの程度情報収集をしているのか等についての詳細を聞き取り、加害者に対する情報も収集した上で、慎重に避難場所の選定をするべきだと思います。
 もちろん、現状も警察相談等においては、そのような対応をしていると思いますが、避難場所等に関する費用等の負担が被害者に及ぶことから、避難場所を選定するというよりは、アドバイス程度しか出来ず、最終的には被害者自身が費用負担等も含めて決定している実態があります。また、避難場所が果たして安全か、勤め先等へのはいかい等はないかも含めて、被害者の不安等の除去のためにも一人にさせないための措置も必要ですが、家族等が対応出来る場合以外は、なかなか対応が難しいのが現状です。
 以前ご紹介した当社のサービスである「ショートボディーガード」のように、被害者の状況に合わせたピンポイントの身辺警護等の活用が望ましいと言えますが、避難措置やカウンセリング等と同様に、その費用負担の問題が出てきます。私どもで今まで実際に対応した「ショートボディーガード」においては、被害者の家族等からの相談により、両親や祖父母からの依頼がありました。
 また、私どもは企業の第三者内部通報窓口業務を受託して行っていますが、どこに相談してよいか悩んでいた相談者(社員)からの匿名でのストーカー相談に対して、カウンセリング資格を有する私どもの内部通報対応スタッフが親身となって対応して、匿名ではなく実名による通報として会社側へ報告するとともに、対応アドバイス等を行った結果、会社側からの依頼により、警察相談、避難場所の選定やショートボディガード等の対応によってストーカー事案を解決して、事案発生以前より元気に会社で勤務できるようになったという事例もあります。

 このように今後、少子高齢化等も含めて従業員確保が難しくなって来る時代になっているからこそ、生産性の向上に向けて、企業としては「HR(ヒューマンリソース)リスクマネジメント」の一環として、社員等に寄り添って対応していくことも必要になっていくものと思います。

 さて、以前のつぶやきから時間が経ったものの、その間、関係各機関等において、ストーカー対策について様々な角度からの調査・研究により有効な対策についての検討や実施が進んできていることは喜ばしいことです。後は、関係各機関等の本来の連携体制を確実に構築すると共に、対策に関係する各種費用等に関する支援・対応が出来れば、かなり実践的な対応が行えるのではないかと思います。
 ストーカー対策(特に未然防止にかかる対策費用をカバーするもの)に関する保険の設計は容易ではないと考えられますが、例えば、警察等の公的機関が「危険が切迫している」と認定することをトリガーとして、身辺警護の手配や防犯対策の強化などの対策に要する費用をカバー(公的な助成と民間の保険による補償の組み合わせ等)できるようになれば、より実効性の高い未然防止対策を講じることができるようになるのではないかとも思われます。

 さて、ストーカー行為が犯罪である以上、やはり対策の主管で関係各機関等との連携の柱となり対策を進めて行くべきは警察だと思いますし、その為の専門部署を設置しての対応が必要だと強く思います。

 関係各機関等からストーカー等に関する情報を警察と共有し、警察において加害者、被害者、双方の関係者等からの事情聴収から、事案の性質、加害者の犯歴、通院歴等についてのリスク要因を評価して、将来起き得る事象を複数検討した上で、リスク対策を策定し、関係各機関と連携して対策プランの実行を警察が主管となって関係各機関と対応していく必要があります。その間の加害者に対する継続的な監視や被害者支援が盛り込まれることも当然必要となります。
 ここ数年でのストーカー対策に関して、関係各機関等による検討と対策等が講じられていますが、これらを如何に有効的に実践していくためには、関係各機関等における「不作為の放置」が発生しないよう、主管となる組織体制の確立と対応関係者の専門分野はもちろん、それ以外の分野での研鑽、研修を継続していくことが必要だと思います。

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