SPNの眼

コンプライアンスやリスク管理に関するその時々のホットなテーマを、現場を知る
危機管理専門会社ならではの時流を先取りする鋭い視点から切り込み、提言するコラムです。

危機管理と5S+「S」(6)(2019.3) ※3/7差し替え版

 前回に引き続き、今回も「危機管理と5S+『S』」について論じていきたい。
今月は、51個目~60個目までを解説する。

■備え
 51個目の「S」は、「備え」である。
 リスクマネジメントは有事の発生予防のほかに、有事の「備え」としての意味を持つ。備えがなければ、有事において窮地に追い込まれることすらある。
 昨今、災害が多いことから、備蓄物資等の「備え」の重要性は増している。「備えあれば憂いなし」という諺もあるように、危機管理においても、備えは非常に重要な意味をもつ。
 切羽詰まった状況では、余裕がなくなり、判断や対応を間違ってしまいかねず、このような状態では、有効な危機管理は実現できない。「備え」があることで、余裕が生まれ、判断や対応のミスの可能性も低減され、有効な危機管理も可能となる。
 したがって、危機管理の要素として、「備え」を外すことはできない。

■真実
 52個目の「S」は、「真実」である。
 証明責任とも関係するが、一つの事実に対して、人ごとに複数の真実があるため、その内容を正しく説明していかなければ誤解を招きかねないし、真実が人ごとに存在することからこそ、その内容を正しく説明していくことが求められる。
 一つの事実でも、人により捉え方が異なり、それが人それぞれの「真実」になる。危機管理の局面でも、人により異なる真実を踏まえて、事実を見極め、それに対して適切な対応が求められる。
 危機管理もそれぞれの人や組織の真実に基づいて行っており、その意味では、真実は危機管理の要素であるといえる。

■サステナビリティー
 53個目の「S」は、「サステナビリティー」である。
 「サステナビリティー」とは、一般的に「持続可能性」と訳される。国際連合の「環境と開発に関する世界委員会」(WCED)から1987年に発行された「ブルントラント報告」(において用いられたことから広まった言葉である。
 もともとは国際連合の委員会にあるように環境や資源開発に関する考え方として広まってきたが、今日では、CSRと取り組みの一環として、「サステナビリティー」が論じられるようになってきているほか、組織においても「持続できる能力」が求められることから、経営額的な視点でも注目を浴びている。
 危機管理も組織の存続のために行うものであり、サステナビリティーの考え方と共通する。その意味では、「サステナビリティー」も危機管理の要素であるといえる。

■誠実(Sincere)
 54個目の「S」は、「誠実(Sincere)」である。
 危機管理、特にクライシス等の事案への対応においては、「誠実」な対応が重要となる。過去の不祥事等を見ても、誠実な対応をしなかったために、事態の悪化や組織の解体に追い込まれたケースも少なくない。
 事態の収束や信頼の回復のためには、発生した事実を踏まえた誠実な対応が不可欠であり、それなくして危機対応は成功しない。誠実は、危機管理を有効に行う上での極めて重要なキーワードになるのである。
 したがって、「誠実(Sincere)」は、危機管理において極めて重要な要素であると言える。

■Solution
 55個目の「S」は「Solution」である。
 危機管理自体が、様々な事象に対する問題解決に他ならない。
特にクライシス対応においては、正しいアプローチで問題解決に当たらなければ、事態はさらに悪化する。クライシス対応自体が、まさに問題解決そのものなのである。
 実態や事実を解明し、発生した事案を解決に導く。「Solution」はまさにこのような意味を持っているが、それはすなわち危機管理においても共通である。
 したがって、「Solution」も危機管理に重要な要素であると考えられる。

■深耕
 56個目の「S」は「深耕」である。
 リスクマネジメントとして行われる各種の対策・施策は、当初から完璧なものはない。運用の過程を経ながら、徐々にブラッシュアップ、深耕していく必要がある。体制整備は、そこがゴールではなく、そこからがスタートである。まさに、そのスタートから、徐々に、深め、耕して、自社の状況への対応や自社の悪癖の打破等に務めていくことが、リスクマネジメントの真髄である。
 その意味で、「深耕」も、危機管理の重要な要素の一つとして、挙げておきたい。

■清廉
 57個目の「S」は「清廉」である。
 「清廉」とは、心が清らかで私心がないこととされるが、危機管理においても、私心がないことは非常に重要である。
 内部統制システムの限界は、「人」にあるとされるが、これは「人」が私心を持ってルール等を捻じ曲げたり、意図したりすることで、内部統制システムが無効化・形骸化してしまうからである。
 また、企業不祥事等も、私心を持って行った不正やルール違反等がきっかけとなっている場合もあるし、不祥事等への対応においても、自己保身や責任回避の私心が働き、対応を誤るケースも少なくない。
 その意味では、危機管理を行う上では、「清廉」であることが、その成否を左右するとも考えられるのであり、「清廉」であることも、危機管理の重要な要素といえる。

■正義
 58個目の「S」は「正義」である。
 「正義」の定義については哲学の世界では種々の見解があるものの、一般的には、「人の道にかなっていて正しいこと」、「人間の社会行動の評価基準で、その違反に対し厳格な制裁を伴う規範」(小学館・デジタル大辞泉)とされる。前者は倫理的な正しさ、後者は法的な正しさを求めているようにも解釈できる。
 意味的には、コンプライアンスに近い形になるが、正義の場合、より一層の「正しさ」が求められてくる。「正しい」という概念も多義的・恣意的概念ではあるものの、それが独りよがりではなく、「社会規範」との関係においての「正しさ」を求めているところが、一つのポイントとなる。危機管理においても、それが独りよがりの「正しさ」に基づくものであっては、その対応・内容に関して社会に受け入れられず、危機管理としては成功しない。
危機管理も「社会規範」との関係においての「正しさ」、すなわち「正義」に基づき対応していくことが不可欠である。
 その意味で、「正義」も危機管理に重要な要素といえる。

■成功・失敗
 59個目の「S」は「成功・失敗」である。
 危機管理に関しては、世の中の様々な事象をみても、成功例・失敗例様々である。本来は成功・失敗というフィルターで論じるべきではないかもしれないが、やはり、成功・失敗という成果が出ること、またそう評価される現実がある。
 危機対応のあり方も時代や社会の状況に応じて変化させていくことが求められ、種々の事例における対応の研究は有意義でもある。特に失敗例をしっかりと分析し、なぜ失敗したか、どうすべきだったのか等を検証して、自社の危機対応の教訓とすることは危機管理体制強化には不可欠である。当社の緊急事態対応に関する書籍(「企業不祥事の緊急事態対応「超」実践ハンドブック」)においても、いくつかの事例における失敗要因を分析しているのも、そのためである。
 危機管理に関する成功・失敗が語られる現状、また結果として如実に現れる現状を踏まえると、「成功・失敗」も危機管理に関する重要な要素として挙げておきたい。

■洗浄
 60個目の「S」は、「洗浄」である。
 「洗浄」という言葉は、危機管理の分野では、例えば、反社会的勢力等による資金洗浄(マネー・ローンダリング)等の意味で用いられることが多く、あまり良いイメージはないかもしれない。
 しかし、「洗う」と「浄化する」という意味を内包しており、洗い清めることと解釈されることから、本来的にはダーティーなイメージはない。
 リスクマネジメントは、種々のリスク要因の改善を行うものであり、膿を出し切り、新たにしていく取り組みも含まれる。その意味で、過去のしきたり等を洗い流して、きれいにすること、すなわち「洗浄」的な意味も持っている。
 また、クライシス事案、特に企業不祥事等については、その要因となった悪癖・インシデントをしっかりと洗い清め、改めていく再発防止の取り組みが重要となる。この取り組みも「洗浄」とい言葉のイメージに近いものがある。
 したがって、「洗浄」についても、危機管理の要素として挙げておきたい。

 以上、危機管理の5S+「S」という形で、取り留めのない整理をしてきたが、一般的にいわれる「5S」(整理・整頓・清掃・清潔・躾)に加えて、危機管理を行う上で考慮しておくべき要素として、60個のキーワードを抽出・紹介してみた。
 読者の皆様も様々な意見はあることと思うが、これはあくまで私的な整理であり(一部当社スタッフの知恵を借りたものの)、一つの参考としていただければ、幸いである。
 当然、この60個を備えてくださいというものではないが、危機管理の仕事をしていく中で、自身の危機管理業務に関する指針となる要素を、検討・抽出してみることは非常に意味のあることと考える。そのような指針があることが、実際の危機管理を行う上での判断機軸やナビゲーターになるであろう。

 危機管理に関する種々の施策・対応も、「なぜ、そのような判断・対応をしたのか」についての説明が求められ、それが社会的に評価されていく社会になりつつある。上記の趣旨を踏まえて、これを期に、自身の危機管理指針を整理してみることとお勧めしたい。

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