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南海トラフ地震「巨大地震警戒」と「巨大地震注意」の臨時情報。企業はどのように対応する?(2019.9)

総合研究部 専門研究員 大越 聡

 本コラムは、以下の記事の続編となります。南海トラフ地震が発生した際の「巨大地震警戒」「巨大地震注意」の臨時情報については、以下をご覧ください。

「巨大地震警戒」の臨時情報とは?~「地震は予知できない」を前提とした国の対策を知ろう~(2019.7)

 今回は、南海トラフ地震が発生し、政府から「巨大地震警戒」もしくは「巨大地震注意」の臨時情報が発令された場合、企業はどのように対応したらよいのかを、今年3月に内閣府(防災担当)から発表された「南海トラフ地震の多様な発生形態に備えた防災対応検討ガイドライン」(第1版)からご紹介します。

 まず、注意しなければいけないのは「巨大地震警戒」も「巨大地震注意」情報も、「ゆっくりすべり」ケースを除いて、基本的には「大きな地震」があった後に発せられる情報ということだ。例えば、1854年には安政東海地震が発生した32時間後に安政南海地震が発生している。分かりやすく言えば、「警戒」も「注意」の情報も、「先の地震」(以下、先発地震)が発生した後に、「後の地震」(以下、後発地震)を警戒して発せられるものだ。そのため、まず企業は「先の地震」が突発的に発生した場合に備える必要がある。日ごろからしっかりしたBCPを策定していることが重要だ。特に電気・ガス・水道・通信等のライフライン企業は、社会における災害応急対策の実施をはじめとする全ての活動の基礎となるものであることから、事業継続に必要な措置を早期に実施することが望ましい。

 企業の防災対策やBCPの基本的な考え方として、まず以下が挙げられている。自社のBCPと照らし合わせ、抜け漏れがないようにしておきたい。

企業の防災対策・BCPの基本的な考え方
  1. 大規模地震発生時に明らかに従業員などの生命に危険が及ぶ場合には、それを回避する措置を実施。
  2. 不特定多数のものが利用する施設や、危険物取り扱い施設などについては、出火防止措置等の施設点検を確実に実施。
  3. それ以外の企業についても、日ごろからの地震への備えを再確認するなど警戒レベルを上げる
  4. 地震に備えた事業継続に当たっては、一時的に企業活動が低下しても後発地震が発生した場合に、トータルとして事業軽減・早期復旧ができる普段以上に警戒する措置を推奨
地震の備えの再確認や取るべき行動のチェックリスト

身の安全確保と迅速な避難体制・準備

  • 地域のハザードマップの確認
  • 建物の耐震診断
  • 従業員に対し、耐震性の低い建物には近寄らないよう周知
  • 耐震性が低いたての藻を利用している場合は、代替拠点の用意
  • 安全な避難場所・避難経路を確認するとともに、従業員や顧客の避難誘導ルールの策定
  • 従業員の安否確認手段の決定
  • 出入り口に避難の障害となるものを置かない
  • 防災訓練・演習の実施と、それによる課題の解決
  • 土砂崩れや津波浸水の恐れのある場所での作業を控える

施設・設備などの安全対策

  • 重要設備の地震発生時における作動装置の点検実施
  • 機械・設備・PC等の転倒・すべり防止対策
  • 机・椅子のすべり防止対策
  • 窓ガラスの飛散防止対策
  • 高いところに危険な荷物をおかないようにする
  • 文書を含む重要情報のバックアップ

発災後のための備え

  • 非常用発電設備の準備及び燃料貯蔵状況を確認する
  • 早期復旧に必要なし機材の場所を確認する
  • 事業継続に必要な調達品の確保を実施する(製品や原材料の在庫量見直し等)
  • 水や食料等の備蓄品の場所と在庫の有無を確認する
  • 企業・組織の中枢機能を維持するための、緊急参集や迅速な意思決定を行える体制や指揮命令系統を確保する
  • 発災後の通信手段、電力等の必要な代替設備を確保する
  • 取引先、顧客、従業員、株主、地域住民、政府・地方公共団体などへの情報発信や情報共有を行うための体制の整備、連絡先情報の保持、情報発信手段を確保する
  • 災害時の初動対応や二次災害の防止など、各担当業務、部署や班ごとの責任者、要員配置、役割分担・責任、体制などを確認する
  • 津波浸水が予想される海沿いの道路利用を避け、輸送に必要な代替ルートを検討する
後発地震への企業の対応方法。最低1週間は厳重警戒!

 前回のコラムで、「半割れケース」では「巨大地震警戒対応」をとると書いた。少し詳しく説明すると、「半割れケース」では先発地震により甚大な被害が発生されることから、まずは被災地域の人命救助などが一定期間継続することが考えられる。後発地震に対して備える必要がある地域は、このことに留意しながら、大きな地震に備える必要がある。先発地震に対する緊急対応をとった後、自らの地域で発生が懸念される後発地震に対し、明らかにリスクが高い事項についてはそれを回避する防災対策をとらねばならない。そして大切なのは、社会全体としては地震に備えつつ、通常の社会行動をできるだけ維持していくことだ。

 では、「半割れ」より一段階低い「一部割れ」の場合はどうしたらいいのだろうか。一部割れでは、まずM7クラスの地震が発生し、強い揺れを感じる。最初の地震の震源域に近い一部の沿岸地域では緊急地震速報・津波警報が発表され、住民は避難するが、その後半日程度で津波警報は津波注意報に切り替えられ、住民は帰宅を開始することになる。一部では交通インフラやライフラインに被害は発生しているものの、広域にわたるものではなく、多くの地域で人的・物的に大きな被害は発生しない。こうした場合、住民や企業は個々の状況に応じ、日ごろからの地震の備えを再確認するなどを中心とした防災対応をとる。これが「巨大地震注意対応」だ。

 さて、企業は後発地震についてどのように対応したらいいのだろうか。ガイドラインでは、先発地震がM7.0以上、M8.0未満の場合は、まだ大きな地震がその後に発生する可能性が残されているとされる。この場合「巨大地震注意対応」が発せられる可能性が高いが、後発地震も従来から各自治体からハザードマップで示されている最大クラス(M9.0クラス)を想定したほうが良いとしている。

 先発地震がM8.0以上の場合も、想定外のさらに多様な地震の発生形態が生ずる可能性がある。こちらも、最大クラス(M9.0クラス)の地震を想定したほうが良いだろう。

 しかし、先発地震が発生した後に、長期間普段と違う防災対応を継続することは現実的に困難だ。そのため、ガイドラインでは最も警戒する期間として先発地震後「一週間」を基本としている。「巨大地震警戒対応」の場合、最も警戒すべき1週間の経過後は「巨大地震注意対応」に切り替わり、この期間もさらに1週間とされている。この期間は、自社の事業を継続するために復旧作業もしつつ、さらに後発地震に備えた対応が必要となるだろう。

個別分野における防災対策の注意事項

 ガイドラインに記載された個別の分野における防災対策の注意事項を挙げておく。自分の会社の業種にあわせ、確認しておきたい。ガイドラインには他にもインフラ企業や金融機関など、様々な業種について言及しているので、担当者はぜひ一度眼を通して欲しい。

  1. 病院、劇場、百貨店など、不特定多数かつ多数の者が出入りする施設を管理・運営する者
    • 基本的には業務を継続する。その際、まず個々の施設が耐震性・耐浪性を有する等安全性に配慮する者とする。臨時情報が発生した場合には、顧客などに対し、当該臨時情報などを伝達する方法を明示する。できれば全フロアに対し、正確に伝達できることが望ましい。
    • 該当施設が住民事前避難対象地域内にあるときは、退避後の顧客等に対する避難誘導の方法や安全確保のための措置を明示する。
    • 病院については、患者等の保護の方法について、個々の施設の耐震性等を考慮し、その内容を明示する。事前避難対象地域に位置する病院は、避難勧告等が発令された場合、患者等の安全確保のため、病院外での生活が可能な入院患者の引渡しや、入院患者の転院の準備について検討する。

  2. 学校・社会福祉施設を管理・運営する者
    • 幼稚園、小・中学校等にあっては、児童生徒などに対する保護の方法について定めるものとする。この場合、学校のおかれている状況に応じ、保護者の意見を聴取する等、実態に即した保護の方法を定めるように留意する。
    • 社会福祉施設においては、情報の伝達や避難などにあたって特に配慮する者が利用している場合が多いことから、入所者の保護者への引継ぎ方法について、施設の種類や性格、個々の施設の耐震性、耐浪性を十分考慮し、具体的に内容を定める。

  3. 石油類、火薬類、高圧ガス等の製造、貯蔵、処理又は取り扱いを行う施設を管理・運営する者
    • 津波が襲来したときに発生する可能性のある火災、流出、爆発、漏えいその他の周辺の地域に対し影響を与える現象の発生を防止するため、必要な緊急点検、巡視の実施、充てん作業、移し変えの作業等の停止、その他施設の損壊防止のため、特に必要がある応急的保安措置の実施等に関する事項について、その内容を定め、明示するものとする。
    • この場合、定めるべき内容は、当該施設の内外の状況を十分に勘案し、関連法冷などに基づき社会的に妥当性のあるものとする。また、実際に動員できる要員体制を踏まえるとともに、作業員の安全確保を考慮した十分な実行可能性を有するものとする。
    • 後発地震による津波の発生に備えて、施設内部における自衛消防等の体制として準備すべき措置の内容、救急要員、救急資機材の確保等、救急体制として準備すべき措置の内容を明示するとともに、必要がある場合には施設周辺地域の地域住民等に対して適切な避難等の行動をとる上で必要な情報を合わせて伝達するよう事前に十分検討するものとする。
地域に対する貢献

 ガイドラインでは、企業特性に応じた後発地震に備えた地域における貢献活動を推奨している。国の防災基本計画でも、「国民の防災活動の環境整備」における項目の1つとして「企業防災の促進」を掲げ、災害時に企業が果たす役割のひとつとして社会貢献活動や地域との共生が挙げられている。

 できれば、それぞれの企業において、日ごろから地域の防災組織との協同体制を構築し、災害時には非常食や資機材の提供について検討することが望ましい。災害時には自助、共助が大きな役割を果たす。企業の中で避難誘導や要配慮者に対する支援を実施することができる「防災リーダー」の育成を検討することも、今後の課題だ。

-以上

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