SPNの眼

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【緊急レポート】感染症BCP整備の視点と概要~効率的に感染症対策BCPを整備するための勘所(2020.3)

1.はじめに

WHOは新型コロナウイルス感染症について、パンデミックの宣言を行った。国内においても、インフルエンザ特別措置法が改正され、緊急事態宣言の発令が可能となった。

国内では、安倍政権によるイベント等の自粛要請や小中学校の休校、時差出勤の実施要請等により、感染拡大封じ込めに取り組んでいるが、依然として感染者は増えている状況にある。もちろん、回復した方も多数いることから、過剰反応は控えつつ、冷静に状況や推移を見極め、対応していく必要がある。

当社では、これまでも、新型コロナウイルス対策に関連して、下記の緊急レポートを公表してきた。

これまでは、1.および2.において、現在の新型コロナウイルス感染症の拡大状況を踏まえて、従業員等の健康管理のポイントと社内におけるBCP対策本部の整備及び運用の視点について解説してきた。

そこで、この状況において屋上屋を重ねることは避け、今回は、今後を見据えた感染症対策のBCP整備の視点について、1.2.では触れていない点も含めて、今後、感染症BCPを整備していく上での留意点・着眼点に関する補足として、解説していくこととする。

2.感染症対策のBCP整備の着眼点

(1)感染症対策BCPの特徴と整備すべきBCP対策要綱

感染症対策BCP整備の着眼点を解説するにあたり、まずは、感染症対策BCPの特徴について、解説する。

BCPについては、地震等の自然災害、IT対策、インフルエンザ等の感染症と大きく3つの文脈で語られるが、それぞれの特徴と整備の視点については、すでに過去の当社コラム「SPNの眼」(「BCP強化に向けた考察(第二回)~BCPの整備に際しての基準と水害・火災のリスク~(2017.12)」)や当社のBCP関連セミナーにて言及・解説してきた。

今回、その内容を要約の上、再掲する(以下は、「災害BCP強化に向けた考察(第二回)~BCPの整備に際しての基準と水害・火災のリスク~(2017.12)」の該当部分を要約・紹介である)。

  • 看過してはならないのは、BCPの整備を進める上で、インシデント別の差異をしっかりと認識しておくことである。
  • 概念の違いではなく、原因となる事象により、生じうる社会環境や事業環境は異なることを認識しつつ、それらの要因を勘案したBCPを構築・整備していくことが求められるのである(機能別の発想だけでは対処しきれない)。

  • BCPについてどのような視点で整備するかを判断する上で、重要な要素は次の3点である。
    • 予測可能かどうか
      • 災害やインシデントの発生が予測可能であれば、早めの防災・減災・被害軽減策も行える上、予測を踏まえた軌道修正や対応を早い段階から行うことができる。
      • 事業継続のための準備(事前低減)段階があるかどうかで、BCPの内容は異なる(単純に、「初期対応」・「復旧」だけのプロセスではない)。
    • 社会インフラの被害状況
      • ここでは、電気・ガス・水道等のライフラインの他、通信・交通機能、社会的な物流ネットワーク機能を総称して社会インフラと定義するとして、社会インフラの状況で、事業継続の可能性は大きく異なってくる。
      • 社会インフラの被害が少なければ、通常の社会環境・事業環境に近い状況であることから、事業継続への影響はそれほど大きくないが、社会インフラが大きく損なわれていれば、事業継続はままならない。
      • したがって、インシデント別に社会インフラへの影響を考慮しておく必要がある。社会インフラの被害状況により、復旧に求められるスピード感も、優先順位も異なってくるからである。
    • 従業員への影響
      • どこの企業・組織においても、防災あるいは事業継続時の最優先の方針は、「人命尊重・従業員等の安全確保」とされているが、それは、道義的・法的責任の観点以外にも、やはり、事業活動には、人的資源が重要であり、不可欠の要因となるからである。
      • 人材不足が社会的にも深刻になっているが、事業や企業の発展には、人材が重要であることはいうまでもなく、事業継続の局面においても同様である。AI化が進んでも、事業継続が問題となるような状況では、想定外の事象や例外的な対応が必要な事項も少なくない為、AIでは対処が難しい状況に直面する。
      • したがって、BCPを考える上でも、二次被害や被害拡大の可能性等、従業員への影響を考慮しておく必要がある。

これらの3つの要素を踏まえて、災害を中心として、種々のBCPで考慮していく要因を考えていくと次のようになるもの。

  • 自然災害(地震、台風、水害、噴火)
    • 自然災害については、第一の基準である「予測の可否」に関して、台風・水害のように一定程度、規模や発生が予測しうるものと、地震のように規模や場所の予測の難しいものがある。噴火は、ある程度の予知は可能だが、未知の要素を含むものもある。
    • 事前に予測できるものについては、例えば台風時の鉄道会社の計画運休のような事前の被害低減策の実施も、事業継続の観点からは重要な施策であるため、その要領を整備しておく必要がある。
    • 第二の基準である「社会インフラへの影響」については、社会インフラの機能障害が生じる可能性が高く、従業員の参集や情報収集・共有、各方面との連携に支障が出る可能性が高い。
    • 第三の基準である「従業員等への影響」については、自社や取引先等の従業員の安全・生命をおびやかす事態も生じうる他、身体・精神両面において、また私生活面においても、種々の影響が生じうることから、事業継続に関しての人的資産毀損(機能停止)のリスクはある。
    • 以上を踏まえて、事業継続対策の大枠を概観すると、下記の通りである。
      • 防災対策(平時準備)
        • 施設強化対策:耐震補強や什器の固定等
        • 防災教育研修:避難訓練等も含む、安全確保のためのノウハウ共有
        • 設備補強・冗長化:予備電源の確保・移設等
        • 安否ルール整備・情報管理対策:安否確認システム整備、データ保存
        • (解説)まず、平素からのリスクマネジメントとして、減災に向けた施設強化対策、設備補強・冗長化、防災教育・研修、安否ルールの整備や情報管理対策が必要になる。施設・設備等のハード面だけではなく、教育研修やルールの整備等のソフト面の対策も重要であることを忘れてはならない。

      • 災害対応(予測可能災害)
        • 従業員の安全確保:従業員の安全確保、行動指針の明示等
        • 被害回避行動・被害軽減措置:予測を踏まえた各種減災対策等
        • 災害動向把握:情報収集や各方面への指示・連絡
        • 事業中断・事業継続措置:予測を踏まえた戦略的判断・対応
        • (解説)予測可能災害の場合は、何よりも、災害動向把握や被害回避行動・被害軽減措置が重要になる。事業継続を考える上では、事業へのダメージを可能な限り小さくすることが重要であり、その意味では、事前の防災対策だけではなく、予測を踏まえた災害対応も、事業継続上重要なマネジメントとなる。固定的かつ事前の段階でのリスクマネジメントとしての事業継続対策のほかに、リスク要因をその影響力の小さいうちに察知・分析し、重大事象の回避に最善を尽くすミドルクライシス・マネジメント(※当社独自の概念。商標登録済)の考え方は、防災・BCPの局面でも有用な指針である。

      • 災害対応(予測可能災害)
        • 従業員の安全確保:従業員の安全確保、行動指針の明示等
        • 被害軽減措置・二次被害防止対策:早めの避難や安全確保行動徹底
        • 初動対応・危機対応:発生した事象と被害を踏まえた危機対応
        • 広報体制整備・事業継続判断・事業継続措置:状況を踏まえ判断
        • (解説)予測不可能災害の場合は、防災対策以上の事前の準備は難しいことから、発災後の対応に重点が置かれる。ただし、事業へのダメージを可能な限り小さくすることが重要であることは予測可能災害の場合と変わらないから、従業員の安全確保と被害軽減・二次被害防止措置は極めて重要である。そして、被災を前提として対応せざるを得ない以上、被災状況と被害を踏まえた戦略的な危機対応が重要となる。災害の規模が大きくなればなるほど、現場は混乱を極め、できることは限られるにしても、状況を踏まえて、できることは確実に実行していく危機対応が求められる。

  • 感染症(インフルエンザ等)
    • 感染症については、第一の基準である「予測の可否」に関しては、発生初期は予測不可能ではあるものの、事業継続が危ぶまれる流行期については、それまでの罹患状況や発生地域、毒性、感染力等のデータ分析・公表が相当程度行われることから、被害予測等は一定程度可能である。
    • 第二の基準である「社会インフラへの影響」については、社会インフラの機能障害が生じる可能性は低く、従業員の参集や情報収集・共有、各方面との連携に支障が出る可能性は高くない。あるいはその影響は、災害時と比べて軽微である。
    • 但し、感染者も通院等で交通機関等を利用する可能性があるため、参集や移動は罹患リスクを高める場合があることに注意が必要である。
    • 第三の基準である「従業員等への影響」については、感染症によっては従業員の生命をおびやかす事態も生じうる他、段階的かつ相当程度の期間に渡り相当数の罹患者を生じさせるリスクがある。また、罹患時は、数日~相当期間は会社等を休む(休ませる)必要が出てくることから、事業継続に関しての人的資産毀損のリスクはある。
    • 深刻な感染症であればあるほど、家族が感染した場合や、濃厚接触にあたりうる場合は、従業員自身が感染していなくても、要観察対象となり、通常通り活動できなくなるリスクがあることも念頭に置かなければならない。
    • (注)まさに、新型コロナウイルス感染症における現在の状況も、ここでリスク分析の通りの状況になっていることが分かる。
    • 以上を踏まえて、事業継続対策の大枠を概観すると、
      • 平時準備
        • 施設内対策:空調設備や音湿度調整、殺菌・消毒等の対応・対策
        • 研修・情報発信・訓練・マニュアル化:予防に向けた環境づくり
        • 感染予防対策:予防にむけたルール化、周知・徹底、備品準備
        • ルールの整備:健康管理・記録、体調不良時の対応要領など
        • (解説)感染症に対する事前対策としては、何よりも感染リスクの低減に向けた各種対策と、従業員等を巻き込んだ、予防活動の実施が重要となる。事業継続対策においては、事業へのダメージを可能な限り小さくすることが重要であることは自然災害の場合と同様である。

      • 発生時対応(蔓延時)
        • 従業員の健康管理対策:予防措置および健康管理ルールの徹底
        • 感染者・感染源の隔離:予防・被害拡大の最重要事項。強制休日等
        • 感染拡大防止・勤務体制変更:シフトや勤務体制変更(在宅含む)
        • オペレーション変更、拠点の縮小・変更:罹患状況に合わせて対応
        • (解説)感染症について、蔓延期の発生時対応としては、被害の拡大防止措置の徹底と罹患者の存在を前提とした、通常のオペレーションを変更しての業務運営が求められてくる。特に蔓延期については、相当数の従業員が罹患している可能性があり、各部門や業務プロセスにおける人員不足が深刻化してくることから、それを前提としたオペレーションの変更等の対応が重要となる。

      • 発生時対応(終息時)
        • 従業員の健康管理対策:予防措置および健康管理ルールの徹底
        • 被害軽減措置・衛生対策:シフトや勤務体制変更(在宅含む)
        • 代替要員確保・感染拡大予防:欠員分の補充
        • オペレーション変更、拠点の縮小・変更:罹患状況に合わせて対応
        • (解説)終息期の発生時対応としても、被害の拡大防止措置の徹底と罹患者の存在を前提とした、通常のオペレーションを変更しての業務運営が求められてくることは、蔓延期と同様である。蔓延期と比べて、各部門や業務プロセスにおける人員不足は解消されているものの、依然として感染拡大のリスクや欠員発生のリスクがあることから、罹患者の存在を前提とした業務運営を行わざるを得ない。

「SPNの眼」に掲載されている「災害BCP強化に向けた考察(第二回)~BCPの整備に際しての基準と水害・火災のリスク~(2017.12)」では、IT-BCPについても、同様の視点での対策要綱の例示と解説をおこなっているが、本論とは関係ないため、本稿においては割愛する。

そして、地震等の災害型BCPとの違いに関して、今一つ感染症BCPの整備に当たり留意しておくべき事項を付け加えるとすれば、「発生時(蔓延期)対応が長期化する」ことである。この間、拡大予防措置にも積極的に取り組んでいかなければいけない分、苦労も大きい。

なお、パンデミック宣言による経済状況の悪化・景気の低迷等による経営への影響については、業種差も大きく、BCPというよりも経営判断・経営戦略による部分も大きいため、上記の項目には加えていないが、接客業等、集客減が大きい影響を及ぼす業態においては、そもそも感染症対策BCPの整備の段階で当該リスクを踏まえた分析と対策を検討し、事業継続戦略を策定しておく必要があることは言うまでもない。

(2)感染症対策BCPの整備の着眼点

さて、上記の内容を補足しつつ、感染症対策のBCP整備の着眼点について解説していきたい。

最初に、上記に記載した以外に、地震等の災害型BCPとの違いを明確にしつつ、感染症対策のBCP整備の留意点を補足しつつ、感染症対策BCPの整備の着眼点を整理していくこととする。

①社会インフラは基本的には止まらないことを前提とする

すでに、(1)でも紹介した通り、感染症のBCPは、地震等の災害のものと比べると、基本的にライフライン等の社会インフラが使えないということもなく、会社施設が使えないというケースも限定的である(鉄道、航空機等の交通機関の一部運休等はあり得る)。

ただし、エボラ出血熱等の一類感染症の場合は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」において、都道府県知事による感染地域一帯の交通制限(72時間以内)の処置が可能である(今回の新型コロナウイルス感染症は、「二類感染症相当」とされているため、感染地域一帯の交通制限は実施されない)。

また、新型コロナウイルス感染症の事例でも見られるような消毒作業に伴う一時的な施設の閉鎖はあり得るものの、地震による倒壊により長期間にわたり、当該施設が利用できないという状況は考えにくい。ただし、前記同様、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」において、都道府県知事による汚染された建物の使用禁止(封鎖)の処置が可能である(今回の新型コロナウイルス感染症は、「二類感染症相当」とされているため、汚染された建物の使用禁止(封鎖)は実施されない)。

※参考:
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に関連して取りうる措置について、詳しく知りたい方は、「新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令等の施行について(施行通知)」(厚生労働省)を参照願いたい。「別紙」に、「新型コロナウイルス感染症について講じることのできる主な感染症法上の措置」として記載されている。

地震等の災害対応BCPについては、施設の倒壊や長期間利用できない事態が生じることから、そのような事態に陥った時の対応をどうするかの検討・準備が必要になり、対策に伴う費用も膨大になることから、特に中小企業の災害対応型BCPの整備の際の大きなネックとなっているが、感染症対策BCPについては、基本的にはそこまでの事態には陥らない為、BCP整備も進めやすいといえる。

※参考:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
(感染症の病原体に汚染された場所の消毒)
第二十七条都道府県知事は、一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の発生を予防し、又はそのまん延を防止するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該感染症の患者がいる場所又はいた場所、当該感染症により死亡した者の死体がある場所又はあった場所その他当該感染症の病原体に汚染された場所又は汚染された疑いがある場所について、当該患者若しくはその保護者又はその場所の管理をする者若しくはその代理をする者に対し、消毒すべきことを命ずることができる。
2都道府県知事は、前項に規定する命令によっては一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の発生を予防し、又はそのまん延を防止することが困難であると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該感染症の患者がいる場所又はいた場所、当該感染症により死亡した者の死体がある場所又はあった場所その他当該感染症の病原体に汚染された場所又は汚染された疑いがある場所について、市町村に消毒するよう指示し、又は当該都道府県の職員に消毒させることができる。
(建物に係る措置)
第三十二条都道府県知事は、一類感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある建物について、当該感染症のまん延を防止するため必要があると認める場合であって、消毒により難いときは、厚生労働省令で定めるところにより、期間を定めて、当該建物への立入りを制限し、又は禁止することができる。
2都道府県知事は、前項に規定する措置によっても一類感染症のまん延を防止できない場合であって、緊急の必要があると認められるときに限り、政令で定める基準に従い、当該感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある建物について封鎖その他当該感染症のまん延の防止のために必要な措置を講ずることができる。
(交通の制限又は遮断)
第三十三条都道府県知事は、一類感染症のまん延を防止するため緊急の必要があると認める場合であって、消毒により難いときは、政令で定める基準に従い、七十二時間以内の期間を定めて、当該感染症の患者がいる場所その他当該感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある場所の交通を制限し、又は遮断することができる。
②災害型BCPとの社員の出社に関する行動規範の違い

一方で、感染症型BCPについては、地震等の災害のものと異なり、帰宅困難者の問題(多くの従業員が物理的に帰宅できなくなる事態)は生じない代わりに、社員の出社を抑制する必要が出てくる場合がある(地震等の災害が重なり鉄道等の交通機関の寸断・長期運休等により、出社できないという状況は想定していない)。

感染症対策として考えた場合、感染症に感染した社員や感染の疑いのある社員を出社等させることは、それ自体が感染を拡大させるリスクを高めることになる。社内でクラスター(集団)感染が発生すれば、それこそ、事業継続に大きな影響を及ぼしかねない。感染症対策BCPを進める上では、経営幹部が、このリスクを正しく認識しておく必要がある。

今回の新型コロナウイルス感染症に関するニュースを見ても、感染が疑われるにも関わらず、数日間公共交通機関を利用して通勤していたという事例があったが、日本のビジネスマンは、少しぐらいの体調不良では会社を休めないという意識を持っており、逆にいうと、そう思わせる上司等のマネジメントが行われている企業も少なくないことから、感染症についても同じ枠組みで考えてしまう傾向がある。

しかしながら、感染拡大期や感染蔓延期など、感染症のBCPの発動基準をどこに定めるかという問題はあるにせよ、大きな影響がでそうな感染症の場合は特に、このような無理して出勤する(させる)事態は回避することが重要である(もちろん、平時でも体調不良の際は、無理をさせないマネジメントや社風を整備していくことが最も重要である)。

この点については、きわめて重要な事項であることから、先にご紹介した、「【緊急レポート】WHOが「緊急事態宣言」を発表新型コロナウイルス対策企業が今すぐ取り掛かるべきポイントとチェックリスト」においても、「発熱等がある場合でも、無理して(本人はそこまで思っていなくても)出社しようとする社員もいるし、出社させようとする上司もいるかもしれない。このような場合は、絶対に無理して出社せず、保健所への相談や病院での受診といった行動をとるように会社として指示・明示する「行動規範」が重要だ。もし万が一、社員に無理させて出勤させようとする上司がいる場合は、集団感染のリスクを周知し、出勤禁止の方針を徹底する等の対策は欠かせない。」と記載されている。

インフルエンザの場合は高熱がでるのが一般的であるため、体調の異変にも気づきやすいし、体調不良の場合は、通院したり自宅で静養に務めることになるが、新型コロナウイルスについては、これまでの情報を総合すると、風邪に似た初期症状が出て、初期のうちは高熱になりにくく多少の無理も効いてしまうため、無理して出勤するという事態に繋がり、感染を拡大させている可能性を否定できない。したがって、個別の感染症による症状の違いはあれど、感染した社員あるいは感染の疑いのある社員は出勤させないことが、感染症BCPの一つの肝になる。「疑わしきは、自宅待機」こそが、感染症対策BCPを進める上で重要な行動指針である。

BCPにおいては、従業員の判断基準・行動基準を明確にすることが重要であることから、感染症BCPの行動基準の一つは、「疑わしきは、自宅待機」であることを、社内にしっかりと周知いただきたい。そして、体調が悪いときは、感染症の可能性を視野に入れ、出勤しない旨を電話で会社に連絡し、上司もそれを踏まえて、治療のための入院や潜伏期間中は自宅待機等により出勤できない事態(最悪の事態)を想定した代替体制を早めに検討・調整・実施していくことが重要である(社員が交通事故や急病等で相当の期間の入院を余儀なくされる状況とマネジメントとしては大差はない。感染症の場合は、複数社員が同時にそのような事態に陥ることから、調整等は容易ではない事情はあるにせよ、事態としてのリスク想定は平時における状況からも十分に可能である)。

③業務の標準化(代替実施可能化)と在宅勤務体制の整備

上記②で述べたように、「疑わしきは自宅待機」が基本的な行動指針であり、感染症の拡大・蔓延期においてはそのような状況が複数社員において同時多発的に生じるとなれば、業務の遂行に影響がでる可能性が高くなる。

先に紹介した「【緊急レポート】新型コロナウイルス対策、ステージ3におけるBCPと対策本部の役割」でも、政府が新型インフルエンザ等に関して2013年に公表した資料によると、最も懸念するべき「最悪の事態」は、「職場の欠勤率40%」であることが紹介されている。パンデミックになるような状況では、「職場の欠勤率40%」は決して過剰な見積もりではない。徐々に欠勤者が増えるとしても、ピーク時は、欠勤率40%となることは、決して考えられないわけではない。

そこで、このような事態に備えるためには、「重要な社員が相当期間欠勤しても、当該業務が継続できる」ように体制を整備しておく必要がある。

そして、「重要な社員が相当期間欠勤しても、当該業務が継続できる」ように体制を整備するという観点からは、次のような施策の検討・準備が重要である。

  1. 可能な場合は、業務を絞り込む
  2. 一つ目は、業務の絞り込みである。人員が約半分になることを想定すると、当然すべての業務を平時と同じクオリティで実施することは不可能であることから、稼働可能な社員等で業務を継続するため、しばらく対応しなくても支障のない業務をしばらく停止したり、定期的に実施する業務の実施頻度を減らしたりして業務を絞り込み、担当外の業務についても対応・フォローが可能な状況にする、ということである。

    日々の業務では、会議等も含めて、必ずしも、今はやらなくてもよい業務も少なからずあることから、感染症BCP発動期間中はこれらの業務は実施しない、又は短縮・縮小する変える等して、できるだけ業務を絞り込むという考え方である。

    但し、業務の絞り込みに伴い業務フローや業務プロセス・スケジュールも大幅に見直さなければいけなくなる場合は、業務の絞り込みによる弊害も無視はできない。

    したがって、無理に業務を絞り込むという発想ではなく、今しなくてよい業務や当面は通常通りでなくてもよい業務を抽出したり、やり方に着目して、もう少し簡易かつ効率的に実施する方法がないかを検討することも有意義である。また、場合によっては、お客様(取引先)と一緒に、いまこの業務が必要か等の観点での協議・調整を行う必要があることも忘れてはならない。

    なお、業務の絞り込みとは、例えば航空会社が実施しているような間引き運行や、業務時間の短縮、店舗の一部閉鎖、業務の一部停止やサービスの縮小等、趣旨が同様なものをすべて含意していると考えていただきたい。

  3. 遠隔ないし代替拠点での実施体制の整備
  4. 「重要な社員が相当期間欠勤しても、当該業務が継続できる」体制を考える場合は、通常の業務フローに従って、遠隔(代替拠点)で業務を実施できる体制を整備することも検討すべきである。いわゆるテレワークでの業務実施体制の整備である。

    感染症の場合、すでにリスク分析にて記載した通り、社会インフラはほぼ平時の通りであることが特徴である。少なくともライフラインにはそれほど大きな影響は受けない。見方を代えれば、地震等の災害における被災地とは違い、電気や通信機器が通常通り使える。したがって、遠隔で実施できるためのインフラ整備とルールを整備すれば、テレワークで対応するというBCPは比較的実施すやすい。電話が通じれば、打ち合わせや取引先への連絡等も容易であることから、在宅でも、在社でも、代替拠点でも、それほど大きな違いはないであろう。

    業務への支障や業務プロセスへの支障の影響を最小限に抑えるのであれば、また、できるだけ効率的にBCPの整備を進めたいのであれば、まずは、このような遠隔実施体制の整備を行うことをお勧めする。このような体制を整備しておけば、平時においては、いわゆる「働き方改革」の文脈に乗って、テレワークを実施することも可能になる。逆にいえば、すでに「働き方改革」の一環として、相当程度にテレワークで業務実施ができる体制を整備している企業においては、今回の新型コロナウイルス感染症への対応においても、早々に、テレワークに切り替え、それほど大きな支障もない状況で、業務が継続できているであろう。

    テレワークでの業務実施体制の整備としては、大きく3つの対策が重要である。一つ目は、社用携帯の貸与や、必要な人へのPC等の貸与など、電子機器類の整備である。二つ目は、自宅等での業務実施を前提とした業務実施ルールの整備(情報管理等のセキュリティ対策の整備・ルール化や打ち合わせ等を含む記録・報告・連絡・相談・情報共有に関するルール化)である。業務実施ルールについては、最初のうちは完ぺきなものでなくても、通信が通常通り行える以上、テレワークを実施しながら、必要に応じて関係者で議論・検証し、決定していけばよいから、平時においては、最低限のルール化をしておけばよい。三つ目は、勤怠管理のルール化である。二つ目の業務実施ルールとも関係はするが、特にテレワークの実施場所が自宅の場合は、仕事をしながらもプライベートな用件もこなすことも可能であることから、公私の境が曖昧にはなるが、そこはやむを得ない。感染症BCPは発動の期間中に限定して、例えば事業場外労働の規定を適用する等して、柔軟に対応すべきである。もちろん、勤務開始や勤務終了等の時間管理も重要であるが、これも最低限、電話・メール等で行うことが可能であるため、大きな支障はないであろう。

    遠隔で業務が実施できる体制が整備できていれば、感染症対策BCPの肝となる社員の行動指針、「疑わしきは自宅待機」の場合でも、連絡の上で、可能な範囲で業務を実施できることから、感染症BCPの実効性を担保しやすいことは言うまでもない。

    また、感染症の場合は、前述したように、社内や会社の拠点が入ったビル(他のテナント企業等)で当該感染症の発症者が出た場合は、消毒作業等の為(一類感染症においては、物件の閉鎖指示もありうる)、一時的に本社社屋が使えない(入館できない)という事態も想定しておかなければならない。言い換えれば、都市部のオフィスビルに入居している企業においては、自社で感染症の感染者が出ていなくても、同じビルに入居する他社で感染者が出れば、その煽りを受けて、会社が入居するビルに入れないという事態も生じうるということである。このような他社起因の場合でも、事業実施に影響が生じる可能性があることも考慮すると、遠隔実施体制の整備は、感染症BCPにおいては、非常に重要な対策の一つであるといえる。

    なお、業種によっては、現場での業務実施が不可欠であり、在宅ワークに切り替えられない事業者もある。その場合は、業務の絞り込み(後述の戦略的閉店を含む)や業務の標準化による応援体制の整備、業務実施方法の検討、実施方法の変更等により対応していく必要がある。

  5. 業務の標準化・代替可能化(やり方の変更を含む)と訓練・ジョブローテーション
  6. そして、「重要な社員が相当期間欠勤しても、当該業務が継続できる」体制の整備という観点から考えた場合、社内で相互に業務対応・フォローができる体制の整備も重要である。業務を標準化・明確化・書面化(変更の上、実施する場合は、その内容も含めて)しつつ、平素からのジョブローテーションや訓練等により、それを実施できる体制(代替要員実施要員の育成)を日ごろから意識し、整備しておくことである。

    社内においては、アクセス権限や情報管理の問題もあるとは思うが、各部門の幹部等であれば、それなりに重要な情報も含めてアクセス、共有される体制になっているであろうし、社内の幹部もいくつかの部門を経験して管理職登用等されていれば、他部門の業務であってもある程度の知識があるのが通常である。あとは、担当部門のスタッフや担当者に電話等で連絡しながら対応すれば、平時よりも若干の手間は増えるものの、業務の実施・継続は可能である。

    また、日ごろから、他のスタッフでも相当程度の対応ができるように業務実施要項等をマニュアル化・書面化(フローやチェックリストの活用)したり、日ごろから権限移譲や担当者を増やしたりしておいて最低限の対応ができるように知識・スキルを身につけさせたりしておくことも、感染症対策BCPの重要な対策の一つである。

    なお、作業要領については標準化されている企業もそれなりに多いと思うが、事業継続を考えた場合は、災害対応型BCPと同様、判断基準、判断や意思決定に際して考慮・重視すべき要素なども明確化して、大きなブレが出ないようにしておくことも望ましい。判断・意思決定においても、社内の管理職等が相互にカバーすることも相当程度対応できると考えられるし、電話連絡等で相当程度カバーできると思われるが、特に緊急性を要する判断に絡むものは、あらかじめ標準化しておくことも有用である。

    感染症対応のBCPについては、主眼は、人員不足の中での業務の継続に主眼が置かれることから、上記のように、平素から業務の標準化やジョブローテーション等も含めた人育成が非常に重要な対策となることを改めて認識しておくべきである。さらに言えば、日ごろ外注している業務等については、外注先・委託先が感染症等の影響で業務実施に影響が出た場合、自社の業務にも大きな影響が生じる。完全に外注・委託しているものについては、緊急時に自社で対応をカバーすることが不可能である場合が多いが、このような業務についても、感染症対策のBCPを整備しいく上では、代替先や一部内製化など、検討していくことが重要である(もちろん、このような外部依存型業務は停止するという選択肢もある)。

④業種による特殊性への配慮

感染症型BCPについては、そのほかに、警戒を要すべきエリアが全国に散らばる場合もあること、また、今回の新型コロナウイルス感染症のように世界的にも複数かつ広域にわたり、同様の状況になりうることも特徴の一つと言える。これは、地震等の災害型BCPにはあまり見られない特徴である。
したがって、企業としては、

  • 同時にいくつかの拠点が影響を受ける可能性があること
  • 海外の拠点も影響を受ける可能性があること
  • 海外の状況によっては現地に駐在する社員やそのご家族の移動や帰国、日本からの応援部隊の派遣等ができない状況になる可能性があること
  • 今回の新型コロナウイルス感染症でも一部業態で見られるように、海外からの物資の輸入や搬送に支障がでること
  • これも、今回の新型コロナウイルス感染症でも見られるように、外国人や外国人雇用者が来日できない等により業務実施や事業継続に大きな影響が出かねないこと
  • 感染のリスクは業種・業態・地域により異なるため、自社の状況を見極めて対応する必要があること

等を念頭に置いておかなければならない。

そうはいっても、BCPとして実施することの本質が変わるわけではないが、感染症BCPにおいても、サプライチェーンに影響がある場合や店舗系業態の場合は、代替ルートの活用を含むサプライチェーンの確保のため対策や店舗の戦略的閉店による物資と人的資源の効果的活用等の災害型BCPと共通の対応をしていかなければならない。この点では、結果事象型(最近では機能停止型という言い方もされている)BCPの考え方も有用性を有している(もともと、ある程度汎用的に活用できるという観点で提唱されたものであり、有用性がなければ、その概念自体無意味である。)

※但し、結果事象(機能停止型)BCPは、災害型BCP、特に最大のリスクがある大地震発生時の対応において、「危機管理実務」の観点からは大きな欠点もあるため、私は基本的にこの考え方を支持していない。詳細を知りたい方は、SPNの眼「結果事象BCPの有効性に関する批判的検証(2014.6)」を参照いただきたい

したがって、業種・業態によっては、災害対応型BCPも併用する必要がある場合もあることから、自社の業種・業態に応じて、適宜、災害対応型BCP活用して新型コロナウイルス感染症蔓延期に事業継続を実現していただきたい。

3.感染者が罹患した場合の消毒について

感染者が出た場合、まずは、管轄の保健所に報告をし、オフィスや入居ビル等の会社関連施設の消毒を行うこととなる。

施設の消毒を行う場合は、ビル(施設)管理会社にて、消毒等を行う業者を把握・契約しているものと思われるが、もしそのような業者が手配できない場合や、自社施設のみで管理会社もなく、消毒を行える会社と取引もないという事業者もいるであろう。

公益社団法人日本ペストコントロール協会では、「新型コロナウイルス罹患者が発生した際の消毒依頼に関するQ&A」を公表しており、その中で、

  • 消毒の依頼は、基本的に所在地のペストコントロール協会またはお取引のある業者へ直接お問い合わせいただくことになること
  • (どのくらいで消毒してくれるか、について)新型コロナの感染の拡大状況により、今後対応できる会員数、資材・薬剤にも限りがございますので、一概に何日でお伺いできるという回答はお応えしかねること
  • (消毒の費用・作業日数等について)消毒作業は、陰性・陽性の状況、広さや造りなどに応じ、薬品の使い分け作業や仕方、作業人数も変わりますので、金額や日数の目安となるものがないこと

を公表している。

したがって、上記等を参照にして、各企業にて、消毒業者を手配する必要がある。但し、上記Q&Aにもあるように、消毒事業者の人員や薬剤の問題もあり、消毒完了までにそれなりの日数を要する可能性が示唆されている。

消毒完了までにそれなりの日数を要するとなれば、その間、会社施設や当該施設が入居するビルが利用・入館できないことから、前記の遠隔での業務実施体制の整備等の重要性が増してくることを改めて認識いただきたい。

なお、メーカーの工場等で発生した場合も同様に相応の期間、操業等を停止せざるをえない状況になると考えられる上、食品等の事業者の場合は、消毒作業(使用薬剤)等による影響度の確認等も必要になる可能性があることから、その間の事業継続の方策を予め検討しておく必要である。もちろん、ここでも災害対応BCPで活用できるBCPがあるのであれば、柔軟に活用していくべきである。

4.最後に~感染症BCPにおいて大切なこと

以上、すでに公表している「【緊急レポート】WHOが「緊急事態宣言」を発表新型コロナウイルス対策企業が今すぐ取り掛かるべきポイントとチェックリスト」及び「【緊急レポート】新型コロナウイルス対策、ステージ3におけるBCPと対策本部の役割」を補足する形で、感染症対策BCPの大枠について解説した。

「【緊急レポート】WHOが「緊急事態宣言」を発表新型コロナウイルス対策企業が今すぐ取り掛かるべきポイントとチェックリスト」では、社員の健康管理面についても詳しく言及している。感染症対策BCPについては、感染拡大防止を同時に進めていかなければいけないことから、ここで書かれている健康管理等に関する内容は極めて重要な内容である。本レポートと合わせて、不可欠な対策の一つとして、改めて内容を確認の上、対策を進めていただきたい。

また、「【緊急レポート】新型コロナウイルス対策、ステージ3におけるBCPと対策本部の役割」ではタイトルの通り、感染症対策BCPにかかわる対策本部の在り方(この点も、感染症拡大の状況を踏まえて、フェーズに合わせて対策本部の内容や規模を変更していくやり方も、災害対応型BCPではなかなか見られない発想・運用である)、進め方も、感染症対策BCPの重要な一要素である。本レポートでは、感染症対策BCPのフレームワークを中心に言及しているが、実際に感染症対策のマネジメントを行うのは、まさに対策本部であることから、両者は車の両輪として、整備・対応していく必要がある。こちらの緊急レポートについても、合わせてご活用いただきたい。

以上、本レポートをもって、感染症対策BCPに関する2本の緊急レポート(公開済み)と合わせて、感染症対策BCPを概観できる三部作となる。

各企業においては、引き続き、新型コロナウイルス感染症への警戒を緩めることができない状況にあると思うが、同様の感染症のパンデミックは、今後も比較的短いスパンで発生する。地球の温暖化や環境の悪化に伴う気候変動、生物化学兵器の開発の余波等により、今後、新たな感染症の発生やこれまで発生していた地域以外での深刻な感染症の発生する事態も、十分に想定できる状況である。

BCPというと、非常に手間も費用も掛かると思われるが、できることから効率的に進めていく必要があるし、社会インフラが基本的に機能停止にならない感染症対策BCPは、実際には、業務プロセスを踏まえて、人員不足等の場合にどのように事業を継続していくか、細かい分析は必要になるものの、災害対策BCPよりは、整備・強化を進めやすく、また自社で対応・コントロールできる事項も多い。

ぜひ、これを機会に、感染症対策BCPの整備を進めていただきたい。当社でも策定支援に向けたコンサルティング等を行っている。

以上

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