SPNの眼

総合研究部 研究員 吉田 基

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1.はじめに

2019年12月4日に会社法が改正され12月11日に公布がされている。施行に関しては、公布日より1年6か月以内(株主総会資料の電子提供制度の創設等の一部の改正については,公布の日から3年6月以内の政令で定める日から施行される予定)とされる。また、2020年9月1日に法務省より「会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正案」も公表され、併せてパブリックコメントの募集もなされている。

▼会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正案の概要

本改正で、株主総会の規律に関しても見直しがなされていることから、2021年株主総会より改正会社法の影響を受けることとなる。本稿では、会社法改正を中心として、株主総会対策につき検討していきたい。

2.株主総会資料の電子提供制度の創設

(1)概要

電子提供制度は改正会社法(以下、「改正法」という。)325条の2から325条の7で規定される。電子提供制度により、株主総会参考書類、議決権行使書面、現行会社法(以下、「現行法」という。)437条の計算書類及び事業報告を株主の個別承諾がなくても会社HP上に掲載することが可能となる。

現行法では、株主総会に関する情報は原則として書面で提供しなくてはならない。書面交付では、株主総会資料の郵送や印刷費を要することや封入等の作業が必要となる。電子提供が可能となることにより、これら費用の削減が可能となる。また、インターネット利用率は、総務省の公表する令和元年通信利用動向調査結果によると全世代で89.8%であり、株主はインターネットで情報を受け取ることは容易に可能といえよう。

法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会第2回会議の「部会資料2株主総会資料の電子提供制度に関する論点の検討」において、「従来よりも早期に株主に対して株主総会資料を提供することや、株主総会資料に盛り込む情報をより充実させることをも可能として、株式会社と株主とのコミュニケーションの質の向上を図ること」が言及されている。

(2)現行制度における電子提供制度

現行法上、株主総会関係の書類に関する電子提供制度は2つ設けられている。

1つ目が事前の個別承諾による電子提供制度で、招集通知、議決権行使書面、株主総会参考書類、事業報告、計算書類、会計報告・監査報告を電磁的方法により提供できる(現行法299条3項)。全国証券取引所に上場されている国内会社(新興市場・外国企業を除く)を対象に2018年7月1日から2019年6月30日に開催された定時株主総会の動向に関する調査をまとめた『株主総会白書2019年度版旬刊商事法務2216号』(以下、「白書」という。)によると、現行299条3項に基づく電磁的方法による招集通知の送付を採用したと回答する企業は3.7%であり、次回の株主総会では採用予定とすると回答した企業は1.7%である。2002年の商法改正により導入された制度であるが、数値から見てわかる通り、おおよそ定着していない制度である。

2つ目はWeb開示によるみなし提供制度で、株主総会の参考書類、事業報告、計算書類、会計報告・監査報告の記載を省略できる(会社法施行規則94条1項、133条3項、会社計算規則133条4項、134条4項)。なお、会社法施行規則94条1項の通り、「次に掲げるものを除く。」とされ、省略できない事項もある(すなわち、書面交付が必要)。白書によるとWeb開示制度を実施している企業は76.4%で増加傾向にある。これは、調査当時、会社法改正案で電磁提供制度が導入されることが検討されていたためと考えられる。

(3)制度概要

2019年改正で創設された電子提供制度につき確認しておきたい。株式会社は、招集の手続きを行うとき株主総会参考資料などを会社HP上に掲載することが可能となる。提供期間は、株主総会の日の3週間前または招集通知の発送される日のいずれか早い日から3か月間である(改正法325条の3第1項)。一般的に株主総会3週間前の段階で招集通知の準備は整っている会社が多いものと思われる。したがって、実務的に電子提供制度を取り入れても大きな影響はないものといえる。

(4)書面交付請求

株式会社が電子提供措置をとる場合であっても、株主はウェブ掲載事項を記載した書面の交付を求めることができる(改正法325条の5)。これはインターネットを利用できない株主を保護するためのものである。この点、令和元年通信利用動向調査結果によると、70~79歳の利用率が74.2%、80歳以上の利用率が57.5%であり、書面請求権は必要であろう。また、電子化に伴い、株式会社から開示される事業報告等は、グラフや表を用いてビジュアル化されたり、カラー化されてしており読みやすくなっている。PC画面上で読む分には申し分ないが、スマートフォンでは読み辛さがあるように思う。令和元年通信利用動向調査結果によると、主な情報通信機器は、スマートフォンが83.4%、PCが69.1%、タブレット端末が37.4%で、PCの利用率に鑑みても、書面交付請求権は行使されることが予測されるので、直ちに株主総会資料の郵送や印刷を大幅に削減することは難しいものといえる。

(5)情報提供としての電子提供制度

法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会第2回会議の「▼参考資料9株主総会の招集通知関連書類の電子提供の促進・拡大に向けた提言」において、日本の株主総会は、諸外国に比べて決算後早いタイミングで開催されていること、株主が議案検討や対話を行うための実質的な期間が不十分であることを指摘し、株主総会を含めた対話プロセス全体を通じて株主によって有用な情報が利用しやすい形で提供されることを求めている。電子提供の場合、紙面の制約により記載できなかった有用情報を提供することが可能となる。また、経営理念、経営戦略、環境への配慮、ガバナンスなどの非財務情報を株主総会に関連付けて情報提供することが可能となる。投資家が中長期的な視点で企業価値を評価するうえで、非財務情報が重要であるという認識も高まっており(参考:『変わる株主総会』森・濱田松本法律事務所編)、招集通知や株主総会参考資料において株主に対し、情報提供できることは企業にとって有益であるといえよう。

また、現状の株主総会は、事前の議決権行使により総会前に議案に対する賛否の票数は、予測がついており、おおよそ会社提案が賛成多数となっている。すなわち、わざわざ株主総会に出席して質問をし、議決権を行使してまで議案に賛否を示す熱心な株主の保有する議決権数は少数である(一部の外資ファンド/物言う株主を除く)。そうすると、議案の賛否を決しているのは、事前に会社より提供される情報となる。ここまで述べてきた電子提供制度に基づき株主総会に関し、早期に紙面だけでは伝えることが難しかった情報を提供することは、議案に対する賛成率の向上に資するものともいえよう。したがって、電子提供制度を活用し安定した株主総会を実現することも期待できる。

3.株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備

(1)概要

株主が提案できる議案の数につき、10を上限とすることが創設されている(改正法305条4項)。仮に10以上の議案が提案された場合、原則として取締役が10を超える部分を定めるが、提案株主が優先順位を定めている場合にはこれに従うこととなる(改正法305条5項)。

(2)株主提案の現状

株主提案制度は、昭和56年の商法改正で導入されたものであり、株主の疎外感を払拭・株主総会の形骸化の防止、経営者と株主のコミュニケーションの実現と開かれた株主総会の実現を趣旨とするものである。実際の提案をみると、白書によれば43.1%が定款変更である。株主提案は法令や定款に反しない限りは取り挙げる必要があるので、原発反対運動等を掲げる運動型株主によって利用されることが多い(但し、それが過半数を占めるのであれば、有効“利用”と見なすことができる)。そのため、株主総会の活性化というより特殊な株主による利用されているのが現状である。また、提案株主は運動型株主を除くと、機関投資家であったり、創業一族といった会社関係者とさまざまである。また、会社提案が否決され、株主提案が賛成多数を得るケースも見られるため否決リスクが全くないわけではない。また、否決されているものの株主提案の賛成率が40%を超えるケースもあり、株主提案がされた場合には、提案内容を確認し適切に対応することが求められる。

近時、個人的な目的もしくは会社を困惑させる目的で株主提案がなされた事例や1人の株主が膨大な数の議案を提案する事例がみられる。どのような事例であったか、野村ホールディングスに対して実際になされた株主提案を確認しておくと、
・貴社の日本国内における略称は「YHD」と表記し、「ワイエイチデイ」と呼称する。
・貴社のオフィス内の便器はすべて和式とし、足腰を鍛練し、株価四桁を目指して日々ふんばる旨定款に明記するものとする。
・取締役の社内での呼称は「クリスタル役」とし、代表取締役社長は代表クリスタル役社長と呼ぶ旨定款に定める。
などであり、とても株主との会話の強化や株主監視の強化などガバナンスに関わることとは程遠い。

また、HOYAの事例は100個を超える株主提案がなされており、非現実的な数の提案で正当な目的のためなされたものではないとされている。なお、議案の数は権利濫用の考慮要素の一つとしているが、議案の数をもって権利濫用に該当するものではない(参考:▼会社法研究会資料6 )。

以上の事例を契機として本改正に至っている。

(3)改正案と改正法

▼会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案(以下、「要綱案」という。)では、
①株主の提出することのできる議案は10を上限とすること
②株主が、専ら人の名誉を侵害し、人を侮辱し、若しくは困惑させ、又は自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的のとき
③株主総会の適正な運営が著しく妨げられ、株主の共同の利益が害される恐れがあると認められる場合
には株主提案権の行使を制限するという内容であった。もっとも、衆議院において改正案の文言では、権利濫用に当たらないものまで拒絶できることになってしまい経営陣による恣意的な運用の可能性があること、権利濫用に当たるものを具体化するという立法趣旨に必ずしも合致しないことから削除されている。したがって、改正法では個数制限のみが規定されている。②、③が削除され、改正法に盛り込むことが見送られているが、「権利濫用に当たるものを具体化するという立法趣旨に必ずしも合致しない」ことを理由とするので、決して不当な目的や株主総会の適正な運営が妨げられる恐れのある場合に株主提案の制限が否定されるものではない。

(4)株主総会への影響

個数制限に関しては端的に10を超えるものの取扱いに留意すれば足りる。他方で、本改正では見送られた提案の目的や総会運営の支障を考慮して株主提案を無視することは実務的には悩ましいものと思われる。②、③が削除されているが、株式会社が株主による提案権の行使を制限されないと述べた。しかし、実際に株主提案を制限する場合、株主の提案目的(主観)を株主総会担当者は、提案の内容や提案株主との協議等で客観的に判断していかなくてはならない。また、当該提案が将来の株主総会の運営に支障をきたすのかを予測して濫用か否かを判断しなくてはならない。改正の契機となった事例のように濫用と明らかにいえる場合であれば良いが、現実的には濫用と評価することは困難といえよう。適法な株主提案を無視した場合、会社提案の議案と密接な関連性がある場合のような例外的な場合には取消の対象となってしまうこと、不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性がある。このようなリスクを考慮すると、株主総会担当者は、濫用と疑いたくなる株主提案がなされたとしても、おおよそ株主提案が否決されるのであれば、取り上げて対応する方が得策である。

4.2021年の株主総会

(1)株主総会の動向に見る総会対策

ここまで、説明してきた会社法改正の内容は、株主総会への影響は大きくないものと思われる。したがって、これまで通りシナリオを準備しリハーサルを行う従来までの株主総会対策で十分に対応可能といえよう。簡単に近時の動向にも触れつつ2021年の株主総会対策についても説明を加えておきたい。

白書によると、動議の有無に関する質問では、議事進行に関する動議が0.5%、議長不信任に関する動議が0.3%、議案の修正に関する動議が1.1%で、退場命令の有無に関する質問では、命令を発しなかったが97.3%である。他方で動向をマークする株主が出席したと回答する企業は47.1%である。クレーマー、OB・OG、継続的に提案をする株主といった動向をマークする必要のある株主の出席率は高いが、動議等がなされないのは総会前の段階で得票数に関する予測がついており、あえて勝ち目がないのに動議を提出したり、議場を混乱させることに意味がないためと推察される。むしろ、出席し質問を議長に説明を求めることが多く、質問内容は議案に関連しない事項までなされることもある。総会屋対策の時代であれば、説明義務(現行法314条)を果たすことで十分であったが、近時の対話の流れからすると積極的に回答するスタンスが必要となろう。質疑応答の準備に関し、(『変わる株主総会』森・濱田松本法律事務所編)では「質疑応答に関しては回答してはいけない事項が何かを把握し準備しておくことが重要」としており、基本的に回答するスタンスが示されている。弊社でも、各企業の株主総会対策の一環でリハーサルのお手伝いさせていただくことがある。その他の株主総会対策に関しては弊社サービス概要をご確認いただきたい。

※株主総会リスク

リハーサルの中心は質疑応答であり、どのように回答すべきか、回答内容に問題ないかといったご質問をお客様より多くいただくように思う。多くの企業で質疑応答に関しては悩んでいるものと推察されるが、上述の通り、積極的に回答するスタンスで対応していくことが一番の対策である。

(2)株主総会自体のオンライン化

2021年、株主総会に関わる動向としては、完全オンライン化の解禁である。株主総会は会議体という機能を有すれば足りるので、物理的な場所を設置する必要性は乏しい。また、オンライン化により遠隔地に居住する株主の総会への参加が可能となることから、筆者は解禁が進められることに期待している。

▼株主総会、「完全オンライン」解禁検討政府が特例案

報道によると、現時点では特例案により会社法上の「場所」規定を外すというものである。おそらく物理的な場所を設置しなくても株主総会を開催できるという特例案で、バーチャルオンリー型株主総会の開催が可能となるものと思われる。現時点では、2021年中の解禁を目指して検討が開始されたにとどまり、いかなる要件でバーチャルオンリー型株主総会が可能となるかは不明である。

株主総会の電子化に関し経団連の調査によると、新型コロナウィルス対策の観点からハイブリッド参加型を実施した企業は27%も存在した。また、「ハイブリッド出席型を実施した企業は限定的であったが、DXの好機ととらえ、株主との対話を進展させつつ、円滑な進行を図る取り組みがなされた」としている。ただ、限定的ということから、現時点で、オンライン上で「出席」を認める形式での株主総会に関し、多くの企業がハードルの高さを感じているものと思われる。課題として考えられるのは、オンライン上の動議・質問に関する取扱い、通信障害であろう。この点、ハイブリッド出席型の議論を参考にしつつ検討を加えておきたい。

まず、動議の取扱いについて、ハイブリッド出席型の場合は、経済産業省が公表する「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」によると、オンライン出席者の動議の提出を制限できるとされる。このような制限はバーチャル出席という選択肢の追加であり、リアル総会への出席する機会があることを理由とする。そうすると、バーチャルオンリー株主総会はリアル総会が存在しないため、動議の取扱いに関するハイブリッド出席型の考え方は妥当しない。したがって、バーチャルオンリー株主総会は動議を提出できることとなると思われる。

次に質問権に関しては、オンラインの場合、議長と対峙せず、周囲の株主にいないことから心理的ハードルの低くなるため、濫用的に行使される可能性がある。そのため、ハイブリッド出席型の場合には質問回数、文字数、送信などに制限を加えることが可能である。これはバーチャルオンリー型にも当てはまるものであり、質問に関しては同様の制限が許容されるように思われる。

最後に通信制限に関しては、実施ガイドによると、「会社が通信障害のリスクを、事前に株主に告知しており、かつ、通信障害の防止のために合理的な対策をとっていた場合」には、取消事由に該当しないとする。これは合理的措置を取っていれば、通信障害によって、大半の株主が出席できなくなったとしても、取消事由に該当しないとなるのかは判然としない(少なくとも現行法の定足数要件を満たさなくてはならないものと思われる。)。この点は、取消事由に関わる重要事項であるから、バーチャルオンリー型の解禁に向け検討がなされ基準が明確されることを期待する。

ここまで取り挙げたもの以外にも課題は存在し(例えば、事務局と議長の円滑な連携)、どのように対応していくべきか、今後の動向・公表される指針を注視していかざるを得ない。また、ハイブリッド出席型の実績の少なさからも導入する際、入念なリハーサルを重ねる必要がある。現に2020年株主総会でハイブリッド出席型を採用した企業も相当程度リハーサルを重ねて、課題発見、改善を繰り返している。現時点で課題も多く、株主総会が形骸化している実態に鑑みると、2021年に無理してオンライン化を進める必要もないと考える。

5.まとめ

法改正があれば関連する情報を収集し、施行までに準備することが一般的であろう。しかしながら、2020年は新型コロナウイルス対策に集中した結果、2019年改正の動向まで把握しきれていない企業が多いのではないか。本改正の影響は大きいものではなく、株主との対話を重視した従来通りの株主総会対策で対応可能である。2021年も例年同様に準備していただければと思う。

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