SPNの眼

同一労働同一賃金の概要と裁判例にみる実務対応(1)

2021.02.02
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総合研究部 主任研究員 加倉井真理

はじめに

2021年4月より中小企業でも同一労働同一賃金に関する法律が施行される(大企業では2020年4月に施行済み)。「同一労働同一賃金」という言葉が大きく取り上げられ、誤解を与えかねない報道も散見されることから、改めて法改正の内容とリーディングケースとなる最高裁判例について確認し、企業の取り組むべき対応について考えたい。

なお、本稿では、直接雇用の非正規労働者(契約社員、パート・アルバイト)についての検討を対象とし、派遣労働者については別の機会に触れることとさせていただく。

(編集部注 ※本稿は2月・3月の2か月連続で掲載します。)

複数の社会人と街並み

1.同一労働同一賃金関連の法改正

そもそも「同一労働同一賃金」という文言は法に定められた用語ではない。平成30年に成立した「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」の3項目のうちの1つ「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」がいわゆる「同一労働同一賃金」に該当する項目であり、改正されるのは、労働契約法、パートタイム労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)、労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)である。

なお、「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」には以下の3つが謳われている。

  1. 不合理な待遇差を解消するための規定の整備
  2. 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
  3. 行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備

不合理な待遇差の評価については、賃金だけではなく、福利厚生や教育訓練の機会、安全管理に関する措置、解雇の手続き等のすべての待遇がその対象となる。

2.同一労働同一賃金ガイドラインの概要

同一労働同一賃金ガイドライン(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)についても、改めてその内容を確認しておきたい。

(1)目的

  1. 同一労働同一賃金とは、同一の事業主に雇用される通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間の不合理な待遇の相違の解消を目指すもの
  2. 各事業主は職務の内容や職務に必要な能力等の内容を明確化するとともに、その職務の内容や職務に必要な能力等の内容と賃金等の待遇との関係を含めた待遇の体系全体を労使の話合いによって確認し、共有することが重要
  3. 賃金だけでなく、福利厚生、キャリア形成、職業能力の開発及び向上等を含めた取組が必要

(2)基本的な考え方

  1. 待遇の相違が存在する場合に、どのような相違が不合理で、どのような待遇が不合理でないか原則となる考え方・具体例を示したもの
  2. ガイドラインに原則となる考え方が示されていない退職手当、住宅手当、家族手当等や、具体例に該当しない場合についても、不合理な待遇の相違の解消等が求められる
  3. 事業主が雇用管理区分を新たに設け、待遇の水準を他の通常の労働者より低く設定したとしても、他の通常の労働者との間でも不合理な待遇の相違の解消等を行う必要がある
  4. 事業主は、通常の労働者と短時間・有期労働者との間で職務の内容等を分離した場合であっても当該通常の労働者と短時間・有期労働者との間の不合理な待遇の相違の解消を行う必要がある
  5. 不合理な待遇の相違の解消等に対応するため、労使で合意することなく通常の労働者の待遇を引き下げることは望ましい対応とはいえない

(3)短時間・有期雇用労働者

1.基本給
  1. 基本給であって、労働者の能力又は経験に応じて支給するもの
  2. 基本給であって、労働者の業績又は成果に応じて支給するもの
  3. 基本給であって、労働者の勤続年数に応じて支給するもの
  4. 昇給であって、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うもの
2.賞与

会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについては、その貢献度に応じ支給しなければならないとされている。ただし、賞与についてはその貢献度に応じて一定の相違があることを認めている。

3.手当
  1. 役職手当であって、役職の内容に対して支給するもの
  2. 業務の危険度又は作業環境に応じて支給される特殊作業手当
  3. 交替制勤務等の勤務形態に応じて支給される特殊勤務手当
  4. 精皆勤手当
  5. 時間外労働に対して支給される手当
  6. 深夜労働又は休日労働に対して支給される手当
  7. 通勤手当及び出張旅費
  8. 労働時間の途中に食事のための休憩時間がある労働者に対する食費の負担補助として支給される食事手当
  9. 単身赴任手当
  10. 特定の地域で働く労働者に対する補償として支給される地域手当
4.福利厚生
  1. 福利厚生施設(給食施設、休憩室及び更衣室をいう)
  2. 転勤者用社宅
  3. 慶弔休暇並びに健康診断に伴う勤務免除及び当該健康診断を勤務時間中に受診する場合の当該受診時間に係る給与の保障
  4. 病気休職
  5. 法定外の有給の休暇その他の法定外の休暇(慶弔休暇を除く。)であって、勤続期間に応じて取得を認めているもの
5.その他
  1. 教育訓練であって、現在の職務の遂行に必要な技能又は知識を習得する ために実施するもの
  2. 安全管理に関する措置及び給付

ガイドラインには「問題になる例」、「問題とならない例」などが示されているので、その内容についてはガイドラインを参照していただきたい。

3.同一労働同一賃金関連の代表的な判例

(1)判例にかかる法改正

今後の裁判のリーディングケースとなる判例について、整理したいと思う。

いずれの判例も法改正前の旧労働契約法20条についての判決であり、今後の裁判ではパートタイム労働法8条に沿って不合理か否かが判断されることとなる。但し、弁護士等、実務家の見解では、パートタイム労働法8条は旧労働契約法20条の考えをそのまま継承したと考えて差支えないとされており、この法改正が今後の裁判に影響を及ぼすものではないと考えられている。

法律条文は下記の通りであり、パートタイム労働法8条では、下線の箇所が明文化された。

事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

旧労働契約法20条
(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
パートタイム労働法8条
(不合理な待遇の禁止)
事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

(2)リーディングケースの判決

各裁判の詳細は裁判記録や多くの解説文が発表されているので、それらをご参照頂きたいと思うが、審議された項目とその結果、概要について筆者にて下表1、2にまとめた。なお、すべての項目が最高裁で判断されたわけではなく、地裁、高裁で結審した内容も含まれる。

<表1>
各裁判の詳細 審議された項目と結果・概要の筆者まとめ

<表2>

事件名 概要・争点
ハマキョウレックス 有期契約社員であるドライバーが、正社員のドライバーとの待遇差を不合理とし、地位確認、賃金の差額支払い、差額賃金相当の損害賠償を求めた事件。

最高裁まで争われたのは無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当。住宅手当については、正社員と契約社員の間に転勤の有無の差があることが判断のポイントとなった。

長澤運輸 定年後再雇用のトラック運転手の嘱託社員3人(63~64歳)が、定年前と仕事内容が全く同じなのに、賃金を減額されたのは不合理な格差に当たるとして、地位確認、賃金の差額支払い、差額賃金相当の損害を求めた事件。

全ての項目が最高裁で争われた。「その他の事情」として、定年退職時に退職金が支払われていること、老齢年金の受給が予定されており、生活費補助・福利厚生的な手当を支給しないことは不合理とはいえないと判断された。

大阪医科薬科大 元アルバイト職員が、正社員との待遇差について、賃金に相当する額等の損害賠償を求めた事件。

最高裁まで争われたのは賞与と私傷病欠勤中の賃金。

大阪高裁では、契約社員が正社員の80%程度の賞与が支払われていること等により、60%程度支払うべき、私傷病欠勤中の賃金については雇用期間1年の1/4相当(3か月)の賃金を下回る場合は不合理としたことでも注目を浴びた。

最高裁では、業務の難易度や責任の違い、私傷病中の賃金は、長期雇用を前提としての生活保障、賞与は給与の後払いや功労報酬、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むとして不合理とはいえないという判決を下した。

メトロコマース 駅構内の売店勤務の有期契約社員4名が、同職種の正社員との待遇差について、賃金の差額支払い、差額賃金相当の損害賠償を求めた事件。

最高裁まで争われたのは退職金。

定年年齢が65歳とされていたこと、有期雇用契約が10年前後継続して更新されていたことから、短期を前提としてなかった点がどのように判断されるかも注目された。

東京高裁では、正社員と同一の基準に基づいて算定した額の4分の1に相当する額すら一切支給しないことは不合理であると判断された。

最高裁では、正社員転換制度があることや同業務につく正社員数が他の正社員に比べて極端に少ないことなどを考慮し、退職金は正社員の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものとし、その目的は正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的があると認定したうえで、さまざまな部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し支給することとしたものと判断した。

また、最高裁裁判官による補足意見や反対意見が出されたことも注視すべき点である。

日本郵便(佐賀・東京・大阪) 契約社員(佐賀1名、東京3名、大阪8名)が、正社員との待遇差について地位確認、賃金の差額支払い、差額賃金相当の損害賠償を求めた事件。

全ての項目が最高裁で争われた。時給制の契約社員であっても、通年勤務者であれば、年末年始勤務手当、夏季(冬季)特別有給休暇、祝日給などに正社員との待遇差があることは不合理とされたことが特徴的であった。また、私傷病休暇中の賃金の支払いについて、10年前後の契約更新を繰り返していたこと等に鑑み、相応の継続勤務見込を認め待遇差が不合理とされた。この点は勤務年数が約3年の大阪薬科大学事件とは判断が異なったポイントである。

井関松山 グループ会社2社の無期雇用契約社員5名が有期契約社員から無期転換した後の正社員との待遇差を不合理とし、地位確認、賃金の差額支払いを求めた事件。

全ての項目が最高裁で争われた。

手当については不合理な格差を認めたが、賞与は、正社員との格差は、有為人材を獲得し定着を図る目的で合理性があること、契約社員には年2回の寸志(5~10万円)を支払っていることを理由に不合理とは判断されなかった。

ポイントとなるのは、(1)職務の内容、(2)職務の内容及び配置の変更の範囲、(3)その他の事情について「誰と比べるか(比較対象正社員の範囲)」と「その待遇の性質と目的が、客観的・具体的な実態に照らして適切であるか」である。

次回は、3月初旬に掲載予定です。

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