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「パタニティハラスメント(パタハラ)」をご存じですか?法制化もされています! (2)

総合研究部 主任研究員 安藤未生 総合研究部 主任研究員 安藤未生

資格:社会保険労務士

2021.05.11
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※本稿は4月・5月の2か月連続掲載記事です。

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(※)前号(4月号)では上記1~4、本号(5月号)では5~11を掲載しています。

5.法令や国の指針におけるパタニティハラスメントとは

(1)事業主に防止措置を講じることが義務付けられているハラスメント

事業主に防止措置を講じることが義務付けられているハラスメントは、「パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント、パタニティハラスメント、ケアハラスメント」の5つです。

このうちマタニティハラスメント、パタニティハラスメント、ケアハラスメントはまとめて「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号)」(以下、「育児・介護休業法」といいます。)第25条により、事業主に防止措置(労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置)を講じることを義務付けられています。詳しくは「6.パタニティハラスメント防止のために事業主に課せられた義務」の項でご紹介します。

さらに同条では、労働者がハラスメントについての相談をしたこと等を理由とする不利益取扱いを禁止しています。

なお、マタニティハラスメントについては、正確には以下のとおり2つの法律にまたがって規定されていますので、ご留意ください。本稿では育児・介護休業法を中心に記述します。

  • 妊娠・出産・産前休業などの女性のみを対象とした内容:「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号)」(以下、「男女雇用機会均等法」といいます。)
  • 育児休業などの男女共通の内容:育児・介護休業法
ハラスメントの名称(※1) 定義 関係法(略称)
パワーハラスメント(パワハラ)(※2) 職場において行われる
優越的な関係を背景とした言動であって、
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③ 労働者の就業環境が害されるもの
であり、①から③までの3つの要素を全て満たすもの。

なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、該当しない。

労働施策総合推進法(※3)
セクシュアルハラスメント(セクハラ) 職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受け、または性的な言動により就業環境が害されること。 男女雇用機会均等法

マタニティハラスメント(マタハラ) 職場において行われる、上司・同僚からの妊娠・出産に関する言動により、妊娠・出産した女性労働者の就業環境が害されること。(※4)
職場において行われる、上司・同僚からの育児休業等の子の養育に関する制度・措置の利用に関する言動により、これらの制度・措置の利用を申出・取得した女性労働者の就業環境が害されること。(※4) 育児・介護休業法
パタニティハラスメント(パタハラ) 職場において行われる、上司・同僚からの育児休業等の子の養育に関する制度・措置の利用に関する言動により、これらの制度・措置の利用を申出・取得した男性労働者の就業環境が害されること。(※4)
ケアハラスメント(ケアハラ) 職場において行われる、上司・同僚からの介護休業等の家族の介護に関する制度・措置の利用に関する言動により、これらの制度・措置の利用を申出・取得した労働者(男女を問わない)の就業環境が害されること。(※4)

(※1)パワーハラスメント(パワハラ)、セクシュアルハラスメント(セクハラ)、マタニティハラスメント(マタハラ)、パタニティハラスメント(パタハラ)、ケアハラスメント(ケアハラ)は法律の条文上の用語ではありません。

(※2)パワーハラスメント(パワハラ)についての雇用管理上の措置義務について、中小事業主は2022年4月1日から義務化となり、それまでの間は努力義務となります。

(※3)正式名称「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)」

(※4)妊娠の状態や育児休業制度等の利用等と嫌がらせとなる行為の間に因果関係があるものがハラスメントに該当します。なお、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づく言動によるものはハラスメントには該当しません。

【育児・介護休業法(抄)】

(職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)

第25条 事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

(2)パタニティハラスメントは「職場における育児休業等に関するハラスメント」に含まれる

前述の育児・介護休業法第25条による事業主が講ずべき措置については、「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針(平成21年厚生労働省告示第509号)」(以下、「育児・介護指針」といいます。)によって、法律よりも詳しく定められています。

育児・介護指針では、パタニティハラスメント、マタニティハラスメント、ケアハラスメントはまとめて「職場における育児休業等に関するハラスメント」という名称になっており、パタニティハラスメント、マタニティハラスメント、ケアハラスメントは法令にも国の指針にも記載がありません。

【育児・介護指針(抄)】

第2 事業主が講ずべき措置等の適切かつ有効な実施を図るための指針となるべき事項

14 法第25条の規定により、事業主が職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上必要な措置等を講ずるに当たっての事項

(略)

(一) 職場における育児休業等に関するハラスメントの内容

職場における育児休業等に関するハラスメントには、上司又は同僚から行われる、その雇用する労働者に対する制度等の利用に関する言動により就業環境が害されるものがあること。なお、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づく言動によるものについては、職場における育児休業等に関するハラスメントには該当しないこと。
(以下、略)

育児・介護休業法第25条第1項では「制度又は措置の利用に関する言動により」、育児・介護指針では「制度等の利用に関する言動により」とあるように、育児休業の利用等と嫌がらせとなる行為の間に因果関係があるものがハラスメントに該当します。

(3)「職場」とは

育児・介護指針の職場における育児休業等に関するハラスメントの定義の中の「職場」とは、労働者が通常働いているところはもちろんのこと、出張先実質的に職務の延長と考えられるような宴会なども該当します。

【育児・介護指針(抄)】

第2 事業主が講ずべき措置等の適切かつ有効な実施を図るための指針となるべき事項

14 法第25条の規定により、事業主が職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上必要な措置等を講ずるに当たっての事項

(略)

(一) 職場における育児休業等に関するハラスメントの内容

イ (略)

ロ 「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、当該労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、当該労働者が業務を遂行する場所については、「職場」に含まれること。
(以下、略)

(4)「労働者」とは

育児・介護指針の職場における育児休業等に関するハラスメントの定義の中の「労働者」とは、正社員だけではなく、契約社員、パートタイム労働者など、契約期間や労働時間にかかわらず、事業主が雇用する男女の労働者すべてです。

また、派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、派遣先事業主も、自ら雇用する労働者と同様に取り扱う必要があります。

【育児・介護指針(抄)】

第2 事業主が講ずべき措置等の適切かつ有効な実施を図るための指針となるべき事項

14 法第25条の規定により、事業主が職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上必要な措置等を講ずるに当たっての事項

(略)

(1) 職場における育児休業等に関するハラスメントの内容

イ ~ ロ (略)

ハ 「労働者」とは、いわゆる正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員等のいわゆる非正規雇用労働者を含む事業主が雇用する男女の労働者の全てをいうこと。
また、派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、労働者派遣の役務の提供を受ける者についても、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)第47条の3の規定により、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者を雇用する事業主とみなされ、法第25条及び第25条の2第2項の規定が適用されることから、労働者派遣の役務の提供を受ける者は、派遣労働者についてもその雇用する労働者と同様に、(2)イの配慮及び(3)の措置の措置を講ずることが必要であること。
(以下、略)

(5)「業務上の必要性」とハラスメントに該当する例/しない例

育児・介護指針では「業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づく言動によるものについては、職場における育児休業等に関するハラスメントには該当しない」とされています。

例えば、部下が休業する場合、上司としては業務調整を行う必要があるため、ある程度調整が可能な休業等についてはその時期を調整することが可能かどうかなどの労働者の意向を確認する行為はハラスメントには該当しません。ただし、労働者の意を汲まない一方的な通告はハラスメントに該当する可能性があります。

これについて、厚生労働省はパンフレット「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」において、以下のとおりハラスメントに該当する例と該当しない例を挙げています。(なお、「業務調整のための確認」「変更の依頼や相談」などの分類は本稿の筆者が行っています。)

ハラスメントに該当する
  1. 解雇その他不利益な取扱いを示唆

    1. 産前休業の取得を上司に相談したところ、「休みを取るなら辞めてもらう」と言われた。
    2. 時間外労働の免除について上司に相談したところ、「次の査定の際は昇進しないと思え」と言われた。
  2. 制度等の利用の請求等又は制度等の利用を阻害

    1. 育児休業の取得について上司に相談したところ、「男のくせに育児休業を取るなんてあり得ない」と言われ、取得をあきらめざるを得ない状況になっている。
    2. 介護休業について請求する旨を周囲に伝えたところ、同僚から「自分なら請求しない。あなたもそうすべき」と言われた。「でも自分は請求したい」と再度伝えたが、再度同様の発言をされ、取得をあきらめざるを得ない状況になっている。
  3. 制度等を利用したことによる嫌がらせ等
    1. 上司・同僚が「所定外労働の制限をしている人にはたいした仕事はさせられない」と繰り返し又は継続的に言い、専ら雑務のみさせられる状況となっており、就業する上で看過できない程度の支障が生じている(意に反することを明示した場合に、さらに行われる言動も含む)。
    2. 上司・同僚が「自分だけ短時間勤務をしているなんて周りを考えていない。迷惑だ。」と繰り返し又は継続的に言い、就業をする上で看過できない程度の支障が生じている(意に反することを明示した場合に、さらに行われる言動も含む)。
ハラスメントに該当しない
  1. 業務調整のための確認

    1. 業務体制を見直すため、上司が育児休業をいつからいつまで取得するのか確認する。
  2. 業務調整のための変更の依頼や相談(強要しない場合に限られる)

    1. 業務状況を考えて、上司が「次の妊婦健診はこの日は避けてほしいが調整できるか」と確認する。
    2. 同僚が自分の休暇との調整をする目的で休業の期間を尋ね、変更を相談する。
  3. 労働者の事情やキャリアを考慮(強要しない場合に限られる)

    1. 上司が部下の事情やキャリアを考慮して、育児休業からの早期の職場復帰を促す。(促すこと自体はハラスメントに該当しないが、職場復帰のタイミングは労働者の選択に委ねられるべきものであり、早期の職場復帰を強要し、制度の利用を阻害するような場合はハラスメントに該当する。)
(6)対象となる制度・措置とは

職場における育児休業等に関するハラスメントの対象となる制度・措置については、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則(平成3年労働省令第25号)」第76条において、以下のとおり列挙されています。

  1. 育児休業
  2. 介護休業
  3. 子の看護休暇
  4. 介護休暇
  5. 所定外労働の制限
  6. 時間外労働の制限
  7. 深夜業の制限
  8. 育児のための所定労働時間の短縮措置(※)
  9. 始業時刻変更等の措置(※)
  10. 介護のための所定労働時間の短縮等の措置(※)

(※)8~10は就業規則にて措置が講じられていることが必要です。

(7)育児・介護休業法におけて「不利益取扱い」と「ハラスメント」は厳密には別

育児・介護休業法では育児休業等の制度・措置の利用を理由とする不利益取扱いは育児・介護休業法で禁止されていますが、育児・介護休業法において「ハラスメント」と「不利益取扱い」は厳密には別のものです。

育児・介護指針、厚生労働省などの行政機関が作成したパンフレットやリーフレットなどでも明確に使い分けがされていますので、これらをご覧になる際にはご注意ください。

ここで言う「不利益取扱い」とは、育児休業を利用したこと等を理由として、事業主自ら(人事権を持つ者)が行う解雇、降格、減給、不利益な配置の変更、就業環境を害する行為などを指します。

一方、「ハラスメント」は、前述のとおり、育児休業を利用したこと等を理由として、上司・同僚による就業環境を害する行為です。

例えば、上司(人事権を持たない者)が解雇を示唆した場合であれば「ハラスメント」に該当し、事業主(人事権を持つ者)が解雇を示唆し、または実際に解雇をしたら「不利益取扱い」に該当します。

育児・介護休業法では制度・措置の利用についての「ハラスメント」と「不利益取扱い」の根拠条文が異なります。

「ハラスメント」の根拠条文は前述の第25条第1項ですが、「不利益取扱い」の根拠条文は、育児休業の場合は第10条、介護休業の場合は第16条、子の看護休暇の場合は第16条の4…のように制度・措置によって各々条文が存在しています。

(なお、第25条第2項の「不利益取扱い」は、制度・措置の利用についてではなく、労働者がハラスメントについての相談をしたことや事実を述べたことについて行われるものです。)

【育児・介護休業法(抄)】

(不利益取扱いの禁止)

第10条 事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

(準用)

第16条 第10条の規定は、介護休業申出及び介護休業について準用する。

上記の「ハラスメント」と「不利益取扱い」の使い分けは、男女雇用機会均等法を根拠とする「職場における妊娠、出産等に関するハラスメント」(マタニティハラスメントのうち妊娠・出産・産前休業等の女性のみに適用される内容)も同様で、「ハラスメント」については男女雇用機会均等法第11条の3第1項、「不利益取扱い」は同法第9条第3項で規定されています。

しかしながら、同じく男女雇用機会均等法を根拠とするセクシュアルハラスメントは「不利益取扱い」も「ハラスメント」に含んでいます。

セクシュアルハラスメントの場合は、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したことで解雇、降格、減給などの不利益取扱いを受ける場合は「対価型セクシュアルハラスメント」、性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に大きな悪影響が生じる場合は「環境型セクシュアルハラスメント」に該当します。

ハラスメントの種類によって言葉の意味が異なりますので、ご注意ください。

6.パタニティハラスメント防止のために事業主に課せられた義務

(1)概要(事業主が雇用管理上講ずべき措置とは)

パタニティハラスメントを含む「職場における育児休業等に関するハラスメント」を防止するために、事業主が雇用管理上講ずべき措置として、主に以下の措置が育児・介護指針に定められています。

事業主は、これらの措置について必ず講じなければなりません。

派遣労働者に対しては、派遣元のみならず、派遣先事業主も措置を講じなければなりません。

事業主が雇用管理上講ずべき措置

(2)事業主の方針の明確化及びその周知・啓発

事業主は以下の方針を明確化し、管理監督者を含む全労働者に対し、周知・啓発する必要があります。

  • ハラスメントの内容(どのような言動がハラスメントに該当するか
  • 育児休業等に関する否定的な言動がハラスメントの発生の原因や背景となり得ること
  • 組織(会社など)としてハラスメントを行ってはならない旨の方針
  • 制度等の利用ができること
  • ハラスメントの行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則などの文書に規定したこと

具体的には、以下のような取り組みが挙げられます。

  • 就業規則など服務規律を定めた文書に事業主の方針などを規定する
  • 社内報、パンフレット、イントラネットなどに掲載し、周知する
  • 研修を実施する(開催時期は定期的、内容は社内アンケートなどによって社内の実態を踏まえたもの、対象者は管理職層を中心に職階別に分けるなどの方法が効果的と考えられます。)

ここで注意が必要なのは、全労働者に確実に周知し、理解を深めてもらうことです。特にパタニティハラスメントを含む「職場における育児休業等に関するハラスメント」では、育児休業等の制度の存在そのものが労働者に十分に認知されておらず、同僚などの誤った思い込みでハラスメントが起きることが考えられます。

前述の日本労働組合総連合会(連合)の「男性の育児等家庭的責任に関する意識調査2020」によると、「自身の勤め先には育児休業があるか」との問いに対して、「ある」は男女で64.5%にとどまっています。制度等を利用する本人だけでなく全労働者に理解を深めてもらうとともに、制度等の利用をしやすくするような工夫をすることが重要です。

また、パタニティハラスメントを含む「職場における育児休業等に関するハラスメント」の背景としては、前述のとおり「男は働き、女は家事育児をする」という「ジェンダーバイアス(男女の役割についての固定観念)」が存在します。制度等の利用やハラスメントの内容だけでなく、その背景についても周知し、理解を深めてもらうことが必要ですので、本稿がその一助となることができましたら幸いです。

なお、弊社では、上記の具体的な取り組みについてのお手伝いが可能ですので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

(3)相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

事業主は、労働者からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制の整備として、次の措置を講じなければなりません。

  • 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する(窓口を形式的に設けるだけではなく、実質的な対応が可能な窓口が設け、それを社内報、パンフレット、イントラネットなどで周知する)
  • 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにする(相談内容を放置しない、相談者が相談窓口の担当者の言動などによってさらに被害を受けることを防止するなど)
  • ハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、ハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応すること

具体的には、以下のような取り組みが挙げられます。

  • 相談に対応する担当者をあらかじめ定める
  • 相談に対応するための制度を設ける
  • 外部の機関に相談への対応を委託する
  • 相談は面談だけでなく、電話、メールなど複数の方法で受け付ける
  • 必要に応じて相談窓口の担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みを構築する
  • 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、あらかじめ作成した留意点などを記載したマニュアルに基づき対応する
  • 相談窓口の担当者に対し、相談を受けた場合の対応についての研修を実施

ここで注意が必要なのは、相談窓口を設けて、労働者に周知しても実際に機能していなければ意味がないことです。

「相談件数0件だから職場には問題なし」と判断するのは早計で、「単に相談窓口が機能していないかもしれない」こともご検討いただければと思います。

例えば、相談の受付について、労働者が利用しにくい方法(労働者に「相談したら何らかの報復があるのではないか」「周囲に相談内容が漏れてしまうのではないか」と思わせる方法)であるが故に、労働者が相談したくてもできない可能性があります。

また、相談窓口の担当者の対応次第ではかえってトラブルに発展することも有り得ます。

例えば、問題を放置しておくと、問題を悪化させ、被害を拡大させてしまうことが考えられますし、相談者に「この会社は適切に対応してくれない」「事業主の義務を果たしていない」と誤解されることも有り得るでしょう。

相談窓口の担当者が自分の考えを相談者に押し付けるなど不適切な対応をすれば、相談者の心をさらに傷つけることになります。

なお、弊社では「RHL(リスクホットライン)」という第三者窓口のサービスを提供しております。単なる報告だけでなく、危機管理会社としての専門性を活かしたアドバイスをご提供いたします。また、相談窓口の担当者向けの研修についてもお手伝いが可能ですので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

(4)ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応

事業主は、ハラスメントに係る相談の申出があった場合において、その事案に係る事実関係の迅速かつ正確な確認及び適正な対処として、次の措置を講じなければなりません。

  • 事実関係を迅速かつ正確に確認する(ハラスメントに該当するか否かの判定だけに注力するのではなく、良好な就業環境を回復することも重要視する)
  • 事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に実施
  • 事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に実施
  • 再発防止に向けた措置を講ずる(ハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合においても、同様の措置を講ずる

具体的には、以下のような取り組みが挙げられます。

  • 相談窓口の担当者、専門の委員会等が、相談者及び行為者の双方から事実関係を確認する
  • 事実の確認が十分にできないと認められる場合には、第三者からも事実関係を聴取する
  • 被害者については、職場環境の改善、迅速な制度等の利用に向けての環境整備、行為者との間の関係改善に向けての援助、行為者の謝罪、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講ずる
  • 行為者に対して、懲戒規定に沿った処分を行うだけではなく、行為者の言動がなぜハラスメントに該当し、どのような問題があるのかを理解させる
  • 再発防止策としては、事案の概要を全労働者に周知して注意喚起を行う、具体的な事例に基づく研修を実施する

ここで注意が必要なのは、安易に問題を軽く考えない、個人間の問題に済ませないことです。今回発覚したことはあくまで氷山の一角で、その背後には組織的な問題が存在する可能性も捨てきれないでしょうし、個人の問題として当事者間での解決に委ねてしまうと、かえって問題をこじらせることがあります。

これは、ハラスメントが生じた事実が確認できない場合であっても同様です。ハラスメントに該当しない問題がゆくゆくはハラスメントに発展することもあるでしょう。

労働者からの相談があったことは、これまでの防止策に問題がなかったかどうか見直すチャンスと捉えて、再点検や改めて周知を図ることをお勧めします。

(5)ハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置

事業主は、ハラスメントの原因や背景となる要因を解消するため、業務体制の整備など、事業主や制度等の利用を行う労働者その他の労働者の実情に応じ、必要な措置を講じなければなりません。(派遣労働者は、派遣元事業主に限ります。)

具体的には、以下のような取り組みが挙げられます。

  • 制度等の利用を行う労働者の周囲の労働者への業務の偏りを軽減するよう、業務分担を見直す
  • 業務を点検し、業務を効率化する

「職場における育児休業等に関するハラスメント」の原因や背景となり得る否定的な言動の要因の一つとして、周囲の労働者の業務負担が増加することがあります。

例えば、育児休業取得者の業務について、業務量の調整をせずに、特定の労働者にそのまま負わせることは、育児休業を取得した本人への不満につながり、ハラスメントが発生することにもなりかねません。

(6)併せて講ずべき措置(プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等)

「職場における育児休業等に関するハラスメント」に係る相談者・行為者等の情報は当該相談者・行為者等のプライバシーに属するものです。

相談への対応などにあたってはプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を労働者に対して周知することが必要です。

また、事業主に相談したこと、事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局の援助制度の利用等を理由として解雇その他不利益な取扱い(育児・介護休業法第25条第2項で禁止された行為)をされない旨を定め、労働者に周知・啓発することも必要です。

これらの措置が相談窓口を利用する(利用しようとしている)労働者の安心感・信頼感に繋がります。

7.パタニティハラスメント防止のための事業主の望ましい取り組み(努力義務)

育児・介護指針では、事業主は上記の義務に加えて、以下の取り組みを実施することが望ましいとしています。これらは、現時点では義務規定ではありませんが、将来的には義務となる可能性は否定できませんし、実施しておくことで効率的な運営にも繋がる内容です。

  1. 各種ハラスメントの一元的な相談体制の整備(相談窓口の受付内容にパワーハラスメント、セクシュアルハラスメントも含め、窓口を一本化)
  2. 職場におけるハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための取り組み(育児休業等の制度・措置を利用する労働者個人に対し、制度等の利用ができることを知ってもらい、周囲と円滑なコミュニケーションを図りながら適切に業務を遂行する意識を持ってもらう)
  3. 労働者への個別周知については、後述の育児・介護休業法の改正案(2021年2月26日付で国会に法案提出済み)によって、義務化される予定です。
  4. 衛生委員会(労働安全衛生法第18条)等を活用した労働者や労働組合等の参画(「6.パタニティハラスメント防止のために事業主に課せられた義務」の項の措置を講じる際に、労働者や労働組合等の参画を得つつ、アンケート調査や意見交換等を実施するなどにより、その運用状況の的確な把握や必要な見直しを行う)

8.パタニティハラスメント防止のための国・事業主・労働者の責務(努力義務)

育児・介護休業法第25条の2からは、国・事業主・労働者が一丸となってハラスメントへの関心と理解を深め、ハラスメントの防止のための自らの責務を認識しながら、よりよい職場をつくっていこうとの姿勢が伺えます。

【育児・介護休業法(抄)】

(職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する国、事業主及び労働者の責務)

第25条の2 国は、労働者の就業環境を害する前条第一項に規定する言動を行ってはならないことその他当該言動に起因する問題(以下この条において「育児休業等関係言動問題」という。)に対する事業主その他国民一般の関心と理解を深めるため、広報活動、啓発活動その他の措置を講ずるように努めなければならない。

2 事業主は、育児休業等関係言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。

3 事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、育児休業等関係言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。

4 労働者は、育児休業等関係言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第1項の措置に協力するように努めなければならない。

9.男性の育児休業に関する裁判例

育児休業等の制度・措置の利用について、何らかのトラブルが発生した場合、育児・介護休業法では都道府県労働局長による紛争解決の援助(助言、指導、勧告)や調停制度を設けています。この制度を利用するかどうか当事者の自由ですので、初めから訴訟を起こす選択肢もあります。

本稿では、裁判所がどのように判断を下したかについて、男性の育児休業に関する有名な裁判例がありますので、ご紹介します。

厳密には育児・介護休業法の「ハラスメント」ではなく「不利益取扱い」についてですが、裁判例として「医療法人稲門会事件」(大阪高等裁判所平成26年7月18日判決)があります。

これは3か月間の育児休業を取得した男性看護師に対し、勤務先病院を経営する医療法人が行った以下の行為について、大阪高裁がいずれも違法であると判断し、医療法人に対し損害賠償として約24万円を男性看護師に支払うことを命じたものです。

  • 就業規則における不就労を理由に、職能給の昇給を行わなかったこと
  • 育児休業した年度は人事評価の対象外であるとして、昇格に必要な年数に参入せず、昇格試験の受験資格を与えなかったこと

医療法人側は育児休業による不就労期間が1年のうち3か月にも及ぶと、必要な職場経験が不足するため、不利益取扱いには当たらないと主張しましたが、大阪高裁は年次有給休暇などの休暇は昇給の欠格要件に含まれていないことを指摘し、同じ不就労でありながら育児休業だけ取扱いを異にするのは合理的な理由がないとして、医療法人側の主張を退けました。

なお、近年、証券会社での不利益取扱いに関する裁判(地裁では男性労働者側が敗訴、高裁に控訴)やスポーツ用品メーカーでの不利益取扱いに関する裁判(和解が成立)などがあります。男性の育児参加に関する裁判の動向は今後も注目していく必要があるでしょう。

10.育児・介護休業法の改正案(2021年2月26日付で国会に法案提出済み)

2021年2月26日付で第204回国会(令和3年常会)に育児・介護休業法の改正案(正式名称「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律案」)が提出され、4月16日に参議院本会議で可決されました。改正案は衆議院に送付され、今国会で成立する見通しです。本稿では、主要なものをピックアップしてご紹介します。

(1)男性の育児休業の取得を促進(「出生児育児休業」の新設など)

現行法では、産後休業は女性にのみ適用されている制度ですが、改正案では「出生児育児休業」という男性版の産後休業の新設が盛り込まれています。これは、男性労働者が子の出生後8週間以内に4週間までの休業を取得できる制度で、2回に分割して取得することもできます。

また、現行の育児休業の取得回数は、特別の事情がない限り1人の子について1回であり、男性は特例として妻が心身ともに大変な時期(産後8週間以内)に育児休業を取得した場合は、特別な事情がなくても、もう1度育児休業を取得することができます。

改正案では、育児休業の取得回数を(男性は産後8週間以内に育児休業を取得していなくても)原則2回に分割できるようになりますので、男性は上記の「出生児育児休業」と合計で4回の休業を取得することが可能になります。

なお、上記の改正案の施行日は、国会で法案が通過した後に政令で定められる予定です。

現行法 改正案
(新設) 出生児育児休業

  • 対象:男性労働者
  • 期間:子の出生後8週間以内に4週間まで(原則)
  • 申出期限:休業開始の2週間前まで(原則)
  • 分割回数:2回まで(原則)
育児休業

  • 対象:男女の労働者
  • 期間:子が満1歳になるまで(原則)
  • 申出期限:休業開始の1か月前まで(原則)
  • 分割回数:1回(原則は分割不可)
    ※ 男性は産後8週間以内に育児休業を取得していれば、上記の期間内(原則、子が満1歳になるまで)にもう1回取得することができる
育児休業

  • 対象:同左
  • 期間:同左
  • 申出期限:同左
  • 分割回数:2回まで(原則)
(2)育児休業を取得しやすい雇用環境整備と労働者への個別周知・意向確認の義務付け

改正案では、事業主に育児休業の申出・取得を円滑にするための雇用環境の整備に関する措置を義務付けており、「労働者に対する育児休業に係る研修の実施」と「育児休業に関する相談体制の整備」は法律に明記され、その他の措置には法案が通過した後に厚生労働省令で定められる予定です。

さらに妊娠・出産(本人又は配偶者)の申出をした労働者に対して、事業主から個別の制度周知及び休業の取得意向の確認のための措置(面談など)も義務付けています。具体的な内容は厚生労働省令で定められる予定です。

これらは2022年4月1日に施行予定ですので、国会で法案が通過するともう1年も猶予がありません。

(3)育児休業の取得の状況の公表の義務付け

改正案では、常時雇用する労働者数が1,001人以上の事業主に対し、育児休業の取得の状況について公表することを義務付けています。施行予定は2023年4月1日です。

育児休業の取得の状況の公表義務の対象は1,001人以上の大規模の組織となっていますが、女性活躍推進法では女性活躍に関する情報公表義務の対象を301人以上から101人以上へ改正したように、育児休業の取得の状況の公表義務も将来的には中小規模の組織を対象となることが考えられます。

11.終わりに

履歴書から性別の欄がなくなっていることをご存じでしょうか。

JIS規格(日本産業規格)の履歴書の様式例に性別欄が掲載されていることについて、2020年6月にNPO法人が削除要望の署名(約1万人分)を経済産業省に提出しました。これを受けて経済産業省は一般財団法人日本規格協会に通知を発し、同年7月に一般財団法人日本規格協会が履歴書の様式例を削除しました。そして、文具メーカーのコクヨ株式会社は、同年12月から性別欄のない履歴書を販売しています。

この動きは、トランスジェンダーの方たちが採用活動において不利益を受けている問題が契機のようですが、そもそも募集・採用時の性別を理由とする差別は男女雇用機会均等法で禁止されています。

本稿では、「男は働き、女は家事育児をする」というジェンダーバイアスについて、敢えて父性に関するパタニティハラスメントに焦点を当て、男性もジェンダーバイアスによって不利益を受けていること、育児休業取得率からも見られたように日本はジェンダーの平等を達成するまでの道のりが長いことをご紹介しました。

ただし、法改正などによって少しずつ前進していることも確かです。

LBGTQなども踏まえた多様性を受容する社会が形成され、ゆくゆくは「男は…」「女は…」という表現の仕方が珍しくなる世の中が来るかもしれません。

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