SPNの眼
総合研究部 専門研究員 吉原ひろみ
1.厳しく指導しただけ」というけれど…
例えば、こんな悩みや疑問が頭をよぎることはないでしょうか。
- 近頃の若者は、ちょっと厳しく指導しただけで、すぐ会社に来なくなったりハラスメントだと訴えたりするから、できない人は諦めて放っておくしかないんでしょうかね…。
- 「会議の場で目標未達を責められた」と通報があったが、目標割れが半年も続き、改善の兆しも見えない状況で、ある程度は厳しく指導されるのは仕方ないと思う。どの程度の「厳しさ」からがパワハラになるのか?
- いくら何度も同じミスを繰り返すからといっても、厳しすぎる指導はパワハラともなり得ることを、研修で伝えたい。
日々、ハラスメントに関して様々な相談や要望を受けますが、中でも「厳しい指導」に関する悩みは多く、返答に困ることも多いものです。メンタル不調や早期離職、ハラスメントだと言われることを恐れて指導や育成を諦めるのはおかしいですし、「どこまではOKで、どこからがNG」のように、単純に線引きができる問題でもありません。研修で「恐れがある」ことを伝えれば、「指導しない」「できるだけコミュニケーションを取らない」に流れがちで、職場のギスギス感は増すばかりとなります。
指導した側からすれば、「ちょっと厳しく指導しただけ」「反省して、状況を改善してほしいだけ」なのでしょう。しかし、具体的にどんな指導をしたのかを確認すると、厳しいかどうかはさておき、「そもそもこれは指導なのか?」という疑問がわいてくることも多々あります。
2.「指導」とは「導くこと」では?
例えば、6か月連続で目標の未達が続いていることを指導するシーンで、次のような言葉をかけることは「指導」と言えるでしょうか。
- 「目標未達が半年も続いているんだぞ?あなたは「このままではいけない」と思わないのか?どうにかしようと策を練って、実行するのがあなたの仕事だろう!なぜ自分の仕事をしないんだ!それで済むと思っているのか!」
これが「厳しい指導」なのか、「パワハラ(精神的な攻撃)」なのかを判断しようとするならば、おそらく、どんな場で言われたのか(大勢の人の前で、個別の面談で)や言い方(声の大きさ、口調)等が気になるところではないでしょうか。周囲に人がいたならば、周囲の人がその「指導」をどう受け止めたのか、他にも目標未達の人がいたならば、その人に対する指導との違い、半年前からの指導の頻度や変化なども気になってきます。しかし、いくら状況を確認しても、「どの程度の厳しさまでは『指導』のうちなのか」という疑問は、ずっと付きまとったままでしょう。
一方で、そもそも「指導とは何か」を冷静に考えるならば…「指導」を文字通りに受け取れば、「(正しいこと、望ましい状態を)指し示して、導くこと」が「指導」といえるでしょう。目標に未達であることが問題であるなら、目指すべきは「目標を達成すること」です。
前述の言葉で、「目標達成に導けるか?」という単純な問いに対する答えは、おそらく「否」だと思います。未達の理由が「サボっていた」「怠けていた」のであれば、いつもより厳しい言い方によって気が引き締められ、効果があるかもしれません。しかし、怠けていたわけではないなら、「すべきことをせよ!」と厳しい声で言うだけで目標を達成できるくらいなら、そもそも6か月も未達は続いていないはずです。「何をすべきか」「どうすべきか」がわからない、うまくできないからこそ、「目標達成に導くための指導」が必要なのです。
前述の言葉は、もともとサボっていた人に対しては、「厳しい指導」となり得るかもしれません。しかし真面目に努力しているにもかかわらず、要領がつかめずに苦しんでいる人にとっては、「できるように導く」言葉ではなく、むしろ努力を一切認めず、一方的に「サボっている」と決めつけられたか、「これができないとは、どうしよもなくダメな人間だ」となじられたかくらいのインパクトのある、「人格否定の酷い言葉」として受け止められるのではないでしょうか。
厳しい指導は、受け取る相手の状況によっては「指導」とも「パワハラ」とも受け取られ、効果も限定的です。たとえ直ちに「パワハラである」とはいえなくても、「適切な指導とはいえない」ことは確かでしょう。
3.自分にとっての適切な指導 ~「3つの声掛け」から~
最近、ハラスメント防止研修や、その事前アンケートにて、次のような問い掛けをすることが度々あります。
- 「あなたのミスで大問題が発生しかけたものの、社内の大勢の人が協力してくれたおかげで、大事にならずに済んだ」という状況を想像してください。
自分のミスは明らかであり、あなたはとても反省しています。この状況で上司から指導を受けるならば、次のうちどの声掛けが「自分にとって、最も再発防止につながりやすい」と思いますか?
①あなたのミスで大勢の人に迷惑がかかった。次からは気を付けなさい。
②大事にならなくてよかったよ。あなたなら、もうわかっているよね。
③ミスに気付いてあげられなくてごめんね。次は一緒に確認しよう。
いかがでしょう、どれを選びますか?
この質問に「正解」はありません。好みは人それぞれで、どこの会社で質問しても、回答は割れるもののようです。選択した理由をあわせて聞くと、下記のような趣旨の回答がよく挙がります。ついでに「他にもっと良い指導の仕方があれば教えてください」と、「その他」まで記述してもらうこともありますが、どの回答も「なるほどね」と納得できるものばかりです。「私は何を言われても反省などするつもりはありません!」という回答に出会ったことは、今のところ一度もありません。
| ①を選んだ理由 | ②を選んだ理由 | ③を選んだ理由 |
|---|---|---|
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各人が「指導とは、本来こういうものでしょ!」と、本人のイメージする「理想の指導」を選び、力説されます。それぞれに心に響く指導方法があるようで、それと異なる指導を受けると、つい反発したくなってしまうのではないでしょうか。自分が選んだ声掛けが、実は少数派だったことを知った方が、「指導といったらこれ以外にないと思っていました。まさか自分が少数派だったなんて…」と驚きの声をあげたことがあります。「私にとっての理想の指導」は、それくらい、その人にとっては「当たり前」だったのでしょう。「どうしてうちの上司は、こういう真っ当な指導ができないんだろう。こう言ってくれたら、私だってすんなり納得できるのに!」と、つい上司のせいにしてしまう人がいるのも、わかるような気がします。お互いに、自分と相手が思う「理想の指導」が異なっていることに、気付いていないのです。
なお、好みは人によって異なりますが、「どれを選ぶ人が多いか」は、会社・組織によってある程度の傾向があるようです。ある会社では圧倒的に①が多く、別の会社では①より②が多く、③はほとんどいませんでした。さらに別の会社では③が過半数を超え、①と②が残りを分けていました。会社ごとの傾向を各人の選択理由と共に見ていくと、各社で「足りていないこと」がよくわかり、課題が明確になります。自社の傾向を見るためにも、事前アンケート付きの研修はお勧めです。
4.相手に合った指導を!~聴くことの意義~
指導を部下の心に響かせたい、指導の効果を上げたいと思うならば、まずは部下をよく知る必要があります。知るための一番の近道は、部下の話を聴くことです。
職場環境や職場のコミュニケーションに関してアンケートを実施すると、「上司が話を聴いてくれない」という嘆きが大量に挙がる会社は案外多いものです。無理に「指導をしなくては」「有益なアドバイスをしよう」と気張らなくても、よく聴くことができれば、部下は自然に自身の言動や気持ちを振り返り、自分が求める「指導」を自分で手に入れるものです。
ただ、「よく聴く」ことは、そうそう簡単なことではありません。聴く力は、意識的に経験を積み上げ、少しずつ伸ばすしかありませんが、とりあえず目の前の部下を指導するためには、個々の部下が思う「理想の指導方法」をそのまま訊いてしまってもよいのではないでしょうか。この3つの声掛けから選んでもらうのもよし、指導が必要な場面で、「今、私にどんな指導を求める?」と具体的に望む指導方法を訊いてしまってもよいと思うのです。
上司にとっての「当たり前の指導」が、部下にとっての「望ましい指導」とは限らず、このすれ違いが「ハラスメントか、指導か?」のグレーゾーンを生みます。上司が「部下に合わせた指導」をできるようになれば、指導の効果も得やすく、パワハラだと認識されるリスクも低減できるでしょう。まさに一石二鳥です。
厚生労働省の「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」では、事業主が講ずべき措置の内容として、「パワーハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合」においても、再発防止の措置が必要とされています。行為者への懲戒を検討するには、「パワハラか、パワハラとはいえないか」の判断は非常に重要ではありますが、その判断ばかりに気を取られ、「パワハラではないので問題ない」と、肝心の「再発防止」にエネルギーをかけられなくなるのは、非常に残念なことです。
そもそもグレーゾーンに足を踏み入れず、指導の目的や効果を追求することを、一緒に考えてみませんか。エス・ピー・ネットワークがお手伝いできることは、きっとあると思います。
以上


