リスク・フォーカスレポート

「小規模組織における内部通報制度の有効性」

 皆さま、こんにちは。企業における内部通報窓口のあり方等について考える、リスクフォーカスレポート「内部通報編」の第二回は、「小規模組織における内部通報制度の有効性」と題し、小規模組織で内部通報制度の導入が進まない背景や、小規模組織において内部通報制度の利用を促進させるノウハウを紹介します。そして最後に、今回のタイトルでもある「小規模組織において内部通報制度は有効か」について考えてみたいと思います。

1.内部通報制度の導入状況(組織規模別)

 前回も紹介した、「民間事業者における通報処理制度の実態調査報告書(※)」の22年度版によると、民間事業者向けに実施したアンケート調査結果で、内部通報制度を「導入している」と回答した事業者は全体(n=5642)の46.2%で、20年度の34.1%(n=3141)に比べると3割以上増加した結果となり、導入する企業は着実に増加していることが見てとれる。

 ただ、組織の規模別(従業員数別)の導入状況には相変わらず大きな開きがある。

 従業員数50人以下の事業者(n=1163)では、導入している企業が10.2%、51~100人の事業者(n=978)でも21.0%と低く、一方で、1001~3000人の事業者(n=627)では90.7%、3000人超の事業者(n=410)では97.8%が導入しているという結果が報告されている。

(※)当該報告書は、平成20年に当時公益通報者保護法の主管であった旧内閣府国民生活局が公表し、その2年後には、平成21年9月から同法の主管となっている消費者庁が引き継ぐ形で、平成22年度版を公表している。

【民間事業者における通報処理制度の実態調査報告書:平成22年度版】

 導入が進んでいる大型組織における内部通報制度の運用実態や有効性については、次回以降で触れることとし、今回は、小規模組織について考えてみたい。

 上記報告書では、「内部通報制度を導入していない理由」についても聞いており、全体結果では、「どのような制度なのかわからない」、「どのようにして導入すればよいのかわからない」との回答が1位、2位を占めているが、従業員数100人未満の事業者(※)において特に回答比率が高い項目は以下の3点である。

(※)以下の()内は50人以下と51~100人以下の事業者の合計(n=1788/複数回答)。

①必要性を感じない(29.3%)

②同規模の同業他社等も導入していない(28.2%)

③(規模・組織の状況等からみて)通報者の秘密が守れない(22.5%)

 同報告書においては、それぞれの回答を選んだ理由についてまでは言及されていないが、様々な文献等では「小規模組織で導入の必要性を感じない」理由として、「当社は風通しが良いから問題ない」と答える経営陣が多いことが報告されている。これが全従業員総意の事実であれば良いのだが、上層部の慢心である可能性は否めない。2番目の「同規模の同業他社等も導入していない」に関しては、横並びであれば安心する日本文化の表れと思われるが、そもそも、小規模組織では、お互いの距離が近いことに起因して「通報を上げにくい環境(状況)」になりやすく、事実、通報自体が上がりにくい(会社も上がってくるとは思わない)ことが、内部通報は必要ないと捉えられる背景にあると考える。

 実際、従業員数100人以下の組織では、「通報が上がって来ない」ことに悩んでいるケースが多く、当社も相談を受けることがしばしばある。その際、ご担当者に「何が原因だと思うか」と問うと、前掲の調査結果の3番目「通報者の秘密が守れない」に近い回答が返ってくることが多い。

 次項では、小規模組織で内部通報制度の利用を促進させる策について紹介する。

2.小規模組織で内部通報制度を機能させるためのノウハウ

 当社が小規模組織のクライアントの従業員の方々にアンケート調査等で「通報窓口を利用しにくい理由」聞いてみると、以下のような回答が常に上位に入ってくる。

①匿名でも、自分が通報したことが分かってしまうから

②通報したら逆に不利益な扱いを受けそうだから

③通報しても、きちんと対応してくれなさそうだから

 では、上記のような懸念を払拭し、小規模組織で通報が上がってくるようにするためにはどうすれば良いか。

 当社がこれまでのリスクホットラインの運営実績から、最も重要と考えるポイントは、「担当者」と「受付スキーム」の二つである。

 まず「担当者」については、総務部門に担当者を置いている企業は多いが、社内に窓口を設置する場合には、総務部門以外、できれば常勤監査役や監査部門の方を担当者として選任することをお勧めする。なぜなら、総務部門は人事も扱うため、小規模組織の場合は特に、「自分が誰であるか知られやすい」、「通報したことで昇格・昇給等に影響が出るのではないか」との不安に繋がりやすいからである。従って、ある程度独立した立場の方を担当者に置くことが望ましいのである。

 次に、「受付スキーム」についてだが、いくら匿名で対応しても、調査の過程でどうしても通報者が特定される事案は少なくないため、まずは通報者が窓口担当者に事案概要を伝え、「会社側がどのような対応を取るか」を聞いた上で、本通報とするか通報を取り下げるかを決められる(ただし、通報内容が会社にとってリスクレベルの高いものであれば、対応させてもらえるよう通報者を説得する場合あり)といった仕組みを作ることが有効である。なお、このスキームを定着されれば、窓口の利用が促進されることは実証済みである。

 ちなみに、匿名でも通報者が特定されてしまう場合、例えば、「上司からパワハラを受けているのは自分だけなので、調査をされたら絶対に自分が通報したことが分かってしまう」という場合の具体的対応には以下のようなものがある。

①パワハラに関する注意喚起の社内通達等を配信する。

→高い効果は望めないが、匿名性は担保される

②「職場環境調査」等の名目で無記名式のアンケート調査を実施し、それを根拠として(複数名から指摘があった等として)当該上司に確認・注意・指導等を行う。

→手間がかかるが、”事実”に近づきやすい

③周囲のスタッフから相談があったとして、当該上司に確認・注意・指導等を行う。

→状況によって使えない場合あるが、(当該上司に)対応する担当者のスキルによっては、高い効果が望める

④担当者が立ち会う形で、当該上司と通報者との話し合いの場を設ける。

→通報者が拒否する場合が多いが、”腹を割って”話せたとして、関係が改善されるケースもある

⑤担当者が通報者と面談し、アドバイス等を行う。

→根本的な解決にはならない可能性大だが、通報者の”ガス抜き”になることもある

 以上のような対応案を通報者に提示し、選んでもらうようにすれば、通報者の納得を得られやすくなるとともに、「勝手に不利益に繋がる対応をされた」等のトラブル回避にも繋がるのである。

3.小規模組織において内部通報制度は果たして有効か

 前項では、小規模組織において通報を上がりやすくするためのノウハウについて紹介したが、そのノウハウを実践していればコンスタントに通報が上がるかと言うとそうでもない。

 当社のリスクホットラインの状況を見ても、これまでにご契約いただいた100人未満の企業のうち、残念ながら数社が2、3年で契約を解消しているという事実がある。その背景には、導入当初は通報が上がって来る(100人規模の会社で初月に6件というケースもあった)ものの、その後、途絶えてしまい、定期的に周知活動を実施しても効果なく、最終的に費用対効果の面から契約解消に至るという流れがある。

 一括りに「小規模組織」と言っても、全従業員がワンフロアーにいる環境と、各拠点に分かれている環境とでは若干の違いはあるものの、組織が小さければ噂はあっという間に広まる。そのため、例えば、リーダー格の社員が「通報なんてする人の気が知れない」などと発言したり、制度を利用した社員が、結果に対する批判や不満を周囲に話したりすれば、それだけで組織全体の利用が抑制されてしまうことになる。

 内部通報制度の本来の目的は、「組織内のリスクを早期発見し→自浄作用を働かせ→組織の健全性を担保する」というものであり、社会的には2006年の新会社法の施行により、「内部通報制度の導入は義務化されたと考えるべき」とも言われている。

 しかしながら、前掲の状況に鑑みると、「小規模組織(特に50人未満の組織)において、内部通報制度は有効なツールか?」と問われたら、”YES”とは言い難い。小規模組織においてリスクを抽出するのであれば、年1回でも個別ヒアリング(できれば第三者機関による)を実施する方が効果的であるし、そもそも、50人未満の企業では経営陣と従業員の距離が近いことを考えれば、トップが健全な意識を持っていなければ何をやっても無駄であろう。

 「もちろん能動的にひっそりと声を上げる仕組み」はどのような組織でも必要ではあるとは思うが、小規模組織においては、トップが健全な意識を持って、ネガティブな意見や報告等にも耳を傾ける姿勢を常に示していくことが最重要であり、それが実践できている組織であれば、内部通報制度がなくともその目的を達成することができると考える。

 逆に、トップの目の届かない規模の組織で内部通報制度が機能している例は数多くある。次回以降では、機能しているケースについて検証・紹介したい。

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