リスク・フォーカスレポート

「事例から見る通報件数の推移と制度を形骸化させないポイント」

 企業の内部通報窓口のあり方について考えるシリーズの第4弾です。今回は当社の運営する第三者内部通報窓口「リスクホットライン」(以下「ホットライン」)契約企業のうち、従業員数1000人以上で契約年数の長い会社様の通報件数の推移等から、内部通報制度を形骸化させないポイントについて考えてみたいと思います。

1.事例から見る通報件数の推移
(1)サービス業の例

 以下のグラフは、全国に支店・営業所を展開する『サービス業』に分類される会社の過去10年間の通報件数の推移である。この会社の従業員数は、10年間で3000人から5000人超に増大しているため、今回は従業員数に対する通報比率ではなく、全体の通報件数の推移(流れ)とその背景にある状況を分析する形で傾向を検証してみたい。

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※グラフの数値は開始日から1年毎に区分した集計値です。

 この会社の場合、初年度の通報件数が54件と突出して多くなっており、そのうち15件はホットラインを導入した最初の1ヶ月間になされている。内部通報制度の導入当初に通報件数が多いのは一般的な傾向と言え、その理由としては、導入時に周知活動が実施されることで従業員の関心が高まり、それまでに職場で蓄積されてきた問題が集中的に通報されるためであると考えられる。ただ、この会社のケースでもう一つ特徴的な理由として、初年度と時を同じくして、大手企業の未払いサービス残業代の問題が新聞各社の紙面を賑わせていたことから、サービス残業関連の通報が多く上がったことが挙げられる。このように、社会的に関心の高い事件の発生や法律の改訂等に付随して通報件数が上昇することは、他社事例からも読み取れる傾向である。

 2年目に通報が急減する状況もこの会社に限ったことではなく、その理由は幾つかあるが、同社の場合、サービス残業問題が一定の解消を見たことが一番の理由と考える。

 その後、3年目以降は年間20件前後で推移している状況は、社内にホットライン以外の窓口を設けたこともあって、従業員数の増加率に対する通報件数の伸び率は低いものの、窓口の存在が社内である程度認知されている状態が維持されていることを示している。

(2)物販業の例

 以下は、広く店舗展開をする『物販業』の例である。この会社は、吸収・合併を繰り返し、規模を拡大させながら成長しており、初年度に約1000人だった従業員数は現在5000人を超えている。

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 この会社のグラフが波型を描いている理由は、従業員数が一定数以上いる企業と合併する機会毎に新しい企業側に対して社内周知活動を行なったことによるものと考えられる。

 なお、初年度の90件/1000人という数値はホットライン開設以来、未だに破られていない記録である。ちなみに、この年に会社が回答を出した回数は118回、ホットライン窓口と通報者とのやり取りは330回を超えている。初年度の通報件数がこれほどまでに多かった理由としては、90件のうちの半数以上が女性のパート従業員からの通報であったことから、それまで立場的に上層部に意見が伝えにくかった非正規雇用の従業員が集中して窓口を頼ったためと推測される。

 なお、アルバイトやパート等の非正規社員の雇用率が高く、従業員の入れ替わりが頻繁にある業態では、定期的な社内周知を行なわない場合、徐々に認知度が低下し、通報件数も徐々に減少していくことが当社の調査からわかっている。

(3)サービス業の例

 以下は、リスクホットラインの設置当初から従業員数が1000人強という水準を保っている、アミューズメント系の店舗を展開する会社のグラフである。

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※グラフの数値は開始日から1年毎に区分した集計値です。

 この会社においては、初年度の通報件数が突出して多くないことが特徴の一つであるが、各店舗にポスターを掲示する等、導入時の周知活動は他の企業と同様に行なっているため、その理由は今を以って不明である。

 一方、2年目から3年目にかけて大幅な伸びを示している理由としては、内部通報制度に関する意識調査(アンケート)を実施し、その結果を社内報で公表したことによるものである。なお、同社では先日、再度同様のアンケートを実施したため、今年度の件数は再び伸びを示す兆しがある。

 また、今回のアンケートの結果を拝見させていただいて驚いたのが、上記のアンケート以降、特段これといった周知活動をしていなかった(当社の知る限り)にもかかわらず、『窓口の存在を知っている』、『通報手段も知っている』との回答が84%と、予想を遥かに上回った点である。

 ただ、この結果を受けて改めて考えてみると、確かに同社の通報者は(リピーターでなくとも)対応の流れをある程度ご存知の通報者が多く、当社が第三者機関である旨等を一から説明するといったケースが少ないことに思い当たる。その理由(認知度が保たれている理由)は明確にはわからないが、内部通報制度を利用した際の印象や対応結果(ポジティブなもの、ネガティブなもの両方)等が従業員の間でしばしば話題になっている状況である点がその理由としては考えられ、前掲のアンケートの自由記述欄への回答や窓口に寄せられる通報者の証言からもそのような傾向が垣間見える。

2.窓口を形骸化させないポイント

 今回紹介させていただいた会社はいずれも、内部通報制度が社内に根付いている状況であり、通報によってコンプライアンス違反や職場環境の悪化を早期に発見し、自浄作用を働かせることができた事例も数多くある。また、パワハラやセクハラ、上司や同僚への不満等の人間関係に関する通報にも真摯に対応することで、少しずつではあるが職場環境が改善されている状況が見受けられることから、内部通報制度が根付いているだけでなく、同時に機能している状況にあると当社では捉えている。

 では、何故機能しているのか。まず、これらの会社に共通している点として、経営陣や窓口担当者が内部通報制度を重要なものとして認識していることが挙げられる。これが最も肝要なポイントであり、経営層に、内部通報制度および個々の通報案件を『重要なもの』として捉え、通報の内容や傾向を積極的に把握する姿勢がなければ、担当者の意識も薄れ、対応が疎かになることに繋がる。また、組織として通報への対応に必要な数の人員を配置しなければ、調査対応や通報者へのケアが追い付かず、会社と通報者双方にとって満足の得られない結果を積み重ねることになる。このように、経営陣をはじめ、組織全体で取り組む姿勢が無ければ、制度は形骸化の一途を辿るのである。なお、トップが、最初のうちは通報に興味を持って自身に直接報告させるものの、そのうち飽きてしまい「後はやっといて」という雰囲気になってしまったりするのも形骸化の一因となるので注意が必要である。

 もう一つ重要なポイントは言うまでもなく定期的な周知活動であり、その具体的な方法等については次回以降で触れることとする。その他、コンプライアンス違反等の事実が判明した場合の適切な懲戒手続きの実施なども必要である。

 最後になるが、内部通報制度が導入初年度からスムーズに機能することはない。前掲の会社においても、対応スキームを軌道に乗せるまでには時間を要したし、現在でも難しい通報には試行錯誤を重ねながら対応している状況である。内部通報制度は常に改善され続けるべきものである。そして、制度を良い形で進化させるためには、個別案件へのモグラ叩き的な対応に止まることなく、制度を組織全体の問題として捉え、運用上の問題点の洗い出し、自社事例や他社事例の検証、モニタリング(認知度調査/改善状況や報復行為のチェック)等を通じた内部通報制度独自のPDCAサイクルを構築していくことが不可欠であると考える。

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