リスク・フォーカスレポート

コンプライアンスやリスク管理に関するその時々のホットなテーマを、現場を知る
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「内部通報制度の必要性と制度を有効機能させるためのポイント」(2013.8)

「内部通報制度の必要性と制度を有効機能させるためのポイント」

 企業の内部通報窓口のあり方について考えるシリーズの最終回です。最終回である今回は、前回に引き続き、平成25年度版「公益通報者保護制度に関する実態調査報告書(※)」にあるヒアリング調査のコメントを交えながら、これまでの各回の主旨をまとめる形で企業の内部通報制度を有効に機能させるためのポイントについて解説させていただきたいと思います。

(※)「公益通報者保護制度に関する実態調査報告書」平成25年6月消費者庁消費者制度課

1.内部通報制度の必要性

 前掲の調査報告書(P.46)の、内部通報制度を導入していない中小企業等の方のコメントに以下のようなものがある。

      • 当社は小さいので、「そんなこと(内部通報制度の整備・運用など)やってられるか」という空気もある。浸透させなくてはならないが、お金を生まないことなので難しい面がある。

 ここで、内部通報制度導入の必要性に関する法的根拠について以下におさらいしておきたい。

(1)公益通報者保護法

 この法律において相談・通報窓口の設置は「努力義務」とされている。⇒会社が窓口を設置していない場合、社外(マスコミや行政機関等)に告発することが『当然』とみなされる根拠となっている。

(2)会社法

 内部通報制度は、会社法362条5項【取締役会の内部統制構築についての義務】に付随し、法務省令100条4項【内部統制の内容】にある「コンプライアンスを担保する体制」のコアとなる制度として認識されている。⇒2006年の(新)会社法の施行により、「内部通報制度の導入は義務化されたと考えるべき」とも言われている。

(3)改正男女雇用機会均等法

 2007年施行の改正男女雇用機会均等法11条1項でセクハラ相談窓口設置が義務化されている。⇒違反した事業者には企業名公表等の罰則あり。※セクハラ相談窓口と内部通報窓口を一本化している企業が多くなっている。

 以上の背景から、内部通報制度は、今や社会的に必要とされている制度であり、導入していない場合には、企業イメージの低下や、訴訟事案での敗訴等による経済的ロスにも繋がりかねない時代になっているということを押さえておいていただければと思う。

2.内部通報制度を有効機能させるためのポイント

 さて、ここからは内部通報制度を有効機能させるためのポイントについて整理して、できるだけ簡潔かつ具体的にお伝えしていければと思う。

(1)トップと経営陣の意識

 度々申し上げていることだが、内部通報制度を機能させるためには、トップが健全な意識を持ってネガティブな意見や報告等にも耳を傾ける姿勢を常に示していくことが最も重要であり、経営層に内部通報制度および個々の通報案件を『重要なもの』として捉え、通報の内容や傾向等の状況を積極的に把握する意識がなければ、この制度が本当の意味で機能するツールとして社内に根付くことはないと考えている。

 なお、トップ自らが、以下のような項目を定期的に社内に発信していくことも有効と思う。

①内部通報制度を重要な制度として捉え、コンプライアンス違反や職場環境を悪化させている行為があれば積極的に通報して欲しいと考えていること。(誰もが、気持ち良く働ける職場にすることも重要な目的の一つとしていること。)

②通報することを妨げる行為や通報者への報復行為、通報者を特定しようとする行為は厳禁とし、違反者は処分の対象としていること。

③通報への対応に際して、通報者が不利益を被ったり、不安な思いをしたりすることがないよう、会社として十分に配慮すること。

※上記の内容を、規程にも定めていくことを忘れずにお願いしたい。

(2)窓口担当者の心構え

 冒頭で紹介した調査報告書(P.52)のコメントに以下のようなものがある。

        • 寄せられる通報の8割以上が人事労務や職場環境に関すること。純粋な法令違反等の不正に関する通報は1割に満たない。

 上記のような状況は多くの企業に当てはまる。これまでの当社リスクホットラインの経験上、窓口担当者の心理の動きとしては、導入当初はどのような通報にも丁寧に対応するが、個人的な不満や我儘な通報が重なると、徐々にウンザリしてきて徐々に対応が雑になる傾向が見られる。気持ちは理解できるが、「いい加減な対応をされた」、「親身に話を聞いてくれなかった」、「回答がなかった」などという噂が広まれば、制度が機能しなくなるため、腹が立つような場面でも、できるだけ丁寧に対応されることを心掛けていただきたいと思う。なお、窓口担当者が信頼を失わないための手法として、通報者へ反論を返す場合にはご自身の言葉でなく、「会社の見解・回答」としてお伝えし、中立性を保つことが一つ、また、メールの返信案は一晩寝かせ、読み直して、感情的な面がないかを確認してから送信することも試していただければと思う。

(3)通報の受付範囲

 通報の受付範囲を法令違反等に限定しないことが窓口を活性化させるための勘所の一つであり、窓口が機能していれば重要な情報も上がりやすくなると当社では考えている。個人的な不満とも言えるような通報にも真摯かつ適切かつ丁寧に対処する風土が出来上がっている企業では、職場環境が年々改善されてきている状況が見られるのは紛れもない事実である。

 日々、上司や部下、同僚との人間関係は誰にとっても重要であり、関係が悪化した場合には大きなストレスとなる。法令違反等に関する通報だけでなく、個人的な不満や悩みのような人間関係に関する通報にも積極的に取り組むことが職場環境の改善に繋がり、ひいては従業員のモチベーションの向上に繋がると信じて取り組んでいただきたい。

(4)受付担当部門

「担当部門」については、総務部門に担当者を置いている企業は多いが、社内に窓口を設置する場合(特に小規模組織の場合)には、総務部門以外をお勧めしたい。なぜなら、総務部門は人事も扱うため、「自分が誰であるか知られやすい」、「通報したことで昇格・昇給等に影響が出るのではないか」等との不安に繋がりやすいからである。従って、ある程度独立した立場の方を担当者に置くことが望ましく、比較的上手く機能している例では、コンプライアンス室や内部監査室、危機管理室、常勤監査役等に設置しているケースが挙げられる。もちろん、弁護士事務所や通報受付専門会社等も有効である。

(5)窓口担当者の人数

 組織として通報への対応に必要な数の担当者を配置しなければ、調査対応や通報者へのケアが追い付かず、会社と通報者双方にとって満足の得られない結果を積み重ねることになる。なお、小規模の組織であっても、窓口担当者はできれば2名以上配置されることをお勧めする。理由は、通報件数にもよるが、幹部から「秘密厳守だぞ!」などと言われ誰にも相談できず、一人で対応し、一人で悩み、担当者自身が体調を崩してしまうケースがあるからである。真面目に、真摯に対応しようとする担当者ほどストレスを溜める傾向にある。「一人では無理」、「通報対応も組織的な課題」というご認識のもとに体制を整備していただければと思う。

(6)周知活動

 一概に通報件数が多ければ良いというものではないが、従業員の入れ替り等によって認知度が下がったり、その主旨を適切に理解されていないがために制度が利用されないのであれば、内部通報制度導入の効果は望めない。内部通報制度は、導入初年度の通報件数が一番多く、年を追うごとに減少するのが一般的な傾向であるが、ポイントとなってくるのは、2年目、3年目以降も一定数の通報件数を保てるかどうかという点である。組織規模や業態にもよるが、当社のリスクホットラインの運用状況から判断すると、100名あたり年間1件程度の通報が上がって来る状況をキープすることを一つの目安としていただければと思う。100名以下の組織でも、いざという時に窓口の存在を思い出してもらえるよう、定期的な周知を怠らないことが肝要である。なお、従業員の出入が激しい業種では、新人や中途採用の従業員にも漏れなく知らせることを忘れずに実施することが大切である。

(7)周知方法

 周知方法としては、ポスター/イントラネット/社内報/社内研修/携帯用カード等が一般的だが、携帯用カードについては、蛇腹の折りたたみ式にして、社是や倫理綱領等と併せて通報窓口の利用案内を載せることもお勧めである。なお、そのようなカードを休憩室など、従業員であれば誰でも手に取れる場所に常備しておくのも良いと思う。また、通報件数が低迷するようになった場合には、窓口の浸透度合いや理解度、利用したくない理由などを収集するアンケートを実施し、その結果を社内報やイントラネット等で公表すると、通報が増えることは実証済みである。

(8)違反者への処分の実施

 コンプライアンス違反等の事実が判明した場合、問題の対象者に対し、適切な懲戒手続きを実施することも重要である。社会通念上、明らかに問題と思う言動をした対象者に会社として何の対応もしなければ制度自体が信用を失うことになる。なお、通報の対象となった人物への処分内容を通報者にどこまで伝えるかはケースバイケースであるが、会社としての一定の基準(減給以下は開示しない等)を定めておくと、通報者にも説明しやすくなると言える。

(9)通報への対応体制

①通報者・相談者との面談の実施

 氏名を開示された案件において、気持ち良く「解決」と言えるケースを増やすことができれば、制度や会社に対する信頼性は徐々に向上する。ある企業の例で、ほぼ全ての通報者へ面談を打診する方針をとり、通報者の7割以上がそれに応じている会社があり、面談を実施した場合には、明らかに「解決」に繋がるケースが多くなっている。このことは他社でも実証されている。ついては、皆さまの会社におかれましても、今後、積極的な面談の実施をご検討いただければと思う。

②我儘な通報者や自身に問題がある通報者への対応

 「通報者自身に問題があれば、その点を率直に指摘し、改善を求める一方で、会社として手を打つべき問題点にはしっかりと対応する」という流れで通報者に納得いただくことが理想かと思うが、納得を得られないケースは多い。そのような場合の対応として、通報者が納得するまで何ヶ月でも付き合う方針の企業もあれば、我儘な通報者の案件は、会社としてやるべきことをやった段階で打ち切る方針の企業もある。この方針はケースによって使い分ければ良いと考えるが、いずれの場合も重要なのは、「会社としてやるべき対応(手順)を確実に実施し、その記録を残しておくこと」である。

③匿名であっても通報者が特定されるような通報への対応

 いくら匿名で対応しても、調査の過程でどうしても通報者が特定される事案は少なくない。そのようなケースでは、予め対応案を通報者に提示し、選んでもらうようにする方法が有効であり、そうすれば、通報者の納得を得られやすくなるとともに、「勝手に不利益に繋がる対応をされた」等のトラブル回避にも繋がる。また、「匿名でも通報者が特定される可能性がある旨をあらかじめ通報者に伝える」というステップは非常に重要であり、これを伝えた上で、本人の要望を確認しながら対応方法を固めていくこともトラブルの少ない対処法である。

④リピーターへの対応

 当社のリスクホットライン利用者の中にリピーターがしばしば存在する。同じ方から3回以上通報があった場合、匿名であっても(文面や主張内容から)、企業のご担当者が「同一人物」と判断されるケースは少なくない。ご判断されることに問題ないが、完全に虚偽の通報を繰り返すようなリピーターでない限り、「またこの人か…」という先入観を持たず、訴えている内容に注目していただけるようお願いしたい。

⑤メンタル不調に陥っている相談者

 労働安全衛生法や労働契約法の「職場の安全配慮義務」等の観点からも、組織としてメンタルヘルスへの取り組みに力を入れることが求められている。企業として従業員が働きやすい職場づくりに注力していれば、労災の防止ひいては労災トラブルの防止にも繋がり、万一、提訴された場合にも敗訴するリスクは確実に低減する。なお、厚生労働省は、障害者の職場適応および障害者の雇用促進と安定を目的として「ジョブコーチ支援制度」という制度を設けている。この制度を活用し、よりよい職場づくりに取り組んでいただくことを一案としてお勧めしたい。

【ジョブコーチ支援制度について】

3.最後に

 内部通報制度が導入初年度からスムーズに機能することはない。現在、制度が機能しているクライアント企業においても、対応スキームを軌道に乗せるまでには時間を要したし、現在でも難しい通報には試行錯誤を重ねながら対応されている状況である。

 内部通報制度は常に改善され続けるべきものである。そして、制度を良い形で進化させるためには、個別案件へのモグラ叩き的な対応に止まることなく、制度を組織全体の問題として捉え、運用上の問題点の洗い出し、自社事例や他社事例の検証、モニタリング(認知度調査/改善状況や報復行為のチェック)等を通じた内部通報制度独自のPDCAサイクルを構築していくことが有効である。皆さまの会社におかれても、是非、前向きに取り組んでいただければと思う。

 リスクフォーカスレポート内部通報編の連載は今回を以って終了となります。このレポートが少しでも皆さまのお役に立つことができたのであれば幸甚です。

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