リスク・フォーカスレポート

防犯編 第一回(2013.12)

2013.12.25
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 今月から第4週目のリスク・フォーカスレポートは「防犯編」となります。本レポートでは、特に”万引き”について考察していきたいと思います。

 私は、いわゆる「万引きGメン」と呼ばれる警備業務を行った経験があり、小売店舗内において万引きなどの不法行為者の警戒・対応を行っていました。

 そのため、小売店舗内で発生が想定される各種犯罪など、外的要因や内的要因から生じる各種事案の経験をしたり、あるいは見聞してきましたので、小売店舗に関わる犯罪に関しては、一般のお客様等とは違う認識・視点を持っており、様々な角度から考察できると考えています。

 まず、今回は、万引きの実態についてみていきたいと思います。

1.社会全体における万引きの実態

1)万引き犯の傾向

 警察庁が公表している「平成24年の犯罪情勢」によると、刑法犯全体の認知件数は、平成15年の2,790,136件をピークに毎年減少しており、平成24年は1,382,121件とほぼ半減しています。また窃盗犯の認知件数も同様に、平成15年の2,235,844件から平成24年は1,040,447件とほぼ半減しています。

 罪種別に「万引き」の認知件数をみると、平成15年の146,308件以降では、平成24年の34,876件が一番低い数値となっています。しかし、上記の刑法犯全体が毎年減少している一方、実は万引きは増減を繰り返しており、ほぼ横ばいの結果となっています。数値だけで見れば平成22年以降は減少傾向にあり、平成15年以降では平成24年の数値が一番低くなっているため、減少しているとも捉えられますが、刑法犯全体の減少率と比較して、万引きの減少率が低いため、刑法犯全体の中では、万引きの占める割合が上昇する結果となっています。

 このような中、最近では高齢者の万引き検挙数が上昇傾向にあることが社会的な問題となっており、度々ニュース等で報道されています。上記報告書からは、万引きの年齢別検挙人員において、平成23年以降高齢者(65歳以上)の数が、未成年者(14歳~19歳)の数を、上回っている実態がわかります。

 未成年者の検挙数は、平成15年以降、増減を繰り返しながら全体的に減少傾向にあり、平成15年の38,709人以降では、平成24年の19,673人が一番低い数値となっており、平成15年比でほぼ半減しています。

 一方の高齢者は、平成15年以降、年々増加を続けており、平成15年の17,456人から、平成24年には28,673人となり、未成年者の数と逆転していることがわかります。

 平成25年(1月~11月【暫定値】)の状況をみてみると、対前年同期比で、刑法犯認知件数は5.1%減の1,214,004件、検挙件数は11.2%減の240,584件となっています。その中で、万引きの認知件数は6.6%減の115,966件、検挙件数は8.3%減の83,423件との結果であり、減少の傾向が明らかです。

 また、刑法犯の「万引き」以外の罪種においても、高齢者の犯罪が増加傾向を示しているも罪種もありますので、「万引き」だけに限らず、全体的な傾向といえます。

2)高齢者による「万引き増加」の問題

 上述の通り、高齢者の万引きは増加傾向にありますが、行政や民間がそれを黙って見過ごしているわけではありません。平成25年12月に開催された、「第9回東京万引き防止官民合同会議」において、高齢者の万引き増加を受けて「高齢者万引き調査・分析委員会(プロジェクト)」を来年早々に開始するとしており、行政と民間が力を合わせて対応を初めようとしている姿勢が伺えます。

 ※「東京万引き防止官民合同会議」とは、警視庁が万引きに関する総合的な対策を推進するため、警察、自治体、各業界団体、関係機関・団体等が相互に連携した取組を展開するため、「東京万引き防止官民合同会議」を設置し、万引き防止対策に向けた会議を開催しています。

 全年齢を対象にした調査や、少年に限定した調査は多数行われて来ていますが、高齢者に限定して万引き調査を行うのは珍しく、高齢者に焦点を当てた調査を行い、正確な実態を把握・分析し、有効な対策を講じるために行うとしています。

 また、全年齢を対象とした「万引きに関する調査研究報告書」の中でも、高齢者の実態について言及しています。同報告書の中では、万引きを行い、検挙された高齢者の実態を以下のように報告しています。

① 8割が所持金を持って犯行に及んでおり、他の年代に比べるともっとも多い結果となっており、このことは、高齢者の万引きが困窮だけに起因するものではなく、規範意識の低下も一因となっている。

② 困窮だけに起因するものではないといっても、やはり生活は決して裕福なわけではなく、さらに友人の数が「いない」「少ない」の比率が成人と比べて上昇し、悩み事の相談相手がいないなど孤独感が深まっており、3人に1人が「生き甲斐がない」「孤独」を万引きに至った心理的背景と回答している。

 上記報告では、高齢者が「万引き」を行う背景要因に、「規範意識の低下」や「心理的孤独感」があるとしていますが、所持金を持っているのに犯行を行っている実態を考えると、他の年齢層とは違う、もっと根深い要因があるように思われ、考えさせられます。

 一般的には、「万引きを行うのは規範意識の低い人」とする考えがありますので、特に未成年者を対象としている調査が多く、対策なども未成年を対象に策定していることが多いようです。

 しかしながら、平成23年以降は、万引きを行う高齢者数が未成年者数を上回ったことで、「規範意識の低下」が若年層だけではなく、高齢者層にまで広がって来ているとも考えられますが、どうも「規範意識」への対策だけでは済まないように思われます。ある程度見識のある高齢者に対して、どのような対応・対策をするのが適切なのかを真剣に議論する必要がありそうです。つまり、心理的背景からも犯行に及んでいる実態を考えますと、これから、ますます高齢化社会が進んで行くことを踏まえて、社会全体で考えていかなければいけない問題といえます。

2.小売店舗における実態

 小売店舗において、なぜ防犯対策が必要なのかを考えてみますと、犯罪によって小売店側が被害者となり、各種ロス(収益性の低下)が発生するためです。様々な発生要因に合致した各種防犯対策を講じ、収益性の向上を図っていくことが必要です。

 それでは、次に小売店舗の実態調査からみえてくる、ロス対策について考えてみます。

 官民が合同で行っている実態調査「第8回全国小売店業万引被害実態調査(以下「万引調査」)」が、小売店舗の万引き被害実態を把握するため、アンケート調査を実施し調査結果を公表しています。

1)小売店舗の不明ロス

 万引調査の全回答企業625社から有効回答300社の決算年度における年間不明ロス(万引以外も含む全ての不明ロス)を年間総売上げに対する構成比でみますと、平均値は”0.57%”(前年比+0.13%)となっています。

 また、売上高に占める不明ロスの構成比が高い(1.00%以上)業種は、1位「服飾・服飾雑貨」1.33%(+0.61%)、2位「ホームセンター・カー用品」1.12%(+0.21%)、3位「ドラッグストア」1.02%(▲0.1%)となっています。

 ※( )内の数値は、前回調査の1社平均からの増減値、以下同様

 次に「不明ロス金額の原因」に関する回答企業各社(有効回答357社)の回答を「原因」別に5分類して、各社毎に回答された推定割合を平均すると、(1)「万引き」37.0%(+1.1%)、(2)「管理誤り」28.0%(▲4.2%)、(3)「不明」29.0%(+5.3%)、(4)「従業員窃盗」5.0%(▲0.8%)、(5)「業者不正」1.0%(+1.4%)となっています。

 上記の「原因別推定割合」の回答企業平均から、(2)「管理誤り」と(4)「従業員窃盗」に着目すると、その合計は”33.0%”となり、「万引き」(37.0%)と近似値になります。また、当該「万引調査」による数値は、回答企業の”推定”によるものですが、(3)「不明」とする数値が高い(29.0%)のに対して、(4)「従業員窃盗」が低い(5.0%)ことに留意する必要があります。

 企業の内的要因ロス(内部不正)に対する考え方として、「従業員を疑いたくない」「会社内での不正は恥である」などの意識が働き、「従業員の不正は(存在しても)認めたくない」との本音や動機が先行し、社内的に認知していない現状(認知しないようにする風土)があるものと考えられるのではないでしょうか。そのため(3)「不明」や(2)「管理誤り」の内数のなかには、本来(4)「従業員窃盗」に振り分けるべきものが含まれていると考えても不自然ではないように思われます。

 一方、米国のある調査によると、2011年小売業の売上げに対する不明ロスの構成比は、”1.41%”(昨年比▲0.07%)であり、先の「万引調査」とほぼ同様のロス構成比5分類別で見ると、(1)「社員による盗難」43.9%、(2)「万引き」35.7%、(3)「書類ミス」12.1%、(4)「サプライヤーの詐欺」5.0%、(5)「不明」3.3%となっています。

 この日米の両調査は、単純に比較することはできませんが、最も注目すべき点として、日本の「従業員窃盗」5.0%に対して、米国の「社員による盗難」は43.9%と、非常に大きな開きが見られます。

 この日米間の”内部不正”によるロス率の大きな乖離は、もちろん国民性や犯罪発生率(※1)などの相違から来るものと考えられます。また、それ以上に両国間の「不明」に対する回答値の相違(日本29.0%、米国3.3%)も注目されるところです。

 何故日本では、「不明」や「管理誤り」とする回答割合が高い数値となっているのかを考える必要があります。

 最近の社会的背景や企業の危機管理の観点から、経営者を含めた企業関係者の間では、不正対策についての関心が高まっています。また、企業不祥事も相変わらず続発していることから、従業員等による不正に対して、きちんと目を向けて対応して行くことが重要です。

 ここまでに述べてきたように、小売店舗において発生するロスには、外的要因(万引き・業者不正)によるものと内的要因(従業員不正・管理誤り)による2つの側面が見出せます。ロス構成比全体のなかで外的要因が高い状況はご理解頂けるものと思いますが、それ以外の内的要因によるロスもこれらから軽視できない水準にあることも、また認識すべき点です。

 そのため、各企業において、「防犯対策」を考え・実施する時には、外的要因だけでなく、内的要因も含めて、総合的な対策を実施していくことが重要であると考えられます。

 次回は、小売店舗が実際にどのような防犯対策を行っているのかをみて行きたいと思います。

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