リスク・フォーカスレポート

緊急事態対応の理論と実際編 第二回(2014.5)

2014.05.21
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 前回は、緊急事態対応の失敗に、如何に密接に広報対応が関係しているかを見てきました。その関係性・連動性は、局面ごとに多様かつ複雑であり、その両者間には、当初は繋がっていない回路も、何かの拍子ですぐに結び付けられてしまいます。この連載では、それらの現象をマクロ・ミドル・ミクロの各領域から都度解説していきますが、今回から数回は、緊急事態対応のプロセスを追っていきます。

第2回「緊急事態対応のプロセス~認知から初動へ(事故・災害編)」

二つの緊急連絡網

 前回も述べましたが、企業側に用意されている「緊急事態対応(危機管理)マニュアル」には、対策本部の設置要領や設置基準の前に、緊急連絡網発動に関する記述があるはずである。緊急連絡網には二種類ある。まず、一つ目は緊急事態が発生したこと(事実)を社内外関係者(ステークホルダー)に連絡・告知するための連絡網である。これは、発生した事実をとにかく迅速に関係者に伝達するため、事態発生の第一報と早期の警戒警報が含まれる。そのため、同時に自動的に緊急事態への社内の対応体制の準備に入ることを要請する。

 その要請を受けた形で、対策本部立ち上げの連絡と対策本部メンバー召集のため、もう一つの緊急連絡網が発動される。この二つの連絡網は、ともに事前に整備しておく必要がある。また、緊急連絡は平日の昼間にあるとは限らず、それこそいつ入ってくるか分からない。深夜・早朝であったり、休日であったりする。そのため、それぞれの連絡網がカバーする範囲ならびに連絡の優先順位、連絡が取れない場合の代替手段や、飛び越え連絡方法などまで含めて、社内関連文書に明記し、周知徹底しておかなければならない。また、定期的(一年毎など)に内容を更新することが重要である。

 緊急事態には、事件・事故・災害・不祥事・スキャンダル等広範な事態が含まれるが、それぞれ発生形態が異なるため、その後の認知や発覚、それに続く初動の様態も異なってくる。この初動の様態の違いが、緊急事態対応プロセス全体の巧拙を決定付ける。より明確にいえば、成功と失敗の分岐点とすらなるのである(これについては別途詳述する)。

 個々の事象を一つひとつ詳細に分析する紙幅はここではないので、今回は緊急事態となる対象を大きく「事故・災害」と「不祥事・スキャンダル」に二分類して考察していく。

「事件」は様々な事象に幅広く呼称されるし、一つの「事件」のなかに、天災と人災の二つの要素が複雑に入り組んだり、この二つが併発・誘発するケースが多々あるので、ここでは、「事件」としてのカテゴリーは一旦措いて論を進めたい。

「事故・災害」の発生と認知

 まず、前者の「事故・災害」から始めよう。これは「大事故・大災害」と捉えた方がより分かりやすいだろう。具体的には、生産拠点の爆発火災や原発事故、それらに伴う有害物質の大量流出と、航空機の墜落事故・船舶の沈没事故など、そして地震・津波・台風・パンデミックなどが含まれる。これだけ多様な事象を一括りにするのはやや無理な面もあるのだが、緊急事態としての発生後の時間軸のなかでの共通項を分析していきたい。

 共通項としては、いわゆる第一報の入り方に見られる。もっと詳しく見れば、その情報(すでに”何が”と”どこで”が含まれるが、”何故”は確定されていないことが多い)が、”どこ(誰)から”、”どのルートで”、”どこ(誰)へ”、そして、”いつ”入ってきたかのバリエーションがある一定の範囲内に収まっている点に見出せる。

 通常は、前述の一つ目の緊急連絡網に沿った情報の吸い上げと共有システムとして見られる。言ってみれば、自前の情報収集システムを頼りとしていることになる。しかし、これらの「事故・災害」については、”頭”に「大」が付くレベルであることはお断りしてある。

 そのレベル感に「第一報の入り方」の要素に、”いつ”が入ってくる理由がある。「大事故・大災害」の場合は、自前の一つ目の緊急連絡網からの情報が、必ずしも正確な意味での第一報とは限らないのである。それ以前に、すでにテレビ、ラジオ、インターネット、SNS、各種メール・電話、口コミによって、すでに企業中枢部の知るところとなっている場合が少なくない。

 テレビであれば、発生と同時に、ほぼリアルタイムでテロップが流れ、その後ラジオも含め、緊急放送に切り替わることになる。そこでは、すでに被害状況が画面に映し出され、発生事態に関する報道が始まっている。関係諸官庁や専門機関。専門家のコメントも流される。やや遅れて、新聞が号外を出す、それらすべてをネットが追い掛け、カバーし、瞬時に全世界に拡散していく。

 このような状況を呈するだけの「大事故・大災害」なのである。したがって、そのような状況にあっては、「自前の一つ目の緊急連絡網からの情報が、正確な意味での第一報」であったとしても、”一つ目の緊急連絡網”内での順位でしかなく、それに続く第二報、第三報との時間差はほとんどないか、リアルタイムなのである。

 例えば、当該連絡網の発動起点者以外の社員が、前掲のような各種メディアからすでに情報を得ている場合も十分考えられる。その場合は、どれが第一報なのかは、最早判然としない。さらには、第一報通報者が第一情報探知者なのかどうかは分からないし、ましてや、彼とて純粋な第一発見者として現場にいたとは限らないのである。テレビやネットから、たまたま他人より早く情報を得ていただけのことかもしれないのである。つまり、「事故・災害」の発生と認知は、ほぼリアルタイムと考えられるのである。

 このように絶え間なく続報が発せられ、そのなかには誤報やデマも混じり込み、ますます情報が混乱・錯綜・拡散していく状況は、まさに情報の”大洪水”である。”大洪水”といいながら、何故、”「事故・災害」の第一報の入り方のバリエーションがある一定の範囲内に収まっている”と規定したかというと、時間経過とともに、多種多様な情報が錯綜していながらも、その”錯綜の仕方”が大枠で一様だからである。

初動の着手(「事故・災害」)

 さて、この情報の”大洪水”のなかで、行き先を見失わず、漂流しないためにはどうすればよいのか。まず、重要となってくるのは、当該企業の社員であれば誰でも、どこにいても、当該緊急連絡網の発動起点者になり得ることを認知させ、自分が知り得た”第一報の可能性が高い情報”をいち早く連絡網に乗せ得る資格があることを「緊急事態対応(危機管理)マニュアル」に明確に記載しておく必要がある。

 そこで次に、初動の領域に踏み込む(初動については追って詳述)ことにはなるが、この時点で、すでに膨大な情報が溢れかえっているため、情報の集約・整理・確認・精査が必要となってくる。一つ目の緊急連絡網からの”第一報(僅かな差の第二報でもよい)”に対して、早急に求められるリアクションとして最優先されるのは、被害状況と社員の安否などの確認作業である。

 因みに、マスコミはこの確認情報を必ず企業側に求めてくる。企業側は正確な数値を持ちあわせていなくても、また持っていながら公表しなくても、メディアは各種情報源からの推計値を必ず報道する。それは、当該発生事態の規模と影響を確定するためであり、それを広く社会に知らしめるためである。それだけの「大事故・大災害」なのである。

 この段階になると、ほぼ並行して二つ目の緊急連絡網が、対策本部立ち上げの連絡とメンバー召集のため発動されているはずである。したがって、情報の集約・整理・確認・精査の各作業はそのまま対策本部に引き継がれる。

 さらに、対策本部は被害拡大防止のための対策実施や、事態の早期収束のための対応策検討、そのための各ステークホルダーとの連絡・調整・協議・コミュニケーションを図っていく。つまり、初動の引き継ぎから本格対応策の策定・実施へと軸足を移していくことになる。

 原因究明については、「事故」であれば、当然のことながら、警察・消防が入ってくるので、その結果を見なければならない。ポイントは、その「事故」の発生が各種企業努力にも関わらず不可避であったかどうかにある。逆に、その生産拠点のマネジメントや安全管理・事故防止対策・勤務実態等に不備や瑕疵・不適切さが認められれば、当該企業への法的責任・社会的責任の追及の様相が一気に変わってくる。

 つまり、「事故」の原因が明らかになれば、責任の所在も明らかとなり、処分の枠組みや軽重も決定される。さらに、再発防止の方向性も決まってくる。「事故」の場合は、人災の要素の入り込み度合いに関わらず、原因究明が社内調査に止まらず、公的機関の検証・捜査が重なるため、曖昧になることは極めて少ない。

 ただ、別の視点から述べると、「事故」発生に関する人災要素の混入割合によって、加害者リスクと被害者リスクをどこで線引きするかが決まる。「事故」による被害者が出ていれば、その数に関係なく、当該企業は加害者サイドに立たざるを得ない。”人災”と”加害者”の相関は極めて高い。

 ただ、輸送機器の事故の場合、被害者とその運行会社のみならず、間に旅行代理店や輸送機器メーカーなどの情報が、普段からの運行状況や整備状況などとともに、”大洪水”を生む要因として加わる。やはり、公的事故調査委員会などの調査結果を待つ必要があるが、その間に、原因・責任ともにかなりの確度で報道されている可能性が高い。これは、情報源は内部関係者が多いことにもよる。したがって、結果的には”人災”と”加害者”の関係性は、浮き彫りになることが多い。

 次に、「災害」の場合はどうか。ここでは混乱を防ぐため、対象を自然災害・天災に絞ることにする。緊急連絡網の話に若干戻れば、特に、自分が被災地の中心にいたり、周辺であっても広域災害が影響する範囲内にいれば、緊急連絡網からの第一報を受けるまでもなく、自分自身が「災害」の発生をリアルタイムで直接、肌で感じ取っているわけだから、まずは自身の身の安全を図るための行動に出る。

 その際、一人ひとりの社員の役割・立場に関わらず、緊急連絡網の発信者になったり、受信者になったりする。これを安否確認のための三つ目の緊急連絡網と呼んでもよい(元データは、一つ目の連絡網と同一でもよい)。被災状況に応じて、即、BCPが発動される企業もあるだろう。但し、安否確認に関しては、多くの人が社用の連絡の前に、家族への安否確認を優先しているはずである。

 さて、原因究明において「事故」と「災害」の違いは明白である。自然災害・天災の根本原因を文明にまで遡ることは、ここでは一旦措く。また、原発事故による放射性物質の流出・拡散についても、国のエネルギー政策に直接関わることなので、これも一旦措かせて頂く。天災が人災ではなく、あくまで天災ある以上、原因は明らかである。言うまでもなく、それは地球の物理的現象・活動だからである(パンデミックは除く)。

 これに人災要素が入り込むとしても、国・自治体レベルと企業レベルの仕分けは難しいところである。むしろ、両者の連動・連携・共同が求められるからである。敢えていえば、前者の国・自治体については、都市計画・防災対策(建物の耐震化、防火化、交通網整備、防波堤の高層化等)の不備、発生予測結果の無視・軽視、避難勧告の遅れ・避難誘導のミスなどが挙げられる。

 後者の企業レベルに関しては、自社施設・設備の耐震化未着手、緊急連絡網の未整備、BCPの未作成、復旧活動への非協力などが、人災要素として挙げられるだろう。

 むしろ、被災時には民間企業といえども、各局面における社会的貢献・準公的支援が求められることを忘れてはならない。

 因みに、パンデミックの場合は、無理な出社をさせたことが被害を拡大させることになるので、人災として非難を浴びることになる。

 次回は、「事故・災害」と同様に、「不祥事・スキャンダル」の発生や認知のプロセスを詳細に検討していこう。

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