リスク・フォーカスレポート

緊急事態対応の理論と実際編 第三回(2014.6)

2014.06.18
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第3回「緊急事態対応のプロセス~認知から初動へ(不祥事・スキャンダル編)」

「緊急連絡網」を介さない緊急連絡

 「不祥事・スキャンダル」が発生した場合も、前回取り上げた「事故・災害」と同様、直ちに緊急連絡網を発動させ、社内関係者に連絡を入れなければならない。ただ、「事故・災害」の場合と違い、社内外関係者全員に情報を周知・共有させ、警戒を発するかというと必ずしもそうではない。否、近々、結果的にはそのように周知されるのだが、まずは社内でのごく少数の関係者のみが関知し、共有することになる。問題の特殊性によっては、そのメンバー間で緘口令が敷かれることもある。緘口令を敷くことの”是非”は、大まかにいえば、ケースバイケースで判断される。

 仮に、”是”とした場合でも、その期間が長期に亘ることは基本的には許されない。”是”である場合であっても、許容されるのはせいぜい短期間である。それでは、短期間とはどの程度のことかとなると、これまた難しい。感覚的には、数週間から数カ月レベルといったところであろうか。

 別の言い方をすれば、緘口令が敷かれた当該の「不祥事・スキャンダル」が”発覚するまでの期間”ということになろう。それよりやや長いスパンで見れば、”事件化するまでの期間”ともいえるし、さらに若干長いスパンを取れば、”会社の対応方針が決定するまでの期間”と見ることもできる。つまり、”発覚”して、”事件化”され、”会社の対応方針が決定”された後も、引き続き、緘口令を敷くことは、企業の社会的責任や説明責任の観点からして、あり得ない。

 数年間にも亘る長期間、緘口令が敷かれている状態とは、その「不祥事・スキャンダル」が、当該企業にとってタブー・聖域になっていることを意味する。逆説的に言えば、長期間に亘る緘口令下では、当初情報を共有している少人数のメンバーは拡大・拡散しており、すでにその本来の緘黙効果を喪失していることが多い。

 最早、タブーでないタブー、聖域でない聖域、つまり「公然の秘密」になってしまっているのである。この場合は、長年に亘る緘口令を厳守できるだけの社内体制が堅持できなくなっているため、一度綻びが生じると、長年マグマのように溜まっていた噂話から不平・不満までが一気に噴出して、噂話の信憑性を高め、「不祥事・スキャンダル」が”事件”として表面化するプロセスを経るのである。

「不祥事・スキャンダル」の発生と認知

 それでは、緘口令を敷かれた(敷いた)当初の少数の社内関係者は、当該の「不祥事・スキャンダル」をどのように認知するのであろうか。これも「事故・災害」と同様、どのような形・経路で第一報を入手するかに関わってくる。

 その前に、まず「不祥事・スキャンダル」には、どのような事例が含まれるかを見ていこう。大別して、社員・役員が関わる「経済犯罪」と「一般犯罪」、さらに「人権問題」の三つに分けられる。「経済犯罪」には、不正会計・脱税・循環取引・インサイダー取引・独禁法違反・使い込み・流用・各種表示偽装・詐欺的商法・顧客情報/機密情報の漏洩・贈賄/過剰接待・反社会的勢力との各種取引行為などが含まれる。

 「一般犯罪」には、殺人・放火・誘拐・詐欺・窃盗・ストーカー・暴力行為・覚醒剤等の使用・賭博・レイプ・売買春・痴漢行為・盗撮・ネットへの不正投稿などが含まれる。

 そして人権問題には、セクハラ・パワハラなどのイジメや嫌がらせ、賃金・労働時間・待遇などの労務問題が含まれる。

 今回、”緊急事態”を「事故・災害」と「不祥事・スキャンダル」に二分類して考察していくことをお断りした。「事件」を敢えて外したのは、「事件」という事象ならびに呼称そのものが持つ経過の流動性と展開の多様性を兼ね備えており、「事件」としての区分の一括性が馴染まないためであった。しかし、「不祥事・スキャンダル」として掲げた上記の各種事例を考慮すれば、一つひとつが「事件」と限りなく親和性が高いことが認められる。

 「事故・災害」と同様に、「大」を接頭すればより分かりやすいが、この場合は「一大」とした方が相応しいであろう。即ち、「一大不祥事・一大スキャンダル」になる。

 これらの各種事例が、積年の社内の悪弊から発したものであったり、組織ぐるみであったり、トップが関与しているなどの場合がこれに該当する。

 さて、やや前置きが長くなってしまったが、このような特徴を有する「不祥事・スキャンダル」の発生と認知に戻ろう。発生と認知に時間差があるのは仕方がない。発生直後に第一報を入手できるとは限らないからである。「不祥事・スキャンダル」に関しては、発生後の時間経過と第一報の入手経路の組み合わせを勘案しつつ、「一大」にまで発展する可能性まで念頭に置いて考えてみよう。

 まず、第一報の入手先は大きく分けて、社内と社外である。社内での情報入手ルートは、それぞれ重複する部分もあるのだが、大まかにいって、当事者の自供・内部通報(含.顧客や取引先)・内部監査/社内調査の三つである。一方、社外は報道・ネット・行政機関(含.告発に基づくケース)からの三つに大別される。

 例えば、一社員が痴漢行為を働いていたとしよう。しかし、彼は反省し、自分の上司に事実を告白した。上司は、早急に然るべき対応・措置を取り、彼は処分を受ける。この場合、痴漢行為の程度や頻度によって、処分の軽重が決まる。被害届が出ていれば、尚更であるが、警察に自首させて、懲戒解雇にすれば、一応この件は形の上では落着である。

 つまり、最初の犯行から社内ルートである自身の告白まで、どの程度経過しているかにもよるが、発生と認知の時間差は比較的小さくて済む。社外ルートである現行犯逮捕の場合でも、ほぼその時間差はない。また、当然社内処分も同一であろう。

 このケースでは、情報入手ルートが社内であれ、社外であれ、企業側が最も気にするのは、警察が容疑者の所属企業名を公表するかしないか、また、そのどちらであっても、幾つのメディアが報道して、報道したメディアのなかでも、所属企業名を出すのか出さないのかである。

 もちろん、企業名が公表され、さらに報道されれば、それなりのダメージを被ることにはなるが、対象が軽微な犯罪であれば、特殊な人間(容疑者)が犯した稀な事案ということで、企業イメージにリンクされることはほとんどない。

 このケースで「不祥事・スキャンダル」レベルを増大させるパターンは、以下の二通りである。一つは、彼の自宅を家宅捜索した際に、大量のAVビデオや盗撮写真などが発見・押収された場合である(但し、この場合、彼は告白も自首もなく逮捕されているであろう)。

 もう一つは、彼の逮捕後、同種犯罪の別の容疑者が同じ会社から出る場合である。

 どちらのパターンであっても、上記の軽微な犯行の場合と違って、警察の発表が複数回に亘り、それに伴いマスコミの報道も継続することになる。

 そうなると、一部メディアが報道し、さらにその内の一部メディアが社名を出したというレベルに止まらず、全メディアが社名入りで報道することになる。しかも複数回である。

 これが「一大不祥事・一大スキャンダル」に発展していく一つのメカニズムである。ただ、このような展開になると、企業側も「発生と認知」のセットを、その都度(事案)毎に把握していかねばならず、(○○会社の連続事件の)全体像としての「発生と認知」の時間差は当然大きくなってしまうことは避けられない。

初動の着手(「不祥事・スキャンダル」)

 社内での認知は、どの情報入手ルートであれ、入手が早ければ、早いほど迅速な対応が可能である。「不祥事・スキャンダル」レベルを下げることすらできる。また、隠蔽の意図があろうとなかろうと、結果的には、大して話題にもならず、内々に、穏便に事を済ますことも場合によっては可能である。しかし、社外からの情報入手ルートの場合はそう簡単にはいかない。主たるルートは、報道・ネット・行政機関(含.告発に基づくケース)であった。

 行政機関ルートの場合、霞が関本省からの行政処分の前に、検査や監査が介在しているはずであり、さらにその前には、三条委員会や外局(公正取引委員会・証券取引等監視委員会・国税庁等)、あるいは、警察・検察などの捜査機関からの任意の連絡などが必ずあるはずである。企業側は、その時点で何が起きているのかを認知することになる。

 寝耳に水であるならば、即、事実確認・社内調査を開始し、状況の把握に努めるであろう。その後、企業が取れる対応は、行政(公的)機関に協力する選択肢しか残されていない。初動以降の対応も同様である。

 問題は、行政機関からの連絡の前に、当該事態の発生を認知していた場合である。但し、これは全社的認知ではなく、ごく一部の関係者だけによることが多い。したがって、そこに隠蔽の意志や放置・不作為の意図が働けば、「一大不祥事・一大スキャンダル」になること必定である。

 一方、報道・ネットからの情報は、当初は噂レベルの域を出ないものも多く、どちらかが先行することもあるが、次第に精度を上げていき、相互乗り入れし、取り上げる媒体の著名度やランクも上がっていき(週刊誌から新聞など)、やがて行政機関が着手する筋道を付けることになる。しかし、このルートからの情報に対して、多くの企業は無視するか、見当違いの抗議をすることすらある。一言でいってしまえば、往生際が悪いということである。つまり、社内調査もせず、真相を闇に葬ろうとする発想である。

 この場合は、認知自体は決して遅くはなく、むしろ早い。それなのに、認知後の対応が

 悪いため、あるいは間違っているため、事態の収束を長期化させ、ダメージを深めてしまうのである。その要因は、冒頭に述べた社内におけるタブーや聖域、それを死守する固陋な既得権益、権力の集中、経営陣の保身などにある。

 したがって、事ここに至り、マスコミ報道・バッシングが集中し、捜査当局などが動き出すと、それまでの対応・方針・態度では、とても御しきれず、一気に「一大不祥事・一大スキャンダル」と化すのである。

 この時点での当該企業を取り巻く情報は、「事故・災害」のときのように玉石混交の大量の情報が錯綜しているわけではなく、ただ関係者が冷静さを失い、責任回避のため、自己の頭のなかが混乱している状況といえる。

 このような当初のマイナス情報を過小評価するような社風が形成されてしまうと、初動や対応策がどうのこうのというレベルの話では、何も解決できず、いわゆる解体的出直しという道しか残されていないのである。

 同じように緊急事態といっても、「事故・災害」と「不祥事・スキャンダル」の発生と認知のプロセスの違いとそれぞれの特徴を十分に理解して、対応に臨むことが重要である。

 さて、これまで”緊急事態”として、分類していなかったものに、企業側が被害者というパターンがあるが、これについては、今後、折に触れて言及したい。

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