リスク・フォーカスレポート

 前回は、「これってパワハラですか?」というタイトルで、悪質なパワハラ事例の共通項や気をつけなければならないパワハラ上司のタイプ、パワハラの判断基準等について解説させていただきました。

 第三回である今回は、近年特に増加傾向にある『新型うつ』にかかわる通報事例※を取り上げ、会社や対応する担当者が留意すべき点や企業が実施すべき取り組み等と併せて紹介します。

(※)本レポートで言う「通報」とは、当社の内部通報第三者窓口サービス『リスクホットライン』にこれまでに寄せられた通報(2,342件/2014年5月31日現在)を指します。

第三回「本当に”うつ”なの?」

1.”うつ”か・仮病か・怠けか

 ここ数年、リスクホットラインの通報者からよく聞かれるようになった言葉として、「”うつ傾向”と診断されました。」というものがある。そして、会社側のご担当者から聞かれる嘆きとしては、「『うつ』と言われたら、その途端に注意も何もできなくなる。」、「病気を都合のいいように利用しているだけで、『仮病じゃないの?怠けているだけじゃないの?』と思えることも多いんですよね…。」というようなものが増えている。

 2012年にNHKが放送した「NHKスペシャル 職場を襲う”新型うつ”」や「シリーズ “新型うつ”にどう向き合うか」(Eテレ)などの番組が大きな反響を呼んだあたりから、「新型うつ」や「現代型うつ」という言葉が一般にも広まった。

 この「新型うつ」や「現代型うつ」については、学術的に明確な定義づけはされていないものの専門家の方々が色々な文献で紹介されているので詳細はそちらをご覧いただければと思うが、ここでは「新型うつ」の特徴について簡単に触れておきたい。

 「新型うつ」の特徴とされているポイントには次のようなものがある。

        • 若年者に多い
        • 休みの日は元気
        • 休職と復帰を繰り返す
        • 些細と思えるミスやトラブルで発症する
        • 一度ショックを受けるとなかなか立ち直れない
        • 薬が効きにくい(あまり効かない)
        • 自分が「うつ」であることを隠さない(公言する場合もあり)
        • 何でも人のせいにする傾向がある
        • 規範や秩序を重んじることが苦手
        • 他者への配慮に欠ける

 なお、ここで抑えておきたいのは、「新型うつ」は上記のような特徴から、『わがまま』、『怠け』、『サボリ』などと周りに思われがちだが、会社に向かおうとすると足が動かなくなったり、出勤日の朝になると体が鉛のように重くなりベッドから起き上がれなかったりする等の症状が実際に出るということから、仮病ではなく、「病気」と捉えて対処していく必要があるということである。

2.「新型うつ」系の通報は後味の悪い結末が多い

 ここで、「新型うつ」と思われる社員からの通報事例(複数の事例をミックスし特定されないよう加工)を一つ紹介する。

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 マーケティング企画部に所属する入社2年目の社員です。仕事があまりに忙しかったことに加え、課長の心無い発言により体調を崩してしまい、これはパワハラだと思ったのでこちらの窓口に連絡することにしました。

 私は1ヶ月ほど前、課長に、「いい経験になるから」と軽い感じで、あるプロジェクトチームのリーダーに任命されました。チームメンバーは同期入社の2名と新入社員2名と私の計5名です。このメンバーについては、最初から『あまり協力的ではないな』と感じていましたが、何とか頑張ってやっていました。そして問題は先週に起こりました。その日、私はお腹の調子が悪く、チームミーティングに少し遅れて行ったのですが、その際、同期の一人から「お前が遅れるなよ!リーダーだろうが!」と言われました。その言い方がキツかったので腹が立ち、その日のミーティングはやめにしました。すると暫くして課長に呼ばれ、「お前、勘違いしてないか?お前をリーダーにしたのは他のメンバーよりも優れているからじゃなくてその逆。そんなこともわかんないのか。やっぱりダメか…。」と言われました。つまり、私は他のメンバーよりも劣っているということです。侮辱です。そもそもアドバイスも指導もないまま、いきなりリーダーにしたのは課長です。それに、課長がそんなことを言ってきたということは、メンバーの誰かがチクったのです。非協力的なだけでなく卑怯なメンバーもいるということです。このことで私は精神的なバランスを崩し、治っていたと思っていた”うつ”が再発しました。1週間経った今も課長を許せないと感じています。この2日間、会社には行けていません。私の希望は、課長からの謝罪です。それと、課長とはもう同じ職場で働けないと思うので、できれば課長を異動させて欲しいと思っています。無理なら、私を異動させてください。よろしくお願いいたします。

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 この通報を受け、会社側の担当者が関係者へのヒアリングを行ったところ、課長は、「彼に成長して欲しいと思ってリーダーにしたので、がっかりしたのは確かだが、そういう発言はしていない」と否定。チームメンバーからは、『通報者は何度も遅刻したり、自分の都合でミーティングをキャンセルしたりしていたと』の情報があった。厳しい言葉を投げたという同僚は、「あの日は堪忍袋の緒が切れてしまった。」とのことであった。会社は、相談者にも問題があったとして、課長への処分はしないことを決め、通報者に『課長は発言を否定しており、事実関係が確認できない状況では、会社としても謝罪や処分は求められない』と説明した。なお、産業医からは、「通報者は恐らく”新型うつ”だろう。」との話があったとのこと。

 通報者は通報以降休職し、休職期間中も窓口を介して会社側へ謝罪と課長への処分を3ヶ月の間何度も求めたが、聞き入れられなかったため、結果として退職を選択した。会社側担当者からは、「残念ではあるが、周囲への影響を考えると、正直、退職してくれてホッとしている」とのコメントがあった。

 後味の悪い結末となったが、このようなケースは少なくない。少なくないというより多いと言った方が正しいかもしれない。近年の通報を見ていると、このような社員を企業が厄介払いしていたら、この先日本社会はどうなってしまうのかとの危惧さえ感じている。

3.「新型うつ」への対処法~じゃあどうすればいいの?~

 「新型うつ」は治療法が確立していないため、どの企業も対処に苦慮している。いくら甘えや怠けに見えても「新型うつ」と判断されるケースは、「病気」としてしっかり対応していくのが基本だと言うことは冒頭でも述べたが、「新型うつ」は、軽症の「従来型うつ」との見分けが付きにくいと言われているほか、発達障害や適応障害が背景にある場合もあるとされており、その場合にはそれに応じた対処が必要になってくる点にも留意が必要である。

 また、「従来型うつ」の場合は、「”頑張れ”等と励ましてはいけない」というのはよく聞く話だが、「新型うつ」の場合は、励ましたり、場合によっては、怒ったり、叱責したり、問題点を本人に突きつけるということが有効だと言われる。しかしながら、「軽症の従来型」と「新型」の見極め等は素人には難しいため、結局は、「”うつ”と言われたら何も言えなくなる」という状況に陥ってしまっているのが現状である。

 ではどうすればいいか。有識者等から推奨されている職場での対処法には以下のようなものがある。

      • 管理職研修を行い、病気への理解と本人への接し方を教示する
      • 本人に、本人の状態に見合った職場や業務を探して提供する
      • 復職の際には産業医等の専門家と本人、職場関係者が十分に話し合って方向性を決める
      • 本人の周囲の社員へのストレスケアも行う

 他方で、「新型うつ」は、親との関係や過去のトラウマに起因しているケースが多いとも言われているため、本人の根本的治療には、『カウンセリング』が最も有効なのではないかと感じている。意外に知られていないようだが、『カウンセリング』はアドバイスをしたり解決策を提案したりするのではなく、問題の原因を患者(クライアント)本人に気付かせ、本人に対処法を見付けさせるというのが基本だからである。このような根本原因が解消されていなければ結局、休職と復職を繰り返すことになってしまうのではないだろうか。

最後に、上司等がすぐに始められる対処法としては、『尾木ママ』こと教育評論家の尾木直樹氏がNHKの番組(シリーズ”新型うつ”にどう向き合うか 第1回 翻弄される企業と若者の苦悩)で次のような発言をしており、参考になると思うので引用する形で紹介したい。

≪やはり「共感」がキーワードだと思います。僕は魔法の言葉とよく言っていますが、「どうしたの?」という言葉、これは本当に有効です。「どうしたの?」というのは、理由を聞いてくれているからです。「どうして?」ではダメ。一文字違いで全然違います。「どうして」には「おまえはできないのか」という言葉が続きます。だからまず「どうしたの?」と大らかに言ってみるのです。例えば、「いやあ課長、これがこうで、もう本当に間に合わなくて」という。それに対して「ああ、それは大変だったね」というねぎらいの言葉、ここで共感するわけです。

 すると、「でももう僕、3カ月も経って、できなきゃ恥ずかしいですよ。今度の仕事はやってみせますから」「おお、やっぱり俺の部下はすごいよな」と。こうして褒めていけば、関係性が上手に取れるようになってくると思います。そのほうが企業にとっても活力になるし、社会全体にとても希望が見えてきますから、絶対いいことなんです。「そんな甘やかしている場合ではない」なんて言わないで、ぜひやってみてほしいと思いますね。≫

 今回取り上げた通報事例でも、もし課長がこのような対応していたら、あの通報者は辞めていなかったかも知れない。本レポートが少しでも今後の役に立てば幸甚である。

参考文献

  • 「新型うつ病」という言葉の功罪について考える 鈴木 伸一氏/早稲田大学人間科学学術院教授(YOMIURI ONLINE)

  • 「現代のうつ病」について 晴和病院 院長 松浪克文氏

  • 「エキスパートに聞く その7『現代うつ病』」 樋口輝彦先生 (国立精神・神経医療研究センター理事長)/ 聞き手 財団法人精神・神経科学振興財団 常務理事 埜中征哉氏

  • NHK福祉ポータル ハートネットTV 2012年5月28日放送 シリーズ “新型うつ”にどう向き合うか 第1回 翻弄される企業と若者の苦悩

  • NHK福祉ポータル ハートネットTV 2012年5月29日放送 シリーズ “新型うつ”にどう向き合うか 第2回 医療と企業の最前線

  • 職場のメンタルヘルス最前線 増加する”新型うつ病社員”への対処法 オフィスプリズム/臨床心理士・社会保険労務士 涌井美和子氏 (人事キーパーソン情報ポータル 日本の人事部)

以上

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