リスク・フォーカスレポート

 前回は、近年特に増加傾向にある『新型うつ』にかかわる通報事例※を取り上げ、会社や対応する担当者が留意すべき点や企業が実施すべき取り組み等と併せて紹介しました。

 第四回である今回は、内部通報対応の中でもご担当者様の悩みどころであるパワハラ行為に関する懲戒処分をテーマに取り上げ、事例をもとに考察します。また、就業規則のパワハラ行為の禁止に関する条項の内容についても考えてみたいと思います。

(※)本レポートで言う「通報」とは、当社の内部通報第三者窓口サービス『リスクホットライン』にこれまでに寄せられた通報(2,400件/2014年7月31日現在)を指します。

第四回「この処分って妥当ですか?」
~パワハラ案件への対応と懲戒処分について~

1. 懲戒処分の基本とパワハラ案件における対応のポイント

 リスクホットライン契約社をはじめとするクライアント企業のご担当者様からよくいただくご質問の一つに、従業員が起こした非違行為に対し「どの程度の処分が妥当か」というものがある。中でも多いのが、パワハラにかかわる懲戒処分に関するご質問である。事例として以下に、ある企業の総務担当者様からの質問を紹介する。皆さまはどう考えるだろうか。

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 昨日、入社2ヶ月の従業員からパワハラに関する内部通報がありました。通報者がパワハラだと訴えている上司の発言としては、「なんでお前なんか採用しちゃったんだろう」、「存在価値がないんだよ」、「使えね~。IQゼロ?」等で、このような発言が日常的にあるとのことです。 

 来週、現地ヒアリングを実施することになっており、まずは通報者から詳細情報を聞き、そこから得られた証言をもとに対象者(加害者とされる社員)に対するヒアリングを行う予定です。 

 なお、この対象者の上長からは、「一度、『ちょっと言い過ぎなんじゃないか』と注意したが、対象者に反省の色は全く見られなかった」との報告を受けています。

 通報者は、対象者の降格及び異動を希望しており、叶わなければ辞めると言っています。会社としても、対象者が発言を認めれば降格及び異動とする方針ですが、この判断は妥当でしょうか。

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 まずは、懲戒処分について押えておきたい基本ポイントを以下に挙げる。

(1) 就業規則に懲戒の種類と事由が記載されていること

(2) 一人の判断ではなく賞罰委員会等の合議体で処分内容を決定すること

(3) 同じ事象に対し、二重に処分を科さないこと(二重処分の禁止の原則)

(4) 全ての社員を公平に扱うこと(平等待遇の原則)

(5) 妥当な処分を行うこと(相当性の原則)

(6) 被処分者本人へ弁明の機会を与えること

(7) 問題となった行為や行った指導の記録を残すこと

(8) 懲戒の内容、理由を書面で交付すること

 懲戒処分を決定する際には、これらの点に留意しつつ、「譴責」、「始末書」、「減給」、「停職」、「降格」、「諭旨解雇」、「懲戒解雇」等どの処分が適当かを判断していくことになるが、上記のうち、内部通報の事例でトラブルになることの多い項目が(4)と(5)である。通報者と対象者双方から、『処分が甘い』だの『処分が厳しい』だの『不公平だ』等の声が上がるケースが本当に多いのである。

 では、それらのトラブルを回避するためにはどうすればいいか、前掲の事例から考えてみたい。

 まず(4)の公平性の部分について言えば、公平な判断をするには、偏りなく情報収集することが肝要であるため、会社側が予定している現場対応(通報者から詳細情報を聞き、そこから得られた証言をもとに対象者へヒアリングを行う)では不足があると言える。つまり、当事者(被害者と加害者)の証言だけでなく、できるだけ多くの関係者から話を聞く流れで多面的に情報収集すべきであり、対象者の日常の言動や振る舞いを『周囲がどう感じているか』を客観的に把握することが、公平性に関するトラブル回避には不可欠ということである。

 次に、(5)の妥当性についてであるが、『対象者が発言を認めれば降格及び異動とする方針です』という会社の判断は、いささか拙速すぎると考える。対象者に指導されたという認識がなければ、『いきなり降格は不当だ』等としてトラブルになる可能性が高いためである。なお、「降格処分」以降から急に判例が多くなり、判例では、特に減給が伴う場合の降格妥当性(必要性)や、そこに至るまでの会社の対応に焦点があてられている。このことから、今回の事例が裁判になった場合を考えると、上司の『ちょっと言い過ぎなんじゃないか』という対応だけは、「口頭注意」や「指導」としてカウントされず、妥当な手順を踏んでいないと判断される懸念がある。つまり、『降格』にするのであれば、対象者にしっかり認識させる形で再度「注意」や「指導」を行い、その旨を記録するというステップを踏んでからにすることが望ましいということである。

2.「処分の一般的な基準ってどんな感じ?」

 労務行政研究所が2012年に公表した資料「企業における懲戒処分の実態に迫る(※1)」の中に、『モデルケース別に見た被懲戒者に対する懲戒措置』というアンケート結果(複数回答、集計者数149社)が掲載されている。パワハラ処分についての結果(%)は次の通りである。

  モデルケースゴシック.jpg

 複数回答ではるが、「『減給』以上の処分が意外に多い」というのが率直な感想だ。

 なお、何年も前になるが、パワハラ事案がやけに多かった企業のご担当者から、「当社では、パワハラに関する通報の対象となった店長は、1回目は降格処分(ただし、不満が悪影響に繋がらないよう減給はせず)とし、『次の店舗で新規一転、頑張れ』と伝えます。そして、異動先の店舗でも改善が見られず2回目の通報が上がった場合には、『次はないからな』と伝えた上で、今度は減給を伴う異動とし、3回目の通報でOUT(諭旨解雇)としています。」というお話を伺ったことがある。通報を教育ツールとして活用するという方針を明確に打ち出した姿勢に、新鮮味と感銘を受けたことを覚えている。なお、近年の状況から、一定の効果があったと、当社、当該企業ともに判断している。

3.「就業規則等にパワハラ行為の禁止に関する条項を設けるべき?」

 近年、職場でのハラスメントに厳正・適切に対応するため、パワハラやセクハラを懲戒処分の対象とする企業が増えている。平成25年3月、厚生労働省労働基準局監督課が発行した「モデル就業規則」におけるパワハラの条項のサンプルは以下のとおりである(※2)。

(職場のパワーハラスメントの禁止)
第13条職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景にした、業務の適正な範囲を超える言動により、他の労働者に精神的・身体的な苦痛を与えたり、就業環境を害するようなことをしてはならない。

 このような形で就業規則にパワハラについての個別条項を立てている会社はまだ少なく、「パワハラ行為」を懲戒事由に定めている会社もまだ少数と思われるが、当社が扱った通報事例では、対象となった行為が就業規則の既定の懲戒事由項目に該当することが殆どである(企業担当者の報告より)。そのため、個別の条立てや懲戒規定へのパワハラ項目の追加等は必須とは言えないが、企業姿勢を社内に明示することはパワハラ防止意識を高めるには有効であり、意義があると思う。一方で、非常に詳細なパワハラ規程を定める会社もあるが、行為内容をあまり詳しく書き過ぎると完全に合致しない場合の判断が難しくなったり、その内容をヒントとして、何でもかんでも「パワハラだ」と訴える従業員が増えたりすることも考えられるので注意が必要だ。

 なお、近年、スメハラ(スメル・ハラスメント)やシカハラ(資格ハラスメント)等とにかく『ハラスメント』という言葉が多く使われるようになっていることから、パワハラやセクハラに限定せず、『ハラスメント』という大きな括りで、条項を設けることが望ましいのではないかと考えている。今後、当社としてのサンプル条項も検討していきたい。

4.会社としての判断基準の重要性

 パワハラは、指導の範疇かどうかの境界線が曖昧であるため、その点を明確にしようと厚生労働省が平成24年にパワハラに該当する行為として『6つの類型』を公表したが、それ以降、自社の事例がこの類型上のパワハラに該当するか否かにこだわる方が増えている。しかしながら、案件への対応の場面では、その行為が厚労省の示すパワハラに該当するかどうかよりも、その行為を会社として不適切と見なすかどうかが重要になってくるため、自社としての判断基準を決めておくことの方に注力することをお勧めしたい。パワハラ案件が発生したら、事実確認調査で把握した情報を自社基準に照らし、主観や利害感情を交えずに検証し、会社としての処分内容等を決めていくのが望ましいあり方と考える。なお、基準の策定においては、判例を参考にするなどして常に『社会通念上どうか』という視点を忘れないことが肝要である。

 ちなみに、当社リスクホットラインの通報事例では、加害者と被害者が1対1のセクハラ案件の場合には、加害者とされる社員が自ら罪を認めて退職するケースが殆どである一方、パワハラ案件の場合は、対象者となった社員が行為を認めなかったり、処分を不服として異議を唱えるケースが多い。

 このように、対象者が事実関係を認めないケースの対処法としては、例えば、「あなたに自覚が無くとも、複数のスタッフの証言等から、日々のあなたの発言が職場環境に悪い影響を与えていると会社は判断している。」などと会社の判断を明確に伝え、しっかり改善指導をすることが一つ目のポイント。そして、2回目があった場合の方針を伝え、その記録を残しておくことがもう一つのポイントである。

 自社としての判断基準を持った上で、段階を踏むための準備をしっかり行い、その段階をしっかり踏んでいくことが懲戒処分を巡るトラブル回避のためには重要であるということを最後に今一度お伝えしたい。

以上

参考文献

(※1)「企業における懲戒処分の実態に迫る」2012年9月5日 財団法人 労務行政研究所

(※2)「モデル就業規則」平成25年3月 厚生労働省労働基準局監督課

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