リスク・フォーカスレポート

 前回は、クライアント企業のご担当者からの相談事例に基づき、内部通報制度の担当部門と人事部門との意識の乖離や、ハラスメント問題への人事部門の在り方について考えてみました。
 最終回である今回は、メンタル不調により休職と復職を繰り返すケースの通報事例※を取り上げます。また、6月に成立した改正労働安全衛生法(2015年施行予定)の改正ポイントの一つである「ストレスチェックの義務化」についても触れたいと思います。

(※)本レポートで言う「通報」とは、当社の内部通報第三者窓口サービス『リスクホットライン』にこれまでに寄せられた通報(2,438件/2014年9月31日現在)を指します。

第六回 「休職と復職を繰り返す通報ってどんな感じが多いの?」

1.休職・復職・退職を巡る最近の状況について

 独立行政法人「労働政策研究・研修機構」が2012年11月に全国の民間企業5,904 社に実施した「メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査」(※1)において「メンタルヘルス」と「休職・復職・退職」との関係について興味深い結果を報告している。

 以下に結果概要を幾つか抽出してご紹介させていただく。

  • 過去3年間の病気休職制度利用者の退職率を疾病別にみると、「メンタルヘルス(42.3%)」が「がん(42.7%)」に次いで高かった。
  • 「メンタルヘルス」については、再発の割合が高くなるほど退職率が高くなっている。
  • 休職期間中や復職後に退職している割合も、「メンタルヘルス」が最も高く、正社員で27.0%、非正社員では46.0%となっている。
  • 今後3年間程度でみた疾病への経営・労務管理上の対策で、「メンタルヘルス」を「重要」とする割合が72.2%と最も高かった。
  • メンタルヘルスや私傷病の治療と仕事を両立させるための課題で最も多かったのは、「休職者の復帰後の仕事の与え方、配置」で55.6%であった。

 このことから、メンタルヘルス対策に対する関心の高さと、復職について課題を抱えている企業の多さがわかる。

2.休職と復職を繰り返す通報ってどんな感じが多いの?

 当社のリスクホットラインに寄せられる通報で近年メンタル不調者からのものが急増していることは以前にも触れたが、中には休職期間を何度も延長し、初回通報から収束までに2年以上かかったケースもあるなど長期化する案件が増えている。そして最近、特に目立つのがメンタル不調を理由とした休職と復職を繰り返すケースである。

 ここで一つ、特徴的な通報事例を紹介する。

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 私は中途採用で2年前に正社員として入社しましたが、実は、体調を崩して3ヶ月間休職し、先月復職したのに今また休職している状況です。でも、もう大丈夫なので昨日会社に「復帰したい」旨の連絡をしました。すると、名前は忘れましたが人事の女性から次の配属予定先について「店舗勤務」と告げられたのです。こんな降格人事は到底納得できず、怒りに震えています。公的機関に相談しようとも思いましたが、一旦この窓口を利用してみることにしました。

 まず、私が最初に休職するに至った経緯を説明します。私は営業が得意なので営業部に配属されたのですが、当初から部長のA氏に嫌われていると感じていました。その勘は正しく、半年もすると案の定いじめが始まりました。例えば、私が部長の言う数字に基づいて作った資料が間違っていた際、部長は、「今後は人を信用せず、自分で確認する」と言ったのです。これって私を信用しないということですよね?同僚が『部長は警戒心の塊』と言っていたので私の思い込みではないことはご理解いただけると思います。また、私は他の人よりできるのに、部長は「成長が遅い」さらに「勤務態度を改めろ」とも言ったのです。どこが悪いのか説明もなかったので私は悩み、遂にうつ病になってしまいました。そして先月やっと復職したのに、再度休職に追い込まれました。この件についても説明させてください。

 私は休職明け、希望していた企画部に配属され、そこまでは良かったのです。しかし、企画部長との最初の面談で、「要望が意外に少ないですね」と言われたのです。『意外に』ということは、A部長から何か悪い話を聞いていたに違いありません。この一言で嫌な記憶が蘇り、また出社できなくなったのです。そして昨日、次の配属先は店舗と…。大体、そもそもの原因はA部長のパワハラなのに、なぜ私が店舗スタッフにならなくてはいけないのですか?私をこんな風にしたA部長こそスタッフに降格すべきではないでしょうか。とにかく、店舗スタッフというのは納得できません。私の要望は、A部長からの真摯な謝罪とA部長のいない営業部に戻ることです。冒頭でも書きましたが、こじれるようでしたら簡易裁判所の調停や、労働審判に相談します。

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 この通報者のように「休職は法的に認められた従業員の権利である」という雰囲気の物言いをする方は多い。しかしながら、「休職」に関しては労働関係法規等含む法律で使用者(企業)に対する義務などは科していない。つまり、企業の裁量に任されているということである。休職や復職を認めるかどうか企業が勝手に決めていいのである。

 とは言え、多くの判例において、「当初は軽易業務に就かせることで徐々に通常業務に移行できるという回復状態に労働者がある場合、使用者は、労働者の復帰にあたってそのような配慮をしなければならない」や「労働者が従前業務より軽易な業務での職場復帰を希望し、当該労働者に労働契約上職種の限定がない場合には、企業規模などを考慮しつつも、使用者は現実に配置可能な業務の有無を検討する義務を負う」と判断されるなど、使用者の配慮義務が強く求められつつあるのが実際のところだ。(※1:独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の報告を参考)

 このような背景があるために、企業内で、「普通に勤務できない社員にはさっさと辞めてもらえばいいんだよ」という意見と「いやいや配慮しながら共存しなければダメなんだよ」という意見のぶつかり合いが生まれているのだ。なお、メンタル面の不調の場合は、治ったかどうかがわかりにくいため、復職させるかどうかの判断が特に難しいという特徴がある。

3.休職と復職を繰り返すケースへの対応は?

 では前掲のような通報の場合、どのような対応が必要で、どのような点に注意が必要かについて考えてみたい。まずは、当該事例がどのような経緯を辿ったかご紹介する。

 この会社は、従業員一人ひとりを非常に大切にする社風であるため、本件の通報者の店舗への配属に関しても『自宅から通いやすく、面倒見のいい店長がいる店舗でリハビリを兼ねて軽い仕事から始めてもらおう』という意図であった。最初に対応した人事担当者が、次の配属先を告げる際にこの会社の意図をしっかり説明していれば事態は多少違っていたかも知れないが、通報者は後からの説明には全く聞く耳を持たなかった。

 対応として会社は、コンプライアンス室の担当者同席のもと、A部長との三者面談を設定して話し合いの場を何度も設けた。部長も幾度となく謝罪はしたのだが、通報者は納得せず、最後までA部長の降格異動と本人からの心のこもった謝罪を繰り返し要求し続けた。会社としては、周囲の証言等からもA部長に降格に値するような言動はなかったと判断しているので、話し合いはずっと平行線のまま時間が経過。結局、通報者が「もう疲れたので私は退職することにしますが、公的機関に訴えますので、その際はよろしくお願いいたします。」との言葉を残して去って行ったという後味の悪い幕切れとなった。初回の休職から1年半後のことだった。ちなみに、今回の通報者のように「外部に訴える」等との発言は良く聞かれるが、当社がこれまでに扱った2,400件あまりの通報のうち、訴訟になった1件(最終的には通報者が訴えを取り下げ)以外、実際に公的機関から問い合わせが入ったケースはない(当社がそのようなご報告を受けたことはない)。

 この点に関する発想として忘れてはならないのが、大前提として、(本事例のように)「企業がとるべき対応と配慮を最大限に行うこと」である。その誠実な取り組みが、万一法的対応が必要になった場合に、自社を優位な立場に導くことに繋がると考える。

 このように、メンタル不調者の案件におけるトラブルは多く、長期化する傾向がある。そのようなトラブルを回避する方法として、就業規則の休職の条項を厳しくし、問題従業員の早目の退職させる方法がよく提唱されているが、できれば雇用し続けながら解決策を模索する方向での検討を是非お願いしたい。こちらの方法としては、前回も触れたように、企業内だけで対処するのではなく、精神科医やカウンセラーなど専門家と連携することが肝要である。特に、対人関係をどう改善させるかがポイントになるケースが殆どであることから、メンタル不調に陥っている従業員それぞれが、どのようなタイプなのかを見極め、個別に上手く対処する方法を見付ける必要があり、そのためには、精神科医やカウンセラーの関与が不可欠なのだ。なぜなら、これらの専門家の関与により、例えば、「この社員は自己愛が強く、他者を批判・排除する傾向が強いが、一旦信頼した人の言うことは比較的受け容れる」などの傾向がわかれば、有効な方法も見つかり易いという訳だ。次項で触れる改正労働安全衛生法への取り組みと併せて、対策をご検討いただければと思う。

4.改正労働安全衛生法 ~ストレスチェックの義務化について~

 労働安全衛生法の一部を改正する法律案が、今年の6月19日衆議院本会議にて可決・成立した(来年2015年に施行される見通し)。これにより、従業員50名以上の事業場にストレスチェックが義務付けられることになる。以下が改正のポイントである。

ストレスチェック制度の創設

  • 医師、保健師などによるストレスチェックの実施を事業者に義務付ける。(ただし、従業員 50 人未満の事業場については当分の間努力義務とする。)
  • 事業者は、ストレスチェックの結果を通知された労働者の希望に応じて医師による面接指導を実施し、その結果、医師の意見を聴いた上で、必要な場合には、適切な就業上の措置を講じなければならないこととする。

 「義務付ける」という言葉を聞いて世の中が一時ざわめいたが、近年ではインターネット上で手軽にできる無料のストレスチェックが沢山あるため、チェックを実施すること自体に関しては恐れることはないだろう。ただし、重要なのはそれをどう活かすかである。まずは、ストレスチェックの実施が義務化されたそもそも目的が「ストレスの程度を把握することにより職場の改善につなげること」である点を見失わないこと。法律で定められた対策をパフォーマンス的に実施するだけ、つまり従業員にストレスチェックを実施させ、記録を残すだけでは意味がない。ストレスチェックの結果を実際に職場環境の改善につなげるためには、やはり産業医や精神科医、カウンセラー等の専門家と連携し、ストレス度合いが高めの従業員に対する早期かつ具体的なケアをどのように実施していくか、そのスキームを確立することが最も重要なのである。この点に関しては、これまで何の取り組みもしていなかった企業にはそれなりの時間と労力が必要になるだろう。

 ちなみに、インターネット上で公開されているストレスチェックの中には200以上の項目を設けているものもあるが、個人的にはやはり厚生労働省の57の項目は良く整理されていると感じている。この57項目のストレスチェックは厚生労働省のサイト「こころの耳」の「5分でできる職場のストレスチェックhttp://kokoro.mhlw.go.jp/tool/worker/」で誰でも無料で実施できるので、ご興味のある方は是非試してみていただければと思う。

 なお、今回の法改正を受け、「労働者がうつ病か否かが事業者に把握されてしまうのか?」とか「ストレスチェックの結果を解雇の理由につかうなど、事業者が悪用するおそれはないのか?」等の不安の声も聞かれたが、厚生労働省はそのような質問に対する回答を「改正労働安全衛生法Q&A集http://kokoro.mhlw.go.jp/tool/worker/」という形で公表している。同法の内容を把握することにも繋がるので、こちらも是非ご一読いただければと思う。

 今回の労働安全衛生法の改正により、従業員のストレス対策(メンタルヘルスケア)が社会的により浸透することは間違いない。上手く組織に順応できない従業員が減り、そのような当事者と企業、ひいては日本経済が健康になることを願っている。

 全6回にわたり、『内部通報ケーススタディ編』として、クライアント企業の従業員の方々や内部通報窓口のご担当者からの通報・相談を取り上げてきました。少しでも皆様のお役に立てたなら幸甚です。

参考文献

(※1)独立行政法人「労働政策研究・研修機構」
 ・研究成果 調査シリーズ No.112 メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援
  に関する調査
  http://www.jil.go.jp/institute/research/2013/112.htm

  記者発表 「メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活両立支援に関する調査」 結果 

(※2)独立行政法人「労働政策研究・研修機構」
 ・個別労働関係紛争判例集 5.人事制度 (44) 休職制度と職場復帰
  http://www.jil.go.jp/hanrei/conts/044.htm

(※3)改正 労働安全衛生法. Q&A集
  http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/
  0000056064.pdf

(※4)厚生労働省 「こころの耳」 5分間でできる職業性ストレス簡易調査
  http://kokoro.mhlw.go.jp/tool/worker/

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