SPNの眼

コンプライアンスやリスク管理に関するその時々のホットなテーマを、現場を知る
危機管理専門会社ならではの時流を先取りする鋭い視点から切り込み、提言するコラムです。

「障害者の雇用の促進と活用を考える」(3)(2016.8)

 企業が障害者雇用を本気で考え始めるきっかけは、多くの場合、雇用の義務を果たしていないことから派生する「デメリット」を解消するためでしょう。「月5万円払えばいいんでしょ?」と高を括っていた納付金が、1年分まとまると「思った以上のインパクトだった」という会社もあるのではないでしょうか。「雇入れ計画」の作成を命じられ、期限内に雇用率を達成しなければ社名が公表され、達成するまで指導が続くとなれば、本気にならざるを得ないでしょう。

 「とにかく○人、障害者を採用するんだ!」という号令の下、闇雲に採用を進めたらどうなるでしょう。実際、過去に「雇入れ計画」作成の対象となり、必死に採用に取り組んだ企業の中には、「とりあえず一度は達成したが、程なくほとんどの人が辞めてしまった」という企業もあると聞きます。有料の人材紹介サービスや求人サイトを使えば、それだけ費用もかかります。面接や教育にかかる人手や時間も無視できません。ここまでして採用した障害者が、すぐに辞めてしまったならば、それは非常にもったいない話です。

 障害者が会社を辞めてしまう理由として、よく耳にするのは、「仕事がなく、モチベーションを保てない」という声です。毎日会社へ行っても、何の仕事も与えられず、ただただ周りの人の邪魔にならないよう静かに過ごす、自分が貢献できることが何もない・・・という状況を想像すれば、辞めるのも無理はないと思われます。

 障害者は、ただ採用すれば終わりではありません。何もさせずとも、雇用し続けてさえいれば良いというものでもありません。障害者も一人の社会人として、社内で「活躍」していただくべきなのです。ということで、本レポート最終回の今回は、障害者の「活用」について考えてみたいと思います。

3.障害者の「活用」を考える

(1) ドラスティックな業務見直しのきっかけになる

 まずは障害者を「雇入れる」際のメリットです。仕事の「切り出し」をすることで、かなり思い切った業務改革ができる場合があります。
 通常、新規に求人を行うのはどんな時でしょうか。純粋に人数を増やしたい時もありますが、退職者が発生し、今までその人が担当していた業務を引き継ぐ人がほしい時が思い浮かぶ人も多いでしょう。募集をしても、丁度良いタイミングで次の人を採用できるとは限りません。次の人が入社するのが遅れ、「いったん別の人が業務を引き継ぐ」ことは多々あります。そうすると、退職者が行っていた業務を複数人に分け、各人の本来の業務とは異なる業務が付加されます。密接に関連する業務のこともあれば、そうでない場合もあり、結局次の人に引き継がないまま業務が定着する、そしてまた退職者が出て・・・と繰り返すうちに、業務が断片化され、「あれもこれもできる人」を求める環境となってしまいがちです。

 今いる人がやっている業務を基準に考えると、「うちは何でもできる人が欲しいから、障害者を雇う余裕はない。せいぜい軽度の身体障害者くらいしか考えられない」となりがちですが、本当にそうでしょうか。ちなみに、軽度の身体障害者は、今や大変な「売り手市場」で、そうそう都合よく採用できないと言われています。

 業務が断片化すると、その業務自体が目的化され、業務本来の目的を見失ってしまいがちです。「この資料は(誰かはわからないけれど、)誰かが(何かに)使っているはず」と、現在は不要となった資料を作り続けることもあれば、「どうせ誰も使っていないだろう」と勝手に判断して業務を行わなくなったことにより、他の人の業務効率が悪化していた、などということも起きます。しわ寄せを受けた人は、もはや誰に、どの業務を再開してもらえば良いかすらわからないなど、意外に起き得ることです。

 あるいは、最終的な目的もわからず、ただ流している業務によって、残業が発生していないでしょうか。または、「昔はあったが、今はなくなってしまった資料」の中に、復活を願っているものはないでしょうか。本当は現在の状況の方が非効率である可能性もあるのです。根本的な見直しをせず、「ここに障害者を入れるポジションはない」と考えることは軽率だとも言えるでしょう。

 障害者雇用をきっかけに、「目的」に基づいて業務の棚卸しを行い、それを適正な形で再配分することで、見えなかったポジションが現れ、全体として業務効率がアップする可能性はあります。一度トライする価値はあるのではないでしょうか。

(2) 障害者固有の「能力」を活かす

前回、障害者のために各人が丁寧なコミュニケーションを心がけることで、障害のない人にとっても「良い職場」が作れる、障害者は職場のコミュニケーションを活性化する起爆剤ともなり得ると書きましたが、他にも障害者の能力を活かせる分野はあるように感じます。

 雇用率にカウントされる障害者ではありませんが、色覚異常のある人の例を挙げておきましょう。

 想像してみてください。赤緑色盲の人が、配線を色分けで示すような、設計の仕事に就けると思いますか?ある企業では、当初は、色分けなどできないだろう、できたとしても、従来使っていた色分けを全て変更しなければならないから、自分たちが不便になるだろうと、周囲は抵抗を示していたそうです。ところが、実際に仕事をさせてみると、その人が設計した配線図は、正常な色覚の人が見ても、非常にわかりやすいものでした。従来の色分けよりも、快適な色使いを学ぶことができたというわけです。

 このように、「障害者にはできない」という思い込みによって、優秀な労働力に気付かず、活かさずにいるとしたら、非常にもったいないことです。

(3) ダイバーシティの観点から、障害者を活用する

 世の中には様々な人がいます。自社の製品やサービスを使う人が様々であれば、自社で様々な人が働き、その特性を活かしていれば、より多様なニーズに応えられるはずです。そのために、「ダイバーシティ」が推進されているのでしょう。

 男性中心だった社会へ女性が進出する、日本の文化に根ざした日系企業に外国人がやって来る、それと同じように、障害のない人が中心だった社内で、障害者が一緒に働くことになる・・・そう考えると、障害者雇用だけが特別というわけではありません。

 求められているのは「差別」の禁止であり、「全く同じ扱いをしなさい」というわけではないことも、男女や国籍と同じ考え方です。男女の差別はいけないけれど、男女の区別は必要だということ、国籍による差別はいけないけれど、その国の文化や習慣に配慮するべきだということと、なんら変わることなく、障害者の差別はいけないけれど、合理的配慮は必要だ、ということになります。

 まずは、「障害者は単純作業しかできない」「周りの人がお世話をしなければならない」「障害者の世話は手がかかる」「障害者にこの仕事は無理に決まっている」など、間違った先入観をなくすことから始めてみましょう。
障害者の退職理由が、「仕事がないから」であるということは、「本当はもっとできるのに」という障害者の思いの現われではないでしょうか。初めから「できない」と決め付けず、「どうしたらできるようになるだろう?」と考え、よく話し合ってみてください。
また、障害者であることで、親が子どもの頃から「何でも助けてあげる」という姿勢でいた場合、「できることは自分でする」ことに本人が馴染めず、「教育が大変だ」と周囲がさじを投げてしまいそうになることもあるようですが・・・考えてみてください。障害の有無に関わらず、そんな部下は他にもいませんか?「仕事とは」「社会人とは」から教育が必要なのは、障害者も障害者でない人も一緒です。

 また、「ゆとり世代」と言われる若者たちは、ちょうど「いじめ」が社会問題化してきた世代と重なります。「他の人と違う」「変な人だ」と思われることを恐れて、自分の意見を言わなかったり、失敗を恐れて難しい仕事を敬遠したり・・・若手社員によく見られる姿ではないでしょうか。「他の人と違う」特徴を持つ障害者が、差別されることなく活躍できれば、若手社員ももう少し大胆になれるかもしれませんまた、障害者を適切に活用できる人ならば、きっと優秀な管理職になれることでしょう。
 このように、障害者の活用が、職場全体の能力向上に一役買うことも、十分あり得る話です。

4.終わりに

 障害者の活用には、障害者の安全を守ったり、必要な配慮をしたりする上で、まだまだ課題はあります。完全にクリアできない課題が残っていることを「リスク」と呼ぶならば、リスクがゼロになることはありません。それでも、障害者の雇用は推進しなければならないことであり、そこから得られる効果もあります。「合理的配慮」は「相互理解」から始まるように、互いに話し合い、手探りをしながら、リスクを少しでも軽減していくよう、そして一人ひとりが活躍できるよう、前進していくことが重要です。

 若い人の人数が減り、慢性的に人手不足だと感じている会社が多くあるにも関わらず、一方で「障害者」という有効な労働力を活用しないことは、非常にもったいないことです。そして、障害者の雇用とその活用は、会社の慣習や文化、あるいは業務効率を見直したり、コミュニケーションを活性化したりする、よいきっかけにもなり得ます。より良い職場を作るためにも、前向きに取り組むべきことと捉えていただきたいと切に願っています。

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