暴排条項の有効性を巡る高裁判決と「貧困暴力団」の示す未来、「準暴力団」の排除に向けて(2018.6)

2018/06/13 / 取締役副社長 総合研究部 主席研究員 芳賀 恒人 プリント

1.暴排条項の有効性を巡る高裁判決と「貧困暴力団」の示す未来、「準暴力団」の排除に向けて

 保険会社が、約款に含まれる暴力団排除条項に基づいて保険契約を解除したことの有効性が争われた訴訟の判決で、広島高裁岡山支部が解除を有効と認める判断を示し、確定していています。また、本件は、反社会的勢力と「社会的に非難されるべき関係」を巡る認定問題を含むものでもありました。保険契約での暴排条項の有効性を認めた判決は知られておらず、これまで保険業界内では、暴排条項による契約解除は多数行われているものの、保険法の求める契約者保護の観点などから解除の有効性を疑問視する見解もいまだ根強くあったところ、今回の判断によって、解除の実務が進むものと期待されます。また、「社会的に非難されるべき関係」の認定のあり方などについては、保険分野はもちろん、それ以外の分野においても暴排実務の参考となる司法判断だと言えます。

 そこで、以下、「金融法務事情」に掲載された判決文を紐解く形で本判決の持つ意味について、まずは考えてみたいと思います。


 本件は、控訴人が、被控訴人らに対し、本件保険契約に基づき、保険契約者たる地位を有することの確認を求めた事案である。被控訴人らは、本保険各契約の被保険者である控訴人(注:岡山県の建設会社)代表取締役のQが、反社会的勢力である暴力団組長のRと社会的に非難されるべき関係を有していると認められるとして、本件排除条項に基づいて本件解除をしたと主張し、控訴人は、その有効性を争っている。

 原審は、本件排除条項につき、保険金不正請求を招来する高い蓋然性がある場合に限り適用される規定であると限定解釈することはできないし、曖昧かつ広範ということもできないと判断した上、Qが、Rの犯した本件傷害事件の被害者であるSに被害申告をさせないよう約束させ、Rに対して便宜を供与したり、結局被害申告をしたSに対し、Rが逮捕され罰金刑に処せられたことに因縁を付け、控訴人の本件工事の代金支払義務を免れようと、Rを不当に利用したりしたことが認められるから、本件排除条項に該当し、本件解除は有効であると判断して、控訴人の請求をいずれも棄却した。


 広島高裁の判断としては、「原審と同様に、本件排除条項を控訴人主張のとおりに限定解釈することはできないし、本件排除条項に該当する事実が認められるから、本件解除は有効であると判断する」としています。そして、その理由については、原審の判断に加え、「(本件排除条項について)その趣旨は正当なものとして是認できる、そして、このような本件排除条項の趣旨に鑑みれば、本件排除条項は、保険金の詐欺のような場合とは異なり、公共の信頼や業務の適法性及び信頼性の観点から、外形的な基準によって、これらを害する恐れがある類型の者を保険契約者から排除しようとしたものといえ」ると指摘しています。

 さらに、「社会的に非難されるべき関係」については、「本件排除条項は、被保険者等が、(1)反社会的勢力に該当すると認められること、(2)反社会的勢力に対して資金等を提供し、または便宜を供するなどの関与をしていると認められること、(3)反社会的勢力を不当に利用していると認められること等に加えて、「その他反社会的勢力をと社会的に非難されるべき関係を有していると認められること」と規定」したうえで、この「本件排除条項の「社会的に非難されるべき関係」とは、前記(1)ないし(3)に準じるものであって、反社会的勢力を社会から排除していくことの妨げになる、反社会的勢力の不当な活動を積極的に支援するものや、反社会的勢力との関係を積極的に誇示するもの等をいうことは容易に認められる」としています。したがって、「意味が不明確ということはない」し、上記の観点から「その適用すべき場合の限界を画されている」といえるとしています。

 なお、原審では、「「社会的に非難されるべき」という文言をもって適用範囲が限定されているし、規範的要件があることから直ちに曖昧かつ広範ということもできないことは当然である。その文言上からも、本件排除条項が、例えば、暴力団と交際していると単に噂されているとか、暴力団員と幼なじみの間柄という関係のみで交際しているということで適用されないことは明らかである」と指摘しています。

 さらに、「社会的に非難されるべき関係」について、具体的には、「QがRに対し顔を立てさせられる関係にあったこと、RがQと何回も一緒に飲みに行ったことがあると話したこと、Q及びRそれぞれの携帯電話に互いの携帯番号が登録されていたこと、QがRを「R'」と呼び、RがQを「Q'ちゃん」と呼び合う仲であったことから、QとRが、その頻度はともかく、普段から飲食を共にする親しい関係であった事実が認められる」とし、さらには、「QとRが幼なじみの延長として飲食を共にするなど親しい関係にあったことをいうのではなく、QがRに対し顔を立てさせることによって、Sに被害申告をしないことを約束させたり、Rからの害悪を告知して未払いの工事代金の改修を断念させたりすることができるような関係にあったことをいうもの」であり、「社会的に非難されるべき関係」を否定する理由として、当を得たものではないとしています。また、「Qが内心でRから私生活的な迷惑をかけられることを怖れていたとしても、それがために、Sに正当な行為に出ないことを求めることは、反社会的勢力の不当な活動を積極的に支援することに外ならず、やむを得ない行為であったとは認められない」とも指摘しています。そして、最後に「QにおいてRが反社会的勢力の構成員であることを利用して、RやQ自身の利益を図ることができるといった点において、社会的に非難されるべき関係と評価すべき域に達していたものと解するのが相当」と結論づけています。このあたりの事実の積み重ねの厚みがあってこそ、「社会的に非難されるべき関係」と認定されうるものだと感じます。なお、保険会社が、Qが「反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有する」と認識したのは、某県建設工事等入札参加資格者に係る指名停止等要領に基づき、原告を入札指名業者から排除する旨の措置を行ったことによるものです。

 以上より、暴排条項は、「公共の信頼や業務の適法性及び信頼性の観点から、保険金の不正請求の怖れの有無にかかわらず、外形的な基準によって、これらを害する恐れがある類型の者を保険契約者から排除しようとしたもの」として、単に保険金不正請求を招来する高い蓋然性がある場合に限り適用される規定であると限定解釈することは適当でないとして、その有効性が認められたこと、「社会的に非難されるべき関係」については、「暴力団と交際していると単に噂されているとか、暴力団員と幼なじみの間柄という関係のみで交際しているということで適用されないことは明らか」と例示したうえで、「反社会的勢力を社会から排除していくことの妨げになる、反社会的勢力の不当な活動を積極的に支援するものや、反社会的勢力との関係を積極的に誇示するもの等をいう」、あるいは「反社会的勢力の構成員であることを利用して、自身の利益を図ることができるといった点において、社会的に非難されるべき関係と評価すべき域に達していたものと解するのが相当」とする考え方が示されたことなど、保険に限らず、今後の契約解除の実務にとって大変参考になるものだと言えます。

 ただし、その前提として、細かい事実の積み重ねがあり、企業実務の点からは、相手についてこれだけの情報が入手できるかどうかは不明です。さらには、現実的に、警察に情報提供をお願いしてもあまり回答が望めない「社会的に非難されるべき関係」について、本件では回答が得られたという事実とあわせ、「どこまで知ることができるか」「契約解除までのアクションができるか」については、確たる道筋が決まっているわけでもなく、今後の課題だと言えます。


 さて、先日、NHK「クローズアップ現代」で、「"貧困暴力団"が新たな脅威に」と題して、最近の暴力団の実態が放映されました。

◆NHK クローズアップ現代 "貧困暴力団"が新たな脅威に

 番組は、暴力団員による「食料品の集団万引き」、「イクラを狙ったサケ泥棒」、「結婚式で売上金を盗む」、「拳銃を担保に借金」、「電気料金を抑えるためにメーターを改造」など、これまで考えられなかった事件が全国で相次いでいることを取り上げ、その背景に、暴力団対策法や暴排条例など、警察の取締りの強化によって、みかじめ料(用心棒代)などの従来型の資金源を断たれ、生活費にも困窮した暴力団員が「荒手(新手)」の犯罪に手を染めている実態を詳らかにしています。そして、このような状況が進めば、生活のために切羽詰まった組員らが組織の枠組みを超えて資金源を獲得しようとする犯罪が多発する可能性が考えられるところです(実際に、一昨年のATM不正引き出し事件はその代表的な事例であり、関与した複数の指定暴力団の組員らは組織の意向と関係なく動いていたことが分かっています。また、昨今の特殊詐欺事例などでは、半グレと暴力団員とが共謀する事例も増えています)。以前、本コラムでも指摘しましたが、離脱者支援が十分に機能していない状況にあっては、社会的な暴排意識の高まりや当局による摘発・事業者による契約解除等が進んだことで暴力団を追い込んだ事実がある一方で、結局、離脱者による再犯率の高さ、暴力団組織にまた戻る者の多さなどから、「暴排が新たな犯罪を助長している」「社会全体の危険性がなくなるわけではない」といった厳しい現実が突き付けられています。

 そして、これらの動きは、組による統制が効かない状況、すなわち暴力団や指定暴力団(ピラミッド型の統制が取れていることが指定の要件のひとつ)の枠組みを根本から揺るがす大きな地殻変動を示唆するものであり、いわゆる「貧困暴力団」のあり方が今後の暴力団対策、暴排のあり方に大きく影響を及ぼすのではないかと思われます。具体的には、当局や事業者は、もはや暴力団という組織との戦いから、組織の意向とは関係なく動く個々の組員やそのつながり、共生者や半グレ、離脱者との連携などとの戦いへ移行しつつあるのではないか、暴力団組織は外圧(暴力団対策法や暴排条例、事業者や市民の暴排意識の高まり)よりむしろ内部から崩壊するのではないか、その前後において、組織から個あるいはその周辺へと取り締まりの重点を移さざるを得なくなるのでないか、暴力団という組織犯罪対策から、犯行グループ単位での犯罪取り締まり、離脱者支援・再犯防止対策の方が重要性を増していくのではないか、といったことが考えられる状況です。

 本コラムでは、以前、反社会的勢力の定義について考えたことがありました(暴排トピックス2016年5月号暴排トピックス2016年5月号など)。そこでは、(1)「反社会的勢力の不透明化」は、結局は「暴力団の活動実態の不透明化」であり、それとともに、対極にある一般人の「暴力団的なもの」への接近、その結果としての周縁・接点(グレーゾーン)の拡大であって、反社会的勢力自体がア・プリオリに不透明な存在(明確に定義できないもの、本質的に不透明なもの)であるとも言えること、(2)表面的には暴排が進んだとしても、「暴力団的なもの」としての反社会的勢力はいつの時代にもどこにでも存在するのであって、その完全な排除は容易ではないこと、だからこそ、(3)事業者は、その存続や持続的成長のために、時代とともに姿かたちを変えながら存在し続ける反社会的勢力の見極めについて、反社会的勢力の定義自体も時代とともに変遷することも認識しながら、関係を持たないよう継続的に取組んでいくことが求められていること、つまり、(4)暴力団や「現時点で認識されている反社会的勢力」、便宜的に枠を嵌められた、限定された存在としての、「目に見える反社会的勢力」だけを排除するのではなく、「暴力団的なもの」、「本質的にグレーな存在」として、「目に見えにくい不透明な反社会的勢力」を「関係を持つべきでない」とする企業姿勢のもとに排除し続けないといけないとの認識を持つことが必要、と結論付けてきましたが、「貧困暴力団」の問題から関連付られる、暴力団組織の内部統制の緩みと崩壊へのカウントダウン、半グレや共生者の問題、離脱者支援・再犯防止の問題などの最近の状況をふまえれば、正にそのような捉え方をしない限り、反社会的勢力への対応は表面的なものに陥り、結局は、反社会的勢力を利することになりかねない懸念があります。


 さて、暴力団の関係する法的な動向について、冒頭の暴排条項の有効性を巡る訴訟以外にも、いくつか動きがありました。

 まず、指定暴力団共政会系組長らにみかじめ料を脅し取られるなどしたとして、広島市内の男性3人などが同会トップの守屋総裁ら4人に約2,200万円の損害賠償を求めた訴訟で、広島地裁は守屋総裁に組長らの使用者責任を認定、総裁らに約1,800万円の支払いを命じています。みかじめ料の徴収を巡り、指定暴力団トップの責任を認める司法判断は全国2例目となります。参考までに、最初の事例については、昨年、指定暴力団六代目山口組弘道会の傘下暴力団にみかじめ料を支払っていた元飲食店経営の女性が、この傘下暴力団の組長と六代目山口組トップの篠田建市組長に2,258万円の賠償を求めた訴訟で、名古屋地裁が、連帯して1,878万円の支払いを命じる判決を言い渡したものとなります。本件では、みかじめ料の要求行為を民法上の不法行為と認定し、(当該傘下組織トップだけでなく)六代目山口組トップの使用者責任をも認める初めての判決となりました。全国の繁華街を中心にみかじめ料の摘発が進む中、いまだ被害にあっている飲食店らが自主申告すること(今後、一切応じない旨の誓約書を提出するなどして、暴排条例の勧告はなされない措置が検討されるはずです)、さらには、みかじめ料の被害回復のため暴力団対策法上の使用者責任の追及を行うなど、暴力団の資金源に直接的にダメージを与えることができるよい機会として、もっと国民、事業者に対して周知すべきではないかと思われます。


 また、指定暴力団会津小鉄会の傘下組織「心誠会」の事務所を巡り、昨年9月に京都地裁が決定した使用差し止めの仮処分が守られていないとして、京都府暴力追放運動推進センターは、違反に対し1日100万円の制裁金を支払わせる間接強制を同地裁に申し立てています。組員2人が新たに事務所に住み始めたことを府警が確認、暴力団事務所として使用している可能性があると判断しています。本コラムでもたびたび取り上げましたが、会津小鉄会は2016年以降、六代目の後継人事をめぐり内部分裂状態にあり、昨年1月には本部事務所で乱闘事件が起き、この騒動を受けて、同4月には、会津小鉄会本部事務所の使用差し止めの仮処分が認められています。その後、会津小鉄会の直系団体である「心誠会」の事務所で、組員らが対立組織による嫌がらせに備えて事務所の外で警戒を実施していたことで、近隣住民から京都府警に「安心して出歩けない」などの相談が寄せられたことから、同6月に住民約20人が京都府暴力追放運動推進センターに仮処分の申し立てを委託、同9月に京都地裁が仮処分を認める決定をしています。


 福岡県行橋市発注の工事を受注し、特定危険指定暴力団工藤会への地元対策費(みかじめ料)として800万円を脅し取られたゼネコンに対し、国が被害回復給付金支給制度に基づき約400万円を給付したことが分かりました。

◆検察庁 被害回復給付金支給制度

 この被害回復給付金支給制度については、振り込め詐欺やヤミ金融などの犯罪で被害を受ける人が少なくない中、組織犯罪処罰法の改正により、平成18年12月1日から、詐欺罪や高金利受領罪(出資法違反)といった財産犯等の犯罪行為により犯人が得た財産(犯罪被害財産)は、その犯罪が組織的に行われた場合やマネー・ローンダリングが行われた場合には、刑事裁判により犯人からはく奪(没収・追徴)することができるようになりました。そして、このようにして犯人からはく奪した「犯罪被害財産」を金銭化して「給付資金」として保管、そこからその事件により被害を受けた方に給付金を支給するのが本制度です。なお、犯罪被害財産については、外国の裁判等によりはく奪された犯罪被害財産を我が国が譲り受けた場合も同様で、山口組系旧五菱会ヤミ金事件の事例が有名です。本事件で地検が認定した総被害額は約161億1,300万円、スイス当局から返還された約29億円を基に、5,460人に対して総額で約23億7,800万円が分配支給されました。このように、本制度は詐欺や出資法違反など組織的犯罪で奪われた財産を国が犯人から没収・追徴し、被害者に返還する仕組みで、暴力団のみかじめ料被害者に適用されるのは異例のこととなります。ただ一方で、ゼネンコンが地元対策費を支払うケースはいまだにあると聞きます。脅し取られたというより、「慣例にしたがって」「トラブルを避けるため」という具合に、相手が暴力団関係者だと知って利益供与を行ったと言われても仕方ない状況のものも数多くあるものと推測されます。そのようなケースでない場合にこのような給付金が支給されるべきであり、今後は、みかじめ料被害はもちろん、特殊詐欺事案を中心にもっと活用されるべきだと思います(なお、検察庁のサイトでは、現在79件の支給手続き開始事件一覧が掲載されています。2010年の第1号事案からの累計で、今年に入ってからは5件となっており、まだまだ少ない状況です)。


 また、この6月1日より、他人の犯罪を捜査機関に明かす見返りに自身の刑事処分が軽くされる、いわゆる日本版司法取引が導入されていますが、報道(平成30年6月5日付朝日新聞)によれば、司法取引により弱体化を狙われている暴力団側も司法取引について勉強会を開催しているということです。報道によれば、「詐欺でもクスリでも少なくとも数十人を関与させている。トップの名前を知っているのはごくわずか」(暴力団幹部)ということであり、逮捕した密売人や受け子らの「密告リスク」をいかに減らすかが彼らの検討ポイントとなります。今後、本コラムでは、暴力団と司法取引について情報を収集し、取り上げていきたいと思います。


 さて、本コラムで最近注目している「準暴力団」ですが、直近でも、東京都新宿区歌舞伎町の路上で暴力団組員同士が乱闘する事件があり、警視庁が、暴力行為法違反の疑いで、指定暴力団住吉会傘下の2次団体と3次団体の30~40代の組員5人を逮捕しています。実はこの3次団体は、「関東連合」(解散)の元メンバーを吸収する形で勢力を拡大していましたが、それに伴い、2次団体との間でトラブルが多発するようになったとされています。この3次団体に入った関東連合OB元メンバーは飲食店経営など表のビジネスに加え、特殊詐欺などでも力を発揮し莫大な収益を上げ、同組の勢力拡大を後押ししているということが背景にあります。この3次団体が2次団体を脅かすという点は、暴力団組織のルールを逸脱していますが、それも半グレの連中が3次団体を仕切っているからであり、このままでは、前述した通り、暴力団組織における秩序の内部崩壊、暴力団と半グレとの融合による新たな勢力の台頭の可能性、それに伴う犯罪の増加・治安悪化の懸念などが考えられるところであり、前回の本コラム(暴排トピックス2018年5月号)でも紹介した通り、警察も内部通達を発出して取り締まりを強化しています。

 さて、この「準暴力団」については、暴力団と同程度の明確な組織性はないものの、構成メンバーが集団で常習的に暴力的な不法行為を行うグループと定義されています。したがって、暴力団対策法による暴力団に対する様々な厳しい規制の対象外であるとともに、企業の実務にとっても、警察庁の情報提供に関する内部通達の範囲外ということで、属性確認等が難しく、反社排除の枠組みの中に実務上どう位置付け、排除していくべきかが喫緊の課題となっています。それに対して、あくまで私論とはなりますが、例えば、暴排条項あるいは別途解除事由の項目として、「準暴力団」の定義を含め、契約を解除できる立て付けを整えるとともに、警察による「準暴力団」としての属性立証はすぐには期待できないものの、詐欺等の行為に着目して解除事由に該当させる以外にも、(1)準暴力団は反社会的勢力と「社会的に非難されるべき関係」を有していることが多いことから、警察に照会し、「共生者」として通常の暴排条項で対応する、(2)「関係を持たない」と契約条項に明記することをふまえ、新聞報道等を「信ずるに足る根拠」として、属性立証を積極的には行わないまま当該条項で対応する、(3)新規については、契約自由の原則から「準暴力団」と疑わしいのであれば一切関係を持たない対応を堅持する、といった方向性が考えられるところです(実際の契約実務・契約解除実務については、必ず弁護士と相談していただきたいと思います)。

 このうち、(1)については、半グレと暴力団との関係が、特殊詐欺をはじめ、これまで以上に密接になっている現状をふまえ、また、冒頭の高裁判断でもあった「反社会的勢力の構成員であることを利用して、自身の利益を図ることができるといった点において、社会的に非難されるべき関係と評価すべき域に達していたものと解するのが相当」という点をふまえ、属性そのものより行為や関係性に着目したものとなります。ただし、それらの関係性が契約や解除と時期的にどれだけ近接しているか、現時点においても継続性がうかがえるかといった視点も必要となり、過去の情報だけでは対応は厳しく、新たな情報を警察から入手できるかがポイントとなりそうです。

 また、(2)については、富士通名誉毀損事件最高裁決定の考え方を援用できないかがポイントとなります。本件は、同社の元社長辞任に至った事情などの開示において「反社会的勢力との関係が深い」と記された法人およびその代表者が、自分たちは反社会的勢力でもなく、それらと深い関係もないのに、一方的に「関係がある」と指摘されたのは名誉毀損(人格権侵害)だとした裁判について、最高裁が原告からの上告を棄却し東京高裁の判決が確定したというものです。この裁判では、直接的に「反社会的勢力かどうか」ということではなく、「反社会的勢力と関係があるとの『うわさ』自体」の真実性、要は同社が「疑わしい」とした合理的な根拠があることを証明して認められたという点がポイントであり、この判決の持つ意味は、企業実務にとって極めて大きいと言えます。ただし、その主旨だけ安易に捉えるのは禁物であり、それを可能にするためには、反社会的勢力かどうかを見極めることの難しさを前提としながらも、平時から反社チェックや判断のプロセス(内部統制システム)を厳格かつ慎重に運用し、重大な覚悟と決断に耐えうる企業姿勢と役職員の意識まで含めた「民間企業として出来る最大限の努力」をしたことが説明できなければならないと言えます。

 (3)については、契約自由の原則においては、相手に契約をしない(取引をしない)理由を一切告げる必要がなく、事業者の主体的な判断を直接的に反映していくことが可能であることを活用できるかがポイントとなります。そもそも契約自由の原則は、「強行規定に反しない限り」という制限つきで認められるものであり、民法第90条は、「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」と規定しています。さらに、民法第91条は、「法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う」と規定しています。これらから、銀行の公共性の観点から「契約しない」ことが公序良俗に反するのかといった点が問題になります。暴力団等の反社会的勢力との取引を拒絶する自由は、社会的にも許容され支持を受けうる企業行動であり、それによって侵害される暴力団構成員の経済的自由は、その属性から見て制限を受けてもやむを得ないと考えるのが現時点の一般的な理解です。つまり、暴排は銀行の合理的な顧客選択の判断基準として社会的に認容されうるものであると考えられ、その結果として暴力団等の反社会的勢力が経済的利益を受けられないことはやむを得ないとされているということです。この点を補強する裁判例(京都地判平成11・11・29 判タ1069号154頁)として、従来よりトラブルがあった顧客からの預金口座開設申込みに対し、銀行側はそれに応じないように全支店に通知していたにもかかわらず、担当者のミスで口座開設に応じてしまった場合(問題の人物は広島に住所があり、広島支店に口座開設を申込んでいたが、突如、京都支店に預金口座開設を申し込んだ事案)に、銀行側が錯誤無効を主張して争った事件があります。本件では、その口座開設拒否について合理的理由があるときは、銀行が取引を行う義務はないとしています。すなわち、「通常、銀行は、広く一般市民から預金を受け入れることを業務の基本としている以上、多量かつ定型的に預金口座の開設を受けるにあたり、通常は、特に相手方(申込人)の個性は格別重視されない側面が存することは否定することができない。しかしながら、銀行といえども一私企業であることに変わりはない上、銀行に対する信頼を裏切りかねない不明瞭な取引関係が予想される場合は、必ずしも顧客の希望通りの取引を行うべき義務を負っているわけではないのは明らかで、さらに、具体的事情によっては、取引関係に立つことが不都合であり、かつ業務に重大な支障をきたすことが予想される相手方と取引を拒否することも合理的理由があるというべきである」としています。

 「準暴力団」が暴力団等反社会的勢力と同等に位置づけられるものかどうか、個別の認定の問題をどうクリアするかの検討は引き続き必要であるにせよ、京都地裁の示す通り、顧客選択の判断基準に合理性があることが重要であるとすれば、「準暴力団」の昨今の害悪の状況をふまえれば、「契約しない」との顧客選択の判断基準に合理性を見出すことはそう難しいことではないものと考えられます。

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2.最近のトピックス

(1) AML/CFTおよび厳格な顧客管理を巡る動向

 金融庁が、すべての地銀と信用金庫(計365機関)を対象に、マネー・ローンダリングと不正送金防止策の実態調査に着手するとの報道がありました(平成30年6月6日付毎日新聞)。問題があれば7月にも立ち入り検査を実施し、行政処分を出す方向とのことであり、全ての地銀・信金に一斉にこのような調査を実施するのは極めて異例となります。AML(アンチ・マネー・ローンダリング)/CFT(テロ資金供与対策)においては、本コラムでたびたび指摘しているように、国内外問わずどこか1か所でも脆弱性(抜け穴)があれば、犯罪組織等がそこを突けば目的を達せられることになることから、それだけで国際的な連携・規制強化の意味を大きく喪失させてしまうことにつながります。日本の金融機関がそのような国際的な監視網の抜け穴になることは許されず、金融庁としては、来年のFATFの第4次相互審査を前に厳しく検証する姿勢を示しています。残念ながら、直近の事例を含め、日本の地域金融機関が、国際犯罪組織等によって、マネー・ローンダリングに悪用されている事例が多い現実があります。つまり、日本の地域金融機関は、国際的な「犯罪インフラ化」が危惧される危機的状況にあると認識する必要があります。さらに、報道によれば、金融庁が今回の一斉調査に先立って、財務省国際局などと合同で行った検査では、関東や四国地方などにある複数の金融機関で、体制の不備や不正が疑われる事例が見つかったといいます。不備が見つかれば、場合によっては、外国の銀行と為替を取引するために必要な契約の解除などの制裁を受け、海外への送金ができなくなる可能性があります(実際に、2012年に米上院小委員会が作成したHSBCのマネロン事件の報告書で、関係先として指摘された北陸銀行は、16カ国29行と結んでいたコルレス契約(為替業務の代行契約)を解除され、外為決済業務ができなくなりました)。また、実際の問題が生じていない場合でも、国際的な潮流として、AML/CFTのリスクの高さを考慮してコルレス先を絞り込む動きが出ており、リスクが高い国の金融機関は外されかねない状況にあり、日本が、地域金融機関等の取り組みの遅れから、「リスクが高い国」と見なされることは避けなければなりません。

 さらに、このような状況に加え、国際的には、北朝鮮やISなどの資金に対する監視の厳格化が進み、AML/CFTが不十分と判断された金融機関への厳罰化も進んでいます。これまで本コラムでも紹介してきましたが、代表的なものとして、2012年12月に、香港上海銀行(HSBC)が、AML/CFTや特定の口座に対する精査の実施が不十分だったほか、米国の制裁に反してイランやリビア、スーダン、ミャンマー、キューバ関連の取引をしていたとして、米司法省などから 19億2,100 万ドルの罰金を支払った事例、2014年6月に、キューバ・イラン・スーダンなど米の経済制裁対象国に送金(さらに取引記録を偽装し共謀事実を隠ぺい)していた仏BNPパリバが約96億ドルの制裁金を科された事例、米連邦準備制度理事会(FRB)が昨年5月、違法取引を阻止するために義務づけている協力を怠ったとして、ドイツ銀行に4,100万ドルの支払いを命じた事例などがあります。そして、直近でも、豪コモンウェルス銀行(CBA)が、マネー・ローンダリング・テロ資金供与防止法に違反したとして豪金融取引報告・分析センターに提訴されていた件で、7億豪ドル(5億2,930万米ドル)もの巨額の制裁金支払いによる和解案に合意したと発表しています。報道によれば、疑わしい取引の報告を繰り返し怠り監視手続きが機能していなかったなどの関連法違反の事例は53,750回にも上り、「CBAの口座を通じたマネロンは、覚醒剤のメタンフェタミンをはじめとする違法ドラッグや銃器を輸入・販売する組織が得ていた資金が含まれた」として、「犯罪組織はドラッグの輸入、販売でマネロン組織に依存している」などと指摘されています。

 さて、報道によれば、今回の一斉調査について、具体的には、金融庁と全国の財務局が合同で、各機関の役員級に聞き取り調査などを実施、今年2月に公表した金融機関向けのAML/CFTガイドライン(マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン)に沿って、「管理体制を見直しているか」「経営陣が積極的に防止策に関わっているか」「職員を確保しているか」といった項目について確認するということです。さらに、対策が不十分な金融機関を抽出するのと同時に対策が優れている金融機関を選び、7月以降の立ち入り検査の際の指標にすることも計画しているということです。また、別の報道では、金融庁が、AML/CFTを徹底するため、地銀、信金、信組に対し、疑いが高いと思われる送金額や送金の頻度、形態などについて具体的な例を示し、チェックするよう要請しているということです。この点については、メガバンクに比べ相対的に取り組みが遅れているこれらの地域金融機関のレベルにあわせ具体的な例示によって取り組みを促進する狙いがあるものと思われ、それ自体否定はしません。しかしながら、このチェックリストを(AML/CFTガイドラインが求めているリスクベース・アプローチ(RBA)に基づく自立的・自律的な取り組みを行うことなく)形式的に盲信、そのまま活用してしまうことで、かえって地域金融機関が制度の趣旨に沿った判断をせず、形式主義に陥るリスク(チェックリストを愚直に活用することで、逆に取り組みの実効性が確保できなくなるとの矛盾が生じかねないこと)も十分に考えられるところです。あくまで、地域金融機関側の意識レベル・取組レベルの問題ではありますが、AML/CFTは、犯罪者側の多彩かつ巧妙な手口に対抗することをふまえれば、プリンシプルベースでの取り組みを徹底することが望ましいことから、徹底した理解の促進をあわせて進める必要があろうかと思います。

 一方の地域金融機関においては、専門人材やノウハウが不足しているのも事実です(相対的に対策が進んでいるメガバンクでは、例えば、SMBCが、ネットバンキングの画面上で、マネロンや迂回送金に使われやすい商品名や都市名を入力すると、適法な取引・送金であることを示す証明書を求める仕組みを導入しています。さらに、来年にもAIで疑わしい送金依頼を検知する精度を高めるといった取り組みを進めています。地域金融機関に同様の取り組みを求めるものではないとはいえ、そのレベル感の違いは明らかであり、そのレベル感の違いを容認することこそが国際的な監視態勢・監視網における「抜け穴」になりかねないと懸念されます)。報道で金融庁幹部が、「メガバンクで受け入れを拒否された不正な資金が地銀と信金に相当流れており、深刻だ。送金先は北朝鮮や(テロ資金供与の懸念がある)アラブ首長国連邦(UAE)、パキスタンにつながっているケースが目立つ」と指摘していますが、今後、規制の強化についていけず、「指針の厳しさに耐えられず、海外送金サービスをやめる金融機関が出てくる可能性がある」との金融庁幹部の指摘も現実のものとなっています(現に、筆者が意見交換をした複数の地域金融機関では、既に海外送金業務を行わないとの経営方針を出されたところもあります)。

(2) 仮想通貨を巡る動向

 金融庁は、昨年4月の改正資金決済法の施行後、初めて仮想通貨交換業者の登録申請を拒否しました。コインチェックから巨額の通貨が流出した今年1月以降、金融庁は仮想通貨業者への監督を強化しており、「みなし業者」であっても管理がずさんな業者は参入を認めない姿勢を明確にした形です。具体的な指摘内容については、後述しますが、報道によれば、金融庁は、複数の仮想通貨交換業者(みなし業者ではなく登録業者)に対しても、AML/CFTに問題があるとして、改正資金決済法に基づく業務改善命令を6月中にも行う方向だということです。登録業者であっても、みなし業者同様、顧客の獲得を重視するあまり、管理体制の整備がおろそかになっている場合は厳しく指導する姿勢を明確に示すものとして注目されます(報道では、金融庁幹部の発言として、「みなし業者の成長を期待するよりコインチェックの二の舞いを避けることの方が大切だ」というものが紹介されており、監視体制の「仕切り直し」を急ぐ金融庁の姿勢が表れています)。関連して、金融庁に登録済みの仮想通貨交換業者11社のうちフィッシング詐欺対策が不十分な業者が6社あることが、筑波大学や野村アセットマネジメントの調査でわかったとの報道がありました(平成30年5月15日付日本経済新聞)。最悪の場合、利用中にパスワードなどが盗まれて不正に仮想通貨が引き出される危険があると指摘されていますが、コインチェックの巨額通貨流出事件を受けて業者は安全性の対策を強化しているとはいえ、対応の遅れが顕著に目立っており、セキュリティ対策だけみても金融庁の速やかかつ厳格な対応が求められている理由が分かります。

 一方で、仮想通貨市場の拡大を受け、マネックスグループによるコインチェック買収をはじめ、仮想通貨交換業者が上場を目指したり、IT企業が仮想通貨による資金調達を行ったりする動きが出始めています。上場のハードルは高く、会計ルールも追いついていないものの、企業の関心は高く、大手の参入も続いています。さらに、世界をみても、大手企業が仮想通貨関連の事業を拡大する動きがあります。米金融大手ゴールドマン・サックスはビットコイン関連のトレーディング業務を始める方針のほか、米取引所大手ナスダックなども関連事業に前向きだということです。仮想通貨に対する需要の根強さや規制強化に伴う不正取引の減少期待を背景に、事業を強化して顧客を取り込む狙いがあるようですが、日本や世界で金融大手の参入や上場を目指す動きが活発化していることは、顧客の「資産」を預かる仮想通貨業界全体の健全化・態勢強化につながるよい機会になるものと期待したいと思います。

◆金融庁 FSHO株式会社に対する行政処分について
▼FSHO株式会社に対する行政処分について(関東財務局ウェブサイト)

 前述した通り、金融庁が、みなし業者の登録拒否処分を行った事例について、その理由等が公表されていますので、抜粋して紹介します。指摘をご覧いただければ分かりますが、同社は金融庁から2度の業務停止命令を受けていたものの十分な対策が取られていませんでした。それどころか、疑わしい取引を放置したり、法令遵守態勢整備すら行われていないなど、明らかに顧客の「資産」を預かる事業者としては不適切と認められるレベルです。やはり、このような事業者には一刻も早く退場していただきたいところです。

  • 資金決済に関する法律(法)第63条の5第1項第4号で定める「仮想通貨交換業を適正かつ確実に遂行する体制の整備が行われていない法人」に該当することから、本日付で登録拒否処分を行った
  • 金融庁は、当社に対し、平成30年2月19日以降、立入検査を実施したところ、当社においては、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)に基づく取引時確認(以下、「取引時確認」という。)を行っていないほか、疑わしい取引の届出の要否に係る判断を行っていない事例等が認められた。このような状況を踏まえ、当局は、同年3月8日、当社に対し、1か月の業務停止命令及び業務改善命令(これまでの取引に関する取引時確認の実施及び疑わしい取引の届出の実行、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策態勢の構築等)を発出した
  • 2回目の立入検査を実施したところ、当社においては、依然として、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策にかかる業務の改善が図られていない状況が判明、平成30年4月6日、当社に対し、2か月の業務停止命令及び業務改善命令(経営体制の抜本的な刷新、法令等遵守や適正な業務運営を確保するための実効性ある経営管理態勢の構築等)を発出した
  • 3回目の立入検査を実施したところ、当社については、下記のとおり、2回にわたる本件業務改善命令を履行しておらず、管理態勢の整備に問題があることが認められた
  • 【経営管理態勢】

    • 当社においては、経営上極めて重要な案件について、旧経営陣が、新代表取締役社長の承諾を得ることなく進めるなど、依然として旧経営陣が実質的に当社を支配している実態が認められた
    • 臨時株主総会が開催され、株主総会の役員選任決議を無効とする旨の決議がなされたことにより、法令等遵守態勢及びシステムリスク管理態勢等の責任者として任命された取締役のほか、監査役も事実上不在。さらに、当社が内部監査を委任した弁護士及び公認会計士も辞任。4月6日付業務改善命令を履行していない状況にあり、経営管理態勢は未だ整備されていないものと認められる

    【法令等遵守態勢】

    • 取引時確認を実施すべき特定取引を行った者のうちの半数以上の者について、依然として取引時確認を完了させていないほか、多数の疑わしい取引が確認され、ようやく当該取引に係る届出が行われるといった事態が生じている。さらに、取引時確認を行った確認記録が作成されていない多数の事例(犯収法第6条違反)等が確認された
    • その株主・役職員について、反社会的勢力であるか否かの確認を一切行っていないほか、顧客に対しての確認も不十分なものとなっている

    【法定帳簿等管理態勢】

    • 平成29年4月1日以降の取引に係る「取引日記帳」等について、検査実施日である平成30年5月16日までに、法定要件を満たした帳簿の作成を完了していない。また、法定帳簿の元となる取引記録データのうち、取引日、売買価格、手数料の各項目に関し、申込書記載事項との相違が複数認められ、正確性が確保されていない

    【システムリスク管理態勢】

    • 未だにシステムリスクの特定・分析・評価を網羅的に実施しておらず、また、コンティンジェンシープランも作成していない

    【利用者保護等管理態勢】

    • 取り扱う仮想通貨の概要や、利用者が支払うべき手数料等を顧客への説明書面に記載していないなどの法令違反(法第63条の10、仮想通貨交換業者に関する内閣府令第17条第1項違反)が認められるなど、利用者保護等管理態勢は未だ整備されていないものと認められる
  •  上記のとおり、当社はいずれの管理態勢も整備されておらず、法第63条の5第1項第4号で定める「仮想通貨交換業を適正かつ確実に遂行する体制の整備が行われていない法人」に該当するものと認められる

 また、現在、金融庁では、「仮想通貨交換業等に関する研究会」を開催していますが、その議論の内容も公開されており、今後の方向性を考えるうえで参考になります。以下、委員の発言から筆者にて重要と思われるものをピックアップしています。

▼金融庁 「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第2回)議事録
  • 国際的な比較を見たときに、仮想通貨交換業者に当たる主体を直接規制の対象にしているような国は、どうもあまり見当たらない。仮想通貨の世界自体、仮想通貨そのものについては様々な議論があるものの、仮想通貨交換業者というものに対する議論というのは、実はあまり国際的にもされていない。ただ、実は今の仮想通貨における非常に大きな問題というのは、この仮想通貨交換業者にあるのではないか
  • 技術的に事実上銀行と同じような構造になってしまったものが、ごく少ない金額を預かっている間はまだよかったと思うが、日本の仮想通貨交換業者は、数兆円単位の金額を扱っているように見受けられ、それぞれの扱っている金額は千億円単位と思われる、これが例えば現在同じように資金を預かっている銀行と比べた場合に、銀行が極めて重い規制に服し、かつシステムのセキュリティに多くのコストをかけ、安全なシステムを築いているのと比べて、実際に仮想通貨交換業者が行っている事業というのは、安全性について十分な配慮が行われていないものであるということが、非常に大きな問題
  • 少なくとも日本国内で350万人が、合わせて多分兆円単位の資金を運用しているという実態があるのであれば、それにふさわしい、きちんとしたルールを設けていく必要がある
  • マネロン・テロ資金対策については、業者の対応とともに、当該業者のもとで実際にマネー・ローンダリング等が行われていないかどうかということ、これがきちんと調査されるべきではないか
  • 例えば匿名性が高いものや、あるいは民事執行等の執行手続が困難なもの、あるいは、仮想通貨のプログラムとしての適切性に疑義があるもの、あるいは継続的に適切な管理の確保が見込まれないもの、こういったものについては、一般の利用者に広がることが相当でない
    【注】 コインチェックが匿名性の高い仮想通貨の取り扱いを停止しました。対象は「モネロ」「ダッシュ」「Zキャッシュ」「オーガー」の4通貨。6月18日時点でコインチェックが管理する4通貨は同日以降、日本円に換金して顧客の口座で管理されることになります。匿名性の高い通貨を取り扱っている限り登録業者に認められないことから判断に至ったものと考えられます
  • 恐らくセキュリティの問題も含めて、エンジニアが足りていない、セキュリティの専門家が足りていないという実態が非常に大きい。・・・恐らく、これを短期的に、何百人、何千人という単位で育成するということはそれほど現実的ではない。そこのところはやはり産業構造のほうを変えていく必要がある
  • 匿名通貨が値上がりすることによって犯罪者が手にする金額自体が増えてしまうので、そこに資金が流入するということは防いでいかなければいけない。一方で、では国内でランサムウェアに感染した人が、果たしてモネロを買えないことによって身代金を払えないという状況をどのように考えるのか・・・もしこれを禁止してしまえば、そもそも身代金を払えない手段で要求する人というのはいなくなるのだから、やはり全面的に規制すべきであるか、こういったところはしっかりと議論をしていく必要がある
  • 本来、規制というのは、幅広い主体に少しずつ規制するというほうが、公平性という観点からは望ましく、特定の業者にそういう規制が集中するというのは、望ましくない。しかし、仮想通貨の宿命みたいなものとして、やはり特定の業者、規制しやすいところを規制しなければならない傾向がある。その点で固有の問題以外は過度の規制の集中が起こらないような工夫は大事
  • 事務ガイドラインがしっかり遵守されていれば、こういった問題の相当程度は発生しなかっただろうとも思われ、これから規制を検討していく上では、中身も当然重要だが、それをいかに守らせるか、遵守させていくかといった観点が必要
  • 仮想通貨につきましては、インターネットで繋がっているということもあり、相対的に規制の緩い法域において潜脱が行われるリスクが高いというのは、改めて認識する必要がある
  • FATFの加盟国は三十数カ国、しかもOECD諸国が中心ということもあり、FATFが旗を振ったからといって、必ずしもグローバルに規制が完全に統一されるわけでもない。やはり、日本サイドにおけるモニタリングをしっかり行う必要がある
  • やはり参入規制が少し緩いのではないかとい問題意識がある。例えば、自己資本もかなり低い額だが、今回の事故のように一旦流出事故みたいなことが起きれば、数十億とか数百億単位で喪失が出るということもあり得るわけで、そういった点から、自己資本に限らず、参入規制についてもう一回考えるべき
  • 金融庁で把握されている通り、本当に数十億円、数億円という会社もある。全てに、いわゆる銀行と同等の規制を適用していくというところまでいくのは過度ではないか
  • インターネット証券が出てきたとき、また外国為替証拠金取引が出てきたときと同様に、やはり黎明期のものの中からどれだけ誠実かつ忠実に運用できるような業者になるのかというところに関しては、猶予、時間をいただきたいところ
  • 自主規制は非常に大事だが時間的猶予という話が少し気になる。現段階は、もうそういうことをあまり言える段階ではないのか

 以下、仮想通貨のトラブル等を巡る動向に絞って紹介したいと思います。

  • 金融商品取引業の登録がないのに仮想通貨への投資を募っていたとして、証券取引等監視委員会は、「オレンジプラン」と「ゴールドマイン」の2社と代表取締役2人に対し、業務差し止めを申し立てています。
    ▼証券取引等監視委員会 株式会社オレンジプラン及び株式会社ゴールドマイン並びにその役員2名による金融商品取引法違反行為に係る裁判所への禁止及び停止命令発出の申立てについて

    金融商品取引法に基づく調査の結果、「オレンジ社らは、「ポートフォリオコイン」の発行主体とされる海外法人が仮想通貨の売買によってその売上金を運用するとしているが、オレンジ社が「ポートフォリオコイン」の売上金を海外法人に送金している形跡や海外法人からその運用益を受け取っている形跡は認められていない」こと、「一般投資家に対して支払う分配金等は、専ら「ポートフォリオコイン」の売上金及び会員の登録料等から支払われており、オレンジ社は、「ポートフォリオコイン」を販売しなければ分配金等を支払うことができない状態となっている」こと、そのため、「オレンジ社が今後も分配金等を支払うためには、一般投資家に対して「ポートフォリオコイン」の新規の取得勧誘を継続するほかない状況にある」ことから、今後も違法行為を続ける可能性が高く、速やかに業務の停止、禁止を命じる必要があると判断したとのことです。
  • トレンドマイクロの調査によれば、サイバー攻撃の主流は身代金要求から仮想通貨の盗掘へ、対象もスマホに広がっているということです。特に、2018 年第 1 四半期に全世界で確認されたメール経由のランサムウェア攻撃は前四半期である 2017 年第 4 四半期と比べ 97% の大幅な減少となったのに対し、仮想通貨発掘のための「コインマイナー」の全世界での検出台数は、2017 年第 4 四半期の約 27 万件から今四半期は約 33 万件と増加が見られているということです。
    ▼トレンドマイクロ サイバー犯罪の狙いは「ランサムウェア」から「不正マイニング」へ、2018 年第 1 四半期の脅威動向を分析


    実際の不正マイニング事例としては、広告経由や改ざんサイト上での不正マイニングやブラウザ拡張機能を偽装するコインマイナーなどが確認されているほか、 PC 以外の攻撃対象として、マイニング機能を持つ Android 向け不正アプリの事例や、よりリソースが豊富なサーバにコインマイナーを感染させる事例も確認されているといいます。このような事例から、同社は、不正マイニングがサイバー犯罪の目的として中心的な存在となってきたことにより、攻撃手法の巧妙化と攻撃対象の拡大が進んでいることがうかがわれると指摘しています。その背景には、2017年9月に処理能力を簡単に盗み出せるプログラムが登場、技術的なハードルが下がったうえに仮想通貨の相場が高騰し、ビジネスとしてうまみが出たことが挙げられます。さらに、シマンテックは、「利用者が増え、処理能力や通信速度が向上したスマホは犯罪者にとって魅力的な攻撃対象になった」と指摘。攻撃用ネットワーク「ボットネット」を貸し出すサイトや、スマホ向けウイルスを簡単に作成できるツールが増えていると警告しています。
(3) 特殊詐欺を巡る動向

 警察庁は、昨年1年間における「オレオレ詐欺」など特殊詐欺の認知件数について確定値を発表しています。今年2月に公表した暫定値より11件多い18,212件となり、7年連続の増加となった一方で、被害額も約4億4,000万円増えて約394億7,000万円となりましたが、3年連続減少となりました。摘発者数については、42人少ない2,448人で確定しています。

 では、例月通り、平成30年1月~3月の特殊詐欺の認知・検挙状況等についての警察庁からの公表資料を確認します。

◆警察庁 平成30年4月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

 平成30年1月~4月の特殊詐欺全体の認知件数は5,557件(前年同期5,669件、前年同期比▲1.9%)、被害総額は93.2億円(106.4億円、▲12.4%)となりました。うち振り込め詐欺の認知件数は5,478件(5,574件、▲1.7%)、被害総額は89.8億円(100.6億円、▲10.7%)となっており、最近は認知件数の増加ベースが鈍化していたところ、ここにきて減少に転じています。また被害額の減少は続いていますが、その減少幅はやや小さくなっています。また、類型別の被害状況をみると、オレオレ詐欺の認知件数は3,118件(2,257件、+38.1%)、被害総額は44.8億円(48.7億円、▲8.0%)と件数の急激な増加傾向、被害額の減少傾向が続いています。また、架空請求詐欺の認知件数は1,689件(1,661件、+1.7%)、被害総額は36.7億円(33.7億円、+8.9%)と前月同様、件数・被害額ともに増加し、1月の傾向(件数+15.5%、被害額▲14.0%)とは異なる傾向となっています。

 融資保証金詐欺の認知件数は151件(235件、▲35.7%)、被害総額は1.7億円(2.0億円、▲15.0%)、還付金等詐欺の認知件数520件(1,421件、▲63.4%)、被害総額は6.6億円(16.1億円、▲59.0%)と、これらについては件数・被害額ともに大きく減少する傾向が継続しています。これまで猛威をふるってきた還付金等詐欺の件数・被害額が急激に減少する一方、それととって替わる形でオレオレ詐欺や架空請求詐欺が急増している点(特殊詐欺全体でみれば件数が減少に転じた点は特筆すべき変化ではありますが、それでも高水準を維持している点)に注意が必要です。なお、それ以外では、特殊詐欺全体の被害者について、男性25.5%、女性74.5%、60歳以上81.0%(70歳以上だけで65.2%)と、相変わらず全体的に女性・高齢者の被害者が多い傾向となっているほか、犯罪インフラの検挙状況として、口座詐欺の検挙件数は424件(534件、▲20.6%)、犯収法違反の検挙件数は797件(708件、+12.6%)、携帯電話端末詐欺の検挙件数は74件(129件、▲42.6%)などとなっています。


 一方、数字以外の面で、最近の傾向を分析したものとして参考になる報道(平成30年6月4日付毎日新聞)がありましたので、紹介いたします。今年の石川県内での特殊詐欺被害は、4月末までに24件と前年同期より14件少ないものの、被害額は約2,600万円多い8,000万円に上っているということです。県警は「犯人側は『だませているな』と感触を得た人にとことんつけ込むなど、手口が悪質になっている」と分析していますが、3月には「訴訟取り下げの費用」という名目で、金沢市の50代女性が郵送やコンビニエンスストアでの支払いを計60回も繰り返し、計2,000万円以上をだまし取られた被害が発覚しています。このような手口について専門家は、「『訴訟』と言えば相手の恐怖心もあおることができるし、『早く終わらせたい』と支払いを急がせることができる」としてますが、何より同じ相手をだまし続けるのは「犯行の効率を重視する」からだという指摘はなかなか興味深いと言えます。本コラムでたびたび紹介している通り、特殊詐欺の被害者には「確証バイアス」がかかるとともに、高齢者ほど「自分は騙されない」という自信過剰傾向にあること、高齢者ほど「騙されるほど愚かではない」とする自尊心の高さが顕著であること、これらの結果、一度騙された人が再度騙されやすい傾向にあることなどが共通して指摘できるところであり、「犯行の効率化」は理に適っていると言えます。

 さて、このような状況に対して、石川県警は、まずは「全件通報制度」の徹底を図ろうとしています。この制度は、例えば、「65歳以上の高齢者が100万円以上を引き出した」など一定の基準にあてはまるケースについて、金融機関が警察に通報し、駆けつけた警察官が本人から事情を聞いて被害を防ぐ仕組みということであり、昨年、石川県警は155件、額にして1億4,800万円分の被害を防ぐことに成功しています(認知件数と阻止件数の合計のうち阻止分の割合を示す「被害阻止率」は、全国平均の49.8%を大きく上回る63%にも上るなど、本制度が極めて有効であることが示唆されています)。また、参考になるものとして、被害防止のカギとなるのが不審に思った本人が第三者に相談するタイミングだという点です。報道では、払えなくなった時点で警察に相談する例が多いこと、特に高齢者に関しては、子供にお金の相談をするのは難しいこと、したがって、夫婦仲が良かったり、子供が近くに住んでいる人も被害に遭うということを認識すべきだと指摘していますが、大変興味深いと言えます。高齢者の自尊心や自信過剰傾向をふまえれば、このような事情もよく理解できるところであり、いかにして警戒されないコミュニケーションを取るか(何気ない変化や心配事を話してもらえるか)、そして、微かな端緒を嗅ぎ取る力が、家族はもちろん、金融機関窓口などにも必要であることが示唆されています。なお、北陸新幹線開業による利便性の向上が被害を助長している面もあるとの分析もその通りだと思われます。実際のところ、被害者が首都圏まで現金を運ばされ、だまし取られる「手交型」の架空請求詐欺が増加していると言います。


 特殊詐欺の新たな手口についても、注意喚起の意味を込めて、紹介しておきたいと思います。

 まず、架空請求詐欺が増加していますが、全国の消費生活センターなどに寄せられた架空請求詐欺に関する昨年の相談件数が、2007年以降で最多の約159,000件に上ったということです。2016年の約77,000件から倍増した形となっています。このうち、はがきを含めた「商品一般」は2016年が約5,000件だったのに対し、昨年ははがきだけで約11倍の56,000件に急増しており、スマホやSNS全盛の今だからこそ、「はがき」が(復活ですが)新たな手口として威力を発揮している状況が読み取れます。また、架空請求詐欺については、スマホなどのショートメッセージサービス(SMS)を悪用した手口、「収納代行利用型」の手口、具体的には、身に覚えのない料金を請求する電子メールやSMSが高齢者などに突然送られ、コンビニエンスストアでプリカを購入させてカード番号を詐取する事例などが猛威をふるっています。また、最近では、特定の宅配業者を指定して現金等を送付させ(送付先が架空名義などの事例もあります)、集配業務のアルバイトがその荷物を回収するという手口も登場しています(この手口では、最近でも、宅配便「ゆうパック」の配達員が架空請求詐欺に関与したとして、愛知県警捜査2課などが、詐欺未遂の疑いで配達業の男、配達員の両容疑者を逮捕したとの事例がありました。詐欺グループがゆうパックでの現金送付を指示し、配達途中で抜き取ったとみられます)。

 また、固定電話の転送機能サービスを悪用した特殊詐欺が東京都内で増加していると言います。詐欺グループが携帯電話を使っていても、被害者には「03」などで始まる固定電話の番号が表示され、行政機関や企業からかけているように装えるというものです。報道(平成30年5月25日付産経新聞)によると、都内で発生した振り込め詐欺などの特殊詐欺で使用された電話番号について、発信元が固定電話の番号だったのは平成27年の約5割から、平成28年は約7割、平成29年には3,964件のうち固定電話が3,175件と8割に達するなど増加傾向が続いており、転送の手口が拡大していることがうかがえるということです。さらに、携帯電話が犯罪に使われたときには、携帯電話不正利用防止法に基づき、強制的に利用を停止できる仕組みになっているが、固定電話は番号を止められる明確な法令が存在しない点が突かれた形となっています。


 また、特殊詐欺の問題のひとつに少年犯が多いことが挙げられます。報道(平成30年6月5日付産経新聞)によれば、1~4月に警視庁が摘発した詐欺犯のうち、少年の割合が昨年同時期の2倍以上に急増して35・6%を占め、過去最大になったということです。「簡単に稼げる」「リスクが低い」といった誤ったイメージが、交友関係を通じて広まっていることが少年の犯罪の増加につながっていますが、実際のところ、現金を受け取る「受け子」などは摘発されるリスクが最も高く、安易に手を出せば人生を棒に振ることになりかねず、特殊詐欺対策のひとつとして、少年への啓発活動の強化に取り組む必要があると思われます。また、特殊詐欺においては、最終的に被害金が暴力団の資金源となっていることが指摘されています。直近でも、警視庁と京都府警、和歌山県警が、特殊詐欺グループがだまし取った金の一部を受け取っていた疑いがあるとして、詐欺容疑で、六代目山口組の2次団体「二代目中島組」の本部事務所を家宅捜索しています。5月に逮捕した詐欺グループの一部が、詐取金が二代目中島組の幹部に渡っていると供述しており、同組がグループを統括し、全国で特殊詐欺を繰り返していた可能性があるとみられています。また、5月には、警視庁捜査2課が、指定暴力団住吉会系組員を詐欺容疑で逮捕しています。容疑者は特殊詐欺グループのリーダーで、被害は2015年5月以降、全国で約200人、総額12億円に上るとみられています。

 それ以外の最近の特殊詐欺事件で気になるものを、以下にいくつか紹介しておきます。

  • 通信販売の未納料金名目で大分県の女性から500万円をだまし取ろうとしたとして、大分県警は、詐欺未遂の疑いで、徳島市西部環境事業所の臨時職員を逮捕しています。容疑者は特殊詐欺グループの一員で、被害者から現金を受け取る「受け子」を勧誘する役割だということです。その一方で、容疑者は2016年から臨時職員として任用され、ごみ収集業務を担当、勤務態度は真面目で、今年4月に3度目の契約を更新し、9月末まで働く予定だったということです。公務員が特殊詐欺グループの一員という正に「あってはならない」例だと言えます。
  • 証券会社を装って現金をだまし取ろうとしたとして、警視庁は、男女7人を詐欺未遂容疑で逮捕しています。拠点のマンションからは「富裕層」と書かれた高齢者約15,000人の名簿が見つかっています。報道(平成30年6月7日付読売新聞)によれば、証券会社を装うオレオレ詐欺は昨年7月以降、全国で約30件あるということですが、被害総額は約4億円に上っており、警視庁は手口などから、このグループが大半に関与したとみているということです。
  • 埼玉県警が、約1,200万円をだまし取った特殊詐欺グループのリーダーを逮捕しています。容疑者自身が実質的に経営するファストフード店の元店員らを、嘘の電話をかける「かけ子」や現金などを受け取る「受け子」として勧誘していたということです。従業員を次々と詐欺に加担させるという例も珍しいのではないかと考えます。

 一方で、最近の報道から、新たな特殊詐欺対策や詐欺を防いだ事例等について、紹介します。

  • 前述の通り、振り込め詐欺などに少年が加担することが問題となっていますが、警視庁生活安全部は、特殊詐欺に関与して逮捕された少年3人の証言を記録したDVDを作製しています。既に指摘した通り、少年たちは現金を受け取る「受け子」や、金を引き出す「出し子」として詐欺グループにリクルートされても逮捕されるリスクが高く、「使い捨て」にされている現状があります。同庁では防犯教室でDVDを上映し、安易に詐欺に手を染めないよう警鐘を鳴らすこととしています。
  • ATMの現金補充や住宅の防犯システム関連の作業に当たる警備員に特殊詐欺被害防止の協力をしてもらおうと、警視庁は、「東京都警備業協会」と連携強化協定を締結しました。同協会に加盟する951業者の約97,000人が参加することになります。報道によれば、ATM周辺で携帯を持った高齢者に声を掛けるなどして警備員が特殊詐欺被害を防いだ事例が昨年18件、今年に入ってから13件あったということです。
  • 特殊詐欺被害を未然に防ぐため、栃木県警が2015年5月に高齢者に貸し出しを始めた「特殊詐欺撃退機器」を利用する世帯で、特殊詐欺被害が一件もなかったということです。報道(平成30年5月26日付読売新聞)によれば、9割を超える人が「不審な電話を受けなくなった」と回答しており、県警は「特殊詐欺被害の防止に一定の効果があった」としています。
  • 息子を装って高齢女性から現金を詐取しようとしたとして、警視庁町田署は、自称無職の男を詐欺未遂容疑で現行犯逮捕しています。関西弁を話す息子と違い、電話口の男が標準語だったため女性が詐欺に気付いたといい、だまされたふりをして町田署に通報したということです。
  • 神奈川県平塚市のタクシー会社の男性運転手が、客として乗り込んできた若い男の不審な様子に気づき、現金手渡し型の詐欺被害を未然に防いでいます。「祖母の家に行く」と言ってタクシーに乗り込んだものの、買ったばかりのスーツを着た男は茶髪にピアス姿であり、携帯電話で指示を受けるように話し続けていたこと、さらには男が行き先の住所を読めなかったことなどから、疑わしいとして会社を通じて通報したものです。なお、この運転手は2年ほど前にも同様の事件で容疑者逮捕に協力していたということです。
(4) テロリスクを巡る動向

 現在、イスラム教のラマダンの最中であり、外務省は、ラマダン前後に世界中でテロが発生しているとして注意喚起しています。まずは、その内容を抜粋して紹介します。

◆外務省海外安全ホームページ ラマダン月の注意喚起(平成30年5月7日)
  • 5月15日(火)頃から6月17日(日)頃はイスラム教のラマダン月及びラマダン明けの祭り(イード)に当たる。近年、ラマダン月及びその前後に世界中で多くのテロ事件が発生しており、特に、IS等は、過去ラマダン月の期間にテロを呼びかける声明を発出している。最近は、爆弾や銃撃に加えて、車両やナイフなど身近な物を使用して不特定多数を殺傷するテロが呼びかけられている
  • 特に金曜日に注意が必要。金曜日はイスラム教徒の集団礼拝日であり、その際、モスク等宗教施設や群衆を狙ったテロや襲撃が行われることがある。本年のラマダン月については、5月18日、25日、6月1日及び8日が金曜日に当たる。また、以下の場所がテロの標的となりやすいことを十分認識する
    観光施設、観光地周辺の道路、記念日・祝祭日等のイベント会場、レストラン、ホテル、ショッピングモール、スーパーマーケット、ナイトクラブ、映画館等人が多く集まる施設、教会・モスク等宗教関係施設、公共交通機関、政府関連施設(特に軍、警察、治安関係施設)等
  • 最新情報の入手に努め、テロの標的となりやすい場所を訪れる際には安全確保に十分注意を払うこと。情報収集には「たびレジ」を活用すること
  • シーン別の注意点
    • 車両突入の場合、ガードレールや街灯などの遮へい物がない歩道などでは危険が増す。歩道を歩く際はできるだけ建物側を歩くこと
    • コンサート会場・スポーツの競技場等の閉鎖空間の場合、会場には時間より早めに入る、終了後はある程度時間を置いてから退出するなど、人混みを避けるよう努める。セキュリティの確保されていない会場の外側や出入口付近は危険であり、こうした場所での人だまりや行列は避けるようにする。不測の事態の発生を念頭に、会場の出入口や非常口、避難の際の経路等についてあらかじめ入念に確認する。周囲がパニック状態になっても冷静さを保つように努める
    • 爆弾、銃器を用いたテロに遭遇した場合は、爆発、銃撃の音を聞いたらその場に伏せるなど直ちに低い姿勢をとる。頑丈なものの陰に隠れる。周囲を確認し、可能であれば、銃撃音等から離れるよう速やかに低い姿勢を保ちつつ安全なところに退避する。閉鎖空間の場合、出入口に殺到すると将棋倒しなどの二次的な被害に遭うこともあり注意が必要

     さて、世界は「IS(イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」)後」に向けて着実に動いています。その中で、5月にパリで発生した襲撃事件は、容疑者が襲撃時に「アラー・アクバル(神は偉大なり)」とアラビア語で叫んでいたとの目撃証言があったこと、ロシア南部のチェチェン共和国出身の20歳代前半の男で過激派思想への傾倒が疑われ、2016年からフランス捜査当局の監視対象リストに載っていたことなどから、当局はテロの疑いがあるとみています。なお、ISが系列のアマク通信を通じて犯行声明を出しています。さらに、ベルギー東部リエージュで5月29日に女性警官2人を含む3人が男に射殺された事件について、ベルギー検察は、容疑者の男がイスラム過激派とみられる人物と交流があり、犯行中、アラビア語で「アラー・アクバル」と何度も口にしていたこと、警官をナイフで襲って銃を奪う手口は、ISがインターネットで提案しているテロ手法と同じことなどから、イスラム過激派に影響されたテロ事件とみて捜査しているということです。これらは、ローンウルフ型のテロリストの犯行と位置付けられますが、「IS後」とはいえ、ISの亡霊がいまだ世界中で出現していること(出現する可能性)を実感させられます。なお、関連して、米連邦捜査局(FBI)長官は、公聴会の場で、FBIが捜査中のローンウルフ型テロ容疑事案が米国内で約1,000件に上ると明らかにしています(この数には、ISやアルカイダが絡む事案の捜査は含まれないということです)。また、こうした個人によるテロ行為を未然に食い止めることが「最優先課題だ」と強調していますが、たとえ監視対象リストを充実させたとしても、把握できていないテロリストは数多く存在すること、監視対象者が増えれば増えるほど、全ての対象者を網羅的に行動監視することは難しく、結局は未然に防止するのは難しいことを前提として対策を考えていく必要があると言えます。

     また、インドネシア東ジャワ州の州都スラバヤで、女や子供を含む自爆テロが相次ぎ、未遂も含めこれまで3家族の犯行が明らかになっています。インドネシア国家警察長官は、一連のテロは、ISの指示を受けた犯行との見方を示しており、追加テロに警戒している状況です。

     このように、世界では、いまだ一部地域で活動している「リアルIS」と、ローンウルフ型テロのように思想的に世界中に影響を及ぼしているISの「2つのIS」が存在しています。前者については、全体的な縮小傾向にある一方で、散らばった残党によるアジア・アフリカ等での展開に注意が必要だと言えます(この流れを受けて、インドネシアの国会は、対テロ改正法を満場一致で成立させています。国内の治安維持は警察が主導し、軍は補助的な役割にとどまっていたところ、テロ対策における国軍の役割を拡大するのをはじめ、テロを未然に防ぐ目的で捜査当局の権限を大幅に強化する内容となっています)。また、後者については、日本を含む世界中で今後も、いつ、誰によって起こるか分からない「見えないテロリスク」に備えていく必要があります。なお、前者のリアルISの状況では、在英のシリア人権監視団が、シリアの首都ダマスカス南部でアサド政権軍と激しく交戦していたIS戦闘員の一部が撤退を開始したと明らかにしています。アサド政権軍は首都近郊の東グータ地区を完全制圧した4月中旬以降、ISが占拠する南部ヤルムーク地区などへの攻勢を強化していました(報道によれば、一連の戦闘による市民の死者は50人を超え、IS側も戦闘員約480人が死亡したということです)。また、リアルISが支配していたイラクについては、IS打倒の実績を訴えるアバディ首相が総選挙で勝利したものの、荒廃した国土の復興は遅れ、支持基盤のイスラム教シーア派勢力も分裂するなど政情不安の状態が続いています。人心と国土の荒廃は政情不安だけでなくテロの温床ともなります。その意味では、「IS後」に踏み出したとはいえイラクの再建はまだ道半ばの状況だと言えます。また、IS以外では、国際テロ組織アルカイダにおいて、指導者アイマン・ザワヒリ容疑者が、在イスラエル米大使館のエルサレム移転を非難する声明を出し、「ジハード(聖戦)で抵抗するしかない」とイスラム教徒に米国への攻撃を呼びかけており、米国のテロ組織監視団体「SITE」が同容疑者の5分間の映像を公開するなどしており、テロの不安は高止まりしたままです。

     それ以外では、テロとは直接関連はありませんが、欧州で、最近、ユダヤ人を狙った襲撃事件や嫌がらせ事案が多発している点が気になります。ユダヤ人差別は従来、極右やネオナチなどの問題とされてきましたが、最近はイスラエルに反発するアラブ系住民・難民やイスラム過激思想に感化された者による犯行が目立っているということであり、テロを生む構図に近くなっているようです。報道によれば、危険を避けようと欧州からイスラエルへのユダヤ人の移住も増加し、ユダヤ人社会には不安が広がっているということであり、今後の動向を注視する必要があります。また、米財務省でテロ・金融犯罪を担当する財務次官が、各国政府や民間企業に対し、イランがテロ支援などの資金調達目的で政府や企業を利用することを厳重に取り締まるべきだと警告している点にも注意が必要です。報道によれば、「イランと取引を行っている企業は大きなリスクに直面しており、イランの核問題に関連して米国が追加制裁を課すなか、そうしたリスクはさらに大きくなっている」と指摘したということであり、北朝鮮に対する制裁が強化されたときに、日本企業等が慌てて取引を見直す動きがありました(現時点でも問題を解消出来ていない企業も多数存在していることが懸念されます)が、今後、イランを巡って同様の動きが起こる可能性があり、「厳格な顧客管理」態勢を整備するなど、制裁リスクへの対応が求められていると認識する必要があります。


     さて、本コラムでは、社内研修等の一環として活用できそうな外務省の 「ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル」の紹介を継続的に行っています。動画版は第10話までリリースされていますが、既に、さいとう・たかをさんの人気漫画「ゴルゴ13」を使った単行本とともに以下に掲載されていますので、その中から一部をあらためて紹介します。

    ◆外務省「ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル」
    ◆第7話 安全のための三原則

     今回はまずは第7話【安全のための三原則】について取り上げます。本話では、海外渡航・赴任に当たっては、「自分と家族の安全は自分たちで守る」、「予防が最良の危機管理である」という心構えを持ち、行動に当たっては「安全のための三原則」を守ることが、危険を避けることに役立つと指摘しています。この「安全のための三原則」とは、(1)目立たない、(2)行動を予知されない、(3)用心を怠らない、の3つを指しています。まず、(1)目立たないについては、犯罪者やテロリストは、目立つ人物を標的として、選ぶ場合があり、渡航先・赴任先において必要以上に華美な服装や宝飾品をつける、目立つ車に乗る、公共の場で大声で会話をする、今後の予定をSNSに書き込む、渡航先の政治・文化・宗教等に関する批判をすることなどは、目立つのみならず、積極的に標的とされる可能性を高めるため避けるべきだと指摘しています。次に(2)行動を予知されないについては、犯罪者やテロリストの立場で考えると、行動パターンが決まっているターゲットは、先回りができるので襲撃の計画が立てやすい相手だとしたとうえで、通勤・通学・日常の買いものなど、外出する際のルートや時間をワン・パターン化することは、狙われる危険性を高めることにつながること、できるだけ移動のルートや時間などをランダムにすることで、自分の行動を予知されないようにすることが重要だと言います。ただし、国によっては移動ルートが1つしかない、移動時間を変えられないといった事情もあり得るところ、この場合は警備を強化するなどの工夫が必要だと指摘しています。最後の(3)用心を怠らないについては、現地に到着したばかりの頃は安全対策に気を配っていても、生活に慣れてくると最初の頃に意識していた注意事項がおろそかになる場合があること、また、現地の治安情勢は様々な要因で大きく変化しており、「うさぎ(ラビット)のように臆病」(ゴルゴ13)であること、常に用心を怠らないためには普段から日常的に関連情報の収集を行いながら、安全対策を定期的に見直す機会をつくることが重要だと指摘しています。 その他、参考になるものとしては、「住居の安全対策の継続的な見直し」について、実際に現地の状況を確認したうえで必要に応じて追加で安全対策を講じることが大切だという指摘です。一般的に、犯罪者は侵入が比較的簡単な住宅をターゲットにする傾向があり、周囲の住宅より自宅の安全対策が緩ければ、ターゲットになる可能性が高くなることをふまえ、近隣の住民がどのような安全対策をとっているかを調べて参考とすることが必要だと言います。また、住居の安全対策を講じるにあたっては、住宅に3つの防衛線(第1次の防衛線:敷地境界線、共通の出入り口、第2次の防衛線:建物の外周、第3次の防衛線:避難室の外周)を想定して対策を考えるべきだと指摘しています(末尾に詳細なチェックリストがついており、実践的な内容で参考になります)。このあたりは、AML/CFTの実務とも通じるところがあり、脆弱性がある部分が狙われ悪用されることから「抜け道」とならない最低限のレベル感以上の取り組みをする必要があること、現場・管理・監査の3つの防衛線により実効性を確保すべきであることなどが共通しています。また、本話の解説では「慣れに気を付ける」との指摘も重要です。赴任当初は安全対策に気を配っていても、現地での生活に慣れてくると次第に安全対策への気配りがおろそかになること、特に念入りに安全対策を準備したにも関わらず、半年間何も危険な目に遭わなかったなどの状況になると気が緩むこともあること、安全対策をおろそかにすると、それだけ危険に遭遇する可能性は高まるため、普段から日常的な情報収集を欠かさず、定期的に安全対策を見直すなど気を引き締める機会を持つことが、自分の身を守ることにつながると指摘しています。さらに、また、「定期的な見直し」も推奨されており、安全対策には定期的な見直しが必要であること、例えば月に1回程度、日時をカレンダーや予定表に書き込んでおき、見直しのきっかけにすることなどが推奨されています。このあたりも、反社リスク対策において、反社会的勢力を見抜くことが難しいことから、(反社会的勢力は当社には関係ないものだと)いつの間にか反社リスクに対する感度が鈍くなることもありえます。また、定期的な見直しは「中間管理(適切な事後検証)」の取り組みの重要性に通じるものがあります。

    ◆第8話 オフィスの安全対策

     続いて第8話【オフィスの安全対策】について取り上げます。本話では、オフィスを新しく設ける場合、例えば、治安環境や治安機関の信頼性、テロ対象となりそうな施設の有無など所在地・周辺エリアの安全性、建物・駐車場の構造、雑居ビルであれば他の入居企業の情報、通勤経路の安全性、費用・利便性などを考慮するのが一般的であること、加えて、建物自体の耐震性についても十分注意する必要があること、いつ、誰が建設したのか、その業者の信頼性は高いのかなどもポイントだといいます。また、住宅同様、犯罪者は比較的侵入しやすい場所をターゲットにする傾向があり、入館者の確認、警備体制、監視カメラ、侵入センサー、通信手段など、周囲と同等以上の機能があるか、緊急時に機能するかも含め確認することが重要だと指摘しています。また、安全のための三原則のひとつである「行動を予知されない」ことが重要という点では、例えば、役員や関係者の行動、来客などの情報管理を徹底し、必要最小限のメンバーのみで共有することが危機回避につながること、「これだけやれば大丈夫」という安全対策はなく、現地の治安情勢に応じて警備体制や警備機材等を検討すべきこと、また、現地情勢はささいなことで大きな変化が生じる可能性があり、日常的に関連情報をモニターしながら、最新の情勢分析に応じて安全対策を更新していくことが大切だと指摘しています。これらは正に、施設の警備に必要なポイントを網羅したものであり、国内の自社のオフィス・工場等の警備体制の見直しの参考にしていただきたいと思います。


     さて、2020年東京五輪・パラリンピックの開催に向けて、日本のテロ対策がより具体化しており、訓練も増えています。先日も、警察庁長官は「ドローンを悪用したテロなど、新たに想定される事象に対しても、社会全体における対処能力の向上を図ってほしい」と指示したほか、平昌冬季五輪やリオ夏季五輪では、関連機関にサイバー攻撃が仕掛けられたことを踏まえ、「幅広い情報収集、分析の強化など各種対策を計画的かつ着実に推進してほしい」とも述べています。なお、訓練については、以下のようなものが直近で実施されています。

    • 海上保安庁が6年ぶりに観閲式を行い、巡視船のほか海上自衛隊の護衛艦、警察の警備艇など計37隻の船艇と、航空機15機が参加しました。巡視船に乗り込んだ約3,000人の観客が見守る中、ヘリコプターによる漂流者の救助などの訓練のほか、テロ容疑船を捕捉・制圧する訓練として、海上保安官たちが巡視艇から容疑船に飛び移る訓練などが行われたということです
    • テロリストの侵入を水際で防ぐため、姫路海上保安部と兵庫県警などは、兵庫県姫路市の姫路港でテロ対策合同訓練を実施しています。同保安部や県警、同市消防局などから約120人が参加し、姫路港に入港した外国旅客船の入国審査中に国際手配中の過激派テロリストが見つかり、船内から逃走したなどの想定で関係機関がそれぞれの役割を確認しています
    • 2020年東京五輪・パラリンピックに向け、警視庁は、総合緊急配備訓練を行っています。複数の大会関連施設で爆発テロがあったとの想定で、神奈川県警と初めて合同で実施ています。タクシー会社からも情報提供を募り、迅速な犯人検挙を図る形で実施されたということです。具体的な内容としては、馬事公苑でドローンからの落下物が爆発し、多数の負傷者が出ていると想定、味の素スタジアムなどでも爆発があり、警視庁の全署に対して緊急配備を発令し、神奈川県警にも広域配備を要請するというものです
    • 歩行者天国に車が突っ込んだ東京・秋葉原の事件の後、海外で同様の手口のテロが相次いでおり、警視庁は車突入テロ対策を強化しています。前回の本コラム(暴排トピックス2018年5月号)でも紹介した通り、3月からは秋葉原の歩行者天国に鉄柵などを並べる取り組みを行っていますが、隅田川の花火大会や渋谷のハロウィーンでも車突入を防ぐために大型バスなどの警察車両を配置するなどしているほか、海外のテロでレンタカーが使われたことも踏まえ、レンタカー業者に対しては利用者の顔と身分証の写真の確認を徹底し、言動などで不審点がある場合には警察に連絡するよう要請しています
    • 東京都心を狙ったテロに備え、警視庁は、鉄道や電気、ガスなど重要インフラ21事業者との間で、緊急用の同時通話専用回線「パートナーシップホットライン」を開設しました。ホットラインは同庁本部と、21事業者の40部署の間を専用回線で結ぶもので、テロで鉄道が混乱したり、変電所などが破壊されたりした際、被害状況やテロリストの動向を速やかに把握するのが狙いだということです。また、同時多発テロを想定し、全事業者が同時に通話することもできる機能もあり、震災など大規模災害時にも使われるとのことです
    (5) 犯罪インフラを巡る動向

    民泊

     住宅宿泊事業法が6月15日に施行され、民泊事業がスタートしますが、同法に基づく届け出自体は低調だといいます。同法で営業できる日数を年間180日以内と定めていることから、「この日数ではビジネスにならない」との声も根強いうえ、届け出が増えないことで法令に基づかないヤミ民泊が、今後も残るのではないかとの懸念も払しょくされていません。さらに、海外では新たなビジネスとして定着している民泊ですが、国内では衛生面や安全対策を危惧する声も多く、ある調査では半数以上が「利用したくない」と」回答しています。また、本コラムでたびたび指摘している通り、本人確認手続きの脆弱性からテロリストの潜伏先となるリスクや、殺人などの犯罪への悪用、薬物密売・入手や特殊詐欺などの中継点としての悪用、さらには近隣住民の平穏な生活への悪影響など、これまでの事業者や国・地方自治体等の動向を見る限り、犯罪インフラ化が強く懸念される状況に大きな変化は感じられない点は大変残念です。

     先日、住宅民泊事業法施行に先立ち、観光庁がヤミ民泊の予約を取り消すよう、予約サイト運営業者に対し通知を出しています。世界最大手の米エアビーアンドビー(Airbnb)社をはじめ多くの予約サイトは、同法施行後はヤミ民泊を掲載しない方針を打ち出していますが、一部サイトではまだ予約ができる状態になっているといいます。Airbnb社では、既に許認可などがない日本国内の施設の掲載をやめ、同社のサイトで現在検索できる施設は約13,800件と今春時点から8割弱減っています。さらに、同社は、今回の観光庁の通知を受けて、6月15日以前に受け付けた違法な民泊物件の予約を取り消し、宿泊予約者に代金を返金すると発表しています。最大手のこのような率先垂範の対応は、自浄作用が働く気配さえ感じられない業界の浄化、民泊の犯罪インフラ化の阻止につながるものであり、民泊市場の今後の適正化に向けた一歩になるものと期待したいと思います。

     なお、同法と同時施行となる改正旅館業法では、ヤミ民泊の拡大を踏まえ、地方自治体が無許可営業者を立ち入り検査できる権限などが新設され、無許可営業者への罰金の上限を3万円から100万円に引き上げるなど、監督の強化が図られています。また、Airbnb社は、コンビニのファミマと提携し、鍵の受け渡しボックスを設置し、同社に登録する物件の家主と宿泊者が使えるようにしました。さらに、パスポートの提示などの本人確認手続きも店頭のタブレットでできるようにすることで、コンビニの防犯カメラや店員など衆人環視の中でのチェックインとなり、不正抑止にもつながることが期待され、これらの取り組みについても、民泊の犯罪インフラ化の阻止につながるのではないかと思われます。さらに、2020年の東京五輪・パラリンピックを見据え、東京都大田区内にある警視庁の5警察署と民泊運営会社が、不審な宿泊者の情報などを共有し、テロ防止につなげることを目的とした覚書を締結しています。警察と民泊業者の覚書締結は全国初ということで、「大量の機材を持ち込んだ」などの不審な動きを把握した場合に、最寄りの警察署へ情報提供することが定められているということです。このような取り組みも業界の健全化、犯罪インフラ化の阻止、テロ等の犯罪の抑止につながるものと期待されます。一方の自治体の取り組みですが、これまでも多くの苦情を受け付けてきた大阪市では、市や府警OBでつくる「違法民泊撲滅チーム」の実動部隊の発足式が開かれ、来年6月に大阪で日本初開催されるG20首脳会議までに「違法民泊ゼロ」を目指すとの目標を掲げています。ヤミ民泊の実態把握を進めることや、指導に応じない悪質な業者については、刑事告発を検討するなど厳しい対応を取る方針とのことであり、このような自治体の主体的かつ厳格な取り組みが増えることも期待したいと思います。


    その他の犯罪インフラを巡る動向

     以下、最近の報道から、犯罪インフラ化が懸念される状況について、いくつか紹介します。

    • 警視庁が昨年1年間に摘発した偽造クレジットカードを使った詐欺事件のうち、マレーシア人による犯行が全体の4割超の33件に達し、国籍別でこれまでの中国を抜いて最多となったということです。報道によれば、マレーシアの犯罪組織は「日本はやりやすい」とコメントしているようですが、日本が狙われる背景には、偽造が難しく、安全性が高い集積回路(IC)内蔵のカードへの切り替えの遅れ、ICカード用の店舗の決済端末の導入の遅れが指摘されています。一昨年の暴力団等が関与したATM不正引き出し事件(17都府県のコンビニのATMから、日曜日の早朝の数時間の間に18億円超が不正に引き出された事件)でもその脆弱性が突かれ偽造カードが悪用されたことは記憶に新しいところですが、このようなICカード対応の遅れが、日本が世界の犯罪組織からターゲットにされている理由となっています(決済インフラの犯罪インフラ化とでも言える状況です)。一方で、詐欺集団が空港で相次ぐカード密輸摘発を避けるため、国内に製造拠点を作った疑いもあり、ICカード対応が急務となっています。
    • 本人確認をせずに携帯電話の通信に必要なSIMカードをヤミ金融業者に貸し出したとして、福岡県警生活経済課などは、携帯電話不正利用防止法違反の疑いで、携帯レンタル会社代表を逮捕しています。報道によれば、約5年間で、約1億3,000万円を売り上げていたということです。大半は本人確認をせず電話注文だけでSIMカードを貸与しており、うち260回線が全国のヤミ金融業者に悪用されていたほか、一部は偽電話詐欺に使われていたといいます。SIMカードがヤミ金や特殊詐欺など反社会的勢力の資金源獲得活動に悪用されている実態から、SIMカードの犯罪インフラ化の阻止もまた急務となっています。/li>
    • 転売目的でiPhoneを少年2人に購入させたとして、警視庁少年事件課は詐欺の疑いで、建築作業員を逮捕しています。スマホ33台(254万4,000円分)を新宿区の携帯電話買い取り店に転売したということで、「3年間で3ケタ(台数)近くやった」などと供述しているといいます。このようなスマホ等の不正転売事件が相次いでいますが、携帯販売会社における本人確認手続きの「質」が問われているように思われます。本人確認資料と目の前の人物との同一性を表面的にチェックするだけでは不十分であり、購入履歴や取引の態様など全体的な「非合理性」「不審さ」を見抜くこと、その際には安易に手続を進めないことなどを、もっと第1線(現場)で徹底しない限り、このような事案はなくならず、犯罪インフラである携帯電話の悪用を防ぐため、犯罪者を助長しかねない携帯販売自体の犯罪インフラ化を阻止する必要があります。
    • 「特定非営利活動法人(NPO法人)」が脱法的に売買されている問題が顕在化しています。報道(平成30年6月7日付毎日新聞)によれば、福島県内のNPO法人が土木建設業者に買い取られ、約1年後、別の同業者に転売された事例があったとのことですが、いずれの業者も信用をバックに地元企業や行政に入り込み復興関連事業を受注するなど「もうけ話」にありつくのが目的だったということです。このように、NPO法人が、利権につながる道具として悪用されている実態は、東日本大震災直後にも見られました。地震発生直後、反社会的勢力の関与が噂されているNPO法人が被災地自治体にどこよりも早く大規模な支援を行い、その後、信頼を得た自治体の復旧・復興支援事業に食い込んだというものです。また、報道によれば、「NPO法人には環境省や農林水産省から補助金が出やすい」とされ、買い取ったブローカーが数倍の価格で転売する仕組みでもあるとのことです。そして、今は熊本地震(2016年)に伴う復興事業にも向けられており、「今ごろは熊本の法人が買われているんじゃないか」とのブローカーの発言は何ともやりきれない思いにさせられます。翻って、企業の実務においては、NPO法人やNGO法人などを安易に信用すべきではなく、その実質的支配者の確認や役員の状況、これまでの活動実績、来歴の確認など、丁寧に確認する必要があると言えます。
    • 以前の本コラム(暴排トピックス2018年4月号)でも、暴力団組員に捜査情報を漏えいしたとして、新宿署の女性巡査(23)が地方公務員法(守秘義務)違反容疑で書類送検され、停職6か月の懲戒処分(その後依願退職)された事件を紹介しました。本件は職業倫理観の欠如の典型的な事例と言えますが、直近では、中日新聞の記者が知人の元暴力団員に、複数回にわたって、愛知県警が報道各社に提供した暴力団事件に関する発表文を携帯電話で撮影しLINEで男に送信していたという事例がありました。男性記者は男が元組員と知っており、逮捕された暴力団関係者のことを取材するために提供した(それ以上の暴力団側に便宜を供与しようとする意図などはなかった)ということで、こちらは職業倫理観を逸脱して取材(業務)をコンプライアンスより最優先に考えて行動してしまった事例と言えます。また、暴排以外の分野となりますが、中日本高速道路の子会社のパソコンのウイルス対策ソフトを使用できなくしてセキュリティを無効化したとして、神奈川県警は、私電磁的記録毀棄と偽計業務妨害などの疑いで、同社元社員の男性を書類送検したという事例がありました。元社員はシステム管理を担当したことがあり、2016年3月の退社以前に同社のPCのセキュリティを操作できる専用のURLをメモ、「人事に不満があり、いつか会社に仕返ししようと思った」ということです。これは職業倫理観の欠如、それを超えて会社に対する恨みが要因となった事例です。これら3つの事例は、いずれも組織に所属する社員・構成員のもつリスク(ヒューマンリソース・リスク)であり、社員が犯罪インフラ化することの怖さ、全ての事業者において身近に起こり得ることを示すものだと言えます。
    • 発信元を匿名化する通信システム「Tor」を使ったサイトで児童ポルノを閲覧できる状態にしたとして、京都府警は、青森県の無職の男を児童買春・ポルノ禁止法違反(公然陳列)容疑で逮捕しています。Torは犯罪インフラの典型であり、その悪用は犯罪捜査の大きな壁となっており、サイト開設者の逮捕は国内初、世界的にも珍しいということです。過去の摘発事例の中で有名なものとしては、2013年に、「シルクロード」というダークWeb をFBIが摘発した事例があります。当時、シルクロードでは違法薬物から銃器、暗殺依頼にまで取り扱われており、同サイトはTorのネットワークを使って運営され、唯一の決済手段として仮想通貨「ビットコイン」を採用していたことで知られていました。また、昨年7月、米司法省と欧州刑事警察機構が、各国の捜査機関と連携して、禁止薬物やマルウェアなどを大量に販売していた世界最大の闇市場「AlphaBay」と、3番目の規模をもつ「Hansa Market」を閉鎖させています。AlphaBayは、シルクロード同様、ダークWebでTorのネットワークを使って運営され、約4万の販売業者と20万人のユーザーが利用、同サイトで販売されており、禁止薬物や毒物は25万点、盗まれた個人情報や偽造品、マルウェアなどのハッキングツール、火器などは10万点にのぼるということです。「Tor」「ダークWeb」「匿名性の高い仮想通貨」など、それぞれが犯罪の高度化を象徴するツールでありながら、これらが複数組み合わされより高度・巧妙な犯罪インフラを構成している実態を放置してはならず、今回の京都府警の成果・ノウハウを全国の捜査関係者の間で共有し、捜査能力の向上を図っていただきたいと思います。
    • 今年1~3月に日本で難民認定を申請した外国人が、前年同期比約13%減の3,015人(速報値)となり、8年ぶりに減少に転じています。これまで大半が就労目的の偽装申請とみられ、審査の長期化など真の難民の救済に支障が出る恐れが生じていたほか、偽装申請者による犯罪も多発するなど、難民申請の犯罪インフラ化が懸念されていたところでした。今年1月以降、法務省は、就労目的の偽装申請を抑止するため、申請者の就労を大幅に制限する運用を始めており、早速その効果が表れたとみられ、今後の犯罪抑止などにもつながるものと期待されます。一方、ドイツでは、難民受け入れの可否を判断する当局で、職員らが賄賂を受け取り、犯罪歴などで本来受け入れられない難民に滞在許可を与える不正が大規模に行われていた疑いが強まっており、既に、当局トップまで捜査対象に拡大されているようです。報道によれば、不正に認定を受けた疑いのある難民の中には、ISとのつながりが疑われ、認定後にシリアに出国したとみられる人物も含まれているということであり、難民審査制度が、日本と違う形で犯罪インフラ化し、国民の安心を脅かす深刻な事態を招いています。
    • 今やAIはリスク管理や犯罪対策にとってもなくてはならないツール(犯罪抑止インフラ)となっています。民間ではAIを使った万引き防止スキーム(顔認証技術や歩容解析・行動解析技術等の活用)が実用化に向けて取り組みが進んでいますが、今般、警視庁も、AIやビッグデータで犯罪が起きる場所を予測する新システムの導入に向けた検討を始めたということです。本コラムでも以前紹介した通り、ビッグデータを使った防犯対策は京都府警が既に始めており、盗撮や窃盗事件の摘発につながっているといい、同庁はAIを組み合わせ、さらに精度が高いシステムを目指すということです。一方、このAIの軍事利用が加速する状況が見られます(反対派からみれば、AIの犯罪インフラ化の懸念が増している状況といえます)。米国防総省は、軍事システムにおけるAI導入の推進という点で、中国やロシアと競争状態にあり、その目的は、特定任務を果たすために自ら学習する能力を持つ、より高度な自律的システムを生み出すことにあるとされます。ただ、AIに依存することで、コンピューターに由来する判断ミスが起きる可能性が高まり、さらに、ロシアや中国とのあいだでAI軍拡競争が始まることで、グローバルな核の均衡が崩れかねず、核戦争危機における意思決定を加速する可能性すら懸念されるところです。これに対し、米グーグルは、AIの軍事利用を行わない旨、CEOが表明しています。これは、AIを軍事転用することへの社内の懸念が高まり、複数の従業員が抗議して退職したほか、約4,000人の従業員が「戦争のビジネスに参入すべきでない」とするCEO宛ての書簡に署名するなど、社内で批判が高まっていたことを受けてのものです。報道によれば、CEOは、「AIのリーダーとして、我々はAIを正しく使う特別な責務を感じている」として、AI技術を転用しない分野として「人を傷つけることが主目的の兵器」「国際的な規範に反した監視」などを挙げています。日本におけるデュアルユース(民生用・軍事用の双方に利用できる技術)のあり方については、学術界・産業界・防衛省などで立場の違いがあり、あるべき姿が描けていない状況ですが、すでに先行する国等が存在する以上、その脅威に対抗する必要も否定できません。今後、AIの活用が進むほど、人間の思惑を超えて対立を先鋭化させ、危機を現実化させてしまう可能性が高まっていることなども十分認識する必要があると言えます。
    (6) その他のトピックス

    薬物を巡る動向

     電子たばこで成分を蒸発させて吸引する大麻リキッドなどを所持したとして大麻取締法違反罪に問われたミュージシャンに、東京地裁は、懲役3年、執行猶予5年(求刑懲役3年)の判決を言い渡しています。東信越厚生局麻薬取締部が今年1月に乾燥大麻を所持した疑いで現行犯逮捕していたものですが、大麻リキッドは電子たばこ用のフレーバーと見分けがつきにくく、摘発が困難だと言われています。なお、報道によれば、全国の麻薬取締部が関わった事件で、大麻リキッド所持で起訴されたのは初めてだということです。最近では、この大麻リキッドや大麻ワックスなど、大麻に含まれる幻覚成分を人工的に抽出、精製した濃縮物の摘発が急増しており(報道によれば、関東信越厚生局麻薬取締部が鑑定した検体数は2016年が22件、2017年が28件のところ、今年は4月末時点ですでに80件に急増しているとのこと)、本事件でも、電子たばこに取り付けるカートリッジタイプの幻覚成分が約60%という高濃度だったようです。このように、摘発困難というだけでなく、高濃度という点でも大麻濃縮物の蔓延が危惧されます。

     また、最近では、薬物に関わる摘発事例として、以下のようなものがありました。

    • 静岡県警静岡中央署が、米国から国際郵便で麻薬を密輸入したとして、静岡朝日テレビ社員(34)を麻薬取締法違反(輸入)容疑で逮捕し、同テレビ本社と容疑者の自宅を捜索したという事件がありました。差出人不明の容疑者宛ての封筒の中にビニール袋2個に小分けにされた粉があるのを税関職員が発見したもので、摘発自体は税関職員の水際でのリスクセンスと熟練したスキルの賜物だと言えます。一方、本コラムでもたびたび指摘しているように、たとえ薬物事犯が個人の犯罪だとしても(本件も、現時点で直接的な犯罪組織等の関与はうかがえませんが)、容疑者がある程度知名度のある企業に所属している者であれば、本件のように企業名とともに報道されることになります。このように、社員の逮捕と本社への家宅捜索という事態は、レピュテーションの毀損とあわせ正に「クライシス」であって、暴力団等の犯罪組織の関与の可能性、社内でのさらなる拡がりの可能性なども含めれば、「社員の薬物リスク」も企業にとっては重要なリスク管理事項だと言えます。本件の容疑者が34歳であるように、若者から中高年層にかけて、従来からの覚せい剤だけでなく大麻が蔓延している実態をふまえれば、企業は、「常識だから」として社員の自主性に任せるだけではもはや十分ではなく、(説明責任を果たす意味でも)企業として「薬物は許さない」という厳しい姿勢を何らかの形で示しておく必要があると言えます
    • 自宅で大麻草を栽培したなどとして、奈良県警は、大麻取締法違反(所持、営利目的栽培)の疑いで土木作業員(46)を逮捕、同違反(所持、栽培)の罪で起訴しています。報道によれば、被告は乾燥大麻が入ったポーチをトイレ内に置き忘れ、それに気付いたコンビニの店長が通報、防犯カメラなどから特定されたということです。このように、コンビニは社会インフラとしてだけでなく、異常・端緒があった際の速やかな警察への通報、防犯カメラを活用して容疑者の特定につなげるなど「犯罪抑止インフラ」(犯罪を放置せず摘発につなげるインフラ)としての機能も有していることが分かります。また、本件では、栽培されていた大麻は、末端価格で約1,200万円に上るということであり、個人で使用するにしてはそこそこの規模の栽培が簡単にできるようになっている現実に恐ろしさを感じます。なお、前項の容疑者は34歳、本件の被告も46歳であり、企業では中堅どころの年代による薬物事犯であることの意味をあらためて考える必要があります
    • 覚せい剤を密売したとして、兵庫県警は、麻薬特例法違反の疑いで密売グループのリーダーら男2人を逮捕しています。さらに、客は150人ほどいたとみられ、うち85人を覚せい剤取締法違反容疑で摘発しています。摘発事例としては大がかりな事例だと言え、顧客150人で1年半の間に6,700万円を売り上げたとの報道もあり、単純計算では1人あたり平均44.7万円の売り上げとなります。以前に比べて覚せい剤の値段が下がっていることとあわせ、覚せい剤の蔓延もまた身近なリスクであることを感じさせます
    • 競技における薬物(ドーピング)に関する報道ですが、自転車プロチームの宇都宮ブリッツェンがファンに向けて「差し入れお断り」の方針を明らかにし、サイトには、「健康食品や市販食品、食材の中にも、製造過程中でドーピング検査に影響を与える可能性のある成分が含まれてしまうケースなど体調管理に影響をきたす場合もあることから、選手のコンディション維持の為、飲食物全般の差し入れに関しましてはご遠慮下さいますようお願い申し上げます」とのメッセージが掲載されています。今年1月に発覚したカヌーの禁止薬物混入事件がきっかけで、2020年東京五輪が近づく今後は危機管理の水準を高める必要があると判断したということです。競技団体・事業者がとるべき危機管理としては模範的な対応と言えると思いますが、社員に対する事業者の危機管理レベルの向上も期待したいところです

     さて、罪を犯した人の立ち直りを考えるフォーラが開催され、薬物犯罪者や、発達障害のある人が社会復帰するには、地域や医療が連携した長期のケアが有用との意見が相次いだということです。報道によれば、国立精神・神経医療研究センターの薬物依存研究部長は「薬物依存は慢性疾患のようなもの」と指摘、刑務所を出た後、都内の精神保健福祉センターと協力して継続的に支える取り組みを紹介し「つながりを意識し、孤立させないことが回復に有効だ」と話しています。以前の本コラム(暴排トピックス2017年12月号)でも紹介した通り、医学的見地から、薬物依存症の正体は「ドーパミン依存症」であり、行為依存症(ギャンブル依存症やネット依存症など)も同じドーパミン依存症であること、ただし、薬物依存症では、依存症物質が脳を委縮させるなどの障害を引き起こすこと、薬物依存症は脳障害が少しずつ重症化する進行性疾患であること(したがって早い段階での医学的治療が有効であること)、大麻依存症の依存症化率は10%にも上ること(アルコール依存症は0.9%であり、大麻には強い依存性があること)、大麻は海馬を委縮させて記憶障害を引き起こすこと(再就労等において大きな障害となること)、医療用大麻と吸煙大麻は成分が異なっており、医療用は腸からゆっくり吸収されるため「無害」であるのに対し、後者は肺で一気に吸収されるため「有害」であることなどが指摘されています。薬物依存者を継続的に支える仕組みの重要性はもちろんですが、大麻の有害性(依存性の高さや脳への影響、再就労への影響など)や「医療用と吸煙用」の大麻の違い(無害性と有害性の違い)は現時点でも国民の間で十分な理解が得られているとは言えないこと、今後、大麻合法化・非処罰化の国などからの流入量の増加や大麻から覚せい剤へのシフトなどの危険な事態の定着化・深刻化も危惧されること、大麻の有害成分であるテトラヒドロカンナビノールが品種改良を経て強力になっていること(有害性が高まっていること)などから、これまで以上に大麻の違法性・有害性や、薬物依存症は病気であることから継続的な治療が必要であることなどを国民に伝える広報が重要となると思われます。


    金の密輸を巡る動向

     報道(平成30年5月14日付西日本新聞)によると、韓国人グループによる金塊密輸事件で、福岡県警が、韓国から金塊24キロ(約1億1,000万円相当)を密輸したとして、関税法違反(無許可輸入)などの疑いで、韓国人の容疑者とコンサルタント業の容疑者ら4人を逮捕しています。金塊は福岡市の貴金属店(2016年にJR博多駅近くで約7億6,000万円分の金塊が盗まれた事件の被害者も換金しようとしていた業者)に持ち込まれ、福岡県警が店の取引記録を確認したところ、昨年7月以降、売却役のコンサルタント業の容疑者と、別の金塊密輸事件で逮捕されている仲間の元暴力団員が持ち込んだ金塊は合計約8トン(405億円相当)に上るとのことです。大半が密輸した金塊とみられ、脱税額は計約32億円に上るほか、この2人は他の密輸グループの売却役も務めていたとみられるということです。具体的な手口としては、韓国人の男女5人が韓国から福岡市までの運搬役で、韓国人の容疑者が福岡市の商業施設で回収、回収した金塊はコンサルタント業の容疑者が福岡市の貴金属店近くで韓国人の容疑者から引き取り、同店に売却、金塊は香港の貴金属業者に流れたとみられるとのことで、このような密輸組織の「金塊ビジネス」の実態が解明できたのは全国初となります。大規模な金塊ビジネスの背後にやはり暴力団が介在し、海外(の犯罪組織)と連携していることをうかがわせるものです。なお、直近でも、指定暴力団稲川会系の関係者らが、昨年12月、約1億2,700万円相当の金塊を中国・広州の空港から密輸しようとした疑いなどで逮捕されています。この暴力団関係者らは、香港から約4,500万円相当の金を密輸しようとしたとして今年5月に逮捕されていました。

     警察庁の「平成28年における組織犯罪情勢」では、「平成28年中においては、金地金の密輸事案等の検挙事例から、暴力団による、規制や制度の間隙を狙った「表に出にくい、利益率の高い」新たな資金獲得活動が出現し、広まっている状況がうかがわれる」、「人的ネットワーク・犯行態様等が一国内のみで完結せず、国際的に分担することで犯罪がより巧妙化かつ潜在化している実態が我が国で目立ち始めている」との指摘ありましたが、正に「金塊ビジネス」は、現在進行形で、レポートで指摘されているような構図で行われていることが分かります


ギャンブル依存症対策(カジノ/IR)を巡る動向

 カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法案の衆院審議が大詰めを迎えています。カジノを成長戦略とすることの是非や賭博を禁じる刑法との整合性など、重要な論点の議論は尽くされていない感があります。例えば、ギャンブル依存症対策についても、首相は「厳格な入場制限をはじめ、重層的かつ多段階的な依存症対策を講じることにしている」と理解を求めていますが、「年間120回の入場を認めるものとなっており、カジノ漬けを認めるものだ」との批判や、入場料が依存症の抑止効果になるとの科学的根拠はないとの見方もあるなど、説得力ある説明ができていないのも間違いありません。報道(平成30年6月5日付産経新聞)では、ギャンブル依存症に関する韓国の先行事例が紹介されており、1年以上の依存症対策プログラムを受けても、カジノに舞い戻ったり、ほかのギャンブルに手を出したりするケースが少なくないうえ、「依存症は進行性で、完治するものではない。生涯管理しないといけないが、治療を強制することはできない」との専門家の指摘がありました。さらに、「(韓国の)江原ランドは経済復興手段としたが、社会的副作用が大きかった。重要なのは国家としてカジノをどう考えるかだ」として、国民的な合意形成が必要だとの指摘も紹介されています。ギャンブル(依存症)大国とも言われる日本としては、カジノのみが全面的に「悪」という考え方ではなく、カジノを契機として、ギャンブル依存症と国民全体がもっと向き合っていく必要があると認識させられます。

 さて、そのギャンブル依存症を国民が向き合うための「ギャンブル等依存症対策基本法案」については、5月25日の衆議院本会議で可決されています。同法案は、官房長官を本部長とする推進本部を設置し、医療提供体制の整備や社会復帰支援などの施策を国・自治体に義務付ける内容で、依存症患者や有識者らでつくる関係者会議を本部の下に置くことも盛り込まれています。この法案の成立によってギャンブル依存症対策の重要性が広く国民に認知されること、それにより治療を受ける人が増えることが予想されることなどから歓迎される一方で、本法案の成立過程などから、カジノ解禁の前提となってしまっている点は、やはり関係者にとっては複雑な思いがあるものと推測されます。

◆衆議院 ギャンブル等依存症対策基本法案

 本法案では、「ギャンブル等依存症がこれを有する者等及びその家族の日常生活及び社会生活に様々な問題を生じさせるおそれのある疾患であり、ギャンブル等依存症の予防等(発症、進行及び再発の防止をいう。以下同じ。)及びギャンブル等依存症を有する者に対する良質かつ適切な医療の提供等によるその回復等が社会的な取組として図られることが必要であることに鑑み、ギャンブル等依存症対策に関し、基本理念を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、ギャンブル等依存症対策の基本となる事項を定めること等により、ギャンブル等依存症対策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民の健康を保持するとともに、国民が安心して暮らすことのできる社会の実現に寄与することを目的とする」と掲げられ、「ギャンブル等依存症の予防等及びその回復を図るための対策を適切に実施するとともに、ギャンブル等依存症を有し、又は有していた者及びその家族が日常生活及び社会生活を円滑に営むことができるように支援すること」および「ギャンブル等依存症対策を実施するに当たっては、ギャンブル等依存症が、多重債務、貧困、自殺、犯罪、虐待等の問題に密接に関連することに鑑み、ギャンブル等依存症に関連して生ずるこれらの問題の根本的な解決に資するため、これらの問題に関する施策との有機的な連携が図られるよう、必要な配慮がなされるものとすること」を基本理念としています。そのうえで、国の責務、地方公共団体の責務、ギャンブル等関連事業者の責務、国民の責務、医師等の責務、健康増進事業実施者の責務がそれぞれ定められています。また、政府および都道府県は、ギャンブル等依存症対策の総合的かつ計画的な推進を図るため、ギャンブル等依存症対策の推進に関する基本的な計画(ギャンブル等依存症対策推進基本計画)を策定することとなっています(政府は義務、都道府県は努力義務)。さらに、具体的な施策として、「教育」「ギャンブル等関連事業者の広告・宣伝、施設入場者管理」「健康診断および保健指導」「医療提供体制の整備」「相談支援等」「社会復帰の支援」「民間団体の活動に対する支援」「専門医療機関等の連携態勢の整備」「人材の確保」「調査研究の推進等」など幅広い分野にわたって施策の徹底を求める内容となっています。


 ギャンブル依存症に関連して、いわゆる「何かにのめり込む」依存症のひとつである性犯罪を巡る問題についても少し考えたいと思います。直近では、新潟女児殺害事件の容疑者が、今年4月にも車で女子中学生を連れ回した県条例違反容疑で書類送検されていたことが判明しています。また、岡山県津山市で平成16年に小3女児が殺害された事件で今年5月に逮捕された男も、過去に女子中学生に対する殺人未遂事件を起こしています。このように性犯罪については再犯率が高いことが知られています。被害防止のため前歴者に居住地の届け出を義務付けるなど厳しい取り組みを進める大阪府などの自治体もありますが、根本的な対策は困難で、報道では、専門家が「小児性愛は依存症に近い。厳しく押さえ込んでも逆効果」と指摘、更生プログラムなど治療の充実を訴えています。ただ、先の容疑者は更生プログラム(法務省の性犯罪者処遇プログラム)の効果を否定しています。この更生プログラムの限界を乗り越えるため、日本でも、過去、宮城県が平成22年から性犯罪の前歴者らに対し、GPSの常時携帯や逮捕者にDNAの提出を義務付ける対策を検討した経緯がありますが、東日本大震災により頓挫しました。それに対し、米国や韓国などは国レベルで、再犯の可能性が高いとされる性犯罪の前歴者の個人情報をインターネット上で公開するなど、より厳しい再犯防止対策が取られており、米国では前歴者の写真、身体的特徴、犯罪歴、車の車種などを公開、韓国でも青少年に性的暴行をした犯罪者の氏名、年齢、住所などを公開しています。さらに、欧米では、満期出所者について、出所後も一定期間、生活を監督される「行状監督」という制度のほか、社会治療施設に移送した上で、思考や行動に働きかける「認知行動療法」に基づく治療で処遇する措置、男性ホルモンを抑制する薬物療法なども行われています。また、米国や韓国では(宮城県では頓挫した)性犯罪常習者にGPSの端末を装着し監視するシステムが導入され、成果を上げていると言います(平成30年5月15日付産経新聞)。これに対して、日本では人権上の観点からの反発も強く、被害防止の取り組みが立ち遅れているのが現状で、正に「守られるべきは誰の「人権」なのか」(平成30年6月4日付産経新聞)との指摘は正鵠を射たものと言えます。報道によれば、法務省の法務総合研究所の調査では、同一類型の性犯罪前科が複数回ある人の割合は、低年齢の子供を狙った小児わいせつ型で84・6%に上っており、痴漢を除く強制わいせつ型(44・0%)や単独強姦型(63・2%)など他の類型と比べても高いことが判明しています。再発可能性が極めて高いことが統計等によっても明らかな犯罪類型に対し、「容疑者の人権」を尊重するあまり、「被害者」が増えてよいのか、答えは火を見るより明らかであり、暴力団の再犯可能性の高さ同様、リスク管理をより厳格に行う方向で世論が変わることを期待したいと思います。

 以下、性犯罪に関わる最近の報道からいくつか紹介しておきます。

  • 警察は、2016年度からストーカーの加害者に医療機関での治療を促す取り組みを始めていますが、2016、2017年度の2年間で、全国で1,082人が受診を促されながら、実際に治療を受けたのは約2割の240人にとどまっていることが分かりました更生プログラムの限界は前述した通りですが、そもそも受診自体を拒否する加害者が多いのであれば、対策としては不十分であり、ストーカー行為の再発防止には程遠い実態だと言えます
  • 性犯罪や児童虐待など潜在化しやすい犯罪の実態を警察庁が調査したところ、初めて被害に遭った際に誰にも相談していない人が約4割に上ることが分かりました。自治体の相談窓口を知らない人も約8割に上るということです。これらの犯罪類型については、まだまだ顕在化していない被害事例が相当数あることを示唆しており、再発防止の困難さとあわせて考えれば、(先の人権の議論もふまえ)より踏み込んだ対策の実施が求められるところです
  • 上記と同じ警察庁の調査で、事件や事故の被害者や遺族の状況について、児童虐待や性被害など4類型において90%以上が加害者側による賠償や公的給付金など金銭的な補償を受けていないことが判明したということです。支援制度を認知していないとした人も多く、被害者に援助の手が届きにくい実態が浮き彫りとなっています。潜在的な被害者の数が相当多いこととあわせれば、国や自治体の周知活動がまだまだ不足している結果であるとも言え、被害の声を拾うこと(上げやすい通報・相談体制を強化すること)、加害者に確実に求償することで歯止め(再発防止)のひとつとすること、公的制度の広報を徹底すること、などを求めたいと思います

犯罪統計資料から

 警察庁から平成30年1月~4月分の犯罪統計資料が公開されています。

◆警察庁 犯罪統計資料(平成30年1月~4月分)

 平成30年1月~4月における刑法犯認知件数総数は254,236件(前年同期 262,803件、前年同期比 ▲10.1%)、検挙検数は96,601件(101,492件、▲4.8%)となりました。平成29年末過去1年間における刑法犯認知件数総数は前年比▲8.1%でしたので、減少傾向が拡大している状況だと言えます。また、最大の割合を占める窃盗犯の認知件数については180,969件(200,902件、▲9.9%)、検挙件数は60,427件(63,605件、▲5.0%)となり、平成29年末の認知件数前年比▲9.1%からさらに減少傾向が拡大しています(なお、最大の割合を占める自転車盗の認知件数前年比は▲11.3%と、平成29年末の▲13.1%からは減少傾向が減速しています)。また、このうち万引きの認知件数は34,025件(36,229件、▲6.1%)、検挙件数は24,072件(25,510件、▲5.6%)であり、平成29年末の認知件数前年比▲4.2%からさらに減少傾向が拡大しています。同様に、知能犯の認知件数は14,295件(15,656件、▲6.7%)、検挙件数は6,156件(6,961件、▲11.8%)であり、平成29年末の+2.7%からマイナスに大きく減少しています。このうち詐欺の認知件数は12,955件(14,123件、▲8.3%)、検挙件数は5,067件(5,882件、▲13.5%)であり、平成29年末の+3.9%からこちらもマイナスに大きく減少しています。特殊詐欺全体の認知件数が減少している(平成30年1月~4月の特殊詐欺全体の認知件数は5,557件で、前年同期比▲1.9%)ことが大きく影響しているものと考えられます。

 また、特別法犯の検挙件数総数は21,130件(21,290件、▲0.8%)、検挙人員は18,038人(1,318件、▲1.5%)となっています。こちらは、平成29年末の検挙件数総数の前年比が▲0.4%とほぼ横ばいであったこととあまり変化がない状況だと言えます。このうち麻薬等取締法違反の検挙件数は275件(234件、+17.5%)、検挙人員は134人(110人、+21.8%)、大麻取締法違反の検挙件数は1,226件(1,006件、+21.9%)、検挙人員は954人(763人、+25.0%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は3,858件(4,089件、▲5.6%)、検挙人員は2,634人(2,778人、▲5.2%)となっていますが、平成29年末の覚せい剤取締法の検挙件数前年比は▲5.9%、大麻取締法の検挙件数については+15.7%などであり、覚せい剤はほぼ横ばい、大麻は伸びが鈍化していることが分かります。

 さらに、暴力団犯罪(刑法犯)の検挙件数総数は5,640件(6,635件、▲15.0%)、検挙人員は2,675人(3,052人、▲12.4%)であり、平成29年末の検挙件数総数前年比▲20.7%から減少傾向がやや落ち着いています。暴力団犯罪のうち窃盗の検挙件数は3,238件(3,833件、▲15.5%)、検挙人員は467人(562人、▲16.9%)、詐欺の検挙件数は570件(760件、▲25.0%)、検挙人員は465人(507人、▲8.3%)などとなっており、平成29年末の窃盗▲21.6%、詐欺の▲19.3%と比較して減少傾向が進んでいることが分かります(なお、暴力団犯罪のうち、窃盗の割合は横ばい、詐欺の割合が減少していることになります)。一方、暴力団犯罪(特別法犯)の検挙件数総数は2,560件(3,068件、▲17.1%)、検挙人員は1,832人(2,251人、▲16.6%)となっており、平成29年末の検挙件数総数前年比▲8.3%から大きく減少傾向にあることが分かります。このうち麻薬等取締法違反の検挙件数は52件(56件、▲7.1%)、検挙人員は21人(17人、+23.5%)、大麻取締法違反の検挙件数は299件(312件、▲4.2%)、検挙人員は202人(220人、▲8.2%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は1,734件(2,015件、▲13.9%)、検挙人員は1,163件(1,368件、▲15.0%)などとなっており、平成29年末の覚せい剤取締法違反の検挙件数前年比▲8.7%、大麻取締法違反の+8.4%からみて、ともに大きく減少傾向にあること(大麻は+8.4%から▲4.2%、覚せい剤は▲8.7%から▲13.9%へ)が分かります。なお、暴力団排除条例違反の検挙件数は6件(6件、±0%)、検挙人員は21人(24人、▲12.5%)となっています。


北朝鮮リスクを巡る動向

 原稿執筆時点では、6月12日の歴史的な米朝首脳会談の状況は不明ですが、完全な非核化(CVID、完全で検証可能かつ不可逆的な廃棄)まで国連安保理の制裁を維持する方向で国際世論は一致しています。今後も、国際社会が一枚岩となって北朝鮮リスクに対峙していくことが求められており、当然ながら当事者である隣国日本は、その重要性はさらに高いものであると認識する必要があります。AML/CFTの項でも述べた通り、相対的に緩い日本の金融機関が制裁逃れに悪用される(犯罪インフラ化する)ことはあってはならず、これまで以上の厳格な顧客管理が求められています。

 そのような中、北朝鮮制裁逃れの代表的な手口である「瀬取り」(経済制裁逃れを目的に洋上で物資を積み替えて密輸する手口)について、韓国船が関与しているのではないかと思われる事例がありました。5月3日、東シナ海の公海上で、北朝鮮船籍のタンカーに韓国船籍とみられるタンカーが横付けしている不審な行動を海上自衛隊艦艇が確認したもので、北朝鮮による瀬取りに韓国船籍の船舶が関与した可能性が浮上したのは初めてとなります。そして、日本政府がこの事実について韓国側に照会したところ、韓国外務省は「調査の結果、不法な積み替えはなかった」との見解を日本政府に伝えてきました。これに対し、防衛相が「公海上で(2隻のタンカーが)接舷するというのは普通ではない」と不信感を示したものの、日本政府としては「(北朝鮮に対する)制裁回避の動きに断固として対応していく」姿勢を強調するにとどめています。「不法な積み替えを行っている事実」を突きつけたわけではないということだと思いますが、韓国側に対する警告にはなったはずであり、今後、同様の事案が発生しないよう、日本は監視を強化し続けること、中国や韓国など国際社会は抜け道を許さないとの認識をいかに保ち続けられるかがポイントとなります(なお、本件以降も、日本として5例目となる、3月に国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会から制裁対象に指定された「JI SONG 6号」の瀬取りを確認しています)。北朝鮮の制裁逃れ「瀬取り」対策については、報道(平成30年5月23日付時事通信)によれば、国連安保理北朝鮮制裁委員会の専門家パネルが、北朝鮮への石油輸出制限の厳格な履行に向け、大手石油会社や海運会社など20社以上に書簡を送り、協力を要請したと言うことです。以前の本コラムでも紹介しましたが、北朝鮮は、「瀬取り」で石油などの密輸の際、船の位置情報を偽装するために「船舶自動識別装置(AIS)」を意図的に停止することが多いことが分かっています。したがって、各社が石油に関連する契約を結ぶ際に含むべき具体的条項として、AISを停止しないよう求めたり、船がAISを停止した場合、保険会社が船の保険契約を解除できたりすることが盛り込まれたとされます。事業者への具体的な対策が示されたことは、施策の実効性を高めるうえでも極めて有用であり、今後の抑止策となることを期待したいと思います。


 さて、北朝鮮の弾道ミサイル発射のリスクは一時期より減少したと言えますが、全国瞬時警報システム(Jアラート)の一斉訓練は今後も継続されます。そもそもJアラートは弾道ミサイル情報だけでなく、緊急地震速報、津波警報など、対処に時間的余裕のない事態に関する情報を携帯電話等に配信される緊急速報メール、市町村防災行政無線等により、国から住民まで瞬時に伝達するシステムですので、今後も常にその実効性が確保されている必要があります。平成29年度に行った2回の訓練では、防災行政無線から音声が流れないなどのトラブルが一部で発生したことを受け、平成30年度は精度向上のため四半期ごとに計4回実施する予定であり、先日、1回目が実施されました。

◆総務省消防庁 平成30 年度全国瞬時警報システム(Jアラート)全国一斉情報伝達試験

 5月16日に実施された訓練では、残念ながら、参加市町村1,701団体(全1,741団体)のうち、9団体について、J アラート受信機の設定誤り、関係機器の電源の脱落、配線不良等により住民への情報伝達が一切できない結果となりました。同庁は、住民への情報伝達が一切できなかった団体については、直ちに改善等の対策を要請(未復旧の団体については、常時人員を配置するなど、J アラートの情報が確実に住民へ伝達できる体制を取るよう要請)しています。平成30年度は全部で4回の訓練を実施予定で、次回は8月29日の予定ですが、次回こそは全市町村の参加および不具合発生ゼロを達成してほしいところであり、各自治体が日頃からメンテナンス等に取り組んでいただきたいものです。 なお、北朝鮮の弾道ミサイル発射のリスクが減少したとはいえ、あらためて、弾道ミサイルが発射された時の行動について、ポイントを抜粋して紹介しておきます(内閣官房「国民保護ポータルサイト」を是非確認のうえ、社内研修等に活用していただきたいと思います)。

◆内閣官房「国民保護ポータルサイト」 弾道ミサイル落下時の行動に関するQ&A
  • 弾道ミサイルが日本に飛来する可能性がある場合には、弾道ミサイル発射の情報を伝達し、避難を呼びかけます。屋外にいる場合は近くの建物(できれば頑丈な建物)の中又は地下(地下街や地下駅舎などの地下施設)に避難してください。屋内にいる場合は、すぐに避難できるところに頑丈な建物や地下があれば直ちにそちらに避難して下さい。それができなければ、できるだけ窓から離れ、できれば窓のない部屋へ移動してください。なお、ミサイルが日本の領土・領海に落下する可能性があると判断した場合には、その時点で改めて、ミサイルが落下する可能性がある旨を伝達し、直ちに避難することを呼びかけます
  • 近くに頑丈な建物又は地下がない場合、近くの建物の中へ避難してください。近くに避難できる建物がない場合には、物陰に身を隠すか、地面に伏せて頭部を守ってください
  • 自宅にいる場合、すぐに避難できるところに、より頑丈な建物や地下(地下街、地下駅舎などの地下施設)があれば直ちにそちらに避難してください。それができない場合は、自宅で、できるだけ窓から離れ、できれば窓のない部屋へ移動してください
  • 自動車の車内にいる場合、車は燃料のガソリンなどに引火するおそれがあります。車を止めて近くの建物(できれば頑丈な建物)の中又は地下(地下街、地下駅舎などの地下施設)に避難してください。周囲に避難できる建物又は地下施設がない場合、車から離れて地面に伏せ、頭部を守ってください
  • 「ミサイルが●●地方に落下した」との情報伝達があった場合、続報を伝達しますので、引き続き屋内に避難して下さい。弾頭の種類に応じて被害の様相や対応が大きく異なります。そのため、テレビ、ラジオ、インターネットなどを通じて情報収集に努めてください。また、行政からの指示があればそれに従って、落ち着いて行動してください。もし、近くにミサイルが着弾した場合は、弾頭の種類に応じて被害の及ぶ範囲などが異なりますが、次のように行動してください
  • 屋外にいる場合は、口と鼻をハンカチで覆いながら、現場から直ちに離れ、密閉性の高い屋内の部屋または風上に避難してください
  • 屋内にいる場合は、換気扇を止め、窓を閉め、目張りをして室内を密閉してください

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3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

(1) 埼玉県暴排条例「暴力団排除特別強化地域」における事例

 複数の飲食店にみかじめ料を要求したとして、埼玉県公安委員会は、指定暴力団住吉会系組員に対して再発防止命令を出しています。組員は、昨年11月中旬ごろ、さいたま市大宮区内の居酒屋店主男性に「正月飾りを購入してくれ」と要求し、埼玉県警大宮署長から中止命令を受けていました。にもかかわらず、昨年12月中旬にも、大宮区内の別の居酒屋店主男性に同様の要求を行ったことから、今後も繰り返す恐れがあるとして、再発防止命令が出されたものです。なお、「中止命令」とは、暴力団対策法に基づき、指定暴力団員に対し、公安委員会が出して不当な要求などの暴力的要求行為を止めさせるもので、この命令に従わない場合は罰則が適用され、警察は、この時点でこれらの者を逮捕することができます。一方、「再発防止命令」とは、暴力団対策法に基づき、不当な要求などの暴力的要求行為を最長で1年間禁止する行政手続きであり、従わないと刑事罰の対象になるというもので、中止命令が継続中の行為をやめさせるのが主な目的なのに対し、再発防止命令は行為が繰り返されるのを防ぐために予防的に禁止する措置で、暴力団の動きをより広範囲に封じ込めるのが狙いです。なお、本件は、店主らが県警に相談して発覚しており、組員にそれぞれ15,000円、6,000円を支払っていたとされます(したがって、本来は利益供与に抵触する行為となります)。そして、以前の本コラム(暴排トピックス2018年3月号)で紹介していますが、埼玉県暴排条例は今年4月に改正施行されており、今回の2店舗を含むJR大宮駅周辺は「暴力団排除特別強化地域」に指定されており、以下のような規定が新たに設けられています。

◆埼玉県警察 埼玉県暴排条例(平成30年4月改正)

 埼玉県暴排条例第4章の2「暴力団排除特別強化地域」において、第22条の4で、「暴力団員は、特別強化地域における特定営業の営業に関し、次に掲げる行為をしてはならない」として、(1) 客に接する業務に従事すること、(2) 特定営業者に対し、用心棒の役務を提供すること、(3) 特定営業者から前条第3項に規定する利益の供与を受けること、が禁止行為とされています(本件は、(3)のうち「その営業を営むことを容認する対償として利益の供与」に抵触しているようにも思われますが、暴排条例の適用については特段報道されていません)。なお、当該店舗については、本来、第32条で「(2) 相手方が暴力団員であることの情を知って、第22条の3の規定に違反した者」として、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」とされているところ、店主が警察に相談していることから、同条第2項「前項第2号の罪を犯した者が自首したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる」の規定が適用されたものと推測されます。

(2) 山梨県暴排条例に基づく再発防止命令の事例

 山梨県暴排条例により入店が禁じられた飲食店に立ち入ったとして山梨県公安委員会は、甲府市の暴力団幹部の男に「再発防止命令」を出しています。報道によれば、同幹部は今年3月、山梨県暴排条例の特別強化地区である笛吹市石和町内の2つの飲食店に入店、警察が幹部に中止命令を出したものの、幹部が再び店を訪れる可能性があるとして改めて再発防止命令を出したということです。山梨県暴排条例施行後、山梨県警が再発防止命令を出したのは初めてとなります。

◆山梨県暴排条例(平成28年8月改正)

 前述の埼玉県暴排条例では暴力団対策法に基づく再発防止命令が発出されたと推測されますが、本件については、平成28年8月に改正された山梨県暴排条例に「中止命令」「再発防止命令」が発出できる規定があり、これらが適用されたものと思われます。この山梨県暴排条例では、第6章「特定の地域における暴力団を排除するための措置」として、第29条(暴力団排除特別強化地域)で、同特別強化地域の指定とその地域における用心棒の役務の提供を禁止し、第30条(標章による特定接客業の営業所への立入規制)において「標章」が掲示された店への入店自体を禁じ、中止命令・再発防止命令等が発出できる立て付けとなっています。なお、第30条には、具体的には、第1項「特定接客業(省略)を営む者で、暴力団排除特別強化地域に営業所(営業所の一部又は営業所が設置されている建物の一部が当該地域内に所在する場合におけるこれらの営業所を含む。)を置くものは、公安委員会に対し、公安委員会規則で定めるところにより、暴力団員が当該営業所に立ち入ることを禁止する旨を記載した公安委員会規則で定める様式の標章(以下この条において「標章」という。)の掲示を申し出ることができる」として、第2項「公安委員会は、前項の申出があった場合において、暴力団員が当該申出に係る営業所に立ち入ることを禁止することが暴力団排除特別強化地域における暴力団の排除を強化し、安全で安心なまちづくりを推進するために必要であると認めるときは、当該営業所の出入口の見やすい場所に標章を掲示するものとする」、第3項「暴力団員は、前項の規定により標章が掲示されている営業所に立ち入ってはならない」とされています。そのうえで、違反者に対する罰則として、第35条(命令)において、第1項「公安委員会は、第19条又は第30条第3項の規定に違反する行為をしている暴力団員に対し、公安委員会規則で定めるところにより、当該行為を中止することを命じ、又は当該行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」、さらに、第2項「公安委員会は、暴力団員が第19条又は第30条第3項の規定に違反する行為をした場合において、当該暴力団員が更に反復してこれらの規定に違反する行為をするおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該暴力団員に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、これらの規定に違反する行為が行われることを防止するために必要な事項を命ずることができる」とされています。

 なお、山梨県暴排条例の先進事例として代表的なものとしては福岡県暴排条例(平成24年8月改正施行)があります。

◆山梨県暴排条例(平成28年8月改正)
◆福岡県 福岡県暴排条例

 福岡県暴排条例では、第三章の二「特定の地域における暴力団の排除を推進するための措置」の第14条の2において、第4項「暴力団員は、標章が掲示されている営業所に立ち入ってはならない」と規定されています。さらに、続いて、第5項で「公安委員会は、暴力団員が前項の規定に違反する行為をしたときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該暴力団員に対し、当該行為を中止することを命じ、又は当該行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」とし、第6項で「公安委員会は、暴力団員が第四項の規定に違反する行為をした場合において、当該暴力団員が更に反復して同項の規定に違反する行為をするおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該暴力団員に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、同項の規定に違反する行為を防止するために必要な事項を命ずることができる」と規定し、中止命令・再発防止命令が発出できるようになっています。

(3) 北海道暴排条例に基づく逮捕事例

 北海道警が、昨年10月、すすきのの飲食店で用心棒をしたとして、暴力団の構成員の男4人が逮捕された事件を受け、札幌市豊平区の指定暴力団稲川会系の四代目越路家一家」の本部事務所の家宅捜索を行ったとの報道がありました。用心棒をめぐる逮捕は、昨年7月に北海道暴排条例(正式には、「北海道暴力団の排除の推進に関する条例」)が改正施行されて以来2例目となるということです。

◆北海道暴力団の排除の推進に関する条例(平成29年3月改正)

 北海道暴排条例では、第5章の2「暴力団排除特別強化地域」の第20条の3で、「特定接客業を営む者(特定接客業者)は、暴力団排除特別強化地域における当該特定接客業に関し、暴力団員又は暴力団員が指定した者から用心棒の役務(法第9条第5号に規定する用心棒の役務をいう。次項及び次条において同じ。)の提供を受けてはならない」としているほか、第20条の4で「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定接客業に関し、特定接客業者に対し、用心棒の役務の提供をしてはならない」、さらには、第2項「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定接客業に関し、特定接客業者から、用心棒の役務の提供をする対償として又は当該特定接客業を営むことを容認する対償として、財産上の利益の供与を受けてはならない」と定められています。それに対し、この規定に違反した者は、第26条で「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」とされています。

(4) 暴力団対策法に基づく中止命令の発出(東京都)

 東京都墨田区内のマンションの部屋の入り口に暴力団の組の名前が入った看板を掲げていたとして、警視庁組織犯罪対策3課は、組の責任者である指定暴力団住吉会系組幹に、暴力団対策法に基づく中止命令を出しています。報道によれば、男が所属する組は平成27年から、同区内のマンション10階の一室を事務所として使用しており、ドア付近に、組の名前が記載された縦1メートル横30センチ四方の木製の看板を設置していたということです。看板は外側の通路や隣接するマンションから見える状態で、捜査員が今年2月、マンション周辺の見回りを行った際に発見したというものです。組の看板掲示は暴力団対策法の規制対象となっており、暴力団対策法施行後、警視庁が同様の中止命令を出すのは6件目で、今回が8年6カ月ぶりだったということです。

◆暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律

 暴力団対策法では、第四章「加入の強要の規制その他の規制等」の第二節「事務所等における禁止行為等」、第29条(事務所等における禁止行為)で、指定暴力団員による次の行為が禁じられています。(1)指定暴力団等の事務所(以下この条及び第三十三条第一項において単に「事務所」という。)の外周に、又は外部から見通すことができる状態にしてその内部に、付近の住民又は通行人に不安を覚えさせるおそれがある表示又は物品として国家公安委員会規則で定めるものを掲示し、又は設置すること、(2)事務所又はその周辺において、著しく粗野若しくは乱暴な言動を行い、又は威勢を示すことにより、付近の住民又は通行人に不安を覚えさせること、(3)人に対し、債務の履行その他の国家公安委員会規則で定める用務を行う場所として、事務所を用いることを強要すること。本件は、正に(1)に該当しており、それに対する罰則としては、第30条(事務所等における禁止行為に対する措置)において、「公安委員会は、指定暴力団員が前条の規定に違反する行為をしており、付近の住民若しくは通行人又は当該行為の相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該行為を中止することを命じ、又は当該行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」とされています。

(5) 宮崎県暴排条例Q&A

 宮崎県暴排条例Q&Aが更新されています。他の自治体においても、暴排条例Q&Aの内容は充実しつつありますが、宮崎県暴排条例Q&Aについても社内研修等にも活用できそうな内容となっていますので、一部抜粋して紹介します。

◆宮崎県警 宮崎県暴排条例Q&A(事業者)
◆宮崎県警 宮崎県暴排条例Q&A(一般向け)

Q どのような行為が「その行う事業により暴力団を利すること」に当たるのか

A 事業者の行う有益な行為が、暴力団にとっての組織の維持、勢力の拡大につながることが、これに当たり、例えば、以下のような、直接的に暴力団に利益を与えるもののほか、暴力団が運営に関わっている企業を取引相手に紹介することなどが挙げられる。

  • 暴力団員を雇用したり、使用したりすること
  • 暴力団にきわめて安値で物品を売ること
  • 暴力団員を会社の役員にすること
  • 暴力団員との下請契約、資材・原材料の購入、門松の購入、おしぼりの購入等の契約を締結すること

Q 暴力団員と会食したり、一緒にゴルフコンペに参加したりするなど「暴力団と交際」することは条例で罰せられるか

A 条例では、「暴力団を恐れないこと」「暴力団に対して資金を提供しないこと」「暴力団を利用しないこと」を基本理念としている。暴力団との交際は、本条例での罰則等の対象ではないが、「暴力団若しくは暴力団員と密接な関係を有する者」となるおそれがある行為であり、絶対に暴力団との交際は止めること。また暴力団と密接な交際している企業は、県の事務事業からの排除対象となる。


Q 条例で禁止されている「暴力団員等に対する利益の供与」とはどのようなことをいうのか

A 事業者がその事業を円滑に進めるために暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に利益を提供する行為は、県民や事業者が一丸となって暴力団排除を進めていくという本条例の趣旨や目的に反するものであって、以下のような行為が禁止されている。暴力団員等へ利益を提供することは、名目のいかんを問わずあってはならず、「金ですむことなら」等と安易な気持ちで暴力団との関係を持つことは絶対に止めること。また、悪質な利益供与については、行政措置(調査、勧告、公表)の対象となる。

  • 暴力団の威力を利用する目的又は暴力団の威力を利用したことによる利益の供与
  • 暴力団の活動又は運営に協力する目的による相当の対償のない利益の供与
  • 暴力団の活動を助けたり、暴力団の運営に役立つような利益の供与

Q 「暴力団の威力を利用すること」とはどういうことか

A 事業者が、自己の事業に有利に働くように暴力団特有の威力を利用することで、例えば、建設会社がマンション建設に関して地域住民から反対を受けている際、その反対運動を抑えるために暴力団を利用して抑えたりすることや、事業者自らが、「自分のバックには暴力団がついている。」などと言って、取引を有利に進めようとすることなどがあげられる。つまり、自分の事業をうまく進めるため暴力団員に違法・不当な行為を要請したり、暴力団との関係を誇示して契約の相手方に圧力をかけたりすること。また、事業者が初めは被害者的な立場であったとしても、事業を進めていく上で、自らの事業を有利に進めるために暴力団の威力を利用したりすることも該当する。暴力団から金品の要求を受けた段階で一刻も早く警察に通報してもらうことで、暴力団員に対して行政命令の発出も可能であり、再被害防止もできる。


Q 「情を知って、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる利益の供与」とはどういうことか

A 暴力団の活動を助けることや暴力団の円滑な運営に役立つような利益の供与のことを意味し、具体的には次のようなケースが利益供与に疑われるおそれがある。

  • 暴力団組長の襲名披露や出所祝いなど暴力団の活動が行われることを知っていながら、ホテルなどの宴会場を正規の料金で提供すること
  • 仕出し業者が、暴力団の活動となる行事等で出される料理の注文であることを知っていながら、料理などを提供すること
  • 建設業者が、暴力団の運営に利用されることを知っていながら、暴力団事務所の改築やリフォーム工事を請け負うこと
  • 葬祭業者が、暴力団の葬儀が行われることを知っていながら、葬儀場を提供すること
(6) 福岡県等の指名停止措置

 福岡県、北九州市において、代表が同一の2法人についての指名停止措置が公表されていますので、紹介します(なお、本件は、執筆時点では福岡県警のHPに掲載されていますが、当該ページへの掲載期間は1週間ほどであり、その後は福岡県のHPにて掲載されることになります)。

◆福岡県警 暴力団関係事業者の通報について
◆福岡県 暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧表(排除措置)
◆福岡市 競争入札参加資格停止措置及び排除措置一覧
◆北九州市 暴力団と交際のある事業者の通報について

 本件の対象事業者は、佐賀県の個人事業主で、理由は、「上記事業者の役員等(経営に事実上参画している者)が、暴力団構成員である事実を確認した」(福岡県警)、「暴力団との関係による」(福岡市)、「「暴力団員が実質的に運営している」ことに該当する事実があることを確認した」(北九州市)というものです。なお、指名停止(排除)期間は、福岡市が「3年間」であるのに対し、北九州市は「審議中」となっています。このうち、福岡市の福岡市競争入札参加停止措置要領によれば、暴力団関係については、「当該認定をした日から12カ月以上24カ月以内を経過し、かつ、暴力団又は構成員等との関係がなくなったと通知があるまで」との規定であるところ、「3年間」となっています。本件は、「暴力団員が実質的に運営している」「経営に事実上参画している者が暴力団構成員である」ことにより、厳格な措置が講じられているものであり、参考までに「社会的に非難されるべき関係」の場合は、概ね1年間(福岡市)、18か月(福岡県・北九州市)となっています。

◆福岡市競争入札参加停止措置要領

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