暴排トピックス

【もくじ】―――――――――――――――――――――――――

1.みずほショック(その2)

1)暴力団情報のデータベース利用に潜む問題

2)反社会的勢力排除の実務上の困難さと社会の要求レベルとのギャップ

3)適切な対応を行わない場合の現実的なダメージ

2.最近のトピックス

1)公共事業と暴力団

2)AML(アンチ・マネー・ローンダリング)/CTF(テロ資金供与対策)

3)その他の重要なトピックス

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

1)勧告事例(大阪府①)

2)勧告事例(大阪府②)

3)暴力団対策法による中止命令

1.みずほショック(その2)

 前回に引き続き、暴力団融資の問題を取り上げます。当初は、同行のクライシス対応の拙さに関心が集中した感がありましたが、前回指摘した通り、同行の問題はあくまで氷山の一角であることが明らかになってきており、現時点では、特定の業界や特定スキームの問題にとどまらず、金融業界全体の構造的な問題や反社会的勢力排除の根幹に関わる部分にまで問題が波及しています。そこで、今回も、企業実務との関わりにおいて検討が必要な点について整理しておきたいと思います。

1)暴力団情報のデータベース利用に潜む問題

①提携ローンスキームにおける審査の脆弱性と組織的・構造的な問題

 同行に限らず、様々な金融機関において、提携ローンの審査が信販会社に任されていたことが問題視されていますが、例えば、中古車ローンを取り扱う現場では、他社に顧客が流れないよう、(結果的に、あるいは意図的に)審査が簡略化されていた実態があったようです。

 反社会的勢力排除の観点においても、東京都暴力団排除条例などでは、本来、中古車販売店にも「疑わしい場合は暴力団関係者でないことを確認する」努力義務が課せられていますが、そもそも「疑わしい」と判断できるための最低限の「フィルター」すら十分整備されていないうえ、営業優先の風土では、かろうじてある「フィルター」自体が機能することなく形骸化していた状況が推測されます。さらには、ローン取扱者が「疑わしい」と認知したところで、警察当局への問い合わせが現場の判断に任されている状況であれば、心理的なハードルが高く、暴力団からの報復を恐れ、毅然とした態度をとれないのが実情だったのではないでしょうか。

 また、ある指定暴力団幹部の発言で、極めて核心を突いたものとして、「今回の問題は自動車販売店と暴力団が結託してローンを申し込んだケースが多いと思う。販売店が加担しているため、大半が審査を通り発覚しないだろう」「申込者だけでなく、販売店の適格性についても調査や審査が行われるようになれば、今回のような融資は不可能になるだろう」(平成25年10月28日付産経新聞)といった報道もあり、前回指摘した「共生者の存在」によるスキーム自体の構造的な欠陥が明らかになったと言えます。

 しかしながら、本問題については、単に、このような仕組みやルールの脆弱性や当事者意識の欠如というレベルに問題を矮小化してしまうのではなく、組織的に「見て見ぬ振り」をしていたという「不作為」を許した企業の存立基盤により大きな問題があったのではないかと思われます。

 現場における入口審査が形骸化している実態や販売店と暴力団による共謀の可能性についても、信販会社も含めた金融事業者側はある程度把握していたと思われますが、それに対して、暴排条例の要請すら「日常的な消費を妨げる」「問題のない大多数の人間に迷惑がかかる」として(意図的に)縮小解釈し、抜本的な対策を講じてこなかった不作為こそ、大きな構造的問題だったと言えます。さらには、端緒(問題)を把握しながら警察相談に踏み込めない現場とそれを積極的にサポートしない組織のあり方も、単なる「情報伝達の不備」「当事者意識の欠如」の問題として片付けるのではなく、厳格なリスク管理を通じて問題の存在を察知し、現場に「問題を見つけにいく」「問題の解消を図ろうとする」といった明確な意思、すなわち、不作為とは真逆の企業姿勢の欠如と指摘できると思います。

②データベースの限界

 本問題をふまえて、全国銀行協会(全銀協)が2010年から蓄積する10,000件弱のデータベースを保険会社、信用金庫・信用組合、貸金業者らに提供することで、反社会的勢力の情報共有に乗り出すことが報道されています。

 また、日本クレジット協会は、会員の27%が現時点で暴力団情報の収集を行っていないという調査結果をふまえ、反社会的勢力の情報を収集し業界としてデータベースを構築する方針を打ち出しており、まず暴力追放運動推進センター(暴追センター)に加盟して情報提供を受けるとともに、全銀協や生損保の業界団体からも提供を受けるといったことも報道されています。

 さらに、全銀協は、日本証券業協会の取組みをふまえて警察庁とのシステム接続についても協議を開始するとのことです。

 これらの取組みは、もちろん、反社会的勢力の見極めの精度を高めることに大きく貢献することが期待されますが、必ずしもそのデータベースが万全ではない(限界がある)ことも十分認識することが必要です。

 まず、限界として認識すべき点として、警察や暴追センターが提供する情報が全ての反社会的勢力をカバーしているわけではなく、むしろ、警察庁の平成23年内部通達(暴力団排除等のための部外への情報提供について)に明記されている「立証責任」(情報の内容及び情報提供の正当性について警察が立証する責任を負わなければならないとの認識を持つこと)に鑑み、提供して問題のない確証のある情報(例えば、現役の暴力団構成員など)に限定されている点があげられます。

 その帰結として、データベースに含まれる者が比較的直近の属性や犯罪に紐付いている傾向にあること(つまり、データベースに「時系列的な厚み」が期待できないこと)、共生者や周辺者といったグレーゾーンに関する情報が期待できないこと(経験的に、グレーゾーンに位置する者は、「(直近ではない)過去」に何らかの犯罪に関与しているケースが多いと言えます)、さらには、そのようなデータベース上の属性を有する者が、チェックの対象となる者(=契約等の当事者)になりうるかといった根本的な懸念があります。当然ながら、反社会的勢力は、そのようなリスクを、代理契約、偽名・借名・なりすまし等によってヘッジしている現実があるのです。

 このようなデータベースの限界にとどまらず、真に憂慮すべき問題は、これらの情報を利用する側の企業姿勢にあります。つまり、公的なデータベースに「依存」「安住」するあまり、それ以上の取組みについて「思考停止」に陥ってしまうこと(これで十分だと誤信してしまうこと)、もっと言えば、反社会的勢力の不透明化や手口の巧妙化の現実をふまえれば、現場の「目利き」力を高めるべき状況にあるにも関わらず、「思考停止」によってその能力の低下すら招きかねないという点にあります。

 例えば、信販会社などが、暴排コンプライアンスについて、営業活動を阻害する「やっかいなもの」との認識を持っており、このようなデータベースの活用が推奨されることによって、一定の「お墨付き」を得られるとの感覚があるとすれば、本問題の根本的な解決には程遠いと言わざるを得ません。そもそも反社チェックとは、日常業務の中から「疑わしい」端緒を把握し、それを基に組織的に見極め、排除に向けて取り組むことに他なりません。現場の端緒を軽視し、データベースに依存すること、また、現場における暴排意識やリスクセンスの向上なくしては、反社会的勢力の実質的な排除、あるいは、その前提となる見極めすら期待できないと言ってよいでしょう。

 実質的に高い精度が期待できないデータベースであればなおさら、それがどのようなものであれ、「データベースに該当しないこと=反社会的勢力でない」との短絡的な思考が、それ以上の思考を停止させ「目利き」力を低下させること、つまり、反社会的勢力排除のためのデータベースが、反社会的勢力排除の実効性を阻害するという本質的な矛盾を生じさせる危険性を孕むことを認識頂きたいと思います。

③目利き能力を如何に高めるか

 既にお話した通り、反社チェックとは、日常業務の中から「疑わしい」端緒を把握し、それを基に組織的に見極め、排除に向けて取り組むことに他なりません。したがって、反社チェックを支えるものは、あくまで現場における高い「暴排意識」と「リスクセンス」であり、データベースはそれらと相互に補助しあう役割を担っています。反社会的勢力につながる端緒情報をデータベースから得られることは、現場のチェック(観察力)の精度を高めることにつながりますし、現場で収集された風評や取引や接触等を通じた違和感といった「ぼんやりとした」端緒情報にデータベースが客観的な事実(確証)を与えることになります。その意味では、データベース・スクリーニング自体は「必要条件」や「十分条件」にはなりうるものの、単独で「必要十分条件」にはなり得ないといった性質のものと言えます。

 また、あるメガバンクのアンチ・マネー・ローンダリング(AML)の取組みについて伺ったところ、AMLシステムにおける膨大なロジックにより抽出された端緒情報(異常値)と現場行員から寄せられた端緒情報の精度(この場合は、最終的に金融庁に「疑わしい取引」として届出をすることになる比率)を比較すると、後者の方が圧倒的に高いということでした。

 先に指摘したデータベース偏重が現場の思考停止を生むことを前提のリスク認識としながら、現場の目利き力を高めるためには、まずは「おかしい」と個人が思えること(リスク感覚が麻痺していないこと)、その個人的な感覚が組織の感覚とマッチすること、つまり、組織の外における「社会の目」を組織内にどれだけ取り込めるかという組織風土(社風)に着眼する必要があります。したがって、「風通しが良い」「正しいことを正しく行う」「正しいことが評価される(正しいことをやろうとして犯した失敗にはある程度寛容である)」といった当たり前のことが、暴排の取組みにおいても極めて重要であると言えます。

2)反社会的勢力排除の実務上の困難さと社会の要求レベルとのギャップ

①入口における見極めの限界

 そもそも、反社会的勢力の範囲は社会情勢によっても変動しうる不明確なものであり、警察が認定するものだけが反社会的勢力ではありません。最終的には「関係を持つべきでない」と企業が個別に判断するものであって、結果的にはその時点(判断時点ではなく「社会が評価を下した時点」)における社会情勢がその適否を判定しているとさえ言える、あいまいなものです。したがって、入口における反社チェックの精度をどんなに高めても、100%事前に把握することは困難です。

 本問題を通じて明らかなことは、社会が、企業が反社会的勢力との関係を断つことは当たり前であり、警察のデータベースを利用することが最も精度の高い方法だと認識していることです。

 このような「社会の要請」と「反社会的勢力排除の本質的な意味」、あるいは、「企業実務」とのギャップが厳然と存在することをふまえれば、企業は、可能な限り反社会的勢力の端緒を広く捉えながら、個々の状況を慎重に見極めていくこと、反社会的勢力に該当するか否か、取引してよいかといった判断を可能な限り合理的かつ論理的に導くこと、説明責任を果たせるかどうかの観点からそれらを評価していくことといった観点が重要となります。そして、今回問題となっている数々の「不作為」こそが、そのギャップを拡げてしまっていることを認識する必要があります。

②出口における対応の限界

 入口における反社チェックに限界があることを前提とすれば、企業としては、「疑わしい」という端緒を得た時にどれだけ適切な対応ができるかの出口(排除、関係解消)戦略が極めて重要となります。ただし、本問題を通じて、社会の要請は、「疑わしいものを何故放置するのか」、といった、至極当然のことながら実は極めて厳しい水準にまで高まっており、その点についても、「反社会的勢力排除の本質的な意味」、あるいは、「企業実務」と「社会の要請」との間にギャップがあると言えます。

 そして、その出口における限界もまた、反社会的勢力の範囲の不明確さに起因しています。とりわけ既存先との関係解消においては、訴訟に耐えうるような明確な根拠が一般的には必要であり、属性の立証については警察に情報提供を求めることが実務上はマストとなっています。ところが、前述の通り、警察サイドも立証責任があることから情報提供に慎重な姿勢を見せており、必ずしも十分な確証が得られるわけではないのが現実の実務です。また、属性の立証が困難な場合は、その他の解約事由への該当がないか、他の方法で実質的に関係を解消できる方法はないかの検討をすることになりますが、それでも簡単に関係解消に踏み込めるわけではありません。

 本問題で言えば、信販会社が同行の債権を代位弁済したのは147件、計約1億8,000万円にのぼりますが、その中で暴排条項が入っていた契約が39件、うち融資金を一括請求したのは1件のみという状況で、すべて正常債権であって実務的には即時回収が相当難しいものと推測されます(報道によれば、当該信販会社の関係者が、解除できるものは数件程度と話しています)。したがって、実務上は「継続監視」という状態に置くしかないのですが、社会の目には「放置」していると映るかもしれない点が、この出口問題における最大の懸念事項となります。

 それに対して、企業の取るべき対応としては、前回指摘した「経営判断の原則」にしたがって、慎重かつ合理的な判断を行うことが最も重要な点だと言えます。具体的には、反社会的勢力に該当するか否かを、民間事業者で出来る最大限の努力により手を尽くし(適切な第三者による調査や弁護士等からの意見書の取り付け等)、その結果をふまえた取引可否判断を可能な限り合理的かつ論理的に導くこととなります。また、取引可否判断においては、シロかクロではなく、「継続監視」や「追加取引には応じない」「次回契約更新せず」といった状況に応じた具体的なステイタスを付与することが考えられます。そして、社会の目を強烈に意識して、そのステイタスの適正性や遵守状況をモニタリングするなどして、いつでも説明責任を果たしうるだけの準備をしておくことも重要となります。

3)適切な対応を行わない場合の現実的なダメージ

①取引先からの関係解消リスク

 本問題を受けて、取引先の企業(提携ローンの提携解消等)や自治体(例えば、公金管理の指定金融機関の指定等)から取引を停止させるといった動きも伝えられています。相手方からみれば、同行について、反社会的勢力との不適切な関係が認められること(あるいは、金融庁による「業務改善命令」の発動や最悪の場合「業務停止命令」の発動)をもって、「取引停止」「(追加)取引停止」といった取引可否判断を行った結果と言えます。現時点で、どのような取引可否判断が妥当かは一概には言えませんが、漫然とこれまでの関係を継続するのではなく、自社なりのリスク評価とスタンスを明確にしておくことが今後の説明責任においては重要となります。

②株主代表訴訟リスク

 同行の親会社の株主が、子会社の監督を怠った責任は重いとして、歴代の経営陣19人に11億7,000万円の賠償を請求するよう、会社の監査役に求め、60日以内に実現されない場合、同金額を請求する株主代表訴訟を提訴することが報じられています。取締役の善管注意義務違反に対する責任を問われており、担当だったかどうか、認識していたかどうかに関わらず、取締役としての職責を果たせなかったことに対する責任が問われるのが善管注意義務だと言えます。したがって、暴力団構成員への融資を認識していたかどうかは、さほど問題ではなく、不作為に注意を怠ったとしても賠償責任を負う点が今後注目されます。

③銀行法違反リスク

 親会社の株主から委任を受けた大阪市の弁護士グループが、銀行法違反(虚偽報告、検査忌避)容疑で東京地検に告発状を送付したとのことです。同行の第三者委員会の報告書を見る限り、重要な事実認定において危うい部分が散見されるように感じます。

 現在、金融庁が再度入検しておりますので、もう少し突っ込んだ事実関係が解明され、それが(意図的な)誤りであったとされれば、さらに大きなダメージを被ることになります。

④業務停止命令リスク

 前項の通り、現在、金融庁が入検しており、これまで公表された事実と異なる新たな事実が判明した場合は、銀行法に基づく(一部)業務停止命令が出される可能性もあります。その場合、取引先が他行に流れるなど直接的なダメージが極大化するとともに、自治体から指定金融機関の指定が外されるといった中長期的にわたる信用の失墜につながることも予想されます。

2.最近のトピックス

1)公共事業と暴力団

①生活保護費を悪用(囲い屋)

 生活保護受給者から家賃保証名目で現金を詐取したとして、山口組系暴力団組員で、不動産会社の実質経営者らが詐欺容疑で逮捕されています。不動産会社側からホームレスに声をかけて集め、生活保護を受給させた上、その保護費を吸い上げる手口(いわゆる「囲い屋」)で、大阪市内でマンション約70棟の部屋を借りて受給者約2000人に又貸しし、家賃の差額などで年間約2億円の利益を上げていたということです。

 行政側も、生活保護費受給に絡むこれだけの大掛かりな不正利用事案であれば、何らかの端緒(疑い)は持っていたものと推測されます。(行政側のマンパワー不足の状況はあるにせよ)現地確認や入居の経緯の詳細な聞き取りなど水際での審査をもう少し厳格にすればある程度抑止できたようにも思われます。

②除染事業への違法派遣

 福島市発注の除染事業の現場に作業員を違法に派遣したなどとして、労働者派遣法違反などの疑いで、元指定暴力団系幹部の人材派遣業らが逮捕された事件では、元請けの大手ゼネコンが、下請けの協力会社に暴力団排除を含む実質的な管理を任せていたことが、結果的に事業全体から暴力団排除が徹底されない一つの要因となったように思われます(なお、今年、山形でも同様の事件が発生しており、2事例とも元請けは同一の大手ゼネコンでした)。

 そもそもは、東日本大震災の復興事業の人手不足が背景にありますが、人材手配の困難さゆえ、正式な契約を結ばない下請けの介入、背後関係の怪しい業者に仕事が回り、抜け道となったという形になります。しかしながら、「通常では困難な業務」を引受けられること自体、「正しい」業務を行っているかどうかを疑う必要があり、通常求められる以上の十分な注意を払う必要があったのではないでしょうか。また、元請けとなった大手ゼネコンが複数の同様の問題を許したという事実からは、構造的な欠陥の存在を疑い、早急な改善をする必要があると思われます。

③特別民間法人が暴力団審査なしで支給

 厚生労働省から求職者支援事業を請け負った特別民間法人「中央職業能力開発協会」が2009年からの約2年間、支給先が暴力団かどうかの確認をせずに総額約3,000億円を支給していたということです。この求職者の支援事業をめぐっては、大阪市のNPO法人が架空の受講生をつくって不正受給していた問題も発覚していますが、既に暴力団関係先に資金が流れてしまっている可能性は否定できません。

 反社チェックの重要性が叫ばれている中、民間事業者だけでなく、行政においても、その審査の甘さが犯罪を助長する「犯罪インフラ」化の状況だけでは是非とも回避して頂きたいものです。

2)AML(アンチ・マネー・ローンダリング)/CTF(テロ資金供与対策)

①マネーミュール(犯罪収益運び屋)

 インターネットバンキングの不正送金で、「お金を海外口座に振り込むだけで手数料を支払う」という求人メールを不特定多数に送りつけるなどし、違法収益を海外に移動させる手口が今年になって87件確認されており、被害額も1億1400万円に上るとのことです。10月現在、送金被害は約8億円と過去最悪のペースで増加しており、マネーミュールも被害拡大の一因とみられています。

 日本では、2010年4月に施行された「資金決済法」により、それまで銀行のみに認められていた送金など為替取引が自由化され、決済代行業者として登録認定を受けた事業者にも認められるようになったことで、海外の大手事業者だけでなく、国内外の新規事業者が参入している状況にあります。マネーミュールにおいては、銀行よりも本人確認が甘いこれらの海外送金サービス業者を使わせるのが特徴で、「脇の甘い」事業者が、マネー・ローンダリング等の犯罪を助長する「犯罪インフラ」化している状況に十分な注意が必要です。

②ソマリア沖海賊と国際犯罪組織

 世界銀行によるソマリア沖の海賊についての報告書によると、2005年から2012年までに支払われた身代金の総額が3億3,900万ドル(約332億円)を超えたということです。また、海賊対策による貿易の費用増は、世界全体で年間180億ドル(約1.8兆円)にのぼり、現場の海賊には身代金総額0.1%以下しか渡っておらず、その多くが一部の業者に集められ、人身売買や武器取引などの犯罪行為に使われているとのことです。

▼WorldBankSearch;THEPIRATESOFSOMALIATHEPIRATESOFSOMALIA:ENDINGTHETHREAT,REBUILDINGANATION

 現状のままでは、当該エリアの海賊行為の撃退や現地政府等の腐敗の撲滅等は難しく、治安回復や国際犯罪組織の資金源の根絶は困難を極めることになります。

③震災支援金がイタリア・マフィアの資金源に

 2009年4月のイタリア・ラクイラ震災で、EU(欧州連合)の基金から拠出された支援金約4億9,400万ユーロ(約658億円)の一部が、マフィアと関わりのある建設業者に支払われるなど不適切な使用があったとのことです。報道によれば、被災者の住宅再建を手がけた下請け業者の中にマフィアの関連企業があり、関係した被災者向け住宅工事では、居住に適さない手抜き工事も見つかったといいます。

 日本でも、前述の通り、震災復興関連工事や除染作業等において、暴力団関係企業による中間搾取や政府・自治体の助成金等の悪用が問題になっているのと同様の構図と言えます。

3)その他の重要なトピックス

①グーグル検索に関する名誉棄損訴訟

 グーグルの検索サイトで、自分の氏名を入力すると犯罪を連想させる単語が一緒に表示され、名誉を傷つけられたとして、東京都の男性が米グーグルに表示の削除などを求めた訴訟の控訴審で、東京高裁は、1審同様、名誉毀損に当たらないとの判決を出しています。

 報道によれば、原告が、検索サイトに氏名と過去に犯罪を起こした団体名が並んで表示され、精神的苦痛を被ったと主張していたものの、東京高裁が、1審同様、「表示された氏名と団体名が関連づけられてはおらず、名誉毀損は成立しない」などと判断したとのことです。

 これは、いわゆる「関連検索キーワード」機能に起因する問題ですが、ヤフーでは「ある時間枠において頻繁に用いられるものを候補として表示」しているのに対し、グーグルでは「過去に積み重ねられたWebページの文書群から、その言葉とよく一緒に取り上げられた話題を表示」しているとの違いがあります。

 反社チェックの実務においても、このような関連キーワードについては、無批判に信用するのではなく、同姓同名の問題や掲載されている情報の信用性などを含むデータベースや記事検索の限界をふまえ、慎重に取り扱うことが重要です。

②振り込め詐欺の動向

 振り込め詐欺の「ストーリーや話法など騙す手法」は高度化する一方ですが、末端の実行犯をバイトの一般人や逮捕の危険覚悟で実行する暴走族に担わせるといった役割分担、現金の受け渡し方法等「犯罪を完遂させる手法」も高度化しています。先日、大阪市の暴走族ら9人が逮捕された振り込め詐欺事件で、「受け子」の少年らが得た詐取金のうち、8割を駅のトイレに置く方法などでグループ上位者に渡しており、残りも少年らの「現場管理者」役に直接手渡ししており、詐欺の首謀者が、受け子に顔を見られないようにするために様々な工夫が施されています。

 一方、取り締まる側も手法の高度化に対応する必要性に迫られています。薬物や銃器犯罪などの捜査で認められている電話などの通信傍受を、振り込め詐欺にも拡大する法改正を警察側が求めているということです。ただ、通信事業者の立ち会いをなくすことなどには「プライバシー侵害の恐れが生じかねない」と異論もあり、制度の透明性をどう保つかが課題となるなど、まだまだ十分な議論が必要です。

 なお、振り込め詐欺の中でも最も多くを占めている「オレオレ詐欺」については、最近では、従来のように金融機関を通じて「振り込ませる」ものに加え、犯人が現金やキャッシュカードを直接自宅等に取りに来る「振り込ませない」振り込め詐欺(いわゆる「受取型」の手口)が増加しているということで、平成25年上半期のオレオレ詐欺のうち、交付形態別では、振込型が約2割、現金受取型が約8割となっています。

▼警察庁「振り込め詐欺撲滅に向けて」

③兵庫県神農商業協同組合の解散後の動向

 兵庫県公安委員会は、暴力団に用心棒代を支払い続けたとして、兵庫県暴排条例に基づき同組合名を公表、その影響で祭りの露店運営から締め出されるなどした結果、同組合は今年8月に解散に追い込まれました。

  • 露店出店料が昨年1年間で3億円以上が使途不明
    同組合が昨年1年間に露天商から集めた出店料のうち、使途不明金が推定3億円以上にのぼるということです。なお、同組合関係では、2011年の西宮神社の「十日えびす」で暴力団が取り仕切った結果、約500店から約4,500万円が集められたことが判明しています。
  • 同組合の元組員に中止命令
    夏祭りに出店した露天商にみかじめ料を要求したとして、兵庫県警は、元組合員の男に対し、暴力団対策法に基づく中止命令を出しています。報道によれば、男は「もうできないことは分かっていたが、金に困って今まで通り要求した」と話しているようですが、事業者側も最終的には警察に相談するなどした結果と思われ、「泣き寝入り」はしない対応となっていることから、暴排の取組みの定着の兆しが見られます。

④組事務所取り壊しで5年振りに通学路復活

 福岡県久留米市にあった指定暴力団道仁会旧本部事務所が取り壊されたことを受け、近くの市立小学校で、11月1日から、約5年6か月ぶりに事務所周辺の市道が通学路に再指定されました。今月、更地が公社に引き渡され、同小学校が久留米署などと協議して安全が確保されたと判断したものです。

 同地については、指定暴力団道仁会の旧本部事務所立ち退き訴訟で住民側と組側が和解、組側の負担で建物を取り壊し、更地を同市土地開発公社が1億6,000万円で買い取っています。なお、指定暴力団の本部事務所が使用差し止め訴訟で立ち退くのは、全国初のケースでした。

⑤山口組がハロウィーン子どもにお菓子を配る

 山口組は、このハロウィーンでの差し入れだけでなく、過去、年末の餅つき大会で市民に「お年玉」名目で現金を配ったり、新型インフルエンザ流行時に幼稚園にマスクを差し入れたりしています。また、阪神・淡路大震災発生時には、行政側の対応より早く被災住民への炊き出しを行い、住民に感謝されたこともありました。

 暴力団は自らを「極道」と呼ぶことを好みますが、本来、仏教用語で「仏法の道を極めた者」という意味です。それを、江戸時代より侠客(弱いものを助け、強い者を挫く)を極めた人物を称える時に「極道者」と称した事からきているとされています。その良い面での精神的な伝統がこのような行為に表れている(もちろん、それをイメージアップに利用している側面もあります)のですが、現状の彼らの実態は、本来手を差し伸べるべき高齢者や障害者など「社会的弱者」から徹底的に搾取するという「外道」(道を外れた者)以外の何者でもありません。さらに、そこで搾取されたお金は、犯罪組織の活動を支え、新たな犯罪に再投資されているのです。

 善意を拒む理由はありませんが、彼らの実態をそれとは切り離して認識する必要があると言えます。

⑥山口組直系団体の会長がゴルフ場利用詐欺容疑で逮捕

 暴力団の身分を隠してゴルフ場を利用したとして指定暴力団山口組系柴田会会長が詐欺容疑で逮捕されています。同会長は、「直参」と呼ばれる山口組直系団体の会長です。

 報道によれば、同ゴルフ場は、出入り口に「暴力団関係者お断り」と掲示しており、同会長は暴排条項が盛り込まれた利用約款に同意する署名もしていたということです。

⑦九州誠道会の動向

  • 新団体「浪川睦会」発足
    同団体は、6月に「解散した」と表明した一方で、新団体「浪川睦会」を立ち上げました。抗争の相手方である特定抗争指定暴力団道仁会は、新団体設立を容認しない意向であり、抗争が再燃する恐れもあります。
  • 「特定抗争指定暴力団指定は違憲」として佐賀県を提訴
    同団体は、昨年10月の改正暴力団対策法に基づき、佐賀県から特定抗争指定暴力団に指定されていますが、「指定は憲法違反」として佐賀県に取り消しを求めて提訴しています。報道によれば、改正暴対法は憲法が保障する集会・結社の自由を侵しており「指定は違憲・違法な処分」と主張しています。なお、同団体は、福岡県を相手取った訴訟も起こしています。

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

1)勧告事例(大阪府①)

 暴力団組員に植木を無償提供したとして、大阪府公安委員会は、大阪府内の造園業者と組員に、大阪府暴排条例に基づく勧告を行っています。

 この造園業者は、大阪府内の飲食店に、組員のもうけになるよう植木鉢を設置、組員は飲食店経営者から、受け取った植木と「みかじめ料」込みで料金を受け取っていたというものです。なお、8月には組員から植木を購入していた飲食店経営者にも勧告を行っています。

2)勧告事例(大阪府②)

 指定暴力団山口組系の組長や組員の車と知りながら、無料で洗車サービスを繰り返したとして、大阪府公安委員会は、大阪府暴排条例に基づき、組員や大阪府内のガソリンスタンドの店長に同様の行為をしないよう勧告しています。

 洗車回数は約2年間で約500回に上るうえ、スタンドの一角を駐車場代わりに使用させたりしていたというものです。

3)暴力団対策法による中止命令

 昨年10月に改正された暴対法で指定する警戒区域で自営業の男性に金を貸すよう不当に要求したとして、特定危険指定暴力団工藤会系組幹部と、同組組員を暴力団対策法違反容疑で逮捕しています。なお、中止命令を経ずに逮捕したのは全国でも2例目となります

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