暴排トピックス

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【もくじ】―――――――――――――――――――――――――

1.排除実務の基本(その5)

1)相談・共有

2)社内対応

3)排除の実践

2.最近のトピックス

1)特殊詐欺の認知・検挙状況等

2)金融実務におけるトピックス

3)租税回避を巡る動向

4)その他のトピックス

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

1)指名停止措置(国土交通省)

2)指名停止措置(大分県)

3)指名停止措置(宮崎県)

4)勧告事例(大阪府)

5)勧告事例(東京都)

6)勧告事例(神奈川県)

 本コラムでは、昨年6月から8月にかけて、「排除実務の基本」と題して、既存取引先に関する疑わしい端緒を把握してからの具体的なアクションとしての「実態把握」「リスク評価」、さらには、警察相談に至る前段のステップとしての「弁護士相談」「一次判断」、その結果をふまえての「警察相談」について解説いたしました。

 また、前回は、実際に排除へと至る具体的な実務として、「事前準備」と「最終判断」まで取り上げたところですが、今回は、「相談・共有」「社内対応」を経て、「排除の実践」について取り上げます。

1.排除実務の基本(その5)

1)相談・共有
① 外部専門家への相談・共有

 組織の対応方針・対応要領・スケジュール等について最終的に組織的判断がなされ、確定したことを受けて、弁護士や警察、危機管理会社等とそれらの情報を共有し、いよいよ排除実施に向けた最終準備にとりかかることになります。

1.弁護士との連携

 強制的に解除するとの方針であれば、契約解除通知文書の作成を依頼し、あわせて書面の送達スケジュールを確定します。

 また、合意解約の方針の場合でも、(交渉決裂を想定して)強制的な解除に準じた準備をしておく必要があり、当該文書や解約合意書といった文書の作成を依頼することを検討します。

 また、弁護士にその後の対応を一任する場合には、その旨の依頼と具体的な対応要領(電話の引き継ぎ方法の確認、事務所への待機の有無等)の打ち合わせが必要となるほか、解除事由に争いが起こる可能性を想定した訴訟の準備などに着手することも検討していくことになります。

2.警察との連携

 自社の最終的な対応方針および契約解除に関する書面での通達や合意解約における交渉(接触)の期日等については、警察にも積極的に情報を伝え、あわせて不測の事態に備えた保護対策を要請することが望ましいと言えます。

3.危機管理会社等との連携

 警察に保護対策を要請する一方で、自助努力としての各種警備の強化は企業の責務であるとも言えます。

 十分な安全確保なくして対応担当者は戦えませんし、戦わせるべきでもありません。また、「自分は組織に守られている」との意識が、対応担当者が戦うためのモチベーションを支えるものであり、自社および従業員の安全は自社が責任を持って確保すべきものと強く認識する必要があります。

 そのうえで、以下のような警備上の検討ポイントについて確認しておくことが肝要となります。

          • 対象事業所等の施設警備
          • 役員や対応担当者の身辺警護
          • 役員や対応担当者の自宅周辺の警備
          • 役員や対応担当者の家族の警備
          • 事業所内の盗聴調査

 また、警備の強化に限らず、役員や対応担当者の安全の確保等の面からは、以下のような対応も視野に入れる必要があります。

          • 通退勤ルートの変更(時間やルートを固定しない)
          • 安全な宿泊場所の確保
          • 特に対応担当者のメンタル面でのサポート
          • 対応担当者の複数確保と交替制
          • 位置発信機器等の携帯、定時連絡の履行
          • 事業所内の物理的安全管理措置(施錠管理、liCや書類等の管理など)
          • 事業所内外での通信セキュリティ面の配慮(liCや携帯電話等の盗難防止など)
          • (私的なものも含め)SNS等の利用の中止
          • 書面等の事業所外への持ち出し禁止

 さらに、危機管理会社のような専門家による社内対応・対外的対応に関する全般の支援を得ることも、実効性を高めるうえでは重要な選択肢だと言えます。対応担当者の教育や各種対応策の実行に関するアドバイスなど、経験豊富な専門家ならではの視点からのサポートは有事の際に心強いことは言うまでもありません。

②注意点

 当然のことながら、自社のみで対応が十分可能であると過信すべきではありません。

 解除通知文書や解約合意書のような書面の作成や対応担当者を指名するとしても、自社の知見だけに基づく対応だけでは、(ただでさえ、経験不足から想像力・危険察知力が欠如している状況で)想定外の事態が発生した場合の対応に窮する可能性が高いと言えます。

 外部専門家の協力を得ることでコストが一時的にかかることを覚悟する必要があるにしても、不測の事態や事態の深刻化をいたずらに招くよりは、結果的に円滑かつ安心・安全な対応を可能にするという利点を優先すべきだと言えます。

2)社内対応
①社内対応として必要なこと

 前項でも触れたとおり、外部専門家に相談しながら準備をすすめることが重要となりますが、ここでは、社内対応として排除実施までに準備しておくべき点についてあらためて整理しておきたいと思います。

 排除に向けた取り組みの出発点として、「実態把握」すなわち「敵を知る」「己を知る」ことの重要性については既に述べた通り(暴排トピックス2013年6月号)ですが、「己を知る」ことを通じて自社の対応体制等の脆弱な点を抽出し、「事前準備」の段階でその脆弱性の解消に努めてきたわけですが、そのうえで、排除実施の最終段階における社内対応上の注意点について、以下の通りポイントを提示しておきたいと思います。

1.社内関係者の把握(情報共有の範囲)

 反社会的勢力と接点となっている可能性のある「従業員」等の関係者に事前に情報が漏えいすることは望ましくないため、端緒を把握してからは、可能な限り情報の共有範囲を絞っておくことが重要です。

 実態把握の段階で、広範にヒアリング等を行う中で事態を推測させる動きが社内に伝わる可能性(危険性)を常に認識しながら、(Xデーに関する情報や対応担当者の動向など)致命的な漏えいにつながらないよう細心の注意が求められます。

2.対応方針の関係者への周知

 最終段階においては、相手方からのアプローチがどこにあるか分からないことから、初期対応の実施者となりうる関係者に対しては事情を事前に説明しておく必要があります。

 したがって、「事前準備」で述べたような研修などは、本来であれば、有事となる前の平時に行っておくべきことであるとも言えます。

 十分な準備の下地があって、本番を迎えるような対応体制を整備しておくべきであり、そのうえで、事案の背景と対応方針について明確かつ具体的に周知し、特に初期対応においてつまずくことがない状態にしておかなければなりません。

3.自社および相手方の風評(リアル/WEB)のモニタリング

 直前まで、情報漏えいの兆候がないか、誹謗中傷といった行為要件に該当する事実がないか、戦略の変更を迫られるような状況の何らかの変化はないか、周辺の噂やインターネット上の風評などの情報を常に収集しておくことが重要です。

②注意点

 情報共有の範囲は段階に応じて拡げることとなりますが、ある程度拡げたならば速やかに排除の実践に移すことが情報漏えいの観点からも必要です。

 したがって、全てのスケジュールをあらかじめ明確にし、そこから情報共有の範囲を逆算していくことが求められます。

 ただし、情報漏えいの可能性はどの段階でもあることを認識し、「コアな情報」と「共有すべき情報」とのそれぞれの範囲を区別しておくことで、ダメージを最小限に抑えるといった工夫も必要です。

 また、関係者間における情報の報告・集約・分析・対応指示は可能な限りこまめに行うことも必要となります。安心に関わる事項でもあり、小さな対応方針のズレが修復不可能な対応の不整合となりうるため、慎重かつこまめな確認作業が重要だと言えます。

 また、弁護士に対応を一任しても、自社へのアプローチを想定した対応準備をする必要がある点に変わりはありません。

 対応の責任者や専任者・担当者を指名したからといって、以下のような点に配慮することが重要となります。

    • 個人に依存しない
       属人的な業務ではなく組織的対応である
    • 個人を孤立させない
       個人の持てる能力を発揮できる状況とは、組織的対応によるバックアップがあるという安心感が醸成された状況である
3)排除の実践
①契約解除文書の送達による「強制的な契約解除」の場合

 これまでのプロセスにおいて準備しておいた契約解除文書を、あらかじめ設定した期日に弁護士から書面を通達することで契約解除の効力が発生します。

 書面は、原則、配達証明付内容証明郵便を利用しますが、これは確実に受け取ったという証明になるものの、「受け取らない」(意図的または不在等)場面も想定されますので、その場合に備えて、普通郵便で同一の文書を送付、書面上にもその旨記載し、「届かなかった」可能性を極小化するといった検討も必要となります。

 なお、銀行取引約定書や保険約款等にも記載のある「みなし到達規定」をあらかじめ契約等に盛り込んでおくことは、自社の意思表示が有効に相手に到達したことを担保する方法として極めて有効と思われますので、今後の契約条項の見直しの際には、検討課題とされることをおすすめいたします。

 また、当該書面には、契約解除の意思表示のほか、解除該当条項、(預金口座の解約のような)一定の猶予期間の設定、事後処理に関する内容、連絡窓口(弁護士)等が記載されるのが通常です。

 書面の通達により、それに対するリアクションの如何に関わらず、契約自体は終了するため、粛々と事後処理をすすめることになります。

 例え、相手方からのリアクションが全くない場合でも、いたずらに連絡を取って状況や意思を確認するといった対応は不要であり、契約は既に終了していることから、やはり事後処理を淡々と進めればよいことになります。

 なお、特に、訴訟等をちらつかせたり、解除事由の不存在についての争いがある場合は、弁護士に対応を一任する対応を貫くことが最も重要であり、自社が内容に踏み込んで対応することによって相手に予断を与えるようなことがあってはなりません。

②「合意解約」の場合

 合意解約をしようとする場合には、まずは全ての準備が整った時点で電話にて訪問や打ち合わせの主旨を相手に伝えるとともに、可能な限り速やかに相手方と対峙する必要があります。

 この合意解約では、電話や訪問・来訪という反社会的勢力との「対峙」の場面が確実に発生することから、話法や安全の確保について特別の準備が必要となります。

 電話のタイミング、訪問・来訪等の期日については、警察に事前に連絡し、保護対策を要請しておくとともに、自社で可能な限りの警備の強化を図る必要があることは既に述べた通りです。そのうえで、訪問・来訪等の当日については、以下のような対応の工夫が必要となります。

      • 複数名で訪問・対応する
      • 可能であれば、オープンスペースでの面会を設定する
      • 警察と連携して、不測の事態における追加訪問要員を確保する
      • 訪問の場合など、相手方事務所付近にも要員(警備員なども含む)を配置し、不測の事態における警察への通報に備える
      • 対応時間をあらかじめ設定する(30分以内など)
      • あらかじめ話し合いの最終時刻を告知して対応する
      • あらかじめ設定した時間を経過した時点で外部から携帯電話に連絡を入れる
      • 対応の経緯を録音する(携帯電話を通話のままにして外部に中の状況をリアルタイムで把握することも検討できる)
      • 当日のQ&Aを事前に作成・確認し、必要最低限の会話にとどめるとともに、不明な点等はその場で無理に判断・回答せず、余裕を持った期日であらためて回答することでもよい。
③注意点

 会社方針を明確かつ毅然と伝えることは当然のことではありますが、あくまで対応は冷静かつ紳士的に行うべきであり、相手が暴力団関係者であっても、下手に挑発したり、見下すような態度で接することは、逆に、相手方に反撃の端緒を与えかねませんので注意が必要です。

 合意解約の場合は、特に交渉事でもあり、譲歩する場面も考えられますが、その内容が利益供与とならない範囲での対応が大前提となります。したがって、事前のQ&A作成の場面で、弁護士と十分に打ち合わせをしておく、あるいは、交渉時に安易に判断してしまうことなく、組織としての判断を行うため持ち帰る(立て直す)勇気も必要だと言えます。結果的には、そのような適切な対応を行うことによって、弁護士の見解を得た適切な判断と対応が可能となるのです。

2.最近のトピックス

1)特殊詐欺の認知・検挙状況等

▼ 警察庁「平成26年3月の特殊詐欺認知・検挙状況等について」

 上記資料によれば、この3カ月で被害が、昨年同期比4割増の130億円に達し、約486億9000万円と過去最悪だった昨年を上回るペースとなっています。

 類型別では、オレオレ詐欺が約37億2000万円(前年同期比4.4%増)、金融商品の取引を装う詐欺が約43億2000万円(同23.8%増)、架空請求詐欺が約26億1000万円(170.4%増)などの状況となっているほか、手口別では、現金手渡し型が最も多く、42.5%を占めており、一方の振り込み型が35.6%と、「振り込まない」詐欺が傾向として多くなっていることが分かります。また、被害は東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県で8割を占めるといった傾向も見られます。

2)金融実務におけるトピックス

 前回の本コラムでは、ゴルフ場詐欺事件2件について取り上げましたが、それらと同じ最高裁第2小法廷の同一裁判官の構成により、暴力団員であることを隠した銀行口座の開設において、詐欺罪が成立するとの判断がなされています。

▼最高裁第2小法廷平成26年4月7日決定

 当該判決においては、「前記銀行においては、従前より企業の社会的責任等の観点から行動憲章を定めて反社会的勢力との関係遮断に取り組んでいたところ、前記指針の策定を踏まえ、平成22年4月1日、貯金等共通規定等を改訂して、貯金は、預金者が暴力団員を含む反社会的勢力に該当しないなどの条件を満たす場合に限り、利用することができ、その条件を満たさない場合には、貯金の新規預入申込みを拒絶することとし、同年5月6日からは、申込者に対し、通常貯金等の新規申込み時に、暴力団員を含む反社会的勢力でないこと等の表明、確約を求めることとしていた。また、前記銀行では、利用者が反社会的勢力に属する疑いがあるときには、関係警察署等に照会、確認することとされていた。そして、本件当時に利用されていた総合口座利用申込書には、前記のとおり、1枚目の「おなまえ」欄の枠内に「私は、申込書3枚目裏面の内容(反社会的勢力でないことなど)を表明・確約した上、申込みます。」と記載があり、3枚目裏面には、「反社会的勢力ではないことの表明・確約について」との標題の下、自己が暴力団員等でないことなどを表明、確約し、これが虚偽であることなどが判明した場合には、貯金の取扱いが停止され、又は、全額払戻しされても異議を述べないことなどが記載されていた。さらに、被告人に応対した局員は、本件申込みの際、被告人に対し、前記申込書3枚目裏面の記述を指でなぞって示すなどの方法により、暴力団員等の反社会的勢力でないことを確認しており、その時点で、被告人が暴力団員だと分かっていれば、総合口座の開設や,総合口座通帳及びキャッシュカードの交付に応じることはなかった。」 (判決文から引用、下線部は筆者)とされています。

 上記の通り、詐欺罪の成立に関して、約款への暴排条項の明記、申し込み時の表明・確約等の取組みはもちろん、「応対した局員は、本件申込みの際、被告人に対し、前記申込書3枚目裏面の記述(注:表明・確約書のこと)を指でなぞって示すなどの方法により、暴力団員等の反社会的勢力でないことを確認」したとの指摘がなされています。

 これだけの取組みをしてはじめて、「本人が暴力団員等であることが分かれば、当然、拒否していたであろう」と客観的に認められうると言うことであり、普段から「やるべきこと」を、「民間事業者として出来る最大限の努力」に近い取組みレベルで、高い暴排意識を持った役職員が誠実に実施すること、それを客観的に説明できることが重要だと言うことがこれらの判決からは読み取れると思います。

 言い換えれば、このように、きっちりとした確認プロセスを愚直に遂行することで、相手の偽網行為を明らかにする、といった企業防衛の意味合いも意識し、形式的ではない取組みが必要だということが明確になったと言えます。

 本コラムの3月号でご紹介した金融庁の監督指針の改定と、これら一連の最高裁判断をふまえれば、金融機関はもちろん、一般の事業会社でさえも一段高いレベルの取組みを行うことが求められていることは明らかです。

 一方で、それが役職員一人ひとりの健全な「暴排意識」や「リスクセンス」をベースとしながら、形だけでなく、具体的に、「実務が血肉のレベルにまで徹底される」こともまた求められていることを認識しなければなりません。

 なお、前回ご紹介したゴルフ場詐欺については、宮崎県警が、ゴルフ場経営者協議会の総会の場で、ゴルフ場の受付で暴力団であるかどうか確認していなかった点を最高裁が重視したことをふまえ(無罪となった事例は宮崎県のゴルフ場でした)、チェック項目を盛り込んだ利用申込書のひな型を配り、各ゴルフ場での全利用者を対象に導入するよう要請したということです。

3)租税回避を巡る動向

 先ごろ開催された経済協力開発機構(OECD)閣僚理事会で、国境を越えた租税回避の根絶を目指し、金融機関が顧客の資産内容を外国の税務当局に自動的に通知する仕組みを導入する方針で一致したということです。

▼OECD「諸国は税務における自動的な情報交換に取り組んでいる」

 以前も、本コラムで言及しておりますが、世界各地のタックスヘイブンやスイスなどの金融機関等が顧客保護を名目に預金者等の情報開示を拒み、結果として脱税(やマネー・ローンダリング等)の温床になってきた現実があり、米国FATCAの域外適用などへの対応を迫られる(巨額の罰金等の支払い)などの理由から、それらももはや聖域でなくなってきています。

 今回の合意で、各国の税務当局は不正な資産隠しを見抜きやすくなり、脱税の摘発が容易になることが予想されますが、あわせて、反社会的勢力の不透明な資金の流れの解明、マネー・ローンダリング・スキームの解明、テロ資金供与の断絶といった多くの副産物がもたらされることを期待したいと思います。

4)その他のトピックス
①本人確認の重要性

 北海道帯広市で、生年月日と名前が同じ人物の口座を間違って差し押さえたという事例がありました。

 同市の担当者が金融機関に照会し、滞納者と同じ名義の口座を4つ確認、担当者はすべて滞納者の口座と思い込み、滞納額以上の残高があった方(札幌市の会社員)の口座を差し押さえてしまったということです。また、同市納税課が4月に照会した際は、会社員の口座だけ確認し、住所を確認しなかったということです(なお、この会社員は帯広市に住んだことはなく、住所を確認していれば、間違いに気付いた可能性が高いと思われます)。

 データベースを活用した反社チェック実務においても、同姓同名・同年齢のリスクがあり、同一性の精査には慎重な対応が必要です。その精度をあげるため、ご判断のリスクを排除するためにも、可能な限り多面的な角度から多様な情報を収集し、その整合性に注意を払うことが求められます。

 また、密売目的で覚醒剤を隠し持っていたとして、覚醒剤取締法違反(営利目的所持など)の疑いで逮捕された容疑者の関係先から、別人の身分証88枚が押収されたといった事例も発生しています。他人の名前を勝手に使い分けながら、所在地を転々と変えていたようです。

 これらの事例に限らず、なりすまし等による犯罪が増加している現状においては、本人確認業務の重要性、その精度を高めることの重要性をあらためて認識して頂きたいと思います。もはや、本人確認は、「犯罪収益移転防止法に定められた特定事業者に求められている業務」にとどまらず、全ての事業者にとっても健全なビジネスの根幹を成す重要性を有しているとさえ言えると思います。

②住民運動による暴力団事務所の撤退

 兵庫県丹波市内に唯一あった指定暴力団山口組系組事務所建物を自治会が購入し、同組は撤退することになりました。

 報道によれば、同組事務所は2009年、地区の民家を組長の妻名義で購入され、兵庫県警から組事務所と認定されていたものですが、住民による追放運動により、住民で作る連合区が組長の家族と話し合い、約1200万円で購入手続きが完了したということです。

③改正暴力団対策法の動向

 2012年に改正された暴力団対策法に基づき、各地の暴力追放運動推進センターが住民に代わり組事務所の使用差し止め訴訟を起こせる代理訴訟制度が2013年1月に導入されましたが、これまで実際に提訴した事例は広島県の1件だけにとどまっています。

 当初から懸念があったように、訴訟費用が高額になるほか、裁判で住民の個人情報が明らかになり暴力団から報復を受けるのではないかとの懸念が払拭されないなど、利用が低迷しているようです。本制度は、使用者賠償責任の追及とともに、暴力団の活動を弱体化させる有効な手段であり、もっと利便性・実効性を高める工夫が必要だと言えます。

▼警察庁「全国の適格都道府県センター一覧」

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

1)指名停止措置(国土交通省)

 警視庁から「国土交通省が行う公共事業等からの暴力団排除の推進に関する合意書」による排除要請を受けたため、国土交通省は、同合意書に基づき、山梨県甲府市の建設会社に対して指名を行わないことを通知しています。

 当該業者の役員等が、指定暴力団住吉会傘下組織組員であると知りながら、同人を、談合において不正な利益を図るために利用したとして、同省が行う公共事業等からの排除要請があったためということであり、警察からの要請を受けて、同省の直轄工事が契約解除されるのは初めてとなります。

 なお、これにより、関東地方整備局は、2件の契約中の工事を解約するということです。

▼国土交通省「警視庁からの要請による公共事業等からの排除措置について」

2)指名停止措置(大分県)

 暴力団関係者と密接に交際しているとして大分県は豊後大野市の建設会社に対し1年間の公共工事の指名停止措置としています。

 当該業者については、同県と同県警が2005年に締結した「建設業からの暴力団排除に関する協定書」に基づいて通知が行われたものであり、2011年4月に大分県暴排条例が施行されて、初めての指名停止処分となるということです。

3)指名停止措置(宮崎県)

 宮崎県は、同県警から関係者が暴力団と親密な関係にあるとの通報を受け、宮崎市の建設会社を4カ月間の入札参加資格停止処分にしています。

 同県は、宮崎県暴排条例に基づき同県警と連携協定を結んでおり、2011年7月の締結以来、初の適用となるということです。

4)勧告事例(大阪府)

 大阪府は、代金支払いのトラブル解決のため、飲食店に暴力団組員を紹介したとして、スナックの女性経営者と指定暴力団山口組系組員に対し、暴排条例に基づいて勧告しています。

 女性への勧告内容は、支払いが滞っている客をもつ飲食店に暴力団組員を紹介したことなどであり、暴力団の紹介が条例違反とされるのは珍しいと思われます。

5)勧告事例(東京都)

 東京都公安委員会は、指定暴力団極東会系組幹部にイベント会場での露天の出店を斡旋したとして、東京都暴排条例に基づき、埼玉県内の土木事業者に対し、利益供与をやめるよう勧告、組幹部にも利益供与を受けないよう勧告しています。

 この組幹部は約100店舗を出店させていたということで、当該土木事業者と組幹部は縁戚に当たるとの報道もあります。

6)勧告事例(神奈川県)

 トラブル発生時などに暴力団の威力を利用する目的で、組長専従のタクシーと乗務員を派遣したとして、神奈川県暴排条例に基づき、横浜市のタクシー会社の男性営業部長に対し、暴力団に利益供与をしないよう勧告しています。

 また、指定暴力団稲川会系の暴力団組長にも供与を受けないよう勧告が出されていますが、タクシーの運行業務について勧告するのは全国初ということです。

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