暴排トピックス

コンプライアンスやリスク管理に関するその時々のホットなテーマを、現場を知る
危機管理専門会社ならではの時流を先取りする鋭い視点から切り込み、提言するコラムです。

マネー・ローンダリング及びテロ資金供与リスク評価書(2015.1)

 昨年は、「暴排トピックス」をご愛読頂きまして、誠にありがとうございました。本年も「暴力団排除」をメインテーマに、組織犯罪の動向等、旬の話題をお届けしてまいりたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

1. マネー・ローンダリング及びテロ資金供与リスク評価書

 昨年、警察庁の刑事局組織犯罪対策部犯罪収益移転防止管理官(現 組織犯罪対策企画課犯罪収益移転防止対策室長)を議長とする「FATF勧告実施に関する関係省庁連絡会議国が実施する資金洗浄及びテロ資金に関するリスク評価に関する分科会」が設置され、12月に日本では初めてとなるマネー・ローンダリングにかかるリスク評価書(以下「本評価書」)が公表されました。

 ▼ 警察庁「犯罪による収益の移転の危険性の程度に関する評価書」

 本評価書では、FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)の新「40の勧告」等を参照にしながら、リスクに関わる要因を、「取引形態」「顧客」「国・地域」「商品・サービス」「新たな技術を利用した取引」の5つの類型に分類し、日本におけるマネー・ローンダリング等の実態や取引実務を踏まえ、それぞれの類型ごとにリスク要因を特定し、当該要因ごとに分析・評価を行っています。

 今回は、この分類に従って、アンチ・マネー・ローンダリング(AML)及びテロ資金供与対策(CTF)の主要なリスクを概観してみたいと思います。皆さまの整理と理解にお役立て頂ければ幸いです。

1) 非対面取引

 インターネット取引に代表される非対面取引は、取引の相手方と直に対面して取引を行わないことから、本人の性別・年代・容貌・言動等を直接観察することにより、本人特定事項の偽りや他人へのなりすましを判断することができないうえに、本人確認書類が写しの場合には、現物の質感などから、偽変造の有無を確認できません。したがって、非対面取引では本人確認の精度が低下することになり、対面取引と比べて、「匿名性が高く、容易に氏名・住居等の本人特定事項を偽る、架空の人物や他人になりすまして取引を行う」ことが可能であることから、リスクが極めて高い取引形態であると言えます。

 さらに、日本は、FATFの第3次相互審査において、「非対面取引における身分確認及び照合に関する義務が十分でない」「顧客等に対して補完書類の提出を求めるなどの追加的な措置が必要である」等の指摘がなされている状況にあります。

 なお、実際に、非対面取引が犯罪に悪用された事例としては、ヤミ金融の借入金の返済に窮した者が、架空の人物になりすまして非対面取引により開設した口座を返済金の代わりにヤミ金融業者に譲り渡していた事例等が、マネー・ローンダリングに悪用された事例としては、非対面取引により他人名義で開設された口座が犯罪収益の隠匿口座として悪用されていた事例等があります。

2) 現金取引

 現金は、流動性が高く権利の移転が容易であるとともに、その取引にあっては、取引内容に関する記録が作成されない限り匿名性が高いと言えます。さらに、資金の流れの追跡可能性が著しく低くなるという特性があります。それに加え、日本では他国に比べて現金取引の割合が高い(本評価書によれば、平成21年の調査で、消費支出に占める現金の割合が88.8%を占めているとされています)といった特徴があり、FATFからもそのリスクの高さを指摘されている状況にあります。

 現金取引がマネー・ローンダリングに悪用された事例としては、犯罪収益等隠匿事案では、現金を入手するために、窃取品を架空又は他人名義で質店や古物商等で売却する事例等が、犯罪収益等収受事案では、売春等に係る犯罪収益を現金で受領する事例等、数多くあります。

3) 外国との取引

 外国との取引は、国により法制度や取引システムが異なること、自国の監視・監督が他国まで及ばないことなどから、国内の取引に比べて資金移転の追跡が困難だと言えます。さらに、貿易取引を仮装することにより、容易に送金目的を正当化(偽装)できるほか、実際の取引価格に上乗せするなどして犯罪収益を移転することが可能となるといったリスクがあります。

 また、コルレス契約(外国に送金するにあたり、その通貨の中継地点となる銀行との取引)に基づく銀行間の為替取引において、相手が架空銀行(シェルバンク)であったり、コルレス先がAML態勢に重大な脆弱性を有していることを悪用する、キャッシュ・クーリエ(現金等支払手段の輸出入)による犯罪収益の移転も考えられます。

 その他にも、「適切なマネー・ローンダリング等対策が取られていない国・地域に関する取引」「多額の現金を原資とする外国送金取引」についてもリスクが高いとされています。

 外国との取引がマネー・ローンダリングに悪用された事例としては、海外では、麻薬密売による犯罪収益が国境を越える大口の現金密輸や貿易を仮装した取引によってマネー・ローンダリングされていた事例が代表的です。また、国内では、来日外国人に係る事件がその多くを占めており、海外から来日外国人の口座に振り込まれた犯罪収益を正当な事業収益であるように装われた事例や、詐欺による犯罪収益を貿易会社によるインターネットオークションの落札代行取引を通じてマネー・ローンダリングされていた事例等があります。

4) 反社会的勢力

 平成25年中に組織的犯罪処罰法及び麻薬特例法に係るマネー・ローンダリング事犯で検挙されたもののうち、暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者(反社会的勢力)によるものは85件で、全体の30.1%を占めています。

 また、平成23年から25年までの間の疑わしい取引の届出件数は105万1,068件のうち、暴力団構成員等に係るものは11万4,904件、全体の10.9%を占めるなど、反社会的勢力によるマネー・ローンダリングはAMLにおける重要なテーマとなっています。また、暴力団によるマネー・ローンダリングは、国際的に敢行されている状況もうかがわれることから、米国では「国際犯罪組織」として経済制裁の対象となっていることはよく知られています。

 彼らは、個別の資金獲得活動とその成果である資金(犯罪収益)との間の関係を不透明化することにより、獲得した資金(犯罪収益)が課税、没収等されたり、獲得した資金(犯罪収益)に起因して検挙されたりする事態を回避しているほか、犯罪収益は、新たな犯罪のための「運転資金」や武器や薬物の調達費用等に「再投資」されるなど、組織の維持・強化に利用され、その再投資を通じて正当な経済活動を仮装しています。

 暴力団構成員等が関与した事例としては、振り込め詐欺等の詐欺事犯、ヤミ金融事犯、薬物事犯等で犯罪収益を得る際に、他人名義の口座を利用するなどして犯罪収益の帰属を仮装するものが多く、また、暴力団がその組織や威力を背景にみかじめ料や上納金名目で犯罪収益を収受しているものなども挙げられます。

5) 外国の重要な公的地位を有する者

 外国公務員の贈収賄等の腐敗行為により得られた犯罪収益の移転に係る対策が国際的にも要請されている中、いわゆる外国のPEPs(国家元首、高位の政治家、政府高官、裁判官、軍当局者等の重要な公的地位を有する者)について、FATFは、事業者に対し、顧客がPEPsに該当するか否かを判断し、該当する場合は資産・収入の確認を含む厳格な顧客管理措置を講じることを求めています。

 現在までのところ、日本で、外国の重要な公的地位を有する者によるマネー・ローンダリング等の摘発事例はありませんが、米国FCPAや英国贈賄防止法に代表される国際的な腐敗行為への厳格な対応等の潮流と合わせ、マネー・ローンダリングの視点からも、PEPsに対する厳格な顧客管理措置については、今後、企業実務においても重要なテーマとなっていくと思われます。

6) 実質的支配者が不透明な法人

 法人の反社チェックにおける精度の問題と同様、法人の複雑な権利・支配関係を隠れ蓑にしたり、取締役等に第三者を当てるなどして影響力を行使したり、外形的には自己と法人との関わりをより一層不透明にしながら、実質的には法人及びその財産を支配したりして、マネー・ローンダリング等を行おうとするリスクが高い状況にあります。したがって、資金の追跡可能性を確保するため、法人の実質的支配者を明らかにして、法人の健全性や透明性を確保することが重要となります。

 本コラムでもたびたび取り上げていますが、犯罪収益移転防止法が平成23年に改正されています。そこでは、株式会社等の法人については議決権の4分の1超を有する者、それ以外の法人については代表する者を「実質的支配者」として、本人特定事項の確認を義務付けていますが、現時点で、実質的支配者について「自然人」まで遡ることまでは義務付けられていない点に課題が残っています。

 反社チェックにおいても、最終的には、反社会的勢力の属性を有する個人が、(一見何の関係もなさそうな)法人に影響力をどのように行使しているかを見極めることが求められており、最終的には「自然人」のレベルまで遡る必要があります。

 また、そもそもFATFは、「顧客が法人である場合には常に実質的支配者である自然人にまで遡って本人確認を行わなければならない」「権限ある当局が、適時に、法人の実質的支配者に係る情報を入手又は当該情報にアクセスできる」といったところまで要請していることを十分認識する必要があります。

 さらに、法人等のために、事業上の住所や設備、通信手段、管理上の住所を提供するサービスを行っている「郵便物受取サービス業者」「電話受付代行業者」「電話転送サービス事業者」については、振り込め詐欺等の特殊詐欺事案や反社会的勢力の関与した事案等における「犯罪インフラ」として悪用されている実態が明らかになっており、業務の適正性や法人自体の健全性・透明性の確保が急務だと言えます。

7) 写真付きでない身分証明書を用いる顧客

 犯罪収益移転防止法では、取引時確認における本人確認書類について定めており、「運転免許証、旅券等の被証明者の写真が付いている証明書(写真付き証明書)」のほか、「健康保険証、印鑑登録証明書等の被証明者の写真が付いていない証明書(写真なし証明書)」も本人確認書類として認められています。

 しかしながら、「写真なし証明書」は、被証明者にのみ交付される書類である点において同一性の担保となるものの、「写真付き証明書」と比べて、持参した人物と被証明者の同一性を確認(証明)する能力が劣っており、当該人物が他人になりすますことを見抜けないおそれが高いとも言え、FATFの第3次相互審査においても、この点が脆弱性と指摘しています。

 なお、「写真なし証明書」が悪用された事例としては、不正に取得した他人名義の国民健康保険被保険者証を用いて他人になりすまし、銀行から預金通帳等をだまし取った事例や、他人名義の印鑑登録証明書を郵便物受取サービス業者に本人確認書類として提示し、他人になりすまして郵便物受取サービスの契約を締結していた事例等があります。

8) 預貯金口座

 インターネットバンキングによる口座開設や送金・決済等の取引の利便性が高まることは、マネー・ローンダリング等に悪用しようとする者にとっては、逆に犯罪収益の保管及び移転について確実性や簡便性を高めることにつながり、その収受、隠匿のための有効な手段となり得る点に注意が必要です。

 預金取引がマネー・ローンダリングに悪用された事例としては、犯罪収益の送金を受けた者が、口座から分割して払い出し、親族名義の口座に入金するなどして隠匿していた事例や、外国で発生した詐欺事件の犯罪収益が国内の口座に送金された際に、正当な事業収益であるように装い払戻しを受けた事例、窃盗や詐欺、薬物犯罪等の犯罪収益を他人名義の口座に預け入れて隠匿していた事例等があります。

9) 資金移動サービス

 インターネット等の普及により、安価で便利な送金サービスの需要が高まる中、規制緩和の一環として、いわゆる資金決済法によって、1回あたりの送金額が100万円以下の為替取引が一般事業者にも開放されるようになりました。今後、国際化の進展等により、手数料の安さも合わせ、来日外国人による母国への海外送金など本サービスのニーズがますます高まることが予想されます。

 犯罪収益移転防止法では、これら民家の資金移動業者に対して、10万円を超える現金の受払いを伴う為替取引等を行うに際して、取引時確認、確認記録・取引記録等の作成・保存義務を課しているほか、疑わしい取引の届出義務を課していますが、事業者の規模や業種、上場・非上場などバラツキが目立ち、十分な管理態勢を構築できていない事業者も多く、その脆弱性が悪用される可能性は否定できない状況にあります。

 具体的な事例としては、資金移動サービスを悪用したマネーミュールが、インターネットバンキングの不正送金事案に関連して発生しています。また、いわゆるフィッシングや、ID・パスワードを盗み取るウィルスを使う手口により、インターネットバンキング利用者の個人情報を盗み取った上で、インターネットバンキングに不正アクセスし、預貯金を別の口座に移し、さらに、資金移動サービスを悪用して、マネーミュールによって海外送金されるといった事例もあります。

10) リスクを低下させる要因

 本評価書では、これらのリスク分析を通じて、マネー・ローンダリング等のリスクを低下させる要因として、以下のような取引を提示しています。反社会的勢力との取引回避等、取引の健全性を確保するという意味では、今後の実務の参考になると思われます。

 ① 資金の原資の性質や帰属元が明らかな取引

 ② 国又は地方公共団体を顧客等とする取引
   取引の過程・内容の透明性が高く、資金の出所又は使途先が明らかで悪用が困難

 ③ 法令等により顧客等が限定されている取引
   マネー・ローンダリング等を企図する者が取引に参加することが難しい

 ④ 取引の過程において、法令により国等の監督が行われている取引

 ⑤ 会社等の事業実態を仮装することが困難な取引

 ⑥ 蓄財性がない又は低い取引
   蓄財性がない又は低い商品・サービスへの犯罪収益の投資は非効率

 ⑦ 取引金額が規制の敷居値を下回る取引
   本来、非効率でありリスクが低いが、複数の取引に分割する行為ではリスクが高い

 ⑧ 顧客等の本人性を確認する手段が法令等により担保されている取引
   資金に関する事後追跡の可能性が担保されている

2.最近のトピックス

1) 特殊詐欺の状況(平成26年11月末現在)

 昨年11月末現在における特殊詐欺全体の被害総額は、496億円(昨年同期 425億円)と、過去最悪だった昨年1年間の被害額の489億円を超え、2年連続で最悪の数値を更新しました。そのうち振り込め詐欺については、325億円(昨年同期 224億円)と急増しており、さらにその振り込め詐欺のうち、「オレオレ詐欺」は156億円(昨年同期 150億円)とほぼ横ばい、「架空請求詐欺」が144億円(昨年同期 52億円)と急増する結果となっています。

* 特殊詐欺
   面識のない不特定の者に対し、電話その他の通信手段を用いて、預貯金口座への振込みその他の方法により、現金
   等をだまし取る詐欺のことで、「オレオレ詐欺」「架空請求詐欺」「融資保証金詐欺」「還付金等詐欺」「金融商
   品等取引名目」の特殊詐欺、ギャンブル必勝法情報提供名目の特殊詐欺、異性との交際あっせん名目の特殊詐欺及
   びその他の特殊詐欺を総称したもの

* 振り込め詐欺
   特殊詐欺のうち、オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺及び還付金等詐欺を総称したもの

 ▼ 警察庁「平成26年11月の特殊詐欺認知・検挙状況等について」

 また、報道によれば、特に高齢者らに宅配便や郵便で現金を送らせる「送付型」が全体の37%を占める185億円にのぼり、昨年同期比で77億円増となっています。一方、「振り込み型」は8億円の減少、「手渡し型」は2億円の増加と、特に「送付型」が大きく伸びた点が今年の特徴だと言えます。

 この「送付型」は、宅配便やレターパックを悪用した手口であり、送金先には、本来の受取人に代わって荷物を一時的に預かる「私設私書箱」も利用され、前述したマネー・ローンダリング同様、「犯罪インフラ」化している実態があります。これらの手口は、時代とともに変遷している点も注目されます。

 従来は、犯人側の口座に送金させる「振り込み型」が大半でしたが、金融機関が現金自動預け払い機(ATM)の取引限度額を抑えるなどした結果、2004年に284億円だった被害が、2009年には96億円まで減少しています。

 その後、それと入れ替わるように、自宅などを訪れた犯人に直接現金を渡す「手渡し型」が増えましたが、「だまされたふり作戦」や運送会社の地道な取組みの結果、「受け子」や「見張り役」の逮捕が相次ぎ、現在は「送付型」へと、騙す側と騙される側との攻防が続いています。

 なお、この「受け子」等については、中高生など少年がバイト感覚で関与することも問題となっており、最近の報道によれば、摘発された少年の6割が地方から出張しているということです。犯罪組織が地方での勧誘活動を活発化させ、それによって常に犯行に必要な人材をリクルーティングし続けている実態が浮かび上がります。

 一方、これら特殊詐欺への対応については、最近、官民挙げて様々な新しい試みが行われており、相応の成果が期待されますので、いくつか紹介しておきたいと思います。

① 通信傍受

 法務省は、昨年7月、「時代に即した新たな刑事司法制度の在り方」について検討してきた結果を取りまとめています。その中で、「通信傍受」の対象犯罪として、①殺傷犯等関係(現住建造物等放火・殺人・傷害・傷害致死・爆発物の使用)、②逮捕・監禁、略取・誘拐関係、③窃盗・強盗関係、④詐欺・恐喝関係、⑤児童ポルノ関係の犯罪を追加することを含む法整備を提言しています

 ▼ 法務省法制審議会特別部会 第30回会議(平成26年7月9日) 「新たな刑事司法制度の構築についての調査審議の結果【案】」

 振り込め詐欺の捜査は、主に「受け子」などの末端のメンバーの摘発が中心になりがちで(いわゆる「トカゲのしっぽ切り」)、犯罪組織本体にまで食い込まない限りはその壊滅は難しいと言われています。警視庁などは、アジトの摘発に向けて市民からの情報提供を呼び掛けていますが、それに加えて、メンバー間の連絡に携帯電話が使われていることから、その会話の内容を聞き取り、グループの構成や指示系統などを突き止めることによって、アジト摘発に向けた捜査が進展する可能性が高まると思われ、新しい切り札として期待されます。

② 金融機関等の取組み

 金融機関やコンビニ店員などが「どなたから頼まれました?」などと一声かけるだけの取り組みによって、特殊詐欺の阻止に効果があるとされています。報道によれば、認知件数と阻止件数から割り出した声かけの被害阻止率は、平成24年が31.4%(阻止額95億円)、平成25年が36.9%(同193億円)で、昨年は11月末で46.6%(同267億円)にまで上昇したとのことです。

 声かけによる被害阻止・抑止については、万引きを始めとする防犯の取組みにおいても同様の効果が指摘されています。香川県内のスーパーなどが「声かけ作戦」を展開したところ、人口1000人あたりの万引き認知件数が2009年まで7年連続全国ワースト1だったところ、その成果が顕著に表れ、現在では「香川方式」として注目が集まっています。特別な費用や技能を必要としない、「誰もができる防犯対策」として、様々な場面で応用できるものと言えます。

 また、金融機関においては、「預金小切手(預手)」の利用を呼びかける取り組みも効果をあげ始めています。顧客が高額の現金を引き出そうとした際に、現金ではなく金融機関が振り出す預金小切手を利用することによって、顧客が万一、だまされていても本人以外が現金化することが難しいことから、被害防止につながるというものです。

 さらには、福岡県内の金融機関で、65歳以上の高齢者が窓口で現金500万円以上を引き出す場合、原則として警察に通報し、警察官が店舗に駆け付けて、高齢者から直接事情を聴いて問題がないか確認する取組みが、昨年の12月から導入されています。福岡県警と福岡財務支局、金融機関が協力したもので、全国的にも珍しい取組みです。

③ 警察その他による取組み例

 特殊詐欺の被害者は、被害を周囲に知られたくないため泣き寝入りするケーが多いとされますが、被害に遭った女性が、警視庁の支援を受けて、現金の回収役として詐欺容疑で逮捕された男に損害賠償を求める訴訟を起こし、男が150万円を支払うことで和解が成立しています。架空請求や振り込め詐欺などの特殊詐欺被害で、警察が弁護士を紹介するなどして被害者が詐欺グループに賠償を求めるのは全国初ということです。

 また、報道によれば、宮崎県警では、過去に犯人が「電話帳から高齢者らしい名前の番号を見つけて電話した」と供述したことから、一人暮らしの高齢者宅を中心に戸別訪問し、電話帳から名前を削除するよう勧めているといった取組みが、大分県警では、「ハナ」「キク」といったカタカナ表記や、末尾が「枝」「代」「江」など高齢者に多い名前の人にはがきを送り、削除を呼び掛けるといった取組みが紹介されています。

2) AML(アンチ・マネー・ローンダリング)/CTF(テロ資金供与対策)

① 預金取扱金融機関による疑わしい取引の届出

 前述の警察庁が公表した「犯罪による収益の移転の危険性の程度に関する評価書」によれば、平成23年から25年までの間の「預金取扱金融機関」による疑わしい取引の届出件数は100万2,558件で、全届出件数の95.4%を占めていますが、主な届出理由とその割合は、以下のとおりです。

  • 職員の知識、経験等から見て、不自然な態様の取引又は不自然な態度、動向等が認められる顧客に係る取引(15.5%)
  • 多数の者から頻繁に送金を受ける口座に係る取引。特に、送金を受けた直後に当該口座から多額の送金又は出金を行う場合(15.1%)
  • 暴力団員、暴力団関係者等に係る取引(10.4%)
  • 経済的合理性のない目的のために他国へ多額の送金を行う取引(7.0%)
  • 多数の者に頻繁に送金を行う口座に係る取引。特に、送金を行う直前に多額の入金が行われる場合(5.8%)
  • 多額の入出金(有価証券の売買、送金及び両替を含む)が頻繁に行われる口座に係る取引(4.7%)
  • 多額の現金又は小切手により、入出金を行う取引。特に、顧客の収入、資産等に見合わない高額な取引、送金や自己宛小切手によるのが相当にもかかわらず、あえて現金による入出金を行う取引(4.4%)
  • 経済的合理性のない多額の送金を他国から受ける取引(3.0%)
  • 通常は資金の動きがないにもかかわらず、突如多額の入出金が行われる口座に係る取引(2.7%)
  • 他国への送金にあたり、虚偽の疑いがある情報又は不明瞭な情報を提供する顧客に係る取引。特に送金先、送金目的、送金原資等について合理的な理由があると認められない情報を提供する顧客に係る取引(2.5%)
  • 架空名義口座又は借名口座であるとの疑いが生じた口座を使用した入出金(2.2%)

 疑わしい取引の認知は、反社チェックにおける端緒の把握と共通する点が多く、とりわけ金融機関においても、現場職員の個人レベルで感じた違和感や不自然さがその端緒となっていること(現場におけるリスクセンスや意識の高揚の重要性)や、口座の動きを事後的にモニタリングすることの重要性などが明確に表れているように思われます。

② 原発におけるテロ対策の動向

 昨年12月に、原発作業員の身元確認を制度化することを原子力規制委が承認しています。従来から、国際原子力機関が身元確認の制度化を勧告していますが、主な原子力利用国で日本だけが導入していないことから検討が進められていたもので、当面は核物質防護を定めた現行法で対応するとされました。

 しかしながら、電力会社が作業員の「同意」を得て、「自己申告」に応じてもらう仕組みが中心であり、運転免許証などの公的な書類や面接などで確認、適性検査の導入などが検討されているものの、犯罪歴や借金の有無など確認する項目は未定ということで、グローバルスタンダードから見ればまだまだ不十分なチェック態勢であることは否めません。

 昨年末のソニー・ピクチャー・エンターテイメント社に対するサーバー攻撃とその後の展開は、重要インフラに対するサイバー攻撃が、サイバー戦争の可能性やサイバー攻撃を端緒としたリアルな国家間の紛争等につながる危険性が身近に迫っていることをあらためて示したものと言えます。日本は、官民ともに、まだまだ外的脅威や(内通者の存在を含む)内部犯行に対する危機意識や事態想定に欠け、その結果、具体的な対策も中途半端なものとならざるを得ません。少なくとも、2020年に向けて、原発を始めとする重要インフラに対する5つの空間(陸・海・空・宇宙・サイバー)におけるテロ対策の深化は急務だと言えます。

3) 危険ドラッグ対策の動向

 報道によれば、全国の警察が危険ドラッグ関連で1~11月に摘発したのは622件、725人に上ったということです。昨年同期(121件、172人)に比べると、件数で5.1倍、人数で4.2倍に急増したことになります。さらに、危険ドラッグの使用が原因とみられる死者も、111人に上っているといいます。

 一方、厚生労働省は、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律の一部を改正する法律」(平成26年法律第122号)の施行日(平成26年12月17日)より、危険ドラッグの販売が疑われる店舗への立入検査を実施した結果、販売を確認できた実店舗数は5店舗(別に1店舗は捜査中)となり、平成26年3月末現在215店舗から激減、店舗に危険ドラッグを陳列して販売するケースはほぼなくなりつつあることが確認できたと発表しています。

 ▼ 厚生労働省「新たな危険ドラッグ対策を実施しました」

 また、危険ドラッグの販売・広告等の広域禁止の告示を実施(25物品)、インターネットの危険ドラッグ広告サイトの削除要請を実施(76サイト)など、着々と取組みを進めており、「実店舗での販売が抑え込まれた中、今後はインターネット対策が極めて重要」であり、「インターネットによる販売・広告等、また海外からの輸入撲滅のための水際対策等、指定薬物等である疑いがある物品の取締りを機動的に行っていく」としています。

 さらに、危険ドラッグの水際対策(原材料等の輸入)をめぐっては、厚生労働省が指定薬物でなくても指定薬物と同等以上の毒性がある疑いがあれば輸入された時点で成分の検査を命じ、検査結果が出るまで輸入停止命令をかけるほか、関税法上の没収と「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律の一部を改正する法律」に基づく検査命令の両輪で水際対策が進むことになります。

4) 企業の暴排の取組み動向

① 企業の反社チェックの取組み

 前回の本コラム(暴排トピックス2014年12月号)でもご紹介しましたが「『企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針』に関するアンケート(平成26年度版)」によれば、反社チェックに利用するデータベースについて、「加盟している業界団体等から情報提供を受ける」が最多の23.6%となったほか、「警察から情報提供を受ける」が23.2%、「無料のインターネット検索を利用する」が17.6%、「民間の調査会社を利用する」が12.3%、「有料のインターネット検索(新聞記事検索)を利用する」が9.0%などとなっています。

 さらに、報道によれば、東京の警察関連の2つの公益法人(「警視庁管内特殊暴力防止対策連合会」「暴力団追放運動推進都民センター」)に、企業から取引先や契約相手が反社会的勢力と関係があるかどうかを尋ねる照会が、平成26年11月までにおよそ16,000件(前年同期の1.5倍)に上り、回答を受けた企業が取引などを中止したケースについても増えているということです。

 平成25年の暴力団融資問題を契機として、企業における反社チェックの取組みがさらに浸透し、広く定着しつつあるように思われます。警察等への照会は、実務上はいわば「最後の切り札」であるとも言えますが、照会前に自社で自律的に情報を収集・分析し、相手を見極める態勢が求められていること、(明確なクロ認定がなされるとは限らないことをふまえれば)照会結果だけに安易に依存することなく、自律的なモニタリング態勢の構築などについても十分認識しておく必要があります。

② カード加盟店の健全化

 ネット取引でクレジットカードを使った支払いをめぐるトラブルが増えているため、経済産業省は、カード会社などに対し、加盟店の審査を義務づける方向だということです。平成25年の暴力団融資問題の一方の当事者であるカード会社においては、加盟店や決済代行会社等の健全化が急務となっていることは、これまでも本コラムでは指摘してきました。

 加盟店の健全性については、加盟店契約時に実施される入口の審査においては問題がないとされても、その後、業種や取扱商品、実質的な支配者などが大きく変わったり、不審な売上や(本来は認められていない)公序良俗に反する商品の取扱いを始めるといったことが問題となっています。それはまた、反社会的勢力が、加盟店審査の甘さを「犯罪インフラ」として悪用していることにもつながっており、健全性に関する事後チェック・モニタリングなどの一刻も早い取組み・制度化が求められます。

5) その他

① 工藤会の動向

 工藤会の動向については、本コラム(暴排トピックス2014年11月号)でも詳しく取り上げましたが、その後も、組幹部の脱退を始め、組織のトップ不在が続く中での主導権争い(内紛)の兆しなど、動揺が広がっているようです。報道によれば、年末の主要行事(事始め)が中止になったほか、昨年9月以降、同団体を離脱したり離脱の意向を示したりしている構成員らは数十人にのぼるということです。

 警察庁発表の「平成25年の暴力団情勢」においても、「暴力団離脱者の社会復帰に向けた関係機関間の連携強化」が紹介されており、保護観察所等との連携したトライアル雇用制度や身元保証制度等の就労支援が行われ始めています。離脱した組員や離脱しようとする者の社会的な受け皿をどうするのか、離脱を促すとの観点からも、暴排における一つの重要な課題として、民間企業側も含めた社会的な合意形成が急がれます。

 ▼ 警察庁「平成25年の暴力団情勢」

② 準暴力団への対応

 上記の「平成25年の暴力団情勢」においても、トピックスとして取り上げられていますが、準暴力団は、暴力団の構成員ではないが、「集団的または常習的に暴行、傷害等の暴力的不法行為を行っている、暴力団に準じる集団」とされ、暴力団のような事務所や同程度の明確な組織性は有していないものの、暴走族当時のメンバー同士が緩やかにつながっているのが特徴です。また、一部は、暴力団等の犯罪組織と密接な関係がうかがわれるものも存在するとされています。

 現時点で、「怒羅権(チャイニーズドラゴン)」「関東連合OB」「打越スペクターOB」「太田連合OB」などが指定されていますが、彼らは暴力団対策法や暴排条例における規制対象外でありながら、その実態は暴力団と変わらない「グレーゾーン」に位置しており、振り込め詐欺を中心に、暴力団が安易に手を出せなくなった「みかじめ料」ビジネスや、投資詐欺などの知能犯罪などに手を伸ばしている実態があり、より踏み込んだ取り締まりや対応策が求められます。

③ 休眠会社対策

 法務省では、12年以上登記のない株式会社、5年以上登記のない一般社団法人又は一般財団法人について,法律の規定に基づき,法務大臣の公告を行い,管轄登記所から通知書の発送を行っています。この株式会社・一般社団法人又は一般財団法人に該当する場合には、平成27年1月19日までにまだ事業を廃止していない旨の届出をする必要があり、その旨の届出等がされないときは、解散の登記をするなどの整理作業を行うとしています。

 ▼ 法務省「平成26年度の休眠会社等の整理作業(みなし解散)について」

 さらに、このように、これまで5~12年おきだった職権による「みなし解散」(役員変更などの登記が一定期間以上行われない休眠会社を、法務省の判断で解散させる制度)を、来年度以降は毎年実施する方針を明らかにしています。登記の電子化で実態を把握しやすくなったことがきっかけで、休眠会社が犯罪に悪用されるのを防ぐ狙いもあるということです。

 本コラムでは、これまでも度々休眠会社が、インターネット上で売買されるなどして、反社会的勢力の「犯罪インフラ」として悪用されている実態を指摘してきましたが、それが公的に機動的に見直されることによって、そして、登記情報等をきちんと精査するという民間企業における反社チェックの精度の高まりと合わせて、休眠会社の悪用が難しくなるものと期待したいと思います。

④ 福岡県警の取組み

 福岡県警の暴排啓蒙の取組みについては、本コラムでもたびたび取り上げていますが、同県警のHPには、以下のような取組みが紹介されています。

 ▼ 福岡県警「暴力団排除冊子『暴力団を許さない!』配信中です」

 ▼ 福岡県警「暴力団排除マンガ『こんなはずじゃなかった・・・』配信中です」

 ▼ 福岡県警「暴力団排除マンガ『こんなはずじゃなかった・・・2』配信中です」

 今回、このような取組みをさらに浸透させることを目的として、福岡県警が暴力団排除啓発絵本「こんなはずじゃなかった…」を、福岡県内の中学、高校などに約780部配布したとのことです。

 なお、中高生への啓蒙活動としては、暴力団排除教育専門の非常勤講師である「暴排先生」も有名ですが、暴力団によるリクルーティングから中高生を守ることに一定程度の効果があるものと考えます。

 ▼ 福岡県警「頑張っています!暴排先生(組織犯罪対策課)」

3.最近の暴排条例による勧告事例・暴対法に基づく中止命令ほか

1) 東京都の勧告事例

 指定暴力団住吉会系組幹部が東京都内の飲食店に貸与していたおしぼりの配送を手配したとして、東京都公安委員会は、東京都暴排条例に基づき、おしぼりレンタル業の男性に対し利益供与をやめるよう勧告、同組幹部にも利益供与を受けないように勧告しています。なお、当該組幹部は平成25年5月にも、都内の別の店からみかじめ料を徴収していたとして、東京都公安委員会から徴収を止めるよう中止命令を受けていたということです。

2) 福岡県の事例

 福岡県警は、組員を使って知人男性に貸した金を取り立てたとして、指定暴力団福博会系組長に、暴力団対策法に基づき再発防止命令を出しています。再び金を取り立てた場合は、暴対法違反容疑で逮捕されることになります。暴力団対策法では、収益目的で指定暴力団員が暴力行為を繰り返す恐れがある場合、組織のトップらに命令を出すことができることになっていますが、傘下組織の組長が収益目的で命令を受けるのは全国2例目だということです

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