暴排トピックス

海外反社排除の取組みのあり方

アバター 取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

2015.06.10
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1. 海外反社排除の取組みのあり方

 国際サッカー連盟(FIFA)の汚職事件が世界的に大きな関心事となっています。本コラムでは、以前より、「海外コンプライアンス」の重要性、とりわけ「米国海外腐敗行為防止法(FCPA)/英国贈収賄防止法(BA)」(以下「FCPA等」)が事業者にとって大きなリスクとなり得る点を指摘していますが、このFIFA問題は、「企業リスク」という視点からみれば、当然、「アンチ・マネー・ローンダリング(AML)の問題」であるとともに、正にこの「FCPA等の適用問題」に関する重大な問題提起でもある点に着目する必要があると思います(この点は後述します)。

 さて、今回は、FIFA問題がAMLやFCPA等という「海外コンプライアンス」の問題であることと関連して、最近、IPOやM&Aの場面等においても実務上マストとなっており、当社にもお問い合わせの機会が増えている「海外反社」排除の取組みについて、「海外コンプライアンス」への対応と絡めながら、あらためて確認していきたいと思います。

1) 海外反社とは

 暴力団をはじめとする反社会的勢力は、資金獲得手法の巧妙化を進めており、その活動はマネー・ローンダリングや武器売買、テロ組織との取引、覚せい剤や危険ドラッグ等の薬物取引、人身売買などにまで及んでいます。その結果、米国大統領によって、日本の暴力団が「国際犯罪組織」に指定されていることは既にご存知の通りです。言うまでもなく、暴力団等の反社会的勢力の排除・弱体化は、日本国内の問題だけでなく、今やグローバルな要請となっています。

 一方で、グローバルなビジネスにおいては、アンチ・マネー・ローンダリング(AML)やテロ資金供与対策(CTF)の観点から、その関係者をビジネスから排除することが当然の如く要請されており(違反すれば厳格な制裁が科されます)、日本の反社会的勢力も当該行為に関与する限り排除の対象となります。したがって、企業としては、「反社会的勢力排除」といわゆる「海外反社」排除とを、「取引先管理」という同一の文脈の中で、本質的には同じもの(関係を持つべきでない相手)として捉え、対応していくことがグローバルレベルで求められているとの認識が必要です。

 「海外反社」は、一般的に明確に定義されているわけではありませんが、狭義の意味合いとしては、AML/CTFにおいて、排除すべき対象として各国政府機関等による「制裁リスト」「取引禁止リスト」等にリストアップされている団体・組織・企業または個人を意味するものとなります。

 ただし、実務上、国内において反社会的勢力を広く捉えるべきであるのと同様に、「海外反社」についても、本来の意味合い(広義)としては、反社会的勢力の捉え方のフレームワークを用いれば、「反社会的な組織との関与もしくは反社会的な行為が認められるとして、『自社と取引してよいか、関係を持ってよいか』の総合的な見地からみて『ふさわしくない』と判断する海外の団体・企業・個人等」として定義できるのではないかと思われます。

 要するに、企業は、国内の反社会的勢力排除に加えて、「取引先や口座開設者、業務提携先・資本提携先・株主等に海外反社の関与がないか」「海外の取引先や海外の現地法人の取引先、現地エージェント等に暴力団等の反社会的勢力や海外反社の関与がないか」といった点に一層注意を払う必要があり、それらと密接な関係があるとみなされれば、資産の凍結や取引禁止、関係国における事業免許剥奪といった制裁を科される可能性や、グローバルコンプライアンス違反行為、反社会的な組織に協力したとして、レピュテーション上も重大な影響を受ける可能性があることを踏まえる必要があります。

したがって、「海外反社」排除の考え方として、以下のように整理できると思われます。

①  国内の反社会的勢力排除からの視点

 国内・海外を問わず、M&Aや第三者割当増資、業務提携などにおいて、海外の企業等が関与するケースが増えています。そのような場面において、暴力団をはじめとする反社会的勢力、とりわけ反市場勢力や共生者などが取引先として関与していないかの観点から、海外の取引先企業や個人等を精査しようとするものであり、専ら国内の反社会的勢力排除の要請に沿った捉え方が考えられます。

②  グローバルな視点(狭義)

 国内の要請とは別に、自社の取引先等について、テロリストや重要犯罪者、マネー・ローンダリング行為等への関与などにより、各国金融当局や各種機関から、いわゆる「制裁リスト」「取引禁止リスト」等として公表されている企業・個人等に該当していないかを中心に精査しようとする捉え方も考えられます。これらは、特にアメリカ同時多発テロ(2001年)以降のグローバルなAML/CTFの要請に沿った、グローバルスタンダードの捉え方と言えます。

 そもそも、反社会的勢力が獲得した資金は、組織犯罪に絡んだものである以上、その資金の流れは、国内・海外を問わず、AML/CTFの取組みにおいて捕捉できる可能性が十分あることを認識し、高いリスクセンスと規範意識をもって、海外反社排除の視点から取引先の実態や日常業務における端緒を把握し、厳格な取引先管理を実践していくことが重要となります。

③  グローバルな視点(広義)

 AML/CTFの捉え方を中核に据えつつも、一方で、従来から「コンプライアンス」や「社会的責任(CSR)」といった形で健全性を担保することは、国内・海外を問わず求められていますが、さらに、自らの健全性は当然のこととして、自社の商流に関与する取引先などステークホルダについても同様の健全性が求められていることに対応していく必要があります。

 そのようなグローバルな要請に対応するために、反社会的勢力データベースや制裁リスト等への該当の有無といった「属性要件」にとどまらず、ネガティブなニュース等を広く収集するなどして、「行為要件」や「コンプライアンス要件」、反社会的な組織との関与がないか、ビジネスモデルの透明性は担保されているか、とった観点から情報を収集・分析し、「取引してよいか、関係を持ってよいか」の総合的な見地から精査しようとする捉え方も考えられ、とりわけグローバルに展開する企業にとっては当然目指すべき捉え方となります。

2) 海外コンプライアンス

 さて、海外反社の問題を考えるにあたっては、より広い概念としての「海外コンプライアンス」の本質を理解し、そこに潜むリスクを十分認識する必要があります。

①  海外コンプライアンスの本質的な意味

 2013年の日本のメガバンクによる暴力団融資問題においては、海外の金融機関が当該メガバンクとの取引停止を検討したとされています。それは、国際犯罪組織である暴力団の「犯罪収益」が当該メガバンクを経由して自らに流れ込むことによって、自らが「国際犯罪組織の活動を助長している」「犯罪収益のマネー・ローンダリングに関与している」とみなされるリスクがあると考えたためです。

 このように、国際的な相互監視の目が光る金融機関においては、同様に、一般事業者に対する監視も最近は強化しており、自社がそのようなスキームに利用されていることを認識していない一般事業者も含め、企業が金融機関から国際犯罪スキームに加担しているのではないかとの嫌疑をかけられるという、対岸の火事とは言えない状況にあるとの認識が必要です。

 そして、「海外コンプライアンス」リスクとして真に注意すべき点として、日本の法律だけ遵守していればよいといった問題にとどまらないこと、直接海外事業者と取引をすることがないから問題ないとは言いきれない、といった点があげられます。

 自社のビジネススキームや商流が、グローバル化・巧妙化する国際犯罪組織に利用されたり、知らず知らずのうちに犯罪に巻き込まれるリスクがあるということであり、それは何もマネー・ローンダリングやテロ資金供与の問題だけには限らないのです(例えば、今回のFIFA問題においては、金融機関がマネー・ローンダリングや贈収賄行為に加担した、あるいは利用されたかどうか、その認識があったかどうかが一つの焦点となっており、それらが明らかになれば巨額の制裁金が科されるリスクがあります)。

②  海外コンプライアンスと取引先管理の厳格化

 海外コンプライアンスの問題を資金の流れからみれば、犯罪収益は、マネー・ローンダリング等の不透明かつ不健全な取引を通じて行われている可能性が極めて高く、そのスキームに知らないうちに自社が巻き込まれて当事者になるリスクは決して小さくなく、どのような企業であれ、「海外コンプライアンス」を意識した、自社との直接の取引先、あるいはその上流・下流の取引先等「商流」全体についても十分な注意を払うことが求められています。いわば「商流からの海外コンプライアンス・リスクの排除」(暴排の取組みで言えば、「関連契約からの暴排」の概念)、反社チェックを含めた「取引先管理の厳格化」が今後の重要なポイントとなります。

 それは、言い換えれば、企業が自らマネー・ローンダリング等の海外コンプライアンス違反を企図する意思がないこと(すなわち、相応の取組み・態勢を整備することによって未然防止等に努めていること)の説明責任を金融機関や社会に対して果たすことが求められているということでもあります。

 自身が潔白でも、その顧客がマネー・ローンダリング目的で当該事業者とビジネスを行い、これが疑わしい取引と認定されたり、あるいは、メディアの耳目を集める事件となったりすると、自身は「善意」であったとしてもマネー・ローンダリングのリスクが高い先として金融機関から判断され、取引の都度、厳格な確認を求められたり、取引を敬遠されたり、あるいは拒絶されたりということも十分に考えられるのです。

 さらに、既に指摘した通り、国内の法律を遵守するといった考え方だけでは十分ではなく、「海外からの域外適用(自国の法令を自国外の事象にまで拡大して適用すること)」によって巨額の制裁金を科されるといったリスク、あるいは、ますます巧妙化し猛威をふるうグローバルな金融犯罪・国際犯罪に悪用され、結果として国際犯罪組織の活動を助長するリスク、といったグローバルレベルでの構造変化の中にいるのだという環境認識(つまり、社会の要請の変化への対応)が必要であり、「取引先管理の厳格化」についても、国内・海外での両面からのより高次元な取組みが求められているということでもあります。

3) 海外反社チェックの具体策と国内反社チェック

 ここでは、国内の反社チェックのあり方をベースに、AML/CTFの実務をふまえた「海外反社チェック」のあり方を整理しておきたいと思います。

①  外部データベースの活用

 AML/CTFにおいては、各国政府機関等が公表している「制裁リスト」「取引禁止リスト」「資産凍結リスト」「重要犯罪者・テロリスト等に関する情報」などを利用したスクリーニングを行うことが一般的です。

 これらのリストは、原則、誰でも入手可能ではあるものの、現実には、リストの最新性の保持(膨大な数のリストが世界中でリアルタイムに更新されていることへの対応の問題)やリストアップされている企業・個人等の数が膨大になり管理が煩雑となるといった問題があり、外部専門会社の提供するデータベースによるチェックが正確性・効率性の観点からは望ましいと思われます。

 具体的な専用データベースの例としては、例えばLexisNexis社が提供するウォッチリストなどがあります(当社においては、同社のデータベースを利用した検索代行サービス「グローバル・スクリーニング」を提供しています)。

 取引先確認対象リストは、世界のビジネスに影響力のある120以上の制裁リストや、米国財務省(OFAC)、英国財務省(HM Treasury)、米国FBAなどの800以上のブラックリストや、90万件以上のPEPs(Politically Exposed Person)、外国において、特に重要な公的な機能を任されている個人(例:国家元首、高位の政治家、政府高官、司法官、軍当局者など)も含まれます。その他、世界のニュース媒体、裁判履歴等も確認できます。

 当然ながら、実際の海外反社チェックにおいては、これらのデータベースを活用したスクリーニングにとどまらず、「企業概要(企業基本情報)」「与信・財務情報」、あるいは、「実在性の確認」「風評や周辺情報の収集」「信頼できる現地調査会社への依頼」といった自社固有の調査手法と組み合わせることで、実効性を高める工夫が求められます。

 なお、本コラムでも度々取り上げている、OFAC(米国財務省外国資産管理局)が管理する、国家安全保障を脅かすとして指定された国、法人等に関する「SDNリスト」について紹介しておきます。

▼OFAC「Specially Designated Nationals List (SDNリスト)」

▼JETRO「海外向けに米ドル建ての送金を行う際の制限」

 当該リストについては、JETRO(日本貿易振興機構)によれば、「米国には外国資産管理法(Foreign Assets Control Regulations)という法律があります。米国大統領が、国家の安全保障を脅かすものと指定した国や法人、自然人などをSDN(Specially Designated Nationals and blocked Persons)リストとして公表すること、および同リストに記載された制裁対象が米国内に保有する資産を凍結できること等について規定しています。

 この法律によって、米国人(米国法人、米国籍保有者、米国居住者)には、資産凍結の義務が課せられ、義務を怠った場合には厳しい罰則が科せられます。この法は、米国の外交・国家安全保障政策に基づく経済・通商制裁プログラム(Economic and Trade Sanctions Programs)を管理・運営する米国財務省外国資産管理局(Office of Foreign Asset Control:OFAC)によって執行されていることから「OFAC規制」と呼んでいます。」との説明がなされています。

 さらに、SDNリストには、日本の代表的な暴力団やその幹部らが既に登録されている点が大きな特徴でもあります。

 したがって、例えば、日本企業が、OFAC規制の対象となった暴力団や暴力団関係企業等に支払いを行った場合、それを知らなかったとしても、OFACにより当該資金が凍結され、米国および国内の銀行により監視の対象となる(共生者として認知される)こと、その懸念の解消に多大な労力を要することになることが想定されるのであり、グローバルな取引においても、このような視点からの取引先管理の厳格化が求められていることに注意が必要です。

②  行為要件・風評等のチェック

 行為要件・風評チェックの調査手法(データベーススクリーニング以外)としては、国内の反社チェック同様、「記事検索」「インターネットでの風評検索」、あるいは、現地社員等による「業界・近隣における風評・情報の収集」などが有効だと言えます。

③  疑わしい取引

 犯罪収益移転防止法により、金融機関や不動産業者などの「特定事業者」には、その従業員が、当該事業者の業界などにおける一般的な知識と経験を前提として、取引の形態や顧客の属性、取引時の状況をふまえつつ、「犯罪による収益の疑いがある」「犯罪収益等の取得または処分に関する事実を仮装する」「犯罪収益等を隠匿する」といった「疑わしい取引」であると総合的に判断するものについて届出る義務が課せられていることは、これまでも取り上げてきました。

▼JAFIC(警察庁犯罪収益移転防止対策室)「疑わしい取引の参考事例」

 その調査手法とその視点については、一般の事業者においても、「反社会的勢力の端緒」として参考となるものであり、日常業務において端緒を把握することに着目している点では、国内の反社会的勢力排除の視点と本質的に同じと言えます。

 「疑わしい取引」を認知する手法としては、金融機関における(口座の動きを監視する)異常取引検知システム等に限られず、現場の個別の取引において、その知識や経験から導かれる「異様・例外・違和感」のある取引などを、個人レベルでの端緒の把握を組織レベルでの「認知・判断・排除」の仕組みや社風作り(すなわち内部統制システム)が求められます。

④  本人確認

 犯罪収益移転防止法により、「特定事業者」には、新規顧客については、「特定業務のうち特定取引を行う場合」、既存顧客については、「なりすまし・本人特定事項を偽っていた疑いがある場合」等に、運転免許証等の公的証明書などにより顧客等の本人特定事項を確認する義務が課せられています。

 反社チェックの実務においても、反社会的勢力がよく行う手法である偽名・借名取引やなりすましによる取引を予防・防止し、あるいは、重大な契約違反として関係解消の事由のひとつとするためにも、一般の事業者にとっても参考にすべきものです。

 特定事業者にとっては当たり前の業務である一方、その他の一般事業会社にとってはなじみが薄い本人確認手続きですが、例えば、契約上の解除事由として、「申込者が虚偽の事実を申告したとき」「事実と異なる情報に基づく取引を行っている疑いがあると判断した場合」といった条項を盛り込んでおくことによって、なりすましや偽名・借名での取引を排除することも可能になるといったメリットもあり、反社会的勢力を広く、予防・けん制、あるいは排除するとの観点から、あらゆるビジネスにおいて、本人確認の仕組みの導入・徹底を検討されてもよいのではないかと考えます。

 なお、犯罪収益移転防止法上の本人確認手続きに関する具体的な確認方法・確認書類等については、以下を参照頂きたいと思います。

▼JAFIC「犯罪収益移転防止法の概要」

⑤  現時点における実務のあり方

 当社においても、海外反社排除の取組みにおいて、いわゆる「マフィア」等海外の犯罪組織やその構成員の排除を念頭に相談されることも多いのですが、現実的には、マフィア等の構成員を網羅する公知データベースは存在しないと言えます。

 日本の暴力団は暴力団対策法により定義されるなど、その建てつけによって、構成員の把握が比較的可能な状況となっています(ただし、最近はその把握が困難になってきている実態があります)。一方、海外の犯罪組織は、あくまで非合法組織であって、構成員の名簿は公的に存在しないことになります(さらに、マフィア内部においては、構成員であることが明るみになれば組織から抹殺される掟があるとされています)。

 なお、各国が公表している「制裁リスト」に掲載された個人・団体・組織の一部として、マフィア絡みの組織や団体、企業等も含まれていることも考えられます。
したがって、一般的には、海外反社チェックとして、最低限、制裁リスト等に該当がないかのスクリーニングを行うことが重要となります。

 このように、最低限の取組みとしては制裁リストへの該当の有無の確認となりますが、海外コンプライアンスチェックとして、健全性を加味して「取引先としてふさわしいか」までチェックするためには、インターネット上の風評チェックや様々な媒体に掲載されている情報を横断的に網羅したデータベースを利用したスクリーニング、企業情報等を精査する取組みなどが考えられます。

 風評チェックやスクリーニング検索の際には、「詐欺」「不正」などのネガティブな用語で絞り込んでチェックする方法が一般的となりますが、金融機関等においては、FIFA問題でもひとつの争点となりうる「贈賄等の腐敗行為防止」の観点からのPEP(重要な公的地位を有する者等)リストを用いたチェックについても、既に導入が進んでいる状況にあります。PEPに該当したとしても、そのまま排除すべき類のものではありませんが、より慎重なリスク判断を行うために参照されています。

 例えば贈収賄リスクなどは一般事業者にも共通のものであることから、今後、実務的には「制裁リスト」だけではなく、「PEPsリスト」を活用したスクリーニング、取引可否判断や取引条件の検討等も必要となることが予想されます。

▼【参考】ACCUITY「PEPsデータベース」の解説より

 PEPには共通の基準や絶対的基準はありませんが、通常以下を含みます。

 国際スポーツ委員会メンバー、執行機関(国家元首、各省庁大臣、次官)、外交機関(大使、代理公使)、司法機関、立法機関(議員)、軍隊(軍の高官)、国有企業(上級幹部)、中央金融機関(監査理事会、中央銀行理事会)、既知の親密な関係者(PEPと密接な事業的関係にあるか、法的事業体や法的取り決めのための受益権をPEPと共有する者、PEPの実質的利益のために設立されたものと認識される法的事業体の単独受益所有権)、直系親族(両親、兄弟姉妹、配偶者/パートナー、義理の親族、叔父・叔母)など

 現在、IPOの審査や、M&A等において上場企業等から海外反社チェックの実施要請を受ける場面が増えています。また、当社にも関連したお問い合わせが増えている状況ですが、制裁リスト等のスクリーニングだけでなく、ネガティブ情報等のチェックまで行うことが望ましいものの、その手法・深度については、あくまで、企業姿勢の問題・ケースバイケースにより決定されるものであり、社会的に確立されているわけではありません。

 いずれにせよ、スクリーニングは、あくまで、データベース等に記載されている人物や組織等の名称等との照合であり、国内の反社チェック同様、「同一性の確認」が不可欠の要素(自社で追加調査が必要)となります。同一性の確認については、入手できる情報が限られていることもあり、例えば、以下のような方法で対応することが考えられます。

  1. 一般的に提供されている制裁リストに関するスクリーニング・システムにおいては、その名称の同一性について、システム的な判断である「一致度」が提供されていることが多いと言えます。実務的には、それを一つの判断基準とすることが考えられます。
  2. 例えば、「一致度」が80%未満であれば、同一である可能性が低いとみなすことが実務上は考えられます(ただし、100%確実な判断でない以上、エビデンスは残しておく必要があります)。
  3. 「一致度」が80%以上の場合、同一である可能性が高いとみなして対応することが無難だと言えます。そのうえで、追加の調査方法としては、以下のような方法が考えられますが、「100%一致」と判断して取引から即刻排除することが難しい(つまり「グレー」として取引をすすめる)場合も考えられ、国内の反社チェックのプロセス同様、判断の経過・エビデンスを記録として残しておくこと、万が一、取引開始後に同一であることが確認された場合は速やかに契約の解除ができるだけの契約条項の整備等が必要となります。
  • 個人については、生年月日情報や該当する事案当時の生活圏や職業など、精度を高める追加の質問等を行う
  • 上記が難しい場合、他にどのような先と取引しているのか等を確認し、それによって、例えば、大手企業や金融機関等との実績があれば相応の信用度・健全性に問題がないとみなすことも便宜的には可と考えられる
  • 法人についても、考え方としては同様で、企業情報データをはじめ、可能な限り、相手に関する情報(役員個人を調査対象とすることも検討)を入手し、判断する
  • 取引先情報を提供してもらい、それらが健全であることを確認していくことで、健全性等に問題がないことの一つの判断材料とする

⑥  従業者確認(KYE:Know Your Employee)

 暴排の取組みにおいても、「社内暴排(役職員からの暴排)」の必要性に関する認識が進みつつありますが、そもそも、AML/CTFの観点からの従業者確認(KYE)は、金融機関をはじめとする特定事業者にとって、KYC(Know Your Customer 顧客を知ること)/KYCC(Know Your Customer’s Customer 顧客の関係者まで知ること)とともに必要不可欠だと言えます。

 さらに、犯罪行為等の抑止や未然防止、調査コストと不祥事発生等のダメージの比較考量の観点からも、採用前や継続的な身元調査を積極的に行うべきとされ、企業姿勢を明確にし、けん制等の仕組みや各種ルールを厳格に定めて運用することが求められますし、場合によっては、業務委託先等に対しても同様の手続きが求められています。

 一方、日本では、機会均等の観点から、「応募者のもつ適性・能力が求人職種の職務を遂行できるかどうかを基準として採用選考を行うこと」が求められ、身元調査を実施することは、就職差別につながるおそれがあるとされている点は押さえておく必要があります。

▼厚生労働省「公正な採用選考について」

 なお、先日、最高裁第2小法廷で公営住宅の暴排条項が合憲であるとの初めての判断がなされています(暴排トピックス2015年4月号を参照ください)。判決では、「暴力団員は、自らの意思により暴力団を脱退し、そうすることで暴力団員でなくなることが可能であり」、憲法14条(法の下の平等)等に反しないとの指摘がなされています。

 さらに、例えば、大阪府暴力団排除条例施行規則「第3条(暴力団密接関係者)」においては、課長など管理職レベルが暴力団等と密接な関係があれば当該法人自体を公共事業から排除する旨規定があります。

▼大阪府暴力団排除条例施行規則

 このように、AM/CTFをはじめとする海外コンプライアンスや暴排の取組みに限定して言えば、身元調査のあり方が「機会均等」に違反しないことを前提として、採用予定者を含む役職員に対する反社チェック/コンプライアンスチェックの実施やモニタリングという「従業者確認(KYE)」は企業のリスク管理として不可欠なものとして、もっと認識されてもよいものと考えます。

2.最近のトピックス

1) AML(アンチ・マネー・ローンダリング)/CTF(テロ資金供与対策)

 日本のテロ対策を巡る最近の動向について、いくつかご紹介しておきます。

①  邦人殺害テロ事件の対応に関する検証委員会検証報告書の公表

▼首相官邸「邦人殺害テロ事件の対応に関する検証委員会」

▼「邦人殺害テロ事件の対応に関する検証委員会検証報告書」

 報告書によれば、「結果として命を救うことはできなかったものの、今回の事件は救出が極めて困難なケースであり、その中で政府による判断や措置に人質の救出の可能性を損ねるような誤りがあったとは言えない」との全般的評価がなされています。

 また、「邦人保護と渡航の自由との関係をいかに整理するかという困難な問題であるが、危険地域への渡航を企図する者について、現行の制度・枠組みで対応策として十分か、引き続き検討する必要がある」「秘密の保全の必要性と政府の体制拡充のバランス、政府首脳が案件対応に長時間拘束されることの是非、現地対策本部と報道の体制の在り方、政府や報道の関係者が新たな事件に巻き込まれる二次被害の防止」といった課題も提起されています。

②  邦人殺害テロ事件等を受けた主なテロ対策の強化について

 前記の報告書等をふまえ、今後のテロ対策の強化の方向性が示されています。

▼首相官邸「邦人殺害テロ事件等を受けたテロ対策の強化について」

▼「邦人殺害テロ事件等を受けた主なテロ対策の強化について(概要)」

 主な項目として、以下の通りまとめられておりますので、ご紹介いたします。

  1. 情報収集・分析等の強化
    • イスラム過激派等に関する情報収集・分析等の強化
    • サイバー空間上の関連情報収集・分析に必要な体制等の強化
  2. 海外における邦人の安全の確保
  3. 水際対策の強化
    • 全ての旅客の乗客予約記録(PNR)の電子的取得の推進等
    • 地方空港も含めた出入国管理体制の強化
    • 人員・検査機器等の増強等による税関の体制強化
  4. 重要施設等の警戒警備及びテロ対処能力の強化
    • 重要施設等に対するテロの未然防止のための警戒警備の強化
    • 専門的な部隊の体制強化等によるテロ対処能力の向上
    • 重要インフラ等の自主警備態勢
    • 地方公共団体の危機管理態勢の徹底等の促進
  5. 官民一体となったテロ対策の推進
  6. テロ対策協力のための国際協力の推進

③  警察庁国際テロ対策強化要綱の公表

 前記の方向性に沿った形で、具体的な強化要綱が警察庁から公表されています。

▼警察庁 警察庁国際テロ対策強化要綱

 本報告書では、「我が国に対するテロの脅威が現実のものとなっている」「我が国においても、テロ組織と関わりのない個人が過激化して引き起こす『ローン・ウルフ(一匹おおかみ)』型のテロが敢行される可能性も否定できない」とするリスク認識のもと、重要課題と対処方針として、以下の通り6つの項目に整理されています。

  1. 情報収集・分析
    • イスラム過激派に係る情報収集・分析等の強化、サイバーテロに係る情報収集・分析の強化、テロ資金対策の強化など
  2. 水際対策
    • 入管及び税関がPNR(乗客予約記録)等の事前情報を分析・活用、顔画像情報を活用した上陸審査におけるテロリストの上陸阻止、警察と入管が保有する指紋情報等についての相互照会の効率化及び合理化など
  3. 警戒警備
    • 防犯カメラなど技術的手段による不審者等の発見の推進、要人警護体制の強化、経空テロ対策の強化、小型無人機等対策の推進など
  4. 違法行為取締りと事態対処
    • 「国際テロリズム緊急展開班(TRT-2)」の活動基盤の充実、「NBCテロ対応専門部隊(Nuclear核兵器・Biological生物兵器・Chemical化学兵器を使用したテロや、犯罪に対応する警察の警備部隊)」等の強化、サイバー攻撃特別捜査隊等の強化など
  5. 官民連携
    • 宿泊施設等における本人確認の徹底、犯カメラの管理者との連携の強化、犯罪収益移転防止法の特定事業者による義務履行の徹底、通信履歴等(ログ)の保存の要請など
  6. テロ対策を推進するための治安基盤の強化
    • 警察職員の増員等の人的基盤の強化、最先端技術を活用した装備資機材の高度化など

④  2015年版国際テロリズム要覧の公表

▼公安調査庁「国際テロリズム要覧2015」の公表について

 ISILが日本国民に危害を加えると表明していることを踏まえ、「中東や周辺地域のみに限らず、わが国の安全にも影響を及ぼしつつある」と警戒を呼び掛けているほか、同組織がテロの犯行声明や組織宣伝に活用する複数のサイトも紹介されています。その他、ポイントとしては、以下の通りです。

  • 欧米においても「ホームグロウン・テロリスト」やシリアなどから帰国した「戦闘員」の脅威が顕在化している
  • 今後も世界各地でテロの発生が懸念。我が国でも、その脅威を踏まえ、引き続き警戒する必要がある
  • ISILや「アルカイダ」などは、インターネットを利用し、過激思想などを広め、「ホームグロウン・テロリスト」となり得る若者の感化を企図している
  • ISILや「アルカイダ」がテロの対象として我が国を名指して脅威が高まっている
  • 国際テロ組織関係者が過去に入出国を繰り返していたことが判明している

⑤  アルジェリア人質事件で逮捕状

 2013年のアルジェリア人質事件で、神奈川県警は、刑法の国外犯規定に基づき、人質強要処罰法違反容疑でイスラム過激派組織の司令官の逮捕状を取りました。海外で日本人がテロに巻き込まれた事件で、日本の警察が容疑者の逮捕状を取得したのは初めてで、今後、警察庁を通じて、国際刑事警察機構(ICPO)に国際手配する流れとなります。

 実際に逮捕できるかどうかは微妙な状況ですが、日本も国際的なテロリズムから無関係ではいられない状況の中、「テロに屈しない、テロを許さない」という日本の厳格な姿勢を国際社会に示すという意味で極めて大きな一歩ではないかと評価したいと思います。

2) 特殊詐欺の状況

①  平成26年の状況(確定値)

▼警察庁「特殊詐欺認知・検挙状況等(平成26年・確定値)について」

 既に速報値の段階でご紹介した通り、平成26年は、認知件数、被害額ともに前年を大幅に上回り、特に、被害額は、565.5億円と初めて500億円を超え、過去最悪を更新する結果となりました。また、全財産犯の現金被害額(約1,130億円)の50.0%を特殊詐欺が占めることとなりました。特に、現金送付型の被害が、認知件数(既遂)は2,900件(+1,078件、+59.2%)、被害額は約216.7億円(+85.7億円、+65.4%)と急増した点が特徴的です。

 被害額が過去最悪を更新したこととあわせ、検挙人員も1,985人(前年比+211人、+11.9%)で平成22年以来、最多を更新しています。とりわけ、「だまされた振り作戦」による受け子等の検挙が851人(前年比+71人、+9.1%)と増えており、有効な摘発手法のひとつとして定着し、今後、より一層の実績をあげることを期待したいと思います。

 なお、末端だけでなく犯行拠点(アジト)の摘発が重要だと指摘されている点に関して、平成26年には41箇所のアジトを摘発、166人を検挙し、前年(+17箇所、+37人)から大きく増加している状況が確認できましたが、さらなる摘発の強化を望みたいと思います。

 また、高齢者(65歳以上)が被害を受けた特殊詐欺の件数が10,573件(+1,279件、+13.8%)と大幅に増加、その割合も79.0%(+1.5P)と増加している点が被害の深刻化をもたらしていることは明白であり、今後も高齢者対策が最重要事項であることは間違いありません。

②  平成27年4月の状況

▼警察庁 平成27年4月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

 今年1月から4月までの特殊詐欺全体の認知件数は4,739件(前年同期 4,010件)で、うち振り込め詐欺が4,331件(同 3,128件)と、最悪だった前年をさらに大きく上回るベースで推移しています。

 被害総額では、全体では151億4,056万円(同 171億9,855万円)と若干減少しているものの、振り込め詐欺全体では123億5,445万円(同 95億9,674万円)と昨年を上回っており、いまだにその脅威は衰えを見せていない状況です。

 また、振り込め詐欺のうち、オレオレ詐欺の認知件数は2,005件(同 1,691件)、被害総額は57億5,435万円(同 50億3,289万円)で悪化傾向にあり、架空請求詐欺も、認知件数が1,324件(同 712件)、被害総額も54億8,127万円(同 38億7,874万円)と著しく悪化の傾向にある点が気がかりです。

 なお、口座詐欺等については、検挙件数が485件(同 665件)と、平成21年の3,778件をピークとして減少傾向にあるほか、携帯電話端末詐欺(転売目的)での検挙件数が180件(同 196件)と、平成20年の1,182件をピークとしてやはり減少傾向にあることが分かります。

③  最近の特殊詐欺の傾向

 特殊詐欺による被害が後を絶たず、その手口も巧妙化する中、直近では、バイク便業者が振り込め詐欺の「受け子」をしていたとして、詐欺未遂の疑いで、バイク便運営会社のアルバイトと同社社長が逮捕されています。詐欺事件に関与したとしてバイク便会社の経営者を摘発したのは全国で初めてということですが、バイク便が犯罪インフラとして悪用された点は極めて残念であり、類似の犯行が拡がらないことを望みます。

 また、報道によれば、山口組、住吉会、チャイニーズドラゴンなど暴力団や準暴力団のメンバーが組織の垣根を越えて、特殊詐欺に手を染めている実態も明らかになっているということです。本コラム2015年4月号でも、「暴力団の資金獲得活動が、自らが内側に抱える『若い組員の頭数』に依存(比例)していた時代から、組織の外側に『資金獲得スキーム』をいかに組成し稼ぐかに移行している」と指摘しましたが、正に、組織の外側で「組織の枠」を超えて、単純に資金獲得だけのために協力するという実態、それを何の抵抗もなく行えるという状況は、高齢化とスリム化にとどまらない、暴力団組織の変質、組織の存在意義の希薄化を考えるうえでも極めて象徴的な姿・形態であると思われます。

④  暴力団の関与した詐欺事件

 最近、特殊詐欺事件だけでなく、暴力団が関与した詐欺事件が頻発している点も気になるところです。暴力団組織においては、詐欺は本来「ご法度」であるはずですが、なりふり構わず資金獲得のために詐欺を敢行していることから、彼らも相当追い込まれている実態であることが窺われます。

 例えば、新築住宅の代金を支払わずに引き渡しを受け、第三者に売却して暴力団関係者にその儲けが流れたとされる事件(複数あるとのことから組織的な犯行の可能性があります)や、不動産会社担当者から暴力団員には売れないと説明を受けたにもかかわらず、うその名義で住宅を買ったとして、詐欺容疑で山口組直参の組幹部が逮捕された事件などがありました。

 また、銀行口座開設に絡む詐欺事件も、この1カ月だけで以下のような報道がありました。

  • 暴力団員であることを隠し、「反社会勢力ではない」という内容の口座開設の申込書に署名し、暴力団組員であることを隠して銀行口座を開設し、通帳とキャッシュカードをだまし取ったとして、指定暴力団山口組系元組員を逮捕。
  • 暴力団関係者ではないと確約する申請書類に印鑑を押して提出し、通帳とキャッシュカードをだまし取ったとして、詐欺容疑で、指定暴力団福博会直系組長を逮捕。
  • 実際には、指定暴力団極東会の会長が使用する口座を実子の娘名義で開設し、銀行から通帳とキャッシュカードをだまし取った詐欺の疑いで会長ら3名を逮捕。開設した口座には1億円超の入金があったとのことですが、「口座を解除されて保管場所に困って」との報道もあり、金融機関の暴排の取組みが進展していることを実感するとともに、今後、中小金融機関における銀行口座からの暴排が正に主戦場となること(そして、その難易度がますます上がっていくこと)を感じさせます。
3) FIFA問題

 米司法当局が内偵を続けてきたFIFAの汚職問題については、役職者等に逮捕者も出る事態となっていますが、報道によれば、賄賂となった不正な資金はニューヨークの金融機関などを経由して受取人が発覚しないようカリブ地域の租税回避地に開設した匿名口座、ダミー会社などに送金されていたということです。

 また、これに関連して、米英の金融機関で内部調査が始まっているほか、米司法当局が賄賂の送金などに利用された米金融機関にも捜査が拡大する可能性があるとするなどの拡がりを見せています。

 米英の金融機関が本問題に絡んで摘発の対象として問題視されているのは、正にAMLやFCPA等への抵触が問題となっているからであり、企業にとってもこれら「海外コンプライアンス」の視点から、他山の石とすべき事案であるとも言えます。

 さて、本事案が金融機関をはじめとする民間事業者にも影響を及ぼす点について、(マネー・ローンダリングについては既にこれまでも取り上げてきておりますので今回は割愛するとして、)FCPAの視点から問題になるであろうポイントについて確認しておきたいと思います(本事案がFCPAに基づく摘発か否かどうかとは別に、企業のリスクとして認識していただくために取り上げます)。

 なお、直近の報道によれば、経済産業省が、日本企業による外国の公務員への贈賄を防ぐため、不正競争防止法の運用指針を改定するとの方針を示しています。また、安倍首相が英キャメロン首相との会談の中で、来年の日本でのサミットにおいて、新興国の汚職や腐敗防止の対策を議論することを確認したということです。いよいよ、日本においても、FCPA等への対応(贈収賄リスクへの対応)に本腰を入れることが明確になったと言え、企業としても、今後間違いなく厳しい対応を迫られることになると考えられます。

①  域外適用

 外国企業であっても外国公務員への贈賄を米国の領域で行った場合にFCPAが適用されることは当然ですが、実は、FCPAガイドラインにおいては、「米国の銀行を経由して賄賂を送金した場合」「米国を経由して贈賄行為に関連した電子メールの交信が行われた場合」もその対象となる可能性があるとされています。また、「米国内では一切行為がなくても、米国企業または米国上場企業との間で共謀またはほう助等の共犯関係にある場合」もその対象となるとされています。

 したがって、日本企業にとっても本リスクに意図せず関与してしまう可能性は否定できず、常にFCPAを意識した贈収賄防止にかかるコンプライアンス・プログラムを整備する重要性が高まっていると言えます。

②  コンプライアンス・プログラムの重要性

 とりわけ腐敗リスクが高い国や地域で事業を行う場合、そもそもこれらのリスクをゼロとすることは困難であり、コンプライアンス・プログラムを充実させて(社会的な説明責任を果たすことで)リスク軽減に努めることが極めて重要です。

 例えば、エージェント等の適格性、業界での評判、政府高官等との関係などを事前に確認すること、対価の適切性・妥当性等を検証することといった直接的なチェックポイントはもちろんのこと、企業行動規範等への明記、反贈収賄に関する規定類の策定、定期的な研修・トレーニングの実施、内部通報制度の適切な運用、適切な懲罰体制の整備といった実効性ある運用態勢(コンプライアンス・プログラムを重視したリスク管理態勢)が、万が一の際のリスク軽減につながると考えられます。

4) その他

①  危険ドラッグの動向

 国立精神・神経医療研究センターの調査に関する報道によると、昨年9~10月に全国の医療機関で治療を受けた薬物乱用患者の34%が過去1年間に主に危険ドラッグを使用し、覚醒剤など他の薬物を上回って最多を占めたということです。具体的には、危険ドラッグが34.8%と最多、続いて覚醒剤27.4%、睡眠薬や抗不安薬などの医薬品16.9%、シンナーなどの有機溶剤4.3%の順で、危険ドラッグの割合が急激に増えている実態が明らかになっています。

 危険ドラッグはその販売ルートを主にネット通販に移行していますが、最近では、宅配による販売に切り替えた大阪の業者が逮捕されています。警察の立ち入り調査などでリアルの店舗を廃業したものの、常連客と個別に連絡を取って配達していた(デリバリー方式)とされ、乱用者の増加傾向とあわせ、まだまだ規制を巡るいたちごっこが続きます。

②  スイス金融業界の秘密主義の終焉

 本コラムでは度々その動向を紹介してきましたが、スイス政府は、欧州連合(EU)と銀行口座の情報を自動交換するための協議を始めました。300年にわたり、プライベートバンキング、マネー・ローンダリング、所得税・法人税・相続税の対策として国際的な圧力にも負けず預金者のプライバシーを絶対に守るという立場を貫き、外国の捜査当局にも口座情報を開示しない秘密主義を維持してきたスイスの金融機関ですが、2017年から口座情報を保存し、18年からの交換を目指すとされています。

 主に租税回避に関する米国をはじめとする国際的な要請からの秘密主義の終焉となりましたが、AML/CTFの取組みにおいても、資金の流れを透明化することが国際的に求められており、他のタックスヘイブン地域の動向とあわせ、(日本の反社会的勢力等の資金の流れの解明にも役立つ可能性があることから)今後の情報開示の状況やその内容等を注視していきたいと思います。

③  企業の「危機管理力」に関する調査

▼電通PR 電通PRの企業広報戦略研究所と東京大学総合防災情報研究センターが企業の「危機管理力」を大規模調査

 本調査は、東証一部上場企業1,825社と日本に拠点を置く外資系企業1,170社に加え、報道機関を対象に行い、企業からは392社、報道機関からは177人の回答を得たということですが、例えば、「自社にとって『危機』となりうる、ソーシャルメディア上の評判、風評を把握する仕組みを導入している」(19.9%)、「ソーシャルメディア用の運用ガイドラインが整備されている」(33.4%)などの回答から、Webリスクに関する対策に未着手の状況が明らかになったことなどが取り上げられています。

 その中で、「社会からの批判が極めて強い」と認識されているリスクについての回答として、上位に、「毒物・食中毒等による顧客の健康被害」(37.9%)、「反社会勢力との癒着」(34.6%)、「不適切な決算・財務報告」(30.1%)がランクインしており、反社会的勢力排除の重要性やリスクの大きさが東証一部上場企業や外資系企業等の間で認識されていることが明らかとなりました。多くの危機管理上の課題がある中で、そのリスク認識の高さに驚きますが、その危機感をバネに、今後、取組みがさらに進展・深化することを期待したいと思います。

3.最近の暴排条例による勧告事例・暴対法に基づく中止命令ほか

1) 大阪府の勧告事例

 指定暴力団山口組系組員に月3万円の用心棒代を4年間(合計144万円)支払ったとして、大阪府公安委員会は、大阪府暴排条例に基づき、府内の飲食店オーナーの50代男性に利益供与をやめるよう勧告、当該組員にも、利益供与を要求する行為をやめるよう勧告しています。

2) 京都府の逮捕事例

 暴力団との関係を隠し、祭りで露店を営んだとして、京都府警は、詐欺の疑いで、指定暴力団山口組直系「雄成会」会長ら計8人を逮捕しています。

 祭りで露店を営む場合、京都府暴排条例に基づき、事業者は暴力団関係者ではないことを誓約する必要があり、虚偽の申告をしたとの疑いとなります。なお、露店の出店許可をめぐる不正で詐欺容疑を適用するのは、全国で初めてだということです。

3) 三重県暴排条例の改正

▼三重県警察「三重県暴力団排除条例が改正されました!!~平成27年7月1日施行」

 同条例において、禁止されている利益供与として、

  1. 暴力団の威力を利用する目的で、利益の供与をすること
  2. 暴力団の威力を利用したことに関し、利益の供与をすること
  3. 情を知って、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる利益の供与をすること

が規定されていますが、従来、3.の類型については「調査・勧告・公表」の対象となっていなかったものが、今回の改正(平成27年7月1日施行)により対象となるということです。

4) 福岡県警「検挙速報」閲覧件数が急増

 本コラムでも、「暴力団関係企業の通報について」「暴力団排除マンガ『こんなはずじゃなかった…』」など、独自の取組みを発信し続けている福岡県警のHPを紹介することが多いのですが、「暴力団員検挙速報」ページの閲覧数が急増しているとの報道がありました。

▼福岡県警「暴力団員検挙速報」

 本ページがスタートした2010年は約3万件程度だったということですが、昨年は11倍以上の約34万件にのぼったということです。このページでは、1週間の期限付きではありますが暴力団員の氏名も記載される点が特徴的で、企業が暴力団との取引を回避するために活用している実態が窺われますが、企業の暴排の取組みに有効な情報提供であることは間違いなく、他の自治体においても同様の取組みをさらに強化していただきたいものです。

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