暴排トピックス

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【もくじ】―――――――――――――――――――――――――

1.「社内暴排」への対応(その2)

1) 背景事情

2) 内部統制システムの脆弱性と反社会的勢力の侵入

3) 反社会的勢力への収益流出の実態

4) X社およびY社のその後の取組み

2.最近のトピックス

1) 暴力団情勢

2) 特殊詐欺を巡る動向

3) テロリスク/テロ資金供与対策(CTF)の動向

4) アンチ・マネー・ローンダリング(AML)の動向

5) 捜査手法の高度化を巡る動向

6) タックスヘイブン(租税回避地)を巡る動向

7) 犯罪インフラを巡る動向

・ネット不正送金

・民泊

・行政の審査/実態確認の甘さ

8) カジノ/IR法案を巡る動向

9) 仮想通貨/ブロックチェーンを巡る動向

10)その他のトピックス

・市議会議員に暴力団対策法に基づく中止命令

・暴追センターによる事務所撤去

・自治体による暴力団事務所の買い取り

・携帯電話からの暴排

・割賦販売法の改正

・忘れられる権利の動向

・事業者と反社会的勢力の関係

・大麻(マリファナ)を巡る動向

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

1) 兵庫県の勧告事例

2) 福岡県の中止命令発出事例

1.「社内暴排」への対応(その2)

 前回の本コラム(暴排トピックス2016年10月号)で、「社内暴排」の取り組みポイントを取り上げました。そこでは、「社内暴排」の意味を広範に捉え、「役職員が反社会的勢力と一切の関係を持たないこと」「役職員を介して反社会的勢力が企業内に侵入してくることを防止すること」、さらには、「企業の反社会的勢力排除(暴排)に向けた取り組みを推進すること」までを含めて考えるべきであることをお話しました。
 そして、そのベースとなる考え方として、雇用契約もまた事業にかかる契約の一つであって、取引先からの暴排と基本的には同様のスタンスを持つべきだということ、さらには、社内暴排は、現在および将来にわたって、反社会的勢力が「役職員として/役職員を介して」企業に侵入することを防止するほか、企業の暴排の取り組みに実効性を持たせるために必要な「意識」付けにとって重要な取り組みの一つであり、社内暴排を推進することが、反社リスク対策全般の底上げにつながると指摘しました。

 今回も引き続き社内暴排を取り上げますが、前回の内容が主に「従業員(職員)からの暴排」であったことから、特に「役員(取締役・監査役)からの暴排」にスポットを当ててみたいと思います。実際の反社会的勢力の企業への侵入事例においては、役員がその接点となっている事例は意外と多いものです。まずは、この点を理解いただくため、当社が実際に調査に関与した過去の事例についてご紹介します(本事例は、当社「SPNレポート~企業における反社会的勢力排除への取組み編」に収録されています。他の事例もこの機会にぜひご参照ください)。

エス・ピー・ネットワーク 「SPNレポート~企業における反社会的勢力排除への取組み編」(コンプリート版)

 ご紹介する事例は、会社法上の内部統制システム整備が上場企業に強く要請される前夜の事例であり、現時点の目から見れば、会計統制上緩すぎるとの感想も持たれるかもしれませんが、むしろ、トップの意識・あり方によって企業が陥りかねない真実の姿をダイレクトに映し出しているものと捉えていただき、「他山の石」としていただきたいと思います。

(1) 背景事情

 20××年、X社(運輸・不動産業)は、Y社により買収され、同社より新たな経営陣が送り込まれましたが、同時にX社のコンプライアンスの現状を把握することを目的として、Y社にコンプライアンス委員会が設置されました。X社は急成長を遂げた一方で、反社会的勢力との関係に関する風評があり、Y社として徹底した現状の把握により何らかの対策を講じる必要があるものと考えました。特に懸念していたのは、X社の前社長が反社会的勢力と密接な関係があるとの風評が根強く流布している点でした。当社は、Y社の依頼により、X社のコンプライアンス体制の徹底的な調査を行い、その結果をコンプライアンス委員会に報告することとなりました。

(2) 内部統制システムの脆弱性と反社会的勢力の侵入

 X社の前社長時代の、3期分の稟議書類や経理証憑類、取引先一覧等の社内資料の詳細精査、あるいは社内関係者へのヒアリング等を行った結果、以下のような内部統制システム上の脆弱性が浮き彫りとなり、そこから反社会的勢力との関係が強く推認される結果となりました。以下はその一部です。

●取引先との関係の透明性に関する懸念

  • 用地の確保、建設等に関する専門業務の委託先は、特定の業者との属人的な関係から選定され、十分な相見積や選定手続きが行われていない。
  • 紹介者経由の案件について、紹介者の関連会社に業務委託等が集中する傾向が顕著である。
  • 特定の業者に対して、業務委託の内容(必要のない業務等)や対価(他の業務や相場から異常に乖離した水準での支払い等)に関する不透明性が拭えない案件が多数存在する。

●取引先管理の問題

  • 取引先の選定にあたっては、外部専門機関の企業情報データを収集・精査のうえ、相見積を行った上で組織的に決定するルールとなっているのに対し、ほとんどが過去の実績や担当者との個人的な相性といった属人的な判断によって選定され、必要な調査も行われなかった。さらに、それらについて組織的なけん制が全く窺えない。
  • 取引実績の高い取引先からの紹介があれば、何らかの調査を行うことなく信用して取引してしまう組織的な傾向がある。
  • 案件の収益性等の観点からの検討はなされても、反社会的勢力かどうかの観点での調査・検討は全く行われていない。

●稟議手続きの問題

  • 稟議手続き自体がけん制のない形式的なものになっている。その結果、以下のような、意思決定の過程にけん制の観点から懸念のある事例が多数散見された。
    • 支払いのための稟議なのに、「至急」として財務・経理部門の承認が後回しとなっている
    • 定められた全ての承認者を経由していない
    • 承認日が決裁ルートの逆から押印されている
    • ごく一部の承認者のみで決裁されている
  • 稟議手続きルールの不徹底が担当者レベルだけでなく、管理部門レベルでも顕著であり、規定を逸脱した稟議決裁が日常的に行われている。
  • 案件の選定から取引先の選定に至る全てに関して前社長あるいは他の役員からのトップダウンで実行された事例も確認された

●経理支払い手続きの問題

  • 以下のような支払い手続きの異例処理が確認された。
    • 承認が後付けとなる等、規定された正規の手続きを経ないで支払いがなされている
    • 稟議書や請求書等の必要書類が添付されていない
    • 社内資料である支払申請書のみの申請で支払い内容が不明なまま支払われている
    • 相手先と請求書上の支払い指定先、実際に支払われた先の全てが相違しておりその理由が不明である
    • 前社長のみの決裁で支払われている
    • 至急として稟議手続きが全くなされず支払われている
    • 口頭ベースでの合意が得られているとして、最終的な意思決定に先行して支払われている
  • 経理部門は、内容のチェックを行わず事務的に支払うのみとの意識レベルであることがヒアリングでも確認された。
(3) 社会的勢力への収益流出の実態

 前項で指摘したようなX社の内部統制システムの脆弱性は、運用に関与する当事者の意図的な逸脱、経営者自らが無視・無力化させているなどの限界点を露呈しており、数多くの異例処理・例外処理を許す結果となっていました。その異例処理・例外処理こそが反社会的勢力との関係の端緒であるとして、さらに関係当事者に関する詳細な調査を行った結果、反社会的勢力との関係(反社会的勢力への資金・資産の流出)の実態を強く推認しうるだけの証拠を収集することができました。以下は、調査により抽出された個別の問題事象であり、その端緒(一部)となります(実際の調査においては、さらに踏み込んだ調査等を実施していますが、以下は反社会的勢力の関与によって企業から優良な資産が流出する事例の紹介にとどめることとします)。

【ケース1】至急での現金支払い

 「至急」との理由(実際、支払申請書の申請理由が「至急のため」のみ記載されていた)から、事前の稟議なく、ごく一部の経営陣のみの承認により、支払い内容が不明確なまま、1億円が現金で支払われた事例があった。その後の内部監査室の調査に対して、「手付金」との当事者の説明があったが、その具体的な内容を説明できる資料は提出されず、1年以上当該案件は議論の遡上に上ることもなくうやむやにされ、結局、経理処理も最終的に雑損処理とされた。

【ケース2】不透明な業務委託と報酬

  • 用地の購入を巡って社会運動を標榜する団体とトラブルが発生した際に、前社長の関係で取引している(反社会的勢力との風評がある)コンサルティング会社に仲介を依頼し、同社に3億円が支払われた事例があった。業務委託契約書は明らかに後付けであり、その後の調査における法務部門の見解からも、案件の規模からも適正な範囲を逸脱した額であると考えられ、最終的な受領先が不明なまま処理されている等とあわせ、不透明な業務委託と報酬となっていた。
  • 過去犯罪歴のある特定の紹介者について、その関係会社に対する業務委託は、条件が相手方に有利であるばかりか、相次ぐ追加業務(至急での依頼や、必要性に欠ける内容のものが多い)に対する請求に対しほとんど何らの精査を加えることなく支払われていた。なお、当該紹介者は、前社長からの個人的な紹介によりX社と取引が開始されたものであり、X社にとって重要な案件への関与度合いが大きく、当該人物に対する会社としての依存度はかなり高い。

【ケース3】特定の取引先との不透明な関係

 上記のコンサルティング会社や特定の紹介者だけでなく、特定の専門業者においても反社会的勢力との風評のある先と知っていて頻繁に業務を委託している実態があった。さらに、特定の紹介者の紹介先であれば、実態がほとんど確認できない新設企業であっても、専門業務を委託する(当然ながらその後再委託されるがその先は反社会的勢力の風評がある企業というケースもあった)等のずさんな処理が行われている。

(4) X社およびY社のその後の取組み

 当社は、上記の調査結果に基づき、X社と反社会的勢力との関係の具体的な端緒について、コンプライアンス委員会に報告しました。コンプライアンス委員会は、反社会的勢力との関係遮断をY社取締役会に提言し、Y社としてX社の反社会的勢力排除の取組みを本格化させました。反社会的勢力排除に関する具体的な取組み方針(一部)は以下の通りで、その後、数年間かけてX社の健全経営に向けた取り組みを徹底的に展開しました。

【コンプライアンスを担保する内部統制システムの再構築】

  • 業務ラインから独立した社長直轄の「コンプライアンス室」を新たに設置し、同部門を要として本取組みを推進する。
  • コンプライアンス経営実践の根幹を成す「組織的意思決定(稟議決裁)」「経理支払い」について、コンプライアンス室によるけん制が十分に働き、役職員の恣意性が排除されることを主眼とした見直しを行う。
  • 「取引先管理」についても、反社会的勢力排除の観点はもちろんのこと、公正な取引の実現の観点から全体的な見直しを図り、契約締結や取引審査を厳格に行い、例外的な運用を認めない体制を整備、運用する。
  • 取組みの実効性を高めるため、社内規程類の整備と周知徹底、役員層・管理職層などの階層別の研修や、日常業務におけるクロスチェック、コンプライアンス室・内部監査室によるモニタリングとコンプライアンス委員会への定期的な報告といった取組みをあわせて行う。

【関係当事者との関係遮断】

  • 本調査の結果、問題が明らかとなった特定のコンサルティング会社・紹介者・取引業者については、今後取引をしない旨通知のうえ、関係解消を図った。
  • 取引先管理体制の運用に際しては、取引を解消された者の関係者が、新たな取引先として侵入してくることを想定し、社内の担当者をはじめ周辺へのヒアリングや実態の確認に力点を置いた審査を行うとともに、業務の再委託に関する厳格運用を開始する。
  • 役職員に対しては、「反社会的勢力排除に関する誓約書」の提出を求めた。問題となった者とのこれまでの関係が懲罰の対象となるのではないかとの恐れから提出を拒否する管理職層も複数いたが、コンプライアンス室長が直接面談しながら、今後の健全経営の実現への協力をお願いし、確約を得た。

 本事例からは、内部統制システムの限界は「人」であり、とりわけ経営トップの姿勢次第で「無力化・無効化」が簡単にできてしまうこと、反社会的勢力が企業とどのように接点を持ち(入り込み)、社内にある優良な資金や資産を社外に流出させていったのかの手口の一端やその端緒がご認識いただけたと思います。ご存じの通り、本来、取締役には、会社法上の内部統制システムの構築義務(善管注意義務の一環として内部統制システムを構築・運用する義務)があります。
 さらには、政府指針(犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」)においても、「反社会的勢力による被害の防止は、業務の適正を確保するために必要な法令等遵守・リスク管理事項として、内部統制システムに明確に位置付けることが必要である」と要請されています。したがって、役員からの暴排は、企業の「健全経営の大前提」となるものであると認識し、(当たり前のこととして不作為に陥ることなく、より自律的に)厳しく取り組む必要があると言えます。

 さて、取締役に要請されたこれらの義務を果たさず、企業に大きな損害を与えた事例として、蛇の目ミシン工業事件(同社が、同社株式を買い占めた光進の元代表の恐喝に応じ、また債務肩代わり等により巨額の損害を被ったとし、株主が平成5年に提起した代表訴訟における平成18年最高裁判所判決を受けた差戻し控訴審で、株主の主張を容れて当時の取締役5人の責任を認定、会社に対し連帯して583億円余の支払いを命ずる判決を言い渡したもの)がありますが、役員と反社会的勢力の関係によるリスクとしては、他にも、「上場廃止」「銀行取引停止等」「取引先からの契約解除」「公共事業からの排除」「許認可の取り消し」「レピュテーション・リスク」等が考えられます。いずれも、企業存続に関わる重大なリスクであり、厳格な運用が求められることは言うまでもありません。

 では、実際に、役員が反社会的勢力と密接な関係があることが明らかとなった場合の対応について考えてみたいと思います。

 まず、役員は、労働契約締結で雇用関係にある従業員と異なり、会社とは委任関係にあります。したがって、従業員に比べて関係解消が容易である点は大きく異なりますが、解任したとして、正当な理由がなければ会社が損害賠償責任を負うことになりますから、結局は、調査に慎重を期したうえで対応すべき点は従業員と同様になります。また、その調査については、従業員の場合は社内調査が中心であるのに対し、役員が調査対象となる場合は、事案の社会的影響や企業の業績に与えるインパクト等の大きさから、第三者委員会などを設置して客観的かつ専門的な調査を行うことが、(企業のクライシスマネジメントの観点からも)現時点では望ましいと言えると思います。

 そして、不適切な事実が第三者委員会で認定されるような場合、当該取締役の「解任」「辞任」「再任拒否」といった形で排除することになります。まず、取締役の「解任」については、会社法(第339条第1項)において、「いつでも、株主総会の決議によって解任することができる」とされていますが、一方で、「正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる」(同第2項)ともされている点は既に指摘した通りであり、第三者委員の調査結果や社内調査結果をふまえ、会社として、訴訟に耐え得るだけの「解任」の合理的な理由や根拠等をどれだけ精緻に組み立てられるかがポイントになります。

 また、「辞任」については、「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる」(民法第651条第1項)とされていますので、取締役はいつでも自分の意思で辞任することができますから、実務的には、反社会的勢力との関係が疑われた取締役に対して辞任を勧奨することが一般的な対応手順だと思われます。勧奨なので強制力はありませんので、拒否される可能性も残りますが、そのような場合でも、事前に誓約書を取り付けておくことによって、より実効性を持って勧奨を行えるようになる点は認識しておいた方がよいと思われます(さらには、誓約書についても、反社会的勢力排除に関わる「厳格な」会社の姿勢を盛り込んでおくこともポイントとなります)。

 そのうえで、3つ目の「再任拒否(再任しない)」という選択肢については、解任であれば、株主総会を開催する必要があり、社会的な体面等を考えれば、現実的にはそこまで踏み込むケースは限られる(会社として真に厳格に対応することが迫られている等)ことや、辞任勧奨がうまくいかなかったり、期中での辞任といえども説明責任が発生すること、などを考慮すれば、任期満了のタイミングで再任しないことを選択するケースがもっとも穏便に排除を進めることができるものと考えます。
 もっとも、社会的に耳目を集めることになったり、会社業績に与える影響やレピュテーション・リスクが大きい場合には、辞任勧奨や解任以外に選択肢がない場合もありますし、任期満了までに一定期間残されている場合など、在任中に事案が発覚したり、会社の被る損害等が拡大したりするリスクもまた大きいことを認識したうえで判断すべきということになります。

 さらに、具体的な排除実務の場面では、当該取締役に貸与しているPCや入館証等、付与している機密情報等へのアクセス権限などについても、不正な情報持ち出しや証拠隠滅等を防ぐ意味でも、それらの権限を停止する、使用を禁止するなどの対応を適切なタイミングで速やかに行う必要があります。事後に損害賠償請求の争いになった場合に備えて、会社の規定等に明記されている場合は、比較的問題は少ないと思われますが、いずれにせよ弁護士等と連携しながら、慎重かつ迅速に対応していくことが求められます。
 また、取締役レベルの関与した事案であれば、反社会的勢力にとっても大きなシノギが関係している可能性もあり、彼らから報復や嫌がらせといった攻撃をしかけてくる可能性等も念頭に置きながら、他の役員や社員、会社施設等の安全確保に向けて、警察や弁護士、外部専門家等への相談などについても、迅速に対応する必要があります。

 さて、今回は経営トップ自らが反社会的勢力と関係を持ち、会社の利益を流出させていった事例を軸に、役員からの暴排の重要性と、その対応のポイントについてお話しました。
 役員が関与するようなケースでは、それがプライベートな事案であったとしても、(公共事業からの排除など)会社にとっては事業存続にかかる極めて重大な影響を及ぼすことになりかねません。適切な業務運営、内部統制システムの運用については役員および従業員自らがその役割を担うことになりますが、役員のけん制という点については、役員の相互の監視義務や社外役員による厳格な監視といったコーポレートバガナンスの実効性が問われる部分になります。
 本コラムでも、反社リスク対策において最も重要なことは「役職員の高い暴排意識とリスクセンス」であることを常々お話しておりますが、「内部統制システム」と「コーポレートガバナンス」の双方が、密接な連携のもと、有効に機能することなくして反社リスク対策も適切に実行されない点を、あらためてご認識いただきたいと思います。

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2.最近のトピックス

(1) 暴力団情勢

 北九州市で平成24~26年に起きた元福岡県警警部銃撃と歯科医襲撃事件で、組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)罪などに問われた、特定危険指定暴力団工藤会系組員の初公判が、福岡地裁で開かれ、福岡県警が組織のトップを摘発した「頂上作戦」による一連の事件の審理が始まりました。なお、本公判に際して、福岡地裁は、裁判員に危害が加えられる恐れがあることから裁判員裁判から除外しています(裁判員に対する声掛け事件も影響しているものと思われます)。

 本公判において、被告側は事件への関与を認めた上で、同罪などで起訴された工藤会トップの野村悟被告らとの殺害計画の共謀を否認しています。今後、検察側が犯行に関する指揮命令系統を明らかにし、幹部の関与を立証できるかが最大の焦点となります(さらには、頂上作戦を巡って、これまで計7事件で21人が起訴されているところ、今後の幹部らの公判の行方を占う試金石となるとも言えます)。

 報道によれば、検察側は、「工藤会では上意下達が求められ、決して下位者が上位者の意思に背くことは許されない」などとして、いずれも組織的事件だったと主張していますが、組織犯罪処罰法違反は罰則が重い一方で、「暴力団組織のために」「指揮命令に基づき」「定められた任務に従って実行された」という犯罪の「組織性」を立証する必要があり、そのハードルは決して低くありません。
 平成28年11月2日付西日本新聞によれば、検察側もトップの野村被告の直接的な意思決定を示す証拠はないとしていますが、2014年の大阪高裁の「幹部を含む複数の組員が組織的に犯行に及んだ場合は、『特段の事情がない限り組長の指揮命令に基づいて行われたと推認すべきだ』」とする判断を活用したい構えだと言うことです。工藤会の結束力の強さはよく知られているところであり、平時の指揮命令系統を証明すること自体は高いハードルではないと思われますが、そのまま今回の事例に適用できるかも一つの大きな焦点となると考えられます。いずれにせよ、工藤会の壊滅を目指す「頂上作戦」の一つの成果として、一連の裁判によって工藤会の組織的な犯罪であることが認められることを通じて、組織に壊滅的なダメージを与えることを期待したいと思います。

 さて、山口組の分裂を巡る動向については、直近でも大きな動きは見られないようですが、最近の報道においては、暴力団が追い込まれている状況がうかがえるようなものが増えているように思われます。

 例えば、平成28年10月25日付毎日新聞では、複数の暴力団組織が組事務所を共同で使うケースが増えているとの報道がありました。暴排条例などの影響で資金獲得活動(シノギ)が難しくなってきており、経費削減が主な理由とみられるということで、組員の減少傾向も続く中、組織維持のための「なりふり構わない対応」が見てとれます。
 また、薬物事件を中心に仲間を呼び集めて警察官の職務質問を妨害したとして、公務執行妨害などの疑いで、指定暴力団山口組系傘下組織の組長ら男女計10人を逮捕される事案もありました。このような事案は増えているということで、報道によれば、大阪府内では1~9月末で同様の事案が約100件に上り、うち救急車を呼んで逃走する事案が約30件、弁護士が妨害するケースも約20件あったということです。

 このような行動も、何とも子供じみたもので任侠道・極道を自認する彼らの本来の流儀からは遠くかけ離れてしまっているように思われます。その一方で、昨年は分裂騒動で実施されなかった、六代目山口組総本部近くの神社でハロウィーンでのお菓子配りが今年は行われたようです。近隣住民への懐柔策の一環であると言われていますが、ここ最近の、組織維持のために法令遵守に徹している彼らの振る舞い同様、あまりにあからさまで、彼らの本来のあるべき姿の表面をなぞっているだけの行動に見えてしまいます。

 本コラムでもたびたび指摘しているように、暴力団が自らの存在意義が「任侠道・極道」なのか「犯罪組織・外道」なのか自問自答すべき状況にあり、さらには、そもそもの(組織としての)理念も(社会的弱者から搾取するなど、堅気に対する)自制も欠き、社会的には害悪しかない「犯罪組織」を、無理やり合法的な枠にあてはめて規制し続けることで果たしてよいのかといった、非合法化に向けた議論を行うべき時期に来ているとあらためて強く感じます。

 また、関連して、(以前、雑誌の記事として掲載されたものですが)暴力団取材を続けるライターが現役組員100人に実施したアンケートにおいて、52%が自分たちを「悪」だと認めている結果だったと言うことです。これをどう取るかは意見の分かれるところですが、建前を捨てて自らを「犯罪組織」と認める者がこれだけ存在すること自体が、暴力団の変質を如実に物語っていると言えると思います。
 また、この記事の中では、特に、「どの時代でも儲けてるヤツはいる。あちこちからたかられるので隠してるだけ」(神戸山口組系幹部)とのコメントや、「過去最高に景気がいい」(在京団体幹部)という若手組長をはじめ、100人中17人もが(経済活動(シノギ)は順調かとの問いに)「はい」と答えた結果等が注目され、やはり一筋縄ではいかない彼らの強かさや時流を捉えた「金儲け」の巧さなどを感じるとともに、あらためて暴排の取り組みを官民挙げて徹底的に行っていくことの重要性を認識させられます。

(2) 特殊詐欺を巡る動向

 本コラムでは、毎回、実際発生した事件を取り上げながら、「犯罪インフラを巡る動向」を取り上げていますが、暴力団等の反社会的勢力が関与する組織犯罪においては、時流をいち早く捉えた新たな手口が登場する背後に、その犯罪を可能にする様々な「犯罪インフラ」があり、それ自体も進化を遂げている実態があります。
 したがって、反社リスク対策や特殊詐欺対策においては、彼らの動きを把握することも極めて重要だと言えますし、「犯罪インフラ」事業者のような犯罪を助長する事業者と関係を持ってはならないという認識も強く持つ必要があると言えます。直近でも、特殊詐欺グループにアジトを提供していたとして警視庁捜査2課が摘発した不動産業者が、100以上の物件を複数グループに供給し、拠点となった詐欺被害が数十億円に達しているとみられるとの報道や、別の不動産会社が偽の賃借人や連帯保証人を確保しながら別人名義で賃借契約を結ぶなどして特殊詐欺グループにアジトを提供していたとする報道がありました。

 このように、犯罪インフラ事業者の全貌が明らかになりつつあり、報道によれば、例えば前者の不動産業者は、10年以上前から特殊詐欺グループの依頼でアジトに適した賃貸物件を探し、嘘の賃借名義人や連帯保証人も用意、以前もご紹介した「在籍屋」である関係者が嘘の連帯保証人の身元を保証するといった役割分担も行われていたようです。
 また、特殊詐欺のアジトは、居場所を特定されないよう(また、不審がられて通報されないよう)2~3カ月で移転を繰り返している実態があります(最近、極端な例として、関西や関東のラブホテルやカラオケボックスを転々としながら、現地の市職員らをかたって還付金名目で現金をだまし取る犯行を繰り返していたグループが摘発されています)が、それを裏付けるように、特殊詐欺グループが移転した後に別の特殊詐欺グループが入居したアジトもあるとのことです。このように、特殊詐欺グループの摘発においては、末端をいくら捕まえてもダメージを与えることができず、アジトを押さえることと首謀者の検挙が優先課題であると言われていますが、同様に、特殊詐欺グループだけではなく、犯罪インフラ事業者を厳しく摘発していかなければ特殊詐欺の根絶はありえないとも言えます。

 さて、警察庁から平成28年1月~9月の特殊詐欺の認知・検挙状況等が公表されていますので、簡単に状況を確認しておきたいと思います。

警察庁 平成28年9月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

 平成28年1~9月の特殊詐欺全体の認知件数は10,093件(前年同期10,159件、▲0.6%)、被害総額は285.1憶円(同346.7億円、▲17.8%)となり、これまで明らかな減少傾向が認められていた認知件数についてはほぼ前年並みと減少傾向が止まった一方で、被害総額については2ケタの減少傾向が続いています。そのうち、オレオレ詐欺の認知件数が4,249件(同4,396件、▲3.3%)、被害総額が114.5億円(同123.4億円、▲7.2%)、架空請求詐欺の認知件数は2,440件(同2,940件、▲17.0%)、被害総額は110.0億円(同129.4億円、▲15.0%)、融資保証金詐欺の認知件数は310件(同321件、▲3.4%)、被害総額は5.3億円(同4.0億円、+32.5%)など、ここ最近と同様の状況が続いていますが、全体的には減少度合いが緩やかになっているように思われます。一方で、還付金詐欺については、認知件数2,689件(同1,684件、+59.7%)、被害総額31.5億円(同17.8億円、+77.0%)と、認知件数・被害総額ともに急激な増加傾向を示しており、その勢いがまだまだ止まっていない状況にあります。

 さて、全体的には減少傾向にある特殊詐欺ですが、その中で大阪府については、発生件数が今年9月末で1,195件に達し、過去最悪だった昨年を上回っています。被害金額についても、約39.6億円と、こちらも10月中に昨年を上回るのは確実な情勢となっています。全国的な傾向と同じく、医療費や保険料が返ってくると偽る「還付金詐欺」が急増しているのが原因ですが、大阪府警は大変な危機感を抱いており、知能犯を担当する捜査2課などの捜査員に加えて他部署からも横断的に人材を集めた140人態勢の「緊急対策プロジェクトチーム(PT)」を発足させて対策に本腰を入れています。

 特殊詐欺対策やネット不正送金対策としては、金融機関とIT事業者等がタッグを組むなどして、様々な新たな取り組み・システムの導入が進んでいます(後述します)。特殊詐欺を構成する犯罪インフラ事業者対策とあわせ、最新の動向を把握・分析しながら、IT等を絡めながら対策の質を高めていくことがこれからも求められています。

(3) テロリスク/テロ資金供与対策(CTF)の動向

 法務省は、国際テロ情勢が一段と深刻化している状況下で、かつ、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催などをふまえ、テロの未然防止のため水際対策の一層の強化のため、「邦人殺害テロ事件等を受けたテロ対策の強化について」(平成27年5月29日、国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部決定)に基づき、10月17日から、全国156か所の空港・港湾の入国審査ゲートにおいて、テロリスト等の顔画像と上陸審査時に外国人から提供を受けた顔写真との照合を実施しています。
 上陸審査時に外国人から提供を受けた顔写真とテロリスト等の顔画像との機械的な照合及び顔画像鑑識に係る専門的な能力を有する職員による鑑識により、顔画像情報からテロリスト等の発見を行う取り組みで、テロリスト等に対しては、関係機関と連携し、退去強制手続を執るなど厳格に対応し、その入国を水際で阻止するとしています。なお、テロリストの顔画像データについては、国際刑事警察機構(ICPO)や各国治安当局との情報共有を進めており、随時更新していくということです。

法務省 上陸審査時における顔画像照合の実施について

 顔画像照合の中核技術である顔認証システムは、日本のメーカーが最先端かつ高い精度を誇っており、民間事業者においてもイベント会場や施設等の入場者管理に活用され始めており、実効性あるテロ対策として機能していくことが期待されます。
 また、入国審査の一環としての活用はもちろんですが、3月のベルギー同時テロが、昨年11月のパリ同時多発テロと連動し、シリアなどで戦闘を経験したISの帰還戦闘員が中核にいたことが分かっており、今後のテロ対策の方向性として、「帰還戦闘員」の国内での活動に監視を強める必要性があること(仏検察は、シリアで戦闘員に加わるよりも国内でテロを拡散するよう促すISの「戦術の変化」があると示唆しています)、ホームグロウン・テロリストの過激化の動向など、既に国内に潜伏しているテロリストやその潜在的予備軍を捕捉するための「市中の監視システム」の充実もまた重要なポイントであり、この点でも顔認証システムの今後の活用が期待されると言えます。

 さて、顔認証システムの精度については、「状況さえ整って入れば」、現在はほぼ100%認識できるというレベルにあり、眼鏡、サングラスをかける、マスクで隠すといったものでも、相当程度、認証できるようになっています。さらには、年数の経過にも強く、見た目の変化に関係なく、昔の写真との照合についても実践に耐えうるレベルにあると言います。この点、海外の活用例として、例えば、取り調べの際の免許証の確認において、偽造が後を絶たないことから、顔認証技術を使った身元確認(現時点の顔写真と登録されている免許証の写真の照合)が導入されているとのことです。

 一方で、顔認証システムに依存した自動審査等によって人権侵害等につながるリスクもあります。ビッグデータと独自のアルゴリズム等を駆使した不正検知を行う取り組みの進展とともに、誤検知による審査不通過や口座凍結・契約解除等の不利益につながる事例等も増えていますが、同様に、100%の認証システムでない以上(状況が整わなければ十分な機能が発揮できない以上)、機械的な判断だけに依存するのではなく、最後は「目視」「人」による総合的な判断が求められていると言えます。

 さらに、顔認証技術とネット上の様々な情報が結びつくことによって、個人情報が流出する危険性も確認されていることや、顔認証システム搭載の防犯カメラが断りもなく不特定多数の方を撮影しているとされる問題、大阪駅構内の大阪ステーションシティに多数の顔認証カメラを設置して構内の通行人の追跡を実施する実証実験が批判された問題、店舗の万引き対策として警察を介さず店員や警備員等の私人が疑わしいと判断した際に画像等を登録することで人為的な誤登録による冤罪が起きてしまう可能性など、負の側面にも十分配慮した運用が必要な状況にあり、より実践的な精度向上とあわせ、今後の課題だと言えます。

(4) アンチ・マネー・ローンダリング(AML)の動向

 以前もご紹介しましたが、汚職疑惑に揺れるマレーシアの政府系ファンド「1MDB」の取引に絡んで、シンガポールに拠点のある、スイス最大の銀行UBS、同じくスイスのファルコン・プライベート・バンク、それにシンガポールのDBS銀行の計3行に対して、シンガポール当局が行政処分を下しています。報道によれば、ファルコンについては「経営幹部による不適切行為と資金洗浄統制に重大な欠陥があった」として銀行免許を取り消し、当局が支店幹部1人を逮捕したほか、UBSとDBSには資金洗浄の防止対策に不備があるとして制裁金を科す厳しい内容となっています。この問題では、既にスイスの銀行BSIの免許を取り消しており、幹部による不正関与やマネー・ローンダリングへの関与など、金融機関のモラルが厳しく問われる事態となっています。

 さて、冒頭に取り上げた社内暴排の取り組みと関連して、AML/CTFにおける従業員採用方針について、ご紹介しておきたいと思います。金融庁の監督指針等においては、マネー・ローンダリング防止に関する一元的な管理態勢の整備にあたっての留意点として、「適切な従業員採用方針や顧客受入方針を有しているか」という項目があります。
 これは、バーゼル銀行監督委員会の2006年「コア・プリンシプル・メソドロジー」原則18の「高い倫理基準と職業基準を確保するため、職員の雇用に際して、適切なスクリーニングを行う方針とプロセスが存すること」を2007年3月の監督指針改正で反映したものとなります。さらには、JAFIC(警察庁刑事局組織犯罪対策部組織犯罪対策企画課犯罪収益移転防止対策室)から出ている「犯罪収益移転防止法の概要」の中でも、「取引時確認等を的確に行うための措置」として、「事業者は取引時確認等の措置が的確に行われるために必要な能力を有する者を採用するために必要な措置を講ずる必要があります」との言及もあります。

JAFIC 犯罪収益移転防止法の概要(平成28年10月1日以降の特定事業者向け)

 当然ながら、一般の事業者とは異なり、金融機関の職員は金融システムやAML/CTFを熟知しており、その知識が悪用されて犯罪が行われた場合、その脆弱性を突いた、極めて巧妙かつ認知されにくいスキームや手口となることが予想されますので、金融機関の職員については、AML/CTFに特化したものではないにせよ、内部不正対策や反社会的勢力排除の観点から採用時に一定のスクリーニングを実施するのが一般的だと言えます。
 また、関連して、AML/CTFにおける「教育研修」についてもお話しておきたいと思います。今回の犯罪収益移転防止法(犯収法)の改正においても、第11条第1項で「使用者に対する教育訓練の実施」が努力義務ではありますが、明記されています。

犯罪による収益の移転防止に関する法律

(取引時確認等を的確に行うための措置)

第十一条  特定事業者は、取引時確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出等の措置(以下この条において「取引時確認等の措置」という。)を的確に行うため、当該取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置を講ずるものとするほか、次に掲げる措置を講ずるように努めなければならない。

一  使用人に対する教育訓練の実施

二  取引時確認等の措置の実施に関する規程の作成

三  取引時確認等の措置の的確な実施のために必要な監査その他の業務を統括管理する者の選任

四  その他第三条第三項に規定する犯罪収益移転危険度調査書の内容を勘案して講ずべきものとして主務省令で定める措置

 そもそも犯収法に「教育訓練の実施」が明記されているのは、FATF(金融活動作業部会)勧告において、AML/CTFプログラムの一環として「継続的な従業員の訓練プログラム」が盛り込まれているためですが、ここで言われている「訓練プログラム(トレーニング・プログラム、employee training programme)」は、単なる「研修の実施」を意味しているものではないことに注意が必要です。
 具体的には、AML/CTFの取組みにおける職員の各々の所属や職位等に合わせた、きめ細かい研修を実施していく「研修体系」を意味しており、年に1回の集合研修の実施といった程度では、その主旨からは不十分だと思われます。この点は、暴排の取り組みでも同様のことが言え、審査(反社チェック)担当部門と現場の社員とでは研修の力点は自ずと異なりますし、役員と管理職、あるいは一般の社員とでは、その役割に応じた目線・考え方をそれぞれ適切に落とし込むことが重要となります。

(5) 捜査手法の高度化を巡る動向

 最近、裁判所の令状なしに捜査対象者の車にGPSを取り付けた捜査の違法性が問われた窃盗事件の控訴審で、名古屋高裁が、令状を取らなかった愛知県警の捜査を違法と判断しましたが、GPS捜査の違法性を明確に指摘したのは高裁では初めてのところ、大阪高裁の今年3月の判決および1月の大阪地裁の判決では違法性を否定、3月の別の大阪地裁判決では違法性を認めたほか、水戸地裁や名古屋地裁でも違法性を認める判決が出るなど、本論点については、判断がかなり割れた状況となっています。この点について、先日、最高裁第2小法廷は、審理を大法廷に回付しており、GPS捜査の違法性について、大法廷が初めて判断を示す可能性があり注目されています。

 このような流れの中で、最近では、バスやトラックを盗んだとして2人が窃盗罪で起訴された事件の捜査で、警視庁が裁判所の令状をとらずにGPS端末を車に取り付け、動きを確認していた事案が、東京地裁立川支部で争われています。報道によれば、検察側は、「公道上の行動についてのプライバシー保護の必要性は高くない」「GPSは捜査員が探索範囲を絞るためだけに使っている」「2人の嫌疑は濃厚で早期の検挙が求められたこと」などからGPS捜査の適法性を主張する一方で、弁護側は「GPS捜査は当時から適法性が争点になっており、慎重な態度で臨む必要があった」として、証拠採用しないよう求めています。最高裁の判断とあわせ、こちらの公判の今後についても注視していきたいと思います。

 また、平成28年10月26日付産経新聞に、京都府警が導入した「予測型犯罪防御システム」についての興味深い記事が掲載されていました。過去の膨大なデータや犯罪心理学等の理論等から導かれるアルゴリズムを用いて、犯罪が起きやすい地域や時間帯などを予測し、捜査や犯罪防止に生かす画期的な新システムで、米ロサンゼルス市警など海外では運用実績があるところ、国内では初めての試みだと言うことです。
 優秀な日本の捜査員の「勘」を科学的に裏付けるとともに、現場の「勘」を予測に活かすことで、より精緻なものとなることを期待したいと思います。同様に、ビッグデータと独自のアルゴリズム等を駆使して不正検知を行う取り組みが与信等の審査への活用や、AML/CTFの観点から不審な口座の動きを抽出するモニタリング・システムとしての活用も既に始まっています。その一方で、(前述しましたが)誤検知による審査不通過や口座凍結・契約解除等の不利益につながる事例等も増えており、事業者側には速やかな救済や精度向上等の運用改善が、利用者側には利便性を享受する一方で一定の不利益を被るリスクがあるとの認識と広い周知が、それぞれ求められています。

(6) タックスヘイブン(租税回避地)を巡る動向

 世界の首脳や著名人らがタックスヘイブンを利用し、節税していた実態を暴いた「パナマ文書」ショックの震源地となったパナマについては、いち早く日本と租税情報交換協定を締結したことは既にお伝えした通りですが、今回、経済協力機構(OECD)が、税務情報を各国当局間で交換する国際協定にパナマが加盟したと発表しています。同国は、日本と締結している2国間協定を一部の国としか締結しておらず、他国への情報開示は消極的で富裕層の租税回避行為を助長していると批判されていましたが、国際的な動向をふまえてスタンスを修正しており、今回の国際協定への加盟により(これまで見えにくかった)資金の流れの透明化が進むことが期待されます。

 ここであらためて指摘しておきたい点は、パナマ文書ショックについては、各国政府や要人のスキャンダルといったセンセーショナルな報道のされ方がなされましたが、タックスヘイブンを巡る問題の本質は、租税回避行為の問題はもちろんですが、あくまでマネー・ローンダリングやテロ資金供与といった犯罪収益の隠匿や犯罪を助長している点にあります。本来明らかにされるべき情報は、こうした不透明かつ問題ある資金の流れであり、それが明るみに出ることによって、ISなどのテロリストや国際安全保障の脅威となる北朝鮮等、あるいは、日本の暴力団等の反社会的勢力などの資金を断つことにつながる(犯罪を抑止できる可能性がある)という点にもっと着目すべきだと思われます。
 その意味では、パナマ文書ショックは、単なるスキャンダル暴露ではなく、「その先の脅威との戦い」という視点からあらためて捉えるべきであり、租税回避行為の排除および暴力団をはじめとする国際犯罪組織の資金ルートの解明に向けた一つの重要な転機となったと評価できあると思います。

 さて、日本国内における租税回避行為対策の一つとして、先日、国税庁が「国際戦略トータルプラン」を公表しています。特に、富裕層の中でも特に多額の資産を保有している「重点管理富裕層」への調査は、東京、大阪、名古屋の国税局に設置したプロジェクトチームが行っているところ、来年度から全国に拡大するほか、総収入金額が1000億円を超える多国籍企業グループに関し、海外の税務当局と情報交換できる制度の創設、海外子会社が事業実態のないペーパーカンパニーであれば、日本の親会社の税負担を増やすこと、実態のある会社でも、知的財産権の使用料の徴収など、現地に会社がなくても稼げる所得なら課税対象とするといった取り組みが柱となります。
 本コラムのテーマとの関連で言えば、海外との「租税条約等に基づく情報交換」や「金融口座情報の自動的交換」により、犯罪収益の隠匿やマネー・ローンダリング等疑わしい資金の動きが把握されること、指定暴力団工藤会総裁に対する脱税での摘発といった大胆な手法等により、暴力団等の犯罪組織に対する監視が厳格化されることを期待したいと思います。

国税庁 国際戦略トータルプラン-国際課税の取組の現状と今後の方向-

概要

1)情報リソースの充実

  • 100万円超の国外への送金及び国外からの受金の把握
  • 5,000万円超の国外財産(預金、有価証券や不動産等)の把握
  • 3億円以上の財産(預金、有価証券や不動産等)又は1億円以上の有価証券等の把握(所得2,000万円超の者)
  • 租税条約等に基づく情報交換(取引の実態、配当や不動産所得等に関する情報の収集)
  • 金融口座情報の自動的交換(海外の金融口座情報(預金残高等)の収集)
  • 多国籍企業情報の報告制度の創設(多国籍企業のグループ情報の収集)

2)調査マンパワーの充実

  • 国際的租税回避行為に係る資料の収集・分析、調査企画
  • 複雑な海外取引に係る調査手法の研究・開発
  • 国際的な課税上の問題がある事案の発掘、積極的な調査の実施
  • 富裕層のうち特に高額な資産を有すると認められる者の管理及び調査企画

3)グローバルネットワークの強化

  • 租税条約締約国にある財産についての相手国の税務当局への徴収の要請
  • BEPSや税の透明性に関する国際的な議論への対応
  • 国際的な二重課税問題の解決
(7) 犯罪インフラを巡る動向

1)ネット不正送金

 特殊詐欺対策とも関連しますが、ネット不正送金事案が増加している背景には、ネット上での架空口座や他人名義の口座の売買や闇サイトや不正アクセスによる不正入手等が行われている実態があります。例えば、直近1カ月での事例としては、以下のようなものがありました。

  • 架空の人物名義の口座を使って現金をだまし取ったとして、警視庁サイバー犯罪対策課は、自営業の男を電子計算機使用詐欺容疑などで逮捕しています。報道によれば、昨年1月から今年6月に偽造の健康保険証を使うなどして、架空の人物名義で約200の口座を開設したとみられています。さらに、この容疑者は、約80台の携帯電話を契約していたことが確認されており、「犯罪インフラ」として悪用する口座や携帯電話を販売する「道具屋」だった可能性が高いと言うことです。
  • インターネット上での違法な口座売買をめぐり、警察庁は、一般財団法人「日本サイバー犯罪対策センター」の協力のもと、サイバーパトロールを行い、18道府県警による一斉取り締まりで、売買サイトの管理者を含む12人を犯罪収益移転防止法違反などの疑いで摘発しています。
  • ネットバンキングサイトに不正アクセスして、他人の口座から自分の管理する他人名義の銀行口座に送金したとして、警視庁サイバー犯罪対策課は、不正アクセス禁止法違反と電子計算機使用詐欺の疑いで、岐阜市の自営業の男を送検しています。送金する際に必要なパスワードの入力に使う乱数表は、容疑者が「闇サイト」で入手していたほか、IDやパスワードといったアカウント情報を第三者にも販売していたということです。

 また、このネット不正送金事案や特殊詐欺への対策として、様々な興味深いものが登場しています。最近の報道からいくつかご紹介しておきたいと思います。

  • NTTデータは、リスクベース認証を刷新しています。インターネットバンキングにログインした端末の情報や取引頻度など、600種類以上の不正判定ルールを組み合わせて、第三者による「なりすまし」を検知するというもので、リスクアナリストが最新の不正送金の傾向などを分析しながら定期的にルールを追加することで検知精度を高めていくということです。
  • 犯人グループが携帯電話で高齢者らにATMの操作を指示していることから、日立製作所と常陽銀行は、ATMを使った「振り込み型」のニセ電話詐欺被害を防ぐため、専用の装置がATM付近で携帯電話の電波を検知すると警告画面を表示し、取引を強制的に終了させるシステムを導入すると発表しています。行員の目が届きにくい店舗外のATMを中心に整備を進めるということです。
  • 信用金庫業界では、2017年3月から、しんきん情報システムセンターが、送金時に絵を活用した「スーパー乱数表」を導入するということです。高齢者も利用しやすいことから導入が進むことが期待されます。
  • 岡崎信用金庫では、70歳以上でかつ3年以キャッシュカードによる振り込み未利用の顧客に対して、振込機能を使えなくする制限を全国でも初めて設けました。キャッシュカード振り込みを希望する場合は、営業窓口で、本人確認のうえで制限を解除する仕組みとしています。

 また、ネット不正送金事案に限らず、「なりすまし」による被害もまた後を絶たない状況です。金融業界では、金融機関かたった「なりすましメール」による被害防止が課題になっています。今年6月に大手旅行代理店で取引先を装ったメールからウィルス感染し、顧客情報漏えいの可能性が発覚していますが、同様に、なりすましメールからフィッシングサイトに誘導してネットバンキングのパスワードが詐取される(その後のサイバー攻撃の端緒となる)などの被害が懸念されます。大手行や一部地域銀行は、インターネット事業者と連携して送信情報の偽装を検知したり、顧客宛ての電子メールに正当性を裏付ける証明書を付与するなど、偽メール対策を強化しています。

 顧客の信頼確保や風評リスク回避の観点からも、リアルの対面取引時の偽名・借名・なりすまし対策としての本人確認手続きの厳格化だけでなく、ネット上のなりすまし対策の重要性もまた今後増していくものと思われます。

2)民泊

 大阪市は、国家戦略特区の規制緩和を活用し、マンションなどの空き室を旅行者らに貸し出す「民泊」を認める条例を10月31日に施行しました。また、これに合わせて、認定を受けていない「ヤミ民泊」の通報窓口を開設しています。報道によれば、大阪市は市内の民泊約1万件の大半が違法とみており、警察と連携して刑事告発も検討するなど規制強化に乗り出す方針を示しています。
 関連して、京都市が4~8月に行った調査や指導の状況を公開、周辺住民からの通報などを受け、調査対象とした施設は725件で、無許可営業と確認したのは331件、うち148件について指導して営業を中止させています。さらには、窓口に寄せられた通報976件などを基に調査対象を絞り込み、延べ1127回の現地調査を実施、違法営業を確認した施設のうち、指導後に許可を取得したのは7件のみであったということです。これらから、「ヤミ民泊」が相当蔓延っている実態がうかがえますが、実際、その中には反社会的勢力が組織的に関与していると思われるものもあるようです。

3)行政の審査/実態確認の甘さ

 生活保護の不正受給などに代表されますが、行政の「審査の甘さ」や「実態確認の不足」(モニタリングの不足)が犯罪を助長していることは、本コラムでもこれまでも指摘してきた通りです。この点は関係者の努力もむなしくいまだ改善の兆しはみられず、暴力団が関与した最近の事例でも以下のようなものがありました。

  • 指定暴力団六代目山口組傘下組織の幹部が、生活実態がない町で、不正に住民登録をした疑いで逮捕されています。警察が暴力団の実態を調査していたところ、同幹部が、岐阜県瑞穂市に住んでいるのに、生活の実態がない県内の別の町役場に住民異動届を出し、虚偽の内容を記録させていた疑いが発覚したものです。住民異動届の内容を十分に確認しないチェックの甘さが悪用されています。
  • 足が不自由なふりをして要介護認定3を受け、自ら経営する介護施設でサービスを受けたように偽り、介護給付金をだまし取ったとして、愛知県警は、詐欺の疑いで、元暴力団組員ら4人を逮捕しています。施設には給付金として約580万円が支払われており、一部が暴力団に流れた可能性もあると見られています。介護認定自体の甘さ、実際にサービスが提供されたのかの実態確認の甘さなどが悪用されていると言えます。
  • 暴力団組員であることを隠して生活保護費を不正に受け取ったとして指定暴力団神戸山口組系の幹部の男が逮捕されています。昨年10月から1年間、暴力団組員であることを隠して調布市役所から生活保護費約300万円を不正に受け取った疑いがあるといい、過去、組を破門されてから生活保護を受給し始めたものの、組に復帰してからも不正に受給し続けたということです。生活保護における実態確認の不足(暴力団員に復帰した実態がつかめていなかった)が悪用された例とも言えます。

 公的助成・給付事業において、「公平性」を重視するのであれば、むしろ、相手の属性もふまえる意味での「審査におけるリスクベースアプローチ」を検討すべきではないかと思われます。暴力団等に制度を悪用されることを見抜けない(もう少し注意深く審査すれば見抜ける)レベルの審査でも「やむを得ない」「仕方ない(できない)」というのであれば、実態としては、「公平性」を重視するあまり、むしろ制度の「不公平」な運用を助長しているとさえ言えるのではないでしょうか。この点、少なくとも属性上何らかの注意を要する者について、その審査や実態確認を厳格化する、といったリスクベースアプローチによる審査を導入することだけでも、悪用を防止できる可能性が飛躍的に高まるように思われます。

(8) カジノ/IR法案を巡る動向

 カジノを中心とした統合型リゾート(IR)を推進する法案(カジノ法案、特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案)が、いよいよ衆議院で審議入りする見通しです。公明党も審議自体を容認する方向に転じたためですが、今国会で成立するかは依然不透明な状況です。なお、本コラムでも、過去、「カジノ事業からの反社会的勢力排除」(暴排トピックス2016年10月号)と題した提言を行っておりますので、あわせてご参照ください。

 さて、カジノ/IR事業が、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催に向け、あるいはそれ以降の「観光立国」あるいは「地方創生」の切り札として期待される役割の大きさや、「成長戦略」の起爆剤として見込まれる経済効果の大きさは無視できないものがありますが、一方で、その期待とは裏腹に、「賭博の合法化」、あるいは、「ギャンブル依存症対策」「マネー・ローダリング対策」「反社会的勢力対策」などが、国民の理解を得るために極めて重い課題・整理すべき論点としてクローズアップされており、これらをクリアすることなしに、カジノ/IR事業を推進することは困難です。
 さらに、識者の指摘するところでは、「民営賭博を初めて合法化する」ことの是非も極めて重要な論点だと言うことです。日本では、刑法185条において賭博が原則として禁止されていますが、「賭博」は公の独占業務としてのみ認められ、一方で民間が提供するものは賭博とは言えない程度に射幸性を抑えた「遊技」としてであれば認められています。
 それに対し、本カジノ法案第2条第1項で、「この法律において『特定複合観光施設』とは、カジノ施設(別に法律で定めるところにより第十一条のカジノ管理委員会の許可を受けた民間事業者により特定複合観光施設区域において設置され、及び運営されるものに限る。以下同じ。)及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設であって、民間事業者が設置及び運営をするものをいう」とされており、正に「民間事業者による賭博事業」を認めるか否かが問題になりそうです。

衆議院 特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案

 なお、同法案において、反社会的勢力排除については、第10条第3項に明記されていますのであらためてご確認いただければと思います(下線部は筆者。その他、ギャンブル依存症対策は第8項、マネー・ローンダリング対策は第3項などにその主旨が盛り込まれていると考えられます)。

(カジノ施設の設置及び運営に関する規制)

第十条 政府は、カジノ施設の設置及び運営に関し、カジノ施設における不正行為の防止並びにカジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除を適切に行う観点から、次に掲げる事項について必要な措置を講ずるものとする。

一 カジノ施設において行われるゲームの公正性の確保のために必要な基準に関する事項

二 カジノ施設において用いられるチップその他の金銭の代替物の適正な利用に関する事項

三 カジノ施設関係者及びカジノ施設の入場者から暴力団員その他カジノ施設に対する関与が不適当な者を排除するために必要な規制に関する事項

四 犯罪の発生の予防及び通報のためのカジノ施設の設置及び運営をする者による監視及び防犯に係る設備、組織その他の体制の整備に関する事項

五 風俗環境の保持等のために必要な規制に関する事項

六 広告及び宣伝の規制に関する事項

七 青少年の保護のために必要な知識の普及その他の青少年の健全育成のために必要な措置に関する事項

八 カジノ施設の入場者がカジノ施設を利用したことに伴い悪影響を受けることを防止するために必要な措置に関する事項

(9) 仮想通貨/ブロックチェーンを巡る動向

 財務省と金融庁は、ビットコインなどの仮想通貨を買うときにかかる消費税を、2017年春を目途になくす方向で検討していると言うことです。これにより、仮想通貨をモノやサービスでなく「支払い手段」と明確に位置付けることになります。海外では仮想通貨を非課税としている国が多いほか、今年5月に成立し来年施行予定の改正資金決済法は、ビットコインなど仮想通貨をプリペイドカードなどと同じく「決済手段」として定義していることから、財務省もこれに準ずる形になります。
 その結果、事業者の納税事務がなくなるほか、利用者は消費税分の価格が下がって買いやすくなるといったメリットが生じる(ただし、仮想通貨の価格変動で得た売却益に所得税がかかる点は変わりません)ことになり、仮想通貨が「お金」としての存在感を増すのは確実であろうと言われています。

 一方で、仮想通貨については様々な懸念も払しょくされていない状況にあります。欧州中央銀行(ECB)は、AML/CTFに関するEU法の改正案について、「ECBの公式見解」として、仮想通貨に対する懸念を表明し、EU加盟各国に対して仮想通貨の使用を推奨すべきではないと提言しています。ECBは、中央銀行発行の「法定通貨」ではなく、その所有者が、将来、確実にモノやサービス、法定通貨と確実に交換できる保証がないことなどを理由としています(さらに、ユーロこそEU内における単一通貨であり、仮想通貨はEUの通貨としてふさわしくないとの見解も示しています)。

 さて、この「確実に交換できる保証がない」という点について、過去のマウントゴックス社によるビットコイン消失事件以降、「利用者保護」の視点が重視され、改正資金決済法でも取引所に対して犯罪収益移転防止法(犯収法)上の特定事業者として「利用者保護」をはじめとする厳格な規制をかけることになりましたが、ここにきて、「利用者保護」のあり方に根本から懸念を生じさせるような、ビットコインを詐取する不正利用が初めて摘発されています。

 本事案は、外形的には、会社員ら3人が取引所からビットコインをだまし取ったという形になりますが、その不正を可能にしたのが、「本人確認の脆弱性」です。報道によれば、3人は自分の顔写真を架空の免許証に張り付けて偽造するなどして取引所に示して他人名義の口座を開設し、不正に入手した他人のカード情報や免許証を使ってビットコインを購入し、現金に換えて引き出していたということです。
 そして、この他人のカード情報等は、闇サイトから入手したと言われ(闇サイトの支払いにもビットコインが使われています)、さらには、入手したビットコインを米国の取引所に移したり、架空のアカウントに出し入れしたりした後、自分の名義のアカウントに還流させて現金化していたとされ、他人名義のアカウントが購入元であることをわからなくするローンダリングの一種も行われたようです。

 つまり、この犯罪においては、「仮想通貨」「取引所」「闇サイト」「本人確認の脆弱性」「ローンダリング」といった犯罪インフラや犯罪手法が駆使され、その脆弱性が悪用されたことになります。とりわけ、「本人確認の脆弱性」は、非対面取引における深刻な共通課題ですが、報道によれば、実態として、利用者に免許証や顔などの写真を送らせてはいるものの、不鮮明な画像(偽造されたものかどうかの判別はできない)や、横顔の写真でも口座を開設できるケースもある(他人がなりすましできる可能性が高い)とのことです。

 このような状況を見る限り、仮想通貨取引においては本人確認手続きが形骸化しているものと推測されます。ただ、犯収法の改正により、今後、利用者に免許証のコピーなどを取引所に送付させた上、記載された住所に居住しているか郵便物を送付して確認するなどの本人確認手続きが義務化されましたので、ある程度の抑止にはなるものと期待したいのですが、似たような構図を持ち、既に様々な対策が講じられているものの不正を食い止められないネット通販の不正利用の例もあり、ネットによる本人確認手続きについては、さらなる厳格化に向けて知恵を絞る必要があります。
 なお、「闇サイト」については、以前の本コラム(暴排トピックス2016年9月号)でも、「ダークウェブ」をご紹介しましたが、ダークウェブへのアクセスは匿名化され、追跡が著しく困難になっていることから、世界中から犯罪者が集まり、拳銃からドラッグ、コンピュータウイルス、盗んだクレジットカード番号や銀行口座や身分証明書情報など非合法コンテンツがやりとりされていると言います。

 反社会的勢力は、常に新たなサービスやスキームを研究しならが、新たな犯罪を生み出していますが、それを支えるのが、それぞれの分野に専門家がいて高度化・巧妙化・進化し続ける「犯罪インフラ」であり、対する捜査当局や事業者も、新たなサービスやスキームの利便性や、その裏に潜む脆弱性・悪用リスクを認識し、対策を講じ続けていくことが求められています。

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(10) その他のトピックス

1)市議会議員に暴力団対策法に基づく中止命令

前回の本コラム(暴排トピックス2016年10月号)で、「常識を疑う」ものとして、三重県紀北町の町会議員が、拳銃と実弾を所持していたとして逮捕された事例を紹介しました。
 さらに、「(拳銃等の所持など)暴力団との関係も疑われ、議員という公人としての資質だけでなく、一人の大人としても常識を欠いていることは明らかであり、そのような人物を3期も当選させた有権者の常識もまた疑われ、批判されても仕方のないところでしょう」と指摘しましたが、今度は、京都府京田辺市議会議員(3期目)が暴力団と共謀したうえ傷害の疑いで暴力団員らとともに逮捕されています。

 さらには、無許可でマンションの解体工事を請け負ったとして、建設業法違反容疑で京都府警に逮捕され、罰金50万円の略式命令を受けたほか、京都府警が、同市議に対して、暴力団組員が現金を要求する現場に立ち会い、手助けしたとして、今後同様の行為をしないよう暴力団対策法に基づく中止命令を発出しています(現職市議が中止命令を受けるのは極めて異例だと思われます)。なお、同市議会が辞職勧告を決議する前に、同市議は議員辞職願いを提出し、受理されています。

 紀北町町議同様、同市議については、公職に就く資格も資質もないうえ(財産、権力、社会的地位等の保持には社会的責任が伴うという意味の「ノブレス・オブリージュ」にふさわしい振る舞いを、と言いたいとことですが、そもそもこの言葉の持つ意味や重さを理解できるだけの素養のない人に公職に就く資格はありません)、一人の大人としての常識を疑いますし、それを許した土壌・背景事情等についても、今後十分な検討が必要だと言えます。

2)暴追センターによる事務所撤去

 平成24年の改正暴力団対策法によって、国家公安委員会の認定団体(各地の暴追センター)が住民の代わりに裁判を起こせるようになった「代理訴訟制度」が導入されました。今年1月、火炎瓶が投げ込まれる事件が起きた福岡市の指定暴力団山口組系一道会事務所について、福岡地裁が、福岡県暴力追放運動推進センター(暴追センター)の申し立てに基づき、組事務所としての使用を禁じる仮処分決定を出しました(代理訴訟制度に基づき、暴力団組事務所の使用禁止を認めた仮処分決定は全国で初めてとなります)が、一道会が福岡市の本部事務所を撤去したことが確認されたということです。
 報道によれば、事務所として使っていた建物の解体工事が進んだためで、周辺住民の代わりに事務所の使用禁止を求めていた福岡県暴追センターは、福岡地裁に申し立てていた仮処分を取り下げています。一方で、一道会が別の場所に事務所を移転させた可能性があり、今後、福岡県暴排条例違反等がないかも含めてのさらなる注視が必要な状況となっています。

3)自治体による暴力団事務所の買い取り

 特定危険指定暴力団工藤会傘下の極政組事務所用地の買い取りを進めてきた福岡県中間市が、所有者の同組幹部と売買契約を締結しています。現在、鉄骨2階建ての事務所が建ったままですが、報道によれば、年度内に建物や付属物を解体し、更地として市側に引き渡す契約となっているということです。自治体が組事務所を買い取った事例としては、過去に、同じく福岡県の芦屋町の事例があります。指定暴力団福博会系の太住会誠会(所有者である元組長は既に死亡し、組は解散状態で事務所も空き家状態)から組事務所の買い取りを要請されていたことを受け、同町が、家屋の取り壊しを条件に土地を約174万円で買い取ることを決めたというものです。
 報道によれば、当時、町長は、「別の暴力団に組事務所として使われる恐れもあり、周辺住民の精神的苦痛も続く」とし、利益供与に該当しないよう買い取り条件を含め慎重に買い取りを決定したということですが、今回の事例も、暴排条例によって新たな組事務所の新設が困難な中、他の組事務所に利用されることを防ぐこと、住民の不安を解消すること、利益供与にあたらないような慎重な買い取り条件等の検討、極政会が新たな事務所を作らないように注視する、といった様々な角度から検討が進められたようです。今後、離脱者の増加による組の活動の縮小や廃業する組の増加などが予想される中、自治体と地域住民による同様の積極的な暴排の取り組みが進むことを期待したいと思います。

4)携帯電話からの暴排

 電気通信事業法では正当な理由がない限り契約を拒否できないと規定されており、携帯電話も例外ではありません(ただし、個人的には、携帯電話は暴力団の活動によく利用されており、「活動助長性」の最たるものだと言えること、電気やガス・水道等とは異なり、生活に必要不可欠な「生活インフラ」とまでは言えず、むしろ生活には必要なものではあるが暴排の対象となっている「預金口座」と同様の取り扱いをすべきではないかと考えています)。したがって、「携帯電話からの暴排」という場合は、本体の購入代金を分割で支払う「割賦販売からの暴排」という形をとることになります(もちろん、現金で一括払いの場合は暴排の対象外となってしまいますので、暴力団員も携帯電話を購入することができています)。
 そのような中、愛知県警が、暴力団員の身分を隠して携帯電話を購入したとして、詐欺の疑いで、指定暴力団神戸山口組幹部で直系組織組長と指定暴力団六代目山口組傘下組織の組長ら組長4人を逮捕したということです。携帯電話販売店で、店員から暴力団員とは分割購入契約をしないと説明を受けながら申し込み、それぞれ携帯電話1台をだまし取ったというものです。このあたりの構図は、「預金口座からの暴排」と全く同様であり、割賦契約への暴排条項の導入、店頭での説明等を適切に実施することによって、詐欺罪が成立することになると考えられます。

5)割賦販売法の改正

 クレジットカード情報の漏えい事案の多発やATM不正引き出し事件でも問題となったクレジットカードの不正使用被害防止の観点を含め、以前から懸案となっていた割賦販売法の改正案が閣議決定されています。

経済産業省 「割賦販売法の一部を改正する法律案」が閣議決定されました

法律案の概要は以下の通りです。

1) クレジットカード情報の適切な管理等

販売業者に対し、クレジットカード番号等の適切な管理及び不正使用の防止(決済端末のIC対応化等)を義務付ける

2) 販売業者に対する管理強化

クレジットカード番号等の取扱いを認める契約を締結する事業者に登録制度を設け、その契約を締結した販売業者に対する調査及び調査結果に基づいた必要な措置を行うこと等を義務付ける

3) FinTechの更なる参入を見据えた環境整備

  • 十分な体制を有するFinTech企業も前項の登録を受け、法的位置付けを獲得することを可能とする
  • カード利用時の販売業者の書面交付義務について電磁的方法による情報提供も可能に

4) 特定商取引法(「特商法」)の改正(本年6月)に対応するための措置

特商法の改正により、不当な勧誘があった場合の消費者の取消権等が拡充されたことに合わせ、こうした販売契約と並行して締結された分割払い等の契約について、割賦販売法においても同様の措置を講じる

 経産省の問題意識にもあるように、日本では、クレジットカード決済端末のIC対応が遅れており、国際的な犯罪の標的にされるリスクが高まっています。実際に、ATM不正引き出し事件で日本のATMが狙われた理由については、「ATMのネットワーク管理が甘く、不正分析ソフトに見破られないこと」「旧式で安全性が低い『磁気ストライプ』のカードが通用し、クレジットカードの暗証番号を検証する『Chip and PIN(チップ・アンド・ピン)システム』への対応が遅れていること」「実行犯である『出し子』を手配するネットワークが出来ていること」といった諸条件が揃っているからだと本コラム(暴排トピックス2016年6月号)で既に指摘しています。明らかに日本が海外の犯罪組織のターゲットとなっていることを示した本事件をふまえ、すでに各社が対応を始めている「引き出し限度額の見直し」(といった小手先の対応)だけでなく、不正防止・監視・検知・対応といったいずれの対策の質も向上させていく必要があり、今回の法改正は最低限の出発点を示したものと評価できると思います。

 また、本コラムでは、以前から、クレジットカード「加盟店」あるいは「決済代行会社(包括加盟店)」の健全性をどう担保していくかが大きな問題だと指摘してきました。例えば、クレジットカード会社は出会い系サイト等との加盟店契約を締結しないルールになっていますが、現実にはカードが利用可能です。この背景には、「海外の決済代行会社」が、緩い加盟店管理のもと、それらと加盟店契約を締結、カードの利用を認めている現実があり、さらにクレジットカード会社がそれを黙認している状況があり、それらの脆弱性を「犯罪インフラ」として反社会的勢力が利用している現実があります。
 このような、信販業界・貸金業界における反社チェックの甘さ、反社会的勢力への対応の甘さは極めて重大な問題であり、加盟店等の管理の厳格化は正に喫緊の課題であったと言えます。今回の法改正においては、加盟店に対し、クレジットカード番号等の情報管理や、自らの委託先に情報管理に係る指導等を行うことを義務付ける、加盟店に対しクレジットカード番号等を取り扱うことを認める契約を締結する事業者について、登録制度を創設するとともに、当該加盟店への調査を義務付ける、といった加盟店等の管理の厳格化、悪質加盟店等の排除に踏み込んだ点もまた評価できるものと思われます。

6)忘れられる権利の動向

 グーグルで氏名などを検索すると、10年以上前の振り込め詐欺の逮捕歴に関する記述が表示されるのは人格権の侵害だとして、会社経営の男性が米グーグルに検索結果の削除を求めた訴訟で、東京地裁は、請求を棄却する判決を言い渡しています。報道によれば、判決では、「削除の可否は、事件の意義や削除請求者の社会的影響力などを総合考慮し、表現の自由や国民の知る権利も踏まえて決めるべきだ」と指摘したとされ、その上で、振り込め詐欺など特殊詐欺の被害が現在も深刻なことや、男性が現在、社会に一定の影響を与える会社経営者の地位にあることなどから、「検索結果が表示されなくなる不利益の方が、男性が被る不利益よりも大きい」と結論付けたということです。男性側は控訴する方針だということですが、本判断については、本コラムでこれまで主張してきた通りであり、納得できるものと評価したいと思います。

 以前から指摘している通り、「忘れられる権利」においては、「時間の経過」による「公益性」の減少とその比較考量といった考え方がひとつの基準になっていると言えますが、例えば、踏み込んだ議論がいまだ不十分な中、そもそも「公益性の高い属性・情報」の代表格である「反社情報」が、個別事情における厳格な比較考量を行うことなく、(勝手に)「5年という基準」(時間の経過)によって「公益性」がないものと判断されてよいのか、そして、「時間の経過による公益性の減少」の議論が深まることなく、司法判断において、「既成事実化」しつつある状況については、大きな危機感を覚えています。そのひとつの例として、今年3月に、さいたま地裁が、グーグルで自身の逮捕(3年以上前に児童買春・ポルノ禁止法違反の罪で罰金の略式命令が確定した事案)に関する記事の検索結果の削除を男性が求めた仮処分申し立てにおいて、「犯罪の性質にもよるが、ある程度の期間の経過後は、過去の犯罪を社会から『忘れられる権利』がある」と判断し、削除を認める決定をした事例があげられます。

 しかしながら、本件に関する最近の東京高裁の判決では、「男性の犯罪の性質は公共の利害に関わる」などと判断し、削除を認めたさいたま地裁決定を取り消し、忘れられる権利についても、「権利は法的に定められたものではない」とする(言わば真逆の)判断を示しています。この東京高裁の判断は、「児童犯罪の逮捕歴は公共の利害に関わる(親の関心が高い)こと」「時間経過を考慮しても、逮捕情報の公共性は失われていないこと」などをその理由にあげています。冒頭の東京地裁の判決についても、10年以上前の記事であっても(時間の経過を考慮したとしても)「公益性」が失われていないとして、「忘れられる権利」より「知る権利」を認めたものであり、「時間の経過」による「公益性」の減少にかかる比較考量がより厳格に検討されつつある流れにあるものと考えられます(もちろん、今回の2件は「児童ポルノ」「特殊詐欺」という社会的に関心の高い犯罪であったことが大きいと言えます)。

 それでもなお、「忘れられる権利」については様々な事例の積み重ね・検証が必要な問題であり、以前の本コラム(暴排トピックス2016年9月号)でグーグル社の法務顧問のインタビューを取り上げましたが、「グーグルが持つコンテンツではなく、他者のコンテンツに対する判断をしている」ことの困難性、「裁判所の手続きとは大きく異なり、当事者がいない。削除依頼を出した人の話に依拠して判断しなければならない」問題、「時間の経過」と「公益性」の比較考量の判断が検索事業者の判断に委ねられていることの問題、削除の範囲は記事(違法な記載部分)だけでよいのか、タイトルやアドレスも含めるのか(アクセスの容易性まで考慮すべきか)といった問題などが指摘されていることとあわせ、今後もその動向に注視していきたいと思います。

7)事業者と反社会的勢力の関係

 反社会的勢力と企業の接点については、様々な形態がありますが、最近でも、いくつか興味深い事例が報道されています。

 東証マザーズ上場でネット通販を手掛けるA社の株価を不正につり上げるなどした疑いがあるとして、証券取引等監視委員会と警視庁は、金融商品取引法違反(相場操縦)の疑いで、会社役員の男性の事務所など関係先を家宅捜索し、強制調査に乗り出しています。この相場操縦には反社会的勢力が関与した疑いがあるということです。同社は、平成26年以降、株式分割を繰り返し、資本金も増強していますが、一方で株価は乱高下を繰り返しており、当時100円弱で推移していた株価が500円台に急騰するなど、怪しい値動きをしており、相場操縦が疑われていました。さらに報道(平成28年10月27日付産経新聞)によれば、A社周辺には以下のような不審な人脈の関与が疑われる事案が頻発していたとされます。

  • 暴力団と連携した不法行為で利益を上げる「特殊知能暴力集団」に警察当局が認定している人物とその息子の男性会社役員が拠点としている事務所にも今回家宅捜索が入ったという
  • A社の社長が役員を務める別の企業は過去に粉飾決算で金融庁の処分を受けている
  • A社の大株主に、戦後最大級の資金を集めて破綻し、経営陣が摘発された「安愚楽牧場」の関連会社の役員の名前がある
  • A社役員が経営陣に参画する別の企業も金融庁の処分を受けている
  • A社自体も東京国税局から約1億5千万円の所得隠しを指摘されたほか、金融庁から有価証券報告書の虚偽記載で課徴金納付命令を受けている

 これらの端緒について、一つひとつは、それだけでA社を反社会的勢力と認定するのは難しいものと言えます(もちろん、A社は反社会的勢力に乗っ取られた、好いように利用された「被害者」という側面もあるかもしれません)。しかしながら、これだけのコンプライアンス上怪しい状況がA社とその周辺に多数見受けられるのであれば、(A社が「被害者」であるかどうかではなく、あるいは、A社が明確に反社会的勢力であると認定できるかどうかに関わらず)A社との取引によって、自社が、反社会的勢力を助長する可能性や自社の健全性を疑われる可能性があるとして慎重に判断する姿勢が求められます。
 したがって、反社チェックの実務の面から言えば、「相手先の役員や株主等の過去の状況等にまで確認することの重要性」「反社属性のチェックだけでなく、コンプライアンス上の懸念事項等、疑わしいとする情報収集の範囲を拡大することの重要性」といった反社チェックのあり方について、今後、検討していく必要があることを示唆していると言えると思います。

 なお、以前の本コラム(暴排トピックス2016年5月号)でもお話していますが、反社会的勢力の捉え方として、暴力団等を背景とした、いわゆる仕手筋や事件屋、広い意味での反市場勢力、あるいは、悪質な「地上げ」や「土地転がし」、不正な株価操作、不動産ファンドに係る証券を利用して不適切な資金獲得活動やマネー・ローンダリングを行う者などの排除も念頭に置くことも現実的には有効であり、「金融市場や不動産市場等において社会公共の利益に反する取引等を行っているもの、又は行っていたことが明らかになったもの、今後行われるおそれがあるもの」といった定義の仕方も(具体的な例示も含めて)考えられるところです。
 また、反市場勢力の定義が明確でないことから、第三者による認定を待つのではなく、ネット上の風評などを大量保有報告書等の公的資料と照合するなどして事実を確認し、彼らが投資している他の企業に関する情報も収集しながら、自律的に厳しく判断していくことになると言えます(可能であれば、証券会社等の金融機関に相談することも考えられます)。さらに、金融市場の秩序を乱す者としては、以下の金融庁「金融商品取引法上の課徴金制度の対象となる違反行為」の類型を参照に判断する、不動産市場については、国土交通省「不動産取引からの反社会的勢力の排除のあり方検討会とりまとめ」(平成21年3月)の趣旨をふまえ判断するとすることも一考です。

金融庁「金融商品取引法上の課徴金制度」における「制度の対象とする違反行為」

  • 不公正取引(インサイダー取引、相場操縦(仮装・馴合売買、違法な安定操作取引等)、風説の流布又は偽計)
  • 有価証券届出書等の不提出・虚偽記載等(発行開示義務違反)
  • 有価証券報告書等の不提出・虚偽記載等(継続開示義務違反)
  • 公開買付開始公告の不実施、公開買付届出書等の不提出・虚偽記載等
  • 大量保有報告書等の不提出・虚偽記載等
  • プロ向け市場等における特定証券等情報の不提供等、虚偽等及び発行者等情報の虚偽等
  • 虚偽開示書類等の提出等を容易にすべき行為等
  • 情報伝達・取引推奨行為

 なお、本事案とは別に、10年以上前に「反市場勢力」とされた連中が、最近また活動を活発化させている状況にあることをあらためて指摘しておきたいと思います。関連して、上場企業を対象とする反社チェックの一つの手法(端緒情報の収集)として、「開示情報の精査」があり、以下のような開示情報があった場合に、内容をよく精査する必要あるとご認識いただきたいと思います。

  • 取締役・監査役の不自然な交代(特に、複数の取締役・監査役の一斉辞任、CFO(最高財務責任者)やCTO(最高技術責任者)等のビジネスの中核となる人物の辞任等)
  • 商号変更(特に、度重なる変更や事業内容との関連性が低い変更等)
  • 大幅な業態転換
  • 主要株主の(頻繁な)変動
  • 売掛先、買掛先、借入先、貸出先の(疑わしい先等への)変動
  • 株価の急激な変動
  • (発行条件が不利、割当先が疑わしい等の)第三者割当増資、新株予約権の発行・乱発あるいは中止
  • (無謀な)大規模増資
  • (具体性・関連性・実現可能性に乏しい)業務提携および資本提携、新規案件
  • 期中での会計監査人の交代、頻繁な交代、後任監査人が未定
  • (突然の)臨時株主総会開催
  • 訴訟の提起

 さらに、本事案以外でも、以下のような事例や報道がありましたので、ご紹介しておきます。

  • 産業廃棄物を空き地に捨てたなどとして、廃棄物処理法違反容疑で、指定暴力団山口組系組長と指定暴力団稲川会系組幹部ら男5人が逮捕されています。産廃業者に、産廃の投棄現場として空き地をや土地などを紹介していたということです。当該事業者は、両容疑者のあっせんで大量の産業廃棄物を違法に投棄する一方で、両容疑者に見返りとして報酬を支払っていたということです。この産廃業者については、明らかに「表面的には暴力団との関係を隠しながら、その裏で暴力団の資金獲得活動に乗じ、又は暴力団の威力、情報力、資金力等を利用することによって自らの利益拡大を図る者」(平成19年版警察白書)であり、すなわち「共生者」の典型だと言えます。
  • 委任状を変造し、砂利などの採石権を他社から取得したと嘘の登記をしたなどとして、有印私文書変造・同行使と電磁的公正証書原本不実記録・同供用の疑いで、建設会社の代表取締役ら男4人が逮捕されています。採石権を利用して暴力団関係者に利益を流そうとした可能性もあるということです。

8)大麻(マリファナ)を巡る動向

 大麻(マリファナ)の合法化を巡る海外の動向やゲートウェイドラッグとしての危険性(その依存性の高さ、薬物への罪悪感や抵抗感がなくなることなどから、コカインやヘロインなどより強い違法薬物を使用するきっかけになる)などについては、本コラムでもたびたび取り上げてきましたが、その大麻を巡って、最近、国内外で様々な動きがありました。

 日本では、元女優が大麻取締法違反(所持)の疑いで厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部に現行犯逮捕された事案が世間を賑わせました。同容疑者は、今夏の参議院議員選挙に立候補し、「医療用大麻の解禁」を公約に掲げていました(ただ、彼女の場合、ブログで「私個人の感覚からしましては、お酒、たばこ、チョコレートよりも安心で安全で多幸感を得られる、そしてアンチエージングには最高の植物だと信じております。日本は今自殺や、うつ患者、いじめが増え続けています、これらに大麻が有用である事は証明済みなのです!!」と書き込んでいたようであり、本気で医療用大麻の解禁を考えているとは思えません)が、確かに大麻はがん患者の痛み抑制に効果が認められており、海外では合法化されている国や自治体もあります。
 一方、厚労省や専門家は、その有効性に疑問を呈した上で、依存性など人体への影響に注意を呼びかけるほか、医療用大麻の中の麻薬成分の比率が近年増加傾向にある(依存性が高まっている)といったデータなども公表されているなど、その負の側面が払しょくされているわけではありません。

 そのような中、米国では、大麻が中毒症状を引き起こす麻薬かどうかの論争は続いているものの、とりあえず医療目的に限って州単位で解禁するという動きは全米各州で広がっているのは事実です。最近の報道(平成28年10月13日付ロイター通信)によれば、最新の米国の世論調査では、大麻使用の合法化を支持する国民が全体の57%に達し、反対の37%を上回りました。10年前の賛否の比率は32%対60%だったということですので、わずか10年の間に世論が逆転したことになります。
 さらに、米国では、大統領選挙と同時に実施される娯楽用の大麻の合法化を問う住民投票に関心が集まっています。コロラド州が2014年1月に全米で初めて一般への大麻販売を解禁したところ、同州の税収が大幅に増え、追随する州が続出しており、今回は全米一の人口と経済規模を誇るカリフォルニア州をはじめ、アリゾナ、ネバダ、マサチューセッツ、メーンの計5州で住民に賛否を問う住民投票が行われます。なお、現在、一般人が嗜好品として楽しむ娯楽用の大麻を解禁しているのは、コロラド、オレゴンなど4州と首都ワシントンで、患者の苦痛緩和のための医療用大麻については、25州と首都ワシントンで合法化されています。

 また、医療用大麻の観点以外にも、「犯罪組織の弱体化」の観点から大麻の合法化を進める取り組みも進んでいます。中南米などでは麻薬密売組織の問題が深刻であり、大麻の合法化によって価格を暴落させて市場から駆逐すること、それによって密売組織を弱体化させることを目指しています(一方で、コロラド州の例のように税収確保の側面もあると思われます)。例えば、ウルグアイは、2013年に国家として世界で初めて大麻を合法化し、国の監視下にある民営施設で大麻を栽培し、指紋認証をした利用者に薬局で大麻を販売、一ヶ月に最大40グラムまで購入することが可能になるようにしました。

 さらに、国内では、町おこしの一環として大麻を栽培していた大麻加工品販売会社の会社代表と従業員2人が使用のため大麻を隠し持っていたとして、厚生労働省中国四国厚生局麻薬取締部に大麻取締法違反(所持)容疑で現行犯逮捕されています。容疑者らは60年ほど前まで鳥取県智頭町内で盛んだった産業用大麻栽培(茎の繊維を麻製品の原料にしたり、実を焙煎して油にしたりする事業)を知り、挑戦していたということで、伝統文化の保存に期待した町の後押しも得ていたということです。
 また、報道によると、2014年末の大麻栽培者免許の保持者は全国で33個人・法人あり、中国地方では、同社のみが保持していたということです。自治体も裏切られた形となりますが、鳥取県知事は本件を受けて、速やかに、同県内で大麻栽培を全面的に禁止する方針を打ち出しました。関係条例を改正し、毒性が低い産業用大麻も栽培できないようにするということであり、大麻栽培の全面的禁止は全国初となります。

 また、前回の本コラム(暴排トピックス2016年10月号)では、「そもそも、『薬物に手を出さない』ことは常識と思われるところ、薬物犯罪や従業員等の薬物の問題が後を絶たない現実をふまえれば、その常識を疑い、『手を出してしまう』ことを前提として、組織がどこまで取り組めるかが、今後、一層問われるようになると思われます」と指摘しましたが、最近、北国新聞社の取締役が危険ドラッグ輸入の疑いで逮捕されるという驚くべき事案がありました。
 本コラムでたびたび指摘している通り、残念ながら、組織の中には、「常識」が異なる異分子が一定程度存在する現実があります。リスク管理上、認識しておくべき重要な点に、このような異分子の存在を無視してはならない(意識や認識、常識のレベルは画一ではないと認識すべき)ということがあげられますが、その異分子が取締役であっても例外ではないという点で、(発覚の経緯や業務執行状況などの詳細は不明ですが)リスク管理の難しさをあらためて示すものと言えます。

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3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

(1) 兵庫県の勧告事例

 指定暴力団神戸山口組直系団体である「西脇組」の傘下組織事務所の内装工事を請け負ったとして、兵庫県公安委員会は、神戸市内で内装業を営む男性に対し、兵庫県暴排条例に基づき、暴力団事務所などの工事を請け負わないよう勧告しています。男性は、知人を介して依頼を受け、暴力団事務所であると知りながら壁紙の張り替え工事をしたということで、報道によれば、長田署員がパトロール中、工事のために事務所に出入りする関係者の姿を確認し、発覚したということです。なお、神戸山口組に絡む勧告は今年3件目となります。

兵庫県暴排条例

 なお、参考までに、同県暴排条例においては、第18条に、「準暴力団事務所等における禁止行為」として、「指定暴力団の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、指定暴力団の準暴力団事務所又はその周辺において、著しく粗野若しくは乱暴な言動を行い、又は威勢を示すことにより、付近の住民又は通行人に不安を覚えさせる行為をしてはならない」との規定があり、続く第19条において、本規定に違反した行為があれば、「中止命令」を発出し、この命令に違反した場合には、罰則を科すことができることになっています(全国でも珍しい条項だと思われます)。
 なお、この「準暴力団事務所」とは、「暴力団の幹部が、連絡、待機等の暴力団の活動に使用 する施設など、暴力団事務所に準ずるもの」と定義されており、暴力団事務所又はその周辺における指定暴力団員の同様の行為については、既に暴力団対策法で禁止されているところ、正に暴力団の実態をふまえた規制であり、暴力団事務所の新設等が今後ますます困難となる状況において、その有効性・実効性は増していくものと思われます。

(2) 福岡県の中止命令発出事例

 指定暴力団道仁会傘下組織の組員が、暴力団の威力を示して特別の利益を要求した疑いがあるとして、福岡県警が暴力団対策法に基づく中止命令書を発出しています。報道によれば、「上がコンサートチケットを欲しがっている。100枚用意しろ」「用意できなかったら、どうなるか分かっているだろうな」「(チケット代金は)お前が出すに決まっている」などと、暴力団の威力を示し、福岡県内に住む男性にチケット100枚を用意するよう要求したということです。

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