暴排トピックス

金融庁の「コンプライアンス・リスク管理基本方針」

アバター 取締役副社長 主席研究員 芳賀恒人

2018.08.08
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1.金融庁の「コンプライアンス・リスク管理基本方針」

金融庁は、「コンプライアンス・リスク管理に関する検査・監督の考え方と進め方(コンプライアンス・リスク管理基本方針)」(案)を公表しました(8月13日までパブコメ手続き中)。本文書は、 「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」の「各論」に位置づけられる文書であり、先日公表された「健全性政策基本方針」に続く、「ディスカッション・ペーパー」の第2弾となります。

▼ 金融庁 「コンプライアンス・リスク管理に関する検査・監督の考え方と進め方(コンプライアンス・リスク管理基本方針)」(案)の公表及び意見募集について
▼ 「コンプライアンス・リスク管理に関する検査・監督の考え方と進め方(コンプライアンス・リスク管理基本方針)」(案)

本文書は、「利用者保護と市場の公正・透明に関する分野、その中でも特に、法令等遵守態勢や顧客保護等管理態勢として扱われてきた分野」を扱っており、リスク管理体制の高度化を実現するためには、「金融機関の経営陣においては、コンプライアンス上の重大な問題事象は、ビジネスモデル・経営戦略と表裏一体のものとして生じることが少なくなく、コンプライアンス・リスクは、基本的にこれらに内在するものであることを認識する必要」があると強調しています。

そこで、以下、本文書に基づき、金融庁の求めるコンプライアンス・リスク管理のあり方を確認し、金融機関以外の全ての事業者にとって共有すべき「コンプライアンス・リスク管理の本質」を考えてみたいと思います。

まず、本文書では、これまでの金融機関のコンプライアンス・リスク管理については、以下の傾向がみられたと指摘しています。

  1. 過度に詳細かつ厳格な社内規程の蓄積、形式的な法令違反の有無の確認、表面的な再発防止策の策定等の形式的な対応が何重にも積み重なり、いわゆる「コンプラ疲れ」が生じている
  2. 発生した個別問題に対する事後的な対応に偏重している
  3. コンプライアンスの問題をビジネスモデル・経営戦略とは別の問題として位置づけ、コンプライアンスの対象を狭く捉え(「コンプライアンスのためのコンプライアンス」)、さらに、経営陣及び事業部門の役職員が、コンプライアンス・リスク管理を担う責任は自分自身にあるという主体的な意識を持たず、コンプライアンス部門・リスク管理部門等の管理部門中心のサイロ的・部分的な対応になっている

率直に現状をこのような表現で総括している点にむしろ金融庁の「本気」を感じます。「コンプラ疲れ」や「コンプライアンスのためのコンプライアンス」、「主体的な意識をもたず」、「サイロ的・部分的な対応」といった指摘は、すべての事業者のコンプライアンス・リスク管理のあり方(反省・課題)に通じるものではないでしょうか。これに対し、金融庁は、「金融機関の経営陣における、「コンプライアンス・リスク管理は、まさに経営の根幹をなすものである」との認識に基づいた経営目線での対応が極めて重要」であると指摘、さらに、「金融機関の経営陣においては、コンプライアンス上の重大な問題事象は、ビジネスモデル・経営戦略と表裏一体のものとして生じることが少なくなく、コンプライアンス・リスクは、基本的にこれらに内在するものであることを認識する必要」があるとも強調しています。つまり、コンプライアンス・リスク管理はすでに「経営の根幹をなすもの」であって、「ビジネスモデル・経営戦略と表裏一体のもの」であって、すべての事業者においても、コンプライアンス・リスク管理をビジネスモデル・経営戦略と一体のものとして位置づけるべきものだと言えます。さらに、経営陣に対しては、「短期収益重視のメッセージを過度に発する等、事業部門の役職員に無理な収益プレッシャーを与えてしまう結果、役職員が不適切な判断や行動を行い、問題事象が生じる可能性」や、「収益を拡大している業務・部門において、事業の拡大・変化に内部管理態勢が追いつかず問題事象が生じている可能性」を厳しく認識する必要があると指摘しています。企業不祥事の発生要因としてはこれらの問題が指摘できるケースがほとんどであり(例えば、前者は商工中金の事例が、後者は仮想通貨事業者の事例が当てはまると言えます)、「経営陣において、ビジネスモデル・経営戦略から、どのようなリスクが生じ得るか、十分な想像力を巡らせて考えることが重要となる。また、ビジネスモデル・経営戦略を検討する際にも、コンプライアンス・リスクを含むリスクについて幅広く検討し、前広に考慮していく必要がある。その際、抽象的な事実ではなく、具体的な事実(数字・金額等)を踏まえることが重要」との指摘は、まさに実務上認識しておくべきものと言えると思います。

また、管理職レベルについても、「中間管理者には、経営陣が示した姿勢を自らの部署等の業務に合わせて具体的に理解し、日々の業務の中でそれを自ら体現することを通じて浸透させることが求められる」と指摘しています。これは、問題意識としてあった「形式的な対応の積み重なり」と真逆のものであり、自ら具体的に咀嚼すること、日常業務の中でそれを体現することなくして、経営陣のメッセージは伝わらないということであり、経営陣と従業員の間に位置する管理職としての心構えを説くものとして重要だと言えます。また、人事については、「経営陣が示した姿勢やあるべき企業文化と整合的な形で人事・報酬制度を設計し、実際に運用することが重要」であること、内部通報制度の重要性にも触れ、「事案の背景には、問題事象を感知した者が、通報の適正な取扱いや通報者の保護に関する懸念を拭えないという事情があると考えられ、内部通報制度が機能するためにも、上記のような経営陣や中間管理者が示す姿勢が重要」と述べています。そして、「健全で風通しの良い企業文化が醸成されていればコンプライアンス・リスクの抑止に繋がる一方、収益至上主義あるいは権威主義の傾向を有する企業文化がコンプライアンス上の問題事象を誘発することもある。経営陣は、経営方針を踏まえた、あるべき価値観・理念や企業文化を明確にし、その醸成に努めることが重要」であると強調しています。

また、三線管理(三つの防衛線)のうち、第一線である事業部門に対しては、「事業部門自身による現場での管理態勢については、事業部門の役職員自身が、コンプライアンス・リスク管理の責任を担うのはまさに自分自身であるという主体的・自律的な意識の下で、業務を実施していくことが重要」と指摘しています。本コラムにおいても、コンプライアンス・リスク管理の徹底・実践においては、現場の「意識」と「リスクセンス」が何より重要であり、いかにして現場の「目利き力」を質的に向上させるかがキーとなると述べてきましたが、そのためには、本文書の指摘のとおり、「主体的・自律的な意識」が求められるのだということをあらためて認識いただきたいと思います。また、第二線である管理部門については、「管理部門は、事業部門の業務及びそこに潜在するリスクに関する理解と、リスク管理の専門的知見とを併せ持つことが求められる。管理部門がこれらの重要な機能を十分に果たすためには、経営陣が主導して、管理部門の役職員に十分な権限や地位を付与するとともに、その独立性を担保することや、十分な人材を質及び量の両面において確保することが必要」だと述べています。第一線に大きなインセンティブを与え管理部門を最低限の陣容とする事業者も多い中、管理部門に対して質・量ともに十分な態勢を求めている点が注目されます。また、リスク管理の専門的知見と現場への深い理解が管理部門に求められていることは、あらためて指摘するまでもないとは思いますが、人事ローテーションなど各社の事情もあり、両方を兼ね備えた人材が不足しているのが実態ではないかと思われます。だからこそ、本文書の指摘のとおり、第二線としての役割を管理部門が果たすためには「経営時の関与」が絶対的に必須だと言えるのです。そして、第三線の内部監査部門を含め、三線管理のあり方として、「根本的な原因の分析を行うためには、経営陣が中心となり、事業部門、管理部門及び内部監査部門等の幅広い役職員による対話・議論を通じて、問題事象に至った背景・原因を多角的に分析・把握する企業文化を醸成することが重要」だと指摘しています。個人的には。「幅広い役職員による対話・議論」の重要性については、この指摘によって気付かされました。それぞれの部門が自らの役割を果たす中でしっかりと主体的かつ自律的に取り組めばよいと考えられるところ、自部門以外の部門と互いの立場から対話・議論をすることによって、もっとよいものが生み出される可能性がある点を指摘しています。つまりは、円滑かつ適切な「コミュニケーション」と健全な議論「コンフリクト」を通じて(対話・議論を通じて)、「ダイバーシティ」にとどまることなく、「インクルージョン」していくことによって、より本質に迫った取組みが可能となる(多面的に分析・把握する企業文化を醸成すること)ものと考えます。

また、本文書では、それ以外にも、「金融グループにおいては、全体を統括する経営陣が、グループのコンプライアンス・リスク管理態勢の構築・運用を整備して、経営方針の実施に伴うリスクを的確に捕捉及び把握し、リスクが顕在化した際に適切に対応できる態勢を構築し、運用することが重要」であること、「コンプライアンス部門・リスク管理部門等の管理部門や内部監査部門と事業部門との人材のローテーションを図る取組みは、管理部門や内部監査部門に対して事業部門の実務を良く知る人材を配置することや、管理部門や内部監査部門の社内での地位を高めることを目的とするだけでなく、コンプライアンスの知見を有する人材を事業部門に供給する上で有益であると考えられる」こと、「リスクベース・アプローチの結果、不要・過剰な社内規程等の存在が明らかとなった場合には、当該規程等の改廃や金融機関の規模・特性に応じたメリハリのある対応等、より効率的な態勢を構築することも考えられる」といった指摘についても、あらためてご認識いただきたいところです。

なお、少し新しい概念である「コンダクト・リスク」にも言及がなされています。「コンダクト・リスクという概念が、社会規範等からの逸脱により、利用者保護や市場の公正・透明の確保に影響を及ぼし、金融機関自身にも信用毀損や財務的負担を生ぜしめるリスクという点に力点を置いて用いられることもある。コンダクト・リスクが生じる場合を幾つか類型化すれば、金融機関の役職員の行動等によって、(1)利用者保護に悪影響が生じる場合、(2)市場の公正・透明に悪影響を与える場合、(3)客観的に外部への悪影響が生じなくても、金融機関自身の風評に悪影響が生じ、それによってリスクが生じる場合等が考えられる」として、コンダクト・リスクに着目する必要性を指摘しています。とはいえ、コンプライアンスの意味するところが、これまでの「法令等遵守」から「社会的要請への適切な対応」という風に変遷している今、「社会規範等からの逸脱により、利用者保護や市場の公正・透明の確保に影響を及ぼしうる」事態であるコンダクト・リスクについては、(最近では仮想通貨事業者の例を挙げることもできますが)そもそも「コンプライアンス不適合」の状況であることとほぼ同義ではないかと思われます(なお、この点については、「従来から、金融機関は、その業務の公共性や社会的役割に照らし、利用者保護や市場の公正・透明に積極的に寄与すべきと考えられてきた。したがって、コンダクト・リスクは、金融機関に対する上記のような社会的な期待等に応えられなかった場合に顕在化するリスクを、比較的新しい言葉で言い換えているにすぎない」と捉える向きもあります)。このコンプライアンス不適合に関連して、リスク管理との関係について少し考えてみたいと思います。例えば、経済協力開発機構(OECD)は多国籍企業に対し、一般方針、情報開示、人権、雇用、環境、消費者利益など、幅広い分野の責任ある企業行動に関する原則と基準を「多国籍企業行動指針」として公表しています。これ自体は指針であるため、法的拘束力はないものの、環境や社会問題に配慮している企業を評価するESG投資などがグローバルに浸透していること等をふまえれば、その対応はもはや義務であると言ってよいと思います(これが正に近時のコンプライアンスの考え方だと言えます)。これに加え、今年5月には「企業は自企業が引き起こす又は一因となる実際の及び潜在的な悪影響を特定し、防止し、緩和するため、リスクに基づいたDue Diligenceを実施すべき」として「責任ある企業行動のためのDue Diligenceの手引」も公表されました。「Due Diligence」は、元々「その行為者がその行為に先んじて払ってしかるべき正当な注意義務及び努力」を意味するリスク管理用語です。社会の期待に応え責任ある行動を自主的にとることが近時のコンプライアンスであることをふまえれば、適切なリスク管理(その中に、社会的要請への適合、コンダクト・リスク管理が含まれます)がそれを支えていると言うことができると思います。

さて、これまで述べた「コンプライアンス・リスク管理基本方針」(案)は、「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」の「各論」に位置づけられる文書であるとお話しましたが、検査・監督基本方針についても簡単に確認しておきたいと思います。

▼ 金融庁 「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」

本文書では、「金融行政の質を高め、日本の金融力を高め、経済の潜在力が十全に発揮されるようにするには、どのような検査・監督とすればよいか」、「従来のやり方では、重箱の隅をつつきがちで、重点課題に注力できないのではないか。バブルの後始末はできたが、新しい課題に予め対処できないのではないか。金融機関による多様で主体的な創意工夫を妨げてきたのではないか」といった自省からはじまっています。そして、新しい検査・監督として、以下を中心に取り組むことを明記しています。

  • 普段から金融機関についての理解を深め、重点課題に焦点を当てる「全体を見た、実質重視の最低基準検証」
  • 将来の健全性を分析し、前広に対応を議論する「動的な監督」
  • 横並びでない取組みに向けた動機とヒントを提供する「見える化と探究型対話」
  • 検査マニュアルの廃止/外部からの提言・批判が反映されるガバナンスと品質管理/人材育成・確保、組織改革

そのうえで、「最低基準検証を金融行政の目標に効果的に貢献できるものとするためには、その手法を形式・過去・部分の視点に偏ったものから実質・未来・全体の視点を重視したものへと進化させる必要」があること、「チェックリストの個別項目を満たしているか否かではなく、ガバナンス、企業文化、内部管理態勢が全体として必要な実効性を有しているか否かを評価することを検証の目的とする」こと、「個別の内部規程の策定・実施状況の確認等で、金融機関自身に委ねるべきものは委ねる」こと、「一旦受けた指摘に対する対応が固定化することのないよう、金融機関が過去の報告で示した改善の方法について修正を行うための手順を整備し、状況に応じた変更を容易にする。Q&Aや法令適用事前確認手続(ノーアクション・レター制度)を利用しやすいものとしていく」こと、「個別の非違事項が見出された場合にも、一律に同程度の改善策を求めるのではなく、ガバナンスや企業文化を含めた根本原因に遡って分析し、その重要性を判断して、重要性に応じた対応を行う。根本原因の分析にあたっては、事実に基づき金融機関との間で十分議論を行い、安易に個別事案とガバナンス・企業文化を結びつけるのではなく、真に解くべき課題の構造をよく見極める・個々の問題事象の検証と同種の問題の再発防止のみに集中するのではなく、問題事象の根本原因の追求を通じて、同原因の問題が形を変えて発生することを防ぐことが重要であり、将来に向けた実効性ある改善策を議論し、改善状況を継続的にフォローアップする」こと、「個別の規定の適用にあたっても、趣旨・目的に遡って法令の全体構造を把握した上で、保護すべき重要な利益を特定し、対応を判断」することなどが強調されています。いずれも、これまでの「重箱の隅をつつく」ような検査・監督のあり方の真逆のあり方と言えると思います。

さて、AML/CFTの項で例月取り上げている金融庁と業界団体との意見交換会の内容の紹介ですが、それ以外のコンプライアンス・リスク管理に関する部分をピックアップして紹介したいと思います。

▼ 金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼ 共通事項(主要行/全国地方銀行協会/第二地方銀行協会/生命保険協会/日本損害保険協会/日本証券業協会)
  • 金融検査(モニタリング)については、数年前から、重要なリスクに焦点をあてた検証の実施や、当局と金融機関の間における双方向の議論の充実、金融機関の負担に配慮したメリハリのある検証等の方針を掲げてきた。また、近年はオンサイトとオフサイトを機動的に組み合わせる「オン・オフ一体の継続的なモニタリング」の実施を掲げ、社会・経済環境の変化に合わせた、効率的かつ実効的な検査・監督に取り組んできた
  • 今事務年度からは、本年予定している組織改編を実質的に先取りする形で関係部署が横断的に連携する態勢を整備し各種のテーマでモニタリングに取り組んできたが、今後、これまでの取組みをさらに発展させ一体性を高めていく必要がある
  • この数年、当局と金融機関が相互にレベルの向上を目指す行政に転換しなければならないという問題意識の下で取組みを進めてきた。これまでの取組みは、金融機関からも一定の評価をされている一方で、「当局側の仮説ありきで建設的な対話になっていない」といった批判や、「理念としての考え方に現場の運用が追い付いていない」等の意見もあり、一層の改善が必要
  • 従来の定期的な総合検査から、オフサイトでプロファイリングを行い、その結果に基づき、オンサイトで必要な範囲について検証するモデルへの変革を進めてきた。これについて、一定の負担軽減に繋がっているという評価がある一方で、資料徴求のあり方や日本銀行との連携など、さらなる工夫の余地があるとの意見もあり、引き続き見直しを進める必要
  • 今後、検査局は廃止され新たな組織体制へと移行することになるが、検査という機能は続いていくこととなる。当局が長年模索してきた検査実施上の課題への対応は道半ばであるが、新体制においても、より良いモニタリングの実現に取り組んでいきたい
▼ 主要行
  • 国内の低金利環境の継続や少子高齢化、フィンテック等のイノベーションの進展といった経営環境の中で、各行が中長期的な事業戦略をどのように策定・実施し、また、経営によるガバナンスが実効的な形で発揮されているか、対話で確認してきた
  • 昨年度は、大手金融機関が次々と店舗・人員等の構造改革を発表し、AI やRPA を活用した業務効率化や店舗の見直し等に取り組んでいる。各行においては、単なる経費削減という観点だけではなく、どのように顧客に付加価値を提供していくことができるかとの観点から、現状を分析し、リテール戦略や人事戦略を検討していると承知している。具体的な戦略の方向性について当庁の関心は非常に高く、引き続き議論していきたい
  • また、昨年度からグループ連携ビジネス(銀行、信託、証券等)が一層拡大している。グループ連携を通じて、顧客により付加価値の高いサービスが提供されることを期待しているが、モニタリングの中で、顧客情報の管理や優越的地位の濫用防止など、コンプライアンス態勢の整備に課題が見られた。加えて、海外業務の拡大に伴い、グローバルベースでのガバナンスの態勢整備も課題と認識している
▼ 全国地方銀行協会/第二地方銀行協会
  • モニタリングを実施してみると、経営理念に則したリスクテイク領域を定めることなく、コア業務純益が大幅に低下する中であっても、従来の配当を維持しようとし、そのための原資を確保するため、リスクテイクが経営体力やリスクコントロール能力と比較して過大と考えられる先が少なからず存在していた
  • 経営計画や収益計画の策定・実施にあたって、自行の経営実態を正確に把握しないまま、金利の上昇や市場規模の拡大など不確かな経営環境の好転を期待し、将来起こりうる課題を直視していない先や、あるいは課題を認識しつつも、具体的な対応策を講じていない先が存在していた
  • こうした状況が改善されないまま、業績の低下が継続し、結果として、将来的な収益の維持・回復の見込みに懸念が生じたことで、繰延税金資産の取崩しや減損処理など損失の発生につながっている先も存在していた。また、債務者の経営実態を把握しないまま、当該債務者の経営課題の解決に資する経営改善や事業再生支援に取り組むことなく、債務者区分の維持・ランクアップを行っている先が存在していた。また、こうした先の中には、正常先や要注意先からの破綻、いわゆる突発破綻が発生し、予期しない与信費用など損失の発生につながっている先も存在していた
  • 内部監査は、規程等の準拠性の検証に止まっており、「経営事項には踏み込めない」として経営への規律付けの観点からの監査を実施していない先が多数存在していた。また、市場運用部門やシステム部門など本部が抱える固有のリスクに着目した監査を実施していない先も多数存在していた
  • 今般、全国銀行協会において、全銀システムの稼働時間拡大も踏まえた金融犯罪対策について通達を発出し、会員行に周知している。当該通達において、各行が体制整備に当たって検討すべき論点として、(平日夜間・休日における)捜査機関や振込利用顧客からの連絡・照会受付体制の整備のほか、インターネットバンキングの不正利用防止のためのモニタリングの実施、振込・送金等の上限金額の設定可能化等が示されている
  • 加えて、顧客向けのセキュリティ対策として、パソコンや無線LAN の通信装置等について、未利用時は可能な限り電源を切断することや、振込・払戻し等の限度額を必要な範囲内でできるだけ低く設定することなどを再周知・再徹底することとされている
  • 各行においては、これまでも金融犯罪防止のために各種対策を講じているものと承知しているが、引き続き、全銀システムの稼働時間拡大も踏まえ、金融犯罪の防止に万全を期してもらいたい

2. 最近のトピックス

(1) 暴力団情勢

和歌山県は、従業員が暴力団に関係していたとして、建設業法に基づき土木建築会社「酒井組」の建設業許可の取り消し処分をしたと明らかにしています。和歌山県の文書によると、「株式会社酒井組の元和歌山営業所長は、和歌山営業所長(建設業法施行令(昭和31年政令第273号)第3条に規定する使用人)であった当時、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成3年法律第77号)第2条第6号に規定する暴力団員又は同号に規定する暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者に該当していることが判明した。このことが、建設業法第29条第1項第2号に該当すると認められる」として、建設業許可の取消しがなされたものです。なお、同法では「第8条の・・・いずれかに該当するに至った場合」に許可が取り消されるものとされており、具体的には、「九 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第二条第六号に規定する暴力団員又は同号に規定する暴力団員でなくなった日から五年を経過しない者」、「十一 法人でその役員等又は政令で定める使用人のうちに、第一号から第四号まで又は第六号から第九号までのいずれかに該当する者(第二号に該当する者についてはその者が第二十九条の規定により許可を取り消される以前から、第三号又は第四号に該当する者についてはその者が十二条第五号に該当する旨の同条の規定による届出がされる以前から、第六号に該当する者についてはその者が第二十九条の四の規定により営業を禁止される以前から、建設業者である当該法人の役員等又は政令で定める使用人であった者を除く。)のあるもの」に該当したものと思われます。さらに、建設業法施行令(抄)において、「使用人」については、「支配人及び支店又は第一条に規定する営業所の代表者(支配人である者を除く。)であるものとする」と規定されています。本件については、報道によれば、酒井組が3月、和歌山市に新たに開設した営業所の50代の男性所長が暴力団関係者だったということであり、同社から提出された書類を基に、県警に問い合わせて判明したとされています。したがって、同社はこの所長が暴力団関係者であることを知らずに雇用していた可能性が高いと推測されます。

さて、「役員・従業員からの暴排」については、「社内暴排」として以前の本コラム(暴排トピックス2016年10~11月号)で取り上げましたが、「役員・従業員からの暴排」は、本事例のように企業の業績・信用・レピュテーション等に大きな影響を及ぼしかねない深刻な経営リスクのひとつであることをあらためて認識いただきたいと思います。

企業が行うべき「社内暴排」の具体的な取り組みとしては、取引先と全く同様の考え方に基づき、役員・従業員に対しても反社チェックを行うことや、入社時や入社後にも定期的に「反社会的勢力と関係がないことの確認書(誓約書)」を提出させること、就業規則への暴排条項の導入や反社会的勢力対応規程等の制定、反社会的勢力に関する社内ルールの周知徹底や研修の実施、およびそれを通して、日常業務をはじめ反社会的勢力の端緒を得たときの会社への報告義務を課すといった、「入口」「中間管理」「出口」における様々な施策が考えられるところです。そのうち、例えば、採用時に応募者本人に対して、「現在、反社会的勢力でないかどうか」「過去、反社会的勢力であったかどうか」質問してもよいかといった質問をよく受けますが、原則として、現時点の状況については許されるものの、過去については、一定期間の加入歴等の質問にとどめるべきではないかと思われます。企業内に反社会的勢力が侵入することの危険性や企業内秩序の維持の観点などから、「反社会的勢力でないこと」や「密接交際者でないこと」は本人の「適性」に関する事項であって、違法なプライバシー侵害にはならないと考えられます。また、暴排条例の主旨(関係者が暴力団関係者でないことを確認するよう努めるものとする、などの努力義務)からも、労働契約の締結に先立ってこれらの確認をすることが求められていると解釈できると思います。一方で、過去については、(離脱者支援の問題が顕在化している中)そもそも更生を妨げるおそれや、関係を断ってから相当の期間が経過しているような場合にまで、本人の「適性」として質問することは認められ難いものと考えます。したがって、質問の範囲も限定したものにとどめるべきということになります。

また、就業規則に暴排条項を導入することについては、会社の姿勢を明示して暴排に向けた職員の意識の統一を図ること、明文化することで外部からの侵入に対する予防・抑止的効果が期待できること、万が一の際の裁判規範として、雇用契約の解消(普通解雇・懲戒解雇等)をより円滑に進められる効果も期待できるといったメリットがあります。また、実際に導入すべき内容としては、服務規律として、「反社会的勢力に属さないこと」「密接な関係を持たないこと」はもちろん、「一切の関係を持たないこと」まで記載することも考えられます。さらに、「関係を知った場合の会社への報告義務」「反社チェック等の会社の定めたルールに従って業務を適正に実施すること」等についても十分に考えるべき内容であり、どこまで記載するかは企業のリスク判断事項となります。また、これらをふまえて解雇事由や懲戒事由についても検討する必要があります(例えば、一切の関係遮断をうたいながら、密接な関係とは言えない程度の私的な交際をも懲戒の対象とすべきかどうかは議論の余地があると言えます)。

社内暴排のベースとなる考え方は、「雇用契約もまた事業にかかる契約の一つであって、取引先からの暴排と基本的には同様のスタンスを持つべきだ」ということです。さらには、社内暴排は、現在および将来にわたって、反社会的勢力が役職員として/役職員を介して企業に侵入することを防止するほか、企業の暴排の取り組みに実効性を持たせるために必要な「意識」付けにとって重要な取り組みの一つであると認識し、これによって、反社リスク対策全般の底上げを図っていただきたいと思います。

特定危険指定暴力団工藤会の上納金を巡って3億2,067万円を脱税したとして所得税法違反に問われた裁判で、福岡地裁は、同会トップで総裁の野村悟被告(71)に対し、懲役3年、罰金8,000万円の判決を言い渡しました。野村被告は、判決を不服として福岡高裁に控訴しています。また、同法違反で懲役2年6月とされた工藤会の「金庫番」で同会幹部の山中政吉被告(67)もまた控訴しています。福岡地裁の判決は、同会が建設業者などから集めたみかじめ料の一部は、野村被告に帰属すると認定しており、「工藤会の威力を背景に供与され、悪質」と指摘しています。また、山中被告が複数の親族名義口座を使って上納金を管理し、最高幹部の間で、一定比率で分配していたと指摘し、野村被告の「取り分」口座の記録を基に、知人女性のマンション購入費や親族の生活費が支出されたとして、入金分を「個人所得」と認定しています。このように、上納金を巡り、暴力団トップの脱税が認定されるのは極めて異例のことだと言えます。上納金は、暴力団特有のシステムであり、組の運営費として下部組織などから集められるものです。その原資は、「みかじめ料」名目で民間業者や飲食店などから吸い上げた不正な資金であり、年間億単位の金が集まるものの、多くは現金でやりとりされ、実態の把握は難しいとされてきました。これまでは、上納金を暴力団の収入として法人税を課そうとすると、逆に、暴力団が真っ当な事業目的を有する「法人」であると国が認めることになる(加えて、犯罪収益を「事業所得」と認めて課税はできない)ため、結局は「任意団体」として扱うしかなく、任意団体の「運営費用(会費)」が非課税扱いであることから、上納金も会費とみなされ課税されることがなかったとされています。それに対して、本件では、工藤会壊滅作戦による家宅捜索において、金庫番とされる山中被告が書いた「上納金の出入金を記録した詳細なメモ」が見つかったことで、その実態の把握が可能となり、トップの私的流用が裏付けられ、それをトップの「個人所得」として位置付けて脱税容疑をかける手法が編み出された形です。このような「福岡方式」を参考に、今後、警察と国税が連携を強めることで、今回のように資金の流れをつかむことが可能になっていくのではないかとも思われ、上納金の闇に、さらに風穴を開けてもらいたいものです。一方で、今後、暴力団側も、ただでさえ不透明な資金の流れを、(記録のあり方など)さらに巧妙に隠ぺいしようとする動きが当然予想されるところであり、私的流用の裏付けをベースとする「福岡方式」が簡単に応用できるものではないことも事実です。資金の流れのさらなる不透明化を食い止め、「福岡方式」が真に有効なスキームとして広く活用されていくためには、彼らが利用する「借名口座」(親族や知人名義の口座)の徹底的な洗い出しや当該口座の入出金のモニタリング、関連する疑わしい口座同士のつながりや資金の流れの把握が極めて重要となり、(疑わしい口座を積極的に抽出・監視していこうとする)事業者の高い暴排意識、事業者をまたぐ情報交換(事業者間の連携)や事業者と捜査当局との一層の連携がそのカギとなります。一方で、暴力団側も口座の利用を極力避け、「現金」での保管・移動の比率が高まるかもしれませんので、やはり一筋縄ではいかないと思われます。

さて、報道(平成30年8月3日付毎日新聞)によれば、助成金流用や審判の不正疑惑、不透明な独占販売などの疑いがもたれている日本ボクシング連盟の山根会長が(78)が、半世紀以上にわたり、六代目山口組系暴力団組長だった大阪市の男性(81)と交友関係があったことが明らかになりました。山根会長が1991年に連盟理事に就任して以降の時期も含まれているということであり、男性は2007年に組長を引退し数年前からは関係も絶たれたとされますが、ボクシングの国際統括団体でも反社会勢力との関係が問題視されていることもあり、山根氏の説明責任が問われることになりそうです。本件について、五輪担当相は「論外で認められない。真偽をきちっとただして、反省をしていかなければならない」と批判、文科相も「事実であれば、このようなことはあってはならない」、「スポーツにおける高潔性の確保にしっかり取り組んでもらいたい」などと要請しており、正にその通りだと思います。スポーツ団体と暴力団の関係は古くからと問題視されてきており、現在でも、他の複数の団体でも同様の問題が燻っているところですが、共通して言えるのは、団体トップには、「ノブレス・オブリージュ」(身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務がある)にふさわしい振る舞いを求めたいということです。

ここ最近、暴力団対策法上の使用者責任を問う動きが活発化しており、司法も使用者責任を認める判例や和解事例が相次いでいます。直近でも、指定暴力団極東会傘下組織の組員に金を脅し取られたなどとして、聴覚障害者の男女27人が傘下組織の組長らに損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は、組長らに約1億8,000万円の支払いを命じています。報道によれば、一審東京地裁に続き賠償責任を認め、組長の控訴を棄却、裁判長は、組長が金を集めるよう指示し、組員が恐喝や詐欺行為をしたと指摘しています。なお、一審東京地裁の判決は、平成20年の暴力団対策法改正に基づく使用者賠償責任を認めた初めての判決となりました。東京地裁の判決では、現金を要求したことは所属組長の指示であり、脅し取った資金の一部は極東会への上納金となっていたとみられると指摘し、暴力団対策法で規定する「威力利用資金獲得行為」だったと認定しています。暴力団対策法第31条の2は、「威力利用資金獲得行為に係る損害賠償責任」として、「指定暴力団の代表者等は、当該指定暴力団の指定暴力団員が威力利用資金獲得行為(当該指定暴力団の威力を利用して生計の維持、財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得、又は当該資金を得るために必要な地位を得る行為をいう。)を行うについて他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めていますが、この判決の画期的な点は、「極東会では上位の構成員に対する上納金制度があると推認され、組員は極東会の事業の一環として恐喝や詐欺で資金を獲得した」と指摘したとされる点にあり、これまで民事訴訟で暴力団組織の指揮命令や上納金制度などを立証するハードルはそもそも高かったところ、詐欺的犯罪類型についても暴力団トップの使用者責任を問えることの意味は非常に大きく、特殊詐欺が暴力団の資金源となっている現状をふまえれば、東京高裁の判決とあわせ、今後、大きな抑止力となりうるものと評価できます。

以下、最近の暴力団情勢に関連したトピックスをいくつか紹介します。

  • 振り込め詐欺で高齢者から現金を盗んだとして、警視庁赤坂署は、詐欺グループのリーダーで指定暴力団神戸山口組の2次団体宅見組幹部を窃盗容疑で逮捕しています。かけ子の男(30)が、電話をかける際に使うマニュアルや、高齢者の連絡先などが記された名簿をコピーするためにコンビニに立ち寄り、マニュアルや名簿、5~6台の携帯電話の入った茶封筒を店内に忘れたまま店を出たため、不審に思った店長が警察に通報し、押収されたというものです。
  • 「お中元」と書かれた菓子折りに覚醒剤約1キロを隠して所持したとして、大阪府警などは、指定暴力団住吉会傘下組織幹部ら2人を覚せい剤取締法違反(営利目的共同所持)の疑いで逮捕しています。菓子折りの右側にクッキー、左側に覚醒剤が詰められ、「お中元」と書かれたのし紙が付いていたということで、贈答品を装って発覚を逃れようとしたとみられています。
  • 昨年、地面師による詐欺の被害を受けた積水ハウス社に対し株主代表訴訟が提起されました。訴えを起こした個人株主は訴状で、最終決裁権者で現地も視察した同社会長が、適切な判断を行い、監督監視義務を果たしていれば「巨額の損失を防げた」と主張、立場上求められる注意義務に違反したとしています。
  • 犯罪の計画段階で処罰可能とする「共謀罪」の要件を改めた「テロ等準備罪」を新設した改正組織犯罪処罰法が施行から1年を経過しました。法務省によると、検察庁が同罪を適用した事件を受理したとの報告はないといい、慎重に運用されているとみられます。一方、条約締結によってテロなど国際組織犯罪について締結国との捜査共助や逃亡犯罪人の引き渡しなどが可能になっており、官房長官は「情報収集においても国際社会と緊密な連携を行うことができるようになった」と説明しています。また、報道によれば、法務省も、組織的犯罪集団が具体的な計画を立て、犯罪に向けた凶器を購入するなどの実行準備行為を要件としており、「ハードルは相当高い」のが実態であるとみています。法相も、「テロ等準備罪で対処しなければならないような重大な事態が発生していないということにすぎないのではないか」との見方を示しています。
(2) AML/CFT及び厳格な顧客管理を巡る動向

西日本豪雨の被災者の特例措置として、警察庁は、本人確認の書類を失っても金融機関に口座を開設できるよう、犯罪収益移転防止法の施行規則を一部改正施行しています。これにより、運転免許証や健康保険証がなくても、窓口で被災者であることを告げれば、当面の間は口座をつくれるようになりました。

▼ 金融庁 犯罪収益移転防止法施行規則の一部改正関係
▼ 概要
  • (1) 寄附金の振込に際しての特例
    • ・平成30年7月豪雨に係る寄附のために行われる現金送金(送金先口座が専ら寄附を受けるために開設されたものに限る)については、本来10万円超で必要となる本人確認を200万円以下は不要とする
  • (2) 被災者の本人特定事項の確認方法の特例
    • ・平成30年7月豪雨で本人確認のできる書類をなくした被災者について、本人確認書類がなくとも本人の申告のみで口座の開設その他の取引が可能となる
    • ・なお、この場合において、金融機関等の事業者は、当該顧客について、正規の確認方法によることができることとなった後は、遅滞なく、その方法による確認を行うものとする

また、例月通り、AML/CFTに関する直近の金融庁の指摘についても、確認しておきたいと思います。

▼ 金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼ 共通事項(主要行/全国地方銀行協会/第二地方銀行協会/生命保険協会/日本損害保険協会/日本証券業協会)

まず、(生命保険協会、日本損害保険協会に向けて)「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策(AML/CFT)については、FATF 審査への対応も見据え、官民が連携して体制を強化し、具体的な改善策を速やかに講じることが必要である」としたうえで、こうした観点から、金融庁としても、マネロン等対策の基本的な考え方を明らかにした「ガイドライン」を本年2月に策定するなど様々な取組みを行ってきたところ、先般、その一環として、各金融機関から、マネロン等のリスクに関わる基礎的な定量データや態勢面に関する定性情報の報告が行われたということです。これに対しては、「こうした定量データや定性情報の整備・収集は、保険会社各社にとっても、自らのマネロン等に係るリスクとその対策の状況を評価するために重要・必要なものであると考えており、保険会社各社が現状の体制を自己評価し、マネロン等リスクの管理態勢の整備・高度化に活用してもらいたい」とRBA(リスクベース・アプローチ)の実践を求めています。さらに、金融庁としては、今後FATF 審査に向け、マネロン対策を高度化させるためにも、「本年2月に策定した「ガイドライン」の記載と、各金融機関における現状との差異(ギャップ)を分析し、講じるべき具体的対応を検討してもらう必要があると考えている」こと、さらには、金融庁としても、こうしたデータ報告やギャップ分析の結果については、今後、分析・検証等を行った上、保険会社や金融機関等に対し傾向分析、共通課題、参考例等を還元したいと考えていることが示されました。そして、「FATF 審査までに残された期間も短くなる中で、対策の高度化に向けた具体的対応を実行していくことが必要」であり、着実・迅速に措置を講じてほしいと要請しています。

次に、「金融財政事情(2018.6.11)」に掲載されていた金融庁のAML/CFT企画室長のコメントから重要と思われるものを引用して紹介します。民間で実務経験を重ねてきた方ゆえの、説得力ある内容となっており、AML/CFTにとどまらず、リスク管理・コンプライアンスのあり方にとっても大変参考になります。

  • (緊急チェックシート以外にもマネロン対策についての報告徴求命令を出している点について)「今回、回答を求めているのは、金融機関自らが日常業務の中で確認すべき基本動作であり、管理に必要な主要計数などの確認や報告である。作業負担を生じさせていることは自覚しているが、私どもとしては新しいことを次々と発出しているというよりは、ガイドライン記載事項の実現に向けて、さまざまな切り口で自主的な対応への働きかけを行っている。金融機関におかれては、報告物を金融庁に出して終わりではなく、それに基づいてマネロン等への対策を自ら高度化させていくことが大切だと考えている」
  • 「もし未着手の金融機関があれば数字やファクトに基づいてリスクの変化を「見える化」し、管理していただきたい。また、時間がかかる人材育成やIT投資等についても、早めに着手していただきたい。・・・経営陣が主導するかたちで行内横断的に進めていく必要がある」
  • 「全ての業務をガチガチに管理するのではなく、メリハリを利かせてもいい、ということだ。それもガイドラインに書いてあるので、是非リスクベースド・アプローチの意味を踏まえて再確認していただきたい」
  • マネロン等への対策は金融業務の大前提の一つであり、収益を出すのと同じくらい重要だ。金融機関は、マネロン等への対策を進めなければレピュテーションリスクにもさらされかねない。これは自分たちの経過課題なのだという問題意識を持つべきだと思う」
  • 「残念ながら今は、「疑わしい取引を出して終わっている」という金融機関もある印象だ。これを出すことは目的の一部でしかない。出したものを自ら分析し、さらなる防止策へと発展させるのが本来の目的だ」
  • 「血の通った、ストーリー性のあるコンプライアンスやマネロン等への対策が肝要だと思う。例えば、「特殊詐欺被害に遭いそうなお婆ちゃんを救うことができた」「その方からお礼を言われた」「ああ、よかった。またがんばろう」-となれば、その金融機関の本部や現場には一体感や達成感が出る。そういう血の通った文脈でマネロン等の対策をしている金融機関は少ないのではないか。社会的使命や充足感といった重要性が業務多忙の場面で忘れられていて、作業感、やらされ感が先に立つようではいけない。経営陣がリーダーシップを発揮する中で、そうした企業文化を醸成していただきたい」

さて、カジノを中核とする統合型リゾート(IR)実施法が成立しました。詳細は後述しますが、IR事業においてもAML/CFTの観点から、厳格な管理が求められています。特定複合観光施設区域整備法の第103条においては、「犯罪による収益の移転防止のための措置(取引時確認等の措置等の的確な実施のための措置)」として、「カジノ事業者は、犯罪収益移転防止法第11条の規定にかかわらず、取引時確認等の措置、(中略)、犯罪収益移転防止法第4条第6項に規定する取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置を講じるほか、次に掲げる措置を講じなければならない」と規定しています。この「次に掲げる措置」とは、「取引時確認等の的確な実施のための従業者に対する教育訓練の実施」、「取引時確認等の措置等の的確な実施のための体制の整備」を言います。さらに、第104条(チップの譲渡等の防止のための措置)として、「顧客がチップを他人に譲渡すること及びチップを他人から譲り受けることを防止」「顧客がチップをカジノ行為区画の外に持ち出すことを防止」することが規定されています。

また、米国などではカジノが顧客の取引が疑わしいと判断した場合等に報告義務が課せられており、日本でも「疑わしい取引」に係る報告書の提出が特定事業者には義務付られていることから、同様の規定が今後盛り込まれることになると思われます。なお、カジノにおける疑わしい取引の事例としては、以下のようなものがあります。

  • 大量の現金をチップにこうかんするが、少額しかプレイしない
  • CTR(疑わしい活動報告書)を避けるため、1万ドル未満の取引を行う
  • マシンゲームに現金を投入し、全くプレイせず(少額プレイ)、TITO(チケットイン・チケットアウト:プレーヤーが受け取りから60日以内にスロットマシーンチケットを現金に引き換えるためのツール)を現金化
  • 非合理的な賭け方(例:2人で共謀し、それぞれがルーレットの赤と黒に賭ける)
  • 大量のチップを現金化せず、カジノから持ち出す
  • 顧客間同士で大量のチップ、現金、TITOを渡す行為

なお、統計によれば「疑わしい取引」は、「取引の分割」(41%)と「プレイせず現金化」(22%)が多数を占めています(次いで、「偽装ID」(9%)、「多額の両替」(5%)などとなっています)。前者の具体例としては、「顧客が取引を複数回に分け、IDの提示を避けようとする行為(1万ドル未満に制限)」、後者の具体例としては、「チップを購入し、ほとんどプレイせずに現金化する行為。マシンゲームに大量の現金を投入し、プレイしない行為」が挙げられます。

また、「厳格な顧客管理」の視点からは、日本のメガバンクがイラン関連取引を全面的に停止していくことを取引先に通知している動きが注目されます。米のイランに対する経済制裁が復活したことを受けたもので、同国系金融機関との取引が禁止される180日間の撤退期間までに、経費送金などを含むすべてのイラン関連取引の取り扱いを停止するとのことです。

(3) 仮想通貨を巡る動向

仮想通貨交換会社コインチェックによる仮想通貨の巨額流出事件から半年が経過しました。そもそもの事件の捜査に大きな進展は見られません(警視庁は犯人特定に向けて不正アクセスの通信記録の解析を進めているものの、通信が海外の複数のサーバーを経由している上、一部の記録が保存されず欠損していることなどから、事件の捜査は容易ではないことは想像がつきます)が、この間、十分なリスク管理・顧客管理態勢を構築してこなかった企業は、みなし業者であろうと登録事業者であろうと、金融庁による行政処分も受ける事態となりました。業界全体で正常化を模索しているものの、いまだ道半ばの状況だと言えます。利用者保護の態勢が整わない中で、交換業者の経営破綻や資産の不正流出が起きれば、影響は大きく、業界を挙げて内部管理の強化に取り組む必要があると言えるでしょう。これまで他社との競争で顧客獲得を優先するあまり、従業員の確保やシステム投資が後手に回ったことで内部管理態勢が脆弱なままの事業者が多く、本人確認など金融機関として当然に求められるコスト負担も想定以上に重く(例えば、コインチェック社はマネックスGの傘下で内部体制構築を進めているものの、サイバーセキュリティ対策などの費用がかさみ、2億5,900万円の赤字となりました。同社は金融庁に申請中の仮想通貨交換業者登録が認められ次第、取引を全面再開する意向だとのことですが、当初目指していた6月から遅れている状況です)、高い利益率を期待して参入してきた企業は戦略変更を迫られている状況です。報道によれば、金融庁が求める安全性や経営健全性は「(クリアするために)コストがかかり、利益が出なくなる」と指摘する交換業者は多く、新規参入を妨げる要因とも言われているようです。個人的には、顧客の資産を預かる責任は金融機関と同じであり、当然、その管理レベルはそのリスクの状況をふまえれば相応に高次元のものであるべき(そうでなければ不公平であり、顧客も安心して資産を預けられないことになります)と考えます。いずれにせよ、交換業者の淘汰も進むなか、当初から指摘してきた通り、市場の健全な発展と顧客保護などとのバランスをどう取っていくのか、課題は多いと言えます。

一方、業界団体として日本仮想通貨交換業協会が立ち上がりましたが、資産が少ない顧客が多額の損失を出し、生活が破綻するのを防ぐために、顧客が取引できる金額に上限を設けることを業者に義務付ける自主規制ルールを制定しています。直近では、すでに改正資金決済法に基づく自主規制団体の認定を申請、金融庁が、同協会がとりまとめた自主規制ルールの内容などを精査した上で、認定の可否を審査することになります。今後、業界の自浄作用を発揮していけるか、本格的に問われていくことになります。

さて、仮想通貨を巡ってはさまざまな事件やトラブル等が生じています。最近の報道(平成30年7月24日付日本経済新聞)によれば、「オルトコイン」と呼ばれる、流通量が中小規模の仮想通貨に狙いを定めて、現金を詐取する新手の攻撃が続いているということです。ブロックチェーンで取引の正しさを判断する仕組みを逆手に取って悪用する「51%攻撃」を使い、仮想通貨の交換所に法定通貨を二重払いさせる手口だと言います。現時点で最も被害額が大きいのは「ビットコイン」から分裂した仮想通貨「ビットコインゴールド(BTG)」で、2018年5月16~19日に51%攻撃を仕掛けられ、海外の仮想通貨交換所が約20億円の被害に遭ったということです。さらに、BTG以外にも、日本で生まれた「モナコイン」、匿名性の高さをうたう「Verge」といった仮想通貨が5月までに51%攻撃や類似する手法の攻撃を受け、それぞれ推定で約1,000万円、約2億9,000万円の被害が出たと報じられ、6月3日には「ZenCash」と呼ぶ仮想通貨が新たに被害に遭うなど、同攻撃が今も断続的に続いているとのことです。専門家の分析では、事件の本質は「二重支払いの対策が未熟な交換所が十分な確認時間を設けず、攻撃者から通貨が入庫されたと判定した」ことにあると指摘されています。一方で、ブロックチェーンがもともと内包する問題が今回の攻撃で露呈した側面もあり、セキュリティが甘い交換所が狙われた可能性があるとも言われています。いずれにせよ、取引所はじめシステムに潜む脆弱性が突かれた形となっており、早急な対策が求められています。それ以外の仮想通貨を巡るトピックスについては、以下のようなものがありました。

  • ・海外法人による仮想通貨の金融商品「ポートフォリオコイン」の運用益分配をうたい、無登録で出資金を集めたとして、東京地裁は、金融商品取引法に基づき、「オレンジプラン」と社長、「ゴールドマイン」と社長に業務停止命令を出しています。
  • ・駐車違反をした車の所有者に科せられる放置違反金をめぐり、兵庫県警交通指導課は、違反金の支払い督促に応じなかった兵庫県内の男(59)から、業者に預けていた「ビットコイン」などの仮想通貨約3,800円分を差し押さえたと発表しています。放置違反金の滞納者に対する仮想通貨での差し押さえは全国初で、同県警では、昨年4月の資金決済法の改正で仮想通貨が正式に財産と位置づけられたことを踏まえ、差し押さえ対象と判断したということです。
(4) 特殊詐欺を巡る動向

警察庁から「平成30年上半期における特殊詐欺認知・検挙状況等について」が公表されていますので、ポイントを紹介します。

▼ 警察庁 平成30年上半期における特殊詐欺認知・検挙状況等について

特殊詐欺の認知件数は平成22年以降、平成29年まで7年連続で増加しており、本年上半期は8,197件(前年同期比▲672件、▲7.6%)、被害額は平成26年以降、平成29年まで3年連続で減少しており、本年上半期は174.9億円(前年同期比▲13.3億円、▲7.1%)、既遂1件当たりの被害額は、226.7万円(+1.2万円、+0.5%)となり、依然として高止まりの状況が続いています。また、38道府県において認知件数が減少した一方で、9都県(福島、東京、埼玉、神奈川、山梨、静岡、島根、山口、沖縄)では増加しており、特に、東京(2,037件、+524件)、神奈川(1,372件、+382件)の認知件数が大幅に増加している点が注目されます。類型別の被害状況としては、昨年増加したオレオレ詐欺は、本年上半期も認知件数・被害額ともに前年同期比で増加(4,560件(+843件、+22.7%)、96.3億円(+1.8億円、+1.9%))しました。昨年増加した架空請求詐欺は、本年上半期の認知件数は前年同期比で減少、被害額は前年同期比で増加(2,465件(▲205件、▲7.7%)、61.1億円(+2.3億円、+3.8%))する結果となりました。なお、これら2手口で認知件数全体の85.7%を占めています。さらに、昨年減少した還付金等詐欺は、本年上半期も認知件数・被害額共に前年同期比で大幅に減少(853件(▲1,130件、▲57.0%)、10.7億円(▲11.7億円、▲52.2%))しているのが注目されます。また、被害金交付別の被害状況では、現金手交型は依然として高水準(2,268件(▲135件、▲5.6%)、81.0億円(▲6.9億円、▲7.9%))であるほか、キャッシュカード手交型は平成27年上半期から引き続き増加(2,741件(+1,289件、+88.8%)、33.0億円(+11.4億円、+52.6%))しており、電子マネー型は平成29年下半期から引き続き減少(826件(▲693件、▲45.6%)、4.3億円(▲3.4億円、▲44.2%))している結果となりました。また、昨年8月から増加した収納代行利用型は、本年に入り減少傾向(569件(+366件、+180.3%)、5.1億円(+3.3億円、+180.8%))をみせているようです。さらに、特殊詐欺全体での高齢者(65歳以上)の被害の認知件数は、6,205件(▲190件、▲3.0%)となっており、特殊詐欺全体の高齢者被害の認知件数が占める割合(高齢者率)は75.7%(+3.6P)と高い割合のうえ状況が悪化しています。その背景には、オレオレ詐欺の認知件数の増加と架空請求詐欺の認知件数の減少に伴うものと推測され、高齢者の被害防止が引き続き課題となっています。手口別で高齢者率が高いのは、オレオレ詐欺(96.8%)、還付金等詐欺(84.6%)の2手口となっている点にも注意が必要です。

一方で、特殊詐欺対策の取組み状況としては、例えば、以下のようなものが実施されています(本コラムでもこれまで紹介しているものです)。

  • 高齢者を取り巻く家族への働き掛けを強化し、コミュニケーションをとって家族の絆を深め、互いに確認をとることを促す取組を実施
  • 特殊詐欺等の捜査過程で押収した高齢者の名簿を活用し、注意喚起を実施(22都府県でコールセンターによる注意喚起を実施(又は実施予定))。高齢者に加え、予兆電話多発地域の金融機関等にも注意喚起を実施(なお、直近でも、オペレーターが高齢者宅に直接電話をかけ、詐欺の手口を紹介して注意喚起して被害に遭わないよう呼びかける大阪府警のコールセンターの運用が8月1日から始まっています。来年3月末までの平日午前9時から午後5時までの時間帯に、約81,000件を目標に電話をかけるとのことです)
  • 犯人からの電話に出ないために、高齢者宅の固定電話を常に留守番電話に設定することなどの働き掛けを実施

以上のような取組みのほか、金融機関等と連携した声掛けにより、認知件数とほぼ同数の被害を阻止しており、阻止率は約5割(48.6%)にまで上っています。高齢者の高額払戻しに際しての警察への通報につき、金融機関との連携が強化されてきている結果と言えます。また、還付金等詐欺対策として、金融機関と連携し、一定年数以上にわたってATMでの振込実績のない高齢者のATM振込限度額をゼロ円(又は極めて少額)とし、窓口に誘導して声掛け等を行う取組を推進し(47都道府県・396金融機関(地方銀行の86.5%、信用金庫の98.5%)で実施。全国規模のメガバンク等においても取組を実施)、これにより平成30年上半期中に23件を阻止(累計では137件)する成果を挙げています。さらに、キャッシュカード手交型への対策としては、警察官や銀行職員等を名乗りキャッシュカードをだまし取る手口の広報、キャンペーン等による被害防止活動の推進などが挙げられます。また、電子マネー型、収納代行利用型への対策としては、コンビニエンスストアや電子マネー発行会社、収納代行会社と連携し、電子マネー購入希望者や収納代行利用者への声掛け、チラシ等の啓発物品の配布、端末機の画面に注意喚起を表記するなどの被害防止対策を推進しています。

犯行グループの壊滅に向けた取組みとしては、架け子を一網打尽にする犯行拠点の摘発を推進し、30箇所を摘発(▲5箇所)する成果を挙げたほか、だまされた振り作戦や職務質問による現場検挙等を推進、受け子や出し子、それらの見張役の検挙人員は847人(+137人、+19.3%)となり、前年同期比で増加しています。そして、これらの取組を推進したところ、検挙件数は2,485件(+530件、+27.1%)、検挙人員は1,325人(+269人、+25.5%)となり、大きく増加している点が注目されます。また、暴力団の一定の関与も認められ、検挙被疑者に占める暴力団構成員等の割合は約22.0%となっています。さらに、少年の検挙人員は368人で、特殊詐欺全体の検挙人員の約3割(27.8%)を占めており、増加傾向(+186人、+102.2%)にある点が懸念されます(アルバイト感覚で足を踏み入れているケースが多いのではないかと推測されます)。さらに、役割別では約7割(73.1%)が受け子で、特殊詐欺全体の受け子の検挙人員の約4割(36.7%)を占めるほどになっており、アルバイト感覚の軽い気持ちで参加している状況がうかがえます。

また、犯罪インフラ(犯行ツール)対策としては、犯行に利用された電話に対して、繰り返し架電して警告メッセージを流し、電話を事実上使用できなくする「警告電話事業」を平成29年度に開始(平成30年3月末現在で対象となった5,539番号のうち、効果があったのは4,421番号(79.8%)に上ります)しています。また、犯行に利用された携帯電話に関して、利用が拡大するMVNO(仮想移動体通信事業者)の携帯電話についても役務提供拒否に関する情報提供を推進(5,540件の情報提供を実施)しています。また、預貯金口座や携帯電話の不正な売買等、特殊詐欺を助長する犯罪の検挙を推進し、2,079件(▲101件)、1,522人(▲67人)を検挙しています。犯罪インフラ対策は、特殊詐欺全体の抑制につながるものであり、通信事業者や金融機関等の取組みレベル(各種施策の確実な履行と意識の浸透、業務上のリスクセンスを鋭敏に発揮できることなどが求められると言えます)と連携が極めて重要となります。

最後に、今後の取組については、以下のようなものが挙げられています。

  • 高齢者の被害や多発する手口の被害防止に向けて、高齢者やその家族、事業者等も含めた社会全体での被害防止活動を強力に推進
  • コールセンター事業の充実、押収名簿を活用した防犯指導・注意喚起
  • 犯人からの電話に出ないために、高齢者宅の固定電話を常に留守番電話に設定することの働きかけや迷惑電話防止機能を有する機器の普及促進
  • マスメディア、インターネット、電子メールやSNS等の活用を強化
  • 金融機関については、キャッシュカード手交型への対策として、高齢者のATM利用制限の拡充。また、現金手交型への対策として、高齢者の高額な払い戻しに係る全件通報の強化
  • コンビニについては、電子マネー型への対策として、電子マネー購入希望者への声掛けや端末機の画面による注意喚起の一層の強化
  • 拠点摘発による架け子の検挙、だまされた振り作戦による現場設定型の検挙の推進と被害発生後の追跡捜査の徹底
  • レンタル携帯電話やMVNOの携帯電話につき、引き続き、携帯電話不正利用防止法に基づく契約者確認の求め、役務提供拒否に関する情報提供を推進するほか、犯行利用電話に対する利用停止要請の制度を活用。固定電話番号に関しても、電話転送等を利用して相手方に固定電話番号を表示させる仕組みへの対処も含めて、関係省庁や事業者と連携して有効な対策を講じていく
  • 犯行利用電話に対して、繰り返し警告メッセージを流す警告電話事業を引き続き推進

消費者庁は、西日本豪雨の被災11府県で、法務省などを装い架空の訴訟名目で現金をだまし取ろうとするはがきなどの相談が、7月6日以降計661件寄せられているとして注意を呼び掛けています(平成30年7月26日現在)。相談は詐欺のはがきが452件、はがき以外のメールやショートメッセージなどが209件。「訴状が提出された」「不動産を差し押さえる」などと書かれ、記載の電話番号に連絡させようとする内容ということです。また、このような状況を受けて、政府の消費者政策会議は、被害を防止する「架空請求対策パッケージ」を緊急で取りまとめています。このパッケージでは、消費者庁や警察庁などが連携し、架空請求に利用された電話番号に警告メッセージを流したり、これまでの捜査で押収した名簿に記載されていた消費者に、被害に遭わないよう注意したりするものとなっています。また、西日本豪雨災害の被災地の自治体や消費者庁は、災害に便乗した義援金詐欺や消費者トラブルに注意を呼びかけています。例えば、倉敷市は、公式ツイッターで「義援金詐欺に注意!!」と投稿しています。市職員と偽り、電話で義援金の振り込みを求める詐欺に関する相談が確認されたということです。

▼ 消費者庁 架空請求にご注意ください!
▼ 架空請求対策パッケージ(平成30年7月22日 消費者政策会議決定)概要版

架空請求に関する相談件数は、前年度比で2倍以上に急増し約20万件に上っており、架空請求の手段は、ハガキが急増(従来は電子メールが主流)しています。既支払額の平均額は約44万円で、既支払額5,000万円超のものもある(年度合計で約13億円)ということです。以下、架空請求対策パッケージとして取りまとめられた主なものについて、列記します。

  • 1. 架空請求事業者から消費者への接触防止
    • 架空請求を含む特殊詐欺の犯行に利用された電話に対し繰り返し警告メッセージを流す警告電話事業を推進【警】
    • 消費生活センター等からの情報提供により、架空請求に利用された電話番号を把握し、架電等を実施【消】
    • 架空請求を含む特殊詐欺に利用された固定電話に関し、利用停止を含めた有効な対策を検討【総、警】
  • 2. 消費者から架空請求事業者への連絡防止
    • 法務省の名称等をかたる架空請求への対処方法等をホームページに掲載【法】
    • 啓発資料を作成し、法テラス、法務局等において、注意喚起を実施【法、消】
    • 政府広報、各省庁ホームページ、SNS等による注意喚起を実施【消、警、金、総、法、経、国セン】
    • 架空請求を含む特殊詐欺等の捜査過程で押収した名簿を活用した注意喚起を実施【警】
    • 啓発資料を作成し、消費者安全確保地域協議会(見守りネットワーク)における集中的な注意喚起を実施【消】
    • 消費者ホットライン188(いやや!)について、イメージキャラクターを作成し、更なる周知を実施【消】
    • 架空請求事業者にかたられている実在の事業者の取組等を随時公表【消】
    • 架空請求に関する情報を集約した特設サイトをホームページ上に作成【国セン】
  • 3. 消費者による架空請求事業者への支払の防止
    • 金融機関の架空請求を含む特殊詐欺被害防止に向けた取組(行員研修、声掛け強化等)の促進【金、警】
    • 金融機関に対し不正利用口座に関する情報提供を行い、金融機関の対応状況(強制解約、利用停止等)等を公表【金】
    • コンビニに対し、顧客への声掛け強化、レジ画面上での注意喚起、支払に使われている複合端末画面での注意喚起内容の充実等を要請。電子マネー発行者に対し、コンビニ等と連携した取組を要請【警、金、消、経】
    • 仮想通貨交換業者の取引時本人確認の実施状況等についてモニタリングを実施【金】
  • 4. 警察による取締りの推進
    • 犯行拠点の摘発及び中枢被疑者等の検挙の推進【警】
    • 預貯金口座や携帯電話の不正売買等の架空請求を含む特殊詐欺を助長する犯罪の検挙の推進【警】
  • 5. 個人情報の保護の推進
    • 事業者に対し、個人情報の漏えい等を防止すべく情報提供を実施するとともに、消費者に対し、名簿等の自らの個人情報の取扱いに関する啓発のための広報を実施【個】
(5) テロリスクを巡る動向

政府は、2020年東京五輪・パラリンピックなども念頭に、テロ情報の集約・分析強化のため「国際テロ対策等情報共有センター」を設置しました。本センターは、内閣官房の国際テロ情報集約室の下に置かれ、内閣官房や警察庁、外務省を含む11省庁(内閣官房、警察庁、金融庁、法務省、公安調査庁、外務省、財務省、経済産業省、国土交通省、海上保安庁及び防衛省)が、個別に保有するテロ情報の共有や照合などを行い、テロ事件の未然防止につなげる狙いがあるということです。官邸を司令塔として活動する「国際テロ情報収集ユニット」、「国際テロ情報集約室」等は、平成27年12月の設置以降、体制増強を図りつつ、各国治安・情報機関との関係強化を始めとする情報の収集・集約に取り組んでいますが、2020年に向けて、より核心に迫る情報収集が可能となるよう、その活動の拡大・強化を図っているところです。

▼ 国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部決定 2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会等を見据えたテロ対策推進要綱

具体的には、(1)関連要員の更なる増員を図るとともに、その業務の専門性を向上させるため、海外における情報収集活動に関する研修の充実、現地における情報収集活動をより安全かつ効果的に行うための専用インフラの整備等に取り組む、(2)「国際テロ情報収集ユニット」と政策部門や情報コミュニティ省庁の連携が強化されるよう、「国際テロ情報集約室」において必要な連絡調整を行う、などが行われており、今般の「国際テロ対策等情報共有センター」の設置もまた、テロ容疑事案等に関する情報の共有・分析の強化に資するものと位置付けられています。同センターでは、11省庁の職員が一堂に勤務し、これら省庁が保有するデータベース等や知見を有効に活用、テロ容疑事案等に関する端緒情報について迅速に共有するとともに、各省庁が保有する関連情報と照合するなどの分析を行い、当該テロ容疑事案等の詳細についての解明に努めることとされ、分析の結果判明した事項については、テロの未然防止対策の実施等に資するよう、官邸及び関係省庁に迅速に提供することとしています。

また、テロ対策としては、「サイバーテロ」への対策もまた重要です。政府は、2020年東京五輪・パラリンピックを見据え、今後3年間のインターネットの安全確保に向けた指針「サイバーセキュリティ戦略」を決定しています。

▼ 内閣サイバーセキュリティセンター サイバーセキュリティ2018

本指針では、「大会の運営に大きな影響を及ぼし得る重要サービス事業者等を対象として、リスク評価に基づく対策の促進と、情報の共有、インシデント発生時の調整役となるための組織であるサイバーセキュリティ対処調整センター(政府オリンピック・パラリンピックCSIRT)の整備を推進する。2018年度のリスク評価は、対象エリアを全国に拡大して実施するとともに特に重要なサービス事業者については国として横断的リスク評価を実施する。また、サイバーセキュリティ対処調整センター(政府オリンピック・パラリンピックCSIRT)については、2018年度末を目途に構築し、2019年度から要員の訓練、情報共有システムのユーザーに対する操作訓練、情報共有訓練及びインシデント発生時の対応訓練支援が実施できるよう準備する」としています。

2020年に向けたテロ対策としては、その他にも、原子力施設への攻撃や放射性物質を使った爆弾の製造など核テロの脅威は国際的に高まっている中、国際原子力機関(IAEA)との対策協力による体制整備を加速させる方向であり、北朝鮮漁船の違法操業や不審船の警備も念頭に置き、大型巡視船の導入などを検討していることがあげられます。また、テロ対策の文脈ではありませんが、在留外国人の増加に対応するため、法務省に「入国管理庁」などの外局を設置し、現在の入国管理局を格上げすることが検討されるとのことです。在留外国人等の管理を強化することで、テロリスト等の不芳外国人の排除を厳格に行える環境が整えられることにもつながるものと期待したいと思います。また、入国審査という点では、法務省は、出入国審査時に顔認証技術を使って本人確認する自動化ゲートを関西国際空港に導入しました。昨年10月に羽田空港で試験運用を始め、本格導入は成田、羽田、関西の各空港に次いで4番目となり、11月上旬には出国審査でも中部空港で運用を開始する予定です。顔認証ゲートは、ICチップ付きのパスポートを持っている人が対象で、内蔵カメラで撮影した画像と、ICに記録された顔写真を照合し、本人確認を終えれば自動で扉が開く仕組みとなっており、テロリスト等の不芳外国人に関する国際的な情報共有を通じて、顔認証ゲートにより水際での排除の精度が高まることが期待されます。

また、2020年に向けて、各地でテロを想定した訓練が実施されていますので、紹介します。

  • 警視庁は東京港の晴海埠頭付近でテロ対策訓練を行いました。競技会場や選手村、羽田空港に近い湾岸エリアは警備上重要な地域であり、来春には水上バイクやボートで警備にあたる海上警戒部隊を設置する予定だということです。訓練は営業中の水上バスと新交通ゆりかもめがテロリストに襲われたとの想定で行われました。報道によれば、警視庁は、競技会場が一つのエリアに集まっていたリオ大会やロンドン大会と異なり、会場が分散している東京大会でもテロが起こりうるとして、大会組織委員会や東京都と連携して対策を進めているということです。
  • 山梨では猛毒の化学物質によるテロ発生を想定したテロ訓練がJRAの場外馬券場で実施されています。訓練には、山梨県警機動隊や笛吹署、笛吹市消防本部などから約140人が参加し、人の出入りが多い場外馬券場で猛毒の化学物質サリンがまかれたことを想定し、警備員による避難誘導や負傷者役の救助、サリン回収の手順などを確認したということです。

2020年に向けたテロ対策とは文脈が異なりますが、6月に起きた新幹線殺傷事件(思想的な背景は薄いもののこれも無差別テロの一類型と言えると思います)に対して、新幹線内の安全対策が強化されています。例えば、JR東海では、東海道新幹線に防護装備品として盾やさすまたなどを8月から順次配備すると発表しています。乗務員用として、盾や耐刃手袋、耐刃ベストを用意するほか、警備員用では盾、さすまたを配備、相互乗り入れするJR西日本の車両でも同様の対応を取るということです。さらに、医療器具としては、三角巾や止血パッド、ゴム手袋などを追加することも発表しています。また、国土交通省は、省令を改正して、刃物持ち込み禁止を明文化することを明らかにしています。乗客が省令に反した形で刃物を持ち込んだことが判明した場合、鉄道事業者が停車駅で列車から降ろすことができるようになり、新幹線だけでなく、在来線の列車の乗客も対象になる見通しとのことです。一方、海外では導入されている乗客の手荷物検査については、利便性などの点で直ちに実施するのは困難として、見送られています。報道(平成30年7月20日付時事通信)によれば、引き続き鉄道事業者と協議、検討するものの、乗客の理解や検査場所の確保など課題が多いため実現のめどは立っていないということですが、利便性優先との批判は免れず、近いうちに、利便性と乗客保護の両立を高いレベルで実現できる技術等の登場も待たれます。

また、最近の国際的なテロに関する動向では、ここにきてイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の活動に関する報道が増えてきたというものが挙げられます。たとえば、先月末には、内戦が続くシリアの南部でISによるとみられる連続自爆テロと戦闘(アサド政権軍による掃討作戦の展開)による死者数が221人(うち127人が市民、94人が政権軍側の戦闘員)に上ったとの報道がありました(この攻撃により自爆テロを実行した7人を含む少なくとも45人のISメンバーも死亡)。この攻撃は、米ロが南部一帯の情勢安定化で協力すると確認した直後に起きており、昨年10月に同国での最大拠点だった北部ラッカから敗走し求心力を失っているISが存在感と攻撃能力を誇示した形とも言えますが、シリア内戦の終結に向けた動きを妨げる狙いもあるとの意見もあります。また、国連アフガニスタン支援団(UNAMA)が公表した報告書によると、アフガンで今年1~6月に戦闘や自爆テロなどに巻き込まれた市民の死者が1,692人に上ったということです。1~6月としては2009年に統計を取り始めてから最多で、ISの台頭を反映したと指摘しています。一方、トルコでは、当局のテロ対策に関する権限を強める「反テロ」法案が成立しています。この「反テロ」法は3年間有効で、当局に対し、容疑者の拘束期間を延長したり、テロ組織と関係する軍人や公務員を解雇したりする権限を与えるというものですが、トルコでは、2016年7月のクーデター未遂事件後に発令された非常事態宣言が2年ぶりに解除になったばかりのところ、あらためて、テロ対策を名目として反政権派に対する大規模な粛清や摘発が行われる可能性が否定できません(実際に、非常事態宣言下では、約16万人が拘束され、公務員15万人以上が免職処分を受けています)。

さて、本コラムでは、社内研修等の一環として活用できそうな外務省の「ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル」の紹介を継続的に行っています。さいとう・たかをさんの人気漫画「ゴルゴ13」が登場するもので、大変分かり易くポイントもおさえられているものと思います。以下に掲載されていますので、是非、ご覧いただきたいと思いますが、今回もその中から一部をあらためて紹介します。

▼ ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル
▼ 第9話 企業の心構え

本話では、まず、「危機管理の必要性」が述べられており、「経営者は危機管理に対する意識を十分に持つ必要があります。会社が実行すべき対策を怠り、従業員などに被害が生じた場合、経営陣は「善管注意義務」違反に問われることになり得ます。また仮に経営責任が問われなかった場合でも事前の安全対策の不備や事後の対応の拙さを巡り社内外から非難を受けることで、企業としての信用を棄損する可能性もあります。海外でビジネスを展開することは、それ相応の危機管理要求水準に応える必要性があることを改めて直視し、自社のリスク管理を検証することが必要です」としています。さらに、とりわけ、経営トップの意識が重要であるとして、「トップの意識が高ければ、会社全体が危機管理に敏感になり、社員からのリスクの「芽」に関する報告が集まってくるようになります。また、危機管理は一見すると業務遂行と相反するように見える場合もあり、危機管理担当者の仕事をきちんと意義付け社内に浸透させていくことが必要になります。危機管理をトップの方針として遂行することは、組織の意識醸成に欠かせない要素であると言えます」と述べています。そのうえで、危機管理体制の整備が必要であるとして、「企業の危機管理における理想的なあり方は、トップ直結の危機管理専門部署を設置し、専属の担当者が24時間365日即応できる体制」であることを求めています。また、「危機管理業務は高い専門性と継続性が求められるため、最低でも5年以上は同じ担当者が担うこと」、「担当者が業務を遂行できない場合に備えて、複数の担当者を指名しておく」、少なくとも、「まずは危機管理の担当者を任命し、普段から情報のモニターに当たらせることが対策の第一歩」としています。そして、「大切なのは、初めから完璧な体制を目指すことはせず、今できる対策を取り続けることであり、それが自社のリスクを低減することに繋が」ると指摘しています。なお、同様の指摘として、東日本大震災への対応をふまえて、小松秀樹医師が著した「病院における災害対応の原則」から引用すると、原則(1)として、「法令より常識と想像力 臨時組織より既存組織 完璧は危うい」が掲げられており、「緊急対応の決めごとは単純に。法令より常識と想像力をよりどころにする」、「既存組織を優先。臨時組織にできるのは、簡素な機械的対応と心得る」、「完璧を期すと、意味のない連絡や作業が増え、結果を悪くする」、「詳細情報は時間と労力を奪う。詳細情報そのものが、迅速な行動の阻害要因になる」、「緊急時には、やりとりに食い違いが生じるものだと覚悟しておく」といった点があげられており、完璧な体制を目指すのではなく、「常識と想像力」をよりどころとして、今できることをやることが重要であるという点で共通しています。

さて、本話では、さらに、「自社のマニュアルの整備」の重要性を説いています。「マニュアルを整備することが非常に有益」であり、「予め事態を想定したうえで、どのような行動を起こすのか、という点を頭に入れておかないと安全対策に効果」がないと指摘しています。そのうえで、「想定される事態はどのようなものか、従業員はどのような危険にさらされる可能性があるのか、本社としてどのような支援ができるのか、緊急時の対策本部はどのように立ち上げるのかなどについて、事前に考えなければな」らないとしています。そして、マニュアルにおいて明文化すべき点として、(1)情報の一元化と連絡方法、(2)権限移譲と責任の明確化、(3)組織体制、(4)危機管理部門のルーティン、を挙げ、「マニュアルの内容が周知されるよう訓練や見直しを定期的に実施することが不可欠」としています。これに対し、仲摩徹彌著「危機突破リーダー」(草思社刊)から引用すると、「危機というのは大概初めてのこと。初めてであり、処理する時間もない。それでも直ぐに何かをやらなければいけない。これを危機という。時間的に余裕があってゆっくり考え、マニュアル通りにやれば収まるのであれば、それは危機ではない。本当の危機では、ほとんど「お手上げ状態」になる。マニュアル通りにやって人が死ぬより、マニュアルには書いていないけど命を救った方が良いに決まっている」との指摘があります。一見、マニュアルを否定するように見えるものの、マニュアルはあくまで事前に予見できる範囲という限界はあるとはいえ、危機的状況において必要な「想像力」のベースが経験や知識・常識等であることをふまえれば、マニュアルの内容を熟知すること、常に見直していくことが、マニュアルの通用しない危機的状況を乗り越えるためのベースとなるのではないかと思われます。

また、本話では、「緊急連絡網の整備」も重要と指摘しています。「不測の事態が生じた際に適切な対策を実施するためには、本社と現地間のスムーズな意思疎通が不可欠」、「有事の際には外部との連携も重要な要素」であるのは言うまでもありません。

(6) 犯罪インフラを巡る動向
① 転送サービス

総務省の情報通信審議会は、固定電話への着信を携帯電話に転送するといった「転送サービス」を手掛ける事業者に対し、利用者の本人確認を徹底することを求める答申案をまとめています。悪質な勧誘や詐欺に利用されるのを防ぐことが狙いです。報道によれば、固定電話の転送機能サービスを悪用した特殊詐欺が都内で増えており、詐欺グループが携帯電話を使っていても、被害者には「03」などで始まる固定電話の番号が表示され、行政機関や企業からかけているように装えることが悪用されている実態があります。

▼ 総務省 情報通信審議会 電気通信事業政策部会(第43回)配付資料・議事概要・議事録
▼ 資料43-2-1 「固定電話番号を利用する転送電話サービスの在り方」報告書 概要

報告書では、まず、基本的な考え方として、「転送電話の普及や提供形態の多様化により、一般利用者(消費者)が固定電話番号から想起する地域やサービスとは異なる発着信において、通話の相手には固定電話番号による発着信であるように装う(一般利用者(消費者)に意図的に誤認させる)ことも可能。こうしたサービスの進展により、固定電話番号が確保してきた識別性やこれを通じた社会的信頼性の前提に疑義が生じる状況」であることを指摘し、悪質な勧誘や詐欺等への悪用の可能性など問題の所在を明らかにしています。そのうえで、今後の方向性として、以下のようなものが示されています。

  • 固定電話番号を使用する転送電話は、利用者が番号から想起する地域と実際の発着信の場所が異なることとなるが、番号区画内に拠点と固定回線等が存在する法人の職員が営業・出張・テレワーク等の場合に当該法人の固定電話番号で発着信を行う一定のニーズは存在し、利用者利便に資するもの
  • 番号区画内に転送契約者の拠点や固定回線等がない状況で固定電話番号を使用する転送電話は、一般利用者(消費者)の視点から見ると信頼性や法人拠点があるように装う(一般利用者(消費者)の誤認を期待する)ものであり、固定電話が長年積み重ねてきた識別性や信頼性に関する経験・コスト等に対するフリーライド(ただ乗り)。中長期的には固定電話番号の識別性・信頼性は損なわれ、やがては転送電話の利用ニーズ・市場も縮退
  • こうした点を踏まえ、固定電話番号を使用して転送電話を提供する番号指定事業者及び番号非指定事業者について、以下の点を番号の使用条件とすることで地理的識別性・社会的信頼性の確保が必要
  • 番号区画内に転送契約者の拠点(住所)が存在し、これを確実に担保するための実在確認及び本人確認の徹底
  • 転送契約者の拠点に固定端末設備及び固定端末系伝送路設備が設置されていて、固定電話番号の指定要件を満たした音声通信サービスの発着信が可能であること
  • これらの条件を満たせない場合は、転送電話の発信者番号を非通知にする(「発信転送」の場合のみ)又は固定電話番号以外の番号(050番号等)を使用
  • 事業者が作成する「電気通信番号使用計画」及び番号の使用状況等に関する定期報告等により、総務省において、番号指定事業者による番号の卸提供の状況(卸番号数、卸先事業者名、卸先事業者による転送電話の提供状況等)、番号非指定事業者(卸先事業者)による卸提供を受けた番号の使用状況(使用番号数、卸元事業者名、転送電話の提供状況等)及び番号の再卸提供の状況(再卸番号数、再卸先事業者名、再卸先事業者による転送電話の提供状況等)を確認することが必要
  • 番号の識別性・信頼性が適切に確保されるためには、関係事業者による発信者番号偽装表示の防止のための実効的な対策が必要。転送電話の提供形態の多様化等に伴う発信者番号偽装表示に関する課題について、一般社団法人電気通信事業者協会(TCA)等による検討・整理や必要な対策の見直し等が必要

転送サービスの有意性を認めたうえで、悪用を防ぐために、「実在確認・本人確認の徹底」や「使用状況の適切なモニタリング」といった施策を講じるよう方向性が示されたものですが、現実に転送サービスが犯罪に悪用されていることから、ある程度の利便性よりも規制・管理・監視を強化する方向であるべきであり、最低限の項目が挙げられているものと評価できます。一方で、これだけでは悪用を完全に防ぐことは難しいのも事実であり、特殊詐欺の場合など、相手の話をうのみにせず、電話帳やインターネットで番号を確認するといった「自衛策」を徹底することも被害防止の観点からは重要だと言えます。

② その他の犯罪インフラを巡る動向

最近の報道から、犯罪インフラ化が懸念される状況について、いくつか紹介します。

  • 報道(平成30年7月18日付産経新聞)によると、商業ビルの一室が又貸し(転貸借)され、違法風俗店の開業に使われるケースが後を絶たないということです。転貸借の仕組み自体が違法風俗店の犯罪インフラ化している状況が懸念されるところです。具体例として、大阪・キタで2月、未成年者を雇用していた違法風俗店を摘発した事件では、だれが経営しているのか、その実態を隠すために転貸借が悪用されていたということです。ただ貸す側のオーナーの間でも、違法営業に対する認識は高くなく、結果的に犯罪インフラ化を助長するような状況にあり、警察はオーナー側の意識を高めることが必要だと感じているようです。また、繁華街のビルは事業者の出入りが頻繁にあることから、風俗に限らず、特殊詐欺グループのアジトに悪用される恐れもあることが指摘されており、この点からも、転貸借における「真の受益者」の特定が極めて重要だと言えます。
  • 他人名義のクレジットカード情報で動画を購入したとして、警視庁サイバー犯罪対策課は無職の男を電子計算機使用詐欺容疑などで逮捕しています。報道によれば、容疑者は3~4年前からSNSや掲示板で他人のカード情報を購入し、そのままネットで販売する「転売屋」だったということであり、この1年で約260回売買し、少なくとも130万円の利益を得たとみられるということです。単純な転売屋とはいえ、犯罪者から見れば出所を隠すツールのひとつとして悪用が可能であり、「転売屋」自体、犯罪インフラの一つと言えます。また、カード情報のやり取りという意味では、クレジットカード会社などにアクセスした利用者のパソコンに、偽の認証画面が出るよう仕向ける手口で集めたものとみられるカード情報をネット上で保存しているサーバーが見つかったという事案がありました(情報は日々増減しており、最大1日1,800件分に達する日もあったといいます)。報道(平成30年7月30日付産経新聞)によれば、この手口では、攻撃者が盗みを実行する上で最も重要な「Webインジェクション」と呼ばれる不正機能が犯罪の道具として闇サイトで売買され拡散、猛威を振るっている可能性が高いということです。系統が異なる複数の手口が存在する中、同機能は共通して使われており、攻撃者とツールを開発・販売する犯罪者との間で、「分業体制」が出来上がっていることを示しているものとして注意が必要な状況です。
  • SNSもまた犯罪インフラ化している側面があることは、これまでも本コラムでは指摘しています。直近では、「通信制高校の女子生徒が、個人名を名乗って「お金借りられます」などと記載したSNSアカウントを見つけ、20万円の融資を申し込むメッセージを送信。その後、メールや男の声の電話で「未成年者に融資する場合、10万円の保証金が必要」などと連絡があり、女子生徒は指定された口座に現金10万円を振り込んだ。しかし、融資実行はなく、詐欺とわかった」といったものがありました。また、政府は、インターネットが原因の犯罪被害やトラブルから子供たちを守るための「第4次青少年インターネット環境整備基本計画」を決定、座間市で9人が殺害された事件を受け、SNSでの自殺関連の書き込みの監視強化や、小学校低学年のネット利用普及を踏まえ、低年齢層の保護者を対象とした安全利用啓発の推進などが盛り込まれました。
  • 海外では移民自体が犯罪インフラ化している状況があります。例えば、トランプ米政権が米国に不法入国した親子を引き離して拘束している問題で、裁判所の命令を受けて行われている親子の再会が遅々として進んでいない背景には、親を名乗る大人に犯罪者が紛れている可能性があり、当局が慎重に確認作業を進めていることが挙げられるといいます。また、報道(平成30年7月22日付読売新聞)によれば、アフリカや中東から欧州へ押し寄せる移民の中継地となっているリビアでは、移民を標的にした人身売買が横行しているということです。最近は各国による対策強化などで欧州を目指して海を渡る移民の数自体は減少しているものの、犯罪組織と手を組んだ密航業者による人身売買などの問題が浮上し、国際機関が対応を呼びかけているということです。
(7) その他のトピックス
① 薬物を巡る動向

前回の本コラム(暴排トピックス2018年7月号)において、カナダがG7では初めて、大麻の所持や使用を今年10月17日に合法化すると発表したことを取り上げましたが、直近では、英政府が、今秋、医療用大麻を解禁するとの動きがありました。ただし、カナダの場合は嗜好用の大麻解禁であったのに対し、英の場合は、病気の治療目的に限定し、嗜好品としての使用は引き続き違法とする点で大きく異なります。なお、大麻をめぐっては、ドイツ、イタリアなども医療用に限り解禁している一方で米国は州ごとに対応が異なり(20州以上で医療用大麻の使用が認められており、コロラド州などは娯楽用での使用も認められています)、一方日本は全面的に禁止しています。さて、今回の報道を見る限り、「医療用」と「嗜好用」との区分はしていても、「大麻合法化の動きが世界的に拡がりつつある」と一括りにしており、読者には「嗜好用の合法化が世界的に拡がっている」とのミスリードをしかねない状況だと感じました。本コラムでたびたび紹介していますが、WHOが大きな疾患と指摘しているように、大麻は安全ではなく、安全だから合法化するというロジックは正確ではありません。以前の本コラム(暴排トピックス2017年12月号)でも紹介した通り、大麻依存症の依存症化率は10%にも上り、アルコール依存症の0.9%を大きく上回るほどの依存性の強い薬物です。さらに、大麻合法化は、「大麻が国民の50%近くまで蔓延して禁止する意味がなくなった国がやむなく行うこと」であり、「経済的損失を少なくするための便宜的措置に過ぎないこと」についても知っておく必要があります。また、このような大麻の有害性(依存性の高さや脳への影響、再就労への影響など)や「医療用と嗜好用」の大麻の違い(無害性と有害性の違い)は現時点でも国民の間で十分な理解が得られているとは言えません。本コラムでこれまで繰り返し指摘してきた通り、今後、大麻合法化・非処罰化の国などからの流入量の増加や大麻から覚せい剤へのシフトなどの危険な事態の定着化・深刻化も危惧されること(既にその兆候はあります)、大麻の有害成分であるテトラヒドロカンナビノールが品種改良を経て強力になっていること(大麻リキッドなど有害性が高まっていること)などから、これまで以上に大麻の違法性・有害性を国民にきちんと伝えていくための広報が重要となると思われます。

なお、関連して、医療用大麻の製造と販売を手掛けるカナダのティルレイ社が、米ナスダック市場に株式を上場しました。(医療用)大麻の合法化の流れは確実にある中、ついに株式上場する関連企業が登場したことは(全面的に禁止している日本からみれば)驚きです。また、世界の動向としては、ジョージア(グルジア)憲法裁判所は、嗜好用としてのマリフアナ(乾燥大麻)使用に科していた罰金を違憲として廃止する判断を示したことも注目されます。報道によれば、「(使用は)自由な自己開発の権利として保護される」と憲法裁が説明したとされていますが、一方で、「教育機関や公共の場などで他人に害を及ぼす恐れがある」場合は処罰が正当化される、栽培や販売を禁止する現行規定は継続するとのことです。

大麻合法化を巡る世界的な動向を確認してきましたが、日本では全面的に禁止されていることもあり、摘発の記事を目にする機会が多いと言えます。直近でも、北海道厚生局麻薬取締部が、乾燥大麻を所持したなどとして大麻取締法違反(所持、栽培)容疑で6月に逮捕した夫婦の自宅から、自生大麻の有毒成分の約60倍相当に濃縮された「大麻ワックス」約22グラム(少なくとも数百回分の使用量に相当)を押収したという事例がありました。また、自宅の室内で大麻草を栽培した疑いで4人が逮捕された事例では、「自分たちで使用するため、種をインターネットで海外から輸入して育てた」と供述しているとのことですが、このように、インターネットを介した個人輸入や専用キッドが出回ることで、入手・栽培が容易になっている現実があります。当然ながら、暴力団による大麻栽培の摘発も増えており、東組傘下組織組長による大麻大量栽培事件では、栽培施設に4,000万円が投資された一方で、摘発時には、2万本以上、末端価格にして40億円と推定される大麻が押収されています(その投資効率の高さが分かります)。また、ベトナム人マフィアグループと神戸山口組傘下組員との国際的な協働事例もありました。それ以外の薬物に関わる直近の報道について、以下、箇条書きで紹介します。

  • 直近の報道(平成30年8月5日付産経新聞)によれば、同種の犯罪を繰り返す傾向があるとされる性犯罪者や薬物犯、窃盗犯らの再犯防止策として、法務省が満期出所した元受刑者らに国費で薬物治療や認知行動療法を受けさせる制度を整備する方針を固めたということです(なお、本件については、次回、詳しく取り上げたいと思います)。現在でも、犯罪傾向のある受刑者は刑務所内で再犯防止指導を受けていますが、再犯となる事件が後を絶たず(岡山県津山市の小3女児殺害事件の犯人はこの指導を受けていますが効果がなかったと指摘されています)、そのうえ、満期出所後は具体的な手当がされていなかったことが問題となっています。専門家は「刑務所より、社会で生活しながら治療を受けたほうが有効」と指摘していますが、再犯多発の現状を鑑みれば、正鵠を射た指摘だと思われます。
  • 埼玉県警の警察官による所持品検査がきっかけで罪が発覚したものの、証拠能力を否定され被告に無罪判決が出る事例がありました。さいたま地裁は「所持品検査の必要性はさほど高くなかった」とし、違法に収集された証拠だとして証拠能力を否定したものです。同地裁は、前歴以外に覚醒剤所持を疑う事情がないとし、「所持品検査の必要性も緊急性もさほど高くなく、公衆の面前で排便させることも辞さない行為。令状主義の精神を没却する違法なもの」と捜査を非難しています。
  • 向精神薬を横流ししたとして、近畿厚生局麻薬取締部は、麻薬取締法違反(営利目的譲り渡し)の疑いで、兵庫県内で薬局2店舗を経営する薬剤師を逮捕しています。さらに、麻薬取締部と兵庫県警は、薬剤師から薬を受け取っていた中国籍の男も、医薬品医療機器法違反(販売目的貯蔵)の疑いで逮捕しています。麻薬取締部は、この薬剤師が大量の向精神薬を仕入れているとの情報を2月に入手、最近数年間で男らに向精神薬10万錠以上を横流ししたとみられています。この事例では、数年間で10万錠以上が横流しされること自体、異様な事態ですが、された側の薬局の販売管理・保管管理体制の脆弱性が突かれた形とも言えます。
  • バングラデシュ政府が5月に始めた超法規的な麻薬密売の撲滅作戦について、地元の人権団体は、すでに作戦に伴う死者が200人に達し、中には十分な裏付けがないまま「容疑者」として殺害されたケースも多いと指摘しています。フィリピンのドゥテルテ大統領が就任後に始めた「麻薬戦争」同様の摘発作戦に警鐘を鳴らしています(フィリピンでは、警察との銃撃戦で4,000人以上が死亡しています)。
  • 南米コロンビア最大の麻薬密売組織クラン・デル・ゴルフォのボスが、過去3年間に同組織が米国や欧州に密輸しようとしたコカイン計約9トンを港湾などで嗅ぎつけ、摘発に結び付けるなど大活躍するソンブラという名の麻薬捜査犬を殺すよう呼び掛け、2,000万ペソ(約77万円)の賞金を懸けていたようです。ソンブラはより安全な職場に異動となり、そこでも大活躍しているとのことです。
② ギャンブル依存症対策(カジノ/IR)を巡る動向

カジノを中核とする統合型リゾート(IR)実施法が成立しました。政府は今後、開設に向けた準備を本格化させることになります。現状の予定では、来年の夏から秋ごろに、監督機関であるカジノ管理委員会が設けられるほか、IR設置箇所を選ぶ際の基準となる基本方針を策定することになります。さらに、手続きが順調に進んだ場合、日本初となるカジノの開業時期は早ければ2020年代半ばになる見通しと言われています。

懸念されるギャンブル依存症対策については、政府は「厳格な入場制限をはじめ、重層的かつ多段階的な依存症対策を講じる」と説明していますが、依存症は重症になるほど治りにくく、より早い段階でのサポートが必要だと言われています。IR実施法で盛り込まれた「週3回かつ28日間で10回」のカジノ施設への入場回数制限に科学的根拠を疑う声も多いこともあり、対策の実効性を高める必要があるのは間違いありません。なお、本コラムでも紹介しましたが、先行して成立したギャンブル依存症対策基本法は、カジノだけでなくパチンコや競馬など既存のギャンブルも包括し、政府に医療体制の整備や社会復帰支援を進める「対策推進基本計画」の策定を義務づけています。依存症経験が疑われる人はすでに国内で約320万人いるも言われています。カジノで依存症を徹底的に防がなければならないのは当然のことですが、これを機会に、すべてのギャンブルの健全化を目指し、包括的かつ実効性の高い取り組みが求められていると認識すべきだと思います。

さて、IRからの暴排(反社会的勢力排除)については、(例えば、参入事業者への暴力団の排除については、カジノで働こうと応募してきた個人の適格性を審査する際に、)警察が照会に応じる仕組みが想定されるといった報道(平成30年7月20日付産経新聞)もありますが、現時点では、詳細な制度設計まで至っておりませんので、あくまで可能性のレベルと言えます。なお、入場者からの暴排については、排除対象が「暴力団対策法第2条第6号に規定する暴力団員又は暴力団員でなくなった日から起算して5年を経過しない者」となっており、反社会的勢力の範囲からみれば圧倒的に限定されることになるうえ、偽装離脱の現実を考慮していないものとして問題が残ることになります。また、指定参院内閣委員会でのIR推進本部次長の発言として、「入場者からの暴力団排除にあたりましては、カジノ事業はまず新聞等の民間ベースで取得可能な情報など、自ら取集した資料を照合することに加えまして、入場者本人から暴力団員等に該当しない旨の誓約書、確約書を徴収するという事にしておりまして、そういう事を通じて該当性を確認することを想定してございます。カジノ事業者においては他の金融機関と同様、必要に応じて警察への照会などの措置をとって頂くことも想定しているところです」といったものがありました。概ね、本コラムで提言してきた内容に同じではありますが、現行の金融機関と同様の警察への照会ということであれば、(回答まで一定程度の時間を要することから)即時性が確保できなくなりますので、(1)警察からの回答前に誓約書・確約書をとりつけることをもって、いったん入場を認め、万が一該当した場合は、以後の入場を認めない、(2)警察からの回答があるまでは入場を認めない、などの運用が考えられるところです(また、チェックのタイミングについても、(1)当日、入場前10~20分間でチェックを行うケース、(2)事前に入場許可証等の発行の際にチェックを行うケースなどが考えられます。前者であれば、グレーの取り扱いが問題になりますが、後者であれば警察への照会をふまえた取引可否判断、厳格なチェックが実施可能となるかもしれませんが、利便性は著しく劣ることになります)。また、報道(平成30年7月18日付朝日新聞)では、IR実施法の成立により、「日本で初めて民間事業者が「賭博」を運営できるようになる」としてうえで、「建設や運営で多額の金が動くだけに、暴力団などの反社会的勢力を完全に排除できるか、大きな課題の一つ」と指摘、「ジャンケットが禁止される見通しだが暴力団がその役割を担う」、「ディーラーを買収していかさま行為を行う」、「回数制限や6,000円の入場料回避の人たちなど向け闇カジノの運営」などの暴力団の関与の手口を明らかにしています。さらに、IR事業者やその取引先には「十分な社会的信用を有する者」であることが求められ、IR事業者が厳格にチェックすることが求められているところ、暴力団等の実態の不透明化への対応は困難が伴うものであることは、本コラムでも常に指摘しているところです。このような状況については、筆者も取材に応じ、「きちんと調査するには莫大な費用と人手が必要だ。入場規制やいかさまなどの不正対策も、厳しくすればするほど客離れを起こすため、民間事業者がどこまで対策を徹底するかは不透明だ」とのコメントが掲載されました。本コメントを通して、厳格な規制とビジネスとしてのカジノ・IR事業の関係、反社チェックの限界、事業者がどこまで本気で「清廉性」を追求するのか・できるのか、といった様々な課題が含まれていることを感じていただければ幸いです。なお、今後の制度設計において詳細は決まっていくものと思われますが、ここまで指摘してきたことはまだ一部であり、現状、IR実施法等の記載内容、これまでの議論内容等だけでは、実務に落とし込んだ時に数多くの「抜け道」を反社会的勢力に与えてしまう懸念が強くあることを指摘しておきたいと思います。

ギャンブル依存症に関連して、最近注目されているのが、「ネット依存症」です。世界保健機関(WHO)が公表した改訂版国際疾病分類「ICD―11」(日本をはじめ多くの国が死因や患者の統計、医療保険の支払いなどに使う病気やけがの分類)の最終案に「ゲーム依存症」が明記されました。来年5月のWHO総会で正式決定されますが、スマホなどのゲームのやり過ぎで日常生活に支障をきたすゲーム依存症が、「ゲーム障害」として国際的に疾患として認められたことになります。厚生労働省の2012年度の調査では、ネット依存症の恐れがある中高生は約52万人いると推計されるということです(12人に1人ほどの割合)。また、報道(平成30年7月15日付朝日新聞)によれば、国内で初めてネット依存症の専門外来を設けた、国立病院機構久里浜医療センターのネット依存患者の9割はゲーム依存で、56%が未成年であること、子どもは脳が十分に発達していないため短期間で依存症になりやすいこと、センターで治療を受けるゲーム依存症の患者はほぼ全員体力が低下していたこと、うつ病を合併する人も少なくなく一般の人よりも自殺率が高くなることなどが明らかになっているということです。また、別の報道では、米国では、小児科学会が2016年に出した声明で、保護者は学齢期の子どもと、スマホやテレビといった媒体ごとに1日の使用時間を決めるよう推奨しており、そのうえで、「1日1時間は体を動かす」、「睡眠を十分にとる」、「寝る時はスマホを部屋に持ち込まない」、「ネットなどを使わない時間を家族と過ごす」ように呼びかけているということです。日本においても、同様のことが言えると思われ、今後、(このような内容を含む)ネット依存症対策がもっと国民の間に周知されることを期待したいと思います。

③ 平成30年警察白書ほか統計資料より

警察庁から平成30年警察白書の概要が公表されていますので、ポイントを紹介いたします。

▼ 警察庁 平成30年警察白書
▼ 平成30年警察白書 概要版

まず、刑法犯認知件数については、平成29年中は約915,000件と、前年より8万件以上減少しており、ピーク時の平成14年と比べ約194万件(67.9%)減少したことになります。また、人口1,000人当たりの刑法犯認知件数は、平成29年は戦後最少の7.2件となっており、母数の減少というだけでなく、発生比率そのものが減少していることがわかります。もう少し詳しくみると、平成元年から平成14年にかけて刑法犯認知件数が約118万件増加しましたが、それは街頭犯罪及び侵入犯罪の認知件数の増加によるものが大きいと考えられ、さらに平成14年から平成29年にかけて刑法犯認知件数が約194万件減少、これも街頭犯罪及び侵入犯罪の減少によるものと考えられるということです。その背景事情としては、「官民一体となった総合的な犯罪対策が効果を上げたほか、様々な社会情勢の変化も背景にあるものと考えられる。刑法犯認知件数が減少した背景として考えられる社会的要因としては、少子高齢化の進展により、人口1万人当たりの検挙人員が相対的に多い若者の人口が継続して減少していることが挙げられる」としています。

また、平成元年以降、他の年齢層と比較して、14歳から19歳までの人口1万人当たりの検挙人員が圧倒的に多かったが、平成15年以降大幅に減少し、他の年齢層との差が急速に縮小しているとの指摘がありますが、急速な少子化がその背景にあることが推測されます。この点については、「近年の若者については、規範意識が高まっていることがうかがわれる。また、近年の若者のうち、現在の生活に満足している、「とても幸せだ」と思っている者が増加し、社会や家庭生活に不満を抱く若者が減少していることがうかがわれる」としていますが、本指摘については、今後の動向を確認していく必要があるのではないかと思います。

さらに、防犯性能の高い建物部品の開発及び普及もあって、平成14年以降、侵入窃盗、中でも空き巣の認知件数は大きく減少しており、空き巣の侵入手段別では、平成16年と比較して、特殊開錠用具の利用は98.4%、ガラス破りは83.9%減少と、70.9%減少した無締りと比べて大きく減少したと指摘されています。防犯設備の進化としては、自動車盗においても、イモビライザの装着を促進する取組もあり、自動車保有台数1万台当たりの自動車盗の認知件数は、平成15年をピークにほぼ一貫して減少していること、自動販売機の段階的な堅牢化に伴い、自動販売機ねらいの被害が著しく減少したこと、などもあわせて指摘されています。

また、平成29年中のストーカー事案の相談等件数及び配偶者からの暴力事案等の相談等件数は、いずれも、ストーカー規制法及び配偶者暴力防止法の施行以降、最多となったこと、児童虐待事件については、統計をとり始めた平成11年以降、過去最多となった(態様別検挙件数では、身体的虐待が全体の約8割を占めている)ということです。

特殊詐欺については、本コラムでも継続してその動向をウォッチし続けていますが、長期的な推移をあらためて見ると興味深いものがあります。本白書では、「平成15年頃から発生が目立ち始め、警察では各種予防活動等を推進し、平成21年には平成16年の約3分の1まで認知件数が減少した。しかし、平成22年以降、認知件数及び被害総額は共に悪化し、平成26年には被害総額が過去最高の約566億円となった。警察では、取締りの更なる強化、各種予防活動、犯罪インフラ対策等を行い、被害総額については平成26年以降減少を続けているものの、認知件数については増加し続けている」といった形で長期的な推移がまとめられています。特殊詐欺は、犯罪者と当局のいたちごっこが続いており、新たな対策で抑え込む時期がある一方で、新たな手口や一回りして再度流行る手口などが有効な時期(特殊詐欺が猛威を奮う時期)とが交互に繰り返されています。

サイバー犯罪については、「インターネットが国民生活や社会経済活動に不可欠な社会基盤として定着し、サイバー空間が国民の日常生活の一部となっている中、サイバー犯罪等に関する相談取扱件数は、近年高い水準にある。また、平成29年中のサイバー犯罪の検挙件数は過去最多」となったとしています。さらに、「少子化や核家族化が進展していることに加え、インターネットやスマートフォンの普及・進展により、SNS等を通じた地理的条件等に制約されない交友関係が構築されやすくなっていることに伴い、心身共に未熟であり、環境からの影響を受けやすい児童が性犯罪等の被害に遭いやすくなっている」とも指摘しています。さらに、特殊詐欺やサイバー犯罪などにおいては、情報通信技術の発展や普及に伴い、加害者が被害者と顔を合わせない「非対面型犯罪」が増加しており、その対応が課題だと指摘しています。

また、今後の犯罪対策についても言及がなされており、「効果的かつ効率的な犯罪対策を講ずるためには、絶えず変化する犯罪情勢の分析を高度化し、その分析に基づいた取組を推進する必要があり、今後は、専門家や民間事業者の知見、人工知能等の技術を一層活用し、より効果的かつ効率的な警察活動の在り方を検討する必要がある。また、社会情勢、人口動態等の変化が犯罪情勢に与える影響の視点を取り入れた犯罪情勢分析の高度化を進めていく必要がある」と、犯罪の高度化に対して、新たな技術の積極的な活用や民間の知見の導入などを通じて分析手法の高度化を図る方向性が示されています。一方で、犯罪にかかるデータの利活用についても言及しており、「今後は、国民の権利利益、国の安全等が害されることのないように配慮しつつ、国民がインターネット等を通じてより容易に利用できるよう、既に警察において公開している情報を利用しやすい形に加工し、汎用性を高めるなど、オープンデータ化を一層進める必要がある」としている点は注目されます。さらに、「人身安全関連事案が増加傾向にあることに加え、特殊詐欺の被害が深刻な状況にあり、サイバー空間における脅威も増大しているなど、犯罪情勢は依然として予断を許さない状況にある。これらの治安上の課題は、少子高齢化が進展し、コミュニケーションやビジネスにおける情報通信技術の活用が不可欠となる中で、これまで以上に深刻な問題となることが予想され、警察は、従来とは異なる対策を的確に講じていかなければならない」として、「少子高齢化」「情報通信技術」をキーワードとして、それらの動向・社会情勢の変化、をふまえた対策のあり方を模索していくべきとしています。

また、本白書では、4つのトピックスが特集されていますが、そのうち「大麻事犯の状況と警察の取組」について、は、「近年の大麻事犯の特徴としては、全検挙人員のうち初犯者や20歳代以下の若年層の占める割合が高いことが挙げられる」、「警察では、薬物犯罪組織の壊滅や供給ルートの解明に向け、大麻の栽培事犯、密売事犯等の徹底検挙に努めている」、「警察では、大麻事犯の検挙の徹底を図るとともに、関係機関・団体と連携し、大麻の乱用の拡大が深刻化している若年層を対象とした広報啓発活動を通じて大麻の有害性等を訴え、その乱用の拡大防止に努めている」との指摘があります。大麻事犯の動向については、本コラムでもたびたび紹介しているところであり、とりわけ若年層への蔓延、大麻を安全なものとする誤った認識が流布されている状況に大きな危惧を抱いているところ、「若年層を対象とした広報啓発活動を通じて大麻の有害性等を訴え、その乱用の拡大防止に努めている」との取組を一層強化していただくとともに、世界各地で大麻合法化の流れがあり、その影響の大きさもふまえ、潜在的に蔓延している中高年層も対象に含めて、大麻の有害性を全ての国民に積極的に周知していくことが必要なのではないかと思います。

また、「対日有害活動等の現状と警察の取組」とするトピックスでは、「北朝鮮は、我が国においても、潜伏する工作員等を通じて活発に各種情報収集活動を行っている。中国は、諸外国において活発に情報収集活動を行っており、我が国においても、先端技術保有企業、防衛関連企業、研究機関等に研究者、技術者、留学生等を派遣するなどして、巧妙かつ多様な手段で各種情報収集活動を行っているほか、政財官学等の関係者に対して積極的に働き掛けを行っているとみられる。ロシアは、その情報機関が世界各地において活発に活動しており、我が国においても活発に情報収集活動を行っている」として、北朝鮮・中国・ロシアの情報収集活動に対する備え、違法行為に対して厳正に取り締まっていくことが述べられています。具体的な事例としては、「対北朝鮮措置の実効性を確保するため、対北朝鮮措置に関係する違法行為に対し、徹底した取締りを行っており、30年1月までに38件の事件を検挙」、「官民連携等による技術情報等の流出防止に向けた取組を積極的に行っているほか、平成29年12月までに、36件の大量破壊兵器関連物資等の不正輸出事件を検挙」したことなどが紹介されています。

続いて、警察庁から公表された「平成29年の刑法犯に関する統計資料」について紹介いたします。本資料では、平成20年など昔からの経年変化の状況が分かる形となっており、その推移は興味深いものとなっています。

▼ 警察庁 平成29年の刑法犯に関する統計資料
▼ 平成29年の刑法犯に関する統計資料

例えば、特殊詐欺認知件数について、H23年7.216件、H28年14,154件、H29年18,212件、被害額は、H23年204.3億円、H28年407.7億円、H29年394.7億円、うち、振り込め詐欺の認知件数は、H23年6,233件、H28年13,605件、H29年17,926件、被害額は、H23年127.3億円、H28年375.0億円、H29年378.1億円となっており、全般的な傾向としては、平成23年当時と比較して件数・被害額ともに圧倒的に増加していることが分かります。さらに、オレオレ詐欺の認知件数については、H23年4,656件、H28年5,753件、H29年8,496件、被害額は、H23年107.1億円、H28年167.1億円、H29年207.9億円と、やはり全般的な傾向同様、件数・被害額とも増加しており、他の類型と比較しても件数・被害額ともに大きいことから、全体に大きな影響を与えているものと思われます。なお、架空請求詐欺の認知件数は、H23年756件、H28年3,742件、H29年5,753件、被害額は、H23年10.4億円、H28年15.8億円、H29年12.8億円、融資保証金詐欺の認知件数は、H23年525件、H28年428件、H29年548件、被害額は、H23年7.2億円、H28年7.0億円、H29年6.6億円、還付金等詐欺の認知件数は、H23年296件、H28年3,682件、H29 年3,129件、被害額は、H23年2.5億円、H28年42.6億円、H29年35.9億円などとなっており、とりわけ、件数・被害額ともに還付金等詐欺の伸びが大きかったこと、架空請求詐欺の件数が大きく伸びていることが指摘できます。

外国人犯罪については、刑法犯検挙件数における総数・外国人はH20年573,392件・34,620件、H28年337,066件・15,276件、H29年327,081件・17,156件となっており、ここ10年で大きく減少したと言えます。一方、国籍等別刑法犯検挙状況については、H20年34,620件(うち中国11,406件、韓国・朝鮮9,123件、ブラジル5,171件など)、H29年17,156件(ベトナム3,917件、韓国・朝鮮3,750件、中国3,653件など)となっており、国別ではベトナムが大きく伸びていること(相対的に中国の順位が低下していること)が特筆されます。また、暴力団構成員等の刑法犯検挙人員については、H20年16,242人(うち暴力団構成員5,121人)、H28年12,177人(3,327人)、H29 年10,393人(2,828人)などとなっており、暴力団構成員等の数の減少(平成20年82,600人に対して、平成29年34,500人と大きく減少しており、その減少率は▲58.2%)が顕著です。ただし、暴力団構成員等の刑法犯検挙人員の減少率が▲36.0%であることと比較すると、暴力団構成員等における検挙比率が高まっていること、すなわち資金源獲得活動の困難化にともない逮捕されるリスクを負ってまで犯罪に手を染めざるを得ない状況に追い込まれていることを示しているとも言えます。また、刑法犯検挙人員に占める暴力団構成員の比率としては、H20が31・5%、H29が27.2%と低下している一方で、暴力団構成員全体の比率は、H20は46.9%、H29は48.7%と推移していることから、暴力団構成員の検挙が少なくなっている状況があり、その背景として、組員の高齢化、周辺者への資金獲得活動の移行等の実態の変化が考えられるところです。また、主な罪種における暴力団構成員等検挙人員については、傷害(H20年3,219人、H29年2,095人)、恐喝(H20年2,013人、H29年803人)、窃盗(H20年3,028人、H29年1,874人)、詐欺(H20年1,846人、H29年1,813人)などとなっており、とりわけ詐欺事犯への関与が急激に高まっていることが分かります。

次に、警察庁から公表された今年上半期の犯罪統計資料について、簡単に紹介いたします。本期間における全国の警察が認知した刑法犯は398,615件となり、戦後初めて40万件を下回ったことになります。これは16年連続の減少で、戦後最少だった昨年同期と比べても52,054件の減少(減少率▲11.6%)となっています。

▼ 警察庁 犯罪統計資料(平成30年1月~6月)

平成30年1月~6月の刑法犯全体の認知件数は398,615件(前年同期450,669件、前年同期比▲11.6%)、検挙件数は152,799件(161,178件、▲5.2%)となりました。うち窃盗犯全体の認知件数は282,927件(320,216件、▲11.6%)、検挙件数は95,245件(101,821件、▲6.5%)であり、認知件数の比率で71.0%を占める窃盗犯の動向が大きく影響していることがわかります。なお、このうち万引きの認知件数は51,458件(55,229件、▲6.8%)、検挙件数は36,569件(38,926件、▲6.1%)となっています。また、知能犯全体の認知件数は21,150件(23,938件、▲11.6%)、検挙件数は9,824件(10,231件、▲4.0%)、うち詐欺の認知件数は19,104件(21,603件、▲11.6%)、検挙件数は8,181件(8,527件、▲4.1%)といった動向となっています。いずれも、検挙件数の減少率の方が認知件数の減少率より小さくなっていることから、摘発が進んでいることが推測されます。また、特別法犯全体の検挙件数は34,582件(34,999件、▲1.2%)、検挙人員は29,339人(29,954人、▲2.1%)であり、うち犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,318件(1,225件、+7.6%)、検挙人員は1,101人(1,001人、+10.0%)と大きく増加していることが注目されます。

また、蔓延が懸念されている大麻取締法違反の検挙件数は2,166件(1,784件、+21.4%)、検挙人員は1,660人(1,360人、+22.1%)と、こちらも検挙が増えている一方、覚せい剤取締法違反の検挙件数は6,613件(6,990件、▲5.4%)、検挙人員は4,540人(4,872人、▲6.8%)などであり、大麻へのシフトが顕著であることを物語っているとも言えます。さらに、来日外国人による重要犯罪の検挙人員について、総数は265件(238件)、国籍別では、中国65件(65件)、ベトナム33件(42件)、ブラジル24件(17件)、韓国・朝鮮24件(10件)などとなっているほか、来日外国人による重要窃盗犯の検挙人員について、総数は128件(119件)、国籍別では、中国24件(37件)、韓国・朝鮮18件(5件)、ベトナム16件(21件)、ブラジル13件(11件)などとなっており、ベトナムの伸びが注目されるところです。

暴力団犯罪(刑法犯)について、刑法犯全体の検挙件数は9,256件(10,062件、▲8.0%)、検挙人員は4,567件(4,942件、▲7.6%)であり、暴力団構成員等の昨年からの減少率▲11・8%より小さくなっていることから、暴力団構成員等が犯罪に関与する割合が高まっていることが推測されます。このうち窃盗の検挙件数は5,152件(5,563件、▲7.4%)、詐欺の検挙件数は1,074件(1,205件、▲10.9%)、傷害の検挙件数は840件(930件、▲9.7%)などとなっています。また、暴力団犯罪(特別法犯)について、特別法犯全体の検挙件数は4,540件(5,330件、▲14.8%)、検挙人員は3,258人(3,872人、▲15.9%)となっており、特別法犯については、暴力団構成員等の減少率を上回っていることから、その関与の割合が低くなっていることが推測されます。また、暴力団構成員等による大麻取締法違反の検挙件数は549件(534件、+2.8%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は3,106件(3,488件、▲11.2%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は8件(6件、+33.3%)などとなっており、暴力団においても大麻事犯の増加傾向が顕著であることが指摘できます。

④ 北朝鮮リスクを巡る動向

防衛省は、平成29年版防衛白書を公表しました。北朝鮮の核・ミサイル開発について、「わが国はもとより、地域・国際社会の安全に対する重大かつ差し迫った脅威となっている」と明記しています。

▼ 防衛省 平成29年版防衛白書 第Ⅰ部ダイジェスト

北朝鮮リスクについては、「北朝鮮の軍事的な動きは、わが国はもとより、地域・国際社会の安全に対する重大かつ差し迫った脅威となっている。特に、2回の核実験を強行し、20 発以上の弾道ミサイルを発射した昨年来、北朝鮮による核・弾道ミサイルの開発及び運用能力の向上は新たな段階の脅威となっている」と総括しています。そのうえで、「大量破壊兵器・弾道ミサイルの開発」について、以下に引用・抜粋して紹介します。

  1. 北朝鮮は、体制を維持するうえでの不可欠な抑止力として核兵器開発を推進しているとみられる。
  2. 北朝鮮は2016(平成28)年9月に5回目の核実験を強行した。これまで既に5回の核実験を行ったことなどを踏まえれば、核兵器計画が相当に進んでいるものと考えらえる。
  3. 過去5回の核実験を通じた技術的成熟が見込まれることなどを踏まえれば、北朝鮮が核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性が考えられる。
  4. 北朝鮮は、化学剤を生産できる複数の施設を維持し、すでに相当量の化学剤などを保有しているとみられるほか、生物兵器についても一定の生産基盤を有しているとみられる。また、弾道ミサイルに生物兵器や化学兵器を搭載し得る可能性も否定できないとみられている。
  5. 北朝鮮は、弾道ミサイル開発に高い優先度を与えていると考えられ、これまで各種の弾道ミサイルの発射を繰り返してきているが、特に2016(同28)年には、20発以上という過去に例を見ない頻度で発射を行い、また、2017(同29)年に入ってからも、新型とみられるものを含め、引き続き発射を繰り返している。
  6. 最近の北朝鮮による弾道ミサイル発射の動向については、第一に、弾道ミサイルの長射程化を図っているものとみられる。第二に、実戦配備済みの弾道ミサイルについて、飽和攻撃のために必要な正確性及び運用能力の向上を企図している可能性がある。第三に、任意の地点からの発射が可能な、発射台付き車両からの発射や、潜水艦発射弾道ミサイルの発射を繰り返しているほか、固体燃料化を進めている可能性があるが、これにより、発射の兆候把握を困難にするための秘匿性や即時性を高め、奇襲的な攻撃能力の向上を図っているものとみられる。第四に、発射形態の多様化を図っている可能性がある。ロフテッド軌道と推定される発射形態が確認されたが、一般論として、ロフテッド軌道で発射された場合、迎撃がより困難になると考えられる。
  7. 2017(同29)年に入ってから、北朝鮮は、4 種類の新型弾道ミサイルを発射している。
  8. 北朝鮮が核兵器計画を継続する姿勢を崩していないことを踏まえれば、時間の経過とともに、わが国が射程内に入る核弾頭搭載弾道ミサイルが配備されるリスクが増大していくものと考えられ、関連動向に注目していく必要がある。
  9. 仮に北朝鮮が弾道ミサイルの長射程化や核兵器の小型化・弾頭化を実現し、米国に対する戦略的抑止力を確保したと過信・誤認をした場合、地域における軍事的挑発行為の増加・重大化につながる可能性もあり、わが国としても強く懸念すべき状況となり得る

6月に米朝首脳会談が行われて以降、北朝鮮リスクは低減したかのような印象がありますが、完全な非核化(CVID、完全で検証可能かつ不可逆的な廃棄)まで国連安保理の制裁を維持する方向で国際世論は一致していくべきですが、そうもいかない状況となっています。前回の本コラム(暴排トピックス2018年7月号)で紹介した通り、北朝鮮は「西海衛星発射場」でミサイル実験場解体とみられる動きをみせた一方で、専門家による衛星写真の分析として、北朝鮮が北東部咸鏡南道の咸興市にあるミサイル製造施設の拡張工事を進めていることが報道されたほか、直近でも、米情報機関の分析として、北朝鮮が最近も新たな大陸間弾道ミサイル(ICBM)1~2発の製造を行っていることなどが報道されています(核開発をめぐっては、米朝会談後もウラン濃縮とみられる活動が続いていると指摘されています)。これらの報道が事実であれば、北朝鮮が核開発やミサイル計画を廃棄する考えがないことを示していると考える必要があります。

さらに、報道によれば、米国連代表部は、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会に対し、北朝鮮が1~5月、洋上で積み荷を移し替える「瀬取り」の手法で、石油精製品を少なくとも89回輸入したと指摘する文書を提出したということです。制裁決議で定めた輸入上限に達した可能性(決議ではガソリンなど石油精製品を輸入できる上限を年間50万バレルに設定しているところ、上限の3倍近くの約136万バレルを既に輸入した可能性)が極めて高いとし、同委員会は国連の全加盟国に対し、北朝鮮に今後輸出しないよう、早急に通知すべきだと指摘しています(直近では、日本の外務省が、北朝鮮船籍タンカーが先月31日に東シナ海の公海上で「瀬取り」を行った疑いがあると発表しています)。さらに、直近では、米財務省は、北朝鮮と取引したロシアの銀行や北朝鮮の外国為替銀行のフロント企業など3団体1個人を制裁対象に指定したと発表、安保理制裁決議の厳格な履行に向けた厳しい姿勢を示しています。

その一方で、報道(平成30年7月19日付読売新聞)によれば、中国から北朝鮮への旅行客が5月時点の1日約100人から、7月に入って1日約1,000人に急増していることが明らかとなっています。中国当局は北朝鮮に非核化を迫る経済制裁の一環として、北朝鮮への日帰り以外の団体旅行を禁じているにもかかわらず、形骸化している実態が浮き彫りとなっています。さらに、報道(平成30年8月4日付読売新聞)によれば、ロシアが北朝鮮労働者の受け入れを制限する国連安全保障理事会の制裁決議に反して、北朝鮮労働者を受け入れ続けていると米紙が報じています(昨年1年だけでも1万人超の北朝鮮労働者の登録がなされたということです)。海外で働く北朝鮮労働者は収入の多くを本国に送金しており、北朝鮮の貴重な外貨獲得手段の一つとなっていることはよく知られており、それにもかかわらずそれを助長するような活動が行われていることなど、中国やロシアの動向からは、北朝鮮に対する経済制裁の形骸化の懸念がますます強くなっています。現に、中国とロシアは、米国が国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会に求めていた取引停止の呼びかけに対し、情報の精査が必要だと異議を表明しています。米は、北朝鮮が非核化に向けた具体的な措置を取るまで圧力をかけ続けるべきだとして、各国に安保理制裁決議の厳格な履行を呼びかけているのと対照的な姿勢であり両者の隔たりが改めて鮮明になっています。

北朝鮮の完全な非核化(CVID、完全で検証可能かつ不可逆的な廃棄)そのものへのスタンスが疑わしいものとなりつつある状況において、本コラムでたびたび指摘しているとおり、今後も国際社会が一枚岩となって北朝鮮リスクに対峙していくことが求められています。そして、当然ながらその脅威の当事者である隣国日本は、その重要性はさらに高いものであると認識する必要があります。相対的に緩い日本の金融機関が制裁逃れに悪用される(犯罪インフラ化する)事例が発覚していますが、金融機関に限らず、ミサイル発射台のクレーンが日本製であったこと、生産を委託していた中国の工場で北朝鮮の労働力が使われていたことなど、どのような形であれ、事業者は、北朝鮮リスク(北朝鮮の脅威を助長するような取引等)に関わってしまうことはあってはならず、これまで以上の厳格な顧客管理が求められていると認識する必要があります。

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

(1) 大阪府暴排条例による指導事例

経営する飲食店で暴力団の宴会を開いたとして、大阪府公安委員会は、大阪府暴排条例に基づき、経営者の40代男性に利益供与をしないよう指導したということです。報道によれば、経営者は今年3月、任侠山口組の50代の直系組長が主催し、組幹部が出席する宴会と知りながら、自身の店舗で料理やサービスを提供したということです。組長は店の常連客で宴会には17人が参加したとされ、経営者も「条例違反になるかもしれないと認識していた」ということです。このような、飲食店が暴力団の会合と知りながら、場所と食事を提供する「利益供与」の事例は全国でも多く見られており、暴排条例による勧告事例の典型だと言えます。

▼ 大阪府暴力団排除条例 全文

なお、大阪府暴排条例においては、第14条(利益の供与の禁止)において、「1.事業者は、その事業に関し、暴力団の威力を利用する目的で、又は暴力団の威力を利用したことに関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、金品その他の財産上の利益又は役務の供与(以下「利益の供与」という。)をしてはならない」、「2.事業者は、前項に定めるもののほか、その事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる相当の対償のない利益の供与をしてはならない」などと規定されており、この場合には、第22条(勧告等)で、「公安委員会は、第十四条第一項若しくは第二項又は第十六条第一項の規定の違反があった場合において、当該違反が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該違反をした者に対し、必要な勧告をすることができる」としています。一方、第14条第3項では「3.事業者は、前二項に定めるもののほか、その事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる利益の供与をしてはならない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない」と規定されており、この場合には、第22条において、「公安委員会は、第十四条第三項又は第十六条第二項の規定の違反があった場合において、当該違反が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該違反をした者に対し、必要な指導をすることができる」と規定され、さらに「公安委員会は、前項の指導を受けた者が正当な理由がなく当該指導に従わなかったときは、公安委員会規則で定めるところにより、必要な勧告をすることができる」と2段階での対応が規定されています。本件は、報道をみる限り、「指導を行った」とされているため第14条第3項を適用したものと思われます。

このうち、第14条第2項と第3項は「相当の対償」があるか否かで異なっており、大阪府警のサイトのFAQ(よくある質問)でその違いと具体的事例が紹介されています。

▼ 大阪府警察 大阪府暴力団排除条例について FAQ(よくある質問)

例えば、第14条第2項における「その事業に関し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる相当の対償のない利益の供与」の具体的事例としては、次の行為を、無償又は不当な値引き金額で販売、提供した場合が違反に当たるとされます。

  • 暴力団が使用する車であることを知って、防弾用の車を製造した場合
  • 暴力団の代紋入りバッチや名刺等を作成、販売した場合
  • 暴力団の資金集めの親睦会として、会場を提供した場合
  • 暴力団が経営する露店に関して、出店場所を提供した場合

これに対し、第14条第3項における「その事業に関し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる利益の供与」の具体的事例としては、次の行為を通常価格で契約締結、販売、提供した場合が違反に当たるとされます。

  • 月極駐車場の経営者が、暴力団組員の集合等の用に供することを知りながら、暴力団組事務所に隣接する駐車場の賃貸借契約を締結した場合
  • レンタカー会社が、暴力団の定例会等に使用する車であることを知りながら、同組傘下組員とレンタカー貸渡契約を締結した場合
  • 衣服販売会社が、暴力団員が使用する戦闘服の売買契約を締結し、同戦闘服を供与した場合
  • 複写機レンタル業者が、暴力団員が経営するヤミ券売場に対して、暴力団員が経営していることを知りながら、複写機のレンタル契約を締結した場合

さらに、飲食事業者の同様の事例(勧告事例)としては、大阪府警のサイトに以下のようなものが紹介されています。

▼ 大阪府警察 大阪府暴力団排除条例適用事例
  • 飲食店を営む事業者は、事業のトラブルの防止及び解決に暴力団の威力を利用するため、暴力団山口組傘下組織幹部から門松を購入し、もって暴力団の威力を利用する目的で財産上の利益を供与したもの。(平成26年7月 5事業者及び山口組傘下組織幹部に勧告書を交付)
  • 飲食業を営む事業者は、自己が経営する飲食店の事業におけるトラブル防止及び解決に暴力団の威力を利用するため、暴力団山口組傘下組織組員が暴力団の威力を示してトラブル解決名目に依頼者から依頼料や解決料、相手方から詫び料や迷惑料として金銭を徴収することを知りながら、大阪府内の飲食店経営者から同店顧客に係る未回収債権等トラブルを相談されるや、トラブル解決のため、前記組員を前記経営者を紹介するとともに同経営者に依頼料等の支払いを唆し、さらにその打ち合わせや配下組員等の待機場所として使用させるため自身の店舗を提供するなどし、暴力団の威力を利用する目的で財産上の利益及び役務の供与をしたもの。(平成26年3月 事業者及び山口組傘下組織組員に勧告を実施)
  • 飲食業を営む事業者は、自己が経営する飲食店の未収金の取り立て等に暴力団の威力を利用するため、暴力団山口組傘下組織組員に依頼料を提供した上、さらに未収金を徴収した成功報酬として同組員に金銭を提供し、暴力団の威力を利用したことに対して財産上の利益を供与したもの。(平成26年3月 事業者及び山口組傘下組織組員に勧告を実施)
  • 飲食業を営む事業者は、事業におけるトラブルの防止及び解決に暴力団の威力を利用するため、暴力団山口組傘下組織組長から市価を大きく超える金額で酒類を購入し、財産上の利益を供与したもの。(平成26年2月 事業者及び山口組傘下組織組長に勧告を実施)
  • 飲食店を営む事業者は、暴力団山口組傘下組織組員が植木の販売名目にみかじめ料を徴収していることを知りながら、同組員に対して植木代名目で毎月一定額の金銭を提供し、暴力団の活動を助長することとなる財産上の利益を供与したもの。(平成25年8月 事業者及び山口組傘下組織幹部に勧告書を交付)
  • 飲食店を営む事業者は、暴力団山口組直系組織の行事の用に供されることを知りながら、同店2階大広間を同組織組長に提供し、暴力団の活動を助長することとなる財産上の利益を供与したもの。(平成25年5月 事業者及び山口組直系組織組長に指導書を交付)
  • 居酒屋を営む事業者は、店の営業をする上でトラブル防止及び解決に暴力団を利用するため、暴力団山口組傘下組織幹部から十二支(えと)の置物1個を市場価格を著しく超える金額で購入し、財産上の利益の供与をしたもの。(平成24年12月 事業者、山口組傘下組織幹部に勧告書を交付)
(2) 暴排条例による逮捕事例(愛知県)

風俗店から用心棒代を受け取ったとして、愛知県警捜査4課は、六代目山口組系弘道会幹部で高山組組長ら2人を愛知県暴排条例違反容疑で逮捕しています。弘道会系暴力団員と共謀し、今年1~2月、名古屋市中区錦3丁目など栄地区の店舗型風俗店の実質経営者から計200万円を用心棒代として受け取ったというものです。なお、同地区は、愛知県暴排条例で指定されている「暴力団排除特別区域」であり、用心棒代を受け取った暴力団側も、支払った店側も1年以下の懲役か50万円以下の罰金を科すと定められています。

▼愛知県警察 愛知県暴力団排除条例の全文

愛知県暴排条例では、第23条(特別区域における暴力団員の禁止行為)として、「1.暴力団員は、特別区域における特定接客業の事業に関し、特定接客業者に対し、その事業所における用心棒の役務の提供をしてはならない」、「2.暴力団員は、特別区域における特定接客業の事業に関し、特定接客業者から、顧客その他の者との紛争が発生した場合に用心棒の役務の提供をすることの対償として利益の供与を受けてはならない」と規定されており、第29条(罰則)において、「第二十三条第一項又は第二項の規定に違反した者」については、「一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」とされています。

一方、本件は事業者については特段の報道等はありませんが、本件の報道にあてはめてみると、第22条(特別区域における特定接客業者の禁止行為)で、「1.・・・特別区域における特定接客業の

事業に関し、暴力団員から、その事業所における用心棒の役務(事業を行う者の事業に係る業務を

円滑に行うことができるようにするため顧客その他の者との紛争の解決又は鎮圧を行う役務をいう。以下同じ。)の提供を受けてはならない」、「2.特定接客業者は、特別区域における特定接客業の事業に関し、暴力団員に対し、顧客その他の者との紛争が発生した場合に用心棒の役務の提供を受けることの対償として利益の供与をしてはならない」と規定されており、第29条(罰則)において、「相手方が暴力団員であることの情を知って、第二十二条第一項又は第二項の規定に違反した者」については、「一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」とされています。

(3) 暴排条例による逮捕事例(東京都)

小学校近くに暴力団事務所を開設したとして、住吉会系幹部ら4人が警視庁に逮捕されています。報道によれば、平成28年7月ごろ、東京都新宿区の小学校からおよそ180メートル離れた歌舞伎町のマンションの部屋に暴力団事務所を開き、2年間使用した疑いがあるということであり、容疑者らがマンションの部屋に頻繁に出入りしていることなどが確認されたことから、警視庁が事務所として利用していると認定したということです。なお、容疑者は準暴力団「関東連合」の元メンバーであるとも報じられています。

▼警視庁 東京都暴力団排除条例(全文)

東京都暴排条例の第22条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止)において、「暴力団事務所は、次に掲げる施設の敷地(これらの用に供せられるものと決定した土地を含む。)の周囲200メートルの区域内において、これを開設し、又は運営してはならない」と規定され、小学校から200メートル以内での事務所の開設又は運営が禁止されています。

(4) 福岡県等の指名指定措置

福岡県、福岡市、北九州市において、同一の法人についての指名停止措置(排除措置)が公表されていますので、紹介します。

▼福岡県 暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧表
▼福岡市 競争入札参加資格停止措置及び排除措置一覧
▼北九州市 暴力団と交際のある事業者の通報について

排除措置の理由としては、「構成員等であることを知りながら、構成員等を雇用し、又は使用している」(福岡県)、「暴力団との関係による」(福岡市)、「当該業者は、「暴力団員であることを知りながら当該暴力団員を雇用し、又は使用していること」に該当する事実があることを確認した」(北九州市)とされており、暴力団構成員等であることを知りながら雇用していたというもののようです。なお、排除措置期間としては、福岡市の「平成30年6月5日から平成33年6月4日まで」が最も早くかつ期間も36か月と最長となっており、福岡県は「平成30年7月18日から 平成32年7月17日まで(24ヵ月間)」、北九州市は「平成30年7月17日から24月を経過し、かつ、暴力団又は暴力団関係者との関係がないことが明らかな状態になるまで」など、異なっている点が興味深いと言えます。

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