暴排トピックス

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

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1.暴排を巡る最近の動向

指定暴力団六代目山口組から指定暴力団神戸山口組(現)が分裂してから、8月27日で丸3年が経過しました(その後、神戸山口組から指定暴力団任侠山口組(現)が分裂して、3つの山口組が併存する形となっています)。分裂から3年の間に、3組織の関係者が絡む抗争とみられる事件は計112件発生しており、立件された人数は延べ421人に上りますが、最近1年間に限れば減少傾向にあります。抗争事件は減少したものの、対立の構図は流動的な状況であり、最近では六代目山口組が、分裂騒動で対立組織に移籍した元組幹部らに対し、復帰に応じる意向を示していると言われています。また、任侠山口組が六代目山口組に加入するといった情報も飛び交っているようです。ただ、任侠山口組が約460人(今年2月1日時点)、神戸山口組は約2,000人(同)である一方で、六代目山口組は約4,700人(昨年末時点)と2組織を圧倒して、全国最大の指定暴力団としての地位が揺らぐ気配はありません。そのうえ、今後、六代目山口組の1強状態となれば、幹部らを引き抜かれた他組織の反発は避けられないところであり、さらには、(偽装離脱や偽装破門をして、ひそかに資金獲得をしている組もある一方で)「貧困暴力団」や離脱者の増加に見られるように限られた組員や資金を奪い合うなど、いつ衝突が激化してもおかしくない状況も現出しており、今後の動向が注目されます。

さて、暴力団排除(暴排)を巡っては、ここ最近、重要なトピックスが続いていますので、いくつか示しておきたいと思います。

まず、ここにきて金融機関による暴力団員や暴力団関連会社に融資していた事実が相次いで発覚しています。報道(平成30年8月15日付日本経済新聞)によれば、スルガ銀行が住宅ローンを実行した相手に、指定暴力団組員がいた疑いのあることが分かったということです。2010年に住宅購入資金を貸した相手が今年、警視庁に恐喝容疑で逮捕されて判明したものですが、融資先が当時から指定暴力団の組員だったかどうかは不明だとされています。メガバンクや地方銀行では、一般的に、新規取引開始時だけでなく、既存顧客についても相当な頻度でDBスクリーニングを実施するなど中間管理(モニタリング)を徹底しているところ、同行において新規・継続共に十分なチェック態勢が取られていたのか、なぜ直近まで把握できなかったのか原因を知りたいところです(同行は「個別の事案には答えられない」としており、詳細は不明です)。同行については、シェアハウスを巡る融資で改ざんされた審査書類に基づく不正な融資が横行していたことが明らかとなり、ずさんな審査態勢が浮き彫りになっていますが、一方で、本件については、当該暴力団員がどの段階で暴力団員になったのか、過去、犯罪等で暴力団関係者等という形で報道されたことがあるのか、といった点から考えてみただけでも、直近まで「知りようがない」ためやむを得ない可能性も否定できないところです。重要なことは、相手が暴力団員と判明した時点で速やかに関係を切ることです(ただし、実際の契約解除の場面では、期限の利益を喪失させたことで残債が回収困難となれば、逆に暴力団員を利することになりかねない点に注意が必要です)。
また、金融機関の不適切融資という点では、政府系金融機関の日本政策金融公庫が、暴力団組員が代表をつとめる会社と融資契約を結んでいたことも判明しています。報道(平成30年8月16日付日本経済新聞)によれば、2016年にこの会社に対し、一定の範囲内で自由に借り入れできる融資枠を設定したといいます。この代表が身分を偽って同公庫に融資させた可能性もありますが、スルガ銀行同様、反社会的勢力への融資が同公庫の審査をすり抜けていたことになります。契約時あるいはその後の中間管理(モニタリング)において、なりすまし等を見抜けない審査態勢/反社会的勢力排除態勢の脆弱性が問題なのか、以前から全銀協(全国銀行協会)が加盟各行に反社情報を提供してきたのに加え、今年1月から預金保険機構を通じて警察庁DBに照会する仕組みも導入されているものの、同金庫はそもそも全銀協(全国銀行協会)に加盟していないために反社DBが脆弱だったことが問題なのか、あるいは、そもそも当該組員については、過去報道がされておらず把握しようがないのか等は不明ですが、何らかの反社チェック態勢に問題があるものとして態勢全般の見直しは必要となるものと思われます。
これらの事例から、金融機関でさえ暴排を徹底するのは難しい(一般事業者にとっても相当困難だ)と指摘するのは簡単ですが、すべての事業者には、入口・中間管理・出口の3つのプロセスを不断に見直し、ブラッシュアップしていく取り組みが不可欠です。万が一、反社会的勢力との取引が発覚した際に自らの取り組みが民間企業としてできる最大限の努力レベルであることを(2つの事例とも銀行側からの説明はありませんが)説明できるだけのことをしておく必要があります。そして、(繰り返しになりますが)関係が発覚した際に速やかに関係を解消できるだけの(暴排条項のような)平時からの備えが求められます。

読売新聞の調査で、全国の銀行計120行のうち少なくとも59行が、暴力団等反社会的勢力の預貯金口座について、暴排条項を遡って適用(遡及適用)し、解約を進めていることがわかったということです。解約件数は今年5月末までに計約1,300件に上っており、昨年7月、暴排条項に基づく口座解約を有効とした福岡高裁判決が最高裁で確定したことが追い風になっているとみられるとしています。生活口座の契約解除に踏み切れず、犯罪収益のマネー・ローンダリングや資金の保管先になってきた暴力団の口座を封じ込める取り組みが加速している一方で、報道によれば、現場からは「行員の安全が保証されていない」などの声も聞かれるということです(メガバンクや地方銀行など大手金融機関は既に対応が進んでいる一方で、彼らの「最後の一口座(限りなく生活口座に近い利用)」を巡って、信金・信組、協同組合など中小の金融機関ではその対応の困難さに直面する可能性があります)。なお、この最高裁の決定については、暴力団排除条項に基づく預金口座の解約は不当だとして、指定暴力団道仁会の会長ら幹部2人が三井住友銀行とみずほ銀行に解約の無効確認を求めた訴訟において、最高裁第3小法廷が、幹部側の上告を棄却、幹部側の請求を棄却した1審・福岡地裁と2審・福岡高裁の判決が確定したというものです。暴排条項を理由に、既に開設されていた口座の解約を有効と認めた(遡及適用)判断が最高裁で確定するのは初めてとなります。本件では、福岡地裁は、「暴排条項を追加した規定(約款)の事前周知、顧客の不利益の程度、過去に遡って適用する必要性を総合考慮すれば解約は有効」として、請求を棄却する判決を下していました。また、特に、口座開設後に暴排条項を導入するなど、個別の合意がなくても事後的に既存の契約を変更できるとした点でも極めて画期的な判決であったと評価できます。さらに、口座が不正利用された場合に「事後的な対応で被害回復や、反社会的勢力が得た利益を取り戻すことは困難」として解約の合理性を認め、暴力団幹部の不利益についても限定的として、「反社会的勢力の所属を辞めるという自らの行動で回避できる」と指摘したとされます。金融機関の口座解除実務においては、今回と同様のケースでは、訴訟リスクへの懸念から慎重にならざるを得ない状況がありましたが、この最高裁の決定により、今後は既存口座の解除が劇的に進むこととなりました。

さて、法制審議会民事執行法部会が先月まとめた要綱案には、不動産競売から暴力団を排除する新制度も盛り込まれています。警察庁の平成29年の調査では、全国に約1,700ある暴力団事務所のうち、約200の物件に不動産競売の形跡があり、競売からの排除策が課題となっていたところ、ついに不動産競売からの暴排が実現することとなります。本コラムでは以前から不動産競売からの暴排の実現を求めていましたが、これまでは民事執行法による不動産競売においては、暴力団員であることのみを理由として不動産の買受けを制限する規定は設けられておらず、不動産競売において買い受けた建物を暴力団事務所として利用する事例や、その転売により高額な利益を得た事例などが見られました。今回の要綱案によれば、入札参加者には暴力団組員でないことを陳述させることとし、裁判所は最高額の入札者が組員かどうかを警察に照会し、もし組員だった場合は、売却の不許可を決定するといったスキームとなっています。

▼法制審議会民事執行法部会第23回会議(平成30年8月31日開催) 部会資料23 民事執行法制の見直しに関する要綱案(案)

要綱案では、排除される対象は、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第6号に規定する暴力団員(以下アにおいて「暴力団員」という。)又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者(以下「暴力団員等」という。)」としたうえで、「不動産の買受けの申出は、次のア又はイのいずれにも該当しない旨を買受けの申出をしようとする者(その者に法定代理人がある場合にあっては当該法定代理人、その者が法人である場合にあってはその代表者)が最高裁判所規則で定めるところにより陳述しなければ、することができないものとする」とされています。

  • ア. 買受けの申出をしようとする者(その者が法人である場合にあっては、その役員)が暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第6号に規定する暴力団員(以下アにおいて「暴力団員」という。)又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者(以下「暴力団員等」という。)であること。
  • イ. 自己の計算において当該買受けの申出をさせようとする者(その者が法人である場合にあっては,その役員)が暴力団員等であること。

なお、その実効性を担保するために、「陳述をした者が虚偽の陳述をした場合について、所要の罰則を設ける」ことも定められています。そのうえで、「執行裁判所は、最高価買受申出人(その者が法人である場合にあっては、その役員。以下同じ。)が暴力団員等に該当するか否かについて、必要な調査を執行裁判所の所在地を管轄する都道府県警察に嘱託しなければならないものとする。ただし、最高価買受申出人が暴力団員等に該当しないと認めるべき事情があるものとして最高裁判所規則で定める場合は、この限りでないものとする」(なお、自己の計算において最高価買受申出人に買受けの申出をさせた者についてもほぼ同様)と執行裁判所による警察への調査の嘱託が定められました。また、「執行裁判所は、次に掲げる事由があると認めるときは、売却不許可決定をしなければならないものとする」とも定められています。

  • 最高価買受申出人又は自己の計算において最高価買受申出人に買受けの申出をさせた者が次のいずれかに該当すること。
    1. 暴力団員等(買受けの申出がされた時に暴力団員等であった者を含む。)
    2. 法人でその役員のうちに暴力団員等に該当する者があるもの(買受けの申出がされた時にその役員のうちに暴力団員等に該当する者があったものを含む。)

この要綱案の内容について、1年ほど前に示されていた中間試案もふまえながら何点か検討してみたいと思います。まず、「暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者」については、中間試案において、(1)暴力団が過去に暴力団に所属していた者などの周辺者を利用するなどして資金獲得活動を巧妙化させていること、(2)元暴力団員は暴力団を離脱した後も暴力団との間に何らかの関係を継続している蓋然性があると考えられること、(3)元暴力団員を不動産の買受けの制限の対象とすることにより、形式的な離脱による規制の潜脱を封ずるという効果も期待ができること、などがその理由となっているとしています。いずれも、現状の暴力団等反社会的勢力の実態をふまえたものとなっていますが、注目したいのは、「5年卒業基準」の妥当性・合理性の根拠であり、中間試案においては、最高裁が示した「暴力団員は、自らの意思により暴力団を脱退し、そうすることで暴力団員でなくなることが可能」という基準(平成27年3月2日付最高裁判決)と、他の法令の状況や最近の暴排の取り組み状況などから、「暴力団員でなくなった日から5年という期間での買受けが制限されるにすぎないのであれば、必ずしも過度な制約を課するものとまではいえない」とする捉え方との間のバランスの中から「5年の規制を設けることは合理的である」とする結論が導かれています。それは、本要綱案にも踏襲された形ですが、本コラムのスタンスとしては、「真に更生している者を妨げるべきではない」とする規範と、「暴力団等反社会的勢力の再犯率の高さをふまえれば、5年卒業基準は、リスク管理上あまり意味がない(重視すべきではない)」とする厳しい実態との間で、ケースバイケースで判断していく必要があると考えています。今回の要綱案については、「競売からの暴排」においては、残念ながら、「5年卒業基準」を採用し、それ以上の制約を課さないものとなっており、おそらくは、それ以上に巧妙に姿を隠している反社会的勢力を排除することころまでは射程に含まれていません。今後は、基準が明確になることで、その裏をかく反社会的勢力による買受けの横行や、一定期間経過後の転売等に注意していく必要がありそうです。

また、法人における排除すべき対象の認定基準として、中間試案では「役員に1名でも暴力団員等が含まれていれば、暴力団がその法人を利用し得るものと考えられるため、現在、暴力団員等が役員である法人による買受けを制限する」とされており、本要綱案でも法人の役員を確認する運用となっています。この点については、それ自体全く異論ないものの、実態として、ここで定義されている「暴力団員等」(暴力団員と5年以内の元暴力団員)があからさまに役員に就任しているかについては、残念ながら、そのような法人はあまりないのではないかと思われます。やはり、このように基準が明確になることにより、今後、競売に参加する法人は、表面的には共生者等やその意を受けた第三者が役員として登記され、反社会的勢力が実質的に経営を支配したり、経営に関与している実態を確認することなく、手続きが進められてしまう可能性が高いことになります。

さらに、中間試案では、「宅地建物取引業者など、法令上、暴力団員等でないことが免許等の要件とされている者が最高価買受申出人であるような場合には、警察への照会を要しないこととする考え方」や、「例えば、過去の一定期間内に、他の競売事件で買受人となったことがある者については、その事件記録にある警察からの回答を再利用することとして、新たな照会を省略することが可能かどうかも、引き続き今後の検討課題となり得る」といった方向性が示されていましたが、本要綱案ではこのあたりの定めは特段ありません。中間試案でみられた考え方は、そもそもの排除すべき対象の定義の狭さからくる論理的帰結であり、反社会的勢力と一定の関係を有するような不動産事業者は確実に存在しており(形式的・表面的には暴力団員等に該当しない)、その点を考慮せずにチェックの対象外とすることは、問題がないとは言えません(もちろん、チェックしたとしても、暴力団員等の関与が「見えない」ようにすればすり抜けられますので、結局は「定義の狭さ」に起因する限界があると言えます)。また、「再利用によるチェックの省略」についても、やはり、その間に法人の実質的支配者等が変化してしまう可能性があること等をふまえれば、このような形で明文化することには問題があるように思われます。

以上のように検討してみると、「競売からの暴排」の規制が新設されることは歓迎されるべきこととはいえ、実質的に反社会的勢力を排除できるかとの視点からみれば、まだまだ不十分であると指摘せざるを得ません。今後、反社会的勢力の実態に即した、より実効性ある規制に向かっていくことを期待したいと思います。

もうひとつ、重要なトピックスとしては、神戸地裁が今月4日、兵庫県尼崎市にある指定暴力団任侠山口組の本部事務所の使用を禁じる仮処分決定を出したことが挙げられます。暴力団追放兵庫県民センターが6月、住民の代理で申し立てていたもので、代理訴訟で指定暴力団の本部が使用禁止となるのは、昨年10月の神戸山口組に続き全国2例目となるということです。本部事務所は月に1度、全国から幹部を集める定例会のほか、昨年8月には神戸山口組を批判する異例の記者会見の会場としても使われた場所でした。なお、代理訴訟制度は平成25年施行の改正暴力団対策法で規定されたものですが、この制度は、「「適格都道府県センター」 として国家公安委員会から認定された都道府県暴追センターが、付近住民等(指定暴力団等の事務所の付近に居住している方や勤務している方、あるいは就学している方等)で、指定暴力団等の事務所の使用により付近住民等の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が違法に侵害されていることを理由に、当該事務所の使用及びこれに付随する行為の差止めの請求をしようとするものから委託を受けたときは、都道府県暴追センターの名をもって、請求に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をすることができる」ようになっており(石川県暴追センターHPより)、これまで10例あるとのことです。なお、同サイトによれば、手続きの流れは概ね以下の通りです(以前も紹介しましたが、あらためて掲載します)。

  • 公益財団法人暴力団追放兵庫県民センター(当センター)が、付近住民等から暴力団事務所使用差止請求の委託に関する相談を受けた場合は、専門委員として選任されている金沢弁護士会の民事介入暴力対策委員会に所属している弁護士から意見を聴いた上で、委託を受ける旨及び委託に係る請求の内容の決定を検討し、理事会において委託を受けるか受けないかを議決します。
  • 委託を受けることが決議された場合は、委託を希望されている付近住民等との間で委託契約を結びます。
  • 当センターと委託契約を結ばれた付近住民等以外の住民の皆さんに対しても、委託の機会を確保するため、当センターが委託を受けたことを広報します。
  • 訴訟等に関する手続は、当センターが弁護士に委任します。
  • 訴訟を提起した場合は、訴状の原告者名には、当センターの代表者名が記載され、委託契約を結ばれた付近住民等の氏名は、代理権を授与した者として訴状に記載されることとなります。
  • 訴訟等に要した費用は、委託契約に基づいて、当センターが支出します。しかし、必要がある場合は、理事会の決議を経て、その一部又は全部を当センターと委託契約を結ばれた付近住民等に請求する場合もあります。

その他、暴力団等反社会的勢力を巡る報道からいくつか以下のとおり紹介します。

  • 日本ボクシング連盟の山根会長が、半世紀以上にわたり、六代目山口組系暴力団組長だった大阪市の男性と交友関係があったことが明らかになり、会長職・理事職を辞任しました。本人も「大きな理由は反社会勢力との交流」と説明しています。この状況に対しては、スポーツ庁長官が「ボクシングやスポーツ全般に対するイメージをだいぶ損ねている」と憤り、「辞任に値する」と繰り返し語っていましたが、そのことで、(直接的な権限はないものの)実質的な辞任勧告と受け止めた組織の内部から突き動かすことにつながり、正に官が民に対して「にらみをきかす」ことができたと言えます。そして、その意味は、今後の一筋縄ではいかない、自浄作用も期待できない、「スポーツ界と暴力団等との関係」を浄化させていくにあたっては大きいと考えます。
  • 車のエンジン始動を制御するコンピューターを積み替える手口でトヨタ「プリウス」を盗んだとして、福岡県警は、窃盗の疑いで指定暴力団福博会系組幹部ら3人を逮捕しています。車の制御コンピューターを、別の車から取り出したコンピューターとつなぐ新たな手口で盗んだというものですが、この手口による摘発は福岡県内初ということです。プリウスは人気が高く転売しやすいため、窃盗被害が相次いでいますが、最近の暴力団の資金獲得活動の状況をよく表している事件とも言えます。
  • 報道(平成30年8月10日付産経新聞)によれば、ビッグデータを活用し、犯罪や事故発生を予測する取り組みが全国の警察で進められる中、福岡県警が、平成26年に壊滅作戦に着手した特定危険指定暴力団工藤会から証人や情報提供者を守るため、組員らの行動パターンを基に襲撃の予兆を把握するシステムの開発を始めたということです。これまでの捜査で組員らが事件直前、車で襲撃場所の下見をするなど普段と違う行動を取っていることに着目、捜査員が尾行で確認した組員らの動向や車の使用状況といったデータをコンピューターで解析、襲撃時期や地域が予測できるようにするというものです。なお、犯罪や事故発生の予測システムは既に京都府警や新潟県警などが開発しており、京都府警では過去10年分、10万件以上の街頭犯罪に関する情報を基に、発生時間帯や場所をコンピューターが予測し、警察署に配備されたパソコンで捜査員が確認し、重点的にパトロールする取り組みを進めています。

2.最近のトピックス

(1) AML/CFTを巡る動向

埼玉信用金庫が北朝鮮の絡むマネー・ローンダリングに悪用されたことが分かりました。報道(平成30年9月1日付毎日新聞)から以下引用して紹介します(下線部は筆者)。

金融庁は、埼玉県信用金庫(埼玉県熊谷市)が過去約2年間にわたって海外送金した約18億7,000万円が、マネー・ローンダリングに利用された疑いがあるとして、9月中旬にも立ち入り検査する方針を固めた。送金を依頼した企業と受取先企業の双方に営業実体が無く、送金先には北朝鮮と関係する可能性がある企業もあった。金融庁は信金のチェック体制に重大な不備がありマネロンの抜け穴に利用されたとみて、詳細を確認する。金融庁関係者によると、埼玉県信金は2016年5月から今年1月にかけて、埼玉県ときがわ町の自動車輸出入会社からの依頼を受け、23回にわたり米ドルと香港ドル、日本円を総額約18億7,000万円(当時のレート換算)送金した。送り先は香港が最も多く、アラブ首長国連邦、インドネシア、台湾、ブラジルも含まれていた。この輸出入企業の社長は昨年日本国籍を取得したバングラデシュ出身の男性で、同信金に「バングラデシュの商社の代理人をしている」と語った上で、送金目的をいずれも「仲介貿易」と申告。書類には中古船舶や砂糖、コメ、タバコなどの輸入代金と記載していた。だが埼玉県信金の今年2月の監査で、送金した資金の出所や受取先の法人の実態が不明なケースが相次いで見つかった。報告を受けた金融庁が確認したところ、送金先の国や取扱商品が異なるのに、同じ金額を同時に送るなどの不審な点が多数見つかり、貿易自体が架空だった疑いが強まった。受取人の住所が架空だったケースや、北朝鮮系企業との取引が指摘されている会社も含まれていた

金融機関が北朝鮮の絡むマネー・ローンダリングに悪用された事例としては、今年に入って四国の地方銀行の事例が明るみに出ていますが(暴排トピックス2018年3月号~4月号参照)、後述する金融庁の「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の現状と課題」において、本事例に関して、以下のような「課題」が掲載されています。

多額の現金を持参して口座に入金し、海外法人に対して、貸付金の名目でその全額を送金するといった、当該顧客にとって、これまでにない不自然な取引形態であったにも拘らず、犯収法等で規定された最低限の資料の確認(本人確認等)に止まり、送金目的の合理性、送金先企業の実態・代表者の属性、資金源等、送金のリスクについて実質的に検証が行われず、複数回の高額送金が看過された。短期間のうちに頻繁に、多額の、取引直前の現金入金による送金が続いた点等を踏まえ、営業店又は管理部門で危険性を検知し、取引実行の前に、以下のような点を確認すべきであった。
<検証すべきだったポイントの例>

  • 取引直前の現金入金に基づく多額の現金送金の合理性
  • 短期間に頻繁に多額の送金が行われる事情
  • 個人の生活口座を通じ海外企業に送金することの合理性
  • 貸付の経緯、送金の資金源
  • 入金申込のあった支店で取引を行う合理的な理由

さらに、外部からの指摘を受けるまで問題意識を持たず、再発防止策や態勢見直し等の対応を行っていないほか、海外の送金先口座からの資金の移動状況を、送金先銀行に確認するなどの情報収集を行っていないなどの課題が見られた。具体的な対策の実施と併せて、ガバナンスの強化や関連部署間の連携が重要となる。

今回の事例も事業者として「厳格な顧客管理」がなされなかった結果、北朝鮮が絡むマネー・ローンダリングに悪用されてしまったものです。そもそも架空の会社を使った架空の取引(仲介貿易)であり、現場において疑わしさを感じることはなかったのかという組織的なリスクセンスの鈍さを指摘できるほか、疑わしければ速やかに実効性ある調査をすべきところ、送金元の会社の実在確認すら行わなかったという杜撰な実務は、AML/CFT(アンチ・マネー・ローンダリング/テロ資金供与対策)を軽視した極めて大きな問題だと言えます。金融庁はかねてより地域金融機関に対策の強化を求めてきましたが、腰が重いままの地方銀行や信用金庫・組合は多く、やはりそれがそのまま抜け道として悪用されたことになり、あらためてAML/CFTの徹底を求めたいところです。そればかりか、FATFの第4次対日相互審査を来年に控え、厳格なAML/CFTが国際的に求められる状況下、十分な態勢が取れないなら海外送金業務を行う資格はないと厳しく指摘しておきたいと思います。一方、本事案でも同信金から依頼を受け送金業務を行ったのはメガバンクですが、メガバンク自身が送金を実際に依頼した当事者に接触できない実態があり、チェックの限界も露呈しています(地方金融機関がマネー・ローンダリングの抜け穴になっているとの危機感から、メガバンクは昨年12月に各地方金融機関の担当者を集め、AML/CFTの充実を強く呼びかけたといいます。それでも同信金は不審な送金を2回見逃していたということですから、もはや組織レベルでAML/CFTを軽んじていたと指摘されても仕方ない状況だと思われます)。今後、AML/CFTを厳格に運用しているメガバンクも重ねてチェックする態勢など、抜け道を塞ぐ実務の底上げが急務だと言えます。なお、朝日新聞の調査(地方銀行104行対象、90行回答)では、全国の地方銀行の6割が、犯罪組織などによるML/FT(マネロン/テロ資金供与)に不安があるという結果となりました。また、地方銀行では、現金による外国送金サービスを取りやめる動きが出ており、一見客や送金原資の出所が不明瞭な取引を制限する動きが加速しつつありますが、AML/CFTについて質問したところ、「十分だと思うが、不安は残る」(38行)が最多で、「現状の対策では不安がある」(16行)と合わせると回答の6割に達したということです(なお、「対策は万全だ」としたのは19行)。なお、マネロン対策で不安な点としては、「最新システムの構築や更新」が最多で、以下「専門的な人材の登用や育成」「マニュアルづくり」「役員の関与など組織の整備」などが続いています。問題事例やアンケート結果等を見る限り、地域金融機関全体の底上げを図ることが急務となっていることが痛感させられます。

このような状況下、金融庁は、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の現状と課題」というレポートを公表しています。本レポートは、リスク管理の高度化を金融機関に求めるとともに、金融界の取り組みと金融機関の対応を中心にまとめたものです。以下、重要と思われる部分を抜粋して紹介します。

▼金融庁 「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の現状と課題」の公表について
▼別紙 「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の現状と課題

全体的な傾向としては、多くの金融機関等が態勢高度化に向けた取組みに着手しているものの、業態や個社によって、対策の実施状況には差異が見られること、特に地域金融機関においては、自社特有のリスクを具体的に洗い出した上でリスク評価を実施し、その結果を踏まえて営業現場も含めたチェックリスト等として整備している事例が見られる一方で、リスク評価が断片的・抽象的で、検証点も曖昧なものに止まっており、リスク低減措置の実効性が十分でない事例も存在すると指摘しています。また、多くの金融機関等では、リスク低減措置の有効性を定期的に検証し、改善を図るプロセスについて、向上の余地が見られること、各種規程についての従業員理解度の自主点検や、第2線による取引内容のサンプリング検証、第3線による内部監査等を通じた独立した立場からの検証・改善提言等のプロセスが実効的に機能している金融機関等は必ずしも多くなく、持続可能かつ継続的な態勢強化の仕組み(PDCA)が課題となっているとしています。さらに、リスクを特定・評価し、その結果をリスク評価書として取りまとめることは、各事業者におけるリスク低減措置全体の基礎となるものであり、態勢高度化に当たり必要不可欠なプロセスであるところ、こうしたリスク評価書の作成割合に関して、足下では、預金取扱金融機関で9割を超えており、リスク評価を実施すること自体については、2016 年11 月から2017 年3月にかけて実施した水平レビュー調査時点と比べて、浸透しつつある状況にあるとはいえ、リスク評価書の内容を見ると、リスクの特定・評価に関する分析の深度、具体化の程度等について、個社ごとに大きな違いが見られ、広く用いられているひな形等を参考に、大まかなリスク類型・取引類型を列挙するに止まり、こうしたリスク類型の金融機関等における取扱件数等が具体的に加味されていない事例や、顧客について法人・個人の別等の大まかな区分が列挙されているのみであり、金融機関等の顧客層を具体化したリスク分析を行えていない事例も見られたといった問題点が指摘されています。一方で、金融機関等へのヒアリング等により、リスク低減措置の実施状況を見ると、総じて、基礎となるリスク評価書におけるリスクの分析を深度ある形で実施している金融機関等ほど、各顧客・取引に関する検証項目が具体的であり、当該検証項目をいつ、どのように確認するかについても明確に定められ、第1線の職員に勉強会や研修等で周知・徹底する仕組みが構築されている傾向が認められるとも指摘しています。また、リスク評価が具体化しておらず、標準的なひな形と大きく変わらない地域金融機関Bにおいては、顧客・取引についての検証項目が曖昧で、不審性が認められる場合、例えば、高額な現金による海外送金取引であっても、単に本人確認書類を再徴求するに止まるなど、実質的な確認が十分に行われる態勢となっていないといった課題も見られます。実務についても、例えば、近年、わが国における外国との取引が悪用された事例の多くには、来日外国人の関与が認められるとされているところ、わが国に一定期間居住する外国人(留学生や技能実習生等)への金融サービス提供時において、外国人であることのみをもって、合理的な理由なく取引の謝絶等が行われてはならないとの方向性を示し、そのような外国人との取引については、在留期間の把握に基づく、適切かつ継続的な顧客管理措置を実施するなど、リスクに応じた低減措置を講ずることが重要だとしています。
一方、このような態勢整備の遅れの背景には、一部の地域金融機関において、マネロン・テロ資金供与対策が、経営上の課題として、全社的なリスク管理の枠組みで捉えられておらず、企業文化として根づいていないという事情があること、犯罪組織・テロ集団等は、マネロン・テロ資金供与対策が相対的に進んでいない金融機関等を入口に金融システムに侵入し、犯罪収益の移転等を図る傾向があり、実際に、小規模金融機関がリスクにさらされる事例が確認されていることから、こうした点を十分に認識し、経営陣による主体的かつ積極的な関与・理解の下、場合によっては人的リソースの確保・投入やシステム投資の必要性も含め、迅速な対応が必要だと強調しています。
さらに、一部の地域金融機関における為替取引時の確認方法等について見ると、犯収法上に明示されている「取引目的」、「職業」、「事業の内容」の確認は行っているものの、個人が「生活費」として「多数回」にわたり「高額の現金」を海外送金する事例、法人が「ギフト(贈与)」名目で多数回にわたり特定国へ海外送金する事例等、「取引目的」、「職業・事業内容」、「取引金額」を照らし合わせて不審さ・不自然さが残る取引について十分な確認を経ず海外送金する事例が認められるといった指摘があります。また、特殊詐欺対策や反社会的勢力対応の分野では、地域金融機関の営業窓口が具体的な問題事例を検知し、これを金融機関内に周知することで、他の営業店が詐欺につながる気づきを得て、捜査当局や金融庁等とも連携しながら被害の未然防止を図るといった事例も認められるところ、これらの分野以外の幅広いマネロン・テロ資金供与対策においても、こうした営業店の「気づき」やこれにつながる具体的事例等の共有、周知・徹底が重要と指摘している点は、本コラムで述べている第1線の役職員の「意識」と「リスクセンス」の重要性と同じ文脈であり、リスク管理の肝であるとも言えます。
また、管理部門等については、口座開設時には本人確認・取引時確認等の手続を実施しているものの、未だ多くの地域金融機関において、開設後に顧客の住居・事業内容等を継続的に確認することとされておらず、継続的顧客管理の基準・手続の整備に課題が認められる事例が存在すると指摘しています。システムの運用・整備状況については、取引モニタリングシステムに関して、実際に、近接する複数の営業店にまたがって個人が不審・不自然な海外送金取引を行っていたにもかかわらず、それが看過される事例が存在するなど、モニタリングの実効性向上に課題が認められる点も指摘しており、これらについては、AML/CFTのみならず、特殊詐欺対策、暴排などの実務にも通じる注意点である言えます。制裁対象者等を検知するフィルタリングシステムについても、システムに登録されたリストに課題が認められる事例や、あいまい検索の設定が適切でない事例、グレー先(制裁リスト等に当たると断定はできないがその疑いが残る先)についてのより詳しい調査等のフォローアップが必ずしも十分でない事例が認められ、改善が必要と指摘しています。このあたりも反社チェックの実務との相違がみられ、例えば、反社DBに該当した際の同一性の確認など、その判定が困難なことが多いとはいえ、「手を尽くす」ことが求められていることと同じ指摘だと思われます。

これらの指摘をふまえ、多くの地域金融機関においては、ガイドラインに基づくギャップ分析及び行動計画の策定等を通じ、早急に、マネロン・テロ資金供与リスクを特定・評価・低減する対策を実施し、金融機関等の規模・業務内容等に応じたリスクへの適切な対応を可能とする態勢を整備する必要があると締めくくっています。
なお、本レポートでは、業態別の現状と課題についても整理されており、以下、簡単に紹介します。

  • メガバンク
    個々の顧客にリスク格付を付与し、リスクに応じて顧客確認の深度や頻度を変更するなど、きめ細やかな継続的顧客管理を行うこと、海外送金取引を受託している地域金融機関やコルレス先金融機関に対し、定期的に、当該金融機関におけるマネロン・テロ資金供与リスク管理態勢の確認を行い、必要な場合に、指導を行うこと、また、個々の取引ベースで、システムを活用しながら当該金融機関等と連携してモニタリングを行うこと、貿易金融は、貿易書類の虚偽記載等によって、軍事転用物資や違法薬物の取引、人身売買等に利用される危険性を有していることから、契約条件、輸送経路、船舶名、市況調査等についてきめ細やかな確認・調査を実施すること、疑わしい取引の届出について、過去の届出状況・傾向等を分析し、又は届出を行った個別取引について深度ある調査を行うことで、不審取引の検知、リスク低減措置の具体的内容の検討に活用すること、上記のようなきめ細やかな顧客管理・データ管理等を実施するために、IT システムの整備状況を改めて確認し、データの十分性・活用可能性等を向上させること(データ・ガバナンス)などが指摘されています。
  • 保険会社
    海上保険等の保険金支払い、保険契約締結後に外国に転居した非居住者に対する生命保険金等の支払いに関して、国境をまたぐ多額の取引である点も踏まえたリスク分析が十分に行われていないという事例や、複数の代理店にまたがる保険契約締結に際して、取引時確認の適正性を確保するための規程等の整備に課題が見られる事例が確認されていることから、例えば、貯蓄性の高い保険商品について、中途解約やクーリング・オフにより契約締結から短期間のうちに多額の解約返戻金を受け取る異常取引等について、システム等を用いてモニタリングを行うことが考えられるとしています。
  • 金融商品取引業者
    金融商品取引においては、例えば投資を行うことによって、多額の資金を様々な商品や権利に変換することができ、利益も得られる。また、財産的価値が、複雑なスキームの中で不透明な形で移転し、転々流通する権利を表章する有価証券等を通じるなどして、原資の追跡が困難になることも多いため、金融商品取引は、犯罪による収益を生成、移転し、合法資産に統合するための有効な手段となり得るとしています。そして、顧客受入れ時の確認が不十分であったために反社会的勢力の口座が開設されていた事例や、高リスク顧客に該当する旨の申告が顧客側からあったにもかかわらず、長期間これを放置し、通常の顧客管理の対象としていた事例が認められていると指摘しています。
  • 仮想通貨交換業者
    ウォレットが必ずしも特定の自然人と結びつかないことから、その真の所有者を特定することは困難であること、取引に当たって匿名化技術を用いることで取引の追跡をさらに困難にさせることもできることが指摘されています。そのうえで、複数回にわたる高額の仮想通貨の売買にあたり、取引時確認及び疑わしい取引の届出の要否の判断を行っていない事例、法令に基づく取引時確認を十分に実施しないまま、仮想通貨の交換サービスを提供しているほか、疑わしい取引の届出の要否の判断を適切に実施していない事例、マネロン・テロ資金供与リスク等、各種リスクに応じた適切な内部管理態勢を整備していない事例、取引時確認を検証する態勢を整備していないほか、職員向けの研修も未だ行っていないなど、社内規則等に基づく業務運営を行っていない事例、疑わしい取引の届出の判断が未済の顧客について、改めて判断し、届出を行ったとしているが、当局の指導にもかかわらず、当局が改善を要請した内容を十分に理解する者がいないため、是正が図られていない事例などが紹介されています。
  • 資金移動業者
    預金取扱金融機関に比して安価な手数料で、迅速に世界的規模で資金を移動させることができるものであり、その利便性に見合った対策等が行われない場合には、マネロン・テロ資金供与に利用されるおそれもあるとしています。そのうえで、提供している支払手段の運搬可能性・匿名性等のリスクについて分析が十分でない事例や、送金相手国について、制裁対象に該当するか否かを確認するに止まり、制裁対象の周辺国・地域に当たるか、周辺地域に当たる場合に取引態様等から総合的なリスク判断を行う必要がないかなどについての分析が十分でない事例等が確認されているということです。また、預金取扱金融機関と比較し、態勢面の整備状況等に相対的に遅れが見られ、窓口における取引時確認や顧客管理等の事務フローの整備のみならず、経営管理、人材確保・育成及びシステム整備等も含め、管理態勢の全般的な高度化が求められると指摘しています。
  • 貸金業者
    利便性が犯罪者等から悪用され、簡便な貸付及び返済を繰り返すなどにより、犯罪収益の追跡が困難となること等がないか、十分留意する必要があると指摘しています。
  • 信託銀行・信託会社
    信託会社について見ると、リスク評価書の作成状況が8割を下回り、また、作成している事業者においても、犯罪収益移転危険度調査書に準じた形式的な記載に留まっている事例が複数見られるなど、他業態に比して、必ずしもリスクベース・アプローチに基づく対応は進んでいない状況にあるとしています。

最後に、犯罪収益移転防止法上の特定事業者(郵便物受取サービス業者)について、経済産業省が行政処分を行っていますので、紹介しておきます。

▼経済産業省 犯罪による収益の移転防止に関する法律違反の特定事業者(郵便物受取サービス業者)に対する行政処分をしました

有限会社アークスコムが犯罪収益移転防止法に定める義務に違反していることが認められたとして、国家公安委員会から経済産業大臣に対して同法に基づく意見陳述が行われた。これを踏まえ、経済産業省において同社に対して立入検査を行った結果、犯罪収益移転防止法違反が認められたため、同社への処分を行うこととした
<違反行為の内容>
国家公安委員会による意見陳述及び経済産業省による立入検査の結果、同社には、犯罪収益移転防止法に定める義務について以下の違反行為が認められた

  1. 取引時確認
    同社は、顧客との間で締結した郵便物受取サービスに係る契約について、犯罪収益移転防止法第4条第1項及び第4項に基づく本人特定事項や取引目的、実質的支配者等の確認を行っていない
  2. 確認記録の作成及び保存
    同社は、犯罪収益移転防止法第6条第1項及び第2項に基づく確認記録の作成及び保存を行っていない

<命令の内容>
上記違反行為を是正するため、平成30年8月3日付けで同社に対し、犯罪収益移転防止法第18条の規定に基づき、以下の措置を講じるべきこと等を命じた

  1. 犯罪収益移転防止法に関する社内教育の充実や同法に係る事務を円滑に進めるための社内規程の整備を図るなど、同社の関係法令に対する理解及び遵守の徹底
  2. 取引時確認並びに確認記録の作成及び保存に係る業務の見直し
  3. 本人確認又は取引時確認の義務違反がある契約のうち、契約が終了していない顧客についての本人確認又は取引時確認の実施並びに本人確認記録又は確認記録の作成及び保存の実施
  4. 上記1から3までの措置は、平成30年9月3日までに実施

(2) 特殊詐欺を巡る動向

まずは、例月通り、平成30年1月~7月の特殊詐欺の認知・検挙状況等についての警察庁からの公表資料を確認します。

▼警察庁 平成30年7月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

平成30年1月~7月の特殊詐欺全体の認知件数は9,536件(前年同期10,328件、前年同期比▲7.7%)、被害総額は164.2億円(193.8億円、▲15.3%)となり、件数・被害総額ともに減少、かつ減少幅が拡大しています。なお、検挙件数は2,869件となり、前年(2,336件)を24.8%上回るペースで摘発が進んでいます(その増加幅も拡大していますので、摘発の精度が高まっていることが分かります)。うち振り込め詐欺の認知件数は9,420件(10,155件、▲7.2%)、被害総額は159.6億円(183.3億円、▲12.9%)となっており、認知件数が減少に転じてその減少幅が拡大しているほか、被害額の大幅な減少も続いています。また、類型別の被害状況をみると、オレオレ詐欺の認知件数は5,293件(4,415件、+19.9%)、被害総額は78.5億円(89.4億円、▲12.2%)と件数の増加傾向は続くもののその増加幅は減少しており、被害額は減少かつその減少幅は拡大しています。また、架空請求詐欺の認知件数は2,866件(3,161件、▲9.3%)、被害総額は64.8億円(64.7億円、+0.2%)と件数の減少幅が拡大した一方、被害額が増加から減少に転じそうな傾向を示しています。また、融資保証金詐欺の認知件数は248件(382件、▲35.0%)、被害総額は3.7億円(4.0億円、▲8.4%)、還付金等詐欺の認知件数1,013件(2,197件、▲53.4%)、被害総額は12.6億円(25.2億円、▲50.0%)と、これらについては件数・被害額ともに大きく減少する傾向が継続しています。これまで猛威をふるってきた還付金等詐欺の件数・被害額が急激に減少する一方、それととって替わる形でオレオレ詐欺が急増している点(特殊詐欺全体でみれば件数が減少に転じた点は特筆すべき変化ではありますが、それでも高水準を維持している点)に注意が必要です。なお、それ以外では、特殊詐欺全体の被害者について、男性25.2%、女性74.8%、60歳以上82.0%(70歳以上だけで66.3%)と、相変わらず全体的に女性・高齢者の被害者が多い傾向となっている(その傾向に拍車がかかっている)ほか、犯罪インフラの検挙状況として、口座詐欺の検挙件数は741件(917件、▲19.2%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,430件(1,388件、+3.0%)、携帯電話端末詐欺の検挙件数は162件(199件、▲18.6%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は24件(25件、▲4.0%)などとなっています。

直近の特殊詐欺を巡る動向で注目したいのは、中国を拠点に、日本の高齢者にうその電話をかけ、現金をだまし取る特殊詐欺グループの組織や手口の一端が明らかになったことです(平成30年8月25日付毎日新聞)。それによると、トップは中国人で、かけ子は中国にいる日本人、日本で日本人の受け子・出し子が入手したお金を「換金所」と呼ばれる在日中国人が中国に送金する仕組みとなっています。さらには、他にも複数のグループが中国で活動しているということであり、日本の警察の捜査は海外では難しく、国境を越えて違法な詐欺活動が広がっている現状があるようです。
また、警視庁捜査2課は、特殊詐欺グループに拠点となる部屋を貸していたとして、不動産会社社長ら2人を詐欺容疑で逮捕しています。特殊詐欺では詐欺グループに携帯電話をそろえる「道具屋」や名簿をそろえる「名簿屋」など分業化が進んでいますが、彼らは拠点を提供する「ハコ屋」だったとみられています。「ハコ屋」は昨年、かけ子グループの摘発の際に初めて判明したものですが、容疑者自身が使用するように見せかけて契約し、詐欺グループに提供するという仕組みで、グループには複数の不動産関係者がおり、都内をはじめ、神奈川県、千葉県などに少なくとも20の物件を複数の詐欺グループに提供したとみられています。今年公表された「平成29年における組織犯罪の情勢」(警察庁)には、暴力団関係者を入居させるために、賃借人が暴力団組員である事実などを告げずに契約を締結させたばかりか、暴排条項を削除した契約を締結していた悪質な不動産事業者が業務停止処分となった事例が紹介されていましたが、本件もまた、悪質な不動産事業者が特殊詐欺の拠点を提供することで犯罪を助長していたという点で、「犯罪インフラ化」していたといえます。このような悪質な事業者と取引をする法人や個人が存在するために犯罪インフラが提供され、結果的に犯罪者が活動できるという構図があり、私たちにできることは、そのような「悪質な事業者と関係をもたない」ことであり、実務的には、そのような悪質事業者を社内的には反社会的勢力の一形態と見なして排除していくことが求められると言えます。

その他、特殊詐欺を巡っては、新たな手口など以下のような報道がありました。

  • オレオレ詐欺など特殊詐欺に関係する電話について、東京都目黒区内の一般世帯にかかってくるケースが、全国平均と比べて2倍以上になっていることが区の推計でわかったということです。区は注意を呼びかけるとともに、不審電話の着信を拒否する装置「トビラフォン」の無料貸し出しを進めているとのことです。
  • 息子や親族を装って「フルーツを送る」と電話をした後、現金をだまし取る新手のオレオレ詐欺が、首都圏を中心に相次いでいるとのことです。東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県では昨年12月以降、100件超の電話が確認されています。フルーツを持ち出すことで高齢者の警戒心を解き、住所を聞き出すのが特徴で、今後、被害が全国に拡大するおそれがあり、注意が必要です。
  • 実在しない法務省の部署や検察庁などの公的機関をかたった架空請求が全国各地で相次いでいます。「あなたは契約不履行で民事訴訟を起こされた。連絡がない場合は給料や動産・不動産が差し押さえられる」といった不安をあおる内容のはがきを送りつけ、記載の電話番号に連絡した受取人から金をだまし取る手口で、被害総額は確認されているだけで1億円を超えています。2017年5月頃から全国で発生するようになり、今年3月末までに2万9455件の相談が寄せられています。埼玉県では、はがきによる架空請求の相談が前年度(86件)の約63倍となる5,442件と激増したといいます。また、50歳以上の女性による相談が大半を占めており、何かの名簿が犯罪グループに出回っている可能性があることが推測されます。
  • 米国においても、振り込め詐欺が猛威をふるっており、金融専門家協会とJPモルガンの報告書によると、2017年の振り込め詐欺は過去最高を記録したということです。全ての金融機関のうち、78%が影響を受けており、特に海外送金による振り込め詐欺が増加しているようです。詐欺師はフィッシングサイトから盗んだ顧客のIDとパスワードで口座を監視し、取引の流れや関係者への連絡手段をつかみ、情報収集を終えると、企業や顧客を装い、偽の振り込み情報を銀行へ送るといった手口です。

このような特殊詐欺が猛威をふるう中、大阪府警は、特殊詐欺被害の防止に向けた条例案を来年2月にも府議会に提案する方針を明らかにしています。府内では、今年上半期(1~6月)の被害額が約17億円に上り、中でもオレオレ詐欺の被害が増えている状況です。府警は、詐欺情報の通報を府民に求める努力義務を条例案に盛り込むことなどを検討するということであり、「大阪府安全なまちづくり条例」の一部に特殊詐欺の項目を設けることを検討しているようです。なお、同様の条例は東京都や滋賀県などでも制定されています。そこで、参考までに東京都安全安心まちづくり条例の該当条項について紹介します。

▼東京都安全安心まちづくり条例

第九章 特殊詐欺の根絶に向けた取組の推進
(都民等への情報提供等)
第三十一条 都は、詐欺(刑法(明治四十年法律第四十五号)第二百四十六条の罪をいう。)又は電子計算機使用詐欺(刑法第二百四十六条の二の罪をいう。)のうち、面識のない不特定の者を電話その他の通信手段を用いて対面することなく欺き、不正に調達した架空又は他人名義の預貯金口座への振り込みその他の方法により、当該者に財物を交付させ、又は財産上不法の利益を得、若しくは他人にこれを得させるもの(以下「特殊詐欺」という。)の被害を根絶するため、区市町村と連携して、必要な情報の提供や都民等への広報及び啓発を行うものとする。
2 都は、特殊詐欺の根絶に向けた施策を推進するとともに、都民等に対し、当該施策への協力及び情報提供を求めるものとする。
(都民等の責務)
第三十二条 都民等は、特殊詐欺に関する知識及び理解を深めるとともに、都が実施する特殊詐欺の根絶に向けた施策に協力するよう努めるものとする。
2 都民等は、特殊詐欺に係る情報を知った場合は、速やかに警察官に通報するよう努めるものとする。
3 事業者は、商品等の流通及び役務の提供に際して、特殊詐欺の手段に利用されないよう、適切な措置を講ずるよう努めるものとする。
(建物の貸付けにおける措置等)
第三十三条 何人も建物を特殊詐欺の用に供してはならない
2 建物の貸付けをする者は、当該貸付けに係る契約を締結するに当たり、当該契約の相手方に対し、当該建物を特殊詐欺の用に供するものでないことを書面により確認するよう努めるものとする。
3 建物の貸付けをする者は、当該貸付けに係る契約を書面により締結する場合において、当該建物が特殊詐欺の用に供されていることが判明したときは当該契約を解除することができる旨の特約を契約書その他の書面に定めるよう努めるものとする。
4 建物の貸付けをする者が、前二項に規定する措置を講じている場合において、当該建物が特殊詐欺の用に供されていることを知り、当該行為が当該建物の貸付けに係る契約における信頼関係を損なうときは、当該契約の解除及び当該建物の明渡しを申し入れるよう努めるものとする。

その他、特殊詐欺に対する取り組み事例について、最近報道されたものの中から以下に紹介します。

  • 消費者庁は、ツイッターの「つぶやき」などを端緒にトラブルを見つけ出す新たな取り組みを始めました。「詐欺」などを連想させる特定の言葉が使われたインターネット上の文章を自動的に収集・分析する「テキストマイニング(text mining)」と呼ばれる技術を利用し、悪質なケースは、同庁が調査し注意喚起や行政処分を行うことを想定しています。スマホを多用する若者の被害を防ぐ狙いがあります。
  • 「オレオレ詐欺」などの特殊詐欺から高齢者を守ろうと、大阪府吹田市は、65歳以上の高齢者世帯に、固定電話にとりつけると、自動的に「会話内容が録音されます」とアナウンスが流れる通話録音装置200台を無償貸し出しすることを決め、受け付けています。昨年も無償貸し出ししており、「勧誘電話がほとんどなくなった」という声が寄せられたということで、その効果が期待されます。
  • 高齢者の被害が多い特殊詐欺を減らそうと、埼玉県草加署は、自宅の電話が鳴ると女の子の声で注意を呼びかける音声認識人形「あんしんみーちゃん」を管内の高齢者250世帯に順次設置し、効果を見極める実証実験を始めています。「この電話、振り込め詐欺かもしれませんよ」「だまされたら、みーちゃん悲しいな」などと話す人形は静岡県警が民間企業と共同開発したもので、静岡県内で約400世帯を対象に半年間行った実証実験では、14件の詐欺電話を見破り被害防止につながる成果を挙げています。
  • 新宿区と区内の4警察署(牛込、新宿、戸塚、四谷)が特殊詐欺の根絶を目指し、65歳以上の区民約67,000人の名簿を、区が4署に提供する覚書を結んでいます。あわせて、本人の同意なく名簿を提供することに対する懸念をふまえ、警察が名簿の目的外使用や複写を禁止する協定書も締結しています。報道(平成30年8月23日付毎日新聞)によれば、4署は名簿を基に高齢者宅を戸別訪問し、特殊詐欺に遭わないよう注意喚起するほか、着信があると自動的に「録音します」という音声が流れる自動通話録音機計800台を貸し出すなどの取り組みを行うということです。一方、第二東京弁護士会は「約67,000人分の個人情報を一括して警察に提供する必要性は認められない。本人の同意なく実施する必要性はなく、プライバシーを侵害する」として中止を求める会長声明を出しています。犯罪抑止とプライバシー保護の比較衡量の問題となりますが、特殊詐欺の社会的害悪がここまで拡がりその抑止が社会的に急務となっている以上、ある程度、犯罪抑止に向けて踏み込む必要もあるのではないかと思われます。
  • 高齢者らにうその電話を掛けるなどして現金をだまし取る特殊詐欺について、警視庁が現金の受け取り役の「受け子」を職務質問で摘発した件数が今年上半期で32件となり、昨年1年間の3倍超に達したとのことです。過去に摘発した特殊詐欺事件から受け子の服装など特徴の傾向を把握し、職務質問の参考情報にしたことが奏功しているようです。ただ、報道(平成30年8月24日付産経新聞)によれば、その一方で、特殊詐欺グループ側には、いわゆる「だまされたふり」作戦への犯人側の警戒が高まっているとも言われており、特殊詐欺グループと警察との攻防は複雑化・高度化しています。
  • 兵庫県警洲本署は、架空請求の詐欺被害を防いだセブン‐イレブン洲本小路谷店店長に感謝状を贈っています。レジでインターネット決済の代金5万円を払おうとした市内の60歳代の女性が詐欺に遭いかけていると気づき、同署に通報、被害を食い止めたものです。女性宅には「法務省管轄支局国民訴訟通達センター」と書いたはがきが届き、電話で問い合わせたところ、コンビニでの支払いを求められていたということです。この店長の個人的な功績ではありますが、社会インフラとなったコンビニについては、特殊詐欺の被害防止という社会的責任を果たすことが期待されていること、一方で、本件のように「違和感」を感じるリスクセンスを働かせることが、店長はじめスタッフ、組織として期待されていることなどをふまえた、組織的な取り組みが求められているともいえます。

(3) 仮想通貨を巡る動向

金融庁が、仮想通貨交換業者等の検査・モニタリングの中間とりまとめを公表しています。
以前の本コラム(暴排トピックス2018年7月号)でも取り上げましたが、仮想通貨交換業者のほとんどは内部の管理体制の整備が追いつかず、マネー・ローンダリングやテロ資金供与を防止する措置が不十分であり、利用者が暴力団関係者と把握しながら取引を一定の間認めていたり、メールアドレスを届け出るだけで仮想通貨の購入を許可していたりするケースも見られます。また、役員が数十回にわたって高値で買い注文を出し、仮想通貨の価格をつり上げていた事例も判明するなどガバナンスの問題、システムの委託先に対し、障害が発生したにもかかわらず、原因の究明や再発防止策を求めなかったなどリスク管理の脆弱な状況なども見られています。

▼金融庁 仮想通貨交換業者等の検査・モニタリング 中間とりまとめの公表について
▼仮想通貨交換業者等の検査・モニタリング 中間とりまとめ

本とりまとめでは、まず、仮想通貨交換業者の会社規模(総資産)が前事業年度比で急拡大(平均して553%拡大)していること、少ない役職員で多額の利用者財産を管理(平均して1名で33億円の取扱い)していること、主にみなし業者において、「利用者から多額の財産を預かっているとの認識が欠如しており、また、昨年秋以降、暗号資産(注:仮想通貨のこと)に係る取引が急拡大し、各社においてビジネス展開を拡大する中、内部管理態勢の整備が追いついていない実態が把握された」と指摘しています。そのうえで、以下のような事例が紹介されています。

1. ビジネス部門(第1線)

  • 取り扱う暗号資産(仮想通貨)のリスク評価をしていない(取扱い暗号資産の選定に当たっては、暗号資産の利便性や収益性のみが検討されている反面、取扱い暗号資産ごとにセキュリティやマネロン・テロ資金供与等のリスクを評価した上で、リスクに応じた内部管理態勢の整備を行っていない)
  • 自社が発行する暗号資産(仮想通貨)の不適切な販売(暗号資産を販売するに際して、利用者の年齢、取引経験、資力等を考慮した取引限度額の設定や販売・勧誘を開始する基準を定めていない。個別の事例として、役職員が数十回にわたり高値の買い注文を対当させることによって暗号資産の価格を不当に釣り上げるなど恣意的な価格操作が行われているなど)
  • 内部管理態勢の整備が追いつかない中、積極的な広告宣伝を継続(テレビCM において、有名人が特定の暗号資産を連呼するなど、利用者の購買意欲を煽る一方で、暗号資産のリスクに関する表示は数秒に留まっている、取引の内容やリスクの適切な開示が行われているかを事前に確認するなどの広告内容の審査等が行われていないなど)

2. リスク管理・コンプライアンス部門(第2線)

  • 法令等のミニマムスタンダードにも達していない内部管理(口座開設、暗号資産の移転取引に係る各種規制の理解、暗号資産のリスク特性を踏まえたマネロン・テロ資金供与対策など、第1 線にアドバイスを行うのに必要な専門性や能力を有する要員が確保されていない、取引時確認において、確認対象となる利用者の職業や取引目的について空欄である等、具体的な詳細を確認していない。また、確認記録において、法人の事業内容の確認を行った方法や実質的支配者と利用者との関係など、法令で求められる記録事項に関する記載がない、反社会的勢力との取引を排除するための事前審査が行われていない。また、取引開始後、利用者等が反社会的勢力と判明した場合の具体的な対応方針を定めていない、利用者が反社会的勢力と判明したにもかかわらず、一定期間、暗号資産の外部アドレスへの移転を許容している、厳格な取引時確認や再度の取引時確認が必要となる具体的な手続及び基準等が定められておらず、なりすましの疑いがある取引等に関して必要な取引時確認が行われていない、疑わしい取引の該当性判断に際し、利用者の職業等の情報を考慮していない。また、高リスクと評価する取引について、統括管理者による承認が行われていないなど)
  • マネロン・テロ資金供与対策、分別管理ができていない(利用者の暗号資産に係る帳簿とブロックチェーン上の有高との照合作業を毎営業日実施しておらず、照合作業が適切に行われているかについて事後的な検証を行っていない、
  • 内部牽制が機能していない(システムの開発及び運用・管理を同一の担当者が担当している、特権IDを付与している社員に対する牽制をしていないなど)
  • セキュリティ人材が不足している(業容や事務量に比べ、システム担当者が不足している、サイバー攻撃に関するリスクシナリオやコンティンジェンシープランを策定しておらず、セキュリティに関しての研修を実施していない)
  • 利用者保護が図られていない(取扱い暗号資産について、ハッキングリスクの高いホットウォレットで管理している、システム障害が多数発生しているにもかかわらず、根本原因の分析が行われていない、ステム開発時に限界値を把握していない中、システム運用時に取引量がシステムのキャパシティを超え、利用者に影響を及ぼすシステム障害が発生している、自社発行暗号資産と関連する事業の詳細や会社の財務状況、当該暗号資産の販売内容等について、利用者への情報提供が行われていない、自社発行暗号資産の販売に際して、当該暗号資産の販売によって取得した資金を、自社の経費として費消するのみで、利用者に事前に説明していた新規事業の実現のための事業資金として利用していないなど)
  • 外部委託先の管理ができていない(外部委託業者の選定に当たり、当該業者の評価を行っていないほか、委託契約も締結していない、システムを外部に委託(ホワイトラベル)している中、システム障害が発生しているにもかかわらず、当該外部委託先に原因究明や再発防止策を求めていないなど)

3. 内部監査部門(第3線)

  • 内部監査が実施されていない(マネロン・テロ資金供与対策や、システムリスクなどの監査を実施するために必要な専門性・能力を有する監査要員が確保されていない、内部監査要員が1 名で、他業務と兼務している中、内部監査計画の策定や内部監査を実施していない、個別の事例として、内部監査人は、実際には検証していない項目について、監査結果を問題なしとして報告しているなど)
  • 内部監査計画を策定しているが、リスク評価に基づくものとなっていない(内部監査計画を策定しているが、リスク評価に基づくものとなっていない、外部委託先に利用者の暗号資産の管理を委託しているが、委託先の監査を実施していないなど)

4. コーポレート・ガバナンス

  • 利益を優先した経営姿勢(経営陣は、業容が急拡大する中、業容に見合った人員の増強やシステム・キャパシティの見直しを行っていない、経営会議等において、広告宣伝などの業務拡大に関する議論のみが行われており、内部管理に関する議論が行われていない、監査役は、利用者数や取引量の増加に伴い、業務を遂行するための人員が不足していることを認識しているにもかかわらず、取締役会等において、人員の増強の必要性などの意見を述べていないなど)
  • 取締役及び監査役の牽制機能が発揮されていない(取締役会は、新規事業を実現するために自社発行暗号資産を販売し、資金を調達したものの、具体的な資金使途など新規事業の進捗を管理していない、主要株主が役員に就任するなど所有と経営が分離していないため、一部の株主の利益を優先した議論が行われているなど)
  • 金融業としてのリスク管理に知識を有する人材が不足(取締役会等では、多額の利用者財産を管理する金融業者としてのリスク管理等に関する議論が行われていないなど)
  • 利用者保護の意識や遵法精神が低い(取締役会等では、多額の利用者財産を管理する金融業者としてのリスク管理等に関する議論が行われていないなど)
  • 経営情報や財務情報の開示に消極的(経営情報や財務情報について、利用者に分かりやすく公表されていないなど)

5. 今後の監督上の対応

  • 登録事業者の登録審査・モニタリングについては、登録審査時に構築された内部管理態勢について、その後の変化に応じた態勢強化を行っていない実態が判明したことを踏まえ、登録業者においては、本とりまとめの結果を踏まえた態勢整備状況について自己チェックを行うことが望ましいこと、また、当局においては、リスクプロファイリングの精緻化及びその頻繁な更新を行うとともに、引き続き、順次、立入検査を行う等、深度あるモニタリングを行い、問題が認められた場合は必要な行政対応を行うこととしています。これまで以上に厳格な審査態勢が敷かれることになります。
  • みなし業者については、業務改善命令を受けて提出された報告内容について、本とりまとめの結果を踏まえ、個別に検証し、登録の可否を判断していくとしています。
  • 新規登録申請者については、これまで、書面による形式審査だけでなく、システムの安全対応状況の現場訪問による確認など、実質面を重視した登録審査を行ってきたものの、暗号資産を取り巻く環境やビジネスが急速に変化することを踏まえ、当局審査も、さらに深度ある実質的な審査を行う必要があるとの認識から、具体的に、業者のビジネスプランの聴取及びそれに応じた実効的な内部管理態勢や、利用者保護を優先したガバナンス態勢の状況について書面やエビデンスでの確認を充実させるとともに、現場での検証や役員ヒアリング等を強化すること、新たに登録された業者に対しては、暗号資産を取り巻く環境やビジネスの急速な変化を踏まえ、登録後の早い段階で立入検査を実施することなどが示されました。

なお、報道等によれば、金融庁は、改正資金決済法に基づく仮想通貨交換業者登録の審査を実質的に厳格化、審査書類の質問項目を、特にガバナンス、経営管理、システムリスク管理、マネー・ローンダリング対策に関する項目を充実させ、従来の4倍の約400項目に大幅に増加させました。財務の健全性を維持する方策やシステムの安全対策などに関し、取締役会議事録も提出させ、経営陣がリスクを管理できているか検証する、株主構成も定期的に調査し、反社会勢力との関係をチェックする社内体制の有無も調べるといいます。さらに、金融庁は、質問の回答内容のチェックやオンサイトで直接現場を見る確認作業、質問の回答の証拠を一つひとつ取るなどの徹底ぶりです。

さて、現在、金融庁では、「仮想通貨交換業等に関する研究会」を開催していますが、その議論の内容も公開されており、今後の方向性を考えるうえで参考になります。以下、委員の発言から筆者にて重要と思われるものをピックアップし一部加筆したものを紹介します。

▼金融庁 「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第4回)議事録
  • これまで3,000件以上のICOがあったが、そのほとんどが失敗している。この12か月での失敗率は大体50パーセントから60パーセントくらいであり、これは、詐欺・不正行為があったからというのもあるが、善意の人たちがたまたま失敗したということもある。しかし、残念ながら、多いのは不正や詐欺行為だ
  • 現在約200の交換所が存在している。3月時点では、16社が(仮想通貨交換業者として)登録をしており、16社がみなし仮想通貨交換業者だった。しかし、その他に金融庁のドアをノックしていた業者の数は、恐らく100を超えていたのではないでか
  • 不正行為に対する対応としては、基本的に、脱税、マネー・ローンダリング、テロリストへの資金提供、経済制裁の潜脱、といったものを止めることで、(その必要性については)各国当局者間でも意見の一致が得られるところだが、大きな挑戦でもある。アメリカでも、国務省、財務省などが、北朝鮮やイランに対する経済制裁の潜脱のような行為に使われないことを保証できるか懸念している。しかし、こういった課題について今後検討が必要であるという点は意見の一致が見られるし、日本においてもこれら暗号(資産)交換所におけるマネー・ローンダリング対策に関するルールをどのように施行していくか検討しているところだ
  • ほとんどのICOはこうした法律の適用外となっているが、大体25パーセントぐらいが不正や詐欺のICOであると言われており、ウォールストリートジャーナルの調査では81パーセントのICOが不正であるとも言っている
  • ビットコインの統計だが、1日あたりの全てのビットコイン取引のうち、ブロックチェーン上で行われているのは5パーセントにすぎず、価値に換算して、残りの95パーセント(日によっては98パーセントや99パーセントになることもある)については交換所で取引されている。自分のビットコインと相手のビットコインをコインチェックまたはその他世界にある交換所の帳簿において、交換しているにすぎない
  • 受益所有者のトラッキング法に関しては、国際機関がその基準を検討する価値があると考えている。(基準策定は)技術だけでなく、公共政策の目的も支援するものであると思われる。(情報を)プライベートのままにしておくことを望み、そうしたトラッキングの網の目をすり抜けることを望み、(こうした試みは、ブロックチェーン)技術を損なうものであると考える人もいるが、むしろ技術を改善させていくものであると考えている
  • 今後の対応について考えていく上では、やはり仮想通貨関連の取引が世界的に広がっているということを念頭に置く必要があるだろう。こうした観点では、単に日本だけで対策を講じるというのはなかなか難しく、国際協調が必要になる
  • 例えばカストディアンの部分を、きちんと交換所から機能として取り外したほうがいいのではないか、今の日本の法律だと、仮想通貨交換業者という1個のくくりだが、その中には株式市場でいえば東京証券取引所みたいな機能もあり、保管振替機構みたいな機能もあり、一方で、個々の証券会社のディーリング部門もあり顧客部門もあり、全部が一個の中に入っている。普通は、その間には一種の利益相反が起こるものだが、そういうことが1つのエンティティの中に入っているということ自体が、やや不思議な現象だと思う。ただ、世界的に見ると、そういう形として仮想通貨の取扱事業者というかができてしまっているので、それを外から変えるということはなかなか現実的ではない

その他、仮想通貨を巡る主な動向について、以下に箇条書きでご紹介します。

  • 仮想通貨業界で、大手企業による信用補完が進んできています。コインチェックはマネックスグループによる完全子会社化、LastRootsはSBIホールディングスから3割程度の出資と役員を受け入れたのに続き、楽天が仮想通貨交換会社みんなのビットコインを買収することを発表しています。買収が完了すれば、改正資金決済法に基づいて金融庁に登録申請中のみなし業者3社すべてに上場企業の資本が入ることになります。今年の仮想通貨の取引は前年に比べて縮小しており、リスク管理への巨額の投資も求められる中、今後は経営体力が競争力を左右しそうだと言えます。
  • 仮想通貨交換業者の業界団体、日本仮想通貨交換業協会が改正資金決済法に基づく自主規制団体の認定取得に向け体制の整備を急いでいるところ、目下の課題は、自主規制団体として行う会員業者の監督・検査を担う人材の確保だと言われています。仮想通貨の自主規制では、フィンテックやコンプライアンスなどに関する専門知識が求められており、他業種との人材争奪戦が続いている状況です。
  • 東証2部上場のビート・ホールディングス・リミテッド(旧新華ファイナンス)が香港拠点の仮想通貨事業者ノア・アークテクノロジーズから買収提案を受けています。報道(平成30年8月9日付日本経済新聞)によれば、ノア社はビート社への事実上の買収で仮想通貨を世界で展開するシナリオを描いているとされ、これに対して東証幹部は「正直困っている」と打ち明けています。東証は投資家保護が不十分として仮想通貨に距離を置いており、交換業者の上場申請も事実上認めてこなかった経緯があります。なお、ビート社は仮想通貨を手掛ける計画はないとしてシンガポールの別の新興ベンチャーの出資を受け入れています。最終的な経営権は9月にも見込まれる株主総会に委ねられることになり、その動向に注目したいと思います。
  • 世界の仮想通貨交換業者が今年に入り、地中海の島国マルタ共和国に相次いで拠点を移し始めているようです。報道(平成30年8月9日付日本経済新聞)によれば、税率が低い租税回避地であることに加え、国をあげて仮想通貨業を育成・誘致する方針であることが理由と言われており、1日あたりの取引量は今や世界最大となっています。さらに、その背景には、主要国と明らかに異なる規制スタンスがあり、例えば、仮想通貨技術を使った資金調達(ICO)については、中国や韓国が禁止し、日本や英国、ドイツなどはICO詐欺などに注意喚起、米国は有価証券にあたるとして厳しい規制を課していますが、マルタでは、今年可決された仮想通貨関連法で、ICOを積極的に容認し、投資家が誤った情報で被害を受けた場合は発行企業に損害賠償責任を負わせるなどと明確な規定が設けられているといった具合に、主要国のスタンスとの間で大きな相違があります。主要国は仮想通貨を使ったマネー・ローンダリングや詐欺等の犯罪に神経をとがらせ国際的な規制網を強化しようと躍起になっていますが、マルタのようにこの規制網から外れた世界が急拡大している状況(主要国の規制網を無力化する力を秘めており、実際に資金の流出が始まっています)には注意が必要です。
  • 兵庫県内での架空請求や通信販売の相談で、被害者やトラブルに巻き込まれた人の高齢化や支払いの高額化が進んでおり、「仮想通貨でもうかる」などとする情報商材の販売に関するトラブルも急増しているといいます。特に仮想通貨をめぐるトラブルが前年度の31件から188件と急増しており、「もうかるノウハウを教える」などとしたインターネット広告を見て申し込んだものの、「内容が難しすぎてクーリングオフを申し出たが、拒否された」(60代女性)などの相談が県立消費生活総合センターに寄せられているようです。
  • 「日本人が簡単に入手できない仮想通貨を取引所に上場する前に販売する」となどといった触れこみで、業者がSNSで購入を持ちかけ、支払いを受けた後に連絡を絶つといった悪質事例が相次いでいます。摘発を逃れるために海外取引所の口座を使うケースもあり、国民生活センターへの相談件数も急増しており、仮想通貨関連の相談件数は平成26年度の186件から、平成29年度には2,897件にまで増えています。報道(平成30年8月16日付産経新聞)によれば、問題多発の背景として、専門家が、「情報商材などのセールスで荒稼ぎしていた悪質業者が、仮想通貨取引に進出している」と指摘しています。悪質事業者が悪用する犯罪インフラの重要なひとつに「仮想通貨」が位置づけられてしまったことを表すものとして、今後、さらなる注意が必要な状況です。
  • 「仮想通貨のビットコインを毎月30万円生み出せる」と虚偽のうたい文句でアプリを販売したとして、消費者庁は、消費者安全法に基づき、事業者名リードを公表し、注意喚起しています。アプリの購入者は約3,800人で計約7億円を集めており、販売は今年2月に停止しています。なお、消費者庁は、「リード以外にも、仮想通貨を利用して稼げるとする商品やサービスに関する消費者からの相談は数多く寄せられており、今後、別の事業者が今回の事案と同様の手口で消費者被害を引き起こす蓋然性が高いと考えられます」と指摘しています。
▼消費者庁 「毎月最低30万円分のビットコインを受け取り続けることができる」などとうたい、多額の金銭を支払わせる事業者に関する注意喚起

(4) テロリスクを巡る動向

国連がイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)などテロ組織に関する新たな報告書をまとめ、シリアとイラクにISの戦闘員2~3万人が残存しているとの見方が示されています。本コラムでもその動向をお伝えしてきたとおり、シリアとイラクのISは昨年、掃討作戦で壊滅状態に陥っており、既に「IS後」の世界となっていると認識していましたが、一部はいまだ交戦を続けており、その中には「数千人の外国人テロ戦闘員の集団」も含まれているとし、両国に少人数で極秘の組織が存在する可能性があると指摘しています。さらに、先月には、ISが、指導者バグダディ容疑者の声明とする音声を、関連組織を通じて公開しました。イスラム教の犠牲祭に合わせて公開された50分を超える音声では、イスラム教徒の信仰が試されているとして「忍耐」とジハード(聖戦)を要求しています。また、ISが、北アフリカのリビアで(ゲームで戦闘方法を教えるなど)若者を勧誘する動きを見せているとの報道もありました(平成30年8月26日付朝日新聞)。本コラムでたびたび指摘しているとおり、人心と国土の荒廃は政情不安だけでなくテロの温床ともなりますが、カダフィ政権崩壊後も回復しない治安の隙を突かれているといえます。また、隣国エジプトの政府機関の宗務裁定庁は7月末に公表した報告書で、「ISはモスクを使って自らの思想を広めている」と指摘しています。一方で、アフガニスタンの情報機関である国家保安局(NDS)は、東部ナンガルハル州で実施した空爆で、ISのアフガンでの第4代指導者、サード・アルハービー容疑者(先代の指導者が殺害された昨年7月以降、アフガンのISを率いていたとされる)を殺害したことを明らかにしています。このように、世界では、いまだ一部地域で活動している「リアルIS」と、ローンウルフ型テロのように思想的に世界中に影響を及ぼしているISの「2つのIS」が存在しています。前者については、全体的な縮小傾向にある一方で、散らばった残党によるアジア・アフリカ等での展開に注意が必要な状況です。また、後者については、日本を含む世界中で今後も、いつ、誰によって起こるか分からない「見えないテロリスク」に備えていく必要があります。

IS以外のテロを巡る話題については、まず、ロヒンギャ問題について、ミャンマーのスー・チー国家顧問が、ロヒンギャ武装集団による「テロ活動の危険」は続いており、ミャンマーだけでなく、地域全体の脅威となっていると批判、ラカイン州の人道危機は「テロリストの活動が一次的な原因。いかなる理由でもテロは許されない」「脅威は地域全体に重大な結果をもたらしかねない」と警告しています。また、米国防総省は、パキスタンのテロ対策が不十分だとして、同国に対する安全保障関連の支援3億ドル(約330億円)の打ち切りを決めたと報じられています。米政府は今年1月、隣国アフガニスタンの武装勢力が「パキスタン国内に拠点を置き続け、越境テロを計画するなど地域不安定化の要因となっている」と批判し、安保関連の資金支援や武器提供を停止する(ただし同国の対応次第)と発表していました。また、先月末には、オランダ・アムステルダムの中央駅で、男が米国人2人を刃物で刺してけがをさせた後、警官に銃で撃たれ負傷する事件がありました。容疑者はドイツの在留資格を持つ19歳のアフガニスタン人ということですが、極右・自由党党首が計画していたイスラム教預言者ムハンマドの風刺画コンテストを巡り、アフガニスタンの反政府勢力タリバンがオランダ軍部隊への攻撃を呼び掛けるなどイスラム教徒の怒りを買っていたところ、事件の前日には中止が発表されており、テロの動機かどうかは不明だということです。
このように、「IS後」とはいえ、テロと政治が密接な関係にあり続け、テロの脅威は物理的にも思想的にもいまだ世界中に存在していることは言えると思います。

さて、日本もテロの脅威とは無関係ではいられませんが、実際に国際テロ組織によるテロが発生していないこともあってか、国民の間にテロリスクを軽視する空気があるように思われます。そのような状況の中、テロとの関係は薄いものの、その強い爆発力から「悪魔の母」の異名を持ち、実際にISが関与したとみられ130人が犠牲になった2015年11月のパリ同時多発テロや、32人が死亡した16年3月のベルギー同時テロでも使われたとされる高性能爆薬「TATP(過酸化アセトン)」を製造したなどとして、愛知県警捜査1課は、爆発物取締罰則違反(製造、所持)などの疑いで、名古屋市の大学生の少年(19)を逮捕しています。今年3月に同市内の公園で爆発があり、捜査していたものですが、この少年の自宅からは3D(3次元)プリンターとプラスチックでできた拳銃のようなものまで押収されています。3D拳銃やTATPは製造方法がインターネット上に流布され、原料も比較的容易に入手できるため、製造容疑などでの摘発が国内で相次いでいます。本事件のようにテロのような思想性はなくてもテロの脅威は身近にあることを私たちはあらためて認識する必要があります。国家公安委員長も、「爆弾テロの未然防止には、爆発物製造を企図する者が原料となり得る化学物質を入手するのを防ぐことが重要だ」と指摘していますが、正にその通りだと思います。なお、この爆弾テロの未然防止の観点からの取組みについては、警視庁のWebサイトの「国際テロの脅威」でも触れられていますので、紹介します。

▼警視庁 国際テロの脅威

警視庁では、組織の総合力を発揮して、テロ関連情報の収集・分析の強化、関係機関等と連携した水際対策の強化、政府関連施設や駐日外国公館等の重要施設及び不特定多数の者が集まる施設等いわゆるソフトターゲットとなり得る施設・場所に対する警戒警備の強化等を推進し、テロの未然防止に取り組んでいるところですが、テロを未然に防止するためには、警察による取組だけでは十分ではなく、民間事業者、地域住民等の皆様と緊密に連携し、官民が一体となってテロ対策を推進することが不可欠だとしています。そこで、警視庁では、官民連携の枠組みを構築し、関係機関、民間事業者、地域住民等の皆様に対して、テロ対策に関する研修会、共同訓練、共同パトロール等を実施することで、テロに対する危機意識の共有や、テロ発生時における共同対処体制の整備等を推進しているものです。具体的には、化学物質等を販売する業者に対して、継続的な個別訪問のほか、不審な購入者の来店等を想定したロールプレイング式訓練の実施等に取り組み、販売時における本人確認の徹底、不審な購入者に関する通報、化学物資等の管理強化等を要請しています。さらには、テロを企てる者が利用するおそれのある、ホテル、旅館、インターネットカフェ、レンタカー店等を営む事業者に対しても、通報体制の構築を推進し、テロの未然防止に努めているということです。
それ以外の最近の国内におけるテロ対策にかかる報道について紹介します。

  • 海上保安庁は、2020年東京五輪・パラリンピックを控え、旅客船でのテロを防止しようと業界などと官民合同協議会を新設し、事業者向けの有効な防止策をまとめた冊子を作成しています。「テロの標的にならない工夫」「テロリストが行動しにくい環境づくり」「実際に起きた場合に被害を最小化する措置」の3分野で、日常的な対策を解説する内容となっているということです。民間と共に海上テロ対策の冊子を策定したのは初めてで、五輪会場が集中する東京湾沿岸で船舶の乗っ取りなどのテロを防止するには、関連団体との協力が欠かせないことから作成したものです。
  • 2020年東京五輪では新幹線が「ソフトターゲット」として狙われる懸念が指摘されており、テロ対策が課題となっています。車両内で使用される凶器はさまざまなものが想定されるところ、現状では乗客の身体や手荷物への検査の導入を見送られています(暴排トピックス2018年8月号参照)。報道(平成30年8月22日付産経新聞)によれば、国交省、警察当局は利便性や定時性という新幹線の特徴を維持しつつ、利用者の安全を守るための最善策を模索しており、例えば国交省は民間が爆発物探知犬として訓練する嘱託警察犬を鉄道事業者が活用できないかを検討しているほか、AIとカメラの組み合わせで不審者を検知するシステムの構築を事業者に促すといった取り組みが進められています。
  • JR東海は、6月に同新幹線で刃物を持った男が乗客3人を殺傷した事件を受け、同種の事案を想定した訓練も初めて実施しています。不審者への対応訓練では車内で凶器を振り回す人が現れたと想定、車両の中央付近にいる不審者を、盾を持った乗務員らが両端から挟み込み、警備員らがさすまたで取り押さえるといった訓練内容でした。前回の本コラム(暴排トピックス2018年8月号)でも紹介したとおり、JR東海では、盾や防犯スプレーなどの防護装備品を順次搭載しているほか、警備員や警察官による巡回強化のほか、乗員全員がスマホで同時に通話し、情報共有する仕組みの導入などの対策を始めているということです。事件を受けた取組み、2020年東京五輪を見据えた取組みとしては評価できますが、一方で、手荷物検査を利便性や定時性を理由に見送った点については利便性優先との批判は免れず、近いうちに、利便性と乗客保護の両立を高いレベルで実現できる技術等の登場も待たれるところです。

さて、本コラムでは、社内研修等の一環として活用できそうな外務省の「ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル」の紹介を継続的に行っています。さいとう・たかをさんの人気漫画「ゴルゴ13」が登場するもので、大変分かり易くポイントもおさえられているものと思います。以下に掲載されていますので、是非、ご覧いただきたいと思いますが、今回もその中から一部をあらためて紹介します。

▼外務省 ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル・
▼第6話 海外渡航の基本的心得

本話では、海外渡航時の基本的心得として何点か紹介されていますが、例えば、「外出予定の管理」としては、業務の関係で顧客企業を訪問する、現地の視察などを行う時に、「行動を予知されない」ことは安全対策の基本中の基本であり、外出予定等は必要最小限の範囲で共有し、情報管理に気を配ることが重要だと指摘しています。また、外出中に見知らぬ人から声をかけられた場合、原則として相手にしないようにすること、海外では自分は「常に狙われている」と考えることは、安全対策にとって有益であること、たとえ声をかけてきた人の外見や物腰が信用できそうなものであっても、用心してやり過ごすことが自分の身を守ることにつながると述べています。さらに、「危険を避ける行動」としては、海外出張・赴任時の安全対策のうち、危険を避けるためのより一般的な注意事項として、次の3つを挙げています。

  • 現地の宗教・風俗・法律などに照らして、不適切な行動を控える
    諸外国では、社会全体で宗教が重要な役割を占めている国は少なくなく、宗教行事や、宗教に関わる行動規範が大変重要な要素となっている場合もあること、宗教に対する侮辱、服装の規定違反等は厳しく罰せられたり、罰せられないまでも周囲の反感をかうようなことにもなりかねないこと、法律もその国独自の法体系となっており、例えば王室への不敬を罰するなど、日本には存在しない犯罪類型があることは注意すべきであること、さらに、その国の文化的な観点からすると、日本では犯罪だと考えられないような行動であっても、警察に通報されてしまう場合もあることなど、海外渡航・赴任に当たっては、可能な限り現地の宗教・風俗・法律などの情報を集め、自分が不適切な行動をとらないように、事前に心構えをしておくことが大切だとしています。
  • 宗教的行事と被らないよう、自分の行動を調整する
    宗教的な背景を持つテロ行為においては、宗教上のイベントが重要な要素となり、テロ活動が活発になる事例も見られ、例えばイスラム教において「ラマダン」は重要なイベントであり、それに合わせてテロを扇動するような事例も存在すること、したがって、安全対策の一環として宗教的に重要なイベント、渡航・赴任先の歴史的な事件、過去に起きたテロ、選挙等の政治的行事など、主要な出来事を整理することで、リスクの高まる時期等を独自に把握することは、安全対策を講じる上でとても有益であるとしています。
  • デモなどを避け人の大勢集まる場所では警戒を怠らない
    デモなど、背景に意見・思想の対立などが存在する行動は、対抗するグループとの衝突が発生する可能性や、デモ自体がテロのターゲットになり得るため避けること、日本人は人だかりに向かっていく傾向があり、意識して避けることが必要であること、また、空港やホテルのロビーなど以外にも、ショッピングセンター・劇場・フェスティバルなど、屋内外を問わず、不特定多数の人が集まる場所は、同様にリスクが高いと認識すべきであること、ソフトターゲットのような場所を利用する際は、常に用心を怠らず、避難ルートを確認するなど不測の事態が起きた時にどのように行動するかを想定しておくことが、もしもの時の運命を分けることになるとしています。

また、それ以外にも、現地の治安情勢は、様々な要因で予想もしない変化が生じることがあることから、海外渡航中や短期滞在の場合でも、現地において普段から日常的に関連情報の収集を行い、安全対策を見直す努力が必要だと指摘しています(外務省の「たびレジ」は、危険情報などを携帯電話等に配信する機能があり、移動中でも最新の情報を得ることが可能)。たとえ滞在が短い期間であっても、用心深く安全対策に気を配ることが、自分の身を守ることにつながると強調しています。

(5) 犯罪インフラを巡る動向

最近の報道から、犯罪インフラ化が懸念される状況について、いくつか紹介します。

今年4月に東京都武蔵村山市で、資産家宅に2人組の男が押し入り、住人を縛って現金などを奪う事件が発生しましたが、逮捕されたグループの指示役(暴力団員)は、別の事件で服役中に他の受刑者から裕福な家の情報を聞き出し、出所後の狙いを定めていたとみられるとの報道がありました(平成30年9月2日付日本経済新聞)。本事件に限らず、受刑者同士の人間関係や情報交換によって刑務所が新たな犯罪の温床となってしまうケースは古くからある問題だと言われています。報道では、刑務所や拘置所で心理職を務めた方が「人目を盗んで話をしている受刑者同士を引き離すなどの努力はしているが、集団生活の中で全てを監視するのは難しい」と指摘しています。更生するつもりない受刑者の存在は再犯率が高い状況につながっていますが、(本来更生の場であるべき)刑務所が次の犯罪を生む「犯罪インフラ化」している点は極めて憂慮すべき状況です。

国税当局が海外に多額の資産を持つ富裕層の税逃れ対策を強化しています。国際税務に通じた精鋭集団の富裕層PTは、平成26年に東京、大阪、名古屋の3国税局に設置されましたが、昨夏からは全国12の国税局・事務所に拡充されています。さらにグローバルでの税逃れ対策の切り札と期待されているのが世界各国の口座情報を自動的に交換して資産を「ガラス張り」にする「CRS」(共通報告基準)であり、日本も9月末までに加わる予定だということです(平成30年8月9日付産経新聞)。タックスヘイブン(租税回避地)での節税実態を暴いたパナマ文書問題では、各国の税務当局がグローバル経済に対応できていない実態が浮き彫りになりました。富裕層の税逃れを放置すれば、税制そのものへの信頼も揺らぎかねず、国税当局は富裕層の海外資産の監視に本腰を入れている状況です。タックスヘイブンの問題については、本コラムでもたびたび指摘してきましたが、課税逃れの観点にとどまらないタックスヘイブンの問題の本質を考えるうえで、かつて、金融庁関係者から、BVI(英領バージン諸島)のファンド等を引受先にしているファイナンスは「不公正ファイナンス」である可能性が高い(さらには、「P.O BOX 957 Tortola BVI」とする私書箱を住所に使っている場合はよりその可能性が高い)との指摘がなされていた点は知っておきたいところです。このような不公正ファイナンスの引受け手である海外のファンドの「真の所有者(beneficial owner)」は、実際は日本にいて、反社会的勢力とつながっていることも多い(いわゆる「黒目の外人」と呼ばれている人たち)とも言われています。今後、CRSや、パナマ文書・パラダイス文書等の分析、その他新たなリーク等により、タックスヘイブンに設立された夥しい数のペーパーカンパニーの「真の所有者」や「複雑な送金経路と資金移動の実態」が解明されること、そして、そこに関わる怪しい人脈の解明がすすむこと(過去の事案・悪用の痕跡であったとしても、そこに登場した人物や団体・組織の関連を知ることは極めて有用な情報となります)が期待されるところです。

海外で開発された機密性の高い無料通信アプリが暴力団関係者や特殊詐欺グループなどによって犯罪に関する連絡手段として悪用されている実態が明らかになっています(平成30年8月22日付産経新聞)。報道によれば、LINEはやり取りの履歴が残る上、履歴を消去しても技術的に復元が可能とされる一方で、テレグラムやシグナルなど海外で開発された機密性の高い無料通信アプリは一度消去してしまえば復元は困難という特性(利便性)や悪用され、振り込め詐欺や違法薬物の売買などの犯罪の連絡手段として使われているということです(とりわけ暴力団関係者に浸透しつつあると報じられています)。例えば、振り込め詐欺の犯行は高度に役割分担がなされ、相互に知らない関係であっても犯行は可能であるため、関係者間の連絡の記録がその関係性を立証する重要な証拠となるところ、それが完全に消去されれば摘発は困難となります。暗号化技術を用いて通信内容を保護し、消去後の復元が困難となる利便性は、犯罪者にとって「犯罪インフラ」となります。「行き過ぎた利便性」が社会的害悪をもたらすなら、厳格な規制も必要ではないでしょうか。

市販薬を取り扱うインターネットサイトの6割で、乱用の恐れがある薬が違法な方法で販売されていたことが厚生労働省による2017年度の調査で判明しています。調査を始めた2014年度(同年に薬のネット販売が解禁されています)以降、最悪の結果であり、監視および摘発の強化が急務となっています。調査では、乱用の恐れのある成分を含み、医薬品医療機器法で原則1度に一つしか購入できないせき止め薬などについて、正当な理由の確認もなく複数買えたサイトは63%で、前年度より9ポイント上昇、2014年度は46%、2015年度は62%と、悪化の傾向にあるということです。「かぜ薬のなかには、覚醒剤の原料であるエフェドリンや麻薬の成分であるリン酸ジヒドロコデイン、興奮作用をもつカフェインなどが含まれている場合があります。この成分は、咳や頭痛を抑える一方で、飲みすぎると眠気・疲労感がなくなり、多幸感や頭がさえたような感覚などの覚醒作用があります」(全日本民医連のサイトより)とされているように、乱用につながり薬物依存症に陥る可能性や暴力団の資金源化する可能性がある薬について、多数の購買を可能にしてしまう薬のネット販売の「犯罪インフラ化」に注意が必要な状況です。

(6) その他のトピックス

① 薬物を巡る動向

とりわけ大麻が若者を中心に広く浸透している状況については本コラムでもこれまでたびたび指摘していますが、その実態については、たとえば以前の本コラム(暴排トピックス2018年5月号)で紹介していますが、平成29年中の薬物事犯検挙人員は13,542人と、近年横ばいが続いており、このうち、覚醒剤事犯検挙人員は10,113人と近年わずかな幅での減少が続いている一方で、大麻事犯検挙人員は3,008人と、26年以降増加が続き、過去最多となっています。大麻事犯の人口10万人当たりの検挙人員が、全体が3.0人である一方、20歳代9.4人(前年7.9人)、30歳代6.8人(5.8人)、20歳未満4.1人(3.0人)などとなっており、若年層を中心に増加していることが分かります。さらに、警察庁による「大麻乱用者の実態に関する調査結果」によれば、警察庁による検挙者(回答535人)について、対象者が大麻を初めて使用した年齢は、「20歳未満」が195人(36.4%)、「20歳代」が211人(39.4%)、30歳代が45人(8.4%)、40歳代が12人(2.2%)、平均年齢は21.9歳など低年齢化が顕著となっていることが分かります。また、初めて使用した経緯として、「誘われて」(63.7%)が多く、初めて使用した年齢が若いほど、誘われて使用する比率が高い結果となっています。さらに、その動機として、「好奇心・興味本位」(54.9%)が多かったものの、30歳未満は「その場の雰囲気」「クラブ・音楽イベント等の高揚感」「パーティ感覚」など、周囲に影響される傾向がうかがえます(最近では、ネット上で売人と接触せずに購入できるようになったほか、仲間の一人が手を出すと、SNSなどでのつながりを通じて一気に広がる傾向も指摘できます)。一方で、30~40歳代では「ストレス発散・現実逃避」の割合が高いという傾向がうかがえます。また、大麻に対する危険(有害)性の認識は「あり(大いにあり・あり)」が30.8%であり、覚醒剤に対する危険(有害)性の認識は「あり(大いにあり・あり)」が72.7%であることと比較して、大麻の危険(有害)性の認識率が低いことが明らかになっています(大麻の有害性については、調査結果の中で、警察庁も「大麻には依存性があり、乱用すると記憶障害を引き起こしたり、精神病を発症したりするおそれがあることが確認されている」と指摘しています)。
また、大麻はゲートウェイドラックと言われるように、より強い刺激を求め、覚せい剤などの使用にもつながりかねない危険性が増しており、大麻の蔓延対策が急務となっています。このような状況に対して、既に、警察庁は、今年4月に、取り締まりを徹底するよう通達を出していますので、あらためて紹介しておきます。

▼警察庁 薬物銃器対策課 大麻事犯の取締りの徹底等について(通達)

平成26年以降大麻事犯の検挙人員は増加傾向にあり、昨年は統計を取り始めて以降最多を記録した。大麻の有害性に対して誤った認識を持つ者も多く、若年層を中心とした大麻の乱用拡大が懸念され、また、暴力団構成員等による大量栽培事案が相次いでいることなどから、大麻の密売が暴力団の重要な資金獲得手段になっていることは明らかである
このような情勢を受け、当面の間、特に大麻事犯の取締りの徹底等を図ることとしたので、各位にあっては下記の点に留意しつつ、効果的な大麻事犯対策を推進されたい
(1) 大麻事犯の徹底検挙
暴力団等が、大麻を重要な資金源と見て、大麻事犯への関与を強めていることを念頭に、組織的な大麻の栽培や密売等にかかる積極的な情報収集及び突き上げ捜査等により、これら組織への取締りを徹底すること。また、需要根絶のため、末端乱用者による大麻事犯の検挙も引き続き徹底すること
(2) 効果的な広報啓発活動の実施
大麻事犯が増加している背景には、大麻の有害性に関する誤った認識が広がっていることがあると考えられるところ、特に若年層を対象とし、大麻の有害性に関する正しい理解を促進する効果的な広報啓発活動を実施すること

本通達でも「特に若年層を対象とし、大麻の有害性に関する正しい理解を促進する効果的な広報啓発活動を実施する」とされている点については、本コラムでも大麻の蔓延が懸念されること、その背景要因に、「有害性」に関する誤った認識が流布しており、正しい知識の普及が急務であると指摘してきましたので正にその通りだと思います。さらに、以前、厚生労働省等が中心になって実施された「不正大麻・けし撲滅運動」でも、「大麻」の乱用が深刻な問題となっている若年層に向けて、脳や身体に及ぼす危険性・有害性を伝える政府広報の実施や、ホームページの掲載、SNSでの情報発信などを通じた啓発活動を行っています。少しずつ大麻に対する誤った認識が正されていくことによって、何とか大麻の蔓延を食い止められることを期待したいと思います(とりわけ、若者が好奇心・興味本位で始めるケースが多いことから、有害性が認識されることで大きな抑止になることが期待されます)。

さて、「大麻リキッド」の摘発(ヒップホップミュージシャンの男が今年2月に、リキッド所持に関して大麻取締法違反容疑で、全国で初めて起訴され、東京地裁で有罪判決を受けた事案)については以前の本コラムでも紹介していますが、先月、電子たばこで吸引できるように加工した「覚せい剤リキッド」が初めて摘発されています。リキッド型は匂いなどから周囲に気づかれにくく、ネットで販売されているほか、覚せい剤の使用法(注射や気化させるなど)と比べて「手軽さ」などから受け容れられており、違法リキッド蔓延の兆しに注意が必要な状況です。報道(平成30年8月9日付産経新聞)では、暴力団関係者の「違法薬物の成分を混入したリキッドは乱用者の間で浸透しつつある」との指摘が紹介されているほか、覚せい剤や大麻以外にも危険ドラッグを加工したリキッドも存在していることが指摘されています。
その他、最近の薬物に関する摘発事例としては、以下のようなものが報道されています。

  • 共謀して米国の郵便局から、乾燥大麻計約4.3キロをさいたま市のマンションや埼玉県ふじみ野市の住宅などに郵送し、営利目的で密輸したなどとして、男3人が逮捕されています。さらに東京都内の関係先から末端価格約2億8,000万円相当の乾燥大麻や覚醒剤などが押収されています。埼玉県警などがこれまでに組織的な大麻密輸事件として、同法違反などの疑いで3人を含む計12人を逮捕しています。
  • 横浜港で先月、入港したコンテナ船の荷物からコカイン約115キロが見つかり、横浜税関が押収しています。国内で押収された量としては過去最大規模で、末端価格で約23億円にのぼるということです。コンテナ船はコロンビアを出発し、メキシコを経由して横浜港に到着したとされ、8月上旬に入港、船長が不審な荷物に気づき、税関に通報しています。
  • 茨城県警と関東信越厚生局麻薬取締部の合同捜査班は、大麻取締法違反(営利目的栽培)の容疑で、男2人を再逮捕しています。共謀の上、今年3月下旬ごろから6月19日ごろまでの間、容疑者が暮らすアパートの一室で、大麻草44本を営利目的で栽培したというもので、2人は数年前から大麻草を育てていると供述しているようです。

また、米国では、25~54歳の働き盛り世代の男性の労働参加率が落ち込み、主要国で最低水準に沈んでいる要因のひとつに医療用鎮痛剤である「オピオイド中毒」が指摘されており、その被害が深刻化しています。オピオイドはアヘンと同じケシ由来の成分やその化合物からつくる麻薬などを指し、モルヒネやヘロインを含むもので、脳への痛みの伝達を遮断するものの中毒性が強いとされており、米では90年代に医療用鎮痛剤として普及したものです。米政権は昨年10月にオピオイド問題を受けて「公衆衛生に関する非常事態」を宣言し、対策に本腰を入れ始めている(暴排トピックス2017年11月号参照)ところですが、今回、薬物中毒による2017年の死者が前年比で10%近く増加し、過去最悪の約72,000人に上ったことが、疾病対策センター(CDC)の暫定集計で明らかになりました。さらに、このうち3分の2がオピオイドによるものであることも分かり、オピオイドを巡る薬物問題の深刻さがあらためて浮き彫りになっています。報道(平成30年8月18日付時事通信)によれば、米国の薬物中毒による死者は、銃器や交通事故による死者を上回っていることに加え、死因を特定できていないケースもあるため、最終的な死者数はさらに増える可能性があるといいます。一方で、「薬物依存症の患者は世間体を気にして治療に後ろ向きなケースも多く、ジカ熱など伝染病と比べ(対策への)反応が鈍い」との指摘もあります。

関連して、強制わいせつや強制性交等(強姦)の性犯罪、覚せい剤取締法違反などの薬物事犯、窃盗など同種の犯罪を繰り返す傾向があるとされる性犯罪者や薬物犯、窃盗犯らの再犯防止策として、法務省が満期出所した元受刑者らに国費で薬物治療や認知行動療法を受けさせる制度を整備するということです。現状でも犯罪傾向のある受刑者は刑務所内で再犯防止指導を受けているものの満期出所後は具体的な手当がされておらず、実効性に課題がありました(実際に新潟市で今年5月に小2女児が殺害された事件が発生し、犯人は再犯防止指導を受けていたものの効果なく、犯行に及んだことが分かっています)。任意とはいえ、このような地道な取組みを積み重ねていくことが重要だと思われます。

② 北朝鮮リスクを巡る動向

韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長による今年3度目の南北首脳会談が9月18日~20日に平壌で開催される運びとなりました。金委員長は「朝鮮半島の完全な非核化に向けた確固たる意思」を改めて表明し、米国との対話を続ける意欲を示しているといい、「(2021年までの)トランプ米大統領の任期内に、70年間の敵対の歴史を清算し、朝米関係を改善していくとともに、非核化を実現できたらよい」とも述べたといいいます。今年6月に米朝首脳会談が行われて以降、今回の金委員長の発言を含め、北朝鮮リスクは低減しているかのような印象がありますが、完全な非核化(CVID、完全で検証可能かつ不可逆的な廃棄)まで国連安全保障理事会(国連安保理)の制裁を維持する方向で国際世論は一致していくべきだといえます。というのも、北朝鮮が国連安保理の制裁を逃れるために洋上で船を横付けして荷物を積み替える違法な「瀬取り」は、液体の石油だけでなく、北朝鮮産の石炭をクレーンを使って小型船に積み替えていると、北朝鮮制裁委員会の専門家パネルが中間報告書で指摘しているからです。制裁の包囲網の中で、手口を巧妙化させることで北朝鮮が密輸を続けている実態が浮き彫りになっている状況です。また、報告書では、北朝鮮は、国連安保理の制裁を潜り抜け、核・ミサイル開発を継続しているとも指摘しています(報告書ではほかにも、「瀬取り」によって、石油製品の密輸をかなり増やしていること、シリアとの軍事協力も継続していること、イエメンの親イランのイスラム教シーア派武装組織フーシ派への武器売却も試みていること、輸出が禁じられている繊維製品も2017年10月~18年3月の間に、中国、ガーナ、インド、メキシコ、スリランカ、タイ、トルコ、ウルグアイに1億ドル以上輸出していることなども報告されています)。それに加え、国際原子力機関(IAEA)は、北朝鮮が過去1年の間に北西部・寧辺の5000キロ・ワット黒鉛減速炉や、再処理工場の設備を稼働させた形跡があるとして、「核開発を継続、進展させている」と懸念を示す年次報告書をまとめています。「完全な非核化」で合意した今年4月の南北首脳会談の後も、一部施設の稼働が確認されており、北朝鮮が核開発能力を維持しようとしている実態もまた浮き彫りになっています。さらに、米国の北朝鮮問題研究グループ「38ノース」が、北朝鮮が解体に着手した北西部・東倉里のミサイル実験場「西海衛星発射場」を巡り、解体作業が進んでいるとの分析を発表していますが(段階的な制裁解除を目指す北朝鮮は、核・ミサイル廃棄に向けた行動を示し、米国から譲歩を引き出す狙いがあると考えられます)、一方で、「恒久的でも不可逆的でもない」とも指摘し、復旧も可能との見方も示しています。なお、直近では、この実験施設の解体作業が8月3日以降、ほとんど進んでいない様子が画像分析で示されたといいます。これら一連の状況からは、北朝鮮が金委員長の言葉ほどには、CVIDに向けて本腰を入れている様子は見られず、国連安保理の制裁を維持すべきだと言えると思います。
その制裁逃れの状況については、本コラムでもこれまで紹介してきましたが、前述の国連安保理制裁委員会の報告書では、国連安保理が昨年9月に決議として、北朝鮮の団体や個人との間で設立された合弁会社や共同事業体の活動を禁止し、決議採択から120日以内の閉鎖を加盟国に命じていたにもかかわらず、現在も活動を継続しているとして制裁委員会が調査した会社は200以上になると指摘しています。報道(平成30年8月14日付産経新聞)によれば、その内訳は、中国約215社、ロシア約30社のほか、シンガポールやオーストラリアなどとされています。また、北朝鮮人がオーナー、ロシア人が取締役を務める不動産関連会社について、所在地がロシア極東のウラジオストクにある北朝鮮の総領事館と同一であること、安保理の制裁対象となっている北朝鮮の建設会社との合弁会社がサハリン州にあり、6月にはロシアの州当局の契約受注に成功したことなども指摘されています。
これらの制裁逃れが横行している状況に対して、国連・日米などが中心となって、国際的な制裁包囲網のさらなる強化を図ろうとしています。米財務省は、北朝鮮と取引したロシアの銀行や北朝鮮の外国為替銀行のフロント企業など3団体1個人を制裁対象に指定したと発表しています。制裁により、米国内の資産が凍結され、米国人とのいかなる取引も禁じられることになります(6月の米朝首脳会談後、北朝鮮関連の制裁発動は初めてとなります。対北朝鮮制裁の緩和検討を主張するロシアをけん制する狙いもありそうです)。さらに、国連安全保障理事会の決議に違反し北朝鮮への石油やアルコールなどの密輸に関与したとして、中国とロシアなどの企業3社とロシア企業代表1人を制裁対象に追加、さらには、「瀬取り」を通じて北朝鮮への石油の密輸に関与したとして、ロシアの海運会社2社と船舶6隻を制裁加えたことも順次発表してきました(このうち、露海運会社1社の船舶1隻は今年初め、2回にわたって計3,500トンの石油を北朝鮮船舶に供給したとされています)。その一方で、韓国関税庁が、2017年4月から10月までの間に、北朝鮮産の石炭約35,000トンが不法輸入されたと発表しました。仲介業者を通じて流入した石炭は韓国電力公社の子会社の発電事業者が使っていたようです。北朝鮮産石炭は国連安保理の制裁決議で輸出入が禁じられているにもかかわらず、違反を見過ごしていた韓国政府に対し、各国に制裁履行の徹底を求めている米国内では、韓国企業を国連安保理の北朝鮮制裁決議違反で制裁対象とすることを求める声が浮上しています。米下院では北朝鮮に対する直接制裁に加え、「中国の金融機関だけでなく、北朝鮮と取引のある外国金融機関に対する全面制裁をかける方策について議論が交わされている」(平成30年8月11日付産経新聞)ようです。このように、「瀬取り」の手口が巧妙化し、制裁逃れの事例が後を絶たず、国際的な包囲網にも緩みが目立っていることをふまえ、日本もまた北朝鮮に対する制裁を国際社会で徹底するよう各国に協力を呼びかけています。さらには、「瀬取り」監視強化の狙いも含め日本周辺の海洋監視能力を強化するため、不審船などを、AIを駆使して探知すべく、政府が開発に着手しています(多くの船に搭載されている船舶自動識別装置(AIS)が電波で自動発信する情報を解析するシステムです)。また、国連の専門機関、国際民間航空機関(ICAO)が北朝鮮に職員を来年派遣し、弾道ミサイル発射の事前通告について関係者の聞き取り調査などの監査を行う方向だということです。北朝鮮は昨年、国連安全保障理事会決議を無視して弾道ミサイル発射を繰り返しましたが、ICAOによると事前通告は一度もなかったということであり、これは民間航空にとって大きな脅威となっており、事前通告のない発射は国際規則の基本的違反だと指摘しています。
なお、北朝鮮は、このような国際情勢の裏側で、サイバー攻撃による外貨獲得にも注力している状況があります。直近では、北朝鮮が関与するハッカー集団「ラザルス」が、新たに米アップル社製のOSであるmacOS(マックOS)を標的にしたコンピューターウイルスを開発し、他国の仮想通貨交換業者のコンピューターを今夏に感染させていたことが明らかとなりました。ラザルスによるマックOS向けのウイルスが確認されたのは初めてであり、外貨獲得や重要情報の窃取が目的とみられています。そしてこのウイルスが作成された時期は6月ごろであり、米朝首脳会談で両国が朝鮮半島の完全な非核化を目指すことで合意した時期と重なっています。つまり、今回の攻撃は、北朝鮮が対外的に融和姿勢を見せる一方で、依然としてサイバー攻撃を外貨獲得の手段として重視していることを示すものと言えそうです。

以上のように、北朝鮮の完全な非核化(CVID)そのものへのスタンスが疑わしい状況において、本コラムでたびたび指摘しているとおり、今後も国際社会が一枚岩となって北朝鮮リスクに対峙していくことが求められています。そして、当然ながらその脅威の当事者である隣国日本は、その重要性はさらに高いものであると認識すべきです。前述したとおり、相対的に緩い日本の金融機関が制裁逃れに悪用される(犯罪インフラ化する)事例が複数発覚していますが、金融機関に限らず、ミサイル発射台のクレーンが日本製であったこと、生産を委託していた中国の工場で北朝鮮の労働力が使われていたことなど、どのような形であれ、事業者は、北朝鮮リスク(北朝鮮の脅威を助長するような取引等)に関わってしまうことはあってはならず、これまで以上の厳格な顧客管理が求められていると認識する必要があります。

さて、前回の本コラム(暴排トピックス2018年8月号)で、防衛省の平成29年版防衛白書についてそのダイジェスト版から一部紹介しました。北朝鮮リスクについては、「北朝鮮の軍事的な動きは、わが国はもとより、地域・国際社会の安全に対する重大かつ差し迫った脅威となっている。特に、2回の核実験を強行し、20 発以上の弾道ミサイルを発射した昨年来、北朝鮮による核・弾道ミサイルの開発及び運用能力の向上は新たな段階の脅威となっている」と総括しています。その後、全文が公開されましたので、その中から、以下に北朝鮮リスクについて引用・抜粋して紹介します。

▼防衛省 平成30年版防衛白書
  • 北朝鮮は、平成28年以来、3回の核実験を強行したほか、40発もの弾道ミサイルの発射を繰り返し実施しており、北朝鮮のこうした軍事的な動きは、わが国の安全に対するこれまでにない重大かつ差し迫った脅威であり、地域及び国際社会の平和と安全を著しく損なうものとなっている
  • 平成30年6月の米朝首脳会談の共同声明において、金正恩委員長が、朝鮮半島の完全な非核化に向けた意思を、改めて文書の形で、明確に約束した意義は大きいと考えているが、今後、北朝鮮が核・ミサイルの廃棄に向けて具体的にどのような行動をとるのかをしっかり見極めていく必要がある
  • その上で、わが国のほぼ全域を射程に収めるノドン・ミサイルを数百発保有・実戦配備していることや、累次の核実験及び弾道ミサイル発射を通じた、核・ミサイル開発の進展及び運用能力の向上などを踏まえれば、米朝首脳会談後の現在においても、北朝鮮の核・ミサイルの脅威についての基本的な認識に変わりはない
  • 北朝鮮は、化学剤を生産できる複数の施設を維持し、すでに相当量の化学剤などを保有し、生物兵器についても一定の生産基盤を保有。また、弾道ミサイルに生物兵器や化学兵器を搭載し得る可能性も否定できない

3.最近の暴排条例による勧告事例ほか

(1) 暴排条例による逮捕事例(愛知県)

愛知県警中村署などは、公民館の近くに暴力団の事務所を開設したとして、愛知県暴排条例違反の疑いで、指定暴力団山口組弘道会傘下組織の組長を逮捕しています。平成26年10月30日ごろに同条例で禁止された場所(公民館から約170メートルしか離れていない場所)に組事務所を開設し、今年8月3日ごろまで使用した疑いです。なお、この事務所は、同条例施行前に別の弘道会系組織が使っていた事務所の建物を、施行後に自分の組事務所としたものだということです。

▼愛知県警察 愛知県暴排条例

本条例では、第18条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止区域)第1項において、「暴力団事務所は、次に掲げる施設の敷地(当該施設の用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲二百メートルの区域内においては、これを開設し、又は運営してはならない」と規定しています。さらに第2項において、「前項の規定は、この条例の施行又は同項の規定の適用の際現に運営されている暴力団事務所については、適用しない。ただし、ある暴力団のものとして運営されていた暴力団事務所が、他の暴力団のものとして開設され、又は運営された場合は、この限りでない」と規定されており、本件のように、弘道会が使用していた事務所を、条例施行後に自分の事務所とした場合は、本条例の規制対象となります。また、その罰則については、第九章(罰則)第29条において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」として、「第十八条第一項の規定に違反した者」が規定されています。

なお、愛知県暴力団排除条例(平成22年愛知県条例第34号)第26条第1項の規定に基づき、愛知県公安委員会が求めた説明又は資料の提出について、「正当な理由がなく拒んだ者」、「虚偽の説明若しくは資料の提出をした者」、「正当な理由がなく勧告に従わない者」について、直近で公表事例がありましたので、以下紹介いたします。

▼愛知県公安委員会 愛知県暴排条例
▼平成30年7月12日公表

指定暴力団六代目山口組三代目弘道会九代目平野家一家二代目田中興業組長は、平成28年2月22日、愛知県内の飲食店経営者2名から餅の販売名下に現金計3万円の利益の供与を受けたことにより、愛知県暴力団排除条例第25条の規定による勧告を受けた者であるにも関わらず、当該勧告に従わず、次の行為を行ったとして公表措置となったものです。

  1. 愛知県内の飲食店経営者から、その行う事業に関し、同人が暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資する目的で供与したことの情を知りながら、平成28年12月末頃から平成29年12月末頃までの間において計2回にわたり餅及び酒の販売名下に現金計4万円の利益の供与を受けた。
  2. 愛知県内の飲食店経営者から、その行う事業に関し、同人が暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資する目的で供与したことの情を知りながら、平成28年12月末頃、しめ縄の販売名下に現金15,000円の利益の供与を受けた。
  3. 愛知県内の飲食店経営者から、その行う事業に関し、同人が暴力団の威力を利用することの対償として供与したことの情を知りながら、平成28年3月末頃から平成29年11月末頃までの間において計18回にわたり現金計21万円の利益の供与を、平成28年8月頃から同年12月頃までの間において計2回にわたり餅等の販売名下に現金計6万円の利益の供与を受けた

(2) 暴排条例関連動向(山梨県)

山梨県暴排条例が平成28年に改正施行され、甲府市中心街、石和温泉街が暴力団排除特別強化地域に設定され、暴力団員の禁止行為が定められるなど取締りが強化されることとなりました。その後、山梨県警では、甲府市中心街と石和温泉街の2地域に街頭防犯カメラシステムを設置し、平成29年2月1日から運用を開始しています。この街頭防犯カメラシステムは、犯罪の予防と被害の未然防止を図るため、公共空間に防犯カメラを設置し、撮影した画像を管轄する警察署にデータ送信し、これを記録するものとなります。

▼山梨県警察 山梨県警察街頭防犯カメラシステム

甲府市内中心街に9台、石和温泉街に8台を設置し、総括責任者の管理の下、個人の権利を不当に侵害しないように慎重を期して運用され、防犯カメラの設置箇所は表示板により明示されています。さらに、街頭防犯カメラシステムの運用状況について 「半年に一度、山梨県公安委員会に報告」し、「半年に一度、県警察のホームページ(HP)に掲載して公表」する運用が定められています。今般、山梨県警察のHPに公表された結果によると、今年2月からの半年間で26件となり、カメラが設置された去年2月からの半年間と比べ4割以上増えており、捜査での利用が定着してきている状況がうかがえます。また、これらの情報は、窃盗事件、詐欺事件、暴行・傷害事件、器物損壊事件、道路交通法違反事件、山梨県暴力団排除条例違反事件等の捜査に活用されたということです。参考までに、昨年の実績としては、設置から1年間で計53件の画像が暴力団関係事件や器物損壊などの裏付け捜査に活用されたほか、犯罪抑止としても貢献し、暴行傷害による被害受理件数が大幅に減少、特に、石和温泉街ではゼロという成果が挙がっています。
防犯カメラの証拠能力はともかく、その犯罪抑止効果については様々な意見があるところ、とりわけ、傷害・暴行、自転車盗については明らかな相関関係があると言われており、防犯カメラの存在を周知し、犯罪の裏付けや犯罪抑止効果についても周知することによって、当該エリアの犯罪や暴排につながることが示されたとも言えます。とりわけ、改正暴排条例で「暴力団排除特別強化地域」等を設けて規制を強化している自治体については同様の効果が見込めそうであり、このような取り組みが全国に拡がることを期待したいと思います。

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