本人確認を巡る動向(2018.7)

1.本人確認を巡る動向

(1) 直近の暴力団情勢

 警察庁は、金融機関の口座を開設する際に義務付けられている本人確認の手続きをオンラインのやりとりだけで完結できるよう犯罪収益移転防止法(犯収法)施行規則を改正する方針で、現在、パブリックコメントを募集中です。具体的には、これまで転送不要郵便による本人確認を行っていたところ、(1)インターネット上でリアルタイムのビデオ通話を通じて、顔写真付きの本人確認書類の提示、(2)顔写真付き本人確認書類の画像送信+その場で撮影した顔画像の送信、(3)本人確認書類のICチップ情報または画像の送信+銀行やクレジットカード会社等に顧客情報を照会、(4)本人確認書類の画像送信+顧客名義口座への少額振り込み後、インターネットバンキングの当該取引明細画面の画像を送信、の4つの確認方法が提示されています。また、金融機関の口座開設だけでなく、仮想通貨取引やクレジットカードなども対象になるとのことです。

▼「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の一部を改正する命令案」に対する意見の募集について(別紙1 概要)

上記資料より、「顧客等の本人特定事項の確認方法(第6条及び第12条関係)」について、以下、引用して紹介します。

ア. 自然人の本人特定事項の確認方法

(ア) 特定事業者が提供するソフトウェアを使用して、顧客等の容貌の画像情報(当該ソフトウェアを使用して撮影をさせたもの)の送信を受けるとともに、次のいずれかの措置を講ずることによる本人特定事項の確認方法を規定することとする。

a 特定事業者が提供するソフトウェアを使用して、写真付き本人確認書類の画像情報(当該ソフトウェアを使用して撮影をさせたものであって、本人特定事項、写真及び当該写真付き本人確認書類の厚みその他の特徴を確認することができるもの)の送信を受けること
b 写真付き本人確認書類に組み込まれた半導体集積回路に記録された本人特定事項及び写真の情報の送信を受けること

(イ) 特定事業者が提供するソフトウェアを使用して、一を限り発行又は発給された本人確認書類の画像情報(当該ソフトウェアを使用して撮影をさせたものであって、本人特定事項及び当該本人確認書類の厚みその他の特徴を確認することができるもの)の送信を受け、又は当該本人確認書類に組み込まれた半導体集積回路に記録された本人特定事項の情報(当該ソフトウェアを使用して読み取りをさせたもの)の送信を受けるとともに、次のいずれかの行為を行うことによる本人特定事項の確認方法(取引の相手方が他の特定事業者が確認した顧客等になりすましている疑いがある場合又は他の特定事業者による確認の際に本人特定事項を偽っていた疑いがある場合を除く。)を規定することとする。

a 他の特定事業者が預金又は貯金の受入れを内容とする契約の締結又はクレジットカード契約の締結を行った際に顧客等の本人特定事項の確認を行い、その記録を保存し、かつ、当該顧客等が当該記録に記録されている顧客等と同一であることを確認していることを確認すること
b 顧客等の預金又は貯金口座(顧客等の本人特定事項の確認を行い、その記録を保存しているものに限る。)に金銭の振込みを行うとともに、当該振込みを特定するために必要な事項が記載された預貯金通帳の写し等の送付を受けること

(ウ) 次のいずれかの措置を講ずるとともに、顧客等の住居に宛てて、取引関係文書を転送不要郵便物等として送付することによる本人特定事項の確認方法を規定することとする。

a 本人確認書類の原本の送付を受け、又は本人確認書類に組み込まれた半導体集積回路に記録された本人特定事項の情報若しくは一を限り発行又は発給された本人確認書類の画像情報(特定事業者が提供するソフトウェアを使用して撮影をさせたものであって、本人特定事項及び当該本人確認書類の厚みその他の特徴を確認することができるもの)の送信(当該画像情報にあっては、当該ソフトウェアを使用した送信)を受けること
b 顧客等の現在の住居の記載がある本人確認書類のいずれか2の書類の写しの送付を受け、又は本人確認書類の写し及び顧客等の現在の住居の記載がある納税証明書や公共料金の領収証書等の送付を受けること
c 次の(a)又は(b)に掲げる取引を行う際に本人確認書類の写しの送付を受けること

(a) その行う取引がマネー・ローンダリング等の危険性の程度が低いと認められる法人の被用者との間で行う、給与等の振り込みを受ける預貯金口座に係る契約の締結
(b) 特定事業者が顧客等から個人番号の提供を受けている場合の顧客等に有価証券を取得させる行為を行うことを内容とする契約の締結

(エ) その取扱いにおいて名宛人本人又は差出人の指定した名宛人に代わって受け取ることができる者に限り交付する郵便等により、顧客等に対して、取引関係文書を送付することによる本人特定事項の確認方法について、提示を受ける本人確認書類を写真付き本人確認書類に限定することとする。

イ. 法人の本人特定事項の確認方法
法人の代表者等から法人の本人特定事項の申告を受け、一般財団法人民事法務協会から登記情報の送信を受けること(代表者等が法人を代表する権限を有する役員として登記されていないときは、当該措置に加え、法人の本店等に宛てて、取引関係文書を転送不要郵便物等として送付すること)又は国税庁により公表されている法人の名称及び所在地を確認し、かつ、法人の本店等に宛てて、取引関係文書を転送不要郵便物等として送付することによる本人特定事項の確認方法を規定することとする。

新たな本人確認手続きにより利便性が向上するのは間違いないところです(従来の転送不要郵便による確認では、利便性を損なうだけでなく、空き家の悪用等の抜け道がありました)。最近では、金融以外(犯収法上の特定取引以外)でも、例えば、ヤマトホールディングス傘下のヤマトシステム開発が商品などの申し込み手続きに使う本人確認書類をネットで送受信できるサービスをSBI損害保険に導入した事例なども報道されています(書類の郵送が不要になるなど、手続きが簡便・迅速にできるといい、保険会社への導入は初めてとなります。今後、金融のほか通信、不動産、人材派遣などに広がる可能性があります)。今後、顔認証や生体認証の導入等と組み合わせながら、悪用リスクを減らし、その精度を高めていくことが課題となっていくものと思われます。

しかしながら、本人確認については、大きく2つの課題を認識しておく必要があると考えます。一つは、犯罪者からみれば、本人確認の厳格化と精度向上は、とてもよい「隠れ蓑」を手に入れたことと同義だということです。本コラムでたびたび指摘しているように、反社会的勢力やテロリスト、マネー・ローンダリング実行者などの犯罪者は、自ら直接取引に参加するわけではなく、周辺者やその関係者等を間に幾重にも挟みながら、「真の受益者」である自らと特定取引との関係を分かりにくくしている実態があります。本人確認とは、あくまで特定の対象者の本人特定事項を厳格に確認することであり、「真の受益者」を確認することとは同義ではないことに注意が必要です。その意味では、このようなオンラインを通じた本人確認(e-KYC)がその真価を発揮するためには、その周辺・関係性をふまえて「真の受益者」を確認する「KYCCの視点」と組み合わせることが必要となります。

もう一つは、オンラインにおける本人確認の精度・信頼性がこれで保証されたと思ってはいけないということです。実際に目の前にいる人物の本人確認であれば容易かもしれないが、オンラインではなりすまし等を見抜くなど困難ではないか、という指摘はもちろんですが、もっと重要なことは、「そもそも対面での本人確認ですら危うい」との認識が必要だという点です。例えば、ビジネスシーンでは、初対面の際に名刺交換をすることになりますが、通常、目の前の人物と名刺上の情報が一致しているとして何も疑わないことが一般的だと思われます。ところが、犯罪者が相手を騙そうと思えば、仮に戸籍上の名前が「伊藤真一」であっても、名刺上や会社のサイトの役員名を「伊東信一」と表記している可能性があり、残念ながら、私たちの多くは目の前の人物が「伊東信一」であると信じてしまうことになります。実は過去、「伊藤真一」として暴力団に所属して事件を起こしていた人間が、現在、「伊東信一」を名乗っている可能性があると言うことです。そして、私たちは、名刺上や会社のサイト情報をもとに「伊東信一」で反社チェックを実施することになるでしょう。「伊東信一」で該当がなければ関係を持つことになるでしょうから、結果、属性上問題のある「伊藤真一」と関係を持つことになるのであり、このような簡単な手法だけでDB(データベース)逃れを行うことができるということです。つまり、名刺交換をしたところで、それだけでは本人であることを確認したことにはならないと認識する必要があるのです。そして、このような対面での本人確認を過信して大きな事件となったのが「地面師」の事件です。昨年、積水ハウス社が、「当社が分譲マンション用地として購入した東京都内の不動産について、購入代金を支払ったにもかかわらず、所有権移転登記を受けることができない事態が発生」したとのリリースを公表しました。「地面師」の問題は、登記上の手続きにおいて偽造書類等を使って土地が勝手に転売される詐欺犯罪という意味で、登記手続きの脆弱性、あるいは、司法書士や弁護士などがその専門性(肩書き)を悪用する(される)「専門家リスク」などがその根底にあります。また、東京五輪を控え、地価が上がり続ける首都圏などで、所有者が高齢で放置されたままの空き地が狙われやすい傾向にあり、さらには、「いい土地を早く押さえたい」と考える買い手側の弱みを上手く突いてくる手口の巧妙さが犯罪の成功率を高めているという側面もあります。目の前の人物を本人確認したつもりが、まんまと騙されてしまう、正に「そもそも対面での本人確認ですら危うい」ということです。しかしながら、様々な地面師の案件の手口を追っていくと、やはりどこかに怪しさがあると言われています(所有者本人になかなか会えない、代理人が登場する、手続き等に通常と異なる部分があるなど)。しがたって、KYCチェックとは、本来はこのような取引上の端緒がないかといった「目利き力」を総合的に駆使していくことが必要なのです。とはいえ、現実は、騙された後に気付くことが多く、未然にリスクを察知するのは困難なほど用意周到に準備されており、プロでも騙されてしまうというのが実情です。すべてを巧妙に偽造してくる地面師相手では、現時点では、取引においては、相手の言うことを鵜呑みにせず、慎重に裏取りをしながら、また偽造でないことを確認しながら、進めるくらいしか防止する手立てがありません(例えば、不動産の権利証は印鑑証明書のような透かしに偽造防止技術が施されていることはなく、一見して明らかなものを除いて偽造を見抜くのはまず無理だと言われています。また、登記識別情報であっても、パスワードさえわかればよいため盗品であることを見抜くことは不可能ということになります)。つまり、用意周到に準備された場合、対面であっても、本人確認手続きを行ったとしても、なりすましや偽装を見抜くのは難しいということです。ましてやオンラインでの本人確認手続きの場合、認証技術の精度への過度の依存、偽造技術との戦いなどの不確定要素もあること、e-KYCだとしても、100%の精度は難しいこと、さらには、厳格なe-KYCを隠れ蓑とするKYCCの視点もあらためて加味することを認識する必要があります。

2. 最近のトピックス

(1) 暴力団情勢

前回の本コラム(暴排トピックス2018年6月号)では、NHK「クローズアップ現代」で取り上げた「貧困暴力団」について考察しました。筆者としては、貧困暴力団が示しているのは、組による統制が効かない状況、すなわち暴力団や指定暴力団(ピラミッド型の統制が取れていることが指定の要件のひとつ)の枠組みを根本から揺るがす大きな地殻変動が起きている事実であり、いわゆる「貧困暴力団」のあり方が今後の暴力団対策、暴排のあり方に大きく影響を及ぼすのではないかと思われます。具体的には、当局や事業者は、もはや暴力団という組織との戦いから、組織の意向とは関係なく動く個々の組員やそのつながり、共生者や半グレ、離脱者との連携などとの戦いへ移行しつつあるのではないか、暴力団組織は外圧(暴力団対策法や暴排条例、事業者や市民の暴排意識の高まり)よりむしろ内部から崩壊するのではないか、その前後において、組織から個あるいはその周辺へと取り締まりの重点を移さざるを得なくなるのでないか、暴力団という組織犯罪対策から、犯行グループ単位での犯罪取り締まり、離脱者支援・再犯防止対策の方が重要性を増していくのではないか、といったことが考えられる状況だと指摘しました。一方、作家・評論家の宮崎学氏は、「ヤクザの貧困化が進むと外国人の犯罪者グループが跋扈することになる」、「刑法に触れるようなことがあれば、ヤクザでも元ヤクザでもカタギでも、法に従って対応すればいいだけのこと」、「海外の犯罪集団やマフィアなどの無秩序な勢力を抑え込む力は、日本のヤクザには残っていない」、「ヤクザは"悪い存在"だが、存在しているのにはそれなりの理由がある。その理由を鑑みずに排除したところで、"より悪いもの"しか出てこない」といった主旨のことを述べています。暴力団は「絶対悪」であるところ、「必要悪」と捉える考え方には与することはできませんが、暴排によって貧困化・離脱が進むことになれば、結局、社会に適合できず犯罪を繰り返すこととなり、社会不安の解消にはつながらない「暴排のジレンマ」があります。治安のあり方については、警察当局など国として取り組むべき課題であって、犯罪組織同士の関係で治安が左右されるようなことがあってはなりません。とはいえ、同氏の指摘は、貧困暴力団を通じて、今後の暴力団対策のあり方をあらためて考える必要性を感じさせるものだと思います。

一方、この「貧困暴力団の示す未来」に関連して、以前から本コラムでは、暴力団対策法に基づく使用者責任にかかる判例などをみれば、暴力団の「強固な組織性」という実態を加味してトップの責任が明確に認められていること、したがって、暴力団は、その「強固な組織性」を武器に犯罪収益を吸い上げてきたものの、今後、その組織性の強さこそが、自らの存在基盤を大きく揺るがすことになるのではないかと指摘してきました。それに対し、「貧困暴力団」は、暴力団を暴力団足らしめる「強固な組織性」の崩壊からもたらされたものであり、そのような中で、果たして暴力団対策法が描いていた「強固な組織性」を誇る暴力団組織ではもはやない組織と、より個人的・刹那的に行われる「貧困暴力団」による犯罪に対し、これまで同様に使用者責任を認定できるのかといった新たな問題も考えられるところです。あらためて、「貧困暴力団」の存在は、それだけの破壊力を持つものだと認識する必要があります。

さて、報道(平成30年6月19日付毎日新聞)によると、北九州市暴力追放推進会議が北九州市内の事業所を対象に実施したアンケートで、小倉と黒崎の繁華街で暴力団の影響を感じないなどとする回答が、2年前の調査から大幅に増えたということです。無作為に抽出した市内の従業員10人以上の事業所500社を対象(回答212社、回答率42.4%)としたアンケート調査で、「繁華街(小倉地区・黒崎地区)について、企業から見てどのように感じているか」を聞いたところ、「暴力団の影響力を特に感じないことから、接待などで利用している」を選んだのは106社(50%)で、前回は12社(5.9%)だったということです。逆に「暴力団の影響力を強く感じ、接待などで利用しづらい」を選んだのは9社(4.2%)で、前回の82社(40.3%)から大幅に減る結果となりました。言うまでもなく、平成26年からはじまった、福岡県警を中心とした特定危険指定暴力団工藤会への「頂上作戦」を展開し、幹部十数名を摘発するなど集中的に取り組んだ成果であり、企業の不安感が払拭されつつあるところまできたことは大いに評価できると思います。なお、頂上作戦については、工藤会総裁、同会長等を含む主要幹部を波状的に検挙し、組織から長期的に隔離したことで、工藤会の組織基盤及び指揮命令系統に大きな打撃を与えることに成功し、平成29年12月末の構成員数は380人(430人、▲11.6%)、準構成員等は320人(320人 ±0%)、合計690人(740人、▲6.8%)となっています。数字上とはなりますが、六代目山口組や神戸山口組ほどの減少率でない点がやや意外に感じるほか、その比率は下がっているとはいえ、構成員の比率の方がいまだに高いことが注目されます。一方、福岡県における平成29年中の離脱支援による工藤会離脱者数は51人(前年43人)となっています。なお、平成29年中、警察及び都道府県センターが援助の措置等を行うことにより暴力団から離脱することができた暴力団構成員の数については、約640人(平成28年も約640人、平成27年は約600人)となっています。工藤会の構成員が暴力団構成員に占める割合(2.26%)と比較した場合、工藤会離脱者が暴力団構成員全体の離脱者に占める割合は7.97%と著しく高くなっており、工藤会における離脱が進んでいる状況が数字からも分かります。「頂上作戦」によるこうした成果が、今回のアンケート結果に反映されたものと思われますが、今後も、北九州市民の安心・安全の確保に向けて、離脱した組員の離脱支援(広域連携)の推進、官民挙げての暴排活動の推進などが求められることになります。

また、工藤会絡みの動向としては、工藤会が起こしたとされる一連の事件のうち、元警部銃撃などの実行役として組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)の罪などに問われた元組幹部(43)の控訴審判決で、福岡高裁が懲役30年とした一審判決を支持し、被告側の控訴を棄却したというものがありました。昨年12月の福岡地裁判決は、元警部銃撃と歯科医襲撃、女性看護師襲撃の3事件がいずれも工藤会トップ野村悟被告(71)ら上層部の指揮命令で実行されたと認定しており、今回も同様に認定されたということです。また、福岡県直方市で平成23年6月、新聞販売店に銃弾が撃ちこまれた事件で、銃刀法違反罪に問われた工藤会系組員の公判を裁判員裁判から除外するよう求めた検察側の請求を、福岡地裁小倉支部が却下しています。工藤会を巡る公判で、検察側の除外請求を裁判所が認めないのは異例のこととなりますが、報道によれば、(工藤会の弱体化の状況もふまえ)裁判員に危害が加えられる恐れが高くないと判断したとみられるということです。ここにも「頂上作戦」の成果の影響が見られますが、例外措置とはいえ、裁判員の安全確保は極めて重要であり、辞退者が増加している状況にあっては、(安全確保の視点をより重視した)もう少し柔軟な判断を裁判所には求めたいところです。

また、北海道石狩市で起きたナマコ約450キロ(約225万円相当)の密漁事件で、札幌北署は、新たに指定暴力団六代目山口組系暴力団組員の自営業(44)ら5人を道海面漁業調整規則違反などの疑いで逮捕、この事件で逮捕者は16人になっています。ナマコは高級食材として中国などに高値で輸出されており、密漁が各地で横行している状況です。最近は「見張り役」も置く組織的かつ大規模な密漁団が目立ってきており、現行犯で取り押さえる必要のある現行法令では摘発が難しいとされています(なお、最近では、ナマコだけでなく、同様の理由でウニやカニ、アワビ、サケなどが獲られているといいます。背景にあるのは、漁業法は覚せい剤取締法などと比べて罰則が緩いことが挙げられます。覚せい剤取締法違反の最高刑は無期懲役であるのに対して、密漁は懲役3年以下または200万円以下の罰金であり、逮捕されてもまた手を染めるほど旨味があると考えられます)。そのような中、水産庁が海外で人気が高い国産ナマコの漁獲証明制度を設けると報じられています。報道(平成30年6月15日付時事通信)によると、価格高騰で密漁品の輸出が横行し、暴力団などの資金源になっているとされることから、税関で都道府県の漁業協同組合連合会が発行する原産地証明書の提示を求め、暴力団などの資金源になるのを防ぎたい考えということです。国際的な取り決めに基づく漁獲証明制度はクロマグロなどで実績があるものの、日本独自の仕組みは初めてとのことです。参考までに、水産庁の資料によれば、漁獲証明とは、数量や製品形態、輸出先などを記入し、漁獲水域や漁法、漁船名、漁獲から移送、出荷までの生産・流通の流れ等について輸出国の政府が確認した証明書を発給するもので、同庁では、マグロ類およびメロに関する漁獲・輸出・再輸出証明書、EU向け漁獲・加工証明書、中国向けサケ類の漁獲証明書を発給しているということです。

その他、直近での大きな動きとしては、兵庫県尼崎市の指定暴力団任侠山口組の本部事務所について、公益財団法人暴力団追放兵庫県民センターが、使用差し止めの仮処分を神戸地裁に申し立てたことが挙げられます。不安を抱える地元住民ら約20人が、行政や団体が住民に代わって使用差し止めを求める「代理訴訟制度」を活用し同センターに委託したもので、申し立てが認められれば、指定暴力団の本部事務所としては、昨年10月の指定暴力団神戸山口組(兵庫県淡路市)に続いて2例目となります。なお、代理訴訟制度は平成25年施行の改正暴力団対策法で規定されたものですが、この制度は、「「適格都道府県センター」 として国家公安委員会から認定された都道府県暴追センターが、付近住民等(指定暴力団等の事務所の付近に居住している方や勤務している方、あるいは就学している方等)で、指定暴力団等の事務所の使用により付近住民等の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が違法に侵害されていることを理由に、当該事務所の使用及びこれに付随する行為の差止めの請求をしようとするものから委託を受けたときは、都道府県暴追センターの名をもって、請求に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をすることができる」ようになっており(石川県暴追センターHPより)、これまで10例あるとのことです。なお、同サイトによれば、手続きの流れは概ね以下の通りです。

  • 公益財団法人暴力団追放兵庫県民センター(当センター)が、付近住民等から暴力団事務所使用差止請求の委託に関する相談を受けた場合は、専門委員として選任されている金沢弁護士会の民事介入暴力対策委員会に所属している弁護士から意見を聴いた上で、委託を受ける旨及び委託に係る請求の内容の決定を検討し、理事会において委託を受けるか受けないかを議決します。
  • 委託を受けることが決議された場合は、委託を希望されている付近住民等との間で委託契約を結びます。
  • 当センターと委託契約を結ばれた付近住民等以外の住民の皆さんに対しても、委託の機会を確保するため、当センターが委託を受けたことを広報します。
  • 訴訟等に関する手続は、当センターが弁護士に委任します。
  • 訴訟を提起した場合は、訴状の原告者名には、当センターの代表者名が記載され、委託契約を結ばれた付近住民等の氏名は、代理権を授与した者として訴状に記載されることとなります。
  • 訴訟等に要した費用は、委託契約に基づいて、当センターが支出します。しかし、必要がある場合は、理事会の決議を経て、その一部又は全部を当センターと委託契約を結ばれた付近住民等に請求する場合もあります。

また、法的な対応で言えば、昨年10月に前述の代理訴訟制度の活用で立ち退きを余儀なくされた神戸山口組の本部事務所(兵庫県淡路市)の建物について、神戸地裁が、暴力団組員らが事務所を使用した場合に1日100万円を支払うよう神戸山口組側に求める間接強制を決定したということです。昨年、同事務所の使用差し止めの仮処分申請を行った兵庫県暴追センターが、組員3人が同建物内に居住しているのは仮処分違反であるとし、神戸地裁に間接強制を申し立てていたものです。指定暴力団の本部事務所の使用差し止めで、間接強制が認められるのは初めてとなります。間接強制は、民事執行法に基づく強制執行の一つで、債務を履行しない相手に裁判所が一定の金銭を支払うよう命じて履行を促す制度です。なお、指定暴力団の事務所ではありませんが、暴力団事務所について間接強制が認められた事例としては、平成28年の山口組系事務所に関する東京高裁の例があります(暴排トピックス2016年5月号同9月号を参照のこと)。本事例は、神奈川県厚木市の、かつて山口組系の組事務所として使われ、平成14年に起きた発砲事件で組員1人が死亡した事件を契機として、平成15年に横浜地裁小田原支部が組事務所として使わせない仮処分決定を出していた建物に、平成28年2月、2トントラックがこの建物に突っ込む事件が発生した件について、住民らは、六代目山口組と神戸山口組の分裂に関連し、仮処分決定が守られていないとして、金銭の支払いを課すことで心理的に圧迫し、義務を守らせる「間接強制」を求めていたところ、東京高裁は住民の訴えを全面的に認め、組員が建物に立ち入ったり、銃器の保存場所として使ったりすることを禁じたうえ、違反した場合には100万円の支払いを命じています。また、前回の本コラム(暴排トピックス2018年6月号)でも紹介しましたが、指定暴力団会津小鉄会の傘下組織「心誠会」の事務所を巡り、昨年9月に京都地裁が決定した使用差し止めの仮処分が守られていないとして、京都府暴力追放運動推進センターは、違反に対し1日100万円の制裁金を支払わせる間接強制を同地裁に申し立てています。組員らが対立組織による嫌がらせに備えて事務所の外で警戒を実施していたことで、近隣住民から京都府警に「安心して出歩けない」などの相談が寄せられ、組員2人が新たに事務所に住み始めたことを府警が確認、暴力団事務所として使用している可能性があると判断しています。

前回の本コラムでも取り上げた暴力団対策法上の使用者責任の追及をはじめ、ナマコの漁獲証明制度の創設や間接強制など、行政や司法と連携した暴排活動が、今後、ますます進展していくことを期待したいと思います。

(2) AML/CFTおよび厳格な顧客管理を巡る動向

以前の本コラム(暴排トピックス2018年3月号)で、ある地銀による北朝鮮への不正送金事例をとりあげましたが、その際、「十分なリスク評価に基づくKYCチェックが行われていない実態は、この銀行だけでなく、日本全国のどこの金融機関でも起こり得ること(既に起こっていること)が容易に想像でき、官民連携のもと、真相解明と再発防止に全力を挙げていく必要があると考えます」と指摘しています。そして、この危惧は現実のものとなっています。先日、金融庁が北朝鮮との間で不正送金やマネー・ローンダリングを行った疑いのある企業10社との取引について、国内すべての銀行、信用金庫、信用組合に対し、取引の確認と報告を求める命令を出しています。報道によれば、この10社とは、北朝鮮にある音響装置やピアノなどの製造会社、朝鮮労働党のエネルギー政策推進会社など(英語名や複数の会社名を持つ企業も存在するといいます)で、日本から、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の傘下会社、食品販売会社などが出資していると言われています。国連安保理は平成29年9月の決議で、北朝鮮の団体や個人との間で設立された合弁会社やジョイント・ベンチャーを開設・維持・運営することを原則禁止しており、さらに北朝鮮に対する日本独自の経済制裁は、核・ミサイル開発への資金流出を防ぐ目的で北朝鮮への送金を原則禁止しています。問題の合弁10社が制裁の枠組みに違反し、送金やマネー・ローンダリングに関わっている疑いがある、との情報が日本の国連代表部から伝わり、金融庁が調査に踏み切ったものです。金融庁は大手銀行や地域金融機関に対し、この10社のリストを提示し、10社の口座の有無を調べ、当該口座が存在した場合、預金種別、支店名、口座名義、開設日などのほか2016年3月以降の全取引記録を調査した上で関連資料を収集し、金融庁に報告することを求めています。なお、金融庁の要求は、強制力がある「報告徴求命令」で、取引が見つかった場合、金融庁は立ち入り検査に入り、行政処分を科す可能性があります。今後、報告内容を精査した上、問題が見つかった金融機関に7月以降、立ち入り検査に入る方針です。北朝鮮への送金業務については、AML/CFTの観点だけでなく、外為法、国連制裁関連など様々な観点から厳格なチェックが行われるべきところ、このような北朝鮮関係の不正送金やマネー・ローンダリングの疑いのある取引が放置されている状況は大変残念です。先のある地銀の北朝鮮への不正送金事例に対し、金融庁が示した問題意識としては、以下のようなものがあり、あらためて、今回の事案についても、同様の問題がなかったか精査が必要だと思われます。なお、以下は、地銀・第二地銀との意見交換会で明らかにされたもので、「マネロン・テロ資金供与対策(AML/CFT)について、平成、30 年1月の意見交換会において、「ガイドライン(案)に照らし問題のある個別事例が見られる」旨発言したことについて、当該問題事例に関して、現時点での問題認識を示したものとなります。

▼ 金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点 全国地方銀行協会/第二地方銀行協会

具体的な金融庁の指摘としては、「窓口に多額の現金を持参し、これまで個人の生活口座として使われてきた口座にそれを入金した上で、貸付金の名目で、海外の法人に対してその全額を送金するといった、これまでに例のない不自然な取引形態であった。にもかかわらず、犯収法・外為法で規定された最低限の確認に止まり、疑わしい取引にあたるかどうかの判断のために必要と思われる、送金目的の合理性の確認や送金先企業の企業実態・代表者等の属性についての調査、その結果を踏まえた検討など、取引の危険性に応じた検証を行わないまま、複数回続いた高額送金を漫然と看過した。法令上確認が必要な事項に係るエビデンスさえ揃っていれば、問題なしとし、実際の取引のリスクに見合った低減措置が講じられておらず、またそのような適切な措置を講じるためのリスクベースでの管理態勢(画一的・形式的なチェック態勢ではなく、顧客の取引のリスクを評価した上でリスクの程度に応じた措置を講じる態勢)が構築されていない」といったものでした。反社チェックのレベル感を考えるうえでも同様のことが言えると思われ、犯収法や外為法、暴排条例等の求める「最低限の確認」に止まるだけではもはや犯罪や犯罪者の手口の巧妙化や不透明化に太刀打ちできず、その実体・実態を捕捉できないこと、DBスクリーニングのみに依存したチェックでは不十分であり、送金目的の合理性の確認や送金先企業の企業実態・代表者等の属性についての調査、その結果を踏まえた検討など「取引の危険性に応じた」深度が求められることなど、今後のAML/CFT、反社リスク排除の実務に極めて重要な示唆を与えるものです。

さて、直近の金融庁の指摘についても、確認しておきたいと思います。

▼ 金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼ 共通事項(主要行/全国地方銀行協会/第二地方銀行協会/全国信用金庫協会/全国信用組合中央協会/労働金庫業界)

マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策(AML/CFT)については、FATF 審査への対応も見据え、具体的な改善策を速やかに講じることが必要不可欠であるとして、「3月末に要請した「チェックシート」に沿った対応を実施してもらうほか、金融庁がマネロン・テロ資金供与対策の基本的な考え方を明らかにする観点から本年2月に策定した「ガイドライン」の記載と、各金融機関における現状の差異(ギャップ)を分析し、講じるべき具体的対応とアクションを明らかにしてもらう必要があると考えている」と指摘し、各金融機関に対し、「ガイドライン」と現状とのギャップ分析を実施し報告するよう求めています。そして、ギャップ分析を実施するに当たっては、「各金融機関において「ガイドライン」の適用のあり方を具体的に想定することが必要である。その上で、いつまでに、どの部門がいかなる人員を要して対応を行うか、経営陣のリーダーシップの下、アクションプランを作成することが必要である。当庁への提出に当たっても、経営陣が策定に向けた議論に参画し、了承を与えた計画を報告してもらいたい」として、(ガイドラインでも協調されていた)経営トップの積極的な関与をあらためて求めています。

また、具体的な改善策を講じるという点で、「マネロン・テロ資金供与対策の共同化等を進めることも有効な手段の1つであると考えている。業務プロセスの共同化等については、共同化の範囲や、個人情報の適切な管理との両立等の様々な論点が存在するが、顧客情報の確認・収集、情報のデータ化、取引のモニタリング・フィルタリングや、収集した新規顧客の情報検索等のプロセスを金融機関間で共通して実施することが出来れば、業界全体の効率化や、小規模金融機関が先端システム等を利用することによる対策の高度化につながる」との考え方を示している点は、大変興味深いといえます。なお、本件に関連して、セブン銀行が、取引履歴などのビッグデータを使って不審なお金の動きを把握するノウハウを生かし、他行の口座での不正取引を監視するサービスを開始しており、すでに既に複数の地銀から委託を受けているということです。報道によれば、同行は、顧客の地銀から匿名化された口座の取引データを連日取り寄せ、独自のプログラムで分析、短時間で同じ口座へ何度も振り込まれたり、複数の口座から一つの口座へ集中的に送金があったりする「疑わしい取引」を見つけ、地銀に知らせ、地銀にて口座凍結や当局への通報などの必要性を判断するというスキームのようです。巧妙化・高度化する金融犯罪の手口に個別行が個別に対応するこれまでのやり方では、取り組みレベルの濃淡から脆弱な部分が生じさせることになり、結果的にその脆弱性を突かれる可能性が高まるのではないかと危惧されているところ、対策をアウトソーシング・共同利用することで、一定程度まで均質化された取り組みで(取り組みレベルの濃淡から脆弱性を生じさせてしますという)限界を乗り越えることが期待されます。さらに、4月に、マネロン・テロ資金供与対策について官民が連携して意見交換・情報連携すること等を目的とした「マネロン対応高度化官民連絡会」が発足し、第1回会合が開催されるなど、今後、「FATF 審査までに残された期間も短くなる中で、更に連携を強化し、わが国全体としての取組みを推進していく必要がある」として、「本連絡会等の場で、積極的に議論・情報交換に参画・貢献してもらいたい」との要請がありました。参考までに、AML/CFTではありませんが、本意見交換会で金融庁から指摘された問題点には、以下のようなものがありました。

  • 口座売買については、その口座が、振り込め詐欺やインターネットバンキングの不正送金の受皿口座として悪用されるおそれがある。警察当局においても、特殊詐欺を助長する犯罪として捜査を強化しており、検挙件数も近年増加傾向にある
  • 外国人留学生や技能実習生が、生活費や帰国前の小遣い稼ぎを目的に、SNSや口コミを通じて口座売買する手口が増加している模様。平成29 年のインターネットバンキングにおける不正送金の一次送金先口座名義人の国籍は、ベトナムが約59%、中国が約19%、日本が約11%となっており、外国人が約9割を占める状況
  • 各金融機関においては、これまでも、ホームページやポスター掲示などを通じて口座売買に係る注意喚起を行っているものと承知しているが、昨今の口座売買の実態等も踏まえ、口座開設時の本人確認の徹底は当然として、例えば、外国人留学生等が口座売却額を吊り上げるために、帰国直前に送金限度額を引き上げようとするなど不審な点があれば声掛けするなど、今後とも機会を捉えて未然防止に努めてもらいたい
  • 昨年度に引き続き今年度も全預金取扱金融機関を対象に、BCP に関するアンケートを実施した。信用金庫・信用組合においては、「昨年度と比べ、BCP の未策定先及び訓練の未実施先が減少したほか、これらの未策定・未実施先についても早期に実施予定であるなど、改善が進んだことを確認している「、「一方で、本店(対策本部)が耐震化基準を満たしておらず、対策本部の代替設置場所を定めていない先があり、一部改善の目途が立っていない先も認められた
(3) 仮想通貨を巡る動向

金融庁は、仮想通貨事業者6社(ビットフライヤー・QUOINE・ビットバンク・BTCボックス・ビットポイントジャパン・テックビューロー)に対して業務改善命令を出しています。同庁は、これまでみなし業者だけでなく、顧客資産の保護体制などの審査を通過した「登録業者」にも立ち入り検査をしてきましたが、検査の結果、マネー・ローンダリングなどの犯罪対策が不十分で、内部管理体制に重大な問題が相次いで見つかったということです。報道によれば、命令を受けたビットフライヤーでは、本人確認で登録した所在地が「私書箱」になっていた、登録審査時に事実と異なる説明をした、反社会的勢力による取引を許していたといった指摘があったようです。それ以外の事業者も含め、法律で定められた帳簿が長期間作られていなかった、システム障害や苦情への対応を怠っている、取引チェック体制などについて、登録審査時の説明と実態が異なっていたといった事例もあったようです。本件は、みなし業者ではなく「登録業者」である点で極めて深刻な問題であり、特に反社リスク対策の不備も数多くの登録業者で見られた点は憂慮すべき状況です。中には、反社会的勢力かどうかを確認するリストすら持っていない業者もあったということであり、実質的に反社リスク対策をほとんど講じていなかった点は、一般の事業者においても反社チェックは必須となりつつある中、顧客から資産を預かっている金融事業者としての自覚が全く足りない、驚くべき状況だと言えます。各社とも、業容拡大の一方で、人員やシステム増強を行わず、他社との競争で顧客獲得を優先するあまり、従業員の確保やシステム投資が後手に回ったことで内部管理態勢が脆弱なままだったと考えられます。NEM流出事件や金融庁の監督が強化される一方で、報道によれば、今も100社以上が交換業参入の意向を示しているほか、将来の可能性を視野に会社の定款に「仮想通貨交換業」を盛り込む異業種の企業もあり、水面下で「仮想通貨ブーム」が続いている状況だということです。これらの新規参入予定事業者においては、これらの業務改善命令事例等をふまえ、「最低限のレベル」を超えたコンプライアンス・リスク管理態勢を整えていただきたいと思います。

以下、具体的に、ビットフライヤーのリリースならびに金融庁(関東財務局)の公表内容について確認してみたいと思います。

▼ ビットフライヤー 当社への行政処分に関するお詫びとお知らせ

同社のリリースにおいては、「当社におきまして、一定のお客様に対して実施が義務付けられている本人確認プロセスに関し、運用の不備が認められました。当社では、このような事態が発生した原因調査を行い、速やかに適正な管理体制を構築するための改善プランとして、既存のお客様に対する本人確認状況の再点検を行うことを決定いたしました」として、既存顧客の本人確認にかかる全件確認を行う旨発表しています。さらに、「お客様のご登録情報に万が一不備及び不足が認められた場合には、お客様の本人確認プロセスを改めて実施させていただく」、「一部のお客様には本人確認書類の再提示等をお願いする場合もあり」として、「法令遵守の徹底と健全な取引環境の構築」を図るとしています。さらに、「既存のお客様への本人確認状況の再点検が完了し、かつ、内部管理体制強化が整うまでの間、新規のお客様によるアカウント作成を自主的に一時停止させていただきます」と、再点検が完了し、取引管理体制が整うまで自主的に新規取引を自粛することも公表しています。

▼ 金融庁 株式会社bitFlyerに対する行政処分について
▼ 関東財務局 株式会社bitFlyerに対する行政処分について

1. 当社に対し、平成30年2月1日(木)、資金決済に関する法律(平成21年法律第59号、以下、「法」という。)第63 条の15 第1項の規定に基づき、システムリスク管理態勢に関する報告徴求命令を発出し、4月9日(月)、金融庁において立入検査に着手した

2. 上記の報告徴求命令に基づく報告及び立入検査により、当社の業務運営状況を確認したところ、経営陣は、コストを抑えることを優先して、内部監査を含めた内部管理態勢を整備していないことのほか、監査等委員会及び取締役会が牽制機能を発揮していないこと並びに登録審査等に関して当局等へ事実と異なる説明等を行うといった企業風土など、当社の経営管理態勢に問題が認められた。
このほか、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策、利用者財産の分別管理及び帳簿書類の管理、不正アクセスによる仮想通貨の不正流出の未然防止などの内部管理態勢において問題が認められたことから、本日、法第63条の16の規定に基づき、以下の内容の業務改善命令を発出した。

I. 適正かつ確実な業務運営を確保するための以下の対応
i. 経営管理態勢の抜本的な見直し
ii. マネー・ローンダリング及びテロ資金供与に係るリスク管理態勢の構築
iii. 反社会的勢力等の排除に係る管理態勢の構築
iv. 利用者財産の分別管理態勢及び帳簿書類の管理態勢の構築
v. 利用者保護措置に係る管理態勢の構築
vi. システムリスク管理態勢の構築
vii. 利用者情報の安全管理を図るための管理態勢の構築
viii. 利用者からの苦情・相談に適切に対応するための管理態勢の構築
ix. 仮想通貨の新規取扱等に係るリスク管理態勢の構築
x. 上記ⅰ.からⅸ.の改善内容の適切性や実効性に関し第三者機関の検証を受けること
II. 上記I.に関する業務改善計画を平成30年7月23日までに、書面で提出
III. 業務改善計画の実施完了までの間、1ヶ月毎の進捗・実施状況を翌月10日までに、書面で報告

同社では、現在、顧客の入出金が遅延しているとのことですが、金融庁からの業務改善命令を受けて、改めて本人確認を徹底していることが原因のようです。不正な取引でないか照合したり、顧客対応したりする人員を増やしているものの、しばらく遅れ気味の状態が続きそうだといいます。仮想通貨ビジネスはこれまで「利便性」を重視するあまり、「リスク管理」をやや軽視する傾向にありましたが、「リスク管理」に注力することで、ある程度の「利便性」が犠牲になるのは当然のことであり、同社にとっては、関係者や消費者の理解と協力をどう得ていくかが今後の課題だと言えます。なお、先日、りそなグループや新生銀行など複数の金融機関で、インターネットバンキングでの振り込みができない障害が発生しましたが、この事案も「利便性」と「リスク」という点で考えさせられる点が多いものでした。本件は、個人認証の安全強化のために採用した米シマンテック社のシステムで不具合が起きたのが原因であり、銀行本体ではなく、IT企業のサービスを起点に影響が広範囲に広がったことは「サプライチェーンを介したリスクの拡大」という新たなリスク管理が突きつけられたと言えます。今後、API連携など外部のIT事業者をはじめとした連携が拡大していくことが明らかな中、リスク管理の共同化・一体化の視点がより重要になるものと思われます。また、別の視点から見れば、外部連携による「利便性」を追求するあまり、「サプライチェーンにおけるリスク管理」のあり方を軽視することはあってはならないということでもあります。

以下、仮想通貨を巡る主な動向について、箇条書きでご紹介します。

  • 業界団体の日本仮想通貨交換業協会は、取引や内部管理の透明性向上に向けて、自主規制ルールをまとめています。仮想通貨交換会社の役職員に対し事前に入手した情報を基にした取引を禁じることや交換業者の役員に加え、株主、それらの配偶者や同居人、仮想通貨の発生・移転の記録者を内部関係者として、不正な取引を禁止すること(金融商品取引法(金商法)上のインサイダー取引の対象外ではあるが、自主規制で禁止するもの)や、マネー・ローンダリングやテロ資金供与に利用される恐れのある通貨、追跡が難しい通貨の取り扱いを禁止することなどが柱となっています。
  • ビットコイン(BTC)の大手取引サイトを運営し、破産手続き中のマウントゴックス社について、東京地裁は破産手続きを中止し、民事再生の開始を決定しています。1BTCあたりの価格が約5万円から100万円程度にまで高騰、破産開始時に同社が保有していたBTCの価値は約100億円だったものが、昨年の時点で約2,000億円にまで膨れあがった一方、破産開始時に債権者らが保有していた債権総額は約460億円であったため、債権者らが昨年11月に民事再生手続き開始を申し立てていたものです。
  • 韓国の大手仮想通貨交換所ビッサムは、約350億ウォン(約34億6,000万円)相当の仮想通貨がハッキングの被害にあったと発表しています。NEM流出事件同様、世界中の交換所と協力してさらなる損害を防ぎつつ資産の一部1,400万ドル分を回収した結果、損害が190億ウォン(1,700万ドル)に減少したといいます。なお、ハッキングで11種類の仮想通貨が盗まれており、特に損害の多くはビットコインで、2,016ビットコインが盗まれたということです。顧客被害分は同社が補てんするほか、顧客の通貨について盗難防止措置を取ったということです。さらに、同取引所は、安全が確認されるまで当分の間、入出金手続きを停止しています(これまでのところ、サービス完全再開のメドを明らかにしていません)。
  • 報道(平成30年6月12日付ロイター)によれば、金融活動作業部会(FATF)は、仮想通貨交換業の規制について、これまでの拘束力のない「ガイダンス(指針)」から加盟国の義務となる「スタンダード(基準)」への格上げを目指すことになりました。3月のG20財務相・中央銀行総裁会議の共同声明に基準の見直し要請が明記され、FATFが検討を本格化させることになったものです。FATFTは2015年6月、仮想通貨交換業の規制に関するガイダンスを公表していますが、その中で、交換業の登録制か免許制の導入、マネー・ローンダリング防止のための顧客の本人確認、疑わしい取引の届け出、記録保存義務を求めました。このガイダンスを踏まえ、日本は世界に先駆けて2017年に仮想通貨交換業の登録制を導入しましたが、FATFのガイダンスには加盟国に対する拘束力がないため、各国の仮想通貨交換業への規制にはばらつきがある状況が続いています。今後の議論では、3年前のガイダンスの内容が現在も妥当かどうかや、主として金融機関への適用を念頭に置く「基準」を新興の仮想通貨交換業に適用できるのか、仮想通貨取引を禁止している国との関係などが焦点になるとみられます。
  • 日本では、仮想通貨規制について、改正資金決済法にて交換業者を登録制にすることなどを定めていますが、交換業者の経営が悪化した場合に顧客の資産を保護する仕組みなどが不十分だと言われています。規制を証券会社などに適用される金商法に基づいた内容にすることで、利用者保護の強化につなげたいところです。仮想通貨は改正資金決済法により電子マネーなどと同じ決済手段として位置づけられていますが、金商法による規制対象となれば、金融商品として扱われることになります。前述のとおり、自主規制団体の本仮想通貨交換業協会は、インサイダー取引の禁止など金商法に近づけた自主規制を公表していますが、自主規制のため実効性に疑問が残ることもあり、金商法による厳格な規制のもとで対応を強化する必要があると考えられます。

    また、仮想通貨が犯罪インフラ化や、仮想通貨等の盗取を巡って様々な事件が発生しています。仮想通貨を獲得する「マイニング(採掘)」のために他人のパソコンを無断で使用したとして、神奈川、千葉、栃木などの10県警で作る合同捜査本部が、複数の人物を不正指令電磁的記録(ウイルス)供用などの容疑などで計16人を摘発しています。16人は、18~48歳の学生や会社員、自営業などとなっておあり、全員男で、3人が逮捕、他は書類送検されています。また、同様の事件で、同意を得ずに他人のパソコンで仮想通貨の獲得手段である「マイニング(採掘)」を行ったとして、不正指令電磁的記録供用などの罪に問われた無職の男(24)に、仙台地裁は、懲役1年、執行猶予3年(求刑・懲役1年)の判決を言い渡しています。また、メールなどから偽のWebページに誘い込んで個人情報を盗む「フィッシング」の手口を使い、仮想通貨を盗み取ろうとするサイバー攻撃が国内で本格化しているということです。実在する仮想通貨交換業者からの警告をかたるメール以外にも、アンケートへの協力要請や情報提供サイトを装ったものなど、さまざまな手口が登場しています。また、闇サイト上ではフィッシングサイトに張り付ける偽ページといった「犯罪の道具」(犯罪ツール)が安価で販売され、犯行の増加、拡大に拍車をかけている実態があります。闇サイトの犯罪インフラ化はこれまでも指摘していますが、仮想通貨の盗取という犯罪のための道具が提供され、素人でも容易に犯罪を実行できてしまう環境が整えられていることに、あらためて戦慄を覚えます。

    さて、現在、金融庁では、「仮想通貨交換業等に関する研究会」を開催していますが、その議論の内容も公開されており、今後の方向性を考えるうえで参考になります。以下、委員の発言から筆者にて重要と思われるものをピックアップしています。

    ▼ 金融庁 「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第3回)議事録
    • 英国中央銀行総裁の金融安定理事会(FSB)議長は、本年3月2日の講演において、暗号通貨の現状評価について、端的な答えとして、貨幣としての役割を果たしていないと言っている。3月13日の議長名の公開書簡では、暗号資産は不正活動の隠蔽、マネー・ローンダリングやテロリストの資金調達への利用、消費者・投資者の保護に関する多くの問題を引き起こすといった点を指摘している。
    • 国際通貨基金(IMF)専務理事は、仮想通貨等の将来性に関して、暗号資産の裏側にあるブロックチェーン等の技術について、低所得国での活用を念頭に、銀行口座を持っていない人々に新しい低コストの支払手段を提供することにより、金融包摂の原動力になるかもしれないと指摘している。暗号資産の取引は現金の取引とよく似た匿名性の様相を帯びることになる結果、マネー・ローンダリングやテロリストの資金調達のための新しい主要な手段となる可能性があると。また、暗号資産の急速な拡大、取引価格の極端に大きな変動、ボラティリティ、そして従来型の金融の世界とどう繋がっているのかが不明確であることを、新たな脆弱性として指摘している。
    • サブサハラ・アフリカにおいては頻繁に生じる政治的動乱の歴史、自国通貨の価格変動等のリスク、資本規制といった背景がある中で、人口の70%が銀行口座を有していないと言われており、ブロックチェーンに基づくソリューションを導入する大きな潜在的可能性を有しているとされている。
    • 日本で現金が幅広く利用される理由は、例えばATMの設置台数が多く、比較的容易に現金が入手できること、あるいは治安が良く、窃盗等の被害に遭う可能性が少ないこと、さらには、偽札の発生割合が低く、現金に対する信認が厚いといったものが該当する
    • 複数の決済手段、決済サービスが併存する形になってしまったため、利便性やコスト、さらにはデータ利活用といった面で大きなデメリットも生じているのではないか
    • 利用者の立場からすれば、コンソーシアムを経由して本人確認資料等の提出を一旦行い、複数の金融機関と取引が行えるようになれば、利便性が大幅に向上することになる
    • 今後、日本では少子高齢化等々も進行し、深刻な労働力不足が懸念される。したがって、グローバルスタンダードを意識しながら、オールジャパンとしてキャッシュレス化、あるいはデータ利活用といったものをさらに進めていくことによって、社会全体のコストを削減し労働力を捻出する、さらにはデータ利活用を通じてより効率的な社会、あるいはより付加価値の高いビジネスといったものを模索していくことが求められるのではないか
    • 例えば今、小売店で、色々な形でBitcoinを受け入れますと言っているところの多くは、実際には受入れを行っているだけで、後ろに仮想通貨交換業者がいて、そこで現金、日本円なりにリアルタイムで変換をして入金している場合が多いが、恐らく今後、仮想通貨のリスクを考えていく上で、いわゆる仮想通貨ネイティブの取引というのをきちっと見ていく必要があるように思われる
    • 特にパブリックタイプのブロックチェーンなどについては、リスクの一例として、何か、例えばハッキングをされて仮想通貨がなくなってしまったというような場合に、法や裁判所がなかなか手を出せないというような事態が、先日のコインチェックのケースでもあった。そういうリスクも踏まえて、このような技術とどう付き合っていくのかということをしっかりと考えていく必要があるのではないか
    • インターネットを介して容易に取引ができるという仕組み上、クロスボーダーの広がりが非常に容易であり、外国の事業者が日本の顧客に簡単にアクセスできるということは、もう避けられない。そうなると、やはり今後は、ルールメイクをするに当たっても、あとはエンフォースメントをするに当たっても、国際的な協力というのは欠くことはできない
    • 交換業者に対する業者規制についても、ICOに関する開示規制についても、今は規制が追いついていないことから、規制を何とか強化しなければ、あるいは足りないところを補わなければというところに目が向いているのは確かだと思うが、長期的には、こういった投資者あるいは利用者保護と、イノベーションの促進とのバランスをとりながら検討する必要があり、規制のみならず、これらの技術をどうやって生かしていくのかという観点を常に意識することが、当たり前だが必要 >金融の特殊リスクだけれど、通常の我々が議論してきた金融のリスク以上に、非合法的な取引に使われるリスクというのが、仮想通貨では大きいリスクなのではないか
    • 反社会的な勢力への資金提供などが行われるなど重大な犯罪に利用される可能性が仮想通貨にあるとするならば、たとえどんなに魅力的であっても、正当な地位は与えがたいということになる。仮想通貨というものに正当な地位を与えたいと思われる方々は、このリスクをどう防ぐのかということに最大限の力を注がれるべきではないか
    • 法のあり方というのは、いわば後追いというか、どうしても実態における利用を睨みつつ考えていくということにならざるを得ないのではないか
    (4) 特殊詐欺を巡る動向

    まずは、例月通り、平成30年1月~3月の特殊詐欺の認知・検挙状況等についての警察庁からの公表資料を確認します。

    ▼ 警察庁 平成30年5月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

    平成30年1月~5月の特殊詐欺全体の認知件数は6,819件(前年同期7,168件、前年同期比▲4.9%)、被害総額は117.5億円(135.6億円、▲13.3%)となり、件数・被害総額ともに減少かつ減少幅が先月から拡大しました。なお、検挙件数は1,870件となり、前年(1,550件)を20.6%上回るペースで摘発が進んでいます。うち振り込め詐欺の認知件数は6,730件(7,047件、▲4.5%)、被害総額は113.7億円(128.3億円、▲11.4%)となっており、認知件数の増加ベースが鈍化し減少に転じているほか、被害額の減少も続いています。また、類型別の被害状況をみると、オレオレ詐欺の認知件数は3,831件(2,903件、+32.0%)、被害総額は56.8億円(61.7億円、▲7.9%)と件数が急激な増加傾向にある一方で、被害額の減少傾向が続いています。また、架空請求詐欺の認知件数は2,064件(2,137件、▲3.4%)、被害総額は46.7億円(44.6億円、+4.7%)と前月は件数・被害額ともに増加しましたが、件数については減少傾向に転じています。また、融資保証金詐欺の認知件数は182件(302件、▲39.7%)、被害総額は2.1億円(2.8億円、▲24.5%)、還付金等詐欺の認知件数653件(1,705件、▲61.7%)、被害総額は8.1億円(19.1億円、▲57.5%)と、これらについては件数・被害額ともに大きく減少する傾向が継続しています。これまで猛威をふるってきた還付金等詐欺の件数・被害額が急激に減少する一方、それととって替わる形でオレオレ詐欺や架空請求詐欺が急増している点(特殊詐欺全体でみれば件数が減少に転じた点は特筆すべき変化ではありますが、それでも高水準を維持している点)に注意が必要です。なお、それ以外では、特殊詐欺全体の被害者について、男性25.6%、女性74.4%、60歳以上81.1%(70歳以上だけで65.7%)と、相変わらず全体的に女性・高齢者の被害者が多い傾向となっているほか、犯罪インフラの検挙状況として、口座詐欺の検挙件数は537件(652件、▲17.6%)、犯収法違反の検挙件数は1,010件(918件、+10.0%)、携帯電話端末詐欺の検挙件数は107件(149件、▲28.2%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は12件(19件、▲36.8%)などとなっています。

    直近での特殊詐欺にかかるトピックと言えば、拠点(アジト)が民泊施設(ヤミではなく大阪市認定の施設)であった事例が挙げられます。この事案では、大阪府警に3人が逮捕されましたが、民泊を転々としながら詐欺を繰り返していたとみられ、摘発時には、民泊用ゲストハウスから約5万7,000人分の名簿や携帯電話約50台が押収されています。近隣住民もまったく知られることなく、特殊詐欺のアジトとして悪用されていたということで、あらためて民泊の犯罪インフラ化が危惧されるところです。

    その他、特殊詐欺を巡っては、以下のような報道がありました。

    • ゆうパックで現金を送らせ、だまし取ったとして詐欺の疑いで配達業ら2人が愛知県警に再逮捕されています。3人は郵便局の委託を受け、自分が管轄する地域の集合住宅を送り先と指定するなどし、架空請求詐欺グループの「受け子」として現金を回収していたというものです。他に十数件の被害があり、5,000万円以上をだまし取ったとみられています。
    • 静岡県警沼津署は、沼津市内の30歳代の女性会社員が、約140万円をだまし取られる特殊詐欺の被害に遭ったと発表しています。男は女性に、検察庁のHPに見せかけた偽のHPを見るよう促し、そこに女性の名前などが掲載されていたため、女性は男の話を信じ、指定の口座に現金を振り込んだというものです。
    • 何者かがネット通販で買った電子マネーのギフト券などの代金を、気づかないうちにコンビニで支払わされる架空請求詐欺が、昨年から全国で相次いでいます。指定された番号をコンビニで伝えると、本人確認もなく代金支払いができる「収納代行」を悪用した手口で、警察は、店員からの積極的な声かけなどを呼びかけています。
    • スパムコール(迷惑電話)が多くなっており、最近は「ロボコール」という方法で、安いインターネット通信を利用して自動的に大量の電話をかける手口が横行しているということです。ロボコールは違法ですが、電話の主や場所を特定するのが難しく、ほぼ野放し状態だと言われています。
    • 日本の特殊詐欺ではありませんが、米当局は、世界で実施した電子メール詐欺(いわゆるビジネスメール詐欺)の摘発で74人が逮捕されたと発表しています。企業および個人から数十億ドルを盗もうとしていたといいます。なお、このビジネスメール詐欺は、企業の財務にアクセスできる従業員を狙ったもので、信頼できる幹部や取引先を装ってメールを送り、犯罪集団が管理するアカウントへの送金を指示する仕組みです。なお、この集団は、不動産購入者や高齢者を含む個人を標的とした詐欺も行っていたということです。

    また、特殊詐欺の被害の防止・抑止した事例等については、以下のような報道がありました。

    • 大阪府警が府内の2つの銀行に感謝状を贈っています。三井住友銀行松原支店では、預金全額約810万円の引き下ろしを申し出た80代の夫婦が使途について明確に答えなかったことなどから通報し、被害を止めたということであり、大正銀行高見の里支店では、定期預金解約を求めてきた40代の女性が不安そうな表情を浮かべたことから不審に思い、同署に通報するなどして被害を阻止したというものです。いずれも、顧客との会話や態度・様子から不審な兆候をつかんだ点が共通しており、各行員のリスクセンスの賜物である一方で、日頃からの教育研修の重要性も指摘しておきたいと思います。
    • 都市部を中心にオレオレ詐欺が再び増え始めていますが、最も多い息子をかたる手口の8割近くは、受け渡し場所が駅周辺だったことが大阪府警の調査でわかりました。犯行後の「逃げやすさ」を重視したものと考えられます。これに対し大阪府警が、駅に機動隊員を派遣して封じ込める作戦を始めたとの報道がありました。
    • オレオレ詐欺などの特殊詐欺の被害を防止しようと、豊中市は、電話機に貼るシールを10万8,000枚作製したということです。「詐欺注意」などと記され、豊中署や豊中南署の電話番号も書かれており、65歳以上の市民らに順次発送する介護保険料の納入通知書にシールを同封して無料提供しています。
    • 埼玉県警浦和署は、詐欺未遂の疑いで前橋市に住む公立中学校の少年(14)を現行犯逮捕しています。騙された側の女性は浦和署と連携し、少年らからの嘘の電話を信じ込んだように見せかける「だまされたふり作戦」を展開し、逮捕にこぎつけており、この女性は同署が昨年発足した「詐欺見破り隊」のメンバーだったといいます。
    • 高齢者を狙った特殊詐欺を防止する「自動通話録音機」の無償配布が、今年度内に東京都のすべての区で導入される見通しです。2018年の都内の特殊詐欺認知件数は1,346件(4月末現在)で、前年同期比469件増という多さとなっています。さらに、被害額は約28億7,222万円に達することから、関係者は、録音機の無償配布が被害の歯止めにつながればと期待しているということです。
    (5) テロリスクを巡る動向

    バングラデシュの首都ダッカで2016年7月1日夜に起きた飲食店襲撃テロ事件(ダッカラテロ事件)から2年が経過しました。本事件では、国際協力機構(JICA)が業務を委託したコンサルタント会社の日本人7人が犠牲となりました。バングラデシュでは本事件以降、イスラム過激派による大規模なテロは起きていないものの、過激主義を批判したジャーナリストが殺害されるなど、過激派の脅威は依然高止まりした状況にあります。本事件を実行したイスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国」(IS)系の地元組織(ジャマトル・ムジャヒディン・バングラデシュ(JMB)およびネオJMB)が、政府による掃討作戦などで弱体化する中、最近ではISと対立する国際テロ組織アルカイダが、地元の過激派組織(アンサール・アル・イスラム)に影響力を拡大している可能性も指摘されています。さらに、バングラデシュのイスラム過激主義は、インターネットを介したり、複数の私立大学が拠点となったりして拡散しているとも言われており、報道によれば、大学は近年、警察と連携して対策を取っているものの、過激主義に傾倒する学生は後を絶たない状況だということです。加えて、海外移住者の犯行も課題となっています。バングラデシュから、シリアやアフガニスタンなどの武装勢力に少なくとも過激な思想を抱いた100人が加入しているとされるほか、昨年12月に米ニューヨークで起きた爆発事件で逮捕された容疑者もバングラデシュ出身者であり、政権や社会への不満を抱えた若者が突然、過激思想に傾倒してしまう可能性は否定できません。このように、バングラデシュは、表面的には掃討作戦等の成果でテロを抑え込んでいるように見えていながら、実は、新たなテロリスクを内包している状況だと言えます。一方、安い労働力や、年間約7%の経済成長、人口1億6,000万人超の市場に引かれ、日本企業の進出は事件後も加速しているといいます。報道によれば、日本大使館関係者が「危険情報はレベル2のまま。事件後もリスク評価に大きな変化はない」として、引き続き警戒が必要と指摘するものの、ダッカテロ事件後も進出日本企業は撤退するどころか、順調に増えているとのことです。バングラデシュのテロリスクを正しく評価できず、大きな犠牲を払ったにもかかわらず、「喉元過ぎれば」なのか、同国のテロリスクを軽視しているように見えるのは極めて残念です。

    さて、そのISについては、弱体化の一途を辿りながらも、周辺地域に分散しテロリスクを高めている状況にあります。例えば、モロッコ外相は、アフリカについて、既にISやアルカイダなどイスラム過激派1万人以上の潜伏先になっていると警告したうえで、「テロリストに好都合な」狙われやすさがあると指摘、シリア、イラク、アフガニスタンを除けば「テロの犠牲者数は既に欧州より多い」とアフリカの危機的状況を強調しています(平成30年6月27日付時事通信)。また、ISの事実上の支部があるアフガニスタンで活動を活発化させていること、同じく支部があるエジプトやリビアでも本拠地から逃れた戦闘員の流入がはじまっていることなど、本拠地としていたシリアとイラクで実効支配地域をほぼ失ったISによって、その周辺などで脅威が顕在化しています。ISは、リアルな実効支配地域(実態)は消滅しているものの、一方で、「思想」をキーに、残存勢力の分散と現地化・連携、ローンウルフ型テロの基盤として、その実体を維持している状況にあることが、ここにきてより鮮明となっています。各国は、今後、この「IS後」の世界とどう向き合うかが問われることになります。

    さて、公安調査庁が、世界のテロ組織の実態などをまとめた平成30年版「国際テロリズム要覧」を公表しています。

    ▼ 公安調査庁 国際テロリズム要覧 (Web版)

    本要覧では、ISが標榜した「疑似国家」は事実上崩壊したが、欧米では警備が手薄な「ソフトターゲット」を狙ったテロが増加傾向にあると指摘しています。さらに、ISに共鳴したローンウルフ型テロが拡散していることから、「ISの脅威は依然深刻だ」と分析しています。以下、IS(本要覧では、イラク・レバントのイスラム国「ISIL」と表記)に関する記述を中心に、内容をかいつまんで紹介したいと思います。

    まず、ISILについては、「シリア・イラク両国における軍事的劣勢が指摘される一方で、ISILの影響力は世界各地に拡散し、ISIL又はその影響を受けた者らによるテロが多発するなど、ISILによるテロの脅威が深刻となっている。特に、欧米諸国においては、多数の一般市民が集まるようなソフトターゲットを対象としたテロが頻発する事態となっており、その大半がISILに関連したものとされている」と指摘しています。そのうえで、これら欧米諸国におけるISIL関連のテロ事件について、大きくと三つのカテゴリーに分類しています。第一は、「ISILによる具体的な指示や支援は見られないものの、何らかの形でISILの影響を受けた単独又は少数の者が、計画・実行したテロ」(ローンウルフ型テロ)で、従前から欧米諸国におけるISIL関連のテロ事件で最も多く発生している類型となります。また、第二は、2015年11月のフランス首都パリにおける連続テロ事案や2016年3月のベルギー首都ブリュッセルにおける連続テロ事案で見られたように、「ISILから送り込まれた戦闘員らが計画的かつ組織的に実行したテロ」(遠隔操作型テロ)という分類となります。これらは、複数の実行犯が銃器や爆発物を用いて同時多発的に犯行に及び、多数の被害者を出すなど社会に与えた影響も大きく、「欧米諸国におけるISILのテロ実行能力の高さを示す形」となったと指摘しています。また、第三の類型は、特に、2016年後半から散見されるようになったもので、「通信アプリなどを介し、シリア又はイラクなどに滞在するとみられるISILの戦闘員からの一定程度の指示に基づいて計画・実行されたテロ」(中枢指揮型テロ)だといいます。これは、パリ及びブリュッセルにおける連続テロ事案のような組織的なテロとも、ローンウルフ型テロとも異なる形態だと言えます。ただし、ISILは、シリア及びイラクでの軍事的劣勢が指摘されるようになって以降、2016年9月には、「ルーミヤ」(ローマの意)との名称で新たな機関誌を発刊するなど、欧米諸国におけるテロ実行の呼び掛けを一段と強化しているほか、ISILによって欧米諸国における「グローバル・ジハード」の主導権を奪われた形となっている「アルカイダ」についても、その奪還を狙い、引き続き欧米諸国でのローンウルフ型テロの実行を呼び掛けており、「欧米諸国においては、テロの脅威が依然として憂慮すべき状況にあると言える」と指摘しています。また、テロ発生状況について、欧米諸国を標的とし、ISILと何らかの関係があるとされたテロ計画は、2014年で18件、2015年で49件、2016年で74件把握されており、年々増加していること、米国内に関しては、ISILと何らかの関係があるとされたテロ計画は、2014年から2015年末までで19件である一方、2016年のみで20件を超えるとされ、増加傾向にあることを指摘しています。さらに、類型別では、ローンウルフ型テロは、2015年にテロ事件が発生した国の全て(5か国)で2016年も発生するなど、継続的かつ広範囲にわたって発生していること、「遠隔操作」型テロはフランス、ベルギー、ドイツ、「中枢指揮」型テロはフランス、ベルギーのみで発生しており、ローンウルフ型テロと比較すると、現時点において発生場所は限定的であると指摘しており、大変興味深い分析結果となっています。また、2016年には警察に対する攻撃が増加したものの、全体としては、治安当局などのハードターゲットではなく、警備が比較的緩いために実行しやすいとされるソフトターゲットが標的として選好されている傾向がうかがえるほか、ソフトターゲットの中では、各種イベント、飲食店などの店舗といった多数の人が集まる標的が選好される傾向が見られるとの指摘もあり、日本におけるテロ対策にとっても特に注力すべき脅威だと言えます。さらに、2016年に入り、欧米諸国における記念日、宗教上の記念日、テロ組織にとっての「記念日」に際してのテロが増加しているということであり、イスラム教又はキリスト教関連行事の期間中にテロが発生する傾向(曜日については、特段の傾向なし)があることも、日本におけるテロ対策において注意しておくべき点だと言えます。また、犯行形態として、2015年には刃物や銃が主流であったものが、2016年に入り、車両や放火といった手法も見られるようになっています(これについては、ISILが機関誌「ルーミヤ」で、欧米諸国におけるテロ実行の手法を具体的に「指南」しています)。こうしたISILによる呼び掛けに倣った形となっている点も興味深いところです。さらに、実行犯の国籍については、主に、ローンウルフ型テロの実行犯の国籍が多様であることをはじめ、フランス(26%)、米国(16%)、ベルギー(15%)など、欧米国籍を有する者が全体の約70%を占めていること、二重国籍者を含め、このうちの約40%が中東・北アフリカ系とされることなどが紹介されています。また、実行犯の年齢については、全体の平均年齢は26.8歳で、最多年齢層は、平均年齢を含む25~29歳であること、29歳以下の若者で全体の約70%を占めていること、全体として、10代後半から30代前半の若者によるテロが多いこと、何らかの犯歴を有している者が全体の62%と過半数を占めていること(犯歴を有する者のうち55%に服役経験があること)などなどの分析結果が示されており、示唆に富むものとなっています。また、類型別では、以下のような分析がなされており、大変興味深い相違を感じることができます。

    • ローンウルフ型テロ
      実行犯については、犯罪を犯したことがあるものの、紛争地に渡航したことはない若者が多い傾向が見られる。特に、このような若者には、背後に何らかのネットワークの存在もうかがわれないことから、周囲に相談する相手もいない中で自己過激化し、結果として、武器についても、身近で手に入るものを使用せざるを得ないことになっているとみられる
    • 「遠隔操作」型テロ
      実行犯については、ローンウルフ型テロの実行犯と比べると、より若い年齢層が多く、さらに、服役経験を有し、紛争地に渡航し又は渡航を企図したことのある者が多い傾向がうかがえる。これらの者は、若い分、感化されやすく、さらに、お互いに価値観を共有し、影響を及ぼし合う中で、より過激化していくものとみられる。手法や標的については、ローンウルフ型テロと同様に、手軽な方法で、ソフトターゲットを標的にテロを実行している傾向がうかがえるが、犯罪ネットワークにも近く、テロへの抵抗感も小さくなっているとみられることから、今後、遠隔操作する側の指示に基づき、より大規模な被害を発生し得る犯行形態へとシフトしていく可能性もある
    • 「中枢指揮」型テロ
      実行犯については、服役経験があり、フランスやベルギーからFTFとして紛争地に渡航するなど実際に戦闘経験を積むなどした「ベテラン」が多く含まれていた。こうした者らについては、正にその人脈やノウハウを活かし、他の二類型で見られるような日常生活の中で得られるものを武器とするのではなく、銃や爆発物を用い、さらに、周到綿密な準備や一定程度の習熟を必要とする手法を選好しているほか、ソフトターゲットを標的に同時多発的な攻撃を行い、多数の犠牲者を出すことで「アピール度」の高いテロを実行する傾向もうかがえる

    また、日本におけるテロ対策の動向についても簡単に確認しておきたいと思います。先日、東海道新幹線内で乗客の男女3人が殺傷された事件が発生しましたが、「新幹線「という走行中の閉ざされた空間の「乗客」というソフトターゲット対策として、新しい対策が必要であることを示唆しています。JR各社は事件を受けて様々な対策を実行に移しており、例えばJR東日本は首都圏を走るすべての在来線車両内に防犯カメラを設けることを公表していますし、JR東海は民間の警備会社と連携して車内や駅構内の巡回を強化することや、防犯スプレーや防御用の盾、それに防刃ベストや手袋などを車内の複数の場所に備える、また、大けがをした人の応急処置をするための救急用品も備えるといった取り組みを発表しています。また、JR西日本は乗務員に有事の際シートの活用を指導する方向で検討するといった内容が報道されています。一方、海外の高速鉄道では手荷物検査を実施しているところもあります。報道(平成30年6月17日付日本経済新聞)によれば、フランスでは、パリ行きの国際列車内でのテロ事件を受け、2016年に法改正を行い、国鉄やパリ交通公団の職員が荷物検査や検査に応じない人物の拘束などができるほか、不審人物を判断するソフトで防犯カメラの映像を分析しているといった対策を講じています。また、スペインでは、マドリードなどの主要駅で、空港のように手荷物のX線検査を実施、中国の高速鉄道も大半の駅で構内に入る際、空港と同じようにX線検査による安全検査を義務付けており、大行列ができる季節もあるようです。これらに対し、日本では、「利便性を損なう」として、効果が期待できる金属探知機を見送るようです。検査スペースの確保が難しく、乗車まで時間がかかれば新幹線の過密運行を維持することが難しいというのが理由のようですが、2020年に向けてソフトターゲットに対するテロリスクが高まる中、利便性を重視するあまり人命にかかる対策を軽視することで本当によいのか、鉄道事業者は難しい対応を迫られていると言えます。

    テロリスクに関するそれ以外の状況のひとつに、「テロ等準備罪」を新設した改正組織犯罪処罰法が、成立から1年を迎え、同罪での立件件数が0件であることが明らかになっています。法相は「テロ等準備罪成立を受け、国際組織犯罪防止条約を締結し、情報収集で国際社会とより緊密に連携することが可能となった」とその意義を強調しています。当時、国会内外で賛否両論が渦巻いており、賛成派は「国際社会はテロ組織を含む組織犯罪集団と戦う上で重要な枠組みと認識」、「捜査機関の乱用が危惧されるようなハードルの低いものではなく正反対」というものであり、反対派については、「監視されないか非常に危惧している。物言う市民が萎縮してしまい、民主主義が健全に成り立たなくなるのではないか」、あるいは「捜査機関の乱用のおそれ、恣意的な運用がないか」といったものが一般的でした。実際のところ、捜査機関の乱用のおそれや恣意的な運用はなく、監視が強化されるといった社会的状況になったわけでもありません。しかしながら、テロや犯罪はますますグローバル化しており、日本の捜査機関だけで何かが解決できるわけでもなく、国際的な連携のもと組織犯罪集団と戦う一員となったことは大変高く評価できる部分だと思います。日本人が欧米や中東などと同等のテロへの危機感を持つことは難しいのは事実ですが、オリンピックをはじめ国際イベントが目白押しの中、テロリスクは「向こうからやってくる」ものであり、日本固有のテロリスクの発生レベルを過少評価することなく、少なくとも国際レベルの対策を講じる必要があることは間違いありません。また、ISが典型ですが、テロリスト・テロ組織自体の質的変化への対応という意味でも、本法は重要な意味があると考えます。

    さらに、直近では、地下鉄サリン事件を引き起こしたオウム真理教の指導者等7人に対して死刑が執行されました。とりわけ、地下鉄サリン事件は、外国の国防当局は「化学兵器を白昼堂々、都心で無差別に一般人に使用した世界で初めてのテロ行為」と受け止めるほどの大事件でした。当時、冷戦が終わり、国同士の紛争よりもテロ行為の危険性に世界の関心が移り始めた時でもあったことから、世界の潮流と軌を一にするように、日本でも法整備が進むこととなりました。さらに、今も一部信者から信仰を集めているとされるオウム真理教の指導者らの死刑執行を受け、警視庁や公安調査庁は後継団体の情報収集を継続し、組織を離れ単独で過激化する「ローンウルフ型信者」の動向に神経をとがらせているということです。正に、ISの「思想」がリアルな空間を超えて世界中に大きな影響を及ぼしているように、一部の信者は公権力による死刑の執行を「教祖の殉教」と捉えて存在を神格化する可能性が指摘されており、今後の動向に注意が必要です。

    さて、本コラムでは、社内研修等の一環として活用できそうな外務省の 「ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル」の紹介を継続的に行っています。さいとう・たかをさんの人気漫画「ゴルゴ13」を使った単行本とともに以下に掲載されていますので、今回もその中から一部をあらためて紹介します。

    ▼ 外務省 「ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル」

    今回は第4話【情報収集】について取り上げます。本話では、まず、海外安全対策では、情報収集はすべての基礎をなす部分であり、「情報を集めること自体が目的ではなく、自ら必要と考える情報を積極的に入手していく心構えが必要」だと指摘しています。また、「継続的に情報を確認していくことで、ささいな変化にも気付くことができるようになる」とも指摘しています。つまり、普段から日常的に関連情報を確認していくことが、何よりも大切だということです。その中で、具体的な情報収取としては、外務省の発信する情報が「渡航先・赴任先の治安情勢などを把握するための最も基本的な情報」であり、まずは活用すべきだと言います。その上で、日々のニュースなど一般に公開されている情報を組み合わせることで、「より精度の高い海外安全対策を検討することが可能になる」としています。まず現地の治安状況を把握することで、現地にはどのようなリスクが存在し、どのようなリスクに晒される危険性があるのかについて理解することにつながります。例えば、ここ最近発生した事件、テロなど治安関連の情報を確認すべきであり、何がターゲットになっているのか、日本人や日本企業を狙ったものはあるのか、外国人などに対して危害を加える事件があるのか、などについて知ることは、犯罪の傾向や過激派グループなどの性質・活動状況・危険性等を把握するための有益な情報となります。また、本話では、あわせて、「渡航先・赴任先の政治環境、選挙などの政治的なイベント、周辺国の状況などその国の治安に影響を与える可能性が高い要素」についても、情報収集を行い判断材料とすべきと指摘しています。さらに、諸外国においては、社会全体で宗教が大変重要な役割を占めている国は少なくなく、そのような国では宗教行事や宗教に関わる行動規範は大変重要で、文化・風俗・法律を構成する基本的な要素となっている場合もあり、宗教に対する侮辱や、服装の規定違反などは厳しく罰せられたり、罰せられないまでも周囲の反感をかうようなことにもなりかねないことを認識すべきだと言います。また、日本の常識では犯罪とは考えられないような行動でも、諸外国では犯罪として通報されてしまう可能性もあり注意が必要だとしています。

    加えて、外国では鳥インフルエンザやジカウィルスなどの感染症が流行している国・地域や、日本ではほとんど感染の心配はない風土病が存在している国・地域などもあり、事前に流行の有無を調査し、予防接種の必要性や感染を防ぐ方法などについて対策を練っておくことが重要だと指摘しています。一方で、滞在国で対応ができず、近隣の国への移送が必要になる場合もあり得、事前の情報収集を踏まえて保険に加入するど対策を講じることが必要ですし、持病や継続的に服用している薬がある場合は、英文の処方箋を事前に準備し、渡航先・赴任先でも入手ができるように手配をすると言った対応が考えられるところです。

    本話では、「現地の治安情勢は、ちょっとした出来事で大きく変化することがあります。安全対策は環境によって内容が変わってきますので、治安情勢の変化には十分な注意が必要です。変化は漸進的な場合も、突発的な場合もあり得ます。普段から日常的に関連情報の収集を行い、情勢の変化に気付いたら、安全対策を見直すことが身を守ることにつながります」と指摘しています。正にその通りであり、微かな変化を端緒としていかに速やかに認識できるかが重要であり、そのためには「普通」の状態のものをたくさんみておくこと、正しいプロセスや正しいアウトプットを理解しておくこと、情報収集やリスク対策は他人事ではなく、自分のこととして「自立的・自律的」・能動的に行うべきことなどをあらためて認識する必要があると言えます。

    (6) 犯罪インフラを巡る動向
    ① 民泊

    空き部屋などを活用する民泊の運営ルールを定めた住宅宿泊事業法(民泊法)が施行され、自治体に届け出れば民泊が営めるようになり、急増する外国人観光客らの宿泊先の受け皿になるものと期待されます。観光庁によれば、本法の施行により民泊が解禁された6月15日時点で、民泊営業の届け出が全国で3,728件あったということです。このうち手続きが終了したもの(受理)は2,210件で、1週間前の8日時点は2,707件と、1週間で約1,000件増え、法施行直前の駆け込みが多かったようです。一方で、国や自治体が厳しい規制を課していることから、当初の想定を下回る静かなスタートとなりました。営業日数の制限を始め、厳格な規制によって、違法民泊(ヤミ民泊)が排除されることが期待されますが、あまりに厳格な規制の場合、むしろヤミ民泊として水面下に潜る方が多くなるのではないかと考えられ、現時点では、その危惧が現実のものとなっているように思われます。実際、京都市は、旅館業法に違反する営業をしたとして、市内の簡易宿泊所5施設に営業停止命令を出しています。大手仲介サイトに掲載されるなど、いずれも「民泊」として営業していたとみられていますが、京都市内では近年、一部の民泊を巡り、ごみ捨てや騒音に関する苦情が相次いでいたようです。なお、同市がこうした施設を営業停止にするのは初めてとなります。それ以外にも、米民泊大手のエアビーアンドビー(Airbnb)のサイトで、民泊新法が施行された後も違法な「ヤミ民泊」の物件が多数掲載されていた問題が発覚しました。架空の届出番号が見つかるなど数千件の違法物件を削除しましたが、それ以外にも、直近で、一つの届け出番号で複数の物件が載っていることも明らかとなりました。同社はチェック体制を強化し、明らかにおかしいものを排除するシステム変更を行ったとしていましたが、いまだに改善されていないことが明らかとなりました。観光庁は仲介業者に、届け出番号におかしな点がないか事前に確認し、違法な物件は掲載しないよう求めています。報道によれば、国内のライバル仲介業者は「サイトへの掲載に当たっては、届け出番号の原本を確認している」と話している一方、Airbnbはこれを怠っており、新法施行後、仲介業者で違法物件の掲載が発覚したのは同社だけと言われています(観光庁はこの問題を受けて、仲介業者の実態調査に乗り出すということです)。この問題は、このようなAirbnbのシステムやガイドライン対応の拙さにあることはその通りですが、一方では、それだけ、民泊事業を「真っ当に」やろうとしないヤミ事業者が跋扈していることをうかがわせるものだとも言えます。つまり、厳格な規制に対応することなく、Airbnbのチェック体制の脆弱性を突くことによって、水面下に潜ったまま事業を行おうとする悪質事業者が多数存在し、今後、それを排除していくことが大きな課題であることを示唆しています。

    さて、民泊の犯罪インフラ化については、本コラムでもこれまで述べてきた通りですが、本人確認手続きの脆弱性からテロリストの潜伏先となるリスクや、殺人などの犯罪への悪用、薬物密売・入手や特殊詐欺などの中継点としての悪用、さらには近隣住民の平穏な生活への悪影響などが想定されるところです。一方、「民泊先進国」の欧米でも売春や薬物絡みのトラブルが社会問題化しているようです。例えば、報道(平成30年6月14日付毎日新聞)によれば、英国では昨年半ばごろから、民泊を利用して短期間営業する「ポップアップ売春宿」が急増しているとのことです。フェイスブック(FB)で営業し、知人ら数人のグループが民泊客を装って部屋を借り、1週間程度営業、足が付く前に立ち去るというものです。「適切な対策がなければ、日本でも同じことが起こりうる」と専門家がコメントしていますが、薬物の売買等にも悪用される可能性があり、日本としても民泊の犯罪インフラ化対策が重要となっています。

    そうした中、最近、犯罪インフラ化の典型例としていた民泊が特殊詐欺のアジトに悪用される事案が発生しました。前述しましたが、報道(平成30年7月4日付産経新聞)によれば、アジトとなった民泊施設はヤミ民泊ではなく大阪市が認定した正式な民泊施設であり、ホテルや旅館と違い、フロント設備などがない民泊の「匿名性」という本人確認手続きの脆弱性が突かれ、運営側もあずかり知らぬうちに犯罪に悪用されていたというものです。本件については、報道では、「府警は施設内から詐欺に使われたとみられる携帯電話約50台やノートパソコンなどを押収。パソコンには健康食品販売に絡んだ約5万7,000人分の名簿が保存されていた。詐欺集団は4月以降、数週間ごとに市内の民泊を転々としてアジトを移し、名簿をもとに電話で詐欺を仕掛ける「アポ電」を繰り返していたとみられる。施設は家主不在型で管理人は常駐していなかった。宿泊する客には玄関先のキーボックスの暗証番号を伝えて鍵を受け取ってもらうシステムで、施設側が詐欺集団のメンバーと顔を合わせることは一度もなかったという」ものでした。捜査関係者や専門家のコメントにもある通り、民泊は、「手続きが簡単で退去も容易」、「不特定多数の人間の出入りを不審がられることがない」、「監視の目が行き届いていない」、「家主不在型であれば誰が出入りしているかトラブルがない限り表面化しない」といった特性があり、そのすべてが「犯罪インフラ化」に直結している点で、民泊が健全なインフラとなるには、そもそも相当高いハードルを課す必要があるシステムであり、それが故に「ヤミ民泊」が跋扈するという、構造的に厳しいものだと言えそうです。一方で、民泊が犯罪に悪用された場合は、テロや詐欺、殺人などを招くのであり、監視の目を緩めるどころか、強化し続ける必要があると言えます。この点に関して、例えば、警視庁では、民泊運営会社に対し、客がチェックイン時にパスポートの写真を見せなかったり、部屋の清掃を拒んだりするなど不審な行動をみせた場合には警察に通報するよう要請しています。また、東京都新宿区では4警察署が、ヤミ民泊発見などを目的に連携する覚書を締結、区は立ち入り調査や地域住民からの相談で不審点を覚知した場合、警察と情報共有するといった取り組みも始まっています。また、京都市では、違法・不適切民泊の根絶を目的にした「民泊対策等連絡協議会」を京都市と府警が設置しています。違法や不適切と疑われる事業所には、告発など厳正に対処することを盛り込んだ協議会名での通知文を送付する取り組みを行うということです。通知文は、事業所を特定したり実態をつかむことができなかったりしても、疑いがあるだけで送付するということですから、かなり厳格かつ積極的な取り組みとなると思われます。一方、民間でも、マンションの管理組合では、民間業者に依頼して違法な民泊運営がないかを調べたり、住民以外の入退館をチェックしたりと自衛の動きが広がっているということです。暴排条例施行以降、暴排活動が実効性を伴ってきたのは、警察や自治体等の官側の取り組みだけでなく、市民や事業者の暴排意識の底上げや浸透、排除実績の積み重ねなど官民の連携があってのことです。民泊からの悪質事業者の排除も同様であり、官民挙げた取り組みが求められていると言えると思います。

    最後に、国民生活センターが消費者向けに民泊利用にあたっての注意喚起を行っていますので、参考までに紹介いたします。

    ▼ 国民生活センター 新しい民泊ルールがスタート!-民泊を利用する前には宿泊に必要な料金総額やキャンセル規定を確認しましょう!-

    全国の消費生活センター等には民泊に関する相談が寄せられており、2015年度は57件、2016年度は214件、2017年度は271件と増加しています。相談内容をみると、「キャンセルしたら宿泊料全額をキャンセル料として請求された」「宿泊料の他に清掃料金を請求された」など民泊の利用に関する相談の他、「儲かると説明されて、民泊に関するマニュアルを購入したが、儲かると思えないので解約したい」などの民泊ビジネスに関する相談や「騒音がうるさい」「ごみが適切に処理されていない」などの民泊施設の近隣住民トラブルに関する相談が寄せられているとのことです。

    ◆民泊の利用に関する相談事例
    【事例1】予約した民泊をキャンセルしたところ、宿泊料全額をキャンセル料として請求された
    【事例2】宿泊料の他に清掃料金を請求されたが、宿泊に必要な料金総額の表示がわかりにくい
    【事例3】当日に宿主と連絡が取れず宿泊できなかったが、宿泊料を請求されている

    ◆民泊ビジネス、近隣住民トラブルに関する相談事例
    【事例4】民泊に関するビジネスで簡単に稼ぐことができると高額なマニュアルを勧められた
    【事例5】民泊施設の近隣住民からの苦情

    ◆相談事例からみる問題点
    (1) 予約仲介サイトの表示が確認しづらい
    (2) 民泊サービスの提供が不十分な場合がある
    (3) 民泊ビジネスで簡単に儲かると説明されている場合がある
    (4) 民泊施設の近隣住民からの苦情が円滑に解決できていない

    ② その他の犯罪インフラを巡る動向

    以下、最近の報道から、犯罪インフラ化が懸念される状況について、いくつか紹介します。

    • 携帯電話の通話に必要なSIMカードを無断で40枚譲渡したとして、警視庁捜査2課は、携帯電話不正利用防止法違反容疑で、携帯レンタル会社社長ら2人を逮捕しています。携帯電話不正利用防止法は、親族間などを除き、携帯キャリアに無断で他者にSIMカードを譲渡することを禁じているところ、1枚5千円でカードを販売していたものです。さらに、報道によれば、入手したカードや携帯電話を他業者に貸し出し、それらがさらに又貸しされるなどして広く拡散し、一部は特殊詐欺グループにも使われ、約5年間で約530件、約17億円の被害が出ているということです。SIMカードの不正譲渡により特殊詐欺に悪用された事例であり、正に犯罪インフラの典型的な事例だと言えると思います。警視庁が過去、特殊詐欺などに使われた電話を調べたところ、8割以上がレンタル携帯電話・IP電話だったことが判明したほか、回線の半数以上が最終契約者に貸し出されるまでに3業者以上を経由しており、6業者を経由するケースもあったということです(本事例と同様、又貸し等で拡散していく実態です)。また、レンタル業者に残された最終契約者の貸し出し記録を分析すると、98%以上で偽造や他人の運転免許証が本人確認に使われていたことも判明しています。さらに、利用者に貸し出していた事業者の9割以上の経営者が詐欺やヤミ金、薬物密売などの犯罪で過去に摘発された経歴が確認されるなど、携帯レンタル事業者が詐欺グループと結託している実態(レンタル携帯電話等の犯罪インフラ化)が明らかとなっています。
    • 米Googleのスマートスピーカー「Google Home」とストリーミング用端末の「Chromecast」について、ユーザーの位置情報を高い精度で流出させてしまう問題が見つかったということです。この問題を悪用して住所を特定されれば、脅迫や詐欺などの手口に利用されるおそれもあるとされています。具体的なおそれとしては、捜査機関からの警告を装う手口や、流出させた写真を公開するという脅し、あるいは友人や家族の秘密をばらすという脅しなどに、「Google Home」の位置情報をもとに特定した住所を組み合わせれば、偽の警告の信憑性が高まるといったことが考えられます。利便性の高いサービスについては、とりわけ最近の技術革新のスピードが増している中では、いつ犯罪インフラ化するか分からない点に十分注意していく必要があることを痛感させられます。
    • 各国首脳らとタックスヘイブン(租税回避地)の関わりを明るみに出した「パナマ文書」の流出元となったパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から、新たに120万件の電子ファイルが流出したということです。報道(平成30年6月21日付朝日新聞)によれば、新たなファイルからは、モサック・フォンセカが管理するうち、英領バージン諸島で70%、パナマで75%の法人の所有者が不明だったということで、法人の本当の所有者がだれなのかを把握できていなかった実態が浮き彫りになっているとのことです(日本でも、以前、パスポートがコピーされ、本人も知らないうちに出会い系サイト運営会社の代表者に登記されていたという事例もありました)。パナマ文書ショックについては、各国政府や要人のスキャンダルといったセンセーショナルな報道のされ方がなされましたが、本コラムでこれまで指摘している通り、タックスヘイブンを巡る問題の本質は別のところにあります。租税回避行為の問題も重要ですが、その利用の中で最も深刻な問題は、マネー・ローンダリングやテロ資金供与といった犯罪収益の隠匿や犯罪を助長している点です。本来明らかにされるべきリスト(情報)は、こうした不透明かつ問題ある資金の流れであり、それが明るみに出ることによって、国際犯罪組織やテロリスト、国際安全保障の脅威となる北朝鮮等、さらには日本の暴力団等の反社会的勢力などの資金を断つことにつながる(犯罪を抑止できる可能性がある)という点にもっと着目されてよいのではないかと思われます。その意味では、パナマ文書ショックは、単なるスキャンダル暴露ではなく、「その先の脅威との戦い」という視点から捉えるべきだと言えます。
    • 無料低額宿泊所等に生活保護受給者を囲い込んで劣悪な環境に住まわせ、保護費から高額な利用料を取るといった、いわゆる「貧困ビジネス」が問題となっていますが、「貧困ビジネス」が暴力団等の反社会的勢力の資金源のひとつとなっていることを鑑みれば、そのような悪質な事業者を排除する(=犯罪インフラ事業者の排除)ことが極めて重要となります。政府は高等教育無償化を進める方向ですが、少子高齢化で経営難に陥っている大学が増える中、1人当たり最大で年100万円を超える国費が投入される制度を悪用、学習意欲が乏しい低所得世帯の学生を集める「貧困ビジネス」の温床になりかねないとの指摘があり、そのような「旨味」があるところには、必ず反社会的勢力が関与してくることを警戒する必要があります。学校法人の中には、資金繰りが厳しいところも多く、また独特の脇の甘さもあり、反社会的勢力の関与に気付かないまま、安易に「貧困ビジネス」に走ってしまう法人も現れることも否定できません。
    (7) その他のトピックス
    ① 薬物を巡る動向

    カナダはG7では初めて、大麻の所持や使用を今年10月17日に合法化すると発表しました。報道によれば、トルドー首相は、「(大麻取引で)犯罪組織が年60億カナダドル(約5,000億円)もの利益を得ているという推計もある」と指摘し、「いまの大麻の禁止令は子供たちを守るために機能していない」と述べ、嗜好用の大麻解禁の正当性を主張、国が管理することで把握が難しい不法取引を減らす狙いがあると言います。また、この件の報道の中には、「大麻は麻薬の中では依存性が低く副作用が軽いとされ」との報道も散見されました。しかしながら、WHOが大きな疾患と指摘しているように、大麻は安全ではなく、安全だから合法化するというロジックは正確ではありません。以前の本コラム(暴排トピックス2017年12月号)でも紹介した通り、大麻依存症の依存症化率は10%にも上り、アルコール依存症の0.9%を大きく上回るほどの依存性の強い薬物です。さらに、大麻合法化は、「大麻が国民の50%近くまで蔓延して禁止する意味がなくなった国がやむなく行うこと」であり、「経済的損失を少なくするための便宜的措置に過ぎないこと」についても知っておく必要があります。また、このような大麻の有害性(依存性の高さや脳への影響、再就労への影響など)や「医療用と吸煙用」の大麻の違い(無害性と有害性の違い)は現時点でも国民の間で十分な理解が得られているとは言えません。本コラムでこれまで繰り返し話してきた通り、今後、大麻合法化・非処罰化の国などからの流入量の増加や大麻から覚せい剤へのシフトなどの危険な事態の定着化・深刻化も危惧されること(既にその兆候はあります)、大麻の有害成分であるテトラヒドロカンナビノールが品種改良を経て強力になっていること(大麻リキッドなど有害性が高まっていること)などから、これまで以上に大麻の違法性・有害性を国民にきちんと伝えていくための広報が重要となると思われます。

    そのような中、国立精神・神経医療研究センターによる調査で、大麻を使用した経験がある人の割合は1.4%で、15~64歳の人口に換算すると推計133万1,765人に上ること、シンナーを含む有機溶剤を初めて上回り、乱用薬物では最多になったこと、若年層に使用を容認する考えが広がり、有機溶剤や危険ドラッグが減少する中、大麻は前回調査から0.4ポイント(約38万人)増と伸びが際立っていたことなどが分かったとの報道がありました(平成30年6月17日毎日新聞)。近年流行した危険ドラッグに対する規制強化を受け、若者を中心に大麻への回帰が進んでいるとみられます。

    関連して、直近では、大麻を液体状に加工し電子たばこで成分を蒸発させて吸引する「大麻リキッド」を所持したとして、近畿厚生局麻薬取締部が、無職の男(35)を大麻取締法違反の疑いで追送検しています。同容疑者がコカインを所持したとして麻薬取締法違反容疑で逮捕した際、自宅から電子たばこに入った大麻リキッドを押収したものです。大麻リキッドは電子たばこ用のフレーバーと見分けがつきにくく、摘発が困難だと言われていますが、同取締部が大麻リキッドの所持を摘発するのは初めてだということです。なお、直近では、大麻リキッドなどを所持したとして大麻取締法違反罪に問われたミュージシャンに、東京地裁が、懲役3年、執行猶予5年(求刑懲役3年)の判決を言い渡しています。また、若者に人気のラッパーが、大麻取締法違反(営利目的所持)などの疑いで逮捕されました。報道(平成30年7月3日付産経新聞)によれば、このラッパーは米国から販売目的で大麻を密輸する「密売の首謀格」として暗躍していた疑いがあると言われています。ヒップホップ界では違法薬物にまつわる事件が相次いでおり、業界内に違法薬物が蔓延している実態が懸念されるところです。報道では、ある捜査関係者が、「今年1月に米国カリフォルニア州で大麻使用が合法化された影響も少なくない。手に入りやすい環境になったことで密売に手を染める者も目立ち始めている。音楽業界はアーティスト同士の横のつながりで薬物汚染が広がりやすくなる傾向にあり、なお一層の警戒が必要になってくる」と指摘していますが、正にそのような現状にあるものと思われます。前述した通り、「大麻合法化・非処罰化の国などからの流入量の増加」が見込まれる(大麻の仕出国の上位が、アメリカ・カナダ・オランダなど大麻の合法化が進んでいる地域となっています)今、業界を超えて広く大麻が蔓延していくことに強い危機感を覚えます。それに加えて、大麻の流通量の拡大という点では、ここ最近、大麻栽培の摘発事例が増えていることにも注意が必要な状況です(全体的な傾向としては、密輸に代わり「国内製造」「国内流通」にシフトしつつあります)。最近でも岡山で、貸事務所などで大麻を栽培していたとして会社役員ら6人が大麻取締法違反(営利目的栽培)の疑いで再逮捕される事例がありました。昨年末に大麻栽培の情報提供があり、岡山県警が今年5月に6人を大麻取締法違反(営利目的所持)容疑で現行犯逮捕し、これまでに県内の4カ所から大麻草197鉢と照明器具を押収しています。このように、大麻栽培については、専用キッドが出回ることで容易になっている現実があります・さらには、暴力団による大麻栽培の摘発も増えており、東組傘下組織組長による大麻大量栽培事件では、栽培施設に4,000万円が投資された一方で、摘発時には、2万本以上、末端価格にして40億円と推定される大麻が押収されています(その投資効率の高さが分かります)。また、ベトナム人マフィアグループと神戸山口組傘下組員との国際的な協働事例もありました。なお、参考までに、国連薬物犯罪事務所(UNODC)の年次報告書によると、2016~17年に世界のコカインとアヘンの生産量が急増し、過去最高を記録しているということで、大麻だけでなく様々な薬物の流通量が増加していること(それだけ消費量も拡大している=社会に幅広く蔓延していること)が分かります。ちなみに、依然として麻薬組織の勢力が強いコロンビアや、政情不安により政府の統制が及びにくくなっているアフガニスタンでの生産量増加がその背景にあると言われています。

    薬物の蔓延への対策として重要なもののひとつは税関等による水際対策です。報道(平成30年6月15日付毎日新聞)によると、横浜税関で、覚せい剤や大麻など不正薬物の押収量が増えており、昨年の摘発件数は364件、押収量は全国の約60%に相当する約851キロと、過去最高を記録したということです。こうした不正薬物の上陸を水際で食い止めるのが、成分分析で不正を科学的に裏づける分析部門で、管内で差し止められた粉末や錠剤などの分析に追われているそうです。関連してこの水際対策については、ネット通販の普及に伴い、商品を取り寄せる国際郵便物に紛れ込み、覚せい剤など違法品も大量に輸入されています。このような状況に対応しようにも、摘発する税関は検査体制の整備が追いつかず、なかなか厳しい戦いを強いられています。しかも、このような状況は日本だけでなく、危機感を強める各国の税関は監視強化に動くものの、摘発に必要な個人情報の扱いを巡り各国の意見が対立している状況もあり、こちらも厳しい戦いを強いられています。

    ② ギャンブル依存症対策(カジノ/IR)を巡る動向

    カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法案が衆議院を通過し、成立に向けて大詰めを迎えています。しかしながら、カジノを成長戦略とすることの是非や賭博を禁じる刑法との整合性など、重要な論点の議論は尽くされていない感があります。例えば、ギャンブル依存症対策についても、首相は「厳格な入場制限をはじめ、重層的かつ多段階的な依存症対策を講じることにしている」と理解を求めていますが、有識者からは、「(依存症は)重症になると難しい。より早いサポートが必要だ」とし、政府が示す「週3回かつ28日間で10回」のカジノ施設への入場回数制限に「科学的な根拠があるとは言い難い」との意見も出ています。ギャンブル依存症対策基本法案の成立とあわせ、引き続き、ギャンブル依存症対策の実効性を高める施策が求められていると言えます。

    さて、依存症という点では、世界保健機関(WHO)が公表した改訂版国際疾病分類「ICD―11」(日本をはじめ多くの国が死因や患者の統計、医療保険の支払いなどに使う病気やけがの分類)の最終案に「ゲーム依存症」が明記されました。来年5月のWHO総会で正式決定されますが、スマホなどのゲームのやり過ぎで日常生活に支障をきたすゲーム依存症が「ゲーム障害」として国際的に疾患として認められたことになります。報道(平成30年6月24日付読売新聞)によれば、厚労省の研究班は、SNSなどを過度に使っているネット依存者のうち、一定の割合がゲーム依存症だとみており、特に中高生では、52万人と推計されるネット依存者の大半がゲーム依存症にもなっていると分析しています。「ゲームに興じる時間や頻度を制御できない」、「日常の活動よりもゲームを優先してしまう」、「ゲーム中心の生活が1年以上にわたる」などに当てはまると、ゲーム依存症の可能性があるということです。ただし、ゲームで遊ぶ時間が長くても、やめるべき時に打ち切れるなど、行動を制御できていれば、必ずしも依存症とは限らないともされ、依存症の割合について、WHOはゲームをする人の2~3%程度と推定しています。競馬などのギャンブルや酒とは異なり、未成年に依存症の割合が高いのは問題であり、早急な対策が求められる一方で、依存症治療として、カウンセリングなど国内で相談に対応できる医療機関は25か所程度しかなく、専門医も不足しているのが現状であり、治療体制の整備は大きな課題となっています。

    ③ 北朝鮮リスクを巡る動向

    米朝首脳会談後、急速に北朝鮮リスクは低減したかのような印象がありますが、完全な非核化(CVID、完全で検証可能かつ不可逆的な廃棄)まで国連安保理の制裁を維持する方向で国際世論は一致しています(直近の米専門家による衛星写真の分析として、北朝鮮が北東部咸鏡南道の咸興市にあるミサイル製造施設の拡張工事を進めていると米紙が報じています。事実であれば、北朝鮮が核開発やミサイル計画を廃棄する考えがないことを示していると考える必要があります。付近にはほかにも2か所のミサイル製造関連施設があり、そのうちの1か所で、新たな入り口通路が設置されるなどの動きも確認されているということであり、慎重に北朝鮮のスタンスを見極める必要があると言えます)。今後も国際社会が一枚岩となって北朝鮮リスクに対峙していくことが求められており、当然ながら当事者である隣国日本は、その重要性はさらに高いものであると認識する必要があります。AML/CFTの項でも述べた通り、相対的に緩い日本の金融機関が制裁逃れに悪用される(犯罪インフラ化する)ことはあってはならず、これまで以上の厳格な顧客管理が求められています。

    そのような中、北朝鮮制裁逃れの代表的な手口である「瀬取り」(経済制裁逃れを目的に洋上で物資を積み替えて密輸する手口で、北朝鮮は「瀬取り」で石炭の輸出や石油精製品の輸入を行っているとみられます)について、中国船籍の関与が疑われる事例や、直近でも国連安保理の北朝鮮制裁委員会から資産凍結・入港禁止の対象に指定されている北朝鮮籍タンカーによる瀬取りを海上自衛隊が確認した事例などが発覚したこともあり、米国務長官が、「すべての国連安全保障理事会の制裁決議を完全に履行する重要性」を強調し、北朝鮮の完全な非核化が実現するまで、制裁や密輸摘発を緩めないように中国側にクギを刺しています。

    一方、日本政府は、北朝鮮の弾道ミサイル発射を想定して今年度中に全国各地で予定していた住民避難訓練を中止する方針を固めています。訓練は政府や自治体が主催し、ミサイル発射を全国瞬時警報システム(Jアラート)や防災行政無線で伝え、住民らが学校や公共施設に避難するもので、昨年3月以降、25都道県で計29回行い、米朝首脳会談の直前にも群馬と福岡の各県で実施していました。米朝首脳会談が開かれるなど対話ムードが高まる中、北朝鮮によるミサイル発射の可能性は低いと判断したもので、宮城、栃木、新潟、富山、石川、奈良、徳島、香川、熊本の9県での訓練が中止となります。しかしながら、前述した通り、ミサイル製造施設の拡張工事を進めるなど北朝鮮の動向からは、ミサイル発射の可能性が低いと判断するにはやや早計のようにも思われます。「喉元過ぎれば」は日本人の危機意識の低さを語るときに使われる言葉ですが、北朝鮮リスク、とりわけミサイル発射リスクについては、警戒を緩めてはなりません。そこで、以下に、あらためて弾道ミサイル落下時の行動について確認しておきたいと思います。

    ▼ 弾道ミサイル落下時の行動について 避難行動の必要性をより深く理解いただくために

    Q1 Jアラートが流れた後に避難を始めても手遅れでしょう?
    A1 避難行動にかけられる時間は限られたものですが、それでも、近くの建物の中や地下へ避難する、物陰に身を隠すなど、わずかな時間でもできることはあります。

    Q2 近所には、丈夫な建物も地下もなく、避難できるところがありません
    A2 横(水平)方向に広がる爆風や飛散する破片等に対して身体の衝突面を極力減らすことが重要なので、木造住宅へ避難するだけでも、避難行動をとらない場合と比べて被害を軽減できる可能性が高まります。

    Q3 地面に伏せる、頭部を守る......。それで、ミサイル攻撃から身を守れるとは思えません
    A3 横(水平)方向に広がる爆風や飛散する破片等に対して身体の衝突面を極力減らすことが重要なので、避難行動をとらない場合と比べれば被害を軽減できる可能性を高めることができます。

    Q4 避難したところで、弾道ミサイルが直撃したら何をやっても無意味では?
    A4 弾道ミサイルによる被害の程度は、その威力などによりさまざまであり一概には言えませんが、地下への避難などの適切な避難行動をとることで、避難行動をとらない場合と比べて被害を軽減できる可能性を高めることができます。

    3. 最近の暴排条例による勧告事例ほか

    (1) 沖縄県暴排条例に基づく逮捕事例

    沖縄県警は、沖縄県暴排条例で禁止された区域内で暴力団事務所を開設・運営したとして、旭流会幹部や暴力団構成員の男計9人を同条例違反(事務所の開設及び運営の禁止)の疑いで逮捕しています。報道によると、本事務所の外形上は居酒屋の看板が掲げられているものの営業実態はなく、沖縄県警が数年にわたり内偵捜査を実施、約10年前から出入りがあったとみているようです。幹部らは「事務所ではなく、飲食する場所」などと容疑を否認しており、今後の捜査が待たれます。なお沖縄県暴排条例が2011年に施行されて以降、条例適用での逮捕者は初めてだということです。

    全国の暴排条例でも学校の周囲200メートル以内などへの暴力団事務所の新設を禁じる規定がみられ、違反の場合は罰則が設けられています。沖縄県暴排条例においても、第3章(青少年の健全な育成を図るための措置)第11条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止)で、「暴力団事務所は、次に掲げる施設の敷地の周囲200メートルの区域内においては、これを開設し、又は運営してはならない」との規定があり、具体的に、(1)学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校(大学を除く)又は同法第124条に規定する専修学校(高等課程を置くものに限る)、(2)児童福祉法(昭和22年法律第164号)第7条第1項に規定する児童福祉施設又は同法第12条第1項に規定する児童相談所、(3)図書館法(昭和25年法律第118号)第2条第1項に規定する図書館、(4)博物館法(昭和26年法律第285号)第2条第1項に規定する博物館又は同法第29条に規定する博物館に相当する施設として指定されたもの、(5)社会教育法(昭和24年法律第207号)第20条に規定する公民館を対象施設として定めています。さらに、第9章(罰則)第22条において、「第11条の規定に違反して暴力団事務所を開設し、又は運営した者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」との罰則規定が設けられています。

    ▼ 沖縄県暴力団排除条例
    (2) 暴力団対策法に基づく中止命令の発出(千葉県)

    暴力団の事務所の近くを歩いていた女性を「ナンパ」しようとしたとして、千葉県警が指定暴力団稲川会傘下の組員3人に対し、暴力団対策法に基づく中止命令を出したということです。報道によれば、組事務所の近くで20代の女性の腕を引っ張り、「電話番号を教えろ。今から言う番号にかけてくれ」などと要求。立ちふさがったりにらみつけたりして電話をかけさせ、女性の電話番号を入手したということです。暴力団対策法上の事務所周辺での乱暴な言動で市民に不安を感じさせることを禁じた規定に基づくもので、ナンパへの中止命令は全国初とのことです。

    暴力団対策法では、第11条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定され中止命令を出すことができるほか、第2項では、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をした場合において、当該指定暴力団員が更に反復して当該暴力的要求行為と類似の暴力的要求行為をするおそれがあると認めるときは、当該指定暴力団員に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、暴力的要求行為が行われることを防止するために必要な事項を命ずることができる」として再発防止命令を出すこともできるようになっています。

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