暴排トピックス

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

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1. 地面師問題から学ぶべきこと

地主になりすまして架空の土地取引を持ちかけて多額の代金をだまし取る「地面師」グループが摘発されました。今回の事例では直接は認められていませんが、暴力団の関与が疑われる事例も少なくありません。地面師グループの代表的な手口といえば、例えば、割安な価格で土地取引を持ちかけて契約を急がせる、地主になりすました者や善意の弁護士等が登場する、精巧に偽造された旅券や印鑑証明、不動産登記等が使われるなどが代表的です。さらに、それを支える犯罪インフラである「道具屋」の仕事が虚構の話にリアリティを加えることになる点も特徴的です。一方で、今回の事例では、積水ハウス側の対応の杜撰さが際立つ形となりました。地主役の本人確認の際に干支や誕生日が不正確だった、代金支払いの前日、所有者役に土地権利証の提示を求めた際、「内縁の夫」とけんかしているとのウソで断られた(にもかかわらず、権利証を確認しないまま全額を支払った)、杜撰な計画については他の不動産会社は軒並み見抜いており、五反田界隈の土地には気をつけろという話は不動産会社の間では有名な話だった、仲介業者として節税目的のペーパー会社の起用を提案された、本来の土地所有者から警告を受けた・・・など、不審な点が多数ありながら「何ら疑いを差し挟まないまま契約を急いだ」といいます。このように、地面師の問題は、対面取引であっても本人確認の実効性については「脆さ」「危うさ」が必ずあることを痛感させられます。例えば、一般的には、名刺交換した際、その情報を何ら疑わないものですが、犯罪者がその「思い込み」につけ込む事例も少なくなく、名刺情報すら疑うことが本来のリスクセンスなのだと思います(例えば、読み方が一緒で別の漢字を一文字充てるだけで別人扱いで、DBスクリーニングや風評チェックからすり抜けることが可能となります)。しかしながら、本件の場合、それ以前の問題で、干支や誕生日が不正確なのに本人と信じるようなリスクセンスが麻痺した状態であり、これでは犯罪者の思うツボだったと言えます。そして、そのリスクセンスの麻痺、冷静かつ合理的な判断を曇らせたのは、トップの関与のもと組織全体で取引を急がせたことによる、ガバナンス、内部統制の問題にあることを指摘しておきたいと思います。
さて、本件について、あらためて同社のリリースから問題のポイントを整理しておきたいと思います。

▼積水ハウス 分譲マンション用地の取引事故に関する経緯概要等のご報告

本リリースによれば、本件について、「売買契約締結後、本件不動産の取引に関連した複数のリスク情報が、当社の複数の部署に、訪問、電話、文書通知等の形で届くようになりましたが、当社の関係部署は、これらのリスク情報を取引妨害の嫌がらせの類であると判断していました。そのため、本件不動産の所有権移転登記を完全に履行することによって、これらが鎮静化することもあるだろうと考え、6月1日に残代金支払いを実施し、所有権移転登記申請手続を進めましたが、6月9日に、登記申請却下の通知が届き、A氏の詐称が判明」したということです。そして、その原因として、「担当部署は、直ちに購入に動き出しましたが、A氏のパスポートや公正証書等による書面での本人確認を過度に信頼し切って、調査が不十分な状況で契約を進めて」しまったこと、「マンション事業本部が一線を画し、リスク感覚を発揮すべきところ、その役割が果たされませんでした。さらに、本社のリスク管理部門においても、ほとんど牽制機能が果たせなかった」ことなどが挙げられています。なお、「本社から地面師詐欺を意識した特別な対応を要求することは非常に困難です」という指摘は興味深く(巧妙な手口を見抜くことは確かに難しいと言えます)、とはいえ、他の不動産会社は見抜いて断っている中、同社だけが見抜けなかっただけと解するべきであり、同社のガバナンス・内部統制上の問題として捉えることが必要となります。報告書の「本件不動産の取引内容を勘案すれば、審査期間の確保とリスクの洗い出しを指摘すべき」という部分は、管理部門としての防衛線のあるべき姿であり、他の事業者においてもこのようなチェック態勢が構築できるかがポイントになるものと思います。さらに、複数寄せられたリスク情報(端緒)への対応についても厳しく自省しており、「これらのリスク情報を取引妨害の類と判断し、十分な情報共有も行われませんでした。その結果、本社からの牽制機能が働かず、現場は契約の履行に邁進することとなりました。個々のリスク情報を一歩引いた目線で分析すれば、本人確認に対する考え方も違っていた可能性は高く、リスク情報の分析と共有を現場と本社関係部署が一体となって実施する必要があったのではないかと考えます」という部分は大変示唆に富むものです。「そもそもなぜ「取引妨害の類」と安易に思い込んでしまったのか」こそが、同社の対応を考えるうえでの「肝」のように思われますが、報告書では特段の言及はありません(筆者は、個人的には、おそらく、取引を進めたい、早く進めないといけないという「思い込み」=「バイアス」が強くかかっていたためではないかと推測しています。さらに、そのバイアスがなぜかかったのかがこの問題の本質となりますが、それは「上層部からのプレッシャー」だったのだろうと推測しています)。この管理部門の問題については、金融庁のAML/CFTに関するガイドラインでも言及されていた「3線管理」(現場部門・管理部門・内部監査部門のそれぞれで防衛線を講じること)と同様のフレームワークで説明できると思いますが、とりわけ第2の防衛線である「管理部門」が現場部門に引きずられることなく、「冷めた冷静な目」で案件に向かうことが極めて重要であることに気付かされます。

なお、「本件を防げなかった直接の原因は、管轄部署が本件不動産の所有者に関して書面での本人確認に頼ったことにあります。ただ、司法書士も本物と信じたという偽造パスポートや公正証書等の真正な書類が含まれていたという地面師側の巧妙さもあり、また、売買契約締結時には所有権移転請求権の仮登記も実現しているといった事情もあって、初期段階で地面師詐欺を見破ることには、困難な点もありました」という調査委員会のコメントからも、地面師の巧妙さが分かりますが、やはり、最も重要なポイントは、「いい話だから早く手続きを進めたい」という点にあるのではないかと思われます。そもそも「地面師」の問題は、登記上の手続きにおいて偽造書類等を使って土地が勝手に転売される詐欺犯罪という意味で、登記手続きの脆弱性、あるいは、司法書士や弁護士などがその専門性(肩書き)を悪用する(される)「専門家リスク」などがその根底にあります。また、「いい土地を早く押さえたい」と考える買い手側の弱みを上手く突いてくる手口の巧妙さが犯罪の成功率を高めているという側面もあります。確かに、未然にリスクを察知するのが困難なほど用意周到に準備されており、プロでも騙されてしまうというのが実情とはいえ、ただ、様々な地面師の案件の手口を追っていくと、やはりどこかに怪しさがあるものです(具体的には、所有者本人になかなか会えない、代理人が登場する、手続き等に通常と異なる部分があるなど)。だからこそ他の不動産会社は見抜いて手を引いたのです。本件は、そのような不動産会社ほど用心深くはなかった同社だから騙されたたわけで、他の事業者にとっての教訓としては、すべてを巧妙に偽造してくる地面師のような相手に対しては、現時点では、取引においては、相手の言うことを鵜呑みにせず、慎重に裏取りをしながら、また偽造でないことを確認しながら物事を進めていくくらいしか防止する手立てがありません(例えば、不動産の権利証は印鑑証明書のような透かしに偽造防止技術が施されていることはなく、一見して明らかなものを除いて偽造を見抜くのはまず無理だと言われています。また、登記識別情報であっても、パスワードさえわかればよいため盗品であることを見抜くことは不可能ということになります)が、それでもリスクセンスを最大限に発揮して臨むこと、リスクセンスが曇ることのないよう、内外の牽制がきちんと効くようなガバナンス・内部統制を構築しておくことが重要だと言えます。

2. 最近のトピックス

(1) 最近の暴力団情勢

「3つの山口組」を巡って、表向きは大規模な抗争もなく小康状態を保っているように見えますが、実は、水面下では激しい引き抜き合戦が行われているようです。六代目山口組ナンバー2で弘道会会長の高山清司若頭が1年後に社会復帰の予定であり、分裂騒動の終結を見越した組織固めの動きが顕著になっています。一度は俎上に上った任侠山口組を解散させ構成員を引き取る案などが不調になった結果、今は神戸山口組、任侠山口組に対する切り崩しが激しさを増している状況です。具体的には、任侠山口組から幹部・組員らが相次いで離反、同組最高幹部が解散届を提出、(神戸山口組寄りと見られていた)元中野会の大幹部が六代目山口組傘下である二代目竹中組に加入、任侠山口組から六代目山口組への移籍名簿が流出(その中に任侠山口組相談役の名前もあった)といった動きがあり、この「3すくみ」の状態がそろそろ崩れるのではないかとも考えられるところです。また、10月には、任侠山口組織田代表銃撃事件の現場近くでまたも発砲事件があるなど、いつ拳銃が暴発してもおかしくない状態が継続しており、些細な衝突をきっかけとして銃撃事件や大規模な抗争に発展する可能性も否定できません。いずれにせよ、「3つの山口組」の動向については、今後も注視していく必要があります。

さて、最近その動向に注目せざるをえないのが「半グレ」ですが、大阪府警が、「半グレ」の摘発を強化、少なくとも4団体のリーダー格を10月までに逮捕しています。なお、半グレについては、警察は「準暴力団」とカテゴライズしていますが、現在8団体指定されている一方で、4団体の名称が公表されているのみです。昨年の内部通達でその実態を徹底的に把握するよう指示が出ていますが、完全にその実態を把握できているわけではないと思われます。その中で、今回の大坂府警が摘発した4団体は、「軍団立石」、「米谷グループ」、「アウトセブン」、「アビス」だと報道されています。さて、これまでも本コラムで取り上げてきたとおり、半グレは暴力団との関係を強めており、みかじめ料の集金や特殊詐欺、実際の用心棒行為などこれまで暴力団が行ってきた活動を請け負っている実態があり、表立った活動が難しくなった暴力団が半グレを隠れみのにしているとの指摘もそのとおりだと思われます。報道(平成30年11月10日付毎日新聞)では、大阪府警が一部の団体を「準暴力団」と認定しているほか、中学生が所属する団体もあると報じています。また、半グレに詳しい元暴力団組員が、「締め付けが厳しい暴力団に代わり、半グレはみかじめ料の徴収や売春、特殊詐欺などのシノギ(稼ぎ)を拡大させている。摘発されても、名前やメンバーを変えて残り続けるだろう」と指摘していますが、そうなれば、行為自体は暴力団と同じであり、暴力団ほどの組織性がないことから暴力団対策法の適用範囲外とされていることの問題がクローズアップされることになります。一般の事業者においても、行為要件はともかく、属性要件だけで排除できるか(契約の解除が可能か)を考えた場合、「現行の暴排条項で半グレを排除できる立て付けになっているか」、「警察の情報提供の範囲に半グレが追加されていない以上、警察への照会も難しく、立証が著しく困難」といった課題があり、実務上はハードルが高いのが現状です。
なお、半グレあるいはその類に関する最近の報道では、以下のようなものもありました。

  • 警視庁は、偽造運転免許証で高級腕時計をだまし取ったなどとして、準暴力団「チャイニーズドラゴン」の関係者ら2人を逮捕しています。腕時計レンタルサイトから時価40万円相当のブルガリの腕時計をだまし取った疑いと、質店で偽造免許証を示して、この腕時計を30万円で売却したとしてということです。報道によれば、容疑者の関係先からは偽造運転免許証が10枚以上押収され、他人名義のクレジットカードを作りマンションを契約するなどしていたとみられています。
  • 仙台市青葉区国分町の客引きを束ねる「沖縄グループ」による宮城県迷惑防止条例違反事件で、同県警生活環境課などはグループ内の男に客引きさせたとして、同条例違反の疑いで、リーダーの飲食店経営者を再逮捕しています。容疑者は2013年に沖縄から国分町に来て客引きグループをつくり、最大30人を束ねていたということで、組織の背後に暴力団が存在するとみられており、グループ幹部の摘発を受けて金の流れを調べるということです。半グレと認定されているわけではありませんが、暴力団をバックにグループで違法行為を行う点は半グレに近いものがあります。

暴力団の資金源にもなっているとされる水産物の密漁を抑えるため、水産庁は、罰金を最高200万円から3,000万円に引き上げる漁業法を改正する方針で、政府が進める水産改革の一環として、開会中の臨時国会での法改正をめざすということです。密漁の対象になりやすいナマコなどを「特定水産動植物」に指定し、違法に捕ったり密漁品を譲り受けたりした場合の罰則を3年以下の懲役か3,000万円以下の罰金にすることが柱です。罰金を支払っても利益を得られる「取り得」を防ぎ、暴力団の資金源を断つのが狙いとされています。また、これまでは違反しても立件するには、販売目的で密漁していることを立証しなければならなかったものを、都道府県の許可なく取っただけで検挙できるようにすることや、ナマコは卸売市場を通さず、加工業者と直接取引されることが多く、密漁品が出回りやすいこともふまえ、密漁品を引き取る業者への罰則を新たに設けることなども盛り込まれています。スキューバダイビングで用いる潜水器具や高速艇を使用するなど、組織的で悪質な密漁が横行しており、特に中華料理の高級食材で知られるナマコは「海の黒いダイヤ」と呼ばれ、高額で取引されるため、密漁が後を絶たない現実がありますが、法改正により組織犯罪、暴力団の資金源への打撃となることを期待したいと思います。

暴力団員の離脱を後押ししようと、社会復帰に向けた雇用の受け皿作りが進んでいるとの報道がありました(平成30年11月10日付日本経済新聞)。警察当局などの支援で年間600人前後が組織から離脱しており、就職先が見つかれば、生活費が稼げずに再び組織に戻る元組員を減らせることにつながります。各地の警察当局や暴追センターから避難先の確保や組織との交渉などの支援を受け暴力団を離脱した人は、2017年までの5年間で計約2,900人に上るといい、受け入れ側となる警察などへの協賛企業はこの数年減少傾向にあるものの、2017年時点で、全国で約1,600社あるといいます。特に力を入れているのは特定危険指定暴力団工藤会の本拠地がある福岡県で、県内約300社の協力企業だけではなく、14都府県と連携協定を2016年に締結し、お互いに他県の協力企業への就労支援を進めており、現在は28都府県に広がっています。一方で、受け入れ先がまだ限定的で企業側の意識が追い付いていないという問題があります。本コラムでこれまでも指摘してきましたが、離脱者支援の取組みは、社会が受け入れる素地を醸成し、その気運を高めていくことが何より重要です。しかしながら、正直なところ、暴排に取り組む企業としては、これまで排除してきた者を急に迎え入れろと言われても・・・と困惑や違和感をもっているのではないかと推測されます。このような困惑や違和感を解消することが最も重要であり、雇い入れても社会的に問題とならないこと、雇い入れた離脱者が真に更生を目指していること、問題を起こさないこと、職場環境が適切に維持できること等の課題を解決する必要があるように思われます。(福岡県暴排条例の趣旨が正にそうですが)実現には困難が伴うかもしれませんが、真に更生する人間を何らかの形で保証する仕組みがあれば、より協力する事業主を確保できるようになるのではないか、暴力団離脱者の更生支援が機能していくようになるのではないかと個人的には感じています。

さて、国民の意識の問題に関連して、今年もハロウィンにあわせて、六代目山口組の総本部で子供たちにお菓子を配る光景が見られました。「子どもが楽しめると思って行っただけ」と菓子を受け取った母親のコメントを目にしましたが、正直、大変残念に思いました。以前の本コラム(暴排トピックス2018年2月号)でも取り上げましたが、昨年のハロウィンイベントを前に、兵庫県警から子どもを参加させないよう指導を求められた神戸市教育委員会が、「組員の子どもが差別される」などとして「知らない大人から物をもらわないように」と文言を和らげて伝えていたとのことで、「教育する側が人権擁護を重んじる一方で暴排の重要性を軽んじている状況」が見られました。また、同様に兵庫県神戸市の事例として、六代目山口組が例年12月28日に行う恒例行事の餅つきに、組関係者だけでなく複数の地元住民も餅をもらいに訪れていたことが分かっています。報道では、「餅をもらうことは悪いとは思っていない。私は被害を受けたことがないから」などと話す女性が紹介されていましたが、これもまた、今回のハロウィンでお菓子をもらった母親とまったく同じ感性であり、暴排意識を、継続的に、正しく醸成してこなかった自治体・教育委員会等のスタンスが招いたものだと言えるのではないかと思います(そして、この問題は、何も兵庫県に限ったことではなく、全国的に暴排意識の醸成、青少年育成への取り組みはこれからの課題だと認識する必要があります)。

以下、それ以外の最近の報道から、暴力団に関するものをいくつか紹介します。

  • 他人名義の海外専用のプリペイドカード36枚を不正に入手したとして、警視庁組織犯罪特別捜査隊は、犯罪収益移転防止法違反の疑いで、会社役員ら男3人を逮捕しています。カードは日本で入金し、海外で現地通貨を引き出すことに使われており、容疑者は東南アジアに頻繁に渡航していることもわかっています。容疑者らと暴力団関係者らとのつながりが確認されているといい、海外に潜伏している仲間に不正に現金を提供する目的があった可能性もあります。この大量の海外専用のプリペイドカードを使う手口は、テロリストに潜伏のための生活資金の提供を意図したテロ資金供与においてよくみられるものです。国内のPASMOなどの「無記名式」のものは特にマネロンやテロ資金供与に悪用されるリスクの高い手段と認識する必要があります。
  • 神奈川県警は、すでに逮捕されている指定暴力団稲川会幹部らと共謀してマンションの賃借権を不正に取得したとして、会社員の男を逮捕しています。新宿区内の不動産会社に対して、同幹部が居住するにもかかわらず、自身が住むと偽り、容疑者が代表取締役を務めていた会社名義で、中央区内のマンションの一室を不正に借りたというものです。正に、この会社員や会社は、暴力団の活動を助長する悪質な存在であり、暴排のために私たちができることは、このような悪質な事業者と取引しないことだと言えます。暴力団等反社会的勢力と直接取引をしないことは当然のことですが、彼らに連なる悪質な事業者も反社会的勢力として排除してくべきであって、それをKYCC(Know Your Customer’s Customer)の視点からその関係を見抜いて、そもそも取引をしないというスタンスを持つ必要があります。
  • 暴力団組長(指定暴力団山口組淡海一家総長)に刑務所収監を逃れさせるため、検察庁に虚偽の回答書を提出したとして、虚偽診断書作成・同行使の罪に問われた康生会・武田病院元勤務医の医師の男性(63)の第6回公判があり、被告は組長側からの働き掛けや虚偽の診断は「全くない」と述べ、診断は適切だったと主張しています。組長側からの不当な働き掛けなどはなかったとし、「回答書にはAED(自動体外式除細動器)の設置など緊急時の対応が可能であれば収監できると書いた」と述べ、組長の収監は検察庁の判断で行えたとの見解を示しています。この問題は、以前も本コラムで取り上げましたが、医師という「専門家リスク」の際たるものといえ、有罪に持ち込めるのか大変興味深い事案となっています。
  • フリーマーケットアプリ大手のメルカリは、メルカリアプリの利用者の商品販売後の売上金が一時的に失効するトラブルが発生していることを明らかにしています。メルカリは反社会的勢力によるアプリ利用を防ぐなどの目的から本人確認を強化しており、提出された書類の審査に時間がかかったのが原因だとしています。数十万円が失効したケースもあったものの、本人確認完了後にメルカリが補填したとのことです。この本人確認強化の取組みにおいては確認書類の提出を求めることもあり、一部で確認審査に3カ月以上かかったケースもあったようです。AML/CFTや反社リスク管理の徹底で取引可否判断にこれだけ時間がかかるケースはあまり聞いたことがありませんが、確認手続きの厳格な履行と手続きの効率性のバランスが一時的に崩れたものではないかと推測されます。このようなトラブルで批判を浴びようとも、厳格な顧客管理のスタンスは決して崩して欲しくないと思います。
  • シェアハウスを巡る不正融資が発覚したスルガ銀行を巡り、神奈川県は、同行の横浜支店に同県財務規則に基づく臨時の立ち入り検査を行いました。同行は県の指定代理金融機関で、県は公金の収納業務が適正かを調べるため実施したとしていうことです。報道によれば、県が7月に実施した定期検査では問題は確認されなかったものの、一連の問題の発覚を受けて、9月に公金を厳正に取り扱う観点から、業務改善の取り組み状況を報告するよう同行に文書で求めていたものです。県議会決算特別委員会でもスルガ銀に関する質問があり、県が「臨時の検査を行い、公金事務が適切か把握したい」と答弁したことを受けての検査となります。「7月の定期検査では問題が確認されなかった」点が気になるところであり、不正は摘発型の検査でない限りはなかなか見つける(見抜く)ことが難しいことをあらためて感じさせられます。

(2) AML/CFTを巡る動向

これまでも紹介してきたとおり、金融機関がAML/CFT(アンチ・マネー・ローンダリング/テロ資金供与対策)の取組みを強化しています。例えば、複数の問題事例もあった海外送金については、地方銀行の約6割が出所の確認が難しい現金での海外送金を原則やめたほか、海外送金を扱う店舗を絞る動きなども出てきています。あるいは、海外送金のリスクに応じた対応として、よりきめ細かく、送金の詳しい目的を尋ねたり、(ペーパーカンパニーを見抜けず問題となった事案があったことから)実態の裏打ちがあるかを確かめたりする作業も強化されています。来秋に予定されるFATF(金融作業部会)の対日第4次審査を控え、「マネロンに甘い国」という汚名返上に官民挙げて取り組んでいることは評価できるところです。また、報道(平成30年10月22日付日本経済新聞)によれば、日本経済新聞が地方銀行64行に聞き取り調査を行った結果、店舗窓口に現金を持ち込む利用者からの海外送金を原則停止(予定も含む)したのは、長野県の八十二銀行や山口銀行など42行に上っています。送金取扱量が多い大手のほか、海外送金の需要が多くない地銀も今年度に入って取り扱いをやめており、現金による送金をやめたきらぼし銀行は、直前に現金を口座に入れて現金でないように装ってもストップがかかる仕組みを導入しているとのことです。また、海外送金を扱う店舗の絞り込みも加速しており、宮崎銀行は全店舗で海外送金業務を手がけていたものの、10月から出張所での業務をやめたほか、富山第一銀行も10月から全店の窓口での海外送金業務をやめて、インターネット経由の取引に集約、横浜銀行は10月に迅速な対策の策定を目的に、「マネロン等金融犯罪対策室」を新設しています。それ以外でも、本人確認の書類を増やしたり、100万円など上限を設けたりして現金での海外送金を受け付けている地銀も22行あったということです。また、別の報道では、東北の全27信用金庫が顧客口座を使った不正送金の防止策を強化したことが取り上げられていました。全国の金融機関で24時間365日いつでも送金できるサービスが始まったことを受け、夜間や休日を含め24時間体制で不正送金の恐れがある口座を凍結できるようにしたといいます。金融庁は地域金融機関にマネー・ローンダリングの監視強化を求めており、地域の信金が共同で対策に乗り出した事例となっています。
また、個々の金融機関だけでなく、全国銀行協会(全銀協)がAML/CFTのため、11月にも専門の対策室を設置、全国地方銀行協会(地銀協)などとも連携し、銀行間で情報共有できる体制を整備する、マネロンと疑われる取引を防ぐ対応策や、監視事例といった情報を集め、会員行が参照できる仕組みをつくるといったことを検討しているようです。
さらに、金融庁と業界団体との意見交換会において金融庁から以下の提起がなされています。

▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼共通事項

マネロン・テロ資金供与対策としては、「金融機関が自らのリスクを適時・適切に特定・評価し、リスクに見合った低減措置を講ずる「リスクベース・アプローチ」の手法を用いることが重要かつ不可欠である」こと、「FATF による対日相互審査等を来年に控え、マネロン・テロ資金供与対策の高度化が目下の課題であることは既に十分ご理解いただいていると思われる」こと、「リスクベース・アプローチの実施に当たっては、具体的にどのように態勢整備をしていくかという段階に移ってきており、FATF からのインタビューを受けるかもしれないと自分事として捉え、スピード感をもって態勢の高度化に取り組んでいただきたい。そのためにも具体的なノウハウについての情報共有が重要となってきているため、業界内外や当局との連携を密にして、来年のFATF 対日相互審査に備えていただきたい」ことが述べられています。とりわけ、「形式的・表面的な体制」整備から脱却し、「実効性ある態勢」作りを早急に行うべしという点は、問題事例が相次いで明るみになったこともふまえれば、当然のことと言えます。さらに、FATFのインタビューに絡めて「自分事として捉え」との指摘も、雛形をなぞる取り組みではなく、自立・自律的なリスクベース・アプローチに基づく態勢作りの根幹であり、あらためてその意味を強く認識すべきだと思います。なお、参考までに、AML/CFT以外では、金融庁主催による3回目の「金融業界横断的なサイバーセキュリティ演習」(Delta Wall Ⅲ)については、「これまでの演習においては、全業態共通のシナリオで実施してきたが、本年度は、業務特性を反映した業態毎のシナリオ」にて実施しており、このような新しい取り組みを通じて、やはり「実効性」を高める方向で金融庁が動いていることを感じさせます。さらには、「本演習では、事後評価に力点を置いており、金融機関が具体的な改善策やPDCA サイクルの取組みに繋げていただきたいと考えている。また、参加金融機関のみならず、業界全体のサイバーセキュリティ対策向上を促すため、演習結果は業界全体にもフィードバックする予定」という点も、新しい取り組みを通じて「実効性」を高めることにつながっています。また、「融資実行後の途上管理に関しては、多くの銀行において取組みが進んでいないことが明らかになった。一方、一部の銀行では、年齢などの顧客属性や取引状況に鑑み、収入が変動した可能性が高い顧客層の一部に対して、年収証明書の再取得を求める取組みを開始しており、こうした事例も参考に、対応を進めて頂きたい」との指摘もありましたが、これは、反社リスク管理における「中間管理(モニタリング)の適切な実施」にも通じる課題だと思われます。前回の本コラム(暴排トピックス2018年10月号)でも取り上げたスルガ銀行の業務停止命令においては、同行の中間管理の杜撰さ(反社会的勢力と認識しても与信枠の縮小や取引解消に向けて積極的に動かなかったこと)が明らかとなりました。さらに、SDGsについて、「企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成等による国民の厚生の増大を目指すという金融行政の究極的目標にも合致するもの。金融庁では今般、コーポレートガバナンス改革、金融機関による「共通価値の創造」の取組みの推進、金融経済教育、新興国との技術協力・人材交流、マネー・ローンダリングといったこれまでの当庁の様々な施策について、SDGs という新たな視点から整理・公表した」としています。

さて、AML/CFTを巡っては、海外の動向も概観しておきたいと思います。日本でも取組みの遅れが問題となっているところ、海外でも深刻な状況がうかがえます。例えば、EUは、加盟国の金融機関を通じたマネー・ローンダリング(マネロン)疑惑に頭を抱えている状況です。今年に入って北朝鮮やロシアなどに絡む疑惑が相次ぎ発覚したためであり、不正資金の隠蔽や組織犯罪への資金提供にも使われかねないマネロンへの対処は国際的な重要課題となっているところ、EUは信頼にかかわるとして対策に乗り出してはいるものの、有効策を打てるかは見通せない状況です。例えば9月には、デンマークの最大手ダンスケ銀行のエストニア支店を舞台に浮上したマネロン疑惑によりCEOが辞任する事態となりました。調査報告書によれば、2007~2015年の間、エストニア支店を通じて行われた国際送金は「2,000億ユーロ」(約26兆円)にも上り、「このうち相当部分が(不正を)疑われる」と指摘、居住実態のない「非居住者」15,000人の口座を調査対象とし、6,200人について不正が「疑われる」という驚くべき内容が報告されています。なお、資金の出所はロシアとエストニア国内が各23%で最大を占めたといいます。また、それ以外にも、エストニアとともにバルト三国の1つラトビアでは今年2月、大手ABLV銀行が北朝鮮の弾道ミサイル開発にかかわる団体と違法取引し、マネロンに関与したとして、米国の制裁を受けています。それにより同行は資金繰りが急速に悪化し、破綻に追い込まれました。さらに、直近でも、欧州中央銀行(ECB)が、マルタのピラトゥス銀行について、マネー・ローンダリングを行ったとして銀行免許を取り消す厳格な処分を行っています。ピラトゥス銀行を巡っては、アゼルバイジャンとマルタの高官への賄賂資金を取り扱ったと女性ジャーナリストが指摘していましたが、このジャーナリストは1年前、爆死しています(この問題については、以前の本コラムでも取り上げています)。
EU以外では、例えば北朝鮮絡みでは、米財務省が、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁決議に違反し、北朝鮮によるマネロンなどに関与したとして、シンガポールに拠点を置く2社と両社に連なるシンガポール人の男1人を米国独自の制裁対象に指定しています。さらに、米司法省もこの男をマネロンや北朝鮮との違法な取引に関わった疑いで指名手配しています。また、マレーシアの司法当局は、最大野党である統一マレー国民組織(UMNO)総裁のザヒド前副首相を、マネー・ローンダリングなど45件の罪で起訴しています。さらに、米のイランへの経済制裁に関連して、世界の銀行間決済システムを運営する国際銀行間通信協会(SWIFT)は、「特定のイランの銀行によるアクセスを停止した」との声明を出し、複数の同国銀行がSWIFTの決済システムから排除されたと明らかにしています。米の対イラン制裁との関連には触れていないものの、世界の金融システムの「安定性と統合性の利益を守るため」と説明しています。

(3) 特殊詐欺を巡る動向

まずは、例月通り、平成30年1月~9月の特殊詐欺の認知・検挙状況等についての警察庁からの公表資料を確認します。

▼警察庁 平成30年9月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

平成30年1月~9月の特殊詐欺全体の認知件数は11,965件(前年同期13,186件、前年同期比▲9.3%)、被害総額は209.7億円(244.6億円、▲14.3%)となり、認知件数・被害総額ともに減少傾向が継続・拡大しています。なお、検挙件数は3,619件となり、前年同期(3,000件)を20.6%上回るペースで摘発が進んでいます(検挙人員も1,910人と前年同期比+18.7%であり、摘発の精度が高まっていると言えます)。うち振り込め詐欺の認知件数は11,828件(12,977件、▲9.1%)、被害総額は204.0億円(231.2億円、▲11.8%)となっており、特殊詐欺全体の傾向に同じく、件数・被害額ともに減少傾向が継続・拡大していることが確認できます。また、類型別の被害状況をみると、オレオレ詐欺の認知件数は6,596件(5,849件、+12.8%)、被害総額は96.0億円(113.4億円、▲15.3%)と件数の増加傾向は続くもののその増加ペースはやや鈍化しており、被害額も減少傾向が続いています(つまり、1件あたりの被害単価の減少が顕著となっています)。また、架空請求詐欺の認知件数は3,582件(4,111件、▲12.9%)、被害総額は87.1億円(82.8億円、+5.2%)と件数の減少と被害額の増加傾向が継続しています(つまり、1件当たりの被害単価が増加していることになります)。さらに、融資保証金詐欺の認知件数は310件(448件、▲30.8%)、被害総額は4.6億円(5.4億円、▲14.8%)、還付金等詐欺の認知件数1,340件(2,569件、▲47.8%)、被害総額は16.3億円(29.4億円、▲44.6%)と、これらについては件数・被害額ともに大きく減少する傾向が継続しています。これまで猛威をふるってきた還付金等詐欺の件数・被害額が急激に減少する一方、それととって替わる形でオレオレ詐欺が急増している点(特殊詐欺全体でみれば件数が減少に転じた点は特筆すべき変化ではありますが、それでも高水準を維持している点)に注意が必要です。なお、それ以外の傾向としては、特殊詐欺全体の被害者については、男性24.7%、女性75.3%、60歳以上82.7%(70歳以上だけで67.3%)と、相変わらず全体的に女性および高齢者のセグメントにおいて被害者が圧倒的に多い傾向がみてとれます(さらに、その傾向に拍車がかかっている点にも注意が必要です)。また、犯罪インフラの検挙状況として、口座詐欺の検挙件数は916件(1,162件、▲21.2%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,759件(1,788件、▲1.6%)、検挙人員は504人(666人、▲24.3%)、携帯電話端末詐欺の検挙人員は201件(248件、▲19.0%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は30件(37件、▲18.9%)、検挙人員は31件(38件、▲18.4%)などとなっています。

さて、前回の本コラム(暴排トピックス2018年10月号)では、警視庁が摘発した特殊詐欺グループの「かけ子」の女が、アジト(犯行拠点)から遠く離れた自宅から犯行に及んでいた、「在宅勤務型」の手法を紹介しました。この「在宅勤務」型ではアジトを構える必要がないことも含め、実態解明が困難となり、警察の摘発から逃れられやすくなるメリットがあります。また、警察庁の「平成30年上半期における特殊詐欺認知・検挙状況等」によれば、少年の検挙人員が特殊詐欺全体の検挙人員の約3割を占めて増加傾向にあり、その約7割が受け子であって、検挙された受け子全体の約4割を占めるという統計結果が示されています。つまり、特殊詐欺グループは、少年を「道具」として扱っており、高額な報酬を示し、規範意識の低さにつけ込み、警察に捕まる可能性の高い受け子をさせている実態がうかがえます。さらには、最近は高齢者や外国人が摘発されるケースが多発しており、彼らもまた特殊詐欺グループの使い捨ての「道具」とされている実態があります(報道によれば、昨年は外国人の摘発が5年前の3倍に増えたほか、65歳以上も2倍に増えたといいます。多くは弁護士などを装って現金を受け取る「受け子」の役割を担っているようです)。このように、特殊詐欺グループはその手法について、摘発を逃れるべく、時代とともに巧妙に工夫を重ねて高度化させている実態があります。その過程で、当局の摘発強化で人材不足に悩む特殊詐欺グループが、「若者」「高齢者」「外国人」「生活困窮者」などを「新たな道具」として巧みに取り込んでいるのであり、それはまた、生活保護受給者や路上生活者などが口座の不正売買や向精神薬の不正入手など犯罪インフラに組み込まれる構図と重なるものがあります。攻撃サイドが圧倒的な優位に立つ中、たとえどんなに摘発を強化しても、それへの対応として、「新たな道具」を投入して摘発を逃れようとする「いたちごっこ」の構図があり、それによって、「犯罪を再生産する構図が社会に内包されている」事実に気付かされます。暴力団離脱者支援や特殊詐欺による被害防止を考えるとき、そこには社会に上手く適合できていない人たちが供給源となり、「犯罪の再生産」に深くかかわっている事実を直視し、より根本的な解決のために、私たちも当事者意識を持ちながら、「社会的包摂」のあり方を真剣に考えなければならないと思います。もう少し具体的に考えてみると、例えば、特殊詐欺の地域性をみると、首都圏の被害率が高い一方、同じ大都市圏でも大阪の被害率は低いことが知られています。その要因として考えられるものとして、騙す側が関西弁に対応しにくいことであるとか、親子関係が親密であることなどが指摘されています。さらには、高齢者が騙されやすい背景に親子関係や近所付きあいの希薄さも指摘されているところ、結局は、日ごろから親子や近隣のコミュニケーションを密にしておくことが、誰にでもできて、かつ効果の高い防衛策であり、それが正に社会への適合が難しい層(あえて言えば犯罪予備軍)を「社会的包摂」によって犯罪に手を染めさせない取り組みだと言えます(以前の本コラムでも指摘しましたが、ロンリーウルフ型のテロリストの思想を先鋭化させない方法として、地域のコミュニケーションの中に居場所を作ることが有効だとの考え方が海外では有力となっていることと同じ理屈です)。

もうひとつ、特殊詐欺対策においては、例えば、新たなサービスや商品が導入される時に、詐欺のリスクが最も高まるとの認識が極めて重要となります。詐欺はその手法が知られていないほど効果を発揮できるからです(その害悪が社会的に大きくなりはじめてから、事業者も国も対策強化に乗り出す流れとなります)。そして、被害に気付いて詐欺対策のためにシステムや手続き等を強化すれば、今度は利便性が損なわれることになり、それは顧客の離脱に直結していきます。つまり、詐欺対策における取組みの厳格さと利便性のバランスを保つ努力が事業者には求められることになります。そして、やはり、攻撃する側が圧倒的に優位にあり、その手法をどんどん高度化・洗練化させている以上、顧客の利便性や自らの儲けばかり考えていては、詐欺等のリスクへの対応に遅れ(厳格さと利便性のバランスを損ない)、社会的に存在していくことすら覚束なくなるのです。

さて、本コラムでも以前から注意喚起していますが、はがきによる不当請求詐欺が増えています。愛知県は、愛知県では、県民の消費生活の安定及び向上に関する条例第13条の4の規定に基づき、はがきで不当請求を行う悪質な事業者として、事業者名「地方裁判所 管理局」を公表しています。

▼愛知県 「不当請求」に注意!~悪質な事業者名の公表~(第3報)

愛知県では、平成29年度に引き続き、今年度も、はがきによる不当請求に関する相談が多数寄せられており、6月29日には「法務省管轄支局 民間訴訟通達センター」を、7月26日には「法務省管轄支局 訴訟最終告知通達センター」を、不当請求を行う悪質な事業者として公表しており、10月からは「地方裁判所管理局」の名称により、不当請求を行う事業者に関する相談が急増していることから今回が3例目となる公表に踏み切ったものです。なお、報道によれば、県への相談は県内で昨年度、約6,100件寄せられており、今年度も10月までに約4,600件に上っているということです。さらに、10月に入り、「地方裁判所管理局」に関する相談が50件を超えたということです。なお、こうした手口が増えている背景について、グループが自ら電話をかけるより、捕まるリスクが低いと思っているのではないかとの指摘があります。これまでは、電話役の複数の「かけ子」がマンションなどの一室に集って、多数の電話回線から手当たり次第に電話をかけるケースが多く、電話の履歴をたどる捜査で逮捕に至る例も多かったといいます。しかし、はがきを送って電話を待つこの手口であれば回線は一つで足り、詐欺グループ内のメンバーも少なくて済むことから摘発されにくい可能性があるのはそのとおりかと思います。はがきによる特殊詐欺は古典的な手法であり何度がブームとなっていますが、一方で、摘発逃れの観点からはいまだ有効であることから爆発的に拡がっているとも言えます。なお、当然のことながら、連絡すると、個人情報や金銭の支払いを要求されるので、心当たりのない請求は無視することが重要です。

それ以外の最近の特殊詐欺の手口について、報道からいくつか紹介します。

  • 警視庁小岩署は、70歳代の女性が親族を装う男らから「ブドウを送る」との電話を受けた後、現金500万円をだまし取られたと発表しています。「果物を送る」とする電話は、今年になって首都圏で相次ぐオレオレ詐欺の手口で警視庁などが注意を呼びかけています。小岩署管内では今年4月以降、親族などを装った「フルーツを送る」との不審な電話が7件確認されており、都内でも同様の電話が多数かけられているようです。
  • 特殊詐欺の被害金が入ったゆうパックを配達せずに受け取り、だまし取ったとして、詐欺と詐欺未遂の罪に問われた裁判で、名古屋地裁は、「特殊詐欺の被害者に現金をゆうパックで送らせて回収した組織的かつ職業的で悪質な犯行。不可欠で重要な役割を果たし、責任は重い」として有罪判決を下しています。
  • 中国に渡って日本に特殊詐欺の電話をかける「かけ子」を務めたとして、奈良県警は、無職の女(58)を詐欺容疑で逮捕しています。前述のとおり、摘発を逃れるためにアジトを転々とする「移動型」、さらには「在宅勤務型」が登場していますが、新たに国外の「かけ子」が逮捕されたことは大変珍しく、捜査が及びにくい中国を拠点に活動していたとみられます。報道によれば、当時、中国吉林省延吉市に1カ月弱滞在し、インターネット電話「スカイプ」で日本への電話を繰り返しており、現地の元飲食店にアジトを構え、他にも日本人や中国人計5人前後の仲間がいたとみられるということです。なお、詐欺事件で逮捕された仲間の捜査から同容疑者が浮上しています。
  • 佐賀県警佐賀南署は、佐賀市の50歳代の女性が約1,600万円の特殊詐欺被害に遭ったと発表しています。報道によれば、メールで指示されるまま400回以上、電子ギフト券を購入させられていたというから驚きです。この女性の携帯電話に「1億円当選おめでとうございます。連絡をお願いします」と書かれたメールが届き、女性がお金を受け取ろうと返信すると、「税金がかかるのを防ぐため、電子ギフト券を購入してほしい」というメールが来たため、指示されるまま券を購入、券に書かれた番号を撮影し、送信、そのたびに同じ指示が続き、女性は、コンビニ店で計415回にわたり3,000~5万円の券456枚を購入したといいます。当然ながら電子マネーは全てなくなっており、約1,612万円をだまし取られることとなりました。この女性がどのような心理状態だったのか分かりませんが、1億円が手に入るとの強い思い込みが「確証バイアス」となって、犯人の指示も(バイアスで脳内変換されて)真実に聞こえてしまっていたのではないかと推測されます。このようなバイアスから逃れるためには、「人はバイアスがかかるものであること」を強く認識し、努めて客観的に状況把握に努めるか、第三者の意見を聞いてみるといった行動を常に心がけるしかないと思われます(ただし、既に強くバイアスが無自覚にかかっていれば、他人の厳しい意見も「自分には関係ない」となってしまう怖さもあります)。
  • 前述したとおり、特殊詐欺グループは「若者」を「道具」として使っている実態がありますが、金融庁職員などをかたって高齢者からキャッシュカードを盗んだとして、大阪府警都島署は、窃盗容疑で大阪府内の男子高校生(17)を逮捕しています。報道によれば、仲間らと共謀し、大阪市都島区の80代の女性方に金融庁職員などを装い、「(詐欺容疑で捕まえた)犯人の名簿の中にあなたの名前があり、口座から現金が下ろされている」などと電話、「キャッシュカードの暗証番号を教えてもらえれば、銀行に止めてもらう」などと偽り、キャッシュカード3枚を盗んだというもので、この高校生はカードの「受け子」として金融庁職員を装って女性方を訪れ、事前に準備していたプリペイドカード入りの封筒とすり替え、キャッシュカードを盗んだということです。このような事件への若者の関与については、特殊詐欺事件の逮捕者の半数以上が詐欺グループ内で約束された報酬を得ていないことが神奈川県警の調査で分かったとの報道もあり、報酬がなく、逮捕されるリスクも高く、割に合わない実態が明らかになっています。つまり、若者の特殊詐欺への関与を断ち切るためには、いくら先輩の誘いであっても、報酬ももらえず人生をダメにしてしまうなど「まったく割に合わない」のが実態であることを、もっと広く、徹底的に浸透させることが有効なのではないかと考えます。
  • 特殊詐欺事件で宅配便の中身を詐取金だと知らなかった可能性が認められ、2審で無罪となった「受け子」役の男性被告について、最高裁で詐欺罪が認定される可能性が出てきています。最高裁第3小法廷が上告審弁論を開いたためで、特殊詐欺の被害者が宅配便で送った現金を、マンションの空き部屋などで受け取る「受け子」を詐欺罪に問うには、「箱の中身」の認識がどこまで必要なのかがポイントとなります。捜査する側からすれば「有罪となれば捜査にとって追い風になる」と期待しているものと思われますが、その反面、本当に事情を知らない人も罪に問われるリスクもあり、より慎重な認定が必要との指摘もあるところです。直近でも、バイク便業者を装った特殊詐欺の「受け子」として詐欺未遂の罪に問われた無職男性に、東京地裁が無罪判決を出した例もあります。判決では、男性が昨年10月にアルバイトに応募した際に不審な点が特になかったうえ、「150万円在中」と書かれた封筒を渡されて「現金は預かれない」と突き返した点を重視して、「詐欺の認識を推認できない」、「正当な集荷と思った可能性がある」と述べ、詐欺の認識を否定しています。事実がそうであれば妥当な判決と思われますが、この事例も含めて最高裁の判断が待たれます。

次に、特殊詐欺防止に向けた様々な取り組みについて、最近の報道からいくつか紹介します。

  • 特殊詐欺の被害を減らすため、ATMの振り込み制限を強化する動きが富山県内で広がっており、これまで、同県内に本拠を置く3地方銀行と7信用金庫は、「70歳以上」を振り込み制限の対象としていたところ、このうち2信用金庫は10月20日から「65歳以上」に引き下げ、11月から5信金も追随しています。報道によれば、70歳以上を対象とした対策をかいくぐり60代の高齢者に対して特殊詐欺の電話が増え、実際に被害も出ている状況があり、金融機関としても、(地域金融機関であれば特に高齢者へのCS(顧客満足)的な対応が重要となっている一方で)利便性や業務効率、CSの観点をある程度犠牲にしてまで、特殊詐欺の被害を減らす必要性に迫られている(社会的な要請が厳格さを増している)と認識したよい取り組みだと思います。
  • 東日本大震災の仮設住宅購入をかたる特殊詐欺事件を巡り、大阪地検が、だまし取られた現金3億4,200万円を被害者に返還する手続きを進めているとの報道がありました(平成30年10月19日付毎日新聞)。組織犯罪で奪われた財産を被害者に返す「被害回復給付金支給制度」に基づくもので、特殊詐欺事件としては過去最高額となります。
▼検察庁 被害回復給付金支給制度

検察庁のサイトでは、「組織犯罪処罰法の改正により、平成18年12月1日から、詐欺罪や高金利受領罪(出資法違反)といった財産犯等の犯罪行為により犯人が得た財産(犯罪被害財産)は、その犯罪が組織的に行われた場合やいわゆるマネー・ローンダリングが行われた場合には、刑事裁判により犯人からはく奪(没収・追徴)することができるようになりました。このようにして犯人からはく奪した「犯罪被害財産」を金銭化して「給付資金」として保管し、そこからその事件により被害を受けた方に給付金を支給する制度が「被害回復給付金支給制度」です」との説明がなされています。本制度については、過去の本コラム(暴排トピックス2018年6月号)でも取り上げており、直近では、福岡県行橋市発注の工事を受注し、工藤会への地元対策費(みかじめ料)として8,000万円を脅し取られたゼネコンに対し、国が被害回復給付金支給制度に基づき約400万円を給付した事例を紹介しています(本件については、最近、福岡地検が、ゼネコン以外の被害者に対し、被害回復給付金支給制度に基づき約400万円を給付することを決め、公告していますが、名乗り出なかった場合は国庫に入るようです)。なお、本件については、「暴力団のみかじめ料被害者に適用されるのは異例のこととなります。一方で、ゼネンコンが地元対策費を支払うケースはいまだにあると聞きます。脅し取られたというより、「慣例にしたがって」「トラブルを避けるため」という具合に、相手が暴力団関係者だと知って利益供与を行ったと言われても仕方ない状況のものも数多くあるものと推測されます。そのようなケースでない場合にこのような給付金が支給されるべきであり、今後は、みかじめ料被害はもちろん、特殊詐欺事案を中心にもっと活用されるべきだと思います」と指摘していましたが、今回の事例では、正に特殊詐欺被害の回復に資することになります。逮捕者の関係先から詐取金約3億円が見つかったことから手続きを行うものですが、裁判での認定者数を大幅に上回る被害者が名乗り出ているということで注意も必要かもしれません(泣き寝入りしていた方が多いということだと思いますが、受給権利があるか厳格に確認する必要性も感じます)。

  • 対策が追いつかない特殊詐欺被害に対して、警察当局が強力な防止効果を見込みつつ、推奨できない「特効薬」として、高齢者家庭の通信手段を固定電話から携帯電話のみに切り替えてもらう方法があるとの指摘があります。とはいえ、報道(平成30年10月29日付産経新聞)によると、神奈川県警の担当者が「犯人は固定電話にしかかけない。被害は確実に減る」と自信を示す一方で、「民間通信企業の業務や営利に関わることを(警察が)すすめるわけにはいかない」との指摘もあり、そのジレンマに悩まされているといいます。しかしながら、特殊詐欺被害の害悪とその抑止効果を考えれば、あくまで高齢者自身が決断することではあるものの、ひとつの選択肢として提示することはしてもよいのではないかと思われます。
  • 高齢者を電話でATMに誘い出し、振り込み操作を指示する還付金詐欺の被害を防ぐため、金融機関や警察が対策を進めているところ、装置が携帯電話の電波を確認するとATMの機能を強制的に停止させる仕組みなどAIの技術を活用した取り組みが進んでいます。他にも、ATMに内蔵したカメラを通じ、AIが利用者の容姿やしぐさを検知する新機能が開発されるなどしています。
  • 以前の本コラムでも取り上げましたが、高齢者の振り込め詐欺被害防止のため、東京都新宿区が10月に始めた個人情報の警察への提供が、対象者の半数が辞退するなど反発を招く事態となっています(正確には、65歳以上の区民約67,000人に対して最終的に全体の46%に当たる約31,000人が名簿提供を拒否したといいます。当然その中には「対策済」なので大丈夫という方もいると思いますが、それが過半だとは到底思えません)。同様の情報提供は他の区でも行われていますが、新宿区での反発を受け、平成19年度に始めた世田谷区でも見直しを検討しているとのことです。近年の個人情報保護への関心の高まりが背景とみられますが、これも「過剰反応」の一種ではないかと考えられます。やはり、高齢者が騙される割合の高さ、そして一度騙された方が何度も騙されてしまう危険性等を考慮すれば、何とかリスクの高い方に対して直接アプローチすることで、未然に被害を防止することにつながって欲しいものだと思います。

さて、消費者庁から、架空請求において「かたられている側の事業者」が消費者被害の拡大防止のために行っている取組についてという少し視点の異なる面白い情報が提供されていますので、紹介します。

▼消費者庁 架空請求において「かたられている側の事業者」が消費者被害の拡大防止のために行っている取組について

これは、「架空請求対策パッケージ」(平成30 年7 月22 日消費者政策会議決定)の一環として、架空請求における「かたられている事業者」であるアマゾンジャパン合同会社及びその関連会社(以下「アマゾン」)並びにヤフー株式会社の取組についてまとめたもので、例えば、「アマゾンの取組」としては、「Amazon.co.jp 内のヘルプトップページに、消費者に対し注意を促すメッセージを表示」、「Amazon.co.jp において商品の購入等に利用できるギフト券の販売方法を説明したウェブサイトにおいて、トップページにおけるバナー広告や特設ページを通じてギフト券詐欺に対する注意喚起を実施」、「カスタマーサービスにおいて、消費者からの問合せに対して、受信したSMSはアマゾンからのメッセージではないとして、記載の電話番号に連絡しない旨を案内」、「ギフト券の裏面に、詐欺業者の可能性を示唆する警告文を記載」、「コンビニエンスストアのキオスク端末(マルチコピー機)の画面でギフト券を購入する際、詐欺業者の可能性を示唆する警告文を表示」、「コンビニエンスストア大手3社の協力を得て、全国の販売店舗において、バリアブルカードのギフト券を販売するフックにギフト券詐欺について注意喚起する警告文言(いわゆるPOP)を設置」といったものがありました。また、「ヤフー株式会社の取組」としては、「ヘルプセンターに消費者庁及び東京都の実施した注意喚起のウェブサイトへのリンクを掲載」、「ヘルプセンターに「利用した覚えのない利用料金の請求が来た」との項目を設け、架空請求を受けた際は「お金を払わない」、「連絡を取らない」などの説明や相談窓口へのリンクを掲載」、「Yahoo!メールヘルプに「迷惑メールが届いたときの対処方法」との項目を設け、迷惑メールを受信したときは「迷惑メールに返信しない」、「迷惑メール内に記載されているURLにアクセスしない」、「迷惑メールに添付されたファイルを開かない」といった説明等を掲載」、「セキュリティセンターに「当社をかたるフィッシングメール、不正メールにご注意ください。」との項目を設け、迷惑メールを含む不正メールを受信したときは「開かずに削除しましょう。」などの説明を掲載」、「Yahoo!ウォレットのお知らせページに「「ヤフー相談窓口」「Yahoo! JAPAN 相談窓口」をかたる架空請求メールにご注意ください」との注意喚起のお知らせを掲載」、「架空請求に関連したキーワードが検索された際に、「消費者ホットライン188」の案内ページを検索結果表示画面の上位に表示」といった取り組み事例が紹介されています。いずれも、消費者の行動にあわせて様々な警告が目に入るような仕組みになるよう工夫が施されていますが、逆にあまりに日常的になると、慣れから「目に入っても気づかない」あるいは「そもそも目に入らない」、「分かっているよと深く考えない」などの消費者心理・行動になることも考えられるところであり、(それはそれで)対策の実効性という意味では難しさがあるものと思います。

もうひとつ、国民生活センターが架空請求詐欺に関する注意喚起と対応方法について取り上げていますので、以下、紹介します。

▼国民生活センター 「利用した覚えのない請求(架空請求)」が横行しています

消費者へのアドバイスとして、まず「利用していなければ連絡しない」といて、「まったく根拠のない架空請求が横行している。これらは、何らかの名簿を入手した悪質事業者が、その名簿に基づき、アットランダムに根拠のない請求ハガキや電子メール等を大量に送ったものと思われる」、「請求ハガキや電子メール等には「自宅へ出向く」「勤務先を調査」「執行官の立会いの下、給与・動産・不動産の差し押さえ」「強制執行」「信用情報機関に登録」など不安をあおるような脅し文句が書いてあったり、実在する事業者をかたりコンテンツ利用料金等を請求される場合もある。請求ハガキ等を送り付けられた人の中には、自分が利用したかもしれないと思い、請求ハガキ等に書かれている電話番号に連絡してしまい、悪質事業者とのやり取りの中で支払うことになってしまったケースもある」、「さらに、「消費料金に関する訴訟最終告知」等の請求内容がよくわからないハガキ等が送られてくる場合もある。ハガキ等に書かれている電話番号に連絡をしないと、訴訟や差し押さえ等を執行すると書かれており、実際に連絡をすると、訴訟の取り下げ費用等と称して料金を請求されている」として、こういった架空請求等に対しては、請求ハガキ等に書いてある電話番号等には決して連絡しないようにと注意喚起しています。さらに、「最寄りの消費生活センターへ相談する」ことも重要で、「架空請求か判断がつかなかったり、不安を持ったりした場合には、相手に連絡せず、また料金を支払う前に、まず消費生活センターに相談を」、「「裁判所からの支払督促」や「少額訴訟の呼出状」と思われる場合は、書類の真偽の判断はむずかしいので、放置せず、すぐに消費生活センターに相談することが重要。裁判所の管轄地域・連絡先については、裁判所のホームページ内各地の裁判所でも確認することができる」とアドバイスがあり参考になります。また、「これ以上、電話番号などの個人的な情報は知らせない」という点も重要なアドバイスです。「郵送の場合は、請求ハガキ等が実際に届いているので、悪質事業者は名前と住所は知っていることになる。また、電子メールやSMSの場合では悪質事業者はメールアドレスや電話番号を知っていることになる。新たに、個人的な情報を知られてしまうと、今度は別の手段で請求してくることが予想される。個人的な情報を知られないように」との指摘は正にそのとおりかと思います。そのうえで「今後何らかのアクションが悪質事業者からあるかも知れないので、請求ハガキ、封書、電子メール等は保管しておく方がよい」、「根拠のない悪質な取り立ての場合は、警察に届けておく」というのもその通りだと思います。

▼ 国民生活センター 「法務省管轄支局 国民訴訟通達センター」からの封書による架空請求は無視してください!

最近のはがきを使った不正請求の手口について、「架空請求の封書(書面)やハガキに記載されている機関の名称は、法務省の名称を不正に使用したり、消費生活センターや国民生活センターを装ったりするなど様々。連絡をすると消費者にお金を支払わせようとしたり消費者から個人情報を得ようとしたりするので、このような封書(書面)は無視すること」とアドバイスしています。また、「法務省管轄支局」と名乗っているが、法務省とは一切関係ない。法務省の名称を不正に使用していること、「書面での通達となりますのでプライバシー保護の為、ご本人様からご連絡いただきますようお願い申し上げます」と記載されており、封書で書面により通知していることを強調している。しかし、正式な裁判手続では、訴状は、「特別送達」と記載された、裁判所の名前入りの封書で直接手渡すことが原則となっており、郵便受けに投げ込まれることはない」といったことは知っていると安心できる知識ともなります。さらに、封書(書面)が届いても絶対に連絡を取らず、少しでも不安を感じたら、消費生活センター等(消費者ホットライン188(いやや))に相談すべきことはもはや言うまでもありません。なお、裁判所からの本当の通知かどうかを見分ける方法については法務省のホームページで紹介されていますので、一度ご確認いただきたいと思います。

▼法務省 督促手続・少額訴訟Q&A

(4) 仮想通貨を巡る動向

金融庁の「仮想通貨交換業等に関する研究会」での議論が続いていますが、公開されている議事録や資料は大変示唆に富む面白い内容です。以下、第6回の議事録と第7回の資料から何点かピックアップして紹介します。

▼金融庁 「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第6回)議事録
  • 仮想通貨の利用者保護というのはものすごく必要性があるのかというと、おそらく優先度は総体的には低い。おそらく仮想通貨を持たなくても、日常生活あるいは自分の人生設計に大きな障害があるというふうにはおそらく考えにくい。そういう観点からは、仮想通貨の利用者保護の優先度というのは、本来は低いという観点は成り立ち得るんじゃないかなとは思います。
  • 今起こっている現実のこのセキュリティに関するリスク、オペレーションリスクみたいなものというのはそういう伝統的な金融のリスク、金融機関のリスク管理のあり方みたいなものになじむのかどうかという問題というのは一つの別の大きな論点になるかなとは思います。
  • オペレーショナルリスク、ハッキングリスクにどう対応するかも強化する必要があって、これらについては、いずれにしても技術的な面、あるいはスピード感が非常に重要な分野ですので、法令で一つ一つ対応していくというよりは、自主規制との連携が必要であって、自主規制団体がその時々の業者が満たすべき一般的なスタンダードを逐次定めていくとか、その対応状況を各社ごとに公表していくとかいった工夫があり得るのではないかと思います。
  • 交換業者が不正流出への対処という合理的な理由に基づき取引停止を行っても、莫大な損害賠償責任を負う可能性があるならば、取引停止を決定することを躊躇するということにもなりかねない気がします。被害の拡大を防止するという観点からは、取引停止を速やかに行うことが望ましいので、こういったことも考えた上で、ルールを考えていく必要があると思います。
  • マネー・ローンダリングですとか、あるいは資産隠し等、仮想通貨の乱用、悪用を防止するという観点も重要な視点として必要かと思います。不適切な取引慣行や業態が広がっていきますと、不適切な事業者や主体に利益が蓄積され、不適切な事業者等を育てていくことになってしまうので、きちんとその防止を図っていくことは重要な視点ではないかと考えます。
  • 情報提供に関しては、リスク分担のあり方という観点からも検討が必要で、この点、基本的に情報提供ないし注意喚起が適切に利用者に対して行われなければ、リスクは利用者には移転しないという考え方を念頭に置く必要があると思います。
  • 仮想通貨の流出リスクについてですが、セキュリティ対策が求められるのは言わずもがなですが、むしろどこまで高度化しても流出リスクはゼロにならないということを所与とした上で、例えば賠償方針の策定・公表に加え、自主規制案にも盛り込まれているように、ホットウォレットで管理する仮想通貨に上限を定め、その上限額相当の賠償原資を確保する必要があるのではないかと思います。
  • 顧客財産の管理・保全についてなんですけれども、かねて、コインチェック事件以降、ずっと技術的安全管理措置について有志で勉強会を9カ月ぐらいやってまいりまして、ようやっと今日ドラフトの公表というのを行ったんですけれども、正直申しまして、現段階ではかなり技術としても確立していないと。例えばやはり秘密鍵の管理というのは非常に重要なわけですけれども、信頼できる機械というのはほとんど存在しないんですね。
  • 交換所がそういったインシデントに気がついても、即座に報告しないということを残念ながら想定せざるを得ない状況にあるんじゃないかと。だとすると、例えば仮想通貨の場合は、残高はブロックチェーン上で確認ができますので、きちっと、むしろ当局のほうがプロアクティブにモニタリングして、残高の異常な変化があったところに対してはきちっと見にいく。そういった、よくスーパーバイジングテクノロジー、Sup Techとか言われますけれども、仮想通貨のモニタリングにおいては、そういったSup Techの導入も必要となるんじゃないかと考えます。
  • 「匿名性が高い通貨」ということで、これらはどうしても犯罪行為かマネー・ローンダリングなどに使われることが多くなりますので、やはり取扱いは禁止の方向で考えた方がいいのではないかと思います。銀行等に対しましては、かなり厳しいマネー・ローンダリングの規制が課されておりますので、一方で、仮想通貨の業者には違法な使い方がされても、追跡ができないような通貨の取扱いを認めるというのは、公平性というか、イコール・フィッティングの原則からやや問題があるのではないかと考えます。
  • 利用者の側から見ますと、交換業者が新しい通貨の取扱いを始めるということは、当然交換業者がその通貨をさまざまな面から検討して、適切だという判断をして、取扱いを始めたんだというふうに信用すると思うんですけれども、実は裏で経済的な便益を受けたから取扱いを行ったというケースもあり得るということです。
  • 大手の仮想通貨業者は、預り資産の残高が大体地銀の下位行並みの規模になっています。そうすると、銀行として業を行おうとすると、今、最低、最低資本金は20億円ですか。それなのに、仮想通貨業者として数千億円を預かる場合は1,000万円でいいということで、非常にギャップが大き過ぎるのではないかなと考えております。
  • やっぱりわかってないリスクというものに関しては、あらゆる可能性を心配し始めて規制をするというのはこういう分野では必ずしもいい規制体系とも言えないという問題もあります。わかっているリスクに関しては皆さんおっしゃったように、非常に適切な規制というのをつくっていくということは大事なんですけれども、わかってないリスクにどう対応すればいいかという問題は、必ずしも自明な問題ではないんじゃないかなというふうには思います。
  • 本年1月の仮想通貨流出の事件以降も仮想通貨の流出は日本国内だけで起こっているわけではございませんで、世界各国で流出の事件というのは起こっているわけでございますが、まさにこれは愉快犯というよりは、むしろ国家的な動きも指摘されるほどの組織的サイバーテロに近いような状況というものが、特に日本をターゲットに行われている状況だというふうに認識をしております。
  • 実際、日本の業者は今狙われております。狙われておりますので、コインチェックの事案、また、テックビューロの事案について、何が実際に起こっているんだ、どこをターゲットされているんだというところをホットイシューとして、業者、協会としては正確に認識し、かつ、業者に対して、そこの穴を塞ぎに行く作業を、襟を正す意識を持って対応させたいわけでございます。
  • 流出を早期発見するのは当然のことでございますが、それを発見したときには、実はもう時すでに遅しな状況でございまして、もちろん関連当局に対しての報告は喫緊をもってなすべきでございますが、流出させないために我々は何をするのかというところに最大限の努力と知見の共有を図っていく必要があろうというふうに思っているところでございます。

以上、下線部を中心に、仮想通貨だけでなくリスク管理全般の考え方としても示唆に富む内容がたくさん含まれていますが、例えば、交換業者が適切な対応をしても莫大な損害賠償責任を負う可能性があれば、事故発生時の取引停止を躊躇しむしろ被害の拡大を招きかねないとの指摘や、技術面の進歩などのスピード感に対応するためには法令の規制では限界があり、自主規制のあり方が極めて重要となるとの指摘、情報提供が適切に行われない限りリスクは移転しないとの指摘、不適切な取引慣行や業態の放置は不適切な事業者を育てることになるとの指摘、Zaifなど事故報告の遅れはあり得るとの前提に立って、むしろブロックチェーンの特性をふまえ当局がプロアクティブにモニタリングすべきとの意見など、ルールや監視のあり方、リスク管理のポイントまで幅広く参考になります。とりわけ、「わかっていないリスク」への対応をどうすべきかとの問題提起は、リスク管理の本質を突く問題だと思います。さらには、現段階で顧客財産を保護する技術が確立できていないという驚くべき現実がある中、匿名通貨を扱いマネロン等のリスクを助長する行為は銀行等との公平性の観点を持ち出すまでもなく論外であって、続発する流出事件が国家的な動きを含む組織的サイバーテロの様相を呈する中、日本が狙われている現実を直視し、リスク管理の確立を急ぐ必要があると痛感しました。

続いて、第7回の資料から、いくつかテーマがあるうち、「匿名性が高いなど問題がある仮想通貨の取り扱い」についての意見や論点等について、ピックアップします。

▼金融庁 「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第7回)議事次第
▼資料4 説明資料(事務局)
  • 匿名性が高いなど、利用者保護又は交換業の適正かつ確実な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる仮想通貨について、交換業者による取扱いを禁止すべき
  • 匿名性は顧客のプライバシー保護にも資するもの。また、交換業者による取扱いを禁止した場合、海外業者での取引に流れるなどのおそれもあり、規制が課される交換業者において取引がなされた方がマネロン対策の観点からも望ましい可能性。厳格な本人確認などを課した上で交換業者による取扱いを認めるべきではないか。
  • 将来、仮想通貨が日銀券の代替として広く決済に使用されるような状況になった場合、匿名性のない仮想通貨が適当なのか。
  • 仮想通貨は、インターネット経由で遠隔の個人間においても容易に移転が可能。匿名性が高い仮想通貨が流通すると、移転経路の追跡が困難となり、マネロン・テロ資金供与対策上の問題のほか、ハッキングにより流出した仮想通貨の追跡が極めて困難となるなどの問題があるか
  • 仮想通貨が日銀券の代替として広く使用されるような状況になった場合には、中央銀行による通貨管理のあり方、マネロン・テロ資金供与対策、個人のプライバシー保護のあり方など、法律体系全体の見直し自体も必要になるか。まずは、足許の状況を踏まえた対応を検討していくことが必要ではないか。
  • リスクに応じた規制体系とする必要があるか。仮想通貨については現時点で認識し得ないリスクもあると考えられる中、そこまで対応しようとすると過剰な規制となるおそれがあるのではないか。個々のリスクに着目した規制を足し合わせていくと過剰な規制になるおそれもあるところ、全体として必要十分な規制であればよく、上手な規制の組み合わせを検討していく必要があるのではないか。

また、あわせて、金融庁から「仮想通貨交換業者の登録審査」について公表されており、今後、仮想通交換業者として認可されるための登録審査における主な論点等について、何点かピックアップして紹介します。

▼金融庁 仮想通貨交換業者の登録審査について
▼「仮想通貨交換業者の登録審査における主な論点等」(別紙3)

まず、「仮想通貨の取扱いリスク」について、「取扱仮想通貨の審査に関する社内規則を定めているか。定めている場合、どのような項目を審査項目としているか」として、(1)取扱仮想通貨の発行状況、取引状況及び利用状況に関する事項、(2)仮想通貨の発行者、管理者その他の関係者に関する事項、(3)仮想通貨及び記録台帳の技術に関する事項、(4)仮想通貨と密接に関連するプロジェクトの内容に関する事項、(5)仮想通貨を取り扱うにあたっての社内態勢の確保の状況(仮想通貨の安全管理の体制、仮想通貨の技術対応能力及び貴社の取引処理能力の有無、財務の健全性に与える影響、仮想通貨の需要見込み、利用者との利益相反の状況、取扱開始時の価格の決定方法、取引条件、利用者への情報提供及び説明、苦情対応など)具体的な項目が示されています。また、「取扱仮想通貨に関する取扱リスクの特定・評価を含めて、取扱仮想通貨の取扱の適否にかかる審査判断をどのようなプロセスで行うのか」、「取扱仮想通貨に関して特定・評価した取扱リスクについて、どのような方法を用いて当該仮想通貨の取扱いの適否にかかる審査判断に反映させているか」といった点も示されています。
「利用者保護措置」については、「利用者との適正な取引を行うために、顧客属性(年齢、資産・所得の状況、投資経験等)の異なる利用者との取引開始の適否を判断する際の基準を定めているか」、「定めている場合、どのような事項を含んでいるか」、「利用者との取引を管理するための態勢(ルール、体制等)をどのように構築しているか」として、(1)顧客属性(年齢、資産・所得の状況、投資経験等)を考慮した取引形態、取扱仮想通貨、レバレッジ倍率、取引限度額等の設定の有無、(2)取引口座を開設する場合には、決済に要する金銭若しくは仮想通貨又は証拠金取引に関し必要となる証拠金の預託を受けるタイミング、(3)同一利用者に対して許容する口座数、が項目として示されています。
「利用者財産の分別管理」については、「預り仮想通貨を管理・処分するために必要な秘密鍵(以下「対象秘密鍵」という。)の管理方法」として、具体的に、(1)対象秘密鍵の数・保管環境、(2)インターネット等の外部のネットワークに接続されていない環境(以下「オフライン環境」という。)での預り仮想通貨の通貨別保管状況、(3)オフライン環境以外の環境(以下「オンライン環境」という。)で対象秘密鍵を保管する場合には、オンライン環境で保管する対象秘密鍵で処分できる仮想通貨の上限の設定の有無、(4)権限者以外の者による対象秘密鍵への物理的なアクセスの可否、(5)受払担当者の選定、(6)受払担当者による預り仮想通貨の不正流用を防止するための措置、(7)対象秘密鍵の管理方法に関しての利用者に対する説明方法、その説明内容及び利用者との契約への反映の有無といった具合にかなり細かい部分まで確認されることが分かります。
また、「利用者情報管理」については、「利用者に関する情報管理の適切性を確保するために、いかなる社内管理態勢を構築しているか」として、(1)利用者に関する情報管理に係る監査に従事する職員の専門性を高めるための研修等の実施状況、(2)役職員全般に対する情報管理に関する研修の実施状況、研修後の評価及びフォローアップの状況、(3)利用者に関する情報の管理状況を適時・適切に検証できる態勢、(4)利用者に関する情報へのアクセス管理の徹底、(5)内部関係者による利用者に関する情報の持ち出しの防止に係る対策、(6)外部からの不正アクセスの防御等、情報管理システムの堅牢化などの対策、が項目として示されています。さらに、「特定職員に集中する権限等の分散や、幅広い権限等を有する職員への管理・けん制の強化を図る等、利用者に関する情報を利用した不正行為を防止するための適切な措置について定めているか。定めている場合、どのような事項を含んでいるか」といった点も示されています。
また、「外部委託」については、「外部委託先の選定基準を定めているか。定めている場合、どのような事項を含んでいるか」、「外部委託が行われても、利用者に対しては、貴社が業務を行ったものと同様の権利が確保されていることが明らかとなるような措置を講じているか。講じている場合、どのような事項を含んでいるか」などが、「システムリスク管理」については、「システム障害等に適切に対応するために、外部委託先を含めた報告態勢、指揮・命令系統、及び緊急時体制(コンティンジェンシープラン)をどのように定めているか」として、具体的には、(1)コンティンジェンシープランの策定にあたってどのような事象(リスクシナリオ)を想定しているか、(2)システム障害等を適切に管理し、発生原因の究明、復旧までの影響調査、改善措置、再発防止策等を策定、実行するために、どのような運用ルールを定めているか、といった項目が、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策」については、「『マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(平成30年2月6日公表)』上の【対応が求められる事項】について、どのような運用をどのような体制で行っているか」が示されています。
また、審査が長期化することになる要因について、参考事例が以下のとおり示されています。

  • 申請関係書類の内容について、形式的不備(無回答、内容の矛盾)が多数認められるなど、適切な経営管理(ガバナンス)が発揮されていないケース
  • 外部専門家に申請関係書類の作成を依頼しており、その外部専門家が作成した雛形に依拠するだけで、自社の事業内容・計画等を踏まえた社内検討を行っていないケース
  • 規程の整備が十分でなく、審査や補正に時間を要するケース
  • 事業計画の妥当性について、合理的に説明できないケース
  • 事業計画の実行にあたり直面しうるリスクの検討を行っておらず、適時・適確に業務を遂行するための態勢整備について、合理的に説明できないケース(例えば、将来の業容拡大を見据えたシステムの拡張性の確保など)
  • 適時・適確に業務を遂行するため法令等で求められている人材・体制が確保できない(又は確保が図られていることが疎明できない)ケース
  • システムの安全性について、システム構成の考え方やウォレット運用管理の具体的な事務手続など、仮想通貨の不正流出等に係るリスクを低減させるための方策を示していないケース
  • マネロン・テロ資金供与対策について、定型的な回答にとどまり、リスク評価書に自社が提供する商品・サービスや、取引形態、取引に係る国・地域、顧客の属性等のリスクを包括的かつ具体的に検証した形跡が見受けられないほか、具体的な取引時確認の手続や疑わしい取引の検知・判断・届出の手法等を示していないケース
  • 分別管理において、自己の固有財産である金銭・仮想通貨と、利用者が預託した金銭・仮想通貨の混蔵するリスクの洗い出しが十分でないほか、日次の照合作業等について、具体的な事務手続を示していないケース
  • 相談者から提示されたスキームに係る法令上の業への該当性について、相談者と当局間での認識共有まで、時間がかかるケース(例えば、仮想通貨交換業の該当性の判断だけでなく、資金移動業等の登録の必要性など各事業者によって提供されるサービスの内容は様々であり、該当性を一義的に画することが困難であるため、相談者と当局との間で認識が一致するのに時間を要する場合など)

さて、仮想通貨交換業者の健全性やリスク管理レベルが大きく問われる契機となったコインチェックの巨額流出事件を受けて、同社はきちんとした態勢が整うまで新規口座開設を自粛していたところ、10月30日に受付を再開しています。マネックスグループの傘下に入り、内部管理体制の改善を進めたことで安全面の準備が整ったと判断したもので、ライトコインなど一部の仮想通貨の入金や購入もできるようになりました。あれだけの大きな事件の教訓をふまえた模範的な取り組みを示してもらえるものと期待したいと思います。また、同じく巨額の流出事件を起こしたテックビューロ社については、フィスコ仮想通貨取引所より支援を受け、最終的には仮想通貨取引所「Zaif」の事業を譲渡することで合意、テックビューロ社は同事業の譲渡をもって仮想通貨交換業の登録を廃止、解散に向けた手続きを行うことになりました。本事件では、流出した仮想通貨が数日のうちに最大3万超の口座に分散しその追跡が困難である(そもそも同社が流出に気付いたときは既に追跡困難で、不審な動きを即座に検知できる仕組みが求められています)として捜査が難航することが予想されていましたが、事態は急転直下、日本の民間の「ホワイトハッカー」が、攻撃側のふるまいを分析・予測して「わな」を仕掛けたところ、使われた複数のIPアドレス(ネット上の住所)の特定に成功しました。その結果、欧州から流出した仮想通貨を分散送金する指示が出されたとみられることが分かりました。いずれも欧州のサーバー貸出業者のもので、擬装や匿名化もされておらず、犯人特定につながる可能性が高いことから、海外の捜査当局と協力し、契約者情報などが判明すれば犯人特定につながる可能性があるということです。
また、一連の騒動を受けて、仮想通貨業界の自主規制団体として急ぎ立ち上げられた「日本仮想通貨交換業協会」が、金融庁から、改正資金決済法に基づく自主規制団体に認定されています。同協会は、会員業者に対し立ち入り検査などを行い会員資格停止や取り消し処分を出す権限を持つことで業界全体の健全性を担保していくこと、業界として匿名性の高い仮想通貨の取り扱いを禁止するなど、自主規制ルールを徹底させる体制が整ったことで信頼回復につながることを期待したいと思います。

さらに、金融庁は仮想通貨取引の過度な投機色を薄める対応に乗り出しています。少ない元手で多額の仮想通貨を売買する証拠金取引を新たに規制対象にする検討を始めており、証拠金倍率(レバレッジ)は現在、交換業者が任意で設けており、最大で25倍とする業者もいるところ、これを2~4倍に抑える案が出ています。また、企業が仮想通貨を使って資金調達する手法「新規仮想通貨公開(ICO)」への規制も視野に入れており(現状では全面禁止ではなく、規制強化で対応する方向です)、同庁は、金融商品取引法の改正も視野に進めていく予定です。交換業者には登録制を導入している一方、仮想通貨の取引そのものに明確な法規制はなく、規制の網を取引にも広げて利用者保護を徹底する構えであり、自主規制法人との連携で「わかっていないリスク」への対応もしていくこと、その態勢が整いつつあります。
さて、そのICO規制について、報道によれば、前述の研究会では、「ICOも株式公開と同じ機能やリスクを持つなら同一の規制をかけるべきだ」との意見や、「世界のICOの8割が詐欺との報告もある。値上がりを期待した買いで投機をあおっている」との指摘が出たようです。ICOへの規制強化は世界的な流れであり、米国ではSECが一部のトークンが有価証券にあたるとの見解を示し、中国や韓国ではICOを禁止しています。また、そのような規制強化の流れの一方で、ICOを使った資金調達額は2017年に約54億ドル(約6,100億円)に上り、2018年は7月末までに約142億ドルと3倍近くに急増するといった活発な実態があります。ただし、大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(E&Y)の発表した仮想通貨に関する報告書によると、2017年にICOで資金を調達した141件余りのプロジェクトのうち86%の仮想通貨がオンライン取引で公開価格を割り込んだ水準で推移していることが分かったほか、仮想通貨の約3割が「実質的にすべての価値」を失ったという実態もあるようです。以下、ICOに関する金融庁の前述の研究会の第8回の資料からピックアップして紹介します。

▼金融庁 「仮想通貨交換業等に関する研究会」(第8回)議事次第
▼資料2 説明資料(事務局)

それによると、国内におけるICOの事例はあまり多く見られない一方で、世界的には、これまでに様々なICOの事例が見られるものの、ICOにより発行されるトークンについては、値上がりを期待した投機目的で購入されているとの指摘があるほか、「トークンの価格が下落したり、約束されたサービス等が実際には提供されない」、「ICOに関する権利内容が曖昧である」、「杜撰な事業計画や詐欺的な事案も多い」といった利用者保護上のリスクも指摘されています。また、各国の対応状況については、概ね以下のとおりとなっています。

  • ICOを禁止又はその旨を表明(中国、韓国)
  • 特定のICOトークンが既存の証券規制の適用対象となり得る旨を明確化し、注意喚起等を実施(米国、EU、英国等)
  • 上記に加えて、ICOに特化した規制を検討(フランス、マルタ等)

また、国内においては、昨年、金融庁が、ICOについての注意喚起文書を公表し、利用者に対し、ICOのリスクについて注意を促すとともに、事業者に対し、ICOの仕組みによって、資金決済法や金融商品取引法の規制対象になる旨の注意喚起を行っており、これまでの討議では、金融規制の要否を検討していくに当たり、「仮想通貨を用いた個々の行為が、金融(金銭等の融通)の機能を有するかどうか」、「金融の機能を有する場合、仮想通貨の将来の可能性を含む社会的意義や投機の助長等の害悪の有無を踏まえて、金融規制の導入が期待されるかどうか」が重要な視点とされています。さらに、ICOについて足許で以下の指摘等があることを踏まえた上で、その社会的意義や害悪の有無について、どのように考えるべきか。金融規制の導入が期待されると考えられるかといった論点が提示されています。

  • 将来的に事業収益の分配を受けるような性質を有するICOトークンの購入に金銭を用いる場合には、金融商品取引法上の集団投資スキーム持分として現行法上も規制対象となること
  • 杜撰な事業計画や詐欺的な事案が多く、既存の規制では利用者保護が不十分との指摘がなされていること
  • 他の利害関係者(株主、他の債権者等)との関係も含め、トークンの権利内容に曖昧な点も多いとの指摘がなされていること
  • 一方で、既存の資金調達手段にアクセスできないスタートアップ企業の資金調達手段としての有効性等の利点も指摘されていること

それ以外にも、例えば、以下のような論点が示されています。

  • 一般の投資家から資金調達を行うケースとして、株式等によるIPOの例がある。ICOについても、資本性資金の調達と同等ないし類似の経済的な機能やリスクが認められるのであれば、同じ規制を課すことが基本と考えられるところ、株式のIPOをはじめとする既存の資金調達手段において求められる規律を参考にしつつ、実態に即した制度を考えることが適当と考えられるが、どうか。
  • ICOの場合、ICOプラットフォームによる取扱例もあるが、発行者自身が募集を行うことが多い現状にある。これを受け、以下の点を検討することが考えられるが、これらを含め、どのような点を検討する必要があるか。
  • トークンの販売・勧誘行為について、何らかの方策が必要とも考えられるが、どうか。その場合、どのような業規制が考えられるか
  • 発行者自身が募集を行う場合も、何らかの業規制が必要とも考えられるが、どうか。その場合、どのような方策が考えられるか
  • 業規制を行う場合、自主規制団体に一定の役割を求めることも考えるが、どうか。その場合、どのような役割が考えられるか
  • ICOの場合、発行者自身による募集であれば、具体的な規律はなく、第三者による審査は通常行われていない。他方、ICOトークンの設計の高い自由度が、既存の資金調達手段にアクセスできないスタートアップ企業の資金調達に資するなど、イノベーションに寄与しているとの指摘もある。これを受け、以下の点を検討することが考えられるが、これらを含め、どのような点を検討する必要があるか。
  • 詐欺的な行為や権利内容が曖昧なトークンの発行・流通の防止、キャッシュフローの裏付けとなる事業の実現可能性の確認等のため、ICOトークンの発行者の事業・財務状況の精査やスクリーニングを実施する第三者が必要か。どのような方策が考えられるか。
  • トークンの内容が、株式と異なり非定型的であることに伴い、どのような点が問題となり得るか。スクリーニングの内容について、既存の資金調達手段による場合と比べ、異なる点はあるか。権利内容やその移転方法、トークン保有者以外の者(既存の株主等)との利害調整等、あらかじめ明確化を求めるべき点はないか。
  • ICOの場合、具体的な規律はなく、通常はプロジェクトの内容や資金使途等を記載したホワイトペーパーが発行時に公表されるが、その内容や作成プロセスは標準化されていない。これを受け、以下の点を検討することが考えられるが、これを含め、どのような点を検討する必要があるか。
  • 利用者への情報提供のため、ICOトークンに係る発行開示等について、何らかの対応が必要とも考えられるが、どうか。その場合、どのような方策が考えられるか。

また、仮想通貨を巡るトラブルが絶えないことから、消費者庁のからあらためて注意喚起がなされていますので、紹介します。

▼消費者庁 「仮想通貨に関するトラブルにご注意ください」の修正について
▼仮想通貨に関するトラブルにご注意ください

主な相談事例等として、例えば以下のようなものがありました。

  • 息子宛てに仮想通貨の会社から書留が届いた。不当な請求だったらどうしたらよいか。
  • アカウントを登録していた仮想通貨交換業者から、廃業する、と連絡があった。出金をしたいがメールの返信がない。今後、どう対応したらよいか。
  • 亡くなった弟が仮想通貨取引をしていたようだ。解約の仕方をメールで問い合わせたが仮想通貨交換業者から連絡がない。
  • 仮想通貨購入のため交換業者内の自身のウォレットに10 万円を振り込んだつもりが、IDを誤り第三者のウォレットに振り込まれてしまった。返金してほしい。
  • 仮想通貨交換業者に45,000 円送金したが、10 日以上経っても入金が反映されない。どのように対応したらよいか。
  • 仮想通貨交換業者のサーバーに問題があり、売買したい時に即座に売り買いができない。業者への指導を希望する。
  • 仮想通貨を700 万円分保有していたがハッキング被害に遭い全て失った。返金してほしい。
  • 保有していた仮想通貨が5倍に高騰したので売り、円に替えたところ、システムエラーを理由にトレード前に巻き戻された。
  • 仮想通貨を持っているが、仮想通貨交換業者のサイトからパスワードでログインができなくなった。1か月経っても解決しない。
  • 交換業者に対して、問合せしたいが、電話番号がどこに掲載されているのかわからない/業者の相談窓口に電話したにもかかわらず、メールでしか受け付けないと断られた。
  • 仮想通貨交換業者から「登録変更完了のお知らせ」と書かれたメールが届いたが、覚えがない。
  • 息子から、「借金して仮想通貨を購入したが、今日中に返済しないと裁判になると言われた。300 万円が必要だ。」と電話が来た【特殊詐欺の電話のとおりの支払いをする前に相談が寄せられ、消費生活相談員の助言によって被害が防止された例】
  • インターネット上で知り合った人から、ICOで発行された仮想通貨で大手交換業者に上場するものがあるというので購入したが、上場が実現しない。騙されたと思うので返金希望。
  • 知人に外国の政府が公認している仮想通貨の販売代理店にならないかと勧誘された。この事業者に関する苦情はあるか。

また、仮想通貨を利用する際の注意点については以下の通りです。

  • 仮想通貨は、日本円やドルなどのように国がその価値を保証している「法定通貨」ではない。インターネット上でやりとりされる電子データである。
  • 仮想通貨は、価格が変動することがある。仮想通貨の価格が急落し、損をする可能性がある。
  • 仮想通貨交換業者は金融庁・財務局への登録が必要。利用する際は登録を受けた事業者か金融庁・財務局のホームページで確認すること。
  • 仮想通貨の取引を行う場合、事業者が金融庁・財務局から行政処分を受けているかを含め、取引内容やリスク(価格変動リスク、サイバーセキュリティリスク等)について、利用しようとする事業者から説明を受け、十分に理解すること。
  • 仮想通貨や詐欺的なコインに関する相談が増えている。仮想通貨の持つ話題性を利用したり、仮想通貨交換業の導入に便乗したりする詐欺や悪質商法に注意すること。

(5) テロリスクを巡る動向

内戦下のシリアで武装勢力に約3年4か月もの間拘束されていたとされるフリージャーナリスト、安田純平さんが解放されました。国際テロ組織アルカーイダ系の過激派「ヌスラ戦線」に拘束されていたとみられていますが、実際に安田さん解放の情報は、ヌスラ戦線などに影響力を持つカタールからもたらされています。したがって、日本政府の要請を受けたカタールやトルコが、何らかの仲介役を務めたことは間違いなく、国際社会との連携による解放は、一定の外交の成果だと言えると思います。官房長官は会見で「官邸を司令塔とする『国際テロ情報収集ユニット』を中心にトルコやカタールなど関係国に働きかけた結果だ」と外交上の努力を強調しましたが、正に言うとおり国際連携の成果であれば大変よろこばしいと評価できる一方で、身代金を支払った事実はないと強調している点も注目されます。支払った事実があれば当然ながら大きな問題となりますが、一方で、本当に国際連携のみで解決に至ったのかは客観的に検証する必要があるように思われます。というのも、国連の専門家パネルの報告書によると、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)が人々を拉致して得る身代金は推定で年3,500万~4,500万ドル(約39億~51億円)に及ぶということであり、国連安保理は2014年1月、身代金が新たなテロを起こす資金源になりかねないなどの理由から、支払いに応じないよう各国政府に求める決議を全会一致で採択しています。しかし、一方では、罰則は盛り込まれておらず、判断は各国の政府に委ねられることになり、意図的に徹底を避ける思惑(身代金支払いに応じることも一定程度やむなしと考えているフシがあること)が見えてきます。大原則として、テロとの戦いにおいては、身代金は支払ってはならず、「人命尊重」の名のもと身代金が支払われれば、新たなテロ、新たな犯罪を生む「犯罪の再生産」の資金源となる事実から目を背けてはなりませんし、日本が脅迫に応じる国と周知されれば、日本人はまた次の誘拐の標的となることを十分に認識する必要があります。さらに、安田さんは、2004年4月にもイラクで武装勢力に拉致され、3日後に解放されるという経験を持ち、今回の不明時は政府がシリア全土に、最も危険なレベル4「退避勧告」を出し、新たな渡航をやめるよう注意を呼びかけていた情勢下にあったことから、危険を承知で現地に足を踏み入れたのだから「自己責任」であるとする意見も当然あり、議論となったことはご存知のとおりです(今回はその意見に対する反論も多く見られ、「使命感あふれるジャーナリストや報道カメラマンの存在は社会にとって極めて重要」「必要な事は感情的な誹謗中傷ではなく冷静な分析」などの意見がありました)。しかしながら、救出の必要性については、理由がどうであれ、国は自国民の安全や保護に責任を持つのであり、拘束されれば救出に向けて動くべきものであり議論の余地はないものと思われます。一方で、紛争の現実を世界に発信する崇高な目的があるとはいえ、自らを守る責任があるのも事実であって、テロ対策の専門家が指摘しているとおり、信頼できる現地コーディネーターの選定やセキュリティ、誘拐保険などの安全対策をきちんと取るべきです(安田さんの会見では、このあたりに落ち度があったことを本人も認めています)。

さて、最近のテロの情勢としては、ISが「首都」と称したシリア北部ラッカが、米軍の支援を受けたクルド人民兵組織によって制圧されてから1年が経過したことがあげられます。最盛期はイラクとシリア両国の約3分の1の領土を支配した「リアルIS」は、ラッカ陥落で実効支配する都市を失うことになります。一方、周辺諸国にとっては実戦経験を持つIS戦闘員の分散が脅威になっており、世界各地ではIS関与のテロも続く、「ローンウルフ型/思想IS」はいまだに存在感を示していると言えるでしょう。国連は今年8月、IS残党がシリア・イラク両国内に依然として2万~3万人残っているとの報告書をまとめています。幹部クラスはほぼ殺害されたものの、十分な戦闘訓練を積んだ一般戦闘員のほか、ISに共鳴する「数千人の外国人戦闘員」も健在と言われています。さらに、専門家は、「逃走の際に偽造旅券を使うIS戦闘員もおり、各国とも流入を完全には阻止できない。ISは次の潜伏先としてアフガンやパキスタンなどアジア方面を重視している。組織崩壊に備えて資金をためていたため、現在も一定の経済力がある」と警鐘を鳴らしています(平成30年10月17日付毎日新聞)。直近でも、オーストラリア南東部メルボルンの中心部で男が通行人3人を刃物で次々と刺す事件が発生、1人が死亡、2人が負傷、ISが犯行声明を出すなど、その脅威が顕在化しています。なお、オーストラリア連邦警察幹部は「ISと直接の接触はない」としたものの、警察はテロとみて、ソマリア出身の容疑者が犯行に至った経緯などを調べているとのことです。報道によれば、当局は2015年に容疑者がシリアに渡航することを懸念し、容疑者のパスポートを無効にしたことがあり、当時から過激思想を持っていたが、治安を脅かすとは判断しなかったということです。容疑者の弟も昨年11月、大みそかにテロを起こす計画を企てたとして逮捕されているとも言われており、当局の監視態勢や判断に問題がなかったのかが問われそうです(おそらく、監視対象は相当数あり、現行のリソースでは全てを十分にカバーすることが困難な状況であったことが予想されるところです)。

さて、日本もテロの脅威とは無関係ではいられませんが、実際に国際テロ組織によるテロが発生していないこともあり、まだまだ危機感はまだまだ低いようです。日本では今後、皇位継承式典、G20やラグビーW杯、東京五輪・パラリンピックといった世界的なイベントが目白押しであり、テロリストにとっては格好の標的・機会となることが予想されることから、日本もまたテロリスクとは無関係でいられないことを国民全体がもっと真剣に対峙していく必要があります。このような状況の中、前回の本コラム(暴排トピックス2018年9月号)で取り上げたとおり、テロとの関係は薄いものの、高性能爆薬「TATP(過酸化アセトン)」の製造や覚せい剤の製造、拳銃の製造などをしたとして、名古屋市の大学生の少年(19)が逮捕された事件について、報道(平成30年11月7日付毎日新聞)によると、捜査幹部は、「化学に興味がある者同士がSNSでつながり、元大学生の爆薬や拳銃、覚せい剤の製造熱に拍車を掛けた可能性がある」と指摘しているほか(なお、直近の報道では、自称派遣社員の少年(17)と共謀して覚せい剤を製造したことが分かっています)、原材料から覚醒剤を製造した事件は全国的にも珍しいとされる中、有機合成化学の専門家は、「市販の医薬品や化学薬品を原料として器具を使えば、調合は可能」と指摘しています(なお、本人の供述によると、爆薬の原料は通っていた高校から持ち出したということですので、高校での管理状態の杜撰さも指摘できることになります)。したがって、捜査幹部が「見知らぬ者同士がやり取りしていく中で、被害者が出る犯罪にもつながりかねない」と話しているように、インターネット上の書き込みや違法薬物情報などに警戒を強めていくことが求められます。

なお、日本においては、最近、テロ対策を意識した訓練や新たな対策に取り組む事例が増えてきておりますので、最近の報道からいくつかご紹介します。

  • 陸上自衛隊は、対テロ戦を想定したインド陸軍との共同訓練をインド国内で行います。インドとの2国間訓練は初めてであり、陸自から約30人の隊員を派遣し、市街地戦闘や人質救出などの技量向上を図る狙いがあります。また、インド軍との連携を深めることで、安倍首相が掲げる「自由で開かれたインド太平洋戦略」を推進する狙いもあるということです。
  • 競技の撮影などへの活用が見込まれるドローンについて、サイバー攻撃で機体を不正に操縦されれば人命に危害が及ぶ恐れがあるとして、警察当局が機体のハイジャック(乗っ取り)対策の検討に着手しています。飛行中の機体のハイジャックは外形での判別が困難で、大会運営に支障を及ぼす新たなテロの脅威として浮上しています。
  • 東京消防庁は、東京五輪に向けて、会場爆破を想定したテロ対策訓練を実施しました。情報共有など各部署間の連携強化を図ることが狙いで、ターミナル駅での化学テロ、ショッピングモールや競技会場の爆破などが短時間に相次いで発生したとの想定で実施されました。馬術会場に見立てた大井競馬場では、けがの程度により治療の優先度を決めるトリアージなどの手順を確認したということです。
  • 陸上自衛隊第6師団と福島県警は、自衛隊の治安出動に備えた共同訓練を陸自郡山駐屯地で実施し、約140人が参加したといいます。武装工作員から重要施設を守るという、警察力だけで対処できない事態を想定し、任務の分担や共同で作戦に当たる要領を確認しています。
  • 茨城県警は、平成31年に県内で開かれる茨城国体や貿易・デジタル経済担当相会合に向け、笠松運動公園で、テロ対策の総合警備訓練を実施しました。警護中の要人への襲撃や競技場スタンドでのテロ発生を想定し、約100人が参加したといいます。要人警護の訓練では、同公園陸上競技場正面玄関に到着した要人役を、拳銃を持ったテロ実行犯役が襲撃し、県警警護要員が素早く実行犯役を制圧、要人役を保護する訓練が行われています。

さて、本コラムでは、社内研修等の一環として活用できそうな外務省の「ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル」の紹介を継続的に行っています。さいとう・たかをさんの人気漫画「ゴルゴ13」が登場するもので、大変分かり易くポイントもおさえられているものと思います。以下に掲載されていますので、是非、ご覧いただきたいと思いますが、今回もその中から一部をあらためて紹介します。

▼外務省 ゴルゴ13の中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル
▼第2話 たびレジ

そもそも「たびレジ」とは、3か月未満の海外旅行者や海外出張者が旅行日程・滞在先・連絡先などを登録することで、滞在先の最新安全情報や緊急事態発生時の連絡メール、またいざという時の緊急連絡などを日本人なら誰でもタイムリーに受け取れる便利なシステムです。「たびレジ」に登録しておくことで、海外で重大な事件や大規模な事故・災害などが発生した場合、外務省が安否確認を行い、必要な支援をスムーズに受けることができるとされます。「たびレジ」に登録すると、次のような海外安全に関わるメールが日本語で届きます。

  • 緊急一斉通報メール
    渡航先で緊急事態が発生した場合在外公館が「たびレジ」登録者や在留邦人等に対して最新の現地安全情報をタイムリーに配信
  • 最新の海外安全情報メール
    外務省海外安全ホームページに掲載される渡航先のスポット情報・広域情報・危険情報をリアルタイムで配信

「海外で重大な事件や大規模な事故・災害などが起きたとき、関連情報を現地で迅速に入手することは、安全対策の基本」であり、現地の治安は様々な要因で急速に悪化する場合や、自然災害や感染症など被害が広域に及んでいたり、事案が差し迫っている場合など、「情報の有無が運命を分ける」ことにもなり得る点は十分認識する必要があります。したがって、現地で情報収集を行うことが重要であると同時に、最新の情報が素早く、日本語で配信される「たびレジ」は海外安全対策に必須のツールだと言えます。なお、海外に住所または居所を定めて3か月以上滞在する日本人には在留届の提出が義務付けられています(旅券法第16条)。在留届を提出しておけば、「たびレジ」登録者と同じ最新情報が受け取れるということです。在留届は、在外公館が現地に居住する日本人の情報を把握し、緊急事態が発生した際に迅速な援護・支援などを行うための不可欠なデータであるほか、緊急事態が発生した際、在外公館では在留邦人の安否確認、緊急連絡、救援活動、留守宅への連絡、留守宅からの問い合わせにも在留届が提出されていて初めて迅速に対応することが可能になることから、在留届を必ず提出する必要があります。また、在留届は、安全対策以外にも在外公館が在外選挙手続や領事サービス窓口サービスを行う際に必要な情報を含んでいます。
しかしながら、内閣府「海外安全に関する世論調査」では、自分や家族が海外に行く際、渡航先の治安や災害に関する情報を「調べる」または「ときどき調べる」と答えた人は計82.6%に上り、渡航先の情勢に関心が高い一方、この「たびレジ」を「利用している」との回答は3%にとどまりました。

▼内閣府 海外安全に関する世論調査(平成30年9月調査)概略版

本調査をもう少し詳しく見ると、例えば、渡航先の安全に関する情報について調べるかについては、「調べる」72.8%、「ときどき調べる」9.8%、「ほとんど調べない」5.3%、「調べない」7.6%となり、うち、「調べる」とした割合は、50~59歳が82.5%、18~29歳が80.0%の一方で、70歳以上は55.4%、60~69歳は76.7%となっています。渡航先の安全に関する情報を調べる方法としては、「インターネットで検索し、クチコミなどの情報を得る74.7%、「旅行に関するガイドブックを読む」52.1%、「旅行会社や添乗員から説明を受ける」49.4%、「インターネットで、外務省の「海外安全ホームページ」や「たびレジ」から情報を得る」43.1%、「家族・友人などの知り合いにたずねる」31.5%、「渡航先に到着してから現地ガイドやホテルスタッフなどにたずねる」17.8%、「外務省などの公的機関の相談窓口に問い合わせる」10.4%などの順となりました。そして、「たびレジ」を利用したいと思うかについては、「すでに利用している」3.0%、「利用したい」51.3%、「過去に利用していたが利用をやめた」0.3%、「海外へ渡航するとしても利用したくない」6.5%となり、「たびレジ」を利用したくない理由としては、「登録した個人情報がどのように扱われるのか不安だから」55.1%、「登録時に複数の項目を入力するのが面倒だから」30.5%を占めています。また、安否確認に「たびレジ」の個人情報を利用することについて、「緊急時の安否確認のためであれば、「たびレジ」の個人情報を利用することは差し支えない」70.3%、「安否確認は必要だが、「たびレジ」の個人情報を利用してほしくない14.2%、「そもそも外務省や現地大使館などによる安否確認を希望しない」4.0%などとなっており、せっかくの「たびレジ」の普及に向けて、効果的な周知等が求められます。

(6) 犯罪インフラを巡る動向

1. 休眠NPO法人

平成30年11月5日付の毎日新聞によると、本来監督すべき自治体も「野放し」と自認する休眠中の特定非営利活動法人(NPO法人)について、約12%が休眠状態に陥り、中には詐欺や売春の舞台になるケースさえあるということです(以前の本コラム(暴排トピックス2018年2月号)では、大阪府の外部監査人が、大阪府の346の公益法人が「休眠状態」であり「法人格の売買など悪用の恐れがある」として早期の実態把握を求めているとの報道を取り上げています)。5年前に国の有識者会議が問題視し、「不正の温床になりかねない」とする報告書をまとめたが、いまだに手つかずのままであり、正に20年の節目を迎えるNPO法人の「犯罪インフラ」化が懸念されるところです。具体的な休眠NPO法人を巡る事例としては、警視庁が今年6月、貸金業者から債務者に返還されるべき過払い金をだまし取った詐欺の疑いで実質運営者2人を逮捕した事件で休眠NPO法人が売買されている実態が明らかになっています。さらには、暴力団が絡む事件では、2004年、山口県長門市のNPO法人「環境福祉ながと支援協会」の理事長が、暴力団組長と共謀して地元の建設会社社長に因縁をつけて100万円を脅し取ったとして山口県警に恐喝容疑で逮捕された例もあり、NPO法人が舞台となりました(暴力団の隠れ蓑だとして認可が取り消されました)。また、それ以外にも、愛知県のNPO法人理事長らが廃棄物処理法違反容疑で逮捕された事件では、設立以降、事業報告書を提出していない実態があり、休眠NPO法人が詐欺グループに転売され、その後、口座が詐欺に悪用された事件でも、設立初年度を除く10年以上にわたり事業報告書を提出していない実態が明らかになっています。さらには、横浜市を拠点に全国で慈善事業を手掛けていた2つのNPO法人が法人名義で契約していた携帯電話約2,000台が、不特定多数の手に渡り、少なくとも100台が振り込め詐欺や薬物密売、強盗、暴力団の対立抗争などに使用されていた事例もありました。携帯電話会社側はNPO法人を事前にチェックして「問題ない」と判断したようですが、携帯電話は振り込め詐欺やヤミ金などの犯罪の「3種の神器」とも言われ(残りは個人情報、第三者名義の通帳)、携帯電話各社および販売会社には、携帯電話自体が直接的に暴力団の活動を助長する可能性があるとの強い危機感と社会的責任を持って、(電気通信事業法に関わらず)暴力団排除の観点からの努力が求められていると言えます。また、直近では、「収支ゼロ」とする書類を県庁に提出している石川県のNPO法人が、法人名義の口座で約1,000万円を受領していたことが判明、他界した人物をメンバーとして届け出たり、インターネット上で法人を販売しようとしたりしていたこともあり(昨年、仲介業者を通じて一時、数百万円で売りに出されていたようです)、県は理事長から説明を求めるなど調査を始めたとの報道がありました。NPO法人を所管するのは各自治体です。紹介した事例のように報告書が未提出の場合、特定非営利活動促進法(NPO法)は、「過料を科す」「認証を取り消すことができる」と定められていますが、厳格に適用するかどうかは各自治体に任されています。しかも、報道によれば、ある自治体の担当者は、「報告書さえ出せば、活動実績がなくても手が出せない。実態把握は難しく野放しだ」という面もあり、自治体自体のリソースの問題も絡み厳格な管理も望めない状況であり、NPO法人の犯罪インフラ化の懸念はますます強くなっています。

2.金の密輸における商社

平成30年11月9日付朝日新聞によると、日本に密輸された金の多くが、大手商社経由で輸出されていた実態があることが財務省の調べで分かったということです。また、2017年に日本から輸出された金は215トンなのに対し、正規の輸入は5トンで、日本国内での金の産出量や消費量から判断すると、財務省は輸出量のうち160トン程度が密輸された金で、消費税の脱税額は年640億円に上るとみており、巨額の脱税を助長する犯罪インフラとして商社の関与が問題視されているものです。金の密輸は、輸入時に支払いを不正に逃れた消費税分だけ密輸業者に利益が入るため、2014年の消費増税以降に急増した経緯があり、来年10月の再増税を控え、財務省は大手商社に対し、取引の仕方を見直すよう協力を求めているといいます。報道によれば、金の輸出には税関長の許可が必要で、国際取引でも信用が欠かせないことから、日本の金の輸出の8割近くを大手商社が担っている実態があるといいます。さらに、商社は金の輸出額に応じ、消費税分の還付を受けられるため、買い取り業者から消費税込みの値段で買っても損はしない仕組みになっており、密輸業者から消費税込みで金を仕入れた買い取り業者にとって、商社は都合のいい転売先になっている可能性があり、商社側も取引先の金の入手ルートや形状などの確認を十分していなかった実態があるようです。密輸を「水際」で阻止するため、財務省は空港などに金属探知機やX線検査装置を増やしているものの、密輸量の急増に追いついておらず、全国の税関が検挙した金の密輸は昨年1,347件にのぼり、今年も件数は減っていない状況にあります。

3.サイバー攻撃対策における中小企業

平成30年11月6日付日本経済新聞によると、サイバー攻撃者が日本の「弱点」に狙いを定めており、しかも、サイバー攻撃の対策が進む大企業を直接狙わず、原材料や部品、情報システムの調達先である中小企業を攻撃して大企業侵入の足がかりとする新たな攻撃手法である「サプライチェーン攻撃」の脅威が増しているとのことです。報道では、自動車をはじめ製造業が多い日本企業は取引先が何層にも重なる実態があり、情報システムで使うアプリケーションソフトも純粋な「自社開発」は多くない実態もあります。自社の製品やシステムのサプライチェーンを構成する企業は海外にも及び、攻撃者がつけ入るスキは広がる一方だと指摘しています。とりわけ問題なのが、中小企業の意識であり、「盗まれるような大した個人情報や機密情報のようなものはない」という危機感のなさを見るにつけ、脆弱性を有する中小企業の「犯罪インフラ」化の事態はかなり深刻だと言えます。
そのうえで、サイバー攻撃への対応については、例えば、犯罪インフラである闇サイト(ダークウェブ)上で犯罪集団らが犯行のやりとりや犯罪ツールの入手等を行っている点を逆手にとって、私たち自身がAI等を使って闇サイト上で情報収集し犯行を予測、事前に対策を講じる手法が注目されています(もちろん、それを実現するためには高度な専門人材を確保することが必須となります)。また、サイバー攻撃手法は高度化の一途をたどり被害リスクが高まっているほか、その攻撃手法の変遷も目まぐるしい点も特徴です。例えば、2017年に流行したランサムウエアによる攻撃は既に下火になり、その代わりにビジネスメール詐欺(BEC)や仮想通貨マイニングマルウエアが台頭するなど1年の間に様変わりしていることに気付かされます。こうした攻撃手法の変化のスピードに対応できなければ、被害は甚大なものになることは明らかです。一方で、最新の攻撃手法に対処するには、従来型の境界防御だけでは不十分、だからといって莫大なコストをかけるのも問題があり、結局はコストとのバランスを取り、本当に必要な箇所にセキュリティ対策を施すことが、これまで以上に重要になると認識する必要があります(正に、リスクベース・アプローチの手法そのものと言えます)。
その他、最近のサイバーセキュリティを巡る報道からいくつか事例を紹介します。

  • インターネットを使った詐欺などで盗まれた日本人のクレジットカード情報が、日本を訪れる中国人旅行客の宿泊予約などに不正利用される被害が相次いでいます。個人情報を売買する業者から入手したとみられるカード情報を使って宿の手配を繰り返し、依頼元の旅行業者などを通じて利益を得ていた中国人の容疑者が逮捕されています。警察やセキュリティ企業などでつくる一般財団法人日本サイバー犯罪対策センター(JC3)によると、昨年1年間の被害総額は50億円以上に上るとみられるほか、リクルート社によると、同社のサイトを使った不正な宿泊予約は昨年3月以降で約3,000件、被害額は約2億7,000万円に上っているということです。
  • 被害が多発するクレジットカード情報の不正利用については、嘘のメールを送って偽の画面を表示させて情報を抜き取ったり、インターネットショッピングサイトを攻撃して利用者情報を抜き取る巧妙な手口が横行しており、専門家が警鐘を鳴らしています。近年は大企業だけでなく中小企業もサイト上で商品を販売するようになっているものの、中にはセキュリティが脆弱なサイトもあり、格好のターゲットとなっていると言われています。サプライチェーン攻撃でも指摘した通り、中小企業におけるサイバーセキュリティ対策が今後、重要性を増すことになるのは間違いないところです。
  • インターネット上で偽サイトに接続させ、ネットサービスを利用する際のアカウントやクレジットカードの情報を盗む「フィッシング詐欺」が急激に増加しているといいます。報道によれば、昨年1年間に確認された偽サイト数は前年から7割ほど増え、今年はそれを上回る勢いだと指摘しされています。背景には、偽サイトそのものをネット上で販売するサービスの存在がある。「アマゾン」や「フェイスブック」などの画面とそっくりの偽サイトを簡単な手続きで購入できてしまうもので、正にそれ自体が「犯罪インフラ」だと言えます。
  • 「メルカリ」などのアカウントを不正に作成し販売したとして、北海道警サイバー犯罪対策課などは、私電磁的記録不正作出・同供用の疑いで、自称アカウント販売業とアルバイトを逮捕しています。2016年から今年にかけ、60,000個以上のアカウントを1個1,000~1,500円で販売、昨年1月から今年3月の間で、約8,500万円を売り上げたとみられています。不正アカウントは身元の特定を困難にさせる「犯罪インフラ」・道具であり、偽ブランド品や盗品の販売、特殊詐欺のメンバー募集などに利用されるといいます。

4.タックスヘイブン(租税回避地)

国税当局が海外に多額の資産を持つ富裕層の税逃れ対策(租税回避行為対策)を強化しています。国際税務に通じた精鋭集団の富裕層PTは、平成26年に東京、大阪、名古屋の3国税局に設置されましたが、昨夏からは全国12の国税局・事務所に拡充されています。さらにグローバルでの税逃れ対策の切り札と期待されているのが世界各国の口座情報を自動的に交換して資産を「ガラス張り」にする「CRS」(共通報告基準)であり、今般、日本でもスタートし、早速、4カ国・地域の金融機関にある日本人の口座情報550,705件(速報値)を入手したことが明らかとなりました。これまで租税条約を発効した国や地域とは、利子や配当、不動産賃借料、給与・報酬などの情報を交換してきたものの、口座情報は初めてであり、海外に所有する資産を透明化できるようになり、相続税逃れなどもチェックできるようになりました。そして、この中には、タックスヘイブンの情報も含まれており、富裕層や企業の税逃れ対策に効果が期待されています。タックスヘイブンでの節税実態を暴いたパナマ文書問題では、各国の税務当局がグローバル経済に対応できていない実態が浮き彫りになりました。富裕層の税逃れを放置すれば、税制そのものへの信頼も揺らぎかねず、国税当局は富裕層の海外資産の監視に本腰を入れている状況です。タックスヘイブンの問題については、本コラムでもたびたび指摘してきましたが、課税逃れの観点にとどまらないタックスヘイブンの問題の本質を考えるうえで、かつて、金融庁関係者から、BVI(英領バージン諸島)のファンド等を引受先にしているファイナンスは「不公正ファイナンス」である可能性が高い(さらには、「P.O BOX 957 Tortola BVI」とする私書箱を住所に使っている場合はよりその可能性が高い)との指摘がなされていた点は知っておきたいところです。このような不公正ファイナンスの引受け手である海外のファンドの「真の所有者(beneficial owner)」は、実際は日本にいて、反社会的勢力とつながっていることも多い(いわゆる「黒目の外人」と呼ばれている人たち)とも言われています。今後、CRSや、パナマ文書・パラダイス文書等の分析、その他新たなリーク等により、タックスヘイブンに設立された夥しい数のペーパーカンパニーの「真の所有者」や「複雑な送金経路と資金移動の実態」が解明されること、そして、そこに関わる怪しい人脈の解明がすすむこと(過去の事案・悪用の痕跡であったとしても、そこに登場した人物や団体・組織の関連を知ることは極めて有用な情報となります)を期待したいところです。
なお、関連して、EU財務相会合は、タックスヘイブンのブラックリストからナミビアを除外したと報じられています。同国が税制と運用の変更を約束したためで、これにより、EUの基準に非協力的としてブラックリストに指定されているのは、サモア、トリニダード・トバゴ、米領サモア、グアム、米領バージン諸島の5カ国・地域となりました。なお、このブラックリストは昨年12月、企業や富裕層による様々な脱税が明らかになったのを受けて策定され、当初は17カ国・地域が含まれていましたが、対象国が急速に縮小していることから各国が提供している租税回避手段の全容を示していないとの批判や、ブラックリスト指定国・地域への制裁について、EU加盟国の間で合意が得られていないといった課題が残されています。

5.その他

その他、「犯罪インフラ」の観点からの最近の報道としては、健康保険証を不正に取得し診療費の支払いを免れたとして、兵庫県警暴力団対策課などが、詐欺の疑いで、指定暴力団山口組直系岸本組組長を再逮捕した事例があげられます。昨年10月、大阪府藤井寺市に居住していないのに同市に国民健康保険証を交付させ、同10月~今年7月に大阪府内や兵庫県内の医療機関10カ所で診療を受け、診療費約17万円の支払いを免れたといいます。この事例は、自治体の国民健康保険証の交付手続きの脆弱性が突かれた形であり、その手続きの脆弱性自体が「犯罪インフラ」となってしまっている(自治体の犯罪インフラ化)と指摘できます。
また、警察庁がインターネット上の医薬品の無許可販売や無承認医薬品の広告に対する集中取り締まりで、警視庁など12都道府県警が医薬品医療機器法違反の疑いで6人を逮捕、11人を書類送検し、22カ所を家宅捜索したと発表しています。報道(平成30年10月23日付ロイター)によれば、この取り締まりは、ネットを介して国境を越える医薬品の違法販売を防ぐため、国際刑事警察機構(ICPO)の調整で61カ国・地域が参加し、今月9日から8日間実施されたものであり、国内では捜索でED(勃起不全)治療薬、やせ薬などの医薬品648点を押収、事件に使われた疑いがある12口座について金融機関に通報したということです。やはり、ネット上の非対面取引による医薬品販売については、無許可販売等が横行しており、転売等の犯罪の温床となっている実態がうかがえます。この犯罪インフラは、暴力団による「生活保護ビジネス」としての生活保護受給者を利用して向精神薬の転売を図る新手の「貧困ビジネス」との関係が深いことが指摘できます。ご存知のとおり、生活保護法では、生活保護受給者は、福祉事務所が発行する医療券を使うと、指定医療機関で投薬や手術などが無料で受けられる仕組みとなっています。ここに暴力団が注目し、医療費のかからない生活保護受給者に病気を装わせて受診させ、処方を受けた向精神薬を廉価で買い取って、インターネットで転売するというスキームが存在しているのです。過去、麻薬及び向精神薬取締法違反(営利目的譲渡、所持)などの事件が起きており、例えば、平成22年10月に大阪で発生した事件では、不眠治療などに用いる向精神薬約1,000錠をインターネットで知り合った数人に約12万円で販売し、3年間で2,000万円近く稼いだといったものがあげられます。この事件では、知り合いの暴力団関係者を通じて生活保護受給者に向精神薬の入手を依頼するため、医療機関に通わせ、医師に「眠れない」などとウソの症状を申告させています。また、ホームレスを無料定額宿泊所に住まわせ生活保護費を搾取する「囲い屋」は、本人に医療負担がない点を悪用させ、医療機関をはしご受診させて大量の向精神薬を入手し転売している実態があります。さらに、この事件では、ハルシオンやエリミンなどの睡眠薬や、レキソタンやデパスなどの精神安定剤の30数種類の向精神薬や医薬品が押収されており、1ヶ月に1種類あたり約220錠を入手した例もあるというから驚きです。このように犯罪や暴力団との関わりが危惧される、医薬品のインターネット無許可販売は、正に「犯罪インフラ」化が進行しており、これ以上放置するわけにはいきません。

(7) その他のトピックス

1.薬物を巡る動向

スポーツ界や大学等の教育機関のガバナンスやモラル、コンプライアンスが問われる目を覆いたくなるような事例が数多く発覚していますが、直近では、大麻を所持していたとして、近畿厚生局麻薬取締部が、追手門学院大学4年でアメリカンフットボール部主将ら2人を大麻取締法違反(所持)容疑で現行犯逮捕したとの報道がありました。アメフト部員41人全員に聞き取り調査をしたところ、13人が「夏頃から直容疑者が大麻を使っているといううわさがあった」と話しており、大学はアメフト部を当面、活動停止にするということです。同大学は、別の大学で過去に学生の間で大麻が広がっていたこともあり、今後7,000人近くいる全学生にアンケートによる実態調査と薬物に対する規範意識の向上にも取り組む考えを示しています。関連して、平成30年11月5日付産経新聞によると、薬物乱用を防ごうと、関西大、関西学院大、同志社大、立命館大の関西4大学が新入生26,068人(回答数22,945人)を対象に実施した「薬物に関する意識調査」で、「薬物の使用や購入を勧められたことがある」と答えた学生は2%(354人)で、「薬物の使用を誘われる相手によっては断り切れないかもしれない」という学生が2.8%(660人)もいたことが分かりました。さらに、「周囲に薬物を所持したり、使用している(いた)人がいる」と答えた学生は4%(799人、前年度比0.6ポイント増)もおり、うち大麻が41.3%(330人、同1.5ポイント増)で、危険ドラッグの9.3%(74人、同1.8ポイント減)などと比べても圧倒的に比率が高い結果となっています。また、驚くべきことに、「薬物は(難しいが)入手可能」と答えた学生は56%(12,568人)もおり、その方法として、「インターネットなどで探せば見つけることができる)」が85.1%(10,697人)にも上っており、「販売されているのを見た」が3.8%(474人)という結果となりました。その一方で、薬物に関する相談窓口を「知らない」と答えた学生は60.2%(14,086人)に上っており、報道の中でのコメントのとおり、従来の広報のあり方を見直し、インターネット社会に即した正しい知識と薬物の怖さについて周知・啓発していく必要があることが痛感されます。

さて、覚せい剤等薬物の密輸の摘発などの報道も多い状況ですが、直近では、以下のような事件や報道がありました。

  • 韓国のソウル地方警察庁は、タイから韓国に覚醒剤112キロを密輸入し、うち22キロを売りさばいたとして、日本と韓国、台湾の密売業者計6人を麻薬類管理法違反などの疑いで逮捕し、残る8人に指名手配などの措置を取ったと発表しています。押収した覚醒剤90キロ(時価3,000億ウォン=約300億円相当)は、約300万回分の使用量にあたり、韓国当局が押収した量として過去最大ということです。この指名手配されている者の中には、転売の指示を出していた指定暴力団稲川会系の中堅幹部もおり、暴力団の関与が指摘されています。報道されている手口としては、日韓台の密売業者が捜査から逃れるためそれぞれ別の人間から指示を受けていたこと、特定の通し番号の紙幣を持った人間と取引するよう指示を受けた業者もいたことなど、興味深いものです。
  • 覚せい剤約340キロ、末端価格200億円以上の大量の覚せい剤を保管したとして、愛知県警が台湾籍の男ら3人を覚醒剤取締法違反(営利目的所持)の疑いで逮捕しています。同県警は国際的な密輸組織や日本の暴力団が関与しているとみて捜査しているということです。報道されている手口としては、覚せい剤はタイヤのホイールに隠されており、船で9月に台湾から密輸されたとみられ、逮捕された男らは受け取り役とみられ、同月に中部国際空港から入国していたようです。また、倉庫の借り主は岐阜県山県市の自動車部品販売会社であり、覚せい剤が隠されていた自動車のタイヤホイールは、この会社が台湾から輸入しており愛知県警は会社代表の中国籍の男も事件に関与しているとみて調べているということです。
  • (上記の事例などもそうですが、)最近は1度に大量に密輸する手口が目立っており、昨年8月には茨城県ひたちなか市の沖合で覚せい剤およそ475キロが見つかった事件もありました。以前の本コラムでも紹介したとおり、日本の覚せい剤の末端価格は海外に比べて高く(暴力団が流通をすべてコントロールしているためです)、国際的な犯罪組織が大量に持ち込んで利益を得ようとする動きが活発になっている面もあるようです。さらには、取締りの強化で資金源が少なくなっている暴力団が関与しているケースも多くなっています。
  • スーツケースに隠した覚せい剤約2キロ(末端価格1億2,000万円相当)を密輸しようとしたとして、警視庁組織犯罪対策5課と東京税関などは、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)と関税法違反の疑いで、無職の男を現行犯逮捕しています。報道によれば、タイ国内でスーツケースを受け取り、羽田空港から日本国内に持ち込もうとしたところを税関職員が発見、覚せい剤はスーツケース内側の生地の裏に隠されていたとのことです。容疑者は、インターネットの掲示板で「高額収入」などとうたう書き込みを見つけ、スーツケースを運ぶ仕事を請け負ったとい、中身を知らされていなかったと説明しているといいます。特殊詐欺の「受け子」について中身を知らなかったという点で最高裁の判断が待たれる状況にありますが、「高額収入」「スーツケースを運ぶ」というキーワードから「薬の運び屋」を想像するのは(インターネットを駆使できる人の一般的なリテラシーをふまえれば)そう難しいことではないはずであり、「知らなかった」が通用するかどうかは微妙だと思われます。なお、覚せい剤を、羽田空港経由で、かばんなどに入れた違法薬物を持ち込む「携帯型密輸」は増加しており、今年の摘発件数は前年同期比ほぼ倍増の11件増の23件に上るということです。
  • 大麻の栽培が暴力団の資金源となっていることが発覚するケースが相次いでいます。例えば、六代目山口組弘道会系幹部の男ら7人が、住宅で大麻草を販売目的で栽培していたとして大麻取締法違反の疑いで逮捕された事件がありました。報道によれば、神奈川・横浜市中区など3つの住宅で、販売目的で大麻草あわせて144本(1,730万円相当)を栽培した疑いが持たれていて、押収した乾燥大麻とあわせると、末端価格3,300万円相当になるといい、密売で得た収益は暴力団の資金源になっていたとみられています。なお、現場となったのは、いずれもありふれた住宅街にある戸建てで、住宅街の中だからこそ「バレにくい」と目をつけた手口によるものと推測されます。
  • 九州厚生局麻薬取締部小倉分室は、「片岡不動尊」住職(57)を覚せい剤取締法違反(使用)容疑で逮捕したと発表しています。容疑者は子供たちに薬物の乱用防止を呼びかける講師の認定を受けており、自宅で覚醒剤を注射して使用した疑いがあり、「2年ほど前から週に数回使うようになった」と容疑を認めているということです。
  • 昨年1年間の沖縄県内薬物事件の摘発件数が、前年より39件多い254件に上り、過去最多となり、摘発者数も24人増え188人となり最多だったとの報道がありました(平成30年11月10日付琉球新報)。さらに、覚せい剤取締法違反容疑での摘発が161件、112人(前年比58件、37人増)と急増、全体の約6割を占め摘発件数を押し上げた点が特徴です。また、年代別では30代が45人、40代が36人で中年層が全体の7割以上を占め、乱用者による薬物汚染が深刻化している点も指摘できます。報道では、「資金獲得活動に窮した暴力団関係者が『シノギ』として手っ取り早い覚せい剤の密輸密売に回帰していることが考えられる」、「指定暴力団旭琉会において薬物密輸密売のシノギは表向き御法度だが実態は違う。乱用者の取り締まりはもちろんのこと、暴力団組織の資金源を絶つ意味でも海保、税関、麻取などの関係機関と連携して取り締まりを強化していく」と同県警のコメントが紹介されており、やはり薬物が暴力団の重要な資金源であることが分かります。

海外の動向では、先進国ではじめてカナダが嗜好品としてのマリフアナ(大麻)の所持・使用を合法化したことが大きなニュースとしてあげられます。ただ連邦政府のほか多くの州政府は慎重な姿勢をとっているようです。同国のトルドー首相は、犯罪組織への資金源断絶のほか、多くの国民が非合法で使用していた大麻の生産、流通、消費を規制下に置くことを目的に、大麻合法化を2015年の選挙公約の1つに掲げていました。今後、大麻は、政府や州政府が許可した栽培業者によって生産され、公的に管理された店舗が販売することになります。使用年齢(原則18歳以上)などは、州政府の判断で厳格化できるということです。報道によれば、カナダでは大麻の生涯経験率が4割を超えるなど、違法使用が蔓延しており、合法化によって公的管理する方針に転換することとなりました。大麻を巡っては、米国では半数以上の州で医療目的や嗜好目的の使用が認められている状況にあります。さらには、メキシコ最高裁が、嗜好用の大麻使用の禁止に違憲判決を下しています。このように北米全域で大麻解禁の動きが加速、麻薬絡みの凶悪犯罪に悩むメキシコでも、麻薬密売組織の力を削ぐには解禁が必要と主張する声があり、カナダに続く可能性もありそうです。カナダのように国民に広く蔓延している状況や、多くの国が犯罪組織対策を理由として合法化を進める動きがありますが、あらためて前回の本コラム(暴排トピックス2018年10月号)で紹介した警視庁のサイト「大麻を知ろう」から「大麻を巡る4つのウソ」について再掲し、正しい認識を持っていただきたいと思います。

▼警視庁 大麻を知ろう

大麻にまつわる4つのウソがある。これらのウソが想像以上に世の中に広がっている。「大麻は精神病にならない」については、一見普通に生活しているような人でも、実は記憶障害が出ていること、無気力になる「無動機症候群」の割合が多いことが分かっている。「大麻には依存性がない」については、大麻は覚醒剤に比べると効きが緩やかなこと、また、急に使用をやめても、少し不眠になったり、食欲不振になる程度なので使っている本人は依存性があることに気が付きにくいことがある。「大麻は体に良い」については、医療大麻よりも良い薬はいっぱいあること、一方で医療大麻の錠剤は、一定時間かかって体内で溶けるようになっているから血中濃度が上がるのをなだらかにコントロールしてくれるという点は理解が必要。「大麻を禁止するのは国の間違い」については、大麻は、いろいろな国の調査で最高使用率は50%といわれていることから、大麻を合法化しても国民の半分は使わないのであって、合法化しようとしている国やアメリカの一部の州は50%以上の人が常用してしまっていたため合法化に踏み切ったもの。こうなってしまった場合、大麻を合法化してももう使用者数は増えないから医療費などは増えないし、取り締り費用なども必要なくなる、国や州で管理すれば税収になったり、マフィアなどに流れる金もなくなるといった事情もある。日本は先進国の中では大麻の常用者率が極端に低い国。もし日本で大麻を合法化してもデメリットしかない

薬物対策については、薬物事件の再犯防止に向け、厚生労働省が、執行猶予判決を受けた初犯者にカウンセリングなどの薬物乱用防止プログラムを直接指導する専門職員を全国の麻薬取締部に配置する方向で検討しているとの報道がありました。こうした専門職員の麻薬取締部への配置は初めてであり、プログラムを受ける対象として、覚醒剤使用など薬物事件で摘発され、保護観察が付かない執行猶予判決を受けた初犯者(これまでの統計では毎年3,000人程度いるということです)を想定しており、医療機関や地域との橋渡し役として、社会復帰を促す役割を持たせるようです。また、薬物やギャンブルの依存症対策を後押しするため、医療、福祉機関などでつくる大阪府のネットワークに犯罪加害者の家族を支援するNPO法人が加盟したという報道もありました。依存症の当事者が事件を起こした場合、治療や再犯防止など立ち直りには家族のサポートが欠かせないと大阪府が判断したもので、自治体と加害者家族支援団体の連携は全国でも珍しいということです。

2.忘れられる権利を巡る動向

いわゆる「忘れられる権利」については、国内では、昨年1月に最高裁の判断が出て以降、その判断基準に沿った形での判決が続いていることは、前回の本コラム(暴排トピックス2018年10月号)でも直近の事例をとりあげたところです。国外の動向についても、少し確認してみると、「忘れられる権利」自体は、EUの個人情報保護の新ルール「一般データ保護規則(GDPR)」でも定められており、同規則17条は「もはや個人データが不要となった」場合などに、データを保持する側が削除に応じる義務があると規定しています。注目すべき点は、「検索サイトだけでなく個人データを持つあらゆる企業に対応義務がある」という点です。さらには、削除対象のデータの種類も、犯罪歴や過去の交友関係など当事者にとって「不都合な」ものに限らないという点にも注意が必要です。報道(平成30年10月31日付日本経済新聞)によれば、検索大手のグーグルは2014年以降、個人などからの要請を受けて計100万件以上を削除したということです(具体的な例示として、「大企業の重役が過去に受けた判決についてのリンク」の削除要請に対して、「十分な公共の関心がある」としてリンクの多くは削除しない対応、「個人的な住所や電話番号が表示されているリンク」は削除の対応、「名誉棄損訴訟に負け損害賠償の支払いを命じられた人についてのリンク」は、「本人の学者としての社会的地位に直接関連する」ため削除しない対応が紹介されています)。
一方、米国では、表現の自由を重視し、情報削除に慎重な考えが強いこともあり、EUとは異なる状況にあります。そのような状況に関連して、グーグルの検索プロトコルがプライバシー侵害に当たるとして起こされた集団訴訟の和解案を巡り、連邦最高裁判所で和解金額を制限するべきかどうか判事の意見が分かれているとの報道がありました(平成30年11月1日付ロイター)。この訴訟は2010年に提起されたもので、グーグルがユーザーの検索時に打ち込んだ言葉やフレーズ(クエリ)が他のサイトに公開される仕組みがプライバシー保護の法律に違反していると主張されたもので、グーグルは、ユーザーの検索クエリをどのように共有するかの開示などに応じ、総額850万ドルの和解金の一部を原告や弁護士に、また大部分をインターネットにおけるプライバシー保護を推進している非営利団体に寄贈することを受け入れました。それに対し、「原告団の弁護士への過剰な支払いを含めて和解金が不当に高くなったのではないか」、「多数の原告に金額が分割されて一人ひとりの受け取る額が取るに足りない規模になってしまう点を踏まえると、非営利団体に大半を寄贈するのはお金の有効な使い道ではないか」という具合に分かれているようです。

3.AI(人工知能)を巡る動向

AIを活用した犯罪捜査や犯罪防止策が本格化しています。例えば、佐賀県警は、AIとIoTを活用し、犯罪抑止力の拡充を図るための連携協定をオプティム社および佐賀銀行と結んだと発表しています。防犯カメラの映像から指名手配犯を特定する技術(PIPL)などで、犯罪者の検挙率向上につなげる狙いがあり、指名手配者などの似顔絵から抽出した特徴を持つ人物を、防犯カメラの映像などで特定するというものです。AIによる金融機関での特殊犯罪防止は、実現されれば日本初ということです。また、ATMで利用者が振り込め詐欺などの被害者や犯人とみられる人を、カメラに映った画像を元にAIが判断し、警告を出す技術も開発されています。ATM内蔵のカメラで画像を認識するのは国内初だといいます。報道によれば、日立オムロンターミナルソリューションズ社の開発で、ATMを使う特殊詐欺の被害者や犯人に共通する外見に着目したものだといいます。具体的には、被害者は、犯人側から携帯電話を通して誘導され、ATMを操作させられることが多いこと、出し子であれば、マスクやサングラスで顔を隠し、防犯カメラに映るのを避ける傾向があるということです。これらをふまえ、ATMのカメラが携帯電話を使っていたり、マスク、サングラスを着けたりしている人の姿を認識すると、警告が出る仕組みだといい、事前に、こうした人の画像を大量にAIに読み込ませ、ディープラーニング(深層学習)を用いて特徴を学習させることができれば、高い精度で判別できるようになるとのことです。最新の技術を駆使して手口が巧妙化する特殊詐欺犯罪の被害を防止することを期待したいところです。
一方、中国では、AIを用いた監視カメラと公安当局のDB(データベース)を連動させた監視システム「天網」の導入が進んでおり、大規模イベント会場で指名手配犯の容疑者を数多く摘発する事例が増えているようです。あるいは、イベント会場周辺等で顔認証ができるメガネ型情報端末を装着した警官が人々の顔を注視、会場周辺には夥しい数の最新カメラが新設され、公安当局のDBに直結、指名手配犯などが映し出されれば、事件解決につながる仕組みも投入されています。しかしながら、このような先進的な中国の監視システムは人権侵害の恐れも当然ながら指摘されているところであり(中国の監視のあり方は極端な例ですが、日本でも街頭の防犯カメラや自動車に搭載されるドライブレコーダーなど類似の技術・装置が広く浸透しています)、AIのような最新技術の活用/悪用と人権侵害リスクのバランスのあり方については今後の大きな課題となるものと思われます。それに加え、AIとて万能ではないことも認識する必要があります。報道によれば、米アマゾン・ドット・コムが導入をすすめてきたAIを活用した人材採用システムが、女性を差別するというディ―プラーニング(機械学習)の欠陥が判明し、運用を取りやめる結果になりました。例えば、技術職のほとんどが男性からの応募だったことで、システムは男性を採用するのが好ましいと認識したと指摘していますが、日本であれば、男女から応募があっても男性が採用されるケースが多い状況が予想され、そのような場合、男性をよりよく評価するよう学習されてしまう可能性があります。結局、AIとはいえ、判断の基礎となるデータが偏っていれば結果もまた偏るのであり、そこに人間的な倫理・公正さなどといった「曖昧なもの」を反映させて偏りを修正させることなど難しいのであって、人間自体が変わらないと「AIによる公正な判断」などありえないということを痛感させられます。

4.金融庁「コンプライアンス・リスク管理基本方針」

以前の本コラム(暴排トピックス2018年8月号)で取り上げた「コンプライアンス・リスク管理に関する検査・監督の考え方と進め方(コンプライアンス・リスク管理基本方針)」について、パブコメの結果が公表されています。金融業務だけでなく、一般の事業者にも参考となる考え方が示されていますので、ピックアップして紹介します。

▼金融庁 「コンプライアンス・リスク管理に関する検査・監督の考え方と進め方(コンプライアンス・リスク管理基本方針)」(案)へのパブリックコメントの結果等について
▼別紙

意見に対して回答した金融庁のコメントのうち、参考となるものを紹介します。例えば、「検査マニュアルの廃止は、これまでに定着した実務を否定するものではなく、金融機関が現状の実務を出発点に、より良い実務に向けた創意工夫を進めやすくするためのもの。したがって、どの部署・支店等にコンプライアンス担当者を何人配置するかという形式ではなく、各金融機関が、そのビジネスモデル・経営戦略を踏まえ、コンプライアンス・リスク管理を実効的に行うことのできる態勢を整備することが重要であると考える。また、コンプライアンス・リスク管理の実効性を内部監査等により定期的に検証するとともに、ビジネスモデル・経営戦略の変化に対応してその態勢を必要に応じて見直すことが重要」との基本姿勢を明確に示しています。ともすると検査マニュアルに沿った形式に囚われてきたことの反省をふまえ、自立・自律の観点から「実効性」を追求していくことの重要性が説かれています。また、関連して、「金融機関を巡る環境の急速な変化及び活動の国際化に対応し、また、経営に重大な影響をもたらす不祥事等の発生を防止するためには、最低基準としての法令(業法)等を遵守するだけでなく、各金融機関において、コンプライアンスは経営の問題であるとの認識が醸成され、コンプライアンスをリスク管理の一環として捉えることや、ビジネスモデル・経営戦略と一体の自社にとっての最適なリスク管理態勢の整備や問題事象の未然予防に向けた自律的な取組みがなされること等が期待される」との指摘も極めて示唆に富むものと言えます。最低基準としての法令を乗り越え、社会や時代の要請に応えていくために、ここでも「自立・自律」がキーワードとなっているように思われます。さらに、「各金融機関自身において、そのビジネスモデル・経営戦略を踏まえ、何が自社にとってのリスクにつながるかを検討していただく必要があることから、本基本方針では「コンプライアンス・リスク」及び「コンプライアンス・リスク管理」につき具体的な定義を置いていない」、「例えば、以下のような場合に、信用リスク、システムリスク又は事務リスクとコンプライアンス・リスクが関連すると考えられる」として、具体的に問題点を提起している点も参考になります。

  • 収益至上主義の傾向を有する企業文化の下で、無理な営業活動、杜撰な与信審査、審査関係書類の改竄等の不正が行われる場合(※信用リスクとコンプライアンス・リスクが関連する事例)
  • 脆弱なセキュリティ態勢の下、コンピューターの不正利用や機密情報の流出が発生し、事後対応の不適切さも相俟って、顧客の被害、金融機関の経済的損失やレピュテーションの著しい低下等につながる場合(※システムリスクとコンプライアンス・リスクが関連する事例)
  • 事務ミス、事故、不正等を軽視し、根本原因を同じくする事象が多数又は広がりをもって発生していることを看過している場合(※事務リスクとコンプライアンス・リスクが関連する事例)

また、「今後、金融庁は、コンプライアンス・リスク管理に関する実態把握を行い、これらの過程で得られた事例やプラクティス、そこから抽出される共通課題等を取りまとめ、金融機関へのフィードバック及び公表を実施することを予定している」こと(これは業界団体との意見交換会でも出た内容です)、「近時の金融機関が関連する不祥事を踏まえ、コンプライアンス・リスク管理に関し、(1)メディア報道や外部からの照会等、(2)当局等への苦情・相談事例、(3)一般事業会社を含む国内外の不祥事、(4)国内外の法令・制度の改正や判例の動向、(5)海外当局や国際機関における議論の動向、(6)経済・社会環境の変化(SDGs への注目の高まり等)等を踏まえた幅広い情報収集を通じてリスク要因やその程度を業態横断的に前広に把握・評価し、そのリスクの程度に応じてメリハリを付けたモニタリングを行っていく。また、モニタリングの対象とする金融機関は、リスクが高いと考えられる金融機関や、今後リスクが高まる可能性がある金融機関を中心に選定する」として、「金融行政におけるリスクベース・アプローチ」に基づくこれからのモニタリングの方向性が示されています。加えて、「定量的な指標やリスク計測手法が用いられることの多い信用リスクや市場リスク等と異なり、コンプライアンス・リスクについては、定量化することが困難ですが、定量化可能な指標等を検討することは有用であり、考慮され得る「具体的な事実(数字・金額等)」の例としては、以下のものが考えられる」として、「近時発生している社内規程違反の件数、発生頻度」、「近時寄せられている苦情の件数」、「近時提起された訴訟やADR の件数、訴額」といった具体的な指標を示している点も注目されます。
なお、内部通報制度の実効性向上のための取組みとしては、例えば、以下のものを示しています。

  • 通報先(連絡先)を役職員が普段アクセスしやすく、わかりやすいところに示している事例
  • 社内研修等において、内部通報制度の存在意義、趣旨、通報すべき事案の例等を定期的に周知徹底している事例
  • 匿名での通報を可としている場合において、匿名性が担保される旨を周知徹底している事例
  • 内部通報を行ったことが人事評価において不利に扱われない旨を周知徹底している事例

また、「「社内の常識」と「世間の常識」の乖離を防ぐためには、社外取締役をはじめとする外部の有識者等の視点が活用されることが重要であると考えられる。また、近時の経営に重大な影響をもたらす不祥事の発生等を踏まえ、社外取締役等による経営陣に対する監督・牽制等の重要性が強く認識されているところ。かかる観点から、「経営陣に対する牽制機能が働く適切なガバナンス態勢」という表現を使用している」、「人材の固定化等により、事業部門に比べて管理部門や内部監査部門の発言力等が相対的に低下しているといった事例が見られる」などの指摘もその通りだと思われます。また、「リスク・アセスメントが不十分であったと考えられる事例」として、以下を示している点も興味深いところです。

  • 過度な営業推進による弊害が生じていないかといった問題意識の欠如から、他と比較して突出した業績を上げている営業店に対して監査を実施していない
  • 経営目標に「役務収益増強」、「ミドルリスク層へのリスクテイク拡大」を標榜しているにもかかわらず、それに伴って生じ得るリスクに関する監査を実施していない
  • 経営方針や経営環境の変化を踏まえることなく、内部監査項目を前年と全く同一としている
  • リスク・アセスメントの結果として認識したリスクを監査項目に反映させていない
  • 市場運用部門に対する監査において、市場リスク管理態勢に着目することなく、他部店と同様に労務管理や情報管理上の問題、ALM委員会への付議状況等、行内の規程・マニュアル等に準拠した事務取扱が行われているかといった観点での監査しか実施していない

さらに、「経営目線での管理態勢の構築が重要であることを踏まえると、事業部門及び管理部門から独立した立場において、かかる管理態勢につき検証することのできる内部監査部門の役割が重要となると考えられる。このような問題意識から、内部監査においては、経営陣の構築した管理態勢の実効性についても、その検証範囲に含めることが重要であり、その検証の結果、不備や改善点が見つかった場合には、経営陣への規律づけの観点、経営陣に対する牽制機能発揮の観点から、必要な指摘、助言、提言等を、経営陣に対し行うことが重要であると整理している」という意見も、内部監査部門に強い役割を与えるべきという示唆を含み、突っ込んだ内容かと思います。
そして、「本基本方針におけるリスクベース・アプローチとは、各金融機関が、費用対効果や、法令の背後にある趣旨等を踏まえた上で、自らのビジネスにおいて、利用者保護や市場の公正・透明に重大な影響を及ぼし、ひいては金融機関自身の信頼を毀損する可能性のある重大な経営上のリスクの発生を防止することに重点を置いて、リスクを特定・評価し、これを低減・制御するためのプロセスを実行に移すことをいう。最低基準(ミニマム・スタンダード)を遵守しなければならないことは、かかるリスクベース・アプローチの下であっても、これまでと異なるものではない」との態度表明こそが、おそらく、現在の金融庁のスタンスを明確に表しているものと考えます。なお、(やや捉えどころが難しい)コンダクト・リスクについては、「厳密な定義があるものではないが、英国の金融行為規制機構(FCA)をはじめ、海外の金融機関においても議論がなされているテーマの一つ。金融機関が、ある業務に関し、その適切性について問題意識がないため管理対象とはしていないものの、それが実は多数の顧客に損失が生じることとなる場合や、大きな社会的批判を受ける可能性のある場合があることは、我が国においても広く認識されはじめているところであり、本基本方針におけるコンプライアンス・リスクの考え方は、基本的にコンダクト・リスクの考え方とその趣旨を同じくするものであると考えられる」と述べている意味もきちんと受け止める必要があるものと思われます。「実は今、何が問題となっているのか」、「今後、何が問題になるのか」、「隠れたリスク(隠れて見えていないリスク)はないのか」、「わかっていないリスクにどう対応すべきか」などは、正に金融機関(事業者)が「自立・自律」的なリスクベース・アプローチに基づくリスク管理に取り組んでいない限り見えてこないものであり、様々な課題に対しても、形式的・表面的ではなく、真に「実効性」を追求していかなければ、知らないところで大きな問題を抱えることになる危険性を秘めているとの認識のもと、真摯に取り組んでいくことが求められているということだと思われます。

(7) 北朝鮮リスクを巡る動向

北朝鮮リスクへの対応については、前回の本コラム(暴排トピックス2018年10月号)でも指摘したとおり、とりわけ米は厳しい姿勢を崩さず、より踏み込んだ経済制裁を課しています。前回は、米財務省が、北朝鮮の核・ミサイル開発を支援したとして、中国に拠点を置くIT企業とそのロシア法人を制裁対象に指定した事例を紹介しました。財務長官の「フロント企業などを隠れ蓑に身元や素性を偽る海外IT関連労働者からの違法資金の流れを断つ狙いがある」、「世界中の企業は技術分野でうかつに北朝鮮人を雇わないよう注意すべき」との指摘は事業者における北朝鮮リスクへの重要な警鐘として受け止めるべきだと思われます。一方で、当事者の日本・韓国においては、その制裁網に穴を空ける可能性のある事例も指摘されています。まず日本については、外務省が、北朝鮮が洋上で違法に物資を積み替える「瀬取り」を行ったとして、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会が制裁対象に加えた北朝鮮船籍などの船舶3隻について、特定船舶入港禁止特措法に基づき国内への入港を禁止するなどこれまでも北朝鮮の瀬取りに関連して国連が指定した船を入港禁止とする措置を続けています(今年3月には別の27隻について国内入港を禁止しています)。しかしながら、その一方で、報道(平成30年10月28日付産経新聞)によると、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)系の貿易会社(平成19年解散)が、北朝鮮側と合弁会社を立ち上げ(当該企業については、国連が大量破壊兵器開発に関与したとみて資産を凍結し、監視対象となっています)、レアアース(希土類)の抽出技術を北朝鮮に移転した疑いがあるということです。希土類の採掘、処理の過程で天然ウランの抽出も可能で、実質的に核開発の基本技術が日本から持ち出された形だと考えれば事の重大性が認識されるものと思います。本コラムでも取り上げた通り、昨年9月に国連安全保障理事会(国連安保理)が北朝鮮との合弁を禁止する決議を採択しましたが、事業の開始時期とは無関係に、出資などが継続し、未承認で稼働していれば、制裁逃れ(決議違反)にあたる可能性があります。一方で、決議違反となる合弁への出資企業が実質的に存在していたとしても、法人・個人を罰する法律はなく責任追及や技術移転の経緯、実態解明は困難だと報じられており、取り締まりの法律や体制が整わない現状では、実態把握すら難しく、摘発もできない厳しい現実が突きつけられていると言えます。また、韓国についても、米財務省が、韓国の産業、農協両銀行に対して、北朝鮮に支店を開設すると報道された両行に北朝鮮との金融取引の可能性があるとみて懸念を示し、北朝鮮との金融取引が不必要な誤解を招きかねないと指摘したということです(平成30年10月16日付朝日新聞)。さらに、南北両国が南北の鉄道・道路の連結・現代化事業のための着工式を11月末~12月上旬に行うことに伴い、鉄道や道路の連結事業に必要な資機材を北朝鮮に運び込むことが国連制裁に抵触する可能性があり、制裁の緩みにつながることへの米国の懸念もあり、着工式後、工事がいつ始まるかは見通せない状況だといいます。
また、「瀬取り」もいまだ横行している状況の中、北朝鮮の対中国貿易が、制裁の影響で大幅に減少したとの韓国の報告にあるように、8月末時点で、貿易総額の約9割を占める中国向けが前年同期より57.5%減(特に輸出額は同89.7%減)となり、貿易赤字が膨らみ、外貨の獲得が難しくなっているようです。北朝鮮については、核実験場を閉鎖し、東倉里のミサイル施設を一部撤去した中、査察団の訪問に備えるとみられる準備や情報活動を行っている動きが捕捉されてはいるものの、寧辺の原子炉をはじめ核・ミサイル施設には大きな変化はありません。経済制裁の効果も出始めているタイミングだけに、こういった北朝鮮の揺さぶりに騙されることなく、日米韓を中心とした北朝鮮に対する経済制裁の厳格な履行を継続すべきだと言えます。そして、このような状況の中、事業者としては、国連安保理制裁決議に違反し、制裁リスト入りしている企業や個人、団体等との取引リスクへの対応が急務です。とりわけ海外取引においては、直接的には制裁リストのスクリーニングが必須であり、米の制裁におけるセカンダリー・サンクション(北朝鮮そのものに対する制裁に留まらず、北朝鮮と取引をする個人・法人に対しても二次的に制裁を行うというもの)をふまえれば、自らの商流についてのサプライチェーン・マネジメントの厳格化、KYC(Know Your Customer)だけでは不十分であり、KYCC(Know Your Customer’s Customer)の視点を持つ必要があります。実務としては、取引相手の重要関係先や資本関係先を洗い出し、周辺にまで対象を拡大してチェックしていく慎重さが求められることになります。

北朝鮮リスクとしては、「サイバー攻撃」の脅威が増している点にも注意が必要です。国際金融取引システム「SWIFT」が不正アクセスを受け、金融機関より多額の資金が不正に送金された問題で、米セキュリティ大手のFireEyeは北朝鮮が支援する攻撃グループ「APT38」が関与したとして詳細を明らかにしています。SWIFTに関しては、2016年2月にバングラディッシュ中央銀行が外部より不正侵入を受け、攻撃者が11億ドルの送金を試み8,100万ドルの被害が発生した事件をはじめ、他の金融機関でも発生している一連の攻撃について、同社は北朝鮮が関わる攻撃グループ「APT38」が関与しているとの見方を示しています。

▼FireEye APT38: Details on New North Korean Regime-Backed Threat Group

なお、平成30年10月4日付のSecurity NEXTの記事によると、「ATP38」は、少なくとも2014年以降、11カ国16以上の組織で侵入活動が確認されており、広範なリソースを持つ大規模な活動であること、金融機関や金融取引以外にも、政府組織やメディアやなどを標的としていたこと、被害組織を調査した結果、攻撃対象組織への潜伏期間は平均約155日間と長期にわたり、最長では約2年間におよんでいること、計画を完遂するため、慎重かつ綿密にネットワーク情報やユーザー権限など攻撃対象となる組織を把握し、アクセスを維持しようとしていたこと、長期的な計画に基づき、攻撃対象から資金を不正に取得しようとする点や、複数OSが混在するシステムにおけるカスタムツールの利用、侵入後の破壊活動などに特徴が見られたこと、などが指摘されています。また、韓国情報機関の報告でも、北朝鮮が情報入手や金銭奪取を狙ったハッキングを続けており、韓国内外のパソコンにメールを送り付けたり、ハッキングしたりして、外貨稼ぎのため、仮想通貨の採掘に活用しているとの指摘もあります。

3.暴排条例等の状況

(1) 沖縄県暴排条例の改正

沖縄県議会総務企画委員会は、暴力団の威力を利用した見返りに金品などを渡す利益供与の禁止などを規定した「県暴力団排除条例」の一部改正案を可決しています(2019年5月1日施行予定)。

▼沖縄県警察 沖縄県暴力団排除条例 改正の概要

現地の報道(平成30年10月24日付琉球新報)の「新たに県内の全事業所に対し、暴力団の会合にオードブルを提供することなどを禁止する」という例示が象徴するように、事業者による暴力団への一切の利益供与禁止は全国で一番最後に盛り込まれており(同時に盛り込まれた一部歓楽街でのみかじめ料禁止などについては、全国的にも早い方で10道府県目となります)、古いタイプの暴力団がいまだ勢力を誇る一方でリゾート建設等への現地以外の暴力団の進出、顕著な半グレの活動など、東京などとは異なる「反社リスク」に事業者が戦う武器が揃いつつあると評価できると思います。本改正を契機として、沖縄の事業者の暴排意識が高まることを期待します。

さて、今回の改正の趣旨については、県の資料によれば、「沖縄県においては、県民が利用する飲食店等において、白昼堂々暴力団による会合が開催されるなど、安全で平穏な県民生活に多大な影響を及ぼしている現状を踏まえ、上記のように事業者が暴力団の活動を助長することなどを知りながら、暴力団員に金品や飲食場所の利用等の利益の供与をすることを規制することに加え、暴力団への資金流入を遮断するため、風俗店や飲食店が集中する那覇市及び沖縄市の一部地域を「暴力団排除特別強化地域」(以下「特別強化地域」という。)に指定し、同地域内の風俗店等の事業者等による用心棒の依頼等の暴力団の利用や暴力団員の用心棒代等のみかじめ料を徴収する行為を禁止し、違反した場合に罰則を科すなどの規定を新たに設ける沖縄県暴力団排除条例の一部改正を行うもの」と説明されており、「事業者と暴力団の関係遮断を促すため、暴力団を利用した事業者等が自主申告した場合は、刑を減刑または免除する旨の自首減免規定を定めて」いるとも説明しています。
前述した通り、本改正までの同県暴排条例は、(平成25年3月に改正されているもの)他の自治体の暴排条例に比べると全体的に内容が緩やかな印象があり、例えば、事業者における契約締結時の措置等については、第14条(契約締結時における措置)に「事業者は、その行う事業に関し、契約を締結するときは、当該契約が暴力団員による不当な行為を助長することとならないよう努めなければならない」と定めてあるのみです(残念ながら今回の改正でも変わりません)。この点、例えば東京都暴排条例第18条(事業者の契約時における措置)第1項では、「事業者は、その行う事業に係る契約が暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる疑いがあると認める場合には、当該事業に係る契約の相手方、代理又は媒介をする者その他の関係者が暴力団関係者でないことを確認するよう努めるものとする」、第2項には「事業者は、その行う事業に係る契約を書面により締結する場合には、次に掲げる内容の特約を契約書その他の書面に定めるよう努めるものとする。1当該事業に係る契約の相手方又は代理若しくは媒介をする者が暴力団関係者であることが判明した場合には、当該事業者は催告することなく当該事業に係る契約を解除することができること。2工事における事業に係る契約の相手方と下請負人との契約等当該事業に係る契約に関連する契約(以下この条において「関連契約」という。)の当事者又は代理若しくは媒介をする者が暴力団関係者であることが判明した場合には、当該事業者は当該事業に係る契約の相手方に対し、当該関連契約の解除その他の必要な措置を講ずるよう求めることができること。3前号の規定により必要な措置を講ずるよう求めたにもかかわらず、当該事業に係る契約の相手方が正当な理由なくこれを拒否した場合には、当該事業者は当該事業に係る契約を解除することができること」などが規定されています。このように、「反社会チェック」や「暴排条項」の努力義務などが具体的かつ明確に示されていないという意味では、やはり緩い印象があります。
一方、事業者による利益供与の禁止については、今回の改定で、第13条「事業者は、その行う事業に関し、暴力団の威力を利用することにより暴力団員又は暴力団員が指定した者に対して、金品その他の財産上の利益の供与(第15条において「利益の供与」という。)をしてはならない」との従来からの規定に加えて、同条第2項に、「事業者は、前項に定めるもののほか、その行う事業に関し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなることの情を知って、暴力団員又は暴力団員が指定した者に対して、利益の供与をしてはならない。ただし、法令上の義務又は情を知らないでした契約に係る債務の履行としてする場合その他正当な理由がある場合には、この限りではない」との規定が新たに追加されています。要は「威力を利用する」だけでなく「暴力団の活動を助長」「暴力団の運営に資する」と知りながら利益供与することを禁じるもので、他の自治体の暴排条例と同等のレベル感となったと言えます。
また、今回、全国でも早い段階で、埼玉県暴排条例等のような「暴力団排除特別強化地域の設定」が新たに導入されている点も注目されます(東京都暴排条例はまだ未導入です)。沖縄県暴排条例における当該地域内の規制内容については、「特定接客業者の禁止行為」として、「暴力団員を客に接する業務に従事させること」「暴力団員又は暴力団員が指定した者から用心棒の役務の提供を受けること」「暴力団員又は暴力団員が指定した者にみかじめ料又は用心棒料を払うこと」が示され、かつ、「暴力団員の禁止行為」として、「客に接する業務に従事すること」「特定接客業者に用心棒の役務を提供すること」「特定接客業者からみかじめ料又は用心棒料を受領すること」が示されており、この点は、先行する埼玉県暴排条例等と同じ内容となっています。さらに、新たに「罰則」として、「違反した者を1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」こと、そして、やはり埼玉県暴排条例同様、「禁止行為を犯した特定接客業者が自首したときは、その刑を軽減し、又は免除することができる」と減免措置(リニエンシー)が導入されている点も注目されます。

(2) 静岡県暴排条例の改正

静岡県警は、静岡県暴排条例の改正案について、「用心棒料」や「みかじめ料」の受け取り、支払いといった暴力団員と事業者側の禁止行為が強制捜査に適用される特別強化地域に、静岡、浜松、富士、三島の4市の駅周辺繁華街を指定することとして、現在パブリックコメント募集中です。報道(平成30年10月31日付静岡新聞)によれば、改正条例の施行状況をみて、強化地域の拡大も検討すること、対象となる営業形態(特定営業)について、性風俗関連や社交飲食店、パチンコ店、風俗案内所などに加え、強化地域内の風俗情報を記載した書籍・雑誌の発行、インターネット上で閲覧させる事業も入れているとする点が注目されます。

▼静岡県警察 静岡県暴力団排除条例の改正(案)の概要

改正の趣旨について、静岡県は、「静岡県では、県内の複数の繁華街において、その繁華街を縄張とする暴力団員が飲食店や風俗店から用心棒料やみかじめ料を徴収し、多額の資金を獲得している実態があります。また、それらの徴収を巡るトラブルも発生しています。暴力団の排除を徹底し、県民及び事業者の安全で平穏な生活を確保するため、暴力団排除条例を一部改正し、繁華街における暴力団員に対する利益供与等の取締りを強化するための措置を追加」するものと説明しています。具体的には、暴力団の排除を特に強力に推進する地域として、(1)三島駅周辺繁華街、(2)富士駅周辺繁華街及び富士吉原地区繁華街、(3)静岡駅周辺繁華街、(4)浜松駅周辺繁華街を「暴力団排除特別強化地域」に指定しています。そのうえで「特定業を営む者の禁止行為」として、(1)特定営業を営む者が、特定営業の営業に関して、暴力団員から用心棒の役務(営業を営む者の営業に係る業務を円滑に行うことができるようにするため顧客、従業者その他の関係者との紛争の解決又は鎮圧を行う役務)の提供を受けることを禁止、(2)特定営業を営む者が、特定営業の営業に関して、暴力団員又はその指定した者に対し、用心棒料又はみかじめ料を支払うことを禁止しており、「暴力団員の禁止行為」についても、(1)暴力団員が、特定営業の営業に関して、用心棒の役務を提供することを禁止、(2)暴力団員が、特定営業の営業に関して、特定営業を営む者から用心棒料若しくはみかじめ料を受け取り、又はその指定した者にこれらを受け取らせることを禁止しています。さらに、罰則等についても、特定営業を営む者の禁止行為又は暴力団員の禁止行為をした場合は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されることになりますが、特定営業を営む者の禁止行為については、禁止行為をした者が自首したときは、その刑を軽減し、又は免除することができることとしているなど、沖縄県暴排条例と同様の立てつけとなっています。

(3) 福岡県暴排条例の適用事例(標章関係)

福岡県警飯塚署は、暴力団の入店を禁止する「標章」を掲げた飲食店に入ったとして、指定暴力団の傘下組織幹部(68)に対し、福岡県暴排条例に基づく中止命令を出しています。福岡県暴排条例では、第14条の2第2項において、「特定接客業者であって、暴力団排除特別強化地域に営業所を置くものは、公安委員会規則で定めるところにより、公安委員会に対し、暴力団員が当該営業所に立ち入ることを禁止する旨を告知する公安委員会規則で定める標章(以下この条において単に「標章」という。)を当該営業所に掲示するよう申し出ることができる」とし、第3項で「前項の規定による申出があった場合において、公安委員会は、暴力団員が当該営業所に立ち入ることを禁止することが暴力団排除特別強化地域における暴力団の排除を強化し、県民が安心して来訪することができる環境を整備するために必要であると認めるときは、当該営業所の出入口の見やすい場所に標章を掲示するものとする」、さらに、第4項で「暴力団員は、標章が掲示されている営業所に立ち入ってはならない」と規定し、第5項で「公安委員会は、暴力団員が前項の規定に違反する行為をしたときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該暴力団員に対し、当該行為を中止することを命じ、又は当該行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」とされており、今回のケースは本条項を適用した中止命令となります。

(4) 暴力団対策法の適用事例

以下、暴力団対策法上の中止命令等の最近の事例を紹介します。

  • 宮城県警白石署などは、暴力団対策法に基づき、多賀城市の指定暴力団系組員に、組員の脱退を妨害しないよう中止命令を出しています。報道によると、組員は5月上旬、塩釜市の会社事務所で、組織脱退を申し出た県内の無職男性に指詰めを強要し、脱退を妨害したということです。参考までに、暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)の第20条(指詰めの強要等の禁止)において、「指定暴力団員は、他の指定暴力団員に対して指詰め(暴力団員が、その所属する暴力団の統制に反する行為をしたことに対する謝罪又はその所属する暴力団からの脱退が容認されることの代償としてその他これらに類する趣旨で、その手指の全部又は一部を自ら切り落とすことをいう。以下この条及び第二十二条第二項において同じ。)をすることを強要し、若しくは勧誘し、又は指詰めに使用する器具の提供その他の行為により他の指定暴力団員が指詰めをすることを補助してはならない」と規定されており、さらに、第22条(指詰めの強要等に対する措置)で、「公安委員会は、指定暴力団員が第二十条の規定に違反する行為をしている場合には、当該指定暴力団員に対し、当該行為を中止することを命じ、又は当該行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」としています。
  • 神奈川県公安委員会は、指定暴力団稲川会系組員に対し、暴力団対策法に基づく再発防止命令を出しています。報道によると、男は今年6月に、マッサージ店経営者に対して「毎月5万円払ってほしい。何かあったら守ってやるから」などと言って、用心棒代を要求するなどして、伊勢佐木署長から計2回の中止命令を受けていたということです。参考までに、用心棒代の要求については、暴力団対策法の第9条(暴力的要求行為の禁止)の第5項で「縄張内で営業を営む者に対し、その営業所における日常業務に用いる物品を購入すること、その日常業務に関し歌謡ショーその他の興行の入場券、パーティー券その他の証券若しくは証書を購入すること又はその営業所における用心棒の役務(営業を営む者の営業に係る業務を円滑に行うことができるようにするため顧客、従業者その他の関係者との紛争の解決又は鎮圧を行う役務をいう。第三十条の六第一項第一号において同じ。)その他の日常業務に関する役務の有償の提供を受けることを要求すること」を禁止しています(27の禁止行為のひとつ)。そのうえで、第12条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をした場合において、当該指定暴力団員が更に反復して当該暴力的要求行為と類似の暴力的要求行為をするおそれがあると認めるときは、当該指定暴力団員に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、暴力的要求行為が行われることを防止するために必要な事項を命ずることができる」と定められています。

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