令和2年上半期における組織犯罪の情勢から(2020.10)

2020.10.13
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執筆者:主席研究員 芳賀恒人

【もくじ】―――――――――――――――――――――――――

1.令和2年上半期における組織犯罪の情勢から

(1)令和2年上半期における組織犯罪の情勢

(2)最近の暴力団情勢

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

(2)特殊詐欺を巡る動向

(3)薬物を巡る動向

(4)テロリスクを巡る動向

(5)犯罪インフラを巡る動向

(6)誹謗中傷対策を巡る動向

(7)その他のトピックス

・中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

・IRカジノ/依存症を巡る動向

・犯罪統計資料

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

3.暴排条例等の状況

(1)暴排条例の改正動向(兵庫県)

(2)暴排条例改正動向(富山県)

(3)暴排条例に基づく勧告事例(大阪府)

(4)暴排条例に基づく勧告事例(兵庫県)

(5)暴排条例に基づく勧告事例(茨城県)

(6)暴力団対策法に基づく中止命令の発出

(7)暴力団関係事業者に対する指名停止措置等事例(福岡県)

1.令和2年上半期における組織犯罪の情勢から

(1)令和2年上半期における組織犯罪の情勢

警察庁から「令和2年上半期における組織犯罪の情勢」(以下「本報告書」)が公表されています。その中から、暴力団情勢、薬物・銃器情勢、来日外国人犯罪情勢について主な動向を確認したいと思います。

▼警察庁 令和2年上半期における組織犯罪の情勢

まず、暴力団情勢については、「近年、暴力団構成員等(暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者をいう。以下同じ。)の検挙人員は減少傾向にあり、令和2年上半期においては、5,788人である。主な罪種別では、傷害が733人、詐欺が516人、窃盗が499人、恐喝が225人、覚せい剤取締法違反(麻薬特例法違反は含まない。以下同じ。)が1,583人で、いずれも前年同期に比べ減少している」、「暴力団構成員等の検挙人員のうち、構成員は1,134人、準構成員その他の周辺者は4,654人で前年同期に比べいずれも減少している」、「暴力団構成員等の検挙件数についても近年減少傾向にあり、令和2年上半期においては、8,806件である。主な罪種別では、傷害が641件、詐欺が708件、窃盗が2,436件、恐喝が181件、覚せい剤取締法違反が2,282件で、前年同期に比べいずれも減少し、特に窃盗が大きく減少している」といった状況にあると指摘しています。本コラムでは、毎月、特殊詐欺の動向や犯罪統計資料を確認していますが、コロナ禍や特定抗争指定の影響からか、暴力団等の関与する犯罪が一般的な犯罪の動向に比べて極端に減少している点が特徴的だといえます。本報告書は単に「減少している」と言及されているだけですが、実際は、相当の減少となっている点に注意が必要です。また、「覚せい剤取締法違反、恐喝、賭博といった伝統的資金獲得犯罪は、依然として、暴力団等の有力な資金源になっていることがうかがえる。これらのうち、暴力団構成員等の伝統的資金獲得犯罪の検挙人員に占める覚せい剤取締法違反の割合は近年、約8割で推移しており、令和2年上半期中においても同様である」、「また、暴力団構成員等の検挙状況を主要罪種別にみると、暴力団構成員等の総検挙人員に占める詐欺の検挙人員は、ここ数年で高止まりしており、詐欺による資金獲得活動が定着化している状況がうかがえる」としており、このあたりは毎月の統計からも傾向として読み取れるところです。「その他、金融業、建設業、労働者派遣事業、風俗営業等に関連する資金獲得犯罪が敢行されており、依然として多種多様な資金獲得活動を行っていることがうかがえる」ほか、「令和2年上半期における暴力団構成員等に係る組織的犯罪処罰法のマネー・ローンダリング関係の規定の適用状況については、犯罪収益等隠匿について規定した第10条違反事件数が15件であり、犯罪収益等収受について規定した第11条違反事件数が13件である。また、第23条に規定する起訴前没収保全命令の適用事件数は7件である」、「伝統的資金獲得犯罪の全体の検挙人員のうち暴力団構成員等が占める割合は、近年、40~50%台で推移している。この割合は、刑法犯・特別法犯の総検挙人員のうち暴力団構成員等の占める割合が5~7%台で推移していることからすると、高いといえる」、「令和2年上半期の伝統的資金獲得犯罪に係る暴力団構成員等の検挙人員は、1,903人で、暴力団構成員等の総検挙人員の32.9%を占めており、依然として、伝統的資金獲得犯罪が有力な資金源となっていることがうかがえる」点は暴力団の特徴をよく表しており、一方で「近年、暴力団が資金を獲得する手段の一つとして、詐欺、特に組織的に行われる特殊詐欺を敢行している実態がうかがえる」という指摘もまた最近の暴力団の特徴(の変化)を示すものとして重要だといえます。

警察官の後ろ姿

また、暴力団対策法の適用状況としては、「近年、中止命令の発出件数は減少傾向にあり、令和2年上半期においては、581件と前年同期に比べ74件減少している。形態別では、資金獲得活動である暴力的要求行為(9条)に対するものが413件と全体の71.1%を、加入強要・脱退妨害(16条)に対するものが49件と全体の8.4%を、それぞれ占めている。暴力的要求行為(9条)に対する中止命令の発出件数を条項別にみると、不当贈与要求(2号)に対するものが194件、みかじめ料要求(4号)に対するものが58件、用心棒料等要求(5号)に対するものが117件となっている。また、加入強要・脱退妨害(16条)に対する中止命令の発出件数を条項別にみると、少年に対する加入強要・脱退妨害(1項)が8件、威迫による加入強要・脱退妨害(2項)が39件、密接関係者に対する加入強要・脱退妨害(3項)が2件となっている。団体別では、住吉会に対するものが168件と最も多く、全体の28.9%を占め、次いで六代目山口組129件、稲川会52件、神戸山口組33件の順となっている。なお、暴力団対策法施行後の中止命令の累計は、令和2年6月末現在で51,402件となっている」ほか、「近年、再発防止命令の発出件数は減少傾向にあるところ、令和2年上半期においては、15件と前年同期に比べ1件増加している。形態別では、資金獲得活動である暴力的要求行為(9条)に対するものが12件と全体の80.0%を、準暴力的要求行為の要求等(12条の3)に対するものが3件となっている。暴力的要求行為(9条)に対する再発防止命令の発出件数を条項別にみると、不当贈与要求(2号)に対するものが1件、みかじめ料要求(4号)に対するものが5件、用心棒料等要求(5号)に対するものが5件、高利債権取立(6号)に対するものが1件となっている。団体別では、六代目山口組に対するものが5件と最も多く、全体の33.3%を占め、次いで稲川会が4件、住吉会と松葉会がそれぞれ2件となっている。なお、暴力団対策法施行後の再発防止命令の累計は、令和2年6月末現在で1,945件となっている」ということです。

さらに、「平成23年10月までに全ての都道府県において暴力団排除条例(以下「条例」という。)が施行されており、各都道府県は、条例の効果的な運用を行っている。なお、市町村における条例については、令和2年上半期までに46都道府県内の全市町村で制定されている」、「各都道府県においては、条例に基づいた勧告等を実施している。令和2年上半期における実施件数は、勧告25件、指導2件、中止命令4件、検挙16件となっている」ことが紹介されています。前年同期においては、勧告27件、指導2件、中止命令8件、再発防止命令1件、検挙6件であり、とりわけ検挙件数の大幅な増加が特徴的であり、これは、各地の暴排条例の改正によりみかじめ料の直罰規定等が導入れた効果が早速表れているものと推測されます。なお、本報告書で紹介されている勧告事例等については、以下のようなものがありました。

  • 居酒屋経営者(79)が、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなることを知りながら、六代目山口組傘下組織幹部(46)に会合の場所と料理を提供したことから、同経営者及び同幹部に対し、指導を実施した事例(3月、大阪)
  • 自動車販売業経営者(55)が、暴力団の威力を利用する目的で、六代目山口組傘下組織組長(62)に普通乗用自動車を無償で貸与したことから、同経営者及び同組長に対し、勧告を実施した事例(3月、愛知)
  • デリバリーヘルスの経営者(57)が、暴力団の威力を利用する目的で、六代目山口組傘下組織組長(64)に現金を供与したことから、同社及び同組長に対し、勧告を実施した事例(3月、富山)
  • 道仁会傘下組織組員(31)が、条例により定められた暴力団排除特別強化地域において、暴力団員が立ち入ることを禁止する旨を告知する標章を掲示している営業所(以下「標章掲示店」という。)に立ち入ることなどを禁止する旨の再発防止命令を受けていたものであるが、その命令の期限内において標章掲示店に立ち入ったことから、条例違反として検挙した事例(1月検挙、福岡)
  • 六代目山口組傘下組織組員(52)が、条例により定められた暴力団排除特別強化地域において、風俗営業を営む者から、用心棒の役務を提供する対償及びその営業を営むことを容認することの対償として現金の供与を受けたことから、条例違反として検挙した事例(2月検挙、静岡)

さらに、「都道府県センターでは、暴力団が関係する多種多様な事案についての相談を受理し、暴力団による被害の防止・回復等に向けた指導・助言を行っている。令和元年中の暴力団関係相談の受理件数は4万8,234件であり、このうち警察で2万169件、都道府県センターで2万8,065件を受理した」、「都道府県センターでは、都道府県公安委員会からの委託を受け、各事業所の不当要求防止責任者に対し、暴力団等からの不当要求による被害を防止するために必要な対応要領等の講習を実施している。令和元年度中に実施された不当要求防止責任者講習の開催回数は1,547回、同講習の受講人数は延べ7万3,887人であった」、「都道府県センターは、平成26年7月までに全て適格都道府県センターとして国家公安委員会の認定を受けており、指定暴力団等の事務所の使用により生活の平穏等が違法に害されていることを理由として当該事務所の使用及びこれに付随する行為の差止めを請求しようとする付近住民等から委託を受け、当該委託をした者のために自己の名をもって、当該事務所の使用及びこれに付随する行為の差止めの請求を行っている」ことなどが紹介されています。

次に、薬物・銃器情勢について紹介します。令和2年上半期における薬物情勢の特徴としては、「薬物事犯検挙人員は、近年横ばいで推移しているところ、令和2年上半期は6,321人と前年同期より僅かに増加した、「このうち、覚せい剤事犯検挙人員は、近年減少が続く中、令和2年上半期においても3,837人と前年同期より減少した。一方で、大麻事犯検挙人員は、若年層を中心に平成26年以降増加が続いており、令和2年上半期も2,261人と過去最多となった前年同期より増加した」、「覚せい剤の密輸入事犯検挙件数は51件と前年同期より大幅に減少した。このうち航空機利用の携帯密輸は20件と減少が顕著。覚せい剤の密輸入押収量は99.8キログラムと前年同期より減少した」、「危険ドラッグ事犯の検挙人員は69人と引き続き大幅に減少した」ことが挙げられています。もう少し詳しくみると、「薬物事犯(覚せい剤事犯、大麻事犯、麻薬及び向精神薬事犯並びにあへん事犯をいう。以下同じ。)の検挙人員は、近年横ばいが続く中、令和2年上半期は6,321人と前年同期より僅かに増加した。このうち覚せい剤事犯検挙人員は3,837人と減少が続いている一方で、大麻事犯検挙人員は2,261人と平成26年以降増加が続いており、薬物事犯別検挙人員における大麻事犯の比率が上昇している」、「覚せい剤事犯の検挙状況について、年齢層別でみると、人口10万人当たりの検挙人員は、20歳未満が0.5人、20歳代が3.7人、30歳代が6.5人、40歳代が7.0人、50歳以上が2.3人であり、最も多い年齢層は、40歳代、次いで30歳代となっている」、「大麻事犯の検挙状況について、年齢層別でみると、人口10万人当たりの検挙人員は、20歳未満が6.2人、20歳代が8.9人、30歳代が3.2人、40歳代が1.0人、50歳以上が0.1人であり、最も多い年齢層は、20歳代、次いで20歳未満となっている。学識別でみると、高校生及び大学生の検挙が増加している」ことが取り上げられており、大麻の若年層への蔓延の状況が数字的にも明らかとなっています。さらに、「薬物密輸入事犯の検挙状況は103件、106人と前年同期より大幅に減少した。このうち、覚せい剤事犯は51件、63人、大麻事犯は23件、18人であった」、「密輸入事犯における覚せい剤の押収量は99.8キログラム、乾燥大麻は8.5キログラムであった。態様別でみると、航空機を利用した覚せい剤の携帯密輸入事犯の検挙件数は20件と、前年同期より大幅に減少した」、「覚せい剤密輸入事犯の検挙状況について、仕出国・地域別でみると、タイとアメリカが6件(構成比率11.8%)と最も多く、次いでマレーシアと台湾が5件(同9.8%)、以下、ベトナムとカナダが4件(同7.8%)、中国、イギリス、メキシコがそれぞれ3件(同5.9%)となっている。態様別でみると、航空機を利用した覚せい剤の携帯密輸入事犯の検挙件数は20件と、前年同期より大幅に減少した。仕出国・地域別でみると、タイとアメリカが6件(構成比率11.8%)と最も多く、次いでマレーシアと台湾が5件(同9.8%)、以下、ベトナムとカナダが4件(同7.8%)、中国、イギリス、メキシコがそれぞれ3件(同5.9%)となっている」、「大麻密輸入事犯の検挙状況について、態様別でみると、主なものは、郵便物が15件、国際宅配便が7件、航空機利用の携帯密輸が1件となっている。仕出国・地域別でみると、アメリカが16件と最も多く、次いでイギリスが2件、以下、香港、デンマーク、フランス、スペイン、カナダがそれぞれ1件となっている」と示されています。なお、銃器情勢の特徴としては、「銃器発砲事件数は7件で、このうち暴力団等によるとみられるものは6件と、いずれも前年同期より増加した」、「拳銃押収丁数は155丁で、このうち暴力団からの押収丁数は23丁と、いずれも前年同期より減少した」ことが挙げられています。

来日外国人犯罪情勢については、その特徴として、「総検挙(刑法犯及び特別法犯の検挙をいう。以下同じ)状況をみると、近年はほぼ横ばい状態で推移しているところ、本年上半期は、前年同期と比べ、多少の検挙件数の増加、検挙人員の減少がみられるものの、近年の傾向が継続している」、「総検挙状況を刑法犯・特別法犯別にみると、刑法犯は検挙件数は増加、検挙人員は減少している一方、特別法犯は、ここ数年、増加の傾向がみられていたが、本年上半期は、検挙件数・人員とも減少している」、「総検挙状況を国籍等別にみると、ベトナム及び中国の2か国で全体の50%以上を占めており、総検挙件数・人員ともベトナムが最多となっている」、「総検挙状況を正規滞在・不法滞在別にみると、不法滞在が増加している」、「総検挙状況を在留資格別にみると「技能実習」、「短期滞在」及び「留学」で全体の50%以上を占めており、そのうち「技能実習」が増加している」といったことが挙げられています。もう少し詳しく見ると、「刑法犯検挙状況を包括罪種別にみると、本年上半期は、前年同期と比べ、検挙件数では、凶悪犯、窃盗犯が増加した一方、粗暴犯、知能犯が減少しており、検挙人員では、知能犯が増加した一方、粗暴犯、窃盗犯が減少している」、「国籍等別の刑法犯検挙状況をみると、ベトナムの検挙件数が減少しており、その主な要因としては、万引きが減少したことが挙げられる。また、中国、韓国、ブラジルの検挙件数が増加しており、その主な要因としては、侵入窃盗が増加したことが挙げられる」、「刑法犯検挙件数に占める共犯事件の割合を日本人・来日外国人別にみると日本人は12.3%、来日外国人は33.4%と日本人の約2.7倍となっている。また、来日外国人による共犯事件を形態別にみると、2人組は17.8%、3人組は5.8%、4人組以上は6.5%となっている。罪種等別にみると、窃盗犯のうち、住宅対象の侵入窃盗では、日本人は11.7%、来日外国人は38.1%と日本人の約3.3倍となっており、万引きでは、日本人は3.2%、来日外国人は36.9%と日本人の約11.5倍となっている」、「特別法犯検挙状況を違反法令別にみると、本年上半期は、前年同期と比べ、他の類型が減少する中、入管法違反のみ検挙件数・人員とも増加している。国籍等別の特別法犯検挙状況を違反法令別にみると、検挙件数・人員とも、ベトナム、フィリピン及びタイによる入管法違反が増加し、中国及びインドネシアによる入管法違反は減少している」、「犯罪インフラとは、犯罪を助長し、又は容易にする基盤のことをいう。外国人に係る犯罪インフラ事犯には、不法就労助長、旅券・在留カード等偽造、偽装結婚、地下銀行、偽装認知のほか携帯電話不正取得、偽造在留カード所持等が挙げられ」ている。また、「不法就労助長及び偽装結婚には、相当数の日本人や永住等の定着居住者が深く関わっており、不法滞在者等を利用して利益を得る構図がみられる」と指摘しています。

(2)最近の暴力団情勢

兵庫県公安委員会は、六代目山口組と神戸山口組について、「特定抗争指定暴力団」の指定を、効力が切れる10月7日から2021年1月6日まで3カ月間延長すると発表しています。延長は3回目となり、今年1月に双方が特定抗争指定されて以降、兵庫県内で目立った対立抗争は確認されていないものの、両組織間の抗争状態が続いていると判断しています。本コラムでもたびたび紹介しているとおり、「特定抗争指定」は、暴力団対策法に基づくもので、兵庫県内を例にとれば、神戸、尼崎、姫路、淡路、南あわじの5市が「警戒区域」に指定されており、この5市では、組員がおおむね5人以上集まったり、対立組織の事務所近くをうろついたりするだけで逮捕できる内容となっています。表立った激しい対立抗争は見られないものの、神戸山口組において内部分裂の動きが見られており、やはり今後の動向に注意が必要です。前回の本コラム(暴排トピックス2020年9月号)でも詳しく紹介していますが、神戸山口組の井上邦雄組長名で9月、中核であった山健組組長の中田浩司被告=六代目山口組系組員への殺人未遂などの罪で起訴、勾留中=を「除籍処分」とする通知文が出回りました。兵庫県警が事実関係の確認を進めているところですが、除籍処分は、永久追放にあたる「絶縁」とは違い、再び組に復帰することが可能とされることから、組のために貢献してきた中田被告に対し、強い処分はしないということでないかとの見方がされています。なお、過去、六代目山口組から神戸山口組が離脱した時期や神戸山口組から絆會(旧任侠山口組)が離脱した時期において、離脱した団体に対する暴力団対策法上の規制の根拠となる指定暴力団への指定作業が新たに必要となり、規制の「空白」が生じたことが問題となりました。現状、警察当局はあくまで神戸山口組内での内紛とみており、山健組の離脱が正式に確認でき次第、速やかに指定暴力団への指定作業を行う準備を進めているものと推測されます(このあたりについては、「離脱組織についても指定暴力団として規制の対象とすべきではないか」という議論は以前からあるものの、そのためには法改正が必要であり、警察当局の今後の対応・戦略が問われる局面だといえます)。なお、愛知県においては、「警戒区域」に、愛知県武豊町が新たに追加されています。愛知県内では、警戒区域に名古屋市とあま市が指定されていましたが、今年7月以降、武豊町の組事務所に六代目山口組の幹部らが集まる姿が確認されたため、新たに武豊町が追加されたものです。両団体の活動を著しく制限することになる「警戒区域」の指定の効果はじわじわと出ているようであり、報道によれば、愛知県警本部長は、「両組織は抗争の長期化で体力を消耗している。(特定抗争指定は)山口組と(中核組織の)弘道会の弱体化を図る絶好の機会。中枢幹部を中心に取り締まりを強化し、繁華街を中心とした資金源対策を推進したい」と述べています。また、今年5月に神戸山口組系池田組幹部が銃撃された事件を受け、岡山県公安委員会が六代目山口組と神戸山口組を「特定抗争指定暴力団」に指定してから10月7日で3カ月となりました。「警戒区域」となった岡山市では組織の活動が影を潜める一方、池田組を含む県内の神戸山口組系組織が同組から大量離脱したとの情報があり、情勢が緊迫化・流動化しています。離脱が事実であれば、前述したとおり、池田組をはじめとする岡山市の神戸山口組系組織が規制対象から外れることになり、新たな問題が生じることとなります。ただし、岡山県警は情報の真偽や新たな対立抗争の可能性などを見極めるまで離脱の扱いとしない方針を決めており、規制逃れを狙った偽装脱退の可能性もあるとして当面は指定を維持し、警戒を強める方針だといいます。

一方、「3つの山口組」のもう一つの絆會については、長野で内紛と思われる発泡事件が発生し、その原因の一つに一部の組の六代目山口組への移籍問題が絡んでいることから、六代目山口組と絆会の間で新たな抗争の火種が加わることになりました。このあたりの情勢については、AERAdotの記事が端的にまとまっているため、一部を引用すると、「2017年4月、神戸山口組から分裂した絆會。織田絆誠会長は記者会見まで行い、新しい組の旗揚げを表明。だが、勢力拡大とはならず、今春から解散の噂が何度も流れた。時を同じくして絆會から、六代目山口組に移籍した複数の組があった。それでも絆會は踏みとどまり、解散には至らなかった。織田会長は側近で絆會きっての実力者とされる金容疑者(注:若頭の金澤成樹こと金成行)をナンバー2に起用して、組の再興を図った。一方、金容疑者は自分が組長だった竹内組から離れ、今回、銃撃した宮下氏を組長に指名していた。つまり、金容疑者はかつて後継指名し、組を任せた組長を銃撃したことになる。六代目山口組と神戸山口組の抗争が続いている最中、六代目山口組と絆會という新たな抗争が加わったことになる。」という構図となります。さらに、その構図の意味するところについては、日刊ゲンダイの記事が興味深いことから、一部引用すると、「撃たれた男性は絆會(織田絆誠会長)の二次団体(直参)四代目竹内組(長野県)の宮下聡組長。宮下組長は絆會の幹部でもあり、撃った男性も絆會の最高幹部で織田会長の側近のK(注:金容疑者)だという。「昨日、宮下組長が弘道会系高山組に移籍する決起集会を開いたそうです。それに対してKが激怒、昨夕、宮下組長を見つけて話し合いをしたがまとまらず、発砲したと聞いています。宮下組長はKの跡目(後継者)だったのにKのいる絆會を裏切って組ごと六代目山口組に移るわけですから・・・(略)・・・一方、絆會の織田会長は音信不通で行方がわからず、(池田組のある)岡山に引っ越したという話まで出ている。昨日は午前から名古屋や岐阜の人間が竹内組に詰めていたそうですが、深夜には自宅待機になったと聞きます」今回、絆會からも四代目竹内組が高山組に移籍ということになれば、神戸山口組にしろ絆會にしろ六代目山口組に対抗する屋台骨を失ってしまったといえるのだろう」というものです(週刊誌情報であり、その情報の信ぴょう性等については注意願います)。以上のことから、「3つの山口組」がより一層複雑に絡む様相を呈しており、今後もその動向を注視する必要があります。

さて、福岡県警が特定危険指定暴力団工藤会の壊滅作戦に着手し、9月11日で6年を迎えました。県警は作戦開始から今年7月までに構成員延べ363人を摘発、ピーク時に730人いた県内の構成員は昨年末には260人にまで減少、系列組員249人の離脱を確認(その結果、作戦前の2013年に44.6歳だった組員の平均年齢は52歳と高齢化が急速に進んでいます)、計21の組事務所が撤去されたうえ、工藤会の象徴だった本部事務所は今年2月に解体されて跡形もなくなりました。企業や市民を狙った襲撃事件に嫌気が差したゼネコンが撤退を検討した時期もありましたが、暴力のイメージは少しずつ薄れ、本部事務所跡地周辺の路線価も上昇しているようです。かつて「修羅の国」とも揶揄された北九州の街に、これまでの「頂上作戦」の成果が好ましい変化をもたらしたといえると思います。一方、工藤会が関わったとされる一般市民襲撃4事件で殺人と組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人未遂)などの罪に問われた同会トップで総裁の野村悟被告やナンバー2の田上被告らの公判は被告人質問が終わり、実質的な審理が終結しました。本コラムでは、公判の状況を追ってきましたが、証人尋問や被告人質問を通じて、野村被告らが事件を直接指示したとする直接的な証言は出てきませんでした。検察側は野村被告らの指示なくして事件は起きなかったとみて、工藤会の組織性を追及、田上被告ら上層部がほぼ毎朝、野村被告宅にあいさつに行っていたことや、「工藤会憲法」で一般人への襲撃を禁じているにもかかわらず、事件に関与した組員は処分されなかったとし、暗に組織が認めた襲撃だったのではとにおわせたほか、延べ88人に及ぶ検察側証人との証言の食い違いを浮き彫りにしたものの、決定打に欠ける状況ともいえ、裁判の行方については、今後も慎重に動向を注視する必要があります。そして何よりも、工藤会はいまだ存在しており、それはまだ金が集まっている証左でもあり、実際、僅かとはなったもののみかじめ料の支払いを続けている飲食店等が存在するなど、予断を許さない状況です。さらには、前述の公判に証人として出廷した男性が脅された事件で、福岡地検が、証人威迫罪で工藤会系組長を福岡地裁に起訴するなど、いまだに攻撃的な姿勢は残っており、報道によれば、工藤会幹部の一人は「外にいる人間は会のためにできることをやるだけだ」と変わらない忠誠心を示しています。一方の捜査当局は、「いまが正念場。壊滅まで徹底的にやる」として、解散に追い込むまで手を緩めない姿勢を堅持しています。

六代目山口組2次団体「良知2代目政竜会」が富士宮市北山地区に進出の動きを見せる中、富士宮市議会は、暴力団追放の決議案を全会一致で可決し、暴力団排除の意思を改めて示しています。本コラムでも取り上げてきましたが、富士宮市では2020年に入り同会が事務所を構えるなど、本格進出の動きが進んでいます。静岡県警が北山地区の171世帯にアンケートをしたところ、地域に暴力団事務所があることを知っていると答えたのは58%にとどまるほか、約8割が事務所の存在を「不安」と捉え、約7割が「出て行ってほしい」と答えており、事務所については「とても不安」が51%、「不安だが、怖いので静観したい」が28%、「気にならない」が21%などとなったということです。なお、前回の本コラム(暴排トピックス2020年9月号)で紹介したとおり、静岡県公安委員会は、暴力団が事務所として使用することを知りながら建物を提供した疑いがあるにもかかわらず、同委員会に説明や資料提出を拒んだとして、静岡県暴排条例に基づき、男性の氏名と住所を県公報などに掲載して公表しました。説明拒否を理由とした氏名公表は全国初であり、男性は事情を知りながら事務所を提供した疑いがあるところ、7月27日の県公安委の聴取に応じなかったというもので、さらに同委員会が同日以前にも話を聴くために自宅を訪れたものの、聴取を拒否したということです。このような状況をふまえ、静岡県警と市議会では、今後も関係機関や住民と連携し、住みやすい街づくりを目指すとしています。

暴力団対策法において、組員が暴力団の威力を使って他人に危害を加えたり財産を奪い取ったりした場合、組織のトップらも賠償を負うと定めているところ(暴力団対策法第31条の2は、「威力利用資金獲得行為に係る損害賠償責任」として、「指定暴力団の代表者等は、当該指定暴力団の指定暴力団員が威力利用資金獲得行為(当該指定暴力団の威力を利用して生計の維持、財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得、又は当該資金を得るために必要な地位を得る行為をいう。)を行うについて他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています)、特殊詐欺被害を巡る暴力団トップの使用者責任について、最近、相次いで判決が出ています。まず、住吉会系組員らが関与した特殊詐欺事件の被害者7人が「使用者責任がある」などとして、元住吉会トップらに計約2億1,000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は使用者責任を認め、計約1億7,000万円を支払うよう命じています。本コラムでも過去紹介したとおり、同種訴訟の地裁判決は複数あり、責任を認めるかどうかの判断が分かれている状況です。特殊詐欺が暴力団の威力を利用した行為だったかどうかが争点であるところ、報道によれば、本判決で裁判長は、「絶対的服従関係を背景に、住吉会の威力を利用して実行された資金獲得行為だ」として幹部らに使用者責任があると判断したということです。もう一つは、旭琉会三代目富永一家の組員が関与する特殊詐欺グループに現金をだまし取られたとして、沖縄県内在住の被害者2人が旭琉会花城松一会長代行に計1,034万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、那覇地裁は、三代目富永一家の事実上のトップに使用者責任があると認め、被害者に317万円を支払うよう命じたというものです。報道によれば、被害者2人は2017年6月、警察官や金融庁職員になりすました「かけ子」の男からの電話を受け、「受け子」の男にキャッシュカードをだまし取られた事案で、三代目富永一家の組員がかけ子や受け子を指示して、被害者からカードの暗証番号を聞き、ATMから計262万円を引き出させたというものです。判決の詳細内容は不明ですが、「暴力団の威力を利用して実行された資金獲得行為」であると認めたものといえそうです。なお、直近でも暴力団が直接特殊詐欺に関与する事例は後を絶たず、横浜市の高齢者からキャッシュカードをだまし取り、現金を引き出したとして、神奈川県警捜査2課と少年捜査課などが、詐欺と窃盗の疑いで、特殊詐欺グループの主犯格と見られる元指定暴力団構成員を逮捕した事例や、北海道美唄市に住む80代女性からキャッシュカード4枚をだまし取り、現金約185万円を引き出したとして主導的な役割を担ったとして六代目山口組系暴力団「松平興業」の組員が逮捕された事例などがありました。

また、暴力団員が一般市民に金銭を要求する事案が急増しているとの報道がありました(2020年9月16日付産経新聞)。不当な金銭要求をしたなどとして、大阪府公安委員会は8月までに暴力団対策法に基づく中止命令を96件発出、昨年1年間の73件をすでに上回るペースだといいます。コロナ禍は、暴力団の収入源とされる繁華街の飲食店営業を直撃しており、夏祭りなどのイベントの中止で露店で稼ぐこともできない状況が続くなど、資金獲得活動(シノギ)に窮した組員が、新型コロナ関連の支援金に狙いを定めて金を要求する事案も相次いでいるという事情があります。このような状況もあり、コロナ禍における各種給付金をだまし取る犯罪が全国で多発し、その被害が深刻化しています(逆にいえば、各種給付金の不正受給が暴力団等の反社会的勢力の恰好の資金獲得活動となっている状況もうかがえます)。例えば、経営する居酒屋をめぐって新型コロナウイルスの影響で売り上げが落ち込んだ事業者に国から支給される「持続化給付金」100万円と休業要請に応じた事業者に大阪府から支給される「支援金」50万円をだまし取ったなどとして、九代目酒梅組の幹部や同じ酒梅組組員ら4人が詐欺の疑いで逮捕されています。暴力団員であることを隠して不正に受給したもので、申請する際、書面などで暴力団員ではないと誓約していたということです。また、「持続化給付金」に関する給付金詐欺としては、沖縄県で半グレ集団とみられる特殊詐欺グループが大々的に行っていると指摘されています。沖縄県では5~6年前から、特殊詐欺を手掛ける半グレ集団が出現、同県外からもかなりの人数が進出している実態があるとされます。沖縄の半グレ集団は3団体が確認されており、沖縄県警は総勢約80人と公表したものの、その後、関東や関西から続々と進出しており、実際の人数は把握できていないと言われています。報道(2020年9月29日付東スポ)によれば、「県警が家宅捜索に入った那覇市の税理士事務所が扱った申請代行件数は1,800件とみられている。金額にして18億円。県警に事情を聴かれた関係者が「支給された給付金の申請手数料として5~6割を半グレに徴収された」と証言しています。半グレや暴力団の関与が疑われています」(警察関係者)と指摘しているようです。持続化給付金については、簡単な手続きで迅速に給付される一方で、暴力団関係以外でも不正受給が多発しています。SNS上には「申請代行」をうたう書き込みが並んでおり、7月以降、山梨、愛知、兵庫県警などが不正受給した大学生や指南役らを詐欺容疑で逮捕しています(なお、最近では「自分がやったことは犯罪になるのか」といった学生やフリーター、外国人の相談が相次いでいるといいます。LINEや友人を通じて不正の手口を教える「指南役」とつながり、犯罪という認識がないまま不正に手を染めていたケースが多く、「個人事業者」と偽って申請し、100万円の給付を受けて指南役に10万~60万円の「手数料」を請求されていたといいます。なお、このような事態を受けて、経済産業省は、不適切な受給を自ら申し出た場合に、加算金を科さない方針を発表し、自主的な返還を呼びかけています。梶山経産相も、不正受給による逮捕者が全国で30人を超えたことを明らかにし、「『誤って受給した』と返還を希望する方が出てきている。一刻も早くご相談を」と述べています。なお、不正受給を自ら申告すれば、加算金は科さないものの、刑事罰については別途、警察が判断することになるとのことです。さらに、警察の摘発などを恐れる不正受給者から返還希望が殺到していることを受け、国が返金手続きの一部を7月から停止しているということです)。

さらに、持続化給付金以外でも、新型コロナウイルスの影響で収入が減った世帯が無利子でお金を借りられる国の「生活福祉資金貸付制度」を悪用し、45万円をだまし取ったとして、宮崎県警組織犯罪対策課と串間、日南署が、詐欺の疑いで神戸山口組系暴力団幹部ら男女7人を逮捕した事例や、新型コロナウイルスの影響で収入が減った世帯に無利子で貸し付ける「緊急小口資金」や、主に失業者向けの「総合支援資金」を、暴力団組員がだまし取る事件が山梨県内や東京都など全国で相次いでいます。暴力団関係者は貸し付けの対象外であるにもかかわらず、審査を担う各地の社会福祉協議会が迅速な給付を優先した結果、申請内容の確認がおろそかになっている実態があり、申込書には暴力団関係者でないことを確認する項目があるものの、報道によれば、「性善説に立った自己申告」(厚生労働省)で、実際の確認作業は都道府県の社会福祉協議会にゆだねられているといいます(審査の甘さが犯罪インフラ化している状況が放置されているといえます)。

その他、最近の暴力団に関する報道からいくつか紹介します。

  • 持続化給付金の不正受給でも暗躍していると報道されている半グレについては、ヤミ金融、振り込め詐欺、金塊の密輸、違法な風俗店の営業などへの関与が活発化しています。この半グレについて、2020年10月8日付日本経済新聞は、「反社会的勢力といえば、まず暴力団があげられる。だが近年は暴力団対策法や暴力団排除条例によって資金獲得活動の封じ込めが進んだ。そうした中で、規制を受けない「自由」な存在として、準暴力団は勢力を広げてきた。準暴力団が暴力団を後ろ盾として利用したり、法規制で動きがとりにくい暴力団の実動部隊として違法行為を担ったりするなど、互いに連携するような動きも見られるという。構成メンバーが比較的若く、SNS(交流サイト)などで情報を発信する例もある。一部には準暴力団に憧れを抱く若者もいるとされ、注意が必要だ。若い世代が集まり行動することはもちろん自由だが、違法行為は看過できない。暴力団と連携・共生していても、暴力団の枠外にいるため規制が及ばない―。それが現状であれば、法制面からの検討も必要ではないだろうか」との意見を投げかけています。暴力団や特殊詐欺の取り締まりがもはや属性のみでは難しくなっており、あるゆる法令を駆使して、行為要件を総動員していくことが重要になっていますが、半グレを一般人として刑事・民事で取り締まっていくのもまた限界がきているといえます。あらたな枠組みでの取り締まりが可能か、警察の大きな課題であるといえます。
  • 雇用した社員を健康保険に加入させていなかったとして、金沢市の六代目山口組傘下組織組長と会社役員が逮捕されています。報道によれば、2人は共謀の上、組長が実質的に経営している土木工事会社に雇用していた20代から50代の男性社員3人について、健康保険の被保険者としての資格を取得したにもかかわらず、日本年金機構に届け出なかった健康保険法違反の疑いがもたれているといいます。前述のとおり、属性だけでなくあらゆる法令を駆使した摘発がより重要となっていることを感じさせる事例でもあります。
  • 密漁したナマコを買うことを約束し密漁をほう助したなどとして、漁業法違反ほう助や水産資源保護法違反ほう助などの疑いで暴力団構成員と車両販売会社社長の2人が逮捕されています。2人は当時、函館市などの無職の男ら6人がナマコを密漁することを知りながら、ナマコを買うことを約束し、密漁をほう助した疑いがもたれているといいます。ナマコの密漁に暴力団が関与して資金源としていることは知られてきましたが、このような形で「ほう助」している摘発事例は珍しいと思われ、やはりあらゆる法令を駆使して摘発を進めることの重要性を感じさせます。
  • 雑誌「週刊金曜日」の記事で元暴力団員と書かれ、名誉を傷つけられたとして、会社経営の男性が発行元などに計1億1,000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が京都地裁であり、裁判長は発行元などに110万円の支払いを命じています。報道によれば、問題となったのは、2018年7月6日発売号の記事で、男性が過去に「淡海一家」の組員だったとする関係者の証言などを含む記事や男性の実名が書かれた「破門状」と題する書面の写真を載せ、「警察の闇 暴力団の破門状事件めぐり京都府警が過去を隠した男」などの見出しで報じたものです。判決は、「男性の資質や人格に対する社会的評価を下げる程度は小さくない」と指摘、書面の記載内容に客観的な裏付けがなく、「否定するのが明らか」という理由で男性に取材を申し込むことすらしなかったとして、真実と信じる相当な理由もないと結論づけています。一方で、「男性は経営者として、資質に関わる属性などが社会の批判にさらされることも容認すべき立場にあった」、「暴力団組員だった事実は認められないが、組員らと長年親交があり、無関係とはいえない」などとして慰謝料の額を判断したということです。元暴力団員であると認定するには客観性が乏しいとする一方で、密接交際については認めた形であり、興味深い判断といえます。

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

2020年9月、米財務省の金融犯罪取締ネットワーク「FinCEN」に寄せられた「疑わしい取引」が、2017年までの20年間で総額約2兆ドル(約209兆円)にのぼったことが判明したと一斉に報じられました。英国を本拠地とするHSBC(犯罪組織との関わりが指摘される複数の企業と多額の取引。自分たちが詐欺に利用されているという指摘を米捜査当局から受けた後も、世界中で数百万ドルもの不正資金の取引を看過していた)、バークレイズ(制裁によって西洋諸国の金融サービスの利用を禁じられているプーチン大統領の側近の1人が同行の口座を使ってこれを回避)、スタンダード・チャータード(スタンチャート。10年以上にわたってテロ組織の資金源となっていた、ヨルダンのアラブ銀行への資金移動を認めていた。またベネズエラ関連の疑わしい送金を許した)、ドイツ銀行(組織犯罪やテロ組織、違法薬物の密売人などの資金洗浄の温床になっていた)、JPモルガン・チェース(オフショア企業の所有者を把握しないまま、ロンドンの口座への10億ドル以上の送金を認めていた。後にこの企業の所有者が、米連邦捜査局(FBI)の「10大重要指名手配犯」の1人だと判明した)、アラブ首長国連邦(UAE)中央銀行(対イラン制裁を破った地元企業への警告を受け取ったにも関わらず、対策しなかった)など世界の主要金融機関のマネー・ローンダリングやテロ資金供与に絡む不適切な事例が報告されているようです。報道を受けて各行の株価は大暴落するなどしましたが、一様に「過去の問題」、「(米当局から巨額の制裁金を課された2012年時点で)当社は60以上の地域で金融犯罪への対応能力を刷新する数年がかりの取り組みを開始している」、「多大な資源を投入して管理を強化、AML/CFTを厳格に行っている」、「当行は金融犯罪に極めて真剣に対応しており、すでに独自のコンプライアンス・プログラムに大規模な投資を行っている」といったコメントを出しています(確かに、前回の本コラム(暴排トピックス2020年9月号)で紹介したとおり、「規制違反等による制裁金や罰金、和解金も巨額化しており、新たな経営リスクとして指摘されている。マネー・ローンダリングへの関与や制裁対象国への送金等で科された罰金額は全世界で2018年には270億ドル超、金融危機以降では累計3,720億ドルとみられている」こと、「規制の増加・複雑化・変化に対して、民間金融機関は多大なコストをかけて対応している」こと、「民間調査では、ドッドフランク法施行前と比べ、銀行セクタ全体でみた支出は年間約580~860億ドル増加したと推計されている」ことなどが想起されます)。

そして、この「FinCEN」文書には、ゆうちょ銀行の複数の事例や日本企業の事例も含まれているとされます。2020年9月21日付毎日新聞によれば、2012年にドイツ銀行グループが、中国に複数の住所を持ち、タックスヘイブン(租税回避地)の企業とも取引があった人物を調査したところ、ゆうちょ銀の本人口座から送金記録があったため同銀行に照会したところ、口座開設の際に外国人登録証明書を示した形跡があったもの。不審な資金移転があった中国企業に、10以上のゆうちょ口座から多額送金をした別の外国籍の人物に関する報告もあったといいます。AML/CFTの観点から厳格化が進む口座開設手続きにおいて、在留外国人の「口座難民」解消の一助となってきた同行の利便性が悪用された形ですが、この「本人確認の脆弱性」はドコモ口座不正問題にも通じるものがあり、同行の圧倒的に多い口座の管理の困難さも浮き彫りしています。また、国内事業者が中国企業との取引において個人口座に送金していた事例など約40の企業・個人の不審な取引も報告されています。2020年9月21日付朝日新聞で紹介されている事例は、「国内の大手殺虫剤メーカーが、中国・深センでバッグなどの縫製工場を営む中国人男性への2015年6月~2016年12月に168万ドルを送金していたもの。同社は中国人男性の工場に製造を発注していたが、送金先が取引先の企業ではなく、中国人男性が香港に持っていた個人口座だったことも「疑わしい」理由の一つで、会社が受け取るべき支払いが域外の個人口座に送金されれば、脱税や横領といった不正に悪用されるおそれもある」といったもので、当時は中国固有の事情も絡み「普通の形」だったとして不正を否定しているものの、不適切な取引として取引中止を検討中ということです。また、2020年9月23日付朝日新聞では、「盗掘品などの違法な取引に英大手銀行が使われた可能性があるもの(2010~2017年の美術品取引に関係するとみられる413件、計約2800万ドルの「疑わしい取引」を、「美術品が資金洗浄の道具になっている」として2017年に報告したもの)。ペーパー会社とみられる実態不明の会社が介在し、違法売買が指摘されている美術商と多額の取引が繰り返されていた」という事例も紹介されています。

なお、関連して2020年9月27日付日本経済新聞は、「国際的なマネー・ローンダリングに日本の中小企業経営者が関与していたケースが相次いで発覚している。日常的に海外との出入金が多い法人口座は違法な収益を紛れ込ませやすい。犯罪グループは日本の経営者に狙いを定め、高額な報酬で勧誘しているという」、「犯罪収益は現金化すると追跡が難しいため、現金で引き出しやすい口座は格好の犯罪ツールになる。以前は外国人留学生の口座の悪用が中心だったが、最近は中小企業の法人口座が使われることが多いという。捜査幹部は「外国人の口座への銀行の監視が強まり、法人口座へと狙いを変えたのではないか」とみる」、「中小企業でも海外貿易は珍しくなく、資金洗浄の疑いがある入金を見破るのは難しい」、「海外の犯罪収益が日本で洗浄される事件も後を絶たず、警察幹部は「資金洗浄しやすい国として日本がターゲットにされている恐れがある」と危惧する」などと報じています。口座開設時の本人確認の厳格化は当然のこととして、口座取引の継続的監視、さらには外国人の個人口座だけでなく、中小企業の法人口座の監視の厳格化など、AML/CFTの高度化・複雑化は増すばかりです。RegTechの活用など検知能力の向上には著しいものがありますが、対する犯罪の高度化・複雑化も急速に進んでいる実態を前に、現状のAML/CFTやKYCが十分に機能していない実態が明らかとなっています。ただし、実は犯罪の手口の本質はそれほど大きく変わっていないのも事実であり、異常をリアルタイムに「検知する」との発想だけに拘らず、「予測」「予防」の高度化・精緻化の観点からの取組みも急務のように思われるます。つまり、外国人口座の監視強化から逃れるために、中小企業の法人口座が狙われているという流れは、「監視の弱い部分に移行していく」という犯罪(犯罪の手口)の本質をふまえれば、ある程度「予測」できた可能性があるということであり、悪用の拡大の前に「予防」「抑止」に向けて、先手を打った取組みができたのではないかということです。現行の枠組みでいえば、「疑わしい取引」の分析を通じた「予測」「予防」の発想がこれまで以上に求められるものと考えられます

さて、昨年秋に実施されたFATF(金融活動作業部会)の第4次対日相互審査の報告書採択・公表が、コロナ禍で延期になっていますが、現時点で指摘が予想されるものとして、「金融機関に対する制裁金制度の導入(現状は制度自体がない)」、「法人顧客の実質的支配者の確認の厳格化(犯罪収益移転防止法(犯収法)が求める本人特定事項の確認は最終的には自己申告にとどまっている)」、「国内PEPsの管理強化(海外PEPsはハイリスク取引として厳格化されているが、国内PEPsは特段の定めなし。IR汚職事件で「組織犯罪処罰法違反」が適用されたことの重要性)」、「継続的顧客管理の強化(金融犯罪の多様化・高度化への対応の必要性、なりすまし対策としての顧客情報の最新性・取引目的の確認の必要性、ハイリスク取引先中心で中・低リスク先への対応に遅れ)」といった事項が考えられるところです。最近の方向性として、金融犯罪対策やAML/CFTは非競争分野であって、各行の業務やシステムを共通化・共同化することで、コスト抑制を図るといった取組みにシフトしつつあります。FATFの報告書でどのような指摘がなされるかは、今後の制度改正を左右するものであり、それに対応する金融機関の実務の負荷も相当なものとなる可能性があります。業界横断的に知恵を絞り、より効果的な対策としていくことが求められているといえます。

その他、AML/CFTを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 報道(2020年9月24日付ロイター)によれば、豪銀大手ウエストパック銀行は、同行のマネー・ローンダリングおよびテロ資金供与防止法違反をオーストラリア金融取引報告・分析センター(AUSTRAC)が訴えていた問題で、13億豪ドル(9億2,000万ドル)を支払い和解すると発表しています。AUSTRACは昨年11月、マネー・ローンダリング防止法に関連して2,300万件の違反があったとして、民事制裁金の支払いを求めてウエストパック銀行を提訴、違反があったとされる取引には、児童搾取グループ間の資金のやり取りが含まれていたといいます。
  • 金融機関のAML/CFTの厳格化により、「銀行に送金を断られて業務に支障が出ている」と訴える貿易業者がいるとの報道がありました(2020年9月24日付朝日新聞)。取り扱っているのは、カニなどの海産物で、「やましい取引は一切ないのに、説明もなく融資も断られた」といいます。30年以上、ロシアや中国などのカニやサケの取引に携わってきたところ、昨年末、「カニの購入代金と言っただけで、銀行が海外送金を受け付けてくれなかった」事態が発生しているとのことです。海外送金自体から撤退・縮小する金融機関が増加する中、北朝鮮リスクの絡む海産物取引を巡る海外送金に慎重になる姿勢も理解できるだけに、悩ましい問題となっています。なお、朝日新聞と共同通信が全国118行の銀行に行った調査によれば、国内の地銀4行が海外送金から撤退・縮小し、地銀10行が撤退・縮小を検討しているといいます(例えば、大手行では親密先意外の地銀や信用金庫からの外国送金の受託を取りやめる動きがあるほか、日本郵政も郵便局での国際送金の取扱いを大幅に絞っています)。また、約半数がAML/CFTのコスト増を理由に海外送金手数料を引き上げたほか、海外送金を取り扱っている105行すべてが、口座を使わず窓口に現金を持ち込んだ顧客の海外送金の受け付けを取りやめていたことも判明しています。まさに「業務縮小が究極のAML/CFT」という以前では冗談だった会話が現実のものとなっています。
  • セブン銀行は、個人向けの海外送金サービスでシンガポール大手銀のDBS銀行と提携したと発表しています。同行のリリースによれば、「セブン銀行では、2011年から日本で働く外国人の母国への送金ニーズに応えるべく、海外送金サービスの提供を開始し、2019年度の送金件数は、1,214千件となりました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響により、一時的に外国人の入国者数が減少しているものの、中長期的には、外国人の増加は今後も見込まれています」として、「本サービスでは、セブン・グローバルレミットが提供するスマートフォン専用アプリを通じて、銀行口座を開設することなく、アプリ上にアカウントを作成、全国25,000以上設置のセブン銀行ATMから同アカウントへ入金(チャージ)することにより、あらかじめ登録した受取人の銀行口座へ、DBS銀行が提供する安全かつ高品質なネットワークを経由した送金が可能となります」といったサービスを提供するということです。東南アジアを中心に世界50カ国をカバーするDBSと組み、在日外国人の需要を取り込む狙いがあり、送金者がアプリ上でアカウントを作成すれば、セブン銀行の口座を持たなくても使えるようにするといいます。なお、報道によれば、セブン銀行ではDBSなどと連携してAML/CFTを講じるとしています。
  • 政府は、戸籍の氏名に、読み仮名を併記するための法制化の検討に入りました。報道(2020年9月25日付毎日新聞)によれば、デジタル社会に対応し、カタカナ表記を採用する金融機関の口座などとの照合を容易にし、本人確認の省力化を図る狙いがあるといいます。戸籍に記載するための届け出書類である出生届では、氏名の漢字表記のほかに、読み仮名を書く必要がありますが、「読み仮名がなくても個人が特定できる」(法務省)との理由から、戸籍事務には読み仮名を使っていないものの、読み仮名が登録されないため不都合が生じるケースもあり、一律10万円を支給する「特別定額給付金」の給付業務では、戸籍と連携している住民基本台帳の氏名は漢字のみで、読み仮名は使用されていないため、カタカナ表記の銀行口座との照合に手間がかかり、一部で給付に遅れが生じました。なお、2024年度のマイナンバーカードの海外利用とあわせ、ローマ字表記も戸籍に併記すべきとの意見もあり、検討を進めるということです。
(2)特殊詐欺を巡る動向

まずは例月どおり、直近の特殊詐欺の認知・検挙状況等について確認しておきます。

▼警察庁 令和2年8月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

令和2年1月~8月における特殊詐欺全体の認知件数は9,034件(前年同期10,935件、前年同期比▲17.4%)、被害総額は173.9億円(209.0億円、▲16.8%)、検挙件数は4,622件(3,896件、+18.6%)、検挙人員は1,606人(1,679人、▲4.3%)となっています。ここ最近同様、コロナ禍の状況もあり、認知件数・被害総額ともに減少傾向にあることに加え、検挙件数が大幅に増加、検挙人員も認知件数や被害総額ほどが落ち込んでいないことから、摘発が進み、特殊詐欺が「割に合わない」状況になっていることを示しているのではないかと考えることも可能です。なお、後述しますが、直近の犯罪統計資料によれば、暴力団犯罪のうち、詐欺の検挙件数931件(1,507件、▲38.2%)、検挙人員692人(894人、▲22.6%)となっており、新型コロナウイルス感染拡大や特定抗争指定などの影響により、暴力団の詐欺事犯への関与が激減していることがより際立つ対照的な数字となっています。類型別では、オレオレ詐欺の認知件数は1,383件(4,608件、▲70.0%)、被害総額は375.3億円(467.0億円、▲19.6%)、検挙件数は1,286件(1,997件、▲35.6%)、検挙人員は403人(1,010人、▲60.0%)などとなっています。また、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は2,115件(2,085件、+1.4%)、被害総額は29.2憶円(32.8憶円、▲11.0%)、検挙件数は1,665件(766件、+117.4%)、検挙人員は468人(212人、+120.8%)などとなっており、分類の見直しもあり、前期との比較は難しいとはいえ、キャッシュカード詐欺盗の被害の深刻化が顕著であることは指摘できると思います。さらに、預貯金詐欺の認知件数は2,849件、被害総額は0.2億円、検挙件数は833件、検挙人員は509人(従来オレオレ詐欺に包含されていた犯行形態を令和2年1月から新たな手口として分類)、架空料金請求詐欺の認知件数は1,260件(2,365件、▲46.7%)、被害総額は456.0億円(625.1憶円、▲27.1%)、検挙件数は373件(839件、▲55.5%)、検挙人員は509人(392人、+29.8%)、還付金詐欺の認知件数は1,048件(1,630件、▲35.7%)、被害総額は14.9億円(20.6億円、▲27.7%)、検挙件数は276件(183件、+50.8%)、検挙人員は37人(12人、+208.3%)、融資保証金詐欺の認知件数は224件(193件、+16.1%)、被害総額は2.6億円(2.4億円、+8.3%)、検挙件数は114件(63件、+81.0%)、検挙人員は37人(14人、+164.3%)、金融商品詐欺の認知件数は44件(20件、+120.0%)、被害総額は2.9憶円(1.4憶円、+107.1%)、検挙件数は19件(20件、▲5.0%)、検挙人員は22人(18人、+22.2%)、ギャンブル詐欺の認知件数は71件(22件、+222.7%)、被害総額は1.6憶円(2.2憶円、▲27.3%)、検挙件数は28件(9件、+211.1%)、検挙人員は10人(8人、+25.0%)などとなっています。これらの類型の中では、「融資保証金詐欺」や「金融商品詐欺」などが増加している点に注意が必要な状況です。

犯罪インフラの状況については、口座詐欺の検挙件数は420件(580件、▲27.6%)、検挙人員は272人(336人、▲19.0%)、盗品譲受けの検挙件数は2件(5件、▲60.0%)、検挙人員は1人(3人、▲66.7%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,651件(1,509件、+9.4%)、検挙人員は1,366人(1,238人、+10.3%)、携帯電話端末詐欺の検挙件数は131件(183件、▲28.4%)、検挙人員は106人(132人、▲19.7%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は22件(31件、▲29.0%)、検挙人員は19人(19人、±0%)などとなっています。これらのうち、犯罪収益移転防止法違反の摘発が増加しているのは、金融機関等におけるAML/CFTの取組みが強化されていることの証左ではないかと推測されます。

また、被害者の年齢・性別構成について、特殊詐欺全体では、60歳以上89.6%、70歳以上79.5%、男性26.3%:女性73.7%、オレオレ詐欺は、60歳以上96.6%、70歳以上93.6%、男性19.5%:女性80.5%、融資保証金詐欺は、60歳以上27.9%、70歳以上10.4%、男性68.7%:女性31.3%、65歳上の割合について、特殊詐欺 85.6%、オレオレ詐欺 96.2%、キャッシュカード詐欺盗 96.3%、預貯金詐欺 98.4%、架空料金請求詐欺 43.5%、還付金詐欺 84.8%、融資保証金詐欺 20.4%、金融商品詐詐欺 79.5%、ギャンブル詐欺 22.5%、交際あっせん詐欺 17.6%、その他の特殊詐欺 42.9%となり、類型によってかなり異なる傾向にあることが分かりますが、概ね高齢者被害の割合が高い類型では女性被害の割合も高い傾向にあることも指摘できると思います。このあたりについては、以前の本コラム(暴排トピックス2019年8月号)で紹介した警察庁「今後の特殊詐欺対策の推進について」と題した内部通達で示されている、「各都道府県警察は、各々の地域における発生状況を分析し、その結果を踏まえて、被害に遭う可能性のある年齢層の特性にも着目した、官民一体となった効果的な取組を推進すること」、「また、講じた対策の効果を分析し、その結果を踏まえて不断の見直しを行うこと」が重要であることがわかります。

さて、コロナ禍の中、いまだ高止まりしている特殊詐欺被害ですが、その被害の防止に向けて試行錯誤が続いています。直近では例えば、神奈川県警は、詐欺グループが音声で証拠を残すことを嫌い、電話を切ってしまうことが期待されることから、着信時に「この電話は防犯のため録音されています」といったメッセージが相手に流れ、通話を録音する機能のついた電話機の利用を呼びかけています。今般、利用をさらに推し進めるために、通販番組でのプレゼン力に着目した動画を作成、約5分の動画では、県内の昨年の特殊詐欺認知件数が2,793件と過去最多を記録し、被害額が54億円に上ったことや、銀行員や警察官などが登場してキャッシュカードを盗むなど手口が巧妙化していることもあわせて伝える内容となっており、導入が進むことを期待したいと思います。また、特殊詐欺被害を防ぐため、詐欺電話の典型的な手口などを記した「詐欺被害防止カード」を高齢者世帯に配布する取り組みが埼玉県内で広がりつつあるといいます。2019年の特殊詐欺被害認知件数が埼玉県内39署で最多だった埼玉県警狭山署は、2019年10月からカード配布の取り組みを進めたところ、今年1~7月の被害認知件数は昨年同期比5割減の27件にとどまっており、同署はカード配布も被害減少の一因になったとみているということです。さらに埼玉県警は、現金やキャッシュカードを被害者から受け取る「受け子」とみられる不審者への職務質問に力を入れているといいます。予兆電話のあった地域に集中的に捜査員を派遣し、戸別訪問やATM付近の警戒、不審者への職務質問に取り組んでいる結果、8月末現在、職務質問で受け子や出し子74人を検挙しているといいます。報道によれば、県内で最も被害が多発する越谷署では専門チームを立ち上げ、若手の警察官が街頭警戒で1カ月に3人の受け子を見つけるなど、成果を上げているということです。「スーツ姿なのに派手な柄物の服が透けていた」、「シャツが大きくはみ出ていた」といった服装の不自然さを見抜くリスクセンス、相手を警戒させない丁寧な言葉遣いによる職務質問の工夫など、参考になると思われます。また、大阪府警西淀川署は、管内の高齢者にお札とお守りを配布するという取組みを行っています。お札は「特殊詐欺退散」と書かれ、赤や青など4色を用意。お守りはカード形で財布に入れられるようになっており、各800枚を巡回で配っていく予定で、実際に神社で祈とうを受けた後、署員が高齢者宅を訪問して玄関前にお札を貼り、お守りを手渡しているといいます。このような好事例や工夫は広く共有し、同様の取組みを早急に広く展開しいくことも重要だと思われます。

また、金融機関に浸透しているATM出金限度額引き下げの取組みにおいても、新潟県内に本拠を置く6つの信用金庫が、3年間出金をしていない70歳以上の顧客を対象にATMでの出金限度額を1日10万円に引き下げています。県内では既に3つの信金が特殊詐欺の被害防止に向けて出金制限を導入済みのところ、県内全ての9信金で対策を取ることになったといいます。同県内の信金は2017年にキャッシュカードによる振り込みに一部制限を設定したものの、それ以降も高齢者を狙った特殊詐欺被害が相次いでいることを踏まえ、追加の対策に踏み切ったといいます。利便性を一部犠牲にしながらも、犯罪を抑止するために必要な措置との認識が確実に浸透していることはよいことだと思います。

また、一般の事業者によるユニークな取組みにも注目したいと思います。静岡ガスは、家庭向けに特殊詐欺の被害を防ぐためのサービスを始めています。静岡県警と連携し訓練を実施するほか、サービス拠点のスタッフが顧客を訪れる際に啓発チラシなどを配る、監視カメラなどの防犯商品も販売するといったものです。報道によれば、11月から隔月で、希望者に対して、静岡県警の警察官や静岡ガスの担当者が犯人役として電話をかけ、金銭の振り込みや現金、キャッシュカードをだまし取ろうとする訓練を実施するということです。とりわけ、実際に電話をかける訓練は、被害を防止する高い効果が期待できます。なお、本コラムでは、以前から、事業者として従業員の家族に対して同様の訓練を実施してはどうか(実際に実施している事業者もあります)と提言していますので、外部サービスを活用するかどうかとあわせ、検討いただきたいと思います。

本コラムでは最近、特殊詐欺被害を防止した金融機関やコンビニエンスストア(コンビニ)の事例や取組みを積極的に紹介しています。以下、最近の報道からいくつか紹介します。

  • 電子マネーを購入させてだまし取るうそ電話詐欺を未然に防いだとして、山口県警、山口県下関市と同県宇部市にある5店舗のコンビニエンスストアの従業員ら7人に感謝状を贈っています。いずれも客の言動に違和感を感じて、声掛けを行った好事例です。詐欺電話の脅迫めいた言葉や、甘い誘惑を信じ切っている高齢者を説得するのは容易ではなく、警察沙汰にしたくないと断る客もいる中、コンビニ店員は特殊詐欺被害防止の最前線で奮闘を続けています。さまざまな事例を分析していくと、本コラムでたびたび指摘しているとおり、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことがポイントのようです。なお、最近の傾向において注意が必要な手口として、やはり「インターネットサイトの利用料未納」などを口実にコンビニで電子ギフト券を購入させ、番号を聞き出してだまし取る手口の特殊詐欺被害が多発していることが挙げられます。高齢者に限らず幅広い年齢層で被害が出ている点が深刻であり、コンビニにおける未然防止の取組みの強化が急務でもあります。実際に未然防止に成功したとして、青森県警青森署は、「ローソン青森はまなす店」の店長と副店長に感謝状を贈っています。報道によれば、80代の男性が、プリペイド式の電子マネー30万円分を不安げに購入する様子が気になり、何度も使い道を尋ねると、男性は携帯電話料金の支払いのために指示されたと説明、店長が話を聞く間も男性の携帯にしつこく着信があり、「詐欺に間違いない」と確信、署に通報し、男性に電話に応じないよう伝えて警察官の到着まで寄り添ったということです。また、福岡県のローソン奈多1丁目店では、79歳の女性がコンビニで5万円まで入金できる電子マネーカード6枚を手に取り、レジで現金30万円の入金を頼んだ事例があり、対応したオーナーは事情を聴き、「携帯料金でこんな大金になるのはおかしいですよ」と諭し続け、女性の携帯電話がずっと通話中になっていたことから電話を切るよう促しても女性は「切らないでと言われている」と渋っている様子から詐欺を確信、再度説得して電話を切らせ、110番通報したというものです。報道によれば、NTTファイナンスをかたる詐欺に関する相談が同社の全国の窓口で相次ぎ、特に6月は前月比で4~5倍の相談が寄せられたといい、同社も5月からHPで「不審なSMSが届いても無視してください」と注意喚起しています。なお、NTTファイナンスをかたったショートメールによる架空の料金請求については、山形県警が、60代男性が2,480万円をだまし取られる被害が発生したと発表しています。報道によればその手口は、「利用料金の確認が取れていない」とのショートメールを受け取り、記載された電話番号に連絡、「29万円分の料金が支払われていない。支払わなければ訴訟を起こす」と言われ、その後、大阪府警捜査2課などを名乗る電話で弁護士費用が必要と金を要求されたといったものです。さらに、特殊詐欺を未然に防いだとして、埼玉県警大宮西署は、ローソンさいたま清河寺店の店員に感謝状を贈った事例もあります。同店を訪れた60歳代の男性から「電子マネーはどこで買ったらいいのか」と質問を受けたことから、店員が不審に思い、男性に購入理由を尋ねたところ、「5億円当たった手数料として払う」と答えたことから詐欺を疑い、110番通報したものです。同店は、高齢者が電子マネーを購入したり、スマホで通話しながらATMを操作したりしている場合は、特殊詐欺の可能性があるので、注意してほしいと同署から指導を受けていたということであり、日頃からの警察との連携や知識の習得が重要であることを認識させられます。これらの好事例は、まさに、上記のポイントがベースとなっていることが分かります。
  • 詐欺の被害を未然に防止したとして、大阪府警河内長野署は、紀陽銀行河内長野支店の行員と同市の主婦に感謝状を贈っています。行員は、紀陽銀行河内長野支店で、携帯電話で話しながらATMを操作する70代女性から操作方法を尋ねられ、電話を代わると電話口の男性が「紀陽銀行本店の者」と名乗ったため名前などを確認すると電話が切られたため、同署に通報し詐欺被害を防いだというものです。また、別の主婦は、市内の郵便局のATMコーナーを訪れたところ、携帯電話で話しながらATMを操作する80代の男性を見て不審に感じ、他の来店客と相談して声をかけ、ATMの操作をやめさせ、その後、一緒に近くの交番へ通報に出向いたといいます。見ず知らずの高齢者に対してここまで「お節介」ができること自体、高い意識と行動力を持っていないとできないことであり、大変感心させられました。また、ニセ電話詐欺犯を捕まえる警察の「だまされたふり作戦」を逆手に取った詐欺の被害を防いだとして、茨城県警古河署は、茨城県信用組合三和支店と職員らに感謝状を贈っています。報道によれば、職員らが高齢女性宅に駆けつけ、詐欺と見破って通報したというもので、女性宅では、「警察官」の電話番号が「050」で始まる女性のメモを発見、女性が詐欺グループと電話で話す様子を目の当たりにし、署に通報したといいます。
  • コンビニや金融機関以外の好事例も増えています。例えば、ドラッグストア2店舗の店員3人が連携して詐欺被害を食い止め、茨城県警日立署に表彰されたという事例がありました。詐欺だと直感した店員が、客が立ち去った後に、近隣店舗と情報共有したことが奏功したといいます。報道によれば、長男の上司を名乗る男から電話で「長男ががんで手術をするので、漢方代として電子マネーを30万円分購入してほしい。ウエルシアで買える」といわれ来店したもので、女性は、署員が詐欺だと伝えても、まだ信じ切っていたということです。同署長が「機転を利かせた情報共有によって被害が防げた。意識の高さに感謝したい」とたたえたといいますが、まさに意識の高さがポイントとなったといえると思います。あわせて、高齢者の思い込みを排除し対応することの難しさについても考えさせられます。また、金融機関の職員を装った女の訪問を不審に思った女性の機転が、特殊詐欺の「受け子」とみられる女の逮捕につながった事例もありました。富岡市内の女性(66)方を訪ね、「保険料のお金が戻る」などと言って現金をだまし取ろうとした手口で、訪問される前、女性宅には男の声で複数回、金融機関の職員などを名乗る電話があったため、不審に思った女性が問い詰めると、容疑者の女は逃走、女性は直後に容姿の特徴や車のナンバーを電話で警察に伝えたことで逮捕につながったということです(なお、30分後に署員に市内で発見された容疑者は、幼い子ども2人と一緒にいたといい、犯罪者であるとはいえ、暗澹たる気持ちにさせられます)。

コロナ禍の中、新たな手口も増えています。警察庁が先日公表した「令和2年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」では、全国の警察が新型コロナウイルスに関連したサイバー犯罪と疑われる事案を6月までに608件確認したと発表しています。2月下旬から警察庁に報告があり、内訳は「インターネット通販でマスクを注文して代金を振り込んだが商品が届かない」などの詐欺が286件(47%)で最多だったということです(参考までに、詐欺に次いで多かったのは、不審なメールやサイトの115件(19%)で、「政府の要請を受けて給付金を送るので、記載のアドレスから申請するように」という内容のメールなどもあったようです。sらに、マスクと消毒液の違法とみられる転売が67件(11%)、飲食店について「コロナの感染者がいる」とネットに虚偽の投稿をするなどの業務妨害は57件(9%)、マスクをネットで購入する際に入力したクレジットカード情報が盗み取られるといった個人情報の不正取得は55件(9%)あったといいます。さらに、この608件とは別に、コロナに便乗した企業へのサイバー攻撃も3件確認されたということです)。また、外出自粛でインターネット通販の利用者が増加したのに伴い、有名家具や家電メーカーの公式サイトを模倣した偽サイトに誘導され、トラブルに遭うケースが増えているとして、国民生活センターが注意を呼び掛けています。偽サイトと知らずに購入し、商品が届かず、返金もされない被害が目立ち、業者に連絡が付かないことも多く、被害回復が困難というのが実態のようです。

▼国民生活センター 「新しい“消費”生活様式」の影響で相談増加!?インターネット通販のトラブルにあらためて注意!

国民生活センターは、「新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」の実践例に通信販売の利用が示されているなか、PIO-NETによると、インターネット通販のトラブルの割合は増加傾向にあり、2020年5月には相談全体の30%を超えました」、「今後も、「新しい生活様式」の推進により、インターネット通販のトラブルが増加することが考えられます。そこで、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って増加したインターネット通販に関するトラブルの概要についてまとめ、これから気を付けるべきポイントについて注意喚起を行います」としています。まず、インターネット通販に関する相談の契約当事者の年代別件数について、「各年代において、2020年4~6月に寄せられた相談件数が最も多くなっています。特に20歳未満の件数は増加率が大きく、2020年4~6月に寄せられた相談件数は、前年4~6月と比較すると約1.8倍になり、全体に占める割合も増加」していること、インターネット通販に関して相談が多く寄せられたトラブルとしては、「2019年7~9月以降の各四半期で、「健康食品」に関する相談が最も多くなっています。「お試し○円」などと通常より低価格で購入できることを広告する一方で、複数回の購入が条件となっている、定期購入トラブルに関するものが目立ちます」、「2020年1~3月から4~6月にかけて、洋服やかばん、靴、家具類などの身の回り品に関する相談件数が増加しており、「注文した商品が届かない」「粗悪品・模倣品が届いた」など、詐欺的な通販サイトに関するトラブルがみられます」、「マスク、体温計、消毒用アルコールなどの新型コロナウイルス感染対策商品について、コロナ禍の混乱に伴い、2020年2月以降、「高額な値段で販売されている」「商品が届かない」「粗悪品が届いた」などの相談が多数寄せられました」、「「モノ」だけではなく、「サービス」の契約トラブルとして、映画配信サービスや、スマートフォンやゲーム機を用いた「オンラインゲーム」に関する相談が目立ちました」などと指摘しています。

  • 相談事例
    • 【事例1】高校生の娘がダイエット青汁を定期購入とは認識せず申し込み、解約しようとしたら高額な料金を請求された
    • 【事例2】「新しい生活様式」の実践のため、初めてインターネット通販を利用したが、2週間たっても商品が届かない
    • 【事例3】格安で販売されていた有名ブランドの時計を申し込んだら、写真と異なる偽物が届いた
    • 【事例4】解約したはずの動画配信サイトから料金を請求されている
    • 【事例5】小学生の息子が祖母のスマートフォンでオンラインゲームに高額課金した
  • 消費者へのアドバイス
    • 通信販売にはクーリング・オフ制度はありません。事前に返品・解約の条件や販売事業者の連絡先を確認しましょう
    • お金や個人情報の詐取等を目的とした詐欺的な通販サイトもあります。少しでも怪しいと思ったら利用しないようにしましょう
    • 「お試し」のはずが、高額な料金を請求されたという相談が寄せられています。注文前に定期購入の契約になっていないか確認しましょう
    • 未成年者のインターネットトラブルは、家族など周りの保護者が目を配って防ぎましょう
    • 不安に思った場合や、トラブルが生じた場合、また「怪しいな?」と思ったら、すぐに最寄りの消費生活センター等へ相談しましょう
▼国民生活センター 新型コロナウイルス関連の消費生活相談の概要(2020年8月まで)

「国民生活センターでは、全国の消費生活センター等に寄せられた新型コロナウイルス関連の消費生活相談をPIO-NETで収集しています。「新型コロナウイルス関連の消費生活相談の概要(2020年1月~4月)」を5月に公表しましたが、今回は2020年8月までの傾向や事例をまとめ」たところ、新型コロナウイルス関連の消費生活相談(2020年8月まで)の傾向と特徴として、「全国の消費生活センター等が2020年1月~8月に受け付けた新型コロナウイルス関連の消費生活相談(2020年8月31日までの登録分)は64,938件で、2月以降増加し、4月には21,072件の相談が寄せられましたが、5月以降は減少傾向」にあること、「マスク関連の相談は毎月多く、マスクの品不足や高価格に関する相談、「注文した覚えのないマスクが届いた」など送り付けに関する相談、「商品が届かない」「不良品が届いた」などインターネット通販に関する相談」がみられたこと、「旅行・宿泊関連や、ヨガ教室、結婚式場等では、「新型コロナウイルス感染症の感染予防等を理由にキャンセルしたところ、規約通りのキャンセル料を請求された」など解約や解約料に関する相談」が多くみられたこと、「電話やメール等により、消費者の個人情報や、キャッシュカード・銀行口座番号等を詐取しようとするケースなど、新型コロナウイルスや特別定額給付金に便乗した悪質商法に関する相談や、持続化給付金の不正受給を持ちかけるなどの詐欺が疑われる相談」も寄せられたことなどが指摘されています。

  • 相談事例
    • 【事例1】ネットでマスクを注文したが、不良品だった
    • 【事例2】キャンセルした航空券の代金が返金されない
    • 【事例3】教室が閉鎖になっていた月の会費を返金してほしい
    • 【事例4】結婚式場をキャンセルしたら、キャンセル料を請求された
    • 【事例5】入居していない賃貸アパートの家賃を請求された
    • 【事例6】職場の同僚から「お金をもらえる」と誘われたが、持続化給付金の不正申請だった
  • 消費者へのアドバイス
    • 利用規約等で解約条件やキャンセル料をよく確認しましょう
    • インターネット通販でのトラブルに気を付けましょう
    • 注文した覚えのない商品が届いたら、受け取りや支払いをしないようにしましょう
▼参考:新型コロナウイルス感染症に便乗した身に覚えのない商品の送り付けにご注意ください(消費者庁)
  • 新型コロナウイルスに便乗した悪質商法に注意しましょう
  • 持続化給付金の受給資格がない人は、受給できると持ちかけられても絶対に応じないようにしましょう
  • 不安に思った場合や、トラブルが生じた場合、また「怪しいな?」と思ったら、すぐに最寄りの消費生活センター等へ相談しましょう

それ以外にも新たな手口についての報道が多くなされていますので、注意喚起としていくつか紹介します。詐欺自体は、世相を反映した手口が次々と敢行される傾向にありますが、いずれも時流を捉えたものであり、犯罪者側が知恵を絞っている様子を感じ取ることができます

  • NTTドコモの電子決済サービス「ドコモ口座」を悪用した不正送金問題に絡み、「あなたのドコモ口座が不正利用された」などと言ってキャッシュカードなどを要求する不審電話が、都内で相次いでいるといいます。報道によれば、実際にカードを詐取されるなどの被害はなかったというものの、練馬区の40歳代の女性宅に電話してきた石神井署員を名乗る男は、「あなたのドコモ口座から不正な引き出しがあった。財務局の者を向かわせるので、キャッシュカードと暗証番号を書いたメモを封筒に入れて渡して」と語ったといいます。同様の手口として、新潟県警は、新潟県上越市内の80代女性がドコモ口座不正出金問題に便乗した詐欺にあい、現金約29万円をだまし取られたと発表しています。報道によれば、女性の家に「上越市内でドコモ口座の被害があり、あなたも被害にあっている。警察官がキャッシュカードを取りに行く」と警察官を名乗る男から電話があり、その後、男が家を訪ね、女性のキャッシュカード2枚を封筒に入れ、「封をすれば安心。印鑑を取ってきて」と話し、女性が部屋に取りに戻った隙にカード大の紙が入った封筒にすり替えられたというもので、現金はその日のうちにコンビニのATMで出金されたということです。さらに、「ドコモ口座」を使った銀行預金の不正引き出し問題に便乗した迷惑メールが確認され始めています。迷惑電話や迷惑メールのフィルターサービスを提供する「トビラシステムズ」は、「今後、便乗した迷惑メールが増加する可能性もある」として注意を呼びかけています。報道(2020年9月11日付朝日新聞)によれば、このような迷惑メールは携帯キャリアのメールアドレスあてに送られており、その文面は、「ドコモ口座の不正引き出し事件、ドコモ口座に登録してなくても自分がふだん使ってる口座から勝手に引き出されちゃうらしいね。あなたは大丈夫だった?」「ドコモ口座の不正引き出し事件、怖すぎじゃないですか?地方銀行の口座持ってるなら気を付けて下さいね?」といったもののようです。
  • カード決済端末機を不正に操作して口座残高を増やしたとして、広島県警は電子計算機使用詐欺の疑いで無職の容疑者(25)を逮捕しています。広島県警は不正操作の詳細について説明していないものの、同種の手口を摘発するのは全国初ということです。報道によれば、昨年12月7日~今年1月18日、8回にわたり、カード決済端末機とデビット機能付きの電子マネーカード、キャッシュカードを使って不正な操作をし、残高を合計415万円増やしたということです。
  • 埼群馬県警高崎署は、新型コロナウイルスに便乗して税務署職員を名乗り、独居高齢者から現金などをだまし取ろうとしたとして、詐欺未遂の疑いで、同県高崎市のアルバイトの男(20)を逮捕しています。報道によれば、男は犯行当時、19歳の少年で、高崎市の無職の男性(81)方に税務署職員を名乗って訪ね、「コロナ対策で税金が変わる」「自宅の現金と通帳を見せてほしい」などと嘘を言い、現金などをだまし取ろうとしたとしたといいます。
  • 玉県ふじみ野市内のコンビニで、加熱式たばこがだまし取られそうになった事件があり、逮捕された中国人の男らが使用したプリペイドカードは、カード会社が再発行したものだったといいます。報道によれば、共犯者が会員情報を不正に入手し、名義人に成り済まして再発行させた可能性があるといい、埼玉県警は「全国的に新しい手口」として注意を呼び掛けています。もともとのカードは名義人の手元に残るため、被害に気付きにくいという特徴があるようです。
  • 実在しない国際電話番号から国内携帯電話への着信が急増しているといいます。通話に中国語が使われ、在日中国人を狙った「振り込め詐欺」とみられていますが、日本人への着信も多いようです。報道によれば、秋田市では40代女性が「武漢に大量のマスクを送っただろう。犯罪だ」などと脅され、計411万円を振り込んだ被害も出ており、不審な電話に応対しないよう注意が必要です。なお、8月ごろから存在しない国番号「+83」や「+422」から始まる不審な番号からの着信が確認されるようになり、9月には5,000回以上来た日もあったということです。
  • 依頼を受けて大量購入した新幹線回数券をだまし取られる被害が後を絶たないと報じられています(2020年9月28日付朝日新聞)。「後日、手数料を上乗せして買い取る」などと言って信頼させ、購入させた回数券をだまし取る手口で、約800万円分の回数券を渡した後、依頼者と連絡がつかなくなったという男性は「何度も買い取ってもらい、信用してしまった」と述べています。この男性は、兵庫県内に住む30代の会社員で、数年前、仕事で知り合った男に「小遣い稼ぎになる」と誘われ、「外国人旅行客に渡す新幹線の回数券を民泊会社が大量に求めている。5%上乗せして払うので購入しないか」と持ちかけられたということです。
  • 新たな手口とはいえませんが、海外ではポピュラーであり、日本では忘れた頃に被害者が出る手口の一つに「ブラックマネー詐欺」があります。「黒く加工された紙幣に薬品をかけると元に戻る」と偽り、薬品代をだまし取る手口で、直近でも、愛知県警が、カメルーン国籍で埼玉県入間市の自称派遣社員を詐欺未遂容疑で現行犯逮捕しています。報道によれば、男性はSNSで知り合った米国在住の女性から「結婚したい。両親の遺産10億円を渡したい」といわれ、代理人として容疑者を紹介されたところ、容疑者は「保安上の理由から遺産を黒くした」と説明し、(色を元に戻す)薬品代として8万ドルを要求したといいます。すでに男性は遺産を受け取る手数料として計700万円を支払っており、不審に思った男性が警察に相談、「だまされたふり」作戦により、容疑者を現行犯で逮捕したというものです。県警は組織的詐欺グループの一員とみて余罪を調べています。
  • 警視庁板橋署は、無職の男2人を詐欺未遂容疑で逮捕しています。報道によれば、両容疑者は、千葉市の20歳代女性に、「あなたの携帯電話がウイルスに感染した」と電話でうそを言い、対策費として現金140万円を宅配便で板橋区のアパート一室に送らせ、だまし取ろうとした疑いがもたれています。宅配業者が不審に思い、警察に通報したことから発覚、受け取り役だった男は「現金だと思わなかった」と容疑を否認、見張り役だった男は認めているといいます。
  • 宮城県警角田署は、角田市の民家で不審な2人組の若い男が銀行員を名乗り、無利子融資を持ちかけたと発表、特殊詐欺の被害に遭う可能性があるとして注意を呼びかけています。報道によれば、男2人が40歳代女性宅を訪れ、「首相が交代したため、無利子で融資できることになったので、話を聞いてください」、「案内の封筒は届いていますか」などと話したということです。
  • 居住地や就業状況を尋ねる5年に1度の「国勢調査」が始まったことに伴い、調査員を装って年収や貯金額を聞き出そうとする虚偽の訪問や電話が増加する恐れがあるとして、消費者庁が注意を呼び掛けています。詐欺や強盗の前兆となるアポ電(アポイントメント電話)の可能性もあること、本当の調査は預貯金や口座番号などを尋ねないことなどとしています。国は今回の調査で、新型コロナウイルス対策として調査員との接触を減らすため、郵送やネットでの回答を推奨しており、このような被害防止の意味でも活用すべきといえます。また、国勢調査に関連した手口としては、島根県浜田市内で国勢調査と偽り、調査項目ではない預金額や在宅時間などを聞き出す「かたり調査」が発生したと発表されたものが挙げられます。報道によれば、同市内の民家に、調査員を名乗る男が調査表の回収名目で訪問、住人が未記入であることを伝えると、その場で、「高齢者と同居しているか」、「給料は振り込みと手渡しのどちらか」、「振込先の金融機関名」、「預金額」など、調査項目でない個人情報を質問し、住人は回答したということです。不審に思った住人が市に連絡したところ、地区の担当調査員は訪問していなかったことが判明したというものです。また、国勢調査員の腕章紛失事例もあり、一方で腕章がフリマサイト等で転売されていたことなども確認されており、訪問を受けた際は顔写真付きの調査員証と腕章を確認するなど注意が必要だといえます。
▼消費者庁 国勢調査を装った詐欺や不審な調査にご注意ください
  • 行政機関が行う統計調査を装った「かたり調査」の被害に遭わないために
    • 国勢調査では、個人情報(年収、預金額、クレジットカード番号、マイナンバー、銀行口座)等を国勢調査員が聞くことは絶対にありません
    • 公的機関等を装い、資産状況等を聞き出そうとするいわゆる「アポ電」の可能性もあります。このような電話は、すぐに切ってください
    • 国勢調査員は、その身分を証明する「調査員証」等を携帯しています
    • 便利なインターネットで回答する際は、くれぐれも偽サイト等にご注意ください
  • インターネットでの回答にあたり、偽サイト等にご注意ください!
    • 国勢調査を装った不審なメールやウェブサイトに返信・アクセス等しないようにしてください
    • インターネットでの回答は、QRコード又は検索サイトから「国勢調査オンライン」でアクセスしてください
  • 郵送での回答の返送先は、「令和2年国勢調査 調査事務局」
    • 郵送で回答する際は、「国勢調査のお願い」に同封された返信用封筒をご使用ください
    • 郵便受け等に不審な封筒があった場合は、使用しないようにしてください

それ以外の典型的な特殊詐欺事例も数多く報道されていますので、いくつか紹介します。

  • 複数人と共謀し、川崎市川崎区に住む70代の無職女性宅に、関東財務局職員に成りすまして「キャッシュカードから情報が漏れている可能性があり、(カードが)悪用されていないか確認する必要がある」などと嘘の電話をかけ、氏名不詳者が同職員を装って女性宅を訪れ、カードを封筒に入れるように指示、女性が目を離した隙に別の封筒とすり替えてカード5枚を盗み、このカードを使って現金計193万円を引き出した事例がありました。この容疑者はこれまでに神奈川県警や警視庁などで男女27人が逮捕されている特殊詐欺グループのトップだといい、このグループはこれまでに約140件の特殊詐欺に関わったとされ、被害総額は約1億9,000万円に上るといいます。
  • 佐賀県警と愛媛県警の合同捜査本部は、詐欺未遂の疑いで、いずれも愛媛県松山市に住む男5人を逮捕しています。5人はニセ電話詐欺の「掛け子」とみられ、家電量販店員や警察官になりすまして、福岡市内の高齢女性に「偽造カードが使われている」などと電話でうそをつき、キャッシュカードなどをだまし取ろうとした疑いがもたれています。松山市内の賃貸マンションを拠点にしており、数百人分の名簿や携帯電話20台などが押収されたといいます
  • 特殊詐欺での現金やカードの受け取り役「受け子」として、未成年者が逮捕されるケースが相次いでいます。SNSや闇サイトでは受け子を募る書き込みが数多く見られ、軽い気持ちで犯罪に加担している様子がうかがえ、大きな危惧を覚えます。例えば、兵庫県警は、弁護士事務所の従業員を名乗って「受け子」をしていた女子高生を現行犯逮捕しています。詐欺グループからの誘いに安易に応じ、詳しく指示を受けながら犯行に及んでいる状況がうかがえたといいます。本事例では、80歳代の女性が息子を語る電話を受けて、金融機関の窓口で500万円を引き出したものの、金融機関の職員が不審に思い通報、高砂署は、女性に「だまされたふり作戦」での逮捕協力を依頼していたものです。また、高齢女性からキャッシュカードをだまし取り、現金を引き出したとして、高知市内の女子高校生が逮捕された事件もありました。この事件では、福岡市の無職の男(50)を詐欺と窃盗の疑いで逮捕しています。報道によれば、男は女子高校生らと共謀し、高知市内の70歳代女性からキャッシュカード4枚を詐取、ATMから600万円を引き出した疑いがもたれており、同市内の防犯カメラに2人が会っている姿が映っていたことなどから男を特定したということです。
  • 昨年あたりから、目の前でキャッシュカードにハサミで切れ込みを入れ、「使えない」と信じ込ませてだまし取る手口の特殊詐欺が増えています。警察官を装って東京都江東区の団地にある90歳代の男性宅を訪問、「不正利用されたので使用停止にする」と言って男性のカード4枚にその場でハサミを入れ、「裁判所に持って行く」とうそをついて持ち去った疑いで容疑者が逮捕されています。報道によれば、団地の非常階段を上り下りする容疑者を見た警察官が不審に思い、同署に任意同行したところ、下着の中に隠したカードが見つかったもので、容疑者は容疑を認め、「インターネットで募集していた闇バイトだった」と供述しているといいます。また、愛知県内では被害額が1,400万円に上る事件も起きています。2020年9月10日付日本経済新聞では、大阪府警が5月に逮捕した少年のスマホを押収したところ、マニュアルが見つかり、「切れ込みを入れる際、ゆっくり正確に入れる」「切れ込みを入れる箇所をまちがえると使えなくなるので、事前に画像を見てイメトレ、把握しておく」など細かい指示をメッセージに残していたと報じられています。
  • 神奈川県警は、70代女性からキャッシュカードをだまし取り、現金100万円を引き出したとして、詐欺と窃盗の疑いで職業不詳の容疑者(28)を逮捕しています。報道によれば、容疑者は岩手県花巻市の少年(17)ら「受け子」役で既に逮捕された計4人を自宅に住まわせ、「反省会」として「現場できょろきょろしていて動きが怪しく見える」などとアドバイスしていたといいます。容疑者の自宅は、被害者宅にカードを取りに行く「受け子」ら特殊詐欺の犯行グループの拠点になっていたといえ、受け子の拠点を摘発するのは神奈川県警では初だということです。
  • 山口県警周南署は、周南市内の70歳代女性がうそ電話詐欺で1,414万円をだまし取られたと発表しています。報道によれば、女性宅に「防犯協会」を名乗る男らから「東京で捕まった詐欺集団の名簿の中に(女性宅の)電話番号がある」などと電話があり、さらに「監督官庁」を名乗る男から電話もあり、「逮捕状が出ている。保釈保証金を支払えば処理できる」と金を要求されたということです。女性は、自宅近くで待ち合わせた男に現金1,400万円を渡したり、弁護士費用として14万円を振り込んだりしたといいます。訴訟や逮捕といったワードだけで正常は判断が難しくなってしまう高齢者の状況が伝わる事例であり、高齢者対策の難しさも痛感させられます
  • 外国人との恋愛だと錯覚させて金をだましとる「国際ロマンス詐欺」を未然に防いだとして、広島県警安佐南署は、広島銀行緑井支店に感謝状を渡しています。支店の窓口で50代の女性が「保険料を入金してもらうための手数料を振り込みたい」と話し、外国人名義の国内の口座への送金を申し出たところ、女性が8,9000米ドル(約94万円)の大金を振り込もうとしていたため、対応した支店員が不審に思い課長に相談、課長らが女性と話し、同署に通報したというものです。また、恋愛感情を悪用した事例としては、婚活アプリで知り合った品川区の30歳代の会社員女性に「恋人なら節税対策に協力してほしい」などとうそを言い、クレジットカードをだまし取った上、横浜市のATMでカードのキャッシング機能を使って現金50万円を不正に引き出した疑いで職業不詳の男が詐欺と窃盗の容疑で逮捕された事例もありました(容疑者は偽名で婚活アプリに登録していたということです)。なお、国際ロマンス詐欺については、国民生活センターからも注意喚起が出されています。
▼国民生活センター 恋愛感情や親切心につけ込む「国際ロマンス詐欺」に注意

具体的な事例として、「SNSで知り合ったアメリカの軍医だという男性からメールをもらうようになった。退役したら伴侶を得たいと言われ心を許してしまった。お金と金塊を送るので受け取ってほしいと言われたので了承し、保険と送料で1,500ドル必要だと言われ送金した。その後、空港で止められたので通すためにクリアランス料が必要だと何度も言われ、200万円振り込んでしまった。(70歳代 女性)」というものが紹介されており、国民生活センターは、「インターネットで知り合った外国人と連絡を取り合ううちに送金を迫られる「国際ロマンス詐欺」に関する相談が寄せられています。面識のない人から荷物やお金等を送りたいと言われても、安易に受け取る約束をしないようにしましょう」、「荷物やお金等を受け取るための手数料等を求められても、絶対に支払ってはいけません。支払ってしまうと返金を受けるのは極めて困難です」、「本人が恋愛感情や親切心を利用されていると認識していない場合もあり、周囲のサポートが重要です。本人の話をよく聞き、冷静に対応しましょう」、「不安に思ったら、送金をする前に、すぐにお住まいの自治体の消費生活センター等にご相談ください(消費者ホットライン188)」といったアドバイスを行っています。

関連して、電気やガスの点検業者を装って住宅に侵入し、現金などを盗む事件が全国で増えており、国民生活センターが注意喚起を行っています。

▼警視庁 ガス点検等を装った訪問者に注意

国民生活センターによれば、「昼間帯、ガス点検や消防点検等を装った訪問者が、玄関ドアを開けさせ、家の中に入り、現金などを奪う事案が発生」しており、「犯人は、事前に「これから点検に行きます。」と電話をかけてくる」こともあるとして、以下の防犯対策を実施し、被害にあわないようにと呼びかけています。

  • 昼間帯、在宅であっても、玄関ドアを必ず施錠しておく。
  • インターホンやドアスコープで相手を確認する。
  • ガスなどの点検業者を装い「これから点検に行く」と電話してきた場合や自宅に訪問してきた場合は、ドアを開ける前に契約しているガス会社などに確認をする。
  • 確認の結果、点検をしていないことがわかったり、訪問者が点検にそぐわない服装であるなど不審と感じた場合は、絶対に玄関ドアを開けずに110番通報する。
  • ドアを開ける際は、一旦ドアガードを掛けたままで対応する。
(3)薬物を巡る動向

冒頭に紹介した「令和2年上半期の組織犯罪情勢」に示されている通り、コロナ禍にあっても大麻摘発が増加傾向にあり、全国の警察が大麻事件で摘発した検挙人員(暫定値)は、前年同期より183人多い2,261人に上りました。さらに、財務省の発表によれば、2020年上半期に全国の税関で押収した「大麻樹脂等」の押収量は前年同期比32%増の約20キロで、押収量は6年ぶりの多さとなったようです(摘発件数は▲29%となる53件)。また、摘発者の79%は初犯、年代別では、20歳代が最多で、前年同期比220人増の1,129人が摘発され、未成年者は150人増の428人で、このうち中高生は91人、15歳の中学生もいたといいます。このように若年層を中心に大麻の蔓延が進む背景には、覚せい剤に比べ抵抗感や有害性の認識が希薄であること、SNSを通じて入手する動きも広がっていること、覚せい剤の10分の1程度で取引されていることから「興味本位」で購入するケースも多いことなどが挙げられます。また、本コラムでもたびたび紹介しているとおり、大麻の主成分を抽出してつくられた液体状の「大麻リキッド」の押収量も増加しており、その手軽さから徐々に拡がりを見せ始めている点にも警戒が必要です(なお、大麻リキッドについては、電子たばこで吸引する方法が一般的で、使用への抵抗感が軽減され、若者を中心に広がりつつあるといいます。大麻の主成分であるテトラヒドロカンナビノール(THC)の濃度が50~80%ほどと通常の乾燥大麻よりも高いことから、毒性や依存性が強く、危険だと指摘されています)。警察は、学生向けの啓発活動を強化、大学や専門学校に捜査員を派遣し、薬物の危険性を伝える講座を積極的に開催しているものの、残念ながら蔓延に歯止めがかからない状況であり、さらなる周知活動の徹底が望まれます。なお、10月1日から11月30日までは「麻薬・覚醒剤乱用防止運動」の実施期間です。「麻薬、覚醒剤、大麻、危険ドラッグ等の薬物の乱用は、乱用者個人の健康上の問題にとどまらず、さまざまな事件や事故の原因になるなど、公共の福祉に計り知れない危害をもたらします。一度でも薬物に手を出さない・出させないことは極めて重要であり、国民一人ひとりの理解と協力が欠かせません」という認識のもと、厚生労働省と各都道府県が主催し、「薬物の危険性・有害性をより多くの国民に知っていただき、一人ひとりが薬物乱用に対する意識を高めることにより、薬物乱用の根絶を図ること」を目的として、(コロナ禍で例年ほどの取組みが難しいところ)「正しい知識を普及するためのポスター、パンフレット等の作成・掲示」、「麻薬・覚醒剤乱用防止功労者の表彰」などの活動を行うこととしていますが、若年層対策としてはまだまだ不十分であるように思われます。より踏み込んだ、地道な周知活動が急務であると感じます。

▼厚生労働省 麻薬・覚醒剤乱用防止運動の実施について~薬物乱用の根絶に向けた啓発を強化します~

さて、昨年は大型の密輸事案の摘発が続きましたが、海上で受け渡しをする「瀬取り」と呼ばれる方法を使い、覚せい剤約475キロ(末端価格約307億円相当)を密輸したとして覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)などの罪に問われた元指定暴力団住吉会系組長の裁判員裁判の初公判が行われています。ほうどうによれば、検察側は冒頭陳述で「複数の反社会的勢力が関わる組織的で計画的な犯行であり、事件前から何度も交渉するなど、中心的な役割を担った」として主犯格だったと主張、弁護側は「香港マフィアに密輸の話を持ちかけられたが、明確に断った。船や人員を準備した日本の実行役とマフィアとの連絡役だった」、「事件の首謀者は別の男2人であり、被告は連絡役にすぎない」などと反論しています。事件では被告の他に男女21人が逮捕されていますが、被告は、仲間と共謀し、船を使い海外から運ばれた覚せい剤をひたちなか市の那珂湊港に運び込んだとされます。これだけの大規模な密輸事案で、暴力団や海外の犯罪組織の関与が疑われていることから、その全容の解明を期待したいところです。

また、大麻取締法違反容疑(所持)で9月に逮捕、起訴された伊勢谷友介被告については、東京地裁は保釈を認める決定を行い、同被告は保釈保証金500万円を納付し、勾留先の警視庁東京湾岸署から保釈されました。自宅から押収された大麻は約40回分の使用量に当たるとみられるほど常習性が高かったとされ、使用期間も長期間にわたることから、更生できるのか、さまざまな芸能人の事例を見るにつけ、その道のりがかなり厳しいものと想像されます。なお、同被告が2008年に発足し、2009年に株式会社化して代表を務めた「REBIRTH PROJECT」(リバースプロジェクト)が、公式サイトで法令と倫理の順守などの行動規範を発表しています。

▼株式会社リバースプロジェクト 社内コンプライアンスの見直しに関して
▼リバースプロジェクトコンプライアンスマネジメント

今回の件で発見された課題として、「役員自らが置かれている立場、および役割に基づき、強く求められている役員のコンプライアンスへのコミットメント徹底を怠っていた」こと、「コンプライアンス運営体制・教育において、役員を含めた対応を怠っていた」ことを挙げ、「外部機関と連携した監督・牽制機能によるコンプライアンス体制の運営徹底」と「社内コンプライアンス教育の徹底」を図るとしています。さらに、新たに見直された「行動規範」も公開されています。以下にその内容を紹介しますが、教科書的かつ形式的に、急ごしらえで整えられたように見え、本件をふまえた踏み込んだものとなっておらず、(少し穿った見方かもしれませんが)「仏作って魂入れず」のごとく虚しく響きます(ごくごく標準的なひな型としては、ある程度参考になるものと思います)。

<目的>

本行動規範は、株式会社リバースプロジェクトのすべての役員および従業員(以下、私たち)が、経営理念に基づき、社会的使命と責任を深く自覚し、日常の業務遂行において関係法令を遵守し、社会倫理に適合した企業行動を実践するために定めます。

<基本姿勢>

  • 私たちは、社会貢献の担い手としての誇りを持ち、社会と協調し、共に歩むことを通じて、社会から信頼される存在であり続けるよう努めなければなりません。
  • 私たちは、事業活動における環境負荷の低減や資源の有効活用に努め、持続可能な環境の維持・形成に貢献しなければなりません。
  • 私たちは、地域の人々と連携し、地域の資源を最大限に活かした事業活動を通じて、自立した地域の発展に貢献しなければなりません。
  • 私たちは、職務の遂行に当たっては、公共の利益の増進を目指し、全力を挙げてこれに取り組まなければなりません。
  • 私たちは、公正な商慣習に従い、かつ透明性を維持しながらすべての企業活動を行わなければなりません。
  • 私たちは、職務に係る倫理の保持を図るために本行動規範を遵守し、企業市民としての自覚を持ち、行動しなければなりません。
  • 私たちは、勤務時間外においても、自らの行動が職務の信用に影響を与えることを常に認識して行動しなければなりません。

<運用体制>

  • 代表取締役社長は、「コンプライアンス最高責任者」(以下「責任者」という)とします。
  • この規範の運用に際して、必要に応じて別途規程等を定めるものとします。
  • この規範に違反する問題が発生した場合、それを知り得た者は、自己の意思により、速やかに上席者あるいは責任者、もしくは外部監査機関に報告するものとします。
  • この規範に違反する事実を報告した者は、この報告した事実によって、いかなる不利益な取扱いを受けることはありません。
  • 故意や重大な過失による規範違反行為については、役員は取締役会の決議により、その他の従業員は就業規則等により厳格に処分されます。
  • この規範の違反により、会社に経済的損失を発生させた場合は、損害賠償を請求することがあります。

<行動規範>

法令と倫理の遵守

  • 私たちは、与えられた使命を自覚し、強い課題意識を持って、法令や倫理を遵守する姿勢を貫きます。遵守するために社内体制を整備し、日頃から法令等の目的や制定の趣旨を十分に理解するように努めます。

責任ある業務の遂行

  • 関係法令の遵守はもとより、常に社会常識の下で業務を正当に果たし、また基本に忠実な業務の遂行に努めます。

顧客の満足の追求

  • 私たちは顧客が信頼・満足できる創造的で革新性に富んだサービスを提供します。

公正・透明な取引

  • 公正な市場競争を通じて、顧客、取引先等すべての利害関係者に対して、公正な関係を維持します。

情報開示及び説明責任

  • 私たちは、活動に関する透明性を確保するため、必要だと判断した場合は、その活動状況、運営内容、財務資料等を積極的に開示し、社会の理解と信頼の向上に努めます。

危機への迅速な対応

  • 私たちは、自然災害、感染症など各種災害発生時には社会基盤の早期復旧や影響の最小化を目指します。

人権の尊重

  • 私たちは、すべての人の基本的人権を尊重し、国籍・民族・宗教・性別・年齢等、いかなる理由によっても、差別行為・ハラスメントなど個人の尊厳を傷つける行為は行いません。

反社会勢力との絶縁

  • 私たちは、市民社会の秩序や安全に脅威を与える反社会的勢力・団体とは一切の関係を遮断します。

守秘義務

  • 私たちは、業務上知り得たさまざまな情報を厳正に管理し、これを業務上生じる本来の目的以外に使用し、また正当な理由なくして他人に漏らすような行為をしません。

知的財産権

  • 私たちは、知的財産権の維持・確保に努め、同時に他人の権利・財産を不当に利用・侵害せず、これを最大限に尊重します。

個人情報の管理

  • 私たちは、適正に個人情報の取得、利用、提供および廃棄を行い、個人情報の漏洩、滅失または毀損の防止、および是正に努めます。

以下、薬物事犯を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 大麻の栽培の摘発が進んでいます。マンションで大麻を栽培したとして、愛知県警は、30代の会社員を大麻取締法違反(営利目的栽培)容疑で現行犯逮捕しています。さらに関連先の捜索で、フィリピン国籍のアルバイトの女も同法違反(営利目的所持)容疑で現行犯逮捕しています。愛知県警薬物銃器対策課によると、容疑者は、ワンルームマンションの一室で、大麻草1株を栽培した疑いがあり、県警はこの部屋から栽培中の大麻草約30株、肥料やライトなどを押収したといいます。関連先の捜索で現行犯逮捕された女性については、集合住宅の一室で、乾燥大麻数十グラムを所持した疑いがあるということです。また、大麻を販売目的で所持したとして、警視庁多摩中央署は、大麻取締法違反(営利目的所持)の疑いで無職の容疑者を現行犯逮捕しています。自宅アパートから1キロ以上の乾燥大麻と154本の大麻草を押収、末端価格にして6,600万円相当にのぼり、大麻草は部屋で栽培していたとみられるということです。報道によれば、容疑者は「(大麻は)自分のものに間違いないが、育てるのが趣味で持っていた」と容疑を一部否認しているといいます。なお、尿検査で覚せい剤の陽性反応が出たことから、同署は覚醒剤取締法違反容疑でも調べています。さらに、群馬県警伊勢崎署は、倉庫で大麻草144本を栽培したとして、大麻取締法違反(営利目的栽培)の疑いで、ベトナム国籍の無職の容疑者を逮捕しています。何者かと共謀して、伊勢崎市内の倉庫で大麻草144本を営利目的で栽培したというものです。報道によれば、同署員が倉庫を巡回した際、東南アジア系とみられる男らが逃走、倉庫内を確認して大麻草を見つけたといい、倉庫の遺留品から容疑者の関与が浮上、容疑者は今年8月、山口県警に入管難民法違反容疑で逮捕され、その後起訴されて勾留中だったといいます。さらに、大麻を所持していたとして高知県警に逮捕された高校の元外国語指導助手の被告が、大麻草を自宅の室内やベランダで栽培していたという事案もありました。地検は大麻取締法違反(栽培、所持)で起訴、被告は4月下旬頃から8月26日までの間、自宅で大麻草1株を植木鉢で栽培し、水を与えるなどして育てたとされ、所持していた大麻は、自宅にあった約72グラムだったといいます。報道によれば、植木鉢の大麻草が室内で大きくなりすぎたため、その後ベランダで栽培していたようです。被告は「医療目的で自分で吸うために栽培していた」と供述しています。
  • 大麻の栽培については、海外でも邦人が関与した事案が摘発されています。タイ警察は、北部チェンマイで大麻を栽培した容疑で、チェンマイ大学大学院生(41)とタイ人の関係者4人を逮捕しています。報道によれば、容疑者はチェンマイの建物で大麻を栽培し、ツイッターに栽培や使用をほのめかす短文や写真の投稿を続けていたといい(ツイッターで「政府公認」とうたって情報発信していたとの情報もあります)、警察は建物から大麻草や乾燥大麻、大麻オイルなどを押収、容疑者が栽培、製造して、日本人やタイ人に向けて組織的に販売する大麻ビジネスを手掛けていた疑いがあるとみて調べているということです。
  • 覚せい剤取締法違反(所持、使用)の罪に問われた元読売新聞記者が、東京地裁の初公判で「覚せい剤を使用した認識も、所持した認識もない」と無罪を主張しているといいます。冒頭陳述で検察側は、今年2月3日に警視庁の警察官が新宿・歌舞伎町の路上で被告を職務質問した際、所持品から注射器などが見つかり、その後の尿検査で覚せい剤の成分が検出されたと指摘しています。また、1月下旬~2月3日、東京都内かその周辺で覚せい剤を使ったほか、同日に覚醒剤約101グラムを含む液体約5.6ミリリットルを所持したとしています。
  • 自宅で大麻を所持し同僚に譲り渡したなどとして、大麻取締法違反(所持)と麻薬特例法違反の罪に問われた大阪府警堺署の元巡査の判決公判が大阪地裁で開かれ、懲役1年2月、執行猶予3年、追徴金6万円(求刑懲役1年6月、追徴金6万円など)を言い渡しています。報道によれば、判決理由で、被告は密売人から約2年間にわたり購入を繰り返したと指摘、「法を順守すべき警察官の立場にありながら犯行に及び、刑事責任は重い」と述べたといいます。関連して、大阪府警は6月、同被告と譲り受けた2人のほか、別に大麻を使用していた南署の巡査の計4人を懲戒免職処分としています。府警によると、被告と西堺署の2人は警察学校の同期で、南署の巡査は幼なじみだったということです。判決理由にもあるとおり、警察官という立場にありながらの事件であり、一義的には本人の問題によるところが大きいとはいえ、採用時の見極めや警察官としての倫理観の醸成に問題はなかったのか、あらためて検証する必要があるといえます。また、公務員による薬物事犯の事例としては、唐津市で、大麻取締法違反(営利目的栽培)容疑で唐津署が逮捕した4人のうちの1人が、同市の消防団員だったというものがあります。報道によれば、消防団員は非常勤特別職員の地方公務員で、市は「市民の皆さまと関係各位に深くおわびする」とコメントしています。名前や住所などは「刑が確定していないため公表は控える」と説明、処分については今後検討するとしています。同課は「今後は再発防止に努める」としており、今後、各団の代表者を集めた会議を開き、今回の事件を報告した上で、団員に教育を徹底するよう呼び掛けるということです。さらに、公務員ではないものの公共機関であるNHKの元ディレクターによる事案も報じられています。危険ドラッグに含まれる指定薬物を密輸したとして、神奈川県警と横浜税関は、医薬品医療機器法違反(指定薬物輸入)の疑いで会社員を逮捕しています。容疑者は過去にも麻薬取締法違反罪などで有罪判決を受けており、2012年にNHKを懲戒免職となっています。オランダから自宅宛てに、通称「カチノン」と呼ばれる指定薬物を含む化合物約10グラムを国際郵便で密輸したというもので、指定薬物は固形状で、袋に入れられていたものを、横浜税関川崎外郵出張所の職員が発見したということです。
  • 市販薬のせき止めを万引きしたとして、北海道七飯町の30歳代の男が8月、道警に窃盗容疑で逮捕されています。報道によれば、男は道警の調べに「何本も飲んだときの高揚感が気持ちよかった」と供述し、乱用目的で万引きしたことを明かしたといいます。専門家は「せき止めなどは入手のしやすさから、乱用が繰り返される傾向にある」として、薬物依存の危険性を周知することなどが重要と指摘していますが、本報道により初めて知った方も多いと思われ、薬物乱用の一形態としてあらためての注意喚起が必要と考えます。関連して、頭痛薬の飲み過ぎで薬物乱用頭痛に陥るケースについての報道もありました(2020年10月3日付産経新聞)。報道によれば、全人口の1~2%(すべての頭痛の14・6%)が薬物乱用頭痛に苦しんでいると考えられており、女性が70%を占め、30~50歳代に多いこと、乱用に至る機序として麻薬などによる薬物依存との類似性も指摘されていること、乱用に陥った方々の多くは、日常生活が制限されるばかりでなく、繰り返す頭痛発作によって仕事の効率が低下し、治療費もかさむこと、これらによる経済的損失も大きな問題となっていることなどが指摘されています。したがって、薬物に安易に頼ることを止めるように啓蒙することは、頭痛診療に携わっている医師の使命だとも述べられています。「薬物乱用頭痛」の実態については、筆者も本記事により初めて知ったところであり、このような事実をあらためて注意喚起していく必要性を痛感させられます。
  • 少し変わった薬物事犯の摘発事例もありました。SNSで覚せい剤の購入を呼びかけたとして、愛知県警は県内の20代男子大学生を麻薬特例法違反(あおり、そそのかし)の疑いで書類送検していますが、本事例では、購入希望者には覚せい剤と色や形状が似た「氷砂糖」を送っていたとみられる点は極めてユニークです。県警が今年8月に学生宅を捜索したところ、覚せい剤は見つからず、氷砂糖などが入った小分け袋があったといい、複数の人に販売していたとみられるとのことです。薬物事犯は「被害者のいない犯罪」とよくいわれますが、まさに同様の構図であり、購入後にだまされたとわかっても購入者(被害者)が捜査当局に相談しづらいことを利用したものと考えられます。
  • 大学サッカーの強豪、近畿大学の男子部員5人が大麻を使用していたことが発覚しました(本件発覚を受けて、近大はサッカー部を無期限の活動停止を指示し、所属リーグの公式戦を辞退しています。9月30日に別の部員からコーチに「大麻を使っている部員がいる」と連絡があり、全部員62人から事情を聞いたところ、5人が名乗り出たということです)。本コラムでもたびたび指摘しているとおり、若年層への大麻の蔓延は深刻化しており、近大は薬物の危険性を教える講義を開くなど対策を進めていたものの、(結果論とはなりますが)防ぎきれなかったことになります。SNSが「興味本位」などとつながって、薬物の入口となるケースが多い中、本事例においても部員は実際にSNSで簡単に入手していたようです。令和元年の薬物情勢として、昨年の大麻取締法違反容疑での摘発者は過去最多の4,321人にのぼり、平成27年の2,101人から倍増しているほか、20歳代以下は、1,034人から2,559人と約5倍となっており、中でも高校生と大学生の摘発者は、それぞれ4~5倍に急増している実態があります。前述したとおり、学生に薬物の危険性を理解してもらうため、各警察本部は高校や大学で警察官による講習を定期的に開催しているものの、まだまだ十分な啓発効果にはつながっていない現状が浮き彫りになりました。
  • コロナ禍と薬物の関連事件もいくつか報道されています。例えば、愛知県警西署は、名古屋市西区の作業員の男を偽計業務妨害容疑で逮捕しましたが、男は、覚せい剤取締法違反(所持)容疑で勾留中に、西署の留置場で、「連れは何十人も(新型)コロナ(ウイルス)になっとる。俺もなっとるわ」などと警察官にうそをいい、留置場を消毒させるなどして、業務を妨害した疑いがあるということです。麻薬取締部は、美容師の男を大麻取締法違反容疑で逮捕していますが、男は新型コロナウイルスの感染拡大で減収した個人事業主向けの「持続化給付金」を受給し、大麻の栽培器具の購入費用にしていたといいます。報道によれば、男は、自宅で乾燥大麻約36グラム(末端価格約21万7,200円)を所持したほか、大麻草54株を栽培した疑いがあり、「インターネットで栽培方法を調べた。自分で吸うために数年前から栽培し、使用していた」などと供述し、容疑を認めているといいます。男の自宅からは大麻のほかに、給付金で購入したとみられる照明器具なども発見されたということです。
  • 大阪府内で覚せい剤を使ったとして、覚せい剤取締法違反(使用)罪に問われた50代の男性被告の控訴審判決で、大阪高裁は、押収証拠を巡り違法捜査の疑いがあるとして無罪とした一審の大阪地裁判決を支持し、検察側控訴を棄却しています。報道によれば、一審で弁護側は、近畿厚生局麻薬取締部が内偵捜査で男性が捨てた覚せい剤入りの袋を取得し、家宅捜索でその袋を室内に置き押収証拠としたと主張、地裁も違法性を認め、陽性反応の尿鑑定結果を証拠から排除しています。被告は覚せい剤の使用を認める供述をし、室内から覚せい剤が検出された注射器も見つかっていたものの、裁判長は一審と同様「自白の補強証拠は存在しない」と判断しています。覚せい剤事犯の摘発はほとんど現行犯によるものであり、そのあたりが違法捜査を誘発する要因となっているようです
  • 本コラムでは、不正薬物や金の密輸、コピー商品の取り締まりなど税関が、その鋭敏に研ぎ澄まされたリスクセンスを発揮して水際で防止する活躍を見せていることを紹介していますが、最近では、水際対策を効率化するため、税関が検査場での撮影画像など膨大なデータを人工知能(AI)で解析し、業務を効率化する取り組みを強化しているといいます。報道によれば、個人・法人の海外とのオンライン取引は拡大を続け、2019年の輸入申告件数は4,640万件と、2014年以降の6年間で倍増していることに加え、人手不足にコロナ禍まで重なり、税関業務の高度化が新たな課題に浮上しているといいます。税関職員の属人的なスキルとITを高度に融合させることで、効率的かつ高精度な税関業務が実現することを期待したいところです。
  • 世界有数の麻薬生産地アフガニスタンで麻薬探知犬の訓練施設が初めて設置されるということです。日本が建設費170万ドル(約1億7,900万円)を拠出したもので、2021年末に完成予定、育成した探知犬を空港での水際対策などに役立てる取組みです。テロリスクの項で取り上げているとおり、アフガン情勢については、政府と反政府武装勢力タリバンの戦闘が続き、政情不安の中、ヘロインなどの原料となるケシ栽培が盛んで、麻薬中毒者も多い実態があります。報道によれば、日本とロシア、アフガン政府、国連薬物犯罪事務所(UNODC)は2018年、施設建設や訓練士育成などを目指す取り組みに署名しており、訓練士らは今後、ロシアでの研修に参加し成田空港の視察も予定しているとのことです。このような日本独自の支援が国際貢献や薬物事犯の取組みに寄与すること、さらに拡がりを見せることを期待したいと思います。
(4)テロリスクを巡る動向

風刺画が売り物のフランスの週刊新聞「シャルリエブド」は、5年前に12人が犠牲となったイスラム過激派による本社襲撃事件が起きるきっかけとなった預言者ムハンマドの風刺画(作者はこのテロで殺害されています)を1面に掲載、報道によれば、見出しには「すべてはこれ(風刺画)だけのためだった」と掲げ、問題のない掲載でなぜ襲撃を受けなければならなかったのかと抗議のメッセージが込められているといいます。この日から事件の裁判が始まったのを機に、「(テロに)屈することはない」と主張するも、当然のことながらイスラム教徒側の反発も招いていたところ、実際に旧本社前で、2人が刃物で刺され、1人が重傷を負うというテロ事件が発生し、仏警察当局は、実行犯とみられる男の身柄を確保しています(容疑者はパキスタン出身の18歳で、3年ほど前に未成年で渡仏、事件の数カ月前にドライバーを持っていた容疑で拘束されたことがあったものの、当局は要注意人物とはみなしていなかったといいます)。「表現の自由」がどこまで許されるのか、悲惨なテロから5年経ってもなお解決の糸口さえ見つからない難しい問いをあらためて投げかけています。そのような中、フランスのマクロン大統領は、イスラム過激派対策として、モスクへの規制強化などを盛り込んだ法案を年末までに提案する方針を示しています。公の場所に宗教を持ち込まないフランスの原則を徹底させることが柱で、国内のモスクに外国からの資金が流れていないか監督を強化するほか、「反乱主義者」が紛れていないか監視する、(不適切な教育を施す保護者がいるため)子どもが学校の代わりに自宅で義務教育を受けることを原則認めないといった内容のようです。マクロン大統領は、「我々が戦うのは『イスラム分離主義』だ」として、男女平等、政教分離などを軽視する考え方を分離主義と呼んで問題視、イスラム教徒を批判しているわけではないとも強調しています。前述のシャルリエブド事件などフランスでは近年、イスラム過激派によるテロが相次いでおり、ホームグロウン・テロリスト(自国で育ったテロリスト)が少なくないことが背景にあるようです。フランス共和国の価値観はまさに「男女平等」「政教分離」にありますが、それが「イスラム分離主義」者のみならず、イスラム教徒を分離する(排除する)ことにつながるのであれば、まさにテロの発生メカニズムを引き起こす(ネガティブ・スパイラルが起動する)危険な状況ではないかと考えます。本コラムでたびたび指摘しているとおり、テロの背景にあるのは、政府の機能不全や内戦、宗派・部族対立による混乱といった「人心・国土の荒廃」であり、今の「コロナ禍」だといえます(コロナ禍の長期化に伴い、インターネット上の情報との適切な距離感が問われているともいえます。「巣ごもり」でネット利用が拡大するなか、過激派が勧誘などに悪用、確証バイアスやフィルターバブル現象・エコーチェンバー現象が相互に助長しあって、視聴者自身がネット検索で思い込みを強化してしまうこともあり、過激思考の拡散が懸念されるところです。イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)はオンライン上の宣伝や勧誘を強化しており、コロナ禍は「神が我々の敵(欧米など)に与えた罰だ」とし、「敵」が対策で忙殺されている今こそ攻撃強化をと呼びかけているといいます)。ISに限らず、ホームグロウン・テロリストのように、思想に共鳴したテロがひとたび発生すれば、人々の間に疑心暗鬼が芽生え、それがさらなるテロを生むという悪循環となり、そこにISなどのイスラム過激派が実効支配を強めていくという構図が考えられるところです。過激思想やテロに屈しない強い姿勢を示す必要性は認められるものの、本来排除すべき対象と「社会的包摂」の中で対処していくべき対象を明確にし、正確に国民に伝え共有していくことが不可欠だといえると思います。

さて、米司法省は、シリアで日本人2人(フリージャーナリストの後藤健二さんとミリタリーショップ経営の湯川遥菜さんで、2015年1月に2人の殺害映像をネット上で公開しました)や米国人、英国人を人質にとって殺害したとして、ISの戦闘員2人を起訴し、米国に移送していると発表しています。報道によれば、起訴されたのは元英国籍の戦闘員で、欧米当局から「ビートルズ」の通称で知られていた、英国なまりの英語を話す4人前後の戦闘員グループのメンバーとされ、2019年から米軍の拘束下にあったとされます。なお、後藤さんを殺害したと主張する映像に登場した「ジハーディ・ジョン」の名で知られたモハメド・エムワジ容疑者は2015年11月に米軍の無人機攻撃で死亡しています。

アフガン情勢については、米国が2021年春までの駐留軍の完全撤収を粛々と進める構えで、アフガンと距離を置こうとしている中、米国の撤退による「力の空白」をどう埋めていくかが大きな課題となっています。そのような中、オブライエン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、アフガニスタン駐留米軍について「来年初めには2,500人規模まで削減する予定だ」、「トランプ大統領の就任時には1万人以上が駐留していたが、今は5,000人より少ない」と述べ、トランプ政権が公約に掲げた外国駐留軍の削減を実行していると強調しています。米政府は7月、アフガンの反政府武装勢力タリバンとの和平合意に基づき、駐留米軍を8,600人に削減したと発表、アフガン政府とタリバンによる恒久停戦に向けた協議を支援していますが、そもそものアフガニスタンの和平協議が長期化する恐れが高まっている状況です。停戦を求めるアフガン政府に対し、暴力行為を続ける反政府武装勢力タリバンが応じるかどうかは不透明なままで、軍事力で優位に立つタリバン主導で交渉が進むとの見方もあり、協議が難航するのは必至の情勢です。報道(2020年9月14日付日本経済新聞)によれば、タリバンは現在も国土の半分程度を支配しており、5万人強の兵士を抱えており、米国とタリバンが2月に和平合意しても暴力行為は絶えず、2020年1~6月に約3,500人の民間人が死傷しており、タリバンが早期の停戦に応じるとの見方が大勢です。また、2020年9月13日付時事通信では、「アフガニスタン政府と反政府勢力タリバンとの和平交渉は、駐留米軍の撤収を急ぐ米国と、勢力を温存して影響力を確保しておきたいタリバンの思惑が一致して開始が決まった。自らの頭越しに事態が進んだアフガン政府は「遅延工作」を続け抵抗したが、押し切られた形だ。このため政府は和平推進に消極的で、交渉の展望は見通せない。米軍撤退を目指してきたタリバンにとって、米大統領選を前に外国での紛争への関与低減を有権者に誇示したいトランプ政権の方針は好都合だった。タリバンは現在でも国土の約半分を掌握しており、米軍が完全撤収すれば、武力を背景に大きなプレゼンスを得ることができる」と大変わかりやすく構図が描かれています。さらに、その和平協議の意義・課題については、「恒久的な和平の確立とともに、西側が支援する現政権の合法性を認めていないタリバンが統治体制にどう関与するか、そして女性やマイノリティーの権利をどのように保護するか、などが優先的な協議課題となる」(2020年9月13日付ロイター)だといえます。一方、2020年9月19日付毎日新聞によれば、アフガニスタン南部4州の警官の50~70%が実在せずに、給料だけが支払われている「ゴースト(幽霊)」の可能性があるとする米政府のアフガニスタン復興担当特別監察官事務所(SIGAR)が米議会に提出した報告書が指摘しているようです。報告書では、4州の警官の約半数が薬物を使用している可能性にも言及、「アフガンでは政府と旧支配勢力タリバンによる和平の実現が目下の課題だが、汚職や不正といったガバナンス(統治)を巡る問題も深刻だ」と指摘しており、テロの発生メカニズムを助長しかねないガバナンスの問題も顕在化しており、まさに前途多難な状況です。

(6)犯罪インフラを巡る動向

前回の本コラム(暴排トピックス2020年9月号)でも指摘したとおり、デジタル・プラットフォーマーに対し、「場の健全性」を求める社会的要請が一段と強まっています。消費者庁の有識者会議での議論では、「売主の本人確認等取引責任の明確化」の文脈で、「通信販売では、表示されている情報は消費者が判断を行うに当たって極めて重要な要素となる。よって、特定商取引法では、事業者に関しては、通信販売についての広告として、例外を除いて住所や氏名等の表示が義務付けられている。他方で、CtoC取引における売手側のCの売主の表示に関する規定はない」こと、「古物営業法については、フリマサイトは、個人間で直接に物を売買する場を提供するものであり、また、その方法が競りによるものではないため、フリマアプリ等の運営業者は古物営業法に規定された古物競りあっせん業者には該当せず、法規制の対象外となっている。古物競りあっせん業者については、盗品等の売買の防止、速やかな発見等を図るという観点から、法において、あっせんの相手方の確認及びあっせんの記録の作成・保存について努力義務が課せられている」こと、「犯罪収益移転防止法は、マネー・ローンダリング、テロ資金供与防止の観点から、特定事業者に対し、特定取引における顧客等の本人確認を求めている。オンライン・ショッピングモールやフリマサイト等自体は、当該特定事業者として列挙されていない」ことなどの問題点が指摘されています。さらに、「デジタル・プラットフォームの利用者・意識行動調査では、利用者が買い物系プラットフォームを利用する場合、個々の出品者よりも買い物系プラットフォーム自体に信用を置いており、過半数を超える利用者(63.6%)は売主が誰かを意識している」こと、「買い物系プラットフォーム上においても、売主が誰か、その信用性などを含めての情報が、消費者に対して提供されることが求められていると考えられる」ことをふまえれば、「デジタル・プラットフォーム企業が提供するオンライン・ショッピングモール、フリマサイト等において、消費者が取引をする際に、取引相手が誰かを含め、信頼性の確保が重要」となっていること、「特に、取引相手が明確でない場合は、紛争時の解決が困難になるなど、取引の安定性への影響が大きく、消費者に多大な不利益をもたらすとともに、デジタル・プラットフォーム企業の提供するサービスへの信頼性を棄損するおそれもある。こうしたことから、消費者が安心できる取引環境を整備することが必要」であるとの問題意識が出されています。そのうえで、「取引相手の信頼性を確保し、利用者の利便性の追求と取引の場の安全の両立の観点」から、本人確認をどの程度行うべきかの議論が始められています。一方の当事者であるデジタル・プラットフォーマーの一角を占めるフリマサイト大手のメルカリの山田CEOは、2020年9月8日付日本経済新聞において、「3年前に現金の出品問題があって以降、社会の公器を意識してきたが、新型コロナウイルスの感染拡大でマスクの転売問題が起きた。いろんなお叱りを受け、最後は政府による規制までいってしまった。そうなる前にできることがあったのではとの反省がある」、「新しいテクノロジーの使い方は、倫理や哲学に踏み込んで議論する必要がある。GAFAM(米テック大手5社)はすごいパワーを持ち、プライバシーや競争を巡ってさまざまな問題を抱えている。正解がないなかで、どういう世の中がいいのか企業も社会もあらゆる議論をすべきだ。そこから許容される範囲が決まってくるのではないか」、「プラットフォーマーには明確に責任がある。メルカリも事業を2倍、3倍に大きくしようと思えば、本当に信頼される存在でなければならない。問題があれば補償するなど安心安全を担保しないといけない」などと述べており、「場の健全性」を確保するために事業者としても主体的かつ積極的に取り組む姿勢を示しています。自らのビジネスが「犯罪インフラ化」してしまわないよう努力すべきというのは、本コラムは10年前から主張してきたことです。ただ、そのメルカリでは、国勢調査の調査員に配布している手提げ袋がメルカリで販売されていたことが発覚、アプリを運営するメルカリに高市総務相(当時)が「国勢調査を装った詐欺などに用いられる可能性もある。フリマサイトの売買に使われたのは極めて残念」として出品の取り下げを要求しています。新たなリスクへの対応、膨大な出品内容のもつリスク(その背景に潜むリスクまで)を、刻一刻と高度化・多様化している社会の要請に応えるべく、いかにスピーディに見極め、対応していくかがあらためて大きな課題として突き付けられた形となりました。プラットフォーマーの「犯罪インフラ化」の阻止という社会的責任を果たすことの困難さをあらためて痛感させられます。

インターネットを通じた金融サービスで不正利用が相次いでいます。NTTドコモの「ドコモ口座」や、SBI証券での株式売却による資金流出に共通するのは、サービスを運営する事業者と銀行の連携不足が一つの要因だといえます。ばらばらの本人確認の隙を不正利用者に突かれた形で、双方が相手任せにしていては解決できない課題です。そもそも本人確認の手法は各企業の経営戦略や事業規模に依存する部分があり、ハードルを多く設けて認証を厳しくすれば安全性は高まる一方、利用者の煩雑さは増すことになります。また、技術的な統一基準を厳格に設ければ技術革新の妨げにもなりかねず、高度化する犯罪の手口への対応の阻害要因にもなりかねない危うさを秘めています。ペイペイやゆうちょ銀行なども含め一連の今回の問題では、(1)ドコモ口座の場合、実質的にメールアドレスだけで開設できた、(2)銀行口座とひも付ける際の本人確認が不十分だった、(3)銀行口座と暗証番号に加え、携帯電話を使った2段階認証などが導入されていなかった(口座番号や暗証番号はこれまで幾度となく繰り返されてきたサイバー攻撃によりすでに漏えいしていた可能性があり、さらにID・パスワードなど利用者側の「使い回し」の習性などが悪用されたか、総当たり攻撃などで突破され、なりすましが可能となっていた)、(4)2段階認証を導入していたにもかかわらず、SMS認証も突破された(すなわち、不正に入手した銀行口座情報を基に口座の持ち主になりすまし、本人確認が不十分な携帯電話を用いて決済事業者の口座を開設。銀行口座にあった預金の送金先として、使用した可能性があるということ)という具合に、セキュリティを強化しても、さまざまな「犯罪インフラ」を駆使することでその隙を突破されてしまうことの繰り返しだったと言い換えることができます。そもそも携帯電話の本人確認を信用したセキュリティが構築されていること自体、脆弱性を有していたことになります。携帯電話の本人確認の脆弱性については「犯罪インフラ化」の懸念があるとして、本コラムでもたびたび指摘してきたところであり、前述のプラットフォームの健全性をどうやって担保するか同様、さまざまな「犯罪インフラ」が世の中に流通していることを前提として、利用者の利便性をどこまで犠牲にして安全性を確保するか、難しい対応が迫られているといえます。

この事業者同士の連携という点では、キャッシュレスなどの電子決済サービス事業者に対し、金融庁は不正利用で被害が出た際の補償方針を顧客へ事前に示すよう、来年(2021年)6月までに施行する改正資金決済法の内閣府令で義務づける方向だと報じられています(2020年10月10日付朝日新聞)。ドコモ口座などでの不正引き出し問題では、事業者と銀行側の協議が長引いて、対応の遅れもあり、不正引き出し時の迅速な補償方針を示しておくことで、利用者らの不安をぬぐいたい考えといいます。一連の不正引き出し問題では本人確認の手続きが甘い決済サービスが狙われ、顧客が知らないうちにアカウントをつくられ、情報が流出した生年月日や暗証番号など4項目の確認だけで口座振替できる銀行の口座と連携され、不正に預金が出される事態を招きましたが、被害発覚の当初、補償について事業者側と一部の金融機関で認識が食い違い、責任の「押し付け合い」のような状況が続き、対応の遅れがあったことは否めません(高市前総務相が退任会見で、「失敗や不祥事が起きたときに全ての組織に求められることは、位の高い人が出てきて謝罪をする、説明することだ」、「その効果は地位に比例し、時間に反比例する」と述べ、各社トップの姿勢や消極的な情報公開を痛烈に批判していますが、まさに正鵠を射るものといえます)。このような事態となったのは、補償方針や責任分担を事前に定めなかったことが一因で、報道では、金融庁幹部は「まったく関係ないのに被害にあい、補償されるかどうかもわからないといった不安が広がったのは否定できない」と指摘しています。

なお、一連の問題を受けた金融庁からの業界への要請、注意喚起等の内容について紹介しておきます。

▼金融庁 資金移動業者の決済サービスを通じた銀行口座からの不正出金に関する対応について
▼(別紙1)スマホ決済等サービスを利用した不正出金に関する注意喚起(9月8日)
  1. 事案の概要
    • 一部報道もなされておりますが、NTTドコモが提供するスマホ決済等のサービス「ドコモ口座」を利用した口座振替による不正出金が複数の金融機関で発生しています。
  2. 影響
    • 悪意のある第三者が預金者の名義でドコモ口座を開設し、銀行口座と連携した上でドコモ口座へ預金をチャージすることで不正な引出が発生します。なお、ドコモ口座に銀行口座を連携させる際の手順が、各金融機関で異なっておりますが、不正に盗み出した銀行の口座番号やキャッシュカードの暗証番号等を用いることで、口座の連携が可能な金融機関で被害が発生していると考えられます。
  3. 留意事項
    • ドコモ口座のサービスを提供している金融機関においては、自行においても不正出金が発生していないかご確認ください
    • また、ドコモ口座と銀行口座と連携する手順にセキュリティ上の問題がないか確認の上、仮に、問題があると判断した場合には、新規受付の停止や認証を強化するなど、被害の拡大防止に努める対応をご検討下さい
    • 併せて、預金口座と連携する他のスマホ決済等のサービスにつきましても、ドコモ口座同様に問題がないかご確認下さい
    • 同様の事案を確認した場合、速やかに当局(財務局等を含む)にご連絡ください。
▼(別紙2)預金取扱金融機関向け要請文(9月15日)
  1. 事案の概要
    • 悪意のある第三者が不正に入手した預金者の口座情報等をもとに当該預金者の名義で資金移動業者のアカウントを開設し、銀行口座と連携した上で、銀行口座から資金移動業者のアカウントへ資金をチャージすることで不正な出金を行う事象が複数発生している
    • 現時点では、資金移動業者において犯罪収益移転防止法施行規則第13条第1項第1号に基づく確認を実施し、それに基づく銀行での取引時確認済みの確認及び口座振替契約(チャージ契約)の締結に際してキャッシュカードの暗証番号のみで認証するケースにおいて、被害の発生が確認されている
  2. 確認・検討いただきたい事項
    • 「主要行等向けの総合的な監督指針」、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」にも記載されているように、サイバー攻撃が高度化・巧妙化していることを踏まえ、サイバーセキュリティの重要性を認識し必要な体制を整備することが重要である。こうしたことに留意し、下記について確認・検討いただきたいので、貴協会会員宛に周知徹底方よろしくお願いしたい
    • 資金移動業者等との間で口座振替契約(チャージ契約)を締結している預金取扱金融機関においては、資金移動業者等における取引時確認の内容を踏まえ、資金移動業者等のアカウントと銀行口座を連携して口座振替を行うプロセスに脆弱性がないか確認すること
    • (注)例えば、上記口座振替契約(チャージ契約)に際して、預金取扱金融機関においてワンタイムパスワード等による多要素認証を実施していない場合など、不正に預金者の口座情報を入手した悪意のある第三者が、預金者の関与無しに資金移動業者等のアカウントへ資金をチャージ可能なケースは脆弱性があると考えられる
    • 上記確認により問題や脆弱性が見出だされた場合には、資金移動業者等のアカウントとの連携時における認証手続の強化(多要素認証の導入など)を含むセキュリティの強化、資金移動業者等における取引時確認の状況を確認するなどの堅牢な手続きの導入を検討すること。
    • また、その導入までの間、足許において被害を生じさせない態勢を整備する観点から、新規連携や資金移動業者等のアカウントへの資金のチャージを一時停止すること。
    • 本事案に関して、被害を心配される利用者から相談を受けた場合には、被害の有無に関わらず、利用者の不安を解消するべく、真摯な姿勢で迅速かつ丁寧に対応すること
    • なお、上記(1)の確認により問題や脆弱性が確認された場合にはその旨、及び上記(2)の対応の内容を速やかに当局に連絡いただきたい。また、過去に被害が生じていなかったかを確認いただき、被害が発覚した場合や、新たに被害が発生した場合にも、その旨を直ちに当局に連絡いただきたい
▼(別紙3)資金移動業者向け要請文(9月15日)
  1. 確認・検討いただきたい事項
    • 「資金移動業者関係の事務ガイドライン」にも掲載されているように、サイバー攻撃が日々、高度化・巧妙化していることを踏まえ、適時・適切に自社のサイバーセキュリティ水準を確認し、適切な不正防止策を講じることが重要である。こうしたことに留意し、下記について確認・検討いただきたい。
    • なお、令和2年9月14日、一般社団法人全国銀行協会から「資金移動業者の決済サービス等での不正出金への対応について」が発表されているので、参考にされたい。
    • ▼全国銀行協会HP
    • 資金移動業者においては、資金移動業者での取引時確認、銀行での上記確認・認証の内容を踏まえ、資金移動業者のアカウントと銀行口座を連携して口座振替を行うプロセスに脆弱性がないか確認すること
    • (注)例えば、資金移動業者において自ら取引時確認を実施しておらず、銀行において上記確認・認証に際してワンタイムパスワード等の多要素認証を実施していない場合など、不正に預金者の口座情報を入手した悪意のある第三者が、預金者の関与なしに資金移動業者のアカウントへ資金をチャージ可能なケースは脆弱性があると考えられる
    • 上記確認により問題や脆弱性が見出だされた場合には、資金移動業者での取引時確認を強化する、銀行での上記確認・認証を強化するなどの堅牢な手続きの導入を検討すること。また、その導入までの間、足許において被害を生じさせないために、新規連携や銀行口座からの資金のチャージを一時停止すること
    • 本事案に関して、被害を心配される方からご相談を受けた際には、被害の有無によらず、相談者の不安を解消するべく、真摯な姿勢で迅速かつ丁寧に対応すること
▼金融庁 銀行口座からの不正な出金にご注意ください!
  • 悪意のある第三者が、不正に入手した預金者の口座情報等をもとに、銀行口座と連携して利用する決済サービスを提供している事業者を通じて、銀行口座から不正な出金を行う事案が多数連続して発生しています
  • 注意すべきポイント
    • こうした不正出金は、銀行口座と連携して利用する決済サービスをご利用されていない預金者のほか、インターネットバンキングを利用されていない方も被害に遭われています
    • ご自身の銀行口座に不審な取引がないか、今一度ご確認頂くとともに、口座情報の管理にご注意願います
    • 銀行口座に身に覚えのない取引があった場合には、お取引先銀行又は取引記録に記載されている決済サービスを提供する事業者にご相談ください
    • これまでに悪意のある第三者から不正な出金があったことが明らかとなった銀行及び決済サービス事業者は、このような出金による被害については連携して全額補償する方針を表明しています
  • こうした事案に便乗した詐欺にもご注意願います。

さて、サイバーセキュリティや反社リスクなど、外部からの攻撃リスクにおいては、攻撃側に防御側と比べて非対称な優位性があります。そのような中。新しい内閣は行政のデジタル化に絡め、サイバーセキュリティ対策の強化として「ゼロトラスト」の導入を検討しています。外部からの侵入を強固な守りで防御する「境界型」発想から、「不正侵入はあり得る」との前提で対策を講じると発想を転換するもので、具体的にはすべての利用者や使用されている機器を正確に把握し、常時監視・確認する仕組みを指しています。言い換えれば、どのような技術やサービスであっても、犯罪者にも等しく技術革新の恩恵が行き渡ることから、「境界線」を突破されるのは時間の問題に過ぎず、結局は「犯罪インフラ化」のリスクが常にあると考え、モニタリング(中間管理・常時監視・継続的顧客管理・適切な事後検証)を重視して取り組むという、リスク管理の手法だといえます。また、ドコモ不正口座の問題では事後対応の拙さも問題となりましたが、今後は、従来の受動的な対策の限界があることをふまえ、事後的対応中心・脆弱性対策中心の対策から、脅威情報の共有・活用による「予測的防御」を図る「積極的サイバー防御」の発想への転換も必要だといえます。さらには、相対的にセキュリティ対策レベルが脆弱な中小企業を踏み台にした攻撃等が顕著となる中、自社だけなくサプライチェーン全体の強度をいかに高めるかの発想も重要となっています。セキュリティ対策、外部からの攻撃への対応に「完璧」なはく、「慢心こそ最大の敵」と肝に銘じて、常に対策や意識をブラッシュアップし続けることが求められています

サイバー空間における「犯罪インフラ」の代表例としては「闇サイド(ダークウェブ)」が挙げられますが、直近では、京都府警が長期にわたる集中的な捜査を進め、暗号資産(仮想通貨)口座やクレジットカード情報の違法取引の摘発にこぎ着けたとの報道がありました(2020年9月24日付日本経済新聞)。ダークウェブ上のサイトは違法な取引や犯罪の情報交換に使われ、利用者は発信元を隠す匿名化ソフト「Tor」などを使ってアクセスすることから、ネット上の住所にあたるIPアドレスをたどって接続した人物の身元を特定するのは極めて難しいことは以前から指摘しているとおりです。とはいえ、暗号資産が必ずリアルの資産(現金など)に換金される時点があるのと同様、ダーウェブとリアルの空間の接点(売買された品物の移動や現金化など)が必ず存在する以上、何らかの足跡が残り、それが捜査の端緒となりえます。「各国の捜査機関はダークウェブの利用者だけでなく、運営者やサーバの管理拠点などを摘発して『根っこを絶つ』ことに注力し始めている」にもかかわらず、ようやく「ネット上の犯罪に対して日本では捜査権限の制約が大きい。令状に基づいて容疑者の端末をハッキングすることの是非なども議論していくべきだ」、「サイバー攻撃や闇市場に国境はない。国際的な捜査連携や捜査手法の見直しによって抑止力を高めていくことが必要だ」との指摘が出始めている状況です。「身代金目的で端末内のデータを暗号化するランサムウエア、標的となる組織に不正アクセスできる権利などが売り出され、競争が新たな商品を生み出していく。技術がなくても「武器」の調達が可能になり、攻撃者の裾野拡大が懸念されている」(2020年9月5日付日本経済新聞)といわれるほど「犯罪インフラ化」の深化・進化が止まらない中、京都府警の摘発事例はまだダークウェブとの戦いにおいては緒についたばかりであり、先行する海外の捜査機関との連携、新たな捜査手法の検討が今後の課題となります。

なお、参考までに、警察庁から最近公表された「令和2年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の醸成等について」の重要ポイントのみ抽出して紹介します。

▼警察庁 令和2年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について
  • 新型コロナウイルス感染症に関連した特徴的なサイバー攻撃として、国内外で医療機関や研究機関等に対する攻撃が確認されている。これらの攻撃における攻撃者の意図は必ずしも明らかではないが、医療機関・研究機関の研究状況の把握や、研究成果の窃取を目的としているなどの可能性が想定される。新型コロナウイルス感染症の拡大やこれに乗じた関連事案による社会への影響は極めて大きく、攻撃者が攻撃対象として新型コロナウイルス感染症に関連した機関や事業者を狙う傾向は今後も継続する可能性がある
  • 標的型メール攻撃は、我が国でも多数発生し、しばしば情報窃取やサーバ乗っ取りなどの更なるサイバー攻撃等の端緒となっている。最近は受信者の不安感に乗じた新型コロナウイルス感染症に関連しただまし文句を用いる例が報告されている。一般に、標的型メール攻撃では、攻撃者がその時勢に応じメールの受信者がより開封しやすい文面を用いようとする傾向にあり、新型コロナウイルス感染症に関連した標的型メールもこのような傾向の一環であるとみられる。標的型メール攻撃のような人間の心理的な隙をつく攻撃手法は、攻撃を完全に防ぐことは難しく、各セキュリティ事業者が公表する最新の攻撃動向(傾向や手口)の把握、職員のサイバーセキュリティ意識の向上等の地道な対策が引き続き求められる
  • 感染症対策に関連したテレワークの増加等の業務環境の変化に伴い、サーバへの遠隔接続サービス、VPNサービス、オンライン会議システムのぜい弱性が明らかになっており、同ぜい弱性を悪用したとみられる事例も確認されている。一部の事業者においては、在宅勤務を実施するのに十分なセキュリティ上の措置が講じられていないシステムや端末が用いられる、システム監視の体制がぜい弱となりサイバー攻撃の被害への対応が遅れるなどの状況が生じているものとみられる。他方、リアルタイム検知ネットワークシステムにおける観測においては、オンライン会議システム等の特定のサービスに関連した探索行為の著しい増加といった顕著な情勢の変化は現時点で確認されていない
  • 新型コロナウイルス感染症に関連した特徴的なサイバー犯罪としては、サイバー空間を利用した詐欺や業務妨害事案において、マスクや消毒液の販売に関連した詐欺、新型コロナウイルス感染症への感染に関連した虚偽情報の流布等の事案が見られた
  • 新型コロナウイルス感染症に関連するサイバー犯罪が疑われる事案として6月末までに都道府県警察から警察庁に報告のあった件数は608件であった。その内訳としては、詐欺が286件で全体の約0%と最も多く、次いで不審メール・不審サイトが115件で全体の約18.9%を占めている
  • 令和2年上半期に本システムにおいて検知したアクセス件数(全ポート)は、1日・1IPアドレス当たり6,218.1件と増加傾向にある。アクセス件数が増加傾向にあるのは、IoT機器の普及により攻撃対象が増加していること、攻撃側(踏み台として攻撃に利用されている機器・サーバを含む)のシステムが年々強化されていること、2016年の大流行以降も新種のMirai亜種(自己増殖型不正プログラム)が出現し続けていることなどが背景にあるものとみられる
  • 令和2年上半期のMiraiボットの特徴を有するアクセス件数は、1日・1IPアドレス当たり7件で前年同期の466.3件と比較して81.4件増加した。また、アクセスの多い宛先ポートに変動が見られたことから、攻撃の標的となるIoT機器が変化したものと考えられる
  • 令和2年上半期にサイバーインテリジェンス情報共有ネットワークを通じて把握した標的型メール攻撃の件数は3,978件であった。「ばらまき型」攻撃の割合は全体の98%、送信先メールアドレスがインターネット上で公開されていないものが全体の78%、送信元メールアドレスが偽装されていると考えられるものが全体の98%などの特徴があった
  • 令和2年上半期におけるインターネットバンキングに係る不正送金事犯による被害は、発生件数885件、被害額約5億1,200万円で、前年同期と比べて大幅に増加した。前年上半期は、発生件数・被害額ともに以前と比べて減少傾向にあったものの、9月から被害が急増した。令和2年上半期は、被害が急増した前年下半期と比べて減少しているものの、前年同期と比べて大幅に増加しており、その被害の多くは、前年9月以降から引き続いているSMSや電子メールを用いて金融機関を装ったフィッシングサイトへ誘導する手口によるものと考えられる
  • フィッシングサイトへの誘導には金融機関を装ったSMS等のほか宅配事業者からの荷物の配達連絡を装ったSMSによって、金融機関を装ったフィッシングサイトへ誘導するものも確認されている。また、当該SMSからの誘導により、不正なアプリを携帯電話機等の端末にインストールさせ、当該アプリによって表示される偽の警告メッセージからフィッシングサイトへ誘導する手口も確認されている。金融機関を装ったフィッシングサイトで、IDやパスワード等に加えて金融機関の公式アプリの有効化手続に必要な情報を窃取され、不正に有効化されたアプリを用いて不正送金される被害も確認されている。金融機関の公式アプリが不正に有効化された後、キャッシュカードを用いずにATMでの入出金が可能なアプリの機能を用いて、ATMで被害口座から現金が不正に出金される新たな手口が5件発生し、約60万円の被害が確認されている
  • 一次送金先として把握した1,244口座のうち、名義人の国籍は日本が0%と最も多く、次いでベトナムが12.4%、中国が3.5%であった。従来の手口である預貯金口座への不正送金のほか、電子マネーや暗号資産の購入、プリペイドカードへのチャージ等の手口が確認されている
  • サイバー犯罪の検挙件数は増加傾向にあり、令和2年上半期の検挙件数は4,361件と、前年同期と同水準となった。令和2年上半期における不正アクセス禁止法違反の検挙件数は235件と、前年同期と比べて増加した。検挙件数のうち、222件が識別符号窃用型で全体の5%を占めている。識別符号窃用型の不正アクセス行為に係る手口では、言葉巧みに利用権者から聞き出した又はのぞき見たものが91件と最も多く、全体の41.0%を占めており、次いで他人から入手したものが59件で全体の26.6%を占めている。識別符号窃用型の不正アクセス行為に係る被疑者が不正に利用したサービスは、社員・会員用等の専用サイトが108件と最も多く、全体の48.6%を占めており、次いでオンラインゲーム・コミュニティサイトが32件で全体の14.4%を占めている
  • 令和2年上半期におけるコンピュータ・電磁的記録対象犯罪の検挙件数は218件で、前年同期と比べて増加した。検挙件数のうち、電子計算機使用詐欺が192件と最も多く、全体の1%を占めている。児童買春・児童ポルノ法違反の検挙件数は935件と、前年同期と比べて減少した。詐欺の検挙件数は609件と、前年同期と比べて増加した

他、犯罪インフラを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • SNS上の写真や書き込みから投稿者の住所などを割り出して報酬を得ている人たちを、インターネット上では「特定屋」と呼ぶようです。報道によれば、ツイッターなどで依頼を受け、依頼者に目当ての個人情報を無断で教えているといい、ストーカー事件で悪用されるケースも明らかになっており、まさに犯罪を助長する「犯罪インフラ」だといえます。安易に個人情報をさらしている人が多いことが原因で、「〇〇駅で電車が遅延した」という書き込みや、学校の制服を着た自分の写真などは、個人を特定する格好のヒントになりかねない点に注意が必要です。対策として、「友人ら限られた人しか見られないようSNSを設定する」、「自宅周辺や制服姿で写真は撮らない」、「写真を掲載する時は画素数を下げる」などが有効だと紹介されています。
  • インターネット上で連絡を取りながら複数のプレーヤーが同時に遊ぶオンラインゲームを通じ、児童らが事件に巻き込まれるケースが相次いでいます。2019年1月には福岡県内の小学生の男児にわいせつな行為をしたとして、高松市の20代女性が強制性交等容疑で逮捕されたほか、同9月には、石川県の10代少女を三重県の宿泊施設などに連れ回したとして、30代の男性が未成年者誘拐容疑で現行犯逮捕された事件がありました。いずれの事件もオンラインゲームを通じて容疑者と知り合い、被害に遭ったといいます。内閣府の調査では、小学生の86%がインターネットを利用し、スマホも38%が使用、総務省の2019年のアンケート調査では、インターネットの利用目的(複数回答)として13~19歳の6割近くがオンラインゲームを挙げているなど、オンラインゲームの「犯罪インフラ化」に注意が必要な状況です。
  • 新型コロナウイルスの影響で収入が半減した個人事業主らに支給される国の持続化給付金を詐取した容疑で京都府警に逮捕された男らが、「一棟貸し」の町家風民泊3か所をアジト(犯行拠点)として使用していたことがわかったと報じられています(2020年9月30日付読売新聞)。民泊の利用がコロナ禍で低迷している上、管理の目が行き届かないことに乗じたとみられています。男らは、毎月宿泊場所を移しながら虚偽の申請書類を作成していたといいます。コロナ禍による利用減で長期滞在が容易になっていることに加え、多くの民泊は管理スタッフが常駐しておらず、人の出入りも目につきにくいことが悪用され、まさに民泊の「犯罪インフラ化」がコロナ禍で顕在化したといえると思います。なお、本コラムでもたびたび紹介しているとおり、民泊の関連法令では悪用防止のため、運営者に宿泊客の身元確認徹底などを求めていますが、民泊の経営は悪化しており、そのような手間やコストはかけられず、実質フリーパスの状態が放置されている懸念があります。
  • 不正に他人名義の携帯電話の機種変更をしたとして、愛知県警は、NTTドコモの販売代理店の店員だった女と弘道会系暴力団組幹部を私電磁的記録不正作出・同供用容疑で逮捕しています。こうした名義の不透明な携帯電話が反社会的勢力により「犯罪インフラ」として使われることが危惧されるところです。なお、携帯電話会社による本人確認の脆弱性に対して、総務省が是正命令を発出した事案がありましたので、以下、紹介します。
▼総務省 株式会社ライト通信による携帯電話不正利用防止法違反に係る是正命令等

総務省は、携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律(平成17年法律第31号。以下「法」といいます。)に違反した株式会社ライト通信(大阪府大阪市)に対し、法第15条第2項の規定により、違反の是正を命じました。また、株式会社ライト通信に対する監督義務を負うソフトバンク株式会社(東京都港区)、株式会社ライト通信に契約締結等の業務を再委託していた株式会社メンバーズモバイル(東京都豊島区)に対し、媒介業者等に対する監督を徹底するよう指導しました。

  • 事案の概要及び措置の内容
    • 法は、携帯電話の新規契約等の際に、契約者等の本人確認を行うことを義務付けています
    • 株式会社ライト通信は、平成29年1月から同年7月までの間の計137回線の契約の締結に際し、契約者の本人確認を法に規定する方法で行わず、法第6条第3項において読み替えて準用する法第3条第1項及び第2項の規定に違反したものと認められます
    • このため、総務省は、令和2年9月11日、法第15条第2項の規定に基づき、同社に対して違反の是正を命じました
    • また、総務省は、同日、ソフトバンク株式会社及び株式会社メンバーズモバイルに対して、同社らの代理店において法令違反が発生したことに鑑み、媒介業者等に対する監督を徹底するよう指導しました
  • 総務省は、携帯電話が振り込め詐欺等の犯罪に不正に利用されることを防止するため、引き続き、法の厳正な執行に努めてまいります。
  • 携帯電話と並び「犯罪インフラ」の代表格といえるのが「休眠会社」や「ペーパーカンパニー」です。直近でも、架空の経費を計上し脱税したとして、大阪国税局が寝屋川市の不動産会社などを法人税法違反の疑いなどで告発しています。約3年間にわたって休眠会社を利用して、架空のマンション管理費などを計上する手口で約9億1,900万円の所得を隠し、法人税など約2億4700万円を脱税した疑いが持たれています。また、実体のない会社をかたって取引を持ちかけ、電化製品の販売会社などから大量のエアコンと布団クリーナーを詐取したとして、警視庁と大阪府警の合同捜査本部が男5人を詐欺容疑で逮捕したという事例もありました。報道によれば、首都圏や関西で2015年ごろから、実体のない特定の社名を使う男らが、同様の手口で電化製品や海産物をだまし取る事件が相次いでいるといい、被害は少なくとも東京都や神奈川県、大阪府、兵庫県などの約170社に及び、被害額は計6億円を超えたということです。
  • オークションサイトに架空出品した商品を自ら落札し、支払い代金に充てた決済サービス「PayPay」のポイントを不正に現金化したとして、警視庁が埼玉県草加市の男女3人を電子計算機使用詐欺容疑で逮捕しています。3人は家族で、アプリなどの認証代行業者だといいます。事業に使う約4万件の携帯番号でアカウントを作り、新規登録者に付与されるポイントを約2,000万円分入手、現金化して、トヨタ自動車の高級ブランド車「レクサス」を購入するなどしたと報じられています。逮捕容疑は、オークションサイト「ヤフオク!」に実在しないトレーディングカードを約800回出品し、自ら落札してペイペイのポイントで決済、約40万円分を現金化した疑いで、登録に必要な電話番号は、事業用に所持していた大量の「SIMカード」を利用したといいます。決済サービスの脆弱性、SIMカードの「犯罪インフラ性」がよくわかる事例だといえます。
  • 本コラムでもたびたび取り上げていますが、給与を受け取る権利を買い取る「給与ファクタリング」と称してヤミ金融を営んだ業者が摘発されています。なお、ファクタリングについては、金融庁からも注意喚起が出されていますので、以下、紹介します。
▼金融庁 ファクタリングに関する注意喚起
  • ファクタリングとは、債権を期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービス
  • 個人が勤務先に対して有する給与(賃金債権)を対象とした「給与ファクタリング」を業として行うことは、貸金業に該当(貸金業登録が必要)。貸金業登録を受けていないヤミ金融業者を利用すると、様々な被害や生活破綻につながるおそれ
  • 事業者が保有している売掛債権等を対象とする「事業者向けファクタリング」においては、ファクタリングを装って貸付けを行うヤミ金融業者が存在。また、ファクタリングであっても、経済的に貸付けと同様の機能を有していると思われるようなものについては、貸金業に該当するおそれ
  • 高額な手数料のファクタリングを利用すると、かえって資金繰りが悪化する可能性
  • 新型コロナウイルス感染症に便乗して、ヤミ金融業者による違法な貸付け等が行われる懸念もあるため、十分注意が必要
  • 貸金業該当性に係る考え方の概要
    • 労働者が賃金債権を譲渡した場合でも、労働基準法の規定により、使用者は直接労働者に対し賃金を支払わなければならず、賃金債権の譲受人は、自ら使用者(労働者の勤務先等)に対してその支払を求めることは許されないと解されているため、給与ファクタリングにおいては、賃金債権の譲受人は、常に労働者に対してその支払を求めることになります
    • そのため、給与ファクタリングでは、譲受人から労働者への金銭の交付だけでなく、譲受人による労働者からの資金の回収を含めた資金移転のシステムが構築されているということができ、これは経済的に貸付けと同様の機能を有しているため、給与ファクタリングを業として行うものは、貸金業に該当すると考えられます
    • 裁判例においても、以下の事情等を考慮して、金銭の授受が金銭消費貸借契約に準じるものと判断されたものがあります(大阪地方裁判所平成29年3月3日判決)。業として、金銭消費貸借を行う場合には、貸金業登録を受ける必要があります
  • ファクタリング業者が債権回収のリスクをほとんど負っていない
  • 債権の額面と無関係に金員の授受がなされていた
  • 売主は、買戻しを行わざるを得ない立場にあった
  • 債権が回収不能となった場合には代金を減額されるなど、債権の回収リスクが売主の信用リスクと同じとなっている
  • 悪質な業者から、業務の平穏を害するような取立てが行われるおそれがあります。最高裁判所の判例では、権利の実行について、権利の範囲又は社会通念上一般に、忍容すべきものと認められる程度を逸脱するときは違法となり、恐喝罪又は脅迫罪が成立することがあるとされています(参考:最高裁判所昭和27年5月20日判決)。悪質な取立ての被害に遭った場合には、警察に相談をお願いいたします
  • 「後払いの商品購入に申し込めば現金が手に入る」といった誘い文句で客を呼び寄せる商法が目立ち始めたと報じられています(2020年10月5日付毎日新聞)。「後払い取引」などと称され、現金を得た利用者には高額な支払いが待っているが、当面の生活費に困った人が手を出しているといいます。ファクタリングに似た構図であり、専門家は、実態は高い利息で現金を貸し付ける「ヤミ金」に当たる可能性があるとして、注意を呼びかけています。
  • 一時的に使わない車の車検などが免除される「一時抹消登録」制度を悪用しナンバープレートの返却を逃れたとして、愛知県警は中古車販売業の容疑者を、電磁的公正証書原本不実記録・同供用容疑で再逮捕しています。報道によれば、車は不法滞在の外国人らに販売され、犯罪にも使われたといいますが、抹消中のため使用者が不明で、警察が押収後に所有者の容疑者へ車を返していたということです。違法な車を還流させ、繰り返し販売する手口で、新たな「犯罪インフラ」だといえると思います。この背景には、車の販売業者には、売る相手の身元を確認したり一時抹消した車を再登録したりする義務はなく、犯罪に使われても業者の責任を問うことは難しいことや、紛失や盗難の場合はその時期や場所などを記すだけでよく、本当になくしたかどうか運輸局などが確認することになっているものの、実際には確認が難しい実態があることが挙げられます。
(6)誹謗中傷対策を巡る動向

本コラムで関心を持ってその動向を注視している「インターネット上における誹謗中傷対策」については、国も迅速に対応しており、直近では「インターネットトラブル事例集」に新たに注意事項等を追加しています。

▼総務省 インターネット上の誹謗中傷に関する注意事項等をまとめた「インターネットトラブル事例集(2020年版)追補版」の作成・公表
▼インターネットトラブル事例集(2020年版)追補版
  1. SNS等での誹謗中傷による慰謝料請求
  • テレビやネットでの言動が気に入らない有名人の悪口を匿名投稿したW君。同調する投稿も増え、根拠のない悪口など嫌がらせがネットに広まった
  • W君が発信者だと判明したことから、虚偽の投稿内容により名誉を傷つけられたとして、慰謝料などを求める訴訟(裁判)を起こされてしまった
  • いら立ちを覚えたり、自分の中の正義感が高じたりして、過激な投稿で個人攻撃をする人がいます。こうした加害行為(再投稿も含まれる)をしないために注意したいことは?
  • 誹謗中傷≠批判意見
  • 多くのSNSサービスには「誹謗中傷禁止」という利用規約があります。相手の人格を否定する言葉や言い回しは批判ではなく誹謗中傷です。正しく見極め、安易に投稿・再投稿をしないで
  • 匿名性による気のゆるみ
  • 対面や実名では言えないのに、匿名だと言えたり攻撃性が増したりすることも。たとえ匿名でも、技術的に投稿の発信者は特定できるため、民事上・刑事上の責任を問われる可能性が…
  • カッとなっても立ち止まって
  • 怒りは人の自然な感情ですが、はけ口にされやすいのがSNS。炎上したり訴えられたりしてから「あんな投稿しなければよかった」と悔やんで時間は戻せません。書いた勢いで送信しない習慣を!
  • 「目立つ存在なんだから仕方がない」という主張は通用しない
    • SNS上で、悪意を感じる投稿を見かけることがあります。中には「正義感からやったこと」と主張する人もいるようですが、“立場”や“事実かどうか”を問わず、人格を否定または攻撃するような投稿は正義ではありません
    • 近年、YouTuber、事件・事故の関係者、感染症の陽性者ほか、『有名な人』と感じる範囲が広がると共に、主体的に投稿する人以外の“安易に再投稿・拡散する人”も増えています。たくさんの悪口が集まれば、集団攻撃となり人を酷く傷つけます。相手がどのような人であっても、単に再投稿しただけであっても、民事上・刑事上(損害賠償請求、名誉毀損罪による懲役、侮辱罪による拘留 等)の責任を問われる可能性があります。このことを肝に銘じて、法律や利用規約等のルールやモラルを意識した、正しい利用を心がけましょう
    • 誹謗中傷は、再投稿者でも“広めることに加担した”とみなされます。投稿・再投稿する前に必ず「自分が言われたらどう思うか」を考えて!
  1. SNSによる誹謗中傷被害への対処方法
  • SNS上で言い争ってしまうと、さらに悪化してしまう可能性もあります。設定を見直す、信頼できる人・窓口に相談する等、冷静に対処しましょう!
  • 炎上投稿に直接参加する人は、ごく限られた一部に過ぎないという研究結果もあります(令和元年版 情報通信白書)。「誹謗中傷は多数意見ではない」「世の中の人全てが攻撃しているわけではない」ということを、思い出してください。それでも、もし、保護者・先生・友人には相談しづらいと思ったときは、専門の窓口を積極的に利用してください
  • とりあえず“見えなくする”設定に
  • よく使われるSNSには、やり取りをコントロールする機能が備わっています。相手に知られずに投稿を非表示にする機能(ミュート)をうまく活用しましょう。つながり自体を断つ機能(ブロック)もありますから、深く傷つく前に「見えなくする」ことをお勧めします
  • また、返信やコンタクトができる相手を制限できる機能もあります。それぞれ、名称や操作方法等はサービスやアプリによって異なります。調べて確認しながら使ってみてください
  • 削除依頼の流れ
  • 可能な状況であれば、投稿者に削除してほしいと連絡してみる(無理は禁物)
  • 該当する投稿のURLやアドレスを控える【画面(=スクリーンショット)や動画の保存も重要】
  • 「通報」「報告」「お問い合せ」など削除依頼等ができるページやメニューを探す
  • フォームに従って必要な選択・入力を行い漏れがないか内容を確認して、送信!
  • 困ったら、傷ついて辛かったら、1人で悩まず相談を!
  • 電話、メール、各種SNS、Webチャット等を使って、誰にも知られずに相談することができる公的窓口はいろいろあります。1人で抱え込まず、相談してみましょう
▼インターネット違法・有害情報相談センター(総務省支援事業)
  • 専門の相談員が、誹謗中傷の書き込みを削除する方法などについて丁寧にアドバイスします。ご自身で削除依頼を行っていただくための迅速な対応が可能です
▼法務省 「インターネット人権相談窓口」
  • 法務省の人権擁護機関(法務局)ではインターネットでも人権相談を受け付けています。削除依頼の方法について相談者に助言を行うほか、内容に応じて、法務局からプロバイダに削除要請を行います
▼厚生労働省 「まもろうよ こころ」
  • もしもあなたが悩みや不安を抱えて困っているときには、気軽に相談できる場所があります。電話、メール、チャット、SNSなど、さまざまな相談窓口をご紹介しています

総務省は、ネット上で中傷を受けた被害者が投稿者を特定しやすくするため、新たな司法手続きに関する制度案を示しました。現在は被害者がSNS事業者などから投稿者の氏名などの情報を入手するには複数回にわたる手続きが要るところ、1つの裁判手続きにまとめる見直しを促し、迅速な情報開示で被害者の救済を目指すものです。新たな制度案ではSNSなどに開示を求める訴訟を起こさなくても、裁判所が被害者からの申し立てを受けて開示の適否を判断することを想定しており、投稿者の特定に必要な通信記録についても、ネット接続業者(プロバイダー)に一定期間、保全させる仕組みを盛りこんでいます。なお、前回の本コラム(暴排トピックス2020年9月号)で紹介した総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」の「中間とりまとめ」では、新たな裁判手続の創設については、「発信者情報の開示について特に利害を有しているのは発信者本人であることから、新たな裁判手続を設けるに際しても、発信者の権利利益の確保に十分配慮した制度設計とすることが適当である。この点、発信者情報を保有しているのはプロバイダであることから、新たな裁判手続のプロセスにおいても直接の当事者となるのはあくまでプロバイダであることに変わりはないが、プロバイダは、契約上又は条理上発信者の権利利益を守る責務を有していると考えられることから、新たな裁判手続の中においても、発信者の権利利益がその意に反して損なわれることのないよう、原則として発信者の意見を照会しなければならないこととし、発信者の意見が開示判断のプロセスに適切に反映されるようにするなど、発信者の権利利益の確保を図ることとするのが適当であると考えられる」としながらも、「新たな裁判手続を導入した場合には、前述1.の発信者情報の開示対象の拡大と相俟って、発信者情報開示の請求を行いやすくなることが期待される反面、当該手続の悪用・濫用(いわゆるスラップ裁判(訴訟))も増える可能性があることから、それを防止するための仕組みを検討する必要があるとの指摘があった。具体的には、現行のプロバイダ責任制限法第4条第3項において、発信者のプライバシーが侵害される事態が生じることを防止するため、発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない旨を定めているところ、当該規定をより実効性のあるものとする必要があるとの指摘や、新たな裁判手続において、既判力が発生しない場合における紛争の蒸し返しを防ぐための仕組みや、申立ての取下げの要件についても検討することが必要であるという指摘があった」などとして、丁寧に検討を深めていくべきとしています。

他、誹謗中傷を巡る最近の動向から、いくつか紹介します。

  • 報道(2020年9月4日付毎日新聞)によれば、新型コロナウイルスの影響で、山形県内67病院の看護職の約2割が、家族から「家に帰ってこないで」と言われたり、歯科医院での治療拒否やばい菌扱いされるなどの中傷や、差別・偏見を受けていたことが山形県看護協会の調査で判明しています。また、訪問看護ステーションは、回答があった56施設のうち3%にあたる8施設で「うつされたら困る」と訪問拒否をされたり、訪問先で頭や顔、全身に消毒液をかけられ、皮膚炎を患ったりした職員もいたほか、職員の子供が通う学童保育から「利用を控えてほしい」と言われ、子供間で「そばに来ないで」と言われたこともあったといいます。山形県は、差別解消に向けた対策協議会を設置し、医療従事者らに対する理解度を深めてもらう取り組みを本格化させるということです。また、今後、職員のメンタルヘルスケアのため、新型コロナ関連の最新情報や感染防御の周知に努めるということです。
  • 福島県は、新型コロナウイルスの感染を巡り中傷を受けた被害者向けの電話相談受け付けを始めています。感染者や家族、医療従事者のほか、他県からの来訪者に対し、デマが拡散し、差別や偏見が横行している状況に対応するといい、必要に応じて法務局や県警など専門機関を紹介するということです。なお、報道(2020年10月4日付毎日新聞)でのインタビュー記事で福島県知事や無関係の付属高校の生徒たちが嫌がらせを受けた郡山女子大の学長のコメントが掲載されており、示唆に富むものであったため、一部紹介します。「目に見えないものに対する恐怖や不安、それに対する嫌悪感や忌避感などは共通している。一方、新型コロナウイルス感染症は、ある日突然自分が偏見や差別を受ける当事者になるかもしれないという点では、性質が大きく異なると思う。現在ワクチンや特効薬はなく、この問題には人間の心理的な部分からしかアプローチできないと思う」「未知のものに対する恐怖や不安を県民や国民が持つことはある意味当たり前なんだということ、特に知事や市町村長はそれを頭に入れた上で心理的なアプローチをしなくてはいけないと、いつも頭に置いている。立場によっても、地域によっても、置かれた状況によっても人の感情は違う。そういうことも考えながら情報を発信することが、大事な仕事だと思っている」(福島県知事)、「大学は全力を挙げて罹患した学生をハラスメント(嫌がらせ)から守らないといけない。「つらい立場を理解してください」と言わなければならない」(郡山女子大学学長)
  • SNSで中傷され不登校となったにもかかわらず、学校が適切な対応をしなかったなどとして、三重県立高校の元女子生徒が県に約180万円の損害賠償を求めた訴訟で、三重県が津地裁の勧告を受け入れ、元生徒側と和解する方針を固めたということです。県は和解案に基づき、SNS上での被害をいじめ防止対策推進法が定める「重大事態」と認定し、元生徒に謝罪し、元生徒は、県への損害賠償の請求を放棄するという内容です。
  • インターネットの掲示板などに中傷記事を投稿されたとして、岐阜市の歯科医院が、岐阜県各務原市の歯科医院の院長らに1億円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、名古屋地裁は、被告側に慰謝料など240万円の支払いを命じています。報道によれば、被告の院長が2014年、名古屋市のネット広告会社に依頼し、ネット掲示板に「医者が豊富な知識でだまして高額なお金を得る詐欺行為」、「治療費が常識はずれに高額」などと同クリニックを中傷する書き込みを投稿させ、業務を妨害したと主張していたものです。
  • 新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が生じた立正大淞南高の生徒の写真がインターネットで出回り中傷するような記載もあり、人権侵犯の疑いがあるとして島根県から通報を受けていた松江地方法務局が、プロバイダなどに削除要請したということです。また、法務省の「人権侵犯事件調査処理規程」で、通報は本人や親族だけでなく、行政機関も可能とされているものの、どういう場合に通報するかを判断するための内規がなかったことから、島根県は、人権侵犯通報の是非を判断するための内部基準も策定し、(1)人権侵害の恐れがある書き込みの画面保存など証拠がある、(2)被害者本人や親族らによる通報が困難、(3)被害者の強い要望がある、の3要件を満たした場合に、法務局へ通報できるとしています
  • 滋賀県甲賀市のコンビニエンスストアの女性従業員に対し、新型コロナウイルスに感染しているかのようなデマや誹謗・中傷を「ツイッター」に投稿したのは名誉毀損や偽計業務妨害の罪にあたるとして、経営者の男性らが投稿者に対する告訴状を県警に提出したと報じられています(2020年10月6日付産経新聞)。今年5月に甲賀市内のコンビニを利用した投稿者が接客に応じた女性従業員の態度に立腹、退店後、不特定多数が閲覧できるアカウントを使って「私コロナ感染してるねん、熱あるねんと言いました」と女性従業員があたかも新型コロナに感染していたかのような虚偽の情報を複数回にわたって投稿したほか、接客中の女性従業員の写真を無断で撮影し、掲載するなどしたものです。投稿内容には具体的な店名や、店舗への来店を控えるよう呼びかけるものもあり、経営者の男性は業務を妨害されたと主張、女性従業員は現在、精神安定剤を服用せざるを得なくなるなど深刻な症状だということです。「仕事中はいつも明るく、一生懸命に頑張っていたのに。なぜここまで追い詰められなければならないのか。泣き寝入りはしたくない」、「全くのでたらめ。嫌なことがあり、八つ当たりしているのだとしたらひどすぎる」、「匿名での中傷コメントは見えないところから石を投げられるのと同じ。卑劣極まりない」と店長の強い意志を感じます。
  • 米グーグルが提供する地図サービスなどのレビュー(口コミ)で、自身になりすました第三者に通院先の整骨院の悪口を書かれ人格権を損害されたとして、大阪府の女性がサイトの運営会社に投稿記事の削除と慰謝料など11万円の支払いを求めた訴訟の判決が大阪地裁であり、同社に記事削除が命じられています。裁判長は投稿が第三者のなりすましと認定した上で、「整骨院との関係を悪化させかねず、受忍限度を超えることは明らか」とし記事の削除を命じましたが、一方で、運営会社側になりすましと気づくだけの情報がなく、削除義務を怠ったとはいえないと指摘し、賠償責任はないと判断しています。
  • FB(フェイスブック)、ユーチューブ、GOOGL、ツイッターの米IT大手は、オンライン上の有害コンテンツ抑制に取り組むことで大手広告主と合意しています。ソーシャルメディア大手を巡っては、5月に黒人男性が白人警官の暴行で死亡した事件をきっかけに、ヘイトスピーチ(憎悪表現)を容認しているとして広告掲載をボイコットする広告主が相次ぎました。業界団体の世界広告主連盟が公表した合意では、ヘイトスピーチやいじめなどの有害コンテンツについて定義を定め、共通の報告基準を採用するとしています。
  • 米司法省は、FBやツイッターなどのSNSに投稿内容に関する責任免除を認めた現行法について、改正に向けた素案を公表しています。報道によれば、素案は投稿削除を判断した根拠を示して一貫性のある運用をするよう運営会社に要求、児童搾取などの違法な投稿を意図的に放置したようなケースには免責を認めず、運営会社に対する訴訟にも道を開くなど、投稿を削除したりアクセスを制限したりする判断の透明性をSNS運営企業に求めています。同省は議会に法案の検討を促しているものの、慎重論もあるため、議会での本格的な審議は早くても年明け以降になるとみられているほか、同法の改正自体はハードルが高いとみられています。なお、SNSなどのIT企業を対象とした通信品位法230条は、不適切な投稿があっても企業に幅広く法的責任を免除していますが、一方で、投稿削除やアカウントのブロックについて大きな裁量を認めています。
(7)その他のトピックス
① 中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

日本銀行(日銀)は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の取組み方針を公表しています。先進国で決済のデジタル化が進み暗号資産(仮想通貨)の利用も増え始める中、日銀の示した取り組み方針は、同日に日米欧の中銀グループが公表した実際に発行する際の基本原則(後述します)に沿ったもので、米FB(フェイスブック)の「リブラ」構想もさることながら、デジタル通貨の準備で先行する中国(デジタル人民元の発行へ実証実験を進めています)への警戒感をベースとして、日米欧と中国でデジタル通貨の主導権を巡る争いに発展しつつあります。こうした通貨の流通が増えて決済データが他国に流出したり、テロ支援に使われたりすると経済安全保障の問題になるため、各国が自らデジタル通貨を発行する検討に迫られているともいえます。自国以外の通貨の流通が増えれば、金利の調節など金融政策の効果が及ばなくなる恐れもあり、日銀のような中央銀行が物価のコントロールをできなくなり、経済に打撃を与えかねないリスクを秘めています。現金がデジタル通貨に置き換わると、保管や輸送にかかるコストが下がること、透明性も高まり脱税の防止などにもつながる一方で、利用者情報の保護など課題も多い状況です。今回公表された日銀の取組み方針においては、現時点では発行計画がないことを改めて示した上で、CBDCに必要な特性として、(1)だれでも使える「ユニバーサルアクセス」、(2)偽造などをされない「セキュリティ」、(3)通信障害や停電時でも使える「強靱性」、(4)支払い完了までに時間がかからない「即時決済性」、(5)様々なプラットフォーム間で使える「相互運用性」の5つを挙げ、環境の変化に的確に対応できるよう準備しておくことが重要と指摘しています。さらに、実証実験の第1弾を2021年度の早い時期に開始することを目指すこと、さらに、企業や家計など幅広い利用者を想定した「一般利用型CBDC」に取り組むこと、CBDCを現金と並ぶ決済手段に位置付けていること、当面、現金の流通が大きく減少する可能性は高くないものの「仮に将来そうした状況が生じ、民間のデジタルマネーが現金の持つ機能を十分に代替できない場合には、現金と並ぶ決済手段として、一般利用型CBDCを提供することが考えられる」こと、現金の需要がある限り、現金供給は日銀が責任をもって続けていくことなどを明記しています。なお、CBDCの実証実験と並行して、国家戦略に経済安全保障の観点を盛り込む「経済安保一括推進法」の制定などを含む制度設計の検討を始めています。

▼日本銀行 「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」の公表について
▼全文

まず、要旨として、「情報通信技術の急速な進歩を背景に、内外の様々な領域でデジタル化が進んでいる。技術革新のスピードの速さなどを踏まえると、今後、「中央銀行デジタル通貨」(Central Bank Digital Currency:以下「CBDC」)に対する社会のニーズが急激に高まる可能性もある。日本銀行では、現時点でCBDCを発行する計画はないが、決済システム全体の安定性と効率性を確保する観点から、今後の様々な環境変化に的確に対応できるよう、しっかり準備しておくことが重要であると考えている。こうした認識のもと、今般、個人や企業を含む幅広い主体の利用を想定した「一般利用型CBDC」について、日本銀行の取り組み方針を示すこととした」と述べられています。そのうえで、本報告書のポイントとして、以下のとおりまとめられています。

  1. CBDCを導入する場合に期待される機能と役割
  • CBDCには、「ホールセール型CBDC」と「一般利用型CBDC」の2つの形態があるが、わが国において一般利用型CBDCを導入する場合に期待される機能や役割としては、以下のようなものが考えられる。
  • 現金と並ぶ決済手段の導入
  • 当面、現金の流通が大きく減少する可能性は高くないが、仮に将来、そうした状況が生じ、一方で民間のデジタルマネーが現金の持つ機能を十分に代替できない場合には、現金と並ぶ決済手段として、一般利用型CBDCを提供することが考えられる。なお、現金に対する需要がある限り、日本銀行は、現金の供給についても責任をもって続けていく。
  • 民間決済サービスのサポート
  • 現金の流通が減少する事態が生じない場合においても、決済システム全体の安定性・効率性を高める観点から必要であれば、民間決済サービスをサポートするためにCBDCを発行することが適切となる可能性がある。
  • デジタル社会にふさわしい決済システムの構築
  • これらに加え、より広い観点から、日本銀行がCBDCを発行したうえで、民間事業者の創意工夫により様々なサービスを上乗せして提供することなどが、デジタル社会にふさわしい安定的・効率的な決済システムの構築に繋がる可能性も考えられる。
  1. CBDCが具備すべき基本的な特性
  • 一般利用型CBDCを発行する場合、中央銀行と民間部門による決済システムの二層構造を維持することが適当である。すなわち「間接型」の発行形態が基本となる。
  • 間接型の発行形態のもとで、一般利用型CBDCを発行する場合には、機能面やシステム面で、以下のような基本的特性を具備する必要があると考えられる。
  • ユニバーサルアクセス
  • CBDCを「誰でも使える」ものとするためには、送金・支払を行う際に用いる端末、カード等の利用対象者を制限することがないよう、簡便性や携帯性に関する設計面での工夫が必要となる。
  • セキュリティ
  • CBDCを「安心して使える」ものとするためには、偽造抵抗力を確保し、各種不正を排除するよう、セキュリティを高める取り組みが必要である。
  • 強靭性
  • CBDCを「いつでも、どこでも使える」ものとするためには、エンドユーザーが、24時間365日、常に利用できる仕組みが必要となる。システム・通信障害や電力途絶といったオフライン環境下でも利用できる仕組みを確保することも、自然災害の多いわが国において重要なポイントである。
  • 即時決済性
  • CBDCには、現金と同様の中央銀行マネーとして、決済のファイナリティ(支払完了性)および即時決済性が求められる。また、多数のユーザーによる高頻度の決済を迅速に完了させるためには、システム面での十分な処理性能と将来の利用増加に備えた拡張性が必要となる。
  • 相互運用性
  • CBDCを運営するシステムについては、民間決済システムなどとの相互運用性を確保していることや、将来の民間決済サービスの高度化などに適応するために柔軟な構造となっていることが重要である。
  • なお、CBDCを導入する場合でも、上記のうち、ユニバーサルアクセスや強靭性を確保するための取り組みについては、今後の現金の利用状況に応じて段階的に進めていくことが適当かも知れない。
  1. 考慮すべきポイント
  • 物価の安定や金融システムの安定との関係
  • CBDCを導入する場合には、金融政策の有効性や金融システムの安定性の観点から、CBDCの機能要件や経済的な設計(発行額・保有額の制限や付利の有無等)については慎重な考慮が必要である。
  • イノベーションの促進
  • イノベーションを促進する観点から、中央銀行と民間事業者の協調・役割分担のあり方、すなわち、「日本銀行はCBDCの枠組みや技術的な規格をどこまで定め、どこからを民間事業者の創意工夫に任せるのか」といった点をしっかりと検討していく必要がある。
  • プライバシーの確保と利用者情報の取扱い
  • 情報の取扱いに関する様々な要請を考慮しながら、中央銀行と民間事業者の役割分担、すなわち「誰が、どの範囲のデータを、どのような条件のもとで取得、管理するか」について検討する必要がある。
  • クロスボーダー決済との関係
  • 各国中央銀行の動きなどをしっかりフォローしながら、国内利用だけでなく、クロスボーダー決済への活用可能性を確保していくことが望ましい。
  1. 今後の取り組み方針
  • 日本銀行としては、今後とも、様々な環境変化に的確に対応できるよう必要な準備を進めていく方針である。現時点の予定は以下のとおりである。
  • 実証実験
  • これまでのようなリサーチ中心の検討にとどまらず、実証実験の実施を通じて、より具体的・実務的な検討を行っていく。まずは、「概念実証」(Proof of Concept)のプロセスを通じて、CBDCの基本的な機能や具備すべき特性が技術的に実現可能かどうかを検証する。そのうえで、必要と判断されれば、パイロット実験の要否について検討する。
  • 概念実証フェーズ1
  • システム的な実験環境を構築し、決済手段としてのCBDCの中核をなす、発行、流通、還収の基本機能に関する検証を行う。
  • 概念実証フェーズ2
  • フェーズ1で構築した実験環境にCBDCの周辺機能を付加して、その実現可能性などを検証する。
  • パイロット実験
  • 概念実証を経て、さらに必要と判断されれば、民間事業者や消費者が実地に参加する形でのパイロット実験を行うことも視野に入れて検討していく。
  • 上記のうち、概念実証フェーズ1は、2021年度の早い時期に開始することを目指している。
  • 制度設計面の検討
  • 実証実験と並行して、(1)中央銀行と民間事業者の協調・役割分担のあり方、(2)CBDCの発行額・保有額制限や付利に関する考え方、(3)プライバシーの確保と利用者情報の取扱い、(4)デジタル通貨に関連する情報技術の標準化のあり方などの点につい て、順次、検討を進めていく。
  • 内外関係者との連携
  • 引き続き、他の中央銀行と密接に連携しながら、CBDCの基本的な特性や実務面に及ぼす影響について理解を深め、自らの検討に活かしていく。
  • CBDCの導入を検討する場合には、システム面や制度面にとどまらず、広範かつ大規模な取り組みが必要となる。このことを十分に認識して、銀行やノンバンク決済事業者、ITや法律の専門家、関係当局などと協力し、様々な知見を今後の検討に活かすことを重視していく。

前述したとおり、米連邦準備理事会(FRB)など7つの主要な中央銀行と国際決済銀行(BIS)は、CBDCの「青写真」をまとめた報告書を公表しています。参加した中央銀行はFRBのほか、イングランド銀行(BOE)、欧州中央銀行(ECB)、日本銀行(日銀)、スイス国立銀行などとなります。報告書のポイントは、(1)現金や民間のデジタル通貨などと共存(2)中銀の政策目的の達成を支援し金融の安定を害さない(3)技術革新や効率性を高める、を基本原則に掲げたこと、CBDCが中央銀行が公共政策上の目的を遂行するための重要な手段となるために、「物価や金融システムの安定を損なわないこと」、「イノベーションや効率性を促進しつつ、既存の他の形態のマネーと共存し、補完しうること」という要件を満たしつつ、「活用方法、既存の金融・経済構造および法的枠組みは多様であり、これにより、CBDCの設計も多様である」中、クロスボーダー送金における「意図せざる障壁」を予め回避するためにも国際協調が必要とされること、そのために、機能面の特性として「交換可能性」「利便性」「受容性および利用可能性」「低コスト」を、システム面の特性として「安全性」「即時性」「強磁性」「利用可能性」「処理性能」「拡張性」「相互運用性」「柔軟性および適応性」を基本的特性として備えるべきと示されている点になろうかと思います。具体的には以下のとおりとなりますが、同日公表された日銀の取組み方針のベースとなる内容であることがお分かりいただけると思います。

▼日本銀行 主要中央銀行による中央銀行デジタル通貨(CBDC)の活用可能性を評価するためのグループが報告書「中央銀行デジタル通貨:基本的な原則と特性」を公表
▼エグゼクティブ・ペーパー(日本銀行仮訳)

まず、「主要メッセージ」として、「CBDCの発行および設計は、各法域が、安全な決済手段の提供を通じ、CBDCがいかに公共政策上の目的を支えられるかを評価したうえで決定すべきである。安定に関する中央銀行に共通のマンデートは、あらゆるCBDCによって、中央銀行の現在の機能が、既存のマンデートの中で進化することを示す。活用方法、既存の金融・経済構造および法的枠組みは多様であり、これにより、CBDCの設計も多様である。特に、金融政策は、国内の文脈に基づいた国内の決定事項である。CBDCの金融政策に対する含意は本報告書の焦点ではないが、中央銀行の継続的な研究分野である」こと、「本グループでは、上記の点を踏まえ、検討の指針となり、公共政策上の目的を支える、CBDCにかかる基本的な原則と特性を示した。この合意を前提にすると、中央銀行間には、今後の国際的な協調、知見の共有、実証実験について多くの共通の関心が存在する。基本原則は、あらゆる法域において、CBDCを進める検討を行う際には、一定の要件を満たす必要があることを強調している。具体的には、CBDCの発行が、物価や金融システムの安定を損なわないこと、イノベーションや効率性を促進しつつ、既存の他の形態のマネーと共存し、補完しうることである」こと、「これらの要件を堅確に満たし、本グループが示す特性を備えるCBDCは、中央銀行が公共政策上の目的を遂行するための重要な手段となる可能性がある」としています。さらに、「各法域の状況に立脚し、リスクが十分に克服されれば、CBDCは決済の強靭性、効率性、包摂性、イノベーションの更なる促進に資する。現金使用の低下やデジタライゼーションが進展する法域では、CBDCはまた、中央銀行マネーへのアクセスを維持し、その利便性を高める重要な役割を果たしうる。利便性と利用可能性を備えたCBDCは、民間マネーの安全性が低い場合には、その代替としての役割も果たすことができる。さらに、本作業に関与した全ての中央銀行は、現金を提供し、アクセスを維持し続けることを約束する」としています。また、「CBDCの金融安定上の含意は、慎重に検討される必要がある。主に2つの懸念が存在する。第1に、金融危機時においては、CBDCの存在がより大規模で急速な銀行からの逃避をもたらしうるという懸念であり、第2に、より平時においては、リテール預金からCBDCへの資金流入(「金融仲介機能の低下」)により、銀行がより高価で不安定な資金調達源に依存する可能性があるという懸念である。こうしたリスクは、人々に安全な中央銀行マネーを利用可能にすること(CBDCの主目的)に内在するものであり、CBDCが新たな構造問題をもたらしうるとはいえ、現金の存在によって既にみられるものである。CBDCを発行する際には事前に、中央銀行は十分な情報を得たうえで、リスクが特定され管理可能であるという判断を行う必要がある。これには、CBDCの経済および機能上の設計に組み込まれた保護策と、より広範な金融システム上の政策を適切に組み合わせることが必要になる可能性がある。意図していることは、交換可能性および相互運用性などを通じたものを含め、公的なマネーと頑健性のある民間マネーとの共存が維持されることである。本グループは、この分野に関して更なる作業を計画している」としています。そのうえで、「CBDCの発行は、クロスボーダーの含意を有する。国際協調により、各国CBDC間の移転における意図せざる障壁を予め回避できる可能性がある。G20のクロスボーダー送金の改善に関するロードマップには、CBDCの設計に国際的な側面を勘案する作業も含まれる。本グループに関与した中央銀行および国際決済銀行は、こうした協調において積極的な役割を担う」こと、「更なる検討を行うためには、実務的な政策分析や実証実験へのコミットメントを継続的に深めていく動きが必要となる。こうした動きは既に始まっているが、(決済やマネーに関連する)技術のイノベーションのスピードを踏まえれば、協調的に実証実験を進めていくことの優先度は更に高まる」などと述べています。

また、「基本原則とCBDCの基本的特性」については、以下のとおり整理されています。

  • 基本原則
  • 中央銀行がCBDC発行を考慮する際の、3つの共通した指針となる原則がある。当該原則は、中央銀行のマンデートから導き出される。
  • 広範な政策目的を損なわない:中央銀行が供給する新たな形態のマネーは、引き続き、公共政策上の目的の達成を支えるべきであり、中央銀行が物価や金融システムの安定といったマンデートを遂行することを妨げたり、障害となったりするものであってはならない。
  • 公的・民間マネーとの共存・補完:中央銀行は、安定にかかるマンデートを有していることから、新たな領域への進出には慎重である。様々な類型の中央銀行マネー、すなわち、新たなマネー(CBDC)と既存のマネー(銀行券や当座預金)は、相互に補完し合うべきである。また、公共政策上の目的を支える幅広い決済のエコシステムの中で共存すべきであり、頑健性のある民間マネー(例:商業銀行預金)を包摂し、支えていく。
  • イノベーションと効率性の促進:国内決済システムの効率化を推進する継続的なイノベーションや競争がなければ、人々は、より安全性の低い手段や通貨を利用する可能性がある。これにより、決済の信頼性が低下し、経済や消費者を害し、ひいては通貨や金融システムの安定を脅かすことに繋がりうる。決済のエコシステムは、公的当局(特に中央銀行)と民間主体(例:商業銀行および決済サービス事業者)によって構成され、双方が高レベルのイノベーションを確保するための役割を担う。
  • 基本的特性
  • CBDCが基本原則を満たすためには、CBDCの機能、基盤となるシステム、より広範な制度的枠組みにおいて、一定の基本的特性を備える必要がある。
  1. 機能面の特性
  • 交換可能性:通貨の単一性を維持するため、CBDCは、現金および民間マネーと等価で交換可能でなければならない。
  • 利便性:CBDCによる支払は、幅広い利用とアクセス可能性を促進する観点から、現金の利用、カードのタッチ、あるいはモバイル端末のスキャンと同様に、簡便であるべきである。
  • 受容性および利用可能性:CBDCは、現金と同様に、店頭および個人間取引を含む多くの取引に利用可能であるべきである。これには、一定のオフライン取引(利用期間の制限および閾値を設定することが考えられる)を行う機能も含まれる可能性がある。
  • 低コスト:CBDCによる支払は、エンドユーザーにとって、非常に低いコストか無償であるべきである。また、エンドユーザーに求められる技術的投資は最小限であるべきである。
  • システム面の特性
    • 安全性:CBDCシステムは、サイバー攻撃やその他の脅威に対し、極めて強靭であるべきである。また、偽造に対する効果的な防止策も確保されるべきである。
    • 即時性:システムは、取引の決済において、即時あるいはほぼ即時の決済のファイナリティを提供するべきである。
    • 強靭性:システムは、運行上の障害や中断に対して、極めて強靭であるべきである。
    • 利用可能性:システムは、エンドユーザーが24時間365日、利用可能であるべきである。
    • 処理性能:システムは、秒当り極めて大量の取引を処理することが可能であるべきである。
    • 拡張性:システムは、将来、より多くの追加的な取引量となった場合においても処理が行われるよう拡張可能であるべきである。
    • 相互運用性:システムは、民間部門のデジタル決済システムとの十分な相互作用メカニズムや、システム間の資金フローを容易にする取扱いを提供するべきである。
    • 柔軟性および適応性:CBDCシステムが、環境変化や政策要請に柔軟に適応できるよう、あらゆる努力が払われるべきである。
  • 制度面の特性
    • 明確かつ頑健な法的枠組み:中央銀行は、CBDCの発行を支える明確な権限を有するべきである。
    • 基準:CBDCシステムや参加主体は、適切な規制上の基準に適合するべきである。

    なお、関連する動向としては、EU欧州委員会が日銀の公表に先立ち、デジタル通貨の規制案を公表したことも重要です。報道によれば、通貨発行や金融政策などユーロ圏諸国の主権を守るため、発行の事前承認制やルール違反の際の罰金制度を導入するなど厳しい規制を敷くこと、EUの規制案はデジタル通貨発行業者に対し、EU域内に物理的な拠点を設け、活動開始前にEU加盟国当局からの承認を得るよう求めているほか、一つの国から認可を得れば、EU全体で事業を展開できるようになること、顧客と事業者の資産を分離するよう義務付けること、デジタル通貨の事業者に発行計画の作成を求めること、発行者にはデジタル通貨の発行額の全額または一部にあたる裏付け資産を準備金として積むように義務づけること、暗号資産は不正取引の追跡も課題であることから、暗号資産の発行者にも既存のマネー・ローンダリングなどのEU金融規制を実質適用すること、ユーロなど複数の通貨を裏付け資産に持つデジタル通貨の発行体に対しては、金融の安定性に大きな影響を及ぼす可能性があるため、EUの欧州銀行監督機構(EBA)が動向を監視することなどが盛り込まれているといいます。さらに、包括規制の実施には、利用者保護とともに、マネー・ローンダリングやテロ資金供与などへの悪用を防ぎ、健全に発展させる狙いがあるとされています。

    また、その動向が注視されている中国デジタル人民元については、報道(2020年10月10日付ロイター)によれば、公開テストとして、無作為に選ばれた5万人を対象に1,000万人民元(150万ドル)相当のデジタル通貨を発行するということです。中国南部の深セン市内の住人であれば中国の4大銀行を通じ、誰でも参加申請が可能で、申請期間は10月9日から12日、抽選で選ばれた当選者はデジタル通貨アプリをダウンロードし、デジタルウォレットに登録した後、10月12日に200元分のデジタル通貨が得られる「赤い封筒」が与えられるといいます。デジタル通貨は中国石油化工集団(シノペック)のガソリンスタンドやウォルマート、シャングリラホテルなど深セン市内の3,389店舗で使用可能だということです。

    ② IRカジノ/依存症を巡る動向

    国内のカジノを含む統合型リゾート(IR)の開業時期が、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた対応で、政府が想定した2020年代半ばから遅れる可能性が現実味を帯びてきました。IRの誘致をめざす自治体から申請を受け付ける時期を9カ月延期し、「来年10月~再来年4月28日」にするとしています。

    ▼観光庁 「特定複合観光施設区域の整備のための基本的な方針(案)」(※修正部分のみ)等に関するパブリックコメントを実施します
    ▼「特定複合観光施設区域整備法第九条第十項の期間を定める政令(仮称)の案」

    観光庁によれば、「IR整備法に基づく基本方針案については、昨年パブリックコメントを実施したところですが、カジノ管理委員会から出された意見を踏まえた修正について国民の皆様から広くご意見をお伺いするため、本日よりパブリックコメントを再度実施します」、「また、区域整備計画の認定に係る申請期間を修正することに伴い、申請期間を定める政令案についてパブリックコメントを再度実施するとともに、区域整備計画の記載事項など手続的な内容を定める省令案及び告示案についても、区域整備計画の認定等に関する省令案における技術的修正等を踏まえ、併せてパブリックコメントを実施します」と公表しています。そのうち、期間については、政令案として「法第9条第10項の政令で定める区域整備計画の認定の申請の期間は、令和3年10月1日から令和4年4月28日までとする」と提示されています。

    また、基本方針案についても改正案に関するパブリックコメントが実施されています。

    ▼特定複合観光施設区域整備法第5条第1項の規定に基づく「特定複合観光施設区域の整備のための基本的な方針(案)」(※修正部分のみ)に関する再意見募集について
    ▼【別紙】基本方針案(修正部分)

    具体的には、まず「特定複合観光施設区域の整備の意義及び目標に関する事項」の「意義」について、「こうした日本型IRの意義が発揮されるためには、国だけではなく、都道府県等(IR整備法第6条第1項に規定する都道府県等をいい、区域整備計画の認定を受けた後にあっては、同法第10条第2項に規定する認定都道府県等をいう。以下同じ。)をはじめとする地域の関係者及びIR事業者(同法第5条第2項第3号の設置運営事業者等をいい、区域整備計画の認定を受けた後にあっては、同法第10条第2項に規定する認定設置運営事業者等をいう。以下同じ。)が、日本型IRの意義を理解し、及び共有した上で、(1)観光や地域経済の振興、財政の改善への貢献を図る観点から、長期間にわたって、安定的で継続的なIRの運営が確保されるとともに、IRとしての機能が適切に発揮されるよう、IR区域及びIR施設に係る安全や健康・衛生が確保されること、(3)犯罪防止、治安維持、青少年の健全育成、依存防止等の観点から、カジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除やこれと連携した都道府県等によるギャンブル等依存症対策、また、関係地方公共団体との連携協力による取組の充実が適切に行われること、(4)IRの整備に対する国民の信頼と理解を確保する観点から、収賄等の不正行為を防止するとともに、公正性及び透明性の確保を徹底するため、国や都道府県等において、IR事業者等との接触のあり方に関する厳格なルール(以下「接触ルール」という。)が策定されるとともに、IR事業者においてコンプライアンスが確保されることが極めて重要な前提条件である」としています(下線部が修正箇所となります。以下同様)。

    さらに「設置運営事業等及び設置運営事業者等に関する基本的な事項」の「IR事業者の廉潔性確保」については、「IR事業者は、全般的なコンプライアンスの確保に取り組むことが必要である。また、IR事業者はIR事業を実施する上で、カジノ事業の免許(施設供用事業が行われる場合には、カジノ事業の免許及びカジノ施設供用事業の免許。以下同じ。)を申請することになるため、あらかじめカジノ事業に係るIR整備法の株主等に関する規制を踏まえた定款の作成等を行うことが必要である。さらに、IR事業者は、カジノ事業の免許を受けるまでに進める準備(IR施設の建設、調達等に係る契約、各種行為準則の策定、従業員の雇用・教育など)の段階から、その役員、株主等、従業員、契約の相手方等からの反社会的勢力の排除の徹底に取り組むことが必要である」としています。前項と同じく、IR事業者に「コンプライアンス全般」の徹底を強く要請していることが分かります(IR汚職事件の影響も当然あると思われますが、それ以上に「清廉性」の範囲を広く、厳格に要請するカジノ管理員会の強い姿勢を汲み取ることができます)。そして、そのIR汚職をふまえた対策(接触ルール)について、「区域整備計画の認定に関する基本的な事項」において具体的に厳しく言及し、以下が新たに追加されています。

    1 公正性及び透明性の確保

    国及び都道府県等は、民間事業者がIR事業者に選定されることを目指した働きかけに対し、収賄等の不正行為を防止するとともに、公正性及び透明性の確保を徹底して、IR施設の整備を推進しなければならない。

    このため、IR事業者等との接触ルールの策定が重要であり、接触ルールにおいては、次に掲げる事項を規定することが基本となるが、具体的な規定内容は、それぞれの行政機関が、それぞれの役割を踏まえ、適切に判断するものとする。

    • 面談は、原則として庁舎内において、複数の職員等により対応すること
    • 職員にあっては、事前に面談の日時及び相手方について、また、事後に面談の内容について、上司への報告を行うこと
    • 面談において、特定のIR事業者が不当に有利又は不利になることにつながる行為をしないこと
    • 面談の記録を作成し、一定の期間保存すること
    • 電話、メール、FAXによるやり取りは、日程調整等の事務連絡その他の必要な範囲にとどめること
    • それぞれの行政機関におけるIRに関する事務に係る担当職員から最高責任者までを接触ルールの対象とすること
    • IR事業を行う者及びカジノ関連機器等製造業等を行う者並びにこれらを行おうとする者等を接触ルールの対象とすること

    IR推進本部、国土交通省及びカジノ管理委員会は、それぞれの役割等を踏まえ、IR事業者等との接触ルールを適切に策定するものとする。

    区域整備計画の認定申請を予定又は検討している都道府県等においては、既にその多くが自主的にIR事業者等との接触ルールを策定しているところであり、その内容については、基本的には地域ごとの独自性が尊重されるものであるが、少なくとも上記の(1)から(7)までの項目について規定したIR事業者等との接触ルール(以下「都道府県等が定める接触ルール」という。)を策定することにより、3(1)に規定するとおり、公募及び選定に係る公正性及び透明性を確保することが求められる。

    また、「区域整備計画の記載事項、申請手続」の「IR事業者の組織体制に関する事項」においては、「全般的なコンプライアンスの確保のための体制及び必要な取組を記載しなければならない」との文言が追加されたほか、「区域整備計画の申請に関する添付書類」においても、「・・・、民間事業者を選定した際の公表資料、都道府県等が定める接触ルールなど、必要となる資料を区域整備計画と併せて、国土交通大臣に提出しなければならない」といった形で例示資料の追加がなされています。

    さらに、「認定審査の基準」においては、「基本方針への適合」として、「(オ)都道府県等が定める接触ルールが策定されているなどにより、民間事業者の公募及び選定が公平かつ公正に行われたものでなければならない」、「(キ)IR事業者によるコンプライアンスの確保のための体制及び取組が適切かつ十分なものでなければならない」、「(ケ)都道府県等又はIR事業者が審査委員会の委員に対して不正な働きかけを行ったと認められるものであってはならない」が追加されています。また、「カジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除」においては、「カジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除を適切に行うために必要な施策及び措置が区域整備計画に記載されているとともに、記載された施策及び措置を都道府県等が都道府県公安委員会及び立地市町村等と連携しつつ適切に実施すると認められるものでなければならない。また、ギャンブル等依存症対策基本法の規定に基づくギャンブル等依存症対策推進計画が策定され、これに基づく取組(政令市にあっては、ギャンブル等依存症対策のための計画的な取組)を適切に実施すると認められるものでなければならない」とギャンブル依存症対策の徹底を求めている点も注目されます。

    「区域整備計画の認定に関する基本的な事項」における「評価基準 ウ 事業を安定的・継続的かつ安全に運営できる能力及び体制」として、「(ウ)防災・減災のための取組並びにIR区域及びIR施設に係る安全の確保のための取組が適切に講じられるとともに、災害その他のリスク事象について発生時における来訪者への情報提供や救援物資の提供その他の適切なオペレーションや、損害に備えた保険の付保などが適切に講じられることが求められる。また、新型コロナウイルス感染症の発生も踏まえ、感染症対策その他の健康・衛生の確保のための取組が適切に講じられることが求められる。特に感染症対策については、IRは様々な機能を持つ施設が一体となった施設であることから、先行する諸外国のIRにおける取組例や、感染症の発生の状況に応じて定められる、IRを構成する各種施設における感染防止のためのガイドラインなども踏まえ、対策内容や実施体制を定めた計画を策定し、発生時に適切な対策が講じられることが求められる」と、安全・健康の確保、とりわけ感染症対策の徹底に言及しています。また、「オ カジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除」として、「最新の技術を活用したカジノ施設及びIR区域内の適切な監視や警備、国内外の最新の知見やベストプラクティスを踏まえた依存防止対策の強化その他のカジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除を行うために必要な施策及び措置についてIR事業者と都道府県等との連携協力により適切に講じられることが求められる。また、これらと連携した都道府県等によるギャンブル等依存症対策や、関係地方公共団体との連携協力による取組の充実が、確実かつ効果的に講じられることが求められる」とIR事業者と自治体の連携、ギャンブル依存症対策の徹底があらためて強調されています。

    新型コロナウイルス感染拡大で海外のIR事業者は苦境が続いており、日本への投資規模の縮小や撤退の懸念もくすぶっています。例えば、マカオのカジノ運営各社の2020年1~6月期決算はそろって最終赤字に転落、新型コロナウイルスの影響で利用客が激減し、巨大な施設の運営コストが重荷になったようです。報道によれば、各社は中間配当を見送るなど財務基盤の立て直しを急いでいるといいます。マカオ政府はコロナ流行を受けて、カジノの営業を2月に15日間停止、その後も外国人の入境を禁止するなど厳しい防疫措置をとりました。域内の感染を抑え込んだものの、主力の中国本土客がほとんど来なくなり、カジノ収入は前年同月の1割未満に急減したともいわれています。このようなコロナ禍の収束が見通せない中でのIR申請期限の延長を受けて、すでに誘致を表明している横浜市、大阪府・大阪市、和歌山県、長崎県も戦略の見直し等をあらためて迫られています。報道によれば、大阪府・大阪市のIR事業者に選定されているMGMとオリックスについては、「オリックスとともに世界最高水準の統合型リゾートを大阪で実現する計画に変更はございません」(MGM)、「IR申請期限の延期が決まっても、参入に向けたスタンスは変わらない。採択いただけるような、いい提案をしたい」(オリックス)とのコメントを出しています。さらに準備が遅れていた大阪府・市は、「コロナの状況なので、延期は妥当な判断だ」「大阪の手続きも並行して遅れることになるが、世界最高水準のIRを誘致したい」(大阪府知事)、「ありがたい」(大阪市長)とコメントしています。一方、和歌山県は、当初目指してきた2025年大阪・関西万博前の開業は事実上困難になったことを受けて、万博前開業を断念していた大阪府・市に対し、着々と準備を進めてきた県の優位性は崩れ、今後のスケジュールや戦略の練り直しを余儀なくされており、「当初の予定に従ってやってきた中で延期と言われて大変不満で遺憾だが、国の定めた手続きに沿ってやるしかない」(和歌山県知事)とのコメントを出しています。また、反対派の活動が活発化しており、市民に賛否を問う住民投票を目指した署名活動や、自身のリコールを目指す署名運動を展開されている林文子市長は「しっかり検討を行い、取り組みを進める」とコメント、今後、追加でコンセプト提案(RFC)を実施してIR事業者との対話を進める方向だといいます。なお、横浜市は、直近では「横浜IRを考えるシンポジウム」を11月下旬ごろから2021年1月までの間で開催することを公表しています。新型コロナウイルスの感染防止のため聴衆は入れず、オンラインで生中継し、視聴者による質問や意見などを受け付ける方針で、市民によるIRへの理解を深める狙いがあるといいます。ギャンブル依存症対策などについて事前収録した国内外の有識者による講演を放映したり、パネル討論を実施したりする内容だと報じられています。

    さて、前述のとおり、IR基本方針の改定案では「接触ルール」の厳格運用、コンプライアンスの徹底が強調されましたが、その原因でもあるIR汚職事件を巡る証人買収事件で、組織犯罪処罰法違反(証人等買収)で起訴された秋元司・衆院議員について、東京地裁は、IR汚職で認められた保釈を取り消し、保釈保証金3,000万円の全額を没収する決定をしています。地裁は、一連の証人買収事件で秋元被告に証拠隠滅を図った疑いが生じ、贈賄側への接触などを禁じた保釈条件にも違反したと判断(贈賄側の中国企業「500.com」元顧問2人へ偽証を働き掛け、報酬の提供を申し込んだ行為について、証拠隠滅などを防ぐために定められた保釈条件違反にあたると判断)したものです。また、秋元氏の家族旅行代を負担したとして、贈賄罪に問われた観光会社「加森観光」前会長に対し、東京地裁は、懲役10月、執行猶予2年(求刑・懲役10月)の判決を言い渡しています。IR汚職事件では同被告を含む6人が起訴されており、判決は初めてとなります。報道によれば、裁判長は「IR事業の職務権限を持つ副大臣だった秋元被告に対し、至れり尽くせりの特別待遇をした」と述べたということです。

    ③ 犯罪統計資料
    ▼警察庁 犯罪統計資料(令和2年1~8月)

    令和2年1~8月の刑法犯の総数は、認知件数408,711件(前年同期495,203件、前年同期比▲17.5%)、検挙件数180,830件(187,820件、▲3.7%)、検挙率44.2%(37.9%、+6.3P)となり、コロナ禍により認知件数が大きく減少していることとあわせ、令和元年における傾向が継続される状況となっています。犯罪類型別では、刑法犯全体の7割以上を占める窃盗犯の認知件数278,619件(350,989件、▲20.6%)、検挙件数111,527件(115,235件、▲3.2%)、検挙率40.0%(32.8%、+7.2P)であり、「認知件数の減少」と「検挙率の上昇」という刑法犯全体の傾向を上回り、全体をけん引していることがうかがわれます(なお、令和元年における検挙率は34.0%でしたので、さらに上昇していることが分かります)。うち万引きの認知件数57,220件(63,290件、▲9.6%)、検挙件数41,325件(43,410件、▲4.8%)、検挙率72.2%(68.6%、+3.6P)であり、令和元年に続き、認知件数が刑法犯・窃盗犯を上回る減少傾向を示しています。検挙率が他の類型よりは高い(つまり、万引きは「つかまる」ものだということ)一方、ここのところ検挙率の低下傾向が続いたところ、プラスに転じている点は心強いといえます。また、知能犯の認知件数は21,870件(24,101件、▲9.3%)、検挙件数は11,226件(12,077件、▲7.0%)、検挙率は51.3%(50.1%、+1.2P)、さらに詐欺の認知件数19,558件(21,641件、▲9.6%)、検挙件数9,439件(10,081件、▲6.4%)、検挙率48.3%(46.6%、+1.7P)と、とりわけ刑法犯全体の減少幅より小さく、コロナ禍においてもある程度詐欺が活発化していたこと、検挙率が高まっている点が注目されます(なお、令和元年は49.4%でしたので、少しだけ低下しています)。

    また、令和2年1月~8月の特別法犯総数について、認知件数45,127件(45,596件、▲3.2%)、検挙人員38,188人(39,576人、▲3.5%)となっており、令和元年においては、検挙件数が前年同期比でプラスとマイナスが交互し、横ばいの状況が続きましたが、前月に続き減少する結果となりました。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は4,334件(3,967件、+9.3%)、検挙人員3,145人(2,980人、+5.5%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数1,786件(1,608件、+11.1%)、検挙人員1,464人(1,329人、+10.2%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数264件(416件、▲36.5%)、検挙人員73人(97人、▲24.7%)、不正競争防止法違反の検挙件数44件(42件、+4.8%)、検挙人員48人(42人、+14.3%)、銃刀法違反の検挙件数は3,403件(3,545件、▲4.0%)、検挙人員は3,000人(3,103人、▲3.3%)などとなっており、入管法違反と不正競争防止法違反は増加したものの(これまでよりペースダウンしています)、不正アクセス禁止法違反がこれまで大きく増加し続けてきたところ、ここにきて大きく減少している点が注目されます(不正アクセス事案は体感的にまだまだ減っていないと思われているだけに数字的にはやや意外な結果となりました。引き続き注視が必要な状況だといえます)。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数599件(615件、▲2.6%)、検挙人員294人(293人、+0.3%)、大麻取締法違反の検挙件数3,560件(3,389件、+5.0%)、検挙人員3,001人(2,657人、+12.9%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数7,317件(7,273件、+0.6%)、検挙人員5,106人(5,174人、▲1.3%)などとなっており、大麻事犯の検挙が、コロナ禍で刑法犯・特別法犯全体が減少傾向にあるにもかかわらず、令和元年から継続して増加し続けていること、一方で、覚せい剤事犯の検挙件数・検挙人員が横ばいの傾向にあります。なお、覚せい剤事犯については、いったん増加に転じて注目していましたが、4月以降、再度減少するなどまさに横ばいの状態が続いています(参考までに、令和元年における覚せい剤取締法違反については、検挙件数は11,648件(13,850件、▲15.9%)、検挙件数は8,283人(9,652人、▲14.2%)でした)。

    なお、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯の国籍別検挙人員の総数358人(304人、+17.8%)、ベトナム69人(45人、+53.3%)、中国60人(63人、▲4.8%)、ブラジル38人(25人、+52.0%)、韓国・朝鮮22人(19人、+15.8%)、フィリピン15人(20人、▲25.0%)、インド13人(5人、+160.0%)などとなっており、令和元年から大きな傾向の変化はありません。

    暴力団犯罪(刑法犯)総数については、検挙件数7,492件(12,975件、▲42.3%)、検挙人員4,587人(5,287人、▲13.2%)となっており、特定抗争指定やコロナ禍の影響からか、検挙件数・検挙人員ともに大きく減少していること、とりわけ検挙件数の激減ぶりは特筆すべき状況となっていることが指摘できます(なお、令和元年は、検挙件数は18,640件(16,681件、▲0.2%)、検挙人員は8,445人(9,825人、▲14.0%)であり、暴力団員数の減少傾向からみれば、刑法犯の検挙件数の減少幅が小さく、刑法犯に手を染めている暴力団員の割合が増える傾向にあったと指摘できましたが、現状では検挙されない(検挙されにくい)活動実態にあるといえます)。また、犯罪類型別では、暴行の検挙件数583件(624件、▲6.6%)、検挙人員556人(585人、▲5.0%)、傷害の検挙件数880件(1,025件、▲14.1%)、検挙人員1,025人(1,154人、▲11.2%)、脅迫の検挙件数282件(269件、+4.8%)、検挙人員256人(244人、+4.9%)、恐喝の検挙件数265件(323件、▲18.0%)、検挙人員339人(403人、▲15.9%)、窃盗の検挙件数3,435件(7,723件、▲55.5%)、検挙人員731人(891人、▲18.0%)、詐欺の検挙件数931件(1,507件、▲38.2%)、検挙人員692人(894人、▲22.6%)、賭博の検挙件数は34件(74件、▲54.1%)、検挙人員は128人(96人、+33.3%)などとなっており、暴行や傷害、脅迫、恐喝事犯の減少が続く一方、これまで増加傾向にあった窃盗と詐欺が一転して大きく減少している点(さらに、暴行等の減少幅をも大きく上回る減少幅となっており、特定抗争指定や新型コロナウイルス感染拡大の影響がまさにこの部分に表れているものとも考えられます)は注目されます。

    また、暴力団犯罪(特別法犯)の総数については、検挙件数4,814件(5,233件、▲8.0%)、検挙人員3,518人(3,740人、▲5.9%)となっており、こちらも大きく減少傾向を継続している点が特徴的だといえます。うち暴力団排除条例違反の検挙件数38件(18件、+111.1%)、検挙人員94人(30人、+213.3%)、銃刀法違反の検挙件数は96件(103件、▲6.8%)、検挙人員は77人(74人、+4.1%)、麻薬等取締法違反の検挙件数106件(135件、▲21.5%)、検挙人員33人(39人、▲15.4%)、大麻取締法違反の検挙件数672件(743件、▲9.6%)、検挙人員463人(494人、▲6.3%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数3,148件(3,395件、▲7.3%)、検挙人員2,174人(2,316人、▲6.1%)などとなっており、令和元年の傾向とやや異なり、大麻取締法違反の検挙件数・検挙人員も大きく減少に転じている点が注目されます。さらに、覚せい剤取締法違反についても令和元年の傾向を大きく上回る減少となっている点も注目されます。いずれも、新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛の影響で対面での販売が減っている可能性を示唆していますが、(覚せい剤等は常習性が高いことから需要が極端に減少することは考えにくいこと、さらに対面型からデリバリー型に移行しているとの話もあり、正確な理由は定かではありません(なお、令和元年においては、大麻取締法違反の検挙件数は1,129件(1,151件、▲1.9%)、検挙人員は762人(744人、+2.4%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は5,274件(6,662件、▲20.8%)、検挙人員は3,593人(4,569人、▲21.4%)でした)。

    (8)北朝鮮リスクを巡る動向

    新型コロナウイルスへの対策として国境管理を強化している北朝鮮で、回復基調にあった中国からの輸入が大幅に減ったと報じられています(2020年10月3日付朝日新聞)。8月の輸入額は前月比で7割減り、貿易がほとんど止まった3月と同じ水準まで落ち込んでおり、実質的な国境封鎖措置など新型コロナウイルス対策の強化と度重なる自然災害(北朝鮮の今夏の降雨量は例年の年間降雨量の88%を占め、過去25年間で2番目の量に達したといいます)が重なったのが原因とみられています。中国の税関総署によると、8月の中朝の貿易総額は前月比65%減の約2,583万ドル(約27億円)で、北朝鮮からの輸出が2割減にとどまる一方、中国からの輸入が7割減となっている状況のようです。北朝鮮は、そもそも国連による経済制裁によって追い込まれていたことに加え、コロナ禍と自然災害が重なる「三重苦」の状況であり、「前例のない災害危機」と非常防疫体制の強化で困窮が一層深まる可能性が否定できません。なお、新型コロナ対策という点では、朝鮮労働党政治局会議が開催され、「新型コロナ対策の分野で油断、不注意、無責任、緩みが絶対にあってはならないとの認識で一致した」、「非常に強固な感染対策の制度と秩序をうまく維持していく必要があるとの認識が示された」などと報じられています。また、自然災害への対応としては、(鉱物資源産地などが)甚大な被害を受けたことから、「闘争方向を変更せざるを得ない状況に直面した」(金正恩朝鮮労働党委員長)として経済計画の全面見直しを示唆したほか、金委員長自らが被災地を視察、水害からの早期復旧に向けて陣頭指揮を執ったなどとする報道が数多くなされたほか、党の重要会議を平壌以外の被災地で開催するなど地方の民衆に寄り添う姿をアピールする、被害対策を怠ったとして被災地の市幹部を処罰する、首都平壌の全党員に号令をかけ(なんと1日で30万人以上が志願したと報じられています)、若きエリート党員ら12,000人を台風で被災した東部地方に送りだすといった前例のない対応が報じられています。一方、新型コロナ対策との関連でいえば、8月中旬、中朝国境を経て韓国の民間団体から届いた検査キットなど新型コロナウイルス関連の支援物資を送り返していたと、韓国の複数の政府関係者と南北協力事業に詳しい関係者が明らかにしたとの報道がありました(2020年9月11日付朝日新聞)。金委員長は外国からの支援を受けないと明言しており、物資搬入に関係した税関幹部らの大規模な処分も行われたといいます。北朝鮮は新型コロナの感染者数を「ゼロ」としていますが、国際的には疑いの目で見られており、医療体制が整わず、検査キットが極度に不足するなか、国境を越えて来た人も物も一定期間「隔離」するなど防疫対策を徹底している状況のようです。

    そのような中、直近では、北朝鮮の金星国連大使が、国連総会の一般討論演説で、「信頼性が高く、効果的な自衛のための戦争抑止力を我々が手に入れたことで、朝鮮半島の平和と安全は守られている」と、核ミサイル開発の進展を示唆、「最先端の軍事兵器が朝鮮半島に導入され続け、あらゆる種類の核攻撃手段が北朝鮮に向けられている」と述べ、「真の平和は、戦争を阻止する絶対的な強さを持っている場合にのみ担保される」と核ミサイル開発を正当化しています。そして、気になる情報としては、2020年10月6日付朝日新聞が、金委員長らが参加して党中央委員会政治局会議を開き、10日の党創建75周年の記念日を前に、核ミサイル開発を行う軍需部門担当の李炳哲・党副委員長と朴正天軍総参謀長の2人に元帥の称号を与えることを決めたというものがありました。報道によれば、北朝鮮で元帥は、故金日成主席と故金正日総書記の大元帥に次ぐ称号で、元帥は金委員長を含めて4人となり、李氏らが高く評価されたことから担当する新型の弾道ミサイル開発が完了した可能性が高いとの関係者の分析が紹介されています。10月10日の党創立記念日に新兵器を披露したり、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を実施するのではないかと考えられています。衛星画像などですでに軍事パレードの練習とみられる軍隊の動きのほか、北朝鮮の動向を分析している米国を拠点とするシンクタンク「38ノース」が、弾道ミサイルを運搬しているとみられる車両を北朝鮮の訓練場で確認したと明らかにするなど、ミサイル発射の兆候を示す決定的な証拠はまだないものの、一部専門家は、2018年以来となる同国で最も大型のミサイルを披露する可能性があるとみているようです(なお、実際のパレード本番では、事前の予想とおり、片側11輪の移動式発射台(TEL)に載せられた新型大陸間弾道弾ミサイル(ICBM)が初めて登場、新型SLBMも初公開されました。いずれも詳細は不明ではあるものの、新型ICBMは北朝鮮が米本土を射程に収めると主張するICBM「火星15」より大型化し、複数の弾頭が装備可能な「多弾頭型」の可能性もあります)。

    さて、前回の本コラム(暴排トピックス2020年9月号)でも取り上げましたが、国際原子力機関(IAEA)は、ウィーンの本部で定例理事会を開き、グロッシ事務局長は冒頭声明で、北朝鮮は核開発活動を継続しており、「依然として深刻な懸念だ」と表明しました。IAEAは理事会に先立ち、北朝鮮が北西部・寧辺の核施設で、濃縮ウランを生産している兆候が確認されたなどとする報告書をまとめており、「明確な国連安保理決議違反で、非常に遺憾だ」と批判、その上で、非核化の監視で重要な役割を担う用意があると強調しています。報告書によれば、過去1年間の衛星画像や関連情報を分析した結果、寧辺のウラン濃縮施設で定期的な車両の移動や冷却設備が稼働する状況が認められ、「濃縮ウランの生産に合致した動きだ」としているといいます。建設中の軽水炉では部品搬入や建設用重機が確認されたほか、南部・平山の鉱山ではウランの採掘や加工が継続的に行われている形跡があったとのことです。核開発に加え、弾道ミサイルへの核弾頭の搭載の脅威も目の前にきています。

    また、以前の本コラム(暴排トピックス2020年8月号)でも取り上げましたが、国連安全保障理事会は、北朝鮮に対する制裁の実施状況を監視する北朝鮮制裁委員会・専門家パネルがまとめた中間報告書を公表しています。北朝鮮が石炭や石油の密貿易といった制裁逃れを続け、核兵器の小型化など核・ミサイル開発を依然として進めていると指摘する内容となっています。北朝鮮が「核開発施設を維持し、核関連物質の製造も続けている」などと指摘、その上で、過去6回の核実験で得た技術から、「弾道ミサイルに搭載できる小型化した核兵器の開発を実現した可能性がある」とする複数の加盟国の分析を紹介しています。なお、本件については、日本政府も2019年、2020年版の防衛白書で、「小型化・弾頭化を既に実現しているとみられる」などと明記しており、その脅威がすでに身近なところまできていることが分かります。あらためて強調しておきたいことは、日本が直視すべき現実は、北朝鮮が核を保有し、日本に照準を合わせた核ミサイルを配備していることであり、金正恩委員長の判断一つで、北朝鮮の核が日本にとって単なる脅威ではなく、実際に使用されうる段階に来ているということです。その専門家パネルの中間報告書では、核開発以外では、北朝鮮の国連安保理制裁逃れの実態についても言及されています。今年3月以降、海上で物資を移し替える「瀬取り」の手口で、安保理制裁決議で輸出を禁じている石炭の密輸出を再開させ、違法な資金を得ているとも警告しています(なお、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で今年1月下旬から3月上旬は中断されたものの、その後「瀬取り」を再開、5月7日までに33回の密輸が確認され、大半は中国の港に運ばれたこと、石油精製品の密輸入についても、今年1月~5月だけで56回「瀬取り」を行い、推定で計160万バレル超の密輸入が確認されたことも指摘しています)。さらには、昨年12月が本国送還期限だった北朝鮮人労働者についても、中国やシリアでは新たな契約も確認されるなど、国外の飲食店や建設現場などで今も活動を続け、外貨収入を得ていると指摘しています(なお、出稼ぎ労働者については、新型コロナウイルスを理由に本国に送還されていないとも指摘しています。安保理決議では、北朝鮮労働者の送還状況に関する加盟国の報告期限を今年3月末としていたものの、報告書を期日通りに提出したのは約40カ国で、全体の2割にも満たなかったことも判明しました)。さらには、北朝鮮によるサイバー攻撃についても言及されており、北朝鮮の最高指導部の指示で対外工作活動を担う偵察総局が主導していること、2020年には安保理の6理事国について少なくとも11人の外交官らが標的になったこと、特定の組織や人物を狙い、偽の電子メールを送る「スピア・フィッシング」と呼ばれる手法を使っていること、米グーグルが提供する通信サービス「Gメール」のアカウントや、米フェイスブックの対話アプリ「ワッツアップ」も攻撃対象になったこと、制裁下での資金調達では、金融機関にサイバー攻撃を仕掛けて暗号資産(仮想通貨)を不正に取得する試みが相次いでいるものの、北朝鮮が暗号資産を一般の通貨に変換する手段は明らかになっていないことなどが盛り込まれているといいます。

    3.暴排条例等の状況

    (1)暴排条例の改正動向(兵庫県)

    以前の本コラム(暴排トピックス2020年8月号)で紹介しましたが、六代目山口組によるハロウィン行事による児童や近隣住民への菓子配りの問題(住民懐柔策であること、未成年者が暴力団員と親交を持つことでリクルートされたり、事件等に巻き込まれるケースが想定されることなど)に対応するための、兵庫県暴排条例改正案が兵庫県議会で可決されました(改正施行は10月26日)。未成年者への金品の提供を禁じる規定や、「事務所に入れる」、「支配下に置くために電話や面会をする」ことを禁じること、違反した場合は兵庫県公安委員会が中止命令を出し、繰り返される場合は6カ月以下の懲役か50万円以下の罰金を科すことができること、組織的な行為の場合は代表者の責任も問える、といった内容となっており、暴力団側が18歳未満の子供を組事務所へ立ち入らせる行為にはすでに13都府県が暴排条例で罰則を設けているところ、金品などの提供を罰則付きで禁じる条例は全国初となります。

    なお、あらためて改正の目的については、パブコメにおいて、「県内では、暴力団員が様々な通信手段を用いて青少年に接触を図り、複数の青少年を暴力団事務所に出入りさせたり、金品を供与したりするなどして自己の支配下に置き、これらの青少年と集団で殺人事件を敢行するという凶悪な事件が発生しているほか、暴力団員が青少年を風俗営業店で働かせたり、児童買春や薬物犯罪に関与させたりするなどの福祉犯罪が発生」していること、「近年ハロウィン行事と称し、暴力団が住民懐柔策として、近隣の児童生徒等を暴力団事務所に招き入れて菓子類を配布している状況が認められます。青少年が暴力団事務所に立ち入ったり、暴力団員から利益の供与を受けることは、「暴力団はやさしくてかっこいい、将来加入したい」といった暴力団に対する憧れを抱かせるとともに、暴力団による犯罪に利用される要因となっており、また、青少年が暴力団員と接触することは、暴力団同士のトラブルに巻き込まれる被害にあうおそれがあるなど、暴力団は青少年に不当な影響を与える存在であり、青少年の健全な育成を阻害している現状」にあると指摘されていました。そこで、「このような情勢に鑑み、青少年に対する暴力団の不当な影響を排除し、青少年のより一層健全な育成を推進することを目的」に本改正が行われるとしています。なお、問題となっているハロウィン行事については、昨年は抗争事件で事務所使用禁止命令が出ており実施されず、今年も実施はされない見通しですが、2018年は住民約1,000人が参加しました。この点、以前の本コラム暴排トピックス2018年11月号で、以下のとおり指摘しました。暴排条例を契機として、国民・地域住民の健全な暴排意識が醸成されることを期待したいと思います。

    国民の意識の問題に関連して、今年もハロウィンにあわせて、六代目山口組の総本部で子供たちにお菓子を配る光景が見られました。「子どもが楽しめると思って行っただけ」と菓子を受け取った母親のコメントを目にしましたが、正直、大変残念に思いました。以前の本コラム(暴排トピックス2018年2月号)でも取り上げましたが、昨年のハロウィンイベントを前に、兵庫県警から子どもを参加させないよう指導を求められた神戸市教育委員会が、「組員の子どもが差別される」などとして「知らない大人から物をもらわないように」と文言を和らげて伝えていたとのことで、「教育する側が人権擁護を重んじる一方で暴排の重要性を軽んじている状況」が見られました。また、同様に兵庫県神戸市の事例として、六代目山口組が例年12月28日に行う恒例行事の餅つきに、組関係者だけでなく複数の地元住民も餅をもらいに訪れていたことが分かっています。報道では、「餅をもらうことは悪いとは思っていない。私は被害を受けたことがないから」などと話す女性が紹介されていましたが、これもまた、今回のハロウィンでお菓子をもらった母親とまったく同じ感性であり、暴排意識を、継続的に、正しく醸成してこなかった自治体・教育委員会等のスタンスが招いたものだと言えるのではないかと思います(そして、この問題は、何も兵庫県に限ったことではなく、全国的に暴排意識の醸成、青少年育成への取り組みはこれからの課題だと認識する必要があります)。

    ▼兵庫県警察 暴力団排除条例の一部を改正する条例

    さて、具体的な規定を確認してみます。他の都道府県の暴排条例には盛り込まれていた「青少年の健全育成」にかかる規定については、意外なことにこれまで、旧第13条(暴力団事務所等の運営の禁止)において、学校や図書館などの公共施設の周囲200メートル以内に組事務所を設置することを禁止、「(7)前各号に掲げるもののほか、青少年の利用に供される施設で公安委員会規則で定めるもの」の言及があるのみでした。今回、「第5章 青少年の健全な育成を図るための措置」があらたに1章加えられることとなりました。新たに追加された部分は以下のとおりです。

    (青少年の育成に携わる者の講ずべき措置等)

    第20条 保護者その他の青少年の育成に携わる者は、その育成に係る青少年が暴力団の排除の重要性を認識し、暴力団に加入せず、及び暴力団員による犯罪の被害を受けないよう並びに暴力団に対する正しい理解の下に行動することができるよう、当該青少年に対し、助言、指導その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

    2 県は、関係機関等と連携し、前項に規定する措置が円滑に講ぜられるよう、青少年に対する暴力団の影響を排除するための知識を有する講師の派遣、情報の提供その他の必要な支援を行うものとする。

    (健全育成阻害行為の禁止)

    第21条 暴力団員は、正当な理由がなく、自己が活動の拠点とする暴力団事務所等に青少年を立ち入らせてはならない。

    2 暴力団員は、自己が所属する暴力団の活動として、青少年に対し、金品その他の財産上の利益の供与(以下単に「利益の供与」という。)をしてはならない。

    3 暴力団員は、青少年を自己又は自己が所属する暴力団の支配下に置く目的で、当該青少年に対し、次に掲げる行為をしてはならない。

    • 面会を要求すること。
    • 電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、又は電子メールの送信等をすること。
    • つきまとい、待ち伏せし、進路に立ち塞がり、住居、勤務先、学校その他当該青少年が通常所在する場所(以下この号において「住居等」という。)の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をうろつくこと。

    4 前項第2号の「電子メールの送信等」とは、次の各号のいずれかに掲げる行為(電話をかけること及びファクシミリ装置を用いて送信することを除く。)をいう。

    • 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。次号において同じ。)の送信を行うこと。
    • 前号に掲げるもののほか、特定の個人がその入力する情報を電気通信を利用して第三者に閲覧させることに付随して、その第三者が当該個人に対し情報を伝達することができる機能が提供されるものの当該機能を利用する行為をすること。

    (健全育成阻害行為に対する措置)

    第22条 公安委員会は、暴力団員が前条第1項から第3項までの規定に違反する行為(以下この条及び次条において「健全育成阻害行為」という。)をしていると認めるときは、当該暴力団員に対し、当該健全育成阻害行為を中止することを命じ、又は当該健全育成阻害行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる。

    2 公安委員会は、暴力団員が健全育成阻害行為をした場合において、当該暴力団員が更に反復して当該健全育成阻害行為と類似の健全育成阻害行為をするおそれがあると認めるときは、当該暴力団員に対し、1年を超えない範囲内で期間を定めて、健全育成阻害行為が行われることを防止するために必要な事項を命ずることができる。

    3 公安委員会は、暴力団員が健全育成阻害行為をした場合であって、当該健全育成阻害行為が当該暴力団員の所属する暴力団を代表する者若しくはその運営を支配する地位にある者(以下この項において「代表者等」という。)の指示若しくは命令により行われたと認められるとき、又は当該健全育成阻害行為を代表者等が容認し、若しくは助長したと認められるときにおいて、当該暴力団の暴力団員が更に反復して当該健全育成阻害行為と類似の健全育成阻害行為をするおそれがあると認めるときは、当該代表者等に対し、1年を超えない範囲内で期間を定めて、当該暴力団の暴力団員が健全育成阻害行為をすることを防止するために必要な事項を命ずることができる。

    (警察官の措置)

    第23条 警察官は、健全育成阻害行為が行われたと認めるとき、又は健全育成阻害行為が行われるおそれがあると認めるときは、青少年が暴力団事務所等に立ち入り、暴力団員から利益の供与を受け、又は暴力団員と交際しないよう、当該青少年に対し、必要な指導を行うほか、当該青少年の健全な育成を図るために必要な措置を講ずるものとする。

    (2)暴排条例改正動向(富山県)

    以前の本コラム(暴排トピックス2020年7月号)で紹介した富山県暴排条例の改正案が富山県議会で可決されています。

    ▼富山県警察 富山県暴力団排除条例の一部改正 ~令和3年1月1日施行~

    具体的な改正内容としては、最近の他の自治体の暴排条例に改正動向に同じく、「暴力団排除特別強化地域の新設」と「暴力団事務所の開設及び運営の禁止区域の拡大」が柱となっています。前者については、「現在の条例では、既に県民が暴力団員等に利益供与することは禁止されているところ、県内の繁華街ではいまだに暴力団員が飲食店等からみかじめ料や用心棒料を徴収して活動資金としている実態が確認されているため」、富山市桜木町地域・富山駅前地域・高岡駅前地域の「県下主要繁華街を暴力団排除特別強化地域に指定し、同地域内で風俗営業や飲食店等を営む営業者が、暴力団員から用心棒の役務の提供を受けることや、暴力団員に用心棒料やみかじめ料として利益供与することを禁止し、違反した場合は暴力団員と営業者の双方に罰則を科す」というものです。また、後者については、「現在の条例では、学校・裁判所・児童福祉施設・公民館・図書館・博物館・青少年自然の家・少年鑑別所等、青少年がよく利用する施設の敷地から周囲200メートル以内の区域における暴力団事務所の開設及び運営を禁止しているところ、「都市公園」は青少年がよく利用する代表的な施設であり、青少年の健全な育成のための環境を確保する必要があるため」、都市公園法に規定する「都市公園」の周囲200メートルを規制区域として追加し、違反した場合は罰則(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)を科すことになります。さらに、「都市計画法で規定する用途地域のうち、青少年が多数居住している「住居系用途地域」や、駅や商業施設等青少年が利用する施設が多数存在する「商業系用途地域」において、暴力団事務所が存在することが青少年の健全育成に悪影響を与える要因となるため」、都市計画法に規定する「住居系用途地域」及び「商業系用途地域」を規制区域として新設し、違反した場合は、中止命令の後、罰則(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)を科すことになります。なお、その中止命令を行う前に、「違反事実を確認するための必要な調査として立入検査を行うことで、中止命令の妥当性を担保するとともに、立入検査の拒否等の違反に対し罰則を科すことで、立入検査の実効性を担保するため」、上記調査のための警察職員による立入検査を新設し、立入りを拒否等した場合は、罰則(20万円以下の罰金)を科すことになるとのことです(なお、この部分は他では見られない規定と思われ、調査だけでなく中止命令や活動の封じ込めに実効性を持たせるものとして評価できると思います)。

    (3)暴排条例に基づく勧告事例(大阪府)

    六代目山口組傘下組織組長の葬儀に会場を提供するなどした葬祭業者と、後任組長の暴力団組員に対し、大阪府公安委員会は、暴排条例に基づき、葬祭業者の50代の男と、新しく組長になった60代の男に指導書を渡しています。報道によれば、今年5月、組長の男性が死亡し、大阪府内の葬儀会場で組員や家族など約50人が集まり葬儀が行われたということです。大阪府をはじめ全国の暴排条例では、事業者が暴力団の活動を助長したり運営に資する事業を行うことを禁じているところ、暴力団が執り行う葬儀、いわゆる「組葬」が暴排条例で禁じられている「運営に資する事業」にあたると判断されたと考えられます。葬祭業者は指導に対し、「暴力団組員でも死んだら仏様、誰かがやってあげないとアカン。ばれなければ大丈夫という安易な気持ちでやった。今後、暴力団の葬儀は一切しない」と話しているといい、認識の甘さが背景にあるようです。「組葬」は暴力団の威力を誇示する、資金獲得活動の一環であって「その活動を助長し、運営に資する事業」に他なりません。業者の主張ももっともですが、そのような主旨であれば、身内のみの密葬の形として実際に行われているとも聞きます。

    ▼大阪府暴排条例

    大阪府暴排条例では、第14条(利益の供与の禁止)第3項において、「事業者は、前二項に定めるもののほか、その事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる利益の供与をしてはならない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない」と規定されており、今回はこの条項に抵触したものと考えられます。さらに、第22条(勧告等)第4項において、「公安委員会は、第十四条第三項又は第十六条第二項の規定の違反があった場合において、当該違反が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該違反をした者に対し、必要な指導をすることができる」との規定に基づき、本件は指導がなされたものといえます。

    (4)暴排条例に基づく勧告事例(兵庫県)

    神戸山口組傘下組織の幹部の男が、派遣会社の経営者の男らから、「用心棒代」を受け取った疑いで、京都府暴排条例違反の疑いで逮捕されています。報道によれば、京都市中京区のコンパニオン派遣会社を運営していた男4人から、2017年11月から翌年4月にかけて、現金19万円を受け取った疑いがもたれているというもので、コンパニオン派遣会社を運営していた男4人も、暴力団幹部であることを知りながら現金を手渡した疑いで逮捕されています。

    ▼京都府暴排条例

    まず事業者(派遣会社の経営者ら)については、京都府暴排条例第18条(暴力団排除特別強化地域)において、暴力団特別強化地域(第1項)内において、第4項「特定接客業者は、暴力団排除特別強化地域における特定接客業の営業に関し、暴力団員に対し、顧客その他の者との紛争が発生した場合に用心棒の役務の提供を受けることの対償として金品等を供与し、又はその営業を営むことを容認する対償として金品等を供与してはならない」に抵触したものと考えられます。そのうえで、同第27条(罰則)第1項の「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「(2) 相手方が暴力団員であることの情を知って、第18条第2項から第4項までの規定に違反した者」として逮捕、「用心棒代」を受け取った暴力団員についても、同じく第27条第1項の「(3) 暴力団排除特別強化地域における特定接客業の営業に関し、接客業務に従事し、その営業所における用心棒の役務を提供し、又は第18条第4項に規定する金品等の供与を受けた暴力団員」に該当するものとして逮捕されたと考えられます。

    (5)暴排条例に基づく勧告事例(茨城県)

    茨城県公安委員会は、8月下旬、古河市内に事務所を置く六代目山口組系暴力団組員と同市内の印刷業者に対し、茨城県暴排条例に基づき、利益の受供与をやめるよう勧告しています。報道によれば、事業者が印刷した時刻表が事実上の「用心棒代」集めに使われており、暴力団の活動を助長する行為にあたると判断したとされます。なお、この事業者は、依頼主が暴力団組員で、その活動を助長すると知りながら時刻表を提供したほか、自社の広告も時刻表に掲載し、広告掲載料4万円を組員に支払ったということです。さらには、古河市内の飲食店や建設業者など約50業者の店名や連絡先などが書かれた広告も載っていたといいますが、これらの店や業者は掲載を依頼しておらず、いずれも勝手に載せていたということです。一方、この組員は、広告を載せた業者に時刻表を配って回り、広告代名目で1万~5万円ほどを要求、多くが支払いに応じていたといいます。本件は、暴力団員と印刷業者に対する勧告であり、悪質だといえると思いますが、一方で、勝手に載せられた広告代名目とはいえ、多くの事業者が暴力団員に対して利益供与を行っていた側面も否定できません(報道では暴力団員を知っていたかどうかまでは言及はありませんが、もし知っていたのであれば、印刷業者同様、利益供与にあたるものと考えられます)。

    ▼茨城県暴排条例

    茨城県暴排条例では、第15条(暴力団員等に対する利益供与等の禁止)第2項において、「事業者は、その行う事業に関し、情を知って、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる金品その他の財産上の利益の供与(以下単に「利益の供与」という。)をしてはならない。ただし、法令上の義務又は情を知らないでした契約に係る債務の履行としてする場合その他正当な理由がある場合は、この限りでない」との規定に抵触したものと考えられます。一方の暴力団については、第5章「暴力団員等が利益供与を受けることの禁止」第17条において、「暴力団員等は、情を知って、事業者から第15条第1項の規定に違反する利益の供与を受け、又は事業者に暴力団員等が指定した者に対する同項の規定に違反する利益の供与をさせてはならない」との規定があり、これに抵触したものと考えられます。そのうえで、事業者については、同第20条(調査)で「公安委員会は、次に掲げる行為を行った疑いがあると認められる者及びその関係者に対し、公安委員会規則で定めるところにより、その事実を明らかにするために必要な限度において、説明又は資料の提出を求めることができる」として、「(1) 第15条第1項の規定に違反する行為のうち次に掲げるもの」のうち、「ウ ア又はイに掲げるもののほか、暴力団の活動又は運営に協力することを目的とする利益の供与」に、暴力団員については、同20条「(2) 第17条の規定に違反する行為のうち前号アからウまでに掲げるものに係るもの」に、ぞれぞれ該当し、かつ、第21条(勧告)において、「公安委員会は,前条各号に掲げる行為が行われた場合において、当該行為が暴力団の排除に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該行為を行った者に対し、必要な勧告をすることができる」との規定に基づき、双方に対して勧告を出したものと考えられます。

    (6)暴力団対策法に基づく中止命令の発出

    千葉県警は、正月用の飾り物などの購入を要求したとして、中止命令を出していた双愛会傘下組織の男性組員に、同様の要求行為を行う恐れがあるとして、千葉県公安委員会が再発防止命令を出したと発表しています。報道によれば、同組員は2019年10月中旬~2020年3月下旬ごろ、山武郡内の飲食店などに対し、正月用の飾り物などの購入を求めたため、山武署から計9件の中止命令を受けているということです。なお、再発防止命令の期間は1年間で、男性組員は従う意向を示しているといいます。

    ▼暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律

    正月飾りの購入については、暴力団対策法第9条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない。」という行為のうち、「五 縄張内で営業を営む者に対し、その営業所における日常業務に用いる物品を購入すること、その日常業務に関し歌謡ショーその他の興行の入場券、パーティー券その他の証券若しくは証書を購入すること又はその営業所における用心棒の役務(営業を営む者の営業に係る業務を円滑に行うことができるようにするため顧客、従業者その他の関係者との紛争の解決又は鎮圧を行う役務をいう。第三十条の六第一項第一号において同じ。)その他の日常業務に関する役務の有償の提供を受けることを要求すること。」が禁止行為として規定されています。また、中止命令の発出については、第11条において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる。」と規定されています。さらに、「再発防止命令」については、同法第11条第2項において、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をした場合において、当該指定暴力団員が更に反復して当該暴力的要求行為と類似の暴力的要求行為をするおそれがあると認めるときは、当該指定暴力団員に対し、一年を超えない範囲内で期間を定めて、暴力的要求行為が行われることを防止するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

    (7)暴力団関係事業者に対する指名停止措置等事例(福岡県)

    福岡県、福岡市、北九州市において、3社が指名停止措置および排除措置が取られています。

    ▼福岡県 暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧表
    ▼福岡市 競争入札参加資格停止措置及び排除措置一覧
    ▼北九州市 福岡県警察からの暴力団との関係を有する事業者の通報について

    福岡県に「排除措置」(福岡県建設工事競争入札参加資格者名簿に登載されていない業者に対し、一定の期間、県発注工事に参加させない措置で、この期間は、県発注工事の、(1)下請業者となること、(2)随意契約の相手方となること、ができない)を取られた事業者について、「役員等又は使用人が、暴力的組織又は構成員等と密接な交際を有し、又は社会的に非難される関係を有している」(福岡県)として、18カ月の指名停止となりました。なお、福岡市では、「暴力団との関係による」として12カ月、北九州市では、「当該業者の役員等が、暴力団と「社会的に非難される関係を有していること」に該当する事実があることを確認した」というものの、原稿執筆時点(2020年10月10日)では排除期間は「審議中」となっています。毎度のことながら、自治体による措置の違いも明確になっている点が興味深いといえます。

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