暴排トピックス

不作為が会社を破滅に追い込む~あらためて反社リスクの重大性を認識したい

アバター 取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

2021.07.13
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1.不作為が会社を破滅に追い込む~あらためて反社リスクの重大性を認識したい

前回の本コラム(暴排トピックス2021年6月号)では、福岡県、福岡市、北九州市において「排除措置」(福岡県の場合、福岡県建設工事競争入札参加資格者名簿に登載されていない業者に対し、一定の期間、県発注工事に参加させない措置で、この期間は、県発注工事の(1)下請業者となること、(2)随意契約の相手方となることができない)を講じられた会社があっという間に倒産に追い込まれた事例を紹介しました。そこから見えるのは、反社リスクが企業存続にかかる重大なリスクだということです。本件は代表者の認識の甘さがすべてではありますが、銀行や取引先などは、本件事実を事前に認知できていたのかもまた重要な論点だといえます。このような警察の認定により暴排条項の適用が容易になり、契約を解除することで反社リスクを低減させることが可能となりますが、本来は、それ以前に、厳格な顧客管理を自立的・自律的に実効性高く行えていたかが極めて重要だといえます。貴社の反社リスク対策が十分なものか、今一度、厳しく見つめなおす機会にしていただきたいと思います。なお、本件について、地元紙(2021年5月11日付福岡県民新聞)が報じた内容を以下に紹介します。あらためて、反社リスクの重大さを認識していただければと思います。

暴力団との不適切な関係を指摘されていた、(株)九設(代表者田島貴博氏)が5月10日、大分地裁に破産を申請した。申請代理人は松田健太郎弁護士(まつだ総合法律事務所)で、負債総額は約30億円が見込まれる。同社は平成3年3月に設立された管工事・設備工事業者で、大分県内で相応の経営基盤を確立、同19年10月には福岡支店を開設、同23年5月には熊本支店も開設し、ゼネコンなどを得意先に積極的な営業展開で売上は上伸、直近3期の売上は50億円を超え、一般管工事業者として大分県ではトップクラスに成長していた。ところが、既報のように4月27日、県警から県など自治体に対し、同社と暴力団の不適切な関係が通報された。大型連休前には、現代表は弁護士を伴い取引先などへ謝罪を行い、取引継続を模索していたが反応は非常に厳しく、更には取引銀行がコンプライアンス違反を理由に、同社の預金口座を凍結、5月5日の手形決済が不調に終わった。福岡支店では9日午前8時に社員を集め、解雇通知を行うと共に営業車両やセキュリティカードを回収、排除通報から僅か2週間の出来事に、約30名の社員からは困惑の声が上がっている

もう1点、10年以上前となりますが、反社会的勢力と接点をもってしまったがために、上場廃止(その後民事再生)に追い込まれた企業について紹介します。本件は、外部調査委員会の調査報告書が公表されており、以下は、その概要をとりまとめたものとなります。結論から言えば、今ほど反社リスク対策に対する社会の要請が高まりを見せていなかった時代背景はあるものの、「手を尽くして」反社会的勢力を排除しなかった「不作為」が会社を破滅に追い込んだ構図であり、今あらためて肝に銘じておくべき教訓だといえます。

S社(上場 建設・不動産)の事例

以下は、同社調査委員会報告書から概要をとりまとめたものです(下線は SPN)が、事案自体が10年以上前のものであり、現在の各種規制、社会の要請等とは状況(時代背景)が大きく異なる点は、ご留意いただければと思います。それでもなお、何らの気付きがあるものと考えます。

  • 事案の概要
    1. S社は、バブル崩壊後、平成8年頃から、「不動産ソリューション事業」を開始したが、以前弁護士に立退き交渉業務を依頼したところ、約4年の長期間を要してしまい、資金繰りに窮する事態に直面した経緯から、迅速に行える委託先を探すようになった。
    2. 平成15年、某ビルの立退き交渉委託先として、不動産・金融取引業者であるG社からK社を紹介され、以下の調査を実施のうえ取引を開始した。
      1. 信用調査
        • 取引銀行(H銀行)にK社の信用力を照会したところ、同社の資本金が5億円であり、株主にも上場企業が名を連ねており、大手金融機関とも取引があることから信用してよいとの回答をもらう。
      2. 反社会性調査
        • H銀行から、K社の反社会性については何ら言及がなかったこと、株主に上場企業が名を連ねていることから、反社会的勢力との関係については疑念を抱かず、特に調査も実施しなかった。
      3. 面談
        • S社取締役が、K社社長と面談を実施し、上場企業との取引実績等の説明を受ける。
      4. 業務監査を弁護士に委託K社が約束どおりに立ち退き交渉を完了できるか不安があったため、業務監査をJ弁護士に委任した。
    3. 上記調査からK社との取引を開始するが、その際、虚偽の売買契約書を締結すること、KJ社に業務を再委託すること、立退き完了後のビル管理業務先をK社から紹介すること等の条件があり、「短期間で立退き交渉が完了するのであれば、細かな点にはこだわらない」として、その条件を受け入れた。
    4. 再委託先であるKJ社に対しては、S社として何らの調査も行わなかったものの、S社社員は、KJ社社長と面会した際には、「強面で暴力団組員風」という印象を受けたという。同社員は、担当取締役から暴力団関係者ではない旨を聞かされていたので、KJ社が反社会的勢力であるか否かは深く考えなかった。
    5. 脅迫を受けていた入居者から、KJ社社長に逮捕歴がある旨の新聞記事情報が、S社にFAX送信されてきた。それを受けて、J弁護士は、KJ社の件で、S社とK社間で業務適正に関する確約書を締結するよう進言したが、結果的にその進言が会長等経営トップに伝わらず、担当取締役の段階で、KJ社社長の「逮捕歴があるからこそ、どこまで適法な行為かを判断できる」旨の説明を受け入れる。
    6. J弁護士が、上場企業としてのコンプライアンスを確保できないことを理由に業務監査契約を解除し辞任するも、会長以下経営トップ層には正確な理由による報告がなされなかった
    7. 立退き交渉開始後、入居者から、「隣の部屋でお経を読んでいる」旨のクレームが、S社の社員に寄せられたが、K社から「お経を流すことは法的に問題ない」旨の説明を受け、担当取締役も入居者に対する嫌がらせであるとの認識はあったが、法的に問題ないとの説明を受けたので会長以下経営トップ層への報告はしなかった
    8. その後、K社およびKJ社はS社の満足のいく実績を積み重ねていく。最終的に、S社からK社・KJ社に流れた金額は約143億円、それによりS社が得た収益は約246億円に上った。
    9. 平成19年3月頃、S社監査役は、主要取引銀行(O銀行)から、K社には問題が有るため、今後K社と取引を継続する場合には新規融資を行わない旨の指摘を受け、直ちに会長に報告、会長は即座に取引打ち切りを指示した。指示により、担当取締役はK社との関係は解消したが、KJ社とは取引を続け、直接業務を委託することとなった。
    10. 平成19年6月、S社会長、監査役は、O銀行から、KJ社がK社以上に問題が有るため、今後KJ社と取引を継続する場合には新規融資を行わない旨の指摘を受け、即座に担当取締役にKJ社との取引解消を指示し、担当取締役も速やかに取引を解消したものの、KJ社から複数社を紹介してもらい、H銀行に照会し、問題なしとの回答を受けたため、会長以下経営トップ層に報告することなく取引を開始した
    11. 平成20年3月、警視庁は、K社社長、KJ社社長等を、弁護士法違反の容疑で逮捕した。
  • 事案分析
    本事案について、同社調査報告書による原因分析ならびにSPNにてリスク分析を行った結果、以下のような組織の脆弱性が認められるものと思料される。
    1. 反社会的勢力に対する認識の甘さ
      • 反社会的勢力排除の意識が役職員に徹底されておらず、違和感を感じつつも、反社会的勢力排除の観点・組織的対応の観点が欠如した業務優先・利益優先の行動となっている。
      • 特に、S社のビジネスモデルの根幹である「スピーディな売買」に関する過去の教訓によって、利益重視の社風が醸成され、その結果取引可否の判断に甘さが生じており、事情をよく知っている反社会的勢力にその点を上手く利用されている。
      • 反社会的勢力の疑いを持ったK社から紹介を受けたKJ社やその他紹介を受けた会社(紹介行為自体が反社会的勢力の手口)について、反社会的勢力またはその関係者との疑いもなく取引を開始している。
      • 上場企業として当然求められるコンプライアンスの水準やステークホルダに対する説明責任を果たすだけの十分な審査や検討がなされないまま対応がすすめられている。
    2. 組織的認知の遅れ
      • 従業員の感じた違和感や、虚偽の売買契約締結や脅迫等のクレーム、コンプライアンス違反に関する情報提供といった多くの端緒が、担当者の属人的な判断や担当取締役の判断により、組織全体としての認知につながらず、更には、担当取締役の判断に対するけん制も結果的に効かず、関係の解消を遅らせてしまった。
      • 担当取締役から、会長以下経営トップへの報告が十分ではなく、適切な判断が出来なかったという点で、報告・情報共有体制が明らかに不備であった。
      • 一方の経営トップにしても、自ら「見つけに行く」との観点からは、事実として知り得たものを知ろうとしていなかった懸念があり、言うまでもなく、「知らなかった」では済まされない状況である。
      • 端緒を集約するための一つの手段としての「内部通報窓口」が機能していなかった。同社調査結果報告書によれば、「公益通報制度が設けられているが、現在までにこの制度が利用された例はないということであり、公益通報制度は必ずしも機能していないものと認められる。今回の件も、公益通報制度に基づく役職員の匿名通報が機能していれば、問題がここまで重大になる前に早期にKJ社との関係を完全に断絶するなどの処置を講じることもできた可能性がある。」としており、「機能する内部通報窓口」が求められる。とはいえ、一方で、同社の当時の統制環境において、内部通報による自浄作用が適切に機能したかどうかについては懸念が残る。また、端緒情報を集約するための手段としては、その他にも、担当者の業務日報やクレーム・苦情情報の集約が考えられるものの、そのような仕組みも事実上機能していなかったものと推測される。
      • 組織的認知の遅れの一因として、情報を対応専門部署に一元的に集約し分析する体制の未整備があげられる。本事案では、その役割を担当取締役が担ったものの、本事案の利害当事者であったという点で、それが機能しなかったことは明らかであり、利益重視になりがちな利害当事者の恣意性を排除し適切な判断を行えるようにするため、業務ラインと独立した部署(コンプライアンス室等)を定め、一元管理していくことが望ましい。
    3. 取引先等の審査(チェック体制)が不十分
      • 金融機関の持つ情報のみに依拠した審査をしたのみで、反社会的勢力ないしその疑いがあるものか否かの徹底した調査等が行われなかった。
      • 本事案においても、審査実施のタイミングとして、K社との取引開始時点(その場合の審査対象としては、K社およびK社を紹介したG社まで必要である)、KJ社への業務委託時点、KJ社社長に関する情報提供があった時点、入居者からのクレームを受けた時点、K社との取引を解消した時点、その他複数の会社の紹介を受けた時点・・・が考えられる。このような新規取引開始時や端緒に関する情報を入手した時点で相手方の属性を見極め、取引可否の判断を都度行うような体制となっておらず、何度もあった確認の機会を活かすことができなかった。それは、上場企業として当然果たすべき、コンプライアンスを担保する取引先等の審査水準を満たすものではなかったといえる。
        • 【SPN注】
          ※同社報告書では、反社会的勢力のデータベースの社会的な整備の遅れから、「一私企業が利用できる情報提供システムなどの社会的なインフラ整備を実現していくことが求められるが、かかるシステムが仮に構築されていたとしても、果たしてこれを適切に利用し、両社との取引を開始せず、あるいは取引関係を解消し得たかは、疑問であるといわざるを得ない。」と結論付けている。しかしながら、本事案においては、これだけの端緒を入手していながら、反社会的勢力の見極めができないというのは、言い訳でしかない。そもそも、反社会的勢力の見極めとは、「複数の情報収集手段を用いて、多面的な確度からの情報を収集し、比較分析する」ところから導かれるものであり、属性に偏った判断をするべきではない。また、外部専門機関(警察・暴追センター等)や外部専門会社に照会することは、「民間企業として出来る最大限の努力」の範囲内であることから、それが困難であるとの理由にはならない。
      • 建設業界では、下請業者が孫請けとして、どのような業者に業務の再委託をしているかという点に頓着せず、何か問題が生じたらすべて下請業者が責任をとることが業界の慣行があるとの認識を強く持っており、S社がそのような慣行から抜け出せず、委託先管理に十分な関心を払っておらず、企業の社会的責任・上場企業としてのコンプライアンスを十分に認識していなかった。

さて、暴力団組織を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 暴力団対策法上の特定抗争指定暴力団に指定されている六代目山口組と神戸山口組について、兵庫や大阪など10府県の公安委員会は、7月7日からさらに3か月間、指定を延長することを決定しました。依然として対立抗争が続いていると判断したもので、指定期間は過去最長となります。対立抗争が続く六代目山口組と神戸山口組の取締りを強化するため、昨年1月、兵庫や大阪、京都など6府県の公安委員会が2つの山口組を特定抗争指定暴力団に指定、指定はその後も3か月ごとの更新を繰り返し、あわせて10府県に拡大しています。しかしながら、兵庫県内では今年3月に抗争の可能性もあるとみられる2件の発砲事件が起きたほか、全国各地でも事件が相次ぎ、公安委員会は依然として対立抗争が続き、住民が危害を加えられるおそれがあるとしたものです。
  • 福岡県公安委員会は、暴力団対策法に基づき、特定危険指定暴力団工藤会の新たな活動拠点を北九州市小倉北区宇佐町1の同会系組事務所に定め、官報に公示しています。本部事務所として使われていた別の組事務所は同法に基づく使用制限命令が出され、7月2日までに撤去が確認されています(土地、建物が民間企業に売却され、事務所としての機能がなくなったと判断。同会構成員の出入りを禁止する使用制限命令も1日の期限で終了しています)。新拠点は鉄筋コンクリート2階建てで、延べ約160平方メートル、1992年ごろから工藤会系組事務所として使用され、構成員の出入りなど組活動に使用されているといいます。福岡県警は暴力団対策法に基づく使用制限の必要性を検討するとしています。
  • 浪川会に対し、福岡県暴力追放運動推進センター(暴追センター)が本部事務所の使用差し止めを求めた訴訟で、暴追センター側の代理人弁護士は、浪川会側と事務所の解体に合意したと発表しています。工藤会に続き、本部事務所という「象徴」の撤去に向け大きな前進となります。2021年6月30日付西日本新聞によれば、暴追センター側の弁護士は、福岡地裁で係争中の訴訟では和解を検討する方向で双方が合意し、協議を続けており、今後は跡地の活用方法などを詰めるとみられ「解体状況を踏まえつつ、訴訟の中で解決を目指す」としています(次回の和解協議は7月26日)。浪川会側が解体に応じた理由は不明ではあるものの、3階建ての事務所外側には既に解体のための足場が組まれている状態にあります。なお、浪川会の福岡県内の構成員と準構成員は計160人(2020年12月末)で、前身の九州誠道会の時から道仁会と抗争を繰り返してきました。抗争激化に伴い、2011年4月から約3年間は暴力団対策法に基づき本部事務所の使用が制限されていたものです。
  • 今年5月、六代目山口組の傘下で、津山市の三代目杉本組の幹部が神戸山口組系熊本組の組長宅に発砲したとされる5月の抗争事件を受け、岡山県公安委員会は、津山市を警戒区域に指定しています。これにより津山市全域が警戒区域となり、構成員が概ね5人以上で集まることなどが禁止され、違反した場合は逮捕されるなど厳しい規制が適用されることになります。なお、警戒区域の指定は、岡山市、倉敷市に次いで岡山県内では3カ所目で、指定期間は、7月7日から3カ月間となります。また、事件を巡っては、岡山県警は殺人未遂容疑などで杉本組幹部を逮捕していますが、事件後、岡山県公安委員会が組事務所の使用を制限する仮命令を出しています。
  • 静岡県富士宮市の暴力団事務所の撤去を求めて、静岡県暴追センターが静岡地裁に新たな申し立てを行う方針を固めています。新たな申し立てとなる「間接強制」は、富士宮市北山に事務所を構える六代目山口組良知二代目政竜会に制裁金の支払いを求めるものです。暴追センターは事務所の撤去を求める仮処分を先月執行しましたが、その後も組員の出入りが確認されています。間接強制は過去に兵庫や神奈川で執行された例があり、1日100万円程度の制裁金の支払いを命じることが可能になります。

本コラムでも継続的に取り上げてきましたが、暴力団員が関与した特殊詐欺事件の被害者が、暴力団対策法の使用者責任に基づき暴力団のトップに対し損害賠償請求訴訟を起こすケースが相次いでいます。組員は詐欺グループを組織するのに暴力団の「看板」を利用しており、賠償責任はトップにあるという論理で、指定暴力団トップの責任が認定され、弁済を受けた事例も出てきています。今も被害が後を絶たない特殊詐欺の根絶や被害者救済への「妙手」、そして何より、暴力団の資金源への直接的な打撃を与えるものとして期待が高まっています。最近でも、住吉会系の組員らによる特殊詐欺の被害者が、暴力団対策法の使用者責任の規定に基づき住吉会トップに損害賠償を求めた訴訟につちえ、東京高裁で和解が成立しています。報道によれば、住吉会側が被害者と遺族計52人に、詐欺被害の総額約6億1,790万円を上回る計約6億5,200万円を支払ったということです。住吉会を巡る同種の訴訟では今年3月、組トップの賠償命令が最高裁で初めて確定し、住吉会側が2人に500万円を支払っています。原告代理人弁護士は「詐欺の被害額を上回る支払いを受ける内容は画期的で、被害救済の道が開かれ、暴力団の資金源に大きな打撃を与える。組長が責任を追及されると警告を与える点で抑止効果が期待される」と評価しています。

次に、暴力団員の犯罪を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 六代目山口組系の暴力団組員であることを隠し、知人の女の名前を借りて宮城県のマンションの賃貸契約を申し込んだとして、以前、札幌市に住んでいた六代目山口組三代目弘道会福島連合組員と、名前を貸した女が、詐欺の疑いで逮捕されています。報道によれば、2人は暴力団組員であることを隠し、女を借主、組員を同居人として不動産会社をだまし、マンションの賃貸契約をした疑いが持たれているといいます。組員は仙台市に移り住む前、札幌市に住んでいて、取り調べに対し「自分はヤクザだから部屋が借りられないので、知人の名義で借りた」などと話し、看護師の女も「ヤクザなのは知っていた。頼まれたので契約した」などと話し、共に容疑を認めているということです。しかしながら、企業実務の観点からみれば、組員が同居人と把握できていたにもかかわらず暴力団員と見抜くことができなかった点が課題となります。反社チェックの精度の問題として、「同居人はチェックしていない」、「参照するデータベースが仙台市・宮城県を中心としたもので、域外から転居してきた者のチェックには脆弱性がある」といった点が挙げられると思います。言うまでもなく、反社会的勢力に活動拠点を与える可能性がある賃貸契約においては、求められるレベル感として、「契約者」「同居人」「保証人」を把握しチェックすること、全国をカバーするDB(データベース)を参照すべきであること、などを検討する必要があります
  • アパートの賃借権を不正に入手したとして、岡山県警津山署は、詐欺と有印私文書偽造・同行使の疑いで、神戸山口組系組長を逮捕しています。同組員ら3人=いずれも同容疑で送検=と共謀し、昨年2月、同市のアパートに組員の男が住むにもかかわらず、同市の不動産業者に虚偽の住所、氏名を記した契約書を提出した疑いがもたれています。組長が不正を指示したとみて、調べているということです。企業実務の観点から同じく賃貸契約にかかる問題となりますが、ここでは、「なりすまし」「虚偽申請」を見抜けなかったのかが課題となります。賃貸契約は犯罪収益移転防止法上の「特定事業」ではありませんが、上記の理由などから、「厳格な本人確認」を実施すべきことが求められています。どのような本人確認を行ったのかはこれだけでは分かりませんが、何らかの手続き上の脆弱性が突かれたものと考えられます。
  • 甲府市の社会福祉法人の乗っ取りを図ったとして、社会福祉法違反などに問われた奈良県生駒市の貸金業の被告と、大阪市の金融ブローカーの初公判が甲府地裁で開かれ、両被告は起訴事実を認めて即日結審しています。報道によれば、弁護人や裁判官からの被告人質問で「元暴力団という不自由さがあり、世間や子供に誇れるまっとうな仕事に憧れた」と述べたといいます。暴力団離脱者の更生が難しいことは本コラムでも指摘し続けているとおりですが、そもそもそのような短絡的な理由から法に背く行為を行っていては「まっとうな仕事」に就くことは難しく、このような点からも暴力団離脱者支援における支援のあり方から検討する必要性を感じます。
  • 車の使用者名義を偽ったとして、神奈川県警暴力団対策課は、電磁的公正証書原本不実記録・同供用の疑いで、稲川会系組幹部ら男4人を逮捕しています。共謀のうえ、容疑者が使用する普通乗用車の車検を更新する際、知人の会社役員が使用すると偽って申請書などを作成し、川崎自動車検査登録事務所に提出して虚偽登録をさせたなどというものです。報道によれば、別件の捜査の過程で容疑者らの容疑が浮上、暴力団排除条例(暴排条例)が一般市民や企業に暴力団との交際などを禁じており、自分名義で車を用意できない暴力団関係者が、他人の名義を借りる今回のような事件がたびたび起きています。
  • 名古屋地検は、無許可営業の風俗店から「みかじめ料」を受け取ったとして、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等収受)容疑で逮捕された六代目山口組三代目弘道会ナンバー3ら2人を不起訴としています。報道によれば、男性らは昨年3月、無許可営業で得た犯罪収益の一部と知りながら、現金約26万円を風俗店から受け取った疑いで今年6月、愛知県警に逮捕されていたものです。また、短刀を所持したとして銃刀法違反容疑で逮捕された、同じく弘道会のナンバー2の若頭ら6人について、大津地検は不起訴処分としています。6人は、共謀して2019年11月、岐阜市内のアパート一室で刃渡り約22センチの短刀を所持した疑いで、滋賀県警に逮捕されていたものです。
  • 沖縄県警特別捜査本部は、国の持続化給付金200万円をだまし取ったとして、旭琉会二代目一心一家構成員、二代目沖島一家構成員の両容疑者を詐欺容疑で再逮捕しています。2人は別件の持続化給付金詐欺容疑で逮捕されていたといい、知人の50代男性と共謀し、法人として持続化給付金を受給できるように虚偽の申請をして、中小企業庁から200万円をだまし取った疑いがもたれています。同じく持続化給付金をだまし取ろうとしたとして、工藤会系組幹部ら男女5人が詐欺未遂罪で起訴された事件で、福岡地検小倉支部は、別の名義で計300万円をだまし取ったとして、詐欺罪で5人を福岡地裁小倉支部に追起訴、別の1人を起訴した事件もありました。報道によれば、工藤会系組幹部=覚せい剤取締法違反罪などで公判中=ら6人は昨年7月、土木作業員の少年(19)ら3人が卸売業や小売業の個人事業者だと偽り、コロナ禍で事業収入が減ったとする虚偽の申請をして持続化給付金計300万円をだまし取ったとされます。また、新型コロナウイルスの影響で収入が減ったと偽り、特例貸し付けの「緊急小口資金」を詐取したとして、警視庁三田署は、詐欺容疑で住吉会系組員を逮捕した事例もありました。昨年7月上旬、無職にもかかわらず、新型コロナの影響で減収したとする虚偽の書類を社会福祉協議会に提出。同月中旬、自分の口座に緊急小口資金20万円を入金させ、だまし取った疑いがもたれています。さらに、持続化給付金200万円と家賃支援給付金約34万円を詐取したとして、大阪府警捜査4課などは、詐欺容疑などで、神戸山口組直系組織幹部と元妻を逮捕した事例もありました。共謀し、昨年6月から今年5月にかけ、元妻が経営するサーフボードなどの販売会社が暴力団と関わりがないとする虚偽の申請書を国に提出したとされます。申請した支援金は暴力団員が経営に関わっている企業は申請できないところ、容疑者は元妻の会社経営に関わっていたといいます。さらに、持続化給付金をだまし取った疑いで、男3人が詐欺の疑いで大阪府警に逮捕されています。報道によれば、容疑者らが半グレグループに所属している可能性があるとみて捜査を続けているということです。
  • 高齢者から少なくとも1,300万円をだまし取ったとみられる六代目山口組傘下組織組員が、電子計算機使用詐欺などの疑いで警視庁に逮捕されています。詐欺グループの仲間とともに、愛媛県の60代の女性に対し、「健康保険料の払い戻しがあるがコロナの影響で窓口での手続きができない」などと嘘の電話をかけ、およそ71万円を振り込ませた疑いなどがもたれているということです。警視庁は容疑者について、特殊詐欺グループのリーダーと見ていて、容疑者のグループが昨年7月と8月の2か月間だけで少なくとも1,300万円を同様の手口でだまし取ったとみて調べています。
  • 東京・六本木のタワーマンションの一室で賭博店を開いたとして、警視庁は、賭博開帳図利などの疑いで店長ら店の関係者で40~50代の男6人を現行犯逮捕しています。あわせて客の男女2人も賭博容疑で逮捕しています。報道によれば、東京五輪・パラリンピックに向けた繁華街の「浄化対策」の一環で、暴力団の関与についても調べる方針だということです。賭博店は雑居ビルで開業するケースが大半で、マンションの一室での摘発は珍しいということです。同庁は、ほかにも繁華街の浄化対策として、昨秋以降、新宿区歌舞伎町の路上で乱闘をしたなどとして、風俗店の「スカウト」や暴力団組員らを逮捕、今年4月には墨田区の賭博場を摘発し、豊島区池袋での客引きによる違法行為の取り締まりも強化しています。なお、闇カジノにおいては、摘発を逃れるための対策として、「紹介制で客を集める」「入店時に身元を確認する」「家宅捜索など「有事」に時間を稼ぐ二重扉を設ける」「ネットカジノにして店員を減らす」「売上金を床下や天井裏に隠す」「多額の報酬で店員に口止め」「経営実態を隠す名義貸し」などがあるといいます。
  • 東京・福生市の自宅で覚せい剤や大麻を所持していたなどとして住吉会系組員が逮捕されています。男は「KENNY G」の名前でラッパーとしても活動していたといいます。報道によれば、福生市の自宅で覚せい剤1袋、約9グラムと乾燥大麻1袋、約1.6グラムを所持した疑いなどが持たれているということです。なお、容疑者は7月2日に医療機関を受診し、新型コロナウイルスの陽性と確認されましたが、同4日には神奈川県内でライブに出演していたということです。
  • およそ300億円相当の覚せい剤を茨城県沖の海上で受け渡し、密輸したとして、覚せい剤取締法違反などの罪に問われた住吉会系の暴力団の元組長に対し、2審の東京高等裁判所は、1審に続いて無期懲役を言い渡しています。報道によれば、2017年、ほかの暴力団幹部などに指示し、茨城県ひたちなか市の沖合で覚せい剤470キロ余り(末端価格にしておよそ300億円相当)を海上で受け渡す「瀬取り」と呼ばれる方法で密輸したとして、覚せい剤取締法違反などの罪に問われたものです。1審の水戸地方裁判所が「計画的犯行で、非常に悪質だ」として、無期懲役と罰金1,000万円を言い渡したのに対し、被告側は控訴し「運び屋にすぎず、刑が重すぎる」と主張、2審の判決で東京高等裁判所の裁判長は「共犯者に指示を出すなど主導的な役割を果たし、保管場所を手配するなど、運び屋にすぎないと言えないのは明らかだ。日本側の最高責任者だと認定した1審の判断に不合理な点はない」と指摘して控訴を退け、1審に続いて無期懲役と罰金1,000万円を言い渡しています。
  • 佐賀北署は、大麻取締法違反(営利目的譲り渡しなど)の疑いで、浪川会系組員、アルバイト従業員の女、会社員の男を再逮捕しています。組員と女の再逮捕容疑は共謀し、伊万里市内の公共施設駐車場で、営利目的で男に大麻たばこ1本を1,500円で、大麻約2グラムを16,000円で譲り渡した疑いなどがもたれています。なお、組員は今回で4回目の逮捕だということです。また、覚せい剤を有償で譲り渡すなどしたとして、覚せい剤取締法違反などに問われた道仁会系の元組員の被告に、佐賀地裁は、懲役2年、執行猶予5年(求刑懲役2年)の判決を言い渡しています。報道によれば、裁判官は判決で、暴力団の組員として覚せい剤の有償譲渡に関わっていることを指摘、その上で、被告が暴力団を脱退したことなどを考慮したということです。なお、事件を巡っては、佐賀県警が被告を含む11人を麻薬特例法違反などの容疑で逮捕しており、佐賀県警は、被告が覚せい剤の譲渡に関して中心的な役割を担っていたとみています。
  • 組事務所としての使用を差し止める仮処分が決定された暴力団事務所の状況を確認に来た静岡県暴追センターの職員を脅したなどとして、富士宮署と県警組織犯罪対策課、捜査4課は、暴力行為等処罰法違反の疑いで、六代目山口組良知2代目政竜会幹部と無職の男の両容疑者を逮捕しています。仮処分決定を受けたことに対する因縁とみられています。報道によれば、共謀して、良知2代目政竜会の事務所付近で、同センターの職員に対し「このジジイ、俺が何もしないと思いやがって」などと言い、暴力団の威力を示して脅迫した疑いがもたれています。
  • 沖縄県警サイバー犯罪対策課など9県警合同特別捜査本部は、インターネットバンキングに不正アクセスし、現金をだまし取ったとして、豊見城市の旭琉会桜一家構成員ら3人を不正アクセス禁止法違反、電子計算機使用詐欺、窃盗容疑で逮捕しています。報道によれば、被害者は100人以上いて、被害総額は5,000万円以上に上るということです。沖縄県警は、だまし取った現金が、暴力団組織の資金源となっていた可能性を視野に捜査を進めています。なお、沖縄県内には不正アクセスの犯行グループが二つあり、これまでに同容疑で14人を摘発していたということです。沖縄県内では2年前ほど前から、メガバンクのインターネットバンキングから不正に送金された金が県内のATMから引き出されているのが相次いで確認されていたといいます。捜査を進めたところ、銀行を装ったショートメッセージから偽のインターネットのバンキングサイトに誘導して個人情報を盗みとり、他人の口座に現金を送金する手口で引き出されていたということが判明したということです。警察は他にも関与している暴力団員がいるとみて慎重に捜査を進めています。

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

本コラムでもその動向を注視していた「FATF」(金融活動作業部会)の第4次対日相互審査に関する会合が、コロナ禍の影響で相当遅れて6月に実施されました。8月にはその結果が公表されることになっていますが、2021年7月3日付日本経済新聞は「日本が実質的な「不合格」になった」と報じています。同報道では、「審査では法令の整備状況や企業の対策の有効性などを審査し、大きな問題のない「通常フォローアップ国」や実質的に不合格を意味する「重点フォローアップ国」に振り分ける。関係者によると、FATFは6月25日の全体会合で対日審査の結果をまとめ、日本を「重点フォローアップ国」と評価したもようだ。より評価が低く、国名を公表されるリスクがある「観察対象国」は免れた。日本政府による金融機関のマネロン対策を調べる検査や行政処分といった対応に課題があるとの指摘があったほか、マネロン関連の違法行為に対する罰則の厳格化などが求められたとみられる。金融機関にも顧客情報や取引内容の把握といった継続的な顧客管理のほか、スマートフォン送金の事業者など業態に応じたマネロンのリスク認識で課題が残っている」と指摘しています。また、「審査「不合格」は日本の縦割り行政の弊害を浮き彫りにした。マネロン対策は多岐にわたり、多くの省庁が関わる。テロ資金提供処罰法は法務省、口座を開く際の本人確認の方法を定める犯罪収益移転防止法は警察庁の担当になる。NPOが反社会的勢力に悪用されるケースも考えられるが、所管は内閣府だ。…再び「不合格」の判定に危機感を募らせる政府は今回、内閣官房にマネロン対策の特別チームを設ける。金融庁や法務省など複数の省庁が参加する見通し。22年の通常国会に関連法の改正案を提出する。マネロンに関わる違法行為の厳罰化などが焦点となる。…マネロン対策の国際的な信用の回復とともに、ポストコロナの成長を描くために、縦割り行政の打破が急務となっている」とも報じています。

また、日本経済新聞の同日の別の記事で、犯罪の手口からみた現行制度の脆弱性と今後の課題について、具体的かつ簡潔にまとめられていますので、以下、少し長くなりますが、抜粋して引用します。

国際社会が北朝鮮やイランなど制裁対象国への資金の流れに厳しい目を向けるなか、金融機関は口座開設や送金時のハードルを上げて包囲網を狭めるが、電子決済との連携などで新たな隙間も生まれている。疑わしい取引の件数は高止まりしており、日本におよそ8億ある預金口座は常にリスクと隣り合わせの状態」、「口座売買は犯罪だが、米国などと比べて銀行口座の開設が容易なことが背景にある。…「金銭的に弱みのある高齢者などが悪徳業者に要求されて複数の銀行で口座を開設し、売り渡すケースが後を絶たない」(警察関係者)…カウリスの島津敦好社長は「口座を開設してから、転売やフィッシングによるIDの詐取で『本人』以外が使うケースもある。厳密な継続的顧客管理が求められる」と話す。…海外では本人確認がとれない顧客の口座を使えなくするのが比較的容易な一方、ハイリスクだという理由でも日本では、一方的に口座を解約するのは難しい。メガバンク幹部は「日本の金融機関に最も足りていないのは継続的な本人確認だ」と話す。FATF審査の「不合格」を受けて、口座開設時だけでなく、属性や取引内容の変化などを継続的に把握する対応強化を求められることになる。金融庁関係者によると「むしろ不正利用されるのは新しい口座が多い」という。銀行が取引履歴を積み上げる前に闇市場で売買された口座をトンネルに資金洗浄する手口だ。不正取得した口座に金を振り込ませ、そこから暗号資産(仮想通貨)や証券口座、「○○ペイ」といった電子決済アプリに送金し、高額な商品を購入して換金すれば「きれいなお金」になってしまう。新型コロナウイルス禍でネットでの決済や送金が増えたのを背景に、犯罪は急増している。…金融機関同士の連携にも穴がある。疑わしい送金があった場合、送金先に本人確認がとれるまで口座を凍結するよう要請しても「警察の捜索令状がないと止められない」といった対応の銀行もあるという。デジタル技術の進歩にマネロン対策が追いつかないケースもある。20年にはNTTドコモの「ドコモ口座」を使った預貯金の不正引き出しが問題化した。スマホ決済サービスと銀行口座のつなぎ目に穴があり、多くの金融機関が対策の見直しを迫られた。金融機関とスマホアプリの連携が増えている一方、事業者や金融機関の不正対策が遅れていたことが原因だ。

反社会的勢力排除の取組みにおいては、「入口「中間管理」「出口」の3つのプロセスにおいて、それぞれ適切な態勢を整備していく必要があります。一方、AML/CFT、とりわけ銀行口座の管理においては、「入口」の本人確認は比較的厳格に行われるようになってきているものの、「なりすまし」や「開設後の転売」リスクをそれだけで低減させることはできるはずもないにもかかわらず、「疑わしい」端緒があっても、容易に利用制限をかけられないという問題(法的にも取引慣行的にも)があり、属性や取引内容の変化などを継続的に確認する態勢の脆弱性とあいまって、「中間管理」である「継続的顧客管理」、「出口」である「利用制限」「解約」手続きの在り方に大きな脆弱性を有していると指摘できると思います。また、前述のとおり、ドコモ口座を使った預貯金の不正引き出し問題に代表されるとおり、デジタル化に潜むリスクの抽出が不十分であることに加え、スマホアプリ事業者など取引先自体のAML/CFTリスクの評価までできていないという点で、「サプライチェーン・リスクマネジメントの脆弱性」も露呈している状況だといえます。本コラムでも都度取り上げてきましたが、金融庁は、ガイドラインの改正(2月)、改正ガイドラインに沿った態勢の整備を2024年3月末までに完了するよう要請(4月)といった(審査結果が厳しい結果となることを見越した)矢継ぎ早の対応を行ってきました。今後も、利便性を相殺せざるを得ない厳格な対応が求められる法改正や取引慣行の是正が急ピッチで進むことが予想されます。一方で、デジタル技術の進歩やビジネスモデルの進化や深化、犯罪の手口の高度化・巧妙化・不透明化もスピードを早めながら進展していくであろうことも確実です。法律や規制といったルールの新設や変更は犯罪に対してあくまで「後手」でしかなく、事業者がプロアクティブなリスク管理に取り組まない限り、ますます厳しい状況に追い込まれることが危惧されます

さて、FATFの動向に関連して、暗号資産(仮想通貨)に絡む「12カ月レビュー報告書」を公表しています。12ヵ月レビューは、暗号資産・暗号資産交換業者に関するFATF基準のグローバルな実施状況について、その現状と課題に関するレビューを行うものであり、本件は、昨年度に引き続き2回目となる報告書です。以下に、その要旨(仮訳)を紹介します。なお、暗号資産の現状等については、後述する「中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産を巡る動向」も参照いただければと思います。

▼金融庁 金融活動作業部会(FATF)による「暗号資産・暗号資産交換業者に関するFATF基準についての2回目の12ヵ月レビュー報告書」の公表について
▼2回目の12ヵ月レビュー(2nd 12-month review)報告書要旨(仮訳)
  • 金融活動作業部会(FATF)は、マネロン・テロ資金供与(ML/TF)及び大量破壊兵器の拡散金融を防止するための国際基準を設定する政府間組織である。2019年6月、FATFは、暗号資産(virtual assets)及び暗号資産交換業者(VASPs)に関するマネロン・テロ資金供与対策(AML/CFT)上の要件を明確に設定するため、勧告15(15)を改訂し新たに解釈ノート(INR.15)を加えることによって、国際的な(FATF)基準の改訂を最終化した。
  • またFATFは、暗号資産セクターのタイポロジー(犯罪類型)、リスク、市場構造の変化に関するモニタリングに加え、各法域及び民間セクターによる改訂後のFATF基準(現基準)の実施状況を評価するため、「12カ月レビュー(12-month review)」を実施することで合意した。FATFは、2020年7月にレビューの結果を公表し、2回目の12カ月レビューを2021年6月までに実施することにコミットしていた。
  • 本報告書は、2回目の12カ月レビューの結果を整理したものである。本報告書は、現基準の実施に関して、多くの法域とVASPセクターが引き続き進捗を見せているが、実施状況は依然十分と言うにはほど遠く、FSRB1の法域においては、特に課題が多く残っているとしている。2021年4月時点では、128の法域(38のFATF加盟国と90のFSRB加盟国)が現基準の実施において進捗があるとしている。58の法域(28のFATF加盟国と30のFSRB加盟国)が、現基準を実施するのに必要な立法措置を講じたと報告した。これらのうち、6の法域は暗号資産交換業者の業務を禁止しているが、52の法域は暗号資産交換業者の業務を認める規制体系を導入している。残りの70の法域(10のFATF加盟国と60のFSRB加盟国)では、依然、現基準を各国の法制上実施していない。
  • 初回の12カ月レビュー以降、公的セクターでは現基準の実施について、明確な進捗が認められる。直接的な比較は難しいが、多くの法域が2回目の12カ月レビューに新たに参加しており、33の法域(25のFATF加盟国と8のFSRB加盟国)が、初回の12カ月レビューにおいては、暗号資産交換業者に対するAML/CFT規制体制を導入したと報告していたが、今回のレビューでは、この数字が58の法域となっている。
  • これは進歩ではあるものの、暗号資産と暗号資産交換業者に係るグローバルなAML/CFT体制を実現する観点からは、現基準の実施はまだ十分なものではない。特定の法域における規制またはその執行の不在は、法域間の規制裁定を許し、ML/TFリスクが高まる。同様に、一定の進捗は見られるものの、トラベルルールのグローバルな実施や技術的ソリューションの開発に関しては、なお十分な進展が見られていない。各法域におけるトラベルルールの未実施は、民間セクター、特に暗号資産交換業者が、トラベルルール遵守に必要な技術的ソリューションやコンプライアンス遵守のためのインフラへの投資における阻害要因として働く。
    • 「トラベルルール」はAML/CFT施策の要となるものであり、これにより暗号資産交換業者は、暗号資産の移転における送付依頼人(originators)と受取人(beneficiaries)に関する情報を取得・保存・交換することを義務付けられる
  • 本報告書では、FATFが基準を改訂して以降、暗号資産セクターが強固で急速な成長を遂げたとしている。FATFでは、2019年の基準改訂がこのセクターにおけるイノベーションを阻害したという証拠はないとみている。これは、国際的に規制面での確実性が増しAML/CFTコントロールが強化されることは、むしろビジネスの発展や暗号資産の一般的な受容に対する促進要因となりうることを示している。FATFは、暗号資産に係るML/TFの傾向が、初回の12カ月レビュー報告書において報告されたものから、ほぼ継続していると見ている。特に、ランサムウエアに係る身代金の回収、詐欺の実行やその収益の洗浄に暗号資産を使用するケースが大幅に増加しており、ランサムウエア攻撃のペース、巧妙さ、コストは2021年にも増加する可能性が高い。
  • 本報告書は、改訂基準の実施がグローバルに不均衡なものとなっている結果として、2つの継続的なトレンド、即ち、(1)基準遵守が不十分な法域や基準を不遵守の法域が多く存在し、それが規制裁定を発生させ、基準遵守が不十分な暗号資産交換業者や基準不遵守の暗号資産交換業者という関連する問題につながっていること、(2)匿名性を高めるツールと手法、を指摘している。
  • 本報告書は、ブロックチェーン分析会社7社からのデータを利用して、暗号資産のピアツーピア(P2P)取引に関して、初の定量的な市場データを示している。これらのデータは、暗号資産取引の非常に大きな部分がP2Pベースで行われる、ということを示している。違法取引の比率も、少なくとも直接取引に関しては、暗号資産交換業者経由取引より、P2P取引の方が高くなるようである。しかしながら、データには大きなばらつきがあり、これは、P2Pセクターの市場規模やそれに関連するML/TFリスクの水準に関してはコンセンサスがないということを意味している。
  • 大量破壊兵器の拡散金融に係る最近の改訂を暗号資産及び暗号資産交換業者に適用するための技術的な修正を除いては、初回の12カ月レビューで確認したように、現時点において現基準をさらに修正する必要はない。各法域や民間セクターが一層の明確化を求める領域が多く存在しているものの、それらの質問は、基準それ自体に関するものではなく、基準の適用方法に関するものである。FATFから今後公表される見通しの暗号資産及び暗号資産交換業者に係る改訂ガイダンスが、現基準の実施に関して各法域や民間セクターを支援するだろう。暗号資産及び暗号資産交換業者に係る市場構造またはML/TFリスクプロファイル(P2P取引に関する点など)が大きく変化する場合には、FATFは、現基準の修正が正当か検討しなければならない。
  • ゆえに、現基準の実施に関しては、なお課題が残されている。今後、FATFは、各法域による現基準の迅速かつ効果的な実施の促進に関し、優先的に対応しなければならない。全ての法域が、トラベルルールも含めて、可能な限り速やかに現基準を実施する必要がある。よって、このレビューでは、FATFが以下のアクションを取ることを推奨する。
    1. FATFは、各国における暗号資産及び暗号資産交換業者に係る現基準の効果的な実施に焦点を当てなければならない。FATF加盟国とFSRB加盟国とは、現基準(15/INR.15)の実施を高優先順位事項としなければならない。FATFは、官民双方のため、暗号資産及び暗号資産交換業者に係る改訂ガイダンスを、2021年11月までに公表しなければならない。これは、暗号資産と暗号資産交換業者の定義、いわゆるステーブルコイン、P2P取引、暗号資産交換業者の免許/登録、トラベルルールと暗号資産交換業者の監督当局者間の国際協力につき改訂ガイダンスを提供するものであり、基準実施の助けになるものである。FATF加盟国、特に暗号資産交換業者に係るAML/CFT規制分野でのリーダーとなる加盟国は、民間セクター及び他の法域と協力し、基準実施を推進しなければならない。FATFコンタクト・グループ(VACG)は、その支援を行うことに注力し、また、ランサムウエア関連での暗号資産利用のリスクを低減する一助となる行動に特に重点を置くべきである。VACGは、改訂FATFガイダンス公表後に民間セクターと対話を行い、2022年6月までに、FATFの政策企画部会(PDG)に対し、基準実施の進捗を報告すべきである。
    2. FATFは、民間セクターによるトラベルルールの実施を、優先事項として加速させるべきである。そのためには、FATF加盟国は、適切な場合には段階的アプローチの検討も含め、できる限り早期にトラベルルールをそれぞれの国内法制上で実施する必要がある。FATF加盟国、特に暗号資産交換業者に係るAML/CFT規制分野でのリーダーとなる加盟国は、この取組みを促進するため、民間セクター及び加盟国相互間で協力しなければならない。FATF加盟国は、2022年6月までに、アウトリーチ活動を通じて、実施状況につき議論するものとする。
    3. 暗号資産に係るビジネス・技術環境が急速に変化していることを考慮して、FATFは、FATF基準の更なる改訂や明確化を必要とするような、暗号資産及び暗号資産交換業者のセクターの重要な変化・動向については、ガイダンスの改訂プロジェクトも通じて、モニタリングしなければならない。現時点で基準を改訂することはないものの、FATF基準における大量破壊兵器の拡散金融に関するFATF勧告1の改訂を反映させるため、FATFは、15の技術的な修正条項を導入しなければならない。

その他、AML/CFTを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 暗号資産の取引口座を転売目的で開設したとして、愛知県警サイバー犯罪対策課は、飲食店店員を詐欺と犯罪収益移転防止法違反の疑いで逮捕しています。報道によれば、暗号資産の取引口座の転売に詐欺容疑を適用したのは全国で初めてだということです。暗号資産の取引口座を開設する場合、通帳や印鑑は必要がなく、オンライン上で免許証などの個人情報を入力した後、業者の審査を受けることになっています。投機目的が多いところ、犯罪収益の受け皿として開設するケースも増えてきているということであり、容疑者は他にも六つの取引口座を所有しており、転売の有無などを調べているといいます。暗号資産が「犯罪インフラ」から、ブロックチェーン基盤であるがゆえの「犯罪摘発のためのインフラ」として機能し始めている中、「犯罪インフラ」としての悪用リスクをあらためて認識させるものといえます。
  • 本コラムでも紹介してきたダンスケ銀行エストニア支店を経由した大規模な疑わしい取引やラトビア銀行ABLVなど不祥事の続発を受けてマネー・ローンダリングの取り締まり強化を図るEUは、直接的な監督権を持つ新機関(AMLA)を設置する方向との報道がありました(2021年7月8日付日本経済新聞)。AMLAは2026年以降、国をまたいで活動する金融機関を直接監督し、マネロン規制に違反した企業に総額数百万ユーロ(数億円)の罰金を科せるようになる見通しだということです。先に紹介したとおり、日本でも厳罰化とあわせ(縦割りの弊害を排した)組織横断的な組織の立ち上げの方向であり、EUもまた同様の対策を講じることになります。背景には、EU域内では毎年数千億ユーロに上る疑わしい取引が行われているとみられる一方で、加盟国間で法執行のあり方にばらつきがあるうえ、一部の国が既存のマネロン防止指令を完全に実施しようとしないことで、EUとしての毅然とした対応がとれなくなっていることが挙げられるようです。欧州委員会の狙いは、規制実施の足並みをそろえて当局間の協調性を高め、各国の資金情報機関(FIU)同士の風通しを良くすることにあり、新機関は、多くのEU加盟国で活動する「最もリスクの高い」金融機関の直接監視にもあたるということです。
  • バチカン(ローマ教皇庁)は、ローマ教皇フランシスコの腹心だった枢機卿ら10人を、司法当局が横領、職権乱用などの罪で起訴したと発表しています。ロンドンの一等地のビル購入といった不動産投資を巡り、「タックスヘイブン」(租税回避地)を経由した不透明な金融取引があったといいます。報道によれば、この枢機卿は兄弟の事業に便宜を図るためにバチカンの資金を悪用したといい、バチカンの資金を管理する宗教活動支援機関(IOR、通称「バチカン銀行」)は、マネー・ローンダリングの温床と指摘され、フランシスコ教皇が改革を進めているところです。今年1月には、IORの元総裁に実刑判決が下されたばかりです。なお、IORの2020年の預かり資産は約50億ユーロ(約6,600億円)に上るということです。
(2)特殊詐欺を巡る動向

まずは、最近の報道から、特殊詐欺をはじめ、騙されてしまう手口やメカニズムについて、いくつか紹介します。

今も騙される経済人が後を絶たない「M資金詐欺」ですが、2021年6月22日付毎日新聞で、その手口等についての解説がありました。そもそもM資金という名称は、GHQの「資金を管理していた」という触れ込みの経済科学局長、マーカット少将の頭文字からとったとされ、資金の中身はGHQの秘密資金のほか、「オイルダラー」、「十字軍遠征時に結成された『マルタ騎士団』の資金」、「日本政府が特定の企業にだけ支出する助成金」など時代に合わせて、さまざまに変化しているといいます。そして、いつしか多額の資金提供をちらつかせて、手数料などの名目でカネをだまし取る手口の総称をM資金詐欺と呼ぶようになったようです。報道で調査会社が、「詐欺師は相手を信じ込ませる巧妙なわなをちりばめている。うまく丸め込まれてしまう」と述べているとおり、「もっともらしい説明内容とともに、大物経済人や有名企業が関わっていることをにおわせ、相手を信じ込ませる」、「M資金の詐欺師は、1兆、2兆と兆円単位の話をばんばん出してくるため、かつて「豆腐屋」と呼ばれたこともあった。「提示される額があまりに巨額なため感覚がまひし、『手数料はわずかでいい。融資金の1%で十分』などと言われると信じてしまう」」、「実際に多いのは詐欺師に名刺を渡してしまったり、覚書を交わしてしまったりした後に詐欺だと気づき、トラブルになるケース。名刺などを取り返そうとすると、解決金を求められる。解決金の相場は数十万円から。この程度であれば、世間体を気にして表沙汰にしない人が多い」、「最近は「財政法44条に基づく国のプロジェクト」などとかたり、むしろ「M資金ではない」と強調するケースも増えている」といった状況があるようです。当然ながら騙されないためには、「コロナ禍で政府がさまざまな給付金、助成金を講じる中、『政府に近い特定企業だけが優遇されているのではないか』という推測も広がりやすい。その『もしかすれば』という思いを詐欺師は突いてくる」ため、「怪しい話が来ても決して相手に接触しない。これが何より重要です」という(やはり当たり前の)結論となります。

淑徳大学コミュニティ政策学部の学生が特殊詐欺に関する知識や行動などに関して、約1万1,000人の県民を対象に調査し、分析結果を報告書にまとめています。

▼淑徳大学コミュニティ政策学部 社会調査実習報告書

調査結果によれば、約7割の人は、自身が同性の同年代に比べて特殊詐欺の被害に遭うリスクを低いと考えており、「特殊詐欺に関して犯罪リスク認知を低く見積もる人が多い」と分析しています。また、特殊詐欺、盗難、殺人など犯罪被害に遭う可能性について、「同性の同年代に比べどうか」と質問したところ、「とても高い」から「とても低い」まで五つの中から回答を選ぶ形式で、空き巣や器物破損、盗難に関しては「とても低い」と「低い」の回答を合わせていずれも40%程度だった一方、特殊詐欺に含まれるオレオレ詐欺では「とても低い」と「低い」は合わせて71.5%、還付金等詐欺は70.9%、架空請求詐欺は66.2%となっているなど特殊詐欺に対する認識だけ他と大きく異なっている状況が見受けられたといいます。なお、年代別では60代でその傾向が特に見られたということです。さらに、着信拒否や自動録音の機能などの使用率は約3割にとどまっていること、また、新聞購読者と未購読者の特殊詐欺に関する知識の比較分析では、購読している人の方が手口や被害防止のための知識があるとの結果が出た点も大変興味深いところです。そもそも特殊詐欺リスクの認知が低く、「自分は騙されない」と思っている人が、特殊詐欺対策に関する情報に敏感に反応できるかどうかは疑問です。なぜなら、「人間ならば誰にでも現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない」(カエサル)からです。特殊詐欺は、人間の認知の本質に迫るメカニズムを悪用している点で自分自身で防ぐことが難しいと言えます。だからこそ、周囲がその異常な状況を察知し、働きかけることが重要だと考えます。

国際ロマンス詐欺についても興味深い報道がありました。2021年7月7日付朝日新聞の「ロマンス詐欺なぜはまる 驚きのマメさと「つり橋効果」」と題する記事によれば、国際ロマンス詐欺の被害に関する全国的な統計は存在しないものの、兵庫県警国際捜査課によると、県内で国際ロマンス詐欺を初めて認知したのは2017年、その後、今年6月までに約100件の相談や情報提供が寄せられているといいます(なお、そのうち8割がコロナ下の2020年1月から2021年6月に集中しているということです)。特に昨年ごろから相談は増え始め、50代女性が計1億1千万円をだまし取られる被害も発覚しています。以下、騙されるメカニズムの具体的な状況を中心に、抜粋して引用します。被害者の心理を操る確立されたマニュアルが存在しているとされている点は驚きです。

「巧みなマインドコントロールとトリックがあるんです」 特徴の一つが、長期間にわたる「マメな対応」だ。…恋愛感情が芽生えたと思えば、次の行動に移す。「銀行の口座が突然凍結された」「戦地で銃撃された」「金塊の輸送量が多すぎて空港で拘束された」 たたみかけるように起こるハプニング。手数料や入院費用、保釈金を立て替えてほしい、と焦った様子で求めてくる。被害者側はハラハラ、ドキドキし、周りに相談する時間も与えられないまま、「何とかしてあげないと」と思ってしまう。不安や緊張感が恋愛感情につながる「つり橋効果」を利用した巧みなワナだ。…「詐欺でもいい」「私は信じたい」被害者が詐欺だと受け入れようとしないことも、ロマンス詐欺の大きな特徴だと県警幹部は言う。…被害者のカウンセリングでは、普段の生活に寂しさを感じている▽心に何らかのトラウマを抱えている▽自己評価が低い―などの傾向がみられたという。国際ロマンス詐欺はもともと、ナイジェリアから手紙が届くことから「ナイジェリア詐欺」と呼ばれ、SNSが普及していない十数年以上前から存在していた。被害者心理を操る、確立されたマニュアルが存在しているとされ、ナイジェリア人やカメルーン人を中心とした詐欺集団の存在が取りざたされている。…被害者とやりとりをしたり、詐欺を指揮したりする人物は主に海外にいるとみられ、捜査の手が届きにくい。だまされたと気がついても羞恥心から被害届が出されないこともあり、警察が把握している被害は一部に過ぎない可能性がある。

なお、最近でも、山口県警光署が、国際ロマンス詐欺と呼ばれる手口で現金約1,953万円をだまし取ったとして、ナイジェリア国籍の飲食店経営を詐欺と組織犯罪処罰法違反の容疑で逮捕した事例(米軍人を装ってSNSで親密になった50代女性に「現地で爆薬を発見し、軍から3000万円の現金や貴金属などの報酬をもらった。一緒に送る」などと説明。更に運送会社社員を装って女性に「空港で荷物が止められている。通過するための費用が必要だ」などとメールを送り現金を振り込ませたというもの)、岡山県警倉敷署が、米軍の女性兵士を装い、SNSで知り合った男性から現金をだまし取ったとして、ナイジェリア国籍で埼玉県熊谷市の会社役員の男を詐欺容疑で逮捕した事例(男らは男性に好意を持つような内容のメッセージを送り信頼を得てから、「輸送費を支払えば、400万ドルが入った荷物が届く」などと虚偽のメッセージを送り、59万円を振り込ませた疑い。他にも余罪があるとされるもの)、栃木県警などがイエメンで活動する医師をかたり現金を詐取したとして、カメルーン国籍の2人の容疑者を詐欺容疑で逮捕した事例(2人が管理していた口座には1億円以上の入出金があったというもの)などがありました。なお、報道によれば、今年に入って和歌山県内で少なくとも9件発生しており、被害総額は約6,600万円に上るといいます。「新型コロナウイルスの影響で人間関係が希薄になっている。インターネットに出会いを求めたり、SNSをする時間が長くなっていたりするから、ロマンス詐欺が増えているのではないか」、「恋愛ということで気持ちも盛り上がり、巧みなマインドコントロールで精神的に追い詰められ、気がつけば被害に遭ってしまう」として注意喚起をしています。

なお、関連して、マッチングアプリを通じて知り合った相手から暗号資産などの投資を持ちかけられ、トラブルにつながるケースが相次いでいるといいます。甘い言葉をささやかれ多額の資金を投入するも、急に相手と連絡が取れなくなり、数千万円もの損失を被った人も少なくないといいます。手口としては、マッチングアプリで接触し、ラインでのやり取りに移行、「暗号資産やFXでもうかった。今がチャンス」と執拗に勧誘、金融商品を勧めて投資させるが理由を付けて出金に応じないなど、いずれも類似しているといいます。国民生活センターによると、越境消費者センターに寄せられたマッチングアプリや出会い系サイトに関する相談は、2020年度に109件で2019年度25件の4倍に増えており、2020年度の109件のうち投資などに関する相談は84件で、2019年度の5件から急増しているのが特徴で、今年度も5月末までですでに40件の相談があり、投資に関するものは37件にのぼっています。以下、国民生活センターから出ているオンラインサロンを中心とした注意喚起ですが、参考までに紹介します。

▼国民生活センター 新たな“もうけ話トラブル”に注意-オンラインサロンで稼ぐ!?-
  • 全国の消費生活センター等には、以前から「スマホで簡単にもうかる」「不労所得で豊かに生活ができる」とお金もうけのノウハウを伝える等と勧誘され、情報商材(注1)やノウハウを教わるサポートの契約をしてトラブルになったという相談が寄せられています。最近では、近年利用者が増えている「オンラインサロン(注2)」を、ノウハウを伝えるツールまたはサロン自体をもうける手段として利用している手口がみられます。そこで、本資料ではオンラインサロンを使ったもうけ話に関する相談事例や問題点を紹介するとともに、トラブルの防止のために、消費者への注意喚起を行います。
    • 【注1】
      インターネットの通信販売等で、副業や投資等で高額収入を得るためのノウハウ等と称して販売されている情報のこと。
    • 【注2】
      オンラインサロンとは、インターネット上の会員制コミュニティを指す。オンラインサロンには、いわゆるプラットフォーム事業者のサービスを利用したサロン(プラットフォーム型サロン)と主宰者が独自にSNS上のツールを利用してサロン(独自型サロン)を開設しているケースがある。(参考:消費者庁 第41回インターネット消費者取引連絡会(2021年5月31日)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社発表資料「オンラインサロンの動向整理」)ここでは、トラブルが多く発生している独自型サロンについて取り上げる。
  • 相談事例
    1. SNSでDMが届き、情報商材の内容をオンラインサロンで勉強できると勧誘された
      • SNSで「稼ぎ方を教えます」とDM(ダイレクトメッセージ)が届き、無料通話アプリで相手に連絡した。そこで「ブログでアフィリエイト収入が得られる」「ビジネススキルを情報商材で提供するのでオンラインサロンで勉強できる」等と勧められ、約30万円でオンラインサロンへ入会することにした。契約書はウェブ会議のやり取りで作成して交付された。実際にブログを始めたが、「オンラインサロンの人が○万円稼げました」などと偽りの発信を指示されるようになり、また、内容も稼げるものではないことがわかった。解約して返金してほしい。
    2. その他、以下のような相談も寄せられています。
      • オンラインサロンを人に紹介すると報酬がもらえると言われた
      • オンラインサロン経営のセミナーで、さらに高額なセミナーの勧誘を受けた
      • オンラインサロン経営の副業を契約したが、書面を交付されなかった
      • オンラインサロンを解約したいが、住所や電話番号等がわからない
  • 相談事例からみる問題点
    • SNSや友人等からもうけ話の勧誘を受けて入会するが、中身が聞いていた話と違う
    • オンラインサロン自体が稼ぐ手段として使われている
    • 事前に契約条件、契約内容を確認できない
  • 消費者へのアドバイス
    • インターネット上や友人・知人から勧誘される“もうけ話”はまず疑ってみましょう
    • 人に紹介するよう言われた等、話が違うと思ったら、きっぱりと契約を断りましょう
    • 契約前に契約条件、契約内容を確認しましょう。トラブルに備えてSNS等のやり取りの記録は消さずに残しましょう
    • 不安に思った場合やトラブルになった場合は消費生活センター等に相談しましょう

新たな還付金詐欺の手口による被害が京都府内で相次いでいるようです。金額ではなく、うその「お客様番号」をATMに入力させ、だまし取る手口ですが、使われたお客様番号は「499336」であり、多くの金融機関が振り込みの上限金額に設定している、50万円に近い数字として選ばれたとみられています。還付金詐欺はよくあるものの、返還金額を伝えずにだまし取ることはあまりないため注意が必要な状況です。

さて、本コラムでは、新型コロナウイルス対策として給付される持続化給付金などが、詐取される事例などを取り上げてきましたが、国の「家賃支援給付金」をだまし取ったとして、警視庁は、経済産業省のキャリア官僚で、経済産業政策局産業資金課係長(28)、産業組織課係員(28)の2人の容疑者を詐欺容疑で逮捕するという事件が発生しています。報道によれば、ぺーパーカンパニーを給付金の受け皿に使っていたといい、申請や審査の仕組みを熟知した上で不正受給を行った疑いもあるとみて、同省を捜索し、関係資料を押収しています。家賃支援給付金は、中小企業庁が昨年7月に申請の受け付けを開始、コロナ禍で売り上げが前年同月より50%以上減るなどした場合に事務所の家賃を最大600万円まで支援するもので、今年3月までに約104万件・計約9,000億円が給付されていますが、不正受給が多発しており、警察庁によると、6月20日までに全国で12人が詐欺容疑で摘発されているといいます。さらには、持続化給付金も関係会社に振り込まれているといい、職場で証拠隠滅の打ち合わせをしていたこと、摘発を免れるため申請時のデータなどを削除したことなどとあわせ、悪質さが際立ちます。報道によれば、本件は、警視庁が「(容疑者が)国家公務員として分不相応な生活をしている」との情報をつかむなどして内偵を始めていたといいます。なお、経産省の人事担当者は2人について「普段の仕事や生活で特段変わったことは見当たらなかった」と話しているようですが、省内では(当たり前ですが)「採用したことが問題だった」、「これ以上、問題を起こしていないことを祈る」などと憤りの声が出ているようです。

その他、「持続化給付金」や「雇用助成金」、「感染拡大防止協力金」などが詐取される事件が多数報道されています。本コラムでも再三指摘しているとおり、各種給付金の審査態勢の甘さが狙われており、(一刻も早く手続きを進めるために性善説の観点から)形式上の書類がそろっていれば申請が通る現行の審査態勢は改善していく必要があるといえます。特に、雇用調整助成金の不正受給においては、別人を従業員と偽って申請するケースが散見されることから、例えば、偽造の難しい給与の振り込み履歴の提出などを義務化すれば不正申請の数を減らすことにはつながる可能性も考えられるところです。報道によれば、厚労省の担当者は、「コロナ禍で困窮している人を救済するための制度で不正な申請を前提としていない」とし、「悪質な申請については刑事告発を含め厳正に対処する」としています。また、東京都の「感染拡大防止協力金」の不正受給の事例では、都内でバーなど8店の経営に関与するなどしていたものの、うち7店は保健所から営業許可を受けない「闇営業」だったといい、7店の営業許可書を偽造して協力金を申請し、計約700万円を詐取したとみられています。申請された営業許可書に記載された営業許可番号に同一のものがあったため発覚、都が同署に相談していたものです。営業許可番号の使い回しであれば、1回は支払ってしまっても、2回目以降は防ぐことはそう難しいことではないと考えられますが、審査時点でもっと迅速に見抜く方法がなかったのか、検証する必要があると思われます。なお、それ以外の事件では、埼玉県警が、他人名義のマイナンバーカードを使って新型コロナウイルス対策の特別定額給付金をだまし取ったとして、住居不定、無職の60代の男(マイナンバー法違反などで起訴)を有印私文書偽造・同行使と詐欺の両容疑で再逮捕した件が注目されます。報道によれば、男は昨年5月、ふじみ野市役所で、不正に取得したふじみ野市の知人男性名義のマイナンバーカードを示して国の特別定額給付金を申請し、現金10万円をだまし取った疑いがもたれているといいます。調べに「なりすまして受給したことは間違いないが、(男性の)承諾を得て申請した」と容疑を一部否認しています。本件では、男は男性になりすまして、自身の顔写真でマイナンバーカードを取得していたところ、なりすましの被害にあった男性が別件で市役所を訪れた際、カードの写真と男性の顔が異なることに市職員が気づき、逮捕につながったというものです。多忙を極める業務の中、水際でのこうしたチェックが摘発につながった好事例と言えると思います。

次に、例月通り、最新の特殊詐欺の認知・検挙状況について確認します。

▼警察庁 令和3年5月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

令和3年1~5月における特殊詐欺全体の認知件数は5,519件(前年同期5,745件、前年同期比▲3.9%)、被害総額は106.4億円(109.8憶円、▲3.1%)、検挙件数は2,444件(2,706件、▲9.7%)、検挙人員は853人(940人、▲9.3%)となりました。特に、認知件数・被害総額が減少し続けている点、一方で検挙件数の増加が続いていたところ、減少傾向に転じた点が注目されます。うちオレオレ詐欺の認知件数は1,112件(844件、+31.8%)、被害総額は30.9億円(25.3憶円、+22.1%)、検挙件数は501件(883件、▲43.3%)、検挙人員は243人(245人、▲0.8%)と、認知件数・被害総額ともに大きく増えている点が懸念されるところです。一方で、検挙件数・検挙人員ともに大きく減少している点もまた注視していく必要があると考えられます。一方、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は951件(1,531件、▲37.9%)、被害総額は13.7億円(23.2憶円、▲40.9%)、検挙件数は704件(964件、▲27.0%)、検挙人員は202人(283人、▲28.6%)と、こちらは認知件数・被害総額ともに大きく減少している点が注目されます。また、預貯金詐欺の認知件数は1,212件(1,769件、▲31.5%)、被害総額は16.1億円(22.1憶円、▲27.1%)、検挙件数は932件(311件、+199.7%)、検挙人員は301人(294人、2.4%)となり、こちらも認知件数・被害総額ともに大きく減少している点が注目されます。架空料金請求詐欺の認知件数は786件(693件、+13.4%)、被害総額は27.4億円(26.0憶円、+5.4%)、検挙件数は105件(261件、▲59.8%)、検挙人員は50人(65人、▲23.1%)、還付金詐欺の認知件数は1,319件(643件、+105.1%)、被害総額は15.2億円(8.7憶円、+74.7%)、検挙件数は177件(179件、▲1.1%)、検挙人員は38人(17人、+123.5%)、融資保証金詐欺の認知件数は77件(173件、▲55.5%)、被害総額は1.3億円(1.8憶円、▲27.8%)、検挙件数は10件(66件、▲84.8%)、検挙人員は5人(19人、▲73.7%)などとなっており、特にコロナ禍の社会情勢をふまえて「非対面」で完結する還付金詐欺の認知件数・被害総額ともに大きく増加している点が懸念されます。

犯罪インフラ関係では、口座開設詐欺の検挙件数は267件(293件、▲8.9%)、検挙人員は153人(185人、▲17.3%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は833件(1,017件、▲18.1%)、検挙人員は661人(834人、▲20.7%)、携帯電話契約詐欺の検挙件数は69件(90件、▲23.3%)、検挙人員は59人(75人、▲21.3%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は10件(9件、+11.1%)、検挙人員は5人(7人、▲28.6%)、組織的犯罪処罰法違反の検挙件数は56件(33件、+69.7%)、検挙人員は13人(9人、+44.4%)などとなっています。また、被害者の年齢・性別構成について、特殊詐欺全体では、男性26.2%:女性73.8%、60歳以上91.6%、70歳以上76.0%、オレオレ詐欺では、男性19.1%:女性80.9%、60歳以上97.1%、70歳以上94.8%、融資保証金詐欺では、男性75.0%:女性25.0%、60歳以上26.5%、70歳以上11.8%などとなっており、類型によってかなり異なる傾向にあることが分かりますが、概ね高齢者被害の割合が高い類型では女性被害の割合も高い傾向にあることも指摘できると思います。このあたりについては、以前の本コラム(暴排トピックス2019年8月号)で紹介した警察庁「今後の特殊詐欺対策の推進について」と題した内部通達で示されている、「各都道府県警察は、各々の地域における発生状況を分析し、その結果を踏まえて、被害に遭う可能性のある年齢層の特性にも着目した、官民一体となった効果的な取組を推進すること」、「また、講じた対策の効果を分析し、その結果を踏まえて不断の見直しを行うこと」が重要であることがわかります。なお、参考までに特殊詐欺被害者全体に占める高齢被害者(65歳以上)の割合について、特殊詐欺では88.3%(男性23.2%、女性76.8%)、オレオレ詐欺96.8%(18.9%、81.1%)、預貯金詐欺98.5%(17.2%、82.8%)、架空料金請求詐欺49.0%(53.1%、46.9%)、還付金詐欺94.6%(25.6%、74.4%)、融資保証金詐欺16.2%(81.8%、18.2%)、金融商品詐欺50.0%(14.3%、85.7%)、ギャンブル詐欺22.6%(57.1%、42.9%)、交際あっせん詐欺0.0%、その他の特殊詐欺40.0%(25.0%、75.0%)、キャッシュカード詐欺盗97.8%(19.7%、80.3%)などとなっています。

最近の特殊詐欺の被害事例については、特に注意した方がよい手口を中心に紹介します。

  • 警察などを名乗る男2人から「詐欺犯人を捕まえました。犯人はあなたの口座情報を知っているので、銀行に連絡して口座を止めている」などと嘘の電話があり、その後、両親方の隣に住む女性が対応したところ、「被害に遭う可能性があります。刑事が行くので対応してほしい」などとさらに嘘の電話があったもの。キャッシュカードをすり替えられ、被害に遭った直後、不審に思った女性が同署に通報したが、すでに複数の口座から計約314万円が引き出されていたといいます。
  • 「消費税の関係で介護保険料の返金がある。先月末が期限だったが、本日手続きをすれば返金ができる」などと電話で告げられ、続いて女性が利用する銀行のコールセンターの職員を名乗る男の声でも「コロナ予防のためスマートフォンかATMで返金手続きをしている」などと電話があったもの。女性は市内のATMコーナーで、電話の指示に従って操作するうちに、約100万円を他人名義の口座に振り込んでしまったといいます。
  • 昨年2月ごろから5月までの間に、70代の女性に対し警察官などを名乗って電話をかけ、「逮捕を免れるためには現金が必要」などとうその説明をして7回にわたって現金を受け取り、合わせて5,850万円をだまし取ったとして、詐欺の疑いで容疑者が逮捕されています。
  • 会社役員の70代男性に区役所職員を装って「手続きをすれば特別給付金が年金に上乗せされて支払われる」などと嘘の電話をかけたうえ、自身が管理する2つの口座にそれぞれ現金約200万円と約130万円を振り込ませ、計約330万円を詐取したという事例もありました。
  • 被害総額4,000万円以上にのぼる特殊詐欺グループの出し子の男が逮捕されています。2020年、特殊詐欺の手口で入手した高齢女性のキャッシュカードを使い、現金111万円余りを引き出した疑いが持たれているものですが、このグループでは、容疑者のほかに6人が逮捕されています。すでに逮捕されている回収役の男が泊まっていたホテルのスタッフが、客室内の空気清浄機に隠されていたキャッシュカードなど24点を見つけ、事件が発覚したものです。

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニエンスストア(コンビニ)や金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体も多様となっていることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。

まずは、特殊詐欺対策として新たな手法等について、その工夫を紹介します。

  • 「多額の現金をお持ちのお客様、伝言がございますので、駅事務室へ」―こう呼び掛けた京急電鉄北品川駅の張り紙が、ツイッターなどで話題になっている都の報道がありました。話題になったツイートは、北品川駅に掲示された張り紙を画像付きで紹介し、6月19日に投稿されたものです。京急電鉄広報部によると、多額の現金を持って息子や孫と待ち合わせ、というのはいわゆる「オレオレ詐欺」を想定、あえて「詐欺」という言葉を使わず、自分が詐欺被害に巻き込まれていると気づいていない人でも自ら駅員に現状を伝えられるような文面になっている点が特徴だといえます。このツイートには、数万件の「いいね」が寄せられ、「こんな鉄道会社の掲示初めてみた。相当被害数あるんだろうなぁ」といったコメントもあったようです。このような気の利いた注意喚起が被害を防ぐことにつながることを期待したいところです。
  • 高齢者を狙った特殊詐欺が頻発する中、宮城県警は、特殊詐欺電話撃退装置の購入費用の一部を補助する制度を開始しています。全国の都道府県警で初めての制度といいます。補助の対象となるのは、固定電話に取り付ける撃退装置で、呼び出し音が鳴る前に通話内容を録音するという警告が流れ、自動録音する機能があるもので、今年度中に65歳以上になる県内の高齢者に、購入費の半額(上限7,000円)を補助するとしています。報道によれば、県警は、今年3月から232台の装置を無料で貸与していて、効果を実感した高齢者の購入を支援しています。ありそうでなかった制度であり、同様の取組みが全国に拡がることを期待したいと思います。
  • 愛知県内のコンビニや金融機関などの業界団体でつくる「愛知県特殊詐欺撲滅プロジェクトチーム」は、愛知県警と連携し、特殊詐欺の摘発に協力した人に報奨金1万円を支払う制度を始めました。報道によれば、都道府県単位で制度化するのは全国初だということです。詐欺に引っ掛かったよう装い、犯人をおびき出す「だまされたふり作戦」の協力者や、犯行グループの拠点情報を提供した人が対象で、容疑者摘発に至れば、1万円を支払うというものです。早速、オレオレ詐欺の容疑者逮捕に貢献した小牧市の夫婦に制度を初適用し、7月9日に報奨金が贈呈されています。報道によれば、この夫婦は、容疑者をおびき出すために用いる「だまされたふり作戦」に協力し、小牧署から感謝状も贈られたということです。こちらもありそうでなかった制度であり、支払い要件をさらに拡大するなどの展開ともあわせ、全国に拡がることを期待したいところです。
  • 特殊詐欺被害防止のため、東京都内全域のATMコーナーで、携帯電話の通話が禁止されています。「ストップATMでの携帯電話」と名づけられたこの取り組みは、警視庁と都内の金融機関、コンビニの業界団体が、特殊詐欺被害防止のため実施するものです。詐欺グループは被害者を携帯電話でATMに誘導する手口が目立つことから、全国銀行協会とコンビニの業界団体・日本フランチャイズチェーン協会が、東京都内のすべての銀行とコンビニのATMで携帯電話の利用を自粛するよう促す取り組みを始め、警視庁とも合意、こうした合意は全国で初めてだということです。都内に本店を置く城南信用金庫と多摩信用金庫が4月から先行実施していたものでもあります。顧客の利便性の低下よりも顧客の財産保護を優先し、銀行とコンビニ業界も歩調を合わせた形となります。なお、報道によれば、2021年4月までに、全国で発生したATMコーナーが悪用される還付金詐欺事件の件数は、2020年に比べて、2倍に増え、2021年1月から5月までの都内での特殊詐欺の被害総額は、2020年より、4億3,700万円増え、29億円にのぼるなど、被害が深刻化しています
  • 埼玉県警は、コンビニエンスストア大手のローソンと協力し、同社の新入社員らに対する特殊詐欺被害防止などの訓練をローソン与野下落合店で実施しています。犯行グループが、現金を振り込む場所としてコンビニのATMを指定するケースが多いことを踏まえ、「水際対策」を図る狙いがあるということです。また、埼玉県警は、「特殊詐欺被害防止機動チーム」を編成して街頭啓発活動や不審者追跡などを集中的に行う取り組みに着手しています。生活安全部員が5、6人程度のチームを組んで活動するもので、金融機関を利用する高齢者らに注意を呼び掛けるほか、「受け子」が移動手段としてタクシーを使うケースが多いことを踏まえ、運転手に協力を求める活動も行っています。また、埼玉県警熊谷署は、電子マネーが関連した詐欺事件などの抑止を図るため、コンビニエンスストア大手のファミリーマートと協力し、購入した電子マネーを客に渡す際に、注意喚起の文言を記した封筒を使用する取り組みを始めています。封筒の表面には赤い文字で「STOP!サギ」と大書し、内側には主な手口を詳細に記しているといいます。埼玉県警はこのように意欲的な取組みを行っている印象があり、成果につながっていると思います。
  • 広島県内で特殊詐欺被害が増加、今年1~6月に確認された被害総額は約1億8,400万円で、昨年1年間の被害額(2億4,105万円)の約8割に迫る危機的な状況となっています。県警は、今年被害が相次ぐ「オレオレ詐欺」のやり取りを録音した音声データを公開、被害状況をわかりやすく紹介するホームページに更新するなど、対策に力を入れています。さらに、特殊詐欺被害を複数回防いだ金融機関などを「特殊詐欺被害抑止優秀店」と認定する制度を採用、認定を証明するために県警が作った「表彰盾」を設置してもらい、従業員や来店客に防犯意識を高めてもらう取組みも始めています。
  • 特殊詐欺への防犯意識や知識を高めてもらおうと、山形県警が「パズルde撃退!特殊詐欺クロスワードパズル」を作成したといいます。山形県警HPなどで公開し、正解者の中から抽選で1,000円分のクオカードをプレゼントするということです。パズルで楽しみながら、被害を未然に防ごうとするユニークな取り組みで撲滅を目指すとしています。
  • 京都府内で高齢者がキャッシュカードをだまし取られ、現金を引き出される特殊詐欺被害が相次ぐことを受け、府警は年金支給日の15日、全25署で引き出し限度額の見直しを呼び掛ける啓発活動を行っています。府下一斉で行うのは初めてだということです。注意喚起のチラシを配布しながら、「被害を抑えるためにも、利用限度額を下げてみませんか」と声を掛け、希望者に引き下げ方を教えていく取組みです。報道によれば、今年1~4月末に京都府警が認知した特殊詐欺の被害件数は66件(前年同期比8件減)で、被害額は8,590万円(同6%増)に上っているほか、最近は新型コロナウイルスに便乗した被害が確認されるなど、手口は巧妙化しており、府警は警戒を呼び掛けています。

次に金融機関の事例を取り上げます。

  • 相手の恋愛感情につけ込んで現金をだまし取る「国際ロマンス詐欺」を防いだとして、熊本県警熊本南署は、熊本銀行田崎支店に感謝状を贈っています。窓口業務担当の中村さんが、凍結口座へ50万円を振り込んだ50代女性に返金対応をしたところ、女性が「相手の男性から急いで税金を振り込んでと言われている」「大丈夫、だまされていないから」と焦った様子のうえ、振込先の口座が個人名義だったことなどから、中村さんは詐欺を疑い上司に相談、2人で女性を説得しつつ警察に通報し、被害を未然に防いだものです。
  • 特殊詐欺被害の未然防止に貢献したとして、大阪府警寝屋川署は、京都銀行寝屋川支店の行員と、寝屋川市内の郵便局の局員の計4人に感謝状を贈っています。顧客の60代女性からの「市役所から医療費の返金があると連絡があった」という電話に詐欺を疑い、同署に通報したものです。また寝屋川高柳五郵便局の局員は、来店した高齢者の言動から不審に思い、ATMの操作を中止するよう説得するなどし、被害を防いだものです。
  • ニセ電話詐欺の被害を防いだとして福岡県警久留米署は、久留米中央公園前郵便局員の男性に感謝状を贈っています。同局の窓口を訪れた久留米市の84歳女性から「還付金が振り込まれていないか」と尋ねられ、その後、携帯電話で話しながらATMを操作、不審に思った男性が声をかけて電話を代わると、相手が通話を切ったことなどから、郵便局長を通じて警察に通報したものです。
  • (4)「電話de詐欺」の被害を未然に防いだとして、千葉県警館山署は館山那古郵便局の女性職員と館山八幡郵便局の女性職員に感謝状を贈っています。2人は館山那古郵便局で、70代男性が携帯電話で話しながらATMを操作しているのに気づいたため、声をかけると「有料サイトの利用料の未納が30万円あるので振り込まなければいけない」などと話したため、詐欺を疑い、警察に通報、被害を未然に防いだものです。
  • 来店客の振込先を不審に思い、警察に通報したことで詐欺被害を防いだとして、福井県警越前署は、福井信用金庫味真野支店に感謝状を贈っています。越前市在住の40歳代男性が約120万円を持参して来店、振込先と目的を尋ねると、男性は振込先の口座番号とカタカナ表記の名義を頼りに「友人の紹介でコインを買う」と答えたが、名義人の連絡先を知らなかったといいます。不審に思った女性は上司に相談、支店が越前署に通報。男性は立ち去ったが、同署員が男性から事情を聞き、詐欺被害の阻止につながったというものです。報道によれば、福井信金では日常的に支店間で詐欺被害の事例を共有しているといい、女性は「男性は振り込みの目的を正直に答えてくれた。被害に遭う前に防げて良かった」と話しているといいます。
  • 複数の機関が連携してニセ電話詐欺被害を防いだとして福岡県警久留米署は、久留米市の会社役員、北野郵便局主任、筑後信金北野支店長、福岡銀行北野支店課長の4人に感謝状を贈っています。「裁判を回避するため弁済供託金が必要」との電話を信じた80代の女性が、現金250万円を準備するため郵便局、信金、銀行へと足を運んだ。郵便局の山崎さんがATMで女性に声を掛けると「孫から泣きながら電話があった」と説明。山崎さんは詐欺を疑い、警察へ通報すると共に居合わせた知人の中村さんに相談。その後、信金、銀行へと焦る女性に中村さんが付き添って時間を稼ぎ、銀行に警察が駆けつけたというものです。この事例も「お節介」なまでに寄り添った対応が功を奏したものといえます。
  • ニセ電話詐欺の被害を未然に防いだとして、福岡県警田川署は田川農協後藤寺支所の30代と20代の女性職員2人に感謝状を贈っています。60歳代女性が同支所を訪れ、窓口にいた2人にATMの操作方法を尋ね、女性が「市職員を名乗る男から電話があり、介護保険料の還付があるのでATMへ行くよう言われた」などと話したため、2人は詐欺を疑い、市役所に電話して女性に連絡した職員がいないことを確認して同署に通報したものです。しっかりと市役所に事実確認を行っている点が素晴らしい対応だと思います。
  • 北海道警札幌豊平署は、特殊詐欺被害を未然に防いだとして、北洋銀行清田区役所前支店の男性と女性に感謝状を贈っています。2人は、来店した60歳代の女性が、電話をかけながらATMを操作していることに気づいたため、声をかけて話を聞いたところ、女性は、清田区職員を名乗る男に「介護保険料の返還がある」と言われていたことがわかったため、110番したものです。
  • 宜野湾署は、架空請求詐欺を未然に防いだとして、琉球銀行宜野湾支店の男性に感謝状を贈っています。FX投資に関連して、現金を振り込もうと60代男性が琉球銀行宜野湾支店を訪れ、振り込み方法を尋ねた男性が携帯電話を見ながら振り込みをしようとしていたことを男性が不審に思い、男性に入金を一度止めるよう呼び掛けたといいます。男性の許可を得て携帯電話を見ると、女性の名前でやりとりがあるにもかかわらず入金先口座は男性の氏名だったため詐欺を疑い、宜野湾署に通報、架空請求詐欺であることが判明したというものです。携帯電話を確認するところまで踏み込んで対応したことが功を奏したものと言えます。
  • 振り込め詐欺被害を未然に防止したとして、埼玉県警浦和署は、三菱UFJ銀行南浦和支店に感謝状を贈っています。客の不審な様子に気づいた警備員と行員の連携が被害防止につながったものです。埼玉県川口市の80歳代男性が声を荒らげて携帯電話で通話しながら同店に入店し、ATMへ向かった。近くにいた男性警備員は男性の様子がおかしいと感じ、男性行員に報告、行員が話を聞くと「インターネットの利用代金を振り込む」と答えたため、不審に思い、男性と電話を代わったところ、内容から詐欺だと判断して同署に通報したものです。報道によれば、同店では、年に2回、詐欺被害防止などを目的とした防犯訓練を行ったり、定期的に近くで発生した詐欺被害について同署と情報共有したりして、日頃から詐欺行為を警戒しているといいます。

金融機関の方ではありませんが、ATMの周辺に居合わせた一般市民の方の事例もありました。北海道警札幌西署は、架空料金請求詐欺を未然に防いだとして、会社員の男性とスーパー従業員の女性に感謝状を贈っています。男性は、スーパーで、電話をしながらAMを操作する高齢女性を見つけ、「使用料30万円」「すぐに振り込みます」といったやり取りが聞こえたため、詐欺だと思い、声をかけたといいます。さらに、駆けつけた従業員の女性が、女性から電話を代わって被害を防いだというものです。一般市民としての意識の高さと声をかける勇気、女性が電話を代わって対応するという「お節介」なまでの行動力が未然防止につながったものといえます。

次にコンビニの事例を取り上げます。

  • 70代の高齢男性はパソコンの復旧にグーグルの3万円分のプリペイドカードが必要だと言われたため、「詐欺ちゃうか」と思ったものの、ニュースで見聞きする数百万、数千万円といった特殊詐欺の被害額と比べれば、3万円は少なすぎると感じたため支払おうとしたといいます。一方、レジで応対した男性店員は、「3万円分を買う人はめったにいない。しかもおじいちゃんが。おかしい……」と違和感を感じて使い道を尋ねると、「パソコンのウイルスを直すために必要らしい」、「画面に表示された番号に電話すると、プリペイドカードを買うよう指示された」と言われたため詐欺を疑ったということです。店員の洞察力と機転が、特殊詐欺被害の防止につながった事例といえます。報道によれば、店長は「詐欺の防止はコンビニの社会貢献の一つ。これからも当たり前のこととして意識していきたい」と話しており、そのような高い意識が被害防止につながったものと思います。
  • 特殊詐欺被害を防いだとして、三重県警伊賀署は、セブン-イレブン伊賀平野北谷店のアルバイトの女性店員2人と同社社員の男性の計3人に感謝状を贈っています。70代男性が来店し、レジで25万円分の電子マネー購入を申し出たため、高額なことから詐欺を疑ったアルバイトの2人が社員の男性に電話。男性が110番する一方、納得せず店を出ようとする男性を引き留めるため、アルバイトの2人は機械のエラーを装って署員が到着するまでの時間を稼いだということです。報道によれば、男性は署員から説明を受けるまで、だまされている意識はなかったといいます。この事例も店員の洞察力と機転が被害の防止につながったといえます。そして、最後まで詐欺にあっていると意識がなかった点も、特殊詐欺の怖さを象徴しているといえます。
  • 特殊詐欺を未然に防いだとして、宮城県警大和署はセブン-イレブンの男性オーナーに感謝状を贈っています。40歳代の男性が3万円分の電子マネーを購入しようと来店。不審に思った女性アルバイト店員が「詐欺じゃないですか」と男性に声をかけ、同署に連絡したものです。オーナーは、電子マネーを購入する客の様子がおかしければ、積極的に声がけするよう店員に注意喚起していたといいます。日頃からのこうした教育・注意喚起がいかに重要かと思わせる事例だと思います。
  • (4)「パソコンがウイルスに感染した」として、コンビニエンスストアに電子マネーを購入しに来た60代の男性に対し、購入を思いとどまらせ詐欺被害を未然に防いだとして、福岡県警中央署は、コンビニ店長に感謝状を贈っています。電子マネー約6万円分を買い求める男性に店内で申込用紙を発行する途中、用紙の3分の1ほどを占める詐欺啓発の文言に目が留まり、購入目的を尋ねたところ、男性は「自宅のパソコンで『ウイルスに感染している』と警告が出て、表示された連絡先に電話したら『ウイルス除去のため電子マネーを購入してほしい』と言われた」と打ち明けたため詐欺を確信、電子マネーを売らず、警察に通報するよう勧めたといいます。男性ははっと目が覚めたように「ありがとう」と言い、帰宅後すぐに110番。被害を免れたというものです。
  • 兵庫県警川西署は、高齢者に電子マネーの購入を持ちかける架空請求の特殊詐欺被害を防いだセブン-イレブンのアルバイト店員(高校3年)に署長感謝状を贈っています。来店した高齢女性(79)から電子マネーの購入方法を尋ねられたため、女性のスマホの画面を確認すると「電子マネー3000円分を買えば50万円もらえる」などと記載があったため、詐欺を疑い、店長を通じて110番通報し、購入を思いとどまらせたものです。報道によれば、同店は電子マネー取得を目的とした架空請求詐欺を今回を含め6件防いだといい。この店員も「日ごろから高齢者の電子マネー購入には気をつけてきた。被害が出なくて良かった」と話しているといいます。この事例も、過去から何度も被害を防止できているという実績も含め、日頃からの研修・注意喚起がいかに重要かを示す好事例かと思います。
  • 特殊詐欺被害を未然に防いだとして、香川県警高松南署は、セブンイレブン高松一宮町店に感謝状を贈っています。60歳代男性が35,000円分のプリペイドカードを購入しようと、店員に声をかけたため、オーナーらが詳しく聞き取ると、パソコンがウイルスに感染したというメールが届き、対策ソフトの代金を支払うよう指示されていたため、詐欺を疑い、同署に通報したというものです。
  • 大阪府警河内長野署は、電子マネーカードを購入させようとした架空請求詐欺を未然に防いだとして、河内長野市のセブン-イレブンのアルバイトで大学生の男性店員と大学生の女性店員に感謝状を贈っています。60歳代の女性が来店して電子マネーカードの売り場を尋ねたため、男性店員が案内し、購入理由などを聞いたところ、「知らない人に言われた」「55,000円分」などと答えたため不審に思い、女性店員と相談して購入を思いとどまらせ、110番したものです。
  • 特殊詐欺被害を防いだとして、大阪府警岸和田署は、ファミリーマート岸和田並松店の女性店員2人に感謝状を贈っています。60代の女性が電話しながら店内のATMを操作していたため、詐欺を疑った店員2人が女性を説得、現金をだまし取られるのを防いだというものです。女性のもとには、市職員をかたる人物から、還付金があるとの電話があり、女性が操作をしていたころ、店には「弁当が温まっていなかった」と苦情の電話があったといいます。「すぐにビデオを確認しろ」などの内容を不審に思った店員は、店員の注意をそらす手口ではないかと思い、別の店員にATMの様子を見るように依頼、操作をしていた女性を2人で説得したということです。これは正に、詐欺の疑いへの説得とクレーム電話の入電という状況から、冷静に見極めて的確な判断ができたことが大変素晴らしい事例だと思います。
  • 特殊詐欺被害を未然に防いだとして、栃木県警茂木署は、コンビニのパート従業員に感謝状を贈っています。携帯電話で通話しながら来店した70歳代の女性が電子マネーを購入しようとしているのを不審に思い、「使い道は何ですか。詐欺かもしれない」などと声をかけ、通報を受けて駆けつけた警察官が女性に説明し、被害を防ぐことができたものです。
  • 架空料金請求詐欺の被害を未然に防いだとして宮崎県警都城署は、セブン-イレブン三股新馬場店のオーナーと妻、従業員の3人に感謝状を贈っています。70代の女性が店を訪れ、レジにいた橋村さんにスマホの画面を見せて「千円分の電子マネーの買い方を教えて」と尋ねたたため、画面を見ると「22億8千万円受け取り」などと記されており、おかしいと思って和田さん夫妻に相談、詐欺と判断した夫妻は女性を説得すると同時に警察に連絡、警察官5、6人が駆けつけ、被害を防いだものです。
  • 特殊詐欺を未然に防いだとして、埼玉県警がコンビニ店の従業員に感謝状を贈っています。セブン-イレブンに来店した70代の女性が電子マネーを購入しようとしたため事情を聞くと、「パソコンの修理で8万円分のカードが必要になった」と話したため、「そういう詐欺が増えている」と購入を思いとどまらせ110番したものです。
  • 高齢男性が詐欺被害に遭うのを防いだとして、大阪府警豊能署は、セブン-イレブンのオーナーに感謝状を贈っています。来店した80歳代男性が5万円分のプリペイドカードを購入しようとしたことを不審に思い、「ご自身でお使いになるのですか」と声をかけたところ、男性が「パソコン画面にウイルス感染の表示が出たので、示された連絡先に電話をしたらカードを買うように言われた」と説明したため、オーナーが同署に連絡し、被害を防いだものです。
  • 特殊詐欺被害を未然に防いだとして、香川県警高松西署と高松西地区防犯協会連合会は、コンビニの女性店長に感謝状を贈っています。同店で4万円分のプリペイドカードを購入しようとした40代の女性の手が震えていることなどを不審に思い、声をかけると「メールでパソコンの修理代を払うよう指示された」と答えたため、詐欺を疑い110番したものです。ちょっとした挙動を見落とさず、特殊詐欺被害を未然に防いだ好事例だといえます。
  • 高知県警高知南署は、携帯電話で話しながら電子マネーカードを購入した客に声をかけ、架空請求の詐欺被害を防いだとして、コンビニ店オーナーの男性に感謝状を贈っています。中年の女性が携帯電話で指示を受けているような様子でカードを購入したことに気付き、男性が声をかけたところ、女性は、実在の会社名をかたって「携帯電話通信料の滞納金がある。払わないと裁判を起こす」とするメールが届き、電話すると「今すぐ払えば95%を返金する」などと言われたと事情を説明、詐欺だとわかり、男性が通報したものです。なお、男性は、被害を防ぐため、架空請求業者と弁護士が“対決”する動画を参考に見ていたといい、「声をかけてよかった」と話しているということです。日頃からの研修と意識の高さ、声をかける勇気などの賜物だといえます。
  • 北海道小樽市のコンビニエンスストアの店長が、特殊詐欺の被害拡大を防いだとして小樽署から感謝状を贈られています。報道によれば、感謝状を受けたのは1年前に続いて2回目だということです。今回は夫とともに30分かけて客を説得したといいます。「ダメだよ。詐欺だよ」と言うも、女性は「じゃあ別の店で買う」と答えたため、店外にいた女性の夫も招き入れて説得、しかし女性はなかなか詐欺だと信じないため、「警察を呼んでもらおう」と言うまで30分もかかったということです。この女性は前日からほかのコンビニにも足を運び、すでに十数万円の被害に遭っていたようです。やはり、詐欺に遭っていることを認識させることの困難さと、粘り強く説得を続ける「お節介」の重要性がよくわかる事例だといえます。
  • ワンクリック詐欺の被害を防いだとして、大阪府警泉佐野署は、ファミリーマート泉佐野羽倉崎店の店長に感謝状を贈っています。電子マネー4万円分を買いに来た70代男性の言動を不審に思い、詐欺ではないかと声をかけて説得、警察に通報して、被害を防いだものです。誰に買うように頼まれたかを聞いたところ、答えがあいまいで、詐欺を疑ったということです。この事例も、ちょっとした挙動を見落とさなかった点がよかったといえます。

その他、特殊詐欺を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 特殊詐欺被害を未然に防いだとして栃木県警生活安全課は、白鴎大1年生に感謝状を贈っています。「公衆電話を探している」と取り乱す80代男性にスピーカーフォンに切り替えた携帯電話を貸して、不審電話に対処したといい、報道によれば、県警幹部も「機転の利かせ方が警察レベル」と感心しきりだったということです。男性は焦った様子で「携帯電話を貸してほしい」と頼んできたため、不審に思った藤本さんはスピーカーフォンで通話してもらうことにした。電話の相手は男性が藤本さんから電話を借りていることを伝えた途端、「今すぐ切れ」「公衆電話からかけろ」としつこく言い募ってきたということです。
  • 役所が休みの土曜日に、自治体職員などを装って「医療費の還付金がある」などと電話をかけ、金をだまし取る「還付金詐欺」の手口とみられる不審電話が、兵庫県内で相次いでいるといいます。県警は「休日に役所が電話をかけてお金の話をすることはない。詐欺を疑って」と注意を呼びかけています。報道によれば、還付金詐欺絡みの不審電話は、日曜日は少ないが、平日と土曜日は、ほぼ同じ水準か、土曜日の方が多いということです。土曜日だけで見ると、1~4月は1か月平均12件であるところ、5月は3倍以上にあたる37件、6月も5、12日の土曜日だけで計16件に上ったといいます。県警は「閉庁日の土曜日に役所からの電話がかかってくるのはおかしい、と気づいてもらえれば、被害を減らせるはず。冷静に対処してほしい」としています。このような数字を分析した結果に基づく注意喚起は、説得力もあり、印象にも残りやすいといえ、もっと広く周知してもらいたいところです
  • 特殊詐欺被害の抑止などに貢献したとして、警視庁戸塚署は、同署管内の警備会社約20社でつくる団体「警備業戸塚地区協議会」に感謝状を贈呈しています。同協議会は、昨年から同署管内にある無人のATM計4カ所に制服警備員を定期的に配置し、特殊詐欺被害の警戒に当たるボランティア活動を実施、また、管内の区立小学校10校の1年生には、犯罪に遭遇した際に助けを求める緊急用ホイッスルを寄贈するなどしているといいます。
(3)薬物を巡る動向

本コラムでは、継続的に厚生労働省の「大麻等の薬物対策のあり方検討会」の動向を追ってきましたが、このたび、基本的な方向性をとりまとめた報告書が最終的にとりまとめられ、公表されました。若者の乱用への懸念を踏まえた「使用罪」導入の必要性や、大麻から製造された医薬品の使用容認に言及、使用罪については反対意見も併記されています。なお、同省の審議会で、さらに社会復帰支援充実とともに法改正に向けた議論が進められる予定だということです。これまで紹介してきたとおり、報告書は大麻に関する摘発数が増加傾向にあり、昨年は過去最多だったと指摘、背景にインターネットの普及による「大麻は健康に良い」といった誤情報の氾濫を挙げ、有害性に触れた国内外の研究や調査を紹介しています。以下、その概要について、あらためて以下のとおり紹介します。

▼厚生労働省 「大麻等の薬物対策のあり方検討会」とりまとめを公表します~大麻等の薬物対策のあり方に関する基本的な方向について~
▼「大麻等の薬物対策のあり方検討会」概要
  • 設置趣旨
    • 我が国における薬物行政については、戦後制定された薬物4法を基本として、取締りをはじめとした各種施策が実施されてきたところであるが、このような取組の結果、違法薬物の生涯経験率は諸外国と比較して、著しく低くなっているなど、高い成果を挙げてきている。(違法薬物の生涯経験率は、欧米では30%から40%程度であるが、日本は2%程度。)
    • 一方で、大麻事犯が増加傾向にあり、特に、若年層における大麻乱用の急増や、再犯率が増加しているとともに、大麻ワックスなど人体への影響が高い多様な製品の流通が拡大している。
    • また、昨今、医療技術の進展等を踏まえ、諸外国において、大麻を使用した医薬品が上市されているとともに、CND(国連麻薬委員会)においても、大麻の医療用途等への活用に向けた議論が進められているところである。
    • このような社会状況の変化や国際的な動向等も踏まえつつ、今後の薬物対策のあり方を議論するため、標記検討会を設置する。
  • 大麻等の薬物対策のあり方検討会とりまとめ(ポイント)
    1. 成分に着目した規制
      • 大麻取締法においては、大麻草の部位による規制を行っているところであるが、実態としてはTHC(テトラヒドロカンナビノール)という有害成分に着目して取締りを行っていることや、規制すべき物質は有害な精神作用を示すTHCであることから、大麻草が含有する成分(THC)に着目した規制に見直すことが適当である。
    2. 大麻から製造された医薬品の施用に関する見直し
      • WHO勧告により大麻から製造された医薬品の有用性が認められる等、近年の諸外国の動向やその医療上の有用性を踏まえて、現行の麻薬及び向精神薬取締法に規定される免許制度等の流通管理の仕組みの導入を前提として、大麻から製造された医薬品の製造や施用を可能とすべきである。
    3. 大麻の「使用」に対する罰則
      • 法制定時に大麻の使用に対する罰則を設けなかった理由である「麻酔い」は現状において確認されず、大麻から製造された医薬品の不正使用の取締りの観点や他の薬物法規との整合性の観点からは、大麻の使用に対し罰則を科さない合理的な理由は見い出し難い。
      • また、使用に対する罰則が規定されていないことが、「大麻を使用してもよい」というメッセージと受け止められかねない状況にあることから、他の薬物法規と同様、大麻の使用に対し罰則を科すことが必要であるという意見が多かった。
      • 一方、国際的な回復支援の流れに逆行することになるのではないか、使用罪の導入が大麻使用の抑制につながるという論拠が乏しい、大麻事犯の検挙者数の増加に伴い、国内において、暴力事件や交通事故、また、精神障害者が増加しているという事実は確認されておらず、大麻の使用が社会的な弊害を生じさせているとはいえない、刑罰により罰することは孤立を深め、スティグマを助長するなどの理由から、3名の委員より反対意見があった。
    4. 再乱用防止と社会復帰支援の推進
      • 刑事司法関係機関等における社会復帰に繋げる指導・支援、医療提供体制に係る取組の継続及び地域社会における本人・家族等への支援体制の充実により、再乱用防止と社会復帰支援を進めていく必要がある。

また、大麻の若年層への蔓延が深刻であることはこれまでも指摘してきたとおりですが、大麻による検挙者のうち20代は2,612人、10代は899人で、10代には中学生が8人、高校生が159人含まれています。関連して、2021年6月21日付朝日新聞によれば、大阪府警が昨年、大麻取締法違反容疑で摘発した20歳未満の人は114人に達し、1990年以降で最多を更新したといいます。大阪府警が、大麻を使い始めたきっかけを少年課が聞き取ったところ、「友人や先輩に勧められた」との回答が目立ち、「ネットの情報」と答えた人も3割いたといいます(なお、入手経路で最も多かったのはSMSで43.0%、次いで「先輩や友人」が多く38.6%。理由については「周辺者が使用していた」が全体のおよそ4割を占めたということです)。ネット上では「酒やたばこの方が害が大きい」、「使っても依存症にならない」といった情報が飛び交っているほか、近年、カナダや米国の一部州で大麻使用が合法化されたことを好意的に受け止め、「日本は取り残されている」という声もあることが影響していると考えられます。これまで本コラムで指摘してことですが、大麻は繰り返し使ううちに依存症を招き、認知機能や判断能力の低下をもたらすこと、その結果、ものごとの善悪が判断しづらくなり、幻覚作用も相まって、犯罪行為に手を染めてしまう事例も数多くあること、合法化に踏み切った国や地域の多くは違法薬物が日本より蔓延しており、有害性の観点より、取り締まりへの財政負担を減らすなどのねらいが大きいことなど、もっと正しい知識をネット上の不確かな情報の流布を上回って啓蒙につながるような取組みが急務だといえます。また、この大阪府警では、動機など取り調べで聞き取った内容について、臨床心理士らが傾向を分析する取り組みを始めたということです。報道によれば、分析結果は学校現場に提供して薬物乱用防止教育に役立ててもらい、広がる大麻汚染に歯止めをかける狙いがあるといいます。

厚生労働大臣を議長とし、関係閣僚で構成される薬物乱用対策推進会議が、「第五次薬物乱用防止五か年戦略」フォローアップを取りまとめ、公表しています。また、同時に、令和2年のわが国の薬物情勢にかかる統計指標を集計し、公表しています。本資料は、2018年8月に同会議で策定した「第五次薬物乱用防止五か年戦略」の5つの目標に関してフォローアップを行い、その状況や結果を取りまとめたものとなります。以下にその内容を紹介します。例えば「新入社員等を対象とした薬物乱用防止講習や児童・保護者等を対象とした出前講座の実施」などは、あまり知られていない部分と思われ、地道は活動が薬物事犯の減少につながることを期待せずにはおれません。

▼厚生労働省 「第五次薬物乱用防止五か年戦略」フォローアップについて(令和2年の薬物情勢公表)
▼「第五次薬物乱用防止五か年戦略」フォローアップの概要
  • 令和2年の薬物情勢
    • 薬物事犯の検挙人員は、14,567人(+707人、+10%)と前年より増加した。うち、覚せい剤事犯の検挙人員は、8,654人(▲76人、▲0.87%)と前年に引き続き1万人を下回った。一方、大麻事犯の検挙人員は、5,260人(+690人、+15.10%)と7年連続で増加し、過去最多を更新した。
    • 覚せい剤の押収量は4kg(▲1,825.3㎏、▲68.89%)、乾燥大麻の押収量は299.1kg(▲131.0㎏、▲30.46%)と、いずれも前年より減少した。
    • 一方、コカインの押収量は7kg(+181.8kg、+28.41%)、MDMA等錠剤型合成麻薬の押収量は106,308錠(+32,393錠、+43.82%)と前年より大幅に増加した。
    • 薬物密輸入事犯の検挙件数は、286件(▲278件、▲29%)、検挙人員は330人(▲265人、▲44.54%)と、いずれも前年より減少した。
    • 30歳未満の検挙人員は、覚醒剤事犯は前年より減少したが、大麻事犯は7年連続で増加して過去最多を更新し、大麻事犯全体の検挙人員の7%(+9.3P)となった。
    • 覚醒剤事犯の再犯者率は、6%(+2.6P)と14年連続で増加し、過去最高を更新した。
    • 危険ドラッグ事犯の検挙人員は、159人(▲41人、▲5%)と前年よりさらに減少した。
  • 目標1 青少年を中心とした広報・啓発を通じた国民全体の規範意識の向上による薬物乱用未然防止
    • 薬物の専門知識を有する各関係機関の職員等が連携し、学校等において薬物乱用防止教室を実施したほか、各種啓発資料の作成・配付を行った。〔文科・警察・法務・財務・厚労〕
    • 乱用の拡大が懸念される若年層に対し、薬物乱用の危険性・有害性に関する正しい知識を普及するため、新入社員等を対象とした薬物乱用防止講習や児童・保護者等を対象とした出前講座の実施、有職・無職少年を対象とした薬物乱用防止読本の作成・配布、政府広報としてインターネット広告やラジオ番組等による情報発信等の広報啓発活動を実施した。〔内閣府・警察・総務・文科・厚労〕
    • 各種運動、薬物乱用防止に関する講演、街頭キャンペーン等、地域住民を対象とした広報啓発活動を実施するとともに、ウェブサイトやリーフレット等の啓発資材に相談窓口を掲載し、広く周知した。〔内閣府・警察・消費者・法務・財務・文科・厚労〕
    • 海外渡航者が安易に大麻に手を出さないよう、法規制や有害性を訴えるポスターの活用を図ったほか、ウェブサイトやSNS等で注意喚起を実施した。〔警察・外務・財務・厚労〕
  • 目標2 薬物乱用者に対する適切な治療と効果的な社会復帰支援による再乱用防止
    • 「依存症対策総合支援事業」の実施により、依存症専門医療機関及び依存症治療拠点機関の選定を推進するとともに、「依存症対策全国拠点機関設置運営事業」により医療従事者の依存症治療に対する専門的な能力の向上と地域における相談・治療等の指導者となる人材の養成を実施した。〔厚労〕
    • 薬物事犯により検挙され、保護観察処分が付かない執行猶予判決を受けた者等、相談の機会が必要と認められる薬物乱用者に対して、再乱用防止プログラムの実施を強化するとともに、パンフレットを配布して全国の精神保健福祉センターや家族会等を紹介するなど情報提供を実施した。〔厚労・警察〕
    • 薬物事犯者の処遇プログラムを担当する職員への研修等の実施により、職員の専門性向上を図るとともに、関係機関と連携し、各機関が有する責任、機能又は役割に応じた支援を切れ目なく実施した。〔法務・厚労〕
    • 保健所、精神保健福祉センター、民間支援団体等と連携して家族会等を実施するとともに、再非行に走る可能性のある少年やその保護者に対し、積極的に指導・助言等の支援活動を行った。〔法務・厚労・警察〕
  • 目標3 薬物密売組織の壊滅、末端乱用者に対する取締りの徹底及び多様化する乱用薬物等に対する迅速な対応による薬物の流通阻止
    • 通信傍受、コントロールド・デリバリー等の捜査手法の効果的な活用に努め、薬物密売組織の中枢に位置する首領や幹部に焦点を当てた取締りを推進した結果、令和2年中、首領・幹部を含む暴力団構成員等4,408人を検挙した。〔警察・法務・財務・厚労・海保〕
    • 令和2年中、麻薬特例法第11条等に基づく薬物犯罪収益等の没収規定を66人に、同法第13条に基づく薬物犯罪収益等の追徴規定を211人にそれぞれ適用し、没収・追徴額の合計は約1億6,010万円に上った。〔法務〕
    • 迅速な鑑定体制を構築し、未規制物質や新たな形態の規制薬物の鑑定に対応するため、資機材の整備を行うとともに、薬物分析手法にかかる研究・開発を推進し、会議等を通じ関係省庁間で情報を共有した。〔警察・財務・厚労・海保〕
    • 大麻の乱用拡大や諸外国における大麻を使用した医薬品の上市等を踏まえ、医学、薬学、法学の有識者を構成員とする「大麻等の薬物対策のあり方検討会」を開催し、今後の薬物対策のあり方などについて議論を行った。〔厚労〕
  • 目標4 水際対策の徹底による薬物の密輸入阻止
    • 関係機関間において緊密な連携を取り、捜査・調査手法を共有した結果、統一的な戦略の下に効果的、効率的な取締りが実施され、令和2年中、水際において、約1,906キログラムの不正薬物の密輸を阻止した。〔警察・財務・厚労・海保〕
    • 麻薬等の原料物質に係る輸出入の動向及び使用実態を把握するため、国連麻薬統制委員会(INCB)と情報交換を行うとともに、関係機関と連携し、麻薬等の原料物質取扱業者に対し、管理及び流通状況等にかかる合同立入検査等を実施した。〔厚労・経産・海保〕
    • 訪日外国人の規制薬物持ち込み防止のため、関係省庁のウェブサイト等での情報発信に加え、民間団体等に対して広報協力の働きかけを行うとともに、国際会議や在外関係機関を通じて広報・啓発を実施した。〔警察・財務・厚労・海保〕
  • 目標5 国際社会の一員としての国際連携・協力を通じた薬物乱用防止
    • 国際捜査共助等を活用し、国際捜査協力を推進するとともに、国際的な共同オペレーションを進めた結果、薬物密輸入事案を摘発した。〔法務、警察、財務、厚労、海保〕
    • 第63会期国連麻薬委員会(CND)会期間会合、アジア太平洋薬物取締機関長会議(HONLAP)臨時会合等に出席し、参加各国における薬物取締状況や薬物の密輸動向及び取締対策等に関する情報を入手するとともに、国際機関や諸外国関係者等と積極的な意見交換を行い、我が国の立場や取組について情報共有を図った。〔警察・外務・財務・厚労・海保〕
  • 当面の主な課題
    • 令和2年の我が国の薬物情勢は、大麻事犯の検挙人員が7年連続で増加し、5年連続で過去最多を更新するなど、大麻乱用の拡大が顕著であり、「大麻乱用期」とも言える状況となっている。特に、30歳未満の大麻事犯は、大麻事犯全体の65%以上を占めており、若年層における乱用拡大が懸念されている。一方で、諸外国において大麻に由来する医薬品が上市され、国際会議等においても大麻の医療用途等への活用に向けた議論が行われている。こうしたことから、取締りのより一層の強化や若年層に焦点を当てた効果的な広報・啓発活動を推進するとともに、「大麻等の薬物対策のあり方検討会」における議論の結果も踏まえ、社会状況の変化や国際的な動向等も踏まえた今後の薬物対策のあり方について、引き続き検討する必要がある。
    • また、本年は東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催が見込まれており、今後、貨物等に隠匿して密輸入する事犯等の増加が懸念されることから、国内外の関係機関が連携を強化し、コントロールド・デリバリー捜査を積極的に活用するなど、徹底した水際対策を実施する必要がある
    • 覚せい剤事犯の検挙人員は前年に引き続き1万人を下回ったものの、再犯者率は14年前から現在まで上昇し続け、上昇に歯止めがかかっていない状況であることから、関係省庁との連携を強化し、薬物乱用者に対する適切な治療・処遇と効果的な社会復帰支援をこれまで以上に推進する必要がある

さて、福岡市博多区のマンションを拠点に宅配代行サービスの配達員を装って大麻を密売したなどとして、九州厚生局麻薬取締部が福岡県内の男3人を大麻取締法違反容疑などで逮捕しています。報道によれば、3人は暴力団に属さない反社会的勢力「半グレ」のメンバーで、今年1月以降、複数回にわたって逮捕され、いずれも起訴されているといいます。昨年9月から今年1月までの間、営利目的で客の男女6人に液体大麻や合成麻薬のLSDを譲り渡すなどした疑いがあるとして、6月21日に追送検されています。注目したいのがその手口で、報道によれば、薬物は1人の男が調達、ほかの2人が原付きバイクで客の自宅へ配達するなどしており、実際の配達員が使っているデリバリーバッグに薬物を入れ、薬物の代金のほか、1回1,000円の配達料を徴収、半年間で数百万円を売り上げていたといいます。配達しっていた男は実際の配達員として登録し、その直後から密売を繰り返していたとみられ、「配達員を装えば、捜査機関にばれずに密売できるという話が仲間の間で広まっていた」といい、薬物の蔓延だけでなく、そのデリバリーの手法も(おそらくは気軽に)共有されているという点でかなりの危機感を覚えます。さらに、客との取引や薬物の調達には、本コラムではおなじみの、米国で開発されメッセージのやり取りが一定時間で消去されるSNS「シグナル」を使用していたということです。

次に、薬物を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 大量の乾燥大麻を自宅で隠し持っていたなどとして、長野県警伊那署と県警組織犯罪対策課は、伊那市の男2人を大麻取締法違反容疑などで逮捕・送検、2人が同居する同市の自宅から乾燥大麻約76キロを押収しています。報道によれば、長野県内の乾燥大麻押収量としては記録が残る1990年以降最多で、末端価格は4億5,600万円に上るといいます。2人は大麻を栽培する目的で知り合い、山梨県内の休耕田で大麻を栽培していたようです。なお、2人は共同生活を送っていたとみられますが、一方がロープで縛り上げるなどの暴行を受け、大麻の乾燥作業を迫られたなどと県警に通報、もう一方が監禁致傷の疑いでも逮捕されたということです。
  • 神奈川、埼玉両県警などの合同捜査本部は、香港から覚せい剤約297キロ(末端価格178億円相当)を密輸したとして、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)の疑いで、外国籍の男女2人を逮捕しています。国内での覚醒剤の押収量としては今年最大となりました。報道によれば、逮捕されたのはカナダ国籍の容疑者と中国籍の容疑者で、香港から横浜港に貨物船で運ばれたコンテナ内のレーザー加工機内に覚せい剤を隠し、輸入した疑いがもたれており、税関職員が4月に覚せい剤を発見、差し押さえたということです。
  • 自宅で栽培した大麻をインターネットで密売するなどしていたとして、東海北陸厚生局麻薬取締部は、大麻取締法違反(営利目的栽培)などの疑いで、無職の容疑者を逮捕しています。報道によれば、「新型コロナウイルス禍で昨春ごろ、職を失い、密売を始めた」と供述しているといいます。同部は、容疑者宅から大麻約780グラムや大麻草26株、合成麻薬MDMAなどを押収、これまでに数百万円を売り上げていたとみているといいます。また、13都府県にSNSで募った客がいたとみられ、全国でこれまでに5人を逮捕、一部の客は容疑者から購入した大麻を転売していたといいます。なお、インターネット上で募った客と一定時間で通信記録が消えるアプリで連絡し、暗号資産で売買代金をやりとりしていたといいます。
  • 2019年4月、米ロサンゼルスの空港から羽田空港に到着した際、持っていたスーツケースに約1,978グラムの覚せい剤が入っているのが税関の検査で見つかり、米国から覚せい剤を密輸しようとしたとして、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)罪などに問われた男性被告の控訴審判決で、東京高裁は、懲役9年とした1審東京地裁の裁判員裁判判決を破棄し、無罪を言い渡しています。報道によれば、判決は、被告を旅行に誘った同行者の男が現地で覚せい剤を入手し、被告に運ばせた疑いがあると指摘、「土産物として購入したコーヒー豆の袋をすり替えられた」とする被告側の主張は否定できないとして、「違法薬物と認識していたとは認められない」と判断したようです。
  • 大麻の密売人2人をゆすったなどとして、恐喝や営利目的略取などの罪に問われた大工と電気工事士の両被告に対する初公判が地裁であり、2人は起訴事実を認め、検察側はそれぞれ懲役3年を求刑して、即日結審しています。報道によれば、公判で検察側は、被告ら5人のグループが「後ろめたいことをする人から、楽してもうけよう」などと申し合わせ、SNSを介して密売人に接近したと主張、接触役、取引の撮影役、脅迫役などに分かれ、被害者の1人が逃げ出した際には金属棒で殴打するなどし、執拗に金を要求したとし、論告で「正義感から被害者の行為を糾弾したものではない」と指摘しています。
  • 出演者の薬物事件を理由に、映画の助成金交付を撤回したのは違法だとして、映画製作・配給会社が独立行政法人「日本芸術文化振興会」に不交付決定の取り消しを求めた訴訟で、東京地裁は、決定を取り消す判決を言い渡しています。報道によれば、裁判長は「違法な裁量権の乱用にあたる」と述べたといいます。振興会側は「助成事業は公金が財源で、『国が薬物乱用に寛容だ』と誤解されかねない。助成金の交付は薬物乱用の防止という公益に反する」などと主張するも、判決は「出演時間は約11分にすぎず、観客らに誤解が広まるおそれは認めがたい」と指摘、助成事業は芸術や文化の振興が目的である点を重視し、交付の撤回には厳格な判断が必要だと結論づけています。出演者の薬物事犯の発覚により、作品自体が日の目を見なくなるといった事例が相次いでいますが、それは「行き過ぎではないか」という声も一定程度あるのも事実であり(筆者もそのようなスタンスです)、それが、「一発アウト」の風潮をより強固なものにしてしまう、それによって薬物からの回復・社会復帰も困難になるという悪循環となっています。作品に罪はなく、憎むべきは薬物であり、薬物からの更生・社会復帰を支援する流れになることを期待したいと思います。
  • 2021年6月29日付ロイターによれば、メキシコの最高裁判所は、政府と議会は嗜好用マリフアナの使用を合法化すべきとの判断を下しています。嗜好用マリフアナの合法化法案の審議が頓挫している上院に承認を求める圧力が高まるとみられています。ロペスオブラドール大統領が支持する同法案は、長年にわたり麻薬カルテル間の抗争に悩まされてきたメキシコに大きな変化をもたらし、米国やカナダのマリフア関連企業に巨大な市場を開放する可能性があり、アルトゥーロ・サルディバル最高裁判事は、自身のツイッターに「自由のための歴史的な日」と書き込んでいるといいます。今回の判決は、マリフアナとその主要な活性成分であるTHCの非医療的・科学的使用禁止の合法性を巡り、長きにわたって争われてきた裁判の最終段階となります。
    南米コロンビアのモラノ国防相は、西部ナリニョ州サマニエゴ近郊で同国最大の左翼ゲリラ「民族解放軍(ELN)」のコカイン密造工場を摘発し、6トンのコカインを押収するとともに精製施設を破壊したと発表しています。報道によれば、工場は1カ月に1~2トンのコカイン生産能力を有し、毎月800万ドル(約8億8,400万円)の利益を生み出していたとみられています。
(4)テロリスクを巡る動向

公安調査庁は、2021年版「国際テロリズム要覧」を公表したと報じられています(残念ながら、原稿執筆時点で公安調査庁のHPでは確認できていません)。報道(2021年7月9日付時事通信)によれば、世界中で新型コロナウイルスの感染が広がったことから、その影響を特集しており、テロ組織の新たな動向として「感染拡大に起因する社会や経済の不安定な状況に乗じて活動を活発化させたり、勢力を拡大させたりする恐れがある」と警鐘を鳴らしているといいます。また、要覧はコロナの影響に関し、「長期的視点でテロ組織の動向を注視していくことが重要」と指摘、イスラム過激派組織が細菌やウイルスを使ったバイオテロを実行する可能性があるとの認識を示しています(本件については、データ等で公表され次第、あらためて報告したいと思います)。

さて、東京五輪・パラリンピックが間近に迫ってきました。JR東日本は、東京五輪・パラリンピックの期間中に、首都圏の在来線と新幹線の主要駅で不審人物に対する手荷物検査を実施すると発表しています。新幹線駅やターミナル駅の一部で、23日の五輪開会式の数日前から運用を始めるといい、危険物探知犬や、不審な動きや放置された荷物などを検知する防犯カメラを使って不審な人物や物を探し、仮設の検査場で手荷物などを調べるとしています。また、検知機能のある防犯カメラを大会終了後も使うとしています。なお、検査を拒否した場合は、7月1日に施行された国土交通省令「鉄道運輸規程」に基づき、駅からの退去を求めたり、検査場に常駐する警察官に引き渡したりすることになります(本省令については、前回の本コラム(暴排トピックス2021年6月号)を参照ください)。

▼JR東日本 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた鉄道セキュリティ向上の取り組みについて
  • 東日本旅客鉄道株式会社では、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、「東京2020大会」といいます。)に向けて、お客さまに安全かつ安心してご利用いただけるよう、鉄道のセキュリティ向上に取り組んでいます。
  • 東京2020大会の期間中、首都圏の一部駅において、危険物探知犬や不審者・不審物検知機能を有した防犯カメラを活用し、手荷物検査を実施するほか、警備業務へのウェアラブルカメラの活用など、新たな警備手法を導入し、更なるセキュリティ向上を図ります。
  • ハード対策として、これまで計画的に整備を進めてきた駅、列車内、車両基地、変電所、線路沿線などにおける防犯カメラなどを活用し、警戒警備を実施します。
  • ソフト対策として、社員や警備員による列車警乗や駅などにおける巡回・立哨警備を強化するとともに、警察や警備会社などと連携した訓練や教育に取り組んでいます
  1. 新たなセキュリティ対策の取り組み
    1. 手荷物検査の実施
      駅や列車内への危険物持込みを防止するため、首都圏の新幹線および在来線の一部駅において手荷物検査を実施する場合があります。なお、手荷物検査の対象者は、「危険物探知犬」「不審者・不審物検知機能を有した防犯カメラ」を用いて特定します。
      • 危険物探知犬の活用
        特別な訓練を受けた危険物探知犬が、ハンドラーおよび警備員とともに、手荷物などを探索します。
      • 不審者・不審物検知機能を有した防犯カメラの導入
        • 不審者・不審物検知機能(うろつきなどの行動解析、顔認証技術)を有した防犯カメラを導入し、不審者などを探索します。
        • 検知した場合、専門部署(セキュリティセンター)から付近の警備員に一報し、駆け付け・声掛けなど、迅速な対応を行います。
        • ※手荷物検査に際しては、7月1日に施行された一部改正後の鉄道運輸規程に基づき、警備員が警察と連携して実施します。
        • ※行動解析によりお客さま個人を特定することはありません。
        • ※顔認証技術の導入に当たっては、個人情報保護委員会事務局にも相談の上、法令に則った措置を講じています
    2. 警備員にウェアラブルカメラを導入
      新幹線車内を巡回する警備員などがウェアラブルカメラを装着して警備を行います。異常時には、ライブ映像を確認しながら、遠隔で後方支援することで、迅速かつ的確に対応を行います。
      ※ウェアラブルカメラは防犯カメラの用途にのみ使用します。
  2. 主なハード対策
    1. 防犯カメラのネットワーク化によるセキュリティセンターでの集中監視
      • 新幹線・在来線の主要駅(約110駅・約5,800台)
      • 新幹線・在来線の車両基地の一部(約70カ所・約800台)
      • 新幹線・在来線の変電所など(約600カ所・約1,200台)
      • 新幹線・在来線の線路沿線(約400カ所・約550台)
    2. センサーなどを活用した機械警備の実施
      • サーマルカメラ、赤外線センサーによる機械警備→新幹線・在来線の車両基地等
    3. 非常時画像伝送システムを活用した警察との連携
      テロなどの非常事態が発生した場合に、ネットワーク化した駅の防犯カメラの画像を非常時画像伝送システムにより警察に伝送し、警察と連携して対処していきます。
      ※(1)(2)において異常を認めた際は、警備員などが駆け付けて対処します。
  3. 主なソフト対策
    1. 社員や警備員による警備強化
      • 列車警乗の実施
      • 駅、列車内、重要施設(車両基地、変電所など)の巡回・立哨警備の強化
    2. 警察や警備会社などと連携した訓練・教育
      • 車内や駅において、爆破などのテロ対応や暴漢対策に関する訓練などを実施
      • 鉄道事業に従事する全社員を対象に、対応リーフレットなどを活用した教育を実施
      • 連絡協議会などによる警察との定期的な意見交換

東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、テロ対策は重要なテーマの一つですが、さまざまな訓練に関する情報が報じられています。例えば、以下のようなものです。

  • 愛知県警、JR東海などは、名古屋市港区の「リニア・鉄道館」で、新幹線車内で刃物を持った乗客が騒ぐなどの緊急事態を想定した合同訓練を行っています。訓練は計40人が参加し、同館に展示されている新幹線N700系の車両を使用したということです。東海道新幹線の車内でトラブルになった乗客の男が刃物を取り出す場面など2パターンを想定、乗車中の警察官が車掌や警備員と連携し、犯人役の男を取り押さえるなどしたということです。
  • 参加選手らが拠点とする選手村で、警視庁が爆発物など不審物の有無を確認する「特別検索」を実施しています。機動隊員ら約1,000人のほか、爆発物を探知できる警備犬も出動し、選手が宿泊する居住棟の内部や屋上、周辺道路の植え込みやマンホール内に不審物がないか調べたということです。選手村は7月13日に開村する予定で、今後警備を強化するとしています。
  • 警視庁は、東京都千代田区の同庁本部で、警備犬や遠隔操作ロボットを使った爆発物処理訓練を公開しています。訓練では、警備犬が発見した爆発物と見立てた不審物を遠隔操作ロボットで持ち上げ、処理専用の特殊車両に運びました。報道によれば、緒方副総監は「暴力によって大会の進行を妨害し、選手や国民を危険にさらす行為は許すことはできない」と述べたということです。訓練会場では、テロ防止への協力を呼び掛けるため、漫画「鬼平犯科帳」の主人公・長谷川平蔵が「テロなき未来へ、ともに参らん!」と呼び掛けるイラストがデザインされた都営バスも披露され、8月末まで会場周辺などを走るということです。
  • 警視庁は開幕1カ月前にあたる6月22日、東京都内の警察施設でテロリストなどに対処する大規模訓練を行っています。報道によれば、五輪に乗じてテロリストがバスジャックを行ったと想定した訓練では、特殊急襲部隊(SAT)が閃光弾を使ってバス内に突入し、乗客役らを保護する訓練が、要人が路上で襲われたとする訓練では、警護員(SP)が連携して暴徒を制圧する訓練が公開されました。斉藤警視総監は「東京に集う全ての人の安全と安心を確保しなければならない」と訓示しています。
  • 東京五輪・パラリンピックを狙うテロを防ぐための合同訓練が同じく6月22日、海外から大会に関係する航空貨物を受け入れる関西国際空港で実施されています。貨物に爆発物が仕掛けられたとの想定で大阪府警や大阪税関関西空港税関支署(関空税関)など5機関から約50人が参加し、課題を検証しています。貨物テロ対策の合同訓練は関空では初めてで、報道によれば、大会では選手団の手荷物や試合で使用する資材などで貨物受け入れの増加が想定されるところ、関空税関は「五輪のような国際イベントではテロが発生しやすいのが世界的傾向。新型コロナウイルスで旅客が減り、貨物が狙われる可能性が高まっている」と警戒しているということです。

なお、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う上陸拒否の措置に背いて上陸したなどとして、福岡海上保安部が、ロシア籍の船の乗組員の男2人を入管難民法違反(不法上陸など)の疑いで逮捕しています。報道によれば、自称船員、自称船舶代理店業の両容疑者は、6月17日夜から18日未明にかけて、係留中の船からゴムボートに乗り、福岡市内の海浜公園の砂浜に不法に上陸するなどした疑いがもたれています。法務省はコロナ対策として、指定する国・地域に直近の滞在歴がある外国人の上陸を拒否しており、ロシアも含まれています。本件は、コロナ対策の観点から報じられていますが、テロリストの上陸はこのように夜間、ゴムボート等を利用して行われることも考えられるところです。日本は、四方を海に囲まれており、海岸線がとても長いことから、侵入する側からみれば、監視態勢の手薄なところから、見つかりにくい形でアプローチ可能な場所が豊富にあることになります。本件をテロ対策の視点からあらためて検証し、本番に備えることが重要だと考えます

さて、アフガン情勢については、本コラムでも継続的に注目してきましたが、米軍の撤退が予定よりかなり早まる見込みで進捗しています。一方、反政府勢力タリバンは、実効支配する地域を確実に拡大しており、米軍撤退後のアフガン情勢の混乱が現実のものとなってきました。このあたりの最新の状況については、2021年7月9日付日本経済新聞の記事「バイデン氏「テロの脅威排除」 アフガン撤収8月末完了 タリバン、要衝を相次ぎ制圧」にまとめられていますので、以下、抜粋して引用します。

バイデン米大統領は8日、米軍のアフガニスタン撤収を8月末に完了させると表明した。米本土に対するテロの脅威を取り除く戦争の目的を達成したと強調した。アフガンの国家づくりを主導することが戦争の目的ではないと訴え、早期の米軍撤収を正当化した。一方、アフガンの反政府武装勢力タリバンは政府軍を攻め、要衝を相次ぎ陥落させている。「20年前の世界に対応した政策を続けられない」。バイデン氏は8日、ホワイトハウスで演説し、撤収の理由を力説した。2001年の米同時テロを起こした国際テロ組織アルカイダの指導者だったウサマ・ビンラディン容疑者を殺害し、組織を弱体化させた成果をあげて「戦争の目標を達成した」と訴えた。テロとの戦いに区切りをつけて「中国との戦略的競争に対峙する米国の根本的な強みを磨いていく」と強調した。アフガン戦争の目的が米本土に対するテロの脅威を低めることだったと繰り返した。タリバンはアフガンで外国部隊を標的にしてきたが、米本土は主な攻撃対象でない。アルカイダとは異なる。足元ではアフガンの治安が一段と悪化し、バイデン氏は撤収を予定通りに進める根拠の説明を迫られていた。…アフガンのタリバンの支配地域は6月末時点で157地域と、2カ月間で2倍に増えた。地域数をベースにすればアフガンの約4割にあたる。駐留米軍のスコット・ミラー司令官は「流れを変えなければ内戦に陥る可能性がある」と指摘した。タリバンは9日までに対イラン国境の重要な地域を制圧した。イラン方面からの石油輸入ルートだとみられる。ロシア外務省高官は同日、タリバンがタジキスタンとの国境の3分の2を掌握したと明かした。タリバン政治部門の交渉担当者シャハブディン・デラワール氏は9日、訪問先のモスクワで記者会見を開き、「アフガンの85%を支配下に置いた」と主張した。タリバンの攻勢により、政府側の支配地域は首都カブールなど一部に狭まったという。…バイデン氏は「国家建設のためにアフガンに行ったわけではない」とも述べ、国づくりを主導しない立場を鮮明にした。…撤収の完了時期は8月末だと明言した。米軍は6日、撤収が「90%以上、完了した」と明らかにしたが、さらに2カ月近くかかることになる。戦争で米国に協力したアフガン人の通訳や運転手、警備員を米国に受け入れる手続きが遅れているためとみられる。協力者はタリバンから迫害を受ける可能性があり、米議会では米軍が通訳らをアフガンに残したまま撤収を終えるべきではないとの声が出ていた。

バイデン大統領は、タリバンがアフガン全土を支配する可能性は「極めて低い」と指摘し、完全撤収方針を堅持する姿勢を強調しました。さらに「アフガン政府とタリバンが和平に関する取り決めを結ぶ以外に、平和をもたらす方法はない」と述べ、軍事的解決は見込めないとの考えを示した上で、現地に米国大使館を残し、アフガン政府治安部隊に対する必要物資の提供などの支援を継続すると改めて表明しています。これまで見てきたとおり、米は、ここにきて撤退を急ぎ、自らの行為を正当化する主張を前面に押し出している印象がありますが、本当にアフガンがタリバンに支配される可能性が極めて低いのか、後方支援だけでそれが実現できると考えているのか、については、実は怪しさが拭えません(もちろん、その本音としては、20年間に及ぶアフガン戦争を冷ややかに見る世論に配慮すること、テロとの戦いに区切りをつけて中国との競争に注力すること、米情報機関の分析では、米軍撤退後、少なくとも2年間はアフガン政府を維持できると見ていたところ、半年から1年で崩壊する可能性が視野に入っていること、「仮にアフガン政府が崩壊しても政権運営には大きく響かない」との認識があること、などがあると推測されます)。

現状では、アフガン各地でタリバンがアフガン政府軍に波状攻撃を仕掛けており、各地の拠点都市の陥落は時間の問題であり、見通しは総じて厳しいといえます。全土での一斉攻撃の様相を前に、アフガン軍や治安部隊は兵力を集中投入できず、多方面作戦を強いられ、戦力は分散してしまっていることに加え、米軍撤収の結果、全土の戦地に向かう空爆の支援がなくなれば、一層苦しい状況を迎えるのは必至の情勢です。今後、次々と州都が陥落すれば、アフガン政府は有名無実化することは目に見えており、米が念頭に置く、アフガン政府とタリバンとの和平による共存も宙に浮いたまま、米軍の撤収だけが進んでいく「奇妙な」構図となります(このあたりは、野党の共和党から、「米国最長の戦争」を終わらせるという政治的思惑が優先され、「計画と準備を欠いている」(マッコール下院議員)との批判も強く、アフガン国内に存在する国際テロ組織アルカイダやイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)系の武装勢力による対米攻撃の阻止に向け、どのように情報収集や対テロ作戦を実施していくのか、現時点で米政権の方針は定まっていないようです)。

やはり、アフガンがかつてのような内戦状況に陥り、「テロの温床」となる事態は絶対に避けたいところです。米は、周辺国の協力を得て、出撃拠点の確保など、いざというときの態勢を整えるべきだし、日本を含む国際社会は、アフガンへの変わらぬ支援を表明し、関与の継続を明確にすべきだと考えます(日本も20年間、巨額の支援金を投じてアフガンの民主化を後押ししてきた歴史があり、今、ここで新たな決意と知恵が必要となる状況にありますが、その片鱗すら見見られないのは大変残念です)。また、「人権外交」を掲げるバイデン政権が、実際に侵攻された町で住居を焼き打ちされたり、略奪されたりして、生きるために逃げざるを得ない現実、女性抑圧をはじめ住民に厳しい規律を押しつけるタリバンとの合意を急ごうとする姿勢は整合性が取れないように感じ、撤退を急ぐ理由を訝しむ背景でもあります。なお、報道によれば、バイデン大統領は撤収表明の際、「中国との競争」に言及し、撤収で生まれる余力を対中国シフトに振り向ける考えを強調しましたが、それは一面では正しいとはいえ、危うさも孕んでいます。前述したとおり、撤収後のアフガンが混乱し、再度、本格介入を迫られれば、元も子もないともいえます。本コラムでもたびたび指摘しているとおり、米軍不在となるアフガンには、中国、ロシアも無関心でいるはずもなく、中国は過激派流入を警戒する一方、アフガンを「一帯一路」の中核地域とみている一方で、アフガンの北の中央アジア5カ国はロシアが「勢力圏」とみなしている状況にあります。「アフガンに介入するなら、この国の安定とテロとの戦いへの貢献につながるものでなくてはならない。やみくもに影響力拡大を競うなどもってのほかだ」(2021年7月10日付産経新聞)との指摘は正にそのとおりだといえます。

なお、今後、タリバンは8月にもアフガン政府側に和平案を提示する意向だと伝えたといい、政府側はタリバンの姿勢を慎重に確認するとみられています。和解協議は、タリバンが米軍の完全撤退の実現を見極める姿勢を強めたことで、事実上止まっており、政府側は、タリバンの出方を探る意向とみられています。関連して、タリバンのバラダル幹部は、和平協議継続の意思を示しつつ、戦闘を終わらせる唯一の解決策として、「真正のイスラム体制」を挙げています。国内外でタリバンのイスラム支配への恐怖心があることは認め、「アフガン人同士の話し合いの中で」落としどころを探ると呼び掛けています。声明では、アフガンの若者に国から出て行かないでほしいと要請し、少数民族や人道支援組織、外交官は何も恐れる必要はないと訴えています。

さて、ISの帰還兵問題は依然くすぶったままです。報道によれば、米ブリンケン米国務長官は、ISの戦闘員1万人が、米軍と連携するクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍(SDF)」が運営する収容所に引き続き拘束されていると指摘、この状況は「受け入れられない」と述べています。米政府は対IS連合に参加する78カ国を始め、各国に対し、同組織に参加した自国民を引き取るよう引き続き求めていくとしています。また、ISを恒久的に打倒するためには、イラクとシリア以外の地域、特にアフリカにおけるISの脅威に対処することが重要だとも述べています。同長官は、シリア人への人道支援として追加的に4億3,600万ドルを拠出すると表明、周辺国などに出国したシリア人も対象となるとしています。

その他、最近のテロやテロリスクを巡る報道から、いくつか紹介します。

  • 米バイデン政権は、米政府として初となる国内テロ対策の国家戦略を策定しています。白人至上主義者によるテロを強く警戒し、勧誘防止などの対策を強化するとしています。本コラムでも紹介したとおり、米情報機関は3月に発表した報告書で、国内テロの中でも最も大きな被害をもたらす恐れがある脅威として、(1)白人至上主義を唱える、人種や民族を動機とした過激派、(2)暴力的な民兵組織のような反政府主義の過激派、の二つを挙げています。バイデン大統領もで「白人至上主義者のテロは、今日の米国にとって最も危険な脅威だ」と訴えています。報道によれば、新たな国家戦略では、政府は関係当局間での情報共有の強化やネットなどを通じた勧誘の防止、過激思想を持つ者が軍や捜査当局に入り込むことの防止などに重点的に取り組むとしているほいか、テロを生み出す根本的な課題にも対処するとして、経済格差や銃の拡散、構造的な差別、社会の分断を加速させる偽情報や陰謀論への対策などを挙げています。
  • カナダ政府は、カナダの国内治安に「重大な脅威」となると指摘し、米極右組織「スリーパーセンターズ」を正式にテロリストに指定しています。報道によれば、米検察は、スリーパーセンターズと関係がある6人の男を起訴に持ち込んでおり、これが、今年1月に発生したトランプ前大統領支持者らによる議会議事堂襲撃事件に関する一連の訴追で最新の動きとなります。カナダ当局も米議会襲撃事件に言及、ブレア国境安全・組織犯罪減少相は、スリーパーセンターズがカナダで積極的に活動しており、警察官や軍事訓練を受けた人を採用しようとしていると指摘しています。さらに、カナダはネオナチ組織ジェームズ・メイソンと英組織アーリアン・ストライクフォースも指定しています。なお、カナダがスリーパーセンターズをテロ指定したことで、銀行や金融機関は組織の資産を凍結することができるほか、カナダ人がテロ指定された団体と、そうと知りつつ取引するのは犯罪になることになります。また、テロ指定された団体に属する者はカナダの入国を拒否される可能性があるということです。
  • フランスが治安対策の強化に乗り出しています。テロ事件関係者の監視を強める法案の審議が続くほか、イスラム過激思想の取り締まりを目的とした別の法案も月内に成立する見通しです。6月の地方選で治安対策を訴えた野党共和党が勝利するなど国内で関心が高まっていることに配慮した格好です。報道によれば、法案では、テロに関するネット上の情報を効率的に集める捜査手法を正式導入するとし、テロ事件で服役、出所した人物の監視強化期間を従来の1年から最長2年に延ばすことなども定めているといいます。また、もう一つの法案は、通称「分離主義対策法案」で、フランスの価値観に反するイスラム過激思想の取り締まりを念頭に置いており、過激な思想を広げるモスクを閉鎖しやすくするといった内容となっています。相次いで対策を打ち出す背景には、国民の関心の高まりがありますが、行ききすぎた対策はあつれきも生みかねず、イスラム過激思想を取り締まる法案を巡っては、宗教が攻撃されていると感じるイスラム教徒も多いと指摘されているところです。出所者らの監視についても、プライバシーを侵害する恐れがあるとの懸念は残っています。テロ対策と価値観の多様性、プライバシー保護をどうバランスをとるか、フランスもまた難しい舵取りを迫られているといえます。
  • 2017年5月に英中部マンチェスターのコンサート会場で22人が死亡した自爆テロ事件に関し、英政府の独立調査委員会は、会場警備に「深刻な欠如」があったとする報告書を公表しています。報道によれば、施設運営者と警備会社、警察の3者に「原則的に責任がある」と結論づけたといいます。報告書では、実行犯のリビア系英国人の容疑者は、犯行直前に会場を3回下見したにもかかわらず、警察官2人が規則に反して2時間現場を離れ、見逃したということです。さらに、爆発15分前には、不審な容疑者に市民が気づいて警備員に通報したが、まともに扱われず、事実上放置されたといいます。報告書は、適切に対応が取られていれば、「失われた命はより少なかった可能性が極めて高い」と指摘しています。
  • オーストラリアの警察当局は、ISに関与している疑いがあるとして、シドニー在住の24歳の男を逮捕したと発表しています。連邦警察とニューサウスウェールズ警察の共同発表によると、男は過激な主張を投稿したり、爆発物に関する手順書を所持するなどしており、7カ月にわたり捜査を受けていたといいます。なお、捜査による周辺地域への脅威はないということです。
  • ナイジェリアのイスラム過激派ボコ・ハラムは、指導者シェカウ容疑者の死亡を確認したということです。新指導者を名乗るバクラ・モドゥ氏(別名サハバ)がアラビア語で話す短い動画が出ており、幹部に対し、引き続き忠誠を求めています。撮影日は不明です。シェカウ容疑者は今年5月、敵に追い詰められ死亡したと報じられていました。また、ナイジェリア北西部ケビ州の学校で、少なくとも80人の生徒と5人の教員が武装集団に誘拐される事件が発生しています。生徒のほとんどは女子学生だという。ナイジェリアで大規模な誘拐事件が多発しており、当局は身代金目当ての誘拐とみています。さらに、ナイジェリア中北部カドゥナ州でも直近、キリスト教系の寄宿学校が武装集団に襲われ、生徒140人が拉致される事件が発生しています。教師の一人は「25人は助かったが、残る140人はどこに連れ去られたか分からない」と話しているということです。ナイジェリアではこれらのように、(おそらくボコ・ハラムによる)事件が多発しており、ランサムウエア攻撃同様、身代金を支払うことが次の事件を誘発している状況にあり、その判断は難しいとはいえ、どこかで負の連鎖を断ち切りたいところです。
  • 香港警察は、15~39歳の男女9人を香港国家安全維持法違反容疑で逮捕したと発表しています。報道によれば、爆弾を製造してトンネルや地下鉄、裁判所などの攻撃を計画したテロ活動罪の疑いが持たれているということです。警察は香港独立を主張する過激派の犯行とみており、9人のうち6人はなんと中高生だったようです。繁華街の尖沙咀(チムサーチョイ)に爆発物の製造拠点を設けていたといい、万が一爆発につながっていれば、甚大な被害が発生した可能性もありそうです。香港では警察官をナイフで刺して重傷を負わせた男が自ら胸を刺して自殺する事件が起きるなど社会の不安定化をうかがわせる事件が相次いでいるといいます。残念ながら、今の香港は、いつ大規模テロが発生してもおかしくない状況だといえます
  • 中国新疆ウイグル自治区政府は、北京で記者会見し、少数民族ウイグル族を収容施設で教育し、テロにつながる「過激思想を取り除いた」と主張しています。自治区で多くの漢族らが死亡した大規模暴動から12年となったのを踏まえ、「暴力テロ犯罪」を根絶するための措置だと正当化しています。中国は自治区の各地に「職業技能教育訓練センター」と称する施設を置き、イスラム教徒のウイグル族を多数収容、自治区政府の報道官は対策により「4年余り暴力テロ事件が起きていない」と自賛しています。ただし、このような発表にも関わらず、こちらも依然テロの火種はくすぶっている状態だと認識する必要があると思います。
  • 東京電力柏崎刈羽原発でテロ対策に不備があった問題で、原子力規制委員会は、東電本社への立ち入り検査を7月13日に実施すると発表しています。経営層の関与を調べるため、小早川智明社長に事情を聴くとしています。本コラムでも紹介したとおり、柏崎刈羽原発では、テロに備える核セキュリティ対策の規定に違反するような問題が起きると、社長に報告する制度になっている。立ち入り検査では、報告内容をどの程度把握していたかや、どう対応したかなどを小早川社長に聞くほか、関連文書を確認するとしています。
(5)犯罪インフラを巡る動向

経済産業省は、外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」という。)に違反し、無許可で輸出しようとした疑いで、7月6日付けで、有限会社利根川精工を警視庁に告発しました。同省は、告発の理由として、「被告発人は、サーボモータ(型番:SSPS-105)150個の輸出に関して、輸出貿易管理令別表第1の16の項に該当する貨物として、経済産業大臣から外為法第48条第1項の規定による許可が必要となる旨の通知を受けていたにもかかわらず、許可を受けずに輸出しようとしたため」と公表しています。

▼経済産業省 有限会社利根川精工の外為法違反容疑に係る告発について

報道によれば、軍用ドローンなどに転用可能な高性能モーターで、電子信号を受信してドローンなどの動きを制御する仕組みで、優れた防水・防じん性能も備えているといい、実際に中国や内戦が続く中東イエメンに輸出されており、中国では農薬散布用の無人ヘリコプターに搭載される予定だったということです。東京税関の検査で発覚、警視庁公安部が実態を調べています。なお、同社が輸出を図った中国企業は取引先が中国軍と関係が深いとされ、規制対象に含まれていたといいます。さらに、2021年7月6日付読売新聞によれば、「国連の専門家パネルが昨年1月に公表した報告書によると、利根川精工は2018年11月、イエメンの企業にモーター60個を輸出したが、経由地のアラブ首長国連邦(UAE)で押収された。同じモーターは16年にアフガニスタンで墜落したイランの無人機の残骸からも見つかっていた。専門家パネルは、モーターがイランと関係の深いイエメンの反政府武装勢力「フーシ」の支配地域に出荷され、爆発物を積む軍用ドローンや、軍用ボートに使われる予定だったと分析した」とのことであり、「イエメンでは15年以降、サウジアラビアが支援する暫定政権軍とフーシによる内戦が泥沼化。死者が20万人を超えるなど人道被害が深刻化しており、専門家パネルはモーターの輸出について、「紛争を助長している」と非難している」(同)といいます。なお、90歳の男性社長は「イエメンに何度か輸出したが、農業用と聞いていた。経産省の規制は把握していたが、中国のどの企業がダメなのか、よく確認していなかった」と話したということです。男性社長の言い分がどこまで正しいかまでは分かりませんが、紛争を助長する「犯罪インフラ」となる危険性があり、規制を認識していた以上、「犯罪インフラ」化を阻止するために、相当慎重な対応が必要だったことは間違いありません。なお、本件を受けて、加藤官房長官は、「兵器の開発や製造に用いられる恐れがある貨物の輸出などを行う場合には、外為法に基づき経済産業相の許可を取得する義務があり、法律の規制のもとで厳格な管理が求められている」と説明、安全保障に関連する貿易管理制度の周知徹底など、軍事転用可能な部品不正輸出に厳正に対処する考えを示しています。

アクセスチャージと呼ばれる回線使用料を得る目的で、NTTドコモの通話料無料プランを悪用して発信を繰り返したなどとして、愛知県警などは、通信事業会社「BIS」の実質的経営者ら15人を組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺など)の疑いで逮捕しています。アクセスチャージの仕組みを悪用した事件の摘発は全国初で、BISは約4年半で少なくとも30億円以上を不正に得ていたとみられるといいます。報道によれば、NTTドコモは、BISの固定電話などの電話番号を割り振った通信事業者に、アクセスチャージを支払っており、この事業者はBISにアクセスチャージの一部を着信手数料として還元する契約を結んでいたといいます。容疑者らは「ゲートウェー」と呼ばれる特殊な機械を使って、かけ放題プランの回線から、自社の固定電話などに大量に発信、通話時間が長くなればなるほど、通信事業者にドコモから多額のアクセスチャージが入り、BISが受け取る手数料も増える構図だったといいます。別の事件の捜査で、BISが特殊詐欺に使われる電話番号の供給元になっている疑いが浮上、愛知県警が昨年9月に同社を家宅捜索し、稼働中の「ゲートウェー」を発見したというものです。ドコモは規約で、かけ放題プランの対象外の事例として「機械的な発信によって一定時間内に長時間または多数の通信」「特定の相手先への通話を大量に行い、他人から利益を得ること」を明記していたようですが、このような形で「犯罪インフラ」化することが予見できなかったのか、例えば「多数の通信」をモニタリングしてチェックする仕組みはあったのか/機能していたのか等、ドコモ口座の不正チャージ問題同様、リスク管理の甘さを指摘されても仕方のないところです。そして、その甘さが特殊詐欺等の犯罪を助長している構図は、やはり強く批判されるべきだと思います。

さいたま市大宮区のインターネットカフェで女性従業員が人質になった立てこもり事件がありました。現場となったのは鍵のある防音構造の「完全個室」で、捜査員突入まで約32時間と長期化した要因の一つとなったことは記憶に新しいところです。プライバシーが保たれる個室は人気が高い半面、薬物の密売や児童買春など犯罪に悪用される「犯罪インフラ」化の懸念が以前から指摘されていたものの、法律の規制は届いていないのが現状です。一方、生活困窮者に事実上の住まいを提供している側面もあり、厳しくするばかりではなく、利便性と防犯性のバランスを取った規制を検討すべきであることは言うまでもありません。この点、2021年6月29日付読売新聞で、「立正大の小宮信夫教授(犯罪学)は「プライベートな空間を売りにしているネットカフェに『外からの見えやすさ』を要請することは難しい。本人確認などを通して『入りにくさ』を強化するべきだ」と指摘して」いますが、正に正鵠を射るものと考えます。

本コラムでもたびたび紹介していますが、「後払い現金化」の「犯罪インフラ」化が深刻となっており、金融庁が注意喚起しています。

▼金融庁 「今すぐ現金」「手軽に現金」にご注意ください!~いわゆる後払い(ツケ払い)現金化に要注意~
  • 「金融ブラックOK」「借金ではありません」などの誘い文句に要注意!
  • いわゆる「後払い(ツケ払い)現金化」は、以下のような特徴があります。
    • 形式的には後払いによる商品売買(※1)だが、商品代金の支払に先立ち、商品の購入者が金銭を受け取る(※2)。
      • ※1 商品価値と販売価格が必ずしも見合っておらず、顧客も商品を購入することを目的としていない。
      • ※2 キャッシュバック・レビュー報酬名目や提携した買取業者が当該商品を買い取ることにより金銭が支払われることが多い。
    • 給料日等に商品代金を支払うことになり、その商品代金と先に受け取った金銭との差額が高額。
  • その後の高額な支払によりかえって経済的生活が悪化し、多重債務に陥る危険性があります。また、取引で提供した個人情報が悪用されたり、ネット上でさらされるなど、トラブルや犯罪被害に巻き込まれる危険性があります。
  • 「即日現金化」「ツケ払い商品売却で即日キャッシュバック」「レビュー投稿で現金報酬GET」「SNS拡散で商品宣伝協力金」などの甘い言葉にご注意ください。
  • なお、形式的に商品の売買等であっても、その経済的な実態が貸付けであり、業として行う場合には、貸金業に該当するおそれがあります。貸金業登録を受けずに貸金業を営む者は、違法なヤミ金融業者(罰則の対象)です。

「後払い現金化」は「給与ファクタリング」などと同様、「形を変えたヤミ金」と言えます。関連して、京都府警が、貸金業の登録がないにもかかわらず、ウェブサイトで募った顧客の個人情報をヤミ金業者に売り渡したとして、貸金業法違反(無登録営業)の疑いでサイト運営者の男ら4人を逮捕するという事件がありました。京都府警は、貸金業者に個人情報を売る行為を、貸金業法上登録が必要な「金銭の貸借の媒介」に当たると判断したものですが、このような摘発例は極めて珍しいのではないかと思われます。報道によれば、4人は、名簿などを扱う業者の関係者とみられ、貸し付け自体は行っていなかったようです。男らはサイトに「ブラックリストの人でも大丈夫」などの文言を載せ、金銭に困っている人を募集、ヤミ金業者に情報を売っていたということです。なお、同様のサイトは多数存在しており、ヤミ金業者が顧客を集める手段になっているといい、今回、金銭の貸し借りの間を取り持つ媒介業者が摘発されたことで、一定の抑止につながるものと期待したいところです。

電子商取引(EC)大手のアマゾンジャパンのECサイトで、女性芸能人への名誉毀損やわいせつ物頒布などの疑いがある不正な商品が多数販売されていることが分かったと報じられています(2021年6月20日付産経新聞)。ECやSNSなどを展開する巨大IT企業はプラットフォーマーと呼ばれ、出店者といった不特定多数からのコンテンツを管理する重い責任を負っているところ、各社は不正出品を人工知能(AI)で検出して強制排除したり、質の高いコンテンツを優遇したりするなど、かなり工夫をしている状況です(具体的には、アマゾンは出品者の行動規範に、すべての法律と利用規約を遵守することを明記。新規出店の際には本人確認書類の提出を徹底。規約に違反する商品は、AIなどの技術で出品を事前に阻止。出品後でも自動検知や第三者からの通報で排除する仕組みを設けているといいます)。それでも不正を防げなかったことは、高度な知見を有する犯罪者とのいたちごっこがそれだけ深刻化している状況であることを示唆するものでもあります。記事の中で専門家らの「アマゾンはわいせつ物などを機械的にふるい分ける技術を磨いてきたはずなのに不可解だ。まだ技術が甘いということだろう」とのコメントがありますが、正にそういうことだと言えます。なお、関連して、このようなAI等を活用したフィルタリングや疑わしい取引を抽出する精度を高めている一方で、その「誤検知」とでも言える状況が、困った問題を引き起こした事例もありました。岡山県警のツイッターの公式アカウントが7月6日夕方から凍結され、閲覧できなくなっているとの報道がありました。子どもへの注意を呼びかける投稿の際に使った「援助交際」や「パパ活」という単語が、ツイッター社の利用ルール「児童の性的搾取を助長するアカウントを凍結する」に違反していると判定されたとみられるためということです。なお、都道府県警のツイッターの公式アカウントが凍結された事例はこれまで把握されていないといいます。同県警は4月からアカウントを開設し、詐欺被害防止の呼びかけなどを投稿し、フォロワーは約1,500人いるといい、6日夕方に「#援交」などのハッシュタグ(検索ワード)を使い、児童の性犯罪被害の抑止を呼びかける書き込みをした直後、アカウントが凍結されたというものです。SNSやEC空間においては、かなりの数の情報が飛び交っており、AI等を活用した規制強化は当然進めていく必要があるものの、一方で「精度」を追求を怠ってはならないことを認識させるものとして、アマゾンジャパンと岡山県警の事例は参考になります。

それ以外の犯罪インフラに関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • アフリカのザンビアで日本の中古車が、「安い」「整備しやすい」といった理由から存在感を見せているとの報道がありました(2021年7月9日付毎日新聞)。一方で、近年、地元の輸入業者が日本の悪質業者に代金をだまし取られる詐欺事件が相次いでいるといいます。インターネット上で割安な中古車を宣伝する業者に代金を送金すると、その後何の連絡もないというものが代表的で、業者は実体のないペーパーカンパニーで、代金回収は事実上不可能となるという手口です。対面で取引することが困難であることから、インターネットによる非対面取引、ペーパーカンパニーの悪用といった手口が成功率を高めてしまっていると考えられます。
  • 本コラムでもこれまで取り上げてきていますが、来日した外国人技能実習生の失踪が相次いでいる問題で、出入国在留管理庁は、失踪者数が多いベトナムの送り出し機関4社に対し、新規受け入れを6か月間停止すると発表しています。日本側が受け入れ停止の措置を講じるのは初めてとなります。報道によれば、これまで個別の不正な事案について送り出し国の政府に通報し、その国が送り出し機関の認可を取り消すなど間接的な方法を取っていたところ、今回は、実習生の適切な選抜など、技能実習適正実施・実習生保護法(技能実習法)に基づく送り出し機関の要件を満たしていないと判断し、直接的な措置に踏み切ったとされます。昨年1年間に国内で失踪した実習生5,885人のうち、6割超の3,741人がベトナム人で、同庁が調査した結果、4社が派遣した実習生に占める失踪者の割合は全体平均(2%)より5倍ほど高かったということです。
  • 埼玉県警は、偽造した在留カードをインドネシア国籍の男に渡したとして、入管難民法違反(偽造在留カード提供)の疑いで、中国籍の無職の容疑者を逮捕し、さいたま地検に送検しています。偽造した在留カード1枚を男に郵送し受け取らせたというものです。本コラムでも偽造在留カードの悪用については「犯罪インフラ」の観点から取り上げていますが、受け取った男は入管難民法違反(偽造在留カード収受)の疑いで再逮捕されており、カードを1枚7,000円で購入したと供述しているということです。
  • 出入国在留管理庁が、不法残留する疑いがあるとして入国審査を厳格にすべき「要注意人物」を検知するため、過去の残留事案に基づく傾向分析や航空機の予約情報との照合にAIを使ったシステムを7月から導入しています。東京五輪の開幕に合わせた水際対策強化の一環で、AIの導入で要注意人物の高度な分析や迅速な照合を図り、不法残留の減少につながることが期待されています。報道によれば、入管庁では従来、入管難民法などに基づき、海外を出て日本に向かう航空機の運航会社から、各機の日本到着72時間前と、出発直後に乗客予約記録の提供を受けており、搭乗予定者の国籍や渡航日程、荷物の重量など35項目に及ぶ記録を入管庁で分析し、テロへの関与や不法残留する疑いがあると判断すれば、各空港の入管支局に情報を提供。該当者が入国審査ブースを訪れた際に速やかに別室に誘導し、入国審査官が上陸を許可するか厳格に審査しています。また、入管庁では専用ソフトなどを駆使し、不法残留する人物に共通する特徴を類型化するなど傾向分析も実施、膨大な予約記録からパターンに当てはまる人物をピックアップし、厳格審査の対象を絞っています。これらの作業の大半をマンパワーで行ってきたものの自動化や情報等の有効活用につながると考えられます。
  • 千葉県警サイバー犯罪対策課は、偽のWi-Fiへの接続に注意を訴える動画をインターネットで公開しています。東京五輪を控え、千葉県内ではWi-Fiのフリースポットが増加しており、「怪しいWi-Fiには、すぐには接続しないで」と呼びかけています。フリースポットの増加に便乗して偽のWi-Fiを設定した第三者に、個人情報を盗み取られる被害が出る可能性があり、接続した状態でネット銀行へ振り込みをすると、打ち込んだIDやパスワードが読み取られる危険性や、フィッシングサイトに誘導される可能性も考えられるところです。関連して、聖火リレーの動画配信を装い、メールアドレスやパスワードの入力を求める偽サイトが相次いで確認されています。インターネットで「聖火リレー ライブ」などと検索すると、正規サイトとともに表示されるもので、個人情報を盗み取る「フィッシング」とみられるということです。偽サイトは今年4月下旬以降、愛媛、鹿児島、福岡、山口、広島などで確認されており、各県をリレーが通過する期間に合わせて開設され、視聴しようとすると、パスワードやカード情報などを入力するよう促されるものです。新型コロナウイルスの感染対策として、大会組織委員会や自治体はライブ配信の視聴を推奨するが、正規サイトでは個人情報の入力は必要ないことを知っておく必要があります。

サイバー攻撃が世界中で激化し、それはまた国家・組織間の争いである「サイバー戦争」といった様相を呈しています(すでに目に見えない戦争は始まっているとの見方が大勢です)。英国のシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)は、サイバー、デジタル分野の総合的な実力で日本が主要国に見劣りし、最下位の3番手グループに位置すると発表しています。報道によれば、特にサイバー防衛の分野で遅れているためと説明されています。日米欧の主要国に加え中国や東南アジアなどの計15カ国のデジタル経済や安全保障の能力を分析した報告書で明らかになったもので、IISSによると、米国がトップの評価、2番手グループに中国、ロシア、イスラエル、英国、フランスなどが入った一方、日本はイランやインド、インドネシア、北朝鮮などと同じ3番手グループで、「いくつかの分野で重大な脆弱性が見られる」として、日本政府のサイバー防衛や諜報能力はあまり優れていないとした上で「強化策も限定的だ」と指摘、関連産業には一定の競争力があるものの「企業間でサイバー攻撃に対する情報を共有する意思が欠けている」と改善点を挙げています。つまり、日本においては、「サイバー防衛や諜報能力」の欠如や企業間の連携の不足が「犯罪インフラ」化して、サイバー攻撃を許す脆弱性があるということになります。まず、日本の国としての脆弱性の根幹となる部分について、2021年7月8日付日本経済新聞の記事「不作為のサイバー敗戦 憲法が映す日本の死角」において明確に指摘されていますので、以下、抜粋して引用します。サイバー防衛と憲法のあり方の議論をしないままの不作為がもたらす結果は「サイバー敗戦」だと指摘しています。憲法が制定された時点では想定されたはずもないサイバー戦争が今目の前に脅威として現れていることに対し、サイバー空間ではほとんど何もできない、日本の無力さを思い知らされる内容です。

沈黙と静寂のまま始まるサイバー攻撃はその主体が国家なのか、組織なのか、個人なのか判別しにくい。個人や組織の背後に国家が存在するケースもある。…(IISSの)報告書はその理由として「通信の秘密」を定めた憲法21条を挙げ「政府の通信に関する情報収集や偵察を厳しく制限している」と記した。…慶大の土屋大洋教授は「米国は平時から潜在敵国のネットワークに侵入・監視し、米国へのサイバー攻撃が企図されると潰す作業をしている」と説明する。「日本は憲法21条、電気通信事業法4条、不正アクセス禁止法などによってこうしたことが全くできない。インテリジェンス活動は例外だという認識がなく、グレーゾーンにある措置がとれない」と話す。日本の法制度がサイバー攻撃という現実の脅威に対処できていないのは明らか。改憲か護憲かの旧来の論争と異なるのは、サイバー防衛の視点で憲法が問われていることだ。東大の宍戸常寿教授は「『通信の秘密』以上に自衛権の問題がある。サイバー空間における自衛権の行使は許されるのか。先制攻撃は許されるのか」と指摘する。「サイバーとフィジカルが融合している社会で、サイバー空間における人権、国家権力のあり方はどういうことか。サイバー防衛を正面から議論すべきだ」と提起する。

また、IT基盤を狙う大規模なサイバー攻撃の脅威が高まっており、直近では、米フロリダ州に拠点を置くIT企業カセヤへのランサムウエア(身代金要求型の不正プログラム)攻撃があり、世界の800~1,500社が影響を受けたとみられると、同社CEOが明らかにしています。企業がソフトの更新を管理・配信する際に使う「Kaseya VSA」と呼ぶソフトが狙われ、36,000社の顧客のうち約40社、十数か国にわたって被害を受けたといいます。同社は顧客に対し、サーバーを停止して、ソフトを使ったり、怪しいリンクをクリックしたりしないよう呼びかけているということですが、問題を深刻にしたのは、被害者の多くが様々な企業のシステム運用や保守を手掛ける「マネジメントサービス・プロバイダー(MSP)」だったことだと指摘されています。攻撃やサーバー停止の影響はMSPの顧客にも及び、カセヤと直接取引のないスウェーデンのスーパーマーケット大手「コープ」がレジを動かせずに数百店舗の一時閉店を迫られる事態が発生しています。犯行グループとされるロシア系のランサムウエア集団「REvil(レビル)」はデータを復元する見返りとして7,000万ドル相当の暗号資産を要求し、「7月2日に攻撃を開始した。100万を超えるシステムを感染させた」と宣言しています(身代金の支払い等に関するその後の情報は現時点で一切ありません)。なお、レビルはブラジルの食肉大手JBSや、鹿島の海外子会社への攻撃などに関与した集団です。本事件では、世界的に使われているITソフトを標的とすれば幅広い組織に効率的に一斉攻撃ができると明らかになりました。さらに、金銭目的のランサムウエア集団が目をつけたことで、こうした攻撃が拡大することが考えられます。正に、サプライチェーンの本質を突いた攻撃であり、企業防衛としては、さらに難易度を増したと危機感を高める必要があります。

さて、IISSの指摘では、日本の企業においては、「企業間でサイバー攻撃に対する情報を共有する意思が欠けている」とされます。しかしながら、それ以前に、そもそも自社が攻撃されているという実態を正しく認知している企業が少ないことも事実です。サイバー攻撃を「自分事」として捉えることがまずもって重要だと言えますが、この点については、2021年7月6日付日本経済新聞の記事「制御システムへのサイバー攻撃まず「自分事」の認識を」で、分かりやすく言及されていますので、以下、抜粋して引用します。記事の中で指摘されている「企業が自主的に演習に取り組める仕組み」が早期に実用化され、中小企業に浸透することが、サプライチェーンにおけるサイバー攻撃への耐性を強化することに直結することから、今後の展開を期待したいと思います。

(日本企業の制御システムのサイバー対策の現状として)サイバー攻撃があることは知っているが、対策が万全とは言いがたい。外部からの侵入を防ぐ水際対策に偏り、制御システム用のネットワーク内の通信を詳しく監視するなどの対策は打てていない企業が多い。…米国の国立標準技術研究所(NIST)は制御システムなど重要インフラに求められるサイバー対策の枠組みを、識別・防御・検知・対応・復旧の5機能に大別して定めている。水際対策に当たる防御も大切だが、侵入を防ぎきれない例がある。早期に侵入を検知し、軽微な被害に抑えて復旧させる観点が不可欠だ。…(多くの企業が包括的に対策を講じるための課題として)サイバー脅威について『自分事』と考えられる人材を社内で増やすことだ。『うちは、やられた企業とは違う』といった認識を改める。自分の取り組み次第で大きな被害を招きかねないとの意識を持つ必要がある。危機意識があれば対策を講じられるようになる。…演習を通じて自分事と捉えられる人材は着実に増えてきた。とはいえ日本企業の裾野を考えれば、まだまだ足りない。供給網を支える中小企業はもちろん、グローバルで展開する製造業でさえ一部拠点に限られるのが実態だ。各企業が自主的にサイバー演習を取り組める仕組みが必要と考えている。新型コロナウイルス禍以前の演習はサイバー対策の専門家の参加を前提にしていたが、専門家を必要とせずにリモートで展開できる演習を広げたい。IPAで中核人材育成プログラムの講師や受講生らとともに新たな演習の開発を進めている。

さて、横行する重大サイバー犯罪に対応するため、警察庁は「サイバー局」を創設し、その傘下に独自捜査に当たる約200人の「サイバー直轄隊(仮称)」を置くと発表しています。報道によれば、サイバー犯罪については、国内ではこれまで都道府県警が捜査に当たってきたところ、国が主体的に捜査する必要性があると判断したということです。米英など各国では国の機関がサイバー捜査を担っており、連携強化を図る狙いもあるといいます。捜査の対象は、発電所や空港などの重要インフラに対するサイバー攻撃など、都道府県警では対応が難しい事案が中心のようですが、昨年、全国で相次いだ電子決済サービス「ドコモ口座」を悪用した預金不正引き出し事件のように、同時多発的に起きた事件も担当するということです。そもそもサイバー犯罪に都道府県境も国境もなく、中国やロシア、北朝鮮などによる国家レベルのサイバー攻撃まで対抗していくには、米国の連邦捜査局(FBI)のような国家の機関が捜査に当たるのが世界的な流れであり、捜査は一国では完結しない場合もあり、警察庁には、国際合同捜査や情報交換の面でも期待がかかります。ただし、前述したとおり、各国でサイバー事案に関わるのは、攻める側も守る側も多くは情報機関や軍である一方で、日本には本格的な情報機関がなく、自衛隊には行動に制約が多いこと、国際捜査の連携においては、「ギブアンドテイク」が原則であり、日本からの情報提供も求められることなど、日本にも情報機関が必要だとする議論が本格化する可能性も秘めています。さらに、前回の本コラム(暴排トピックス2021年6月号)でも紹介した「トロイの盾作戦」(通信内容の暗号化など秘匿性の高いアプリ「ANOM」を犯罪組織に浸透させ情報を収集、組織犯罪にかかわった800人を逮捕した「おとり」作戦)や容疑者にウイルスを送り込む「ポリスウエア」などの新手法の活用においても、さまざまな法の壁が立ちはだかっており、さらには高度な能力を有する人材の不足、育成が急務であり、組織創設だけでは実効性を高めることは難しい現実もあります。企業としては、そのような実態や限界をふまえ、「自助」「共助」の発想を強く持つことが重要であることは言うまでもありません

(6)誹謗中傷対策を巡る動向

ネット上での誹謗中傷や偽情報の流布が後を絶ちませんが、ネット上では、一部の意見があたかも大多数であるかのような(誤った)状況が現出されることが大きな問題の一つです。その「多数派」という流れを決めるメカニズムについて言及した報道(2021年7月10日付日本経済新聞)が大変興味深く、以下、抜粋して引用します。

世界を動かす力の一つにオピニオンがある。人々が織りなす考えや主張は社会のムードをつくり、時代を塗り替えてきた。そのオピニオン誕生の力学がスマートフォンやSNSの普及で変わってきたのではないか。好奇心旺盛な科学者らが新たな原理の探索に乗り出した。…(高知工科大学の全卓樹教授の)論文では、集団の意思が決まるまでの過程をシミュレーション(模擬計算)した。自分の意見を譲らない「確信者」と、他人の意見に影響を受ける「浮動票者」を想定し、集団全体の意見の変遷を数値の変化でわかるようにした。途中、確信者の意見に対して、浮動票者の考えが揺れ動く。突如、変化が起きた。確信者の数を25~30%超まで増やしたとたん、浮動票者全員が確信者の意見に転じたのだ。3割程度の意見が全体の世論を左右する様子は、集団の意思決定時にふさわしいとされた多数決の力学とは異なる。「多数決」どころか「3割決」の傾向は、SNSを介して議論するような場合に観察できるという。「集団の意思決定に別のしくみが現れた」と全教授はいう。…SNSは民主主義を支える多数決の理想型に近づく可能性を感じさせる一方で、地域や生活様式を超えたつながりやすさゆえに「一部」の意見を「多数」と惑わす遠因にもなる。理想と現実との間の溝を高知工科大学の研究成果は浮き彫りにする。

最近では、接種が急ピッチで進む新型コロナウイルスワクチンを巡る偽情報の流布や誹謗中傷の問題も深刻化しています。この点については、2021年7月5日付産経新聞の記事が的確な示唆を示していると考えますので、以下、抜粋して引用します。

SNSには玉石混交の情報があふれ、科学的根拠に基づかないまま「殺人兵器」「人体実験」などと主張し、ワクチンを過度に敵視する書き込みも目立つ。接種はあくまで任意であり、強制ではない。専門家は「極端な意見には注意が必要」としつつ、打ちたくない人にも寄り添う社会が望ましいと訴える。…ワクチンをめぐる非科学的な主張については、大多数の人が懐疑的に見ているとみられる。「殺人兵器」や「#プラグを抜こう」との呼びかけは、現時点では極端な意見ともいえる。関西大社会安全学部の土田昭司教授(安全心理学)によると、デマを流したり、嫌がらせのような行動を取ったりするのは少数にすぎないようだが、SNSなどを使って熱心に呼びかける傾向があるという。そうした状況には落とし穴が潜む。土田教授は「愉快犯でやっている人は論外」と前置きし、「それでも(ワクチンを)打つことが怖いとか、信念として打たないと決めている人もいる。また、病気などのために打ちたくても打てない人もいる」と話す。接種しない自由は法的にも認められているとして、「そういう人の思いを受け止めず、孤立させるのはなお悪い。結果的に話を聞いてくれるのがカルト集団だけになるという状況は危険だ」と指摘。不安を抱える人に社会が寄り添い、受け入れていく必要があるとも訴えた。

このようなSNS上の誹謗中傷や偽情報の流布といった状況に対し、本コラムでもたびたび取り上げてきた女子プロレスラー木村花さんの母親の響子さんの考えもまた興味深いものですので、報道(2021年7月3日付毎日新聞)から、以下、抜粋して引用します。

明らかに相手を傷付けるような投稿に対しては、ネット上でいさめる人を見かけるようになりました。徐々に罪に問われることが浸透してきたと感じます。一方、「これは正しい批判です」と主張し、自覚なく中傷を繰り返している人が多いのも実情です。こういう人たちは「自分が正しい」と思い込んでいるので、それが中傷であることを理解してもらうのは難しいです。「やめてほしい」と言うだけでは中傷はなくなりません。私は花を中傷する投稿をした人物への損害賠償請求訴訟を起こしています。当事者が「批判」と思っている書き込みも、実は「中傷」に当たることがあるはずです。どんな投稿が中傷に当たるのか、裁判で示すことができたらと思っています。…(自民党が6月に提出した「ネット上の誹謗中傷に対応するための緊急提言」には、ネット上の中傷に適用される侮辱罪の法定刑引き上げやSNS事業者に対する人工知能(AI)などを活用した中傷投稿の積極的な削除、小中高校におけるSNS教育の充実などが盛り込まれたことについて)提言では厳罰化や監視体制の強化を訴えている一方、「表現の自由を最大限考慮しつつ」という文言も入っています。表現の自由を守りつつ、無責任な発言には厳しく向き合える社会になってほしいです。…小中高校や大学などで正しいSNSの使い方を教えていきたいです。加害者への抑止力になると思うので、厳罰化に向けた活動もしていきます。一方、加害者がなぜ中傷する書き込みをしてしまうのか、加害者の治療についても研究したいと思います。厳罰化などの抑止対策ばかりが注目されますが、加害者に対するカウンセリングの方が効果があるかもしれません。中傷をなくすためにいろいろな道を探っていきたいですね。

その他、誹謗中傷等を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • ジャーナリストの伊藤詩織さんが元TBS記者による性的被害を訴えている問題に絡み、元東大特任准教授の大沢氏にツイッター上で中傷されたとして、伊藤さんが大沢氏に110万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決が東京地裁であり、裁判長は「閲覧者の誤解を誘う演出を加えた悪質な投稿だ」と述べて名誉毀損の成立を認め、33万円の賠償と投稿の削除を命じています。報道によれば、大沢氏は2020年6月、伊藤さんが外国籍で通名を使っており、さらに破産した経験があるかのような誤解を与える文章をツイッターに投稿、投稿の際には、伊藤さんと同名の人物に対する破産開始決定の官報の画像も添付しています。
  • タレントの堀ちえみさんのブログに中傷するコメントを投稿したとして、警視庁は、奈良市の40代の無職女性を東京都迷惑防止条例違反容疑で書類送検しています。報道によれば、「堀さんが嫌いなのでやった」と容疑を認めているといいます。送検容疑は、自身の携帯電話から堀さんのブログに「不細工ですね」などと159回にわたって書き込んだというもので、警視庁によると、堀さんの事務所が今年1月に同庁に相談、ブログの運営会社に投稿者の情報を照会して特定したということです。
  • SNS上で不適切な投稿をしたとして最高裁から2度の戒告処分を受けた仙台高裁判事の岡口氏について、国会の裁判官訴追委員会は、裁判官弾劾裁判所に罷免を求めて訴追すると決めています。今後、国会の弾劾裁判所が罷免するかどうかが審理されることになります。報道によれば、訴追は2012年に大阪地裁の判事補が盗撮事件でされて以来、9人目となり、過去に訴追された8人(のべ9人)のうち、7人は弾劾裁判で罷免されているということです。岡口氏は、民事裁判のマニュアル本を書いたり、主に司法や政治の分野について実名でツイートしたりする裁判官として知られていますが、書き込みの内容は、性的少数者やヘイトスピーチの被害者ら社会的に立場の弱い人を擁護するものが多かった一方で、縄で縛られた上半身裸の男性の写真を投稿するなどして、2016年に裁判所内で「品位を欠く」と厳重注意を受けたほか、個別裁判の当事者を揶揄するような内容を書き込み、殺害された女子高生の遺族らから「侮辱された」と訴追請求を受けています。
  • 冒頭でも取り上げたとおり、ワクチン接種を巡る誹謗中傷や偽情報の流布の深刻化に関連して、ワクチンの年少者接種に集団抗議を呼び掛けたり、ワクチンに関するデマを流したりしていたFB(フェイスブック)上のグループが次々に削除されています。報道によれば、FB側は「接種妨害を計画するコンテンツは禁止で、ワクチンに関する虚偽投稿も許容しない」、「規約違反でなくても、不必要に不安をあおる投稿は表示頻度を下げる対応を取っている」といいます。年少者へのワクチン接種をめぐっては、各地の自治体に「危険性を認識しているのか」などと抗議の電話が殺到、多くの役場で業務が滞ったほか、職員を脅迫したり、用意した文章を繰り返し読み上げたりする電話もあったといいます。2021年6月28日付時事通信で、前述の土田教授は「削除は表現の自由との関係で慎重に行われるべきだ」とした上で、「ワクチン接種に関するデマや妨害で大勢の命が失われる恐れがあり、削除にやむを得ない面はある。ただ、主張を削除された人たちが地下に潜り、カルト化することも危惧される」と指摘。「ワクチンに不安を持つ人たちを孤立させず、対話する仕組みが必要だ」と指摘している点は、正にそのとおりだと考えます。
  • ワクチンを保管する冷凍庫や冷蔵庫の電源プラグがコンセントから抜ける事故が5月下旬以降、各地で相次いでおり、多くの自治体は「原因は不明」と説明し、ワクチンの廃棄を余儀なくされるなどの影響が出ています。一方で、SNSには「プラグを抜こう」と呼び掛ける投稿もあり、関係性は分かっていないものの、それを関連付ける書き込みも増えており、慎重な確認が必要な状況です。

さて、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」で一時中止となった「表現の不自由展・その後」の展示会の開催については、東京では街宣車の抗議を受け民間ギャラリーが会場提供を辞退し、延期を余儀なくされました。さらに、大阪での企画展開催について、会場となる大阪府立施設の指定管理者が使用許可を取り消しました。報道によれば、実行委がSNSで展覧会の実施を明らかにした6月15日以降、電話やメールでの抗議が10日間で約70件寄せられたほか、施設周辺で大音量で中止を求める抗議活動も行われたことから、指定管理者は、施設の利用方法などを定めた府条例に基づき、施設の管理に支障がある場合は使用許可を取り消すことができるとするケースに該当すると判断、大阪府に相談した上で、使用許可の取り消しを決めたということです(大阪府は、条例に基づき使用許可の可否の権限は指定管理者にあるとしています)。この決定に対し、企画展の実行委員会のメンバーが、施設の指定管理者に処分の取り消しを求め、大阪地裁に提訴しました。報道によれば、「会場を使わせないのは、表現の自由を保障した憲法21条に違反している」と主張、街宣が3件、メールや電話の抗議は計70件で脅迫や警察に通報が必要なケースはなかったとして、「会場の使用が妨げられる理由はなく、取り消し処分は裁量権の乱用だ」と訴えました(なお、企画展の開催という緊急性があるため、取り消し処分の効力を一時的に止める「執行停止」も併せて申し立てています)。それに対し、大阪地裁は、会場側の処分を執行停止とし、企画展の実行委員会に会場利用を認める決定を出しています。決定は直ちに法的効力が生じるため、企画展は予定通り開催できることになります。この決定に対して、大阪府の吉村知事は、「施設内には保育施設もある。(開催されたら)何が起きるか分からず、非常に危険なことが起きる可能性だってある。子供たちをリスクにさらすのはおかしい」と述べ、指定管理者は大阪高裁に即時抗告すべきだとの考えを示しており、今後の展開が注目されるところです。

また、「表現の不自由展・その後」は、名古屋でも開幕しました。展示を巡っては、開催前から施設を管理する市文化振興事業団に電話やファクスなどで抗議が相次ぎ、初日も午前11時から会場近くで反対する人たちが「日本人としてこのような展示を断固として認めない」と抗議のアピールをする一方、展示を支援する人たちは「侮辱には当たらない」などのプラカードを掲げ、「迷惑です。早く帰れ」と声を上げるなどし、不測の事態に備え、愛知県警が警備に当たったといいます。ところが、会場に爆竹とみられる物の入った不審な郵便物が届く事件が発生、施設は安全確保を理由に臨時休館となり、結果的に同展は中止を余儀なくされました。愛知県警中署は威力業務妨害などの疑いで捜査し、差出人の特定を急いでいるということです(なお、封筒には関西地方の消印が押されていたといいます)。主催者の市民団体は、「正確な情報提供がないまま、施設利用の停止を決めた」と名古屋市の対応を批判、「一時退避自体は仕方がないが、(事件の)具体的な内容を知らされておらず、何をもって安全でないとするのか分からない」、「暴力に屈すれば、今後も同じことを繰り返すことになる。憲法が保障する表現の自由を守るには、自治体がブレては駄目だ」と抗議、市に施設再開を要請しました。それに対し、市は「来場者の安全が第一。警察とも協議する中で再開は難しいと判断した」と説明しています。

残念ながら一連の動向は、2019年の問題と全く同じ経緯を辿っています。2019年の同展の検証委員会では、「実際には作品を見ていない人たちの間で、批判や非難が広がり、それが大量の電凸に結びついた。抗議の数は、電話3,936件、メール6,050件、FAX393件の、合わせて10,379件に及び、今もダラダラ続いている状態」、「実際にかかってきた電話が4例、紹介された。職員に説明の暇を与えないほどしゃべり続ける女性、巻き舌で「日本国民をなめてる」「お前らバカじゃないか」とまくし立てる男性などの声が再生された」、「こうした電凸について、検証委は、SNSで断片的あるいは不正確な情報が流され、電凸マニュアルが拡散し、「抗議」が一種の「娯楽(祭り)」に転換することで起きた「ソフト・テロ」と位置づけた」としています(いずれも江川紹子氏コラム「「表現の不自由展」何が問題だったのか~検証委員会第2回会合を傍聴して」より)。本件や反ワクチンを巡る騒動も、コロナ禍によって、人々の間に不満や不安が渦巻き、断片的あるいは不正確な情報が拡散したり、陰謀論に基づく自らの正義を貫こうと、それが外に向かって発散されていく際に、「ソフト・テロ」のように一斉に「誹謗中傷」に走る状況が現出したものといえます。さまざまな形で立ち上がる誹謗中傷をなくすことは難しいものの、「ソフト・テロ」化のメカニズムをしっかり分析すること、電凸など「ソフト・テロ」に対する対処法を確立し準備しておくことの重要性を痛感させられます。

化粧品会社ディーエイチシー(DHC)が吉田嘉明会長名でウェブサイトに掲載していた在日コリアンを差別する内容の文章が削除されたことは前回の本コラム(暴排トピックス2021年6月号)でも紹介しました。SNSで「ヘイトスピーチだ」と批判する投稿が相次ぎ、自治体が問題視する動きや実際に協定等の解消、不買運動も起きています。例えば、市民団体がコンビニ4社にDHCとの取引停止を求める約5万人分の署名を提出するということもありました。報道によれば、市民団体は、DHCの文章の内容が「ヘイトスピーチ解消法の主旨に反する不法行為」として、コンビニ各社に「このような企業と取引を続けるのは、企業姿勢や社会的責務を問われる」と取引停止を求めています。それに対し、セブン-イレブン・ジャパンは、「人権の尊重を主眼に持続可能な社会の実現に向け、取引先への協力をお願いしている。本件については、個別具体的な事象などを踏まえて判断する」としています。ウイグル問題や米におけるヘイトクライムなどの人権侵害の問題に端を発して、「人権デューデリジェンス」、「ビジネスと人権」の問題が企業にとっては極めて重要な課題となっています。そのような中、有名企業のトップが差別的文書を堂々と掲載している状況はもはや欧米では「一発アウト」であり、日本においても国際的な潮流をふまえた感覚をビジネスにおいてもバランスよく発揮していくことが求められていると認識する必要があります。この問題については、2021年6月29日付の毎日新聞が取り上げていますので、以下、抜粋して引用します。

取引先の企業はどう考えたのか。「社会性を著しく欠き、当社と相容れない」。関西地区を中心にドラッグストアを展開するキリン堂ホールディングス(大阪市)は取材に答えた。文章の削除についても「説明がなく真意が不明確なため、DHCの今後の対応に基づき、当社としての方針を検討していきたい」とした。一方、流通大手イオンはHPで6月2日、同日までに「非を認め、当該発言を撤回する」と連絡を受け、「今後同様の行為を繰り返さないこと」が確認できたとして取引の継続を発表。取材に「何度かやりとりした上での結論」と説明した。ビジネスと人権に詳しい大阪経済法科大の菅原絵美教授(国際人権法)によると、CSR(企業の社会的責任)の人権に関する国際ガイドラインとして、2011年に国連人権理事会が推奨した「ビジネスと人権に関する指導原則」がある。投資家や取引先が企業内の人権意識や労働環境を鍵に相互に評価できるが、日本では取り組みが遅れ、20年の経団連の調査では実践企業は3割程度。菅原教授は「何もできていない企業はまだまだある」と話す。指導原則は「取引先で人権侵害があった際は、場合によっては一緒に解決しなければならない」と定める。菅原教授は「恐怖や差別を感じた人たちへの対応などが済んでおらず、問題はまだ終わっていない。取引先企業もDHCへの継続的な働きかけが必要で、内容を情報開示してほしい」と求める。

誹謗中傷や偽情報の流布等を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • インドでは、SNS上で「新型コロナウイルスのワクチン接種後、体が磁力を帯びるようになった」との怪情報が拡散されたほか、与党政治家が「牛の尿を飲むとコロナが治る」と発言するなど、偽情報が氾濫していると問題になっています。偽情報が国民のワクチン接種を躊躇させることにもなりかねないと注意を呼び掛けています。報道によれば、インドの医療専門家は、「未知のウイルスが生む恐怖が、人々を合理的な考えから遠ざけている」と偽情報が広がる素地を分析していますが、正にそのとおりだといえると思います。ただし、荒唐無稽な情報を信じ込んでしまう危険があるのは、インドに限った話ではない点にも注意が必要です。
  • 選挙運動に絡むインターネット上の偽情報を巡る動向も注目されます。報道によれば、来春に大統領選や上院議員選を予定するフィリピンは候補者らのネット利用に関するルール作りに着手するほか、米国や欧州でも法整備の動きが相次いでいます。新型コロナウイルスの感染拡大でネットでの情報発信の比重が高まったことが背景にありますが、問題となるのは、表現の自由の侵害につながる可能性です。権威主義的な国では偽情報の取り締まりを口実に、当局にとって不都合な情報の排除を試みる動きも見られています。ロシアでは、2019年にネット上の偽情報を禁止する法律が成立しています。さらに、直近では、外国の巨大IT企業に対し、同国内での事務所設置を義務付ける法律が成立しています。ロシア国内で1日50万人以上が利用する企業が対象で、FB、ユーチューブ、ツイッターなどが該当し、来年1月までに同国内に事務所を設置しなければならなくなります。今年9月に下院選を控えるなか、政権批判の温床になっている外国のSNSに圧力を強める狙いがあるとみられています。本コラムでも紹介したとおり、ロシア当局はこれまで、国内のSNS事業者に、政権に対する抗議デモへの参加呼びかけを「違法」な投稿として削除するよう命ずるなどしてきたものの、外国のSNSは、ロシアの法規制に応じさせる明確な国内拠点がなく、対応に苦慮していたことが背景にあり、プーチン大統領は、「ロシアの法律に従うなら、(SNSのサービスを)遮断するつもりはない」と警告しています。
  • FBのコンテンツを巡る決定が適切かどうかを判断する独立した第三者機関の「監視委員会」は、危険性のある個人や組織に関する規則の重要な適用除外指針をFBが3年にわたって「誤った場所に置いていた」と指摘したといいます。2021年7月9日付ロイターによれば、監視委は、少数派民族クルド人の武装組織「クルド労働者党(PKK)」の創設メンバーであるアブドラ・オカラン氏の独房監禁について語るよう人々に促す写真共有アプリ「インスタグラム」への投稿を巡り、FBの削除決定を覆したことを明らかにしています。監視委は、この投稿は削除されるべきではなかったとしつつ、監視委がこの件を取り上げた後になって、FBは内部規則の関連項目を2018年の新たな評価システムに「不注意にも移していなかった」ことを把握したとも説明しています。この指針は、危険性があると認定した個人や組織を支援したり、称賛したりすることを禁じたFBの規則を巡り、監禁環境についての議論を容認する適用除外を設けていたといいます。FBは長年にわたり、プラットフォーム上で何が認められるのかを巡る疑念を受けており、監視委から規則を巡る透明性の欠如を指摘されているところ、監視委は、重要なポリシー適用除外をFBが今回見失っていたことは「懸念」され、その他の投稿も誤って削除されていた可能性があるとしています。今回のFBの対応の問題はともかく、プラットフォーマーとしての公平性・公正性等が保たれているか、このような形で独立した第三者が評価し、厳しく指摘する仕組みが機能することは、同社の信用・信頼を確保するだけでなく、広く社会にとっても「表現の自由」がどれだけ守られているかを知る有用なものと言えそうです。
  • 米南部フロリダ州の連邦地裁は、同州が7月1日に施行を予定していた、SNS企業による政治家の投稿凍結に罰金を科す州法の仮差し止めを命じています。原告はFBやツイッター、グーグルが参加する業界2団体で、州法は、今年1月の連邦議会襲撃をあおったとしてFBなどがトランプ前大統領の利用を制限したことに対抗するため、SNSから選挙立候補者を追放した場合に罰金を科す内容でした。判事は、州法が企業の表現の自由を侵害し、違憲だと判断したといいますが、さすがに州法でそこまでしてしまうのは「行き過ぎ」だと感じていたところ、筆者としては妥当な結論だと考えます。
  • 英競争・市場庁(CMA)は、アマゾン・ドット・コムとグーグルが偽の商品レビューに十分な対策を講じているか正式な調査を開始したと発表しています。消費者保護法が守られているかさらに情報を収集するといいます。報道によれば、2020年5月に開始した最初の調査では、偽レビューを発見し対処するための内部システムとプロセスについて評価を行い、CMAはアマゾンのシステムについて懸念を表明していました。一部の販売業者が他の商品の肯定的なレビューを利用するなどして商品の掲載を操作することを十分に防げなかったといいます。なお、CMAはアマゾンとグーグルに法令違反があったかどうかの判断は下していないものの、違反があれば強制力を伴う処分を下す可能性があると説明しているといいます。
(7)その他のトピックス
①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

中米エルサルバドルの議会は、暗号資産(仮想通貨)ビットコインを世界で初めて法定通貨にする法律を成立させています。9月7日に施行予定となっているものの、使用は任意だということです。報道によれば、同国は海外在住の労働者からの送金に大きく依存しており、同国への送金は2019年に約60憶ドルと国内総生産(GDP)の約2割を占め、比率が世界で最も高い国の一つとなっていることが背景にあるようです。一方、ビットコインは、そのボラティリティの高さから、「貨幣の三要素」と言われる「支払い決済手段(交換手段)」、「価値尺度(価値を測る尺度、計算単位)」、「価値保存(資産の保存)」という観点からみれば、果たせない状態であることは明白です。にもかかわらず、同国が法定通貨化した目的については、「ビットコインの法定通貨化の最大の目的を既存金融システムの機能不全を克服する金融包摂としているからだ。同国に豊富にある地熱資源を使った電力で専用コンピューターを回し、ビットコインを獲得するいわゆるマイニング(採掘)を政府自身が手掛ける計画も表明しているが、あくまで副産物の位置づけだ。世界銀行の推計では同国の15歳以上人口のうち、3割しか銀行口座を持っていない。つまり同国では金融システムは経済の一部でしか働いていない」(2021年6月21日付日本経済新聞)ということであり、これはこれで一定の説得力があります。さらに、「現金頼みが続く庶民や中小商店は犯罪の標的になりやすい。信用付与がなければ事業を起こしにくく質の良い雇用が生まれない。既存金融システムの包摂力不足が悪循環の一端を担っている。国内の雇用力不足は人々を海外に押しやる」(同)といった悪循環となっていること、「海外からの送金の大きな部分が仲介者に中抜きされている。ビットコインを使うことで年間十億ドル単位で貧しい人々の手取り金額を増やせる」(同国ブケレ大統領)といった主張がなされています。なお、ビットコインの送金自体は低廉であるものの、ドルとの交換には相応の手数料がかかることから、ビットコインだけで取引が完結しない限り、必ずしもその主張のとおりとはいかなさそうです。そして、同国にはそもそもの課題として、「エルサルバドルでは携帯電話の普及率は人口の100%を超えるが、スマートフォンの普及は遅れている。その結果インターネット利用者は人口の3~4割にとどまっている模様だ。暗号資産のやり取りにはネットにつながったスマホが欠かせない。大統領の掲げる国民全体の金融包摂にはまずネット普及率を上げる必要がある」(同)ということで、直近の報道では、国民の4分の3以上が懐疑的な反応を示しているようです(採用を容認する回答は20%に満たなかったとされ、さらには、ビットコインについて「何も知らない」との回答は46%、ビットコインで支払いを受け取る意思はないとの回答は65%だったということです)。また、ビットコインのボラティリティの高さに対して、同国の法律では、「ビットコインを受け取った人が即座にドルに交換できるような仕組みを政府が無料提供するよう義務付けた。さらに、ドル自動交換を引き受けることによる差損リスクに備えるため信託基金を設けることも政府に義務付けた。財務省は当初の基金の規模を3億5000万ドルとする方針。想定値下がり幅を5割と仮定すると、数年で7億ドル程度のビットコイン引き受けが発生すると想定しているようだ」(同)といい、このような仕組みが実際にうまく機能するかどうかが注目されるところです。現時点で、同国に追随するような動きは見られていませんが、仮に9月以降、運用が回り始めた場合、「アフリカや中南米の中に本気で追随する国が出るかもしれない」(同)状況となる可能性も秘めています。なぜなら、「多くの国民が金融システムから除外され、国際送金の手数料に嫌気がさしている点では共通点が多く、既存の国際金融体制に対する不満は政治リーダー、国民ともに大きいからだ。価格変動の激しいビットコインではなく、ドルと等価を維持するステーブルコインと呼ばれる暗号資産を活用するなどほかの選択肢もある」(同)ということであり、本コラムとしても、この壮大な実験の推移を、今後も注視していきたいと思います。

さて、中央銀行デジタル通貨(CBDC)を巡る動きも徐々に激しさを増している状況にあります。対中国包囲網の形成が焦点となったG7サミットの流れを受け、中国が開発を急ぐデジタル人民元の普及を封じ込めるべく、G7は今秋にもCBDCが順守すべき原則をつくると報じられています。いよいよ次世代の金融覇権を民主主義国と覇権主義国のどちらが握るのか主導権争いが激化(本格化)することになりそうです。G7サミットに先駆けて開催されたG7財務相会合では、「CBDCは適切なプライバシーの枠組みの中で運営されるべき。われわれは共通の原則に向け作業し、年後半に結論を公表する」との共同声明を公表し、CBDCの根底には法の支配や透明性といった先進国の共通理念があるべきだとの考えが明記されました。そのG7の主な動きとしては、日本銀行が4月から実証実験に着手し、送金や流通といった通貨の基本機能の検証を始めたことに加え、欧州中央銀行(ECB)も、数カ月以内に実証実験の是非を判断する見込みであるほか、CBDCに相当慎重な姿勢を見せている米国についても、米連邦準備制度理事会(FRB)が今夏、CBDCの利点やリスクに関する報告書をまとめ、検討を本格化させるといった動きを見せています。以下に、主要各国等の動向について簡単に紹介しておきます。

日本では、直近、自民党の金融調査会デジタルマネー推進プロジェクトチーム(PT)で座長を務める村井英樹衆院議員はロイターとのインタビューで、日本のCBDCのイメージが来年末にかけて鮮明になってくるとの見方を示したことが注目されます(2021年7月5日付ロイター)。報道によれば、そこで即座に発行するかどうかの判断に至るわけではないとしつつも、欧米などのCBDCと相互運用性を高めることで中国に標準技術を握られないようにすることも必要だと述べています。本コラムでも紹介したとおり。同PTは昨年末、他国の状況を考慮して日本もCBDCに対する取り組みを加速する必要があるとする提言をまとめています。

各国の中央銀行が加盟する国際決済銀行(BIS)は、CBDCに関する新たな報告書をまとめ、CBDCを支持する動きに出ています。報道(2021年6月23日付日本経済新聞)によれば、すでにCBDC発行済みのカンボジアやバハマは国内のみの流通である一方で、「CBDCが国際決済の改善に道を開きうる」とし、国際協力による決済効率化への意欲を示しています。そのうえで、国境をまたぐ取引で3つの類型を挙げ、国際化の可能性を示している点も注目されます。「具体的には、各国のCBDCを結びつける「マルチCBDC」と呼ぶ仕組みについて、3つの類型を示した。複数のCBDCがひとつのプラットフォームで動く「統合型」、CBDC同士を共通の決済システムなどを使ってつなぐ「連結型」、技術や規制上の基準をそろえる「互換型」だ。決済の効率化などの効果が最も高いのが「統合型」だが、その分だけ国際協調のハードルは上がる。中銀を対象にした調査では、今のところ「連結型」の人気が最も高く、次に「互換型」、3番目が「統合型」となっている」(同)ということです。さらに、「国境を越えた資金のやり取りが簡単になれば、資金洗浄などの犯罪の温床になったり、途上国で先進国のCBDC保有が増えて金融が不安定になったりするリスクがある。報告書では、デジタルIDと呼ばれる電子的な本人認証の仕組みを使って口座を管理することで、リスクは最小限に抑えられるとした」(同)点も注目されます。また、「ビットコインや巨大IT企業の決済システムについては「公益に反する傾向がある」(同)と指摘した」(データを囲い込むことで限られたプレーヤーの市場支配力が高まり、手数料の高止まりなどの独占・寡占の弊害を招きやすくなり、金融システムも不安定になる恐れがあるとした)ほか、「多くの金融機関がCBDCを土台にしたサービスに参入できるようにすれば、コスト低下や技術革新につながる。CBDCを導入する場合、中銀の役割はインフラの構築など最小限にとどめ、利用者へのサービスの提供は民間金融機関に任せる「2層構造」が必要との考え方も明記した」(同)点も極めて重要だと考えます。その結果、この報告書は、「発行時に見込まれる利点の一つが安価で迅速な国際送金システムの実現にあるという認識は共有されつつある」(同)という流れをもたらしています。具体的には、「日銀は5月の報告書で「CBDC同士が円滑かつ安全に交換できるよう、標準化を通じた相互運用性や信頼性の確保の検討を進めることは有用」と指摘した。米連邦準備理事会(FRB)のブレイナード理事も5月の講演で「国際基準の開発に最初から関与することが重要だ」と語った。今夏にFRBが公表するデジタル通貨の報告書でも、国際的な利用をどこまで視野に入れるかが焦点になる」(同)といった状況となっています。なお、2021年6月23日付日本経済新聞の別の記事で、このBIS報告書に関与した調査部門トップが、「「歴史を振り返れば、米ドルや英ポンドが国際通貨になったのは、安全な決済が必要な貿易決済や金融取引で基本となる利用があったからだ」と語った。デジタル通貨になるだけで国際通貨になれるわけではないとし、中国への過度の警戒論には懐疑的な見方を示した」という点は極めて興味深いといえます。さて、直近では、そのBISと、国際通貨基金(IMF)および世界銀行は、CBDCで世界的な協力を連名で呼び掛けています。世界の中銀の約9割がCBDCの創設を検討している中、前述のとおり、互いにどのように協力し運用するのかが課題となっており、報道(2021年7月9日付ロイター)によれば、決済・市場インフラ委員会の委員長でイングランド銀行(英中銀)副総裁のジョン・カンリフ氏はG20向けに準備した報告書で「CBDCは『白紙の状態』で始められる機会となっている。各中銀がクロスボーダーの次元を考慮に入れることが決定的に重要だ」としているほか、IMF金融顧問兼金融資本市場局長のトビアス・エイドリアン氏は「たとえ国内利用のみを意図していても、CBDCの意味合いは国境を越える」と付け加えています。報告書では、CBDCによる国際決済の促進は、共通基準による基本的な互換性から国際決済インフラ構築まで、さまざまな度合いの統合・協力を通じて達成することができると指摘、多国間の協調が必要だと訴えています。

米連邦準備制度理事会(FRB)のクオールズ副議長は、CBDCについて、「米国が発行するハードルは高い」と述べています。報道によれば、「潜在的な便益が不明確な反面、重大かつ具体的なリスクをもたらす」として、「デジタルドル」発行に慎重な姿勢を示したうえで、「米国の(既存の)決済システムは優れている」とした上で、デジタルドルにはサイバー攻撃やマネー・ローンダリングへの懸念があるとし、FRBの管理コストが膨らむ課題にも言及しています。さらに同氏は、米国には強い経済基盤や各国との広範な貿易関係があると指摘し、「世界の基軸通貨としてのドルの地位が、外国のCBDCによって、基軸通貨としてのドルの地位が脅かされることはないだろう」と述べたています。さらに、「目新しさにとらわれる前に、CBDCに関する約束を注意深く批判的に分析しなければならない」とし、「特にFRBのCBDC開発によるメリットがリスクを上回ると確信する必要がある」とも述べています。また、ドルはすでに「高度にデジタル化されている」とし、CBDCが金融包摂の改善や金融コストの低減につながるか疑問を呈しています。「これらの問題の一部は低コストの銀行口座へのアクセス拡大など他の方法で対処できるかもしれない」としたほか、「FRBのCBDCは民間企業の金融イノベーションを妨げ、預金を元手に融資を行う金融システムの脅威になる可能性がある」ともしています。なお、前述のとおり、FRBは今夏にCBDC発行を巡る賛否をまとめた「ディスカッション・ペーパー」を公表する予定で、パウエル議長はこれまでに、議会の承認が得られない限りデジタル通貨の導入は困難との考えを示しています。また、米ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は、決済手段の技術革新が進み、中央銀行などがCBDC発行の検討を進める中、いくつかの重要な問題に対応する必要がある、新たなデジタル通貨が導入されれば、政策担当者はこうした新しい技術をどのように規制し、既存の紙幣とどのように共存させるか、検討しなくてはならないと述べています。

一方、欧州中央銀行(ECB)理事会メンバーのビルロワドガロー仏中銀総裁は、デジタルユーロと欧州決済システムを巡る計画を推進しなければ、欧州の通貨に対する主権がリスクにさらされると警告しています。報道によれば、同総裁は、新型コロナウイルス感染拡大を受け消費者の現金離れが進み、大手ハイテク企業が市場に参入する中、新たなインフラの整備に残された時間はあと1、2年しかないと指摘、「デジタル通貨と決済の双方で、欧州が迅速に対応しなければ、欧州の通貨の主権が損なわれるリスクがある。こうしたことは容認できない」と述べたほか、銀行は個人向け事業でCBDCを配布し、法人向け事業で簡易で安全な決済を提供できると指摘しています。なお、仏中銀は官民の金融機関と連携し、CBDCの実証実験をこれまでに5回実施、年内にあと4回実施する予定だといいます。

次に、暗号資産を巡る最近の動向を確認します。

中国政府は、暗号資産の投機的な取引が金融市場をゆがめているほか、海外への違法な資金移転を助長しているとして警戒を強めています。そのような流れを受けて、中国人民銀行(中央銀行)は、ビットコインなど暗号資産の関連業務を禁じるよう金融機関を呼び出して指導しています。報道によれば、対象には、中国電子商取引(EC)最大手アリババグループの電子決済サービス「アリペイ」も含まれ、アリペイのプラットフォームを利用した取引も警戒しているとされます。中国では暗号資産業務は既に禁止されているものの、あらためて引き締めた形となります。関連する口座開設や決済といったサービスの提供は「正常な金融秩序を乱し、マネー・ローンダリングなどの犯罪につながるリスクを生じる」と強調しています。他に呼び出されたのは、中国建設銀行や農業銀行といった主要行で、うち複数の銀行が「いかなる個人や組織も、本行を利用して暗号資産の取引をしてはならない」との公告を出しています。あわせて、中国当局は、暗号資産ビットコインのマイニング(採掘)に対する取り締まりを強化しており、新たに四川省でもマイニングプロジェクトの閉鎖を命じています。中国では暗号資産のマイニングが盛んで、世界のビットコインの生産の半分以上が中国国内で行われているといいます。しかし、中国国務院(内閣に相当)は今年5月、金融分野のリスク抑制に向けた一連の措置として、ビットコインのマイニングと取引を取り締まると発表、内モンゴルなどマイニングが活発な地域の中には、マイニングで大気汚染を引き起こす石炭火力発電を利用していることを規制の理由として挙げているところもあるようです。一方、主に水力発電を利用している四川省のマイニングに閉鎖命令が出たことで、当局が石炭火力発電を利用しないプロジェクトについても規制を強化している可能性が指摘されています。なお、すでに業者が機器を投げ売りしたり、米テキサス州やカザフスタンなど海外に逃げ出そうとしたりしており、中国国内のマイニング業界は壊滅状態に陥っているとの報道もあります(中国の暗号資産マイニング向け機器最大手、ビットメインは、自社製品が中古市場に大量に流れているため、新たな販売を停止したと発表、また、米国、カナダ、オーストラリア、ロシア、カザフスタン、インドネシアを含む外国で「高質な」電力供給のある場所を顧客と共に探していると明らかにしています。中国の採掘業者の多くは採掘機器を売却し、同事業から撤退するか、機器を海外に送っているとも報じられています)。さらに、直近では、中国人民銀行などが、北京市内で暗号資産の取引に絡む事業者に対し、オフィスや営業広告サービスを提供することを禁じると発表しています。金融機関や決済会社による顧客への関連サービスの提供だけでなく、暗号資産の取引全体への引き締めを強化しており、中国人民銀行は同市の金融監督当局である北京市地方金融監督管理局とともに、市内の不動産やネット広告などの関連事業者に警告しています(当局は、暗号資産の取引にソフトウエアサービスを提供していた同市内の企業に事業清算を命じています)。

その他、世界各地における暗号資産を巡る動向から、いくつか紹介します。

  • 中国人民銀行が金融機関に対し、暗号資産を決済に利用しないよう通知したことを受け、香港政府も暗号資産を扱う事業者を登録制とし、一般の個人投資家による取引を禁止する方針としています。報道によれば、政府の金融サービス・財務局長は「金融は信頼の上に成り立つ無形の概念だ。規制がしっかり整った環境が必要だ」と話していますが、金融革新(イノベーション)の象徴で、もともと国家の通貨発行権に対抗する性格もあった暗号資産が、規制強化や当局が管理しやすいデジタル通貨に駆逐されるとすれば皮肉な展開だといえます
  • オーストラリア証券投資委員会(ASIC)は、暗号資産に関する提案について、市場関係者に意見を求めると表明しています。報道によれば、適切な暗号資産を特定し、暗号資産を裏付けとする金融商品についてグッド・プラクティスを提示することが狙いだといいます。ASICは、暗号資産を裏付けとする上場投資商品(ETP)などの金融商品が適切に開発・規制されなければ、「消費者と市場に損失が及ぶ現実的なリスク」があると指摘、個人投資家を保護し、公正な市場慣行を維持するため、プライシング、保有、リスク管理、情報開示についてグッド・プラクティスを提示することを提案したものです。
  • メキシコの金融当局は、国内で暗号資産は違法であり、現行法で通貨とみなされておらず、暗号資産を扱う金融機関は罰則の対象になると発表しています。メキシコ中央銀行と財務省、銀行規制当局は共同声明で「メキシコの金融機関はビットコインやイーサ、XRPなどの暗号資産を使った業務を行ったり、一般に提供したりすることを許可されていない。暗号資産と金融システムの健全な距離を保つことが理由だ」と説明しています。さらに、国内の金融機関は暗号資産取り扱いに関連したリスクが顧客に及ぶことを回避しなければならないとしています。
  • アフリカ東部タンザニアの中央銀行は、暗号資産を容認する検討に入ったということです。今年3月に就任したハッサン大統領の指示に基づくもので、2019年に中銀が暗号資産の使用を禁じた措置を覆す可能性があります。同氏は6月に入り、暗号資産について「多くの国は受け入れていないが、取り組みを始めるよう中銀に勧告する」と述べていました。
  • 南アフリカの暗号資産交換所、アフリクリプトから顧客資金36億ドルが消滅し、創業者の兄弟2人が行方不明になっているということです。アフリクリプトは今年4月に顧客に対し、アカウントがハッカー攻撃を受けたと通知しています。報道(2021年6月28日付ロイター)によれば、4月13日付の顧客宛て書簡で、アフリクリプトのアミール・カジーCOOは、システムへの不正侵入によって顧客のアカウントが全て被害に遭ったと説明。アフリクリプトは事業を停止し、「盗まれた資金の回収を試みるプロセスを開始」したとしています。
  • イランの警察当局は非合法な暗号資産のマイニングファームで採掘者7,000人を拘束しています。過去最大規模の摘発だといいます。イランでは採掘機器による膨大なエネルギー消費で停電の発生頻度が高くなっていることから、今年5月下旬にビットコインを含む暗号資産の採掘を約4カ月間禁止しました。夏季の電力消費急増が原因とされる停電の発生頻度を抑える狙いがあるとされます。なお、イランでのビットコインのマイニングは全体の約5%を占め、マイニングによる収入は、米制裁の影響を和らげるために使われているともいわれています。
  • JPモルガンの調査で、暗号資産の取引を行っているのは、機関投資家の10%にとどまることが分かったといいます。報道によれば、暗号資産を「ラットポイズン(殺そ剤)」のようなもの(著名な投資家のウォーレン・バフェット氏の発言)と捉えたり、一時的な流行と考える向きも多かったほか、暗号資産に投資していない機関投資家のうち、80%は、暗号資産への投資や取引を開始する予定はないと回答したともいいます。一方、個人的な投資について聞くと、40%が暗号資産の取引を行っていると回答、8割が暗号資産を巡る規制が今後強化されると思うとし、暗号資産に関連する詐欺的な行為が「ある程度、もしくは非常に多い」としたのは95%にも上ったということです。
  • 暗号資産交換大手バイナンスの広報担当者は、5月以降に同社の個人間取引プラットフォームでボリバル建て取引が75%増加しており、ビットコイン価格が5月初めに急落した後では、中南米通貨で唯一取引が上向いていると説明しています。米国ではピザハット、チャーチズチキンといったファストフードチェーンや一部スーパーなどがビットコイン、ダッシュなどの暗号資産を決済手段として受け入れつつあり、ショッピングモールなどには有名な暗号資産のロゴが並ぶ光景が見られる一方、ベネズエラの場合、暗号資産取引はあくまで企業がインフレに対処するためのボリバルとの交換が大半を占めているといい、「暗号資産はひどい経済状況を一時的にしのぐ方策として利用されているが、取引主体はほとんどが企業だ」ということです。
  • 2021年6月17日付ロイターで、ビットコインなど暗号資産に関する会計基準の整備を急ぐべきだとのコラムが公表されており、注目したいところです。同記事では、「実は、電気自動車(EV)のテスラ、電子決済のスクエア、ソフトウエアのマイクロストラテジーなど暗号資産を導入している企業にとって、決算報告の規則は本来の目的に合っていない。今のところごく限られた範囲の問題だが、いずれそうではなくなるかもしれない。…デジタル資産は種類ごとに特徴が異なる。ビットコインに適した処理が、他の暗号資産には合わないかもしれない。全体に通用する仕組みを作るのは大変な作業だ。デジタル通貨が今後も存続すると想定するならば、これは当然の懸念と言える。しかしだからこそ、リスクがさらに大きくなる前に、今すぐ対応に着手すべきだ」と指摘しているもので、正にそのとおりだと考えます。なお、このような懸念に関連して、6月21日の東京株式市場でオンラインゲーム大手のネクソン株が一時、前週末比168円(7%)安い2,403円まで下げ、年初来安値を更新、保有する暗号資産ビットコインの価格が下落し、含み損を嫌気した売りが出たことによるものとされています。専門家は「キャッシュリッチだけに財務に大きな影響はないが、市場からは不確実性の高い投資を敬遠する動きが出ている」とされ、業績面での支援材料は乏しいだけに、ビットコインに株価が左右される展開が続きそうということで、企業会計と暗号資産の関係の整理はやはり愁眉の急とでもいえる状況だと思います。
  • 分散型金融(Decentralized finance、DeFi、ディーファイ)と呼ばれる暗号資産市場の新しい仕組みが広がっているといいます。報道(2021年6月21日付日本経済新聞)によれば、暗号資産の売買や貸し借りなどを「無人」で提供するもので、200種類以上の金融サービスがあり、土台となる資産のプールは今年5月中旬には約9兆円を超えたといいます。ただ、本人確認なく利用できる匿名性の高さや利用者保護の仕組みが不十分などリスクも多いということです。専門家は、「現状はまだ、システムのセキュリティ対策や、サービスの財政状況などを自分で確認できないと詐欺被害やサイバー攻撃の被害にあい、保護もされないということがあり得る。これからサービスが淘汰されていく」と指摘していますが、その間にも「犯罪インフラ」化してしまう可能性もあり、早急な対応が必要だと指摘しておきたいと思います。
  • 暗号資産を巡るトラブルが多発しています。国民生活センターによると、今年4月以降、7月6日までに寄せられた相談は856件で、過去最多だった2018年度の3,455件に迫る勢いだといいます。海外に投資した資金が戻らないケースが目立ち、韓国では今春、日本人約100人が運用業者を刑事告訴するケースも発生しています。金融庁、消費者庁、警察庁は今年4月、海外業者を含む無登録業者の勧誘で暗号資産に出資した後、連絡が取れなくなるケースがあるとして注意を呼びかけています。国民生活センターの担当者は「投資する際はリスクを十分に考慮し、日本国内で登録された業者を介して取引してほしい」としています。一方、京都府在住の男性に暗号資産ビットコインをだまし取られたとして、新潟県や東京都など13都道県の40の個人や企業が、男性に対して計1億2,000万円の損害賠償を求める訴訟を京都地裁に起こしています。報道によれば、男性は、価格変動リスクを回避できるシステムでビットコインを運用すれば、毎月20%の利益が上げられると説明、利用料としてコインを預ければ、利益のうち7~8%を毎月配当するとして指定口座に送金させたが、その後支払いが滞ったというものです。
  • 暗号資産交換大手バイナンスの摘発が各国で進んでいます。英国の金融監督当局である金融行為監督機構(FCA)が、バイナンスが英国での事業を禁止したとして消費者に注意を呼びかけています(FCAが6月26日付で英法人に無許可営業の禁止を通知、利用者の出入金に制約が出ている状況です)。さらに、同社を巡っては、日本の金融庁も、無登録で日本の居住者にサービスを提供したとして警告を発しています。さらには、米ブルームバーグ通信が今年5月、米司法省や内国歳入庁(IRS)がバイナンスを捜査していると報じており、マネー・ローンダリングなどに関する情報を収集しているということです。同社の経営実態は不透明で、法律の網をかいくぐるためか拠点を明確に定めていない状況です。暗号資産は国境をまたぐ取引の捕捉が難しく、特定の利用者が関与する複数の取引を関連づけられない追跡の困難性や、匿名性という特徴を持つため、「無国籍」をうたう事業者に対する当局の対応が後手に回っているのが現実です。一方で、暗号資産がマネー・ローンダリングや脱税、テロ活動への資金援助などに悪用されることが懸念されているうえ、取引規模が大きくなり、国際当局も無視できなくなっていることから、FATFは2021年3月に、暗号資産に関する指針の改訂案を示し、交換業者の定義や個人間取引のリスクを明確化したほか、暗号資産の送り手と受け取り手の個人情報を交換業者に記録させるトラベルルールの導入に向けた詳細な仕組みづくりも進めています(この点については、前述した「AML/CFTを巡る動向」も参照いただければと思います)。
②IRカジノ/依存症を巡る動向

任期満了に伴う横浜市長選挙(8月8日告示、22日投開票)を巡る動きが活発化しています。人口減や超高齢化などが進むなか、横浜市の経済再生や活性化にはIR誘致が不可欠だとして推進してきた現市長の林氏は、4期目となることもあり、本稿執筆時点で最終的な出馬の意向を示していません。一方、IRに反対の立場から著名な方々の立候補表明が相次いでいます。前国家公安委員長の小此木氏は、菅首相のお膝元である横浜市でIR反対を表明するのが難しいと考えられるところ、報道によれば、「新型コロナの現実を踏まえ取りやめる。横浜では環境が整っていない」と表明、国の政策としてはIR推進に賛成しつつ、横浜への誘致は市民の反対を理由に断念する考えを示しています。さらには、元検事でコンプライアンスの分野では高名な弁護士である郷原氏(横浜市のコンプライアンス顧問も務めていたといいます)も、「民意が問われていない」と指摘し、住民投票を実施すべきだと訴えて出馬する意向を示しています。また、元長野県知事の田中氏も、「もう答えが出ている。横浜にカジノ、IRは設けないことで、市民のコンセンサスが取れている」と反対を明言したうえで、正式に出馬を表明しています。報道によれば、世論調査で市民の過半数がIR誘致に反対していると指摘し、「今のコンセンサスを選挙で改めて確認する」と言及しています。その他、立憲民主党が推薦する元横浜市立大教授の山中氏も出馬を検討していると報じられています。否が応でも「IR誘致」は今回の選挙の争点とならざるを得ず、今後の動向が注目されます。

さて、ギャンブル依存症に関して、興味深い記事がありました。2021年7月6日付朝日新聞「「スマホで公営競技」加速するIT企業依存症リスクも」として、「公営競技の売り上げが伸びている。ネット投票などオンライン化が進み、新型コロナ下でも無観客で開催されて市場が拡大。成長市場とみたIT企業の参入も相次ぐが、若者がギャンブルに接しやすくなることに懸念の声も上がる」との問題提起をするものです。ミクシィやサイバーエージェントなどIT大手が相次いで参入していることを取り上げていますが、重要と思われる部分を、以下抜粋して引用します。

依存症の懸念に、ミクシィの木村社長は「オンライン化することで、追跡可能性が高まる」と説明する。周囲や本人がのめり込みに気づいた時、後から利用金額を確認したりアカウントを停止したりできるため、逆に一定の対応が取れるとの立場だ。利用限度額の設定機能は、現時点ではないという。一方、ギャンブル依存症に詳しい大谷大学の滝口直子教授は、こうしたサービスで公営競技が身近な存在になることで、問題が起きる可能性は高まるとみる。「スマホで簡単にギャンブルにアクセスできると、問題が可視化されにくくなる。家族も含め、問題が大きくなるまで周りが気づけなくなる恐れがある」と話す。その上で、公営競技に関わる自治体や企業にはリスクを最小化する義務があるとして「金額や利用時間の上限設定を義務化したり、独立機関が利用状況をモニターして、依存の兆候が現れたら注意喚起したりといった対策が必要ではないか」と指摘する。

筆者としては、これまで本コラムでギャンブル依存症について考えてきたことをふまえれば、依存症になる前の段階で(可能な限り兆候を早く掴んで)介入することが重要であり、滝口教授の指摘するとおり、公営競技に関わる者は、もっと主体的に、積極的にギャンブル依存症対策(というより、ギャンブル依存症にならないための未然防止策)に取り組む必要があると考えます。

③犯罪統計資料

令和3年1~5月の犯罪統計資料が警察庁から公表されていますので、紹介します。

▼警察庁 犯罪統計資料(令和3年1~5月分)

令和3年1~5月の刑法犯総数について、認知件数は227,287件(前年同期254,957件、前年同期比▲10.8%)、検挙件数は105,049件(108,529件、▲3.2%)、検挙率は46.2%(42.6%、+3.6P)と、認知件数・検挙件数ともに減少傾向が継続している点が特徴です。なお、刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数は121,196件(146,875件、▲17.5%)、検挙件数は52,582件(54,655件、▲3.6%)、検挙率は43.5%(37.2%、+6.3P)、うち万引きの認知件数は37,225件(35,553件、+4.7%)、検挙件数は26,189件(25,590件、+2.3%)、検挙率は70.4%(72.0%、▲1.6P)、知能犯の認知件数は13,920件(13,337件、+4.4%)、検挙件数は7,138件(6,805件、+4.9%)、検挙率は51.3%(51.0%、+0.3P)、詐欺の認知件数は12,653件(11,972件、+5.7%)、検挙件数は6,092件(5,908件、+4.9%)、検挙率は48.1%(48.5%、▲0.4P)などとなっています。刑法犯全体の認知件数・検挙件数が減少傾向の中、万引きと知能犯、詐欺については増加傾向にあり、注意が必要な状況です。

また、特別法犯総数については、検挙件数は27,069件(25,783件、+5.0%)、検挙人員は22,405人(21,782人、+2.9%)と昨年は検挙件数・検挙人員ともに微減となったものの、反転して増加傾向を示している点が特徴的です。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は2,130件(2,449件、▲13.0%)、検挙人員は22,405人(21,782人、+2.9%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は921件(1,083件、▲15.0%)、検挙人員は741人(897人、▲17.4%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は97件(220件、▲55.9%)、検挙人員は44人(45人、▲2.2%)、不正競争防止法違反の検挙件数は35件(30件、+16.7%)、検挙人員は31人(39人、▲20.5%)、銃刀法違反の検挙件数は1,946件(1,970件、▲1.2%)、検挙人員は1,705人(1,734人、▲1.7%)などとなっています。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は314件(328件、▲4.3%)、検挙人員は186人(167人、+11.4%)、大麻取締法違反の検挙件数は2,451件(1,995件、+22.9%)、検挙人員は1,952人(1,686人、+15.9%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は4,242件(4,128件、+2.8%)、検挙人員は2,863人(2,884人、▲0.7%)などとなっており、覚せい剤事犯と大麻事犯の検挙件数は前年に比べても大きく増加傾向を示しており(特に大麻事犯)、やはり薬物事犯の情勢はかなり深刻だといえます。また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯国籍別検挙人員については、ベトナム70人(29人、+141.3%)、中国36人(40人、▲10.0%)、ブレ汁16人(26人、▲38.5%)、フィリピン12人(9人、+33.3%)、韓国・朝鮮9人(14人、▲35.7%)などとなっています。

一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数は4,473件(4,414件、+1.3%)、検挙人員は2,427人(2,652人、▲8.5%)と昨年1年間の傾向から一転して、検挙件数は増加に転じてい点が特徴です。以前の本コラム(暴排トピックス2021年3月号)では、「基礎疾患を抱え高齢化が顕著に進行している暴力団員のコロナ禍の行動様式として、検挙されない(検挙されにくい)活動実態にあったといえます」と指摘しましたが、ここにきて活動が活発化している可能性を示すともいえ、今後の動向に注意する必要がありそうです。犯罪類型別では、暴行の検挙件数は278件(340件、▲18.2%)、検挙人員は262人(314人、▲16.6%)、傷害の検挙件数は416件(539件、▲22.8%)、検挙人員は502人(621人、▲19.2%)、脅迫の検挙件数は127件(148件、▲14.2%)、検挙人員は124人(135人、▲8.1%)、恐喝の検挙件数は144件(140件、+2.9%)、検挙人員は169人(170人、▲0.6%)、窃盗の認知件数は2,255件(2,021件、+11.6%)、検挙人員は363人(400人、▲9.3%)、詐欺の検挙件数は609件(566件、+7.6%)、検挙人員は477人(436人、+9.4%)、賭博の検挙件数は15件(15件、±0.0%)、検挙人員は45人(43人、+4.7%)などとなっています。とりわけ、全体の傾向と同様、窃盗、詐欺については、昨年はコロナ禍の影響で大きく減少したところ、一転して大きく増加傾向を示している点は注意が必要です。さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯総数について、検挙件数は2,568件(2,793件、▲8.1%)、検挙人員は1,733人(2,056人、▲15.7%)とこちらは昨年1年間の傾向同様、減少傾向が続いていることが分かります。犯罪類型別では、暴力団排除条例違反の検挙件数は13件(26件、▲50.0%)、検挙人員は42人(61人、▲31.1%)、銃刀法違反の検挙件数は34件(58件、▲41.4%)、検挙人員は26人(43人、▲39.5%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は52件(56件、▲7.1%)、検挙人員は13人(20人、▲35.0%)、大麻取締法違反の検挙件数は422件(399件、+5.8%)、検挙人員は258人(282人、▲8.5%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は1,697件(1,826件、▲7.1%)、検挙人員は1,095人(1,279人、▲14.4%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は55件(37件、+48.6%)、検挙人員は38人(25人、+52.0%)などとなっており、薬物事犯全体が大きく増加している中、暴力団犯罪については引き続き減少傾向を示している点が特徴的だといえます。

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

報道によれば、韓国の情報機関傘下の国家安保戦略研究院は、北朝鮮が海外からの新型コロナウイルスのワクチン導入を目指しているが、いまだ入手できていないとの分析を明らかにしています。副反応を懸念して英アストラゼネカ製の受け入れを拒否し、中国製についても不信感から導入をためらっているといいます。さらに、ワクチンの公平な分配を目指す国際的な枠組み「COVAX」が、北朝鮮に約200万回分の配分を決め、大半を5月までに北朝鮮に送る計画だったものの、北朝鮮はアストラゼネカ製に難色を示し、他社製に替えられるか打診したきたといいます。また、米ファイザーやモデルナ製は特別な冷凍設備が必要で、電力供給が不安定な北朝鮮では、大都市以外で設備の運用は難しいとの見方も出ています。一方、ロシア製について北朝鮮は肯定的に評価しているものの、無償支援を要求しているようだと報じられています。対外的に、公式には感染者ゼロを装っているものの、ワクチン入手を巡る動向が伝えられるようになり、変化の兆しを感じます。また、ほぼ停止状態が続いている中国と北朝鮮との貿易で、陸路による交易が7月下旬にも再開する見通しになったことがわかったと報じられています(2021年7月9日付読売新聞)。北朝鮮は新型コロナウイルスの流入を警戒して貿易を極限まで絞ってきましたが、食糧事情の悪化で背に腹は代えられなくなったということかと思われます。7月下旬から8月にかけて鉄路を使った交易を再開するため準備を進めてほしいという連絡があったといい、中国遼寧省丹東市から北朝鮮側の新義州に入る鉄道で、食糧や化学肥料、薬品を送ることになります。なお、物資は新義州の専用施設で半月ほど「隔離」し、各地に輸送される見通しです。なお、本コラムでも紹介したとおり、鉄道による交易は今春に再開するとみられていましたが、北朝鮮側が変異ウイルスを警戒し、受け入れを拒んだということです。

さて、食糧事情の悪化についても報道が相次いでいます。韓国政府の推計では、2020年の北朝鮮の穀物生産量は前年比で5.2%減ったとされます。そのような状況下、朝鮮労働党の中央委員会総会が先月(6月)開催され、金正恩朝鮮労働党総書記は「人民の食糧事情が切迫している」と危機感を表明し、農業問題の解決に向けて党と国家の総力を傾けるよう指示したと報じられています。総会では、新型コロナウイルスをめぐる非常防疫体制の長期化への対応策も論議されたほか、現国際情勢への党の対応方針も議論されてたようです。金正恩総書記は「現在われわれの前に横たわる隘路と難関」によって国家計画と政策の遂行過程で困難が生じている」、「経済全般の維持と衣食住の保障のための戦いも長期化する」ととし、特に昨年の台風被害で穀物生産計画が目標に達しない現状を認めています。この点について、国連食糧農業機関(FAO)は、北朝鮮で昨年の水害などが影響し、100万トン以上の食糧が不足するとの見通しを示し、輸入分を充てても約86万トンが足りないと試算しています(なお、この時期、金正恩総書記の体重減少を心配する住民の声を国営メディアが伝えました。異例な姿勢の背景には、健康状態に関する憶測を防ぐとともに、食糧難にあって国民と犠牲を分かち合う最高指導者の姿を演出する北朝鮮指導部の意図があるのではないかとの見方が優勢です)。注目された対米政策については、「対話も対決も準備しなければならず、特に対決はぬかりなく準備しなければならない」と述べています。バイデン米政権が見直しを終えた対北朝鮮政策について、正恩氏の言及が明らかになるのは初めてとなりました。なお、この発言について、米国家安全保障担当大統領補佐官が「興味深いシグナル」として、「バイデン政権は朝鮮半島の完全な非核化という究極の目的に向けて北朝鮮側と協議する用意ができている」、「目的を達成する上で外交に代わるものはない」と指摘した点について、妹でもある金与正・朝鮮労働党副部長が「間違った期待は(米国を)さらに大きな失望に陥れることになる」とけん制しています(さらに、その翌日には、李善権外相が、「われわれは米国とのいかなる接触の可能性も考えていないし、ましてや接触しても何の得にもならず、貴重な時間を費やすだけだ」と述べています)。米国は、経済制裁の解除など北朝鮮の要求に応じる姿勢を示しておらず、金正恩総書記の談話は、交渉による北朝鮮の非核化を目指す米国を揺さぶる狙いがあるとみられています。

また、同総会閉幕に際して、足元の経済難を念頭に「堅忍不抜の闘志で現在の難局を必ず克服する」と宣言した一方で、党指導機関の活動や生活について「重大な問題が生じている」と叱責する場面もあったとされます。金正恩総書記は党員に対して「人民に社会主義の恩恵が少しでも多く届くように、自分の血と汗を惜しみなくささげるという覚悟を持たなければならない」と訴えたといいます。その後、朝鮮労働党中央委員会政治局拡大会議が開かれ、金正恩総書記は「責任幹部が世界的な保健医療危機に備えた党の決定の執行を怠ったことで、国家と人民の安全に大きな危機をもたらす重大事件を発生させた」と述べています。「重大事件」の中身には触れていませんが、北朝鮮がこれまで感染者がいないとしてきた新型コロナウイルスの防疫をめぐり、何らかの問題が発生した可能性が指摘されています。また、金正恩総書記は「幹部の無責任と無能」を批判し、会議では、党最高指導部の政治局常務委員(正恩氏含む5人)の解任を含む人事も行われたといいます。党幹部に厳しい姿勢を取ることで、国民の不満を和らげる狙いもあるとみられています。

さて、その「重大な事件」に関心が集まっています。これまで北朝鮮当局は、「新型コロナウイルスの感染者は出ていない」としてきたが、報道によれば、北朝鮮の事情を知り得る複数の関係者は「感染の疑われる事態が発生したようだ」としています。中国との国境近くで発熱を訴える人が出たため、北朝鮮当局がこの地域を封鎖したとの情報があり、新型コロナ対策で、北朝鮮は中国との国境を封鎖しているが、一部の機関が防疫措置を守らずに中国側と密貿易をした疑いがもたれているとされます。そして、直近では、金正恩総書記は祖父の故金日成主席の命日である7月8日、遺体が安置されている錦繍山太陽宮殿を参拝しましたが、この時の集合写真の序列から、核・ミサイル開発を主導してきた軍出身の李炳哲氏が、党中枢幹部である政治局常務委員から降格していたことが確実となったと報じられています(なお、李氏は昨年、党中央軍事委副委員長や政治局常務委員に選ばれ、元帥の称号も得る異例の昇進をしたばかりです)。公式報道では、だれが処分されたか明らかにされませんでしたが、李氏だった可能性が高く、中朝貿易の再開のための拠点として軍の飛行場を転用しようとしたものの、消毒施設の準備が不十分で稼働が遅れていることや軍の備蓄米の供給の遅れなどが問われたほか、「軍が備蓄米を放出しようとしたが足りず、幹部が中国から輸入を許可したことに、防疫や国境管理の問題があるとして金総書記が激怒した」といった情報もあり、李氏が党軍需工業部長に格下げされたとの見方が優勢です。また、李氏は、会議で人事を巡る挙手が行われた際、手を挙げなかったことなどから、韓国統一省の関係者も「解任の可能性が高い」と指摘していたところです(一方で、核・ミサイルを増強する指導部方針に変化はなく、李氏が元の地位に戻る可能性も指摘されています)。

そのような中、米国務省は、世界各国の人身売買に関する2021年版の年次報告書を発表、北朝鮮が新型コロナウイルスの感染拡大を利用して政治犯の収容を増やし、強制労働させていると批判しています。報道によれば、北朝鮮当局がマスクを着用していない人や外出制限規則を破った人を政治犯として拘束し、最低3カ月の強制労働を課しているとの報告があると指摘、政治犯の増加に伴い、収容所を新設したり拡張したりしているとしています(なお、北朝鮮のほか中国やロシア、イランなど計17カ国を制裁の可能性がある最低ランクに位置づけています)。

また、北朝鮮によるサイバー攻撃は以前から続いていますが、今年5月、原子力技術の研究開発を担う政府系機関である韓国原子力研究院を狙ったサイバー攻撃を仕掛けていたことが判明しています。北朝鮮の情報工作機関傘下のハッカー組織「Kimsuky」が、内部のネットワークに侵入した痕跡が確認されたということです。攻撃に使われた13個のIPアドレスのうち1個がKimsukyと関連を持つことが判明、Kimsukyは朝鮮人民軍偵察総局に属しており、これまでにも韓国の新型コロナウイルスワクチンを開発する製薬会社や国営の原子炉運営企業などを標的にしたことがあるとされます。原子力関連技術が北朝鮮に流出した可能性も含め、韓国政府が被害の詳細を調べています。北朝鮮に原子力技術が流出すれば、韓国軍から国防情報が流出した2016年の事件に次ぐハッキング被害となる可能性があります。なお、2016年のサイバー攻撃では、米韓両軍が策定した金正恩総書記の排除計画「斬首作戦」を含む多数の機密情報が流出したとされます。

北朝鮮の外交面の状況についても確認しておきます。まず中国との関係については、金正恩総書記は、創立100周年を迎えた中国共産党の習近平総書記(国家主席)に祝電を送り、「朝鮮労働党と中国共産党は帝国主義に反対し、社会主義を建設する長期間の闘争過程で生死苦楽を共にした真の同志で戦友だ」と強調、米国などを念頭に「中国共産党に対する敵対勢力の悪辣な誹謗中傷と全面的な圧迫は断末魔的なあがきにすぎない」と批判、「(中朝は)戦闘的な友誼と血縁的な絆の力で難関と障害を克服し、まばゆい未来に突き進む」と訴えたといいます。さらには、北朝鮮外務省は公式サイトに5日付で掲載した記事で、中国政府に批判的な論調で知られた蘋果日報(アップルデイリー)が香港当局の弾圧で休刊に追い込まれたことについて、「法治と社会秩序を守るための正当な措置だ」と主張し、積極的な支持を表明しています。記事では、「香港は中国の香港だ」と題し、朝中民間交流促進協会の会員名で出されたもので「香港で民心を乱し、無分別な狼藉をそそのかす先頭に立っていた」と蘋果日報を批判、「香港政府が法に基づき、国家の安全や香港の繁栄を守るために講じる全ての措置を支持する」と強調しています。このように、中国との関係を特別に重視する姿勢を示しています。かたや中国も、李進軍・駐北朝鮮大使は習近平国家主席の訪朝から2年を迎えたのに合わせ、朝鮮労働党機関紙・労働新聞に寄稿し、北朝鮮との交流、協力を強化する考えを示しています。米中が対立する中、北朝鮮との密接な関係を誇示し、日米韓に対抗する思惑もあるとみられています。報道によれば、李氏は「今、中朝関係は歴史の新たな出発点に立っている」とし、「朝鮮側と共に、遠く前を見通しながら、戦略的意思疎通を強化し、実務的協力を拡大し、親善交流を深化させ、両党、両国の最高指導者の重要な共通認識を具現化していく」と強調、文化、保健、農業、観光など各分野の交流を進める考えを表明しています。さらに、直近では、中国外務省が、中国の習近平国家主席と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が、朝鮮半島有事の際に中国が自動介入することを規定した「中朝友好協力相互援助条約」の締結から60年となったことを受け、祝電を交換したと発表しています。報道によれば、習氏は祝電の中で、条約について、「両国の友好協力を永続的に進めるための重要な政治・法律的基礎をうち固めた」と評価したといいます。そのうえで、中朝と対立を深める米国を念頭に、「世界ではいま、この100年でかつてない大きな変化が急速に進んでいる。(金)総書記同志と戦略的な意思疎通を強め、中朝関係を前進させていきたい」と述べ、北朝鮮との連携強化に意欲を見せています。それに対し、金総書記も祝電の中で、「朝中友好協力関係を絶えず発展させていくことは、党と政府の確固不動の立場だ」と言及し、両国関係のさらなる発展に期待感を示しています。このように、中朝の関係は双方の思惑の中で表面的には良好な関係となっています。

一方、日本に対しては厳しい姿勢を堅持しています。例えば、北朝鮮の対外宣伝サイト「わが民族同士」は、東京五輪・パラリンピック組織委員会ホームページに島根県の竹島(韓国、北朝鮮名・独島)が表示されているなどとして、日本当局が東京五輪を「政治、外交的に悪用している」と批判しています。対談形式の記事で、論評員が「領土強奪策動を正当化しようとしている」と非難、世界的な新型コロナウイルス危機にもかかわらず、五輪を強行するのは国威発揚により軍国主義を復活させる狙いがあるなどと主張しています。本コラムでも紹介したとおり、北朝鮮は今年4月、新型コロナを理由に東京五輪への不参加を表明しています。また、日本と米国、韓国の3か国が、ソウルで北朝鮮担当実務者による協議を行い、北朝鮮の完全な非核化を目指すことで一致、一方で国連の対北制裁を巡って日米両国と韓国の間の温度差も目立つ展開となりました。日本の外務省の発表によると、3氏は北朝鮮の完全な非核化の実現に向け、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁決議の「完全な履行」の重要性を確認、米キム氏も協議の冒頭、北朝鮮に核・ミサイル開発の検証可能で不可逆的な放棄などを求めている安保理決議に基づく制裁履行の必要性を強調したといいます。ところが、韓国政府は、協議について「北朝鮮との対話再開を通じた朝鮮半島の完全な非核化に向け、(日米韓の)3者が協力を継続していくことになった」と発表、制裁についての言及はなく、対話に前のめりな姿勢を見せたものの、違いが浮き彫りになりました。なお、本協議をふまえ、韓国は中国の朝鮮半島問題特別代表と電話協議を行い、北朝鮮をめぐる対話の再開に向け、韓国側は中国が役割を果たすよう求め、中国側は協力を確認、、双方は早期に対面協議を実現する考えで合意したということです。

北朝鮮の国会に当たる最高人民会議の常任委員会総会で、「麻薬犯罪防止法」が採択されたといいます。報道によれば、同法は「国家社会制度の安定と人民の生命健康を害する違法行為」を未然に防ぐということですが、北朝鮮は特殊機関などが外貨稼ぎのために覚せい剤密輸を手掛ける一方、生活苦から国民の間でも麻薬使用が広がっているとされ、今回の法制定は国内の麻薬汚染の深刻化を反映している可能性があると考えられます。

3.暴排条例等の状況

(1)暴排条例の改正動向

大阪府警は、暴力団事務所の新設禁止区域を拡大するため、大阪府暴排条例の一部改正案を発表しています(パブコメ募集中です)。報道によれば、大阪府の総面積の約47%が対象となる予定で、大阪府議会で可決されれば今年11月下旬にも施行される見込みとのことです。いまだに対立抗争が続く2つの山口組の特定抗争指定暴力団への指定に伴い、大阪府内では大阪市と豊中市が暴力団対策法に基づく警戒区域となっており、区域内では組事務所の使用や新設などが禁止されている一方で、区域外や居地域への移転の動きがみられており、その対策が急務の状況でした。今回の改正により、都市計画法で定める住居や商業など13の用途地域のうち、工業専用地域を除く全てを禁止区域とするほか、立ち入り検査や中止命令に応じない場合は罰則を科す内容となっています。これにより、暴力団の活動が著しく制限されることが期待されるところです。

▼大阪府警 大阪府暴力団排除条例の一部を改正する条例(案)の概要
1 改正の趣旨

暴力団排除条例では、暴力団が府民の平穏な生活や青少年の健全育成に不当な影響を与える存在であることに鑑み、暴力団事務所の存在を許さないこととし、府や市町村、府民等が協力して、社会全体として排除していくことを基本理念の一つとしています。

平成27年に始まった暴力団の対立抗争の激化により、令和2年1月以降、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律に基づいて当該暴力団が特定抗争指定暴力団等に指定され、大阪府を含む全国10府県で警戒区域を設定のうえ、暴力団事務所の新設等が禁止されていますが、組織の統制を図るため、一部の組織が警戒区域外に事務所を移転するなどの動きを見せています。

現条例では学校教育法に規定する学校その他の保護対象施設から200メートル以内の区域における暴力団事務所の開設又は運営を禁止していますが、当該移転の活発化に加え、資金獲得等を目論む暴力団が大阪府下に進出することにより、現行の規制範囲外への事務所の移転、新設が懸念される状況にあります。

よって、現条例の規制範囲外への暴力団事務所の進出を阻止し、府民生活の安全を確保するため、暴力団事務所の新設等を禁止する範囲の拡充を検討しています。

2 改正の内容

(1)暴力団事務所の開設及び運営の禁止区域の拡大

暴力団事務所を開設し、又は運営してはならない区域を拡大することとします。

追加する区域として、都市計画法(昭和43年法律第100号)に定める

【住居系用途地域】

第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域、田園住居地域

【商業系用途地域】

近隣商業地域、商業地域

【工業系用途地域】

準工業地域、工業地域

を検討しています。

(2) 中止命令

上記(1)の住居系用途地域等に暴力団事務所を開設し、又は運営する者に対し、中止を命ずることができることとします。

(3) 立入検査等

上記(1)に違反した疑いがある場合、公安委員会は、関係者に対して説明若しくは資料の提出を求め、又は警察職員にその身分を示す証明書を提示させた上、規制対象地域内の建物に立ち入らせ、物件を検査させることができることとします。

(4) 罰則

上記(2)の中止命令に違反した者及び虚偽の説明をしたり、立入検査を拒否するなどした者に対する罰則を設けることとします。

また、前記行為者を罰するほか、その行為者と一定の関係にある法人又は人に対しても罰則を適用することとします。

3 施行期日(予定)

令和3年11月下旬

4 経過措置

既存の暴力団事務所については、適用しないこととします。ただし、当該暴力団事務所が他の暴力団のものとして開設され、又は運営される場合は、この限りではないこととします。

(2)暴排条例に基づく勧告事例(沖縄県)

沖縄県公安委員会は、旭琉会の幹部に700万円相当の車を提供し、トラブルがあった際の後ろ盾を得たとして、経営コンサルタントや税理士ら事業者6人と、提供を得た旭琉会幹部に対して沖縄県暴排条例に基づき勧告したと発表しています。報道によれば、事業者らは月1回、那覇市内の飲食店で旭琉会幹部と会い、その際に集めた金などで車を購入、2019年6月、旭琉会幹部に誕生日プレゼントとして贈ったといいます。そもそも士業である税理士も含め、いまだに定例的な食事会や高額な利益供与が行われていること自体驚きであり、沖縄県における社会全体の暴排意識の向上が望まれます。

▼沖縄県暴排条例

事業者については、本条例第13条(利益の供与の禁止)第1項において、「事業者は、その行う事業に関し、暴力団の威力を利用することにより暴力団員又は暴力団員が指定した者に対して、金品その他の財産上の利益の供与(以下「利益の供与」という。)をしてはならない」と規定されており、暴力団員についても、第15条(第5章 暴力団員が利益の供与を受けることの禁止)において、「暴力団員は、情を知って、事業者から当該事業者が第13条の規定に違反することとなる利益の供与を受け、又は当該暴力団員が指定した者にこれを受けさせてはならない」と規定されており、これらに抵触したものと考えられます。そのうえで、第21条(報告徴収)において、「公安委員会は、第13条又は第15条の規定に違反する疑いのある行為をした者その他関係者に対し、公安委員会規則で定めるところにより、その事実を明らかにするために必要な限度において、説明又は資料の提出を求めることができる」と規定、続く第22条(勧告)で、「公安委員会は、前条の規定により説明又は資料の提出を求められた者が正当な理由がなく拒んだときは、公安委員会規則で定めるところにより、必要な勧告をすることができる」、「公安委員会は、第13条又は第15条の規定に違反する行為があった場合において、暴力団員による不当な行為を助長するおそれがあると認めるときは、公安委員会規則で定めるところにより、当該行為をした者に対し、必要な勧告をすることができる」と規定されています。

(3)暴排条例に基づく逮捕事例(愛媛県)

松山市暴排条例に違反し、「みかじめ料」を受け渡した現行犯で、六代目山口組傘下の池田連合会若頭と風俗店経営の2人の男が逮捕されています。報道によれば、愛媛県警は、昨年2月ごろから「みかじめ料」を巡る内偵捜査を続けていたといい、松山市内の駐車場で1カ月分のみかじめ料として現金5万円を受け渡したところを逮捕したようです。さらに、県警は、池田連合会の上部組織である明道會の事務所を家宅捜索し、他にも余罪があるとみて捜査しているということです。

▼松山市暴排条例

まず事業者については、(報道内容だけでは判然としませんが)第12条(暴力団排除特別強化地域)第2項に定めるいずれかの「特定営業者」に該当し、同条第4項「特定営業者は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、暴力団員に対し、顧客その他の者との紛争が発生した場合に用心棒の役務の提供を受けることの対償として金品等を供与し、又はその営業を営むことを容認する対償として金品等を供与してはならない」との規定に抵触したものと考えられます。そのうえで、第17条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「(1)相手方が暴力団員であることの情を知って,第12条第2項から第4項までの規定に違反した者」との規定が適用されたと思われます。なお、暴力団員については、直接、第17条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「(2)暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、業務に従事し、用心棒の役務を提供し、又は第12条第4項に規定する金品等の供与を受けた暴力団員」との規定に抵触し、逮捕されたものと考えられます。他の自治体の暴排条例とは立て付けが少し異なりますが効果は変わらないものと思われます。

(4)暴排条例に基づく逮捕事例(静岡県)

浜松市内の飲食店から用心棒代を受け取ったなどとして、六代目山口組三代目弘道会系組長と飲食業の39歳の男ら3人が、静岡県暴排条例違反の疑いで逮捕されています。報道によれば、組長は飲食店の男を介して、市内でラウンジを経営する女から用心棒代を受け取った疑いが持たれているといい、警察は用心棒代が暴力団の資金源となり、他の飲食店も支払っている可能性があるとして捜査をしているということです。

▼静岡県暴排条例

報道からは詳細は判然としないものの、「飲食業については、」本条例第18条の3(特定営業者の禁止行為)に規定されたいずれかの「特定営業者」に該当し、第2項「特定営業者は、特定営業の営業に関し、暴力団員又はその指定した者に対し、用心棒の役務の提供を受けることの対償として、又はその営業を営むことが容認されることの対償として利益の供与をしてはならない」に抵触したものと考えられます。さらに、暴力団員については、第18条の4(暴力団員の禁止行為)第2項「暴力団員は、特定営業の営業に関し、特定営業者から、用心棒の役務を提供する対償として、又はその営業を営むことを容認する対償として利益の供与を受け、又はその指定した者に利益の供与を受けさせてはならない」に抵触したものと考えられます。そのうえで、事業者については、第28条(罰則)第1項「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」の「(2)相手方が暴力団員又はその指定した者であることの情を知って、第18条の3の規定に違反した者」に該当し、暴力団員については、同条同項「(3)第18条の4の規定に違反した者」に該当したことで、逮捕されたものと考えられます。

(5)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(埼玉県)

埼玉県警川口署は、極東会系組長に、暴力団対策法に基づく中止命令を発出しています。報道によれば、組長は川口市内の建設業者から自宅へのシャッター取り付け工事を断られたのにもかかわらず、「俺がやくざだから対応できないんだろ。何で工事をやらないんだ。おかしいだろう」などと工事を行うよう要求したということです。なお、暴力団対策法に基づく「不当建設工事要求行為」に関する中止命令の発出は全国で初めてだということです。

▼暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)

同法第9条(暴力的要求行為の禁止)では、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」と定め、うち「十七 建設業者(建設業法(昭和二十四年法律第百号)第二条第三項に規定する建設業者をいう。)に対し、その者が拒絶しているにもかかわらず、建設工事(同条第一項に規定する建設工事をいう。)を行うことを要求すること」が明記されており、今回の事案はこの類型に該当するものと考えられます。そのうえで、第11条(暴力的要求行為等に対する措置)では、「公安委員会は、指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と定めています。

(6)暴力団関係事業者に対する指名停止措置等事例(福岡県)

直近1カ月の間に、福岡県、福岡市、北九州市において、3社について「排除措置」が講じられ、公表されています(なお、本稿執筆時点では、福岡県のみ1社のみ公表されています)。

▼福岡県 暴力団関係事業者に対する指名停止措置等一覧表
▼福岡市 競争入札参加資格停止措置及び排除措置一
▼北九州市 福岡県警察からの暴力団との関係を有する事業者の通報について

福岡県における「排除措置」とは、福岡県建設工事競争入札参加資格者名簿に登載されていない業者に対し、一定の期間、県発注工事に参加させない措置で、この期間は、県発注工事の、(1)下請業者となること、(2)随意契約の相手方となること、ができないことになります。3自治体ともに公表した1社は、「役員等が、暴力的組織の構成員となっている」(福岡県)、「暴力団との関係による」(福岡市)、「該当業者の役員等が、暴力団構成員であることを確認し、「暴力団員が事業主又は役員に就任していること」に該当することを認めた」(北九州市)」として、暴力団員が直接経営に関与していたことから、3自治体ともに最も重い「36カ月」の排除期間となっており、「令和3年7月6日から令和6年7月5日まで(36ヵ月間)」(福岡県)、「令和3年6月23日から令和6年6月22日まで」(福岡市)、「令和3年7月7日から36月を経過し、かつ、暴力団又は暴力団関係者との関係がないことが明らかな状態になるまで」(北九州市)と示されています。なお、残り2社については、(福岡県は未公表ですが)福岡市では「暴力団との関係による」として、「令和3年7月6日から令和4年7月5日まで」の12カ月の排除期間が示されてます。一方、北九州市においては、「当該業者の役員等が、暴力団と「社会的に非難される関係を有していること」に該当する事実があることを確認した」としていますが、排除期間については「審議中」となっています。これまでも指摘しているとおり、3つの自治体で、公表のあり方、措置内容等がそれぞれ明確となってはいるものの、公表のタイミングや措置内容等が異なっており、大変興味深いといえます。

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