暴排トピックス

暴力団離脱者支援を巡る動向と今後の課題

取締役副社長 首席研究員 芳賀恒人

2022.05.10
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【もくじ】―――――――――――――――――――――――――
1.暴力団離脱者支援を巡る動向と今後の課題
2.最近のトピックス
(1)AML/CFTを巡る動向
(2)特殊詐欺を巡る動向
(3)薬物を巡る動向
(4)テロリスクを巡る動向
(5)犯罪インフラを巡る動向
(6)誹謗中傷対策を巡る動向
(7)その他のトピックス
・中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向
・IRカジノ/依存症を巡る動向
・犯罪統計資料
(8)北朝鮮リスクを巡る動向
3.暴排条例等の状況
(1)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(北海道)

1.暴力団離脱者支援を巡る動向と今後の課題

暴力団排除(暴排)の徹底と表裏一体の関係にある暴力団離脱者支援が本格化しています。本コラムでこれまでも指摘してきたとおり、偽装離脱のリスクや社会的不適合者が多いなどの課題はありますが、行き過ぎたキャンセルカルチャーによって社会的に排除された者を温かく迎え入れ(受容)し、その立ち直りを支援するのが「社会的包摂」の本旨であり、「誰一人取り残されない」社会の実現を掲げる以上、今や企業が取り組むべき課題の一つと認識する必要があります。一方、反社リスクへの対応が企業の自立的・自律的なリスク管理事項である以上、離脱者支援に積極的に取組む企業もあれば、慎重な姿勢を崩さない企業もあるのは、現状では当然のことだといえます。ただし、後者の立場であっても、前者の立場をとる企業の活動や本人の更生の努力を妨げてはなりませんし、むしろ積極的に「理解」に努めることが大事だといえる社会情勢となりつつあります。離脱者支援は緒に就いたばかりですが、この流れを確実なものとしていくべく、その最新の動向と今後の課題を考えてみたいと思います。

以前の本コラムでも紹介しましたが、愛知県警が暴力団離脱者の社会復帰を後押しするため、就労支援に力を入れています。この1年余りで暴力団を抜けた元組員7人が県警の紹介で仕事に就いたといい、社会に受け皿を作り、組織の弱体化を進める狙いがある一方、受け入れ企業はまだ限られているのが現状です。愛知県警によると、六代目団山口組の中核組織弘道会がある愛知県内の暴力団構成員と準構成員は2021年末時点で計約1,000人と、暴力団排除の機運の高まりで全国的に減少傾向にあり、愛知も2009年と比べ4分の1に減少しています。一方、脱退しても仕事に就けず再び組織に戻る元組員がいるのが課題であったところ、2021年4月に暴力団対策室に「社会復帰対策係」を新設、元組員を雇用した企業への給付金を年間最大72万円に引き上げ、元組員が損害を与えた場合は最大200万円を補償する制度を設け、就労後も、定期的に元組員と受け入れ企業の双方と連絡を取り、問題がないか確認する取り組みを始めました。成果は少しずつ表れ、今年4月末までに20~70代の7人が土木建築会社や運送会社など寮のある土木建築業を中心とした4業種5社に就職しています。うち1人は自己都合で退職したが、6人は今も仕事を続けているといいます(報道によれば、職場ではまじめな態度で評判も良いといい、受け入れ企業の役員も「トラブルなく、よく働いてくれる。真面目に生きようとする人を支える成功事例になったと思う」と話したといいます)。一方、元組員を受け入れる意向を示した企業は34社で、業種は土木建築業をはじめ、運送業や金属加工業、産廃業など8業種と幅広いものの、同様の制度を先行導入している福岡県の392社(2021年末時点)に比べるとまだまだ少なく、事業者に協力を呼びかけている途上です。また、愛知県警は名古屋刑務所と連携し、刑務所で警察官が組員と面会して希望する仕事などを聞き取り、受け入れ企業につないで出所前に採用面接を行う取り組みも始めています。刑務所に収容中の暴力団員の社会復帰が促進されるとともに、再犯による再入所を防止する効果が期待されるところです。また、大きな課題としては、愛知県警は2021年から2022年3月までに約70人に暴力団からの離脱を支援したものの、就職を支援したのはその1割ほどに留まる点です。就職の支援を断る人には、警察の世話になることを嫌がったり、支援を受けたことに対する組織からの報復を恐れたりするケースが多いということです。愛知警察は「支援に対する間違ったイメージを払拭し、就職することで組織との関係を完全に断ち切れるよう支援していく」としていますが、今後、どれだけ浸透していくか注目されます。

また、市町村としては全国でも異例の取り組みとなる暴力団組員の離脱や離脱後の就労を後押しする北九州市の「社会復帰対策推進事業」が4月15日に始動しています。北九州市が拠点の工藤会のトップに死刑判決が言い渡され、本部事務所も撤去された中、組員の離脱や社会復帰を後押しして、安全・安心なまちを実現させる狙いがあるということです。報道によれば、新設された「暴力団社会復帰相談窓口」は福岡県警OBの市職員3人態勢で、市内の暴力団構成員や家族、知人に離脱に向けた支援制度を紹介したり、就労を支援する県暴力追放運動推進センターなどにつないだりする業務を行っています。さらに、北九州市は、市外への就職に伴う引っ越し費用の4分の3について20万円を上限に協賛企業に対して補助、市内の協賛企業が元組員を雇い入れた場合、30万円を上限に業務に必要な資格を取得させるための費用の4分の3を補助するなど、受け入れ企業への支援も強化しています。北橋健治市長や市職員が市役所2階に窓口の案内板を設置、北橋市長は「暴力団構成員は自分のため、ご家族のために新しい一歩を踏み出してほしい。市民は更生を決意した離脱者を、厳しくとも優しい目で見守ってほしい」と呼びかけていますが、正にこうした取組みが暴力団離脱者の真の更生につながってほしいと強く期待しています。

以前の本コラム(暴排トピックス2016年2月号)では、「離脱者支援のあり方を考える」と題して考察をしています。以下、その抜粋ですが、驚くべきことに今読み返してみても、本質的には大きく変わっていないといえ、それだけに暴力団離脱者支援の難しさや今後の課題が明確になっているといえます。

そもそも事業者にとっての離脱者対策という観点(事業者にとっての社会的コスト負担の観点)から言えば、福岡県が今後導入を予定しているような奨励金制度をはじめ、本人の固い意志や暴力団と完全に縁が切れていることが公的に保証されていること(この点は、暴排条例を契機として独り歩きしている「5年卒業基準」が離脱の実態を考慮されずに適用されている現状と大きく関係します)、都道府県警察や暴追センターによるアフターケアがきちんと行われることが、やはり事業者にとっては大前提となるものと思われます。参考までに、全国暴力追放運動推進センターのサイト上に、同センターの活動実績やアンケート等をもとにした専門家のコラムが掲載されています(掲載が2006年と、10年以上前の社会情勢が前提となっていますが、現時点でも参考となります)が、離脱者や事業者の懸念点が整理されていますので紹介しておきます。

全国暴力追放運動推進センター プロの意見箱「より効果を上げる「暴力団離脱指導」のために」(現在、リンク切れです)

まず、離脱者が求めるもの(不安・心配)について、離脱就労に伴い一番欲しいのは、「心のうちを話せる精神的な支えになってくれる人」であり、不安・心配な点としては、(1)職場での人間関係、(2)社会人としての常識・心得、(3)組織からの身内への侵害行為、(4)仕事がみつかるのか、(5)仕事が長続きするか、(6)収入が安すぎないか、(7)出所後の誘惑を乗り切れるか、があげられています。また、受け入れ事業主が離脱者受け入れに伴い保証して欲しい点は、(1)暴力団と完全に縁を切っていること、(2)継続して就労できること、(3)できれば、指詰めや刺青が人目につかないこと、(4)必要な資格免許があること、(5)誠意があること、があげられており、現時点においても全く異論のないところだと思われます。これらの懸念事項と、福岡県等が公表している施策や警察庁の通達など今後の取組みの方向性を並べてみれば、離脱者や事業者のニーズと社会的・公的な対策が比較的マッチしていることがお分かりいただけるものと思います。その意味では、これらの方向性は大きく誤りではないと評価できると思います。しかしながら、だからこそ、あらためて認識が必要な点としては、離脱者が全て「真に更生したい者」とは限らないということがあげられます。例えば、2014年に放映されたNHK福岡放送局のドキュメンタリーからは、「更生とは何か」という本質的な問題について考えさせられます。

NHK福岡放送局 暴力団 消えた1万人~“離脱者”はどこへ~(現在リンク切れです)

ここでは、離脱者の多くが犯罪に手を染め続けている実態がリアルに描かれています。暴力団であるがゆえに警察から厳しく締めつけられ、組織からも厳しくシノギを求められ、暴力団の影があれば商売が出来ない厳しい現状も、「離脱」によってそれらの規制やしがらみのすべてから開放されるのであって、「一人の方が稼げる」「楽に、手っ取り早く儲けられる」という状況を生みだしているのです。それは、ある意味、離脱による「共生者」の創出、暴力団との共生関係も成り立たせるという側面(警察の取り締まりを逃れるために組と関係のない者として仕立て上げてシノギをさせ、暴力団としては、摘発されれば関係ないと切り捨てる構図)や、逆に暴力団と関係のない犯罪者たちとの連携を強めている側面(犯罪者の連携においては、元暴力団員であるかは関係がなく、奇妙な連携が自然に成立するという)という2つの相反する面があり、その多くは合法的な稼ぎとは言えない以上、暴排が進むことによって「社会の安全」に対する脅威が増すという皮肉な現実がもたらされていることが分かります。(注:正に廣末氏の指摘する「元暴アウトロー」そのものを表しています)いわば、「更生」=「暴力団からの離脱」という「形式」的なレベルにとどまり、本来の、事業者として関係をもつべきでない「反社会的勢力」という「実態」からみれば何の変化もないと言ってよく、「暴排は進展しても反社排除は進展していない」、あるいは、「離脱と更生の意味が大きく乖離している」とも言い換えることができるかと思います。一方でこのような厳しい現状を認識しながらも、事業者にとっての離脱者対策という観点に戻れば、あくまで現時点では、事業者がその社会的コストを負担できるとすれば、(あくまで私見ではありますが)少なくとも以下の4つの要件が社会的な合意事項として揃った場合に限られる(逆に言えば、目指すべき方向性が見えてきた)と言えるのではないでしょうか。

  • 更生に対する本人の意思が固い事(離脱=更生=暴排=反社排除の構図が成立すること)
  • 本人と暴力団との関係が完全に断たれていること
  • 5年卒業基準の例外事由であると警察など公的機関が保証してくれること(公的な身分保証の仕組みがあり、それによって事業者がステークホルダに対する説明責任が果たせること)
  • 事業者の暴排の取組みの中に離脱者対策の視点が明確に位置付けられること(離脱者支援対策が社会的に認知され受容されていること)

もちろん、反社リスクへの対応が各社の自立的・自律的なリスク管理事項である以上、CSRや社会貢献の観点などもふまえ、暴力団の離脱者支援に積極的に取組むという事業者が存在する一方で、現実の更生の難しさ・再犯可能性の高さ・会社や社員がトラブルに巻き込まれるおそれなどから慎重なリスク判断を行う事業者があっても、それ自体何ら問題があるわけではありません。ただし、後者の立場であっても、少なくとも、リスクテイクして取組んでいる前者の事業者や本人の更生の努力を妨げてはなりませんし、むしろ、積極的に「理解」していこうとすべき状況であるとの認識は必要だと思われます。離脱者支援はまだまだ道半ばの状況ではありますが、事業者が積極的に取組めるだけの環境、その要件が明確になりつつあり、その基盤が整備されつつあるという現状は、一歩前進と言えるかもしれません。

本コラムで繰り返し指摘してきたことですが、(数字で見る限り)暴力団の勢力は明らかに衰えています(ただし、暴力団側も組との関係を隠している構成員が相当数存在する(公表数の5倍はいる等)と公言していること、警察もそのすべてを把握しているわけではないことを考慮する必要があります)。暴力団対策法施行前の1991年にはおよそ91,000人いた構成員等の数が、2021年末にはおよそ24,100人と、およそ4分の1に減っています。そして、報道によれば、この間、5,232もの暴力団組織が解散したといいます。組員の数が減り、検挙件数も減少傾向にある一方、この30年で「摘発内容」にも変化が見られ、暴力団対策法施行前の1990年に、暴力団絡みの検挙件数で最も多かったのは、「覚せい剤取締法違反」で全体のおよそ2割弱、次いで「賭博」「ノミ行為」が合わせて16.5%を占め、「詐欺」はわずか3.1%という状況でしたが、2020年には、最多は変わらず「覚せい剤取締法違反」で26%を超えているものの、「ノミ行為」に関しては0%、「賭博」も2%に満たず、一方の「詐欺」は9.5%にのぼっています。つまり、昔ながらのシノギとされる「賭博」「ノミ行為」が減り、特殊詐欺などの「詐欺」が増加したことが明確になっています。この点について、2022年5月4日付FNNプライムオンラインで、フリーライターの鈴木智彦氏は「暴力団が力を失っているのは確か。それなりに怖がられ、いざという時に判断をするから生き残っているが、儲からないし、捕まると懲役になる。そのため若い人が入らず、組長をやりたがらないから、世代交代が進まず、組長の高齢化が進んでいる」、「暴力団と一般人の間には層ができている。暴力団が表に出られないので、半グレなどが活動し、金を上納する。暴力団は陰で稼ぎをもらうことになるが、メリットは一方的ではない」と指摘しています。例えば、暴力団側にとっては、専門スキルがある特殊詐欺グループは、「稼ぎ」も見込まれ、上納金が資金源になる一方で、特殊詐欺グループ側にとっても、バックに暴力団がいるということから受け子などを脅して犯行が進めやすいという関係者があります。警察庁によると特殊詐欺事件では、暴力団組織のトップの使用者責任を問う裁判が、これまで15件起こされていますが、このうち4件は被害者側が勝訴、5件が和解、残りは係争中となっています。本コラムで以前から指摘しているとおり、摘発の他に、こうした暴力団の資金源を絶つ動きが加速することが期待されるところです。

次に、暴力団離脱者支援と関連しますが、再発防止(出所者の立ち直り支援)の状況について考えます。前述したとおり、暴力団離脱者支援の文脈で、北九州市長は「市民は更生を決意した離脱者を、厳しくとも優しい目で見守ってほしい」と述べていますが、それは再発防止においてもまったく同様です。社会が受容すること、「社会的包摂」を真の意味で実現することが重要だと思います。「社会的包摂」については、さまざまな角度から指摘されていますので、いくつか紹介します。

  • ところで、就労や住居の確保等を通じた社会復帰支援の目的は、矯正や更生保護の機関だけで達成し得ないことは自明であり、地域社会の理解と協力を得て、様々な立場の人々が協働的な取組を推進することが有効である。就労支援における雇用主、住居確保におけるアパート等の提供者といった民間の協力者を始めとして、職業訓練、職業紹介、住居あっせん、福祉的なサポート等の種々の場面で、関係する公的な機関や民間団体が、それぞれの専門性やノウハウを生かして連携することでより効果的な支援が可能となる。また、多様な問題・ニーズに柔軟に対応できる民間ならではの多様な支援が提供されることも重要である。このような支援を通じて刑務所出所者等に責任ある社会の一員としての役割を与えて地域に受け入れ、その「居場所」と「出番」を確保して社会に包摂することができれば、円滑な社会復帰と再犯防止は促進され、国民生活の安心・安全の実現の要請にもかない、国民の利益に資することになろう。(平成24年版犯罪白書より)
  • 犯罪者がコミュニティの一員として社会に受け入れられることの重要性と、犯罪者の長期的かつ社会的な再統合を支援する上でのコミュニティの関与の重要性についての認識を高める。(京都コングレス2021 京都宣言より)
  • 我々は、暴力及び憎悪の連鎖を断ち、かつ、暴力的過激主義の発生及び蔓延を防止するため、意見、文化及び信仰の相違がどこに存在しようとも、平和的共存、多様性の尊重、寛容性及び包摂的な対話を促進することにコミットする。(G7伊勢志摩首脳宣言より)
  • 処罰より治療を選べる仕組みが必要であり、社会の中で包摂された環境で、薬物事犯の方が逮捕されたとしても生活を続けていけることが、持続可能で、誰一人取り残されない社会と感じている。(大麻等の薬物対策のあり方研究会 資料より)
  • 若者の間で大麻が蔓延し、初犯も再犯も後を絶たない背景として、交友関係や家庭環境の問題に加え、「一発アウト」の社会から排除され孤立を深めている実態がありますが、それはまた、暴力団離脱者支援やテロ対策、再犯防止対策と同じ構図であり、処罰の厳格化や正確な情報発信だけでは足りず、治療や社会復帰支援など「社会的包摂」の視点も重要であることを意味しています。つまり、「誰一人取り残されない社会」の実現を目指すなら、企業は、日本の未来を担う若者を蝕む薬物問題にも真剣に向き合う必要があるということです。(「暴排トピックス2021年5月号」より)

以下、再発防止に関する報道から、いくつか抜粋して引用します。

「「次は鑑別所行き」の非行少年、大学院を出て暴力団研究者になるまで」(2022年5月3日付朝日新聞)
研究の世界なら、非行経験を生かせるのではないか。方向転換し、大学院に進み犯罪社会学を専攻した。暴力団関係の当事者への取材は危ない、と周囲からは止められたが、構わず突き進んだ。初めて取材を申し込んだ組事務所は抗争のまっただ中だった。入り口の扉に銃弾がめり込んでいるのを見て「大丈夫ですか」と尋ねると、「大丈夫。パイナップル(手投げ弾)投げ返しといたから」と平然と言われた。元組員が運営する教会に3カ月半ほど住み込み、取材した経験もある。当事者への調査では、相手との信頼関係の構築が欠かせない。その点、若い頃に彼らと同じような「文化」で育った自分は、有利だった。学会では類例のない調査を重ね、38歳で博士号を取得した。結婚や子どもの誕生を機に足を洗った組員らにも接してきた。家族を理由に更生を決意するケースは少なくない。だが、口座開設もままならず、みな苦労している。福岡で元組員の就労支援事業所長をしていたとき、労働の実態を知るために建設現場で働いてみたことがある。夏場の作業は暑さで卒倒しそうだった。もし、入れ墨を隠して生活している元組員だったら、腕まくりさえできないだろう。「そういう苦労や痛みを身近で感じているから、放っておけないんですよ」。暴力団の研究を続ける理由はそこにある。「セカンドチャンスがある世の中じゃないと、裏社会に逆戻りしてしまう。新たな被害者を生まないためにも、更生の妨げになるような壁はなくしたい
「逮捕15回、元非行少年が挑む立ち直り支援 本当に更生に必要なのは」(2022年5月4日付朝日新聞)
「少年法の厳罰化は、とても心配です。法改正で、4月からは起訴された18、19歳の特定少年は実名報道が可能になりました。そういう少年は、社会に戻ったときに働くチャンスが減ってしまいます。自業自得だという意見もあるでしょうが、立ち直りがさらに難しくなります」、「少年院にいる少年たちは、半分がひとり親家庭で、半数近くが虐待を受けた経験があります。本人だけではどうしようもない環境にいて、非行・犯罪をした少年たちです。彼らをもっと厳しく罰して管理すれば、犯罪をやめるかというと、逆だと思います」、「うちのNPOで預かる少年には、少年院を出て自立準備ホームに来る少年と、児童相談所から保護を頼まれた子どもたちがいますが、その家庭環境や背景は非常に似通っています。それなのに、児童福祉の対象になっている子には高校や大学での学びに援助がありますが、少年院を出ただけの子には援助がありません。悪いことをした人は働いて自立しろと、いうことなのでしょうが、僕は悪いことをした人ほど教育の機会があった方がいいと思います。多くが中卒で、それで働けというのは一時しのぎでしかない。長い将来を考えれば、より生き方の選択肢を増やす意味でも、希望者には高校・大学進学への援助も考えてほしい。再非行・再犯を防ぐことは、被害を減らすことにもつながります」、「社会の中には使える制度や、『助けて』と言えば関わってくれる民間団体が結構あります。でも僕自身、家もなく車中生活をしていたときは、利用できる制度や団体を全然知りませんでした。本当に困っている人たちに、必要な情報をどう届けていくのか、という課題があると思います」、「また日本では、入れ墨のイメージがとても悪い。最近は手にリングや星形の入れ墨を入れる若者が少なくないのですが、彼らがパチンコ店やカフェの面接に行っても不採用になります。入れ墨で職業の選択肢が狭まっています。入れ墨を消すには、高額なお金が必要です。後先を考えずに目につくところに入れ墨を入れた少年たちが、本気で生き直そうと思ったときに、除去できるような仕組みがあればいいなと思います」、「僕らが支援する人たちが聞きたいのは、正しい言葉ではなく、信頼できる人の言葉です。正しい言葉や正しい価値観も大切ですが、それを強いてしまうことで再非行や再犯だけでなく、命を失う方向にもつながりかねないと感じています。過去は変えられませんが、自分と未来は変えられる。でも、ひとりでは変えられない」、「立ち直りに必要なのは、『犯罪性のない信頼できる人』。かつて僕は『犯罪性のある信頼できる人』が周りに大勢いて悪い道に行きましたが、逮捕されて少年院送致になったとき、涙を流しながら『この子は更生できる』と訴えた家庭裁判所の調査官がいた。そのとき僕は更生する気はなかったのですが、その調査官の姿は今でも覚えています。自分の更生を信じてくれる人がいたからこそ、今の自分がある。自分も、そういう存在になれればと思っています」
「「これからは変えられる」 出所者の立ち直りをどう支えるか」(2022年4月3日付毎日新聞)
15回逮捕され、少年院に2度入った。暴力団の準構成員だった時期もある。そんな過去のある男性が今、出所者らの再出発のサポートに奔走している。3月には出所者らの一時的な住まいである「自立準備ホーム」の全国組織をつくり、検察トップの検事総長を招いたシンポジウムまで開いた。「命つきるまで、立ち直りを支えたい」。その決意と行動力のわけとは。…「高齢者が増えるから、高齢者介護はきっともうかる業界だろう」との下心で、特別養護老人ホームに就職。だが、福祉の仕事が大きな転機になった。たくさんの高齢者の話し相手になり、その生き様を聞いた。家族の愛に包まれながら最期を迎えた人を見た。投票やお寺参りに付き添えば、何度も「ありがとう」と感謝された。こんな体験の積み重ねが、「不良のプライド」の殻を少しずつ壊してくれた。「人生はお金がすべてじゃない」「こんな自分も必要としてもらえる」。いつしか自分の時間を使って誰かに喜んでもらいたいと思うようになった。法務省が公表した資料では、出所者が再び罪を犯して刑務所に入る2年以内の「再入率」は、適切な住まいを確保して仮釈放された場合に比べ、「帰るべき場所がない出所」の場合は約1.8倍になる。立ち直りのためにも、再犯防止のためにも住まい確保は重要課題で、法務省は11年に「自立準備ホーム」の制度を導入した。…検事総長の林氏は「捜査から裁判まで」だけではなく、罪を犯した人の立ち直りにも力を注ぐ。監獄法を約100年ぶりの全面改正(05年)に導き、受刑者の社会復帰に向けた処遇の充実を実現させた。福祉支援が届いていない知的障害者らが罪を繰り返す現状改善のため、刑事司法と地域福祉の連携を進めた。…林氏は基調講演を「更生保護に直接関わった経験はなく、(講演依頼を)内心、ちゅうちょする思いもありました」と切り出した。だが「自立準備ホームが、出所者らを社会につなぐ役割を果たしてきてくださったことに、刑事司法の立場から感謝したいと思い、引き受けました」と言う。刑事司法と地域福祉の連携の歩みを振り返り、「失敗の事例も共有して励まし合い、経験や知見を共有することで、活動の底上げになると確信しています」と日準協へエールを送った。…「与えてしまった被害は、時間が戻らない限り元に戻せません。いまの活動が償いになるとは思っていません。元犯罪者という事実も変わらない」ただ、「過去は変えられない。でも、自分とこれからは変えられる」と信じている。高坂さんにとって、非行少年や出所者らの立ち直りを支え、再犯を防ぐことは、希望であり、目標だという。「命つきるまで、立ち直りを支えたい」。そう決めている。
「出所者受け入れ2.5倍増 「自立準備」で再犯防止」(2022年3月21日付日本経済新聞)
行き場のない刑務所出所者の生活基盤を整えるため、受け入れ先となる「自立準備ホーム」の登録事業者が、制度開始から10年で2.5倍以上に増加したことが21日、法務省への取材で分かった。実際の受け入れ人数も伸びており、再犯防止への効果が期待される。…シンポジウムで林真琴検事総長が講演し「出所者の帰住先を提供し、刑事司法と地域社会の間をつなぐ役割を果たしてきた」と話した。法務省によると、制度は2011年4月、国の認可が必要な更生保護施設以外にも受け入れ先を確保するために導入された。保護観察所に登録したNPO法人などの事業者が施設の空き部屋などを住まいとして提供し、生活支援をしている。11年に166だった事業者は年々増加し、20年には447になった。…薬物依存からの回復を目指す「岐阜ダルク」の施設長は「いったん入所しても、すぐに来なくなってしまう人がいる。受刑中に何度も手紙のやりとりをして意向を確認している」と苦労を打ち明けた。
再犯防止 教育を重視…拘禁刑(2022年3月9日付読売新聞)
政府が、明治時代に制定された刑の種類を初めて変更して拘禁刑の創設を目指すのは、再犯防止をより重視する姿勢が背景にある。元々は「懲らしめる」との意味合いのある懲役について、現行法は「刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる」と規定し、刑務作業を一律に義務づけている。このため、懲役受刑者は1日6時間程度、木工や印刷などの作業に従事しなければならなかった。法務省は近年、再犯状況の悪化を踏まえ、性犯罪や薬物依存に対する再犯防止プログラムなどの充実に力を入れているが、日中は作業時間の確保に縛られ、「必要な教育の時間が十分取れない」との声が出ていた。一方、刑務作業が義務づけられていない禁錮受刑者も約8割は自ら希望して作業をしており、懲役と禁錮を区別する必要性が薄れていたという実態もあった。…法改正が実現すれば、受刑者の特性に合わせて必要な教育や指導に多くの時間を割けるようになる。通常の作業が困難な高齢者や障害者にも、体力向上といった出所後の生活を見据えた柔軟な処遇が可能だ。ただ、法務・矯正当局は「勤労意欲を高め、出所後に自立した生活を送るために刑務作業は必要」とみており、改正後も、多くの受刑者は作業を行う可能性が高い。再犯防止の効果を上げるためには、各受刑者の特性を見極め、作業と教育をどのように配分するかが課題となり、同省は施行に向けて着実に準備を進める必要がある。

暴力団組員の依頼を受けて繰り返しみかじめ料を要求したとして、警視庁は、無職の容疑者を暴力団対策法違反(再発防止命令違反)容疑で逮捕しています。組員による反社会的な行為を取り締まる暴力団対策法を、組員以外に適用して立件するのは異例といいます。報道によれば、容疑者は1月、住吉会系組員の依頼で、練馬区内の焼きそば店に対し「毎月のやつ持ってきました。いつものお願いします」と話し、1.5リットルのコーラ6本を計1万円で購入するよう要求した疑いがあり、店側から受け取った現金は、組員に全額渡していたといいます。暴力団対策課は、この店に約8年前から両容疑者がみかじめ料を要求していたとみています。この容疑者は、板橋区内のエステ店2店に同様にみかじめ料を要求したとして、2021年10月に高島平署から中止命令を受け、同12月には、こうした行為を繰り返すおそれがあるとして、都公安委員会から再発防止命令を受けていましたが、今回、この再発防止命令に違反して再びみかじめ料を要求したため、逮捕に至ったものです。容疑者は組員としての登録はなく、組員が所属する組の「密接交際者」という扱いだということです。暴力団対策法は、組員以外でも、暴力団の威力を示して不当な要求をするのは「準暴力的要求行為」として禁じており、警視庁は今回、この規定を適用しました。暴力団が組員以外を「隠れみの」にして行動するケースもあり、警視庁は今後、同規定を有効に使いたい考えだと報じられています。組員の認定をあえて免れ、組員を手助けしたり組員と同様の行動をしたりする勢力に対する取り締まりは大きな課題であり、組員でなくても、暴力団を手助けする者を積極的に警察は検挙すべきであり、同時に、検挙できることをもっと社会に周知し、抑止につながることを期待したいと思います。なお、今回の事件は、暴力団対策課となり、旧組織犯罪対策第三課と旧組織犯罪対策第四課がタッグを組んだからこそ、スムーズな逮捕につながったという評価もあります。前述のとおり、逮捕された2人は、もともと今回の店とは別の店に、みかじめ料を要求したとして中止命令、さらには再発防止命令が出されていましたが、中止命令など暴力団への対策はこれまで「三課」が担ってきたものであり、再発命令違反に従わなかった場合の「摘発」は四課の対応だったためです。「対策」と「摘発」を一体的に運用できたことが迅速な捜査につながったと指摘されています。

その他、最近の暴力団等に関する報道から、いくつか紹介します。

  • ここしばらく沈静化しているように見える「2つの山口組」の抗争ですが、不穏な動きが見られます。5月8日、大阪府豊中市にある神戸山口組の傘下組織「宅見組」組長宅で、乗用車が門に突っ込んだ状態で止まっているのを、巡回中の大阪府警豊中署員が見つけ、同日午後、門を壊したとして、現場から逃走していた無職の20代の男を建造物損壊容疑で逮捕、六代目山口組の分裂を巡る抗争の可能性もあるとみて調べていということです。なお、同宅は、入江禎副組長の居宅で、当時、入江副組長は在宅中だったといいますが、けが人はなかっようです。また、岡山市北区中央町の池田組の関連施設に、5月3日、軽ワゴン車が突っ込み、建物の壁面や窓ガラスなどが損壊しました。約30分後、男が岡山中央署に自首し、関与を認めたため、岡山県警が建造物損壊容疑で逮捕しています。暴力団抗争の可能性も視野に詳しい状況を捜査しています。報道によれば、男は六代目山口組系組で、車は2階建ての建物の1階玄関に後ろ向きで衝突しており、「バックで突っ込んだ」と容疑を認めています。現場はJR岡山駅の南東約1キロの繁華街の一角で、池田組の事務所の近くにあり、建物には普段から組員の出入りが確認されていたようです。池田組を巡っては神戸山口組の2次団体だった2020年5月、事務所付近で幹部が銃撃される事件が発生、後に神戸山口組を離脱した経緯があります。
  • 沖縄県公安委員会は、暴力団対策法に基づき、旭琉会(永山克博代表)の再指定に関する意見聴取を実施、二代目照屋一家の永山克博総長の出席を求めていましたが、同会からの出席はありませんでした。同法では、3年ごとに指定を審査し、正当な理由なく、欠席の場合は意見聴取なく指定ができるとされており、同委員会は6月の再指定に向け審査や手続きを進めています。なお、旭琉会については、2011年に四代目旭琉会と沖縄旭琉会が一本化し「旭琉会」として発足しましたが、2019年に富永清前会長が亡くなり、約2年半にわたり会長不在となっていましたが、今年3月には同会の役員体制が刷新され、組織固めの動きが見られています。なお、構成員はおよそ230人と前回2019年の指定時よりも80人減り、沖縄県警組織犯罪対策課は取締りの強化や脱退支援が効果をあげたとみているといいます。
  • 水戸市元吉田町の六代目山口組傘下の暴力団事務所で1月、同組系幹部が射殺された事件を巡り、周辺学校に通う児童生徒の安全確保のため事務所の使用禁止を求めて仮処分を申し立てていた水戸市は、市が事務所の土地と建物を1,720万円で買い取ることで組織側と和解が成立したことを発表しています。本コラムでたびたび取り上げていますが、暴力団事務所の撤去や使用停止、自治体による土地・建物の買取りなど多様な手法で暴力団の活動を封じ込めることができていると評価したいと思います。
  • 北海道内の暴力団員数が2021年末時点で1,210人となり、過去10年間で約6割減ったことが、道警のまとめで分かったと報じられています。2011年の北海道暴力団排除推進条例(北海道暴排条例)施行で排除への社会の取り組みが進み、資金源が先細りするなどして減少したとみられています。一方、暴力団からの離脱を装い、暴力団員であることを隠して活動する「潜在化」が進んでいるとの指摘もあり、離脱しても就労先は限られ、暴力団に戻ってしまうこともあり、受け皿づくりが課題となっているとも報じられています。

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

前回の本コラム(暴排トピックス2022年4月号)において、ロシアへの制裁について、「ロシアのウクライナ侵攻を巡り、同国への国際支援を働きかけている非政府組織(NGO)のダリア・カレニューク事務局長は、「最も弱い人々が標的になっている」と述べ、民間人の被害拡大に危機感を示したうえで、対ロシア圧力を強めるため、マネー・ローンダリングの阻止へ対策を講じるよう、具体的にはFATFのブラックリストにロシアを加えるべきだと主張しています。当然ながら、同リストに加われば、北朝鮮やイランと同様に国際金融ネットワークからのロシアの排除がさらに進むと考えられ、今後の対ロシアへの経済制裁強化に向けた一つの方策となるかもしれません」と述べました。現時点でそのような状況にはなっていないものの、西側諸国によるロシアへの経済制裁網は第6次を数えるまでに強化されており、制裁対象も相当数に上っています。前回の本コラムでは、さらに、「原材料をロシアから仕入れたり、主力取引先がロシアをサプライチェーンに組み込んだりするなど、対ロシア貿易の動向が経営に影響を及ぼす恐れのある日本企業が4,653社にのぼることが、帝国データバンクの調査で分かったということです(2022年4月6日付日本経済新聞)。ロシアと直接取引がある企業とその2次取引先の合計(約15,000社)の3割にあたり、欧米がロシアに対し追加の経済制裁発動を示唆している中、水産物や木材といった原材料の調達などに支障が広がり、経営に打撃を受ける企業が増える可能性が考えられ、対応が急務となっています。同調査によれば、ロシア企業と直接、輸出入取引のある企業は338社、この企業群の取引先(14,949社)を含め、ロシアとサプライチェーン上「密接な関係にある」とした会社は286社(1.9%)、「おおむね関係がある」とした会社は4367社(28.6%)に達しています。拡散金融リスクについて、サプライチェーンにおけるリスクが急激に拡大しており、ここで対応を見誤れば、事業継続を危うくしかねない大きさを秘めている点に、事業者が早く気づいてほしいところです」と指摘しました。本件については、2022年4月26日付日本経済新聞の記事「銀行にのしかかる対ロシア制裁の実務負担」において、的確に問題や実務上の課題が指摘されており、参考になりますので、以下、抜粋して引用します。

ロシアのウクライナ侵攻から2カ月が経ったが、戦争はロシアの将来を予測することを難しくしている。不透明感は世界の市場にも広がっている。各国がロシアのプーチン大統領に対する制裁として立て続けに経済制裁や貿易制限を打ち出した結果、金融機関にとっては、どこまでが法的リスクになるのかを評価することが難しくなっている。制裁の効果を確実なものにするためには、銀行など制裁に携わる企業に対し手厚い国際的な支援を行う必要がある。しかもそれは早急に実施すべきだ。各国政府にとって最近のロシア関連の資産凍結や差し押さえは前例のない規模となった。その対象はヨットからロシア人所有の住宅や商業用不動産、数百億ドルもの資金まで多岐にわたる。ところが、鳴り物入りで発表される制裁措置は、それを実施する金融機関からすれば極めて不完全なものとなっている。原因は前代未聞の事態だからだ。G20のなかで、これほど多くの国から、短期間に幅広い分野で経済・貿易制裁を受けた国はない。一方で、制裁のブラックリストに載せられたロシアのオリガルヒ(新興財閥)や政府高官は、数十年にわたる複雑な金融投資や不透明な企業所有、匿名の不動産購入などによって海外で資産を積み上げ、過去30年の間にひそかに世界の至るところに進出している。ロシアが国際貿易で重要な役割を果たしていることも制裁を難しくしている。ロシアは世界的なエネルギー供給国であるばかりでなく、小麦、鉄鋼半製品、ニッケル鉱石、窒素肥料などの主要輸出国であり、それらの取引に関わった海運や航空関連企業は必然的にコンプライアンスのリスクに巻き込まれる。対ロシア経済制裁は特に扱いにくく、対策に時間がかかると一般に考えられているが、残念ながら現実はさらに厳しい。制裁が発動されると銀行などの企業は、自社の顧客関係や保有資産、取引、支払いに関わる取引先企業について全社的な洗い直しを迫られる。しかもそれぞれを企業構造や投資、巨額の金融資産を持つ制裁対象者と関係のある共同経営者などの様々な要素と照らし合わせてチェックしなくてはならない。対ロ制裁は通常よりもはるかに多岐にわたり、金融機関はコルレス銀行業務の制限、信用規制や輸出管理の実施、制裁に関連する法人を所有又は支配する個人の特定も要求される。さらにどの事業法人がどのような制裁の対象になるかの判断は国によって異なり、必ずしも合意ができていないことが問題を複雑にしている。…バイデン米大統領は対ロシア投資の制限を承認する大統領令に署名したが、財務省は今もどんな投資が禁止対象になるのか、また制限の内容についても明言していない。その他にも重要とみられる数々の問題―ロシアにはどんな制裁の抜け道があるのか、企業はいかにして関連リスクを最小化すべきか、ロシア人による預金引き出しを制限する英国およびEUの新規則についてはどんな指針が出されるのか―も未解決のままだ。…制裁措置が定める支払い停止や資金凍結を銀行が実施しなかった場合、どこまで責任を問われるかも明らかになっていない。確かなのは、各国が一段と協力体制を強化しなければ、目指す効果は期待できないということだ。制裁や資金洗浄対策を担当するコンプライアンス担当者は、社内や社外の担当者と協力して今後の展開に備える必要がある。政府は民間企業と直接的に協力する必要がある。

関連して、2022年4月12日付毎日新聞の記事「露銀幹部、資産隠しか租税回避地5行8人、関与資料」では、ロシア最大手ズベルバンクなど同国上位の5金融機関の最高幹部ら計8人がこの約10年間、タックスヘイブン(租税回避地)を使った取引に関与し、資産隠しをした疑いがあることが、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が入手した資料「パンドラ文書」で分かったと報じられています。報道によれば、8人はいずれもプーチン大統領に近いとされ、金融機関はロシアのウクライナ侵攻後、欧米などの制裁対象となっているものです。西側諸国は、ロシアが2014年にウクライナ南部クリミアを編入後、対ロシア制裁を開始していますが、8人はこの前後から租税回避地に設立した法人を使って高級不動産に投資したり、資産運用をしたりしていたといいます。例えば、同国最大の銀行であるズベルバンクのグレフCEOについては、英領バージン諸島などに10余りの法人を設立、うち1社はモスクワに1,500万ドル(約19億円)相当の不動産を所有し、ほかに6,000万ドル規模の投資をしていたとされいます。その他、大手アルファ銀行の幹部ら4人、ガスプロム銀行やVTB銀行、2014年のソチ五輪に向け融資を担った対外経済銀行(VEB)のトップら計3人も租税回避地の法人を使って海外で高級不動産を所有、株式移転などもしていたということです。このように、経済制裁対象者が以前から複雑な租税回避行為を行っていることも、前述のとおり、経済制裁の実務を困難にするとともに、その効果を十分に発揮できない要因となっているといえます。

また、スイスの金融大手UBSが、EUとスイスの対ロシア制裁の影響を受ける可能性のあるロシアの顧客の投資資産を、3月末時点で約220億ドルを保有していることが分かったと報じられています(2022年4月27日付ロイター)。報道によれば、スイスや欧州経済地域(EEA)に居住していないロシアの顧客も含まれるということです。スイスの金融業界団体、スイス銀行家協会(SBA)は3月、スイスの銀行が保有しているロシアの顧客の資産は最大2,130億ドルに上ると推定、一方、政府当局者は制裁措置によって4月中旬までに約75億スイスフラン(78億ドル)の資金と資産が凍結されたと発表しています。UBSはこれまで資産管理事業でロシア人向けに運用する資産の割合を公表していませんでしたが、ラルフ・ハマーズCEOは、ロシアの個人や法人に対する制裁措置に関連する資産を凍結したかどうかについて「多くの銀行が制裁対象者を記録しており、当社もいくつか載せているが、その数は公表していない」と回答しています。スイスの銀行は、厳格な守秘義務によって世界中の富裕層の巨額な資金を呼び込み、脱税や犯罪の温床化(犯罪インフラ化)が指摘されていましたが、ここ10年ほどで顧客情報の共有などその姿勢に変化が見られているほか、今回のウクライナ情勢においても、「永世中立国」としての立場から対ロシア経済制裁を全面的に適用すると表明して世界を驚かせています(スイス政府はEUの制裁適用発表後の声明で、方針転換の理由を「欧州の主権国家に対するロシアの前例のない攻撃が決定的要因になった」と指摘、カシス大統領は「ロシアは自由や民主主義を攻撃しており、受け入れられない。侵略者の術中にはまるなら、それは中立ではない」と語っています)。さすがに、ロシアの富裕層などはここまでは想定できなかったものと推測されます。

英議会で3月に「経済犯罪法」が成立しました。海外のペーパーカンパニーを隠れみのにしたマネー・ローンダリングや経済制裁逃れをあぶりだすため、実質所有者がわかる登記制度を設けるもので、虚偽申告が見つかれば刑事罰の対象となるということです。法案は2018年に用意された後、棚上げ状態だったところ、ロシアのウクライナ侵攻を受け緊急立法となったといい、標的はプーチン大統領に近いオリガルヒ(新興財閥)ではあるものの、網は全ての投資家にかかることから、海外から匿名で英の不動産を購入していた人々が対応に追われているといいます。2022年4月13日付日本経済新聞の記事「対ロ制裁が暴くグローバル金融の闇 独裁政権と深い縁」によれば、「英国では9万件以上の不動産購入が英領バージン諸島などの海外法人経由で所有者名を開示していない。高額の物件には15%と割高な印紙税がかかり、英政府の歳入となる。非政府組織(NGO)、トランスパレンシー・インターナショナルUKの推計では、15億ポンド以上は経済犯罪かプーチン政権との関係で告発されたオリガルヒ所有。本国で稼いだ富の貯蔵手段とみられる」ということです。さらに同報道では、「直視すべきは個々のオリガルヒの罪だけでなく、マネーの受け皿となる合法的な制度、ビジネスに潜む闇の深さだ。資金の出所を追及しない富豪フレンドリーな制度でマネーを集める拠点は英国だけでなく世界中にある。まっとうなマネーの環流に腐敗マネーが紛れても”執事”は稼ぎが増えるだけ。自ら声を上げ変える動機は働きにくい」、「グローバルな金融システムを殺すことなく、どう「汚いお金」を取り除いていくのか。もぐらたたきでなく、透明性を高めて事後検証を容易にすることで抑制する術はないか。英国だけでなく民主主義国家が協力して新たな「ろ過システム」を考える時だ。日本も対岸の火事と軽視していたら、いつか火傷しかねない」と指摘されており、正鵠を射るものといえます。

その他、AML/CFTを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • インド政府の金融犯罪対策機関、執行局(ED)は、中国のスマートフォンメーカー小米科技(シャオミ)のインド法人、シャオミ・テクノロジー・インディアが小米のグループ企業など海外の3つの法人に対し、ロイヤルティー支払いの名目で違法な送金を行っていたことが判明したとして、シャオミ・テクノロジーがインドの銀行口座に保有する資産から7億2,500万ドルを差し押さえたと発表しています。EDは外国為替関連法違反の疑いで小米の事業慣行を捜査していたといいます。
  • ドイツ連邦検察や警察などの関係者が、フランクフルトにあるドイツ銀行本店を捜索しています。報道によれば、マネー・ローンダリングとの関係が疑われる取引を巡り、同行が適切な時期に報告をしていたかどうかが問題視されているということです。ドイツ銀は声明で、過去に報告した疑わしい取引に関する捜索が行われ、当局に全面協力していると述べています。ドイツ銀は該当する取引にコルレス銀行(海外送金の際の中継銀行)として関与、検察側は連邦金融監督庁(BaFin)も加わっているとしていますが、現時点ではそれ以上の詳しい説明はありません。なお、ドイツ銀を巡っては、マネー・ローンダリング疑惑が後を絶たず、例えばデンマークのダンスケ銀行の2,000億ユーロ(2,200億ドル)規模のマネー・ローンダリング疑惑への関与、2011年から15年の間に「ミラートレード」と呼ばれる手法を使ってロシアの顧客が数十億ドルの資金を国外に移転するのを手助けした疑いなどが指摘されています。さらに、2021年5月31日付ウォールストリートジャーナルによれば、米連邦準備制度理事会(FRB)が、ドイツ銀行に対し、AML/CFTに関する長年の問題に対処できていないと通知、FRBは不満を強めており、ドイツ銀に制裁金を課す可能性もあると報じています。なお、AML/CFTで何度も不備があり、疑いのある取引を放置したことで制裁金を課されたドイツ銀は、大規模なリソースを投入してその対応に当たってきてはいるものの、FRBはドイツ銀行に対し、前進するどころか逆戻りしていると伝えたといい、AML/CFT上の問題の一部は直ちに対応が必要だと伝えたといいます。ちなみに、FRBは、2017年6月に、ドイツ銀行に対して、米国内の業務でAML/CFT上、「危険で不健全な慣行」があったとして、4,100万ドル(45億円強)の制裁金を支払うよう命じたほか、監視や法令順守の強化も指示しています。
  • 経営不振に陥っているスイスの金融大手クレディ・スイスの年次株主総会で、2020会計年度の経営陣の責任を免除するという取締役会の提案が大差で否決されたと報じられています(2022年4月30日付ロイター)。2021年に積み上がった数十億の損失に揺れるクレディ・スイスは、一連の不祥事や訴訟によって赤字が続き、2022年第1・四半期決算でも赤字を計上、一連の巨額損失に対する投資家の憤りが募っていることを鮮明にした形となりました。なお、スイスでは企業の経営陣が故意または重大な過失による義務違反の責任を問われることがあり、毎年株主は経営陣の前年の法的責任を免除するかどうかを尋ねられるということです(なお、2021年の免責は承認されています)。クレディ・スイスについては、ブルガリアの犯罪組織によるコカイン密輸に絡みマネー・ローンダリングを容認した罪で起訴されており、同国では大手金融機関を巡る初の刑事裁判が大きな注目を集めているところです。
(2)特殊詐欺を巡る動向

特殊詐欺の被害者は高齢者が多いことが特徴ですが、ネット詐欺については、若者も被害にあうケースが増えています。その傾向は海外でも同様であり、2022年4月26日付日本経済新聞の記事「若者の4人に1人、詐欺メールを疑わず 英調査」は、英の消費者の調査結果をふまえながらも、日本の消費者にとっても注意すべき点として通じるものであり、大変興味深いものです。以下、抜粋して引用します。

英国に住む18~34歳のうち4人に1人がネット詐欺への警戒心が薄いことが、最近の調査で明らかになった。55歳以上の年齢層に比べ2倍超の割合となっている。米クレジットカード大手のビザと英アストン大学の法言語学研究所が、詐欺に使われる言い回しについてまとめた調査で、「つづりや文法の間違いをチェックしない」というアンケート回答が18~34歳の4分の1に上った。こうした人々は詐欺に気づきにくいと懸念される。ビザの英国・アイルランド事業を率いるマンディ・ラム氏は「オンライン上で過ごす時間が増えている今こそ、自分の身を守る方法を知っておくとよい」と話した。155件の詐欺メッセージを調査した結果、9割近くが不正なリンクをクリックさせる内容だったことがわかった。「直ちに行動(urgent action)」するよう求めたり、何らかの「問題(problem)」の解決に必要だと説明したりする文面が7割以上を占めた。詐欺メールに最も多く使われる表現は「こちらをクリック(click here)」「アカウント情報(account information)」「ギフトカード(gift card)」だった。「ビットコイン(Bitcoin)」も頻出表現のトップ30に入り、「特典(reward)」「小包(parcel)」「注文(order)」より上位につけた。米ブロックチェーン(分散型台帳)分析企業チェイナリシスによると、暗号資産絡みの詐欺被害額は2021年に全世界で78億ドル(約9,900億円)となった。ただ、暗号資産の市場全体は詐欺の増加を上回るペースで成長している。ビザが調査した詐欺メッセージの事例では、まっとうな組織や個人になりすまして信用を得ようとするものが過半数を占めた。もっともらしい自己紹介文のほか、アカウント番号や注文番号などの情報が記載されているケースもあれば、法定の通知で一般的とされる文言だけが送りつけられる場合もある。アストン大学の研究者、マートン・ペティコ氏は「詐欺犯がよく使う単語や表現といったコミュニケーション戦略に焦点を当てることで、詐欺の言い回しを見抜きやすくし、その結果として人々が守られるようにしたい」と語った。今回の調査結果は、英金融業界団体のUKファイナンスが実施した調査とも一致する。UKファイナンスによると、「友人や家族などの知り合いになりすました詐欺犯に現金や個人情報を送ったことがある」という回答が、18~34歳では50%を超えた。新型コロナウイルスのパンデミックで社交、恋愛、娯楽、買い物を目的としたオンラインプラットフォームの利用時間が長くなったため、消費者が詐欺の標的となる危険性が増している。…今回のビザの調査では、消費者が平均すると1週間に2度の頻度で詐欺に狙われる実態も明らかになった。過半数の回答者が、ネット詐欺がここ1年間で増えたとの見方を示した。詐欺メッセージを信用してしまった理由として、記載されていたブランドや製品の知名度を挙げた回答者は3分の1余りだった。

特殊詐欺被害や対策を巡って、国内各地の状況も確認しておきます。まず、和歌山県内の2021年の特殊詐欺被害で、前年は1件もなかった還付金詐欺が28件に急増したことが判明したといいます。また、架空料金請求詐欺も7件増の22件に上り、2種類で全被害の8割超を占めているといいます。本コラムでもたびたび指摘しているとおり、還付金詐欺や架空料金請求詐欺は、犯行グループが被害者と直接会うことなしに(非対面で)金をだまし取ることが多いのが特徴で、報道(2022年4月26日付毎日新聞)によれば、和歌山県警は「新型コロナウイルスの感染状況が悪化したことで、地方への移動が不要な『振り込め型』の詐欺に多く手を染めていた」と分析していますが、確かにその可能性は高そうです。さらに、2021年の特殊詐欺の認知件数は59件で(前年比+27件)、被害総額は高額被害が相次いだ前年からは約6,718万円減の約9,066万円、被害者を年齢別にみると、65歳以上が46人で全体の8割近くを占め、うち女性が34人といい、同県警は「女性の方が在宅率が高く、犯行グループからの電話を受ける可能性が高い」と指摘しています(こちらの指摘も説得力があります)。だまし取る手口としては、ATMなどを用いて振り込ませたり、電子マネーを購入させたり、直接接触しない方法が全体の8割に上り、還付金詐欺では、犯行グループは「振り込め型」を使うことが多く、受け子や見張り役を被害者宅に送り込み、現金やキャッシュカードを直接やり取りさせる方法と比べ、コロナ禍でも犯罪の協力者を集めやすかったとみられるとしています。ただ、2022年は1~3月の暫定値で、還付金詐欺は2件と減少の兆しを見せており、コロナ禍の動向によって犯行の手口が変遷している状況もうかがえます。一方、現金手交型でだまし取ることが多い「オレオレ詐欺」が前年同期比4件増の5件と増えたといい、県警の担当者は「新型コロナの感染状況が以前と比べれば落ち着いているため、犯行グループの活動も活発化する可能性がある」と指摘、「特殊詐欺の手口にも『流行』がある。最新の傾向を確認することが犯罪被害の防止につながる」と呼び掛けています。また、息子や孫ら親族を装って金銭などをだまし取る「オレオレ詐欺」の神奈川県内での被害が急増しているといい、神奈川県警によれば、2022年1月から3月までの被害額は2021年同期比で約4倍にも上っているといいます(2022年1~3月の認知件数は、2021年の同じ時期と比べて121件多い167件、被害額は約4億600万円で、2021年の同時期より3億円以上も増加)。同県警は事態の更なる悪化を食い止めようと、「緊急対策」と銘打った防止策に乗り出しています。報道(2022年4月15日付毎日新聞)によれば、複数のグループが競うように犯行を繰り返している可能性もあり、根絶は容易ではなく、現金を取りに行く「受け子」ら組織の末端を検挙しても、グループの核心に関する供述を得るのは困難を極めており、最近の手口は「古典的で初期に原点回帰している」(捜査関係者)ということです。2022年1月から3月に神奈川県内で起きた事件で、犯人グループの要求名目は「カバンの紛失」と「仕事上のミス」の二つが70%以上を占めているといいます。高齢者の固定電話に狙いを定め、息子や会社関係者を装った複数の実行犯が立て続けに電話をかけてくる「劇場型」のパターンが後を絶たないともいいます。さらに、北海道内で特殊詐欺被害が相次ぎ、3月末時点で前年同期比13件増の48件という発生があっただけでなく、被害総額も計約3億円と前年同期の約6,800万円を大きく上回っているといいます。報道(2022年4月15日付毎日新聞)によれば、類型別の件数で最多は架空料金請求詐欺の28件で被害額は約2億7,000万円に上っているといいます。虚偽のインターネットサイト利用料金などを口実にプリペイド式の電子マネーをだまし取る手口で、ショートメッセージ(SMS)で連絡を取り、コンビニなどで手軽に購入できるプリペイド式の電子マネーで執拗に金を請求するもので、一度に奪える金額が少ないものの、犯人側は被害者との接触や預貯金口座を利用するといったリスクを負わない点、SMSは電話番号だけで送ることができるという点に特徴があります。犯人側は不特定多数に送りつけ、手ぐすねを引いてリアクションを待っているタイプであるため、身に覚えのない連絡先や内容のSMSは無視するのが得策だといえます。また、大阪府警は今年度、特殊詐欺の捜査に特化した「特殊詐欺捜査課」を新設しています。知能犯を捜査する捜査2課内にあった「特殊詐欺対策室」から格上げされる形で、全国的にもこうした課は珍しいといいます。暴力団など組織犯罪に関して知識や経験が豊富な捜査員を投入し、特殊詐欺対策室から約40人多い110人態勢で捜査に臨んでいます。本コラムでも指摘しているとおり、特殊詐欺は、暴力団や「半グレ」などの犯罪組織が、SNSなどで実行役を募って、高齢者らから多額の現金をだまし取るケースが多い一方、捜査の網にまずかかるのは、大抵が被害者に直接対面して金銭をだまし取る役割などを担う実行犯で、主犯格は実行犯らの役割を細分化した上で、自身の素性が分からないように指示を出すことが多く、捜査の手が主犯格にたどりつくのは難しいのが現状です。さらに、実行犯は摘発されるリスクが高いばかりか、主犯格側からノルマの達成を迫られるなどして精神的に追い詰められるケースも確認されています。少年も多く、全国の警察は、少年らが特殊詐欺に加担しないようSNS上で注意喚起などを行っているものの、主犯格が摘発されない限りは年々手口を巧妙化させる犯罪グループとのいたちごっこになる可能性もあります。そうした状況を踏まえ、報道(2022年4月16日付産経新聞)によれば、「府警に新設された特殊詐欺捜査課では、組織犯罪の捜査に携わってきた捜査員らのノウハウを生かし、さまざまな法令を多角的に適用した捜査を行う。容疑者の摘発のみならず、背後にいるとみられる暴力団などの情報収集にも積極的に乗り出し、犯罪グループの実態解明と壊滅を目指す。壊滅させれば、関わっている暴力団などにも大きな打撃を与えられる。何よりも、大切な財産を奪われて悲しむ被害者を減らすことができるはずだ。卑劣な犯罪を許してはならない」と報じられています。

一方、だまされる可能性の高い高齢者について、その特性に寄り添った対策が急務だといえます。この点については、2022年4月18日付毎日新聞)の記事「80代「だまされてもいい」 タクシー運転手、見抜いた孤独と悪意」が考えさせられる内容でしたので、以下、抜粋して引用します。

要介護のため週2回デイサービスを利用しているだけで地域との交流はほとんどなく、県外に暮らす長男が月1回顔を出す程度。回覧板も新型コロナウイルスの影響で手渡しから玄関の袋に入れる回し方となり、近所同士が対面する機会も減っていた。ニセ電話詐欺の手口はニュースなどで何となく知っていたが「電話で矢継ぎ早に話されて混乱し、信じてしまった」と話した。電話の相手はおいだと思うが、金が必要な理由はうそでも仕方がない。それが「だまされてもいい」と言った言葉の真相だった。詐欺だと分かった翌日、再び松江さんのタクシーを利用し、感謝を伝えたのだと言う。核家族化などによりかつてのような地域社会が崩れた今、詐欺被害を未然に防いだのは、日常的に高齢者と接点があるタクシー運転手冥利に尽きる出来事だった。車内での会話は世相を映す鏡だと思ってハンドルを握っている。「悩みがあったら何でも言ってください。話し相手になりますよ」…福岡県警でも21年に確認されたニセ電話詐欺被害は329件で、被害額は約7億6500万円に上る。県警によると、被害者の89%が高齢者で、うち約7割が老人会などの会合に参加していなかったことが聞き取り調査で判明。さらに45%が「独居」と回答し、地域から孤立する高齢者が被害に遭っている傾向が出た。新型コロナウイルス禍では外出自粛で地域との結びつきが薄まるだけでなく、在宅時に電話を取る機会も増えることが予想される。金沢大の眞鍋知子教授(地域社会学)は「高齢者は生活資金や健康面での不安が大きく、孤独感が加わればだまされやすくなる可能性がある」と指摘する。では、高齢者の孤立化に地域社会はどう向き合えばいいのか。眞鍋教授は「回覧板など地域内の情報伝達がオンライン化する傾向もあり、スマートフォンのアプリの使い方を公民館で教えるなど高齢者が地域活動に参加するきっかけをどう作るかが課題になる」と述べ「新型コロナウイルスの感染拡大の影響が長期化しており、見守る側が活動できない状況が続いている。地域での話し合いは続け、交流が再開できた場合の取り組みを考えておくなど少し先を見て計画しておくことが重要だ」と話した。

次に、最近の報道から、特殊詐欺の被害事例について紹介します。これだけ官民を挙げて特殊詐欺の未然防止に取り組んでいるにもかかわらず、同じような手口による被害が後を絶たない現状に、忸怩たる思いです。事例だけ見れば、直接本人に電話をかけなおせば嘘だと見破ることができるケースがほとんどですが、切迫した事例の設定に劇場型の手口が相まって、さらには確証バイアスから「自分はだまされていない」との思い込み、ふと立ち止まって確認する隙も与えられないままにだまされてしまうことが分かります。したがって、還付金詐欺や架空料金請求詐欺、オレオレ詐欺においては、「電話に出ない」「留守番電話設定にする」という基本的な対策が最も効果的ではないかと考えられます。

  • 埼玉県警捜査2課と吉川署は、電子計算機使用詐欺と窃盗の疑いで、住吉会傘下組織組長を、氏名不詳の者と共謀し、数回、朝霞市の70代の無職女性方に市役所職員などに成り済まし「医療費の還付金があります」などと電話をかけ、信じた女性に市内の金融機関のATMから指定口座に2回、現金計約140万円を振り込ませ、都内の金融機関のATMから91万7,000円を引き出した疑いで再逮捕しています。男は三郷市の70代の無職男性から現金約69万円をだまし取ったとして窃盗容疑で逮捕され、その後のATM周辺などの防犯カメラや押収品の分析から今回の関与が浮上したということです。また、暴力団の関与した事例としては、区役所の職員になりすまし、「医療費の還付金がある」などと嘘を言い、70代の女性にATMを操作させて現金をだまし取ったとして、住吉会系の組員が逮捕されたものもありました。同組員は医療費の還付金名目でだまされた高齢者が振り込んだ金をATMから引き出す出し子役で女性が振り込んだ10分以内に金を引き出していたということです。また、北海道・美唄警察署は、他人が自分になりすまして口座を使うことを知りながら、金融機関に開設された自分名義のキャシュカード1枚を他人に譲り渡したとして、犯罪収益移転防止法違反の疑いで六代目山口組四代目倉本組の組員を逮捕しています。報道によれば、同組員が譲り渡したカードの口座は、ロマンス詐欺に使われていて、利用が停止されていましたが、同組員が再発行したカードを使おうとしたことで事件が発覚したということです。さらに、新型コロナウイルス感染症対策の緊急小口資金と総合支援資金計50万円を不正に受給したとして、兵庫県警尼崎東署は、詐欺の疑いで、住吉会系組員を逮捕しています。今年2月、乗っていたタクシーの助手席後部を蹴って壊したとして、器物損壊容疑で男を逮捕、所持品から「あと2回もらえる」「京都市社会福祉協議会」などと書かれたノートが見つかり、今回の容疑が浮上したということです。
  • ロシアの侵攻を受けるウクライナに在住する日本人を名乗り、「出国費用が必要だ」として現金を振り込ませようとした詐欺未遂事件が群馬県安中市内で確認されています。群馬県警安中署によると、同市内に住む60代女性のSNSアカウントに、ウクライナ在住の日本人を名乗る男から「出国費用を振り込んでほしい」と複数回メッセージがあり、女性は、群馬県信用組合板鼻支店を訪れて現金30万円を振り込もうとしたところ、不審に思った同支店の職員2人が女性を説得して被害を未然に防いだものです。このようなウクライナ情勢に便乗した義援金詐欺などのトラブルが確認され、国民生活センターが注意を呼びかけています。同センターによると、ウクライナ侵攻が始まった2月末以降、寄せられた関連の相談は10件ほどではあるものの、様々な手口が確認されるようになっているということです。
▼国民生活センター ウクライナ情勢を悪用した手口にご注意!(No.2)-貴金属の訪問購入トラブル等-
  • ウクライナ情勢を悪用した消費者トラブルが引き続き生じていますので、注意してください。
  • 相談事例
    1. 「ウクライナに送る冬物の衣類を買い取りたい」という勧誘の電話があり了承したら、来訪した事業者に貴金属を見せろと言われた
      • ウクライナの戦地に送る冬物の衣類を買い取りたいと、訪問購入業者から自宅に勧誘の電話があった。寒い地域の避難民に役立ててもらえればと思い、冬物の衣類をまとめて来訪を待っていたが、来訪した訪問購入業者に「冬物衣類はいらないので貴金属を見せてほしい」と言われた。我が家に売れるような貴金属はないと断り、冬物の衣類を戦地に届けてほしいと頼むと、衣類は別のトラックで夕方以降取りに来ると言い残して退去した。しかし結局引き取りのトラックが来ることはなく、ウクライナ情勢を悪用した手口だと感じた。(2022年3月受付 40歳代 女性)
    2. 「コロナやウクライナ侵攻の影響により売り上げが激変したため協力してほしい」と電話で海産物の勧誘を受けて注文したが、クーリングオフしたい
      • 先日「以前、海産物を頼まれた伝票をもとに電話をかけている。コロナやウクライナ侵攻の影響により売り上げが激変したため、協力してもらえないか」と北海道の事業者と名乗る電話があり、断り切れず海産物を注文した。本日商品が届き代引きで支払ったが、冷静になってみると商品は北海道の商品ではなく、金額も高いのでクーリングオフの手続きをしたい。(2022年3月受付 30歳代 女性)
  • 消費者へのアドバイス
    • 上記のような手口のほかにも、今後、ウクライナ情勢に関連した様々なパターンのトラブルが生じる可能性がありますので、十分に注意してください。
    • 少しでもおかしいと思ったら、お住まいの自治体の消費生活センター等にご相談ください。
  • インターネット上で外国人を名乗る相手と親密になり、様々な名目で金を要求されてだまし取られる「国際ロマンス詐欺」の被害が徳島県内で急増していると報じられています。2019年から2022年3月中旬までに28件の被害が確認されているといいます。報道によれば、詐欺グループの手口で多いのは、「外国の軍医」や「軍人」を名乗るケースだといい、1日に何通ものメッセージを送り、被害者との距離を縮め、「愛している」や「結婚しよう」などとストレートな愛情表現をし、被害者に親密さを感じさせ、そのうちに、通関料や渡航費用など様々な名目で金銭を要求、「今すぐに振り込んでほしい」と、考える隙を与えないのも特徴だといいます。また、国際ロマンス詐欺を巡っては、滋賀県警大津署が、滋賀県大津市の40代のブラジル人女性が、SNSで知り合った米国軍人をかたる人物から約360万円をだまし取られる詐欺事件があったと発表しています。女性は1月、SNSを通して親しくなった自称・米国軍人男性から「5,000万円の退役金を代わりに受け取ってほしい」などと言われ、3月までに手数料名目で計9回、現金計約360万円を振り込んだといいます。相手とはポルトガル語でやりとりをしていたといい、女性の家族が被害を疑い、同署に相談したことで発覚したものです。
  • 宮崎県警宮崎南署は、宮崎市の一人暮らしの60代女性が、うそ電話詐欺で約7,500万円をだまし取られたと発表しています。女性の携帯電話に2月、利用料金未納を知らせるメッセージがき、記載の連絡先に女性が電話したところ、NTT関係者を名乗る男から「携帯電話がハッキングされた」などと言われたほか、内閣府個人データ保護協会を名乗る男らからも連絡があり、「サイバー保険に加入してください」「全資産をネット銀行に入金してください」などとも言われたため、女性は、男らと複数回、電話でやりとりして、指定口座に現金を約150回振り込み、計約7,500万円をだまし取られたということです。男らと連絡がとれなくなったことを不審に思った女性が15日、同署に相談して発覚したものです。冷静な第三者からみればなぜこのような理由でだまされるのか、150回も振り込みをしていながら気づかないものか、など考えさせられることも多く、相談する相手の存在や相談できる雰囲気作りなどの重要性を痛感させられます。
  • 新潟県警新潟署は、新潟市中央区の80代女性が、現金280万円をだまし取られる特殊詐欺被害に遭ったと発表、同区では2月にも高齢女性2人が計4,500万円をだまし取られる被害に遭っており、今回の女性を含めていずれも息子が市内の同じ高校を卒業していたことから、同署は詐欺グループが同窓会名簿を悪用して犯行に及んだとみて調べているということです。報道によれば、女性宅に市内の病院医師を名乗る男らから「息子さんが吐血し、病院に搬送された」と電話があり、さらに息子を装った男から「病院で財布をなくし、会社のキャッシュカードを盗まれて悪用された。会社に言うと首になるから、お金を用意できないか」と連絡があり、女性は自宅を訪れた男に280万円を手渡したということです。特殊詐欺には「三種の神器」と呼ばれるものがあり、「飛ばしの携帯」「他人名義の口座」そして「名簿(個人情報)」です。名簿に限らず、個人情報の漏えいが後を絶たず、闇サイト等で個人情報が売買されていることから、同様の手口は今後も続くことは間違いありません。息子と病院の組み合わせとしては、神奈川県警大船署は、「息子さんががん」などと偽医者の男らから電話で言われ、鎌倉市の70代女性が現金1,000万円をだまし取られる「オレオレ詐欺」の被害に遭ったと発表したものもあります。鎌倉市に住む一人暮らしの女性宅に、自称医者の男から「息子さんは喉頭がんの疑いがある。18日に検査手術をする」「息子さんは病院で財布と携帯をなくした」と電話があり、直後に息子を装う男が「病院で財布だけ見つかったが携帯と現金がない。会社の決済で3,200万が必要」と言い、さらに息子の同僚という男から「息子さんの面倒は自分が見る。手がはなせない。私の息子が自宅に金を取りにいく」と言われ、女性は自宅に来た若者に「たんす預金」の現金1,000万円を手渡したというものです。
  • 兵庫県警は、神戸市と兵庫県伊丹市の高齢男性2人が、警察をかたる人物らから「偽札が出回っているので、現金を確認させて」とうそを言われ、計4,300万円をだまし取られる被害に遭ったと発表しています。神戸市長田区の80代の男性は、警察官を名乗る男から電話で「偽札が出回っている。家にある現金を確認させて」と言われ、直後に若い女が来て、男性が500万円を渡すと「偽札が3枚あった。他にもあるだろうから回収する」と、さらに金を出させ、計2,300万円を受け取って逃げたということです。伊丹市の90代の男性も、伊丹署員だという人物から「偽札を確認させて」という電話を受け、自宅に来た男に約2,000万円とキャッシュカード5枚を渡し、だまし取られています。報道によれば、4月12~25日、警察官を装った特殊詐欺とみられる電話が県内で少なくとも47件確認され、うち7件で実際に金銭などをだまし取られたということです。同様の手口は千葉県でも見られました。千葉県警船橋東署は、船橋市の70代の無職男性が現金約4,200万円をだましとられる被害に遭ったと発表しています。船橋東署員を名乗る男から「あなたのタンス貯金が偽札にすり替えられているかもしれない。末尾がアルファベットのものは偽札なので、30分ほど預かって調べさせてほしい」という電話を受け、(本物の紙幣に印刷されている番号も末尾はアルファベットではあるものの)男性は男の話を信じ、自宅を訪れた署員を名乗る男に、自宅にあった現金4,200万円を二重にした紙袋に入れて手渡してしまったということです。
  • 競馬の勝ち馬の情報を教える」などとうそをついて現金を詐取したとして、警視庁は横浜市の無職の男を詐欺容疑で逮捕しています。同庁は被害者に電話をかける「かけ子」役だったとみて調べている。報道によれば、男は今年1~2月、詐欺グループと共謀し、東京都葛飾区の70代男性に「勝ち馬情報がある。代理で購入するので当たったら払戻金の3割をもらう」などと電話、さらに「当たったのでお金を振り込んでほしい」とうそをついて手数料名目などで計約70万円をだまし取った疑いがもたれています。グループは実体のない「トラストガーデン」という馬券の代理購入業者を名乗って被害者を勧誘、さらに架空の「全国消費者相談所」という団体もかたり、トラストガーデンが「いい会社だ」と説明して男性を信用させていたといいます。
  • 神奈川県警山手署は、横浜市中区に住む1人暮らしの80代の高齢男性がオレオレ詐欺の被害に遭い、現金500万円をだまし取られたと発表しています。男性の息子を装った男から電話があり、「ウオーターサーバー事業に手を出して失敗した。500万円用意して」「家の前に郵便局の女の人がいるから、渡して」などと嘘を言われ、数時間後、男性方前に郵便局員を装った女が現れ、男性は現金500万円を手渡し、だまし取られたというものです。
  • 京都府警東山署は、京都市の70代の無職の女性が全国銀行協会員を名乗る男らから現金50万円をだまし取られる被害にあったと発表しています。女性宅に男らから「第三者にあなたのキャッシュカードを使われた可能性がある」「コロナの関係で接触は避けたい。玄関のげた箱に置いて」と電話があり、女性宅を訪れた男にカード1枚をだまし取られたもので、直後に下京区にある金融機関のATMから50万円を引き出されています。男らは、女性宅を訪れるまでの約2時間半にわたり電話で話し続けており、同署は発覚や通報を免れるためとみて捜査しているといいます。
  • 警察官をかたって60代女性から現金約950万円をだまし取ったとして、大阪府警特殊詐欺捜査課は、詐欺などの疑いで容疑者を逮捕しています。報道によれば、この事件ですでに摘発した現金の受け取り役と回収役の男2人を捜査する過程で、容疑者が浮上、容疑者が指示役だったとみられています。共謀し、大阪府高石市内の60代女性に対し、警察官を装い「口座から不正に出金されており、キャッシュカードを使えなくする必要がある」などと電話をかけ、キャッシュカード6枚を詐取、このうち5枚を使い、現金約950万円を詐取したというものです。また、長野県警長野中央署は、長野市の80代女性が現金704万円をだまし取られる特殊詐欺被害に遭ったと発表しています。報道によれば、女性は、警察官を名乗る男から電話で、「口座から出金があり、これ以上口座を使われないようにするため、キャッシュカードを渡してほしい」などと言われ、約2時間半後に訪ねてきた男にキャッシュカード4枚を手渡し、電話で暗証番号を伝えていたことから、口座から複数回にわたって現金が引き出され、不審に思った金融機関からの問い合わせで判明したということです。
  • 百貨店職員を装い高齢者からキャッシュカードをだまし取ろうとしたとして、愛知県警は、詐欺未遂容疑で、無職の容疑者を逮捕しています。同容疑者は詐欺グループでうその電話をかける「かけ子」とみられ、県警は拠点としていた同区のマンション一室を摘発、拠点摘発は県内2例目といいます。仲間と共謀し、大手百貨店三越の職員を装い、「カードが不正に使用されている」などとうその電話をし、同市熱田区の80代の男性からカードをだまし取ろうとした疑いがもたれています。

次に、例月どおり、直近の特殊詐欺の認知・検挙状況等について確認します。今回は3カ月分のデータのため大きくブレるものもありますので、注意願います。

▼警察庁 令和4年3月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

令和4年1~3月における特殊詐欺全体の認知件数は3,500件(前年同期3,136件、前年同期比+11.6%)、被害総額は72.8憶円(60.3憶円、+20.7%)、検挙件数は1,346件(1,540件、▲12.6%)、検挙人員は484人(510人、▲5.1%)となりました。これまで減少傾向にあった認知件数や被害総額が大きく増加に転じている点が特筆されますが、とりわけ被害総額が増加に転じ、継続している点はここ数年の間でも珍しく、あらためて特殊詐欺が猛威をふるっている状況を示すものとして、十分注意する必要があります(詳しくは分析していませんが、コロナ禍における緊急事態宣言の発令と解除、人流の増減等の社会的動向との関係性が考えられるところです)。うちオレオレ詐欺の認知件数は759件(621件、+22.2%)、被害総額は21.9憶円(17.7憶円、+23.7%)、検挙件数は353件(296件、19.3%)、検挙人員は187人(135人、+38.5%)と、認知件数・被害総額ともに大きく増えている点が懸念されるところです。これまでは還付金詐欺が目立っていましたが、そもそも還付金詐欺は自治体や保健所、税務署の職員などを名乗るうその電話から始まり、医療費や健康保険・介護保険の保険料、年金、税金などの過払い金や未払い金があるなどと偽り、携帯電話を持って近くのATMに行くよう仕向けるものです。被害者がATMに着くと、電話を通じて言葉巧みに操作させ(このあたりの巧妙な手口については、暴排トピックス2021年6月号を参照ください)、口座の金を犯人側の口座に振り込ませます。直近では新型コロナウイルスを名目にしたものが目立ちます。一方、ATMに行く前の段階の家族によるものも含め、声かけで昨年同期を大きく上回る水準で特殊詐欺の被害を防いでいます。警察庁は「ATMでたまたま居合わせた一般の人も、気になるお年寄りがいたらぜひ声をかけてほしい」と訴えていますが、対策をかいくぐるケースも後を絶ちません。なお、最近では、本コラムでも毎回紹介しているように金融機関やコンビニでの被害防止の取組みが浸透しつつあり、ATMを使った還付金詐欺が難しくなっているのも事実で、そのためか、オレオレ詐欺へと回帰している可能性が疑われます(とはいえ、還付金詐欺自体も高止まりしたままです)。最近では、コロナ禍の影響もあり、闇バイトなどを通じて受け子のなり手が増えたこと、外国人の新たな活用など、詐欺グループにとって受け子は「使い捨ての駒」であり、仮に受け子が逮捕されても「顔も知らない指示役には捜査の手が届きにくことなどもその傾向を後押ししているものと考えられます。特殊詐欺は、騙す方とそれを防止する取り組みの「いたちごっこ」が数十年続く中、その手口や対策が変遷しており、流行り廃りが激しいことが特徴です。常に手口の動向や対策の社会的浸透状況などをモニタリングして、対策の「隙」が生じないように努めていくことが求められています。

また、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は638件(569件、+12.1%)、被害総額は8.8憶円(8.4憶円、+4.5%)、検挙件数は484件(459件、+5.4%)、検挙人員は109人(115人、▲5.2%)と、こちらは認知件数・被害総額ともに増加という結果となっています(上記の考え方で言えば、暗証番号を聞き出す、カードをすり替えるなどオレオレ詐欺より手が込んでおり摘発のリスクが高いこと、さらには社会的に手口も知られるようになったことか影響している可能性も指摘されていますが、増加傾向にある点は注意が必要だといえます。なお、前述したとおり、外国人の受け子が声を発することなく行うケースも出始めています)。また、預貯金詐欺の認知件数は514件(728件、▲29.4%)、被害総額は5.7憶円(10.2憶円、▲44.1%)、検挙件数は299件(595件、▲49.7%)、検挙人員は120人(191人、▲37.1%)となり、こちらは認知件数・被害総額ともに大きく減少している点が注目されます(理由はキャッシュカード詐欺盗と同様かと推測されます)。その他、架空料金請求詐欺の認知件数は612件(433件、+41.3%)、被害総額は24.0憶円(14.1億円、+70.2%)、検挙件数は31件(74件、▲58.1%)、検挙人員は24人(33人、▲27.3%)、還付金詐欺の認知件数は925件(695件、+33.1%)、被害総額は9.9憶円(8.1憶円、+22.2%)、検挙件数は170件(101件、+68.3%)、検挙人員は28人(26人、+7.7%)、融資保証金詐欺の認知件数は23件(51件、▲54.9%)、被害総額は0.4憶円(0.8憶円、▲52.8%)、検挙件数は3件(5件、▲40.0%)、検挙人員は2人(2人、±0%)、金融商品詐欺の認認知件数は6件(10件、▲40.0%)、被害総額は0.7憶円(0.5憶円、+42.1%)、検挙件数は0件(4件)、検挙人員は6件(5件、+20.0%)、ギャンブル詐欺の認知件数は12件(18件、▲33.3%)、被害総額は1.4憶円(0.4憶円、+256.1%)、検挙件数は5件(0件)、検挙人員は2人(0人)などとなっており、オレオレ詐欺の急増とともに、特にコロナ禍の社会情勢をふまえて「非対面」で完結する還付金詐欺や架空料金請求詐欺の認知件数・被害総額ともに大きく増加している点がやはり懸念されます。

犯罪インフラ関係では、口座開設詐欺の検挙件数は206件(158件、+30.4%)、検挙人員は112人(90人、+24.4%)、盗品等譲受け等の検挙件数は0件(1件)、検挙人員は0人(0人)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は810件(515件、+57.3%)、検挙人員は629人(406人、+54.9%)、携帯電話契約詐欺の検挙件数は25件(38件、▲34.2%)、検挙人員は23人(43人、▲46.5%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は1件(8件、▲87.5%)、検挙人員は0人(5人)、組織的犯罪処罰法違反の検挙件数は38件(36件、+5.6%)、検挙人員は7人(6人、+16.7%)などとなっています。また、被害者の年齢・性別構成について、特殊詐欺全体では、男性(25.2%):女性(74.8%)、60歳以上90.8%、70歳以上71.8%、オレオレ詐欺では、男性(19.0%):女性(81.0%)、60歳以上97.0%、70歳以上94.5%、架空料金請求詐欺では、男性(53.8%):女性(46.2%)、60歳以上60.5%、70歳以上35.3%、キャッシュカード詐欺盗では、男性(13.0%):女性(87.0%)、60歳以上99.1%、70歳以上97.3%、特殊詐欺被害者全体に占める高齢(65歳以上)被害者の割合について、特殊詐欺 87.2%(男性22.2%、女性77.8%)、オレオレ詐欺 96.4%(18.4%、81.6%)、預貯金詐欺 98.2%(10.5%、89.5%)、架空料金請求詐欺 49.3%(58.6%、41.4%)、還付金詐欺 94.0%(25.6%、74.4%)、融資保証金詐欺 5.0%(100.0%、0.0%)、金融商品詐欺 16.7%(0.0%、100.0%)、ギャンブル詐欺 50.0%(83.3%、16.7%)、交際あっせん詐欺 0.0%、その他の特殊詐欺 40.0%(100.0%、0.0%)、キャッシュカード詐欺盗 98.7%(13.0%、87.0%)などとなっています。

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニエンスストア(コンビニ)や金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。コンビニの声かけが特殊詐欺被害を防いでいる点に着目した記事「5年で9回「詐欺」防いだ離島のコンビニ店…親身な対応の店長、疑うポイントは「不自然さ」」(2022年4月12日付読売新聞)から、抜粋して引用します。

長崎県対馬市に、「ニセ電話詐欺」の被害を約5年間で9回も未然に防いだコンビニ店がある。なぜ何度も詐欺に気付いたのか、どうやって食い止めたのか―。気になって探ってみると、いくつかのポイントが見えてきた。…最初に被害を防いだのは、開業半年後の17年2月。以降、昨年12月末までの約5年間で計9回防ぎ、うち6回が20、21年だった。だまし取られずに済んだ金額は計約118万3,000円に上る。…「詐欺を防ぐ秘訣は何ですか?」。そう尋ねると、播磨さんは「離島の店なのでお客様との距離が非常に近い。『家族が被害に遭わないように』との思いで、声をかけている」と話した。播磨さんによると、詐欺を疑うポイントは「不自然さ」のようだ。例えば、客が高額の電子マネーを購入しようとしたり、慌てるようなそぶりを見せたりすれば見逃さない。疑わしいと感じた場合、「何のためにご利用ですか」「何かお困りですか」などと積極的に声をかけるようにしている。…そして「警察に相談した方がいいですよ」「取り返しのつかないことになるかもしれませんよ」などと、思いとどまるよう促す。それでも納得しない客には、ほかの客に見えないよう壁で仕切られた店内で丁寧に説得する。こうした親身な対応と、その後の警察の地道な捜査で詐欺が判明してきたという。…対馬南署は「大手橋店のスタッフは、被害から客を守る意識が高いと思う。島民にも地域で詐欺を話題にしてもらい、被害に遭わないよう気を付けてほしい」と願う。ファミリーマート広報部は、同店について「お声かけなど積極的にお客様とコミュニケーションを取っている店舗の一つ」と話す。播磨さんは「この店から被害者を出さない。スタッフの感度をさらに高め、詐欺を見逃さないようにしたい」と力を込めた。

まずは、コンビニの事例を紹介します。

  • 架空請求詐欺被害を未然に防いだとして、大分県警大分南署は、「ファミリーマート由布挾間古野店」マネジャーに署長感謝状を贈っています。報道によれば、来店した由布市の女性が不安げな様子で5万円分の電子マネーを購入しようとしているのを知り、「詐欺です。警察に連絡しましょう」と言って被害を防いだということです。女性は、パソコンを使用中に突如表示された警告に驚き、連絡先に電話をかけたところ、修理代として電子マネーを購入するよう指示されたといいます。なお、大分県内では1~3月に計41件の特殊詐欺が発生し、31件が架空請求詐欺、うち8割は電子マネー購入を求めていたといい、同署は「『電子マネーを買ってカード番号を教えて』は詐欺。絶対に1人で判断せず相談してほしい」と呼びかけています。
  • また、架空請求詐欺を防いだとして、鳥取県警智頭署は、鳥取市のコンビニの40代のアルバイトに感謝状を贈っています。報道によれば、鳥取市内の70代の男性客が5万円分のプリペイドカードを購入しようとした際に声をかけたところ、男性が「パソコンに『ウイルスに感染した』と表示され、画面に記載された番号に電話したら、カードを購入するよう指示された」と説明したため詐欺を疑い、男性に購入を思いとどまらせたものです。正に声かけの行動が被害防止につながった事例となります。
  • 特殊詐欺の被害を未然に防いだとして、香川県の坂出地区防犯協会連合会と県警坂出署は、坂出市のファミリーマート店長に感謝状を贈っています。報道によれば、今年2月中旬、60代の女性が同店の機器を使って電子マネーを購入する際、携帯電話でやりとりをしているのに店長が気づき、会話が敬語だったことを不審に思った店長が理由を聞いたところ、特定のサイトを見たことを理由に電子マネーで3,000円支払うよう指示された、と話したことから警察に通報したということです。「不自然さ」に気づくことができたリスクセンスの賜物だといえます。
  • 携帯電話で通話しながらATMを操作していた高齢男性に声をかけて特殊詐欺被害を未然に防いだとして大阪府警鶴見署は、セブンイレブン大阪鶴見2丁目店の女性店員2人に感謝状を贈っています。報道によれば、店内を清掃中だった松井さんが、「振り込みを押したらええんか」などと携帯電話で通話しながらATMを操作する男性を発見、不審に思った松井さんがレジにいた真田さんに相談し、声をかけてもらったところ、男性は操作に手間取っている様子で「(通話相手に)暗証番号を伝えた」などと話したことから、2人は「男性が詐欺被害に遭っている」と確信し同署に連絡したものです。
  • 苦情電話への対応で店員の気をそらそうとする手口も散見されています。2022年4月20日付毎日新聞にかなり詳しい手口が紹介されていました。それによると、「パンの袋に穴が開いていて、虫が入っていた。息子がおなかを壊した」などと、昼食の買い物客らでにぎわう「ファミリーマート茨木鮎川五丁目店」に、男性の声で1本の電話があり、対応したパート従業員の長戸さんに男性はさらに続けて「警察に通報した。パンの入荷時間を調べてほしい」、長戸さんは折り返すから連絡先を教えてほしいと頼んだが、男性は電話番号を教えてくれなかったといいます。さらに10分後に電話が鳴り、相手は同じ男性で、会話が途切れそうになると「エコバッグに店員が商品を入れるのは正しいのか」「学生がバイトに入る時間帯はいつか」など関係なさそうな話を続けてきたため、次第に何の電話か分からなくなり、違和感を覚えた長戸さんは電話を切り、店のオーナーに相談、オーナーが本部に確認すると、でたらめなクレーム電話で店員の注意をそらしている間に、高齢者に電話で指示して店のATMで金を振り込ませる特殊詐欺の手口が横行していることが分かったといいます。その後、3度目の電話がある、80代の夫婦が来店し、妻は携帯電話を耳に当てながらATMを操作し始めたところだったため、「おばあちゃん、詐欺や!」と説得を試みたが、妻は「大丈夫やからほっといて」と話を聞いてくれない。「店員が詐欺だと言っているけど違いますよね?」と電話の相手に確認し、操作を続けようとしたため、長戸さんは110番通報し、警察官が来るまでの間、相手からの指示を妻が聞いてしまわないように「あかん、あかん」と妻の隣で大きな声を出して操作するのを防いだといいます。
  • 架空のサービス利用料金をプリペイドカードで支払うよう請求する手口の詐欺被害を防いだとして、大阪府内のコンビニエンスストアの店員が相次いで大阪府警から感謝状を贈られています。一人の店員は、70代の男性客から「『グーグルプレイカード』はどんなものですか」と相談を受けたものの、男性客がプリペイドカードについてよく知らないのに2万円分を購入しようとしているのを不審に思い、同署に連絡、署員が男性から話を聞くと「パソコンに警告画面が表示されたため、問い合わせたところ『カードを購入してほしい』と指示された」と説明したといいます。また、別の店員は、60代男性が6万円分のプリペイドカードを購入しようとしたため、事情を尋ねたところ、男性がパソコンがウイルスに感染したとして「サポートセンターの通知でウイルスから保護するコースに加入するように勧められた」と説明、こうした手口の詐欺だと話し、カード購入を防いだということです。
  • 「サポート詐欺」と呼ばれる手口の詐欺被害を防いだとして、福岡県警八幡西署は、北九州市の「セブン―イレブン」のマネジャーの女性とパート従業員の女性に感謝状を贈っています。サポート詐欺は、インターネットのウイルス対策のサポート料などと称してお金をだまし取る手口で、報道によれば、2人は、「35万円分の電子マネーを購入したい」と来店した80代の女性が動揺している様子で、金額も多額だったため、購入を思いとどまるように説得し、警察に通報したといいます。女性がタブレット端末を操作中に画面が動かなくなり、表示された番号に電話したところ、復旧するためとして、電子マネーを要求されたということです。
  • ニセ電話詐欺の被害を防いだとして、茨城県警笠間署は、「ファミリーマート」と店員の60代と50代の女性2人に感謝状を贈っています。2人、60代の女性が携帯電話で通話をしながら25万円分の電子マネーのカードを買おうとしたため、詐欺を疑い、女性を説得して購入を思いとどまらせ、警察に通報したものです。女性は「現金書留でお金は返ってくる」などと電話で説明を受けていたということです。
  • 電子マネーカードの架空料金請求詐欺を防いだとして、鹿児島県警鹿児島中央署は、ファミリーマートの女性店員に感謝状を贈っています。来店した70代男性がメモを見ながら5万円分のカードを購入しようとしていたため、店員は「警察に相談してみましょうか」と男性に声をかけるとともに警察に通報、購入を思いとどまらせたものです。店員は以前、詐欺に遭っているとみられる客のカード購入を断り、その後他店で買われてしまうという経験をしていたことから、今回は強い引き止めを避けたということです。なお、鹿児島県警によれば、2021年、架空料金請求詐欺を含む特殊詐欺は29件発生し、被害金額は約3,180万円だったといい、県警の公式YouTubeチャンネルでは寸劇形式で様々な事例が紹介されています。

次に金融機関や一般人の事例を紹介します。

  • 特殊詐欺事件を未然に防いだ上、検挙に貢献したとして、海南署はJAながみねの職員ら2人に感謝状を贈っています。報道によれば、海南市の80代女性の携帯電話に息子を名乗る男から、手術費用300万円を工面するよう連絡が入り、女性から出金の相談を受けたJAの担当男性職員が女性宅に向かったところ、再び女性に電話がかかってきたため、代わった職員が電話口の“息子”に住所などを尋ねたが、返答に窮するところもあり、「詐欺に違いない」と職員は気付いたものの、女性は息子が大病を患っていると信じたままだったため、パニックに陥っていた女性に対し、強引に決めつけるのではなく、寄り添うように説得を続けたといいます。この日、県内では広範囲に特殊詐欺グループから予兆電話がかかり、住民から署などに情報が寄せられており、予兆電話に合わせ、怪しい動きをする男を捜査員が発見、決定的な証拠がなく、行動確認にとどめていたところ、そのタイミングで、JAから「女性が特殊詐欺の被害に遭いそうだ」との連絡が署に入ったため、男が女性宅の近くに現れて様子をうかがっていたところで、捜査員が職務質問、逮捕に結びつけたというものです。同署長は「住民からの予兆電話の連絡、高額出金の依頼を警戒し、さりげなく本人に確認して詐欺を見抜いたJAの好判断。どちらが欠けても300万円をだまし取られていた」と振り返り、「詐欺被害は警察だけでは防げない。金融機関などと連携するとともに、住民の方も少しでも異変を感じたら連絡をしてほしい」と呼びかけています。
  • 2021年度に振り込め詐欺などの特殊詐欺被害を3度防いだとして、千葉県警千葉東署は、千葉銀行千城台支店に感謝状を贈っています。詐欺を見抜いたのは、いずれも支店長代理で、店内のATMの前で、あわてた様子で携帯電話で話していた80代の夫婦を見つけ、不審に思って声をかけ、電話を代わってもらったところ、相手の話が要領を得ないため、詐欺だと確信して警察に通報したものです。同支店長代理は2021年5月と2022年2月にも、顧客への声かけにより、店内のATMから詐欺グループへの現金の振り込みを防いでおり、詐欺を見抜く秘訣について、「少しでも声かけをすることを日ごろから心がけています」と語っています。
  • 息子を名乗る男が「のどの治療で声が変わった」とうその電話をしてきて、治療費などの名目で金銭を要求する特殊詐欺が和歌山県内で相次いでいるといいます。同県内の金融機関の職員が、2件の被害を防ぎ、同県警は職員らに感謝状を贈っています。報道によれば、女性職員は、80代女性に「250万円を早く引き出して」と言われたため不審に思い、上司の男性に相談、女性は「息子ののどの手術で治療費が必要」と話し、男性は特殊詐欺と直感、息子に電話して詐欺であることを確認したものです。2件目はながみね農業協同組合の男性職員が、80代の女性から300万円の出金を相談され、「息子が『急にのどが痛くなった。手術が必要』と電話してきた」などと言われ、その後、息子を名乗る男から女性に電話があり、男性職員が対応、男に住所を聞いたが答えられず、詐欺と確信し、同署に通報したものです。報道によれば、「のどの治療」の特殊詐欺の相談は今年に入って急増しているといい、被害は5件(被害総額約780万円)を確認しているということです。まず「医師」を名乗る男が電話してきた後、「息子」から連絡が入るケースが多く、医師を名乗ることで相手を信用させ、息子と声が違うことに疑問を持たせないようにする狙いとみられています。
  • 「詐欺かも」と70代の女性が気づいて銀行の窓口に駆け込んだ時には、現金を振り込んでから1時間がたっており、もう間に合わないと思っていたところ、振り込みに使われた筑邦銀行と振込先のりそな銀行双方の行員の機転で、被害は間一髪で阻止されたという事案がありました。報道によれば、市役所職員を名乗る男から電話で「保険料の過払い金を返還する」などと言われ、市内の商業施設にある同行のATMで約50万円を振り込んだといいますが、窓口で相談を受けた行員は、過払い金の返還なのに、振込先の口座が個人名だったことなどからおかしいと判断、報告を受けた上司が、振込先のりそな銀行横浜支店に電話、女性がATMで振り込んでからすでに約1時間経過しており、通常なら手続きは終わっているところ、りそなの行員が、遠隔地の個人からの多額の振り込みを不審に思い、入金に待ったをかけており、筑邦銀行からの連絡が間に合ったということです。まさに金融機関における水際対策の精度の高さを示す好事例といえます。
  • オレオレ詐欺の被害を防いだとして、川崎信用金庫宮前平支店の職員に、神奈川県警宮前署から感謝状が贈られています。報道によれば、窓口担当の職員は、顧客の女性から電話で「息子に頼まれて500万円が必要になった。家に持ってきてほしい」と依頼されたものの、「話の内容からオレオレ詐欺ではないかと感じた」といい、すぐに上司に報告、同支店が、女性の息子に確認の連絡を入れたことで被害が食い止められたものです。なお、同職員は「すぐに詐欺の可能性を指摘するとお客様がほかの金融機関を頼ってしまうのではと思い、まずは丁寧に話を聞いて上司と相談した」といい、(過去の失敗事例を教訓として対応をブラッシュアップさせるという)このような点にも金融機関の水際対策の精度の高さがうかがえます。
  • 特殊詐欺の被害を未然に防いだとして、警視庁東大和署は、三菱UFJ銀行久米川支店の警備員に感謝状を贈呈しています。報道によれば、ATMコーナーで70代の女性から「お金が下せない」と声を掛けられ、女性はすでに限度額の50万円を引き出しており、不審に思って事情を尋ねたところ「次男から電話で『投資をしてもうけが出たが税金の申告をしなければならず、現金が必要だ』といわれ、引き出そうとしている」などと説明、「詐欺だ」と直感し、行員と30分かけて女性を説得、次男と連絡を取らせ、被害を未然に防げたものです。
  • 特殊詐欺を未然に防いだとして、長野県警長野中央署は、長野市の女性と小3女児の親子に感謝状を贈っています。報道によれば、2人は、同市内の金融機関で、隣の男性が携帯電話で話しながらATMを操作する様子を不審に思い、近くの交番に相談、男性は競馬情報提供者を名乗る者から「必ず予想が当たる」などと言われ、30万円を振り込もうとしていたということです。署長から感謝状を受け取った女性は「警察への相談をためらっていたが、娘の後押しもあって行動して良かった」、女児は「(被害に遭えば)かわいそうだと思った」と話しています。なお、同署管内では4月上旬時点で、コンビニ店や金融機関の従業員らが未然に防いだ特殊詐欺は22件確認されているといいます。
  • 高齢女性の特殊詐欺被害を防いだとして、大阪府警羽曳野署は、大阪府藤井寺市の調理師と中学2年生の次女に感謝状を贈呈しています。きっかけは、次女が女性に対して覚えた小さな違和感だといい、2人はためらいながらも勇気を出して女性に声をかけ、被害防止につなげたということです。報道によれば、次女は、「1時間くらい待っているんですけど、表にいたらいいですか…」とうろうろ歩きながら電話をする女性の言葉が気になり、「銀行で1時間も待つことってあるのかな」と違和感を覚え、すぐに用事を終えて銀行を出てきた母親に相談、2人で女性の様子をうかがうも、なかなか電話が途切れず、話しかけるのをためらい、いったん帰宅したが、やはり女性が気になったため、「次は声をかけよう」と決心して再び2人で銀行に戻ると、まだ女性の姿があったたため、女性に「困ったことがあるんですか?」と尋ねると、女性は「還付金がある」と答えたといいます。話を聞いているうちに、女性の携帯電話が鳴り、見えた電話番号は東京都の市外局番「03」だったため、還付金ならば、基本的に地元の行政機関が手続きを行うはずだし、そもそも電話で、銀行で待つように指示するなんてことはありえないと、女性は詐欺に遭っていると確信したといいます。小さな違和感に気づくリスクセンスと(いったん家に戻ったにもかかわらず再度引き返して)声をかける勇気と正義感(お節介)が見事に発揮された好事例だといえます。
  • 千葉県警千葉中央署は、何者かと共謀し、千葉市中央区の80代の無職女性に「高額医療費の還付金があるので郵便局の者から連絡する」と電話し、キャッシュカードなどをだまし取ろうとした疑いで、無職の男を逮捕しています。郵便局員を装った男が女性宅を訪れたところ、女性の息子が訪問し、その場を離れたといい、同日午後、帰宅途中の非番の同署地域課の巡査部長が、千葉市内の商業施設で男を発見し、近くの交番警察官と職務質問し、逮捕したというものですが、巡査部長は署内で男の写真を見ていたといいます。

その他、特殊詐欺対策に関する取り組みから、いくつか紹介します。

  • 福岡県警が被害防止のために、この音声入りの動画を作成、ATMを利用する人が多くなるという年金支給日にあわせた4月15日から公開しています。県警は2016年以降、還付金詐欺被害の抑止を目的に、県内の金融機関などに、ATMの利用になじみが薄い高齢者を、周囲が詐欺に気づきやすい窓口での振り込みへと誘導するシステムの導入を要請、2018~20年は1桁台で推移していた、県警が把握する還付金詐欺の被害は、2021年に85件(被害金額5,765万円)と急増、85件の被害者の9割以上が65~69歳だったといいます。県警の担当者は「ATMに誘導する電話は、ほぼ詐欺」「年金保険料を払ってきた年月を思い出して。窓口で待つ方がよっぽど短い」と注意を呼びかけています。
▼福岡県警察公式チャンネル 【生安総務課】実録「ニセ電話詐欺(還付金詐欺)」犯人の声
  • 高齢者を狙った還付金詐欺が急増していることから、熊本県警は相次ぐ被害を防ごうと、被害者の携帯電話に録音されていた実際の容疑者の音声データをYouTubeで公開しています。生々しい会話を通じて言葉巧みにだます手口を知ってもらい、注意を促す狙いがあります。同県警によると、還付金詐欺の認知件数は2021年1~3月に1件(被害総額約99万円)だったところ、2022年同時期は25件(同2,341万円)に急増、被害に遭ったのはいずれも60代で、県警が被害者に実施したアンケートでは、被害に遭わない自信が「あった」「少しあった」と答えた割合は9割に上ったといいます。
▼公式チャンネル熊本県警察 これが還付金詐欺の犯人の声です
  • 高知県警は、特殊詐欺の被害を受けている可能性が高い人に、適切に声をかけるなどして被害を未然に防いだ人に対し、謝礼を贈る制度を4月から導入したと発表しています。報道によれば、島根県などでも導入されており、四国では初めてだということです。被害を未然に防いだ人には2,000円分のクオカードを贈るものですが、贈る対象者には金融機関の職員や被害者の親族は含まれないということです。同県警によると、高知県では2021年、31件の特殊詐欺があり、被害額は約4,285万円だった一方、未然に被害を防いだケースは60件あったということです。同県警生活安全企画課は「この制度を踏まえて、もっと被害を防止するための社会的関心を持ってもらいたい」と期待しているといいます。
(3)薬物を巡る動向

警察庁「令和3年における組織犯罪情勢」において、昨年に引き続き「大麻乱用者の実態」というトピックスが掲載されており、警察庁の独自の調査結果から実態に迫る興味深い内容となっています。例えば、友人などに影響を受けて大麻を使用してしまうケースが目立つほか、大麻の危険性については「全くない」と「あまりない」との回答が計77%に上っており、インターネットや友人・知人などの不確かな情報源から「大麻に害はない」などとする誤った情報が一部で広がっていることが背景にあると考えられます。一方、全国の警察が昨年、大麻事件で摘発した容疑者は過去最多の5,482人に上っており、うち約7割が30歳未満で、SNSを使った密売が目立つ傾向にあります。とりわけ大麻に関連した事件で、警察が昨年1年間に逮捕・書類送検した20歳未満の未成年は994人(前年比12.1%増)で、5年続けて過去最多となっています。逮捕・書類送検した未成年はここ数年で急増しており、2012年は66人だったところ、10年間で約15倍にまで急増したことになります。さらに、昨年は、男子が896人で9割を占めたほか、職業・学校別では「職業あり」が502人で、無職192人、高校生は186人、大学生は50人、中学生も8人いました。本コラムでも取り上げたとおり、大阪府の高校生らが売買目的で大麻を所持していた疑いで逮捕されたり、東京都内の有名私大の学生が別の大学生に有償で譲り渡した疑いで逮捕されたりする事件があり、繰り返しとなりますが、若年層では大麻への抵抗感が薄く、SNSなどを通じて入手しやすいことが背景にあり、正しい情報を広く流布することが極めて重要な局面だといえます。なお、関連して、SNSでの薬物売買の効率的な取り締まりに向け、警察庁は2021年度から、人工知能(AI)を使って、違法情報のおそれが高いSNSの投稿を分類する実証実験に取り組んでおり、将来的には、違法の可能性がある投稿に対し自動で警告メッセージを送ることを目指しているといいます。以下、「令和3年における組織犯罪情勢」から、薬物情勢に関する部分を抜粋して引用します。

▼警察庁 令和3年における組織犯罪の情勢
  • 令和3年における薬物情勢の特徴としては、以下のことが挙げられる。
    • 薬物事犯検挙人員は、近年横ばいが続く中、13,862人と前年より僅かに減少した。このうち、覚醒剤事犯検挙人員は7,824人と前年より減少し、第三次覚醒剤乱用期のピークであった平成9年(19,722人)から長期的に減少傾向にある。一方で、大麻事犯検挙人員は、30歳未満の若年層を中心に平成26年以降増加が続き、令和3年も過去最多となった前年を上回る5,482人となった。
    • 営利目的の薬物事犯の検挙人員は975人と前年より増加した。このうち、覚醒剤事犯については455人と前年より減少したものの、暴力団構成員等の検挙人員が前年に引き続き過半数(54.1%)を占める。また、大麻事犯は426人と大幅に増加し、暴力団構成員等の検挙人員が24.4%(104人)を占めるほか、外国人の検挙人員(50人、11.7%)が前年比で22人、78.6%増加している。
    • 覚醒剤の総押収量は688.8キログラム、乾燥大麻の総押収量は329.7キログラムといずれも前年より増加し、高い水準にある。また、電子たばこ用等の大麻濃縮物を22.2キログラム押収した。
  • 上記のとおり、営利を目的とした薬物事犯が増加し、覚醒剤や大麻の供給網に暴力団や外国人の関与がうかがわれることから、引き続き、密輸入・密売事犯や栽培事犯の検挙を通じた薬物の供給網遮断に取り組むこととしている。また、大麻事犯検挙人員は、前年に続いて過去最多を更新しており、厳正な取締りに加え、若年層による乱用防止を主な目的としてSNS等のインターネット上での違法情報・有害情報の排除や広報啓発活動を推進することとしている
  • 覚醒剤事犯検挙人員の39.0%(3,051人)を暴力団構成員等が占める。これを組織別にみると、六代目山口組、神戸山口組、絆會(任侠山口組)、住吉会及び稲川会の構成員等は2,398人と、これらで覚醒剤事犯に係る暴力団構成員等の検挙人員全体の78.6%を占めている
  • 大麻事犯検挙人員の14.4%(789人)を暴力団構成員等が占める。これを組織別にみると、六代目山口組、神戸山口組、絆會(任侠山口組)、住吉会及び稲川会の構成員等は598人と、これらで大麻事犯に係る暴力団構成員等の検挙人員全体の75.8%を占めている
  • 外国人による覚醒剤事犯の営利犯の検挙人員は66人と覚醒剤事犯の全営利犯検挙人員(455人)の14.5%を占めている。また、このうち密輸入事犯は32人(構成比率48.5%)となっている。国籍・地域別でみると、ベトナムが16人と最も多く、このうち密輸入事犯が7人、密売関連事犯が9人となっている。次いでイランが11人で、このうち密輸入事犯が5人、密売関連事犯が6人となっている。
  • 外国人による大麻事犯の営利犯の検挙人員は50人と大麻事犯の全営利犯検挙人員(426人)の11.7%を占め、前年(28人)より増加しており、今後の動向に注意を要する。また、このうち密輸入事犯は10人(構成比率20.0%)となっている。国籍・地域別でみると、ベトナムが22人と最も多く、このうち密輸入事犯が5人、密売関連事犯が10人、栽培事犯が7人となっている。次いでブラジルが6人で、このうち密売関連事犯が5人、栽培事犯が1人となっている。
  • 覚醒剤密輸入事犯の検挙件数は56件と減少する中、昨年に引き続き、密輸入事犯全体の検挙件数に占める国際宅配便利用の割合(構成比率57.1%)が高い。また、押収量についても、海上貨物の利用による大量密輸入事犯の検挙により、依然として高水準にある。こうした状況の背景には、我が国に根強い薬物需要が存在していることのほか、国際的なネットワークを有する薬物犯罪組織が、アジア・太平洋地域において覚醒剤の取引を活発化させていることがあるものと推認される。
  • 大麻密輸入事犯の検挙件数は72件と増加する中、密輸入事犯全体の検挙件数に占める郵便物及び国際宅配便利用の割合(構成比率93.1%)が高い。また、乾燥大麻は、総押収量に占める密輸入事犯での押収量が2.6%であるところ、電子たばこ用等の大麻濃縮物については、総押収量の82.4%を密輸入事犯で押収している。
  • 令和3年の人口10万人当たりの検挙人員は、20歳未満が1.7人、20歳代が8.5人、30歳代が13.2人、40歳代が14.1人、50歳以上が4.9人であり、最も多い年齢層は40歳代、次いで30歳代となっている
  • 大麻事犯の検挙人員は、平成26年以降増加が続き、令和3年も過去最多となった前年を上回る5,482人となった。このうち、電子たばこ用等の大麻濃縮物に関する検挙人員は573人と全体の10.5%を占める。また、大麻事犯の検挙人員のうち、暴力団構成員等は789人と検挙人員の14.4%、外国人は350人と検挙人員の6.4%を占めている。人口10万人当たりの検挙人員でみると、近年、50歳以上においては、横ばいで推移している一方、その他の年齢層においては増加傾向にあり、特に若年層による増加が顕著である。令和3年の人口10万人当たりの検挙人員は、20歳未満が14.9人、20歳代が23.6人、30歳代が7.1人、40歳代が2.8人、50歳以上が0.4人と30歳代を除いた全ての年齢層で増加した。最も多い年齢層は20歳代、次いで20歳未満となっており、かつ、この年齢層の増加が顕著である
  • 令和3年10月から同年11月までの間に大麻取締法違反(単純所持)で検挙された者のうち829人について、捜査の過程において明らかとなった大麻使用の経緯、動機、大麻の入手先を知った方法等は次のとおりである
    1. 大麻を初めて使用した年齢
      • 対象者が初めて大麻を使用した年齢は、20歳未満が47.0%、20歳代が36.2%と、30歳未満で83.2%を占める(最低年齢は12歳(5人))。
      • 初回使用年齢層の構成比を平成29年と比較すると、20歳未満が36.4%から47.0%に増加しており、若年層の中でも特に20歳未満での乱用拡大が懸念される。
    2. 大麻を初めて使用した経緯、動機
      • 大麻を初めて使用した経緯は、「誘われて」が最多であり、初めて使用した年齢が低いほど、誘われて使用する割合が高い。
      • 使用した動機については、いずれの年齢層でも「好奇心・興味本位」が最多で、特に30歳未満では過半数を占めた。次いで、30歳未満では「その場の雰囲気」が多く、「クラブ・音楽イベント等の高揚感」、「パーティー感覚」と合わせて、身近な環境に影響されて大麻を使用する傾向も顕著である。
      • 他方で、30歳以上では、「ストレス発散・現実逃避」や「多幸感・陶酔効果を求めて」が比較的多数を占めた。
    3. 大麻使用時の人数
      • 大麻使用時の人数については、年齢が低いほど、複数人で使用する割合が高く、このことからも30歳未満の乱用者の多くが身近な環境に影響されて大麻を使用する傾向がうかがわれる。
    4. 大麻の入手先(譲渡人)を知った方法
      • 検挙事実となった大麻の入手先(譲渡人)を知った方法は、30歳未満で「インターネット経由」が3分の1以上を占め、そのほとんどがSNS等の「コミュニティサイト」を利用していた。
      • 他方、「インターネット以外の方法」では、全ての年齢層で「友人・知人」から大麻を入手しているケースが半数程度に上り、30歳未満では半数を超える。
    5. 大麻に対する危険(有害)性の認識
      • 大麻に対する危険(有害)性の認識は、「なし(全くない・あまりない。)」が77.0%で、覚醒剤に対する危険(有害)性の認識と比較すると、引き続き、著しく低い。また、大麻に対する危険(有害)性を軽視する情報の入手先についても、引き続き、「友人・知人」や「インターネット」が多く、年齢層が低いほど「友人・知人」の占める割合が大きい。
  • 「令和2年における組織犯罪の情勢」に掲載した「大麻乱用者の実態」では、30歳未満の大麻乱用者の多くが身近な環境に影響されやすい傾向がうかがわれたが、令和3年も、初めて大麻を使用した経緯や動機、大麻使用時の状況、大麻の入手先、大麻の危険(有害)性に関する誤った認識の形成等多くの面で、身近な環境に影響されている実態が裏付けられた。また、大麻の入手や大麻の危険(有害)性に関する誤った認識の形成に関しては、SNS等のコミュニティサイトの利用がこれを助長している面もうかがわれた。
  • 昨年に引き続き、少年等若年層の周囲の環境を健全化させるための施策が求められるとともに、大麻を容易に入手できないように組織的な栽培・密売を厳正に取り締まり、SNS等における違法・有害情報の排除や大麻の危険(有害)性を正しく認識できるような広報啓発等を推進することが重要である。

国内の薬物情勢に関する報道から、いくつか紹介します。

  • 覚せい剤を密売していたとして、福岡県警粕屋署や暴力団犯罪捜査課などは、暴力団会長、配下の組員の男3人、無職の男の計5人を覚せい剤取締法違反(営利目的共同譲渡)などの疑いで逮捕しています。会長らは、覚せい剤約1グラムを35,000円で熊本県玉名市の女性に発送し、譲り渡した疑いがあるものです。報道によれば、古賀市内の団地の一室を拠点とし、覚せい剤の小分けや発送、客への電話連絡をしていたといい、会長が注文を受け、4人に宅配や手渡しを指示、2021年2月下旬~10月中旬、少なくとも307万円の利益を得たということです。署は、今回の事件を含め、会長以下十数人の組員全員が逮捕や実刑判決などにより社会活動が困難になったことから、組織は壊滅したとしています。また、同じく暴力団が関与したものとして、米国から覚せい剤約7キロ(末端価格約4億1,200万円相当)を密輸したとして、警視庁薬物銃器対策課は、ともに六代目山口組の2次団体「国粋会」系組幹部の2人の容疑者を覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)の疑いで逮捕したという事件もありました。報道によれば、2021年10月26~30日、氏名不詳者らと共謀し、覚せい剤を隠したテーブルの天板(縦約64.5センチ、横約47.5センチ、厚さ約4センチ)2枚を米国から成田空港に空輸し、営利目的で輸入したというものです。海外の捜査機関から寄せられた情報をもとに成田空港に到着した荷物を税関が検査したところ、テーブルの板の中に透明な袋に入った覚せい剤が隠されているのが見つかったもので、2021年、荷物の受け取り役とみられる人物が逮捕され、警視庁が捜査を進めた結果、携帯電話の通信履歴などから2人が密輸を計画したり、指示したりしていた疑いがあることが分かったということです。
  • SNSを利用して違法薬物の密売を繰り返したなどとして、茨城県警稲敷署と県警薬物銃器対策課は、イラン国籍で無職の男を麻薬取締法違反(営利目的譲渡)などの疑いで逮捕しています。報道によれば、男は、2020年3月から2021年8月にかけて、千葉県などで大麻や合成麻薬「MDMA」などを密売し、2021年9月には覚せい剤9グラムなどを所持していた疑いがもたれています。男は大麻を表す「野菜」や対面取引を意味する「手押し」などの隠語を使い、密売を持ちかける投稿をしており、39都道府県の10歳代~30歳代の顧客約200人がいたとみられ、県警は2020年4月から2021年9月までの密売による売上額は約3,500万円に上るとみているということです。外国人の関与したものとしては、合成麻薬MDMAをコーヒー豆の袋にまぜて国際郵便物でドイツから密輸したとして、神奈川県警は、ベトナム国籍の技能実習生が麻薬及び向精神薬取締法違反容疑で再逮捕された事件もありました。報道によれば、「頼まれて受けとった。中身が何か知らない」と容疑を否認しているといいます。薬物銃器対策課によると、同容疑者はMDMA900錠(末端価格約450万円)が入った段ボール1箱を、航空便で密輸した疑いがあり、横浜税関が、検査場でエックス線検査を実施したところ、コーヒー豆に混ぜた錠剤を見つけ、県警は中身をすり替えて運ばせて、荷物を受けとった同容疑者を麻薬特例法違反(所持)容疑で現行犯逮捕していたものです。さらに、オランダから合成麻薬MDMAとLSD計1キロ超(末端価格計約1,500万円相当)を密輸したとして、愛知県警は、麻薬取締法違反(営利目的輸入)などの疑いで、塗装業の男とフィリピン国籍の自称飲食業の男を逮捕しています。共謀し、2021年6月、オランダからMDMAを含む粉末約1キロとLSDを含む紙片約16グラムを国際郵便で輸入したもので、折り畳み式のボードゲームの中に隠された合成麻薬を名古屋税関職員が発見したといいます。
  • 青森県の函館税関八戸支署は、2021年八戸港に到着したコンテナからコカイン約2キロが見つかり、押収したと発表、東北地方の税関でコカインが摘発されたのは初めてだといい、関税法違反(禁制品輸入未遂)の疑いで調べているといいます。報道によれば、2021年5月に入港した船に積まれていたペルーからのコンテナの外側に、れんが状に固められたコカインの固形物2個が隠されているのを支署職員が発見、コカイン2キロの末端価格は約4,000万円に上るといいますが、コカインを持ち込んだ人物は特定されていません。同支署は、利用者が気づかないうちにコンテナに密輸品を隠して国内に運び込む「リップオフ」と呼ばれる手口とみています。
  • 医療用の注射器約13万本を覚せい剤の密売人に売り渡したとして、松江地検が京都府立医科大学付属北部医療センタの元臨床工学技士で無職の被告を、麻薬特例法違反幇助などの罪で起訴しています。報道によれば、同被告は2020年2月~2021年11月、大阪市の男女2人(いずれも覚せい剤取締法違反罪で起訴)が覚せい剤の密売人であることを知りながら、27回にわたって医療用注射器計130,120本を宅配便で送り、計865万円で販売したなどというものです。島根県警は2021年11月、県内で起きた別の覚せい剤事件捜査の過程で浮上した同被告と大阪市の男女2人の計3人を、覚せい剤取締法違反容疑で逮捕、その後、同被告が2人に注射器を売り渡していたことが発覚し、県警が今年3月に麻薬特例法違反幇助などの容疑で書類送検、地検が起訴していたものです。
  • 栃木県小山市の塗装会社の役員が刺され重傷を負った事件に関連し、小山署は、覚せい剤取締法違反(使用)の疑いで、会社員を逮捕しています。殺人未遂事件にも関与した疑いがあるとみて、容疑が固まり次第逮捕する方針だといいます。報道によれば、周辺住民の聞き込みや防犯カメラから同容疑者が浮上、自宅にいたところを任意同行し、覚せい剤使用が疑われたため検査の結果、陽性となったものです。逮捕容疑は4月中旬ごろから5月1日の間、栃木県内やその周辺で覚せい剤を使用した疑いとなります。
  • 乾燥大麻を隠し持っていたとして、警視庁が自称自営業の西川容疑者を大麻取締法違反(所持)の疑いで再逮捕しています。西川容疑者は「ねこくん!」のチャンネル名でゲームを実況するユーチューバーといい、報道によれば、西川容疑者は乾燥大麻約0.5グラム(末端価格約3,000円)をたばこの巻紙の中に隠し持っていた疑いがもたれています。容疑を認め、「2年半前に歌舞伎町で黒人から買った。自分で使うためだった」と説明、「ゲーム実況中はぼーっとして下手になるので、吸わないようにしていた」とも話しているといいます。なお、西川容疑者はコカインを所持したとして3月に池袋署に任意同行を求められ、麻薬取締法違反(所持)容疑で逮捕されていますが、その際、所持品のバッグ内から不審な巻紙17本が見つかり、警視庁が鑑定したところ、そのうち1本の中身が今回の大麻とわかったということです。
  • 覚せい剤の錠剤を飲んだとして、福岡県警は、専門学校生の少年(18)と男子高校生(17)を覚せい剤取締法違反(使用)の疑いで逮捕しています。2人は友人同士で、少年は「興味本位で飲んだ」と容疑を認め、男子高校生は「薬みたいな錠剤は飲んだが、覚せい剤とは知らなかった」と否認しているといいます。報道によれば、2人は、県内またはその周辺で覚せい剤を使用した疑いがあり、署員が福岡市の路上で、減速したり車線変更をしたりしている不審な軽乗用車を発見、車内にいた少年と男子生徒を職務質問し、その後の2人への尿検査で覚せい剤の陽性反応が出たということです。この事例においても、前述した警察庁のアンケート調査のとおり、「誘われて」、「好奇心・興味本位」から手を出したことが分かります。
  • 危険ドラッグを注文し受け取ろうとしたとして山梨県警組織犯罪対策課は、マリンバ奏者を医薬品医療機器等法違反(指定薬物の輸入)の疑いで逮捕しています。報道によれば、何らかの方法で危険ドラッグ(亜硝酸イソブチル)を含む液体を注文し、台湾の郵便局から容疑者宛てに発送された瓶4本(計約25.65グラム)が入った国際郵便を受け取ろうとしたとされ、成田空港で東京税関の職員が発見しています。
  • 福岡県警博多署は、福岡市博多区の40代の女を覚せい剤取締法違反(営利目的所持)の疑いで逮捕しています。交通違反取り締まり中の交番員の職務質問が、事件の発覚につながったということです。報道によれば、女は販売目的で、乗用車内に、ポリ袋入りの覚せい剤計30袋など(計約13.167グラム、末端価格計約77万円)を持っていた疑いがあり、女は「自分で使うため」と営利目的の所持は否認しているということです。なお、同署は、女が自宅で覚せい剤を使用した疑いで再逮捕していたことも発表しています。

最後に、海外の薬物情勢に関する報道から、いくつか紹介します。

  • フィリピンでドゥテルテ大統領が取り組んできた麻薬対策による死者が約6年間で6,200人を超えたといいます。国内の犯罪件数は大幅に減ったが、容疑者の殺害も辞さない苛烈な手法に、不満を示す遺族もおり、「無実でも犠牲になる人もいる。一方で(麻薬密売の)元締は生き延びている。きちんと解決してほしい」などと訴えています。5月9日に投開票される大統領選の立候補者らは麻薬対策の継続を訴える一方、首謀者の取り締まりに重点を置くなど方法を改めていく構えです。
  • 2022年4月19日付ロイターによれば、米カリフォルニア州でマリフアナ(大麻)のメガファクトリーを運営する企業4フロントの幹部が、連邦政府がマリフアナを合法化すればジョイントやオイル、食用などの製品の州を越えた流通が可能になると期待を表明しています。カリフォルニア州は2016年に娯楽用マリフアナを合法化していますが、連邦政府レベルではなお規制物質リストに含まれています。4フロントのバイスプレジデント、ジョシュア・クレイン氏は、規制が撤廃されれば、ロサンゼルス近郊にある面積15,793平方メートルの製造・加工施設には西海岸地域にマリフアナ製品を供給する能力があると説明、「この施設は将来も有効活用できる設計されている。カリフォルニア州全体にとどまらず、州をまたいで輸送・販売ができれば、西海岸地域に提供できるようになる」と述べています。
  • 米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は、医療用麻薬「オピオイド」の中毒問題を巡り、ウェストバージニア州と和解し、9,900万ドルを支払うことで合意したと発表しています。J&Jは、イスラエルのジェネリック医薬品大手テバファーマシューティカル・インダストリーズと米製薬大手アッヴィのアラガン部門とともに同州カナー郡で今月始まった裁判の被告に名を連ねていましたが、和解を受けて訴訟から除外されています。ウェストバージニア州はこれらのオピオイド製造・販売会社が州内でのオピオイド中毒のまん延を招いたと主張、J&Jは和解にあたり、自社の法的責任あるいは不正を認めていません。訴訟が続いている他の2社も既に原告側の主張を否定しており、J&Jの和解を受けたコメント要請にも応じていません。なお、州は同様の訴訟で、米特殊医薬品会社エンドー・インターナショナルと2,600万ドルの支払いで和解しています。また、米薬局チェーン大手ウォルグリーン・ブーツ・アライアンスは、医療用麻薬「オピオイド」の中毒蔓延をフロリダ州で深刻化させたと訴えられていた件で、同州と6億8,300万ドルの支払いで和解したと発表しています。オピオイド禍を巡っては全米で医薬品メーカーや薬卸売業者に対する訴訟が和解に向かう一方で、薬局チェーンに対する州や市や郡による訴訟は継続、フロリダ州は薬局チェーン大手CVSヘルスが4億8,400万ドルの和解金支払いで合意しており、今回の和解と合わせ、米大手薬局チェーン2社とそれぞれ和解を決着させた最初の州となりました。ウォルグリーンはCVSなどが加わる和解への参加を拒んでおり、不正行為は認めていません。
(4)テロリスクを巡る動向

ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、ウクライナ最高会議(国会)は、ロシアを「テロ国家」と認定する法案を可決しています。法案は、ロシアが「ウクライナの人々のジェノサイド(集団殺害)」を目的に掲げているなどと指摘、ロシアによるウクライナ侵攻の宣伝活動を禁止し、露軍車両などに記され、露国内で露軍への支持を表明する際に使われる「Z」の文字も、ロシアの侵攻作戦の「象徴」だとして使用を禁じるとしています。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、バイデン米大統領と電話で会談した際、ロシアを「テロ支援国家」に指定するよう求めたと報じられています。バイデン氏は「圧力強化のため様々な案を検討する」との意向を伝えたといいます。米政府は現在、北朝鮮、キューバ、イラン、シリアの4か国を指定しており、指定されると輸出規制や金融制裁などの対象となるほか、取引した外国企業や外国人も罰する「二次的制裁」が科される可能性があります。ブリンケン国務長官も「この戦争を速やかに終結させるためにあらゆることを検討する」として否定していません。なお、米トランプ前政権は2017年11月に北朝鮮を「テロ支援国家」に再び指定、指定は2008年10月に解除して以来、9年ぶりのものでしたが、トランプ前政権末期の2021年1月には、2015年5月に対象から除外したキューバを再び指定、イランは1984年1月から解除されていない状態が続いています。

米南部バージニア州の連邦地裁は、シリアで米国人4人の殺害に関与したなどとして誘拐や共謀殺人などの罪に問われたイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の戦闘員アレクサンダ・コテイ被告に対し、終身刑を言い渡しています。被告はジャーナリスト後藤健二さんや湯川遥菜さん殺害などの幇助の罪にも問われ、全面的に認めています。被告は英国生まれで、司法取引に基づき、米国の刑務所で15年間服役後は英国の刑務所に収監される見通しとなっています。なお、被告は「ビートルズ」と呼ばれたテロ集団の一員だったとされ、同じくビートルズの一員で「ジハーディ(聖戦士)・ジョン」の名で知られたモハメド・エムワジ容疑者と共に行動していたといいます(エムワジ容疑者は2015年11月、米軍の無人機攻撃で死亡)。また、共犯として起訴され、4月に有罪評決を受けた同じく英国育ちのシャフィ・シェイク被告への量刑は8月に言い渡されるということです。

130人が死亡した2015年のパリ同時多発テロで、実行犯のうち唯一の生存者とされ、テロ殺人罪などに問われたモロッコ系フランス人のサラ・アブデスラム被告は、パリの裁判所で開かれた公判で「全ての犠牲者にお悔やみとおわびを申し上げたい」と涙を流しながら謝罪したと報じられています。被告は2021年9月に始まった公判で自身の職業に関し「ISの戦闘員」と挑戦的に発言、フランス軍によるISへの空爆を非難し、テロを正当化していました。今回の公判では、自爆テロを行うパリ北部のカフェに入り、周囲の人々を見て「人情から(テロを)断念した」と述べています。この日が同被告に対する最後の被告人質問で、自身の弁護士に「(テロを)完遂する勇気がなかったことを後悔しているか」と問われ「いいえ。誰も殺さなかったし、自分も死ななかった」と回答、「(遺族らの)憎しみは残ると分かっている。ただ控えめに私を嫌ってほしい」とも述べています。テロを実行したグループはパリの飲食店やバタクラン劇場、郊外のフランス競技場近くで銃乱射や自爆により人々を殺傷、実行犯10人中9人は死亡、ISが犯行を認める声明を出しています。アブデスラム被告は実行犯3人を車でフランス競技場へ運ぶ役割も担ったといい、テロの準備に関わったとされる人物らを含む計20人が起訴されています。

さて、エジプトやサウジアラビアなどイスラム圏で、約1カ月間続いたラマダン(断食月)が終了しました。この期間の前後を含めて信仰心が高まるとされ、テロの危険が高まることが知られています。今年も期間中の4月29日に、アフガニスタンの首都カブールのスンニ派モスクで爆発があり、モスクの指導者によると50人以上が死亡するテロが発生しています。金曜礼拝後に何者かが信者の中に紛れ込み、自爆した可能性があるということです。米国と国連のアフガン派遣団はこの攻撃を強く非難、爆発があった当時、少なくとも2人の国連職員とその家族がこのモスクにいたということです。さらに前日の28日には北部マザリシャリフでシーア派イスラム教徒が乗ったバンで爆発があり、少なくとも9人が死亡、22日にも、北部クンドゥズのスンニ派のモスクで爆発があり、学生ら少なくとも33人が死亡しています。さらに21日にも北部の別の街でモスクを狙った爆発が発生し、死者30人超の多数の死傷者が出ています(ISが犯行声明を出しています)。また、19日には、高校などを狙った爆発で生徒ら少なくとも6人が死亡していました。ラマダンも背景要因ではありますが、アフガニスタンではタリバンが実権を握った後、失業や食糧難が深刻化、国連は、人道支援を必要とする人が人口の約6割に達する恐れがあると指摘しているほか、治安は一時的に改善したとの見方もあったが、国内ではISなど複数の武装勢力が拠点を設けており、不安定な状態が続いています。

その他、テロに関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米ニューヨーク市警本部長は、ニューヨーク市ブルックリンの地下鉄で発生し、少なくとも23人が負傷した発砲事件でフランク・ジェームズ容疑者を逮捕しています。検察当局は、容疑者を公共交通機関に対するテロ・攻撃の罪で訴追、報道によれば、有罪判決が下れば終身刑となる可能性があるといいます。犯行の動機についてはなお捜査が必要とされ、テロとは断定されていません。事件では、建設用のヘルメットやベスト、医療用マスクを着用した容疑者が地下鉄の車内で発煙筒をたき、発砲して逃走、現場からは容疑者が発砲した半自動銃のほか、弾倉や手おの、ガソリンや花火などが押収されています。なお、容疑者はニューヨーク州およびニュージャージー州で逮捕歴があると報じられています。なお、ニューヨーク市では新型コロナウイルスの感染拡大が始まって以降、銃撃事件が増えており、2022年の発砲事件は322件(4月10日現在)に上り、2021年同期比で8.4%増になっています。
  • パキスタン南部の最大都市カラチで爆発があり、地元メディアによると、中国人3人を含む少なくとも4人が死亡したといいます。同国南西部バルチスタン州の分離独立を目指す過激派「バルチスタン解放軍(BLA)」がツイッターで犯行声明を出しています。報道によれば、カラチ大の中国語教育機関「孔子学院」の外で車両が爆発、現地の中国大使館は、死亡した中国人3人は孔子学院の職員だといい、他にも複数の負傷者が出ているとのことです。
  • アフリカ西部マリで、軍施設3カ所を同時に狙ったテロ攻撃があり、少なくとも兵士6人が死亡、20人が負傷しています。マリ軍の声明によれば、中部セバレなど三つの町で「爆弾を積んだ自爆用車両を使ったテロ集団」による攻撃があったということです。
(5)犯罪インフラを巡る動向

新型コロナウイルスの感染拡大でマスクの着用が日常化するなか、口紅や唾液などがついた使用済みマスクがインターネット上でひそかに売買されているとの報道がありました(2022年5月4日付毎日新聞)。報道によれば、女性が販売に利用しているのはフリマアプリ「メルカリ」で、同アプリでは開封済みの衛生商品の販売を禁止しているため、女性はツイッター上で値段交渉をした後、アプリでTシャツなどのダミー商品を出品するなどして取引しているといいます。メルカリは「違反行為が確認され次第、商品削除やお客様への警告、本人確認の要請などで対応している」と説明していますが、「ダミー商品」の存在については「商品を偽造した取引についても禁止している」との回答にとどまっています。正に、フリマアプリ(メルカリ)というプラットフォームが(企業努力の枠を超えて)犯罪インフラ化しており、ダミー商品の出品など対策の届きにくい手口が横行し、犯罪インフラ性をますます高めていると痛感されます(それでも企業としては、問題ある取引を抽出する精度を高め、問題があれば厳格に対応することを継続していく必要があります)。さらに、使い終わったマスクが売られることを条例等は想定しておらず、刑事事件として立件するのは難しい実態、使用済みマスクの販売がきっかけになり、わいせつな画像を送らされたり、直接会って性被害に遭ったりするなど「次のステップ」に進む恐れ(さらなる犯罪インフラ化)の可能性などもあり、(国としての対応が難しいことは理由にならず、問題が存在する以上)事業者として対策を高度化していくことは急務だといえます。プラットフォームの犯罪インフラ化という点では、ネットオークションサイト「ヤフオク!」で、盗難された仏像が出品されていたことが判明する事案もありました。報道によれば、大分県由布市の古物商が1,000円で仏像を出品、説明欄には「高47センチ」などの説明のほか「状態は良好です」と記載、サイトを見た人から「盗まれた仏像ではないか」と連絡があり、寺や府警が把握したということです。寺なお、出品した古物商は取材に「担当者が不在のため、確認する」と話下と報じられています。

金融機関やインターネット関連企業でつくる「日本サイバー犯罪対策センター」は、購入した商品が届かないなどの悪質な通販サイトの通報が2021年に17,717件あったと明らかにしています。2020年の10,095件から70%以上増えたことになります。新型コロナウイルス下の外出自粛などで、ネット通販の利用が拡大したことが影響したとみられています。また、同センターは3月、正規のサイトが改ざんされ、利用者のクレジットカード情報が盗まれる「Webスキミング」の被害も公表、サイト設置者に管理パスワードの変更などの対策を呼びかけています。利用者は通常通り買い物ができるため、気付くのは困難といい、国内で発行されたクレジットカードの不正利用額は3年に330億円に上っており、偽サイトや改ざんにより盗まれた情報が悪用された恐れがあるとされます。正規のWebサイトが犯罪インフラ化するという状況は、かなり深刻であり、事業者の対策が急務となります。

香川県警は、転売する目的を隠して不正に契約しスマホをだまし取ったとして、詐欺容疑で県警本部の50代の男性巡査部長を書類送検しています(同日付で停職6カ月の懲戒処分とし、巡査部長は依願退職しています)。報道によれば、巡査部長は2019年5~7月ごろ、高松市内の複数のスマホ販売店で、転売する目的を伏せてスマホ16台(計225万円相当)を自身の名義で購入する契約を結んで不正に入手し、だまし取った疑いがもたれており、特殊詐欺に使用する携帯電話を販売していた疑いのある業者に対し、全16台を合わせて数万円で転売したというものです。転売したスマホが犯罪などに使われた形跡はないとのことですが、巡査部長には返済能力を超える借金があり「目先の借金返済のことしか考えられなかった」と認めているということです。取締りに当たるべき警官が、犯罪インフラの代名詞ともいえる「他人名義の携帯電話」を犯罪グループに転売するという正にあってはならない事案だといえます。

闇サイトで入手した他人のクレジットカード情報を使い、高級腕時計を不正購入したとして、警視庁は、住所不定無職の男(詐欺罪で起訴)ら男4人を詐欺容疑などで再逮捕しています。報道によれば、4人はダークウェブと呼ばれる闇サイトで入手したカード情報を電子決済サービス「アップルペイ」に不正登録した上、2020年7月、東京都内のディスカウント店で「ロレックス」の腕時計など7点(約1,175万円相当)を購入した疑いがもたれており、カード利用額の上限を引き上げてから使用し、購入した腕時計は質店などで換金していたといいます。調べに対し、男は「自分が考えた」と容疑を認めているとのことですが、闇サイトでの不正カード情報入手やアップペイでのなりすまし登録、ディスカウント店での本人確認等の甘さ(高額品のクレジットカード購入の持つ犯罪親和性をふまえた対応がなされていたのか)といった多くの犯罪インフラ・脆弱性が突かれた点が問題ですが、それとともに、「自分で考えた」と供述しているとおり、一般人が自分でできる範囲で簡単にそれらの犯罪インフラ等にアクセスできる社会的な状況自体も大きな問題だと指摘しておきたいと思います。

他人の「楽天ポイント」を勝手に使って商品をだまし取ったとして、警視庁は、埼玉県の会社員の男らいずれも30代の中国籍の男3人を詐欺容疑で逮捕しています。報道によれば、3人は2021年5月、蕨市内の薬局で、大阪府の30代女性ら3人が保有する通販大手・楽天のポイントを無断使用し、目薬や洗顔フォームなど計15点(10,746円)を不正購入したというのが逮捕容疑ですが、29都府県と英国の83人のポイントを不正使用し、埼玉県と東京都のドラッグストアやコンビニで、コンドーム約1,300点や目薬など計約150万円分を支払ったとみられています。男の知人で中国に住む指示役の女から、他人名義の楽天IDとパスワードを教わり、スマホで不正にログインしてポイントを使っていたといい、IDなどは、虚偽メールを送りつけて情報を盗み取る「フィッシング」で流出した可能性があるということです。男は「知人から日本の美容品を送ってほしいと言われた。商品は仲介役の中国人男性に送った」と供述、警視庁は、商品が中国に転送されたとみて調べているということです。背後には国際的な中国人の犯罪グループの影が浮かびますが、同様に楽天iPhoneを大規模に不正に購入された事件(被害は、1.9憶円にも上るとされます)も起きています。報道によれば、ある事件の犯行者2人は「家で簡単に稼げるアルバイトがある」と書かれた中国の対話アプリ「微信(ウィーチャット)」上の広告に応募(調べに「誘惑に負けて申し込んだ」と供述)、その後、不正購入で送られてきたスマホを何者かにチャットで指示され東京都内のマンションの一室に転送、計約3万円の報酬を受け取っていたといいます。部屋にはほかに複数の人物が出入りしていた痕跡があったといい、届いたスマホは換金役がリサイクルショップなどに転売し、正規の販売価格の7~8割ほどで売りさばいていたということです。事件を巡っては、警視庁や北海道警など4都道県警がこれまでに2人を含め、受け取り役など6人を摘発しています。被害を受けた楽天では、再発防止策として2021年5月28日以降は端末単体での購入の場合、配送時に配達員が運転免許証など本人の確認書類を見せてもらい、購入時に入力された氏名や生年月日、住所と一致するか照合する仕組みを導入したところ、その後、不正購入は確認されていないといい、「今後も継続的に対策強化を行う」としています。本人確認等、販売にかかる手続き上の小さな脆弱性が「犯罪インフラ」となったものといえ、中国の犯罪グループの関与の可能性とあわせ、すべての事業者は十分注意していく必要があります。

中国企業で小型無人機ドローンの世界最大手のDJIは、ロシアとウクライナでの事業を一時停止すると発表しています。報道によれば、社内でコンプライアンスを再評価するためとしていますが、ドローンの犯罪インフラ性が戦争に悪用されることを考慮したものと考えられます(DJI製品を巡っては、ロシア軍によるウクライナ攻撃に使われているとの一部報道も出ており、「戦闘に使われないよう販売を一時停止する」と説明しています)。中国を代表するメーカーの販売停止は異例で、DJIはドローンの世界シェアの7割を占めているとされます。広東省深セン市に本社があり、日本や米国、ドイツにも拠点を持っていますが、新疆ウイグル自治区でのウイグル族の監視など人権侵害に関与したとして、米政権の制裁対象になっていることでも知られています。中国の習近平指導部はロシアへの制裁に反対し、ロシアとウクライナ両国ともに正常な経済・貿易関係を続けるとしていますが、一方で中国政府は国有資源大手の中国石油化工集団(シノペック)にはロシア事業を慎重に行うよう要請し、ロシアへの投資交渉が中断されたとも伝えられています。

以前の本コラムでも指摘していますが、匿名性の高い暗号化メッセージアプリの犯罪インフラ性が、ロシアによるウクライナ侵攻によって、ロシアやウクライナ国内において、軍事的あるいは生活インフラ的に使われている実態があります。その点について、2022年5月1日付日本経済新聞の記事「暗号化メッセージアプリ、利用急増 ロシアの検閲に懸念」が詳しく解説していますので、以下、抜粋して引用します。

ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、ロシア政府の検閲への懸念などから暗号技術を用いたメッセージアプリに注目が集まっている。政府の情報統制が厳しい中国などでも普及が進む。ロシア発「テレグラム」と米国発「シグナル」を中心に、争いが激化している。テレグラムはロシア出身の技術者が開発し、現在は同国外に拠点を移している企業が運営する。米調査会社センサータワーによると、2月の侵攻開始から3月中旬までにロシアで270万回ダウンロードされた。ウクライナとの緊張が高まり始めた2021年11月と比較すると、1日当たりのダウンロード数は8割増えた。ロシア政府が反戦運動を抑え込むため、ネット上の検閲を強化するとの懸念から、テレグラムが持つ「E2EE(End to End Encryption)」機能が注目されている。E2EEは送り手と受け手の間で常にメッセージを暗号化する。運営会社は具体的な送信内容を把握できない。メッセージが一定時間後に自動消去される機能などもあり、端末を押収されても証拠は残りにくい。ウクライナでは米国発のE2EE機能があるシグナルが同じ期間のダウンロード数で78万回と、1日平均で11月の39倍に急増した。ウクライナのテレグラムのダウンロード数は2.1倍の95万回。テレグラムはウクライナ政府が市民から戦地の情報収集をするチャンネルなどに利用しているが、伸び率ではシグナルが上回る。ロシア発のテレグラムへの感情的な反発が一因とみられる。テレグラムは18年、ロシア政府が求めたデータを復元するための情報提供を拒否した。政府は同国内のテレグラム利用を禁じたが、20年に取り下げた。ウクライナのIT技術者、ナザール・トーカーさんは「今は政府と協力しているのではないかと疑念があり、テレグラムは使いたくない」と話す。…E2EEのアプリに詳しい駿河台大の八田真行准教授は「秘密と利便性はトレードオフの関係。普段は利便性が重視されるが、ウクライナや香港のような紛争や政府弾圧などの非常時には、セキュリティを気にする人が増える」という。そのうえで、「暗号化も様々なパターンがあり、どのアプリも完全に秘匿されると断言はできない」と指摘している。

ウイルス対策ソフトを手がけるロシアの情報セキュリティ会社「カスペルスキー」への警戒感が欧米で広がっています。米政府は同社を「安全保障上の脅威がある企業」に指定し、排除の姿勢を強めたほか、ドイツ政府も同社ソフトの利用はリスクが高いと警告し、別の製品に切り替えるように呼びかけています。3月、米連邦通信委員会(FCC)がカスペルスキーを安全保障上の脅威がある企業に指定、ブレンダン・カー委員は「スパイ活動や国益を損ねようとするロシアの国家的支援による脅威から、通信網を保護できる」とコメントしています。なお、米政府はすでに2017年、政府機関での同社製品の利用を禁止しています。ロシア情報機関が通信傍受の支援を強制したり、ロシア政府が製品を利用して米政府のシステムに侵入したりするリスクがあると指摘していたもので、今回のFCCの指定によって、米政府の補助金を受ける通信会社などはカスペルスキー製品の購入を禁じられることになります。さらに、「安全保障上の脅威」とみなされたことで、企業の間でも同社製品を避ける動きが広がるとの見方も出ており、日本のNTTグループが、同社との取引を停止する方向を打ち出しています。欧米が同社への警戒を強めていることを受け、安全保障やサプライチェーン上のリスクを考慮したものとみられています。NTTでは、カスペルスキーのセキュリティ関連ソフトはグループの社内システムで一部利用し、法人向けの事業でも使用していますが、今後、グループ各社がカスペルスキーとの新規取引を停止し、使用中の製品も他社に切り替えるということです。なお、本件については、報道(2022年4月6日付読売新聞)で、サイバーディフェンス研究所の名和利男・上級分析官は、同社製品について「ウイルス検知のレベルは高い」と評価した上で、「カスペルスキーではなくロシアを懸念している。ロシアの影響下にある企業は、いざとなったら国家に従わざるを得ないだろう。カスペルスキーは戦争の被害者と言える」と指摘しています。

ロシアによるウクライナ侵攻では、米民間企業の人工衛星がロシア軍の動きを細かく捉え、注目を集めています。観測データは、戦争犯罪疑惑の追及でも役割を果たしており、例えば、米宇宙企業マクサー・テクノロジーズの衛星で撮影した高解像度の画像を、各国政府や報道機関などに販売し、一部は無償提供しているということです。報道によれば、同社幹部は「報道機関への画像提供は偽情報拡散への対抗に役立つ。侵攻とそれに伴う人道的危機を記録するために画像の共有を続ける」と述べています。さらに、民間衛星のデータは、国際刑事裁判所(ICC)などによるロシア軍の戦争犯罪疑惑を巡る捜査にも活用されており、以前は各国の軍や情報機関しか得られなかったようなデータが民間企業から入手できるようになり、捜査すべき場所の特定や証拠の収集がしやすくなっているといいます。2022年4月29日付読売新聞で、関係者は、「現在、ウクライナの特定の地点の画像を得ようと思えば、1日に100回以上の頻度で得ることが可能だ。民間企業と20以上の国々の衛星がカバーしているからで、その間隔は短ければ数分、長くても1時間半程度だ。地上での何かの行為を隠蔽するということは、実質的に不可能だ。2001年のアフガニスタン戦争や2003年のイラク戦争の当時は、民間衛星は少なく、地球上のどこでも多数の衛星で監視できるような状況ではなかった。かつては国家が独占していた軍事機密に近いような画像も、今は多くの人が目にするようになっている。今回、ロシアも米欧の側も、情報をコントロールすることはできなくなっていると言える。ロシア軍の残虐さは国際的にも異質だが、宇宙からは多数の衛星で、地上では市民らがスマホで撮影した写真のSNSへの投稿によって、白日の下にさらされる。今後の紛争や戦争時には、軍隊の司令官はそうした監視の目を意識しなければならなくなるだろう。」と米ジョンズ・ホプキンス大上級講師 ジョン・オコナー氏が述べている点は、大変興味深いものだといえます。関連して、ロシアによるウクライナ侵攻のもつ一つの側面である「情報戦」について、とりわけ、今回米英の情報機関が示した「情報開示」が大きな注目を集めていますが、「情報収集と活用」の観点と絡め、興味深い指摘をしている記事を3つ紹介します。

「ウクライナめぐる異例の情報戦」(2022年4月24日付時事通信)
ロシアのウクライナ侵攻に関連した大きな特徴の一つに、激しい「情報戦」がある。印象的なのは英国や米国などによる秘密情報の積極的な開示だ。これはロシアの虚偽情報に対抗して「事実」を明らかにし、軍事行動の機先を制することを目的としている。通信傍受を主任務とする英国の情報機関、政府通信本部(GCHQ)のフレミング長官は3月、「真実の周知を確かなものするため」に極めて秘匿性の高い情報を戦略的に公開していることを明らかにした。その迅速さと規模は「前例がない」という。英米による秘密情報の開示は、侵攻に先立つ対ウクライナ国境周辺へのロシア軍の大規模な集結に始まり、それら部隊の種類、予想される侵攻のタイミングやルート、さらに侵攻を正当化するためのロシア自作自演による「偽旗作戦」の警告に至るまで多岐にわたった。…後の展開を見れば開示された情報が大筋で正しかったことが分かる。…これらの情報は無線傍受によるものとみられ、明かせば敵方が周波数を変えたり、通信に暗号を掛けたりの対抗措置を取る可能性があった。にもかかわらず暴露したのは「ロシア側が対策を講じる余地がないことを西側は分かっていたからではないか」(同情報関係者)との見方がある。…「プーチンは偽情報を道具として使っている。われわれは情報を使って疑念を暴きたい。そうすることで世界やウクライナのみならず、ロシアの人々にもウクライナで何が起きているのか知ってもらうことができる。秘密情報開示の理由はそこにある」。…秘密情報活動に詳しい日本大学危機管理学部の小谷賢教授は積極的な情報開示の背景として、ロシアの偽情報工作が2014のクリミア半島併合を容易にした点を指摘する。「当時、欧米は情報を出し惜しみしたため、ロシア側のペースで事が運んだ。これを反省し、今回はロシアの偽情報を精査して公表し、自らも公開できるぎりぎりの範囲で正しい情報を発信し続ける戦略をとった」。その結果、「ウクライナでは偽情報工作の効果が思ったほど上がらず、ロシアでも侵攻に対する支持が拡大しなかった」と小谷氏は見ている。…ウクライナの情報機関との連携は欠かせない。さらに今回は、英調査報道機関ベリングキャット、衛星画像の分析などを行う米マクサー・テクノロジーなど、民間からもたらされる情報もインテリジェンスに多大な貢献をした。とはいえ、決定的な情報はやはり人から人にもたらされたのかもしれない。…「侵攻計画に関する秘密情報の評価が詳細かつ、相当正確だったことを考えると、ロシアの上層部に有力な情報源があり、一部はそこから(英米側に)漏れてきているのでないか
「ウクライナ侵攻、スマホで見る現代戦の本質福田充・日大教授」(2022年4月15日付毎日新聞)
米中央情報局(CIA)など世界各国のインテリジェンス機関は昔から、情報収集活動を行っている。伝統的なやり方であるスパイ活動のほか、電話や電子メールなどの通信傍受、軍事衛星や監視カメラの画像を使った活動などさまざまだ。集めた機密情報は、自国の防衛やテロ対策など政策に生かすことが目的であり、秘匿することが大前提となる。開示するために収集しているわけではないからだ。その機密情報を米国がこれほど積極的に公開したというのは前例のないことだ。この米国の「インテリジェンス公開戦略」はロシアの行動を掌握していると示すことで、侵攻を思いとどまらせる狙いだった。ただ、米国にとっても結果がどう出るかは分からず、大きな賭けだったと思う。…世界の目がこれだけウクライナに集まっているのは、ロシアが侵攻したという事実そのものではなく、侵攻したという事実を知ったからだ。その事実を知らしめた大きなカギが、米国が公開した機密情報だった。情報がなければ、多くの人は侵攻という事実をよく理解できなかったかもしれないし、「違法な戦争ではない」というロシア側の言い分を信じてしまった可能性もある。米国の戦略はウクライナに世界の関心を引きつけ、世界がロシアを非難し孤立させる効果をもったという意味では成功している。…第二次世界大戦でナチス・ドイツがラジオや映画を徹底的にプロパガンダに利用したり、米国がディズニー映画を宣伝に使ったりと、かなり以前からハイブリッド戦は展開されていた。しかし今、足元で起きていることはかつての状況とは異なる。虚偽やデマからなるフェイクニュースが利用されていることだ。インターネットやSNSによって、情報が瞬時に広範囲に伝わる時代になり、偽情報は最も重要な兵器の一つになった。…フェイクニュースで他国の世論を操作し、社会を混乱させる戦術を得意としてきたのがロシアだ。…今回のウクライナ侵攻でも「ウクライナ政府はネオナチだ」「ロシアは正しい行動をしている」といった陰謀論を盛んに拡散しており、実際に信じる人はロシア国内だけでなく、世界各国にもいる。…現代のハイブリッド戦では、世界の世論をどれだけ味方につけるかが重要だ。ロシアはフェイクニュースを使って支持を集めようとしている。これに対し、米国が踏み切ったのが機密情報の公開だ。証拠を示すことだ。証拠は強い。…そもそも今回の米国のインテリジェンス公開戦略は、中国の台湾侵攻を抑止させる効果も見込んでいたと思う。…現代の戦争というのは、たとえ遠く離れた地域で行われていても、世界の衆人環視の下に展開されるということだ。…特に日本人はこれまで海外で起きるテロや戦争を人ごとのように考える傾向が強かった。村社会的な意識が強く、日本人が巻き込まれて死亡したりしない限り、当事者意識を持ちにくかった。しかしSNSなどを通じた情報発信はそうした意識を変えつつあると思う。遠くの戦争を自分の問題としてとらえなければ、本当の意味の平和は手にできないことを意識してほしい。専門家が正しい情報を市民に提供し、自由な議論が行われれば、間違った情報は排除できる。これは新しい可能性であり、新型コロナウイルスや原子力発電所などの重要問題でもっと機能すべきだと思う。
「「こたつCIA」も活躍、一変したサイバー戦 露呈したロシアの弱点」(2022年4月26日付朝日新聞)
当局は通常、機密情報を公開したがりません。情報ソースや分析能力を相手に知られてしまう恐れがあるからです。ただ、科学技術と民間の情報ネットワークが発達し、昔は機密だった情報が機密でなくなっています。例えば、一般市民がウクライナで起きた出来事を、スマホで撮影してリアルタイムで伝えています。いわゆる「こたつCIA(米中央情報局)」と呼ばれる活動です。商業衛星の情報を使って、戦況分析や民間施設が攻撃された時期を割り出して発信している人もいます。米国防総省は以前、ロシア軍がキーウ近郊で60キロの車列を作っていると発表しました。30年ほど前なら、考えられない情報提供です。ロシア軍がウクライナ侵攻前に、「ベラルーシで演習を終えた戦車が列車に積まれて帰途についた」と発表しましたが、すぐにウソだと見破られました。周辺の市民の目が常にあるからです。米英などが公表している情報は、逆にみれば、こうした民間の情報でも検証できる範囲にとどまっていると考えることができます。もちろん、CIAなどは、更に精密で多様な情報を収集しているはずですが、そのような情報は表に出しません。…ウクライナが最も警戒しているのは、ロシアによるゼレンスキー大統領の殺害、「斬首作戦」だと思います。動画はリアルタイムで流すわけではなく、ある程度時間を置いてから発表しています。それでも、室内であればある程度安全でしょうが、キーウ近郊のブチャでの視察など、外部での行動には勇気が要ります。…ゼレンスキー氏は背景を見せることで「自分はウクライナにとどまっている」というメッセージを明確に伝え、市民に結束を呼びかけているのです。ゼレンスキー大統領や政府要人が逃亡していれば、ウクライナがこれほど抗戦できなかったでしょう。…ロシアが試みたのは、「偽旗作戦」でウクライナ侵攻の口実を作ったり、偽情報を流してウクライナ軍の士気を落とし、ロシアに有利な世論を作ろうとすることでした。ハイブリッド戦争の一翼を担うサイバー戦に着目した場合、このような人間の認知領域に働きかけて、自分に有利な環境を整えることに注目しがちです。しかし、物理的な破壊を伴う戦闘に踏み切る場合は、それを支援するという分野でもサイバー戦を活用する必要があります。今後の検証を待つ必要がありますが、今回のロシアはそのような活動を行っていたように思えません。…ロシアのハイブリッド戦争能力は、物理的破壊と有機的に連携するという点では案外低いのかもしれません。中国がハイブリッド戦略を練り直すだろうという指摘も一部に出ています。中国は「侵攻時は、サイバー戦と物理的破壊手段を有機的に組み合わせることが必要である」と再認識し、相手の指揮通信機能、後方支援の基本になる相手の社会インフラのまひなどについてさらに研究していると思いますが、戦略自体を見直すことはないでしょう。

米中対立などを背景に、企業も経済安全保障を重視するようになっており、法制化に反対する声は特段聞かれない一方、通信などの基幹インフラを担う企業を中心に、企業活動への過度な制約や手続きなどの負担増を懸念する声も相次いでいます。企業が経済活動と経済安保を両立できるよう、政府には丁寧な説明が求められるところです。現在国会審議にかけられている経済安全保障推進法案は、半導体や医薬品などの重要物資の安定供給に向けたサプライチェーンの確保、基幹インフラの事前審査、先端技術の官民協力、特許の非公開の四本柱で構成されています。高度な技術や戦略物資を巡って、米中をはじめとする各国の競争が激化しており、報道によれば、ある電機大手は「国が半導体など重要物資のバックアップに動くことは必要だ」と理解を示すほか、経済界では、「経済と安全保障を切り離して考えるのはもはや不可能。政府の方針を支持する」(経団連の十倉会長)との考えが広がっており、自ら体制の整備を急ぐ企業も増えています。一方で、虚偽の届け出を行った場合などは罰則の対象となるほか、部品や調達先を全て把握するには手間もかかることなど、企業からは「煩雑な手続きが必要になれば、高速・大容量の通信規格『5G』の展開が遅れないか心配だ」(通信会社)、「情報管理やサイバー対策で業務量が増えかねない」(メガバンク)といった声も出ています。経済同友会は、経済安全保障法制に関する意見書を発表、経済安全保障の定義や規制の対象範囲を明確にすることや、裁量によって適用範囲が拡大する余地を排除することを求め、「企業のイノベーションや生産性向上といった『攻めの経営』精神をくじかない整備を求める」と訴えています。なお、経済安全保障に関する機密情報の取り扱い資格制度「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」について、政府・与党が今秋の法制化に向けて検討に入ったことも報じられています。適性評価は個人情報保護の観点から慎重論があり、今回の閣議決定の案には盛り込まれていませんでしたが、経済界も導入を要望していることなどから、今後調整を急ぎ、秋に予想される臨時国会への関連法案提出を目指すとしています。なお、経団連は、適性評価について「相手国から信頼されるに足る、実効性のある情報保全制度」を導入するよう政府に提言しており、政府はこうした情勢を踏まえ、産業・研究面で同盟・友好国との連携を強化するとともに、日本企業の競争力を強化する観点からも法制化を急ぐべきだと判断したものです。しかしながら、適性評価は家族や交友関係、資産、飲酒歴なども審査の対象となることもあり、公明党などから個人情報保護に対する懸念の声も上がっており、政府関係者は「十分に協議、意見聴取する」としています。このような経済安全保障について、現在の状況を端的にとりまとめた2022年4月26日付日本経済新聞の記事「経済安全保障とは? 経済資源の争奪戦」を以下に紹介します。

国の利益を守るため技術やデータ、製品など経済分野の資源を確保しようとする動きを指す。経済のグローバル化が進んだことで国家間の経済競争が激しくなり、軍事的な脅威に対する従来の「安全保障」の考え方が変化しつつある。先端技術は軍事転用されるおそれもあり、国家防衛は経済の視点を抜きには語れなくなった。経済安保を象徴するのが国による物資の輸出管理だ。機微な技術や製品の輸出を制限したり、国外への不正な持ち出しを禁じたりする措置がある。ウクライナ侵攻を受けたロシアに対する経済制裁では、主要国が半導体などの輸出規制に踏み切った。経済的な手段は強力な「武器」にもなりうることを示す。世界を襲った新型コロナウイルス感染は、サプライチェーンの弱点も浮き彫りにした。各国が輸出制限をかけたためマスクなどの医療物資を一時的に入手しにくくなった。半導体の調達難で自動車メーカーは減産を強いられた。企業や大学が持つ高度な技術は兵器にも使うことができる。人工知能(AI)や次世代通信規格「5G」、半導体などが代表例だ。自国の優位性を高めようと、こうした技術を不正に獲得する動きが活発化している。米国と中国はハイテク技術で覇権を握ろうと対立を深めている。技術を盗もうとするサイバー攻撃も激しくなっている。日本も経済安保に対応した法整備を急ぐ。政府は今国会で経済安全保障推進法案の成立をめざす。外為法の運用を見直し、企業や大学に雇われた外国人に技術を提供する場合は事前審査を求める。

関連して、経済産業省は先端技術や顧客情報が海外に流出するのを防ぐため中小企業の情報管理体制を強化、適切に情報を管理する中小企業などを認証する制度を見直し、国による現場調査を義務づけるとしています。中小企業から機密が漏れればサプライチェーン全体のリスクとなることから、抜け穴をふさいで経済安全保障の仕組みを整えるのが狙いとなります。本コラムでたびたび指摘していますが、中小企業は管理体制が甘く、サイバー攻撃や従業員の持ち出しなどによる漏えいのリスクが高いといえます。大企業が厳格に情報管理をしても、体制に不備のある中小企業は狙われやすく、実際に「サプリチェーン攻撃」によって本体を含む企業グループ全体に影響が生じたトヨタの事例なども記憶に新しいところです。認証には認定機関が書類で確認する方法と、現地を視察して審査する方法の2種類あり、自社の確認に基づく認証は虚偽申告を見落とす懸念があったことから、今夏にも関連する告示を改正し、現地視察が必要な仕組みに一本化して信頼度を高めることとしています。認証を受けた企業には1年ごとの定期報告を求め、認定機関によってばらつきがあった認証の有効期間は一律3年になります。また、今後1,000社ほどに認証企業を増やし、中小企業の技術が海外などに流出するのを抑える予定です。海外では米国政府が下請け企業の信頼度を格付けして認証する仕組みを設けており、2025年以降には国防総省とのプロジェクトに参加する企業に同認証の取得を義務づける方針で、サプライチェーン全体で情報漏洩の穴ができるのを防ぐとしています。

以下、サイバー攻撃に関する最近の報道から、いくつか紹介します。サイバー攻撃は、何らかの脆弱性(犯罪インフラ性)が突かれて攻撃されるものであり、その結果として、次の犯罪を生むという意味で犯罪インフラ性を帯びています。さらに、サイバー攻撃自体、闇サイトや暗号資産、個人情報の売買など、さまざまな犯罪インフラに絡むことが多く、その脅威が拡大しています。

  • 企業や団体など国内の3割の事業者が、過去1年以内に個人情報流出の問題を起こしている実態が情報セキュリティ大手のトレンドマイクロの調べで明らかになっています。さらに、過去1年で個人情報の流出があったかを聞いたところ、「複数回発生している」が12.1%にのぼり、「発生している」が18.3%、あわせると30%に達しており、企業による個人情報流出事例は個別に公表されている以上に広がっている可能性が高いといえます。原因は「従業員や委託先による不慮の事故(送信ミスなど)」が49.0%で最多だったものの、「従業員や委託先による故意の犯行」が39.1%、「外部からのサイバー攻撃」が32.5%を占めている点は注意が必要な状況だといえます。今回の個人情報保護法改正では個人情報漏洩が起こった場合、個人情報保護委員会への報告や本人への通知が義務化されています。企業にとっては罰則や取引先との契約停止など、無視できない大きな経営リスクになっているにもかかわらず、改正法施行前の3月の調査では、この義務化を23.1%が「把握していない」と回答している点も極めて深刻だといえます。
  • (87床の総合病院で、1日約150人の外来患者がいる)大阪府藤井寺市の青山病院で、患者数万人分の電子カルテが閲覧できなくなっているといいます。外部から不正アクセスを受け、データを復旧するために金銭を要求する「ランサムウエア」と呼ばれるコンピューターウイルスに感染したとみられています。患者の個人情報の流出は確認されていないといい、同病院は、予備のデータを院外のシステムに保存していることから、紙のカルテを作成して診療に対応、通常診療を続けているが、外来患者の待ち時間が長くなる影響が出ているということです。報道によれば、4月23日未明、院内のサーバーに保管している電子カルテが閲覧できなくなり、院内のプリンターが英文の書かれた紙を大量に印刷したり、パソコンの画面に英語で「pay」と支払いを要求する言葉が表示されたりしたため、業者に依頼して調べたところ、医療情報システムに不正アクセスされた痕跡があったものです。具体的な金額や支払い方法についての記載は確認されておらず、病院側も支払う意思はないとしており、サーバーは5月中にも復旧する見通しとしています。同病院は87床の総合病院で、1日約150人の外来患者がいる。
  • サプライチェーンを狙った攻撃では、中小企業など防御策が手薄な企業から侵入され、関連する親会社や取引先の機密情報が盗まれるリスクが高まっており、従来、コストがかかるため自社だけでは対策を講じられなかった中小も、セキュリティ会社が提供する講座を活用するなどしてセキュリティ強化を図っている実態があります。専門家は「東京と比べて大阪や名古屋など地方には基本的な対策ができていない企業が多く、楽な攻撃対象だと思われている」と指摘しています。大阪商工会議所が2018年、中小企業30社を対象に行った調査では、すべての企業で何らかの不審な通信の痕跡が見つかったといい、専門家も「サイバー攻撃によって身代金を要求されるランサムウエア被害では、中小企業の3分の2近くが身代金を支払っている印象。要求額が数百万円程度と本格的な対策をとるより安いこともあり、危機感が薄い企業が多い」と指摘しています。
  • 2022年5月4日付産経新聞によれば、ロシアのウクライナ侵攻後、世界的に活発化しているとされるサイバー攻撃について、産経新聞の主要企業アンケートでは約4分の1にあたる33社が侵攻以降、「サイバー攻撃が増加した」と回答しています。「増加した」と答えた企業は運輸や電機、ガス・電力、食品など多岐にわたり、業種に関係なくサイバー攻撃のリスクが高まっていることが浮き彫りとなっています。サイバー攻撃への対応策(複数回答)では、7社が「専門人材を増やした」と回答、「対策費用を増やした」と答えたのは15社で、35社は「社内研修を実施した」としています。また、巧妙化する攻撃に対してグループ企業のセキュリティ強化を支援したり、サプライチェーンの関係先への注意喚起を実施したりするなど、危機感を募らせる企業もあったといいます。主な攻撃としては、「マルウエア」と呼ばれる不正なプログラムが仕込まれている不審なメールの受信件数が増加、社内システムが感染した実害も1社、また、不審メールの送信元として自社の名前が悪用されているケースもあり、被害が拡大しないように注意を呼びかけるなど積極的な広報活動も求められているといえます。
  • 米マイクロソフトは、ロシア政府に所属するハッカー集団がウクライナに対し多数のサイバー攻撃を仕掛け、ロシア政府の軍事攻撃やオンライン上のプロパガンダを支援しているもようとする報告書を発表しています。さらに、ロシア政府に関連するハッカー集団がウクライナに対し、2021年12月以降、237件を超えるサイバー攻撃を仕掛けていたことも判明しています。報道によれば、ロシアがウクライナ侵攻を開始する前日の2月23日から4月8日にかけ、ウクライナ国内でロシアによる破壊的なサイバー攻撃37件が確認されたといい、こうしたサイバー上の攻撃はウクライナ侵攻の約1年前から始まっており、ウクライナにおける軍事攻撃の下地を整えていた可能性が指摘されています。また、今回の報告にはこれまでに開示されていない攻撃も含まれており、サイバー攻撃が一般に知られている以上に、ウクライナ侵攻で主要な役割を果たしている可能性を示唆しています。なお、侵攻後のサイバー攻撃は軍事行動と強い相関関係があると分析、ロシア軍がウクライナの首都キーウのテレビ塔を攻撃した3月1日、大手放送局を狙ったサイバー攻撃を開始、ロシア軍がウクライナの原発の占領を始め、原発事故などへの懸念が高まると、原子力安全機関のデータを盗み出しており、ロシア軍が南東部マリウポリを包囲している間、ウクライナ政府がウクライナ人を「見捨てた」との虚偽内容のメールを、ウクライナ人に送り付けていたということです。
  • ハッカー集団「アノニマス」がロシアで事業を継続する海外企業にサイバー攻撃の矛先を向けているといいます。報道によれば、例えば食品大手ネスレの内部データを漏洩したと主張しましたが、その実態は公開済みのデータを機密情報に偽装した「見せかけ」だったといい、日本企業も同様の揺さぶりを受けており、専門家は「主張をうのみにすべきではない」と警告しており、注意が必要だということです。アノニマスがこうした「ブラフ」を行うのは珍しいことではなく、今回の侵攻でロシア政府のウェブサイトを閉鎖させたり、国営テレビをハッキングしウクライナ国内の紛争映像を流したりといったサイバー攻撃を行ったと主張しているものの、長年アノニマスの動向を調べている専門家は「過去には数秒の接続障害が起きたとみられる画像を投稿して『閉鎖した』と主張したなど、信ぴょう性に疑問があるケースも多い」と述べています。アノニマスはネスレ以外のロシアでビジネスに携わる企業も標的とすると宣言しており、日本企業も揺さぶりを受けかねない状況にありますが、「仮に攻撃を宣言されても信じ込まず、実態を冷静に見極めて対応すべきだ」と警鐘を鳴らしています。
  • 犯罪インフラというより「犯罪摘発インフラ」というべきものですが、中国の短文投稿サイト運営、微博(ウェイボ)は、オンライン上での「悪質な行為」をなくすため、ユーザーのIPアドレスをアカウントページとコメント投稿時に公開すると発表しています。5億7,000万人以上の月間アクティブユーザーを持つウェイボは、新たな設定の下でユーザーのIPアドレスが表示され、ユーザー自身で設定をオフにすることはできないとしています。中国国内のユーザーの場合、省などのユーザーが投稿している場所が表示され、海外ユーザーの場合は、ユーザーのIPアドレスのある国が表示されますが、ウェイボは「常に健全で秩序ある議論の雰囲気を維持し、ユーザーが現実の有効な情報を迅速に入手する権利と利益を守ることに尽力してきた」としています(3月には、ウクライナ情勢に関連する誤った情報を受け、一部のユーザーに対してこの設定のテストを開始すると発表していました)。

ロシアによるウクライナ侵攻やイーロン・マスク氏によるツイッター買収など、サイバー空間やプラットフォーマーを巡る情勢もまた大きく変化しています。そのような情勢を分析した記事を以下に紹介します。

「危うい「情報支配」 巨大IT 露にも脅威」(2022年5月2日付読売新聞)
ツイッターは世界の数億人に向けて情報が発信される巨大IT企業だ。書き込まれる内容次第で世論が動く。2020年の米大統領選でバイデン氏(79)が勝利すると、トランプ前大統領(75)の支持者が連邦議会議事堂を一時占拠した。ツイッター社は、暴力をあおる恐れがあるとしてトランプ氏のアカウントを使えないようにした。当時、マスク氏は「西海岸のハイテク企業が、言論の自由の事実上の裁定者になった」と指摘した。マスク氏は今後、「西海岸のハイテク企業」の全権を握り、自らが「裁定者」になり得る力を持つ。ロシアのウクライナ侵攻も、巨大ITの存在の大きさを見せつけた。プーチン露大統領(69)は侵攻の前、ロシアで1日50万人以上が利用する外国企業に対し、露国内への事務所設置を義務づける法律を成立させた。巨大ITをロシアの法規制に従わせるためだ。ウクライナも動いた。「あなたの支援が要る。戦車やミサイルへの一番の対抗策は現代のテクノロジーだ」侵攻直後、ウクライナのフョードロフ副首相(31)は米グーグルなどの経営者に書簡を送り、助けを求めた。巨大IT対ロシアの構図が鮮明になった。フェイスブック(FB)やインスタグラムを運営する米メタ(旧FB)は、偽情報を拡散したとされるアカウントやページなどを次々と削除。ロシア側が発信する情報を制限した。ロシアの裁判所はメタを「過激派組織」に認定し、マーク・ザッカーバーグCEO(37)らの入国を禁じた。…会社側は否定するが、元社員によると、メタはSNS上で過激なメッセージが拡散する危険性を把握しながら、より多くの反応を集めてもうけにつなげようと必要な対策をとらなかったという。今年1月には英国でメタに対する集団訴訟が起きた。メタはSNS利用者から集めたデータをもとに巨額の利益を得るが、利用者に正当な対価を払っていないとの主張だ。…巨大ITによる市場の独占や寡占がもたらす弊害も指摘される。いまや、広告を載せたりネット通販に出店したりする企業は、グーグルやアマゾンに「嫌われるわけにはいかない」(日本企業の幹部)状態だ。企業が払う広告代金や出店手数料の設定は、プラットフォーマーの意向が強く働きやすい。GAFAなどが有望な新興企業を買収し、将来のライバルの「芽を摘む」動きも目立つ。巨大IT企業の行動原理は、「アテンションエコノミー(注目経済)」だと指摘される。利便性の高いサービスで多くの利用者を引きつける。自社のウェブサイトの人気を高め、広告主から多額の広告料を獲得する。利用者に頻繁にサイトを訪れてもらうには、刺激的な内容が優先されやすい。その際、情報の真偽は後回しになりがちだ。利用者が閲覧する情報の内容が偏りやすく、事実と異なる情報が出回りかねない。東京女子大の橋元良明教授(情報社会心理学)によると「理性ではなく感情に訴える内容は、他の人に伝達する行動につながりやすい」という。
「私が考える憲法「サイバー空間定義を」「価値観は多様」」(2022年5月3日付日本経済新聞)
ウクライナ側は善戦している。ロシアからサイバー攻撃を受けているのにゼレンスキー大統領の演説を放送し、一般の住民が携帯電話を使っていることからも明らかだ。電力、通信が維持できている。…アノニマスはいわば義勇軍としてロシアへの攻撃や防御も含めてかなり活動した。サイバー空間はこうした行動が容易だ。インテリジェンスの情報はサイバー空間でもいろんなところを飛び交う。多くの人が通信ネットワークを観測して情報をあげ、ウクライナの正規軍が対処するという連携が進んでいる。…端的にいうと憲法9条の影響がある。専守防衛という基本原則をもとにサイバー空間上でどう防衛するのかという点だ。サイバー空間には国境がなく、日本を取り囲む海もない。守ろうとしても守り切れない現実がある。「攻撃は最大の防御」という言葉があるとおり、積極的な防衛体制(アクティブ・ディフェンス)として、通信上で相手の領域にいく必要性がでてきている。憲法上のサイバー攻撃の定義を新たに考えるべきだ。21条の通信の秘密も重要だ。日本は北朝鮮などの電波を諜報してきた。インターネットになるとそれができないのかという問題が生じる。憲法の精神は大事だが、憲法制定時にサイバー空間は想定していない。国を発展存続させていくために、この議論をどうするか。ウクライナの事例をみると様々な視点が必要になると感じる。有事となってからでは取り返しがつかない。
「サイバー攻撃も「やられたら、やり返す」 大阪「正論」懇話会 高市早苗政調会長の講演要旨」(2022年5月2日付産経新聞)
ロシアのウクライナへの侵略によって、私たちは厳しい国際情勢に直面した。一つは、残念ながら核を持つ国が軍事を支配するということ。二つ目は国連の安全保障理事会で拒否権を持つ国が外交を支配する現実。そして三つ目は、資源を有する国が経済を支配する現実である。日本はいずれも持たないが、いずれも持つロシアと中国は日本の隣国であり、北朝鮮も核を保有する。日本は世界でも類を見ない核の最前線に国土を構えているのである。この現実を本気で認識し、備えなければならない。そしてもう一つ、今回の侵略戦争で気づいたことがある。それは「自分の国は自分で守る」と本気で思っている国に対しては、同盟関係があろうとなかろうと、世界中が何らかの行動を起こしてくれる、ということである。サイバー攻撃から日本国をいかに守っていくか。これにはやはり法整備が必要となる。「アクティブ・サイバーディフェンス」という言葉をご存じだろうか。日本が他国からサイバー攻撃を受けた場合、今の状況では一方的にやられっぱなしになる。ただ、「やられたら、やり返す」、日本に攻撃を仕掛けてくれば、莫大なコストと損害が発生し、大変なことになる、という状況をつくっておくべきだと私は考えている。例えば、攻撃者のサーバーに大量の通信を送りつけて使えなくするとか、逆にこちらからマルウエア(不正プログラム)付きの攻撃を仕掛けるとか、その程度は最低限できなくてはならない。攻撃側の通信を妨害するためのサイバー反撃は、「積極防御」の有効な手段になり得る。新たな戦争への対応が今まさに求められているのである。
「ツイッターの公共性と社会的責任を問う」(2022年4月26日付日本経済新聞)
徹底的な「言論の自由」を求めるマスク氏はツイッターの投稿管理を批判してきた。同氏には、言論の自由と有害情報防止という難しいバランスに細心の注意を払うよう求めたい。ツイッターは世界の著名人や一般市民が数億人のネット利用者に向け直接情報発信する基盤(プラットフォーム)であり、極めて公共性が高い。市民が政治の良しあしを判断する民主主義国では、判断のもとになる正確な情報の流布を担う役割もある。ところが近年、暴力、差別、ヘイト(憎悪)を助長する投稿や、ロシアのプーチン政権や米国のトランプ前大統領らが発する偽情報などの有害投稿が横行し、公共的な情報基盤として機能不全に陥りつつあった。このためツイッターは、有害投稿の削除や常習者のアカウント凍結などの対策を強化してきた経緯がある。トランプ氏のアカウント凍結はその一環だが、マスク氏は強く反対してきた。買収に成功した場合、同氏にはツイッターの公共性とそれに伴う責任を改めて強く自覚して行動してほしい。個人が支配する非上場企業になれば、株式市場を通じた社会による統治が効かなくなる。このため、買収成立後のマスク氏の行動次第では、法律規制によって有害情報を防ごうという潮流が世界で強まる可能性がある。すでに法律による規制にカジを切ったのが欧州だ。EUは23日、「デジタルサービス法案」に合意した。年内にも施行する見込みだ。SNSや動画共有などのプラットフォームの運営企業に有害情報を防ぐ管理責任を負わせ、違反企業には高額の罰金を科す。マスク氏が支配権を握ったとしてもツイッターは欧州でむしろ管理強化を強いられそうだ。米国で有害情報が増えれば、足踏みしてきた米議会での法規制導入論議が前進するかもしれない。日本では国家による言論規制を避けるためプラットフォーム企業や有識者が自主規制の枠組みを検討してきたが、効果的な具体策はまだできていない。ワクチンを巡る誤情報の横行で有害情報防止は社会の要請になった。関係者はツイッターの動向を注視しつつ、防止策の具体化を進めてほしい。
「ツイッター買収 言論の自由は責任を伴う」(2022年4月30日付産経新聞)
「言論の自由」とは、何を言っても構わないと無制限に野放しを認めたものではない。例えば日本の憲法では21条で「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と規定する一方で、13条で「自由」の範囲を「公共の福祉に反しない限り」と制限を求めている。虚偽(フェイク)情報で人心を惑わし、憎悪(ヘイト)表現で他者を傷つけるような言動には、権利としての自由を叫ぶ資格を与える必要はない。…マスク氏はかねて「言論の自由を守る」と訴えてきた。買収後はツイッターの投稿管理を緩和する方向とみられている。ツイッターは、トランプ前米大統領のアカウントを永久凍結している。トランプ氏の投稿に「暴力賛美の警告」や「事実誤認の注意喚起」などを表示し、暴力を扇動するリスクがあるとして永久凍結に至ったものだ。マスク氏がこの問題をどう扱うかは不明だが、トランプ氏はツイッターには「戻らない」と表明している。SNSを巡っては、新型コロナウイルスやワクチンに対する問題投稿が相次ぎ、ロシアのウクライナ侵略では国家主導とみられる虚偽情報が氾濫している。「自由」の名の下に放置できる状況にはない。EUは23日、巨大ITに虚偽情報やテロの扇動、児童ポルノといった違法コンテンツの排除を義務付ける「デジタルサービス法」案で合意した。…政府は侮辱罪の厳罰化を検討している。残念ながらネット空間は匿名の悪意に満ち満ちている。「悪貨は良貨に駆逐される」との楽観論はもはや聞かれない。悪いのは書き込む側で、掲示板、伝言板に罪はないとする意見もあるが、駅の伝言板だって読むに堪えない文言は気づいた駅員が消していた。「言論の自由」は、これを行使する責任を伴う。マスク氏にはその理解を求めたい。
「ネット言論、問われる公共性マスク氏がTwitter買収へ」(2022年4月26日付日本経済新聞)
米起業家のイーロン・マスク氏が米ツイッターの買収で同社と合意した。SNSへの投稿が社会や政治を左右する傾向が強まり、運営会社の公共性は高まるばかりだ。日米などではツイッターの存在感が大きい。投稿の削除などに関わる規制の緩和を目指すとしており、巨大言論プラットフォーマーが自由と公共のバランスをどう保つかを問われることになる。…企業に自主規制を促し、法規制で規律を強めようとしてきた米民主党などは警戒を強める。マスク氏の主張する規制の緩和はこれまでの動きを後退させかねないためだ。米ホワイトハウスのサキ大統領報道官は「大統領は長い間、大規模SNSの力を懸念してきた」とけん制し、与野党の意見の相違を印象づけた。欧州でも懸念は広がる。EUは23日、IT大手に偽情報への対応を義務付ける法案に合意した。EUは一部企業の自主規制を追認する形で法案を詰めた経緯があり、各社は合意を受けて「歓迎する」(米グーグル)などと前向きな評価を示す。だが、ツイッターの方針転換で前提となる自主規制が後退すれば、官民連携の流れに水を差しかねない。マスク氏が改革を進めるには広告主や利用者の意向を無視できない。投稿管理に関する方針の変更は政治的な問題に発展しやすく、米IT大手は手控えてきた経緯がある。だが、最近は「広告主の意向」を受けて規制する例が増え、グーグルは21年に気候変動を否定する動画などへの広告配信を中止した。ツイッターも広告主の圧力を受ける恐れがある。
(6)誹謗中傷/偽情報等を巡る動向

誹謗中傷は、「人権侵害」です。私たちのビジネスが人権侵害を助長するようなことがあってはなりません。だからこそ、デジタルプラットフォーマーらは、自らのビジネスが人権侵害の場、助長する場とならないよう最大限の努力をすることが求められていますし、事業、サプライチェーン、利用・提供しているサービスにおいて、強制労働や児童労働、ハラスメント等がないか確認する「人権DD」の取組みも必須となっています。「ビジネスと人権」は今や重要なキーワードとなっており、その流れで本コラムでは「誹謗中傷」の問題を取り上げています(さらに、ロシアのウクライナ侵攻などでも問題となった「偽情報」も最終的には人権侵害や誹謗中傷のツールとなりうることから、本コラムでも関心をもって取り上げているものです)。今年の憲法記念日に、その「ビジネスと人権」(より具体的に「デジタルと人権」)と憲法の関係から論じた記事「その個人情報、誰がコントロール? AIとビッグデータ時代の人権」(2022年5月3日付毎日新聞)が掲載されました。大変興味深い内容でしたので、以下、抜粋して引用します。

社会や経済のデジタル化が猛スピードで進んでいる。「第4次産業革命」とも言われる大変革の下で、人類が長い歴史の中で確立し、憲法で保障される「人権」が危機にさらされている。インターネットを介した個人情報の無秩序な利用や、ネット上の中傷は個人の尊厳を冒し、人権を侵害しているのではないか。憲法施行75年を迎えた今、「デジタルと人権」について考える。…「Yahoo!スコア」とは、IT企業ヤフーが実施していたサービスで、サイト利用者の信用度を点数で表す「信用スコア」の一種だ。国内最大級のポータルサイト「ヤフージャパン」のIDを持つ利用者の、インターネットでの購入履歴、宿泊や飲食店の予約キャンセル率などの情報を収集して人工知能(AI)で分析し、はじき出したスコアを外部企業に提供するという。武蔵大社会学部の庄司教授は当時、あるツイッターの投稿でこのことを初めて知り調べてみると、自身も含めた利用者の個人情報保護がないがしろにされていると感じ、憤ってFBに書き込んだのだという。「個人を評価する情報を外部に提供するという重要なニュースなのに、利用者あてにメールもなく、サイトのトップページにも通知がなかった。周知しようとしない姿勢は、おかしいと思った」と指摘する。SNS上ではこうした批判が広がり「炎上」していた。…信用スコアに代表される、AIとビッグデータを使った個人情報の利用は、憲法の問題であるとの指摘がある。なぜ憲法なのか。AIと憲法の関係について詳しい、山本龍彦・慶応大法科大学院教授は「日本では自身の個人情報をコントロールする権利が基本的人権として認められていない点が最も大きな問題だ」と強調する。個人情報保護法にもコントロール権は明記されていない。憲法13条が掲げる「個人の尊重」を揺るがし、憲法論として議論すべきだと主張する。欧米の法制度と比べても大きく後れを取っているという。…AIによって集団を統計的に分類する段階で、少数者のデータが排除されるほか、プロファイリングの際も個別の事情を無視して、予測結果が当てはめられる可能性もある。こうした点で、個人が尊重されていないという指摘だ。AIの分析方法は開示されないためブラックボックス化する点も課題だ。利用者の「同意」でも問題がある。…山本教授は、自身の情報コントロール権を人権として確立することが急務だと指摘し「国会で、憲法改正や法改正が必要なのか正面から議論すべきだ」と訴える。…日本のデジタル社会と人権を考えるうえで最も大きな問題は、誰とどこまでの情報を共有するか自分で選択・決定できる「自己情報コントロール権」が基本的人権として十分に確立していないことだ。「私事が多くの人の目にさらされない」という伝統的なプライバシー権は判例上確立している。自己情報コントロール権も、現行憲法の解釈で導き出せるはずだが、日本では正面から認めることに及び腰だ。…EUは、憲法に当たる「EU基本権憲章」で個人データの保護を基本権として明記し、「一般データ保護規則」(GDPR)で、データ保護の実効性を持たせている。今年1月に欧州委員会が発表した「デジタル権利と原則に関する宣言」では、個人データ保護の権利に自己情報コントロール権を含むと明記された。米国も昨年10月、ホワイトハウスが(コントロール権を明示した)「AI権利章典」が必要だと表明した。…情報があふれるデジタル社会では、いかに利用者を刺激し、関心を自らのコンテンツに引き寄せるかが重要となる。そのために、利用者の心の中、認知領域が狙われ、意思決定が操作される事態も増えている。このままでは、いかに人の認知領域を制するかを競う混沌社会となる。自己決定や民主主義という近代憲法の基本原理を守るには、自己情報コントロール権を含むデジタル基本権の確立が急務だ。

さらに、誹謗中傷の問題を考える時、「個人の尊厳」と「表現の自由」の衝突が必ず問題になります。日本では「忘れられる権利」も認められておらず、削除対応も「表現の自由」を重視しがちの傾向があり、誹謗中傷の問題をより深刻化していている実態があります。誹謗中傷という人権侵害をネット空間に放置することは許されず、事業者の取組みがさらに重要となっているのです。この点については、2022年5月3日付毎日新聞の記事「ネット中傷の連鎖どう防ぐ 「個人の尊厳」と「表現の自由」考」が参考になりましたので、以下、抜粋して引用します。

最高裁は2017年、児童買春容疑で逮捕された男性が、逮捕歴が表示される検索結果の削除をグーグルに求めた仮処分申請を退けた。この際の決定で「公表されない利益が公表される利益に明らかに優越する場合には削除が認められる」との初判断を示した。検索サイトの存在については「情報流通の基盤として大きな役割を果たしている」と意義付け、検索結果を安易に削除することはこの役割を制約するとした。サイトによる検索結果の提供を表現行為と捉え、「表現の自由」を重く見た決定だった。インターネット上の個人情報の削除を求める権利は「忘れられる権利」として欧州で保護が進み、日本でもさいたま地裁が15年に新たな権利として認める判断を示した。だが、2審・東京高裁は地裁決定を取り消し、最高裁もこれまで「忘れられる権利」に言及した判断を出していない。ネット情報の削除訴訟に詳しい神田知宏弁護士は「逮捕歴などがいつまでも検索結果として残ると、就職などに影響して更生に支障が生じる。ネットで情報が拡散する時代は、紙媒体中心の時代では考えられないほど問題が深刻だ。17年の最高裁決定以降、裁判所が削除を命じるハードルが上がり、以前なら削除が認められていた事案でも認められない傾向が続いている」と指摘する。…インターネット上での中傷は、個々の投稿は軽微な内容でも、特定の人に殺到すれば大きな精神的負担となる。投稿者が自身と考えの違う人を全否定し、自分なりの「正義」を掲げる投稿が目立つのも特徴だ。「表現の自由」は人権侵害につながる意見表明を無制限に許容しておらず、自身の投稿に問題がないかを判断するためのリテラシー教育が重要となる。SNSの運営事業者の取り組みも鍵を握る。…安易な公権力の介入は過剰な削除を招き、表現の自由との関係で問題が生じかねない。そこで考えられるのは、中傷やプライバシー侵害に当たる違法な投稿にどういった対策をしているのか、各事業者に公表義務を課すことだ。具体的には、どれぐらいの削除要請があり、どういった内容の投稿を何件削除したかなどが分かれば、国民が事業者を評価できるようになる。ただ、中傷投稿には明らかに違法というものから、社会的に不適切というものまで幅があり、画一的な対応は難しい面もある。事業者は社会と対話をしながら、自社の方針を常に改善していくことが求められる。

次に、実際に誹謗中傷にあい、苦しみながらも社会に対応を訴え続けている2人(女子プロレスラー木村花さんの母響子さんと池袋暴走事故の遺族・松永さん)の対談内容が、2022年5月1日付読売新聞の記事「木村花さん母「中傷で心ボロボロ」、池袋暴走遺族・松永さん「厳罰化や迅速な情報開示を」」において報じられています。(以下にはありませんが)筆者は、花さんが亡くなった直後から裁判を見据えて証拠となる中傷の画像を集めていたといい、「二度と見たくないような投稿を何度も見続けるのは苦しかった」との指摘、「加害者は指一つで中傷するが、被害者の中には壊れた心と一生付き合う人もいる。理不尽なバランスを法律か何かで穴埋めすべきだ」との指摘も印象に残っています。大変考えさせられる内容であり、以下、抜粋して引用します。

木村 「私と花に対する様々な誹謗中傷に対して、泣き寝入りすることなく、裁判をしてきました。誹謗中傷を受けた人は心に大きな傷を負っていて、ただでさえボロボロな中で相談窓口を探したり、弁護士を探したりすることの一つ一つが負担になっています。多額の費用や長い時間もかかります。警察も人によっては心ない対応をされることがあり、裁判でも相手方などから再び傷をえぐられるような思いをして、本当に理不尽としか思えないようなことがたくさんあります。この現状をぜひ多くの人に知ってもらい、少しでも迅速に改善してもらいたい。一日でも早く被害者が救済されることを望んでいます。」松永 「交通事故遺族として、他の人に同じ事が起きてほしくないと思って活動してきた中で、誹謗中傷の苦しみを知った以上は、こうしたことが起きないような社会の一助になりたいと思いました。言論の自由は大事ですが、だからといって誹謗中傷を受ける人が苦しみ続ける社会は良くない。交通事故とともに、誹謗中傷もなくしていかないといけないと思っています。」

木村 「裁判で加害者は謝罪すると口では言いますが、心からの謝罪とはとても思えません。…裁判で賠償金の支払い命令が出たのに、1円も支払われていないという現状もあります。救いを求めて裁判をしていますが、今、裁判をやって救われた部分があるかと言えば、ほとんどないのが現状です。」「まずは侮辱罪の厳罰化をスタートとして、細かい法整備をしてほしい。中でもプラットフォーム(SNSやネット掲示板など)の責任については、EUで議論されているように削除義務とか、削除しなかったら罰金を科すとか、きちんと法律という形で守ってもらわないといけない。現在のプラットフォームは、そこで起きた問題や傷ついた人に対してあまりにも無責任ではないかと感じています。

松永 「中傷者の情報について開示請求をしても、かなりの時間がかかると聞いています。色々な法的な制約もあると思いますが、迅速に開示できるような仕組み作りをしてほしい。」

木村 「言論の自由が「言う権利」だとしたら、「言われる方の権利」も同じように守られるべきではないかということがまず根本にあります。侮辱罪の厳罰化は、被害者の救済のためのものであってほしい。厳罰化が言論封じや言葉狩りのようなことに悪用されないよう、細やかなルールが必要になってくると思います。」

松永 「表現の自由は、民主主義の根幹を担うすごく大事なものだと思っています。同時に、言われた側にも権利がある。それを損なっていいのかというと、それは絶対違います。私自身は、両立することができると思っています。もちろん細かい仕組み作りは必要で、権力のある人に乱用されないような法整備をすればいい。」

木村 「これまでの活動を通して、「誹謗中傷はダメ」とか「やめよう」という言葉に、すごく危うさを感じています。なぜなら、誹謗中傷をしているという意識がなく、正しい批判だと思って誹謗中傷を繰り返している人が多いからです。「誹謗中傷をやめよう」ではなく、「誹謗中傷とは何か」からまず始めないといけない。何が誹謗中傷に当たるかというガイドラインを専門家に作ってもらい、裁判所や警察でも活用してもらいたい。裁判官によって異なる判断が出る「裁判官ガチャ」のようなことが起きているので、ガイドラインが本当に必要だと思っています。」

松永 「警察は地域差、個人差があるのが間違いなく現状で、現場の人が共通意識を持つための教育や仕組みが必要だと思います。裁判については、私が交通事故遺族として参加した刑事裁判の判決で、被告に対する誹謗中傷が刑の減軽理由になりました。司法の場で、誹謗中傷についてもう少し議論を深め、裁判官による違いを是正していくことが必要なのではないかと思っています。」

木村 「ある中学生は「批判は冷静で客観的な意見。誹謗中傷は感情が入った主観的な意見」と言ってくれました。まさに、子どもたちの方が的確に物事をとらえて、核心をついていると思いました。」

松永 「私の個人的な意見ですが、交通事故と誹謗中傷はすごく似ている。ネットも車も便利なものですが、結局は人間が扱うもので、使い方を間違えると人を殺してしまうこともあります。

木村 「松永さんが言われたように、SNSが怖いのではなく、SNSを攻撃に使う人たちが怖いということです。子どもたちへの教育では、SNSが怖いとか先入観を植え付けたくありません。SNSの持つすばらしいところもあると思っていますので。」「今の世の中は一つの失敗も許さないというか、悪いことをした人には何を言っても構わないという、失敗に対してすごく厳しい世の中になっています。花は、少しでもより温かくて優しい、そんな世界を望んでいたと思います。そういう世界に近づけることができるように、活動していきたいと思っています。」

最近の誹謗中傷や偽情報の問題において避けて通れないものとして「陰謀論」への向き合い方があります。筆者は陰謀論には与しない立場であり、とりわけ陰謀論者の自らの正義を相手に強要する姿勢や相手を尊重しない姿勢は受け入れがたく感じます。一方で、他人に迷惑をかけたり不快な思いをさせたり危害を加えるものではない限り、多様な捉え方の一つと考えています。しかしながら、報道(2022年5月3日付朝日新聞)で、根拠の乏しい言説を信じる人たちについて、著述家の古谷経衡氏は「『意味のわからないことを言っている人』『別世界の人たち』といった見方をするのは危険だ」と警鐘を鳴らし、「陰謀論に染まった人の背景には、何かがあるかもしれない。人格ではなく、誤った事実に基づく言説を否定し続けなければならない」と述べており、さらにもう一歩踏み込んだ対応をすべきという点については正にそのとおりだと感じました。なお、同記事は、「黙っていてはならない。粘り強く対話を続けよう。自由な言論の土台である事実を守るために」と結ばれています。

ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、民間人が虐殺されるなど悲惨な実態が伝えられる中、日本でも「被害はウクライナの自作自演」といった言説がSNSで拡散されています。今はさまざまな証拠が示され、根拠のない主張であるにもかかわらず、一部の人が強く引き寄せられている状況がうかがえます。2022年4月14日付読売新聞によれば、発信者の投稿を過去に遡って調べると、「ウクライナはネオナチに支配されている」「プーチン大統領はウクライナを救う光の戦士」など、現実離れした主張を繰り返す発信者は、過去には全く別の陰謀論を盛んに投稿していたことが判明したと指摘しています。例えば、新型コロナワクチンについて「殺人ワクチンだ」「世界の資本家が人口削減を狙っている」などと不安をあおる内容が多く、それ以前は、2020年の米大統領選で「不正があった」と訴えていた人も少なくなく、「ディープステート(闇の政府)と戦っている」として、トランプ前大統領を信奉する「Qアノン」と呼ばれる集団に共感する投稿もあったといいます。そして、欧米でも同様の現象は見られるとも指摘しています。さらに、SNS分析が専門の東京大の鳥海不二夫教授(計算社会科学)の調査では、3月5日までに「ウクライナ政府はネオナチだ」という投稿を拡散していたのは約1万アカウントあり、このうち約88%がワクチンに否定的な内容を、約47%がQアノンに関連する主張を過去に拡散させていたと紹介しています(同じ調査を扱った産経新聞によれば、リツイートの傾向を(1)ロシアの侵攻について言及(2)戦争に反対(3)ロシアを批判(4)「ウクライナ政府はネオナチ」などと主張-の4つに分類し、分析した結果、「ウクライナ政府はネオナチ」という主張は確認されただけで228ツイートあり、1万907アカウントで3万342回リツイート、1アカウント当たりのリツイート数は2.8で、他の3傾向(1.4~1.7)より多くなっていたといいます。鳥海教授は「物事の裏にある真実を知った、と思ったときには注意が必要。優越感をくすぐったり不安につけ込んだりする偽情報や誤情報も世の中には多いことを意識する必要がある」と注意を促していると報じられています)。そして、これらの「不可解」に見える現象を理解するカギとして、立正大の西田公昭教授(社会心理学)は「認知のゆがみの定着」を挙げています。西田教授によると、不安や不満を抱えた人にとって、陰謀論にはある種の心理的な「効用」があるといい、「私たちだけが真実を知っている」という優越感を得られ、仲間内で発信すれば承認欲求を満たすこともできるためだといいます。さらに、西田教授は「一度、満足感を得ると、何でも『公式情報はウソ。実は黒幕がいる』という見方が定着する。さらに効用を求める中で、別の陰謀論にひかれていくというサイクルになるのではないか」と指摘しており、SNSは似た価値観の投稿ばかりが表示され、認知のゆがみを強化している実態(いわゆるフィルタ―バブル減少/エコーチェンバー現象)が浮き彫りになっています。

また、別の調査からもその深刻さが読み取れます。2022年4月23日付読売新聞の記事「コロナで生活不安・情報源は動画サイト、ワクチン誤情報信じる一因に…国際大調査」で紹介されていますが、国際大グローバル・コミュニケーション・センターの研究チームは、新型コロナワクチンの誤情報に関するアンケート調査(2022年2月、20~69歳の男女約2万人にネットで実施)を行い、その分析結果をまとめています。その結果、コロナで生活に悪影響が及んでいたり、動画共有サイトを主な情報源にしたりしている人が誤情報に惑わされやすい傾向がうかがえたということです。ワクチンに関し「打つと不妊になる」「人口減少をもくろんだものだ」など六つの誤情報について聞いた結果、いずれかをSNSなどで見たという人は37.11%に上ったほか、「不妊になる」を見た人のうち、それを「正しいと思う」と答えた割合は6.3%、「人口減少」の場合は11.11%だったといいます。さらに研究チームは、コロナの影響との関係も調査したところ、「収入が減った」「同居家族の収入が減った」「生活に必要な費用が増えた」の三つについて、当てはまる度合いを5段階で聞いた結果、高い人ほど誤りに気付く確率が低かったといい、コロナ禍での不満が、公的機関の見解と乖離した言説を信じる一因になった可能性があると指摘しています。主な情報収集の手段に動画共有サイトを挙げた人にも同じ傾向があったのに対し、政府への信頼度が高く、「文章から客観的な事実と筆者の意見を区別できる」などの情報リテラシーが高い人は、惑わされにくい結果が出ています。そして、報告書で、SNSや動画共有サイトを運営するプラットフォーマーに対し、すでに取り組んでいる誤情報の削除、正しい情報の優先表示などの対策強化を提案、政府には、国民からの信頼を高める発信の工夫や、情報リテラシー教育の充実を求めています。

ロシアによるウクライナ侵攻は、「偽情報」を巧みに取り込むなどした「情報戦」であるとも言われています。ロシアが情報統制を強め、事実をつかむことが困難になっているうえ、激戦地では当事者発の情報以外が限られている現実もある中、情報戦に私たちはどう向き合うべきか、2022年4月21日付毎日新聞の記事「スマホの中の戦争 隠すロシア 「情報戦」にどう向き合うのか?」を紹介します。

広瀬氏 ロシアは伝統的に情報に寛容な国ではない。反共的な思想を排除していたソ連時代から、基本的に厳しい統制を敷く傾向にある。今回、大義のない戦争をしていることを、プーチン政権は十分承知している。情報統制をして「ロシアは正しいのだ」と国民に納得させる必要がある。そのためには真実を出すべきではないと考え、欧米の脅威から国民を守る名目でプロパガンダを拡散している。大義のない戦争のために、ロシア兵の命が犠牲になっていることが知られたら、国民は許さない。世論調査を見る限りプーチン政権の支持率は上がっており、政権を信じている国民が多いのではないか。信じない人は力で抑え、黙らせている。…ロシアが出す情報が基本的にフェイク(偽)ニュースであっても、根拠なしに「フェイクだ」と言うわけにはいかない。情報の誤りの根拠を証明しなければならないが、「なかったこと」を証明することは本当に大変だ。…何が正しい情報なのか、しっかり精査する必要がある。虐殺の現場として流れてくる映像は、その場所の日常の状況と比較したうえで報じるのがあるべき姿だ。もちろん日常のことを知るのが難しいのは理解するが、衛星の映像など利用できるものをできる限り駆使してほしい。また、軍事行動の直後には、そのことを報道しない方がよい場合がある。たとえばロシアが遠距離から発射したミサイルの被害をすぐに報道すると、攻撃の効果をロシア側に教えてしまうことになる。戦場報道の暗黙のルールでもあるようだ。ネット時代の報道は、早ければ早いほどよいと思われがちだが、とどまるべきときもある。(日本メディアは欧米に比べてより第三者的立場にあるが)だからこそ、事実をそのまま伝える姿勢が大切だ。ロシア側に非があることは明らかだが、情報戦に加担すべきではない。ある価値観を加えて伝えることで、真実性が失われてしまうこともある。伊藤氏 まさにスマートフォンの中の戦争だ。ウクライナ侵攻では、日々、現地からの映像が映し出され、状況がリアルタイムに見えているような錯覚に陥っている。だがそこには、当事者の一方が流す映像も含まれており、本当なのか検証するのが難しい。当事者にとって都合のよい情報だけが垂れ流されてしまうことになりうる。…激戦地には当事国以外のジャーナリストがいなくなっている。真偽の確認を取りにくい情報だけが流れてくる。映像の発信元を明示して報道することが重要だ。また、メディアは一方に肩入れすることなく、半歩引いた立場からのチェックを怠ってはならない。フェイクニュースが意図的に流される中、対抗するのはファクト(事実)しかない。言っていることが本当なのか、できるだけ現場に近づいて当事者の話を聞くことが重要だ。紛争地では、当事者に話を聞くと、本人たちが意図しなくても事実が誇張されることがあった。現地に長い時間滞在し、現地の人の生活の場で一緒にものを見て考えることで、間違った情報を正すことができた。自分の見たものでも疑ったうえで、検証する態度が必要だと考えている。

また、2022年5月5日付毎日新聞の記事「ロシアのプロパガンダ、誰が拡散? SNS分析でみえた情報戦の姿」も「情報戦」について興味深い指摘をしていますので、あわせて紹介します。

「ウクライナには米国主導の生物兵器研究所がある」。数年前からSNSなどで繰り返し流れ、「ばかげている」「陰謀論」と米欧諸国が明確に否定してきた誤情報だ。だが、ロシアのウクライナ侵攻前後の1週間で、ツイッターのユーザーが同趣旨の投稿を目にしたのは日本語圏だけでも900万回にも上るという。侵攻を正当化するロシアの主張に沿った情報に共鳴し、拡散しているのは一体誰なのかー。…分析すると、フォロワー数が1万人を超える影響力が大きい20近いアカウント(発信者)が拡散のハブとなっていたことが判明した。…従来分析の対象としてきたアカウントは、主に米国の極右系陰謀論「Qアノン」に共鳴した内容や新型コロナウイルスのワクチンを巡る誤情報を発信していたが、ウクライナ侵攻の直前からロシア政府の主張に沿った投稿を拡散する傾向がみられ始めたという。…日本語のほかロシア語、英語を使い分けて発信を続ける在日ロシア大使館は実は、世界に100近くあるとみられるロシア政府の公式アカウントのうち「最も影響力ある」アカウントの一つだ。…ロシアの侵略を正当化する誤情報を含む投稿は、「ボット」と呼ばれる自動プログラムの使用が疑われるアカウントでも拡散が促進されていたという。…SNS時代の情報戦にあって、言論の自由と、自由さゆえの危険性とのバランスをどう取っていくか―。平教授は語る。「ロシアはデジタル版『鉄のカーテン』をおろして国内で言論を弾圧する一方、国外に対しては、自由な情報の流通という民主主義国家の価値に“ただ乗り”し、偽情報を使った情報戦で混乱を引き起こしている。一方で、このような強権国家に対処するために行き過ぎた規制をとれば、民主主義社会の価値観を損ねかねない。私たちは『寛容のパラドックス(逆説)』の問題にリアルに直面している

以前の本コラムでも取り上げましたが、米国発のツイッターやインスタグラム、フェイスブック、ユーチューブ、中国発のティックトックなどSNSを運営する海外のIT大手が日本で法人登記をしていない問題が、誹謗中傷への対応の大きな壁となっています。SNS上で、匿名で誹謗中傷を書き込まれたり、偽情報を流布された場合に泣き寝入りせず、相手に謝罪や損害賠償を求める「被害回復」の手続きのハードルをあげているのが、海外SNS企業の無登記問題なのです。例えば、海外にあるSNS事業者の本社を相手にした手続きが必要でも、日本に登記がなければ、海外から法人登記にあたる書類をとりよせるだけで何カ月もかかる例があり、その間に中傷投稿の通信記録が消えてしまうことも問題やその費用の高さが指摘されており、日本国内に法人登記があれば、そうした手続きが迅速になると考えられます。また、こうした企業は物理的な拠点がなくても国境を越えてサービスを展開でき、日本法人はマーケティングや広報などの限定的な役割しか持っていないことが多く、中核のサービスを担う本社が未登記のままだと、政府にとっても事業の実態が把握しづらいという課題もあります。こうした問題をふまえ、2022年3月末、法務省と総務省が連名で、きちんと登記をするよう各社に一斉要請しています。今後、法人登記がきちんとなされるようになれば、誹謗中傷の被害申し立てが飛躍的に増える可能性が指摘されています。2022年4月25日付朝日新聞で、上智大学法学部の森下哲朗教授(国際取引法)は「SNS企業は国内の利用者との間ですでに相当なボリュームの取引をしており、現行法上は登記が必要な事例に当たるのではないか」と指摘していますが、一方で、メタ社の日本法人の広報担当者は取材に対し、「日本国内で継続的なビジネスはしていない」としたうえで、日本政府からの要請については「現在、その事実、経緯及び趣旨の確認をお願いしている状態で、回答を控えさせていただく」と回答、グーグル日本法人の広報担当者は「コメントはありません」、ツイッター日本法人も「コメントは差し控える」と回答し、取材には応じなかったといいます。今後の各社の対応、国としての対応を注視していきたいと思います。

その他、最近の誹謗中傷を巡る報道から、いくつか紹介します。

  • SNSで中傷を受け、2020年5月に亡くなったプロレスラーの木村花さんの母・響子さんをインターネット上で中傷したとして、警視庁杉並署は、東京都内の40代の男を名誉毀損容疑で東京地検に書類送検しています。報道によれば、男はネット上の掲示板で響子さんを中傷する書き込みをしたとされます。響子さんは花さんの死後、誹謗中傷の被害を防止する活動をしており、杉並署は2021年9月、響子さんへのほかの書き込みについて、別の都内の40代男を侮辱容疑で書類送検しています。その響子さんについては、前述の対談のほかにも幅広く活動しており、直近では、刑法の侮辱罪厳罰化を審議する衆院法務委員会で参考人として意見陳述しています。報道によれば、被害者は普通の生活ができないほど心が壊されているとし「言論の自由に見合った責任を伴わせるべきだ」と厳罰化を訴えています。現行の法定刑は「拘留(30日未満)か科料(1万円未満)」であり、投稿した人は科料9,000円の略式命令を受け「軽すぎる」との批判が上がり、響子さんも厳罰化を訴えてきたものです。政府は「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」を追加し、時効が1年から3年に延長となる刑法などの改正案を今国会に提出しています。なお、立憲民主党会派は、政府案の法定刑引き上げは表現の自由を脅かす一方、ネット上の誹謗中傷対策として的確ではないと指摘、新たに「加害目的誹謗等罪」を設ける対案を衆院に提出しています。人格を加害する目的で他者を誹謗、中傷した場合に拘留や科料を科す、すもので、加害目的誹謗等罪では、公共性や真実性などが認められる場合は罰しないとし、こうした特例を設けることで、政治家への正当な批判などは罰せられないとしています。今後の審議の行方が注目されます。
  • ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、千葉市で飲食店を営むロシア出身の親子が、行政の手続きを手伝ったり、通訳を買って出たりなどウクライナからの避難民の支援に取り組んでいると報じられています。現状、戦争も終わりは見通せず、ロシア出身というだけで中傷も受けたといいますが、「私たちにできることは全てやりたい」と述べています。報道によれば、インスタグラムには、「母国に帰れ」「まだ日本にいたのか」などの心ない言葉が書き込まれたほか、4月中旬にも店に匿名の電話があり、「帰れ」と連呼される嫌がらせを受けたといいますが、一方で、支援活動について知っている周囲の人たちからは「負けないで」「自信を持って頑張って」など温かい励ましの言葉をかけられているということです。「国と国が争っても人と人は別だし、憎しみ合ってはいけない。どの国に生まれ、どこに住んでいても平和に暮らせる世界になってほしい」との言葉は真実そのものだといえます。また、このような在日ロシア人に対する誹謗中傷について、自民党の佐藤正久外交部会長は、「プーチン政権と在日ロシア人を同一視してはいけない。絶対あってはいけないことで、日本の品格も問われる」と述べ、政府に対策を求めています。JR恵比寿駅でロシア語の案内表示が紙で隠された事例などを問題視したものですが、佐藤氏はJR恵比寿駅の案内表示以外にも在日ロシア人に対する嫌がらせが発生していると指摘、「料理店を営んでいるロシア人の方のSNSに『母国へ帰れ』という書き込みがある。早急な対策を求めていきたい」と語っています。政治家がきちんと言葉にして国民に対してメッセージを発信することが、今、求められていることだといえます。
  • 東京・池袋で2019年4月に高齢ドライバーが起こした暴走事故の遺族・松永さんを匿名のツイッターで中傷したとして、警視庁は、愛知県の無職の男を侮辱容疑で書類送検しています。報道によれば、男は、事故で妻と娘を失った会社員・松永さんのツイッターの投稿に対し、「金や反響目当てで闘っているようにしか見えませんでした」などと書き込み、公然と侮辱した疑いがもたれています。任意の調べに容疑を認めたが、動機については明確な説明をしていないといい、松永さんが警察に相談することをツイッター上で明かすと、男は書き込みを削除していたといいます。警視庁は松永さんから被害届を受け、書き込みの記録などから男を特定したものです。
  • インターネット上で中傷されたのは不当な差別的言動にあたるなどとして、川崎市の多文化総合教育施設「市ふれあい館」館長で在日コリアン3世の崔さんが、投稿した男性に慰謝料など305万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が横浜地裁川崎支部であり、男性側は請求棄却を求めています。報道によれば、男性は2016年6月、自身のブログで「崔江以子、お前何様のつもりだ!!」とのタイトルで「日本国に仇なす敵国人め。さっさと祖国へ帰れ」などと投稿、その後も約4年にわたり、ブログやツイッターで「被害者ビジネス」などと中傷を繰り返したというものです。男性側は答弁書で「自らの心情を表現したに過ぎず、差別的意識を助長、または誘発する目的ではなかった」と反論しています。
  • 総務省は、インターネット上の誹謗中傷対策を検討する有識者会議で、3月に実施した日米IT大手5社への聞き取り結果の追加内容を公表しています。日本国内で削除した投稿数が、米メタは運営するSNSで2021年に計約15万件に上ったことが明らかになっています。メタの回答によると、削除数はフェイスブックで約5万件、インスタグラムで約10万件だったというこです。総務省は3月、ヤフー、LINE、米グーグル、米メタ、米ツイッターの5社に削除数などの聞き取りを実施、メタは当初、国内での削除数の回答を控えていたが、姿勢を転換しましたが、ツイッターは非公開のままとなっています。

神戸市の久元喜造市長は、自身のツイッターに「事実無根、あるいは歪曲された書き込みに悩んできました。もう限界です」、「近日中にアカウントを削除します」と投稿、デマ情報に基づく批判などに悩んでいたといい、フェイスブックなど他の媒体での発信は続けるといいます。米テスラのイーロン・マスクCEOが米ツイッター社を買収することに触れ、「状況はさらに悪くなるでしょう。この辺が潮時かもしれません」と述べ、アカウントを削除する考えを示しました。久元氏は2013年7月にアカウントを開設し、現在のフォロワー数は約3万人おり、「市長としての考えなどを発信してきたが、最近は事実無根の返信が目立つようになり、ツイッターを続けることにどれほどの意味があるのかと感じるようになった」と説明しています。関連して、神戸新聞が本件を受けて、兵庫県内の首長のツイッター利用状況を調査し、公表しています。それによると、兵庫県知事と県内41市町長のツイッターの利用を調べたところ、定期的に情報を発信しているのは4人のみであり、トップが施策や考えを直接伝える貴重な手段である一方、匿名利用者の多さから根拠のない批判にもさらされている実態が指摘されています。なお、実名での登録が原則のフェイスブック(FB)も活用は11人にとどまっているということです。また、かつてツイッターも使っていた加古川市長は「絡みつくようなツイートが少ししんどくなった」とアカウントを閉じ、FBをメインにするとしたほか、SNSを使っていない尼崎市長は「ツイッターはタフさが必要。発信した以上、反応も無視できない」としつつ、「ツイッターを情報源とする人も増えており、利用を検討したい」としています。また、小野市長は「公人なら議会や会見など公の場で考えを発信すべきだ」との考えを示し、豊岡市長は「元々SNSに慣れておらず、市政のことであれば広報紙などでも発信できる」としたほか、神河町長のように写真共有アプリ「インスタグラム」を使っている首長もいると報じています。

その他、海外における誹謗中傷/偽情報等に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • フィリピンでは、大統領及び副大統領、上院議員と下院のうち300議席、さらに地方議会18,000議席を決める5月9日の選挙が迫っています、メディア各社のほか、大学や市民団体、弁護士や教会の指導者たちによって、連携してファクトチェックを試みる仕組みがいくつも生まれていると報じられています(2022年4月29日付ロイター)。選挙関連のデマに対抗する前例のない取り組みで、こうしたファクトチェック機関の1つによれば、ネット上に流れる間違った情報の半分近くは、現職の副大統領ロブレド氏を標的とし、故マルコス大統領の長男マルコス氏を利するものだといいます。さらに、報道では、特に影響力が強いのは動画投稿アプリ「TikTok」で、より遊び心に富むフォーマットで、フィリピンの有権者の半数以上を占める若者世代に親しまれているとし、フェイスブックとユーチューブも、デマを拡散する主要なチャネルになっているといいます。そして、「偽情報を利用した選挙運動は広がり、当然のように行われている。ファクトチェックする側が把握する頃には、すっかり拡散されている。レベルの低い荒らし投稿を追跡するのはモグラ叩きゲームのようなもので、背後にいる有力な黒幕が責任を問われることはない」との専門家の指摘が大変印象的です。なお、フェイスブックの親会社であるメタは4月初め、フィリピンの選挙に関連した400以上のアカウントやページ、グループで構成されるネットワークを排除したと発表、メタによれば、同社は「有害なコンテンツやネットワークを確認次第削除する」ため、新しいプロダクトの構築とより強力なポリシーの導入を完了し、フィリピン国内の専門家を含む専任チームを備えているとしています。グーグルとユーチューブは候補者情報パネルを導入し、ファクトファーストPHによるファクトチェックの共同作業を支援、ユーチューブ社は2021年2月から2022年1月にかけて、フィリピンからアップロードされた40万件以上の動画を削除したということです。ソーシャルメディア・プラットフォームによるコンテンツ適正化ポリシーに対しては、世界的にますます厳しい目が注がれるようになっており、フェイスブックがウクライナ侵攻を受けてルールを変更する一方、ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャは2021昨年、2017年の虐殺の原因となったと彼らが指摘するヘイト投稿を規制しなかったとしてフェイスブックを提訴する事態も起きています。そして、フィリピン・カトリック司教協議会の会長パブロ・デビッド司教の「来たる選挙における最も重大な課題の1つは、真実を守るという道徳的な要請なのだ」「すべてのキリスト教徒にとっての道徳的な義務は、真実を守ることだ」との指摘は正鵠を射るものであるとともに、大変重いものだと感じています。
  • ツイッターは、フェイクまたはスパムアカウントが1日当たりのアクティブユーザー(DAU)数に占める割合が第1・四半期は5%以下と推計しています。第1・四半期のDAUは2億2,900万人で、ツイッターを買収するイーロン・マスク氏は、ユーザーに広告など不要なメッセージを一方的に送り付ける「スパムボット」をツイッター上から排除することを優先課題の一つに位置付けていますが、当局への報告書でツイッターは、マスク氏の買収契約が完了するまで、広告主がツイッターに広告を出し続けるかや、「将来の計画や戦略に関する潜在的不確実性」といったいくつかのリスクが存在すると説明しています。
  • ロシアの裁判所は、ツイッターが禁止されているコンテンツをサイトから削除しなかったとして、300万ルーブル(約450万円)の罰金を科しています。報道によれば、ツイッターは火炎瓶の作り方を記した投稿など、ロシアで禁止されているコンテンツを削除しなかったといいます。これに先立ち、動画投稿サイト「ユーチューブ」から禁止コンテンツを削除するのを拒否したとして、ロシアがグーグルに同額の罰金を科したとも報じられています。さらに、それに先立つ4月21日、ロシアの首都モスクワの地方裁判所は、グーグルに1,100万ルーブル(約1,650万円)の罰金の支払いを命じています。ウクライナ紛争を巡る「偽情報」とウクライナの極右団体が作成したユーチューブの動画を削除しなかったとして、有罪判決を下していますた。さらに、4月15日、ロシアの裁判所がグーグルに最高1,200万ルーブル(約1,800万)の罰金を科すと報じられています。「ウクライナの特殊作戦に関する偽の情報を削除しなかった」ことが理由だといいいます。また、ロシアの裁判所はインターネット上の百科事典「ウィキペディア」を運営する米国の非営利団体「ウィキメディア財団」に対しても、同じ理由で最高800万ルーブル(約1,200万円)の罰金を科すということです。
  • 本コラムでも以前取り上げましたが、米フェイスブックの元従業員、フランシス・ホーゲン氏が持ち出した膨大な文書による内部告発は、世界に衝撃を与えました。社会の分断を生む投稿表示のアルゴリズム、若者心理に与える悪影響など提起した問題は多く、巨大SNSに、私たちはどう向き合っていけばいいか考えさせられます。ホーゲン氏のインタビュー記事(2022年4月16日付朝日新聞)にそのヒントがいくつか示唆されています。例えば、「『私たちは表現の自由の守護者で、対応できることはない』と言うほうが、ずっと簡単です。ただ、問題は企業としての責任で、企業として力を持つ以上は責任があることも認めないといけない。実際、SNS企業は、利用者が他人の投稿をどのぐらい簡単に『リシェア(再共有)』すべきかを決められます。ツイッターでは、他人の投稿をリツイートする前に、その投稿のリンクをクリックしてみるように求めています。FBだって、再共有する前に、30秒待たないといけなくすることもできるはずです」、「こうした対応にはトレードオフがあります。このような議論をすべきだということを、FBは私たちに気づいてほしくない。今のシステムのほうが断然、利益が出るからです。FBは利益を1~2%ほど減らすだけで、おそらく75%の偽情報を減らせるでしょう。そのコストは、大して高くはありません」、「FBは2020年秋の米大統領選後、私が当時いた(偽情報やヘイトスピーチに対処する)部署を解散しました。その時、FBは大統領選での(SNSが社会を分断した)教訓を忘れたのだと感じました。路上で血が流れるようなことは起きず、FBは成功したんだと。リスクの大きさを無視したのです。でもその後、翌年1月に米議会の襲撃事件が起きました」、「私は科学者の子どもで、真実とは自分で見えるものだと信じていました。偽情報のエコーチェンバーの犠牲になっていく人と話すと、いかに人間が、事実について社会的文脈の影響を受けやすいかに気づきます。『教育を受けた賢い人はそういう状況には陥らない』と考えがちで、身近な人が過激な考えを持つのを体験したことがない人には、理解しづらいのですが」、「『政府が国民に毒を盛った』などと信じ始めるのは、本人にとっても苦痛です。こうした経験をした人を理解しようとすれば、いかにプラットフォーム企業に責任があるかわかります。なぜなら、彼らの製品は中毒性があるように作られているからです」、「内部告発者に求められる能力として、まず自分が見ているものが真実だと信じる必要がある。これは過酷なことです。既存のシステムは足並みをそろえて、あなたに『それは真実ではない』と言ってくる」、「FBは『最も見られた投稿』についての報告書を、米国でしか出していません。しかも、今は上位20の投稿だけ。もし上位1千の投稿を公開したら、ひどい投稿がこんなに上位に来ているのかといった怒りの声が上がるでしょう。FBが公開しないのは、私たちに見てほしくないからです。要求されても、こうした情報を公開しない事実自体が、FBがいかにめちゃくちゃかを示しています」、「楽観的なのは、SNSをより安全にする方法があることを知っているからです。いまでは、脱・中央集権主義的なプラットフォームや『正しいやり方でやろう』という企業も出てきている。(情報公開の義務づけなどで)FBの動機を変えられれば、行動も変えられると信じています」などです。大変示唆に富む内容が多いと思います。
  • EU加盟国と欧州議会は、米巨大IT企業にプラットフォーム上の児童ポルノやデマ、差別などを含む違法コンテンツの取り締まり強化を求め、違反した場合は重い罰金を科す「デジタルサービス法(DSA)」案で合意しています。2024年に施行されるといいます。報道によれば、法案の取りまとめを担当したEUのベステアー欧州委員(競争政策担当)は、「DSAで合意に達した。これによりオフラインで違法なものは、オンラインでも違法とみなされて取り扱われる。スローガンではなく現実の対応だ」とツイッターに投稿しています。DSAは、アルファベット傘下グーグルやメタなどの巨大プラットフォーム企業を対象として想定しており、グーグルは、「法律が最終的に施行されるにあたりディテールが重要だ。誰にとっても機能するよう残る技術的な詳細面の取りまとめに向け当局と協力していきたい」との声明を出しています。なお、月間利用者が4,500万人未満の企業は、義務の一部が軽減されるとしていますが、DSAに違反した巨大IT企業は、世界全体の売上高の最大6%の罰金を科されることになり、度重なる違反行為に対してはEU域内での運営が禁止される場合もあるとされます。また、子供を対象としたり、宗教や性別、人種や政治的意見などのセンシティブな情報を基にしたターゲット広告は禁止されることになるほか、ユーザーが意図しないまま個人情報を入手する「ダークパターン」と呼ばれる詐欺的な手法も禁止、利用者の興味に合いそうなコンテンツを表示させる「レコメンド機能」も透明性を高め、利用者が使うかどうかを選べるようにすることを義務付けられることとなります。このほか危機が発生した際に一定の対策を取ることを巨大プラットフォームや検索エンジンに義務付けており、これは、ロシアによるウクライナ侵攻と、関連する偽情報の拡散を受けて設けられたものだといいます。2022年4月23日付読売新聞で、EU法に詳しい米コロンビア大ロースクールのアニュ・ブラッドフォード教授は「偽情報にどう対応するか、大手IT企業は説明責任を負うことになる。各国政府は有害情報の拡散防止を模索しており、EUの決定は規制のひな型となるだろう」と指摘しています。また、テロ関連やヘイトスピーチなどの不適切な情報の拡散を防ぐ動きは、英国でも進んでおり、英政府は3月、有害な情報を規制する「オンライン安全法案」を議会に提出、政府はIT事業者に対して有害な情報に対応することを求めるほか、事業者に対する監督や評価は独立機関が担当し、問題があれば事業者には罰金を科す内容となっています。報道で専門家は「欧州は偽情報の拡散が大きな問題になったことが早期の立法につながったとみられる。一方で、米国は表現の自由を何より重視する。表現の自由を守った上で、不適切な情報の問題にどのように対応していくか、議論は難しさがある」と指摘しています。なお、EUは3月、巨大IT企業が独占的地位を利用してオンラインビジネスを行うことを制限する「デジタル市場法(DMA)」の制定でも合意しています。DMAは日本における独占禁止法に当たる競争法の観点から市場寡占を事前に防ぐことを打ち出しており、成長スピードが速く、市場の独占・寡占が生じやすいデジタル産業に対し、事後的な介入では対応が難しいことをふまえたものとなります。巨大IT企業を「ゲートキーパー」と位置づけ、規制対象とするものです。巨大IT企業を巡っては、個人情報や消費者の保護、著作権侵害の予防などのほか、新規参入しやすい市場の維持、表現の自由確保、民主主義の基盤維持など、幅広い課題や役割が指摘されています。EUは2つの法案を組み合わせ、消費者がたくさんの選択肢の中から安全なサービスを選べる環境を整備し、域内の産業育成を進めることも狙っています。
(7)その他のトピックス
①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(暗号資産)を巡る動向

世界最貧国の一つの中央アフリカの議会が、代表的な暗号資産であるビットコインを法定通貨とする法案を全会一致で可決したと大統領府が発表しています。本コラムでもたびたび取り上げているとおり、ビットコインの法定通貨化は中米エルサルバドルが世界初となりますが、それに続き、2カ国目となります。そもそも暗号資産は自国の通貨の信用が低く、ドルなどの外貨にアクセスしにくい国で発達する傾向にあります。中央アフリカは金やダイヤモンドの埋蔵量が豊富である一方、紛争が長引いて経済低迷が続いており、報道によれば、大統領府高官はビットコインの導入で「国民の(経済)状況が改善する」と強調しているということです。ビットコインは外国から送金する際の手数料を減らせるなどの利便性があるほか、銀行口座を持たない人々を金融システムに取り込む「金融包摂」の観点からの役割が期待される一方、その採掘(マイニング)には膨大な電力が必要であり、気候変動リスクを助長しているとの指摘や、そもそも公的な裏付けがなく、変動幅が大きいため法定通貨として採用するには不向きとの指摘もあり、国際通貨基金(IMF)は2022年1月、金融の安定化などを図る上で大きなリスクがあるとしてエルサルバドルに法定通貨として利用するのをやめるよう要求したと発表していました。先行したエルサルバドルにおいても、前回の本コラム(暴排トピックス2022年4月号)で紹介したとおり、「財政赤字はもはや持続不可能な水準だと投資家が懸念する中、同国の国債はこの1年の間にジャンク(投資不適格)級に転落、IMFによると、2022年の財政赤字は国内総生産(GDP)の5%に達する可能性がある」状態で、「ブケレ大統領は国のビットコイン保有高を少なくとも10億ドルに増やし、ホンジュラスとの国境付近に火山の地熱発電でマイニングの電力をまかなう「ビットコインシティー」を建設する資金に10年債のビットコイン債「ボルケーノボンド(火山債)」を充てようとしていましたが、ロシアのウクライナ侵攻や暗号資産のボラティリティーを受けて延期を決定」するといった社会経済情勢への変化に翻弄される実態も浮き彫りになっています。正にVUCAの時代にあって、エルサルバドル・中央アフリカの両国にとって、今後どのような変化が生じるのか、推移を見守りたいと思います。

直近では、暗号資産を巡る情勢について朝日新聞が特集しています。北朝鮮による暗号資産の巨額窃盗やロシアの関与する闇取引サイトの摘発、P2P取引による監視の困難さ、本コラムで以前より指摘している「現金化という「出口」への徹底的な対策の必要性」、ロシアや北朝鮮に対する経済制裁に向けた規制強化など、国際的な経済制裁の抜け穴となりかねない状況と規制の動向が解説されており、大変参考になります。以下、3つの記事から抜粋して引用します。

「巨額の盗難続く暗号資産 国連、北朝鮮のミサイル資金源の可能性示唆」(2022年4月23日付朝日新聞)
世界的に暗号資産への監視が強まる。背景には巨額の盗難事件が続いていることもある。昨年8月には日本の交換業者が不正アクセスを受け、ビットコインなど約70種類、計100億円超が流出した。米調査会社は北朝鮮に関係するハッカー組織の関与を指摘する。被害があったのは、暗号資産関連事業を展開する「リキッドグループ」(東京)。子会社で交換業者大手の「QUOINE」とリキッドのシンガポール現地法人「QUOINE Pte」(社名はいずれも当時)から、約100億円分が流出した。リキッド側によると、盗まれた暗号資産は自社の資産管理用だ。顧客から預かった資産は分けて管理していたという。会社側は当局に報告し、回収に努めていくとしている。米調査会社「チェイナリシス」はこの事案について、北朝鮮に関係するハッカー組織が主導したとする分析を1月に公表した。「ラザルス」とよばれるグループが関与し、過去に北朝鮮関係の組織とのつながりがあった口座が利用されていたという。…チェイナリシスの報告書によると、北朝鮮に関係するハッカー組織は昨年1年間に各国の交換業者などから7件、計約4億ドル(約513億円)分を奪った。国連安全保障理事会の専門家パネルは、対北朝鮮制裁に関する年次報告書でこの報告を引用。ミサイル開発などの資金源となっている可能性を示唆した。FBIなどは最近、北朝鮮に関係するハッカー組織の動きが活発化していると警告している。米司法省は昨年、情報機関に所属するハッカー組織が銀行や暗号資産業者にサイバー攻撃をしていると指摘していた。チェイナリシスで調査を担当するエリン・プラント氏は取材に「北朝鮮に関係する組織の脅威は継続的で増大している。暗号資産の市場が成長するなか、盗んだ資産を少しずつ計画的に現金化している」と述べた。業者は安全対策を最優先すべきだと呼びかける。昨年まで国連安保理北朝鮮制裁委の専門家パネル委員を務めた元防衛官僚の竹内舞子氏は、北朝鮮は外貨獲得の手段としてサイバー空間での活動の比重を高めているとみている。「暗号資産の窃取は、実行者やそれを組織する国家の特定が難しい。北朝鮮については日本は安全保障上最も大きな影響を受ける国の一つだ。資金獲得手段を研究し対策に力を入れる必要がある」と話している。 国内ではこれまでも不正アクセスによる被害はあった。14年にマウント・ゴックスから当時の価格で約465億円分、18年にコインチェックから約580億円分が流出している。18年にはテックビューロの「Zaif」から約67億円、19年にもビットポイントジャパンから約30億円が流出した。実行者を特定するのは難しく、犯人が捕まらない事例もある。
「「ロシア制裁への抜け穴」監視強化 暗号資産、世界最大の闇サイトも」(2022年4月23日付朝日新聞)
国際的に取引されている暗号資産への監視が強まっている。ロシアへの経済制裁をめぐり「抜け穴」になる恐れがあるとして、米国や日本など主要7カ国(G7)は対応を急ぐ。不正アクセスによる巨額盗難もあり安全性も問われている。日本は暗号資産にかかわる規制強化を一部前倒しする。外国為替及び外国貿易法(外為法)の改正が20日成立した。速やかに施行する。暗号資産の交換業者に、制裁対象者が売買に関わっていないかどうか事前に確認を義務づける。貿易上の優遇措置の撤回なども盛り込む。米財務省は、ロシアが拠点とされる闇取引サイト「ヒドラ」を制裁リストに加えると5日に発表した。ドイツ当局と連携してドイツ内にあったヒドラのサーバーを止め、代表的な暗号資産であるビットコイン2500万ドル(約32億円)相当も押収した。ロシアの交換業者「ガランテックス」も制裁対象にした。ヒドラは世界最大の闇取引サイトとされ、ロシアの業者が暗号資産を受け取る経路になっていたという。イエレン財務長官は声明で「闇サイトもロシアも、世界のどこにも隠れることはできない。これは犯罪者たちへのメッセージだ」とした。米バイデン政権は、脱税やマネー・ローンダリング対策として、チェックを厳しくしてきた。昨年5月には1万ドル(約128万円)以上の取引について報告を義務づけた。暗号資産が絡む犯罪の専門捜査チームも司法省につくった。今年3月には、暗号資産を含むデジタル資産と技術のリスクに対処する大統領令に署名した。G7も監視強化で合意している。ウクライナ侵攻を受けて、各国はロシアの銀行を国際的な決済ネットワーク「SWIFT」から切り離した。ロシア政府の高官やオリガルヒと呼ばれる新興財閥経営者らの資産も凍結した。3月11日のG7会合では、暗号資産も預金などと同じく凍結対象であるとの認識を共有。今月20日にあったG7会合では日本など一部から言及があり、「制裁の回避を防ぐため緊密に連携する」との全体的な方針を再確認した。暗号資産を利用することで、個人が資産凍結を回避するのは防ぎきれないと専門家はみている。決済全体の管理者がおらず、国を超えて匿名ですぐに取引できるためだ。各国とも交換業者に取引先の確認を求めるなど、現金化への「出口」を協力して塞ごうとしているが効果は不透明だ。欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は、国際決済銀行(BIS)の3月の会合で「暗号資産がロシア制裁の抜け穴になっている」と述べた。
「暗号資産大国ロシア、侵攻前後に動いたルーブル 強みは安い電気代」(2022年4月23日付朝日新聞)
世界的に監視が厳しくなるなか、業界では規制を警戒する意見も根強い。…日本は主要国と歩調を合わせ規制を強めている。外国為替及び外国貿易法(外為法)の改正が20日に成立した。外為法は2020年の通達で暗号資産も規制の対象に含めていた。今回は、対象者の口座から第三者への資金移転も規制対象になる。交換業者には取引相手の事前確認を義務づける。日本は昨年8月、国際組織「金融活動作業部会」(FATF)から、資金洗浄などへの取り組みが不十分だと判定されていた。…自主規制団体である日本暗号資産取引業協会(JVCEA)は今年4月に、新たなルールの運用を始めた。交換業者を通じて暗号資産を送る場合、受取人の氏名を申告してもらう。10月からは受取人の住所などの申告も求める。JVCEAとしても政府に協力していく方針だが、業者には個人情報の取り扱いなどが負担となる。業界関係者は「ロシア制裁を口実に規制が強まる恐れがある。管理コストが上がれば利用者が海外の業者に流出するだけだ」と漏らす。暗号資産の監視は日本にとって重要な課題だ。弾道ミサイルの発射で制裁を受ける北朝鮮が、外貨を獲得する手段にしてきたとされるからだ。…国内の大手交換業者のディーカレットで取引責任者を務める前田慶次さんは「利用者保護のためにルールは必要だが、不正の多くは追跡できる。規制強化だけでなく、業界として不正アクセスの防止などに取り組むべきだ」と話す。ロシアでは暗号資産の取引が活発になっている。ロシアの通貨ルーブルとの交換が、2月24日のウクライナ侵攻の前後に増えた。…経済制裁が発動しても、ロシアの利用者を排除するのは簡単ではない。バイナンスは制裁対象者の取引は遮断すると表明しているが、「罪のない何百万もの口座を凍結することはない」としており、どこまで対応できているのかわからない。バイナンスは最近、国連安保理のロシア非難決議で中国などとともに棄権したアラブ首長国連邦(UAE)を拠点にしようとしている。こうした動きが、規制をめぐる国際的な駆け引きにもつながりそうだ。マネックス証券の大槻奈那専門役員は「暗号資産は不動産などと並ぶ投資先の一つになりつつあるが、個人で管理することもできるため規制は難しい。誰もが匿名で平等にアクセスできる仕組みが正義だという考え方が、暗号資産の世界にはある。ロシア勢はこうした仕組みを利用して、マイニングによる利益獲得を戦略的に進めてきたのかもしれない」とみる。

すでに少し触れいてるものもありますが、最近の暗号資産に関する報道から、いくつか紹介します。

  • 米財務省は、暗号資産の匿名性を高める「ミキシング」サービスを行う業者「ブレンダー」に制裁を科すと発表しています。ミキシングを行う業者に制裁を科したのは初めてであり、北朝鮮によって利用され、大規模な暗号資産盗難に関与したと非難しています(なお、北朝鮮のハッカー集団は捜査当局の追及を逃れるため、他の暗号資産に変換した上で他人の暗号資産と混ぜる「ミキサー」と呼ばれるプログラムを使っています)。さらに、北朝鮮のハッカー集団「ラザルス」がマネー・ローンダリングに使用した新たなデジタル通貨のアドレスを特定したと発表しています。財務省は、前述した人気オンラインゲーム「アクシー・インフィニティ」を巡る数億ドル相当の暗号資産盗難について、北朝鮮ハッカー集団が関与しているとの判断を示していました。ネルソン財務次官(テロリズム・金融情報担当)は声明で「北朝鮮による不正な金融活動に対し行動を取る」と言明しています。
  • 米財務省は、ロシアの制裁逃れに関与したとして同国に拠点を持つ暗号資産のマイニング業者を新たに制裁対象に指定しています。米財務省がマイニング業者を対象に加えるのは初めてとなります。バイデン米政権はロシアが戦争を継続できないよう外貨調達などの手段をふさぐことを目指していますが、報道によれば、マイニング業者はロシアの天然資源を現金化するのに貢献したという理由で制裁対象に加えられたとのことです。マイニング業は機器を冷却するのにコストがかかるため、もともと寒冷な気候のロシアで盛んであり、ロシアのトランスキャピタル銀行やオリガルヒと呼ばれる40以上の個人や企業も制裁逃れへの関与を理由に指定しています。同銀行は中国を含むアジアや中東の金融機関にサービスを提供しており、制裁対象となっているロシアの顧客のドル決済を手伝おうとしたということです。
  • 暗号資産取引所大手のバイナンスは、EUの対ロシア制裁を受け、1万ユーロ(10,912ドル)を超える暗号資産を保有するロシア国民へのサービスを制限していると明らかにしています。対象となるロシア国民および同国内の法人は、ポジションを閉じるために90日間の猶予が与えられたほか、口座も引き出し専用になるということです。なお、前述の指摘にもあったように、バイナンスはUAEにしようとする動きがあるとのことですが、UAEは最近、FATFからAML/CFTが十分でないとして「グレーリスト」に登録されたばかりであり、ロシアや北朝鮮の制裁対象関係者からの資金の流入など、抜け穴とならないか、AML/CFTの観点からも懸念されるところです。
  • 暗号資産の利用者がアフリカで急増しているとの報道がありました(2022年4月20日付日本経済新聞)。個人や企業の間での送金や決済などで使われ、1月までの1年間にビットコインを含む暗号資産の利用者数が25倍になったということです。衝突が続くロシア、ウクライナなどでも利用が増え、価格急落が起きにくい状況となっており、金融アセットの一つとして立ち位置を固めつつあると指摘されています。また、シンガポールに拠点を置く暗号資産交換所クーコインの調査によると、アフリカで1月までの1年間に暗号資産の取引件数は約15倍、利用者数も25倍に急増、物品の売買などの1万ドル未満の取引が9割近くを占めており、特に増えているのが取引所や金融機関を介さず個人や企業の間で直接やりとりするピア・ツー・ピア‘(P2P)取引だといいます。取引所を介した取引が世界で1日10億ドル前後に対し、P2Pの割合は数%程度ですが、5年ほど前はほぼゼロだったP2Pの成長余地は大きく、増加が目立つのがケニアやナイジェリア、投機だけでなく送金・決済などの実需が価格を支えている側面もあるということです。
  • 欧州の暗号資産業界の幹部46人が、EUの業界規制強化に異を唱える書簡を送ったと報じられています(2022年4月20日付ロイター)。EU欧州議会は3月、暗号資産規制を強化する法案を可決、法案は、暗号資産を扱う企業に対し、送金時に送金者や受取人の詳細情報を収集することを義務付けました。EUの財務相宛ての書簡では、マネー・ローンダリング対策の国際基準を策定する金融活動作業部会(FATF)に基づき既に実施されている規則を超える規制をしないよう要請、法案は取引の詳細などの公開によって暗号資産保有者のプライバシーと安全性を低下させ「保有者を危険にさらす」と指摘しています。また、EUは、域内で暗号資産を扱う全ての発行者とサービス提供者を規制する広範な枠組み「MiCA」を導入する方針ですが、書簡は、分散型金融(DeFi)を含む分散型プロジェクトについて、法人登録義務の対象から除外するよう要請、一部のステーブルコインをMiCA規制の対象とすべきではないとしています。
  • スイス国立銀行(SNB、中央銀行)のジョルダン総裁は、準備通貨としてビットコインを購入・保有することに反対すると述べています。報道(2022年5月2日付ロイター)によれば、総裁は中央銀行の年次総会で「ビットコインの購入に問題はない。直接購入もしくはビットコインに基づく投資商品の購入が可能だ。バランスシートにビットコインが必要だと判断すれば、比較的早期に技術的な条件と運用面の条件を整えることができる」と指摘した上で、「だが、現時点ではビットコインが準備通貨の要件を満たしているとは考えていない。そのため、これまでバランスシートにビットコインを計上しないとの決定を下してきた」と述べています。総裁は、中央銀行がエネルギー・化石燃料企業への投資を全体の10%から3~4%前後に減らしてきたとも指摘、「全ての株式を売却しても、意味はない。他の人が購入するだけだ。重要なのは、経済を変えて二酸化炭素の排出を減らすことだ」とし、「こうしたことは組織的かつ秩序ある方法で行う必要がある。すでに現時点でエネルギーの供給に問題が生じており、エネルギー価格の上昇で特に低所得層が問題を抱えている」と述べています。

AML/CFTの項でも述べたとおり、英の金融界は、租税回避行為や犯罪を助長するような仕組みが残っており、オリガルヒ等の排除に向けて、「グローバルな金融システムを殺すことなく、どう「汚いお金」を取り除いていくのか」が問われている状況にあります(もちろん、英に限った問題ではありませんが)。一方で、英金融界は、暗号資産を新たな起爆剤としたい意向があるようです。このあたりについては、2022年4月15日付日本経済新聞の記事「暗号資産にすがる英政府新たな「金脈」規制後回し」は、痛烈に批判しています。参考になりますので、以下、抜粋して引用します。

さよなら、オリガルヒ(新興財閥)。ようこそ、暗号資産。英財務省が4日に発表した暗号資産分野の成長に向けた取り組みの大枠はこう言っているようにみえた。英政府は西側諸国と足並みをそろえてロマン・アブラモビッチ氏やミハイル・フリードマン氏といったロシア政府との結びつきが強い実業家に対し厳しい制裁を科した。ロシアの富豪の顔色をうかがってきた時代は実質的に幕切れとなった。そうすると英政府は間髪を入れずに、暗号資産関連の取り組み「UKクリプト」に力を入れ始めた。ロンドンの金融街シティーの「資本主義的エネルギーを活用」し英国を「暗号資産を快く受け入れる場所」にすると宣言した。中米エルサルバドルが昨年、ビットコインを法定通貨に採用したことは前代未聞で賛否両論を呼んだ。それ以来、一国の政府がこれほど華々しく暗号資産を取り上げることはなかった。…英財務省が最も熱心に力を入れるのは幅広く支持されているブロックチェーンなどの分散型台帳技術だ。…取り組みのいくつかは効率の向上など英財務省が想定する利点を実際にもたらす可能性がある。だが、ブロックチェーンは大規模展開が難しいという問題を抱えている。以前から批判されてきたように、ブロックチェーンは問題解決に寄与できる技術ではなく、問題を呼び込んでしまうタイプの技術だ。…最先端のイメージを前面に出したいのは結構なことだ。だが、NFT(非代替性トークン)は高額アートを暗号資産で再現したようなものだ。それにこれだけ執着するのは17世紀オランダのチューリップバブルやそれ以降のあらゆるバブルと同様、実体のないものへの熱狂にほかならない。スナク財務相は自身がNFTとの結びつきが強いとみせつけることで、NFT投資家と同じぐらい大きな賭けに出たことになる。…政府が「風説の流布」に相当しかねないソーシャルメディアの乱用を取り締まり、暗号資産業者にリスクをわかりやすく説明する義務を負わせるような措置を講じるのであれば、それは望ましい取り組みだ。しかし、業界にすり寄るような施策を打ち出し、自らNFTを作ってそれを勢いづけることを「望ましい」とは言い難い。さらに、暗号資産への熱狂にはオリガルヒにも似た傲慢さが感じられる。暗号資産は採掘(マイニング)にエネルギーを無駄に消費し、英政府が推進しているはずの環境保護政策と真っ向から対立する。納税の義務にも無頓着で、英歳入関税庁(日本の国税庁に相当、HMRC)から摘発されることはほとんどない(FCAの推定では英国には230万人の暗号資産投資家がいるとされるが、HMRCは売買益に課される税金を納めることを「促す書簡」をわずか8,000人にしか送っていない)。確かに、ビットコインの生粋の崇拝者ならそれこそが暗号資産の存在意義だと論じるかもしれない。そもそも暗号資産は国家が通貨制度を統制することに対する無政府主義的な反抗として考案された。暗号資産が極めて投機的な賭けや、違法薬物の購入や資金洗浄、制裁回避ができる匿名の手段として使われるのは当然なのかもしれない。こうした懸念があれば英財務省は暗号資産に消極的になるだろうと考えるのが普通だ。だが、消極的になるどころか新たな金脈に目がくらんでしまったようだ。2008年の世界金融危機後、現在は解体されている英金融サービス機構(FSA)の長官を務めていたアデア・ターナー氏は金融業界の大半は「社会的に役に立たない」と痛烈に批判した。この表現は現在の暗号資産への熱狂にこそ極めて的確に当てはまる。

最近のCBDC等に関する報道から、いくつか紹介します。

  • 本コラムでもたびたび取り上げていますが、CBDCについて、日銀が実証実験を進めています。3月に第1段階の実験を終え、4月に始めた第2段階では、取引額の制限や複数の口座を持つ場合などの課題を検証、将来は消費者や民間事業者が参加するパイロット実験も検討する方針です。CBDCは中央銀行が発行する電子的通貨で、現金と並ぶ決済手段となることが期待されているところ、日銀は「現時点で発行する計画はない」(黒田総裁)との姿勢を崩していませんが、デジタル技術の発展を背景に欧米を含む海外で制度面の検討が急速に進行しており、日銀の内田理事は、4月に開いたCBDCに関する会合で「発行するとすれば、どのようなデザインになるかを考えていく」と説明しています。日銀の当初のスケジュールどおり、3月まで実施した第1段階の実験では、CBDCの発行、金融機関からの払い出し、金融機関の間での移転などの基本機能についてシステム面の課題などを確認、第2段階では、銀行預金からCBDCへの資金シフトで金融システムが不安定になる事態を回避できるよう、保有額の制限や1回当たりの取引額の制限などの機能を検証する予定となっています。さらに、複数の金融機関にCBDCの口座を持つケースや現金との交換、セキュリティなどに関しても課題を整理する予定です。第2段階は来年3月まで実施され、将来のパイロット実験に備え、どういう形で消費者や企業が関与するかについても併せて検討することとしています。
  • ロシア中央銀行のナビウリナ総裁は、2023年にデジタルルーブルを使った実際の取引を行うと表明しています。報道によれば、デジタルルーブルが国際決済でも利用されるとの見通しも示したということです。ロシアはデジタルルーブルを開発中で、年内にパイロット試験を行う予定です。
  • CBDCとは異なりますが、「お金の地産地消」として、何度もブームになった地域通貨がふたたび注目されているとの報道がありました(2022年5月4日付朝日新聞)。現在の主流は紙の通貨ではなく、スマホを使うデジタル通貨であり、日本全体より人口減のペースが速い北海道は、現物のお金を扱う金融機関も減り、キャッシュレス社会の到来も早いと見込まれる中、自治体や企業が知恵を絞り、独自の取り組みを進めていると報じられています。江差町では、ドラッグストア(サツドラHD)との提携をベースに約40の加盟店を加えた利用が進み、そのシステムを利用した地域通貨の導入を他の自治体にも呼び掛けているといいます。美瑛町では全国で30を超す自治体で導入されている地域通貨プラットドーム「チーカ」を導入、富良野市ではNTT東日本と共同で「健康づくり」に「デジタル健康ポイント」の実証実験を開始、今後、ごみの分別や図書館の利用などへの拡大も展望しているといいます。さらに、「地域」をより広くとらえ、北海道内全域で使えるデジタル地域通貨をつくろうという試みも始まっているようです。企業間取引にも使える大規模な通貨をイメージしており、導入へのハードルは高いものの、関係者は「2025年には道内自治体の半分以上は人口が5,000人以下になると推定されている中、生活や行政サービスを成り立たせるためにもあらゆるシーンでデジタル化が必要だ。オール北海道で取り組む」と話しており、今後の展開が注目されます。このような地域通貨とCBDCとの関係性をどう整理していくのかも今後の検討課題となるといえます。
②IRカジノ/依存症を巡る動向

カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致を巡り、和歌山県は県議会の承認が得られず断念、大阪府、長崎県が期日までにIR実施法に基づく区域整備計画を国に申請しました。2府県の試算ではIR運営による年間の経済波及効果は計約1兆4,700億円で、来訪者数は同約2,670万人を見込むほか、事業者から自治体に入る納付金・入場料は同約1,450億円で、同額が国にも納付されることになります。政府は2030年に訪日客6,000万人(2019年は約3,200万人)の目標をかかげ、IRを長期滞在者や国際会議の誘致拡大につなげる考えで、観光立国への起爆剤にできるか、計画の実効性が問われることになります。なお、法的には今後、有識者委員会による審査を経て、今秋以降に認定の可否が決められる予定です。

政府は2020年12月に決定したIR整備に関する基本方針で、観光を「わが国の成長戦略と地方創生の柱」とし、国際競争力の高い滞在型観光の実現が日本型IRの意義だと定めました。しかし新型コロナウイルス禍で訪日外国人客(インバウンド)は激減し、需要回復は見通せない状況にあり、ポストコロナの観光戦略でIRをどう位置付けるかが問われています。かつて安倍政権でインバウンド増加の起爆剤と期待されたIR事業は、当初は大阪や長崎だけでなく、東京や北海道など5~6カ所の自治体が候補地に挙がり、「最大3カ所」の認定をかけた誘致レースの混戦も見込まれていました。しかしながら、2019年末に現職衆院議員が逮捕されたIR汚職事件やコロナの感染拡大により、政府と自治体の手続きが停滞、IRの推進役だった菅前首相のおひざ元の横浜市は2021年夏の市長選後に誘致を撤回、自治体に売り込みをかけていた海外の大手カジノ事業者の経営も悪化し、米大手ラスベガス・サンズなどが次々と撤退するなど逆風が吹き始めていました。さらに、インバウンドについては、コロナ禍前の2019年に3,188万人を超え、政府のIR整備の基本方針では2030年に6,000万人到達を目標としていましたが、2021年は2003年以降最少の約245,800人と程遠い状況です。また、政府は2021年6月に決定した成長戦略の方針で「国内外の感染状況などを見極め、インバウンドの段階的復活に向けた取り組みを推進する」としたものの、そこにIRの文字はなく、岸田政権でも政策上の優先順位が高いとはいえない状況にあります。そのような状況については、本コラムでもタイムリーに紹介してきましたが、2022年4月28日付毎日新聞の記事「IR申請「まさか2カ所…」 観光立国の起爆剤、リスクはないか」が良くまとまっていますので、以下、抜粋して引用します。

IR計画自体が時代遅れになっているとの指摘は多い。政府が定めたIR施設の要件は、ホテルの客室総面積がおおむね10万平方メートル以上、国際会議場の展示施設の床面積は12万平方メートル(収容人数3,000人未満の場合)で、客室数が国内最大の品川プリンスホテル(約3,700室)や、国内最大の展示場、東京ビッグサイト(約115,000平方メートル)並みの規模だ。IRに詳しい静岡大の鳥畑与一教授は「世界的に国際会議もカジノもオンライン化が進んでいる。巨大なハコモノに人を呼び込む従来型のIRは行き詰まっており、ラスベガスの大手業者も見直し始めている」と指摘。「ビジネスの前提条件が変わったにもかかわらず、従来の計画に地域経済の将来を託すのは危うい」と話す。… 申請にこぎ着けた大阪府・大阪市と長崎県だが、計画には不安要素もある。…松井一郎市長は「二つのメガバンクから融資を約束されている。資金調達で不透明なところはない」と強調する。だが、計画には危うさもはらむ。開業は2029年秋~冬ごろを予定しているが、事業者との基本協定には、新型コロナウイルスの終息が見込めない場合などは事業者の判断で契約を解除できるとの規定が盛り込まれた。コロナ終息や観光需要の回復は見通せず、事業撤退のリスクがつきまとう。建設予定地の人工島・夢洲では液状化リスクや土壌汚染が発覚し、事業者側の求めに応じて市が対策費約790億円を負担することになった。将来的な地盤沈下の可能性も指摘され、費用が膨らむ恐れもある。参入希望が1グループのみだったため、IR実現を優先する府市の立場が弱く、今後も響きかねない状況だ。長崎県は情報公開の不十分さや、資金調達の実現性を疑問視されている。初期投資額約4383億円の調達先の詳細が公表されていないからだ。…IRが実現すれば、初の公認カジノが日本に開業する。そこで懸念されるのがギャンブル依存症の問題だ。政府や候補地が対策を打ち出しているが、カジノの収益を上げないとIRの維持は難しくなるため、依存症の人を増やしかねないという相反する事情も抱える。国はカジノの顧客を主に海外の富裕層と想定している。国民のカジノ行為への依存を防ぐため、IR実施法(2018年成立)に対策を盛り込んだ。日本人がカジノを利用する際はマイナンバーカードで本人確認をし、入場回数を「週3回かつ28日間で10回」までに制限する。さらに海外在住の外国人からは徴収しない入場料(1回6000円)を課すことで、入場の抑制に努める。安倍晋三首相(当時)は「世界最高水準のカジノ規制だ」と強調した。一方、厚生労働省が20年、ギャンブル依存症に関する実態調査(有効回答約8200人)をしたところ、依存が疑われる人は2.2%いた。人口に換算すると約196万人に相当する。依存に気付いた家族が公的機関などに相談するまで平均5年程度かかっていたことも明らかになり、早期介入という課題も浮かび上がった。…大阪も長崎もIRの売り上げの7~8割をカジノが占めるため、カジノの収益アップが欠かせない。誘致に反対する大阪の市民団体の関係者は「カジノで利益を上げようとすればするほど、依存症への入り口が拡大する。依存症が増えるのは明らかで、対策にどこまで効果があるのか疑問だ」と話した。

一方、IRの重要性はいまだ十分あるとの見解もあります。2022年4月29日付産経新聞の記事「IR「経済効果ないはずない」 MICE活用などカギ」がその辺りを指摘していますので、以下、抜粋して引用します。

IRの区域整備計画の申請が28日締め切られ、大阪府と長崎県の2カ所が届け出た。観光客の増加で経済活性化が期待され、大阪のIRは近畿圏で年1兆1,400億円の経済波及効果を想定する。IRの運営はカジノの収益が軸だが、専門家は国際会議や展示会を開くMICE施設の活用などが成功のカギを握ると指摘する。…IRに詳しい大阪商業大の谷岡一郎学長は「IRでカジノはお金と人を回すためのエンジン。IR実施法でカジノ収益は施設開発などに再投資するようほぼ義務付けられており、経済効果として順番に回っていく」と指摘する。IRやカジノを立地する際の人口や平均所得などをもとにした米国のマーケティングを日本に当てはめると、国内に100カ所以上のカジノがあってもそれぞれがもうかる計算だといい、「経済効果がないはずがない」とする。…米ラスベガスでは、毎年1月に世界最大の家電見本市「CES」を開催し、新型コロナウイルス禍以前は期間中に十数万人の来場者を集めていた。MICE施設に訪れる客は、一般客に比べて消費額が多いといわれている。また、IRは海外の富裕層を取り込む期待がある。日本のIRは国内各地の観光旅行に必要な運送、宿泊の手配などを行う「送客施設」を置くことになっている。谷岡氏は「IR単体でもうけるのでなく、IRを拠点に周辺地域の観光を広げるイメージだ」と主張する。ターゲットは消費意欲の高い富裕層。「例えば金閣寺で食事をするなど、通常ではできないことが新たな観光の目的になる。プライベートツアーの需要が圧倒的に増え、一般とは差別化された旅行が盛んになる」ため、周辺観光地はニーズに応える努力が必要だとする。「コロナが落ち着けばインバウンド(訪日外国人客)も戻るはずだし、世界から日本のIRに来場して経済が活性化する。国の発展を考えてもIRは重要だ」と専門家。

今後の審査において、国の評価基準には「地域において十分な合意形成がされていること」との項目があり、プラス面とマイナス面について丁寧に説明し、引き続き住民の理解を深める事が求められています。例えば大阪については、予定地の大阪市の人工島、夢洲をめぐる土壌汚染やギャンブル依存症などの懸念も指摘されており、IRへの後ろ向きな見方が支配的になれば、計画を審査する有識者委員会の経済効果などに対する判断に影響しかねず、経済界は機運醸成の努力が求められることになります。大阪商工会議所の鳥井会頭は4月の会見で「カジノには根強い反対がある。行政とも議論しながら解決する方法を探り、取り組みを粘り強くやっていくことが重要だ」と指摘しています。大阪府・市はギャンブル依存症対策として相談窓口を設置し、支援拠点として「大阪依存症センター(仮称)」をIR開業前に開設、納付金を活用して開業後に年間約14億円をギャンブル依存などの依存症対策に投じることとしています。一方の長崎については、「カジノ・オーストリア・インターナショナル・ジャパン」を中核とする事業者などが計画で見込むのは「31年度の来訪者673万人」「区域内雇用者9,693人」「経済波及効果が施設整備などの建設面で5,428億円、運営面で3,328億円」などが掲げられていますが、新型コロナウイルスの感染拡大は出口が見えず、ロシアのウクライナ侵攻、原油をはじめとする物価高などで世界経済の先行きは不透明な状況にあり、本当に約4,383億円もの膨大な資金が佐世保に投じられるのかも不透明だといえます。長崎においても、市民団体などが相次いで抗議声明を発表、「ストップ・カジノ!長崎県民ネットワーク」の弁護士は「県が『コミットメントレター』と称する書類が、国の区域認定審査で求められている『資金調達の確実性を裏付ける客観的な資料』に該当するのか、検証できない。内容を開示できないのは資金が集まっていないからではないか」と指摘、県は国の審査に対応するためのコンサルタント業者への委託費として今年度当初予算に1億1,000万円を計上したが、弁護士は「認定が得られなければドブに捨てることになる。IRに賛成する人も一旦立ち止まって考えるべき」と警鐘を鳴らしています。

一方、最後の県議会の決議で否決された和歌山県については、計画の不透明さ、新型コロナウイルスの感染拡大の影響などが要因に挙げられています。2022年4月20日付毎日新聞の記事「和歌山IR知事肝いり事業に自民が「ノー」を突きつけた理由とは」から、以下、抜粋して引用します。

「地域活性化の起爆剤」として期待され、4期目の仁坂吉伸知事が主導した肝いり事業だったが、誘致を後押ししてきた最大会派・自民からも事業者の資金計画などを不安視する声が相次ぎ、波乱の結末を迎えた。「最大の起爆剤を取られ、次なる成長因子を失った」。閉会後、記者団の取材に応じた仁坂知事は「国に提出しても恥ずかしくない段階まで仕上げたつもりだったが、時間が足りなかった。痛恨の極みだ」と無念さをにじませた。…事業者に決まったクレアベストニームベンチャーズの資金調達計画の不透明さが県議会で指摘され、計画についての住民説明会も延期されるなど、県の申請に向けた動きは迷走を続けた。事業者公募には当初、同社を含む2社が応募したが、県の事業者選定委員会で評価を得た別の社が21年5月、新型コロナウイルス禍を理由に撤退、最終的に同社が選ばれた。しかし、4700億円の7割を銀行などから借り入れる計画で、出資の確約が得られているのかを尋ねる議員らに対し、「出資は十分集まる見込みで、計画に自信を持っている」(同社)との説明に終始。出資元の企業は海外の事業者が大半を占めたほか、出資元や資金計画を示した県も詳しい融資内容には触れず、推進派議員からも「審査のしようがない」との批判が相次いだ。森礼子議長(自民)は20日、否決に至った判断について「最後まで計画の不透明さが拭えず、新型コロナの影響で情勢が不安定になったことも要因ではないか」と語った。賛否が割れたのは、最大会派の自民(27人)が党議拘束をかけずに採決に臨んだためだ。賛成した川畑哲哉議員(自民)は「和歌山を活性化させるアイデアの卵だったが、育てきれなかった」と述べ、反対票を投じた冨安民浩議員(同)は「IR自体には賛成だが、資金計画が生煮えだった」と振り返った。12月に任期満了を迎える仁坂知事は、知事選への態度を明らかにしていない。これまで支援を受けてきた最大会派が今回、肝いり政策に「ノー」を突き付けた形となり、知事の求心力低下は避けられないとの見方もある。

2022年4月13日付毎日新聞の記事「ギャンブル依存、裏に発達障害も」は、大変興味深いものでした。とりわけ、文中にも出てくる「岐阜県の依存症治療拠点機関に指定されている各務原病院は、ギャンブル依存症患者に発達障害の有無を調べる調査をした。患者52人のうち、35%に当たる18人が発達障害だった。一方、依存症になったことがない病院職員やその家族33人で、発達障害と診断された人は0人だった」との調査結果は、ギャンブル依存症の治療を考えるうえで極めて重要な示唆を含んでおり、大変考えさせられます。以下、抜粋して引用します。

仕事帰りに毎日パチンコ通い、競馬に飲み代で借金は750万円―。字面だけ見れば「ギャンブル依存症」の会社員男性だが、過去をひもとくと、発達障害の特徴から目に見えない生きづらさを抱えていた。ギャンブルに依存する人の中には、男性のように隠れた発達障害の人がいると専門家は警鐘を鳴らす。…33歳の時、親の勧めで依存症の問題を扱う「浦和まはろ相談室」(さいたま市)を訪ねた。相談室は精神保健福祉士の高澤和彦さん(59)が個人で運営している。男性は一方的に話し、高澤さんの問いかけには少しずれた回答をする。発達障害の一種で、コミュニケーションや臨機応変な対応が苦手な自閉スペクトラム症(ASD)の特性があると高澤さんは感じ取った。男性は後にASDの診断を受けた。男性や母親に聞き取り、高澤さんは男性の人生をたどった。ギャンブルに依存する前から、周囲になじめていなかった。幼い頃から人見知りで、高校では友達ができなかった。自分の苦手なことが分からないまま就職・転職活動をして、コミュニケーション力が必要な営業職に就いた。苦手な人付き合いや突発のクレーム対応に追い込まれた。男性は「求められたことができない。自分でもなぜか分からない。苦しい。その繰り返しだった」。生活を立て直すため、高澤さんは男性と月に1度の面会を重ねた。日常の出来事を聞き、うまくいかないと、特性と結びつけてなぜそうなったかを説明。解決に向けた工夫を話し合い、難しい場合は環境を変えるよう提案した…高澤さんは、相談者がどんな暮らしをしてきたのかを中心に聞き取る。「ギャンブルは、本人の心のしんどさを支えている面もある。やめるだけでは、相談者はもっと苦しくなってしまう。依存ばかりに注目すると、本当の困難を見極められない」と話す。岐阜県の依存症治療拠点機関に指定されている各務原病院は、ギャンブル依存症患者に発達障害の有無を調べる調査をした。患者52人のうち、35%に当たる18人が発達障害だった。一方、依存症になったことがない病院職員やその家族33人で、発達障害と診断された人は0人だった。発達障害と診断された患者は注意欠陥多動性障害(ADHD)が13人、ASDが5人。全員が初めて発達障害の診断を受けたという。調査した天野雄平医師は「発達障害かどうか境目の人の中には、診断を受ける機会がなく、なんとなく人生でうまくいかないまま大人になった人がたくさんいる。失敗のストレスでうつになったり、ギャンブルにのめり込んだりする人もいる」と話す。…天野医師は「発達障害のスクリーニングをすることで、患者さんが自分の特性を知るきっかけになる。該当する場合は単純に依存として捉える場合とは違った視点で、支援や治療をできる」と話した。

埼玉県は、オンラインゲームなどに没頭し生活や健康に支障をきたす「ゲーム障害(ゲーム依存症)」の対策を強化すると報じられています。アルコール、ギャンブルなどの依存症への対応方針をまとめた「県依存症対策推進計画」にゲーム障害への対策も明記し、専門性を持つ相談員の育成や、依存症に関する知識や予防策の啓発に取り組むというものです。報道によれば、計画では、精神保健福祉センターや保健所での相談支援の充実も目指すとし、県の担当者は「教育関係者らと連携して子供や保護者への理解促進を図りつつ、具体的な対策を詰めていきたい」と話しています。県によると、ゲーム障害に関して寄せられる相談件数は年間で107件(2018年度)に上るといいます。本コラムで紹介してきたとおり、ゲーム障害は、ゲームの頻度や時間を自分でコントロールできなくなる状態を指し、睡眠障害や摂食障害、眼精疲労が引き起こされる恐れがあり、不登校や引きこもり、過度の課金に伴う経済的な破綻につながる事例も報告されています。

③犯罪統計資料

令和4年3月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。3カ月のみのデータのため、件数や比率等が大きくブレているところもありますが、以前の本コラム(暴排トピックス2022年2月号)で紹介した令和3年の確定値の傾向が概ね継続しつつも、微妙な変化の兆しも見られます。

▼警察庁 犯罪統計資料(令和4年1~3月分)

令和4年(2022年)1~3月の刑法犯総数について、認知件数は、123,109件(前年同期132,376件、前年同期比▲5.5%)、検挙件数は58,811件(65,228件、▲9.8%)、検挙率47.0%(49.3%、▲2.3P)と、認知件数・検挙件数ともに2020年~2021年については減少傾向が継続していた流れを受けて減少傾向を示しています(1月については、認知件数のみ前年同期をわずかながら上回っていました)。なお、刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数は84,074件(89,249件、▲5.8%)、検挙件数は35,359件(40,541件、▲12.8%)、検挙率は42.1%(45.4%、▲3.3P)、うち万引きの認知件数は20,984件(21,974件、▲4.5%)、検挙件数は14,753件(15,802件、▲6.6%)、検挙率は70.3%(71.9%、▲1.6P)となりました。コロナで在宅者が増え、窃盗犯が民家に侵入しづらくなり、外出しないので突発的な自転車盗も減った可能性が指摘されるなど窃盗犯全体の減少傾向が刑法犯の全体の傾向に大きな影響を与えた結果といえますが、3月のまん延防止等重点措置の解除などもあり、今後の状況を注視する必要がありそうです。一方で、万引きについてはそれほど極端な減少傾向となっておらず、コロナ禍においても引き続き注意が必要な状況です。また、知能犯の認知件数は8,866件(8,389件、+5.7%)、検挙件数は4,669件(4,556件、+2.5%)、検挙率は52.7%(54.3%、▲1.6P)、うち詐欺の認知件数は8,006件(7,611件、+5.2%)、検挙件数は3,851件(3,866件、▲0.4%)、検挙率は48.1%(50.8%、▲2.7P)などとなっており、コロナ禍において詐欺が大きく増加したといえます。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年2月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が大きく増加傾向にあることが影響しているものと考えられます。刑法犯全体の認知件数が増加傾向を見せ、検挙件数が減少傾向の中、とりわけ万引きと知能犯、詐欺については増加傾向にあり、引き続き注意が必要な状況です(そして、検挙率がやや低下傾向にある点も気がかりです)。

また、特別法犯総数については検挙件数総数は15,596件(16,635件、▲6.2%)、検挙人員は12,881人(13,700人、▲6.0%)と2021年同様、検挙件数・検挙人員ともに減少している点が特徴的です。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は920件(1,289件、▲28.6%)、検挙人員は708人(918人、▲22.9%)、軽犯罪法違反の検挙件数は1,588件(1,881件、▲15.6%)、検挙人員は1,582人(1,884人、▲16.0%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は2,197件(1,942件、+13.1%)、検挙人員は1,682人(1,498人、+12.3%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は870件(574件、+51.6%)、検挙人員は701人(449人、+56.1%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は119件(62件、+91.9%)、検挙人員は57人(24人、+137.5%)、不正競争防止法違反の検挙件数は18件(21件、▲14.3%)、検挙人員は23人(16人、+43.8%)、銃刀法違反の検挙件数は1,114件(1,176件、▲5.3%)、検挙人員は980人(1,028人、▲4.7%)などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、迷惑防止条例違反や犯罪収益移転防止法違反、不正アクセス禁止法違反、不正競争防止法違反(検挙人員)が増加している点が注目されます。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は248件(200件、+24.0%)、検挙人員は137人(121人、+13.2%)、大麻取締法違反の検挙件数は1,386件(1,416件、▲2.1%)、検挙人員は1,109人(1,116人、▲0.6%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は1,930件(2,485件、▲22.3%)、検挙人員は1,297人(1,657人、▲21.7%)などとなっており、最近継続して大麻事犯の検挙件数が大きく増加傾向を示していたところ、僅かながら減少に転じている点、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きく減少傾向にある点などが特筆されます。また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯国籍別検挙人員については、総数121人(152人、▲20.4%)、ベトナム42人(50人、▲16.0%)、中国15人(23人、▲34.8%)、スリランカ15人(2人、+650.0%)、ブラジル6人(12人、▲50.0%)、韓国・朝鮮5人(5人、±0%)、フィリピン5人(7人、▲28.6%)、パキスタン5人(2人、+150.0%)などとなっています。

一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、刑法犯全体の検挙件数は2,182件(2,890件、▲24.5%)、検挙人員は1,295人(1,556人、▲16.8%)と検挙件数・検挙人員ともに2021年に引き続き減少傾向にある点が特徴です。以前の本コラム(暴排トピックス2021年3月号)では、「基礎疾患を抱え高齢化が顕著に進行している暴力団員のコロナ禍の行動様式として、検挙されない(検挙されにくい)活動実態にあったといえます」と指摘しましたが、一時活動が活発化している可能性を示したものの再度減少に転じている点は、緊急事態宣言等のコロナ禍などの要素もあることも考えられ、いずれにせよまん延防止等重点措置の解除やオミクロン株の変異型の再度の流行の兆候など状況の流動化とともに今後の動向に注意する必要がありそうです。犯罪類型別では、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別 検挙件数・検挙人員 対前年比較について、刑法犯全体の検挙件数は、暴行の検挙件数は129件(178件、▲27.5%)、検挙人員は140人(163人、▲14.1%)、傷害の検挙件数は216件(280件、▲22.9%)、検挙人員は233人(344人、▲32.3%)、脅迫の検挙件数は78件(82件、▲4.9%)、検挙人員は75人(82人、▲8.5%)、恐喝の検挙件数は74件(93件、▲20.4%)、検挙人員は100人(106人、▲5.7%)、窃盗の検挙件数は1,026件(1,436件、▲28.6%)、検挙人員は185人(236人、▲21.6%)、詐欺の検挙件数は339件(405件、▲16.3%)、検挙人員は289人(283人、+2.1%)などとなっています。とりわけ、全体の傾向と同様、詐欺については、検挙人員が増加傾向を示しており、資金獲得活動の中でも重点的に行われていると推測され、引き続き注意が必要です。さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯について、特別法犯全体の検挙件数は1,224件(1,577件、▲22.4%)、検挙人員は827人(1,080人、▲23.4%)とこちらも2020年~2021年同様、減少傾向が続いていることが分かります。犯罪類型別では、軽犯罪法違反の検挙件数は16件(23件、▲30.4%)、検挙人員は14人(20人、▲30.0%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は12件(21件、▲42.9%)、検挙人員は12人(20人、▲40.0%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は11件(10件、+10.0%)、検挙人員は23人(29人、▲20.7%)、銃刀法違反の検挙件数は16件(24件、▲33.3%)、検挙人員は12人(19人、▲36.8%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は44件(31件、+41.9%)、検挙人員は15人(10人、+50.0%)、大麻取締法違反の検挙件数は219件(241件、▲9.1%)、検挙人員は139人(148人、▲6.1%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は676件(1,031件、▲34.4%)、検挙人員は436人(673人、▲35.2%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は55件(42件、+31.0%)、検挙人員は36人(25人、+44.0%)などとなっており、やはり最近増加傾向にあった大麻事犯の検挙件数・検挙人員ともに減少に転じたこと、覚せい剤事犯の検挙件数・検挙人員がともに全体の傾向以上に大きく減少傾向を示していることなどが特徴的だといえます。

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

北朝鮮は、5月4日正午過ぎ、平壌の順安付近から日本海に向け、弾道ミサイル1発を発射しました。。報道によれば、今年に入って13回目となるミサイルは移動式発射台(TEL)から発射されたとみられ、飛距離約470キロ、高度約780キロ、最高速度マッハ11程度と推定されています。韓国当局の間では、ICBM「火星15」の飛距離を調整して発射したとの見方もあるようです。防衛省によれば、ミサイルは日本の排他的経済水域(EEZ)外に落下し、船舶などへの被害は確認されていないとのことです。通常より高い角度で打ち上げられ、迎撃が困難な「ロフテッド軌道」で発射された可能性があるといいます。なお、この弾道ミサイル発射について、北朝鮮はメディアを通じて公表していません。これまで通常、失敗を除いて発射翌日に大々的に報じ、国威発揚につなげようとしてきたため、今回の異例の「沈黙」に注目が集まっています。北朝鮮は2月と3月の弾道ミサイル発射に関し「偵察衛星のための試験」と主張、日米韓は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」を性能を抑えて発射したと分析していました。今回、偵察衛星関連の発射実験を行った可能性、ICBMの予備実験だったとの見方もあり、「成功」を宣伝できるまで同種のミサイル発射を繰り返す可能性が高いと考えられます。そして、追加の発射の可能性が指摘されていたところ、13回目の発射から3日後となる5月7日にも東部の咸鏡南道・新浦付近から東に向け、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と推定される短距離弾道ミサイル1発を発射しました。新浦には潜水艦基地があり、海中の潜水艦から発射されたとみられています。今年14回目となる今回の発射については、推定飛距離は約600キロ、最高高度は約60キロで、日本の防衛省は、日本の排他的経済水域(EEZ)外の日本海に落下したとみており、SLBMだとすれば、2021年10月19日以来の発射で、同省によると6回目となります。北朝鮮は、変則的な軌道で飛び、従来型より小さい「ミニSLBM」も開発中とみられ、今回も新型開発の一環の可能性が指摘されていますが、この14回目の発射についても、翌日の北朝鮮からの公表はありませんでした。この「沈黙」は不可解ではありますが、北朝鮮は1月に長距離巡航ミサイルを発射した際は翌日に報じず、別の弾道ミサイルの発射と合わせて数日後に公表したことがあります。この点については、2022年5月9日付朝日新聞において、「3月16日の発射は失敗だったとみられており、それが報道されなかった理由だとの見方が強い。ただ、韓国政府の関係者は今のところ、5月の2回に関する報道が出ない理由については、(1)試射に失敗した(2)試射の成果が不十分だった(3)国内外に誇示するほどの試射ではない(4)意図を伏せて米韓などを揺さぶる心理戦―など「様々な理由が考えられる」としている。韓国の専門家の間では、4日の発射は失敗した可能性があるものの、7日のSLBMの発射は成功したとみる向きが強い。慶南大・極東問題研究所の林乙出(イムウルチュル)教授は「試射の結果がまだ不十分と判断し、今後も発射を繰り返して完成度を高めた後にまとめて公開するのではないか」と話す。ミサイルの発射の頻度が上がっているため、発射の度に成果を誇示することでの米韓などへの牽制や挑発の効果が薄れているとの見方もある。韓国の情報機関、国家情報院で分析官を務めた郭吉燮(クァクキルソプ)ワンコリアセンター代表は「偵察衛星の軌道進入や新型SLBMの発射など、より大きな成果が得られた場合は報道を通じて誇示するだろう」と予測する」とさまざまな専門家の見解を報じていますが、今のところ何とも言えない状況です。

北朝鮮は2月27日と3月5日にも「偵察衛星開発」と称し、順安付近からICBM級の弾道ミサイルを発射したほか、3月24日には新型ICBM「火星17」を発射したと主張しています。1月以降、短距離、中距離、ICBM級に加え「極超音速型」と主張する新型ミサイルや巡航ミサイルも試射、4月に撃った短距離弾は「戦術核の運用」と位置づける(朝鮮中央通信によれば、「この新型戦術誘導兵器システムは、前線の長距離砲兵部隊の砲撃力を飛躍的に向上させ、戦術核運用の効率を強化するうえで大きな意義を持つ」、「戦術核の効果と火力任務多角化」で進展があったと主張し、戦術核を搭載可能なミサイルの開発を進めていることを示したとされます)など、多様なミサイル技術を試しており、核攻撃力を誇示する狙いも透けて見えますが、今回のミサイル発射について韓国の専門家からは、核・ミサイル開発を着実に進めることで、米韓両国をけん制する狙いがあるとの見方に加え、韓国で5月10日に対米関係を重視する尹錫悦新政権が発足、21日には韓国で米バイデン大統領と尹氏の首脳会談が予定されていることもあり、それをけん制する狙いもありそうです。また、金正恩朝鮮労働党総書記は、朝鮮人民軍創建90周年だった4月25日に平壌で実施した軍事パレードで、核兵器について「戦争防止という一つの使命だけに縛られない」、「核兵器を最大限急速に強化、発展させるための措置を取り続ける」と述べ、核攻撃を選択肢として排除しない姿勢を示唆したほか、北東部の豊渓里核実験場では坑道の掘削作業が進んでいるとみられ、核使用の意思と能力を示すことで米国や韓国、日本に脅しをかける狙い、今後も核実験の再開を含めた軍事的な挑発が続く可能性が指摘されているところです。なお、核を搭載したミサイルを実用化するには、ミサイル技術に加え核弾頭を製造する技術が必要になりますが、北朝鮮は2017年までに核技術の保有をめざし、6回の核実験を繰り返しています。戦術核の実用化には追加の実験が必要との見方があり、今後の動向が注目されます。日本政府は北京の大使館ルートを通じて北朝鮮に抗議、岸田首相は訪問先のローマで、「一連の北朝鮮の行動は地域や国際社会の平和と安定、安全を脅かすものであり、断じて容認できない。(国連の)安保理決議違反であり、強く非難するとともに抗議を行った」と非難し、「米国などとしっかり連携しながら国民の安全のために万全を期す」と強調しています

その懸念される核実験実施の可能性も高まっているようです。米国務省のポーター副報道官は、北朝鮮が5月中にも北朝鮮北東部の豊渓里で核実験の準備を完了する可能性があるとの分析を明らかにしています(北朝鮮が核実験を実施すれば2017年以来、7回目となります。米政府が北朝鮮に関する機密情報を公表するのは異例であり、国際社会で北朝鮮への懸念を高め、北朝鮮に対する包囲網を狭める思惑が透けて見えます)。前述したとおり、豊渓里の核実験場では坑道の掘削作業などが衛星写真で捉えられており、分析した「オープン・ニュークリア・ネットワーク」の古川勝久氏らは、北朝鮮が進める坑道の掘削作業が進展し、内部構造の補強作業に入った可能性があると指摘、核実験が可能になる時期については、坑道がどの程度損傷しているかや、何回の核実験が想定されているかによって変わるため「算定は困難」としつつも、「掘削が一時的に中断や減速したか、内部構造の補強や核実験用の資機材の準備に注力するようになった可能性がある」と説明、付近には新たな建屋が次々と建てられているということです。日米韓は、早ければ、バイデン米大統領が20日から日韓を訪問するのに合わせて核実験を強行する可能性も否定できないとして警戒を強めています。金正恩総書記は、体制維持のためなら核兵器使用も辞さない考えを表明、4月の軍事パレードでは、超大型のICBM「火星17」など新型兵器が多数登場、北朝鮮は3月24日にも順安から弾道ミサイルを発射し、火星17の発射に成功したと主張しています。

最近の金正恩総書記の発言については、例えば、軍事パレードを成功させたとして朝鮮人民軍幹部らを激励した席で、パレードは「北朝鮮軍が近代的かつ英雄的で、急進的な発展を遂げていることや軍の比類なき軍事・技術的優位性」を示すものだと述べた上で、「強くなってこそ尊厳や権益を守れる現世界で強力な攻撃力、圧倒的軍事力はわが国人民の安寧と子孫の未来を保証する生命線だ」とし、敵対勢力の核の威嚇などを「先制的に制圧、粉砕するために戦力の優位を維持、向上させる」とも主張しています。また、4月25日の軍事パレードでの演説では、核兵器の役割が戦争抑止に縛られないと述べ、実際の核使用をためらわない考えを表明しています。軍事パレードについては、2022年4月27日付毎日新聞で、専門家が、新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)が昨年のパレード時に比べ、「長さが50~100センチ伸びている」と指摘、「これで射程が伸び、より大きい弾頭も積める」と分析しているほか、多弾頭化を進めている可能性も指摘されています。北朝鮮は今年に入り立て続けにミサイルを発射し、2018年以降守ってきたICBM発射のモラトリアム(一時停止)も自ら破り、「条件なしの対話」を提案しつつも具体的な譲歩案を示さない米国のバイデン政権に見切りをつけ、対決姿勢を鮮明にしたといえます。さらに、2018年5月に坑道を爆破した北東部豊渓里の核実験場で坑道の一部を復旧させて核実験の準備も進めているのは既に紹介したとおりです。また、金正恩総書記はこれまでのスーツやコート姿とは異なり、白の軍服を着て演説した点も注目されます。バイデン政権を非難する直接的な発言はなかったものの、核を戦争抑止の目的に限定せず、先制攻撃を含む実戦使用を辞さない構えをちらつかせることで、経済制裁を強める米国などをけん制したものと考えられるとしています。

暗号資産の項でも述べたとおり、北朝鮮による暗号資産の巨額窃盗が明らかとなっています。米財務省は、人気オンラインゲーム「アクシー・インフィニティ」を巡る数億ドル相当の暗号資産の盗難について、北朝鮮ハッカー集団が関与しているとの判断を示しています。報道(2022年4月15日付ロイター)によれば、ユーザーが同ゲームで暗号資産イーサリアムを出し入れできるようにするブロックチェーンネットワークのローニンは、ブロックチェーンの一部に侵入され、3月23日に約6億1,500万ドル(約780憶円)相当のデジタルキャッシュが盗まれたと発表しています(暗号資産の窃盗としては最大級で、このゲーム空間では、暗号資産の基盤技術を活用し、偽造や複製ではないことを証明するデジタル資産「非代替性トークン(NFT)」を利用、参加者はゲームをプレーする過程で暗号資産を稼いだり、取引したりすることが可能で、1日当たりの利用者数は100万人を超えるという情報もあります)。同省はハッカーが使用したデジタル通貨のアドレスについて、「ラザルス」と「APT38」と呼ばれる北朝鮮のハッカー集団の支配下にあることを確認したということです。報道官は「米国は、北朝鮮が米国と国連の強力な制裁を逃れようとする中、大量破壊兵器と弾道ミサイルプログラムのための収入を得るためにサイバー犯罪を含む違法行為への依存を強めていることを把握している」と指摘、ローニン公式ブログの投稿によると、米連邦捜査局(FBI)はハッキングをラザルスによるものとし、米財務省は盗まれた資金を受け取ったアドレスに制裁を加えたということです。なお、米国はラザルスが北朝鮮の主要な諜報部門である偵察総局の管理下にあると指摘、本コラムでも取り上げていますが、ラザルスはランサムウエア(身代金要求型ウイルス)攻撃「ワナクライ(WannaCry)」、国際的な銀行と顧客口座のハッキング、2014年のソニー・ピクチャーズエンタテインメントに対するサイバー攻撃への関与が疑われています。また、米国は国連安保理にラザルスのブラックリスト化と資産凍結を働き掛けているということです。

13回目の弾道ミサイル発射に先立ち、米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は、弾道ミサイル発射を再開した北朝鮮に追加制裁を科すため、5月中に国連安全保障理事会で採決を行う意向を示しています。米国は4月、北朝鮮への制裁強化を国連安保理に働きかけ、たばこの禁輸や同国向け石油輸出の半減、ハッカー集団「ラザルス」のブラックリスト化を盛り込んでいます。草案は、北朝鮮傘下のハッカー集団を資産凍結の対象に加え、新たにサイバー空間での活動にも制裁対象を拡大しているのが特徴で、サイバー攻撃で得られた資金が核・ミサイル計画に流れるのを制限する狙いがあるとされます。具体的には、北朝鮮から「情報通信技術に関するサービス」を調達することを禁止すると明記、サイバー空間における北朝鮮の「悪意ある活動」に懸念を示し、適切な措置をとるよう加盟国に求めているほか、北朝鮮の対外工作機関・朝鮮人民軍偵察総局傘下のハッカー集団「ラザルス」を資産凍結の対象に加えています(本コラムでたびたび指摘しているとおり、北朝鮮はサイバー攻撃で盗んだ暗号資産を核・ミサイル開発に使っているとされます。国連安保理・北朝鮮制裁委員会の専門家パネルの報告書によると、北朝鮮は2020年から2021年半ばにかけ、北米や欧州、アジアの少なくとも3カ所の取引所への攻撃で5,000万ドル(約62億円)を盗むなどし「サイバー攻撃が重要な資金源になっている」と指摘されています)。このほか、草案では北朝鮮への原油輸出量の年間上限を400万バレルから200万バレルに半減、ガソリンや石油などの石油精製品も、50万バレルから25万バレルに半減させています。さらに、弾道ミサイルに加えて巡航ミサイルなど核兵器を搭載できる「いかなる運搬システム」も禁止、北朝鮮へのたばこの輸出も新たに禁止する内容となっています。一方、ロシアと中国はすでに北朝鮮に対する制裁強化に反対することを示唆しており、安保理決議案が可決されるには米英仏中ロの常任理事5カ国が拒否権を発動することなく9カ国が賛成票を投じることが必要となります。報道によれば、トーマスグリーンフィールド国連大使は、採決にかけるのかとの質問に対し「今月中に決議案を進めることがわれわれの計画だ」と回答しています。

さて、北朝鮮やロシアの制裁の意味について、興味深いエピソードとともに述べた記事「制裁の目的は何か…論説副委員長 白川 義和」(2022年4月16日付読売新聞)が興味深いものでしたので、以下、抜粋して引用します。

米国の経済制裁に北朝鮮が音を上げかけたことがある。北朝鮮の資金洗浄に関わった疑いで、マカオの銀行が2005年、米財務省の制裁を受けた。銀行は米国企業と取引できなくなることを恐れ、「潔白」を示すために北朝鮮関連口座の資金を凍結した。「おまえらはついに我々を痛めつける方法を見つけたな」北朝鮮の核問題を話し合う国際会議の夕食会で、酒に酔った北朝鮮の出席者は米国代表団に寄りかかり、こうつぶやいたという。当時、米政権高官だったビクター・チャ氏が著書で明かしている。北朝鮮は、口座の凍結が解かれ、資金が戻ってくるまで、核協議には応じないと主張した。06年には初の核実験に踏み切った。事態の悪化を恐れた米政府は、北朝鮮の協議復帰と引き換えに、凍結解除と資金の返還へ自ら動いた。制裁の目的は相手を痛めつけるのではなく、行動を変えさせることにある。だが、米国は北朝鮮が非核化に着手する前に圧力を解き、機会を逸してしまった。米欧日が今、ロシアに科している制裁も、何をもって解除するのか、難しい判断を迫られる。ロシア軍のウクライナ撤収はひとつの目安だが、達成の道筋は見えない。北朝鮮のように、プーチン露大統領が強硬策で制裁を封じようとすることも考えられる。ロシアの残虐行為がさらに苛烈さを増せば、表には出さなくても制裁の目的は「プーチン退陣」へと傾いていくのではないか。

その他、北朝鮮に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米ニューヨークの連邦地裁は、北朝鮮に許可なく渡航し暗号資産に関する知識を伝え、同国への制裁に違反したとして、米国籍のバージル・グリフィス被告に禁錮5年3月と罰金10万ドル(約1,250万円)の判決を言い渡しています。報道によれば、同被告は2019年、米政府の許可なく北朝鮮を訪問し、暗号資産に関する会議に出席、マネー・ローンダリングや国際社会からの制裁回避につながる知識を伝えたとされ、米政府が禁止する北朝鮮への技術移転だと見なされています(なお、同被告はハッカーとしても有名だったようです)。
  • 中国の劉暁明・朝鮮半島問題特別代表は、ソウルで韓国外務省の魯圭悳・朝鮮半島平和交渉本部長と会談し、北朝鮮の核問題で中国が引き続き建設的な役割を果たす所存だと述べたと報じられています(2022年5月3日付ロイター)。北朝鮮の金正恩総書記は、朝鮮人民革命軍創建90周年祝賀軍事パレードを観覧した際、核兵器開発を加速する方針を示しており、魯氏は北朝鮮の最近のミサイル発射実験や、豊渓里の核実験場再建の動きに懸念を示し、北朝鮮の対話復帰を促すよう中国に求め、「双方は、中韓が朝鮮半島問題に関する戦略で緊密な意見交換を継続することで合意した」としています。ただ、劉氏は、朝鮮半島情勢に懸念を示したものの、問題解決の鍵は北朝鮮と米国が握るとの認識を示しています。
  • 北朝鮮外務省は、日本政府がウクライナにドローンや化学兵器対応用の防護マスクなどの提供を決めたことを非難しています。報道によれば、ドローン提供は「ロシアへの敵対行為であることはもちろん、戦犯国である日本が戦争に直接加担する行為になる」と主張、記事では、ドローン提供は「(ウクライナと周辺地域の)平和と安定を損ね、紛争と衝突を激化させる結果を招くだけだ」と強調、日本が「軍事大国化の合法的名分」をつくろうとしているとも主張しています。
  • 「北朝鮮では、より多くの情報にアクセスしたい市民が金正恩総書記の全体主義的な政府とデジタル版の「いたちごっこ」をしている」と2022年4月28日付日本経済新聞が指摘しています。同国の情報通信機器を分析した最新の調査でこのような実情が明らかになったとして、北朝鮮のハッカーは当局に見つかれば過酷な労働や政治犯収容所での長期収容を強いられる恐れがあり、死刑を宣告される可能性すらある中、「地下で動く新興のハッカー集団」さながらに、技術に詳しい少数の北朝鮮市民が政府によってスマートフォンに搭載されたソフトウエアや監視システムを潜り抜けようとする実態が浮き彫りになっていると紹介しています。専門家は「北朝鮮政府は国民を情報の真空地帯にとじ込めるためにより多くの法的、社会的、懲罰的、技術的手段を活用するようになっている」、「国民が国境の外に存在する現実を知り、政府の教えの多くがうそ偽りだと気づくことが(北朝鮮政府の)アキレス腱になっている」と指摘しており、大変興味深い内容となっています。

北朝鮮の度重なる弾道ミサイルの発射、核武装化の懸念、さらにはロシアのウクライナ侵攻、中国による台湾有事の可能性など国際情勢が緊迫する中、憲法記念日もあり、防衛戦略に関するさまざまな立場からの意見が報道されています。本コラムとしては特定の立場から意見を述べるわけではありませんが、あくまで危機管理の観点から考える一助していただきたいと考えています。以下、いくつか紹介します。

「自民、首相に「反撃能力」提言 北ミサイル対処→「米軍の一翼」へ」(2022年4月27日付朝日新聞)
自民党が27日、敵の指揮統制機能などを攻撃する「反撃能力」の保有を岸田文雄首相に提言した。党はこれまでも敵のミサイル基地などをたたく能力を持つよう政府に求めてきた。当初は北朝鮮の弾道ミサイルへの対処が目的だったが、今回の特徴は台頭する中国を念頭に、米国にゆだねてきた攻撃の役割を補完する性格が強まっていることだ。日本の防衛戦略の基本方針が「専守防衛」から「米軍の一翼」へと転換する恐れをはらんだものだ。今回は首相が「現実的に検討する」と明言するなかでの提言で、現実性は高まっている。…ただ、反撃能力は専守防衛との整合性が問われる。専守防衛は、相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その程度も必要最小限にとどめ、装備も自衛のための必要最小限のものに限っている。今回の提言では、「専守防衛の考え方の下」という留保を付けているが、「必要最小限度の自衛力の具体的限度は、その時々の国際情勢や科学技術等の諸条件を考慮し、決せられる」と、政府の解釈次第で拡大する余地を残した。いわゆる敵基地攻撃能力を持ってこなかった日本。自民党の提言は、反撃能力として保有するだけでなく、憲法の趣旨にのっとって守ってきた専守防衛の「たが」まで外される恐れがある。自民党の反撃能力には論点が山積みだ。
「憲法施行75年 改正し国民守る態勢築け 「9条」こそ一丁目一番地だ」(2022年5月3日付産経新聞)
4分の3世紀を経て、改めてはっきりした点がある。それは、次に示す憲法前文の有名なくだりが空論に過ぎないということだ。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」平和を守らず、公正と信義を顧みない国が存在している。このどうしようもない現実に、どのように対処していくかを、現憲法は語っていない。欠陥憲法と呼ばれるゆえんである。…ウクライナが日本の憲法前文のような決意を実践していたらロシアにあっという間に蹂躙され、併合、分割されるか、衛星国家にされただろう。降伏すれば無事にすむわけでは決してない。ウクライナの独立、自由と民主主義は失われる。キーウ周辺で起きたようなロシア軍による虐殺があっても抵抗する術はもはやない。だが、ウクライナ国民は日本の憲法前文が求めるような無責任かつ惰弱な対応を選ばなかった。祖国や故郷、愛する人々を守ろうと立ち上がり、欧米諸国や日本はそれを支援している。戦後日本の平和を守ってきたのは、憲法前文やそれに連なる第9条ではなかった。力の信奉者で、国際法や外国の主権を尊重してこなかった中国や北朝鮮、旧ソ連・ロシアが、日本の9条を尊重するはずもない。突き詰めれば、自衛隊と日米安全保障条約に基づく米軍の抑止力が平和を守ってきたといえる。抑止力と対処力の整備が安全保障や外交力を裏打ちするが、憲法前文や9条を旗印とする陣営はそれを理解せず、現実的な安全保障政策の展開を妨げてきた。前文や9条の改正は、憲法改正問題の一丁目一番地であるべきだ。…日本が世界の他の民主主義国と同様に、国と国民を守る軍を持ち、集団的自衛権を活用して仲間の国々と守り合うようになれば、日本を侵略しようとする国にとってのハードルは一層高くなる。9条の改正は、安全保障政策への不当な妨げを阻むことにもつながる。岸田文雄政権は、ミサイル攻撃などに対抗する「反撃能力」導入を検討中だ。中国や北朝鮮などのミサイルの性能向上は著しい。飛んでくるミサイルを迎撃するミサイル防衛だけでは守り切れなくなった事情がある。これに対し、9条の精神に基づく専守防衛に触れるとして反撃能力反対論がある。国民よりも侵略国の軍を守るような奇妙な主張で、それを導く9条は罪深い。…改正すべきは9条だけではない。11年前の東日本大震災から議論が始まった緊急事態条項の創設は足踏みしたままだ。南海トラフや首都直下の大震災はいつ襲ってくるか分からない。地理的に近い台湾有事は日本有事に直結する。衆院選が実施できなかったり、国会や自治体が機能不全に陥る事態へ備える必要がある。

3.暴排条例等の状況

(1)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(北海道)

北海道旭川市で、小学校の近くに暴力団事務所を設置したとして、六代目山口組旭導会幹部ら3人が北海道暴排条例(北海道暴力団の排除の推進に関する条例)違反の疑いで逮捕されています。報道によれば、2021年10月、旭川市立小学校の敷地から約140メートルの距離にある建物に、暴力団事務所を開設した疑いがもたれており、さらにもう1人の容疑者は2人に、この建物を引き渡した疑いが持たれているということです。事務所は、旭導会傘下の暴力団の事務所として使用されており、同条例では、学校などの保護対象施設から200メートル以内に暴力団の事務所を設置したり、運営することを禁止しています。

▼北海道暴力団の排除の推進に関する条例

同条例第5章「青少年の健全な育成を図るための措置」第19条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止)において、「何人も、次に掲げる施設の敷地の周囲200メートルの区域内においては、暴力団事務所を開設し、又は運営してはならない」として、「(1)学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校(大学を除く。)又は同法第124条に規定する専修学校(高等課程を置くものに限る。)」が指定されています。さらに、第7章「罰則」第26条において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「(1)第19条第1項の規定に違反して暴力団事務所を開設し、又は運営した者」が規定されており、本件はこれらの規定に抵触したものと考えられます。

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