暴排トピックス

暴力団離脱者支援~意志ある者には道を開くべきだ

2023.10.11
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首席研究員 芳賀 恒人

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握手をするスーツの男性二人の手元

1.暴力団離脱者支援~意志ある者には道を開くべきだ

工藤会による一連の一般人襲撃事件の控訴審が福岡地裁で始まっています。1年前の本コラム(暴排トピックス2022年9月号)では、以下のように指摘していました。現時点でも概ね通用する内容ではないかと思われます。

工藤会のトップである野村被告に死刑判決が言い渡されて1年が経過しました。また、福岡県警の頂上作戦により野村被告が逮捕されて8年が経過しています。工藤会の組織の弱体化が進むなか警察は資金源を取り締まる対策や離脱した人の社会復帰の支援などを通して壊滅を目指すことにしています。本コラムでたびたび取り上げたとおり、工藤会のトップで総裁の野村悟被告は1998年に起きた漁協の元組合長の射殺事件に関わったとして8年前の2014年の9月11日に逮捕され、警察は、工藤会に対して「壊滅作戦」と呼ぶ徹底した取り締まりを始めました。野村被告は、市民を狙った4つの事件に関わったとして殺人などの罪に問われ、福岡地方裁判所は2021年8月、死刑判決を言い渡しました。福岡県警察本部によれば、2021年末までの8年間でのべ463人の構成員を検挙し工藤会の県内の構成員は2021年末時点でおよそ200人とピーク時の3分の1以下に減っています。さらに、北九州市では工藤会が関係する事務所の撤去も進んでいて組織の弱体化が進んでいるとみられます。警察はいわゆるみかじめ料の要求や犯罪収益など資金源を取り締まる対策や離脱した人の社会復帰の支援などを通して組織の壊滅を目指すことにしています。報道によれば、福岡県警察本部の田中伸浩暴力団対策部長は「弱体化はかなり進んでいるが組織の統制や凶悪性などの本質は変わっていない。特殊詐欺など犯罪収益による資金源対策を進めながら、離脱した組員の受け皿となる企業を増やし社会復帰を支援するなどして対策を続けていきたい」と話しています。また、福岡県警察本部は、繁華街の飲食店などを対象に暴力団員の立ち入りを禁止する標章について行ったアンケート調査で、およそ8割の店舗が標章を掲示し9割以上の店舗が暴力団の影響力を「感じない」と回答したという結果を発表しています。福岡県が暴排条例に基づいて発行する「暴力団員立入禁止」の標章が導入されてから今年で10年になるのにあわせて北九州地区や福岡地区など県内の主要な繁華街がある7つの地区を対象に8月アンケート調査を実施し423の店舗から回答があり、「暴力団員立入禁止」の標章について、「掲示している」と回答した店舗の割合は78%だったということです。「掲示していない」または「過去に掲示していた」と回答した店舗に理由を聞くと「必要性がない」と回答した割合が19.6%で、「報復が怖い」と回答した店舗も2.9%あったということです。そして繁華街で営業する上で、暴力団などの影響力を感じることがあるかという質問に対しては94%の店舗が「感じない」と回答したということです。

また、以前の本コラム(暴排トピックス2023年6月号)において、みずほ銀行口座開設拒否問題に絡めて、暴力団離脱者支援のあり方について、以下のように論じています(一部修正)。工藤会の弱体化が進む中、暴力団離脱者支援の重要性はさらに増しており、企業のリスク管理の観点からのアプローチだけでなく、半グレや闇バイトの問題がより深刻化し、警察当局も新たに「匿名・流動型犯罪グループ」とカテゴライズして、その規制に向けて動き出すなど、社会情勢も変化しつつある中、暴力団やその離脱者からのアプローチも有効となりつつあり、暴力団離脱者支援について、そろそろ本腰を入れて取り組むべき機運が醸成されつつあることを感じます

暴力団からの離脱と社会復帰を促す活動は各地で進められていますが、そうした過去を完全に消すのは容易ではないのが実態です。報道において、ある地方銀行の支店幹部は「暴力団をやめたからといって更生したとは限らない」と警戒感を隠していませんでしたが、筆者も多くの金融機関から同様の懸念を聞くことが多く、真に更生したかを金融機関自身で判断する(リスクをテイクする)のは極めてハードルが高いのではないかと感じています。さらに言えば、その時点では離脱できていたとしても、その後のリスクまで金融機関がテイクすべきなのかと言えば、現時点ではそこまで積極的にリスクをテイクするような環境にないと感じます。また、報道で、地銀支店幹部が「表向きは離脱していても、不良集団の「半グレ」のメンバーになっている可能性もある。怪しい人は現場の判断で全て断る」と言い切り、5年というのも「一つの基準に過ぎない」と話していますが、この点も多くの金融機関の厳格な姿勢として、各行の自立的・自律的なリスク管理事項である以上、安易に責められるべきものでもないと考えます。一方、報道にもあるとおり、ある警察幹部が「『この人はシロですか』と聞かれても、警察は『絶対大丈夫です』とは言えない。事業者には誰と取引するか決める自由がある」と、その難しさについて述べている点も、実務上はそのとおりであり、警察が「シロ」との情報を提供しない以上、そのリスクをどうテイクするかは金融機関の判断に拠る(自立的・自律的なリスク管理事項)のであって、第三者やましてや当人が強制する類のものでもないはずです。また、報道では、提訴した男性の就職先は協賛企業ではないとして、金融機関への働きかけなどをしてきた日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会の山田康成副委員長の「口座開設に応じるのは、金融機関にとってハードルが上がらないように反社会的勢力が入り込まない協賛企業に就労した人から始め、徐々に広げていくのが良いとの方針で進めていた」、「協賛企業以外で働く元組員にも真面目にやっている人はいる。訴訟は一つの問題提起と言える。暴力団情勢は変化しており、『半グレ』の見極めなど、金融機関側も新たな対応が求められる」とのコメントも取り上げています。この問題の本質は協賛企業への就職かどうかではなく、(受け入れ先企業の理解があることは離脱者支援にとって望ましいにせよ)当人自身の離脱の意志が本物かどうか、信頼に足る人物かどうか、正に「目利き」が問われているという点です。協賛企業であれば離脱が成功する確率が極めて高いということが事実なのであれば、金融機関にとっての判断基準の一つとなり得るところ、現時点でそのような事実はなく、だからこそ自立的・自律的なリスク管理事項として判断していかざるを得ないのです。さらに、「金融機関側も新たな対応が求められる」という点についても、それは社会全体の機運の高まり(暴力団離脱者支援の社会的な受容度・寛容度の高まり)があってのことであり、金融機関がその先鞭をつけるとの役割を担うことが求められているにせよ、例えば離脱が失敗に終わった場合(最悪、開設した口座が暴力団や犯罪組織の活動に悪用される結果となってしまった場合)であっても、当局や社会がそうした要請に応じて取り組んだ金融機関を受容・許容してくれるかが重要な要素となると考えられます。暴力団排除と不合理な差別、暴力団離脱者支援のバランスは確かに大きな分岐点にあるのは間違いありません。その意味では、「訴訟は一つの問題提起と言える」とのコメントについては、筆者も完全に同意するところです。願わくば、こうした緊張関係を乗り越えた先に、「社会的包摂」がすべてを包含する社会であってほしい、そう考えます

工藤会トップで総裁の野村悟、ナンバー2で会長の田上不美夫両被告の控訴審が福岡地裁で始まっています。今回、工藤会側・弁護側の大幅な主張変更は、野村被告の死刑を回避することのただ1点に重点を置いていることが明らかとなりました。第2回公判では、両被告の被告人質問が行われ、野村被告は「何も知らなかった」と1審に続いて無罪を主張し、田上被告は2事件の独断指示を認めています。報道によれば、野村被告は同会を脱退する意向を、田上被告は会長職を退く考えを示しています。検察側は漁協の利権を狙った事件と主張していますが、「当時、賭博で1日に最大2億円を稼いでいた」などとして事件を起こす動機がないと強調、関与を認めた田上被告については、「私のことを思いすぎる人。すまんなと」と話したといいます。1審で死刑判決を受けた直後に裁判長に「全然公正じゃない。生涯後悔するぞ」などと発言したことについては「裁判所には申し訳ない。(脅しの)気持ちは一切ありませんでしたが、誤解されている可能性があるので、ここに謝罪します」としたうえで、「公正な判断をお願いしたい」と述べています。一方、1審で「会ったことはない」と説明していた元漁協組合長については「会食したことがあるかもしれない」と変遷もみられ、検察側に理由を問われると、「わからない」などと繰り返しています。また、野村被告は「総裁は隠居した身で元々なくてもいい職。総裁を辞め、会との関係を断ち切る」と語気を強めたといいます。田上被告は、「傷つけるよう(配下に)指示した。一生(顔に)傷が残り、恥ずかしい思いをさせようと思った」と関与を認めたうえで、1審の全面無罪主張が一転した理由について「総裁は父親のような存在で尊敬している。何も知らなかったのに死刑になり、本当のことを言おうと思った」と説明、「正直言って後悔しているし、自分は獄中死すると思う」として会長職から退くと述べています。さらに、工藤会の今後については存続を望む意向を示し、その理由については「私のようにこのような世界でしか生きられない人間もいる」と説明しています。今回の控訴審では、否認を続けていた田上被告、菊地被告、中村受刑者から、一部犯行への関与を認める証言が飛び出しましたが、これらは被告人の「自白」で「直接証拠」となりえますが、野村被告の死刑回避を狙って突然登場した、これら「直接証拠」の証拠価値は極めて低いと言わざるを得ないというのが衆目の一致するところではないでしょうか。検察側は、事件に関係した工藤会組員や親交者、それまで工藤会を恐れて捜査への協力を躊躇していた被害関係者等から具体的証言等を得ることに成功し、一部では、それを裏付ける証拠も得ています。それら間接証拠を積み上げて、一審、今回の控訴審に臨んでいます。これに対し弁護側は、勇気をふるい、あるいは心から反省し証言してくれた実行犯や被害者関係者等の証言について、一方的に虚偽だと決めつけ、また、被害者が亡くなった元漁協組合長事件は別として、残り3件の組織的殺人未遂事件については、殺意を否定し続けており、それは今回の控訴審でも変わらないと見られます。また一審、控訴審とも弁護側は、総裁は「隠居」で会の運営には関わっていない、だから事件への関与も無いとの主張を続けているます。いずれにせよ、トップ起訴後に事件について話す工藤会組員もでるなど、判決によって「工藤会の鉄の結束」はより顕著に弱まったと言ってよいと思われます。実際に、頂上作戦以降、工藤会によるとみられる市民襲撃事件は起きていません。本コラムでもたびたび取り上げていますが、福岡県は、暴力団の離脱支援に力を入れており、県内の協賛企業は、2022年末で364社と、多くの企業に離脱者の受け皿になっています。2016年には、離脱者の就労を他の都道府県と協力して支援する「社会復帰に向けた広域連携協定」を福岡県が提唱、現在では38都道府県が参加しています。離脱者を雇いやすい制度設計ができつつあり、暴力団離脱を希望する構成員をいち早く察知し、離脱、そして就労につなげていくことが期待されます。

私見となりますが、現在の暴力団離脱者支援の現状や支援の要件について、以下のように集約できると考えています。企業のリスク管理と社会情勢の変化によって、暴力団離脱者支援が実効性をもつものとして社会的包摂の中に位置づけられることを期待したいところです。暴力団離脱者支援は正に、意志なき者は排除していく必要があるとはいえ、意志ある者には道を開くべき時がきたとといえます。

  • 暴力団離脱者対策の現状
    • 「更生」=「暴力団からの離脱」という「形式」的なレベルにとどまっている
    • 本来の、事業者として関係をもつべきでない「反社会的勢力」という「実態」からみれば何の変化もないと言える
    • 「暴排は進展しても反社排除は進展していない」、あるいは、「離脱と更生の意味が大きく乖離している」とも言い換えることができる現状
  • 暴力団離脱者支援の要件(私見)
    • 更生に対する本人の意思が固いこと(離脱=更生=暴排=反社排除の構図が成立すること)
    • 本人と暴力団との関係が完全に断たれていること
    • 5年卒業基準の例外事由であると警察など公的機関が保証してくれること(公的な身分保証の仕組みがあり、それによって事業者がステークホルダに対する説明責任が果たせること)
    • 事業者の暴排の取組みの中に離脱者対策の視点が明確に位置付けられること(離脱者支援対策が社会的に認知され受容されていること)

工藤会の資金源を断つ攻防は今も続いており、2023年8月、工藤会の2次団体組員らに対する覚せい剤取締法違反の容疑で家宅捜索が入りましたが、福岡県警は一連の捜査で、350グラム(末端価格約2200万円)の覚せい剤を既に押収、密輸事件を除けば、福岡県警史上最大級の押収量だといいます。これにより、工藤会の重要な資金源の一つを断てたものと考えられます。押収した覚せい剤は約1万2千回分の使用量があり、北九州市やその周辺で売られる予定だったとみられています。一方、この事件で元県警幹部を驚かせたのは、逮捕された組員の素性で、工藤会では珍しい東京の国立大出身で「株式投資など億単位のもうけがあると自慢し、経済ヤクザを標榜していたと報じられています。表社会に近いところでの収益が断たれ、犯罪収益でしか稼げなくなったものと考えられます。元警察幹部は報道で、「かつての捜査で、12億円の裏金を確認した。毎年億単位の金が積み上がっていた」と述べていますが、工藤会の現在の財務状況をどう見るかは、県警内でも割れており、金回りがなぜいいのか、なお不明の工藤会幹部もいるといいます。その収益源は、主に(1)建設利権(2)接待飲食店・風俗店からのみかじめ料(3)薬物、が「工藤会の3大資金源」だったとされますが、現状は「いまの収入は年数千万円くらいじゃないか。こんな資金では、他の暴力団との付き合いや、工藤会のために服役した組員の出所祝いなど満足にできていない」、「組織運営はままならず、衰退は必至。任侠団体から、ただの犯罪集団になってしまう」と工藤会関係者が述べたとも報じられています。さらに、福岡県警が特に全容をつかみきれていないのは、関東に進出したグループの動きで、報道によれば、「関東では工藤会の看板はまだ影響力がある。何をしでかすかわからない、という恐怖心を植え付けている」、「特殊詐欺で原資をつくり、風俗店経営でもうけているようだ。半グレも集まってきている」といった状況で、今後も十分な警戒が必要だとされます。

住宅戸建て大手のオープンハウスグループは2023年9月29日、暴力団組長への利益供与などの問題が発覚した三栄建築設計の株式公開買い付け(TOB)が成立したと発表、総数の93%の応募があり、10月5日付で子会社化しています。残る株式も今後取得し、三栄建築は上場廃止となります。組長との交際などが取り沙汰された創業者の元社長も、6割超ある保有株式の売却に応じ、完全に影響力を排除される形となりました。同8月17日~9月28日に行ったTOBの買い付け価格は1株2025円で、買収総額は約430億円となります。本コラムでもたびたび取り上げてきたとおり、三栄建築設計は創業者である小池氏が反社会的勢力に金銭を供与したとして、6月に東京都公安委員会から暴力団排除条例に基づく勧告を受け、第三者委員会は8月にまとめた調査報告書で、再発防止に向けて「コンプライアンス意識を保持する必要がある」と指摘しています。関連して、日本証券業協会の森田敏夫会長は会見で、「株主をはじめとする利害関係者や市場の信頼を大きく損なう事案で、関心を持って注視している」と述べるとともに、証券会社が上場時などの審査を徹底することが重要だという考えを示しています。協会では、2011年に、証券会社が企業の上場の引き受け業務などを行う際の規則を見直し、反社会的勢力の排除を内容に盛り込んだ契約を結ぶことを義務化しましたが、森田会長は「今回のケースのように会社側が反社会的勢力との交流はないという虚偽の確認書を出してきた場合、手の打ちようが非常に難しい」と述べましたが、そのうえで、上場を控えた会社への審査で暴力団などとの交流がないか、証券会社が徹底した確認を行うことが求められるという考えを示したものです。筆者としても、残念ながら、今回のケースでは、通常の反社チェックのレベルでは見抜くことが難しかったように考えています。一方で、例えば接待交際費の使用にあたり、特定の人間について摘要欄が空白という異例な状況であることが(外部の専門家が)つかむことができれば、それをきっかけとして深堀り調査をすることで、その問題が把握できた可能性があります。この点については、東証、メガバンク、証券業協会、主幹事証券会社のいずれもそこまでの端緒を知ることは困難であり、したがって、通常果たしうる最大限の努力をもってしても、反社会的勢力との関係を見抜くことが難しかったと考えられます。重要なことは、だからといって何もしないのではなく、改善すべき点、改善できることを洗い出して、精度を高める努力をしていくことだと思います。なお、週刊誌情報ではありますが、裏社会においても「カタギとの密接交際禁止」が通達されているといいます。某アイドルグループの元メンバーと、現役暴力団員が一緒に撮った写真が週刊誌に掲載され物議を醸しましたが、かつて週刊誌を頻繁に賑わせていたような「芸能人の黒い交際」と言ったような報道は、最近では稀になっています。その理由について、ある組織の元組員は、「ヤクザ側が著名人との接触を控えているからですよ。理由は簡単で、著名人と絡むメリットがないから。むしろ、表に出たら騒ぎになる可能性がある分、リスクのほうが大きいともいえる」、「連れ回して周辺に人脈自慢したりシノギの看板にするなど『場面』で使ったり、金づるにしたりというメリットはあった。虚栄心が強いヤクザは付き合いがあるだけで充足感も得られたが、暴排が徹底されたことで事件化したりトラブルに発展することが多くなりましたから。仮に著名人が絡んで事件になった場合、使用者責任が厳しく問われるこのご時世では、組織の上層部にまで累が及ぶことも考えられる。公安委員会の指定団体のほとんどはリスク回避のために接触を避けるようになっているはずです」と説明していると報じられています。さらに、ある有力団体での「内部通達」では、「これまで組織の主要な収益源だった特殊詐欺や債権回収が容易にできない環境になったことで、上層部は、『原点に帰ろう』と号令を掛けた。つまり、『昔ながらのシノギに回帰しよう』ということです。つまりそれは『博打、女、クスリ』の3つ。昔からあるシノギではありますが、うまく展開できれば、『OS(オレオレ詐欺)』なんかよりも摘発のリスクは格段に低く、安定的な収益が見込めるので、組織内では奨励される雰囲気があるようですね」とも述べているようです。

特殊詐欺グループのリーダーとされる男が7月に詐欺容疑などで逮捕された事件で、男の特定にこぎ着けたのはグループの内紛がきっかけだったと報じられています。2023年9月15日付読売新聞の記事から、抜粋して引用します。今回は成功したとはいえ、特殊詐欺グループの首魁に辿り着くには、わずかなチャンスを逃さないことが必要である一方で、やはり有効な方策はなかなかないことも感じさせられます。

メンバーが離合集散を繰り返すグループの全体像は見えないことも多く、一般的に首謀者は遠隔で指示を出すため立件には高い壁がある。静岡県警は摘発に力を入れている。神奈川県平塚市の集合住宅。数十人の捜査員が突入したのは7月7日早朝のことだった。中にいた男は、県警がおよそ1年にわたって行方を追っていたボリビア国籍で住吉会系暴力団員の岡崎容疑者(34)。捜査幹部によると、特殊詐欺グループのリーダーとしてだまし取った金の管理などにあたっていたといい、これまでに恐喝容疑や詐欺容疑などで4回にわたって逮捕された。特定のきっかけは昨年2月24日。相模原市の高齢男性から現金4000万円をだまし取ったグループのかけ子らが、そのうち3000万円を着服し、グループからの脱退を画策したことだったという。一般的に特殊詐欺事件では、末端の実行役が「トカゲの尻尾切り」のようにされることも少なくない。指示役などと直接顔を合わせることはなく、中枢の人物を摘発することは困難とされる。しかし、今回の事件では、かけ子らがリーダーとみられる男を目撃していた。着服に激怒した岡崎容疑者はかけ子に直接詰め寄り、「このグループに入った以上、簡単に抜け出せねえんだよ」などと脅した上、暴行するなどして脱退を阻止しようとしていた疑いが持たれている。静岡県警は、その後に摘発したかけ子らの供述をもとに、「住吉会」「ギルという名前」「日本人離れした顔」などの断片的な情報をつなぎ、岡崎容疑者を特定した。捜査幹部は「末端の前に姿を現したことは大きかった」と語る。このグループは少なくとも2022年1~3月、県東部や神奈川県で発生した特殊詐欺事件に関与したとされ、県警はこれまでに受け子ら10人以上を摘発した。かけ子は都内の民泊などを転々とし、詐欺電話をかけるアジト(拠点)にしていたという。県警は、だまし取った金が暴力団組織に流れたとみて調べている。…警察庁は7月、知らない人同士で離合集散を繰り返す犯罪集団を「匿名・流動型犯罪グループ」と定義し、都道府県警に専従班を設置する指針を示した。県警捜査4課の藤田宣美次席は「徹底的に検挙し、『特殊詐欺は必ず捕まる』という意識をつけていきたい」と話している

警察庁は、事件解決に結びつけば情報料を支払う「匿名通報ダイヤル」について、SNS上で接点を持ち事件ごとに離合集散を繰り返す犯罪集団が関与する犯罪などを2023年10月1日から対象に加えています。「闇バイト」で実行役を募る犯罪組織の実態解明や取り締まりを強化する狙いがあり、事件解決に貢献した通報に支払われる上限10万円の情報料も見直し、犯罪組織の壊滅に貢献した通報の上限は100万円に引き上げられました。匿名通報ダイヤルは、警察庁が委託する民間団体が市民による匿名の情報提供を電話やウェブサイトで受け付ける制度で、これまで児童虐待や違法薬物にからむ情報など8項目が対象となっていました。日本では公営ギャンブル以外の賭博が禁止されており、オンラインカジノに関する通報も対象に加えることになりました。匿名通報ダイヤルの通報件数は、スマホからの通報にも対応を開始した2013年ごろから増加、警察庁によると、2022年の通報受理件数は2万7010件で2012年の4427件から約6倍に増えているといいます。なお、2022年では計45件の摘発や被害者保護に結び付き、11件、計53万円が拠出されたということです。通報は電話(0120-924-839)かネットで受け付け、匿名性を守るため情報料を現金で受け取ることも可能です。また、警察庁は、特殊詐欺や強盗などの実行役をSNSで募る「闇バイト」に関するネット上の情報の監視を、2023年9月29日から始めています。具体的な仕事内容が書かれていなくても、「高収入」をうたうなど、文言から犯罪の実行に誘っていると認められる書き込みは対象とするとしています。情報の監視は、警察庁が「インターネット・ホットラインセンター(IHC)」に委託して実施、一般からの通報などを受けサイトや掲示板の管理者らに削除を依頼しており、今回、闇バイトに関する情報が対象に加わりました。投稿では、特殊詐欺の被害者から金品を受け取る「受け子」や、ATMで現金を引き出す「出し子」、それらを指す「UD」、強盗を意味する「タタキ」といった具体的な文言がない場合もありますが、「裏バイト」「即金バイト」「闇仕事」のほか、「5から10(万円)以上日払い可」「100万(円)以上稼げます」など、文言や文脈から社会通念上、犯罪の実行者の募集と読める書き込みは対象となります。広域強盗事件などを受けて政府が2023年3月にまとめた緊急対策プランでも、闇バイトに関する情報の削除の推進やネット上の有害・違法な労働募集の排除が盛り込まれていたところです。同センターによる監視とは別に、都道府県警によるサイバーパトロールでは2022年、闇バイトに関する情報約5千件について削除依頼したといいます。また、警察庁が同じく委託する「サイバーパトロールセンター(CPC)」による情報の検索では、同日から人工知能(AI)の運用が始まっています。自然言語処理と呼ばれる技術が使われ、前後の文脈も踏まえ、有害情報に該当する可能性のある投稿を抽出できるといい、当面はX(旧ツイッター)と、ユーチューブの動画紹介欄やコメント欄への書き込みを対象とするとしています(逆に、こうした情報を公開することによって、別のSNSでのやりとりが活発化する可能性があります)。CPCは集めた情報を別の民間団体「IHC」に通報、IHCが違法・有害と判断すればサイト管理者やプロバイダーに削除を依頼することになります。

全国の警察本部の捜査担当課長らを集めた会議で、警察庁の露木長官は、被害が深刻化している特殊詐欺について都道府県警の垣根を取り払って新たな協力体制を作り、一体となって捜査を行うよう指示しています。SNSで実行役を募集する手口が特殊詐欺や強盗などに拡大していると指摘、和歌山市で岸田文雄首相が襲撃された事件や、長野県中野市で猟銃で警察官らが殺害された事件など、「殺傷能力の高い凶器を使った凶悪事件が相次ぎ、社会に不安を与えている」と述べたほか、SNSなどを通じて緩く結びつき、特殊詐欺や強盗を行う「匿名・流動型犯罪グループ」を「治安上の重大な脅威」と位置づけ、グループの首謀者や指示役の摘発を進めるよう指示しています。また、松村国家公安委員長は、全国の警察が直面する多様な課題について、「強盗などが広域で発生しており、体感治安の悪化が懸念されている。一層踏み込んだ対策が必要。青少年をアルバイト感覚で犯罪に加担させないための啓発も重要となる。検挙、被害防止の両面を強力に推進する」、「ポイントは選挙。聴衆の安全確保も課題となっている。選挙は民主主義の根幹だ。極めて重要で、警護に万全を期すよう警察を指導したい」、「サイバー空間の脅威は深刻。国民が安心して暮らせる社会の実現には、必要な体制整備を図り取り締まりや実態解明を推し進めていかなければならない。国際協力、人員増も必要だろう」、「犯罪被害にあった人や家族、遺族は心身の被害だけではなく、その後もさまざまな困難に苦しんでいる。しっかり寄り添った施策を推進することが大切だ。民間支援団体とも連携していく」、「薬物事案の検挙人員は年間1万人を超える高い水準。この役職に就いて(1万人超という)数字を知り、驚いた。特に大麻はここ数年、増加傾向が顕著。若年層の乱用拡大が深刻化している。大麻は薬物使用の入り口になっており、背景には有害性について、たばこの延長とか依存性はないといった誤った認識がある。供給の遮断と需要の根絶に向けた取り締まりの徹底と、広報や啓発に取り組んでいきたい」などと述べています。

指示役「ルフィ」らによる一連の強盗事件のうち、2022年12月に広島市の店舗で男性が襲われて重体になった事件を指示したとして、警視庁は、男3人を強盗殺人未遂容疑などで再逮捕しています。押収したスマホの解析で、実行役らに送信した通信アプリ「テレグラム」のメッセージを一部復元し、関与を裏付けたとしています。警視庁がフィリピン当局から引き渡しを受けた渡辺被告らのスマホを解析した結果、メッセージを一部復元することに成功し、広島市の事件でも実行役らに指示を出していた疑いが強まり、今村被告から指示を受けた男(強盗致傷罪などで実刑判決)が、被害品のロレックスなどを事件後に東京都内で売却していたことも確認されたといいます。フィリピンで拘束されていた渡辺被告らが2023年2月に強制送還された後、警視庁は同国当局からスマートフォンやタブレット端末計15台の引き渡しを受け、最新のデジタル鑑識技術で解析、テレグラムのメッセージを一部復元したほか、端末の暗証番号も割り出し、裏付けを進めたといいます。テレグラムやシグナルなど解析が困難だとされていましたが、こうした摘発に直結するような情報を引き出すことができる技術の存在は大変心強いものです。「犯罪インフラの無効化」の進展に期待したいところです

その他、暴力団等に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 知人の消費者金融会社のアカウントを無断で使って借り入れを行い、現金計96万3000円を引き出して盗んだ疑いで、六代目山口組系暴力団幹部の男が逮捕されています。男は何らかの方法で、知人の20代女性の消費者金融会社の登録情報などを入手、この情報を利用して現金を盗もうと考え、2022年6月から10月までの間に、13回にわたって新潟市内などのコンビニエンスストアに設置されたATMを使ってスマホから知人女性の消費者金融のアカウントにログインし、知人女性の借入名目で現金計96万3000円を引き出して盗んだ疑いがもたれています。警察は被害者から「身に覚えがない借り入れがある」と相談を受け捜査していたものです。
  • 宮崎県議会文教警察企業常任委員会で「(暴力団を)根絶やしにするのは、ある意味健全な社会ではない」という趣旨の発言をした井本英雄県は、発言の取り消しを同委員会で申し出て許可されています。問題となったのは、県警担当者から暴力団排除に向けた活動の説明を受けた際の発言で、井本県議は「私たちの体の中にもなにか悪い部分があるのと同じように、自由な社会で完全に(暴力団を根絶やしにする)というのはあり得ないと思う」と述べています。「誤解を招く発言があった」と述べましたが、報道陣の取材には応じず、詳細な取り消し理由は説明しませんでした。もっとも、「ヤクザがなくなったとして、その後には半グレのようなワルが大手を振って歩くようになる。そうだとしたら、素性が知れ、お上や警察を立ててくれるやくざが生き残ってくれる方がずっと安心できる。彼らがワルの世界を仕切るべきだ」と考える一定の人間は存在します。暴力団排除が反社会的勢力排除に直結せず、より野放図な匿名・流動型犯罪グループが跋扈し始めた状況、暴力団離脱者支援が機能していない状況にあっては、そうした側面があること自体否定しませんが、こうした問題を社会から解消する努力を地道に続けることが圧倒的に重要なのです。

2.最近のトピックス

(1)AML/CFTを巡る動向

ニッキンによれば、金融庁は金融機関に対し、2023年内にAML/CFTに関する規程やマニュアルを点検し、改定作業を終えるよう求めています。各金融機関は、金融庁が示す「マネロン・テロ資金供与対策ガイドライン」などを補足するために業界団体が作った「コンメンタール(注釈)」とそれぞれの現行態勢を照合し、不十分な点を見直す必要があります。ガイドラインを踏まえた態勢整備の期限は2024年3月末としていますが、「(時間的)余裕を持たせるため」(金融庁関係者)に、作業の締め切りは2023年12月末に前倒ししています。念頭にあるのは、作業が遅れている中小金融機関で、メガバンクや大手地域銀行は資金・人材を投じて対応を進めており、コンサルティング会社に協力を求めた事例もある一方、規模が小さい信用金庫などでリスクの評価・特定や顧客管理の甘さを払拭できていないケースも見られ、「(到達水準の)低さを指摘し続けている」といい、これまでのモニタリングでは、当局の評価と自己診断がかけ離れている事例も目立っているといいます(当局との意見交換会の状況や2023年6月に公表された「マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策の現状と課題(2023年6月)」からもそうした状況が明らかになっています)。こうした状況に対し、行政文書だけでは必要となる具体的な取り組みが分かりにくいため、全国地方銀行協会などはかみ砕いた説明を会員向けに作成、業界団体によっては、内容の更新も進めている状況です。例えば、ある業界はガイドラインが考慮を求める「営業地域の地理的特性」に応じたリスクの検証について、「地域から他の銀行などが撤退した場合に海外送金を利用する顧客の動向に留意すべき」と指摘、経営陣による職員向け研修については、担当役員による説明を必須とし、「トップであればさらに望ましい」と加えています。本コラムでもたびたび取り上げていますが、FATF(金融活動作業部会)は2021年に公表した対日審査の結果で日本をマネロン対策の課題が残る国に位置づけており、金融機関のリスク管理を含め改善が見られなければ日本が国際金融市場から締め出される恐れがあることから、金融庁は次回審査(2026年6月ごろ予定されているFATFのフォローアップ評価)への危機感を募らせています。こうした中、2023年9月12日付日本経済新聞で、金融庁は、地方銀行に対してAML/CFTについて集中検査を進めると報じられています。前述のとおり、金融庁が定めるガイドラインへの対応について、地域金融機関の対応に遅れが目立つためです。原則として地銀全行(第二地銀を含む)が対象で、疑わしい取引を見つけ出すためのシステムの構築や人員配置などを迅速に進めるように促すとしています。金融庁はすでに70程度の地銀への検査を実施、今後は残りの約30の地銀を集中的に調べていくとしています。金融庁がAML/CFTを急ぐ背景には、前述したFATFの要請のほかにも、架空や他人名義の金融機関口座を利用した特殊詐欺などの犯罪が後を絶たないこともあげられます。2022年には特殊詐欺の被害額が8年ぶりに増加、マネー・ローンダリング(マネロン)の疑いがある取引として当局に届けられた件数は58万3000件超で、この2年間で3割以上増えています。さらにテロ資金などを警戒する国際社会からの圧力も強まっているところです。また、特に課題として指摘されるのが、本コラムでもたびたび指摘いる、口座を持つ全顧客を対象に、定期的に本人確認や口座の利用目的を確認する作業(継続的顧客管理)で、個人であれば住所や職業、法人は実質的支配者やビジネスモデルなどの情報を更新することで、口座の売買や譲渡、なりすましといった口座の不正利用を防ぐ狙いがあるものです。AML/CFTにおける不備は金融庁からの要請が厳しいというレベルではなく、金融機関の経営にとって大きなリスクとなることをあらためて認識する必要があります。海外では、米司法省が2014年、仏銀最大手のBNPパリバに対して外為送金で違法なスーダンやイラン関連の取引と知りながら隠蔽し長期にわたって取引していたとして総額89億ドル(現在のレートで約1.3兆円)の制裁金を科した事例などがあります。日本には制裁金制度はないものの、金融庁は2024年度以降、体制に不備がある金融機関には業務改善命令などの行政処分を出す考えです。金融庁は、AML/CFTが、形式だけでなく実効性のあるものになっているかをより重点的に検査していくとしてますが、一方、地方銀行関係者によれば「まずはとにかく形式を整えてくれという印象だ」を与えているような状況も聞かれ、大変残念であるとともに、相互にそうした認識を払拭していく必要があります。

eKYCサービスのTRUSTDOCKとMMDLaboの調査によれば、オンラインで本人確認(eKYC)が必要な場合に最も利用したい方法を聞いたところ、マイナンバーカードの公的個人認証サービス(JPKI)が54.4%と過半数を占めたということです。利用したことがあるeKYCは「身分証明書と容貌の撮影」が最も多く、次いで「マイナンバーカードのJPKI」で、両者はほぼ同等に利用されているといいます。また、eKYCの手続きについて懸念や不便なイメージについて聞いたところ、「特にない」という回答が最多だった一方で、「身分証をネット上で取り扱うことに不安がある」「顔写真を送りたくない」「提供先の写真などのデータの保管や活用が不安・心配」といった回答も多かったといいます。本コラムでも取り上げましたが、政府は2023年6月に決定した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」で金融機関の口座開設や携帯電話を契約する際の本人確認の手法について、原則JPKIに一本化する方針を打ち出しました。運転免許証などの画像データを送信する方法や顔写真のない本人確認書類のコピーを取る手法も廃止する方針としていますが、今後JPKIの利用が増えると予想され、不安・不満の解消など柔軟な対応が重要になると考えられます。

シンガポール政府は、マネロン捜査でこれまでに押収した資産の総額が28億シンガポールドル(20億米ドル)に達し、逮捕者や押収資産はさらに増えるとの見通しを示しています。2023年8月中旬に実施した一斉捜査では10人の外国人を逮捕、高級不動産や高級車、宝飾品など10億シンガポールドル相当の資産を押収しています。ジョセフィン・テオ第2内相は「最も厳格な予防措置でも、犯罪者がすり抜ける可能性があることを思い起こさせるものだった」と述べ、同国政府は省庁横断的な委員会を設置する予定としています。また、事件に関与した金融機関を検査中で、中央銀行の要件に違反していることが判明した場合、職員も含めて強制措置を開始すると述べています。

南米ベネズエラの検察当局は、野党指導者だったグアイド元国会議長の逮捕状を請求したと発表しています。独裁色を強める反米左派マドゥロ大統領と対決する姿勢を示し、2019年から「暫定大統領」を務めていたグアイド氏は、2023年1月に失脚、政治混乱により社会情勢が悪化したベネズエラからは、多くの国民が流出して米国に殺到、米国や移動経路に当たる各国で大きな問題となっています。報道によれば、サーブ検事総長はX(旧ツイッター)で、グアイド氏には国家反逆やマネロンなどの容疑がかけられていると指摘、逮捕に向けて国際刑事警察機構(ICPO)の協力を求めると表明しています。ベネスエラに限らず、こうした政治的混乱などで国家元首などの地位にあった者を摘発する際に、マネロン容疑がかけられることが多い点をあらためて認識させられます。

(2)特殊詐欺を巡る動向

2023年10月3日付毎日新聞によれば、2023年1~7月に検挙した特殊詐欺事件の実行役ら1079人について、警察庁が詐取金を受け取る「受け子」や現金引き出し役の「出し子」、現金の運搬役らの携帯電話の記録などの客観証拠や供述を分析したところ、詐欺グループに加わった経緯について、「SNSから応募」が最多の506人(46.9%)で、次いで「知人等紹介」の297人(27.5%)が多く、「求人情報サイト」も53人(4.9%)いたということです。また、SNSから応募した506人のうち、87%に当たる440人はX(ツイッター)で、求人情報サイト別では、インディード19人、ジモティー18人、エンゲージ7人、スタンバイ3人などだったといいます。なお、50代以上の66人のうち、17人(25.8%)は求人サイトで、他の年代よりも割合が高かったといい、日雇い配送スタッフや葬儀屋のアルバイトを装うなど、一見すると詐欺事件の実行役募集とは分からない投稿があったということです。以前の本コラムでも、こうした実態が特殊詐欺を助長し、反社会的勢力の資金源となる可能性をふまえ、SNSや求人サイトの犯罪インフラ性について警鐘を鳴らしたことがありましたが、こうしたサービスを提供する事業者は、自らのサービスが「犯罪インフラ」化している実態を厳しく認識し、「場」の健全性確保のために、投稿内容のモニタリングや募集事業者の審査など、一層の厳格な運営体制を構築していくべきだと考えます。

特殊詐欺に国際電話番号が悪用されたケースが2023年7~8月に延べ2052件に上り、2022年1年間の150件から急増しているといいます。2023年に入って一連の広域強盗事件が発覚し、(本コラムでも取り上げた)政府の特殊詐欺や強盗などの実行役を募集する「闇バイト」対策が背景にあり、この対策の一環で、番号が「050」で始まり、インターネット回線を使用するIP電話は、2024年春から契約時の本人確認が事業者に義務づけられたほか、詐欺に使われた固定電話番号などを利用停止にする対策も徹底されたことで、こうした対策から逃れるため、詐欺グループがスマートフォンアプリを使って国内から国際電話番号で電話をかけている可能性が指摘されています。新たな早急な実態確認と注意喚起、対策が必要だといえます。報道によれば、国際電話番号が特殊詐欺に使われた例は2023年に入って2022年を上回るペースで推移し、1~6月で計531件、7月は一気に969件まで急増し、8月はさらに増えて1083件に上っています(一方、固定電話番号が使われた件数は、2022年夏の月1千件ほどから2023年9月は402件に減少したほか、2022年11月~2023年8月は本人確認が緩いIP電話が特殊詐欺グループに使われるケースが多く、番号種別で最多だったところ、2023年9月は1277件と国際電話番号を下回りました)。また、国別では、2023年7月は「+1」で始まる米国・カナダが687件で、豪州127件、英国61件など、8月も米国・カナダが843件で最も多かったといいます。本コラムでこれまで紹介したとおり、捜査を警戒し、ルフィグループなど詐欺グループが海外に拠点を置くケースが増えている実態がありますが、大半は(時差が少なく物価が安い、さらに日本人も比較的多い)タイやフィリピン、カンボジアなど東南アジアであり、欧米にリアルに拠点を移しているのではなく、国際電話番号を取得して通話ができるスマホアプリが複数存在することから、アプリを使って国内や周辺から電話をかけている可能性が疑われ(さらに、利用時の本人確認がほとんどないアプリで、国際電話番号を簡単に入手できる実態や、さまざまな国番号を自由に選べるアプリもあり、同じ端末からその都度異なる番号でかけられるものもあります)、警察庁などは無償で国際電話の発着信を休止できるサービスの利用を呼び掛けています(国際電話不取扱受付センター(0120・210・364)に申し込めば無料で止められます)。

国際電話番号という新たな「犯罪インフラ」の登場に限らず、特殊詐欺を支える「犯罪インフラ」は多様化・巧妙化する一方です。本コラムでもたびたび取り上げている通り、広域強盗事件の指示役として逮捕されたいわゆるルフィグループの渡辺容疑者らは、フィリピンを拠点に特殊詐欺を繰り返し、次第に強盗などにも手を染めるようになりました。SNSによる犯罪実行役の募集や匿名性の高い通信手段の浸透で、上位メンバーまで捜査が届きにくい環境の中、「詐欺よりも手っ取り早く金銭を奪える強盗に手口をシフトしたのではないかと考えられています。報道によれば、渡辺容疑者は遅くとも2019年4月ごろには、フィリピンで自身をリーダーとする特殊詐欺グループを形成、手口を小まめに変えながら成功率を高め、別の幹部とノウハウを共有して組織を拡大、被害総額は60億円に上るとみられ、同国では一時、メンバー100人近くが活動していた可能性が指摘されています。一方、特殊詐欺はうその電話役、キャッシュカードの受け取り役、詐取金の引き出し役など多くの人手が必要で、失敗することも多いのも事実です。報道で捜査幹部は「100人に電話をかけて1人だませるかどうか。闇名簿などで家の資産状況さえ分かれば強盗の方が手っ取り早い」と語っているとおり、渡辺容疑者らは海外からSNSを通じて使い捨て可能な実行役を募集したり、匿名性が高いテレグラムで指示を出したりして「犯罪インフラ」の使い方を熟知、手口を強盗に移行しても捜査は及ばないと考えたのではないかと推測されます。なお、フィリピン国内外にはいまだグループのメンバー約20人が潜伏しているとみられますが、今回の検挙によって、確実に捜査は及び逃れられないこと、「必ず捕まる』という心理的な抑止効果の面でも、その効果は大きいといえます。

本コラムでもたびたび取り上げている「闇バイト」について言えば、警察庁によると、闇バイトで実行役を募るなど手口が似た強盗や窃盗といった事件は2021年夏から2023年1月までに14都府県で50件以上発生し、これまでに約70人が摘発されていますが、安易に犯罪へ加担するのは若者だけではないことも判明しています。埼玉県警などが2023年7月、他人名義のクレジットカードで購入した商品の転売を繰り返したとして電子計算機使用詐欺の疑いで逮捕・再逮捕した男女5人は、闇バイトを通じて集まった29~40歳で、会社員や派遣社員が含まれていたといい、互いに面識はなく、それぞれSNSで見つけた「副業」に応募し、共通の指示役のもとで犯行に加わったものだといいます。闇バイトの募集は若者のみが対象ではなく、中高年がパートや副業感覚で関与する可能性もあるとして、警視庁の担当者が注意を呼びかけています。実際、直近でも、特殊詐欺事件に関与したとして、警視庁久松署が、千葉県柏市の50代の会社員を逮捕していますが、育児休業中にSNSの「闇バイト」に応募したということです。2021年12月に育休(2年間)を取得していたものの、2023年7月に詐取金の受け取り役として別の高齢者に対する詐欺容疑で逮捕され、「育休で収入が減り、SNSで副業を探した」と供述していたといいます。さらに、警視庁は、会社経営者の男を詐欺未遂の疑いで現行犯逮捕しています。特殊詐欺グループの現金を受け取る「受け子」とみられ、男は「会社の資金繰りが悪くなり、生活費のためにやった」と容疑を認めているといいます。結局、金を稼ぐための近道はないのは若者も中高年も同じであり、SNSでおいしすぎる話に飛びついている限り、若者も中高年も闇バイトの沼に引きずり込まれる恐れがあるということです。

かつて振り込め詐欺は半グレがその主役とみられていましたが、暴力団の参入が進んでいるという一面も無視できないところです。一方、暴力団対策法に基づく使用者責任が追及できるようになるという点では、被害者救済の面からプラスに捉えることも可能です。ここ数年、特殊詐欺の担い手であった半グレに対する警察の取り締まりが厳しくなっていることから、逆に暴力団が直接、特殊詐欺に手を出す流れにあります。さらに、振り込め詐欺を行っていた半グレが暴力団側に加入する流れもあり、前のめりに犯行に関わっている実態があります。実は暴力団の世界では「詐欺」は御法度とされており、報道である関係者が「10年前は振り込め詐欺に関わったら、ヤクザの間からでも「人でなし」といった見られ方をしたが、いまはどこの組織でもやっているし、黙認状態で野放しになっているね」と述べていましたが、「貧すれば鈍する」で、暴力団の変質、自らを衰退に招いた「金儲け主義」もここまできたかというのが率直な感想です。そして、そうであればなおさら、暴力団に絶対に利益を与えないという点で、使用者責任の追及をより厳しくしていくことも求められます。以下、最近の暴力団が関与した事件をいくつか紹介します。

  • 高齢女性から現金1千万円をだまし取ったとして、警視庁は、詐欺容疑で住吉会傘下組織組員(詐欺罪で起訴)ら2人を再逮捕しています。報道によれば、容疑者は特殊詐欺で現金を回収する「受け子」グループの統括役だったといい、受け子グループは2021年5月以降、少なくとも計16件、約1億2千万円の被害に関与したとみられています。詐欺電話をかける「かけ子」グループから「業者」と呼ばれ、依頼を受けて被害者から現金を回収、詐取金の約6割をかけ子グループに渡していたといいます。再逮捕容疑は2022年2月、仲間と共謀して東京都中野区の70代女性に息子らを装い「携帯電話を落とした。会社の仕入れで金が必要」などと電話し、現金を詐取したというものです。なお、暴力団対策課はこれまでに、受け子を集める「リクルーター」役など10人以上を逮捕しています。
  • 東京・練馬区に住む高齢女性から現金1000万円をだまし取ったとして、稲川会傘下組織組員ら2人が逮捕されています。このグループによる被害は1億2000万円を超えるとみられています。逮捕容疑は、2022年、仲間と共謀して練馬区の80代女性に「俺だけど」と息子をかたって電話を掛け現金1000万円をだまし取った疑いが持たれているものです。

高齢者からだまし取ったキャッシュカードで現金を引き出して盗んだとして、大阪府警は、無職の男のほか、31~62歳の男女5人を詐欺と窃盗の両容疑で逮捕しています。報道によれば、6人は男がリーダーとみられる特殊詐欺グループで、詐欺の電話をかける「かけ子」らの拠点を設けておらず、大阪府警は、摘発を逃れるため、ホテルや自宅などに分散する「テレワーク型」で活動していたとみているといいます。こうしたテレワーク型がある一方、特殊詐欺の「犯罪インフラ」としては拠点(ハコ)も重要です。特殊詐欺を行うには、電話を掛けるための拠点が必要と考えられているためです。2022年末から関東で起こった広域強盗事件、いわゆる”ルフィ事件”とフィリピンを拠点にした特殊詐欺事件の場合、アジトにしていたのはマニラ近郊の廃ホテルですが、東南アジアを拠点にする特殊詐欺グループでは、ハコと呼ばれる拠点をマンションやビルにいくつも作り、そこから日本へ電話を掛けていましたが、日本国内でも民泊を拠点に何か所ものハコを作っていたことが判明しています(そういう意味では、ホテルやマンション、民泊も「犯罪インフラ」といえます。とりわけ、ホテルと違い民泊施設にはフロントがなく、宿泊する人数や属性も実際に確認されないことが多く、チェック機能が働かず、足がつかないよう数か月、数週間ごとに拠点を移したい特殊詐欺グループにとっては好都合だといえます)。前述のとおり、場所が特定されないよう、都内を走る車の中から電話を掛け詐欺を仕掛ける相手を探すという方法が使われていたこともありますが、特殊詐欺グループの多くは、未だにマンションやビルの一室などをアジトとして活動しているといいます。警視庁犯罪抑止対策本部が2015年に発表した特殊詐欺のアジトに関する分析では、アジトの86%が駅から徒歩10分圏内に所在していたとされます(その年の1月から10月末までの間、摘発した都内の特殊詐欺アジト29か所を分析したもの)。さらに最寄り駅から400メートル以内、徒歩5分圏内にあったアジトは12.41%になるといいます。闇バイトを雇うにしても駅から近ければ都合がよいということだけでなく、警察に目をつけられたり、何らかのトラブルが起きた時、すぐに逃げ出し、駅に駆け込めるというメリットもあったと考えられています。

埼玉県警がNTT東日本と連携して特殊詐欺の被害防止策に力を入れています。埼玉県内認知件数の9割以上は自宅の固定電話で詐欺グループと会話したことがきっかけになっていることから、県警などは高齢者らに詐欺被害を防ぐ電話の使い方などを周知し、人工知能(AI)技術を使った新サービスの検証も進めているといいます。詐欺グループの動きが活発化している可能性をふまえ、特殊詐欺の被害防止策として、県警は2023年9月26~27日、県内39警察署で「一斉戸別訪問」を初めて実施、生活安全部門を担当する署員らが個人宅を訪れて防犯指導をしています。さらに、訪問で署員らは最近の被害状況と合わせて、犯罪を抑止するための電話の設定方法を説明、詐欺グループは自分の声が記録として残ることを避けたがる傾向にあるため、知らない番号から着信があったときは一度留守番電話にメッセージを残すことを推奨しました。本コラムでもたびたび取り上げていますが、NTT東日本は、2023年は5月、70歳以上の人や同居人を対象に、着信した電話番号を表示する「ナンバー・ディスプレイ」や非通知電話を拒否する「ナンバー・リクエスト」を無償化しており、署員らは住民にこうしたサービス情報も伝えたといいます。こうした埼玉県警とNTT東の連携は2022年12月、地域安全活動に関する協定の締結で本格化しており、詐欺被害のきっかけとなりやすい固定電話への対策を強化し、AIを用いて直前で振り込みを食い止める新サービスの普及も目指しているといいます。新サービスは、専用アダプターをつけた一般住宅の固定電話に不審な電話がかかってくると、AIが特殊詐欺の可能性があるかを判断するもので、疑いがあればその住宅だけでなく、クラウドに事前登録している同じ地区の住宅や自治体、警察署、金融機関などにも自動音声電話やメールなどで注意を呼びかけるものです。こうした地道な取り組みが、特殊詐欺被害の防止につながることを期待したいと思います。

自宅に多額の現金を保管する「タンス預金」については、金融機関から現金を引き出す手間や手数料がかからないといった理由でいまだ少なくないところ、特殊詐欺で詐取されるケースが増えているといいます。詐欺グループに現金を渡すまでにATMに行くことがなく、金融機関の職員らによる水際阻止ができないこと、ATMを使った送金は1日あたりの取引限度額があるものの「タンス預金」はそうしたことがないことなどから被害も高額になりやすい特徴があります。報道によれば、埼玉県内では2023年1~8月だけで201件に上り、1千万円以上の被害も目立ち、県内の1~8月の特殊詐欺の被害(速報値)は県警が把握したものだけで853件、被害総額は計約19億円であり、このうち201件で、被害額(計約4億9千万円)のすべて、または一部が「タンス預金」だったといいます。詐欺グループの摘発には被害者の細かな証言や家族の協力が欠かせないところ、「タンス預金」は家族等にも言い出せないケースや被害の届け出が為されないケースも多く、被害の全容把握が難しくなっている可能性があります。報道で警察関係者が「相手は詐欺のプロ。だまされた方が悪いと思う必要はない。ご家族もご理解いただき、届けを出してほしい」と話していましたが、正にその通りだと思います。

最近の主要な手口や新たな手口等について、いくつか紹介します。

  • インターネットバンキングの口座から不正に送金される被害が急増しています。金融機関の偽サイトに誘導し、口座情報を抜き取る「フィッシング」の手口とみられ、警察庁によると、こうしたネットバンキングに関する不正送金の被害は、2023年1~6月に全国で2322件あり、被害総額は約30億円と過去最多となっています。被害にあった男性は「頭が真っ白になった。『自分だけはひっかからない』と思っていたのに」と振り返り、偽サイトのデザインや文章に不自然なところはなく、気づけなかったといいます。以前であれば日本語に不自然なところがあるなど怪しさを感じられることが多かったところ、今は偽サイトでも正規サイトに酷似しているものが多く、見た目で真偽を判断することは困難だといいます。重要そうなメールが届いても慌てず、正しいURLか確認することが重要だといえます。また、産経新聞の報道では、被害者によって、「男性の家に電話が入った。警察官を名乗る男は、カードはすでに無効化し、被害金を返還するとした上で、捕まえた犯人の名前やカードが悪用された時間、場所を詳しく説明した。さらに「被害者番号」として4桁の数字を伝え、「末尾にカードの暗証番号を加えた8桁の数字があなたの番号です。確認のために読み上げてください」と告げた。男性は疑わず、そのまま指示に従い番号を読み上げた。電話の最中に自宅のインターホンが鳴った。玄関には黒いTシャツにスラックスを着た若い男が立っており、刑事を名乗ってキャッシュカードの提出を求めてきた。「念のため、カードが使えないように切り込みを入れておきます」。男はそう言って、ハサミでカードの端に約1センチの切り込みを入れて持ち去った」という具体的な手口が語られています。
  • 大阪府警特殊詐欺捜査課は、府内に住む60代女性が「電気協会」を名乗る特殊詐欺で約5200万円をだまし取られる被害に遭ったと発表しています。府内では同様の手口の詐欺被害が2023年8月末~9月下旬までの約1カ月間で、50~80代の女性8人が計約1億5千万円をだまし取られてたといいます。報道によれば、女性の自宅に「電気協会」を名乗る人物から、「東京都内のマンションがあなたの名前で契約されているが、電気料金が未納になっている」、「暴力団が借りている」と電話があり、その後、検事や警察官を名乗る男に電話が転送され、「あなたも容疑者の一人になる。取引情報を確認したい」などといわれ、ネットバンキングの利用を促され、女性は自身の口座をネットバンキングに登録し、警察官の男にパスワードを教えたところ、25回にわたり計約5200万円が不正に他人名義の口座に送金されたというものです。銀行側から女性に「多額の金が送金されている」と連絡があり、発覚、府警が電子計算機使用詐欺事件として捜査しています。
  • マイクロソフトを装った偽の警告をパソコンの画面上に表示し、ウイルスの駆除を行うなどと称して多額の金銭を支払わせる「サポート詐欺」の被害が相次いでいるとして、消費者庁は、消費者安全法に基づく注意喚起を行っています。被害額は2023年8月までの2年半で4億円を超えているといいます。消費者庁によれば、2023年8月20日までの2年6カ月の間に全国の消費生活センターに寄せられた相談は4689件で、被害額は累計で約4億3000万円にのぼっており、警告で表示された番号に電話すると、マイクロソフトの社員を名乗る人物から「あなたのパソコンは危険です」などと説明され、ウイルス駆除を名目としてネットバンキングや電子マネーでの支払いを要求されるもので、約400万円を支払ったケースもあるといいます。消費者庁は「偽警告が表示されたらブラウザを閉じたりパソコンを再起動したりして、表示された電話番号には電話をかけないでほしい」としています。
  • この「サポート詐欺」に新たな手口も出ています。400万円もだまし取られた若者もおり、消費者庁が注意を呼びかけています。マイクロソフトの社員を名乗る者から、「あなたのパソコンは危険です」などと説明され、最終的にネットバンキングで支払うように言われるところまでは同じですが、数万円を送金するつもりが、遠隔操作されて金額の数字に「00」と「0」を二つ追加され、知らないうちに数百万円を送金させられたというものです。こうしたサポート詐欺では、これまでは支払いにコンビニで購入できる前払い式電子マネーが利用されてきましたが、ネットバンキングでの支払いを要求するのが新しい手口です。全国の消費生活センターには、2021年1月以降、マイクロソフトのロゴを使ったサポート詐欺に関する相談は、2年8カ月で約4900件あり、このうち既払い件数は1878件、被害総額は4億5千万円近くで、1件あたり約24万円となっています。このうちネットバンキングによる被害は26件で、1件あたりの被害額は約57万円と高額化しやすい傾向にあるといいます。相手に恋愛感情を抱かせ金銭をだまし取る「ロマンス詐欺」の被害金と知りながら、タイの会社から振り込まれた約8500万円を出金したなどとして、愛知県警は、会社役員を詐欺と組織犯罪処罰法違反(犯罪収益の仮装)の疑いで逮捕しています。報道によれば、口座には2019年10~12月に計約5億5000万円が複数回に分けて振り込まれており、県警は容疑者と詐欺グループの関係を調べているといいます。2019年10月9日、自身が経営する会社名義の口座に振り込まれた80万米ドル(約8480万円)が犯罪で得た収益と知りながら、金融機関にうその申告をして津市内の銀行で引き出したというものですが、送金元のタイの会社に勤務する経理担当者がロマンス詐欺に遭い、この会社の口座から200億円以上が十数カ国の口座に送金され、一部は容疑者の会社の口座に振り込まれていたといい、愛知県警はタイの捜査当局と連携して捜査を進めていたものです。また、滋賀県警大津北署は、大津市内の50代の女性が口座開設費用名目で計約2700万円をだまし取られたと発表しています。女性は2022年12月~2023年1月、SNSで知り合った外国人の医師を名乗る人物から「WHOからの連絡でシリアに行かなければならなくなった」「私の口座は政府に監視されているのでお金が受け取れない」などと言われ、口座開設費用として計8回にわたって現金を振り込んだというものです。なお、ロマンス詐欺の実行役に迫った「ルポ 国際ロマンス詐欺」(小学館新書、1100円)が話題だといいます。以下、同署を紹介する2023年9月19日付毎日新聞の記事から、抜粋して引用します。国際的な詐欺でもあるロマンス詐欺の背後に潜む社会の問題にまで深く切り込む、極めて示唆に富む内容と感じます。
被害に遭った人の視点を中心としたものはこれまでもあったが、この本には海外にいる実行役に直接取材したエピソードが盛り込まれている。1本のメッセージから多額の金銭をだまし取る犯罪に、どんな人物が関わっているのか。真相に切り込んだ一冊となっている。…「ロマンス詐欺の典型」と感じた。要求をかわしながらやり取りを続け、しばらくして自分がジャーナリストであることを伝えた。すると「私は本当はナイジェリア人の男だ。友達になってほしい」と打ち明けられた。ナイジェリアで何が起きているのか。現地に赴くと、大学生らが生活費稼ぎのためにロマンス詐欺に手を染める実態を目の当たりにした。詐欺で得た金で裕福な生活を送ることに憧れを抱く、こうした若者たちは現地で「ヤフーボーイ(ガール)」と呼ばれていた。何人ものヤフーボーイらに取材を重ねるが、罪の意識は一様に低かった。彼らは「先進国の人はお金を失っても、国が支援してくれる。それが見込めない僕らよりは困らないはずだ」などと話したという。…「インターネットの普及で、途上国の人は自分たちの貧しさがより可視化され、裕福な国の人から金をだまし取っても別にいいじゃんっていう意識が芽生えたのではないか」と水谷さんは話す。そして、こうも指摘する。「一方で、日本では裕福であっても愛に飢え、孤独で日常に満たされていない人も多い。思惑の違うそんな両者をSNSはいとも簡単につなぎ、ロマンス詐欺が生まれたのではないか

以下、特殊詐欺でありませんが、最近の注意すべき手口について紹介します。

  • 国民生活センターは、ネット通販で欠品した商品の代金を決済アプリで返金すると装い、業者が消費者を巧みに誘導し、逆に送金させる新手の詐欺が出ていると発表しています。2023年9月下旬までに少なくとも全国で約100件報告されているといい、「『○○ペイで返金』と言われたら詐欺を疑って」と注意喚起しています。2023年9月、地元の消費生活センターに相談した50代の男性は、ネット通販でペットのアクセサリーを約7千円で購入、支払い方法は銀行振り込みだけのため振り込んだところ、その後に、業者から「欠品のため注文をキャンセルする」とのメールが届き、「払い戻しは○○ペイで行う」としてLINEの友だち登録をするよう指示されたため、ビデオ通話で言われるままに決済アプリを操作し、何度か「失敗している」と言われ、複数回にわたり操作したところ、2、3日後、銀行口座の総額が減っており、約10万円の送金をしていたことに気づいたということです。
  • 徳島県警は、県内の70代男性がSNSでやりとりしていた相手から暗号資産(仮想通貨)と現金計約2億4500万円相当をだまし取られたと発表しています。男性は「確率の高い資産運用ができる。暗号資産をやらないか」と持ちかけられ、購入した暗号資産や現金を送っていたものです。県警は投資詐欺事件とみて捜査しています。2023年6月中旬、男性のフェイスブックに関東地方の20代女性を自称する人物のコメントがあり、LINEを通じて親しくなったところ、7月になって投資話を持ちかけられ、男性は指示に従い、偽サイトとみられる海外の投資サイトに登録、暗号資産購入代として約500万円を指定口座に振り込んだといい、さらに「直接、暗号資産を購入した方が良い」と誘われ、2億4千万円相当を正規の取引所で購入、26回に分けて指定の「コインアドレス」に送ったところ、8月下旬、取引所から「投資詐欺の疑いがある」とアカウント凍結の連絡があり、警察に相談して被害が分かったものです。類似のものとして、山口県警宇部署は、宇部市の60代の会社員男性が、暗号資産への投資名目で3220万円をだまし取られたと発表しています。男性が2023年6月、スマホで見たインターネット記事から架空とみられる投資会社のSNSアカウントに登録し、アンケートに応じると、SNSに4000円分の電子マネーの番号が届き、その後、SNS上で会社のアドバイザーを名乗る人物から暗号資産への投資を勧められ、2023年7月~8月にかけて7回にわたって計1020万円を指定口座に振り込んだといいます。さらに、大幅な利益が出る暗号資産購入権の当選料や、VIP会員の登録料として計2200万円を振り込んだものです。同社の専用アプリでは男性のアカウントに入金情報が反映され、かなりの利益が出ているように表示されていたといいます。
  • 通販大手のアマゾンから身に覚えのない商品が代引きで届き、同居家族が注文したと思って支払ってしまうケースが増えており、不審な代引き配達に関する国民生活センターへの相談件数は5年前の2.5倍近くまで増加しているといいます。業者が自社商品を一方的に送り付けていたり、第三者によるいたずらだったりする可能性は否定できない一方、注文者側のメリットを考慮した場合、考えられる目的は「付与ポイント」をかすめ取ることだと考えられています。ポイント詐取は詐欺罪に該当する可能性があり、この場合の被害者はアマゾンとなりますが、アマゾン側は個別事案についての対応を明らかにしていません。従来は、事業者による引き取りがないまま14日間を経過しなければ受け取り側は処分することができませんでしたが、特定商取引法改正で、受け取り側による即処分が可能になり、支払い請求されても義務はなく、誤解により代金を支払った場合も事業者側への返金請求が可能となりましたが、送り付けた事業者側が行方をくらませているケースもあり、実際に返金されるかは不透明で、十分な確認をせずに代引きに応じるリスクは依然高いといえます。報道で京都府立医大の上野大介助教(認知神経心理学)は「人間は良いことより嫌なことの方が心理的負担が大きいという『損失回避バイアスの心理』が働く。一度家族に確認した方が良いと分かっていながら、その手間(嫌なこと)を避ける方に気持ちが傾き、安易に受け取ってしまう人もいるのだろう」と指摘しています。

その他、最近の特殊詐欺の事例について、いくつか紹介します。

  • 還付金名目の特殊詐欺で高齢者から現金をだまし取ったとして大阪府警特殊詐欺捜査課は、詐欺と窃盗容疑で、特殊詐欺グループの指示役の容疑者と、「かけ子」や「回収役」とみられる30~60代の男女5人を逮捕しています。大阪府警は、容疑者の自宅マンションから被害金とみられる約1億円を押収、大阪府内では同様の手口の詐欺被害が約300件確認され、被害額は約2億8千万円に上るといい、関連を調べています。
  • 70代女性から現金11万円をだまし取ったとして、佐賀県警は、詐欺の疑いで無職の容疑者2人を逮捕しています。2人はカンボジアを拠点とした特殊詐欺グループの一員とみられ、逮捕は3回目となります。再逮捕容疑は、佐賀県唐津市の70代女性をSNSのグループに招待し、「2回FX取引指導していただき、全てもうかりました」などとメッセージを送り、2023年6月、口座に11万円を振り込ませたというものです。
  • 北海道警帯広署は、十勝地方に住む男性2人が計約2880万円をだまし取られる特殊詐欺の被害に遭ったと発表しています。帯広市の50代男性はSNSの広告を見て連絡した投資家を名乗る人物から水素エネルギー事業への投資を勧められ、2023年7~9月、1680万円分の暗号資産を購入し、指定されたアカウントに送信したといいます。また、十勝地方の70代男性は携帯電話に届いたメールにあった番号に連絡し、複数の男らから「携帯電話がウイルスにかかった。未納料金を支払って」などと言われ、2023年2~3月、指定の口座に計約1200万円を振り込んだというものです。
  • 兵庫県警明石署は、同県明石市内に住む80代の女性が計1310万円をだまし取られる特殊詐欺の被害に遭ったと発表しています。2023年7月下旬ごろ、不動産関係の社員を名乗る男から「老人ホームに入る権利が当たった」と女性宅に嘘の電話があり、その後、「他に入居したい人がいる。入居する権利を譲ってほしい」と言われたため権利の譲渡に応じたところ、別の会社の社員と称する男から「権利を譲ると犯罪になる」と電話で脅されたといいます。さらに金融庁職員や弁護士をかたる人物からの電話で、「裁判が終わるまでお金を預かる」などといわれ、供託金名目で東京都内の宛先に宅配便で現金1300万円を送付させられるなどしたものです。
  • 栃木県警は、宇都宮市の80代の女性が2022年、現金計5700万円と電子マネー計約110万円相当をだまし取られる特殊詐欺の被害に遭ったと発表しています。2022年9月、女性の携帯電話に「料金の確認が取れていない」とのショートメッセージが届き、表示された番号に電話したところ、「サイト料金が未納」などと言われ、11月にかけて現金を宅配便で7回にわたり送ったほか、コンビニで購入した電子マネーの情報を電話で伝えたといいます。
  • 警察官になりすまして高齢女性からキャッシュカードをだまし取ろうとしたとして、宮城県警は、元お笑い芸人で住居不詳、飲食店経営の正村容疑者を詐欺未遂容疑で逮捕しています。県警は特殊詐欺グループの「受け子」とみて調べを進めているといいます。何者かと共謀し、仙台市太白区に住む90代女性の自宅に、「この地区で強盗があったから口座を確認する」などとうその電話をかけ、キャッシュカードをだまし取ろうとした疑いがもたれています。
  • 特殊詐欺の実行犯を募ったとして、警視庁少年事件課は、詐欺容疑で、千葉市の19歳の無職の男を逮捕しています。2023年6月、埼玉県鴻巣市の80代の女性に孫を装うなどして「大事な書類を紛失し、金が必要だ」などと嘘の電話をかけ、現金120万円やキャッシュカードをだまし取った事件があり、この事件で男は現金の受け取り役に地元の後輩だった少年(17)=詐欺容疑などで逮捕=を誘うなどしていたというものです。他にも東京都品川区や新宿区で発生した2つの特殊詐欺事件の実行役にも、この少年ら後輩を勧誘していたとみられるといいます。

例月どおり、2023年(令和5年)1~8月の特殊詐欺の認知・検挙状況等について確認します。

▼警察庁 令和5年8月の特殊詐欺認知・検挙状況等について

令和5年1~8月における特殊詐欺全体の認知件数は12,555件(前年同期10,539件、前年同期比+19.1%)、被害総額は264.3憶円(216.2憶円、+22.2%)、検挙件数は4,556件(4,022件、13.3%)、検挙人員は1,487人(1,457人、+2.1%)となりました。ここ最近、認知件数や被害総額が大きく増加している点が特筆されますが、この傾向が継続していることから、あらためて特殊詐欺が猛威をふるっていると十分注意する必要があります。うちオレオレ詐欺の認知件数は2,713件(2,443件、+11.1%)、被害総額は80.1憶円(72.7憶円、+10.2%)、検挙件数は1,425件(1,066件、+33.7%)、検挙人員は618人(581人、+6.4%)となり、相変わらず認知件数・被害総額ともに大きく増えている点が懸念されるところです。2021年までは還付金詐欺が目立っていましたが、オレオレ詐欺へと回帰している状況も確認できます(とはいえ、還付金詐欺自体も高止まりしたままです)。そもそも還付金詐欺は、自治体や保健所、税務署の職員などを名乗るうその電話から始まり、医療費や健康保険・介護保険の保険料、年金、税金などの過払い金や未払い金があるなどと偽り、携帯電話を持って近くのATMに行くよう仕向けるものです。被害者がATMに着くと、電話を通じて言葉巧みに操作させ(このあたりの巧妙な手口については、暴排トピックス2021年6月号を参照ください)、口座の金を犯人側の口座に振り込ませます。一方、ATMに行く前の段階の家族によるものも含め、声かけで2021年同期を大きく上回る水準で特殊詐欺の被害を防いでいます。警察庁は「ATMでたまたま居合わせた一般の人も、気になるお年寄りがいたらぜひ声をかけてほしい」と訴えていますが、対策をかいくぐるケースも後を絶たない現状があり、それが被害の高止まりの背景となっています。とはいえ、本コラムでも毎回紹介しているように金融機関やコンビニでの被害防止の取組みが浸透しつつあり、ATMを使った還付金詐欺が難しくなっているのも事実で、そのためか、オレオレ詐欺へと回帰している可能性も考えられるところです(繰り返しますが、還付金詐欺自体事態、大変高止まりした状況にあります)。最近では、闇バイトなどを通じて受け子のなり手が増えたこと、外国人の新たな活用など、詐欺グループにとって受け子は「使い捨ての駒」であり、仮に受け子が逮捕されても「顔も知らない指示役には捜査の手が届きにくいことなどもその傾向を後押ししているものと考えられます。特殊詐欺は、騙す方とそれを防止する取り組みの「いたちごっこ」が数十年続く中、その手口や対策が変遷しており、流行り廃りが激しいことが特徴です。常に手口の動向や対策の社会的浸透状況などをモニタリングして、対策の「隙」が生じないように努めていくことが求められています。

また、キャッシュカード詐欺盗の認知件数は1,544件(2,004件、▲23.0%)、被害総額は19.9憶円(29.1憶円、▲31.6%)、検挙件数は1,214件(1,375件、▲11.7%)、検挙人員は299人(329人、▲9.1%)と、こちらは認知件数・被害総額ともに減少という結果となっています(上記の考え方で言えば、暗証番号を聞き出す、カードをすり替えるなどオレオレ詐欺より手が込んでおり摘発のリスクが高いこと、さらには社会的に手口も知られるようになったことか影響している可能性も指摘されています。なお、前述したとおり、外国人の受け子が声を発することなく行うケースも出ています)。また、預貯金詐欺の認知件数は1,833件(1,424件、+28.7%)、被害総額は23.1憶円(17.2憶円、+34.3%)、検挙件数は1,033件(860件、+20.1%)、検挙人員は330人(328人、+0.6%)となりました。ここ最近は、認知件数・被害総額ともに大きく減少していましたが、一転して大きく増加し、その傾向が続いている点が注目されます(検挙人員は7月でいったん減少しましたが、今月、再度増加に転じています)。その他、前述した架空料金請求詐欺の認知件数は2,929件(1,372件、+113.5%)、被害総額は78.6憶円(47.0憶円、+67.2%)、検挙件数は171件(105件、+62.9%)、検挙人員は59人(70人、▲15.7%)と、認知件数・被害額・検挙件数の急激な増加が目立ちます(一方、検挙人員の減少は気になります)。還付金詐欺の認知件数は2,703件(2,817件、▲4.0%)、被害総額は31.1憶円(32.8憶円、▲5.2%)、検挙件数は644件(562件、+14.6%)、検挙人員は118人(97人、+21.6%)、融資保証金詐欺の認知件数は121件(95件、+27.4%)、被害総額は1.8憶円(1.7憶円、+6.3%)、検挙件数は17件(24件、▲29.2%)、検挙人員は10人(22人、▲54.5%)、金融商品詐欺の認知件数は137件(16件、+756.3%)、被害総額は16.3憶円(1.4憶円、+1069.8%)、検挙件数は15件(5件、200.0%)、検挙人員は22人(10人、+120.0%)、ギャンブル詐欺の認知件数は14件(32件、▲56.3%)、被害総額は0.4憶円(2.2憶円、▲82.2%)、検挙件数は0件(11件)、検挙人員は0人(8人)などとなっており、オレオレ詐欺の急増とともに、「非対面」で完結する架空料金請求詐欺の認知件数・被害総額ともに大きく増加している一方、今回、還付金詐欺の認知件数と被害総額が減少に転じた点が気になるところです。なお、組織犯罪処罰法違反について、検挙件数は191件(62件、+208.1%)、検挙人員は65人(11人、+490.9%)となっています。

犯罪インフラ関係では、口座開設詐欺の検挙件数は457件(466件、▲1.9%)、検挙人員は259人(253人、+2.4%)、盗品等譲受け等の検挙件数は2件(0件)、検挙人員は1人(0人)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は1,782件(1,871件、▲4.8%)、検挙人員は1,396人(1,502人、▲7.1%)、携帯電話契約詐欺の検挙件数は79件(64件、+23.4%)、検挙人員は83人(65人、+27.7%)、携帯電話不正利用防止法違反の検挙件数は13件(7件、85.7%)、検挙人員は11人(4人、+175.0%)などとなっています。また、被害者の年齢・性別構成について、男性(31.1%):女性(68.7%)、60歳以上88.0%、70歳以上68.7%、オレオレ詐欺では、男性(20.2%):女性(79.8%)、60歳以上97.0%、70歳以上94.9%、融資保証金詐欺では、男性(77.3%):女性(22.7%)、60歳以上17.3%、70歳以上4.5%、特殊詐欺被害者全体に占める高齢被害者(65歳以上)の割合は、特殊詐欺全体 80.3%(男性28.0%、女性72.0%)、オレオレ詐欺 96.4%(19.9%、80.1%)、預貯金詐欺 99.2%(8.5%、91.5%)、架空料金請求詐欺 56.9%(62.5%、37.5%)、還付金詐欺 77.5%(33.7%、66.3%)、融資保証金詐欺 7.3%(75.0%、25.0%)、金融商品詐欺 32.8%(44.4%、55.6%)、ギャンブル詐欺 28.6%(75.0%、25.0%)、交際あっせん詐欺 12.5%(100.0%、0.0%)、その他の特殊詐欺 31.4%(48.1%、51.9%)、キャッシュカード詐欺盗 99.1%(12.4%、87.6%)などとなっています。

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニエンスストア(コンビニ)や金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体・地域全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されています。直近でも、高齢者らの特殊詐欺被害を一般の人が未然に防ぐ事例が増加しており、たとえば、銀行の利用者やコンビニの客などが代表的です。埼玉県警によると、こうしたケースは2023年1~8月で104件にのぼり、すでに2022年1年間(103件)を超えたといいます。県警は、街頭での啓発活動や金融機関でのポスター掲示などが一定の効果を上げているとみています。また、被害を未然に防げた「水際防止」は2022年に全体で2215件となり、1888件だった2021年を上回って過去最多を更新しています。2023年も1~8月で1444件と最多に近いペースとなっています。大多数は家族やコンビニ店員、金融機関職員が詐欺と気づいて声をかけたものですが、居合わせた一般の人による声がけや警察への通報は2022年同期(64件)の1.6倍に増えているといいます。特殊詐欺の被害防止は、何も特定の方々だけが取り組めばよいというものではありませんし、実際の事例をみても、さまざまな場面でリスクセンスが発揮され、ちょっとした「お節介」によって被害の防止につながっていることが分かります。このことは警察等の地道な取り組みが、社会的に浸透してきているうえ、他の年代の人たちも自分たちの社会の問題として強く意識するようになりつつあるという証左でもあり、そのことが被害防止という成果につながっているものと思われ、大変素晴らしいことだと感じます。以下、一般人の被害防止の事例について、いくつか紹介します。

  • 草加市内の銀行で2023年8月、電話をしながらATMを操作する高齢の女性を見かけた女性会社員が、「市役所・還付金」などと書かれた女性のメモに気づき、女性に声を掛け、携帯電話を預かって被害防止につなげた事例があったといいます。草加市ではその5日後も、ATMの前で並んでいた別の主婦が、電話で「ATM前に着きました」と話す高齢の女性に気づき、すぐに交番に連絡したといいます。報道によれば、女性会社員は「詐欺事件のニュースをよく見るので、(還付金詐欺の)手口とわかった」、主婦は「駅で『詐欺多発中』と注意を呼びかける放送を覚えていた」といいます。
  • 特殊詐欺被害を防いだとして、青森県警青森署は、東京太陽青森タクシー営業所のタクシー運転手の男性に感謝状を贈っています。同営業所は県内のタクシー会社で初めて「特殊詐欺等被害防止対策優良店舗」に選ばれています。男性は2023年8月、タクシーに乗車した青森市内の70代女性が「ギフトカードでお金を払いに行く」と話したことから、詐欺を疑い、通報を渋る女性を「ちょっとだけ協力して」などと説得して交番に連れて行き、被害を未然に防いだといいます。男性は2023年7月にも、同じ女性に対し、声かけでフィッシング詐欺を防いでおり、「今後が心配だから」とタクシー利用の際は自分を指名するよう女性に呼びかけていたということです。
  • 特殊詐欺の被害を未然に防いだとして、和歌山県警岩出署は、岩出市内で理容室「ヘアーサロンロイド」を親子で営む上野さん親子に感謝状を贈っています。2023年8月、上野さんが常連の70代男性の髪を切っていたところ、男性の携帯電話に着信があり、男性は電話中、手を震わせながら「お金はちゃんと払っている」と話しており、約20分の通話が終わった後、不審に思った2人が男性に話を聞くと、「NTTから未納料金があると書かれたショートメールが送られてきた。その担当者からの電話だった」と説明したため、2人は「それは詐欺だから絶対に払ったらあかんで」と説得したということです。
  • 埼玉県熊谷市内で、90代の女性が現金2000万円をだまし取られる特殊詐欺事件がありましたが、埼玉県警熊谷署は現金の受け取り役がタクシーを使った可能性が高いとみて、タクシー会社に協力を依頼したところ、現金の受け渡しから約1時間半後、配車情報を基に容疑者の身柄を押さえることに成功したということです。被害は、不審に思った女性から相談を受けた金融機関が110番したことですぐに判明、捜査に協力したタクシー会社が「行田駅から配車の依頼があった」と回答したため、機動捜査隊員が同駅に急行、夕方、現金を持っていた男を緊急逮捕したものです。
  • 警視庁四谷署は、特殊詐欺の被害を防いだ、「そっくりタレント」の松本一人さんに感謝状を贈っています。2023年9月、東京都新宿区内のコンビニを訪れたところ、10万円分の電子マネーカードを手にした80代の男性を見つけ、男性はあわてた様子で「パソコンが動かない」と言っていたため、「パソコンで何をしたいの?」と聞くも要領を得なかったため詐欺を疑い、「警察がパソコンを動かしてくれると思うよ」と説得、店員に伝えて警察に通報し、詐欺と発覚したといいます。報道で松本さんは「日常生活の小さな違和感を見逃さなければ、詐欺の被害を見逃さないと思う」と話しています。

次にコンビニにおける事例を紹介します。前述したとおり、還付金詐欺が急増する中、コンビニの果たす役割は大変大きくなっており、こうした成功事例を共有しながら、未然防止に努めていただきたいと思います。

  • だまされて電子マネーを購入しようとした客の被害を6度防いだコ愛媛県四国中央市のファミリーマート川之江金生町店n三好店長によれば、コツは「しつこく聞く」だといいます。三好店長は、10年以上前の開店時から勤務しており、2020年2~11月と2023年5~7月、「有料サイトの未納料金がある」「パソコンがウイルス感染したため修理が必要」などとの作り話を信じて、3万5千円~30万円分の電子マネーを買いに来た50~70代の男女計6人に対応し、警察に連絡するなどして計73万5千円の被害を防いだといいます。電子マネーを求める客がレジに来ると、「自分で使われますか」と必ず、相手が年配でも若くても、金額の多寡にかかわらず、全員にたずね、大抵の客は「はい」と答えるも、さらに、「どんなものに使われますか」とたずねるといいます。この質問に、被害を防いだ6人のうち4人は黙り込み、残る2人は「ウイルス感染の修理料」と答えたといいます。さらに「(電子マネーの)番号を電話で誰かに伝えたりせん?」ともたずねているといいます。「おいちゃん」と呼びかけるなど、相手が親しみを感じてくれるような話し方をするのがポイントだともいい、「この人はだまされている」と感じたら、店内のイートインコーナーに案内、席に座ってもらい、2人きりで話し、そこでようやく使い道を教えてくれた人もいたといいます。頃合いを見て「ちょっと聞いてみるね」と告げて席を離れ、警察へ連絡、ここで「警察」という言葉を出さないのもポイントだといいます。
  • 30万円分の電子マネーを買おうとした高齢男性に声を掛け、なりすまし詐欺被害を未然に防いだとして、福島県警双葉署は、「セブンイレブン楢葉下小塙店」従業員で、ネパール国籍のシュレスタ・スザルさん(28)に感謝状を贈っています。来店した町内在住の70代男性が「(携帯電話関係の)契約料金が未納となっていて、電子マネーで30万円分払うよう電話で指示された」などと店員に話したため、シュレスタさんは詐欺の可能性があると伝えて購入を思いとどまらせ、外出中の店長に電話で状況を説明、店長が署に通報し、被害を防いだものです。シュレスタさんは来日7年目で、いわき市の大学を卒業し、2022年秋から同店の社員として働いているといいます。報道によれば、「常連のお客様だったが、顔色がいつもと違った。電子マネーを買うのも見たことがなかった」と異変に気づき、困った様子の男性に事情を聞いてから、「詐欺の可能性が高いです。警察とも相談できますよ」と丁寧に声を掛け、落ち着いてもらったといいます。
  • 電子マネーを使った特殊詐欺被害を未然に防いだとして、和歌山県警和歌山西署は、「ローソン和歌山橋丁店」店長の竹垣さんに感謝状を贈っています。2023年6月、80代男性が店を訪れ、竹垣さんに5万円分の電子マネーカード購入を告げ、男性がカードの使い方を聞いてきたため、竹垣さんは不審に思って購入理由などを確認、男性が「インターネットで請求が来た」などと話したため、特殊詐欺の可能性があると判断し、男性に購入を思いとどまらせて同署に通報したものです。竹垣さんは2022年9月にも特殊詐欺被害を未然に防止したとして県警から感謝状が贈られており、今回が2度目となります。
  • 長崎県警対馬南署は、ニセ電話詐欺被害を未然に防いだとして、「ファミリーマート対馬厳原大手橋店」のマネジャーに感謝状を贈っています。マネジャーが感謝状を受け取るのは、2020年の2月と7月に続いて3回目だといいます。2023年8月、同店を訪れた60代の男性客が電子マネーカードを購入、レジ業務を担当していたマネジャーは、携帯電話やメモ紙を握りしめる男性の様子を見て詐欺を疑い、男性に声をかけ、携帯電話の画面を見せてもらうと、「1000円分の電子マネーカードの番号を教えてもらえれば数億円を差し上げます」と表示されており、また、メモ紙には電子マネーカードの購入方法などが記載されていたため、マネジャーは、警察から詐欺被害防止用に配布されている注意喚起カードを男性に見せ、「詐欺の可能性があります、以前にも同じ手口の詐欺未遂がありました」などと説得し、警察に通報、その後の捜査で、ニセ電話詐欺だったことが判明したということです。
  • 和歌山東署は、特殊詐欺の被害を未然に防いだとして、紀陽銀行宮北支店の津浦さんと増田さん、ローソン和歌山太田一丁目店の西口さん、ファミリーマート和歌山六十谷店の尾田さんに感謝状を贈っています。津浦さんが担当していた窓口に2023年9月、50代女性が210万円を振り込もうと訪れ、女性は「暗号資産への投資のため」と話したが、複数の口座から資金を集めようとしていたことや振込先が個人名義であることを不審に思い、上司の増田さんに相談、詐欺の可能性が高いと判断し、同署に通報したものです。また、コンビニ2店舗では、プリペイドカードや電子マネーカードを購入しようとした来店客に声をかけ、被害を阻止したものです。贈呈式で同署長は「『最後のとりで』として被害を防いでいただいた。引き続き遠慮なく通報してほしい」と感謝を述べています。正に「最後のとりで」として、コンビニや金融機関の役割は大きくなっています。

最後に金融機関の事例を紹介します。

  • 兵庫県警姫路署は詐欺被害を未然に防いだとして、りそな銀行姫路支店の八木さんに感謝状を贈っています。2023年7月、窓口業務に就いていた八木さんに、50代の男性が「国際銀行の口座を開設したいんだけど」とこれまで受けたことのない相談があり、「なぜ口座開設が必要なのですか?」とたずねたところ、男性は紛争地帯への支援に150万円を送るのだといい、後に2000万円が返ってくるとも話し、送金のための150万円を融資してもらうことはできるかという話から、八木さんは詐欺だと確信したといいます。見せてもらった相手からのメッセージには「銀行には知られないように」というような文言があり、相手を信じている男性は、八木さんにその部分を読まれても気にしない様子だったことから、「警察に行っては」と八木さんが話しても相談には行かないだろうと感じ、上司に警察への通報をお願いし、会話を続け、警察官が到着、男性から話を聴いた署は、詐欺未遂事件として捜査しているといいます。
  • 奈良県桜井市の大和信用金庫本店で、通話をしながらATMを操作していた70代の女性に声をかけ、特殊詐欺被害を未然に防いだとして、奈良県警桜井署は、同店利用客の女性や職員ら3人に感謝状を贈っています。2023年8月、利用客の女性が同店のATMを利用していたところ、隣にいた女性が、現金数十万円を握りしめ、電話をしながら慣れない様子でATMを操作しているのを見かけ、すでに窓口の営業が終了しており、ATMのみが利用できる時間帯だったため、女性の行動に違和感を覚えながら一度は店を出たものの、「詐欺じゃなくても、ここで声をかけないと絶対に後悔する」と思い、店に戻り、声をかけて事情を聴いても女性は焦るばかりで、電話に代わりに出たところ、電話口の男は通信会社の職員を名乗り、「未払い金を振り込む必要がある」と説明、振り込む際の条件などが女性から聞いた説明とずれがあることから、詐欺を確信、その後、業務でATMを訪れた行員とともに女性を説得し、事態を聞いたもう1人の行員が同署に通報したものです。

その他、特殊詐欺の未然防止に向けた取り組みについて紹介します。

  • 日本貸金業協会が貸金業大手4社と協働して2023年6月に設立した「金融リテラシー向上コンソーシアム」が、設立後初となる金融経済教育セミナーを開催し、専門学校に通う外国人留学生に特殊詐欺防止などについて啓発しています。台東区生涯学習センターで開催されたセミナーには「専門学校東京国際ビジネスカレッジ」に通うベトナムや中国などからの留学生約140人が参加、認定講師が動画などを使って名義貸しやフィッシング詐欺といった特殊詐欺被害の実態や防止策などを教えたといいます。外国人留学生を対象とする視点は新しく、同様の取り組みが広がることを期待したいと思います。
  • 地域防犯力を高めようと、和歌山県警と宅配便大手の佐川急便は、同社和歌山営業所で不審者に関する通報、特殊詐欺被害防止の窓口対応の訓練を行っています。訓練では警察官らが一般人にふんし、同社社員と県警との連携などを確認しています。和歌山県警と同社は2022年8月、地域の安全に関する協定を締結しており、今回の訓練もその一環だといいます。不審者に関する通報訓練は、同営業所近くの公園で不審な男が子供に「お小遣いをあげるから一緒に行こう」などと声をかけているのを近くを歩いていた女性が見かけ、同営業所に駆け込んで社員に警察への通報を依頼するという想定で行われました。また、特殊詐欺被害防止の窓口対応の訓練では、同営業所の宅配受付窓口で、県警の特殊詐欺被害防止アドバイザーふんする男性客が現金を宅配で発送しようとしたため、同営業所社員が詐欺の可能性があると説得する想定で行われました。宅配便も「最後のとりで」として重要な役割を担っており、警察と連携した訓練の実施は広く参考になるものと思います

(3)薬物を巡る動向

2015年に撲滅されたはずの危険ドラッグの販売店が、現在全国に300店舗ほど存在することが厚生労働省などの調査で分かったといいます。危険ドラッグは近年、若年層を中心に乱用が広がっていることから、関係機関が対策会議を開き、会議の冒頭、厚労省監視指導・麻薬対策課長が「危険ドラッグ販売店舗に復活の兆しが見え始めている。早急に対策を講じていく」とあいさつ、その後の会議で取り締まりを強化することを確認しています(なお、政府の同種の会議開催は2016年以来となります)。危険ドラッグは、大麻や麻薬、覚醒剤と似た成分を含み、幻覚や意識障害などを引き起こすもので、「合法大麻」などと呼ばれていますが、規制対象の成分が含まれていれば、所持や使用は違法になります。危険ドラッグを巡っては、摘発の強化により、2014年3月時点で全国に215店舗あった販売店が、2015年7月までに全て廃業しましたが、一方で、入手経路は、店頭からインターネットやSNSなどに移り、実態はわかりづらくなっていたところ、2023年3月以降、危険ドラッグの使用後に救急搬送された事例が複数報告されたことから、厚生労働省が入手経路を調査、店頭で販売されていたことが7月に分かったものです。厚生労働省は、全国の麻薬取締部と都道府県を通じ、危険ドラッグ販売店の実態などを調査したところ、8月末までに全国で約200店舗が「復活」していることが分かり、9月中旬時点の警察庁の調査も合わせると計約300店舗の存在が確認されたといいます。半数以上は実店舗で、首都圏が多く、ネット販売や電話などで注文を受け配送する店舗もあったといいます。危険ドラッグは、電子たばこのリキッドやグミの形態で販売されていたといいます。危険ドラッグによる健康被害は、厚生労働省が把握しているだけで2023年1~8月に16件、2022年は8件あり、使用後に意識がもうろうとなり嘔吐や呼吸困難で搬送された事例のほか、交通事故を起こしたり、マンションから転落したりした事例があったといい、厚生労働省は「実際はもっと多くの健康被害がある」とみているといいます。

2023年9月26日付沖縄タイムスによれば、沖縄県内で2022年に大麻取締法違反の疑いで摘発されたのは181人で、人口比で全国最多だったことがわかったといいます。関係機関の統計から人口1万人当たりの摘発者数を算出すると、人口比で全国の約3.3倍にもなっているほか、過去5年間の摘発者数も人口比で沖縄が全国最多だったといい、SNSの普及を背景として若年層の大麻汚染が社会問題化している中、捜査関係者は「今や誰でもスマホ一つで購入できる。県内に大麻草の栽培施設があるのも間違いなく、大麻汚染は深刻だ」と警鐘を鳴らしています。2022年の沖縄県内の薬物事犯の摘発者数を見ると、大麻取締法違反が全体の約8割を占め、覚せい剤事犯は30人と、薬物事犯全体の約1割となりました。一方、全国平均では、覚せい剤が約半数で、大麻は約4割となっており、沖縄県の特異性が浮き彫りになっています。2023年8月末までの沖縄県警の取り締まり状況では、大麻事犯での摘発は93人(前年同期比▲19人)、このうち10~20代が60人と6割以上を占めており、若年層へのまん延が懸念されています。8月には中学3年の男子生徒が乾燥大麻を所持していたとして逮捕されていますが、中学生は自ら使う目的で持っていたといいます。また、沖縄県内の事件では、大麻草の栽培施設がたびたび確認されており、実際、2022年には沖縄県警と九州厚生局沖縄麻薬取締支所の合同捜査班で、宜野湾市新城の5階建てビルの数フロアで、大麻草が栽培されているのが見つかり、30~40代の密売グループ7人を摘発しています。グループはビルでの栽培から、売買までを担っていました。沖縄麻薬取締支所の上田達生支所長は「大麻の『地産地消』状態になっている可能性があり、沖縄は大麻汚染が深刻といえる」と指摘していますが、全国的な傾向ともやや異なる沖縄の特異性に着もした対策が求められているといえます。

厚生労働省は、10月と11月の2カ月間、「麻薬・覚醒剤・大麻乱用防止運動」を実施すると発表しています。薬物の危険性・有害性をより多くの国民に知っていただき、一人ひとりが薬物乱用防止に対する意識を高めることにより、薬物乱用の根絶を図ることが目的とされています。

▼厚生労働省 麻薬・覚醒剤・大麻乱用防止運動の実施について~薬物乱用の根絶に向けた啓発を強化します~
  • 厚生労働省は、都道府県と共催して、10月1日(日)から11月30日(木)までの2か月間、「麻薬・覚醒剤・大麻乱用防止運動」を実施します。
  • 令和4年の我が国の大麻事犯の検挙人員は5,546人で、過去最多を更新した令和3年に続く高い水準であり、「大麻乱用期」の渦中にあると言えます。このうち、30歳未満の若年層が約7割を占めており、若年層における乱用の拡大に歯止めがきかない状況です。
  • 麻薬、覚醒剤、大麻、危険ドラッグ等の薬物の乱用は、乱用者個人の健康上の問題にとどまらず、さまざまな事件や事故の原因になるなど、公共の福祉に計り知れない危害をもたらします。一度でも薬物に手を出さない・出させないことは極めて重要であり、国民一人ひとりの理解と協力が欠かせません。
  • この「麻薬・覚醒剤・大麻乱用防止運動」は、薬物の危険性・有害性をより多くの国民に知っていただき、一人ひとりが薬物乱用防止に対する意識を高めることにより、薬物乱用の根絶を図ることが目的です。
  • 「麻薬・覚醒剤・大麻乱用防止運動」の概要
    • 実施期間 令和5年10月1日(日)から11月30日(木)までの2か月間
    • 実施機関
    • 主催:厚生労働省、都道府県
    • 後援:警察庁、こども家庭庁、法務省、最高検察庁、財務省税関、文部科学省、海上保安庁、公益財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センター
    • 主な活動
      • 厚生労働省と都道府県の共催による麻薬・覚醒剤・大麻乱用防止運動
      • 地区大会の開催
      • 正しい知識を普及するためのポスター、パンフレット等の作成・掲示
      • 薬物乱用防止功労者の表彰

最近の薬物事犯の報道においては、暴力団の関与が少し目立っているように感じられますが、統計上は減少傾向にあります。犯罪統計資料の項でも紹介していますが、暴力団における薬物事犯のうち、とりわけ覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員が大きく減少傾向にあるものの、筆者としては、それでもその動向には注視していく必要があると考えます(覚せい剤は依存性の高さが特徴であり、大きく減少し続けることとの整合性が取れない状況が続いています。暴力団やその周辺者による犯罪がより巧妙になっていることの証左と言えるかもしれません)

  • 暴力団組員が麻薬特例法違反の疑いで逮捕された事件で、警察は侠道会系の事務所を家宅捜索しています。侠道会長江組の組員は2022年9月竹原市内やその周辺で同じ組員で別の事件で逮捕・起訴された男から覚せい剤のようなものを有償で譲り受けた疑いがもたれており、同じ組員への一連の捜査から今回の事件が浮上しています。
  • 2023年7月、石狩市内の違法な大麻栽培工場が摘発され、逮捕・起訴された稲川会傘下組織幹部などが、乾燥大麻のほかにも液体状に加工した大量の「大麻リキッド」を所持していたとして追送検されています。違法な大麻栽培工場として使われていたとみられる石狩市内の倉庫で、乾燥大麻およそ2キロ、末端価格にして1000万円分を他人に売り渡す目的で隠し持っていたとして、大麻取締法違反の疑いで逮捕されていました。倉庫からはほかにも液体状に加工した「大麻リキッド」およそ800グラムが瓶などに入った状態で押収されています。「大麻リキッド」は成分を凝縮しているため危険性が高い一方、電子たばこで簡単に吸引できることから、近年、特に若者の間でのまん延が懸念されています。
  • 末端価格で1億4600万円相当の覚せい剤を密輸したとして、稲川会傘下組織組員が、覚せい剤取締法違反で警視庁に逮捕されています。2022年2月、アメリカから覚せい剤およそ2.3キログラムを営利目的で密輸した疑いがもたれています。成田空港で東京税関の職員が調べたところ、マフラーの入った段ボール箱の上蓋と底の断面に覚せい剤が隠されているのを発見したということです。容疑者は2023年5月にもおよそ2キロの覚せい剤を密輸したとして警視庁に逮捕されており、中国人犯罪組織グループと共謀していたとみられています。警視庁は今回の事件でも同じ中国人犯罪組織グループが関与しているとみて捜査しています。
  • 大麻を譲り渡した疑いで無職の男が逮捕された事件で、広島県警は関係先の共政会・片山組の組事務所を家宅捜索しています。無職の容疑者が、2023年2月、中区流川町の路上で男性に大麻を譲り渡した大麻取締法違反の疑いで逮捕されましたが、この容疑者と片山組のつながりを把握していており、捜索での押収物を分析して犯行の経緯を調べるとしています。また事件の背景に暴力団の組織的な関与があるとみて詳しく調べることにしています。
  • 覚せい剤を営利目的で持っていたなどとして、警察は神戸山口組傘下組織の組員の男など2人を逮捕しています。古賀市で2023年8月、チャック付きポリ袋に入った覚せい剤55袋(末端価格約34万円)を、車の中に隠し持っていたとして現行犯逮捕されています。また、もう1人の被告については、2022年の6月と10月に覚せい剤を営利目的で男2人に売ったとして再逮捕されています。警察は、覚醒剤の売り上げが暴力団の資金源になっていた可能性も視野に捜査を進めています。

最近の薬物事犯に関する報道から、いくつか紹介します。

  • 群馬県警は、営利目的で大麻草501本を栽培したとして大麻取締法違反(営利目的栽培)の疑いで無職、チャン容疑者らベトナム国籍の男女10人を再逮捕しています。群馬県警は2023年7月、同法違反(営利目的所持)の疑いで、10人を含む16人を逮捕、組織的に密売していたとみて販売ルートを調べています。逮捕容疑は、群馬県安中市と渋川市の住宅で大麻草を栽培したというもので、2022年秋ごろから栽培したとみられています。また、岡山県警は、同県真庭市の山中で大麻草を栽培したとして、大麻取締法違反(営利目的栽培)の疑いで、自営業の容疑者ら2人を再逮捕しています。栽培されていた畑の広さは約3千平方メートルで、木々や雑草に覆われており、県警が約460本を押収し、鑑定を進めています。再逮捕容疑は、真庭市の畑で大麻草20本を栽培したというもので、容疑者らは「栽培したことに間違いないが、営利目的ではない」と容疑を一部否認しています、容疑者が大麻を栽培しているという情報を入手し、捜査を開始、2023年8月、車内で大麻を所持したとして、同法違反の疑いで2容疑者を現行犯逮捕していたものです。さらに、松山市にある覚せい剤の密造工場が摘発され、愛媛県警が台湾在住の男ら数人を覚せい剤取締法違反(所持)容疑で逮捕し、地検が同法違反(営利目的製造)で起訴しています。男は覚せい剤を製造するために来日したといい、暴力団関係者も共犯として検挙されています。県警などは背後に国際的な密造グループが存在するとみて捜査しています。台湾在住の男ら数人は共謀して、同市内で2023年5月、覚せい剤約100グラムを製造したといいます。密造の情報を得た岡山県警が2023年5月、現場に踏み込むと台湾在住の男だけがおり、覚せい剤を所持していたため逮捕、その後の捜査で暴力団関係者ら数人も関与していたことが判明、共謀したとされる暴力団関係者らは、空港から製造現場まで男を送迎したり、密造場所を提供したりして役割を分担していたとみられています。男は過去にも数回、製造目的で来日したことがあるといい、「作り方は来日前に教わった。お金がもらえると聞いてやった」と供述しています。台湾では別の仕事に就いており、「バイト感覚」で犯行に関わっていたとみられています
  • 繭玉状に包んだコカインを体内にのみ込んで密輸しようとしたとして、警視庁薬物銃器対策課は、いずれもポルトガル国籍で住所不定、無職の2人の容疑者を麻薬取締法違反(営利目的輸入)と関税法違反(密輸未遂)容疑で逮捕しています。2人がのみ込んでいた繭玉状のコカインは228個で約1.8キロ(末端価格約4377万円)に上るとみられています。2023年9月、ドイツ・フランクフルト国際空港でラップに包んだコカイン計約15グラムをのみ込み、羽田空港に密輸しようとしたなどとしています。報道によれば、コカインを包んだ繭玉状のものは1個あたり長さ約4.5センチ、幅約2センチで、2人は観光目的で入国しようとしていましたが、日本の観光地を答えることができなかったことから税関職員が不審に思いCT検査を実施、腹部から異物が見つかったといいます。警視庁は密売組織が関与しているとみて調べています。
  • 覚せい剤を「無人販売」するために所持したとして、愛知県警薬物銃器対策課などは、長久手市内の無職の男を、覚せい剤取締法違反容疑で現行犯逮捕しています。覚せい剤を無人販売したとして摘発されるのは県内初といいます。男は、自宅で覚せい剤約2グラム(約12万円相当)を販売目的で所持した疑いがもたれており、自宅アパートの廊下に置かれた洗濯機などに覚せい剤を隠し(他の人を寄せつけない仕掛けとして、洗濯機の周辺に、ゴキブリやムカデを模したおもちゃも見つかっています)、購入希望者にSNSなどで場所を教えるなどして販売していたといいます。男から覚せい剤を購入したとみられる6人も、同法違反容疑などで逮捕されています。
  • 愛知県警は、住所不詳、レゲエ歌手の米田容疑者を大麻取締法違反(所持)容疑で逮捕しています。米田容疑者は「CHEHON」の名前で音楽活動をしており、若者に人気があるといいます。東京都品川区の集合住宅敷地内で、乾燥大麻0・977グラム(末端価格4885円)を所持した疑いがもたれており、名古屋市内で開催された音楽イベントに出演した後に逮捕されています。県警が米田容疑者の所持品を調べたところ、ポーチから乾燥大麻を発見、さらに、液状大麻「大麻リキッド」とみられる液体も集合住宅の一室から見つかっています。
  • 大麻を所持していたとして、大阪府警が大麻取締法違反(所持)容疑で大阪府内の私立高校の男子生徒5人から任意で事情を聴いています。5人は「大麻リキッドを吸った」「校外で吸った」「友達に勧められ、断り切れなかった」との趣旨の説明をしているといい、府警が経緯を調べています。報道によれば、2023年9月上旬、「生徒が大麻を吸っている」と情報提供があり、学校が聞き取り調査をしたところ、5人が認めたため、府警に相談したといいます。法人は「捜査に協力するとともに、事実が確認されれば厳正に対処する」としています。
  • 沖縄県警名護署は、大麻取締法違反(所持)の疑いで、陸上自衛隊那覇駐屯地所属の1等陸士を逮捕しています。「自分の物ではない」と供述しているといいます。逮捕容疑は、名護市の商業施設駐車場で大麻約0・85グラムを所持した疑いがもたれており、駐車場で寝ていた容疑者を署員が職務質問したところ、財布から植物片が見つかり、鑑定で大麻と確認したものです。また、警察寮で大麻を所持したとして大麻取締法違反の罪に問われた元兵庫県警察官の被告の判決公判が神戸地裁であり、裁判官は「薬物犯罪を取り締まる立場にありながら手を出した点は非難されるべき」として懲役10カ月執行猶予3年(求刑懲役10カ月)を言い渡しています。被告は2023年6月、神戸市須磨区で液体の大麻約0.436グラムを所持したもので、判決は、被告が大麻を使ったのは「仕事のストレスを紛らわせるため」と述べたことに触れ、「職業柄、ストレスが並々ならぬことは想像に難くないが、さりとて大麻に手を出してよい理由には全くならず同情できない」と指摘、退勤後すぐ使えるよう大麻を職場に持っていくなどしており「常習性が認められる」としています。

日本大アメリカンフットボール部の寮で覚せい剤と大麻が見つかり、部員が麻薬取締法違反(所持)罪で起訴された事件で、他にも10人近い部員が違法薬物に関わった可能性があることが判明しています。大学側の聞き取りなどで発覚したものです。事件を巡っては、2023年7月上旬の大学側による寮内の点検で部員の男の部屋から植物片などの不審物を発見、12日後に警視庁へ報告したとされいます。植物片は乾燥大麻で、覚醒剤成分を含む錠剤のかけらも所持していたことが同庁の鑑定で判明、同庁は8月3日に寮を捜索し5日に男を逮捕、同22日に再び捜索し、大麻所持などの疑いがある別の部員4人を任意聴取しています。文部科学省は日大側に対し、警察への通報が遅れた経緯などに関する検証結果を9月15日までに報告するよう文書で要請、日大側は間に合わないとして期限の延長を求めています。なお、日大は8月31日付で寮を閉鎖し、9月1日には部を無期限活動停止にしたと発表しています。筆者もマスコミの取材等に対し、大学、とりわけスポーツ団体における実態について、「濃密な人間関係」による構造的要因を指摘しています。例えば、ただでさえ上下関係が厳しく断りにくいいうえに、共同生活を送る学生寮においては、薬物を受け渡しやすいという物理的な側面だけでなく、同調圧力が強く、ノーと言いづらい心理的な側面、「薬物を使うとパフォーマンスが上がる」などと周囲から言われることによる自己正当化などの要因が挙げられます。さらに、そもそも若者には大麻等について「興味」があり、「好奇心」から手を出しやすい傾向もあります(さらに言えば、使用にとどまらず、営利目的販売など深みにはまる/嵌められる危険性も高まる点にも注意が必要かと思います。大麻だけでなく覚せい剤も見つかった、自らの使用料を大幅に上回る所持をしていた、などは正にその表れといえます)。本件もまたこうした「濃密な人間関係」が犯罪を誘発する構造的要因が指摘できるところであり、そうした要因の解消に向けて真摯に取り組むことなく問題を放置すれば次の犯罪を生むだけであって、その解決がない「今ではない」のではないかと指摘していました。なお、筆者としては、学生スポーツにおける薬物蔓延について、「連帯責任」についても検討すべき時期にきていると考えます。ほとんどすべての場合、活動の無期限停止などの措置が講じられることになり、真摯に取り組んできた多くの若者の努力が水泡に帰す結果となります。こうした厳しい措置があることで、「仲間のため、これまでの皆の努力を無駄にしないためにも、薬物は絶対ダメ」という動機になる一方、その重大性がゆえに、見て見ぬふりをしてしまい、結果的に蔓延がより深刻化するリスクもあるように思われます。そのため指導者らによる一定の生活管理や報告窓口の設置など、自浄作用の働く環境整備が必要だといえます。もちろん、問題が発生した際には、「自分ごと」として捉え、自らを戒めるとともに、組織として落ち度がなかったかをあらためて見直す機会とすることは極めて重要ではありますが、一律に活動停止や解散などという対応を取るのは「行き過ぎ」なのかもしれません。一方、本件では、「濃密な人間関係」という構造的要因が明確であり、こうした構造の解消が先決であり、そのうえで「連帯責任」を問うかを検討すべきと考えます。日大は複数の部員が任意聴取されたことを踏まえて「もはや個人の犯罪にとどまるところではなく、大学としての管理監督責任がより厳しく問われている」とし、「このような事態を招いたことを深く反省し、徹底的に調査することとした」と説明、「薬物と無縁であるにもかかわらず、活動を停止しなければならない部員と保護者に活躍の場を提供できないことをおわび申し上げる」とコメントしました(大麻と覚せい剤を所持していたとしてすでに逮捕された部員のほかに、複数の部員が所持していた疑いがあり、今後の捜査で複数人の関与が明らかになれば、部の存続問題にも発展しかねない深刻な事態を招くことになります)。こうした状況をふまえ、神奈川県警薬物銃器対策課と中原署は、違法薬物の危険性を知ってもらうため、法政大学アメリカンフットボールの部員ら約140人に薬物乱用防止講演会を開いています。同部が県警に講習を依頼し、実現したといいます。スポーツ経験のある薬物銃器対策課の警察官が薬物乱用が進路を含めた将来、家族などに多大な影響を与えることを説明、SNSで密売などに加担してしまうことで犯罪組織に利用されてしまう事例があることを紹介し、「安易な誘いに乗らないように」と訴えたといいます。同課の荻原課長は「大麻は安全、害がないといった誤った情報にまどわされず、正しい知識を身につけられるように広報啓発に努めていく」と話していますが、こうしたタイミングでこのような取り組みを行うことが極めて高い効果をもたらすことが期待され、他の大学などでも積極的に実施していただきたいものだと思います。。

知人と共謀して大麻を密輸したとして、大麻取締法違反(営利目的輸入)などの罪に問われた自動車輸出入業の30代男性の控訴審判決が大阪高裁であり、裁判長は共謀を認めず、懲役3年、罰金100万円とした一審大阪地裁判決を破棄し、無罪を言い渡しています。男性は2020年6月、知人の男=実刑確定=らと共謀し、米国から液状大麻約1.5キロ(1100万円相当)を密輸したとされ、一審判決は2022年4月、男性が主導したとする知人の供述の信用性を否定、一方、男性が大麻の購入代金として知人に支払った24万円について、大麻の届け先となっていた民泊の代金に充てられたことから「輸入計画を具体的に知り、了承した」と共謀を認定していました。これに対し高裁は、24万円は前金だったとし、「輸入された場合に一部を購入する合意をしていたにすぎない」と指摘、密輸の共謀を否定しています。さらに、一審が検察側の主張と異なる点から結論を導いたとして「事実を誤認し、法令適用も誤った」と述べています。

市販薬の過剰摂取(オーバードーズ)の問題については、前回の本コラム(暴排トピックス2023年9月号)でも取り上げましたが、オーバードーズで救急搬送された人は、2021年5月~2022年12月末に全国7救急医療機関で122人いて、10~20代や、女性がともに約8割を占めていたことが、厚生労働省研究班の調査でわかったといいます。「自傷・自殺」目的が最多で、若年女性を中心に乱用が広がっている可能性が示されています。市販薬の過剰摂取による救急搬送に関する疫学調査は初めてということです。調査対象以外の医療機関への搬送や、医療につながっていない人も含めると、さらに多くの過剰摂取者がいるとみられ、研究班は「122人は氷山の一角にすぎない」としています。市販薬は医師の処方がなくてもドラッグストアやインターネットで購入できる一方、依存性のある成分が含まれているものがあり、治療目的以外での使用や決められた回数や量を上回って服用するケースがあります。こうしたことから、生きづらさを抱える若年者の間で過剰摂取が増えているとの指摘があります。122人のうち、男性は25人(20.5%)、女性は97人(79.5%)、平均年齢は25.8歳、最年少は12歳、10代が43人(35.2%)、20代が50人(41.0%)で、20代までが約8割を占め、若い女性に多い傾向がみられます。また、薬の入手経路はドラッグストアなどの実店舗での購入が85件(65.9%)で、置き薬20件(15.5%)、インターネットでの購入が12件(9.3%)となり、ドラッグストアが増え、手軽に入手できるようになっていることがうかがわれます。なお、店頭に薬剤師らがいて複数購入できず、3店舗を回り購入した例があったといい、このあたりに今後の対策のヒントがあるように思われます。オーバードーズの問題は、福岡県議会9月定例会でも取り上げられ、福岡県はオーバードーズが原因とみられる救急搬送者数が、2022年度だけで1167人に上ることを明らかにしています(前述の122人は正に「氷山の一角」に過ぎないことがわかります)。30代以下の若年層が約6割を占めています。報道によれば、福岡県内24地区の消防本部から搬送事例を収集したところ、20歳未満が13.5%、20代が28.8%、30代が16.7%と若者が目立ち、全体の約7割が女性だといいます(前述の調査と概ね傾向は一致しています)。福岡県は薬局や薬店に対し、若年者には年齢や購入理由を確認するよう呼びかけるほか、学校の薬物乱用防止教室やSNSを通じて危険性を訴えていくとしています。

薬物に関する海外の報道から、いくつか紹介します。

  • タイは2022年6月、医療目的での使用と家庭栽培に限定して大麻を解禁しましたが、嗜好目的での使用を禁じているものの、取り締まりが追いつかず、中毒者は増加傾向にあります。こうした中、タイののセター首相は、娯楽目的の大麻使用承認には反対との立場を示しています。医療目的の使用は新政権でも政策として維持するとしています。首相は、「使用は医療用。娯楽用については賛成しない」と述べています。大麻の使用と栽培が合法化されたのをきっかけに数千社が起業、今後数年間に大麻の市場規模は最大12億ドル相当になるとみられています。
  • 米ニューヨーク市にある保育所で、子どもの遊び場の床下から大量の薬物が発見されたといいます。この保育所では子ども4人が病院に搬送され、このうち1歳の男児が薬物の過剰摂取とみられる症状で死亡する事故が起きていました。報道によれば、男児が死亡した後、保育所運営者ら2人が逮捕されています。保育所の床下からは、鎮痛剤「フェンタニル」を含む薬物や、薬物の加工機器などが見つかりましたが、2人は関与を否定し、1人は薬物について、他の居住者が残していったものではないかと主張しているといいます。
  • カリブ海の島国ジャマイカの小学校で、大麻成分入りの菓子を誤って食べた児童が相次ぎ幻覚症状や吐き気に見舞われ、60人以上が病院に運び込まれる騒ぎがあったといいます。ジャマイカでは2015年、医療や宗教、科学上の目的で大麻を所持することを認める法改正が行われましたが、少量であれば大麻所持が黙認されており、ウィリアムス教育相は、X(旧ツイッター)への投稿で、大麻入り製品を巡る「子供への悪質な販売」と批判しています。なお、同氏は菓子の包装の写真を投稿、袋には「パワー全開」と書かれ、大麻成分が入っていることを示す説明もありました。
  • 南米エクアドルの主要都市グアヤキルの刑務所で、収監中の容疑者6人が何者かに殺害されました。6人はいずれもコロンビア人で、2023年8月9日に首都キトで起きた大統領候補の暗殺に関与したとして逮捕、勾留されていたもので、暗殺事件では現場で容疑者1人が射殺され、直後に6人が逮捕されたものの、「黒幕」はまだ特定されていません。ラソ大統領はX(旧ツイッター)で、6人が口封じで殺害された可能性も示唆した上で「すべての真実が明らかになる」と徹底的な真相究明を誓っています。エクアドルはここ数年、麻薬密売組織の暗躍で治安が悪化、選挙活動中に暗殺されたビジャビセンシオ候補は、組織犯罪対策の強化や汚職撲滅などを訴えていました
  • 米政府は、致死性の高い合成オピオイド(麻薬鎮痛剤)「フェンタニル」などの密造や密輸に関与した中国の企業と個人を制裁対象に指定するとともに、関連の罪で中国企業と従業員らを起訴したと発表しています。本コラムでもたびたび取り上げていますが、フェンタニルは常習性が強く、米国内では1日200人近くが中毒死、まん延が社会問題化しています。ガーランド司法長官は「米国人に死をもたらすフェンタニルの国際供給網は多くの場合、中国の化学会社を起点としている」と非難しています。また、米財務省は声明で、中国を拠点とする12企業と13個人を含む28の企業と個人を制裁対象に指定したと説明、これら中国企業・個人がフェンタニルや同じく合成オピオイドのメタンフェタミン、合成麻薬MDMAのもとになる化学物質やその他の違法化学物質を数トン単位で合成できるネットワークを構成しているとしています。米司法省はまた、中国を拠点とする8企業と従業員12人をフェンタニルとメタンフェタミン密造、合成オピオイドの拡散などに関連する8件の罪で起訴したと発表しています。ガーランド氏は、起訴対象者全員が逮捕には至っておらず、捜査で中国政府の協力は得られなかったと述べています。また、メキシコ当局は、同国の「麻薬王」と呼ばれ、米国で服役中のホアキン・グスマン受刑者(通称エルチャポ)の息子オビディオ・グスマン被告を米国に移送しています。オビディオ被告は凶悪麻薬組織「シナロア・カルテル」を率いた父親の後を継ぎ、合成麻薬「フェンタニル」を米国に密輸したとして米当局に訴追されていました。米税関・国境警備局(CBP)のデータによると、南部国境におけるフェンタニルの押収量は近年爆発的に増加しており、2014年にはわずか10.7キロだったものが、2022年には約8400キロに拡大、米疾病対策センター(CDC)によると、2022年には約8万人の米国人がオピオイド関連の過剰摂取で死亡し、その主な原因はフェンタニルとされます。こうした状況をふまえ、ブリンケン米国務長官は、訪問したメキシコで同国のロペスオブラドール大統領と会談、「フェンタニル」をはじめとする違法薬物の密輸阻止に向けて協力強化を確認し、ブリンケン氏が麻薬カルテルの大物幹部引き渡しに謝意を伝える場面もあったといいます。また、これに先だって開かれた両国の外相、安全保障担当相らによるハイレベル対話では、メキシコのバルセナ外相が「合成麻薬が米国に悪影響を与えている」として、密売と戦う政府の決意を表明、ブリンケン氏は「米国からメキシコへの武器、メキシコから米国への合成麻薬の不法流入を阻止する取り組みの倍増を議論したい」と応じています。

(4)テロリスクを巡る動向

公安調査庁は、世界のテロ組織の情勢をまとめた「国際テロリズム要覧2023」を公表しています。2022年は国際テロ組織アルカイダとイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(ISIL/IS)の指導者がそれぞれ死亡したものの「組織解体には至らず、影響は限定的とされる」と指摘しています。要覧によれば、米国は2022年、アルカイダの最高指導者ザワヒリ氏の殺害と、ISの指導者ハシミ氏の死亡を発表、ただ、両組織とも宣伝活動を続け、政情が不安定化するマリで関連組織がテロを行うなど、アフリカでの勢力拡大を誇示していると分析しています。また、日本のオウム真理教にも言及、本コラムでも取り上げましたが、2023年3月、主流派後継団体「アレフ」に建物の使用などを制限する「再発防止処分」が初めて出されたことを紹介しています。なお、企業の実務としては、AML/CFTの文脈においても、テロ組織の主な動向については認識しておく必要があると考えます。

▼公安調査庁 国際テロリズム要覧2023
▼国際テロリズム要覧2023のポイント
  • 「国際テロリズム要覧2023」発行に当たって
    • ロシアによるウクライナ侵略やアフリカ各地で発生するクーデターに加え、各国による重要技術の確保に向けた取組等、国際社会が安全保障上重視すべき対象が拡大。国際テロの脅威も依然として世界各地に存在
    • 国連安保理制裁委員会においても、「コロナ禍」での各種制限の解除に伴う広範囲にわたる人的活動の再開による国際テロの脅威に対処することの重要性を指摘。こうした状況下、国際テロ組織等の活動が活発化する兆候が見受けられるほか、サイバー空間・先端技術を活用することにより、様々な場面でテロの脅威が存在
    • 「国際テロリズム要覧2023」では、専門用語等を脚注で詳しく説明するとともに、図表を効果的に活用することで、より一層読みやすさと分かりやすさの向上につながるようにして、最近のテロの情勢や脅威について国民の理解を深め、テロに対する危機意識を高めるよう情報発信
    • 日本人が海外でテロ被害に遭わないようにするため、国連安保理制裁委員会による制裁決議の対象である国際テロ組織等を網羅的に掲載し、組織の概要のほか、最近のテロや活動状況を記載
  • 2022年の国際テロ情勢
    • アフガニスタンが国際テロの起点となることへの懸念が継続
    • 世界各地で国際テロの脅威が継続
  • “二大国際テロ組織”の動向
    • ISILは、最高指導者の死亡が相次ぐも、組織の結束が維持されていることを誇示。アフリカの関連組織の勢力拡大も援護
    • 「アルカイダ」は、「タリバン」によるアフガニスタンの実権掌握後に声明等の発出件数を増加。影響力の維持・拡大を企図
  • 幹部の死亡が相次ぐ国際テロ組織のすう勢とその脅威
    • 国際テロを取り巻く環境が変化する中、2022年はISILと「アルカイダ」の最高指導者が共に死亡したとされる初めての年に。しかしながら、組織の解体に至らず。最高指導者死亡の影響については限定的との指摘
    • 米軍等のアフガニスタン撤退や各国の政情不安、ドローンやSNS等の技術を活用することによる活動空間の多様化等、国際テロ組織にとって、活動範囲を拡大し得る状況が新たに生じるなど、今後も様々な環境に適応しながら活動を続けていく状況
  • アフガニスタンが国際テロの起点となることへの懸念が継続
    • アフガニスタンにおいては、「タリバン」が2021年8月に実権を掌握して以降も、様々な国際テロ組織が活動を継続していると指摘
    • 「アルカイダ」については、協調する「タリバン」が、「アルカイダ」に自由に活動できる環境をもたらしているとの指摘
    • 「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)関連組織「ホラサン州」が、アフガニスタンを拠点に活動しており、国際テロ実行のための能力を向上させる可能性が指摘
  • 世界各地で国際テロの脅威が継続
    • 世界各地では、ISIL、同関連組織、「アルカイダ」関連組織等によるテロが継続
    • アフリカのサヘル諸国、ソマリア等では、ISIL及び「アルカイダ」の両関連組織がテロを頻発させ、治安の更なる悪化が懸念
    • イラク及びシリアでは、ISILが治安部隊や市民を狙ったテロを継続的に実行
    • アフガニスタンやパキスタンでは、「ホラサン州」が耳目を引くテロを実行
    • 東南アジア地域では、ISIL関連組織が、取締りを受けながらも、従来から拠点とするフィリピン南部を中心に活動を継続
    • 欧州では、ノルウェー首都オスロで、イスラム過激主義者とされる男によるテロが発生
  • 「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL):最高指導者の死亡が相次ぐも、組織の結束が維持されていることを誇示。アフリカの関連組織の勢力拡大も援護
    • 2022年中に2人の最高指導者が死亡するも、いずれも翌月に新最高指導者就任を発表。メンバーによる忠誠表明時の画像を公開
    • 最高指導者死亡に対する報復を呼び掛けた際(4月)には、自組織及び関連組織によるテロが一時的に増加
    • 度々呼び掛けてきた刑務所等襲撃によるメンバーの解放が各地で行われるなど、関連組織に対する影響力を維持していることを示したほか、アラビア語週刊誌で、アフリカの関連組織の活動を頻繁に取り上げ、その活動ぶりを称賛
    • イスラム教徒に対し、初めてアフリカへの移住を呼び掛け
  • 「アルカイダ」:「タリバン」のアフガニスタン実権掌握後に声明等の発出件数を増加。影響力の維持・拡大を企図
    • 協調関係にある「タリバン」がアフガニスタンの実権を掌握した2021年8月以降、減少傾向にあった声明等の発出件数を増加
    • 米国が、首都カブールの空爆により最高指導者アイマン・アル・ザワヒリを殺害したと発表(8月)。その後、声明等の発出は続くも、同人の生死に言及しない状態が継続
    • 機関誌では、ソマリアを拠点とする関連組織「アル・シャバーブ」の活動を称賛
  • 国際テロを取り巻く環境が変化する中、2022年は「イラク・レバントのイスラム国」(ISIL)と「アルカイダ」の最高指導者が死亡したとされる初めての年
    • 2021年、駐留米軍等がアフガニスタンから撤退。2022年には、駐留フランス軍がマリから撤退し、各国の国際テロ対策が、現地における直接的な対応から一部変化しつつある状
    • こうした国際テロを取り巻く環境が変化する中、ISILと「アルカイダ」の最高指導者を始めとする幹部が相次いで死亡したとされることは、各国の国際テロ対策の成果と評価
  • ISIL等は、組織の解体に至らず、依然各地でテロを継続。最高指導者死亡の影響については限定的との指摘
    • 最高指導者が死亡したとされる事態に対し、ISILは、関連組織に対して報復を呼び掛けるとともに、新最高指導者への忠誠表明を要求するなど、組織内の結束を維持しようとする動き。ISILによるテロは、報復の呼び掛けに呼応する形で一時的に増加。一方、「アルカイダ」は、最高指導者の生死に言及せずに宣伝活動を継続
    • 最高指導者が死亡したとされる中にあっても、両組織の関連組織は、テロを従前どおり実行。ISIL及び「アルカイダ」並びに各関連組織の活動への影響は限定的との指摘
  • ISIL等にとっては、活動範囲を拡大し得る状況が新たに生まれるなど、様々な環境に適応しながら活動を続けていく状況
    • アフガニスタンでは、「ホラサン州」が、駐留米軍等の撤退によって生まれた安全保障上の空白を利用。アフガニスタン発の国際テロの脅威を強める可能性も指摘。「アルカイダ」も、活動上の自由を享受
    • アフリカでは、ISILや「アルカイダ」の関連組織が、政情不安に起因する緊張を利用。ソマリアでは、警備が厳重な地域でのテロを実行するなど、テロ実行能力の高さを誇示。駐留フランス軍が撤退したマリでは、治安当局等へのテロを継続。両組織の指導部は、アフリカへの関心の高さを示し、関連組織による勢力拡大を援護
    • サイバー空間では、ISIL等の思想に共感しつつ自律的に宣伝活動を行う個人やグループが、テロ手法を始めとする各種の手法を指南
    • 固定翼型ドローンを用いた攻撃、NFT(非代替性トークン)を始めとするブロックチェーン技術を用いた資金調達活動等、先端技術の利用拡大が懸念されるとの指摘

要覧でも多くの指摘のあるアフガニスタンでは、直近で大きな地震が発生し、2400人を超える死者、9000人を超える負傷者も出ているとのことです(2023年10月9日時点)。大災害によって国内が混乱することになれば、タリバンによる政権運営がますます不安定になるほか、ISがその混乱に乗じて暗躍することも予想されるなど、テロ組織の動向にも十分注視していくことが必要となります。そのアフガニスタンについて、国連は、イスラム主義組織のタリバン当局に拘束された人々に対する権利侵害が1600件以上報告されており、警察や情報機関などによる拷問や不当な扱いが半数近くを占めるとの報告書をまとめています。国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)によると、2023年7月までの1年7カ月間に刑務所で死亡した人や警察・情報機関による拘束で死亡した人は18人とのことです。タリバンは2021年の外国軍撤退でアフガニスタンを掌握し、警察や情報機関に人員を配置しており、報告書は「自白など情報を引き出すため、拘束された人に激しい苦痛が加えられた」と指摘、殴打、電気ショック、窒息、水の強制摂取、脅迫などが行われたほか、逮捕の理由を伝えなかったケースや弁護士に面会できないケース、拘束中の医療が不十分なケースがあったといいます。権利侵害の約1割は女性に対するもので、被害者の4分の1近くは記者や市民団体のメンバーだったといいます。一方、タリバン外務省は報告書に掲載された反論で、権利侵害の件数は不正確で、特に被害を受けた記者と市民団体のメンバーの数は正確ではないと主張、拷問や自白の強要を禁じた最高指導者の命令を確実に順守するため、当局と司法機関が監視強化に向けた作業を進めていると説明しています。また、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は、中部バーミヤン州でミイラ2体や金の冠など歴史的な文化財計2700万ドル(約40億円)相当を運んでいた密輸業者3人を、治安部隊が逮捕したと発表しています。報道によれば、剣2本や金を使って書かれた本なども押収、合計点数は不明だといいます。事件に関連し他にも複数の容疑者を逮捕、押収品は国立博物館に引き渡したということです。アフガニスタンにはタリバンが2001年に破壊した大仏立像2体の跡が残る世界遺産バーミヤン遺跡など考古遺跡が多く、貴重な文化財の盗掘や密売が相次いでおり、その保全・保護は人類全体の課題だといえます。また、2023年9月25日付ロイターによれば、タリバン政権は国内の都市に大規模なカメラ監視網を構築する計画があるということです。米国が前政権のために策定した計画を再利用する可能性もあるといい、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)とも協力の可能性について協議しているといいます。タリバンは治安回復を重視し、各地で大規模な攻撃を行っているISを弾圧する方針を表明しており、カメラは首都カブールなどの重要な地点に設置、完成までに4年かかるとしています。カブールなどには6万2000台以上のカメラが設置され、中央制御室から監視されており、カブールのカメラシステムの最後の大規模な更新は2008年に行われたといいます。タリバンがISなどの攻撃を防ぐ上で役に立つと考えられる一方、人権団体や反体制派からは、市民団体のメンバーや抗議活動者が標的になるのではないかとの懸念の声も出ています。また、専門家は、監視システムの導入には頻繁な停電や財源不足など現実的な課題があるとも指摘しています。また、本コラムでもたびたび取り上げていますが、女性の教育が厳しく制限されているアフガニスタンでは、非公式に授業する「地下学校」が広がっているといいます。表向きは宗教教育施設のマドラサ(イスラム神学校)を装いつつ、数学や社会など一般的な科目を教えるとされ、国内を掌握するタリバンの監視をくぐり抜け、女性たちの未来を支える存在になっているといいます。当然、地下学校の運営は大きなリスクを伴い、タリバンは2023年3月、アフガニスタン農村部を中心に女子教育の推進を訴えてきた著名活動家、マティウラ・ウェサ氏を拘束、同氏は2022年8月、自身の運営する非営利団体が1~9年生の5000人以上の女子生徒を対象に、約40カ所の地下学校を運営していると明かしていました。タリバン政権を承認している国はまだなく、数十億ドル相当の資産凍結や国外からの援助も滞っている状態にありますが、国際社会から認められるためには、女性の抑圧からの解放もその条件の一つとなっており、「地下学校」に対してタリバンがさらに強硬な圧力をかけるのか、注目されます。

その他、最近のテロリスク/テロ組織の動向等に関する報道から、いくつか紹介します。

  • 2001年の米中枢同時テロを計画したなどとして訴追された被告5人のうち1人について、キューバのグアンタナモ米海軍基地の特別軍事法廷は、精神障害を患っていると認定し、公判に不適格と判断しています。弁護側は中央情報局(CIA)による拷問(拘束後にCIAの施設で睡眠を許されず、ほぼ全裸で3日間立たされるなどの拷問を受けた)が原因だと主張しています。国際テロ組織アルカイダの幹部ら5人は2002~2003年に拘束され、20年余りたった後も正式な裁判が開かれず、グアンタナモ基地の施設に収容されていますが、米領土ではないことから米国内法が適用されないとして長期拘束が正当化され、いまだに公判前手続きの段階で拷問後の自白の証拠能力などが争われています。
  • 米中央軍のクリラ司令官は、2021年8月のアフガニスタン駐留米軍の撤収完了直前に米兵13人が死亡した自爆テロの調査で、対象から外れていた米兵らに改めて聞き取りをするよう指示しています。。テロは2021年8月26日、アフガンの首都カブールの空港付近で発生、IS系勢力による犯行で、170人以上のアフガン人も犠牲となりました。2021年11月までの調査で「テロは防げなかった」と結論付けていましたが、その後にテロ実行犯とみられる人物に気付いていたとの証言が出ていたものです。負傷した米兵の1人が、テロ実行犯とみられる人物に気付いたが、上官から狙撃の許可が出なかったと話しているといいます。
  • トルコの首都アンカラの内務省前で爆発が起き、警官2人が負傷しています。報道によれば、2人乗りの車が内務省の入り口に近づき、1人が装着した爆弾を起爆させて自爆し、もう1人は治安当局が殺害したとされます。現場周辺には内務省のほか、国会など政府の中枢施設がありますが、犯行声明などは出ていないといいます。トルコでは少数民族クルド人の独立を求める非合法武装組織「クルド労働者党」(PKK)が活動しており、当局は2022年11月、最大都市イスタンブールの繁華街で6人が死亡、約80人が負傷した爆発事件で、PKKと連携する組織の犯行との見方を示しています。
  • 西アフリカ・ニジェールでクーデターにより軍部が実権を掌握し、旧宗主国フランスが駐留軍の撤収を決めたことで、周辺地域で活動するイスラム過激派が勢いづく懸念が高まっています。周辺諸国でも近年、相次ぐクーデターで地域の政情不安が深刻化しており、ISや国際テロ組織アルカイダ系が浸透する温床となっています。米政府系シンクタンク「アフリカ戦略研究センター」によると、ニジェールなどサハラ砂漠南部のサヘル地域で2022年、イスラム過激派関連の事件で死亡した人は約7900人と2021年に比べ63%増えており、アフリカ連合(AU)は2022年、サヘル地域で5千人超の外国人戦闘員が暗躍していると推測しています。中東でISが壊滅状態となり、残存勢力が集結していると考えられてます。多くはニジェールと国境を接し、内戦が続くリビアの南部を拠点にしているといいます。アルカイダ系は2017年に複数の組織を統合し、「イスラムとムスリムの支援団」(JNIM)の名で活動、ブルキナファソでは2023年9月上旬、軍事衝突が起きて軍兵士ら50人以上が死亡する事件が起き、JNIMが犯行を認める声明を出しています。一方、IS系では「大サハラのイスラム国」(別名サヘル州)が勢力を広げるほか、ナイジェリアの過激派「ボコ・ハラム」(「西洋の教育は罪」の意)の分派も、ISの支部「西アフリカ州」を名乗っています。さらに、アルカイダ系とIS系は共闘することもあるといわれています。
  • パキスタン南西部バルチスタン州のモスク近くで爆発があり、少なくとも52人が死亡、約50人が負傷しています。北西部カイバル・パクトゥンクワ州のモスクでも同日、爆発があり、少なくとも5人が死亡、12人が負傷しています。警察はいずれも自爆テロとみていますが、犯行声明は確認されていません。パキスタンでは、隣国アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが2021年8月に復権して以降、過激派によるアフガンからの越境攻撃などが増加しており、治安が悪化、パキスタン軍による掃討作戦やタリバンへの過激派取り締まり要求では防ぎ切れていないのが現状です。そのような中、直近では、パキスタンのブグティ内相は、国内に住む全ての不法移民に対し、2023年10月末までに国外退去するよう命じると発表、従わない場合、資産を没収し強制送還するほか、11月1日以降は、不法移民による事業も摘発し、便宜を図ったパキスタン国民は処罰の対象となるなどとしています。2023年にパキスタンで起きた自爆テロ24件のうち、14件で隣国アフガニスタン人が関与していたと説明、テロ対策に苦心する中、強硬手段に打って出た形となります。不法移民はアフガン人だけで約170万人に上るとされます。ブグティ氏は「テロ撲滅と確実な不法滞在者の追放」への取り組みを強調しています

(5)犯罪インフラを巡る動向

令和5年版警察白書では、「インターネット上で提供される技術・サービスの利用により匿名でのコミュニケーションや経済取引が可能となる中、これらの技術・サービスは、犯罪の実行を容易にし、あるいは助長するツールとして悪用されており、いわば犯罪のインフラとして利用されるようになっている。例えば、他人の携帯電話番号や認証コードを利用したSMS認証により不正に設定されたアカウントがサイバー事案や特殊詐欺に悪用される実態がみられるなど、インターネット上で提供されるサービスが、規制の間隙を突いて不正に用いられている」との指摘があります。他人名義の運転免許証を偽造したとして、埼玉県警は、ベトナム国籍の男を有印公文書偽造の疑いで逮捕しています。埼玉県警は男の自宅から、他人名義の運転免許証と健康保険証計約70枚のほか、スマホ数十台を押収、この部屋が犯罪組織などのために偽の身分証などを量産する「工場」だったとみて、依頼者らの特定を進めるとしています。男の逮捕容疑は、2022年4月~2023年8月、自宅アパートの一室で、他人名義の偽の運転免許証2枚を製造したというものですが、部屋からは、偽造に使ったとみられるパソコンやプリンターも見つかったといい、男のスマホの通信履歴などから、スマホやSIMカードの購入時に「本人確認書類」として利用するための身分証を男が偽造していた疑いがもたれています。他人名義のスマホやSIMカードは、犯罪組織が電話の発信者の特定を避けるために使われる正に「犯罪インフラ」の代表的なものですが、最近、関連事件の摘発が相次いでいます。また、偽の在留カードを製造したとして、群馬県警外事課と太田署は、ベトナム国籍の無職の男と飲食店従業員の両容疑者を入管難民法違反(在留カード行使目的偽造)の疑いで逮捕しています。群馬県内の偽造カード製造拠点を摘発したのは初めてといい、拠点を運営するのは中国人が多いところ、ベトナム人は全国的にも珍しいといいます。2人はSNSを通じてベトナムにいる指示役から依頼を受け、在留カードなどを偽造、発送していたとみられており、口座の入金状況から1枚当たり3000~6000円で販売していた可能性があるほか、SNSのやりとりなどから偽造は数千枚規模とみられ、同課などは指示役を頂点とした国際的な犯罪組織とみて調べています。アパートからは偽造した在留カードや運転免許証、偽造前の白色プラスチックカード約3000枚に加え、スマートフォンやプリンターなども押収しています。

令和5年版警察白書では、「来日外国人で構成される犯罪組織が関与する犯罪インフラ事犯には、地下銀行による不正な送金、偽装結婚、偽装認知、不法就労助長、旅券・在留カード等偽造等がある」と指摘されています。ベトナム人向けに「地下銀行」を営んだとして、埼玉県警は、ベトナム国籍で住所不詳の女を銀行法違反などの容疑で再逮捕しています。SNSに「きょうは円高でお得」などと投稿し送金の依頼を募っていたといいます。埼玉県警は、同国への送金額の一部を受け取ることで年間数億円を稼いでいたとみています。報道によれば、女は銀行の免許がないのに、2019年5月~2021年3月、依頼人2人に13回にわたり計約162万円を振り込ませ、ベトナムに送金した疑いがもたれています。女は、他人に使わせる目的で口座を開設したとして2023年7月に詐欺容疑で逮捕され、その後起訴されています。

技能実習制度は1993年、外国人に日本で学んだ技能を母国に持ち帰ってもらうため、国際貢献や人材育成を目的に導入され、2022年末時点では約32万人の実習生がおり、国別ではベトナムが54%を占め、インドネシア、フィリピン、中国と続き、大半は、外国側の送り出し機関と国内の受け入れ企業をつなぐ「監理団体」の仲介で来日しますが、その際、送り出し機関への手数料などで借金を抱えるケースが相次いでいます(出入国在留管理庁の2022年の調査では、来日前に送り出し機関や仲介者に支払った費用の平均は約54万円で、全体の約55%が借金を背負っていたといいます)。また、一つの企業で計画的に技能を学ぶべきだとする考え方から原則、転籍できず、賃金不払いや長時間労働など不当な扱いを受けても職場を変えられず、「失踪」する一因になっており、2022年には約9千人が失踪しています。受け入れ企業から費用を受け取って指導する監理団体が、実習先の企業に人権侵害などの問題があっても、十分に企業を監督できていないケースも指摘されているところです。技能実習制度のこうした構造が、人権問題、来日外国人の失踪や彼らによる各種犯罪に直結しているといえ、制度自体の「犯罪インフラ」化の状況が指摘できるところです。人手不足の深刻化から、労働者としての需要は高まっているとして、制度自体の見直しが進んでいますが、その制度が新たな犯罪の温床となることがないよう、期待したいところです。

2023年10月3日付産経新聞によれば、休眠状態に陥った宗教法人の犯罪インフラ化をふまえ、文化庁がその解散促進に向け、都道府県の職員不足を緩和しようと非常勤職員の人件費負担を柱に2023年度新たに計画した補助金事業に、大阪など7府県しか応じていないことが判明したといいます。文化庁は広く参加を呼びかけているといいますが、都道府県側が今年度の予算対応が間に合わないとして見送るケースが相次いでいるものです。本コラムでもたびたび取り上げていますが、休眠状態の宗教法人は売買の末に脱税やマネロンなどに悪用される恐れがあり、文化庁は2023年3月末、活動実態のない法人を直ちに「不活動宗教法人」と認定し、解散手続きを加速させる方針を決めましたが、都道府県側は職員2~3人だけで煩雑な手続きを担うケースが少なくなく、人手不足の緩和が課題となっていたものです。文化庁によると、不活動法人は2022年末時点で3329法人あり、産経新聞が都道府県などに実施したアンケートでは、宗教法人法で毎年提出が義務づけられた「事務所備付け書類」を1万5千超の法人が提出しておらず、活動実態のない法人数は国の把握を大幅に上回るとみられています。文化庁が新たな補助金事業を設けた背景には、不活動宗教法人の増加に歯止めをかけたい思惑があります。代表役員の死去などで宗教活動の実態がなくなれば、残された法人格が売買対象となり、犯罪や不正に悪用される恐れがあるためで、これも本コラムではたびたび取り上げていますが、宗教法人の売買取引は闇市場が舞台で、ブローカーによると、法人格の相場は3千万~5千万円程度で、宗教活動上の収入に課税されず、宗教施設に固定資産税もかからない税制上の「特権」が、脱税やマネロンを狙う反社会勢力にとっては恰好のターゲットとなっています。こうした産経新聞の報道を受け、永岡文部科学相(当時)は2023年2月の国会で、反社会的勢力などが法人運営に介入し、宗教団体の要件を欠く場合、宗教法人法に基づき裁判所に解散命令の請求を検討できると述べています。また、2023年9月25日付産経新聞では、地方自治体のチェックの杜撰さを厳しく指摘しています。「ある宗教関係者はこう語る。「市町村は宗教活動の実態を厳しくチェックしないまま、『それっぽい雰囲気』を整えれば、不活動法人でも固定資産税の非課税は認める。法人格さえあれば、税優遇を受けることは簡単だ」…市の職員1人が家の中を30分ほど見回って写真を撮るなどしただけで非課税が決まった。法人側は職員に、リビングのソファを「集まった信者の休憩用」と説明し、神棚は「定期的に礼拝している」と伝えた。神棚のそばに神道とは無関係の仏具があったりもしたが、職員が疑問を示すことはなかった。…。固定資産税の担当部局では通常、宗教施設の非課税判断は業務のごく一部に過ぎず、職員が宗教上の専門知識を持つケースは極めてまれだ。宗教関係者は「近隣トラブルや刑事事件などが起きない限り、非課税措置が取り消されることはない」と言い切る。…全国に存在する不活動法人は3300余り。文化庁は税優遇などを悪用した脱税など不正の温床となる恐れがあるとして、解散を加速させる方針を示している。ところが、アンケートの過程で、複数の担当者が「不活動宗教法人という文言自体を初めて聞いた」とも明かした。不活動法人に対する市町村側の認識不足は、不正をもくろむ勢力に対するチェックの甘さを生み、付け入る隙を与えかねない。宗教法人はお布施なども非課税だ。この仕組みを隠れみのに、納税を免れた資金や犯罪収益の隠蔽先として、法人名義の口座や貸金庫を悪用する者がいるとされる。こうした反社会勢力は当然、法人の登記先としてチェックの緩い市町村を選ぼうとする。宗教法人の買収経験がある関係者は「宗教法人に対する監視の目が緩い自治体を教えてほしい」との相談を受けたと証言する」といった信じ難い実態が明らかになっています。文化庁がようやく本腰を入れ始めているのに、直接の管理者である地方自治体の甘い認識が休眠宗教法人の犯罪インフラ化をさらに推し進め、反社会的勢力をはじめとする犯罪者の活動を助長していることになぜ気づかないのか、気づいていながらその実態を放置しているのであれば許しがたい不作為だといえます。数年前からこの問題を指摘してきた筆者としては、現状に大きな危機感を抱いています。

関連して、政府は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する解散命令を東京地裁に請求する方針を固めたと報じられています。2023年10月12日にも宗教法人審議会を開き、盛山文部科学相が解散命令請求に関し意見を聞く方針だといいます。宗教法人法に基づく計7回の質問権行使に伴う調査とともに教団を巡る裁判資料の精査や関係者聴取から、教団による献金要求などが民事上の違法行為に該当し解散命令請求の要件となる「組織性、悪質性、継続性」が認められると判断したということです(すなわち、犯罪を助長する集団として「犯罪インフラ」性があると見なされたと理解できます)。法令違反を踏まえた裁判所による宗教法人の解散命令は過去2件あり、地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教、霊視商法詐欺事件の明覚寺はともに裁判所が刑事事件の「組織性」を認定し、解散命令が確定していますが、解散命令請求としては、民事上の違法行為が理由になる初めてのケースとなります。解散命令が確定した場合、教団は宗教法人格を失い固定資産税の非課税など優遇措置を受けられなくなりますが、宗教上の行為は禁止されることはありません。一方、教団側は「違法行為の組織性、悪質性、継続性のいずれも認められず、解散命令を請求するような要件には当たらない」と反論しています。なお、旧統一教会による被害救済に取り組む全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)は、教団が刑事事件をきっかけに「法令順守の徹底」を宣言した2009年3月以降、元信者ら140人から計19億円超の献金被害の訴えがあったと発表しています。全国弁連は、教団による違法行為が継続的に行われているとして、裁判所や政府に速やかな解散命令を求める声明を出しています。また、教団側が財産の隠匿・散逸を図って被害回復がされない事態を防ぐため、解散命令が確定する前に教団財産の管理や保全を可能にする法制度の整備を求めています。さらに、旧統一教会は、NHKに対し、教団の信者勧誘の手口などを扱った番組「危険なささやき」の放送中止と謝罪を求めて抗議、NHKは教団側が問題視した番組のタイトルを一部変更し、予定通り放送していますが、教団が放送前の番組に中止を要求したのは異例で、識者はメディア側の萎縮を狙った可能性を指摘しています。

また、法務省の外局である公安審査委員会が、「危険性の程度を把握することが困難になっている」として、オウム真理教の後継団体「アレフ」の活動を大幅に制約する「再発防止処分」を決定したことを受けて張り出した「標章」を巡る2023年9月26日付毎日新聞の記事は、大変興味深い内容でした。以下、抜粋して引用します。

「殺人事件でもあったんですか?」―。九州の玄関口・JR博多駅にほど近い雑居ビルについて、管理会社に思いも寄らぬ問い合わせがあったのは3月下旬のことだった。ビル内を点検すると、4階に心当たりのない「公安審査委員会」名の張り紙があり、「無差別大量殺人」「使用禁止」の文言が並んでいた。「事前の連絡もない。これは一体、何だ?」。…「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律の規定により、使用禁止の処分を受けています」…処分を受けたのはオウム真理教の後継団体「アレフ」のようだった。ただ、玄関ドアの周辺に表札などはなく、教団施設とは分からない。…「4階の2室は企業名で契約されていたと思う。10年ほど前からアレフの人たちが集会所として使っていたのは知っていた。ただ、家賃は毎月支払われ、知る限りトラブルもなかった。突然の張り紙に驚いた」…張り紙は、法務省の外局である公安審査委員会が3月、アレフの活動を大幅に制約する「再発防止処分」を決定したことを受け、掲示された「標章」だった。処分によって、アレフはその決定が官報で公示された翌日から6カ月間(9月20日まで)、東京や大阪など全国11都道府県にある13施設の作業場・道場の使用と、布施の受領ができなくなった。この雑居ビルの4階も対象施設の一つとなった。…掲示にあたって国からビル管理会社に連絡はなかったという。…「営業妨害だ。あんなものを張られたら普通の人はびっくりして入居できない」と、管理会社の男性経営者は標章の掲示に不満を漏らす。…アレフの信者が使用するとは知らずに部屋を貸した場合、後から賃貸契約を解除することはできるのか。不動産関連の紛争を取り扱う「日本橋さくら法律事務所」(東京)の上野晃弁護士は、アレフが団体規制法の処分対象になっていることに触れ「物件を反社会的勢力に使わせないことなどを確約する条項が契約書に記載されていれば、解除できる可能性は高い」と指摘。契約書に記載が無くても、民法の規定で契約の無効を主張することができるという。宗教と法律の関係に詳しい近畿大の田近肇教授(憲法)は「オウムが起こした一連の事件から約30年がたち、教団名や事件のことを知らない人が増えている」と風化を指摘する。だが、アレフに対する観察処分は00年から続いており「団体の危険性が薄まったと錯覚してしまうのは危険だ。こうした事態に直面する可能性もあり、不特定多数の人が出入りするビルのオーナーらは契約時に十分検討するなど慎重な対応が求められる」と話した。…公安庁は近年、アレフが資産隠しをしている可能性があるとの見方を強めている。アレフは19年1月時点で約13億円の資産があると報告していたが、20年以降は急減。22年11月の報告では過去最少額の約2000万円としたが、減少した理由は判然としていない。こうした状況を受け、公安庁は23年1月、「危険性の程度を把握することが困難になっている」として、アレフの活動を大幅に制約する再発防止処分を請求。公安審は3月に同処分の初適用を決定した。

サイバー攻撃は、自らが「被害者」であると同時に、他者への攻撃への「踏み台」とされる可能性もあり、「加害者」にもなりうるという側面があります。そして、基本的な対策を疎かにするなどの実態が明らかになっており、その脇の甘さが犯罪組織に狙われ、資金源とされてしまうことになり(いわば「犯罪インフラ化」の状態)、それによってさらなる犯罪が再生産されてしまうという側面もあります。その脅威を正確に把握することが、実効性ある対策を講じるための第一歩となります。以下、サイバー関連の犯罪インフラに関する動向を見ていきます。

まず、サイバー攻撃ではありませんが、営業秘密漏えいの事案が増加していることに関連して、企業自体の取り組みの脆弱性がこうした犯罪を助長している側面があるようにも思います。例えば、双日元社員による営業秘密の不正取得事件で、元社員の転職元の兼松が社内データベースへの不審なアクセスを検知し情報漏洩が発覚したことが分かった点は、問題の早期発見につながったという点では評価できるものですが、あくまで事後的に把握できたに過ぎず、とはいえ、現状の取り組みではこうした限界はあることはあらためて認識しておく必要があります。一方、容疑者の男は元同僚の派遣社員のIDやパスワードを使用したとみられており、警視庁の任意聴取に「上司や同僚には聞けないので連絡した」と供述、派遣社員には「個人的にまとめていた出張国での飲食店リストがほしい」と虚偽の理由を伝えていたといいます。また、男は転職前にも、自分のアカウントを使って兼松の内部データ約3万7千ファイルをダウンロードした形跡があったといいます(容疑者はインターネット上でデータを管理するクラウドサービスを使って、持ち出したデータを個人的に保管していたといい、場所を選ばず、スマホなどでいつでも閲覧できる状態だったといいます。さらに、今年4月には、クラウドに保管したデータの画像を知人に見せ、「兼松の情報をいつでも見られるように保存している」と明かしていたようです)。こうした状況から、情報漏えいの手口・ルートをあらためて認識し、その脆弱性をひとつずつ埋めていくことが求められます。つまり、被害の拡大防止には従業員や退職予定者の業務端末の動作記録(ログ)を調べるなど、不審なアクセスを早期に検知できる監視体制の構築が重要だということです。そして、この問題で言えば、ID・パスワードを教えた元同僚の派遣社員の行動や「兼松の情報がいつでも見れる」と明かされた知人の行動が適切だったのかどうかを検証し、再発防止に向けた再教育の実施なども極めて重要だといえます。

営業秘密の漏えいが経済安全保障上の問題となるケースも発生しています。ガラス容器製造会社「日本山村硝子」のガラス瓶製造技術に関する営業秘密を持ち出したなどとして、兵庫県警生活経済課などは、不正競争防止法違反(営業秘密領得)の疑いで元社員と、妻で別会社の代表取締役を逮捕しています。逮捕容疑は共謀し、2016年6月、中国などから日本山村硝子のシステムにアクセスし、同社の営業秘密である軽量瓶の成形技術に関するプログラムを、別会社代表の容疑者の私用メールアドレスに送信するなどしたというものです。容疑者が代表取締役を務めるガラス製造技術コンサルティング会社が不正に持ち出した情報を中国の別のガラス容器製造会社に提供し、2016年から2021年までの間にライセンス契約費として日本円で計約1億9千万円を得ていたとみられています。同社のホームページによると、同社は国内のガラス瓶生産の業界シェアトップとされ、兵庫県警は、ほかの共謀者や秘密情報の提供先の有無などを調べています。

サイバー犯罪用のツールや情報が闇サイトで売買され、ビジネス化が進んでいるといいます。2023年9月29日付産経新聞によれば、これまで高度な技術を持つものしかできなかったサイバー犯罪が、対価を払えば誰でも簡単にサイバー攻撃者になれてしまう恐れが指摘されています。警察当局もビジネス化によるサイバー犯罪の増加を危惧しています。例えば、実在の企業などを装ってメールを送りつけ、偽サイトに誘導し、個人情報を窃取する「フィッシング」において、フィッシングサイトを作成するツールが「16SHOP」で、これを購入すれば、技術や知識がなくても、アマゾンやペイパル、アップルなどの大手企業サイトに似せた偽サイトを作成することができるといいます。企業ごとに値段がつけられ、多言語にも対応しいるといい、このツールを利用した犯罪の被害拡大を食い止めようと、国際刑事警察機構(ICPO)は、2020年ごろから「キングフィッシャー作戦」と名付けた国際共同捜査を展開し、2021年にツール開発者のインドネシア国籍の男を逮捕、2023年7月には、インドネシア警察と警察庁などが連携し、ツールを使って盗んだ日本人のクレジットカード情報を不正利用したとして、実行犯のインドネシア国籍の男を逮捕しています。16SHOPは閉鎖されましたが、43カ国7万人以上に販売されていたといいます。近年ではこうした犯罪ツールは、「ダークウェブ」と呼ばれる闇サイトなどでサブスクリプション(定額)サービスとして提供されているといいます。サイバー犯罪のビジネス化は、身代金要求型ウイルス「ランサムウエア」でもみられ、「RaaS(Ransomware as a Service)」と呼ばれており、ランサムウエアの開発や運営などを行うオペレーターが、攻撃の実行者(アフィリエイト)にランサムウエアを提供し、その見返りとして身代金の一部を受け取るもので、利用者は対価を払えば手間を省いて攻撃を開始できることになります。開発者や攻撃の実行者のほか、標的企業のネットワークに侵入するためのIDやパスワードを売買する「イニシャルアクセスブローカー」も存在するなど、攻撃の分業化が進んでいるといいます。報道で警察庁は「技術的な知識がなくてもランサムウエアを引き起こせるインフラが出現している。今後も実態解明に努めたい」としていますが、私たちはすべての情報を握られ、いつでも誰でもが攻撃できる状況下に置かれているという危機感をもっと強くもつ必要があるといえます

警察庁が「サイバー空間をめぐる脅威の情勢等」を公表しています。複数のコンピュータからウエブサーバーに大量のデータを送り付ける「DDoS」という手法のサイバー攻撃は、海外からが99%で、国別では米国が38.8%と約4割を占め、オランダ、中国と続くほか、政治目的のサイバーテロや親ロシア派ハッカー集団の犯行を示唆するものが確認されたといいます。またフィッシングの手口が右肩上がりで増加、クレジットカードの不正利用被害額は2022年に436.7億円と過去最悪を記録しましたが、2023年1~3月の被害は121.4億円に上り、2022年同期比で21.33%増とさらに悪化しています。ネットバンキングを悪用した不正送金被害は件数が2322件と2022年1年間と比べ、すでに104.4%増で過去最多になっているほか、金額でも97.2%増の30億円となり、半年で年間被害額の過去最多に迫る非常事態となっています。また、盗んだ情報を「人質」として企業に身代金を求めるランサムウエア(身代金要求型ウイルス)の脅威が強まる中、ウイルス開発などを有償のサービスとして担う集団(犯罪インフラ集団とでも呼ぶべき存在)が確認されています。集団は世界で20を超え実行役を勧誘しているとみられています。高度な技術がなくても加担でき、攻撃者が無数に増える恐れがあり、被害の高止まりの要因ともなっています。2022年4月発足の警察庁のサイバー特別捜査隊が攻撃側の実態を調べたところ、サイバー攻撃の分野で「オペレーター」と呼ばれる誘導役の存在が確認され、ウイルスの開発を担うほか、攻撃によって盗んだ情報を効果的に暴露する「リークサイト」を運営している可能性、さらに、標的とする組織のネットワーク上の弱点を発見するグループの暗躍も判明しています。業界では「イニシャルアクセスブローカー」という名称が使われており、攻撃する際の侵入経路の情報を有償で提供しているとみられています。こうしたサービスの多くは発信元が特定できないダークウェブ上からアクセスでき、対価は暗号資産で支払われているとみられています。実際の攻撃者はサービスを利用する「アフィリエイト」と呼ばれています。さらに、データを暗号化する手間を省いて容易に短時間で犯行を実行できるという「ノーウエアランサム」の被害も6件確認されています。

▼警察庁 サイバー空間をめぐる脅威の情勢等
▼令和5年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について
  • 令和5年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威については、ランサムウエア被害が依然として高水準で推移するとともに、フィッシング被害等に伴うクレジットカード不正利用被害やインターネットバンキングに係る不正送金被害も急増しているほか、インターネット上では児童ポルノや規制薬物の広告等の違法情報や、自殺サイトや爆発物・銃砲等の製造方法、殺人や強盗の請負等の有害情報が氾濫するなど、極めて深刻な情勢が続いている。
  • 企業・団体等を対象とした不正アクセス等
    • 大手システム事業者、電子部品関連企業等に対する不正アクセスが確認されたほか、特定の事業者等に対する標的型メール攻撃が確認された。
  • DDoS攻撃による被害とみられるウェブサイトの閲覧障害
    • DDoS攻撃による被害とみられるウェブサイトの閲覧障害が複数発生し、一部の事案については、障害発生と同じ頃、SNS上でハクティビストや親ロシア派ハッカー集団からの犯行をほのめかす投稿が確認された。
  • フィッシングの報告件数の増加
    • 令和5年上半期におけるフィッシングの報告件数は、フィッシング対策協議会によれば右肩上がりで増加しており(前年同期比で17.9%増加)、クレジットカード事業者等を装ったものが多くを占めた。
  • クレジットカード不正利用被害額の増加
    • 一般社団法人日本クレジット協会によれば、令和4年のクレジットカード不正利用被害額は436.7億円であり、統計を取り始めた平成9年以降、過去最悪となった。また、令和5年第1四半期におけるクレジットカード不正利用被害額は、121.4億円で前年同期と比較して増加している(21.3%増加)。
  • インターネットバンキングに係る不正送金事犯による被害の急増
    • 令和5年上半期におけるインターネットバンキングに係る不正送金事犯による被害は、発生件数が2,322件(令和4年の年間発生件数と比較して104.4%増加)であり、年間の被害件数と比較しても過去最多となり、被害総額も約29億9,600万円(令和4年の年間被害総額と比較して97.2%増加)であり、年間の被害額と比較しても過去最多に迫る状況にある。
  • ランサムウエア被害の情勢等
    • 令和5年上半期におけるランサムウエアによる被害件数は103件(前年同期比で9.6%減少)であり、引き続き高い水準で推移している。手口としては、データの暗号化のみならず、データを窃取した上、企業・団体等に対し「対価を支払わなければ当該データを公開する」などと対価を要求する二重恐喝(ダブルエクストーション)が多くを占める。
    • ランサムウエアによる被害のほか、データを暗号化する(ランサムウエアを用いる)ことなくデータを窃取し対価を要求する手口(「ノーウェアランサム」)による被害が、新たに6件確認された。
  • サイバー事案の被害の潜在化防止
    • サイバー事案の被害については、社会的評価の悪化の懸念等から警察への通報・相談がためらわれる傾向にあり、いわゆる「被害の潜在化」が課題となっているところ、各界の有識者からなる「サイバー事案の被害の潜在化防止に向けた検討会」を開催し、被害の潜在化防止に関する今後の方策等について報告書を取りまとめ、令和5年4月に公表した。
  • 医療機関等との連携強化
    • 医療機関におけるランサムウエア等のサイバー事案に係る被害の未然防止、事案発生時における警察への迅速な通報・相談を促進するため、令和5年4月、公益社団法人日本医師会と覚書を締結した。また、令和5年5月、四病院団体協議会及び各国公私立大学病院に対してサイバー事案に係る連携強化に関する依頼を行った。
  • サイバー空間におけるぜい弱性探索行為等の観測状況
    • 警察庁が検知したサイバー空間におけるぜい弱性探索行為等とみられるアクセス件数は、1日・1IPアドレス当たり8,219.0件(前年同期比で5.4%増加)と、増加の一途をたどっており、海外を送信元とするアクセスが大部分を占めている
  • インターネット上の違法・有害情報の実態等
    • インターネット上において、違法情報や、爆発物・銃砲等の製造方法等の重要犯罪密接関連情報*3が容易に入手できる状況にある。
  • サイバー事案の検挙件数
    • 令和5年上半期におけるサイバー事案の検挙件数は、1,181件であった。
  • 不正アクセス禁止法違反の検挙件数及び特徴
    • 令和5年上半期における不正アクセス禁止法違反の検挙件数は、188件(前年同期比で19.3%減少)であり、そのうち157件が識別符号窃用型で全体の83.5%を占める。
  • コンピュータ・電磁的記録対象犯罪の検挙件数及び特徴
    • 令和5年上半期におけるコンピュータ・電磁的記録対象犯罪の検挙件数は、403件(前年同期比で15.8%増加)であり、そのうち380件が電子計算機使用詐欺で全体の94.3%を占める。
  • フィッシングの状況
    • フィッシングとは、実在する企業・団体等や官公庁を装うなどしたメール又はショートメッセージサービス(以下「SMS」という。)を送り、その企業等のウェブサイトに見せかけて作成した偽のウェブサイト(フィッシングサイト)を受信者が閲覧するよう誘導し、当該フィッシングサイトでアカウント情報やクレジットカード番号等を不正に入手する手口であり、インターネットバンキングに係る不正送金やクレジットカードの不正利用に使われている。
    • 令和5年上半期のフィッシング報告件数は、フィッシング対策協議会によれば、53万804件(前年同期比で8万722件増加)で、右肩上がりで増加となった。また、フィッシングでかたられた企業等は、クレジットカード事業者、EC事業者を装ったものが多くを占めた
  • インターネットバンキングに係る不正送金事犯におけるフィッシングの実態
    • 令和5年上半期におけるインターネットバンキングに係る不正送金事犯による被害は、2月以降被害が多発しており、発生件数は過去最多の2,322件、被害総額は約29億9,600万円である。
    • また、被害者の大部分は個人であり(96.8%)、そのうち40代から60代の被害者が約7割を占めている。
    • さらに、フィッシングの内訳を見ると、電子メールによる誘導が61%、SMSによる誘導が12%である。
  • クレジットカード不正利用の情勢
    • キャッシュレス決済等の普及に伴い、クレジットカード決済市場の規模が増加する一方、クレジットカード不正利用被害も多く発生している。一般社団法人日本クレジット協会(以下「日本クレジット協会」という。)で実施している国内発行クレジットカードの不正利用被害の実態調査によると、クレジットカード不正利用被害額は平成25年以降増加傾向にあり、令和4年の被害額については、436.7億円で統計を取り始めた平成9年以降、過去最悪となった。令和5年第1四半期(令和5年1月~同年3月)の被害額は121.4億円であり、前年同期比(令和4年第1四半期(令和4年1月~同年3月))では21.3%増加しており、厳しい情勢にある。
  • SIMスワップ対策
    • SIMスワップによる不正送金事案が増加していた状況を踏まえ、令和4年9月、総務省と連携し、携帯電話事業者に対して、携帯電話機販売店における本人確認の強化を要請し、令和5年2月までに、大手携帯電話事業者において同要請への対応を完了した。その結果、令和5年上半期におけるSIMスワップによる不正送金の被害が激減した。
  • クレジットカード番号等の盗用防止対策
    • クレジットカード不正利用被害の大部分が、クレジットカードの番号盗用によるものであり、フィッシング等によりクレジットカード番号等を窃取し、利用権者になりすます手口が主要な要因となっている。こうした情勢を踏まえ、クレジットカード番号等の不正利用の原因となるフィッシング被害が増加していることから、警察庁、経済産業省及び総務省は、令和5年2月、日本クレジット協会に対し、送信ドメイン認証技術(DMARC)の導入をはじめとするフィッシング対策の強化を要請した。
  • 外国捜査機関と連携したフィッシング事犯の検挙
    • サイバー特別捜査隊及び大阪府警察は、インドネシア国家警察と連携し、フィッシングツール「16SHOP」を用いて不正に入手したクレジットカード番号等を使用して通販サイトの商品を窃取するなどしたインドネシア在住の同国人被疑者を特定し、令和5年7月9日に同国国家警察が同被疑者を逮捕した。本件は、日本警察の捜査がフィッシング事犯に関する国外被疑者の検挙に結びついた初めての事案となった。
  • ランサムウエア被害の情勢等
    • ランサムウエアとは、感染すると端末等に保存されているデータを暗号化して使用できない状態にした上で、そのデータを復号する対価(金銭又は暗号資産)を要求する不正プログラムである。
    • 手口としては、データの暗号化のみならず、データを窃取した上、企業・団体等に対し「対価を支払わなければ当該データを公開する」などと対価を要求する二重恐喝(ダブルエクストーション)が多くを占める。
    • 感染経路は、令和4年に引き続き、ぜい弱性を有するVPN機器等や強度の弱い認証情報等が設定されたリモートデスクトップサービスが多くを占めた
  • 被害件数
    • 企業・団体等におけるランサムウエア被害として、令和5年上半期に都道府県警察から警察庁に報告のあった件数は103件であり、令和4年上半期以降、高い水準で推移している。
  • 特徴
    1. 二重恐喝(ダブルエクストーション)による被害が多くを占める
      • 被害(103件)のうち、手口を確認できたものは83件あり、このうち、二重恐喝の手口によるものは65件で78%を占めた。
    2. 「ノーウエアランサム」による被害
      • ランサムウエアによる被害のほか、最近の事例では、企業・団体等のネットワークに侵入し、データを暗号化する(ランサムウエアを用いる)ことなくデータを窃取した上で、企業・団体等に対価を要求する手口(「ノーウェアランサム」)による被害が、新たに6件確認された。
    3. 暗号資産による対価の要求が多くを占める
      • 被害(103件)のうち、直接的な対価の要求を確認できたものは22件あり、このうち、暗号資産による支払いの要求があったものは21件で95%を占めた
  • 被害企業・団体等の規模
    • 被害(103件)の内訳を企業・団体等の規模別に見ると、大企業は30件、中小企業は60件であり、その規模を問わず、被害が発生した。また、業種別*13に見ると、製造業は34件、サービス業は16件、卸売・小売業は15件であり、その業種を問わず、被害が発生した。
  • 感染経路
    • ランサムウエアの感染経路について質問したところ、49件の有効な回答があり、このうち、VPN機器からの侵入が35件で71%、リモートデスクトップからの侵入が5件で10%を占め、テレワーク等に利用される機器等のぜい弱性や強度の弱い認証情報等を利用して侵入したと考えられるものが82%と大半を占めた。
  • 復旧等に要した期間・費用
    • 復旧に要した期間について質問したところ、60件の有効な回答があり、このうち、復旧までに1か月以上を要したものが10件あった。
    • また、ランサムウエア被害に関連して要した調査・復旧費用の総額について質問したところ、53件の有効な回答があり、このうち、1,000万円以上の費用を要したものが16件で30%を占めた。
  • バックアップの取得・活用状況
    • 被害に遭ったシステム又は機器のバックアップの取得状況について質問したところ、62件の有効な回答があり、このうち、取得していたものが57件で92%を占めた。また、取得していたバックアップから復元を試みた57件の回答のうち、バックアップから被害直前の水準まで復旧できなかったものは45件で79%であった。
  • ランサムウエアと関連するリークサイトの状況
    • 令和5年上半期においても、ランサムウエアによって流出した情報等が掲載されているダークウェブ上のリークサイトに、国内の事業者等の情報が掲載されていたことを確認した。掲載された情報には、製品に関する情報や顧客の個人情報等が含まれていた。
  • サイバー特別捜査隊によるランサムウエア事案の実態解明等
    • サイバー特別捜査隊では、ランサムウエアが用いられた事案の捜査及び実態解明を推進している。ランサムウエアには様々な種類があるが、ランサムウエアの開発・運営を行う者(Operator)が、攻撃の実行者(Affiliate)にランサムウエア等を提供し、その見返りとして身代金の一部を受け取る態様(RaaS:Ransomware as a Service)のものが確認された。また、ランサムウエアの標的となる企業等のネットワークに侵入するための認証情報等を売買する者(IAB:Initial Access Broker)も存在する。このため、攻撃の実行者が必ずしも技術的な専門知識を有している必要はなく、同種のランサムウエアが用いられた事案であっても攻撃の実行者が異なる場合や、異なる種類のランサムウエアが用いられた事案であっても攻撃の実行者が同じである場合がある。
    • さらに、サイバー特別捜査隊の捜査により、ランサムウエアが用いられた複数の事案において、(1)侵入時、(2)侵入後、(3)攻撃実行時の各段階で共通してみられる攻撃者の手口についても明らかとなってきた。(1)~(3)のいずれかの段階で攻撃者の行動を止めることができれば被害は発生しないため、各段階において適切なセキュリティ対策を講じることで、ランサムウエアによる被害を未然に防止・軽減することができる
  • 海外を送信元とするアクセスが高水準で推移
    • 検知したアクセスの送信元の国・地域に着目すると、海外の送信元が高い割合を占めている。令和5年上半期においても、国内を送信元とするアクセスが1日・1IPアドレス当たり54.8件であるのに対して、海外を送信元とするアクセスが8,164.2件と、検知したアクセスの大部分を占めており、海外からの脅威への対処が引き続き重要となっている。
  • IoT機器を対象としたぜい弱性探索行為等
    • 検知したアクセスの宛先ポートに着目すると、ポート番号1024以上のポートへのアクセスが多数を占めており、全体のアクセス件数が増加する要因となっている。
    • IoT機器では標準設定として1024番以上のポート番号を使用しているものが多いことから、ポート番号1024以上のポートへのアクセスの多くが、ぜい弱性を有するIoT機器の探索やIoT機器に対するサイバー攻撃を目的とするためのものであるとみられる。
  • IoT機器に対する不正プログラムの感染拡大を狙ったと思われるアクセスの観測
    • 令和5年上半期において、国内を送信元とするMiraiボットの特徴を有するアクセスを宛先ポート別に見ると、5月中旬頃から宛先ポート52869/TCPに対するアクセスが増加していた。
    • このポートは、過去にMiraiの亜種が、家庭用ルーターやIPカメラ等のIoT機器に存在するぜい弱性を悪用して感染拡大を行う際に狙われたポートであることから、今回増加が観測されたアクセスについても、IoT機器に対して、Mirai等の不正プログラムの感染拡大を狙ったものであると考えられる。
    • IoT機器を利用する際は、適切なアクセス制御、初期設定のユーザー名及びパスワードの変更、セキュリティパッチの適用、サポートが終了した機器の更新等の対策を継続的に実施する必要がある。
  • VPN機器等のぜい弱性を狙ったと思われるアクセスの観測
    • 令和5年上半期において、ぜい弱性を有するVPN機器等を探索する目的と思われる複数種類のアクセスが断続的に観測された。
    • VPN機器等のぜい弱性を悪用されてネットワークに侵入された場合は、情報を窃取される、ランサムウエアの感染によりデータを暗号化されるなどの被害に遭う可能性がある。
    • 観測されたアクセスは、ぜい弱性公開後からごく短時間のみ観測されたものがある一方で、継続的に観測されたものもあった。
    • VPN機器等については、適切なアクセス制御やセキュリティパッチの適用等の対策を継続的に実施する必要がある。
    • また、セキュリティパッチ適用前にぜい弱性が悪用されてIDやパスワードが漏えいしている可能性も考慮し、パスワードの変更等を検討することも重要である
  • 令和5年上半期における違法情報の対処状況
    • 令和5年上半期におけるIHCの通報受理件数は192,591件であり、運用ガイドラインに基づいて192,654件を分析した結果、違法情報を13,875件、重要犯罪密接関連情報を172件、自殺誘引等情報を3,686件と判断した。違法情報と判断した通報のうち、通報前に削除された82件を除く1,584件を警察に通報し、削除依頼を行う前に削除されたもの等を除く1,106件についてサイト管理者等に対して削除依頼を行い、そのうち924件(83.5%)が削除された。
  • 犯罪実行者募集情報対策の推進
    • 近年、インターネット上において、犯罪実行者募集情報が氾濫している状況を踏まえ、警察庁では、令和5年2月、都道府県警察に対し、これらの投稿に関する情報収集を強化し、取締りや削除依頼、警告につなげるよう指示した。
    • また、令和5年3月、犯罪対策閣僚会議において、「SNSで実行犯を募集する手口による強盗や特殊詐欺事案に関する緊急対策プラン」が決定し、IHC及びCPCの効果的な運用により、犯罪実行者募集情報の排除に向けた更なる取組の推進等が示された。これを踏まえ、令和5年9月、IHC及びCPCの取扱情報の範囲に犯罪実行者募集情報を追加するとともに、同月、情報収集の体制強化・高度化を図るため、CPCにおいてAIシステムを導入し、犯罪実行者募集情報を含む重要犯罪密接関連情報や自殺誘引等情報に関するサイバーパトロールの高度化を図る予定である。
  • 外国捜査機関との連携
    • 米国でのランサムウエア事案について、サイバー特別捜査隊等の捜査において得られた情報をFBIに提供するなどの協力を行ったところ、令和5年5月、米国司法省から被疑者の一人を起訴した旨の発表があり、捜査に当たって日本警察の支援が有益であったとの言及があった。
  • 外国捜査機関と連携したフィッシング事犯の検挙
    • 警察庁では外国捜査機関等との連携を推進しており、クレジットカード情報等を窃取するフィッシングサイトの作成ツールである「16SHOP」を利用した犯罪の被害拡大に対処するため、サイバー特別捜査隊及び大阪府警察が「キングフィッシャー作戦」と呼称される作戦にインドネシア国家警察等と連携して従事してきた。
    • インドネシア国家警察に対して必要な協力を行ってきたところ、国内居住共犯者と共謀の上、上記フィッシングツールを用いて不正に入手したクレジットカード番号等を使用して通販サイトの商品を窃取するなどしたインドネシア在住同国人被疑者を、令和5年7月9日に同国国家警察が逮捕した。
    • 本件は、サイバー特別捜査隊と都道府県警察が初めて警察庁長官の態勢の指示に基づく合同捜査を行った事例であり、また、日本警察の捜査がフィッシング事犯に関する国外被疑者の検挙に結びついた初めての事案である
  • サイバー事案の検挙状況
    • 令和5年上半期のサイバー事案の検挙件数は、1,181件であった。
    • 令和5年上半期における不正アクセス禁止法違反の検挙件数は、188件と前年同期と比べて45件減少した。
    • 検挙件数のうち、157件が識別符号窃用型で全体の83.5%を占めた。
      1. 「利用権者のパスワードの設定・管理の甘さにつけ込んで入手」が最多
        • 識別符号窃用型の不正アクセス行為に係る手口では、「利用権者のパスワードの設定・管理の甘さにつけ込んで入手」が61件と最も多く、全体の38.9%を占めており、次いで「他人から入手」が28件で全体の17.8%を占めた。
      2. 被疑者が不正に利用したサービスは「オンラインゲーム・コミュニティサイト」が最多
        • 識別符号窃用型の不正アクセス行為に係る被疑者が不正に利用したサービスは、「オンラインゲーム・コミュニティサイト」が75件と最も多く、全体の47.8%を占めており、次いで「インターネットバンキング」が21件で全体の13.4%を占めた。
        • 令和5年上半期におけるコンピュータ・電磁的記録対象犯罪の検挙件数は403件で、前年同期と比べて55件増加した。
        • 検挙件数のうち、電子計算機使用詐欺が380件と最も多く、全体の94.3%を占めた

フィッシング詐欺が猛威を奮っている状況については、前述のとおりですが、興味深い傾向も指摘されています。事業者やセキュリティの専門家からの報告をまとめている一般社団法人「JPCERTコーディネーションセンター」によると、2022年は約2万9千の偽サイトが確認され、約3300だった2017年の約9倍になりましたが、センターの佐條研・マルウェアアナリストは「新たな偽サイトが確認される数は1~2月が少なく、夏から秋にかけてが最多となる傾向がある」と指摘、実際、2023年1月と2月に確認された数は約1700と約1500だったが、2022年7、8月は約2500件、9月は約2600件だったといいます。こうした季節変動についてセンターは理由を明言していませんが、サイバー犯罪に詳しい関係者は、偽サイトの多くが中国のシステムを経由していることから、春節(旧正月)が関係していると考えられています。「中国を拠点としている詐欺グループが、春節には帰省したり、旅行したりすることで冬に少なく、そこまでに稼ごうとして夏から秋にかけて乱立するのではないか」というものです。近年は、メールのフィッシング対策が進んで怪しいURLを検知できるようになったため、メールにはリンク先を入れずにQRコードを添付してスマホで読み取らせる方式が増えているといいます。結局は、せかすような文面が書かれていても、慌ててリンクを開かないことが重要だということです。

米アマゾン・ウェブ・サービスやグーグルなど大手クラウドサービスを悪用したサイバー攻撃が増えており、2023年4~6月の被害件数は、前四半期の6倍近くに膨らんでいるといいます。クラウド経由の場合は防御のための通信のブロックが難しく、侵入を未然に防ぎにくいため、攻撃者の動向を解析するなどの対策が重要となりますが、日本企業の対応は遅れているといいます。2023年4月ごろから増えているのが、ネットニュースサイトなどを装った広告を使って被害者を詐欺サイトに誘導する手口で、サイトはクラウドサービス内で運用されているといいます。このサイトでは被害者のパソコンに問題が発生したと警告を出し、解決のためにサポート契約が必要だとして金銭をだまし取ろうとするもので、犯罪者がクラウドサービスを悪用するのは、攻撃を検知されにくいことが一因といいます。通常、防御側はインターネットとの出入り口の監視装置で特定のサーバーとの通信をブロックして侵入を一定程度防ぐことができますが、大手クラウドサービスとの通信をブロックすれば正常な通信も妨害してしまうリスクがあるため対応しづらいのが現状です。

ネットにつながる防犯カメラなどのIoT(モノのインターネット)が身近になっていますが、こうした機器がサイバー攻撃にさらされていることも知っておく必要があります。防犯カメラのほか、体温を測定するサーマルカメラ、ネットの映像をテレビで見るための「セットトップボックス」、コピーやプリントなどが1台で出来る複合機、エアコン、冷蔵庫などがあり、ネット上の機器にはそれぞれ、住所にあたる「IPアドレス」が割り振られています。前述のレポートにもありましたが、警察庁の2022年の観測では、一つのIPアドレスに対し、1日あたり約7700件の不審な通信があり、サイバー犯罪者は攻撃可能な場所を探っており、ネット上では、こうした探索行為が日常的にあります。IoT機器がサイバー攻撃を受けると、不正プログラムに感染させられ、他者へのサイバー攻撃の踏み台に使われる恐れなどがあります。実際に、インターネットの暴露サイトのようなページに、国内外で乗っ取られた防犯カメラの撮影動画が流れているほか、2023年1月には、国土交通省が全国に設置している「河川カメラ」の一部の通信量が急激に上昇、。不正アクセスを受けた疑いがあるとされます。

10~30代の若い人たちが、お金を目的にサイバー犯罪に手を染める例が、世界的に目立っており、背景に格差があると指摘されています。かつては「ハッキングの腕を世に示したい愉快犯」というパターンが多かったサイバー犯罪が、新興国を中心に、若者がお金を稼ぐ手段になっています。特殊詐欺のところでも触れましたが、ロマンス詐欺の実行犯は例えばナイジェリアの若者であり、先進国と同じスキルを持っていても、ナイジェリアなどの地方の街に住んでいれば、その活用も難しく、自分のスキルで大金を稼ぐ最も簡単な方法がネット犯罪という状況が出ているということです。また、米国防総省付近で爆発があったという偽の映像が2023年5月にネットで出回りましたが、これは株式取引のボットを欺くことが目的の金儲けのための犯行でした。

警察庁などは、中国政府の関与が指摘されているハッカー集団「ブラックテック」による複数の日本企業・団体へのサイバー攻撃が判明したと発表しています。警視庁や警察庁サイバー特別捜査隊の捜査・分析で明らかになったもので、サイバー攻撃の相手方を特定して非難声明を出す「パブリック・アトリビューション」として公表されました。パブリック・アトリビューションを日本政府が実施するのは6例目となりますが、警察庁直轄の捜査機関であるサイバー特捜隊が2022年4月に設置されて以降、中国関連では初めてとなります。警察庁などは、ブラックテックが2010年ごろから、日本や台湾、米国を拠点とする電気通信企業などを標的にして、情報窃取を目的としたサイバー攻撃を続けていると認定、米国政府とも情報交換を進め、こうした攻撃の侵入手口や使われた不正プログラムに同一の特徴があると判断したもので、米国家安全保障局(NSA)や米連邦捜査局(FBI)なども同時に発表しています。日本では防衛装備品に関する情報が流出した恐れがある三菱電機への2019年のサイバー攻撃などに関与したとされ、海外子会社の拠点で本社との接続のために使用される小型ルーターを乗っ取り、ネットワークに侵入する手口が多いことが判明、ルーターを乗っ取ることで正規の通信に見せかけるため、発覚するまでに時間がかかるといいます。警察庁などは「組織内部のネットワークから攻撃が行われることを念頭に置き、関連するグループ組織、システムの開発・保守業者などと連携して対策を講ずることが必要」「日本への攻撃は続いている。関連企業や海外拠点のセキュリティも高めてほしい」と注意を呼び掛けています。

▼警察庁 中国を背景とするサイバー攻撃グループBlackTechによるサイバー攻撃について
▼中国を背景とするサイバー攻撃グループ BlackTech によるサイバー攻撃について(注意喚起)
  • 警察庁及び内閣サイバーセキュリティセンターは、米国家安全保障局(NSA)、米連邦捜査局(FBI)及び米国土安全保障省サイバーセキュリティ・インフラ庁(CISA)とともに、下記の中国を背景とするサイバー攻撃グループ「BlackTech」(ブラックテック)によるサイバー攻撃に関する合同の注意喚起を発出しました。
  • BlackTech は、2010 年頃から日本を含む東アジアと米国の政府、産業、技術、メディア、エレクトロニクス及び電気通信分野を標的とし、情報窃取を目的としたサイバー攻撃を行っていることが確認されています。
  • この注意喚起は、BlackTech によるサイバー攻撃の手口を公表することで、標的となる組織や事業者に、直面するサイバー空間の脅威を認識いただくとともに、サイバー攻撃の被害拡大を防止するための適切なセキュリティ対策を講じていただくことを目的としております。あわせて、ネットワークの不審な通信を検知した際には、速やかに所管省庁、警察、セキュリティ関係機関等に情報提供いただきますようお願いします。
  • なお、注意喚起に示した BlackTech の手口及び対処例の主な内容は、以下のとおりとなります。
  • 初期侵入
    • BlackTech は、インターネットに接続されたネットワーク機器に対し、ソフトウエアの脆弱性を狙うほか、ネットワークの設定の不十分さ、サポートの切れた機器・ソフトウエアなど、標的ネットワークの様々な脆弱な点をサイバー攻撃することにより侵入します。
  • 海外子会社からの侵入
    • BlackTech は、最初の足がかりとなる侵害拠点を構築すると、侵害活動を拡大させるため、海外子会社の拠点において、本社との接続のために使用される小型のルーターを、攻撃者の通信を中継するインフラとして利用します。このように BlackTech は、信頼された内部のルーターを通じて、本社や別の拠点のネットワークへ侵入を拡大することが確認されています
    • 特に複数の拠点を有するネットワークの管理に携わる事業者においては、サイバー攻撃が常にインターネット側から行われるとは限らず、既に侵害された組織内部のネットワークから攻撃が行われ得ることを念頭に置いていただき、自組織だけでなく関連するグループ組織、システムの開発・保守業者等と連携して対策を講ずることが必要です。
  • ルーターの侵害手口
    • BlackTech は、様々なメーカーのネットワーク機器を侵害するために脆弱性を調査していると考えられます。BlackTech は、稼働中のシスコ社製ルーターのファームウェアを、改変されたファームウェアに取替えることが確認されています。改変されたファームウェアに取替えることにより、BlackTech 自身の悪意あるサイバー活動のログを隠蔽し、より長期にわたり、標的ネットワークへのアクセスを維持することが目的と考えられます。
  • リスク低減のための対処例
    • 対処例の主な内容は、次のとおりです。注意喚起本文もあわせて参照の上、サイバー攻撃を検知し、自組織のネットワークを守るための緩和策を講じていただくようお願いします。
      1. セキュリティパッチ管理の適切な実施
        • ソフトウエアや機器の脆弱性に対して、迅速にセキュリティパッチを適用する。パッチ適用を可能な限り迅速化し、適用漏れをなくすため、脆弱性管理やパッチ管理を行うプログラムの導入を検討する。
      2. 端末の保護(いわゆるエンドポイント・プロテクション等)
        • 端末(PC、タブレット端末、スマートフォン等)のセキュリティ機能の活用や、セキュリティ対策ソフトの導入を行う。
      3. ソフトウエア等の適切な管理・運用、ネットワーク・セグメンテーション
        • ソフトウエア及び機器のリストを管理し、不要と判断するものは排除する。また役割等に基づいてネットワークを分割する。
      4. 本人認証の強化、多要素認証の実装
        • パスワードスプレー攻撃やブルートフォース攻撃によって認証が破られるリスクを低減するために、パスワードは十分に長く複雑なものを設定する。また、複数の機器やサービスで使い回さない。システム管理者等においては、多要素認証を導入し本人認証をより強化する。
        • また、不正アクセスを早期に検知できるようにするために、ログイン試行を監視する。
      5. アカウント等の権限の適切な管理・運用
        • アカウントやサービスの権限は、そのアカウント等を必要とする業務担当者にのみ付与する。特権アカウント等の管理・運用には特に留意する。
      6. 侵害の継続的な監視
        • ネットワーク内で不審な活動が行われていないか継続的に監視を行う。たとえば、業務担当者以外がシステムやネットワークの構成に関する資料へアクセスするといった通常の行動から外れた活動や、外部の様々な脅威情報と一致するような不審な活動の監視を行う。
      7. インシデント対応計画、システム復旧計画の作成等
        • インシデント発生時に迅速な対応をとることができるように、インシデント対応の手順や関係各所との連絡方法等を記した対応計画を予め作成し、随時見直しや演習を行う。また包括的な事業継続計画の一部としてシステム復旧計画の作成等を行う。
      8. ゼロトラストモデルに基づく対策
        • 境界防御の効果が期待できない場合を踏まえた認証等の強化を図るとともに、インシデントの予兆を把握した段階で即時に検知と対処ができるような仕組みや体制を整備する

地方の中堅・中小企業が連携してサイバー防衛に取り組む動きが広がっているといいます。2023年9月25日付日本経済新聞によれば、横浜銀行など地銀19行が連携組織を立ち上げたほか、愛知県の老舗油脂メーカーは社員講習を地元企業に開放するなど、中堅・中小企業にとって専門人材や予算に限りがあるなか、「集団防衛」で増え続けるサイバー攻撃に対抗する取り組みに期待がかかります。横浜銀行や北陸銀行、京都銀行、西日本シティ銀行など地銀19行が連携してサイバー防衛に取り組む組織「CMS-CSIRT」は、セキュリティーツールの利用法や人材育成についてノウハウを共有し、各行へのシステム攻撃を監視するチームの共同運営の検討を始めており、地銀19行は2023年3月に同組織を立ち上げました。犯罪者が情報交換するサイトで自社が話題に上っていないかなどをチェックするツールの共同利用も想定しているといいます。各行は現状、監視作業を外部委託していますが、サイバー攻撃は夜間や休日の隙を突くことも多く、監視チームは交代制で休みなく運用する必要がある一方、年に数回程度という深刻な攻撃のために、自前で監視を続けるのは負担が重いのも事実であり、こうした連携に期待がかかるのも当然といえます。報道では、帝国データバンクが2022年、中小を中心とした約1200社を対象に実施した調査によると、1年以内にサイバー攻撃を受けた企業は24.2%に上ったことをふまえ、迫る脅威から少ない予算で身を守るためには効率的なサイバー防衛の仕組みを構築することが焦眉の急となっていると指摘していますが、正に正鵠を射るものといえます

警察庁の委託を受ける「インターネット・ホットラインセンター」(IHC)が2023年上半期中、2月に対象を拡大した「有害情報」として削除要請した148件のうち、ネット事業者が削除したのは77件にとどまったといいます。本コラムでも取り上げましたが、警察庁は2月、殺人、強盗などの重要犯罪、拳銃の譲渡、爆発物・銃砲の製造、臓器売買の請け負いや誘引情報を削除要請対象に追加、依頼件数が最も多かったのは殺人、強盗などの勧誘136件でしたが、削除されたのは68件にとどまりました。一方、爆発物・銃砲の製造については、依頼した5件全てが削除されています。報道で警察庁の担当者は「事業者の内情は分からないが、世界中から削除要請が来て処理が追い付いていない可能性がある」と指摘していますが、依頼を受けた事業者がそのような理由で「放置」しているとすれば、犯罪を助長していることと何ら変わりなく、「犯罪インフラ」事業者と見なされる可能性があります。事業者にはさらなる取り組みを期待したいところです。

在宅勤務などに用いられるVPN(仮想私設通信網)の個人利用が広がっており、セキュリティ意識の高まりを背景に、利用者数は世界で16億人超に達しています。通信遮断や検閲の回避にも役立つVPNの普及は、各国政府の干渉によってインターネットの自由度が下がりつつあることの裏返しでもあります。例えば、ベトナムでは、VPNが政府による通信遮断をかいくぐって自由なインターネットにつながるための「生命線」だと言われています。米人権団体のフリーダムハウスが2022年にまとめた報告書によると、世界のインターネットの自由度は12年連続で悪化しており、調査対象となった70カ国のうち、最も悪化した国の一つがロシアだといいます。ウクライナ侵攻後にロシア国内から「フェイスブック」や「インスタグラム」などの主要SNSへのアクセスを遮断したことから、100点満点で示すスコアは前年から7ポイント下がって23点になりました。アップルは中国国内では自社のアプリストアからVPNアプリを削除していると報じられており、人権団体からは中国政府の検閲行為に加担していると批判を浴びています。国家がインターネット上で流通するデータへの干渉を強めれば強めるほど、新たな技術的な対抗手段のニーズが高まる可能性があります。

人工知能(AI)や生成AIを巡る最近の議論からいくつか紹介します。

  • 厳しい干ばつに見舞われているウルグアイで、米アルファベット傘下のグーグルが打ち出した、サーバーの冷却用に1日で数百万リットルもの水を消費するデータセンターの建設計画に怒りを募らせているといいます。データセンターの水消費量は、ウルグアイの主要産業であるパルプ・製紙などに比べれば、はるかに少ないものの、気候変動により干ばつの頻度と深刻さが増しているため、水資源は需給がますます逼迫している状況にあって、近年におけるインターネット利用の急増で、世界中でデータセンター新設の需要が加速、建設地を巡る競争が激化し、水など資源の利用に対する懸念が高まっています。
  • バイデン米政権は2023年10月、AIの軍事利用に関する規則案を国連に提出します。核兵器使用をAIに任せず人が関与し、兵器は国際人権法に合致させるよう求めるもので、実効性確保へ中国との協調を探るといいます。AIの軍事利用に関し「国家や産業が先端技術を活用する際の規制や基準が必要だ」「先端技術の進化は続き、我々はその将来を把握できていないかもしれない」とし、基準がないままAIの軍事活用だけが進めば、人権侵害などにつながる兵器開発や運用のリスクが大きいとの危機感を示しています。バイデン政権は2023年2月、AIや自律型兵器システムについて「責任ある軍事利用に向けた政治宣言」を公表、各国と意見を交わして修正を重ねてきており、正式に国連で協議を進め、AIの軍事利用で国際ルールづくりを主導するとしています。一方、米国はこれまでAI兵器の開発禁止や法的拘束力のある条約に反対、新興国を中心に反発が出ており、米国の取り組みを不十分とみる可能性があります。
  • グーグル、メタ、マイクロソフト、電気自動車(EV)大手テスラ、「ChatGPT」を運営するオープンAIなどのCEOなど米国を代表するIT大手トップが米議会の超党派議員と協議し、AIの規制の必要性で合意しています。合意を受け、米議会はAI規制の法案づくりに着手することになります。技術革新(イノベーション)を損なわない形での法整備を実現できるかが焦点になります。協議を仕切った与党・民主党トップのシューマー氏は、AIを野放しにすれば、「人種的偏見がAIに定着し、大量の雇用が奪われ、想像を絶する破滅的なシナリオが生まれる」と述べ、AI規制の必要性を訴えています。一方で、行き過ぎた規制は世界をリードする米国のAI分野の成長を阻害するとの懸念もあります。テスラのイーロン・マスクCEOは、「AIの失敗は深刻な結果を招く。問題が起きてから対応するのではなく、先を見越した規制をするべきだ」と語っています
  • 非政府組織(NGO)の核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のメリッサ・パーク事務局長が、AIについて「核兵器のシステムにつながっているAIが誤動作を起こしたら恐ろしいことになる」と述べ、世界的な規制作成の加速が必要だと強調しています。「人間は間違いを犯すが、AIも誤作動を起こす」「他の兵器システムで誤作動が起きても恐ろしいが、核兵器で起きたら地球に生きている全てのものが抹消される恐れがある」と警告しています。
  • 生成AIの拡大により、誰もが簡単に「フェイク(偽物)」を作れる時代となったことで、デジタル空間におけるフェイクの「量」が急増し、真実を覆い隠そうとしているとの指摘があります。不正口コミを判定するサイト「サクラチェッカー」の運営者は、「この」「また」「さらに」という言葉が多く含まれ、論文のように理路整然と説明する口コミが増えたことに気づき、分析を進めるうち、生成AIによる文章の特徴だと疑い、そうした口コミは数百件に上ったといいます。「AI製の口コミはどんどん増えていくだろう。それらが『やらせ』に使われた場合、ネット上の口コミの信頼性は揺るぎかねない」との危機感をもっているといいます。生成AIが生み出すフェイクは、「リアル(本物)」と見分けがつかない精巧さを持ってしまっており、デジタル空間では、偽情報の「量」が増えるとともに、「質」も高まる二重の危機が起きています。例えば、園田寿・甲南大名誉教授(刑法)は、「AI画像が氾濫すれば、本物の児童ポルノが埋もれてしまい、被害児童の救済ができなくなる恐れがある」と懸念、「既存の法規制だけではAIがもたらす問題には対応できない。早急な議論が必要だ」と訴えています。
  • 2023年3月、内閣府などが実施した知的財産に関するパブコメに対し、メールで送られた約4000字の意見には、一部が対話型生成AI「チャットGPT」で作成されたことが記されていたといいます。AIでパブコメの意見を作ることは禁じられておらず、総務省は「政策に反映させるかどうかは、各行政機関の受け止め方次第だ」としています。パブコメで示される民意をでっち上げる行為は以前からあり、2017年に米連邦通信委員会が実施したパブコメでは、2200万件のうち、8割以上が虚偽だったといい、19歳の大学生らが自動プログラムを使い、架空の名前や住所で大量の投稿をしたといいます。こうした世論操作にAIを組み合わせれば、大量の意見をそれぞれ異なる表現で作ることも容易になるといいます。チャットGPTを開発した米オープンAIは2023年1月に発表した報告書で、自ら「世論に影響を与えようとする人々が、より説得力の高いキャンペーンをするかもしれない」と明記しています。桜美林大の平和博教授(メディア論)「民意を捏造する行為はAIによって、より大規模で安価に、そして巧妙に行われるだろう」と警告しています。
  • ChatGPTに代表される対話型AIとやりとりをしていると、まるで人間と話しているように感じることがありますが、急速に進化するAIに感情を見いだす人が現れ始めています。それは事実かもしれないと専門家も考え始めているとある実験が示唆しています。デザイナーの深津貴之さんによる実験に対し、AI研究者の松尾豊・東京大教授は「原理上はチャットGPTは感情を持たない。ただ、少なくとも人間の感情の概念を理解して『ここではこう思うよね』というシミュレートができている」と指摘しています。実際に、人工物であるAIに感情や意識を見いだしてしまう人たちが出てきており、世界では悲しい出来事も起きています。
  • ニュース記事を執筆・掲載しているウェブメディアが、生成AIで作成した記事に、日本経済新聞などからの盗用があったとして謝罪し、記事をサイトから削除しています。取材をせずに日経などに掲載された文章をそのまま用いた箇所もあり、専門家は「報道倫理に反する」と批判しています。ウェブメディア側は「AIに問題があったのではなく、我々の著作権やリスクへの認識の欠如などに問題があった」と説明していますが、今回の問題について、専修大の沢康臣教授(ジャーナリズム論)は「ニュースメディアを名乗る以上、現場に足を運ぶなどして事実確認を尽くし、読者に意味のある情報を届けるという基本的な姿勢が求められる」と強調しています。

最後に、2023年10月7日付産経新聞の記事「「人を審査するAI」のリスクとは? 現金給付アルゴリズムが“暴走”した世界銀行の事例」から抜粋して引用します。企業実務におけるAIやアルゴリズムに関するリスク管理のあり方を考えるうえで、有用な示唆が示されていると思います。

イーロン・マスク氏などを筆頭に、AIの野放図な発展に反対する姿勢を取る人物は多い。AIは強力な存在であるが、何の制約もなく放置していては、大きな悪影響が生じる懸念がある。そのためAI導入を検討する企業の中には、あらかじめ自社が守る「AI倫理」を定めておき、この技術が正しく機能することを担保しようとするところが増えている。そのAI倫理を構成する要素の一つが「透明性」(Transparency)だ。これは「あるAIがどのように機能するのか」「どのようにして特定の結論に至るのか」が外部からも理解できるようになっている状態を指す。特に後者の透明性は「説明可能性」(Explainability)と呼ばれる場合もある。例えば、求人に応募してきた志望者の履歴書を読み込ませると、その人物を面接に進ませるかどうかを判断するAIシステムがあった場合、ある履歴書がなぜ合格になったのか(あるいは不合格になったのか)を志望者にも説明できるようになっているのが説明可能性だ。そこから一歩進んで、このシステムの裏側にあるAIモデルのアルゴリズムやアーキテクチャ、さらにはモデルの学習に使われたデータセットの詳細、AIシステムの運用手順などまで公開されているのが、透明性が確保された状態といえる。…報告書では特に、ヨルダンで行われた「Unified Cash Transfer Program」(統一現金給付プログラム)という事例を取り上げている。このプログラムは「Takaful」(タカフル)という名前が付けられ、基本的な受給資格を満たさない家族を選別した後、経済的脆弱性(その家族が経済的な困窮状態にどの程度陥りやすいか)をランク付けし、どの家族が現金給付を受けるべきかを特定するアルゴリズムを用いている。このアルゴリズムが適切に機能すれば、現金を手にすべき家族を効率的に選別し、彼らを迅速に救済できるだろう。しかし実際には、アルゴリズムが機能不全を起こしているために「社会保障を受ける権利を奪っている」とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘している。それが「自動化されたネグレクト」というわけだ。…ヒューマン・ライツ・ウォッチは世界銀行に対して「アルゴリズムによる意思決定を使用している、世界銀行の全ての融資プログラムについて、アルゴリズム監査を実施し、公表すること」を要求。ヨルダン政府に対しては「ターゲティング・アルゴリズムが家計所得の推定に使用する57の指標全てと、各指標に割り当てられた重みの公表」「家計支出・所得調査に関するデータセットなど、貧困に苦しむ人々に対するタカフルの有効性を、一般市民が精査できるようなデータの公表」などを提言した。…ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書も「貧困を対象としたプログラムは、誤りや不始末、腐敗が起こりやすく、対象としている人々の多くに行き届かないことが日常茶飯事」とし、世界銀行が進める技術の活用には、そうした不正を排除するという利点があることを認めている。一方、開発者や政策決定者が想定していなかった状況(浪費ではない支出など)や、社会や制度に根付いたゆがみ(法律上の女性の差別など)によって、アルゴリズムが期待通りに機能しないことは容易に起こり得る。それが正常に機能したとしても、例えばCOVID-19のパンデミックによって社会的・経済的状況が一変するように、現実にそぐわないものになるリスクは常に存在する。そうした事態の発生を検知するには、システムをチェックする人々の目を多くすることが有効だ。…特に福祉政策のように社会的なインパクトが強い領域においてAIを導入する際は、透明性の実現は、導入を進める政府や機関の義務であるといえるだろう。政府系組織でなくても、例えば医療や金融のように公共性の高い事業では、AIの透明性確保が社会的責任を果たす上で強く求められる。世界銀行のような組織でもアルゴリズムの暴走が容易に起きてしまうことを、企業は認識するべきだろう

(6)誹謗中傷/偽情報等を巡る動向

読売新聞とLINEヤフーが、インターネット空間の健全性を高め、人権を守る一環として、ネット上に掲載される記事などでのプライバシー尊重をより進める取り組みを始めるとの共同声明を発表しています。声明は、プライバシーへの配慮に欠ける情報発信が目立つ現状を踏まえ、健全なネット空間の実現を目指すとしており、世界最大の発行部数を有する読売新聞と利用者数国内最大級のLINEヤフーが共同して発信することで実効性を高めることを狙うとともに、他メディア等にもプライバシー重視を呼びかけるとしています。また、2023年10月6日付読売新聞の記事「私生活尊重の機運高める…読売・LINEヤフー共同声明」では、「私生活を過剰に詮索して暴露し、当事者への攻撃をあおるような記事がネット上に度々掲載され、関係者の尊厳を深く傷つけている。度を越したプライバシー侵害は、報道の根幹である公益性を欠く上に、誹謗中傷などの「二次被害」も生じさせ、当事者はさらなる被害を受ける。情報が瞬時に拡散するネット空間に、保護すべきプライバシーがさらされてしまえば、回復は困難だ。情報漏えいや偽情報流布のリスクがある生成AI(人工知能)の登場により、プライバシー重視の要請はさらに強まっている。だが現実には、扇情的な内容で関心を引き、広告料収入などの利益を最優先で得たいという姿勢が透けて見える行為が目立つ。本社とLINEヤフーはこの風潮にあらがい、誹謗中傷のないネット空間を志向する」、「本来、プライバシーの尊重と、国民に資するための「表現の自由」の行使は矛盾しない。公益性を兼ね備えた記事では、真実かつ必要な範囲のプライバシーの記述は正当と考える。だが、報道の名を借りた甚だしいプライバシー侵害への批判が、時に真摯な報道にまで向けられることがある。不当な言説が正当な報道を阻害する構図であり、不健全だ。本社とLINE共同して発信してゆくことで、ネット空間でのプライバシー尊重への機運が他のメディアへも波及することを期待する」と解説されています。

  • 声明
    • 読売新聞とLINEヤフーは、個々人の人権と多様な生き方がより尊重される社会を目指すため、インターネット上に掲載される記事やSNS発信等でのプライバシーの侵害を防ぐ新たな取り組みをそれぞれ実施します。
    • 両社はこれまで、インターネット空間でプライバシーへの配慮に欠ける情報発信が目立つ現状について検討、協議し、問題意識を共有してきました。世界最大の発行部数を有する読売新聞と、国内最大級の利用者数を有するIT企業LINEヤフーが、共同で問題を提起し、行動を起こすことで、プライバシーが尊重されるより良い社会への一歩になるとの考えで一致しました。両社は、読者・ユーザーの声に今まで以上に耳を傾け、コンテンツに反映させる取り組みを始めます。
    • また、声明を通じ、関係者へ広く呼びかけることにより、インターネット空間等の健全化の実効性が高まることを期待しています。なお、両社の具体的な取り組みや解決策については、双方の意思を尊重し、個別に考えて実行するものです。
  • 具体的な取り組み
    • 読売新聞
      • プライバシーの取り扱い原則を定めるオンライン用報道指針の徹底と不断の見直し
        • 記事の内容などの転載が紙面より容易で拡散しやすいネットの特性を踏まえ、読売新聞ではオンライン用記事向けの報道指針を運用しています。これを今まで以上に徹底し、不断に見直してプライバシーをより手厚く保護します。以下が具体例です。
          1. 事件、事故の記事は掲載期間を限定する。
          2. 記事の見出し(タイトル)では、記事の内容を逸脱した文言の使用や、煽情的、刺激的な表現をしない。
          3. 個別事案ごとにプライバシー情報の掲載可否を慎重に判断する。
      • 読売新聞オンラインの記事にプライバシーなどに関するユーザーの意見を募る機能を付与
        • 読売新聞では、年間12万件近い意見が寄せられる年中無休の「お客さまセンター」などで、読者の多様な声を聞き、紙面に還元する体制が整えられています。今回は新たに、読売新聞オンラインで配信する記事ごとに「読者の報告」を選択肢方式で募ります。選択肢にはプライバシーへの配慮に関する項目も含めます。11月中に運用を始め、配信記事の品質向上につなげます。
    • LINEヤフー
      • LINE NEWSと「Yahoo!ニュース」の編集方針
        • LINE NEWSの主要ニュースやLINE NEWSが持つLINE公式アカウントの「LINE NEWS DIGEST」と「Yahoo!ニュース トピックス」でプライバシーに配慮がない記事を掲載しない方針を改めて確認
        • これまでLINE NEWSの主要ニュースやLINE NEWSが持つLINE公式アカウントの「LINE NEWS DIGEST」と「Yahoo!ニュース トピックス」の編集方針では、伝える価値とプライバシー配慮の必要性を記事ごとに検討し、プライバシー配慮が足りない記事を掲載しない形で判断してまいりました。この方針を改めて内部で確認し、プライバシー配慮により重点を置く形といたします。
      • ユーザーからのフィードバックによる状況の可視化
        • LINE NEWSと「Yahoo!ニュース」では記事ごとに、報告フォームを設置し、「大げさな見出し、性的・暴力的な内容」などについて選択式でユーザーの声を集め、記事品質の改善に活用しています。
        • このフォームに「Yahoo!ニュース」は今年7月、LINE NEWSは今年9月からプライバシー配慮に関する選択肢を追加し、すでに運用を開始しています。ユーザーが感じるプライバシー配慮不足のフィードバックを分析し、必要であれば記事配信をいただいている媒体社にもお伝えしながら、プライバシーの尊重に取り組んでまいります。
        • また、LINEみらい財団が今後製作していく各種メディアリテラシー教材でも、インターネット利用時のプライバシー保護の内容を盛り込む予定です。
  • 両社での取り組み
    • ネット上でのプライバシー保護等に資する具体的な意見や共同での取り組みを今後も積極的に発信し、賛同を呼びかけます。また、読売新聞は、LINEヤフー側から要請があった場合、プライバシーを含む報道に関する社内指針や個別案件での対応ノウハウを提供します。

100年前の関東大震災では、「朝鮮人が犯罪を起こす」という根拠のないうわさが流れ、官憲や自警団によって多くの朝鮮人が虐殺されました。災害時に外国人犯罪のうわさが流れるのは、過去に限ったことではなく、東日本大震災でもあり、社会学者の郭基煥・東北学院大学教授は「正義の暴走」の存在を指摘しています。報道によれば、東日本大震災に関連して2016年、仙台市と東京都新宿区の住民に「被災地での外国人犯罪のうわさを聞いたことがあるか」と尋ねる調査をしたところ、仙台では「聞いたことがある」人が過半数に達し、新宿も4割超となり、そのうちうわさを信じた人は仙台、新宿とも85%を超えて大差がなかったといいます。うわさの内容は略奪・窃盗が最も多く、遺体損壊や性的暴行などもあり、中国系の人を犯人とするものが一番多く、他にも朝鮮・韓国系、東南アジア系など近隣のアジアの人が犯人扱いされていました。同氏は、「やつらならやりかねない」という先入観が社会にある限り、それに符合するうわさは、疑われるどころか、安全に関する有益な情報として広がる。また先入観の強さに応じて当の外国人を「我々の脅威」として敵視する。その結果、パニックが起きることがあります。「やつら」を懲らしめようとする正義の暴走です」と指摘しています。また、「うわさについては、行政機関や警察、メディアが「真実ではない」と否定することが重要です。また「災害時には外国人犯罪のうわさが流れるものだ」と日頃から認識しておけば、惑わされることはなくなります」と述べています。

ネット空間における言動がエスカレートする背景について、いくつか紹介します。

  • 過激で極端な情報やフェイクニュースがあふれ、デジタル空間はカオスと化し、その背景にあるのは、人々の関心を奪い、広告を閲覧させることで収益化を図る「アテンション・エコノミー」だと指摘されています。デジタル空間では、「ソーシャルポルノ」と呼ばれる刺激にあふれた、享楽的な情報がもてはやされ、ユーチューブに動画を投稿すると、視聴回数に応じて収益を得られますが、原資は運営会社のグーグルが企業などから受け取る広告費です。調査会社などによると、月間の利用者は世界で25億1400万人、うち日本の利用者は約7000万人に上っており、再生回数が伸びるほどグーグルに支払われる広告費は増え、投稿者も潤うという構造が、過激な情報発信を加速させ、混沌を生み出していると言えます。こうした状況にあっては、いかに人々の「アテンション(関心)」をつかみ、金に換えるかが最優先事項となってしまいがちで、法令を無視した過激な動画を発信して、一線を踏み外すケースも少なくありません。
  • ネット空間の問題の一つ「エコーチェンバー」で、SNSで自分と似たような関心を持つ人々とつながる結果、同じ考えばかりが目に入り、思考が極端化していく現象です。近年の海外の研究によると、強いエコーチェンバーに陥った集団は、対立する考えに触れても自らの意見が修正されることはなく、むしろ攻撃的になるといい、最終的には対話する意思も失い、暴力の代わりに容赦のない言葉を浴びせるようになるといいます(罵倒され、ストレスに酒の力も加わり、頭に血が上り、次第に相手の人格を否定する投稿を繰り返すようになり、その投稿が会社に知られ、退職に追い込まれたという事例もあります)。陰謀論に傾倒していた男性は「エコーチェンバーが起きている集団はカルト宗教のようなもので、インフルエンサーは教祖にあたる。信者は教祖を否定されたら怒る。攻撃的になったのはそんな感覚だった」と述べています。
  • 「いいね」欲しさにSNSで中傷、有罪判決を受けた24歳男性の話も興味深いものです。「攻撃的な言葉で他人を中傷するのは初めてではない。根底にあったのは承認欲求だ。元々、Xで自身の趣味に関する投稿をしていたが「『いいね』が全然もらえず、面白くなかった」。しかし、松永さんに対する事件の3か月前、他人を攻撃する動画を投稿すると多くの人に拡散された。「反響がうれしかった」。その後、人をあおったり、揶揄したりする投稿を始めた。「承認欲求の誘惑に勝てず、再犯する可能性が高い」。松永さんは昨年12月の公判に出廷し、男性についてそう指摘した。男性は公判で「インターネットでの発信はしない」と述べたが、今も投稿を続けている。「人を傷つけることはもうしたくない。でも注目されたい気持ちは変わらない」」といったものです。

誹謗中傷に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • フィギュアスケート男子で五輪連覇を果たし、昨年プロ転向した羽生結弦さんの応援サイトを運営していた千葉市在住の女が、女性をサイトで繰り返し中傷したなどとして、愛知県警から名誉毀損などの容疑で書類送検されています。女は2021年頃から、自身が運営する羽生さんの応援サイトで、名古屋市内の40代女性のSNSのアカウント名を示して「羽生選手を脅迫している」「殺人の未遂に問うべき」などの虚偽や中傷の書き込みを繰り返し、女性の名誉や信用を傷つけた疑いがもたれています。
  • 性被害を受けたとの申告は虚偽だとするイラストをX(旧ツイッター)に投稿されて名誉を傷つけられたとして、ジャーナリストの伊藤詩織さんが、漫画家のはすみとしこさんに550万円の損害賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁第1小法廷は、はすみさんの上告を棄却する決定を出し、はすみさんに110万円の支払いを命じた2審・東京高裁判決(2022年11月)が確定しています。1、2審判決によると、はすみさんは2017年6月~2019年12月、元TBSの記者から性被害を受けたとする伊藤さんの申告について「枕営業」という言葉とともに、伊藤さんに類似した女性のイラストなど5件を投稿、1審・東京地裁判決(2021年11月)は、「許容される限度を超えた侮辱行為」として88万円の支払いを命じ、2審判決は、投稿が多数の人に閲覧されたことなどを踏まえ、賠償額を110万円に増やしていました。
  • 大阪市は、市条例に定めるヘイトスピーチ(憎悪表現)に認定した街宣活動の概要をホームページで公表しています。インターネット上に投稿された当時の動画が削除されず、拡散を防ぐため団体名の公表は控えたといいます。市はこれまで計12件のヘイトスピーチを公表していますが、削除要請に応じられなかったケースは初めてといいます。市によると、2016年に大阪市内で複数人が街宣活動を実施し、慰安婦像の建立に触れ「朝鮮人」の女性を揶揄する卑猥な表現を用いたり、在日韓国・朝鮮人を差別したりする発言を繰り返し、この間、中傷的な文言を横断幕で掲示してこれらの様子を撮影し、動画投稿サイト「ユーチューブ」に投稿したといいます。市は2023年2月以降、サイトを運営するグーグル日本法人に動画の削除を要請していますが、現時点でも残されたままとなっています。横断幕を掲示した団体名は本来、公表対象となりますが、団体名から動画が検索され、SNSなどで拡散されるのを防ぐため公表を控えたものです。
  • ジャニーズ事務所のジャニー喜多川元社長(2019年死去)による性加害問題で、「ジャニーズ性加害問題当事者の会」の平本淳也代表は、SNSなどで誹謗中傷を受けているとして、神奈川県警に被害を相談したと明らかにし、平本代表は、SNSでの中傷について「会の結成後に急激に増えた」と明かし、刑事告訴の手続きを進める意向を示しています。報道で平本さんは「本来であれば、こういう行動にならなければ一番いい。メンバーのためにも、自分が行動できるのであれば、勇気を与えられればと思っている」と話しています。平本さんに対するSNS上での中傷は数万件にのぼるといい、「死ね」「生きる資格がない」「消えろ」といった文言が書き込まれたといいます。平本さんは「恐怖を感じながら不安な中での生活が続いている。精神安定剤や睡眠薬を服用する現状がある」と話し、今後、刑事告訴に向けて、名誉毀損などを視野に署と相談するとし、署は「受理に向けて一緒に進めていきたい」としています。
  • インターネットアプリの共有チャットで知人女性を誹謗中傷したなどとして、大阪府警捜査1課は、名誉毀損と私電磁的記録不正作出の疑いで、公立学校共済組合九州中央病院の看護師を逮捕しています。容疑者は中傷する内容を書き込んだ後、アプリの本人登録を自身が担当する入院患者の携帯電話番号に変更していたといい、府警は中傷行為の特定を避けようとしたとみて、詳しい経緯を調べています。府警によると、電話番号を登録する際、患者は就寝中だったといいますが、容疑者は「(患者が)使っていいと言った」と容疑を否認、書き込みについては認め、「理由がある」と供述しているといいます。

米国務省は、中国政府が他国やインターネット上で、自国や中国共産党の主張を拡散する情報操作についての報告書を公表しています。SNS上で影響力を持つインフルエンサーを利用し、各国の世論を中国に都合の良い方向へ誘導しようとする姿が浮き彫りとなっています。報告書をまとめた国務省のジェームズ・ルービン特使は、「中国共産党が、いかにして世界の情報空間をゆがめようとしているかを包括的に考察した」と説明、「パズルのピースを組み合わせると、情報支配をもくろむ中国の野望が見えてくる」と警鐘を鳴らしています。報告書は「プロパガンダや検閲の活用」「デジタル権威主義の推進」「国際機関と2国間関係の利用」「協力と圧力の組み合わせ」「中国語メディアへの統制」について説明、さまざまな手段を駆使して、中国政府が情報操作を図る実態を明らかにしており、事例として、インフルエンサーを利用した情報操作に言及しています。2021年時点で約100人のインフルエンサーが、20を超える言語で中国政府の主張を拡散、フォロワーは1100万人以上で「多くのケースで政府の取り組みより成功している」と指摘しています。また、報告書は、中国が情報操作のために年間、数十億ドルを投入し、台湾、人権問題、南シナ海、経済などの分野で、自国に不利な情報を抑え込むために偽情報を流すなどの情報戦を展開しており、特に、アフリカ、アジア、ラテンアメリカで力を入れているとしています。買収や、国営テレビが製作したとは分からない形でコンテンツを無料で提供するなどさまざまな手段で海外メディアへの影響力を高めようとしていると強調、アフリカでは衛星ネットワークなど関連インフラ投資を強化しているとしています。また、SNSでの検閲も強化し、「微信(ウィーチャット)」を議論の監視に利用していると指摘、動画共有アプリ「TikTok」を運営する中国のバイトダンスは、中国に批判的な人の使用を制限しているとの見方を示しています。一方、中国外務省は、米国務省の報告書について反論、「事実を無視し、白黒をひっくり返している」と批判しています。声明は「米国の一部の人は十分な噂をつくれば情報戦に勝てると考えているのだろう」「他国の信用を落とすことで覇権を維持しようとする米国の振る舞いに世界のより多くの人々は気づきつつある」と主張しています。

日本で大変な迷惑を被ることとなった、中国国内のSNSで、東京電力福島第1原子力発電所の処理水放出に関する偽情報やプロパガンダ(宣伝活動)が急減しています。親中国政府のアカウントからの福島関連の投稿は処理水放出から約1週間で25分の1に減り、足元では関連投稿がほぼなくなっています。国際政治の舞台では処理水放出から1カ月が過ぎても、日中は激しく角を突き合わせている状況にありますが、中国のオンライン空間では対照的に処理水に対する偽情報の発信が急速に減少、中国共産党系メディアは福島を巡る批判の過熱を戒める社説まで掲載しています。当局はデモの誘発といった治安の乱れにつながることを警戒しているとみられています。この点について、IORGのユ・チハオ共同代表は「中国政府は国内の処理水関連の情報工作から手を引いている」と指摘、実際、中国政府がニュースソースとして推奨するメディアや政府組織のアカウントではその傾向が顕著で、放出当日(2023年8月23日)の処理水関連の投稿は19.27%に上り、同31日には0.57%と30分の1以下まで減少しました。さらに同9月10日では0.06%となっています。報道でサイバー安全保障に詳しい笹川平和財団の大沢淳特別研究員は「中国政府の狙いの一つは処理水放出への反対運動が起きている韓国と日本を分断することだった」とみています。Xでは日本語の福島関連の偽情報の投稿も続いており、総務省で偽情報対策を担う情報流通適正化推進室の担当者も「不審な投稿は情報源を確認するほか、民間団体や報道機関のファクトチェックを確認することなどが基本的な対策として重要だ」と呼びかけています。なお、中国から日本国内への嫌がらせ電話に関する警察への相談件数も、8月末をピークに減少し、9月中旬にはほぼ無くなり、現地在住者の話でも、雰囲気はかなり緩んだようですが、この理由は、日本政府の説明を中国国民が理解したからではなく、彼らが「飽きた」「忘れた」ためと考えたほうが妥当との指摘もあります。民意の激烈な反応は、インターネットの炎上案件に近く、火種となる材料がなければほどなく沈静化する性質のものだったということです。

EUが短文投稿サイト「X(旧ツイッター)」に対し、偽情報への対策が不十分だと警告しています。大手プラットフォームを対象にした調査でXに投稿された偽情報の割合が最も高かったためで、EUは2022年発効した「デジタルサービス法」(DSA)で運営企業側に偽情報対策を求めており、対応を怠ればこの法律に抵触する可能性があります。調査は、Xやフェイスブック、TikTok、ユーチューブなど六つのプラットフォームを対象に実施、偽情報の投稿率が最も高かったのはXで、2番目がフェイスブック、次いでインスタグラム、TikTok、リンクトイン、ユーチューブの順となり、Xは偽情報を発信する利用者の割合も一番高い結果となりました。また、偽情報の投稿者はそうでない人より多くのフォロワーを持ち、最近SNSに参加した傾向があることも分かったといいます。Xの前身ツイッターは、かつてはEUの偽情報対策に協力的でしたが、米起業家のイーロン・マスク氏が買収後に実権を握ると対応が変わり、Xは2023年5月、EUがDSA運用に伴い、偽情報対策を促すためにプラットフォーム運営企業などと結んだ「行動規範」から離脱しています。行動規範は、偽情報の拡散やそれを利用した収益化の防止、研究者への情報公開など企業が取り組むべき対策を定めた任意のルールで、大手プラットフォーム運営企業の大半は参加しています。過度な規制は「表現の自由」を侵害する恐れもあるため、EUとしては行動規範によって企業側にまずは自主的な対応をしてもらいたいのが本音ですが、DSAは、行動規範の枠組みに参加しているかどうかにかかわらず、企業側に偽情報の拡散防止対策などを義務付けています。一方、EUは偽情報の主要な発信源としてロシアへの警戒を強めています。ユーチューブを所有する米グーグルの報告書によると、ユーチューブは2023年1~4月、ロシア政府に関連した400以上のチャンネルを閉鎖、マイクロソフトは傘下のリンクトインで670万件の偽アカウントの作成を阻止し、2万4千件の偽コンテンツを削除、ティックトックの報告書は、ウクライナ戦争に関する832本の動画をチェックし、うち211本を偽情報などとして削除したことを明らかにしています。EUは、偽情報はロシアが欧州の民主主義国家をおとしめるための「ロシア国内に限らず、欧州やその他の国々を標的にした数百万ユーロ規模の大衆操作兵器だ」と批判、文章や画像を自動で作る生成AIが偽情報を拡散する危険性も指摘されています。欧州委員会は、対話型AIのチャットGPTを開発した新興企業「オープンAI」などAI開発企業にも、偽情報対策への協力を求めています。

(7)その他のトピックス

①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向

三菱UFJ信託銀行やNTTデータ、みずほ信託銀行、三井住友信託銀行、三井住友FGなどを含む計8社が出資して、デジタル資産取引の共通基盤をつくる合弁会社「プログマ」が10月2日に設立されました。プログマはもともと三菱UFJ信託銀が開発したデジタル資産取引基盤の名称で、取引記録の改ざんがしにくい「ブロックチェーン」と呼ばれる技術を活用し、金融機関横断でデジタル通貨や資産の開発に取り組むとしています。新会社では、法定通貨と価値が連動するステーブルコインを日本で初めて発行することも目指すとし、複数の大手金融機関が参加する見通しで、2024年夏頃の商用化の実現を目標としています。また、日本におけるステーブルコインの動向としては、オリックス銀行が発行の検討に入ったほか、海外大手のバイナンスHDも参入するなどもあります。瞬時に決済が完了し、コストも従来の金融システムより大幅に削減できるのが特徴で、1000兆円といわれる企業間決済市場で利用が進めば、決済のDXが進むことになります。本コラムでもたびたび取り上げていますが、日本ではステーブルコインの発行者を銀行や資金移動業者、信託会社に限定した改正資金決済法が2023年6月に施行され、暗号資産から切り離して定義づけられました。発行者に発行総額を預金などで資産保全するよう義務付けたのが特徴で、海外で発行済みのステーブルコインに比べて信用力が高いといえます。これらの会社が見据えるのが、企業間決済市場の取り込みで、これまで国際貿易では輸出企業は船会社から受け取った船荷証券を買い手に送ってから代金を送金してもらっており、国内企業同士の取引でも請求内容に対して正しい入金かを確認する「消し込み」など決済に伴う周辺業務が煩雑でした。モノの受け渡しと代金の支払いをブロックチェーン上で相互にひもづけたステーブルコインを使えば、こうした煩雑な業務であっても瞬時に決済が完了することになります。報道によれば、オリックス銀行はグループ企業や取引先を多く抱える自動車メーカーなどの決済でステーブルコイン採用を働きかけたい考えです。一方、企業が金融機関と組み、ステーブルコインを発行するとの見方も浮上、例えば、100兆円ともいわれるトヨタ自動車経済圏でステーブルコインを導入すれば費用削減効果は大きいと考えられます。海外勢としては、バイナンスはこれまで米ドルに連動するステーブルコイン「バイナンスUSD(BUSD)」を発行してきましたが、米ニューヨーク州金融サービス局が2023年2月に発行元の米パクソスに対して新規発行の停止を命じており(米国では暗号資産やステーブルコインの法的位置づけさえ、いまだ定まっていません)、バイナンスは規制が整備された国で新規のステーブルコインを発行することで利用者を増やす狙いがあるとみられます。

欧州中央銀行(ECB)が2023年10月、「デジタルユーロ」の導入準備に入るかどうかを判断するとの報道がありました(2023年10月9日付時事通信)。CBDCはナイジェリアなど約10カ国で既に導入されたほか、中国が試験運用中で、インドやタイでも実証実験が進んでいますが、先進国ではECBが先陣を切る可能性が出てきました。デジタルユーロは現金を補完する新たなユーロ圏の法定通貨で、オンラインや店舗での買い物で使える安全な決済手段として、個人や企業が無料で利用できるようにするほか、オフラインでも使用可能で、プライバシーを最大限保護するとしています。欧州では電子決済の拡大が続き、2017年に184.2兆ユーロだったEU域内の利用額は、2021年に240兆ユーロに拡大、ただ、決済は米国勢が牛耳っています。EUはデジタルユーロの導入で、利便性の向上に加え、「非欧州プロバイダーへの依存を減らし、EUの自主性と回復力を強化する」(ECB高官)ことも狙っているといいます。CBDCを巡っては、世界の国内総生産(GDP)の98%に及ぶ130カ国以上で調査・検討が進んでいます。個人情報保護などの懸念以外にも高齢者やCBDCを使えるデバイスを持たない人々が取り残されるリスクも抱えています。ECBは2023年年6月にデジタルユーロの法的な枠組み案を公表済みで、今回の判断で導入に向けた取り組みを本格化させるとの見方が強いものの、2027年までに発行される可能性もあり、それまでに利用者とのさらなる対話が求められることになります。

イングランド銀行(英中央銀行)の次期副総裁(金融安定担当)に指名されたブリーデン理事は、財務省と中央銀行が2020年代後半にも導入を検討しているCBDC「デジタルポンド」について、プライバシーに関する国民の懸念を和らげるため対話が必要との見方を示しています。デジタルポンド構想を巡っては、政府が国民の支出を追跡する可能性があるとの懸念や、現金での支払いが難しくなるとの指摘があり、同氏は議会の指名公聴会で、デジタル通貨技術を支持する立場を示しつつ、プライバシーに関する懸念の声が多いとも指摘、そうした問題への対応や政府の役割について議論を開始する必要があるとしています(もちろん、この点はすべてのCBDCに共通していえることです)。

国際決済銀行(BIS)のカルステンス総支配人は、世界の大半の国がデジタル通貨を発行する法的権限を持たないため、CBDCの開発が危ぶまれていると警告しています。世界各国は一般的に紙幣や硬貨、信用残高に関する法律を定めていますが、国際通貨基金(IMF)が2020年に発表した論文で、8割近くの中央銀行が現行法ではデジタル通貨発行が認められていないか、法的枠組みが不明確であることが分かっています。同氏は「この状況を是正する必要がある」とし、中央銀行は市民のニーズに応える責務があり、CBDCに多大な投資を行ってきたと指摘、「不明確、もしくは時代遅れの法的枠組みによってCBDC導入が妨げられるのは容認できない」とした上で、これらの問題への対応を本

本コラムでもたびたび取り上げていますが、インド準備銀行(中央銀行)は金融機関と協力して、独自のCBDC「eルピー」の普及策を導入する準備を進めています。eルピーは一般の人々向け「リテール」分野の1日当たり取引が平均1万8000件弱と、中央銀行が2023年末時点の目標に掲げた100万件を大きく下回っている状況にあります。普及策にはオフライン取引の容認や、インドの電子送金システム「統合決済インターフェース(UPI)」に結びつけるといった案が盛り込まれており、中央銀行は銀行に対してQRコードによってeルピーをUPIで利用可能にするよう働き掛けているといいます。

2023年9月29日付日本経済新聞によれば、暗号資産を軸とする次世代インターネット「ウェブ3」は今後どのように進化していくかについて、米ドルと連動するステーブルコイン「USDコイン(USDC)」を発行するサークル(Circle)のジェレミー・アレアCEOの見解を報じており、USDCを動かすための技術であるブロックチェーン(分散型台帳)を活用し、消費者や企業が利便性を享受できるための仕組み作りを目指しているとし、「現時点でサークルでは米ドルとユーロのステーブルコインのみを持っている。現在、より多くの通貨に連動するステーブルコインの発行に取り組んでいる。日本円のステーブルコインについても機会をうかがっており、少額だが発行に向けた投資も実施した。ステーブルコインの仕組みを使えば越境ECや決済、外国為替などの発展に寄与できる。開発を進めたい」、「AIはデジタル資産に関わる者としては未来の予想や意思決定、そして正確なコードを書く手助けをしてくれる。だがもっと重要なのは、AIの権利問題だ」、「生成されたコンテンツの情報源を証明するためのインフラが必要だ。なぜなら情報の提供者に補償するためだ。その点で、ブロックチェーンはそれを証明してくれる機械となる。情報の正誤判断だけでなく、提供者への対価の支払いのためにも機能する。今後、新たなAIエージェント(AIのプログラムを実行するソフトウエア)が多数登場してくるだろう。様々なサービスと連携しながらタスクをこなしていくと、同時に補償の能力も求められることになる。ブロックチェーンにはそれが可能だ」などと述べています。

非中央集権を標榜する暗号資産は宿命的にリスクにさらされおり、本コラムでもたびたび取り上げきたとおり、2018年と2022年にかけて2度のバブル崩壊を経験し、足元でも相場は低調です。日本では2018年に交換所のコインチェックで暗号資産が流出した事件により混乱した記憶が新しいものの、それでも代替資産としての存在感の大きさに変わりはなく、しかも日本はコインチェック問題の教訓を生かせる立場でもあります。2023年9月26日付日本経済新聞において、コインチェックの幹部やビットフライヤー社長などを歴任したfinojectの三根・代表取締役は、ビットコインは国際送金インフラである国際銀行間通信協会(SWIFT)や国際決済銀行(BIS)など国際的な機関でも資産(アセット)クラスのひとつとして取りあげられている。世界的にしっかり評価されている点が重要だ」、「ドルや円などの法定通貨を裏付けとする『ステーブルコイン』、ブロックチェーン(分散型台帳)技術でデジタル化された有価証券である『セキュリティー・トークン』といった派生的なデジタル資産も誕生した。これらについてあまり知られていないが、日本の法整備、ルールは実は米国より厳しい。制度インフラの面で日本は貢献している部分が大きい。これからトークン産業に参入する国は、日本をベンチマークとせざるを得ないだろう」、「ルール作りの過程では、利害関係のある業者の間でしばしば反発が起こり、話は簡単には進まない。マーケットにも『規制=悪』だと捉えられがちで、規制強化に関するニュースが出ると相場が崩れることもままある。それでも規制は避けては通れない道だ」、「ビットコインはこれまで暗号資産の演算能力の過半を保有し、ブロックチェーンのデータを書き換える目的の『51%攻撃』を受けていない。チェーンの脆弱性で起きた事故はない。この『無事故記録』を伸ばしていけば、金融市場でその価値を証明でき、分散投資の対象として地位を高められそうだ」などと述べています。よくコンプライアンスとビジネスの関係を二律背反とかプレーキとアクセルにたとえる向きがありますが、やはり、他に先んじてコンプライアンスに取り組み、ルールメイキングできる立場を獲得することが、ビジネスをさらに前に進めることができる、すなわち「コンプライアンスとビジネスを一体のものとして捉えること」が重要であることを痛感させられます

国際的な暗号資産の取引ハブを目指す香港が試練に直面しています。無免許の暗号資産交換業者「JPEX」による詐欺事件が表面化、被害額は約14億3000万香港ドル(約270億円)規模で、現地メディアは「香港史上最大級の金融詐欺」と報じています。当局は業界振興と規制強化の板挟みに陥っている状態です。2023年9月25日付日本経済新聞によれば、香港警察はJPEXの詐欺事件に関与したとして、著名インフルエンサーの林作(ジョセフ・ラム)氏ら11人を逮捕、18~49歳の被害者から2300件超の通報が寄せられ、被害額は計14億3000万香港ドルに上るとされ、最大で4000万香港ドルを投じた人もいたといいます。9月中旬には香港証券先物委員会(SFC)が同社に対し、無許可営業などについて警告したと発表、同社は資金流出を防ぐため顧客が事実上資金を引き出せなくする措置をとり、パニックが広がっています。報道によれば、JPEXは無免許でインターネットの動画や広告などでビットコインや独自の暗号資産「JPC」への投資を募っていましたが、警察は暗号資産取引自体が行われていなかった可能性があるとみています。さらに、社名は日本取引所グループ(JPX)似通い、広告では「日本暗号資産取引所」を意味する文言も使い、日本の信用力を利用しようとしたとみられています(なお、JPXは2022年に「当社グループとは一切関係ない」などと注意喚起しています)。各国が規制強化に傾くなか、香港は2022年10月に暗号資産取引ハブを築く逆張りの政策を打ち出し、同12月にはビットコイン先物連動ETFが上場、2020年に香港国家安全維持法(国安法)が施行され、繁栄を支えてきた「一国二制度」は揺らぎ、国際金融都市の地位に不透明感が出るなか、暗号資産に活路を見いだそうとしてきました。中国の後押しもあったとの見方が多く、中国は2021年に暗号資産取引を全面的に禁止していることとあわせ、専門家は「中国は香港を暗号資産の実験場として使うつもりだ」との指摘していますが、筆者としても同感です(そうでなければ、中国の一部として、国際的に見ても頑ななまでの逆張りが認められるはずもないからです)。また、マネロンなどが発生すれば海外の規制当局から責任を問われかねず、銀行は当初から慎重姿勢だったところ、香港金融管理局(HKMA、中央銀行に相当)は2023年4月、HSBCなど大手銀行の担当者を集め、暗号資産業者を顧客として引き受けるよう異例の要請を行っていんます。香港が業界振興を続けるためには、透明性のある捜査を通じて業界の自浄作用を引き出すことが課題ととなります。そうした中、香港を拠点としている暗号資産関連企業「Mixin」は、ハッカーによるサイバー攻撃で約2億ドルが盗まれたと明らかにしています。報道によれば、クラウドサービスプロバイダーのデータベースが「ハッカーに攻撃され、一部の資産が失われた」というものです。ミキシンはデジタル資産移転サービスを提供するネットワークで、ユーザー数は100万人、顧客による資金引き出しを停止していますが、送金には影響はなく、脆弱性が修正されればサービスを再開するとしています。また、失われた資産の対応策について発表するとしています。ブロックチェーン分析会社のエリプティックによると、ハッカーによる暗号資産盗難被害額の中で、2億ドルは史上10番目の規模で、2023年に入ってからは最大となります。同業チェイナリシスによると、2022年の被害額は過去最高の38億ドルでした。北朝鮮のハッカー集団が窃取した2190万ドル(約32億円)相当の暗号資産が2023年になって、ロシアの暗号資産取引所に移されたことが暗号資産データを解析する米企業「チェイナリシス」の調査で明らかになりました。ロシアはサイバー犯罪の捜査に非協力的で、ハッカー集団の追跡が困難になるとの指摘が出ています。チェイナリシスが2023年9月に発表した調査によると、今回移転されたのは2022年6月に北朝鮮のハッカー集団「ラザルス」が米IT企業から窃取した1億ドルの暗号資産の一部とみられています。北朝鮮は2021年頃から、マネロンのためにロシア系の取引所の利用を増やしているといいます。取引を繰り返すことで、捜査機関などの追跡が困難になることを狙っていると考えられます。チェイナリシスは、ロシアがサイバー犯罪の国際捜査に非協力的だとして、「ロシア系取引所へ送られた資産の差し押さえは非常に困難になる」と分析、同社によると、北朝鮮による暗号資産窃取額は2022年に過去最高の16億5000万ドル(約2400億円)に達し、2023年も9月までに3億4000万ドル(約500億円)の被害があるといいます。本コラムでもたびたび取り上げていますが、北朝鮮のハッカー集団は対外工作機関の偵察総局傘下に置かれ、窃取した暗号資産は核・ミサイル開発の資金源となっています。

個人的な自由や経済的自由を至上の価値とするリバタリアニズムを掲げつつ、暗号資産やブロックチェーン技術に財政基盤を置く、いわゆる「ミクロネーション」を標榜する「リベルランド」について、2023年9月24日付ロイターが取り上げていますので、以下、抜粋して引用します。

南東欧のバルカン半島を流れるドナウ川は19世紀に直線的な流れに変わり、かつてクロアチアの一部だった地域がセルビア側に移った一方、セルビアの一部だった全長7キロの中州、ゴルニャ・シガ島はクロアチアの対岸に手を伸ばせば届く近さになった。そのゴルニャ・シガの管理を行っているクロアチアは、領有化を望んではいない。なぜならゴルニャ・シガを領土に組み込めば必然的に、セルビア側になったより大きな面積の土地の領有権を放棄することになるからだ。一方セルビアもゴルニャ・シガの実効支配には乗り出さず、現状維持を望ましいと考えている。こうした一種の真空地帯化したゴルニャ・シガに2015年、チェコ人の政治家ビート・イェドリチカ氏が「リベルランド」の建国を宣言したのだ。国名に表現されている通り、同国は個人的な自由や経済的自由を至上の価値とするリバタリアニズムを掲げつつ、暗号資産やブロックチェーン技術に財政基盤を置く、いわゆる「ミクロネーション」だ。リベルランドがあるゴルニャ・シガでは6―8人が、セルビア近隣の住宅やボートハウスなどでの比較的豪華な生活の合間に、テントを張って「入植活動」に従事している。ただそのようなローテク生活と対照的に、リベルランドの財政はインターネットを通じて市民権を取得した「e市民」が支払う自発的な税金で賄われる仕組みが整っている。…リベルランドが採用するのは「リベルランド・ドル」と「メリット」と呼ぶ独自のトークンで、いずれもビットコインで購入可能。これらがブロックチェーン上で運営されるリベルランドの分散型自律組織(DAO)的な政府の基礎となっている。メリットは労働を通じて取得するか、購入することができる。メリットを多く所有するほど、投票権も拡大される。リベルランド市民から見れば、DAOは透明性が高く、中心的な指導者がいないので汚職の可能性も低下する。一方でブロックチェーンはハッカーの侵入に対しては脆弱になる恐れがある。米国ではセキュリティに不備があった場合、DAOのメンバーが責任を問われた例がある。
②IRカジノ/依存症を巡る動向

国内初となるカジノを中核とした統合型リゾート(IR)の整備に向け、大阪府とIR事業者(米MGMリゾーツ・インターナショナル日本法人とオリックスを中核株主とする「大阪IR株式会社」)が、正式な契約に当たる実施協定を締結しています。2023年秋から予定地の人工島・夢洲で関連工事に着手し、2030年秋頃の開業を目指しています。また、実施協定と合わせ、大阪市は夢洲北側の市有地約49万平方メートルを年25億円で35年間貸し出す定期借地契約を同社と締結しています。本コラムはIRカジノについて比較的早い段階からその動向を追っていますが、いよいよ動き出した感がある一方、今後の課題も目白押しとなっています。そもそも国が2023年4月にIR計画を認定した際、大阪府市と事業者に課題対応を求める「7条件」を課しました。具体的には、IR全体の売り上げの8割を想定するカジノ収益をカジノ以外の事業に投資すること、軟弱地盤が見つかったIR用地で想定以上の沈下などが判明した場合の対策検討、ギャンブル依存症に関する調査と防止策の検証-などです。とりわけ対応が不十分と指摘されているギャンブル依存症対策の強化については、入場回数は7日間で3回、28日間で10回までに制限し、府市も依存症相談を受ける拠点を設けるなどの対策を取る(相談から治療までを行う「大阪依存症センター」(仮称)に関する有識者の検討委員会を設置し、2023年5月から議論を開始、府市は毎年、取り組みの状況を国に報告し達成を目指す)としていますが、国は「対策を定期的に検証」するよう指摘しています。一方、ギャンブル依存症支援団体が報道で、IRがオンラインカジノや闇カジノのゲートウェーになり得るとして、「大阪でカジノの楽しさを知った、あるいは大負けした人が「また行きたい」と思っても、頻繁には大阪に行けない。どうするか。自宅からオンラインカジノにアクセスするのです。入場料、入場回数制限もありません。コロナ禍をへて国内でもオンラインカジノに熱中する人が増えましたが、さらに急増する可能性が高いと見ています。IRを開業させるなら行政や警察は、違法なオンラインカジノや闇カジノを一掃する責任があるのではないでしょうか」と指摘していますが、昨今のオンラインカジノの浸透状況を鑑みれば、正にこうした状況が強く危惧されるところです。また、地域との対話の場を十分に設けることも求めています。しかし、大阪市が開業予定地の土壌対策として最大788億円の負担を決めたことや、IRをめぐる不透明な土地取引の経緯などで市民らによる訴訟も起きるなど、依然として摩擦は続いています。なお、報道によれば、国は7条件への取り組み状況を定期的に点検するとしつつ、現在のところ計画の認定取り消しは考えていないとしており、市民らからはこの7条件の実効性を疑問視する声も出ているといいます。また、本コラムとしては、この条件以外にも反社会的勢力の関与やマネー・ローンダリングの懸念、それに関連して治安の悪化も注視していきたいポイントだと考えています。さらに、事業者の撤退リスクも払拭されているわけではありません。実施協定では、観光需要の新型コロナウイルス禍前水準への回復、IR用地の土壌対策、インフレなどにより初期投資額の増額が見込まれないなどを前提条件とし、いずれか一つでも達成できないと事業者が判断すれば、撤退できるとしており、当初の撤退判断の期限は2023年9月でしたが、事業者側の意向をくみ、実施協定では2026年9月まで延長した経緯があります。また、国や府市が狙った経済効果でも年間来場者2千万人とするうちインバウンドは3割の想定で、実際に観光振興につなげられるのか疑問の声は根強くあります。また、そもそも、刑法で賭博を禁じてきた日本でのカジノ解禁が観光振興のために必要だったのかも十分な理解が得られているとは言いがたいといった指摘もあるところです。その他、建設が予定される人工島、夢洲では交通アクセスの脆弱性なども指摘されています。夢洲は2025年大阪・関西万博の会場でもあり、万博期間中は島への来場者と工事車両のアクセスが集中する懸念もあるほか、万博終了後も鉄道インフラが劇的に改善される見通しがたっていないためです。IRの建設などに伴う初期投資額は1兆2700億円にのぼり、開業後の経済波及効果も、関西周辺だけで年間約1兆1400億円が見込まれており、実現すれば、経済に大きな影響を与えるのは確実で、国内の他地域でのIR誘致熱が高まる可能性もありますが、ここに列記した多くの課題をクリアしていくことが大前提となります。

本コラムでも取り上げてきたとおり、用地の問題はやはり大きな課題のままです。夢洲のIR用地は浚渫土砂や建設残土などで埋め立てられ、地震発生時の液状化リスクや土壌汚染などの課題が浮上しており、大阪市が788億円を上限に公費を投じて対策を講じることになり、2023年9月には液状化対策の工法を公表しています(セメントで改良する工法を採用、対策面積が当初想定の38ヘクタールから21ヘクタールに減ることなどから、対策費用は410億円から255億円に圧縮できるとしています)。当初、大阪府市はIR整備を巡り「公的な負担はない」としており、市民団体が2022年7月、市が土壌対策費を負担するのは違法として、市側に事業者との借地権契約の差し止めを求めて提訴したほか、別の市民団体も2023年4月、事業者への用地の賃料が開業効果を考慮せずに算定され、不当に安いとして同様の訴えを起こしており。両訴訟は併合して審理されているところです。2023年9月28日付産経新聞で原告団のメンバーで名古屋市立大の山田明名誉教授は、実施協定について、想定以上の地盤沈下などが起きた際、事業者側が令和8年9月までなら撤退することができる「解除権」が盛り込まれたことを問題視、「解除権は違約金なしで撤退できるという事業者側に有利な内容で、これから3年間もあいまいな状況が続く。一般的な契約ではありえない」と批判、原告団は借地権契約締結を受けて「疑惑があると分かっていながら強行した」として訴えの変更を検討しており、「計画の違法性を訴訟で追及していく」としています。

収益計画の実現可能性も大きな課題です。世界のカジノ業界では、一夜に何億円もつぎ込むことのある中国系の富裕層が「上顧客」として知られていますが、中国北部からであれば、カジノのあるマカオよりも大阪の方が近いものの、中国人客は中国の規制や、日中関係の状況によっては来ない可能性も考えられます。前述したとおり、カジノ来場者の7割を占めると想定されているのは日本人ですが、日本初のカジノとなるだけに動きは未知数であり、日本人がカジノでお金を使っても、国内のほかの地域で使うはずだったお金が減るだけで、日本全体でみると経済効果は小さいのではないかとの指摘もあります。海外の状況をみても、シンガポールでは、二つあるIRが2028年ごろに向けて大幅な拡張工事を進めており、同じ東南アジアでは、タイでカジノ合法化の動きがあるなど、こうした動向次第では、思うような収益が上がらない可能性も考えられます。関西経済に詳しい、りそな総合研究所の荒木秀之・主席研究員は、さまざまな報道で、カジノ収益について「本当にそうなるのか検証が必要だ」と指摘しつつも、カジノ以外の収益は拡大の余地があるとして「関西のインバウンド観光需要は今後も伸びが予想され、IRはその受け皿になり得る。レジャー施設など、個人や家族旅行の需要を取り込む方向で開発を進めれば、相乗効果は大きい。地域全体の将来像を議論してIRを位置づけ、周辺開発を進めることが重要だ」、と「いまの計画では、IRは国際会議などのMICEに焦点を当てた施設となります。大阪にとっては新たな需要を生むことになるでしょうし、観光との相乗効果も見込めます。また、カジノがあることで、海外富裕層の新たな受け皿にもなると思います」「ゲーミング(カジノ)収入については、あの場所で本当にそれほどの収入をあげられるのか、検証が必要でしょう。一方でカジノ以外の収入については、さらに拡大できるとみています」「確かにいまのIRの計画はMICEに焦点を当てています。ただ、IR周辺を含めた夢洲全体を将来どんな場所にするかは、はっきり決まっていません」「そこで私たちは、夢洲の可能性を最大限に生かすには、レジャー施設やテーマパークなど、ファミリー層の旅行需要を取り込む方策をとるべきだと考えています」などと指摘しています。

オンラインカジノを巡る動向について、直近では、海外に拠点を置くオンラインカジノの賭け金の決済を代行したとして、警視庁は、東京都渋谷区の決済システム(スモウペイ)運営会社の元実質経営者ら男2人を常習賭博ほう助容疑で逮捕しています。本コラムでたびたび指摘しているとおり、サイトが海外にあっても、国内から接続して賭博をすれば違法となるところ、警視庁は2023年1~3月、同社や関係先など約45か所を単純賭博容疑で捜索、営業実態を確認した結果、同社のサービスが常習賭博のほう助罪に当たると判断したものです。元実質経営者らは2021年7月~2022年7月、自社の決済システムを通じ、日本から海外のオンラインカジノサイトを利用した20~50歳代の男18人(いずれも単純賭博容疑で書類送検)の賭け金をカジノ業者側の海外口座に送金するなどし、客の賭博行為を手助けした疑いがもたれており、オンラインカジノの決済代行業者の摘発は異例ということです(オンラインカジノのサイトは賭博が合法な国に置かれ、証拠収集が難しく、その国のライセンスを得ているとうたっているものもあるなど摘発が困難とされます。そのような中、日本で賭博する行為を継続して助ける行為を、賭博を繰り返させる常習性のある行為(決済サービスが利用者の賭博を助長している)と認定したことは、正に「画期的」な手法といえます。そして、この手法によって、他の決済サービスも同様に摘発できる可能性があります)。報道によれば、このサイトでは、客は会員登録した上でポイント(1ポイント=100円)を購入し、賭け金として利用、この会社は2020年6月から日本円に対応した決済システムを運営し、客に代金を送金させてポイントの購入手続きを代行して、客が賭けで勝った場合の現金の払い出しにも応じていたといい、警視庁は、同社が2022年7月にサービスを停止するまでに国内約4万2000人の客から500億円超の入金を受け、カジノ業者側から約21億5000万円の手数料を得たとみているといいます。

オンラインカジノについては、調査会社「国際カジノ研究所」によれば、2021年に国内の利用状況を調べたところ、1千人のうち一度でもカジノに参加したことがある人は2.3%おり、単純に全人口に当てはめると288万人になると推計しています。さらに、同社の2023年7月の調査では、国内から海外のカジノにアクセスして遊ぶことについて、違法と知っていたのは全体の4割にとどまり、他の4割は「グレー」、残る2割弱は「適法」と認識していたといい、正しい認識の普及が急務だといえます(若者への大麻の蔓延と似た構図です)。オンラインカジノは、スマホなどで気軽にできるため、パチンコや公営ギャンブルと比べて依存性が強く、のめり込んだ利用客の借金額も増えがちとされ(パチンコや公営ギャンブルに依存する相談者の借金額は平均約750万円であるところ、オンラインカジノを含むと約880万円に膨らむといいます)、周囲が気付かないうちにギャンブルにのめり込む危険性が指摘されています。スマホのアカウント情報をもとにプロファイリングされ、ターゲットマーケティング(特定の層への売り込み)を仕掛けられる恐れがあり(芸能人やスポーツ選手を広告塔にした無料版を用意し、違法な有料版に誘導するサイトもあります)、店舗型よりはまりやすく、抜け出しにくいという特性があるとされ、極めて危険な状況にあることも認識する必要があります

③犯罪統計資料

例月同様、令和5年1~8月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。

▼警察庁 犯罪統計資料(令和5年1~8月分)

令和5年(2023年)1~8月の刑法犯総数について、認知件数は456,942件(前年同期379,725件、前年同期比+20.2%)、検挙件数は169,270件(159,574件、+6.1%)、検挙率は37.1%(42.0%、▲4.9P))と、認知件数・検挙件数ともに前年を上回る結果となりました。最近は、検挙件数が前年を下回る傾向にあったものの、ここにきて増加に転じています。その理由として、刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数・検挙件数がともに増加していることが挙げられ、窃盗犯の認知件数は33,872件(256,957件、+22.1%)、検挙件数は98,494件(95,078件、+3.6%)、検挙率31.4%(37.0%、▲5.6P)となりました。なお、とりわけ件数の多い万引きについては、認知件数は61,499件(55,453件、+10.8%)、検挙件数は40,553件(38,403件、+5.9%)、検挙率は66.1%(69.3%、▲3.2P)と、最近減少していた認知件数が増加に転じています。また凶悪犯について、認知件数は3,540件(2,852件、*24.1%)、検挙件数は2,901件(2,457件、+6.1%)、検挙率は81.9%(86.2%、▲4.9P)、粗暴犯の認知件数は39,039件(34,129件、+14.4%)、検挙件数は30,986件(27,989件、+10.7%)、検挙率は79.4%(82.0%、▲2.6P))、知能犯の認知件数は31,381件(24,512件、+28.0%)、検挙件数は12,300件(11,648件、+5.6%)、検挙率は39.2%(47.5%、▲8.3P)、とりわけ詐欺の認知件数は28,902件(22,406件、+29.0%)、検挙件数は10,530件(9,897件、+6.4%)、検挙率は36.4%(44.2%、▲7.8P)などとなっており、ほとんどの犯罪類型で認知件数・検挙件数が増加する一方、検挙率の低下が認められます。また、(特殊詐欺の項でも取り上げている通り)コロナ禍において大きく増加した詐欺は、アフターコロナの現時点においても増加し続けています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が増加しましたが、必ずしも「非対面」とは限らないオレオレ詐欺や架空料金請求詐欺なども大きく増加傾向にあります。

また、特別法犯総数については、検挙件数は44,854件(43,292件、+3.6%)、検挙人員は36,813人(35,471人、+3.8%)と2022年は検挙件数・検挙人員ともに減少傾向が続いていたところ、2023年に入って以降、ともに増加に転じ、その傾向が続いている点が大きな特徴です。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は3,844件(2,657件、+44.7%)、検挙人員は2,701人(1,967人、+37.3%)、軽犯罪法違反の検挙件数は5,028件(5,055件、▲0.5%)、検挙人員は2,701人(1,967人、+37.9%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は6774件(6,025件、+12.4%)、検挙人員は5,290件(4,582件、+14.1%)、ストーカー規制法違反の検挙件数は793件(670件、+18.4%)、検挙人員は651人(531人、+22.6%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は2,093件(2,015件、+3.9%)、検挙人員は1,650人(1,677人、▲1.6%)、不正アクセス禁止法違反の検挙件数は300件(312件、▲2.6%)、検挙人員は79人(111人、▲28.9%)、不正競争防止法違反の検挙件数は34件(36件、▲5.6%)、検挙人員は40人(42人、▲4.8%)などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、入管法違反、軽犯罪法違反、迷惑防止条例違反やストーカー規制法違等が増加している点が注目されます。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は791件(638件、+24.0%)、検挙人員は476人(375人、+26.9%)、大麻取締法違反の検挙件数は4,635件(4,032件、+15.0%)、検挙人員は3,928人(3,174人、+20.6%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は4,900人(5,706件、▲14.1%)、検挙人員は3,420人(3,904人、▲12.4%)などとなっており、大麻事犯の検挙件数がここ数年、減少傾向が続いていたところ、2023年に入って増加し、2023年7月にはじめて大麻取締法違反の検挙人員が覚せい剤取締法違反の検挙人員を超え、その傾向が続いている点が注目されます。また、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きな減少傾向が数年来継続しており、その原因については少し気掛かりです(覚せい剤は常習性が高いため、急激な減少が続いていることの説明が難しく、その流通を大きく支配している暴力団側の不透明化や手口の巧妙化の実態が大きく影響しているのではないかと推測されます。言い換えれば、覚せい剤が静かに深く浸透している状況が危惧されるところです)。なお、麻薬等取締法の対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。

また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯 国籍別 検挙人員 対前年比較について、総数408人(353人、+15.6%)、ベトナム139人(101人、+16.0%)、中国47人(60人、▲21.7%)、ブラジル27人(28人、▲3.6%)、韓国・朝鮮18人(13人、+38.5%)、スリランカ17人(27人、▲37.0%)、アフリカ州20人(12人+16.7%)、フィリピン14人(12人、+16.7%)、インド10人(8人、+25.0%)などとなっています。

一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数は5,862件(6,818件、▲14.0%)、検挙人員は3,681人(3,894人、▲5.5%)と、刑法犯と異なる傾向にありますが、最近、検挙件数・検挙人員ともに継続して増加傾向にあったところ、2023年6月から再び減少に転じた点が注目されます。以前の本コラム(暴排トピックス2021年3月号)では、「基礎疾患を抱え高齢化が顕著に進行している暴力団員のコロナ禍の行動様式として、検挙されない(検挙されにくい)活動実態にあったといえます」と指摘しましたが、一時活動が活発化している可能性を示したものの再度減少に転じていたことなど、アフターコロナにおける今後の動向に注意する必要があります。犯罪類型別では、強盗の検挙件数は59件(58件、+1.7%)、検挙人員は151人(73人、+106.8%)、暴行の検挙件数は360件(406件、▲11.8%)、検挙人員は336人(395人、▲14.9%)、傷害の検挙件数は628件(679件、▲7.4%)、検挙人員は716人(749人、▲4.4%)、脅迫の検挙件数は209件(240件、▲12.9%)、検挙人員は191人(233人、▲18.0%)、恐喝の検挙件数は229件(222件、+9.2%)、検挙人員は289人(269人、+7.4%)、窃盗の検挙件数は2,596件(3,142件、▲17.4%)、検挙人員は497人(528人、▲5.9%)、詐欺の検挙件数は1,029件(1,149件、▲10.4%)、検挙人員は826人(881人、▲6.2%)、賭博の検挙件数は16件(39件、▲59.0%)、検挙人員は66人(100人、▲34.0%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、増加傾向に転じて以降、高止まりしていましたが、2023年7月から減少に転じ、その傾向が続いている点が特筆されます。とはいえ、依然として高止まり傾向にあり、資金獲得活動の中でも重点的に行われていると推測される(ただし、詐欺は暴力団の世界では御法度となっているはずです)ことから、引き続き注意が必要です。さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯について、特別法犯全体の検挙件数は2,960件(3,688件、▲19.7%)、検挙人員は2,060人(2,492人、▲17.3%)と、こちらも検挙件数・検挙人数ともに継続して減少傾向にあります(さらに減少幅も大きい点が特筆されます)。また、犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は14件(11件、+27.3%)、検挙人員は12人(15人、▲20.0%)、軽犯罪法違反の検挙件数は46件(45件、+2.2%)、検挙人員は36院(41人、▲12.2%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は41件(66件、▲37.9%)、検挙人員は40人(59人、▲32.2%)、暴力団員不当行為防止法違反の検挙件数は5件(3件、+66.7%)、検挙人員は1人(3人、▲66.7%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は13件(17件、▲23.5%)、検挙人員は26人(36人、▲27.8%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は136件(124件、+9.7%)、検挙人員は64人(49人、+30.6%)、大麻取締法違反の検挙件数は623件(650件、▲4.2%)、検挙人員は422人(374人、▲+12.8%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は1,665件(2,195件、▲24.1%)、検挙人員は1,119人(1,450人、▲22.8%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は74件(96件、▲22.9%)、検挙人員は36人(56人、▲35.7%)などとなっており、最近減少傾向にあった大麻事犯について、2023年に入って増減の動きが激しくなっていること、覚せい剤事犯の検挙件数・検挙人員がともに全体の傾向以上に大きく減少傾向を示していることなどが特徴的だといえます(覚せい剤については、前述のとおりです)。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)は、ロシアとの国境近くにある北朝鮮の豆満江駅の2023年10月5日の衛星画像を分析した結果、貨物車両73両を確認したと発表、過去5年で最多だといい、北朝鮮からウクライナ侵攻を続けるロシアへの武器や弾薬の供給を示唆するものだとしています。貨物車両はシートで覆われており、積み荷の詳細は確認できないながら、9月に訪ロした金正恩朝鮮労働党総書記とプーチン大統領との会談を受けた軍事協力の一部の可能性があるといい、米CBSニュースは、米当局者の話として北朝鮮がロシアに武器輸送を始めたとの見方を伝えています。米国と敵対するロシアが、ウクライナ侵攻を機に「敵の敵は味方」の論理で北朝鮮とより接近する構図に、日米韓が警戒を強めているところでした。ロシアの技術で北朝鮮のミサイル開発が進み、ウクライナの戦場で不足する弾薬を北朝鮮が補うという、ロシアと北朝鮮にとって「Win-Win」ともいえる取引が進めば、欧州・東アジア情勢をさらに不安定化させることになります。ウクライナの前線では大量の砲弾を撃ち合う消耗戦が続き、ロシア、ウクライナ双方にとって弾薬の確保が喫緊の課題になっています。ウクライナを支える米欧各国は防衛産業と連携して増産に努めており、生産が追いつくまでの間、米国は爆発物が広範に散らばり非人道的ともいわれるクラスター弾の提供にも踏み切っています。一方、ロシアが頼れる国外の調達先は限られ、バイデン米政権は、北朝鮮からロシアへの武器供与が首脳間で協議されるとみて、独自に入手した機密を公開し、強く牽制してきました。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のシーモン・ウィーズマン上級研究員は、北朝鮮はロシア軍も使える砲弾を大量に保持し、大規模な生産ラインや労働力も備えているとみられています。米政権は、北朝鮮が実際に供与したことが判明すれば、追加制裁などの対抗措置に出る方針としています。

それに先立つ2023年9月20日に平壌で開催された朝鮮労働党政治局会議では、金総書記のロシア訪問の結果が報告され、政治局は、今回の訪露が「所期の目的を達成した」と高く評価、金総書記は、全ての分野で露朝関係を「より活性化し、新たな段階へ発展させるための建設的な措置」を積極的に実行していくよう指示しています。金総書記は、9月13日にプーチン露大統領と会談、同19日に10日間の外遊日程を終えて専用列車で平壌に帰還、結果を報告した金成男党国際部長は、金総書記の訪露を受け、「朝露関係が新たな戦略的高みに上りつめ、世界の政治地形で根本的な変化が起きた」と強調、長期的な「朝露関係発展計画」を明らかにしています。露朝首脳は一層の軍事協力強化に合意したとされ、今回の会議を受け、北朝鮮の対露軍事協力策が具体的に動きだすとみられていました。さらに、同9月26~27日に国会に当たる最高人民会議を平壌で開き、憲法に核戦力の強化を明示することを決めています。金書記は演説で、「核戦力を質、量ともに急速に強化する」と述べ、「責任ある核保有国として、戦争を抑止して地域と世界の平和と安定を守るため、核戦力を高度化する」といった内容が憲法に盛り込まれました。北朝鮮は2022年9月の最高人民会議で、核開発の目的や核使用の条件に関する法令を採択、今回は憲法にも明記し、核・ミサイル開発のさらなる正当化を図った形となります。ここまでの強い思い入れを明らかにしたことで、2018~19年ごろのような北朝鮮の非核化をめぐる米朝交渉は難しいということを改めて示したともいえます。さらに、金総書記は、北朝鮮の核戦力について、「誰も手出しできないよう、国家の基本法として永久化されたのは歴史的な出来事だ」と述べ、日米韓の連携強化を非難し、北朝鮮にとって「最大の脅威」になると主張、今後の課題として、核兵器の生産増加やミサイルなどの攻撃手段の多様化を挙げています。さらに直近では、北朝鮮の国防省報道官が、米国が北朝鮮の保有する大量破壊兵器を「持続的な脅威」と指摘したことに反発し、米国に対する強力な軍事的対応を予告する談話を発表、米戦略原子力潜水艦が2023年7月に韓国に入港したことを非難し、「米国の無分別な妄動こそ、全地球を破滅させる最も厳重な大量殺戮兵器の脅威」だと主張、憲法の修正が行われたことに言及した上で、米国の脅威に「最も圧倒的で持続的な対応」を進めると強調しています。米国防総省は同9月28日に発表した「2023大量破壊兵器対応戦略」で、北朝鮮は戦争のあらゆる段階で核兵器を使用する能力があり、数千トンの化学物質を保有しているとの分析を明らかにしていました。一方、韓国国防省は、核開発を国家の基本路線とする北朝鮮の憲法修正は「国際社会の平和と安定を害する深刻な脅威」だと批判、北朝鮮が核使用を企てれば「政権の終わりを迎える」と警告しています。

国連の安全保障理事会は2006年以降、北朝鮮による弾道ミサイル発射を禁じる決議を繰り返し採択してきました。安保理常任理事国を務めるロシアも、これらの決議に一貫して賛成してきました。従って、北朝鮮が露朝会談の際に行ったミサイル発射は、一連の安保理決議に明白に違反しているだけではなく、決議に賛成したロシアの顔に泥を塗る行為でもあり、通常なら、プーチン大統領が不快感を表明して、会談をキャンセルしてもおかしくないくらいの暴挙でした。しかしプーチン大統領はミサイル発射を非難するどころか、喜々として会談に応じました。これにより、ロシアは今後、北朝鮮の核・ミサイル開発を容認する姿勢を内外に示したものと考えられます。4年半前の金総書記は、当時のトランプ米大統領との2回の会談がうまくいかず、プーチン大統領に協力を求めざるを得ない立場でしたが、今回は力関係が逆転、ウクライナ侵略で国際的に孤立するロシアが、北朝鮮からの協力を必要としているという事情の中で開かれたといえます。

一方、日本、米国、オーストラリア、インドは2023年9月22日、4カ国による協力枠組み「クアッド」の外相会合を米ニューヨークで開き、北朝鮮と武器取引をしないよう全ての国連加盟国に求める方針で一致、こうした内容を盛り込んだ共同文書を発表し、ウクライナ侵攻に絡んで北朝鮮からの武器調達を模索しているとされるロシアをけん制しています。力や威圧による一方的な現状変更や、その試みに強く反対する方針で一致、東・南シナ海での国際法順守の重要性を強調し「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた協力を進めると確認しています。現状ではこうした動きも露朝に行動を変えるには至らなかったといえます。

韓国の尹錫悦大統領は、ソウル郊外のソウル空軍基地で開かれた「国軍の日」の式典で演説し、北朝鮮が核兵器を使用する場合、韓米による「圧倒的対応」で北朝鮮の体制を終わらせると警告しています。尹大統領は2022年の就任以来、北朝鮮に対し強硬な姿勢を取り、米日との軍事協力を強化していますが、北朝鮮の核・ミサイル開発を巡る懸念を背景に、2023年は例年になく規模を大きくし、10年ぶりに軍事パレードも行いました。パレードの出発点である空軍基地ではミサイル「玄武」や長距離地対空ミサイル(LーSAM)、偵察用ドローンなどが展示されています。また、韓国の情報機関、国家情報院(国情院)は、北朝鮮が韓国の主要造船会社を対象にしたサイバー攻撃を集中的に行っていると発表しています。北朝鮮は最近、海軍強化を重視しており、軍艦製造のために情報の不正入手を試みているとみられます。2023年8~9月に北朝鮮のハッカー組織が複数の造船会社にサイバー攻撃を仕掛け、造船会社のシステムを管理するIT会社から迂回侵入したり、内部職員に対して情報を盗むための「フィッシングメール」を送ったりしていたといいます。金総書記は9月上旬、「戦術核攻撃潜水艦」の進水式で「新型艦船のエンジンを積極的に開発・生産することに総力を傾けなければならない。艦船工業は国家経済力の総体だ」と演説し、造船所の現代化などを訴えており、国情院は中・大型軍艦の建造を目的とした攻撃と分析しており、今後も攻撃が継続するとみて関連企業にセキュリティ管理の徹底を要請しています。北朝鮮のサイバー攻撃を巡っては米マイクロソフトが9月、ロシアの航空宇宙研究機関に対する不正アクセスを明らかにしています。国連安全保障理事会はサイバー攻撃で暗号資産を盗み、ミサイル開発資金に充てていると繰り返し指摘しています。暗号資産の項でも紹介しましたが、チェイナリシスによると、北朝鮮による暗号資産窃取額は2022年に過去最高の16億5000万ドル(約2400億円)に達し、2023年も9月までに3億4000万ドル(約500億円)の被害があるといいます。

こうした状況の中、北朝鮮の不穏な動きも見られます。韓国の東亜日報は、北朝鮮が寧辺核施設の原子炉を停止したとする政府筋の情報を伝えています。使用済み核燃料棒の再処理によって兵器に使用可能なプルトニウムを抽出する狙いとみられるといいます。同紙が伝えた米韓当局の情報分析によると、寧辺核施設にある5メガワット(MW)の原子炉は2023年9月下旬から稼働が停止しており、政府筋は「韓国と米国は兵器級プルトニウムを得るための再処理作業の兆候ではないかとみている」と述べたといいます。原子炉から取り出した使用済み核燃料棒の再処理は、プルトニウムを抽出する前に取るステップであり、東亜日報によると、政府高官は「北朝鮮による核実験の可能性は否定できない」と述べています。報道によれば、2010年に寧辺の施設を訪問した米ロスアラモス国立研究所のヘッカー元所長は北朝鮮分析サイト「38ノース」で、北朝鮮のプルトニウム生産能力や核分裂性物質の保有量は依然として限定的だと指摘しています。また、シンクタンクの韓国統一研究院(KINU)は、北朝鮮が2023年10月中に再び偵察衛星の打ち上げを実施するとの見通しを示しています。中国とロシアの首脳会談、米韓合同軍事演習、同11月の韓国のロケット発射予定などを考慮すると、打ち上げは10月10日~26日となる可能性があるということです。KINUの研究者は、技術的な準備よりも政治的なメッセージを送ることが優先される可能性を指摘、実施されれば金総書記が9月にロシアを訪問しプーチン大統領と会談して以来初めての打ち上げとなります。北朝鮮は8月に2回目となる軍事偵察衛星の打ち上げに失敗した後、3回目の打ち上げを10月に行うと表明しています。

一方、中国との関係も注視されるところです。中国税関総署が発表したデータによると、2023年8月の中国から北朝鮮への輸出額は前月比4.1%増の1億6290万ドルと、7月の前月比1.2%増から加速したことが分かりました。北朝鮮が新型コロナウイルスのパンデミックによる封鎖から国境を徐々に開放し二国間貿易が再開されていることが背景にあり、2023年1~8月の中国から北朝鮮への輸出総額は前年同期比190.6%増の12億4000万ドルとなっています。関連して、中国国営中央テレビ(CCTV)は、北朝鮮が2023年9月25日から外国人の入境を許可したと報じています。2日間の隔離措置が必要ですが、外国人の観光客やビジネス客が含まれるのかなど、入境できる対象者は明らかになっていません。北朝鮮は2020年1月、新型コロナウイルスの流入を防ぐために各国との境界を封鎖、北朝鮮人の帰国を厳しく制限し、外国人の観光・ビジネス客の受け入れを停止、中国などとの貿易額が急減し、外国人旅行客による観光収入も止まりました。北朝鮮は2023年に入り、海外との往来を一部で再開、7月の朝鮮戦争の休戦協定締結から70年の記念式典では中国とロシアから代表団を招いたほか、8月には北京やロシア極東のウラジオストクと平壌を結ぶ航空便が再開、8月以降、中国の遼寧省丹東市から北朝鮮の新義州に向けたバスの運行も始まり、海外に住む一部の北朝鮮人が帰国していました。北朝鮮は食料などの物資や外貨が不足しており、海外との本格的な往来回復を模索していると見られています。なお、コロナ禍前の2018年に北朝鮮を訪れた外国人観光客は約20万人で、9割以上が中国人でした。また、金総書記は中国建国74年の2023年10月1日、習近平国家主席に祝いのメッセージを送り、習氏と共に「新たな歴史的時期に入った朝中友好関係を強固に発展させ、地域と世界の平和と安定を守るため、積極的に努力する」と表明しています。金総書記は、習氏の体制下の10年間で中国共産党が、党と国家建設の偉業で注目すべき成果を収めたと称賛し、中国人民が習氏の指導の下で「国の自主権と領土を守るための闘いで新たな成果を収めると確信する」と伝えています。さて、前述した金総書記とプーチン大統領との首脳会談において、金総書記は戦闘機の製造工場などを次々に視察、ロシアとの「蜜月」をアピールしましたが、こうした金総書記の動きについて、韓国政府当局者は「中国から支援を引き出すための、金正恩氏とプーチン氏の共同作品だ」と述べています。北朝鮮の今回の動きは、2018年当時の北朝鮮を取り巻く国際環境と酷似しているといい、北朝鮮が核実験を繰り返した結果、中国は2017年、北朝鮮による石炭や水産物などの輸入を禁じるなどした計4回の国連制裁決議に賛成、これに反発した北朝鮮と中国の関係は大きく冷え込み、このころ、北朝鮮が選んだ道が韓国や米国への接近でした。北朝鮮は2018年4月と5月に韓国と、同年6月には米国との首脳会談をそれぞれ実現させましたが、韓国政府当局者は、一連の会談について「北朝鮮が中国と交渉するためのカードづくりという側面があった」、「中国が支援してくれないなら、米国や韓国に接近する」というメッセージだったとみています。金総書記は同時に中国との関係改善も図り、2018年3月の訪中を皮切りに、この年だけで3回、習近平国家主席と首脳会談を行っています。当時の米韓の当局者によれば、金総書記はは習氏に対し、「どんなことがあっても北朝鮮を支持してほしい」と頼んだといいます。それから5年が経過し、北朝鮮と中国の関係は再び緊張の度合いを深めています。背景の一つには、核実験をめぐる確執があったとされます。一方、ロシアもウクライナ侵攻を巡り、軍事支援に慎重な中国の姿勢に不満を持っているとされます。金総書記は「中露朝は利害だけで結びついている関係だ」とも語っているといいます。ロシアが中国から多額の支援を引き出せれば、プーチン大統領は北朝鮮への更なる軍事支援に踏み込まない可能性もあります

3.暴排条例等の状況

(1)暴力団排除条例の改正動向(茨城県)

2023年10月4日付読売新聞ほかの報道によれば、暴力団への規制を強めるため、茨城県警は茨城県暴力団排除条例を改正する方針を決めたということです。水戸市や土浦市の繁華街を強化区域に指定し、飲食店が暴力団にみかじめ料などを支払う行為や、暴力団組員がそれらを受け取る行為に罰則を設けるもので、2024年春の県議会に改正案を提出する見通しといいます。改正案では、飲食店や風俗店の多い水戸市大工町や土浦市桜町周辺の繁華街を「暴力団排除特別強化地域」に指定、店が営業を容認してもらう対価として支払うみかじめ料や、用心棒代などの授受を暴力団組員と店側で行った場合、双方に1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科されるものです。茨城県暴排条例は2011年4月に施行されましたが、現在は授受が発覚した場合の罰則はなく、茨城県公安委員会による調査や勧告、事業者名の公表にとどまっていました。報道によれば、2市の繁華街では現在も付き合いをやめたくても暴力団からの圧力に不安を感じて利益供与を続けている店は多いといい、今回の改正案では店側にも罰則を設ける一方、店側が警察に自主申告した際、刑罰を減免する規定も新設しており、関係断絶の足がかりとしてもらう狙いがあるといいます。なお、繁華街でのみかじめ料や用心棒代などの授受に罰則を設ける動きは全国で広がっており、同様の罰則規定を設けた条例は全国21都道府県に上っています。茨城県では、茨城県暴排条例の施行は全国7番目というスピード導入されましたが、利益供与に関する罰則規定などは後れを取っていたところ、他の自治体と足並みをそろえることで、全体的な暴排がさらに進展することが期待されます。

(2)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(沖縄県)

本コラムでもここのところ連続して取り上げていますが、沖縄県内の風俗店や飲食店の一部が、用心棒代やみかじめ料の名目で暴力団に資金提供していたとされる問題で、沖縄県警特別合同捜査本部は、旭琉会二代目功揚一家構成員に用心棒代などの名目で現金3万円を供与したとして、沖縄県暴排条例違反容疑でキャバクラ店経営の容疑者を逮捕、現在は無職で元キャバクラ店経営者、風俗店従業員の両容疑者を再逮捕しています。今回再逮捕された両容疑者は2023年9月、別のキャバクラ店で用心棒代などとして暴力団員と金銭の授受があったとして、同容疑で暴力団員2人とともに逮捕されていました。報道によれば、キャバクラ店経営の容疑者は沖縄市上地の暴力団排除特別強化地域の店舗を巡り、複数回にわたり用心棒代などの名目で1カ月に3万円を、再逮捕された両容疑者らを介して暴力団員に供与していたとみられ、両容疑者は複数店舗から用心棒代等を回収する役を担わされていた可能性があるといいます。沖縄県警は暴力団の組織的な関与の有無などを調べており、金銭のやりとりがあったとみられる暴力団員らに対し、近く強制捜査に踏み切るとしています。

▼沖縄県暴力団排除条例

同条例第19条(特定営業者の禁止行為)第2項で「特定営業者は、特別強化地域における特定営業に関し、暴力団員からその営業所における用心棒の役務(営業を営む者の営業に係る業務を円滑に行うことができるようにするため顧客、従業者その他の関係者との紛争の解決又は鎮圧を行う役務をいう。次項及び次条第2号において同じ。)の提供を受けてはならない」、第3項で「特定営業者は、特別強化地域における特定営業に関し、用心棒の役務の提供を受ける対償又は特定営業を営むことを容認させる対償として、暴力団員に対して、利益の供与をしてはならない」と規定されています。さらに、暴力団員に対しても、第20条(暴力団員の禁止行為)において、「暴力団員は、特別強化地域における特定営業に関し、次に掲げる行為をしてはならない」として、「(1)客に接する業務に従事すること。(2)特定営業者のために用心棒の役務を提供すること。(3)特定営業者から前条第3項に規定する利益の供与を受けること。」が規定されています。そのうえで、第25条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「(2)相手方が暴力団員であることの情を知って、第19条の規定に違反した者(3)第20条の規定に違反した者」が規定されています。

(3)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(京都府)

愛知県警中村署は、六代目山口組弘道会傘下組織の組長と幹部の両容疑者を、京都府暴排条例違反の疑いで逮捕しています。報道によれば、2人は2023年7月、京都市内の歓楽街・祇園などにある飲食店7店の経営者から、1か月分の用心棒代計40万円を受け取った疑いがもたれており。同署は、2人が2020年以降、同じ経営者から用心棒代1300万円を受け取ったとみて調べているということです。

▼京都府暴力団排除条例

同条例では、まず第18条(暴力団排除特別強化地域)第4項において、「特定接客業者は、暴力団排除特別強化地域における特定接客業の営業に関し、暴力団員に対し、顧客その他の者との紛争が発生した場合に用心棒の役務の提供を受けることの対償として金品等を供与し、又はその営業を営むことを容認する対償として金品等を供与してはならない」と特定接客事業者に対する規程があります。そのうえで、第27条(罰則)で「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「(3)暴力団排除特別強化地域における特定接客業の営業に関し、接客業務に従事し、その営業所における用心棒の役務を提供し、又は第18条第4項に規定する金品等の供与を受けた暴力団員」が規定されています。

(4)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(岐阜県)

岐阜県大垣市のJR大垣駅南地区にある無許可営業の風俗店から、2023年7月、みかじめ料の名目で売上金など1万円を受け取ったなどとして組織犯罪処罰法違反と岐阜県暴排条例違反の疑いで、六代目山口組傘下組織組員が逮捕されています。また、みかじめ料を渡していたとされる風俗店経営者も同条例違反の疑いで逮捕されています。2020年4月の同条例改正により、みかじめ料を受け取った暴力団側だけではなく、渡した側も罰則の対象になっています。なお、同条例では、店側には「自首減免規定」を設け、みかじめ料を渡したことをみずから申告した場合は刑を免除したり軽くしたりする措置を取っているところ、これらの地域には暴力団との関係を断ち切れず、今もみかじめ料を渡さざるを得ない店があるといい、警察は「自首減免規定」があることを知らせるチラシを配るなどして暴力団との断絶を呼びかけていくとしています。

▼岐阜県暴力団排除条例

同条例第24条(暴力団排除特別強化地域における特定接客業者の禁止行為)第2項において、「特定接客業者は、暴力団排除特別強化地域における特定接客業の営業に関し、暴力団員に対し、用心棒の役務の提供を受けること又はその営業を営むことを容認されることの対償として利益の供与をしてはならない」と規定されています。また、第25条(暴力団排除特別強化地域における暴力団員の禁止行為)第2項において、「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定接客業の営業に関し、特定接客業者から、用心棒の役務の提供をすること又はその営業を営むことを容認することの対償として利益の供与を受けてはならない」と規定されています。これに対し、第27条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」として、「二 相手方が暴力団員であることの情を知って、第二十四条の規定に違反した者」、「三 第二十五条の規定に違反した者」が規定されています。なお、事業者の「自首減免規定」については、第27条第2項において、「前項第二号の罪を犯した者が自首したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる」と規定されています。

(5)暴力団排除条例に基づく書類送検事例(北海道)

売春で少なくとも1億円を売り上げていたとみられるススキノの風俗店の経営者2人が、売上金の一部を「用心棒代」などの名目で暴力団員に支払ったとして、北海道暴排条例(北海道暴力団の排除の推進に関する条例)違反の疑いで書類送検されています。報道によれば、2人は2023年1月、ススキノにある2つの風俗店で女性従業員に売春させていたとして売春防止法違反の疑いで逮捕・起訴されており、これまでに少なくとも1億円以上を売り上げていたとみられているといいます。さらに、その後の捜査で、2人が売上金のうち33万円を「用心棒代」などの名目で六代目山口組傘下組織組員に支払っていたことがわかったものです。2人は調べに対し、「長くこの地域に店を出しているので支払うことが当然だと思った」という趣旨の供述をしていて、容疑を認めているといいますが、いまだにこのような認識が広がっていることは極めて残念です。

▼北海道暴力団の排除の推進に関する条例

同条例の第20条の3(特定接客業者の禁止行為)第2項において、「特定接客業者は、暴力団排除特別強化地域における当該特定接客業に関し、暴力団員又は暴力団員が指定した者に対し、用心棒の役務の提供を受ける対償として又は当該特定接客業を営むことを容認させる対償として、財産上の利益の供与をしてはならないと規定されています。さらに、第26条において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「(2)相手方が暴力団員又は暴力団員が指定した者であることの情を知って、第20条の3の規定に違反した者」が規定されています。

(6)暴力団排除条例に基づく勧告事例(埼玉県)

▼埼玉県暴力団排除条例

同条例第19条(利益の供与等の禁止)において、「(2)暴力団の活動又は運営に協力する目的で、相当の対償のない利益の供与をすること」が規定されています。また、第22条(暴力団員による利益受供与の禁止)において、「暴力団員は、事業者が第19条第1項の規定に違反することとなる利益の供与を受け、又はその指定した者に対し、当該利益の供与をさせてはならない。」と規定されています。そのうえで、同条例第28条(勧告)において、「公安委員会は、第19条第1項、第22条第1項、第23条第2項、第24条第2項、第25条第2項又は第26条の規定に違反する行為があった場合において、当該行為が暴力団排除活動の推進に支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあると認めるときは、当該行為をした者に対し、公安委員会規則で定めるところにより、必要な勧告をすることができる」と規定されています。

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