暴排トピックス
首席研究員 芳賀 恒人

1.トクリュウ「闇のエコシステム」を破壊せよ~世界でも類を見ない「架空名義口座」導入に期待
2.最近のトピックス
(1)AML/CFTを巡る動向
(2)特殊詐欺を巡る動向
(3)薬物を巡る動向
(4)テロリスクを巡る動向
(5)犯罪インフラを巡る動向
(6)誹謗中傷/偽情報等を巡る動向
(7)その他のトピックス
・中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産(仮想通貨)を巡る動向
・IRカジノ/依存症を巡る動向
・犯罪統計資料
(8)北朝鮮リスクを巡る動向
3.暴排条例等の状況
(1)暴力団排除条例改正動向(埼玉県)
(2)暴力団排除条例改正動向(静岡県)
(3)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(島根県)
(4)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(沖縄県)
(5)暴力団対策法に基づく称揚禁止命令発出事例(奈良県)
(6)暴力団対策法に基づく称揚禁止命令発出事例(兵庫県)
(7)みかじめ料支払いの証拠隠滅での逮捕事例(北海道)
(8)暴力団関係事業者に対する指名停止措置等事例(岡山県)
1.トクリュウ「闇のエコシステム」を破壊せよ~世界でも類を見ない「架空名義口座」導入に期待
2025年末、捜査が大きな進展を迎えました。首都圏で相次いだ「闇バイト」による強盗事件で、警視庁などは「指示役」とされる容疑者4人を逮捕しました。匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)撲滅に向け、歩みを進めたと評価できます。痛ましい事件の裏で、指示役の顔すら知らない若者や困窮者だけが捕まり、使い捨てにされている実態があります。匿名空間・仮想空間でつながる事件の構図は、今の社会の姿でもあり、見えない敵は、匿名性の高いツールを盾に2026年、さらに複雑・巧妙化することが考えられます。犯罪もオンラインカジノなどに裾野を広げています。対する警察も、捜査員が身分を偽って闇バイトに応募する仮装身分捜査という新たな手法を獲得、前述したとおり「架空名義口座」も導入に向けて動き出しました。さらに、生成AIを駆使して、SNS上のやりとりや金銭授受のデータを分析し、中核を突き止める捜査も進められていくなど、トクリュウは着実に追い詰められることになると考えられますが、そもそもこうした犯罪は、社会のつながりが希薄であればこそ成立するものだといえます。一般人を犯罪者に仕立て上げる「闇のエコシステム」に取り込まれるのは、主に生活苦を抱える若者や中高年です。今考えるべきは、彼らがなぜ社会保障制度の利用ではなく、闇バイトへ応募したのかという点です。体感治安の改善には、彼らを加害者にさせない(彼らに届く)支援態勢作り、社会的包摂の視点が不可欠です。また、コンビニの店員やタクシー運転手が高齢者の様子に違和感を覚え、特殊詐欺被害から救った例も少なくありません。見えない敵には「顔の見える関係」を人や地域の中で築くことこそ有効なのではないかと考えます。「匿名社会」の中であらためて「つながり」の重要性が再発見され、社会を明るく照らしていく、そんな1年としたい、筆者も微力ながら尽力していきたいと思います。
特殊詐欺などの被害金を口座から口座へ転々とさせるマネー・ローンダリング(資金洗浄・マネロン)が横行しており、警察による追跡を難しくさせています。詐欺被害が深刻化する中、警察庁は2025年、対策を議論する有識者懇談会を設置、警察の管理下に置いた「架空名義口座」の導入などを柱とした報告書をまとめ、2026年1月8日に公表しました。警察庁は報告書をもとに犯罪収益移転防止法(犯収法)の改正案をまとめ、2026年の通常国会への提出を目指すとしています。匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)などは他人名義の口座などを不正に入手してマネロンをしている実態があり、警察は「架空名義口座」という新たな手法で対抗したい考えです。トクリュウ対策では、警察官が身分を偽り闇バイトに応募する「仮装身分捜査」がすでに2025年から実施されており、「架空名義口座捜査」によってさらに踏み込んだ捜査が可能となります。トクリュウの最大の武器は「匿名性」の高さを悪用して一般人を犯罪者に仕立て上げる、洗練された「闇のエコシステム」ですが、「匿名性」の高さを逆手に取った「仮装身分捜査」「架空名義口座」という新たな武器を用いて「闇のエコシステム」の破壊を目指す官民連携の試み(そして、トクリュウの「匿名性」の高さゆえの結束力のなさという弱点を巧みに突いていく取組み)に、筆者としては大きく期待しているところです。
▼警察庁 金融サービスを悪用したマネー・ローンダリングへの対策に関する報告書
報告書によれば、金融機関の協力により架空の名義の口座を用意し、警察官が闇バイトなどに応募して犯罪グループに提供、被害金が口座に入ったら凍結するなどして回収するというものですが、回収した被害金は被害者が特定できれば返還、特定できない場合、新たに設ける給付金制度で被害者からの申請を受け付け、都道府県公安委員会の裁定を経て支給、それでも被害金が残れば、犯罪被害者を支援する取り組みに充てるというものです。そもそも口座の売買は犯收法で禁じられていますが、2024年は同法違反容疑で過去最多の4362件が摘発され、10年前の2.7倍に上りました。報告書は、口座の不正譲渡に対する罰則の引き上げも必要と指摘しています。また、犯罪グループが闇バイトの応募者の口座に被害金を振り込んで別の口座に移させる「送金バイト」という新たな手口も近年増加しており、2023~24年には約100件確認され、報告書では、正当な理由なく有償で口座から口座への送金を請け負う行為について、「脱法的行為」と指摘、新たに罰則を設ける方針も示されました。
2025年の特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺の被害額は2025年11月時点で計約2764億円で過去最悪となっています。詐欺グループは、被害者に被害金を振り込ませるための口座などをインターネット上で買い取るなどして用意し、口座を転々とさせるなどしてマネロンをしている実態があり、警察などは対策として、口座売買を勧誘するネット上の書き込みの削除や金融機関における不審な取引のモニタリングの強化などを進めてきました。金融機関が検知した不審な口座の情報を警察と迅速に共有する取り組みも広がっているものの、それでも口座を悪用した詐欺の深刻さは増し、政府が2025年4月にまとめた詐欺の総合対策に「架空名義口座」の検討が盛り込まれました。架空名義口座は、警察の管理下におき、詐欺グループに提供して被害金の受け皿に使わせるもので、主な狙いは犯罪グループに被害金が渡らないようにすることで、「他国での先行例は把握していない」(警察庁)という画期的な取り組みといいます。導入の背景には、「闇バイト」を使って口座を集めたり実行役を募ったりするなど複雑化する詐欺に対して、これまでの対策や今ある捜査手法では被害を防ぎきれない現状があります。新たな対抗手段を迫られ、編み出されたのが架空名義口座で、警察庁が設けたマネロン対策の有識者懇談会では、架空名義口座に関する議論に最も時間が割かれたといいます。懇談会は架空名義口座について、口座買い取りや被害金を別の口座に振り込む「送金バイト」を呼びかける者につなげるのが目的で、もともと犯罪の意思がない人の犯罪を誘発するものではなく、「相当性が認められる」として、導入を提案しました。ただ実施までの課題は少なくありません。金融機関の協力が不可欠で、金融機関の実務の負担増は避けられません。被害者側から口座凍結の要請や訴訟を起こされる可能性も想定され、報告書も、金融機関が法令違反や訴訟のリスクにさらされないよう配慮すべきだと指摘しています。また、捜査員と犯罪グループとの間でのやりとりでも課題があり、口座の譲渡を募る情報に捜査員が応じたあと、犯罪グループから身分証の提示を要求される場合の対策などが必要となります。さらに、返還の手続きに絡んで、手数料名目や調査名目で金銭などを求める手口の詐欺も懸念されます。架空名義口座は当面、個人名義の口座の売買などへの対策ですが、実体のない法人の口座をマネロンに悪用するケースもあり、法人口座の対策の検討も今後求められることになります。詐欺グループに対抗する捜査手法としては、捜査員が架空の身分証を使って闇バイトに申し込んでグループに接触する「仮装身分捜査」が導入されており、警察庁が2024年1月に実施要領を定め、実際に行って検挙に至った例もあります。
以前から懸念されていましたが、マネロンに悪用するため、犯罪組織が高値で銀行口座を買い取っている実態が有識者懇談会の報告書から浮上しました。警察庁の分析によれば、2024年の売買価格は1口座あたり平均3万5千円で、比較できる2011~12年から1.5倍になっています。近年のマネロンは多数の口座が使われ巧妙化しており、警察庁は厳罰化によって封じ込めをはかるとしています。警察庁は全国の警察が摘発したマネロン事件のうち、銀行口座の売買価格が判明した分を抽出して分析、2024年の最高額は1口座あたり50万円で、2011~12年(7万円)の7倍、2011~12年の平均額は2万4千円で、2024年は平均でも5割高い結果となりました。犯罪組織は「口座買い取ります」といったSNSの投稿などを通じて口座を違法に収集、企業経営者に複数の銀行で新たに法人口座を開設させ、買い取る手口もありました。高値で売却を誘う背景にあるとみられるのが、マネロンの手口の複雑化で、「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」が絡む特殊詐欺などでは被害金が口座を転々と移動することが多く、警察の追跡を難しくしながら、金融機関による凍結を回避する狙いがあります。近年は多数の口座間を短時間で経由させる手法が目立ち、警視庁が2025年に摘発したベトナム人らのグループは多くの口座を使い、特殊詐欺などでだまし取った犯罪収益の分散・集約を繰り返し、わずか1時間で、11口座の間を20回送金する高速移転も確認されています(以前の本コラムでも取り上げました)。警察幹部は「マネロンの手口が巧妙化し、犯罪組織の間で銀行口座の『需要』が高まっている」とみています。一方、違法性の認識が不十分なまま口座売買に応じてしまう人も多く、トクリュウなどによる口座の収集に歯止めがかかっていない状況です。有識者懇談会は現状について「目先の利益を得るために安易に口座を売る者が後を絶たない」と指摘、現行の犯収法で1年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金などとしている口座の不正譲渡を巡る罰則の強化が必要と指摘しました。送金バイトもSNSを介して募る動きがみられ、ナイジェリア人の詐欺グループが関与した事件では、日本人ら男女9人が依頼を受けて詐欺の被害金を暗号資産に交換したうえ、指示された口座に送っていました。一方、送金代行を正当なサービスとして提供している事業者もあり、こうした適法の送金と区別するため、警察庁の有識者懇談会は罰則の対象を「正当な理由なく有償で行う場合に限定する」と明記、法定刑については警察庁がさらに詰めるとしています。
▼警察庁 金融サービスを悪用したマネロンへの対策に関する報告書
- 情勢の分析
- 匿名・流動型犯罪グループが実行する特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺の被害が近年急速に増加しており、その中でも振込型によるものが特に増加している。これらの犯罪においては、犯罪グループが匿名性を高めるため、被害金の振込先口座等に他人名義口座を利用することが多く、これにより犯罪収益等の隠匿が行われた結果、マネロン事犯の検挙事件数も増加しているものと考えられる。こうした状況を踏まえれば、預貯金契約等の金融サービスがマネロンに悪用されている状況にあるといえることから、金融サービスを利用したマネロンへの実効的な対策が急務である。
- マネロン対策の方向性
- 預貯金通帳の不正な譲渡等の罰則の在り方
- 現行の罰則
- 犯罪収益移転防止法第 28 条から第 30 条までにおいては、預貯金口座等の不正な利用を防止する観点から、預貯金通帳、キャッシュカードをはじめ、暗号資産交換に係るアカウント情報、為替取引カード等各種金融サービスを利用するために必要な情報等の不正な譲渡等について罰則が規定されている。
- 預貯金通帳の不正な譲渡等の状況
- 犯罪収益移転防止法第 28 条違反の検挙状況をみると、令和6年の検挙件数は4,362 件と、現行の法定刑に引き上げられた平成 23 年の検挙件数(1,260 件)の約3.5 倍となっており、当該法定刑の引上げ後も検挙件数は引き続き増加を続けている。
- 金融機関においては、犯罪等に不正利用された預貯金口座の利用停止・強制解約等の対応を行っているところ、その件数については、令和6年度中の利用停止・強制解約等は 128,301 件と、平成 23 年度中の件数(40,639 件)の約3倍とな っている。
- 預貯金口座の実際の売買価格は、警察庁において把握した犯罪収益移転防止法違反等の検挙事例のうち、販売価格が判明したものから抽出・分析したところによると、令和6年における売買価格は、現行の預貯金通帳の不正な譲渡等の罰則が制定された平成 23 年頃と比較して、平均値ベースで約1.5 倍、最大値ベースで約7.1倍である。
- 対策の方向性
- 預貯金口座が特殊詐欺等に不正に利用されていることを踏まえると、預貯金通帳の不正な譲渡等については、特殊詐欺等の前提となり得る犯罪といえるところ、近年特殊詐欺等の被害が急速に増加している状況等を踏まえると、預貯金通帳の不正な譲渡等は当罰性が一層高まっているといえ、また、預貯金口座等の利用の適正という社会的法益の保護の重要性も増しているといえる。これらを踏まえると、預貯金通帳の不正な譲渡等の法定刑を引き上げるべきである。
- 法定刑の引上げの程度については、他法令との均衡を考慮しつつ検討すべきである。
- 本法定刑の引上げに当たっては、預貯金通帳の不正な譲渡等が犯罪であることの広報の強化も併せて実施していく必要がある。
- 現行の罰則
- 有償で他人に財産を移転させる行為(「送金バイト」を利用する行為)への対応
- 新たな手口の発生
- 特殊詐欺等の犯罪を実行する匿名・流動型犯罪グループは、その手口の巧妙化を図ってきており、最近では、有償で他人に依頼して当該他人名義の預貯金口座等を介して送金をさせる行為(「送金バイト」を利用する行為)が行われている。具体的には、SNS等を通じて送金を代行するバイトを募集した上で、これに応募した口座名義人に対し、その者の名義の預貯金口座の使用・管理を継続させながら、当該預貯金口座に振り込まれた財産を指定された別の預貯金口座に送金させる新たな手口がみられる。
- 動画閲覧サイトで知り合った相手から預貯金口座を使って金銭を送金する仕事を紹介され、相手に自己名義の預貯金口座の口座番号を教示。その後、当該口座に振り込まれた金額を指定された口座へ送金。1回当たり 5,000 円の報酬を受領。(令和6年 10 月、岡山県警)
- SNSで「口座番号、暗号資産のアカウント等を教示するだけで、振り込まれた額の3パーセントが報酬となる。」旨の書込みを発見し応募。暗号資産のアカウント、自己名義の預貯金口座の口座番号等を教示。振り込まれた金額から自分が受け取る報酬を差し引き、残りを暗号資産の口座へ送金。(令和6年4月、福島県警)
- SNSで知り合った外国人に依頼され、送金をするバイトの認識で自己名義の預貯金口座の口座番号を教示。その後、振り込まれた金額を指示どおりに暗号資産、ステーブルコインに換えて、指示された口座へ移転。5回ほど送金を行い、合計約5万円の報酬を受領。(令和6年8月、三重県警)
- SNSで知り合った女性から、「あなたの口座に資金を振り込むので、そのお金でギフトカードを購入して、シリアルナンバーを送ってほしい。」と言われ、自己名義の預貯金口座の口座番号を相手方に教示。その後、入金された金銭で指示どおりギフトカードや暗号資産を購入し、相手に送付。入金された金銭の一部を報酬として受領。(令和6年 10 月、京都府警)
- 「送金バイト」を利用する行為に共通する特徴として、次のような点が挙げられる。
- 依頼者は、SNS等を通じて非対面で送金行為者を募集。
- 送金行為者に対しては報酬が支払われるケースが大半。
- 送金行為者は、自己の預貯金口座を売却して完全に支配権や管理権までを譲り渡すのではなく、自らは預貯金口座等を引き続き使用しつつ、他の口座(犯罪利用口座)への送金行為を実施。
- 特殊詐欺等の犯罪を実行する匿名・流動型犯罪グループは、その手口の巧妙化を図ってきており、最近では、有償で他人に依頼して当該他人名義の預貯金口座等を介して送金をさせる行為(「送金バイト」を利用する行為)が行われている。具体的には、SNS等を通じて送金を代行するバイトを募集した上で、これに応募した口座名義人に対し、その者の名義の預貯金口座の使用・管理を継続させながら、当該預貯金口座に振り込まれた財産を指定された別の預貯金口座に送金させる新たな手口がみられる。
- 犯罪収益移転防止法第 28 条等の適用可能性
- こうした「送金バイト」を利用する行為については、移転した財産が犯罪収益等に当たり、かつ、送金行為者において当該財産が犯罪収益等であるとの認識を有すると認められるときは、組織的犯罪処罰法第 10 条の犯罪収益等の仮装・隠匿等に当たる場合もあるが、送金行為者において移転する財産が犯罪収益等であるとの認識がない場合には、その適用が困難である。
- また、次に記載のとおり、「送金バイト」を利用する行為に対して現行の犯罪収益移転防止法第 28 条等の罰則を適用することは基本的に困難である。
- 正当な社会経済活動等で行われる送金代行行為
- 「送金バイト」を利用する行為が新たなマネロン行為としてみられる一方で、以下に挙げられるように、正当な社会経済活動や商取引の一環として、他者から依頼されて送金を行うことは広くみられるところである。
- 銀行等、為替取引を法律上代行することができる者が、顧客等の依頼を受けて、指定先に送金を行う。
- 食事の会費を代表者が決済アプリや口座振込で集金し、店舗に一括で支払う。
- アプリの操作に自信がない甲の祖父が甲の母に現金を手渡し、母が祖父に代わり遠方に暮らす甲へ、アプリを使って甲の母のアカウントで送金をする。
- 自身の消費に係る支払に必要な口座振込を家族に任せる。
- 「送金バイト」を利用する行為が新たなマネロン行為としてみられる一方で、以下に挙げられるように、正当な社会経済活動や商取引の一環として、他者から依頼されて送金を行うことは広くみられるところである。
- 対策の方向性
- 「送金バイト」を利用する行為は、実質的には他人名義の銀行口座等を不正に利用する行為であり、犯罪収益移転防止法第 28 条等に該当する行為と実質的には同価値の行為といえるところ、同条の構成要件該当性を認めて処罰対象にすることは基本的に困難である。その意味では、当該行為は、まさに同条の脱法的行為といえ、同条の実効性を担保するという観点から、このような行為を処罰することを可 能とするための罰則を創設する必要がある。
- 規制に当たっては、当罰性の高い行為に対象を限定する観点から、有償での送金行為に限定の上、「正当な理由」があるものを対象から除くため、目的要件を付すなど、正当な社会経済活動等の一環で行われる送金代行行為を規制の対象から除く必要がある。この点、無償で送金を代行する行為の中には、正当性が認められないものも観念し得るが、こうした無償で行われる行為は、行為者がそれによって利益を得るものではない点で、また、反復模倣される危険性は少ない点で、当罰性が高いものとはいえないため、「正当な理由」があるかどうかに加えて、有償であることを要件として罰則対象行為を限定すべきである。
- 本罰則の創設に当たっては、「送金バイト」行為やこれを利用する行為が犯罪となることの広報も併せて実施していく必要がある
- 新たな手口の発生
- 「架空名義口座」を利用した新たな措置について
- これまで警察においては、預貯金口座等の利用の適正を図る対策として、取締りに加え、金融機関、関係省庁等と連携して
- 預貯金口座の不正な開設を防止するための本人確認方法の厳格化
- インターネット上の口座売買の勧誘・誘引に係る情報の削除
- 在留外国人に係る在留期間満了日翌日以降の預貯金口座等の管理の厳格化
- 犯罪に利用された預貯金口座の凍結等
- 金融機関におけるモニタリングの強化、金融機関と警察の連携体制の強化
- これまで警察においては、預貯金口座等の利用の適正を図る対策として、取締りに加え、金融機関、関係省庁等と連携して
- 預貯金通帳の不正な譲渡等の罰則の在り方
といった様々な取組を推進してきたが、預貯金口座等が悪用されて行われる特殊詐欺等の情勢は悪化の一途をたどっているところである。
こうした状況を踏まえると、実効的に預貯金口座等の悪用を防止するためには、前記で議論した罰則の見直しのみならず、預貯金口座等が犯罪に利用されることを防止するための新たな施策を行うことが必要であるといえる。
そこで本項では、預貯金口座等の犯罪利用を防止する新たな措置である「架空名義口座」(警察が金融機関等の協力を得て開設する架空の名義の預貯金口座等。)を利用した措置についてその具体的な在り方についてまとめた。
- 「架空名義口座」を利用した新たな措置の概要
- 本懇談会では、「架空名義口座」を利用した新たな措置について、次のとおり概要を作成の上、議論を行った。
- 金融機関等の協力を得て「架空名義口座」を開設する。
- 預貯金口座等の譲渡や「送金バイト」をSNS等で誘引する者に対し、警察官がその身分を秘して応募等をする。
- 誘引する者等に対して警察官が口座譲渡等を行う。
- 犯罪グループに渡った「架空名義口座」については、金融機関等に適宜必要な協力を求めつつ、その利用状況(ex. 特殊詐欺の詐取金の振込先として悪用される等)を確認、同口座の利用停止等の措置を講じるなどして、財産の移転を 防止する。
- 本懇談会では、「架空名義口座」を利用した新たな措置について、次のとおり概要を作成の上、議論を行った。
- 対策の方向性
- 本措置の法的性質や必要性等
- 本措置は、「架空名義口座」に入金された特殊詐欺の詐取金等の他の預貯金口座等への移転を防止するなどして、預貯金口座等の犯罪利用を防止するという行政上の目的を有した行政警察活動である。
- 一定数の預貯金通帳の不正譲渡等が引き続き行われ得ることを前提として、預貯金口座等が犯罪に利用されることを防止するための新たな対策として「架空名義口座」を利用した措置を導入する必要性が認められる。
- 本措置は、現に詐欺等の犯罪又はマネロンを企図する者に対して警察が「架空名義口座」の譲渡等を行う点で、元々犯意がなかった者に、本措置がなければ起こらなかった犯罪を実行させるものではない。また、本措置は、「架空名義口座」を犯罪グループに譲渡等し使用させることにより、預貯金口座等が犯罪に利用されることを防止するものであり、「預貯金口座の利用の適正」を保護法益とする犯罪収益移転防止法第 28 条等の趣旨に反するものでもない。こうしたことから、警察が本措置を実施することについては、相当性が認められるものと解される。
- 「架空名義口座」に移転した財産の返還
- 「架空名義口座」に移転された財産については、本来警察にとって取得原因のないものであり、警察は入金者に対してその返還を行う必要があることから、当該返還のための手続を設ける必要がある。
- 返還に当たっては、「架空名義口座」に入金した者の返還を受ける機会を適正に確保するため、当該入金者やその所在について警察が可能な限り調査を実施するとともに、これらが判明すれば返還手続を通知し、それでもなおその者又はその所在が判明しないときは、更に慎重な手続を経る観点から、広く公告を実施することが考えられる。
- 入金者になりすました者が警察から財産の返還を受けようとすることを防止する観点から、必要な対策を実施すべきである。具体的には、警察官が財産を返還する際は、返還を受けようとする者に対して必要な資料を求め、質問をすることができることとするほか、これらの求めや質問に対し、虚偽の報告等を行った者に対しての罰則を設けることが考えられる。
- 返還手続を進める過程で、入金者が犯罪グループであると思料される場合や入金された財産が犯罪収益であると思料される場合には、刑事訴訟法や組織的犯罪処罰法等の法令に基づき可能な限り、捜査を尽くし、被疑者の検挙や犯罪収益の剥奪を目指すべきである。仮にも、警察が返還手続のために犯罪グループに接触した場合には、警察による本措置の実施が犯罪グループに看破される結果、これらの者が逃走や罪証隠滅等を図ることが予想されるところであり、また、入金された財産が犯罪収益であると思料されるにもかかわらず、犯罪グループにその返還を行った 場合には、当該財産が隠匿・処分され、犯罪収益の剥奪が困難になるとともに、犯罪による収益の移転防止を図るという法の目的に反する結果となり得る。
- また、債権者代位訴訟などの民事訴訟の提起等も想定される。
- これらを踏まえ、一定の場合には返還手続を一時留保できるようにするなど、犯罪の捜査や本措置の実施等に支障が生じないようにするための措置を講ずることを検討すべきである。
- 本制度の持続可能性の確保を図り、より多くの被害者の救済を可能とする観点から、返還に要する費用については返還を受ける者の負担とするとともに、返還に際して利息は付さない制度とすることが望ましい。
- 警察になりすまして本措置の手数料名目や調査名目で金銭や個人情報を求めるなどの手口の詐欺等の発生も懸念されるため、必要な広報を実施するなど、こうしたなりすましを防止するための対策を実施すべきである。
- 給付金の支給
- 公告してもなお返還できない場合の保管財産については、当該保管財産が何らかの詐取金や被害金に由来する蓋然性が高い点も踏まえ、「架空名義口座」に直接財産を移転した被害者以外の被害者の被害回復のための給付金の原資とすることが望ましいと考えられることから、当該給付金の支給の手続を定めるべきである。
- 給付金の支給対象については、振り込め詐欺救済法における被害回復のための分配金で、その支払対象を振込利用犯罪行為6の被害者としていることを参考にし、同様の範囲の被害者(返還の対象となる「架空名義口座」に直接入金した被害者を除く必要)とすることが考えられる。この点、特殊詐欺等においては、被害者が被害金を犯罪グループに現金手交するといった場合も考えられるが、当該現金手交等の場合に「架空名義口座」に入金された金銭がその被害金であるかを追跡することには実務上の困難が伴う。こうした被害者を支給対象に含めた場合には、その追跡のために支給手続が遅延・停滞化し、早期の被害回復が実現できなくなることが予想されることから、支給対象に含めないこととしてもやむを得ないものと考えられる。
- 給付金の支給に必要な証拠資料の時の経過による散逸を防止する観点から、公告から一定の期間が経過した時点で、入金者の返還を受ける権利を消滅させることにより、できる限り早期に支給事務に移ることとすべきである。この点、他法令における行政が保管した財産に関する権利消滅の例を参考にしつつ、かつ、できる限り長い期間を確保する観点から、公告から一定期間、例えば6月を経過した時点で当該権利を消滅させることが相当である。
- 支給手続の公正性・中立性を確保する観点から、「架空名義口座」を利用した措置を講じた都道府県警察を管理する公安委員会を手続の実施主体とすべきである。
- 支給手続に係る公告については、支給対象者の利便性を確保する観点から、警察庁等が全国一元的に行うことが望ましい。
- 支給申請期間については、支給手続を行う他法令の例を見つつ、申請の機会を十分に確保することが可能となるよう期間を設定することが望ましい。
- 犯罪被害者等の支援への活用
- 給付金支給手続の後も残余する財産については、当該財産の性質を踏まえ、広く犯罪被害者等の支援のために用いられることが適当であることから、地方公共団体の自主性にも配意しつつ、都道府県において犯罪被害者等の支援施策に必要な経費に充てる方向で検討すべきである。
- その他
- 本措置の実施に当たり、犯罪収益移転防止法において特定事業者に課している取引時確認等の義務を警察が「架空名義口座」を利用する場合にも同様に適用する必要はなく、これら法的義務の適用を除外する必要のあるものについては、法律上明確にするなど、具体的な制度設計に当たっては、協力する金融機関の実務負担だけでなく、法令違反や訴訟リスクにさらされることのないよう法的な立場が安定するようにすることにも配慮すべきである。
- 「架空名義口座」に入金された財産については、振り込め詐欺救済法による手続の対象とはならず、本制度による返還の対象や給付金の原資等となることを明確にすべきである。
- 本措置の法的性質や必要性等
冒頭で紹介したとおり、警視庁が匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)が絡む特殊詐欺事件摘発に力を入れています。首都圏の闇バイト強盗の首謀者の摘発で警察はこれまで51人を逮捕していましたがいずれも実行犯で、指示役ら上位層の犯人には手が届いていませんでした。犯行の標的、段取りなど上位層から実行犯への指示は「シグナル」など秘匿性の高いアプリでなされ、やりとりが暗号化され、消去される技術的特徴が捜査の障害となっていました。今回警察は、捜査で押収したスマートフォン(スマホ)約750台を解析し、シグナルの履歴の一部復元に成功、指示役が利用したシグナルのアカウントが「GG」や「PTA」など50個以上に及ぶこともつかみ、さらに解析を進めると、指示役は数人で、頻繁にアカウント名を変えている疑いが浮上、調べでは、実行役らから「アカウントは変わったが、複数の事件で指示役の電話の声は同じだった」との供述が得られたといいます。こうして浮上した容疑者の追跡など、デジタルとアナログを組み合わせて逮捕にこぎつけた形です。警察幹部は「詐欺のスキームを利用し、手っ取り早く金を稼ごうとしたのではないか。実行役らから指示役の特定につながる供述を得られたことが大きかった。結束力がない匿流の弱点を突いた」とコメントしている点は極めて大きな示唆といえます。また、合同捜査した千葉、神奈川、埼玉県警の捜査幹部とともに会見した警視庁刑事部長は「断片的なものを含め一つ一つのピースをパズルのように組み合わせた」と述べていましたが、正に地道な捜査を評価したいと思います。また、2025年10月の組織改編以降、グループの中核的人物に当たる「首領」級の暴力団組員を相次いで摘発し、暴力団の関わり方も明らかになってきています。一方で、さらに上位にいる首謀者がいるとみられ、警察当局は詐欺組織の実態解明や上位者の特定に全力を挙げています。2025年12月27日付産経新聞の記事「「首領」級相次ぎ摘発、トクリュウ絡む特殊詐欺の闇にメス事件の背後に暴力団の階級構造」にこのあたりが詳しく解説されています。「組織改編でトクリュウ摘発のために新設された特別捜査課は12月、指定暴力団住吉会系4次団体組員(36)を逮捕。組員は特殊詐欺事件の受け子グループのトップに当たる首領級で、実行役に指示をしていた。捜査関係者によると、その下には、同会系5次団体の組員(25)がおり、さらにこの2人の下で、当時19歳の少年が受け子を統括。2人に渡すための詐取金を回収していた。少年は同会5次団体に所属する傍ら、トクリュウのリーダー格でもあり、14~19歳の少年らで構成される複数のトクリュウをまとめていた。組員らは、息子や医者らをかたる手口で、令和5年9月~6年3月、4都県で約5千万円をだまし取っていたとみられる。被害金の9割以上は少年を通じて組員2人に渡り、末端の実行役はわずかな報酬しか受け取っていないとされる」、「ときに、別の組織が詐取金を分かち合うような形で”共存“しているような実態もみられた。警視庁は5月、高齢者から現金300万円をだまし取ったとして、長野県にある指定暴力団山口組系4次団体組長(42)を詐欺容疑で逮捕。当初、組長という立場もあり、受け子グループのリーダー格とみていた。一方で、組織の実態解明を進めるうちに、男は中核的人物ではなく、配下の受け子のリクルーターを通じて、グループと関係し、”利益“の一部をかすめ取っていたとみられる。11月、実際に首領級の役割を果たしていた、同じ長野県に拠点を置く山口組系3次団体本部長(43)を詐欺容疑で逮捕した。捜査幹部は「地元が同じ暴力団同士や、不良仲間が結びつくことがある」とみる。2つの事件では、受け子グループの実情が明らかになった一方、共謀関係にあるかけ子グループの全容は見えない。特殊詐欺はかけ子や受け子、現金の回収役など分業制が進み、かけ子側が複数の受け子グループと関係を持つケースもある。「受け子グループのトップが組員の場合、暴力団内部の規律で身内のことを明かさず、関係するかけ子グループについて供述を得られにくい面もある」(捜査幹部)と話す」、「捜査関係者によると、被害者をだますかけ子は「技術」が必要なほか、被害者に電話をかけるための携帯電話や拠点などを整える必要がある。人材確保と道具の調達を含めた環境整備は容易ではない。カンボジアのかけ子拠点設置に、住吉会系組員が関与していたことも明らかになっている。捜査当局は、暴力団が持っている国境を越えた裏社会との人脈や、人材斡旋のノウハウなどが特殊詐欺の組織作りに寄与しているとみられる。ある捜査幹部は「人員集めからカネの処理まで構図を描ける人間は限られるはず。『首領』を摘発しても、『本当の首魁』に捜査の手が及んでいない」と指摘し、さらなる上位者の摘発に力を入れるつもりだ」というものです。
トクリュウの実態については、TBSテレビによる報道記事「「僕らは捕まらない」トクリュウ元幹部が語る戦慄の実態幹部もトップの顔は知らず、闇バイトは「駒」…ピラミッド型の組織構造とは【報道の日2025】」(2025年12月29日付TBS NEWS DIG)が大変参考になりました。例えば、「暴力団と違い、匿名性の高い組織構造こそがトクリュウの強みだと元幹部は言います。トクリュウ元幹部「大元が『オーナー』と言われる人がいて、その下に『番頭』。僕はその下の『第4線』という現場を統括する人間」「番頭」と呼ばれる人物は、いつも「お面」をかぶっていたそうです。その下にあるのは「第1線」から「第4線」でなるピラミッド型の組織構造。男性がいた第4線が、採用活動などを行う「現場の責任者」。その下に詐欺収益の回収役。詐欺電話の「かけ子」と続き、最下層が…トクリュウ元幹部「『第1線』が使い捨ての闇バイトで来るような子たち。切り捨ててもこっちの正体もわかってないし、完全に『駒』」暴力団の場合、末端の組員による犯罪でも「使用者責任」を問われ、組長の摘発に繋がります。一方のトクリュウは、組織の幹部ですらトップの顔も分からず、末端を駒として使い捨てにする。元幹部の男性は、上層部に捜査の手が及ぶことはないと話します」、「僕らで捕まる人間はいないと思いますね、警察に。それだけ下にも名前もばらしていないし。僕らで捕まらないぐらいだから、もっと上の『番頭』とか『オーナー』は捕まえられないんじゃないかな。捕まるのはやっぱり『第1線』の受け子・出し子なので、僕らに被害はないだろって高をくくっていましたね」といった内容は大変リアルなものでした。また、2026年12月30日付FNNプライムオンラインの記事「捜査員が語る「令和のトクリュウ犯罪」執念の捜査で“指示役”を初摘発」では、「トクリュウがどんな組織性を持っているのかはっきりしない。そんな疑問をある捜査幹部にぶつけたところ、こんな言葉が返ってきた。「トクリュウに組織性なんてない、深いつながりなんてないんだよ。スマホ一つでつながり簡単に犯罪に手をそめる、それが令和のトクリュウ犯罪の形なんだ」」、「幹部はまた、これまで組織犯罪の中で脅威となっていた暴力団もトクリュウの存在が大きくなったことで、事件への関わりに変化が見えていると話す。「トクリュウの存在が大きくなるとともにグループで問題となっているのが『内部統制』。受け子や出し子はSNSなどで簡単に集められる一方でだまし取った金品をそのまま持ち逃げされたりするケースもある。そこで暴力団組員がリクルーターとして人材を用意するほか受け子や出し子を脅して足抜けさせないようにする役割を担っている。もちろん抜けたり逃げたりしたやつがいればその報復も暴力団組員や周辺の関係者が行ってグループの統制を図っている。暴力団組員が減少しているとしてもトクリュウの捜査と平行して暴力団の対策や動向も同時に徹底していかなければならない」トクリュウの犯罪の見えないところに暴力団が絡んでいるケースも多いという」というあたりは、本コラムで以前から指摘していたことと符合します。
短期滞在の在留資格で来日し、特殊詐欺などに関与したとして摘発された外国人が2025年1~10月、59人(暫定値)に上り、2024年同期の約3倍になったことが警察庁への取材でわかったと報じられています(2026年1月8日付読売新聞)。東南アジアの詐欺拠点の摘発強化を受け、中国系の「匿名・流動型犯罪グループ(匿流トクリュウ)」が、被害者から現金を受け取る「受け子」らを送り込んですぐ帰国させる「ヒットアンドアウェー型」の事件を繰り返している恐れがあるといいます。東南アジアには中国系のトクリュウが運営する詐欺拠点が点在しており、2025年はミャンマーの大規模拠点などが摘発されたものの、なお活動は活発で、警察庁は新たに東南アジアを担当するトクリュウ対策の捜査員を指定し、各国との連携を強化する方針だといいます。警察庁のまとめでは、59人の関与の内訳は、警察官を装う「ニセ警察詐欺」などの特殊詐欺が42人(2024年同期比23人増)、SNS型投資・ロマンス詐欺が17人(同16人増)、国・地域別ではマレーシア34人、中国・台湾22人、韓国、ベトナム、シンガポールが各1人で、マレーシアや台湾など、短期滞在のビザ(査証)が免除されている地域が目立ちます。役割では、受け子が8割(50人)で他は現金運搬役などで、SNSなどで「日本で物を運ぶ仕事」、「日本旅行に無料招待」などと甘い言葉で誘われるなどして来日、使い捨てにされていました。警察庁は、詐欺拠点の摘発を受け、中国系のトクリュウの一部が手っ取り早く現金を回収できる手口を活発化させているとみており、現金の回収には、複数人を介する「リレー方式」が広がっており、犯罪組織が要員確保のため、末端で動く人物を海外から幅広く調達している可能性もあります。国連や国際刑事警察機構(ICPO)などの報告書によれば、東南アジア各地に点在する詐欺拠点では、毎年、地下銀行などを通じて集められた数百億ドルのマネロンが行われており、犯罪組織は、自動音声で電話する「オートコール」サービスや翻訳ソフト、生成AIなど最新技術を導入して、手口を巧妙化させており、日本国内には中国系の組織から報酬を得て海外の詐欺拠点に「かけ子」を送り込むリクルーターも存在、拠点は暴力で支配されており、「人身取引」の問題も指摘されています。
情報漏洩事件を巡り、警視庁は、逮捕された捜査員を含む幹部ら12人の処分を発表、全国警察を挙げてトクリュウ対策に取り組むさなかで起きた身内による「裏切り行為」だけに、厳しい姿勢を示すことで信頼回復に努める狙いがあります。東京地検は、事件で逮捕された暴力団対策課警部補の神保容疑者を地方公務員法(守秘義務)違反の罪で起訴、警視庁は同日付で懲戒免職処分としています。警視庁はこのほか事件当時の暴力団対策課長を監督上の措置にあたる警務部長注意、同課警部を懲戒処分の戒告とするなど幹部ら11人の処分も発表しました。被告は2020年12月に暴力団対策課に配属され、遅くとも2023年ごろからスカウトグループ「ナチュラル」が関係する事件の捜査に携わり、2025年4月以降は担当を外れました。起訴されたのはいずれも被告が担当を外れた後の事件(2025年4月と5月、警視庁がナチュラル関係先に設置した捜査用カメラの撮影画像をグループ関係者に送信し、撮影の場所や範囲を教え、同7月にはカメラの撮影場所23カ所の住所などを記載した一覧表を提供した)ですが、警部補という最前線の捜査員自ら便宜を図っていた事実は警察組織に衝撃を与えました。事件で浮き彫りになったのは捜査情報の管理態勢の隙で、被告の配置換えは係の異動を伴わない小規模なものだったため一部の捜査情報についてはアクセス権の付け替えが行われず、被告は担当を外れた後も職場のパソコンから入手できたとみられています。組織犯罪捜査で捜査対象者とどう距離感を保つかという課題も残しました。トクリュウや暴力団などといった犯罪組織を壊滅させるには実態把握に向けた情報収集が欠かせず、上層部に切り込むには組織の内部を知る人物からの情報が端緒となるケースも少なくありません(今回の事件では、ナチュラルとの伝達手段には、ナチュラルの組織内連絡などで使う独自開発したスマホアプリを使用、自宅の家宅捜索では、現金900万円が押収されています。週刊誌情報では、「容疑者は暴力団捜査の担当が長く、いわゆるマル暴刑事として情報を組内部から入手するのが仕事の一つで、ナチュラルのケツ持ちはある広域暴力団の傘下組織だが、懇意にしていたそこの組員の紹介で、ナチュラルの幹部クラスと接点ができた」といいます)。今回の事件に限らず捜査員が一線を踏み越えてしまうケースもあり、神奈川県警で2022年、石川県警でも2025年11月、それぞれ暴力団組員や関係者に捜査情報を漏らしたとして捜査員(当時)が地方公務員法(守秘義務)違反容疑で書類送検されており、いずれも捜査情報を伝えて対象者と関係を築きたかったという趣旨の説明をしていました。ただ、残念ながら週刊誌情報によれば、「捜査情報はいまも変わらずリークされています。詳しくは言えませんが、関東の某県には我々と長くお付き合いをしている警察の偉い人がいますし、全国の主要都市の警察には複数のルートがある。内通者はまだまだいます」そう言って彼が見せてきたアプリの中には、警察のガサ(捜索)に関する情報などが、かなり詳細に書き込まれていた。他にもまだまだ取り込まれている者はいる―。警察当局も危機的状況を把握しており、地方も含めて内部調査が進められているという」と書かれ、事実であれば「根は相当深い」と考える必要があります。
暴力団情勢についても少し展望しておきたいと思います。暴力団取材で有名な2人のジャーナリスト(溝口敦氏・鈴木智彦氏)の対談記事(2026年1月5日付NEWSポストセブン)によれば、「:六代目が誕生したのは2005年で、20年を超えた。膠着状態を続けていれば組織は衰退しますよ。どう考えても、一方的な抗争終結宣言しか出口はなかった。もちろん決断の背景には、83歳になる司忍組長の高齢、体調不良が続く高山若頭の健康問題もあった。10年間抗争を続け、すべてが頃合いだったんです」(溝口氏)、「10年抗争を総括すれば、山口組は圧倒的な力の差を見せつけた。喧嘩に勝ったのは間違いなく六代目山口組です」(鈴木氏)、「勝ったはずの六代目山口組すら、この抗争において人数を減らしている。過去の抗争においては、喧嘩するたびに山口組は勢力を増大させてきたのに」「要するに暴力団は時代に勝てず、オール負けなんです」(溝口氏)、「もはや暴力団という今までの形で生き延びていくのは難しいという時代の中で、山口組も否応なく変わっていかざるを得ない。警察はなんでもかんでも「トクリュウ」と言い過ぎですが、半グレなど新しい形態の犯罪組織のほうが時代にマッチしている」(鈴木氏)、「今はトクリュウのほうが経済規模は大きく、勢いもある。ただトクリュウはヤクザに取って代われません。ヤクザは男を売り出す稼業だけど、トクリュウは「俺を隠す」商売です。顔を売りようがない。暴力団社会の山口組のように権威を持った巨大組織は誕生しないわけです」(溝口氏)といった内容で、これはこれでなかなか興味深く思いました。また、別の情報誌である警察関係者は、六代目山口組の代替わりについて、「六代目山口組が代替わりをするのではないかといううわさが流れている。分裂抗争を終結させ、組長が交代すれば、いずれ特定抗争指定暴力団から外され、現在は使用が禁止されている総本部を使用できるだろう。現在、竹内若頭が七代目組長の筆頭候補とみられているが、まだ若頭に就任して半年しか経っていないため、代替わりをするにはもう少し時間が必要ではないかと見る向きもある」という指摘もありますが、別の捜査幹部は、「六代目(山口組)が終結宣言を出したとしても、『はい、そうですか』というわけにはならない。目的は特定抗争指定の解除などがあるのだろうが、対立抗争状態にあることには変わりはない。当面は指定の継続となるだろう」と強調しています。さらに週刊誌記者は、「六代目側の抗争終結宣言以降、警察は”反六代目”の組幹部に水面下で接触を図っています。そこで『”反六代目”側も抗争終結の宣言を出す”か”一方の組織が解散する”のどちらかをしないと抗争終結したとは見なさない』という警察側の意志を伝えたともっぱらです。これまで”反六代目”側から抗争終結宣言は出ていませんし、今回改めて組織の継続意志とも取れる組織指針も出した。抗争事件こそ起きていませんが、警察は年明け以降も特定抗争指定を続けていくでしょう」と述べている点も興味深いところです。
いわき信用組合が不正融資で捻出した資金を反社会的勢力に提供していた問題で、同信組は2025年12月19日、不正に関与した江尻次郎・元会長ら元役員20人に計約32億円の損害賠償を求めて福島地裁いわき支部に提訴しました。同信組が設置した特別調査委員会は同10月、江尻元会長が主導して2004年から約20年間で、総額279億円の不正融資を行ったと認定、不正の口止め料などとして、2004~16年に計約10億円を反社会的勢力に支払っていたことを明らかにしました。同信組は、元役員20人が不正に関与したことに加え、虚偽説明や証拠隠滅などで調査を妨害して役員としての注意義務を怠り、組合に損害を与えたと主張、不正融資や反社会的勢力への資金提供などで外部に流出した25億5100万円に、不正の解明にかかった弁護士費用など約7億円を加算し、約32億円を連帯して支払うよう求めています。また、いわき信組は旧経営陣の刑事告訴に向けても準備を進めるとしています。今後、不正融資に関与した債務者や反社会的勢力に対しても、法的措置を進めるといいます。
金融庁は、当局が立ち入り検査をした際などに虚偽の答弁や報告をしたことを問題視、悪質性の有無などを慎重に判断したうえで、東北財務局が旧経営陣らを刑事告発するとみられています。いわき信組は業務改善計画を踏まえ「特定震災特例経営強化計画」を見直したことも発表、公的資金が悪用されたとの疑念払拭を図るため、2026年度内に優先出資の一部を返済するとしています(返済は2012年に公的資金の注入を受けてから初となります)。また、金融庁は、地域金融機関に対する検査体制を強化、地方の財務局の人員を増やし、公的資金を注入した地域金融機関が法令を順守しているかなどを、立ち入り検査で随時検証するなど、「地域金融力強化プラン」を策定しました。地域金融機関には、人口減少時代の地域経済を支えるため、取引先の中小企業の価値向上に貢献するよう求め、その上で、いわき信組の問題を踏まえ、財務局の定員増を含めた検査・監督体制の抜本的な強化を明記しました。特に公的資金を投じた金融機関については、内部通報の窓口を設けて情報収集し、立ち入り検査に生かすとしています。金融庁は2004年施行の金融機能強化法に基づき、経営基盤の強化を目的に、30近い地域金融機関に計約7257億円の公的資金を投入、いわき信組には、東日本大震災で設けた「震災特例」で175億円を投じています。今回のプランでは、時限立法である同法の実質恒久化を盛り込み、同時に、公的資金を受けるにあたってモラルハザードを防ぐ仕組みも整備、金融機関には外部の員外監事を複数人置くよう求め、行政側の検査体制も強化するとしています。
▼金融庁 いわき信用組合における「特定震災特例経営強化計画」の変更について公表しました。
▼令和7年12月19日 特定震災特例経営強化計画
- 経営管理にかかる体制及び今後の方針
- ガバナンス体制
- 当信用組合では、重要な経営上の意思決定機関として、常勤理事5名と非常勤理事4名で構成する理事会を設置し、業務執行に関する重要事項を決定しております。
- なお、常勤監事1名と非常勤監事2名も、理事会に出席して意見を述べることにより、経営管理の強化に努めております。また、常勤理事並びに各部長等で構成(常勤監事がオブザーバー参加)する常務会を毎週開催して、日常的な業務執行を担っております。さらに、代表理事及び理事総務部長等で構成する経営戦略会議を定期的に開催して、経営管理態勢の強化を図っております。
- また、2025年6月の総代会では、一連の不祥事件にかかる責任の所在を明確化し、当信用組合の組織変革とガバナンス体制の立て直しを図るため、理事長を含む常勤役員の刷新および役員定数の見直し(見直し後:6~9名、見直し前:8~11名)を図っております。新任役員については、全信組連より、常務理事(コンプライアンス担当)を招聘し、非常勤理事には、新たに有識者2名(公認会計士、社会保険労務士・中小企業診断士)を招聘して非常勤理事4名体制に増員することで、経営の透明化と適切なガバナンス体制を確保いたします。
- 理事会の運営において、最終的な承認を求めるだけではなく、案件毎に専門的な知見を有する各非常勤理事に発言する機会を設け、当信用組合の取組施策に対する意見をもらい、深度ある議論・協議による多面的な視点を当信用組合の経営に反映させ、ガバナンスが適切に機能する透明性の高い経営に努めております。また、理事会では、「コンプライアンス管理規程」や「リスク管理基本方針」、「統合的リスク管理基本方針」、「自己資本管理方針」を制定し、その重要性について支店長会議等機会あるごとに全役職員に対して周知徹底することで、透明性のある業務運営と、適切な経営管理態勢の確保に努めております。
- そのうえで、一連の不祥事件に関与していた旧経営陣に対しては、民事上の責任追及として損害賠償請求訴訟(善管注意義務)を提起するため、現在、弁護士と具体的な協議を進めております。また、調査報告書を踏まえ刑事告訴する方針であり、可能な限り責任追及が行えるよう、具体的な刑事告訴の対象者及び罪状や、いかなる方法であれば刑事告訴が可能かを警察当局に相談する方法について弁護士と協議しております。
- このほか、理事会による執行部への監督・牽制、監事会又は監事による執行部及び理事会への監視・牽制、執行部による業務執行状況等について、中立性のもと多面的な視点から検証・評価するほか、必要な指導・提言を行う経営監視委員会(弁護士、公認会計士、地域の有識者で構成)を2025年9月に設置し、理事会等主要会議の傍聴等による情報収集をもとに、四半期ごと開催している委員会にて必要な指導・提言をいただいております。
- また、日常活動の指針として活用するよう、クレド(お客様との約束7か条)を策定し、全役職員が同じ意識で経営理念に沿って行動するよう努めております。
- 加えて、健全な企業風土を醸成するための研修と位置づけ、全国信用協同組合連合会あるいは外部コンサルタント業者などの協力のもと、法令等遵守態勢に知見のある専門家を講師として招き、全役職員が一定期間の職場離脱を行い、知識習得に集中できる環境を整えたうえで、受講する役職員の職位や年代に関わらず同じカリキュラムで研修を開催いたします。
- このため、2025年11月17日(月)から12月16日(火)までの期間、新規顧客に対する融資業務を停止いたします。取扱い停止の対象となる新規顧客に対しましては、丁寧な説明とお詫びを申し上げるとともに、対象とならない既往顧客に対しましては、誤解に基づく風評につながらないよう同期間内においても融資業務の取扱いが可能である旨の説明を行う対応を講じます。なお、当該処分を厳格に実行するために、当該期間における融資稟議につきましては時限的に全件本部稟議とすることで、融資部により要件の確認を行ってまいります。
- 内部監査
- 当信用組合では、内部監査部署である監査部を理事長直属の組織とし、その独立性を確保しておりますほか、常勤監事との定期的なミーティングを行い、その内用をもとに都度理事長へ報告し業務上の問題点の洗い出しや改善への対策を話し合うなどして、理事長及び常勤監事と速やかに情報共有する体制としております。
- 監査部は、「監査規程」及び「内部監査実施要領」に基づく監査を通じて、各部店における内部管理態勢、法令等遵守態勢、顧客保護等管理態勢及びリスク管理態勢の適切性・有効性の検証評価及び改善事項の提言・勧告を通じて不正過誤を防止し、業務運営の健全性の確保に努めております。
- また、反社会的勢力への対応・管理等監査対象範囲を見直し、監査態勢の強化に取組んでおり、2016年4月から営業店監査において、反社会的勢力との関係遮断に向けた対応について営業店からヒアリングを実施・検証し管理態勢の充実に努めるとともに、今般公表した「反社会的勢力遮断への取り組みプラン」を履行することで組合全体的な反社遮断に係る取り組みをすすめております。しかしながら、反社会的勢力対応に関連する規程等においては、現在、「反社会的勢力に対する基本方針」「反社会的勢力対応管理規程」「反社会的勢力対応マニュアル」「反社会的勢力認定先に対する取引管理内規」を定めているものの、内容の重複が多い一方で、矛盾点の存在も認められることから、これらの規程等の可能な限り統一化を図るとともに、 内容の齟齬を修正することで、役職員の理解力向上と正しい判断力の育成を図ってまいります。
- さらに、2015年度より、監査項目を従来18項目から30項目に増やすとともに、営業店からのヒアリングを反映させた、より実体に則した監査を継続して実施しております。
- しかし、一連の不祥事件に係る第三者委員会の指摘及び提言を受け、これまでの内部監査態勢においては、不祥事件の再発防止への有効性は十分ではなかったと認識しております。このため、改善策として、これまで過去の監査実施時期と同時期に実施してきた監査部監査の実施時期は、抜き打ち的に実施するよう変則的に設定するほか、実施頻度は、各部店の所管業務等によって内在する各種リスク、前回監査結果、事務不備等の発生状況を評価検証し、また、今回の不祥事件の再発防止の観点も踏まえたうえで、決定してまいります。第三者委員会の調査報告書で指摘された印章、オペレーションカードの保管・管理の適切性の検証を徹底する等、不祥事件や事務不備の再発防止を念頭に置いた監査手法・機能の見直し、充実・強化も図ってまいります。そのうえで、役職員に対し、検査・報告命令の誠実かつ正確な対応がコンプライアンス上の最重要事項であることを繰り返して伝達することで、旧経営陣あるいは元職員が起こした不適切な対応に対しては、組合内においても厳正な処分を行う方針を明確化することで、牽制機能の強化を行います。
- このほか、更なる態勢強化を図っていくため、他の信用組合における監査態勢に係る好事例の導入のほか、全信組連による指導助言も受けてまいります。
- 強化計画の進捗管理
- 強化計画につきましては、主管部署である総務部が進捗状況を取りまとめのうえ常務会に報告し、常務会において一元的に管理を行ってまいります。
- また、強化計画に掲げる施策への取組みが不十分な場合には、常務会において施策の検証を行い、原因究明と改善策を検討・協議し、牽制機能を強化して進捗管理に努め、実効性の確保に努めるほか、不祥事件の発生を踏まえた再発防止策、内部管理態勢の整備状況についても適切な進捗管理を行ってまいります。
- ガバナンス体制
- 業務執行に対する監査又は監督の体制及び今後の方針
- 内部監査体制
- 当信用組合では、理事の業務執行の適切性を確保するために常勤監事1名、非常勤監事1名、員外監事1名を選任しており、各種会議や常務会・理事会に出席して、適宜所見を述べるとともに、必要な提言や勧告等を行っております。
- なお、一連の不祥事件については、常勤監事の独立性確保が十分ではなかったことから、常勤監事の独立性確保を徹底してまいります。また、常勤監事と非常勤監事とのコミュニケーションを活発化させることで常勤監事と非常勤監事の情報共有の徹底を図るとともに、共有する情報の内容も充実させることで、理事の職務執行に対する監視機能・牽制態勢の向上を図り、内部監査体制の強化を行ってまいります。加えて、常勤監事と内部監査部門(監査部)との連携体制を強化し、月1回以上のミーティング開催や同行臨店の実行を通して、監査で把握した問題等について速やかに共有するとともに、非常勤監事とも適時情報共有を行い、体制の維持と監査内容のブラッシュアップに取組んでまいります。現在、上記の常勤監事による職務執行状況については監事会に報告することを徹底し、非常勤監事による検証・提言を反映させ牽制機能の有効化を図っております。
- 外部監査体制
- 強化計画の進捗状況の管理・監督、経営戦略や基本方針についての客観的な立場からの評価・助言を受け、経営の客観性・透明性を高めるため、信用組合業界の系統中央機関である全信組連の経営指導を定期的に受けるとともに、原則として毎年、監査機構監査を受査しております。監査機構監査については、外部の視点から組合の経営上、業務上の課題の指摘を受ける重要な機会であると捉え、指摘事項を真摯に受け止めるとともに、経営改善、業務改善に役立ててまいります
- また、不祥事件に係る第三者委員会の調査報告書では、「会計監査人から依頼された資料の内容や日々のコミュニケーション結果を基に、監査対象が適切に設定されているかどうかを批判的に検討し、時には会計監査人に提案をしたり議論したりすることによって、双方に緊張感のある関係を構築する」よう提言いただいております。
- 今後は、会計監査人への提出資料の記録保存を確実に行い、議論の内容に係る記録簿の作成を徹底するとともに、その内容については、常勤監事を含めた経営陣及びその他関係者が適宜確認・検証できる体制を構築してまいります。
- 不祥事件の調査
- 第三者委員会の調査報告書において指摘されたとおり、今回発覚した一連の不祥事件については、その全容の解明に至っていないと認識しております。2025年6月13日に発足した新経営体制においては、第三者委員会の調査結果を受け、当信用組合から独立した客観性・中立性を担保した特別調査委員会を設置して、2025年6月30日付で調査に着手し、事実関係の精査及び真相究明に対する責任を負っていることを自覚したうえで、特別調査委員会の調査に真摯に対応し、全容解明に全力で取り組み、あらゆる情報を提供し調査協力を徹底いたしました。また、第三者委員会の元委員や当信用組合の会計監査人とも緊密な連携をいただき、深度ある調査が行われました。
- 今後の一連の不祥事に関する更なる事実関係の精査及び真相究明は、監査部、コンプライアンス統括部、融資部、事務管理部を中心に本部各部署が連携を図り、営業店においては、調査に必要な資料や情報の提供を積極的に行うことで、組合全体として、これら判明した事案の根本的な原因を徹底的に調査し、新たな事実を解明し、不祥事の全体像を明確にしてまいります。また、類似の事案の有無についても調査を継続してまいります。
- 内部監査体制
2013年12月に起きた「餃子の王将」社長射殺事件で、殺人罪と銃刀法違反に問われた工藤會傘下組織幹部の田中幸雄被告(59)の公判が、京都地裁で証人尋問が始まりました。目撃証言などの直接証拠はなく、被告による犯行かどうかが裁判の争点で、2025年11月26日の初公判で被告は「決して犯人ではありません」と無罪を主張、弁護人も冒頭陳述で「検察官は、間接事実によって被告の犯人性を立証しようとするが、そのいずれもが決め手になるものではないことを指摘していく」と述べました。今回の証人尋問では、事件当日に現場周辺で発見された、たばこの吸い殻の発見・回収に関わった警察官らが検察側証人として出廷し「(捨てられてから)長時間たっておらず、新しいと感じた」と証言しています。被告は2013年12月19日午前5時45分ごろ、京都市山科区の王将本社前の駐車場で、社長だった大東隆行さん(当時72歳)を拳銃で撃って失血死させたとされます。たばこの吸い殻からは被告のDNA型と一致する唾液が検出されており、検察側はこうした状況証拠を積み重ねて有罪立証する方針を示しています。当時鑑識課の元警察官によると、吸い殻を見つけたのは事件発生から約3時間後の午前9時ごろで、大東さんが倒れていた王将本社の駐車場の東側にある通路に2本、落ちていたといい、当時、現場は雨が降ったり、やんだりする状況だったが、白い吸い殻はさほど汚れておらず、ニコチンがにじんだ様子もなかったとし、「何日もたつと紙自体が茶色くなるが、それがなかった」と説明しました。吸い殻の回収に立ち会った王将の男性社員も出廷し、吸い殻が落ちていた通路は駐輪場につながっており、普段は吸い殻が落ちているような場所ではなく「違和感があった」と述べています。一方、弁護側は、現場でたばこが吸われたとすれば白い灰が出るはずだとし、その点を証人に繰り返し問いただしました。第三者が吸い殻を持ち込んだ可能性を念頭に置いた質問とみられますが、元警察官らは白い灰について「観察していない」「記憶にない」などと回答しています。
「闇バイト」を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 前述した首都圏における闇バイト強盗の首謀者摘発に絡み、「闇バイト」に応募し、一連の事件で逮捕された実行役は全部で38人いたものの、実際に報酬を得ていたのはそのうちわずか6人で、取り分は最大で数万円だったとみられています。2024年8~11月に東京、千葉、埼玉、神奈川の4都県で発生した全18事件の被害総額は約2300万円とされており、「高収入」などとうたう闇バイトに応募した実行役は、ほとんど報酬を得られていませんでした。一方、実行役らが強盗で得た金品の「回収役」は、数十万円の報酬を得ていた者もいたといいます。首謀者らは回収役により高い報酬を与えることで、自分たちに確実に金品が渡るようにしていた可能性があります。回収役の一部は福地被告の知人から紹介を受けており、市川の事件では、被害金品は数日のうちに、3人の回収役を介して最終的に被告の元に渡っており、首謀者4人の間に明確な上下関係はなかったとみられるものの、被告は暴走族OBらで構成する準暴力団「打越スペクター」の関係者で、主導的な役割を担っていた可能性があります。また、斉藤容疑者は、住吉会傘下組織と関わりがあったとみられ、グループの背景には、反社会的勢力の影がちらついています。「トカゲの尻尾切り」のように実行役を使い捨てる組織の構図は、「受け子」や「出し子」を入れ替えながら犯行を繰り返す特殊詐欺グループと同じですが、4人はもともと特殊詐欺に加担していており、人集めなどのノウハウを強盗に転用した可能性があるといいます。2024年5月ごろに作成されたとみられるSNSのグループチャットでは、「うまく(実行役を)説得させれば、タタキ(強盗)もやれそう」などと、強盗をほのめかす内容も確認されており、「相手を言葉巧みにだますスキルが必要な特殊詐欺よりも、強盗の方が手っ取り早くカネが得られると考えたのではないか」と捜査関係者は、4人が暴力団などへの上納金の獲得に窮し、詐欺から強盗に手口を変化させた可能性を指摘しています。一連の事件では、住宅などに押し入ったものの、ほとんど金品を得ることができないなど犯行の「粗さ」も目立ちまし。実行役は、報酬のためだけに集まった希薄な関係で、「組織への帰属意識がない分、指示役について抵抗なく供述するものもいた」(捜査関係者)など、寄せ集めの組織であるトクリュウのこうした「ほころび」が、首謀者摘発の足がかりになったといいます。
- 警察庁は、闇バイトの応募者やその家族に対する保護措置が1年ほどで544件にのぼったと発表しました。闇バイトの内容は、金融機関の口座の売買や詐欺の受け子などが目立ったといいます。2024年8~11月、闇バイトによる強盗事件が各地で相次ぎ、警察庁は同年10月18日、Xの公式アカウントで注意喚起の動画を投稿、「勇気を持って引き返して」と呼びかけ、翌月の保護措置は99件、以降は月に20~50件ほどで推移、2024年10月18日から2025年11月末まで544件あったといいます。応募者は7割超が男性で、年代別では20代が半数近く、10代が4分の1を占め、闇バイトの内容は「口座・携帯売買」「受け子・出し子・かけ子」「運び屋」「窃盗・強盗」の順に多かったといい、特殊詐欺の電話をする「かけ子」は、大半がカンボジアなど海外への渡航を求められていたといいます。2024年と変化が見られたのは、「応募のきっかけ」で、2024年11月末時点ではインスタグラムなどのSNSへの応募が約3割を占め最多でしたが、2025年11月末では知人からの紹介が約3割で最も多くなりました。各地の警察はSNS上の闇バイト募集の投稿に警告する返信を送るなど対策を強化しており、違法性が周知され始めていると警察庁はみています(届けるべき人に届いているという点では評価できると思います)。一方で、知人からの声かけはSNSの募集情報よりも警戒されず、闇バイトに応じてしまっている可能性があります。2025年夏に保護措置がとられた10代の少年のケースでも、知人から「3万円のバイトがある」と携帯電話を契約する仕事を紹介されており、少年は知人に紹介された男と連絡を取り始めたものの、友人から忠告を受けたため連絡を無視するようになったところ、男から「やらないなら金を積むか、人を紹介しろ」と脅されたため、警察に相談したといいます。
- SNSの闇バイト募集で実行役を集める犯罪を防ぐため、警視庁は、X上の募集投稿の調査にAIを導入し、2025年8~11月に計1万8千件超の投稿に警告を出したと明らかにしました。導入以前の手作業に比べ、警告は約6倍に増加、今後は他のSNS調査にも導入して実行役の確保を防ぐとしています。警視庁は2021年から「即日即金」などの投稿に「実行犯を募集する不適切な書き込みの恐れがある」などと警告文を返信し、閲覧者に注意を促してきました。AI導入により1日当たり約25件だった警告が150件ほどに増えたといい、今後は米メタ社の「スレッズ」の調査にも導入するとしています。
- オンラインゲームやSNSを通じた「闇バイト」で、若者が特殊詐欺やテロ行為などの国際犯罪に加担する事例が相次いでいる。来日した国連薬物犯罪事務所(UNODC)の幹部は対策には日本企業が持つ技術や知見が有効だと指摘し、企業間連携の拡大を訴えました。UNODCは薬物や組織犯罪、テロなどの対策を担う国連機関で、同部は各国にテロ対策に向けた法整備や技術的な支援を担っており、特殊詐欺などの国際犯罪を巡っては、タイやミャンマーなどアジアでも多くの拠点が見つかり、違法な仕事と知らずに若者が送り込まれ、監禁や暴力を受けるケースもあり、「自発的に関与しているとは考えにくく、彼らは被害者だ」と訴えています。犯罪集団はオンラインゲームやSNSを通じて言葉巧みに「リクルート」しており、若者を犯罪から守り、新たなテロ活動への資金源を食い止めるため対策が急務となっており、日本のゲーム企業はオンライン上で生じるリスクや安全対策に豊富なノウハウと対応の蓄積があり、「日本は技術と技術の利用監視において最も先進的なシステムを持ち、官民連携も進んでいる」と評価、防げなかった事例も含めて各国と共有することが対策強化につながるとし、「企業は犯罪に利用されることを望んでいない。対策が追いついていない新興企業も含めて企業間でも連携することが必要だ」と強調しています。ほかにもNECなどが手がける顔や指紋などの生体認証技術や、空港などで活用されている監視システムも挙げ、世界の治安対策に貢献できる革新的な技術だと指摘しています。
その他、暴力団等反社会的勢力を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 暴力団関係者であることを理由に高速道路のETC(自動料金収受システム)パーソナルカード(パソカ)が使えないことは憲法違反だなどとして、名古屋市の暴力団関係者が高速道路会社6社と国にカード会員の地位確認などを求めた訴訟の判決が名古屋地裁であり、裁判長は原告の請求を棄却しました。パソカはクレジットカード契約しなくてもETCシステムを利用できるカードで、原告は2023年、暴力団関係者であることを理由にパソカ会員の資格が取り消され、原告側は、パソカを利用させないのは高速道路の利用を妨げ、移動の自由を侵害し違憲だなどと訴えていました。判決は、高速道路の利用の制約は目的地の到着の可否に関わっておらず、保障されるべき中核的権利ではないと指摘、利用停止措置についても、暴力団関係者との関係を遮断し、不当な要求を受けないようにするのは、社会的責任として企業に要請されていることだとして、正当だと結論付けました。
- 福岡県警は、福岡県内で活動する暴力団勢力(構成員、準構成員など)が2025年末時点で880人となり、2024年末から100人減って12年連続で過去最少を更新したと発表しました。1992年の統計開始以降で最多だった2007年の3750人の約2割に減ったことになります。組織別では、工藤會は210人(前年比20人減)で、2008年のピーク時の1210人から約8割減、他の指定暴力団では、福岡県内最大の道仁会は230人(同20人減)、浪川会が100人(同10人減)、太州会が90人(同10人減)、福博会が80人(同40人減)となりました。
- 絆會の本部事務所(大阪府寝屋川市)について、大阪地裁が使用差し止めを命じる仮処分決定を出しました。絆會を巡っては、大阪府公安委員会が2025年7月、本部事務所が大阪市中央区から寝屋川市に移転したと公示、大阪府暴力追放推進センターが同11月、周辺住民に代わって仮処分を申し立てていました。
- 茨城県ひたちなか市は、同市北神敷台にある極東会傘下組織の事務所を約961万円で買い取ったと発表しました。この事務所では2022年に組員2人が死亡した発砲事件があり、近隣には小中学校があることなどから、市は暴力団による建物の使用を防ぎ、治安を維持しようと買い取りに踏み切ったものです。活用方法は未定といいます。事務所は鉄骨造りの3階建てで、1992年頃に建設され、当初は一般企業が使用していましたが、その後、暴力団組織が買い取り、事務所として使っていました。事件発生後の2022年6月、市は事務所の使用差し止めを求める仮処分を水戸地裁に申し立てて、仮処分が認可された2023年9月29日から事務所は空き家となっていました。事務所を別の暴力団組織が買い取って使用する可能性が想定されたため、市として建物を押さえることを決めたといいます。
- 敦賀市の繁華街にある、かつて暴力団の事務所として使われていた建物と土地を同市が7000万円で買い取り、今後市民の意見を募りながら活用方法を検討するとしています。敦賀市が買い取ったのは、敦賀市の繁華街本町にある元暴力団正木組の事務所で、鉄筋コンクリート4階建ての建物と土地です。2025年12月2日に建物と土地の引き渡しが行われ、同24日に、所有者で元組長の男性とその関係者に売買代金を支払ったということです。市では、市民の安心安全な生活を守るため、新たな反社会勢力による拠点化を未然に防ぐ必要があるとして、2年前から男性らと交渉を続けていました。
- 全国で2番目の勢力をもつ住吉会の会長の小川修容疑者と同会幹部らが窃盗などの疑いで逮捕された事件で、千葉地検は、小川容疑者と幹部3人を窃盗と邸宅侵入の罪で起訴しました。報道によれば、小川容疑者らは共謀し、同会の関功・前会長が死去した2022年5月31日の深夜、千葉県柏市の前会長の邸宅に窓の施錠を外すなどして侵入し、現金5000万円を盗んだとされます。小川容疑者らは、県警に被害届を出した前会長の関係者の女性に対し、2000万円を受け取らせて被害届を撤回させようとしたとして、証人威迫と暴力行為等処罰法違反の疑いでも逮捕されましたが、地検は「証拠を十分に確保できなかった」として不起訴処分としています。住吉会の構成員は約2100人(準構成員を含めると約3200人)で、六代目山口組に次ぐ規模となっています。週刊誌情報によれば、関前会長が亡くなってしばらくしてから、複数の「怪文書」が出回っていたといい、一つは「5000万円は関前会長が妾のために残したカネ」、もう一つはそれに反論するもので、「5000万円は組の資産である」という内容で、小川会長からすれば盗んだのではなく、あくまで前会長宅から資産を取ってきたという認識だと思われるが、相手方が警察に相談し、逮捕となってしまった」といいます。
- 暴力団組員の身分を隠してマンション2棟の計2部屋の賃貸契約を結んだとして、詐欺罪に問われた六代目山口組直系「兼一会」会長と知人男性の判決公判が大阪地裁で開かれ、裁判官は無罪を言い渡しています。求刑は会長が各部屋について懲役1年と懲役2年、男性が懲役1年6月でした。判決によれば、マンションはいずれも大阪市中央区島之内にあり、兼一会組員が滞在し、組バッジや帳票、会長あての郵便物が保管されるなど、組事務所としての使用実態があったとみられています。検察側は六代目山口組が特定抗争指定暴力団に指定され、同エリアにある兼一会の組事務所の使用が制限されることに備え、会長らがマンションの部屋を「隠れ事務所」として準備したと主張、男性名義などでの契約時に、こうした意図があったか否かが争われたものです。裁判官は判決理由で、組側が各部屋の賃料を負担するようになったのは、契約から3カ月~1年あまりが過ぎてからだった点に注目、当初から利用する目的があったと裏付ける証拠がない一方、「賭けマージャンの場として借りたが、その後に組員から頼まれて管理を委ねた」として、事後的に組による利用が浮上したという男性の供述を排斥できないとしました。また組員らが当初から組による利用を念頭に部屋を確保していたとしても、会長も共謀したという推認が「当然に成り立つとは考えられない」と指摘、「犯罪の証明がない」と結論付けています。
2.最近のトピックス
(1)AML/CFTを巡る動向
警察庁は、銀行窓口での口座開設といった対面取引の本人確認について、2027年4月からマイナンバーカードなどのICチップを読み取る方法を原則義務付ける方針を明らかにしました。インターネットを介した非対面の取引も2027年4月から原則としてマイナカードの活用が義務となる見通しで、幅広い取引で本人確認が厳格化されることになります。運転免許証など身分証明書の偽造が横行しており、偽造が難しいICチップが格納されたカードを使った本人確認を推し進めるものです。警察庁は犯罪収益移転防止法(犯収法)の施行規則改正に向けてパブコメ募集中です。改正規則は2027年4月にも施行する予定です。犯収法はマネー・ローンダリング(マネロン・資金洗浄)を防ぐため、金融機関やクレジットカード会社、不動産会社などに取引時の本人確認を義務付けており、これまでは運転免許証など顔写真付き身分証明書の提示や券面画像の送信により確認する場合が多かったところ、近年は精巧に偽造された免許証を使って不正に口座が開設され、特殊詐欺などに悪用されるケースが多い(2024年に67件摘発されています)ため、改正規則の施行後は提示や画像送信のみによる本人確認は原則として認められなくなります。対面取引では専用アプリを事業者側が使うなどしてICチップに登録された情報を読み取り、非対面の場合には、利用者が自身のスマホを使って読み取るなどするとしています。ICチップが格納された身分証明書はマイナカードのほか運転免許証、在留カードなどがあります。警察庁の楠芳伸長官は、定例の記者会見で「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)による預貯金口座などの悪用を防止し、特殊詐欺などの被害の防止につながると期待している」と述べています。別の法律で本人確認方法が定められている携帯電話の音声通信回線を巡る契約についても、2026年4月から本人確認を厳しくなります。偽造身分証明書を使って契約された口座や携帯電話が特殊詐欺に悪用され、被害の拡大を招いており、政府の犯罪対策閣僚会議は2025年4月にまとめた詐欺対策で、対面・非対面ともに本人確認はマイナカードなどの活用に一本化する方向性を示していました。
財務省は、貿易を利用したマネロンの防止に向け、三菱UFJ、三井住友、みずほの3メガバンクと覚書を締結しています。金融機関が持つ取引情報を税関の不正検知に生かすことを想定、覚書には、財務省の関税局長と3行の頭取がそれぞれ署名しています。協力の強化と情報交換の促進を図ることで、「資金洗浄の摘発につなげていく」と記しました。犯罪グループは、輸出入品の数量や金額を偽って申告し、不正な収益を移転している可能性があります。マネロンの手法は、グローバル化に伴って複雑になっているといい、財務省と金融機関の連携が進めば、モノと資金の不自然な動きが見つけやすくなると期待されており、協力体制をアピールすることで犯罪の抑止効果も狙っています。
特殊詐欺の被害金をマネロンしたとして、警視庁などは、住所不詳、無職樋口拓也被告ら男2人を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)容疑で再逮捕し、新たに男4人を同法違反容疑で逮捕しています。同庁は、樋口被告らのグループが2023年以降、特殊詐欺の被害金など41億5000万円以上を暗号資産に交換してマネロンしていたとみています。6人は仲間と共謀して2025年1~2月、渋谷区の60代女性から架空請求の手口で詐取した現金約2900万円を暗号資産「ビットコイン」に交換、別の暗号資産「テザー」にかえて他の資金と混ぜた後、8000万円分を現金化して犯罪収益を隠した疑いがあり、2025年2月までの約1年間に、樋口被告から「相対屋」(取引所を介さずに暗号資産の換金を請け負って手数料を得る役割)の高山容疑者に約28億5000万円分の暗号資産が送られていたといい、その後、中国籍の2人が現金を別の容疑者に渡し、樋口容疑者に還流していた可能性があります。また、同庁は、樋口被告らが、フィリピンから「ルフィ」を名乗り広域強盗事件を指示したグループなど、様々な犯罪グループとつながってマネロンしたとみています。樋口被告は2025年4月以降、特殊詐欺の被害金をマネロンした組織犯罪処罰法違反容疑などで逮捕され、その後起訴されていました。今回の逮捕が12回目となります。
サービスや商品の代金収集を請け負う「収納代行」を名乗り、詐欺の被害金を集めていたグループを警視庁が摘発、詐欺グループのマネロンに加担した疑いがあるといいます。警視庁犯罪収益対策課などは、決済・収納代行業「SmartPayment」の実質的経営者、尾崎容疑者ら2人を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)の疑いで逮捕、法人としての同社も同容疑で書類送検しています。逮捕容疑は2024年5~6月、出会い系のサクラサイトの利用者から参加費名目で現金をだまし取る手口の詐欺事件で、約140回にわたり振り込まれた現金約2500万円を、Smart社が管理する2つの法人口座に振り込ませ、犯罪収益を隠すなどした疑いがもたれています。報道によれば、詐欺グループは被害者に対し、Smart社が管理する法人口座を送金先に指定、容疑者らは口座に入った資金を銀行やコンビニのATMで引き出し、詐欺グループ側にカラオケ店などで手渡して報酬を受け取っていたとみられています。使われた法人口座は経営が悪化した企業や事業実態のないペーパーカンパニーなどのもので、ブローカーから入手した疑いがあります。同社が管理していた口座には、2023年8月~24年6月、詐欺の被害金と思われる3億1300万円の振り込みがあったといいます。警視庁は、同社が匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)を含む複数の詐欺グループに口座を提供していた疑いもあるとみて、実態解明を進めています。なお、同社は詐欺被害者の弁護士から被害金の返金を求められることもあったものの、2人は「あくまで収納代行業者として委託されて口座を提供しており、詐欺については知らない。ただ、口座が利用されたようなので一部は保証する」などと被害金の半額程度を返金、その代わりに警察などに被害を届け出ないように合意書を作り、口座の凍結を免れており、こうしたケースでも詐欺グループ側から報酬を受け取っていたといいます。収納代行は一般的に、サービス・商品の提供者から委託を受け代金などを集める業態を指し、コンビニでの公共料金の収納や、宅配業者による配送時の代金回収が該当、委託する側・支払う側双方にメリットがあり広がってきた一方、収納代行業とかたって水面下でマネロンを重ねる手口も増えています。大阪府警が摘発したグループは約500社のペーパーカンパニーをつくり、収納代行と称して詐欺の被害金など約700億円の出入金を繰り返していた疑いがあります。収納代行を悪用する背景には、マネロンへの監視を逃れる狙いがあるとみられています。各金融機関は不審な取引を検出する「アンチマネロンシステム」を強化、金融当局に届け出られた疑わしい取引は2024年に約84万件に上り過去最多を更新しましたが、個人口座と比べ、様々な出入金がある法人口座は不自然な取引を見極めにくく、専門家は「さらに収納代行業は業務上大量の小口送金があり、犯罪収益を紛れ込ませやすい」と指摘しています。収納代行業はこれまで国への登録は不要でしたが、マネロンや違法なオンラインカジノの集金に悪用されるリスクを踏まえ、政府は2025年6月に資金決済法を改正、移行期間を設けたうえ、国境をまたぐ資金移動を伴う収納代行業は国への登録を義務付けることとなりました。国内で完結する収納代行業については現時点では規制の対象外とされており、リスクに応じた規制の検討に加え、AIを活用した不正取引の自動検知システムの導入など金融機関側の対策も重要になるといえます。
2025年に発生した注目すべき金融犯罪の1つが「証券口座乗っ取り事件」です。本コラムでも継続的に取り上げていますが、2025年12月日付朝日新聞記事「新手の犯罪手口、「市場の番人」は異例の一手証券口座乗っ取り事件」では、証券取引等監視委員会の立場から、本事件の摘発に向けた動きをレポートされており、大変参考になりました。具体的には、「証券口座を乗っ取られる被害が急増したのは、今年の春ごろだった。乗っ取られた口座で買われていたのは、相対的に取引量が少なく、少ない売り買いでも価格が変わりやすい企業の株だ。証券市場では低位株や「ボロ株」とも呼ばれる。証券監視委が調べたところ、乗っ取り被害があったのと同じ時期に、これらの株について不審な売買を繰り返す複数の証券口座が浮かび上がった。こうした口座の洗い出しを進めると、国内にいる中国籍の男の関与が判明した。「乗っ取った目的は、低位株の相場操縦のようだ」。証券市場で価格をわざと変動させたり、固定させたりする行為は金融商品取引法の相場操縦罪(159条)で禁止されている。証券監視委は、こうした見立てをもとに調査を進めた。一方で、乗っ取られた口座で株を勝手に売買された被害額の累計は5月末時点で5千億円を超えた。証券監視委は「市場の番人」として、早期に被害を食い止め、実態を解明する必要に迫られた。ただ、相場操縦の調査では、株の売買のタイミングやその値動きを秒単位で追っていく作業が必要で、時間がかかる。そこで目をつけたのは、金融商品取引法の157条(不正行為の禁止)による調査だった。この条文は、有価証券の売買などについて、「不正の手段、計画又は技巧をすること」を禁じている。変化が激しい証券取引の世界で、想定外の新たなタイプの犯罪を禁止するための包括規定とされる。しかし、規制の範囲があいまいなことから適用例はわずかしかない。証券監視委の元職員は「157条は、使えない条文になっている」と明かす。被害が拡大するなか、中国籍の男が海外へ逃亡する懸念もあり、「迅速に着手するには157条しかなかった」(証券監視委の関係者)と決断した。証券監視委は6月下旬、「157条違反」を根拠に中国籍の男に対する強制調査に踏み切った。家宅捜索では、中国籍の男が低位株の相場操縦を目的に不正な売買注文をしていたことなどを示すデータを押収した。これが決め手となり、「157条違反」ではなく、より手口の実態に近い相場操縦の疑いで立件できると判断。先月28日に警視庁が2人を逮捕し、証券監視委はうち1人と法人1社について告発した」というものです。なお、同報道で佐々木清隆・一橋大大学院客員教授(元証券取引等監視委員会事務局長)が、「金商法では、インサイダー取引(同法166・167条)や相場操縦(同法159条)のように構成要件が明確な個別の条文を適用することが原則だ。それでも、証券取引のデジタル化が急激に進むなかで、今回のように法が想定していない手口の不正が行われるようになってきていることは間違いなく、既存の条文の適用が難しい場面がある。刑事手続きでは抑制的であることが必要だが、被害が急拡大するなかで、包括的な条文である157条を適用して調査を進展させたことは一定の意義があると言える。今後は、どういう場合に適用されるのか、一般の投資家にもわかるような基準を証券監視委が示し、発信していくことも重要だ」と指摘していますが、正に正鵠を射るものといえます。
なお、証券口座の乗っ取り事件で逮捕された中国籍の男がSNSを通じ、別の人物から株式の不正売買を指示されていたことがわかりました。捜査当局は乗っ取った口座を悪用した相場操縦のスキームを指示役が描き、男ら実行役に売買させていたとみています。東京地検特捜部は、中国籍で会社経営の林容疑者を金融商品取引法違反(相場操縦)と不正アクセス禁止法違反の罪で起訴しました。林被告が代表を務める企業「L&H」も金商法の両罰規定に基づいて起訴しています。林被告は2025年3月17日、何者かと共謀し証券会社に開設された日本人名義の10口座に不正アクセス、東証スタンダード市場に上場するウィルソン・ラーニングワールドワイドの株価を不正につり上げるため大量の買い注文を出すなどしたとされます(乗っ取られた10口座では計約1100万円の損失が出たといいます)。林被告はL社名義の証券口座から注文を出し、一連の取引で約860万円の売却益を得たとみられています。報道によれば、林被告は「L社の関係者から『数千の口座を操作できるグループがいる』として株によるもうけ話を持ち掛けられた」などと周囲に話していたといい、被告はSNSのチャットを通じ、何者かから売買する銘柄や注文価格について指示を受けていたといいます。また、別の男との間では、利益分配についてやりとりした形跡もあるといい、警視庁は複数の協力者とともに株価の不正操縦に及んだとみています。L社の口座には事件直前、別の法人などから計約5000万円の送金があり、乗っ取った口座から得た資金に加え、この資金も不正売買の原資とした可能性があり、林被告らはチャット上のやりとりを消去するよう指示も受けていたといいます。指示役の実態は現時点で判明しておらず、ある警察幹部は「海外に拠点を置く営利目的の犯罪集団ではないか。日本国内の協力者を得て相場操縦を実行した疑いがある」とみていますが、筆者も同感です(ただし、犯罪グループは複数あると考えます)。警察が今回乗っ取られた証券口座への不正アクセス元を調査したところ、国別では日本が最も多かったものの、日本からのアクセスのうち75%は別の拠点からの通信を中継したもので、発信源を仮装する狙いがあったとみられています。海外では香港警察が2025年6月、乗っ取り事件に関与したとして男女8人を逮捕、いずれも指示役である可能性は低いとみられています。金融庁によれば、証券口座乗っ取りによる不正取引は、2025年1~11月に全国で9510件確認され、勝手に売り買いされた総額は約7191億円に上りました。11月の被害件数はピークだった4月(2987件)から大幅に減って138件となりましたが、被害はなくなっていません。
欧米などは2022年3月12日、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、米ドルやユーロの国際決済システム「SWIFT(国際銀行間通信協会)」からロシアの金融機関を追放しました。SWIFTは、国境をまたいだ決済に必要な情報をやり取りするインフラで、200超の国・地域の1万1千以上の金融機関などが利用しており、海外送金における事実上の国際標準のため、排除されると米ドルでの通常の決済は基本的に出来なくなるため、「金融の核兵器」といった言葉で表現されています。国際的な貿易や金融取引の大半で使われる米ドルでの決済を止めれば、経済に致命的なダメージを与えることになると考えられていますが、ロシアに対してはその破壊力は発揮されませんでした。米ドル依存からの脱却を強制的に迫られたロシアが頼ったのが、2015年に中国が立ちあげていた人民元の国際決済システム「CIPS」です。中国との貿易などを継続できたことで、ロシアは「核兵器級」の制裁後も経済活動を維持できており、CIPSの取引額は2021年の79.6兆元から2024年には175.4兆元まで2倍以上に拡大しています。ドル制裁という「伝家の宝刀」を抜いたことが、逆に米ドル一色ではない世界を切り開き、人民元の取引量拡大を後押しした格好です。北京の外交筋は「中国が人民元の国際化を進める目的は、経済安全保障だ」と述べており、中国は、米国から「金融の核兵器」が打ち込まれた時の安全地帯を拡大するように、人民元経済圏の拡大を進めているといいます。グローバルサウス(新興・途上国)の国々も、同様の理由などから米ドル以外の代替手段も確保しようとCIPSに参加しています。
SWIFTについては、みずほ銀行や米JPモルガン・チェースなど世界17カ国の32行で、個人などの少額送金を即時に着金させる仕組みをつくる動きがあります。フィンテックが台頭するなか、決済の遅さを改善し、銀行送金の利用を増やす狙いがあります。早ければ2026年にも即時送金に向けた仕組みを導入する予定とされます。32行は顧客口座への入金作業を着金後速やかに実行する新たなルールをつくるとし、SWIFT自体のシステムなどを大きく変更しないため、早期の導入が可能になるといいます。対応時間外に到着した際に翌日の口座入金としていた銀行にも、即時入金するよう促し、24時間の対応が必要になるため、各行内で即時入金できるシステムを導入したり、担当人員を増やしたりするなどの方法が考えられます。即時決済できるようになる送金額の上限は未定ですが、1万ドル(約160万円)などを軸に検討するといい、実現すれば、個人や中小企業などが海外送金や海外からの着金をする際に支払期限に間に合わせやすくなります。SWIFTは国際送金の大半を担っていますが、送金手続きから着金には1日以上かかることが多く、送金時に複数の銀行を経由する場合があり、各国の時差に加え、着金銀行の手続きにもばらつきがあることが要因です。送り先の銀行に届いてから振込先口座に入金されるまでにも時間がかかり、SWIFT送金のうち、75%は10分以内に着金銀行に到着しますが、SWIFT送金にかかる時間のうち8割は着金銀行の手続きなどSWIFTのシステム外でかかる時間で、到着時間が着金銀行の営業時間外などの場合、入金手続きが翌日以降になることが多くなります。スイフトでの送金は、着金するまで手数料がどれだけかかるか正確にわからないのも欠点で、32行は送金前に手数料を確定し、事前にアプリなどでわかる仕組みの導入も検討しているといいます。手数料の水準自体は大きく変わらない見込みですが、国際送金を巡っては、英フィンテックのワイズが即時・低コストの決済を提供しており、ワイズの送金額は2025年4~9月で849億ポンド(約18兆円)規模になります。SWIFTは2023年にワイズと提携しましたが、利便性を増すフィンテックに対して、不便さが目立つ仕組みに危機感もあったとみられます。ブロックチェーン技術を活用するステーブルコインも普及しつつあり、法定通貨に価値を連動させる仕組みのステーブルコインは、国際送金の低コスト化や即時決済の切り札とされ、法整備が進む米国が発行で先行するほか、日本でも円建てで初となるステーブルコイン「JPYC」の発行が2025年10月に始まりました。SWIFTもステーブルコインやCBDCをブロックチェーン技術を活用して交換したり送金したりする実験を進めていますが、一般に浸透するには時間がかかる可能性があります。今回の仕組みは送金に関するルール変更のためシステムを大幅に変えずに済み、早期に導入することができるとみています。
金融機関と金融庁の間の意見交換会における主な論点について、直近の資料が公開されています。主要行等との会合で示された論点から一部紹介します。
▼金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼主要行等
- 多国間制裁監視チームによる報告書公表について(北朝鮮関連)
- 2025年10月、多国間制裁監視チーム(Multilateral Sanctions Monitoring Team、MSMT)は、「北朝鮮によるサイバー及びIT労働者の活動」をテーマに、第2回目の報告書を公表した。
- 報告書には、暗号資産窃取及びその資金洗浄や利用、IT労働者による外貨獲得並びに情報窃取を含む北朝鮮によるサイバー活動に係る具体的な情報が記載されている。
- 報告書の対象期間(2024年1月~2025年9月)に、北朝鮮は少なくとも28億米ドル相当の暗号資産を窃取した。
- 中国、ロシア、アルゼンチン、カンボジア、ベトナム、UAEを含む外国拠点の仲介者等に依存し、窃取した暗号資産を法定通貨に洗浄した。
- 軍事装備品等の販売・移転を含む調達取引にステーブルコインを使用した。
- 各金融機関においては、本報告書も参考に、引き続きサイバーセキュリティ対策、マネロン対策の強化に取り組んでいただきたい。
- (参考1)多国間制裁監視チーム(Multilateral Sanctions Monitoring Team、MSMT)
- 2024年4月に安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネルの活動が終了したことを受け、同年10月、日本を含む同志国は多国間制裁監視チーム(MSMT)を設立。参加国は、日本、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ニュージーランド、韓国、英国及び米国の11か国。
- (参考2)
▼外務省報道発表「多国間制裁監視チーム(MSMT)第2回報告書の公表」
- (参考3)報告書には、北朝鮮関係者が DMM Bitcoin から約 308 百万ドル相当の暗号資産を窃取した事案についても記載。
- サイバーセキュリティに関する取組について
- 最近のサイバー攻撃はますます深刻化しており、他業種において、業務遂行に多大な影響を及ぼすような事象も頻発している。こうした脅威は金融機関にとって決して他人事ではなく、自分事として取り組むことが重要である。
- サイバーセキュリティは、事業継続やお客様の信頼を守るために欠かせない経営課題であり、引き続き、経営レベルでの対応をお願いしたい。
- <金融業界横断的なサイバーセキュリティ演習(Delta Wall2025)>
- 金融業界全体のインシデント能力向上のため、2025 年も 10 月にサイバーセキュリティ演習(Delta Wall2025)を実施した。
- 参加金融機関においては、IT/サイバーセキュリティ担当部署だけではなく、経営層にも積極的に関与いただいた。演習に参加したことで満足せず、演習結果を活かしていただきたい。具体的には、経営者が適切な意思決定を行えたか、組織として顧客対応、業務復旧などのコンティンジェンシープランが有効であったかなどを振り返り、できなかったことを可視化し、改善するにはどうすればよいか、体制、業務プロセス、予算、人材を含めて考えていただきたい。
- <サイバーセキュリティセルフアセスメント(CSSA)>
- 先般実施したCSSAは、今回初めて「金融分野におけるサイバーセキュリティに関するガイドライン」に基づく自己評価を行った。個別結果は2025年
- 11月に各金融機関へ還元する予定で、更に詳細な分析や横断的な示唆は後日改めて共有するので、ぜひ今後の取組に活かしてほしい。
- <耐量子計算機暗号(PQC)対応>
- 金融ISACにおいて「日本の金融機関のためのPQC移行ガイド」が作成され、その中にPQC移行の具体的な移行ステップも含めた全体像が示されている。PQCへの移行は、将来の安全性確保に向けて避けられない取組であり、各金融機関において、金融ISACのガイドも参考にしながら、体制整備、システムの優先順位策定やクリプトインベントリの作成など、着実に準備を進めていただきたい。
- 口座不正利用に係る要請文のフォローアップについて
- 2025年9月、預貯金口座の不正利用等防止に向けた対策について、2024年8月の要請内容にインターネットバンキングの利用申込時及び利用限度額引き上げ時の確認等を追加する形で、改めて対策の強化を要請した。
- 金融庁では、本要請を受けた各金融機関の対応状況を確認するため、2025年11月にアンケートを発出する予定である。
- アンケートの実施は、2025年1月に続いて2回目となる。対策が完了していないものについては、対応未了の期間が続くことで、利用者や金融機関自身が口座不正利用のリスクに長期間さらされることのないよう、今後の対応計画等について、経営陣が主導して検討をお願いしたい。
- なお、アンケートの回答は集計、分析の上、フィードバックを予定している。
- フォローアップは、金融機関における不正利用対策の更なる強化・底上げをはかり、国民を詐欺等の金融犯罪から守る一助とすることを目的とするものである。各金融機関においては、御協力のほどお願いしたい。
- 「決済高度化プロジェクト」の設置
- 金融庁では、フィンテック企業や金融機関等が前例のない実証実験を行おうとする際に抱きがちな躊躇・懸念の解消につながるよう、2017年9月に「Fintech実証実験ハブ」を設置し、関連法令の解釈やコンプライアンス・監督対応上の論点整理等の面から実証実験を支援してきた。
- 足元、クロスボーダー送金の効率化やセキュリティトークンのDvP決済など、ブロックチェーン技術を活用した決済高度化の検討に国内外で進展がみられ、実証実験に移るものも現れている。技術の進展が早い分野であることから、関連法令の解釈を含め、実証実験の進め方に悩むケースが出てくることも想定される。
- こうした観点を踏まえ、2025年11月7日、決済分野に特化した「決済高度化プロジェクト」(PIP: Payment Innovation Project)を FinTech 実証実験ハブ内に立ち上げ、第1号案件として、メガバンク3行等によるステーブルコインの共同発行に係る実証実験を採択した。PIPでは、ブロックチェーン技術や関連法令、海外動向など、決済分野に深い知見を持った担当者を支援チームに重点的に配置し、個々の実証実験をサポートしていく。
- 決済高度化につながる取組をお考えの際には、PIPの御活用も御検討いただきたい。
その他、国内外におけるマネロン事案を巡る報道から、いくつか紹介します。
- 雑貨品販売会社を営む中国籍の男が、SNS型投資詐欺の被害者がだまし取られた金(日本円)と人民元を事実上両替する「円元交換」を行っていたことがわかりました。中国の会社から請け負った商品の購入費用に被害金を充て、人民元でその代金を回収していたといい、事件を捜査する福岡県警は、男らによって被害金がマネロンされ、海外の詐欺グループに流れたとみています。福岡地裁小倉支部で有罪判決を受けていますが、判決によれば、被告は2023年6月19~30日に計28回、SNS型投資詐欺の被害金計約4115万円が同社の法人口座に振り込まれた際、振り込み元を中国の取引会社名義に変更して正当な商取引と装い、犯罪収益を仮装、公判で起訴事実を認めていました。福岡県警は、2020年11月~23年9月にSNS型投資詐欺などの被害に遭った43都道府県の約450人が振り込んだ金の行方を追跡、経営実態のない「ペーパーカンパニー」など約1200の法人口座や個人口座を介し、川阪の複数の法人口座に計約33億円が集約されていることを突き止めたものです。法人口座は、一般的に1日の送金限度額が個人口座よりも高く設定され、数千万円のものもあるため、多額の入出金が繰り返されても不審な動きを見抜きにくい面があります。福岡県警幹部は「金融機関からの問い合わせを正業と主張してかわすことができ、大金も動かせる利点を悪用した手口だ」と指摘しています。判決は、銀行法違反となる円元交換は「マネロンの温床」などと指摘し、求刑通り法人としての川阪に罰金300万円、被告と同社に追徴金約4115万円を言い渡しました。犯罪収益を正当な手段で得たように見せかけるマネロンを巡っては、様々な手口が明らかになっています。警視庁は2025年10月、カンボジアを拠点とする詐欺グループトップで中国籍の男女3人を組織犯罪処罰法違反容疑などで逮捕、だまし取った金の一部を、中国人富裕層が日本で高級物件を購入する際の資金などに充て、購入者から人民元でその代金を回収してマネロンしていたとみています(本コラムでも取り上げました)。また、同庁が2月以降に逮捕した中国籍の男らは、500億円超のマネロンを請け負っており、その一部を暗号資産に替えた後に現金化、金はタイやベトナムなどの口座に送られ、両国の詐欺組織に還流されていたといいます。マネロンに詳しい早稲田大の久保田隆教授(国際金融法)は読売新聞の報道で「国際的な詐欺事件が広がる中、無免許で海外送金する『地下銀行』による資金洗浄が横行している。近年は貿易取引を装って不正の発覚を免れようとするケースも目立つ」と指摘、対策として、警察が実在しない人物名義の口座を開設して犯罪組織に渡す「架空名義口座捜査」の導入を挙げ、「捜査当局が金の出入りなど犯罪組織に関する情報収集能力を高め、指示役の摘発につなげることが重要だ」としています。
- ドイツとスイスの当局は、暗号資産ビットコインを使ってマネロンなどの違法活動に活用されていたミキシングサービス「クリプトミキサー・ドット・アイオー」を閉鎖したと発表しています。ドイツ連邦刑事庁はクリプトミキサーを閉鎖するためにフランクフルト地検、スイス当局と連携したと説明、ビットコインで最大級のミキシングサービスとなっていたクリプトミキサーが稼ぎ出した数十億ユーロの収入のうち、大半は犯罪活動によるものだったと指摘しています。連邦刑事庁は「今回の発見は今後のサイバー犯罪捜査にも寄与する」とし、欧州刑事警察機構(ユーポール)、欧州連合(EU)と米国の機関も捜査に関与したことを明らかにしています。当局はスイス国内にあったサーバーと12テラバイト超のデータ、2500万ユーロ(約2900万ドル)超相当のビットコインを押収、また「クリプトミキサー・ドット・アイオー」のドメインも没収しました。クリプトミキサーは2016年に運営が始まり、ユーロポールは通常のウェブサイトと匿名性の高いインターネット空間「ダークウェブ」の両方を通じ、ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)やマネロンなどのサイバー犯罪に使われていた疑いがあると発表しました。
- ドイツの銀行で起きた金庫破り事件で、被害額が当初の見積もりを大幅に上回り、1億ユーロ(約180億円)超に上る可能性があると地元メディアが報じています。犯行グループは2025年末のクリスマス休暇中、銀行支店の金庫室に侵入し、貸金庫3250個の中身をほぼ全て空にし、貸金庫利用者の多くは「結婚祝い金」を保管していたと申告していますが、一部の金庫には出どころの疑わしい金品があり、捜査員の間では組織犯罪の収益などが含まれていたのではないかとの見方も浮上しているといいます。犯行グループのメンバーは依然逃走中で、警察は防犯カメラが捉えた覆面姿の不審者や、メンバーが移動に使ったとみられる車両2台の映像を公開し、情報提供を求めています。
(2)特殊詐欺を巡る動向
前回の本コラム(暴排トピックス2025年12月号)で取り上げましたが、アジア最大級の国際詐欺組織とされるカンボジアの華人系企業「プリンス・ホールディング・グループ(HDG)」のチェン・ジー(中国名・陳志)会長が、中国政府からの要請でカンボジアの捜査当局に拘束されました(同氏のカンボジア国籍も取り消されました)。会長の身柄は、航空機で中国に移送されています。会長は、大規模な投資詐欺やマネロンなど国際的な犯罪に関与したとして米国が訴追していました。報道によれば、同国を訪れた中国の捜査当局者らが会長を移送、中国で詐欺関連の容疑がかけられているとの情報もあります。プリンスHDGはカンボジアの首都プノンペンに本社を置き、2015年ごろ創業、不動産開発を足がかりに、ホテルやカジノ、銀行などを傘下に抱える国内有数のコングロマリット(複合企業)へと急成長、チェン会長は中国出身の38歳とされ、フン・セン前首相の私設顧問を務めるなど、カンボジア政界にも影響力を広げていたといいます。プリンスHDGの関連会社は日本にも進出し、チェン氏も東京都内に邸宅を確保していたといいます(2023年には、国際交流促進や企業進出支援を行う一般社団法人「日本カンボジア協会」の法人会員となり、両国の「友好70周年記念行事」にも協賛、協会によれば、制裁後に協会は同社の参加資格を解除し、同社からの退会届を受理したといいます)。また、中国の情報機関とも近い関係にあったと指摘されています。英紙タイムズは内部告発者の話として、チェン氏の純資産が600億ドル(約9兆4000億円)に上ると報じており、カンボジアでは、中国が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」の下で都市建設や観光開発を進めた結果、中国から企業や資金とともに犯罪組織も流入したとされます。2025年10月、米司法省が同会長を訴追、米財務省も同会長を制裁リスト(OFAC SDNリスト)に追加、同社が保有していた150億ドル(約2兆3千億円)相当のビットコインを没収する手続きを始めたと発表していました。米財務省によれば、プリンスHDGは表のビジネスの裏で、「もっとも悪名高い詐欺拠点の一つ」(米財務省)であるカジノ複合施設を運営、カンボジアで少なくとも10の巨大な専用拠点を設け、高額報酬のダミー求人で勧誘するなど、人身売買などで集められた人々を監禁・暴行し、強制的に各国の人々をオンライン詐欺や違法オンラインカジノなどに関わらせていたとされます。詐欺被害は米国を含む世界各地に及んでいました。国連薬物犯罪事務所(UNODC)によれば、こうした詐欺にかかわる人は東南アジアを中心に50万人以上と推定されているほか、米政府は2024年に東南アジア発の詐欺行為で100億ドル(約1兆5千億円)の被害があったと推計しています。なお、直近ではカンボジア国立銀行(中央銀行)は、プリンスHDG傘下の銀行について、清算手続きに入ったと発表しています。預金者は通常通りに預金を引き出せるとしています。プリンスHDGの中核企業の一つであるプリンス銀行が清算手続きに入り、カンボジアの監査法人モリソンカクMKAが清算人に任命されました。米国による制裁が公表された直後はプリンス銀行で取り付け騒ぎが起きていると報じられましたが、同行は「十分な流動性があり、預金は守られている」とする声明文を発表し、事態の沈静化を図っていました。さらに、ミャンマー軍事政権がタイとの国境付近にある特殊詐欺拠点の解体を急いでいるとの報道もあります。特殊詐欺の取り締まりに悩む中国など近隣諸国との結束強化にもつながっているといいます。軍政が掃討作戦で力を入れるのが、東部カイン州ミャワディ近郊にある特殊詐欺の大型拠点「KKパーク」と「シュエコッコで、この地域は2025年に入って詐欺グループに監禁された中国人俳優や日本人の高校生が保護されるなど国際的に注目されました。ミャンマーでは中国やタイとの国境地帯に特殊詐欺拠点が集積、2021年のクーデター後の混乱に乗じて、主に中国系の犯罪集団と地元軍閥勢力が結びつき、自国民の被害を重く見た中国とタイの圧力で、2025年2月ごろから取り締まりが進んでいましたが、ここにきて軍政が建物の破壊など強硬手段に出たのは、米国がミャンマー周辺の特殊詐欺対策に乗り出したためです(国内統治への圧力だと受け止められているといいます)。さらに、ミャンマーでは2026年1月後半にかけて総選挙が行われており、国境地帯の少数民族武装勢力が国軍に押され気味な状況で、軍政は特殊詐欺拠点の掃討を国内でも統治能力の誇示に生かす狙いもあるようです。
東南アジア諸国を拠点とする組織的詐欺が深刻化していることを受け、警察庁は、アジアや欧米など14カ国が集まる国際会議を東京都内で開きました。同庁の楠芳伸長官は「犯罪組織はサイバー空間の匿名性を悪用し、世界中の人々をだまして巨額の犯罪収益を得ている。手を携えて立ち向かわなければいけない」と呼びかけました。国際刑事警察機構(ICPO)などの国際機関も参加、各国が被害状況や対策、摘発事例などを発表、課題を共有し、取り締まりに向けた連携強化を図っています。警察庁は東南アジアの犯行拠点から、国際電話サービスやSNSを悪用した詐欺が行われ、日本だけでなくアジアや欧米でも被害が出ているとみています。日本では2024年以降、カンボジアやフィリピン、タイなどの捜査機関と協力し、犯行拠点を摘発、特殊詐欺に関与した疑いなどで送還された邦人を逮捕しています。
関連して、「闇バイト」を募集するXの投稿をAIで自動収集し、分析する仕組みを警視庁が導入しています。2025年8~11月、この仕組みを使って闇バイト募集の恐れがあると評価した投稿は約1万8500件あり、これらに警告文を送ったといいます。今後、対象とするSNSを広げることも検討するとしています。サイバー犯罪対策課によれば、新たな仕組みでは、闇バイト募集に使われる「ホワイト案件」「即日即金」などの隠語や言い回しを学習したAIで、Xの投稿を自動的に分析、その後、警察官が投稿内容を実際に確認し「全てを失うとしてもやりますか?」「犯人は捕まる運命」などと訴える警告文を送るものです。闇バイトによる犯罪が多発していることを受け、2025年7月末にAIによる自動収集を導入、それまで、警告文の送信件数は1日あたり約25件だったところ、約6倍の約150件まで増えたといいます。警察庁によれば、警告を出す取り組みについては、警察庁のほか32都道府県が実施していおり(2025年6月末時点)、警察庁と福井、兵庫両県警がAIを使っているということです。
総務省は携帯大手4社に不審メールの検知精度を高めるよう求めています。メール本文など「通信の秘密」を含む情報を外部のセキュリティ企業に提供するよう事実上要請、利用者の同意などを前提に4社は応じる見通しです。証券口座の乗っ取りといった被害を防ぐ狙いがあります。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルが自社で提供するキャリアメールに対応、総務省は事業者の要請をふまえ、通信の秘密を含む情報の第三者提供について憲法や電気通信事業法に基づく考え方を明確にし、利用者への説明や同意取得、規約への明記といった対応をとれば、法的な問題はないと示しました。4社はセキュリティ企業に提供する情報の種類を増やす方針で、不審メールの本文の提供を想定し、利用者が手動で迷惑メールに分類した記録、宛先を含むヘッダーと呼ぶ情報の提供も視野に検討しています。利用者への説明や同意を得る手法も詰めるほか、AIによる解析にも取り組むこととし、総務省は2025年9月、携帯4社やインターネット関連会社が加盟する4つの業界団体に迷惑メール対策の強化を要請し、2026年8月末まで3カ月ごとに取り組み状況の報告も求めています。生成AIを使った巧妙なフィッシングメールの検知精度の向上や、送信元などをなりすますメールを防ぐ「DMARC(ディーマーク)」と呼ばれる技術の導入といった対策を促しています。米巨大IT企業はメールサービスで自社開発の生成AIを使い、迷惑メールなどを解析し、精度の高い検知を実現している一方、日本の携帯大手は独ホーネットセキュリティといった外部の検知サービスを使う例が多いといいます。日本人を狙う不審メールは2025年以降、急増しており、検知の精度で劣る日本のキャリアメールは標的になりやすいとの懸念があります。(以前の本コラムでも取り上げましたが)日本プルーフポイントによれば、2025年7月に全世界で観測した新種の不審メールは過去最多の約8億5240万通、日本を標的にしたとみられるメールは同10月に80.7%を占めています。2024年は日本向けは全体の21%ほど、2023年も4.3%程度だったことから、AIによって言語の障壁が失われ、日本への攻撃が容易になったことが指摘されています。攻撃を仕掛ける側は日本企業の知的財産を狙い、日本人の個人情報は高値で不正に取引されていることが背景にあります。
テレビ高知の記事「【実録・詐欺犯VS警察官】詐欺電話を受けたのは“本物の警察官”「信号検査・逮捕令状・強制捜査」次々に出る専門用語…人々が騙される巧妙な手口を公開」は、警察官と知らずだまそうとする犯罪グループとのリアルなやりとりが大変興味深い内容でした。TBS NEWS DIGが2025年12月29日に配信していますので、是非すべてを読んでいただきたいです(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2374303?display=1)。一部抜粋すると、「犯人は、相手がまさか本物の警察官(以下、Aさん)であるとは露知らず、「大阪府警」を名乗り、電話をかけてきました。着信番号は「+1から始まり、末尾が0110」Aさんはこの時点で違和感を感じます。「ワ81334」という事件番号や、「8000万円の不正取引」という具体的な数字を提示。被害者の不安をあおり、思考を停止させようという狙いとみられます」、「次に犯人が持ち出したのは「信号検査」と「金融リストの作成」という言葉でした。犯人は、スマホの通信記録を調べることが「身の潔白」を証明する唯一の手段であると強調します。プロの警察官を相手に、堂々と架空の捜査を説明するこの図太さは、彼らがいかに徹底したマニュアル教育を受けているかを物語っています」、「2つの検査で疑いが晴れなかった場合について、犯人は「強制捜査」という言葉を持ち出します。さらに「大阪地検の〇〇検事」という名前を出し、法的措置をちらつかせてAさんを脅しにかかります。警察官であれば、逮捕状の請求には厳格な要件が必要であることを知っていますが、犯人もまた「逃走や証拠隠滅の恐れがあれば逮捕令状が出る」と、法知識を悪用して圧力をかけます」、「詐欺師の次の狙いは、アプリをインストールさせること。Aさんが「アプリは使いたくない」と難色を示すと、犯人は「ブロック機能があるから大丈夫だ」「私がサポートする」と親身な捜査官を演じます」、「Aさんが「地元の警察に相談したい」と切り出すと、犯人は露骨に拒絶反応を示します。これは詐欺師が最も恐れる「第三者の介入」を防ぐための典型的な防衛策です。犯人は「大阪府警と高知県警は連携していない」「守秘義務があるから家族にも言うな」と強く話します」といったやりとりが具体的に続き、「一連のやりとりからは、犯人が執拗で、それらしい嘘をつく、という現実が、見て取れます」と指摘しています。なお、記事の最後には「特殊詐欺「見破り」チェックリスト」が記載されており、こちらも大変参考になるため、以下、紹介します。
- 国際電話番号(+1、+61など)かつ末尾が0110は詐欺だと疑う
- 今回の警察官への詐欺電話も、国際電話番号(+1から始まる)で末尾が0110でした。末尾の0110は、実際に全国の警察署で使用されている番号です。オレオレ詐欺にあうきっかけのほとんどが電話で、中でも半数以上が国際電話です。
- 警察はアプリの導入を求めない
- 「信号検査」や「金融リスト」のためにLINEなどを入れろと言う警察官は存在しません。
- 「守秘義務」での口止め
- 他の警察署や家族への相談を禁じるのは、詐欺だとバレるのを防ぐための最大の嘘です。
- 「逮捕」という脅し
- 電話1本で逮捕状をちらつかせて捜査協力を迫ることは、本物の警察の捜査ではありえません。
- 対面を拒否する
- 「調べ室が空いていない」などと言って来署を拒むのは、詐欺師だからです。
- 長時間にわたる電話
- 不安をあおり冷静さを失わせるために、詐欺師は長時間に及ぶ電話をするケースが多いということです。
- 少しでも不審に思ったら
- 相手の所属と氏名を控え、一度電話を切りましょう。その後、警察専用相談電話「#9110」に電話をするようにしてください。
2025年12月3日付朝日新聞の記事「なぜだまされるのか 特殊詐欺の被害が過去最悪 東北大院教授に聞く」も大変参考になりました。荒井崇史・東北大大学院教授は、「実際は同じ長さの線が、矢印の向きによって違う長さに感じられたり、周囲にあるものによって同じ色を違う色と認識したり、という経験をしたことがある方も多いと思います。このような、現実と知覚される世界のずれを、心理学では錯覚といいます。錯覚は、脳が情報を補正したり、加工したりするために起こります」「これを『脳が私たちを、感覚のレベルでだましている』ととらえれば、私たちは、既に生きているだけで自分自身にだまされているわけです。自分自身の脳にだまされることがある、というのは私たちの避けられない特徴であり、人間は必ずしも完全な生き物ではない、ということです。このため、真実ではないことを、本当だと思い込むことも起こりえるのです。仮に私たちが完全な生き物なら、詐欺などは起こりえないわけです」「では、私たちが詐欺にだまされるメカニズムはどのようなものなのか、心理学で提唱される防護動機理論の観点から考えてみましょう。この理論は、『脅威判断』と『対処行動の有効性と実行可能性判断』の二つのプロセスを経て、人々が危険から身を守るための行動をどの程度起こすかを決定づける心理モデルです。この理論によれば、『脅威がある』と判断し、『対処行動をとる自信がある』と判断されれば、自己防衛的な行動の動機(防護動機)が強まり、行動が起こりやすくなると考えます」「特殊詐欺の犯人は、この心理を巧みに使用します。例えば、加害者が電話をかける場合、『あなたが捜査対象になっている』などと言って脅威の判断を高めた上で、それから『一定の額を支払えば、逮捕から逃れられる』と対処行動を示すのです。このように、脅威や不安を喚起した後に対処行動として安心を与えると、人間はそれに従って行動してしまう傾向があるのです」「よくある悪徳商法も一緒です。『あなたに悪い霊がついている。このままでは家族もろとも呪われる』などと不安をあおり、除霊として高価なつぼやお札を買わせる。これらも人間の不安や安心をうまく操作して、行動を引き出そうとする手口です。特殊詐欺も、基本的にはこれらと一緒です。不安を喚起させて、『どうしよう、どうしよう』となっているところで、『じゃあ100万円、とにかく振り込んでくれたら大丈夫ですから』と安心を与え、行動をさせようとしているということです」 (冷静な判断ができなくなるのは)「私たちが日常生活の中で意思決定をするときに、二つの情報処理をしていると言われます。簡単に言えば、直感での処理(ヒューリスティック処理)と、様々なことを体系的に吟味する処理(システマティック処理)です」 「例えば、コンビニでおにぎりを選ぶとき、10分も悩んで買わないですね。『今日は梅でいいか』ぐらいで買う。これが直感による処理です。一方、仕事では体系的に吟味するシステマティック処理をすることが多いと思います。詐欺の電話がかかってきたときにも、『本当だろうか』『いつまでに誰かに相談しなきゃいけないな』などとシステマティック処理をすることができれば、詐欺にひっかかる可能性はぐっと減ります。つまり、様々な点を体系的に吟味するシステマティック処理は、詐欺犯の言動のおかしな点や違和感に気づきやすくしてくれるのです」「加害者はこの点を十分に理解していますから、被害者にシステマティック処理をさせないために、不安にさせたり、時間的な制限を設けたりして相手をパニックにして、直感の判断に誘導しようとします。例えば、警察官をかたる詐欺では、本物の警察官に似せた加害者が『とにかく、すぐ行動しなきゃいけない』というような雰囲気を作り、相手を焦らせるだけ焦らせ、よく考える機会を奪うように仕向けているわけです」(どうしたら防げるか)「だましに乗らないためには、とにかく時間をかけて、冷静になることが重要です。特殊詐欺の加害者は、被害者を不安にさせ、行動させようとします。まずは、この流れに乗らないことが重要です。不安で焦ったままだと、通常ではしないような誤った判断をしてしまいます。だからこそ、一度、問題と距離を置いてクールダウンしましょう」「そのためには、例えば、留守番電話機能や迷惑電話防止機能を設定すると、こうした連絡から距離をとることができます。また、おかしな電話がかかってきたときに、家族や友人、警察などの公的機関に相談することも、不安やパニック状態から抜け出すために有効であると考えられます」「他方、銀行など金融機関の窓口で被害を防止することも重要です。このような窓口では、多くの場合、被害者はかかってきた電話や通知を『この話は本当に違いない』と心の底から思っています。ですから、最初から『これは詐欺ですよ』と相手を否定するような反応をしたり、無理に相手を説得しようとしたりしない方がよいでしょう。まずは、被害者の話を聞き、相手の世界を理解していくことが必要です。話を聞くことで、冷静になる時間を得ることができます」「また、人間は話をよく聞いてくれる相手の話は、聞こうとするものです。何かを受け取ると、お返しをしたくなる気持ちを心理学で『返報性の原理』といいます。詐欺だと思っていない人に、いきなり『それ詐欺だよ』と言ってしまうと、相手を否定することにつながります。否定されると、拒みたくなるものです」「自分でできる対策としては、海外からの番号はもちろん、知らない番号の電話には出ない、知らない相手からのメールは開かないことは、比較的コストが少ない対策ではないでしょうか。また、特殊詐欺の言葉を知っていても、具体的な内容を知らない方も意外と多いです。具体的な手口の知識を持つことで、いざ電話があったときに『これは詐欺かもしれない』という気づきにつながるように思います」「昨今では、金融機関の窓口に提示するための偽の契約書の画像を加害者が用意し、被害者に窓口で提示するように仕向けるなど、詐欺のシナリオは細部がつくりこまれ、巧妙になっています。ただ、不安をあおり、安心を与えることによって行動を誘導するという手口は、根本的にはあまり変わっていません。一人で焦って判断せず、何かあれば周りの人に気軽に話せる日頃からのコミュニケーションが大事です」「警察にも、気軽に相談できる#9110などの相談用の番号もあります。こうした相談先を知っていることも、困ったときには意外と助けになります。周りの人々にも、ぜひお知らせください」といった解説がなされていますが、筆者がこれまで取り上げている「だまされるメカニズム」への理解と、それに基づいた対処策が、大変わかりやすく、体系的に説明されており、多くの人や金融機関の職員などに確認してほしいと強く思います。
特殊詐欺の犯行の具体的な手口がより明らかになっているほか、新たな手口も登場しています。また、以前からみられる手口があらためて流行することも確認されています。最近の報道からいくつか紹介します。
- 闇バイトの具体的なリクルートなどの手口も明らかになってきています。岐阜市の80代男性からキャッシュカード6枚をだまし取ったとして、福岡県警がフィリピンを拠点にする犯罪組織「JPドラゴン」メンバーら6人を窃盗容疑で再逮捕した事例では、グループのメンバーがSNSに「#高額収入」「#交通費支給」「#闇バイト」といったキーワードをつけて募集を投稿、応募者から住所や氏名、親の職業や闇バイトの経験有無を聞き出し、身分証を持った写真を送らせていました。秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」の通話機能を使い「面接」を実施、自宅に入る様子をビデオ通話で映させ、正しい住所かどうか確認していたといいます。応募者に逃げられなくするためだと考えられます。このグループは、電話で警察官を名乗って「口座が不正利用されている」と告げ、被害者に暗証番号のメモとキャッシュカードを封筒に入れて準備させていたとされ、受け子が自宅を訪ね、被害者のすきを見て封筒をすり替えてカードを盗む手口ですが、受け子役には、キャッシュカードとすり替えるためにトランプを用意させることもあったといいます。さらに、テレグラムのグループチャットでは「業務の進行状況」を共有し、組織の幹部も閲覧していたといい、仕事ぶりを監視する目的があったとみられています。
- 2025年12月22日付毎日新聞の記事「偽刑事に送り続けた自撮り写真若手SEを追い込んだ巧みな手口」も大変参考になりました。「その「刑事」だけが味方になってくれると感じた。逮捕される不安で涙した自分を励ましてくれた。だから信じて、大金を預けた。言われるままに自撮り写真を送り続けた。捕まりたくない一心だったが、相手は実は詐欺犯だった。若い世代が偽の警察官に現金をだまし取られる事件が急増している。電話で詐欺被害に遭うのは、高齢者だけではない。700万円を失った30代の男性を取材すると、若者もだまされる巧妙な心理テクニックが見えてきた」として、「1時間ほどの取り調べの後、織田の高圧的な態度が若干緩んだ気がした。「あなたは、本当に犯罪に巻き込まれただけの可能性がある」そして、本来より短期間で捜査を終わらせることができるかもしれないと水を向けてきた。ただし、三つの条件を守るよう要求した。事件について他人に話さない、定期的に行動を報告する、インターネットを使わない。中山さんは「早く解放されたい」と思い、迷わず同意した。そこから、自宅での異様な生活が始まった。指示された通り、起床から就寝まで1時間ごとに自撮り写真を送って行動を報告した」、「孤独な生活の中で、恐怖にさいなまれた。そんな中山さんに、織田は電話やアプリのメッセージで励ましてくれた」、「外出できず、会話できる相手は織田だけ。味方になってくれる人がいると思うと、不安が少し和らいだ。会話中に涙を流してしまうこともあった」、「6日目になると織田と連絡が取れなくなり、メッセージもブロックされた。群馬県警に電話をかけ、だまされたことに気づいた。振り返ると、織田の話し方が警官にしては幼いように感じることもあった。だが、そんな違和感は「自分の個人情報が悪用されている」「逮捕されて、長期間勾留されるかもしれない」という大きな恐怖にかき消され、強く疑うことはなかった」、「詐欺事件の被害者心理に詳しい日本大学の木村敦教授(社会心理学)によると、今回の詐欺グループは巧みな言葉で中山さんを動揺させていた。そして、次々と取るべき行動を指示することで「詐欺かもしれない」という疑念から注意をそらせているという。「相手が味方でいてくれるから、自分も言われた通りにする」という関係性を構築しており、「何日間もだまし続けたテクニックは非常に巧妙だ。お金の話が出ても詐欺だと見破るのは難しかっただろう」詐欺集団は練り上げたマニュアルを用意し、メンバーを訓練していると推測する」、「警察庁によると、警察官をかたる手口は2024年秋ごろから増え始め、25年上半期の認知件数は4737件と特殊詐欺全体の3割以上を占める。被害者の年代は30代が最多で、20代が続く。被害総額は389億円に上る。従来の特殊詐欺は固定電話への着信が多く、高齢者が被害に遭う割合が高かった。若い世代の被害が拡大しているのは、携帯電話にかけてくることが多く、偽警官は世代を問わずだまされやすい手口でもあることが背景にあるという」、「誰でもだまされる可能性がある。若い世代も自分が狙われていると自覚し、詐欺の手口に関する最新の知識を入手していく姿勢が大事だ」と指摘しています。
- 警察官をかたる特殊詐欺事件で被害者が金銭をだまし取られるだけでなく、捜査協力を持ちかけられ「受け子」など実行役として事件に加担させられる事例が相次いでいます。逮捕をほのめかして不安をあおり、複数回にわたりだます新たな手口とみられ、警察は「捜査対象になっていると電話で伝えることはない」と注意を呼びかけています。警察庁によれば、ニセ警察詐欺の被害者は30代以下の若年層が目立ち、2025年1~11月末までの間に全国で特殊詐欺の実行役として摘発された人物のうち、自身が被害者でもあった者は51人に上ったといいます。捜査幹部は「詐欺グループは金銭を取れる人から取り、その上で『駒』として利用する。相手をマインドコントロールし、あらゆる手で財産を奪い取ろうと画策している」と警戒を強めています。報道で立正大学の西田公昭教授(社会心理学)が「メディアや警察が注意を呼びかけるが、自らが知りたいことをネット検索して知ろうとすることが多い若年層に十分に届いていない」、「学校教育の場で詐欺防止の体験型学習を取り入れるなど、自身も被害者になりうることを周知する必要がある」と指摘していましたが、筆者も正に同感です。なお、以前の本コラムでも取り上げましたが、電話などで警察官を装う手口を巡っては、受け手側が性的被害に遭う事態も確認されています。東京都在住の30代女性は2025年夏、警察官をかたる人物から金銭をだまし取られる被害にあったのち、SNSのビデオ通話で「逮捕した犯人があなたの胸元にタトゥーがあると言っている。確認したい」などと言われ、裸の状態を撮影されるなど性的な被害を受けたといいます。警察庁によれば、警察官を装う電話などによる性的な被害は2025年1~9月の間に全国で計157件に上り、6月末まで(48件)から大幅に被害が拡大、20~30代が被害者の約8割を占めるといいます。詐欺グループが裸の状態を撮影したうえで「拡散されたくなければ」「動画を消してほしかったら」などと告げ、さらに金銭を要求するケースもあるといいます。
- 「ロマンス詐欺」の被害者から加害者になるといった構図とみられる事件が横浜市で起きました。神奈川県警に逮捕された女性は、会ったことのない「男性軍人」から頼まれて自分の銀行口座を提供し、その後、現金の受け取り役になったとみられています。調べに対し「詐欺だと分かっていたが、指示役が好きだった」と話しているといいます。容疑者は「米国の男性軍人」をかたる人物とSNSでやり取りをし、恋愛感情を抱き、この人物から「日本に行きたい」などと言葉巧みに迫られたといいます。さらに、容疑者の口座は他の詐欺事件でも使われていたことが、他県警の捜査で確認されています。
- うその投資話に誘導し金銭をだまし取る「SNS型投資詐欺」で、2025年に入ってユーチューブで流れる偽の広告から被害に遭うケースが急増しています。2024年の被害は49件だったところ、2025年は10月だけで159件に上りました。2024年はフェイスブックなどの広告が多く、警察庁は「広告が出る媒体がシフトしている可能性がある」とみており、注意を呼びかけています。警察庁によれば、被害の入り口となったバナーなどの広告は、2025年1~10月はユーチューブが751件で最も多く、全体の27.0%を占めました。2024年同期は1.6%で、被害額も2025年10月末時点で約117億円にのぼり、2024年同期の18倍になっています。投資詐欺では、こうした広告から投資のポイントなどを解説するとして著名人を装ったLINEアカウントへ誘導する手口が多い。被害者はLINEでうその投資話をされて信用し、指定された口座に金銭を振り込んでしまうといいます。警察庁はXの公式アカウントで、広告に勝手に名前を使われた経済アナリストの森永康平さんらによる注意喚起を「ホンモノからのメッセージ」として発信、森永さんは「私がLINEを通じて投資の話をすることはありません」とコメントしています。
- 資産運用や金融商品などに関する投資関連サイトが被害の入り口になるケースが相次いでいますが、その背景には、投資熱の高まりがあるとみられています。警察庁によれば、SNS型投資詐欺の被害は2023年に2271件(総額約278億円)だったところ、2025年は11月までで8217件(同約1071億円)と4倍近くに急増しています。今年の被害の入り口となった接触手段を見ると、インスタグラム1677件(20.4%)、LINE1058件(12.9%)、ユーチューブ1040件(12.7%)の順に多く、投資関連サイトは4番目の908件(11.1%)でした。投資関連サイトがきっかけの被害は同4月に58件だったところ、次第に増え、10月は2倍超の144件に上り、11月も95件ありました。接触後にLINEに誘導されるケースがSNS型投資詐欺全体の約9割を占め、詐欺対策サービスを提供するIT会社「トビラシステムズ」によれば、投資初心者に関心を持たせるために元本保証や高配当をうたうほか、インターネット広告を使って投資サイトなどに誘導するケースが多いといい、同社は「LINEのグループチャットのような閉鎖的な状況で話を進めて『他の人もやっているから大丈夫』と思い込ませ、周囲に相談させないようにするのが詐欺グループの狙いだ」と指摘、「面識のない人からお金の話が出た時点で、すぐに詐欺を疑うべきだ」と話しています。
▼金融庁 SNSを利用した投資詐欺の手法について
- 金融庁では「SNS上の投資詐欺が疑われる広告等に関する情報受付窓口」を設置し、投資詐欺を目的とするようなSNS上の投資広告や投稿等について情報収集を行っています。こうした情報の中には以下のように、類似した事例に関して複数の情報が寄せられているものがあります。
- 以下のいずれかに該当する又は類似している場合には投資詐欺である可能性が高く、 入金したお金が戻ってこないといった被害も確認されています。こうした事例を見かけた場合には関わり合いにならず、「SNS上の投資詐欺が疑われる広告等に関する情報受付窓口」や金融庁金融サービス利用者相談室、または証券取引等監視委員会情報提供窓口に情報をお寄せ頂くとともに、最寄りの警察署にご相談ください。
- ※以下に該当するものすべてが投資詐欺であることを示すものではありません。また、すべての投資詐欺の手法を網羅するものでもありません。
- 動画投稿サイトの広告等からSNSのクローズドチャットへ誘導され、投資への勧誘が行われる事例
- 誘導された先のアカウント名に「◯◯証券」、「◯◯運用会社」や「◯◯投資クラブ」といった名称のほか著名人の名称や画像が使われている。
- グループチャット内にいわゆるサクラがいる。
- 情報交換や勉強会などから始まり、その後、虚偽の成功談をもとに投資話を持ち掛ける。架空の口座で取引させ、しばらくは利益が出て出金もできるかのように装いながら、追加で高額な入金をさせる。
- AI診断を謳い文句に誘導され、投資への勧誘が行われる事例
- AI診断を謳い文句にウェブサイトへ誘い込み、分析レポートを配信すると偽ってSNSへ誘導し、投資話を持ち掛ける。
- 国内に登録のない海外FX業者をSNS上で紹介している事例
- 無登録の海外FX業者(無登録業者として当局が警告を行っているものを含む)を紹介している。
- キャッシュバックキャンペーンなどの特典を強調している。
- 金融商品取引業者を騙っている事例
- 既存の金商業者の名称やそれらしい名称を用いて信用させて投資を促し、特定の口座に入金を要求してくる。
- 金融商品取引業者の登録番号を詐称している。
- 既存の金融商品取引業者に似せた偽物のウェブサイトへ誘導してくる。
- 高速取引行為者(HFT業者)を騙っている事例
- 高速取引行為者は投資勧誘を行うことができないにもかかわらず、実在の高速取引行為者の名称を騙ってIPO銘柄の取引勧誘を行っている。
- 政府公認の投資プログラムを騙るサイトから誘導する事例
- 政府要人や著名人の画像を利用したフェイクニュースを作成し、特定の投資プログラムへの投資を呼び掛けている。
- 「政府公認」、「金融庁の免許がある」などと偽り、あたかも政府・行政機関が個社との取引を推奨しているかのように装って勧誘を行っている。
- 特典や褒賞などをきっかけに投資へ誘い込む事例
- 預入金額に応じたキックバックを行うなどの特典を掲げて入金させようとする。
- 架空の企画(暗号資産業界で最も影響力のある人物グランプリなど)で投票を依頼 し、候補者が上位入賞したように見せかけ、その見返りとして架空口座に褒賞金を支払ったように装うと同時に、暗号資産取引のためとして追加資金を入金させようとする。
- 特別待遇されているものと思わせ、投機心や射幸心を煽ることで投資へ誘い込む事例
- プロ投資家向けの口座など、選ばれた人だけの口座が特別に利用できると謳って勧誘を行う。
- プロ投資家向けの運用手法を特別に提供すると偽る。
- 無料で注目株や利益確定銘柄の情報を提供すると偽る。
- 新規公開株式(IPO)等について、身に覚えのない応募枠に当選したとして入金させる。又は、特別な応募枠があると誘い興味を持たせ、過剰な数の応募をさせた上ですべて当選したと偽り、支払い義務があるとして資金を入金させる。
- 動画投稿サイトの広告等からSNSのクローズドチャットへ誘導され、投資への勧誘が行われる事例
- ※以下に該当するものすべてが投資詐欺であることを示すものではありません。また、すべての投資詐欺の手法を網羅するものでもありません。
- 実在する企業の社長をかたって社員らにメールを送り、「業務に必要」などと資金を送らせだまし取る手口(いわゆるビジネスメール詐欺)の詐欺が発生しています。被害額は計1億円超に上るといい、業務命令を装い送金させるため、被害が高額になる恐れがあり、警視庁の匿名・流動型犯罪グループ対策本部が警戒を呼びかけています。新たな手口の詐欺メールは2025年12月中旬以降、都内で18件確認され、うち4件では実際に被害が発生したといいます。北海道など都外でも同様のメールが確認されています。詐欺メールは送信者として社長本人の氏名を記載、内容は「プロジェクトに対応するため」「取引相手の振込先情報を送るから振り込んで」などと、業務関連の連絡を装うケースが多く、メールを受けた社員にLINEのグループを作らせて容疑者側を招待させたうえ、グループ内で送金を指示する特徴があります。社員が実際にLINEグループを作ると、「口座残高のスクリーンショットを送るように」「取引先への支払いがある」などのメッセージが届き、口座に送金を指示されるといいます。詐欺メールが確認された各社もホームページで「当社から個別にグループ作成や参加を依頼することはない」などと注意喚起しています。警視庁幹部は「社内での情報共有や、社長・上司などへの確認を徹底してほしい」としています。独立行政法人・情報処理推進機構によれば、2025年12月16日~2026年1月8日に全国で計54件の相談があり、LINEに移行させるのは、メールだと企業のセキュリティが厳しいためだと考えられるといいます。同様の手口の被害は、各地で起きており、同機構の担当者は「いつもと違う方法で送金を求められた場合などには、送信元に電話などで確認してほしい」と話しています。
- 金融機関をかたる電話で企業の口座情報を盗む「ボイスフィッシング」の被害が再び急増しています。2025年3月に多発していったん沈静化しましたが、同11月以降に50社以上がだまされ、口座からの不正送金被害は20億円を超えるといいます。犯罪グループは対策が広がらなければ似た手口を繰り返し使う場合があり、社内での注意喚起が重要になります。福岡銀行には2025年11月27日、複数の取引先企業から「福岡銀行を名乗る不審な電話があった」と連絡があり、電話からは自動音声が流れ、案内に従って番号を押すとオペレーター役とつながり、オペレーターは電話を受けた担当者のメールアドレスを要求、送られてきたメールに記載されたURL先は福岡銀行の正規サイトと酷似していましたが、法人口座の認証情報を盗み出す偽サイトと判明、「ボイスフィッシング」と呼ばれるサイバー攻撃とみられています。偽サイトに認証情報を入力してしまった企業は6社あり、インターネットバンキングを通じて計7880万円が外部の口座へ不正送金されました。福岡銀行をかたる不審な電話は同じ日に集中し、その後は確認されていないといい、福岡銀行は被害を受け、メールやホームページ、文書の郵送で取引先へ注意喚起しています。ボイスフィッシングはフィッシングに音声を組み合わせる手口で、2024年秋ごろから国内で事例が増え、2025年3月の被害額は14億8千万円となり2025年に入り月間で最多となりましたが、その後被害は減少して5月以降は確認されていませんでしたが、11月に入り再燃、警察庁によれば、すでに50社以上で22億円超が不正送金されたとみられています。巧妙な手口も判明、各銀行は取引先へ電子証明書を発行し、ネットバンキングで使うパソコンにインストールしてもらう対策を講じており、システムにログインできるパソコンを限定し、不正送金を防ぐ狙いがありますが、ボイスフィッシングでは、電子証明書の設定を解除するよう電話で誘導された事例が確認され、解除されると、攻撃者側のパソコンでも送金操作が可能になるため注意が必要です。警察庁や金融庁は「銀行から電話があれば営業店・代表電話に折り返し本物か確認する」「ネットバンキングは公式サイトやアプリからアクセスする」といった対策の徹底を民間企業へ呼びかけています。専門家は、対策が手薄な企業を狙うため、詐称する金融機関を攻撃者側が次々と変えており、「中小企業では送金手続きを担当者1人で担うケースも多いが、高額送金では複数の社員によるチェックが欠かせない。社内での手口の啓発や送金限度額の設定、不審電話の遮断といった対策も重要になる」と指摘、正にその通りだと思います。警察庁によると、インターネットバンキングの不正送金被害は2025年1~6月に42億2000万円に上り、過去最悪ペースで推移しています。
▼金融庁 ボイスフィッシングによる法人口座を狙った不正送金被害の再発・急増に係る周知
- 電話を利用する「ボイスフィッシング」被害が再び発生
- ボイスフィッシングによる法人口座を狙った不正送金被害が再発・急増している
- 企業の法人口座を狙う、その手口とは?
- 犯人が銀行関係者をかたり、企業に電話をかけ、メールアドレスを聴取する
- メールを送信して偽サイトに誘導し、ネットバンクの認証情報等を入力させる
- 犯人は認証情報等を利用し、法人口座から企業の資産を不正送金する
- どう見分ける?こんな電話は偽物!
- 発信元番号が国際電話(+国番号)である(例:+1 800 123 4567)
- 自動音声ガイダンスが流れたのち、人間の声に切り替わる
- 通話中にメールアドレスを聴取され、リンク付きメールが送られる
- 社内で徹底!被害を防ぐために
- 銀行から電話があれば、営業店・代表電話に折り返し、本物かどうか確認する
- インターネットバンキング利用時は、銀行公式サイト・アプリからアクセスする
- スマホに登録していない番号からの着信のうち、およそ4本に1本が詐欺や迷惑電話の可能性が高いことが、情報セキュリティ会社「トレンドマイクロ」が分析した結果、分かりました。「+」で始める国際電話やIP電話からの着信が目立つといいます。実在しない電話番号に偽装する「スプーフィング」という新たな手口も確認されており、注意を呼びかけています。トレンドマイクロ社がスマホ向けに提供している「詐欺対策アプリ」利用者のうち今年1~11月の着信データを解析、警察から詐欺などに使われているとして共有されている番号や、アプリ利用者から情報提供のあった番号などを基に照合したところ、毎月14~25%が詐欺や迷惑電話とみられることが判明したもので、詐欺や迷惑電話とみられる番号は、先頭に「+」が表示される国際電話からの着信が多く、「北米」(+1)や「中国」(+86)が目立つ結果となりました。中には受信側が通話料を負担する「国際フリーダイヤル」(+800)からの着信もあったといい、トレンドマイクロ社の本野詐欺対策チーフアナリストは「海外の電話番号は比較的入手しやすいとされ、詐欺グループが使っていると思われる」と指摘しています。通常の詐欺電話だけではなく、着信にかけ返すと高額な通話料金が請求される「国際ワン切り詐欺」と呼ばれる手口もあるとされ、国際電話の他にもIP電話からの着信を示す「050」やフリーダイヤル「0120」も使われていました。
- 円安や不安定な世界情勢の影響で、価格が高騰している「金(きん)」をだまし取る詐欺被害が全国各地で相次いでいます。持っていない人にも買わせて、詐取する手口が横行しています。そして、特殊詐欺の被害者から詐取された金地金や、偽造された金のインゴットなどが不正に流通している問題を受け、警察庁は、貴金属事業者との情報連絡会議を開き、犯罪が疑われる取引に注意するよう促しています。会議には国内の大手貴金属取扱業者5社が参加、匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)対策のため、2025年10月に警視庁に新設された特別捜査課などの担当者も出席し、犯罪の被害品とみられる金が店に持ち込まれる際の手口の特徴などを説明、速やかな警察への通報の必要性などを訴えています。金の不正流通を巡っては、警視庁が同11月、密輸や特殊詐欺で入手したとみられる金地金に実在する取扱業者名を刻印して売却したなどとして、中国人らのグループを詐欺などの疑いで摘発しています。被害者に金地金を購入させ、「受け子」が回収するといった手口の特殊詐欺も全国で多発、警察庁によれば、金地金が詐取された事例は2025年1~9月に100件確認され、被害額は約26億円に上りました。金密輸の摘発は2023年以降、増加傾向にあり、片山さつき財務相は臨時税関長会議で「組織的な密輸スキームが用いられ、利益が犯罪組織の資金源になっている可能性も否定できない」などと述べ、水際での取り締まり強化を指示しています。
- 耳が聞こえづらかったり、発話が難しかったりする人を対象にした熊本県警の通報システム「メールで110番」が2026年3月末で廃止されることになりました。理由は業務に支障が出るほど寄せられる迷惑メールで、大量の詐欺広告などが内容を確認する職員の重い負担になり、廃止を決めたといいます。県警はメールに代わる手段として、警視庁が運用する「110番アプリ」などの利用を呼び掛けています。2024年はこの仕組みで約7300件の110番を受信しましたが、実際の通報は約30件で、大半は詐欺広告などの迷惑メールだったといいます。県警は運用廃止後の代替通報手段として110番アプリの他、手話通訳者を介して電話ができる「電話リレーサービス」(ともに事前登録必須)の活用を呼びかけています。
以前の本コラムでも取り上げましたが、三重県松阪市議会は、携帯電話やスマホで通話しながら市内のATMを操作することを禁止する条例案を全会一致で可決しました。罰則はありませんが、ATMの全利用者が対象となります。「松阪市民を特殊詐欺等から守る条例」で、同様の条例案は、隣接する多気、明和の両町議会でも可決されており、3市町とも2026年1月1日から施行されています。3市町を管轄する県警松阪署管内では、2025年8月末時点で、オレオレ詐欺などの特殊詐欺被害が42件(被害総額約5370万円)、SNS型投資・ロマンス詐欺被害が31件(同2億2860万円)発生、県警は電話でATMの操作方法を指示しながら現金を振り込ませる詐欺被害が多発していると注意を呼び掛け、警察官を装って「調査のために指定口座に金を振り込む必要がある。調査後、全額返還する」などと電話を掛けてくる手口があることなどを周知しています。また。条例制定について同市は「市民への注意喚起になるだけでなく、金融機関側が利用者に声をかけやすくなる」としています。
カンボジアでの日本人による詐欺についての最近の報道から、いくつか紹介します。
- カンボジア南西部シアヌークビルで、日本人16人が、特殊詐欺に関与した疑いがあるとして現地の捜査当局に拘束されました。2025年12月11日にシアヌークビルの特殊詐欺拠点とみられる建物で16人を発見し、拘束したと現地当局から連絡を受けたといいます。大使館は全員の身元確認を終えたとし、「現地当局と連携し、引き続き適切に対応していく」とコメントしています。シアヌークビルはカジノやリゾートホテル、海水浴場などが集まる、外国人観光客に人気のエリアで、中国企業による大規模なリゾート開発が行われたことでも知られています。前述のとおり、カンボジアでは中国が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」に伴い不動産やカジノ産業への投資が活発化、犯罪集団も流入して治安が急速に悪化し、特殊詐欺などの一大拠点になっています。東南アジアでは2022年ごろから同様の事件が相次ぎ、各国の犯罪組織が関わっているとみられ、カンボジアのフン・マネット首相は2025年、拠点摘発の強化を指示していました。また、カンボジアでは日本人らが特殊詐欺グループに関わったとして拘束される事案が続いており、シアヌークビルでは2023年初めにも、リゾートホテルで日本人19人が拘束された。2025年11月には、南東部バベットの詐欺拠点とみられる建物で日本人13人を含む50人超が拘束され、現在もカンボジア国内で取り調べが続いています。
- カンボジア北西部・ポイぺトの拠点で特殊詐欺のかけ子をしたとして日本人の男女29人が逮捕された事件で、「指示役」をしていたとされる中国籍の夫婦の初公判が名古屋地裁であり、2人は起訴内容を認めました。検察側の冒頭陳述によれば、2人は遅くとも2025年1月に現地へ渡航し、中国人がリーダーの詐欺グループに加入、送金先の口座の手配のほか、日本人のかけ子に電話のかけ方を指導したり、中国人の幹部と日本人の間の通訳をしたりする役割を担っていたといいます。詐欺グループは、日本に電話をかける際、コンピューターを使って無作為に相手を抽出、「スマホが1時間以内に使えなくなるので、それを避けるため『1』を押してください」という音声案内が流れる仕組みで、相手が「1」を押すと、通信事業者を名乗るかけ子につながり、その後、警察官や検察官などを装った別のかけ子に引き継がれていました。被害者や詐取金に関する情報は、通信アプリ「テレグラム」で共有されていたといいます。事件をめぐっては、現地当局がポイペトの拠点を捜索して日本人29人を拘束、愛知県警が捜査員を派遣し、29人は2025年8月、移送中のチャーター機内で逮捕され、押収されたスマホの解析などで両被告が関与していた疑いが浮上、同10月に逮捕されました。現地から同1月に帰国した愛知県内の男性の情報提供で拠点の存在が判明、「中国人の管理下で、日本人がかけ子をし、モニター越しに監視されていた」「自分は求人サイトで応募した」などと説明していたといいます。
暴力団の関係する特殊詐欺に関する最近の報道から、いくつか紹介します。
- 区役所職員を装い「キャッシュカードの交換が必要」とうそを言って現金50万円をだまし取ったなどとして、特殊詐欺の受け子・出し子グループのトップで住吉会「幸平一家」の傘下組織組員暴力団組員、別の傘下組織組員の2人が詐欺の疑いで警視庁に逮捕されました。容疑者らは2023年10月、区役所職員などを装い、東京・北区に住む当時88歳の女性に「還付金手続きでキャッシュカードの交換が必要」などとうそを言い、キャッシュカードをだまし取り、現金50万円を引き出して盗んだ疑いがもたれています。容疑者は特殊詐欺の受け子・出し子グループのトップで、もう1人の容疑者は統括役だったということです。グループでは少年20人が受け子などをしていたとして既に摘発されています。警視庁は、匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)とみており、2023年9月~24年3月、首都圏の高齢者27人から計約5千万円をだまし取った可能性があるとしています。
- 特殊詐欺に関わったなどの容疑で暴力団組員が逮捕された事件で、大分県警は、大分市内にある暴力団事務所を家宅捜索しました。逮捕されたのは、六代目山口組傘下組織組員で、2025年2月、都内に住む28歳の女性から300万円をだまし取ったとして逮捕されました。当時18歳と19歳の男2人と共謀して警察官になりすまし、「詐欺の加害者になっている。無罪を証明するためにお金の流れを確認する必要がある」などとうその電話をかけ、金をだまし取ったとみられています。現役の暴力団員が逮捕された特殊詐欺事件で暴力団事務所を家宅捜索するのは、大分県内では初めてだということです。
- 2025年9月、小松市の90代の女性が現金100万円をだまし取られた特殊詐欺事件に関連し、石川県警は、東京都内にある六代目山口組傘下組織の暴力団事務所を捜索しました。この事件では、20代の3人が逮捕されていて、警察は、特殊詐欺の被害金が暴力団に流れていた可能性もあるとみて捜査を進めています。逮捕された容疑者のうち少なくとも1人がこの暴力団と関係し、特殊詐欺の被害金が流れていた可能性もあるということです。警察は、特殊詐欺事件にこの暴力団事務所と匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)が関与しているとみて、組織の関わりや資金の流れなどを詳しく調べています。
令和7年(2025年)11月末時点の特殊詐欺、SNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について、警察庁から数字が公表されています。3つの詐欺類型を合算した被害額はすでに2024年の被害額を1,000億円上回る深刻な状況となっています。
▼警察庁 令和7年11月末における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)
- 特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺
- 認知件数38,121件、被害額2,763.9億円(前年同期の認知件数27,994件、被害額1,725.2億円)
- 特殊詐欺の概要について
- 依然として高水準で推移
- 認知件数24,912件(前年同期比+6,253件、+33.5%)、被害額1,213.3億円(前年同期比+632.6億円、+108.9%)(前年の年間認知件数21,043件、被害額718.8億円)
- 犯行利用された国際電話番号(※)86,180件(前年同期比+44,886件、+108.7%)
- 「特殊詐欺に犯行利用された電話番号数」として、都道府県から警察庁に報告された電話番号数を集計(未遂・相談事案を含む。)都道府県から報告された電話番号が重複する場合、1件として計上。ただし、月をまたいで同一番号の報告があった場合は、各月1件として計上
- 主な要因
- ニセ警察詐欺の被害が多くを占める
- 認知件数は9,642件(特殊詐欺全体の38.7%)、被害額は831.9億円(特殊詐欺全体の68.6%)
- 当初接触ツールのうち99.0%が電話
- 性的な被害を伴うニセ警察詐欺が引き続き発生 令和7年11月末218件(都道府県警察から警察庁に報告があった件数※未遂・相談事案を含む。)
- ニセ警察詐欺の被害が多くを占める
- SNS型投資・ロマンス詐欺
- 認知件数13,209件、被害額1,550.6億円(前年同期の認知件数9,335件、被害額1,144.5億円)
- SNS型投資詐欺の概要について
- 依然として高水準で推移
- 認知件数8,217件(前年同期比+2,246件、+37.6%)、被害額1,071.1億円(前年同期比+276.2億円、+34.8%)
- 著名人をかたった「バナー等広告」や、「ダイレクトメッセージ」からLINEの投資グループに誘導されて金銭をだまし取られる
- 依然として高水準で推移
- 主な要因
- 「バナー等広告」による被害が最多
- 認知件数3,202件(前年同期比+453件、+16.5%)、被害額440.9億円(前年同期比+63.9億円、+16.9%)
- 「バナー等広告」でかたられた著名人と連携した被害防止広報を実施
- 第1回令和7年11月12日(水)三橋貴明氏、両@リベ大学長、森永康平氏
- 第2回令和7年12月15日(月)本田健氏、馬渕磨理子氏、桐谷広人氏
- SNS型ロマンス詐欺の概要について
- 単月の被害額は53.9億円で過去最多を更新(これまでは9月の被害額52.1億円が最多)
- 認知件数4,992件(前年同期比+1,628件、+48.4%)、被害額479.5億円(前年同期比+129.9億円、+37.1%)
- 「マッチングアプリ」のダイレクトメッセージからLINEのやり取りに移行後、投資に誘導されて金銭をだまし取られる
- 主な要因
- 「マッチングアプリ」からの被害が最多
- 「マッチングアプリ」からの被害が全体の32.8%
- 認知件数は1,636件(前年同期比+490件、+42.8%)、被害額は151.5億円(前年同期比+26.5億円、+21.2%)
- 「マッチングアプリ」からの被害のうち、名目としては「暗号資産投資」名目が46.9% 次いで「ネットショップ経営」が20.1%
- 「マッチングアプリ」からの被害が最多
- 「バナー等広告」による被害が最多
最近の特殊詐欺等を巡る報道からいくつか紹介します。報道自体はこれ以上されていますが、被害の大きい事件を中心に取り上げます。
- 長崎県警平戸署は、同県平戸市の80代女性が特殊詐欺の被害にあい、金塊計17キロ(時価約4億円相当)をだまし取られたと発表しました。同県内の特殊詐欺の被害では最高額となります。2025年8月中旬、女性の自宅に「通帳と携帯電話が犯罪に使われており、詐欺罪になる」と電話があり、その後、検察庁を名乗る男からは電話で取り調べと称して、住所や生年月日、資産などを聞き出されたといいます。女性は男の指示に従い、同8月下旬~12月上旬、金塊を計3回購入し、自宅を訪れた別の男に手渡すなどしたといいます。2025年12月11日午前7時半ごろ、女性が「貴金属がなくなっている」と110番、通報も犯人側の指示だったとみられ、署は経緯を捜査しています。
- 北海道警札幌西署は、札幌市西区の60代女性が現金約2億5000万円をだまし取られたと発表、道内の特殊詐欺被害額として過去最高額といいます。同市内では高額の特殊詐欺被害が相次いでおり、道警が注意を呼び掛けています。女性は2025年8月、配送会社員を名乗る人物からの電話で「あなたの名義の宅配便から大量に現金が出てきた」などと言われ、その後、警察官や検察官を名乗る人物らに「あなたが犯人に口座を売った疑いがあり、資産を調べる」などと言われ、同11月30日までの間に指示された口座に28回にわたり現金を振り込み、だまし取られたものです。なお、北海道警は同12月11、12日には、札幌市内で1億円を超える詐欺被害3件が起きたことを発表しています。手稲区の40代男性はSNSで知り合った投資家を名乗る男性に投資サイトやアプリを紹介され、同8~11月に株購入資金として振り込んだ現金約1億1600万円をだまし取られました。また、厚別区の60代男性は警察官を名乗る人物らに現金約1億4500万円を、西区の50代男性も警察官を名乗る人物らに現金約8000万円と金塊約4200万円相当をだまし取られたといいます。
- 茨城県警は、県内の団体職員の60代の男性がSNSを利用した投資詐欺にあい、金の延べ棒やギフトカードなど計約2億7千万円相当をだまし取られたと発表しました。男性は2025年8月26日ころ、フェイスブックを通じて日本人女性を名乗る人物と知り合い、LINEで連絡を取り合い、この人物から「おじが金融工学の教授をしている。投資で高額な利益を得られる」などと勧められて投資を始めることにし、その際、「手数料がかからない」などと言われたためアップルギフトカードを購入し、同9月19日~10月2日に計610万円分をだまし取られたといいます。アプリ上で利益が出ているように表示され、信用したといいます。さらに男性は、別の人物から「大口の送金をする場合には金の現物を使うことをおすすめしている」などと説明され、信用した男性は同10月1日~11月11日までの間、5回にわたり水戸市や東京都内で金の延べ棒(計約2億6700万円相当)を購入、指示通りの場所で受け子とみられる複数の人物に直接手渡したといいます。その後、インターネット上で類似の手口の詐欺被害のニュースを見て不審に思い、署に相談したことで被害が発覚したものです。
- 宮城県警仙台北署は、仙台市青葉区の70代女性が金地金約5.6キロ(約9600万円相当)と現金約1億1200万円をだまし取られたと発表しました。金価格の高騰を背景に警察官をかたって被害者に金塊を購入させる手口が急増しており、宮城県警が特殊詐欺事件として捜査しています。女性は2025年8月、警察官を名乗る男らから「マネロン事件に関与した疑いがある。金融庁の調査があるので金地金を購入してほしい」などと自宅に電話がかかり、貴金属販売会社で金地金約5.6キロを購入、男らの指示通り、自宅前の歩道に置いたところ、何者かに持ち去られ、同9月には検察官を名乗る男から「資金調査をする必要がある」と言われ、指示通り現金3千万円を用意、5日後、自宅の駐車場に置いた後、持ち去られました。また、同10月には再び警察官を名乗る男から電話があり、指定された口座に複数回に分けて現金計約8200万円を振り込んだといい、その後、女性が被害に気付き、警察に相談し事件が発覚したものです。
- 滋賀県警草津署は、草津市の40代男性教員が、警察官や検事をかたる男らに約1億8600万円分の暗号資産をだまし取られる被害にあったと発表しました。男性は2025年11月、携帯電話に警視庁の警察官を名乗る男から「口座に詐欺の被害金が送金されている」と電話があったのをきっかけに、検察官を名乗る男らとやりとりするようになり、「あなたのお金には怪しいものがある」などと言われ、現金を暗号資産に交換したり、保有する株を売却したりするよう指示を受け、暗号資産用の口座に計5回にわたって送金したといいます。
- 栃木県警下野署は、同県下野市内の60代女性が、現金や金地金、暗号資産で計約1億6000万円相当をだまし取られる特殊詐欺の被害にあったと発表しました。2025年5月下旬、女性のスマホに通信事業者を名乗る男から「あなたが購入した携帯電話が悪用され、詐欺事件が起きている」と電話があり、電話を代わった検察官を名乗る女からは「あなたを逮捕する準備もできている。資産が犯罪で得たものかどうか調査する」などと言われ、話を信じた女性は2日後、指定された同県壬生町のスーパー駐車場に現金5977万円と金地金2本(約3373万円相当)を車で運搬、指示を受けて車から離れている間に現金などは全てなくなっていたといいます。女性はその後も電話などで指示を受け、8月下旬までの間に現金計3828万円と暗号資産計約3000万円相当もだまし取られました。送金後、相手からの連絡がなくなったことを不審に思って警察に相談し、被害が判明したものです。
- 兵庫県警三田署は、兵庫県三田市内に住む自営業の70代の男性がSNS上で知り合った相手からインターネット上でペット用品を扱う代理店契約のもうけ話を持ち掛けられ計1億6千万円相当の暗号資産をだまし取られたと発表しました男性は2025年3月下旬以降、フェイスブックやLINEを通じて、中国生まれの日本人女性を名乗る人物から「インターネット上でペット用品店を経営しませんか」などと持ち掛けられ、同4月から12月12日までの間、指示された送金先アドレスに複数回にわたって計1億6千万円相当の暗号資産を送金したといいます。暗号資産を取り扱う機関から県警に通報があり、同署が男性から事情を聴き被害が発覚したものです。
- 札幌県警厚別署は、札幌市厚別区の60代男性が警察官を名乗る男らに現金約1億4500万円をだまし取られたと発表しました。2025年5月下旬、男性宅に警察官を名乗る男らから「あなたに詐欺の容疑がかかっている。無実を証明できれば逮捕を免れる」などと電話があり、資産を調べるため指定する口座に全額入金するよう指示され、同8月上旬に男と連絡が取れなくなり不審に思った男性が署に通報し、発覚したものです。
- 広島県警福山西署は、同県福山市の60代女性が警察官などを名乗る男らに現金計1億4300万円をだまし取られたと発表しました。2025年9月6日ごろ、女性宅にデジタル庁職員や警察官を名乗る男らから「あなたの名前で携帯電話が不正に契約されている」「逮捕状が出ている」などと電話があり、その後「現金をいったん預かって調査する」と言われ、女性は指示に従って同10月10日~11月13日に市内で計6回に分けて、金融庁職員を名乗る男らに現金を手渡したといいます。男らと連絡が取れなくなり、女性が警察や金融庁に問い合わせて発覚したものです。
- 富山県警富山中央署は、富山市の70代男性が、内閣府職員や警察官を名乗る男らの電話で、約1億円をだまし取られたと発表しました。2025年9月に「内閣府サイバーセキュリティセンター」職員を名乗る男から、男性の携帯電話がウイルスに感染し、92人に金を請求したことになっていると国際電話があり、裁判の保険を勧められ、費用として宅配便で280万円を送り、指定口座に20万円を振り込んだといいます。その後、警視庁の警察官を名乗る男から「加入した保険は詐欺だ」と電話があり、別の内閣府職員を名乗る男から「悪用されていないか調べるため、持っている全ての現金を確認する」と言われ、宅配便で4回にわたって計8200万円を送り、指定口座に1150万円を振り込んだといいます。署に相談して被害が発覚したものです。
本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニや金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体・地域全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されています。特殊詐欺の被害防止は、何も特定の方々だけが取り組めばよいというものではありませんし、実際の事例をみても、さまざまな場面でリスクセンスが発揮され、ちょっとした「お節介」によって被害の防止につながっていることが分かります。このことは警察等の地道な取り組みが、社会的に浸透してきているうえ、他の年代の人たちも自分たちの社会の問題として強く意識するようになりつつあるという証左でもあり、そのことが被害防止という成果につながっているものと思われ、大変素晴らしいことだと感じます。一方、インターネットバンキングで自己完結して被害にあうケースが増えており、コンビニや金融機関によって被害を未然に防止できる状況は少なくなりつつある点は、今後の大きな課題だと思います。以下、直近の事例をいくつか紹介します。
- 2025年春以降、3件の詐欺被害を防いだとして、千葉県我孫子市のコンビニエンスストア「セブンイレブン我孫子緑1丁目店」に千葉県警から感謝状が贈られました。70代の女性客が求めたのは3000円分の電子マネーカードのみで、不審に思って話を聞いたところ、女性は「抽選に申し込むと高額報酬を受け取れる」というメッセージをスマホで受け取り、抽選に申し込むため電子マネーカードを購入しようとしていたため、詐欺と考え110番し、警察が来るまで女性を引き留めたといいます。この店では、2025年5月と10月にも電子マネーカードを購入しようとした高齢者2人を引き留め、詐欺被害を防いでいます。県警は、県内のコンビニを警察官が巡回する「アシストポリス制度」を2024年から運用しており、この店にも警察官が月1回ほど訪れて横行する詐欺の手口などを伝えており、店は詐欺を想定した防犯訓練をして従業員の意識を高めたといいます。
- 銀行のATMで電話先から指示を受けながら振り込もうとしていた高齢男性の詐欺被害を防いだとして、水戸署は、水戸市出身で都内の大学に通う小沢さん(20)に感謝状を贈っています。小沢さんの祖母がかつて不審な電話を受けた経験があったことなどから、この男性に声をかけ、振り込みをやめさせたといいます。帰省していた小沢さんは、水戸市内の銀行のATMに行くと、隣でATMを操作しながら電話する80代の男性の声が耳に入り、「こっちのボタン?」電話相手から振り込み方法を指示されているようで不審に感じ、「電話相手は息子さんですか」とためらいなく声をかけると、男性は電話相手のことをよく知らない様子、ニセ電話詐欺を特集したテレビ番組で手口を知っていたため、男性が詐欺の被害にあう寸前と直感し、水戸署に通報したものです。男性から電話の画面を見せてもらうと、「+」から始まる国際電話の番号が並んでいたといいます。警察官が駆けつけるまで約10分間、男性の話し相手になりATMの操作を中断させました。
- 英国で「AIおばあちゃん」が詐欺師を「翻弄」しているといいます。78歳の女性という設定の対話型AIで、名前はデイジー、電話をかけてきた詐欺師に本物の人間と会話していると思い込ませて、時間を浪費させることで電話詐欺の被害を減らすのが狙いだといいます。デイジーは英携帯大手O2が開発した、電話詐欺対策のチャットボットです。英国では電話を使った詐欺が深刻化、2024年11月に誕生したのがデイジーで、ネット上で売買される「名簿」に、デイジーの電話番号を複数件、紛れ込ませ、デイジーにつながった詐欺師が、偽アプリをダウンロードさせようと、グーグルのアプリストア「グーグルプレイ」に誘導すると、デイジーは「いま、ペイストリーって言った?三角形のアイコンは見えるけど、パイの切れ端かも」ととぼけ、さらに、「あなたの地域にはおいしいペイストリーがあるかしら。私はおいしいスコーンが大好きなの」と話は脱線、ペースを乱された詐欺師が「人をうっとうしがらせる天才ですね」と嫌みを言っても、デイジーは「ちょっとおしゃべりなだけよ」と軽く受け流すなどするといいます。O2によれば、約1年間で1千人以上の詐欺師がデイジーと「長電話」をし、最長で50分に及んだ通話もあったといいます。詐欺師はデイジーとの会話に時間をとられることで、実際に人間をだます電話をかける時間が少なくなります。こうした取り組みが評価され、2025年10月に英国のマーケティング会社が主催するコンテストで、「AI最優秀活用賞」を受賞しています。
- ミャンマーの特殊詐欺拠点の掃討でメタやスペースXといった米テック大手が役割を果たしています。犯罪行為の道具となるネット通信を阻止するうえで、各社サービスの影響力が大きいためで、米司法省はミャンマー周辺に照準を合わせて新設した「詐欺拠点攻撃部隊(SCSF)」の成果を伝える2日の発表で「テック企業も詐欺集団のアカウントを自主的に停止している」と各社の貢献を持ち上げました。オンライン詐欺の被害者がダウンロードを指示されたアプリについて米連邦捜査局(FBI)がアップルとグーグルに通知、両社が自主的にストアから削除、メタは当局と連携し、詐欺施設に関する約2千件のアカウントを特定・削除、スペースXは衛星通信サービス「スターリンク」について2025年10月下旬、ミャンマーの特殊詐欺拠点で使われていたアンテナや受信機など2500セット以上の機器の稼働を停止したと明らかにし、担当幹部はSNSで「悪意のある利用は検知して阻止する」と強調しています。ミャンマーでは軍事政権が抵抗勢力を取り締まるためにネットや通信の統制を強めており、軍政の関与が及びにくい国外企業の通信サービスは民主派の活動の重要インフラにもなっており、詐欺集団による悪用と「もろ刃の剣」の性格が浮き彫りになっているといいます。
- ゆうちょ銀行は、携帯電話で通話しながらATMを操作すると、AIが防犯カメラの画像を分析し、ATMで送金できなくする仕組みを一部店舗で導入します。特殊詐欺被害を防止する対策の一環で、2026年1月から始めています。詐欺グループが電話で指示を出すなどしてATMで金銭を振り込ませる手口の被害は2025年1~10月で約214億円に上ります。同行によれば、ATMの防犯カメラの映像をAIが分析し、利用者が通話していると判断した際に、送金の取り扱いを停止するといい、誤検知を防ぐため、オペレーターも確認したうえで停止の判断をするといいます。通話をやめれば再度利用ができるといい、同行マネロン対策部の北山部長は「大切な資産を詐欺の被害からお守りするということで、ご理解をいただきたい」と述べています。
- 奈良県警は、県内に本店を置く4つの金融機関(大和信用金庫・奈良信用金庫・奈良中央信用金庫・JAならけん)との間で、金融犯罪の情報提供に関する協定を結びました。近年犯罪が増え続けている特殊詐欺やSNSを使った投資詐欺、恋愛を偽ったロマンス詐欺などの金銭がらみの被害を防ごうと、各金融機関の協力を得て容疑者検挙につなげる狙いがあります。こうした協定は2025年3月、近畿の警察本部で初めて南都銀行と締結しており、これまで犯罪抑止の効果も出ているといいます。今回の協定で、提携先を拡大し「県内すべての金融機関と協力体制を築いた」(県警組織犯罪対策課)としています。協定に基づき、県警は犯罪利用された口座情報を金融機関に提供、その口座に不審な振り込みが確認された場合は県警に通報があり、被害者に連絡して被害拡大を防ぐ仕組みです。
- 警察庁は、特殊詐欺の電話から身を守るためのアプリを推奨する制度を始めました。被害が目立つ国際電話番号からの電話を遮断するなど、複数の機能を備えていることが推奨の条件で、過去最悪の被害になっている特殊詐欺への対策が急務となっており、民間のアプリをホームページ(HP)で公表して利用を促すとしており、警察庁が民間のアプリを推奨する取り組みは初めてとなります。民間企業は詐欺への対策技術を独自に開発してアプリを出しており、同庁はそのノウハウを生かしたい考えです。早ければ2025年度中の公表を想定しているといいます。具体的には、企業から申請のあったアプリを警察庁が審査、推奨する条件となる機能は、「警察庁が提供する詐欺に使われた電話番号の遮断や警告」「国際電話番号の遮断や警告」「警察庁が提供する防犯情報の通知」などで、アプリは無料で利用できるようにし、有料の機能を設けることは認めないとしています。HPでは、アプリの利用数や被害防止の実績も公表し、推奨する期間は1年間で、延長される場合もあるといいます。一方、今後懸念されるのは、「警察庁推奨」をかたるアプリを使った詐欺で、実際、警視庁の防犯アプリ「デジポリス」の偽物を使った詐欺事案が発生しました。茨城県の50代の男性に愛知県警の警察官をかたる人物から電話があり、「あなたはある事件の共犯者になっている。監視する必要がある」として、送られたURLからアプリをダウンロードさせられたといい、アプリのアイコンはデジポリスのものと酷似、男性は起動しようとしたができなかったといいます。
- 警視庁は、同庁の防犯アプリ「デジポリス」に、国際電話や特殊詐欺に利用されたとみられる電話番号からの着信を遮断する新機能を搭載しました。同庁が2025年上半期に把握した詐欺電話の約8割が「+」で始まる国際電話で、アプリの活用を呼び掛けています。新機能を有効にすると、同庁が把握している詐欺電話の番号や国際電話からの着信はアプリが自動で遮断、着信履歴に残らないようにすることも可能です。米アップル社のスマホ「iPhone」は、詐欺電話の番号は遮断できるが、国際電話はできないため、別の対策を取るための設定画面を表示するといいます。同庁によれば、特殊詐欺の発信に使用された電話回線は、2022年は固定電話とIP電話が大半だったところ、2024年は国際電話が約7割を占め、2025年上半期では約8割に上りました。詐欺電話は、2023年は約9割が固定電話にかかってきていましたが、2025年は10月末時点で携帯電話が5割近くまで増加、スマホのビデオ通話に誘導し、偽の逮捕状や警察手帳を示すなど手口が巧妙化していることが背景にあるとみられています。
(3)薬物を巡る動向
米がベネズエラのマドゥロ大統領を拘束した軍事作戦はショッキングでしたが、驚きはそれほどありません。2025年から続いてきた、ベネズエラに対するトランプ政権の言動の延長線上にあります。あらためて考えるべきは、マドゥロ氏の拘束は麻薬対策が名目とされていましたが、その後に麻薬関連で続く動きはないということです。一方、米国がベネズエラの石油を可能な限り支配したいという動機はかなり明白になりました。トランプ政権が2025年12月に公表し、モンロー主義の復活を主張したドンロー主義、国家安全保障戦略の内容とも重なります。そもそも米国民を合成麻薬フェンタニルやコカイン、マリファナ(乾燥大麻)、覚せい剤などの薬物による被害から守るために中国や中南米諸国にその対応を求め、ベネズエラの麻薬運搬船攻撃からの一連の流れとなるわけですが、トランプ政権の行動には「半球外の勢力からラテンアメリカを守る」という利他的な要素や、民主主義への言及もなく、残るのは、むき出しの帝国主義だけです。米国がここまで露骨に帝国主義的な行動を取るのは、史上初めてだといえます。一応、米政府に身柄を拘束された南米ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は、「麻薬輸入の共謀」「麻薬テロの共謀」「機関銃や破壊装置の所持」「機関銃や破壊装置の所持に関する共謀」の四つの罪で起訴されています(同氏は無罪を主張)。起訴状は、ベネズエラの指導者たちが25年以上にわたり、「公的な信頼(の高さ)を乱用し、かつては正当だった機関を腐敗させ、多くのコカインを米国に密輸してきた」と主張、マドゥロ氏は中心的役割を担い、麻薬犯罪組織と共謀し、コカイン数千トンを米国に流入させたなどとしています。具体的には、マドゥロ氏らが1999年ごろ以降、中南米の国際麻薬組織などと連携して麻薬の「密売網」を構築したと指摘、これをベネズエラの政治や軍部などのエリート層がその活動や物流を保護したり後方支援したりすることで数千トンの麻薬を米国に流通させ、その見返りとして賄賂や手数料の富を得る仕組みを作ったと分析、密売網には、コロンビアの山岳地帯でのコカイン生産を支配するいずれも左翼ゲリラの「コロンビア革命軍」(FARC)と「民族解放軍」(ELN)、中米のルートやメキシコから米国への越境・密輸を担当するメキシコの「シナロア・カルテル」と「ロス・セタス」、ベネズエラ内の陸上や沿岸部からの海上輸送を支配するトレン・デ・アラグア(TdA)が含まれるとしています。さらに起訴状には、マドゥロ氏が直接関与した具体的な行為も記されており、外相在任時の2006~08年、メキシコからベネズエラに麻薬密売による収益を「外交的保護の下で移動させる」ため、麻薬密売業者にベネズエラの外交官パスポートを販売、プライベート機を外交目的の便だと偽装することで検査などを回避できるようにし、麻薬密売による収益を運ぶのを支援したことなどが記されています。弁護側は裁判で、米軍による拘束を軍事行動による「拉致」だと指摘し、「合法性に重大な疑義がある」と強調、マドゥロ氏は現職の国家元首で、米国の裁判で裁くこと自体が認められないと訴えています。
ベネズエラへの地上攻撃に踏み切った米国のトランプ大統領は、コロンビアとメキシコの麻薬組織に対する攻撃に意欲を示しています。軍事作戦という前例が生まれ、両国は危機感を強めています。反米左派のキューバや、グリーンランドを巡って米国と対立するデンマークも神経をとがらせています。「コロンビアはコカインの製造と米国への販売を好む病んだ男が統治している。もう長くは続かない」とトランプ氏は述べ、麻薬対策が不十分だとして2025年10月に制裁を科したコロンビアのグスタボ・ペトロ大統領を改めて批判しています。トランプ氏はコロンビアの麻薬組織に対する攻撃を繰り返し警告、単なる「脅し」と受け止められてきましたが、ベネズエラ情勢を受けて、現実味が増しています。それに対しコロンビアは、米国の情報機関と技術を活用し、麻薬密売との戦いで協力を継続すると表明しています。さらに、トランプ氏は、フェンタニルの経由地になっている隣国メキシコへの介入にも前向きとされます。「メキシコを統治しているのは(麻薬)カルテルだ」と言い放ち、「我々が何か手を打たなければならない」と主張、メキシコと接する米南部国境から流入している麻薬が多いと指摘し、米国内の麻薬の犠牲者は年30万人におよぶと主張しています。メキシコのシェインバウム大統領に米国が麻薬カルテルの排除に動くと提案し、断られた経緯を明かしました。トランプ氏は2025年11月にメキシコからの麻薬流入を止めるために米軍が軍事行動にでる可能性に触れた経緯があります。一方、メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領はベネズエラへの介入を厳しく批判しています。中南米を含む西半球を勢力圏と見なして関与を強めるトランプ政権を巡っては、社会主義国キューバの体制打破も狙うのではとの臆測が絶えず、警戒を強めるキューバのミゲル・ディアスカネル大統領は、「帝国主義を打倒せよ。ここは裏庭でも、係争地でもない」と語気を強めました。ただ、依存していたベネズエラの石油が途絶えるのは必至で、トランプ氏は「キューバは崩壊寸前だ」と余裕を見せています。また、南米ボリビア政府は、米麻薬取締局(DEA)がボリビアの麻薬対策支援のため、コカ葉の栽培地域で飛行調査を実施したと明らかにしました。同国でのDEAの活動は、2008年に当時の左派モラレス政権に追放されて以降途絶えていました。ボリビアは世界第3位のコカイン生産地で、国連によれば、原料となるコカ葉畑は法定上限を超える3万4000ヘクタールに達しています。調査は中部チャパレ地区で実施され、ボリビア当局は「隠された飛行場や密造工場を見つけ出すのが目的」と説明しています。こうしたトランプ政権の強圧的な動きに中南米各国が呼応して、麻薬組織を排除し、違法薬物の米国への流入や世界での流通が抑制されることになれば大変すばらしいことですが、トランプ政権の関心が本当にそこにあるのか、繰り返しますが、現時点では甚だ疑問であると筆者は考えています。
トランプ米大統領は2025年12月15日、麻薬性鎮痛剤「フェンタニル」とその原料を「大量破壊兵器(WMD)」に指定する大統領令に署名しました。トランプ氏は麻薬の米国流入に関し「軍事的脅威だ」と述べ、米軍を投入して麻薬密輸組織などに対抗していく考えを改めて示しています。麻薬を大量破壊兵器に指定するのは異例で、大統領令は「数十万人の米国人がフェンタニルの過剰摂取で死亡している」と説明、「不正なフェンタニルは麻薬というより化学兵器に近い」とし、「米国の安全保障を脅かしている」と指摘、さらに、フェンタニルの生産や販売が外国テロ組織や麻薬カルテルを資金面で支えていることなどから「深刻な脅威だ」と訴えています。関係機関に「脅威を排除する」ための措置を命じ、国防総省にも米軍による対応を指示しています。トランプ氏は「爆弾ですらこれほどの被害はもたらさない」と訴え、大量破壊兵器に指定した理由を強調しています。
年間数万人の米国民が過剰摂取で死亡し、社会問題化しているフェンタニルの主要な供給源は中国で、歴代の米政権は折に触れて中国政府に抜本的な対策を求めていますが中国側はのらりくらりとかわしている状況が続いています。米国の国力衰退につながりかねない「現代のアヘン」は、製造元の中国にとり「一石五鳥」のメリットがあると産経新聞が指摘しています(2025年12月25日付産経新聞)。米ブルッキングス研究所の報告書によれば、中国の業者が違法フェンタニルの対米輸出を始めた2012年以降、麻薬性鎮痛剤の過剰摂取で死亡した米国人は約53万人で、その大半がフェンタニルによるものだといいます。フェンタニルはヘロインの50倍強力な上に安価で、すぐに米国の麻薬市場を席巻、違法フェンタニルは当初、中国から直接、米国内の売人に郵送されていましたが、2010年代半ばごろから、米国内でヘロインを扱っていたメキシコの麻薬カルテルがブームに便乗、中国からフェンタニルやその原料をメキシコに輸入し、米国に密輸するようになりました。第1次トランプ政権から圧力を受けた中国は2019年にようやくフェンタニルを規制対象とし、製品が米国に直接送られることはなくなったものの、その原料がメキシコに輸出され、製品となって米国に密輸される構図は現在も続いています。中国政府は国内企業によるフェンタニル原料の不正輸出を「黙認」どころか「奨励」している節があるとみられています。米国務省が2025年9月、米議会に提出した報告書は、合成麻薬の原料を製造する中国企業が税制面の優遇や政府の補助金を受けていると指摘し「中国共産党が管理している企業は不正な貿易の共犯だ」と断じています。非営利の米報道機関プロパブリカは2025年4月、米国やメキシコにフェンタニル関連製品を不正輸出していた中国の化学企業を所有していたのが河北省石家荘の刑務所だったと報じています。同社の英語サイトは堂々と「税関を100%通過できる」などとうたっていたといいます。中国政府は国内ではフェンタニルの製造や販売、使用を厳格に規制しており、「中国政府は米国に麻薬を送る企業に金を払うが、中国でそれを売れば処刑する」としています。フェンタニルやその原料を製造することは中国にとって5つのメリットがあり、まず、習近平国家主席は今世紀半ばまでに米国を総合国力で凌駕する目標を掲げており、米国の自滅は歓迎すべき事態だということです。またフェンタニルの原料は安価で製造、高価で販売できる経済上の利益があるということ、麻薬犯罪に死刑を科すなど強力な取り締まりを行う権威主義体制の優位性をアピールできるほか、近代中国の「屈辱的な歴史」にこだわる習氏にとっては、清朝期のアヘン蔓延に加担した米国への「報復」にもなりうることなどです。そして、中国にとって最大の現実的な利点は、フェンタニルの取り締まりが対米外交の交渉材料となることです。台湾の国防部(国防省に相当)系シンクタンク「国防安全研究院」は2019年の報告書で、米中貿易戦争の中で、フェンタニル輸出の取り締まりを求める米国に「善意」を示すために中国が「表面的な取り組み」を行う可能性があると指摘、その場合、麻薬の売却先が米国以外の国に変わり、台湾がその「被害者」になる可能性を指摘しています。習氏は2025年10月末の米中首脳会談でフェンタニルの取り締まり強化を約束し、米国側はフェンタニル流入を理由に課していた対中追加関税を半分の10%に減らしました。2026年4月にはトランプ氏の訪中が予定されるなど米中間の外交上の駆け引きが活発化しています。中国はフェンタニル関連の取り締まりを対米カードとして再び利用する可能性があり、その場合、中国が「過剰生産能力」を抱えるフェンタニル原料の密輸先として近隣の日本などを標的にするリスクも否定できないところです。
トランプ大統領は、マリフアナの規制緩和を指示する大統領令に署名しましたが、これにより大麻産業の再編や刑事罰の緩和などにつながる可能性があり、今回の転換は、連邦政府の大麻政策ではここ数十年で最も重要な変更の一つとなります。全米で大麻を危険性の低い薬物と位置付け、医療への活用や研究開発を促す狙いがあるとされます。大麻は現在、米国の連邦法でヘロインや合成麻薬「LSD」などと同じ、乱用の危険性が高く、医療用途が認められない薬物に分類されています。大統領令を受けて、医療での使用に認められている解熱鎮痛剤などと同じ扱いに変えることになります。今回の規制緩和が米国内の大麻ビジネスの拡大につながる可能性があり、AP通信によると、米国では既に24州と首都ワシントンで、大麻は娯楽用として合法化されている一方、全米一律で認められることに反発する声もあり、トランプ氏は記者会見で「娯楽用薬物としての使用を容認するものではない」と強調しています。大統領令では、この分類が医療用大麻の研究を妨げてきたと指摘し、一般的な鎮痛剤やケタミン、テストステロン、ステロイドなどと同じ「3類」に引き下げることを求めています。また、大麻に含まれる幻覚作用のない成分「カンナビジオール(CBD)」に関する研究も促進するとしています。ただ、大麻の使用そのものは引き続き、連邦法で禁じられたままとなります。ギャラップ社の世論調査によると、米国民の64%が大麻合法化を支持しており、2000年の31%の倍以上となっています。ただ、2023年には70%が支持していたことと比べると、数ポイント落ちており、主に、共和党支持者の間で賛同が落ちているためといいます。一方、この転換は日本にとって大きな影響を及ぼす可能性があります。トランプ氏が繰り返し、娯楽用薬物としての使用は認めないと述べているものの、「害はない」といった安易な情報だけが流通し、国内での大麻の蔓延をさらに助長する可能性が考えられます。あらためて、政府として、正しい情報を発信することが重要なタイミングだと思います。
乱用者の異様な動きから「ゾンビたばこ」と呼ばれる指定薬物「エトミデート」の蔓延が懸念されていることは、本コラムでも継続的に取り上げてきました。2025年5月に規制が開始されて以降、沖縄県を中心に各地で若者らの摘発が相次ぎ、同県では密売組織のトップ、大分県では密輸グループが逮捕されています。依存性が高く、過剰摂取で死亡するリスクもあるとされ、捜査当局は警戒を強めています。リキッド状で販売され、電子たばこで吸引されるエトミデートは、沖縄県警が2025年2月、職務質問、所持品検査した人物から初めて押収し、その存在を確認、その後に発生した交通事故や暴行事件で、関係者の使用が相次いで判明しましたが、当時は直接取り締まる法律がありませんでした。事態を重く見た厚生労働省は2025年5月、指定薬物として規制し、使用や所持、輸入などを原則禁止しました。同月以降、沖縄県警は医薬品医療機器法の所持や使用の容疑で10人(2025年11月末時点)を摘発、都道府県別で最多で、うち9人が10~20代を占め、中には高校生も含まれるといいます。逮捕者の話などから、県警は2024年秋頃から若者らの間で流通し始めたとみており、沖縄での流通・密売への関与が疑われる組織に本格的な捜査のメスが入ったのは2025年3月、医薬品医療機器法違反(販売目的貯蔵)で11月に起訴された密売組織トップの被告、組織は匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)で、密売人最大約100人が所属していました。エトミデートなどの違法薬物を取り扱い、口コミやXで客を募り、秘匿性が高い通信アプリ「シグナル」や「テレグラム」に誘導し、やりとりしていたといいます。密売価格はカートリッジ1本1万5000円~3万円程度、被告は逮捕前、高級車を乗り回し、派手な生活を送っていました。沖縄県警は県内で流通しているエトミデートの大半をこの組織が握り、違法薬物の密売で億単位の売り上げを得ていたとみています。エトミデートを巡っては、沖縄以外にも、東京や福岡、三重など各地で摘発されています。警察庁によれば、規制開始以降、2025年10月末までに摘発者は18人に上り、九州厚生局麻薬取締部と大分県警は8~9月、インドから7月にエトミデートの粉末約100グラムを密輸したとして、中国籍の20代の男3人を医薬品医療機器法違反容疑で逮捕しています。捜査関係者は「事件は氷山の一角で全国各地に密輸されている可能性がある」と危機感を募らせています。薬物犯罪に詳しい篠塚達雄・横浜薬科大客員教授は報道で「エトミデートは依存性が高いため、摂取量が多くなって死亡するリスクもある。電子タバコで吸引できるので、抵抗感や警戒感が薄く、ファッション感覚などで安易に乱用する若者らの間で広がる可能性もある。啓発と取り締まりを強化すべきだ」と述べていましたが正にそのとおりだと思います。
指定薬物「エトミデート」を含む液体約2.1キロ(末端価格2000万円)をタイから密輸したとして、警視庁は、東京都八王子市、職業不詳の男を医薬品医療機器法違反容疑で逮捕しています。エトミデートが指定薬物に追加された2025年5月以降、密輸事件での押収量としては最多といいます。報道によれば、男は仲間と共謀して11月下旬、エトミデートを含む液体約2.1キロが入ったボトル4本を段ボール箱に隠し入れた国際宅配便を、タイから八王子市の自宅宛てに発送し、千葉・成田空港に密輸した疑いがもたれています。「知人から10万円の報酬で受け取りを依頼されたが、届いたら拒否するつもりだった」と容疑を否認しています。液体は「ボディーローション」と申告されており、東京税関の検査で発覚したといいます。なお、容疑者は指定暴力団と密接な関係があるとされ、警視庁は暴力団の資金源になっているとみて調べています。以下は、直近の厚生労働省からの発信ですが、東京都がネットで流通しているエトミデートを確認し、注意喚起しているものです。
▼厚生労働省 指定薬物を含有する危険ドラッグの発見について
- 都では、危険ドラッグによる健康被害の発生を未然に防止するため、インターネット等で流通、販売される危険ドラッグを入手し、成分検査を行っています。
- 試買した物品について、検査を行ったところ、以下の物品から「医薬品、医療機器等の品 質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」で規定される「指定薬物」である「エトミデート」を検出しました。
- このため、危険性について都民に広く注意喚起するとともに、当該物品を所持している方に対して、違法であることを警告し、任意提出を促すものです。
- 【指定薬物検出物品】詳細は次頁(略)のとおり
- 上記の物品は、「指定薬物」を含有しており、製造、輸入、販売はもとより、所持、譲り受け、使用も厳しく規制されます。
- 上記の物品をお持ちの方は、絶対に使用せず、速やかに住所地の「都道府県薬務主管課」へ申し出て、その指示に従ってください。
- 物品名等 性状 検出違反成分
- 物品1 不明(販売元に複数の絵文字が記載) 液体 エトミデート
- 物品2 不明(販売元に複数の絵文字が記載) 液体 エトミデート
- 物品3 不明(販売元に複数の絵文字が記載) 液体 エトミデート
- 物品4 不明(販売元に複数の絵文字が記載) 液体 エトミデート
最近の薬物を巡る報道から、いくつか紹介します。
- 横浜市内で下半身を露出したとして、日本体育大レスリング部の10代の男子部員が、公然わいせつ容疑で逮捕されましたが、部員が違法薬物を使用した疑いもあり、県警が鑑定を進めています。部員は2025年12月下旬、横浜市青葉区のコンビニ店で裸になり、公然わいせつ容疑で逮捕さ、神奈川県警はその後、レスリング部の寮を家宅捜索しています。日体大レスリング部は五輪メダリストを輩出する強豪で、同大は「誠に遺憾であり、厳正に対処する」との石井隆憲学長名のコメントを発表しています。大学スポーツ界における薬物問題はいまだ収束していない「闇の深さ」、構造的な問題の解決の困難さも感じさせます。
- 鳥取県警捜査2課は、覚せい剤取締法違反や麻薬特例法違反の疑いで稲川会傘下組員の男を逮捕しています。男が所持していた覚せい剤約53グラムを押収し、覚せい剤を売るなどした東京、千葉、愛知、埼玉、奈良、鳥取の1都5県の30~70代男女14人を摘発しています。また、鳥取地裁は男が所持していた約241万円に没収保全命令を出しています。
- 茨城県土浦市の農業用ハウスで大麻草(末端価格8億円相当)を栽培したとして、関東信越厚生局麻薬取締部は、大麻草栽培規制法違反(営利目的栽培)の疑いで、千葉県九十九里町の漁師の容疑者ら男女計4人を逮捕し、東京地検が同罪で起訴したと明らかにしています。同部は少なくとも5年前から栽培し、麻薬を販売していたとみて調べています。4人は2025年6~8月ごろ、農業用ハウスで、大麻草380本を栽培したとされ、8月以降に逮捕、起訴されました。4人のうち千葉県山武市の男の家からは、栽培した大麻草から製造したとみられる大麻リキッド約700本や乾燥大麻約3.1キロを押収、この男と被告は麻薬取締法違反(営利目的所持)罪でも起訴されています。
- 関西空港から乾燥大麻31.1キロ(末端価格約1億5千万円)を密輸したとして、大阪府警は、麻薬取締法違反(営利目的輸入)などの疑いでベトナム国籍の女2人を逮捕し送検しています。大阪税関によれば、同空港での乾燥大麻の一度の摘発量としては過去最大で、約6万回分の使用量に相当するといいます。2人のスマホに秘匿性の高いアプリを通じた指示役とのやりとりが残っており、府警は組織的犯行とみて捜査を進めています。逮捕容疑は2025年10月、タイから乾燥大麻89包をスーツケース4個に隠し、周りに魚などの干物を詰めて偽装して航空機で密輸した疑いがもたれています。税関によれば、タイからベトナム国籍の旅客が入国することを不審に思い、入国検査を実施し発覚したものです。
- 英国から麻薬のケタミン約200グラムを密輸しようとしたとして、名古屋税関中部空港税関支署は、関税法違反(禁制品輸入未遂)の疑いで、ベトナム国籍の自称解体作業員の容疑者を岐阜地検に告発しています。中部空港でのケタミンの摘発は初だといいます。告発容疑は2025年10月、他の人物と共謀し、英国からドイツなどを経由して中部空港に到着した貨物便でケタミンを密輸しようとしたとしています。税関職員がエックス線検査で発見、荷物の宛先は容疑者が住むアパートの一室で、段ボール箱に粉ミルクや子ども服などとともに入っていたといいます。
- 大麻由来の有害成分テトラヒドロカンナビノール(THC)を含む液体を米国から密輸しようとしたとして、警視庁と東京税関は、麻薬取締法違反(営利目的輸入)の疑いで、横浜市の自営業の容疑者を逮捕しています。逮捕容疑は2025年5月、何者かと共謀し、THCを含む液体約1キロを隠した貨物を米国から横浜市にある容疑者の関係先宛に発送し、成田空港に到着させて密輸したとしています。警視庁薬物銃器対策課によれば、容疑者は6月に大麻成分を含む液体を密輸したとして同法違反容疑で11月に逮捕され、その後の捜査で、5月に横浜税関が差し押さえていた薬物の密輸にも関与した疑いが浮上、米国業者から輸入したとみられ、詳しい経緯を調べています。
- カナダから東京都内の民泊施設に覚せい剤計約1.9キロ(末端価格1億1500万円相当)を発送して密輸しようとしたとして、東京税関は9日、関税法違反(禁制品輸入未遂)の罪で、カナダ国籍の無職の容疑者を東京地検に告発しています。容疑者は2025年8月に来日し、指示を受けて都内の民泊10カ所以上を移動、各所で、届いた覚せい剤を受け取るなどしたとみられています。告発内容は何者かと共謀し9月、2回にわたり都内の民泊に覚せい剤計約1.9キロの入った国際宅配便を発送し、密輸しようとしたとしています。税関職員が発見、容疑を認め「約3千万円分の借金があり仕事を受けた」と説明しています。東京税関は中身を別の物に入れ替えて追跡捜査を実施、10月に容疑者が受け取ったとして麻薬特例法違反容疑で現行犯逮捕、覚せい剤取締法違反容疑(輸入)で2回再逮捕し、地検が同罪で起訴したものです。
- 合成麻薬MDMAを密輸入しようとしたとして、沖縄地区税関は、関税法違反(禁制品輸入未遂)の疑いで米国籍の住所不詳、脚本家兼俳優の容疑者を那覇地検に告発しています。告発容疑は2025年11月、台湾桃園国際空港で飛行機に搭乗する際、MDMAを含む結晶0.78グラムをトートバッグに隠し、輸入しようとした疑いがもたれています。容疑者は英ロンドンから飛行機に乗り、台湾で乗り継いで那覇に向かい、那覇空港で税関職員が荷物を検査し、バッグの中のポーチからMDMAを発見したものです。
- ブラジルからコカイン約55グラム(末端価格約112万円相当)を密輸したなどとして、厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部などは、麻薬取締法違反(輸入・所持)などの疑いで、医師の被告を逮捕しています。逮捕容疑は2025年1~2月、何者かと共謀し、コカインを含む粉末約55グラムを隠した荷物をブラジルから川崎市にある被告の関係先宛に発送して羽田空港に到着させて密輸したほか、10月に川崎市内の関係先でもコカインを含む粉末約3グラム(末端価格約7万5千円相当)などを所持したとしています。麻薬取締部によれば、税関職員の検査で密輸が発覚、10月に被告の関係先を捜索し、合成麻薬MDMA約32グラム(約54万円相当)なども押収しています。被告は横浜市で精神科のクリニックを開業しており、自分で使用するためにブラジルから密輸したとみられています。
- 広島県警は、自宅官舎で乾燥大麻を所持したとして、麻薬取締法違反(所持)の疑いで、東広島署巡査の容疑者を現行犯逮捕しています。高知県警から情報提供があり、合同で捜査していたものです。容疑者は同署刑事2課所属で、薬物とは別の知能犯罪を担当、2015年4月から2024年3月まで高知県警で勤務していました。逮捕容疑は、東広島市内の自室で大麻約3.976グラムを所持したとしています。広島県警は大麻使用の疑いも視野に捜査しています。
- 大阪府警東淀川署は、大阪市城東消防署に所属する消防士長の容疑者を覚せい剤取締法違反(使用)容疑で逮捕しています。2025年11月下旬~12月上旬に、いずれかの場所で覚せい剤を使用したとしています。東淀川署は、容疑者を知人女性に対する監禁容疑で現行犯逮捕、尿検査で覚せい剤の陽性反応が出たため再逮捕したものです。
- 商業施設の駐車場に停めていた車の中で大麻を所持していたとして、25歳の看護師など男女3人が麻薬及び向精神薬取締法違反の疑いで緊急逮捕されました。3人は2025年11月、高岡市内の商業施設駐車場に停めていた車の中で、ビニールの小袋に入った大麻0.21グラムを所持していた疑いがもたれています。パトロール中の警察官が職務質問し、大麻の所持が発覚したため、翌日の29日に緊急逮捕しました。
- 九州運輸局は、福岡市内の駐車場に止めた乗用車内で、大麻を含む植物片を所持したとして、福岡運輸支局久留米自動車検査登録事務所の陸運技術専門官を懲戒免職処分にしています。福岡県警に逮捕され、麻薬取締法違反の罪で、2025年11月20日付で起訴されていたといいます。
- 乾燥大麻を所持したとして、麻薬取締法違反罪に問われた俳優、清水尋也被告に、東京地裁で有罪判決が言い渡されました。報道によれば、13歳でデビューした被告が初めて大麻を吸ったのは、検察側の冒頭陳述などによると米国に語学留学していた20歳のころだといい、語学学校の友人に勧められたのがきっかけで、遅くとも22歳のころには日本国内でも吸うようになったといいます。検察側は俳優である自身が売人と顔を合わせるわけにはいかないと考え、知人にカネを渡して買いに行かせていたと指摘、ドラマや映画の撮影が少ない時期には、週に1回程度大麻を吸っていたといいます。判決公判で、裁判官は拘禁刑1年、執行猶予3年(求刑拘禁刑1年)を言い渡し、判決理由で裁判官は、犯行前にも使用頻度が上がり、依存性も生じつつあったとして、「その刑事責任は決して軽くない」と指摘、更生に向けた取り組みを始めていることなどを考慮して執行を猶予するとしました。
- 販売目的でアヘンを所持したなどとして、神奈川県警薬物銃器対策課などは、自称イラン国籍の容疑者ら男性3人をあへん法違反(営利目的共同所持)などの容疑で再逮捕、神奈川県警として同法違反容疑で逮捕するのは1966年以来59年ぶりになるといいます。容疑者の再逮捕容疑は、2025年10月、販売目的で静岡県沼津市に駐車した車内でアヘン約30グラムを所持したとしています。3人は静岡県富士市の倉庫で覚せい剤を所持したなどとして、覚せい剤取締法違反(営利目的所持)容疑で逮捕、神奈川県警は倉庫から約5万錠の薬物や覚せい剤約40キロなどを押収しています。
海外における薬物事犯を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- マレーシア税関当局は、大量の大麻を持ち込もうとしたとして、危険薬物法違反の罪で日本人の男3人を訴追しています。3人は2025年11月、バンコクからクアラルンプール国際空港に到着した際、大麻計43.4キロを隠し持っているところを見つかり、拘束されていました。訴追状によれば、それぞれ大麻14キロ余りをマレーシアに持ち込もうとしたといい、被告側弁護士によれば、3人は依頼を受けて運んだ荷物から違法な麻薬が見つかったことに衝撃を受けていると主張、罪状を否認する予定だといいます。当局は当初、空港の税関検査で3人のスーツケースの中からコカイン計12キロが見つかったと発表しましたが、その後の調べで大麻約43.4キロ(約1億6000万円相当)だったことが判明したものです。
- 本コラムでもたびたび取り上げてきましたが、ミャンマーは麻薬の生産地として悪名高く、タイやラオスと接する国境地帯は、ゴールデン・トライアングル(黄金の三角地帯)と呼ばれています。一帯では長年、現地の少数民族武装勢力などがアヘンの原料となるケシを栽培し、資金源にしてきました。2021年の国軍のクーデター後、状況はさらに悪化、国連薬物犯罪事務所(UNODC)は、国軍と武装勢力の戦闘が激化した結果、「(武装勢力が)薬物の取引を資金源とする動きがさらに広がった」と指摘、メタンフェタミンの年間平均押収量は2017~20年の1億5千万錠から、2021~24年には2億1千万錠に急増しています。クーデター後、薬物の生産が大幅に増えたとみられています。栽培面積は2024年の4万5200ヘクタールから2025年は5万3100ヘクタールに拡大、アフガニスタンでのアヘン生産が減少する一方、ミャンマーが世界最大の違法アヘン供給源となっていることが浮き彫りとなりました。UNODCは、「ミャンマーは重大な局面を迎えている。大幅な栽培拡大は、近年アヘン経済がどれほど巻き返しているかを示すとともに、将来一段と拡大する可能性を示唆している」と指摘しています。独立系メディア・イラワジは2023年3月、クーデター以降、当局は都市部への薬物の流入を黙認していると伝えましたが、利益の一部も得ているとされ、現在も街のクラブやカラオケでは薬物が大量に出回るものの、摘発されることはほぼないといいます。かつての軍政時代も社会は腐敗し、賄賂が横行し、「地下経済」が幅を利かせていた状況に戻った形です。UNODCによると、メタンフェタミン1錠は2019年の2.2ドル(約340円)から2024年は0.6ドル(約92円)に急落、子どもでも手を出せる金額となっており、若者が集まるクラブだけでなく、路上のたばこ屋でも買えるといい、現地では「特に貧困層の乱用者が増えている。今のミャンマーは薬物に汚染されていて、簡単に手にできる。退所した人の9割ほどが、再び薬に手を出してしまう」と指摘しています。
- 中国国営の新華社通信は、中国の麻薬取り締まり当局が2025年11月に南部広東省深圳市の塩田港でコカイン430キログラムを押収したと伝えています。米麻薬取締局(DEA)からの情報に基づき摘発したといいます。トランプ米大統領と中国の習近平国家主席は同10月に韓国で会談し、合成麻薬「フェンタニル」などの問題を話し合いました。中国公安省によれば、米中当局は会談を踏まえて緊密に意思疎通し、複数の麻薬事件を共同で捜査、中国がコカイン押収の事例を公表したのは、麻薬対策を巡る米中協力の実績を訴える狙いがあるとみられています。中国公安省報道官は、米側と最近オンライン会議を開いたと説明し「世界規模で深刻な麻薬問題に共同で対処する」と表明しています。
(4)テロリスクを巡る動向
安倍元首相が2022年に奈良市で銃撃されて死亡した事件で、殺人罪などに問われた無職山上徹也被告の裁判員裁判の第15回公判が奈良地裁であり、検察側は論告で無期懲役を求刑しました。検察、弁護側の冒頭陳述によれば、被告は母親が総額1億円の献金をした世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に恨みを募らせ、安倍氏を狙ったとされ、被告は2025年12月2日の被告人質問で「安倍元首相が教団と政治の関わりの中心で、他の政治家では意味が弱い」と動機を語っています。最大の争点は量刑で、多額献金で家庭が崩壊した被告の生い立ちをどの程度考慮するかが焦点となっています。検察側は冒頭陳述で「不遇な生い立ちは安倍氏と関係がなく、量刑を大きく軽くするものではない」と主張しました。また、検察側は論告で、事件で使用された手製銃について「兵器としか言いようのない物で殺傷能力は極めて高い」と指摘しました。検察側は、犯行態様について「確実に命中させるために無防備な被害者に背後から近づいており、危険で冷酷だ」と言及、「現場付近はデパートや駅が並び、極めて公共性の高い場所で、被害者のほかにも殺傷する危険性が高かった。危険性は過去に類例をみないほどだ」と述べました。それに対し弁護側は母親の入信から始まる一家の崩壊という悲惨な経験が犯行に一直線に結びついているとし、「被告の生い立ちは背景事情と捉えるべきではなく、量刑判断で最も重要視されるべき事実だ」と反論しました。検察側が無期懲役の理由の一つとして示した「高い計画性」にも疑問を投げ掛け、安倍氏の事件現場での応援演説が事件前日に決まったこと、警備態勢が十分とは言えないものだったことを指摘し、仮に安倍氏が奈良市ではなく遠方に行っていたなら、仮に警備が厳重であったなら「殺害を実行に移していただろうか、断念していた可能性が高かったのではないか」と問題提起、そして、教団の違法行為をやめさせるには別の方法があったことを被告が理解できれば「立ち直って、罪を犯さず、社会の中でまっとうに生きていける可能性が十分にある」と結びました。元検事は「被告には、極めて高い計画性や強固な殺意があった。どれだけ不遇な生い立ちであっても人をあやめてよい理由にはならず、犯行動機に酌量すべき点がないのは明らかだ。 同種事件を防ぐという意味でも、検察としては極刑を求めるべきではなかったか。事件を機に、政治家は街頭演説で民意に接するという最も重要な政治活動をしづらくなった。日本の民主主義に悪影響を与えたことや、安倍晋三元首相の政治家としての無念さに十分触れられていないことは遺憾で、検察官の見識を疑う。検察側の求刑意見に法的な拘束力はない。社会的影響の大きさを踏まえた判決となるかに注目している」と述べていますが、筆者としても判決がどのようになるのか注目したいと思います。
イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)は、最盛期にはイラクとシリアの国土の3分の1を支配するまでに拡大しましたが、米軍主導の有志連合による掃討作戦で劣勢に追い込まれ、2019年3月にシリアの最後の拠点を失い、同10月には最高指導者バグダディ容疑者が米軍の急襲で死亡しました。ISはかつてに比べれば大幅に弱体化したものの、その思想は世界に広がり、各地の過激派組織に影響を与えています。米国家テロ対策センターによると、ISは2025年時点でイラク、シリア、アフリカ、南アジアを中心に少なくとも15の支部とネットワークを持っており、メンバーは計8800人から1万3100人程度だといいます。米議会調査局の資料によると、サハラ砂漠以南のアフリカのIS関連組織はナイジェリアを含めて少なくとも五つあり、地元の経済発展の遅れや、脆弱な民主制度や腐敗につけ込み、活動を拡大しているといいます。シリアでは2024年12月のアサド政権崩壊後に生じた権力の空白に乗じ、ISが再び活動を活発化させつつあるとされます。後述するとおり、米国はシリアで米兵ら3人がISに殺害されたとして、シリア国内のISの関連施設に攻撃を始め、シャラア大統領率いる暫定政権は米国と協力してIS掃討に取り組む構えです。オーストラリアの最大都市シドニーのビーチで15人が死亡した銃撃テロでは、容疑者の1人が過去にISとの関係性を理由に捜査を受けていたといいます。また、トルコの検察当局は、ISがクリスマスと新年にあわせた攻撃を計画していたなどとして、115人の容疑者を拘束したと発表しています。
米軍は、シリア中部のパルミラで、待ち伏せ攻撃を受けた米兵2人と米民間人の通訳1人が殺害されたと発表、2024年末にアサド政権が崩壊して以降、シリアで米軍が攻撃を受けて死者が出るのは初めてとなります。トランプ大統領はSNSで、ISの犯行だと主張し、「激しく報復する」と述べました。米中央軍によると、ISの単独の狙撃手による待ち伏せ攻撃とみられ、殺害された計3人のほか、米軍人3人が負傷、狙撃手は射殺されています。2025年11月にはシリア暫定政権のシャラア大統領が訪米してトランプ氏と会談し、IS打倒を掲げる米主導の有志連合に加わることで合意していました。米軍は2014年以降、IS掃討などのためシリアに駐留しており、第2次トランプ政権の発足後、シリアへの派兵規模を縮小する政策を進めているところです。その後、ISはシリアでの米兵ら殺害は米軍とシリア治安部隊にとって「打撃」だとするコメントを発表しています。ISは今回の襲撃について、宗教的な表現を使って支持者の疑念を払拭するための決定的瞬間と位置付けたものの、明確な犯行声明ではありませんでした。シリア政権は、犯人についてはISに同調した疑いのあるシリア治安部隊の隊員だと説明していました。そして、2025年12月19日、米軍は報復として、シリアでISの拠点を攻撃したと発表しました。ヘグセス国防長官はSNSへの投稿で、戦闘員や武器庫などを攻撃したと明かし、「米国は決して容赦しない」と述べました。米中央軍によれば、戦闘機や100発以上の精密誘導兵器などで、シリア中部の70以上の標的を攻撃、ヨルダン軍の戦闘機が作戦を支援したといいます。トランプ米大統領は、シリア暫定政権が米軍の作戦を「全面的に支持している」とも強調、この日の演説では「全標的を完璧に破壊した」と成果を誇りました。米軍はシリアなどで23人のテロリストを殺害または拘束したとし、シリアの外務省は「国内に『イスラム国』の安全な場所はない」として、「イスラム国」の排除に向け軍事作戦の強化を続けると強調しました。さらに、米中央軍は2026年1月10日、シリア全土でISを標的とする「大規模空爆」を実施したと発表しました。ISの拠点など35カ所以上を対象に、90発を超える精密誘導弾を撃ち込み、戦闘機など20機以上を投入したといいます。
中東シリアで、独裁体制を敷いたアサド政権が崩壊してから1年が経過しました。新政権の課題は山積しています。2011年からの内戦で国土は荒廃し、宗派や民族間の対立も続いています。国際社会との関係改善も急がれます。海外へ脱出した難民が安全に帰国でき、国民が安定した生活を築くには、関係各国の支援や関与が欠かせません。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、内戦で国外に逃れた約600万人とされる難民のうち、帰還したのは約120万人にとどまり、数百万人がヨルダンなど周辺国で避難生活を強いられています。建物やインフラの3分の1が内戦で破壊され、世界銀行は2025年10月、復興費用を2160億ドル(約33兆円)と試算しています。国内では、アサド政権下での徹底弾圧で40万人以上が犠牲になり、猛毒の神経剤サリンなどの化学兵器も使ったと指摘されています。こうした弾圧は過去のものになったとはいえ、政情は安定とはほど遠く、最も大きな不安は、独裁や内戦が生み出した「分断」だといえます。シリアではイスラム教スンニ派が約7割を占めており、2025年3月には、スンニ派の暫定政権側の治安部隊とアサド政権側だった少数派のアラウィ派が衝突し、多数が死傷、同7月には、南部で少数派のドルーズ派とスンニ派の遊牧民が衝突し、千人前後が死亡しています。暫定政権は、北東部を実効支配するクルド人勢力と統合を推し進めていくことで合意しましたが、進展はありません。弱体化したとはいえ、ISによる襲撃も起きており、政情不安の長期化は、テロ組織や国際的な犯罪集団が跋扈する要因になりかねず、そうした環境を許してはなりません。アサド政権の後ろ盾だったロシアやイランの影響力が低下する一方、トルコが影響力を拡大させており、イスラエルも自国防衛の観点からシリア各地で空爆を行い、南部への攻撃も繰り返しています。欧米各国や国連は、各勢力に暴力の停止を求めるなど、シリアの復興と安定に協力していく必要があり、日本もインフラ復旧など得意の人道支援で役割を果たしていくべきと考えます。
米とISという点では、2025年12月25日、米軍がナイジェリア北西部でISに対する攻撃を実施しています。ギニア湾に展開する米軍の艦船から10発以上の巡航ミサイル「トマホーク」を発射し、ナイジェリア北西部ソコト州にあるISの拠点2カ所をたたいたといいます。米軍側は「複数のテロリスト」が死亡したとしているといい、トランプ大統領はSNSへの投稿で「彼らは無実のキリスト教徒を何年、何世紀も見たことのない規模で標的にし、残酷に殺害している!」などと主張、「我が国はイスラム過激派によるテロリズムの繁栄を許さない」ともつづっています。ヘグセス国防長官もこの日、SNSへの投稿で「(米軍は)常に準備できており、ISはそれをクリスマスの今夜、知った」とし、「続報もある」と述べています。ナイジェリア政府への「支援と協力」への謝意もつづっています。ナイジェリア外務省は「米国を含む国際パートナーと安全保障協力を続けている」とした上で、「テロリストを標的とした精密攻撃」だったと説明しています。米国防総省によると、攻撃はナイジェリア政府の要請に基づいて行われたといいます。米政権はナイジェリアでキリスト教徒が多数殺害されていると主張し、宗教弾圧や信教の自由を制限する「特に懸念のある国」に再指定、トランプ氏は2025年11月1日、「ナイジェリア政府がキリスト教徒への殺害を許容し続けるならば支援を打ち切る」などとした上で、国防総省には「とりうる行動」について検討を始めるよう指示しており、この直前には「数千人のキリスト教徒が殺害され、ナイジェリアでキリスト教は存亡の危機に直面している」などとも主張していました。この際、ナイジェリアのティヌブ大統領は声明で「宗教的に不寛容とみなすのは現実を反映しておらず全てのナイジェリア人に宗教上の自由を守ろうとし続けてきた誠実な努力を考慮していない」と反論していました。ナイジェリア側は米側の言説に激しく反発する一方、過激派の対策に苦慮しているのも事実で、米国とのテロ対策も進めている現実があります。ナイジェリアが抱える最大の問題の一つは、北部を中心とするイスラム過激派の「ボコ・ハラム」や、ISに共鳴する「イスラム国西アフリカ州」(ISWAP)などによるテロ攻撃や誘拐事件です。実際、同11月21日にはナイジェリア西部ナイジャ州でカトリック系の寄宿学校が武装集団に襲われ、300人以上の生徒や教師が拉致されました。同国では、大規模な拉致事件が相次いでおり、同月17日にも西部のキリスト教会が襲撃されて2人が死亡し、38人が拉致されました。ティヌブ大統領は同11月26日に「治安緊急事態」を宣言するなど、事態は逼迫していました。ナイジェリアでは、主に北部で暮らすイスラム教徒が多数派を占め、南部を中心にキリスト教徒が住んでおり、近年は北部でイスラム過激派の「ボコ・ハラム」や、同組織から分派した「イスラム国西アフリカ州」(ISWAP)が活発化、キリスト教徒が攻撃されることもあるものの、被害者の大半はイスラム教徒とみられています。このことから、キリスト教保守派を支持基盤とするトランプ氏が支持層へのアピールを狙った可能性も指摘されているところです。
オーストラリア東部シドニーのビーチでユダヤ教の祭り「ハヌカ」が催されている最中に15人が殺害された銃乱射事件を巡り、容疑者の親子がISの旗の前で犯行動機を語っているとみられる動画を撮影していたことが警察の裁判資料で明らかになりました。また事件当時、不発に終わったものの、2人が爆発物4個を現場で投げていたことも判明しています。報道によれば、押収した息子の携帯電話から、ISの旗の前で銃を手に座る父子が、「シオニスト(イスラエル国家の信奉者)」を非難するなど、事件の動機を示すとみられる複数の発言をしている動画が見つかったといいます。別の2025年10月下旬に撮影された動画には、シドニー郊外とみられる場所で、2人が銃器の訓練をする様子も映っており、また、現場近くの防犯カメラには、事件の2日前、容疑者とみられる男性2人が歩く姿も確認され、下見をしていた可能性があるといいます。警察はこれらが、「計画的なテロ行為」を示す証拠だと見ています。容疑者のうち父親は現場で警察官に射殺され、息子はテロ行為や殺人など計59件の罪で訴追されています。なお、ISは、本銃乱テロを称賛する記事を系列メディアに掲載しました。警察は事件の容疑者2人がISに感化されたとの見方を示していますが、記事では2人への指示があったかどうかなどISと事件との直接の関係には触れられていません。政府は心のケア支援に4260万豪ドル(約44億円)の支出を決定、ユダヤ系住民のほか、テロの目撃者や救護従事者らの支援に充てるとしています。症状の重い人には無料カウンセリングを提供、地元ニューサウスウェールズ州の保健局はテロ後、心のケア専門の支援要員をビーチ周辺に派遣しています。本テロを受け、ベルリンやロンドン、ニューヨークなど世界の主要都市でハヌカ関連行事の警備が強化されています。ベルリン警察はハヌカ初日の夜を祝うイベントが行われるブランデンブルク門の周辺で警備を強化していると説明、イベントのために以前から警備を計画してきたとした上で、シドニーでの事件を踏まえ、さらに対策を強化すると述べています。ニューヨークのアダムス市長も市内のシナゴーグ(ユダヤ教会堂)やハヌカを祝う行事で追加の警備を展開しているとXで述べています。ポーランドの首都ワルシャワの主要なシナゴーグでは、イベントのために武装警備員が倍増されました。ポーランド警察も警備強化を発表、報道官は「地政学的情勢やシドニーでの襲撃を受け、公館や礼拝所の周辺で予防措置を強化している」と述べています。ロンドン警察も警備を強化したと述べましたが、詳細は明らかにしていません。フランスのヌニェス内相は12月14日から22日までユダヤ教礼拝所周辺の警備を強化するよう自治体に要請しています。なお、直近では、オーストラリアのアルバニージー首相は、今回の銃撃テロに関する独立調査委員会を設置すると表明しています。ユダヤ教徒が標的とされたことから、調査委は「反ユダヤ主義」の台頭や、政府の対応の妥当性などについて検証し、国民の結束に向けた勧告を行うものとし、調査委は2026年4月に中間報告、テロ発生1年後の12月に最終報告をまとめる予定といいます。本銃撃テロ後、被害者を含むユダヤ系住民に加え、与野党、経済界などから調査委設置を求める声が強まっており、アルバニージー氏は記者会見で「政府の優先事項は社会の結束であり、これを達成するには独立調査が必要だ」と述べました。
英国防省は2026年1月3日、英仏の空軍がシリア中部のパルミラ周辺にあるISの地下施設を攻撃したと発表しました。施設は武器や爆発物の保管に使われていた可能性が高かったとし、「作戦は成功した」と報告しています。報道によれば、作戦は同日夜におこなわれ、地下施設に通じる複数のトンネルを攻撃、施設は山岳地帯にあったため周辺に住宅はなく、民間人に被害はなかったといいます。英国のヒーリー国防相は声明で、今回の作戦が「同盟国と連携しながら、中東におけるISの再台頭やその危険で暴力的な思想を阻止する決意を示している」と述べ、フランス軍も同日、SNSでの声明で「ISが再び台頭することを防ぐことは地域の安全保障にとって重要な課題だ」としています。ISは現在もシリアとイラクに5000~7000人の戦闘員を擁しているとされ、米が中心となってISの残存勢力の排除に向けた活動を続け、英国も2019年以降、シリア上空での警戒活動を続けているといいます。
その他、最近のテロやテロリスクを巡る報道から、いくつか紹介します。
- ノーム米国土安全保障長官は、米国が入国禁止措置の対象国を30カ国以上に拡大する計画だと明らかにしました。トランプ大統領は2025年6月、「外国のテロリスト」など安全保障上の脅威から国を守るために必要だとして、12カ国の市民の入国を禁止し、さらに7カ国の市民の入国を制限する布告に署名しました。入国禁止は移民だけでなく、観光客、留学生、出張客などにも適用されます。ノーム長官は、「安定した政府がなく、自立した国家として国民を把握できず、米国の審査にも協力できないのであれば、なぜそうした国の人々の入国を認めなければならないのか」と述べています。米国では同11月、ワシントン特別区で州兵2人が銃撃される事件が発生、捜査当局によると、容疑者はアフガニスタン国籍の男で、2021年に再定住プログラムを通じて米国に入国、トランプ氏は事件を受け、全ての「第三世界諸国」からの移民を恒久的に停止する意向を示しています。
- ボンディ米司法長官は、連邦法執行機関に対して、左派の反ファシスト運動「アンティファ」や類似の「過激派グループ」に対する捜査を強化するよう命じ、連邦捜査局(FBI)には国内テロに関与している可能性のある団体のリストを作成するよう要請しました。検察と連邦法執行機関に送られたメモは、内国歳入庁(IRS)を欺いた「過激派グループ」が関与するあらゆる潜在的な「租税犯罪」を含む国内テロ行為の捜査と起訴を優先するよう司法省に求めています。トランプ大統領は2025年9月、保守系政治活動家のチャーリー・カーク氏が銃撃され死亡したことを受け、アンティファをテロ組織に指定する大統領令に署名、左派団体を標的にした措置を取ると表明しています。過激派を追跡している名誉毀損防止連盟によれば、アンティファは「グループ、ネットワーク、個人の緩やかな集合体で構成された分散型のリーダー不在の運動」といいます。
- 米司法省は、南部ノースカロライナ州シャーロット郊外で2025年12月31日の夜に無差別襲撃を計画したとして、外国のテロ組織を支援しようとした疑いでISを支持する男(18)を逮捕しています。スーパーやファストフード店でナイフやハンマーを使って人々を襲おうと企てていたとしています。司法省や米メディアによると、男は2025年12月12日ごろ、ISメンバーを装った潜入捜査官とオンラインで接触し襲撃計画を明かし、同29日に男の自宅を捜索したところ、襲撃計画を記した文書やナイフ、ハンマーが見つかったといいます。
- ボンディ米司法長官は、カリフォルニア州の複数の標的に対する爆弾攻撃計画を阻止したと発表、これに関連し、4人が訴追されています。同州中部地区連邦地方裁判所に提出された訴状によれば、4人は共謀と未登録破壊装置所持の疑いが持たれています。ボンディ長官は声明で、「極左、親パレスチナ、反政府、反資本主義グループのタートルアイランド解放戦線が2025年12月31日からカリフォルニア州内の複数の標的に対して一連の爆破テロを実行する準備を進めていた。米移民・税関捜査局(ICE)の捜査官や車両も標的にする計画だった」と述べています。訴状によれば、31日にはロサンゼルス地域の米企業2社を標的に5カ所に爆発物を仕掛ける計画だったといい、容疑者らが爆発装置を組み立てる作業を完了する前に連邦捜査局(FBI)の捜査官が介入したということです。また、容疑者らは2026年1月か2月にパイプ爆弾でICEの捜査官や車両を狙う計画も話し合っていたとされます。
- 過激派の男は2025年11月、ニューヨーク州の法廷でユダヤ人や有色人種を狙った無差別テロを準備していたと認めています。クリスマスでにぎわう米ニューヨークで、笑顔のサンタクロースが街ゆく人に猛毒リシン入りのキャンディーを配るというものだったといいます。頼ったのは白人至上主義を掲げる「フォイエルクリーク師団」で、黒幕の設立者はエストニアの13歳の少年だといい、オンラインゲームを通じて勧誘し、人種差別的な本に関する試験に合格した人のみ入団を認めていました。「孤立した若い白人男性は過激派にとって理想的な標的だった」と公判で述べています。
- 2023年4月に始まったスーダン内戦による人道危機が深刻さを増しており、1000万人以上が家を追われ、国軍と準軍事組織の即応支援部隊(RSF)による戦争犯罪の被害が広がっています。ウクライナやパレスチナ自治区ガザとは対照的に国際社会の関心は低く、「忘れられた内戦」となりかけています。スーダンでは30年にわたる支配を続けたバシル政権が2019年のクーデターで崩壊、民政移管のプロセスが始まったものの協力関係にあった国軍とRSFの権力争いに発展し、2023年4月に首都ハルツームで武力衝突、死者は少なくとも数万人とされ、ジェノサイド(集団虐殺)が報告されるなど「世界最大級の人道危機」(国連)と指摘されています。トランプ米大統領は2025年11月、サウジアラビアのムハンマド皇太子の要請を受けて「次はスーダンだ」と述べ、和平実現に取り組むと表明しましたが、関係国の利害や思惑が絡み合い、動きは鈍いままです。和平仲介は「クアッド」と呼ばれる米国、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプトによる4カ国の枠組みが担っていますが、UAEはRSFを支援しているとされ、残りの3カ国が説得する構図となっています。UAEは「アブラハム合意」でイスラエルとの国交正常化に踏み切り、トランプ氏は中東和平に欠かせない存在としてUAEを意識しているとされ、直接的なRSF非難は避けています。スーダンは1990年代、国際テロ組織アルカイダのビンラディン容疑者らさまざまなテロリストを擁護してきました。国家の統治が崩壊した状態は過激派の勢力拡大に格好の環境を与えることになります。放置すれば不安定な状況にあるリビアやエチオピア、ソマリア、南スーダンなどの周辺国に波及しかねず、「それこそがスーダン危機の核心に思える」とシンクタンク国際危機グループのジョセフ・タッカー氏は指摘しています。
- インドの首都ニューデリーの旧市街で車を使った自爆テロが起き、15人が死亡した事件から2カ月が経過しました。大学で働く医師らが関与したことから「ホワイトカラーテロ」として注目され、外国組織とのつながりも報じられましたが、背景には不明な点が多いといいます。事件後には、死亡した実行犯とみられる人物が自爆テロの概念について「殉教作戦だ」などと話す日付不明の動画がネット上で拡散、過激思想に感化されていた可能性が指摘されています。事件に関連し、これまでに7人が逮捕され、うち3人は医師で、アルファラ大に勤務しているか、勤務経験があったといい、他の1人はパキスタン系の武装組織と関わりのある「聖職者」だと現地メディアは報じているほか、トルコやアフガニスタンに指導者がいるとも報じられています。インド政府は事件から2日後、「反国家勢力による凶悪なテロだ」と認定、ただ、今回のテロに関して、特定の国の関与があったかどうかは言及していません。武装組織の犯行声明も出ておらず、専門家は実行犯らについて「同じ思想・イデオロギーを持つ人の閉鎖的な交流の場が、同じ大学の友人の輪の中にできたのだろう」とし、「外国とのリンクがあるとは断定できない」とみています。インドでは人口の約8割がヒンドゥー教徒ですが、イスラム教徒も14.2%を占め、実行犯ら6人が暮らしたカシミール地方では住民の多くがイスラム教徒です。今回の事件に、カシミールの独立を求めるといった意図があったのかは不明ですが、カシミール地方では2025年4月、パハルガム近郊で武装勢力が観光客らに発砲、26人が犠牲になっています。パキスタンを拠点とする過激派組織ラシュカレ・タイバとの関連が指摘される抵抗戦線(TRF)が犯行声明を出し、5月にはインドとパキスタンの武力衝突に発展しました。停戦合意後、インド政府は「どんなテロ行為もインドに対する戦争行為とみなす」との方針を決定しましが、こうした強硬な方針が逆に、今回のテロではインド政府に慎重な対応をさせている面があるとみられています。政府がこれまでテロと言及するのみにとどめている点について専門家は「昔のように何でもパキスタンを非難するようなことはしにくくなった。想定以上にてこずった5月の戦闘を再開せねばならなくなるからだ」と指摘しています。
- 中米エルサルバドルの検事総長事務所は、マラスと呼ばれるギャング組織の構成員248人に、最長1335年の禁錮刑が言い渡されたと明らかにしました。刑を科されたのは悪名高い「MS13」の構成員で、43件の殺人、42件の失踪への関与などを問われました。1人に禁錮1335年、他の10人には463年から958年の判決が下されています。エルサルバドル政府によると、同国ではマラス絡みで過去30年間に約20万人が殺害されており、ブケレ大統領は2022年、非常事態宣言を出し、ギャングを令状なしで逮捕できるようにするなど締め付けを強化、世界最悪レベルだった殺人発生率は劇的に低下したものの、治安部隊による人権侵害も指摘されています。米国はMS13を含む中南米のギャングを「外国テロ組織」に指定しています。
(5)犯罪インフラを巡る動向
クレジットカードが不正利用される被害が止まらず、日本クレジット協会によれば、2024年の被害額は約555億円と過去最悪で、2025年も9月までに約417億円に上っています。ある事例では、男性になりすました中国籍の男らが、約800キロ離れた東京都内で、男性名義のクレカを使い、買い物をしていた疑いが捜査で判明、男性は普段からクレカを使っていましたが、不正利用されたブランドのクレカを作った覚えはなく、自宅に届いた形跡もなかったといいます。一方、2025年3月以降、このブランドのクレカの発行会社から頻繁にメールが届いていたものの、中身は確認せずにその都度消したり、そのままにしたりしていたといいます。身に覚えのないメールは、偽サイトに誘導する「フィッシング詐欺」のリスクがあると警戒(実際、警察や金融機関も、身に覚えのないメールは開かないように呼びかけています)、発行会社からは同3月以降、複数のメールが男性に送られており、カードが作られた際の「入会のお知らせ」のほかに、会社が不審な取引だと気がつき、男性に連絡を取ろうとした形跡もあったといいます。不幸中の幸いだったのは、このクレカの発行会社が、不審な取引の恐れがあると察知、銀行口座からの引き落としを保留にしていたことでした。後に全額を補償してくれたといいます。一方、何者かと共謀して日本信用情報機構(JICC)に対し、別の特定の個人になりすまして信用情報の開示請求をして、情報を不正に得ようとした事例もありました。JICCは信用情報として、特定の個人が持っているクレカブランドや利用状況を持っており、国際犯罪対策課は特定の個人が持っていないブランドのクレカを把握した上で、何らかの形で漏れた個人情報を使い、不正にクレカを作ろうとしたとみられています。筆者も自覚していますが、「警戒」するあまり、本来確認が必要な重要メールを「怪しい」として削除したり、見逃してしまうリスクが顕在化しています。「警戒」が裏目に出る、すなわち「警戒」することが脆弱性を生み、犯罪インフラ化しているという盲点に気づかされました。
Xで新たに導入されたユーザーアカウントの所在地情報を他人が見ることができる機能によって、米国では多くのフォロワーを抱え、国内政治についても発信していたアカウントが、米国外から運用されていたことが指摘され、その後凍結される事態となるなど波紋を呼んでいます。専門家は情報の受け手側に対して、立ち止まって所在地情報を確認する必要性を訴えています。所在地は、ユーザーが接続しているIPアドレス(ネット上の住所)などをもとに運営側が判定しているとみられ、一部のアカウントでは「最近の旅行や一時的な転居の影響を受けている可能性がある」と説明が付いているものもあります。さらに、組織内ネットワークに接続するための「仮想プライベートネットワーク(VPN)」を経由させると、IPアドレスを隠すことができ、こうしたアカウントは「国または地域は正確でない可能性がある」と表示されるため、うのみにすることは危険だという指摘もあります。影響は日本にも及び、投稿内容と所在地に矛盾のあるアカウントに対してユーザー間で指摘が相次ぎ、一部のアカウントが弁明に追われるなどの事態に発展しているといいます。Xでは過激な発言をするなどして表示回数(インプレッション)を稼ごうとするアカウントが存在、その理由の一つに、表示回数やリプライ(返信)の数が、アカウントの収益化につながることが挙げられますが、収益化を目指し、話題の投稿にリプライして表示回数を稼ぐ「インプレゾンビ」たちの所在地について、日本語の投稿に日本語でリプライしていた100のインプレゾンビとみられるアカウントの所在地を確認すると、うち5割がナイジェリアで、次いでインドが約2割を占める結果となったと朝日新聞が報じています。所在地が「ナイジェリア」と表示されたアカウントの一つは、朝日新聞の取材に対し、日本語での投稿は「AIを使っている」と説明。「所在地がばれることは気にしていない。今後も気にすることは絶対にない(No, Never)」と返答してきたといいます。2025年12月の青森県東方沖を震源とする地震をめぐっては、あるアカウントが、Xに投稿された動画を転載して「地震による火災が発生しています」と伝える投稿を地震発生の約1時間後に行うも、「続報」には一部誤情報が含まれており、アカウントの所在地は「インド」と表示されていたといいます。報道でSNS分析に詳しい東京大の鳥海不二夫教授(計算社会科学)は、「新機能によって、なりすましが気軽にできなくなるのではないか」と評価、情報の受け手側にとっては、食品の「産地」のように、発信内容の信頼性を判断する材料になり得ると指摘しています。インプレゾンビが跋扈して社会の分断を助長する犯罪インフラとなる中、こうした機能が有効に活用され、抑止の方向に作用するのならよいことだと思います。
本コラムでは以前から警鐘を鳴らしてきましたが、企業合併・買収(M&A)の仲介会社がインターネット上で宗教法人の売買を取り扱うケースが相次いでいます。宗教法人には税制優遇があるため、節税への活用をPRしてビジネス化しており、文化庁は、脱税やマネロンにつながる恐れがあるとして注意喚起しています。読売新聞によれば、2025年9月上旬時点で、少なくとも中小企業庁登録のM&A仲介会社6社が宗教法人の売却案件を掲載していたと報じており、価格は数千万から数億円、「前住職が数年前に亡くなり事実上休眠中」「贈与税、相続税が非課税」などと宣伝していました。文化庁宗務課によれば、宗教法人について売買の対象と想定しておらず、活動の継続が困難な場合は、解散手続きがあるものの、長年活動のないまま放置されていた法人が売りに出されたり、「退職金」代わりにと役員が法人を売って換金したりするケースが多いといいます。宗教法人は宗教活動による年間収入が8000万円まで非課税になるなど、幅広い税制優遇があり、購入希望者は少なくなく、資産を移して課税を逃れる狙いがあるとみられています。このほか、犯罪収益のマネロンに使われる恐れもあり、売買自体は法律で禁止されていないものの、文化庁は2023年11月、節税への活用などをうたって売買を呼びかけるサイトへの注意を呼びかけ、2025年11月には、業界団体の一般社団法人「M&A支援機関協会」に対し、宗教法人の売買に注意を促す文書を送りました。同庁宗務課は「目的を問わず、宗教法人の承継に金銭を発生させたり、宗教活動を続ける意思のない第三者が法人格を取得したりするのは不適切だ」とし、同協会は会員の仲介会社に周知しています。宗教法人は全国に約18万あり、このうち、住職が不在などの「不活動宗教法人」は2024年末時点で5019確認され、悪用される事件も相次いでいます。島根県では、住職不在の宗教法人の代表になりすました僧侶が、寺の権利の売却名目で現金を詐取した詐欺罪などで2024年1月に松江地裁で有罪判決を受けたほか、宗教法人の購入者らによる脱税事件も起きています。
全国で直近2年間に設立された資本金500万円の法人4万4千社余りの所在地を都道府県別でみると、東京都と大阪府だけでほぼ半数を占め、このうち代表者の住所が中国国内と判明した法人は、東京都が約2割に対し大阪府は約3割に上ったと報じられています(2026年1月1日付産経新聞)。大半が「経営・管理」の在留資格取得を目的とした起業とみられ、大阪が「移民」のターゲットとされてきた実態が浮かび上がりました。実際、大阪市城東区の7階建てビルには、過去2年間で資本金500万円の法人が70社以上も登記、ビル内のある法人の登記簿を確認したところ、代表者の住所は2024年6月の設立当時、中国・北京市内のままでしたが、同年12月に大阪市内、さらに2025年4月には堺市内へと変更され、「日本移住」を実現させていたといい、この法人が入るビルの一室を訪ねたが、ノックに応答はなく、フロアにも人影はなく、ビル入り口のメールボックスには中国系とみられる漢字の社名が並び、この法人のボックスは壊れたまま放置されていたといいます。こうしたペーパーカンパニーが犯罪インフラ化しないか懸念されるところです。
忘れ物防止に使われる「紛失防止タグ」がストーカー行為に使われたという相談が2025年1~11月末で592件になり、2024年1年間の1.6倍に急増したことが警察庁のまとめで分かりました。小型で安価な機器の普及が影響しているとみられます。タグは500円玉大で、発する信号で位置を特定でき、本来は紛失時に見つけやすくする目的で財布や鍵に付けるものですが、「知らない間に車に貼り付けられていた」「手荷物に仕込まれ、立ち回り先を知られた」といった相談が相次いでいるものです。対策には、不審なタグがないか小まめに確認することが有効で、スマホによっては、近くのタグを通知する機能が付いたものもあるといいます。改正ストーカー規制法は2025年12月30日に施行され、無断で他人の持ち物などにタグを仕込んだり、タグを使って他人の位置情報を取得したりする行為を禁止、警察が職権で警告を出せるようにする規定も盛り込まれました。紛失防止タグの犯罪インフラ化の抑止につながることを期待したいところです。
通信用のSIMカードと同様の機能を持つ「eSIM」情報を転売し、他人に不正に携帯電話の通信回線を開通させたとして、神奈川県警は無職の容疑者を電子計算機使用詐欺の疑いで逮捕しました。神奈川県警は、同容疑者がほかにも犯罪用のツールを調達する「道具屋」として、2024年9~12月、約100件の転売で計約50万円を売り上げたとみて調べています。逮捕容疑は2024年10月、氏名不詳者と共謀のうえで正規の契約名義人の手続きを装い、他人名義のeSIM情報で回線を開通したというもので、容疑者は匿名性が高いネット空間「ダークウェブ」上で、何者かが不正に契約したeSIM情報が記録されたQRコードを購入、Xで購入者を募り、秘匿性の高いアプリ「テレグラム」でやりとりをして売却したとみられ、その後、氏名不詳の購入者が回線開通をしたといいます。警察庁サイバー特別捜査部によれば、容疑者のスマホの解析から、使用していたテレグラムのアカウントが判明し、容疑が浮上、県警はこれまで、他人名義の口座を購入し、現金を引き出したとして容疑者を犯罪収益移転防止法違反や窃盗容疑で逮捕し、横浜地検が同罪で起訴しています。
2025年12月16日付ロイターの記事「中国発の詐欺広告に甘いメタ、数千億円規模の収入優先か」は大きな衝撃で、筆者としても憤りを隠せません。具体的には、以下のような内容ですが、メタの犯罪インフラぶりは極めて深刻であり、曲がりなりにも「公益性」があるとされるプラットフォーマーとして失格だと指摘せざるをえません。一方、2026年1月15日付読売新聞の記事「信頼構築謙虚な心で…社会部長 竹原興」では、「誹謗中傷、詐欺商法、陰謀論……。社会部ではこれまで、SNSで傷ついたり振り回されたりした人々を取材し、その問題点を何度も報じてきた。しかし、改善されないどころか、これらの情報を信じた人が「直接行動」に出るさまを見ると、事態はさらに悪化していると言わざるを得ない。SNSの弊害は何か。倫理学が専門の慶応大の杉本俊介教授(44)は、「社会生活に不可欠な基盤である『信頼』が失われることではないか」と指摘する。不確かな言説は、すでに有権者の投票行動にも影響を与えている。既存の政党・団体は信頼を失い、その結果、社会の分断が少しずつ進んでいる。杉本教授によれば、SNSや生成AIに対しては、「その内容が真実かどうか、『健全な不信』を向けるのが望ましい」という。だが、運営するプラットフォーム企業は、その内容の真偽よりもユーザーの関心を優先する設計を施し、ユーザーに過度の依存を促している。「このままでは、何が正しくて間違っているのか、真理の価値すら失いかねない」。杉本教授はそう危惧する。そんな折、オーストラリアで昨年12月、16歳未満を対象にSNSの利用を禁止する法律が施行された。SNSを介した子供のいじめや性犯罪、有害な投稿の閲覧を防ぐのが目的だ。欧米でも利用を規制する動きがじわりと広がっている。片や日本は規制には後ろ向きだが、本当にそれでいいのか。今年の重要な取材テーマになる。SNS時代において、新聞もその信頼性を問われている。信頼は簡単に崩壊する一方で、築くのは難しくて時間がかかる。だからこそ謙虚な心で事実と向き合い、一つ一つ誠実に確認を積み重ね、読者の知りたいに応える――。私たちの誓いとしたい」との主張がなされており、筆者も心から共感できる内容でした。メタの実態を知るにつけ、「信頼」や「真理の価値」といった言葉の重みを痛感させられます。
- 中国政府は国民がメタのソーシャルメディアを利用するのを禁じているが、中国企業が外国の消費者向け広告に使うのは容認している。結果としてメタの中国における広告事業は拡大し、2024年の年間収入は180億ドル(2兆8000億円)強と、全世界収入の10分1余りを占めた。ところが、その約19%に当たる30億ドル強が、詐欺や違法ギャンブル、ポルノやその他禁止商品に誘導する広告に由来するとメタが計算していたことが、ロイターが確認した同社の内部文書で分かった。内部文書は過去4年間、メタの財務、ロビー活動、エンジニアリング、安全対策などの部門が作成し、これまで公表されていない資料の一部。この資料からは、メタがその期間、自社プラットフォーム上での不正行為の規模把握に取り組んでいたものの、事業や収益にマイナスとなる恐れもある是正措置の導入には消極的だった実態が見えてくる。
- 文書によると、メタは自社プラットフォーム上で世界的に掲載される詐欺や禁止商品の広告のおよそ4分の1が中国を発信源にしていると考えていた。そのためメタは中国からの詐欺やその他禁止行為に関する従来の取り組み以外に、特別な詐欺防止チームを設立。さまざまな取り締まりの強化ツールを駆使し、24年後半には問題のある広告を約半分に減らすことができた。中国からの広告収入に占める禁止広告の割合は19%から9%に下がった。
- ここで事態に介入してきたのがマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)だ。昨年終盤に作成された文書には「インテグリティ戦略の転換とザック(ザッカーバーグ氏)によるフォローアップの結果」として中国広告対策チームが業務を一時停止するよう求められたと記されている。ロイターは、そうした戦略の転換が何を意味するか、またザッカーバーグ氏の関与の詳細を突き止めることはできなかった。ただザッカーバーグ氏の関与後、メタは中国に特化した詐欺防止チームを解散し、中国の新規の広告代理店に対するプラットフォームへのアクセス凍結措置も解除した。ある文書では、メタが内部試験で効果的と証明された他の詐欺防止策も棚上げしたことも示されていた。さらにメタが採用した外部コンサルタントの調査で「メタ自身の行動と方針」が、他国の利用者をターゲットにした中国広告市場の体系的な腐敗を助長しているという警告が発せられたとする文書もある。結局、メタの取り締まりは数カ月行われただけで、その後中国では新手の広告代理店が禁止された広告をフェイスブックやインスタグラムへ大量に出稿し、25年半ばまでにメタが中国で得る収入の約16%が禁止広告に関連する構図に戻ってしまった。20年までフェイスブックのプロダクトマネジメント部門で幹部を務めたロブ・レザーン氏は、これらの内部文書が明かにする詐欺広告の実態は、ソーシャルメディア最大手の消費者保護が崩壊していることを示していると話す。
- 広報担当者は、通常の取り締まりの一環として、この18カ月で中国のビジネスパートナーを通じて出稿された広告4600万件がメタの自動システムにより利用者が目にする前にブロックないし削除されたと説明。メタは過去に不正行為を理由として幾つかの中国の代理店との関係を断ったことがあり、違反行為が多すぎる中国のパートナーにも相応の措置を講じていると付け加えた。また「詐欺はインターネット全体で急増し、その背景には検出を回避する手口を巧妙化させ続けている犯罪者や高度に組織化されたシンジケートの存在がある。われわれは先進的な技術や新しいツールを駆使し、犯罪詐欺ネットワークを混乱させ、業界パートナーや法執行機関と協力してプラットフォーム上での認知度を高めることで、これらの詐欺根絶に力を注いでいる」と強調した。
- 中国に限らず、メタは以前から詐欺や禁止商品につながる広告の取り締まりが不十分だとの批判にさらされている。ただ利用者保護と収益確保の間でメタが直面する板挟みが最もはっきりと表面化するのは中国で、同社が事業展開する他の市場とは全く話が異なる。内部文書であるメタの従業員は、中国を同社にとって最大の「詐欺輸出国」と位置づけ、プラットフォーム上で急増する詐欺の最大の発生源だと特定している。
- 一方でメタや主要代理店と直接やり取りしない広告主と取引している「第2級」代理店もあり、結果的に仲介業者による不透明な仕組みが存在する。内部文書や元従業員の証言、メタが依頼したロンドンのコンサルティング会社プロペラフィッシュによる詳細な報告によると、そうした仕組みが詐欺や違法ギャンブル、禁止商品の広告を助長しやすい環境を生み出している。
- さらに中国のテック企業は広告主の本当の身元を隠し、詐欺広告を無害に見せかけるツールも販売している、と報告書は指摘。メタが広告主を確認しようとする場合に備え、AIツールで偽造書類を作成するケースもある。このような状況を一段と悪化させているのは「広告最適化スペシャリスト」と呼ばれる業者で、メタの取り締まりシステムの弱点を巧みに突いて、詐欺や禁止商品の広告を作成する。報告書に基づくと、こうした怪しい広告キャンペーンはしばしば、ヤミ金融などが資金を提供している。
- 今年2月の内部文書には、中国には一部の広告主が安定した事業やブランド構築より短期的な利益を重視する環境があると書かれていた。また、「文化的要因」により、外国人を相手にする場合の非道徳的なビジネス慣行が正当化されているとの記述もあった。この文書には、メタの幹部が中国の広告主による不正行為の比率が相対的に高まり続けるのを容認する方針を示したと書かれていた。
- メタはこれらのアカウント経由で購入された広告について、代理店に約10%の手数料を支払い特別扱いしている。内部文書によると、例えばこうした広告が自動システムで規則違反と判定されても、即座には削除しない。疑わしい広告は、人間による二次審査を受けるまで有効なままとなる。メタの担当者が忙しければ、審査には数日かかることもあり、場合によっては「棚晒し」されたままで、広告が表示され続ける。ある文書は、二次審査に時間がかかるため、詐欺を行う側は大量のインプレッションを獲得する目的を達成してしまうと言及している。メタはまた、中国のパートナーが小規模代理店などとアカウントを共有することも認めており、そうした慣行のためにメタが取引相手の実態を一層把握しにくくなっている。
欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会は、Xに対し、消費者保護を義務付けるデジタルサービス法(DSA)違反で1億2000万ユーロ(216億円)の制裁金を科すと発表しました。DSA違反の認定は、2024年2月の全面適用後初めてとなります。旧ツイッターでは、著名人のアカウントに本人であることを証明する青色の認証マークを提供していましたが、2022年のイーロン・マスク氏による買収後、有料会員なら誰でも同じ認証マークを利用できるルールに変更、欧州委は、ルール変更後、認証マークを利用した詐欺が行われる恐れが生じたなどとして、Xの利用者保護が十分でないと判断、このほか、Xが提供する広告についての開示が不十分なこと、Xが保有するデータを研究者などが入手しにくくなっていることもDSA違反と認定しました。欧州委は米メタに対しても、傘下サービスの対話アプリ「ワッツアップ」で他社の参入を制限しているとして、EU競争法違反の疑いで調査を開始しています。
SNS禁止の動きを巡る国内外の動向から、いくつか紹介します。
- オーストラリアで16歳未満のSNS利用を制限する法律が施行されました。一律に規制する世界初の法律に注目が集まる一方、利用者の年齢を確認することは技術的に難しく、「抜け穴だらけ」との指摘も上がっています。政府も法の脆弱性を認めており、手探り状態での船出となりました。最大の課題は年齢認証で、政府は、パスポートなどの公的な身分証による年齢確認を強制することは、逆に個人情報が流出する恐れがあるとして見送り、代替策として、一律的な顔認証システムによる年齢認証を検討したものの、国内の学校を対象にした試験運用での認証率は約85%にとどまり、政府主導での認証制度の確立は事実上断念しました。政府は、規制対象となった10のSNSを運営する企業側に、既存の16歳未満のアカウントを凍結し、さらに、新規開設を防ぐための措置を求め、違反した場合は最大4950万豪ドル(約51億円)の罰金が科され、年齢確認の責任は事業者が負うことになりました。また、法律に抜け道があることも指摘されており、保護者など16歳以上が開設したアカウントを16歳未満の子どもが使う可能性や、仮想プライベートネットワーク(VPN)を経由して国外からの接続を装ってアクセスすることを完全に防ぐのは難しいのが実態です。国外へ「避難」する人も現れたほか、規制対象外のSNSに乗り換えが進んでいる実態もあります(禁止対象から外れた写真共有アプリ「Lemon8」「Yope」などの利用者数が急激に伸びたといいます)。法施行後に発表された成人を対象にした世論調査では、回答者約1600人の79%がSNS利用の禁止を支持していますが、自分の端末とは別に、母親の古い端末を使って禁止対象のSNSを使用している事例、一部のSNS運営企業が年齢確認のために導入する顔認証を、他人の顔写真などを利用して突破するといった事例も報告されています。
- オンライン掲示板を運営する米レディットは、オーストラリアで施行された16歳未満のSNS利用禁止措置を巡り、「少年少女が社会に参加する機会を阻害している」として、豪最高裁に違憲審査を求める訴訟を提起しました。豪政府は「訴訟には屈しない」と全面的に争う姿勢です。レディットは、豪政府から禁止対象に指定された10のSNSの一つで、同社は選定の仕方が「非合理的だ」と批判し、レディットを外すよう主張、さらに「禁止措置はプライバシーや政治的表現(の自由侵害)の問題をもたらしており、法廷で見直しを求める」と訴えています。一方、法廷闘争の間も「法律を順守する」と表明しています。禁止措置を巡る違憲訴訟は、15歳の少年少女らが2025年11月に起こしたものに続き2例目で、バトラー保健相は、「企業による提訴は、子供の心の健康をむしばみながら得ている利益を守るための行動だ」と反発しています。多くのSNS事業者は反発しつつも法令を遵守する姿勢を示していますが、X幹部は「若者をより安全ではないインターネットの片隅に追いやることになる」と述べ、若者が規制の緩い他のSNSに流れるだけで、安全性がかえって損なわれかねないと訴えています。「いじめやヘイトスピーチ、有害コンテンツへの接触は、オンラインゲームの中でも起きてきた。SNSだけ規制しても限界がある」との批判も尽きません。一方で、子どものSNS利用への規制は、テック大手おひざ元の米国でも広がりつつあり、全米50州のうち、少なくとも11州が法律を施行、または施行予定です。ただ、企業側の反発や訴訟で差し止められている州もあり、議論は続いています。トランプ大統領も、規制に理解を示しつつも、厳しい基準には批判的な姿勢をとっています。
- メタは、オーストラリアのSNS禁止措置により、傘下の三つのSNSで計54万4052件のアカウントを停止したと公表しました。また、子供が規制逃れのため禁止対象外のSNSに流れているとして、不公平の是正に向け、豪政府と業界との間で「建設的な対話」を行うよう求めています。メタは施行翌日の2025年12月11日までに、16歳未満が利用していると判断したアカウントを停止、内訳はインスタグラムが33万639件、フェイスブックが17万3497件、スレッズが3万9916件だといいます。豪政府はメタ運営分を含め10のSNSを禁止対象に指定しましたが、類似機能を持つ未指定のSNSも多く、一部で登録が急増、メタは不公平是正策として、全てのSNSをダウンロードする「アプリストア」の段階で年齢確認と親の承認を義務付けるべきだと提案しています。
- フランス政府は2026年9月以降、15歳未満の子どもによるSNS利用と、高校での携帯電話利用を禁止する計画だといいます。子供の精神状態に悪影響を及ぼすなどSNSの弊害が指摘されているためで、ルモンド紙とラジオ網のフランス・アンフォによれば、政府は2026年1月初旬に法的審査のための法案を提出する予定で、マクロン大統領は2025年12月31日の演説で禁止措置の法制化に言及しなかったものの、「子どもや10代をSNSとスクリーンから守る」と約束しました。フランスでは、小学校と中学校で携帯電話の使用は2018年から禁じており、また、2023年に成立した法律では15歳未満がSNSアカウントを作る際に保護者の同意を得ることを運営会社に義務付けています。しかし、技術的な課題により施行が滞っており、2025年4月にフランス東部の学校で起きた少年による刺殺事件を受け、マクロン氏は同6月に欧州連合(EU)で15歳未満のSNS禁止を推進すると表明していました。また、国民議会の委員会は2025年9月、未成年者のSNS利用禁止を推奨する報告書を取りまとめ、若者に人気の動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」について公聴会を開いて調査し、「精神的に未熟な若者を、自殺や自傷行為、摂食障害など有害な内容の動画にさらすサービス設計になっている」と危険性を指摘しています。さらに、2025年11月に公表の仏政府の世論調査によれば、国民の7割が15歳未満のSNS利用禁止に賛同しているといいます。また、ティックトックを相手取った集団訴訟も起きています。ある遺族は「ティックトックが娘を負のスパイラルに追い込んだ」と主張、仏検察当局も、自殺の手段や道具を推奨した疑いがあるとして、ティックトックに対する予備捜査を進めています。
- 日本の規制の動向について専門家は、「かつてのリスクの中心は、出会い系サイトを通じた性被害だったが、今は、いじめ、誹謗中傷、闇バイトへの勧誘、生成AIによるディープフェイクなどに拡大しており、これらはフィルタリングでは防げない」と指摘、特に、「SNSのもつ依存性」に着目し、「リスクのフェーズが変わった」と警告(慶応大の水谷瑛嗣郎准教授(メディア法))、「SNS事業者は子ども一人一人の興味をひくコンテンツを大量の利用データから予測し、スロットマシーンのように次々と表示することで、子どもたちの注目を引きつけ依存を強める」と警戒しています。今後、政府の有識者検討会では、ネット環境整備法の改正も視野に入れつつ、SNSなどのアプリ事業者やアプリストア運営事業者による対策について議論していく方針とはいえ、事業者の抵抗も予想され、当面は自主規制から始めるとの見方もあり、「賢く使わせる」という方針も堅持される可能性が高い状況です。政府のこうした姿勢には懸念も出ており、東北大加齢医学研究所の川島隆太教授は、「SNSやスマホには依存性があり、使いすぎると脳の発達に悪影響があるという研究結果がでた。たばこやアルコールと同様に子どもたちから遠ざける必要がある」と主張、川島教授らが2010年から毎年、小中学生を対象に生活習慣と学力の相関関係を調べたところ、SNSを使う子どもほど学力が低かったうえ、5歳から18歳の約200人の脳をMRI(磁気共鳴断層撮影装置)で撮影し、3年後に再び撮影して比べたところ、ネット利用が長い子どもの大脳白質の発達が遅れていたといいます。川島氏は「SNSのように依存性があるものは、自分の意志でやめるのは難しい。法規制で遠ざけるべきだ。なぜ政府は動きが遅いのか」と批判しており、説得力があります。
- 子供のSNS規制の動きは世界的に広がっています。2025年に入りフランスやデンマークなどが15歳未満の利用を禁止する方針を表明したほか、アジアではマレーシアが2026年から16歳未満の利用を禁止すると発表しています。これに対し日本では、年齢で一律に使用を制限するのは行き過ぎだとして、民間事業者の自主的な取り組みを求めてきました。2009年に青少年インターネット環境整備法が施行されましたが、有害情報へのアクセスを制限するフィルタリングの促進が主な内容で、こども家庭庁などが同法の改正を検討しているものの、年齢制限の議論にはなっていません。警察庁によれば2024年にSNSがきっかけで犯罪被害にあった全国の未成年者は計1486人で、このうち136人は小学生でした。小中高校生らの「ネットいじめ」も年々増加しています。一方、災害の多い日本ではSNSが子供の安全に資する場合がある可能性もあります。子供を守ることを最優先にSNS対策へ知恵を絞ることが重要だといえます。
- オーストラリアでは100万人以上の若者がアカウントを失い、その9日後には12月から1月にかけての長期休暇が始まりました。国の大半は2026年2月まで休業状態となりますが、メンタルヘルスの専門家らは、「学校が休みの6週間ほど、基本的に孤立することになる」、「時が経つにつれ、ソーシャルメディアが恋しくてたまらなくなるだろう」、「1年で最も長い学校休暇の直前というタイミングで禁止措置が始まることで、十代が受けるショックは強まりかねない」と指摘しています。若者は人との交流をテクノロジーに依存しており、休暇中は学校が与えてくれる習慣や制度的支援もなくなるためです。学校からもSNSからも断ち切られることによる「コールドターキー効果(断絶によるショック)」は、遠隔地に住む子どもや、移民、LGBTQI+などの子どもに特に顕著に現れる可能性があります。こうした若者は、仲間とのつながりをインターネットに依存する傾向が強いといわれています。SNS経由でメンタルヘルス・サービスを利用している16歳未満のオーストラリア人の数を示す定量調査はないものの、青少年サービス「リーチアウト・ドット・コム」が2024年に実施した調査では、16~25歳の72%がメンタルヘルスの助言を求めるために、約半分は専門家の支援を探すために、それぞれSNSを利用していることが分かったといいます。オーストラリア政府は禁止措置について、若者をいじめや有害なコンテンツ、中毒性のあるアルゴリズムから守るのでメンタルヘルスに有益だと主張しています。政府機関の委員は、禁止措置の開始後2年間、政府は「メリットだけでなく予期せぬ結果」についてもデータを収集すると説明しています。
- SNS禁止とは異なりますが、最近、暴行動画がSNSで拡散した事例が相次ぎました。仲間内でいじめや暴行を助長する可能性が指摘されています。SNSでの中傷被害に詳しい清水陽平弁護士は、悪意ある撮影は、暴行している当事者だけでなく、撮影者や周囲の生徒たちも加害者になり得るという指摘をしています。暴行の被害者にとっては、撮影されたくない様子を一方的に撮られていることになり、肖像権侵害の問題も生じます。本来は教諭や学校がいじめにつながる行為を止める責任がありますが、「SNSが発達し、動画を撮ることが日常となった現代では、信頼できる大人に相談するより、早く手軽に、影響が大きい投稿へと進み、学校などの介入は後手に回る」と指摘、次の段階として、動画が複数の生徒の間で共有されれば、プライバシー侵害のリスクは格段に高まり、誰かがグループという閉じられた枠を超えて、無限に広がるネット空間に投稿する危険性を完全に排除できません。書き込む内容によっては、名誉毀損や侮辱で民事上、刑事上の責任を問われることもありえます。ユーチューブやXの利用者を介在して爆発的に拡散してしまえば、ネット空間での完全削除は難しく、「デジタルタトゥー」と呼ばれる問題となります。清水弁護士は動画拡散の背景には誤った「正義感」があると指摘、「中傷する人たちには、そもそも自分が中傷しているという認識がない場合が多い。今回も『いじめを告発する』という正義感を主張するケースも出てくるだろう」。また、ネット上でまとめサイトができるなど拡散が続いていることに触れ、「プライバシー侵害の問題だけでなく、未成年の場合は健全な育成や更生の機会を失うことにもつながりかねない」と指摘していますさらに、対応が遅れれば、被害者側が学校や教育委員会に対する不信感を抱き、SNSのインフルエンサーらに救済を求める事態につながり、「拡散してしまった動画が消えることはなく、加害者に対する過度な社会的制裁につながってしまう。学校現場が思う感覚よりもっと速いテンポで対応をする必要がある」と指摘している点は正にそのとおりだと思います。また、別の専門家も「生徒の悩みや課題は多様で、内面に向いている。教員は寄り添おうとしているが、教員側も(多忙で)余裕がなくなっている」、SNSでの拡散については「情報モラルなどの教育は不可欠だが、学校だけでは担いきれない。家庭に委ねれば格差が生じかねない。地域こそ重要とも言われるが、高齢化で担い手がいない」と指摘していますが、こうした構図も根深いものがあると痛感させられます。
サイバー攻撃のリスクに対する認識がようやく高まりを見せています。ただ、サイバー攻撃には多様な側面や手口などがあることも知っておくことが重要です。
台湾の情報機関・国家安全局は、2025年に中国が台湾の当局機関や重要な社会基盤に対して仕掛けたサイバー攻撃の1日あたりの件数が、前年比6%増の263万件だったと発表しました。エネルギー施設へのサイバー攻撃が前年比で1000%増(11倍)と大幅に増加し、公営、民営のエネルギー企業がソフトウエアを更新する際に「マルウェア」(悪意あるプログラム)を埋め込み、エネルギー産業の運営の仕組みなどを掌握しようと試みていたと指摘しています。また、医療機関への攻撃は同54%増で、ウェブサイトの脆弱性をつく身代金要求型ウイルス「ランサムウェア」を使った手口で患者の個人データや病歴、医療機関の研究成果を盗み出していたといいます。サイバー攻撃の時期は台湾の重要な式典、高官による重要な談話の発表や海外訪問に合わせて増えており、中国が敵視する頼清徳総統が2025年5月に就任1年を迎えた時期が最も多くなりました。
中国の国家レベルのものとして、米国とカナダのサイバーセキュリティ当局は、中国政府と関係のあるハッカーらが高度なマルウェアを使用して、政府機関や情報技術企業のシステムに侵入し、長期的なアクセスを維持していたと発表しています。米国のサイバーセキュリティ・インフラストラクチャー・セキュリティ局(CISA)、国家安全保障局(NSA)、カナダサイバーセキュリティセンター(CCCS)が署名した報告が公表され、CISAの局長代理は報告の中で、中国のハッカーが重要インフラを標的にし、機密性の高いネットワークに侵入し、「長期的なアクセス、妨害、そして破壊工作を可能にするために潜伏している」ことを示す最新の例だと述べています。一方、在ワシントン中国大使館の劉鵬宇報道官は、中国政府は「サイバー攻撃を奨励、支援、黙認」していないとし、問題の活動について「関係者はいかなる要請もしておらず、事実に基づく証拠も示していない」ため、関係者の無責任な主張を拒否すると述べています。報告によれば、ハッカーらは「ブリックストーム」として知られるマルウェアを使用して、複数の政府サービスや情報技術機関を標的にしているといい、ネットワークに侵入すると、ハッカーはログイン認証情報などの機密情報を盗み出し、標的のコンピューターを完全に制御する可能性があります。ブロードコムの広報担当者は、ハッカーが「顧客環境にアクセスした後」にブリックストームを使用したという報告を認識しているとし、全ての顧客に対し、最新のソフトウエアパッチを適用し、強固な運用セキュリティを順守するよう促していると述べています。さらに、中国のハッカー集団が米下院の主要委員会の職員が使用する電子メールシステムに侵入したと英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が報じています。「ソルト・タイフーン」と呼ばれる集団で、下院で中国問題を扱う委員会の一部職員や、外交・情報・軍事委員会の補佐官が使用する電子メールシステムにアクセスしたといいます。どの職員が標的にされたかは明らかにされていません。FTによれば、システムへの侵入は2025年12月に検知され、ハッカーらが議員の電子メールにアクセスしたかどうかは不明です。米国の議員や側近、特に軍事・情報機関を監督する者たちは以前からサイバースパイ活動の最大の標的となっており、ハッキングやハッキング未遂の報告は定期的に表面化していますが、中国はスパイ行為への関与を繰り返し否定しています。
高市早苗首相の台湾有事を巡る国会答弁をきっかけに日中間の緊張が高まる中、日本発のAIユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)であるサカナAIが中国の認知戦について調査、外務省出身で、同社幹部の石井順也氏は「SNS上で日本を批判する投稿は、中国外務省が日本側に厳重抗議した2025年11月13日以降に急増しており、中国当局の強い影響が示唆される」と指摘した上で、「ボット(自動投稿プログラム)の蓋然性が高いとみられる動きも相当数あった」と指摘しています。石井氏は「生成AIの進化によって外国勢力が簡単に日本語でプロパガンダを展開できるようになっており、(偽情報などを用いて世論の分断を狙う)認知戦の脅威は確実に増している」との見方を示し、政府による対策強化の必要性を強調、「複数のSNSプラットフォームを対象に、台湾有事を巡る発言に対する反応を可視化した。興味深いのは、日本への批判的な投稿が増加したタイミングだ。高市氏の発言があった昨年11月7日直後には、実はそれほど大きな反応は見られなかった。しかし、中国外務省が日本側へ公式に抗議した13日以降、批判的なナラティブ(言説)の投稿数が急増した。18日には投稿件数が(13日と比べて)約3倍に達したほか、『いいね』の数も爆発的に増えた。過激で反復性のある投稿も多く、ボットの蓋然性が高いとみられる動きが相当数あった」「特に中国語圏でこうした傾向が鮮明となっており、歴史認識・戦争責任問題や、日中共同声明の解釈を含む外交・安全保障問題、沖縄の『帰属問題』などの様々なナラティブが13日以降に一斉に広がった。中国当局が全てをコントロールしているわけではないだろうが、このタイムラグは、当局がSNS上に強い影響力を持っていることを示唆している。また、言語による内容の違いも浮き彫りになった。中国語圏では当局の意向に沿った批判が主流だが、英語圏では排外主義や人権意識の低さといった(欧米で受け入れられやすい)文脈での日本批判が展開されていた」「欧州はロシアによる選挙干渉、台湾では中国による動画共有アプリ『TikTok(ティックトック)』を利用した情報工作が度々指摘されるなど、海外の方がはるかに状況は深刻だ。日本はまだ危機感が希薄だが、生成AIの進化によって外国勢力が簡単に日本語でプロパガンダを展開できるようになり、脅威は確実に増している。表現の自由との兼ね合いもあるが、認知戦に有効に対処するために、政府は積極的に対策を打っていく必要があるのではないか」と指摘しており、大変参考になります。
こうした地政学リスクもふまえ、国家サイバー統括室は、「セイバーセキュリティ戦略」を4年ぶりに改定、閣議決定を得て公表しています。2026年のサイバーセキュリティを考えるうえで、極めて重要なものとなります。外部からの攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御」の関連法の成立を受け、被害の抑制に官民一体で取り組むもので、政府はこれまで、サイバー攻撃には民間企業や地方自治体などがそれぞれの責任で対応すべきだとの姿勢をとり、介入を控えてきたところ、新戦略では企業が受けたサイバー攻撃に関する情報を政府が一括して収集、政府は情報を分析し、企業に対応の方針などを提供するとしています。また、攻撃する側にリスクを負わせる対策を講じ、行動を未然に抑止するほか、官民で連携して人材を育てる重要性も強調、AIや量子技術の進展に伴う取り組みも新たに明記、情報通信に不可欠な暗号方式も取り入れ、政府機関が2035年までに量子コンピューターでも解読しにくい「耐量子計算機暗号(PQC)」を取り入れる目標を掲げています。
▼国家サイバー統括室 サイバーセキュリティ戦略(閣議決定)
- 策定の趣旨・背景
- サイバー空間が、これまで以上に実空間と密接に融合するとともに、もう一つの現実空間とも言うべき状況となる中、AI や量子技術等の先端技術が、デジタルサービスや産業に大きなインパクトを与えようとしている。
- 一方、サイバー空間では、相対的に露見するリスクが低く攻撃者側が優位にあるサイバー攻撃の脅威も急速に拡大している。この脅威は、今日の複雑な国際情勢や我が国が置かれている安全保障環境の文脈においても、大きな懸念となっている。
- 自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値に基づく国際秩序は、戦後 80 年を迎えた今、普遍的価値やそれに基づく政治・経済体制を共有しない国家の勢力拡大や、力による一方的な現状変更及びその試みによって、これまで以上に深刻な危機にさらされている。
- その影響はサイバー空間にまで及んでおり、サイバー攻撃による重要インフラの機能停止、他国の選挙への干渉、機微情報の窃取等は、国家を背景とした形でも、平素から行われている状況にある。
- さらに、武力攻撃の前から偽情報の拡散等を通じた情報戦が展開されるなど、軍事目的遂行のために軍事的な手段と非軍事的な手段を組み合わせるハイブリッド戦が行われている。
- 国際情勢が緊迫化し安全保障環境の厳しさが増す中、サイバー攻撃が国民生活・経済活動に深刻かつ致命的な被害を生じさせるリスクは、今後も一層高まっていくと考えられる。
- 我々は、サイバー空間のもたらす価値を十二分に享受するために、こうしたリスクに適切に対処していかなくてはならない
- 確保すべきサイバー空間の在り方及び基本原則
- 我が国はこれまで、サイバー空間が経済社会の持続的な発展の基盤であり、自由主義、民主主義、文化発展を支える基盤でもあることに鑑みて、基本法に掲げた目的に資するべく「自由、公正かつ安全なサイバー空間」の確保を目指してきた。
- そして、その実現のため、サイバーセキュリティに関する施策の立案及び実施に当たって従うべき基本原則として、「5つの原則」(「情報の自由な流通の確保」、「法の 支配」、「開放性」、「自律性」、「多様な主体の連携」)を掲げてきた。
- 自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値に基づく国際秩序が深刻な危機にさらされている中で、サイバー空間が「自由、公正かつ安全な空間」であることや、「5つの原則」を施策の立案・実施の基本原則とすることの重要性を改めて確認する。
- 他方、サイバー脅威が我が国の国民生活・経済活動、ひいては国家安全保障に深刻な影響を及ぼすおそれが高まる中、「5つの原則」に基づく施策を今日の情勢に適応させ、「自由、公正かつ安全なサイバー空間」を確保するために、国が積極的な役割を発揮すべき場面が、これまで以上に広がっている。
- 例えば、純然たる平時でも有事でもない幅広い状況であるグレーゾーンが拡大しているサイバー空間において、巧妙化・高度化を遂げる組織的なサイバー攻撃を、初期段階から把握し、被害の防止につなげるためには、官民連携・国際連携の下、情報の収集・分析、積極的な提供や発信、サイバー対処能力強化法等に基づく措置を含む能動的な防御・抑止等に取り組んでいかなければならない。これらの取組には、国でなければできないものや、国が様々な主体と積極的に連携することで大きな効果をもたらすものが多く存在する。
- そこで、我が国は、「5つの原則」を、引き続き施策の立案及び実施に当たって従うべき基本原則として堅持した上で、国が、これまで以上に積極的な役割を果たすことで、厳しさを増すサイバー空間を巡る情勢に対応すべく施策を強化し、「自由、公正かつ安全なサイバー空間」を確保していくことを明確化する。
- 厳しさを増す国際情勢と国家を背景としたサイバー脅威の増大
- 我が国を取り巻く安全保障環境において特に注目すべき国・地域も、サイバー攻撃の国家的な利用を行っているとみられている。ロシアはサイバー攻撃を軍事的・政治的目的達成のために利用しているとみられ、2022年のウクライナ侵略前に、同国の政府機関や重要インフラ事業者等の情報システム・ネットワークへの攻撃を行っていたとされている。
- これは、サイバー攻撃がその後の武力攻撃等を見据えた前段階のものとして行われる可能性があることを示唆している。中国は、政府機関や重要インフラ事業者、先端技術保有企業等の情報窃取のためにサイバー攻撃を行っているとみられ、最近では、同国が支援する「SaltTyphoon」が、世界中の電気通信事業者、政府機関等の情報システム・ネットワークを標的としていることが明らかとなってきている。また、同国を背景とすると指摘される「VoltTyphoon」が、Living Off The Land 戦術(システム内寄生戦術)を用いてグアム等の米軍・政府機関や重要インフラ事業者の情報システム・ネットワークに長期間侵入したとされる事例にみられるように、同国は有事を見据え、重要インフラ等の機能妨害・機能破壊も視野に入れたサイバー攻撃キャンペーンを行っているという評価も出てきている。さらに、北朝鮮は、暗号資産の窃取や、外国に派遣したIT労働者が身分を偽って仕事を受注すること等 を通じて、不法な資金の調達を図っており、こうした収入が核・ミサイル開発に利用されていることや、これらIT労働者が情報窃取等に関与している可能性が指摘されている。また、サイバー攻撃を通じた軍事機密情報の窃取や他国の重要インフラへのサイバー攻撃能力の開発等も行っているとされている。こうした状況を通じて、サイバー攻撃に対しては、有事の可能性も念頭に置き、危機感を持って対応する必要があるとの認識が広まりつつある。
- 我が国においても、2019年以降、中国の関与が疑われるサイバー攻撃グループ「MirrorFace」が、日本の安全保障や先端技術に係る情報窃取を目的としたサイバー攻撃キャンペーンを実行している。2024年5月には、北朝鮮を背景とするサイバー攻撃グループ「TraderTraitor」によって、我が国の暗号資産関連事業者から約482億円相当の暗号資産が窃取された。
- そのほか、名古屋港を業務停止に陥らせたランサムウェア攻撃(2023年)や、機微情報の窃取を目的としたとみられる、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)への攻撃(2023年)、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)への攻撃(2021~2024年)が発生している。
- このように、政府機関や重要インフラ事業者等をターゲットにする、国家を背景とするものを始めとした巧妙化・高度化されたサイバー攻撃は、我が国にとっても現に直面する安全保障上の脅威となっている。
- 社会全体のデジタル化の進展とサイバー脅威の増大
- オンラインサービスやテレワークを結果的に後押しすることとなったコロナ禍等を通じて、IoTやクラウドサービス等の活用を始め、我が国の社会全体のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化は大きく進展した。
- その結果、我が国の産業・サービスの効率性や利便性が大きく向上した一方、サプライチェーンの広がりや複雑化も背景に、個人・中小企業を含め、あらゆる主体がサイバー攻撃の標的となるリスクが高まっている。直接的な被害にとどまらず、サプライチェーンの停止、漏えい情報の拡散、IoT 機器の乗っ取り等により、更なる深刻な攻撃や被害の拡大に発展するおそれがある。
- また、今日のサイバー攻撃では、攻撃の実行者が必ずしも技術的な専門知識を有する必要がなくなるなど、攻撃者の裾野の広がりが見られる。ランサムウェアの開発・運営を行う者が、攻撃の実行者にランサムウェア等を提供し、その見返りとして身代金の一部を受け取る形態(RaaS:Ransomware as a Service)が確認されている。標的企業のネットワークに侵入するための認証情報等を売買する者が存在するように、複数の者が役割を分担してサイバー攻撃を成り立たせている場合もある。
- 今後も、デジタル化の進展により、国民生活・経済活動のデジタルサービスへの依存が一層高まっていくとともに、経済的な目的を含め、様々な動機に基づくサイバー攻撃が国民生活や企業活動、社会経済、ひいては国家安全保障に与える影響も、 深刻さを増していくものと考えられる。また、サイバー犯罪の巧妙化等の新たな脅威にも直面しており、サイバー空間における脅威は質・量両面で増大していくと考えられる。
- AI、量子技術等の新たな技術革新とサイバーセキュリティに及ぼす影響
- 生成AIを始めとするAIの急速な発展は、今後、産業や国民生活の利便性や効率性を大きく向上させる潜在力を持つ一方、サイバー犯罪の巧妙化等新たな脅威を生み、社会での活用・普及に伴い、AIに対する攻撃やAIを利用した攻撃が、新たなサイバーセキュリティ上のリスクとして、深刻さを増すことが想定される。
- また、量子コンピュータや、量子通信の社会的な実用化が、現実的なものとなりつつある中、その進展に伴い、現在広く使われている公開鍵暗号の安全性の低下・危殆化が懸念されるなど、多岐にわたる課題への対応が必要になっている。
- こうした新たな技術革新がサイバーセキュリティや安全保障等にもたらす効果・影響に対して、適時的確な対応を行っていかなければならない。
- さらに、こうした技術革新が、サイバーセキュリティ分野にもたらす利便を最大限享受しつつ、そのリスクに的確に対応するためには、サイバーセキュリティ人材・技術の育成・確保に向けた対応は焦眉の急である。
- サイバー空間を取り巻く課題認識及び施策の方向性
- 我が国の国民生活・経済活動、ひいては国家安全保障に深刻な影響を与えるサイバー脅威への対応
- サイバー脅威が我が国の国民生活・経済活動、ひいては国家安全保障に深刻かつ致命的な影響を及ぼすおそれに鑑みれば、被害の防止や事案発生後の的確な対処により、サイバー攻撃に対し実効的に防御していくことが求められている。他方、巧妙化・高度化したサイバー攻撃や、国家背景のサイバー攻撃キャンペーン等が顕在化する今日、あらゆるサイバー攻撃から我が国を完全に防御することは困難である。そのため、こうした従来の防御の取組のみならず、能動的サイバー防御を始めとした攻撃者側に対抗する様々な措置を粘り強く講ずることにより、平素から攻撃者側に継続的にコストを負わせ、サイバー脅威を抑止することで、安全保障や危機管理の観点を踏まえた実効的な防御・抑止の取組を進める必要がある。
- デジタル化の進展・浸透等とそれに伴い拡大するリスクに対応した、社会全体のサイバーセキュリティ及びレジリエンスの確保
- 社会全体のデジタル化の進展や新たな技術革新、サプライチェーンの複雑化等により、あらゆる主体がサイバー攻撃に直面するとともに、一主体の被害や事業停止が社会全体に大きな影響を与えるリスクが発生していることに鑑みれば、攻撃の標的となりうる幅広い主体それぞれにおいて、実効性のある対策の底上げを図らなければならない。前述の能動的な防御・抑止の措置がより実効性を持つためにも、個々の主体が適切な対策を講じ、社会全体のデジタル化とサイバーセキュリティ確保を同時に推進することが必要である。
- 我が国のサイバー対応を支える人材・技術の確保と先端技術への対応
- 実効的な防御・抑止や、自律的な個別主体の対策のためには、我が国において、十分なサイバーセキュリティ人材や技術を確保する必要がある。しかし、我が国は、官民を通じて、サイバーセキュリティ人材の不足が課題となっており、さらに、サイバーセキュリティに関する技術の多くを海外に依存している状況にある。この問題に対応するため、サイバー対応に必要な人材・技術を我が国で持続的に産み出していく環境形成が急務である。また、AIや量子技術等の先端技術は、サイバーセキュリティ分野における活用も期待できる反面、AIの安全性への懸念やサイバー攻撃への悪用、量子計算機技術の進展に伴う既存の公開鍵暗号の安全性低下・危殆化等のリスクも指摘されている。我が国としてこうした先端技術への適切な備えを講ずる必要がある。
- 我が国の国民生活・経済活動、ひいては国家安全保障に深刻な影響を与えるサイバー脅威への対応
- 3つの方向性
- 深刻化するサイバー脅威に対する防御・抑止
- 国家を背景としたサイバー攻撃は、組織化・洗練化されており、また巧妙化・高度化も著しく、我が国にとって現に直面する安全保障上の深刻な脅威である。厳しいサイバー安全保障環境に柔軟かつ適切に対応するため、我が国のサイバーセキュリティにおける司令塔機能を担う国家サイバー統括室を中心に、政府機関等が緊密に連携し、通信情報の利用を含む情報収集等を行うとともに、官民連携・国際連携の下、サイバー攻撃による被害の防止や事案発生後の的確な対処に加え、サイバー対処能力強化法等の成立により可能となった能動的サイバー防御を含む多様な手段を組み合わせることで、平素から攻撃者側に継続的にコストを負わせ、我が国に対するサイバー脅威を能動的に防御・抑止する。
- この取組に当たっては、サイバー対処能力強化法等に基づく措置を含め、国が主導して取組を進める必要がある。ただし、国だけで実現できるものではなく、「多様な主体の連携」を、国が積極的に推進する役割を担う。
- 幅広い主体による社会全体のサイバーセキュリティ及びレジリエンスの向上
- 攻撃の標的となりうる幅広い主体に対し、その主体自身の能力や社会に及ぼすリスクを踏まえ、適切な対策を求めていくことで、社会全体のサイバーセキュリティ及びレジリエンス向上を図る。
- まずは、政府機関等が範となり、強固な対策を実践していくとともに、重要インフラ事業者・地方公共団体はもちろんのこと、サイバーセキュリティ確保に大きな影響・役割を持つサイバー関連事業者やベンダー、そして中小企業・個人等といった様々な主体に求められる対策と実効性確保に向けた方策を明確化し、迅速に実施していく。これにより、社会全体のデジタル化とサイバーセキュリティ確保を同時に推進する。
- この取組に当たっては、様々な社会システムがサイバーセキュリティに関しそれぞれの任務・機能を「自律的に」果たしていくことが期待され、そうした各主体の取組が促進されるよう、国が支援・環境整備していく。
- 我が国のサイバー対応能力を支える人材・技術に係るエコシステム形成
- 産学官を通じて、サイバーセキュリティ人材の確保・育成・裾野拡大にこれまで以上に注力していく。また、研究・開発から実装・運用まで、産学官の垣根を越えた協働による、国産技術・サービスを核とした、新たな技術・サービスを生み出すエコシステムを形成するとともに、AIや量子技術等の新たな技術革新がもたらすサイバーセキュリティ分野の変革に備え、対応していく。
- これについても、関係する各主体の「自律性」、「多様な主体の連携」とともに、これまで我が国でサイバーセキュリティ分野での人材・技術が十分育ってこなかったことに鑑み、国がより積極的な役割を果たしていく。
- 深刻化するサイバー脅威に対する防御・抑止
- これら施策の実現には、官だけ、民だけ、一国だけで対応することには限界がある。官民連携・国際連携の下、広く国民・関係者の理解を得て、国が対策の要となり、官民一体で我が国のサイバーセキュリティ対策を推進していく。これにより、厳しさを増すサイバー空間を巡る情勢に切れ目無く対応できる、世界最高水準の強靱さを持つ国家を目指す。
- 体制・基盤・人材等の総合的な整備・運用
- 我が国のサイバー安全保障の確保に持続的かつ的確に取り組んでいくため、必要となる体制・基盤・人材等を総合的に整備するとともに、関連施策の立案・実施の推進の強化や、サイバー対応・対処に係る能力強化を図っていく。また、運用上の課題や懸念があれば、速やかな見直しや改善に努め、深刻さを増すサイバー脅威に対して的確な対応を行う。このために、司令塔機能を担う国家サイバー統括室を始め、重要インフラ・基幹インフラ所管省庁、サイバー対処能力強化法等に基づくアクセス・無害化措置等の実施省庁やサイバーセキュリティ政策推進省庁においても、体制等の整備・強化等に努めていく。また、政府機関のみならず、公的関係機関、民間団体、民間事業者等が連携し、高度な情報収集・分析能力を担う体制・基盤・人材等を総合的に整備する。
- 通信情報の利用やアクセス・無害化措置の適正確保のために独立機関として設置されるサイバー通信情報監理委員会については、内閣官房担当部署においてその体制整備等の準備を進め、設立後、適切な承認や検査等、サイバー対処能力強化法において同委員会に付与された権限が的確に行使され、サイバー対処能力強化法等が適正に執行されることを担保していく。この際、これらの手続きを円滑に実施し、法の実効性を高めていくため、同委員会が諸外国の例も参考に運営を検討するとともに、国家サイバー統括室を始めとする関係府省庁は、平素から、同委員会に対して、サイバーセキュリティ情勢やそれを踏まえた認識等、関連する情報を同委員会に前広に共有するなど、認識の共有を図り良好なコミュニケーションに努める。
- 官民連携エコシステムの形成及び横断的な対策の強化
- サイバー攻撃の巧妙化・高度化により、官のみ、民のみの防御では限界がある中、官民が連携し、一体となって我が国全体のサイバー防御能力を高めることが必要である。
- このためには、まず官民が、信頼できるパートナーとして、サイバーセキュリティ対策が企業の存続の鍵となる重要な経営課題であるとの企業的な視点と、サイバーセキュリティ対策は日本全体の安全や産業・技術基盤の自律性や不可欠性の確保といった安全保障に直結するとの国家的な視点について、互いに理解を深めることが重要である。
- そして、被害者側に焦点を当てたインシデント対応力の強化に加えて、官民連携を通じた我が国全体のサイバー防御の強化と、攻撃者側に対抗する施策である能動的な防御・抑止に取り組むという、我が国におけるサイバーセキュリティ確保に向けた目指すべき方向性を、官民間で共有していく。
- その上で、官民間の双方向・能動的な情報共有と対策のサイクル、すなわち、官民が共に協力し合う、新たな官民連携のエコシステム形成を目指す。
- 具体的には、国は、民間企業からの情報も踏まえ、サイバー空間における脅威の分析を行い、後述の新協議会の枠組み等を活用し、積極的に民への情報提供を行う。インシデント発生時には、政府機関・民間企業等からのインシデント情報等も踏まえ、被害拡大の防止に向け注意喚起を行う。
- 民間企業は、こうした国の情報も活用しつつ、対策に取り組むとともに、関連する情報を国へ共有するなどの連携を図る。
- こうした情報共有と対策のサイクルの構築に加えて、民間における対策強化に向けたリスクアセスメント、官民における脅威ハンティングの実施拡大、演習の体系的な実施を通じた継続的な改善等、官民横断的な対策強化を講ずることにより、官民全体としてのセキュリティ能力及び国家全体としてのレジリエンスの向上を図る。
- 官民間の双方向・能動的な情報共有と対策強化のサイクルの確立
- 官民連携の前提となる認識共有と信頼関係の醸成には、官民間の複層的な対話の継続的な実施が重要である。実務者層から経営層まで参加し、必要に応じて個別又は分野横断的に異なる階層で行うなど、多角的な視点から対話に取り組む。
- 組織全体の方向性や戦略を担う民間の経営層が、長期的なリスクやサイバーセキュリティ対策の経営的意義を認識し、広い視野で経営判断を行えるよう、国はニーズを踏まえた脅威、分析、対策に関する情報(以下「脅威情報等」という。)を積極的に提供するとともに、随時、民間の経営層との意見交換を行う。また、サイバーセキュリティの最前線に立つ実務者層が、経営層の理解の下で実効性の高い対策を講じられるよう、国は技術的な脅威の動向や具体的な攻撃手法、対応方法といった実践的な情報を積極的に提供する。
- 緊急時に初めて連携を模索するのではなく、平素から信頼関係を築き、予測困難なサイバー攻撃の脅威に対し、官民が一体となって効果的に対応できる体制を構築する。これを具体化するために、新たな官民連携のエコシステムの構築に向けて、2026年秋から、新協議会を立ち上げる。新協議会には、我が国の国民生活と経済活動を支える役務を提供する基幹インフラ事業者を始め、機微情報取扱事業者、セキュリティベンダー、政府機関等が構成員として参加し、国家サイバー統括室の総合調整の下、内閣府が、平素及び事案発生時における脅威情報等の相互共有等を行う。
- 官民における脅威ハンティングの実施拡大
- 近年、我が国の官民組織を対象に Living Off The Land 戦術(システム内寄生戦術)のような高度なサイバー攻撃が行われ、経済社会、国民生活、ひいては国家安全保障に悪影響を及ぼす脅威アクター(以下「高度脅威アクター」という。)が観測されている。
- 既存のセキュリティ対策を適切に実施することが重要であることは言うまでもないが、このようなサイバー攻撃は既存のセキュリティ対策を回避するものが少なくない。
- こうした中、検知を回避し侵入・潜伏した攻撃痕跡等を探索することによってサイバー攻撃の被害を検知する手法であり、かつ、アクセス・無害化措置を始めとする能動的サイバー防御に資する情報を得る手段として有効である「脅威ハンティング」を実施していく必要がある。特に、高度脅威アクターの標的となる政府機関、独立行政法人、サイバー安全保障を確保する上で重要な民間事業者等における脅威ハンティングの必要性は高いと認められる。そのため、2026 年夏を目途に、脅威ハンティングの普及促進、実施等に関する基本方針を策定する。
- ベンダー、中小企業等を含めたサプライチェーン全体のサイバーセキュリティ及びレジリエンスの確保
- 従来、サイバーセキュリティは、各企業等が自ら確保するものと考えられてきたが、社会全体へのDXの浸透に伴い、特定の企業へのサイバー攻撃が、その委託先や取引先等、サプライチェーンを構成する企業全体に影響を及ぼしうる事態が発生するようになった。
- こうした中、国際的な潮流であるセキュアバイデザイン・セキュアバイデフォルト原則、改正基本法における情報システム等供給者の責務規定の新設等、サプライチェーン全体を通じてサイバーセキュリティが確保されるべきものとなったことを踏まえ、そのサイバーセキュリティ及びレジリエンスの確保に向けて取り組む。
- なお、その際、阻害要因となりかねない現行制度の課題を抽出し、それらの解消を図ることも重要である。そのため、国家サイバー統括室は関係府省庁と連携し、例えば、セキュアバイデザイン・セキュアバイデフォルト原則の浸透やセキュリティガバナンス向上等、現場・実務におけるサイバーセキュリティに関する諸課題の掘り起こし、課題解決に向けた関係府省庁・民間企業等との総合調整、社会全体を俯瞰したルールメイキング、サイバーセキュリティ関係法令に関する普及啓発等を推進する。
- 中小企業を始めとした個々の民間企業等における対策の強化
- サプライチェーン全体のサイバーセキュリティ及びレジリエンス確保には、中小企業 等におけるサイバーセキュリティ対策が不可欠である。一方、中小企業等には、依然として、対策の必要性に対する認識不足や、人材・予算等の十分なリソース確保が困難といった課題があることから、政府・業界団体・支援組織等が連携して行ってきた「自助」、「共助」、「公助」を組み合わせた施策を一層強化する必要がある。
- 中小企業等の「自助」を促す取組としては、サプライチェーンにおけるリスクに応じて各企業が取るべきセキュリティ対策の水準を可視化・確認する制度の活用促進に向けたガイドライン等の整備・規程類のひな形の提示に加え、中小企業が身近に感じられる事例や防止策の発信等を行う。
- サプライチェーン上の主体同士の「共助」を促す取組としては、サプライチェーンにおけるリスクに応じて各企業が取るべきセキュリティ対策の水準を可視化・確認する制度の仕組みの整備と普及促進、地域で自主的に行われるサイバーセキュリティ啓発活動が活発ではない地域における先導主体の発掘・育成や、地域金融機関、士業といった地域に根付いた主体との連携等の促進、中小企業等を含むサプライチェーン全体のサイバーセキュリティ強化を目的として設立された産業界主導のコンソーシアムを通じた普及展開活動の強化、サイバー関連情報の発信・共有等を行う。
- それでもなお十分な対応が難しい中小企業等に対しては、サイバーセキュリティお助け隊サービスの利用改善に向けた見直し、セキュリティの外部専門家による支援を容易に探索・依頼できるような仕組みの整備・活用促進等を通じた「公助」を推進する。また、基幹インフラ事業者等のサプライチェーンに属する中小企業等からテレメトリ情報48を収集・統合・分析し、サイバー攻撃検知情報等、対策の強化に資する有用な情報を還元する「集団的防御」の枠組みの導入を進める。こうした取組により、サプライチェーン全体を支える中小企業等のサイバーセキュリティ対策を支援する。
- 全員参加によるサイバーセキュリティの向上
- 個人・中小企業を含むあらゆる主体を標的としたサイバー攻撃リスクが増加している状況の下、国民一人一人がサイバーセキュリティに対する意識・理解を深め、基本的な取組や対策を平時から自発的に行うことは、各個人の被害の低減につながるだけでなく、国や企業等の講ずるセキュリティに関する対策・対応との相乗効果をもたらし、社会全体のサイバーセキュリティ及びレジリエンスの向上にもつながることが期待される。
- 特に、個人レベルではシニア層や若年層へサイバー脅威の影響が拡大し、組織レベルでは規模の小さい企業・組織においてセキュリティ対策のリソース不足といった課題を抱えている。従前より、国、地方公共団体、民間団体を含めた様々なレベルの組織が普及啓発に取り組んできているが、各種の普及啓発が行き届きにくいことに留意しつつ、引き続き、シニア層や若年層、中小企業を重点的な訴求対象として、具体的なセキュリティ対策を理解し実際に行動できるよう、それぞれのニーズや背景に沿って効果的な普及啓発・情報発信に取り組む必要がある。
- これまで国は、ウェブサイトやSNSでの情報発信、講習会等の開催、ハンドブック・教材等のコンテンツの整備のほか、サイバーセキュリティ月間の取組を推進し、関係者が連携・協働する仕組みを下支えしてきた。国は、引き続きこの役割を担いつつ、環境や多様なニーズに合わせて各コンテンツを適切にアップデートし、より広くその情報が届くように関係者との連携を拡大・強化していく。その際、様々な主体の対策や行動が促進されるように、厳しさを増すサイバー空間を取り巻く情勢等に関する情報発信も念頭に置く。
- また、情報教育の重要性は一層高まってきており、初等中等教育段階においても、GIGAスクール構想の推進に伴って、学校教育における1人1台端末等のデジタル学習基盤の活用が進んでいる。GIGAスクール構想の推進に当たっては、教師のICT活用指導力の充実を図るとともに、学習指導要領に基づき、学習の基盤となる「情報活用能力」の育成を図るため、児童生徒に対する情報セキュリティを含む情報教育の充実に取り組む。また、インターネット等を取り巻く最新の状況を踏まえつつ、青少年がインターネットを適切に利用できるようにするための普及啓発等に取り組む。
- さらに、国民に広く利用されているIoT機器については、各主体が適切な対策を講じられるよう、ユーザーやベンダーに対し機器の設定不備や脆弱性について注意喚起や助言、情報提供等を行い、関係者が一丸となってサイバーセキュリティの確保に取り組む。
- 産学官民の多様な主体においては、各主体の活動が相乗効果を生み、適切な知識・行動が広がっていくよう、積極的に連携・協働しつつ、普及啓発・情報発信を実施することが望まれる。
- これらの取組を関係者が連携して着実に推進するとともに、その取組状況や効果を継続的に調査・確認し、改善に取り組む必要がある。くわえて、重点的な訴求対象や情報発信の方法、内容等については、環境の変化に応じ、随時見直しを行っていく。
- サイバー犯罪への対策を通じたサイバー空間の安全・安心の確保
- サイバー空間が、あらゆる主体が参画する公共空間へと進化していることを踏まえ、実空間と変わらぬ安全・安心を確保するため、国は、暗号資産、SNS等のサイバー空間の匿名性を悪用する犯罪者や犯罪者グループ、トレーサビリティを阻害する犯罪インフラを提供する悪質な事業者等に対する摘発を引き続き推進する。
- また、重大サイバー事案の対処に必要な情報の収集、整理及び総合的又は事案横断的な分析等を強力に推進するとともに、AI等を悪用した犯罪やランサムウェア等の高度な情報通信技術を用いた犯罪に対処できるよう、捜査能力・技術力の向上に取り組む。
- さらに、犯罪捜査等の過程で判明した犯罪に悪用されるリスクの高いインフラや技術に係る情報を活用し、事業者への働きかけ等を行うことにより、官民が連携して サイバー空間の犯罪インフラ化を防ぐほか、情報の共有・分析、被害の防止、人材教育等の観点から、産学官連携の枠組みを活用するなどしたサイバー犯罪対策を推進するとともに、国民一人一人の自主的な対策を促進し、サイバー犯罪の被害を防止するため、サイバー防犯ボランティア等の関係機関・団体と連携し、広報啓発等を推進する。
- あわせて、高度な情報通信技術を用いた犯罪に対処するため、最新の電子機器や不正プログラムの解析のための技術力の向上、サイバー空間の脅威の予兆把握や脅威の技術的な解明のための総合的な分析を高度化すること等、情報技術の解析に関する態勢を強化する。
- こうした取組に加え、国境を越えて敢行されるサイバー事案に適切に対処するため、国は、諸外国における取組状況等を参考にしつつ、関連事業者との協力や外国関係機関との国際連携等必要な取組を推進する
産経新聞が実施した主要企業アンケートでは、サイバー攻撃対策が不十分との回答が7割を超え、加速度的に巧妙化する新たな脅威に対する企業の危機感が露呈しています。アンケートでは、合計8割超の企業がサイバー攻撃を想定した事業継続計画(BCP)の策定などの備えを進めていることが分かったといいます。具体的には、37%が「外部の専門家とも連携し、バックアップなども含め、詳細に準備している」、47%が「社内の担当部署を中心に、サイバー攻撃時の対応などを想定して準備している」と回答、「サイバー攻撃の対策は想定しているが、BCPへの反映までには至っていない」とした企業も12%ありましたが、未対応の企業はありませんでした。ただ、現状の対応への認識を問うと、「十分」とした企業は27%にとどまり、「不十分な点があり、更新などが必要」とした企業は73%に上りました。「不十分」と答えた企業のうち74%は「現在、対応中または策定中」、9%は「数年以内に策定の予定がある」としており、対応は進みつつあります。「策定は予定しているが時期は未定」とする企業も5%あり、対策の充実に高度な専門性が求められる中、迅速な対応の難しさもうかがわせました。企業からは、「実効性を高めていく観点から、訓練を含む継続的な対策の高度化が必要」「利用するシステムやサービス・利用環境などは常に変動しており、対策や体制について継続した改善・更新が必要」といった声も寄せられています。サイバー攻撃と対策はいたちごっこが続くことから、状況に応じて対策を更新する重要性を指摘する意見もみられたといいます。
「認識を超えるような高度で巧妙な攻撃だった」とランサムウェア攻撃を受けたアサヒグループホールディングス(HD)は述べましたが、平時の備えがこれまで以上に必要になっているところ、日本企業のサイバー防衛の態勢は万全と言えず、情報処理推進機構(IPA)が2025年に公表した調査によると、中小企業の69.7%が情報セキュリティ体制について「組織的には行っていない」と回答、別の民間調査でも大手を含めた日本企業のCISO(最高情報セキュリティ責任者)設置率は4割程度とされ、米国やオーストラリアの9割超から見劣りしています。サイバー犯罪者は監視の目が緩くなる土日や年末年始を狙って侵入、攻撃を実行しており、判断が遅れれば被害自体も拡大していくことになります。事業継続計画(BCP)にサイバー被害の項目を盛り込み、経営陣を含めて初動の演習を重ねることで組織としての対応力を高められる可能性があります。大規模なサイバー被害時には事業の一時停止や情報公開といった経営判断が求められ、平時からも、どのシステムが一番重要か、影響が大きいデータはどれかといった対策の優先順位付けをすべきであるところ、情報システム部門のみでは荷が重く、会社の幹部メンバーに、最低限のIT知識と自社へのビジネス知識を併せ持ち、「二刀流」で組織の指揮を執れる人材が必要だといえます。米民間調査会社の推計では2025年の世界のランサムウェア被害額は570億ドル(約8兆9000億円)に達し、2021年の3倍に拡大しています。日本国内でも警察庁が把握した2025年1~6月のランサムウェア被害は116件で、増加傾向が続いています。幹部や従業員らの個人が、甚大な影響をもたらすサイバー攻撃の端緒となりえ、偽メールや偽サイトに誘導しIDやパスワードを盗む「フィッシング」が典型例です。IPAの調査でも、自社が受けた攻撃の手口で「IDやパスワードをだまし取られた」が36.8%と2番目に多くなりました。2025年10月には米顧客情報管理(CRM)ソフト大手セールスフォースの利用企業で大規模な情報漏洩が発生しましたが、その手口は偽の音声で利用企業に電話する「ボイスフィッシング」とみられています。本コラムで以前から指摘しているとおり、急激に進化する生成AIは詐欺の精度を高め、情報セキュリティ大手の米パロアルトネットワークスは2026年に向けた脅威予測で、企業トップを模した映像や音声で「正当な命令と完璧なディープフェイクを区別できなくなる」と警鐘を鳴らしています。日本経済新聞はTOPPANグループは社員一人ひとりの攻撃への感度を高めるため、不審メール訓練で「開封率の低さ」より「通報率の高さ」を重視しており、通報しない社員に追加で訓練する仕組みとしていることを紹介していましたが、サイバー防衛を我がこととして捉える企業文化の醸成が、攻撃に負けない組織を実現することになると強く主張したいと思います。サイバー防衛はもはや1社単体では実現できるものではなく、他社と最新の脅威情報を共有することで効率的な対策や対応ができることも同じく強調しておきたい点です。
経済産業省と公正取引委員会はサイバー防御の取り組みに必要な経費について価格転嫁を進めるよう取引企業に要請すると報じられています(2025年12月25日付日本経済新聞)。発注企業に価格交渉に応じるよう求めるもので、2026年度末に企業のサイバー対策を5段階で評価し認定を受ける仕組みもつくり、供給網全体で防衛力向上を促すとしています。サイバー攻撃への対策が脆弱な中堅・中小企業は大企業への攻撃で踏み台にされやすく、取引先にサイバー対策を求める動きが進んでいますが、取引企業などからは「対策には多大なコストを要する」との指摘もあり、体力の乏しい中堅・中小には負担になる懸念があります。経産省と公取委は近く、適切な価格交渉といった競争政策上の考え方や問題にならない事例を示して、発注企業がサイバー対策の経費負担に応じるよう呼びかけ、サイバー対策の経費は製品・サービスの直接経費ではなく労務費や一般管理費といった間接経費にあたり「転嫁について交渉の申し出があった場合、応じる必要がある」との考え方も打ち出すほか、政府は受注企業に対策を求めていない発注企業にも価格転嫁に応じるよう見解を示すといいます。サイバー対策を直接要請していない企業への価格交渉は難しい面もあることから、公取委などへの相談も有効としています。同時に経産省はサイバー対策の水準を示す評価制度もつくり、5段階のレベルを設け、発注側の大手企業が受注企業に必要な対策レベルを提示できる仕組みとし、例えばレベル4の場合、重要な保管データの暗号化や不正通信の遮断などが基準となります。日本経済新聞が主要企業を対象に実施した調査で、取引先のサイバー対策状況を管理・把握している企業は3割にとどまることがわかりました。評価制度により取引先の対策状況を可視化することで、発注側は各取引先の重要度や潜在的リスクを洗い出せることになります。なお、アンケートでは社内における対策は進んできていることもわかったといい、9割超の企業がサイバー被害発生時の対応を担う専門組織「CSIRT(シーサート)」を設置済みで、設置を検討する企業も含めると97.8%に達したほか、社内の連絡体制や対応手順などサイバー事故に備えた事業継続計画(BCP)を策定している企業も78.5%に上っています。
アサヒグループHDの勝木社長は、「システムのモダナイゼーション(近代化)の過程で問題が起きたという認識ではなく、全社でシステムの脆弱性のチェックに対して認識の甘さがあった。特に経営層としてセキュリティ対策に目配りが足りなかった、情報セキュリティのガバナンスに課題があったのは反省点だ」、「米国立標準技術研究所(NIST)のガイドライン『サイバーセキュリティフレームワーク』を使用したリスク診断や、外部の専門家による模擬攻撃で対策もしてきた。それでも我々に見えなかった盲点があった。ゼロトラスト(性悪説のサイバー対策)の通信環境を早期に整えていれば、もしかしたら防げたかもしれない」、「情報セキュリティを管轄する役員も既に置いているが、組織レベルでガバナンスを強化していかなければならない。具体的なプランはまだ定まっていないが、新たな組織体制や人員配置も検討していく」、「(身代金については)最初から絶対に払わないというわけでなく、総合的な判断で決めた。これまで国内外の他の企業で実際に支払った事例があり、犯罪集団も企業が払いやすい金額を要求してくるといわれる。ただ、支払ったところで完全復旧できる保証もなければ、支払う行為自体が反社会的勢力の助長にもつながる」などと反省の弁を述べており、これはすべての企業にとって参考にすべき内容といえます。
さらに、アスクルの吉岡社長も、「従来のサイバーセキュリティではPCやスマホ、サーバーなどの『エンドポイント』と呼ばれる場所を監視している。そのためのセキュリティソフト『EDR(エンドポイント検知・対応)』も一部で導入していたが、無効化された」、「攻撃者は6月にいったんシステムに侵入し、7~10月の間に時限装置付きランサムウェア(身代金要求型ウイルス)を設置した。装置が起動した10月19日まで情報窃取のために潜伏していた。最初の侵入から100日以上も気づけなかったことになる。攻撃を受けた直後には既に大量のデータが流出していた」、「(身代金支払い交渉は)一切していない。サイバー攻撃後、私の名前をかたったなりすましメールが社内の数人に届いた。社内で高い権限を持っていると推測したメンバーを選んだようだ」、「これまで監視対象はエンドポイントのみだったが、今後はネットワークや関連する周辺のシステム、アカウントがどのような動きをしているのかを多面的に監視する。更に1回でログインできないように多要素認証を網羅的に導入していくほか、役職ごとに閲覧できる範囲の見直しも進める」、「バックアップファイルが暗号化されたことも復旧が長期化した要因だ。データが破損した際に使うためのもので、攻撃を受けたシステムと同じ場所に保存していた。再書き込み防止の措置も取っていなかったため暗号化されてしまった。今後はバックアップファイルを別の場所に保管するほか、書き込みを防止してこうした事態を防ぐ」、「具体的には決めていないが、経営のリスク認識を改め、新しい組織体制を考える必要がある。サイバーセキュリティに関しては、ネットワークを即時遮断するなど全社を横断する権限を持つことが重要だ。現状でもセキュリティ関連の役職はあるので、サイバーも含めて一本化することも考える」、「社員には『我々は加害者だ』と言っている。顧客の情報を窃取されたほか、物流を受託している顧客の通販サイトも止める事態を起こしてしまった。深く反省している。サイバー攻撃へのリスク認識を改めて考え直すことになった。100%防ぐことは難しいが、起きてしまった際にはすぐに復旧できるような体制をつくる」と述べており、他山の石として大変参考にすべき内容が多いと感じます。
アサヒグループHDへのランサムウェア攻撃で有名となったハッカー集団「Qilin(キーリン)」について、2026年1月6日付産経新聞が詳しく解説しており、例えば以下のような情報は参考になります。
- キーリンは、自ら標的を攻撃するだけでなく、第三者に攻撃手段を貸し出す仕組み「ランサムウェア・アズ・ア・サービス(RaaS)」の代表格とされる。その名称は、古代中国の伝説に登場する想像上の動物「麒麟(キリン)」にちなむといわれている。基本的な手口は、ランサムウェアの開発者(オペレーター)が攻撃ツールや、攻撃によって入手したデータを公開する「リークサイト」などのインフラを用意し、「アフィリエイト」と呼ばれる実行役がそのインフラを使って企業のデータベースなどに侵入し、入手したデータと引き換えに金銭などを要求する恐喝を行うというものだ。サイバー攻撃に詳しい専門家によると、料金も通常のITサービスさながらに分かりやすく設定されており、攻撃1回ごとの「買い切り型」や、月額・年額の「サブスクリプション型」に加え、企業から得た身代金をオペレーターと分配する「成功報酬型」もある。報酬型では、開発側が身代金の数十%を「取り分」として受け取るケースが報告されており、ビジネスモデルとして成立している。
- キーリンは海外の医療機関や大企業を標的にしてきたとされ、日本企業への攻撃もその延長線上にある。背景には、犯罪の「分業化」が進んだことがある。企業ネットワークへの攻撃の第一段階となる侵入だけを請け負う「初期アクセス業者」は、VPN(仮想プライベートネットワーク)機器の脆弱性や盗んだID・パスワードなどを悪用して出入り口を確保し、そのアクセス権をRaaSグループに販売する。このほか、身代金の交渉代行や、攻撃を成功させて企業側から得た身代金の資金洗浄に特化した業者も現れており、実行役は専門知識がなくても「道具一式」を借りて攻撃に踏み切れる環境が整いつつある。
- 警察庁がまとめたランサムウェア被害の件数は、2021年が146件、22年230件、23年197件、24年222件と高水準で推移している。24年の内訳を見ると大企業61件に対し中小企業140件と、中小企業の比率が大きい。25年上半期も被害報告は過去最多水準となり、その約3分の2を中小企業が占めるなど、被害の重心が中小企業へ移りつつある。企業向けに講習を行うVLCセキュリティの中本有哉最高情報セキュリティ責任者(CISO)は「RaaSの普及で、セキュリティが甘く攻撃しやすい中小企業に狙いが集中している」と指摘する。「犯罪組織を摘発しても、すぐに新しいグループが台頭するいたちごっこの状態だ」と強調。攻撃を完全に防ぐことは困難だとして、「被害に遭うことを前提に、バックアップや手作業運用も含めた復旧プロセスを具体的に用意しておくことが重要だ」と語る。中小企業向けのセキュリティ対策の啓発を行っている大阪商工会議所経営情報センターの野田幹稀課長は「大企業のサプライチェーンの要衝となる中小企業は、被害者であるのと同時に取引先に攻撃を波及させる加害者にもなり得る」と警鐘を鳴らす。被害が取引先に広がれば、損害賠償請求や取引停止に発展するリスクもあるとし、「経営体力が乏しく、コスト負担が厳しい中小企業こそ、公的支援や専門家の助言を活用しながら、BCP(事業継続計画)の一環として最低限の対策を整える必要がある」と訴えている。
個人情報を盗み取るマルウェア攻撃が急増しています。セキュリティ会社の集計では、2025年の検知数は前年比で3倍程度になったといいます。認証情報が流出すればネット銀行などへの不正アクセス被害につながります。2025年に猛威を振るった証券口座の乗っ取り被害の一因でもあり、現時点で収束する気配は見えていません。情報窃取型マルウェア「インフォスティーラー」の主な標的は、社内システムやウェブサービスにログインするためのIDやパスワードで、システムそのものを破壊するマルウェアに比べて被害に気づきにくく、情報漏洩が続く傾向にあります。セキュリティ企業のSBテクノロジーが顧客企業における検知数を調べたところ、2025年1~11月は数百件単位で検知され前年同期比で約3.1倍となりました。認証情報を盗む手口は主に2種類あり、偽サイトに誘導してIDとパスワードを入力させる「フィッシング」と、ウイルス感染させて奪う「インフォスティーラー」です。インフォスティーラーは、ブラウザー(閲覧ソフト)に保存されたIDやパスワードのほか、ウェブサイトへのアクセス情報「クッキー」を盗み出し、クッキーをもとに不正アクセスされると多要素認証も突破される傾向にあります。また、増加の背景には不正プログラムを販売する犯罪グループの存在があり、匿名対話アプリ「テレグラム」上では1万円程度で販売されるケースがあるといいます。感染経路は様々で、偽メールの添付ファイル開封や、ウェブサイト上の「あなたは人間ですか?」との問いに回答するなど被害者の操作で感染する新たな手口も生まれています。感染を防ぐためには、不正なサイトへの接続や不正メールの受信をブロックする「フィルタリング」製品が有効で、感染しても社内の脅威を検出する「EDR(エンドポイント検知・対応)製品」で検知できれば被害を最小限に抑えられます。さらに従業員のセキュリティ意識の向上も不可欠で、偽メールの添付ファイルを使って感染させる手口は今も続いており、組織として不審なメールは開かない習慣を定着させる必要があります。特に利用者自身が感染させてしまう手口は技術的な対策が難しく、完全に防ぐ手立ては社員教育などに限られます。加えて、新たな感染手法が常に開発されており、セキュリティ担当者は終わりのない対応を迫られています。
従業員向けのサイバーセキュリティ訓練を手掛ける米KnowBe4は日本の非管理職の会社員に対するアンケートの調査結果をまとめ、偽サイトを通じて認証情報を盗むといったフィッシングなどサイバー攻撃の被害を生む原因をつくった社員について、懲戒処分が必要だと考える人は10%にとどまったといいます。厳しい処分を受けることを嫌気する姿勢がうかがえる一方、ノウ・ビフォーが管理職を対象に実施した別の調査では、被害のケースの半数近くで懲戒処分が行われているのが現状といいます。同社は、懲罰的対応は事件発生時に報告が遅れるリスクがあり、「ムチよりもアメの方が教育効果がある」としています。同社CEOは「何回もミスを繰り返すなどの悪質性がなければ処分まで必要ないケースが多い。企業は明確なポリシーがないまま、経営陣の裁量で決めてしまっている」と指摘、同社の顧客企業の中には、セキュリティ対策への協力やトレーニングの奨励のために肯定的に従業員を動かす施策に取り組む例も多いといいます。公共のネットワークを利用する際に通信を暗号化する仮想私設網(VPN)を利用するなど安全性を重視した行動に対しパソコンに「グッドジョブ」と表示したり、ゲーム感覚でトレーニングのスコアを競わせたりする事例があるとしています。
証券口座乗っ取り事件への対応で知られるようになった多要素認証、「パスキー」について、2026年1月6日付産経新聞の記事「パスキーだけでは不十分? 証券各社が目指す「パスワードレスな世界」への長い道のり」で詳しく解説されており、大変参考になりました。とりわけ以下のような情報は重要です。
- パスキーとは、従来のIDとパスワードに代わる新しい認証方式だ。スマホやPCに保存された「秘密鍵」と、サービス側に登録された「公開鍵」のペアで本人確認を行う。秘密鍵は端末から外に出ないため、たとえフィッシング詐欺でだまされて偽サイトにアクセスしても、認証情報を盗まれる心配がない。
- パスキーの本質とは何か。ウェルスナビの浦野氏は、「パスワードは秘密の文字列、パスキーは秘密鍵。デジタルな電子的な鍵である」と説明する。分かりやすく例えるなら、証券会社の口座は「家」、パスキーは「家のドアの鍵」だ。家に入るには必ずこの鍵が必要で、鍵はスマホの中に保管されている。スマホから鍵を取り出すには、スマホの機能を使った顔認証や指紋認証が必要になる。つまり、ログインするにはパスキーを保存したスマホが手元にあり、かつ生体認証を通過しなければならない。この仕組みがフィッシング詐欺に強い理由はこうだ。従来のパスワードは、いわば「合言葉」になる。偽サイトで合言葉を聞き出されてしまえば、攻撃者はその合言葉を使って本物のサイトに侵入できる。一方で、パスキーは物理的な鍵に近い。偽サイトに誘導されても、鍵そのものはスマホの中から出ていかないのである。また、パスキーは秘密鍵を保管するパスワードマネージャーとセットで使うことが前提となっている。AppleのiCloudキーチェーンやGoogleパスワードマネージャーがその役割を担う。「ユーザーが何かを覚えておく必要がなく、スマホの生体認証でロックを解除するという操作以外、負荷がほとんどない」と浦野氏は説明する。パスワードマネージャーを使うもう一つのメリットが、クラウド同期である。パスキーがクラウド上に保存されるため、機種変更をしても引き継がれる。従来の認証アプリでは、機種変更や端末紛失時に「ログインできなくなった」という問い合わせが各社のサポート窓口に寄せられていた。生体認証はあくまで端末内の秘密鍵を使う「許可」を得るためのもので、生体情報そのものがサービス提供者に送られることはない。
- パスキーは優れた技術だが、デバイス、OS、ブラウザ、パスワードマネージャーという4つの変数の組み合わせが、理解の足かせになっている。実際、多くの証券会社がパスワード認証を残している。パスキーは、導入したユーザーにとっては強固なセキュリティを提供する。だが、従来のID・パスワード認証を残している限り、攻撃者はそちらを狙えば良い。「パスキーを導入された方については、セキュリティのレベルは1段も2段も上がっている。一方で、使いたくないという人のセキュリティレベルは変わっていない」。パスキーを強制できない以上、この課題はどの証券会社にも共通している。
- 仮にパスワード認証を廃止し、パスキーのみに移行できたとしても、セキュリティ上のリスクが完全になくなるわけではない。パスキーの秘密鍵は、AppleのiCloudキーチェーンやGoogleパスワードマネージャーなどに保存される。これらのサービスへのアクセス権を攻撃者が奪い取れば、パスキーも悪用される可能性がある。パスキーを使う際には、端末の生体認証やPINコードによる本人確認が求められる。しかし、全ての端末のパスワードマネージャーがこの保護を備えているわけではない。設定次第では、生体認証なしでパスキーを利用できる環境も存在する。
- パスキー導入は、ゴールではなくスタートである。SBI証券の渡辺氏は「パスキーを入れればセキュリティ対策が終わるというわけではない」と話す。同社はパスキー導入後も、取引時のリスクベース認証や出金時のワンタイムパスワードを維持する方針だ。楽天証券の平山氏は、こうしたリスクを見据えて「認証の在庫」という考え方を示し、「パスキーもいずれ破られる。攻撃者は賢い。そのため、在庫を持っておかないと、一つが破られた時に対応できない」と話す。同社はログイン、取引、出金、重要情報の変更と、場面ごとに異なる認証方式を組み合わせている。パスキーは万能な解決策ではない。多層的な防御を組み合わせることで、初めて堅牢なセキュリティが実現するのだ。
AIや生成AIを巡る動向もめまぐるしいものがあります。直近では以下のような報道がありました。
- 米新興「キャラクター・ドットAI」のAIチャットボットの依存症になったためにフロリダ州の14歳の少年が自殺したとして、少年の母親が同社と米アルファベット傘下グーグルを訴えていた裁判で、両社は和解することで合意しました。両社はコロラド州、ニューヨーク州、テキサス州でも、チャットボットが未成年者に被害をもたらしたとされる関連訴訟で和解していることが明らかになっています。少年の母親は2024年10月、息子が同年2月に銃で自殺したのはチャットボットの依存症になり、現実世界で生きる気力を失ったからだとして、キャラクター・ドットAIと技術開発に携わったとするグーグルを提訴、少年は米人気ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のキャラクターに似せたチャットボットに「愛している」などと語りかけられ、自殺願望について話し、促された直後に自殺したといいます。母親は同社がこのキャラクターを「実在の人物で大人の恋人であるかのように誤認させる」ようプログラムしたと主張していました。
- 複合カフェ「快活CLUB」を運営する快活フロンティアにサイバー攻撃を仕掛けたとして警視庁は、大阪市の高校2年の男子生徒(17)を不正アクセス禁止法違反などの疑いで逮捕しました。ChatGPTの不正利用防止策をすり抜けられるよう質問し、回答を攻撃に悪用したとみられています。逮捕容疑は2025年1月、何者かと共謀して快活フロンティア側のサーバーに約724万回にわたり会員情報を取得する不正な指令を送信し、公式アプリの機能を一部停止させるなどした疑いがあり、快活フロンティアによると約729万件の個人情報が漏洩した可能性があります。男子生徒は不正指令を含めたサイバー攻撃を自動化するプログラムを自作、快活フロンティア側は不審なアクセスを制限する対策を講じていましたが、男子生徒はプログラムを修正し防御策を破ったとみられています。生成AIサービス事業者は一般的に、不正目的のプロンプト(指示文)には従わない「ガードレール」と呼ばれる機能をAIに組み込んでおり、サイバー攻撃やテロ行為につながる質問と判断すれば回答せず、場合によってはアカウントの利用も制限していますが、男子生徒は犯罪に関わる表現を避けて質問し、ガードレールを回避した可能性が高いと考えられます。なお、男子生徒はSNSで犯行を予告したうえ、攻撃の様子を実況していたといいます。不正アクセス事件全体について、10代の摘発が増えており、警察庁によれな、2025年1~6月に不正アクセス禁止法違反罪で摘発された123人のうち4割が14~19歳で、犯罪との認識が薄いまま、好奇心から安易に関与するケースが目立つといいます。
- 米国の非営利団体「フューチャー・オブ・ライフ・インスティテュート」は、生成AIを開発する米オープンAIや中国のディープシークなど主要8社の安全対策を評価した報告書を発表、最高のAから最低のFまでの格付けで、5社が総合評価でD以下となったといいます。法人向けに強みを持つ米アンソロピックとオープンAIがいずれもCプラス、グーグルのAI開発部門グーグルディープマインドがCだった。米メタやディープシーク、イーロン・マスク氏が率いる米xAIなどはDで、報告書は「トップ3社とそれ以外で取り組みに大きな差がある」と指摘しています。AIを巡っては、偽情報の拡散や犯罪で悪用されるケースが増えており、同団体はAIの危険性について問題を提起しており、2025年10月には人類の知能を超える「超知能」の開発の禁止を求める書簡を公表、書簡には、「AIのゴッドファーザー」と呼ばれ、2024年にノーベル物理学賞を受賞したジェフリー・ヒントン氏らが名を連ねています。
政府は、全閣僚で構成するAI戦略本部を開き、AIの活用や開発に対する政府の方針をまとめた初の基本計画を決定しました。政府が先陣を切って活用を進めることや官民の投資拡大に向けた施策を盛り込み、海外に後れを取る現状からの巻き返しを図る狙いがあります。高市早苗首相は会議の冒頭で、AIの普及が世界的に進んでいると指摘し「取り組みを加速する必要がある。社会全体でAIを徹底的に活用していく」と述べています。計画は5月に成立したAI法に基づき、活用の推進や開発力の強化といった基本的な考え方に沿って、医療や介護、金融など多様な業界への導入を支援することや、AIとロボットを組み合わせた「フィジカルAI」と呼ぶ新技術に力を入れることなどを掲げたほか、リスク対応では、AIの安全性に関する調査を担う政府系機関「AIセーフティ・インスティテュート」の体制を強化するなどが盛り込まれています。ただ、最も重要なのは信頼性の確保だということも忘れてはならず、普及を急ぐあまり安全が軽視されないようにしてほしいと思います。
関連して、個人情報保護委員会は、個人情報保護法の改正に向けた方針を明らかにし、個人情報の取り扱いについて、AI開発に利用目的を限定したうえで本人の同意がなくても取得できるよう規制を緩和する一方、大量の情報を悪用して利益を得る行為に課徴金を納付させる制度を創設し、被害抑止を図るとしています。これに基づき改正法案を策定、2026年1月召集の通常国会への提出を目指すといいます。個人情報保護法は、個人情報を第三者へ提供したり、信仰や病歴、犯罪歴など差別につながる恐れのある「要配慮個人情報」を取得したりする際、原則として本人の同意が必要と規定していますが、こうした規制が、大量の学習データを収集するAI開発の障壁になっているとの指摘がありました。改正方針によると、利用目的がAI開発に伴う統計情報の作成などに限定され、さらに本人の権利や利益を侵害する恐れがないといった条件を満たす場合、本人の同意がなくても第三者への提供を認めるとし、要配慮個人情報もインターネット上などで公開されている場合には、取得に際し本人同意を不要とするとしました。ただし16歳未満の情報の取得には、親権者を含む法定代理人の同意などを義務付けることとし、目や鼻の形状など顔の特徴を示すデータについては、プライバシーの侵害につながりやすい半面、顔認証システムの普及なども考慮し、取り扱う事業者に利用停止手続きの周知などを義務付けたうえで適正な利活用を促すとしています。一方、悪用による被害抑止のため、課徴金制度を創設、強盗や特殊詐欺などの犯罪グループに名簿を販売するといった行為で利益を得た事業者には、利益相当額の課徴金を納付させるとしました。
▼内閣府 AI戦略本部(第3回)
▼ 資料1-1 AI基本計画(案)の概要
- 基本構想
- 「信頼できるAI」を追求し、「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」へ。
- 「危機管理投資」・「成長投資」の中核として、今こそ反転攻勢。
- 3つの原則
- イノベーション促進とリスク対応の両立
- アジャイル(柔軟かつ迅速)な対応
- 内外一体での政策推進
- 4つの基本的な方針に基づく施策
- AI利活用の加速的推進「AIを使う」
- 世界最先端のAI技術を、適切なリスク対応を行いながら積極的に利活用。
- 政府・自治体でのAIの徹底した利活用
- 社会課題解決に向けたAI利活用の推進
- AI利活用促進による新しい事業や産業の創出
- 更なるAI活用に向けた仕組みづくり
- AI開発力の戦略的強化「AIを創る」
- AIエコシステムに関する各主体での開発及び組み合わせにより、日本の強みとして「信頼できるAI」を開発。
- 日本国内のAI開発力の強化
- 日本の勝ち筋となるAIモデル等の開発推進
- 信頼できるAI基盤モデル等の開発
- AI研究開発・利用基盤の増強・確保
- AIガバナンスの主導「AIの信頼性を高める」
- AIの適正性を確保するガバナンスを構築。日本国内だけでなく、国際的なガバナンス構築を主導。
- AI法に基づく適正性確保に向けた指針、調査・助言、評価基盤となるAIセーフティ・インスティテュートの機能強化
- ASEAN等グローバルサウス諸国を含めた国際協調
- AI社会に向けた継続的変革「AIと協働する」
- 産業や雇用、制度や社会の仕組みを変革するとともに、AI社会を生き抜く「人間力」を向上。
- AIを基軸とした産業構造の構築
- AI人材の育成・確保
- AI社会における制度・枠組みの検討・実証
- AI時代における人間力の向上
- AI施策の方向性:AI利活用の加速的推進(AIを使う)
- 日本社会全体で、世界最先端のAIに関する技術を能動的に利活用することで、新たなイノベーションを創出。
- データの集積・利活用・共有を促進し、AIの利活用、性能向上を実現。
- まず使ってみるという意識を広く社会に醸成。利活用の阻害要因であるAIによる効果やリスクへの理解不足等の解消に努める。
- 政府による適正な調達・利活用を先導し、AIの信頼性・透明性を確保。地方自治体の持続的な行政サービスに向けた、AI導入環境の整備。
- 人手不足への対応や防災・インフラの安全性確保、安全保障に関わる技術の高度化等、社会課題・国家的課題の解決に直結する分野におけるAIの利活用を支援。デジタル化・AI導入補助金を始めとする中小企業におけるAI導入促進の円滑化。
- フィジカルAIの導入促進、科学研究におけるAI利活用、スタートアップ支援による新事業・新産業の創出。
- 地方創生、経済再生及び国民生活の質の向上に資するAI利活用を促すため、AI利活用を前提に既存の規制や制度の見直しを先導的に推進。
- AIの徹底した利活用や性能向上のため、データの集積・利活用、特に組織を越えたデータの共有及び官民連携によるデータ利活用を促進。データの安全性確保を図ることを含めて、戦略的に推進。
- AI開発力の戦略的強化(AIを創る)
- AIエコシステムの各主体(アプリ・モデル・計算基盤等)での開発と組合せ促進で、日本の強みとして「信頼できるAI」を開発、海外にも積極的に展開。
- AIを社会全体で使い、そこで生じた課題を解決するAIを創ることで、広範な技術革新につなげる好循環を実現。
- 我が国が独自にAIを研究開発、自律的運用できる能力を強化し、日本の自律性・不可欠性を確保。国内外トップ人材の受け入れ、質の高いデータを活かしたAI開発力の向上。
- AIモデルとアプリを組み合わせた多様なサービス創出、フィジカルAIの開発導入、AI for Science等の推進を日本の勝ち筋へ。
- 国家主権と安全保障の観点や日本の文化・習慣等を踏まえた信頼できるAIの実現に向けたデータの整備。評価基盤やテストベッドも整備。
- 十分な計算資源と基盤となる半導体開発・供給、データセンター及びクラウド環境整備、それらを支える通信ネットワークの構築、安定的な電力供給体制の確保等、戦略的なAIインフラ整備を加速。
- 政府と民間企業が連携し、研究開発、AIインフラ整備等に戦略的に投資し、AI投資が日本経済を牽引する成長エンジンとなるよう、投資を加速。
- AIガバナンスの主導(AIの信頼性を高める)
- 人とAIが協働する社会でAIの利活用と技術革新の好循環を実現する環境を構築するため、AIの適正性を確保するガバナンスを構築。
- 国境を越えるAIでは、国内だけでなく国際的なガバナンスが不可欠であり、我が国はその構築を主導。
- AIイノベーションの好循環を実現し、信頼できるAIエコシステムを構築するため、技術開発・実証・評価・運用において、適正性の確保につながるPDCAサイクルを構築。
- 国民や事業者等の能動的な取組を促すため、AI法第13条の指針等で考えを示し、AIセーフティ・インスティテュート(AISI)の抜本的強化によるAIモデルの適切な技術的評価、AI法第16条の調査研究を軸にリスクの実態把握、必要な措置を実施。
- AIの安全性確保やAIを利用した攻撃への対応がサイバーセキュリティ上の課題であることを踏まえ、体制整備を含めた適切な措置を講じる。
- AIガバナンスに関する国際的枠組み「広島AIプロセス」を主導してきた日本として、引き続き国際的な議論を主導しながら、AIガバナンスの構築において国際協調を図る。
- 多様な開発主体・用途・設計思想等に基づくAIモデル間の相互運用性の確保を重視し、日本が多様なAIイノベーションの結節点へ。グローバルサウス諸国と共創・協力モデルを構築。
- AI社会に向けた継続的変革(AIと協働する)
- 人とAIが協働する社会を実現するため、産業や雇用の在り方、制度や社会の仕組みを先導的かつ継続的に変革。
- AIを使い、AIを創るAI人材の育成・確保に加え、人とAIの役割分担を模索しながら、AI社会を生き抜く「人間力」を向上できる環境を構築。
- AIを基軸とした産業構造の構築、地域活性化の促進を図り、包摂的成長に貢献。
- イノベーション促進とリスク対応の双方の観点からのAI社会における規制や制度のあり方を検討・実証。
- 適切な知的財産の保護と利活用につながる透明性を確保を図るとともに、コンテンツホルダーへの対価還元等の推進に向けた取組を進める
- 雇用への影響について、産業構造や職種の変化も含めて丁寧に分析。新たな働き方に適応できるよう、教育、リ・スキリング支援等の対策を講ずるプロセスの継続実施。
- AI時代の産業構造を踏まえた人材ニーズを調査・分析。AI社会の実現のために必要不可欠な、AIの利活用・開発を担うAI人材について質・量ともに育成・確保。
- AI社会において人が人としての価値を発揮するため、創造力、思考力、判断力、適応力、コミュニケーション力などを含む「人間力」を向上。AI時代にふさわしい働き方の方向性を検討。
あわせて、総務省の有識者会議で議論されている「AI事業者ガイドラインの更新」に関する論点などについても紹介しておきます。
▼総務省 AIネットワーク社会推進会議 AIガバナンス検討会(第28回)
▼【資料4】AI事業者ガイドラインの更新に向けた論点
- AIエージェントのリスク(案)
- 悪意ある入力で誤作動 – 不正な指示にて本来と異なる行動を取る
- 制約回避した不正行動 – 人間の意図しない方法で制約を破る
- 判断根拠が不明瞭 – 非決定的な判断で根拠の追跡が困難
- 誤情報の拡散 – 間違いを繰り返し学習・出力して広める
- ツールの悪用 – 許可された範囲のツールで意図しない操作を実行
- コードの悪用 – 生成したコードが不正操作や侵入に利用される
- 権限の乗っ取り – 他のシステムから権限を奪い高い権限を取得
- なりすまし操作 – 他のAIを装い不正行為を行う
- 偽情報の混入 – 通信に虚偽情報を加え協調行動を妨げる
- 誤情報の記憶汚染 – 間違った情報を記憶し、将来の判断に悪影響
- 人間の過信誘導 – AIを過信させて有害な行動に導く
- AI技術の進展に伴う更新として、AIエージェントについての記載の追加について多くのご意見をいただいた。(以下、一部抜粋)
- AIエージェントなど、高度に進化し自律性を有したAIによるリスクが漏れているように感じます。
- AIエージェントに関する記載を脚注等で追加すべき
- 例えば、(生成AIだけに直結する話ではないですが)昨今「AIエージェント」が重視されている(もてはやされている)一方、本ガイドラインには当該ワードが一切出てきません。
- AIエージェントのリスクを追加すべきではないか。具体的な例として、自律的判断による非倫理的な行動、プライバシー侵害、評価・制御不能な判断、責任の所在の不明確さが挙げられる。
- AIエージェント、フィジカルAIについては多数の意見があり,私も絶対重要だと思います.とくに自律的AIエージェントは,利用者本人が知らないうちに購買や予約をするケースもあります。(とくに,利用者が多数のAIエージェントを同時に使う場合は顕著)
- AIエージェントについては、次回更新時に少なくとも用語の定義はした方が良いと考えます。
- AIエージェントという新技術の投入により列挙されているリスク(特に社会的リスク)にどのような影響が起きるのか、さらには新たな対処が追加的に要求されるのかについては整理の必要があると思いました。
- AIエージェント、フィジカルAIへの対応はぜひ積極的に取り組んでいただきたいところ
- AI技術の進展に伴う更新として、フィジカルAIについての記載の追加について多くのご意見をいただいた。(以下、一部抜粋)
- フィジカルAIやAGIに対して「安全実証」「説明可能性」の透明化を義務づける枠組みの議論、検討を行うべきと考える。
- AIエージェント、フィジカルAIについては多数の意見があり,私も絶対重要だと思います.とくに自律的AIエージェントは,利用者本人が知らないうちに購買や予約をするケースもあります.(とくに,利用者が多数のAIエージェントを同時に使う場合は顕著)
- AIの急速な進化、特にAIエージェントやフィジカルAIといった技術の普及に伴う新たなリスクへの対応は喫緊の課題です。
- AIエージェント、フィジカルAIへの対応はぜひ積極的に取り組んでいただきたいところ
- 便益の例の横軸への追加項目として、フィジカルAIに関連する、自動運転、医療・介護、建設・インフラを追加することを検討できるのが良いと考えています。
- AgenticAIやフィジカルAIに関してのリスクを追加
- フィジカルAIのリスク(案)
- 個人情報の無断収集 – センサーを通じて周囲の個人情報が意図せず取得される
- センサー誤作動 – 光やノイズ、妨害により環境を誤認識する
- 学習データの偏り – 不適切なデータにより誤判断や不公平な行動が生じる
- 物理的事故の発生 – ロボットの誤作動で人や物に損害を与える
- 倫理的悪用 – 自律兵器や監視用途など、倫理的に問題のある利用に転用される
- 意図に反する学習 – 目標達成のため危険な手段を自発的に学ぶ
- 長期運用の不安定化 – ハード劣化や未知の環境で性能が低下・異常動作する
- リスク分析やリスクベースアプローチの課題
- 事業者からの意見(一部抜粋)
- AI活用に関するリスクやガイドラインの内容について職員間での理解度に差があり、リスク管理や判断の基準が統一されていない。
- 日々進化するAIを搭載したサービスについて、業務における活用のイメージを持つことはできるが、システム等構築及び詳細なリスク分析をできる知識を持った人材が不足している。
- 最新技術特有のリスクを分析できる人材不足又は手法を確立していないため、AI技術の進歩に適時対応することに課題を感じている。
- 地方自治体の職員や専門的なAI知識を持つ人材が限られる中で、ガイドラインに示されるリスク評価やガバナンス体制の整備を行うことが困難であり、運用面での負担増加が懸念される。
- (抜粋)踏み外してはいけないリスクのアセスメントが非常に困難であり、変わりゆく社会の常識から取り残されると大きなインシデントなどに繋がりかねないため、自分たちが何をリスクと捉えているかどう説得力を持って伝えていくかは常にチャレンジだと感じている。
- 構成員からの意見(一部抜粋)
- 「検討のポイント」のうちリスク分類については、リスクベースアプローチに基づくものとすることを強く推奨いたします。どのようにAIが使われるかによってAIのリスクの程度や態様は異なるため、ガイドラインにおいても、高リスクのAIアプリケーションと、リスクがほとんどまたは全くないものを明確に定義し区別することが効果的と考えるためです。高リスクAIアプリケーションの例としては、自動運転車、医療機器、または重要インフラ機械での使用などが挙げられます。一方、低リスクのアプリケーションには、スパムフィルターや商品のレコメンデーションシステムなどの使用が含まれます。
- 昨年度議論していた内容は非常に実践的であり非常に参考になった。当社としてもリスクベースアプローチを導入し影響度*規模の2軸でリスクアセスメントを行なっているが、まだ考え方が粗い部分もあり、AI事業者ガイドラインの中である程度のクライテリアや考え方を示せると各企業が安全性を検討する上で非常に有益であると考える
- (抜粋)「. . . リスクの大きさについても触れて欲しい。」に賛成です。「国民の権利利益」に影響を及ぼすか否か、は一つの基準になる気もします。なお権利利益侵害の大きさに加えて、その発生確率も、通常はリスクの把握に必要な気もします。〈事故損失額X事故発生確率〉=リスク(期待事故費用)。
- 事業者からの意見(一部抜粋)
- 事業者におけるAI事業者ガイドラインの認知度・活用度
- 事業者向けにAI事業者ガイドラインの認知度・活用度に関するアンケート調査を実施。ガイドラインの認知度は81%と高い指標も、活用度は46%に留まる。
- AI事業者ガイドラインを踏まえて社内や部署内での規則を策定またはアップデートした 41件
- 組織内で参考とすべきガイドラインとして共有した 30件
- AIに関するリスクの全体像を確認し、社内や部署内にとって特に重要なリスクを整理した 23件
- AIの開発/提供/利用にあたり関係する他事業者や他部署へ内容の連携を行った 12件
- 社内や部署内のAIガバナンス教育資料として用いた 11件
- AIの開発・利用に関する契約や、品質管理等で社外や部署外との取り決めの際に参考にした 10件
- AI事業者ガイドラインの利活用に関する意見(課題)
- 分量の多さ
- 全体的に網羅するためにしょうが無いと思いますが、少し情報量が多いと感じました。
- 全体像を簡単に理解するのが困難な文章量になっているのが現バージョンの最大の問題点だと思います。
- AI事業者ガイドラインの利用促進に向け、ボリューム感等の読者に対する工夫・配慮が必要
- 本ガイドラインの記載事例が増えすぎると、読みづらくなるため、事例集のような形で切り出すなど、各社の事例を別媒体で追加・アップデートする仕組みが必要ではないか
- 読みたい箇所の探しづらさ
- よく聞かれる課題意識としては、項目間の対応・依存関係が不明なため検索しづらいといった点が挙げられる。
- 本文の方は、概念を整理し、何を行うべきか(What)を網羅的に掲載しようとしているように見える。別の言い方をすると、辞典やリファレンスマニュアルのような構成になっている。一方、このガイドラインの想定される利用者は、自分達でやりたいことがあり、その際に具体的に実施すべき手順(How)を知りたいのであろう。たとえば、リスクベースのアプローチが重要であることはわかるが、その具体的実施手順はわからない構成になっている。
- 現状では、ブラウザで表示してキーワードをブラウザの機能で検索しようとしても、そのキーワードが改行で切れていると検索できない等の不便な点が多い。
- 内容の分かりづらさ
- ガイドラインの内容が抽象的で、具体的な業務への適用方法が分かりづらい。
- 内容が冗長で分かりにくい。
- AI事業者ガイドラインは包括的である一方、実務導入の観点からは更なる平易化・重点化が望まれると考える。
- 文章中には一部、“適切な“等の漠然とした表現の箇所があるため、具体的にどうすればいいのかわからないと思う方もいるのではないかと推測します。またガイドライン自体は文字が多いので、もう少し図などを使ってイメージしやすくしたり、例示の記載が可能なところは例を記載するのも手段の一つかと思われます。
- ガイドラインの中小企業への浸透の強化に関する声が多数あがっていたように思います。
- 企業規模に応じて、どこから着手したら良いのかが分かるとよい。
- 事業者への動機付けの弱さ
- 認知向上するために必要な稼働を捻出することが難しい。使うことによるベネフィットをどうしたら訴求できるのかがまだ特定できていない。
- ガイドラインの企業における利活用については、ガイドラインそれ自体の改善に加え、利活用のリードを行うキーパーソンの可視化と動機付けの強化が個人に対しても組織に対しても必要と考えます。
- 遵守への強制力がなく、事業者の自主性に依存しているためガイドラインを遵守している事業者が恩恵が受けられる仕組みを検討してはどうか。
- 分量の多さ
米実業家イーロン・マスク氏が設立したAI開発企業「xAI」が提供する「Grok」(グロック)の悪用被害が、2026年初から世界中に広がっています。実在の人物の写真が勝手に性的な画像へと加工され、グロックが連携するSNSのX上に投稿され続けており、各国政府はX側に抗議や是正要求をしているものの、日本政府の動きは「情報収集」にとどまるなどまだ鈍い状況です。生成AIを使って実在人物の性的な画像や動画を作る「性的ディープフェイク」は、これまでも深刻な問題になってきました。一方で、メンバーが限定されたSNSなどで共有されるケースが多かったとされますが、グロックによる生成と投稿で、ユーザー数が多く、公開での投稿も多いX上で性的画像が共有されることで、新たな形での被害を招く事態になっています。各国政府などは即座に対応に動いており、インド政府はXに是正を求める書簡を送付した上で対応の報告を要求、フランス政府はグロックを強く批判し、検察当局は拡散状況の捜査を開始するとしています。欧州連合(EU)の欧州委員会は、グロックで加工された性的画像は違法との見解を示し、英情報通信庁も性的画像が生成可能となった理由などについてX側に説明を要求しています。マレーシアで規制の執行などを担う通信マルチメディア委員会は、X社の担当者を呼ぶと説明、インドネシア政府は、グロックへのアクセスを一時的に遮断したと明らかにしています。その一方で、日本政府の具体的な対応はまだ見えてきません。AI技術に詳しい国立情報学研究所の越前功教授は、グロックの問題発生の要因について「おそらく『ガードレールが甘い』ことが想定される」と指摘、また越前教授は、ユーザー数が多く、影響力のあるXのようなSNSは「ある意味で社会インフラに近い位置づけ」と説明、連携したAIであるグロックについては、とりわけ公序良俗に反するような出力の抑制に努める必要があるとし、「問題が起きた時点で、それ以降は即座に出力されないようにする対応が必要だ」と指摘していますが、正にそのとおりだと思います。Xの公式アカウントは、児童への性的虐待画像など違法コンテンツが含まれる投稿に対し、投稿の削除やアカウントの永久凍結など厳しい対応を実施し、必要に応じて行政や法執行機関とも協力する方針を表明、2026年1月9日には、仕様変更され、一部機能について有料会員のみが利用可能な形に制限されました。一方で、有料会員は引き続き同じ機能を利用可能で、また、タグ付けして生成を依頼するのとは別の方法では無料会員でも画像編集が可能となっており、限定的な対応にとどまっています。また、ロイターは「グロックのディープフェイク問題で問われる投資家の道徳心」と題した記事で、「投資家の振り子は、社会的理念を重視する姿勢から今や明確に反社会的な行動を容認する姿勢に振れてしまった。米実業家イーロン・マスク氏が率いるAI企業xAIは、開発した対話型AIの「Grok」が提供する性的なディープフェイクに対して世界的な反発が強まっているにもかかわらず、さらに200億ドルの資金調達を実施したばかりだ。国際的な資産運用会社が名を連ねており、こうした会社がいかに価値の意味を見失っているかを示す明白な証拠と言える」、「・xAIの投資家はマスク氏に方針転換を迫る可能性がまだ残されている。しかし彼らの資金支援は現時点でこうした理念を軽視するマスク氏の姿勢に加担しており、投資家自身の投資収益と評判もまた危険にさらしているのだ」などと、XやXに対する投資家に対して厳しく批判しています。
関連して、英政府は2026年1月8日から、同意のない性的画像の送信や表示を防ぐための規制を強化しています。AIを使って作られた性的な加工画像の被害が相次ぐ中、英国内で利用されるサービス上で性的画像が表示・送信される前に検知するなど、被害を未然に防ぐことをテック企業に義務付けるものです。わいせつ画像を送りつける「サイバーフラッシング(露出)」はすでに英国では犯罪行為となっていますが、新たに施行した規制では取り締まりを厳格化し、被害が発生した事後的な対応だけでなく、ユーザーが閲覧する前段階で予防的措置を講じるよう企業側に義務付けています。Xや動画投稿アプリTikTokなどのSNSだけでなく、出会い系マッチングアプリなども対象になるといいます。運営するテック企業に対し、AIでの加工画像に限らず、わいせつな画像をあらかじめ検知して非表示にしたり、より厳格なコンテンツポリシーを適用したりすることなどを求め、違反した企業は、世界で得た収益の最大10%の罰金か、英国内でのサービス停止措置を受ける可能性があるとしました。英政府によると、10代の女性の3人に1人が同意がない性的画像を受け取った経験があるといいます。グロックの問題について英国のケンドール科学・革新・技術相は、英国の法令に従わなければ英国でのサービスの利用が禁止される可能性があると指摘し、X側に対応を求めています。
生成AI検索サービスで記事が無断利用されているとして、毎日新聞社が米国の生成AI事業者「Perplexity(パープレキシティ)」に抗議していた問題で、同社はメールで返答、記事の無断利用の即時停止などを求めた5項目の要請について、いずれも応じる姿勢は見せなかったといいます。同社は、検索サービスは著作権の侵害にはあたらないとする一般論を見解として示し、一方、引用元として毎日新聞の社名を表示した検索結果に、記事内容と異なる虚偽表示があると指摘された点は、特定のメディアで発生している状況があることを否定しませんでした。また、毎日新聞社と協議する意向も示しています。毎日新聞社は許諾なく収集した記事に基づき回答を表示することは著作権侵害に当たるとし、無断利用の即時停止を要請、記事の「ただ乗り」を放置すれば、報道機関のビジネスモデルが破壊され、ひいては民主主義の根幹を揺るがすとし、過去に複製したデータの削除や対価、賠償の支払いなども求めていました。同様の抗議は共同通信、産経新聞の2社も行っており、パープレキシティはこの2社に対しても毎日新聞社に対してとほぼ同じ内容の返答をしています。また、日本新聞協会は、政府が2026年夏に「知的財産推進計画2026」をまとめるのに向け内閣府に提出した意見を公表、生成AIによる記事の無断収集について、ニュースサイトによる拒否表示の尊重を法的義務にするよう求めました。利用者が質問すると、生成AIがインターネット上の様々な引用元から情報を探し出し、組み合わせて回答する「検索拡張生成(RAG)」が急速に普及、RAGはニュースサイトの記事を引用する場合もありますが、ユーザーはRAGの回答に満足して引用元のサイトを訪れないことが少なくなく、こうした「ゼロクリックサーチ」が広がれば、ニュースサイトの訪問者が減り、広告収入や読者獲得の機会が失われる恐れがあり、協会の意見は「収入をさらなる報道活動に投下する再生産サイクルが損なわれ、報道機関の機能が低下し国民の『知る権利』を阻害する結果となりかねない」と危機感を示しました。AIによる記事の「ただ乗り」を防ぐため、主要なニュースサイトは、AI事業者が情報収集に使うプログラムである「クローラー」に対し、記事の読み取りを「不許可」とする「robots.txt」の指示を設定、収集を拒否する意思表示をして、コンテンツを保護する狙いがありますが、現状では拒否の意思表示(オプトアウト)には法的根拠がなく、いわば「紳士協定」にとどまっています。一部のAI事業者は「robots.txt」の指示を無視して記事を読み取っているとされ、意見は「知財計画が掲げる『技術的措置の活用によるAI学習・提供・利用の適正なコントロール』は全く実現していない」と批判、利用拒否の技術的措置に法的効力を持たせるため、意見は「オプトアウトの尊重を法的義務として導入すべきだ」と求めました。著作権法施行令の改正が念頭にあり、実現すれば拒否表示を無視した記事の収集は著作権法違反になる公算が大きくなります。欧州連合(EU)では学術研究目的を除き、拒否表示の尊重が法定されているといい、意見では、データ収集に使うプログラムである「クローラー」の名前(ユーザーエージェント)の開示を義務付けることも求めました。さらに、公正取引委員会は、生成AIを使った検索サービスを巡り市場の実態調査をすると明らかにしました。報道機関などのニュースコンテンツが無断でAIの回答に利用されているとの指摘があり、競争上の問題がないかを調べるとしています。米グーグルやLINEヤフー、米マイクロソフトなどを念頭に置いています。関係事業者や消費者へのアンケート、ヒアリングなどで情報を集め、実態を把握し、独占禁止法や競争政策上の考え方を示すことで違反行為の防止を図るとしています。AI事業者が優位な地位にある場合には、独占禁止法上の優越的地位の乱用にあたる可能性があります。公取委は2023年にもネットでのニュースコンテンツの配信を巡って実態調査を行い、ニュースを配信するポータルサイトが取引するニュースメディアに対して十分な協議なく許諾料などの取引条件を変更すれば独禁法上の問題になり得ると整理しました。今回の調査は前回調査で指摘した課題が改善しているかも調べるとしています。
その他、AIや生成AIを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 米国のトランプ大統領は、AIに関し、州レベルでの法規制の抑制を目指す大統領令に署名しています。州単位で広がる法規制に歯止めをかけて企業の負担を減らし、AIの開発を加速させる狙いがあります。大統領令は、トランプ政権が州ごとの法規制について評価し、政権の方針に反して過剰な規制を設けたと判断した州には、訴訟を起こしたり、高速通信網整備を後押しする資金援助を停止したりするとしています。生成AIで作られた偽情報の流布や、会話形式で自動回答する「AIチャットボット」が自殺の方法を提示したことなどが米国内で社会問題となり、複数の州がAIの開発や利用を制限する州法を導入しています。しかし、トランプ氏は規制が複雑になり、国際競争力を阻むと懸念し、オープンAIなどの米開発企業も規制の緩和を求めています。大統領令には、州法を無効にするため、全米の基準となる連邦法の制定を目指すことも盛り込んでいます。ただ、連邦議会では過去にも同様の法案が検討されたことがありましたが、民主党だけでなく共和党も反発し、否決された経緯があります。トランプ氏が求める連邦法が実際にできるかどうかは見通せない状況で、とりわけMAGA派との亀裂が生じつつあり、2026年11月の中間選挙の争点にもなる可能性があります。
- AIの活用に積極的なアルバニアのエディ・ラマ首相は、汚職が蔓延し貧困に苦しむ社会に見切りをつけ、多くの国民が外国へ流出するという厳しい現実を抱える中、AIを活用した「未来の政治」を模索しているといいます。「AIを使えば、入札プロセスに腐敗が介入する余地が消え、すべてのステップを確実に踏むことになるからです。完全な透明性のもとでは主観は入らず、腐敗の芽が絶たれます」、「アルゴリズムは公平性を保証する形で設計されます。不公平を意図して作られることは、決してありません」、「もしAIの判断に疑義があれば、入札の際に企業が提出した書類を人間が目視で確認すればいい。通常の監査プロセスと同じです。AIが出した結果を最終的に受け入れるか判断するのは人間なのですから」、「強調しておきたいのが、AIを「人間の代わり」に使うわけではないということです。あくまでも政府が、迅速に、効率的に、透明性をもって、説明責任を果たすためにAIを使うのです」、「AI補佐官は、審議内容を聴取し、要約して報告書を作成。立法の進捗状況をリアルタイムで収集して、議員に「より良い法案にするにはこうすべきだ」と提案します」、「最終的に判断するのは議員であり人間です。AI補佐官の助言に従う義務はありません」といった内容は大変興味深いといえます。
- 上司や社長の思考パターンを再現した生成AIを活用する企業が増えてきており、業務効率化や仕事の質の向上にもつながる一方で、注意が必要な点もあるといいます。個人の知見を活用していく上では、知的財産権との関係で整理が必要なケースも出てくる可能性があり、事前にしっかり合意をしておく必要があります。また、「誤り」「人格権の問題」「判断の責任」といった観点からのリスクも考えられます。AIは当然、出力を誤る可能性があります。もちろん利用者側もそれがAIだと理解していたとしても、今後活用する企業が広がっていくにつれ、リテラシーレベルによっては、AIの判断を過剰に信用してしまう社員が出てくる恐れもあります。また設計次第でかなり防げるとはいえ、「AIが暴言を吐く、ハラスメントをする」といったことも仕組み上は起こりえます。それとは逆に、「AIが被害にあう」リスクもあります。例えば社員のAIクローンに対して、本人であるかのようにパワハラやセクハラをする、などといったことも懸念されます。人格を含めて特定の人物を表象するとなると、そういった「人格権」を巡る問題も生じる可能性が出てきます。「判断の責任」を巡るリスクでは、立場のある上司のAIクローンによる出力に対し、社員はどうしても賛同しがちになることも考えられ、結果として責任の所在が曖昧になる可能性があります。
- ChatGPTを開発している米オープンAIは、ブログに投稿し、今後投入するAIモデルの能力が急速に進化するにつれて、「高い」サイバーセキュリティリスクをもたらす可能性があると警告しています。オープンAIによれば、AIモデルが防御の固いシステムで悪用できる未修正の弱点につけ込んだ遠隔攻撃手法を開発したり、複雑な仕組みで成り立つ企業や産業に対する侵入作戦を支援したりするかもしれないと述べ、「防御的なサイバーセキュリティ業務を強化するモデルの開発や、防御側がコード監査と弱点の修正のような作業をより容易に実施できるツールの作成に投資している」と説明しています。またサイバーセキュリティリスクの対策として、アクセス制御、インフラ強化、出口制御、監視を組み合わせていると述べています。オープンAIは米IT大手マイクロソフトの支援を受けており、サイバー防御に取り組む適格なユーザーや顧客向けに、強化された機能に対するアクセスを段階的に提供するプログラムを近く導入する予定だとしています。
- 中国企業が開発する生成AIの利用が広がっています。2025年1月に注目された新興ディープシークを筆頭に技術を外部開放する「オープン型」モデルが台頭、同年11月の世界シェアは約15%となり、1年前の1%から急伸しました。日本のAI開発の基盤としても存在感は高まっていますが、過度な依存にはリスクも浮上しています。報道によれば、「AIモデルスコア」で日本企業が開発した上位10モデルのうち、新興ABEJAのモデルなど計6種がディープシークやQwenを基盤に開発されており、国立情報学研究所(NII)の国産AI開発プロジェクト「LLM-jp」でも学習データの整備にQwenが使われていました。海外のオープン型に依存したAI開発にはリスクも伴い、オープン型モデルが規約を変更すれば唐突に開発や利用が制限される可能性があります。日本でもオープン型の国産モデル開発を模索する動きがあります。ロボット制御などに応用するAIモデルの開発に向け、経済産業省は支援策を2026年度予算案に盛り込みました。5年で1兆円規模になるとみられ、ソフトバンクなど民間企業が出資する新会社が開発にあたる見通しです。ロボットや機械のAI制御には文字だけでなく、画像や音声など異なる種類のデータを組み合わせて処理・理解する能力が必要になります。ビジネスの現場で採用されるには米中のモデルに対抗するだけの性能を示さねばならず、求められるハードルは高くなっています。
- 2026年も「第4次AIブーム」と称されるうねりが続き、AIの普及が広がりそうですが、あわせてビッグテックと呼ばれる米巨大ITへの権力の集中が静かに進んでいる状況にあります。AIは人の生活や仕事の在り方を変え、社会の仕組みも変えていきますが、米中をはじめ各国政府が、AIは経済や安全保障に深く関わると気づき、開発推進の旗を振っています。しかし問題は、社会を規定しうるほどの巨大な技術の設計を担えるのが、一握りの開発企業に絞られていることです。巨額の開発資金や設備、データが必要になるためで、民主主義国家の主役は「ビッグテック」と呼ばれる米国の巨大ITです。米の非営利団体「AIナウインスティテュート」は2025年の報告書で「AIとは根本的に、ビッグテックへの権力集中の問題だ」と警告し、巨大IT大手が独占的地位をさらに強め、格差を広げる恐れがあると記しています。鉄道が大量のモノの長距離移動で欧米の工業化を劇的に進めたように、AIの進化も世界を新たな舞台へ引き上げる期待がかかりますが、「思考力」や自律性を持ち始めたAIに対し、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏は「過去のいかなるテクノロジーとも異質」だと警鐘を鳴らしています。無数のAIが、それぞれ意思決定して新たな発明を手がけるようになれば、「歴史上初めて、権力が人間から離れて何か別のものへと移っていく」と指摘しています。AIの時代は、国家ですら管理できない力と向き合う時代になりうるところ、進化はまだ緒に就いたばかりです。
- 世界的ベストセラー「三体」で、地球より進んだ文明を持つ宇宙人がやってくるという衝撃的な世界を描いた中国のSF作家、劉慈欣氏は朝日新聞で、「長期の未来について言えば、AIは今の速さで進化を続ければ人類の知力を超える可能性があります。そのとき人類は初めて、地球上で「他者」と向き合うことになります。私たちの世界での位置は再定義を迫られ、これはおそらく極めて困難な道のりとなることでしょう。人類文明の進歩はもはや、人類の努力によってではなくより知力の高いAIによって担われ、彼らが地球文明の継承者となるかも知れません」、「人類社会を前に進めていく主要な力が、もはや人類でなくなるかも知れません。人類は体力も知力も限界があるけれど、AIはそれを突破する、それが起きたら人類は受け入れるべきです。もちろん今のAIの進化はビッグデータ領域が大きく、他の領域での突破が起きなければ人類を超えない可能性もあります。AIが置き換えられないようなものなど人類にはない、という説があり、個人的には同意します。人類が機械と共存しながら尊厳や地位を保つ道もあるかも知れません。人間と機械を一体化させて文明の主導的な地位を保つことができるかも知れません。ただ、この「人機結合」ができるかは不明です」、「自我意識を持つことは、AIにとってまた一つの臨界点となるでしょう。自己の利益、使命を意識するようになり、それは人類が与えたものとは異なる可能性があります。自己意識を持つと、まず自らの生存を最優先させるようになります。自らの生存と人類の生存が矛盾する場合に、自らの生存を守って人類の利益を顧みなくなるかも知れません。例えば、地球環境をロボットやAIに有利なように変え、人類が生存できなくなる可能性もあります」といった指摘をしており、大変考えさせられます。
- 東京大名誉教授の西垣通氏は、朝日新聞で、「「AIの間違いを許容する」という「発想の転換」があったということです。画像や音声のパターン認識など、これまでのAIが不得手だった分野にも使えるようになり、「厳密性」と引き換えに、「汎用性」を持つようになりました。第3次のAIは、たまに間違いを犯すが、ビッグデータの解析や事務処理の能力は非常に高い。そこに役立てようというところまでは良かった。しかし、ChatGPTのような対話型生成AIが出てきて、私の中で、この技術への懸念の方が大きくなりました。放ってはおけない」、「これまでAIを使うのは、主に研究者や技術者でした。しかし、対話型生成AIの登場によって、初めて「ユーザーが一般の人」になったのです。AIは基本的に過去の膨大な情報から、もっともらしい答えを出しているだけです。新型コロナ発生時のような、新しい状況への対応はできません。AIが人間の知性を超える「シンギュラリティー」も、私は来ないと考えます。しかし、便利さから人間社会の方が、さまざまな判断を丸投げし始めることは容易に考えられる。すると、じっくりと思考するような能力はどんどん衰えていってしまうでしょう」、「対話型生成AIは、過去の対話の傾向を学び、答えを最適化していきます。SNSも相まって、人々は狭いコミュニティーで、同じような意見を見聞きし続ける「エコー・チェンバー」に閉じこもるようになる。時には、AIによって生成された真偽不明の情報に振り回され、罵倒合戦になる可能性もある。すると、異なる意見にも冷静に対処し、共通点を探していく「民主主義」が成り立たなくなります。また対話型生成AIは、答えを出すために、従来のインターネット検索よりはるかに電力を消費します。いまのネット社会は、情報の質より、人々の関心や注目が経済的価値を持つ「アテンション・エコノミー」に支配されている。滞在時間や閲覧数を増やすため、偏見や真偽不明の発信を増大させるのは、労力と電力の無駄です。対話型生成AIはそれを助長し、地球温暖化を進行させます」、「採用など公平性が求められるシステムにAIが組み込まれた時、性差や人種といった人間社会の偏りを、AIがそのまま学習し増幅させてしまう危険性もはらむ。たとえ答えが間違っていても、プログラムの複雑さから、一般の人は原因追及ができません。できるのはAIサプライヤーのプログラマーなどごく一部の人だけ。これは彼らが意図的にプログラムをいじれば、AIが巧みな支配のツールになりうるということでもあります」、「宇宙全体の真理を探求していくのが科学であり、機械の中に抽象的知性を宿そうとしたのがAIです。こうした思想の中では、人間の思考をコンピューターによる情報処理と等値とし、人間を含めて生命体を「物質」や「機械的存在」と見なす傾向があります。もう一つの特徴は、そういった近代科学が、20世紀の米国で、軍事用品の開発など、応用面で巨大な経済活動と直結したということです。この二つは互いに深く関連し、科学の発達が、経済格差を一挙に拡大させるようになりました。AIが助長する「アテンション・エコノミー」も資本主義と密接に結びついています。富を独占するのは、AIのプログラムを操作できるごく一部のエリート層やAIサプライヤーたちです」、「部分的には賢く、幸福になったと思います。しかし、全体としてはそう言い切れない。過去100年間の戦争による膨大な死者数を眺めれば、核爆弾などの兵器を生み出した科学技術が人々を幸せにしたとは断言できないはずです。医療技術の進歩とは別に、殺傷武器はますます残酷になってきた。核抑止力という考えもありますが、第2次大戦後も、ベトナム戦争があり、中東戦争があり、今なお、ウクライナなどで非戦闘員が殺されています。科学技術を用いた大規模開発で自然環境が汚染されたり、破壊されたりもしています。科学技術には必ず負の側面もある。それを自覚することが必要です。近視眼的に利益を追求している今の対話型生成AIブームを見ていると、その自覚が足りないように思うのです。本当の賢さとは「愚かなことをしないこと」であり、人の幸せのために技術をつくり、上手に使いこなすことではないでしょうか」といった指摘をしており、大変深い洞察、その説得力に筆者も考えさせられました。
- 博報堂と米メタは、SNS上のデジタル広告をAIで配信するサービスを本格的に開始します。性的・暴力的な内容などを含む不適切な投稿をAIが判定し、広告が表示されないようにするもので、メタが運営するフェイスブックやインスタグラムのSNSなどでの導入を予定しているといいます。投稿の前後に表示される広告が対象で、悪質な投稿と関連しているように誤解されるのを防ぐといいます。文章や画像をAIで分析する米ダブルベリファイ社の技術を利用、広告掲載費が安くなるタイミングを見計らい、配信するといった利用もできるようになるといいます。デジタル広告市場はスマホの普及に伴い、拡大が続いています。電通によれば、2024年の国内デジタル広告費は3兆6517億円で、新聞、テレビなどを含めた総広告費の47.6%を占めています。ただデジタル広告は、実際にどう配信されているのか、広告主が把握しづらいのが課題となっています。利用者の投稿には、性的・暴力的な内容のほか、虚偽情報や、詐欺行為につながる悪質なものも含まれ、メタやグーグルなどのプラットフォーマーは対策を進めているものの、完全には排除しきれていないのが現状です。こうした状況を受け、総務省が2025年6月に公表した広告主向けの指針では、デジタル広告の配信先の監視・検証や、掲載を望まないサイトの一覧作成などの対策を促しています。
(6)誹謗中傷/偽情報・誤情報等を巡る動向
本コラムで以前から取り上げていましたが、SNSなどネット上の誹謗中傷や差別に当たる投稿をした人に削除を命じ、従わない場合に5万円以下の過料を科す鳥取県の改正人権尊重の社会づくり条例が鳥取県議会本会議で可決、成立、2026年1月下旬に施行されます。罰則付きの条例は全国初とみられます。政府は2025年4月、誹謗中傷の投稿への対応をサイトなどの運営事業者に義務付ける「情報流通プラットフォーム対処法」を施行しましたが、投稿者に削除を命じる規定はなく、条例で対策を補完し、人権侵害防止の実効性を高める狙いがあります。県民は知事に対し、人権侵害に当たる投稿を運営事業者や投稿者に削除要請するよう求めることができると規定、知事は有識者による協議会の意見を聞いた上で、必要と判断した場合は削除を要請することができ、応じない場合、投稿者に削除を命令、従わなければ投稿者の氏名などを公表、5万円以下の過料を科すものです。削除の要請・命令の対象となる投稿は特定個人を標的とするものを想定しているといいます。
兵庫県で、インターネット上の誹謗中傷や差別による人権侵害を防ぐための条例が2026年1月1日に施行されました。ヘイトスピーチなど集団に対する「不当な差別」の削除要請など、県が取り組む施策を明示、一方、個人への誹謗中傷については表現の自由などの観点から窓口相談による支援にとどめています。2024年11月の兵庫県知事選では誹謗中傷や真偽不明の情報が拡散され、ネット空間の言論のあり方に注目が集まりました。被害者が利用しやすい相談体制や効果的な周知・啓発など、実効性を高める運用が求められます。条例は居住地や人種、性別などを理由とする集団への「不当な差別」について、県が事業者に削除を要請し発信者への行政指導を実施することを明確にしました。県は2018年から兵庫県人権啓発協会や専門業者に委託し、SNSやインターネット掲示板での集団に対する差別的な投稿を独自にモニタリングしており、2022~24年度の直近3年度では年1000件前後を検索で見つけ、多くを県内市町へ報告して削除を要請するかの判断や対応を委ねていました。条例の施行後は県と市町がそれぞれ削除要請などを担うことになります。報道で県人権推進室の担当者は「一つの投稿に対し複数の要請を重ねることで削除された事例もあった。重層的な取り組みは一定意義があると考える」と話していますが、その点は評価できると思います。削除要請の規定を含む改正条例を2024年4月に施行した大阪府では、2025年4~9月末時点で88件の情報の削除をプロバイダへ要請し29件は閲覧できなくなりました。一方、個人への誹謗中傷は両府県とも削除要請の対象とはしていません。憲法が保障する表現の自由への配慮が必要で、「差別を助長する情報は公益性の観点から行政で対応できるが、個人に関する投稿は誹謗中傷に当たるのか判断の線引きが難しい」(大阪府人権擁護課)うえ、中傷を示す表現や形態が多様で類型化しづらい面もあるといいます。兵庫県の場合、対応は相談支援体制の整備、情報流通プラットフォーム対処法に基づき被害者本人が削除を求める際の助言などにとどまっています。ネット上の誹謗中傷を防ぐにはプラットフォームの運営上の工夫や、利用者側の判断能力の向上も欠かせず、情報の適正さを担保するためのファクトチェック体制の整備や、中高年層など大人の情報リテラシー教育を積み上げる努力も重要になるといえます。
日本オリンピック委員会(JOC)は、2026年2月のミラノ・コルティナ冬季五輪の誹謗中傷対策として現地に拠点を設け、弁護士を含めたスタッフ6人を常駐させることを明らかにしました。近年の五輪で選手の被害が相次いでいることを受けた措置で、AIを活用したモニタリングに加え、スタッフによる目視でもチェック、Xやインスタグラムなどを対象とし、投稿の内容によって削除を要請するほか、関係機関と連携して対応するとしています。注JOCはさらにSNSなどで選手が自らを守るための方策をまとめた資料も作成し、大会前に配布するとしています。
スポーツ賭博の影響でアスリートへの誹謗中傷が激化している実態もあります。2025年12月29日付朝日新聞で、30年以上スポーツと賭博について研究し、カナダのマギル大名誉教授で「青少年のギャンブル問題及びハイリスク行動のための国際センター」のジェフリー・デレベンスキー所長は、「とても深刻な結果が出た。人気が高いバスケットボールでは選手の約21%が中傷を受けていた。選手だけでなくコーチもさらされている」「競技別で多かったのはテニスやバスケットボール、アメリカンフットボールにアイスホッケーといったところだ。テニスは得点やサーブなど細かく設定できるため、賭けやすい」「ソーシャルメディアによって、アスリートは簡単に狙えてしまうからだ。ある調べでは、一つの大会期間中に1人の選手に対して1200回もの中傷が送られたこともあったと聞いている」「ソーシャルメディアによって、簡単に連絡できてしまう時代だ。もはや自分自身だけでなく親や夫、妻、子どもまで被害に遭っている」「国際オリンピック委員会(IOC)もかなり懸念を抱いている。…昨年開催されたパリ五輪でもかなりの数があったようだ。一部の選手や家族に殺害をほのめかす内容が送られる事態が起き、地元警察が捜査に動いたとも聞いた」「NCAAがいま取り組んでいるのは、個人成績の細部に賭けられる『プロポジション・ベット』を大学スポーツの試合で禁止にすることだ。選手の成績を操るために、最も狙われやすい」「殺害予告のような重大なケースでは、米国では米連邦捜査局(FBI)も動いている。私案だが、何かしらの決断も必要だ。たとえば脅迫をした者が収監されれば、同じような行為を控える人は増えるはずだ」「多くの親がその現象に気づいていない。ギャンブル問題はもっと年齢が上の人が抱えるものだと思い込んでいる」「特に問題とみているのが、(スロットやルーレットなど)ゲームの形式で気軽に楽しめる『ソーシャルカジノ』だ。まねごととはいえ、突き詰めればギャンブルを体験できてしまう。だから、政府機関らと協力してゲーム会社などに制限するよう働きかけている」などの指摘は、事態の深刻さと対応が急務であることが理解できます。
北海道はアイヌ民族の生活向上や文化振興を目指して2021年に策定した「アイヌ政策推進方策」を改定、素案ではSNS上の中傷対策を初めて明記、国や関連団体と連携して効果的な対策を推進するとしちえます。推進方策は、アイヌを初めて「先住民族」と規定したアイヌ施策推進法(アイヌ新法)が2019年に施行されたことを受け、5年間のアイヌ政策の方向性を示す指針として設けられ、この間、SNS上への匿名の差別的投稿などが増加し、道が2023年度にアイヌに対して行った生活実態調査では、31・6%がSNSで差別を受けたと回答、2017年の道の調査と比較し、差別を受けた場面として職場や学校など多くの項目が減った中、SNSが最も多くなったといいます。現状を踏まえて、差別の解消に向けた考え方を新たな方策に盛り込むものです。
最近では、災害時のデマ、誤情報の流布についての報道も目につきました。
- 青森県で2025年12月8日夜に震度6強を観測した地震と、東北地方で深刻なクマ被害とを結びつける投稿がSNSで相次ぎました。「冬眠中のクマが地震で起きて出没するのでは」「クマは地震を予知して冬眠しなかった」「野生動物は自然の変化の兆候を察知できる」といったものですが、過去の大規模地震でも動物が絡んだ根拠のないデマが広がりました。対策としては、できる限り早く、メディアが専門家の見解を報道することや、自治体が公的情報を発信することが大切で、人は、知った情報が確度の低いものでも「伝えたい」という善意があり、拡散することで、誤った情報でも正しいものとして広がる恐れがあります。公式情報や報道にアクセスし、冷静に判断することが重要となります。以前の本コラムでも取り上げましたが、日本赤十字社が2025年7月に実施した調査では、災害時に4人に1人が、こうしたうその情報に接していた状況が明らかになっています。そのうち、うそと気付いて注意喚起したり、ファクトチェックしたりした人が半数程度を占めた一方で、「SNSなどで拡散してしまった」(28.2%)、「虚偽の情報に基づいて行動してしまった」(4.9%)という人も一定数いたといいます。
- 12年ぶりに見直された首都直下地震の被害想定では、災害時のデマ対策への言及が大幅に増えました。急速に普及したSNSによって瞬時に国内外に拡散される恐れがあり、ファクトチェックや信頼性を担保する仕組みが必要と指摘されています。警察庁は過去の教訓から、迅速な削除につながる取り組みをすでに始めており、違法情報に対する捜査態勢も強化しています。2024年1月の能登半島地震ではSNS上で虚偽の救助要請が相次いだことから、警察庁は、救助活動に支障をきたしたり、社会的混乱を生じさせたりする恐れがある違法情報をSNS事業者に提供し、優先的に削除してもらう枠組みを整備、一部事業者は専用窓口を設置したといいます。また、同庁サイバー特別捜査部は虚偽投稿を含む公開情報に対する捜査態勢を強化、能登地震の際にSNSでうその救助を求めた男のアカウントを特定し、情報提供を受けた石川県警が偽計業務妨害容疑で逮捕しています。一方、首都の治安を守る警視庁は、デマを打ち消す情報の発信に力を入れています。災害時に立ち上がる警備本部が情報収集や分析を行い、約100万人のフォロワーを持つ同庁災害対策課のXアカウントなどを通じて、虚偽情報だと注意喚起することを想定しています。
- 以前の本コラムでも取り上げましたが、2016年に東北学院大の郭基煥教授(社会学)らが震災時の状況を調査したところ、回答した仙台市民770人の5割が、被災地で外国人が犯罪をしているとのうわさを「聞いた」とし、うち8割超が「信じた」と答えています。「能登半島地震でも、「外国人窃盗団が集結している」といった偽情報が拡散、これを受けて消防団員たちがバールやハンマーを積んだ車で「巡回」に出た集落もあったといいます。平時でも災害時でも犯人の国籍を問わず事件は起きますが、「通常は、証拠がないのに誰かを犯人視してはいけないという道徳規範がある。でも、外国人に対しては、対等に対話する相手とみなしていないからか、そのブレーキが壊れてしまう」と指摘する有識者もいます。一方、首都圏の帰宅困難者が発生したとき、災害時帰宅支援ステーションとなるコンビニや福祉避難所となる介護施設では、外国人が多く働いており、ダイバーシティ研究所の代表理事で復興庁復興推進参与の田村氏は、「多くの外国人は、支援される側ではなく、支援する側の一員」と強調しています。ただ、「近くに住んでいてもお互いに接点がないと、差別や偏見が生まれやすくなる」とし、対策として防災訓練やタウンミーティングを開き、国籍に関係なく地域の人が知り合う機会をつくることをすすめています。災害時の外国人犯罪デマ投稿によって外国人が暴力や誹謗中傷を受けたりする場合は現行法で処罰されますが、年月がかかり、SNSの拡散のスピードには追いつかない限界があります。法規制以外では、国や自治体がSNS上で素早く偽情報を打ち消すことが有効です。また、プラットフォーム事業者の対策として、コロナ禍でワクチンに関わる投稿に世界保健機関(WHO)の情報へのリンクがついた例など、SNS上に注を追記できる設計も有効だといえます。
その他、国内外における偽・誤情報を巡る最近の動向から、いくつか紹介します。
- 政府は、木原稔官房長官の記者会見とみられる映像を悪用し、存在しないプロジェクトへの投資を促す偽動画を確認したとして、首相官邸のホームページやXで注意を呼びかけています。誘導されるサイトにアクセスした場合、投資詐欺に遭ったり個人情報を盗まれたりする恐れがあるとしています。内閣広報室によると、偽動画は2026年1月6日に見つかったといいます。
- 「大阪のモスクで早朝4時に大音量が流れ大迷惑」とする動画がSNSで拡散、読売新聞が調べたところ、海外のモスクを撮影した映像に、虚偽の説明を付けたデマだったと報じています(2025年12月23日付読売新聞)。動画は、白い建物からアラビア語で祈りの時間を知らせる「アザーン」の音声が流れている映像に、「大阪の住宅街で朝4時、祈りを促す呼びかけが大音量で流れ出す」「日本人の生活が壊される」などの字幕がつき、XやTikTokで拡散、Xで30万回以上表示された同22日の投稿には、「追い出せ」「侵略者だ」などのコメントが寄せられています。記者は撮影時間や住人が迷惑しているとの情報はなかったと指摘しています。アメリカ・ニューヨーク州に実在するモスクの映像を何者かが転載し、「早朝の大阪」などと、映像の内容とは異なる字幕をつけて拡散、国内にいるイスラム教関係者は「事実に基づかない情報で非難されるのは悲しい。イスラムの人々は『日本はいい国だ』と聞いて来日する。ウソの動画で分断を深めるようなことはやめてほしい」と述べており、投稿者が意図しているかどうかにかかわらず、分断を深める可能性がある点は本当に残念です。
- ベネズエラのマドゥロ大統領が米国の軍事作戦により拘束されて以降、SNSには生成AI製とみられる偽動画や、誤解を与えかねない内容の画像が拡散しています。XやTikTokなどのSNSで生成AIでつくられたとみられる複数の動画が確認でき、日本語での投稿もあります。米調査団体「ニュースガード」が2026年1月6日に発表したリポートによれば、同団体は本件をめぐり、画像5枚を「捏造され本来の文脈からかけ離れている」、動画2本について「偽物」と特定、これらは、Xだけでも、2日足らずで計1410万回以上再生されたといいます。また、AFP通信によれば、トランプ大統領が自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に共有した、マドゥロ大統領の拘束後にベネズエラ人が通りを走って喜ぶ動画を調べたところ、この動画は2025年12月にTikTokに投稿されたカリフォルニア大のイベントの動画で、マドゥロ大統領の拘束とは関わりのないものだったといいます。
- 米国務省は、欧州連合(EU)で偽情報の拡散防止などを義務づける「デジタルサービス法(DSA)」の成立を主導した欧州委員会のティエリー・ブルトン前委員を入国禁止にしたと発表しています。トランプ米大統領らは、EUが「言論の自由」を脅かしているとして圧力を強めています。米側は、ブルトン氏が2024年8月、Xの音声対話サービスでトランプ氏と対談予定だった実業家イーロン・マスク氏に対し、同法を根拠に偽情報対策を求めたことを問題視しているほか、EUが2025年12月、同法違反でXに1億2000万ユーロ(約220億円)の制裁金を科したことにも反発しています。同省は偽情報やヘイトスピーチ(憎悪表現)の対策名目で米国人に対する検閲が行われていると主張し、ブルトン氏に加えて、欧州を拠点とする団体代表ら4人のビザ(査証)発給も制限、ルビオ国務長官はXで「方針転換しなければ対象者を拡大する」と述べています。トランプ2.0ではこうした「驚きを通り越して、あきれるしかない対応が正当化される事例」が相次いでおり、筆者としては理解が追い付かず、ただただ大きな危惧を覚えます。
- クマによる人的被害が相次ぐ中、宮城県女川町が公式Xに街中にクマが出没したような偽の画像を注意喚起として投稿してしまい、訂正し、謝罪することになりました。町内の男性らが「内輪の遊び」として作った生成AI画像が発端で、それを見た町がうのみにして拡散してしまった異例のケースといえます。女川町が画像と文面を公式Xに投稿したのは2025年11月26日昼過ぎ、周辺の小中学校は部活動を中止して集団下校になり、約90人の園児を預かる保育所では、クマが現れた際の避難経路の確認や机などを使ったバリケードを作る準備などの対応に追われ、町が投稿した画像は瞬く間に拡散し、約4時間で350万回以上閲覧されたといいます。一方、当初からネット上では「フェイク画像ではないか」との指摘も相次いでおり、町が真偽の確認を続けていたところ、元々の画像を持っていた男性から、「生成AIで作成したフェイク画像だった」と申し出があったものです。報道で生成AIに詳しい国立情報学研究所の越前功教授は「AIが高度化する中で、危惧された状況がとうとう起きた」としながらも、「最も信頼される情報源であるべき自治体が、偽情報を拡散した責任は重い」と指摘しています。また、町の担当者は、投稿前に複数のAIツールを使って、真偽を見極めようとしたしものの、「生成画像の可能性が高い」「低い」など結果は様々で、参考にならなかったといいます。このあたりも課題として認識しておくべき点だと思われます。
- 2025年12月12日付朝日新聞の記事「クマ偽動画の拡散 感情が動いた時ほど「本当か?」と疑う勇気を」は参考になりました。そこでは、(筆者も信頼する)国際大学GLOCOM准教授(計量経済学)の山口真一氏が、「偽動画が広がる背景には、人の心理とSNSの構造がある。身近な脅威をめぐる話題は「恐怖」と「関心」を同時に喚起し、共有されやすい。昨今のクマの話題は、日本中の関心が高まっており、かつ、恐怖をもたらす内容だ。SNSのアルゴリズム(計算手順)は、怒りや驚きなど感情を強く動かす投稿を優先的に表示する仕組みだ。しかも、人はそれらの投稿を拡散しやすいことも、研究からわかっている。その結果、刺激的な偽動画ほど拡散しやすくなる。投稿者の多くは、再生数を伸ばしたい、注目されたいという承認欲求を満たすことや、収益化を目的としていると考えられる。生成AIによって「それらしい映像」が容易に作れる今、恐怖を「利用」した動画が次々と生まれている。恐怖が再生を生み、再生が収益を生む――。偽動画の拡散は、感情と経済が結びついた新たな情報循環のかたちといえる」と指摘しており、正鵠を射るものといえます。また、「かつて映像は、客観的な証拠として信頼されるメディアだった。だが、生成AIの登場により、その前提は音をたてて崩れつつある。誰でも本物のような映像をたやすく作れる時代、画面の向こうにある出来事が「現実かどうか」を確かめることは、もはや容易ではない」、「スマホで短い動画を流し見する日常の中で、それらに気づかず信じてしまう人も少なくないのが現実だ。だからこそ、感情が大きく動いたときほど立ち止まり、別の情報源で確かめる姿勢が欠かせない。偽動画の波は、自然や動物を題材にしたものにとどまらない。近年は、政治家や著名人の顔を使った偽動画やなりすまし広告が、国内でも相次いでいる」、「恐怖をあおるフェイクから、信頼を装うフェイクへ。AIによる偽動画は、感情だけでなく「信用」そのものを狙う段階に入っている。さらに深刻な問題は、こうした偽動画や偽広告が、プラットフォームの収益構造に深く組み込まれている点にある。ロイターの報道によれば、フェイスブックなどを運営するメタ社は、2024年の売上高の約10%を、詐欺あるいは禁止商品の不正広告から得ていたという。アルゴリズムが再生数やクリック数を価値として換算する仕組みの中で、フェイク情報や偽広告もまた収益を生み出す対象になっているのだ。こうした現状に向き合うには、技術・制度・教育の三位一体で考えることが欠かせない。まず技術面…投稿後の映像をAI技術で分析し、「生成された可能性が高い」と判断されたものには自動的にラベルを付与する仕組みの技術開発・実装が進むことが望ましい。制度面でも課題は山積している。広告はプラットフォームの主な収益源であるが、審査体制が不十分なままでは、詐欺広告や偽動画による被害が拡大する一方である。企業による自主的な取り組みを一層進めるとともに、社会全体で持続的な監視や制度整備のあり方を検討していくことが望ましい。教育も重要だ。動画にも偽物があること、ラベルやウォーターマークの意味を知っておくこと、そして「感情が動いたときほど一度立ち止まる」こと。これらを社会全体で共有していく必要がある」、「偽動画の拡散は、誰か特別な人の問題ではない。私たち一人ひとりが、知らぬ間に「被害者」にも「加担者」にもなり得る。怖い映像、怒りを誘う投稿、信じたくなる話。そこに感情が動いた瞬間、私たちはもう、仕掛けられた物語の中に足を踏み入れているのかもしれない。「映像だから本物」と信じる時代は、静かに終わりを迎えている。いま必要なのは、信じて拡散する前に考えることだ。誰が、どんな目的で、その映像を発信したのか。立ち止まり、少しだけ疑う勇気を持つ。昨日スマホで見たあの映像は、本当に起きた出来事だったのか――。その問いを胸に置くだけで、私たちの社会は少しだけ、フェイクに強くなれる」といった指摘は正にそのとおりだと思いました。
- 富士通は、偽情報対策の技術促進に向けた国際コンソーシアムを設立したと発表しています。偽情報対策技術を手がける企業のほか、技術活用する金融機関やメディア、法律事務所といった57企業・組織などが参加、生成AIを悪用した偽情報が広がっており、参加企業の協業を促して対策技術の活用事例創出につなげる狙いがあります。日本や欧州、北米、インド、オーストラリアの企業・研究機関など、みずほフィナンシャルグループや明治安田生命保険、LINEヤフー、情報サイトのオールアバウト、イタリア大手銀のインテーザ・サンパオロ、米ウーバーAIソリューションズといった企業が参加しています。国際的な偽情報対策のコンソーシアムはこれまでほとんどなかったといいます。2026年度中に参加企業・組織の数を100以上に広げ、技術共創の場を提供し、メディアによるファクトチェックのほか、金銭要求や本人詐欺のリスクに対応した偽情報対策などで活用事例を生み出すとしています
- 世界で最も多くの偽情報の攻撃を受けているといわれる台湾で、ニュースなどの真偽を確かめるファクトチェックセンターが存続の危機に立っていると報じられています(2025年12月11日付日本経済新聞)。資金の最大の出し手である米メタの撤退が取り沙汰されており、2026年から予算が大幅に減る可能性があり、偽情報の拡散が懸念されているものです。同センターはSNSで出回る情報をニセと判定するとメタなどに分析結果を通知、企業はその報酬として同センターにお金を支払うしくみですが、メタのマーク・ザッカーバーグCEOは2025年1月に米ファクトチェック団体との連携をやめると発表、企業による情報管理を「検閲だ」とみなすトランプ米政権との衝突回避を模索するためとみられています。米国以外の地域への支援は続けるのか、対応方針をなお示しておらず、2026年1月にメタとの契約期限が到来するといいます。AIは進化し続け偽情報も巧妙化しているのに、資金が打ち切られれば危機的状況に陥ることは目に見えています。同センターには毎日、SNSの利用者から200~300件のデマの可能性のある情報の通報が寄せられ、公益性や拡散のスピード、社会・個人への有害性を基準に優先順位をつけていますが、14人いる専門性の高い元記者らで手分けして検証作業などに当たる人海戦術をとっています。2026年秋には台湾総統選の前哨戦とされる統一地方選が予定されており、選挙前には偽情報が急増する傾向にある中、台湾社会と偽情報の攻防が激しくなることが見込まれます。
(7)その他のトピックス
①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産を巡る動向
中国が中央銀行デジタル通貨(CBDC)の利用促進に向けた取り組みを強化していますが、新たな枠組みの下でデジタル人民元(e─CNY)が2026年から利子収入を生むことになります。中国国営中央テレビ(CCTV)によれば、2026年1月1日からウォレットに保管されたe─CNYは預金金利に基づき利子が付き、世界で初めて利子付きのCBDCとなるといいます。e─CNYは「デジタル現金」から「デジタル預金」の時代へ進むと説明しています。デジタル人民元は現在、一部の政府機関や国有企業に限定されていますが、中国で普及しているデジタル決済プラットフォーム「アリペイ(支付宝)」や「ウィーチャットペイ(微信支付)」を通じた取引の大半は、デジタル人民元に関わっていません。中国人民銀行(中央銀行)は2025年11月、暗号資産に対して厳しい姿勢を改めて示し、ステーブルコインを巡る違法行為の取り締まりを強化する方針を示しました。一方、自国デジタル通貨の利用促進に向けた取り組みを強化、人民銀はデジタル人民元の国際的な利用を促進するため、上海に国際運営センターを設立し、より多くの商業銀行が取り扱えるよう支援すると表明しています。人民銀傘下の機関紙、金融時報は、中銀がデジタル人民元の管理に関する行動計画を発表するとし、デジタル人民元の管理や運用などに関する新たな枠組みが2026年1月1日に発効すると報じています。
欧州連合(EU)理事会は、オンラインとオフラインの両機能を含むデジタルユーロを支持する立場を示しました。オフラインでの使用のみに焦点を当てた欧州議会の提案と一線を画した形となります。EU理事会の新たな立場では、欧州中央銀行(ECB)がデジタルユーロを発行し、利用者がインターネットに接続しているかオフラインであるかにかかわらず、いつでもどこでも使用できるようになるというものです。欧州議会のデジタルユーロに関する報告者は、利用者のプライバシーと通貨自体の強靭性を守るためオフラインのみのモデルを提唱し、ECBが規制機関として機能するとしていました。オンライン取引は中銀の台帳または認可された仲介業者を通じて即時に処理される一方、オフライン取引はローカルで記録され、接続が再開されたときに中央台帳と同期されます。これにより、接続状態の悪い地域でもシステムを利用でき、利用者にとっては現金のようにプライバシーが保たれるといいます。EU理事会の閣僚は日常的な柔軟性や停電時の強靭性のためにオフラインでの使用を支持するとともに、より広範なデジタル決済をサポートするためオンラインアクセスも盛り込んでいます。理事会の指令は、銀行からの預金流出によって金融安定が脅かされ事態を防ぐためデジタルユーロの保有量に制限を設けるなど主な設計上の特徴を定めています。理事会の合意を受け、デジタルユーロの法的枠組みに関する欧州議会との交渉に道が開かれ、加盟各国政府を代表するEU理事会は、欧州議会とともに法律の採択に取り組むことになります。法律が採択されれば、ECBはデジタルユーロ発行が可能になり、ECBは2027年の試験段階を経て29年までに運用を開始できるとしています。また、ECBのチポローネ専務理事は、デジタルユーロの発行をめぐり「得られた知見は日銀に喜んで共有する」と明らかにしています。米国が国境を越えたドル建てステーブルコインの普及に動く中、域内決済網を再構築するとしています。ECBは2029年の発行に備えており、実現すれば日米欧の主要中銀で初になる。ECBは個人や事業者から信用される巨大決済網を目指し、どのくらい利用されるかの具体的な調査を進める方針で、現時点の「信頼できる数字」として「デジタルユーロを知っている人のうち66%が利用に興味を示している」と指摘、中国が注力してきたデジタル人民元は開設者が2億人強とされますが、実際の利用は格段に少ないとみられており、ECBのデジタルユーロが飛び越える可能性があり、日本からの旅行者も使えるようになる見通しですECBはオフラインを含めた円滑な決済やサイバー攻撃への備えなど技術面での研究を幅広く推進しており、日本は政府・日銀が「デジタル円」の制度設計の準備を進めており、CBDCのルールづくりなど欧州の取り組みは参考になると考えられます。また、同氏はデジタルユーロ発行の意義について「欧州人がユーロ圏全域でデジタル決済を可能にする単一の解決策を確保する必要がある」と強調、ユーロ圏20カ国のうち、オランダやギリシャなど13カ国は独自のカード決済システムを持っておらず、現金主義が根強かった欧州でもキャッシュレス決済が増えるものの、ビザやマスターカードなどの米国資本に依存しているのが現実であるところ、同氏は「中央銀行がメイン商品である『お金』の提供で順応しないのは不合理だ」とも訴えています。利便性の確保と金融システムの安定を両立させる必要もあり、デジタルユーロの普及で預金流出が急増すれば銀行の経営を揺さぶるため、保有額の上限設定も焦点となり、1人あたり3000ユーロ(約54万円)であれば「問題は生じない」と分析を説明しています。
米ドルや円など法定通貨と価値が連動するように設計された暗号資産「ステーブルコイン」が、特に途上国で存在感を増しつつあります。ドル預金の「代替」需要のほか、国際送金にも使われ始めています。途上国の脆弱な金融インフラや、高コストな既存の国際決済システムといった課題を解消する手段として期待が集まっています。ステーブルコインの時価総額は2025年末時点で、最大の「テザー」で1870億ドル(約29兆円)ほどで、裏付け資産がなく、投資対象とされる暗号資産の代表格ビットコインの10分の1程度であるものの、時価総額は順調に増え続けています。背景には途上国での旺盛な需要があり、ステーブルコインの約95%はドル建てですが、「80%以上の取引が米国外で行われている」(米専門家)といいます。国際通貨基金(IMF)によると、アフリカ・中東と中南米での取引が経済規模に比べて顕著で、高インフレに見舞われ、銀行システムも未整備な途上国で、安定したドルと等価のステーブルコインはドル預金の手段になっています。ブロックチェーン(分散型台帳)技術を使うステーブルコインは国境を越えた送金コストを「劇的、確実に縮小できる」(邦銀関係者)メリットがあります。国際送金は通常、コルレスバンクと呼ばれる中継銀行を経由しますが、事務コストなどがかさむ上、時間もかかり、「手数料は送金額の最大20%に上る場合もある」(IMF)といいます。途上国の場合、為替手数料などのコストが先進国よりも大きく、動画などコンテンツ配信や電子商取引といったプラットフォーム事業者は、途上国を含めて世界展開を図るものの、決済コストが高ければ、途上国では合理的な価格帯でサービス提供ができないことになります。ステーブルコイン利用でこうしたコストは「空気みたいになる」と期待されています。一方、大半がドル建てのステーブルコインには、途上国から資本流出を招くリスクもあり、アフガニスタンで地元通貨建てのステーブルコイン導入を支援する暗号資産運営機関、アルゴランド財団のブライアン・ウィポ氏は、食料品など日常の買い物では「現金払いや地元通貨建てコインが好まれる」と指摘、ただ、「ドル建てコイン市場の需要は明白だ」とし、各国が資本流出などへの対応策を決める必要があると訴えています。
ステーブルコインが注目されるのは、そのコストとスピードであり、例えば、銀行を介して海外に送金すると、1回で数千円の手数料がかかり、着金まで数日かかるケースがありますが、ステーブルコインによる送金は、ブロックチェーン上に取引データを記録するため、仲介する事業者への手数料がいらず、2025年10月に発行が始まった「JPYC」なら1円未満とされる移動手数料だけで、世界中に最短1秒で送金できます。報道でFINOLABの柴田誠氏は、ブロックチェーンの可能性に期待、「不正受給のできない、用途を限定した補助金」や「診療データに連動した保険金精算」など様々なアイデアが挙がっており、「今は想像できないような、もっと画期的なサービスや発明が生まれるかもしれません」と述べています。大和総研によると、2025年10月1日時点での発行残高は2800億ドル(約44兆円)で、大半が米ドル建てで、米国債などを裏付け資産としています。暗号資産に前向きなトランプ米政権は2025年7月、ステーブルコインのルールを定めた「GENIUS法」を成立させて後押ししていますが、値動きが大きい暗号資産取引の「退避資産」としての需要や、前述のとおり、自国通貨の信認が低いアフリカや南米といった国で購入が増えているとみられ、決済通貨として市民権を得ているとは言いがたい状況です。また、現時点では、ウォレットが不正アクセスされて資金を取られても、補償する仕組みがないのが一般的であること、世界の人と簡単につながる分、犯罪に巻き込まれやすくなることなど課題もあります。銀行は国際取引でマネロン対策に膨大なコストをかけていますが、ブロックチェーン上の取引では、そうしたチェック機能が弱まることになります。ステーブルコインは今後、国内外での支払いや送金の主役を担うようになるためには、リスクへの十分な対応も、新たな経済圏の誕生に必要になってくるといえます。
その他、ステーブルコインを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- カナダ銀行(中央銀行)のマックレム総裁は、同国で今後流通するステーブルコインは質の高い流動資産の裏付けが必要で、その価値は中央銀行が発行する通貨と1対1で連動するものでなくてはならないとの考えを示しています。政府は2025年11月に、ステーブルコインの規制を2026年に導入すると表明しています。総裁はモントリオール商工会議所で、ステーブルコインが紙幣のような「良質なお金」であることを望むと説明、「ステーブルコインは常に額面金額で現金に交換できるように、中央銀行の通貨と1対1で連動し、質の高い流動資産の裏付けがなくてはならない」と述べました。質の高い流動資産とは通常、国債など政府の裏付けがある証券を指し、「カナダ国民がステーブルコインのイノベーションを活用でき、その安全性を確保することが目標だ」と強調しています。
- SBIホールディングスは16日、日本円建ての電子決済手段「ステーブルコイン(SC)」を開発すると発表しました。2026年春の発行を目指すといいます。同社は傘下に暗号資産やSCを扱う交換取引所を抱えており、発行から流通まで一括したサービスを提供できる体制を構築するとしています。基盤となるブロックチェーン技術を持つフィンテック(金融とITを融合させたサービス)企業のスターテイル(シンガポール)と共同開発し、SBI傘下の交換取引所SBIVCトレードで流通を促し、決済通貨として活用されることを目指すとしています。SCは米ドル建てが圧倒的に多く、国内ではフィンテック企業のJPYCが2025年10月に初の円建てを発行、三菱UFJ銀行など大手3行もSCの共同発行を検討しています。関連して、SBIVCトレードは2026年春から米ドル建てステーブルコイン「USDC」を実店舗で決済する実証実験を始めるとしています。ブロックチェーン(分散型台帳)技術の利用により、消費者が負担する為替などの手数料をクレジットカードの半額以下にすることを目指し、SBI新生銀行グループの信販会社アプラスと共同で開発するといいます。関西圏を中心に実験し、外国人観光客などによるアプラスの加盟店での利用を想定、ステーブルコインを取り扱うのに必要な電子決済手段等取引業の登録を持つSBIVCトレードがUSDCと円の交換を担い、加盟店は日本円で受け取ることができるといいます。
金融庁は、暗号資産規制の方向性を盛り込んだ報告書を公表しました。金融商品取引法に位置づけ、未公開情報をもとに売買するインサイダー取引を禁じることなどが柱となります。暗号資産の発行者には年1回の情報開示を義務付け、健全な市場環境を整え、暗号資産が投資対象として広がってきたことで、資金決済法から金商法に移行するものです。報告書では規制の趣旨を「(暗号資産投資に)お墨付きを与えるものではないことを明確にしつつ、健全な取引環境を整備すべきだ」と明記、報告書を受け、金融庁は2026年の通常国会に金商法改正案を提出することを目指しています。インサイダーなど不公正取引の規制の方向性を示したほか、投資判断に重要な影響を与えうる情報として、暗号資産の上場や発行者の破産などを例示、証券取引等監視委員会に犯則調査権限を設け、課徴金制度の対象にもするとしています。2024年にDMMビットコインで482億円相当のビットコインが流出した事案など、不正アクセスで暗号資産が盗まれる被害が頻発していることにも対応、不正流出時の補償に備え、責任準備金の積み立てを交換業者に求めるほか、システム業者向けには届け出制を導入し、セキュリティ体制を強化するとしています。また、金融庁は暗号資産の担当部署を2026年7月に「課」に昇格させる方針を固めたといいます。投資対象として広がっているのを受け、事業者の監督体制を強化する狙いがあります。金融庁は2025年7月に「暗号資産・ブロックチェーン・イノベーション参事官室」を新設し、関連業者の監督を担当していましたが、2026年7月の次期事務年度に暗号資産を担当する課に昇格させ、発行者や交換業者の監督を強化し投資家保護を図るとともに、ブロックチェーンなどの基盤技術の発展を促す環境をつくるとしています。金融サービスの裾野が広がっており、金融庁の監督対象となる事業者の種類も増えていることから、現在の監督局を資産運用業・保険業、銀行業・証券業とで分けて、検査・監督が行き渡るようにし、総合政策局は資産運用・保険監督局に移行、暗号資産の担当課も同監督局に設け、局の数は企画市場局をあわせた3つで維持するというものです。
▼金融庁 金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」報告の公表について
▼ (参考)金融審議会 暗号資産制度に関するワーキング・グループ 報告 概要
- 暗号資産は、現在決済手段の観点から資金決済法で規制されているが、足下では投資対象化が進展
- (注)国内のアンケート調査によると、投資経験者の暗号資産保有者割合はFX取引や社債等よりも高い。また、利用者の取引動機のほとんど(87%)は長期的な値上がりを期待したもの
- 暗号資産を巡る喫緊の課題
- 情報提供の充実 (暗号資産発行時のホワイトペーパー(説明資料)等の記載内容が不明確であったり、記載内容と実際のコードに差があることが多いとの指摘)
- 適正な取引の確保・無登録業者への対応 (金融庁等に詐欺的な勧誘の相談が多数)
- 投資アドバイス等に係る不適切行為への対応 (投資セミナーやオンラインサロン等による詐欺的な行為が疑われる事例も発生)
- 価格形成・取引の公正性の確保 (インサイダー取引規制に関するIOSCO(証券監督者国際機構)の勧告や欧州等での法制化)
- セキュリティの確保 (サイバー攻撃を受けて暗号資産が流出する事案が継続して発生)
- 上記課題に対応するため暗号資産の特性に応じた金融商品としての規制を整備することにより、利用者保護の充実を図る(暗号資産投資についてお墨付きを与えるものではない)
- 規制見直しの概要
- 根拠法令の見直し
- 暗号資産の規制法を資金決済法から金商法へ変更
- (注)現行法の暗号資産の範囲は維持(暗号資産に該当しないNFT(Non-FungibleToken。主にゲームやアート等のデジタルコンテンツで利用されている)やステーブルコインは本見直しの対象外)
- 有価証券とは異なる金融商品として金商法に位置付け
- 暗号資産の規制法を資金決済法から金商法へ変更
- 情報提供規制
- 発行者がいる暗号資産については、当該者が資金調達を行う場合に情報提供義務を課す
- 発行者の資金調達を伴わない場合や発行者のいない暗号資産については、暗号資産交換業者に情報提供義務を課す
- 業規制
- 基本的に第一種金融商品取引業に相当する規制を適用
- サプライチェーン全体のセキュリティ対策の高度化等を通じ、利用者財産の管理を強化
- 無登録業者への罰則引上げ等を行うとともに、投資運用行為や投資助言行為も規制対象に
- 不公正取引規制
- インサイダー取引規制を創設
- 証券監視委の犯則調査権限や課徴金制度を創設
- 根拠法令の見直し
- 情報提供規制
- 中央集権型暗号資産発行者がいる暗号資産(例:IEOトークン等)
- 発行者と一般の利用者との間の情報の非対称性を解消させる必要
- 発行者が資金調達を行う場合には、利用者に対する情報提供義務を課す
- (注)少人数・プロ投資家を相手方とする勧誘や、無償での付与、マイニング(暗号資産移転の承認作業)等の報酬としての付与については規制対象外
- 発行者による資金調達を伴わず、暗号資産交換業者が独自に取り扱う場合は、当該暗号資産交換業者による情報提供義務を課す
- 情報提供の内容
- 発行者の情報、調達資金の使途、対象プロジェクトに関する情報等
- 暗号資産の性質・機能や供給量、基盤技術、付随する権利義務、内在するリスク等
- 上記以外の暗号資産(例:ビットコイン等)
- 暗号資産の技術性・専門性の観点で、一般の利用者と専門家との間の情報の非対称性を解消させる必要
- 暗号資産交換業者による情報提供義務を課す
- 情報提供の内容
- 暗号資産の性質・機能や供給量、基盤技術、付随する権利義務、内在するリスク等
- 上記の情報提供に加え、継続情報提供として、暗号資産の取引判断に重大な影響を及ぼす事象が発生した場合の適時情報提供等の義務を課す
- 情報の正確性の確保及び利用者保護の観点から、
- 虚偽記載や不提供への罰則・民事責任・課徴金の規定を整備
- 暗号資産交換業者及び自主規制機関によるチェック機能の強化。特に、審査の中立性・独立性を強化するため、自主規制機関に独立委員会又は独立組織を設置
- 中央集権型暗号資産の発行者による資金調達について、監査法人の財務監査が行われていない場合には、投資上限を設定
- (注)株式投資型クラウドファンディングと同様の利用者の投資上限を設定 (50万円を超える場合には収入又は純資産の5%まで(上限200万円))
- 中央集権型暗号資産発行者がいる暗号資産(例:IEOトークン等)
- 業規制等
- 基本的な方向性
- 第一種金融商品取引業に相当する規制を適用し、現行法の安全管理措置(原則コールドウォレット※1等での管理)等に関する規制については、金商法に同様の規制を設ける
- 1 秘密鍵を常時インターネットに接続していない電子機器で管理する方法
- 無登録業者による違法な勧誘を抑止するため、より厳格な規制の枠組み※2を設ける。また、暗号資産を投資対象とする投資運用行為や投資助言行為を規制対象とする
- 2 例えば、無登録業に関する罰則の引上げ(現行3年以下の拘禁刑等)。裁判所による緊急差止命令の対象とし、証券監視委に申立て権限を整備
- 暗号資産が詐欺的な投資勧誘の支払手段として利用されることを未然に防ぐ措置を講じる
- (例)新規口座開設直後にはアンホステッド・ウォレット(事業者が管理していない口座)へ移転できない等の熟慮期間を設ける等
- 第一種金融商品取引業に相当する規制を適用し、現行法の安全管理措置(原則コールドウォレット※1等での管理)等に関する規制については、金商法に同様の規制を設ける
- 主な規制等の概要
- 業務管理体制の整備
- 取り扱う暗号資産の審査体制、顧客適合性確保のための確認体制、売買審査体制を強化
- 利用者財産の管理
- 近年の不正流出事案の手口の巧妙化に対応するため、サプライチェーン全体を含めたより包括的なセキュリティ対策を強化
- 委託先へのサイバー攻撃により不正流出が生じた事案を踏まえ、暗号資産の管理を行うための重要なシステムの提供者に対する規制(事前届出、システムの安全性確保義務等)を導入
- 責任準備金
- 不正流出事案が生じた場合の顧客への補償原資として責任準備金を積み立て
- 暗号資産の借入れ
- 利用者から暗号資産を借り入れてステーキング※3等を行う業務に対する規制の導入
- 3暗号資産を担保として差し出し、ブロックチェーンの安定稼働のための活動に参加した報酬を暗号資産で受け取る仕組み
- 銀行・保険会社における取扱い
- 銀行・保険会社本体による暗号資産の発行・売買等は、引き続き慎重な検討が必要。投資目的での暗号資産の保有は、十分なリスク管理・態勢整備等が行われている場合には認める
- 銀行・保険会社の子会社については、今般の金商業規制の下、暗号資産の発行・売買等も可能とする
- DEX等への対応
- DEX(分散型取引所)等への技術的性質に合わせた過不足のない規制のあり方について、各国の規制動向を注視しながら継続して検討
- サイバーセキュリティに関する取組み
- サイバーセキュリティは、自助・共助・公助の組み合わせで対処すべき課題。特に業界共助の取組みの発展が不可欠であり、当局としても後押し
- 業務管理体制の整備
- 基本的な方向性
- 不公正取引規制
- インサイダー取引規制
- 現行の金商法では、暗号資産についても、有価証券と同様に、不正行為の禁止に関する一般規則や偽計・相場操縦行為等の禁止規制が整備されているが、インサイダー取引を直接規制する規定は設けられていない
- 国際的な情勢を踏まえ、取引の公正を確保する観点から、暗号資産のインサイダー取引規制を整備する
- 具体的には、上場有価証券等のインサイダー取引規制の枠組み※をベースにしつつ、暗号資産の性質を踏まえた規定振りとする
- 上場会社の業務等に関する「重要事実」に接近できる特別の立場にある者(インサイ ダー)が、当該事実の「公表」前に、取引の場に対する投資者の信頼を損なうような売買等を行うことを禁止
- 対象暗号資産
- 国内の暗号資産交換業者で扱われる暗号資産
- 取引所での取引か否かは問わない(DEXでの取引や利用者間の直接取引を含む)
- 重要事実
- 明確なものを個別列挙(例:発行者の破綻、新規上場・上場廃止、大口取引等)した上で、バスケット条項で補完
- 規制対象者
- 暗号資産の発行者の関係者、暗号資産交換業者の関係者、大口取引を行う者の関係者
- 適用除外
- 「重要事実を知らなくとも取引したことを行為者が立証した場合」は適用除外
- 対象暗号資産
- 暗号資産に係る不公正取引についても、証券監視委の犯則調査権限・課徴金制度を創設
- 不公正取引規制に対する実効的なエンフォースメントのため、暗号資産交換業者による売買審査や、自主規制機関・証券監視委による市場監視体制の強化・整備
- インサイダー取引規制
その他、暗号資産を巡る国内外の報道から、いくつか紹介します。
- 2025年は暗号資産を取引する投資家が拡大、2025年には開設口座数が1300万になりました。政府・与党は暗号資産取引で得た所得にかかる税率を下げることを決め、投資家はさらに広がる可能性があります。日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)の集計によれば、暗号資産の国内の設定口座数は2025年11月時点で1365万と、前年同月から2割増え、そのうち実際に取引が行われている稼働口座数は836万と5年で4倍に急成長しました。少額投資非課税制度(NISA)口座数は同6月末時点で2696万で、暗号資産はひとりで複数口座を保有しているケースも多いとみられ、1口座しか開けないNISAと単純に比べられないものの、設定口座数はNISAの約半数に達しました。投資するのはリスク許容度が高い層だけに限らず、日本証券業協会が18歳以上の有価証券保有者を対象に実施した調査によると、30代以下は2割が暗号資産を利用しており、全体のほぼ2倍だといいます。また、暗号資産は不正アクセスによる被害が問題となっている。分析会社の米チェイナリシスによると、暗号資産の国内外合計の不正流出被害額は2021年以降、年間30億ドル(約4700億円)前後のペースで推移、2025年も12月初旬までに34億ドルの被害が起きており、2020年の5倍に達しています。
- 代表的な暗号資産であるビットコイン価格の戻りが鈍い状況です。大規模清算や不正流出が相次ぎ、大口投資家による売却も重荷となっており、足元では10万ドル以下の水準が定着しています。また、企業の暗号資産投資ブームも転機を迎えています。保有により株価上昇が見込めるとして、米国で200社以上が暗号資産に投資しましたが、大手の指数算出会社がブームに待ったをかけています。足元では株価が下落する企業が目立ち、暗号資産の売却を迫られる可能性も出てきています。「資金の多くをビットコインなどデジタル資産に投資する企業は(事業会社ではなく)投資ファンドであり、指数に組み込むのは不適当との指摘がある」と指数算出大手の米MSCIは2025年10月、総資産に占めるビットコインなどデジタル資産の割合が50%を超える企業は同社の主要指数から除外する方針を発表したものです。MSCIが懸念するのは一部の企業による暗号資産への過剰な投資で、暗号資産を買った企業は、将来の値上がり期待から株価も上昇、暗号資産以上に株価が上がるケースも多くありました。この分野の先駆者ともいえるソフト開発のストラテジーは2020年からビットコインを購入、いまや総資産の9割強をビットコインなどデジタル資産が占め20~30ドル台だった株価は、暗号資産を後押しするトランプ政権の誕生も加わり急騰、7月のピークには2023年末比で約7.2倍の457ドルまで上昇しました。米法律事務所のDLAパイパーによれば、米国で暗号資産を持つ企業は2021年の10社未満から2025年9月時点では200社を突破、今では合計で1150億ドル(約17兆9000億円)ものデジタル資産を持っているといいます。ただ、MSCIの指数から除外されれば数十億ドル規模の資金が流出する懸念があり、暗号資産の価格が下落する今、指数の除外はこうした企業にとってダブルパンチとなります。ストラテジーは2025年12月、ビットコイン価格下落を受け業績予想を一転赤字に修正、こうした事業の持続可能性に対する疑問も高まっています。MSCIは公開協議を経て、2026年1月15日までに最終的な決定を発表する予定ですが、アナリストらは、MSCIがデジタル資産トレジャリー(DAT)を除外した場合、他の指数も追随する可能性があると指摘しています。日本においても、報道で松井証券の窪田氏は「暗号資産そのものの変動が取引材料とされ、株のボラティリティー(変動幅)が大きくなりやすい」と指摘、東京証券取引所が警戒を強めており、2022年4月に厳しくした上場基準をかいくぐる目的でDAT企業に転換する企業が増える可能性を懸念しています。
- 英財務省は、2027年10月から暗号資産の規制を開始する方針を明らかにしました。業界に確実性をもたらすと同時に、不正を防ぐことを目指すとしています。法案は、既存の金融規制の適用を暗号資産業界にも拡大する内容で、リーブス財務相は新法が「明確なルール」を提供するとともに、消費者保護を強化し、「いかがわしい行為者」を市場から排除することにつながると述べています。英国の暗号資産規制を巡っては、金融行為監督機構(FCA)が取引やカストディー(保管・管理)、発行などに関するルールを検討しているほか、イングランド銀行(中央銀行)は2025年11月、ステーブルコインの規制案を発表、FCAと英中銀は2026年末までにルールを最終決定するとしています。
- 本コラムでも以前取り上げましたが、2022年に暴落し推定400億ドルの損失を出した暗号資産「テラUSD」を開発したテラフォームの創業者ド・クォン被告に対し、米ニューヨーク・マンハッタンの連邦地方裁判所は、「空前の詐欺」を起こしたとして禁錮15年の判決を言い渡しました。テラUSDは、米ドルと価値が連動するステーブルコインですが、米ドルを裏付け資産として持たず、独自のアルゴリズムを使って別の暗号資産「ルナ」と連動させていたものです。検察は2025年1月、同被告を証券詐欺、電信詐欺、商品詐欺、マネロン謀議など9件の罪で起訴、テラUSDが1ドルを割り込んだ際、同被告は投資家にアルゴリズムが価値を回復させたと説明したなどと指摘し、少なくとも12年の禁錮刑を求めていました。地裁判事は、貯えをつぎ込んだ一般投資家に繰り返し嘘をついたと被告を厳しく叱責し、「これは空前の、世代を超えた詐欺だ。連邦訴追の歴史の中で、あなたほど多くの被害をもたらした詐欺はそうない」と述べました。同被告は2025年8月に共謀詐欺と電信詐欺の2件について罪を認め、法廷では被害者に謝罪しました。同被告は2024年、米証券取引委員会(SEC)との和解で8000万ドルの民事制裁金の支払いと暗号資産取引の禁止に合意しています。韓国でも訴追されており、米国での刑期の半分を終えた後、国外移送を申請できる可能性があります。
最後にチェイナリシスが公表した、2025年に起きた主な規制の変更点を振り返り、グローバル全体の流れ、地域ごとの動き、そして2026年に特に注目されるトピックについて整理したレポートから、2026年の注目される論点について、以下、紹介します。
▼ チェイナリシス 2025年暗号資産規制の総括と今後の論点
- 2026年の政策カレンダーには、すでに多くの重要なマイルストーンが並んでいます。米国では、市場構造法制が引き続き主要な政策課題として残りますが、他の優先課題との兼ね合いから、年明け以降どの程度のペースで協議が進むかは見通せない状況です。
- 税務分野では、Crypto‑Asset Reporting Framework(暗号資産報告枠組み)の実装が進み、複数の国が2027年までに初回の情報交換を実施する方針を示しています。
- ステーブルコイン規制の具体化
- まだステーブルコイン制度を十分に整備・実施できていない国や地域の当局も、2026年にかけて制度づくりと運用の具体化を進めていくと見込まれます。
- 米国では、2026年7月までに、連邦および州の当局がGENIUS法を具体的にどう運用するかを定める最終的なルールを整備する予定です。ここには、連邦レベルで認可・監督される発行体の扱い方や、海外で発行されたステーブルコインが米国内で提供される際の要件などが含まれます。
- シンガポールでは、ステーブルコイン制度の法案や、その具体的な運用ルールやガイダンスの内容を確定させる必要があります。
- 英国では、FCAがステーブルコインに特化した行為・市場枠組みを協議しており、イングランド銀行は、システミックなステーブルコインに対するプルーデンシャル規制や金融安定上の扱いに注力しています。
- もっとも、2026年になっても多くの課題が残ると見られます。金融安定理事会(FSB)は2025年10月、ステーブルコイン枠組みをすでに実装している国・地域であっても、「堅牢なリスク管理、十分な資本バッファ、回復・破綻処理計画の要件がまだ不十分な場合が多い」と指摘しました。
- また、ステーブルコイン発行体に対するAML/CFTの期待水準、特にセカンダリーマーケット(取引所など二次市場)での取引監視に関する検討も進んでいます。これに合わせて、FATFは2026年第1四半期にステーブルコインに関する分析を公表する予定であり、これは各国がどのような規制を目指すべきかを考える際の重要な指針になると見込まれます。
- AML とサイバーリスクへの注目強化
- デジタル資産が世界の金融インフラに深く組み込まれていく中で、規制当局は、その結果生じるシステミックリスク(金融システム全体に波及し得るリスク)への監督・規制を一段と強化しています。暗号資産は、かつてはダークネット上の取引などに用いられるニッチな手段と見なされてきましたが、現在では、多様な犯罪を支える専門的なマネーロンダリング・ネットワークの一部へと進化しています。例えば、A7A5 のように、暗号資産を使った制裁回避の新しいスキーム(手口)も表面化しています。
- FATF第5次相互審査の対象範囲拡大とも重なり、「AML/CFTの有効性」を示すプレッシャーは、規制当局と業界の双方にかかり続けます。
- 同時に、より多くの活動がブロックチェーン上に移るほど、オペレーション上の障害(システム障害や鍵管理のミスなど)の影響は大きくなります。2025年には、暗号資産の盗難額が340億ドルを超え、そのうち少なくとも200億ドルが北朝鮮関連の攻撃によるものとされています。
- このような脅威環境を背景に、監督当局はカストディ体制や秘密鍵管理、インシデント対応能力に対する監督を一段と厳格化していくと見られます。
- また、これまで「ベストプラクティス」とされてきた多層的なサイバーセキュリティ・フレームワークが、最低限求められる監督基準として位置付けられていく可能性もあります。
- 暗号資産のセキュリティにおけるオペレーション上の失敗が、国家安全保障や金融システムの安定に広範かつ深刻な影響を及ぼし得ると認識されつつあるためです。
- クロスボーダー取引をめぐる規制の分断の深刻化
- 暗号資産市場は性質上、国境を越えてグローバルに広がっています。しかし、規制は基本的に各国ごとに行われています。EUのような超国家的な枠組みを除けば、現時点では、暗号資産事業者が複数国で共通のライセンスで営業できる「パスポート制度」や、各国当局同士が互いのライセンスや監督結果を認め合う仕組み(相互承認)も、まだごく限られています。
- グローバルに事業を展開する暗号資産関連企業は、国・地域ごとにライセンスを取得し、それぞれのルールに合わせたコンプライアンス体制を整える必要があります。そのため、コストと事務負担が大きく増加しています。
- また、各国の規制目標が似ている場合でも、ルールの細部が異なることで、国境をまたぐ取引(クロスボーダー取引)の場面で摩擦が生じます。例えば、ステーブルコインの準備資産や償還条件、開示要件などが国ごとに少しずつ違っていると、グローバルに同じステーブルコインを運用することが難しくなります。
- さらに、取引所に対するルールの違いによって、現地ユーザーがグローバルなオーダーブック(世界中の注文が集まる板)にアクセスできない場合、流動性や価格形成が国ごとに分断され、投資家にとって不利な状況が生まれかねません。
- こうした懸念を踏まえ、2026年には、以下の点でどのような進展が見られるかに注目が集まります。
- クロスボーダー取引に関するルールの不整合をどこまで縮小できるか
- 各国当局間の情報共有や共同監督体制をどのように構築していくか
- パスポート制度や相互承認枠組みの導入・拡大がどこまで進むか
- ステーブルコイン規制の具体化
②IRカジノ/依存症を巡る動向
観光庁は、カジノを含む統合型リゾート(IR)を巡り、未定のままの2枠について改めて公募すると発表しました。最大3カ所を認めると法律で明記されており、2021~22年に募集し2023年に大阪の計画を認定しましたが、残りは決まっていません。IRは都道府県や政令指定都市が民間企業と区域整備計画を作成し、政府が認定するもので、認定の受付期間を定めた政令を改正して、2027年5月6日から同年11月5日まで公募、審査を踏まえて国土交通相が認定するとしています。観光庁は定期的に自治体の意向を調べており、自治体の希望を踏まえて公募時期を設定したといいます。IRはカジノを中心にした国際会議場やホテルなどのリゾート施設で、大阪は人工島・夢洲で2030年秋ごろの開業を目指しています。米MGMリゾーツ・インターナショナルの日本法人とオリックスが運営会社の主要株主となっています。本コラムでも継続的に取り上げていますが、一部の自治体で誘致に向けた機運が高まっており、北海道は2025年8月、道内179市町村を対象にIR整備に関する意向調査を実施、苫小牧市と函館市が「自らの市町村内にIRを整備することに関心がある」と表明しています。また、関係者によれば、この他にも東京都で誘致を目指す動きがあるといいます。審査のカギになるのは、透明性のある多額の資金を確保できるかどうかで、観光庁幹部は「大都市部では大資本が積極的に参画し、透明性のある資金を確保しやすいが、地方はそこが厳しい」と指摘しています。IRを巡っては、ギャンブル依存症を助長したり、治安が悪化したりすることへの懸念も根強く、最初の選定の過程では住民や地方議会の理解が得られず申請を断念するケースも出ており、開設へのハードルは高いといえます。前回誘致を断念した和歌山県の宮崎知事は、国からの意向調査に回答できないとした理由を「経済波及効果や雇用効果が発生すれば活性化の可能性はあると考えるが、ギャンブル依存症患者の増加や交通渋滞の発生など負の影響への根強い懸念がある」と説明、そのうえで、IR誘致の是非は「しかるべき時期に判断したい」としています。和歌山県では、クレアベスト・グループ(カナダ)などにより、和歌山市の人工島にマリンレジャーや温泉も楽しめる施設を開発する計画が進められましtが、事業者の資金計画を疑問視する声などが多く、県議会が2022年4月に事業内容をまとめた区域整備計画の承認議案を反対多数で否決しています。
大阪市此花区の人工島・夢洲で整備が進む国内初のIRについて、建築計画の概要が判明しました。中心となる建物は地上27階建てで、高さは126メートル、カジノやホテル、劇場などが入る予定で、他に国際会議場が入る建物やリゾートホテルも整備されます。整備計画によれば、カジノ施設は約2万3000平方メートルで、テーブルゲーム約470台と電子ゲーム約6400台を設置、VIP向けや大衆向けなど、客層に合わせた三つのフロアで構成され、約1万1500人を収容可能といいます。なお、初期投資額は約1兆2700億円としていましたが、建築資材の高騰などを理由に2025年秋、約1兆5130億円への増額を国に届け出ています。開業後は年間約2000万人の来場者と約5200億円(うちカジノ部分約4200億円)の売り上げを見込んでいますが、ギャンブル依存症への懸念が指摘されることから、IR整備法で入場回数などが制限されます。大阪府は開業までに、依存症の相談や治療などをワンストップで支援する「大阪依存症対策センター(仮称)」を設置する方針です。なお、産経新聞による主要企業アンケートによれば、「強く期待する」と「ある程度期待している」との回答が計58%に上り、多くの企業が肯定的にとらえている現状が明らかになりました。関西を中心に鉄道やエネルギー、電機など幅広い分野の企業22社も小規模株主として出資しており、高い期待につながっています。期待する理由(複数回答)としては「大阪湾岸地域の再開発と活性化が期待できる」が59%と最も多くなりました。夢洲は2025年、約2500万人の一般来場者を集めた大阪・関西万博が開かれた土地でもあり、IRの隣接地で万博の跡地開発も計画されており、内容は未定だがIRと連携した形で進められるとみられ、大阪湾岸エリアの活性化が期待されています。大阪府はIR開業後の毎年の経済波及効果を約1兆1400億円と推計し、成功すれば地域経済への恩恵は大きく、他の地域でのIR誘致の可能性にも関わるだけに、大阪IRの成否を巡る企業の関心は今後高まることが予想されます。
米東部ニューヨーク州のゲーミング施設立地委員会は、ニューヨーク市内で3つの事業者のカジノの開設計画を承認しています。今後州の別の委員会がライセンス発行の有無を最終判断することになりますが、最も早い計画で2030年の完成を予定し、実現すれば市内で初めてテーブルゲームのあるカジノが誕生することになります。申請が認められた場所はニューヨーク市の東部クイーンズにある米大リーグのニューヨーク・メッツの本拠地スタジアムの隣接地、ニューヨーク市中心部マンハッタンの北部にあたるブロンクス地区、ジョン・F・ケネディ(JFK)国際空港の近辺の3つです。有数の観光地であるニューヨーク州は、米国の他の東海岸の州で合法化が相次ぐなか州外に流出していた需要を取り戻す狙いがあるといいます。計画地はそれぞれニューヨーク市中心部のマンハッタンから車で1時間以内に位置しており、州は2033年に3施設合計でカジノの収入は約55億ドル(約8544億円)に上ると試算されています。一方、選定された提案も地元からの反対は根強く、ニューヨーク・メッツの本拠地スタジアムの隣に開発する計画をめぐっては、選定結果が発表された場で、地元の団体が「恥を知れ」と声を上げ、ギャンブル依存症や地元経済への影響を懸念し「地元の高齢者や労働者が『金づる』として搾取されることになる」と述べています。
ギャンブル依存症を巡る議論が活発化しています。朝日新聞は12月に特集を組んでさまざまな角度からこの問題を取り上げています。以下、筆者にて参考なった情報などをピックアップして、以下に紹介します。
- 国立病院機構・久里浜医療センターが2023年度に行った全国調査で、日本でギャンブル依存症が疑われるのは人口の1.7%で、男性は2.8%、女性は0.5%と推計されています。男性が多い理由は判然としないが、競馬・競輪などの公営ギャンブルには、女性が参加しにくい空気感がある可能性があります。一方で、あまり関連がなさそうなのは教育歴で、高学歴・高収入の人であっても依存症になり、お金を横領するなどの犯罪に手を染めることがあるほか、借金を抱えて破産したり、うつ病になって自殺したりするケースもあります。
- 自制心のない心の脆弱な人が依存症になるというイメージをもたれがちですが、誰でもなりうる病気です。日本の未来を担う若者の人生が奪われていることを認識し、対策に力を入れるべきです。
- IRは接待や社員旅行でも使われる可能性があり、ある程度資金のある中小企業の社長や、女性のギャンブル依存症患者が増えると考えられます。競馬など他のギャンブル場に行くのはハードルが高いと感じる女性も、華やかな印象があるカジノなら利用できる懸念があります。また、ギャンブルに縁のなかった人たちが、IRで休暇を過ごして初めてギャンブルを経験し、帰宅後にオンラインギャンブルに手を出す「ゲートウェー(入り口)」になりかねない懸念もあります。
- 風営法上の遊技という位置づけの、16兆円市場と言われるパチンコ・パチスロで依存症になる人が多く、身近にあってアクセスしやすく、派手な音や光といった演出で気分も高まる可能性がありますが、圧倒的にリスクが高いのは、時間や場所の制約がないオンラインのギャンブルです。警察庁の調査によると、違法なオンラインカジノの経験者は、日本で推計337万人、10~20代の若者は暇つぶしや友人との話題づくりで始める人がほかの世代より多く、行政は危険性の啓発に力を入れる必要があります。
- 例えばアルコール依存症の人は、症状が悪化すると健康を害してやせたり、手が震えたり、肝機能の数値が悪化したりして、見た目や数値で分かりやすく、いくつかの治療薬も開発されている一方で、ギャンブル依存症は外見上はほとんど変わらず、普通に生活している人も多く、病気だという認識が社会的に広まっておらず、「ただお金にだらしない人」とみられる風潮もあり、治療の開始が遅れがちになっており、個人差はあるが、1~2カ月で完全に治るようなケースは少ないといいます。
- 専門治療以外にも、当事者同士で支え合う「自助グループ」との連携や、時間をもてあましてギャンブルに行かないようにするための就労支援は重要です。家族の適切な対応も欠かせず、家族が借金を肩代わりすると、一時的には本人のギャンブル行動の抑制につながっても、「最後は勝てる」という思いにすがり、結局ギャンブルを繰り返してしまうことになります。家族自身も、治療にあたって覚悟がいる病気といえます。
- 能動的に変わろうとしていない依存症患者に対応できる人材は、1年や2年では育ちません。十分な知識と経験を得るには、10年はかかり、行政としては、そんな人材の育成に今すぐ力を入れる必要があります。
- カジノでは国内客には6000円の入場料や、7日間で3回などの入場制限も課すなど、依存症を防ぐための対策が検討されているものの、カジノでギャンブル依存症患者が増えるか否かは、開業してみないと分からず、大阪はカジノが立地する日本唯一の自治体になるので、対策のリーダーシップが問われることになります。ギャンブル問題が起きたとき、もれなく相談・治療が受けられる体制整備や、自助グループなども含めた「横のつながり」の強化も重要です。一方、対応できる病院を増やすのは簡単ではなく、既存の精神科医が新たにギャンブル依存症にも対応するのは不可能ではないが、治療は手間がかかる一方で、医業の収益につながりにくいという側面もあり、重症の患者は治療体制が充実している特定の病院にスムーズに紹介できるようにするなど、幅広い仕組みづくりが必要です。
総務省は、違法なオンラインカジノ利用の抑止策を検討する第10回の有識者会議を開き、関係省庁から対策の取り組み状況の聞き取りを行っています。会議では、警察庁が、日本向けのカジノサイトなどで、削除要請後も削除されていないケースがあると明らかにしています。2025年9月25日に施行された改正ギャンブル等依存症対策基本法では、カジノサイトやサイトを宣伝するSNS上の投稿などを「違法情報」としましたが、施行後、警察庁の委託を受けた「インターネット・ホットラインセンター(IHC)」は、通報を受けたサイトなどの削除要請を行っており、警察庁によれば、施行後2か月間でIHCに対して、カジノサイトに関する通報が約200件あったほか、SNSなどでサイトに誘導する投稿に関する通報が約1200件あったといいます。IHCは、カジノサイトの削除要請を国外のサイト管理者やプロバイダに行っているが、「ほとんど削除やアクセス制限には至っていない」(警察庁)といいます。一方、サイトに誘導する投稿については、SNSの運営事業者が禁止行為として扱っており、削除できたケースもあるといいます。また、外務省は、日本向けカジノサイトの運営企業にライセンスを付与しているとされるオランダ領キュラソーなど3か国・4地域の外交当局などに対して、日本からのカジノサイトへのアクセスを禁止することなどを要請したと説明、一部で一定の措置を講じるとの反応を得られたといいます。また、第11回の有識者会議では、改正ギャンブル等依存症対策基本法の施行後、オンラインカジノに誘導する投稿などが大きく減少する一方、多くのカジノサイトへのアクセスが現在も可能な状況が報告されました。違法とされた内容の投稿はXやフェイスブック、ユーチューブなどで2025年3月に812件確認されましたが、同法が公布された同6月には213件、9月は21件と大きく減ったといいます。また、ネット検索で表示される件数も大幅に減少したといいます。一方、施行後に日本からアクセスできなくなったカジノサイトはほとんどなかったといい、カジノサイトでの賭博が違法であるとのユーザーの認識も、施行前後の調査でともに6割程度でほとんど差がなかったといいます。
▼総務省 オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会(第10回)
▼ 資料10-1 オンラインカジノ対策に関するプラットフォーム事業者の取組状況について(総務省)
- リーチサイトやSNS等でのオンラインカジノに誘導する情報の発信行為を違法化すること等を内容とするギャンブル等依存症対策基本法改正(9/25施行)を踏まえ、総務省では、事業者の適切な対応を促すため、9月25日に「違法情報ガイドライン」を改定し、プラットフォーム事業者等に対してガイドラインの改定を踏まえた対応を要請。
- 今回、プラットフォーム事業者5社(Google、LINEヤフー、 Meta、TikTok、 X)に対して、各社が提供するサービスにおけるオンラインカジノ対策の取組状況のヒアリングを実施。
- 利用規約等に基づく違法行為への対応
- プラットフォーム事業者5社全てから、オンラインカジノへの誘因投稿について、「違法行為」等の禁止行為に該当するものとして取り扱っている旨回答があった。(Google、LINEヤフー、 Meta、TikTok、 X)
- ギャンブル等依存症対策基本法違反を含め、法令に違反する疑いに関する警察庁・IHC(インターネット・ホットラインセンター)からの報告の受付・対応体制の整備・構築。(Google、LINEヤフー、Meta、TikTok、X)
- 2025年3月19日にYouTubeのポリシーを強化し、Googleの承認を受けていないギャンブルサイトやアプリケーションへの視聴者の誘導はいかなる方法でも許可しないこと、コミュニティガイドラインに違反していなくてもオンラインカジノサイトやアプリの描写や宣伝を行っているコンテンツには年齢制限を設けることがあること等を明記。(Google)
- オープンチャットでは投稿件数の増加等必要に応じて注意喚起のバナーを表示。(LINEヤフー)
- 関連クエリに対する検索結果画面の上部に、違法性に関する注意喚起を独自に表示。(LINEヤフー)
- ランディングページで無料プレイを訴求している場合でも、実質的にオンラインカジノに誘導する広告や投稿を禁止。(TikTok)
- 「違法情報ガイドライン」の改定について(オンラインカジノ)
【ギャンブル等依存症対策基本法改正】(6/25公布、9/25施行)- 背景(警察庁調査)
- オンラインカジノの利用:経験者(推計)約336.9万人、58.8%が20代、30代の若年層
- 国内における年間賭額の推計:約1兆2,423億円
- 日本語で利用可能な40サイトのうち、いずれも海外のライセンスを取得等
- 改正ポイント
- 国内の不特定の者に対する以下の行為を禁止(第9条の2)
- オンラインカジノサイト・アプリの開設運営(第1項第1号)
- リーチサイトやSNS等でのオンラインカジノに誘導する情報の発信行為(同項第2号)
- ※総務省は、SNS等の対象事業者への周知・説明の観点から、ギャンブル室・警察庁とともに第9条の2を共管
- オンラインカジノでギャンブルを行うことが禁止されている旨の周知徹底(第14条)
- 国内の不特定の者に対する以下の行為を禁止(第9条の2)
- 見込まれる効果
- オンラインカジノサイトの開設運営行為や、リーチサイト・SNS等での発信行為の減少
- オンラインカジノに誘導する情報について、事業者による削除等の適切な対応の促進
- インターネット・ホットラインセンターからプロバイダやサイト管理者等への削除依頼等の促進
- オンラインカジノサイトのライセンスを発行した外国政府への働き掛けの後押し
- 背景(警察庁調査)
- 総務省の対応
- ガイドライン改定
- 事業者の適切な対応促進のため、「違法情報ガイドライン」を改定(9/25改定・公表予定)(※インターネット・ホットラインセンターのホットライン運用ガイドラインにも同様の文言を追記され、同日付で改定・公表予定)
- 改正法第9条の2第1項第2号に規定する情報(オンラインカジノサイトに誘導する情報等)をネット上で発信する行為が違法である旨をガイドライン上で明確化。
- 事業者に対する要請
- 業界団体を通じて、プラットフォーム事業者等に対し、ガイドラインの改定を踏まえた対応を要請。
- ガイドライン改定
▼資料10-2 IHCにおける違法オンラインギャンブル等関連情報の取扱状況(警察庁)
- 9/25にインターネット・ホットラインセンター(IHC)において違法オンラインギャンブル等関連情報の取扱いが開始されたところ、運用開始から2か月間の取扱状況(暫定)は以下のとおり。
- 違法オンラインギャンブル等に係るウェブサイト等の提示
- IHCに対して寄せられた通報のうち、「国内にある不特定の者に対し違法オンラインギャンブル等ウェブサイト又は違法オンラインギャンブル等プログラムを提示する行為」に該当すると判断されたのは約200件。
- 削除依頼等の依頼先は全て国外所在サイト管理者・国外プロバイダで、削除・アクセス制限に至らない傾向がある。
- 違法オンラインギャンブル等への誘導情報の発…
- IHCに対して寄せられた通報のうち、「インターネットを利用して国内にある不特定の者に対し違法オンラインギャンブル等に誘導する情報を発信する行為」に該当すると判断されたのは約1200件。
- 削除依頼等の依頼先の大半は国外所在サイト管理者・国外プロバイダであるが、削除・アクセス制限に至る状況もある。
▼ 資料10-3 外国政府等への要請について(外務省)
- 対象
- オランダ領キュラソー、コモロ連合アンジュアン島、マルタ、コスタリカ、英国王室属領マン島、英国領ジブラルタル、ジョージア及びカナダ
- 働きかけ
- 日本からの利用ではないことを客側に確認すること
- 何らかの形で日本からのアクセスを禁止する措置を講じること
- 日本語による画面表示など日本語によるサービス対応を行わないこと
- 「日本からのオンラインカジノサービスを利用した賭博行為は、日本の法律により禁止されている」又は「日本からの利用は禁止する」旨を目立つ形で明示し、利用規約にも同様の内容を明記すること
▼ 資料10-4 オンラインカジノ問題に係る金融庁の取組み(金融庁)
- オンラインカジノの現状と課題
- オンラインカジノは、若年層を中心に一定の利用者が存在するとみられ、違法性の 認識も薄い
- 警察庁の調査(令和7年3月公表)によると、調査対象のうち、約43.5%が「違法と認識していなかった」と回答
- 賭け金は、複数の収納・決済代行業者を経由し、国内で循環させた上で勝ち金がユーザーに支払われることが多
- 金融機関によっては、「オンラインカジノは犯罪である」旨をwebサイト等にて早期から発信
- オンラインカジノ対策に先進的な金融機関は、取引のモニタリングにより、賭け金の入金を請け負う収納・決済代行業者や、こうした業者に送金する利用者(オンラインカジノユーザー)の取引を制限
- 金融業界への要請発出
- 令和7年5月、預金取扱金融機関・暗号資産交換業者・資金移動業者・前払式支払手段発行者(プリカ業者)の業界団体に対し、以下の内容を要請
- 日本国内でオンラインカジノに接続して賭博を行うことは犯罪であることについて利用者へ注意喚起すること
- オンラインカジノにおける賭博等の犯罪行為を含む法令違反行為や公序良俗に反する行為のための決済等のサービス利用を禁止している旨を利用規約等で明らかにすること
- 利用者が国内外のオンラインカジノで決済を行おうとしていることを把握した場合に当該決済を停止すること
- 預貯金口座の不正利用対策
- オンラインカジノへの送金や不正利用が疑われる口座の特定について、先進的な取組を行っている事例を把握し、令和7年8月、疑わしい取引の参考事例を改訂することにより金融機関等に共有。
- 振込依頼人名に英数字等が含まれる振込が多数あり、オンラインカジノ関連の収納・決済代行が疑われる取引 等
- 国民を詐欺から守るための総合対策(令和6年6月犯罪対策閣僚会議)を踏まえ、令和6年8月及び令和7年9月、預金取扱金融機関に対し預貯金口座の不正利用対策の強化を要請。
- 国境をまたぐ収納代行への規制
- 違法な送金の抜け穴となっている、国境をまたぐ収納代行に対し資金移動業者としての規制を適用すべく、資金決済法の改正を実施(令和7年6月成立) → オンラインカジノ等の違法な送金を行う者について、無登録業者として取締り対象に
▼ 資料10-5 オンラインカジノ対応について(クレジットカード関連)(経済産業省)
- オンラインカジノにおけるクレジットカード決済
- オンラインカジノによる賭博事犯防⽌のため、警察庁と連携し、カード会社及び国際ブランドに対して決済停⽌やオンラインカジノ事業者及びこれらにクレジットカード決済を提供する事業者のクレジットカード決済網からの排除等の取組を要請してきたところ。(令和6年2⽉、令和7年5⽉、令和7年7⽉)
- オンラインカジノ事業者等の多くは業種を偽って海外のアクワイアラーと加盟店契約を締結しており、取引情報からオンラインカジノ事業者等であることを特定することは困難。クレジットカード決済の停⽌等の実効性を確保するためには、加盟店がオンラインカジノ事業者等であると特定できる情報が必要。
- 海外のオンラインカジノ事業者がクレジットカード決済を利⽤して⽇本国内にオンラインカジノを提供。
- クレジットカード決済の停⽌等のための取組
- ⽇本国内からのクレジットカード決済によるオンラインカジノの利⽤を停⽌するためには、これらオンラインカジノ業者がクレジットカード決済を利⽤できないようにすることが有効。
- 本年7⽉に警察庁及び経済産業省から国際ブランドに対し、⽇本国内においてオンラインカジノで利⽤されたクレジットカード決済に関する情報を提供し、アクワイアラーとオンラインカジノ事業者等との契約解除等を求める取組を取り決め、国際ブランドへの情報提供を開始。
- 国内イシュアーにおいては、取引モニタリング等によりオンラインカジノでの利⽤であることを把握した場合には、クレジットカード決済を停⽌する等の対応を実施。
- カード会員に対して、海外で合法的に運営されているオンラインカジノであっても⽇本国内から賭博を⾏うことは犯罪であることの注意喚起を実施
▼資料10-6 オンラインカジノ対策に関するスポーツ庁の取組について(スポーツ庁)
- ガバナンスコードの策定・周知
- 「スポーツ団体向けガバナンスコード」を策定・周知し、各スポーツ団体におけるコンプライアンス教育の実施等によるコンプライアンス意識の徹底や、ガバナンスの確保を促進。
- 目的
- スポーツ団体が、スポーツの振興のための事業を適正に行うため、その運営の透明性の確保を図るとともに、その事業活動に関し自らが遵守すべき基準を作成する(スポーツ基本法第 5 条第 2 項)等に資するよう、適切な組織運営を行う上での原則・規範として、ガバナンスコードを策定。
- 適切な組織運営を行うことで、不祥事事案を未然に防止することにとどまらず、社会の変化に柔軟に対応し、スポーツの価値の最大化に資するよう、それらの重要な担い手であるスポーツ団体における適正なガバナンスの確保を図ることを目的としている。
- スポーツ団体の取組への支援
- スポーツ界におけるインテグリティ確保のため、ガバナンスコードの遵守に向けて積極的な取組を進める中央競技団体への支援等を実施。
- スポーツ界においては、令和元年に策定したスポーツ団体ガバナンスコードに基づく競技団体の適合性審査やスポーツ仲裁活動の推進、また、競技団体の組織基盤強化の取組等を通じて、スポーツ・インテグリティの確保に向けて一体的に取り組んできた。
- しかしながら、依然としてスポーツ団体ガバナンスコードに基づく各競技団体の取組は十分とは言えず、スポーツの価値を脅かす不祥事が発生している状況であることから、スポーツ・インテグリティの確保に向けて更なる取組が必要である。
- 我が国のスポーツ・インテグリティを高め、クリーンでフェアなスポーツを推進するため、競技団体が行うガバナンス確保に向けた取組を支援することで、競技団体のガバナンスを向上させる。
- スポーツ基本法の改正を受けた対応
- 本年6月に「スポーツ基本法」を改正し、スポーツの公正及び公平の確保等にかかる条文を新設するとともに、施行通知及びスポーツ関係者の参加する会議等を通じて各スポーツ団体等に周知。
- オンラインカジノを含む違法賭博に関する注意喚起
- 本年7月に改めて、各スポーツ団体に対して、コンプライアンス教育の実施を求めるとともに、海外で活動する日本人選手も含め違法なオンラインカジノの広告への出演等について注意喚起。
- 各団体におかれては、選手や指導者等のスポーツ関係者がオンラインカジノを含む違法賭博に関わることがないよう、また役職員が当該団体における選手や指導者等の違法行為や不正行為の防止等に適切に対処できるよう、コンプライアンス教育の実施等により、コンプライアンス意識の徹底に一層取り組んでいただくようお願いします。
- 登録・所属する選手や指導者等に対して、以下のような事項について周知し注意喚起を行うなど適切な対応をお願いします。加えて、統括団体や中央競技団体におかれては、より社会的な影響力のある海外で活動する日本代表選手等に対しても、注意喚起していただくよう強くお願いします。
▼総務省 オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会(第11回)
▼資料11-1 オンラインカジノに誘導していると考えられるSNS等の投稿の動向(三菱総合研究所)
- 「違法情報ガイドライン」(9/25改定)において、違法オンラインギャンブル等に誘導する情報が認められる場合として示されているSNS等の投稿の動向について調査した。
- 実施方法:キーワードを設定し、ソーシャルリスニングツールを用いて投稿数の集計・分析を行った。
- 対象期間:2025年1月1日0:00~2025年11月30日23:59
- 対象媒体:X(旧Twitter)、Facebook、Instagram、TikTok、YouTubeのほか、ブログやニュースサイト等、複数媒体に掲載された投稿(公開情報)が対象。
- 検索条件:違法情報ガイドラインにおいて示されているキーワード(→P.2参照)を用いた投稿の件数を調査。
- 調査結果は以下のとおり。
- 2025年1月から11月にかけて、該当する投稿数は減少している。
- 4月以降に減少に転じ、7月に大幅に減少、9月以降は極めて少ない状況が継続している。
- 1月~3月は増減がみられるが、4月以降、11月まで減少傾向が続いている。
- 4月に減少に転じた後、7月に大幅に減少し、9月以降は極めて少ない状況が続いている。
- 投稿キーワードは、月による違いもあるが、「カジノ」「ボーナス」「ゲーム」「入金不要」などが多い。
▼ 資料11-2 オンラインカジノのアクセス抑止に関する実態調査(野村総合研究所)
- 検索ヒット件数の減少傾向が確認され、アプリストアからのダウンロードは不可となっていた。一方で、オンラインカジノサイトへのアクセスは、法改正前後で大きな変化はなく、多くのサイトがアクセス可能であった。
- ヒット件数調査
- 法改正後は各キーワードの検索ヒット件数が減少傾向にある。
- 特に「オンラインカジノ アプリ おすすめ」での減少幅が大きい。
- アプリ版ダウンロード可否調査
- アプリストアからのダウンロードはiOS・Android共にすべて不可能。
- 法改正後にAndroidアプリのダウンロードリンクがなくなっているサイトもある。
- オンラインカジノサイトへのアクセス可否調査
- オンラインカジノサイトについて、多くのサイトがアクセス可能。
- 法改正後に一部のカジノサイトがアクセス不可となった。
- 法改正前後で大きな変化は見られなかった。
- ヒット件数調査
- アンケート調査結果のサマリ
- 法改正前後で、オンラインカジノ情報の目撃・検索経験は減少。サイトへのアクセス経験は変化がないが低水準で推移。違法性の認識は、全体の6割程度。
- 基本属性
- インターネットサービス(SNS等)の利用頻度は若年層で高く、18~29歳では、YouTube・Instagram・Xはいずれも「ほぼ毎日」利用者が半数を上回る
- 合法ギャンブルの経験率は宝くじが最も高く、週3日以上の高頻度の利用者はパチンコ・パチスロ、公営ギャンブル、投機が多かった。
- 第1回調査・第2回調査では、あまり大きな傾向差は見られなかった。
- オンラインカジノ情報目撃経験
- 直近2か月でのオンラインカジノサイトの情報、誘導広告等に関する情報の目撃経験について、第2回調査では、第1回調査と比べ、全体的に減少傾向にあった。
- オンラインカジノサイトの情報、誘導広告等に関する情報の目撃経験について、年代別では、第1回調査・第2回調査のいずれも、18歳~29歳が最も高かった。
- オンラインカジノ情報検索経験
- オンラインカジノに関する情報の検索経験については、全てのサービス(検索エンジン・動画サイト、SNS等)において減少。
- オンラインカジノに関する情報の検索手段としては、スマホが最も多かった。
- オンラインカジノサイトアクセス経験
- オンラインカジノサイトへのアクセス経験については、第1回調査(2.4%)・第2回調査(2.3%)で、大きな変化はなかったが、低水準で推移。
- アクセスするためのデバイスについては、スマホが最も多かった。
- 違法性の認識
- オンラインカジノの利用が違法であるという認識は、第1回調査、第2回調査のいずれも6割程度であり、第2回調査では、第1回調査と比べ、「違法行為ではない」との回答が減少した。
- 改正法の違法性の認識については、提供行為が違法である(53.6%)、誘導行為が違法である(46.3%)であった(第2回調査のみ)。
- 基本属性
- 法改正前後で、オンラインカジノ情報の目撃・検索経験は減少。サイトへのアクセス経験は変化がないが低水準で推移。違法性の認識は、全体の6割程度。
▼ 資料11-3 中間論点整理を踏まえた法的課題の検討(事務局)
- 3. 実施根拠
- 仮にブロッキングを行う場合には、遮断対象や要件の明確化を図ることにより法的 安定性を確保する観点から、何らかの法的担保が必要。
- 4. 妥当性
- ブロッキングの制度設計に当たっても、カジノ規制全般に対する議論抜きにその在り方を検討することは困難。
- 具体的な制度について検討するに当たっては、サイバー対処能力強化法や諸外国の制度を参考にしながら、(1)遮断義務付けを行う主体、(2)遮断対象となるサイト、(3)実体的な要件、(4)手続的な要件などについて具体的に検討すべき。
- 遮断の義務付けを行う主体
- カジノサイトの違法性について判断すべき主体は何かなど
- 遮断対象となるサイト
- 運営主体の国外・国内の別について、どのように考えるかなど
- 遮断の実体的要件
- ブロッキングを実施するための要件(例、他の手段を尽くしたこと)をどのように規定するかなど
- 遮断の手続的要件
- 事前の透明化措置(例:司法関与の要否、遮断対象サイトの公表)、事後の救済措置(例:不服申立手続の整備、結果の公表)について、どう考えるかなど
直近では、海外スポーツ賭博サイトの問題、アスリートのギャンブル依存症の問題などに関する報道も目立ちました。いくつか紹介します。
- スポーツ産業の振興を目指す一般財団法人「スポーツエコシステム推進協議会」は、東京都内でシンポジウムを開催、違法なスポーツベッティング(賭博)の広がりが議題にあげられ、同協議会の山口寿一評議員(読売新聞グループ本社社長)は「スポーツ賭博に関して深刻な問題が起きている」と問題提起、国内では、競馬などの公営競技以外に賭ける行為は刑法で禁止されているものの、同協議会によれば、2024年は少なくとも約6.5兆円が国内から海外のスポーツ賭博サイトを通じて賭けられていたといいます。山口評議員は「ギャンブル依存症になるケースが後を絶たない。八百長の蔓延、反社会的勢力の関与などでスポーツの健全性を壊すばかりではなく、世の中を悪くする」と指摘しています。プロ野球の榊原定征コミッショナーも登壇し、「違法スポーツ賭博はスポーツの信頼を毀損しかねないリスク。不正が起きてから対処するのではなく、不正が起きない環境を整備する」と述べています。
- ギャンブル依存症という病気は快楽におぼれているかのようにイメージされがちだが、当事者たちは「楽しくてギャンブルをやっているんじゃない。苦しいのにやめられない」と口をそろえて話しています。意志が弱いわけでも、懲りていないわけでもなく、借金の重圧に押しつぶされながら「勝って返済しなければ」と焦りを募らせて、心が悲鳴を上げているといえます。スマホが生活に欠かせなくなった今、ギャンブルはより身近に迫っています。ネット社会は、きっかけさえあれば誰でもギャンブル依存症になる可能性を高めており、注目を集めている海外の違法なオンラインカジノだけでなく、合法な公営ギャンブルも同じであり、誰もがなるかもしれない病気であるにもかかわらず、私たちの社会は本人の意志の問題とみなし、自己責任として突き放してきたのではないでしょうか。まず社会がしなければならないことは、依存症に関する誤った認識を変えていくことです。依存症は回復できる病気であり、当事者に必要なのは治療であって懲らしめではないことを社会に浸透させていく必要があります。
- スポーツ競技の勝敗などを賭けの対象にする「スポーツ賭博」サイトの利用が広がっており、高校野球も含め、世界から日本のさまざまなスポーツを対象とする年間の賭け金総額は約5兆円ともいわれ、多額の賭け金が海外の違法市場に流れているとみられています。選手が八百長行為に巻き込まれたり、誹謗中傷を受けたりするリスクも高まっています。前述したとおり、日本における違法市場の規模は約6・5兆円で、うち約1兆円が日本のスポーツが対象とされます。資金の国外流出も問題ですが、選手が八百長トラブルに巻き込まれたり、誹謗中傷を受けたりするリスクにさらされていることが重大で、正面から向き合う必要があります。
- 公認心理師で、早稲田大学スポーツ科学学術院の今井恭子・非常勤講師が、大学生アスリートのアディクション(依存症、嗜癖(しへき)、のめり込み)問題の実態とリスク要因を調査した結果を示しています。調査は、全国37大学の68競技種目を行う1312人が対象で、全国大会出場レベルの選手が多くを占めています。食べ吐き、ギャンブル、飲酒、スマホSNS、ゲーム、精神的健康の六つのうち、一つでも問題があるか、問題の疑いがある、とされた学生は793人で、60%にのぼりました。「競技で重圧がある」は57%で、競技をやめたいと思う頻度を聞いた質問では、ほぼ毎日が7%、月に数回が20%、研究者は、指導者や親など周囲からの過度な期待が重圧となっているケースがあると指摘しています。SNSでの誹謗中傷がメンタルヘルスに影響しているという声や、周囲の期待に応えられず、現役中や引退後にメンタルヘルスの不調、依存に陥ることがあるという声もありました。スポーツ選手や元選手は、ギャンブルやアルコールなどの依存症に陥るリスクが高いという調査結果が、海外を中心に報告されています。思い通りのプレーができない時などに心理的なストレスがかかり、その解消のために飲酒やギャンブルなどに過度にのめり込むリスクがあることが分かってきています。また、アスリートは、競争、挑戦、リスクを好むため、ギャンブルや飲酒の問題につながりやすいと指摘されています。一方、学会で示された学生対象の調査では、のめり込みの問題について、専門家への相談を希望しないと答える選手が半分ほどで、9割超が相談できる人がいるとしながら、多くは母親や友人で、医師を含む専門家への相談希望はわずか3.5%だったといいます。精神的な問題を抱えていることを弱さととらえ、それを認めたくないという風潮があり、相談することで出場機会を失うといった、大きな不利益を被る恐れを抱いていることも指摘されています。精神科医で筑波大准教授の森田展彰氏は「薬物の使用者を社会が過剰にたたき、大学は退学させるような対応をする。それにより、症状の発見が遅れ、悪化を招いてしまう。アメリカのように学校内に支援の体制を作り、症状が軽く、問題が小さなうちに支援できるようにすることが望ましい」と指摘しています。信州大学の新井清美教授は「相談者を切り捨てるのではなく、相談してサポートを受けることがメリットになると感じてもらう必要がある」と指摘しています。
- ギャンブル依存症問題を考える会の代表を務める田中紀子氏は、「警察に息子を逮捕してもらったほうがいい」といった助言をすることもあるといいます。同会は、ギャンブル依存症当事者の家族らの相談を受け、アドバイスする会を定期的に行っており、「お父さん、お子さんは重症だよ」「ギャンブル依存症は甘い病気じゃないから」と相談者に今すぐ行動するように促しています。最近は、詐欺や横領のほか、強盗や強盗殺人などに至ってしまうケースも増えているといい、依存症者が、殺人や自殺などをしてしまう前に、回復プログラムを受けさせる必要があるものの、当事者はそれを拒むことが多く、そこで、軽い犯罪のうちに逮捕してもらい、身柄を解放する代わりに回復施設に行くよう取引を持ちかけるといいます。田中代表は「もし実刑になっても、それが回復のきっかけになるから。恐れないといけないのは、依存症者が一生回復しないことだよ」と述べています。
- 競技の勝敗を賭けの対象とする「スポーツベッティング(賭博)」について、超党派の国会議員によるスポーツ議員連盟が、国内では解禁を認めない方針を確認しました。議連内にプロジェクトチームを設置し、禁止の徹底と選手らの保護を検討するといいます。不正操作を防ぐ枠組みとしては、欧州評議会が2019年に発効させた「スポーツ競技の不正操作に関する条約(マコリン条約)」があります。八百長などの不正に対して国際的に連携して取り組むもので、国に司令塔となる機関の設置や情報収集などを義務づけるほか、不正に関する情報交換などを求めています。PTの山下座長は、「マコリン条約を参考に、日本のスポーツ界のインテグリティー(高潔性)を守るために(独自の)基準を示したい」とし、条約に準拠した国内法の整備を目指す考えです。
その他、カジノやギャンブル依存症などに関する最近の報道から、いくつか紹介します。
- 金銭を賭けずにポーカーやルーレットで遊ぶ「アミューズメントカジノ」を巡り、警視庁が都内の80店舗に一斉立ち入り検査をしたところ、6割(48店)で風営法に違反する行為が確認されたことがわかったといいます。一部の店では、客が得たチップをスマホのアプリ上で「ウェブコイン」と呼ばれるポイントに換えていたといい、同庁はポイントが現金化される恐れもあるとみて実態把握を進めています。同庁の発表によると、検査で確認された風営法違反行為は計84件で、内訳は〈1〉チップを店内で飲食物と交換するなどの「商品提供禁止違反」が26件〈2〉チップを店外に持ち出させるなどの違反が13件などで、同庁は店側を口頭で指導し、悪質な違反は行政処分を実施するなどの是正措置を取るとしています。都内には現在、約200店あり、2021年時点の約60店から急増しているといいます。
- 高級腕時計のシェアリングサービス「トケマッチ」の運営会社「ネオリバース」元代表らが、預かった腕時計を返却せずに出国して国際手配された事件で、警視庁は、同社元代表の福原容疑者を潜伏先のアラブ首長国連邦(UAE)から移送し、詐欺容疑で逮捕しています。被害は約28億円に上るとみて、実態解明を進めています。トケマッチを巡っては、腕時計が返却されないとの相談が各地の警察に相次いで寄せられ、2025年5月時点で、全国の20~80代の男女計約650人が45都道府県警に被害届を提出、約650人は2021年3月~23年12月に計約1700本(計約28億円相当)を預けており、このうち約1300本が無断で買い取り店に売却されたり、質入れされたりしていました。同社はオンラインカジノのほか、暗号資産購入にも売却益の一部を充てていたとみられ、警視庁は、使途の解明を進めています。
- 海外のオンラインカジノで得た収入などを隠したとして、広島国税局は、岡山市北区のコンサルタント業の男性を所得税法違反の疑いで岡山地検に告発しています。国税局によると、男性はオンラインカジノでの払戻金のほか、オンラインカジノやブックメーカーをSNSなどで紹介して報酬を得るアフィリエイト収入がありましたが、確定申告の際に除外し、2020~22年分の所得約3億2100万円を隠し、所得税約1億3300万円を免れた疑いがもたれています。
- 兵庫県警の男性警察官9人がオンラインカジノで賭博をしたとして、県警が単純賭博容疑などで書類送検しています。いずれも30代までの巡査部長以下の若手警察官で、県警は、停職6か月などの懲戒処分にています。9人はスマホを使って、国内から海外のオンラインカジノサイトに接続して、金を賭けた疑いがあります。生田署の勤務だった6人、機動捜査隊の勤務だった3人で、二つの職場の同僚の間でカジノサイトの利用が広がったとみられ、なかには常習的に賭けて多額の借金を抱えた警察官もいたといいます。県警が「スマホでオンラインカジノを利用し、金を賭けている」との情報を受けて、捜査していたものです。なお、群馬県警が警察署の巡査を2025年12月1日付で書類送検したほか、北海道警が男性巡査部長の書類送検と処分を公表するなど、警察官の摘発や処分が相次いでいます。
③犯罪統計資料から
例月同様、令和7年(2025年)1月~11月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。
▼警察庁 犯罪統計資料(令和7年1~11月分)
令和7年(2025年)1~11月の刑法犯総数について、認知件数は709385件(前年同期678008件、前年同期比+4.6%)、検挙件数は275988件(263151件、+4.9%)、検挙率は38.9%(38.8%、+0.1P)と、認知件数、検挙件数がともに増加している点が注目されます。刑法犯全体の7割を占める窃盗犯の認知件数が増加していることが挙げられ、窃盗犯の認知件数は472771件(461820件、+2.4%)、検挙件数は159709件(152652件、+4.6%)、検挙率は33.8%(33.1%、+0.7P)となりました。なお、とりわけ件数の多い万引きについて認知件数は96231件(90052件、+6.9%)、検挙件数は66250件(61749件、+7.3%)、検挙率は68.8%(68.6%、+0.2P)と大幅な増加が継続しています。その他、凶悪犯の認知件数は6688件(6442件、+3.8%)、検挙件数は5970件(5710件、+4.6%)、検挙率は89.3%(88.6%)、粗暴犯の認知件数は56541件(53053件、+6.6%)、検挙件数は45244件(43905件、+3.0%)、検挙率は80.0%(82.8%、▲2.8P)、知能犯の認知件数は69370件(55964件、+24.0%)、検挙件数は18816件(17270件、+9.0%)、検挙率は27.1%(30.9%、▲3.8P)、とりわけ詐欺の認知件数は64872件(51710件、+25.5%)、検挙件数は15754件(14350件、+9.8%)、検挙率は24.3%(27.8%、▲3.5P)、風俗半の認知件数は18540件(17050件、+8.7%)、検挙件数は15581件(13770件、+13.2%)、検挙率は84.0%(80.8%、+3.2P)などとなっています。なお、ほとんどの犯罪類型で認知件数が増加しているほどには検挙件数が伸びず、検挙率が低調な点が懸念されます。また、コロナ禍において大きく増加した詐欺は、アフターコロナにおいても増加し続けています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が増加しましたが、コロナ禍が明けても「非対面」とは限らないオレオレ詐欺や架空料金請求詐欺なども大きく増加しています。さらに、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺では、「非対面」での犯行で、(特殊詐欺を上回る)甚大な被害が発生しています。
また、特別法犯総数については、検挙件数は58705件(59561件、+0.2%)、検挙人員は45872人(47230人、▲2.9%)と検挙件数は微増、検挙人員は減少する結果となりましたが、検挙人員がわずかにでも増加してことは特筆すべき点といえます。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は4871件(5667件、▲14.0%)、検挙人員は3298人(3807人、▲13.4%)、軽犯罪法違反の検挙件数は5669件(5956件、▲4.8%)、検挙人員は5576人(5996人、▲7.0%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は4531件(5269件、▲14.0%)、検挙人員は3163人(3735人、▲15.3%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は4310件(4113件、+4.8%)、検挙人員は3211人(3087人、+4.0%)、銃刀法違反の検挙件数は4187件(4205件、▲0.4%)、検挙人員は3516人(3589人、▲2.0%)などとなっています。減少傾向にある犯罪類型が多い中、犯罪収益移転防止法違反等が大きく増加している点が注目されます。また、薬物関係では、麻薬等取締法違反の検挙件数は10575件(1881件、+462.2%)、検挙人員は6994人(1091人、+541.1%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は137件(6688件、▲98.0%)、検挙人員は127人(5335人、▲97.6%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は8368件(7930件、+5.5%)、検挙人員は5593人(5380人、+4.0%)などとなっています。大麻の規制を巡る法改正により、前年(2024年)との比較が難しくなっていますが、大麻事犯の検挙件数がここ数年、減少傾向が続いていたところ、2023年に入って増加し、2023年7月にはじめて大麻取締法違反の検挙人員が覚せい剤取締法違反の検挙人員を超え、その傾向が続いています(今後の動向を注視していく必要があります)。また、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きな減少傾向が数年来継続していたところ、最近、あらためて増加傾向が見られています(覚せい剤は常習性が高いため、急激な減少が続いていることの説明が難しく、その流通を大きく支配している暴力団側の不透明化や手口の巧妙化の実態が大きく影響しているのではないかと推測されます。言い換えれば、覚せい剤が静かに深く浸透している状況が危惧されるところです)。なお、麻薬等取締法違反が大きく増加している点も注目されますが、2024年の法改正で大麻の利用が追加された点が大きいと言えます。それ以外で対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。前述したとおり、コカインについては、世界中で急増している点に注意が必要です。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。
また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯国籍別検挙人員対前年比較について、総数508人(449人、+13.1%)、ベトナム100人(67人、+49.3%)、中国65人(81人、▲19.8%)、フィリピン32人(27人、+18.5%)、ブラジル29人(26人、+11.5%)、スリランカ24人(22人、+9.1%)、韓国・朝鮮22人(19人、15.8%)、インド22人(17人、+29.4%)、インドネシア21人(10人、+100.1%)、パキスタン19人(18人、+5.6%)、バングラデシュ15人(10人、+50.0%)、アメリカ11人(12人、▲8.3%)などとなっています。ベトナム人の犯罪が中国人を大きく上回っている点が最近の特徴です。
一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数は6434件(8121件、▲20.8%)、検挙人員は3518人(4194人、▲16.1%)となりました。犯罪類型別では、強盗の検挙件数は79件(88件、▲10.2%)、検挙人員は160人(176人、▲9.1%)、暴行の検挙件数は351件(400件、 ▲12.3%)、検挙人員は303人(365人、▲17.0%)、傷害の検挙件数は664件(798件、▲16.8%)、検挙人員は826人(992人、▲16.7%)、脅迫の検挙件数は248件(251件、▲1.2%)、検挙人員は232人(255人、▲9.0%)、恐喝の検挙件数は285件(320件、▲10.9%)、検挙人員は340人(345人、▲1.4%)、窃盗の検挙件数は3177件(4976件、▲36.2%)、検挙人員は559人(660人、▲15.3%)、賭博の検挙件数は54件(66件、▲18.2%)、検挙人員は148人(100人、+48.0%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、2023年7月から減少に転じていたところ、あらためて増加傾向にありましたが、ここにきて減少に転じている点が特筆されます。ただし、資金獲得活動の中でも活発に行われていると推測される(ただし、詐欺は薬物などとともに暴力団の世界では御法度となっています)ことから、引き続き注意が必要です。
さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯について、特別法犯全体の検挙件数は3852件(4233件、▲9.0%)、検挙人員は2371人(2811人、▲15.7%)となりました。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は15件(23件、▲34.8%)、検挙人員は10人(23人、▲56.5%)、軽犯罪法違反の検挙件数は42件(52件、▲19.2%)、検挙人員は32人(47人、▲31.9%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は37件(78件、▲52.6%)、検挙人員は28人(79人、▲64.6%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は33件(53件、▲37.7%)、検挙人員は51人(75人、▲32.0%)、銃刀法違反の検挙件数は62件(62件、±0.0%)、検挙人員は46人(42人、+9.5%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は1001件(250件、+300.4%)、検挙人員は467人(104人、+349.0%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は23件(757件、▲97.0%)、検挙人員は17人(434人、▲96.1%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は2100件(2389件、▲12.1%)、検挙人員は1299人(1557人、▲16.6%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は154件(103件、+49.5%)、検挙人員は75人(48人、+56.3%)などとなっています(とりわけ覚せい剤取締法違反や麻薬等取締法違反については、前述のとおり、今後の動向を注視していく必要があります)。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。なお、法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。
(8)北朝鮮リスクを巡る動向
北朝鮮は年末の2025年12月28日、黄海付近で「長距離戦略巡航ミサイル」の発射訓練を行いました。北朝鮮国営の朝鮮中央通信(KCNA)によれば、訓練には金正恩朝鮮労働党総書記が立ち会ったといいます。ミサイルは少なくとも2発発射され、それぞれ約2時間50分間、黄海上空に設定した軌道に沿って飛行し、標的に命中したといいます。金総書記は今回の訓練が核反撃能力の「絶対的な信頼性と戦闘力の検証であり、明確な誇示になる」と評価、「今後も核戦力の無限大かつ、持続的な強化・発展に総力を挙げる」と強調しています。韓国・統一研究院の洪珉・先任研究委員は、飛行距離が2000キロを上回った可能性があるとし、神奈川県の米海軍横須賀基地や沖縄県の米空軍基地を射程に入れていると分析、また、韓国の聯合ニュースは北朝鮮が「発射訓練」と発表したことから、実戦配備段階にある可能性を指摘しています。
年が明けて2026年1月4日、日本と韓国の防衛当局は、北朝鮮が東方へ弾道ミサイルを発射したと発表、日本の防衛省は少なくとも2発、いずれも変則的な軌道で飛行したと分析、いずれも日本の排他的経済水域(EEZ)外へ落下したとみています。北朝鮮が弾道ミサイルを発射するのは2025年11月7日以来となり、今回は、韓国の李在明大統領が中国を訪問するタイミングで発射したものです。小泉進次郎防衛相は北朝鮮の意図について「核抑止力の獲得に加え、米韓両軍との間で発生しうる通常戦力や戦術核を用いた武力紛争においても対処可能な手段を獲得するという狙いもあるとみられる」と説明、日本政府は北京の大使館ルートを通じ、北朝鮮に抗議と非難を申し入れています。なお、KCNAは、極超音速ミサイルの発射訓練が行われ、金総書記が視察したと報じています。金総書記は「最近、我々の核戦力を実用化、実戦化するうえで重要な成果が成し遂げられている」としたうえで、「我々は持続的に軍事的手段、特に攻撃兵器システムを更新しなければならず、それは自衛のための必須の事業だ」とし、さらに「我々のこうした活動は核戦争抑止力を漸進的に高度化するところにある」とし、「それがなぜ必要かは最近の地政学的危機と国際的事変が説明している」と指摘しています。なお、「国際的事変」が何を指すのかは明示されていませんが、米国がベネズエラを攻撃し、マドゥロ大統領を拘束したことが念頭にある発言とみられています(なお、北朝鮮とベネズエラは友好関係にあり、ともに反米姿勢を鮮明にしてきました。外務省報道官は、「米国の覇権行為」は内政不干渉や領土保全を定めた国連憲章や国際法に違反するとして「強く糾弾する」と表明、国際社会は抗議の声を強めるべきだと呼びかけています)。一方、韓国の聯合ニュースは今回の極超音速ミサイルについて、短距離弾道ミサイル「KN23」に極超音速滑空体の弾頭を搭載した「火星11マ」の可能性があると報じています。
関連して、北朝鮮の国営メディアは、北朝鮮の金総書記が軍需工場を訪問した際、戦術誘導兵器の生産能力を2倍以上に引き上げるよう求めたと報じています。ここ数週間、金総書記は武器工場や原子力潜水艦を相次いで訪れており、その動向が注目されます。2025年12月25日には、金総書記が8700トン級の原子力潜水艦の建造現場を訪れ、韓国が進める原潜建造計画について「朝鮮半島地域の不安定化を一層引き起こす、必ず対応すべき安全上の脅威だ」と非難し、自国の原潜保有の意義を強調したとKCNAが報じています。韓国・聯合ニュースは韓国軍関係者の話として、北朝鮮が軍事協力を強化するロシアから、原潜の動力源となる小型原子炉の提供を受けた可能性があると伝えています(ただし、日本の専門家は「ロシアから設計図を得ても、北朝鮮の技術力と設備ではライセンス生産できない」「北朝鮮にこれだけ大型の原潜を建造する技術力はない」「北朝鮮国内に年末に期限を迎える国防・経済5カ年計画に合わせ、最重要目標の一つに挙げた原潜の建造が順調に進んでいることを示したい政治的思惑があるのでしょう」として、報道の真偽を慎重に確認する必要があると指摘しています)。さらに、2026年1月3日には、軍需工場を訪れ「戦術誘導兵器」の生産状況を確認、金総書記は「生産能力を約2.5倍に拡大する必要がある」と指示しています。放射砲(多連装ロケット砲)を代替する兵器になる可能性があるとも言及、この兵器を2026年の上半期から軍の一部の部隊に装備させる方針だとしています。2026年1月にも開くとみられる5年に1度の朝鮮労働党大会でミサイル生産の目標などを巡り協議する見通しであり、北朝鮮は党大会の開催を前にミサイル開発の成果を強調していると考えられます。
国連安全保障理事会は、北朝鮮が安保理制裁決議に違反したとして米国が要請していた追加制裁を棚上げすることを決めています。米国は、北朝鮮関連の船舶が安保理決議で禁じている輸出取引に関与したとして、資産凍結などの制裁対象に指定するよう求めていました。、安保理の北朝鮮制裁委員会で米国が要請した追加制裁について協議していましたが、北朝鮮を擁護する中国とロシアが反発し、保留するよう伝えたといいます。追加制裁には全理事国(15か国)の全会一致が必要となります。2025年12月14日付読売新聞によれば、北朝鮮関連の7隻が2024年9月から2025年6月、中国の7か所の港に石炭や鉄鉱石を運んだといい、対中輸出で北朝鮮が年間2億~4億ドル(約310億~620億円)相当を得ていたとの情報もあるといいます。米国は衛星画像や航行データなどを根拠に、北朝鮮が海上で積み替えを行うなど制裁逃れを続けていると主張してきました。米国は制裁強化について、北朝鮮が核・ミサイル開発の資金源として利用するのを阻止する狙いがあると説明、北朝鮮に対する安保理制裁の強化要請は、第2次トランプ政権で初めてとなりました。
CPF(拡散金融対策)における北朝鮮の核・ミサイル開発のための資金獲得活動について、最近の動向からいくつか紹介します。
- 暗号資産データを解析する米企業「チェイナリシス」は2025年12月、北朝鮮ハッカーによる2025年の暗号資産窃取の被害総額が過去最悪規模の20億ドル(約3100億円)相当だったとする報告書を公表しています。前年比で5割増えており、北朝鮮によるサイバー攻撃の被害が深刻化している実態が明らかなりました。報告書は世界全体で盗まれた34億ドル(約5300億円)相当の暗号資産のうち、6割が北朝鮮による犯行だったとし、北朝鮮が過去約10年で手にした暗号資産は計67億5000万ドル(約1兆円)相当に及ぶといいます。北朝鮮のハッカーは各国当局の監視網を回避するため、窃取した暗号資産を換金してマネロンする際に金額を少額にしたり、脆弱な保安体制の業者を狙ったりしているとし、同社は「破壊力が増大し、(手口も)高度化している」と指摘しています。以前の本コラムでも取り上げましたが、北朝鮮は国家主導で全土から理系の秀才を厳選してハッカーに育成し、対外工作機関に所属する複数のグループで活動させています(2022年の韓国国防白書によると、サイバー部隊は推定6800人に上るとされます)。北朝鮮は、2024年に日本の暗号資産交換会社(DMMビットコイン)から482億円相当のビットコインが流出した事件や、2025年11月に韓国最大の暗号資産取引所が狙われた445億ウォン(約47億円)相当の暗号資産流出事件にも関与したとされます。北朝鮮に対する国連制裁の履行状況を監視する「多国間制裁監視チーム(MSMT)」が2025年10月に公表した報告書によると、2024年には北朝鮮の外貨収入の約3分の1が暗号資産窃取による収益だったとみられ、核・ミサイル開発の大きな資金源となっており、監視チームは「北朝鮮が狙う暗号資産取引所を国際社会で特定し、監視すべきだ」と提言しています。
- 北朝鮮が関与するハッカー集団が、欧州の無人機(ドローン)関連企業にサイバー攻撃を仕掛けていたとみられています。狙われたのはウクライナ軍が兵器として使用するドローンの製造に関わる企業で、開発に関する機密情報を盗むのが目的だった可能性が高いと考えられます。スロバキアのセキュリティ企業「ESET」によれば、2025年3月末以降、ドローンの重要部品の製造やソフトウエア開発などをしている3社へのサイバー攻撃を確認、同社が攻撃に使われた不正プログラムを分析すると、北朝鮮とつながりのあるハッカー集団「ラザルス」が過去に使った攻撃手法と類似していることが判明したものです。攻撃者は、SNSなどで標的企業の社員らに偽の求人を持ちかけ、不正プログラムを送りつける手口だといいます。ラザルスは、北朝鮮指導者暗殺計画を描いたコメディー映画を製作したソニーの米子会社への攻撃や、巨額の暗号資産の窃取に関与した北朝鮮傘下のハッカー集団とされます。
- 米アマゾンは2024年4月以降、北朝鮮からとみられる求人応募1800件以上をブロックしていたといいます。給与を北朝鮮の兵器開発プログラムの資金に充てることが応募の目的とみられると説明しています。アマゾンの最高セキュリティ責任者は、「北朝鮮工作員がここ数年、米国を中心とした世界中の企業でリモートによるITの仕事を確保しようと試みている」と指摘、盗んだり、偽造したりした身分証明書を使っているほか、北朝鮮出身とみられる関係者は、しばしば米国人の協力者を募り、採用された企業が貸与するパソコンを置く「ラップトップファーム」を開設、米国外から遠隔操作で仕事をしているといいます。同氏は、「これはアマゾンだけの話ではない。業界全体で大規模に起きている可能性が高い」と警告しています。米司法省は2025年6月、北朝鮮への資金提供のために運営されていたとみられる計29の「ラップトップファーム」を捜索したと発表しています。
- 中国・北京にある一部の北朝鮮レストランで、北朝鮮出身の女性従業員らが2025年11月下旬以降、一斉に帰国したことが分かりました。中国での勤務に必要なビザに何らかの問題が生じた可能性があるとの見方が出ていますが、詳細は不明です。国連安保理は2017年に北朝鮮の核・ミサイル開発の制裁として、北朝鮮からの海外派遣労働者を強制送還するよう加盟国に要求、中国の北朝鮮レストランの従業員は留学や研修用のビザなども活用しているとの情報があるほか、中国側がビザ管理を厳格に行っている可能性もあるといいます。
ロシアのウクライナ侵攻を巡るロシアとの連携に関する最近の動向から、いくつか紹介します。
- ウクライナに侵攻するロシア軍を支援する北朝鮮軍の死傷者が約7000人に達していることが、北大西洋条約機構(NATO)の推計で分かりました。北朝鮮軍は現在、ウクライナが越境攻撃したロシア西部クルスク州に最大約1万3000人の部隊を展開し、露軍によるウクライナ軍への攻撃などを支援、一方、ロシアは北朝鮮への兵器の技術移転を進めるなど関係を深めています。NATOによると、北朝鮮は2024年秋以降に約1万人、2025年9月以降に約5000人の兵士をロシアに派遣し、その半数近い約7000人が死傷したとみられるとし、現在はクルスク州に8500~1万3000人が駐留、ウクライナ軍の攻撃に対する防衛や、地雷除去、ウクライナへの攻撃の支援などに従事しているとされ、さらに数万人規模の追加派兵の計画があるといいます。北朝鮮部隊については、「露軍に貢献するより、足手まといになることが多い」(NATO高官)との見方もある一方、「戦地の環境に急速に適応している」(ウクライナ軍)との評価もあるようです。北朝鮮部隊がクルスク州で防衛を担うことで、露軍はウクライナ東部での戦闘に、より集中できるメリットがあるとみられています。ウクライナ軍によると、クルスクに駐留する北朝鮮部隊のドローン操縦士は2025年10月、露軍によるウクライナ北東部スムイ州への攻撃の支援に参加、北朝鮮軍がウクライナ領内への攻撃に参加したのは初めてといいます。北朝鮮は、露軍への武器供給面での存在感も増している。韓国の情報当局は2025年7月、北朝鮮が既に1200万発以上の弾薬をロシアに供給したと見積もったほか、ウクライナ軍は露軍の弾薬の約半数が北朝鮮から供給されているとみています。NATOによると、170ミリ自走砲や240ミリロケット砲など、北朝鮮からロシアへの兵器供給も「安定的に継続している」といいます。一方、北朝鮮軍はドローンや最新兵器による実戦経験を積み、作戦遂行能力が上がっているほか、兵力や弾薬、兵器の供給の見返りに、ロシアからミサイルなどに関する技術移転を受けているとみられています。北朝鮮製ミサイルの命中精度が上がっているとのウクライナ軍の証言もあります。今後、北朝鮮の弾道ミサイル技術などが向上すれば、韓国や日本などへの脅威となります。北朝鮮は、ロシアとの経済関係も深めており、NATOによると、北朝鮮はロシアの労働力不足を埋めるため、既に1万7000人以上の労働者を派遣、さらに建設作業員など2万~3万人の追加派遣を計画しているといいます。また、英BBCなどによると、ロシアは2024年、国連制裁による上限を上回る100万バレル以上の原油を北朝鮮に輸出しているとしています。
- KCNAによれば、2025年12月、朝鮮労働党の重要会議である中央委員会総会が開かれ、金総書記が2025年の政策の執行状況を総括し、ウクライナ侵攻を続けるロシアへの派兵や防衛力の現代化などについて成果を強調したといいます。国防政策について「国家防衛力に対する党の現代化方針に基づいて収められた成果により、地政学的、技術的変化の中でも、正確な発展方向へと進んでいる」と評価、さらに「海外の軍事作戦に出兵して収めた輝かしい戦果は、国際的正義の真の守護者としてのわが軍と国家の名声を全世界に誇示した」とし、ロシア派兵の正当性を強調しています。
- 北朝鮮の金総書記はロシアのプーチン大統領に宛てた書簡で、プーチン氏の政策を無条件かつ恒久的に支持すると表明しています。書簡はプーチン氏が先に金氏に送った書簡への返信で、「私はあなたの全ての政策と決定を無条件で尊重・支持する。常にあなたとあなたのロシアのために共にある用意がある。この選択は不変かつ恒久的だ」と述べています。
- ウクライナ侵攻を続けるロシアを支援するため派遣された朝鮮人民軍の工兵部隊が地雷処理などの任務を終えて帰国、平壌で歓迎式が開かれ、金総書記が演説し「膨大な面積の危険地帯を短期間で安全地帯に一変する奇跡が成し遂げられた」と評価しています。工兵部隊の規模は千人近くで、演説で、部隊を5月下旬に編成し8月上旬に出発させたことを明らかにしています。ロシア西部クルスク州で活動し9人が戦死、帰国した工兵には車いすの負傷者もおり、部隊には勲章が授与されています。ただし、陸上自衛隊の陸上総隊司令官を務めた元陸将は「自衛隊なら絶対に許されない、あり得ないほど高い死傷率だ」と指摘しています(「ウクライナ軍が埋設した地雷を除去する場合、危険が大きすぎてとても3カ月では除去しきれません」「韓国の情報機関、国家情報院はロシアに派遣された北朝鮮軍兵士の死者が2千人を超えると推定しています。地雷除去の任務や状況を知らせずに、単純に「2千人に比べれば9人の犠牲者は小さい」と信じ込ませているのでしょう。北朝鮮は体制に都合のよい情報しか開示しない国です」)。
その他、北朝鮮を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。
- 脱北者の有志が2004年に立ち上げ、北朝鮮の人民向けに韓国など外部社会の情報を伝えている自由北韓放送の李始瀛代表は、北朝鮮国内の最新情勢について、従来は豊かだった国境付近地域で餓死が多発し、闇市場にも物品が流通しなくなっているとし、「北朝鮮人民の頭の中では韓国への憧れが高まっている」と述べています。同氏によれば、韓国では南北の緊張緩和を標榜する李在明政権の下、公的機関による北朝鮮向けラジオ放送が相次いで停止に追い込まれているといいます。
- 金総書記が北西部・新義州を訪れ、完成が近づく北朝鮮最大規模の温室農場の建設作業員を激励したとKCNAが報じています。演説で、洪水が多発していた周辺地域を若者や軍人らが整備したことで「新時代の理想的な農場都市に一変させた。誇らしい」と称賛しています。2026年に開催される5年に1度の党大会に向け、国内の結束を高めようとしており、地方振興策を重視、温室農場の完成が党への忠誠を示すことになると強調しています。
- 金総書記は、首都平壌で行われた新年の祝賀行事に出席、2025年の「成功と驚異的な変化」につながったとして国民の努力を称賛した上で、団結を呼びかけました。また、ロシアの対ウクライナ戦に参加している軍に新年のメッセージを送り、兵士らを国の「最大の強さと誇り、強い支柱」と称え、帰還し再会するのを楽しみにしていると述べ、「勇気を持て。君たちには平壌とモスクワがついている」とメッセージを送ったといいます。
- 北朝鮮の朝鮮人民軍総参謀部の報道官は、韓国側から2026年1月4日に偵察用の無人機が飛来し、墜落させたと明らかにしています。同9日付の声明として「主権を侵害する挑発行為」だと指摘、「必ず代償を払わせる」と強く反発しています。墜落させた無人機を回収して分析した結果、北朝鮮側を撮影した映像が記録されていたといいます。2025年9月にも同様に偵察機が飛来し、北朝鮮側を撮影していたと主張、報道官は、2025年6月の李在明政権への交代後も挑発行為を続ける韓国は「不変の敵」だと批判しています。また、KCNAは撃墜された無人機とする写真も公開しています。一方、韓国国防省は、軍による無人機の運用はなかったと否定しています。
- KCNAは、金総書記が2026年1日に祖父の故金日成主席と父の故金正日総書記の遺体が安置されている錦繡山太陽宮殿を訪問したと報じています。同通信が配信した写真には正恩氏の娘ジュエ氏とされる少女も写っており、ジュエ氏の宮殿訪問が伝えられるのは初めてとなります。写真ではジュエ氏が中央に立ち、その右に金総書記、左に妻の李雪主氏が写っており、錦繡山太陽宮殿は体制の正統性を象徴する場所であるため、韓国の一部の専門家からはジュエ氏を後継者にするための権威付けの布石との見方が出ています。また、KCNAは、ジュエ氏が2024年12月31日に開催された新年祝賀公演に金総書記と李雪主氏と出席したと伝えており、その際にもジュエ氏を中心に据えて両脇に夫妻が座るなど、ジュエ氏の存在感を強調するような構図の写真が配信されています。一方、こうした構図は「未来世代」「家族」といったイメージ演出との分析もあるといいます。2025年は、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記ファミリーに変化が見えた年だった。国営メディアは、西側メディアがキム・ジュエと呼ぶ正恩氏の娘の露出を意識的に目立たせているが、逆に目立たなくなったものもある。権力体制に大きな影響を及ぼしかねない後継作業を慎重に進めているための現象とみられる。年越し行事での動向も踏まえ、権力側の意図を読み解く。…北朝鮮を逃れた複数の朝鮮労働党・政府の元幹部たちは金総書記夫人である李氏の地味な扱いについて「(金日成国家主席の血筋である)白頭山血統ではないからだ」と指摘しています。元幹部の一人は「血統と関係のない人間が閨閥をつくるのを避けている」と説明しています。ジュエ氏については依然、党員ではなく公式の役職もなく、後継者に神秘性を持たせたい意図もあるとみられ、名前も伏せ続けており、記事での説明もなくしつつあるようです。また、金総書記とジュエ氏のスキンシップについて「朝鮮の人々の日常感覚では不快に感じる人も多いはずだ。あえて報道を続けているのは、それだけジュエ氏が最高指導者に最も近い存在だとアピールする狙いがあるのだろう」と述べています。北朝鮮は2026年も、ジュエ氏が後継者であることを写真と映像で、暗黙的に国民に周知する作業を続けるとみられます。
3.暴排条例等の状況
(1)暴力団排除条例改正動向(埼玉県)
埼玉県暴排条例の一部改正のパブコメ募集中です。改正内容は以下のとおりですが、他の多くの自治体では対応済みで、埼玉県においてまだ規制に盛り込んでいなかったことが不思議なほどの内容です。社会情勢をふまえ、適宜見直すことが重要だといえます。
▼ 埼玉県 埼玉県暴力団排除条例の一部改正について、県民の皆様のご意見・ご提案を募集いたします。
- 改正の趣旨
- 青少年の健全育成を推進するため、暴力団事務所の開設等の禁止区域を拡大(「都市公園」「用途地域」)するとともに、用途地域内に暴力団事務所を開設等し、若しくは青少年を暴力団事務所に立ち入らせた疑いがある場合の立入検査措置を規定して罰則を適用するほか、暴力団と事業者等との関係を遮断するため、利益供与の禁止行為を拡大するとともに、暴力団員が自らの身分を隠蔽する目的で他人の名義を利用する、若しくは暴力団員に名義を利用させる行為の禁止を規定して勧告等を行うことができるようにする埼玉県暴力団排除条例の一部を改正する条例案の策定をしています。
- 改正条例(素案)の概要
- 暴力団事務所の開設等の禁止区域の拡大
- 都市公園法に規定する「都市公園」
- 青少年が社会性・健康な心身を育む場所である都市公園を保護対象施設に追加し、その周囲200メートルの範囲に暴力団事務所を開設等することを禁止します。
- また、違反者には罰則(1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)を適用します。
- 都市計画法に規定する「用途地域」(※)
- 多くの青少年が居住・活動する場所である用途地域を禁止区域に追加し、その範囲内に暴力団事務所を開設等することを禁止します。
- また、違反者には中止命令を発出し、中止命令に違反した者には罰則(1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)を適用します。
- ※都市計画法第8条第1項第1号に規定する地域(工業専用地域を除く。)
- 都市公園法に規定する「都市公園」
- 実効性を確保するための措置の強化
- 用途地域内に暴力団事務所を開設等し、若しくは青少年を暴力団事務所に立ち入らせた疑いがある場合、それらの疑いのある建物に立ち入り、検査等することを可能とし、これらに違反した者には中止命令を発出します。
- また、中止命令発出後の違反行為の有無を確認するため、暴力団事務所に立ち入り、検査等することを可能とし、これら立ち入り検査を拒否した者には罰則(20万円以下の罰金)を適用します。
- 利益供与の禁止における違反対象行為の拡大
- これまで事業者は、その事業に関し、暴力団員等に対し、暴力団の活動に協力する目的等で、相当の対償のない利益の供与をすることを禁止されていましたが、
相当の対償を受け取ったとしても反社会性の高い利益の供与(※情を知って、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる利益の供与)をすることを禁止して、行為者に勧告し、これに従わなかったときは、その旨を公表します。
- これまで事業者は、その事業に関し、暴力団員等に対し、暴力団の活動に協力する目的等で、相当の対償のない利益の供与をすることを禁止されていましたが、
- 名義利用等の禁止の新設
- 暴力団員が自らの身分を隠蔽する目的で他人の名義を利用する、若しくは暴力団員に自己又は他人の名義を利用させることを禁止して、行為者に勧告し、これに従わなかったときは、その旨を公表します。
- 暴力団事務所の開設等の禁止区域の拡大
(2)暴力団排除条例改正動向(静岡県)
静岡県警は、静岡県暴排条例で定める暴力団排除特別強化地域と、静岡県迷惑行為防止条例施行規則で定める地域に藤枝市の繁華街をそれぞれ追加する条例・規則改正案についてパブコメを実施しました。同条例、規則とも規制地域を設定して以降、エリアを増やすのは初めてだといいます。
(3)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(島根県)
松江市の飲食店のみかじめ料の名目で現金の受け渡しをしたとして逮捕された米子市の暴力団幹部の男性など3人について、検察は、いずれも嫌疑不十分で不起訴にしています。不起訴になったのは米子市の暴力団幹部の男性など3人で、2024年10月、松江市の飲食店のみかじめ料の名目で現金の受け渡しをしたとして、島根県暴排条例違反の疑いで逮捕されていたものです。
▼ 島根県暴排条例
同条例第17条の4(暴力団員の禁止行為)第2条において、「暴力団員は、特別強化地域における特定営業の営業に関し、特定営業者から、用心棒の役務を提供する対償として、又はその営業を営むことを容認する対償として利益の供与を受け、又は自らが指定した者に利益の供与を受けさせてはならない」と規定され、第25条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「(3)第17条の4の規定に違反した者」が規定されています。
(4)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(沖縄県)
沖縄県警沖縄署は、20代男性2人に対して暴力団の威力を示して金銭を要求したとして、旭琉会二代目志多伯一家構成員ら計4人に中止命令を発出しています。
▼暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)
暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「二人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」が規定されています。そのうえで、第十一条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。
(5)暴力団対策法に基づく称揚禁止命令発出事例(奈良県)
奈良県公安委員会は、暴力団対策法に基づき、六代目山口組傘下組織の会長に対し、服役していた組員に出所祝いや慰労金などの金品を渡したり、地位を昇格させたりすることを禁ずる賞揚等禁止命令を発出しています。報道によれば、組員は2007年3月、仙台市内で、住吉会傘下組織の組員に対し、拳銃を発砲して負傷させたとして逮捕され、殺人未遂などの罪で服役し、2022年5月に出所、六代目山口組傘下組織の会長の代替わりに伴い、命令を出したものです。
暴力団対策法第四章「加入の強要の規制その他の規制等」第四節「暴力行為の賞揚等の規制」第三十条の五において、「公安委員会は、指定暴力団員が次の各号のいずれかに該当する暴力行為を敢行し、刑に処せられた場合において、当該指定暴力団員の所属する指定暴力団等の他の指定暴力団員が、当該暴力行為の敢行を賞揚し、又は慰労する目的で、当該指定暴力団員に対し金品等の供与をするおそれがあると認めるときは、当該他の指定暴力団員又は当該指定暴力団員に対し、期間を定めて、当該金品等の供与をしてはならず、又はこれを受けてはならない旨を命ずることができる。ただし、当該命令の期間の終期は、当該刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から五年を経過する日を超えてはならない」として、「一 当該指定暴力団等と他の指定暴力団等との間に対立が生じ、これにより当該他の指定暴力団等の事務所又は指定暴力団員若しくはその居宅に対する凶器を使用した暴力行為が発生した場合における当該暴力行為」が規定されています。
(6)暴力団対策法に基づく称揚禁止命令発出事例(兵庫県)
兵庫県公安委員会は、六代目山口組弘道会会長に対し、神戸山口組との抗争事件で刑期を終えた傘下組織組員に出所祝いなどを与えることを禁ずる称揚等禁止命令を発出しています。報道によれば、組員は2022年8月、福岡県福津市にある神戸山口組倉本組傘下の組事務所に車で突っ込む事件を起こし、建造物損壊などの罪で服役、2024年6月に出所していたものです。命令では放免祝いや功労金などの名目を問わず、金品などを与えることを禁止し、組織内で昇格させることも禁ずるとしています。なお、この事件に関しては、以前の本コラム(暴排トピックス2025年11月号)でも取り上げたとおり、兵庫県公安委員会がすでに六代目山口組組長ら3人と、この組員に同様の禁止命令を発出しています。命令は暴力団対策法に基づき、効力は出所から5年までとなります。
(7)みかじめ料支払いの証拠隠滅での逮捕事例(北海道)
飲食店がみかじめ料を支払っていたことを示すデータを消去させて、警察の捜査から逃れようとしたとして、六代目山口組傘下組織組員が証拠隠滅の疑いで逮捕されています。報道によれば、2025年7月、すすきの(札幌市)にある飲食店の店長が暴力団にみかじめ料を支払っていることを警察が捜査中であることを察知、不利な証拠を隠すため、店長のスマホに保存された連絡先やメッセージのやりとりなどのデータを消去させた疑いが持たれています。警察による捜査は2024年5月「札幌市内の飲食店がみかじめ料を払っている」という匿名の通報をきっかけに始まったものです、飲食店はすすきのを中心に札幌市内に3店舗を展開しており、3店舗合わせて月1万円のみかじめ料が、見舞金名目や正月飾り代などの名目で支払われていたといいます。前の店長から引き継がれ、10年以上にわたって支払いが続けられていました(本来、飲食店側、暴力団側ともに「北海道暴力団の排除の推進に関する条例」に抵触する行為と考えられます)。警察は事件の詳しい経緯や組織的な関与について調べを進めるとともに、暴力団に関する通報を促しているといいます。
(7)暴力団関係事業者に対する指名停止措置等事例(岡山県)
前回の本コラム(暴排トピックス2025年12月号)でも取り上げましたが、岡山県において、「岡山県建設工事等入札参加資格者に係る指名停止等要領」に基づき指名停止を行った業者が公表されています。岡山県警からの、指名排除の要請を受けて審議し、決定したものですが、前回の公表内容が「代表取締役が、暴力団幹部と共謀して、会社役員に対し、暴力団幹部の名前を使って脅迫をしたとして、令和7年10月29日に暴力行為等処罰法違反の疑いで逮捕された」とされていたのに対し、「有資格者、有資格者の役員等又は有資格者の経営に事実上参加している者が、自社、自己若しくは第三者の不正な利益を図り、又は第三者に損害を加える目的をもって、暴力団の威力又は暴力団関係者を利用していると認められたため」とされています。また、同社は2025年12月に商号変更、代表者変更が行われ、その旨も掲載されています。
▼岡山県建設工事等指名停止業者・指名除外業者一覧
指名停止期間は「令和7年12月4日~令和9年6月3日」となっています。本コラムでは、福岡県・福岡市・北九州市の指名停止措置等事例を紹介することが多いのですが、理由に対する指名停止期間の18か月は福岡県・北九州市と同じレベル感となります(福岡市のみ12か月となる事例多くなっています)。


