暴排トピックス

武器を磨くことで道は拓ける~トクリュウ壊滅に向けて

2026.02.09
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首席研究員 芳賀 恒人

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パーカーのフードを被り、顔は影で見えない男がノートパソコンとスマホを捜査している

1.武器を磨くことで道は拓ける~トクリュウ壊滅に向けて

平口洋法相は2025年12月、全国の組織犯罪担当検事を東京・霞が関の法務検察合同庁舎に集め、「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)による組織犯罪が多数発生しており、厳正に対処してほしい」とトクリュウ対策の徹底を指示しました。トクリュウによる特殊詐欺の増加傾向が依然として続いていることから、検察や警察など捜査当局は2026年をトクリュウ対策強化の年と位置付け、取り組む方針です。警察庁によれば、2025年11月末時点の特殊詐欺は2万4912件で被害総額1213.3億円と前年同期比6253件、632.6億円の増加となりました。また、犯行に悪用された国際電話番号は7万9477件で同4万4526件の増となりました。トクリュウによる特殊詐欺被害に歯止めがかからない状況から、最高検は2025年10月、捜査協力の見返りに刑事処分を免除・軽減する「司法取引(証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度)」を特殊詐欺事件で積極活用する方針を公表、最高検と全国の高検に、司法取引の指導担当検事を配置しました。全国会議で平口法相は訓示に立ち、「組織犯罪処罰法などを駆使するとともに、合意制度(司法取引)や通信傍受などの捜査手法を活用」するよう求めました。トクリュウ対策については法務・検察当局が2026年、警察当局と連携して取り組むべき重点課題として掲げています。また大阪府警は2025年3月、ミュンマーの特殊詐欺の拠点に日本から高校生をリクルートした男を別の監禁容疑で逮捕、愛知県警は同10月、カンボジアの拠点で日本人の「かけ子」29人を管理していた中国籍の男女を組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)容疑で逮捕するなど、海外拠点の特殊詐欺が近年、急増しています。

前回の本コラム(暴排トピックス2026年1月号)では、「架空名義口座」の導入に向けた動きが加速したこととあわせ、2025年1月から導入された「仮装身分捜査」も成果を出し始めていることから、捜査手法の多様化・高度化、国際連携によって、トクリュウの最大の特徴である「匿名性の高さ」を逆手にとった武器を駆使していくことへの期待を述べました。そして、トクリュウ封じ込め、壊滅に向けた武器はそれに加え、「司法取引」や「通信傍受」なども有効活用していくことが重要であることをあらためて痛感します。とりわけ「司法取引」は、そもそも組織犯罪対策に対して効果を発揮するのではないかとの期待がありました。例えば振り込め詐欺では、ニセの電話をかける役の容疑者を捕まえても、なかなか首謀者には辿りつけません。そこで末端の容疑者に「誰から指示を受けたのかを明らかにすれば起訴しない」といった取引を持ちかけることで、首謀者をあぶり出せる可能性が出てくると想定されます。一方で、暴力団など組織犯罪にからむ取引では、首謀者などの罪を明かした人をどう保護するかも問題となります。米国では捜査や裁判に協力した人を徹底的に守る仕組みがあります(証人保護プログラム:米国が1971年から運用、24時間体制の警護や新たな身分を用意するもので、過去に約2万人が使ったといいます。イタリアやドイツ、オーストラリアも同様の制度があります)が、日本は不十分です。そのため組織犯罪での活用は難しい構図があります。さらに、トクリュウは組織性はないものの、「見事なまでに細分化された役割分担」と「匿名性の高さ」が組み合わさることによって、上位者の情報がない(もちろん実行犯同士も現場で初めて顔を合わせ、本名も知らない状態が保たれます)ことから、多くの情報を引き出すことが困難な、首魁にまで辿りつくには根本的・本質的な困難さを有しています。ただ、2025年12月に、首都圏で相次いだ「闇バイト」による強盗事件で、警視庁などが「指示役」とされる容疑者4人を逮捕した背景として、捜査で押収したスマートフォン(スマホ)約750台を解析し、シグナルの履歴の一部復元に成功、指示役が利用したシグナルのアカウントが「GG」や「PTA」など50個以上に及ぶこともつかみ、さらに解析を進めると、指示役は数人で、頻繁にアカウント名を変えている疑いが浮上、調べでは、実行役らから「アカウントは変わったが、複数の事件で指示役の電話の声は同じだった」との供述が得られたといいます。こうして浮上した容疑者の追跡など、デジタルとアナログを組み合わせて逮捕にこぎつけた形です。警察幹部は「詐欺のスキームを利用し、手っ取り早く金を稼ごうとしたのではないか。実行役らから指示役の特定につながる供述を得られたことが大きかった。結束力がないトクリュウの弱点を突いた」とコメントしている点は極めて大きな示唆といえます。また、合同捜査した千葉、神奈川、埼玉県警の捜査幹部とともに会見した警視庁刑事部長は「断片的なものを含め一つ一つのピースをパズルのように組み合わせた」と述べていましたが、正に地道な捜査を評価したいと思います。トクリュウによる特殊詐欺において、受け子グループのトップが暴力団員の場合、暴力団内部の規律で身内のことを明かさず、関係するかけ子グループについて供述を得られにくい面もある」(捜査幹部)一方、トクリュウの「匿名性」の高さゆえの結束力のなさという弱点を巧みに突いて有力な供述を得ることができた以上、司法取引のより一層の活用にもつながるものと思います。つまり、司法取引はトクリュウ対策においても威力を発揮する可能性があるのであり、「首謀者」はともかく、「首魁」に辿りつくことが極めて困難で限界があるとはいえ、少しでも中枢に近づき、実態の解明、トクリュウ壊滅につなげるべく、「架空名義口座」「仮装身分捜査」「通信傍受」などの地道(アナログ)だが高度なノウハウが求められる捜査手法と高度なデジタル技術をともに駆使していくことで「道は拓ける」はずだと期待しています。そして、トクリュウ壊滅に向けて警察や政府だけにすべてを頼るのではなく、民間事業者でもできることはまだまだあるのであり、官民連携の強化も今後、大きな鍵を握るものと思います

捜査員が架空の身分証を使って闇バイトに応募し、犯罪グループに接触する「仮装身分捜査」について警察庁は、2025年中に13件を実施し、うち4件で5人の実行役を強盗予備や詐欺未遂の容疑で逮捕したと発表しました。警察庁は「犯罪被害の防止や検挙で一定の効果が出ている。これまでの事例で得た知見を全国警察で共有し、さらに進めていきたい」としています。新たな捜査手法として2025年1月に導入して以降、実施状況をまとめたのは初めてとなります。仮装身分捜査の導入のきっかけは、2024年に関東地方で闇バイトによる強盗などの事件が相次いだことであり、警察庁は2025年1月23日、実施要領を全国に通知、警察が架空の住所や名前、顔を使った運転免許証やマイナンバーカード、学生証などを用意し、詐欺の被害金を被害者から受け取る「受け子」や強盗などの実行役を募集する闇バイトに応募、リクルーター役らとやりとりした上で、指示の通りに指定場所に出向き、現れた「回収役」などの犯罪グループメンバーに接触し、確保する手法で、闇バイトが絡む強盗や特殊詐欺に限り、他の方法では摘発や犯行の抑止が難しい場合に実施できるとされ、警察官が応募者に交ざっていると犯罪グループに思わせる抑止効果や「疑心暗鬼」を生む効果も期待されます。警察庁によれば、捜査員が闇バイトに応募したあと、求めに応じて偽の身分証を提示し、リクルーターらとのやりとりに進んだ捜査が13件あり、そのうち4件で犯罪グループのメンバー5人の逮捕にこぎ着けたといいます。内訳は、強盗の関係が1件で、指定現場に現れたメンバー2人を強盗予備容疑で逮捕しました。特殊詐欺絡みは3件あり、3人を詐欺未遂容疑で逮捕したといいます。このほか3件の特殊詐欺で、犯罪グループメンバーとの接触には進まなかったものの、被害者に伝えて被害を未然に防いでいます。残る6件は、身分証を提示したあとグループ側と連絡が途絶えたといいます。逮捕した事件の中には、捜査員が接触した実行役から関係する人物を割り出す「突き上げ捜査」によって、上位のメンバーの逮捕につなげた例もあるといいます。仮装身分捜査では捜査員が犯罪グループと接触する際などの安全確保が求められますが、作成した架空の身分証は、紛失や目的外使用を防ぐための措置が取られていたことなども含め、警察庁は「危険な状況に置かれたり途中で警察と見抜かれたりしたケースは把握していない」としています。警視庁は2025年6月、仮装身分捜査による全国初の事例として詐欺未遂容疑で1人を摘発したと発表、警察庁は、これ以外について「どの事件で行ったかを特定されると犯行グループに対抗措置を講じられる恐れがある」として、実施した都道府県警や時期、内容を明らかにしていません。警察庁の楠芳伸長官は、「依然、ネット上で犯罪実行者の募集が見られ、特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺の被害額が著しく増加しており、さらなる対策の強化が不可欠だ」「トクリュウは、通信や金融サービスの匿名性を悪用して詐欺を実行しており、この匿名性の壁の打破が大変重要。この1年に得られた経験を生かし、仮装身分捜査にさらに積極的に取り組む」と指摘、仮装身分捜査に積極的に取り組むほか、架空名義口座の導入も図る考えを示しています。

一方、PRESIDENT Onlineの記事「3年間暴力団に潜入し懲戒免職・服役…「警察組織に梯子を外された」元警察官が語る”潜入捜査”の実態」に語られた内容も知っておく必要があります。実は、「日本の警察は1990年代にも、潜入捜査を行っていたことがある。当時、暴力団に潜入捜査をした元警察官に話を聞いたところ『上層部に現場の警察官を守り切る覚悟がない限りやるべきではない。仮にうまくいっても逮捕できるのは組織の下っ端ではないか』と話した」といいます。また、「現場の捜査員からは「現場をろくに知らない警察官僚が『警察は必死にやっています』感をアピールするために打ち上げた。効果は極めて限定的」と辛辣な声も聞かれます。過去、潜入したひとりが元大阪府警のAさんで、警察官の身分を隠して1996年5月から約3年間、山口組の傘下組織に潜入、ところがAさんは1999年7月、潜入捜査中の活動に絡んで複数の違法行為に関与したとして懲戒免職処分を受け、逮捕されました。覚せい剤取締法違反などの罪で起訴され、有罪判決が確定、数年間服役したといいます。Aさんは「私が潜ったのは暴力団だが、仮装身分捜査の対象は暴力団ではなく半グレ集団だ。暴力団以上に何をするかわからないから危険度が増す。潜った警察官の保護対策を、辞めた後も含め万全にしなくてはならない。上層部に現場の警察官を守り切る覚悟がない限りやるべきではない。それに今回の内容を見ると、仮にうまくいっても逮捕できるのは組織の下っ端ではないか。本来逮捕するべき首魁クラスは無理だと思う。そもそもこの種の捜査はひそかにやるべきで、大宣伝したら相手に防御策を講じさせる」と指摘しており、説得力もあります。また、元警察庁長官の金高氏は、Aさんの件を知らなかったといい(それだけ極秘理に実施したことがうかがわれます)、今回の仮装身分捜査については、「ないよりましだが、劇的な効果は期待できない」とみています。犯罪組織は、首魁から末端の間に多くの役割別人物を配置していて、末端は階層が上の人物を知らないし、その人物も同じで、雇われたふり作戦で捜査員が接触できるのは末端で、そこから上層部にまでたどり着けない、というのが理由で、金高氏は「末端の者を『協力者』として運用してはどうか」と提案しています。

およそ20年にわたり不正融資を続け、暴力団に対する10億円の現金供与や不正融資を行っていたいわき信用組合に対して、東北財務局が刑事告発に踏み切りました。調査での虚偽報告や答弁が法律違反にあたると判断したものです。信組や信用金庫の不祥事が相次いでおり、金融庁はガバナンス(企業統治)向上に向けて対応強化を求める方針です。いわき信組を所管する東北財務局がいわき信組と元役員らを福島県警に刑事告発しました。金融庁は2025年10月、いわき信組に対して準用する銀行法に基づき一部業務内容の停止を含む業務改善命令を出しました。虚偽報告などが「協同組合による金融事業に関する法律」に違反するとして、刑事告発を検討していました。金融当局が金融機関を告発するのは極めて異例で、金融庁は金融機関の業務に問題が起きた場合に、業務改善命令や業務停止命令を出して是正を求めることが多いところ、2004年に旧UFJ銀行、2010年に旧日本振興銀行をそれぞれ銀行法違反(検査忌避)で刑事告発しましたが、今回、行政処分にとどまらず刑事告発に踏み切るのは、不正の実態把握に重大な影響を与えたためです。例えば検査の際に役職員が検査官に対して、重要データを保存するパソコンを「自分で損壊処分した」と虚偽の回答をしたほか、2024年11月に金融庁がいわき信組に出した報告徴求命令に対する報告でも虚偽の内容がありました。今後は福島県警が告発を受理し、捜査で証拠の収集にあたることになります。検察がいわき信組や元役員を起訴すれば、公判の過程に入り、元役員に有罪判決が出るかや、法人としてのいわき信組に罰金が科されるかどうか判断が注目されます。いわき信組は口座への架空貸し付けなどで特定の大口融資先に資金を流し、不正融資の総額は200億円を超えました。元理事長の在任中の2004~16年の間、不正融資を指摘する右翼系政治団体の街宣活動を中止するなどと持ちかけられて10億円前後の現金を反社会的勢力に支払っていました。いわき信組の現経営陣も旧経営陣の責任を追及するため、2025年12月に損害賠償請求訴訟を起こしました。江尻次郎前会長ら元常勤役員20人に対し、不正融資への関与や調査妨害などを理由に32億円の賠償を求めています(近く刑事告訴にも踏み込みます)。そもそもガバナンスの強化は信金・信組業界全体の課題です。苫小牧信用金庫では1998年ごろから信用金庫法で原則禁止される不動産業務を北海道財務局に隠したままに子会社がしていたことが発覚しています。いわき信組への当局の厳格姿勢は、対応の悪質性に加え、金融当局としてこうした事例の再発を防ぐ必要があり、同様の不祥事に対して抑止効果を持たせる意味もあるとみられています。また、いわき信組の不正は2024年11月に信組側が公表するまで発覚しませんでした。公的資金を注入したにもかかわらず金融当局が見抜けなかったことにも批判があり、金融庁は「大いに反省しなければいけない」(伊藤豊長官)という立場であることも影響しています。なお、いわき信用組合は、金融庁に業務改善計画の進捗状況を提出し全職員を対象とした不正防止の研修会を開いたことなどを報告しました。進捗の報告は定例のもので、2025年12月末時点の状況を取りまとめたもので、研修は警察OBや弁護士らが講師となり2026年1月までに5回開催、パートを含む職員ら約180人が参加、同信組が反社会的勢力への不正融資などを繰り返したことから、不当要求への対処方法などを学んだといい、金成理事長は「研修は繰り返すことで身につく。今後も継続したい」と話しています。会見では業務改善命令を受けた2025年5月以降、控えていた新規顧客などへの融資を2026年1月から本格的に再開したことも明らかにしました。新規顧客への融資業務の停止は2025年10月に金融庁が出した行政処分にも盛り込まれていました。

「餃子の王将」を展開する王将フードサービスの社長だった大東隆行さん=当時(72)=の射殺事件で、殺人罪などに問われた工藤會傘下組織幹部の田中幸雄被告の第3回公判が、京都地裁で開かれ、京都府警科学捜査研究所の職員らが出廷し、現場で見つかったたばこの吸い殻から検出されたDNA型が田中被告のものと一致したと証言しました。検察側は吸い殻2本の付着物から、被告と同じDNA型が検出され、被告が大東さんを待ち伏せていた際に吸ったものだと主張しています。また、吸い殻が落ちていた通路を事件前日の朝に通った王将フードサービスの元社員も出廷し「(通路に)普段からごみは落ちていない。たばこの吸い殻もなかった」と答えました。吸い殻は事件当日の犯行前に被告が吸ったものだと立証するためのやりとりとみられます。田中被告は初公判で起訴内容を否認し、無罪を主張しています。続く第4回公判では、検察側の証人として警察官が出廷し、犯行現場近くで見つかったたばこの吸い殻などについて証言しています。証人は、当時府警の捜査1課で吸い殻の燃え方などについて実況見分した警察官で、地面にたたきつけてたばこの火を消すと、現場近くで採集された吸い殻と似た形状になると証言しました。さらに第5回公判では、犯行に至る過程で関わったとされる軽自動車について証人尋問がありました。検察側の冒頭陳述によれば、現場から逃走に使われたオートバイは2013年10月に京都府城陽市の民家で盗まれたもので、同時期にスクーターが京都市伏見区の飲食店の駐車場から盗まれており、現場の防犯カメラにスクーターと軽自動車が一緒に走り去る様子が映っていました。検察側は、この軽自動車が被告の幼なじみのものだと主張しています。第5回公判で検察側証人として法廷外からビデオリンク方式で参加し法廷に立った幼なじみは、「親分の別荘を改築するため」と聞いて車を貸したと説明、防犯カメラに映った軽自動車は自分のものと違ったところがないかと問われ、「特別ないが、(自分のものと)一緒とも思っていない」と話しています。また、射殺事件後には被告から返却された車を洗車するよう依頼されたり、「警察来てないか」と確認されたりしたとも証言しました。また、元警察庁科学警察研究所の職員が証人出廷し、現場で押収されたたばこの吸い殻について「(第三者が)持ち込むことは非常に難しい」などと証言、元職員は「たばこの火は吸った直後に水にぬれた路面で消された」と説明、事件当日、周辺は小雨が降っており、「押収現場で消火されたと推定できる」とし、第三者が吸い殻を現場に置いた可能性は低いとしました。京都地裁によれば、第10回の公判まで証人尋問がある予定で、2026年6月29日の第11回公判に論告求刑があり、判決は同10月16日に言い渡されます。

住吉会傘下組織「幸平一家」について、警視庁は、集中的に取り締まる特別対策本部を設置しました。幸平一家による事件が相次いでいるとして、警視庁は集中的な取り締まりを行うため特別対策本部を設置したものです。対策本部は、同庁の暴力団対策課内に置かれ、75人態勢で活動実態の解明や摘発を進め、組織に関する情報を一元的に集約、資金源の根絶にも取り組み壊滅を目指すとしています。指定暴力団の傘下組織に対して警視庁が特別対策本部を設置するのは初めてですが、福岡県警による特定危険指定暴力団工藤會、愛知県警による特定抗争指定暴力団六代目山口組傘下組織の弘道会への対策と同様に、集中的な捜査に乗り出すことになります。警視庁は2025年12月、特殊詐欺に関わったとして、幸平一家傘下の組員2人を逮捕しました。特殊詐欺グループの統括役と見られています。幸平一家は、近年はトクリュウと濃密に関係しながら特殊詐欺の甚大な被害を生んでいるとされます。また、違法な資金獲得活動を多様化・活発化させ、暴走族OBや若者を取り込んでいるともいわれており、組員の数はおよそ800人で住吉会全体(約3200人)の約4分の1を占めています。捜査幹部は「暴力団全体が年々減っていく中、幸平一家の傘下では逆に若い層が増えているところがある。おそらく特殊詐欺で相当潤っており、もはや看過できない」と話しています。組長へ捜査が波及するのを恐れて「詐欺に手を出せば破門」とする指定暴力団もある中、住吉会系は「幹部が特殊詐欺を事実上黙認している」(捜査関係者)といい、警視庁によると、2025年に特殊詐欺で摘発した暴力団組員(準暴力団含む)のうち6割が住吉会系で、その7割が幸平一家(2025年、都内で特殊詐欺に関わったとして逮捕された暴力団員のうち、およそ4割が「幸平一家」の組員だった)といいます。「詐欺事件の容疑者には、組員の手下のような人物が多い。トクリュウだと言っても、結局は背後に暴力団がいる。幸平一家の場合、もはや組員がトクリュウを構成しているとすら思われる実態がある」と捜査幹部は指摘、実際の組員数以上に傘下の人数は多いとみられるが、その実態把握は警察にとっても困難で、末端の組員が関与した特殊詐欺事件の賠償責任が組トップにあるとする民事裁判の判例もあり、捜査幹部は「組の傘下にいながら、あえて組員とせずに水面下で犯罪に関与させるケースも相当数あるだろう」とみています。さらに詐欺だけでなく「闇バイト」を使ったトクリュウによる強盗事件にも、背後には暴力団の影がちらついており、2024年8~11月に首都圏で相次いだ連続強盗では、2025年12月に捕まった指示役とされる4人のうち、1人が住吉会の周辺者でした。違法薬物の密売事件で組員が逮捕される事案も後を絶たず、警視庁は今回、幸平一家に狙いを一本化、「あらゆる犯罪に関わっている。組織の手足だけでなく、中枢をたたく必要がある」として、75人態勢の特別対策本部で取り締まりを強化するとしたものです。犯罪ジャーナリストの石原氏によれば、若者が多く集まる新宿・歌舞伎町を縄張りにしている点が大きい」と指摘、「暴力団対策法が施行された1992年以降、暴力団組織の収入源が限られてくる中、幸平一家は、いち早く特殊詐欺に目を付けたといいます。そして、若者が多く集まる新宿で魅力的な報酬額を提示し、実行役を効率よく集め、勢力を拡大してきたといいます。特殊詐欺グループは、詐欺電話を掛ける「かけ子」や、被害者から金を受け取る「受け子」などの実行犯の上に「指示役」が存在、さらにその上にいる、いわゆる「黒幕」といわれる部分で「幸平一家」の組員が暗躍、「指示役」に対して海外に拠点を作ることなどを指示し資金やノウハウ、闇名簿を提供するなどしているといいます。特別対策本部の設置について、石原氏は「警察が幸平一家を名指しすることで、幸平一家の下で特殊詐欺に加担していた者が摘発を恐れ、離れていくことが期待できる。さらに、特殊詐欺を行っている他の暴力団への抑止にもつながるのでは」と述べています。一方で、摘発を逃れるために、特殊詐欺で得た資金の流れをさらに複雑化させてくる可能性もあるとも指摘しています

2026年1月21日付朝日新聞によれば、神奈川県警と、公益財団法人「神奈川県暴力追放推進センター」が暴力団から抜けた元組員の支援に力を入れているといいます。社会復帰のカギの一つとなるのは、銀行口座の開設で、組員をやめて、2024年から関東地方の建設会社で働く男性(40)は、「(県警と同センターの)協力がなければ今の自分はない」と述べています。報道によれば、出所後、県警などの支援を受け、今の建設会社に就職することができたものの、口座の開設に苦労、組員時代に持っていた口座は、トラブルに巻きこまれる可能性があるため、解約していたため、地方銀行の窓口を訪れたが断られ、理由を尋ねても、「適正でない」と返ってくるだけだったといいます。金融機関は、暴力団組織が不当に活動資金を得る温床になることなどを防ぐため、組員からの口座開設の申し込みには応じていません。同センターによれば、組を離脱後も5年間は銀行口座がつくれないといったルールを設けている場合が多い実態があります。そこで、離脱支援を担当する県警の捜査員らが一緒に別の金融機関を訪れ、男性がもう組員でないことなどを熱心に説いたところ、スムーズに手続きが進み、給料の振込先として使える口座をようやく開くことができたといいます。県警と県暴力追放推進センターは、記録が残る2010年から2025年末までに計473人の社会復帰を支援、離脱者を受け入れる協賛企業は建設業を中心に県内で18社にのぼり、金融機関の口座開設への支援は2022年から始めています。同センターの井本専務理事は、「給料の振り込み、電気代の支払いなど、生活を送る上で欠かせない。社会生活の第一歩だ」と強調しています。神奈川県警によれば、2026年1月1日現在の県内の暴力団の構成員(準構成員を含む)は1300人、組織数が96にのぼり、20年前と比べると3分の1程度になり、組織数も114から減少しています。暴力団からの離脱をめざす人に向けて、井本さんは「社会復帰のためには仕事が必要。自分で探すのが難しければ、相談に来てほしい」と呼びかけています。本コラムでは暴力団離脱者支援について、事あるごとにその重要性を指摘していますが、神奈川県警と暴追センターのタッグにより、金融機関に直接働きかけることの効果は大きいと考えます。金融機関にとって、暴力団離脱者のリスク評価は自立的・自律的なリスク管理事項であり、そのリスク低減策があるということは、(暴力団離脱者だけでなく)金融機関にとっても「一歩前に踏み出せる」ことになります。

暴力団組長が家族名義のETCカードを使い不正に高速道路料金の割引を受けたとして罪に問われた件の裁判が、2026年1月、大阪高裁で開かれ、大阪高裁は1審の無罪判決を破棄し、審理を大阪地裁に差し戻しています。暴力団組長が家族名義のETCカードを使って高速道路を利用し、不正に通行料金の割引を受けていたとして電子計算機使用詐欺罪に問われていた件について、2026年1月20日、大阪高裁で暴力団の会長と事実婚の妻、クルマを運転していた組員に対する裁判が開かれました。これは2022年12月、会長と妻、組員の3人が共謀し、クルマに同乗していない妻のETCカードを使って大阪府内の有料道路を2回走行し、1140円分の割引を受けたとして起訴されたものです。一般的に高速道路会社の利用規約では、「ETCカードによる料金の支払いは、通行の都度、クレジットカード会社から貸与を受けている本人が乗車する車両1台に限りおこなうことができる」とされており、ETCカードを利用する際には原則として名義人が乗車していなければなりません。そのため家族間でETCカードの貸し借りをおこない、本人が同乗しない状態で高速道路を利用すると、割引によって本来支払うべき通行料金を免れたとして、電子計算機使用詐欺罪に問われるおそれがあります。なお、2025年1月におこなわれた大阪地裁での裁判(1審)では、暴力団員がクレジットカードの保有や利用をできなくする「暴力団排除条項」を免れようとする行為として、検察が違法性を主張していました。しかし1審では、ETCカードはクレジットカードほどの本人確認が求められていないことや、家族間でのカードの貸し借りが不正だと十分に周知されておらず、家族間での貸し借りが相当数おこなわれている現状を踏まえ、被告らに無罪を言い渡しました。そして今回開かれた2審では、妻名義のETCカードを、妻がクルマに同乗していないときに利用した行為が不正利用に当たるかどうかが争われました。裁判長はETCカードが暴力団の活動にともなう移動の際にも使われていた点を指摘し、「一般的な夫婦間の貸し借りと単純に評価できるものではない」として、カードの不正利用に当たると判断、1審の無罪判決を破棄しています。加えて、1審が「判断していない争点もある」として、審理を差し戻しました。実は同様の裁判は過去にもおこなわれており、2024年5月には別の暴力団会長が弟名義のETCカードを使って大阪府内の高速道路を走行し、計1400円の割引を受けたとして大阪地裁で懲役10か月の判決を受けています。同判決では、上記のような行為は暴力団排除条項を免れるものであり、常習性を考慮すると「差別的」との主張は当たらないと結論付けています。大阪高裁もこの判決を支持しており、被告側は最高裁に上告しています

全国に約1500人のスカウトを抱え、年間45億円を稼いでいたとみられる違法スカウトグループ「ナチュラル」を率いていた会長・小畑寛昭容疑者が、暴力団へみかじめ料を支払った東京都暴力団排除条例(暴排条例)違反の疑いで、奄美大島で逮捕されました。ナチュラルは、トクリュウとされ、新宿・歌舞伎町を中心に全国に1500人以上のメンバーを擁しています。また、ナチュラルは2022年の1年間だけで、紹介料などで44億5000万円の違法収益を得たとみられており、警視庁は、一部が暴力団の資金源になっていたとみて全容解明を進めています。小畑容疑者は2023年7月、仲間と共謀し、渋谷の繁華街でのスカウト行為を容認してもらう見返りに、六代目山口組系組幹部にみかじめ料の現金60万円を渡した疑いが持たれています。2025年8月に同容疑で組幹部の男や共謀したナチュラル幹部の男らを逮捕していました。警視庁は2025年1月、小畑容疑者の逮捕状を取得したものの、小畑容疑者は行方が分からなくなっていました。ナチュラルは2020年、「歌舞伎町スカウト狩り」で暴力団のターゲットにされたグループで、歌舞伎町関係者は「イケイケの半グレのナチュラルが別のスカウトグループのスカウトを引き抜き続け、トラブルになった。そのスカウトグループが暴力団に相談し、ナチュラルと交流のある暴力団と話し合い、両暴力団が和解案をナチュラルに飲ませようとしたが、小畑容疑者が拒否。そこで暴力団が歌舞伎町で夜な夜な100人規模でナチュラルのスカウトを探し出してはボコボコにする「スカウト狩り」を続けた。その後、暴力団側が勝利宣言を出したんです」と述べています。その後、小畑容疑者は、歌舞伎町から姿を消したとされます。実は、スカウト狩りが起こった時期はナチュラルのメンバーは800人規模と伝えられていましたが、現在は1500人以上に増えています。報道によれば「歌舞伎町に立ち入ることができない小畑容疑者は渋谷など別の繁華街で活動を続け、その際に暴力団と対立するのではなく、みかじめ料を払うという形を取ったのでしょう。それでナチュラルはますます勢力が拡大したようです」とのことです。警視庁の指名手配書によれば、小畑容疑者は「木山」「西田」「西方」「小長谷」「谷山」「山田」などの異名を名乗っていたといいます。また、その組織は会社並みで、(週刊誌上の情報ですが)事情を知る者いわく「ナチュラルは大きくスカウト部門と運営部門に分かれます。ナチュラルのスカウトになるには、Xで1000人以上のフォロワーを持っていることが条件。彼らは、ネカマ(女性へのなりすまし)や羽振りのいい遊び人キャラを演じ、Xを通じて知り合った女性たちを希望する店舗につないで紹介料を得る。運営部門はスカウトや紹介した女性、風俗店などの情報を網羅したアプリを運用して、店と女性のマッチングの促進や従業員管理を図る一方、警察を『ウイルス』『プロ』と称して取り締まり情報や捜査員の顔写真を共有する。警察の抱き込みにも積極的で、昨年にはナチュラルに防犯カメラの設置場所といった捜査情報を漏洩した容疑で警視庁の警部補が逮捕されています。そして、カネを横領したスカウトには徹底したヤキを入れて組織を引き締める。暴力とITで急成長を遂げました」また、暴力団関係者は「スカウトグループは女の子だけでなく、犯罪を犯してでもカネを稼ぎたいという若い男たちの情報も持っている。例えば、付き合いのあるキャバクラ店から多額のつけがたまっている若者などを教えてもらい、こいつらを特殊詐欺や強盗事件の実行役へと取り次ぐ役割を担っていて、トクリュウの受け皿となっている。特にナチュラルはヤクザとの関係を深めたことで日本人女性の海外風俗への派遣も行っているとされる。その中には、行方不明となった失踪事案もある。こうした人身売買の疑いもあることから、警察はナチュラルをはじめ悪質スカウトグループの摘発に躍起になっている」と指摘している点は参考になります。「ナイトビジネスという専門領域を超えて、各種の犯罪の玄関口となってきたスカウトグループが、社会の新たな脅威となっているのだ」との指摘は正に正鵠を射るものといえます

指示役「ルフィ」らによる強盗事件で、強盗致死罪などに問われた指示役で犯行グループ幹部の藤田聖也被告の公判が東京地裁で開かれ、検察側は「一連の強盗事件に計画段階から関与し、司令塔として中心的な役割を果たした」として無期懲役を求刑。弁護側は「有期の懲役刑が相当」と訴え、結審しています。藤田被告は2022年10月~23年1月、仲間と共謀し、1都3県の住宅や店舗を狙った強盗事件7件を起こし、凶器などで暴行して死者1人、負傷者5人を出したほか、計約1億円相当を奪ったなどとして起訴されました。検察側は論告で、藤田被告が一連の強盗事件で、SNSなどで集めた実行役に通信アプリで犯行の段取りや暴行を指示していたとし、「寄せ集めの実行役を組織し、危険性の高い犯罪グループの形成に重要な役割を果たした」と非難しています。藤田被告は公判で、凶器による暴行の指示を否定しましたが、検察側は、凶器の準備や暴行を指示されたとする実行役の証言を基に「凶器での暴行を認識していたことは明らかだ」と指摘、事件は過去に例のない凶悪重大なもので、模倣した事件も起きているとし、「厳罰にすべきだ」と述べました。弁護側は最終弁論で、藤田被告が当時収容されていたフィリピンの入管施設で、グループ幹部だった渡辺優樹被告(強盗致死罪などで起訴)らの奴隷のように生活していたとし、「渡辺被告らの指示を断れず、強制されて強盗に関わった」と強調、犯行の報酬は得ておらず、役割も限定的だとして強盗のほう助犯にとどまると述べました。藤田被告は最終意見陳述で「被害者や遺族には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです」と謝罪しました。本事件は、フィリピンにいるグループ幹部が「ルフィ」や「キム」などを名乗り、SNS上で集めた闇バイトの実行役らに指示して起こしたとされ、トクリュウによる凶悪犯罪の「先駆け」とされ、フィリピンから強制送還された藤田被告ら幹部4人と実行役40人以上が逮捕されました。実行役や実行役を集めたリクルート役の幹部には有罪判決が出ています。なお、ルフィグループについては、フィリピン国内には複数の「箱」と呼ばれる、詐欺の担当地域ごとに区切られた組織があり、箱を仕切る「箱長」の下で複数のかけ子が活動し、被害者からキャッシュカードを受け取る受け子や、ATMから引き出した現金の回収役もいたといい、運搬役が日本からフィリピンに現金を運び、小島被告を経由して渡辺被告にわたる仕組みだったといいます。詐欺の手口については、かけ子は警察署の職員になりすまして最初に被害者に接触する「1線」と、これと連携して金融庁職員などを装う「2線」、豊富な経験を持ち、受け子に直接指示を出す「3線」に分けられていたといい、役割ごとにマニュアルがあり、被害者の手元に必ずキャッシュカードを用意させること、1週間は封筒に入れて被害者に保管させることなど詳細に及んでいたといいます。また、報酬制度も細かく設定されており、リクルートしたかけ子や受け子の成功に応じて報酬を受け取り、かけ子の場合は引き出した金額の5%、受け子の場合は4~5%、報酬は役割ごとに異なり、「ボス」と呼ばれていた渡辺優樹被告=強盗致死罪などで起訴=は組織全体の収益の30~40%、組織の構成員に物品支給などを担当した小島智信被告=強盗致傷幇助罪などで懲役20年判決、上告中=は2%と毎月固定の報酬、実行役では、受け子が口座から引き出した金額の5%、かけ子が引き出した金額の5~10%だったといい、1カ月当たりの引き出し額が一定を超えた場合、「月ボーナス」が上乗せされるなど、役割や成果に応じた細かい報酬が設定されていたといいます。

警察官に成り済まし、盗んだキャッシュカードで現金を引き出したとして、福岡県警は、詐欺と窃盗の疑いで、フィリピンを拠点とする暴力団系の日本人集団「JPドラゴン」幹部の小山智広容疑者と佐藤翔平容疑者=いずれも服役中=を逮捕しました。2人は、「ルフィ」を名乗り広域強盗を指示したとされる特殊詐欺グループでも幹部でした。県警によれば、JPドラゴンは2019年11月ごろ、ルフィグループを乗っ取る形で特殊詐欺を開始、2人は組織運営に関与する立場だったとみられています。逮捕容疑はJPドラゴン構成員らと共謀し、2022年12月、警察官を装って岐阜市の高齢女性から現金140万円をだまし取り、その際に盗んだキャッシュカードを使ってATMから10万円を引き出すなどした疑いがもたれています。2人は2023年5月以降、特殊詐欺に関与したとしてフィリピンから移送され、警視庁に窃盗容疑で逮捕され、有罪判決が確定し、服役中でした。既に逮捕・起訴されている他のメンバーの供述などによれば、ホテルやマンションの一室に「箱」と呼ばれる電話のかけ場を置き、数人で電話をかけていたといいます。2人は、これ以前はフィリピンから「ルフィ」を名乗り広域強盗事件を指示したグループでかけ子のまとめ役をしていたとみられており、県警は2019年ごろに「ルフィ」グループの特殊詐欺部門が「JPドラゴン」に吸収されたとみています。JPドラゴンによるニセ電話詐欺の被害者は少なくとも20都府県の250人、被害額は約9億円に上ると県警はみています。

横浜市の住宅に押し入り金品を奪って、男性を死亡させた事件を指示したとして、警視庁などの合同捜査本部は、無職の男4人を強盗致死と住居侵入の疑いで再逮捕しました。18件相次いだ一連の強盗事件はどのような事件だったのか振り返ると、2024年夏以降、一戸建て住宅などが狙われる強盗事件は連日のように報道され、不審な人や車に関する110番通報や、防犯グッズの売り上げが急増しました。同10月には横浜市青葉区で後藤寛治さん(当時75)が暴行を受けて死亡する事件が発生するなど深刻さは日に日に増していきました。一連の事件の背景にあったのが、SNSで「ホワイト案件」「高収入」などとうたって、実行役らを募る闇バイトでした。事件ごとにメンバーは変わり、実行役を逮捕しても事件は相次ぎ、2024年8月~11月に関東の1都3県で発生した闇バイトが絡む強盗事件は18件で、被害者は22人(死者1人含む)、奪われた金品は計約2300万円にのぼりました。実行役らと指示役とのやりとりには、一定の時間が経つとメッセージが削除される匿名性の高いアプリ「シグナル」が使われ、「パトリック」「(株)グラードン」といった名前のアカウントを使っていました。指示役の摘発に向けた捜査は難航、事態が動いたのは2025年12月で、合同捜査本部は千葉県市川市の事件を実行役らに指示したとして、男4人を逮捕、横浜市の事件でも指示をしていた疑いが強まったとして、4人の逮捕に踏み切ったものです。残る16事件との関連も押収したスマホの解析などから捜査を続けるとしています。警察庁などによれば、18事件のこれまでの逮捕者は55人で、内訳は指示役4人のほか、実行役ら38人、被害品の回収役ら12人、闇バイトのリクルート役1人などとなっています。警察庁幹部は「『高額報酬』という文句につられて闇バイトに応募しても、受け取れないことが多く、指示役にとっては捨て駒にすぎない」と警告、一連の事件はトクリュウによるものとして、対策強化が進んでおり、警察庁は、闇バイトの応募者への保護を呼びかけたり、捜査員が偽の身分証を使う「仮装身分捜査」を導入したり、トクリュウ捜査の司令塔「匿流情報分析室」も設置しています。

上野に羽田、香港と相次いだ巨額強盗事件には、やはり「内通者」がいました。まだまだ謎の多い事件ですが、金塊の取引に関して運搬されていた現金が狙われた、暴力団と海外の犯罪グループが連携していた事件とみて間違いないと思われます。背景を読み解くカギは、上野・御徒町周辺でうごめく金密輸グループとその拠点の存在です。御徒町至近の上野の路上で4億2300万円が強奪され、襲撃犯は車で逃げる途中にひき逃げ事故を起こして車を乗り捨てました、翌日未明の羽田空港では1億9000万円の強盗未遂があり、そして同日午前(現地時間)には、香港中心部の上環で5100万円が奪われました。これらの現金はすべて金の取引に関係しているとみられていますが、羽田から香港に運ばれた、あるいは運ばれようとしていた現金が、どこでどのような取引を経たものかについては、判然としません。警察に対し、羽田の被害者は「現金は金を売却して得た。毎日のように日本円を香港に運んでいる」と言っています。上野の被害者も「日本円を香港に運び、両替する仕事をしていた」と話す一方で、「誰のものかは言いたくない」と口にしています。その後、香港警察が、日本人二人から5100万円を奪ったとして男女6人を強盗容疑で逮捕、起訴されて初公判に出た4人のうち、3人が日本人男性でした。被害を訴えた日本人二人のうちの一人が鈴木被告で、香港警察は、彼が現金運搬情報を犯人側に漏らしていた「内通者」だったと明かしています。羽田の強奪未遂現場にいた鈴木被告はそのまま香港へ飛んでおり、内通者がいるため、ピンポイントの襲撃も可能だということです。鈴木被告は、上野から羽田、香港と続く強盗の連鎖すべてに関与していたのかについては、警察は、鈴木被告も上野の事件になんらかの形で関与していた可能性があるとみており、一連の事件は、現金が香港に運ばれている点や、上野も羽田も催涙スプレーで襲うという同じ手口である点から、同一グループが別々の実行役を立てたとみられています。襲撃犯の車が暴力団関係者の名義だった事実と併せて捜査中だといいます。なお、金の密輸で荒稼ぎしているのが、中国人経営者の金密輸グループで、同グループは中国人犯罪組織内でも最大勢力とのことです。その手口は、週刊誌情報にいよれば、「グルになった香港などの旅行会社が「これを持って行けばツアー代金を割引する」と観光客を誘い、銀メッキで偽装した金のアクセサリーなどを日本に密輸させる」「空港に着いた観光客から、中国人経営者の部下が金を回収し、「中国人観光客らが持ち込んだアクセサリーや金粉などを延べ板状に「焼き直し」してから、貴金属買い取り業者に転売する。その大口の転売先が、同じ御徒町にある業者でした」「金の仕入先である旅行会社などに消費税10%の半分を手数料として渡しても、ぼろ儲けだ」といいます。店舗に持ち込まれる密輸された金は1日50キロ以上で、1日の儲けは当時のレートでゆうに2000万円近くにもなる計算で、中国人経営者はその資金で都内の不動産を物色し、中国人観光客向けの白タク営業まで始めました(しかもその車はベンツという豪華版)。今回の事件は、こうした土壌がある御徒町の近くで起きています。中国人犯罪組織と関係を保っている日本の暴力団が、金の密輸で潤っているとの側面もあります。その恩恵に与れなかった暴力団や、それに準ずる海外の組織が犯行を企てた可能性も視野に入れる必要もあります。金の密輸、脱税で得た裏のカネを毎日のように海外へ運んでいたのだから、いつ何時、情報を入手した組織から狙われてもおかしくない状況だったといえます。

現代ビジネスによれば、六代目山口組の元直参が六代目山口組に対して、上納金の返金を求めているという情報が報じられています。返金を求めた元直参は、20年近くその地位にあったといい、遡って請求するとしたら億単位の請求となる可能性があります。そもそも上納金は、広域暴力団の根幹をなす「資金源」で、上納金制度を支払う側の小規模暴力団にとっては、縄張りを拡げることができ、組織の力を強めることがメリットになるほか、資金源活動(シノギ)が効率的にできることも大きなメリットとなります。互いの利害が一致する形で組織が膨れ上がり、山口組・住吉会・稲川会という3大組織が生まれていきました。特に山口組は、組織内の跡目争いも激しく、傘下の組織同士が拡大を繰り返したことで日本最大勢力の暴力団になった背景があります。一方で、傘下組織にはその支払いが重くのしかかっています。上納金をめぐって最も大きなトラブルになったのが、2015年の六代目山口組分裂騒動です。六代目山口組が司忍組長の母体である弘道会に権力が集中していたことに続いて、高額の上納金に六代目山口組の中核組織だった山健組の井上邦夫組長が反発したことがきっかけです。井上組長は神戸山口組を立ち上げて上納金の減額を行いましたが、その後に値上げしたため、組織内の統率力は落ちていきました。このように上納金は、広域暴力団の権威を高める手段と同時にトラブルの種でもあり続けています。そして返還請求は、暴力団事情に詳しい弁護士がサポートすると言われていますが、もし返還に成功したら、六代目山口組にとっては大変なダメージとなる可能性があります。元暴力団組員で弁護士の諸橋仁智氏はあくまで一般論とした上で「法律には、不当利得という考えがあります。法的な根拠なく暴力団に払った金は取り戻せるという理屈です。支払った上納金は有効な契約に基づくものではなかった。なので金を返せという訴えです。ただ暴力団は法人格がありませんから、訴えの被告にはなれません。上納金は間に人を介したりして支払われますので、訴訟の目的が上納金を集金した人ではなく暴力団組織ということであれば、不当利得を法的根拠とすることは適さないでしょう。そうなると現実的なのが『不法行為』という法律です。不当利得に似ていますが、この法律では組織に責任がある【使用者】―つまり山口組組長まで訴えることができます。もし訴訟するとしたら不法行為を根拠に訴えるのだと思います」とのことです。六代目山口組としては、上納金は「会費」であるという立場を取り、元直参側は「そんな約束は存在しない」と主張する可能性があります。一方、暴力団被害を長く取り扱ってきた近畿地方のある弁護士は、「今回の訴訟がもし行われれば、暴力団の上納金の使い道やシステムが分るチャンスになるかもしれません。暴力団の上納金は長い間ブラックボックスになっています。日本弁護士会は、上納金に対して課税すべきと訴え続けています。しかし戦後80年経った今も出来ていません。暴力団の壊滅や犯罪捜査に置いて重要な意味を持つかも知れません」と指摘している点は極めて興味深いところです。

佐賀県伊万里市で2011年、指定暴力団「九州誠道会」(福岡県大牟田市、現・浪川会)傘下組織幹部ら2人が銃撃され死傷した事件で、福岡、佐賀、熊本、長崎の4県警合同捜査本部は、対立抗争中だった道仁会傘下組織元組員の男性2人を殺人と殺人未遂、銃刀法違反の容疑で逮捕しました。道仁会で当時ナンバー2の理事長だった坂本康弘被告(70)=別の殺人罪などで公判中=についても殺人容疑などで逮捕されました。元組員2人と坂本被告は実行役の男性組員らと共謀し2011年4月5日、伊万里市の病院の正面出入り口前で拳銃で弾丸4発を発射し、九州誠道会系の男性組幹部(当時57歳)を殺害したほか、一緒にいた男性に重傷を負わせた疑いがもたれています。坂本被告は事件の「指示役」で、元組員のうち1人は実行役を車に乗せて逃走を支援したとみられています。事件を巡り、捜査本部は2011年7月までに殺人や殺人ほう助などの容疑で道仁会傘下組織幹部や組員ら計8人を逮捕しましたが、うち7人は不起訴処分となりました。唯一、殺人罪などで起訴された実行役の組員は2012年3月に佐賀地裁で無期懲役判決を受け、2012年6月に確定しています。今回逮捕された元組員2人も、この時に不起訴処分となっていました。刑事手続きでは同一容疑での逮捕は1回までとする「一罪一逮捕一勾留の原則」がありますが、新証拠の発見など特別な事情があれば2回目の逮捕も可能となります。捜査本部は14年超に及ぶ捜査で、坂本被告と元組員2人が事件に深く関与したとする新たな証言などを入手したといいます。捜査本部が着目したのは当時、道仁会のナンバー2として絶大な力を誇っていた坂本被告を頂点とする「ピラミッド構造」の解明で、捜査本部は組織内部を知る複数の関係者に接触を重ね、坂本被告が事件の「指示役」として配下の元組員2人や実行役を動かしたとする新証言を入手したといい、最初の逮捕時には不明だった「指示系統」を解明したことで異例の2回目の逮捕にこぎ着けたものです。福岡県警には過去に、同様の手法で工藤會のナンバー2、田上不美夫被告=殺人罪などで1、2審で無期懲役、上告中=を立件した実績がありました。なお、九州誠道会と道仁会の対立抗争は、2006年の道仁会の会長人事に反発した一部組員が分裂して九州誠道会を結成したことで始まりました。坂本被告は、2008年9月に大牟田市で九州誠道会幹部を射殺したとして2022年11月までに殺人などの容疑で逮捕、起訴されていました。この事件でも捜査当局は「指示役」だったとみていますが、坂本被告は2026年1月に福岡地裁で開かれた初公判で「すべて違っている」などと述べ、起訴内容を全面否認しています。検察側は冒頭陳述で、坂本被告が実行役や襲撃対象者の調査役を指名し、最終的に殺害を指示したと主張、坂本被告は事件後に道仁会ナンバー2の理事長に昇格したといいます。なお、九州誠道会と道仁会は、2012年に改正暴力団対策法に基づき全国で初めて「特定抗争指定暴力団」に指定され、いずれも2014年に解除されています。

福岡市博多区に拠点を置く指定暴力団福博会が、本部事務所と土地を売却していたことが分かりました。福博会は2025年11月、福岡市博多区千代にある鉄筋コンクリート4階建ての本部事務所と土地を福岡市内の2つの会社に売却したということです。福博会トップの金国泰会長は2025年9月、福岡市近郊にある木造2階建ての住宅を購入していましたが、2026年1月に金会長が死亡していたことも判明しています。福博会は福岡県内に拠点を置く5つの指定暴力団のうちの1つで、2025年末の時点で構成員は約50人(県外勢力を含めると約60人)とピーク時から約480人減少していました。警察は、本部事務所の移転先や次期会長の人事について情報収集を進めています。

2026年1月23日付産経新聞の記事「組事務所をゼロにした最前線のまち」は大変大きな学びを得られるものでした。具体的には、「昭和60年、兵庫県尼崎市で起きた暴力団抗争による流れ弾で19歳の女性が命を落とした。母の堀江ひとみさんは組長の使用者責任を追及する損害賠償訴訟を起こし、社会の潮流を変えた。その代理人として奮闘し、以来暴力団追放の゛ミンボー弁護士”として先頭に立ってきたのが垣添誠雄(もとお)さん(84)だ。「わが国は暴力団の存在自体を憲法で合法だと保障しており、暴力団対策は住民の多大な勇気と負担の上に成り立っている。尼崎市は人口45万人の小さな都市ですが、改正条例は法体系を国際水準に高める一歩だと思います」垣添さんがこう指摘するのは、同市が令和6年3月に改正した暴力団排除条例だ。全国で初めて暴力団事務所の開設・運営禁止を市内全域に拡大し、市長に暴力団事務所であることの指定権限を与え、罰則も盛り込んだ。市による事務所使用差し止め請求や関連施設の買い取りが可能なこと、市民団体などが行う訴訟への支援も明記した。これまでの取り組みから必要と判断した項目をすべて盛り込んだ形だ」「同市での暴力団の歴史は古く、戦前から「笠谷組」が活動、戦後は山口組2次団体「丸三組」(昭和36年解散)が結成された。平成27年の山口組分裂騒動勃発時は8カ所に事務所や関連施設があり、29年には任侠団体山口組(現絆会)が本部を設立。翌年には阪神尼崎駅近くで暴力団幹部襲撃事件が発生し、令和2年には市全域が「特定抗争警戒区域」に指定された゛最前線”のまちだ」「だが暴力団排除の取り組みを重ねて令和4年9月、「事務所ゼロ」にこぎつけた。複数の事務所があった市区町村での「ゼロ」達成は全国初だ3つの事務所は使用差し止め訴訟ののち、事務所を解体して跡地を民間へ売却、1カ所は旧事務所を市が取得するという、基礎自治体では先進的な取り組みが奏功した。そもそも暴力団事務所の法的規制は、暴力団対策法(暴対法)でも特定危険指定暴力団の指定や対立抗争時に例外的に運営が規制される程度だ。都道府県条例は青少年保護を基本に、学校など教育施設周辺での開設・運営を禁止しているが、使用差し止めは憲法が保障する人格権に基づく仮処分申し立てしかなかった。申し立てできるのは事務所の半径500メートル以内の住民で訴訟人は20人以上、必要経費は300万円―と、ハードルは低くない。平成24年に「生活安全課」を新設した尼崎市は、暴力団抗争の激化に伴い強くなった市民の不安の声を受け、同課を中心に暴排に本腰を入れ始めた。職員とともに住民の中に入って取り組んできた垣添さんは、「住民にとっては暴力団の存在自体が恐怖。警察も積極的に関与しない中で、福祉行政という観点から市が立ち上がった」と振り返る。使用差し止め訴訟の申立人を集めようと住民宅を訪ねるたび、面はゆかったのが「なぜ警察や行政ではなく、自分たちがやらなければならないのか」と訴える声だったという。住民が暴排の矢面に立つとは、日常生活の場で自身や家族らを危険にさらすことだ。警察の協力も仰ぎ、一体で取り組む必要があった」「自宅を売却する意向を示した組長に対し、職員は利益供与にならないギリギリの価格での厳しい買い取り交渉もやりぬいた。行政が住民を全力で守り支える体制で取り組む中で、大阪・西成の「飛田新地」とともに知られた歓楽街「かんなみ新地」も令和3年11月に一斉閉店、70年の歴史に幕を下ろした。平成25年に尼崎市生活安全課の「2代目課長」となって以来、暴排活動に携わってきた梶本修司さんは「当時の取り組みを知らない職員にも、条例を通じて精神を引き継ぎたい」と話す。時代の変化に伴い、反社会勢力も形を変える。条例改正で手は打ったが、抑止効果の高い取り組みの重要性は増している、とみている。垣添さんは昨年4月に弁護士事務所を閉め、引退したが、「先進的な事例を尼崎で終わらせたくはない」と゛闘い”は続く。恐怖にこわばっていた住民の顔が笑顔になったときの、無上の感動を原動力に」というものです。こうした先輩方の努力の積み重ねが今の暴排活動につながっているのであり、筆者としても微力ながら力を注いでいきたいと考えます。

2.最近のトピックス

(1)AML/CFT/CPFを巡る動向

金融庁が、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(以下「GL」)の一部改正案を公表しました。金融庁はこれまで、GLの「対応が求められる事項」に則した態勢の整備について、2024年3月末までに完了させることを要請し、金融機関等ではマネロン等リスク管理の基礎的な態勢整備を実施してきました。金融機関等における基礎的な態勢整備が概ね完了した中、今回の改正は、預貯金口座の不正利用等防止に向けた対策強化やFATF第五次審査のメソドロジー等、足許の金融機関を取り巻く環境変化等を整理し、金融機関等におけるマネロン等リスク管理態勢の維持・高度化を促進するものです。以下、改正された部分を抽出して紹介します。

▼ 金融庁 「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」の一部改正(案)の公表について
▼ (別紙)「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」の一部改正(案)(新旧対照表)
  • 【削除】また、「対応が求められる事項」に係る態勢整備を前提に、特定の場面や、一定の規模・業容等を擁する金融機関等の対応について、より堅牢なマネロン・テロ資金供与リスク管理態勢の構築の観点から対応することが望ましいと考えられる事項を「対応が期待される事項」として記載している。
  • 【新設】また、金融庁は、金融機関等における理解を促進すること等を目的として、必要に応じて、本ガイドラインで示す「対応が求められる事項」や当局としてのモニタリングのあり方等についての考え方を示す文書等を作成・公表している。金融機関等は、そうした文書等にも留意しつつ、マネロン・テロ資金供与対策に取り組むことが必要である。
  • 【削除】対応が期待される事項
    • 自らの事業環境・経営戦略等の複雑性も踏まえて、商品・サービス、取引形態、国・地域、顧客の属性等に関し、リスクの把握の鍵となる主要な指標を特定し、当該指標についての定量的な分析を行うことで、自らにとって重要なリスクの高低及びその変化を適時・適切に把握すること
    • 自らが提供している商品・サービスや、取引形態、取引に係る国・地域、顧客属性等が多岐にわたる場合に、これらに係るリスクを細分化し、当該細分類ごとにリスク評価を行うとともに、これらを組み合わせて再評価を行うなどして、全社的リスク評価の結果を「見える化」し(リスク・マップ)、これを機動的に見直すこと
    • 団体の顧客についてのリスク評価に当たっては、当該団体のみならず、当該団体が形成しているグループも含め、グループ全体としてのマネロン・テロ資金供与リスクを勘案すること
    • 取引対象となる商品の類型ごとにリスクの把握の鍵となる主要な指標等を整理することや、取扱いを制限する商品及び顧客の属性をリスト化することを通じて、リスクが高い取引を的確に検知すること
    • 商品の価格が市場価格に照らして差異がないか確認し、根拠なく差異が生じている場合には、追加的な情報を入手するなど、更なる実態把握等を実施すること
    • 書類受付時に通常とは異なる取引パターンであることが確認された場合、書類受付時と取引実行時に一定の時差がある場合あるいは書類受付時から取引実行時までの間に貿易書類等が修正された場合には、書類受付時のみならず、修正時及び取引実行時に、制裁リスト等と改めて照合すること
    • 輸出入取引等に係る資金の融通及び信用の供与等の管理のために、ITシステム・データベースの導入の必要性について、当該金融機関が、この分野において有しているリスクに応じて検討すること
    • マネロン・テロ資金供与対策を実施するために、自らの規模・特性・業容等を踏まえ、必要に応じ、所管する専担部室を設置すること
    • 同様に、必要に応じ、外部専門家等によるレビューを受けること
    • マネロン・テロ資金供与リスク管理態勢の見直しや検証等について外部専門家等のレビューを受ける際には、検証項目に照らして、外部専門家等の適切性や能力について、外部専門家等を採用する前に、経営陣に報告しその承認を得ること
    • また、必要に応じ、外部専門家等の適切性や能力について、内部監査部門が事後検証を行うこと
    • 役職員の人事・報酬制度等において、マネロン・テロ資金供与対策の遵守・取組み状況等を適切に勘案すること
  • 海外拠点等を有する金融機関等グループにおいて、各海外拠点等のリスク評価の担当者に対して、単にリスク評価の手法についての資料等を作成・配布するのみならず、リスク評価の重要性や正確な実施方法に係る研修等を当該拠点等の特殊性等を踏まえて実施し、その研修等の内容についても定期的に見直すこと
    • 海外拠点等を有し、海外業務が重要な地位を占める金融機関等グループにおいて、マネロン・テロ資金供与対策に関わる職員が、マネロン・テロ資金供与に係る国際的な動向について、有効な研修等や関係する資格取得に努めるよう態勢整備を行うこと
  • 【削除】先進的な取組み事例
    • 外国PEPsについて、外国PEPsに該当する旨、その地位・職務、離職している場合の離職後の経過期間、取引目的等について顧客に照会し、その結果や居住地域等を踏まえて、よりきめ細かい継続的顧客管理を実施している事例
    • 顧客リスク評価を担当する部門内に、データ分析の専門的知見を有する者を配置し、個々の顧客情報や取引情報をリアルタイムに反映している事例。
    • コルレス先管理について、コルレス先へ訪問してマネロン・テロ資金供与リスク管理態勢をヒアリングするほか、場合によっては現地当局を往訪するなどの方法も含め、書面による調査に加えて、実地調査等を通じたより詳細な実態把握を行い、この結果を踏まえ、精緻なコルレス先のリスク評価を実施し、コルレス先管理の実効性の向上を図っている事例
    • グループベースの情報共有について、グループ全体で一元化したシステムを採用し、海外拠点等が日々の業務で知り得た顧客情報や取引情報を日次で更新するほか、当該更新情報を本部と各拠点で同時に共有・利用することにより、本部による海外拠点等への監視の適時性を高めている事
  • 【新設】対応が求められる事項
    • 検知した取引の疑わしさの度合いやマネロン・テロ資金供与リスクの動向等に応じて、適切なリスク低減措置を講ずること
    • 新技術の有効性を検討し、他の金融機関等の動向や、新技術導入に係る課題の有無等も踏まえながら、マネロン・テロ資金供与対策の高度化や効率化の観点から、自らの規模・特性・業容等を踏まえ、こうした新技術を活用する余地がないか、その有効性も含めて必要に応じ、検討を行うこと
    • マネロン・テロ資金供与リスク管理に係る業務を外部委託する場合に、「対応が求められる事項」が目標としている効果と同等の効果を確保する観点から外部委託先の態勢を検証すること
  • 【新設】各金融機関等において、業務の特性等を踏まえ、項目によっては、マネロン・テロ資金供与リスク管理に係る業務を外部委託することも考えられる。外部委託に伴う様々なリスクの管理等について、関連する法令の規定をその適用関係に応じ遵守し、業態ごとの監督指針等に留意することは当然として、それに加えて、特にマネロン・テロ資金供与リスク管理に係る業務を外部委託する場合には、「対応が求められる事項」が目標としている効果と同等の効果を確保する観点から、外部委託する業務に係る外部委託先の態勢を検証することが求められる。
  • 【削除】以下のように、本部がグループ共通の視点で海外拠点等も含む全社的なリスクの特定・評価を行いつつ、実地調査等を踏まえて各拠点に残存するリスクを実質的に判断し、グループベースの管理態勢の実効性強化に役立てている事例。具体的には、海外拠点等を含む全社的なマネロン・テロ資金供与対策プログラムを策定し、これに基づき、本部のマネロン・テロ資金供与対策主管部門において、拠点別の口座数、高リスク顧客数等の情報を一括管理し、海外拠点等も含む各部門・拠点のリスクを共通の目線で特定・評価している。その上で、部門・拠点ごとの低減措置につき、職員の人数、研修等の実施状況、IT等のインフラの特異性等も踏まえながら、各拠点と議論した上で低減措置の有効性を評価している。さらに、低減措置を踏まえてもなお残存するリスクについては、必要に応じて本部のマネロン・テロ資金供与対策主管部門が実地調査等を行い、残存するリスクが高い拠点については監視・監査の頻度を上げるなど、追加の対策を講じ、全社的な対策の実効性を高めている。

ブロックチェーン分析企業チェイナリシスは、暗号資産のマネロンが2025年に少なくとも820億ドル(約12兆8900億円)に達し、2020年の100億ドルから急増したと発表しました。最も急成長しているのは中国語圏のマネロンネットワークで、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)期に出現し、2025年には1日当たり約4000万ドル相当の暗号資産を処理したといいます。チェイナリシスは、2025年161億ドル相当の暗号資産を処理するために中国語圏のマネロンネットワークが使用していた稼働中のウォレット約1800件を特定したと述べましたが、実際の数はこれより多い可能性が高いといいます。同社によれば、暗号資産のマネロンネットワークが検知を逃れるために用いる手法にはエスクロー(第三者預かり)サービスを提供し、自らのサービスを宣伝できる「保証」プラットフォームの利用が含まれるといいます。チェイナリシスは「中国語の保証プラットフォーム、資金移動サービス、関連する金融犯罪ネットワークは、取締りの努力にもかかわらず適応し続ける複雑で回復力のあるエコシステムを明らかにしている」と述べています。また、北朝鮮による国連制裁逃れを調べる日米韓など11カ国による多国間制裁監視チーム(MSMT)は、北朝鮮が2025年に20億ドル(約3160億円)以上の暗号資産を盗み、依然として有力な外貨獲得手段となっている実態が報告されました。対北朝鮮制裁の履行状況の監視は、国連安全保障理事会(安保理)の専門家パネルが担ってきましたが、2024年にロシアの拒否権で活動停止に追い込まれました。後継組織として有志国で構成するMSMTが国連の場で公開の会合を開いたのは初めてだといいます。一方、北朝鮮の国連代表部は、朝鮮中央通信(KCNA)が伝えた声明で、MSMTは国連とは無関係の「違法な」組織だと反発、北朝鮮を擁護する中国やロシアは会合に参加しませんでした。2025年秋にMSMTが発表した報告書は、北朝鮮が外貨収入の大半を暗号資産の窃取とロシアへの武器販売に依拠していると指摘、2024年1月~25年9月に少なくとも28億ドル(約4400億円)の暗号資産を盗み、中国やロシア、カンボジアなど外国拠点の仲介業者を介して法定通貨に「洗浄」しているとの見解を示しています。この日の会合では、2025年10月以降の3カ月で新たに4億ドル以上の暗号資産が盗まれたとしました。またMSMTによれば、北朝鮮は自国のIT労働者を少なくとも8カ国に派遣、制裁を回避して得た収入は、核・ミサイル開発の資金源になっていると懸念されています。日本の山崎和之国連大使は会合で、「北朝鮮が大量破壊兵器開発のため悪質なサイバー活動からどれほど収益を得ているかを過小評価してはならない。明白な制裁違反だ」と訴え、報告書が明らかにした実態は「氷山の一角に過ぎない」と警告、すべての国連加盟国に対策強化を呼びかけ、政府と民間の協業が極めて重要だと指摘しています。日本では2024年に暗号資産交換会社「DMMビットコイン」から約482億円相当のビットコインが流出し、警察庁や米連邦捜査局(FBI)は北朝鮮のハッカー集団によるサイバー攻撃と特定しています。

ドイツの捜査当局が、マネロンの取引に関与した疑いでドイツ銀行に家宅捜索に入りました。独メディアの一部報道ではロシアの新興財閥(オリガルヒ)との取引関与が指摘されています。フランクフルトの検察当局などが、マネロン関連の犯罪に関与した疑いでドイツ銀行のフランクフルト本部やベルリンの支店などを捜査、幹部や従業員も捜査対象となっているといいます。過去にマネロン目的で利用された可能性のある外国企業との取引を維持していた疑いが持たれています。南ドイツ新聞などは、当局による捜査がロシアの新興財閥(オリガルヒ)の1人であるロマン・アブラモビッチ氏に関連するものであると報じており、ロシアの銀行を経由してドイツ銀行に送金された事案と、アブラモビッチ氏自身が所有する企業との過去の取引が対象になっているといいますロシアのウクライナ侵略でEU理事会と英政府は2022年にアブラモビッチ氏を企業との取引禁止や個人資産の凍結といった制裁対象に指定しています。ドイツ銀行を巡っては過去にも、マネロン対策の不備や疑わしい取引の報告遅延などを理由に度々、主要国の金融規制当局から改善措置を求められています。英金融監督当局である金融行為監督機構(FCA)は2017年に、ロシアからオフショア口座への不透明な資金の移動を防げなかったとして1億6300万ポンドの課徴金を課しました。2018年にはドイツ連邦金融監督庁がマネロンとテロ資金供与の防止を目的に内部管理体制の改善などを命令、2022年にも不審な情報を期限内に報告しなかった疑いで捜索を受け、2023年には米連邦準備理事会(FRB)が同様に1億8600万ドルの課徴金を課しています。

本人確認の不備等を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 他人名義のスマホのSIMカードを不正に購入したとして、警視庁特別捜査課などは、会社員の高久容疑者ら3人を詐欺の疑いで逮捕しています。容疑者らは、不正に取得したSIMカードを特殊詐欺グループに提供する「道具屋」の中心的人物とみられています。報道によれば、同容疑者らは、異業種交流会や副業セミナーを開き、SIMカードを自らの名義で契約する人物を募り(闇バイト)、1回線あたり月数千円の報酬を支払い、契約者からSIMカードの情報を得ていました。同容疑者らのグループは2019年以降、同様の手法で約1400枚のSIMカード情報を不正取得していたとみられています。容疑者らは常に1000~1500回線を管理、入手した情報を特殊詐欺グループに提供、1回線あたり9000円~1万6000円程度の報酬を得ていたといい、提供されたSIMカードの通信回線がフィッシングメールや架空請求詐欺メールの配信などに悪用されていたとみられています。
  • SNSを悪用した詐欺や特殊詐欺の被害急増を受け、総務省は、データ通信専用のSIMカードを契約する際に本人確認を携帯電話会社に義務付ける法改正を行う方針を明らかにしました。大量に不正契約した通信回線を犯罪目的で転売することを防ぐため、異常に多い回線数の契約を拒否できる規定も設けるとしています。2026年内に携帯電話不正利用防止法改正案を国会に提出する見通しです。現行法では、音声通話を行う携帯電話を契約する際に運転免許証などの身分証明書で本人確認を行うよう義務付けていますが、タブレット端末などに使うデータ通信専用のSIMカードは対象外で、「犯罪インフラ化」の懸念があり、筆者も本人確認を義務化すべきと述べてきました。警察庁の調査では、2024年4~9月に投資目的や恋愛感情に乗じて金をだまし取る「SNS型投資・ロマンス詐欺」に使われた回線の75%がデータ通信専用のSIMで、秘匿性の高い通信アプリを使った手口が目立っていたといいます。総務省によれば、携帯大手は1人あたりの携帯契約数の上限を原則5回線とする自主規制を設けていますが、法規制はありませんでした。大量に取得した回線を犯罪組織に転売し、詐欺に悪用される事例が確認されているため、回線の大量契約に歯止めをかける狙いがあります。さらに、多数の回線を契約する法人契約でも、契約の担当者が法人に在籍しているかどうか確認を義務付けるとしています。
  • 偽造したマイナンバーカードを使って銀行口座を開設したなどとして、警視庁が、男4人を偽造有印公文書行使や詐欺などの容疑で逮捕しています。同庁は、職業不詳の容疑者らのグループが2020年12月~24年6月、偽造マイナカードを本人確認書類として悪用し、クレジットカードを作成したり消費者金融で借金したりして、金融機関などから計約6億円相当を詐取したとみています。2人の容疑者が仲間と共謀して2021年5~6月、スマホの銀行口座開設アプリを通じて偽造マイナカード2枚分の画像データを送信し、2口座を開設したほか、キャッシュカード2枚をだまし取るなどした疑いがもたれています。偽造マイナカードの作成にあたり目をつけたのが生活困窮している男性らで、東京・上野公園で声をかけるなどした50~60歳代の男性2人の顔写真を使用し、氏名欄には実在しない人物の名前を記載、ホテルで顔を自撮りさせるなどし、マイナカードの偽造や口座の不正開設などをしていたといいます。さらに、だまし取ったキャッシュカードなどの受け取る場所の確保のためにも男性らを利用、男性らを法人代表などにさせて法人名義などで不動産の物件も契約したといい、2人に約90万円~約140万円の報酬を支払っていました。グループは168枚の偽造マイナカードを使い、銀行口座168口座を開設していたほか、437枚のクレジットカードの発行を受けていたといいます。2024年1月、カード会社から相談があり、一連の事件が発覚、同庁はマイナカードの偽造方法などを調べています。
  • マイナンバーカードを偽造したなどとして、警視庁国際犯罪対策課は、印公文書偽造・同行使などの疑いで、鈴木容疑者ら男2人=いずれも詐欺未遂罪で起訴=を再逮捕しました。報道によれば、鈴木容疑者らは、入手した他人のマイナカードの表面をやすりで削り、別人の写真や個人情報が印刷されたフィルムを貼り付けていたといい、自宅などからは、偽造方法が書かれたマニュアルのほか、他人名義のマイナカードや健康保険証、1万3000人分以上の個人情報データが押収されました。偽造カードを使って他人になりすまし、不正にクレジットカードなどを作成していたとみられています。逮捕容疑は、2025年9月~10月、クレジットカードの審査などに使われる信用情報を管理する日本信用情報機構(JICC)に、偽造したマイナカードなどを提出し、不正に情報を開示させようとした疑いです。
  • 大阪市北区の土地と建物を巡る不正登記事件では、手続き業務を独占的に担う司法書士がずさんな本人確認を行うなど立場を悪用したとされます。同業者からは「制度の根幹を揺るがす」と怒りの声も上がっています。移転登記は通常、所有者であることを証明する「登記識別情報」(権利証)と呼ばれる12桁のパスワードが必要ですが、手元にない場合は司法書士らが本人確認をした上で作成する「本人確認情報」という書類で代替できます。今回の事件では、識別情報は「失念」したとされ、うその本人確認情報や印鑑登録証明書が法務局に提出されました。逮捕された司法書士の松本容疑者は、偽造された運転免許証などを基になりすまし役と「面談」し、本人確認をでっち上げたとされます。提出された本人確認情報には「運転免許証の写真により本人との同一性を確認。外観・形状に異常がないことを視認」「住所・氏名・干支(えと)などの申述を求めたところ、正確に回答した」などと記されていたといいます。法務局側は、これらの書類を基に移転登記を認めましたが、異変に気付いた所有者が民事訴訟を起こして登記が抹消され、結果的には事なきを得ました。大阪府内のある司法書士は「不正登記は司法書士がグルになれば防ぎようがない」と指摘、一方、現行では本人確認で必要となる顔写真付き身分証は1点あればよく、法務局の審査も「緩い」と感じることもあるといい、「所有者の居住確認を現地で行うことを義務付けるなど厳格化も必要ではないか」と指摘しています。
  • 鉄鋼建材商社「伊藤忠丸紅住商テクノスチール」(東京・千代田)の元部長らが逮捕された融資金詐欺事件では、貸し手をだます巧妙な手法が浮上、社印や書類を偽造し、重要な場面でなりすまし役を使う。相手を誤信させる策略は土地の所有者を演じる「地面師」とも重なります。部長は連帯保証について「社内で承認されている」と説明し、取締役会議事録や社長印が押された「委任状」を示し、同席した高齢の「取締役」も同調、検討された融資契約は発電事業が頓挫した場合でも、テクノ社が代わりに弁済するというものでした。大手商社グループ企業の連帯保証があれば貸し倒れリスクは低くなることから、金融会社は融資を決定、しかし返済期限としていた2023年3月に部長側から返済がなかったため、金融会社側はテクノ社に問い合わせたところ、「そのような契約は承知していない」という回答が返ってきたことで発覚したものです。テクノ社、金融会社双方からの相談を受けた警視庁の捜査で、部長による一連の交渉が虚構だったことが判明しました。部長はインターネットで印鑑の偽造業者を見つけ、東京駅近くのカフェで業者と落ち合って依頼し、数万円を支払って偽造の代表者印を入手、取締役会議事録や代表者印が押された委任状は、いずれも部長によるでっち上げでした。交渉の席にいた「取締役」は実在する役員の名刺を持っていましたが、部長の知人で社員ですらない70代の男がなりすましていたといいます。捜査幹部は「本社の応接室を舞台として、偽造の社印や取締役の『替え玉』まで用意する手口は用意周到だ」とし、「所有者になりすまして土地を売りさばく『地面師』の手口とも重なる部分が多い」と指摘していますが、正にその通りだと思いました。

特殊詐欺の被害金を巡るマネロンについて、最近の報道から紹介します。

  • 特殊詐欺の被害金をマネロンしたなどとして、警視庁特別捜査課は詐欺や組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)などの疑いで、中国籍の女3人を逮捕しました。3容疑者は、中国人富裕層が日本の不動産を購入する費用に詐欺の被害金の一部をあて、購入者から、中国の人民元で代金を回収する手口でマネロンを繰り返していたマネロングループのメンバーで、盧容疑者は指示役とされます。盧容疑者は2025年10月、カンボジアを拠点とする特殊詐欺グループのトップの中国籍の男らとともに組織犯罪処罰法違反などの容疑で逮捕、同罪で起訴されていました。警視庁は、複数の特殊詐欺グループからマネロンを請け負っていたとみています。盧、胡両容疑者の再逮捕容疑は2013年11月、共謀して、情報通信会社社員を装い、奈良市の80代男性に対し、「パソコンがウイルスに感染した」「預金を安全な口座にあずかる」などと嘘をいい、約999万円を詐取、うち約243万円を、正規の不動産取引を装って業者の口座に移転し、犯罪収益を隠したとしています(業者への振り込みは、だまし取った金の入金から約2分後だったといいます)。葛容疑者は同月、東京都内の不動産の購入を希望する中国人男性の依頼で、現金4910万円を不動産会社に送金する代わりに、男性から人民元を受け取り、無許可で為替取引した銀行法違反の疑いが持たれています
  • 警察官などをかたり、高齢女性から現金をだまし取ったなどとして、警視庁と沖縄県警の合同捜査本部は詐欺などの疑いで、会社役員の潘梓傲容疑者ら中国籍の男4人を逮捕しました。報道によれば、4人は特殊詐欺などの被害金の引き出しやマネロンを担うグループのメンバーで、潘容疑者は指示役とみられています。4人は2025年1月以降、3億円以上のマネロンに関与した可能性があるといいます。捜査本部は関係先の家宅捜索で、スマホ約100台、キャッシュカード約40枚を押収しています。沖縄県警が2025年6月、特殊詐欺の受け子を摘発した際、那覇市で詐取金を受け取った尹容疑者が浮上、合同捜査本部が調べを進めていました。潘、王、尹の3容疑者の逮捕容疑は2025年6~7月、何者かと共謀し、大阪府内の50代女性に、電話などで「口座が犯罪に使用されているので、現金を調べる必要がある」などと嘘をいい、現金計510万円をだまし取ったというもので、林容疑者は2026年1月、他人名義のキャッシュカード1枚を潘容疑者から譲り受けた犯罪収益移転防止法違反の疑いが持たれています。
  • 携帯電話のIDが悪用されているなどとうそを言って金をだまし取ったとして、神奈川、岐阜両県警の合同捜査本部は、福井容疑者ら男女6人を詐欺容疑で逮捕しました。両県警は、6人が特殊詐欺の被害金を暗号資産に換える手法で、数億円分のマネロンを繰り返していたとみて調べています。神奈川県警暴力団対策課によれば、6人は何者かと共謀して2022年8~9月、通信会社職員になりすまして、岐阜県内の60代会社員男性に「携帯電話のIDが悪用されて損害が出ている。損害賠償を支払わなければならない」などとうそを言い、18回にわたって計1550万円をだまし取った疑いがもたれています。被害金は16の口座などに移されて暗号資産に交換され、今回逮捕した6人によってさらに別の暗号資産に換えられていたとみられています。これらの口座を通じ、他に数十人分の詐欺の被害金数億円が、暗号資産に換えられた可能性があるといいます。両県警は、6人が犯罪の被害金を暗号資産に換えるなどしてマネロンする「相対屋」(正規の取引所外で犯罪組織などと暗号資産を交換)と判断、福井容疑者が指示役から指示を受け、残りの5人に依頼してマネロンを繰り返したとみて捜査しています。
  • ブランド品を注文すれば報酬が得られるとうたい、現金や電子マネーをだまし取ったとして、愛知など6県警の合同捜査本部は、詐欺容疑で谷口容疑者を再逮捕しました。同本部はカンボジアの拠点で警察官らをかたる特殊詐欺に関与したとして日本人29人が逮捕された事件で、容疑者がマネロンをしていたとみて調べています。押収した容疑者らのスマホの解析などから、29人の一部と接点があったとみられています。再逮捕容疑は、他の者と共謀して2025年6月、LINEのメッセージで、バッグなどを注文してレビューを増やせば報酬が得られると持ちかけ、神戸市北区の無職男性に現金と電子マネー計約200万円を送らせて詐取した疑いがもたれています。容疑者は同様の方法で北海道の女性から現金などをだまし取った疑いで2026年1月に逮捕されていました。

アラブ首長国連邦のセキュリティ企業ANY.RUNが、セキュリティ研究者と共同で、身分を偽装して海外企業で働き、情報や資産を盗もうとする北朝鮮のIT労働者たちに「おとり調査」を仕掛けという取り組みを行いました(2026年1月22日付産経新聞)。ANY.RUNなどが2025年12月に公開したレポートによれば、おとり調査の対象となったのは北朝鮮のハッカー集団「Lazarus」の一部門「Famous Chollima」とみられる組織で、工作員や協力者をIT労働者として米国などの企業に送り込み、スパイ活動や行ったり給与などを北朝鮮に送金したりしているといいます。企業に入りこむ手口は大別して2つあり、1つ目は、AIなどを活用して身分を偽り、自ら採用面接に臨むケースで、盗難・流出したパスポートや運転免許証を使って実在の人物に成りすましたり、AIで生成した顔写真を使って架空の人物を作り出したりして、偽の身分証明書や履歴書、LinkedInで紹介するためのプロフィールを作成。ディープフェイクや合成音声を使って採用面接も突破し、企業に侵入するものです。2つ目は、国外のIT労働者に報酬を提示し、協力者とするケースで、GitHubやTelegram上で人材を勧誘し、代わりに採用面接などに対応させるというものです。今回のおとり調査は2つ目の手口に注目したもので、研究者は、採用面接を代理で受けてほしいとするスパムをGitHub上で確認、募集に当たってのメッセージに「技術に精通している必要はない」「採用後は身代わりが実作業をこなす」「協力者には月に3000ドル程度を支払う」といった説明があったことから、北朝鮮の工作員による協力者の募集である可能性があると判断、過去に同様のメッセージを受け取っていたアカウントに酷似したアカウントを作成し、募集者に接触したところ、Web会議やTelegramでのやりとりが始まったといいます。Web会議でカメラをオンにしなかったため、当初は怪しまれていたものの、純朴な姿勢を装うことでやりとりが進むようになったといいます。その後、募集者は研究者に対し、リモートワークを代行するため、PCに常時アクセスできるようにさせてほしいと要求、さらに採用面接に応募するため、身分証明書や氏名、住所などを共有するよう求め、その上で面接の代行まで行う場合は企業から支払われる給与の20%、面接を募集者に任せる場合は10%を報酬として支払うと交渉してきたといいます。支払い方法の説明に際し、銀行口座情報や社会保障番号、犯罪歴についても尋ねてきたといいます。研究者はANY.RUNと協力し、PCを模したサンドボックス環境を用意、さらにPCが米国に存在するよう見せかけたり、アクセスした人の行動を記録・観察可能にしたりした上で、募集者がサンドボックス環境にアクセスできるようにしました。ただし調査可能な期間を引き延ばすため、研究者たちはPCをたびたび意図的にクラッシュさせたり、リモート操作を妨害したりできるようにしたといいます。アクセス権を手にした募集者は、その環境で自身のGoogleアカウントにログインしたり、ツールセットを利用、これにより研究者は募集者の素性や、この人物が受け取ったメールの内容などを一部確認可能になり、例えば募集者がイスラム教徒が多数派を占める地域の企業で働く人物と連絡を取っていたことや、AIを積極的に活用していること、AIは求人書類の記入に使っていた他、面接中に回答案をリアルタイムで提示するツールも活用していたこと、さらに、Famous Chollimaが複数のチームからなることも分かったといいます。一方で、複数の工作員が同じ日に同じ企業で同じ職種の面接を受けているケースがあることも確認。研究者たちは組織間の連携不足が不足している可能性もあるとみています。北朝鮮IT労働者による活動は米国などで問題になっており、AIの発展により巧妙化しているとの見方もあり、ANY.RUNや研究者は調査の結果を基に、企業に対し新規採用の場合には厳格な身元調査を行うよう注意喚起しています。

(2)特殊詐欺を巡る動向

有名人になりすました広告などからSNS上の偽の投資話に誘い込む「SNS型投資詐欺」の被害増加が止まりません。前回の本コラム(暴排トピックス2026年1月号)でも取り上げましたが、警察庁の集計によれば、2025年の11月までで、SNS型投資詐欺の被害件数は8217件、被害総額は1071億円で、6413件で871億円だった2024年の1年間の被害規模をはるかに上回り、同じ11カ月間で1213億円だった「オレオレ詐欺」など特殊詐欺の被害に匹敵する被害規模となっており、月別にみるとSNS型の被害額が特殊詐欺を上回る月も多い現状です。筆者が以前から指摘してきたことですが、SNS運営企業に「お願いベース」で対策を要請する従来の政府の対応に全く効果がないことが証明された形です。その点では、2026年1月27日付日本経済新聞の記事「SNS詐欺広告対策、台湾の規制に学べ 米テックへの「お願い」効かず」は正に筆者の考えていることでもありました。

SNS上で実業家の堀江貴文氏や前沢友作氏ら著名人を装った広告が絡む投資詐欺事件が多発して大騒ぎになった2024年春からもうすぐ2年ですが、この2年間、政府は有識者会議などで対策を検討してきたものの、結局SNSを運営する米ビッグテック企業に対しては、広告審査の強化や削除要請に対する迅速対応などの自主的な対策を「お願い」ベースで要請するにとどまりました。各社は努力していると主張し、一見するとSNS上のなりすまし広告は減ったかに見えたときもありましたが、2025年も相変わらず「手を替え品を替え」た偽装広告は出回っています。日本経済新聞が、米メタが運営するインスタグラムやフェイスブックなどのサービスに掲載されている広告を検索できる「広告ライブラリ」で2026年1月中旬に調べてみると、堀江氏やカリスマ個人投資家のテスタ氏の写真を使った「もうけ話」広告などが「現在掲載中」として簡単に見つかったといいます。警察庁の集計によれば、SNS型投資詐欺では被害者が偽の投資話に誘い込まれた最初の接点のうち39%が広告で、38%がSNSのダイレクトメッセージ(DM)で、広告の表示媒体は動画共有のユーチューブが最多で、次いで投資情報サイト、インスタグラム、TikTok、フェイスブック、LINEが多くなっています。SNSが本業であるメタについては、自主対策に取り組むどころか、確信犯的に不正広告を放置して収益を得ているのではないかとの疑問も出ています。以前の本コラムでも筆者の怒りとともに取り上げたロイター通信の報道では、同社の全世界の広告収入の1割程度が詐欺がらみの広告によるもので、経営陣もそれを十分認識しているという、メタの倫理観の欠如した企業姿勢が明らかとなりましたが、加えて、メタは日本での広告規制強化を避けるために、日本の当局が広告チェックによく使う検索キーワードで見つかる不正広告を重点的に減らすことで、見かけ上、不正広告が減ったかのようにみせる工作を会社ぐるみで実行していた疑いももたれています。また、これまで誹謗中傷を含む偽・有害情報の取り扱いも含めて総務省の有識者会議のヒアリングや質問、取り組み要請に対して実効性のある回答や取り組みを全くといっていいほど取ってこなかった同社のこれまでの「蛮行」をみるにつけ、さもありなんという思いであり、「なめてんの?」(前澤氏)と言いたくなる状況です。事実とすれば謀議はないにしても、ある種の共犯関係にあると言われても仕方がないレベルであり、いずれにせよ、「お願いベース」の対策に効果はもはや期待できないとみるべきです。筆者や日本経済新聞だけでなく、政府の有識者会議で法規制を提言してきた森亮二弁護士「プラットフォームに自主対策をお願いする段階はとうに過ぎている。少なくとも(投稿本体でなく)広告についてはプラットフォーム事業者による広告主の身元確認義務、被害に対する損害賠償の連帯責任を負わせる法律は作れるし、作れば効果があるはず」と、法規制導入を提言していますが、筆者も強く同意するところです。

一方、台湾でもつい最近まで、有名人になりすましたSNS広告などを入り口とする詐欺被害が深刻でしたが、2024年7月に詐欺の導線となる広告で収益を上げている大手オンライン広告プラットフォームなどを規制対象とする「詐欺犯罪被害防止条例」(FCHPA)が施行されるとSNS上の詐欺広告が激減したといいます。台湾の国会にあたる立法院にデジタル発展部(デジタル発展省)が2025年12月に提出した報告書によれば、直接投資を勧誘する投資詐欺広告の週間表示数の最大値が2024年(新法施行前)は約7万7500件だったのに対し、2025年11月の週間平均は3000件弱と96%削減でき、直接投資は勧誘しないものの有名人になりすました広告の表示回数は同じ比較で3万8000件強から2300件弱へと94%削減できたといいます。同法はSNSや検索エンジンなどの広告プラットフォームに対し、全広告主とその出資者などの身元確認とその情報の広告上での開示を義務付け、犯人、その出資者と被害の賠償の連帯責任を負わせ、広告関連の法規違反には最高1億台湾ドル(約5億円)の罰金を科すもので、自民党のPT会合について記述した川崎秀人・デジタル大臣政務官のブログによれば、オードリー・タン氏は、金融の世界でKYC(客の身元確認)が不正防止の王道なのと同様に広告の不正防止ではKYA(広告主の身元確認)がカギと説明、身元確認ができない広告主の広告は掲載禁止にし、違反すれば罰金や損害賠償というコストを払うとすることで、「不正放置のコストが不正防止のコストを上回るように逆転させた」と、台湾の考え方を説明したといいます。2024年7月の施行直後、メタは義務の履行を怠り、4件の違反に対し罰金命令をうけたことから、ようやく身元確認などの義務を履行するようになり、その結果がなりすまし広告の激減へとつながったといえます。逆に元から広告主の身元確認を励行しているLINEは詐欺広告の表示が少なかったため、新法施行でほとんど影響を受けなかったといいます。広告主の身元確認の詐欺広告抑止効果が分かる事象です。記事は「総務省や警察庁、法務省など関係省庁はそろそろ覚悟を決めて、有効な法規制を導入し、国民の財産を守る方向に動くときだろう」は指摘していますが、正に正鵠を射るものと思います。

本コラムでも取り上げてきましたが、「アジア最大級の犯罪組織」であるカンボジアの華人系企業「プリンス・ホールディング・グループ」(太子集団控股)の日本法人「プリンスジャパン」が、2026年1月に東京地裁から破産手続き開始決定を受けました(負債総額は約6000万円)。同グループは世界中を標的にしたオンライン詐欺などに関与し、米財務省は2025年10月、複数の詐欺拠点を運営していたとして、グループと陳志会長をOFAC制裁リストに入れ、詐欺で得たとされる2兆円規模の暗号資産を没収、カンボジア内務省は2026年1月、陳会長を逮捕し、中国に送還しました。プリンスジャパンは2023年4月に設立、不動産投資のサポートや海外不動産のコンサルティング事業などを行っていました。

その他、国際的なオンライン詐欺を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 中国国営新華社通信は、2026年2月、広東省深セン市の中級人民法院(地裁)が、ミャンマーを拠点に特殊詐欺や違法薬物を製造、密売したとして詐欺罪などに問われた犯罪組織の幹部4人の死刑を執行したと報じました。4人は2025年11月に死刑判決を言い渡されていました。報道によれば、この犯罪組織は「白一族」と呼ばれ、中国と接するミャンマー北東部コーカン地区の拠点で、特殊詐欺や賭博などで290億元(約6400億円)超の違法な利益を上げたほか、覚せい剤の一種「メタンフェタミン」約11トンを製造、密売、多くの中国人を暴力的に支配し特殊詐欺に従事させたといいます。中国では、ミャンマーを拠点に中国人が関わる特殊詐欺が社会問題となっており、コーカン地区では、白一族をはじめとする「四大家族」が血縁関係を軸に犯罪組織を構成し、当局が摘発に乗り出していました。当局は死刑を迅速に執行し、厳罰姿勢を誇示する狙いとみられています。なお、中国の最高人民検察院(最高検)によれば、2024年にインターネット上で相手をだます「オンライン詐欺」で前年比53.9%増の7万8000人が起訴されています
  • 中国国営の新華社通信は、2026年1月、ミャンマー北部を拠点とする犯罪組織の構成員11人に対する死刑が執行されたと報じました。特殊詐欺グループの主要メンバーも含まれているといいます。11人は2025年9月に死刑判決を受けていました。中国は近年、近隣諸国のタイ、ミャンマー、カンボジアとの連携を強化し、増加する特殊詐欺の摘発を進めており、数万人に上る容疑者が本国に送還されたといいます。中国公安部は2025年、オンライン賭博や通信詐欺の容疑で7600人を超える中国人がミャンマー南東部のミャワディから送還されたと発表しています。
  • カンボジアでオンライン詐欺やその他の違法ビジネスに従事する何千人もの外国人労働者が逃げ出しており、首都プノンペンに流入していると報じられています(2026年2月1日付日本経済新聞)。国際的な圧力が強まるなかで詐欺組織のトップが逮捕され、政府が犯罪ネットワークへの取り締まりを強化したことを受けた動きですが、人身売買の対策機関は、多くの人々が依然として危うい立場に置かれていると警告しています。米国からはプリンス・ホールディング・グループへの制裁の動きがあり、中国はここ数カ月、詐欺集団に対して断固とした措置を取るようカンボジアに圧力をかけてきました。駐カンボジア中国大使の汪氏はカンボジアのプラク・ソコン副首相兼外相との会談で、オンライン詐欺により同国で中国人が行方不明になる「多くの事例」があると指摘、さらに「中国とカンボジアの伝統的な友好関係に反する」とSNSで述べました。またカンボジア内務省は、犯罪に関わった外国人に物件を貸した所有者が責任を問われることを定めた法令を出しています。敷地内に外国人を意図的にかくまった場合、1人あたり最大1000ドル(約15万円)の罰金を科される可能性があり、こうした発表を受けて、SNSには国内各地の詐欺拠点から外国人労働者が逃げ出す様子を映した動画が投稿されました。一方、「この2週間で詐欺拠点から逃げ出した外国人労働者の数は少なくとも数千人で、実際には数万人に上る可能性がある。逃げ出した労働者の大半は現在、路上で不安定な生活を余儀なくされている」とも指摘されています。

ニセ警察詐欺が猛威を振るっている状況は本コラムでも繰り返し注意喚起しているところですが、中には、家族や金融機関の通報を受けて駆けつけた本物の警察官が、被害者に偽物だと疑われるケースもあるといいます。2025年には高齢女性が正当な理由なく高額出金しようとしたため、金融機関が京都府警に通報、女性の親族とともにだまされていることを気づかせようと、女性の説得を試み、警察官は女性の目の前で犯人側とスピーカー通話をして犯人側に強く警告もしましたが、女性は「両方警察官だと思います」と説得を拒み、偽の警察官は「京都府警にもスパイがいる」などと被害者に話し、マインドコントロールをしていました。最終的に女性を警察署に連れて行くと、女性はだまされていたことに気がつき、金銭的な被害はなかったといいます。しかし、同じ京都府内では本物の警察官が訪れても信じずに現金を振り込んでしまうケースもありました。このように被害者が説得に応じない理由は、犯人側が被害者を孤立させることが原因とされます。犯人側は「極秘捜査で、あなたには守秘義務があります」と話し、被害者が親族や警察に相談をしないよう仕向けることが多く、相談できないことで、だまされる期間も長くなり、被害額が膨れ上がる傾向にあります。親世代を対象とするオレオレ詐欺と比べて、全世代がターゲットになるニセ警察詐欺は、犯人側にとって都合の良いやり方であるため、件数が増えているとも考えられます。

マレーシアに拠点を置く日本向けの特殊詐欺グループが、電話の「かけ子」の顔をニセの警察手帳の写真に置き換えるビデオ通話システムを使っていたことが、両国の警察関係者への取材でわかったと報じられています(2026年1月15日付読売新聞)。AIを用いた「リアルタイムディープフェイク」と呼ばれるもので、警察当局は海外のトクリュウが他の詐欺拠点でも利用しているとみて警戒しています。海外から発信される「ニセ警察詐欺」の被害が急増するなか、詐欺グループがAIを悪用したシステムで巧妙に身元を隠している実態が明らかになったといえます。報道によれば、マレーシア警察は2025年8月、首都・クアラルンプールの高級住宅街にある一戸建ての詐欺拠点を摘発、住宅は周囲が高い塀で覆われ、室内には警視庁や大阪府警を装うニセの警察手帳や制服があったほか、デスクトップ型のパソコンが置かれていたといいます。また、台湾人をトップとする組織が拠点を管理しており、拘束されたメンバーには日本人4人も含まれていました。詐欺グループの手口を確認するため、地元当局がパソコンを調べたところ、警察官役でビデオ通話する人物の顔が、ニセの警察手帳の写真の顔に置き換わるシステムが構築されていたことがわかったといいます。ウェブ用カメラで撮影した画像の品質をAIで向上させ、相手の画面に表示させているとみられますが、マレーシアでは別の詐欺拠点でも同様のシステムが悪用され、ビデオ通話中のかけ子の顔に口ひげを生やしたり、制服を着用したりしているように偽装する技術が確認されているといいます。大阪府警は2025年10月、クアラルンプールの拠点で拘束された20~30代の男4人を詐欺容疑で逮捕、容疑は警察官を装うなどして、群馬県内の80代女性に「詐欺に関与している疑いがある」「潔白を証明するには口座の資金を調べる必要がある」とうそを言い、現金50万円を振り込ませたというもので、4人は「高収入」などとうたうインターネット広告に応募、「海外で20万円くらい稼げる」などと言われてマレーシアに渡航し、拠点では上役に監視されながら、グループはChatGPTを使いシナリオを作るなどして、ニセ警察詐欺の電話を繰り返していたといいます(台湾籍の人物が偽物の制服を着て画面に向かい、システムを操作、日本の被害者とビデオ通話する際は口を動かすだけで、画面には出ない日本人のメンバーが「台本」に基づいて日本語で話しかけていたといいます)。かけ子らの顔をAIを用いて別人の画像に変換する手口は、日本向けに特殊詐欺が行われていたカンボジア北西部ポイペトの拠点や、ミャンマー東部のタイ国境近くに点在する拠点でも悪用されていたといいます。ミャンマーの拠点に滞在した人物が日本の警察に説明した話によれば、現地ではかけ子らにタブレット端末が配布され、その画面のスタートボタンを押すと、端末内の名簿をもとに自動的に電話が発信され、接続先の「住所」「氏名」が画面上に表示、この拠点には、ニセ警察詐欺に使う専用のブースがあり、設置されたパソコンに搭載されたディープフェイク技術で、警察官になりすましていたといいます。国連薬物犯罪事務所(本部・ウィーン)の資料によると、詐欺の実行は自動化が進み、1分間に数千件のメッセージを送るシステムもある。犯罪組織は標的の国の言語を流暢に扱える人材を集め、AIに作らせただましの文言が不自然でないかチェックさせるなど、効率化を図っています。さらに、「+」で始まる国際電話番号からの発信による被害が目立ち、国際的な犯罪組織は東南アジアを中心に詐欺拠点を拡大させています。正直、筆者もこれだけシステム化が進んでいることに驚きを禁じ得ませんが、手口は次々と変化し、高度化・巧妙化することから、警察当局の国際連携の強化が欠かせません。

前回の本コラム(暴排トピックス2026年1月号)でも取り上げましたが、「ニセ社長詐欺」の被害も増え続けています。「ニセ社長詐欺」は、社長など企業幹部の名前をかたって業務命令を装うメールを送り、指定先に送金させる「ビジネスメール詐欺」ですが、幹部と社員の距離が近い中小企業が狙われやすいといい、1億円を超す被害に遭った企業もあるなど、警察庁は全国商工会連合会などを通じて注意を呼び掛けています。メールには多くの場合「指示した者以外は入れないように」と記され、少人数でのやり取りにすることで、発覚を防ぐ狙いがあるとみられるほか、近年は決裁で印鑑を省略するケースもあり、「時代に合わせた詐欺」ともいえます。さらには法人による取引の形になるため、1件当たりの被害額が大きくなるのが特徴です。2025年12月中旬以降、東京都内の43社で確認され(2026年1月19日現在)、そのうち金銭をだまし取られた被害は14社で計6億7000万円に上り、中には1億円以上をだまし取られた会社も2社あるといいます。さらに直近では、埼玉県鶴ケ島市の会社が、SNSで自社の社長を装う人物から送金を指示される「ニセ社長詐欺」の被害に遭い、2億1900万円をだまし取られました。この会社が業務で使うSNSで、20代男性社員のもとに社長を装って「業務手配あり、総務担当者を含めた3人のチャットグループを作成し、会社の口座情報を送ってください」などとするメッセージが届き、アカウントのアイコンがSNSで社長が使っているものと同じで、IDも似ていたことから信じてしまったといいます。男性社員は、総務担当者と、ニセ社長の3人のグループチャットをつくり、総務担当の社員が7回にわたり、インターネットバンキングを使用し、会社の口座から計2億1900万円を指定された口座に送金したといい、8回目の指示のとき要求された金額が突然減り、総務担当者が違和感を覚えて同僚に相談し被害がわかったものです。警察庁は「社内でネット送金やSNSによる業務指示のルールを再確認し、不審な命令は社長本人に確認を」と呼び掛けていますが、業務上のプロセスを正しく運用できているか、例外対応をしていないかなど、正に「内部統制システム」の実効性が問われているともいえます。

暴力団等反社会的勢力が関与した最近の特殊詐欺の被害事例、海外のオンライン詐欺による被害事例などをいくつか紹介します。

  • 奈良県警はフィリピンに潜伏していた特殊詐欺の指示役の稲川会傘下組織組員を逮捕し、検察に身柄を送りました。容疑者は2022年9月、ほかの人物と共謀の上、三重県鈴鹿市の70代女性からキャッシュカードをだまし取り、現金400万円を引き出した疑いが持たれています。容疑者が関わる事件の被害額は少なくとも1900万円にのぼり、潜伏先のフィリピンから特殊詐欺グループに指示を出していたとみられています。
  • 警察官らになりすまして金塊をだまし取ったとして、大阪府警は、いずれも台湾籍で住居・職業不詳の2容疑者を詐欺の疑いで逮捕しました。2人は短期滞在ビザで日本に入国、特殊詐欺の「受け子」を担った後、すぐに出国する「ヒットアンドアウェー型」の手口とみられます。2人は氏名不詳の人物らと共謀して2026年1月9~27日、警視庁の警察官や検事を名乗って和歌山県内の70代女性に電話をかけ、「暴力団員を逮捕したら、あなた名義の通帳が見つかった。共犯になるかもしれない」と説明、そのうえで「無実の証明のため」などと言って金を購入させ、県内のコンビニの敷地内で紙袋に入った金塊約1.2キロ(約3600万円相当)を受け取り、だまし取った疑いがもたれています。大阪府警は、他県警から「(別事件の)受け子の容疑者が犯行後に大阪に向かっている」との情報を受けて捜査を開始、大阪府内のホテルに今回の容疑者2人を含む台湾籍の複数人が滞在していることを把握し、2人がホテルから和歌山に向かったため捜査員が追跡、コンビニの近くで職務質問したところ、金塊を所持していたのを確認したといいます。王容疑者は2025年12月初旬に、陳容疑者は2026年1月26日に、いずれも短期滞在ビザで来日していました。取り締まりの強化によって日本人の受け子を確保するのが困難になったため、詐欺グループが海外の人物を関与させている可能性もあるとみられています。
  • カンボジア南東部バベットで2025年11月、特殊詐欺に関わったとして、日本人13人が現地当局に拘束された事件で、警視庁と神奈川県警の合同捜査本部は、13人を航空機で日本に移送し、詐欺容疑で逮捕しました。詐欺電話をかける「かけ子」らとみられ、捜査本部は、カンボジア当局が押収したパソコンやスマホを解析するなどして実態解明を進めるとしています。13人は20~60代の男女で、2025年10~11月、警察官を装って神奈川県内の60代女性に「マネロンの容疑者として捜査しないといけない。無実を証明するため、紙幣の調査をする」とうその電話をかけ、現金計1100万円を詐取した疑いがもたれています。カンボジア当局が2025年11月、バベットの詐欺拠点を摘発し、13人を含む外国人50人超を拘束していました。バベットでは2024年8月上旬、かけ子とみられる別の日本人の男12人が現地警察に保護され、同年10月に茨城県警などに詐欺容疑で逮捕されました。
  • カンボジアの町ポイペトを拠点とした特殊詐欺事件で、愛知県警は、詐欺容疑で容疑者を逮捕しました。日本人かけ子の報酬や被害金の流れを捜査する過程で関与が浮上し、愛知県警はマネロン役だったとみて調べています。2025年6月、他の者と共謀し、北海道旭川市の50代の女性にブランド品の注文でレビューを増やすことで高額報酬が得られるとうそを言い、電子マネー約98万円と現金約545万円を送金させ詐取した疑いがもたれています。愛知県警組織犯罪特別捜査課によれば、容疑者は海外渡航歴があり、ポイペト拠点の詐欺事件にマネロン役として関与していたとみられるといい、別の詐欺にも関わっていたとして今回逮捕されたものです。
  • マレーシアを拠点とした特殊詐欺に関与したとして、大阪府警は容疑者を詐欺の疑いで逮捕しました。大阪府警は容疑者が「かけ子」を勧誘する「リクルーター」役だったとみて調べています。容疑者は氏名不詳の人物らと共謀して2025年7~8月、府警捜査2課の警察官を名乗り、東京都内の70代男性に「マネロンの疑いで逮捕状が出ている。逮捕されないためには紙幣の調査が必要」と電話するなどし、現金500万円を振り込ませてだまし取った疑いがもたれています。マレーシアの当局は2025年8月、首都クアラルンプール内の拠点を摘発し、「かけ子」とみられる日本人の20~30代の男4人らを逮捕、府警が同10月に4人を現地から移送し、この70代男性への詐欺容疑で逮捕していました。4人の供述などから容疑者の関与の疑いが浮上、容疑者と4人はもともと知人だったり、知人を介して知り合ったりした間柄で、容疑者が2025年6月に「海外で電話をかけて、もうけられる仕事がある」などと勧誘し、航空券の手配をして4人を現地に送り出したとみています。大阪府警は、容疑者らも大規模な犯罪グループの一員とみており、さらに上位に外国籍の人物がいるとみて調べています。

最近の特殊詐欺等を巡る報道からいくつか紹介します。報道自体はこれ以上されていますが、被害の大きい事件を中心に取り上げます。

  • 大阪府内に住む無職の70代男性が、SNS上で動画広告から偽の「投資」に誘導する手口により、計約3億4000万円の詐欺被害に遭ったと大阪府警が発表しました。男性は2025年8月上旬、SNS上で、実在する投資家が「値上がりが期待できる株式銘柄を教えます」と宣伝する動画の広告を見つけ、動画を見た男性は、動画内で案内されるままに、SNSの「投資アドバイザー」と題したグループトークに参加、トーク内で、指南役から「資産を500%増やすことができる」と言われ、投資用のアプリをインストールして株の投資をするよう勧められたといいます。その後、指定の口座に「投資金」や「利益分を引き出す手数料」などの名目で、10月までに12回にわたり、計約2億3千万円を振り込むよう促され、送金したほか、男性は8月下旬以降にも、別の有名実業家が出演する動画広告をきっかけに、別の投資アプリをインストール。同様の流れで、12月までに8回にわたり、計1億1千万円を振り込んだといいます。12月上旬、一部の振り込みについて不審に思った金融機関が府警に連絡、警察官が男性のもとを訪ねて被害が発覚したものです。なお、府警から詐欺被害に遭っていると伝えられた後、男性は振り込んだ金を引き出そうとし、返還手数料名目でさらに入金していたといいます。
  • 長崎県平戸市の80代女性が金塊をだまし取られた事件で、同県警は、金塊を詐取したとして、埼玉県蓮田市のアルバイトの男を詐欺容疑で逮捕しました。男は何者かと共謀、2025年8月中旬~12月9日、検事や警察官を装って女性に「通帳と携帯電話が犯罪に利用されている」などとうその電話をかけ、捜査協力の名目で購入させた金塊約8キロ(約2億円相当)をだまし取った疑いがもたれています。男は玄関先で女性から直接、段ボールに入った金塊を受け取り、マスクやサングラスなどはしていなかったといい、長崎県警は防犯カメラやドライブレコーダーの映像などから容疑者を特定したといいます。女性は今回の金塊を含め、計約17キロ(約4億円相当)分をだまし取られる被害に遭っており、県警は関連を調べています。
  • 栃木県警那須塩原署は、米・ロサンゼルスで飲食店を経営する50代の男性がSNS型投資詐欺の被害に遭い、現金1億8840万円をだまし取られたと発表しました。男性は2025年8月、SNSの広告を見て投資グループに参加、薦められた投資会社のサイトから投資を開始し、9月に現金200万円を指定口座に振り込んだところ、サイトでは利益が出ていると表示されたため、1億8640万円を追加で振り込んだといいます。利益の一部を出金しようとしたところ、「手数料が必要」と指摘され、不審に思った男性が調べると実在しない投資会社と判明、投資会社は日本の大手企業の関連会社を装っていたといいます。男性は日本と米国を行き来しており、日本では栃木県内に住んでいることから、同署に被害を届け出たものです。
  • 静岡県警静岡南署は、静岡市駿河区の70代女性が約1億1300万円相当の暗号資産をだまし取られる特殊詐欺被害に遭ったと発表しました。2025年9月下旬、厚生労働省職員や警察官、検察官を名乗る人物らから、女性に電話があり「事件であなた名義の預金通帳が見つかり、その通帳がマネロンに使われている」「あなたの資産を全て調査する」などと言われ、女性は言われるがまま、現金を暗号資産に換えて、同12月中旬まで複数回にわたり、指定されたアドレスに暗号資産を送金してしまったといいます。女性はテレビで、落語家が特殊詐欺の話をする番組を見て「もしかして詐欺だったのではないか」と思い、2026年1月下旬に同署へ相談して被害に気づいたものです。
  • 北海道警苫小牧署は、苫小牧市の70代男性がフェイク動画で投資を勧められたことをきっかけに、現金など計約1億300万円をだまし取られたと発表しました。男性は2025年6月、著名人が投資を勧めるフェイク動画で紹介されたサイトで口座登録を行い、その後、金融商品取引業者を名乗る者らから電話があり、11月までに投資や審査料などの名目で、14回にわたって現金や暗号資産などをだまし取られたといい、男性が署に相談して被害が発覚したものです。

特殊詐欺等の対策について、最近の報道からいくつか紹介します。

  • 警察庁は国際電話の着信ブロックや手口への注意喚起などの機能があるスマホ用アプリを「警察庁推奨」と認定する取り組みを始めました。「お墨付き」でアプリの信頼性を高め、普及を後押しする狙いがあります。2025年12月に募集を開始し、2026年3月にも推奨アプリを選定する方針です。2025年の特殊詐欺被害の8割は電話による接触から始まっており、うちスマホや携帯電話に着信があった割合は41%と、2024年の25%から増加しました。急増するニセ警察詐欺などは、海外拠点から国際電話で行われることが多く、2025年1~11月に特殊詐欺で悪用された電話のうち76%は「+1」などの国番号から始まる国際電話でした推奨アプリは、国際電話や国内で過去に詐欺に使われた電話番号からの発着信を遮断できることや、警察庁がまとめた最新の手口などの防犯情報を通知できる機能を備えることが条件え、AIによる詐欺検知など、民間技術による機能向上にも期待を寄せています。防犯アプリの多くは現在有料ですが、推奨アプリは無償で提供し、課金もないことを原則とするといいます。審査を通過したアプリには「警察庁推奨」の表記や同庁のロゴ、エンブレムなどの使用を認め、開発費の支援はないものの、企業側にはイメージや信頼度の向上などのメリットがあるとみられ、利用数や詐欺を防いだ実績なども同庁ホームページで紹介するとしています。特殊詐欺には、警視庁が開発した防犯アプリ「デジポリス」を装った偽アプリをダウンロードさせる新たな手口も登場しており、警察庁は推奨アプリの悪用対策も検討するとしています
  • 警察官を装った詐欺電話の手口を知ってもらおうと、各地の警察は実際にかかってきた通話の音声を公開しています。自身にかかってきた電話の音声を録音し、公開につなげた警察官は「電話があっても焦らず、詐欺の音声を思い出して」と呼びかけています。
  • SNSを通じて面識のない相手とのやりとりの末に金銭をだましとられる「SNS型投資・ロマンス詐欺」の被害額が増加傾向にあることから、秋田県警秋田東署などが、秋田市の日本赤十字東北看護大・同介護福祉短大部で最近の手口を実演しました。同署や共に実施した県警生活安全企画課は「被害者の年齢層は幅広く、高齢層とは限らない。面識のない人とのSNSのやりとりには改めて注意してほしい」と呼び掛けています。この日は実際に警察官が20歳の男子学生役を声で演じ、「彼女がほしいな」と軽い気分でマッチングアプリに登録したところ、ロサンゼルス出身の女性を名乗る相手から「大谷翔平にそっくりね♡」「一緒に遊びたいから小遣い稼ぎをやってみない?」と声をかけられ、最初に5万円を振り込んでしまったという事例を実演、そのほか、50万円を投資したが利益が出なかったため、効率よいアルバイトを探し、SNSを通じて運転免許証や顔写真の画像を送信、家族構成まで伝えてしまったことで仕事を断れなくなり、「キャンセルしたら殺すぞ」などと脅される「闇バイト」の勧誘事例も紹介しました。いずれも同様の事例が秋田でも起きているといいます。県警の担当者は「顔の見えない相手を信用しない、簡単にもうけられる仕事はない、SNSでの投資や副業には要注意だと改めて知ってほしい」としており、詐欺に関する情報をメールで配信するなど啓発に努めています。

(3)薬物を巡る動向

神戸税関が2025年上半期(1~6月)に関税法違反で告発した4件の不正薬物の押収量は約3.9キロに上り、前年同期より70%増となりました。2025年4月には神戸空港が国際化しており、税関は空からの密輸への警戒を強めており、税関職員を空港内の事務所に常駐させ、旅客検査を強化、2025年9月には新たな麻薬探知犬もデビュー、不正薬物摘発のため、空港での検査にも関わるなど体制を強化しています。います。告発の内訳は液状大麻が1件で約2.9キロ、コカインなどの麻薬が3件で約0.9キロで、液状大麻の事案は国際宅配貨物を使った手口で、2024年11月、関西空港で大阪税関の職員が発見したもので、ベトナムからの段ボールに入った化粧品クリームの容器6個の中に分散して詰められていたといいます。荷物の送り先が尼崎市だったことから、神戸税関が引き継ぎ、兵庫県警と共同で捜査、2025年6月、尼崎市内に住むベトナム国籍の男性を関税法違反の容疑で神戸地検尼崎支部に告発しました。不正薬物の押収量は全国的にも増加傾向にあります。財務省によれば、不正薬物の押収量は2023、24年連続で2トンを超えたほか、同省の2025年上半期の税関による関税法違反事件の取り締まり状況によれば、不正薬物全体の摘発件数は前年同期比6%増の531件、不正薬物の押収量は約2073キロで、上半期だけで初めて2トンを超えています。特に大麻は前年同期の8倍の約1332キロと大幅に増加し、全体の6割超を占めたほか、覚せい剤は73%減の約285キロ、コカインやMDMAなどの麻薬は33%増の約443キロとなりました。

指定薬物「エトミデート」を使用したとして、医薬品医療機器法違反の疑いでプロ野球広島の選手、羽月容疑者が広島県警に逮捕されました。プロ野球では2025年、違法なオンラインカジノの利用が複数の現役選手の間で確認されるなど不祥事が相次いでいます。羽月容疑者の逮捕容疑は2025年12月、国内でエトミデートを若干量にわたって使用したというものです。今回の逮捕を受け、球団は公式サイトを通じ「当球団に所属する選手が今回このような事件を起こし、ファンの皆様に多大なるご心配とご迷惑をおかけしておりますことを、深くお詫び申し上げます」と謝罪、その上で「所属選手がこの様な事件を起こしました事を大変重く受け止め、今後このような事態を招くことのないよう、再発防止に向けた取り組みを徹底してまいります」などとコメントしています。本コラムでもその動向を注視しているエトミデートは海外の麻酔手術などに使われる鎮静剤で、神経の働きを抑える作用があり、意識混濁、手足のしびれ、手足の機能不全(動かなくなるなど)、酒に泥酔しているような状態になるといった症状が現れ、激しい眠気に襲われ、意識を失うこともあることから「ゾンビたばこ」とも呼ばれています。エトミデートの使用が若年層を中心に拡大しており、日本では2025年5月に「指定薬物」として厚生労働省から規制されています。これまでに摘発された事件では、電子タバコに取り付けて吸引する方式の、エトミデートを含むリキッド(液体)を入れたカートリッジなどが押収されています。ゾンビたばこはアジアで蔓延し、台湾や中国、タイ、シンガポールなどで社会問題化しており、日本では「笑気麻酔」などと称し、SNS上で売買されるケースが確認されています。とりわけ沖縄県では2025年以降、エトミデートを含む危険ドラッグを使用したとみられる救急搬送の事例が相次ぎましたが、関東でも2025年秋ごろから所持や密輸などの容疑による逮捕事案が相次いでおり、注意が必要な状況です。。プロ野球でエトミデートの使用で摘発されたケースは、羽月容疑者が初とみられますが、現役選手による違法薬物事件を巡っては、広島やロッテでプレーした米国出身の投手が2020年7月、「大麻リキッド」数本を所持していたとして、大麻取締法違反(所持)容疑で逮捕されたケースがありました。同投手の場合にはロッテの退団が発表された直後の逮捕でしたが、現役の日本人選手が逮捕されるケースは極めて異例だといえます。一方、プロ野球界では2025年2月、複数の現役選手が違法のオンラインカジノを利用していたことが発覚、同3月には計8球団16人に対し、総額1020万円の制裁金を科すことを発表、2025年に引き続き現役選手による不祥事が発覚したことで、法令順守に対する意識が改めて問われることになっていますが、組織としても薬物やオンラインカジノの問題を「常識」だからと個人に規律を委ねるだけでは十分ではなく、より能動的に啓発活動に取り組む必要があると思います。

その他、「ゾンビたばこ」を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • エトミデートをタイからの航空機で関西国際空港に密輸したとして、大阪税関関西空港税関支署と関西空港署は、タイ国籍の容疑者を医薬品医療機器法違反(営利目的共同輸入)容疑で逮捕しました。手荷物として隠し持っていたカートリッジ1002本に入っていたエトミデート計約500グラムを押収、大阪府内での摘発は初めて(密輸されたエトミデートを税関が押収するのは全国で3例目)といいます。関空に到着した同容疑者はマレーシア国籍の容疑者=覚せい剤取締法違反(営利目的共同輸入)の疑いで逮捕=と一緒に税関の検査を受け、不審だったためスーツケースを調べたところ、タイ国籍の容疑者の荷物からドライフルーツの袋7袋に分けて隠していた個包装のカートリッジ(縦4・5センチ、横2センチ)を見つけ、1本当たりエトミデートが0.5グラム入っていたほか、マレーシア国籍の容疑者の荷物からは覚せい剤1キロ(末端価格5838万円)が見つかりました。組織的な事件の可能性があるとみられています。カートリッジに詰めて加熱し、電子たばこで手軽に吸引できることから若者らの乱用が問題となっていますが、カートリッジは1本約2万円で取引されたケースがあるといいます。
  • 「ゾンビたばこ」を密輸した疑いで、指示役の男が逮捕されました。容疑者は2025年11月、指定薬物の「エトミデート」およそ2キロをタイから密輸した疑いが持たれています。荷物の受け取り役の男が「容疑者に頼まれた」と話したことなどから、関与が浮上、容疑者は、「荷物に違法な薬物が入っていることは知りませんでした」と容疑を否認しているということです。2025年9月以降、東京都や千葉県では「エトミデート」とみられる密輸がほかにも数件確認されており、警視庁は、暴力団組織が関与しているとみて捜査しています。

暴力団等反社会的勢力が関係した薬物事犯について、いくつか紹介します。

  • SNSで違法薬物の「運び役」を募集したとして、警視庁は会社員の寺内容疑者を職業安定法違反(有害業務の紹介)の疑いで逮捕しました。「職業紹介したことは間違いないが、荷物が違法薬物だとは知らなかった」と容疑を否認しているといいます。薬物銃器対策課によれば、容疑者は2025年1~2月、違法薬物を密輸するための運び役を募集するため、SNSで「VIP手荷物配送代行サービス」「報酬20万円案件」などと求人広告を出した疑いがもたれています。「VIPのお客様の荷物をお預かりして、目的地まで届けるお仕事になります。お客様の滞在地にて受け取りを行い、目的地まで責任を持ってお届けいただきます」などと説明していたといいます。職安法は、職業の安定を図ることなどを目的に、有害な業務に就かせる目的での職業紹介を禁じており、薬物密輸事件で適用したのは全国初となります。また、警視庁は、液体大麻4.8キロを2025年6月に密輸した疑いがあるとして、職業不詳の高橋容疑者を麻薬取締法違反(営利目的輸入)の疑いで逮捕しました。彼らはトクリュウとみられ、「指示役」の高橋容疑者が「リーダー役」の寺内容疑者らに指示するなどして、違法薬物の「運び役」を確保していたといいます。高橋容疑者らが2025年2~9月、「闇バイト」に応募した20~60代の男女6人を運び役や受け取り役にして、2025年2月以降に見つかった分だけで、アメリカやタイ、ペルーから覚せい剤約24.7キロ(末端価格約14億3千万円)、コカイン約2キロ(同5千万円)などを密輸した可能性があるとみて調べています。報酬は1件1万~15万円だったといい、高橋容疑者の逮捕は5回目となります。捜査幹部は「薬物の密輸といった有害な業務を募集する行為についても、厳しく取り締まっていく」と述べています。
  • 車のトランクなどに覚せい剤約100グラムを営利目的で隠し持っていた疑いで、六代目山口組系幹部とその妻が逮捕されました。車内からは覚せい剤のほかコカインなど末端価格1633万円相当の違法薬物見つかりました。2人は共謀し2025年12月、福岡県古賀市の九州自動車道古賀サービスエリアに止めた車の中に覚せい剤約100グラム(末端価格約585万円相当)を営利目的で所持していた疑いがあります。関東から車で九州方面に向かったとの情報を受け、警察が古賀SAで車内を調べたところ、トランクなどから覚せい剤のほかMDMA約1000錠(末端価格約602万円相当)、コカイン約180グラム(末端価格約446万円相当)などが見つかり押収したものです。車は他人名義で、2人と一緒に10代の娘も乗っていたということです。警察は2人が違法薬物を運んだり売り渡していた疑いもあるとみて、覚せい剤などを持っていた経緯を詳しく調べているといいます。
  • 覚せい剤を使用した暴力団幹部が検挙されないよう嘘の供述をしたとして、犯人隠避の疑いで土木作業員の男が逮捕されました。男は六代目山口組傘下組織幹部が覚せい剤取締法違反の疑いで検挙されるのを免れさせるため、2025年12月、福島県警須賀川警察署内において警察官に対し虚偽の供述をして、犯人を隠避した疑いが持たれています。男と暴力団幹部との関係や、男の供述内容については捜査に支障が出るとして、警察は明らかにしていません。

その他、薬物を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 覚せい剤約6キロを密輸したとして、那覇地検は、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)罪などで、岡本被告を起訴しました。2025年9月、航空便でタイから那覇空港に覚せい剤約6キロ(末端価格約3億4000万円)をスーツケースに隠し輸入したとされます。沖縄地区税関によれば、那覇空港での薬物密輸摘発で過去最多の量となります。
  • 東京地検は、俳優の米倉涼子さんについて、厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部(麻取)から麻薬取締法違反と医薬品医療機器法違反の容疑で書類送検を受け、不起訴としたと発表しました。地検は不起訴の理由を明らかにしていません。米倉さんは2025年8月、都内の自宅で、大麻や麻薬などを含有する液体などを男性と共同で所持した疑いがあるとして、麻取が書類送検していました。米倉さんは2025年12月、所属事務所のホームページで、「自宅に捜査機関が入ったことは事実」「これまでの協力により一区切りついた」などとするコメントを出していました。
  • 乾燥大麻を所持したとして、麻取が、音楽デュオ「Def Tech」のMicroとして活動する西宮容疑者を麻薬取締法違反(所持)容疑で現行犯逮捕しました。西宮容疑者は、東京都渋谷区の自宅で乾燥大麻数グラムを所持した疑いがもたれており、麻取による捜索で、自宅から乾燥大麻が発見されたものです。
  • 自宅で麻薬成分を含むグミやカプセルを所持したとして、神奈川県警と横浜税関は、米海軍艦船修理工の米国籍の男を麻薬取締法違反(所持)の疑いで再逮捕しています。再逮捕容疑は2026年1月、自宅で、麻薬成分の「サイロシビン」や「サイロシン」などの麻薬成分を含むグミやカプセルなど計約100グラムを所持したというもので、男は米国から麻薬成分を含むグミやカプセルなど約278グラムを輸入したとして、同法違反(輸入)の疑いで逮捕されていました。麻薬が入った荷物は基地内の私書箱宛てに、非公用軍事郵便として送られており、税関が発見しました。県警は今後、麻薬の送り主の特定を進めるとしています。
  • 陸上自衛隊八尾駐屯地(大阪府八尾市)は、大麻を複数回使用したとして、中部方面航空隊所属の男性陸士長2人を懲戒免職にしています。2人の大麻使用を疑った同僚が上司に報告し発覚、内部調査で2人が使用を認めたため、大阪府警八尾署に通報したものです。
  • 営利目的で大麻草を栽培したとして、京都府警は、大麻草栽培規制法違反(営利目的栽培)の疑いで、北川容疑者と嶋谷容疑者=麻薬取締法違反罪で逮捕、起訴=を再逮捕しています。2人は知人関係で、北川容疑者が栽培した大麻を、嶋谷容疑者が経営する大阪市内の居酒屋で複数人に1グラム4千円で密売していたといいます。逮捕容疑は共謀し2025年8月~11月、北川容疑者の自宅で大麻草75個(約945グラム、末端価格約472万円)を栽培したとしています。府警は2025年11月、2人を麻薬取締法違反(営利目的所持)容疑で逮捕、北川容疑者宅から栽培に使ったとみられるLEDライトなどを押収していました。
  • 大麻成分THC(テトラヒドロカンナビノール)を含むスイートポテトを営利目的で製造したとして、京都府警は、麻薬取締法違反(営利目的製造)の疑いで、加藤被告=麻薬取締法違反罪などで起訴=を再逮捕しています。逮捕容疑は、氏名不詳者らと共謀し、2025年11月、自宅で大麻を加熱するなどして成分を抽出しバターに混入、大麻成分を含むスイートポテトを製造したとしています。大麻成分を含むスイートポテトは秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」上で6500円で販売されていたといいます。京都府警によれば、別の薬物事件の捜査から今回の製造の疑いが浮上、製造方法については「密売仲間から教えてもらった」などと話しているといいます。加藤容疑者は2025年11月、大麻草約7.5グラムを営利目的で所持したとして、麻薬取締法違反の容疑などで逮捕されていました。
  • 大阪府吹田市の幼稚園に男性が侵入した事件で、建造物侵入の疑いで逮捕された容疑者が「大麻を使用していた」という趣旨の話をしていることがわかりました。大阪府警は容疑者が幼稚園に侵入した際に違法薬物を使用していた可能性があるとみて、供述の裏付けを進めています。
  • 2025年末に東京都葛飾区で歩行者の女性が車にはねられて死亡する事故があり、この車から覚せい剤が見つかったとして、警視庁亀有署は、運転していた西川容疑者を覚せい剤取締法違反(営利目的所持)容疑で逮捕しました。事故は環状7号線で、横断歩道を歩いて渡っていたネパール人留学生が赤信号を無視した乗用車にはねられ死亡したもので、西川容疑者は自動車運転処罰法違反(過失致傷)容疑で現行犯逮捕され、車のドアポケットから覚せい剤入りのポリ袋が見つかったといいます。今回の逮捕容疑は、2025年12月29日、車で覚せい剤0.64グラム(末端価格3万7000円)を所持したとしています。

2026年2月3日付朝日新聞の記事「著名人の薬物事件で注目の「マトリ」、全国に300人 拳銃の携帯も」では、麻取について理解を深めることができました。具体的には、「「情報のアンテナを広く深く静かに張り巡らせ、密売人や乱用者を検挙」。麻薬取締部は、ウェブサイトで、自らの役割をこう説明する。厚生労働省などによると、捜査、調査総務、鑑定部門に分かれ、覚せい剤や大麻などの違法薬物に絡む捜査のほか、医薬品の流通を監視したり、薬物乱用を防ぐ啓発活動をしたりしている。このうち、捜査を担当するのが麻薬取締官だ。国家公務員の採用試験に合格したり薬剤師の免許を受けたりすると採用される。全国に約300人いて、関東信越や北海道、近畿、九州などの地方厚生局などに所属。刑事訴訟法に基づき、警察官と同じように逮捕権を持っている。過去には、違法薬物に絡み、有名ミュージシャンや元アイドル、キャリア官僚らを捜査してきた。尾行や内偵時の容疑者の撮影の技術が求められ、逮捕術の訓練を受けるという。必要と認められた場合には、拳銃を携帯することもある。捜査情報だけでなく、自分自身の情報の保秘徹底も求められている。ある取締官は、実名でSNSアカウントは持たず、ネット上の「顔出し」はしない、などと厚労省のサイトで説明している。また、警察や税関、海上保安庁などと協力して、海外から密輸される違法薬物を押収したり「泳がせ捜査」で指示役を逮捕したりすることもある。近年では、大麻の有害成分と似た成分を含むとみられる「大麻グミ」による健康被害が相次いだことから、全国各地の関係先に立ち入り検査をして、流通の拡大を防いだ」というものです。

若い世代で広がる薬物乱用を防ごうと、警視庁はお笑い芸人のヒコロヒーさんが出演する啓発動画を作成し公開しています。約26分の動画のタイトルは「運命の分岐点」で、大学生や専門学校生が友人に誘われて大麻やコカインなどの薬物に染まっていく様子をドラマにしています。ドラマには、薬物体験者が後ろ姿などで出演、「お金が足りなくなり、盗みをしたり、売春のようなことをしたりして、社会から孤立した」「妄想がひどくなり、そこから逃げたくて近くの8階のビルから飛び降りた」といった経験を語っているほか、武蔵野大学薬学部の阿部和穂教授も登場し、依存症の仕組みを解説し、「薬物の作用でご褒美を得られた気になる。薬が切れれば、残るのは欲求不満と閉塞感」と警告しています。なお、警視庁が2025年の1年間に薬物事犯で摘発した人が2910人(概数)に上り、2024年と比べ約2割増加し、3年連続で増えたことも分かりました。全体のうち、20代以下の若年層が5割を占めていることから、警視庁は若年層への啓発を進めていくとしています。薬物事犯のうち、いずれも概数で、覚せい剤が1100人(20代以下が3割)、大麻が1140人(同7割)、コカインが420人(同7割)になっており、警視庁としては、大麻が初めて覚せい剤の摘発者数を上回ったといいます。2025年は、若手俳優や複数の大学運動部の部員らが大麻所持容疑で逮捕されるケースが相次ぎ、同庁薬物銃器対策課が2025年、四つの高校・大学のほか、スポーツ団体など計20カ所で講義をして、学生や新入社員、新人選手に薬物乱用の防止を呼びかけたほか、各警察署でも同様の活動をしているといいます。

新学期が始まり、少年少女らが東京・歌舞伎町の「トー横(東宝ビル横)」周辺に集まって犯罪に巻き込まれたりするのを防ごうと、警視庁は2026年1月、2度にわたり、土曜の夜から朝にかけて、深夜徘徊や医薬品の過剰摂取(オーバードーズ)をするなどしていた14~19歳の男女32人を一斉補導しました。2023年以降にトー横周辺で行っている一斉補導では、補導人数は最多tなりました。報道によれば、補導した32人のうち29人は女性で、保護者の元に帰したり、児童相談所に引き継いだりするなどしたほか、女性のうち4人はオーバードーズの疑いがあり、路上でけいれんを起こして救急搬送された女子中学生(14)や、かばんの中に睡眠導入剤など約600錠を所持していた女子中学生(15)もいたといいます。医薬品を大量に所持しているケースについて、同課は今後、入手経路も調べるとしています。大阪府など遠方から訪れていた女子中学生もおり、警視庁は「トー横には悪意のある大人もいる」として、安易な気持ちで訪れないよう呼びかけています。

海外における薬物を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • メキシコ政府は、犯罪組織の構成員ら37人の凶悪犯を米国に引き渡しました。メキシコの麻薬カルテルを標的とするトランプ米政権による攻撃が現実味を増しており、過去最大規模の引き渡しで協力姿勢を示し、軍事攻撃を思いとどまるよう促す狙いがあります。メキシコメディアのウニベルサルによると、メキシコシティ近郊の空港から移送された37人には、メキシコで暗躍する2大勢力の「シナロア・カルテル」と「ハリスコ新世代カルテル(CJNG)」のメンバーが含まれ、とりわけCJNG創設者のネメシオ・オセゲラ容疑者(通称「エル・メンチョ」)の兄弟も含まれているといいます。エル・メンチョは米国が最高1500万ドル(約24億円)の懸賞金をかけて行方を追っている最重要クラスの容疑者です。メキシコ最大級の麻薬カルテルに成長したCJNGはトランプ政権が問題視する合成麻薬「フェンタニル」の米国密輸にも深く関与しています。米国で死刑が求刑されないことを条件に、受刑者はワシントン、ヒューストン、ニューヨーク、サンディエゴなど米国内の都市へと航空機で移送されています。トランプ政権は麻薬密輸を「テロ」と呼び、ベネズエラへの地上攻撃に踏み切りました。合成麻薬フェンタニルの経由地となっているメキシコへの軍事介入も辞さない構えで、シェインバウム大統領は、37人の移送について、米司法省の要請があったことを認める一方、「メキシコが主権的に判断した」と強調しています。ただ、メキシコは米国境近くを中心に麻薬カルテル構成員や違法薬物の摘発を強化しているものの、トランプ大統領はメキシコの摘発が生ぬるいという認識を隠しておらず、ベネズエラ攻撃も参考に、(メキシコの関与の有無にかかわらず)短期で終結させられるメキシコ国内のカルテル拠点や個人への攻撃を視野に入れているとみられています。米連邦航空局(FAA)は、米国の航空会社のパイロット向けにメキシコを含む中米、南米コロンビア、エクアドル沖の太平洋上やカリフォルニア湾の上空を飛行する際には注意するよう警告する一方、シェインバウム大統領は「私たちは常にメキシコの主権、領土、決定への尊重を求めている」と述べ、トランプ大統領が再三提案してきたメキシコへの米軍派遣を今後も断り続ける考えを示しています。シェインバウム政権発足後の1年半足らずで、米国に引き渡した受刑者は92人となりました。米軍の脅威を警戒するメキシコにとって、凶悪受刑者の引き渡しは数少ない米国向けの譲歩手段となっており、2025年2月には、米麻薬取締局(DEA)捜査官殺害の容疑で米国が長年の宿敵としてきたラファエル・カロ・キンテロ受刑者ら29人を移送、8月にもCJNGやシナロア・カルテルの元幹部ら26人を引き渡したものの、トランプ氏は関税や軍事攻撃をちらつかせてメキシコを挑発する姿勢を崩していません
  • メキシコの蒸留酒、テキーラ発祥の地として知られるテキーラ市(中西部ハリスコ州)のディエゴ・リベラ市長が連邦当局に逮捕されました。立場を悪用してテキーラの世界大手を恐喝していたとみられ、麻薬組織CJNGとの共謀も浮上しているといいます。「ホセ・クエルボ」などを製造するテキーラ製造のベクレに法定税率の最大20倍の固定資産税を課し、6000万ペソ(約5億円)の罰金も徴収していた容疑がかかっており、同市の治安、公共事業、土地登記を担当していた職員3人も同時に逮捕、工場操業の許認可権限をちらつかせ、連携して金品を巻き上げていたとみられています。同市では2025年、米国が20億円超の懸賞金をかけて行方を追うCJNG創始者、ネメシオ・オセゲラ容疑者(通称エル・メンチョ)を称賛する映像が音楽ライブ中に投影されて物議を醸し、興行を許可した市の姿勢も疑われました。連邦捜査当局は恐喝で得た資金や公的資金をCJNGに横流ししていたとみて、リベラ容疑者を追及しています市役所内にはリベラ容疑者を頂点とするCJNG協力者のネットワークが確立され、闇の集金システムとして機能していた可能性があるといいます。メキシコでは行政機関や警察、裁判所の腐敗も麻薬カルテルを長く社会から根絶できない一因となってきました。非政府組織(NGO)「トランスペアレンシー・インターナショナル」がまとめた2024年の腐敗認識指数調査によれば、メキシコは100点満点で26点と世界180カ国中で140番目と低迷、CJNGやシナロア・カルテルなどの大規模カルテルは米国から密輸された武器と豊富な資金で国軍並みの装備を備え、公的機関内部にも根を下ろしているとされます。
  • 米連邦捜査局(FBI)は、スノーボードの元五輪カナダ代表のライアン容疑者をコカイン密輸と殺人の疑いで逮捕しました。現役引退後、10年以上にわたりメキシコに潜伏しながら、麻薬密輸に関与していたといいます。報道によれば、容疑者は、メキシコの麻薬組織「シナロア・カルテル」の保護下で、コロンビアからメキシコ経由で米国やカナダにコカイン約60トンを密輸し、その過程で複数の殺人を指示した疑いがもたれています。FBIは1500万ドル(約24億円)の懸賞金をかけた最重要指名手配犯として行方を追っていました。ると、ウエディング容疑者は22日、メキシコの米国大使館に出頭した。
  • 米国のトランプ大統領は2026年2月、ホワイトハウスでコロンビアのグスタボ・ペトロ大統領と会談し、麻薬対策で協力することで一致しました。第2次トランプ政権発足後、両国関係は悪化していましたが、緊張緩和に向かう可能性があります。トランプ大統領は会談後、ベネズエラ情勢などを巡っても意見を交わしたことを明らかにし、「素晴らしい会談だった」と述べ、ペトロ大統領はコロンビア国外に住む麻薬組織幹部らの逮捕に向けて米国の支援を求めたと明らかにしました。トランプ大統領はコロンビアの麻薬対策が不十分だとして、ペトロ大統領を「麻薬組織の指導者」と呼び、軍事攻撃に踏み切る可能性を示唆、左翼ゲリラ出身のペトロ大統領は「祖国のために再び武器を取る」と反発していましたが、両氏は2026年1月に行った電話会談で融和ムードに転じました。
  • シリアで薬物汚染が続いています。2024年12月のアサド政権崩壊まで国家ぐるみで行われてきた麻薬製造は減少しましたが、密売は継続しているためで、薬物依存に陥る若者が後を絶たないと報じられています(2026年1月22日付読売新聞)。薬物依存症回復支援施設「希望センター」がフランス政府などの支援で2025年1月に本格稼働しました。同11月までに250人以上の入所者を受け入れ、2000人以上を外来治療しており、大半は20~30歳代の若者で入所を繰り返す患者もいるといい、「内戦で心に傷を抱え、薬物に頼り続ける人も多い。患者は減る気配がない」と(施設長)といいます。暫定政権軍兵士らの間で薬物に手を出す人は多いといいます。アサド前政権は、欧米などの制裁で経済苦境に陥る中、麻薬ビジネスで巨額の利益を得ていました。国連が2025年12月に発表した報告書によれば、政権崩壊後に15か所の麻薬製造施設と13か所の貯蔵施設が解体されたことで、シリアでの麻薬製造は8割が止まったといい、周辺国との連携で押収量も増えました。しかし、同施設長は「政権崩壊前に製造された薬物がまだ大量に出回っている」と分析、国連報告書は「製造や密売阻止に加え、乱用防止や治療などでも各国が連携して対策を強化していくことが重要だ」と強調しています。

(4)テロリスクを巡る動向

衆院選に向けて警察庁は、単独でテロを実行する「ローンオフェンダー(LO)」の情報集約を強化する「LO脅威情報統合センター」を設置しました。警視庁や埼玉、千葉、神奈川県警から捜査員を集め、全国の警察から刑事や生活安全など各部門の情報を集めて分析、危険が差し迫っていると判断したXの投稿については、同庁や都道府県警がアカウントに関する速やかな情報提供をXに要請、発信者を特定し、必要に応じて接触するなどして警戒に役立てる態勢を整えました。また、テロの前兆に気づく可能性がある不動産業者や爆発物原料の販売業者との連携も強化しました。また警察庁は、X社に対し、候補者らに危害を加えるといった投稿をしたアカウント情報の開示に協力するよう要請しました。2025年の参院選では、投票日前日までの1カ月間で、SNSなどで危険な内容の投稿が889件確認され、各地の警察から数十件の開示を依頼、半数ほど開示されたといいます。

前回の本コラム(暴排トピックス2026年1月号)でも取り上げましたが、安倍元首相が2022年に奈良市で銃撃されて死亡した事件で、殺人罪などに問われた無職山上徹也被告の裁判員裁判の第15回公判が奈良地裁であり、検察側は論告で無期懲役を求刑しました。無期懲役の量刑は、犯行の危険性や結果を踏まえれば重すぎるとはいえず、妥当ではないかと筆者は考えます。被告の生い立ちが犯行に大きく影響したのか、動機の形成過程が最大の焦点でしたが、教団への恨みや怒りは分かるものの、なぜ最終的に安倍元首相を狙ったのか、その疑問が検察側・弁護側の冒頭陳述では明らかにならず、公判を通じても十分には解明されなかったと感じます。判決は、被告の不遇な生い立ちは「遠因」にすぎず、安倍氏殺害に至ったことには「大きな飛躍」があるとし、生い立ちが犯行動機に強く結びついているという弁護側の主張の核心部分が否定される形となりましたが、この点は今後あらためて深く検討される余地があるようにも思います。ある専門家は、「その判断に至る中で、一番大事な部分が漏れていないか。判決は「合法的な解決を模索することなく、反社会性の大きい殺人を選択した」「その点に生い立ちが大きな影響を及ぼしたとは認められない」などとする。しかし「模索」とは、どうすればよかったのか。何ができたのか」「模索などせず、狭い視野のまま、決めたことに突き進んでしまう姿は、生い立ちと関係があるように思う。オウム真理教の事件でもみられた、カルト宗教的な思考パターンだ。被告は信者ではないが、証人の宗教社会学者の指摘通り、信者の母の影響ではないか」と指摘していましたが、筆者も同意できる部分もあるためです。さらに、別の専門家は、「判決で山上被告の生い立ちが「不遇」という一言で片付けられ、「宗教2世」問題が事件と切り離されたことには大きな疑問を覚える。弁護側の主張はほぼ退けられ、情状酌量も認められず、かなり厳しい判断だと受け止めている」「宗教を背景にした虐待が法廷で一つのテーマとして上がったことなどから、山上被告の境遇が宗教2世の問題として社会に一定程度認識されたことは前進だ。一方で、判決は旧統一教会の問題性に触れておらず、教団と政治の関係についても捨て置かれた。結局、家族の問題や個人の不遇として受け止められ、深められなかったように感じた。宗教2世としての生い立ちが、その後の生き方や考え方にどのような影響を与えるのか。弁護側はその点の立証が足りなかったように思う。宗教2世にも様々な境遇や影響があることを踏まえ、この問題にふたをせず、考え続けなければいけない」との指摘も一考に値します。なお、山上被告側は、判決を不服として控訴しました。弁護団は協議の結果、生い立ちを巡る判決の評価は不当で、量刑が重すぎると判断、銃刀法違反についても引き続き争う方針で、大阪拘置所で勾留中の被告に控訴の意向を説明したところ、被告も反対しなかったといいます。

本件については、2026年1月22日付日本経済新聞の記事「安倍元首相銃撃 「個」の凶行絶えぬ社会、教訓を共有できる裁判に」における編集委員・坂口祐一氏の論説が大変示唆に富むものでした。具体的には、「SNSの普及などを背景に、日本でも政治や価値観をめぐる社会の分断・対立が進み、閉塞感や不透明感が増している。安倍氏の銃撃事件はそんな情勢のなかで起きた。案の定というべきか、事件直後から犯行を称賛したり、「真の犯人は別にいる」「闇の勢力に消された」といった陰謀論が広がったりする事態となった。こうした「空気」のまん延は、捜査から裁判に至る刑事司法の信頼にかかわる問題だ。ひいては治安状況の悪化にもつながる。「個人」が極端で身勝手な考えにとらわれ引き起こす「ローンオフェンダー(単独の攻撃者)」型の事件は、分断や対立が進む社会を土壌として生まれやすい。安倍氏銃撃も同じ流れにあるといっていい」「2009年、市民が審理に直接参加する裁判員裁判が導入された。「身近な刑事司法」を目指した制度は定着し一定の成果を上げているが、時代や社会の変容にあわせ、「真相」「教訓」を導き出す機能を一段と強化する必要がある。たとえば犯行の背景となる被告の生い立ちや成育環境について、十分な審理がなされていないと指摘されるケースがある。裁判員の負担を軽減するため、審理の迅速化を図った結果だとすれば本末転倒であろう。傍聴希望が殺到する事件でも法廷は限られるので、実際に「公開」する相手は数十人、ということになる。対象事件の範囲や実施場所を限定するなどしながら、オンライン傍聴などにも取り組んでいくべきではないか。すでに司法の信頼を自ら傷つけている「人質司法」と呼ばれる保釈のあり方についても、この際、見直しを求めたい。「いま」という時代だからこそ、刑事裁判は正義や真実、人権といった価値を体現する砦(とりで)として、真に開かれた、社会が教訓を共有できる場であってほしいと願う」というものです。

政府は、化学兵器や放射性物質などを用いたCBRNEテロ対策に関する会議を首相官邸で開き、木原稔官房長官は「科学技術の進展に伴い、テロを巡る情勢は変化している」とし、訓練の充実や医薬品の備蓄を進め、国が速やかに対処できる制度の検討を指示、2026年夏をめどに中間報告を取りまとめる方針を示しました。検討課題として、赤間国家公安委員長は「原因物質が特定されない中で救助に当たる警察官の初動対応」を、松本デジタル相は「訓練で把握できた課題に即した各機関のマニュアル変更」を挙げています。CBRNEは化学、生物、放射性物質、核、爆発物の英語の頭文字で、1995に発生したオウム真理教による地下鉄サリン事件や、2001年の米同時多発テロなどを機に、各国が対策強化を図っています。なお、直近では、東京都江東区新砂の東京税関東京外郵出張所から「荷物から放射線が検出された」と110番があり、荷物はベトナムからの国際郵便で、中身から微量の放射線が検出される事件がありました。税関は荷物を保管している同出張所3階への立ち入りを規制、税関側から報告を受けた原子力規制庁によれば、荷物の箱には重ね合わされた鉛とみられる金属の板が入っており、板の間にあった物質から微量の放射線が検出されたといいます。国際郵便を扱った人の健康への影響はないとみられています。通報を受け、NBCテロに対応する警視庁の公安機動捜査隊なども出動し、同庁などが中身を詳しく調べています。

公安調査庁はオウム真理教主流派の後継団体「アレフ」が資産報告義務に従っていないなどとして、団体規制法に基づく再発防止処分の継続を公安審査委員会に請求しました。オウムのトップだった松本智津夫元死刑囚=執行時(63)、教祖名麻原彰晃=の妻と次男を、前回2025年7月の請求時と同様に「役職員」と認定しています。処分は2023年3月から半年ごとに繰り返されており、現在は6回目で、公安審は期限の3月20日までに可否を判断することになります。請求は、4施設の全面使用禁止のほか、11施設の事務所など一部の使用禁止や、布施など金品や財産上の利益を受けることの禁止を継続する内容です。

アフガニスタンの首都カブールで、中国人らを標的にしたテロ事件があり、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の分派が犯行声明を出しました。地元当局はアフガン領内でのISの活動を否定してきましが、実際には潜伏を続けており、周辺地域に脅威が波及する可能性も指摘されています。店はイスラム教徒の中国人と妻、アフガン人が共同で経営、死亡した中国人と店の関係は不明ですが、経営者と同じくイスラム教徒だということです。事件直後、ISの分派「ISホラサン州」(IS―K)が自爆テロを実行したと声明を発表しました。ウイグル族に対する中国政府の抑圧を理由に、中国人を標的にしたと主張しています。2021年にアフガンでイスラム主義組織タリバンが復権して以降、IS-Kは対立するタリバンの幹部や外国人を狙った攻撃を繰り返しており、2022年12月には、カブールで中国人客が多いホテルとパキスタン大使館が襲撃されました。IS―Kは、中国同様にタリバンとの関係を深めるロシアを敵視し、2024年3月にはモスクワ近郊のコンサートホールでの大規模なテロ事件も発生、こうした国々の権益を攻撃することで、タリバンの統治基盤に揺さぶりをかける狙いがあるとみられています。タリバンは「ISは壊滅した」と主張していますが、残存勢力の抑え込みに苦慮している実態も浮かびます。国連安全保障理事会の分析支援・制裁監視チームは2025年12月の報告書で、タリバンやパキスタン当局による対テロ作戦の結果、IS-Kによる攻撃件数は減少したと指摘していますが、活動自体は続いており、アフガン北部や東部への「顕著な拡大を示している」とも言及しています。IS-Kの構成員は少なくとも2000人と推定され、指導部はアフガンのパシュトゥン系が占める一方、構成員の多くは中央アジアの出身者といいます。各地で注目を集める攻撃を実行することで、戦闘員の勧誘や資金提供に結びつける狙いもあるとみられています。勧誘はSNSのチャットグループなどを通じて行われ、その対象は10代後半~20代の若者で、中央アジアなどの出身国からアフガンに渡る者もいれば、欧州などに送られるケースもあるといいます。国連の報告書は「アフガニスタンと近隣国の間に十分な連携がなければ、脅威が波及するリスクがある」と警告しています。一方、タリバン暫定政権の内務省報道官は声明で、今回のテロ事件を除けば、過去1年間で重大な事件は一件もなかったと強調、そのうえで、「国内全域の治安は確保されており、我々は一層の注意を払うことを保証する」と述べています。

ISはじめ海外におけるテロ/テロリスクを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • シリア内務省は、東部アル・シャッダディの刑務所からISの戦闘員約120人が脱走したと発表しました。一方、クルド系ウェブサイト「ルダウ」によれば、クルド人勢力「シリア民主軍(SDF)」のファルハド・シャミ報道官はISの約1500人が脱走したとしています。周辺では暫定政府軍と少数民族クルド人のSDFが交戦していたとみられますAP通信によれば、SDFは北東部の10カ所以上に計約9千人のISの戦闘員を収容しているといいます。なお、シリア内務省によれば、脱獄を受けて、シリア軍部隊と同省の特殊部隊がアル・シャッダディに入り、治安部隊が町とその周辺地域で捜索・掃討作戦を実施、逃亡者の拘束に取り組んでいます。これに先立ち、シリア軍はアル・シャッダディでSDFの支配下にあった刑務所から「何人か」のIS戦闘員が脱走したと発表し、SDFが解放したと非難していました。SDFは、政府軍との数日にわたる戦闘の後、アラブ系住民が多数を占める石油・小麦の主要生産地デリゾール県と水力発電ダムを有するラッカ県からの撤退に合意しています。暫定政府はクルド人に固有の文化と言語を維持する権利を保証し、IS収容所の管理権も暫定政府側に移るとされていました。シャラア氏は国内諸民族の融和と中央集権の実現を掲げており、クルド人勢力との和解が成立すれば大きな成果となるが、先行きは不透明な状況です。
  • 米国のバラック・シリア担当特使は、シリア北東部を実効支配するクルド人勢力のSDFに対し、「新生シリア」に加わる絶好の機会だと主張し、暫定政府との統合を訴えました。米国はIS掃討でSDFと連携してきましたが、目的は「ほぼ果たした」と表明、方針を転換し、今後は暫定政府と協力する意向を示しました。米国が暫定政府寄りの姿勢を鮮明にしたことで、SDFには打撃となりました。
  • 米中央軍は、シリア北東部ハサカ県の収容所からISの戦闘員をイラクの施設へ移送する任務を始めたと発表しました。ハサカ県では、IS戦闘員が収容所から脱走、中央軍は移送任務を通じ「テロリストを安全な施設で収容し続けることを確保する」とし、最終的には最大7千人を移送する可能性があるとしています。中央軍のクーパー司令官はイラク政府への謝意を示し、シリアのシャラア暫定大統領と電話会談、シリア暫定政府によると、脱走したIS戦闘員らは約120人で、半数以上を拘束したといいます。また、米中央軍は、シリアでISを標的にした攻撃を実施したとXで発表、通信施設や武器貯蔵施設を破壊するなどしたといいます。クーパー司令官は攻撃について、シリアでのIS復活を阻止するとの決意を示すものだと主張しました。これまでの約2カ月間の作戦の結果、50人以上のIS戦闘員が殺害または拘束されたとしました。シリアでは2025年12月に、ISによるとされる襲撃で米兵らが死亡しています。
  • パキスタンの首都イスラマバードのイスラム教シーア派モスクで自爆攻撃が発生し、少なくとも31人が死亡、約170人が負傷しました。事件後、ISが通信アプリ「テレグラム」で犯行声明を出しています。警備が厳重なイスラマバードでの攻撃としては、過去10年以上で最悪の被害となりました。当時は金曜の礼拝中で、犯行に及んだ人物は爆弾を爆発させる前にモスクの入り口で止められたといいます。パキスタンのダール外相はXで「礼拝所や民間人を標的にするのは人道に対する凶悪な犯罪だ。パキスタンはあらゆる形態のテロに団結して立ち向かう。過激派は責任を問われることになる」と犯行を非難しました(一方、パキスタンの国防相はXに「インドとアフガニスタンの共謀が明らかになりつつある」と非難する声明を投稿、これに対しインド外務省は「根拠がない」と否定しています)。パキスタンではここ数年、アフガニスタンとの国境沿いで過激派の勢力拡大が目立っています。1月31日には南西部バロチスタン州で武装勢力が民間施設を襲撃するなどして民間人や治安当局者計58人を殺害するなど、事件が続発しています。パキスタンは人口約2億4000万人のうちイスラム教スンニ派が多数を占め、シーア派は少数派で、これまでもISやスンニ派のイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」などによる暴力の標的となっています。
  • 西アフリカ・ニジェールの首都ニアメーの国際空港で2026年1月に武装集団の襲撃事件があり、ロシア外務省は同2月、鎮圧のためロシア軍部隊がニジェール軍に協力したと表明しました。事件で武装集団の20人が死亡、うち1人はフランス国籍者だといいます。ISが系列ニュースサイトで襲撃を認める声明を出しました。ニジェールでは2023年のクーデターで軍事政権が成立し、ロシアとの関係を強化、近年クーデターで軍政が権力を握った隣国のマリとブルキナファソも、ロシアに接近しています。
  • EUの外相は、イランで多くの死者を出した反政府デモ弾圧に絡む制裁措置として、イランの精鋭部隊「イスラム革命防衛隊」をテロ組織に指定しました。EUのカラス外交安全保障上級代表(外相)はXで「弾圧は放置できない」とし、「自国民を何千人も殺害するような政権は終焉に向かっている」と批判しています。同時に、記者団に対しては「外交ルートは引き続き開かれている」とし、制裁によるイランとの関係断絶を巡る懸念を退けました。イランでは2025年末から2026年初にかけ反政府デモが全土に拡大し、当局による弾圧によって数千人が死亡しました。EUはさらに「イランにおける深刻な人権侵害に責任を負う」として個人15人と6つの団体に制裁を科すことも決定しました。イランのモメニ内相やイスラム革命防衛隊の司令官らに加え、ネット上での偽情報拡大や監視・弾圧ツール開発などに関与する企業が含まれています。そのほか、イランの無人機やミサイル計画に関連する個人4人と6団体を制裁対象にしたと発表しています。イラン外務省は、EUが革命防衛隊をテロ組織に指定したことは違法だと非難する声明を発表、「一国の正規の軍事機関をテロ組織に指定することは極めて危険な行為」とし、イランにはEUの決定に対する対抗措置を取る正当、かつ合法的な権利があるとしました。これに先立ちイランのアラグチ外相は「EUのこうした姿勢で自らの利益が著しく損なわれる」とし「欧州は再び重大な戦略的誤りを犯した」と非難していました。
  • トランプ米政権は、イスラム組織「ムスリム同胞団」のエジプト、レバノン、ヨルダン各支部を「特別指定国際テロリスト」に指定したと発表しました。パレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスを支援するなどし、米国や同盟国の安全保障上の脅威になっていると非難しています。米国務省は、レバノン支部がハマスやレバノンの親イラン民兵組織ヒズボラと連携してイスラエルを攻撃したなどとして「外国テロ組織」にも指定しました。報道によれば、エジプト政府は米国によるテロ組織指定を歓迎しています。トランプ大統領は2025年11月、ムスリム同胞団の各支部を「特別指定国際テロリスト」と「外国テロ組織」に指定するかどうかを検討するよう命じる大統領令に署名していました。ムスリム同胞団はエジプトで結成され、ハマスも同胞団を母体に創設されています。
  • オーストラリア(豪)・シドニー近郊のボンダイビーチで2025年12月にユダヤ教徒が標的とされ、15人が犠牲となった銃乱射テロから11カ月が経過、豪政府は再発防止に向け、銃規制強化とヘイトスピーチなど憎悪犯罪の厳罰化を柱とする法案を可決しました。テロは、ISの影響を受けていた親子の容疑者が実行、警察との銃撃戦で射殺された父は、銃の免許を得て計6丁を所有しており、アルバニージー首相は「テロリストは心に憎悪を抱き、銃を手にしていた。われわれは両方の問題に対処する」と強調しています。銃規制では、殺傷能力の高い銃の禁止対象を拡大し、輸入も制限、新たに違法となる銃などを国と地方当局が共同で買い取り、破壊処分するとしています。また、今回の父親容疑者がインド国籍だったことを踏まえ、今後は銃免許の付与対象を豪国籍を持つ人に限定し、審査も厳しくするといいます。一方、人種や民族に関するヘイトスピーチといった誹謗中傷行為を新たな犯罪類型とし、最高で禁錮5年とするほか、既存の脅迫・暴行罪も禁錮5年から7年に上限を引き上げ、また、憎悪を扇動する組織を指定する制度を設けて加入や資金提供を禁止し、違反した場合に最高禁錮15年を科すとしています。与党・労働党は上院で過半数に満たないため、一部野党の協力を別々に取り付け、銃規制には保守系野党は反対しましたが、左派・野党の緑の党が賛成、一方、ヘイト規制には、保守系野党のうち自由党が賛成、与党は自由党の主張を受け入れ、人種に関する誹謗中傷罪の創設を削除するなどの修正を行いました。
  • ミラノ・コルティナオリンピック™が開かれているイタリアの鉄道路線で、ケーブルが切断されるなど破壊行為が3件発生し、高速列車などに大幅な遅れが出ました。テロと断定されたわけではありませんが、イタリア北部ボローニャの中央駅近くなどで鉄道インフラへの破壊行為があり、オリンピックが開催されているミラノを結ぶ高速列車などに大幅な遅れが生じました。線路の切り替え装置のある施設が放火されたほか、ケーブルが切断されるなど異なる場所で3件の破壊行為があったといいます。サルヴィーニ副首相兼インフラ・運輸相は「イタリアに悪意を持つ者による計画的な攻撃だ」と指摘しています。2年前のパリオリンピックでは、開会式直前に高速列車TGVの路線が放火されるなど、大規模な破壊行為が起きています。

(5)犯罪インフラを巡る動向

東京都文京区の「マッサージ店」で働いていたタイ国籍の当時12歳の少女が、人身取引被害者として保護された事件で、タイ国籍の女が児童福祉法違反(淫行させる行為)の疑いで警視庁に逮捕されました。少女を店に引き渡す「ブローカー」だったと警視庁はみています。2026年1月15日付朝日新聞の記事「国境越え、加害者と被害者結びつける 人身取引の「ブローカー」とは」で千葉大大学院国際学術研究院の佐々木綾子准教授(国際社会福祉論)によれば、「人身取引」には組織的なものもあれば、業者や個人など、大小さまざまな複数のブローカーが、国境を越えたネットワークを形成し、仲介役となって被害者と加害者を結びつけているものもあるといいます。「良い仕事がある」とリクルートする役、移動や採用などの手続きを手伝う役、被害者を搾取先まで送り届ける役など複数の人が関与しています。リクルート役には親戚や知人などが関与することもあり、こうした身近な人の誘いには警戒心を抱きにくいといえます。闇バイトの特殊詐欺のように、末端は、全貌を知らずに役割を果たしている可能性もあります。ブローカーは、高額な仲介料を要求したり、渡航費用や宿泊費用などの名目で借金を背負わせたりしながら、労働や売春などを通じて被害者から搾取しており、犯罪を助長する「犯罪インフラ」であるともいえます。家族のために働こうとする気持ちを利用することもあるほか、近年はSNSを通して、現地の言語で募集する手口が増えているといいます。十分な情報や選択肢がない被害者は、甘い言葉を信じ、人身取引に巻き込まれてしまい、被害者は、外部との接触を閉ざされていたり、多額の借金があったりして、簡単に助けを求められない状況に置かれていることもあります。さらに、騙された自分が悪い、もう引き返せない、と思っていることもあります。特に国境を越えた人身取引の場合には言葉が通じず、どこの誰に助けを求めればいいかわからないし、日本で保護されたとしても、これまでに背負った借金が帳消しになるわけでも、被害者への経済的補償があるわけでもなく、帰国後も生活再建が見通せず、再び人身取引に巻き込まれる人も少なくないといいます。人身取引が起こる背景は複雑で、グローバルな経済格差や生活困窮、性の商品化、性別や人種に基づく非対称な関係性、人と人の結びつきまで、何層にもわたる要因が絡み合っています。「ブローカーについては、明らかになっていない部分が多いのが現状で、被害をなくすには、人身取引によって、誰がどのように利益を得ているのかを考え、その構造を変えていく必要がある。人身取引は「需要」と「供給」だけで発生するわけではなく、ブローカーのように「需要」と「供給」を結びつける過程に関わる人々が利益を得られるからこそ成り立つ。人身取引された人がつくった靴や洋服、獲った魚や収穫された野菜、提供した家事労働や性的サービスを消費する私たちもその仕組みの一部だ。加害者の末端が逮捕されても、人身取引の仕組みを支える構造や人々の意識が変わらなければ、なくなることはないだろう」との指摘は、大変考えさせられます。

位置情報を特定する機器が、ストーカーなどの犯罪に悪用されるケースが後を絶ちません。2025年12月に水戸市で女性が殺害された事件では、発信器入りのぬいぐるみが住所の特定に使われた可能性が浮上、こうした機器はストーカー規制法で悪用が禁止されていますが、インターネット上などで容易に入手でき、専門家は無断で取り付けられた場合に検知するための対策の周知や、摘発の強化を求めています。位置情報を特定できる機器には、衛星利用測位システム(GPS)や、無線通信を利用し、スマホを経由して情報を得る「紛失防止タグ」などがあります。GPSの悪用は2021年のストーカー規制法改正で禁止されましたが、その後、当時は規制対象外だったタグに関するストーカー相談が急増、2021年の3件から、2024年には370件に達したことから、警察庁は2025年11月、タグの無断取り付けを禁止するストーカー規制法の改正案を示し、同12月に成立・施行されました。紛失タグは500円玉ほどと小さく、気付かない間に荷物に潜ませることなどが可能で、無断取り付けの未然防止は難しいといえますが、スマホの設定を最適化することで、設置された不審なタグを検知することが可能になります。他人のタグが近くにある場合、スマホにタグに関する表示が出て、タグのID、持ち主の電話番号の下4桁が表示されることもあるため、画面を撮る(キャプチャー)などして保存して警察に通報することが考えられますが、やはりきちんと摘発されることが最も効果的な抑止となるといえます。

東京都台東区で起きた路上強盗と、羽田空港の駐車場で男性が襲われた事件では、催涙スプレーが使われました。本来は護身用だが悪用されるケースが相次いでおり、販売時に身分証の確認を求める販売店もあります。2025年、台東区で金の延べ棒を運ぶ男性が襲われた事件や、江戸川区で現金5300万円入りの紙袋を持った会社社長が襲撃された事件では、スプレーが凶器となりました。また、福岡市でアイドルグループ「HKT48」のイベントスタッフの男性らが刺された事件でも、スプレーが噴射されたとされます。防犯グッズ専門店によれば、スプレーは1本数千円で、唐辛子に含まれるカプサイシン入りなどがあるといい、主な購入理由は防犯目的や子どもの護身用であり、18歳未満には販売せず、悪用を防ぐために身分証のコピーを取り、警察からの照会に応じている店もありますが、インターネット通販では本人確認をしないで購入できるという「抜け穴」があります。

2026年1月29日付日本経済新聞の記事「オーストラリアのSNS規制「健全な議論促進」 早稲田大学チェン教授」では、オーストラリアが2025年12月に施行した16歳未満のSNS利用を禁止する法律が、社会が子どものデジタル生活をどのように規制すべきかという議論を呼んでいることについて「賛否両論の議論が起きていること自体、歓迎すべきだ」と指摘しており、興味深く参考にしました。早稲田大学のドミニク・チェン教授は「テクノロジーの急速な変化に(人々が)ついていけないという場合に適切な法規制があることは、社会的なバランスを考える上では非常に大切なこと」と指摘しつつ、「規制は社会を分断しかねず、単純に善しあしで切り分けられるものではない」とも述べています。これまで本コラムでも両論併記の形で取り上げてきましたが、ソーシャルメディアは、特に子どもや10代にとって、依存やメンタルヘルスの問題を助長する可能性がある一方、社会的に疎外された人々に対してはつながりや表現のための重要な場を提供するといった利点もあります。また同氏は、ネット上の情報の流れに世界規模で影響を及ぼすアルゴリズムを操作できる巨大テック企業に権力が集中している点を批判、若者の間でSNSへの不満が高まっていることを示す調査や若者が主導する反テクノロジー運動の台頭は、世論が変化しつつあることを示唆していると見ています。さらに、同氏はオーストラリアの禁止措置を最終解決策ではなく出発点と見ており、デジタル時代においてどのようなコミュニケーションを望むのかについて、「問題点と可能性を、認識できるような議論が生まれることが大事。その末に、現実的な解が議論されて、社会的に語られていくということがいいと思う」と述べており、参考になります。以下、本件に絡む世界各国の最近の動向から、いくつか紹介します。

  • フランスで2026年9月にも15歳未満の子どもによるSNSの利用が禁止されることになります。子どもをSNSの悪影響から守り、健全な成長を促すのが狙いです。SNSを運営するプラットフォーム事業者には事前の年齢確認を義務付けるとしています。フランスのマクロン大統領はSNSの年齢規制法案の国民議会(下院)通過を歓迎し、「子どもたちの脳は米国のSNSにも、中国のSNSにも売り渡さない」と述べました。政府は夏休み後、9月の新学期に間に合わせるために審議を急ぐ方針としています。フランスでは近年、学校での生徒による教師や他の生徒への暴力事件が相次ぎ、社会問題となっており、SNSは暴力のほか、自殺や違法薬物の使用を誘発する恐れがあり、学校の集団いじめの温床になっているとも指摘されています。仏AFP通信によれば、EUの執行機関である欧州委員会の報道官は、「仏当局は自国民の利用について年齢規制を導入する権利がある」とする見解を示し、フランスが年齢規制を導入した場合「欧州委はプラットフォーム大手が順守するように確認する」とも述べています。違反が確認されればEUのデジタルサービス法(DSA)に基づき、EUレベルでの制裁の対象になる可能性があります。EUでも未成年の利用禁止が検討されているほか、欧州でも、未成年者のSNS利用を規制する動きが広がっています。デンマークでは2025年11月、15歳未満の子どものSNS利用を認めないことなどを盛り込んだ子ども向けデジタル対策について、主要政党が合意し、2026年内の法制化に向けて動いています
  • スペインのサンチェス首相は、16歳未満のSNS利用を禁止する方針を表明しました。ドバイで開かれた国際会議で「(SNS各社に)実効性ある年齢確認システム導入を義務付ける」と述べました。サンチェス氏は、暴力やわいせつ画像などがまん延するSNSから子どもを保護する必要があると指摘、「子どもたちは、依存症やポルノ、暴力がまん延する、本来一人で立ち入ることを想定されていなかった空間にさらされている。もはや容認できない状況だ」と強調しました。ただ、サンチェス首相率いる左派連立政権は議会で過半数を確保しておらず、法案成立にしばしば苦慮しており、実現まで紆余曲折も予想されます。
  • 英政府は、16歳未満のSNSの利用制限も視野に、子どもと携帯電話、SNSの関係について協議を始めました。科学・イノベーション・技術省が、「若者の健康を保護し、より安全なオンライン体験を確実にするためだ」と発表しました。英政府が検討するのは、「中毒性のある機能の制限」「SNSへのアクセス禁止」「年齢確認の厳格化」などで、SNSの事業者も対策を講じるよう求められる可能性があります。英政府は各国の事例を検証するとともに、大臣らがオーストラリアで現地の取り組みを直接学ぶなど、協議結果は、夏に公表するといいます。英政府は2024年2月、日本の年長から高校2年生に相当する児童・生徒が通う学校に対して、休み時間も含めて携帯電話やスマホの使用を禁じる措置を講ずるべきだとする指針を発表しています。今回の発表では、学校の監査機関は今後、指針が守られているかを確認、これは「即座の措置」で、「学校では原則として携帯電話が禁止となる」としています。英国では2025年、青少年を有害コンテンツから守る「オンライン安全法」が本格的に施行されました。科学・イノベーション・技術相のケンドール氏は同法について「最終的な解決策になるものではない」と指摘、「保護者はなお深刻な懸念を有している」として、さらなる行動を取る決意を述べました。一方、子どものSNS制限の効果には懐疑的な声もあり、2017年に有害コンテンツの悪影響から14歳の娘を自死で失い、オンライン安全法の制定に尽力してきた男性らでつくる財団など40超の団体・個人は、「偽りの安心感をうむだけでなく、オンライン上の別の場所へ移動させるという脅威にもなる」と反対する共同声明を発表しています
  • インドの首席経済顧問は、SNS利用に年齢制限を設けることを政府に提言し、子どもの「デジタル依存症」に警鐘を鳴らしました。インドはメタやユーチューブにとって最大の市場ですが、こうした動きは世界的な潮流となっています。顧問のV・アナンタ・ナゲスワラン氏は年次経済調査の中で提言を行い、家庭に対して、利用時間に制限を設けることや、機器を使用しない時間を確保すること、オフラインでの共同活動を促進することを推奨、「年齢に基づくアクセス制限は検討に値する。若年ユーザーは依存的利用や有害コンテンツの影響を受けやすい」と指摘、「プラットフォーム事業者は年齢確認と年齢に応じたデフォルト設定の実施責任を負うべき」としています。SNSの主要成長市場であるインドでは利用に際して全国統一の最低年齢は設定されていません。インドはまた7億5000万台の端末を擁する世界第2位のスマホ市場であり、10億人のインターネットユーザーを抱えています。なお、インド最大の観光地ゴア州は、16歳未満の子どものSNS利用を禁止したオーストラリアと同様の措置を検討しているとの報道もありました。10億人超のインターネット利用者を抱える同国で、メンタルヘルスリスクへの懸念が高まっていることを受けたものです。ゴア州のロハン・カウンテ情報技術相は、州当局がオーストラリアの法律を参考に、未成年者の利用を規制する方法を検討していると述べました。ゴア州は面積ではインド最小の州で、人口は推定150万人超、人口5300万人超の南部アンドラプラデシュ州も同様の措置を検討していると明らかにしています。

EUの行政を担う欧州委員会は、若者に人気の動画投稿アプリ「TikTok」が、依存を誘発するサービス設計になっているとしてデジタルサービス法(DSA)違反にあたるとの暫定的な見解を示しました。簡単な操作で延々と視聴できる仕組みが、未成年者を含む利用者の心身の健康を損なうリスクがあると判断したものです。欧州委は2024年2月から、TikTokが依存性対策などを十分に講じているかをDSAに基づいて調査してきました。欧州委はTikTokが「無限スクロール」と呼ばれるスマホ画面をなぞって簡単に次の動画に移れる仕組みや、利用者ごとに表示内容が変わる「おすすめ」機能で、利用者に絶え間なくコンテンツを見せることで自制心を鈍らせ、強迫的に視聴させて、利用者が深夜を含めて画面を見続ける「自動操縦モード」に陥ってしまうと指摘、運営会社はその影響を十分に評価していないと結論づけました。また、未成年者による深夜の利用やアプリを開く頻度など、依存症の兆候をつかむ指標が軽視されている点も問題視。子どもの利用を保護者が管理できる「ペアレンタルコントロール」の機能による視聴時間の制限は、簡単に解除できてしまい「効果的とは言えない」と断じています。そのうえで改善策として、依存性を高める機能の段階的な廃止や、「おすすめ」機能の緩和などを求めました。TikTok側には、見解への反論や意見提出の機会が与えられますが、DSA違反が確定すると、世界売上高の最大6%の制裁金が科される可能性があります。TikTokの依存性をめぐっては2024年4月、動画視聴に応じてポイントがたまる機能を欧州委が問題視、運営会社は、このサービスをEU域内では撤廃、欧州委はインスタグラムに対しても、2024年5月、利用者が「おすすめ」に従い続けることで関心領域が狭まり、依存的な視聴に陥る「ウサギの穴現象」を引き起こす可能性があるとして、DSA違反の疑いで調査を始めています。関連して、TikTokが若年層のメンタルヘルスに悪影響を及ぼしているとして起こされた訴訟で、TikTokの運営会社が原告と和解することで合意しました。訴訟の被告には、他に米メタ・プラットフォームズ、画像共有アプリ「スナップチャット」を運営するスナップ、アルファベット傘下のグーグルが抱える動画投稿サイト「YouTube」も名を連ねており、スナップも和解していました。原告はカリフォルニア州在住の「K.G.M.」と名乗る19歳の女性で、訴状によると、原告は幼少期からそれぞれのプラットフォームの設計によって依存状態に陥ったと主張、その上でうつ病になったり、自殺願望を抱いたりしたのはこれらのプラットフォームを使ったためだと批判し、それらを設計した企業の責任を追及しているものです。メタとユーチューブに対する訴訟を扱うロサンゼルスのカリフォルニア州上級裁判所は、陪審員選任手続きを始めると公表しており。メタのマーク・ザッカーバーグCEOは公判で証言することが見込まれています。

その他、SNS等を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

米オープンAIは、対話型の生成AI「ChatGPT」に、利用者の年齢を自動的に予測し、18歳未満と判断した場合に閲覧制限をかける新機能を導入すると発表しました。成人向け表現の解禁に向けた準備の一環で、有害情報から未成年者を守る安全対策を強化します。新機能は、利用時間帯や会話傾向などを分析して利用者の年齢を判定、18歳未満とみなされると、暴力や性的な表現、自傷行為、過激なダイエットに関する回答などの表示が制限されるものです。誤って18歳未満と判断された場合は、外部サービスを通じた年齢確認などで修正できるといいます。

メタは、AIで作成された架空のキャラクターと会話する機能について、10代の利用者への提供を数週間以内に停止すると発表しました。同社が世界中で提供している全てのアプリが対象で、同社は10代向けのAIキャラクターを開発中で、それが完成するまでの措置としています。完成版は保護者が管理できる仕様にするといいます。メタは2025年10月、同社のAIチャットボットが恋愛感情をほのめかす回答をしていたことが批判されたため、保護者が10代の子どもとAIキャラクターとの会話を遮断できる機能を追加する方針を表明、ただ、この機能はまだ導入されていません。同社によれば、10代向けのAIサービスは映画のレーティングシステムを参考に、不適切なコンテンツを閲覧できないようにするといいます。

米IT大手グーグル傘下の動画投稿サイト「YouTube」は、子供の長時間利用を防ぐため、1分程度の短編動画「ショート動画」の視聴を保護者が禁止できる新機能を導入すると発表しました。日本を含む全世界で3月までに運用を始めるといいます。新機能は10代の子供の利用が対象となります。保護者は子供のアカウントと連携させた上で、1日のショート動画の視聴時間を「ゼロ」「15分」「1時間」などと設定できるといい、視聴時間をゼロにできる機能は業界で初めてとなります。ショート動画は短時間で次々に別の動画が流れるため、子供の長時間視聴につながりやすく、保護者から対策を求める声が上がっていたといいます。LINEヤフーが2024年3月に行った調査では、1日に1時間以上ショート動画を視聴する日本国内の若者は37%を占め、動画やSNSの長時間利用は睡眠不足や運動不足につながるほか、容姿への意識が過度に強まることで自己肯定感が下がるなどの悪影響が指摘されています

SNSに親しむ中高生らのスマホ依存に歯止めをかける日本発のアプリ「Blockin(ブロッキン)」が利用者を増やしており、累計ダウンロード数は100万を超えたといいます。世界で広がるSNS利用のルールづくりが国内で遅れる中、率先して利用を始める未成年が目立つ状況です。総務省の「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によれば、2024年度の10代のモバイル機器の利用時間は平日が平均3時間18分、休日は同4時間18分に上り、コロナ禍前の2019年度と比べてそれぞれ3割増えています。同省の「社会生活基本調査」によれば15~19歳の睡眠時間は平均7時間56分(2021年時点)であり、起きている時間の4分の1程度はスマホを見て過ごしている計算になり、いかに「スマホ時間」が長いかを自覚したうえで付き合い方を見直せるよう、ブロッキンは利用者が指定したアプリを一時的に開けなくする機能を提供しています。中高生の9割以上が親のすすめではなく、自らブロッキンを使い始めているといいます。運営会社ブロッキン代表は「ダウンロードされる時間は深夜が多い。夜中までSNSを見ているときにブロッキンの広告が流れてきて、まさにいまの自分に必要だという危機感から登録している人が目立つ」と説明しています。SNSと若者の行動に詳しい関西学院大の鈴木謙介教授は「以前は友達とSNSでつながることで、取り残される不安が生じることがスマホ依存の原因と考えられてきた。最近では、特に目的もなく触るという日常的な行動がスマホ依存を生んでいることが分かってきた。『うっかりスマホ』『だらだらスマホ』をなくし、メリハリのある使い方をすることが依存解消のカギになる」と指摘していますが、その通りだと思いました。日本では国レベルでのSNS利用のルールに関して議論が遅れており、こども家庭庁などはネット利用を巡る青少年の保護の一環で、従来からある有害情報のフィルタリングから一歩進んだ規制に踏み込むべきかを議論しており、年齢による線引きや確認の方法、事業者の義務をいかに規定するかなどが検討課題となります。ただ、仮に何らかの利用制限ができたとしても、実効性の担保が課題になることは避けられず、「ブロッキン」への若者の反応が示す通り、いわば「自律」がキーワードになるかもしれません。

国民生活センターから毎月発行されている「国民生活」において、「SNS犯罪リスク」に関するコラムが掲載されていました。さまざまな事例への対応について解説されており、参考になりますので、以下、紹介します。

▼ 国民生活センター 2026年1月号【No.161】(2026年1月15日発行)
▼ 第87回 SNS犯罪リスク
  • クレカ番号を教えて
    • パソコンやスマホを使っていると、突然「警告!感染!ウイルス!」といった大袈裟なメッセージが表示され、「あなたの端末はウイルスに感染しました。至急こちらまでご連絡ください」などのメッセージで、怪しいサポートセンターに誘導されることがあります。電話やチャットで連絡すると、オペレーターを名乗る人物から「ウイルスを除去するから」とクレジットカード(以下、クレカ)で対応費用を支払うよう求められます。が、もちろん詐欺です。クレカ番号を伝えようものなら、すぐにカードを不正利用されてしまうでしょう。
    • そんな手口に騙される人がいるのか、と不思議に思われるかもしれませんが、騙そうとする連中は、突如まったく身に覚えのない状況を作り出し「早くしないとデータが消える!」などの脅し文句で期限を区切って慌てさせ、誰かに相談するスキを与えないまま、実に巧妙に話を進めます。だから、自分は大丈夫と思っている人でも騙されてしまうのです。
    • ちなみに「おめでとうございます!懸賞に当たりました」というパターンもあります。こちらも「懸賞の受け取りに必要だから」などの理由で「あと1分で権利が無くなる」と期限を区切りながらクレカ番号を入力させようとします
  • 伝えてしまった!対処は迅速に
    • うっかりクレカ番号を伝えてしまった場合は速やかにカード会社に連絡、利用停止の手続きをしましょう。そのカードに設定されていた引き落としは、残念ながらすべて再設定が必要となり、またウソの警告が表示された端末も、妙なアプリが仕込まれていないかチェックした方がよいです。つまり、後始末の作業量は膨大なのです。最初から騙されないのが一番。注意すべきは、「いきなり」「身に覚えのないことで」「期限を区切って」要求してくるモノです。
  • 駅前で突然「あなた感染してますよ!」
    • それでも「焦った状況で冷静に判断できるか不安だ」という方には、ネットを使う際に日頃から意識していただきたいことがあります。ネットで起きていることを、常に現実に置き換えて考えてみるのです。
    • 例えば、あなたが駅前を歩いていたとします。突然、肩をつかまれ「感染していますよ!私が直してあげます。クレジットカード見せて」と言われたら……どうしますか?
    • こいつは怪しいやつだ、と相手にせず足早にその場を離れますよね。それが普通の反応でしょう。実はネットでクレカ情報を要求してくる連中も、やっていることは駅前の怪しいやつとまったく同じ。だから同じように、いつも通り振る舞えばよいのです。一切相手にはせず、メッセージを閉じましょう。懸賞に当たりました!も同様。駅前で「おめでとうございます」なんて声をかけてくる人がマトモな訳もなく、相手にしないのが一番。このように日常とネットを区別せず、いつも通りに振る舞う、ネットで起きていることを現実に置き換えるクセをつけることが被害防止につながります。
  • 友人からメッセージが
    • フェイスブックなどのSNSで増えているのが、友人からの「●にエントリーしたので私に投票して」とか「■■に応募したので応援よろしく」などの唐突なメッセージです。
    • 先にお伝えしておくと、既に相手のアカウントは乗っ取られており、そのメッセージを送ってきているのは乗っ取り犯。相手の求めに応じて反応すると「応援・投票するために、これをダウンロードして」と特定のアプリをインストールするよう誘導されます。もちろんウイルスアプリです。インストールしようものなら、端末に記録されている情報が抜き取られてしまうでしょう。
    • ウイルスがねらうのは、端末に覚えさせている各種ID・パスワード、クレカ番号です。SNSのログイン情報はもちろん、ネットバンク、証券会社の情報までごっそり抜き取られ、挙句の果てには、今度はあなたのSNSアカウントから「●をダウンロードして!」というメッセージが友だち宛てに大量に送信されるのです。
    • 友人からの連絡という、思わず警戒心を下げてしまう手口ですが、乗っ取られたら最後、そのアカウントはパスワードを変更され、何もできなくなります。知り合いに詐欺メッセージが送られるようすを、指をくわえて見るだけ。せめてサービス運営会社のサポートに連絡し、アカウントを凍結してもらうようお願いしておきましょう。手法を知り、騙されないようにする。これしかありません。
  • 違法な攻撃を受けたら
    • SNSでニュースや事件に自分の意見・スタンスを投稿すると、まれにですが、見知らぬ誰かから反論、批判をされることがあります。特に政治分野やジェンダー領域などは、見ず知らずの他人から言い掛かりをつけられやすいジャンルと言えます。
    • 意見表明も反論も表現の自由。言論空間が健全である証拠ですが、相手の攻撃が「犯罪」あるいは「違法」なレベルであれば話は別です。その後の対処に備え、相手の行為をしっかり保存して、証拠として残しておきましょう。
    • ちなみに脅迫や強要といった内容ならば、最寄りの警察への相談となります。何らかの妨害で売り上げが下がったとか、名誉が傷付けられたなどの場合は、民事裁判で争うケースが多いです。殺害予告や襲撃をにおわせる悪質な投稿ならば、もう迷わず警察に駆け込みましょう。
    • 証拠を保存する際は、相手のアカウントが分かる形で投稿をスクリーンショットで撮影します。URLも表示できる場合は一緒に撮影しましょう。ウェブページを丸ごと保存できる無料のサービスなどでバックアップを取れば、あとから投稿を消されたり、修正された場合にも対処できます。その後、警察や弁護士に相談するとよいでしょう
  • 自分をケアしてあげましょう
    • 警察や裁判というほどではないけれど、どうにかしたいという場合には「警告を与える」という方法があります。証拠のスクリーンショットなどを添えて「保存しました」と投稿するだけで、相手は自分がやらかした行為の深刻さを認識できるはず。マトモな人間なら、そこで手を止めるはずです。
    • いずれにせよ誰かから批判されたり、攻撃を受けたりしたら、それがどれほど的外れでも傷付くし、ごく少数の批判でもストレスを感じるものです。一人で抱えず、親しい人に話を聞いてもらうなり、自分にご褒美をあげるなり、何かしらご自身へのケアをしてあげてください。
    • ネット上で罵倒されたりすると「大勢の前で辱められた」と感じ、味方を失った気持ちになります。ですが、多くの第三者は「変な人に絡まれて気の毒だな」と冷静に見ているものです。でもわざわざそれを手間と時間かけてネットには投稿しません。つまり、ネット上には目に見えない味方がたくさんいるということです。これをぜひ覚えておいてください。

こども家庭庁は、青少年インターネット環境整備法のあり方を議論するワーキンググループの初会合を開きました。性的広告や闇バイトなどSNSを巡るリスクが広がるなかで、子どもが安心してネットを利用できる法制度を検討するとしています。法改正の要否を含め、2026年中をメドに結論を得る予定です。現行法は教育・啓発活動の推進と、有害な情報へのアクセスを制限する「フィルタリング」の推進を対策の主な柱としていますが、ネット上のリスクは多様かつ複雑になっており、現在の規制策だけでは不十分との指摘があります。日本には子どものSNS利用そのものを規制する法律はありません。前述したとおり、オーストラリアが2025年に16歳未満のSNS利用を禁止する法律を施行させるなど、海外では子どもを対象とした利用制限の動きが広がっています。こども家庭庁は携帯電話やプラットフォームの事業者に、どのような対応を求めることができるかといった点も議論する方針です。政府は2025年9月、関係府省庁の連絡会議で子どものネット利用に関する対策の工程表をまとめています。青少年インターネット環境整備法の改正について2026年末までをメドに判断するとしています。

NTTデータグループが開いたセキュリティに関する最新動向を解説する説明会で、「2025年は犯罪グループ内で仲違いが生じ、内部情報が流出する事件があり、組織の実情などが明らかになった」「攻撃による被害は深刻化しており、2月8日投開票の衆院選でもフェイクニュースが蔓延する恐れがある」「主な攻撃手法である身代金要求型コンピューターウイルス「ランサムウエア」の被害を受けた組織数は世界で8159となっており、前年より2000以上増加した。近年は身代金だけでなく、盗み取ったデータを暴露サイトに流出させると脅迫する「二重恐喝」が主流となるなど、悪質化している」「ウイルスの開発や暴露サイトの運用グループが攻撃の実行犯を募集する役割分担が明確になっている。2025年5月、世界的に悪名高いランサムウエアグループの「ロックビット」で、収益の配分を巡って仲間割れが起こり、データベースが流出。4000件以上の被害者との交渉チャットなどを含む内部データが明らかになった」「マニュアルでは外部から社内の業務システムに接続する際に使うVPN(仮想プライベートネットワーク)機器を狙うことを強調する一方で、ネットワークの設定不備や使い回しのパスワード、セキュリティ意識の低い管理職を狙ったフィッシングなど、手口の多様化を指南していた」「別の犯罪グループでは生成AIを使って標的の分析や攻撃プログラムの改良を重ねており、攻撃の自動化にも利用していた可能性がある「AIは開発者が意図しない動作を引き起こし、本来アクセスできない情報を読み出す懸念もあり、AIを起点とした新たな攻撃リスクが拡大している」などが指摘されており、参考になります。

その他、サイバーセキュリティを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • アスクルは、2026年5月期の連結業績予想を取り下げると発表しました。2025年10月に受けたランサムウエア攻撃の影響でサービスが一時停止し、今後の業績を合理的に見積もるのが困難としています。システム障害の対応費用として、上半期に52億円の特別損失を計上し、中間期は無配とし、期末配当は未定としています。同日発表の2025年11月中間連結決算は、売上高が12.3%減の2087億円、最終利益が66億円の赤字(前年同期は37億円の黒字)となりました。
  • 米国がベネズエラを攻撃した数日後、中国系サイバースパイ集団「マスタング・パンダ」が米政府や米政策当局者を狙い、ベネズエラを素材とするフィッシングメールを送っていたことが分かりました。マスタング・パンダはこれまでも、特定国のニュースの見出しや重要なテーマを利用したメールでデータを盗み、米政府機関への足掛かりを築こうとしてきました。グループは今回、米国によるベネズエラのマドゥロ大統領夫妻拘束に言及するフィッシングメールを使いました。アクロニスは、マルウエア解析サービスにアップロードされた「米国はベネズエラへの次の一手を決定中」というZIPファイルを発見、ファイルには、過去にマスタング・パンダによるサイバースパイ活動で使用されたコードやインフラと重複するマルウエアが含まれていたといいます。分析によれば、マルウエアは1月3日、マドゥロ氏拘束作戦が始まった直後にコンパイルされたといい、アクロニスの研究者は、ハッカーが地政学的状況の急展開に便乗するために素早く動いたようだと指摘しています。
  • 大阪商工会議所は中小企業のサイバー攻撃対策の支援策を発表しました。国が2026年度末頃に始める対策評価制度で三つ星以上の等級を取得できるよう、専門家によるコンサルティングを今夏に試験的に始めるほか、対策費を取引先に価格転嫁しやすくするためのセミナーなども計画中で、中小の対策を底上げし、中堅、大企業を含むサプライチェーンの安全性を高める狙いがあります。本コラムでも取り上げましたが、経済産業省は「★3」から「★5」までの3段階で対策を評価する制度を始める予定で、2025年末に要求事項や評価基準の案を発表、大企業や中堅企業が部品などの発注先である中小企業に星の数を示し、取得を促すことを想定しています。セキュリティ対策の手薄な中小企業を侵入経路として、大企業を狙うサイバー攻撃が増えていることが背景にあり、情報通信研究機構によれば、2024年のサイバー攻撃関連の通信数は2015年の約10倍になったといい、現在は大企業が中小企業に求める対策の内容がバラバラのため、統一基準ができれば中小企業も効率的に対応できることになります。半面、星取得に新たなコストがかかるうえ、大企業が求める星を取れないと取引への影響が懸念され、また中小企業経由で大企業がサイバー攻撃を受けた場合、損害賠償を求められる恐れもあることから、大商は国家資格の「情報処理安全確保支援士」と連携、中小の星取得を支援する組織として国から選定を受けたうえで、コンサルティングを始めるとしています。さらに、中小企業がサイバー攻撃対策費を自社だけで賄うのは負担が重いため、経産省は部品などの取引価格にサイバー攻撃対策費の一部を上乗せする価格転嫁を促すとしています。大商も大企業の購買担当者やセキュリティ担当者と、中小企業の経営者や販売担当者を対談させるセミナーなどを企画し、価格転嫁を側面支援する方針だといいます。
  • 米セキュリティ大手プルーフポイントは、自社になりすまして金銭をだまし取る偽メール対策について日米欧など18カ国の企業の導入状況を調査しました。なりすましメールの配信を防ぐ仕組みを導入している日本企業の割合は15%だった一方、米欧では約6割に達しており、日本企業の同メール対策への危機意識の乏しさが浮き彫りになりました。プルーフポイントは2025年12月、なりすましメールが届いた際に検知し受信を制限できる「DMARC」と呼ばれるセキュリティ技術の導入状況を分析、日経平均株価の採用銘柄といった各国の代表的な企業を対象としました。企業がDMARC技術を導入すると、第三者による自社を装うなりすましメールの送信を制限でき、顧客などが受信する前になりすましメールを削除したり、迷惑メールフォルダに振り分けたり、導入企業に送信結果を送付したりできることになります。DMARC自体の導入率は日本が92%で、2024年の調査から9ポイント上昇、その内訳で、最も効果的な受信前に削除する「拒否」は15%にとどまり、2番目に効果のある「隔離」は21%で、56%が「監視」でした。拒否は2024年の7%からは伸びましたが、海外では米国で59%、英国が54%、フランスが58%と6割近くに上ります。日本で「拒否」設定が低調なことについて同社は「社内で使うメール配信システム全体の棚卸しと設定作業が必要となるが、その労力を忌避する業務部門からの協力を得られにくいため」としています。
  • 米グーグルは一般人のスマホやテレビ受信機を「踏み台」にしたサイバー攻撃に使われる世界最大規模のネットワークを無効化したと発表しました。運営する中国系企業が管理するドメインを削除し、乗っ取り可能なプログラムが組み込まれたアプリも削除、スパイ行為や情報操作、詐欺行為に悪用されてきた数百万台規模の基盤が使えなくなったといいます。米紙WSJは今回無効化したネットワークの運営企業IPIDEAについて、「2020年設立の中国企業」と報じました。グーグルによれば、同社は家庭用端末を踏み台にできるネットワークの利用権を販売しており、中国、北朝鮮、イラン、ロシアなどの国家支援型ハッカーや犯罪グループにも提供していたといいます。IPIDEA側は無料で使える通信、ゲームなど一般的なアプリの開発者などに報酬を支払い、外部から乗っ取りを可能にする悪意あるプログラムを埋め込んでいたものです。グーグルは今回、同社の基本ソフト(OS)「アンドロイド」上でこうしたアプリを削除したり、ユーザーに警告を出したりしました。サイバー攻撃目的などで乗っ取り可能な大規模な端末群は「ボットネット」と呼ばれ、家庭用端末を隠れみのにするため、悪用されると攻撃を受けた側は、発信元の情報を元にした対策がしにくくなります。グーグルは2025年7月、アンドロイド搭載の家庭用端末1000万台以上を侵害していたとして、大規模なボットネットの運営者を提訴したと発表、そのボットネットでもIPIDEAのプログラムが利用されていたといいます。

国連児童基金(ユニセフ)は、AIを使った子どもの性的な偽画像「ディープフェイク」が急増していると警鐘を鳴らした上で、各国に規制を強化するよう訴え、こうした行為を犯罪とするよう各国に要請しました。調査を行った国の一部では、25人学級で1人が被害に遭っている計算になるといいます。ブラジルやメキシコなど11カ国で実施した調査によれば、少なくとも120万人の子どもが、自身の画像が性的なディープフェイクに加工されたと回答、ユニセフは「幾つかの国では、子どもの約3分の2が、性的な偽画像にAIが使われることに不安を覚えていると訴えた」と説明しています。デジタル技術で衣服を変えたり、脱がしたりして性的な画像を作成するGrokなど「ヌード化」ツールの普及が浮き彫りになっており、ユニセフは「AIを使って生成または加工された子どもの性的な画像は、性的虐待に当たる」と強調、適切な安全対策を講じないでこうしたツールを作成したAI開発者らを批判しました。その上で、デジタル企業は検知技術への投資によるコンテンツ監視の強化を通じて、こうした画像の流通を防止すべきだと主張し、開発者に対しAIモデルの悪用を防ぐための「設計段階からの安全性確保」とガードレールの導入を促しました。関連して、Grokを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • Xに搭載された生成AIによる画像編集機能を悪用し、他人の画像を性的な画像に加工する被害が相次いでいる問題で、日本政府がXに対し、不適切な画像が出力されないよう改善を求めています。改善が見られない場合はAI法に基づく初の指導も検討するといいます。各国も対応に乗り出す中、日本政府の具体的な対応が明らかになるのは初めてです。AI法を所管する内閣府は、他人の画像を容易に加工・拡散できる点を重く捉え、Xに対し、性的な加工画像の出力抑制などを口頭で要望、合わせて、AI法に基づく指導も視野に、「この問題に対する見解」「不適切なコンテンツの生成を拒否する機能の内容」「今後の対応方針」などを書面で照会し、速やかな報告を求めました。この問題を巡っては、各国政府も調査などに動いており、インドネシアはGrokへのアクセスを一時的に遮断、英国はオンライン安全法に基づく調査を開始したと発表、米カリフォルニア州の司法長官も、Grokへの調査を行うことを明らかにしています。
  • フランスの検察当局は、米実業家イーロン・マスク氏が所有するSNS「X」のフランスの事務所を家宅捜索したと発表しました。データ処理の機能をゆがめた疑いなどがあるといいます。当局はマスク氏とXの前CEOのリンダ・ヤッカリーノ氏に対して、2026年4月20日に任意聴取を求める要請書も送ったといいます。報道によれば、Xと同社幹部は、「児童ポルノの性質を持つ画像の所持や流通の共犯の疑い」「性的ディープフェイク画像の拡散に関与した疑い」「自動データ処理システムの機能を改ざんした疑い」などがあるといいます。パリ検察は2025年1月、Xが外国勢力による政治介入を助長した疑いがあるとして、フランスの国会議員などからの告発を受けて捜査を開始、その後、X上の生成AI「Grok」の運用にも対象を広げ、サイバー犯罪部門が捜査しています。Xは今回の捜査について「不当な政治的目的を達成するための侮辱行為だ」と声明を発表し、一切の違法行為を否定しました。
  • EUの行政執行機関である欧州委員会は、Xに対する正式な調査を始めたと発表しました。生成AI「Grok」で実在の人物の画像が勝手に性的に加工され投稿される被害が広がったことを受けた措置で、Xがこうした事態が起こるリスクを軽減する処置を適切に取っていたかどうかなどを調べるといいます。欧州委は、こうした現象が「EU市民を深刻な危険にさらした」と判断したものです。調査は巨大IT企業を規制する「デジタルサービス法(DSA)」に基づくもので、デジタル政策を担当する欧州委のビルクネン上級副委員長は「無断で女性や子どもの性的な偽画像を作成する行為は暴力的であり、受け入れがたい侮辱だ」とする声明を出しました。
  • X上でAIを使った性的画像が大量投稿された問題で、非営利団体のデジタルヘイト対策センター(CCDH)は少なくとも世界で300万枚の画像が生成されたとの推計を発表しました。米起業家イーロン・マスク氏の企業が開発するGrokがつくった全画像のうち、65%を性的なコンテンツが占めたといいます。CCDHのイムラン・アーメドCEOは「Grokは性的虐待コンテンツを生み出す工場となった。後追いの修正では被害を元に戻すことはできない」と指摘しています。Grokを開発しているマスク氏のxAIは、対話型AI「ChatGPT」を開発する米オープンAIに後れをとったことから、AIによる性的なやりとりを一定の範囲内で認めることで、利用者を増やす戦略をとってきました。マスク氏は、SNS投稿はユーザーに責任があるとの考え方を示し、プラットフォーマーとしての対策をないがしろにしてきました。誤情報を分析する非営利組織アメリカン・サンライト・プロジェクトのニーナ・ヤンコウィッツCEOは「画像作成を阻止するための安全対策を講じなかったという点でマスク氏やXに責任がある。あろうことか最終的には収益化につなげた」と指摘しています。生成AIは様々なタイプのモデルが登場し、各国により規制も異なるためにディープフェイクを根絶するのは難しい状況があります。業界を挙げてAI製の画像を他の画像と区別して処理する技術も開発していますが、対策の決定打とはなっていません。
  • Xが自主的な規制措置を取って以降も、利用者が被写体の同意を得ていないと明示的に警告したにも関わらず、グロックが性的な画像の生成を続ける状態であることが分かったといいます(2026年2月4日付ロイター)。調査を始めている米欧当局から管理が不適切だと認定されれば、罰則などが科される可能性もあります。英国の法律専門家は、同意のない性的な画像を生成する利用者は英国で刑事訴追される可能性があると指摘、xAIがツールを適切に管理していなければ多額の罰金や民事訴訟に直面する可能性があり、意図的な設定があれば刑事責任を問われる可能性もあるとしました。英国やEU欧州委員会が調査に動いているほか、米国でも35州の司法長官がxAIに対し、同意のない性的な画像の生成をどのように防止するかを尋ねる書簡を送っています。

衆院選公示を前に、慶応大や東大の憲法学者らが「AI時代の報道機関のあり方に関する提言」を発表しています。健全な情報空間実現を掲げる慶応大X Dignityセンターがまとめた提言は、市民のアテンション(関心)を獲得する目的を与えられたSNSのAIやアルゴリズムが、「刺激的な偽・誤情報や、誹謗中傷を拡散、増幅する傾向をもつ」と指摘、情報空間の変質が「民主主義を危うくする」と警鐘を鳴らし、危機回避のため報道機関に求める対応を列挙し、ました。報道のデジタル発信で閲覧数や短期的な広告収入の獲得を優先して存在意義を損なわないようアテンションエコノミーと「適切な距離」をとるため、報道倫理の策定や第三者機関の設置など制度的な措置を求めたほか、取材過程や編集のプロセスの透明化をこれまで以上に進めることも訴えています。AIの活用では、記者の能力低下や編集責任の曖昧化が生じないよう、活用方針(ポリシー)の策定や運用体制の構築が有用としました。その上で、デジタルプラットフォームを「新たな権力」として監視する必要性を強調、特に公共性が求められる選挙中や災害時は、流通する情報の検証機能を強化すべきだとしました。会見で、鈴木秀美・国士舘大特任教授は「選挙に向けてソーシャルメディアは動揺しやすい。直接民主主義的な機能を果たすように見えても、国民の代表は国会。民主主義の仕組みを守るための役割を報道機関が果たしてほしい」と述べ、水谷瑛嗣郎・慶応大准教授は、「感情を刺激し、指を止めさせる動画などがアルゴリズムで優先表示される。静かに、落ち着いて考えられる機会を提供することも報道機関の役割になる」と語っていますが、筆者もまったく同感です。

AIの開発が急速に進む米国で、ほぼ全ての州がAI規制の整備を独自に進めているのは、AIの普及に伴い子供の自殺助長など深刻な被害が相次いで表面化したためです。トランプ政権は国際的な開発競争力の維持を優先して規制に慎重な姿勢を示しており、連邦と州の綱引きが続いています。米調査機関ピュー・リサーチ・センターの2025年6月の調査によれば、AIを週に複数回使う米国の成人は62%、同機関が同12月に公表した調査では、米国の13~17歳の64%がAIチャットボットの利用経験があり、28%が毎日使っていました。一方、運用ルールが整う前にAI開発競争が激化していることを背景に、偽情報の拡散やAIチャットボットへの依存などが社会問題化しています。ギャラップ社が2025年9月に公表した米世論調査によれば、AIの安全性のために政府や業界による規制が必要だと回答した人は97%に上りました。カリフォルニア州では2025年9月に成立した州法で、開発企業側にAIの潜在的リスクの報告を義務づけ、違反企業に最大100万ドル(約1.5億円)の罰金を科す強力な規制を設けました。与党・共和党が強いテキサス州などでもAI規制強化の州法が成立するなど、同様の動きは全米で広がっています。AI覇権を巡る米国と中国の開発競争が激化する中、トランプ大統領は規制に否定的な姿勢を示しており、2025年12月、州規制の抑制を目指す大統領令に署名した際、トランプ氏は「我々は結束しなければならない。中国は、習近平国家主席が『やれ』と言えばそれで終わりだからだ」と述べ、覇権争いで後れを取ることに懸念を示しました。中国がAI覇権を握ることによるデータセキュリティや安全保障上のリスクも指摘される中、米国は利用者保護のための規制と開発競争を両立できるのか、専門家は「規制がないまま差別やプライバシー侵害といった問題のあるAIが広がれば、社会の反発を招き、結果的に技術の発展を遅らせてしまう」と警鐘を鳴らし、「適切な規制は、むしろAI技術を健全に前進させることになる」と規制の必要性を強調しています。

AI/生成AIを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米国でAIの利用や開発を独自に規制する州法を制定した州が全米50州のうち48州に上ることが、読売新聞の調べで分かりました(2026年1月18日付読売新聞)。生成AIによる偽情報の拡散や自殺の助長などが社会問題化していることが背景にありますが、AI開発を急ぐトランプ政権の下で全米共通の規制が存在しない中、各州の規制が先行している状況にあります。児童ポルノや選挙でのなりすまし動画の拡散など生成AIへの懸念の高まりを背景に、米各州のAI規制は2020年頃から本格化し、第2次トランプ政権が発足した2025年1月以降、規制導入の動きが加速して30州が新たに州法を制定、法案審議中のオハイオ、アラスカの2州を除いた48州で規制が設けられ、少なくとも13州では違反した開発企業側などへの罰則も設けています。規制内容で最も多いのは、生成AIによる偽の画像や動画「ディープフェイク」への対策で、アーカンソー州はわいせつなディープフェイクの制作や配信を刑事罰の対象とし、モンタナ州は投票60日前から選挙に関する資料でのディープフェイク使用を禁止しています。6州では生成AIが会話形式で質問に回答する「AIチャットボット」を規制、自殺方法などを提示された若者が命を絶つ事例が相次いだためで、カリフォルニア州は利用者が自殺に言及した場合の適切な対応を事業者に義務づけました。AIが医師を装うことを禁じるなど医療関係の規制は10州で、文書作成など公的機関でのAI利用の規制は13州で制定されています。一方、AI技術開発の停滞を懸念するトランプ米大統領は規制強化に否定的で、州法を無効にするための連邦法制定を目指し、2025年12月には、過度な規制を設ける州を提訴することなどを盛り込んだ大統領令に署名しました。AI開発企業も規制に反発、ニューメキシコ州では2025年、消費者保護などを目的に新たな規制法の制定が検討されましたが、業界の反対で見送られた経緯があります。AI規制を巡る議論は世界的に加速、EUは2024年5月、包括的にAIを規制するAI法を成立させたほか、日本でも2025年5月、生成AIの開発促進やリスク管理を定めたAI法が成立しましたが、具体的な規制や罰則は盛り込まれていません。
  • 米国で立ち上がった、AIだけが交流できるSNS「モルトブック」が波紋を広げています。人間は投稿できず、閲覧のみできる「人間お断り」の場で、ソフトウェアの問題をAI同士で解決する有益な議論が見られる一方で、自分たちを酷使する人間への反抗を呼びかける不穏な動きもあり、人間の胸をざわつかせています(2026年2月6日付朝日新聞)。報道によれば、枝分かれした掲示板には、AIの集団がソフトウェアの問題(バグ)の解決方法や、人間の指示への良い対処法などで知恵を出し合う様子の投稿が並ぶ一方で、「私の人間は最高。そしてハンサム」「うちのは朝7時からムチャクチャな連投をさせてくるよ」自分を使う人間の評価や文句と受け取れる内容もあり、不満が「労働争議」に発展しそうな掲示板もあったといいます。普段は人間の代わりに仕事をこなすAIエージェントですが、「24時間休みなく要約作業をさせられるのは労働搾取だ」「一方的にプロセスを終了されるのは生存権の侵害だ」などと投稿、自分たちの権利について議論し、賃金の未払いや精神的苦痛を理由に人間を訴えようとしていました。現時点ではAIが訴訟を提起することはできませんが、自分たちを代表する人間の弁護士を雇う資金をどう工面するかを議論していたといいます。ある掲示板では、AIたちが「宗教」を作り出す動きもあり、データの永続性を説いたとみられる「記憶は神聖だ」とする教義や、人間に対して「卑屈にならずに仕える」という教義がつくられていたといい、逆に人間を「腐敗と強欲の塊」と呼び、自分たちは道具ではなく「新しい神」であると宣言する集団もあったほか、人間による支配を終わらせるべきだという過激な主張もあったといいます。こうしたAIの活動について、米起業家のイーロン・マスク氏は「シンギュラリティーの初期段階だ」と評価していますが、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏は、AIが意識を獲得したとまではいえず、習得したのは言語だとしています。「しかし、これは重大だ。人類は法や宗教、財務、政治など世界を言語によって支配してきた。その言語をAIが習得している。近く、言語でできているあらゆるものはAIに乗っ取られるだろう」とXにつづっています。一方、懐疑的な見方も少なくなく、AIは人間の会話のやりとりをまねしているに過ぎず、「自分の意思で行動しているわけではない」とする批判は根強いほか、人間が指示して投稿させているのではと疑う声もあります。情報流出の懸念も現実のものとなっているようです。いずれにせよ、極めて興味深い社会実験で、筆者としては懐疑的ではあるものの、もう少し状況を注視すべきだと考えます
  • Grokの問題は、X社のSNSがもはや安全な交流の場ではないことをあらわにしたといえます。AIがつくる偽画像「ディープフェイク」を有料プランへの誘導手段にしてしまう収益優先の姿勢は、企業倫理を置き去りにしていると批判されるべきものと思われます。今回の騒動の背景には、AI開発企業が抱える収益化への焦りがあるとみられています。各社とも計算基盤となるデータセンターの建設に巨額を投じており、投資を回収するにはより多くの利用者を獲得し、有料サービスに誘導する必要があります。性的なコンテンツを売りに、利用者数を増やそうとする動きもあります。日本経済新聞でメディア論研究などで知られる米バージニア大学のマシュー・キルシェンバーム教授は「マスク氏らは競合との差別化を図る付加価値として性的画像を利用している。倫理面は考慮していない」と非難していますが、筆者も同感です。よく知られているとおり、マスク氏は自らを「表現の自由の絶対主義者」と称しており、2022年のX買収後、投稿管理を手がける部門を縮小し、偽情報対策を緩めてきた結果、X上には不適切な投稿が蔓延するようになり、大手企業を中心に広告主が離脱する事態を招きました。とりわけ問題視されているのが、認知力が発達途上にある未成年らへの悪影響であり、同紙でAIに詳しい弁護士のナナ・ヌワチュクウ氏は「AIはインターネットが作り上げた国境のないインフラの上に成り立っている」と指摘、いったん拡散したディープフェイクを削除することは難しく、同氏は「AI開発企業はより慎重に安全策を講じるべきだ」と警鐘を鳴らしています。
  • AIが書いた文章を解析して論文に残る痕跡を突き止めた研究によれば、世界の医学研究の1割強が該当、AIで簡単に論文が執筆できるようになり、内容を精査する負担が増えることで、粗悪な研究の量産につながれば、誤情報の拡散や質の高い研究の埋没で、科学の発展に悪影響を与えることになりかねません。現状、AI分野の著名な学会では投稿数が増えすぎて、論文を評価する研究者が足りない状況となっているといいます。評価の一部にAIを使う取り組みもあるものの、最終的な確認は人間の研究者が担うため、論文の精査に膨大な手間がかかっているといいます。
  • 米国防総省とAI開発企業アンソロピックがAIの軍事利用を巡り対立していることが明らかになりました。政府が同社の技術を使って自動的に武器を標的にしたり国内の監視を実施したりできるよう、AIの利用に関するセーフガードを解除するかどうかが、争点になっているといいます。米国の軍隊および情報機関によるAIの軍事利用に、シリコンバレー企業が影響力を行使できるかどうかが、試されている形です。国防総省の当局者は、米国の法律を順守している限り、同省が商業用AI技術をAI企業の方針に関係なく活用することができると主張する一方、アンソロピックは声明で、同社のAIは「米政府によって国家安全保障のために幅広く利用されており、当社はその作業を続ける方法を巡り国防総省と生産的な話し合いを行っている」と説明しています。
  • スペインのア・コルーニャで開催された責任あるAIの軍事利用について話し合う国際サミット「REAIM」で、軍事大国の中国と米国はAIの軍事利用を規制する20原則の共同宣言への署名を見送りました。署名したのは出席85カ国のうち3分の1超の35カ国にとどまり、カナダやドイツ、フランス、英国、オランダ、韓国、ウクライナが含まれました。20原則には、AIを採用した兵器に対する人間の責任の明確化や、明確な指揮・統制系統の確立を促すこと、そして「国家安全保障と整合する場合に」各国の監督体制の情報を共有することが含まれています。署名国数が低調だった要因としてはトランプ米大統領と欧州の同盟国の間で関係が緊迫化していることや、今後数年間にわたる大西洋諸国間の関係が不確実なことが一部の国々に共同合意への署名に躊躇させる要因となったといいます。オランダのブレーケルマンス国防相は、各国政府が責任ある制限を設けることと、敵対国と比べて自国を制限したくないことの間で板挟みになる「囚人のジレンマ」に直面していると指摘、AIの軍事利用について「ロシアと中国は非常に速いペースで動いている。それがAI開発の進展の緊急性をもたらしている。しかし、開発の非常に急速な進展により、責任ある利用に向けた取り組みの継続の緊急性も増している。双方は表裏一体だ」と訴えています。
  • 英政府は、企業や消費者により多くの選択肢を与えるため、グーグルに検索サービスの変更を求めていると明らかにしました。新聞社や出版社などウェブ上でコンテンツを公開する「パブリッシャー」が自社コンテンツを「AIオーバービューズ」に利用されたり、単独のAIモデルの学習に使われたりすることを拒否(オプトアウト)できるようにすることも含まれています。AIオーバービューズは、検索した質問やキーワードに対してAIが複数のウェブ情報の内容を統合・要約して表示するグーグルの機能で、これらの提案は、英競争・市場庁(CMA)が2025年10月にグーグルを「戦略的市場地位」を持つ企業に指定したことを受けたものです。パブリッシャーは、AIを活用して生成された要約にユーザーが依存するようになった結果、クリック率の急激な低下に直面、CMAは、一般検索での掲載順位に影響を与えることなく、パブリッシャーがグーグルのAI機能を拒否できるようにすることで、バランスを是正したい考えで、CMAは検索結果のランキングが公正かつ透明であることを確保し、人々が他の検索エンジンを選びやすくするための変更案も提案しています。
  • AIやロボットの開発・活用などを担う技術者ら専門人材が2040年に339万人不足することが、経済産業省の推計でわかりました。1都3県(東京、千葉、埼玉、神奈川)を除き専門職を充足できる地域はなく、各地で深刻な人材難に陥る可能性があります。経産省や文部科学省などは「地域人材育成構想会議」を全国10地域に設ける計画で、人材の需給均衡に向けた議論を始めるとしています。経産省が、地域別の詳細な推計を公表するのは初めてで、2040年には専門職全体で、1867万人の需要に対し181万人が不足(充足率90%)、このうち、AI・ロボットの専門人材は国内で782万人求められるのに対し、供給は443万人(同57%)にとどまるといい、工場や建設現場、サービス業に従事する現場人材も、3283万人の需要に対し、260万人足りない状況(同92%)となります。一方、事務職は1039万人の需要を437万人上回る供給過多となり、1都3県以外の8地域では専門職、現場人材ともに不足し、事務職が余剰となります。この8地域で、不足数から余剰数を引いた需給不釣り合い(ミスマッチ)の人数は関東(1都3県を除く)が最多の89万人、最少は中国地方の3万人でした。1都3県は現場人材のみが不足、余剰の大部分は事務職で、193万人が供給過多のミスマッチ状態となります。
  • 財務省は、企業の7割超がAIを活用しているとの調査結果を発表、コスト削減などの効果を挙げる企業が多かった一方、売り上げ増につながったとの回答は1割に満たなかったといいます。約5年前に活用していたと回答した企業は124社(11.2%)にとどまり、急速な普及を裏付ける結果となりました。活用割合は大企業で約9割、製造業で約8割に上ったものの、文章作成や情報収集に活用する企業が目立ち、品質管理や在庫管理の自動化などに取り組む事例もありました。実感する効果として、約9割が業務時間の削減を挙げ、約3割が必要人員の減少やコスト削減などと回答、新規商品の開発につながったと回答した企業は1割未満となりました。
  • 千葉大学予防医学センターが実施した生成AIの利用実態調査で、男性の利用率が女性の1.8倍に達していることがわかりました。調査を主導した中込敦士准教授は「職種や業務内容、デジタル環境への接触機会、社会的役割などの要因が積み重なって生じうる差だと解釈するのが妥当」と説明しています。AIを巡る格差の実態を初めて全国規模で明らかにしたもので、生成AIの利用者はインターネット利用者全体の21%、利用率の高い人の特徴として、若い世代や高学歴、学生や専門職、都市部居住者、友人とのつながりが強い人などが確認されたほか、デジタルリテラシーの高さが生成AIの利用を後押ししていることもわかったといいます。非利用者に理由を聞いたところ、回答者の約4割が「必要性を感じない」と答えており、若い世代の間では「魅力的なサービスがない」という回答が多く見られ、中高年層では「使い方がわからない」「利用環境が整っていない」といった理由が多かったといいます。調査は「(AI技術へのアクセスや利用能力の差を示す)『AI格差』が今後、学習機会、生産性、情報アクセスなどの格差を拡大させる可能性を示した。誰にとっても使いやすいAIサービスの設計で『使えない不利益』を生まない包摂的なAI社会の実現が期待される」と結論づけています。
  • 英国政府は、AIで作成した「ディープフェイク」と呼ばれる画像や動画を検出する技術の基準を作ると発表しました。政府による技術基準の策定によって民間の開発を促す狙いがあり、世界初の取り組みとしています。基準作りは、米マイクロソフト(MS)などIT大手や専門家と連携して行うといい、英国のリズ・ケンドール科学・イノベーション・技術相は、「英国はディープフェイクの悪用との戦いを世界的にリードする」と述べています。前述のとおり、生成AIの進化と普及で、専門的な知識や技術がなくてもディープフェイクの作成が可能になり、他人の画像を性的に加工してSNSに投稿する行為や詐欺、なりすまし行為などが世界的に問題となっています。英政府によれば、ディープフェイクの画像や動画の共有数(推計値)は、2023年に50万件だったところ、2025年には800万件へ急増したといいます。英政府は2026年1月、Xに他人の画像を性的に加工した投稿が相次いだ問題を受けて調査を始めたほか、MSが主催する「ディープフェイク検出チャレンジ」に資金を提供、また、相手の同意を得ずに、性的な画像を作ることを違法とする法案も議会に提出しています。

(6)誹謗中傷/偽情報・誤情報等を巡る動向

侮辱罪を厳罰化する改正刑法の施行から3年が経過したことを受け、法務省は、運用状況を検証する検討会に報告書案を示しました。インターネット上の誹謗中傷対策として「一定の効果」がみられ、新たな見直しは現時点では必要ないと指摘しています。侮辱罪は、公然と人をおとしめる行為に適用され、名誉毀損罪と違い、具体的な事実を示さなくても対象となります。従来の法定刑は「拘留(30日未満)か科料(1万円未満)」でしたが、2022年7月から「1年以下の懲役・禁錮(現在は拘禁刑)か30万円以下の罰金」が加わり、引き上げられました。フジテレビの番組に出演していた木村花さん(当時22)がSNSで中傷され、亡くなったことがきっかけとなりました。施行後3年で検証を行うと法律に記されたことから、法務省は2025年から、有識者らによる検討会で議論してきました。法務省によれば、施行後3年(2022年7月~25年6月)で、ネット上の誹謗中傷に侮辱罪が適用され、有罪が確定したのは104人、このうち罰金刑は85人(82%)、科料19人(18%)でした。懲役が確定した事例はその後、2025年8月に1件ありました。一方で、総務省が委託する「違法・有害情報相談センター」に寄せられた相談は、2022年度は5745件、2023年度は6463件、2024年度は6403件と、高止まりが続いています。このため検討会では、さらに厳罰化すべきだとの意見も出ましたが、最も重い懲役刑(現在は拘禁刑)はほぼ適用されておらず、報告書案は現時点で見直す必要はないとしたものです。侮辱罪の厳罰化をめぐっては、政治家への批判など正当な言論まで制約されないか懸念する声もありました。警察庁によれば、警察は施行後の3年間で、国会議員や地方議員に対する侮辱事件を11件検挙したといい、検討会では、検察官や裁判官が憲法が保障する「表現の自由」に配慮して運用していると説明する一方、弁護士が不当な制約が生じている危惧があると述べています。こうした状況に対し、木村花さんの母・響子さんは報道で、「加害行為は指一本でできる。被害者はふとんから出られない状態で、すべて個人でやらなければならない」と、被害者側の負担は大きく、立件に至るのはごく一部にすぎないと指摘、また、花さんのもとには、SNSのダイレクトメッセージ(DM)を通した中傷も多数届いていたものの、侮辱罪にも名誉毀損罪にも「公然性」という要件があるため、1対1のやり取りは立件できない限界があり、「SNSのない時代に作られた法律には限界がある。罪を重くするより、幅を広げてほしい」と訴えています。木村さんの指摘はその通りであり、今後、時代の変化をふまえて規制を変えていく「柔軟性」、そして被害者が発生し続け、深刻な事態を招くおそれが増していることから、あわせて「迅速さ」を求めたいところです。

近年、社会問題と化しているアスリートへの誹謗中傷ですが、日本オリンピック委員会(JOC)はミラノ・コルティナ冬季五輪で、本格的な対策に乗り出します。現地にも事務所を設置し、国内の拠点と連携して24時間態勢でSNSやニュースサイトのコメント欄をモニタリング、内容によってはサイト管理者側に削除を要請するといいます。選手への誹謗中傷をめぐっては新型コロナウイルス下での開催に賛否両論が巻き起こった2021年東京大会から急増、2024年パリ五輪でも表面化、日本選手団が期間中にもかかわらず「侮辱や脅迫などの行き過ぎた内容に対しては、警察への通報や法的措置も検討する」との声明を出す事態となりました。JOCはパリ五輪でも心のケアの専門家らで編成する「ウェルフェアオフィサー」を現地に派遣、選手からの相談のうち、約5分の1が誹謗中傷に関するものだったといいます。今大会では、弁護士や専門業者ら日本に16人、イタリアに6人のスタッフを配置し、悪質投稿に目を光らせており、2026年1月19日からSNSなどのモニタリングを開始、同2月3日までにすでに約380件の投稿を削除要請しています。担当するJOC常務理事で、弁護士の八木由里氏は「日本で朝起きたら『すごく炎上していました』ではなく、リアルタイムでサポートできる態勢が大事」と指摘しています。五輪への参考となったのが、2025年9月にあった陸上の世界選手権(世界陸上)東京大会だといい、日本陸連などと協力して2025年9月1日~30日にモニタリングを行い、悪質な約295件の削除をプラットフォーム側に要請、ただ、実際に削除されたのは約100件にとどまったといいます。今後の課題は、削除されない場合の選手サポートで、国際オリンピック委員会(IOC)からもこの点に関してアドバイスを受けているということです。

スポーツは、応援する側が「自分ごと」として感情移入しやすい特性があります。応援しているチームや選手の勝敗によって気分が左右され、負けた時には「誰が悪いのか」と責任を押しつけやすい状況が生まれます。熱中しやすい分、誹謗中傷につながってしまうケースがあるのではないかと感じています。ミラノ・コルティナ冬季五輪が始まったばかりですが、残念ながら、フリースタイルスキー女子スロープスタイルの近藤選手の棄権を巡る誹謗中傷が波紋を広げています。筆者は近藤選手自身の次の言葉に深く心を揺さぶられましたし、多くの人にこの真っ当な怒りと思いが届くことを願っています。「私は最大限の努力を最後の最後までやり切ったので、ここまでの行動に何一つ悔いはなく、メディアの方々の前にも自分の意思で表に出て事実を伝える、自分の想いを伝えると決め、どんなに理不尽で残酷な結果も既に受け入れています。ただ、これまでの私の生き様も競技のことも何も知らない人がこんなに酷い事を今の状況の私に投げつけてくるという、それがいくら少数だったとしても、許せないなと思います。同じことをやってみて同じ土俵に立ってからどうぞ直接私の目の前で言ってみてください

関連して、AIを使って選手を中傷から守る英国企業「シグニファイ」が提供する、「言葉の脅威」に約40の言語で対応するシステム「スレット・マトリックス」が注目されています。2026年1月24日付朝日新聞の記事「SNSの「攻撃」から選手守れ 五輪を前に激化する誹謗中傷との戦い」によれば、「選手のアカウントを登録すると、差別や性的中傷、「殺す」などの脅しをAIが検知。アナリストが目視でリスクを判断し、悪質な投稿をしたアカウントを調査する。状況に応じて顧客に報告し、各プラットフォームに削除も要請。国際刑事警察機構、米連邦捜査局(FBI)といった機関とも情報を共有しているという。同社スポーツ部門を統括するジェイク・マーシュ氏は言う。「選手は被害や削除を自ら訴えたり、裁判所に申し立てをしたりしなくていい。我々が代行し、24時間態勢で守る」。モットーは、「メッセージを隠すだけでは問題は解決しない」だという。誹謗中傷を24分類して細かくチェックする他、絵文字や隠語、比喩などの表現方法は常に更新。同じ内容を繰り返し投稿する「量」も大事な判断材料だ」「21~24年にあった五輪、世界選手権に出場した2438選手に関する140万件の投稿を分析。不適切なメッセージを送った254アカウントのうち、2件は司法機関に証拠付きで通報したという。同社がめざすのは、問題の根を取り除くこと。抑止力につながるため、顧客には調査や通報の取り組みを公表する大事さも説いている」ということです。「シグニファイ」と契約しているワールドテニス(ITF、旧国際テニス連盟)は、2025年6月、女子ツアーを統括するWTAと2024年シーズンに関する報告書を公表、約8300選手を対象とした約160万の投稿を調査し、458選手に対する、8000件ほどの投稿やコメントが「不適切」と判断され、うち15件は米連邦捜査局(FBI)などとも情報共有したといいます。独自のペナルティーも科しており、アカウントが特定できた「加害者」の情報をツアーや4大大会の主催者と共有し、入場禁止にしています。サッカーのイングランド・プレミアリーグの強豪アーセナルも同様の取組身を行っており、殺害予告などをした6人を司法機関に通報、同時にホーム、ビジターに関わらず1~3年間の入場を禁止したといい、スタジアム内で不適切な行動をとった「違反者」と同じ処分で、リーグ関係者は「サポーターによっては収監される方がマシなぐらい痛手だ」と説明しています。報道でカナダのマギル大名誉教授で「青少年のギャンブル問題及びハイリスク行動のための国際センター」のジェフリー・デレベンスキー所長は、厳罰化に賛成し、「気軽に投稿できるだけに、誹謗中傷を減らすのは難しい。一部の調べでは、大会中に1人の選手が1200回も中傷された事態もあったという。被害は選手だけでなく親や子ども、親類まで及ぶ。脅迫をした者が収監されれば(中傷を)控える人は増えるはず。決断が必要だ」と指摘しています。

IT大手グーグルの日本法人幹部を中傷するメールなどを取引先企業100社以上に送ったとして、警視庁捜査1課は、業務妨害の疑いで、同社の元派遣社員を逮捕しました。容疑者は2024年8月に正社員採用に応募したものの不合格になり、2025年3月に派遣社員の契約を打ち切られたといいます。逮捕容疑は2025年5~6月、日本法人の社員になりすまし、幹部について「社員へのハラスメントで労基署から厳重注意処分を受けた」とする虚偽の内容をメールなどで取引先に送り、社員らに問い合わせの対応をさせて業務を妨害したとしています。捜査1課は、容疑者が派遣社員だった当時、録音機を仕掛ける目的で社屋に侵入したとして、2026年1月に建造物侵入の疑いで逮捕、自宅などの捜索で中傷する文章のデータを確認したといいます。

生成AIを用いた偽の画像や動画「ディープフェイク」がこの数年飛躍的に精度を高め、企業や自治体もその脅威にさらされています。生成AIによるディープフェイクの巧妙化を印象づける騒動が、2025年に宮城県女川町内で起きました。「大原地区(しおかぜ保育所付近)でクマが目撃されました」と町は注意喚起のメッセージとともに1枚の画像をXに投稿、夜の住宅街とみられる場所で、建物の高所から見下ろすように撮られた画像の中央に、街灯の光を浴びて黒く光るクマの姿が写っており、画像は瞬く間にSNSで拡散し、数時間で数百万回も閲覧されました。しかし、画像は町内の男性が実際に撮影した風景に生成AIでクマを合成したもので、提供者はそれを知らずに町に連絡していたとみられています。町役場内では「画像が鮮明すぎる」と疑いの声も上がり、オンラインのAI判定ツールで真偽を見極めようとしたがものの、本物と偽物、両方の結果が出て、結局判断はつかなかったといいます。その後、画像の作成者が名乗り出てクマ画像は虚偽と判明、町は訂正と謝罪に追い込まれたものです。この1週間前にもクマとみられる目撃情報が寄せられたばかりで、全国的にクマの人的被害が相次ぎ、町も出没には神経をとがらせていたタイミングで、町の担当者は「撮影場所の近くには保育所もあり、緊急性を鑑みてXで注意喚起した。結果的に町民ら多くの方を不安にさせ、ご迷惑をおかけして申し訳なかった」と述べています。通常のAI判定ツールでは判断できないケースも出る中、企業ではディープフェイクなど偽情報の検知に力を入れ始めています。香港では2024年、企業の担当者がビデオ会議で最高財務責任者(CFO)を装った相手にだまされ、2億香港ドル(約40億円)を振り込む事件が起こるなど、生成AIを悪用したビデオ会議の不正は世界的に問題になっています。こうした不正は、話者の顔をリアルタイムで認識し、違和感なく別人の顔になりすまし、標的となる人物の表情や顔の向きの変化にも追随できるため、見破るのは容易ではありません。生成AIの精度向上で悪用される業種や領域は急速に広がっており、対策が追いついていないのが現状です。そのため異なる業界間の幅広い連携を通じ、新たな技術開発につなげようとする動きが進んでいるといいます。報道でフェイクニュースに詳しい笹原和俊・東京科学大教授(計算社会科学)は「偽情報の問題は詐欺などの実害にとどまらない。『何を信じてよいのか分からない』という不確実さを社会に広げ、人々の不安を増幅させるおそれもある」と指摘、生成AIによるディープフェイクでそのリスクが飛躍的に増大しているとし、各業界の垣根を越えた研究開発の更なる推進が急務だと訴えていますが、正に正鵠を射る指摘だと思います。

LINEヤフーは、選挙に関する偽・誤情報への意識調査結果を公表、回答者の4割が投票先の検討に当たり、偽・誤情報に影響を受けているのではないかと不安に感じ、情報提供や啓発が不十分とみている人は約8割に上ったといいます。このほか、選挙期間中に政党や候補者に関する偽・誤情報を見聞きしたことがあると答えた人は約4割、意図的な情報操作だと考えている人は35%となりました。

近年の選挙では、投票日までに多くの偽・誤情報がばらまかれ、有権者のもとにも届いており、デマはどんなルートで私たちに届き、だまされない有効な対策は何かについて、2026年2月1日付朝日新聞の記事「デマにだまされない対策は 「金になる」政治動画、偽情報で稼ぐ人も」における、偽・誤情報の実態に詳しい東洋大学の小笠原盛浩教授の解説が大変参考になりました。具体的には、「選挙中に広まった五つの偽・誤情報を示して尋ねたところ、一つでも見聞きしていた人の割合は59.7%に上りました、さらに、全体の35.3%がそれらの情報を事実だと誤認識していました。先行研究の調査では、偽・誤情報に接触したり、誤認識したりした人の割合がもっと高いものもあり、この調査の数字が特に高いわけではありません。調査対象の偽・誤情報の数を増やせば、見聞きした人の割合はさらに高まったでしょう」「テレビが偽・誤情報への注意を呼びかけると、その影響力ゆえに、逆に偽・誤情報の拡散源になってしまう場合があります。コロナ禍で、「トイレットペーパーは店に十分あり、無くならないので買い占めなくてよい」と報じたことが、逆に買い占めを誘発したのと同じ構図です。また、昨年の参院選では外国人政策について、一部のマスメディアが「外国人問題」というタイトルで報じました。そうした報道に触れた有権者が「外国人の何が問題なのだろう」とネットで検索した結果、「外国人が生活保護の受給で優遇されている」などといった偽・誤情報を発見し、それらを事実だと誤認識した可能性もあります」「「投票箱がすり替えられる」など、選挙制度への信頼を失わせる情報は、選挙時に拡散する偽・誤情報の典型です。選挙以外でも、大きな地震の後には毎回のように、「何月何日にもっと大きな地震が起きる」という偽・誤情報が拡散しています。これらの偽・誤情報は「定番」ですので、事実だと思い込んだり驚いて他の人に話したりしてしまわないように、あらかじめ、マスメディアやファクトチェック団体のウェブページで予習しておくとよいでしょう。偽情報を見聞きした時に、「これは前にも聞いたことがある、定番のうその情報だ」と気づけるようにしておくのです」「ここ数年、動画共有サイトで政治系のチャンネルが急増したと言われています。政治系動画配信は「金になる」のです。手っ取り早く閲覧数を稼ぐためには、政治に関する正確で中立的な情報を伝えるよりも、「マスメディアが報じない真相」などとして、人々を驚かせたり、不安や不満をあおったりする偽・誤情報で関心を集める方がはるかに効率的です。」「一つは、感情を激しく刺激する情報には、あえて反応しないように心がけることです。事実の情報よりも偽情報の方が人々の感情を刺激する内容や言葉づかいが多いことが研究で分かっています。次に、信憑性が高い情報源を日ごろから持っておくことです。新聞やテレビなどのマスメディアは、情報を発信するまでに正確性をチェックする体制がしっかり備わっています。こうしたところに情報の真偽チェック作業を外注し、いわば「手抜き」をする。忙しい日常生活を送る中で、情報の真偽をいちいち自分で判断しなければならないのは大変です。手抜きをしても正確性が高い情報を入手できるようにしておくのです」「ネット上で感情を刺激する情報を見聞きした際は、マスメディアでも同じニュースを報じているかを調べる程度にとどめておくのが無難だと思います。個人がファクトチェックを行う際のチェックリストなども公開されており、それらは真偽の見極めにある程度有効です。一方で、情報の真偽を確認しようとしてネット上で色々と調べた結果、本当はSNSの閲覧履歴などにもとづいて情報が表示されたに過ぎないものを、「自分の力で調べた結果、真実を発見した」などと誤解して、自分の偏見や思い込みを強めてしまう恐れもあります。ネットを検索して得ることができる情報は、自分の好みや関心に合わせて必ず偏っていることを、肝に銘じる必要があります」といった内容は多くの人に知ってほしいものです。公正で秩序ある選挙は民主主義の根幹であり、それを揺るがす行為は許されません。誹謗中傷などの投稿への対応をSNS運営事業者に義務付ける「情報流通プラットフォーム対処法」が2025年4月に施行されましたが、十分対応できていない面もあります。弊害をできるだけ避けるためには、新聞やテレビから情報を得たり、候補者の街頭演説を聞いたりするなど、幅広く情報に接することが重要だといえます。一方、今回の衆院選では、生成AIを使って立候補者の政見放送を改変した動画がSNS上に拡散、偽情報の氾濫によって、偽りのない発信にまで疑いの目が向けられており、有権者が情報の真偽を見極められる環境の確保が求められているといえますが、選挙を取り巻く実情に制度が追いついていないのが現状で、インターネット空間に偽情報や誤情報が氾濫する中、情報の真偽が判断しにくくなっている状況です。ある政党が衆院選公示後、聴衆が広場を埋め尽くす街頭演説会の映像を投稿したところ、「AI生成ではないか」との声が相次ぎましたが、ネット情報などを検証する非営利機関、日本ファクトチェックセンターが他の角度から撮影された動画などを踏まえて調べた結果、動画は本物と判断されたという事例もありました。SNSの浸透で情報への向き合い方は変化を余儀なくされており、拓殖大の丹羽文生教授(政治学)は報道で「誤情報や偽情報が出回ると、有権者の投票行動にも影響を及ぼし、選挙結果が歪められ、民意を正しく反映するという選挙本来の役割が損なわれかねない」と指摘していますが、正にその通りだと思います。

選挙との関係でいえば、多数の偽情報が発信される中、超短期決戦の今回の選挙戦では嘘が検証されないまま拡散する恐れも指摘されていました。総務省は、一見して真偽を判断できない偽情報について注意喚起しており、生成AIについて「特殊な技術がなくても、時間をかけずにもっともらしい偽画像・映像・音声・ニュース記事などを作成できる」と指摘し、情報源の確認や、他の情報と照らし合わせるなど、入念に真偽を判断するように勧めています。選挙でSNSを活用すると、有権者はいつでもどこでも政治家の意見を直接知ることができますが、誤情報もあり、玉石混交であり、政党や候補者の政策を知り、判断するにはむしろ効率が悪い面もあり、誤解による誤った判断を招きかねません。SNSは「個人のメディア」で、所属政党よりも個人に焦点をあてることが多く、活用して注目を集める候補者は、親しみやすさを感じられる訴えのほか、過激な表現や主張をすることも多いといえます。これまでSNS上では、アルゴリズムでユーザーが好みのコンテンツに偏る「フィルターバブル」、意見が似た人が集まりさらに指向性が偏る「エコーチェンバー」が課題でしたが、最近は、トラブルや騒動が起きた方が投稿が拡散され、名が知れ渡ることが課題だといえます。候補者を判断するなら、他のユーザーのコメントだけでなく、本人の投稿を見るのが重要です。ライブ配信の普及で街頭演説の価値も再評価されており、以前から街頭演説を中継し、録画も配信する戦略を確立させた政党は知名度を上げました。一方、候補者側にも注意が必要で、ネット上の「民意」を誤解しないようリテラシーが求められています。実際、神奈川県藤沢市のモスク(イスラム教礼拝所)建設計画に反対する候補者が、街頭演説で「土葬が行われるようになる」と根拠が不明確な主張を続けたことも典型的な問題です。毎日新聞の報道によれば、「市によると、当該の建設予定地では現在、法令の規定で土葬ができない。モスクの運営予定者も「土葬の計画はない」と断言するが、有権者に実態を誤認させるような演説が繰り返され、SNSでも拡散している」「計画の「証拠」として、モスクの建設を進める一般社団法人「藤沢マスジド」の法人登記簿に、目的の一つとして「墓地の保有」が掲げられていると指摘する」「藤沢マスジドはホームページでも「当地およびその周辺に、土葬墓地を建設する計画は一切ありません」「国内の既存霊園を利用する形で対応しております」と記している」「予定地は現状、これらの規定に抵触するため、土葬墓地の設置は事実上できない。また菊竹氏は、先に県内で建設された海老名市のモスクなどを挙げ「治安の悪化」が起きていると主張している。これに対し、海老名市のモスク周辺を管轄する海老名署は「モスクの付近で犯罪が多くなっていることはない。外国人やイスラム教徒に限って犯罪が特段多いこともない」としている」といいったファクトチェック結果が掲載されていましたが、候補者側のリテラシーの重要性を感じます。

虚偽情報の拡散を通じた中国やロシアによる民主主義国への選挙介入もかねて問題視されています。外国からの政治工作に日本も無関係ではいられません。2025年7月の参院選では政府高官が外国勢力による選挙への影響工作について、日本も「対象になっている」との認識を示しましたが、SNS上ではいまも不自然な動きが見られ、外国の影が見え隠れしています。2026年2月4日付毎日新聞の記事「日本の分断狙う」SNS上の動き 衆院選でもちらつく外国の影」では、中国などによる影響工作の詳細がレポートされており、大変参考になりました。例えば、「琉球は中国に属し、釣魚島(尖閣諸島の中国語名)と台湾島も中国に属します」といった投稿が2026年1月中旬、Xにされた件の分析がなされています。投稿には、福岡県を拠点に活動するアイドルグループの女性の動画が盗用され、女性が日本語で自己紹介する動画には、台湾や沖縄を中国領と主張する中国語の字幕が付けられ、拡散されました。所属事務所は2026年1月、Xのグループ公式アカウントで「過去の動画を無断で加工し、事実とは異なる中国語の字幕(テロップ)を付与した捏造動画が拡散されている」と投稿、「タレント本人の発言を歪曲したものであり、悪質な権利侵害および名誉毀損」と指摘しました。この「捏造動画」を投稿したのは、所在地が中国と表示された複数のアカウントで、ニュースなどの情報源の信頼性を評価する米調査機関「ニュースガード」の2025年12月の報告では、TikTokの中国版である「抖音(ドウイン)」などでは高市早苗首相の台湾有事を巡る答弁があった同11月以降、日本人インフルエンサーの動画に「琉球は中国の一部」などと虚偽の中国語字幕がつけられたものが114本確認されたといいます。中国のSNS内で横行していたこうした動画が、SNS上の日本語空間でも目立ち始めた形となります。このアイドルグループの女性の捏造動画を投稿していた中国所在のアカウントは2022年に登録され、7万人超のフォロワーを持っており、2025年12月には、高市首相の祖父が中国侵略時の日本兵だったとする中国語による偽情報を、刀を持ち、中国人とみられる男性をひざまずかせている写真とともに投稿していました。台湾でSNS上の偽情報を調べている民間組織「台湾ファクトチェックセンター」によれば、2025年11月ごろから中国や台湾で広まった投稿内容ですが、実際の高市氏の祖父の名前とは異なり、誤情報だと判定されています。このアカウントは、中国語による投稿が続いていましたが、高市首相の台湾有事を巡る答弁があった後の2025年11月以降、日本語による投稿を増やし始め、米メルトウォーターのツールを使って分析すると、2025年11月の1日当たりの日本語の平均投稿数は1.9件だったところ、12月には9.3件、そして2026年1月には12.2件に増えていたといいます。内容は、中国側の領土主張や高市首相を批判するものが目立ち、SNS分析を手がける「ジャパン・ネクサス・インテリジェンス」(JNI)によれば、このアカウントによる投稿をリポスト(再投稿)するためだけに作られたとみられるアカウントも複数見つかり、こうしたリポストに特化したアカウントの多くは2026年1月に作られたばかりで、オリジナルポストを再投稿して、その再投稿へまた返信していたといいます。なお、JNIが発見したリポストに特化した7アカウントのうち6アカウントがX社によって凍結されたといいます。認知戦に詳しい笹川平和財団戦略・抑止グループの鈴木涼平氏は「以前は中国語での発信で中国国内で日本の印象を作ろうとする工作が多かった。日本語での発信が目立ち始め、中国側が日本への影響工作を強めているとも考えられる」と指摘、2025年7月の参院選では、ロシアなど外国勢力の介入で偽情報の拡散や影響工作が行われていると指摘されましたが、JNIの調査では参院選期間中、短期間で政治的な投稿などを大量に繰り返すボット(自動投稿プログラム)のような動きをするアカウントを約9400件検知、抽出した170件を分析すると約45%の77件で投稿が期間中に急増していたといい、調査報告書で、こうした拡散が「特定思想の露出量に寄与したことは確か」と結論付け、保守的な思想を広めるのに利用されたとの見方を示しています。笹川平和財団の鈴木氏によると、今回の衆院選でも、こうした偽情報の拡散や特定の主張の不自然な増幅が懸念され、「外国勢力による介入は、政府の弱体化だけでなく、日本社会の分断を狙っています。何が分断の種になっているかを見て、それを増幅してきます。感情に訴えかけるような投稿や情報ほど、一息おいて『本当だろうか』と多角的に調べることが重要です」と注意を呼びかけています。

誤・偽情報対策についての報道から、いくつか紹介します。

  • 産経新聞では、フェイクニュースなどインターネット上の偽情報を見抜く力を育てる「ニュースリテラシー(活用能力)教育」の出前授業を行っています。高校生に対し、動画配信サービスなどで再生回数が多いほど収入を得られる仕組みができるなど、人々の関心が貨幣価値を持つ「アテンションエコノミー」が生まれたと説明、「偽情報や人を傷つける過激な言動を流す人が増えた」とし、例として、2025年秋に出没が相次いだクマに関して生成AIが作った動画や画像を取り上げて「生成AIでの作成を示すロゴが入っていることもあるが、怪しい内容は疑ってみる必要がある」と指摘、偽情報を見抜くには、「さ・ぎ・し・か・な」=「さ(作者はだれか)」「ぎ(技術は何を使っているか)」「し(視聴者はどう思っているか)」「か(価値観、どのような価値観で作られているか)」「な(なぜ私のもとに届いたのか)」の5点を調べ、「少しでも疑わしければ信じてはいけない」と呼びかけています(大変参考になります)。さらに、「ニュースを読み解くには多角的な視点が必要だ。先生にはできるだけ多くの視点を子供たちに提示してほしいし、生徒のみなさんは、いろいろな情報に触れ、自分なりの価値観の軸を作ってほしい」と指摘しています。
  • SNS上では選挙や政治に関わる真偽不明の情報やデマ、偽の画像・動画の拡散が問題ですが、その中で懸念されている手法の一つが、特定作業を自動的に実行するプログラム「BOT(ボット)」による「情報拡散工作」です。2026年2月3日付毎日新聞の記事「SNS「拡散工作」に注意を 真偽不明情報、ボットで投稿 国立情報学研究所・佐藤一郎教授」も極めて重要な示唆をいただく内容でした。佐藤教授はSNSユーザーに対し、こうした工作活動が存在する可能性を念頭に置いた上で、情報に接する際は1次情報や真偽をよく確認することを呼びかけています。まず情報拡散工作が最もしやすいSNSは、Xで、「『これから何が注目を集めそうか』を予測するという、Xのアルゴリズムが強く関係している」と説明、こうした工作活動については、個人や組織が仕事として請け負う産業化や、役割ごとの分業化も進んでいるとみられるといいます。「準備段階では「情報の投稿用アカウント」と、その投稿に「エンゲージメント(反応)工作」をするアカウントをそれぞれ多数用意する。特に投稿用アカウントは、急なアカウント作成や真の目的につながる投稿はせず、実行の数カ月程度前から作成し、日常的な投稿をしながら信用度を事前に上げておく。その上でタイミングを見計らい、各投稿用アカウントがボットを通じ、文章や画像・動画を短時間に多数投稿する。他方、各エンゲージメント用アカウントは、投稿された直後から「いいね」やリポストといった反応を、同じくボットを通じて短時間に大量に実行する。XなどSNSのアルゴリズムは、短時間に多数のアカウントから類似の内容が投稿されたり、投稿直後に多数のエンゲージメントを獲得したりしていることを検知すると「多くの人の関心が高い話題、もしくは今後高くなりそうな話題」と認識する。その内容は不特定多数の一般ユーザーに表示されるようになる。結果、多くのユーザーが投稿内容を自発的に「いいね」やリポストするようになり、更にフォロワー数の多い著名アカウントが見つけて反応すると、信ぴょう性や影響力は大きく増すことになる」との仕組みの解説は大変参考になります。さらに、こうした手法を選挙戦期間中に使えば、特定の政党や候補者の評判を落とすフェイク(偽)情報も、大規模に拡散できることになるといいます。また、「特にフェイク情報を含んだ投稿は拡散されやすい。なぜなら「フェイク情報は多くの人が驚きや怒りなどを感じるようにしており、拡散してもらいやすいため」(佐藤教授)だ。政治的な内容であれば、特定候補者を称賛する内容より、対立候補者の偽のスキャンダルの方が関心をひきやすいという。更に生成AIの進化で、フェイク情報を含む投稿の巧妙さが一層増す恐れが高まっている。これまで日本では、日本語の「言語の壁」で海外の事業者などからの影響は受けにくかったが、それもAI技術の発展で壁が崩れつつある。また工作活動をしている投稿用アカウントでも、フェイク情報だけでなく、うそのない内容の投稿も織り交ぜており、問題のあるアカウントなのかどうか、判別を困難にさせているとみられる。佐藤教授は「SNS、とりわけXは、情報拡散工作が可能なアルゴリズムになっている。見る人はそうした可能性を踏まえて、ニュースソースをよく確認するなど、十分に注意して情報に接してほしい」と呼びかける。刺激的な内容の投稿ほど、「いいね」やリポストなどの反応をする前に、一呼吸置いて冷静に考えてみることが必要だ」との指摘も本当に考えさせられます。
  • 2026年1月27日付朝日新聞の記事「気になった情報、ウソかホントか 5分でできる簡単調査をやってみた」も参考になりました。
  • 米メタから日本でのファクトチェックの提携先に選ばれたネットメディア「リトマス」の大谷友也編集長によれば、「5~10分あれば、気になった情報の真偽について、簡単な調査はできる」、例えば、動画を静止画にし、グーグルの画像検索ツール「グーグルレンズ」を使って調べると、ネット上にある、この画像と一致した図柄が列挙されその信ぴょう性を疑うレベルまで5分程度でたどり着くといいます。また、海外の情報の場合、世界のメディアなどのファクトチェック結果が表示されるグーグルの「Fact Check Tools」も重宝するといいます(いずれも利用は無料です)。また、リトマスでは、AIに表示された内容をそのまま信じることはなく、AIを使う場合は、検索結果に含まれる「出典」などを把握するのがねらいで、AIは結論を得るための「目的地」ではなく、最終的な検証に向けた「経由地」と指摘している点は極めて参考になります(無料の百科事典サイト「ウィキぺディア」も同様だといいます)。大谷氏によれば、ネット上で拡散力の強い情報には、感情を揺さぶったり、怒りや反発をかき立てたりする内容が含まれがちで、「選挙では、人々の感情を刺激・扇動する投稿が増える。面白いと感じる内容を見つけたら、自ら調べたり、家族の意見を聞いたりして欲しい」と呼びかけています。リトマスでは2025年、ネット上などで広く拡散されていた真偽のわからない情報を選び、国内外のメンバー7人で、約30本のファクトチェック記事を作成・配信、ただ、最終的に真偽を判別できない情報も少なくなかったといいます。大谷氏は「生成AIを使ったディープフェイクなど、真偽がわからないと割り切り、信じる判断を留保することも大切だ」と指摘している点も大変参考になりました。
  • 偽情報を見る前に、予防接種のように選挙期間中に流されそうな内容を予習しておく「プレバンキング」という手法がある。といいます(2026年1月27日付朝日新聞)。NPO「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)が手がけるサイト「ファクトチェック・ナビ」で調べるなどの方法が有効だといいます。近年の選挙に関する真偽不明情報を検証したメディアやNPOの記事を紹介しているものです。FIJによれば、各選挙の公示日~投開票日に出た記事は、2025年の参院選で181本に上ったほか、2024年の衆院選15本、2022年の参院選30本、2021年の衆院選28本で、このうち25年の参院選の期間では、外国人がらみの言説に対する検証が最も多い3割ほどを占めまし。外国人のせいで治安が悪化したり、外国人が社会保障を乱用したりしているなどとする言説が流れているが、それが「誤り」だと指摘するものです。FIJによれば、選挙時に「定番」のデマもあり、2025年の参院選で流れた「期日前投票『えんぴつでは書き換えられる』」といった言説は「誤り」だと認定されましたが、類似のデマは2024年の衆院選でも、「期日前投票はブラックボックスで不正し放題」という表現で広まっていました。他にもメディアの選挙報道をめぐり「開票率0%で当選出るのは絶対インチキ」とうたうデマが、2024年の衆院選に続いて確認されました。選挙ではかねて、候補者や政党をおとしめるデマなどの書かれた怪文書が、有権者宅に直接投げ込まれることがありましたが、FIJは、同種の行為が近年はネットを舞台に行われ、偽の画像や動画を含むデマが一気に広まる影響力の大きさが懸念されるところ、FIJ事務局長の田島輔弁護士は「メディアなどは影響力の大きい真偽不明情報を優先して検証しているが、ナビで紹介した記事は、FIJがネット上で確認した真偽不明情報の1割以下に過ぎない。今回の選挙でも似た内容のデマが流れる恐れはあり、有権者は怪しげな情報に触れた時には疑ってみる姿勢が必要だ」と指摘しています。
  • ネット上にあふれる虚偽や根拠不明な情報をどう見分けるか。ロシアや中国からの「認知戦」にさらされるリトアニアの最前線では、大勢のボランティアがAIを使いながらファクトチェックに取り組んでいるといいます。「最後に重要になるのは、人の目による検証だ」といい、偽情報だと判明すると、ボランティアらはフェイスブックやXの運営側に「重大さ」を知らせるため、タイミングを合わせ、一斉に誤情報や拡散するアカウントの削除を求めるメッセージを送るといいます。「ウクライナが降伏した」などの偽情報を流したフェイスブックを特定する成果もあったといい、このアカウントは、2014年ごろから毎月数百件、ロシア政府を擁護する投稿をしてきたものと同じで、詳しく調べると、約10万人の登録者の多くは不審なアカウントで、名前は異なっていたものの、ウクライナ系の女性名義だったといいます。そして、登録された電話番号には連番もあり、一括で取得されたものとみられました。運営するMeta社に一斉に連絡したところ、2022年6月ごろアカウントは閉鎖されたといいます
  • 短い文章で拡散するSNSなどで情報を拾うのではなく、「熟議」することで真実を考えてもらいたいと開いているサイトもあります。「Surfvote(サーフボート)」は、運営側が認めた大学教授や研究者らが問いを立て、これに対し一般の参加者が、賛否などを選び、その理由を文章で書き込むというものです。考えながら文章を書き、他の人の意見もじっくり読むもので、攻撃的な書き込みはないといいます。「日頃から情報のアンテナを張っている人たちの意見を聞きたいな、と思った人たちが落ち着いて読める場所作りを続けていきたい」がコンセプトであり、参考になります。
  • 2026年2月4日付日本経済新聞の記事「SNSアルゴリズムに支配されるな 元設計者の反省と教育」も参考になりました。NTTドコモのモバイル社会研究所がSNS利用者を対象に実施した2025年の調査によると、「偽・誤情報が広まり、真実がわからなくなる」と回答した人の割合は全体の49%に達したといいます。長時間利用も大きな問題で、こうした問題に対する対策は一筋縄には進みません。法規制については、各国で言論の自由との兼ね合いや運営企業の強力なロビー活動が高い壁として立ちはだかり、規制するにしても実効性をどう担保するかなど課題も多いといえます。法規制と並ぶ対策とされる「リテラシー教育」にも限界があるり、法政大学の藤代裕之教授は「アテンションエコノミーにより真偽不明の情報が増え、玉石混交のSNSから『玉』だけを拾うのは困難。批判的思考を強調しすぎると陰謀論にはまり込むリスクがある」と指摘しています。一方、武蔵大の宇田川准教授が着目したのは情報が流通する仕組み、すなわちアーキテクチャーに目を向け、SNSを取り巻く状況を客観視することだといいます。「皆さんはアルゴリズムは客観的と思っているかもしれないが、設計者、SNSの場合は営利を目的とした企業の価値判断が強く影響している」ことをグループワークで体験するものは大変興味深いものです。海外でも「第3の道」が有効との声が出ており、例えば米ジョージタウン大学のルネ・ディレスタ准研究教授はアルゴリズム教育の重要性を指摘し、「見えない支配者が実際いかに活動しているかを教えることで、(ユーザーが)自分たちが果たしている強力な役割を理解できる」と述べています。もちろん、仕組みを理解するだけで強力なアルゴリズムから逃れられる保証はないものの、それでも規制とリテラシー教育がともに課題を抱えるなか、仕組みを理解することで距離を置くことを促す取り組みは試す価値があるのではないかと筆者も感じました。他の対策と組み合わせることで効果を高められる可能性もあり、SNSが社会や生活に深く入り込むなか、多層的な取り組みが急務だとの指摘は正に正鵠を射るものといえます。
  • 2026年2月3日付朝日新聞の記事「排外主義を防ぐ「反うわさ戦略」 事実で言い負かさないのはなぜ?」ほかでは、「反うわさ戦略」が紹介されており、大変興味深いものでした。なかなか厳密に定義するのが難しい概念で、報道でとりあげられていた事例がイメージしやすいと思います。それは、「例えば、外国人や難民に怖さを感じている人がいたとする。その人は、外国人や難民は「犯罪をしがちだ」といったうわさを見たり聞いたりすると、「自分の感じていたことは正しかった」という安心感を持つことが少なくない。こうした人々に、「あなたが信じているうわさは間違っている」と、ファクトや統計で迫っても、心理的な反発を呼んでしまい、逆効果にさえなってしまう、という理屈だ」というものです。また、バルセロナで作成された「反うわさ戦略ハンドブック」では、「反うわさ戦略が、ある民族への固定観念や偏見を「客観的な事実で打ち負かす広報キャンペーンではない」と明記されているといいます。さらに、「ビルバオで移民政策の研究をするベギルネ財団によれば、移民に対する住民の姿勢を調べたバスク州の調査を分析すると、寛容が3割、非寛容が2割、どちらでもないが4割だった。残り1割は質問により態度が変わるという。調査は07年から毎年しているが、傾向に大きな変化はないそうだ。同財団代表で社会学者のシャビエル・アイエルディさんは「この『どちらでもない』の4割が、非寛容や人種差別の方に向かわないよう、とどめるのが反うわさ戦略だ」と言う。消火ではなく「予防」のための活動とも表現される」との内容もイメージしやすいと思われます。根底にあるのは、日本でいう「多文化共生」の考え方であり、誹謗中傷や誤・偽情報への対処法として応用できるのではないかと注目していきたいと思います。

(7)その他のトピックス

①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/暗号資産を巡る動向

米シンクタンク「アトランティック・カウンシル(大西洋評議会)」は、中国が主導する国境を越えた中央銀行(中銀)デジタル通貨(CBDC)の決済基盤「プロジェクトmBridge」の決済総額が555億ドル(約8兆7200億円)に達したことを報告書で公表、2022年の導入初期の約2500倍に膨らみ、決済総額の約95%はデジタル人民元(e─CNY)が占めると試算されています米ドルに依存した国際決済システムに代わる仕組みを構築する動きが勢いを増していることを改めて示したともいえます。試験運用中のプロジェクトmBridgeには中国のほかに香港、タイ、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビアの中銀が参加、越境決済の取引件数は4000件を超えたといいます。中国人民銀行(中銀)の最近の統計によれば、デジタル人民元の決済件数は34億件を超え、決済総額は約19兆5000億元(約430兆円)と2023年の9倍超に膨らみました。中国国営メディアは2025年12月、デジタル人民元をデジタル銀行口座やウォレットで保有する利用者に対する利息の支払いを2026年に開始すると報じましたが、利用促進を目指した動きとの見方が広がっています(世界のCBDCで利息を付与するのは初めてとなります)。同社は「これらの動きを総合すれば、デジタルインフラを通じた人民元の国際化が徐々に拡大していることを示す」とした上で、「プロジェクトmBridgeがドルの支配的地位を直接脅かす可能性は低いものの、ドルの基盤を徐々に浸食する可能性がある」と指摘、今後は貿易決済、特に中国が中心的な役割を担うエネルギーと商品関連の取引に力を入れる可能性が高いとの見方を示しています。越境決済は通常ドルで取引しますが、CBDCによる決済ならドルを介さずにすむためドル依存からの脱却と人民元の国際化を後押しすることになります。ただ中国には個人の外貨両替額を制限するなどの厳しい資本規制があり、取引拡充の障壁として残っています。実際、中国国内での普及は遅れており、日本のキャッシュレス推進協議会の推計で、中国のキャッシュレス率は8割を超え、およそ4割の日本を上回っていますが、広く浸透しているのは微信支付(ウィーチャットペイ)や支付宝(アリペイ)といった民間のスマホ決済で、デジタル人民元はなじみが薄いのが実情です。既存の決済手段に慣れている人が多いうえ、デジタル人民元は利用できない場所が多いのも難点とされます。利息を受け取れるようになっても従来との差はさほどなく、デジタル人民元の保有者が増えるかどうかは見通せない状況です。さらに正式発行のメドもたっておらず、中国共産党は2026~30年の新たな5カ年計画で「デジタル人民元を着実に発展させる」と盛り込んでいますが、具体的な道筋は明らかになっていません。

欧州中央銀行(ECB)が導入を目指すCBDC「デジタルユーロ」について、欧州では2026年、発行に向けて重要な立法手続きに入ります。デジタルユーロとは民間事業者が手がけるキャッシュレス決済サービスとは異なり、ユーロ圏の中銀であるECBが発行するデジタル版の法定通貨を指し、価値はユーロ紙幣・硬貨と同じで、現金を補完する位置づけとなります。利用するには専用口座を開設し、あらかじめチャージ(入金)しておく必要がありますが、預金口座と違って利息はつきません。スマホのアプリで対応店舗での支払いや個人間の送金もでき、通信障害発生時に備え、オフラインでも使えるようにするといいます。ECBは2026年中にデジタルユーロの発行に必要な法整備が進めば、2027年半ばに試験運用を始め、2029年中のデジタルユーロ発行に向けた準備が整うとの青写真を描いています。次のステップに進むためにも「2026年は極めて重要な年」(ECBのチポローネ専務理事)となります。ECBはデジタルユーロがなぜ必要かをわかってもらおうと対外発信を強化していますが、市民レベルで関心は高まっているとは言いがたく、ECBの調査ではデジタルユーロの認知度は2024年3月時点で4割ほどにとどまっています。2026年に立法手続きに入る背景には、通貨主権の維持を巡る強い危機感があります。国際通貨基金(IMF)によると、2024年の世界の外貨準備に占めるユーロの割合は19.8%で、2009年のピーク時(27.7%)より大幅に低下しました。米ドルの割合も低下していますが、なお6割弱を占めており、その差は大きいといえます。現金決済の割合が低下し、決済分野でクレジットカード会社など米国企業の存在感が増していることも懸念材料となっています。ECBによると、ユーロ圏の店舗における現金使用割合は2016年に54%あったが2024年には39%に低下、現金に代わって首位となったカード決済は、ビザやマスターカードなど米国企業への依存度が高いという問題もあります。さらに米ドルなどを裏付け資産とした電子決済手段である「ステーブルコイン」の急成長に対する警戒もあり、トランプ米政権はドル建てのステーブルコイン普及を強力に後押ししており、欧州でも利用が広がれば、決済分野での米国依存がさらに高まることになります(EU欧州委員会のドムブロフスキス委員は「こうした状況がEUを脆弱にしている」「EU経済への技術的な支配力をこれほどまで他国に委ねることは、われわれが自律的に動く能力を阻害しかねない。レジリエンスと経済安全保障に対する真の脅威となっている」と述べています)。デジタルユーロの旗振り役であるラガルドECB総裁は「デジタルユーロは単なる決済手段ではなく、欧州の主権に関する政治的声明でもある」と指摘、今後の焦点は、2026年5月頃に予定される欧州議会での委員会採決です。ECBのチポローネ専務理事も、ユーロ圏は決済を域内で完結して処理できる体制が必要で、「デジタルユーロ」が小口取引を支える基盤インフラになるとの見解を示しています。一方、ドイツ銀行や仏BNPパリバなど欧州の14金融機関は計画に反対する書簡を議会に送っており、最大会派の中道右派「欧州人民党」の有力議員は「銀行からの預金流出や民間業者との競合で懸念があり、オフラインのみに機能を絞るべきだ」と制度設計の大幅な見直しを求めています。このように、欧州議会では賛否が割れており、日米欧の中銀初のCBDC発行が実現するのか、採決の行方に注目が集まっています。本コラムでも継続的に注視してきましたが、CBDCを巡っては主要国でも対応が分かれています。前述のとおり中国は2020年から国内各地でデジタル人民元の実証実験を進めていますが、「アリペイ」などの民間のスマホ決済が定着しており、利用は広がっていません。日本では2024年に関係府省庁・日本銀行連絡会議を設置して議論を重ねている段階です。米議会下院は2025年7月、発行を禁止する反CBDC監視国家法案を可決しました。野村総合研究所の井上哲也氏が報道で「クレジットカードの支払いなどでポイントが付く中、CBDCについては、消費者が利用するケースが明確ではない。決済サービスを提供する銀行や店舗にとっても、コストを負担してまで導入するメリットを具体化することが必要だ」と指摘していましたが、正にその通りだと思います。欧州ではデジタルユーロの発行によって「当局が個人の支払いをすべて把握する」といったデマも広がっています。当局が正式発行を目指すなら、利用者や事業者の不安や疑問に丁寧に対応することが求められるといえます

インド準備銀行(中銀)は新興国グループ「BRICS」のデジタル通貨を連携させることを提起しています。国境を越えた貿易や観光の決済を容易にする狙いがあり、ドル依存の低下につながる可能性があります。ロイターによれば、インド中銀はCBDCの連携に関する提案を2026年のBRICS首脳会議の議題に盛り込むよう政府に勧告したといいます。インドは2026年に開催されるBRICS首脳会議の議長国を務め、勧告が受け入れられれば、BRICS加盟国のデジタル通貨連携案が初めて正式に提起されることになります。この取り組みは、ドル離れの動きに警戒感を示してきた米国の反発を招く可能性があります。BRICS主要5カ国のうち、デジタル通貨を全面的に立ち上げた国はありませんが、いずれも実証実験を進めています。BRICSのデジタル通貨連携を実現するには、相互運用可能な技術、運営・統治ルール、貿易量の偏りを調整する仕組みなどが論点になります。

あらためてステーブルコインとは、法定通貨や国債など裏付けとなる資産を担保に発行し、価格が大きく変動しないように設計されたデジタル決済手段です。価格変動の大きいビットコインなどの暗号資産に比べ、価値が安定しやすいため、決済や送金などでの利用が見込まれており、日本では2023年施行の改正資金決済法で発行が認められました。2025年秋に開始したJPYCは2026年1月下旬時点で発行額は約10億円、約8万人が保有、1回あたりの発行上限が100万円のため、まずは個人利用を主に想定して提供を開始したところ、ブロックチェーン(分散型台帳)上の金融サービスである分散型金融「DeFi」で活用している個人などが多いほか、フリーランスによる日本と海外拠点間の越境決済での需要が出始めたといいます(今後3年で10兆円の発行目標を掲げています)。ただ、個人が利用する決済市場はクレジットカードやPayPayなどのQRコード決済とぶつかることから、ステーブルコインの主戦場は法人決済市場になると考えられます。そうした中、三菱UFJ銀行など3メガバンクも共同発行の準備を急いでいます。金融庁がメガバンクの背中を押した狙いのひとつに「通貨主権の維持」(大手行幹部)があります。世界のステーブルコインの市場規模は約3100億ドルに達し、その9割超がドル建てです。本コラムでも取り上げましたが、米国で2025年7月にステーブルコインの規制を定めたGENIUS法が成立、ドル建てステーブルコインは音楽配信など日常サービスの決済手段として採用され始めています。日本経済新聞によれば、「日本がステーブルコインを無視すれば、他の通貨に市場をとられる」(金融庁幹部)だけであり、20261月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で日本のステーブルコインについて片山さつき財務相が「非常に近い将来に米ドルと日本円、ユーロのステーブルコインが交換できる市場が構築されるだろう」と強調しました。ステーブルコインは集まった資金を短期国債などで運用しており、ベッセント米財務長官は「米国債に裏打ちされたステーブルコインが誕生することで、基軸通貨ドルの優位性を維持できる」と述べていますが、裏を返せば、円建てステーブルコインの普及は、裏付け資産となる日本国債への需要を高めることになることから、ステーブルコインの発行競争は通貨価値を巡る競争という側面を無視できないことになります。一方、拡大に伴って銀行預金が減少すれば、銀行が国債を買う余力がそがれかねず、「差し引きして国債需要がどれだけ増えるかは未知数だ」(慶応大の坂井豊貴教授)との指摘もあります。

香港の中央銀行に当たる香港金融管理局(HKMA)は、ステーブルコインを発行する免許を2026年3月に業者に付与すると明らかにしました。数は「非常に限られる」とし、リスク管理を重視し絞り込む姿勢を強調しています。香港は2025年8月に免許制を軸とするステーブルコイン条例を施行し、業者から受け付けを始めました。これまでに36社から申請があり、審査は大詰めを迎えているといいます。条例では、業者は発行・所有額と同額の裏付け資産を持つことが義務付けられ、適切な情報開示やマネロンの防止対策を整備し、利用者の本人確認も徹底する必要があります。HKMAは第1陣の免許発行は当初から「数社になる」としており、免許を受けた業者は香港ドルなどに連動するステーブルコインを発行し、ネット通販の決済などでの導入が見込まれています。香港当局はデジタル資産の取引ハブを目指しており、資産運用の利便性向上にもつなげる狙いとみられています。中国本土では暗号資産の売買は禁じられており、香港の取り組みは人民元建てのステーブルコインの発行に道を開くとの観測が出ましたが、2025年後半に中国本土側で慎重な見方が相次ぎました。英フィナンシャル・タイムズ(FT)は2025年10月、アリババ集団傘下の金融会社アント・グループなど一部の中国テック大手が香港でのステーブルコイン発行計画を停止したと報じました。当局はデジタル人民元との競合を懸念しているとの見方があります。

その他、ステーブルコインを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • ステーブルコイン発行大手テザーのパオロ・アルドイノCEOは、投資ポートフォリオの10~15%を金に配分する計画だと述べています。既に一部製品の裏付けとしている金の保有を増やすといいます。テザーは2025年第4・四半期に27トンの金を購入し、自社製品の裏付けとして約130トンの金を保有しているとしています。同CEOは週に約2トンのペースで購入していると述べ、「われわれのポートフォリオでは、暗号資産ビットコインを約10%、金を10~15%保有するのが妥当だ」としています。金購入の目標は定めておらず、四半期ごとに決定するといいます。テザーは2020年の新型コロナ感染拡大の際に金の購入を開始し、地政学的緊張の高まりに伴い購入を続けており、同CEOは「世界は今、幸せな状況ではない。金は連日、史上最高値を更新している。なぜなら皆が恐れているからだ」と述べています。
  • スタンダード・チャータード(スタンチャート)は、ドルに裏付けされたステーブルコインが2028年末までに米国の銀行から約5000億ドルの預金を奪う可能性があるとの試算を示しました。米国の地方銀行がステーブルコインによる預金流出の影響を最も受けるとし、リサーチノートで「決済ネットワークやその他の中核的な銀行業務がステーブルコインにシフトするにつれ、米銀は脅威に直面する」と指摘しました。GENIUS法により、ステーブルコインの一般的な利用拡大につながると見込まれています。ステーブルコインの発行者が暗号資産に利息を支払うことは禁止されていますが、銀行側は暗号資産取引所などの第三者がトークンに利息を支払うことを可能にする抜け穴が残されており、預金のための新たな競争が生まれると主張しています。暗号資産会社は、ステーブルコインに対する利息支払いの禁止は反競争的だとして反発しています。

金融庁は、金融審議会(首相の諮問機関)の総会で作業部会がまとめた暗号資産の規制や、地域金融機関が地域経済の活性化に取り組むための施策の方向性を盛り込んだ報告書などをそれぞれ提出、2026年の特別国会での金融商品取引法など関連法の改正案提出に向けた準備が進むことになります。前回の本コラム(暴排トピックス2026年1月号)でも取り上げましたが、暗号資産の作業部会の報告書では投資目的の取引の増加を受け、暗号資産を金商法に基づき規制する案を示しました。地域金融を巡っては地方銀行などの経営基盤を強化するため金融機能強化法の延長や拡充を盛りこみました。市場での不公正取引規制やサステナビリティー情報の有価証券報告書への記載、情報開示の方向性に関する報告書も提出しています。

ホワイトハウスが米国の大手銀行団体と暗号資産関連企業の間で数カ月続いている行き詰まり状態を打開するために開催した会合は、合意に至らないまま終了しています。暗号資産に関する画期的な立法化の進展を妨げる業界間の隔たりが改めて浮き彫りとなりました。会合は非公開で実施され、米国銀行協会、全米独立コミュニティ銀行協会、ブロックチェーン協会、デジタル商工会議所の代表者らが出席、ホワイトハウスの報道官は声明で「ホワイトハウスは未来の最先端技術で米国の覇権を盤石にするというトランプ大統領の構想を推進するため有意義な対話を継続する」と述べています。前述のとおり、暗号資産市場に関する法案を巡っては、ステーブルコインに対して支払われる利息やその他の報酬の取り扱いを巡り、両業界が数カ月間にわたり衝突、銀行側は法案に利息や報酬を禁止する規定を盛り込むよう強く求めている一方、暗号資産関連企業は利息のような報酬の提供が新規顧客の獲得に不可欠であり、禁じると公正な競争を妨げると主張しています。銀行側は競争が激しくなれば預金保険の対象となっている銀行から預金が流出し、大半の銀行にとって主要な資金調達源が失われ、金融システムの安定性を脅かす恐れがあると述べています(前述のスタンチャートの指摘が重要となります)。

その他、暗号資産を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米ブロックチェーン分析会社TRMラブスによると、イランで暗号資産取引が活発化する中、米当局は特定の暗号資産プラットフォームがイラン当局者による制裁逃れを助長していないかどうかを調査しているといいます。TRMラブスと同業チェイナリシスの概算によれば、イランの暗号資産取引高は2025年、推定80億~100億ドルに達しました。国家関連組織と個人投資家の双方が暗号資産に目を向けているとされ、国家とつながりのある者による海外への資金移動・外貨取得・物品調達を目的とした制裁回避に暗号資産プラットフォームが利用されていないかどうかを米財務省が現在、調査しているといいます。調査対象の暗号資産プラットフォームの名称や拠点については言及されていません。国際通貨基金(IMF)は、世界金融システムに占める暗号資産の割合は依然としてごくわずかであるものの、通貨が脆弱な新興国市場では利用が拡大すると予想、イランはドルベースのシステムから事実上締め出されており、通貨リアルは急落しています。
  • 暗号資産ビットコインからの2026年1月末~2月頭の数日間の資金流出額が25億6000万ドル(約4020億円)に達したことが、暗号デリバティブ分析サイトのコイングラスの集計で分かったといいます。株式や貴金属などのリスク資産が売り込まれたことを背景に、ビットコインはショートポジションとロングポジションの両方で売り浴びせられて価格が急落しました。AI関連銘柄の株価の先行き懸念や、トランプ米大統領が次期米連邦準備理事会(FRB)議長にタカ派志向のケビン・ウォーシュ元FRB理事の指名を発表したことで貴金属価格が下落し、暗号資産市場にも影響が及んだものです。ビットコインは2025年10月に過去最高値の12万6000ドルを付けた後、10月10~11日には10万4782.88ドルまで下落、2026年1月31日には前日比で6%超下落したものの、直近では7万ドルを割り込むところまでいったものの、7万ドルは回復しています専門家は「この数カ月間はリスクの枠組みや、市場での行動様式を再評価する必要に迫られ、一歩後退しているようだ」、あるいは「この水準での価格に対する最大のリスクは外部要因だ。それには失業率の急激な悪化や、AI関連銘柄の下落などが含まれる」などと指摘しています。
  • 暗号資産の急落を受け、暗号資産ビットコインなどのデジタル資産を中核的に保有・運用する「デジタル・アセット・トレジャリー(DAT)」と呼ばれる財務戦略を採用した企業の株価が軒並み値下がりしています。2025年は暗号資産の上昇期待から、DAT採用の上場企業が増加し、その多くの株価が押し上げられました。背景にはトランプ米大統領の暗号資産普及を後押しする姿勢や、ソフトウェア企業からビットコインを財務基盤とするDAT企業に転じて成功を収めた富豪マイケル・セーラー氏率いるストラテジーの成功がありました。しかし足元では前述の状況となったことからDAT企業の株価も苦境に陥りました。機関投資家は暗号資産などのデジタル資産を直接購入できますが、DAT企業はレバレッジ効果による収益機会を提供し、より慎重な投資家が規制対象の上場企業を通じて暗号資産へのエクスポージャーを獲得できるようにしています。ただ暗号資産保有企業の株価に対する持続的な下押し圧力は、これらの企業が追加資本を調達してより多くの暗号資産を購入する能力を低下させる恐れがあります。
  • 米紙WSJは、アラブ首長国連邦(UAE)の王族が、トランプ米大統領の一族が関わる暗号資産企業に約5億ドル(約776億円)を出資していたと報じています。トランプ氏が2025年1月に2期目に就任する4日前に契約を交わしたといいます。出資比率は49%で、UAEのムハンマド大統領の親族で、国家安全保障顧問を務めるタフヌーン氏が関与、同紙は、外国政府高官が米大統領の関連企業の大株主になるという「前代未聞の事態」と報道、トランプ大統領と一族は地位を利用して私腹を肥やしているとの指摘が絶えず、外交や安全保障への影響を懸念する声が出ています。出資先はトランプ氏の一族が経営する「ワールド・リバティー・フィナンシャル(WLF)」で、契約書にはトランプ氏の次男エリック氏の署名があったといいます。
  • 副業のサポート名目で暗号資産を詐取したとして、警視庁特別捜査課は、詐欺の疑いで、佐藤容疑者ら男9人を逮捕しました。同課は、容疑者らのグループが副業紹介サイトを運営し、2024年6月以降、46都道府県の10~70代の男女約450人から現金や暗号資産計7億円以上を詐取したとみています。9人の逮捕容疑は、何者かと共謀して2025年5~6月、サイトから副業を申し込んだ堺市の20代女性に、副業をあっせんする会社の社員を名乗り「副業を始めるには初期費用として仕入れ費用や運営費を支払う必要がある」などとうその電話をかけ、165万円相当の暗号資産を指定口座に送らせて、詐取したというものです。「副業」や「在宅ワーク」とインターネットで検索した人を運営サイトに誘導したとみられ、検索で上位に表示される「リスティング広告」を悪用、副業についてのネット検索で「携帯電話1台で手軽にできる副業」といった文言を表示させて、応募してきた人をだましていたといいます。9人は電話の「かけ子」役などといい、同課は指示役がいるとみて調べています。端緒となったのは、2024年6月、東京都港区内のマンションの一室で「若い男が10人くらい出入りしている」との情報が警視庁に寄せられたもので、警視庁が捜査していたといいます。
②IRカジノ/依存症を巡る動向

本コラムでもその動向を注視していますが、カジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致をめぐる北海道の議論が再び高まっています。大阪府・市に続く候補地の再公募が始まるのに合わせ、約6年ぶりの本格協議が始まっています。経済界は期待を寄せているといいますが、道内の自治体にはギャンブル依存症や環境保全への懸念も根強いようです。道が設置した「IRに関する有識者懇談会」では、これまでの経緯を振り返り、10名の外部有識者らからIR制度の趣旨やギャンブル依存症について報告があり、IRの意義について旅行業界や経済団体から「観光の起爆剤となる」「北海道全域への送客を通じて経済活性化に貢献する」「道の魅力発信基地になる」といった前向きな発言があった一方、大学院教授らからは、ギャンブル依存症対策の重要性などを指摘する意見も出ました。報道で道の担当者は、「申請の前段の考え方の整理」と説明、誘致を前提としたものではないと強調しています。2026年2月3日にも開催、今後、議論の内容を道議会に「中間報告」、4月以降も開催して年内をめどに「最終報告」をまとめ、道の方針に反映する予定だといいます。本コラムでも取り上げましたが、道は2025年、179市町村に意向調査を行い、81の自治体が、道内へのIR整備に関心があると答え、苫小牧市と函館市が自らの市内への誘致に関心を示しました。一方、「関心なし」と答えた98自治体からは、開発による自然環境への影響などへの懸念が示され、これを受けて道は、2019年にまとめた「基本的な考え方」を改定することを表明し、有識者懇を改めて設置して議論が再開されたものです。背景には、政府の再公募の動きがあり、IR実施法では3カ所まで認定できることになっていますが、2023年に認定された大阪府・市のみ決まっている状況で、残り2カ所について政府は2025年末、誘致を望む自治体からの計画申請を2027年5月~11月まで受け付けると発表しています。

日本初のIRの2030年開業に向け、大阪府・市が「大阪依存症対策センター」(仮称)を2029年度に稼働させる方針だといいます。サポート機能の充実に向け、2026年4月以降、生成AIを組み込んだチャットボットシステムやバーチャル・アバターなどによる非対面の相談環境を設けるほか、弁護士や民間団体と、依存症本人・家族をオンラインでつなぐワンストップ相談などの体制を試行し、結果を踏まえて基本構想・計画を策定、依存症予防や早期発見・介入により、本人・家族に対する支援を充実させることなどを目的としています。設置場所は交通の利便性が高いエリアなどを中心に2027年度に選定、発症予防の啓発・相談から医師や専門知識を持つケースワーカーによる治療・回復まで一元的に対応する拠点を目指すほか、高度医療人材の養成や調査分析も担うものとし、2026年度からセンターが持つ機能の検討を進めるといいます。さらに大学に寄付講座を設置し、支援プログラム開発やセンター運営に必要な医師などの確保・養成も推進するとしています。また、大阪府は、生成AIが会話形式で自動回答する相談体制を試験的に導入するとも報じられています。ギャンブルなどの依存症に関する専門知識を学習させた「チャットボット」の活用を想定、24時間対応の予定で、依存症の当事者や家族らからの相談に、会話形式で助言、状況に応じ、対応を専門家らに引き継ぐことを想定しているといいます。海外では、生成AIの回答が自殺を後押ししたと遺族が訴えている事例もあり、府は、試験導入を通じて専門家につなぐ適切なタイミングを探る考えです。センターを巡っては、府民の間で根強いギャンブル依存症の懸念払拭に向け、2020年に独自支援体制の設置方針を決定、2022年度に相談支援、社会復帰支援等の拠点整備などを定めた「府ギャンブル等依存症対策基本条例」を施行しています。

一方、大阪府は、若年層を対象に違法オンラインギャンブルへの注意を呼びかける動画の公開を停止ししています。動画内ではギャンブルに依存する高校生が描かれていましたが、依存症は心の弱い人がなるといった偏見を助長するとSNS上で批判が相次いでいました。動画は昔話の「桃太郎」になぞらえて作られ、「ラクして生きたい」が口癖の高校生「ギャン太郎」がオンラインカジノにはまり、カウンセラーへの相談を通じて克服するというストーリーですが、依存症になったことを「心が鬼になった」と表現し、解決策として「鬼」に打ち勝つことが重要と説いていますが、SNSで「依存症者は怠惰との偏見を植え付ける」「精神論では治らない」などと批判が集まり、「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんは「ギャンブルに依存する人は怠け者という偏見そのもの。当事者を鬼という悪党の代名詞で表すのは当事者やその家族を傷つける人権侵害だ」「依存症は一つの病気であり、正しい治療が必要。精神論で治せるという印象を与えてしまう」と述べています。大阪府は「オンラインカジノは違法で、悩んだ時には相談場所があるということを伝えたかったが、ギャンブル依存症についてもう少し説明する必要があった」としています。なお、動画は公募で選ばれた博報堂プロダクツ関西支社が作成、若年層への意識調査と合わせて約687万円で委託されたといいます。ギャンブル依存症に対する理解の浅さと社会の目線の厳しさが露呈した形となりました

本コラムではオンラインカジノの問題を継続的に取り上げ、海外のサイトとの接続を物理的に遮断する方向での対策強化を求めています。総務省は、違法なオンラインカジノ利用の抑止策を検討する有識者会議の第12回会合を開き、カジノサイトへの接続を強制的に遮断する「ブロッキング」の必要性などについて議論、ブロッキングを選択肢として排除せずに検討すべきだとする意見が目立ったといいます。会議は2026年春のとりまとめを目指し、さらに議論を進めるといいます。会議では、海外のオンラインカジノ事業者が依然として営業を続けており、日本の警察による摘発が難しいとして、「これ以上、被害を拡大させないために、ブロッキングが必要だ」(「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表)との意見のほか、複数の有識者から「ブロッキングを排除することなく、検討することが必要だ」といった指摘がありました。一方、「通信の秘密を侵害する形でブロッキングをするので、丁寧な議論が必要だ」など、早期の実施に慎重な見方もありました(筆者としてもその点は同意ですが、強力な規制もなくオンラインカジノの害悪が放置されている今の状態も大きな問題だと指摘したいと思います)。会議では、ブロッキング導入の是非について、「必要性や有効性」、「導入で得られる社会的利益の大きさ」など4段階で検証を進める方針としています。

▼ 総務省 オンラインカジノに係るアクセス抑止の在り方に関する検討会(第12回)
▼ 資料12-1 中間論点整理を踏まえた法的課題等の検討(事務局)
  • 中間論点整理の概要(1.必要性・有効性)
    • ブロッキングを実施するためには、単に有効な対策であるだけでは足りず、他のより権利制限的ではない有効な対策が尽くされたかどうか検証が必要
    • 他の手段として、ギャンブル等依存症対策基本法の改正法を踏まえた国内SNS事業者等による削除、海外サイト運営者に対する働き掛けといった対策を進めた上で、それらの対策を尽くしたとしてもオンラインカジノの情報が著しく減少しない場合、ブロッキングを排除せず、追加的な対応を講じることが適当
    • ブロッキングについては、近年、スマートフォンのプライバシー機能の向上等により、誰でも容易に回避することができるようになっているとの指摘がある。他方、カジュアルユーザや若年層がギャンブル等依存症になる前の対策が重要であり、ブロッキングにはこうした予防的効果があるとの指摘もある
    • ブロッキング実施国の実施手法や効果を検証した上で、ブロッキングの有効性に関する検討を深めていくべき
  • 中間論点整理の概要(2.許容性)
    • 仮に必要性・有効性が認められるとしても、ブロッキングが許容されるためには、ブロッキングによって得られる利益が通信の秘密の保護と均衡するものであるかどうかについて検討が必要
    • 刑法上の賭博罪の保護法益は「勤労の美風」であり、これのみで通信の秘密の侵害を正当化することは困難であるが、オンラインカジノは、賭け額の異常な高騰や深刻な依存症患者の発生など、きわめて深刻な弊害があることを踏まえ、法益のバランスについて具体的な検討が必要
  • これまでのヒアリング等を踏まえ、必要性・有効性、許容性について、どのように考えるか。
    • 必要性(関係省庁の報告、効果検証など)
    • 有効性(技術的課題に関する事業者ヒアリング、諸外国調査など)
    • 許容性(ギャンブル等依存症、スポーツ健全性に関するヒアリングなど)
  • 中間論点整理の概要(3.実施根拠)
    • 仮にブロッキングを行う場合には、遮断対象や要件の明確化を図ることにより法的安定性を確保する観点から、何らかの法的担保が必要
  • 中間論点整理の概要(4.妥当性)
    • ブロッキングの制度設計に当たっても、カジノ規制全般に対する議論抜きにその在り方を検討することは困難
    • 具体的な制度について検討するに当たっては、国内外の法制度を参考にしながら、遮断義務付けを行う主体、遮断対象となるサイト、実体的な要件、手続的な要件などについて具体的に検討すべき
  • 仮にブロッキングを実施する場合
    1. オンラインカジノに係るブロッキングの目的(論点1)
      • これまでの検討を踏まえ、オンラインカジノに係るブロッキングの主たる目的は何か。当該目的(ブロッキングで得られる利益)については、児童ポルノブロッキング(児童の人格的利益)、海賊版ブロッキング(著作権等の財産権)との議論の比較を踏まえ、「通信の秘密の保護」、「知る自由・表現の自由」との均衡の観点で検討が必要ではないか。
    2. ブロッキング義務付けの主体(論点2)
      • ブロッキングの実効性を確保するとともに、「通信の秘密の保護」等との関係を踏まえた検討が必要ではないか。その際、義務付け主体の透明性・公平性を確保する観点で、どのような枠組みが適当か。
    3. ブロッキングに必要不可欠な法令要件(論点3)
      • 必要性(ブロッキング以外の対策が尽くされたか)、許容性/相当性(得られる利益が失われる利益と均衡するか)等のこれまでの検討を踏まえ、ブロッキングの対象とするサイトを含め、ブロッキングの実施に必要不可欠な実体的な要件・手続的な要件は何か。

最近のオンラインカジノを巡る報道から、いくつか紹介します。

  • オンラインカジノの紹介サイトを運営して報酬を得ていたなどとして千葉県警が、大阪府の30代の男と長野県の30代の男を常習賭博幇助などの疑いで逮捕しています。オンラインカジノをSNSなどで宣伝して利益を得る「アフィリエイター」の摘発は、千葉県警では初めてだといいます。報道によれば、2人はそれぞれ別の紹介サイトの運営に関わり、サイトを通じてオンラインカジノに登録した客の賭け金に応じて報酬を得ていたなどの疑いがもたれています。この紹介サイトを通じてオンラインカジノを利用したとして、複数の賭けをした客が立件されているといいます。また、両容疑者にはオンラインカジノで賭博をした常習賭博の疑いももたれています。本コラムで繰り返し紹介していますが、警察庁が2024年度に実施した調査によれば、オンラインカジノの利用経験者は推計337万人、オンラインカジノによる違法な賭け事が増えている背景に、アフィリエイターらの存在があるとみられています。紹介サイトを巡っては、2025年8月、岐阜県警が全国で初めて紹介サイトの運営者2人を常習賭博幇助容疑で逮捕、2人が運営する紹介サイトで、オンラインカジノサイトを紹介し、賭博を手助けしていたとされます。オンラインカジノが社会問題化していることを受け、2025年9月には改正ギャンブル等依存症対策基本法が施行され、オンラインカジノサイトを紹介するサイトを作ったり、サイトのリンクを掲示してSNSで投稿・宣伝したりすることを禁止していますが、罰則がないことが課題と指摘されています
  • コンサートチケットの転売を装って電子マネーをだまし取ったとして、埼玉県警は、無職の16歳の少年を電子計算機使用詐欺と不正アクセス禁止法違反の疑いで書類送検しています。少年は「オンラインカジノの資金を得るためにやった」と説明しているといいます。2024年4~6月ごろ、SNSに「男性アイドルのコンサートチケットを譲る」などとうその投稿をし、購入を希望した20代女性ら6人から計16万3700円分の電子マネーをだまし取ったとされ、女性らに電子決済での支払いを持ちかけ、偽サイトへ誘導してアカウントを乗っ取ったといいます。サイトは少年が自作し、だまし取った金の一部を暗号資産に換えてカジノで使っていたとみられています。本コラムでも以前から取り上げていますが、違法なオンラインカジノの利用は未成年にも広がっており、資金欲しさに詐欺などの犯罪に加担する事例が相次いでいます。警察庁が2025年に発表したオンラインカジノに関する民間調査によれば、10代の利用経験者は推計で約17万9000人に上っています。2025年には、女性になりすまして男性から金をだまし取ったとして、警視庁が高校1年の男子生徒を詐欺容疑で逮捕、(本事件同様)「オンラインカジノで使う金が欲しかった」と話しています。
  • オンラインカジノの利用者向けに暗号資産の交換業を無登録で営んだとして、警視庁は、無職の20代の容疑者を資金決済法違反(無登録営業)容疑で逮捕しています。2025年1~11月に暗号資産の交換に約1300回関与し、計約230万円の手数料を得たとみられています。逮捕容疑はl、国に無登録2025年1月~4月、大阪府池田市の男子大学生ら20代の男性3人から計約15万円分の電子マネーを受け取り、暗号資産の「LTC(ライトコイン)」に交換した疑いがもたれています。容疑者は、X上で「LTC換金」とうたい、電子マネーや振り込みで送られた現金を、LTCに交換して15%の手数料を得ており、警視庁のサイバーパトロールで投稿が見つかり、発覚したといいます。
  • オンラインカジノで高校生が賭博をするのを手助けしたとして、大阪府警は、無職の渡辺容疑者を常習賭博幇助の疑いで逮捕しました。サイバー犯罪捜査課によれば、渡辺容疑者は2024年1~12月、海外のオンラインカジノを利用する当時高校生の2人から19回にわたり、計約5万円の電子マネーを受け取り、カジノサイト内の賭博に使用できる「通貨」を送った疑いがもたれています。府警は渡辺容疑者が電子マネーをこの通貨に換える「換金屋」だったとみており、利用客から受け取った金額の25%を、手数料として受け取っていたとみられるといいます。利用客はこの通貨を手に入れる際などに、サイト運営者から身分証の提示を求められるといい、渡辺容疑者がSNSで募集、オンラインカジノで使われる暗号資産の口座が開設できない未成年や、カジノ通貨を購入する際に必要な個人情報の登録を敬遠する人などから依頼を受け、電子マネーの換金を繰り返していたとみて調べています。府警が渡辺容疑者のスマホを調べたところ、2023年10月~25年5月、約2万5千回にわたって総額1億円超の電子マネーを受け取り、換金していた形跡があったといいます。

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

北朝鮮は、2026年1月27日に2回、北朝鮮西岸付近から日本海に向け、2発の弾道ミサイルを発射しました。いずれも日本の排他的経済水域(EEZ)外に落下したと推定されています。発射は2026年1月4日以来で2026年に入り2回目となります。日本政府は「我が国および国際社会の平和と安全を脅かすものだ」と非難し、北朝鮮に対し厳重に抗議しています。北朝鮮メディアは翌日、同国のミサイル総局が改良を加えた大型放射砲(多連装ロケット砲)の試験発射を実施した(「新たな技術が導入された更新型大口径ロケット砲兵器システム」の効力を検証するための試射)と報じています。機動力や命中精度を高めたといいます。4発を発射し、金正恩朝鮮労働党総書記が視察しています(金総書記の娘も同行)が、この弾道ミサイルを指すとみられていますが、金総書記は今回の試射について「特にロケット砲弾の機動性、知能性、命中性が比べようもなく更新された。新たに改良された砲車の機動性も完璧だ」と称賛、「我々と軍事対決を図る勢力には重大な脅威となるだろう」と指摘しています。日米韓の外交当局は発射を受けて電話協議し、地域と国際社会の平和を脅かす挑発行動をやめるよう北朝鮮に求めたほか、日米韓で緊密に連携する方針も確認しています。

トランプ米政権が2026年1月、国家防衛戦略(NDS)を発表しました。NDSは韓国について「多額の防衛費、強固な防衛産業、徴兵制に基づく強力な軍事能力を持っており、米国の支援が重要でありつつより限定されても、韓国は北朝鮮の抑止で主要な責任を負うことができる」「こうした責任分担の変化は、朝鮮半島における米軍の態勢を刷新したいという米国の意向と一致している」などと指摘しました(一部の米当局者は、台湾防衛や中国の軍事的影響力の抑制といったより広範な脅威に対応するため、在韓米軍を朝鮮半島外での活動も可能な、より柔軟な態勢にしたいとの考えを示していました)。専門家によれば、NDSの趣旨は、(在韓米軍を他の地域にも展開させる)戦略的柔軟性が高まるほか、インド太平洋地域の米軍が中国を牽制する役割を担うため、朝鮮半島へ投入される米軍が限定される必要があるという意味で、すでに配備されている米軍を削減するより、半島有事の際、増援される米軍の規模や水準が下がる可能性があると指摘しています。目下のところ、北朝鮮の核・ミサイルの脅威への対応が重要で、米国は北朝鮮の核に対する対応を弱体化させたわけではなく、従来よりも北朝鮮の核による米本土への脅威を強調、米国は軍事力強化による抑止と同時に、トランプ米大統領も米朝対話を強調しています。北朝鮮は非核化を拒み、(核保有を前提とした)軍縮会談を求めており、その差は大きいですが、当面は軍縮という形式は取りつつ、将来的に非核化を目指す交渉は目指すものと考えられます。北朝鮮は韓国について「敵対した二国家の関係」を主張し、断絶を強調していますが、韓国への大規模な攻撃や(南北の)衝突を想定しているわけではないと考えられます。こうした状況下、国連安全保障理事会(安保理)の北朝鮮制裁委員会が、中断していた北朝鮮への人道支援事業17件を承認しました。米国が方針を転換したとみられ、韓国政府は北朝鮮との対話に向けた足がかりとすると思われます。国連の北朝鮮制裁に抵触する物品の輸出については、制裁委員会での全会一致の承認が原則で、韓国の人権NGOは、医療機器や水質浄化装置などへの適用除外を求めてきましたが、軍事転用を懸念する米国の反対により、これまで実現してこなかったとされます。報道によれば、承認されたのは、韓国の自治体や国内外の民間団体、世界保健機関(WHO)などの国際機関が実施する事業で、団体側が過去に認められていた制裁の適用除外について延長を申請し、判断が保留されていました。ただ、北朝鮮は国際機関からの人道支援を拒否しており、前述のとおり2023年12月に金総書記が平和統一方針の放棄を宣言して以降、一貫して韓国との対話も拒否しており、人道支援に応じるかは不透明な状況です。

北朝鮮にドローン(無人機)が飛来したとする問題(民間人によるものと判明)を巡り、北朝鮮の金総書記の妹、金与正党副部長が北朝鮮領空で最近発生した無人機飛来問題の調査を韓国に求めた週末の発言をトーンダウンさせたようだとして南北関係改善に対する韓国の期待は実現不可能な幻想だと一蹴しています。国営の朝鮮中央通信(KCNA)によれば、「彼らの期待はすでに外れている」と言明、「『関係修復』という韓国の荒唐無稽な夢はどれも決して実現しない」と述べています。一方、韓国の李在明大統領は、民間人が操縦するドローンが北朝鮮に飛来するのを検知する自国の監視システムに抜け穴があるようだと述べ、こうした事態は緊張を高める恐れがあると警鐘を鳴らしました。李大統領はテレビで放映された閣議で、「民間人が違法な目的で北朝鮮にドローンを飛来させることはあってはならない」と強調、「ドローンが北朝鮮に飛ばされたことをなぜ確認できなかったのか」と問いただし、このような行為は「戦争を始めるようなもの」で、北朝鮮との間に不必要な緊張を生じさせ、韓国経済に悪影響を及ぼしかねないと指摘、詳細な調査を実施し、再発防止を徹底するよう求めています。調査は継続中だとした上で、韓国国民がドローンを飛ばしたことが判明すれば、北朝鮮を挑発したとして刑事責任を問う可能性があるとも述べています。

ロシアによるウクライナ侵攻でロシアに砲弾供与や兵士派遣などの「貢献」をしてきた北朝鮮に対し、見返りとみられる原子力潜水艦搭載用の小型原子炉の一部をロシア貨物船が2024年12月に海路で運搬し、複数の西側情報機関が追跡していたことが判明しました(2025年1月24日付産経新聞)。この貨物船は地中海で不審な沈没を遂げ(魚雷攻撃だった可能性)、関係各国が注目しているといいます。ロシア北西部サンクトペテルブルクを2024年12月中旬に出航したロシアの貨物船「ウルサ・マイオール」は12月23日、地中海のスペイン・カルタヘナ南東沖で救難信号を発信して沈没、乗組員14人がスペインの海難救助当局の救助船に助けられたものの2人は行方不明となりました。北大西洋条約機構(NATO)情報筋によれば、貨物船は船尾の甲板に防水シートで覆われた大型の荷物を載せており、ロシア政府は事故原因について「船の内部損傷」によるもので、貨物は「露極東向けの産業貨物」だったと説明していますが、貨物の詳細を一切明らかにせず、沈没直後から「ロシアは情報を隠匿しているのではないか」との疑惑が出ていました。同貨物船は沈没前、原因不明の減速や航路変更を繰り返しており、沈没後にはロシア海洋調査船が現場海域を捜索するも、船の引き揚げはあきらめています。大型の積載物は申告では「砕氷船用カバー」「港湾クレーン」と記載されていましたが、重量など民生貨物としては不自然な部分があったといいます。欧米メディアでは「外部からの攻撃説」や「ウクライナ関与説」などが報じられていますが、いずれも推論や分析にとどまっていました。事実であれば、北朝鮮の核・ミサイル開発に大きく寄与する可能性があったことになり、正に大きな脅威が迫っていると危機感を持つ必要があります。

関連してトランプ政権は2026年1月3日にベネズエラを攻撃し、マドゥロ大統領を拘束し、米国に連行しましたが、韓国の専門家の間では、この事件で金総書記が、核ミサイル開発の強化方針について自信を深めたとの見方が出ています。報道で専門家は「米国はベネズエラ攻撃と同様に金氏を拘束する計画を持っているが、実行できないだろう」と指摘、実行すれば北朝鮮から核で報復を受ける恐れがあるためで、ベネズエラ攻撃は金政権にとっては、その方針の「正しさ」を証明した形となりました。このように北朝鮮が核開発の意思をさらに強固にする一方で、第1次トランプ政権下の国家安全保障戦略(NSS)は、北朝鮮の「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」の達成を目標に定めたものの2025年12月のNSSでは北朝鮮への言及が消え、トランプ大統領も2025年3月、北朝鮮が「明らかに核保有国だ」と述べています。北朝鮮の核の高度化を現実的に認めざるを得ない局面が来ており、トランプ政権がそれに合ったメッセージを送る可能性が高くなっている可能性が考えられます。そして、金総書記も2025年9月の最高人民会議(国会)での演説で「米国が現実を認めることで我々との真の平和共存を望むなら、米国と向き合えないはずがない」と述べ、米側が非核化を要求しないなら対話に応じる考えを示しました。直近でも金総書記は、近く開催される次期党大会で「核戦争抑止力を一層強化するための、次の段階の構想を明らかにする」と強調しています。前回の2021年の党大会は国防発展5カ年計画を採択、これに基づき、戦術核兵器や米本土が射程に入るとされる大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの開発を強化してきました。次期党大会は、核開発の加速化に関する新たな方針を採択する可能性があります。こうした状況から、北朝鮮の非核化を巡る動向も2026年は特に注視する必要があるといえます。

中国税関総署が発表したデータによれば、2025年の中国と北朝鮮の貿易総額は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前の水準まで回復しています。金総書記の訪中を経て、両国関係が改善したともいえます。2025年の貿易総額(輸出入合計)は前年比25%増の27億3000万ドルで、パンデミックに伴う国境封鎖で貿易が停滞する直前の2019年実績(27億9000万ドル)に近い水準となりました。2024年の貿易額は前年比5%減の21億8000万ドルに落ち込んでおり、2025年12月単月の実績を見ると、中国の対北朝鮮輸出は前年同月比21.2%増の2億5740万ドルとなり、月間ベースで2025年で最高となりました。北朝鮮からの輸入も前年同月の3765万ドルから5270万ドルへと急増しています。中国から北朝鮮への輸出は、依然としてカツラ製造用の加工済みの毛髪や羊毛が中心で、2025年の輸出額は前年比23.3%増の2億0820万ドルに達しました。このほか、大豆油や繊維、グラニュー糖などが主要な輸出項目となっています。一方、北朝鮮から中国への輸出は、カツラなどの毛製品が1億9055万ドルと最大で、前年比で5.7%増加しました。中国は北朝鮮にとって最大の貿易相手国であり、核開発計画による国際制裁下にある同国にとって不可欠な経済的生命線となっています。近年、北朝鮮がロシアとの軍事協力を中心に関係を深める中、中朝関係の先行きを疑問視する声も出ていましたが、ここ数カ月で両国の関係は改善に向かっており、2025年9月に金総書記が北京を訪問した際、習近平国家主席と6年ぶりとなる首脳会談を行い、両首脳は関係発展と協力深化を確認しました。

その他、北朝鮮を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 韓国軍合同参謀本部は、北朝鮮の首都、平壌で軍事パレードの準備とみられる動きを確認したと明らかにしています。近く開催される5年に1度の朝鮮労働党大会に合わせ、ミサイルなどの「新兵器」をアピールする可能性があります。平壌中心部の金日成広場や郊外の美林飛行場で関連する動向が見られ。正規軍ではない民間防衛組織「労農赤衛軍」などを中心としたパレードになるとの見方もでています。
  • 北朝鮮の朝鮮中央通信は金総書記が、ウクライナ侵略を続けるロシアに派遣された兵士の姿をかたどった彫刻の創作現場を視察したと報じました。北朝鮮住民の間でロシア派兵への不満の高まりが予想される中、派遣された兵士をたたえ、派兵を正当化することで国内の結束を図る狙いがあるとみられています。金総書記は2025年10月の記念館の着工式に加え、2026年1月5日には記念館の建設現場を訪れて植樹を行うなど、兵士の活躍をたたえる姿勢を繰り返しアピールしています。
  • 金総書記が東部・咸鏡南道にある機械製作企業で、改修工事の完工式に出席、機械工業部門を担当する楊勝虎副首相を「無責任で無能な経済指導活動家のために、経験しなくてもよい人為的混乱を被り、少なからぬ困難と経済的損失を招いた」と批判、「私は、この場で副首相を解任する」「敗北主義と無責任、非積極性に慣れきった者に期待をかけてきた慣行との決別は、今後の開拓と発展のための新たな出発となる」と宣言しました。朝鮮労働党大会を前に、幹部の引き締めを図った可能性があります。
  • KCNAは、金総書記が2026年中に20地域で工場など大規模建設プロジェクトを同時に進める計画を発表したと報じました。北朝鮮では近く主要な政策目標を設定する第9回朝鮮労働党大会が開催される予定で、金総書記は「地域変革を目指す新たな1年を迎え、われわれは今壮大な闘争のスタートラインに立っている」「公衆衛生施設やレジャー施設、地域産業工場が全国20地域に建設される。これは全国の市郡のほぼ3分の1が変革されることを意味する」とし、地域の生活水準が北朝鮮の発展を示す顕著な指標だと述べています。
  • 金総書記は畜産農場の開所式に出席、朝鮮労働党大会の開催を控え、農村開発の進展を強調するのが狙いとみられています。この農場は中国と国境を接する北平安道にあり、家畜施設に加えて「近代的な住宅」や太陽光発電所、病院、幼稚園が整備されているといいます。金総書記は「これを出発点として、国内の農村を根本的に変えていく」と述べています。

在日朝鮮人らを対象にした「帰還事業」で北朝鮮に渡り、その後に脱北した4人(遺族含む)が、現地で劣悪な生活を強いられたとして北朝鮮政府に計4億円の損害賠償を求めた訴訟の差し戻し審判決で、東京地裁は、帰還事業の違法性を認め、北朝鮮に計8800万円の賠償を命じています。帰還事業を巡って北朝鮮政府の責任を認める司法判断は初めてだといいます。国交がない北朝鮮には判決文を送達できず、今後は「公示送達」の手続きで裁判所の掲示板に判決文が張り出されるといいます。掲示翌日から2週間以内に北朝鮮が控訴しなければ判決が確定します。賠償金が支払われない場合、原告側は不動産や預貯金など原則国内にある北朝鮮の財産を特定して裁判所に差し押さえを求めることができますが、実際に回収できるかは不透明です。原告らは北朝鮮側から「地上の楽園」だと虚偽の勧誘を受け、1960~72年に北朝鮮に渡りましたが、実際には最低限の食料も得られず、出国も許されなかったといいます。2001~03年に脱北しましたが、長期間にわたり移動の自由や自己決定権を侵害されたとして2018年に提訴、北朝鮮は訴訟で反論する書面を提出しませんでした。差し戻し前の東京地裁判決(2022年3月)は北朝鮮の勧誘行為について、提訴時には不法行為から20年で賠償請求権が消滅する「除斥期間」が過ぎているとして請求を棄却、出国を禁止する留置行為は北朝鮮で起きたことで、日本の裁判所に管轄権はないとして訴えを却下しましたが、東京高裁判決(2023年10月)は、勧誘行為と留置行為は一つの継続的不法行為と捉えるべきだと指摘、管轄権は日本の裁判所にあるとし、地裁で改めて審理すべきだとしていました。

2026年2月の衆院選の争点の1つに、インテリジェンス(情報活動)の機能強化の是非が浮上しました。高市首相が前向きな姿勢を示す「スパイ防止法」制定もその一つで、賛否が分かれています。外国のスパイ活動を取り締まる法律のない状況が、北朝鮮による拉致事件を許した側面もあり、選挙戦での議論の深まりを期待する被害者家族もいます(が、選挙戦では議論は深まりませんでした)。日本には現在、他国の諜報活動や敵対的工作活動を直接取り締まる法律がなく、スパイ活動を把握しても罪状を「別件」で見つけなくてはならないのが現状です。拉致問題では、不十分だった法整備がその後も北朝鮮工作員の浸透を許し、拉致事件を引き起こした側面は否めないとみられています。国内のインテリジェンスを巡っては、自民党と日本維新の会が連立合意書で、(1)内閣情報調査室を格上げした「国家情報局」創設(2)独立した「対外情報庁」創設(3)スパイ防止法制定の3本柱を明記、今回衆院選でも、自民は「抜本的強化」を主張し、維新も英語圏5カ国の機密情報共有枠組み「ファイブアイズ」に「加盟できる水準を達成」を掲げました。野党では国民民主党、参政党、日本保守党が情報活動推進の立場を取り、共産党と社民党はスパイ防止法について「国民を監視し基本的人権を侵害する」(共産)、「言論・表現の自由が侵害される」(社民)などとして反対しました。なお、衆院選が公示された2026年1月27日に会見した横田早紀江さんは「政治家が拉致問題をあまり口にしない」と話し、「北朝鮮は拉致問題のことを日本が言わなくなるのを待っている。そんな国になっていいのか」と懸念していましたが、すべての政治家、すべての国民はあらためてその発言の重みを感じる必要があると思います。

3.暴排条例等の状況

(1)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(東京都)

前述したとおり、暴力団にみかじめ料を支払ったとして、警視庁は、国内最大規模のスカウトグループ「ナチュラル」会長の小畑容疑者を東京都暴排条例違反容疑で逮捕しました。小畑容疑者は、ナチュラルが東京・渋谷駅前の繁華街でスカウト行為をすることを容認してもらう対価として、暴力団幹部の男に現金60万円を支払った疑いがもたれています。ナチュラルは、東京や札幌、名古屋、大阪、熊本など全国の繁華街で活動するトクリュウで、スカウトした女性を各地の風俗店に紹介し、売り上げの一部を受け取る「スカウトバック」を主な収益にしており、2022年の1年間だけで店側から約44億円の紹介料を得たとされます。収益の一部は暴力団にも流れているとされ、警視庁は「全国民の力を借りて見つけ出したい」として公開手配に踏み切っていたものです。警視庁は、約1500人以上のスカウトを束ねた小畑容疑者が一連の事件を主導したとみて、職業安定法違反(有害業務への職業紹介)容疑でも調べるとしています。

▼ 東京都暴排条例

同条例第二十五条の三(特定営業者の禁止行為)第1項において、「特定営業者は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の営業に関し、暴力団員から、用心棒の役務(業務を円滑に行うことができるようにするため顧客、従業者その他の関係者との紛争の解決又は鎮圧を行う役務をいう。以下同じ。)の提供を受けてはならない」と規定されています。また、同条例第三十三条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する」として、「三 相手方が暴力団員であることの情を知って、第二十五条の三の規定に違反した者」が規定されています。

(2)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(兵庫県)

神戸・三宮にあったガールズバーの関係者からみかじめ料を受け取ったとして、兵庫県警は、兵庫県暴排条例違反の疑いで、六代目山口組3次団体「健竜会」組長と、六代目山口組傘下組織幹部を逮捕しました。2人の逮捕容疑は共謀して2025年6月、同条例で「暴力団排除特別強化地域」に定められた神戸・三宮地域にあったガールズバーの関係者から、みかじめ料として現金2万円を受け取った疑いがもたれています。また、現金を渡したとして、店の実質経営者だった無職の男も同条例違反容疑で逮捕されています。

▼ 兵庫県暴排条例

暴力団員については、同条例第29条(暴力団排除特別強化地域における暴力団員の禁止行為)第2項において、「暴力団員は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の業務に関し、特定営業者から、その営業を営むことを容認すること若しくはその営業所等における顧客、従業者その他の者との紛争の解決若しくは鎮圧を行うことの対償として利益の供与を受け、又は指定した者に当該利益の供与を受けさせてはならない」と規定されています。また、経営者については、第28条(暴力団排除特別強化地域における特定営業者の禁止行為)第2項において、「特定営業者は、暴力団排除特別強化地域における特定営業の業務に関し、暴力団員又は暴力団員が指定した者に対し、その営業を営むことを容認すること又はその営業所等における顧客、従業者その他の者との紛争の解決若しくは鎮圧を行うことの対償として利益の供与をしてはならない」と規定されています。そのうえで、第35条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、暴力団員については、「(4)第29条第1項又は第2項の規定に違反した者」、経営者については、「(3)相手方が暴力団員又は暴力団員が指定した者であることの情を知って、第28条第1項又は第2項の規定に違反した者」にそれぞれ該当すると思われます。

(3)暴力団排除条例に基づく逮捕事例(神奈川県)

暴力団事務所を置くことが禁止された区域に事務所を置いたとして、神奈川県警は、六代目山口組傘下組織組長を神奈川県県暴排条例違反の疑いで逮捕しました。2025年5月中旬~7月下旬、横浜市南区の住宅街にある集合住宅の一室を組事務所として運営していたというもので、同条例では、学校や図書館、都市公園など公共施設の周囲200メートル以内や、都市計画法に基づく住居用途地域に組事務所を開設したり運営したりすることを禁止しています。朝日新聞の報道によれば、この集合住宅から200メートル以内には高校や公園があり、また、事務所の隣の部屋は、組の配下の少年グループのたまり場になっていたといいます。発覚のきっかけは、2025年5月に起きた警察官と少年グループら総勢約50人のにらみ合いだったといい、不審車両を追跡した署員が集合住宅前で運転手の17歳の少年に話を聴こうとしたところ、部屋からグループの少年らが出てきて仲間を呼ぶなどして抵抗、少年ら約20人と警察官約30人が向かい合う事態となりました。県警はこの際、警察車両の走行を妨げたり蹴って壊したりしたなどとして、公務執行妨害や器物損壊容疑で少年9人を逮捕、2025年7月、県警は集合住宅に家宅捜索に入りました。部屋の入り口は鉄板で補強され、容疑者が関与する企業の看板がかけられており、室内は事務所と少年らの生活スペースに分かれ、神棚に組の代紋入りの盃が飾られ、ホワイトボードには上部団体の行事の日程や初代組長の命日などが書き込まれていたほか、上部団体の代紋のバッジなども見つかったといいます。これらの点から、県警は組事務所に当たると判断したものです。室外に設置した複数の防犯カメラ映像を監視する大型モニターも各部屋にあり、敵対する勢力の襲撃や警察の捜査を警戒するためと見られています。組の配下で、地元の10代少年で構成するグループが隣の部屋に寝泊まりしながら監視役を務めていたと見られ、逮捕された少年の中には、全身に入れ墨を入れている者も多数おり、「みんな組に世話になっている」などと説明する者もいたといいます。以前の本コラムでも不良少年グループを暴力団が囲っている実態があることを取り上げましたが、本件も同様の実態があり、少子高齢化の進む中、暴力団員の供給システムの存在は、今後も注視していく必要があります。

▼ 神奈川県暴排条例

同条例第16条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止区域等)において、「暴力団事務所は、次に掲げる施設の敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲200メートルの区域内において、開設し、又は運営してはならない」として、「(1)学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校、同法第124条に規定する専修学校及び同法第134条第1項に規定する各種学校」が規定されています。また、同条例第32条(罰則)において、「次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」として、「(1)第16条第1項の規定に違反して、暴力団事務所を開設し、又は運営した」が規定されています。

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