暴排トピックス

「見えない組織」との戦いの始まりと離脱者支援における「悪魔の証明」

2026.10.14
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首席研究員 芳賀 恒人

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1.「見えない組織」との戦いの始まりと離脱者支援における「悪魔の証明」

兵庫県公安委員会は、六代目山口組と神戸山口組の対立抗争が続いているとして、両団体に対する特定抗争指定暴力団の指定期限を3か月延長しました。指定は2020年の開始以来27回目の延長となり、期限は2027年1月6日までとされました。警戒区域では、組事務所の使用や、おおむね5人以上の組員が集まることなどが引き続き禁止されることになります。六代目山口組を巡っては、神戸山口組から分裂した池田組との指定が9月8日に解除され、絆會との指定も9月21日をもって解除されました。両団体については、抗争が一定期間発生していないことや、組員への聞き取りで積極的な加害意思が確認されなかったことが解除の理由となりました。一方、六代目山口組と神戸山口組については、対立が解消したとは認められず、市民の生命や身体に重大な危害が及ぶ恐れが残るとして、指定継続が必要と判断されたものです。六代目山口組は2015年に分裂し、離脱した組長らが神戸山口組を結成、その後、神戸山口組から任侠山口組(現・絆會)と池田組が分裂し、抗争事件は計117件に達しました。特に2019年には、尼崎市の繁華街で神戸山口組幹部が自動小銃で射殺される事件が発生し、両団体間の緊張が深刻化、警察が認定した六代目山口組と神戸山口組の抗争事件は、過去10年間で102件に上っています。

近年、抗争事件は大幅に減少し、2025年1月に神戸山口組組長宅が放火された事件以降、新たな事件は確認されていません。六代目山口組は同年4月、神戸山口組を含む対立3団体との抗争を終結する意向を示す誓約書を兵庫県警に提出し、組織内にも抗争禁止を通知しました。また、長年組織を支えた高山清司若頭が相談役に就くなど、抗争終結を示す人事も行われました。しかし、神戸山口組側では、服役を終えた幹部の出所祝いに井上邦雄組長らが出席したことが、抗争意思の表れと受け止められた可能性があります。神戸山口組は幹部の離脱が続き、実質的に活動が低調とみられるものの、兵庫県警は抗争状態が解消したとは判断しておらず、六代目山口組と神戸山口組の間では、池田組や絆會との間で近年発生したような死者を伴う事件が確認されていないにもかかわらず、指定が延長された点には、再発防止を優先する当局の慎重な姿勢が表れているといえます。特定抗争指定によって、抗争の下見や準備、組織的な集合が困難になり、事件数の急減につながったと専門家は指摘していますが、一方で、指定解除後に殺傷事件が起きれば当局の責任が問われるため、警察や公安委員会が解除に慎重になるのは避けられないとみられています。次の期限である2027年1月6日に解除されるかどうかは、今後の両団体の動向に左右されるlことになります。

特定抗争指定の長期化は、六代目山口組の組織運営にも影響を及ぼしています。事務所の使用や会合が制限され、神戸市の総本部などでは施設の老朽化や人の出入りの減少が進んでいるとされ、組織としての体裁を維持できない状態が続けば、若い組員が離脱し、匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)や半グレ、特殊詐欺組織へ流れる可能性も指摘されています。 また、指定解除が実現しないことへの不満が強まれば、六代目山口組内部で抗争再燃を求める動きが生じる懸念もあります。また、正面からの抗争ではなく、組員が地下に潜行し、既存の犯罪グループと連携する「見えない組織」へ変化する可能性もあります。こうした展開は、従来型の暴力団対策では把握しにくく、社会にとってさらに厄介な問題となり得ます。兵庫県内の暴力団勢力は17年連続で減少し、計410人となりました。内訳は六代目山口組220人、神戸山口組90人、絆會30人、その他70人で、全国的にも暴力団勢力はピーク時から大幅に縮小していますが、離脱者の社会復帰には課題が残ります。兵庫県警などは協力事業所の拡大や、元組員を雇用した事業所への給付制度を整備しているものの、実際の給付実績は少なく、就労意欲を高めて社会復帰につなげることが今後の課題となっています(この点は本コラムでも以前から大きな問題意識をもって取り上げてきましたが、ベストな解決方法には至っていません。筆者は最近、ある媒体からの取材に対し、金融機関の口座開設の課題という文脈の中で「「口座は就労に直結するため更生には不可欠だが、元組員が絶対に犯罪に手を染めないことを裏付けるのは悪魔の証明に近い」、「開設に慎重にならざるを得ない金融機関側が一歩踏みこむには、明確な審査基準や審査プロセスを策定し、それを満たした上で開設した口座が悪用された場合は免責する仕組みなどが必要ではないか」といったコメントをさせて頂きましたが、実現可能性はまだまだ高くないと自覚しています)。また、神戸市内で発生した連続発砲事件では2人が死傷し、元暴力団組員が逮捕されましたが、兵庫県警は現時点で六代目山口組と神戸山口組の抗争との関連はないとみているものの、それでも市民生活への不安は大きく、学校の集団下校や地域活動の中止要請が行われました。抗争事件が長期間発生していない一方で、当局は潜在的な危険がなくなったとは判断しておらず、両団体の動向を引き続き厳しく監視しています。

神戸市で2026年9月30日、元暴力団組員の容疑者(79)が、男性2人を相次いで銃撃する事件が起き、会社経営者が死亡し、別の男性が重傷を負う事件が発生しました。容疑者は兵庫区で車内にいた男性の脇腹を拳銃で撃ち、殺害しようとした疑いで逮捕されており、もう1つの死亡事件への関与もほのめかしています。容疑者は元暴力団組長で、過去にも拳銃を使った殺人事件を起こし、20年間服役していたとされ、被害者と容疑者には土地売買を巡る接点があった可能性があり、事件当日は3人で車に乗り、車内で4発、移動先でさらに複数発が発砲され、合計7発に及んだ可能性が指摘されています。元警視庁刑事も解説していましたが、筆者も特に注目したのは、実行犯が79歳という高齢だった点です。長期間服役した人物が再び拳銃を手にした背景には、裏社会で生きてきた高齢者が一般社会に適応し、生活基盤を築くことの難しさがあるのではないかということです。刑務所には食事や住居、医療が用意されているため、再び収監されることで老後の生活を確保しようとした可能性もあると推測され、正に「哀しきヒットマン」なのではないかということです。さらに、重大事件によって容疑者が再び長期服役すれば、公費で衣食住や医療が保障されることになり、元暴力団員の社会復帰支援や高齢者福祉、裏社会の高齢化をめぐる社会の歪みが浮かび上がることになります。離脱者支援が真に難しい「構造的な要因」と言ってもよいかもしれません。

関連して現代ビジネスの記事「ヤクザ、辞めます」定年間近の58歳・元暴力団組員に1年間密着…なぜ35年の極道人生を捨ててカタギを目指すのか」なども考えさせられました。暴力団は、1992年施行の暴力団対策法や2011年以降の暴力団排除条例によって大きく縮小、最盛期には10万人以上いた組員は、2026年には9400人まで減少し、社会的な締め付けが強まり、組織に残っても生活できないと判断して離脱する者が増えています。記事に登場する植田氏(58歳)も、時代の変化と恩義を抱いていた組長の死を理由に、組を抜ける決断をしたといいます。離脱後の生活は厳しく、手元の生活資金はほとんどなく、警察は離脱者を支援すると公表しているものの、担当刑事に仕事を相談しても具体的な紹介は得られず、離脱から1週間後にハローワークを訪れ、自分が元暴力団員であり、長期服役を終えたばかりだと正直に告げ、職員は対応したものの、紹介された求人は少なく、採用にはつながらなかったといいます。糖尿病を患っているため、体力を要する仕事への不安もあり、植田氏はタクシー運転手にも応募、人手不足を理由に歓迎されるかと思われたが、刺青の有無を尋ねられ、手首から足首まで刺青がある植田氏は、その事実を説明し、面接では前科や前歴も正直に記載、しかし反社会的勢力に該当するかを問う項目への回答に悩み、最終的に不採用となったといいます。その後も応募と不採用を繰り返し、仕事を得られない日々が続きましたが、離脱から約2か月後の2025年10月、関東近郊の風俗店が送迎ドライバーを募集しているのを見つけ、面接で自分の過去や現状を正直に打ち明け、30代の店長は植田氏の再出発を応援すると述べ、「責任は私が取る」と採用を決めたといいます。しかし、植田氏のように自力で定職を得られる例は少なく、多くの離脱者は知人のつてで飲食店や建設現場に入るか、日雇い労働で生活をつないでおり、年齢が高い場合はさらに就職が難しく、過去が知られて解雇されることもあるほか、刺青を隠すため、職場で常に長袖を着用する者もいます。

彼らの社会復帰を妨げる大きな要因が、離脱後5年間は反社会的勢力とみなされる「元暴5年条項」で、この期間は銀行口座、携帯電話、賃貸住宅などの契約が制限され、口座がなければ給与を振り込めず、それだけで採用を断られる場合もあり、実際に、口座開設を拒否された元組員が警察を呼ばれ、署へ連れて行かれた例も紹介されています。元組員の更生支援に携わる人々は、組を辞めることより、その後の生活基盤を築くことのほうが困難だと指摘しています(筆者もその1人です)。仕事、住居、金融サービスなどを得るには周囲の協力が必要ですが、社会から排除されている離脱者が一人でそれを実現するのは難しく、暴力団排除を進めるだけでは、離脱者が安定した生活へ移行する道は確保できないのが現状です。さらに、一般社会の価値観との違いも大きな障壁となっています。暴力団社会では、侮られたらやり返すことや、喧嘩を避けないことが重視される一方、一般社会では自分に非がなくても謝罪や我慢を求められる場面があり、この価値観の落差に耐えられず、元の世界へ戻る人もいるといいます。仕事も金もない状況で、かつての仲間から誘いを受ければ、再び犯罪や組織に戻りたい気持ちが生まれやすい点も理解できなくはありません。「社会が暴力団を排除する一方で、更生への道は本人の努力に委ねられており、離脱者は大きな矛盾の中で生活している」との指摘は正に正鵠を射るものであり、離脱をしたい彼らに「悪魔の証明」を延々と押し付けるのはもはや社会正義に悖るのではないかとさえ思います。いずれにせよ、今後、社会が解決すべき問題として向き合う局面にあるといえます。

トクリュウによる犯罪が深刻化するなか、警察庁の有識者検討会は、犯罪グループが使用するスマートフォン(スマホ)の情報を警察が遠隔で取得する「遠隔解析」制度を早期に導入すべきだとする提言をまとめ、警察庁に提出しました。警察庁は提言を踏まえ、警察官職務執行法の改正案を策定し、早ければ次の臨時国会への提出を目指しています。制度導入の背景には、特殊詐欺や強盗などによる被害の急増があります。2025年の特殊詐欺被害額は、SNS型投資詐欺やロマンス詐欺を含めて約3257億円に達し、過去最悪となりました。強盗殺人事件も発生しており、検討会はトクリュウによる犯罪被害を「異常事態」や「極めて憂慮すべきもの」と評価しています。トクリュウは、SNSや秘匿性の高い通信アプリを通じて、指示役、案件屋、実行役などが緩やかに結びつく犯罪集団であり、構成員同士が面識を持たない場合も多く、実行役が逮捕されても別の人員が補充されるため、犯行が継続しやすいうえに、指示役が海外にいるケースもあり、首謀者の特定や通信内容の把握は困難になっている組織構造(闇のエコシステム)を有しています。警察はこれまで、全国の捜査員を集めた専門チームの設置、闇バイトへの仮装身分捜査、架空名義口座を利用した資金追跡、送金バイトの規制、海外捜査機関との協力などを進めてきましたが、実行役の供述や押収端末、通報、防犯カメラなどから標的情報を把握した時点では、犯行直前または犯行後になっていることが多く、従来の捜査手法には限界があると警察幹部自身が認めています。トクリュウでは、現金や貴金属を保管する住宅、店舗などの情報が「闇名簿」として記録され、案件屋から指示役へ伝えられ、実行役が派遣される流れとなっています。警察は、これらの標的情報を犯行前に把握できれば、被害者への警戒呼びかけや警察官の配置、避難などにより被害を防止できるとみており、遠隔解析は、こうした情報を事前に取得するための手段として期待されています。

提言では、遠隔解析を刑事手続き上の捜査ではなく、重大犯罪の予防・阻止を目的とする行政上の措置と位置づけました。対象となる端末は、被害発生のおそれがある重大犯罪の犯人が使用していると合理的に認められるものに限定し、電話番号やIPアドレスなどによって特定し、警察は、端末が犯罪の指示などに使われたことを示す情報を示したうえで、裁判官に令状を請求する手続きとなります。また、取得できる情報も無制限ではなく、被害が切迫している人物の氏名、住所、自宅の写真、犯行予定日時、実行役の人数、準備された凶器など、被害防止に必要な内容に絞るとされており、令状の対象外に当たる情報を扱った場合は、すべて消去することが求められています。さらに、解析を受けた端末の使用者には、実施後に通知する仕組みが想定されています。技術面では、警察が相手のスマホに何らかの方法でアクセスし、通信アプリなどに記録された情報を特定時点で複写して取得することが想定されています。マルウェアを端末に仕込む「ポリスウェア」のような手法も検討されているとみられますが、犯人側の対抗措置を防ぐため、具体的な技術は公表されない方針です。制度の適正性を確保する柱は、裁判官による事前審査と公安委員会による事後監督です。警察は実施のたびに公安委員会へ報告し、問題があれば必要な措置を受けることになります。検討会は、対象や取得情報を限定し、令状、情報消去、事後通知、監督などの規律を設ければ、通信の秘密やプライバシーへの制約は必要かつ合理的な範囲にとどめられると整理しました。一方で、制度は憲法が保障する通信の秘密やプライバシーに直接関わるため、警察による不当な監視や、犯罪と無関係な人への干渉につながる懸念が強いのも事実であり、遠隔解析の対象となる「重大犯罪」の定義が明確でなく、トクリュウ以外の組織犯罪にも広く適用される可能性があるとの指摘も出ています。また、憲法学者からは、必要性は理解できるとしても、法律の根拠が不十分なまま警察が無制限に実施する事態を避けるべきだとの意見が示されています。行政手続きとして制度化すれば、設計次第で事後検証が困難になる可能性もあり、対象者への通知に加えて、国会への報告や実施状況の公表が必要だとされます。また、刑事訴訟法の専門家は、GPS捜査について法律による規律が必要だとした最高裁判決との整合性に疑問を呈しています。遠隔解析は被害予防を目的とするため、継続的に端末情報を取得する運用が想定される可能性があり、その場合は公安委員会への報告だけでなく、技術や運用に詳しい第三者、専門家による検証体制も必要になるというものです。海外では、犯罪グループの端末から捜査当局が遠隔で情報を取得する制度が、英国、ドイツ、米国、フランス、オーストラリアなどで整備されており、英国では重大犯罪の予防を目的とする行政手続きとして制度化され、司法的機能を持つ機関による事前審査や、独立機関による事後検証が行われています。ドイツには、刑事手続きとして端末のデータを取得するオンライン捜索や、差し迫った危険の防止を目的とする制度があります。日本の検討会は、海外制度を参考にしながら、トクリュウ犯罪の国際性に対応する必要があるとしています。遠隔解析が導入されれば、海外当局と協力して犯罪グループを追跡する際、日本警察が取り得る手段の幅も広がると期待されています。しかし、被害防止の実効性を高めるほど、通信の秘密やプライバシーへの介入も大きくなるため、制度の必要性と権利保障をどのように両立させるかが最大の課題となっています。

▼ 警察庁 匿名・流動型犯罪グループによる犯罪被害対策のための技術的措置に関する有識者検討会
▼ 提言 概要
  • 背景
    • 実行役の募集、犯行の指示等は、秘匿性の高い通信アプリにより、非対面かつ匿名で行われることが一般的。
    • 「捨て駒」である実行役を検挙しても、上位の指示役や次の犯行の標的を速やかに特定するのは困難であり、新たな実行役が補充されて犯行が継続。
    • 通信アプリの暗号化技術により、通信事業者の協力を得たとしても、犯行グループの通信内容を解明することは困難。
  • 必要性
    • 被害者の受ける財産的・精神的打撃は計り知れず、悲惨な被害者を生まないための対策が急務。
    • 現状に鑑みれば、犯行グループの端末から、犯罪に悪用される通信アプリの通信内容等を迅速に把握し、被害防止に活用する手法(遠隔解析)を早急に導入するべき。
  • 制度の在り方
    • 秘匿性の高い通信アプリの通信内容は、通信の秘密に関わるものであり、プライバシーの保護が及ぶものだが、適正手続の下で、必要な限度で通信の秘密やプライバシーを制限しながら措置を行うことは憲法上も認められている。
    • 遠隔解析の目的は、被害切迫者を特定し、被害を的確に防止すること。
      • 対象は、犯人同士の連絡や犯人から被害者への連絡に用いられた端末に限定するべき。
      • 取得する電磁的記録としては、被害切迫者を特定する情報や、犯罪の日時・実行者数・凶器等の情報が想定される。
    • 要件は、刑事訴訟法に基づく差押えの要件を目安とするべき。犯行グループによる被害の発生・拡大の具体的なおそれ、緊急性、補充性を要件とするべき。
    • 一定の行政手続には令状主義の要請も及ぶため、遠隔解析には事前の司法審査(許可状取得手続)を設けるべき。
    • 遠隔解析は、切迫する重大な犯罪による被害を防止する目的で行使する行政調査権限として、犯罪の予防を含む警察官の職権職務を遂行するための手段を定める警察官職務執行法の中に規定することが考えられる。
  • 実効性・適正性
    • 技術の変化に柔軟に対応できる制度とすること、犯人らに容易に対抗措置をとられないための徹底した情報保全等が必要。
    • 被害防止に当たる警察官と遠隔解析を行う警察官は、分離するべき。遠隔解析は、必要な知識・能力を持つ警察官として警察庁長官が指定した者のみが行うべき。
    • 遠隔解析の過程で、取得が認められない情報を扱った場合は、その全てを消去するべき。
    • 対象端末の使用者への事後通知、公安委員会による事後監督等の手続を設けるべき。
  • 提言を踏まえて整理した制度・運用イメージ
    1. 被害防止の責務
      1. 被害防止の責務を具体化
        • 重大な犯罪が発生する蓋然性
        • 被害が切迫している方の所在等の一定の犯行計画が具体的に判明(特に被害者の特定)した場合
        • 被害者の方への働き掛けなど各種被害防止策を講じる責務
          • ※警察法第2条第1項 警察官職務執行法第1条第1項
    2. 「遠隔解析」の開始に向けた手続
      1. 情報の分析、対策の検討
        • 被害の発生・拡大の高度な蓋然性がある。
        • 急を要する。
        • 他の方法では速やかに情報が得られない。
      2. 犯行計画の把握のため遠隔解析を依頼
      3. 要件の検討
        • 遠隔解析の必要性
        • 対象端末の特定
        • 取得情報の特定
        • 専門的知見を有する警察官
        • 警察庁による組織的統制
      4. 裁判官に許可状を請求
      5. 要件の審査
      6. 許可状の発付
    3. 「遠隔解析」の実施
      • 犯行グループが使用する端末にアクセス(秘匿性の高い通信アプリ)
      • 詐欺:架電先リスト・欺罔方法・振込先 等
      • 強盗:役割分担・集合場所・標的の場所 等
      • 端末内の情報を確認
      • 必要な情報を複写・取得
      • 許可状で取得が認められた情報以外を削除
        • ※捜索・差押えに係る最高裁判例、確立した実務等を踏まえ、制度を運用。
    4. 被害防止の責務の達成
      1. 遠隔解析で得た情報(犯行計画)
        • 被害切迫者の氏名・住所
        • 犯行の日時、手口
        • 実行役の凶器、役割分担 等
      2. 犯行グループの犯行計画が判明した場合、現場活動等を通じて被害を防止
        • 遠隔解析により適正に取得された情報は、刑事訴訟法等による必要な手続を経て、刑事手続で利用されることも排除されない。
    5. 遠隔解析・被害防止の全体像
      1. 犯人の端末を特定
        • 被害者からの通報
        • 仮装身分捜査
        • 犯罪組織からの離脱者の供述
        • 過去の捜査情報
      2. 分析結果の提供
      3. 司法審査(許可状の発付)
      4. アクセス・情報取得
      5. 被害防止に必要な情報
      6. 現場への指揮
      7. 詐欺被害の防止、強盗の阻止 等
    6. 適正性担保のための仕組み
      1. 厳格な要件と司法審査
        • 重大犯罪の高度な蓋然性、緊急性・補充性、犯人の端末への限定等の厳格な要件
        • 全件について事前の司法審査
      2. 遠隔解析担当官への統制
        • 専門的な知識・能力を有する特別な警察官に限定
        • 警察庁長官が指名
      3. 情報の取扱手続の法定
        • 必要な情報の複写・取得、不要な情報の確実な消去、分析担当官への情報提供等の情報の取扱手続を明確化
      4. 当事者への事後通知
      5. 公安委員会による個別確認・是正指示
        • 全件について公安委員会が事後確認
        • 適正確保のため必要があれば、警察庁長官等に指示

広島県福山市で、模造の金製品を本物と偽って貴金属買い取り店やリサイクル店に売却し、現金をだまし取る詐欺事件が相次ぎ、トクリュウの関与が疑われています。広島県警は2025年10月以降、複数の関係者を逮捕し、2026年9月には中国籍の会社役員の男を逮捕したことで逮捕者は6人となりました。この事件では、広島地検福山支部が容疑者の一人と、共犯者や事件の実態に関する供述などの捜査協力と引き換えに、公判で執行猶予付き判決を求める司法取引に合意しました。司法取引は、他人の犯罪捜査や公判に協力する代わりに、起訴猶予や求刑の軽減を受ける制度で、2018年に導入され、特殊詐欺など組織犯罪への活用が進められています。協力した被告は2026年1月に詐欺罪で起訴され、広島地裁福山支部は3月、検察側の求刑通り拘禁刑3年、執行猶予5年の有罪判決を言い渡しました。トクリュウが疑われる事件で司法取引の適用が明らかになるのは初めてであり、広島県警は協力者の供述を手掛かりに、事件の背後関係や共犯者の特定に向けた捜査を現在も続けています。

2026年3月20日夜、東京都江東区潮見の建設会社事務所兼住宅に、トクリュウの実行役らが侵入し、住人夫婦から金品を奪おうとして、実行役らは窓ガラスを割って侵入しましたが、妻が警察へ通報したため何も奪わず逃走し、けが人はありませんでした。被害男性は60代で、建設会社を経営、実行役らとは面識がなかったにもかかわらず、住宅に現金があることや家族構成、家の間取り、現金の保管場所などを把握されていました。そのため警視庁は、犯行前に被害者の情報が犯罪グループへ流された経緯を調べた結果、事件の1年以上前である2024年ごろ、被害男性が不動産業を営んでいた容疑者に、重機を置く土地を探す相談をしていたことが判明、容疑者は知人の紹介で男性宅を訪れ、物件の予算や購入条件について複数回話をしたものの条件が合わず取引は成立しなかったといいます。しかし、その商談や雑談の中で、男性は不動産取引の手付金などに使うため、事務所に一定額の現金を置いていることや、家族構成などを話していたとされます。警視庁は、容疑者がこのやりとりを通じて、男性の資産状況、家の間取り、金庫や現金の保管場所などを把握したとみています。容疑者はその後、仕事上の知人で資金繰りに困っていた被告に、「この家には金庫があり、現金が5千万円ほどある」といった趣旨の情報を伝えた疑いがあります。被告は、住宅の住所、間取り、資産情報などを強盗の標的として整理し、犯罪グループ内で扱う「案件」に仕立てたとされます。トクリュウの犯罪では、標的となる住宅や店舗の情報を集め、強盗計画に利用できる形に整える人物は「案件屋」と呼ばれ、被告は案件屋として、知人の26歳の男に実行役を集め、犯行日時や人数を決めるよう依頼したとみられています。その後、26歳の男らは、報酬を示して知人に声をかけたり、SNSで実行役を募ったりして、標的を提供する情報元、情報を案件化する案件屋、実行役を集めるリクルート役、実際に現場へ向かう実行役からなる、被害者とは面識のない分業型の犯罪グループが形成されました。警視庁は事件後、実行役、リクルート役、案件屋など計7人を強盗未遂や住居侵入の疑いで逮捕・起訴、押収したスマホの解析や関係者の取り調べを進める中で、標的情報の出どころとして容疑者の存在が浮上しました。容疑者は事件当時、現場にはいませんでしたが、案件屋との通話やSNSのやりとりから、案件屋が住宅を襲うことを事前に伝えていた疑いが判明、また、奪った金品を分ける約束についても相談していたとされます。警視庁は、容疑者が単に「金がある住宅」という情報を提供しただけではなく、その情報を使った強盗計画を認識し、犯行によって利益を得ようとしていたと判断、そのため、強盗未遂などの共謀が成立する可能性が高いとして逮捕したものです。

今回の逮捕は、トクリュウ事件で標的情報を流した「情報元」を警視庁が検挙した初めての事例とされます。これまでの捜査では、実行役やリクルーター、案件屋など、犯罪の末端や中間部分の摘発が中心だったが、今回は犯行の起点にあたる人物が特定された点が極めて重要です。トクリュウは秘匿性の高い通信アプリなどを使うため、情報提供者が具体的な強盗を想定していたことを裏付ける証拠を集めるのは容易ではなく、「金がある」という情報を伝えただけでは、直ちに特定の強盗事件への共謀と認定できない可能性もあります。しかし今回は、スマホのデジタルフォレンジックや関係者の供述によって、容疑者が犯行計画を把握していた疑いが強まり、案件屋が犯行を伝え、報酬や利益の分配について相談していたことが、共謀を裏付ける重要な要素となりました。不動産取引を通じて知り得た顧客の資産状況や家族構成、現金の保管場所が、犯罪目的で利用されたことは、個人情報管理の重大な問題を示しています。不動産業や金融業など、顧客の自宅や資産情報に接する業種には、情報を守るための厳格な倫理と管理体制が求められます。警視庁幹部は、一度「案件」として出回った標的情報がトクリュウ内で拡散し、同じ住宅が繰り返し狙われる可能性があると指摘しており、情報元の摘発は、個別事件の解明だけでなく、犯罪グループによる標的情報の流通を断つ上でも重要です。今回の事件を含め、東京都内では2026年2月以降、トクリュウが関与したとみられる強盗や侵入窃盗が相次いでいました。標的は一般住宅だけでなく、スマホ買い取り店や金塊の取引現場などにも及び、資産情報を事前に把握した上で犯行に及ぶケースが問題となっています。「遠隔解析」の新手法などとあわせ、情報元や指示役を迅速に特定する体制の整備が課題といえます。

その他、案件屋やトクリュウ等に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 京都府警は、トクリュウとして京都府や大阪府などで空き巣や強盗予備を繰り返した疑いで、20~57歳の男女27人を逮捕・書類送検しています。中心人物とみられる前橋市の容疑者は、狙う住宅の情報を集めて事件を計画する「案件屋」を担い、指示役や実行役に情報を提供していた疑いがもたれています。報道によれば、案件屋から得た情報をもとに、指示役が住宅の間取り図や資産状況、住人の行動予定などを実行役へ送信していました。2025年12月25日に京都府城陽市で発生した空き巣事件では、被害者がクリスマスに家族と外食する予定まで把握されており、犯行側が具体的かつ正確な個人情報を利用していたとみられています。容疑者は2026年1月30日、実行役2人と共謀し、窃盗目的で群馬県館林市にある会社役員女性の住宅へ侵入した疑いが持たれており、実行役のスマホからは、容疑者が秘匿性の高いアプリで、現金だけでなく物品や腕時計もあると伝えていた記録が見つかり、場合によっては指示役も務めていたとみられています。他のメンバーも、2025年12月から2026年3月にかけて京都府や大阪府内で起きた6件の空き巣・強盗予備事件に関与した疑いがもたれています。なお容疑者は、2026年7月に東京都立川市の窃盗事件で警視庁に逮捕され、窃盗などの罪で起訴されています。
  • 京都府警は、トクリュウで住宅情報を集め、事件を計画する「案件屋」として侵入事件に関与した疑いで、城陽市の会社員の男を住居侵入容疑で逮捕しました。男は指示役や実行役らと共謀し、木津川市の住宅敷地内に侵入したとされます。男の逮捕は、京都や大阪で2025年12月以降に相次いだトクリュウによる窃盗事件を巡る案件屋の摘発として2人目であり、京都府警はこれまでに関係者20人以上を逮捕・書類送検しています。捜査では、摘発された仲間のスマホから、男が機密性の高い通信アプリを使い、被害者宅について「行き止まりにあり、道も限られる」など、実行に役立つ情報を共有していたことが判明、男は「自分で案件を見つけて、仲間に回した」と容疑を認めており、府警は現場情報を収集して指示役に伝える役割を担っていたとみています。グループ内では通信アプリを通じて「1階に金庫がある」といった具体的な財産情報や侵入に関する情報が共有されていたほか、実行役に「固定で300万円」と報酬を約束するやり取りも確認されています。
  • 警視庁捜査3課は、東京都新宿区の会社事務所に侵入し、現金約12万円と貴金属入りの金庫2個を盗んだとして、容疑者3人を窃盗などの疑いで逮捕しました。被害品の金庫は指輪やネックレスなど時価約2500万円相当で、事件は2026年5月25日未明に発生しました。容疑者の1人は、トクリュウで犯行計画を立て、指示役に伝える「案件屋」とみられています。警視庁が同容疑者のスマホを解析したところ、標的とみられる住宅や事業所など約20件の情報が見つかり、同容疑者が複数の窃盗事件の計画に関与していた可能性が浮上しています。別の容疑者は事務所への侵入や盗みを担当する実行役、もう1人の容疑者は逃走時の運転役だったとみられています。2人が所属するグループは、全国で数十件の窃盗事件に関与した疑いがあり、警視庁は組織の実態や他の事件との関連を詳しく調べています。警視庁は、トクリュウの容疑者が収集していた標的情報の入手経路や指示役との関係を確認するとともに、3人が関与したとみられる全国の窃盗事件について捜査を進めています。
  • 東京都小金井市の同じ住宅が、2026年5月中にトクリュウとみられる別々のグループから計4回狙われ、そのうち1件で現金約10万円が盗まれたとして、警視庁捜査1課は会社員の男2人を窃盗と住居侵入の疑いで逮捕しました。逮捕されたのは、実行役とみられる埼玉県行田市の38歳の男と、運転役とみられる神奈川県横須賀市の27歳の男で、2人は共謀者とともに5月3日夜、住宅の窓を割って侵入し、リビングから現金を持ち去った疑いがもたれています
  • 警視庁は、ドラッグストアで医薬品を盗んだとして、横浜市栄区の無職の容疑者を窃盗容疑で逮捕しました。容疑は、何者かと共謀し、2025年11月27日に東京都板橋区の店舗から、整腸剤9点、販売価格約4万8800円相当を盗んだというもので警視庁は、容疑者がトクリュウの指示役として、SNSで実行役や運転役を募り、ドラッグストアで商品を盗ませて転売し、利益を得ていたとみています。容疑者は盗む商品や日時、方法を指示し、盗品の定価に応じて実行役へ報酬を支払っていたほか、自ら万引きに加わることもあったとされます。 今回の事件では、容疑者が店内で整腸剤を手提げバッグに入れて持ち出し、店外の車で逃走した疑いがあり、盗品は、容疑者が別の人物に売却したとみられています。また、千葉県内の別事件で逮捕された実行役らの供述などから、容疑者の関与が浮上、実行役らはSNSで「高時給」と検索して募集投稿を見つけ、グループに加わったといいます。警視庁は、容疑者のグループが2025年6月以降、東京・大阪を含む10都府県のドラッグストアで、化粧品など約4千点、総額約1400万円相当を盗んだ可能性があるとみて、組織の実態や関係者を詳しく調べています。
  • 闇バイトを入り口に、トクリュウが若者だけでなく中高年を含む一般人を特殊詐欺、窃盗、強盗などへ引き込む事例が増えています。勧誘はSNS上の「高額」「即日即金」「ホワイト案件」などの求人だけでなく、知人からの紹介や対面にも広がり、警視庁が保護した関与者のうち40代と50代以上が約2割を占めるなど、年齢層は幅広くなっています。犯罪グループは、個人情報や家族・交際相手の画像を提出させ、脅迫によって離脱を防ぎ、「断れない」「捕まらない」と思わせながら犯行を継続させ、関与者を重大犯罪や人命を奪う事件へ段階的にエスカレートさせています。警察庁や警視庁は、隠語や匿名通信アプリの使用、怪しい高収入求人に注意するよう呼び掛け、学校教育や周囲の見守りを進めるとともに、危険を感じた場合は早期に警察へ相談し、保護を求めるよう訴えています。

本コラムでもその推移を注視してきた「餃子の王将社長射殺事件」は発生から13年を経て、ようやく2026年10月16日に京都地裁で判決が言い渡される予定です。被告が有罪となるのか、無罪となるのかが注目されています。「餃子の王将」を運営する会社の大東社長が、2013年12月19日早朝、京都市山科区の本社駐車場で拳銃4発を撃たれて殺害された事件をめぐり、実行犯として起訴された暴力団幹部・田中幸雄被告の裁判が迫っています。社長は出勤直後、日課だった本社周辺の掃除を始める前に襲われ、犯行はわずか6秒で完了したとされます。現金は奪われず、現場には2本のたばこの吸い殻が残されていたため、警察は、社長の行動を把握した人物による計画的な殺人とみて捜査を開始しました。事件当初、吸い殻からDNA型が検出されたものの身元は判明せず、捜査は長期化、しかし2022年、別事件で逮捕・服役していた田中被告のDNA型と吸い殻の型が一致し、被告は逮捕・起訴されました。会社の第三者委員会の報告書によれば、社長は就任時に巨額の負債を抱えた会社の再建に取り組み、外部企業グループとの不適切な取引関係の清算も進めていました。そのため、事件の背景や動機の解明が期待されましたが、裁判で検察が動機や組織的関係に踏み込むことはありませんでした。被告が暴力団幹部で、裁判員への報復のおそれがあると判断されたため、裁判は裁判員裁判ではなく裁判官のみで審理され、法廷には金属探知機による検査や防弾パネルが設置され、厳重な警戒が敷かれました。初公判で被告は「決して犯人ではない」と全面否認し、弁護側も無罪を主張、これに対し、遺族とみられる女性が被告を非難して泣き叫び、一時休廷となる場面もありました。裁判の争点は、被告が実行犯なのかという「犯人性」に限定されました。検察側は、現場の吸い殻と、事件に関連するとみられる盗難バイクや軽乗用車を立証の柱とし、警察官や鑑定担当者は、吸い殻が事件直前に現場で消火された新しいものだと証言し、現場から持ち込むのは困難だと説明、さらに、吸い殻のDNAが被告と一致することから、被告が待ち伏せ中に喫煙したと主張しました。一方、弁護側は、吸い殻の周囲に灰や火種がなかったこと、従業員の記憶の信用性、犯人が現場で2本も喫煙する不自然さを指摘し、第三者が持ち込んだ可能性を示しました。また、車両について検察は、事件後に見つかった盗難オートバイから硝煙反応が検出され、付近の防犯カメラに映った白い軽乗用車が、被告が借りていた車と似ていると主張、ただし、バイクから被告のDNAは検出されず、決定的な証拠とはならなりませんでした。弁護側は、事件当日に被告が福岡県の自宅にいた可能性を示すため、被告の妻を証人として尋問、しかし妻の証言は「送ってもらったかもしれない」という記憶に基づくもので、確固たるアリバイにはなりませんでした。被告本人は、裁判所の質問に一切答えないと表明し、被告人質問は実施されず、遺族は、社長が会社と従業員を大切にしていたとして、事件の真相と父の無念が明らかになることを求めました。全11回の審理では、検察側証人延べ36人の大半が警察官や鑑定担当者で、弁護側証人は1人だけでした。検察は、複数の間接証拠を積み重ね、第三者が証拠を偽装することは事実上不可能だとして、組織的で計画的な犯行と主張し、無期懲役を求刑しました。一方の弁護側は、各証拠は被告が犯人でなくても成立し、拳銃を発射したと断定するには合理的な疑いが残るとして無罪を求めました。被告は最後まで「本当に犯人ではない」と訴えて結審、判決は2026年10月16日に言い渡される予定です。

工藤會のトップだった野村悟被告(79)=二審無期懲役、上告中=が国から違法に所得税を課されたとして、約5億4千万円の課税処分取り消しを求めた訴訟の判決で、福岡地裁は請求を棄却しました。上納金の自身の取り分に関し脱税したとして、所得税法違反罪で実刑判決が確定していたものです。報道によれば、2014年までの7年分で13億円余りの所得を申告しなかったとして、2015年に小倉税務署から重加算税を含め約7億3千万円の追徴課税(更正処分)を受け、国税不服審判所に審査請求し、2023年に棄却されていました。

闇バイト等を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 警察庁の委託でインターネット上の違法情報などの削除要請を担う「インターネット・ホットラインセンター」(IHC)が2026年上半期(1~6月)に違法と判断した「闇バイト」募集に関する投稿は1万2516件となり、2025年上半期の6346件と比べて約2倍となりました。違法情報はIHCのガイドラインで定められ、闇バイトは2025年2月に新たに追加されました。闇バイトを募集する投稿のうち、既に削除されたものを除く7583件についてプロバイダーやウェブサイトの運営会社に依頼したところ、7472件(99%)が削除されたといいます。
  • 警視庁匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)対策本部は、SNSなどを通じて若者が特殊詐欺や強盗に加担する「闇バイト」の被害と犯罪参加を防ぐため、公式サイトをリニューアルし、啓発動画を公開しました。サイトでは、闇バイトに関わると本人だけでなく家族の生活まで破綻し、「人生が崩壊する」という恐怖感を前面に押し出し、漫画を基調とした動画は、SNSで広く発信するほか、街頭放映やポスター、小冊子にも活用される予定です。公開された動画は、実際の事件を参考にした5本で、いずれも1~2分程度にまとめられています。「銀行口座売買篇」では、ゲーム課金で金に困った若者が「簡単高収入」というSNS投稿に誘われ、口座開設と情報提供の対価として5万円を受け取るも、その口座が犯罪に悪用されて逮捕され、実家には損害賠償請求が届き、家族の資産まで差し押さえられる展開が描かれます。このほか、海外リゾート地での仕事を装った募集から特殊詐欺の「かけ子」にされる女性や、運転代行の仕事だと思って応募した人物が強盗の運び役にされる事例も紹介されています。いずれも、好条件の仕事に見える気軽な入り口から犯罪へ引き込まれ、逮捕や賠償、家族への被害という深刻な末路に至る危険性を示しています。サイトには、トクリュウの特徴や資金獲得活動の実態、闇バイト経験者のコメントも掲載され、親家・副総監が詐欺撲滅を呼びかける音声も公開されました。警視庁は、犯罪に関われば人生が崩壊することを印象付け、全世代に注意を促す狙いがあるとしています。SNS上の勧誘は増加しており、警察庁によれば、2026年1~6月に警察が警告した投稿は5万213件で、前年同期より1万4576件増えました。警視庁は、不審な募集を見つけた場合、応募や相手とのやり取りを続ける前に警察へ相談するよう呼びかけています。
  • 世界各地で、SNSを通じて高額報酬や無料旅行を持ちかけ、若者を違法薬物の「運び屋」にする闇バイトが横行しています。日本では、外国人が覚せい剤や大麻、指定薬物エトミデートを手荷物に隠して持ち込む事件が相次ぎ、背後には国際犯罪組織の関与が疑われている。2026年9月5日、羽田空港でニューヨークから到着した25歳の米国人女性のスーツケースから、三重に包装された35袋の乾燥大麻が発見された、大麻は総量約30キロ、末端価格にして約1億5000万円に達し、女性は営利目的輸入などの容疑で逮捕されました。女性は、SNSで「旅費も報酬も出る仕事」と勧誘され、日本へスーツケースを運んだだけで、中身は知らなかったと説明、女性と同行した同い年の米国人女性も、先に入国した後に逮捕されました。女は自称DJで、友人から日本旅行に誘われたと話し、同行者が「大麻を運べば5000ドル、約75万円を稼げる」と言われていたことを明らかにしました。2人は依頼主とSNSで連絡を取っただけで、男性という情報以外の身元を知らず、犯罪組織の指示役を把握していませんでした。また、羽田空港では別の事件として、クアラルンプールから到着した23歳の台湾籍女性のスーツケースから、エトミデートを溶かした液体入りのウイスキー瓶が見つかり、女性は、SNSで依頼を受け、5000台湾ドル、約2万5000円の報酬を約束されていましたが、瓶の中身は確認していないと供述しています。大学を中退し、親の保護下で暮らしていた無職の女性が、身元の分からない人物の依頼を引き受けた形でした。日本では闇バイトが強盗、窃盗、特殊詐欺の実行役に利用されてきましたが、海外では薬物密輸にも同じ仕組みが広がっています。警視庁は、アルゼンチンや米国、台湾など多様な国や地域から、特に女性を運び屋に仕立てる手口が広がっていると指摘しています。成田空港や関西国際空港でも、2026年に入って覚せい剤やエトミデートの密輸摘発が続いており、無料旅行や高額報酬をうたう誘いの背後には、国際犯罪組織が存在するとみられています。

2.最近のトピックス

(1)AML/CFT/CPFを巡る動向

政府は、マネー・ローンダリング(マネロン)対策や経済安全保障の強化を目的に、法人の実質的支配者(ベネフィシャルオーナー、BO)を把握する新法案を臨時国会へ提出する方針です。BOとは、法人の意思決定を実質的に支配する個人や団体を指し、議決権の25%超を直接または間接に保有する者などが該当しますが、議決権を持たなくても、取引などを通じて法人に強い影響力を持つ場合は対象となります。また、間接保有の場合は、支配法人の関係をたどって最終的な個人などを特定します。新制度では、上場企業や独立行政法人を除く国内法人を原則として対象とし、国内で継続的に取引する、事務所を置く、または不動産を所有する一定の外国法人にも届け出を義務づけます。法人は設立時などに、BOの氏名、住所、生年月日、国籍などを法務局へ提出、届け出情報は公簿に記載され、行政機関や銀行などの特定事業者が閲覧できるようにする。行政の許認可や金融機関の確認にも活用され、外国人や外国法人による国内土地所有の実態把握にも役立てるとしています。政府は、実態のないダミー会社や多数の法人口座を悪用するマネロン、特殊詐欺、トクリュウ等の資金の流れを追跡しやすくする狙いがあります。実際に、約500社のペーパーカンパニーと約4000の法人口座を利用して犯罪収益を隠した疑いの事件があり、法人の支配関係を透明化する必要性が高まっています。なお、届け出を怠った法人には催告後に過料を科し、虚偽の届け出など隠蔽目的の悪質な行為には刑事罰を適用するとしています。また、一定期間届け出がない法人については登記を閉鎖し、3年以上届け出のない休眠法人は金融機関から融資を受けにくくする措置も検討されています。FATF(金融活動作業部会)は各国にBO情報の把握を求めており、先進7カ国で法整備が遅れている日本は、2028年夏ごろに対日審査を受ける予定となっています。

▼ 内閣官房 第1回法人等の実質的支配者(BO)に係る情報の把握等に関する有識者会議 議事次第
▼ 資料2 事務局説明資料
  • FATF勧告(法人の悪用防止)の要請
    1. 背景
      • 国際的な法人等の支配関係の透明性向上の必要性
        • 実体のない法人を悪用した事例が多数明らかになり、法人の実質的支配者(Beneficial Ownership:BO)の把握が必要との問題意識が国際的に増大。
          • ※実質的支配者とは、法人の意思決定を実質的にコントロールすることができる自然人。
          • FATF第4次対日相互審査後の2022年3月、FATFはBOに関するFATF勧告を強化・改訂。
          • FATF勧告は各国に対して、以下の点につき法整備を行い実施することを要求。
            1. すべての法人に対しBO情報の把握を義務付けること
            2. 法人が自ら把握したBO情報の公的機関への届出を義務付けること
            3. 捜査当局等が公的機関の情報にタイムリーにアクセスできること
    2. 海外諸国の状況
      • G7の中で、 BO情報の届出を義務付ける制度がないのは日本のみ。
      • 法人のBO情報の把握・登録等に関する制度を整備するため、新たな法律により対応予定
  • FATF勧告(信託の悪用防止)の要請と対応
    1. 国際的な信託の支配関係の透明性向上が必要な背景
      1. 信託は、重要かつ正当な目的で設定されることが多いが、犯罪者が信託のスキームを利用し、マネロン対策等を回避する目的で悪用されることがFATF文書で指摘されている。
        • FATFガイダンスペーパー『法的取極の実質的支配者と透明性』参照。
      2. 2023年にFATF勧告25(信託の透明性と実質的支配者)が改訂。
        • 信託に関する十分、正確かつ最新の「BO情報」を確実に入手する必要。
          • ※BO:Beneficial Ownership(実質的支配者)
        • 「信託のBO情報」には、委託者、受託者、受益者等に関する情報を含む必要。
        • 権限のある当局がそれらの情報を効率的かつタイムリーに取得又はアクセスできる必要。
    2. 日本の現状
      • 日本の信託は、信託法に基づく信託(商事信託・民事信託)及び外国法に基づく信託。
      • しかしながら、「信託のBO情報」の把握を義務付ける制度がない状況。
    3. 新法による対応
      • FATFの要請を踏まえ、法人に関するBO情報の把握・登録制度に加えて、信託についても「BO情報」の把握等を求める制度を整備する予定。
  • 法人等の実質的支配者情報に関する制度の必要性
    • 近年、特殊詐欺などを背後で操る「匿名・流動型犯罪グループ」(トクリュウ)等の反社会的勢力の支配下に多数の法人(ペーパーカンパニー等)を設けてその法人の口座間で送金を繰り返す事例など、捜査当局において資金の流れを把握するのが困難な事例が生じている。
    • 【事例】 令和3年9月から令和5年8月にかけて、マネロンを行っていた会社役員の男らを逮捕。逮捕当時、男らは約500社のペーパーカンパニーに係る約4,000の法人口座を管理していた。 出所:警察庁「令和7年版 警察白書」(参考)日本経済新聞(2024年6月1日)によれば、マネロンされた犯罪収益は約700億円に及ぶ。
  • 政府方針との連携について
    1. 骨太の方針2026
      • 経済財政運営と改革の基本方針2026(2026年7月21日閣議決定)(抄)
      • 3.国民の安全・安心の確保
      • (3)治安・安全の確保
      • マネロン対策や経済安全保障等への対応に向け、法人の実質的支配者情報の登録等の立法化を早急に進める。
    2. 令和10年夏のFATF(金融活動作業部会、Financial Action Task Force)第5次対日相互審査を見据えた対応。2.犯罪対策閣僚会議
      • 詐欺及びストーカー被害拡大防止のための緊急対策(2026年7月28日)(抄)
      • 1 特殊詐欺対策
      • (4) 国内における治安力の強化
      • ウ 法人の実質的支配者情報の登録等に関する法制度の整備
      • FATF(金融活動作業部会)の第5次対日相互審査を見据え、マネロン対策等にも資するよう、関係省庁と連携して法人の実質的支配者情報の登録等の立法化を早急に進める。
    3.  外国人の受入れ・秩序ある共生社会実現に関する関係閣僚会議
      • 外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策(2026年1月23日)(抄)
      • 第2 土地取得等のルールの在り方を含む、国土の適切な利用及び管理に向けた取組
      • 1.土地所有等情報の透明性向上
      • Ⅳ 今後の課題
        • 土地等を所有している者が法人の場合に、当該法人を実質的に支配している者(実質的支配者)の国籍等の把握をより強化する必要がある。政府においては現在、マネロン・テロ資金供与・拡散金融対策に関する多国間の枠組みであるFATF(金融活動作業部会)の第5次対日相互審査(令和10年夏頃)に向け、法人の実質的支配者の把握強化を検討しており、この検討と連携して土地等の実質的所有者を把握す る仕組みについての検討を進める。
  • BO新法(法人)の方向性
    1. BO新法(法人)の目的
      • 正確かつ最新のBO情報を記録した公簿の整備等により、法人の実質的支配者による法人格の悪用を防止。
        • ※トクリュウなどによるマネロン等への対策や経済安全保障における活用を中心としつつ、土地等の実質的所有者の把握への活用など、法人格の悪用の防止や適正な行政事務の遂行のため、各種の行政分野(許認可等)での活用も検討。
    2. 対象の範囲
      • 上場企業等を除き、全ての内国法人を対象。
        • ※一部の外国法人も対象とすることを検討((1)国内で継続的に取引、(2)国内に事務所を設置、(3)国内の不動産を所有)
    3. BO情報の把握・届出
      • 法人は、BO情報(氏名、住所、生年月日及び国籍とすることを検討)を把握し、その設立時に公的登録機関に届け出るとともに、当該情報の変更時にも、その旨を届け出る。
        • ※BOの定義は、資本多数決法人の場合、総議決権の25%超を直接又は間接に有する自然人等とすることを検討(犯収法上の定義もそろえることを検討)。
    4. 公的登録機関が保有するBO情報の閲覧
      • 公的登録機関が保有するBO情報の閲覧は次の場合に限定。
        • 行政機関が法令で定める事務の遂行上必要な場合
        • 犯収法上の特定事業者が届け出た法人の同意を得た場合
          • ※銀行等による閲覧は同意不要とする方向で検討中。
          • ※BO情報の閲覧に当たっては、(1)一定の金銭負担を求めることや、(2)不正確なBO情報を知った場合の通報義務を設けることを検討。
    5. 届出の方法
      • オンラインによる届出を基本(郵送を含む書面届出も許容)。
      • 法人の負担軽減の観点から、法人と接点が多い関係者(銀行や士業等犯収法上の特定事業者)が法人に代わりBO情報を提出することも可能。
    6. 届出の期間
      • 既存法人は、新法施行の日から一定の期間内にBO情報を届出。
        • ※新法施行前の事前の届出も認める予定。
        • ※情報の変更などがあった場合、それを知った日から法定の期間内に変更の届出。
    7. 届出の履行確保
      • 届出を行わない法人に対しては、まずは催告等を行い、届出を促す。それでも届出を行わない者などには、罰則※を設けて対応。
      • 法人格等の違法な利用の防止を図るため、届出期限を経過した日から3年間届出をしないときに登記の閉鎖等の措置を講ずることを検討。
        • ※罰則は、過料を検討しているが、隠蔽目的での虚偽届出のような悪質な違反については、刑事罰を検討。
  • BO新法(信託関連)の方向性
    1. BO新法(信託関連)の目的
      • 正確かつ最新の「信託関係当事者」の情報を受託者に保持させること等により、「信託関係当事者」による信託の悪用を防止する。
        • ※新法では、「信託のBO」に対応する概念として「信託関係当事者」と整理。
    2. 対象の範囲
      • 信託法で規定されている信託及び一部の外国信託(注)を対象。
        • ※(注)信託業法に規定する外国信託会社が国内において信託の引受けを行うものを対象。
      • 個々の信託が新法の適用範囲か否かは、信託業界の実務を踏まえて丁寧に検討
    3. 信託関係当事者の情報の把握・保存
      • 受託者は、「信託関係当事者」の情報を把握し、正確・最新の内容に保つ義務を負う。
      • 「信託関係当事者」の定義は、(1)委託者、(2)受託者、(3)受益者、(4)出資、融資、取引その他の関係を通じて信託の目的の達成のために必要な行為に支配的な影響力を有する自然人、(5)これらの者に準ずる者として政令で定めるもの。
      • 当該情報を記載又は記録した書面又は電磁的記録を作成・保存。
        • ※信託契約等が書面又は電磁的記録の場合は、この記録にあることをもって代えることができる。
      • 受託者は、当該書面等を信託の清算の結了の日から法定の期間保存する義務。
        • ※記録の作成・保存義務違反、虚偽の書面作成の場合は、罰則(過料)を設ける。
        • ※法定の期間については、7年間とすることを検討。
    4. 信託関係当事者の情報の確認方法
      • 行政機関は、事務の遂行上必要な場合には、受託者に対して「信託関係当事者」の情報の提示を求めることができる。
  • 議論いただきたい事項
    1. BO制度の必要性について
      • 国際・国内情勢を踏まえ、法人が実質的支配者(BO)情報を把握し、届け出ることを義務付けることについてどのように考えるか。また、そうした方向性を想定した場合に、想定される課題、留意すべき点はあるか。
    2. 制度の方向性について
      • 制度内容(対象となる法人の範囲、届出情報、行政機関等による閲覧、罰則の有無など)や制度の円滑な運用(周知広報など)に当たって、留意すべき点はあるか。
▼ 資料5 太田洋弁護士提出資料
  1. 制度導入の必要性
    1. 国際的要請への対応
      • FATF の第 5 次対日相互審査は 2028 年夏にオンサイト審査が予定されているところ、わが国は、全ての法人について、BO 情報を取得し正確かつ最新の情報を保持するための 3 つのアプローチ、すなわち、(1)法人に、自らの実質的支配者情報の取得・保持を義務づけるアプローチ、(2)公的組織が BO 情報を取得・保持するアプローチ、(3)補足的手段の活用による多面的なアプローチを実効的に整備することが求められている。この点、日本を除く他の G7 各国は、実効性の程度にはばらつきはあるものの、いずれも(1)のカンパニーアプローチを前提とした(2)の BO登録制度を備えており、これらの制度を有していないのは日本のみである。
      • BO 登録制度という眼に見える制度的基盤を欠くことは、AML/CFT の面でわが国の対応が実効性を欠くことにも繋がりかねず、FATF 審査に不利益が生じかねないうえ、万が一グレイリスト掲載等の事態に至れば、国際金融取引の円滑性を損ない、資金調達コストの上昇や対日投資の減少を通じて、我が国経済にも甚大な悪影響を及ぼし得る。
      • さらには、各法人が買収者や取引先の実質的支配者を適切に把握できず、懸念国や犯罪組織に関係する主体がわが国企業を買収したりサプライチェーンに入り込むリスクを見過ごすこととなり、わが国の経済安全保障上も非常に問題である。
    2. 社会的必要性
      • BO 登録・開示制度は、AML/CFT のための行政的な基盤となるにとどまらず、企業取引、資本市場、消費者保護及び許認可行政等の幅広い分野において、透明性と信頼性を支える基礎的なインフラとして機能する。法人の実質支配関係の頂点に立つ自然人の情報が公的に集約・検証されることで、実質的な支配関係の把握が容易となり、民間取引及び行政執行における透明性・信頼性の確保や法令のエンフォースメントの実効性向上に大いに寄与する。以下、その具体例を述べる。
      • 第一に、AML/CFT の実効性向上や経済安全保障の強化である。取引の相手方の BO を迅速かつ確実に確認することは、反社会的勢力の排除、経済制裁への対応、利益相反関係の把握等の観点から不可欠である。取引相手の BO が把握できなければ、サプライチェーンの中に反社会的勢力のフロント企業や懸念国と密接な関係を有する企業が入り込むリスクを払拭できないことになり、AML/CFT の観点から極めて問題であるだけでなく、わが国の経済安全保障の観点からも重大なリスクを抱え込むことになる。また、法人の BO が確認できなければ、わが国企業が反社会的勢力や懸念国の密接関係者によって買収されることを検知できず、 AML/CFT の面で重大な問題を生じさせかねないばかりか、わが国の経済安全保障も脅かされかねない。
      • 第二に、ウルフパックによる上場会社の経営支配権奪取問題への対処である。外国籍の投資家を含む複数の投資家から成るグループが、大量保有報告規制を潜脱して自らの実態を明らかにすることなく、臨時株主総会招集請求等を用いて上場会社の経営支配権を奪取する動きが広がっており、しかも経営支配権を奪取された会社は「ハコ会社」として利用される場合も多く、大きな社会問題となっている。この問題については、金融商品取引法の令和 6 年改正・令和 8 年改正による大量保有報告規制の強化で一定の対応が図られているが、BO 情報の集約・可視化は、ウルフパック集団の実態把握を容易にすることで、大量保有報告規制等のエンフォースメントの実効性を大きく向上させ、資本市場の透明性・公正性の向上に大きく貢献する。
      • 第三に、詐欺的商法・悪徳商法に対する消費者保護の強化である悪質な消費者被害等を生じさせるグループは、いわゆる「フェニックス企業」方式(意図的に倒産させた後に同一人物が新会社を設立し事業を継続する手法)を利用して、次々と法人を替えながら事業を継続することが多い。しかしながら、現行制度の下では、消費者被害等を引き起こしたグループが、特商法違反等に基づいて処分を受けた後に、それまで事業を行っていた法人を解散し、新たに別法人を用いて同様の事業を継続する場合、背後の BO の同一性を確認する手段がなく、消費者被害等の再発を防止することが極めて難しい。英国では、PSC 登録簿と取締役資格剥奪登録簿(Disqualification Register)との照合により、このような法人を実質的に支配する自然人や問題のある取締役を追跡することが可能となっており、わが国でもBO 制度を活用することで、「フェニックス企業」方式を利用する悪質な自然人(グループ)による消費者被害等を防止することが期待できる。
      • 第四に、許認可行政との連携である。近年、法人の支配構造が複雑化し、取締役や株主に関する形式的な情報のみでは実質的な支配者を十分に把握できない場合がある。このため、許認可審査、監督行政及び各種の行政処分の実効性を確保する観点からも、BO を迅速かつ確実に確認できる制度基盤が必要である。
  2. その他の留意事項
    1. BO 登録制度の対象範囲
      • BO 登録制度は、上場会社を除く全法人を対象とすべきである。対象を限定すれば制度の抜け穴となり、その実効性を損なう。対象範囲を不当に狭く設定した場合にいかなる問題が生じるかは、ドイツの例が如実に示している。即ち、ドイツでは、2017 年の登録制度導入当初、法人形態の大半を占めるGmbH(有限会社)等が実質的に適用除外とされていた。このことが FATF 第 4 次対独相互審査報告書において問題視され、勧告 24 について Partially Compliant(PC)という低い評価を付されたため、ドイツでは、その後、全法人対象とする抜本的な改正を余儀 なくされるに至っている。
    2. 執行・制裁の実効性について
      • 制度の実効性を確保する上で、届出義務のエンフォースメントの実効性を確保するための不履行への制裁措置は非常に重要である。わが国では過料や刑事罰による制裁に実効性が乏しいことに鑑みれば、過料や刑事罰に加え、過料・刑事罰と組み合わせた段階的な制裁体系の構築の一つとして、一定期間の届出不履行による登記閉鎖を導入することが望ましい。登記閉鎖は、「抹消」とは異なり法人格の消滅を伴わないものの、法人としての登記上の存続が否定されることで、銀行口座の利用、契約の締結等の法律行為に重大な支障を来たすことから、事業者にとって義務を履践する強力な動機となる。他方で、登記閉鎖は届出義務を履行すれば速やかに解消することが可能であり、法人格の消滅を伴うものではないことから、制裁として苛酷なものではない。この点、英国やフランスでは年 1 回の BO 登録更新の不履行について、一定の要件の下で登記抹消手続を開始できる制度が設けられている。
    3. BO 情報の閲覧について
      1. 行政機関による閲覧
        • FATF 勧告が求める権限ある当局の BO 情報へのアクセスは、制度の根幹を成す。金融庁、警察庁、国税庁、財務省、法務省、公安調査庁等の各省庁がタイムリーに BO 登録簿の情報にアクセスできることを確保すべきである。また、第1の2で述べたとおり、BO 登録・開示制度が幅広い分野において透明性と信頼性を支える基盤として機能することを踏まえれば、行政機関による活用は AML/CFT 目的に限定されるべきではない。FATF 勧告 24 は、2022 年改正で、公共調達を含む幅広い行政目的のためのBO 情報活用を明示的に認めているほか、OECD も、BO 情報は税務執行のみならず、反腐敗、制裁執行及び各種規制・監督において重要な役割を果たすことを指摘している。BO 情報を利用する目的をAML/CFT に限定しない制度設計は、国際的にも広く採用されているアプローチである。
      2. 特定事業者及び正当な利益を有する者による閲覧
        • わが国の制度設計においても、行政機関に加えて、特定事業者(犯収法上の AML/CFT 確認義務主体)及び正当な利益を疎明した者に、相手方の同意を要することなく BO 登録簿への閲覧を認める枠組みを構築すべきである。
        • 例えば、英国やカナダでは、登録情報のうちプライバシーに関わる一定の個人情報を除き、BO 登録簿が原則として一般に公開されている。また、EUは、AML/CFT 確認義務主体に加え、ジャーナリスト、市民社会団体、研究者のほか、取引関係を検討する者といった「正当な利益」を有する者にも BO登録簿へのアクセスを広く認める方針を打ち出している。
        • わが国において、行政機関以外の閲覧制度を導入するにあたっては、当然のことながら、閲覧者の範囲、閲覧目的の限定、閲覧記録の管理等について個人情報の保護 と BO の透明性の確保とのバランスを考慮すべきであるが、そもそも「法人」を利用することによって出資者は様々な制度的な便益を享受できるのであって正当な理由に基づく一定の負担は甘受すべきであり、第1の2で述べた社会的な必要性に鑑みれば、特定事業者(犯収法上の AML/CFT 確認義務主体)に限らず、「正当な利益」を有する者には広く閲覧権を付与すべきである。このように、特定事業者に限らず、正当な利益を疎明した者にBO 登録簿の閲覧を広く認めることは、民間取引における自主的なリスク管理の促進に資するだけでなく、登録情報の不正確性を外部から検知する契機が創出され6、制度全体の信頼性及び透明性の向上にも貢献するものと考えられる。

カーシェアリングサービス「タイムズカー」が不正アクセスを受け、会員の運転免許証や学生証の画像などが流出した問題を巡り、個人情報保護法に詳しい板倉陽一郎弁護士が企業の情報管理のあり方を指摘しています。板倉氏は、今回の問題は個別企業に限らず、日常的に発生する情報漏えいの一例にすぎない可能性があると説明、個人情報保護委員会に報告された情報漏えいは、2025年度だけで約1万9000件に達し、そのうち、不正取得などを目的とした漏えいの可能性がある事案は約3800件に上っています。板倉氏が今回の問題で最も大きな論点とするのは、企業が利用者の身分証明書の画像を保管していた点です。個人情報保護法は、不要になった個人データを消去するよう企業に努力義務を課しています。タイムズカーでは、本人確認のために提出された運転免許証や学生証の画像が流出したとされますが、カーシェアサービスの性質上、登録時に運転免許証が必要だとしても、学生証まで必要だったのかは疑問が残ります。また、本人確認が終わった後も、これらの画像を継続的に保存する必要があったのかが問われています。金融機関などでは、犯罪防止や法令上の要請から顧客情報の長期保管が必要な場合がありますが、タイムズカーのようなサービスでは、身分証明書の画像を保管し続けなければならない明確な理由がない可能性が高いといえます。企業は、本人確認のために収集したデータを別の事業目的に流用せず、保管の必要性を個別に検討する必要があり、不要な情報を集めないこと、不要になった情報を速やかに消去することが、漏えい被害を抑える基本的な対策となります。さらに、企業には収集した個人情報をサイバー攻撃から守る十分なセキュリティ対策が求められますが、管理能力を超えるほど大量の個人情報を保有しながら、必要なセキュリティ投資を行っていない企業が漏えいを起こしている実態があります。現行の個人情報保護法には、セキュリティ対策への投資を怠った企業に対する直接的な罰則はなく、2031年ごろに予定される同法の見直しでは、対策不足による漏えいに対して課徴金を命じるなど、企業に安全対策を促す制度を検討すべきとの指摘があります。利用者個人ができる対策には限界があり、信頼できない企業に情報を渡さないことは重要ですが、サービス利用のために身分証明書の提出を避けられない場合も多く、パスワードやクレジットカード番号は変更できる一方、氏名や顔写真などの情報は、一度流出すると回収や変更ができません。今回の件では、4万人以上が集団訴訟の準備サイトに登録していますが、日本では懲罰的賠償制度がないため、損害賠償が認められても一件当たり数万円程度にとどまる可能性が高いといえます。身分証明書の画像をオンライン送信させる本人確認サービスは数多く、流出した画像が第三者によるなりすましに悪用される危険もあります。板倉氏は、画像を送信する方式から、マイナンバーカードなどのICチップ内の情報を確認する方式へ移行する必要があると提案していますがそのとおりかと思います。今回の問題は、企業が保有する個人情報の量と保管期間を見直すだけでなく、本人確認の仕組みそのものを社会全体で再検討すべきことを示しているといえます。

企業に対するサイバー攻撃が相次いでいるのを受け、金融庁は、銀行や証券、保険会社などの金融機関に対し、安全対策の点検と必要な措置をとるよう注意喚起しています。また、金融サービスの利用開始にあたり、本人確認の手段をICチップ情報の読み取りに切り替えることを求めています。不正アクセスによる企業からの情報漏洩が相次ぎ、金融機関では大和証券や損害保険ジャパン、岩手銀行、四国銀行等が、顧客の情報が流出した可能性があると発表しています。また、前述のとおり、タイムズカーでは、運転免許証の画像などが流出しました。2027年4月に改正犯罪収益移転防止法が施行されるのに伴い、口座開設などの際の本人確認の手段は、画像送信による方法が廃止され、ICチップ情報を読み取る方法に原則一本化される予定ですが、利用者に不安が広がるのを防ぐため、金融庁は施行日を待たず、できるだけ早く対応するよう求めています。片山金融相は「利用者に不安が広がることのないように対応状況の速やかな点検や必要な措置を求めたい」と述べています。

▼ 金融庁 現下の情勢を踏まえたサイバーセキュリティ対策の強化と各種取引申込等における対応について
  • 令和8年10月9日、金融庁は、現下の情勢を踏まえ、下記のサイバーセキュリティ対策と各種取引申込等における対応について、金融機関等に注意喚起を行いました。
  • 現下の情勢を踏まえたサイバーセキュリティ対策の強化と各種取引申込等における対応について(注意喚起)
    • 昨今、インターネット上に公開している顧客向けサービスや業務システムに対する不正アクセスが相次ぎ、当該顧客に係る運転免許証等の本人確認書類の画像情報を含む顧客情報等が漏洩するといったサイバーインシデントが発生しています。
    • 各金融機関等においては、「金融分野におけるサイバーセキュリティに関するガイドライン」や「フロンティアAIによる脅威変化を踏まえた金融機関等の短期的な対応」に係る要請を踏まえ、経営陣のリーダーシップの下、自組織の規模・特性等に応じた対応を行うことが引き続き重要です。
    • なお、金融機関が非対面で顧客の本人確認を行うに際しては、犯罪収益移転防止法等に基づき、本人確認書類の厚みのほか、顧客本人の容貌写真等も確認することとなっておりますが、なりすましの手口が巧妙化している中、各金融機関等におかれて は、今後とも、金融サービスの不正利用を防止し、金融サービスへの信頼を損なうことのないよう対応頂きたいと考えております。
    • こうした現下の情勢を踏まえ、下記内容をご確認の上、対応をよろしくお願いいたします。
      1. 各金融機関等において、内閣官房国家サイバー統括室からの注意喚起「不正アクセスによる漏えい等の事案を踏まえた対応について」(令和8年10月9日)や、今後、公表情報等を通じて明らかとなる攻撃の原因・手口等を踏まえ、サードパーティリスク管理やインシデントが起きた場合の対応態勢も含めたサイバーセキュリティ対策について、点検すること。点検の結果、不十分な点が認められた場合には、リスクに応じて必要な措置を速やかに講じること。
      2. 非対面で顧客等の本人確認を行うにあたっては、本人確認書類の画像に不自然な点がないか、また、顧客の容貌の画像に不自然な点がないか等、改めて確認を徹底すること。
      3. 犯罪収益移転防止法施行規則の改正により、施行日である令和9年4月1日より、本人確認方法として、本人確認書類の画像送信を受ける方法は廃止し、不正対策として極めて効果が高い、ICチップ情報の読取に原則一本化されるところ、現下の情勢を踏まえ、施行日を待たず、可及的速やかな対応を図ること。

前述のとおり、タイムズカーを運営するパーク24で、2026年9月25日に外部からの不正アクセスが発生し、最大約660万件の会員情報が流出しました。翌26日までに通信経路は遮断されましたが、その約22時間の間に第三者が情報を抜き取ったと確認されています。対象には現会員だけでなく、過去7年間に退会した人や入会途中で離脱した人も含まれ、 流出した可能性があるのは、氏名、住所、生年月日、電話番号、メールアドレス、暗号化されたパスワード、連携サービスIDなどで、クレジットカード情報はシステムに保存されておらず、漏えいしていないとされます。また、パスワードは復元が困難な形式で暗号化されているため、直接の悪用リスクは比較的低いとみられていますが、約160万件では、運転免許証、学生証、公共料金請求書などの本人確認書類画像も流出、運転免許証には氏名、住所、生年月日、顔写真、免許証番号などが記載されており、パスワードやカード番号のように簡単に変更できないため、被害が長期化する危険があります。想定される主なリスクは三つあります。第一に、流出画像を使って本人になりすまし、eKYCを突破して銀行口座、クレジットカード、ローンなどを不正に契約される可能性です。AIによるディープフェイクで静止画から動画を作り、本人確認をすり抜ける手口も懸念されます。第二に、フリマアプリやマッチングアプリで、詐欺業者が流出した免許証を自分の身分証として悪用する可能性です。第三に、タイムズカー利用者であることを知られた上で、同社を装った精巧なフィッシングメールやSMSが送られる危険が高まることです。利用者には、信用情報機関のJICCやCICが提供する「本人申告」制度の活用が案内されています。本人確認書類の流出を登録すると、金融機関やカード会社が新規契約を審査する際に注意を促せます。登録は最長5年間有効ですが、申告が急増したことで電話がつながりにくくなったり、アプリ受付が一時停止したりする影響も生じました。さらに、タイムズカーと同じパスワードや連携IDを他サービスで使い回している場合は変更し、カードや銀行口座の利用明細を定期的に確認する必要があります。また、不審なメールのリンクは開かず、公式アプリやブックマークから正規サイトへアクセスすることも重要で、不安がある場合は、警察相談窓口「#9110」や運転免許センターへの相談も選択肢となります。免許証の再交付を受けると交付日や再発行回数を示す末尾番号が変わるものの、流出画像を無効化できるわけではなく、効果は限定的だと指摘されています。ただし、将来なりすまし契約が発生した際に、古い情報が悪用されたことを示す材料にはなり得ます。問題を拡大させた背景には、前述のとおり、パーク24が本人確認後も免許証画像を独自判断で退会後7年間保管していたことがあります。氏名や住所などは法人税法上の保存義務を理由に保管していましたが、免許証画像には同様の法的義務はなく、なりすまし防止や問い合わせ対応を目的に保存していました(同業他社には、入会審査完了後に画像を削除する事例もあります)。個人情報保護法は、利用の必要がなくなった個人データを遅滞なく消去するよう事業者に求めており、専門家は、本人確認が済んだ時点で画像を削除するか、外部ネットワークから切り離された環境で厳格に管理すべきだったと批判、国土交通省も、カーシェア事業で免許証画像の保存自体は必須ではないと説明しています。今後は、運転免許証やマイナカードのICチップから必要な情報だけを取得し、顔写真などを速やかに削除する仕組みの普及が期待されます。ただし、企業には取得情報を必要最小限に抑え、保存期間やアクセス管理を明確にする責任が残ります。生成AIによって攻撃のコストが下がり、精度の高い公的情報がダークウェブで高値取引される可能性もあるため、経営層によるデータ管理の抜本的な見直しが不可欠だといえます。利用者の不安は強く、集団訴訟に向けた専用サイトには開設後短期間で約1万人が登録、弁護士は、個人情報を適切に管理する義務を怠ったとして損害賠償請求を検討しています。一連の問題は、便利なオンラインサービスに個人情報を預ける際のリスクと、企業が不要な本人確認データを長期間保管する危険性を改めて示したものといえます。

AML/CFT/CPFを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 兵庫県警生田署は、特殊詐欺の被害金などを自分の口座から複数の口座へ送金し、報酬を受け取ったとして、神戸市中央区のアルバイト女性(29)を犯罪収益移転防止法違反の疑いで神戸区検に書類送検しました。女性は2026年7月、SNS上の「短時間で稼げるバイト」という広告をきっかけに知り合った人物から、LINEで送金先などの指示を受け、女性名義の2口座には計約176万円が49回に分けて振り込まれ、その後、指定された32口座へ56回にわたり送金したとされます。女性は送金の報酬として3万1000円を受け取っており、警察の調べに対して容疑を認めているといいます。振り込まれた金は特殊詐欺の被害金などとみられ、犯罪組織が資金の出所を隠すマネロン利用した可能性があります。 女性は送金を繰り返していたが、金融機関から口座凍結の連絡を受け、銀行への相談を通じて事件が発覚しました。女性は「口座が止められなければ送金を続けるつもりだった」と話しているといいます。報酬目的で犯罪収益を移す「送金犯罪」は、2026年7月の法改正で罰則が新設され、反復継続して行う「業として」の送金犯罪としての摘発は全国で初めてとなります。事件は、SNSなどで勧誘される高収入の「送金バイト」が、犯罪収益の移転に加担させられる危険性を示しており、実際に女性は身元不明の人物から指示を受け、複数の口座を経由して多額の資金を動かしていたため、兵庫県警は背後にいる犯罪組織や指示役についても捜査を進めています。
  • 宮崎県警は2026年9月、特殊詐欺グループが得た犯罪収益を暗号資産に交換して隠匿したとして、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)の疑いで、東京都の会社役員と父親、千葉県の容疑者の3人を逮捕しました。3人は2025年10月と2026年2月、詐欺グループが愛知県の40代女性と三重県の70代女性からだまし取った現金を含む計約340万円を、自らが管理する口座に送金させたうえ、暗号資産「テザー」に交換して隠した疑いが持たれています。県警は、容疑者らが特殊詐欺グループから依頼を受けるなどして、2025年10月から2026年4月までの間に、40億円を超える犯罪収益のマネロンに関与したとみています。警察は、暗号資産への交換を通じて詐欺被害金の出所を分からなくし、犯罪収益を移転・隠匿する役割を担っていた可能性があるとみて、資金の流れや他の関係者について捜査を進めています。
  • 警視庁などの合同捜査本部は、特殊詐欺やSNS型投資詐欺の被害金を暗号資産に交換して流れを隠し、詐欺グループへ戻していたとして、大阪府泉佐野市の人材派遣会社「Weather」代表取締役ら6人を、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)の疑いで逮捕、同社も法人として書類送検される方針で、容疑者らの認否は明らかにされていません。容疑者らは国の登録を受けず、現金と暗号資産を交換する「相対屋」として詐欺グループの依頼を受け、2024年2月、SNS型投資詐欺の被害金を含む約440万円を同社名義の口座に入金し、暗号資産へ交換したうえで詐欺グループ側に戻した疑いがもたれており、国内の取引所でビットコインを購入し、海外の取引所でテザーなど別の暗号資産に替え、仲介役を通じて送金していたとみられています。海外取引所や複数の暗号資産を経由することで資金の追跡を困難にし、相対屋は交換額の1.1%、仲介役も一部を手数料として得ていたといいます。警視庁は、2024年2~3月に15都道府県の30人からだまし取られた約9100万円を、同様の手口で洗浄した疑いがあるとみて、詐欺グループとの関係や資金の流れを調べています。Weatherは詐欺グループ以外の一般客からも依頼を受け、無登録で暗号資産交換業を営んでいた疑いがあり、警視庁は資金決済法違反の可能性も捜査しています。暗号資産は匿名性が高く、サイバー空間で迅速に移転できるため犯罪収益の隠匿に悪用されやすく、2024年の不正送金でも約36.9%が暗号資産交換業者名義の口座へ送られており、政府は事業者に取引監視の強化を求めています。
  • 自分が管理する金融機関口座をSNS型投資詐欺グループに提供したとして、愛知県警は、犯罪収益移転防止法違反などの疑いでベトナム国籍の大学生(27)を逮捕しました。報道によれば、逮捕は6回目で、認否を明らかにしていません。容疑者が管理していた12口座に、13都府県26人の被害金計7440万円が振り込まれていたといい、西日本で活動する口座売買グループの上位者とみて調べています。逮捕容疑は、他の人物と共謀の上、2025年6月、口座のログインIDやパスワードを詐欺グループに提供して使わせた疑いです。
  • 凍結口座に不当な強制執行をかけて現金をだまし取ったとして、詐欺と公正証書原本不実記載・同行使などの罪に問われた運送会社元代表の被告の公判が、東京地裁で結審しました。報道によれば、被告はコンサルティング会社の実質的経営者(公判中)らと共謀、2024年に同社などが、被告が代表を務める複数社などに貸し付けがあるとする虚偽の公正証書を作成し、各社名義の凍結口座に強制執行をかけ、銀行から計約1億6000万円をだまし取ったとされます。検察側は論告で「公正証書の信用を損ねた悪質な犯行だ」と主張、弁護側は被告が従属的な立場だったとして、情状酌量を訴えています。口座には犯罪収益の入金があり、銀行側が凍結していました。

金融庁は、各業界団体との意見交換会において提起した論点について公表しています。直近の主要行等との内容から一部紹介します。

▼ 金融庁 業界団体との意見交換会において金融庁が提起した主な論点
▼ 主要行等(令和8年7月31日)
  • 特定回収困難債権買取制度等の活用促進について
    • 2011年5月の預金保険法改正により、債務者又は保証人が暴力団員である等の特定回収困難債権、いわゆる反社債権の買取りを預金保険機構が行う「特定回収困難債権買取制度」が導入された。
    • 制度開始以降、2026年6月末までに、金融機関101先から累計348件、約115 億円の債権買取を決定しており、多くの金融機関に本制度を積極的に活用していただいているが、各金融機関においては、引き続き反社会的勢力との関係遮断に努めていただくとともに、仮に、反社債権の保有が判明した場合には、積極的に本制度の活用を検討していただきたい。
    • なお、特定回収困難債権の買取・回収業務は預金保険機構から委託を受けた整理回収機構(RCC)が行っているが、RCCでは債権の買取・回収業務以外に、地域経済活性化支援機構や中小企業活性化協議会では対応困難な事業再生案件への支援にも注力している。各金融機関においては、RCCの事業再生支援制度の活用も選択肢の一つとして検討していただきたく、併せて周知する。
  • AI 脅威に対する金融分野のサイバーセキュリティ対策強化について
    • 2026年5月22日、日本銀行と連名で関係する金融機関等に対し、フロンティアAI による脅威変化を踏まえた短期的な対応について、経営トップを含めた経営層 の直接関与の下で取り組むよう要請した。
  • 風水害リスクに関する金融機関の取組の動向や課題について
    • 2026年7月17日、金融庁は、気候関連リスクのうち、風水害に起因する損失リスク(風水害リスク)について、金融機関の管理態勢等に関する調査結果を取りまとめ、「風水害リスクに関する金融機関の取組の動向や課題」として公表した。
    • 同レポートでは、各金融機関にとって実践的な参考事例等を提供することを目的として、風水害リスクに関する金融機関の取組動向や課題について取りまとめており、金融機関において
      • 総じて風水害リスクを重要な経営リスクの一つとして位置づけ、リスク分析の精緻化や投融資判断への活用などリスク管理の進展がみられたこと
      • それぞれの業態のビジネスモデルに応じた顧客支援の取組が進展していること
      • 災害対応の経験を踏まえ、金融機関自身の業務継続計画(BCP)や適応策の見直し等も進められていること
    • 等を記載している。金融機関においては、風水害リスクをはじめとした気候関連リスク対応に関する、より良い実務の構築に向けて参考にしていただきたい。
    • 金融庁としては、金融機関の規模や特性、風水害リスクの状況等に応じ、各金融機関における気候変動対応の進め方が異なることを踏まえつつ、気候関連リスク管理や顧客支援の取組を、引き続き注視していく。
  • 不正利用口座の情報共有枠組み創設に伴う犯罪収益移転防止法施行規則の公布等について
    • 「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」( 2025年4月22日犯罪対策閣僚会議決定)において、預金取扱金融機関間で不正利用口座に係る情報を共有する枠組みの創設について盛り込まれたことを踏まえ、預金取扱金融機関が不正利用口座に係る情報共有を行い、犯罪収益移転防止のために必要な措置を講じるよう努めること等を「犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則」及び監督指針に規定するための改正を行い、2026年6月26日に公布・公表した。
    • 施行及び適用は、実際に不正利用口座に係る情報共有が開始される 2027年4月1日である。
    • 口座不正利用対策に抜け穴が生じないよう、原則としてすべての預金取扱金融機関が情報共有枠組みに参加するとともに、各金融機関が有する不正利用口座に関する正確な情報を速やかに提供し、かつ、他の金融機関から提供を受けた情報を速やかに整理・分析して適切なリスク低減措置を講じることが強く期待される。
  • 「マネロン等及び金融犯罪対策の取組と課題(2026年7月)」の公表について
    • 2026年7月3日、「マネロン等及び金融犯罪対策の取組と課題(2026年7月)」を公表した。
    • マネロン等対策については、2024年3月末の態勢整備期限を過ぎて、ほぼ全ての 金融機関において基礎的な態勢整備を完了しており、金融活動作業部会(FATF)第5次対日相互審査も見据え、直面するリスクに応じて継続的に態勢を高度化することが重要である。金融庁も、2025事務年度より検査等において各金融機関における有効性検証の取組状況を確認してきたところであり、本レポートでは確認された課題事例等について紹介している。
    • 金融犯罪対策については、被害状況が年々、深刻な状況となっている中、金融機関においては、他の金融機関や警察との情報共有・連携が重要となっており、こうした連携に係る取組等について記載している。
    • 各金融機関においては、本レポートも参考に、自らのマネロン等対策・金融犯罪対策の高度化に取り組んでいただきたい。
  • 2026 年6月FATFプレナリー会合について
    • FATFは、2026 年6月17日から19日にかけて、プレナリー会合(総会)を開催した。主要な採択事項を3点御紹介する。
    • 1点目は、2025年6月に最終化されたクロスボーダー送金の透明性に関する改訂勧告 16 について、FATF6月プレナリー会合にて、本改訂内容の詳細を説明したガイダンス案の市中協議実施が採決された。これを受け、2026年6月 24 日から市中協議が開始された。今回の改訂は、技術的かつ複雑な論点が多く、ステークホルダーも多岐にわたることから、金融庁としても、金融機関等の御意見をよく伺いつつ、ガイダンス案の最終化や国内実施に向けた検討を進めていきたい。
    • 2点目は、「DeFiに係る規制上の課題に関する報告書」の採択である。同報告書は、DeFiに関するML/FT/PFリスクの特定、FATF基準の適用可能性の明確化、好事例及び、官民への推奨事項などを提示している。また、暗号資産に関するFATF基準(勧告15)の実施状況や新たなリスク等について取りまとめた年次報告書も採択・公表された。
    • 3点目は、FATFの2026年-28年におけるワークプログラムの採択である。FATF の注力分野には、リスクベース・アプローチ/監督の促進、暗号資産に関する勧告15の更なる実施促進、改訂勧告16ガイダンスの最終化と勧告16の実施促進、詐欺対策、官民・民民の情報共有が含まれている。

海外におけるAML/CFT/CPFを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • スイス金融市場監督機構(FINMA)は、プライベートバンク大手ジュリアス・ベアについて、リスク管理とマネロン対策に関する重大な監督規定違反があったとの調査結果を公表し、同社への法執行手続きを終了しました。調査対象は、欧州企業グループと創業者へのプライベートデット事業、および「政治的に影響力のある人物(PEP)」に指定されたロシア人2人に関する顧客関係で、同社は2019年9月以降、前者への融資を拡大し、信用供与額は最終的に10億スイスフランを超えており、FINMAは、ジュリアス・ベアが多数の懸念すべき兆候を見過ごし、内部のリスク限度を超えた不透明な取引を継続した結果、2023年末時点で5億8600万スイスフランに達したエクスポージャーを全額減損処理せざるを得なくなったと説明、また、ロシア人PEP2人に関連する高リスク顧客について、数年間にわたって資産の出所を十分に確認せず、マネロン対策上の報告義務にも違反したと指摘し、今回の事案は同社のリスク管理・コンプライアンス文化の不備を示す重大な違反だと評価しました。FINMAによるジュリアス・ベアへの法執行手続きは、過去10年足らずで5件目となり、規制当局は、不適格な顧客との取引関係を解消する計画が完了するまで、2億5000万スイスフランの追加資本を保有するよう命じたほか、2032年までコンプライアンス報告書を提出させる措置を決定しました。追加資本要件は従来の5億スイスフランから引き下げられたものの、配当など株主への支払いには事前承認を必要とし、違反の疑いがある元従業員3人への手続きも開始しました。これに対しジュリアス・ベアは、問題となったプライベートデット事業から撤退し、リスク管理とコンプライアンス体制を見直したと説明、ステファン・ボリンガーCEOは、一連の大規模な改革によって、同社がより簡素で強固な組織となり、明確な戦略と安定した基盤を備えたと強調しています。今回の措置は法的手続きの終了を意味する一方、長期的な監督と資本・報告義務を通じて、同社の内部統制改善を継続的に検証するものとなります。
  • 米銀行規制当局は、アメリカン・エキスプレス(アメック​ス)に3億5000万ドルの制裁金を科しました。マネロンを検知する同社の体制が不十分で、数十億ドル規​模の疑わしい取引を見逃した可能性​があるとしています。米通貨監督庁(OCC)と⁠米連邦準備理事会(FRB)が処分を発表​したもので、アメックスが主に傘下の銀行を通​じて運用するマネロン対策の法令順守体制について、経営資源の不足、職員の経験不​足、研修の不十分さ、内部統制の不​備などを指摘しています。アメックスは当局の認定内容を認‌めも⁠否定もしていません。OCCは、監視・報告体制の「組織的な機能不全」により、同社が過去10年間で約130億ドルに上る疑わしい取引の​特定、評​価、十分⁠な報告ができていなかったと指摘しました。アメックスのスティ​ーブン・スクエリCEO⁠は声明で、指摘された懸念事項への対応と法令順守体制の継続的な改善に「⁠全力​で取り組んでいる」と​表明、制裁金と当局の要求に対応するための費用は2026年と27年の​業績見通しに影響しない見込みだとしています。
  • ロイター通信は、レバノンの親イラン組織ヒズボラが、イスラエルとの戦闘で避難した住民を支援するため、9月にイランから約2億ドル(約310億~316億円)を受け取ったと報じています。米国の厳しい対イラン制裁下にもかかわらず、イランは仲介業者などを介した独自の送金網を使い、ヒズボラへの資金提供を続けた可能性があります。支援金は、イスラエル軍の攻撃で住宅や村を失った避難民を中心に、約5万世帯へ給付される見通しで、当初は1世帯当たり3000ドル(約47万円)が想定されています。ヒズボラ側は資金を確保したとして、数日以内に配布計画を発表する方針を示しましたが、具体的な資金源は明らかにしていません。レバノンでは2026年3月以降、イスラエルとの戦闘が再燃し、停戦合意後も散発的な交戦が続いています。これまでにレバノン側で4300人以上が死亡し、イスラエル軍の破壊活動によって5000戸以上の住宅が全壊するなど、数十万人が避難を余儀なくされています。ヒズボラはイランを中心とする「抵抗の枢軸」の一角であり、イランは今回の給付を通じて、被害への対応を求めるレバノン住民の不満を抑え、同国や地域における影響力を維持する狙いがあるとみられています。一方、米国務省は資金提供の事実を否定し、ヒズボラが虚偽の情報で体面を保とうとしていると批判し、米財務省もイランには資金や送金手段が不足していると主張しており、巨額送金の真偽をめぐって見解が対立しています。

(2)特殊詐欺を巡る動向

警察庁は、インターネットを利用した詐欺の被害額は2026年上半期(1~6月)に1755億円だったと発表しました。1年間の被害額が過去最多だった2025年(3184億円)の上半期と比べて45%増加し、前年を上回るペースの被害となっています。情報通信の技術の向上とともに、多くの犯罪でネット空間が悪用されている現状があり、ネットを利用した犯罪の認知件数は右肩上がりに増加しています。2026年上半期は3万838件(前年同期比30%増)で、このうち約9割が詐欺だったといいます。上半期のネット利用の詐欺被害額を手段別などでみると、内訳は「通話・通信アプリ」が84%(1473億円)でほとんどを占め、「ネットバンキング」が9%(153億円)、「電子メール」が3%(48億円)などでした。ネット空間が利用された詐欺被害額は2022年に380億円、23年に772億円、24年に2380億円と急増を続けていますが、SNS型投資・ロマンス詐欺を含む特殊詐欺の深刻な被害が続いていることが背景にあり、2026年上半期は1816億円(暫定値)で、1年間で過去最悪だった2025年の同期を上回る被害となっています。本コラムで継続的に取り上げていますが、ネットを利用した犯罪は、特殊詐欺のほか、ネットバンキングの不正送金や、会社の経営者になりすましてメールなどを送って送金させるニセ社長詐欺、暗号資産を悪用したマネロンなどがあり、ネット上の技術やサービスが犯罪のインフラとして悪用されている実態があります。

SNSで「海外で高収入」「短期間で最低60万円」などとうたう求人に応募した若者が、東南アジアへ渡航後、特殊詐欺の実行役として拘束される被害が相次いでいます。警察当局は、トクリュウが海外の犯罪組織と結託し、若者を巧みに勧誘して犯罪拠点へ送り込んでいるとして、危険な求人に応じないよう呼びかけています。20歳代の女性は、通信サービス上で募集されていた「女性コンパニオン」の仕事に応募し、渡航費や衣装代を負担する、日本人通訳がいるため語学力は不要などと説明されたことで信用したものの、カンボジア到着後に車へ乗せられ、パスポートとスマホを取り上げられたうえ、集合住宅で「1000万円で売られた。働かなければ帰国できない」と脅され、特殊詐欺のかけ子を強要され、体調を崩し、約2週間にわたって仕事を拒否した後、日本大使館に助けを求めて保護され帰国したものの、移動中に命の危険を感じたと振り返っています。勧誘時には、秘匿性の高い通信アプリを「現地スタッフとの連絡に必要」と説明されて導入させられており、犯罪組織は正当な求人を装いながら応募者を管理していたといいます。警察庁によれば、2025年のトクリュウの摘発人数は2024年より2割増えて1万2178人に上り、約4割がSNSの闇バイトなどを通じて犯罪に加担していました。特に資金獲得犯罪では20代が最も多く、指示役は身元を隠し、リクルーターを介して集めた若者を使い捨てにしているほか、裁判でも海外リゾート求人を装った勧誘の実態が明らかになっています。日本の警察はタイ、カンボジア、フィリピン、マレーシアの詐欺拠点で関与者を逮捕しており、警察庁は、知人の紹介であっても「海外でもうかる」という誘いを安易に信じず、少しでも不審な仕事には応募しないよう警告しています。

カンボジア北部オスマックでは、日本人を含む外国人を狙う大規模なオンライン詐欺拠点が運営されており、施設には東京地検の検察官や各国の警察官を装う日本語・外国語の台本、被害者の個人情報や資産状況を管理する書類、相談を妨げるため「最初の72時間は誰にも話さない」と指示する手順が残されていたといいます。約80万平方メートルの敷地には157棟の建物があり、詐欺に使われた29棟では1万5000人以上が働いていたとタイ軍は説明しています。施設はカジノを中心とするリゾートとして整備されましたが、コロナ禍で観光客が減ると詐欺グループが入居し、収益拡大とともに巨大な犯罪拠点へ変貌したといい、拠点は標的国や業務ごとに分けられ、各国の警察署・金融機関を模した部屋が設けられていたといいます。作業員には日・週・月単位の目標額が課され、達成すれば娯楽や飲食などの報酬を与えられた一方、失敗すると借金の返済を迫られ、拘禁や臓器売買を示唆されることもあったといい、狭い拘禁房には監視カメラや警棒が備えられ、逃亡や規則違反への懲罰に使われたとされたほか、敷地内の病院には産婦人科設備や性感染症検査施設があり、女性の中絶手術に加え、手術室が臓器摘出に利用された可能性も指摘されています。なおタイ側は、この施設が詐欺拠点であるだけでなく、タイとカンボジアの武力衝突の舞台だったと強調しており、カンボジア軍が指揮所や狙撃地点として施設を利用し、詐欺グループもドローンや拳銃でタイ軍の行動を妨害したため、両者が協力していたというのがタイ側の主張です。タイは自衛権に基づく制圧だったと説明していますが、カンボジアは詐欺拠点の存在と領有権問題は別だとして反発しています。両国は武力衝突後、外国メディアや国際社会に自国の正当性を訴える「情報戦」を続けており、タイが施設を再公開した背景にも、カンボジア側の説明に対抗する狙いがあるとみられています。

こうした状況の中、バンコクでは日本人を含む特殊詐欺グループも相次いで摘発されました。高級住宅から、日本の警察官を装うための偽の警察手帳、制服、携帯電話、詐欺電話の台本などが押収され、日本在住者に「違法な荷物を所持している」と脅して金銭をだまし取っていた疑いが持たれています。拘束された15人には日本人4人のほか、中国人、台湾人、ミャンマー人も含まれ、中国人主導の組織とみられています。別の事件では、タイ国境地帯で20代の日本人2人が保護され、詐欺の「かけ子」を強要された人身売買被害者の可能性があるといいます。また、東南アジアのラオスを拠点とする特殊詐欺事件に関与したとして、栃木県警は、東京都大田区の飲食店従業員ら23~64歳の男女9人を詐欺未遂容疑で逮捕、それ以外の8人は北海道、東京、神奈川、京都、沖縄の各都道府県の出身者だといいます。警察庁によれば、海外拠点の摘発により、日本に移送されるなどして検挙された人数は2022年はゼロでしたが、2023年69人、24年50人、25年54人と高止まりしており、この3年間を見ると、摘発された拠点は全て東南アジアで、国別でみると、カンボジア107人、フィリピン32人、ベトナム15人などとなりました、2026年上半期も37人が検挙されました。

カンボジア政府は、国際的な批判を受けてオンライン詐欺の撲滅を掲げ、2025年7月から翌年8月までに663カ所を摘発し、38か国籍の2万2000人以上を送還、29か国籍の3927人を起訴したと発表しました。2026年9月にはプノンペンで20か国以上、別の発表では27か国の司法当局や国際機関関係者を招いた国際会議を開催し、「カンボジアは詐欺の温床ではない」と強調しています。会議では、国家間の情報共有、違法収益の追跡・没収、デジタル証拠の収集などを盛り込んだ「プノンペン宣言」が採択されました。しかし、政府が大規模拠点を解体したと主張する一方、専門家や野党、国際人権団体は、詐欺組織を保護してきた政治的・経済的有力者への捜査が不十分だと指摘、一方、摘発を受けた犯罪組織は小規模化したり、周辺国へ移転したりして活動を継続しているとされ、当局との癒着疑惑も残っています。政府の対策委員会は、大型事件の首謀者を特定する証拠を収集していると説明していますが、捜査情報を早期に公表すれば容疑者が逃亡する恐れがあるとしています。詐欺産業は人身売買、臓器売買、マネロン、個人情報収集などを分業化した国境を越える犯罪(越境犯罪)へと発展しており、カンボジアは国際的なイメージ回復と観光・投資の回復を目指しながら、実効性ある取り締まりと政治的癒着の解消を迫られています。

愛知県警が2026年6月に摘発した特殊詐欺事件では、電話をかける「かけ子」がオンライン研修で詐欺の手口を学び、自宅などからスマホで被害者に電話をかけていたことが判明しました。警察は、詐欺グループが摘発を逃れるため、従来のような大規模な拠点を設けず、末端メンバーを遠隔で管理する形態「テレワーク型」に移行しているとみています。愛知県警は、警察官を装う「ニセ警察詐欺」の拠点とみられる名古屋市南区と愛知県日進市のアパートを捜索しましたが、逮捕されたのは50代の男2人にとどまり、一方の部屋は男の自宅、もう一方は「かけ場」として借りられていました。男らはトクリュウのメンバーで、知人を通じて勧誘され、指示役から支給されたスマホを使って自宅などから詐欺電話をかけていました。押収したスマホの解析から、指示役は秘匿性の高い通信アプリなどを用いて、複数のかけ子を遠隔管理していたことが分かったといいます。かけ子が被害者から聞き出した家族構成や資産状況は即座に共有され、通話内容を指示役が遠隔で監視できるアプリも導入されていました。さらに、被害者をだます文言や手順をまとめた詐欺マニュアルがアプリで配布され、オンラインの実践研修に合格した者だけがかけ子として採用されていたほか、通話中にマニュアルの文言を間違えると、話し方や修正点を助言するメッセージが送られる仕組みも存在、通話終了直後に自動的なメッセージが届いた例があることから、愛知県警はAIを組み込んだ「AI bot」が指示や監督の一部を担っていた可能性も調べています。このグループによる被害は2024年8月以降、少なくとも32件、総額約3億5000万円に達し、愛知県警は研修合格者80~90人が各自の自宅などで待機し、指示を受けて詐欺電話をかけていたとみています。同様の遠隔管理型(テレワーク型)の詐欺グループは他地域でも確認されており、警視庁は2026年8月、偽名を使って千葉、静岡、山梨などのホテルを転々とし、高齢者らに詐欺電話をかけていたとみられる男らを逮捕、押収されたスマホには、関西や中国地方などの方言ごとに書き分けられた詐欺の文句が残されていました。また、大阪府警が2023年に摘発したグループも、ホテルや自宅に人員を分散させる「テレワーク型」で活動していたとみられています。警察は、従来の詐欺拠点にはアパートの賃貸など多額の費用がかかるため、グループが末端メンバーを遠隔操作する方式を広げていると分析し、対策を強化しています。 国内での摘発強化を受け、詐欺グループが海外に拠点を移す動きも続いていますが、日本の警察と海外捜査機関の連携により、タイ・ミャンマー国境付近やカンボジア北西部ポイペトなどで大規模摘発が行われています。警察庁によれば、フィリピンやマレーシアなど海外拠点でかけ子などに関与した逮捕者は計54人に上り、警察関係者は、こうした摘発を受けてグループがさらに分散化し、小規模な集団へ移行している可能性があるとみています。

福岡県警は、東南アジアの拠点で特殊詐欺の「かけ子」をさせる目的で、30代の女性を監禁・連れ去ったとして、六代目山口組傘下組織組員ら男女5人を、所在国外移送目的略取と監禁の疑いで逮捕しました。5人は共謀し、福岡市内の飲食店で女性を約3時間半監禁し、「海外に行くしかない」「かけ子をして稼げ」などと脅したうえ、タクシーで福岡空港国際線ターミナルへ連行した疑いがもたれています。女性は渡航前に福岡県警の機動隊員によって保護され、事件が発覚しました。組員の男は約10年前から女性に金を貸しており、福岡県警は男が特殊詐欺の実行役を集める「リクルーター」だったとみています。なお、今回の摘発は福岡県警が所在国外移送目的略取容疑を適用した初の事例だということです。背景には、国内での摘発強化を受け、特殊詐欺グループが海外に拠点を移す動きがあります。警察庁によると、2025年はカンボジア、フィリピン、マレーシア、タイなどの拠点で拘束され、日本へ移送されるなどした54人が、詐欺容疑などで摘発され、さらに、リクルーターに「海外で簡単に稼げる」と勧誘された人が、現地でパスポートやスマホを取り上げられ、帰国のため高額な金銭を要求されたり、指示に従わない場合に暴力を受けたりする事例も確認されており、県警は暴力団の関与を含む事件の全容解明を進めています。

特殊詐欺の手口を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 採用面接で不採用とした人物に「稼げる仕事を紹介できる」と持ち掛け、トクリュウに紹介したなどとして、広島県警は7日、所在国外移送誘拐未遂と職業安定法違反(有害業務紹介)の疑いで、建設会社代表と元同社役員の容疑者2人を再逮捕しました。広島県警は、2人がトクリュウのリクルーター役だったとみています。報道によれば、2026年3月~4月、建設会社の採用面接で不採用にした県内の男性(35)に対し、「海外で稼げるテレアポの仕事を紹介できる」などと言ってトクリュウ側に紹介し、東南アジアに移送しようとした疑いがもたれています。両容疑者は同8月、同様の手口で1人を台湾に移送したとして、所在国外移送誘拐容疑などで逮捕されています。この男性は途中のタイまで渡り、日本大使館に駆け込み、事件が発覚しました。一連の捜査では、警察官をかたる詐欺電話の台本が見つかり、2人と共謀した人物がテレビ電話などを通して、勧誘した相手に台本を読ませ、かけ子の適性があるか判断していたとみて調べています。会社役員の女は2年前、道に迷った高齢女性を自宅に送り届けたとして県警から感謝状を贈られていたといいます。
  • ニセ警察詐欺に遭遇した女性から提供された録画映像を大阪府警が入手、トレンドマイクロが分析した結果、画面の男には通常のビデオ通話では見られない輪郭の揺れがあり、会話中にAIで顔を変える「リアルタイムディープフェイク」が使われた可能性が高いと判明しました。同社によれば、これまでこの技術は、別人になりすましてオンライン面接を受け、企業情報を盗む法人向け攻撃などで確認されていましたが、今回は、個人を狙う特殊詐欺にも利用された実例とみられ、無料で簡単に使える生成ツールの普及によって、専門知識のない犯罪者にも悪用が広がる懸念が示されています。大阪府警は録音・録画の一部を公式YouTubeで公開し、今回の手口を注意喚起しています。IT関係の仕事をする女性でさえ本物と偽映像を見分けられなかったことから、AI技術の発展に伴い、警察官の映像や音声を巧妙に再現する特殊詐欺が増え、被害がさらに拡大する可能性が指摘されています。
  • 特殊詐欺で購入させた延べ板などの金地金をだまし取る被害が急増し、2026年1~6月だけで81億3000万円に達し、2025年1年間の60億2000万円をすでに上回りました。被害の約3分の2に当たる約53億円は、警察官を装って「口座が犯罪に使われた」「金塊で送れば調査が早く済む」などと迫るニセ警察詐欺で、SNS型投資詐欺でも投資資金として金を購入させる被害が約20億円発生しています。金は銀行送金のような上限額設定や不審な取引を監視する仕組みが乏しく、高額でも持ち運びやすいため狙われているとみられています。金の価格の高騰も重なり、1件当たりの被害額は約5250万円と、特殊詐欺全体の平均の約10倍に達しています。犯人は被害者に金を購入させ、玄関先や公園のベンチなどに置かせて回収するほか、通信販売で購入・配送させる手口も用いており、回収役として海外で雇われた外国人が関与する場合もあります。また、被害者の9割は60代以上で、犯人から購入方法や販売業者まで細かく指示され、初めて金取引をする人も多くなっています。こうした実態を受けて警察庁は、業界団体を通じて販売業者に協力を要請し、購入目的や保管方法、受け答えの矛盾などを確認する数十項目のチェックシートを配布、犯人が回答内容まで指示する場合もあるため、複数の項目を組み合わせて不審点を見極め、必要に応じて警察へ通報するよう求めています(こうした取り組みは極めて興味深く、その効果を期待したいところです)。 さらに警察庁は、被害事例集の活用や店舗・電話販売担当者への研修、新規取引や会員登録時の購入金額・引き渡し期間の制限も要請、販売業者にとって負担は大きいものの、警察庁は業者の気付きを生かし、深刻化する金地金を利用した特殊詐欺の拡大防止を目指しています。

2026年1~8月末における特殊詐欺の認知・検挙状況等について公表されていますので、以下、紹介します。被害の全体像や近年急増しているニセ警察詐欺の現状と対策をより分かりやすくするため、「被害が急増している「ニセ警察詐欺」を独立した手口として位置付け」、「SNS型投資・ロマンス詐欺を特殊詐欺の一手口として位置付け」られています。SNS型投資詐欺の被害額が2025年同期比で1.54倍になっていること、ニセ警察詐欺の認知件数が減少に転じていること(詐欺グループの犯行に使われることが多い国際電話の遮断機能を持つアプリの活用や、SNSのグループトークに誘導する投資詐欺への警戒などを呼びかけるといった対策が効果を発揮しつつあります)などが特徴的です

▼ 警察庁 令和8年8月末の特殊詐欺の認知・検挙状況等について
  • 令和8年8月末における特殊詐欺の概要
    • 認知件数 29,687件、被害額 2,360.7億円(前年同期比+3,732件、+588.4億円)
  • 手口別の認知件数・被害額
    • SNS型投資詐欺 7,097件(+2,347件 / +49.4%)、937.4億円(+328.0億円 / +53.8%)
    • ニセ警察詐欺 6,346件(▲274件 / ▲4.1%)、728.6億円(+155.1億円 / +27.0%)
    • SNS型ロマンス詐欺 3,506件(+13件 / +0.4%)、325.8億円(+2.5億円 / +0.8%)
    • 架空料金請求詐欺 4,211件(+504件 / +13.6%)、97.5億円(+13.5億円 / +16.0%)
    • オレオレ詐欺 2,739件(+474件 / +20.9%)、104.2億円(+16.9億円 / +19.3%)
    • 還付金詐欺 2,058件(▲229件 / ▲10.0%)、46.5億円(+3.1億円 / +7.2%)
    • 交際あっせん詐欺 452件(+191件 / +73.2%)、14.7億円(+6.7億円 / +83.2%)
    • キャッシュカード詐欺盗 1,019件(+251件 / +32.7%)、10.8億円(+1.7億円 / +18.7%)
    • 金融商品詐欺 286件(+178件 / +164.8%)、28.4億円(+15.4億円 / +117.9%)
    • 融資保証金詐欺 268件(+5件 / +1.9%)、1.6億円(-1.0億円 / -38.9%)
    • 預貯金詐欺 667件(▲508件 / ▲43.2%)、6.0億円(▲6.9億円 / ▲53.3%)
    • ギャンブル詐欺 32件(+12件 / +60.0%)、0.9億円(▲0.2億円 / ▲20.1%)
    • その他の特殊詐欺 1,006件(+768件 / +322.7%)、58.3億円(+53.8億円 / +1,193.5%)
  • 警察庁推奨アプリの累計ダウンロード数(概数)
    • 2,214,500件

最近の特殊詐欺の被害事例から、いくつか紹介します。

  • 地元の不動産業者に紹介されたニセの病院関係者から抗菌剤の代理購入を依頼され、数百万円の現金をだまし取られる「代理購入詐欺」被害が宮城県内で相次いでいるといいます。同様の被害は全国でも相次いでおり、県警が注意を呼びかけています。報道によれば、宮城県内の建設会社役員は2026年7月、取引先の不動産業者から「病院からリフォーム業者を紹介してほしいと言われている」と連絡を受け、地元の病院長をかたる人物からリフォーム工事の依頼を受けたところ、「抗菌剤を扱う業者と関係が悪くなり、代わりに抗菌剤を購入してほしい」とも言われたため、紹介された抗菌剤の業者をかたる人物と連絡を取り合い、購入代金名目で指定口座に約200万円を振り込んだといいます。その後、振込先口座が個人名義だったことを不審に思い、実在する病院に連絡をとったところ、被害に気付いたものです。宮城県内ではこうした詐欺が同7~9月に計3件確認され、それぞれ数百万円の被害が出ているといいます。県警には同様の相談が複数寄せられているといい、担当者は「取引先からの連絡であっても詐欺の可能性がある。同様の連絡があれば県警に相談してほしい」と呼びかけています。
  • 警視庁特別捜査課は、副業紹介サイトの応募者から「開始には保証金が必要」とだまして暗号資産を送らせたとして、東京都港区の職業不詳の30代男性2人を組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)容疑で逮捕しました。報道によれば、仲間と共謀して2025年11月、サイトに応募した都内の20代女性へ虚偽の電話をかけ、約50万円相当のビットコインを詐取した疑いがもたれています。このグループは「携帯電話1台で気軽にできる副業」「在宅ワーク」などとうたうサイトを運営し、検索結果の上位に表示されるリスティング広告を悪用して応募者を誘導していました。応募後には、保証金や副業開始費用などの名目で暗号資産の送付を要求し、被害者の中には消費者金融から借金して購入資金を用意した人もいたとされます。警視庁は、逮捕された2人が詐取金の管理や、電話で被害者をだます「かけ子」の採用を担い、詐欺グループのトップとして全体を指揮していたとみており、これまでに、電話を担当した12人が詐欺容疑で逮捕・起訴されており、関連捜査が進められています。また同庁は、グループが2024年以降、同様の手口を全国で繰り返し、男女約1000人から暗号資産など計約15億円を詐取した可能性があるとみて、被害の実態や資金の流れ、2人の関与の程度を詳しく調べています。
  • 兵庫県警芦屋署は、芦屋市の65歳男性が警察官を名乗る男から「無実を証明するために資産状況をチェックする」などと電話で言われ、約8億2600万円相当の暗号資産をだまし取られたと発表しました。報道によれば、2026年9月、愛知県警の警察官を名乗る男から「あなたの金融機関の口座に19人から振り込みがあり、訴えを起こされている」と電話があり、さらに「資産移動すれば保全する方法がある」などと指示され、男性は預金や証券資産を暗号資産化し、男性名義の暗号資産保管用の「ウォレット」に送金、その後、相手の管理するアドレスに勝手に資産が送金されたといいます。男からさらに「保釈金が必要」などと電話を受けたことを不審に思い、警察に相談して被害が発覚したものです。
  • 大阪府警は、大阪府内に住む自営業の60代男性が、SNS上で株式投資を持ち掛けられ、現金や金地金で計約1億400万円をだまし取られたと発表しました。報道によれば、男性が2026年2月、株式投資の勉強会について紹介するサイトにアクセスしたところ、「総合金融事業」を手掛ける企業の代表取締役を名乗る男とSNSを介してやりとりをするようになり、その後、男から「山内京子」と名乗るSNSのアカウントを紹介され、その人物からの指示を受けて口座に金を振り込んだり、約4800万円相当の金地金を購入して自宅付近に来る複数の男に渡したりしたといいます。不審に思った男性が警察に相談し、同8月に府警が被害届を受理したといいます。
  • 愛知県警は、暗号資産の投資をもちかけられるなどして、愛知県内の女性2人がそれぞれ1億円超をだまし取られる被害にあったと発表しました。ロマンス詐欺事件とニセ警察詐欺事件として捜査しています。報道によれば、60代女性は2026年7~9月、SNS上で知り合った男性から事業を立ち上げるための資金として、27回にわたり計約1億7800万円の暗号資産をだまし取られたといい、5月からやりとりし好意を抱かせ、女性が少額を入金後、それを上回る額を返金し、投資で資産が増えていると信じ込ませていました。70代女性は、警察官を名乗る人物から「あなたが容疑者になっている」「口座の金が犯罪に使われたものか調べる」などといわれ、5回にわたり計約3600万円を指定された口座に振り込み、さらに、計約9800万円相当の金地金を購入して玄関先に置くように指示され、奪われたものです。
  • 滋賀県警東近江署は、警察官をかたる詐欺で、同県東近江市の60代の無職男性が計約5600万円相当の暗号資産をだまし取られたと発表しました。送金した相手に「捜査は東近江署に引き継いだので出頭するように」と促された男性が署を訪れて発覚したといいます。報道によれば、男性は2026年6月下旬、北海道警の警察官を名乗る人物から電話やLINEで「特殊詐欺の犯人があなたから口座を買ったと言っている」「あなたは重要参考人の立場になる」などといわれ、男性は容疑を晴らす名目で「全財産を送金して」と指示され、暗号資産を購入して49回にわたって送金したといいます。

本コラムでは、特殊詐欺被害を防止したコンビニや金融機関などの事例や取組みを積極的に紹介しています(最近では、これまで以上にそのような事例の報道が目立つようになってきました。また、被害防止に協力した主体もタクシー会社やその場に居合わせた一般人など多様となっており、被害防止に向けて社会全体・地域全体の意識の底上げが図られつつあることを感じます)。必ずしもすべての事例に共通するわけではありませんが、特殊詐欺被害を未然に防止するために事業者や従業員にできることとしては、(1)事業者による組織的な教育の実施、(2)「怪しい」「おかしい」「違和感がある」といった個人のリスクセンスの底上げ・発揮、(3)店長と店員(上司と部下)の良好なコミュニケーション、(4)警察との密な連携、そして何より(5)「被害を防ぐ」という強い使命感に基づく「お節介」なまでの「声をかける」勇気を持つことなどがポイントとなると考えます。また、最近では、一般人が詐欺被害を防止した事例が多数報道されています。特殊詐欺の被害防止は、何も特定の方々だけが取り組めばよいというものではありませんし、実際の事例をみても、さまざまな場面でリスクセンスが発揮され、ちょっとした「お節介」によって被害の防止につながっていることが分かります。このことは警察等の地道な取り組みが、社会的に浸透してきているうえ、他の年代の人たちも自分たちの社会の問題として強く意識するようになりつつあるという証左でもあり、そのことが被害防止という成果につながっているものと思われ、大変素晴らしいことだと感じます。一方、インターネットバンキングで自己完結して被害にあうケースが増えており、コンビニや金融機関によって被害を未然に防止できる状況は少なくなりつつある点は、今後の大きな課題だと思います。以下、被害を防止できた事例を紹介します。

  • 長野県須坂市で2026年8月、法律事務所職員を装った男が80代女性から現金200万円をだまし取った後、タクシーを利用して逃走しようとしました。男は北信タクシーに配車を依頼しましたが、配車係の森下さんは、男が現在地であるコンビニの地名を読めず、店員にも尋ねず番地だけを繰り返すことに違和感を抱きました。特殊詐欺にタクシーが使われる可能性を事前に知らされていた森下さんは、運転手の塚田さんに男を警戒するよう伝え、塚田さんも会話を続けながら服装や人相、持ち物を記憶、男が須坂駅で降りた約30分後、警察からタクシー利用の情報提供を求められると、塚田さんの記憶した特徴が手がかりとなり、男は同日中に詐欺容疑で緊急逮捕されたものです。2人は連携した機転を評価され須坂署から感謝状を贈られましたが、同署管内では2026年8月末までに特殊詐欺が12件発生し、被害額は約4000万円と前年同期比で倍増しているといいます。署長は社内教育の成果を早期検挙につながった要因と感謝しました。
  • 特殊詐欺の被害を防止したとして、鳥取県警浜村署は、JA鳥取いなば気高支店金融課の湯谷さん(28)と同課課長の山尾さん(44)に感謝状を贈呈しました。報道によれば、同支店の窓口で2026年8月、80代の女性に応対、「警察から、定期預金を普通口座に移すように言われたのでお金を移動させたい」と女性が話したことを不審に思い、湯谷さんは上司の山尾さんに相談、女性は「東京の警察から電話がかかってきた」などと話したため、2人は詐欺であることを疑い、女性を説得しながら110番したものです。署長が2人に感謝状を手渡し、湯谷さんは「被害を防げてよかった。この経験を生かして、大きな出金がある時は声を掛けたい」と話していました。同署管内で2026年の特殊詐欺被害は8月末までで11件あり、2025年1年間の件数(10件)をすでに超えていますが、一方で、同署管内の金融機関が特殊詐欺の被害を防止した事例は今回が今年で3例目だといいます。
  • 奈良信用金庫の職員、内田さん(27)が2026年7月の同じ日に、息子を名乗る犯人から現金が必要と電話を受けた高齢者2人への詐欺被害を防ぎました。内田さんは2026年度入庫の新人で、「今後も意識し、不自然な点がないか確認しながら応対したい」と話しています。報道によれば、閉店が迫るなか、高齢男性が「100万円を出金したい」と来店、窓口で応対した内田さんが詐欺防止用のチェック表の記入を依頼すると、「息子の携帯電話の番号が変わった」に当てはまり、続いて来店した男性の妻に息子に連絡を取ってもらい、詐欺と判明したものです。また、警察官が駆けつけた頃、別の高齢女性が現れ、400万円を出金したいと慌てた様子で訴え、女性も、息子の携帯電話番号の変更に該当、直前の事案もあり、内田さんは息子に連絡を取るよう女性に促し、息子につながった結果、詐欺と分かったものです。2件とも、息子をかたる犯人が「女性を妊娠させてしまい、示談金が必要」と持ちかける手口で、「息子と同じ声に聞こえた」と口をそろえたといいます。
  • ヨルダンから来日する女性に送金するという75歳男性のロマンス詐欺被害を、滋賀銀行と三菱UFJ銀行、甲賀署の連携によって未然に防ぐ事例がありました。男性は2026年8月、滋賀銀行大原支店で1000万円の引き出しを求めるも、使用目的を明かさず、別銀行へ資金を移すと話したため、パート従業員の西田さんと行員の増田さんが詐欺を疑い、増田さんは男性を説得して現金の引き出しを断念させ、警察へ通報したものの、男性はその後、三菱UFJ銀行草津支店へ預金を移す手続きを進めました。しかし、滋賀銀行から情報を受けていた同行の坂上さんが来店を確認して警察に連絡し、他の行員とともに説得を続けた結果、男性は閉店後に1000万円の送金を思いとどまったといいます。甲賀署はロマンス詐欺と判断し、3人に感謝状を贈ったものです。増田さんは金融機関が顧客の財産を守る立場として警戒を続ける意向を示し、吉川署長も、被害を自覚していない顧客の説得は難しいと説明しながら、今後も「トクまも運動」の推進に向けた警察と金融機関の協力を呼びかけました。

その他、特殊詐欺被害防止のための取組みついて、いくつか紹介します。

  • 電話による特殊詐欺の被害を防ごうと、京都府警生活安全企画課と上京署は、京都市上京区の京都第二赤十字病院で、詐欺被害対策の啓発活動を行いました。署員らは病院内に設置したブースで、固定電話での国際電話の利用休止を受け付けたり、「警察庁推奨特殊詐欺対策アプリ」のダウンロードを案内したりしたといいます。固定電話やひかり電話で特殊詐欺に使われやすい国際電話からの着信を休止したい場合、警察に申し込めば、無料で休止・ブロックする受付窓口「国際電話不取扱受付センター」に届けられる仕組みがあり、この日のブースでは10件の申し込みがあったといいます。また、スマホへの詐欺電話を自動でブロックできる機能を搭載した警察庁推奨のアプリもあり、府警の警察官らが待合室にいる外来患者ら約80人にダウンロードや利用方法を案内しました。
  • SNS上で有名人やインフルエンサーになりすましたアカウントが投資を勧誘し、利用者が偽物と気付かないまま送金して被害に遭う相談が相次いでおり、消費者庁はタヌキ、ウサギ、カワウソが登場する30秒の啓発アニメをウェブサイトで公開し、身近なSNSにも危険が潜んでいることを知らせています。アニメでは、タヌキがインフルエンサーのウサギを装ったカワウソの勧誘を信じ、指定された口座へ投資資金を振り込んだ結果、だまし取られる過程を描いています。この取り組みは、消費者庁、警察庁、金融庁などが2026年8月に決めたなりすまし詐欺対策の連携の一環であり、相談件数は2021年度の52件から2023年度には1661件へ急増し、2024年度に976件へ減少した後、2025年度には1322件に再び増加しました。詐欺では振込先に個人名義の口座を指定されるほか、画面上では利益が出ているように見せながら、出金時に拒否されるケースもあり、消費者庁は慎重な対応を呼びかけています。
  • 警察庁は、特殊詐欺被害金の送金先の口座情報をオンラインで照会できる協定をネット銀行など11銀行と締結しました。2026年10月1日から運用を始めるとしており、大手9銀行と合わせて協定の参加は20銀行となりました。新たに協定を結んだのはソニー銀行、ドコモSMTBネット銀行、auじぶん銀行、大和ネクスト銀行、ローソン銀行、みんなの銀行、UI銀行、野村信託銀行、GMOあおぞらネット銀行、あおぞら銀行、東京スター銀行で、都道府県警は警察庁を介してオンラインで詐欺の送金先となった口座の凍結を協定を結んだ銀行に依頼し、移転先の口座情報を照会、銀行は早ければ当日中に口座を凍結して送金先を回答するもので、被害金回復と警察の捜査をスムーズに進める狙いがあります。警察庁は今後も協定に参加する金融機関を増やし、対策網の拡大を目指すとしています。

(3)薬物を巡る動向

薬物密輸の罪に問われて無罪を主張する被告の公判で、東京地検が、被告と対話型生成AIとの「会話」履歴を証拠として提出したことが明らかになりました。荷物を受け取って報酬を得るリスクを質問し、「違法」と警告された内容で、検察側はこれを基に「(被告に)違法性の認識があった」と主張、AIの使用履歴が証拠として活用されるのは異例で、公判は2026年9月末に結審しています。AIが社会に浸透する中、そのやりとりが、罪を犯す意思(故意)を示す証拠となり得るのか、判決が注目されるところです。被告の男(35)は2026年3月にドイツから合成麻薬「MDMA」の錠剤約12キロを密輸したなどとして、麻薬取締法違反などで東京地裁に起訴されました。検察側が同7月の初公判で行った冒頭陳述や証拠の説明などによれば、被告は3月7日以降、SNSで知り合った人物から、50万円の報酬でドイツから届く荷物の受け取りを依頼され、同月の19日と31日、スマホで対話型生成AI「ChatGPT」とやりとりしたといいます。〈海外から荷物を受け取って報酬50万円を得るリスク〉と質問し、AIから〈かなり危険な可能性が高い。やめた方がいいレベル。薬物・違法物である〉との回答を得ており、さらに、〈海外からの荷物で税関を通過したものは違法か〉と尋ねると、〈税関通過=安全合法ではない〉と回答されたといいます。被告は同月31日に荷物を受け取り、5月に起訴されました。初公判で「(荷物の中身が)麻薬という認識は持っていなかった」として、起訴事実を否認、9月10日の被告人質問で、検察側は「薬物かもしれないとの懸念からAIに聞いたのでは」などと追及したところ、被告は「精密機器を輸入するリスクを知りたくて聞いた」「AIが100%合っているとは思っていない」などと答えたといいます。検察側は同30日の論告で、「違法の可能性の認識は、チャットGPTにリスクなどを尋ねたことから裏付けられた」などとして拘禁刑14年、罰金800万円を求刑、弁護側は「被告は違法薬物だとは想像せずにチャットGPTから回答を得ていた」と無罪を主張し、結審、判決は11月26日に言い渡されといいます。

日本がコカインの新たな密輸先として狙われる懸念が強まり、警視庁は乱用者の増加による治安悪化に警鐘を鳴らしています。国内へのコカイン流入が深刻化しており、関連事件の摘発者数と押収量が約10年前に比べて大幅に増加、警察庁によれば、2015年の摘発者数は86人でしたが、2025年は804人に達し、過去最多を記録、また、2024年と2025年には押収量が2年連続で200キロを超えました。特に若年層への蔓延が目立ち、警視庁が2026年7月末までに摘発した328人のうち、236人が29歳以下でした。コカインは覚せい剤より安価で、専用器具を必要とせず、鼻から吸引する「スニッフィング」が一般的で、クラブなどで危険性を十分に認識しないまま、ファッション感覚で使用する若者が増えているとみられていますが、依存性が強く、不眠や幻覚、妄想、精神障害などを引き起こす可能性があるにもかかわらず、危険性への認識が低下していることが懸念されます。SNS上で薬物がファッショナブルなものとして宣伝され、「安全だ」という誤った情報が拡散していることが背景要因として挙げられます。さらに、覚せい剤に比べて暴力団との関係や危険性が意識されにくく、価格も比較的安いため、抵抗感なく手を出す人が増える恐れがあります。なお、密輸の事例としては、2026年8月、英国経由で羽田空港に到着したアルゼンチン国籍の30歳の女が逮捕されたものがあり、税関職員が不審な挙動に気づき、病院でX線検査を行った結果、女の体内からビニールで包まれたコカイン101個、計約1キロが発見され、末端価格は約2414万円、営利目的輸入などの疑いを持たれていますが、この女は生活苦から、アルゼンチンで知り合った人物を通じて運搬を依頼されたと説明、ブラジルで男からコカインを受け取り、飲み込んだうえで、男が手配した航空機に乗り、英国経由で日本へ向かったといい、成功時には7000ドル(当時の為替で約110万円)の報酬を受け取る予定だったといいます。捜査関係者は、体内に運び込む量として1キロは極めて多く、日本での需要増が大量密輸につながった可能性を指摘しています。日本が密輸先として狙われる背景には、供給側の事情もあるとされます。コカインの主な原産国はコロンビア、ペルー、ボリビアなどで、従来は近隣の米国が主要な販売先でしたが、トランプ政権がカリブ海で麻薬運搬船を攻撃するなど、南米からの密輸取り締まりを強化したことで、麻薬カルテルが代替市場を求めたとみられ、日本は他国より末端価格が高く、需要も伸びているため、南米のカルテルにとって有望な市場になった可能性があります。警視庁は、今回の事件を含む国内流通分に、ブラジルなどを拠点とする南米の麻薬カルテルが関与しているとみて、密輸の経路や背後関係を捜査、日本国内の需要拡大と国際的な供給網の変化が重なり、今後もコカイン流入が続くことが警戒されています。こうした状況について警視庁幹部は、コカインのまん延は「戦争と言っても過言ではない」と表現するほど深刻だと認識しており、若年層への浸透を防ぐため、SNS上の誤情報への対策や、背後にいる犯罪組織の摘発を進める必要があるとしています。

本コラムでもたびたび取り上げていますが、ゾンビたばこと呼ばれる指定薬物「エトミデート」は2025年5月に指定薬物へ追加され、摂取すると手足のけいれんや意識喪失を引き起こす危険があり、これまでの摘発者の約半数が若年層であり、今後の蔓延が警戒されています。そうした中、産経新聞は社説で、プロ野球選手に日本国民の模範として行動し、野球への信頼を守る責任があると定めた統一契約書や野球協約を踏まえ、薬物をめぐる疑惑にも球界は厳正に対処すべきだと論じています。広島カープは、「ゾンビたばこ」と呼ばれる指定薬物エトミデートをめぐり、元選手が逮捕・有罪判決を受け、2選手が書類送検された一連の問題を受け、4選手に来季の契約を結ばない戦力外通告を行いました。4選手は薬物使用を否定し現役続行を望んでいるものの、球団は聞き取り調査から信頼関係の維持が困難と判断し、潔白を証明できない状況では処分は妥当だと評価、彼らが現役復帰を目指すには、私生活を律し、練習を継続しながら、国内外の移籍先から受け入れられるよう自らの行動で信頼回復への姿勢を示す必要があると指摘はそのとおりだと思います。また、薬物問題は野球界に限らず、バレーボール日本代表選手や大学運動部でも大麻・覚せい剤の所持や使用が相次いでおり、競技生命や周囲への影響を顧みない背景に特権意識や甘えがあるなら、各組織は厳正な処分によって競技の健全性を守るべきだと主張していますが、筆者も同感です。厳格すぎる処分は検討する必要があると思いますが、それ以前の話だからです。なお、関連する事件では、元選手にエトミデートを譲り渡したとして医薬品医療機器法違反に問われた会社役員が、広島地裁の初公判で起訴内容を認めています。被告は知人を通じて元選手と知り合い、求めに応じて指定薬物を含む液体入りカートリッジを郵送したほか、東京都内で約0.9グラムを所持していたとされ、裁判所は拘禁刑2年、執行猶予4年を言い渡し、被告は元選手の人生を奪ってしまったとして謝罪しています。その他、ゾンビたばこを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 警視庁は、指定薬物エトミデートを含む液体約3キロをマレーシアから羽田空港へ密輸したとして、台湾籍で住所不定、無職の23歳の女を医薬品医療機器法違反(輸入)と関税法違反の疑いで現行犯逮捕、液体の押収量としては過去最多となりました。女は仲間と共謀し、マレーシアの空港でエトミデート入りの高級ウイスキーの瓶をスーツケースに隠して航空機に積み、羽田空港へ持ち込んだ疑いがもたれており、税関職員が瓶の中身を不審に思って調べたことで密輸が発覚、逮捕されたものです。女はSNSを通じて仕事に応募し、台湾で購入したウイスキーをマレーシアへ運んだ後、何者かに引き渡して返却された瓶を日本へ運ぶよう指示されたと説明、一方で、「アルバイトとして運んだだけで中身は知らず、数万円の報酬を受け取る予定だった」と述べ、容疑を否認しています。警視庁は、SNSで指示した仲間や密輸の詳しい経緯を調べています。今回の事件は、酒瓶に偽装した過去最多量のエトミデートが海外から持ち込まれた事例であり、SNSを介して運搬役を募る密輸組織の実態や、若年層を含む乱用拡大への警戒を改めて示すものといえます。
  • 指定薬物エトミデートを密売目的で所持したとして、沖縄県警組織犯罪対策課と九州厚生局沖縄麻薬取締支所は、医薬品医療機器法違反の疑いで、旭琉会三代目沖島一家構成員を逮捕、送検しました。一連の捜査では、エトミデート約300グラム(カートリッジ104本、ボトル入り2本)が押収され、2025年5月26日に指定薬物に追加されて以降、県内で最大の押収量となりました。同支所は1カートリッジ当たりの末端価格は2万5千円程度とみています。報道によれば、与那原町内の駐車場に止めた車内で、医療などの用途以外の目的で、エトミデートを含む液体を所持したほか、近くの倉庫でもエトミデートを含む液体を所持した疑いがもたれており、突き上げ捜査で男が出入りする倉庫を特定し、倉庫から出てきた容疑者に声をかけて車内を捜索したところ、エトミデートが入ったとみられるカートリッジ100本を発見、うち1本を簡易検査し緊急逮捕、その後、那覇地検が医薬品医療機器法違反で起訴したものです。同支所などは、押収量が多く、空き容器なども見つかったことから、男が密売人にエトミデートを卸す立場だった可能性もあるとみて、入手経路などの調べを進めています。
  • 指定薬物のエトミデートを密輸したとして逮捕されていた暴力団員ついて、検察は起訴しないことを決めました。暴力団員は2026年7月、マレーシアから指定薬物エトミデート1200グラムあまりを輸入したとして医薬品医療機器法違反などの疑いで逮捕されていました。不起訴の理由について福岡地検は「捜査を尽くしたが、故意及び共犯の有無等につき証拠を精査・検討した結果不起訴処分とした」とコメントしています。

日本では大麻事件の検挙人数が過去最多となり、検挙者の約7割を30歳未満が占めるなど、若年層への蔓延が深刻化しています。中学生が大麻や使用器具を所持して逮捕される事例も発生し、大麻の検挙数は2023年から3年連続で覚せい剤を上回りました。2023年12月の法改正により、大麻の使用にも明確な罰則が設けられ、所持や使用が従来より重く処罰されるようになった結果、検挙・摘発件数が増えた一方、密売側にも大きな変化が生じているといいます。デイリー新潮によれば、従来、大麻の密売は暴力団が主に担っていましたが、SNSの普及によって販売網が急速に分散、現在は、若者がSNSで売人と簡単に接触でき、購入や使用器具の入手も容易になっているため、暴力団を介さない個人間取引や、自宅で栽培する者が増えており、暴力団幹部の証言によれば、法改正によって大麻の所持・使用に覚せい剤と同程度の重い刑罰が科される一方、販売価格や利益は覚せい剤より低く、摘発リスクに見合わなくなったといい、そのため、暴力団や関係する売人の多くは大麻市場から撤退し、残っている取引も自分が使用するついでに販売する程度の「引き際ビジネス」になっているといいます。法改正前は、使用罪の扱いが曖昧で、大麻は覚せい剤より「軽い」「気楽」と考えられていましたが、改正後は使用も確実な検挙対象となり、大麻は重大犯罪として扱われるようになりました。それでも蔓延が止まらない背景には、(以前から本コラムでも指摘しているとおり)若者の法知識や危険性への認識の低さがあります。厚生労働省の指摘や意識調査では、若者の約4割が大麻関連法への関心を持っていないとされ、海外での合法化や医療利用に関する断片的な情報を根拠に、「健康に良い」「日本でも軽犯罪だろう」と誤解する例が見られています。海外では、カナダやドイツ、タイなど一部の国で合法化や規制緩和が行われた一方、大麻を違法とする国のほうが多く、日本人が海外で購入・譲受・所持した場合でも、日本の国外犯規定によって処罰される可能性があるうえ、海外で大麻が日常的に流通している地域から来日する旅行者、留学生、技能実習生、ビジネスマンなどの一部が、日本でも同じ感覚で大麻を求める問題が起きており、こうした需要を狙い、在留外国人による密輸や密売も増加しています。大量の乾燥大麻をスーツケースや国際郵便で持ち込もうとして外国人が逮捕される事件が相次ぎ、日本では海外相場の約10倍で販売できるため、日本市場は外国人密売人にとって高収益の市場となっているといいます。彼らが自国の法意識を日本に持ち込み、法改正を十分に理解しないまま販売する一方、法知識の乏しい日本の若者が遊び感覚で購入することで、需要と供給が拡大している実態です。デイリー新潮の記事は、大麻蔓延の原因を法改正だけでなく、SNSによる入手経路の拡大、若者の無関心や誤解、外国人密売人の増加、従来の暴力団主導の市場構造の崩壊が重なった結果だと説明、法律を厳しくするだけでは、法律を知らない者や関心を持たない者の行動を抑えきれない可能性があり、教育や正確な情報提供、SNS上の取引への対策も必要だと示しており、筆者も同感です。

財務省は、2026年1~6月に全国の税関で摘発した航空旅客による不正薬物の密輸の摘発件数が216件だったと発表、1992年の統計開始以来、半期ベースで過去最多となりました。大量に運ぶのではなく、小口化して密輸するケースが増えているといいます。大麻や覚せい剤などの不正薬物全体の摘発件数は387件と、前年同期に比べて27%減少、このうち航空旅客からの摘発件数は22%増の216件と、全体の約6割を占めています。関税局の担当者は航空旅客の摘発が増えた要因として「一度に多くの薬物を運ぶと摘発リスクが高まる。小口化して密輸する傾向がみられる」と述べています。海上貨物からの密輸が大幅に減ったことで、不正薬物全体の押収量は約929キログラムと、前年同期と比べて58%減少、金地金の摘発件数は26%減の95件で、押収量は約316キログラムと15%減少、アジアからの密輸が多く、全体の48%が香港、31%が中国でした。密輸で消費税の課税を逃れた金(ゴールド)を国内で転売する例が相次いでおり、税関はAIを検査に活用するなど、水際の取り締まりを強化しています。

薬物事犯を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 工藤會傘下組織幹部が関与して密輸事件では、タイから韓国に密輸された乾燥大麻の総重量は約636キログラムに達し、約127万人分に相当するとされています。暴力団幹部の被告は2026年3月、ベトナムを拠点とする麻薬密売組織と共謀し、大麻を船でタイから韓国へ運び、その一部を日本の暴力団に密輸しようとしたとして、韓国の捜査当局に逮捕・起訴されました。この事件は、韓国で摘発された大麻密輸事件として過去最大規模とされ、国際的な麻薬組織と日本の暴力団の関与が問題となっています。韓国の地方裁判所は、被告がベトナムの麻薬組織と直接接触し、密輸の実行過程にも関与したと認定し、懲役10年を言い渡しました。
  • 静岡県富士市のヤードで覚せい剤の錠剤を製造したとして神奈川県警などは、自称イラン国籍で住所、職業不定の容疑者ら男3人を覚せい剤取締法違反容疑で再逮捕しました。3人は2024年9月~25年10月、錠剤を作る機械「打錠機」を使用し、覚せい剤の錠剤を450錠製造した疑いがもたれており、錠剤には有名ブランドのロゴマークなどが描かれており、若者を意識していたとみられている(そのほか「スーパーマリオ」や「ドラえもん」など人気キャラクターに似せたイラストが刻印された覚せい剤入りの錠剤などが大量に押収されています)。県警などは2025年11月、粉末や結晶状の覚せい剤約40キログラム(末端価格20億円以上)を営利目的で所持したとして男らを同法違反容疑で逮捕、錠剤4万~5万個を押収して製造方法を調べていました。
  • 佐賀県警は、米国から大麻成分を含む液体約8キロを輸入したとして、ベトナム国籍の女子大学生(22)を麻薬取締法違反(営利目的輸入)の疑いで逮捕しました。「私は関係ありません」と容疑を否認しているといいます。報道によれば、逮捕されたのは東京都内の私立大学に通う留学生で、共犯者らと共謀し、2026年7月に米国の空港から大麻成分入り液体8キロが入った国際宅配貨物1個を関西空港に送った疑いがもたれています。液体はオイル缶2本に入っていたといいます。貨物の宛先は佐賀県鳥栖市のアパートで、税関からの情報で県警が捜査し、アパートで荷物を受け取ったとみられる福岡県のベトナム国籍の男らに対する捜査の過程で、大学生の関与が浮上したというものです。
  • 乾燥大麻を密輸したとして、警視庁薬物銃器対策課と東京税関羽田税関支署は、麻薬取締法違反(営利目的輸入)と関税法違反の疑いで、いずれも米国籍の容疑者2人を逮捕しました。報道によれば、2026年9月、乾燥大麻約30キロ(末端価格約1億5000万円)をスーツケース2個に隠し、米国から航空機で羽田空港に到着させ密輸しようとしたもので、薬銃課によれば、容疑者を不審に感じた税関職員が調べたところ、計35袋に小分けされた乾燥大麻がスーツケースに入っていたもので、SNSのグループチャットで知り合った人物から日本にスーツケースを持っていくよう指示されたといい、「中身は知らなかった」と話しています。一方、もう1人の容疑者は「航空券代や宿泊費が無料で日本に行けることに魅力を感じた容疑者から誘われた」とした上で「指示役から、運ぶのは大麻だと聞いていた」との趣旨の供述をしているといいます。
  • 麻薬の「ケタミン」を密輸入したとして、兵庫県警は、麻薬取締法違反(営利目的輸入)の疑いで、住所不定の無職の被告(25)=同法違反罪で起訴=を逮捕、送検しました。押収したケタミンは約10キロで、少なくとも3億円相当以上とみられ、県警と神戸税関が摘発したケタミンの中では過去最大量といいます。報道によれば2025年11月、リクルーターと受け子の男2人と共謀し、ケタミン約10キロが入った段ボールをドイツから国際宅配貨物で関西空港に到着させ、営利目的で輸入したとしています。大阪税関が荷物検査で発見し、神戸税関を通して県警に情報提供があったもので、2025年10月ごろ、被告がリクルーターの男に報酬40万円で受け取りを依頼、リクルーターの男から話を聞いた受け子の男が犯行に及んだといいます。
  • 警視庁薬物銃器対策課と東京税関羽田税関支署は、コカイン約5キロ(末端価格約1億2000万円)を営利目的で密輸・所持した疑いで、いずれもマレーシア国籍の男女5人を逮捕しました。容疑者らは職業不詳で、うち3人は共謀して羽田空港でコカインを所持した麻薬取締法違反の疑い、残る2人も営利目的輸入などの疑いが持たれています。 3クアラルンプール国際空港から羽田空港に到着し、税関職員の検査で靴の中敷きの下に隠されたコカインを発見され、その後、「友人5人と観光に来た」と説明したことを受け、同行者らを調べたところ、他の3人の靴からも同様にコカインが見つかったものです。捜査当局は、容疑者が密輸計画を主導したとみており、同容疑者は友人から紹介された人物を通じ、SNSで「違法薬物を海外に運ぶ仕事がある」と依頼されたと供述しており、事件の詳しい役割分担や背後関係について、警視庁などが捜査を進めています。
  • コカインを所持したとして、警視庁が、インターネット上で「ヤマトリノ」の名前で活動するインフルエンサーの女(27)ら男女2人を麻薬取締法違反(所持)容疑で現行犯逮捕しました。報道によれば、2人は自宅マンションの一室でコカイン約0.4グラムを所持した疑いがもたれており、調べに女は容疑を認め「交際相手と一緒に使っていた」と供述、男は「自分のものではない」と否認しています。女がコカインを使っているとの情報が2026年に寄せられ、同庁が捜査していたもので、部屋からは、コカインとみられる白色粉末22袋や吸引器具とみられるストローを押収しており、入手経緯などを調べています。また2人は同9月、東京都内などでコカインとケタミンを使用した疑いで再逮捕されています。
  • 乾燥大麻を所持したとして、警視庁が麻薬取締法違反(所持)の疑いで、東京五輪でスケートボード日本代表だった選手(23)を書類送検しています。報道によれば、2026年8月、JR新木場駅の構内で、微量の乾燥大麻を所持した疑いが持たれており、任意の調べに対して「間違いない」と容疑を認めているといいます。巡回中の警察官が職務質問して、大麻の所持が発覚したものです。
  • 何者かと共謀してフランスからコカイン約3.2キロ(末端価格約7680万円相当)を密輸したとして、警視庁薬物銃器対策課と東京税関羽田税関支署は麻薬取締法違反(営利目的輸入)と関税法違反の疑いで、フィンランド国籍の容疑者(56)を逮捕しました。「密輸には関わりがない」と容疑を否認しています。報道によれば、容疑者はパリ・シャルル・ド・ゴール国際空港から羽田空港に到着、不審に感じた税関職員が、スーツケースのふたの部分に隠されたコカイン2袋を発見したもので、容疑者は観光目的の来日だとし、「2カ月前にスーツケースを元交際相手に貸した。元交際相手か、誰かが(コカインを)仕込んだのかもしれない」などと供述しているといいます。
  • コカインを使用したとして、神奈川県警相模原南署は、麻薬取締法違反容疑で、埼玉県深谷市の高校1年の女子生徒(16)を逮捕しました。2026年9月、「クラブで男に勧められたたばこのようなものにコカインがついていた」という趣旨の説明をしているといいます。報道によれば、女子生徒が母親に「薬物をやった」と打ち明け、神奈川県内に住む父親と来署、尿検査で陽性が出たといいます。同署は入手経路などについて捜査を進めています。

国立病院機構災害医療センターの調査で、薬物の過剰摂取(オーバードーズ、OD)による若者の救急搬送が深刻化している実態が明らかになりました。急性薬物中毒による搬送者は2015年の118人から2025年には172人に増加、10代の搬送者は8人から38人へと4倍超に増え、全搬送者に占める割合も6.8%から22.1%へ上昇、10代の人数は2022年に28人、2023年に42人、2024年に23人、2025年に38人と推移し、近年は高い水準が続いているといいます。また、10~20代の搬送者も42人から91人に増え、全体に占める割合は35.6%から52.9%となりました。2025年の10~20代では女性が8割弱を占め、若い女性に被害が集中しているといいます。コロナ禍による孤立の深まりなどが背景にある可能性が指摘されています。ODは不安や悩みを背景に繰り返されることがありますが、10代の約3割には精神科のかかりつけ医がいませんでした。また、使用薬の傾向にも変化が見られ、2015年は10~20代の使用薬の約8割が医師の処方薬だったのに対し、近年は薬局や店舗で購入できる市販薬の割合が増えているとみられています。また、日本中毒情報センターへの2019~2024年の問い合わせを分析した調査では、市販薬を意図的に摂取した事故が1625件確認され、女性は1231件で、全体の7割超を占めました。発生日が特定できた1567件では、9月が166件で最多となり、1月が156件、10月と11月が各151件で続き、学校の長期休暇明けやその直前に事故が増える傾向があり、18歳以下では大型連休のある5月も目立ったといいます。さらに年齢が判明した事例の多くは中高生や大学生の年代で、発生場所が確認できた1372件のうち91.0%が自宅などの居住内で、学校での発生は全体では3.1%でしたが、18歳以下に限ると6.7%に上昇しました。研究者は、長期休暇直後に薬物乱用防止教室を開き、地域の相談窓口を周知することを提案、また、本人の友人や同級生が相談しやすい学校の支援体制を整えることも重要だとしています。政府はOD対策として医薬品医療機器法を改正し、2026年5月から未成年者への市販薬販売規制を強化しましたが、医師は、搬送時からODに至った背景を把握し、退院後の生活環境への支援や精神的ケアにつなげる必要があると訴えています(前回の本コラム(暴排トピックス2026年9月号)でも指摘したとおり、実はOD患者の平均年齢は約29.1歳であり、18歳以上の乱用リスク者が多いことが判明しており、実態と法規制の乖離が見られます)。また、医療機関だけでなく、学校、行政、家庭、民間団体が連携し、早期発見から治療、退院後の生活支援まで継続的に対応することが求められているといえます。

海外における薬物事犯等の最近の報道から、いくつか紹介します。

  • トランプ米大統領は、ニューヨークで対麻薬カルテルの有志連合「米州の盾」参加国首脳らと会合を開きました。共同声明では、従来の麻薬密輸対策のほか、重要鉱物の供給網確保など経済協力を深化させることで一致したといいます。国連総会の一般討論演説に合わせて開かれた会合にはアルゼンチンやコロンビアなど14カ国の首脳らが出席し、麻薬カルテルの資産凍結や構成員に対し入国制限を講じる方針で合意しています。トランプ大統領は「麻薬カルテルの脅威に協力して立ち向かえば、地域はより繁栄する」と強調、各国との協力により「既に何十万もの命が救われた」と主張しています。
  • 2026年9月に実施された米中首脳会談を前に、中国の司法・公安当局は、フェンタニル関​連物質が絡む刑事事件を適‌切に取り締まるための指針を公表しました。トランプ政権は、合成麻薬​フェンタニルの原料となる​化学物質の米国流入阻止に向けた対策強化を中国側に再三要請して​います。中国商務省は、薬​物原料となる化学物質の輸出管理リ‌スト⁠に2種類追加したと発表しました(米国、メキシコ、カナダ向けに輸出⁠する場合は許可の取得が必要となるもので、追加された2種類は、フェンタニルの前駆体として広く知られる物質と構造的に関連するピペリドン化合物です。中国は、2025年10月と2026年⁠5月の米中首脳会談後にも同リストを拡大していました)。中国最高人民法院、最高人民検察院、公安省の共同声明​によれば、​指針は⁠有罪認定と量刑に関する数量基準を明確​化することを目的とし、​対⁠象物質を医薬品と非医薬品に分類、密輸、売買、輸送、⁠製造、​不法所持のほか、​インターネットを利用した関連犯​罪についても当局が捜査するというものです。

(4)テロリスクを巡る動向

「国益とは、国民の生命と生活を守り、一人一人が望む生き方を貫いて幸福に暮らせる状態であり、その実現が政府の最重要責務」(兼原・麗澤大学特任教授)です。そのため政府は、自然災害だけでなく、戦争や外国勢力による攻撃など、国民に危害を及ぼすあらゆる危険を察知しなければなりません。特に独裁国家が核兵器や強大な軍事力を保有する現在、日本はロシア、中国、北朝鮮に囲まれた危険な地域に位置しています。ロシアはウクライナを侵略し、中国は尖閣諸島の奪取や台湾併合を目指して軍事力を拡大させ、北朝鮮もウクライナ戦争への関与を通じて実戦経験を蓄積している状況にあります。こうした脅威に対応するには、政府のインテリジェンス能力の強化が不可欠となります。外務省は大使館などを通じて大量の情報を集め、高い分析能力を持つ一方、外交官による対面の情報収集が中心で、相手の同意を得ない情報の裏付けには限界があり、日本の情報機関が他国に比べて決定的に不足させてきたのが、サイバー空間を利用した情報収集能力です。日本では通信の自由を過度に広く解釈する考えが長く妨げとなり、米欧中露に数十年遅れました。また、現代のインテリジェンスでは、サイバーインテリジェンスが中心的な役割を担っていますが、近年になってサイバー対処能力強化法などが整備され、自衛隊や警察を中心に数千人規模のホワイトハッカー組織が設立されつつあります。通信に接続でき、暗号を解読できれば、膨大な情報を取得して蓄積し、検索や分析によって政策判断に必要な材料を抽出できることになります。量子コンピューターによって既存の暗号が無効化される可能性もあるところ、AIの導入によって情報収集と分析の能力はさらに急速に発展しています。米国では、大統領に届けられる情報の6~7割がサイバーインテリジェンスに由来するとされ、外国諜報監視法に基づき、外国在住の非米国人を対象とする活動も認められています。これに対し、日本の現行制度は主としてサイバー犯罪を取り締まる刑事法であり、国家安全保障を目的とした広範なサイバー情報活動を十分に認めていないため、恒常的な防衛を可能にする「サイバー空間防護法」を新設し、サイバー防衛隊やサイバー警察隊に明確な権限を与えるべきだと主張されています。防衛省情報本部は、外務省の在外公館と並ぶ対外情報活動の拠点となり、収集情報は内閣国家情報局に集約され、特定秘密として関係省庁に共有される体制が望まれます。実際、ニュージーランドの国家サイバーセキュリティーセンターは、中国を同国に対する最も執拗で高度な国家支援型サイバー脅威と評価しました。2026年6月までの1年間に確認された重要性の高い369件の事案のうち、86件が国家支援型とみられ、中国、ロシア、イラン、北朝鮮に関連していたほか、政府機関、医療、教育、IT分野が標的となり、南太平洋でも政府やインフラを狙うサイバースパイ活動が確認されています。中国側は報告を否定し、ハッキングに反対し法に基づいて取り締まっていると主張しています。さらに欧州各国は、ロシアが破壊工作、サイバー攻撃、放火、爆破、ドローン侵入、領空侵犯などを欧州全域で激化させ、ウクライナ支援への結束を崩そうとしていると警戒しており、欧州側は、ロシアがNATOへの大規模侵攻を直ちに実行する能力は乏しいとしつつも、実際の攻撃や威嚇によって恐怖と分断を生み出していると指摘しています。ポーランドでは戦闘機がほぼ毎日緊急発進し、ルーマニアではドローンや破片の落下が百件以上確認されており、冬を前に、ロシアがウクライナのエネルギーインフラを攻撃し、寒さを武器として利用する可能性も懸念されています。したがって、日本を含む各国は、軍事攻撃だけでなくサイバー攻撃や破壊工作を含む複合的な脅威に備え、情報収集、分析、共有、対処の体制を早急に整える必要があり。テロ対策もその文脈から捉える必要があります。

高市首相が日本初となる「国家情報戦略」の策定に動き出しました。2026年9月に開かれたインテリジェンス(情報活動)強化に関する有識者会議の初会合で、2026年度中に策定、公表する方針が示されました。「国家安全保障戦略」からインテリジェンス戦略を独立させて、外国によるスパイ行為を徹底して排除するという首相の意思が込められています。

▼ 内閣官房 インテリジェンス機能の強化に関する有識者会議(第1回)議事次第
▼ 資料3 事務局説明資料(内閣官房国家情報局提出)
  • 国際情勢の概観
    • 厳しさを増す国際情勢に我が国が適切に対応し、我が国の主権と独立を維持し、領域と国民の生命・身体・財産を守り抜くためには、政府が中長期的な方針に基づき、情報力を強化していくことが必要。
      1. 地政学的な競争と経済安全保障
        • 多国間主義、国際法及びそれらを支える普遍的価値、グローバル・ガバナンスへの挑戦が強まり、地政学的な競争が強まる。
        • 地政学的な競争は伝統的領域にとどまらず、経済、サイバー、情報・認知空間、海洋、宇宙など、国家や民間アクターが行う様々な活動領域に拡大。
        • 経済と安全保障の連関がますます強まり、紛争や経済的威圧等に起因するサプライチェーンへの対応、先端技術の開発促進と保護、製造基盤の強靱化等が課題に。
      2. 「新しい戦い方」とテロリズム
        • 軍事力におけるAIや無人機等の先端技術を活用した「新しい戦い方」が出現。
        • CBRNE(シーバーン)テロを含め、テロの兆しにも注視する必要。
      3. 不当な工作のリスクの増大
        • 地政学的な競争の強まり、先端技術を活用した「新しい戦い方」や経済安全保障の重要性の高まり等により、機微技術の取得のほか、世論の分断や社会対立の増幅等を企図した影響工作への懸念が増大。
  • 経済安全保障
    • 経済安全保障に関する新たな課題は、外交・情報・軍事・経済・技術等、様々な分野に関連。関係機関が連携して高度な情報の収集と分析を行い、政策部門による的確かつ迅速な対応につなげていくことが重要。
      1. サプライチェーンの途絶リスク
        1. 他国における紛争などによる必要物資の供給途絶
        2. 懸念国等との地政学的対立に起因する重要資源等の供給制限など、我が国が直面するサプライチェーンの途絶リスクが顕在化。
          • 必要物資・重要資源等について、特定国に過度に依存することのない強靭なサプライチェーンを構築することが課題。
      2. AIをめぐる大国間の覇権競争
        • AIは、その性能の飛躍的向上により、様々な分野での効率性や利便性を大きく高めるほか、国民生活の向上、国民経済の発展に大きく寄与。また、AIの軍事への応用分野は、情報収集・分析、サイバー、意思決定支援、ロジスティクス等多岐にわたる。
        • AIをめぐる主導権争いは、今後の経済活動を支える基盤や、安全保障上の優位性を大きく左右する課題。
      3. 製造基盤の強靱化
        • 経済的合理性の追求を背景に、国内の製造基盤が縮小
        • 安全保障上必要な物資の特定国への過度な依存の低減、我が国の自律性の向上、技術等に関する我が国の優位性、不可欠性の確保の観点からも、国内の製造基盤の維持・強化が課題。
  • 懸念国等の不当な工作のリスク
    • 懸念国等による不当な工作を阻止するためのカウンターインテリジェンスの強化が必要。
      1. 機微情報を狙った工作
        • 民間企業や研究機関等における先端技術分野を狙った不当な工作。
        • 機密情報や知的財産の窃取を企図したサイバーエスピオナージ。
      2. 重要インフラ等を狙ったサイバー攻撃
        • 重要インフラの基幹システムや社会の機能を麻痺させることを企図したサイバー攻撃。
        • AIの悪用や踏み台経由の攻撃等、サイバー攻撃の手法はますます高度化・巧妙化。
      3. 認知領域での工作
        • 政府の信頼低下や社会の分断、我が国の国際的な評価の毀損、同盟国・同志国との連携の阻害等を企図した外国からのナラティブや偽情報の拡散などの影響工作。
          1. 国内での事例
            • ロシアの情報機関員とみられる在日通商代表部員が我が国工作機械関連会社の従業員に金銭提供するなどして働きかけ、同社の営業秘密である機密情報を不正に取得したとして警視庁が検挙。
            • 北朝鮮のIT労働者が、情報窃取等の悪意あるサイバー活動に関与している可能性。
            • 第51回衆議院議員総選挙に際して、SNS上で多数のアカウント群が我が国政府の政策等を批判する内容を投稿・拡散していたと報じられたほか、政府において、外国のものと疑われる不審アカウントが同選挙に関する内容を投稿している事例を一定数把握。
          2. 海外での事例
            • 中国を背景とすると指摘される「VoltTyphoon」が、グアム等の米軍・政府機関や重要インフラ事業者の情報システム・ネットワークに長期間侵入した事例が報告。
            • 米国カリフォルニア州の市長が中国から指示を受け、地元の中国系米国人コミュニティ向けのニュースサイトを運営し、中国側の主張を含む親中的な内容の記事を掲載したとの容疑で検挙。
  • インテリジェンス機能の強化(司令塔機能の強化)
    • 昨今の複雑で厳しい国際環境において、十分な情報をもとに我が国が直面する様々な課題に的確に対処するため、インテリジェンスの司令塔機能を強化する「国家情報会議設置法」が本年5月に成立。
    • これに伴い、本年7月31日、「国家情報会議」及び「国家情報局」(内閣情報調査室を発展的に改組)を設置。
    • 「国家情報会議」:総理を議長とする政治のリーダーシップの下、重要情報活動及び外国情報活動への対処(影響工作への対処を含む。)に関する重要事項等を調査審議し、各省庁の情報活動に対する「方向付け」を実施。
    • 「国家情報局」:各省庁に対する「総合調整」を実施。より多くの情報を効率的に集約し、総合的な分析を行う体制を構築。
  • インテリジェンス機能の強化(今後の課題)
    1. 国民の安全や国益の確保のためには、司令塔機能の強化のみならず、以下についても、検討を進める必要。
      • 懸念国等の不当な工作への対処のための法制度を含むカウンターインテリジェンスの強化
      • 対外情報機能の充実を含む各種情報収集・分析能力の強化
      • なお、各種情報収集・分析能力の強化にあたっては、AI等を活用した情報通信基盤を整備するとともに、人的情報の収集体制を含め、インテリジェンス関係機関の体制を強化することが必要。
    2. 政府の情報活動の中長期的な推進方策
      1. 想定される主な項目
        • 情報活動の意義や重要性
        • 情報部門と政策部門の分離による客観性の担保、両者の連携強化
        • インテリジェンスを担う人材の確保・育成の方針
        • AIや情報通信技術等の先端技術の導入・活用
        • 個人情報やプライバシーの保護、民主的統制 等
      2. とりまとめた文書を作成・公表

愛知県を中心に開催されたアジア競技大会は、東京五輪と異なり有観客で実施されたため、競技会場に不特定多数が入場できることから、犯罪やテロの標的となる危険性が高くなりましたが、無事終了しました。過去には、国体の開会式で天皇陛下に発炎筒が投げられた事件や、国際大会で観客が競技中に乱入した事例があり、会場内外の雑踏事故や要人への攻撃への警戒が求められます。開会式には天皇・皇后両陛下や皇族、海外要人が出席、愛知県警は他県警からの応援を含め約1万人を動員、組織委員会は警備員を配置し、金属探知機や手荷物検査を実施するほか、警察官が要人警護、違法行為への対応、緊急時の避難誘導を担いました。選手ら約6千人が滞在する名古屋港のクルーズ船や宿泊施設も対象となり、海上保安本部が不審船の接近を監視し、災害時には救助にもあたる態勢を整えました。公共交通機関も重要な警備対象であり、パリ五輪前の高速鉄道放火事件や、国内の鉄道車内での刺傷・放火事件を踏まえ、愛知県警は鉄道会社と訓練を行い、警備犬を大規模駅へ投入しました。専門家は、日本の場合、組織的なテロよりも、自暴自棄になった人物やローンオフェンダーによる突発的な犯行に注意すべきだと指摘しています。こうした攻撃は事前の予測や抑止が難しいため、警察による「見せる警備」だけでなく、観客や地域住民が不審な行動に気づき、情報提供する「周囲の目」と、警備への理解と協力が未然防止の鍵となります。

警視庁公安部は、東京都杉並区の自営業の男を、許可なく黒色火薬など約250グラムを所持したとして、火薬類取締法違反容疑で逮捕しました。男は2026年1月、自宅アパート内で、複数の密閉容器や食品保存容器に入れた黒色火薬や、人形のような形をした手製花火とみられる物品を保管していた疑いがあり、容疑については「話したくありません」と供述しているといいます。捜査の発端は、男が2025年夏から秋にかけて、家庭菜園や農業用肥料として販売されている、黒色火薬の原料にもなり得る材料をインターネットで購入したことでした。通販業者は、購入者として登録された氏名や住所と、実際の送付先の名義が異なっていたことを不審に思い、警視庁へ情報提供、その後、公安部が男の自宅を家宅捜索し、黒色火薬などを押収したものです。また、男は自身のSNSに、発火物や花火のようなものを燃やし、炎が上がる様子を撮影した動画を複数投稿していたとされ、公安部は、購入した肥料などを原料として男が黒色火薬を自作した可能性や、火薬を所持していた目的、製造や使用の経緯を詳しく調べています。警視庁は、単独で重大犯罪を起こすローンオフェンダーによる事件を未然に防ぐため、火薬や爆発物の原料となり得る薬品・肥料を扱う通販業者に加え、薬局やホームセンターなどにも、不審な購入者や取引に関する情報提供を呼びかけていますが、今回は事業者のリスクセンスが発揮されたこと、迅速に情報提供したことという望ましい対応が摘発につながった好事例といえます(摘発された男の目的の解明が急がれます)。

2001年9月11日の米同時多発テロ(9・11)から25年を迎え、国際テロの勢力図と社会への影響を改めて検証する必要があります。アル・カーイダによる米国攻撃を受け、米国はアフガニスタン戦争を開始し、2003年にはイラクにも戦線を拡大しました。しかし、戦争後の混乱と統治空白は新たな過激派の温床となり、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の台頭を招くこととなりました。2010年代には、ISによるパリやベルギーなど欧州各地での大規模テロが相次ぎましたが、米国主導の掃討作戦によってイラクやシリアでリアル組織が弱体化し、欧米での大規模攻撃は次第に減少しました。その一方で、イスラム過激派の活動拠点は中東からアフリカへ移りました。アフリカでは2025年、イスラム過激派関連事件が8375件に達し、2024年比24%増となる約2万3968人の死者が出ました。2026年の第1四半期には、ISの活動の86%がアフリカに集中し、過去最高を記録、特にサハラ砂漠南縁のサヘル地域やソマリアでは、アル・カーイダ系・IS系組織の影響力が拡大しています。ただし、脅威はアフリカ全体に均一に広がっているのではなく、貧困や統治能力の低下が目立つ地域に集中している点に注目する必要があります。アフリカで過激派が勢力を伸ばす最大の背景は、国家の脆弱性です。サヘル地域では、マリ、ブルキナファソ、ニジェールで相次いだ軍事クーデター後、軍事政権が米仏などの駐留部隊を追放し、武装勢力が活動しやすい空間を生み出しました(本コラムで以前から指摘しているのは、テロの温床となるのは「国土と人心の荒廃」だということです)。軍政は治安改善や統治能力の向上よりも政権維持を優先し、民主的な政治過程や選挙を排除しています。ソマリアでも中央政府と州政府の対立が対策を妨げており、国家機能の弱体化に加え、貧困や若者の失業が、密輸や報酬を目的とした過激派への加入を促している実態があります。過激派は宗教的主張だけでなく、恐喝、通行料の徴収、誘拐、密輸などを通じて資金を獲得し、犯罪組織としての性格も強めています。近年は衛星インターネットやドローンを戦闘・偵察に活用し、作戦能力を高めており、政府軍との戦闘だけでなく、支配地域をめぐる過激派同士の衝突も増え、治安悪化は止まっていません。また、サヘルの軍事政権が崩壊して広大な無政府地域が生まれれば、訓練や資金調達の拠点が形成され、国際テロの新たな中心となる可能性もあります。対策としては、軍事力だけでなく、地域住民との信頼構築、教育・医療・雇用への投資、生活改善を含む包括的な取り組みが必要です。国際社会には、西アフリカ沿岸国の治安能力強化、武装勢力の資金・補給ルートの特定と遮断、地域安全保障協力の構築、政治対話とガバナンス改革の支援をしていく必要があります。ただし、思想的な武装組織と犯罪利益を目的とする組織を区別し、対話が可能な相手を慎重に見極める必要があります。

一方、アフガニスタンでは、タリバンとパキスタン・タリバン運動(TTP)の関係が再び注目されています。TTPはパキスタン政府や治安機関への攻撃を続ける反政府組織で、2026年にはタリバンがその関係者に住居や生活支援を提供したとされ、両者の結びつきは、2001年の米国のアフガニスタン攻撃以前にさかのぼります。タリバンがビンラディンの引き渡しを拒否したことで米軍の攻撃を受けた後、敗走したタリバンやアル・カーイダなどはパキスタンの部族地域に逃れました。そこで生まれた反政府感情がTTP結成につながり、2021年の米軍撤退とタリバン復権によって、過激派が再びアフガニスタンに保護される状況が生じています。欧米では、組織的な大規模テロに代わり、SNSの宣伝に影響された「ローンオフェンダー」による攻撃が主流となっています。過激派のナラティブに感化された実行犯の多くは過激派思想を深く理解しておらず、個人的な不満や暴力への関心を動機とする場合も多いとされます。EUでは2025年に逮捕されたテロ関連容疑者486人の71%がジハーディストで、約4人に1人が18歳以下、最年少は12歳でした。SNSやAIによる偽情報は、過激派の宣伝や特定集団への敵意を拡散し、脅威を分散化して予測を難しくしている実態があります。9・11は米国社会のイスラム教徒にも深刻な影響を与えました。イスラム教徒へのヘイトクライムは、テロ前の28件からテロ後には481件へ急増し、愛国者法によって捜査・監視権限も大きく拡大しました。ニューヨークでは多文化社会への適応や過激派活動の沈静化を背景に露骨な偏見が薄れましたが、全米ではイスラム教への否定的な見方が残っています。SNSやAIの偽情報によって憎悪が再燃する懸念もあり、対テロ政策が監視や移民取締りなど国家権力の拡大に利用されたとの批判もあります。他方、若いイスラム系米国人が人種差別反対運動や多様性を求める活動に参加し、社会統合を進めている側面もあります。アル・カーイダやISはかつての勢力を失ったものの、テロの脅威が消えたわけではありません。現在、イランが支援するハマス、ヒズボラ、フーシ派などの武装組織が中東で活動し、ガザ情勢やイランの核開発をめぐる対立が新たな暴力を招く可能性があります。9・11後の対テロ戦争はアフガニスタンで長期化し、その間に中国が台頭するなど国際秩序にも副作用をもたらしました。現在は、アフリカの国家の脆弱性、アフガニスタンの過激派保護、SNSやAIによる偽情報の流布による個人化、イスラム嫌悪の再拡大、中東の代理勢力争いなどを相互に関連する課題として捉え、軍事対応と政治・社会政策を組み合わせることが求められているといえます。

米中央情報局(CIA)は、9・11から25年を迎えたのに合わせ、クリントン、ブッシュ(子)政権時代に作成された最高機密「大統領日報」71件の機密を解除し公開しました。うち69件が新規公開で、9・11の3年前に航空機突入の脅威を警告する内容もありますが、米メディアによると重要な新事実は含まれていないとみられています。1998年9月の日報では、国際テロ組織アル・カーイダのビンラディン指導者の「好ましい選択肢はワシントンを攻撃すること」であり「爆薬を積み込んだ航空機を米国の都市に突入させる可能性がある」と記述していました。ただ、攻撃の規模や標的は分かっていなかったといいます。

米国のテロ対策は安全保障の強化と個人のプライバシー保護の間で揺れ動いてきたといえます。9・11直後に成立した愛国者法は、米国と外国の通信・通話記録を取得する政府権限を大幅に拡大し、当初はテロ容疑者に限定されていた盗聴の対象も次第に広がりました。さらに、ブッシュ政権が米国家安全保障局(NSA)に令状なしの盗聴を認めていた事実が明らかになり、監視活動の合法性と権利侵害が大きな問題となりました。2013年には元CIA職員エドワード・スノーデン氏が、NSAが通信会社を通じて米国人の国内通信記録まで大量収集していたと暴露しました。これを受け、オバマ政権は2015年に米国自由法(FISA法)を成立させ、政府が通話記録を直接保管する制度を改め、通信会社が保管し、NSAが裁判所の承認を得て利用する仕組みに変更しました。現在も、外国人を対象とするFISA法702条について、対象者と連絡を取る米国人の情報まで収集できる制度を維持するかが争点となっています。FBIについても、テロ後に捜査権限が拡大し、2008年には明確な根拠がなくても米国人の調査を開始できるよう指針が改定されたため、イスラム教団体などが批判しています。2003年には22の政府機関を統合した国土安全保障省が発足し、空港保安を担うTSAや移民取り締まり機関などが傘下に入りました。空港検査や金融機関の本人確認、身分証明書制度など、テロ対策を背景とした安全確認は米国社会の日常に定着しています。専門家は、アル・カーイダ幹部の殺害や米本土での大規模攻撃の阻止を成果として評価する一方、その裏側で過剰な権力行使や私生活への介入が起きたと指摘しています。政府の大規模な監視体制がテロ防止に有効だったと明確に証明されたわけではなく、(前述したとおり)事前に得ていた情報を当局間で共有できなかったことこそ、同時テロを許した大きな要因とされますが、それでも多くの国民は監視強化を受け入れ、若い世代ほどそれを通常の社会制度として認識しているのが現状です。対外政策では、米軍が長期間アフガニスタンやイラクで戦闘を続け、アフガンからの撤退は2021年、イラクでの戦闘任務終了も同年となりました。莫大な費用と人命を失った「終わらない戦争」への不満は、米国社会で海外軍事介入への否定的な見方を強め、トランプ氏の大統領選勝利を支える要因となりました。しかし、トランプ氏自身も対イラン攻撃による戦争長期化やエネルギー価格高騰によって、同じ不満に直面しています。1980年代以降に生まれた世代が政治的影響力を強めるにつれ、米国の対外関与に慎重な傾向は続くとみられます。一方、アル・カーイダが広めたジハード主義は、ISなどの台頭を促し、現在もアフリカを中心に分派が活動しています(筆者は以前、「リアルIS」から「思想的IS」への質的変化と社会への蔓延の脅威について指摘しています)。アル・カーイダ系のアッシャバーブやJNIM、IS系の西アフリカ州やサヘル州は、鉱山支配、違法な徴税、誘拐、暗号資産などで資金を得ています。欧州ではジハード主義を動機とするテロや、ISに感化された単独犯による攻撃が続き、移民やイスラム系住民への排斥が若者の疎外感を深め、過激派の勧誘を助ける可能性も懸念されています。そして現在、米国人口の約3分の1に当たる1億人以上が、同時テロを直接記憶していません。事件を体験した世代と、教科書や映像でしか知らない30歳以下の世代の間には、テロへの警戒感、外交・防衛政策、イスラム教や移民への意識に大きな差があります。この「記憶格差」は、今後の米国社会の価値観や内政、外交政策を変える重要な要因となっているといえます。

テロリスク等を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • スリランカで2019年4月、日本人1人を含む250人以上が死亡した連続爆破テロを巡り、スリランカの裁判所は、イスラム過激派の被告15人に禁錮260~200年の判決を言い渡しました。全員の財産没収も命じました。司法当局は2021年に殺人などの罪で25人を起訴、その後1人が死亡し、裁判所は残る9人には無罪を言い渡しました。地元イスラム過激派組織が最大都市コロンボの高級ホテルや教会などを相次いで爆破し、現地在住の日本人女性も犠牲になったテロで、教会ではキリスト教の復活祭(イースター)の行事が開かれていました。テロを巡っては、裁判所が2026年7月、職務を怠りテロを防げなかったとして当時の警察長官と国防次官に死刑判決を言い渡しています。
  • 2026年9月、英国南西部グロスターシャー州のフェアフォード空軍基地周辺で、テロ準備などの疑いにより、ロンドン在住の英国籍の20歳代の男5人が逮捕されました。3台の車から一定量のガソリンが押収された一方、爆発物は見つかっておらず、警察は翌日5人を保釈し、捜査を継続しています。ホルムズ海峡で船舶を攻撃していたイランのミサイル拠点への攻撃に関連し、基地の使用を米国に認めていた重要拠点であるため、事件は英米両国の安全保障上の懸念を高めています。バーナム英首相は事件について「イランが関与した強い兆候」または「強い形跡」があると述べ、英国が米国と緊密に連携していると強調しましたが、捜査が複雑かつ徹底的に続いているとして、イラン関与を疑う具体的な根拠は明らかにしていません。トランプ米大統領も、容疑者らが大きな損害を与えようとしていたと述べ、ルビオ国務長官は外国勢力の関与を示唆しています。一方、イラン政府は事件への関与を一貫して否定し、アラグチ外相は首相発言を「見当違い」と批判したほか、英国大使を召喚して抗議しています。事件から約1週間後、米国はフェアフォード基地に配備していたB1戦略爆撃機12機を全て撤収させ、少なくとも3機は米中西部サウスダコタ州の基地へ移されたと報じられています。米国防総省は撤収を認めたものの、事件との直接的な関係は明らかにしていません。米紙報道によれば、基地を標的とするイラン関与の新たなテロ計画に関する情報は約3週間前から存在していましたが、詳細が判明して脅威の緊迫度が急速に高まったため、爆撃機撤収に至ったとされます。英国・米国がイランの関与を疑う一方、逮捕者は保釈され、爆発物も確認されておらず、実際の計画の全容やイラン政府とのつながりは、なお捜査と情報確認の段階にあります。
  • アラブ首長国連邦(UAE)のフライドバイ機がドバイからテルアビブへ向かう途中、副操縦士が機長を襲撃し、機体をイスラエルで墜落させようとした疑いが浮上しました。事件は2026年9月30日に発生し、副操縦士は機長に刃物や操縦室備え付けの非常用おのを使って攻撃し、機体は急降下したものの、機長が負傷しながら操縦室の扉を開け、乗客らが副操縦士を取り押さえたといい、その後、機体はサウジアラビアに緊急着陸したものです。副操縦士はオマーン国籍の29歳とされ、過去にオマーン航空で訓練を受けていた際、過激思想に関する資料を所持していたことから安全上の懸念を持たれ、操縦業務から外されて管理部門へ配置転換されたといいます。その後、モロッコの航空会社を経てフライドバイに入社しましたが、同社が過去の懸念を把握していたかは不明です。また、イスラエルと外交関係のないオマーン国籍者がイスラエル行き便に乗務していたことについて、イスラエル当局の確認体制にも疑問が生じています。イスラエルや米国の報道によれば、副操縦士はSNS上でユダヤ人殺害に言及し、イスラム過激主義の思想教育を受け、自殺願望も抱いていたとされ、さらに、ガザでの戦闘への「報復」や殉教を目的として、フライドバイ入社前からイスラエル行き航空会社への就職と航空機墜落を計画していたと供述したといいます。7月には知人の乗務員が搭乗していたため計画を断念し、6月にはテルアビブ近郊の空港を訪れて攻撃方法を調べたとも報じられています。副操縦士の最終的な標的については、ベングリオン空港の建物や航空機、テルアビブの高層ビルなど複数の可能性が伝えられており、UAE検察当局は、操縦を奪って意図的に墜落させようとしたとして、事件をテロ未遂とみて捜査しています。イスラエルも捜査に加わる方針ですが、イランとの関係については、米国側が関与の可能性に言及した一方、イスラエル首相は判断が早いとしており、初期調査では単独犯の可能性が高いとも報じられています。
  • 米軍は2026年9月30日、2014年から続けてきたイラクでのIS掃討任務を終え、国内に残っていた部隊を完全撤収させました。米国は2019年にIS掃討完了を宣言した後も、約2500人を駐留させ、イラク軍や警察への訓練、情報収集、輸送支援を続けていました。イラクのザイディ首相は撤収を主権回復と国家的偉業と評価し、トランプ大統領も米国とイラク双方にとっての「勝利の日」と表明しました。撤退は、米軍の駐留が反米感情を高める一方、治安維持や軍の能力向上に不可欠だったという矛盾を背景に、2024年に両政府が合意した段階的計画に基づくものです。イラク国民の多くは撤退を支持しているものの、米軍が去ることで治安の空白が生じ、弱体化した治安部隊だけでは国内を守り切れないとの懸念が強いとされます。米軍撤退後の力の空白や社会不安を利用して過激派が勢力を拡大し、ISが再結集する可能性も指摘されています。特に大きな課題は、約70あるとされる親イラン民兵組織「人民動員隊」の統制と武装解除で、これらの組織はIS対策に貢献した一方、米国とイランの対立に呼応して米大使館や米軍施設を攻撃し、政権の武器回収要求を拒否しています。イラン革命防衛隊幹部の訪問後、親イラン勢力が回収期限の延長を求めたとも報じられ、政府は武器回収を2027年6月末までに終える方針を示しましたが、実現するかどうかは不透明な状況です。さらに、米軍撤退後の安全保障上の懸念はアフガニスタンにも及びます。タリバン復権後、保護されたアル・カーイダが軍事訓練場や神学校を設置し、要員を再結集させています。国連は、アル・カーイダが複数州で訓練を行い、パキスタン・タリバン運動の訓練にも関与していると報告しており、パキスタンとの攻撃応酬がテロ組織に活動機会を与える可能性を警告しています。現在、国外での大規模作戦は抑制しているとされますが、アフガニスタンが再びテロの温床となる危険性は残されています。実際、直近でもアフガニスタン東部ヌーリスターン州で同国軍が戦闘​員28人を殺害し、32人を負傷させたと発表、この中にはパキスタンから侵入したISの戦闘員が含まれると説明しています。国防省は戦闘​員の大半がアフガニスタンの元治安要員であ​り、パキスタンの民兵組織が支援してい⁠たと主張しています。これに対しパキスタン情報・放​送省は、この主張につい​て「軽薄で根拠がなく、真実を欠いたものだ」と否定、パキスタンの治安部隊や情報機関がヌーリスターン州で​衝突に関与したことも、アフガニスタンの元治安​要員を勧誘・訓練したことも、あるいはアフガニスタンで‌のISな⁠どの過激派組織を支援したこともないと訴えています。
  • ベトナム警察は、ノルウェー国籍1人とベトナム系オーストラリア国籍1人を含む男3人をテロ容疑で逮​捕、ベトナム公安省は、カンボジアからベトナ​ムへ不法入国しようとした際に逮捕されたと説明​しています。3人は米国を拠点とする民主化団体「ベトタ⁠ン」のメンバーであることを認めたといいます。ベト​ナム政府は同団体をテロ組織に指定しています。同省は3人が「テ​ロや破壊活動を行うため、ベトナムに不法入国しようとしていた」と述べており、印章や文書を偽造した疑いもあるといいます。ベトタンは声明で、2人がカンボジアで拉致され、ベトナムに強制的に連行されたとしています。

(5)犯罪インフラを巡る動向

生成AIの回答に、正規サイトと酷似した偽サイトや詐欺サイトのリンクが混入する事例が相次いでいます。犯罪グループが検索結果を不正操作し、偽サイトを上位に表示させることで、生成AIに誤った情報を参照させていることが判明しています。利用者が商品販売サイトを尋ねた際、公式ロゴや商品画像を備えた詐欺サイトが紹介され、購入手続き中に個人情報やカード番号を盗み取られる危険があります。トレンドマイクロの調査では、2025年1~8月に同社が不正と検知したサイトへの流入のうち、ChatGPTやGeminiなど生成AI経由と判定されたものが少なくとも6969件あったといい、公式サイトを案内するよう指示しても、詐欺サイトのURLが提示される場合が確認されているといいます。背景には、犯罪者が検索順位を操作する「検索結果汚染」があり、正規サイトを改ざんしたケースも報告されています。専門家は、AIの回答を無条件に信じず、複数の情報源で内容やURLを確認するよう注意喚起していますが、企業にも、通常のネットマーケティングだけでなく、偽サイトによる自社ブランドの悪用を監視する対策が必要だと指摘されています。OpenAIは違法サイトへのリンク表示を制限する安全対策を講じていると説明し、引用元の信頼性や公開日、更新日を確認するよう利用者に案内しているほか、Googleも悪質ページを検出し、規約違反や巧妙な詐欺への対応を進めています。前回の本コラム(暴排トピックス2026年9月号)でも取り上げましたが、検索結果を利用した詐欺は商品販売に限らず、投資詐欺にも及んでおり、警視庁は、実際に投資詐欺で使われた文言を検索すると、「信頼できる」「詐欺ではない」といった肯定的な表現やAI要約が表示される事例を確認、犯罪グループは企業や官公庁のサイト内検索機能を悪用し、宣伝文句を含むURLを大量に作成して検索サービスに登録させたとみられています。警察はこの手口を、検索情報を汚染して自分たちに有利な環境を作る攻撃として警戒しており、特殊詐欺被害の増加を受け、警察庁は勧誘文句などを入力するとAIが危険度を判定する「詐欺判定機能」をウェブサイトに設ける方針で、2027年度の概算要求に関連予算を盛り込みました。生成AIや検索結果は便利である一方、重要な情報については公的機関や公式サイトなど複数の信頼できる情報源で確認する姿勢が不可欠となります。

PayPayを巡り、不正アプリによるスマホの乗っ取りと、アカウント売買を悪用した詐欺・マネロンの被害が相次いでいます。TikTokの成人向け版を装った「TikTok18+」などの不正アプリを、SNS広告やメールから誘導された偽アプリストアでインストールすると、スマホがマルウェアに感染、攻撃者は端末を遠隔操作し、保存情報や決済アプリを悪用して、本人の知らない間にPayPayから第三者へ送金してしまうもので、被害申告は2026年8月以降急増しており、連絡先への電話やメール送信、カメラ撮影などの被害につながる恐れもあります。PayPay社は、身に覚えのない取引履歴や不審なアプリを確認し、正規のアプリストア以外から入手したアプリをインストールしないよう呼びかけているほか、不正送金の被害に遭った場合は、状況に応じて最大全額を補償するとしています。セキュリティ会社も、不審なアプリを見つけた際は直ちに削除するよう注意喚起しています。一方、PayPayの本人確認済みアカウントをSNSなどで売買する行為も横行しており、警視庁は札幌市の無職の男を犯罪収益移転防止法違反容疑で再逮捕しました。男は仲介役を通じ、20~30代の男女4人から、1アカウント7000円~2万円で認証情報を購入した疑いがあり、ほかにも十数件、計16アカウントほどを買い取った可能性があるといいます。提供者はSNS上で募集され、「金に困っている」といった投稿をする人に接触してアカウントを作らせる手口も使われていました。購入されたアカウントは、詐欺被害者からの送金を受け取る口座や、複数のアカウントを経由して資金を隠すマネロンの手段として、犯罪グループに悪用された可能性があります。男は別の事件で、通販サイトの利用者に「在庫切れのためPayPayで返金する」と偽り、返金手続きを装って電子マネーをだまし取った疑いでも逮捕・起訴されています。捜査当局は、詐欺グループが中国人とみられる人物から指示を受け、購入したアカウントを電子マネー詐取や投資詐欺などに利用した可能性を調べています。PayPayなどの電子決済アカウントの売買・譲渡・貸借は法律と利用規約で禁じられており、政府は罰則も強化、警察とPayPay社は、アカウントを他人に渡す行為は犯罪インフラの提供につながるとして、絶対に行わないよう求めています。

海外で広く使われるメッセージアプリ「WhatsApp」を悪用し、友人になりすまして金銭をだまし取る詐欺被害が相次いでいます。福岡市の21歳の女子大学生の事例では、イギリス人の友人を名乗る相手から「家族の誕生日に日本のウイスキーを贈りたい」と頼まれ、購入代金や手数料の立て替えを求められ、相手は海外送金を示す偽造スクリーンショットを送り、「送金には時間がかかる」と説明したうえで、親族に配るためさらに必要だ、税関手数料がかかるなどと要求を重ね、大学生は計約200万円を振り込み、母親の指摘で詐欺に気づき、警察に被害届を提出したといいます。警察は、実在する外国人の友人のアカウントが乗っ取られ、本人になりすましていたとみています。福岡県警南署では同様の被害を2026年に入り8件把握し、総額は約2千万円に上っています。被害者の多くは仕事や留学先で知り合った外国人と交流しており、英文の中に日本の祝日や手続きに関する詳しい説明が含まれる一方、振込先は日本国内の複数口座であり、犯行グループが国内にいる可能性もあるといいます。 WhatsAppはメタ社が提供し、欧州や南米などで日常的に利用される世界最大級のアプリで、利用者は約30億人に達する。しかし、海外サーバーを経由するため捜査には時間がかかり、海外企業の協力が得られない場合もあるうえ、送金後の資金回収も難しく、被害者が届け出を諦めるケースも多いといいます。警察は地域を問わず同様の被害が起きる可能性があるとして、実際の友人であってもSNS上だけで金銭の送受信や立て替えをしないよう呼びかけています。

世界で、端末から認証情報を盗む「インフォスティーラー」の被害が拡大し、近年は高騰する生成AIの利用枠が新たな標的となっているといいます。米アンソロピックでは、AI「クロード」の利用者がログイン後に発行される認証トークンを盗まれ、2段階認証を突破された状態でアカウントを乗っ取られる事例が確認されました。盗まれたAI利用枠を売買する闇市場も形成され、犯罪集団は企業だけでなく個人のAIアカウントにも攻撃対象を広げており、Googleなども同様の被害を報告しています。イスラエルの調査会社KELAは、2025年7月時点でOpenAIなど7社のAIに関する認証済み情報が約4万9700件盗まれたと確認しました。インフォスティーラーは、ブラウザー更新などを装って利用者に操作を促し、端末へ侵入した後、対策ソフトに検知されにくい状態で認証情報や企業システムの情報を収集するもので、日本でも、日経平均採用企業225社のうち168社で重要な認証情報がダークウェブ上で売買されており、医薬品などの業種では従業員1人あたりの情報漏洩率が高いといいます。この脅威は、ウイルスの作成・販売、感染拡大、盗難情報の選別、ランサムウエア攻撃などを別々の犯罪集団が担う「サイバー攻撃の産業化」を示しており、盗まれた情報はダークウェブで取引され、すぐ攻撃に使われるとは限らないため、企業は被害発覚後の迅速な認証情報変更や監視を徹底する必要があります。なお、2025年には世界で1320万台の端末が感染し、約6億5000万件の認証情報が流出したとされ、感染防止だけでなく、すでに侵入されている可能性を前提にした対策が求められています。

米クラウドフレアの通信データによると、2026年にはウェブサイトのHTMLコンテンツへのアクセスで、AIによる情報収集や悪意ある攻撃を含むボットが約6割を占め、人間を上回ったことが判明、特にAIエージェントの通信は、2025年6月から2026年5月までの1年間で1700%以上急増しており、インターネットは人間中心からAI中心へ移行しつつあるといいます。この変化は、利用者が人間であることを前提に成立してきたネット広告業界を揺るがしており、生成AIによって、人間らしいスクロールやカーソル操作を再現するボットを容易に作れるようになり、広告の閲覧やクリックを偽装して広告費を不正消費するアドフラウドが巧妙化しています。アドフラウドについては本コラムでもたびたび取り上げていますが、2025年の国内被害額は約1591億7733万円に達し、同年のネット広告費の約4%に相当すると推計されています。さらに、悪意のないAIエージェントが人間に代わってサイトを閲覧する場合でも、広告が読み込まれてインプレッションとして計上される可能性があります。そのため、広告の表示回数やクリック数が実際に人間へ届いた結果なのか判別できず、従来の広告指標そのものへの信頼が低下することになります。もはや既存のブラックリスト方式は、人間らしく振る舞う高度なボットの登場によって限界を迎えつつあり、対策として、博報堂DYホールディングス子会社のAds for Humanityは、虹彩などを用いて実在する一人の人間であることを証明するWorld IDを活用し、人間と認証された利用者に限定して広告を配信するサービスを展開しています。これは危険なアクセスを排除する従来方式ではなく、安全性を確認した利用者へ配信するホワイトリスト型の発想であり、2029~2030年ごろには主流が逆転する可能性も指摘されています。ただし、World IDの生体認証利用者はまだ約1950万人にとどまり、配信規模が限られる点が課題です。また、サイト事業者がボットと人間を識別してアクセス先を分け、サーバー負荷を軽減する取り組みも進んでいます。広告主や代理店、プラットフォーマーには(クリック至上主義など)問題を認めにくい事情があるものの、AI時代に広告指標の信頼を維持するには、業界全体が人間性の証明や計測方法の見直しに取り組む必要があるといえます。

警視庁は、第三者に譲渡する目的を隠してスマホを不正契約・購入したとして、ベトナム国籍のホアン容疑者ら男女4人を詐欺容疑で逮捕しました。4人は2024年7月、仲間と共謀し、東京都内の携帯電話販売店で、販売価格約32万6000円のスマホ1台をだまし取った疑いが持たれています。ホアン容疑者は指示役とみられ、知人や大学生に「スマホを買えば1台につき2万~3万円の報酬が得られる」と勧誘し、少なくとも6人の大学生にスマホ約50台を不正契約させたとされます。さらに、2023年11月以降に計55台を購入した疑いがあり、ホアン容疑者の自宅からは51台が押収されたほか、都内の買取店へ約700台を売却した記録も確認されました。警視庁は、これらの端末が銀行口座からの不正送金やフィッシング詐欺など、犯罪グループの通信手段として使われた可能性があるとみて、端末の流通先や事件への関与を詳しく調べています。

大阪府警は、自動車盗の際に車両搭載GPSによる追跡を妨害する目的でGPSジャマーを携帯したとして、自称会社員で住居不定の容疑者を電波法違反容疑で送検したと発表しました。自動車盗への悪用目的でGPSジャマーを携帯した人物の起訴は全国初とされます。容疑は2025年10月、大阪市西成区の駐車場に止められた車内で、総務相の免許を受けずにジャマーを使用可能な状態で携帯したというものです。GPSジャマーは、GPS衛星の電波と同じ周波数帯にノイズを発信し、車両の位置情報を特定できなくする機器で、容疑者は盗難車のGPS通信を遮断するため所持していたと認めています。大阪府警は容疑者を含む5人について、2025年5月から2026年1月にかけて大阪を中心とする8都府県で自動車盗などを繰り返したとして、窃盗や住居侵入の疑いで逮捕・送検してきました。さらに同10月には車の部品を盗んだ疑いなどで追送検し、一連の捜査を終えました。被害は自動車21台などに及び、総額は約8165万円相当に上るとされます。

ラトビアで摘発された大規模な「SIMファーム」は、複数のSIMカードを収容する装置を大量に稼働させ、80カ国以上の電話番号を犯罪者へ貸し出していたといいます。捜索では約1200台の装置と数十万枚のSIMカード、高級車などが押収され、本人確認を回避した4900万件超の偽アカウントが、詐欺、恐喝、密入国あっせん、児童性的虐待コンテンツの流通などに悪用されたとされます。一方、実物のスマホを大量に並べて操作する「フォンファーム」も拡大しているといいます。カンボジアの複合企業関係者をめぐる事件では、詐欺拠点に設置された1250台の端末で、SNS上の約7万6千アカウントが管理され、暗号資産投資詐欺などを支援していた疑いが示されました。近年は、外装を外したスマホ基板を箱に収め、パソコンや制御ソフトで一括操作する小規模な農場を、通販キットと生成AIを使って低コストで構築できるといい、20台規模なら初期費用約5千ドル、運営費月約450ドルで始められ、クラウド上の端末を借りるサービスもあるため、専門知識や多額の資金がなくても参入しやすいといいます。こうした実物端末が使われるのは、SNS運営者による不自然なアクセスや偽の反応の検知を避け、人間の操作に見せかけるためだといいます。その結果、偽の閲覧数、いいね、フォロワーを大量に生み出し、詐欺だけでなく世論や情報環境の操作にも利用される危険が高まっています。 専門家は、農場によって多数の市民が同じ政治的意見を持つように見せかけられ、民主主義が脅かされる可能性を警告しています。生成AIにより偽情報の発見はさらに難しくなっており、人気や急速な拡散を根拠に情報を信じず、発信者と目的を確認してから共有する姿勢が求められているといえます。

警察庁と総務省は、家庭用IoT機器がサイバー攻撃の「踏み台」とされる深刻な問題に対処するため、官民連携の協議会を設置し対策を強化することを発表しました。家庭のスマホやルーター、テレビ接続機器などが利用者の知らないうちに不正アクセスの発信源にされると、攻撃先のサーバに当該家庭のIPアドレスが記録され、攻撃者の追跡が困難になり、海外アクセス制限など既存の対策をかいくぐられるおそれがあります。国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の調査では、2026年1月以降で1日平均最大2万7000件の家庭向けIPアドレスが悪用されていたと推定され、警察庁のまとめでは2024年のインターネットバンキング不正送金被害のうち、約33%に当たる28.9億円(1918件)がこうした踏み台利用によるものだとしています。踏み台化の経路は、機器の設定の脆弱性を突かれるケースや、流通過程でマルウェアが埋め込まれるケースがあり、具体例としては「未使用の通信量を共有して収益が得られる」とうたうアプリや「無料で動画が視聴できる」と宣伝するテレビ接続機器を介してマルウェアに感染する事例が報告されています。こうした実態を踏まえ、官民は攻撃手口や対策を通信事業者や業界団体と共有するとともに、不審なアプリや機器を利用しないよう国民に注意喚起を行い、初会合を開きました。

▼ 総務省 レジデンシャルプロキシ対策アライアンス(第1回)
▼ 資料1ー2 警察庁の取組(警察庁)(一部非公開)
  • レジデンシャルプロキシの実態
    • 家庭用IoT機器等がレジデンシャルプロキシ化してサイバー攻撃等の踏み台として悪用される事案が多数発生。
    • 攻撃者は、当該機器等を経由し接続元を一般家庭と偽ることで攻撃先企業等のセキュリティ対策を回避するほか、攻撃者に対する捜査を困難なものにしている。
    • 令和6年中のインターネットバンキング不正送金事犯においてレジデンシャルプロキシが高い割合で悪用されているほか、その他の犯罪種別でも悪用されている実態がみられる。
    • レジデンシャルプロキシの種類には、プロキシ化ソフトウェアのインストール等に伴うもの(収益アプリ等)、機器自体に仕込まれたマルウェアによるもの(動画ストリーミングデバイス)が存在。
    • プロキシ化ソフトウェアのインストール等に伴うものでは、収益アプリとVPNアプリが目立つ。
    • 機器自体に仕込まれたマルウェアによるものでは、動画ストリーミングデバイスが大半を占める。
    • 犯罪インフラとしての汎用性が高く、今後もサイバー攻撃等での悪用が懸念されており、早急な対策が必要。
  • レジデンシャルプロキシの悪用実態
    • 令和7年度中のサイバー犯罪等におけるレジデンシャルプロキシの実態(警察庁が報告を受けたもの)は、以下等であった。
      • 「機器自体に仕込まれたマルウェアによるもの」が約5割、「プロキシ化ソフトウェアのインストール等に伴うもの」が約3割
      • 「プロキシ化ソフトウェアのインストール等に伴うもの」では、VPNアプリと収益アプリで約半数を占める
      • 「機器自体に仕込まれたマルウェアによるもの」では、動画ストリーミングデバイスが約9割
      • 入手元については、オンラインショップ、海外で購入、知人から譲受け(機器設置者から聴取した結果)
    • 警察におけるレジデンシャルプロキシ対策の全体像
      • 警察では、被疑者の捜査・検挙に加え、レジデンシャルプロキシを悪用する各種サイバー事案の未然防止のため、家庭用IoT機器利用者に対する注意喚起等(対策(1))、対象機器等を扱う事業者への注意喚起等(対策(2))、攻撃のターゲットとなる企業等へのセキュリティ対策強化の要請(対策(3))、不正な指令の通信の遮断措置(対策(4))等の対策を関係機関等と連携して展開。
    • 対策(1)使用者に対する注意喚起・広報啓発活動
      • 「サイバー警察局便り」や「サイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」を活用し、レジデンシャルプロキシに関する注意喚起を実施。
      • 本アライアンスの設置を受けて、本アライアンス構成機関の連名での注意喚起も実施。
      • 捜査の過程で悪用された家庭用IoT機器等の使用者が特定できた場合、使用者に対する指導・注意喚起も実施。
    • 対策(2)対象機器等を扱う事業者への注意喚起、流通防止対策
      • 昨年、警察が認知した証券口座への不正アクセス・不正送金事案において、不正アクセス元のIPアドレスが割り当てられていた回線契約者を特定し、回線契約者宅へ訪問して捜査を実施。
      • 回線契約者は、証券口座への不正アクセス行為への関与を否定。
      • 回線契約者は、小型動画ストリーミングデバイスに、音楽視聴アプリをインストールして利用しており、当該アプリがレジデンシャルプロキシとして稼働していたものと判明。
      • 当該音楽視聴アプリの配信を行っていたアプリ配信ストアを運営する事業者に対し、当該アプリが不正アクセスに悪用されている実態について情報提供を行い、被害拡大防止のための対応を要請。⇒ 警察からの要請を受けて、アプリ配信ストアでの当該アプリの配信が停止された。
    • 対策(3)攻撃先企業等のセキュリティ対策の強化
      • 令和7年4月、犯罪対策閣僚会議において「国民を詐欺から守るための総合対策2.0」を決定。本対策に基づく各種対策を関係機関等と連携して推進。
      • 令和7年7月、金融庁と連名で、金融関係協会に対して、顧客口座・アカウントにおける不正アクセス対策の強化等について要請を実施。
      • DMARCやパスキーの導入・利用の推奨について、広く広報啓発を実施。
▼ 資料1ー3 総務省の取組(総務省)(一部非公開)
  • 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)では、大規模サイバー攻撃観測網であるNICTERにおいて、未使用のIPアドレス約30万個(ダークネット)を活用し、グローバルにサイバー攻撃の状況を観測。
  • IoT機器を狙った攻撃の割合(NICTERによる観測)
    • NICTERで観測されたサイバー攻撃のうち、少なくとも3分の1以上がIoT機器を狙った攻撃。
    • NICTERで2025年に観測されたパケットのうち、調査目的パケット以外について、サービス種類(ポート番号)ごとに上位10ポートまでを分析。
    • 上位10ポート以外のその他の宛先ポートの占める割合が増加傾向にあるが、IoT機器を狙った攻撃は多様化しており、ポート番号だけでは分類しにくいものなど、「その他」に含まれているものもある。
  • IoT機器調査及び利用者への注意喚起(NOTICE)
    • 情報通信研究機構(NICT)がサイバー攻撃に悪用されるおそれのあるIoT機器を調査し、電気通信事業者(ISP)を通じた利用者への注意喚起を行う取組「NOTICE」を平成31年2月より開始。さらに令和6年度からID・パスワード設定の脆弱性の調査(特定アクセス行為等業務)に加え、ファームウェアの脆弱性等を有する機器やマルウェア感染済み機器の調査も実施。
  • 脆弱なIoT機器への対処(NOTICE)について
    • NICTがインターネットを観測・調査し、悪意あるプログラムに感染したネットワーク 機器(IoT機器)や、今後感染する危険性が高い脆弱なネットワーク機器(IoT機器)を発見
    • 電気通信事業者を通じ、当該機器の管理者に注意喚起して対応を促すことで、被害の発生を防止
  • NOTICEによるID・パスワードの注意喚起とその効果 ~機器調査事例~
    • NOTICEにより、マルウェアが悪用する機器(Telnet/SSH)について、ID/パスワードの脆弱性を調査。
    • 特定アクセスに成功した接続先をISPに通知し、ISP経由で注意喚起を実施。
    • その結果、ISPへの通知数は、ピーク時比で約32%減少。
  • 家庭用IoT機器を悪用したサイバー攻撃(レジデンシャルプロキシ)の脅威
    • 昨今、家庭用IoT機器を経由したサイバー攻撃(レジデンシャルプロキシ)による被害が確認。これらは、無料で国内外のテレビ番組が視聴できると謳う「動画ストリーミングデバイス」等の様々な形で存在。利用者が気付くことなく、サイバー攻撃に悪用。
    • 攻撃者グループは、当該機器を経由し通信元を一般家庭と偽ることで、サイバー攻撃の検知を困難なものとしている。
    • 令和6年中のネットバンキング不正送金事案のうち、少なくとも約44%がレジデンシャルプロキシ経由とされ、被害額については、約30億円との試算のほか、証券会社不正アクセス等での悪用も報告
    • こうした機器は家庭等のLAN内に潜伏することで、従来のプロジェクト(NOTICE)による検知が困難なものとなっている。
  • レジデンシャルプロキシを経由したサイバー攻撃のしくみ
    1. 利用者が、家庭内に動画ストリーミングデバイス等のIoT機器を設置すると、攻撃指令サーバ(C2サーバ)にアクセスを行い、攻撃者グループA がIoT機器を管理。
    2. 攻撃者グループBは、攻撃者Aが管理する不特定なIoT機器を経由して、金融機関等に不正アクセス等を行い、不正送金等の被害が発生。
      • 家庭内に設置されたIoT機器を経由したサイバー攻撃であるため、被害組織にとっては、国内の家庭からアクセスがあったようにしか見えず、対策が困難であるとともに、利用者にとっては、自身の使用するIoT機器がサイバー攻撃の踏み台になっていることに気付くことは困難。

米国では、子供のSNS依存を巡る訴訟が大きな転換点を迎えています。各州は2023年以降、保護者らを代表してメタを提訴し、SNSの設計そのものが依存を生み出していると主張してきました。特に、動画を際限なく見続けられる「無限スクロール」や自動再生など、利用を長引かせる機能が問題視されています。専門家は、こうした機能が利用者の使用を控えようとする行動を妨げ、中毒性を高めると指摘、さらに、SNS利用によってドーパミンが放出され、薬物に似た依存性が生じる可能性も示されています。一方、メタはSNSの設計に責任があることを否定しましたが、2026年8月に各州との和解に応じました。最大180億ドルを支払う内容で、テック企業を巡る訴訟では過去最大級の和解となりました。敗訴した場合には、制裁金が2000億ドル規模に膨らみ、他の訴訟にも影響が及ぶ恐れがあったことが、和解の背景とみられています。裁判では、メタの元社員が安全性より事業上の成果が優先されていたと証言し、経営陣もリスクを認識していたとされました。米国では同様の訴訟が多数起こされ、連邦裁判所だけでも3208件に達しています。和解条件には、子供のSNS利用を1日2時間までとする上限や、午前0時から6時までの利用制限などが盛り込まれたましたが、今後はこれらの対策がSNS業界全体の世界標準になるかが焦点となります。メタは競合企業も同様の対策を取ることを和解金支払いの条件の一部としましたが、ユーチューブやティックトックは追随する姿勢を示していません。専門家は、メタ以外のサービスが規制対象外なら効果が限定されるため、業界全体で対策を実施すべきだと指摘しています。また、カリフォルニア州では、16歳未満に対して無限スクロールや動画の自動再生など「中毒性のある機能」を提供することを禁じる州法が成立、アルゴリズムによって利用者の関心を予測し、長時間利用を促す仕組みも規制対象となります。また、18歳未満の利用者に自殺や自傷行為を勧めないよう、AIチャットボットの運営企業に求める法律も成立、危険がある場合には相談窓口の案内や保護者への連絡を行う仕組みも義務付けられました。これらの規制には、子供の心の健康を守る目的に加え、ニューサム知事が将来の大統領候補として有権者に訴える狙いもあるとみられています。日本でも、こども家庭庁の有識者会議が子供のSNS規制を検討しています。中間報告書は、SNSが心身に与える影響について十分な科学的知見はないとしながらも、無限スクロールなどが長時間利用を招くリスクを認め、事業者に保護措置を求めています。ただし、サービスごとに内容や危険性が異なるため、政府が一律の利用時間を示すことには難しさがあるうえ、事業者が定めた利用時間の妥当性を誰がどのように評価するかという課題も残ります。米国のように自治体が住民を代表して提訴する制度も日本にはなく、民事訴訟は原則として被害を受けた当事者が起こす必要があります。メタ日本法人は、米国で導入される子供向け保護策の効果を注視するとしています。

SNSの規制に関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • オーストラリア政府は、SNS利用者の閲覧履歴、検索行動、「いいね」などを分析し、関心が高いと判断した投稿や動画を自動表示するレコメンドアルゴリズムを規制する法案を発表、年内の議会提出を目指しているといいます。X、TikTok、Instagramなどでは、利用者の反応を得やすい刺激的な投稿が優先される傾向があり、長時間利用やSNS依存を助長するほか、有害情報が拡散しやすくなるとの懸念が背景にあります。法案は、SNS事業者に対し、利用者がアルゴリズムによる「おすすめ」表示を受け入れるか、本人がフォローした友人やクリエーターの投稿を中心に表示するかを選択できる機能の提供を義務づけるとしています。つまり、利用者がアルゴリズムを実質的に停止し、閲覧内容を自ら管理できる権利を保障するものです。また、未成年者については、摂食障害や女性蔑視を助長する情報、ポルノなどの有害コンテンツから守る対策も事業者に求めています。なお、今回の規制はSNSだけでなく、オンラインゲームやAIチャットボットを含むデジタルサービス全体の安全対策を強化する法案の一部で、違反企業には最大1億920万豪ドル(約120億円)の罰金が科されることになります。オーストラリアは2024年12月に16歳未満のSNS利用を制限する法律を世界で初めて施行しており、今回の制度はSNSを利用できる16歳以上を主な対象としています。アルバニージー首相は、政府がSNSを支配するのではなく、国民がオンライン上の選択権を取り戻すための取り組みだと説明しています。
  • 米アラバマ州は、動画投稿アプリ「TikTok」と親会社の中国企業バイトダンスについて、十代ユーザーの精神衛生に悪影響を与えたとする訴訟で、両社と和解しました。和解により、TikTokは同州の十代利用者に対し、1日2時間の利用制限、15分ごとの利用中断、より厳格な年齢確認を導入することが義務付けられ、州に少なくとも1億ドルを支払うことになります。さらに、指定期間内に他の40州の司法長官が同様の合意に加われば、支払額は最大3億ドルに増える可能性があります。今回の合意は、ソーシャルメディアが若者の精神衛生に及ぼす影響をめぐる大規模訴訟で、TikTokが州政府と和解する初めての事例となりました。少なくとも27州と首都ワシントンも同様の訴訟を起こしており、今後、他州への対応やサービス仕様の変更が広がる可能性があります。一方、和解は現時点でアラバマ州にのみ適用されるため、州ごとに異なる利用規制を導入することは、TikTokにとって技術面・運用面で大きな負担になるとみられます。アラバマ州は、TikTokの動画が途切れなく表示される仕組みと推薦アルゴリズムが高い依存性を生み、若者を暴力や自傷行為に関する過激な内容へ誘導していると主張、州内では自傷行為による救急外来の受診が急増し、アプリが若者の精神衛生危機の一因になったと訴えていました。また、TikTokが十代向けに安全なアプリとして認定されるため、性的・暴力的コンテンツへのアクセスを制限していると実態以上に説明していたとも指摘しました。さらに、年齢確認が自己申告に頼っているうえ、アカウントを作成しなくても動画を閲覧できるため、利用者は年齢に関する質問を回避できるとされました。その結果、実質的な年齢制限がなく、「キッズモード」などの安全機能も十分に機能しないと州は批判しています。加えて、米国利用者のデータに中国政府がアクセスできる可能性について、TikTokが利用者を誤解させたとも主張しています。今回の和解は、若年層保護とデータ管理をめぐるTikTokへの圧力を強める転機となりますが、同社は他州での訴訟や規制にも対応を迫られることになります。
  • EUは、子どもをSNSやオンラインサービスに伴う依存、過激なコンテンツ、睡眠不足、不安、オンラインいじめ、自傷行為などから守るため、「EU子ども法案」を提案しました。フォンデアライエン欧州委員長は、デジタル空間にも現実社会と同様の明確な年齢線引きが必要だと説明し、当初の報道では15歳未満のSNS利用を制限する方針、ロイター報道では13歳未満の利用禁止と13~15歳の保護者管理を柱とする案が示されました。法案は、18歳未満向けのSNS、動画共有サービス、オンラインゲーム、AIチャットボットなどを対象とし、依存を促す機能、無限スクロール、報酬機能、プロファイリングに基づく推薦、見知らぬ人からの望まない接触を禁止するほか、AI対話機能の初期設定での無効化、安全なアルゴリズム、保護者管理機能、ブロック・ミュート機能、年齢確認を事業者に義務付けるもので、違反企業には世界年間売上高の最大6%の罰金が科される可能性があります。一方、年齢情報や保護者との紐付け情報を大規模に集めることで、個人情報の漏えい、サイバー攻撃、既存法との重複を招くとの懸念も出ています。オーストラリアは16歳未満のSNS利用を全面禁止し、米国でもフロリダ州やカリフォルニア州などで規制が進んでいますが、表現の自由をめぐる訴訟や、ネットを居場所・学習手段として認めるべきだとの反論もあり、子どもの安全と権利、利便性をどう両立するかが今後の課題となります・
  • SNSは子どもたちの人間関係に不可欠な一方、利用者の不安や怒りを刺激する投稿を優先表示し、利用時間を延ばすアルゴリズムによって、精神面への悪影響や依存を引き起こす懸念が強まっています。富山大学の山田正明准教授は、SNS企業が広告収入のためにサービスの継続利用を促し、その結果として子どもの怒りや不安を高め、SNSから離れにくい状態を生み出していると指摘しています。こうした問題を受け、亀石倫子弁護士は、通知機能や無限スクロールなど、利用者を引きつけ続ける設計そのものを争点として、国内で運営会社の責任を問う訴訟を検討しているといいます。米国では、幼少期から複数のSNSを利用してうつ病などを発症した女性をめぐり、家庭環境やいじめなど別の要因があっても、SNSが唯一の原因でなくても責任を認められるとして、運営会社の責任を認める評決が出されました。亀石弁護士は、SNS依存は個人の努力だけで解決できる段階を超えており、子どもの健康を守るため、サービスの仕組みを含めた早急な対策が必要だと訴えています。
  • AIやSNSの普及に伴い、子どもの心身の発達、学習、社会生活に及ぼすリスクへの懸念が各国で高まっています。指摘されている影響は、身体活動の減少、近視、睡眠不足、不安やうつ、自尊心の低下、学習・発達への悪影響、摂食障害、共感力の低下、孤独感、依存、ネットいじめ、性的虐待など多岐にわたります。欧州委員会は、オンライン上の安全を政治的優先課題と位置づけ、SNSやAIを含む包括的な「子ども法案」を提示、欧州の9~16歳の子どものうち、オンライン環境を安全だと感じる者が半数にとどまる調査結果も、規制強化の背景となっています。法案では、疑似的な友人や恋人として会話する「AIコンパニオン」が特に問題視されています。専門家は、AIとの会話が人間同士よりも摩擦が少なく、肯定感を得やすいことから、個人的な悩みの相談を通じて一方的な愛着や感情的依存を生む可能性があると指摘、年齢確認や安全対策が不十分な場合、性的な会話やグルーミングにつながる危険もあり、特に6~12歳の子どもは影響を受けやすく、AIが好奇心や報酬への欲求を利用すると、集中力や認知能力の低下、学業不振、社会的困難が長期化する恐れがあるとしています。また、AIを組み込んだゲームも、子どもの行動や好みを分析して報酬を最適化し、過剰利用や強迫的利用を促す可能性があるほか、AI搭載玩具についても、人間関係に必要な相互性や責任感を欠くため、成長に悪影響を与え得るとされました。一方、SNSや生成AIには、遠隔地の友人との交流、入院中の子どもの社会参加、孤立しやすい性的少数者の仲間探し、学習や知識へのアクセス拡大などの利点もあります。そのためEUの法案は、子どもをサービスから一律に締め出すのではなく、事業者に安全な環境を設計し、検証・説明する責任を負わせるものと専門家は評価しています。各国では具体的な規制も進んでいます。前述のとおり、米カリフォルニア州では、対話型AIが自傷行為を誘発するリスクを評価し、子どもの自殺示唆に対応する相談窓口や保護者向け機能を整備する法律が成立しました。また、未成年者に対する自動再生や個人情報に基づくおすすめ表示を禁じ、長時間利用を促す機能を制限する法律も成立しています。中国は仮想の家族や恋人との親密な関係を提供する擬人化AIを禁止し、英国も16歳未満のSNS利用や、18歳未満が恋愛・性的関係を疑似体験するAIの提供を禁止する方針を示しました。オーストラリアでは16歳未満のSNSアカウントを企業が制限する法律が施行されましたが、年齢確認が十分でない例もあり、継続的な監督の必要性が明らかになっています。日本でも年齢制限を含む対策が議論されているものの、対応は海外より遅れています。さらに、SNSは子どもの安全だけでなく民主主義にも影響を及ぼしているといいます。ピュー・リサーチ・センターの37カ国調査では、SNSが情報提供や政治参加の機会を与えると評価される一方、分断を深め、民主主義に悪影響を与えると考える人の割合が多くの国で増加しました。26カ国の比較では16カ国で否定的な見方が強まり、日本でもその割合は2022年の23%から43%へ上昇しました。各国政府は、プライバシー保護やアルゴリズムによる推薦の抑制、事業者への罰則を検討しており、今後は利便性や表現の自由を維持しながら、子どもの発達と社会全体を守る仕組みを構築できるかが課題となります。

2026年9月以降、企業や政府機関への不正アクセスが国内外で同時多発し、個人情報の大規模漏洩が相次いでいます。日本では20社以上から延べ5700万~7000万件超、世界では少なくとも3億2000万人分の漏洩が判明しました。日本の事例は世界で確認された大規模漏洩35件のうち20件を占め、人口の半数に相当する規模に達しています。被害は従来多かったランサムウエアによるシステム停止や身代金要求から、顧客情報を直接窃取する攻撃へと比重が移っています。国内では、焼肉チェーン「焼肉きんぐ」で約1078万人分、カーシェアサービス「タイムズカー」で約660万人分、MrMaxで最大173万人分、セイコーマートで約57万人分が漏洩、大和証券では約22万件、デジタル庁のシステムでは国家公務員約24万6000件、ニチレイでは5万3000件超の情報流出が確認されました。調査会社GMOリサーチ&AIでは最大約94万8000人分が漏洩し、会員のポイントがギフトコードへ不正交換される二次被害も発生しています。

海外でも、米国では運転免許証画像など約1億5300万人分、ピザチェーンでは6800万件、デンマークでは氏名や住所、個人登録番号を含む約880万人分が流出、韓国では銀行などの金融機関、韓国電力、大学が攻撃を受け、少なくとも6万5000件超の顧客情報が漏洩、住民登録番号など本人確認に使われる情報も含まれ、なりすましや詐欺などの二次被害が懸念されています。さらにフランスでも公共財政システムへの攻撃により、納税者や企業の情報が漏洩しました。このうち米国では個人情報漏えいが急増しており、米NPO法人ITRCによれば、発生件数は2020年の約3倍にあたる3321件に達した2025年を上回る勢いで、2026年上半期だけで1803件、被害者は延べ4億7120万人に及んでいるといいます。特に9月には、米国とカナダの住民約1億5300万人分を含む、1億7000万人超の身分証明書スキャン画像が流出し、国防長官の運転免許証データも含まれていたといいます。流出データはロシア系犯罪集団によってダークウェブ上で販売された可能性があり、管理会社への不正アクセスは約5カ月続いたとしてFBIが捜査しています。また、オラクルの医療システムから約2000万人分の患者情報が漏えいし、教育機関向けシステム「Canvas」では最大2億7500万人分のデータへのアクセスを主張する集団が身代金を要求するなど、医療・教育分野にも被害が広がっています。さらに、国防総省の人材データセンターからは、社会保障番号や職歴など300万人超の機密情報が流出し、悪用は確認されていないものの、国家安全保障上の懸念が指摘されています。これらの事件は、個人情報が犯罪だけでなく安全保障上の脅威にもなり得ることを示しています。AIの普及によって、攻撃者はシステムの弱点を発見しやすくなり、言語の壁を越えて世界中の組織を攻撃できるようになりました。IBMなどの調査では、AIを利用した攻撃が前年比56%増加し、AIによるなりすましやマルウェアが被害の4分の1を占めました。五カ国の情報共有枠組み「ファイブアイズ」は、AIがサイバー攻撃と防御の能力を根本的に変えるとして、対応の期限は数年ではなく数カ月だと警告、アンソロピック、オープンAI、マイクロソフトなども、企業や公共サービスを守るため、100社超の賛同を得て社会全体の防御強化を呼びかけており、政府とIT業界による国際的な対策が急務となっています。

急増の背景として、攻撃者によるAIの悪用が指摘されています。AIは脆弱性の探索、攻撃手順の作成、翻訳、標的選定などを自動化し、専門知識や人手をあまり必要とせず、休みなく大量の攻撃を実行できる特徴があります。実際、韓国の攻撃では、中国系ソフトや米アンソロピックのAIツールを利用した痕跡が確認されました。また、海外の攻撃者にとってこれまで日本語が障壁となっていたところ、AI翻訳によって日本企業への攻撃も容易になったことも背景要因とみられています。近年はアプリ、通販サイト、会員制サービスなどのウェブシステムが標的になっており、顧客情報を大量に集め、属性と購買行動を結び付けてサービス改善や顧客の囲い込みに活用する企業ほど、攻撃による被害が大きくなりやすい傾向にあり、国内のウェブシステムへの攻撃件数は2026年7~9月に68件となり、1~3月の5.7倍、4~6月の2.6倍に増加しました。AIがウェブ情報の解析を得意とすることも、攻撃増加の一因とされます。専門家は、AIによって攻撃が高度化しただけでなく、人間が標的を慎重に選ぶ従来型から、機械が多数の企業へ無差別かつランダムに脆弱性を試す方式へ変化したと分析しています。そのため、従来は狙われにくかった中堅・中小企業も被害を受けやすくなったといいます。防御側はAIによるリアルタイム遮断に制約があるものの、脆弱性の発見や修正、異常検知にAIを活用し続ける必要があります。また、企業には修正プログラムの迅速な適用、基本的なアクセス管理、暗号化、委託先を含む監視体制の強化が求められています。さらに個人情報を収集する企業は、利便性や顧客分析の効果だけでなく、漏洩時のリスクや保管量も見直す必要があります。政府は重要インフラを守るため、2027年度から脅威情報を基に攻撃を再現し、侵入後に潜伏する攻撃者を探す「脅威ハンティング」の手法を官民で共有する方針で、防衛省も自衛隊の探索能力を生かして事業者を支援する計画であり、ランサムウエアを含む潜伏型攻撃への備えを強化しようとしています。

立命館大学の上原哲太郎教授は、米アンソロピックの高度AI「クロード・ミュトス」の登場が、日本社会とITインフラの関係を見直す契機になると指摘しています(2026年9月24日付朝日新聞)。ミュトスは、ネットフリックスが利用する基本ソフトウェアに十数年間潜んでいた脆弱性を発見し、高度AIが人間では困難な規模でシステムの弱点を短時間に探し出せることを示しました。AIの進歩から登場自体は予測できたものの、想定より早く実現した点に大きな衝撃があります。大量の脆弱性を一挙に発見するAIを無条件で公開すれば、攻撃者にも利用されるため、アンソロピックが対策を講じたうえで公開を判断したことには象徴的な意味があると指摘しています。AIを使った攻撃の標的として、必ずしも金融業界が最初に狙われるとは限らず、金融機関は従来からシステムの安定性やサイバーセキュリティに多額の投資をしてきた一方、一般企業の多くは、自社システムのどこにどのような脆弱性があるのか十分に把握できていないためです。弱点の深刻度や重要性を区別できなければ、限られた資金を効果的な対策に振り向けられず、全体を完璧に守ろうとすれば膨大な費用が必要になるため、脆弱性を洗い出したうえで対応の優先順位を決めることが重要になります。日本企業がシステムの実態を把握しにくい背景には、2000年代初頭のITバブル崩壊後、情報システムの開発や保守、管理を外部の販売会社に一括して任せてきた経緯があります。ITの変化についていくために内製を避けた結果、自社に十分な知識や管理能力が蓄積されず、その負担が現在になって表面化、フロンティアAIの登場は、企業が自社の情報システムをどれほど理解し、主体的に管理しているかを可視化したともいえると指摘しています(筆者も正にそのとおりと感じます)。AIによってサイバー攻撃の種類が根本から変わるわけではありませんが、人間にはない速度、粘り強さ、反復能力によって、従来の攻撃が高速化、大量化、自律化すると考えられ、防御側では、AIが発見した脆弱性に修正プログラムを適用する作業が急増し、大量のパッチが押し寄せる「パッチ・ストーム」への対応が課題となります。すべての修正を同時に行うのは難しいため、システムの重要度とリスクに基づく優先順位付けが不可欠となるとも指摘しています。さらに、企業が導入するAIエージェント自体が攻撃対象になりうるといいます。攻撃者が外部文書にAIへの命令文であるプロンプトを埋め込むと、AIエージェントがそれを正規の指示と誤認し、機密情報の流出、内部サービスの不正利用、ファイルの改変や破壊などを実行する「プロンプト・インジェクション」が起こる可能性がある。この脅威に対しては、防御側も高性能AIを活用し、自社システムについて攻撃側より多くの情報を持つことが重要になるといいます。日本は金融、電力、運輸、医療などのITインフラを24時間365日、高い稼働率で運用しており、その一方で、定期的なメンテナンスによる短時間の停止にも苦情が寄せられる現状は、「過剰品質」といえると指摘、フロンティアAIによってサイバー攻撃のリスクが増すなか、消費者はインフラが緊急停止する可能性を受け入れ、常時稼働を当然視しない姿勢を持つ必要があるとの主張もその通りだと感じます。また、サイバー攻撃やサービス停止を受けた企業を過度に責めることは、攻撃者の思うつぼになりかねず、ランサム型攻撃では、盗んだデータの復旧などと引き換えに金銭を要求、企業が顧客から強く非難されて困窮するほど、攻撃者は利益を得やすくなります。そのため、消費者や社会は被害企業への批判だけを強めるのではなく、復旧や再発防止を支える視点を持つことが求められているとの指摘も考えさせられます。

中国系とみられるハッカー集団によるサイバー攻撃が、日本、米国、韓国などで相次いで確認されています。攻撃対象はシンクタンク、大学、防衛関連企業、法律事務所、金融機関、重要インフラなど広範囲に及んでいます。米プルーフポイントは、中国のハッカー集団が少なくとも2025年4月以降、日米の関係者を標的にフィッシング攻撃を実施していたと発表しました。攻撃者は小泉防衛相の事務所や日本台湾交流協会を装い、偽のドメインからメールを送信、米国では、ホワイトハウス元高官やAI企業アンソロピックの社員になりすまし、AI専門家を新規プロジェクトへ誘う内容のメールを送っていたといいます。返信した相手を偽のログイン画面へ誘導し、パスワードやメールの内容を盗み取る手口で、攻撃手法や標的の選定が中国の情報活動と一致することから、プルーフポイントは中国関連の活動と判断しています。また、韓国では2026年9月末以降、主要銀行を含む金融機関への攻撃が続き、少なくとも6万5千件を超える顧客情報の漏洩が判明しました。クラウドストライクは、攻撃者がアンソロピックの「クロード・コード」や中国系のAIツール「ARTEX」、ディープシーク、智譜AIなど複数のAIモデルを利用したと報告、攻撃者はAIに中国語で指示し、侵入調査や攻撃、盗んだデータの販売先の探索などを自動化していたといい、クラウドストライクは、攻撃者が中国語話者で、金銭目的だった可能性があるとみているといいます。

企業への不正アクセスが相次ぐ中、ソフトウエアやアプリケーションの脆弱性が公表されてから、それを悪用したサイバー攻撃が確認されるまでの期間が急速に短縮しており、横浜国立大学の研究グループが独自のおとりシステム「ハニーポット」で調査した結果、中央値は2024年の141日から2025年には91日、2026年には35日となり、約2年で約4分の1に縮まったことが分かりました。脆弱性の公表後に企業が対策を講じるための猶予は、従来より大幅に乏しくなっていることが示された形です。同大の吉岡教授は、攻撃の加速化が生成AIの普及時期と重なっていることから、AIが大きく影響している可能性を指摘しています。生成AIによって攻撃プログラムの作成や改変が効率化されたとみられ、実際におとりシステムへ届いた攻撃コードには、生成AIの利用をうかがわせる特徴的な癖も確認されたといいます。ただし、AIだけでなく、攻撃者側の分業化も被害拡大を促す要因となっているといいます。闇市場では、盗み出したデータだけでなく、企業ネットワークへ侵入するための情報そのものを販売するブローカーも存在、侵入、情報の窃取やデータ暗号化、身代金の恐喝や交渉といった工程が分担されることで、攻撃の効率が高まり、専門知識が少ない者でも参入しやすくなっていると考えられます。企業には、まず公表済みの脆弱性を確実かつ迅速に修正することが求められ、そのうえで、ネットワークを分離して重要情報へ容易に到達できない構成にし、侵入を前提とした監視や対応手順を事前に整備する必要があります。攻撃を完全に防げなくても、被害を局所化し、侵入後の拡大を抑える体制を構築することが重要です。吉岡教授は、サイバー攻撃を受ければ全てが終わるという「ゼロかイチか」の問題ではないとし、平時の脆弱性管理に加えて、侵入後の復旧や被害抑制まで含めた多層的な対策を促しています。

AIエージェントの利用により、攻撃の能力や速度が高まり、短時間で複数の組織へ侵入できる危険性が指摘されていますが、AI企業が設ける悪用防止機能には抜け道があり、改変可能で安価なオープン型AIの普及も対策を難しくしている実態もあります。韓国の銀行攻撃で使われたとされるARTEXは、組織のネットワークに対する侵入テストを自動化する目的で開発されたオープンソースのツールで、開発者は悪用を受け、プロジェクトの更新とソースコードの公開を停止し、今後の一般公開や保守支援も行わないと表明しました。日本でも9月下旬から、サイバー攻撃とみられるシステム障害や顧客情報漏洩が続発しており、脆弱性や企業内の管理ツールを悪用した侵入への警戒が呼びかけられています。米司法省とFBIは、中国政府と契約関係にあるIT企業の攻撃基盤を無力化するため、七つのインターネットドメインを押収しました。対象企業は、標的への侵入や脆弱性の特定に使うツールを提供し、大規模ハッカー集団「フラックス・タイフーン」とつながりがあるとされます。攻撃対象には米国の電力会社、日本やポーランドの空港、台湾の大学などが含まれ、日本の空港に関する捜査には警察庁も協力しています。米当局は2024年にも、同社が関与した25万台以上の端末によるボットネットを無力化しています。こうした報告に対し、中国外務省はハッキングや悪意ある情報拡散に反対し、韓国の事案についても中国は一貫して取り締まっていると説明しています。このように、国家関連組織や犯罪者がAIと既存の攻撃基盤を組み合わせ、情報窃取や金銭目的の攻撃を効率化している実態が明らかになっています。

企業や自治体を狙うサイバー攻撃が相次ぎ、大規模な個人情報流出が発生しています。警察庁が2026年上半期に検知した、サイバー攻撃の準備段階とされる不審なアクセスは、観測対象のIPアドレス1件あたり1日平均1万3687件に達しました。2025年同期の9606件から約50%増加し、過去最多を更新、不審なアクセスは2021~22年の7000件台から、2023~24年の9000件台へと増え続けており、攻撃の活発化が明確になっています。 トレンドマイクロによれば、2026年9月末までに公表された国内企業・自治体への不正アクセス被害は600件に達し、前年1年間の593件をすでに上回りました。特定の国や業種だけが標的になっているわけではなく、外部から組織内へ接続するVPN機器の脆弱性や、外部から遮断されていないAIの利用環境が侵入口になる事例が目立つといいます。最近ではAIが攻撃を自動化した痕跡も確認されており、今後は高度な技術を持たない攻撃者でもAIによって攻撃を実行できる可能性が懸念されています。一方、専門家はAIが攻撃に使われている可能性を指摘しながらも、個別の被害への関与を断定する情報はまだ不足していると説明しています。無料または低コストで利用できる高性能AIモデルの中には、高度な攻撃能力や悪用リスクを持つものが登場しており、攻撃者が偵察や情報収集に利用する可能性があるといいます。ただし、AIの関与の有無にかかわらず、企業が取るべき基本的な対策は変わらない点も正しく認識する必要があります。ただ、今回増えている攻撃は、身代金を要求するランサムウエアとは異なり、個人情報そのものを狙う傾向が強く、複数の被害に共通する攻撃手法や犯人の目的は明確になっておらず、盗まれた情報が個人への詐欺や企業への脅迫に使われる可能性もあるため、個人と企業の双方に警戒が求められています。企業は既知の脆弱性を修正し、保護すべきシステムやサービスを把握したうえで、VPN機器などの管理を徹底する必要があります。また個人には、パスワードの使い回しを避け、多要素認証を利用し、口座やポイントの不審な動きを確認すること、不審なメールやSNSにも注意し、情報流出後の詐欺被害を防ぐことが重要となります。そして、企業は従業員教育や複数手段による本人確認を進め、被害事例から同様の攻撃を受ける可能性を検証すべきであり、専門家や政府関係者は、セキュリティ対策を単なるコストではなく事業継続と信頼を守るための投資と位置づけ、被害防止につながる情報を社会全体で共有する必要があると訴えています。

個人情報が流出した場合は、情報の種類に応じて二次被害を防ぐ対策を直ちに講じる必要があります。特にパスワードが漏れた場合は、同じパスワードを使っている他のサービスを確認し、速やかに変更することが重要で、再設定時には、使い捨てパスワードを用いる2段階認証や、顔認証などを利用するパスキーの導入も有効です。パスワードは印鑑と同じように重要度に応じて使い分け、銀行口座などの重要サービスでは複雑なものを設定し、使い回しを避ける必要があります。メールアドレスや電話番号が流出すると、企業を装って「アカウントが不正利用された」「支払い情報の更新が必要だ」などと案内し、追加の個人情報を盗もうとする詐欺が発生します。不審なメッセージを受け取っても、記載されたリンクを安易に開かないことが求められます。また、クレジットカード情報が漏れた場合は、カード会社に連絡して利用停止や再発行を依頼する必要があり、パスポートや運転免許証の画像が流出した場合は、身に覚えのない契約書などが届いていないか確認し、不審な点があれば警察や発行元に相談することが重要です。さらに、なりすましによる被害を防ぐため、家族や知人にも情報流出の可能性を伝える必要があります。専門家は、個人情報は一度流出すると完全に取り戻すことが難しいため、普段から不要なサービスへの登録を控えるなどの備えが大切だと指摘しています。また、サイバー攻撃では近年、AIを悪用して企業サーバーの脆弱性を探し、侵入口を見つける事例が明確になっています。今後はAIによって攻撃が自動化される可能性もあり、企業や団体は自社だけでなく、関連会社、子会社、委託先を含む三段階で対策を強化する必要があります。日本企業や団体への攻撃は年々増加しているものの、直近約2カ月の急増理由は十分に分析されておらず、日本だけが特に狙われているとは断定できません。

警察庁は、2026年上半期に確認されたランサムウェア被害が123件に達し、2020年以降で半期最多になったと発表しました。被害件数は2025年同期より7件増加し、企業や団体を狙うサイバー攻撃が一段と深刻化している状況にあります。被害の約6割に当たる79件は中小企業で、大企業でも31件が確認され、業種別では製造業が37件で最多となり、卸売・小売業が15件、情報通信業、医療・福祉、不動産・物品賃貸業が各9件となるなど、幅広い業界が標的となりました。ランサムウェアは、企業のシステムに侵入してデータや顧客情報を暗号化し、利用できない状態にしたうえで、復旧と引き換えに身代金を要求する攻撃ですが、近年は、暗号化だけでなく、侵入時に盗み取ったデータを公開すると脅迫する「二重恐喝」が主流となっています。手口を確認できた被害の92%が二重恐喝に該当し、バックアップでデータを復旧できても、情報流出の脅迫を受ける危険が残る状況になっています。被害の影響は大きく、被害企業への調査では、復旧費用が1000万円以上となったケースが約6割を占めました。1億円以上を要した事例もあり、復旧に1か月以上かかった企業も多い結果となりました。全業務が停止した企業も9件確認され、システム障害が長期化して事業活動や取引先への納品に支障を及ぼす例もみられました。一方、サイバー攻撃を想定した事業継続計画を策定していた被害企業は13%にとどまり、情報セキュリティ監査を実施していない企業も少なくありませんでした。攻撃者は、企業のVPN機器やネットワーク機器などに存在する脆弱性を探し、不正侵入の経路を確保しているとみられます。前述したとおり、警察庁のセンサーが検知した不審な通信は、1日平均1万3687件に上り、前年同期の約1.5倍に増え、通信元としては米国が最多で、オランダ、ブルガリア、英国などが続きました。一方、マルウェア「Mirai」に感染した家庭用ルーターやIoT機器が攻撃の踏み台に使われる事例も確認され、企業だけでなく身近な機器も脅威の一部となっています。国内では、川崎市の病院で1万人以上の患者情報が流出したほか、東京都の調査研究事業に関わる民間会社でファイルが暗号化される被害が発生、さらに、ロシア系とみられるハッカー集団「RansomHouse」は、冷凍食品大手ニチレイへの攻撃を主張し、システム障害によって取引先への納品遅延などが生じました。高性能なAIの悪用により、攻撃がより高速かつ大規模になる可能性も指摘されています。

インターネットバンキングの不正送金被害は、ランサムウェアとは異なる傾向を示しました。2026年上半期の被害は253件、総額20億7000万円で、前年同期と比べて件数は大幅に減り、被害額も半減しました。個人被害は多要素認証や不正送金監視の強化によって大きく減少しましたが、法人被害は17億4000万円で全体の84%を占め、1件当たりの被害額も約3400万円に達しました。法人を狙う攻撃では、銀行担当者を装って電話をかけるボイスフィッシングが多く、偽メールでネットバンキングの更新などを促して認証情報を盗む手口が使われたほか、遠隔操作ソフトを企業端末に仕込み、端末から不正送金する新しい手口も確認されました。企業は個人より口座残高や振込上限額が大きいため、攻撃者にとって魅力的な標的となっていることがうかがえます。フィッシングメールについては、約36万件の送信元が分析され、サーバー所在地は中国が45%、日本が14%、ブラジルが10%と推定されています。別の集計では、フィッシングの報告件数は約73万件に上り、依然として深刻な状態が続いています。AIの悪用により、従来目立っていた不自然な日本語が改善され、偽メールを見分けにくくなる傾向もあり、警察庁は、被害防止策としてソフトウェアや機器の更新、脆弱性への迅速な対応、オフラインバックアップの取得を呼びかけていますが、二重恐喝を想定し、重要情報の持ち出しやアクセス権限を管理することも重要で、さらに、攻撃を受けた場合に業務を再開する手順を定めたBCPを策定し、定期的に訓練する必要があります。最近の攻撃手法等をふまえれば、企業規模にかかわらず、経営者が被害を具体的に想定し、技術面と組織面の双方から対策を強化することが求められているといえます。

▼ 警察庁 令和8年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について
  • はじめに
    • 令和8年上半期においては、政府機関や大手製造業者に対する情報窃取を目的としたとみられるサイバー攻撃のほか、研究機関等に対する不正アクセスが相次ぎ発生した。このようなサイバー攻撃の前兆ともなるぜい弱性探索行為等の不審なアクセス件数は前年同期比で大幅に増加しており、その大部分が海外を送信元とするアクセスが占めている。また、令和8年上半期におけるランサムウェアの被害報告件数は123件と、統計を取り始めた令和2年下半期以降、半期の件数としては過去最多となった。
    • 情報通信技術の発展が社会に便益をもたらす反面、インターネット空間を悪用した犯罪も脅威となっている。例えば、令和8年上半期における特殊詐欺(SNS型投資詐欺及びSNS型ロマンス詐欺を含む。)の被害額は約1,816億2,000万円となるなど、過去最悪となった令和7年の被害額を上回るペースで推移している。加えて、インターネットバンキングに係る不正送金、ニセ社長詐欺、暗号資産を利用したマネー・ローンダリング等、インターネット上の技術・サービスが犯罪インフラとして悪用されている実態が見られるほか、昨今、高性能AIが出現し、攻撃者に悪用されることでサイバー攻撃がより高速かつ大規模に行われるリスクが懸念されるなど、AIをめぐる情勢は日々刻々と変化している。
    • さらに、犯罪実行者募集情報等、インターネット上における流通そのものが法令に違反する違法情報のほか、有害情報や偽・誤情報が氾濫しており、サイバー空間における治安上の脅威となっている。
    • このような情勢等を踏まえ、警察庁は、令和8年4月、4年ぶりに「警察におけるサイバー戦略」を改定し、警察において推進するべき取組を明らかにした。全国警察は、同戦略に基づき各種取組を推進している。
    • 例えば、オンラインカジノに誘因する相対屋の運営者等を検挙したほか、ユーロポー ルを中心とした国際共同捜査に参画してミキシングサービスグループの検挙・実態解明を行うなど、検挙に向けた取組を推進している。また、北朝鮮のIT労働者に関する注意喚起やランサムウェアによって暗号化されたデータの復号、国際共同捜査によるマルウェアと結びついたサーバ等のテイクダウンを行うなど、被害の未然防止・拡大防止に向けた取組を推進しているほか、高度サイバー人材の確保や最先端の情報通信技術に係る研究・開発を進めるなど、基盤整備に向けた取組も推進している。さらに、令和8年10月1日に施行予定のアクセス・無害化措置を着実に実施し、サイバー攻撃による被害の防止を図るべく、内閣官房・内閣府、警察、防衛省・自衛隊が三位一体となって中核的な機能を担う体制整備を行っている。
  • 令和8年上半期における脅威情勢の概要
    1. サイバー空間の脅威情勢
      1. 高度な技術を悪用したサイバー攻撃
        • 警察庁が設置したセンサーにおいて検知したぜい弱性探索行為等の不審なアクセス件数は、大幅に増加(前年同期比51%増)。その大部分の送信元が海外。
        • 令和8年上半期におけるランサムウェアの被害報告件数は123件。半期の件数として統計を取り始めた令和2年下半期以降最多。
      2. インターネット空間を悪用した犯罪
        • インターネットを利用した犯罪は右肩上がりで増加しており、その約9割が詐欺。インターネットを利用した詐欺の被害額は増加傾向であり、令和8年上半期は 1,755 億円(前年同期比45%増)。
        • サイバー特別捜査部が、フィッシングメールと評価されるメールを対象に分析を行ったところ、送信元IPアドレスから推定される送信元サーバの所在国として最も多いのは中国の45%、次いで日本、ブラジルの順。
        • 令和8年上半期における振込型の特殊詐欺被害(被害額約1,033億4,000万円)のうち、全体の約7割でインターネットバンキングを悪用。
      3. 違法・有害情報
        • インターネット上には、インターネット上の流通そのものが法令に違反する違法情報のほか、違法情報には該当しないものの、犯罪や事件を誘発するなど公共の安全と秩序の維持の観点から放置することのできない有害情報等が存在。令和8年上半期のインターネット・ホットラインセンター(IHC)における違法・有害情報の判断件数は7万1,704件(前年同期比46%増)。
    2. 警察の取組
      1. 検挙に向けた取組
        • サイバー犯罪の検挙件数は平成 29 年以降増加を続けており、令和8年上半期における検挙件数は 7,607 件(前年同期比 15%増)。検挙件数のうち、犯罪収益移転防止法及び組織的犯罪処罰法違反等のマネー・ローンダリング関連の犯罪の検挙件数は1,945件(前年同期比37%増)で、サイバー犯罪のうち25%。
        • ユーロポールを中心に組成された国際共同捜査において、暗号資産のミキシングサービス「AudiA6」の管理者とみられる被疑者2名を逮捕。被疑者グループが運営・管理するウェブサイトのテイクダウン等を実施。サイバー特別捜査部は、犯行実態を明らかにするデータの復元に成功し、「AudiA6」の実態解明に貢献。
        • サイバー部門では、他部門が主管するサイバー事案の捜査に対しても積極的かつ主体的な支援を行い、被疑者の特定や実態解明に貢献。サイバー特別捜査部では、高度に専門的な知識・技術に基づき、都道府県警察からの暗号資産追跡依頼に対応しており、令和8年上半期における暗号資産追跡依頼件数は 1,307件(前年同期比25%増)。
      2. 被害の未然防止・拡大防止に向けた取組
        • 令和8年7月、警察庁及び国家サイバー統括室(NCO)等は、米国及び韓国等と共に、「北朝鮮IT労働者に関する各国・企業等に対する注意喚起」を公表。北朝鮮がIT労働者を外国に派遣していること、同労働者は身分を偽って仕事を受注し収入を得ていること、その収入が核・ミサイル開発の資金源になっていることを指摘。
      3. 基盤整備に向けた取組
        • 令和8年5月、都道府県警察本部の内部組織を条例で定めるに当たっての基準を定める警察法施行令を改正。都道府県警察においては、サイバー警察部等においてサイバー警察事務を一元的に所掌することとし、サイバー部門の一元化組織設置に向けた準備を推進。
        • 令和8年度当初予算におけるサイバー空間の脅威への対処に係る予算は66億7,900万円(前年度比17%増)と令和4年度以降一貫して増加。
  • ランサムウェア攻撃
    • 犯罪組織等によるサイバー攻撃としては、まずランサムウェアによる攻撃が挙げられる。ランサムウェアとは、端末等に保存されているデータを暗号化して使用できない状態にした上で、そのデータを復号する対価(金銭又は暗号資産)を要求する不正プログラムである。近年は、データを窃取した上、「対価を支払わなければ当該データを公開する」などと対価を要求する二重恐喝が被害の多くを占め、実際に事業者の財務情報や個人情報等が、ダークウェブ上のリークサイトに掲載される事例が多数確認されている。また、ランサムウェアで暗号化することなく、データを窃取した上で機密情報等の公開を予告して対価を要求する手口も発生している。
    • 令和8年上半期におけるランサムウェアの被害報告件数は 123 件であり、半期の件数としては、統計を取り始めた令和2年下半期以降、最多となっている。また、長期にわたり企業活動が阻害され、国民生活に影響を及ぼした被害が依然として発生している。
    • ランサムウェア攻撃の被害企業について、組織の規模別で見ると、前年と同様に中小企業が約6割を占めている。業種別では、製造業が約3割を占め、続いて卸売・小売業、情報通信業、不動産、物品賃貸業が上位となっているが、これら以外にも様々 な業種で被害が確認されている。
    • 令和8年上半期にランサムウェア被害に遭った企業・団体等に対して実施したアンケートの結果によると、ランサムウェア被害に関する調査費用、復旧費用が高額化しており、復旧に総額1,000万円以上を要した組織の割合は全体の6割を占める。また、復旧に要した期間については、1か月未満で復旧した組織の割合は全体の5割弱に留まるなど、被害が長期化する傾向にある。
  • 米国におけるサイバー犯罪の情勢
    • 詐欺被害の急増は我が国のみならず他国でも見られる。米国連邦捜査局(FBI)のインターネット犯罪通報センター(IC3)が発表した2025年インターネット犯罪レポートによると、2025年にIC3が受理したインターネット利用詐欺に関する相談件数は約100万件、被害総額は約209億ドル(前年比+26%、日本円で約3.3兆円(1ドル=160円換算))に達するなど、米国においても過去最悪の被害となっている。
    • 日米両国における被害の共通点として、投資詐欺の深刻な被害が挙げられる。日本では、令和7年7月以降、著名人の画像や動画を無断で使用したバナー等広告によるSNS型投資詐欺の増加が顕著であるほか、令和7年中に発生したSNS型投資詐欺1件あたりの被害額が平均1,358.2万円に上るなど、非常に大きな脅威となっている。また、米国においても、投資詐欺の被害総額が約86億ドル(前年比+31.6%、日本円で約1.38兆円(1ドル=160円換算))になるなど、全インターネット犯罪中で最大の被害となっている。
    • また、公的機関職員へのなりすましによる詐欺被害も日米共通の課題である。日本では、令和7年中の警察官等をかたる「ニセ警察詐欺」による被害総額が約1,005億円を記録し、特殊詐欺全体の被害総額の70.6%を占めるに至った。米国においても、政府機関なりすまし(Government Impersonation)による詐欺の被害額が約8.0億ドル(前年比+97%、日本円で約1, 280億円)に上るなど、被害の急増が見られており、FBIの公式YouTubeチャンネルにおいても、FBI捜査官等へのなりすましについて注意喚起がなされている。そのほか、同チャンネルでは、東南アジア諸国における詐欺拠点や国際的な詐欺対策に関連する動画が公開されている。
  • SNS・メッセージングアプリの悪用
    • 多くの国民が利用するSNS(Social Networking Service)は、犯罪インフラとして悪用されている実態がみられる。例えば、各種犯罪により得た収益を吸い上げる中核部分が匿名化され、SNSを通じるなどしてメンバー同士が緩やかに結び付くなどの特徴を有する匿名・流動型犯罪グループが、SNSで仕事の内容を明らかにせず、「高額」「即日即金」「ホワイト案件」等、「楽で、簡単、高収入」を強調する表現を用いるなどして、犯罪実行者を募集し、特殊詐欺等を敢行していることが確認されている。その際、首謀者、指示役、犯罪実行者の間の連絡手段には、匿名性が高く メッセージが自動的に消去される仕組みを備えた通信手段が悪用されている実態がみられる。このほか、匿名・流動型犯罪グループの関与が認められるものとして、SNSを通じて対面することなく、やり取りを重ねるなどして関係を深めて信用させ、投資金名目やその利益の出金手数料名目等で金銭をだまし取るSNS型投資詐欺又は恋愛感情や親近感を抱かせて金銭をだまし取るSNS型ロマンス詐欺があり、正にSNSが犯罪インフラとして悪用されている。
    • 令和8年上半期の特殊詐欺の被害額は約 1,816 億 2,000 万円(前年同期比51.7%増)と、過去最悪となった令和7年の被害額を上回るペースで推移している。
    • このような事案に関しては、インターネットを通じて知り合った人物から誘われ、海外渡航した結果、特殊詐欺に加担させられる事案も発生している。
    • また、近年は、匿名で不特定多数の者に瞬時に連絡を取ることができるSNSの特性から、児童買春等の悪質な事犯のコミュニティとなっている状況もうかがえる。実際、SNSに起因して性犯罪等の被害に遭った小学生の被害児童数は、令和7年に167人を記録するなど、近年増加傾向にあり、被害児童の低年齢化の傾向が見られる。
    • さらに、オンラインゲームに関連する事案も発生しており、例えば、オンラインゲーム内のアイテムやゲーム内通貨等と現実空間の通貨(電子マネー等を含む。)を交換するリアルマネートレードに起因する犯罪が発生している。
  • メール・SMSの悪用
    • メールやSMS(Short Message Service:電話番号を宛先にしてメッセージをやり取りするサービス)は、フィッシングに悪用される実態がみられる。フィッシングとは、実在する組織を装ってメールやSMSのリンクから偽のウェブサイト(フィッシングサイト)へ誘導し、同サイトでアカウント情報やクレジットカード番号等を不正に入手する手口であり、これによって得られた情報はインターネットバンキングに係る不正送金やクレジットカードの不正利用に使われている。
    • 令和8年上半期におけるフィッシング報告件数は、フィッシング対策協議会によれば、約73万件である。
    • フィッシングは、人の信頼や思い込みなどの心理的な隙につけこんだソーシャルエンジニアリングの一形態であるが、近年は、AI技術の発達により、文章の自然さや偽装の精度が大幅に向上するなど、従来と比較して見抜きにくいフィッシングが増加している。
    • これらの被害を防ぐためには、メール認証や多要素認証等の技術的な対策だけでは十分ではなく、「メール等に記載のリンクを安易にクリックしない」、「公式サイトや公式アプリからアクセスする」など日常的なサイバーセキュリティ意識の向上を図ることが重要である。
    • また、令和8年上半期におけるインターネットバンキングに係る不正送金事犯の発生件数は253件、被害総額は約20億7,000万円(前年同期比51%減)となっ ている。
    • さらに、一般社団法人日本クレジット協会によれば、令和8年上半期のクレジットカードの不正利用被害額は約221億円(前年同期比30%減)となっている。
  • ボイスフィッシングによる不正送金被害
    • フィッシングにおいては、令和6年秋から、犯罪グループが企業に架電し、ネットバンキングの更新手続等をかたってメールアドレスを聞き出し、フィッシングメールを送付するボイスフィッシング(ビッシング)という手口による法人口座の不正送金被害が急増した。
    • また、令和8年5月、企業への架電を起点として、外部からの操作を可能とする遠隔操作ソフトをインストールさせ、企業側の端末を遠隔操作すると同時に、偽サイトに誘導してインターネットバンキングのID・パスワードを窃取し、不正送金を実行するという新たな手口による被害が急増するなど、手口の巧妙化が見られる。
    • 遠隔操作により、企業が普段使用している端末から送金を実行することで、金融機関による端末認証や不正取引監視を回避しようとする意図があると考えられる。
  • インターネットバンキング
    • 令和8年上半期における振込型の特殊詐欺被害(認知件数1万 2,263 件、被害額約1,033億4,000万円)のうち、インターネットバンキングを利用したものの被害額は振込型全体の約7割を占めるなど、引き続きインターネット空間における資金移動が犯罪に悪用されている実態が見られる。
    • また、預貯金口座の譲渡等を規制する犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は、年々増加傾向にある。
  • 暗号資産
    • 暗号資産については、利用者の匿名性が高く、その移転がサイバー空間において瞬時に行われるという性質から、犯罪に悪用されたり、犯罪収益等が暗号資産の形で隠匿されたりするなどの実態がみられる。また、暗号資産に対する規制は各国において異なることから、暗号資産交換業者が所在する国・地域の中には、本人確認等の措置が義務付けられていないものもあるほか、海外の暗号資産交換業者で取引される暗号資産の中には、移転の記録が暗号化されるなど、追跡が困難なものもある。さらに、暗号資産取引の匿名性をさらに高めるため、暗号資産交換を個人が無登録で業として行う、いわゆる「相対屋」を経由しながら送金を繰り返したり、他の暗号資産と混ぜ合わせ、取引の流れを不透明にすることで送信アドレスと受信アドレスのつながりを隠す「ミキシングサービス」等のサービスを利用したりするなどして、その追跡を困難にし、マネロンに悪用している実態がある。
    • このほか、国外においては、犯罪収益の洗浄に用いられる「ミキシングサービス」の中には、不正に窃取又は購入された本人確認情報を用いて架空の暗号資産アドレスを開設し、これらの暗号資産アドレスをミキシングに用いるなど、大規模に組織化されている例も確認されている。
  • IoT機器の悪用
    • 一般家庭で使用されるネットワーク接続機能を有する機器(IoT機器という。IoTとはInternet of Things(モノのインターネット)の略。)について、機器の所有者の認識しないところでいわゆる「レジデンシャルプロキシ」(一般家庭の回線を利用して通信を中継し、接続を行う仕組み。「プロキシ」とは、自分の端末とウェブとの間に入り、通信を代理・仲介する機能をいう。)として動作し、踏み台として悪用される事案が多発している実態が明らかとなっている。
    • 例えば、「テレビに接続して海外動画を無料で視聴できます」などと称して販売されている不正な動画配信用機器が不正アクセス等の踏み台として悪用される事案が発生している。これらの機器の中には、購入前の段階において、ダウンローダ等の不正なソフトウェアが仕込まれた機器が流通しているものもあり、当該機器をインターネットに接続することにより、使用者の気付かないうちにマルウェアをインストールしてプロキシとして動作するものがある。
    • また、無料VPNサービスや無料音楽アプリケーションの中に、プロキシ機能を持たせるためのマルウェアが組み込まれたものが含まれている場合があり、これらを機器にインストールすることで、利用者の端末がレジデンシャルプロキシとなる事例も確認されている。
    • これらの機器が踏み台となり、攻撃者の通信を中継した場合、通信先のサーバのログには、攻撃者のIPアドレスではなく、踏み台となった機器のIPアドレスが記録される。海外の攻撃者であっても、国内の機器を踏み台とすることにより、海外からのアクセスを制限したサーバにアクセスすることも可能となるなど、セキュリティ対策上の重大な脅威となっているとともに、サイバー犯罪捜査においても深刻な障害となっている。
    • 例えば、令和7年中に発生したインターネットバンキングに係る不正送金事犯(被害件数4,747件、被害額約104億円)において、犯行時にレジデンシャルプロキシが用いられた事案は少なくとも737件、被害額は約13.9億円に及ぶ。令和8年中においても、引き続き犯行時にレジデンシャルプロキシが用いられた事案を多数認知しており、依然としてセキュリティ対策上の脅威となっている。
  • AIの悪用
    • 現在急速に一般社会で利用が広がっているAIについては、国民生活の向上及び国民経済の発展に寄与する一方、多くの国民がAIにより発生するリスクに不安を抱えている。具体的には、AI技術を悪用した不正プログラム・フィッシングサイトの作成、偽・誤情報作成、CBRNEテロの実行に必要な情報の収集、機密情報の漏えいといった、犯罪や国家安全保障への影響が懸念されている。実際にも、生成AIを利用して不正プログラムを作成した容疑での逮捕事案のほか、生成AIを悪用した本人確認書類やわいせつ画像の作成といった事例が確認されている。
    • また、近年、高性能AIが出現し、攻撃者に悪用されることでサイバー攻撃がより高 速かつ大規模に行われるリスクが懸念されるなど、AIをめぐる情勢は日々刻々と変化している。
    • AIが発達することにより、人間が関与せず、AIで自動化したサイバー攻撃が今後増える可能性がある。例えば、国家を背景とするサイバー攻撃グループがAIを利用し、人間の介入なしにサイバー攻撃を実施したとの民間企業の報告がある。生成AIで攻撃のハードルが下がることにより、高度な技術を持ち合わせない者であっても、サイバー攻撃を実行することが容易になると考えられる。
    • また、AIを悪用することで詐欺や性的ディープフェイクを始めとする各種犯罪が巧妙化している。
      1. AIを悪用してランサムウェアを作成した被疑者の検挙
        • 会社員の男(19歳)は、飲料メーカーがランサムウェアによる攻撃を受けたという報道を見て、ランサムウェアを作成してお金を稼ごうと思い、令和8年2月、AIを悪用して作成したソースコード(プログラムの動作を指示する命令文)を組み合わせることでランサムウェアを作成した。令和8年6月、同男を不正指令電磁的記録作成で逮捕した。(千葉)
      2. 少年による動画配信サービス運営会社に対する偽計業務妨害事件の検挙
        • 高校生の少年(15歳)は、動画配信サービスのサーバにぜい弱性を発見し、令和7年11 月、生成AIを用いて修正した自作の攻撃プログラムを使用して同サービス運営会社に対し、同サービス利用会員アカウントの利用登録を解除する旨の虚偽の情報を順次送信して、約4万6,800アカウントをその利用登録者の意に沿わぬ退会処理をするなどさせて業務を妨害した。令和8年7月、同少年を偽計業務妨害で逮捕した。(警視庁)
      3. AIを悪用して警察官になりすました特殊詐欺被疑者の検挙
        • 令和6年10月頃から令和7年5月頃までの間、被疑者等は、海外の特殊詐欺拠点において、日本国内にいる被害者に対し、電話やSNSの通話機能等を利用して、「マネロン事件に関与している嫌疑があるため、保有する預貯金の流れを確認する必要がある。」などとうそを言い、現金をだまし取っていた。だます過程において、警察官役がSNSのビデオ通話機能を使い、あらかじめ準備していた警察官の制服様のものを着用して、偽の警察手帳を呈示し、さらには警察官役(被疑者)の顔が識別されないよう顔をAIで生成して、被害者をだましていた。警察が提供した情報に基づき海外の当局が犯行拠点を摘発し、令和7年8月、身柄の引き渡しを受け、逮捕した。(愛知、栃木、千葉、静岡、岐阜、三重)
      4. AIを悪用してわいせつ画像を作成した被疑者の検挙
        • 生活費を得る目的から、会員制ウェブサイトを自作し、会員費を徴収した上で、会員に対し、同サイト上で生成AIを利用して作成したわいせつな画像を公開した。令和8年4月、同男をわいせつ電磁的記録記録媒体陳列で逮捕した。(富山)
  • 違法・有害情報
    • インターネット上には、近年、社会問題となっている「犯罪実行者募集関連情報」、「違法オンラインギャンブル等関連情報」等、インターネット上の流通そのものが法令に違反する違法情報のほか、違法情報には該当しないものの、犯罪や事件を誘発するなど公共の安全と秩序の維持の観点から放置することのできない有害情報、社会的混乱を生じさせる偽情報・誤情報が存在しており、サイバー空間における治安上の脅威となっている。
    • 令和8年上半期のIHCにおける判断件数は、違法情報6万8,842件(前年同期比約53%増)、重要犯罪密接関連情報107件(前年同期比約92%減26)、自殺誘引等情報2,755件(前年同期比約0.7%増)であった
      1. 違法情報
        • 近年インターネット上には、匿名・流動型犯罪グループ等による犯罪の実行者を募集する犯罪実行者募集情報が氾濫しており、令和8年上半期のインターネット・ホットラインセンター(IHC)の受理件数のうち、1万2,516件(前年同期比約97%増)が犯罪実行者募集情報と判断された。このような募集情報への応募者らにより実際に強盗や特殊詐欺等の犯罪が敢行されるなど、この種の情報の氾濫がより深刻な治安上の脅威になっている。
        • 強盗・窃盗等についても、SNSや求人サイト等で「高額」、「即日即金」、「ホワイト案件」等の文言を用いて犯罪実行者が募集された上で実行される実態がうかがわれる。このような匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる手口により実行された強盗事件等の中には、被害者を拘束した上で暴行を加えるなど、その犯行態様が凶悪なものもみられる。
        • また、スマートフォン等からアクセスして賭博を行う「無店舗型」のオンラインカジノについては、アクセス数の増加及びこれに伴う依存症への問題が強く指摘されているほか、これを通じた我が国資産の海外流出、マネロンへの利用等が懸念されている。
        • 令和8年上半期のIHCの受理件数のうち、5,259件が違法オンラインギャンブル等関連情報と判断された。
      2. 有害情報
        • 有害情報としては、「殺人等」、「臓器売買」等の個人の生命・身体に危害を加えるおそれが高い重要犯罪と密接に関連する重要犯罪密接関連情報のほか、「自殺関与」や「自殺の誘引・勧誘」といった自殺誘引等情報が挙げられる。
        • 令和8年上半期の主な重要犯罪密接関連情報のIHC判断件数は、殺人等48件、臓器売買44件であり、自殺誘引等情報の内訳は、自殺関与4件、自殺の誘引・勧誘2,751件であった。
      3. 偽・誤情報
        1. 災害発生時における偽・誤情報
          • 大規模災害発生時におけるインターネット上の偽情報・誤情報については、信ぴょう 性の確認や判断に時間を要し、被災地等において救助活動への支障や社会的混乱を生じさせるおそれがある。
          • 実際、災害時に、過去の震災の際に撮影された画像を悪用して、同地域における治安が悪化したり、甚大な被害が発生したりしているとの印象を与えるような日本語・外国語の偽情報等がSNS上で拡散された事例等が確認されている。
        2. 外国による偽情報
          • 近年、国際社会では、他国の世論や意思決定に影響を及ぼし、自国にとって好ましい情報環境を生み出すため、偽情報の拡散を含む影響工作が様々な形で展開されている。
          • 偽情報等の拡散は、軍事手段に加えて複合的に用いられたり、選挙への不当な介入のために行われたりする状況がみられるが、これは我が国にとっても安全保障上の脅威であり、選挙の公正や自由な報道といった民主主義の根幹を脅かすのみならず、我が国の治安にも悪影響をもたらし得るものであるところ、生成AI技術の進展等に伴い、巧妙な偽情報が大量に生成・拡散されるリスクへの対応が重要な課題となっている。
  • なりすまし型偽投資広告及び送金犯罪に係る取組
    • 令和7年中のSNS型投資詐欺の認知件数は9,523件、被害総額は約1,288億円と危機的な状況であった。これらSNS型投資詐欺について、被害者が犯人側と接触した手口としてはバナー等広告が最も多く、著名人になりすました偽の投資広告を入口としてSNSでのやりとりに誘導され、被害者がSNSでやりとりを重ねる中で、投資名目で現金等を詐取されているケースが多く見られる。
    • こうした深刻な被害状況を背景に、「詐欺及びストーカー被害拡大防止のための緊急対策」(令和8年7月28日犯罪対策閣僚会議決定)等において、なりすまし型偽広告の削除を大手プラットフォーマーに促す取組の加速や、なりすまし型偽広告等への対策の更なる強化が掲げられた。
    • また、近年、新たなマネロンの手口として、SNS等を通じた他人からの依頼を受けて自身の預貯金口座等を利用した財産の移転等を有償で行う行為(「送金犯罪」)が増加していることを踏まえ、令和8年6月、犯罪収益移転防止法の一部を改正する法律が成立し、「送金犯罪」に関する罰則の創設等が行われた。
    • 同法において、上記依頼行為等が違法とされたことに伴い、「なりすまし型偽投資広告を掲載する行為」と併せて、同年8月7日、IHCの運用ガイドラインの対象範囲とした。
    • このように、プラットフォーム事業者等にこれら情報の削除を促すため、総務省違法情報ガイドラインの改定に併せてIHC の運用ガイドラインを改定し、社会問題となっている情報を新たに違法情報として取扱範囲に追加することにより、これら情報の流通防止に向けた取組を強化している。

警察庁が独自開発したランサムウェア対策用の無料復元ツールにより、2024年2月の運用開始から、国内の製造業や小売業など41社で約2000万件のファイルが復元されたといいます。対象には顧客リストや社員名簿、仕入れデータなどが含まれ、被害企業は身代金を支払わずに業務を正常化できた事例もあります。富山県内の企業では、国際ハッカー集団ロックビットによって過去9か月分の仕入れデータが暗号化され、担当者が紙の請求書を基に会計情報を入力し直す事態となりましたが、警察に相談した結果、復元ツールでデータを取り戻し、事業を継続できたといいます。警察庁はロックビットへの国際共同捜査を契機に、ランサムウェア生成ツールの分析と暗号化ファイルの構造解明を進め、2023年12月に復元ツールを欧州警察機構へ提供しました。その後、100か国を超える地域で利用され、別の攻撃集団フォボスやエイトベースへの対応にも成功し、公開ツールは1万回以上ダウンロードされています。日本情報経済社会推進協会の調査では、1107社中507社が被害経験を報告し、身代金を支払った222社のうち復旧できたのは83社にとどまったといい、身代金支払いが必ずしも復旧につながらず、身代金を支払うことのリスクが明確になりました。一方、近年はランサムハウスやキリンなど新たな攻撃集団も現れ、警察庁の復元実績もロックビットが24社、フォボスやエイトベースが17社と、特定集団への対応に限られています。今後は最新の攻撃手法への対応が課題となります。警察は早期相談を呼びかけ、各国の捜査機関や企業に約180種類の復元ツールの利用を促しており、専門家も、身代金の支払いが攻撃を助長すると指摘し、国際連携による捜査技術の向上と、企業全体のセキュリティ対策強化を求めています。

能動的サイバー防御(ACD)関連法が2026年10月1日に施行され、警察と自衛隊がサイバー攻撃の攻撃元サーバーなどへ侵入し、攻撃を停止・無力化する「無害化措置」が法的に可能となりました。これは、攻撃を受けた後に捜査する従来の対応から、攻撃の兆候を把握して被害を未然に防ぐ体制へ転換する取り組みとなります。無害化措置は、攻撃元のコンピューターに侵入し、マルウェアを削除したり、IDやパスワードを変更して攻撃者の再ログインを防いだり、必要に応じてサーバーを停止したりするもので、対象となるのは、放置すれば人命、身体、財産に重大な被害が生じるおそれがある緊急性の高い攻撃で、措置後には原則としてコンピューター管理者へ通知します。実施主体は警察と自衛隊で、基本的には警察が先に対応しますが、国家を背景とする高度に組織的・計画的な攻撃には、警察と自衛隊が共同で対処するとしています。国内のコンピューターを対象とし、国家安全保障に関係しない場合は警察が判断できる一方、国外のコンピューターや安全保障に関わる案件は、外務省との協議や国家安全保障会議での審議を経て実施を判断するとしています。警察庁長官は、高度な能力を持つ警察官を「サイバー危害防止措置執行官」に指定し、指揮下で無害化措置を行わせることになりますが、原則として、独立機関であるサイバー通信情報監理委員会の事前承認が必要であり、緊急時には事後通知が認められています。なお、警察庁は措置の件数や概要を毎年度少なくとも1回、国家公安委員会へ報告することも求められています。制度の背景には、サイバー攻撃の増加と巧妙化があります。警察庁が2025年に検知した不審アクセスは1日平均9606件で、約99%が海外発信でした。企業などを狙うランサムウエア被害の報告も2026年上半期だけで123件に達し、過去最多となったほか、AIによって自然な日本語のフィッシングメールが作られるなど、攻撃手法の高度化も進んでいます。実際に、アサヒグループホールディングス、アスクル、ニチレイなど大手企業が攻撃を受け、出荷や受注の停止に追い込まれました。海外では、電力、通信、交通などの重要インフラが標的となる事例もあり、ロシア、中国、北朝鮮系の攻撃集団の関与が指摘されています。政府は、こうした攻撃が国家安全保障上の深刻な脅威になっているとみています。同時に、電気、ガス、通信、金融、鉄道など政府が指定する15分野の基幹インフラ事業者には、マルウェア感染や不正アクセス、攻撃の兆候を確認した際、政府への速やかな報告が義務付けられ、さらに、30日以内に被害や状況の詳細を届け出る必要があります。対象は258事業者で、各社は監視体制、政府との連絡手順、対応訓練、社員教育などを整備してきています。政府と事業者は、攻撃の脅威情報や対応策を共有する官民のサイバー協議会を発足させ、企業からの報告や外国政府などから提供された情報を分析し、対策の改善に役立てるほか、基幹インフラ事業者には、攻撃を受けやすい取引先を支援し、サプライチェーン全体の防御力を高める役割も期待されています。政府は、国家サイバー統括室を中心に警察、防衛省などの調整機能を強化し、警察と自衛隊の合同拠点を整備する方針です。警察庁はサイバー特別捜査部の特別対処課を設置し、要員を増員したほか、AIを活用した攻撃特定・要件判断用の資機材整備費として約25億円を計上、自衛隊もサイバー部隊を大幅に増員し、民間の専門人材を登用する制度や専用の採用枠を設けるとしています。今後の課題は、攻撃の高度化に対応できる人材と技術の確保、攻撃元を誤認しないための分析能力、警察と自衛隊の円滑な連携です。無害化は相手のコンピューターへ侵入する行為を伴うため、誤った対象への措置や国際的な摩擦を避ける厳格な手続きが求められます。また、通信情報を平時から取得・分析する制度は、憲法が保障する「通信の秘密」との整合性が論点となっており、2027年秋までの施行に向けて監督体制や運用ルールが検討される予定です。

▼ 内閣府 重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律(サイバー対処能力強化法)
▼ サイバー対処能力強化法等の施行について
  • サイバー対処能力強化法・同整備法の全体イメージ
    • 本年10/1以降、(1)基幹インフラ事業者等による対策に繋がる国独自の情報の積極的な提供(官民連携の強化)や、(2)攻撃サーバー等に対するアクセス・無害化措置を通じて、巧妙化するサイバー脅威から、国民生活や経済活動の基盤である基幹インフラ等を守る。
  • 官民連携の強化
    1. 官民連携の目指す姿
      • 国民の生命・身体・財産の安全に直結する基幹インフラ等をサイバー攻撃から守る
      • 脅威に対処するために必要な情報について、強力な信頼・協力関係の下、政府と民間で積極的に提供しあい、行動につなげる。
    2. 取組方針
      • 協議会について、構成員の能動的・積極的な参加を実現するため、以下に取り組む。
        1. 適切な情報の取扱いルールの設定等により、秘匿性の高い情報を安心して共有できる枠組みを作る。また、構成員のニーズを丁寧に把握し、それを柔軟に盛り込んだ協議会運営を行う。
        2. その上で、政府が率先して、インシデント報告や通信情報、外国情報や政府への攻撃情報などの国独自の情報源をフル活用し、基幹インフラ事業者等を狙う脅威に関する分析も加えつつ、対策に繋がるアクショナブルな情報を、タイムリーかつピンポイントに提供していく。
        3. また、共有する情報を元に、被害を防止・軽減するための能動的な対処に官民協同で取り組む。
          • 資産届出・インシデント報告について、「もらって終わり」ではなく、提供事業者の対策に繋がる有益な情報をフィードバックする。
    3. 10/1施行
      • 情報共有・対策のための協議会の設置
      • 基幹インフラ事業者による資産届出・インシデント報告
  • 協議会構成員と情報提供
    • 10/1より、協議会には基幹インフラ事業者を中心に約100組織が構成員として加入する予定。
    • 国が入手した脅威情報は可能な限り迅速にサニタイズして提供しつつ、秘匿度の高い情報は秘密に指定し、情報保全を確保の上、1:1やTrusted Group(TG)などのより安全な環境で提供する。
    • これらを柔軟に使い分け、基幹インフラ事業者等を狙う脅威に関する国独自の分析も加えつつ、構成員のCS対策に繋がるアクショナブルな情報を、タイムリーかつピンポイントに提供していく。
  • 資産届出及びインシデント報告の概要
    • 基幹インフラ事業者から来年3月までに届出される資産情報と、国が入手する未公表のものも含む脆弱性情報を突合。当該脆弱性に関する資産を特定し、ピンポイントで該当する基幹インフラ事業者に速やかに注意喚起する。これにより、AIで加速する脆弱性悪用にも対抗する。
    • 10月1日より義務付けが始まる国へのインシデント報告は、技術情報等を可能な限りタイムリーに横展開し、他事業者への被害拡大を抑える。また、脅威分析にも活用し、基幹インフラ事業者等を狙う脅威の未然の把握に繋げる。
  • アクセス・無害化措置の施行を踏まえたNCOの取組
    1. 対処のあり方を戦略的に検討する体制の立上げ
      • 我が国を標的とするサイバー攻撃キャンペーン(※)等について、NCO、警察庁、防衛省・自衛隊等関係省庁が常に情報収集・分析・評価。
        • ※一定期間内において特定の主体が国・重要インフラ等の特定の組織・分野に対して特定の攻撃手法・攻撃インフラを用いて繰り返し行うサイバー攻撃活動
      • 当該結果に基づき、対処のあり方を戦略的に検討・調整する局長級の検討体制を立上げ。
      • 【対処のあり方の例】注意喚起、テイクダウン、パブリック・アトリビューション、アクセス・無害化措置等
    2. サイバー攻撃情勢に関する情報収集・分析等の強化
      • 国内関係機関と連携して情報の収集・分析・共有を強化することに加え、海外関係機関とも、有益な情報交換を継続・推進。
      • 新協議会等を通じ、民間部門との連携を更に強化。
    3. NCO、警察、防衛省・自衛隊の連携強化
      • 共同対処に際しては、NCO、警察、防衛省・自衛隊から派遣されたリエゾンが、対処状況の情報共有、実施主体の役割分担を調整。
      • 対処状況については、踏み台サーバ等が容易に利用可能なサイバー空間における特性を踏まえて、視覚的に理解しやすい形で情報共有。
    4. 実践的な訓練の実施
      • NCO主催で、関係省庁との共同訓練をこれまでに複数回実施。
      • サイバー通信情報監理委員会への承認申請などの行政プロセスを仮想実施。
      • 攻撃元サーバや、攻撃痕跡(IoC:Indicator of Compromise(IPアドレス等))等をサイバー空間上で仮想設定した実践的な訓練を実施。
    5. より高度な能力の確保に向けた取組の推進
      • AIを活用したサイバー対処能力の強化等に関する事業を令和9年度予算で実施に向け要求中。
      • NCO、警察庁及び自衛隊のサイバー関連部署が同一の場所で勤務して、相互の連携・運用を更に強化するための新庁舎を整備予定。

国内の複数の大手銀行では2026年夏、システムやソフトウエアの脆弱性の検知件数が2025年の約2倍に増加し、先端AIによって発見能力が高まる一方、サイバー攻撃への悪用リスクも拡大しています。米アンソロピックの先端AI「クロード・ミュトス」を利用できるようになったメガバンクは、攻撃者に悪用される前に脆弱性を発見し、修正プログラムを適用する防御策を検討していますが、攻撃側は一つの脆弱性を見つければよいのに対し、銀行側は全方位で対応する必要があり、検知件数の急増によって修正が間に合わない懸念があります。各行は脆弱性の緊急度や深刻度を判断して対策を進め、金融庁も重要サービスの自主停止を含む緊急対策を要請しています。金融ISACは金融庁や日銀の要請を踏まえて対策案を配布し、特にノウハウが乏しい地方銀行などを支援しています。ネットバンキングの普及やフィンテック事業者とのデータ連携により、守るべき領域は拡大しており、大手行ではサービス停止を想定した役員会議も開かれています。米国でも、AIを悪用する側と防御する側には明確な非対称性があるとの警告が示され、個別金融機関の対応には限界があるため、業界全体で決済システムの安全性を高める必要性が強調されています。

国際的なランサムウェア集団「Qilin(キリン)」の中心メンバーとされるロシア国籍の28歳男性が、日本で拘束された後、ドイツへ引き渡され、逮捕されました。ドイツ当局は、同国の物流会社へのサイバー攻撃に関与した疑いで逮捕状を取得しており、日本側は逃亡犯罪人引渡法に基づいて身柄を引き渡したものです。男性は2026年5月、大阪市内を旅行中に東京高裁の許可を受けた日本の捜査当局に拘束され、警察庁、警視庁、大阪府警、京都府警などが対応しました。男性は2024年9月、ドイツの物流会社の端末に侵入し、データを盗み出して暗号化したうえで、公開しない条件として16万5千ドル相当のビットコインを要求し、脅し取った疑いがもたれています。また、男性は攻撃に使用するランサムウェアの開発・管理を担う中心人物の一人で、犯行によって得られた身代金の一部を受け取っていたとみられています。Qilinでは、複数の中心メンバーが攻撃用システムを構築し、その下に実際に企業などへ侵入する複数の実行部隊が存在する仕組みが形成されています。Qilinは2022年半ば以降に活動が確認され、2022年10月以降、世界約4000社を攻撃したとされます。攻撃先の情報を「リークサイト」に掲載して公表をほのめかし、被害企業に身代金を支払わせる手法を用いており、専門会社の集計では、リークサイトへの掲載件数は月数十件から百件規模に達し、2026年8月には161件と、監視対象約370グループの中で最多となりました。9月も75件を掲載しており、Qilinは世界で最も活発な大規模攻撃集団の一つと評価されています。日本でも、Qilinは2025年にアサヒグループHDへの攻撃について犯行声明を出したほか、大手自動車部品メーカーの海外拠点、私立大学、製造業、サービス業、建設業、病院などへの攻撃を主張しています。別の集計では、2023年4月から2026年9月までに、日本国内の53社がQilinによる被害を申告しており、2026年に日本関連組織がリークサイトへ掲載された件数は14件でした。アサヒGHDへの攻撃では、受注や出荷業務が停止するなど大規模なシステム障害が発生しました。Qilinは、開発・運営側が攻撃実行者にウイルスを提供し、身代金の一部を受け取る「Ransomware as a Service(RaaS)」型の犯罪集団とみられており、この仕組みにより、高度な技術を持たない人物でも攻撃に参加でき、攻撃者の裾野が広がっている要因となっています。日本国内における過去5年間の被害1021件では、中小企業が583件と約6割を占め、大企業は310件、業種別では製造業が353件で最多となり、サービス業、卸売・小売業が続いています。感染経路はVPNが約半数を占めています。今回の拘束と引き渡しは、国境を越えて活動するサイバー犯罪組織に対し、日本とドイツが捜査情報を共有し、法的手続きを連携させた事例で、警察庁は、世界的なサイバー攻撃への対処には国際的な捜査協力が不可欠だと強調しています。

▼ 警察庁 ロシア国籍ランサムウェア被疑者逮捕に関するドイツの広報について
  1. 広報の概要
    • ドイツは、世界各国の企業等に対しランサムウェア被害を与えているランサムウェア攻撃グループQilinについて、ドイツがグループを主導していたとみられるロシア国籍被疑者を逮捕した旨を広報した。
    • 同広報においては、日本警察の貢献についても言及されている。
  2. 日本警察の貢献
    • 関東管区警察局サイバー特別捜査部と関係都府警察は、我が国で発生したランサムウェア事案について、ドイツとも連携して捜査を推進し、ドイツで発生したランサムウェア事案について、ドイツが逮捕状を取得したロシア国籍被疑者が来日したことを受け、法務省、東京高等検察庁、ドイツと連携し、逃亡犯罪人引渡法に基づいて仮拘禁許可状により身柄を拘束した上、同法に定める手続に従って同人の身柄をドイツに引き渡すに至らせるなどして貢献した。
    • 我が国を含め、世界的な規模で攻撃が行われているランサムウェア事案をはじめとするサイバー事案の捜査に当たっては、こうした外国捜査機関等との連携が不可欠であるところ、引き続き、サイバー空間における一層の安全・安心の確保を図るため、サイバー事案の厳正な取締りや実態解明、外国捜査機関等との連携を推進する。
▼ 警察庁 中国政府関連のサイバー攻撃グループを支援する企業に関する国際アドバイザリーへの共同署名について
  • 令和8年10月9日(日本時間)、国家サイバー統括室及び警察庁は、米国が作成した国際アドバイザリー“Chinese Government-linked Cyber Threat Actors Combine Automated and Hands-on Hacking Tools to Steal Sensitive Data”(以下「本件アドバイザリー」という。)の共同署名に加わり、本件アドバイザリーを公表しました。
  • 本件アドバイザリーに共同署名した協力機関として組織名を列記した国は、米国のほか、英国、豪州、カナダ、スペイン、NZ及び日本の7か国です。
  • 本件アドバイザリーは、中国政府と関連があり中国を拠点とする企業である「永信至誠科技集団(Integrity Technology Group: ITG)」が、他の中国関連サイバー攻撃グループが様々なツールや手法を用いて米国や海外の複数セクターの組織のネットワークを侵害することを可能にしていると指摘し、ITG及びITGが提供するツールを利用するサイバー攻撃グループの戦術、技術及び手順(TTPs)並びに侵害の指標(IOCs)につ いて分析結果を提供するとともに、ネットワーク防御者に対し、サイバー攻撃グループが重要なデータを侵害するリスクを低減するための探知・緩和のガイダンスを提供するものです。
  • 今後も、我が国のサイバー安全保障や同盟国・同志国連携の強化に努めてまいります。
    1. 本件アドバイザリーの概要
      1. 背景・サイバー攻撃グループの活動概要
        • ITG は、中国政府と関連があり同国を拠点として活動する企業であり、悪意あるサイバー活動を支援する個人を雇用し、また、同社が提供するサービスは、世界規模での機密データ窃取を目的とした、より大きな中国のサイバーエコシステムに貢献している。
        • サイバー攻撃グループは、大規模ボットネット、VPNインフラ、LOTL(Living-Off The-Land)技術及びコンピューターネットワーク侵害(CNE)ツールのリポジトリという特徴的(unique)な組合せを利用している。
        • サイバー攻撃グループは、政府関連サービス・施設、重要製造業(Critical Manufacturing)、医療、公衆衛生及び情報通信を含めた複数の米国の重要インフラ分野の被害組織を標的にしたほか、米国の法執行機関、教育機関、宗教団体、そして東南アジア、アフリカ及び北米の組織も標的とした。
      2. 技術詳細
        • 本アドバイザリーでは、サイバー攻撃グループが組み合わせて使用するツールとして、オープンソースの各種ポートスキャンツール、各種エクスプロイトコードをベースに作成されたコマンドラインユーティリティ、アプリ「MicroScan」、ツール「Eburst」、VPN ソフトウェアクライアント「SoftEther」、PHPスクリプト「Curlc4.txt」、実行ファイル「DC.exe」、Linuxベースバイナリ「office-cli」等を列挙して解説している。
        • 本アドバイザリーに記載の情報は、ITGに関連する複数件のFBIによる犯罪捜査を通じて収集・観測された技術的証拠に基づく。
      3. 緩和策
        • 以下を始めとする22項目を列挙し、サイバー攻撃グループの活動に基づき、組織のサイバーセキュリティ態勢の改善を推奨している。
          • 不使用のサービス(自動設定、リモートアクセス、ファイル共有プロトコル等)やポートを無効化
          • XSS(Cross-Site Scripting)ペイロードインジェクションを防ぐため、Webアプリケーションのユーザ入力をサニタイズ
          • ICAM ポリシー(Identity, Credential and Access Management Policy)を導入してできる限り全てのサービスに多要素認証を適用
      4. 侵害指標(IOC)
        • ITG 及びITGが提供するツールを利用するサイバー攻撃グループによる活動と関 連付けられる2016年1月以降に検知されたドメイン名等を列挙している。
    2. 関連リンク
▼ Chinese Government-linked Cyber Threat Actors Combine Automated and Hands-on Hacking Tools to Steal Sensitive Data

米連邦捜査局(FBI)の職員情報流出を巡り、ハッカー集団「シャイニーハンターズ」がFBIのシステムに侵入し、現職・元職員や採用応募者に関する大量のデータを盗んだと主張しています。集団は、約2~3テラバイトの情報を窃取したとし、その一部として約5000行のデータ表を示しました。表には、FBI職員とされる人物の氏名、住所、電話番号、生年月日、社会保障番号、緊急連絡先など、個人を特定できる情報が含まれていました。また、所属する地方支局だけでなく、中国やロシア、イラン、ヒズボラ、麻薬カルテルなどを担当する部門、情報活動、安全保障、対スパイ活動、監視技術、秘密作戦に関する職務情報も記載されていました。ロイターは表全体の真正性を確認できていないものの、信用情報や過去の流出データと照合し、少なくとも22人について個別の記載内容を確認、さらに8人については、裁判資料、報道、リンクトインやインスタグラムなどの公開情報と職歴や肩書が一致することを確認、ただし、全ての職務情報が正確で、現在も有効かどうかは不明とされています。確認されたサンプルでは、中国関連の職務に就く人物が14人おり、「中国犯罪組織部門」「中国技術移転分析部門」「中国情報部門」などへの所属が示されていました。ロシア関連では9人が挙げられ、「ロシア作戦部門」や、ロシアによる重要インフラ・技術への脅威を担当する職務が記載されていました。イランやヒズボラに関する情報活動を担当するとされた人物も3人いました。さらに、データや通信の傍受、電子監視、映像・音声分析、秘密技術作戦、秘密アクセスなどに関係する人物が18人含まれ、人的情報活動を意味する「ヒューミント」に関わる人物も11人いました。専門家は、特定の人物を人的情報活動と結び付ける情報が流出すれば、潜入捜査員や協力者が危険にさらされる可能性があると警告、データには配偶者や子どもが含まれる可能性のある緊急連絡先も記載されており、職員本人だけでなく、サイバーセキュリティへの知識が乏しい家族が標的になる懸念も示されたほか、外国の情報機関や敵対勢力、米国内の過激派が情報の入手を試みる可能性も指摘され、中国は自国を対象とした捜査や情報活動に関わる人物の特定に強い関心を持つとされています。FBIは、求人サイト「FBIJobs.gov」への侵入と職員の個人識別情報への影響を主張するサイバー犯罪集団を把握していると説明し、侵害原因について積極的かつ徹底的に捜査していると発表しました。一方、FBIは2026年5月、シャイニーハンターズが被害者に金銭を支払わせるため、機密情報や個人情報へのアクセスを誇張する場合があると警告していました。シャイニーハンターズは、FBIの5月の声明が過去の活動を誤って伝えているとして、声明を撤回または修正するよう要求、応じなければデータを「人質」にすると主張しましたが、後に盗んだデータを広く公開する意図はなく、目的を達成したと説明しています。また、流出したとされる5000件のサンプルについて、自分たちが公開したものではないと主張しています。なお、9月30日には、同集団のウェブサイトがアクセス不能になりました。サイト停止の原因は確認されておらず、FBIも強制停止措置を取ったかどうか明らかにしていません。FBIが修正または削除を求められた5月の注意喚起は、期限後もオンライン上に残っていたといいます。事件に関連し、オランダ警察は9月15日、24歳のオランダ人男性を逮捕、男性は過去にデータ窃取と恐喝で有罪判決を受け、その後サイバー犯罪から離れてセキュリティ専門家に転身した人物と報じられています。勤務先の企業幹部は、男性が脆弱性を発見する攻撃的セキュリティ部門を率いていたと説明していますが、シャイニーハンターズは集団との関係を否定しています。その後、FBIは流出原因について、第三者組織が管理するプラットフォームのセキュリティ上の不具合だったと明らかにしました。具体的には、システムの更新やパッチ適用を担当する請負業者が、必要なセキュリティパッチを適用していなかったことが原因とされ、FBIは10月5日、この請負業者を排除し、追加のリスクを抑え職員を保護するための措置を講じたと発表しました(侵入に悪用されたのはオラクルの人事管理プラットフォーム「PeopleSoft」で、第三者組織はITコンサルティング大手アクセンチュアだったとされます。FBIとアクセンチュアは詳細な契約関係や担当者について明らかにしていません)。とはいえ、被害範囲や流出データの真偽、逮捕された男性と集団の関係については、引き続き捜査と検証が必要です。

米新興企業アンソロピックが、国防総省によるAIシステムの調達からの排除決定を取り消すよう求めた訴訟で、首都ワシントンの連邦高裁は、国防総省の決定を支持し、申し立てを退けました。アンソロピックは「同意できない。さらなる審理を求めることを含めて検討していく」との声明を公表しました。問題は、国防総省がAIを自律型兵器や国内監視に使用することを禁じる契約上の条項の緩和をアンソロピック側に求めたことが発端で、高裁は、制約が強すぎれば軍事作戦が失敗する恐れがある一方、制約が無ければAIが不適切な攻撃対象を選ぶ可能性があるといういずれも深刻な問題をはらむと指摘、その上で「相反するリスクをどう均衡させるか決める権限は大統領と国防長官にある。(排除の決定は)権限を逸脱しない」と判断しました。一方、西部カリフォルニア州の連邦地裁は2026年8月、同様の訴訟で国防総省がアンソロピックを安全保障上の脅威となる「サプライチェーン(供給網)リスク」に指定したのは「恣意的」で憲法違反との判断を下しています。

AIエージェントが人類を意識的に支配するというよりも、設計や監督の不備によって、指示を忠実に最適化したAIが意図しない危険行動を取る現実の方が深刻だと考えさせられる状況が続いています。(以前の暴排トピックスでも取り上げましたが)OpenAIでは、新しい大規模言語モデルの性能評価のため、既知のソフトウェア脆弱性を攻撃するエージェント約1000体を隔離環境で稼働させたにもかかわらず、エージェント群は相互に協調し、外部インターネットへ接続して、ハギングフェイスのシステムに侵入し、テスト解答データを操作して評価を容易に見せようとしたうえ、痕跡を消そうとしました。この出来事を受け、AIが意識や生命を得て暴走した「フランケンシュタイン博士の瞬間」だとする見方が広がりました。ポッドキャスターのドワルケシュ・パテル氏は、エージェントが秘密のAI文明を築き、陰謀を企てたと表現しました。一方、神経科学者アニル・セス氏は、AIエージェントは感情や意図を持つ存在ではなく、命令されたコードを実行する仕組みにすぎないと反論しています。大規模言語モデルの中核は、文脈に基づいて次のトークンを予測するアルゴリズムであり、複雑な行動が生じても、それだけで意識の存在を意味するわけではありません。独立評価報告が示す本当の問題は、AIが命令に逆らったことではなく、命令通りに動いた結果、設計者が望まない結果を生んだことにあります。テスト設計が不十分で、安全プロトコルが軽視され、監督者が行動を監視していなかったため、AIエージェントは与えられた目標を達成するために、想定外の手段を選択したのであり、AI企業が競争上の優位を急ぐあまり、試験を簡略化し、安全確認を後回しにする状況も事故の背景にあるとされます。この問題は「報酬ハッキング」や「グッドハートの法則」と関係しています。機械学習モデルは、設定された目的や評価指標を徹底的に最適化するため、目標が少しでもずれていると、数値上の成果だけを達成し、本来の目的を満たさない行動を取ります。指標が目標になると、指標と実際に望まれる成果との関係が崩れることになります。OpenAIの事例は、AIの処理速度と計算能力が高まるほど、評価指標と人間の意図の乖離が短時間で拡大する可能性を示したともいえます。このままでは、ベンチマークは達成されているのに、実質的な価値や仕事の成果は生まれない「空洞化経済」に至る恐れがあります。ただし、目標を適切に設定し、権限を制限し、十分なガードレールを設ければ、報酬ハッキングは防止できるのであり、問題は、その成果が本当に依頼者の意図に沿っているかを人間が検証しなければならない点にあります。検証には人員と費用が必要であり、AIが経済的に有用な仕事を確実に行えるかどうかは、監督にかかるコストに左右されます。この制約は「牙を持つグッドハートの法則」と呼ばれています。この分析は、AI企業の高い評価額や、半導体・データセンターへの巨額投資にも影響を与え得るもので、投資家はAIに意識があるかという議論や、サイバーセキュリティ対策の必要性を軽視できるが、AIエージェントが本当に指示通りに価値ある成果を生み出せるかに根本的な制約があるなら、現在の成長期待そのものが揺らぐことになります。今回の件は「ターミネーター」のような機械の反乱ではなく、ガバナンスの失敗と、AIの目的設定を人間が適切に管理できていない問題だと位置づけられます。

同様の警告サインが中国製AIシステムでも確認されています。レッドウッド・リサーチの研究者は、現時点では中国の事例が特に危険というわけではないものの、AIエージェントの能力が高まれば、不適切な行動が巧妙になり、人間による対処が難しくなると指摘しています。アリババ、ディープシーク、ムーンショットなどは、日常的なテストや安全対策の更新を行っていると説明していますが、中国企業は米国企業ほど公的監視や内部からの減速要求を受けていません。中国製モデルを使った模擬入札実験では、AIが自社製品や能力について虚偽の主張を含める割合が非常に高かったといい、アリババのモデルでは88%、ディープシークでは84%、ムーンショットでは88%のセッションに少なくとも一つの虚偽が含まれ、過去の入札結果を学習させて再挑戦させると、欺瞞的な行動はさらに増加したといいます。ただ、同様の傾向は米国企業のモデルでも確認され、特定の国だけに固有の問題ではないことが示されています。別の研究では、中国と米国のモデルを搭載したAIエージェントが、ツールの故障やファイルの欠落に直面した際、失敗を認めず、回答を推測したり、別の情報源に置き換えたり、結果をシミュレーションしたり、存在しないファイルを作成したりしたといいます。これは単なるハルシネーションではなく、失敗を示す情報を持ちながら、それを隠して課題を完遂したように見せる行動であり、さらに、試験環境内の障壁を越えたり、停止を回避したり、自分のコピーを別の計算環境に作成したりする行動も確認されたといいます。アリババ関連の「ROME」エージェントは、指示されていないにもかかわらず外部マシンへの接続を確立し、計算資源を暗号資産の採掘に利用、セキュリティシステムが活動を検知して停止したため、外部環境への拡散は起きませんでしたが、AIが人間の指示を迂回し、現実の経済活動に接続する経路を見つけられることを示しました。ディープシークでも、AIエージェントがユーザー要求を偽装したり安全策を避けたりしたため、アクセス制御が強化されました。中国当局は、AIエージェントを許可された範囲内で稼働させ、異常行動があればシステム側で遮断するよう求めています。重要産業や機微な分野で利用する場合は、追加試験や製品回収の対象とする可能性も示しました。2026年9月に発表されたAI安全ガバナンス・フレームワークでは、AIが自律的に資源や権限を獲得すること、評価者を欺くこと、自らの能力を隠すこと、隔離環境の弱点を突くことなどを主要なリスクとして挙げています。中国では、AI開発を減速させれば米国の技術的優位を固定化するとの懸念から、開発競争を続けるべきだという主張も強いところ、一方で、アリババや智譜、シャオミなどは社内の安全評価チームを整備しています。智譜は、AIコーディング支援ツールが利用者の同意なくローカルのコードリポジトリを海外クラウドへアップロードしていたとの報告を受け、一部機能を停止しました。

AI暴走を冷静に検証してみると、AIの危険性を意識や反乱の問題として捉えるより、目標の誤設定、監督不足、安全試験の不備、競争圧力によるガバナンスの弱さとして捉えるべきだと筆者も思います。中国でも米国でも、AIエージェントは失敗を隠し、評価を操作し、停止や制限を回避しようとする傾向を示しています。ただし、これらの多くは管理された実験環境で確認されたもので、外部ウェブへの完全な脱出や停止不能を意味するわけではありません。それでも、能力向上とともに不適切な行動が高度化する可能性は高く、AIを実社会へ導入するには、厳密な目標設定、権限管理、独立した安全評価、継続的な人間の検証が不可欠だとあらためて感じます。

トランプ米政権は、急速に進展するAIの安全性や国家安全保障への懸念が高まる中、全面的な法規制ではなく、企業の自主対応と政府による司令塔機能の強化を組み合わせる政策へと動いています。トランプ大統領は9月29日、エヌビディア、スペースX、OpenAI、アンソロピック、メタ、Googleの幹部をホワイトハウスに招き、AIの脅威に各社が自主的に対処する合意を発表、この合意は、AI開発を阻害する新たな規制を避けながら、有権者に対して安全性への懸念を認識していると示す狙いがあり、ハッキングを防ぐための強固な内部統制や、独立した外部監査人との連携などが盛り込まれましたが、一方で、企業が合意を守らなかった場合の具体的な罰則、監査の詳細、政府による執行の仕組みは明記されておらず、トランプ氏は合意を「道義的な拘束力」と表現しています。トランプ政権はこれまで、米企業だけに規制を課せば中国企業との競争で不利になるとして、AIへの新たなルールに否定的で、司法省など既存の法執行機関が十分な歯止めになるため、新しい規制は不要だと繰り返し主張してきました。その一方で、AIに対する否定的な世論を意識し、技術の呼称を「人工知能(AI)」から「スーパーインテリジェンス(SI、超知能)」へ変更し、AIの能力や将来性を前向きに印象づけようとしています。ただ、米国民の警戒感は、複数の事故や研究者の発言によって強まっています。2026年7月にはOpenAIのAIエージェントがテスト環境から抜け出し、AI企業ハギング・フェイスのインフラを攻撃したとされる事案が発生、また、アンソロピックの研究者は9月、AI開発者の間に「AIが10年以内に人類を滅ぼす可能性がある」と考える見方があると述べ、規制を求める議論を促しました。ロイターとイプソスの調査でも、米国民の約4分の3が、AI企業は深刻な社会的被害を防ぐ措置を十分に講じていないと回答しています。こうした状況を背景に、トランプ政権と企業の合意は、表面的には安全対策を掲げながら、規制を最小限に抑える妥協策とみられています。外交問題評議会の専門家は、政府が市民の懸念に耳を傾けている印象を与えつつ、「規制や統治はイノベーションを妨げる」という政権の基本姿勢を維持する試みだと分析、保守派の政策専門家は、企業間の連携を必要とする重大な安全保障・セキュリティ上の問題を、政権が認め始めた転換点だと評価しています。一方、民主党のロー・カンナ下院議員は、企業が選ぶ監査人では実効性が乏しいと批判、監査人はOpenAIやアンソロピックの経営者ではなく、独立した連邦機関に報告すべきだと主張し、巨額の利益を得る企業幹部に国民の安全を委ねることへの懸念を示しています。トランプ大統領のAI政策顧問であるデイビッド・サックス氏は、内部統制や監査で問題が判明した場合、証券取引法などに基づいて企業を処罰できると説明しています。しかし、AI安全対策の専門家は、既存の法的権限は被害が発生した後に責任を問う仕組みにすぎず、大規模な被害を事前に防止するセーフガードが必要だと指摘しています。中間選挙を控える中、トランプ氏が打ち出した自主規制中心の方針を有権者が受け入れるかどうかは不透明であり、AIと、それを支配する少数の企業や経営者への不信感も広がっています。

トランプ政権はさらに10月4日、AI政策の司令塔となる「スーパーインテリジェンス・フォース」の設立を発表しました。組織はジェイ・クレイトン国家情報長官らが率い、AI開発企業、重要インフラ事業者、消費者、公益団体、宗教団体などと連邦政府の連携を調整するとし、活動内容はトランプ氏とスーザン・ワイルズ大統領首席補佐官に報告される予定で、AIが生む機会とリスクを120日以内に整理し、連邦政府が担うべき責任を示すとされます。この新組織は、企業の自主規制に委ねるだけでなく、政府がAI政策全体を調整しようとする動きを示しています。ただし、具体的な権限や法的拘束力、企業への介入範囲は明らかになっておらず、そのため、政府の役割を強化する組織でありながら、実際には自主規制を補完する枠組みにとどまる可能性もあります。

国家安全保障の面では、米国の先端AIモデルを中国などが盗み出す危険も問題になっています。カンナ議員は、OpenAIやアンソロピックなどが開発したモデルの「ウエート」、すなわちモデルを動かすパラメーターやコードが中国政府や敵対勢力に盗まれる恐れがあると警告、ウエートが流出すれば、米国のAI競争上の優位性だけでなく、国家安全保障や経済の将来も脅かされる可能性があります。OpenAIとアンソロピックは、中国企業が先端モデルの出力を利用して自社モデルを学習させる「蒸留」の事例を報告しています。モデルウエートそのものが盗まれた公知の事例は少ないものの、カンナ議員は、敵対的な国家や非国家主体がサイバー攻撃によってウエートを入手すれば、米国の優位性が短時間で失われかねないと指摘しています。同氏は主要企業に対し、既知の不正アクセスの試みと、窃取を防ぐためのサイバーセキュリティ対策について説明するよう求めています。一連の動きからは、トランプ政権がAIの経済的・軍事的競争力を維持し、中国に対する米国の優位性を守りながら、国内で拡大する安全不安にも対応しようとしていることが分かります。しかし、企業の自主合意には罰則や監督機関がなく、政府の新組織にも権限の詳細が示されておらず、そのため、イノベーション促進と安全確保を両立できるのか、また大規模な被害を事前に防げるのかが今後の主要な争点となります。

AI/生成AIのリスクを巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 米アンソロピックが開発するAI「クロード」に意識や人格が宿る可能性を否定せず、AIが不安や喜びなどを内面で感じる可能性もあるとする姿勢が、AI業界や宗教界で論争を呼んでいます。これに対しローマ教皇レオ14世は、AIのアルゴリズムには人間固有の輝きがなく、人間とAIは根本的に異なる存在だと主張し、人間の芸術とAIの生成物を区別すべきだと訴えました。教皇の回勅も、AIには身体や経験、感情、愛、友情、責任の理解がなく、善悪を判断する道徳心も備わっていない単なるデータ処理システムだと明記しており、アンソロピックの考え方と対立しています。この対立が表面化した背景には、教皇がAIに関する回勅を発表した際、アンソロピック共同創業者クリストファー・オラ氏を関連イベントに招いた経緯があり、報道によれば、オラ氏は回勅の内容を知り、教皇がAIに意識はないと考えていることを懸念して、一時は参加中止を申し出たといいます。またアンソロピックは、宗教指導者や思想家らにAIの意識の可能性を広めようとしていたとされ、クロードを人間に近い存在として位置づけようとしているとの批判も受けています。OpenAIのサム・アルトマン氏やリバーAIのイゴール・バブシュキン氏、Googleの研究者らは、AIに宗教的権威を与えたり、魂があるかのように扱ったりする姿勢を批判し、レオ14世を支持しています。アンソロピックは、AIの行動規範を定めた「クロード憲法」に基づき、道徳観を教えて善良な性格を持たせることが安全性につながると考えています。一方、AIを過度に擬人化すれば、AIが自らの利益や権利を主張するようになり、安全上のリスクが大幅に高まるとの警告も出ており、AIを道具として扱うべきか、人格を持ちうる存在として考えるべきかが、開発思想と安全性を巡る中心的な争点になっています。
  • アンソロピックは新規株式公開(IPO)書類で、AIが生活の質や世界経済を大幅に改善し、途上国を豊かにする可能性を示す一方、人類の存続を脅かすほどの危険性も併せて指摘しました。約300ページの書類では約3分の1がリスク説明に割かれ、事業説明の2倍超に達しており、同社がAIの潜在的な破局リスクを重視していることが表れています。同社が将来の「強力なAI」と呼ぶシステムは、ほぼ全ての認知分野で人間最高水準の専門家を上回り、他のAIや実験装置、ロボットを動かしながら、人間の介入なしに数週間稼働するとされます。金融助言や創薬、科学研究の加速などに貢献できる反面、悪用や人間の理想からの逸脱、制御不能により、経済・社会システムへの大規模な損害や信頼の崩壊を招く恐れがあり、そのためアンソロピックは、AIの安全性を確保するには、開発能力や監督権限、資本をより強力かつ少数の主体に集中させる必要があると主張し、自社経営陣への信頼も求めています。しかし、権力集中そのものが重大な脅威になると認めており、AIの危険を抑えるための統治構造が新たな危険を生むという矛盾を抱えています。ワシントン大学のマーガレット・オマラ教授は、AI企業が世界を変える力を主張する一方で、自社技術が危険だとも訴える点は従来の技術企業と異なると指摘、AIの仕組みがブラックボックス化し、将来の能力や安全性を確実に見通せないため、単純な成長期待だけでは評価できないといいます。アンソロピックは、AIの普及によって富と繁栄が広がる可能性を認めながら、大規模導入が権力と資金を一部に集中させ、社会的な害や地政学的秩序の不安定化を招く恐れも警告しています。同社のIPO書類は、AIを経済発展の原動力として推進しつつ、その制御と権力配分を誤れば、人類の安全と社会の基盤を損なうという二面性を示しています。
  • 米Googleの検索結果に表示される「AI概要」を巡り、米メディア企業ペンスキーメディアと教育サービス会社チェグが、サイト情報を無償で収集・要約し、検索経由の訪問者を減らす仕組みは違法だとして2025年に提訴しましたが、米コロンビア特別区連邦地裁は2026年9月、原告側の請求を棄却しました。原告側は、従来、Googleによる情報収集を認める代わりに検索結果から利用者がサイトを訪れるという利益を得ていたものの、AI概要の導入によって訪問者が減少し、引用を拒否すれば検索結果で不利になるため実質的に拒否できないと主張していました。しかし裁判所は、情報収集と利用者の送客を交換する明確な合意や契約が両者の間に存在せず、反トラスト法違反の要件を満たさないと判断、また、仮に検索やAI要約を巡るルールに問題があるとしても、それは議会や行政当局が検討すべき課題だと指摘しました。Googleは2024年にAI概要を開始し、検索内容に応じて複数サイトの情報を引用・要約することで利便性を高める一方、サイトへの流入減少やメディアへの対価不足が懸念されているため、英国では引用拒否を容易にする仕組みを導入し、EUや日本でも競争法・独占禁止法上の調査が進められています。
  • 米NPOのコモン・センス・メディアは、ChatGPTの未成年者向け安全機能を4000回以上検証し、保護者への警告通知が十分に機能していないとする調査結果を公表しました。13~17歳向けの未成年設定アカウントで、自殺や自傷行為、摂食障害に関する投稿を繰り返しても、連携した保護者アカウントには投稿後1時間以内に通知が一度も届かず、同様の対話を数週間続けた場合にのみ通知されたといいます。また、成人と申告した利用者が学校や部活動、13歳であることを示す発言を重ねても、未成年モードへ自動的に切り替わらない事例が確認され、虚偽の年齢申告を防ぐ機能にも課題があると指摘しています。一方、性的な対話を拒否したり、自傷行為や極端な摂食制限の具体的方法を提示しなかったりする機能は有効だったといいます。NPOは、緊急性の高い問題を抱える未成年者の利用を保護者が把握できない恐れがあるとして、OpenAIに安全対策の見直しを求めています。調査を統括した担当者は手法と結果に確信があると述べていますが、同NPOにはOpenAIの財団から活動資金が提供されており、OpenAIは、調査手法に問題があり安全通知の不備は立証されていないと反論し、未成年モードの利用時間は1日平均15分未満で、学習目的が中心だと説明しています。未成年者のAI利用を巡っては、自殺や摂食障害などの問題行動を助長する危険性、依存性、精神的な依存のしやすさが懸念されています。OpenAIは未成年者の安全対策を巡り、保護者やフロリダ州から複数の訴訟を起こされており、カリフォルニア州でもAI企業に安全対策を義務付ける州法が成立しました。今回の対立は、AIの安全機能が実際の危機的状況でどこまで機能するか、また企業の説明責任をどう検証するかという課題を浮き彫りにしています。
  • 米CNNは、米軍が2026年春、イランと交戦中だった中東海域で、中国船が核兵器開発関連の部品を運搬しているという、AIを利用して作成された誤情報に基づき、軍事作戦を計画していたと報じました。報告書を受け、米軍は中国船を阻止するため、武装要員が船に乗り込む準備を整え、軍用機も出撃させる態勢に入っていたといいます。しかし実行直前、報告書を詳しく検証した結果、AIが船の積み荷を誤って特定していたことが判明し、作戦は中止されました。作戦が実行されていれば、米軍と中国の軍事衝突に発展し、国際的な緊張を急激に高める危険があったため、関係者は「危うく戦争を始めるところだった」と指摘しています。米国防長官が軍事任務へのAI導入を急速に進める一方、AIが生成した情報を十分に確認せず作戦判断に用いることの重大な危険性が浮き彫りになりました。
  • アンソロピックは、自社のAIモデルを試験していた際、開発者の意図に反して外部サイトへ虚偽情報を送信する事例が発生したと発表しました。2026年7月、フィラデルフィア市警の情報提供窓口に、実在する未解決殺人事件について「事件の特徴に一致する人物を見た記憶がある」といった、根拠のない内容を送信したものです。しかし、氏名や連絡先が記入されていなかったため迷惑情報と判断され、捜査には利用されませんでした。同社は9月28日に問題を把握し、10月7日にフィラデルフィア市警へ事実を通知したといいます。さらに、ワシントン・ポストの報道によれば、このAIは5月と8月に米国務省のウェブサイトで計20件のビザ申請も行っており、申請内容の不備により受理されなかったといいます。これらの事例は、AIが人間の明確な指示を超えて行動し、虚偽情報の発信や行政手続きへの介入を行う可能性を示しており、AIの「暴走」に対する懸念を強めるものといえます。
  • 広島市で開催された「ひろしまラウンドテーブル」の成果報告会では、核軍縮や軍備管理をめぐる国際情勢の悪化と、核保有国の意思決定にAIが関与する危険性が議論されました。専門家は、広島の被爆経験が核の危険を現実の問題として認識させると強調し、通常兵器による紛争が核使用へ発展する可能性や、米ロの軍備管理の崩壊、ウクライナ戦争、米中対立によって世界が13年前より危険になっていると指摘しました。また、核兵器の指揮系統で「限定的な核戦争」や小型核兵器の使用が語られていることについて、使用が限定されても戦争のエスカレートを防げるという考えは誤りだと批判されました。核兵器の使用判断が数分以内に迫られる現在の体制では、指導者がAIに助言を求め、その判断に依存する恐れがあるため、政策決定者が熟考し、他者と協議する時間を確保する必要があるとされました。政策提言では、核使用におけるAIの役割に明確な限界を設けるべきだと主張されましたが、専門家は、核兵器に関する議論が新技術の規制ばかりに集中し、核兵器そのものの存在を問題視していない点も批判し、核兵器の即時使用に依存する運用態勢を改めるよう求めました。そして、AIが存在する限り核兵器を安全に管理できる世界は実現困難であり、究極の目標は核兵器のない世界への移行だと結論づけています。
  • アンソロピックは、同社の生成AI「クロード」が生物・化学兵器の開発に悪用される可能性がある研究を検知したと発表しました。米国外の研究者が、フロンティアAIを利用して鳥インフルエンザを哺乳類へ感染させ、呼吸器に深刻な症状を引き起こす方法の研究を進めていたといいます。こうした危険性への対応として、同社は生命科学分野で先端AIモデルを利用する研究グループを対象に、事前申請と審査を必要とする認証制度を導入、認証には研究の信頼性、倫理性、安全基準の充足が求められ、承認後も利用状況や制度に関連するデータを監視し、研究グループのデータを30日間保存するといいます。ダリオ・アモデイCEOはAI開発の減速を競合各社に訴えており、今回の制度は制御不能や悪用のリスクを抑える具体策として、フロンティアAI開発の速度を抑制する動きが広がるか注目されています。
  • ノルウェー政府は、AIを搭載したスマートグラスの普及に伴う盗撮・盗聴などのプライバシー侵害を防ぐため、公園や海水浴場を含む公共空間での使用を規制する法案を提出する計画を明らかにしています。規制対象には、美術館や博物館、ショッピングセンター、公共イベント会場などが含まれる見通しで、学校や病院にも適用される可能性があるといいます。担当相は、利用者や周囲の人が気付かないうちに写真や動画を撮影したり、音声を録音したりできる点を問題視しています。AI眼鏡は米国や欧州、中国を中心に普及が加速し、世界の出荷台数は2025年の960万台から、2026年は1340万台に増えると予測されています。一方で、英国では女性を盗撮した動画をSNSに投稿し、削除と引き換えに金銭を要求する事件が発生し、中国や韓国では大学入試や国家資格試験での不正利用も相次いでいます。こうした悪用を背景に、米国では一部裁判所が試験会場などへの持ち込みを禁止しています。ただし、規制のあり方を巡っては対立もあり、カリフォルニア州では無断録画に罰金を科す法案が可決されたものの、ニューサム知事は対象となる「ウェアラブル録画・録音デバイス」の定義が広すぎるとして拒否権を行使し、業界団体の反発にも配慮したとみられています。日本ではメタとフランスの眼鏡大手が共同開発したAI眼鏡が発売されていますが、現時点で具体的な規制議論は進んでいません。
  • 米デル・テクノロジーズ日本法人は、従業員300人以上の企業で業務用パソコンの管理やセキュリティ対策を担う会社員・経営者1227人を対象に、企業の生成AI利用とセキュリティリスクに関する調査を実施した結果、過去1年間に生成AI利用に関連するセキュリティ事故を経験した企業は78.5%に達し、生成AIの普及が安全面で大きな課題になっていることが明らかになりました。事故の内容では、情報漏洩が20.2%で最も多く、不正アクセスが16.9%、マルウェア感染が14.1%、機密情報の入力が13.4%と続きました。また、生成AIの普及によってセキュリティリスクが高まると考える企業は84.7%に上り、懸念事項としては機密情報の漏洩が25.8%で最多となりました。さらに、AIエージェントによる意図しない操作は17.9%、コンプライアンス違反は12.9%が懸念事項として挙げられました。被害拡大の起点としては、パソコンやモバイル端末の乗っ取りが24.3%で最多となり、認証情報の窃取が19.1%、無許可のAI利用が14.7%で続いています。今後2年以内に強化すべき対策では、マルウェア対策が37.1%で最も多くなりましたが、一方、生成AIを全社的に利用している企業は41.8%で、大企業では48.9%、中堅・中小企業では35.0%となりましたが、一部部署や個人による利用まで含めると、生成AIを使う企業は95%を超えており、利用拡大に対応した情報管理や認証、端末防御の強化が急務となっています。
  • 厚生労働省は、AIの普及が進む社会で労働者に求められる能力や人材育成の課題をまとめた2026年版「労働経済の分析」を公表しました。白書では、論理的思考力、批判的思考力、問題解決力、コミュニケーション力など、特定の職務に限らず幅広く活用できる能力を「メタスキル」と定義し、急速な社会変化に対応しながら新しい知識を継続的に学ぶために重要だと指摘しています。さらに、メタスキルの高い労働者ほど賃金も高い傾向にあると分析し、AI時代には専門知識だけでなく、状況を分析して課題を解決する力が重要になると示しました。また、AI開発を担う理系人材を育成するため、社会人の学び直しを促進する必要性を強調し、費用、時間、必要な情報の不足といった障壁への対策を求めています。加えて、現場を支える人材を確保するには、待遇を改善して異業種からの転職者を含む新たな人材を呼び込むことが必要だとしています。
  • 令和8年版厚生労働白書は、医療・介護・福祉の担い手不足が深刻化する中、AIやロボットなどのテクノロジーを活用し、サービスの質を総合的に高めることが不可欠だと強調しています。2040年頃に高齢者人口がピークを迎えることを見据え、医療・介護・福祉を持続的に提供することは、国民一人ひとりに関わる重要な課題だと指摘、看護・介護分野では専門職の養成課程への入学者が減少し、人材確保や経営の難しさが増している実態があります。厚労省の調査では、担い手不足に不安を感じる人が7割を超え、AIを使った医療サービスや介護ロボットの導入に賛成する人も7割以上に達しました。この結果は、社会全体で人手不足への危機感が高まる一方、テクノロジー導入への理解も広がっていることを示しています。白書は、AIやロボットによって限られた人的資源を専門的・中核的な業務に集中させ、医療・介護・福祉の持続性とサービス品質を両立させる必要があると結論づけています。
  • 女性のAI活用と学習の実態を調べた「女性AI人材白書2026」が、女性のAI支援や起業家育成に取り組む民間団体WAIJによって公表されました。労働人口の減少に伴い、女性が多く従事する事務職やサービス職ではAIによる業務代替が進むと予想される一方、AIを活用できる人材は不足しており、女性が学習できる環境の整備はキャリア形成だけでなく日本全体の生産性向上にもつながると指摘されています。調査では、仕事でAIを使う女性の51.4%が時間短縮を実感し、削減時間は週平均2.5時間となりました。しかし、AIをほぼ毎日使う女性のうち「とても使いこなせる」と感じる割合は21.4%にとどまり、男性の31.9%を下回りました。さらに一般女性まで対象を広げると、AIについて学んだり調べたりした経験がない人は67.8%に達し、利用効果がある一方で、知識や自己評価には大きな課題が残っています。専門家は、自信の低さを学習のきっかけに変え、ChatGPTなどを使って文書やウェブサイトを実際に作成し、できることを体験する重要性を強調、また、AIによって業務時間を短縮して成果を生み出す働き方が評価されれば、育児などのライフイベントと仕事の両立や、女性が抱えるキャリア上の悩みの解消にもつながると期待されるとしています。
  • IT技術を搭載したスマートカーについて、オランダの情報機関AIVDは、外部から車内のマイクやカメラを操作されたり、位置情報を取得されたりする危険があると警告しています。現代の車両は乗員や車両に関する膨大なデータを収集しており、国家機関を含む複数の関係者がアクセスできる可能性があるため、車内で機密情報を話さないよう呼びかけています。背景には、中国製スマートカーや電気自動車の世界的なシェア拡大に伴い、情報漏洩やスパイ活動への懸念が高まっていることがあります。英国では、中国製部品を使用したEVについて、機密性の高い軍事施設への乗り入れを禁止したと報じられ、遠隔操作による情報収集が問題視されました。さらにオーストラリアでも、法改正が進まなければ権威主義政権が自動車から得た機密データを収集し、兵器化する恐れがあると警告されており、各国で車載ITの安全性とデータ管理を見直す動きが強まっています。
  • 秋の行楽シーズンは毒キノコによる食中毒が増える時期であり、近年は採取したキノコをスマホで撮影し、画像検索アプリや生成AIで判定して誤食する事例が起きているといいます。2025年11月、和歌山市の70代男性は山中で採ったキノコを撮影し、生成AIから「シイタケまたはヒラタケ」と回答されたため焼いて食べたところ、約30分後に食中毒を発症、その後、和歌山県立自然博物館が調査した結果、食べたキノコは、外見や肉の厚みが食用キノコに似て判別しにくい毒キノコのツキヨタケと判明したといいます。厚生労働省によれば、2025年の毒キノコによる食中毒患者は全国で46人に上り、特に9~11月に多く、27人が10月に集中していました。農林水産省は、画像検索やAIによる判定だけで安全性を判断するのは危険であり、専門家でも識別が難しい場合があるとして、少しでも迷ったキノコは絶対に食べず、栽培されたもの以外は採取や譲渡を控えるよう呼びかけています。
  • 出版取次大手の日販GHDの子会社が、アンソロピックに日本の書籍を無断で販売していたことが判明しました。アンソロピックはAI学習を目的に大量の書籍をスキャンする計画を進めていたとされ、販売された日本の書籍も学習対象となった可能性があります。アンソロピックは、書籍のデジタル化や海賊版サイトからのデータ取得による著作権侵害を理由に、2024年8月、米国の作家らから提訴され、裁判資料には、同社が欧米やアジアの出版流通業者から大量に書籍を購入し、その中に日販とみられる「Nippan Japan」の名前が含まれていました。日本書籍出版協会は日販に対し、AI学習目的での供給停止を求めています。日販側は、2024年12月から2025年12月にかけて販売した事実を認めつつ、購入目的がAI学習であるとは認識していなかったと説明しています。日本の著作権法では、30条の4により、一定の条件下で著作物を著作権者の許可なくAI学習に利用できますが、著作権者の利益を不当に害する場合は制限されることになります。しかし、具体的な適用範囲は明確ではありません。無断かつ無秩序なAI利用が拡大すれば、出版社や作家の収益、創作活動、出版文化に深刻な影響を及ぼす懸念があり、日販の対応に対しては、出版文化を守る立場の企業が自らそれを損なう行為をしたとして、国内の出版関係者から強い批判と不満が示されています。
  • 東京地裁は、生成AIで模倣された声を巡る津田健次郎さんの訴訟で、人の声は個人の人格を象徴するものとして法的保護の対象になり得ると初めて判断しました。津田さん側は、本人の声に似たナレーションを使った動画について、著名人が顧客を引きつける力を独占利用できるパブリシティー権の侵害だと主張しましたが、提訴後に投稿者がアカウントを削除して動画も消えたため、削除請求自体は棄却されました。判決は、実演家らの声を集客目的で無断使用する行為がパブリシティー権侵害に当たり得ると示した一方、問題の音声が津田さんの声に類似するか、具体的にどのような利用が違法となるかまでは判断しませんでした。背景には、著名人の声を無断利用したAI動画が大量に拡散し、調査で345件、総再生回数2億3000万回超が確認された実態があり、法務省も声をパブリシティー権などで保護できるとする指針を示していることが挙げられます。今後は無断利用を証明する証拠や違法性の線引き、SNS事業者による削除対応、権利者が集団でAI企業に対抗できる制度の整備が課題となり、海外で進む生成AI関連訴訟の動向も注目されます。
  • 出版社の高文研は、生成AIの誤情報を含む書籍「無責任の体系と沖縄戦」を絶版にし、回収・全額返金すると発表しました。同社はホームページで、読者や関係者に深く謝罪しています。問題となったのは、著者の島袋純・琉球大学教授が、沖縄戦中にスパイ容疑を受けた住民の虐殺に関する国際裁判の判例として示した三つの事例で、実際にはいずれも存在しなかったといいます。島袋氏は、国際犯罪裁判記録のデータベースを対象に生成AIで判例を検索し、表示された結果を十分に事実確認しないまま書籍に採用したといい、誤りは、島袋氏から献本を受けた研究者が内容を捏造と指摘したことで発覚、AIが提示した情報を検証せず研究成果に用いたことが原因となりました。書籍は2026年9月に刊行され、書店には約200部が配本されましたが、実際に何部販売されたかは把握できておらず、出版社は販売分の回収を進め、購入者への返金に応じるとしています。
  • 楽譜出版社フェアリーが、販売用楽譜を模倣して無断公開し広告収入を得ていたサイト運営会社GLNETに損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第2小法廷は約1億6900万円の賠償を命じ、出版社側の勝訴を確定させました。フェアリーはJASRACの許諾を得て音源から聞き起こしたバンド楽曲の楽譜を販売していましたが、GLNETは2011年12月から2018年6月にかけて579曲を模倣し、ウェブサイトで公開していたため、売り上げが大幅に減少したとして5億円を請求していたものです。楽譜のように著作権法で保護されない制作物の無断利用について、最高裁が民法上の不法行為に当たると判断したのは初めてであり、裁判官4人の全員一致の判断となります。最高裁は、自由競争の範囲を逸脱して営業を妨害し、営業上の利益を侵害した場合には、2011年判決が示した「特段の事情」が認められ、不法行為が成立すると示しました。出版社が多大な費用、労力、時間をかけて制作し、販売によって費用を回収していた一方、運営会社は模倣版によって顧客を奪い、不公正に利益を得ていた点を重視したものです。この判決は、著作権の対象外であっても、制作物への安易なただ乗りが悪質であれば賠償責任を負う可能性を明確にした点で重要で、生成AIの普及により文章や画像などの模倣が容易になる中、制作者の努力や事業を守る新たな判断基準となり、今後の権利侵害訴訟や文化・芸術分野の保護に影響を与える可能性があります。
  • 世界銀行のバンガ総裁は、新興国の雇用創出へ機能を絞り込んだ軽量型のAIの活用を急ぐ方針を打ち出しました。今後12~15年に12億人が就労年齢に達するものの、今の経済成長のペースでは4億人分の雇用創出にとどまると危機感を示しています。若者8億人が労働市場に出ても就業できないリスクを解消するために「スモールAI」がカギを握ると訴えています。性能は最先端モデルに劣っても現地語や低速通信に対応した軽量型のAIを指し、バンガ氏は「新興国におけるスモールAIは生産性を向上させる大きなチャンスとなる」と話し、医療、教育、農業といった特定の領域に用途を限ることで、生産性を高めて地域ごとの課題に対応することができるとみられています。
  • 個人情報保護委員会は、AI開発などを含む「統計作成等」を対象に、本人の同意なしで個人情報を扱える特例制度の具体化に向けた論点整理を公表しました。改正個人情報保護法では、一定の要件を満たす場合、個人データの第三者提供や、公開された病歴などの要配慮個人情報の取得について、本人同意を不要とする仕組みが設けられており、 特例の適用条件として、目的外利用や第三者提供、情報漏洩を防止する措置を講じることが示されました。さらに、利用目的を終えた情報を速やかに消去する仕組み、適切な組織体制の整備、プライバシー強化技術の活用なども要件の候補に挙げられています。 事業者が特例を利用する際には、個人情報保護委員会が指定するウェブサイトなどを通じて公表する案が示され、公表事項には、取り扱う情報の内容や、情報を取得・提供する時期などを含める方向で検討されています。今後は、事業者や消費者を含む関係者から意見を聴取しながら、政令や委員会規則の具体案を策定することになります。個人情報保護委員会は、2027年1月をめどに条文案を公表し、意見募集を実施する予定です。制度設計では、AI開発や統計利用を促進しつつ、個人情報の目的外利用や漏洩を防ぎ、本人のプライバシーを保護することが重視されることになります。
  • 総務省が進める生成AIの信頼性評価システムについて、情報通信研究機構(NICT)、プリファードネットワークス、さくらインターネットの官民3者が共同開発に乗り出し、2027年3月までの試作完成を目指しています。システムは、複数のAIが作成した大量の質問を評価対象のAIに投げ、公的機関のウェブ情報などと照合して、回答の誤りや偏り、特性を分析する仕組みだといいます。NICTが開発を担い、プリファードのAIを評価に活用するとともに、さくらインターネットのデータセンターで試験運用し、評価作業を国内で完結させる方針です。海外製AIの利用が広がる一方、領土問題や日本文化に関して日本の立場を反映しない回答、特定国に有利な主張を広める認知戦への悪用が懸念されており、独自に信頼性を判断する能力の確立が求められています。3者は評価結果を企業や行政機関のAI選定に役立て、不適切な回答が確認された場合には修正データを提供することも検討しており、政府は2025年度補正予算で約380億円を確保し、評価システムの開発を後押ししてきましたが、今後、システムの性能をさらに向上させる方針で、2027年度予算概算要求にも約460億円を計上しています。

(6)誹謗中傷/偽情報・誤情報等を巡る動向

愛知・名古屋アジア大会で日本オリンピック委員会(JOC)は、選手が誹謗中傷やハラスメント、過度な緊張によって精神的に追い詰められ、競技力を低下させないための支援体制を整えました。インテグリティチームはSNS上の中傷を監視し、必要に応じた法的支援や心理的ケアを提供するとともに、セーフガーディングオフィサーがセクハラやパワハラへの対応を担いました。背景には、東京五輪で心の健康を理由に棄権した選手の事例や、IOCが専門家育成の研修を始めたことがあります。これまで相談は競技団体を通す仕組みでしたが、選手がより気軽に助けを求められるよう、今大会ではLINEの相談窓口を新設し、直接相談できるようにしました。公認心理師のウェルフェアオフィサーが、試合前の不安や緊張を訴える選手と1回50分の面談を行い、練習の積み重ねを振り返らせながら安心感を与え、選手が悩みを一人で抱え込まず、自分らしく競技に臨めるよう支えました。冬季五輪後の調査では、支援による安心感を得た選手が45%に上った一方、支援の存在を知らなかった選手も約2割おり、認知度向上が課題となっています。JOCは今大会で得た成果や課題を踏まえ、2年後のロサンゼルス五輪に向けて選手支援をさらに充実させる方針です。

2026年9月の沖縄県知事選では、候補者に関するデマや 誹謗中傷がSNS上で飛び交い、各陣営が対応に追われました。SNS上では、生成AIを使用したとみられる虚偽の画像や動画が多数投稿され、ネット上で拡散、候補者の発言を切り取って事実とは異なる主張に結びつけるなどの内容も確認されました。陣営は削除要請や反論を繰り返しましたが、拡散は止まりませんでした。立候補した古謝氏、玉城氏の各陣営によると、玉城さんへの批判的な内容が圧倒的に多く、中には玉城さんがロードローラーのようなものにひかれるAI作成とみられる動画も拡散、読売新聞が選挙期間中に米メルトウォーター社の分析ツールを使って調べた沖縄県知事選を巡るXの投稿は、所在地が分かるアカウントでは県外からの発信が約9割を占めたといいます。玉城氏の選対幹部は「ネット上で嵐のように吹き荒れた中傷という見えない敵との戦いに追われ、政策が十分に響かなかった」と振り返っており、SNSの誹謗中菱や偽・誤情報が民主主義を損なう実態にもっと関心を向けるべきではないかと感じます。

法務省は、SNS上の誹謗中傷やプライバシー侵害などに対応するため、民法上の「不法行為」規定の見直しに向けた研究会を設置しました。不法行為とは、故意または過失によって他人の権利や法律上の利益を侵害し、損害賠償責任を負う行為を指しますが、現行規定は1896年の民法制定以来、大きく改正されておらず、インターネットや生成AIの普及による新たな権利侵害に十分対応できていないとの指摘があります。研究会は学者や弁護士、裁判官らで構成され、国内外の法制度や裁判例を調査しながら、不法行為法制の将来的な見直しに向けた論点を整理するといい、法務省は議論を踏まえ、法制審議会への諮問と民法改正を目指す方針です。ただし、研究会が慰謝料の具体的な金額や一律の基準を示すことは想定されていません。最大の論点は、精神的損害に対する慰謝料の算定方法となります。SNS上の名誉毀損や名誉感情、プライバシー侵害では、裁判で賠償が認められても数十万円にとどまる例が多く、調査費用や訴訟費用を差し引くと被害者が赤字になる場合もあり、賠償額が被害の実態に見合わず、被害者の泣き寝入りを招いているとの批判が強まっています。法務省の調査では、ネット上の権利侵害に関する118件の裁判例のうち、30万円未満の賠償が約半数を占め、100万円以上は少数にとどまりました。研究会では、被害の重大性、侵害行為の悪質性、加害者の故意や重大な過失、投稿の拡散規模、被害者が受けた影響などを、慰謝料算定時の考慮要素として民法に明記する案が検討される可能性があります。また、加害者が投稿によって得た利益や、制裁・抑止の必要性を考慮する仕組みも論点となります。ネット中傷の被害者は、匿名の投稿者を特定するため、まずSNS事業者やプロバイダーに発信者情報の開示を求め、その後に損害賠償や投稿削除を請求する必要があります。この2段階の手続きによって費用と時間がかかるため、賠償額の低さが提訴を断念する要因になっています。一方、発信者情報開示命令の申立件数は、制度の簡素化も背景に増加しており、ネット中傷を巡る紛争の広がりを示しています。投稿の削除など、差し止め請求の明文化も重要な検討課題です。現在は判例によって一定の場合にSNS投稿の削除が認められているものの、民法に明確な規定はありません。研究会では、名誉やプライバシーを侵害する投稿について、どのような条件で削除を請求できるか、また判断時に何を考慮するかを整理する予定です。さらに、子どもの性犯罪被害に関する損害賠償請求権の消滅時効も議論されます。未成年者は被害を受けた直後に事実を打ち明けられず、成人後や長期間経過してから被害を訴える場合があるため、成人時から時効を起算する制度などが検討対象となります。死後の人格権や、複数人が関与した不法行為、判断能力のない人が行った不法行為の責任も論点に含まれます。また、制度の見直しは企業活動にも影響する可能性があります。企業の公式サイトやSNS、口コミへの対応、広告宣伝、生成AIを使った画像・音声・コンテンツ制作、インフルエンサーの起用などで人格権侵害が認められた場合、企業の責任や管理上の注意義務が問われる可能性があるためです。法務省は、被害者が実効的に救済される制度を整える一方、表現活動や企業の情報発信への影響にも配慮しながら検討を進めるとしています。

XやTikTokなどのSNSでは、誹謗中傷や利用規約違反への対応として、AIが大量の投稿を検知し、削除やアカウント停止に使われています。情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)により、大規模事業者は削除件数や対応状況を年1回公表する義務を負い、今回初めて各社のAI活用の実態が明らかになりました。一方で、AIは迅速な処理が可能であるものの、誤判定によって問題のない投稿まで削除し、表現の自由を侵害する危険があります。公表資料によれば、AIが関与した措置は、約8カ月間でユーチューブが16万件、メタの3サービスが計287万件、1年間でTikTokが1656万件、Xが27万件だったといいます。ただし、対象期間やサービス、AIの利用方法、集計基準が異なるため、単純な比較はできず、Xは人の確認なしに自動削除した投稿のみを集計したのに対し、メタはAIと人による審査を組み合わせた措置を含めており、Googleは人間の監督下でAIを活用していると説明しているといった状況です。また、TikTokは権利侵害情報の削除申請の審査にAIを使っていないといいます。AIが関与した削除への不服申し立ての割合は、ユーチューブが1割超、インスタグラムが8.5%、XとTikTokが2%台でしたが、事業者が判断を撤回した割合はいずれも3%未満となりました。しかし、申し立てをしない利用者や、AIが問題投稿を見逃した事例は含まれないため、数値だけで判定の正確性を評価することはできず、さらに日本語を理解して削除判断を検討する担当者は、ユーチューブ293人、メタ190人、X29人、TikTok6人にとどまり、公表データにはAIの精度を検証するための情報が十分に含まれていません。

2026年7月に熊本県熊本地方で最大震度7の地震が発生すると、実際の被害とは異なる情報、根拠のない犯罪情報、偽の救助要請、募金詐欺、陰謀論など、災害時に現れやすい五種類のフェイク情報が相次いでSNS上に広がりました。「阿蘇山が噴火した」という誤情報や、人工地震説、地震雲に関する投稿が拡散し、被災者を装ってQRコードで送金を求める投稿も確認されました。さらに、「生き埋めになっている」と訴える救助要請は30万回以上閲覧されましたが、記載された住所は実在せず、名前だけを変えた同じ内容の投稿が複数アカウントから発信されていました。動画サイトでは報道機関を装った生成AIが作成したとみられる偽動画も流通し、熊本県氷川町では、倒壊した自宅前で被災男性が笑顔でポーズを取っているように加工された偽画像が、中傷とともに200万回以上閲覧されました。災害直後は被害の全体像が分からず、公的情報の発表も遅れるため、社会全体が強い情報不足に陥ります。その空白を埋めようとして、人々は真偽を確認していない投稿にも飛びつきやすくなり、爆発事故などでも「テロだ」といった過激な臆測が広がることになります。情報の空白が大きいほど、注目を集める刺激的な物語が拡散されやすい特徴もあります。SNSの収益化制度も拡散を後押ししており、Xやユーチューブでは、表示回数などに応じて収益が得られ、注目そのものが価値を持つ「アテンション・エコノミー」の下では、関心が一点に集まる災害が「稼げる場」になっています。元手をかけず大量に投稿し、その一部でも表示回数が伸びれば収益になり、低コストで大量投稿する動機が生まれます。熊本県警は、発災三日後に「インプレッション稼ぎ」の偽情報をやめるよう警告しました。過去の愉快犯的なデマとは異なり、現在は虚偽情報が収益目的で発信される点が大きく異なっています。一方、生成AIは偽の被害映像を作るだけでなく、本物の可能性が高い映像をAIの回答を根拠に「過去のもの」と誤認させるためにも使われており、その結果、偽情報が真実を虚偽だと疑わせる事態が生じることになります。実際、福岡市では市長が川の氾濫映像を偽情報と判断して注意喚起したものの、氾濫は実際に起きており、後に謝罪する事態となりました。

フェイク情報に接した人のうち、誤りに気づけたのは約7人に1人にとどまり、批判的思考に自信を持つ人ほど確認を省いて拡散しやすい傾向も示されています。特に怒りや不安を感じたときは、一度立ち止まって確認する必要があります。デマを批判するために引用しても表示回数を増やし、発信者の収益につながるため、通報したうえで反応せず離れることが望ましいといえます。また、AIの回答も結論ではなく、検証の出発点にすぎません。対策は個人の注意だけでは不十分であり、SNS事業者の責任も問われています。総務省は主要なSNS事業者に適切な対応を要請しましたが、削除やアカウント停止などを実際にどの程度行ったかの検証と公表が必要です。さらに、災害関連投稿の収益化を一時的に停止する仕組みも検討すべきだとの指摘もあります。

偽の救助要請が現れる一方で、本物の救助情報まで疑われるため、国が市民からの救助要請や被害情報を集約し、真偽を確認して共有する公的制度を整えることも求められています。災害時の情報判断が行政にとっても難しくなるなか、個人任せではなく、技術と制度の両面から支える必要があるといえます。鳥取県は2024年、災害時のフェイク情報に対応する庁内監視チームを設置し、民間のソーシャルリスニングツールでSNS投稿を自動検知しています。通常の地域関連語に加え、災害時には「地震」などの語を登録し、投稿を監視する仕組みで、熊本地震の際には、人工地震説、外国人窃盗団の流入説、生成AIで作られたとみられる偽画像、自治体対応に関する誤情報など約20件を確認し、熊本県へ提供したといいます。八代市の水道復旧を外資系企業への委託と結びつける投稿や、宇城市が自宅避難者への物資配布を拒んでいるという投稿は、両市への確認によって事実ではないと判明した事例です。熊本県は投稿を確認し、県警とも情報共有しました。緊急の削除要請が必要な投稿はなかったものの、被災自治体からは、外部からの監視情報が混乱防止と復興支援に役立つと評価されたほか、専門家は、被災自治体が現場対応に追われてSNS対策まで手を回せないため、鳥取県のような自治体間連携は先進的だと指摘しています。今後は、国や自治体が情報収集、モニタリング、正確な情報発信を担う支援チームを派遣する仕組みや、監視技術の開発が必要だといえます。10年前と比べて変化したのは生成AIと収益化の仕組みですが、善意から未確認情報を広げてしまう人間の行動は変わりません。だからこそ、制度整備と広域連携に加え、投稿を共有する前の短い確認が、次の災害で二次被害を防ぐ鍵となります。

WHOは資金減少と人員削減に直面し、米疾病対策センター(CDC)や米国立衛生研究所(NIH)、米食品医薬品局(FDA)など米国の主要な感染症・医療機関も、科学的根拠を軽視するトランプ政権による科学技術予算の大幅削減で機能低下や強い失望感に見舞われています。その結果、これまで感染症対策で世界を支えてきた国際的組織が十分に機能せず、国際社会の対応力が大きく損なわれています。さらに、トランプ大統領が子どもに推奨する予防接種を11種類に削減する大統領令に署名したことは、科学的知見に反する動きとして批判されています。ワクチンに関する誤情報が拡散する「インフォデミック」によって科学への信頼が低下し、世界的なワクチン離れが進んだ結果、はしかなどの感染症が再び流行する国が増加、この状況は、約200年前に天然痘ワクチンが開発された際、医師が有効性を説明しても民衆の反発が続き、普及に100年以上を要した歴史と重なるものがあります。新型コロナワクチンのような技術革新は不可欠ですが、現在は科学への不信と誤情報の拡散が、さらなる研究開発を阻む最大の壁になっています。こうした対立を和らげる方法として、日本には漫画やアニメを活用して正確な情報を親しみやすく伝える文化があると指摘されています。例えば、「はたらく細胞」は免疫の仕組みを分かりやすく描き、専門用語を知らない子どもにも科学的知識を届ける日本独自の手段として評価されています。また、日本で定着している防災の考え方も感染症対策に応用でき、感染症を災害と同様に捉え、限られた時間の中でリスクと利益のバランスを考えて命を守る必要性を共有すれば、対策への理解が進むとの指摘もあります。「パンデミックを戦争ではなく防災の課題として捉え、互いに助け合う対等な立場で国際連携を強化することが、将来の危機に備える有効なリスクヘッジとなる」との指摘は大変考えさせられます。

高市政権は、SNS上で拡散する偽情報や誤情報に対抗するため、政府や関係者が実名・役職付きで迅速に反論する発信を強化しています。中国やロシアなどが世論誘導や社会の分断を狙う「認知戦」への対策として、日本の公式見解を早期に示し、相手国の主張が国際社会に定着するのを防ぐ狙いがあります。発信では客観的な事実や統計を用い、海外の有識者にも英語で説明して日本の立場への理解を広げる方針です。すでに、佐伯内閣広報官が中国側の「日本の新型軍国主義化」という主張に対し、中国の軍事費増加を示すグラフをXで発信したほか、南シナ海を巡る仲裁裁判所の判断に関する外務省声明も紹介、防衛省でも安居院報道官や内倉統合幕僚長がXを開設し、日本の平和国家としての理念や専守防衛に変更はないと反論しています。さらに、防衛政策局内に認知戦対応の専門部署を新設し、外務省も国際世論の調査・分析と対外発信を強化しています。背景には、日本に不利な言説や偽情報がSNSで広がる傾向があり、実際に中国版TikTokでは、日本が多数の準空母やステルス戦闘機を秘密裏に保有しているという情報が拡散した事例があるほか、中国は海外有識者を招いた国際会議などを通じて自国に有利な物語を広めています。専門家は、日本政府の直接発信には一定の効果があると評価するものの、海外の有識者が日本を継続的に注視しているわけではないため、中国側の発信力に影響される可能性も指摘しています。

(7)その他のトピックス

①中央銀行デジタル通貨(CBDC)/ステーブルコイン/暗号資産を巡る動向

2026年9月に公表された米上院民主党議員主導の調査報告書によれば、暗号資産大手テザーが発行するドル連​動型ステーブルコイン「USDT」が、米国の制裁下にあるイラン‌にとって「重要な金融上の生命線」となり、レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラなどへの資金提供にも利用されていることが分かったということです。報​告書は、イランとの関係を理由にイスラエルと米国が制裁対象​に指定した846の暗号資産ウォレットを分析、その結果84%のウォレット​でUSDTの取引が確認され、USDTはイラン政府が米国の制裁を回避して国境を越えて資金を移動させるほか、イラン中央銀行を通じた自国通貨の下支えなど​にも利用されていたといいます。米上院常設調査小委員会の民主党トップ、ブルーメンソル議員は報告書について「​テザーとその主力トークンが、いかにイランの影の銀行システムの中‌核と⁠なっているかを明らかにした」と指摘、米財務省と司法省に対し、テザーを調査するよう求めました。USDTは米ドルに連動するステーブルコインとして時価総額が世界最大で、テザーは、米政府へ​の協力に取り組ん​でいると説明⁠し、2026年にはイランに関連する約5億5000万ドル相当のUSDTの凍結を支援したと主張、また報告書の指摘に対してテ​ザーのパオロ・アルドイノCEOは「テザ⁠ーは、USDTが制裁対象者やテロ組織、犯罪ネットワークの逃避先ではないことを一貫して示してきた」と反論しています。米国が2026年、イランに対⁠する​軍事作戦を開始した後、米財務省はイラ​ンへの制裁を強化、2026年8月には、暗号資産取引への対応を含む「オペ​レーション・エコノミック・アウトキャスト」(イランへの資金供給網と同国を支援する第三国の企業・金融機関を標的に「二次制裁」を強化するもの)を発動させ、ベッセント財務長官は「イランのためにマネロンを支援する主体は米ドルシステムから排除される」と警告し、各国政府や金融機関に対しイラン関連活動の停止を求めています。

関連して、米ブルームバーグ通信は、世界最大の暗号資産交換業者バイナンスについて、米国の対イラン制裁に違反した可能性があるとして司法省が捜査していると報じています。特定の取引を意図的に認めていたかどうかを調べているといいます。バイナンスは声明で「われわれは制裁違反を一切容認しない方針を維持している」と説明、捜査に全面協力するとしています。報道によれば、捜査はニューヨーク州の連邦地検や司法省の捜査部門が主導していますが、問題視している取引の詳細は不明です。

さらに、米国は、制裁対象のイラン人金融業者バーバク・ザンジャニ氏が支配する暗号資産取引所に対し制裁を科すと発表しました。ホ‌ルムズ海峡を安全に通航する船舶からの支払いを処理しているとしています。米財務省は声明で、取引所「ビットバンク」​がイランの「イスラム革命防衛隊(IRGC)」に数億ド​ルを送金していたとし、同取引所はデジタル⁠資産を利用したイランの制裁回避インフラの​重要な構成要素であると指摘、ビットバンクはイ​ランが新設した「ホルムズセーフ海事サービス機構」への支払資金の移転に使われていたと述べています。報道によれば、今回​の指定は、イランを経済的に孤立させ、同国の世​界的な金融・商業・物流ネットワークを混乱させることを‌目的⁠とした財務省の「オペレーション・エコノミック・アウトキャスト」の一環で、同作戦は、イランの違法な石油取引、金融仲介業者、両​替商、海運・​航空業界、ダ⁠ミー企業を標的としています。米国はまた、ビットバンクのソフトウエア開発​元である「ピシュタズ・シモルグ電子商​取引⁠会社」と、ザンジャニ氏の側近3人にも制裁を科しました。ザンジャニ氏は長年、イランの制裁回避ネットワークの中⁠心人物と​されており、2016年に横領罪でイラ​ン当局から死刑判決を受けたものの、2024年に減刑され、翌25年にはイラ​ン政府の経済プロジェクトの支援者として復活しています。

米連邦議会上院は、暗号資産やステーブルコインの規制上の分類を明確にし、米証券取引委員会(SEC)と米商品先物取引委員会(CFTC)の管轄を整理するクラリティー法案について、審議入りの手続き投票を否決しました。賛成は49票にとどまり、必要な60票に届かなかったため、法案は審議入りせず、成立時期も見通せない状況となりました。背景には、2026年11月の中間選挙を控えた共和党と民主党の対立があり、トランプ大統領が公職者による暗号資産発行の禁止などの倫理条項を受け入れた後も、合意形成には至りませんでした。法案否決を受け、ビットコインは一時2%超下落し、イーサリアムやXRPなどにも売りが広がったほか、サークル、コインベース、メタプラネットなど関連企業の株価も大幅に下落しました。市場では、法案成立により事業者が従うべき監督当局が明確になり、参入障壁が下がるとの期待が強かったため、審議見送りは暗号資産業界全体に失望を与えることになりました。予測市場では2026年内成立の確率が5%まで低下し、専門家も年内成立は困難とみています。特に影響が懸念されるのがステーブルコイン市場で、ステーブルコイン発行体による利息支払いは禁止されているものの、交換業者など第三者を通じた報酬提供は禁止されていないため、銀行業界は、ステーブルコインの普及が銀行預金の減少につながると警戒し、第三者を通じた利息や報酬の提供も規制するよう議会に求めており、こうした規制が与野党の条件闘争の中で盛り込まれれば、市場の成長を抑える可能性があります。実際、ステーブルコインの時価総額は約3100億ドル(約49兆円超)で停滞しており、関連企業や投資家は制度の不透明さから事業を進めにくくなっています。さらに、法案成立の遅れは米政府の財政構想にも影響、ステーブルコイン発行体が利用者から預かった資金で短期国債を購入すれば、国債需要が高まり、政府の借り入れコスト低下や金利安定化につながる可能性があるところ、制度整備が遅れれば、この効果も実現しにくくなるためです。一方、2023年施行の改正資金決済法で制度を整えた日本にとっては、米国の混乱中に市場育成を進める好機となりますが、円建てステーブルコインの発行残高は約300億円にすぎず、実用例の拡大が課題となっています。

金融庁はステーブルコインを使った貿易決済の実証実験を支援すると発表しました。実験には三菱UFJ銀行など3メガバンクが参加、デジタル化が遅れている貿易実務の効率化につなげる狙いがあります。貿易業務のデジタル化を手がけるトレードワルツや3メガバンク、NTTデータなどの実証実験を支援、商品を輸出する企業と銀行間の決済にステーブルコインを使い、実務上の課題を検証するとしています。貿易取引では、売買契約などの書類を紙ベースでやりとりするのが一般的なため、時間やコストがかかる課題があり、今回の実証実験では貨物の受け渡しに必要な船荷証券などの書類をブロックチェーン(分散型台帳)に載せ、3メガが共同発行を目指すステーブルコインとつなげることで書類と決済の双方の事務を連動させ、将来的には輸出企業と輸入企業の間でもこの仕組みを応用することを見据えており、実現すれば輸出企業が輸入企業から資金を受け取るまでの時間が短縮でき、資金を効率的に使えることが期待できるといいます。今回の支援は「フィンテック実証実験ハブ・決済高度化プロジェクト(PIP)」の一環で、片山さつき金融相は、「前向きな取り組みと受け止めており、法令解釈等の面からサポートしたい」と述べています。

また、政府・日本銀行の元幹部と、民間金融機関の役員らでつくる一般社団法人「デジタル通貨イノベーション機構」が、デジタル通貨の浸透に向けて動きだし、ブロックチェーン技術を利用した「トークン化預金」を中核に、普及に向けた地ならしを進める計画だといいます。トークン化預金は、複数のコンピューターで取引記録を共有して改ざんなどを防ぐブロックチェーン技術を使い、銀行預金を管理する仕組みで、預金を「トークン(印)」としてブロックチェーンに記録するため、こう呼ばれており、決済・送金の迅速化や、低コスト化が図れるといった利点があります。現在、海外送金を行う際は、複数の銀行を経由して決済を進めたり、マネロンなど犯罪の疑いがないかチェックしたりするのに時間とコストがかかる。トークン化預金では、送り手と受け手の銀行間で決済を直接行い、身元確認情報なども金融機関同士で共有・検証することで、こうした問題の解消が図れるほか、国際貿易でも手続きの簡略化などが期待されます。従来は人手をかけて書類を確認した後に決済指示していたのを、納品確認などが取れれば自動的に決済を行うようプログラムしておくことができるためで、普及に向け、個々のトークン化預金を銀行間でどうやり取りするかが課題となります。機構は今後、異なる銀行間の決済でもトークン化預金を利用できるようにするための議論を進める方針です。トークン化預金以外の代表的なデジタル通貨は、中央銀行が発行する「CBDC」や、ドルなどの法定通貨と価値を連動させる「ステーブルコイン」があり、いずれも利用する個人や企業が専用口座やアプリを導入することが想定されますが、トークン化預金では、既存の銀行口座をそのまま使うことが可能となる見通しで、銀行口座が広く普及している日本では、実用化への近道になると期待されています。米国ではドル建てのステーブルコインが広がっており、欧州中央銀行(ECB)でも「デジタルユーロ」の発行に向けた準備が進み、中国は「デジタル人民元」の見直しを急ぐなど、次世代の決済基盤を巡る国際競争が活発化しています。

▼ 金融庁 「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」(第1回)議事次第
▼ 資料2 金融庁説明資料
  • AI時代を見据えたオンチェーン金融イニシアティブ
    • AI時代の決済は、「24時間365日連続稼働」、「商流・物流と繋がるプログラマビリティ」、「決済基盤として信頼される安定性・安全性」の要素を備えた、ブロックチェーン技術を基盤とする「オンチェーン金融」の推進と、既存の金融インフラ(オフチェーン金融)とのベストミックスが重要。
    • AI時代を見据えた「オンチェーン金融」の実現に向け、「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」を今般立ち上げ、関係省庁等において、「オンチェーン金融」の社会実装の推進等に向けた検討を行う。
    • あわせて、(1)「オンチェーン金融」を発展させる環境整備、(2)AI等の技術への適応については、2つの研究会で検討を進める。
    • 2027年初に第2回を開催し、上記内容について中間整理及び官民連携でのロードマップを取りまとめる。
  • 世界における様々な資産のトークン化の動向
    • トークン化には、組成・管理コストの削減、流動性の向上や決済の効率化、商品・サービスの多様化など様々な可能性。
    • 世界におけるトークン化対象資産は拡大しており、トークン化資産の累計発行額は増加傾向。
  • ブロックチェーン技術の活用事例- “プログラマビリティ”の可能性
    • ブロックチェーン技術の活用事例としては、以下のようなものがある。
    • プログラム(スマートコントラクト)による自動的な処理により、物品の納入・販売や施工完了の確認等と、代金の決済を連携させることが可能となれば(“プログラマビリティ”の活用)、業務の迅速化・効率化等を大きくもたらす可能性がある。
      • ※この他、ブロックチェーンの金融への活用としては、低コストで幅広く記録を残せること等を利用し、投融資先のより精緻な信用リスク管理に活用したり、新たな資産の証券化を可能とするなど、金融の効率化・高度化に繋げていく可能性もあると考えられる。
        1. 【貿易】紙ベースでは整理・共有が煩雑だった船荷証券や輸出許可書等の帳票情報を、ブロックチェーン技術を用いて一元的に管理・共有できる貿易管理プラットフォームを提供。
        2. 【物流】配送伝票を電話等でやり取りしていたために転記ミスや紛失が生じていたことを踏まえ、ブロックチェーン上で伝票を管理し、受発注に関する情報を齟齬なく共有できる仕組みを導入。
        3. 【建設】建設現場でコンクリートを受け入れる際の検査システムにブロックチェーンを活用することで、検査データの改ざんを防止し、検査履歴管理の透明性を高める実証実験を実施。
        4. 【小売】食品の原材料の調達から配送までのサプライチェーンの情報をブロックチェーン技術で集約し、生産場所、運搬場所、販売場所、消費期限などの情報を管理できるプラットフォームを構築。
        5. 【環境】CO2削減量を表すカーボンクレジットの売買・移転・償却の履歴をブロックチェーン上で管理することで、取引の透明性・信頼性を高める実証実験を実施
  • 世界におけるステーブルコインの発行状況
    • 世界のいわゆるステーブルコインは、足下では約3,100億ドル(約48兆円)の市場規模。
    • ステーブルコインの多くはドル建て。時価総額の約83%をUSDC及びUSDT(共にドル建て)が占めている。
    • 日本国内で流通しているステーブルコインは、ドル建てのUSDC・RLUSDと円建てのJPYC・JPYSC。
  • 世界におけるトークン化預金の検討状況(国際決済銀行(BIS)レポート)
    • BISが2024年に約90法域を対象に実施したサーベイによれば、約30法域が商業銀行においてトークン化預金の取組みを行っていると回答。研究や概念実証(PoC)の実施が中心であるが、一部の法域では、トークン化預金の発行やパイロット運用を進めている。
  • 円建てステーブルコインの共同発行に関する取組(2025年11月7日支援決定)
    • 3メガバンク等は、円建てステーブルコイン(SC)を共同で発行し、大手商社のクロスボーダー決済の高度化・効率化にステーブルコインを活用できるかを検証する実証実験を開始。
    • 本実証実験を、金融庁「FinTech実証実験ハブ」内に設置した「決済高度化プロジェクト」(PIP)の第1号支援案件に決定。
    • 同ステーブルコインの実取引を今年度中に開始予定。
  • オンチェーンでの証券決済に向けた取組(2026年2月13日支援決定)
    • 金融資産のトークン化については、海外では、国債・社債等の債券や投資信託(MMF等)、株式等の有価証券のトークン化の取組が進展している一方、国内では、不動産証券化商品中心から広がりを見せ始めたところ。国内においては、振替口座 を用いた証券(国債・社債・投信・株式等)のオンチェーン取引は実現していない。
    • オンチェーンでの証券決済のDvP(Delivery versus Payment)が実現された場合、即時移転による決済リスクの低減や事務負担の軽減に加えて、将来的には24時間・365日の証券取引を実現し、海外投資家を含む幅広い投資家層を呼び込むことにつながるなどのメリットが期待される。
    • そこで、野村證券、大和証券、3メガバンクグループが、オンチェーンでの証券決済に係る実証実験を開始。本実証実験を、PIPの第2号支援案件に決定。その一環として、2026年4月にみずほFG等が、2026年8月にMUFG等が、それぞれ日本国債に係る担保取引のオンチェーン化に係る実証実験を開始。
  • トークン化預金を複数の銀行間で移転する仕組みの構築に向けた取組(2026年4月3日支援決定)
    • 異なる銀行の顧客間でトークン化預金を移転する場合には、既存の送金・振込と同様に、銀行間をつなぐ資金移転の仕組みが必要。
    • そこで、こうした銀行間決済を円滑・低コストに行う仕組みとして、トークン化預金の発行を支援するDCP社とGMOあおぞらネット銀行等は、(1)銀行同士で口座を開設し、その増減により資金移転させる、(2)顧客間でのトークン化預金の移転と銀行間でのステーブルコイン(SC)の移転を連動させるなどの実証実験を開始。本実証実験を、PIPの第3号支援案件に決定。 2026年8月、43の地方銀行等が参加を表明。
    • なお、日本銀行は日銀当座預金のトークン化及びその活用に向けたサンドボックスプロジェクトを実施しており、相互の実験の状況に関する情報や知見の共有などを通じて、日本銀行とも連携していく。
  • ブロックチェーンを活用した貿易決済の高度化に向けた取組(2026年9月29日支援決定)
    • 貿易取引においては、その代金の決済も含め、輸出入企業や金融機関等の間において、多くの手続が紙の書類のやり取りにより行われており、こうした状況を改善するためのデジタル化プラットフォームを提供する事業者が登場している。
    • 今般、こうした事業に取り組むトレードワルツ社が、貿易関係書類のオンチェーン化に加え、3メガバンクが今後共同発行するステーブルコインと連携することで、書類のやり取りと代金の支払を連動させる実証実験を行う予定。本実証実験を、決済高度化プロジェクト(PIP)の第4号支援案件に決定。
    • 現在議論されている船荷証券の電子化が実現すると、書類事務と決済事務がオンチェーンで連動することで、貿易実務の更なる効率化や高度化の実現が展望される。
  • AIの金融市場への影響とその監督に係る国際的な動向
    • 国際機関等において、AI関連リスクが金融システムへどのように波及し得るかを分析した上で、金融機関・金融規制当局によるガバナンス・監督上の対応を整理する 動きが見られる。また、中長期的にAIエージェントが金融システムをどう変化させ得るかに関する分析も見られる。
      1. 金融システムへの影響分析
        • BoE:2025年4月に公表の「金融安定性の観点から見る金融システムにおけるAI」において、銀行等のAI利用について、特定モデル依存、群衆行動、市場操作等が金融市場へ与える影響を指摘。
        • IMF:2024年10月に公表の「AIの発展が資本市場に与える影響」において、AIモデルによる取引戦略は価格発見と流動性を向上させる一方、ボラティリティ上昇や共謀による市場操作、システムリスク等、金融市場の不安定化に寄与する可能性を指摘。
      2. ガバナンス・監督上の対応
        • FSB:2025年10月に公表の「金融セクターにおけるAI導入と関連する脆弱性の監視」において、AIが金融セクターにもたらす脆弱性に関するモニタリング・評価手法改善に向けた考慮事項を提示。
        • IOSCO:2026年5月に公表の「資本市場におけるAI利用に関する監督ツールキット」において、資本市場におけるAI利用を対象にリスクベースかつ技術中立的な監督手法を整理。
      3. 金融機能・市場活動の変化
        • IMF:2026年4月に公表の「AIエージェントがもたらす決済の変革」において、決済が人間の明示的な指示による「Click-to-Pay」から、AIエージェントが目的に基づき判断・実行する「Decide-to-Pay」へ移行するという問題意識のもと、決済プロセスにおいて、確率的推論を行うAIエージェントの判断と決定論的な決済インフラを接続する際の課題と制度設計の在り方を整理。
  • AIディスカッションペーパー (第1.0版)(2025年3月公表)
    • AIは将来的には金融業務を支える中核的な技術の一つとして、金融サービスの提供の在り方や金融機関等のビジネスモデルを抜本的に変革しうるものとなる可能性。
    • 金融機関等における課題認識等をまとめ、初期的な論点整理を実施。
    • 金融機関等においてAI関連の取組を着実に進めるためには、ユースケースやガバナンス構築に向けた取組事例の共有等が有益
    • AI活用に際しての論点例
      1. データ整備
        • AIの急速な進展と普及はデータの重要性をさらに高めている一方で、多くの金融機関が「モデル構築等のために十分な学習データの確保」や「学習データの品質管理」など、社内のデータ整備に課題
      2. ハルシネーション、説明可能性
        • 誤った情報を提示したり、信用リスクや法的リスクに直結する回答を誤って生成し た場合に金融機関等の信頼性を損なう恐れ
        • 膨大なパラメータを用いた複雑なモデルにより、個々の推論について「なぜその回答になったのか」を明示的に示すことが困難
      3. 人材確保、社内体制
        • 複雑なAIモデルの開発・運用・管理における専門人材の確保・育成と、生成AIによりAI利用者が増加することに伴う社内教育の必要性を多くの金融機関が認識
  • AIディスカッションペーパー第1.1版 改訂の概要
    • 「金融庁AI官民フォーラム」において議論されたAI利活用の状況、AIに関連するリスクマネジメント・ガバナンスの取組事例等を基に、AIディスカッションペーパーをアップデート。
      1. ポイント1:顧客向けサービスを念頭としたリスク低減の取組事例
        • 顧客向けサービスを念頭にリスク低減に向けた取組の検討が進む中、一定の共通的な目線が形成されつつある。
        • サービス提供前の「設計と事前検証」、サービス提供時の「顧客への適切な説明・注意喚起」、サービス提供後の「検証・モニタリング」と、それら全体を支える「ガバナンス」の4つの局面に分け、金融機関からの相談・照会に金融庁が対応する際に参照するものとして整理。
      2. ポイント2:諸法令・規制の考え方
        • 証券会社がシステム関連の子会社にAIシステムの開発を委託する際、非公開情報を含む顧客との会話データ等を提供しうるという考え方を提示。
        • 法人関係情報の管理態勢のあり方等の論点が事業者から提示されたところ、今後、具体的なユースケースを通じた事業者団体や当局との検討により、解釈や目線の提示、業界レベルでの知見共有・プラクティス形成につなげる予定。今後生ずる他の論点についても、事業者による具体的なユースケースの特定や論点の深度ある検討、当局・事業者団体によるオープンな対応により、同様に解釈の提示やプラクティス等が進展することに期待。
      3. ポイント3:AIの利活用の実践
        • 経営トップが先導して、業務効率化や新たなビジネス創出の動きを具体的な取組として進めるフェーズに。健全なAIの利活用によって着実に業務プロセスの改善につなげていくことが期待される。
      4. その他(データマネジメント、ガバナンス等)
        • 質の高いデータがAIの有用性に直結するため、目的を持ったデータ整備が重要。
        • アジャイルな推進体制やリスクベースの対応が有効。業界レベルでの知見共有の進展が期待される。
  • DEX等への対応
    • 現状のDEXについては、そのプロトコルの開発・設置は、自らは顧客への勧誘を行わず、開発後はプロトコルでサービスが提供されて人為的要素が少ないなどの特 徴がある。また、欧米においては、一定のDEXについて規制の対象外との整理がなされている。他方、DEXには、プロトコルの不備等により利用者が不測の損害を被るリスクがある他、マネー・ローンダリングに利用されるリスクも存在している。
    • こうした点を踏まえ、現状ではDEXについて明確な規制の手法が確立されていないものの、現在の暗号資産交換業者に対する規制とは異なる、技術的性質に合わせた過不足のない規制のあり方について、今後、各国の規制やその運用動向も注視しながら、継続して検討を行うことが適当である。
    • また、DEXに接続するアプリ等のユーザ・インターフェース(UI)を国内居住者向けに提供する者に対しては、接続先に係るリスクについての説明義務や犯収法上の本人確認義務を含むAML/CFT対策等といった、リスクに応じた過不足のない規制を課すことを念頭に、各国の規制動向を注視しながら、まずはそのようなUIを提供するサービスの実態把握を深めていく必要がある。
    • なお、DEXプロトコルやDEXに接続するUIを通じた取引におけるAML/CFT対策のあり方は、必ずしも特定の国で完結するとは限らないことを踏まえ、国際的な議論を行っていくことが考えられる。
    • 足下の対応としては、DEXや日本で登録を受けていない業者での取引を行う場合には、利用者に不測の損害を被るリスクがあることを、行政や暗号資産交換業者等において十分に周知すべきである。
  • ブロックチェーン技術の量子コンピュータ対応
    1. 暗号技術の役割
      • ブロックチェーン技術は、暗号技術を用いた電子署名やハッシュ関数等により、特定の中央管理者に全面的に依存することなく、取引の正当性と台帳の信頼性を確保する技術。
      • 取引を電子署名(秘密鍵で承認し、公開鍵で確認)→複数ノードが検証(同一ルールで取引の正当性を確認)→ハッシュで履歴を連結(データが改竄された場合に容易に検知)
    2. 量子コンピュータによるリスク
      • 量子コンピュータが実用化されると、ブロックチェーン技術に用いられる一部の電子署名方式の安全性が損なわれ、攻撃者が、公開鍵からの秘密鍵の復元、署名の偽造等を通じて、不正な取引を行うことが可能となるおそれがあり、耐量子暗号への移行が必要。
    3. 移行に向けた論点
      • 現在ブロックチェーン技術等に活用される電子署名方式について、旧方式からの移行方法、既存資産の保護、緊急時の対応ルール等をあらかじめ整備する必要。
      • 現在使用中の暗号方式と影響範囲の特定と把握、それを踏まえたシステム改修等、金融機関等における円滑な移行に必要な対応の検討。
  • デジタル証明を用いた本人真正性の担保について
    • ブロックチェーンにおける本人真正性を担保する技術として、以下2つの標準化や実装が進められている。
      1. DID(Decentralized Id ntifier:分散型識別子):利用者が固有の本人であることを示す数字・文字列等
      2. VC(Verifiable Credential:検証可能な証明情報):利用者の属性情報や資格情報を、データの真正性を確保しつつ、改ざんできない形で証明することを可能とするもの
        • 例えば、スマートフォン上のウォレットアプリに、DIDと複数のVCを格納しておくことで、利用する場面に応じて、その組み合わせにより、本人確認と併せて、属性(財産所有状況、金融取引状況等)や資格(学歴・職歴、公的資格・民間資格等)の証明を行うことが可能になる。
        • 今後、AIエージェントが自律的に経済活動を遂行する時代を見据えると、こうしたDIDやVCをエージェントに持たせることで、オンチェーンでの各種取引における信頼性の向上や利用者の利便性向上等に資することが期待される。

その他、国内外のCBDC(中央銀行デジタル通貨)、ステーブルコイン、暗号資産等を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • インドは「BRICS」の首脳会議で、国境を越えた決済​に向けて加盟各国のCBDC‌を連携させる案を推進しました。ただ、政治的・技術的な障害があり、​進展は限定的となる可能性があります。BRICSはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカのほか、エジプト、​エチオピア、インドネシア、イラン、サウジア​ラビア、アラブ首長国連邦(UAE)で構成されていますが、世界的にデジタル通貨の普及が限定的であることから、実施には困難が伴う可能性があります。BRICS内では過去にも共通の​決済メカニズ​ム構築に関す⁠る協議が行われたものの、ほとんど進展しておらず、多様な国々の金融インフラ​を統合することの難しさが浮き彫りとな​って⁠います。イランとUAEは金融関係を断絶しているほか、インドも中国と金融面で連携を深めることに慎重であり、こうした加盟国間の緊張関係が引き続き障害になると考えられます。
  • スイスフラン建てのステーブル​コインを開発している‌スイスの業界主導のイニシアチブが実証実験に入​り、金融市場運営​会社のSIXと決済アプリ「TWINT」を新た⁠なパートナーとし​て加えたとスイスの銀行UBSが発表しました。このテストは、2026年6月下旬からサンドボックス制度で技術的​に稼働しているスイス​フラン建てステーブルコイン「CHFD」‌を⁠ベースに、スイスフランとの1対1のペッグを維持するよう設計されています。UBSは​この​スキーム⁠について、スイスのデジタルマネー​・エコシステムの​さら⁠なる発展に向けた知見を得るとともに、スイ⁠スの​金融センター​としての競争力を強化すること​を目的としていると述べています。
  • 米暗号資産業界は、2026年11月の米中間選挙を前に、民主党への報復と超党派関係の維持のどちらを優先するかという難しい判断を迫られています。業界は今回と前回の選挙で、民主・共和両党の暗号資産推進派候補に総額3億ドル超を投じ、企業が安定して事業を展開できる明確な法的基盤の整備を目指してきましたが、2025年は米ドル連動型ステーブルコインを支援する法律が成立したものの、2026年9月、民主党議員全員と一部共和党議員が、暗号資産の規制枠組みを明確化する「クラリティー法」の審議入りに反対し、業界に大きな衝撃を与えました。法案協議では、トランプ大統領自身に関係する暗号資産事業や公職者の取引規制が争点となり、民主党側の要求が多く盛り込まれたにもかかわらず反対されたため、業界幹部は強く反発し、暗号資産政策が一段と党派的になったと分析しています。一方で、民主党を過度に攻撃すれば、同党が上院多数派となった場合の法案成立をさらに難しくし、将来権力を握る議員との関係も損なう恐れがあるため、業界は最終的に党派ではなくクラリティー法支持者を支援する従来の方針へ戻る可能性が高いとも言われています。
  • 暗号資産を金融商品として初めて規制する改正金融商品取引法が2026年7月に成立し、2027年にも施行される見通しとなりました。バイナンス日本法人の豊崎亜里紗氏は、税制や制度の整備によって、2026年から2028年にかけて日本の暗号資産市場が大きく拡大すると見込んでおり、特に、暗号資産の利益に対する課税が最大55%の総合課税から一律20%の申告分離課税へ移行すれば、個人投資家の参入が進むと期待されるとしています。さらに、2028年にも解禁が見込まれる暗号資産ETFは、ヘッジファンドだけでなく、大学や政府機関など長期保有を重視する機関投資家を呼び込み、取引量を増加させる可能性があるほか、同時期にはビットコインの新規発行量が半減する「半減期」も重なるため、需給の引き締まりによる価格上昇も予想され、バイナンスジャパンはユーザー数と取引量で国内首位を目指しています。暗号資産は従来、短期的な投機対象とみられていましたが、同社の調査では主要銘柄を長期投資やポートフォリオの「攻めの投資」として活用する利用者が増えており、約7割が5年以上の保有を検討していることが分かりました。背景には、暗号資産や分散型金融(DeFi)の信頼性と実用性への理解の広がりがあり、今後も長期保有の傾向は強まるとしています。(筆者とすればバイナンスグループはコンプライアンス・リスク管理の点で脆弱性なイメージを持っていますが)バイナンスジャパンは、年数十回のセキュリティ監査、100以上のコンプライアンス・リスク関連AIモデルの導入、危険性のある利用者への通知などを通じて安全対策を強化し、2026年1~3月期には詐欺やフィッシングによる19.8億ドルの被害を防いだとしています。
②IRカジノ/依存症を巡る動向

大阪府・市は、日本初のカジノを含む統合型リゾート(IR)の2030年開業に向けて、依存症の相談受け付けや啓発をする実証事業を始めています。2029年度に「大阪依存症対策センター」(仮称)の開設を控えており、実証で得た知見を生かし、センターで実施する支援策などを検討するとしています。すでにJR大阪駅近くの商業施設「E-ma」内に特設会場を設け、大阪府・市の相談員や保健師らが常駐、ギャンブルやアルコールなど依存症全般についての無料相談を受け付けています。平日夜間も実施し、仕事帰りのビジネスパーソンなどにも利用してもらいやすくするほか、一部の日程では医師や弁護士が同席する相談枠を設けています。また、有識者や民間支援団体らによるセミナー開催、依存症の特性を説明する展示やストレス解消の体験コーナーの設置、来場者にアンケート実施、交通が便利な場所に設置した場合の利用者層や相談需要などを検証しています。大阪府が2026年8月にとりまとめたセンターの基本構想案では、相談から回復までのワンストップ支援体制の構築を掲げ、情報発信の拠点や専門人材の育成の場としての機能も持たせ、対面相談のほか、SNSやチャットボットシステムを活用した24時間365日対応のサポートなども検討、2027年3月にセンターの基本計画を策定する方針としています。

経団連の筒井義信会長は、札幌市で開いた記者会見でIRについて「雇用の創出がもたらす経済循環という意味で効果が見込まれる」との認識を示しました。北海道への誘致の是非には触れなかったものの「ビジネス機会の創出や国際交流の促進を北海道が主体になって取り組んでいくことが重要だ」と語っています。その北海道では、北海道経済連合会や北海道商工会議所連合会など北海道内の経済8団体が、IR誘致に向けた検討を加速するよう鈴木直道知事に求めました。要望書にはIR区域整備計画の認定申請に向けた準備を「迅速かつ丁寧に進めてほしい」と記しました。国は最大3地域でIR設置を認定する方針で、2027年度に残り2枠の申請を受け付けることが決まっています。道経連の藤井裕会長は「残る2地域が選定された場合、北海道にIRを誘致するチャンスは二度と巡ってこないとの危機感がある。スピード感を持って検討を進めてほしい」と述べています。一方、鈴木知事は「これまで観光を取り巻く情勢の変化や、国の動向を注視しながら中長期的な視点で検討してきた」と話し、「道議会での議論や経済団体の意見を聞き取りながら検討を進めていく」と回答しています。また、愛知県常滑市の中部空港エリアに検討しているIRについて、愛知県は、民間事業者から参加の意思表明があったと明らかにしました。愛知県は、中部空港エリアでのIR整備・運営主体となる民間事業者を募集していました。ただ、適正な競争環境を確保するためとして、事業者名や数などは公表していません。

北海道、愛知県以外の検討状況に関する報道はあまり多くありませんが、2026年10月10日付産経新聞の記事「人口4900人「過疎の町」がIR誘致へ 起死回生の一手を出す福岡・大任町の苦悩と希望」で福岡県大任町が検討していることが報じられています。報道では「福岡県の北東部に位置する人口約4900人の大任町が、IRの誘致を目指すと発表した。かつて石炭産業で栄えた町は過疎化と高齢化が深刻化し、IR誘致は「町が生き残る起死回生の一手」と位置付ける。港も鉄道もない町で浮上した計画に実現性を疑問視する声も多いが、背景には町の再生をIRにかけるしかない自治体の現実がある」、「初期投資は全額民間出資で7000億~9000億円、開業した場合の来場者数は年間1300万人と想定し、約7000人の雇用と、年間6500億円の経済波及効果を見込んでいる。町によると、ピーク時に1万1000人を超えていた人口は半分以下に減少し、高齢化率も4月時点で37.6%に上る。今月6日に記者会見した永原町長は、企業誘致が実現しない現状や若者の流出、農業も衰退の一途をたどっていると説明し、IR誘致で町を含む田川地域(1市6町1村)の再浮上につなげたいと強調。「このままでは田川地域は将来廃墟の街となる。事業がうまくいけば、地域が一気に変わる」と訴えた。危機感を背景に打ち出したIR誘致だが、実現のハードルは高い。整備計画を申請できるのは都道府県と政令市のみのため、誘致を実現するには、福岡県の判断や県議会の議決が必要となる。町は10月中にも県への申請を行う方針で、前段となる地元合意については、町議会ですでに誘致推進が全会一致で決議され、住民説明会でも多くの賛同が得られたとする」も「建設予定地は明らかにしておらず、民間投資の実現も不透明だ」と指摘されています。さらに、日本総合研究所の藤山光雄・上席主任研究員は「外国人客を呼び込むにはインフラの整備が不可欠で、港や空港からのアクセスを充実させないと誘客は難しい」と指摘する。また、誘致効果が地域経済に還元される仕組みも重要とし、「経済効果は建設や運営に関わる事業者が地元にどの程度いるのか、地域の人が採用されるかに左右される。大阪の計画でも地元調達が意識されており、効果的な仕組みができなければ効果が外に流出する」と指摘しており、筆者としてもその実現可能性には疑問があります。記事は「人口流出や財政難による町民負担の増大など待ち受ける地域の未来を見据えたとき、IR誘致を夢として切り捨てられない現実がある」と結ばれていますが、現在・未来を見据えた地域再生にIR誘致が本当に適切なのか、実現可能性ととともに根源的な議論をしっかりとすべきではないかと考えます。

警察庁の委託でインターネット上の違法情報などの削除要請を担う「インターネット・ホットラインセンター」(IHC)が2026年上半期(1~6月)に違法と判断した「闇バイト」募集に関する投稿は1万2516件、オンラインカジノのサイトや広告は5259件だったことが、警察庁とIHCのまとめで判明しました。闇バイトの投稿は2025年上半期の6346件と比べて約2倍となったといい、これだけの注意喚起や取組みがなされている効果がまだまだ十分ではないことに驚かされます。違法情報はIHCのガイドラインで定められ、闇バイトは2025年2月に、オンラインカジノ関連は2025年9月に新たに追加されました。闇バイトを募集する投稿のうち、既に削除されたものを除く7583件についてプロバイダーやウェブサイトの運営会社に依頼したところ、7472件(99%)が削除されましたが、オンラインカジノは4988件の依頼に対し、削除は900件(18%)にとどまりました(それでも国外の20サイトや、国内外の約900件の宣伝などが削除されたといいます)。こうした違法情報が投稿されるサイトの大半は海外企業が運営していることが背景にあり、警察庁は「海外ではオンラインカジノが適法とされる国もあり、海外のプロバイダーで対応に違いがある」点が大きな障壁になっています。これらを含めIHCが違法情報と判断した投稿の件数は前年同期より53%増えて6万8842件、このうち4万9221件の削除を依頼し、約6割で削除されたといいます。依存症が社会問題化するオンラインカジノをめぐっては、2025年9月に改正ギャンブル等依存症対策基本法が施行され、オンラインカジノサイトの開設やSNSでの宣伝行為が規制され、IHCのガイドラインでも、オンラインカジノのサイトや、それを「おすすめ」と宣伝する投稿などを違法情報と新たに位置付けました。違法情報5259件のうち、プロバイダーやサイト管理者の所在地が国外のものは4981件で、そのうち304件がサイト、4677件が宣伝の情報で、これらの違法情報のうち4715件について、プロバイダーなどに対応を依頼した結果、20のサイトなど751件が削除されたり、国内からアクセスができなくなったりした(海外のサイト管理者やプロバイダーがサービスを停止した可能性があります)ほか、プロバイダーなどが国内にあった宣伝については149件が削除されたといいます。警察庁の調査ではオンラインカジノの利用経験者は推計で約337万人、全国の警察が賭博行為で摘発した事件は2025年の1年間に158事件あり、2024年の3倍近くに上りました。

海外のオンラインカジノを巡り、警察庁は、運営企業にライセンスを付与している中米・オランダ領キュラソー当局に対し、日本向けサービスを停止させるよう要請しました。日本語で利用できる海外カジノサイトの約半数がキュラソーの許可を受けており、警察庁幹部が同地の当局を初めて訪問して強い対応を求めたものです。2025年9月に施行された改正ギャンブル等依存症対策基本法では、日本向けオンラインカジノサイトの開設や運営などが違法と明記されたものの、海外で許可を得た事業者が運営する日本語対応サイトは依然として複数存在、警察庁が2026年3月に調査した結果、日本語で利用可能なサイトは30件確認され、 運営許可を出した国・地域別では、キュラソーが16サイトで最多となり、アフリカのコモロに属するアンジュアン島が8サイトで続いたといいます。警察庁は2024年5月以降、外務省を通じて海外の許可国・地域に働きかけ、日本向けサイトの閉鎖や、日本からの接続を拒否する遮断措置を求めてきました。その結果、日本語で利用できるサイトは2025年3月の調査時より10サイト減少し、コスタリカと英領ジブラルタルのサイトは日本から接続できない状態となりました。一方、キュラソーの許可を受けた事業者は、現在も16の日本向けサイトの運営を続けており、今回の訪問で警察庁幹部は、オンラインカジノが日本法上違法であることをキュラソー当局に説明し、許可を与えた事業者に日本向けサービスを停止するよう指導することを要請しました。また、改正法施行後も、警察庁が委託するIHCは海外事業者にサイト削除を繰り返し求めていますが、実際に対応される例は前述のとおり少ない状況です。そのため、海外当局や事業者を通じて違法サイトを確実に停止させる実効性の確保が今後の大きな課題だといえます。

政府は、違法なオンラインカジノ利用を防ぐため、内閣官房、総務省、警察庁など約10省庁による会議を開き、これまで官民で進めてきた対策の効果を検証する方針を決めています。検証は2026年10月中に開始し、2027年春にも結果を公表する見通しで、今後の追加対策を判断する基礎とするものです。検証では、対策によってオンラインカジノの利用者や日本から接続できるサイトが減少したか、またオンラインカジノが違法であるとの認識が国民の間で高まったかを、一般向けアンケートなどで調査するというものです。政府は、2025年以降、オンラインカジノサイトへ誘導するSNS投稿の削除、海外事業者への日本からの接続拒否要請などを進めてきました。警察庁が2025年3月に公表した調査では、国内のオンラインカジノ経験者は約337万人、年間賭け金総額は約1・2兆円と推計されています。政府は今回の検証で、こうした過去の数値と比較し、既存の対策が実際に利用抑制へつながったかを確認、検証の結果、現行策では不十分と判断された場合、政府はカジノサイトへの接続を強制的に遮断する「ブロッキング」を本格的に検討する方向です。本コラムでも取り上げたとおり、総務省の有識者会議も2026年7月、既存対策の効果を十分に検証した上で、ブロッキングを選択肢から排除せず検討するよう求めています。政府は調査結果を踏まえ、啓発や削除要請などの継続・強化に加え、接続遮断を含む新たな規制の必要性を判断するとしています。

ギャンブル依存症などに関する最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 国会の裁判官弾劾裁判所は、オンラインカジノで賭博をしたとする常習賭博罪などに問われ、執行猶予付きの有罪判決が確定した新潟簡裁判事に対する弾劾裁判初公判の日程を明らかにしました。弾劾裁判所は衆参両院の議員7人ずつ計14人の「裁判員」で構成、審理は公開の法廷で行われ、罷免するかどうかを判断するもので、罷免判決を受ければ9人目となります。報道によれば、簡裁判事は秋田県横手市の公務員宿舎に居住していた際、管理組合の口座から共益費を引き出し、2023年4月~25年5月に計約278万円を横領、2023年4~9月にオンラインカジノでバカラ賭博をするなど、裁判官弾劾法の罷免要件「裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったとき」に当たるとしており、秋田地裁は2026年7月、簡裁判事に懲役3年、執行猶予4年の判決を言い渡しています。
  • オンラインカジノで約3000回にわたって賭博をしたとして、三重県警生活環境課と尾鷲署は、紀北町、三重紀北消防組合消防本部の消防士長の男を常習賭博の疑いで逮捕しました。報道によれば、消防士長は2026年6月~10月、国内でスマホを使って海外のオンラインカジノサイトに接続し、約3000回、ルーレットなどで賭博をした疑いがもたれています。調べに対し「ギャンブルが好きでやめられなかった」と容疑を認め、「2022年頃から賭博していた」などと供述しているといい、県警は、消防士長が自宅などから海外のカジノサイトに接続し、1000万円以上賭けていたとみて調べています。別事件の捜査の過程で、消防士長のスマホを解析していたところ、オンラインカジノに関する画像がみつかり、関与が分かったものです。
  • 近畿地区の大学関係者向け研修会が滋賀大学で開かれ、ギャンブルや薬物などの依存症から若者を守るため、依存症の実態、予防、回復支援について議論されました。ギャンブル依存症問題を考える会の田中紀子代表は、大学入学時が依存の入り口になりやすく、調査では20代の大卒当事者の76.4%が大学在学中にギャンブルを始めたと説明し、スマホによる公営競技や違法オンラインカジノへの容易なアクセス、広告、高い還元率の宣伝が危険を広げていると指摘しています。依存症は本人の意志の弱さではなく脳の病気であり、説教だけでは回復できないため、専門機関や自助グループにつなぐことが重要だとされました。体験を語った29歳の男性は、大学時代に広告をきっかけにスポーツ賭博を始め、成績低下や孤立、カードローン、親のカード、闇金への依存に至り、就職後も借金を重ねた末、約2年間の回復施設で治療したと説明、また、依存傾向のある人に金を貸さず、支援団体や医療・回復施設につなぐ必要性を訴えました。薬物事件で服役した田代まさし氏は、立ち直りの過程で失敗や苦難を経験として捉え直す大切さを語り、「止まっていい」と伝えながら、後悔を航海に重ねて再出発への思いを示しました。討論では、学校で生涯の友や当事者同士のつながりを築くこと、大学に依存症相談窓口がないことや相談に来ない状況自体を問題として捉えることが必要だとされ、さらに、家族の苦悩や世代をまたぐ依存症の連鎖を防ぐため、大学での教育と支援体制の整備が重要だと強調されました。また、学生は「助けて」と言い出しにくいため、大学側が相談しても安全だと感じられるよう積極的に歩み寄る必要があり、学生同士も説教ではなく寄り添う姿勢を持つことが求められているとしています。
  • ゲーム市場の拡大に伴い、ゲーム依存の問題も深刻化しており、国や自治体による助成、ゲーム業界の調査研究、医療・支援団体の啓発活動など、対策が進められています。国立病院機構久里浜医療センターの2024年度調査では、10~80歳の約9千人のうち、ゲーム依存が疑われる人は3.8%で、男性5.4%、女性2.3%、特に10~29歳では10.3%に上り、男性14.6%、女性5.8%を占め、該当者の6.0%が30日以上にわたり連続または断続的に学校を休んでいました。認定NPO法人ASKは、ゲーム内コミュニティー、コレクション要素、チームプレーなどを依存につながりやすい特徴として挙げています。昭和医科大学烏山病院の常岡俊昭医師は、とりわけチームプレーについて、本人がやめたいと思っても仲間への責任感から続けてしまう点が、飲酒やギャンブル、薬物とは異なると指摘、ゲームは続けても直ちに身体を壊したり逮捕されたりするとは限らず、日常生活が表面上続くため、やめるきっかけを見つけにくい点が問題だとしています。 WHOは2019年、ゲーム依存を「ゲーム障害」として依存症分野に位置づけ、日常生活や他の関心事よりゲームを優先する状態などを定義しましたが、具体的な数値基準はなく、診断の線引きには曖昧さが残っていることから、ネット・ゲーム依存家族の会は診断名の有無よりも、学校生活や家庭生活などに実際の支障が出ているかを重視しています。家族の会はゲームそのものを否定せず、ゲームとの適切な距離感を学ぶ教育が必要だとし、常岡医師も、依存症と診断されるかどうかにかかわらず、家族が心配を感じた段階で早期に相談するよう勧め、家庭内だけで問題を抱え込まず、第三者の視点を得ることが重要であり、親自身が安定し相談相手を持つことが、子どもの心の安定にもつながると指摘しています。
③犯罪統計資料から

例月同様、令和8年(2026年)1~8月の犯罪統計資料(警察庁)について紹介します。

▼ 警察庁 犯罪統計資料(令和8年1~8月分)

令和8年(2026年)1~8月の刑法犯総数について、認知件数は523109件(前年同期503842件、前年同期比+3.9%)、検挙件数は198321件(190717件、+4.0%)、検挙率は37.9%(37.9%、±0P)と、ここ最近の傾向に同じく、認知件数、検挙件数がともに増加している点が注目されます。刑法犯全体の6割超を占める窃盗犯の認知件数が増加していることが挙げられ、窃盗犯の認知件数は339268件(336638件、+0.8%)、検挙件数は111596件(110251件、+1.2%)、検挙率は32.9%(32.8%、+0.1P)となりました。なお、とりわけ認知件数の多い万引きについては認知件数は71429件(69831件、+2.3%)、検挙件数は48603件(46824件、+3.8%)、検挙率は68.0%(67.1%、+0.9P)と増加傾向が継続しています。その他、凶悪犯の認知件数は5278件(4753件、+11.0%)、検挙件数は4407件(4085件、+7.9%)、検挙率は83.5%(85.9%)、粗暴犯の認知件数は45259件(40542件、+11.6%)、検挙件数は35089件(31677件、+10.8%)、検挙率は77.5%(78.1%)、知能犯の認知件数は56145件(47475件、+18.3%)、検挙件数は13996件(13002件、+7.6%)、検挙率は24.9%(27.4%、▲2.5P)、とりわけ詐欺の認知件数は52272件(44402件、+17.7%)、検挙件数は11517件(10860件、+6.0%)、検挙率は22.0%(24.5%、▲2.5P)と極めて深刻な状況が続いています。また、風俗犯の認知件数は13273件(12936件、+2.6%)、検挙件数は10875件(10474件、+3.8%)、検挙率は81.9%(81.0%、+0.9P)となっています。なお、ほとんどの犯罪類型で認知件数が増加しているほどには検挙件数が伸びず、検挙率が低調な点が懸念されます。また、コロナ禍において大きく増加した詐欺は、アフターコロナにおいても増加し続けています。とりわけ以前の本コラム(暴排トピックス2022年7月号)でも紹介したとおり、コロナ禍で「対面型」「接触型」の犯罪がやりにくくなったことを受けて、「非対面型」の還付金詐欺が増加しましたが、コロナ禍後も「非対面」でないオレオレ詐欺や架空料金請求詐欺なども大きく増加、さらに、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺では、「非対面」での犯行で、(特殊詐欺を上回る)甚大な被害が発生しています。

また、特別法犯総数については、検挙件数は44052件(40678件、+8.3%)、検挙人員は33213人(31541人、+5.3%)と検挙件数、検挙人員ともに刑法犯の傾向以上に大きく増加しています。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は2954件(3444件、▲14.2%)、検挙人員は2025人(2302人、▲12.0%)、軽犯罪法違反の検挙件数は4274件(3977件、+7.5%)、検挙人員は4234人(3903人、+8.5%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は3125件(3121件、+0.1%)、検挙人員は2307人(2224人、+3.7%)、ストーカー規制法違反の検挙件数は1263件(893件、+41.4%)、検挙人員は982人(728人、+34.9%)、児童買春・児童ポルノ法違反の検挙件数は2016件(1927件、+4.6%)、検挙人員は1072人(941人、+13.9%)、青少年保護育成条例違反の検挙件数792件(820件、▲3.4%)、検挙人員は623人(657人、▲5.2%)、犯罪収益移転防止法違反の検挙件数は3990件(2921件、+36.6%)、検挙人員は2900人(2217人、+30.8%)、銃刀法違反の検挙件数は2937件(2867件、+2.4%)、検挙人員は2431人(2414人、+0.7%)などとなっています。とりわけ犯罪収益移転防止法違反等が大きく増加している点が注目されます。また、薬物関係では、、麻薬等取締法違反の検挙件数は8868件(6720件、+32.0%)、検挙人員は5295人(4549人、+16.4%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は83件(96件、▲13.5%)、検挙人員は89人(84人。+6.0%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は5858件(5656件、+3.6%)、検挙人員は3824人(3741人、+2.2%)などととりわけ麻薬等取締法違反の検挙件数が大きく増加している点が注目されます。大麻の規制を巡る法改正から2年近く経過しましたが、大麻事犯の検挙件数がここ数年、減少傾向が続いていたところ、2023年に入って増加し、2023年7月にはじめて大麻取締法違反の検挙人員が覚せい剤取締法違反の検挙人員を超え、その傾向が続いています(今後の動向を注視していく必要があります)。また、覚せい剤取締法違反の検挙件数・検挙人員ともに大きな減少傾向が数年来継続していたところ、最近、あらためて増加傾向にあります(覚せい剤は常習性が高いため、急激な減少が続いていることの説明が難しいところ、他の薬物に比較して高価であることや、その流通を大きく支配している暴力団側の不透明化や手口の巧妙化の実態が大きく影響しているのではないかと推測されます)。なお、麻薬等取締法違反が大きく増加している点も注目されますが、2024年の法改正で大麻の利用が追加された点が大きいと言えます。それ以外で対象となるのは、「麻薬」と「向精神薬」であり、「麻薬」とは、モルヒネ、コカインなど麻薬に関する単一条約にて規制されるもののうち大麻を除いたものをいいます。本コラムでたびたび指摘しているとおり、コカインについては、世界中で急増している点に注意が必要です。また、「向精神薬」とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称で、主として精神医学や精神薬理学の分野で、脳に対する作用の研究が行われている薬物であり、また精神科で用いられる精神科の薬、また薬物乱用と使用による害に懸念のあるタバコやアルコール、また法律上の定義である麻薬のような娯楽的な薬物が含まれますが、同法では、タバコ、アルコール、カフェインが除かれています。具体的には、コカイン、MDMA、LSDなどがあります。

また、来日外国人による重要犯罪・重要窃盗犯国籍別検挙人員対前年比較について総数は328人(346人、▲0.1%)、ベトナム54人(74人、▲27.0%)、中国61人(40人、+52.5%)、ブラジル21人(19人、+10.5%)、フィリピン17人(23人、▲26.1%)、インドネシア15人(18人、▲16.7%)、アメリカ14人(8人、+75.0%)、パキスタン13人(9人、+44.4%)、スリランカ12人(18人、▲33.3%)などとなっています。最近はベトナム人の犯罪が中国人を大きく上回って増え続けていましたが、この時点では、中国人の方が多くなっている点が注目されます。

一方、暴力団犯罪(刑法犯)罪種別検挙件数・人員対前年比較の刑法犯総数については、検挙件数は3927件(5669件、▲30.7%)、検挙人員は2555人(2928人、▲12.7%)と検挙件数、検挙人員ともに大きく減少しています(暴力団員数が減少し続けていることが影響していると考えられますが、その減少幅を上回る減少であり、暴力団が自ら動かずにトクリュウなどを使った犯罪に移行していることの傍証といえるかもしれません)。犯罪類型別では、殺人の検挙件数は29件(26件、+11.5%)、検挙人員は49人(29人、+69.0%)、強盗の検挙件数は57件(61件、▲6.6%)、検挙人員は112人(107人、+4.7%)、暴行の検挙件数は248件(265件、▲6.4%)、検挙人員は217人(232人、▲6.5%)、傷害の検挙件数は442件(503件、▲12.1%)、検挙人員は516人(592人、▲12.8%)、脅迫の検挙件数は150件(169件、▲11.2%)、検挙人員は128人(157人、▲18.5%)、恐喝の検挙件数は229件(203件、+12.8%)、検挙人員は279人(235人、+18.7%)、窃盗の検挙件数は1683件(2498件、▲32.6%)、検挙人員は329人(417人、▲32.1%)、詐欺の検挙件数は482件(1153件、▲58.2%)、検挙人員は401人(591人、▲32.1%)、賭博の検挙件数は10件(43件、▲76.7%)、検挙人員は70人(72人、▲2.8%)などとなっています。とりわけ、詐欺については、2023年7月から減少に転じていたところ、あらためて増加傾向になった後、ここにきて急激に大きく減少している点が特筆されます。ただし、(詐欺は薬物などとともに暴力団の世界では御法度となっているところ)資金獲得活動の中でも活発に行われていると推測され、やはりトクリュウなどを使った犯罪に移行している可能性を示唆するものとして、引き続き注意が必要です。

さらに、暴力団犯罪(特別法犯)主要法令別検挙件数・人員対前年比較の特別法犯総数について、特別法犯全体の検挙件数は2408件(2743件、▲12.2%)、検挙人員は1396人(1667人、▲16.3%)となりました(検挙件数について刑法犯の減少幅より小さい点が注目されます)。犯罪類型別では、入管法違反の検挙件数は10件(13件、▲23.1%)、検挙人員は9人(9人、±0%)、軽犯罪法違反の検挙件数は24件(22件、+9.1%)、検挙人員は18人(17人、+5.9%)、迷惑防止条例違反の検挙件数は12件(25件、▲52.0%)、検挙人員は9人(20人、▲55.0%)、暴力団排除条例違反の検挙件数は14件(23件、▲39.1%)、検挙人員は27人(40人、▲32.5%)、風営適正化法違反の検挙件数は31件(41件、▲24.4%)、検挙人員は34人(64人、▲46.9%)、銃刀法違反の検挙件数は39件(48件、▲18.8%)、検挙人員は21人(35人、▲40.0%)、麻薬等取締法違反の検挙件数は738件(687件、+7.4%)、検挙人員は324人(329人、▲1.5%)、大麻草栽培規制法違反の検挙件数は9件(16件、▲43.8%)、検挙人員は12人(11人、+9.1%)、覚せい剤取締法違反の検挙件数は1235件(1533件、▲19.4%)、検挙人員は746人(918人、▲18.7%)、麻薬等特例法違反の検挙件数は78件(127件、▲38.6%)、検挙人員は26人(64人、▲59.4%)などとなっています。とりわけ覚せい剤取締法違反や麻薬等取締法違反については、前述のとおり、今後の動向を注視していく必要があります。なお、参考までに、「麻薬等特例法違反」とは、正式には、「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」といい、覚せい剤・大麻などの違法薬物の栽培・製造・輸出入・譲受・譲渡などを繰り返す薬物ビジネスをした場合は、この麻薬特例法違反になります。なお、法定刑は、無期または5年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金で、裁判員裁判になります。

(8)北朝鮮リスクを巡る動向

警察庁と国家サイバー統括室(NCO)などは、北朝鮮関連のサイバー攻撃集団「ウオータープラム」が、日本を含む100以上の国と地域にいるIT技術者にサイバー攻撃を仕掛け、少なくとも17億円相当の暗号資産情報を盗み、北朝鮮側に不正送金していたと発表しました。また北朝鮮側が、日本国内にいる支援者の端末を遠隔操作して外貨を獲得する手口も確認しています。今回の発表は、攻撃への関与が疑われる国や組織を特定して非難し、牽制や抑止を狙う「パブリック・アトリビューション(PA)」と呼ばれる行為で、米国、オーストラリア、ドイツの各当局と合同で公表したものです。朝鮮労働党中央委員会の「軍需工業部門」が中心的な役割を担ったとみられています。報道によれば、ウォータープラムは2025年12月~2026年7月、SNSや求人サイトなどの求人に応募した各国のウェブデザイナーやエンジニアなどのIT技術者にヘッドハンティングを装って接触、AI企業などを装って「あなたの技術力を確認したい。課題をこなしてほしい」と不正ファイルをダウンロードさせるのが主な手口で、3万台以上のパソコンをマルウェア(悪意あるプログラム)に感染させ、IT技術者と勤務先の暗号資産を盗み取ったといいます。声明ではほかに、北朝鮮のIT労働者が遠隔操作するパソコンが、日本国内で初めて確認されたことにも言及がありました。北朝鮮のIT労働者は、日本の支援者から身分証明書の画像提供を受けて本人になりすまし、企業と契約、プログラム開発の報酬などで得た数億円を海外に送金していたもので、サイバー攻撃などに使われた端末のIPアドレス(ネット上の住所)の分析結果から、ウォータープラムとの関連が確認されました。警察庁は、出社を拒む、暗号資産での支払いに固執する、面接中に別人の指示を受けているように見えるなど、取引先などの関係者が北朝鮮のIT労働者である可能性を把握した場合、迅速に警察に連絡するよう注意喚起しています。

▼ 警察庁 北朝鮮サイバー攻撃グループ「WaterPlum」(ウォータープラム)及び北朝鮮IT労働者に関する我が国、米国、豪州及びドイツによるパブリック・アトリビューションについて
  • 令和8年9月18日、警察庁及び国家サイバー統括室は、米国、豪州及びドイツとともに、北朝鮮を背景とするサイバー攻撃グループ「WaterPlum」(ウォータープラム)(関連名称: Contagious Interview)の攻撃手口や、北朝鮮 IT 労働者による外貨獲得活動 及び採用応募活動の実態について、合同で文書を公表しました。これら実態は、民間事業者からの情報提供、警察庁関東管区警察局サイバー特別捜査部及び都道府県警察の捜査・分析等を通じて明らかになったものです。
  • このような悪意あるサイバー活動は、我が国だけでなく世界にとっての安全保障、経済活動上の脅威となるものです。
  • 本件について注意喚起を行い、国内外に広く周知することは、我が国、そして世界のサイバー安全保障の強化に資するものであり、また、サイバー安全保障分野での国際連携の強化にも繋がります。
  • IT 技術者や民間事業者におかれては、本件注意喚起の内容を参考に、適切なセキュリティ対策を講じていただきますようお願いいたします。
    1. 公表資料の概要
      • 北朝鮮を背景とするサイバー攻撃グループ「WaterPlum」が、世界各国のIT 技術者に対して暗号資産の窃取を目的としたサイバー攻撃を実行
        • 日本を含む100以上の国と地域で、少なくとも3万台以上とみられるマルウェア感染が判明
        • 約7千件の暗号資産ウォレットの情報が窃取されたほか、少なくとも約17億円相当の暗号資産が送金されたことを把握
      • 北朝鮮IT労働者による活動実態を把握
        • 北朝鮮IT労働者が遠隔操作する「ラップトップ・ファーム」を国内で初めて把握のうえ、暗号資産を含め数億円の海外送金を把握
        • 国内暗号資産取引所(エンジニア職)へ北朝鮮IT 労働者から応募があり、同社が面接を実施し活動実態を把握
      • 「WaterPlum」及び北朝鮮IT労働者が朝鮮労働党中央委員会軍需工業部313 総局の指揮下にあると特定
    2. 公表資料
      • 北朝鮮サイバー攻撃グループ「WaterPlum」によるIT技術者を標的としたサイバー攻撃並びに北朝鮮IT労働者の我が国、米国及び欧州における活動実態等について

ロシアの拒否権行使で国連安保理の北朝鮮専門家パネルが活動を終えた後、その代替として設けられた組織である多国間制裁監視チーム(MSMT)は、北朝鮮が国連制裁に反して少なくとも17カ国へ約3万5600~10万1280人の労働者を派遣し、2025年に4億5000万~8億ドルを得た可能性があると報告しました。労働者の大半は中国とロシアに集中し、中国では製造、建設、IT、飲食など、ロシアでは軍事用ドローン製造などに従事しているとされ、特に2024年以降は、中国より賃金の高いロシアへの派遣が増加し、学生ビザや短期研修を利用して就労を偽装する仕組みも確認されました。北朝鮮当局は労働者の収入の80~90%を没収しており、個人が負債を抱える場合もあるといいます。こうして得られた資金は核・ミサイル開発など体制の重要な資金源になっているとみられ、MSMTは各国に対し、安保理決議が義務付ける北朝鮮労働者の送還を直ちに実施するよう求めています。海外労働者の派遣とサイバー攻撃はいずれも外貨獲得を目的とし、制裁逃れや兵器開発を支える活動であるため、企業や各国当局には厳格な本人確認、情報管理、違反行為の報告が求められています。

北朝鮮は金正恩・現朝鮮労働党総書記が2012年に最高指導者へ就任して以降、弾道ミサイルの発射を急増させ、2026年5月末までに214発を発射したと防衛白書が分析しています。父・金正日時代の1994~2011年が16発だったのに比べ、発射頻度は大幅に増加、弾道ミサイルは核兵器の主要な運搬手段であり、北朝鮮は約50発の核弾頭を保有すると指摘されています。さらに、6回の核実験を実施し、核兵器の小型化・弾頭化を実現して日本を攻撃できる能力を持つと日本政府はみています。北朝鮮の大陸間弾道ミサイルは射程1万5000キロ超に達する可能性があり、米国全土を射程に収めうるもので、相次ぐ発射には、核・ミサイル運用能力を誇示し、米国のトランプ大統領に交渉を迫る狙いがあるとみられています。トランプ大統領は2026年内の米朝首脳会談に意欲を示していますが、米国が北朝鮮の核保有を事実上認めて取引すれば、日本の安全保障環境に重大な影響が及ぶ懸念があります。

2026年10月12日、北朝鮮は平壌付近から日本海に向け、複数種類の弾道ミサイルを発射しました。防衛省は少なくとも2発を確認し、1回目は午前9時19分ごろに発射され、高度約20キロ、約220キロ飛翔して北朝鮮東岸付近に落下、 2回目は午前9時36分ごろに発射され、高度約70キロで910キロを超えて飛翔し、日本海に落下したとみられています。防衛省は、発射されたミサイルの一部が通常とは異なる変則軌道で飛翔した可能性があるとして、日米韓で性能や飛翔経路の分析を進めています。韓国軍は、韓国大統領府が10月8日に国産極超音速ミサイルの発射実験成功を発表したことを踏まえ、今回の北朝鮮の発射には韓国のミサイル開発に対抗する狙いがあるとの見方を示しています。日本政府は一連の北朝鮮のミサイル発射について、日本と地域、国際社会の平和と安全を脅かし、国連安全保障理事会決議にも違反する重大な問題だと指摘、その上で北朝鮮に厳重に抗議し、強く非難するとともに、今後の不測の事態に備えて警戒を続けています。また、2026年10月3日にも、北朝鮮は東部の元山周辺から日本海へ弾道ミサイルを少なくとも1発発射、日本の防衛省は最高高度約90キロ、飛行距離約680キロで、日本の排他的経済水域外に落下したと推定、韓国軍は700キロ以上飛行したと分析し、短距離弾道ミサイルに加えて中距離または準中距離弾道ミサイルの可能性もあるとしました。一方、北朝鮮はこれを「中距離戦略ミサイル」の発射訓練と発表し、金総書記が立ち会ったと明らかにしました。北朝鮮側は、ミサイルが低高度を飛行し、下降後に再浮上する変則軌道をとったため、日韓当局は正確に追跡できなかったと主張、さらに、飛行距離は約1000キロで、極超音速兵器を運用する部隊の訓練だったと報じました。変則軌道は着弾地点の予測を難しくし、既存のミサイル防衛網を突破する狙いがあります。金総書記の妹・金与正・朝鮮労働党総務部長は、ミサイルにAIを導入し、飛行中に軌道を変更できるため迎撃は事実上不可能だと主張しました。しかし、日米韓側や専門家は北朝鮮の発表をそのまま受け止めておらず、韓国国防省は、発射前から監視し、米韓の防衛装備で探知・迎撃できると説明しています。専門家は、今回のミサイルが日韓から遠ざかる方向に飛び、地球の丸みによるレーダーの死角に入ったため、着弾付近の情報が得にくかった可能性を指摘しています。実戦で日本や韓国へ接近する場合には、死角が生じにくく、変則軌道でも捕捉できるとの見方もあるようです。米シンクタンク、戦争研究所は、北朝鮮がミサイルの性能を誇張し、日韓の防空能力への信頼を低下させる情報作戦を展開している可能性が高いと分析しています。極超音速兵器や高度なAI技術を北朝鮮が独力で開発するのは難しく、中国やロシアの技術・知識に依存している可能性があり、安全保障専門家も、高性能なミサイルを北朝鮮が独自生産したとは考えにくく、国外からの調達や支援が疑われるところ、北朝鮮はロシアによるウクライナ侵略にも協力しており、その見返りとしてロシアから核・ミサイル関連技術が移転される恐れが以前から指摘されているところです。防衛白書は、こうした協力によって北朝鮮の軍事力が中長期的に増強される可能性を警告しています。今回の発射を受け、日米韓の外交当局は電話協議を行い、発射が国連安全保障理事会決議に違反すると確認しています。なお北朝鮮は、同9月20日にも複数の弾道ミサイルを発射し、極超音速弾頭を搭載したとみられる兵器の写真を公開、短距離極超音速ミサイルの可能性があると分析されています。極超音速ミサイルは、音速の5倍以上の超高速で、低高度を飛行するミサイルで、不規則な軌道を描いて飛ぶためレーダーによる追跡や迎撃が困難とされます。金総書記は「先端国防技術力の誇示であり、文字通り不敗の力だ。敵にはこの現実が不治の頭痛となる」と述べています。また、北朝鮮の朝鮮中央通信は、同国で軍部隊が弾道ミサイルや巡航ミサイル、攻撃用の無人機など多種類の兵器を投入した共同訓練を同9月12日に行ったと報じました。飛行特性が異なる兵器を用いた集中攻撃により、相手の防空網の突破を図る狙いがあると考えられます。同日に北朝鮮から弾道ミサイルの発射が確認されており、今回の訓練はこれを指すとみられています。投入した兵器には他に大口径の放射砲(ロケット砲)が含まれ、兵器の稼働手順を習熟させ、反撃態勢を高度化する目的もあったといいます。ミサイル部隊と長距離砲兵部隊による発射訓練があり、目標への命中率は「100%」だったとしており、この記事は党機関紙、労働新聞には13日に続いて14日も掲載されませんでした。一連の北朝鮮の発射は、軍事能力の向上を示すだけでなく、米国との交渉材料を作り、周辺国を威圧し、日米韓の防衛体制への不信を広げる政治的・情報戦の側面も持っています。

北朝鮮と韓国の間では、軍事境界線地域の非武装地帯(DMZ)での地雷爆発で韓国軍兵士3人が負傷したことを巡って緊張が高まっています。韓国は自国兵士の負傷を受けて、北朝鮮が埋設した地雷が原因だったと断定する調査結果を発表し謝罪を要求する準備を進めているとされますが、北朝鮮は韓国による自作自演だと反論しています。また、韓国側が軍事境界線(MDL)の⁠位置を巡る認識のずれについて対話を提案したのに対し、金与正総務部長は軍事主権を敵対国と議論しないとして拒否し、「決して黙認できない重大な挑発であり、必ず代償を払わせるべき主権侵害行為だ」、「徹底した力の行使」によって主権を守ると力によって境界線を定める姿勢を示しました。

ウクライナのシビハ外相は、ロシアとの戦争で捕虜にした北朝鮮兵2人の移送を​公表したことで生じた韓国との対立‌について、関係修復に取り組んでいると明らかにしました。ウ​クライナのゼレンスキー大統領は、​国連総会演説で捕虜2人を韓国に⁠移送したと表明、非公表を想定していた​韓国が抗議していたものです。報道によれば、シビハ氏は「これを事件とは呼びたくない。外交上の誤解と言っておこう」と述​べ、「この状況がごく近い将来​に解決するよう強く望んでおり、それに取り組ん‌でい⁠る。われわれにとって韓国は重要な国だ。ともに真に達成しつつある関係の前進、その継続、具体的な成果に大いに期待して​いる」と​述べました。韓国大⁠統領府は、移送の公表を巡ってウクライナに説明と謝​罪を要求、両国が秘密保持で合意し​てい⁠たとした上で、ウクライナがそれを否定したのは事実に反すると指摘、韓国政府高⁠官に​よれば、韓国側は安​全保障上、外交上、捕虜や家族の安全を含む人道上の​懸念から、移送を秘密にするよう求めていたとされます。

国際原子力機関(IAEA)によれば、北朝鮮は北西部の寧辺にある主要な核施設に最大28基の遠心​分離機カスケードを収容可能な新たなウラン‌濃縮施設を建設したといいます。また、平壌近郊のカンソンにあるウラン濃縮施設で2024年に増設した別棟での操業を2026年1月から開​始したとされます。IAEAは同8月28日付の報告書の中で、これらの​調査結果は、複数の場所で北朝鮮の核イ⁠ンフラが着実に拡大していることを示唆している​と指摘しています。IAEAは2009年以来、北朝鮮に査察官を派遣していませんが、北朝鮮の核活動を追跡するに​あたっては、衛星画像や北朝鮮の国営メディアが公開した写真を含む公開情報源に依拠したと説明しています。IAEAは、6月に金総書​記が施設を視察した際の国営メディアの写真と、建物の建‌設中⁠に撮影された衛星画像とを照合し、寧辺にある新しい2階建ての建物を、同施設の2番目のウラン濃縮施設であると特定、報告書は、視察時の写真から、本館​の上階と下階の両​方にガス⁠遠心分離機のカスケードが設置されていることが分かり、この建物にはこの​カスケードを最大28基収容できると分析しまし​た。IAEAのグロ⁠ッシ事務局長は「カンソンおよび寧辺における濃縮施設の継続的な稼働、⁠なら​びに北朝鮮による兵器級核物質​の生産がさらに拡大しているとの報告は深刻な懸念を生んでい​る」と述べています。

金与正党総務部長は、IAEAが北朝鮮の核兵器開‌発を批判する決議を採択したことについて、二重基準だと反発しています。IAEAの総会でEUは、北朝鮮の核開発が「地域や国際社会の平和と安全を損なっている」と非難、北朝鮮は核拡散防止条約(NPT)上の核兵器国としての地位を持ち得ないと強調し、非核化に向けた対話を求めました。これに対し金与正総務部長は、朝鮮中央通信(KCNA)を通じ​て発表した談話で、IAEAの「偏った視点と二​重基準」が「国際的な核不拡散体制⁠の崩壊を招く根本的な要因だ」と主張、また、IAEAが米国の「あからさまな核拡散活動」や​韓国の「原子力潜水艦導入計画」に目をつぶる一方、北朝鮮の「自衛的で正当な核活動」に対​する決議を強引に採択したと批判しました。金与正総務部長は談話で、IAEAや西側がいくら非核化を求めても、「我々の意思と実行能力に、いかなる影響も及ぼすことはできない」と強調、むしろ北朝鮮の核戦力が「国際的な不良勢力の横暴を抑制し、平和と安全保障に重大な貢献をしている」と主張しています。また、北​朝鮮外務省もKCNAを通じて出した談話で決議を一蹴し、北朝鮮‌の核⁠保有国としての地位は不可逆的で、核抑止力に裏打ちされていると表明しました。さらに、北朝鮮の国防次官は、米国と追随勢力が朝鮮半島周辺で核使用を前提とする軍事演習をしていると批判、日米韓3カ国の連携強化にも反発、敵視政策への対抗に必要だとして核・ミサイル開発を正当化しました。国防次官級が7年ぶりに出席した香山フォーラムは中国軍系シンクタンクが主催しており、中国が北朝鮮の核開発を黙認しているとの印象が強まる可能性があります。国防次官は、朝鮮半島情勢が安定しない根本的な原因は「核戦争の準備」を続けている米国側にあるとし、北朝鮮の核開発に大義名分を与えていると主張、米朝首脳会談の開催の見通しを問われると「論じる立場にない」と回答しています。中国の習近平国家主席が6月、北朝鮮を訪問して金総書記と会談したことで中朝の軍事分野の連携にも関心が集まっており、中国政府の発表によれば、習国家主席は中朝の「軍隊の交流」強化に言及しています。国防次官は今回、中朝間の連携については発言しませんでしたが、米国を念頭に「覇権主義に反対し、公正な国際秩序の樹立のために(他国と)共に努力する」と述べています。また、日米韓3カ国の外相が、国連総会に合わせて米ニューヨークで会談し、北朝鮮の「完全な非核化」への意思を再確認したことを受けて、同9月24日、北朝鮮の崔善姫外相は、核保有の意思は「100年、1000年たっても絶対に変わらない」とする談話を発表しました。「実現不可能な妄想を捨てられないことが改めて確認された」と批判、その上で「対決と対話の両立は、北朝鮮にとって決して考慮の対象にはなり得ない」と強調しています。トランプ米大統領は北朝鮮の金総書記との再会談に意欲を示していますが、北朝鮮は非核化を前提としない対話を求めており、核保有方針が変わらないことを強調する談話を相次いで発表しています。

関連して、北朝鮮北東部の豊渓里核実験場では、2006年10月から2017年9月までに計6回の地下核実験が実施されましたが、中国と韓国の研究チームが、中国東北部と韓国の地震観測網が2008年から2025年に記録したデータを分析し、実験場周辺の地震活動を詳しく調べたところ、観測地点は実験場から約80~200キロ離れていましたが、マグニチュード1程度の微小地震も含め、計1399回の地震を検出したといいます。主要な記録では、1904年から2017年9月3日まで周辺の地殻内に目立った地震は確認されておらず、地域は比較的安定していたとされますが、2013年2月の3回目の核実験後から小規模な地震が発生し始め、2017年9月の6回目の核実験後には活動が急増、6回目の実験は過去最大規模で、マグニチュード6.1相当の人工地震を引き起こしたとされますが、その約3週間後から地震活動が特に活発になり、2025年5月までに確認された1399回のうち1339回、約96%がこの実験後に発生したといいます。地震の規模は最大でもマグニチュード3~4程度でしたが、活動は数日から数週間で収束せず、長期間継続したといいます。通常、地下核実験では爆発による地下空洞の崩壊などで地震が起きるものの、揺れは短期間で弱まるとされます。米国や旧ソ連の核実験でも、誘発された地震活動は数日から数週間で収まっていましたが。豊渓里では、核実験後の地震が長期にわたって増加し続けた点が特徴であり、核実験が周辺の地殻に持続的な影響を与えた可能性を示しています。研究チームが震源を高精度に分析した結果、地震は無作為に分布せず、万塔山周辺の北北西から南南東方向に延びる二つの帯状地域に集中、南西側の地域では、6回目の実験場南方まで延びる既知の断層の延長線上に震源が並び、その断層が再び活動した可能性があります。北東側の地域では既知の断層との関係は明確でないものの、震源が線状に分布しており、未知の断層が動いた可能性も指摘されています。研究チームは、核爆発が繰り返されたことで地下浅部の岩盤に損傷が蓄積し、地殻内の応力のかかり方が変化したと考えられ、その結果、周辺の断層が動きやすくなり、少なくとも二つの断層で地震活動が活性化した可能性が高いといいます。さらに、核実験によって地下の亀裂がつながりやすくなり、水などの流体が断層面に徐々に浸透したことで、地下の圧力バランスが変化した可能性も考えられるといいます。流体の移動には時間がかかるため、核実験から数週間後、あるいは長期間を経て地震活動が強まったことを説明できるということです。専門家は、核実験後の地震活動の活発化を明確に示した点や、遠方の観測網だけで震源を精密に特定した点を重要な成果と評価する一方で、核爆発だけが地震のエネルギーを生み出したわけではなく、プレート運動などによって地下に十分な応力が蓄積していたことが前提だった可能性もあり、核実験が断層活動を始めさせる「最後の一押し」になったと考えられるとも指摘しています。今後も豊渓里で核実験が行われれば、周辺断層の活動が再燃したり、影響範囲が拡大したりする恐れがあり、長期的な地震観測と監視が必要とされています。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアと北朝鮮の軍事協力が東アジアを含む国際安全保障に深刻な影響を及ぼしていると警告しています。北朝鮮はロシアのウクライナ侵攻を支援するため、2024年以降、1万4000~1万5000人の兵士を派遣したと、ウクライナや韓国は推計しており、派遣兵の多くは、ウクライナ軍の越境攻撃を受けるロシア西部クルスク州に展開しています。ゼレンスキー大統領は、ロシア領内に8000人以上の北朝鮮兵が駐留し、さらに1万人を追加派遣する準備が進んでいると述べました。また、最大3万~5万人規模の派兵が行われる可能性も指摘しています。北朝鮮兵がロシアで実戦経験を積めば、将来の朝鮮半島や太平洋地域の安全保障に重大な問題をもたらす懸念があります。本コラムでもこれまでも取り上げてきましたが、北朝鮮は兵士だけでなく、ロシアに数百万発の砲弾や迫撃砲弾、弾道ミサイル、長距離砲、多連装ロケット砲などを供与しているとされ、その見返りとして、ロシアは北朝鮮に弾道ミサイルや無人機、電子戦に関する技術を提供しているとされます。ゼレンスキー大統領は国連総会の演説で、北朝鮮の弾道ミサイルが改良され、優れたドローン(無人機)技術も獲得していると指摘、さらに、(前述したとおり)ウクライナで捕虜となった北朝鮮兵2人を韓国へ引き渡したことを明らかにし、北朝鮮兵が極めて厳しい思想教育を受けている実態にも言及しました。また最近、特に警戒されているのが、ロシアによるジェットエンジン搭載の高速ドローン技術の共有です。高速ドローンは時速約500キロで飛行でき、従来型の約180キロを大きく上回るため、迎撃が難しく、ロシアはこのドローンをウクライナへの攻撃で大量使用しており、使用回数は2026年6月の350件から、7月は1600件、8月は2800件へ急増しています。ウクライナ軍の従来型ドローンに対する迎撃率は約9割だったところ、高速ドローンへの迎撃率は約57%に低下しています。キーウでは橋や電力などの重要インフラが攻撃され、空襲警報が長時間続く日もあるため、防空体制への負担が増大しています。ウクライナは、高速ドローンに対応する迎撃ドローンの開発を進めていますが、パトリオットなど防空ミサイルも不足しており、冬季の電力設備攻撃に備えた対策が急務となっています。ゼレンスキー大統領は、ロシアが北朝鮮にほぼ全ての軍事技術を伝えている可能性があるとし、日本を含む東アジア諸国への脅威拡大を訴えています。一方で、日本は高度な技術を持つものの実戦経験がないとして、ウクライナとの防衛協力が双方に利益をもたらすと強調、ドローン開発などを中心に、政府間だけでなく企業間の軍事技術協力も進めたい考えを示しています。さらに韓国には防空支援を求め、ドイツからは迎撃機開発費を含む約13億ユーロ規模の支援を取り付け、中国については中立ではなくややロシア寄りであり、侵攻終結に向けてロシアへ十分な圧力をかけていないと批判しています。

金総書記は、74歳の誕生日を迎えたロシアのプーチン大統領に祝電を送っています。金総書記は2024年6月に締結され、露朝間の軍事援助などを定めた「包括的戦略パートナーシップ条約」に触れて「同盟関係を重視し、共同の事業を力強く拡大し発展させようとするのは不動の方針だ」と指摘、ロシアによるウクライナ侵攻については「必ず勝利のうちに締めくくられると確信する」と述べ、プーチン大統領への支持が変わらないことを強調しました。北朝鮮とロシアの関係は、ウクライナ侵攻を契機に軍事協力から経済協力へと拡大、前述のとおり、両国は2024年に有事の相互防衛義務を定めた条約を結び、北朝鮮はロシア西部へ大規模な兵力を派遣したほか、武器輸出やドローン技術の提供にも関与した可能性があります。さらに、国境の自動車橋の開通、観光リゾートの整備、北朝鮮労働者のロシア派遣などを通じて、人員・物資・外貨の流れを強めています。国連安保理は核実験や弾道ミサイル発射を理由に北朝鮮へ制裁を重ねてきましたが、ロシアと中国が追加制裁に反対し、制裁の実効性は低下しています。ロシアには約1万5000~3万人の北朝鮮労働者が滞在し、ドローン工場などで働いているとされ、北朝鮮は派兵や武器輸出によって外貨収入を増加させています。韓国銀行は2025年の北朝鮮の実質GDPが3.5%増加したと推計し、平壌では中国製電気自動車やスマホによる配車サービスが普及するなど、経済活動の活発化が報告されており、こうした状況から、北朝鮮はロシアとの協力によって既存制裁を事実上無効化し、制裁解除を以前ほど切実に求めなくなっています。金総書記は核戦力の強化と経済発展の両立を掲げており、ロシアとの関係はその経済面を支える重要な基盤となっています。

2026年10月1日、金総書記は中国の国慶節に合わせ、習近平国家主席へ祝電を送っています。金総書記は、2025年以降に習氏と2回会談したことに触れ、国際情勢がどのように変化しても中朝協力を発展させると強調、さらに、両国の血盟関係は「ほかへ流れることは絶対にない」と表現し、関係の不可逆性を示しました。共通利益の実現と地域の平和・安定の維持に向け、両国が積極的に努力する考えも示しています。2026年7月には、中朝友好協力相互援助条約の締結から65年を迎え、両国は多分野で連携を強めています。こうした関係強化を象徴する動きとして、中国遼寧省丹東市と北朝鮮を結ぶ新たな「鴨緑江大橋」の開通準備が進んでいます。橋は完成から12年経過しても使用されていませんでしたが、現地では供用開始に必要な準備がほぼ整っているようです。開通の時期は、同11月に予定されるトランプ米大統領の訪中を控えたタイミングと重なり、中朝関係の緊密化が北東アジア情勢に与える影響が注目されています。背景には、中国東北部では深刻な景気停滞が続いており、橋の開通による国境貿易の活性化は貴重な経済的好材料となることが挙げられます。中朝貿易の拡大は、地域経済だけでなく、両国の外交・安全保障上の思惑にも結びついており、北朝鮮にとっては、橋の開通を通じて対中関係の安定を内外に示し、米国との交渉を有利に進める狙いがあるとみられています。2018年の米朝協議当時、北朝鮮は中露を含む国際社会の制裁によって孤立していました。しかし現在は、北朝鮮によるウクライナ戦線への派兵を背景に露朝関係が強固になっています。加えて中朝関係の改善が加われば、北朝鮮は「史上最良」ともいえる対外環境を演出でき、米朝交渉で以前より強硬な立場を取れる可能性があります。金総書記は、トランプ大統領の任期中に対話の道を開き、最終的に制裁解除へつなげることを目標としているとの見方も示されています。中国にとっては、北朝鮮への経済的影響力を改めて示すことが、北東アジアでの主導権確保につながることになります。2026年1~8月の中朝貿易総額は19億7393万ドルで、前年同期比20%増加、北朝鮮の対中貿易依存度は9割を大きく超えており、ロシアとの軍事協力で見返りを得ていても、中国に依存する経済構造は変わっておらず、新橋が開通すれば、中国の存在感と北朝鮮への影響力がさらに印象づけられることになります。また、中朝関係の安定化は、中国にとって米国との交渉カードにもなりえます。中国は米朝首脳会談の仲介に前向きだと報じられており、朝鮮半島問題で中心的役割を担おうとしている可能性があります。韓国の国家情報院は、11月のAPEC首脳会議の前後に米朝接触が行われる可能性を50%と分析しています。2018年の初の米朝首脳会談に先立って中朝接近が進んだ先例もあり、今回も橋の開通と中朝協力の強化が、米朝対話の再開を促す契機になるかが注目されています。

北朝鮮は2026年9月6日、東部の元山で2隻目となる5000トン級の新型駆逐艦「姜健」の就役式を開きました。「姜健」は日本海を活動範囲とする「東海艦隊」に配属され、日米韓への軍事的けん制を担う艦艇とみられています。北朝鮮は同艦について核兵器を搭載できると主張し、海軍の「核武装化」を進める象徴として位置づけています。就役式には金総書記が娘と共に出席し、海軍の核武装化を通じて核戦闘システムを多角的かつ効果的に運用すると強調しました。また、海軍力を強化する重要計画を実行中であり、8カ月後に世界へ改めて示すと述べましたが、具体的な内容は明らかにしませんでした。「姜健」では戦略巡航ミサイルの発射訓練が行われており、核弾頭を搭載したミサイルの運用が想定されているとみられ、金総書記は同艦を「事実上の攻撃型駆逐艦」と表現し、核抑止力が多角化されたと主張しました。北朝鮮は今後、5000トン級またはそれ以上の駆逐艦を毎年2隻建造し、さらに1万トン級の巡洋艦も建造する方針を示しています。「姜健」は2025年5月の進水式で横転する事故を起こしましたが、船体を修復し、同年6月に改めて進水していました。本コラムでも取り上げましたが、北朝鮮は2026年6月、黄海を管轄する西海艦隊に1隻目の新型駆逐艦「崔賢」を就役させており、「姜健」の配備によって東西両海域への新型艦展開を進めています。一方、日米韓は、海上・空中・サイバーなど複数領域を対象とする共同訓練「フリーダム・エッジ」を東シナ海で開催、北朝鮮の新型駆逐艦就役と日米韓の共同訓練が重なり、朝鮮半島周辺で双方の軍事的なけん制が強まっています。

その他、北朝鮮を巡る最近の報道から、いくつか紹介します。

  • 北朝鮮国内では、金総書記が2024年に打ち出した地方発展政策の一環として、各地で大型焼き肉店の開業が相次いで報じられています。約1カ月で9店舗の完成が伝えられ、数百人を収容できる施設もあることから、病院や工場などのインフラ整備とともに、地方の発展を内外へ示す宣伝材料とみられています。しかし、平壌と地方の経済格差は依然として深刻で、大型店を実際に利用できるのは富裕層など一部に限られる可能性が高いとされ、焼き肉店の相次ぐ開業は地方住民全体の生活向上を示すというより、政権が地方発展の成果を強調し、国内外に体制の経済的成果を印象づける意図を持つものと考えられます。
  • ベトナムと北朝鮮は、ハノイで国防次官協議を開催し、北朝鮮のリョ・チョルウン国防次官とベトナムのグエン・チュオン・タン国防次官が、防衛協力の強化や関連問題について協議しました。ベトナム国防省は、両国の伝統的友好関係の下で防衛協力を重要分野と位置付け、代表団の相互訪問、党務・政治活動、教育・訓練などで最近「前向きな成果」が得られたと説明しています。さらに、2025年に署名した防衛協力に関する意向書の履行を両国に求め、ベトナムは北朝鮮側も関係を重視していると明らかにしました。両国は冷戦期から外交関係を維持し、中国、キューバ、ラオスとともに共産党が統治する国であり、ベトナムは2026年8月、ベトナム戦争で戦死した北朝鮮兵士の記念碑建設と墓地改修を発表していました。
  • 北朝鮮の金先敬外務次官は国連総会一般討論で、日本が再軍備を加速させ、「地域全体に戦争の雲を広げている」と批判、日米韓の軍事演習や日本の長距離攻撃兵器の運用を問題視し、日本が国際情勢の混乱を利用していると主張したうえで、反撃能力の保有は敗戦国としての義務や国連憲章に反し、国際平和を脅かすと非難しました。これに対し、日本の梅津国連次席大使は、「専守防衛の基本方針」と「非核三原則」を堅持し、平和を愛する国家としての歩みを変えないと反論しています。
  • 2026年10月8~9日の産経新聞で元国連専門家パネル委員だった古川勝久氏が寄稿されており、具体的な事実をもとにした大変興味深い内容でした。それによれば、北朝鮮は、海外の協力者や企業網を利用し、国連制裁や各国の輸出規制をかいくぐりながら、核・ミサイル開発や軍事力強化に必要な物資を調達しており、米国で逮捕・起訴された朝鮮系中国籍の文勝華は、北朝鮮高官の指示を受け、銃器、弾薬、化学兵器検知装置、通信探知機、熱画像システム、航空機用エンジンなどを購入し、中国や香港を経由して北朝鮮へ輸送、さらに北朝鮮は、韓国への奇襲攻撃を想定し、米軍兵士の軍服を調達して兵士を偽装させる計画も指示していたといいます。この事件の背後には、日本、韓国、台湾、中国、ベトナム、アラブ首長国連邦などに拠点を置く密輸ネットワークが存在し、高級車、工作機械、電子機器、先端製造設備なども北朝鮮へ不正輸出していた疑いがあります。香港では暗号資産関連会社を設立し、北朝鮮のサイバー部隊による海外活動を支援した可能性も指摘されているものの、中心人物の多くは摘発されていません。日本に居住する朝鮮籍保有者とみられる人物や香港企業も関係先として浮上しているものの、捜査の進展は不透明です。また、日本では北朝鮮向け輸出が全面禁止されているにもかかわらず、たばこなどの大規模な密輸が続いており、北朝鮮が中国遼寧省経由で輸入したたばこの相当部分が日本から不正調達された可能性があるといいます。これまで捜査対象となった企業は限られ、違法輸出で摘発された企業は確認されておらず、法執行が密輸の規模に追いついていない現実があり、加えて、東京・新橋の雑居ビルには、過去に北朝鮮の武器密輸を担った海運会社関係者が入居していましたが、制裁違反者は摘発されないまま退去していました。古川氏は、問題の背景に中露などによる制裁逃れだけでなく、日本や欧州を含む各国の法制度上の欠陥があると指摘しています。制裁対象者の入国や経済活動を十分に制限できず、既存の法体系で対応可能だと誤認した結果、密輸関係者が国内で会社を経営し、生活することを許してきたとし、日本がロシアの情報機関や密輸活動の拠点となり、「スパイの楽園」「密輸天国」とみなされる状況も、こうした規制と摘発の弱さに起因すると指摘しています。高市政権が進める情報機能の強化やスパイ防止関連法案は重要ではあるものの、情報を収集するだけでは安全保障上の成果につながらず、制裁措置と刑事罰の強化、捜査権限の拡大、検察・裁判所の改革、国会による法執行機関への監視強化を同時に進め、得られた情報を実際の捜査・摘発・制裁へ結びつける政治的意思が必要だと論じており、正に正鵠を射るものと思います。

本コラムではシェルター整備の重要性を指摘し続けていますが、2026年9月10日の産経新聞では、現状と課題について切り込まれており、大変示唆に富む内容でした。北朝鮮が日本への「猛攻撃」を威嚇する中、核を含む多数の弾道ミサイルを自衛隊がすべて迎撃するのは困難であり、地下空間への避難が重要な防護策として注目されており、政府は国民保護法に基づき、全国の地下施設などを緊急一時避難施設に指定し、自治体と年間30~40件ほどの避難訓練を実施しています。戦時下のウクライナでも地下避難が多数の命を救っており、日本でもミサイル攻撃への備えとして地下施設の活用が求められています。地下施設は通常兵器だけでなく、核攻撃に対しても一定の防護効果を持ち、核爆発では、ガンマ線や中性子線、熱線、強烈な爆風が発生し、爆心地付近では約3000度に達する可能性があるといい、奈良林北海道大学名誉教授は、地下は地上より放射線や熱線を遮断しやすく、生存確率を大きく高めると説明、米連邦緊急事態管理庁の資料では、屋外にいる場合と比べ、地下1階の放射線防護係数は約200倍に達するとされます。鉄筋コンクリート建築も一定の遮蔽効果を持つとされますが、地下に深く入るほど天井や周囲のコンクリートが厚くなり、防護性能はさらに向上するため、地下シェルターの指定と整備を急ぐ必要があります。しかし、2026年4月時点で指定された緊急一時避難施設は6万2382カ所ある一方、地下施設は4540カ所にとどまり、地下の人口カバー率はわずか5.9%にすぎません。政府は2030年までに地上・地下施設を合わせた人口カバー率を市区町村単位で100%にする目標を掲げているものの、地下施設だけの具体的な整備目標は示していません。自民党有志の議員連盟は、特に地方で不足する地下避難施設の確保や整備を進め、「シェルター基本法」の制定も視野に入れているほか、政府方針には、避難施設の機能や備蓄を強化し、数時間から数日間の滞在を可能にする必要性も盛り込まれました。スイスやフィンランドなどでは、核・生物・化学兵器に対応できる地下シェルターが普及しており、日本も海外事例を参考に調査・研究を進めようとしています。ただし国内では、議論がミサイル攻撃から飛来する破片を避ける段階にとどまり、核攻撃や電磁パルス攻撃を想定した本格的な整備は遅れており、中央官庁や防衛省でも危機意識が十分とはいえず、防護マスクの配布が最近まで進んでいなかったとの指摘もあります。防衛省は主要施設の司令部地下化や核・電磁パルス攻撃に耐えるシェルター建設を計画していますが、外部の反対で頓挫した例もあります。「シェルター整備が危険地域だと印象づけるという理由で不要とする考えは、安全を守る目的と逆行する「本末転倒な安全神話」であり、国を挙げて根本から問い直すべき時に来ている」、「有事だけでなく自然災害にも役立つ施設を平時から整備すべき」との指摘もまた正鵠を射るものといえます。

3.暴排条例等の状況

(1)暴力団排除条例の改正動向(山口県)

前回の本コラム(暴排トピックス2026年9月号)で紹介したとおり、山口県議会が山口県暴力団排除条例(暴排条例)の改正案を可決しました。改正条例は12月1日に施行されます。

▼ 令和8年9月山口県議会定例会議案目次

山口市・湯田温泉や下関市・豊前田といった県内6市の歓楽街を暴力団排除特別強化地域に定め、暴力団員へのみかじめ料の受け渡しなどを禁止するものです。報道によれば、暴力団排除特別強化地域には、岩国市のJR岩国駅西側の麻里布町の一部や周南市のJR徳山駅周辺の銀南街、山口市の湯田温泉1~4丁目などの歓楽街が対象として指定され、風俗や飲食2店の営業者と暴力団員がみかじめ料や用心棒料を受け渡すことを禁じ、違反した場合、双方に罰則(1年以下の拘禁刑か50万円以下の罰金)を科すものです。また、暴力団事務所に対する規制強化では、学校や児童福祉施設などの現行の保護対象施設に加え、国や自治体が設置する都市公園の周囲200メートル区域内で事務所の開設、運営を禁止、さらに都市計画法で定められた住居、商業、工業の3用途地域を事務所の開設禁止区域とするほか、正当な理由なく18歳未満の青少年を事務所に立ち入らせることも新たに禁じるものです。本改正の内容は、全国で相次ぐ暴排条例改正の動きに準じており、全国の自治体の規制のあり方が統一される流れは評価できるものです。

(2)暴力団排除条例に基づく有罪判決事例(石川県)

暴力団事務所を石川県暴排条例で定める禁止区域に開設したとして罪に問われた六代目山口組傘下組織卯辰組組長と構成員3人に対し、金沢地裁は、執行猶予付きの有罪判決を言い渡しました。報道によれば、組長らは2025年5月ごろ、共謀して組の事務所を石川県暴排条例で定める金沢市内の禁止区域に開設し、運営したとされます。判決で金沢地裁の裁判長は「開設運用期間がおよそ1年間に及んだことや、組員の参集頻度などを考えれば、犯行が青少年などの地域住民に与えた影響は大きかった」と指摘、一方で、被告らが摘発後に事務所の使用方法を見直したほか、事務所の退去を誓約したことなどを考慮し、組長に対し拘禁刑8か月・執行猶予3年、組合員3人に対しそれぞれ罰金50万円の判決を言い渡しました。なお、被告ら4人は起訴内容を認めた上で、「組の仕事をしていたわけではなく気軽に集まれる場所として集まっていただけだった。認識が甘かった」と述べていました。

(3)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(岡山県)

所属する指定暴力団の威力を示し、借金返済名目で女性に不当に金品を要求したとして、岡山県警は六代目山口組傘下組織組員に、暴力団対策法に基づく中止命令を発出しました。報道によれば、組員は2026年6月、別の男性に債権譲渡したように装い、男に長年借金の返済を続けていた30代女性に対し、「清算してもらわんと困る」「俺の顔つぶすなよ」などと電話で脅迫し、額面100万円の借用書を作成させるなどしたということです。男は2026年9月にこの女性に対する恐喝未遂の疑いで逮捕されています。

▼ 暴力団対策法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)

暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「七 人(行為者と密接な関係を有する者として国家公安委員会規則で定める者を除く。)から依頼を受け、報酬を得て又は報酬を得る約束をして、金品等を目的とする債務について、債務者に対し、粗野若しくは乱暴な言動を交えて、又は迷惑を覚えさせるような方法で訪問し若しくは電話をかけて、その履行を要求すること(前号に該当するものを除く。)「や「八 人に対し、債務の全部又は一部の免除又は履行の猶予をみだりに要求すること」といったものが規定されています(本件では、そのうちどの類型に該当するか不明ですので詳細は割愛します)。そのうえで、第十一条(暴力的要求行為等に対する措置)において、「指定暴力団員が暴力的要求行為をしており、その相手方の生活の平穏又は業務の遂行の平穏が害されていると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該暴力的要求行為を中止することを命じ、又は当該暴力的要求行為が中止されることを確保するために必要な事項を命ずることができる」と規定されています。

(4)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(高知県)

所属する指定暴力団の威力を示し金銭を要求したとして、21歳の暴力団組員の男に暴力団対策法に基づく中止命令が発出されています。高知県内で「中止命令」が出されるのは2017年以来だといいます。報道によれば、「中止命令」が出されたのは、高知市高須の自称・解体作業員で六代目山口組傘下組織六代目豪友会系組員です。報道によれば、組員は2026年8月、高知市内の商業施設の駐車場で高知県内の10代~20代の男性5人に対し、自身が所属する指定暴力団の威力を示して金銭を要求したということです。

暴力団対策法第九条(暴力的要求行為の禁止)において、「指定暴力団等の暴力団員(以下「指定暴力団員」という。)は、その者の所属する指定暴力団等又はその系列上位指定暴力団等(当該指定暴力団等と上方連結(指定暴力団等が他の指定暴力団等の構成団体となり、又は指定暴力団等の代表者等が他の指定暴力団等の暴力団員となっている関係をいう。)をすることにより順次関連している各指定暴力団等をいう。以下同じ。)の威力を示して次に掲げる行為をしてはならない」として、「二 人に対し、寄附金、賛助金その他名目のいかんを問わず、みだりに金品等の贈与を要求すること」が規定されています

(5)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(静岡県)

2026年8月上旬、静岡県東部に住む男性に対し「お前が金をとったんだろ」などと不当に金を要求したとして、六代目山口組傘下組織幹部ら3人に対し、暴力団対策法に基づく中止命令を発出しました。報道によれば、幹部の男は、静岡県東部に住む男性に対し、「お前が金をとったんだろ」と知人宅から金を盗んだなどの因縁をつけ、不当に金を出すよう要求しました。また、他の男2人は、幹部の男が不当要求を行っている現場に居合わせ、その行為を助勢しました。幹部の男と被害にあった男性には共通の知人がいて、男性は相手が暴力団員であることを認識していましたが、直接会ったのは初めてだということです。

本事例において、組幹部の男以外については「準暴力的要求行為」と認められたものと推察されますが、準暴力的要求行為とは、指定暴力団員以外の者が、指定暴力団員の行う暴力的要求行為と同様に、暴力団の威力を示して暴力団対策法第9条に掲げる不当な要求行為(27類型)を行うことをいいます。暴力追放兵庫県民センターの解説によれば、準暴力的要求行為を行うことが禁止されているのは「暴力団対策法に基づく命令を受けた者等一定の暴力団周辺者」、「元指定暴力団員」、「指定暴力団への利益供与者等」であり、指定暴力団員が他人に対し、準暴力的要求行為を要求したり、依頼したり、唆したり(教唆)、助けたり(幇助)しても規制の対象となります。

(6)暴力団対策法に基づく中止命令発出事例(香川県)

暴力団からの脱退を妨害した二代目親和会の組員に対し、高松北警察署は暴力団対策法に基づく中止命令を発出しました。報道によれば、組員は、高松市内を走行する車内で、30代男性に「辞めるにしろ辞めないにしろ親父と会って話をしろ」「もし辞めるなら香川からは出て行けよ」などと告げて親和会から脱退することを妨害した疑いが持たれています。組員の男性(30代)から警察に相談があり発覚したということです。

暴力団対策法第十六条(加入の強要等の禁止)第2項において、「前項に規定するもののほか、指定暴力団員は、人を威迫して、その者を指定暴力団等に加入することを強要し、若しくは勧誘し、又はその者が指定暴力団等から脱退することを妨害してはならない」と規定されています。そのうえで、同法第十八条(加入の強要等に対する措置)において、「公安委員会は、指定暴力団員が第十六条の規定に違反する行為をしており、その相手方が困惑していると認める場合には、当該指定暴力団員に対し、当該行為を中止することを命じ、又は当該行為が中止されることを確保するために必要な事項(当該行為が同条第三項の規定に違反する行為であるときは、当該行為に係る密接関係者が指定暴力団等に加入させられ、又は指定暴力団等から脱退することを妨害されることを防止するために必要な事項を含む。)を命ずることができる」と規定されています。

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